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2018.11

2018.11.20 Tue

Cityscape / Claus Ogerman

今回は82年録音・リリースClaus Ogermanの作品でMichael Breckerをフィーチャーした傑作「Cityscape」を取り上げたいと思います。

arr, cond)Claus Ogerman  ts)Michael Brecker  p)Warren Bernhardt  ds)Steve Gadd  b)Eddie Gomez(on 1, 3)  b)Marcus Miller(on 2, 4~6)  g)John Tropea(on 2)  g)Buzz Feiten(on 4)  perc)Paulinho da Costa(on 2, 4)

1)Cityscape  2)Habanera  3)Nightwings  4)In the Presence and Absence of Each Other (Part 1)  5)In the Presence and Absence of Each Other (Part 2)  6)In the Presence and Absence of Each Other (Part 3)

Recorded : January 4~8, 1982  Studio : The Power Station and Media Sound Recording Studios, NYC  Label : Warner Bros. Records  Producer : Tommy LiPuma

全曲Ogermanの独創的なオリジナル、深淵な音楽性を湛えたストリングス・オーケストラと緻密にして華麗なアレンジ、当時の音楽シーンを代表する敏腕ミュージシャンの参加、お膳立ては揃いました。フィーチャリング・ソロイストであるMichael Breckerは赴くままに自分のストーリーを語ればよいのです。サキソフォン・ウイズ・ストリングスはCharlie Pakerの昔からサックス奏者の究極の表現形態、ストリングスによるオーケストレーションは弦楽器が生み出す倍音の関係か、サックスの響きをより豊かにゴージャスにバックアップ、そして華やかに仕立て上げます。同じストリングスでもシンセサイザーのデジタルな音色では全く役不足です。本作でのMichaelの音色は彼の参加作品中屈指の素晴らしい「エグさ」を聴かせていますが、ストリングスにサウンドをブーストされた形と認識しています。ちなみにこの時の使用楽器はマウスピースがBobby Dukoff D9、リードはLa Voz Medium、テナーサックスがAmerican Selmer Mark Ⅵ No.86351です。

Claus Ogermanはドイツ出身の作編曲家、膨大な数のアーティストの作品を手掛けていますがその正確な数は不明です。本名はKlaus Ogermann、いわゆるダブル”n”の苗字で、よくある~manのユダヤ系とは異なりますが彼の細部まで徹底的に構築された音楽性を鑑みると、知的作業、芸術的表現のレベルが高いユダヤ系なのではと想像してしまいますが、30年生まれでドイツ在住中第二次世界大戦のホロコーストとは無縁だったようなので生粋のドイツ人なのでしょう。59年に米国に拠点を移しVerve RecordのCreed Taylorの仕事を足掛かりに音楽生活をスタートさせました。因みに本作の印象的なリトグラフによるレコード・ジャケットは、ウクライナ出身のアーティストLouis Lozowickによるもので23年の作品、その名もNew Yorkです。Lozowickの方はユダヤ系のようです。

Ogermanの足跡をダイジェストにCD4枚組にまとめた作品、ドイツのBoutique Labelから2002年にリリースされたその名も「The Man Behind The Music」、収録されているAntonio Carlos Jobim, Bill Evans, Stan Getz, Frank Sinatra, Barbra Streisand, David Clayton-Thomas, The London Symphony Orchestrta等、手掛けたアーティストのあまりの多彩さに驚いてしまいます。

Michaelを最初にフィーチャーしたOgermanの作品が76年録音「Gate of Dreams」、収録曲CapriceでMichaelのダークなソロ聴くことが出来ます。この当時の彼のセッティングはマウスピースがMaster Link(Otto Link最初期のモデル)、リガチャーがSelmerメタル用、リードはLa Voz Med. HardないしはHard、テナーサックスはAmerican Selmer 14万番台Varitone。作品中David Sanborn, Joe Sample, George Benson達とソロを分かち合っています。

この時の演奏の素晴らしさから6年を経て本作へと繋がります。Michael自身の演奏も格段に進歩して今回は一作丸々のフィーチャリングになります。1曲目は表題曲Cityscape、「都市景観」とはジャケットのNew Yorkの景色の事でしょう。本作参加ミュージシャンがNew Yorkを拠点に活躍しているのは偶然か必然か、気心知れたMichaelの演奏に丁々発止とインタープレイを繰り広げています。一つ気になるのはMichaelとリズムセクションは同時録音に違いないと思うのですが、オーケストラ、ストリングスセクションは同録かという点です。89年1月21日、五反田ゆうぽうとで行われたTokyo Music Joy、Michael Brecker W-Unitと題され、Michaelの他Pat Metheny, Charlie Haden, Fumio Karashima, Adam Nussbaumと言うメンバーに小泉和裕指揮による新日本フィル・オーケストラが加わり、Cityscapeを再現するコンサートが開催されました。因みにJack DeJohnetteをドラマーに迎え、Methenyの「80 / 81」も再現する目論見もありましたがDeJohnetteは不参加でした。残念ながらOgermanは来日しませんでしたが、収録曲中In the Presence and Absence of Each Other (Part 1),  In the Presence and Absence of Each Other (Part 2), Cityscapeを演奏しており、ソロイスト〜リズムセクション〜オーケストラ、ストリングスセクションの同時進行が可能であることを実感しました。ただ当日はMichael君あまり調子が良くなく、どうした訳か例えばIn the Presence and Absence of Each Other (Part 1) のメロディを外しまくっていました。コンサート後本人に尋ねたところ、オーケストラの面々とコミュニケーションが上手く行っていなかった事をこぼしており、彼なりに気になる事があったため、いまひとつ集中力を欠いていた模様です。そういえば本作のストリングスセクションを含めたオーケストラに関してのクレジットが故意なのか、たまたまなのか何処にも書かれていません。

あたかも不安感を煽るかのようなストリングスのサウンドにMichaelの耽美的なサックスが絡み始めます。ストリングスの大海原を漂うかの如きMichael流シーツ・オブ・サウンド、その全てが的確な音使いに今更ながら脱帽させられます。ルパート気味に演奏されていましたが2’10″からリズムセクションが加わり、4’20″位からリズムが倍テンポになりMichaelの本領発揮、それに絡むGaddのブラシワークとバスドラムが大変効果的です。その後一旦Fineと見せかけて冒頭の「不安感」セクションに戻ります。Michael吹きっぱなしのオンステージは大団円を迎えます。

2曲目Habanera、ビゼーのオペラ「カルメン」やサン=サーンスの作品にこの名がありますが、元はCubaのリズムの形態の一つの名称で、Habaneraとは「ハバナの」と言う意味です。パーカッション、ギターも参加し、ベースもEddie GomezのアコースティックからMarcus Millerのエレクトリックに代わり前曲とは雰囲気がガラッと変わり、ここでしばしMichael君はお休みでその間オーケストレーションをしっかりと聴くことができます。6’06″から満を持してテナー再登場、最後まで演奏が繰り広げられますが、その後曲のエンディングまでどんなモチーフが必要なのか、どのようなメロディラインを経れば終止感を得られるのかまで、Michaelはお見通し、計算づくでのアプローチかも知れません。

3曲目Nightwings、冒頭フルートや木管楽器のアンサンブルが心地よく響きつつストリングスが絶妙に絡み、ピアノのイントロが始まります。Marcusのベースによるメロディ、その後フランス映画のバックグラウンドで流れているかのようなメロディをストリングがゴージャスに奏で、Michaelのソロが始まりますがこれが素晴らしい!4’15″からの倍テンポでさらにスピードアップ、リズムセクションも同時にヒートアップしてGaddが巧みに煽動します。その後Warren Bernhardtのソロに続きますがGaddの煽りにさらに拍車がかかります。ブラシを使ってこんなにも盛り上がるものなのですね! Bernhardtは MichaelとはSteps Aheadのアルバム「Modern Times」での共演仲間、身長193cmのMichaelよりもさらに背が高く2m近く身長がありそうで、その巨漢から繰り出されるピアノのタッチは実にクリアーかつ端正です。レコードでは以上がSide Aになります。

4曲目から6曲目はタイトルIn the Presence and Absence of Each Other、Part1からPart3まで組曲形式になります。Part1はまさにMichaelのために書かれたかのようなメロディを持つ名曲、そして本作中白眉の演奏です。パーカッションが効果的にサウンドの味付けを施しています。輪を掛けて物凄いここでのテナーサックスの音色にまず圧倒されてしまいます!ストリングスのサポートのなせる技に違いありませんが、加えてソロの入魂ぶりといったら!鳥肌モノです!でも実はこの演奏の立役者はGaddとMarcusなのです。Gadd淡々とブラシでリズムをキープしていたかと思えば、Michaelの演奏に瞬時に反応し、その場にこれ以上相応しいフィルインは有り得ないという次元のフレーズを繰り出します。具体的には6’32″から、そして極め付けは6’50″のフレーズ!ホントに有り得ないです!一方Marcusは全編に渡り自由自在なアプローチでMichaelの演奏をバックアップ、7’00″過ぎた辺りから自在を通り越して自由奔放、好き勝手状態、7’48″頃からMichaelのソロが終わる8’05″まで笑いが止まらない程のメチャクチャやっています!満面の笑みを湛えたメンバー同士の抱擁が録音終了後行われたことでしょう。

5曲目Part2はOgerman自身の別な作品で、タイトルを変えて再演しています。2001年リリースClaus Ogermann / Two Concertos (Decca)

曲名はConcerto For Orchestra Ⅱ ( Marcia Funebre)となり、ほぼ同じアレンジでMichaelのテナーソロ抜きの演奏です。この作品はクラシック作編曲家としてのOgermanにスポットライトが当てられ、自身のピアノ演奏によるPiano Concertoの他、やはり自らコンダクトを務めたConcerto for Orchestra、ふたつの組曲から成っています。こちらも素晴らしい作品です。本作では冒頭からオーケストラをフィーチャーし、エンディング部分でMichaelのソロを聴くことが出来ます。曲想に由来するのかどこか物憂げなテイストを感じさせる印象的なテイクです。因みに作品ジャケットの絵画はNY出身の画家Arnold Friedmanによるもので、多分この画家もユダヤ系と推測されます。

6曲目Part3も前曲と同様にオーケストラの演奏がメイン、最後に閉会の辞を述べるが如く、エピローグとしてMichaelの演奏がほんの20秒程度フィーチャーされます。

2018.11.09 Fri

Will Lee / Bird House

今回はベーシストWill Lee、2001年録音のリーダー作「Bird House」を取り上げてみましょう。

b)Will Lee  p)Bill Lee  ds)Billy Hart  ts)Michael Brecker  tp)Randy Brecker  vibes)Warren Chiasson  vocal)Bob Dorough  tp)Lew Soloff  g)John Tropea

1)Confirmation  2)Now’s the Time  3)Charles Yardbird Parker Was His Name (Yardbird Suite)  4)Ornithology  5)My Little Suede Shoes  6)Cheryl  7)Au Privave  8)Lover Man  9)Donna Lee  10)Hot House  11)Quasimodo  12)Anthropology

Recorded at Livewire studios in New York on Feb 16 & 17 2001  Produced by Will Lee  Skip Records

ドイツのレーベルSkip Recordsから2002年にリリースされたWill Leeの第2作目にあたるリーダー作。自身のボーカルをフィーチャーしたAOR仕立ての94年リリース初リーダー作「OH !」とは打って変わったコンセプトによるCharlie Parkerトリビュート作品です。全曲Parkerのオリジナル、所縁の曲を取り上げ基本的にオリジナルの雰囲気を残しつつ現代的なテイストを加味して演奏しています。スタジオミュージシャンとしても大活躍のWill、彼の人脈によるNew Yorkメンバーの人選が的確な作品です。Willも勿論いつものエレクトリック・ベースで演奏していますが、アコースティック・ベースとなんら遜色ありません。

Will Leeの父親、教育者として名高いBill Leeが全面的に参加していますが、彼は実際Parkerとも共演歴があるそうです。

WillもBillもWilliamの愛称ですからWill LeeもBill Leeに成り得るのですが、父親と区別するためにWillを名乗っているのでしょう。Will Leeの本名はWilliam Franklin Lee IV、4代続き遡って曾祖父さんまでWilliam Franklin Leeを名乗っていたと言う事ですから 、WillとBillを交互に名乗っていたとするとWillのお爺さんも同じくWillだった可能性が大です。だからどうした、の雑学豆知識ですが(笑)。日本では親子が続けて同じ名前を名乗ることは殆どありませんし、ましてや4代に渡って全く同じ名前を命名し名乗ることもまずあり得ませんが、米国ではごく当たり前の事なのでしょう。

本作のリズムセクションはb)Will, p)BillのLee親子にドラムBilly Hart、演奏曲目により色々なメンバーが加わります。

1曲目ConfirmationにはMichael Breckerが加わります。彼の同曲の演奏で有名なのがChick Coreaの作品81年録音「Three Quartets」が92年CDでリリースされた際に追加されたドラムとDuoのヴァージョンです。てっきり参加メンバーSteve GaddとのDuoかと思われていましたが、どうもGaddにしてはリズムのキレが悪く、彼のセットを使用しているのでGaddのドラムの音色ですが一体誰が叩いているのだろうと話題になりました。Coreaが演奏しているらしいと噂になりましたがMichael本人にも尋ねCorea本人説が裏付けされました。当時Michaelはフュージョン、スタジオミュージシャンとして認識されていましたが、ストレートなBe Bopをこんなに流暢に巧みに、伝統に根ざしつつ、しかも革新的に演奏するのだと感動した覚えがあります。

本作での演奏はThree Quartetsからちょうど20年を経て円熟味を増し、楽器のテクニック、音色の深さ、曲のコード進行の解釈、間の取り方、ユーモアのセンス、リラクゼーション、全てが格段にヴァージョンアップしており本当に素晴らしいテイクに仕上がっています。冒頭8小節間テナーとドラムのDuoでイントロ的に演奏されますが、#11thの音が効果的で以降の演奏の行方を暗示しているかのようです。1’36″からのConfirmationの2ndリフをダブル?トリプル?フラッター?タンギングで演奏し、キメフレーズをBilly Hartがしっかり合わせる部分には思わずニンマリしてしまいます。ピアノソロ後のドラムとテナーの4バーストレードもバッチリです!Hartのドラムソロ、フレーズには彼のオリジナリティを確実に感じ取ることができますし、歌がありますね。ライナーノーツにWill自身の文章で「Mike-thanks for wanting to do this-it’s a profound experiance to make music with you」 Willのまさに狙い通りの演奏をMichaelは届けてくれました。WillとMichaelは70年Dreams「Imagine My Surprise」、Horace Silver Quintet「The 1973 Concerts」、75年The Brecker Brothers Band、76年同「Back to Back」からの付き合い、互いの信頼関係は固い絆で結ばれています。

2曲目僕も大学1年生の時に入部したジャズ研でよく演奏したNow’s the Time、ジャズのブルースの基本テーマです。ここではLew SoloffとRandy Breckerの2トランペット・フロントで演奏されます。Randy, SoloffはBlood Sweat, and Tearsの初代、2代目のトランペッターたちですね。Soloffの方がビッグバンドのリード・トランペットも務めるため、Randyよりも派手な音色ですが、Randyも味のある音色でクールでホットなバトルを繰り広げています。

3曲目はヴォーカリストBob DoroughをフィーチャーしたCharles Yardbird Parker Was His Name (Yardbird Suite)、Dorough自身が作詞した歌詞で歌っています。Parker自身のアドリブ・ソロに歌詞を付けたボーカリーズが行われその後vibraphoneソロ、更にスキャットも聴くことが出来、素晴らしい歌声とスイング感を堪能できます。vibraphone奏者Warren Chiassonは34年生まれのベテラン、Les McCann, George Shearing, B. B. Kingたちとの共演歴があります。片手に2本づつ、計4本のマレット・テクニックを操るvibraphone奏者のパイオニアです。

4曲目はOrnithology 、ピアノのイントロからRandyのワンホーンで演奏されます。流暢なフレージングから彼も若い頃はClifford Brownをよくコピーしたと言う話を思い出しました。

5曲目はvibraphoneをフィーチャーした名曲My Little Suede Shoes、素敵なイントロパートに続くメロディラインとvibraphoneの音色がとても良くマッチしています。僕はChiassonをこの演奏を聴くまで知りませんでしたが、素晴らしいプレイヤーと認識し、ちょっと彼の事を掘り下げてみたいとも思いました。Billのピアノソロはスイングのリズムでは随分と前ノリでしたがカリプソのリズムでは然程気になりません。リーダーの短いベースソロも聴かれますが、この人の4弦ベースに拘ったベーシストぶりには男らしさ感じます。ラストテーマ後再びイントロのメロディに戻りFineです。

6曲目もブルースナンバーCheryl、今度はSoloffのワンホーンで演奏されます。ハイノートをあまり使わずにスイングするソロは正統派ジャズトランペッター然としています。

7曲目はAu Privave、こちらもまたまたブルースですがJohn Tropeaのギターをフィーチャーしています。ギターの独奏による少しアップテンポのテーマ、2コーラス目の途中からピアノのバッキングと手拍子による2, 4拍バックビートが聴かれますが、手拍子はWillでしょう。ギターのテーマがちょっと危なげでたどたどしさを感じさせますが、Tropeaさん普段あまりジャズを演奏していないのでしょうか?ギターソロの最後のコーラスでHartがバックビートにリムショットを入れていますが、テーマでのWillの手拍子を模したものです。こういうセンスには良い意味でどきりとさせられます。ここでもWillのソロを楽しむことが出来ます。

8曲目、Parkerのバラードといえばこの曲Lover Man、Soloffのミュート・トランペットがフィーチャーされピアノと全編Duoで演奏されます。美しい演奏でSoloffの歌心を再認識しました。

9曲目はDonna Lee、ギターとミュート・トランペットのユニゾンメロディ、こちらもトランペットはSoloffです。ジャムセッション風の演奏で、トランペットは演奏の途中からミュートを外しストレートにも吹いています。ちょっと全体にバタバタしている演奏です。

10曲目はTadd DameronのHot Houseを、vibraphoneをフィーチャーして演奏しています。安定したタイム感、的確なフレージング、Chiassonの演奏は4本マレットのMilt Jackson(2本マレットプレイヤー)的なテイストを感じます。

11曲目Quasimodoは再びヴォーカリストDoroughの登場、歌われている歌詞は女性ヴォーカリストSheila Jordanが書いたものです。再びSoloffのトランペットソロが聴かれ、Doroughのスキャットもフィーチャーされます。

ラスト12曲目はリズムチェンジのAnthropology、SoloffとMichaelの2管で演奏されます、先発Michaelは2コーラスという短いソロスペースの中でサムシングを表現しようと、果敢にチャレンジしています。フラジオ音でオーギュメント音G#が割れた音で演奏され、インパクトがあります。

2018.11.03 Sat

Mixed Roots / Al Foster

今回はドラマーAl Fosterの77年録音の初リーダー作「Mixed Roots」を取り上げてみましょう。

ds)Al Foster  b)T. M. Stevens, Jeff Berlin, Ron McClure  p)Masabumi Kikuchi, Teo Macero  g)Paul Metzke  ts, ss)Michael Brecker  ss)Bob Mintzer, Sam Morrison  fl, sax)Jim Clouse

1)Mixed Roots  2)Ya Damn Right  3)Pauletta  4)Double Stuff  5)Dr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis)  6)El Cielo Verde  7)Soft Distant

1977年録音  78年リリース Produced by Teo Macero  Laurie Records

Miles Davisのバンドに72年から85年まで13年間在籍したAl Foster、Electric Miles Bandの屋台骨となりMilesから絶対の信頼を得てBand史上最長の在籍期間、多くの名演奏を残しています。基本Fosterは決してラウドにはドラムを演奏せず、音楽的な音量でデリケートに、かつ大胆にビートを繰り出しバンドのリズム、サウンドを牽引します。大変バランスが取れたプレイを信条とするのでMilesにとどまらず、多くのミュージシャンからファーストコールを受けるようになりました。Sonny Rollins, McCoy Tynerに始まり、特筆すべきは晩年のJoe Hendersonのレギュラー・ドラマーを務めた事で、音量の小さいJoeHenとの音楽的相性が抜群、多くのアルバムで互いに信頼関係を築いたミュージシャン同士ならではのコラボレーションを聴くことができます。ひとりのミュージシャンと長きに渡り共演関係を保てるのはそのミュージシャンの音楽性が優れている事の裏返しでもあります。

本作の根底にはMiles Bandのサウンドがありつつも、Fosterなりのジャズ、ロック、ファンクのスピリットを導入し、それらを踏まえたオリジナル・ナンバーを中心とした演奏を聴くことができます。プロデューサーのTeo Maceroの采配もあるでしょうが参加メンバーの人選が異色で、自分自身の音楽を表現するための拘りを感じます。ベーシストに自称Heavy Metal FunkのT. M. Stevensと曲によりJeff BerlinとRon McClure、ギタリストはNYのスタジオ系ミュージシャンでGil Evansの作品にも参加していたPaul Metzke、そしてそして、ピアニストには日本代表としてプーさんこと菊地雅章氏!彼の参加がこの作品の品位を高めたと言って過言ではありません。独自のサウンドを聞かせています。ソプラノサックスにBob Mintzer, Sam Morrison、テナーとソプラノ・サックス持ち替えてのメイン・ソロイストとしてMichael Brecker、期待に違わぬ猛烈な演奏を聴かせており、70年代後期に於ける彼の代表的な演奏に挙げられます。因みに僕が学生時代に聴いたギタリストJack Wilkinsの「You Can’t Live Without It」、ピアニストMike Nockの作品「In Out And Around」と、本作でのMichaelのエネルギッシュでカリスマ性溢れる演奏に僕自身とことんやられてしまいました!そして期せずしてこの 3作でドラムを叩いているのがFosterなのです。

ところで本作はAl Fosterの初リーダー作に該当するはずなのですが、自身のwebsiteのディスコグラフィーには何故か掲載されていません。更に日本コロムビアから翌79年に「Mr. Foster」という第2作目のリーダー作品をリリースしていますが、こちらも非掲載です。Dave Liebman(ss), Hiram Bullock(g)たちが参加したフュージョンサウンドにFosterのボーカルも聴けるというレアなアルバムです。

本作78年リリースはLaurie Recordsという、ポップスやロックのレコードを中心にした米国レーベルからの発売でした。ほとんどジャズ色の無いレコード会社ですが膨大なカタログ枚数を抱えています。Teo Maceroとの縁故関係でのリリースと推測していますが。ジャケットにも同様にジャズの香りはせず、表裏両面とも当時のポップスレコードのセンス、雰囲気で〜というかコンセプト自体がよく分かりませんが(笑)〜本作品の内容とは大きな隔たりがあります。

その後日本ではSonyからジャケット違いでリリースされましたが、輸入盤よりも国内盤の方が流布した関係なのか、日本制作の作品と捉えられがちです。しかしながらMiles Davisの諸作をプロデュースしたTeo Macero監修による正真正銘のMade in USAのジャズ作品です。

Fosterの以降の作品はテナーサックスを迎えたカルテット編成が多く、Chris Potter, Eli Degibriといった精鋭を起用しています。Potterをフロントに擁した97年の作品「Brandyn」には本作収録のDr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis) をThe Chiefというタイトルで再演しています。Milesという人物はジキル博士とハイド氏にしてチーフ的な存在なのですね、きっと。

本作レコード裏ジャケットのライナーには「This album is dedicated to my mother and my four daughters, Thelma, Simone, Michelle and Monique」と自身の女系家族に作品を捧げる旨が記載され、「Thanks to Anthony, Derrick, Preston and Paul for being so helpful」と多分ローディ、レコーディングのスタッフに対する謝辞が有ります。そして「Special Thanks to Teo, Kochi, Mike」とあるのですが、Teoは間違いなくプロデューサーのTeo Maceroの事でMikeも熱演を披露して作品を盛り上げたMike Brecker、問題はKochiですが、本作録音前年の76年8月にプーさんがFosterを迎えてレコーディングした自身の作品「Wishes / Kochi」にあやかってプーさんの事をKochiと呼んでいたのではないでしょうか。彼の本作での労は賞賛に値しますからクレジット掲載も当然です。

1曲目はFosterのオリジナルにして表題曲Mixed Roots、うるさいオヤジがいない分リラックスしたMiles Bandといった趣の演奏ですが、ギターのカッティングとキーボードのシンコペーションのリズム、ベース・パターンが心地よいです。MichaelのテナーとMintzerのソプラノがフィーチャーされていますが、 Mintzer後年の演奏の素晴らしさと比較し、フレージングのクオリティ、滑舌、アイデア、タイム感いずれも今一つの感があり、ソプラノのマウスピースとリードの組み合わせが合っていない事に起因しているように聞こえます。一方のMichaelは確実に何かを掴んだ芸術家、演者ならではの表現の発露を感じます。テナーの音色が素晴らしいですね。本Blogで何度も書いていますが今一度、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、これはクラリネット奏者Eddie Danielsから譲り受けました。リードがLa Voz Medium Hard、リガチャーがSelmer Metal用、楽器本体がAmerican Selmer  Mark6 No.67853。このセッティングにしてからMichaelは新境地に至ったように認識しています。ソロの構成、起承転結の明快さが堪りません。

2曲目もオリジナルYa Damn Right、先ほどはソプラノのメロディが中心でしたがこちらはMichaelのテナーメロディがメインです。先発Metzkeのハードロックテイスト満載のソロの後にMichaelの登場です。フレージングの端々にジャズ的アプローチが聴かれるので、ハードロック・サウンドの中に一味違ったテイストを加味させています。

3曲目もFosterのオリジナルPauletta。この曲からベーシストがT. M. Stevensに変わります。強烈にグルーヴするベースは超弩級です。James Brown, Bootsy Collins, Narada Michael Waldenらとの共演歴のあるT. M.は背の高いがっちりした体格のプレイヤーで、その髪型とサングラスを愛用、ド派手なファッションから映画プレデターの地球外生命体をイメージさせますが(笑)、実はフランクでとてもナイスな人柄です。今は亡き名ドラマー日野元彦氏の音楽生活40周年記念コンサートにT. M.が客演し、その際に僕も共演しました。演奏後彼は大変丁寧に「君の名前は?」「さっきの演奏素晴らしかったよ。今夜はみんなと一緒に演奏出来て楽しかった」と話しかけに来ました。僕にだけでなく共演した若手ミュージシャン全員とちゃんと会話を交わしていたようで、周囲に対する気配りがハンパない気がしました。前の奥様が徳島県出身、一時期T. M.も徳島市に在住していたそうで、地元のアマチュアミュージシャンともよくセッションをしていたという話を聞きました。

Fosterが参加したBob Bergの78年録音初リーダー作「New Birth」にもPaulettaが収録されています。

Bergの演奏ではテーマ前半をテナー・ワンホーンで、後半トランペットが加わり2管でメロディが演奏されていますが、ここでは始めのテーマをプーさんのピアノが(弾きながらの唸り声が凄いです!)、後のテーマをMichaelのソプラノで演奏しています。この演奏は本作のハイライトの一つ目になります。

以前雑誌Jazz Lifeで僕がMichaelに自身の過去の演奏を聴かせてそのコメントを貰うという企画で、このPaulettaを取り上げました。ここでご紹介したいと思います(原文のまま)。

MB : これは本当に久々に聴いたね。プロデューサーのテオ・マセロ(マイルス・デイヴィスのプロデューサーを長年務めた人物)と、この時初めて一緒に仕事をしたんだ。菊地(雅章)の素晴らしいピアノがフィーチャーされているね。レコードの音自体はあまり良くないけど、演奏されている音楽は素晴らしい。いいスピリットが感じられるしね。私は慣れないソプラノ・サックスを吹いていて、それ自体は珍しいものだけど、このプレイは気に入っているね。この後にマウスピースをなくしてしまい、頭にきたのを覚えているよ(笑)。ソロは、ヴォーカルのようにソフトで、際立っているように感じる。楽曲も、誰が書いたか知らないけど、すごくいい曲だね。

ーこれはアルが書いた曲です。

MB : そうなんだ? 素晴らしい曲だよ。

インタビューの発言からいくつかの興味深い点を確認できます。まず自分の演奏を後からほとんど聴く事のないMichaelがこの演奏を聴いており、Teo Maceroとの初仕事だったという認識を持っている。ミュージシャンならば当たり前ですが、自分が録音した作品のレコーディング・クオリティに対する評価を下しつつ的確なコメントを述べている。それにしても気に入ったマウスピースだったでしょうからレコーディング後になくしてしまったのなら、頭にくるよりも落ち込んでしまうと思いますが(笑)。ソロの内容もヴォーカルのようにソフト、とは思えませんが彼のセンスでそのように感じるのならば致し方ありません。そしてソロの際立った感ですが、これは半端ありませんね。珍しく慣れないソプラノを吹いてとは全く聴こえない完璧なコントロールでの演奏、これは謙遜の一種でしょうか?テナーとはまた違った次元での表現を聴かせています。本当に素晴らしい演奏です!そしてPaulettaは美しいメロディ、ユニークな構成を持った大変に良い曲ですが、ドラマーは音楽上の役割とは関係なく、端正なメロディ、意外な発想の構成からなるオリジナルを書く場合が多々あります。ドラマーなりの観点に由来するのかも知れません。

Jim Clouseのフルートがメロディ〜ピアノソロのバックで、微かに聞こえる程度にオブリガートを入れていますが、プーさんの弾きながらの声と相俟って、所々に摩訶不思議なサウンドを聞くことができます。Michaelのソロはメロウな味わいを聴かせつつも次第に複雑化したラインが交錯し、ドラマチックに盛り上がりつつラストテーマへ、その後エンディング部で更なる展開が!こんな演奏を可能にするマウスピースはさぞかし素晴らしいクオリティのものだったでしょうに、無くしてしまうなんて残念としか言いようがありません。

4曲目Double Stuff、本作のもう一つのハイライトです。Milesの「Agharta」「Pangaea」両作(もちろんFosterが演奏しています)のグルーヴを感じさせる演奏で、ここではMichaelに思う存分吹かせていますが、作品中最もFosterとの熱いやり取りが聴かれ、盛り上がるテナーソロをドラムがさらにプッシュしてます。テナーのキーでEマイナーから半音上がりFマイナーになってからMichaelの暴れ方の凄まじいこと!そういえばMichaelと同世代のテナーたちSteve Grossman, Dave Liebman, Bob Bergの3人はMiles Band経験者です。ジャズ・リジェンドにひたすら敬意を払うMichael、友人たちが軒並みMilesとの共演で音楽性を深めたのを見て、さぞかしMilesと共演を果たしたかった事でしょう。モーダルに熱く燃え上がる中にJohn Coltraneのセンスを中心として、King CurtisやMichael独自のファンキーなテイストをスパイス的に聴かせているのが大変効果的です。へヴィーな演奏の重圧感を緩和する役割ですね。ダブルタンギング、完璧なフラジオ、オルタネート・フィンガリング、幾つかの音を同時に響かせる重音奏法〜マルチフォニックス、高速フレーズ、タイトなリズム、実はメチャメチャ技のデパート的ソロでもあります。

5曲目Dr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis)こちらもFosterのオリジナル、彼がやはり参加しているDave Liebman, Richie Beirachらから成るバンド名を冠した81年録音作品「Quest」にも収録されています。

最初のソプラノサックスのソロ、続くテナーソロもMichaelがフィーチャーされています。Foster, T. M.が尋常ではない暴れ方でソロイストを煽っているのでそのためか、3’55″でMichael珍しくメロディ2音先に飛び出して吹いています。プーさんのエレピによるバッキングもMetzkeのカッティングとともに効果的です。それにしてもこの演奏は他よりも突出して異常なまでの盛り上がりを聴かせていますが、too much感を否めません。

6曲目El Cielo Verde、プーさんのオリジナル。スペイン語で緑の空という意味ですが、81年彼の傑作「Susto」のプレヴュー的演奏になります。こちらもMichaelの超絶ソプラノをフィーチャーした演奏、クレジットにはSam Morrisonもソロイストとして挙がっていますがソロはありません。

6曲目はTeo MaceroのオリジナルSoft Distant、ベーシストはRon McClureに替わり、ピアノもTeo自身が演奏しています。冒頭のテナー・ルパート演奏部分がこれまでずっとアグレッシヴな演奏だったので、新鮮に響きます。しかし全体を通しての印象は捉えどころのなさ感でしょうか。特に魅力的なメロディラインや曲構成を持つ曲ではないので、Michaelのゴリゴリ・テナーでの演奏やギターソロに聴きどころを見出すしかなさそうです。