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2019.02

2019.02.20 Wed

Very Saxy / Eddie “Lockjaw” Davis, Buddy Tate, Coleman Hawkins and Arnett Cobb

今回はテナーサックス奏者4人Eddie “Lockjaw” Davis, Buddy Tate, Coleman Hawkins, Arnett Cobbによる作品「Very Saxy」を取り上げて見ましょう。

Recorded April 29, 1959 Van Gelder Studio, Hackensack Prestige Label

ts)Eddie “Lockjaw” Davis ts)Buddy Tate ts)Coleman Hawkins ts)Arnett Cobb org)Shirley Scott b)George Duvivier ds)Arthur Edgehill

1)Very Saxy 2)Lester Leaps In 3)Fourmost 4)Foot Pattin’ 5)Light And Lovely

Prestigeよくぞこんなにエグいアルバムを制作しました!(笑) いわゆるホンカースタイルのテナーサックス奏者4人をフロントに、彼らにうってつけのバッキング、サウンドを提供するオルガントリオを伴奏者に配し、ジャムセッション形式で思う存分ブロウさせる企画。プロデュースしたPrestigeのEsmond Edwardsに拍手を送りたいと思います。ホンカーテナー同士2人でのバトル作はかなりの数存在しますが、今回はよりにもよってその倍の4人!しかしホンカースタイルのテナー奏者は1人だけでも存在感が強く、しかもその演奏表現を聴衆に強いてアピールする傾向があります。実はホンカー好きにはそれが堪らないのですが、4人となると個性のぶつかり合いが単に4倍という訳には行かず、相乗効果でかなりの倍数になります!実際何倍増になるのかを本作未聴の方はお聴きになり、是非とも確認してください。ただ演奏の充実ぶりからこの作品を鑑賞する時には、体調を万全に整えて臨まなければなりません(笑)。演奏内容のあまりの濃さ、脂っぽさに胃もたれしないように胃腸薬のご用意もお忘れなく(爆)。Very Saxyとは言い得て妙、テナーサックス・バトルの醍醐味を心ゆくまで堪能できる仕上がりになっています。

ホンカーの特徴として人種的にはまず黒人に限定されます。白人や黄色人種では成し得ない黒人独自の音色はその筋肉組織自体がサックスを豊かに鳴らす、ジャズの音をさせると言われています。極太のダークな音色でファットリップのルーズなアンブシュア、付帯音豊富なサブトーンを駆使しグロウトーンやフラジオ音、時にはフリークトーンも交えながら演奏を必ずや、いや絶対に盛り上げます!渋さだけで盛り上がらない演奏のホンカーはあり得ません!Texas州出身のTexasスタイルのテナー吹きであれば尚よろしいです(笑)。フレージング的にはCharlie Pakerからの影響〜Be-Bopのテイストは殆ど感じられず(Sonny Stittをホンカーと呼ぶならば別ですが)、ペンタトニックを中心とした音使いで各人のオリジナリティをふんだんに交えつつ(全員実にフレージングが個性的です!)、ステージングとしては体をくねらせながらの派手な動き、感極まった場合にはステージ上サックスを吹きながら走り回るパフォーマンスや、テナーを手に持ち大きく振り回したり、客席にテナーを投げ入れる素振りをしたり、サックスを咥えたまま仰向けになって吹き続けると言った「見せる」行為にスイッチします。聴衆はそのエキサイト感に挑発されアプラウズの連続、興奮の坩堝状態、ホンカーを享受しまくりです!

シャープス&フラッツのリーダー原信夫氏は大のホンカー好き、以前のBlogでも触れましたが彼のフェイヴァリット・テナー奏者はBen Websterを筆頭にGene Ammons, Illinois Jacquet, Buddy Tate, Arnett Cobb, Stanley Turrentine…当時よく参考音源として、これらのテナー奏者の演奏をカセットにダビングしたものを戴きました。自分のバンドの演奏に対して大変な拘りのある原さん、あたかも大企業原信夫エンタープライズの総帥として、自社の社員一人一人に対しての指導、教育が微に入り細に入り、実に的確です!彼は大会社の経営者、社長を務めたとしても成功した人だと思います。入社(笑)した僕にバンドのソロイストとしてホンカー役を任せたかったようで、演奏最中によく隣で僕のソロについてその都度感想や批評を述べていました。時には移動中の新幹線車内で、空いている隣の席にいつの間にか座っていて「この間のコンサートのあの曲のあそこの部分の事だけどさ…」とダメ出しを何度もされました(汗)。「さあ、たっちゃん、今日こそはステージに寝っ転がって思いっきりブロウしてみようか!」と僕のフィーチャリング・ナンバーで、ステージ最前に出る直前に何度かリクエストされた事がありましたが、その頃は今ひとつ踏ん切りがつかず結局一度もステージでホンカーの極み芸である寝そべり演奏をしませんでした。今なら躊躇なく出来そうです(笑)。

そういえばシャープスの芸術鑑賞の仕事で長野県に赴いた時のことです。いつものようにフィーチャリングのナンバーでカデンツァの演奏時、「せっかくのフィーチャリングなので何かご当地にちなんだフレーズを演奏したい」と考え、飯田市なのでI Can’t Get Started 〜言い出し(飯田市)かねての冒頭のメロディを一節吹きました。芸術鑑賞の学生たちには分からずとも、バンドのメンバーには結構ウケました。ですが原さんには「ふざけるな!」とばかりにかなり絞られました(爆)。原さんもジョークやダジャレはお好きな筈なのですが、唐突な節わましだったのかも知れません。

本作のテナー奏者たちを紹介して行きましょう。22年生まれEddie “Lockjaw” Davis、当時Prestigeから数多くリーダー作をリリースしており、彼が窓口になってホンカーを集め、リズムセクションの人選をしたように思います。彼のPrestigeでの代表作Cook Bookシリーズから「The Eddie “Lockjaw” Davis Cook Book Vol.1」、本作とリズムセクションが全く同じで、メンバーにもう一人Jerome Richardsonがフルートとテナーで参加しています。

とってもワルそうな面構えのテナー吹きが写ったジャケット、ホンカーは基本的こうでなければいけません(笑)。それにしてもこの人の吹くアドリブ・ラインは超独特、Benny Golson, Wayne Shorter, Joe Henderson, Sam Riversたち同じくウネウネ系とはまた異なり、音楽理論を超越したところで成り立っているように聴こえますが、実は僕大好きなんです!スピード感、音色と滑舌が素晴らしいですからね。使用マウスピースはOtto Link Metal(多分Double Ring)10☆、リードはLa Voz Med. Hard、豪快さんのセッティング、本作でも他の3人とは楽器の鳴り方が違っており、タンギングの切れ味も鋭いです。

Coleman Hawkinsは04年生まれでこのメンバーの中で最年長、レコーディング当時54歳です。使用マウスピースはBerg Larsen Metal 115 / 2、かつてOtto Link社に自身のモデルHawkins Specialを作らせ、ラインナップに載って一般に販売していましたが、晩年は何故か使用していませんでした。39年に以降の評価を決定づける名演奏「Body and Soul」を録音し、ジャズテナーの第一人者、開祖として君臨します。代表作は58年「The High And Mighty Hawk」

Buddy Tateは13年Texas生まれ、Count Basie, Benny Goodman楽団に在籍したいわゆるTexasテナーの代表格の一人です。「When I’m Blue」をご紹介しておきます。

Arnett Cobbは18年同じくTexas生まれ、束縛のない自由な演奏スタイルから”Wild Man of the Tenor Sax”との異名があります。Illinois Jacquetの後釜でLionel Hampton楽団に入り、その名を轟かせました。比較的晩年の作品ではありますが78年「Arnett Cobb Is Back」は70年代病に侵されながらも奇跡の復活を遂げ、松葉杖をつきながら楽器を構えるジャケット写真がインパクトのある作品。こんなジャケ写見たことありませんよね?松葉杖により足は宙に浮いていますが演奏自体はしっかりと地に根差しており(笑)、スインギーな素晴らしい演奏です。

役者も出揃いました。それでは演奏内容について触れて行きましょう。

1曲目はその名もVery Saxy、スタンダード・ナンバーSweet Georgia Brownのコード進行を基にしたLockjawとベーシストGeorge Duvivierの共作によるナンバーです。シンコペーションを多用したオルガンによるイントロが、早速ムードを高めています。テナー4管による重厚なアンサンブル、やはりエグい音色のプレイヤーが集まれば迫力が違います!メロディの語尾のビブラートに各々のアジが出ています。メロディの間に入るリズムセクションによるリフ、毎回入るはずが0’31″でオルガンが出忘れ、バスドラとベースが心なしか寂しく響いており、ラフな雰囲気のセッションを既に暗示しています。

ソロの先発はCobb、グロートーンを全面に出しいきなりホンカー全開です!フラジオG音の多用がホンカーの特徴の一つでもありますが、ここでも例外なく行われ、否が応でも盛り上がります!2番手はTate、スクリーミングしつつシャウトするソロでこちらも正統派ホンカーを聴かせます。この後にオルガンのソロになるのですが、「あら、私の出番?次のテナーの人じゃないの?」といった風情で、一瞬弾いて様子を伺っています。自分の番と分かるとすぐに全開モード、原曲Sweet Georgia Brownのメロディも引用しつつ、さすがホンカー御用達のオルガン奏者、グリッサンドやブロックコードの多用でホンカー顔負けにガンガン盛り上がっています!その後御大Hawkinsの登場、この人の淡々とした語り口は厳密にはホンカーのアプローチではないかも知れませんが、テナー4人衆のまとめ役になっていると思います。続くLockjawのソロはこれぞまさしくホンカー、凄い存在感です!音色、フレージング、粘るリズム、聴き応え抜群です。その後ラストテーマに突入、初めのテーマでオルガンが出忘れた?7’59″のリフ、ここでも弾かれていないのは再度出忘れたのか、わざと演奏しない事でそういうアレンジだと正当化させるための手段か、興味深いところです。

2曲目はLester YoungのLester Leaps In、テナーバトルではよく取り上げられる定番のナンバーで、各々のソロの1コーラス目にブレイクタイムが設けられ、メリハリある構成になっています。先発Lockjaw, Cobb, Tate, Hawkinsとソロが続き、その後同じオーダーで4小節交換がなされます。互いのアイデアを踏襲しつつ、Lockjawが倍の長さ8小節吹いたりと彼が起爆剤になり、熱いトレードが行われています。

Lester Young

3曲目はShirley Scottのブルース・ナンバーFourmost、イントロでLockjaw, Tate, Hawkins, Cobbと顔見せが行われこの順番でソロが行われます。比較的コンパクトに演奏に収めていますが、Hawkinsが若者たちに影響を受けたのかホンカーの萌芽を感じるプレイをしています。本作中Cobbのソロで掛け声が何度か掛かりますが、多分Lockjawでしょう。テナーの4小節トレードが行われますが本テイクでもLockjawが盛り上げ役を務めています。途中でフェイドアウトになるのが残念ですが全曲演奏が濃すぎるので多少は間引かないとマズイと言うプロデューサーの判断でしょうか?ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目はDuvivierのオリジナル、ハッピーな雰囲気のシャッフル・ナンバーFoot Pattin’、ソロはScottから始まります。Lockjaw, Cobb, Tate, Hawkinsとソロが続きますが、ホンカーの演奏にはシャッフルリズムがよく似合い、各人リラックスした素晴らしいソロを聴かせます。

本作ラストを飾るのはLockjawとDuvivierの共作Light And Lively、1曲目と同じ構成でCobb, Tate, Scott, Hawkins, Lockjawとソロが行われます。本作はSide Aにテンポの速い熱いナンバーを配し、Side Bにはミディアム・テンポのリラックしたナンバーを持ってきています。全テイクでテンポが遅くなる傾向があるのはホンカーの特徴であるレイドバック、4人も揃えばリズムセクションは引っ張られても致し方ないでしょう。

2019.02.08 Fri

Bob Brookmeyer and Friends / Bob Brookmeyer

今回はトロンボーン奏者Bob Brookmeyer1964年録音のリーダー作「Bob Brookmeyer and Friends」を取り上げてみましょう。

64年5月25~27日 30th Street Studio, NYC録音 同年リリース Columbia Label Produced by Teo Macero

tb)Bob Brookmeyer ts)Stan Getz vib)Gary Burton p)Herbie Hancock b)Ron Carter ds)Elvin Jones

1)Jive Hoot 2)Misty 3)The Wrinkle 4)Bracket 5)Skylark 6)Sometime Ago 7)I’ve Grown Accustomed to Her Face 8)Who Cares

素晴らしいメンバーよる絶妙なコンビネーション、インタープレイ、インプロヴィゼーション、珠玉の名曲を取り上げたモダンジャズを代表する名盤の一枚です。Bob Brookmeyer名義のアルバムですがStan Getzとの双頭リーダー作と言って過言ではありません。 BrookmeyerとGetzはこれまでにも何枚か共演作をリリースしており、代表的なところでは「Recorded Fall 1961」Verve labelが挙げられます。知的でクールなラインをホットに演奏する二人、Brookmeyerの方は作編曲に長けており、それらを行わなかったGetzですが良いコンビネーションをキープしていました。Getzは膨大な量のレコーディングを残していますが、実は自己のオリジナルやアレンジが殆どありません。優れたヴォーカリストが歌唱のみ行い、演奏の題材はピアニストやアレンジャーに委ねるのと同じやり方で、Getzほどのサックス演奏が出来ればまさしくヴォーカリストと同じ立ち位置で演奏する事が出来たのです。ほかにテナー奏者ではStanley Turrentineが同じスタンスで音楽活動を行なっており、大ヒットナンバーSugarが例外的に存在しますがあれ程の存在感ある音色、ニュアンスでサックスを吹ければ作編曲をせずとも名手として君臨するのです。

Brookmeyerがバルブトロンボーンを用いて演奏するのは有名な話です。ジャズ界殆どのトロンボーン奏者がスライド式のトロンボーンを使っているので彼一人異彩を放っていますが、かつてトロンボーンの名手J. J. Johnsonはそのテクニックに裏付けされた高速フレージングから、わざわざアルバムジャケットに「バルブトロンボーンに非ず」との注記まで付けられたほどで、スライド式の方が動きが大きいためコントロール、ピッチ等、楽器としての難易度が高いのですが、トロンボーンならではのスイートさや味わいを表現する事が出来、それが魅力でもあります。難易度を排除した分バルブ式の方がよりテクニカルな演奏が可能という事なのですが、Brookmeyerは決してテクニカルな演奏をせず朗々と語るタイプで、彼の演奏からはいわゆるトロンボーンらしさが薄れて端正さが表現されており低音域のトランペット、フリューゲルホルンの様相を呈しています。若い頃にピアノ奏者としても活動していたので、トロンボーンの音程や操作性にある程度のタイトさ、カッチリしたものを求めていたがためのバルブ式の選択でしょうか?真意のほどを知りたいところです。

リズムセクションのメンバーについて触れてみましょう。Herbie Hancockは言わずと知れたMiles Davis Quintetのメンバー、このレコーディングの前年63年に入団しました。すでに3枚のリーダー作をBlue Noteからリリース、4作目になる名作「Empyrean Isles」を録音する直前でした。この頃から既に素晴らしいピアノプレイを聴かせていて端々にオリジナリティを感じさせますが、未だ確固たるスタイルを確立するには至っていません。ブラインドフォールド・テストでこの頃のHerbieのソロを聴かされたら逆に、「Herbieに影響を受けた若手ピアニストの演奏か?」と判断してしまうかも知れません(笑)

Ron CarterもMilesバンドに在団中で、前任者の名手Paul Chambersのある意味音楽的進化形として、Milesの音楽を推進させるべくリズムの要となり演奏しました。更にそのステディな演奏を評価され当時から数々のセッションやサイドマンとしても大活躍でした。

Elvin JonesはJohn Coltrane Quartetのドラマーとしてリーダーから絶対の信頼を受け、やはりColtraneの音楽を支える屋台骨として素晴らしい演奏を繰り広げました。個人的にはColtraneの音楽はElvinが存在したからこそ成り立ったと思います。Getzとは本作録音の直前、5月5, 6日に共演を果たしています。「Stan Getz & Bill Evans」Verve label ベーシストにRon Carterも参加、本作の前哨戦と言える充実したセッションです。

Gary Burtonはこの時若干21歳!新進気鋭の若手としてGeorge Shearingのバンドを皮切りに丁度Getzのバンドに加入した頃です。ヴィブラフォンという楽器のパイオニアとして数多くのリーダー作を発表しました。その彼も昨年引退宣言を発表し、現役から退いたことは耳新しいです。Brookmeyerとは62年9月Burtonの2作目にあたる(録音時19歳です!)「Who Is Gary Burton? 」で共演していますが、既に素晴らしい演奏を聴かせています。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目BrookmeyerのオリジナルJive Hoot、Elvinのハイハットプレイから始まり、ヴィブラフォンによるイントロが印象的、トロンボーンとテナーによるテーマのアンサンブル、効果的なブレークタイム、ダイナミクスの絶妙さ、各楽器の役割分担、曲の構成も凝っていてオープニングに相応しい明るく軽快なナンバーです。Getzも自分のカルテットのライブでよく演奏していました。「Stan Getz & Guests Live at Newport 1964」にも収録されています。

トロンボーン、テナー、ヴィブラフォン、ピアノとコンパクトな長さながら聴きごたえあるソロが続きますがピアノソロの途中のブレーク、勢い余ったHerbieのソロでタイムがラッシュし少しだけ音符が詰り、ブレークの着地点が一瞬ずれたのをベース、ドラムとも絶妙に「お〜っと!」とばかりに受け止め、リカバーしました。Herbie自身も瞬時様子見をしつつ、何事もなかったように復帰しています。

2曲目はお馴染みErroll GarnerのMisty、ピアノのイントロ後Getzのテーマ奏ですが何でしょう、この素晴らしいサブトーンの音色は!めちゃめちゃピアニシモで吹いていて管の中を空気が通り抜ける音さえも聴こえる音色、Getzは本当にバラード奏法が上手いと今更ながらの再認識です。そしてGetzのサブトーンとElvinのブラシの音色がとても良く似ていて区別がつきません!ピアニシモで吹いてビブラートがかかると更に類似度アップです!

通常この曲はEフラットで演奏されますがここでは全音低いDフラットに移調されています。その分オリジナルキーよりも低く重厚に聴こえますが、むしろこのキー自体の特徴かも知れません。Body & SoulやStardustもDフラットで曲のムードが確立しているからです。テナーとトロンボーン二人のフィーチャリングでした。

3曲目はBrookmeyerのオリジナルThe Wrinkle、ベースのパターンというか裏メロディ的なパターンが印象的、テーマでのシャッフルっぽいリズムでのElvinのドラミングが冴えています。ブレークタイムを効果的に生かした構成は演奏を活性化させています。Burton, Getz, Herbie, Brookmeyerと淀みなくスインギーなソロが続きますがElvinとCarter、シャープでいながら強力タップリとしたシンバルレガートと、On Topベースのスイングビートのコンビネーションの良さが光ります。短いながらもしっかりと主張のある独特のElvinのソロを挟んでラストテーマです。

4曲目もBrookmeyerのオリジナルBracket、前曲よりもいささかテンポの速いスイングナンバー、Carterのベースラインが実にスインギーです!Brookmeyer~Getzとソロが続き、Getzのフレーズを巧みに受け継ぎHerbieのソロに繋がります。ソロイストの強力なアドリブラインに敢えて殆ど何もせずリズムを繰り出すElvinとCarter、ヒップなプレイです!でもよく聴くとシンバルレガート時にスティックの先端チップが様々な当たり方をするのか、させているのか、色々な音色が聴こえます。その後Elvinとの4バース、2nd Riffも交えつつエンディングに向かいます。Elvinのソロ、目新しいフレーズは聴かれないのですがいつもフレッシュな感覚に満ちていて常に音楽的なのです。

5曲目、今度はHoagy CarmichaelのナンバーからSkylark、ここでもメロディ奏の先発はGetz、サビをBrookmeyerが担当、Getzがオブリを入れています。その後のAメロはBurtonが主導しつつGetzのオブリを活かそうとしてメロディを演奏しているように聴こえます。その後ソロはダブルタイムフィールでBrookmeyer~Getzと続きます。Coltrane Quartetのバラード演奏はアドリブに入ると必ずダブルタイムフィールになりますが、ひょっとしたらここでもElvinが率先していたのかもしれません。この曲もフロント二人のフィーチャリングとなりました。

6曲目はワルツナンバーSometime Ago、ここでのElvin、Carterは積極的に攻めています!フロント二人でメロディをハーモニーを交えつつ同時に演奏したり、同時にソロを取ったりとクインテットならではの醍醐味を聞かせていますが、リズム隊が先かフロントが先か、相乗効果で熱い演奏に仕上がっています。

7曲目は再びバラードで映画My Fair LadyからのナンバーI’ve Grown Accustomed to Her Face、このメンバーでのバラード奏だったら何曲でも聴いていたいです!Brookmeyerが初めにメロディを演奏しGetzはオブリ担当、ここでもGetzのサブトーンがElvinのブラシと区別がつき辛い瞬間が多々あります。Getzのソロ後フロント二人の演奏が同時進行し、シンコペーションのフレーズを合わせたり、またHerbieがバッキングで面白いサウンドを出したりと聴きどころ満載です。Wes Montgomery 62年月録音「 Full House」収録の同曲、ギターソロで演奏されていますがこちらも素晴らしい出来栄えです。この当時流行っていた曲なのかも知れませんね、多くのジャズメンに愛奏されていました。

8曲目レコードの最後を飾るのはGershwinのナンバーからWho Cares、トロンボーンのメロディからイントロ無しで始まります。ソロの先発はGetz、Elvinお得意の三連譜が多発されたドラミングにGetzもインスパイアされブロウしていますが、相乗効果でここでのリズムセクション実に盛り上がっています!特にElvinは63年のヨーロッパツアーでのColtrane Quartetの演奏を彷彿とさせる、アグレッシヴかつ繊細なドラミングを聴かせています。

本作は収録曲のいずれもがコンパクトなサイズの中にも様々なストーリーが込められているバランスの取れた演奏です。プロデューサーTeo Maceroの采配が光る作品に仕上がっていると思います。

2019.02.01 Fri

Randy Waldman / UnReel

今回はピアニスト、アレンジャー、作曲家のRandy Waldmanの2001年発表リーダー作「UnReel」を取り上げてみましょう。Concord Label

アメリカを代表するアニメ、映画音楽の主題曲を題材に取り上げ、これまたアメリカ音楽シーンを代表するジャズミュージシャン、ジャズ系スタジオミュージシャンを一堂に集め、リーダー自身の華麗なるアレンジとピアノ演奏のもとb)John Patitucci ds)Vinnie Colaiutaとのリズムセクションをベースに曲毎にゲスト・ミュージシャンが目まぐるしくフィーチャリングされ、全編極上のジャズ演奏に仕上がっています。さながらディズニーランドのアトラクション、ブロードウェイミュージカル、ハリウッド映画、ラスヴェガスのカジノの如きお客様を必ずや満足させるアメリカンなエンターテイメント性と、ゴージャスで優れた音楽性とが見事に融合している作品です。

1)The Jetsons 2)My Favorite Things 3)Leave It to Beaver 4)Bali Hai 5)Schindler’s List 6)Hawaii Five-O 7)America 8)Mannix 9)Ben Casey 10)Raider’s March 11)Forrest Gump 12)Maniac

Randy Waldmanのバイオグラフィーを紐解いてみましょう。55年9月8日Chicago生まれ、5歳からピアノを始め、神童の誉れ高く既に12歳で地元のピアノ店でデモ演奏を行っていたそうです。21歳でFrank Sinatraのピアニストに大抜擢されツアーに出ました。その後The Lettermen, Minnie Riperton, Lou Rawls, Paul Anka, George Bensonといったアーティストのバンドでもツアーし、80年代には作曲アレンジの能力を買われてGhostbusters, Back to the Future, Beetlejuice, Who Framed Roger Rabbitといった映画のサウンドトラックを手がけ始め、83年にはThe Manhattan Transfer、85年Barbra Streisandに提供したヴォーカル・アレンジでGrammy賞を受賞しています。その後も快進撃は止まらずForrest Gump, The Bodyguard, Mission: Impossibleといった映画の音楽、Michael Jackson, Paul McCartney, Celine Dion, Beyonce, Madonna, Whitney Houston, Ray Charles, Quincy Jones, Stevie Wonder, Kenny G…といったアーティストたちとのコラボレーションも実現し、音楽制作、現場面でのアメリカを代表するミュージシャンの一人になりました。Waldmanは日本ではあまりその存在を知られておらず、それはひとえにリーダーとしての活動が目立たないからですが、本作の申し分ない出来栄えでしっかりと狼煙を上げる事が出来ました。因みに98年リリース第1作目の「Wigged Out」も本作と同じコンセプトでの演奏です。

前作から内容、編成的に格段にヴァージョンアップした本作、Waldmanは制作サイドの音楽家ではありますがジャズミュージシャンたるべく(アレンジャー、プロデュサー業が忙しいとピアノを弾く事が疎かになりがちです!)、日々の精進を怠らず(ジャズマンでいるためにはここが大切です!)音楽性を磨き上げ、いつもとは真逆の立場で自身のピアノプレイを全面的にフィーチャーしています。アメリカ人であったら誰もが知っているアニメ、映画音楽のナンバーを何の外連味もなく堂々と取り上げて演奏する事が出来るのも、裏方としてアメリカ音楽界を支えてきた立場ならではなのかも知れません。何しろWaldmanはピアノがメチャメチャ上手いです!以前触れたことのあるピアニスト、アレンジャーのJan Hammerに通じるところがある音楽性を感じます。何をやらせても器用な人なのでしょう、トランペッターとしても活躍し、本作でもホーンセクションでのアンサンブル演奏を担当しています。更には航空機とヘリコプターのパイロットでもあり、03年にはBell OH-58ヘリコプターでのスピード記録を樹立しています。

左がWaldman、右は盲目の世界的テノール歌手Andrea Bocelli
Bell OH-58ヘリコプター

それでは収録曲を見て行くことにしましょう。1曲目The Jetsons、アメリカで62年から63年まで、間が空き85年から87年まで計99話TV放送され、日本でもNHKで63年から「宇宙家族」というタイトルで毎週放送されました。超ハイテク化された未来社会、宇宙で生活する家族の日常を描いたアニメーション、僕自身たぶんリアルタイムでは見ていないと思いますが、再放送では何度も視聴し「未来社会の文明はこんなに凄いんだ!」と本気で感じた覚えがあります(笑)。

子供心にここでのテーマソングにワクワク感を覚えた記憶があり、本作での演奏を初めて聴いた時に何だか懐かしさを感じました。近未来を暗示させる無機的なラインとひょうきんさを感じさせるメロディの混在がアニメの雰囲気をより明確にしています。

原曲のアレンジにかなり忠実に、超アップテンポのスイングビートで演奏されますが、オリジナルよりもリズム、アンサンブルのスピード感が際立ち、シャープさがたまりません! tp)Lew Soloff, Waldman sax)Dave Boruff tb,b-tb)Bob McChesneyたちの多重録音によるホーンセクションによりビッグバンド・サウンドに仕上がっています。ソロの先発はWaldman、端正でブライトなピアノタッチ、シャープなリズム感、理知的なソロラインはさすがユダヤ系ミュージシャン、とっても好みのタイプです!そしてフィーチャリング・ソロイストは我らがMichael Brecker、「The Jetsonsのテーマ曲でソロを取るなんて面白そうだね!子供の頃によくTVで観たな〜」というようなMichaelの会話が聞こえて来そうなくらい、ハーフテンポでのテーマの提示感、途中に入るホーンのアンサンブルとの絡み具合等、演奏を楽しみながらもチャレンジャブルなアドリブを聴かせています。リズムセクションとはダビング無しの生演奏、レスポンスが半端ありません!オープニングに相応しい軽快でインパクトのある演奏です。

2曲目は映画The Sound of Musicの主題曲My Favorite Things、数多くのミュージシャンが、それぞれ腕によりを掛けたアレンジでカヴァーしていますが、こちらも実にユニークな仕上がりになっています。この演奏のみベーシストがDave Carpenterにチェンジし、Studio City String Orchestraのストリングス・アンサンブルが加わります。印象的なベースラインの後、変拍子を効果的に生かしたピアノによるメロディ、フィーチャリング・ヴァイブ奏者Gary Burtonのメロディ、Carpenterによるメロディ奏と続きヴァイブ・ソロになります。ソロでは変拍子は用いられてはいませんが、コード進行にハイパーな代理コードがてんこ盛りです!ストリングスの響きがソロと絡み合い、その後の饒舌なピアノソロにも効果的に使われ、ベースパターンに乗った形でドラムソロ、ラストテーマはピアノとヴァイブによるアンサンブルで締め括られます。曲の持つリリカルなムードを的確に引き出したアレンジに仕上がっています。

3曲目はアメリカのTVドラマLeave It to Beaverの同名テーマ曲。57年から63年まで放送されました。50年代Californiaの典型的な中流家庭での、日常の出来事を題材にしていてBeaverは小学生の主人公、日本では確か民放で「ビーバーちゃん」というタイトルで平日夕方再放送していたように記憶しています。

ここではWaldmanのピアノとホーンセクション担当Bob McChesneyのトロンボーンソロをフィーチャーしています。Waldmanはもちろん、McChesneyも大変流麗なソロを聞かせています。

4曲目は49年のミュージカルSouth Pacificから、名作詞作曲コンビRichard Rodgers ~ Oscar HammersteinⅡの名曲Bali Hai、South Pacificは58年映画化され01年TVドラマとしても放送されました。

またもや印象的なリズムパターンによるマーチのリズムでMcChesneyのトロンボーン・メロディ、スイングのリズムでWaldmanのピアノソロ、そしてMichael Sembelloのギターとスキャットによるソロ〜大変密度の濃い演奏です!ラストテーマ後はリズムパターンを再利用でのドラムソロ、いや〜最後まで寸分の隙もないアレンジ、演奏です!

5曲目は93年Steven Spielberg監督による映画Schindler’s Listから同名曲。Branford Marsalisのソプラノサックスがフィーチャーされ、Studio City String Orchestraが加わります。こちらのアレンジも実に意欲的、Waldamanはまさにアレンジに対するアイデアの宝庫、泉のごとく湧き出ています!PatitucciのベースソロもWaldmanのコンセプトを的確に把握しつつ華麗に行われています。Branfordの音色は録音の関係かいつもと多少異なっていますが、メロウな吹き回しで自身のスタイルと曲想を上手く合致させています。

6曲目は68年から80年までアメリカでTV放送された刑事ドラマHawaii Five-Oの主題曲、人気を博した長寿番組で日本でも70年に一部が放送されました。Randy Brecker, Gary Grantのトランペット、Boruffのサックスがフィーチャーされます。いやいや、ここでEddie HarrisのFreedom Jazz Danceを持ち出してくるとは!!バッチリと融合し、物凄くイケてます!アレンジ・センスに脱帽です!先発ソロはRandy、いつもの変態ラインの中にパターン提示も聴かれます。ピアノソロを経てラストテーマへ、曲想は次第にFreedom Jazz Dance色の方が濃くなり、エンディングは何とFreedom Jazz Danceで終了、見事に曲が乗っ取られました!

7曲目57年ミュージカルWest Side StoryからAmerica、Leonard Bernstein作曲の名曲です。ここではまた意表をついたイントロからベース〜ピアノのメロディ奏、この曲を熟知しているアメリカ人もこのアレンジには驚いた事でしょう!フィーチャリングはMcChesneyのトロンボーンとPatitucciのベース、テナーのErnie Wattsです。Wattsのフレージングは僕にとっていつも謎ですが、テナーの音色は本当に素晴らしく、美しく楽器を鳴らしていると思います。テナーとトロンボーン2管のアンサンブルを従えたドラムソロ、エンディングも意表をついています。

8曲目Mannixは67年から75年まで米CBS系でTV放送されていた探偵モノの番組名、その主題曲です。日本で放送されたことは無いようです。作曲はスパイ大作戦の音楽で有名なArgentine出身のLalo Schifrin、Lew Soloffのフリューゲルホルン、Waldmanのピアノがソロを取ります。Kevin Clarkのギターが良い味付けをしているのが印象に残りました。

9曲目は61年から66年までアメリカで放送されたTVドラマBen Casey、同名主題曲です。総合病院の脳神経外科に勤務する青年医師ベン・ケーシーを主人公に、病院内での医者と患者との交流を通じて医師としての成長を描き、当時高い評価を得たメディカルドラマです。62年から日本でもTV放送され、なんと最高視聴率50%以上を記録しました。僕も随分と再放送を含め見たように思います。幾重にも捻られたイントロから耳馴染んだテーマが始まりますがオリジナルよりもかなり速いテンポ設定、これまた一筋縄では行かないアレンジです。そういえばタイトル画面にあった「♂ ♀ * † ∞」は「男、女、誕生、死亡、そして無限」という意味だそうで、子供には全く理解不能でしたが、今更ながらに深いものを感じます。因みに漫談家で白衣を着用し、怪しい医学用語を多用する芸風のケーシー高峰、彼の芸名はここから拝借したそうです(笑)

Tom ScottのテナーサックスがフィーチャーされPatitucci, Colaiutaの素晴らしいソロも聴かれます。

10曲目は監督Steven Spielberg、製作George Lucas、主演Harrison Ford、音楽John Williamsによる名作映画Indiana Jones, Raiders of the Lost Arkから主題曲Raiders March。原曲の旋律はよく聴かないと認識できない程にリアレンジされています。Waldmanのブリリアントなピアノの音色がメロディ奏にとても合致しており、フィーチャリング・ギタリストMichael O’NeilのソロとWaldmanのソロが良いバランス感を聴かせます。

11曲目Robert Zemeckis監督、Tom Hanks主演の映画Forrest Gumpの主題曲をここではWaldmanソロピアノで演奏しています。美しく明快なピアノタッチ、ラグタイムやスイング時代のテイストを交えつつ、底抜けに明るくハッピーエンドに仕上げています。

12曲目ラストに控えしは83年アメリカで公開された映画Flashdanceの挿入曲Maniac、作曲者Michael Sembello自身のギター奏、中性的なヴォーカルを全面的にフィーチャーしています。この曲のみフュージョン色が強い仕上がりになっており、Waldmanの演奏スタンスもいつものプロデューサー、アレンジャー的に前に出ずサポートに回っています。