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2018.10

2018.10.15 Mon

Echoes Of An Era / Chaka Khan

今回はボーカリストChaka Khanを中心としたオールスターズによる82年リリースの作品「Echoes Of An Era」を取り上げたいと思います。

82年1月14日リリース 81~82年録音 Producer : Lenny White   Engineer : Bernie Kirsch  Recorded at Mad Hatter Studios, Los Angeles, California  Label : Elektra/Musician

vo)Chaka Khan  ts)Joe Henderson  tp, flugelhorn)Freddie Hubbard  p)Chick Corea  b)Stanley Clark  ds)Lenny White

1)Them There Eyes  2)All Of Me  3)I Mean You  4)I Loves You Porgy  5)Take The “A” Train  6)I Hear Music  7)High Wire – The Aerialist  8)All Of Me(Alternate Take)  9)Spring Can Really Hang You Up The Most

ジャズボーカルとインストルメンタル・ジャズの醍醐味を正に同時に、いや相乗効果で何倍にも楽しめる素晴らしい作品です。R&Bの女王とまで評されるChaka Khanのジャズボーカリストとしての充実ぶりと驚異的な歌唱力、Freddie Hubbard, Joe Hendersonフロントふたりのリラックスした中にも互いに触発しつつ、されつつ火花を散らすアドリブソロの応酬、Chick Coreaの抜群のテクニック、タイム感、音楽性、歌心に裏打ちされたピアノワークと奏者のソロをホリゾンタルに浮き上がらせるバッキング、 恵まれた体格からコントラバスを軽々と扱いこなすStanley Clarkの、生来の才能に裏付けされたベースラインの安定感、本作のプロデューサーとしての立場からバンド演奏の全体を俯瞰しつつタイトなリズム、センスの良いフィルインを繰り出すLenny White、そんな彼らによる実に見事なインタープレイ、よく知られた(手垢にまみれたとも言えますが)スタンダード・ナンバーをCoreaの抜群のアレンジでフレッシュに歌いあげるChakaを、メンバー全員が一丸となって実に楽しげにバックアップしているのです。他のジャズボーカリストでは本作の充実感は得られなかったでしょう。

1曲目Them There Eyes、冒頭からブレークタイムを用いたFreddieのソロ、奥行きを感じさせ箱鳴りがする音場感、マイクロフォンから一定の距離を置いたブース(小部屋)での収録になります。続くJoeHenは逆にかなりオンマイクな音場感でのJoeHenフレーズ炸裂のソロです。ピアノ、ベース、ドラムの録音バランスが実に良いです!「シャー」っとWhiteのトップシンバルにフェイザーが掛かったような質感、タイトなClarkのベースとの絡み合いの素晴らしさが作品のクオリティの高さを既に提示しています。録音エンジニアが多くのCoreaの作品を手掛けたBernie Kirsh、録音スタジオも当時Corea自身が所有していたLos AngelesにあるMad Hatter Studiosでは然もありなんです。そしてChakaのボーカルの登場、よくあるボーカル作品ではボーカルが圧倒的に前面に出て他の楽器が如何にも伴奏者の程を表しますが、出過ぎず引っ込み過ぎず、他の楽器とのバランスが大変に良いと思います。Them There Eyesという小唄を小唄として捉えて決して大げさには歌っていないのですが、その存在感と歌のウマさがパンチのある歌唱力をごく自然にアピールしています。Freddieのソロも惚れ惚れするほどイケイケ絶好調ぶりを聴かせます。Coreaのソロはその思索ぶりが映えるクリエイティブな内容で、Freddieのテイストとはある種対比を成しています。ひょっとしたらCoreaはそこまで考えてソロのアプローチを試みているのかも知れません。メンバーの演奏にインスパイアされ、始めの歌よりもかなりシャウト感のある後歌での、フロントふたりのオブリガードがボーカルをしっかりとバックアップします。

2曲目はお馴染みAll Of Me、イントロ無しでFreddieのミュートトランペットのオブリを従えて外連味なく歌われます。例えばアメリカの有名なポップスシンガーがジャズを歌ったアルバムを聴くと、歌の上手さはしっかりと聴き取ることが出来ますが、肝心なジャズテイストが希薄もしくは皆無で、ジャズの形、名を借りただけのポップス作品としか聴こえない場合があります。Chakaの場合は彼女の歌からしっかりとジャズ・スピリットを聴き取ることが出来る上に、彼女の素晴らしい個性も確実に受け止める事が出来ます。この違いは一体何処から来るのでしょうか?Freddieがオブリに引き続きソロを取ります。間を生かしたスペーシーなソロはCoreaにバッキングの機会を多く与えているのかと思いきや、Coreaは意外と音数の少ないソロにはシンプルに対応し、続くJoeHenのソロにはフレーズの入り方やウネウネフレーズに適宜反応しています。テナーのフレージングを引き継いだピアノソロはごくシンプルに、しかしCoreaならではのサムシングを聴かせています。

All Of Me別テイクの8曲目についても触れ、更に両者を比較してみましょう。Chick Corea a la Thelonious Monk風のピアノイントロから始まります。ドラムスもアタマの歌ではブラシに持ち替えており、テンポも若干早めなので些か風情が異なります。同様に先発はFreddie、本テイクより饒舌なソロなのでCoreaも触発され、リズミックなアプローチのバッキングを聴かせます。JoeHenのソロも本テイクでは聴けない、気持ちの入った熱いHigh F音でのロングトーンが効果的、Coreaも同様に本テイクよりも深い領域に入り込んだ、 Monkish(余談になりますがMichael BreckerはMonk風に、と言う意味で彼のミドルネーム”Sphere”を用いて”Spherical”と表現し、同名のオリジナル曲を書いています)なソロを聴かせています。Chakaも後歌のシャウトでは一層熱いものを感じさせます。と言う訳で別テイクの方がより音楽的にアピールしているのですが、本テイクの方のエンディングのアンサンブルがバッチリとキマっているのでこちらが採用になったのでは、と推測しています。別テイクのエンディングはリズムセクションの足並みが残念ながら今ひとつ揃っていません。曲の作品としてのクオリティを重んじた末のチョイスと判断できます。別テイクの方が内容的には断然良いものがあるが、本テイクの方も決して悪くはない。だとしたら楽曲上完璧な方を採用しよう、とするのはアレンジャー・サイド当然の流れです。恐らく別テイクの方を最初に録音し、エンディング問題を解決すべく再チャレンジで本テイクを録音したのでしょう。別テイク〜本テイクと続けて聴いてみると別テイクの方がずっと勢いがあるのが分かります。エンディング問題は無事に解決しましたが本テイクの演奏は何処か守りに入ってしまった感は拭えません。ジャズは間違いなくファーストテイクが旬なのです!

3曲目はThelonious Monkの名曲I Mean You、作曲者名にジャズ・テナーサックスの開祖Coleman Hawkinsの名前も連ねられています。歌詞はChakaによる自作自演だそうです!ここでの演奏はインストと遜色は無く、Chakaのボーカルはホーンライクです。テーマのシンコペーションを生かしたアレンジもカッコいいです。先発FreddieのソロでのCoreaのバッキング、Monkテイスト満載です!触発されたFreddie、イってます!Coreaは本作レコーディング最中の81年にMiroslav Vitous, Roy Haynesと「Trio Music」をリリースしました。ここではRhythm-A-Ning, Round Midnight, Eronelと言ったMonkのナンバーを多く取り上げ、Coreaの中ではMonkブームだったのでしょう、自己のスタイルからMonkへのスイッチングが全く自然です。JoeHenはソロを取らず続くCoreaのソロはまさしくMonk降臨!

4曲目はGeorge Gershwin作曲のバラードI Loves You Porgy, CDのクレジットにはI Love You Porgyとなっています。もちろん文法的にこちらの方が正しいのですが、黒人英語の特徴の一つとして一人称単数現在でも動詞の語尾に”s”を付けることがあります。この名曲をCoreaが素晴らしいアレンジで再構築しています。ボーカルとピアノのDuo、テーマの[A]の部分をリピートせずに1回でサビの[B]に入ります。情感たっぷりのChakaの歌にホーンが被さり、バックビートを生かした本来は無いインタールードが演奏されます。Coreaはこう言ったアディショナルなパート作りに長けています。サビの部分でCoreaのソロ、JoeHenのオブリ入りで再びインタールードを経て、Freddie〜JoeHenと倍テンポでソロが続きます。更にインタールードがあり、ホーンの裏メロディが入りつつ後歌になりますが、短い間に様々なパートが交錯する緻密で大胆なアレンジは、この曲を誰も経験したことの無い別世界に誘いつつ、聴く者の姿勢を正してしまう程の説得力があります。素晴らしい!エンディングにも更にもうひとパート工夫があり、Chakaのシャウトを劇的に、感動的にまとめ上げています。

5曲目Billy Strayhornの名曲Take The “A” Trainには本作中最も手の込んだ斬新なアレンジが施されています。Chakaのメロディ〜スキャット・ソロに到るまでに、延々と2コーラス以上A Trainの原型はしっかりと在りつつもピアノ、ホーンでの手を替え品を替えのメロディやアンサンブルが繰り出される展開には心底参りました!こんなA Trainは聴いたことが有りません!そしてこれ程のアレンジにも映える、対抗しうるボーカリストはChaka以外には存在しないでしょう。Chakaのスキャットのアプローチも相当ユニークです。その後Freddieの華麗なソロはハイノートでまとめ上げてJoeHenに受け渡しますが、こんなに盛り上げられた後ではさぞかしやり辛そうに思いきや、全く意に介さず淡々と自分のペースをキープしてスイングしています。ベースソロの後、いわゆるシャウトコーラスが演奏されますが、これまた意表を突くホーンのメロディライン、カッコ良いです!エンディングは比較的ストレートに終わっています。

6曲目ハッピーな曲想に対してダークなメロディラインを有するホーンとピアノのユニゾンのイントロが印象的なI Hear Music、曲調とChakaの声質、歌い方が絶妙にマッチしています。[A]メロの5~8小節目を毎回ベースが効果的にユニゾンしています。Freddieが歌に被ってソロを始めますが、本作のホーンのソロは何故か必ずFreddieが先発、長年の付き合いが成せる技かJoe HenはどんなにFreddieが盛り上がってもその後に確実に自己表現を行なっているのが素晴らしいです。ここでもCoreaはMonkの影を拭い去れないようで、シングルノートを中心としたソロから突如としてMonkになってしまいました。ベースソロを経てサビから歌の戻り、エンディングはイントロを再利用してFineです。

7曲目本作唯一のCoreaのオリジナルHigh Wire – The Aerialist、初演はJoe Farrellの79年録音のリーダー作「Skate Board Park」に収録されています。

ここではCoreaを擁したFarrellのワンホーンカルテットで、コンボジャズ・テイストの演奏が聴かれますが、本作では収録曲中のハイライトとして、ボーカルとインストの完璧な融合が成されていると言っても過言では有りません。曲の美しさと構成のカッコ良さ、Chakaの声質、歌い方が見事にマッチング、Chakaのために書かれたかのような曲と感じてしまう程です!そこにホーンの複雑にしてゴージャスなアンサンブルが絶妙に絡みつつ(Freddie, Joehenのアンサンブル能力の高さに今更ながら感心してしまいました!)、リズムセクションのシカケがここぞとばかりに雰囲気を盛り上げ、更にCorea, Freddie,  JoeHenのソロとのインタープレイ、Coreaのバッキングの全ての音が有機的に反応し、壮大な絵巻物の観を呈しています!ボーカルの伴奏、インストルメントとボーカルの融合の一つの理想の形がここに有ります。

9曲目ラストを飾るのは全編ChakaとCoreaのDuoによるSpring Can Really Hang You Up The Most、ただでさえ美しいナンバーを崇高な世界にまで高めつつ更に美の世界を表現しています。情感たっぷりにストレートに歌うChakaの後ろで、Chickがとんでもない色々なバッキングを繰り広げているのが面白過ぎです!Chickのコードワークも然程オリジナルから離れる事が有りませんでしたが、エンディング最後に待ち構えていました!壮絶な代理コードの嵐!Chakaもこの和音でよくピッチが取れるものです!7’57″からの部分で細心の注意を払いつつ歌うChakaも一つの聴きどころです。

2018.10.06 Sat

Merry-Go-Round / Elvin Jones

今回はElvin Jonesの1971年録音リーダー作「Merry-Go-Round」を取り上げてみましょう。

1)Round Town  2)Brite Piece  3)Lungs  4)A Time For Love  5)Tergiversation  6)La Fiesta  7)The Children’s Merry-Go-Round March  8)Who’s Afraid…

71年2月12日(#8)、12月16日(#1~7)録音、72年リリース  Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ  Recording Engineer: Rudy Van Gelder  Producer: George Butler  Blue Note Label 参加メンバーは曲毎に紹介します。

68年から73年の5年間でElvinはBlue Note Labelに於いて計10作のリーダー作をリリースしました。本作はその中の1枚で、Elvin本人の演奏自体はいずれの作品でもクリエイティヴさを聴かせていますが、参加ミュージシャンにより内容や作品の出来具合に差が生じているように感じます。他の作品が比較的小編成で王道のコンボジャズを聴かせているのに対し、本作は曲によってフロント楽器のメンバーを変えて様々なテイストを表現しています。そしてどの曲も演奏時間が短くコンパクトで、コアなElvinや更にはColtraneファンには物足りなさを感じさせますが、多くの聴衆へのアピールを考えるとダイジェスト的な演奏の方が耳に入り易く、ある種Elvinの最もポップな作品集と言えましょう。

全8曲の演奏中71年12月16日に録音された7曲がメインで、8曲目に収録されている同年2月12日録音の1曲は前作に該当する「Genesis」の残りテイクです。レコーディングメンバーも被っているので一応の統一感はありますが、プロデューサーのGeorge Butlerが「Elvin, 今回の録音は曲数十分にあるけれど、全体の収録時間が30分を切っていて28分しか無く、作品としてリリースするには短いんだ」「Yeah George, じゃあこの前リリース(同年9月)したGenesisに入りきらなかった曲があったろ?あれを入れれば事足りるんじゃないか?」「おお、そうだねElvin, that’s a great idea!」と言うようなやり取りがあったかどうかまでは知る由もありませんが、結果Frank Fosterのアルトクラリネットをフィーチャーした、また他とは毛色の変わったナンバーを作品に追加し、バリエーションが増えた形になりました。

1曲目’Round Town<Dave Liebman(ts)Steve Grossman(ts)Joe Farrell(ts)Yoshiaki Masuo(g)Jan Hammer(el.p)Gene Perla(el.b) Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>

Gene Perla作曲の’Round TownはLiebmanとGrossmanのテナーコンビをフィーチャーしたジャズロック風のナンバー、Farrellはホーン・アンサンブル要員として参加、そして前年71年渡米したばかり、我らが増尾好秋氏のギターワークも随所に聴かれます。Liebman, Grossmanを擁した翌72年録音「Elvin Jones Live At The Lighthouse」はElvinのリーダー作中最高傑作の誉れ高い大名盤ですが、ここでの演奏はそのプレヴューとなります。

冒頭のテナーソロはGrossman、レコーディング時20歳になったばかりですが堂々とした風格、テナーの音色の凄み、フレージング、タイム感、こんな事が出来る若僧、一体何者でしょう?続くLiebmanのソロにも彼らしいテイストをしっかりと聴く事が出来ます。オープニングに相応しい身の詰まった軽快なナンバーです。

2曲目Brite Piece<Dave Liebman(ss)Steve Grossman(ss)Joe Farrell(ss)Jan Hammer(p)Gene Perla(b)Don Alias(congas, oriental bells)>

Liebman作曲のBrite Piece、自身のダークな曲想のオリジナルが多い中、珍しく明るい曲風なのでネーミングされたのでしょう。「Live At The Lighthouse」CDリリース時の未発表追加テイクにも収録されています。ソプラノサックス3管によるアンサンブルはかなり珍しいですが、3人ともソプラノのヴァーチュオーゾ、大変エグいサウンドが聴かれます。部分的に時折テナーに持ち替えてアンサンブルしているのでは、と錯覚してしまいますが、多分Grossmanの音色があまりに太くてテナーのように聴こえてしまうのでしょう。ソロの先発はHammer、素晴らしいタイム感とブリリアントなピアノのタッチ、溢れ出るアイデア、若干23歳のチェコスロバキア出身のピアニストです。有名な話ですが68年ソ連による首都プラハ侵攻(プラハの春)をきっかけに20歳で渡米、バークリー音楽院で学び、John McLaughlin Mahavishnu Orchestraを始めとして数々のミュージシャンと活動しました。続くLiebmanのソプラノソロは実に「楽器が上手い」と感じさせる演奏で、後年自身の独自のカラーを発揮するようになるとサウンドがより整理され、音楽的なプレイヤーへと転身して行きます。

3曲目Lungs<Jan Hammer(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>Hammerのピアノをフィーチャーしたトリオにコンガが加わった編成での超高速演奏♩=300、凄まじいドライブ感です!Hammerが渡米してアメリカ始め世界の音楽界で活躍したのはプラハの春がもたらした逆の功績かも知れません。タイトルLungsとはHammerのニックネーム、ElvinとPerla、Aliasの鉄壁のリズムに支えられ猛烈にスイングしています。Elvinの実にたっぷりとした1拍の長さと疾走するビート、躍動するリズムに気後れするどころか果敢に、いや全く対等に若者は演奏しています。Elvin, Perla, Hammerの3人で1枚アルバムがリリースされています。75年録音「Elvin Jones Is On The Mountain」PM Label  時代を反映してシンセサイザーやエレクトリック・ピアノが多用されていますが、たまたま電気楽器を用いているだけで、内容はアコースティック・ジャズの範疇です。何しろElvinのドラミングですから!

4曲目A Time For Love<Joe Farrell(fl)Yoshiaki Masuo(g)Chick Corea(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)>Farrellのフルートを全面的にフィーチャーしたバラードです。ピアノがChick Coreaに代わり、再びギター増尾氏が加わります。ピアノ、ギターのバッキングが混在する形ですが二人互いを聴き合い、決してぶつかったりtoo muchにはなりません。Liebmanのフルートも良いですがこういったスイートなバラードではFarrellに敵いません。しっとりとしたテーマ奏の後、ソロでいきなり倍テンポのスイングになりますがこれはColtrane Quartetのやり方、僕自身はバラードで倍テンになるのはバラードを演奏する意味が無いと昔から感じています。しかも僅か8小節間にも関わらず。ラストテーマの後のエンディングはElvinがマレットに持ち替えてアクセントを付けFineです。

5曲目Tergiversation<Chick Corea(el.p)Jan Hammer(el.p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>Perlaのオリジナル、CoreaとHammerふたりのエレクトリック・ピアノを同時にフィーチャーしたユニークな編成での演奏、ミステリアスなムードを湛えつつ、ムチャクチャカッコ良いです!ブレークが多く曲の構成も凝っており、Elvinのブラシワークでのフィルインをたっぷりと楽しめます。スティック時よりも音量が小さいためElvin独特の唸り声も同時にしっかりと楽しめます(笑)。スティックを使用したアップテンポでの大胆且つダイナミックなドラミングに反し、ブラシでの繊細さ、シンバルの絶妙さ、スネアの音色の美しさは同一人物のプレイとは俄かには信じられません!Elvinのドラミングは音楽の森羅万象を網羅しています。

6曲目La Fiesta<Joe Farrell(ss)Dave Liebman(ts, ss)Steve Grossman(ts)Pepper Adams(bs)Chick Corea(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>

本作の目玉、Coreaの名曲La Fiestaの登場です!実はこの演奏はLa Fiestaの初演にあたり、Corea自身の「Return To Forever」録音の約2ヶ月前に行われました。曲自体のアレンジ、構成の完成度としては既に完璧、更にこの演奏ではLiebman, Grossman, Pepper Adams達による3管編成のサックス・アンサンブル(今では信じられない凄いメンバーでのホーンセクションです!)が施され、大変ゴージャスな仕上がりになっています。後年La Fiestaがビッグバンドのアレンジで良く演奏されたのは、この演奏が基にあったからでしょう。「 Return ~」同様Farrellのソプラノサックスがフィーチャーされており、美しい音色、メロディ、スペースが短いために凝縮された展開ですが素晴らしいソロを披露しています。それにしてもElvinとAliasが織りなす8分の6拍子のグルーヴといったら!「Return~」が中南米の祭り(Fiesta)ならばこちらは間違いなくアフリカ大陸の祭りをイメージさせます。CoreaのソロとElvinのドラミングの織りなすリズムはグルーヴ・マスター同士にしか成し得ない崇高な世界、この時期CoreaはElvinのバンドに出入りしており、互いに惹かれるものがあったと思います。通常この手の演奏は開始時に比べて終了時にはテンポが速くなっていますが、全く変化していません!流石です!そうそう、いくらボスElvinの仕事とはいえソロが回って来ない Grossmanがホーンセクションで大人しくしている訳がありません(汗)。もともとテナーの音色に倍音がとても豊富なので録音時マイク乗りが大変良く、バックのアンサンブルであるにも関わらずGrossmanの音だけが前に出る傾向にありますが、曲が始まった頃は比較的静かだったのがだんだんと音量が大きくなり、本人更に業を煮やした結果か、5’16″~20″はメチャメチャ大音量でセクション・アンサンブルを吹き始め、Farrellの音を掻き消さんばかりの状態になりました。レコーディング・エンジニアRudy Van Gelderが慌てて録音のフェイダーを下げた節が伺えます。でもGrossmanはFarrellの演奏、人柄を認めていたようです。Farrellが逝去した86年1月、直後に来日したGrossman本人にその旨を僕が伝えたところ驚き、その後天を仰ぎ、謙虚に哀悼の意を表していたのが印象的でした。

7曲目The Children’s Merry-Go-Round March<Joe Farrell(piccolo)Dave Liebman(ss)Steve Grossman(ss)Pepper Adams(bs)Jan Hammer(glockenspiel)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)>

Elvinの奥方Keiko Jonesのオリジナル、以降のElvin Bandの重要なレパートリー曲になりました。Elvinのマーチングドラム、実に素晴らしいですね!色っぽさも感じさせ、彼のスネアドラムを聴いているだけでワクワクしてしまいます!こんな事が出来るドラマーは他にはいません。Farrellのピッコロ、Hammerのグロッケンシュピール演奏も功を奏しています。「Live At The Lighthouse」ではテーマのアンサンブルの後ドリアンスケール・ワンコードで延々とアグレッシヴなソロが続き、Coltraneの世界をGrossman, Liebmanふたりが分担して表現していましたが、ここでは割愛、テーマのみの演奏になっています。この曲の雰囲気が余りにも他の収録曲と違和感があるので、ジャジーなテイストを表現すべく触りだけでもテナーソロが欲しかったところです。

8曲目Who’s Afraid…<Joe Farrell(ts, ss)Dave Liebman(ts, ss)Frank Foster(alto clarinet)Gene Perla(el.b)Elvin Jones(ds)>

Frank Fosterのオリジナル、前述のようにこの曲のみ約10ヶ月前のセッションからのテイクになります。コードレスのジャズロックテイストでFosterのアルトクラリネット(思いの外バスクラに近い音色です)にPerlaのエレクトリック・ベースがユニゾンでメロディを演奏し、FarrellとLiebmanのアンサンブルが絡み、その後Liebmanのソプラノがスネークイン、Fosterの演奏の後ろでフリーキーなソロを次第に取り始めます。割とナゾの演奏ですが、様々なタイプの曲を収録した本作にはむしろ良いアクセント的なテイクになったと思います。

2018.10.03 Wed

Basra / Pete La Roca

今回はドラマーPete La Rocaの初リーダー作「Basra」を取り上げたいと思います。

Recorded : May 19, 1965  Released : Oct. 1965  Studio : Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ  Recorded by Rudy Van Gelder  Blue Note Label

1)Malagueña  2)Candu  3)Tears Come From Heaven  4)Basra  5)Lazy Afternoon  6)Eiderdown

Blue Note Label異色のメンバーによる名演奏を収録した作品、選曲も個性的です。参加しているJoe Hendersonは数多くのBlue Note作品で名演を残している言わばレーベルのハウス・テナー奏者ですがSteve Kuhn、Steve Swallow両名はサイドマンとして全くと言って良いほどBlue Noteに録音を残していません。Kuhnは新生Blue Noteから2007年に自己のトリオで「Live At Birdland Steve Kuhn Trio」をリリースするのみ(でも新生の方では名プロデューサーAlfred Lion, Francis Wolff両名の息が掛かっていないので実はさほど意味がないのですが)、Swallowの方も新生Blue Noteに数作参加の他、62年ボーカリストSheila Jordanのリーダー作「Portrait Of Sheila」に参加しているだけで、二人の実力、音楽性からすればBlue Noteと縁が無かった事は不思議ですが、黒人ミュージシャンが中心のジャズレーベルであったがためでしょうか。

当時La Roca, Kuhn, SwallowはArt Farmer Quartetのリズムセクションでもあり、同65年フロントがテナーからフリューゲルホルンに変わった形でFarmerのリーダー作「Sing Me Softly Of The Blues」をリリースしています。全く演奏内容、音楽的傾向が異なるにも関わらずリズムセクションは柔軟に対応し、素晴らしい演奏を残しています。また3人はよほど音楽的、人間的に相性が良かったのでしょう、同メンバーで翌66年Steve Kuhn Trioとして「Three Waves」もリリースしています。こちらの内容もまた違ったテイストを聴かせ、3人の音楽的懐の深さを感じさせます。

La Rocaのドラミングの方はBlue Noteの作品にかなり登場しています。そもそも彼の初レコーディングが57年11月、Max Roachの推薦があって参加が実現したSonny Rollinsの名盤「A Night At The Village Vanguard」、当日のマチネーにLa Roca、ソワレに Elvin Jonesと当時の若手ドラマー二人を使い分けています。ここでの素晴らしい演奏があって59年3月、Rollins Trioの北欧楽旅に同行することになり「St. Thomas Sonny Rollins Trio in Stockholm 1959」を残しています。

もう1作Blue Note盤で是非とも挙げておきたいのがJackie McLeanのリーダー作59年5月録音「New Soil」、Hard Bopテイストから抜け出さんばかりのMcLeanのエナジーの迸りを感じさせる作品、触発されたLa Rocaは収録曲Minor Apprehensionでアグレッシブなドラムソロを展開、あるジャズライターに「前衛ジャズはここから始まった」とまで言わしめました。革新的、刺激的なアプローチを聴かせています。

収録曲を見ていきましょう。1曲目は実に意外な選曲、Cubaの名作曲家Ernesto Lecuonaの作品、6つのムーヴメントから成るAndalusia組曲の中の1曲Malagueña、La Rocaは若い頃に6年間ラテンバンドでティンバレス奏者として活躍し、そこでの経験からのチョイスかも知れません。La Rocaと言う名もその当時の芸名から取られており、本名はPeter Simsです。8分の6拍子のリズムの上でのJoeHenのエグエグな音色によるラテンフレイバー満載のメロディー、印象的なピアノの左手ライン、要所要所では的確なフィルインを繰り出しますが全編比較的淡々とリズムをキープするLa Roca、その上でJoeHenが曲の持つ雰囲気に見事に合致しつつハーモニクス、マルチフォニックスを駆使し、最低音からフラジオ音までJoeHen節満載で縦横無尽に吠え捲ります!Kuhnの暴れっぷりも素晴らしい!ソロイストに思いっきりソロスペースを与えるためにLa Rocaは敢えてリズムキープに回っていたのかも知れませんし、元来ソロイストにシンプルに寄り添うスタイルが信条のLa Roca、自身のドラムソロでは確実に自己の世界を表現しますが、他のプレイヤーのソロのバックで煽ったり、自分から何かを仕掛けるアプローチは一貫してあまり聴かれません。後に触れますがこの事が関係して、彼自身にとってある決断をさせる一因になったのではないかと考えています。ピアノソロの後テーマに戻りますが、一層フリーキーなJoeHenの雄叫びが聴かれ徐々にフェードアウトして行きます。

2曲目はLa RocaのブルースフォームのオリジナルCandu、8ビートが基本のジャズロック風な、時代を反映したグルーヴのナンバーです。ベースパターンがメロディの対旋律を奏でていて、ユニークな構成になっています。JoeHenのソロは相変わらずの絶好調ぶりを聴かせ、続くKuhnのパーカッシヴなソロも印象的です。この頃はアップライト・ベーシストとして絶頂期のSwallowのベースソロが聴かれ、テナーとドラムスによる4バースが2コーラスあり、ラストテーマを迎えます。

3曲目もLa RocaのオリジナルTears Come From Heaven、ロックミュージシャンのオリジナルにありそうなタイトルですがアップテンポのスイングナンバー、32小節1コーラスでコード進行の小節数が多少凝った変則的構成になっています。ここでもJoeHen無敵のスインガー振りを発揮、Kuhn、La Rocaとソロが続きます。ここまでがレコードのSide Aです。

4曲目やはりLa Rocaのオリジナルであり、タイトル曲Basraは中東イラクの港湾都市。ここでのエスニックな曲調はむしろアジアンテイストを感じさせます。1曲目のMalagueñaのスパニッシュと相まってこの作品の独特なカラー付けをしており、他のBlue Noteの作品と一線を画す要因になっています。Swallowのベースソロによるイントロはこれから起こり得るであろう音のカオスを十分に予感させるもので、続くJoeHenのメロディ奏、メロディフェイク、ソロは曲想の中に確実に根ざしながらも違う音の次元への誘いを促しています。La Rocaのドラムソロのアプローチも実に官能的に聴こえます。ところでBasraは昔から領土侵略、政治的問題、石油の利権や宗教問題等様々な火種が常に飛び交い、ここで聴かれるエキゾチックな曲想とは無縁の地域です。La Rocaが演奏旅行で訪れた際の思い出で書かれたのでは無く、遡ってアラビアンナイト〜千夜一夜物語に出てくる砂漠のオアシスの都市、そのイメージで曲が書かれたのでは、と想像出来ます。

5曲目は唯一のスタンダードナンバー、Lazy Afternoonも素晴らしい選曲のバラード、JoeHenの歌いっぷりも良いのですが、Kuhnのバッキング、ソロが秀逸です。

6曲目アルバムのラストはSwallow作曲のEiderdown、ミュージシャンがこよなく愛するSwallowのオリジナル・レパートリーの一曲、Kuhnのソロのアプローチが実に的確で、その後KuhnとSwallowの音楽的コラボレーションが生涯続きますが、既に音楽的相性の良さを聴かせています。

ところでLa Rocaは本作録音の3年後にサイドマンとしての演奏活動をきっぱりと止めてしまいました。生計を立てるためにNew York Cityでタクシーの運転手を始め、その後New York UniversityのLaw Schoolで法律を学び、何と弁護士のライセンスを取得、弁護士としての活動を開始しました。有名な話がChik Coreaを迎えた自身の2枚目のリーダー作「Turkish Women At The Bath」がLa Rocaの同意無しにCorea名義でリリースされた際に自身で訴訟を起こし、敏腕弁護士として勝訴しています。いくら日本よりも米国の方が弁護士資格を取得し易いとはいえ、第一線で活躍していたジャズドラマーが辿る道として相当イバラであった事でしょう。Rollins, McLean, Coltrane Quartet, Charles Lloyd, Paul Bley, Slide Hampton, Freddie Hubbard等、 当時のジャズシーン最先端のミュージシャンと丁々発止と音楽活動を展開していたにも関わらず、演奏活動を突如として止めた経緯について触れた文献は読んだことがありませんが、僕なりに推測するに、安定した素晴らしいサポートを聴かせるLa Rocaのドラミングですが、ドラムソロ以外はこれと言った強力な個性が無く、前述のようにソロイストとの一体感が希薄です。彼以降現れたドラマー達Elvin Jones, Tony Williamas, Jack DeJohnette、しかも彼らは軒並みLa Rocaと共演歴のあるミュージシャン達と演奏していますが、この3人のソロイストとのコラボレーション感には信じ難いものがあります。バンドのアンサンブル能力もハンパではありません。後続のドラマー達の活躍振りに自分の音楽的才能の限界を感じたLa Roca、静かにジャズシーンを去って行ったのではないかと思うのですが。