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2019.05

2019.05.13 Mon

Sonny Rollins Vol. 2

今回はSonny Rollinsの57年録音の代表作にしてモダンジャズのエバーグリーン、「Sonny Rollins Vol. 2」を取り上げてみましょう。

1957年4月14日録音@Van Gelder Studio, Hackensack Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Label: Blue Note / BLP1558

ts)Sonny Rollins tb)J. J. Johnson p)Horace Silver p)Thelonious Monk b)Paul Chambers ds)Art Blakey

1)Why Don’t I 2)Wail March 3)Misterioso 4)Reflections 5)You Stepped Out of a Dream 6)Poor Butterfly

Francis Wolf撮影の写真、そしてHarold Feinsteinによる素晴らしいデザインのジャケットが、既に作品の素晴らしさを物語っています。ロック・ミュージシャンのJoe Jacksonがまんまジャケットを模倣して作品をリリースしています。84年「Body and Soul」

文字や被写体の色が青から赤に、タバコを持つ手の形以外は全くと言って良いほどの「パクリ」ですが、確信犯による見事なまでのRollinsへの表敬振りです(ちなみに内容は本作とは全く異なるロック・ミュージックです…)。写真のテナーサックスもRollinsと同じAmerican Selmer MarkⅥの初期モデル、同じような風合いの楽器を用いており、微細にこだわっています。唯一残念なのはこの頃のRollinsが使っていたMarkⅥはごく初期のモデル、55~56年製造の楽器でおそらくシリアルナンバー56,000~67,000番台、フロントFキーが他のキーよりもひと回り小さいのが特徴です。録音時期から推測して当時新品で購入した楽器ではないでしょうか。「Body and Soul」ではその後のモデルを用いているのでフロントFキーが他のキーと同じ大きさのものです。細部にこだわるのであればディテールを徹底させ、同じキー・レイアウトの楽器を用意して貰いたかったと思うのはマニアック過ぎでしょうか(笑)。

ちなみにジャケットの方のレイアウトですが、CD化に際してSONNY ROLLINSのロゴを始めとする文字が中央に集められ、それに伴い「R」の文字がちょうどフロントFキーに被ってしまい、マスキングされてしまいました。個人的にはオリジナルと同じくタイトルやメンバーの表示が幾分下の方がRollinsの顔が引き立ち、バランスが取れていると思うのですが、如何でしょうか。以下がCDでのジャケットです。

さてジャケット話はこのくらいにして、57年はRollinsに限らずモダンジャズの当たり年、数々の名盤がリリースされました。時はHard Bop全盛期、米国の文化成熟度も一つのピークを迎えており、放っておいても、特に何かを企画しなくても、レギュラーグループではなくとも、リーダーを決めて、良いサイドマンを集めて録音しさえすれば、自動的に素晴らしい作品が出来上がった時代です(物凄い事です!)。Rollins自身も57年にはなんと合計6枚のリーダー作をレコーディングしており最多録音年、本作はメンバーの人選もありますが、抜きん出てHard Bop色が強い作品に仕上がっています。J. J. Johnsonとの2管は同じ音域の木管楽器と金管楽器とが合わさり、お互いの響きを補いつつ増強させる強力なアンサンブルを聴かせ、ハーモニーでもユニゾンでも実に豊かで豪快なサウンドを提供しています。Art BlakeyとPaul Chambersのコンビネーションは安定感、スピード感申し分なく、Blakeyの繰り出すリズムをon topのChambersが徹底的にサポートして更なるグルーヴ感を出しており、Blakeyが必ず踏んでいる2, 4拍ないしは裏拍のハイハットがHard Bopを色濃く感じさせます。ピアニスト2人Horace SilverとThelonious Monkはリーダーとしての活動が中心ですが、本作での客演で的確に伴奏者としての演奏を披露、特にMisteriosoでの2人の共演は稀有なナンバーです。

それでは曲毎に触れて行きましょう。1曲目RollinsのオリジナルWhy Don’t I、Miles DavisのオリジナルFourをひっくり返したようなメロディが印象的です。曲自体の構成はA-A-B-Aで、よくある歌モノのフォームですがサビのBが普通は8小節ですが半分の4小節しかありません。同じくRollinsの代表作「Saxophone Colossus」に収録のStrode Rodeも同じフォームでやはりサビが4小節です。この頃彼は短いサビのサイズに嵌っていたのでしょうね、きっと。なかなか手強い構成の曲に仕上がっていますが、作曲者自身このフォームに起因し演奏中やらかしてしまいました(爆)。後ほど触れるとして、ソロの先発はRollins、モダンジャズ・テナーサックスの正に王道を行く音色(1’34″でのSubtone、堪りません!)とタイム感、フレージングの推進力、例えば0’50″からの16分音符フレージングのスピード感とタイトさと相反するレイドバック感、これはメチャヤバです!!ソロの2コーラス目はテーマと同じシカケをリズムセクションが演奏し、バッキングに弾みをつけています。随所で聴かれるBlakeyのいわゆるナイアガラロール、実に効果的です!続くJ. J.のソロ、巧みなスライドワークによるバルブトロンボーン・ライクで流麗なフレージング、ジャズトロンボーンを志す全てのミュージシャンの規範となるべきバイブル的な演奏です!ソロの2コーラス目冒頭でJ. J.自身がテーマの仕掛けを提示していますがリズムセクションまさしく笛吹けども踊らず、ただBlakeyが4小節目の4拍目に謎のアクセントを入れていますが、これがJ. J.へのレスポンスでしょうか?その後は淡々とソロを展開し、Silverのソロとなります。ちょっとリズムがつんのめった特徴的なタイム感での演奏です。RollinsとSilverはMiles Davisの54年「Bags Groove」以来の共演です。

ピアノソロ後のフロント二人とドラムスの4バースがこの曲でのトピックスです。構成としてAは8小節なのでRollins〜Blakey, J. J.〜BlakeyでAAが終了、サビが4小節なのでRollinsの4小節ソロ後ドラムスのソロは次のAの前半4小節で行われ、後半4小節J. J.のソロで1コーラス終了になります。2コーラス目は1コーラス目とひっくり返る形でドラムス・ソロ4小節〜フロントのソロ4小節となるはずが、ドラムスのソロに被ってRollinsソロを始めました!これは単なる出間違えなのか、それとも4バースの2コーラス目も1コーラス目と同じ構成で行いたいというRollinsの目論見だったのか、いずれにせよバンドの流れとしてはひっくり返る形での4バースが主流と即断したRollins、同一フレーズの音形で次の4バースを続けます。そしてもう一度、J. J.のソロの後サビでドラムス・ソロになる筈が、今度は明らかに自分の出番ではないと知りつつサビのコード感を提示するラインをRollins吹き始めました!この機転の効いたプレイこそSaxophone Colossus!その後のJ. J.は「何が起きたんだ?俺はこのまま続けて吹いても良いのか?」とばかりの間を空けて探りながらソロを開始しています。Blakeyの委細かまわず、やるべき演奏を完徹した姿勢にも助けられたと思います。この演奏はハプニングを利用し、更にリカバーすべくアイデアを提供したRollinsのスポンテニアスな音楽性の産物です!この出来事がなければごく普通のHard Bop演奏で終わってしまうテイクが、誰にも印象に残る名演奏に変化したのです。

以前日野皓正さんのバンドで演奏中、何かスタンダードを演奏することになりました。その時の曲もAABA構成で、僕がサビのBを演奏することになったと記憶しています。演奏が始まり最初のAのメロディを演奏する日野さん、明らかなテーマの間違いを犯しました!「えっ?」と思った束の間、次のAで今度はわざと同じようにメロディを違えて演奏するではありませんか!サビ後のAでも全く同様にメロディを変えての演奏、お陰でその間違ったメロディが正しく聴こえてくるのが実に不思議でした。そんな日野さんを目の当たりにし、背筋がゾゾっとした覚えがあります。転んでもタダでは起きない、間違いやハプニングをむしろ利用して音楽を活性化させるしたたかさに、本物のミュージシャンを感じました。

2曲目もRollinsのオリジナルWail March、BlakeyがドラマーでMarchとくればThe Jazz MessengersのレパートリーBlue Marchを連想しますが、こちらは翌58年10月の録音なので1年半以上も先の話になります。Blakeyお家芸のマーチング・ドラムは本テイクのイントロで既に花開いていました。アップテンポの曲自体は8小節のシンプルな構成、ソロはスイングで演奏されるので倍の16小節がループされます。ソロの先発J. J.の絶好調振りはBlakeyのスインギーなドラミング、Mr. on top BassのChambersに依るところも大です。EllingtonのRockin’ in Rhythmの引用フレーズも交えつつ演奏され、再びインタールード的にメロディが演奏されRollinsのソロになります。アップテンポにも関わらず実にタイムが的確でスインギー、前年録音「Saxophone Colossus」の頃よりもリズムのスイート・スポットにより確実に音符をヒットさせています。かつてDavid Sanbornが司会するTV番組Night MusicにRollinsがゲスト出演、Sanbornは彼のことをRhythmic Innovatorと紹介していましたが、正しくその通りです!ピアノ、テーマとドラムスとのトレード、ドラムスソロに続き再びMarchのテーマでFineです。

3曲目はThelonious Monk作のブルースMisterioso、RollinsはかつてMonkのバンドに在籍し、54年「Thelonious Monk / Sonny Rollins」56年「Brilliant Corners」と名盤を録音しています。

ここでのトピックスはMonkとSilverのふたりが参加している点です。連弾や2台ピアノが用意されている訳ではないのでピアノを引き分けていますが、どのように分担しているのかが気になるところです。始めのテーマをMonkが演奏し、続くRollinsのソロでバッキングを行い、その後短いながらも自身のユニークなソロがあり、終了後3’47″から5秒間でSilverにピアノの席を譲っているようです。ですので続くJ. J.のソロはSilverがバッキングを行い、そのままSilverのソロ、ベースソロ、一瞬ドラムスソロに突入しそうなところをRollinsリーダー然と入り込みドラムスとの4バースにしていますが、ここでもSilverがピアノを弾いているように聞こえ、ナイアガラロールに誘われてのラストテーマの直前にMonkが再登場、テーマ演奏そしてオーラスで9thの音であるC音をチョーんと弾いています。ピアニスト二人ともバッキングでリズミックな要素を含んでいるので、かなり判断が難しいです。

内容的にもイーブン気味のテーマの後ろでBlakeyが何やら3連符をずっと演奏し続けたり、MonkのOne & Onlyでリズミックなバッキングが随所に光っていたり、Rollinsソロ冒頭でテナーでの雄叫びが聴こえたり、バースで草競馬のメロディを引用したりと、じっくり聴きこむと様々なことが行われています。

以上がレコードのSide A、4曲目はMonkが残留してRollinsのワンホーン・カルテットによるMonkのReflections、かつてのバンマスに敬意を表して取り上げたナンバー、Monk Worldを存分に表現したテイクに仕上がっています。Rollinsはお得意の低音域サブトーンとリアルトーンを使い分けしっとり、バリバリとメロディ奏、1’44″でRollinsが吹いたフィルインをMonkが暫く後の49″で呼応する辺りニンマリとしてしまいます。ソロの先発はMonk、Blakeyが好サポートを聴かせますが、ふたりは47年Monkの初リーダー作「Genius of Modern Music」からの付き合いになります。

5曲目はスタンダード・ナンバーYou Stepped Out of a Dream、再びクインテットでの演奏になります。Rollinsがメロディを吹き、J. J.がオブリガードや対旋律、ハーモニーを演奏しています。快調に飛ばすRollins、2コーラス目に入ろうとする1’08″くらいからBlakeyに煽られてとんでも無い状態に!3コーラス目に入った辺りでもシングルノート攻め、いや〜素晴らしい、Rollins申し分無い計3コーラスのスインガー振り。ひょっとしたらこの曲がアルバムの1曲目に置かれても十分な出来栄えですが、Why Don’t Iの災い転じて福となすテイクの方にジャズの魅力が詰まっていますね!J. J.のソロもYou Are the Man!と声を掛けたくなるくらい素晴らしい演奏です!ピアノソロ後のフロントふたりのトレードからラストテーマへ。やはりWhy Don’t Iのハプニングがなければこのテイクをオープニングに採用していたかも知れません。プロデューサーのAlfred Lionさぞかし迷ったことでしょう。音楽を、ジャズを良く分かっているプロデューサーならではの決断、ミスやハプニングを良しとしない頭の硬い人では出来ない大英断だったと思います。

6曲目ラストはPucciniのオペラMadame ButterflyからPoor Butterfly、テーマ後J. J., Silver, Chambersとソロが続きラストテーマ、Rollinsはテーマ演奏のみという大人の仕事っぷりで本作を締めくくっています。

2019.04.30 Tue

Alex Riel / Unriel!

今回はDenmark出身のドラマーAlex Rielの作品「Unriel!」を取り上げたいと思います。コンテンポラリー系共演者との白熱した演奏、そして当代きってのスタイリストであるJerry Bergonzi, Michael Brecker2人のテナー奏者のバトルも存分に楽しめる作品です。

Recorded March 23 & 24, 1997 at Sound On Sound, in New York City. 
Mastered at Medley Studio, Copenhagen.  Label: Stunt Records

ds)Alex Riel ts)Jerry Bergonzi ts)Michael Brecker g)Mike Stern b)Eddie Gomez p)Niels Lan Doky

1)Gecko Plex 2)He’s Dead Too 3)On Again Off Again 4)Amethyst 5)Bruze 6)Moment’s Notice 7)Channeling 8)Invisible Light 9)Unriel

Alex Rielは1940年9月13日Denmark Copenhagen生まれ、60年代中頃から地元にあるジャズクラブJazzhus Montmartreでハウスドラマーを務め、同じくDenmark出身の欧州が誇る素晴らしいベーシストNiels-Henning Ørsted Pedersen、スペイン出身の盲目の天才ピアニストTete Montoliuを中心に米国からの渡欧組ミュージシャンであるKenny Drew, Ben Webster, Dexter Gordon, Kenny Dorham, Johnny Griffin, Don Byas, Donald Byrd, Brew Moore, Yusef Lateef, Jackie McLean, Archie Shepp, Sahib Shihab等と日夜セッションを重ね、ジャズ・フェスティバル出演、レコーディングと多忙な日々を過ごしていました。欧州各国のジャズシーンは今でこそ優れた個性的なミュージシャンが目白押しですが、60年代中頃は言わばジャズ後進国(そもそも米国以外の全世界各国はジャズ後進国でありましたが)米国出身のミュージシャンの市場、多くの米国ミュージシャンが仕事を求めて渡欧し人材が流入しました。Rielは欧州に居ながら米国のジャズ・テイストをダイレクトに吸収できた世代の一人です。

97年RielはやはりDenmark出身のピアニストNiels Lan Dokyと2人で訪米し、New Yorkのスタジオで本作をレコーディングしました。参加メンバーの中でまず挙げるべきはベーシストEddie Gomezです。彼のプレイがこの作品の要となり、演奏を活性化させインタープレイを深淵なものにしています。11年間もの長きに渡り在籍していたBill Evans Trioでの演奏のイメージが強いですが、実はEvans以降大胆な音楽的成長を遂げており、その成果としてある時は縁の下の力持ち、またある時はその場に全く違った要素を導入すべく、体色を変化させ瞬時に舌を伸ばし、獲物を捕食するカメレオンのように変幻自在に音楽に対応しています。Gomezはソロイスト、伴奏者に対し的確に寄り添い素晴らしいon topのビート、グルーヴを提供しますが、同時に音楽を俯瞰してその瞬間瞬間で最も効果的なスパイス、サプライズは何かを選択し提供する事に関してのエキスパートでもあります。

Alex RielとEddie Gomezの本作でのツーショット。Eddieの笑顔が本作の成功を物語っています。

Jerry Bergonziは47年生まれ、Boston出身のテナー奏者。作品を多数発表し、ジャズの教則本も数多く執筆しています。また莫大なマウスピース、楽器本体のコレクターとしても知られていて、音色へのあくなき探究から常に素晴らしいテナーサウンドを聴かせており、本作での圧倒的なプレイは感動的です。更に多くのオリジナルを作曲しここでも5曲提供していますが、いずれもユニークな個性を発揮しサウンドが輝いています。サックスプレイは勿論、ジャズに関連する媒体を作り上げ量産する、ツールをマニアックに収集する、表現向上のために委細構わず拘る、などから演奏者であると同時にモダンジャズを愛する、根っからのオタク系ジャズファンであると感じています(笑)。Michael Breckerが参加する2曲でテナーバトルを聴かせますが、ジャズフレーバー満載でマイペースな演奏のBergonziに対し、投げられたボールを確実にキャッチしすぐさま変化球に転じさせる技が巧みなMichael、トレーディングを重ねるうちに信じられない境地にまで発展するバトルは相性抜群、他には類を見ないテナーチームです!

Mike Sternは53年生まれ、こちらもBoston出身です。Berklee音楽大学で学び、Blood, Sweat & TearsやBilly Cobham Bandを経て81年カムバックしたMiles Davisに大抜擢され、以降自己のBandを始めとして数々のバンドで活動しています。ロックテイストを踏まえつつ、Be-Bopの要素を盛り込んだ独自のウネウネ・ラインは他の追従を許さない魅力を聴かせます。個人的にはMilesカムバック時のライブを収録した作品「We Want Miles」での全てのプレイに、神がかったイマジネーション感じます。

Niels Lan Dokyは63年Copenhagen出身、ベトナム人の父親とオランダ人の母親の間に生まれ、6歳下の弟Chris Minh Dokyはジャズ・ベーシスト、兄弟でDoky Brothersとして活動していた時期もありました。NielsもBerklee音楽大学で学びましたが米国よりも欧州が肌に合うらしく卒業後帰欧、Franceに在住して音楽活動を行なっています。因みにChrisもジャズを学ぼうと渡米、Berkleeに学びに行こうとした矢先に立ち寄ったNew YorkでBilly Hartに「ジャズを学ぶならここ以外無いだろ?」と引き止められ、NYが肌にあったのもあり、Berkleeには行かずそのまま当地でジャズ活動を展開しました。

本作の出来が大変良かったからでしょう、2年後続編がリリースされました。99年NYC録音「Rielatin’」、1曲Bergonzi〜Breckerのバトルが再演されています。RielのかつてのボスであったBen WerbsterのオリジナルのブルースDid You Call Her Today、古き良き時代を感じさせるミディアムテンポのブルース。前作で取り上げたナンバーの曲想がハードだっただけに2人の大先輩による癒し系の曲を取り上げ、バトルの素材としましたが、演奏内容は全く前作に匹敵するものになりました(爆)

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目BergonziのオリジナルGecko Plex、Gomezの奏でる怪しげで不安感を煽るベースパターンと、Rielのブラシワークから曲は始まります。コード楽器は参加せずテナー奏者2人から成るカルテット編成、曲想、メロディからもハードボイルドな男の世界を予感させます。Rielのドラミング自体は比較的オーソドックスながらも大健闘していますが、何しろ自由奔放なGomezのベースワークが曲中の森羅万象全ての支配権を握っているが如き状態、そこに吠えまくる2匹の野獣テナーたちが斬り込んで来ます。こういうタイプのテナーバトルは聴いたことがありません!何と表現したらよいのか、Lennie Tristano?George Russellスタイルの発展形?Ornette ColemanのHarmolodics?話が些か横道に逸れました。Bergonziがソロの先発を務めますが知的にしてアバンギャルド、アグレッシブにしてタイト、抑制の効いたしかし予定調和ではないフリージャズの領域にまで飛翔しています!テナートリオの表現としては文句の付けようがありません。今度はBergonziのソロに被るようにMichaelのソロが始まります。フレージングの緻密さ、歌い上げに至る構成力、さらに拍車が掛かっています!佳境に達したソロの丁度良いところにBergonziが再登場、ベースが消えてドラムが効果音的に響く中、動物の発情期を連想させるパルスの如き両者のアプローチ、mating callでしょうか?収束に向かった頃に不安感のベースパターンが再登場、ラストテーマへと向かいます。決してこのような演奏形態を狙ってスタートさせてはいないと思います。偶然の産物であるが故に、ジャズのスポンテニアスさを感じさせる名演奏に仕上がったと思います。

2曲目もBergonziのオリジナルHe’s Dead Too、人を喰ったタイトルですがギターとテナーのユニゾン・メロディが心地よいボサノバ・ナンバー、ピアニストは参加せずカルテット編成です。ソロの先発はSternのギター、Gomezの唸り声がところどころ聴こえるのが生々しいです。1’51″辺りでギターの倍テンポのラインに一瞬ベースが反応しサンバのリズムになりかけますが、ぐっと堪えました。しかし衝動は抑え切れず2’15″からドラム、ベースともサンバになり、ギターソロを終えるところまで続きます。続くテナーソロからは振り出しに戻りボサノバで行われ、再び3’58″からドラム、ベースが率先してサンバに持って行きます。「盛り上がったらサンバにしようか」くらいの軽い打ち合わせがあったのかも知れません。その後ベースソロで再びボサノバに戻り、Gomezの超絶技巧ソロ、68年Bill Evansの「At the Montreux Jazz Festival」での名演奏をイメージしてしまいます。この時のベースの録音方法はおそらくマイクロフォンが主体であったので、弦が指板を叩く音が「バチバチ」と物凄く、インパクトが強烈でしたが、本作ではピックアップからの入力の方がメインなので、柔らかく伸びる感じの音色に仕上がっています。

3曲目は本作もう一つのテナーバトル曲On Again Off Again、曲自体はBergonzi作のマイナーブルース。実に正統派、テナー奏者によるバトルはこうあるべきと言うやり取りを聴くことができるテイクです。音符のフラグメント状態からThelonious MonkのEvidenceをイメージさせるテーマに続く先発ソロはMichael、人を説得せしめるための専門用語を用いた滑舌の良いスピーチ(Michael流ジャズ演奏のことです)はしっかりとした手順を踏まえ、一つ一つの言葉の持つ意味を噛み締めながら、確実に次の言葉に繋げて行くことが大切なのだと高らかに宣言しているかの如きプレイです!後ほど行われるバトルのためにかなりの余力を残してクールにソロを終えていますが、続くBergonziはイってます!ソロの後半でJackie McLeanのLittle Melonaeのメロディを引用しているのはご愛嬌、ピアノソロに続きいよいよタッグマッチの時間です!Michaelから4小節づつのトレーディング、研ぎ澄まされた空間に鋭利なテナーサウンドが投入されます。互いのフレーズ、コンセプトを受けつつ、Michaelがサウンドの幅を広げていますが、Bergonziの対応も実に的確、手に汗握るバトルです!演奏にはその人の人間性、人柄が表れますがMichaelは人の話をよく聞き、話の内容をよく覚えています。彼の生前の事ですが、前回の来日からさほど間を空けずの再来日時のMichaelとのやり取り、「前回話をした時にTatsuyaが探していた⚪︎⚪︎⚪︎は見つかったかい?」「Mikeよく憶えているね、ちょうど見つけたところだよ」「それは良かった、僕も探して見つけたところなんだ。じゃあ大丈夫だね」「Thank you Mike!」と言うやり取りをした覚えがありますが、バトル相手のフレーズをしっかりと聴き拾い、把握し、音楽的に膨らませて相手に受け渡す技の巧みさにまさしく彼の話っぷり、人への接し方を感じました。

肝心のバトルですが、次第にヒートアップ、16分音符フレーズのトレーディングから5’50″のトリルの応酬、6’15からの最低音への急降下爆撃合戦、6’27″からのMichael半音上げ作戦、6’32″Bergonziも半音上げに応じミッション継続、6’36″Michael更に半音上げで徹底抗戦、しかしまだやるのかMichael、更に半音上げ!ピアノのバッキングも応えています!Bergonziそれには答えず新たなアプローチで応戦、Michaelも「そう来たかJerry、ではこれでどうだ!」一瞬Jerry躊躇を見せましたがフラジオ大作戦でその場を切り抜けました!しかしフラジオはMichaelお手の物、幾ら何でもフラジオでMichaelに戦いを挑んではいけません!得意技で寝技に持ち込こまれそうな勢いです!Jerryは最低音炸裂+Sonny Rollinsのアルフィーのテーマ部分的引用フレーズで勝負に出ました!Michael対抗策として4小節間丸々アルフィーのテーマ完奏、何と付き合いの良い人でしょうか(笑)!Bergonziも1小節アルフィー引用+シンコペーションで変化球を投げましたがそろそろ時間切れ、史上稀に見る大試合もこれにて一件落着、Tom & JerryならぬMike & Jerryテナーバトル史に残る演奏になりました!

4曲目はGomezのオリジナルAmethyst、美しいバラードです。Bergonziの優しさ、メロウなテイストを堪能出来るテイクに仕上がっています。

5曲目はSternのオリジナルブルースBruze、彼の83年初リーダー作「Neesh」でDavid Sanbornをフィーチャーした形で収録されていますが、ここでは作曲者本人のギターが前面に出るギターカルテットで演奏されています。難しそうなリフ、Stern自身も難儀しているように聴こえます。

6曲目John Coltraneのお馴染みのナンバーMoment’s Notice。ギターがメロディを演奏し、Bergonziが吹いているのはColtraneがオリジナルで吹いているハーモニーのパートが中心になっています。ギターの音像が引っ込んでいるので、ハーモニーの方がメロディに聴こえます。難解なコード進行をバンド一丸となってスキー競技のスラロームのように華麗に滑り抜けているが如く演奏し、盛り上がっています。

7曲目BergonziのChanneling、スタンダード・ナンバーのAlone Togetherのコード進行が用いられています。こちらもピアノが参加せずSternのギターがバッキングを務めます。Bergonziの流暢なソロ後、Gomezのソロでは自身の声が殆どユニゾンで聴こえています。

8曲目Invisible Lightは60年代のWayne Shorterのバラードを思わせるBergonziのナンバー。Gomezのソロをフィーチャーしたナンバーに仕上がっています。

9曲目Dokyのオリジナルその名もUInriel、作曲者自身のピアノは参加せずコードレスのテナートリオで演奏されています。曲のエンディングに多分Rielでしょう、声が入っています。

2019.04.18 Thu

Tom Lellis / Double Entendre

今回はボーカリストTom Lellisの作品「Double Entendre」を取り上げてみましょう。素晴らしいリズムセクションを得てスリリングな演奏を繰り広げています。Recorded in New York City, June 15-16, 1989

Produced by Tom Lellis Executive Producer: Mugen Music Label: Beamtide/ Someday, Japan

vo, p)Tom Lellis b)Eddie Gomez ds)Jack DeJohnette p)Allen Farnham(on 2, 4 DX7 5, 10 )

1)Tell Me a Bedtime Story 2)Invitation 3)L.A. Nights 4)Show Me 5)Never Had a Love(Like This Before) 6)What Was 7)E. R. A. 8)Eerie Autumn 9)I Have Dreamed 10)Aitchison, Topeka & the Santa Fe

ボーカルTom Lellis、ベーシストにEddie Gomez、ドラマーにJack DeJohnette、ピアノはLellisとAllen Farnhamが曲によって弾き分けています。Lellisのボーカルをフィーチャーしたアルバムですが、リズムセクションの巧みなサポートも聴きどころで、3者高密度のインタープレイを繰り広げています。特にDeJohnnetteがこういったボーカル・セッションに参加するのは極めて珍しく、期待に違わぬ素晴らしい演奏を聴かせています。更にはHerbie Hancockの Tell Me a Bedtime Story、Chick CoreaのWhat Was、スタンダード・ナンバーですがボーカルで演奏されるのはあまり機会のないInvitation等、意欲的な選曲も魅力です。男性ボーカルは大きく2つに分けられますが、Frank SinatraやTony Bennettに代表されるストレートにスタンダード・ナンバーを歌唱するタイプ、そして本作Lellisのようにインストルメント奏者の如く歌い上げるスタイル。同じ男性ボーカリストのMark Murphyも後者のタイプ、そしてメンバーの人選や選曲にも同傾向の音楽的嗜好を感じます。彼の75年代表作「Mark Murphy Sings」にそれが顕著に表れているのでご紹介しましょう。ホーンセクションにRandy, Michael Brecker, David Sanborn、キーボードにDon Grolnick、ベースHarvie Swartz等を迎え、On the Red Clay(Freddie Hubbard), Naima(John Coltrane), Maiden Voyage(Herbie Hancock), Cantaloupe Island(同)といったジャズメンのオリジナルを取り上げ、熱唱しています。

リーダーTom Lellisは1946年4月8日Cleveland生まれ、10代からボーカリストとして地元を中心に活動を開始し、Las Vegasや米国中西部をツアーし73年New Yorkに進出、この頃にGomez, DeJohnetteと出会い、81年初リーダー作「And in This Corner」を本作と同じメンバーを中心に録音しました。本作タイトルの「Double Entendre」(二重の〜特に一方はきわどい)は前作とメンバーが同じ、ボーカルやキーボードの多重録音を行った、作詞作曲家、ボーカリスト、プロデューサーを兼ねていることから名付けられました。

ここでLellisが行っているジャズメン作の楽曲に歌詞を付けて歌う、またここでは行なわれていませんが、発展形としてのアドリブに歌詞をあてはめて歌う奏法、スタイルのことをvocaleseと呼びます。前述のMark Murphyを始めとしてこの演奏の先駆け的な存在のBabs Gonzales、Eddie Jefferson、Bob Dorough、Bobby McFerrin、Kurt Elling、ボーカルグループLambert, Hendricks, & Ross、New York VoicesそしてThe Manhattan Transferらの名前を挙げる事が出来ます。

「And in This Corner」
この作品でもKeith JarrettのLucky SouthernやWayne ShorterのE.S.P.、CoreaのTimes Lie等、ジャズメンのオリジナルに歌詞が付けられvocaleseされています。

ピアニストAllen Farnhamは親日家として知られている61年Boston生まれの作編曲、教育者でもあります。僕も何度か演奏を共にしましたがピアノプレイもさることながら、スタンダード・ナンバーの都会的で知的なアレンジに感心した覚えがあります。Concord Jazz Festivalのオーガナイザーも長く務めています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Tell Me a Bedtime Story、 Hancock69年の作品「Fat Albert Rotunda」に収録されている名曲です。HancockのFender Rhodes、Johnny Colesのトランペット、Joe Hendersonのアルト・フルート(!)、Garnet Brownのトロンボーンがメロディを分かち合い、更に重厚なアンサンブルを聴かせています。メロディのシンコペーションがユニークな難曲、駆け出しの頃に演奏して手こずった覚えがあります。


ここではオリジナルに聴かれるイントロは用いられず、自由な雰囲気でルパート状態、Lellisの歌のピックアップからインテンポになり曲が始まります。オリジナルの漂うような雰囲気を一新したストロングな曲想、Lellisの声質、歌い方に見事に合致しています!アドリブソロはなくテーマを2コーラス演奏してコーダを延々と繰り返しFineとなりますが、曲に対するカラーリングが全編実に素晴らしいDeJohnetteのドラミング!シンコペーションの際のフィルイン、タイム感、シンバル、ドラムセットの音色、全てに申し分ないプレイです!Gomezのベースワークもウネウネとグルーブし、随所に遊び心、チャレンジ精神が満載されています。

2曲目はInvitation、ドラムとベースが繰り出す緻密にしてリラックスしたグルーブ感が心地よい8分の6拍子のリズム、ピアノの左手がモーダルなサウンドを提示しLellisのボーカルが始まります。しかしこれはどう聴いてもインストルメントによる演奏、たまたまボーカルがメロディを担当していますが、器楽によるテクニカルな演奏のレベル、ボーカルの持つスイートさ、ムーディな要素を排除したハードボイルドな歌唱、バックを務めるミュージシャンも100%承知の上でのサポートに徹しています。Lellisにはこのリズムセクションが発するエネルギーが相応しいのです。Gomezのon topなビート、DeJohnetteのタイトさ、理想のグルーヴ感です!

ピアノソロはFarnham、端正なピアノタッチ、コードワーク、タイム感、McCoy Tynerのテイストが根底にありますが素晴らしい演奏を聴かせています。その後ベースとドラムの8バースになりますが、何という濃密なやり取りでしょうか!テクニカルにしてスポンテイニアス、Gomezの個性的なソロはどこを切ってもGomez印の金太郎飴状態、DeJohnetteのスネアのフレージングは天から降りて来るインスピレーションを憑依する受け手としての恐山のイタコ状態、ため息が出るほどに素晴らしいです!

3曲目LellisのオリジナルL.A. Nights、多重録音による本人のバックコーラスが効果的な文字通り西海岸のフュージョン・タッチのナンバーです。DeJohnetteのシンプルで的確なサポート、またGomezの音の立ち上がりの早いベースプレイはエレクトリック・ベースと何ら遜色ありません。スムースジャズの第一人者David Benoitの音楽はL.A.スタイル・フュージョンと呼ばれていますが、まさしくこのサウンドです。

4曲目はShow Me、こちらも多重録音によりボーカルをオーバーダビングしていますが、デュエットのようなスタイルです。ピアノソロは再びFarnham、明晰なタッチが軽快なワルツに合致しています。ピアノソロに被るようにデュエットが再登場、そしてこちらを煽るようにDeJohnetteのドラミングが炸裂しています!

5曲目LellisのオリジナルNever Had a Love(Like This Before)は、Farnhamが演奏するシンセサイザーの多重録音を駆使したナンバー。YAMAHAのDX7が使われていますが懐かしい音色、響きです。80~90年代流行りましたからね。でも今となってはコーニーさを感じてしまいます。叙情的、ドラマチックなナンバーです。

6曲目は本作の白眉の演奏CoreaのWhat Was、こちらはボーカルの多重録音を駆使しています。DeJohnetteのフリーソロから始まりますが、冒頭のボーカルのハーモニーが男性の声の低音域を強調しているので、読経のように感じてしまいます(爆)。それにしてもこのアレンジのアイデアはvocalese史上特記されても良いクオリティ、そして仕上がりだと思います。Gomezの素晴らしいソロがフィーチャーされますが、Coreaのオリジナル演奏ではMiroslav Vitousの歴史的名演奏が光ります。余談ですが先月(19年3月)25年ぶりの来日を果たしたVitous、ベーシストは勿論の事、他の楽器のミュージシャンが大勢彼の演奏を聴きに行ったそうです。「Now He Sings, Now He Sobs」での演奏の存在感故だと思います。ベースソロ後ボーカルがフィーチャーされ、ラストテーマでは再び読経が聴こえます(笑)。

7曲目LellisのオリジナルE. R. A.、ミディアム・スイングの佳曲です。ピアノはLellis本人が弾いており、ソロこそありませんが的確なアンサンブルを聴かせています。DeJohnette、Gomezと一緒に演奏すれば自ずと方向性が定まるのでしょう。歌とピアノの複雑なメロディのユニゾンは同時録音か微妙なところですが、ボーカル絶好調、声が良く出るに連れてバッキングの音使いも激しさを増しています。

8曲目LellisのオリジナルEerie Autumn、ライナーにもありますがBartok, Stravinskyからのハーモニーの影響が認められ、かなり内省的なサウンドが聴かれます。

9曲目はRichard Rodgers/Oscar HammersteinのI Have Dreamed、いかにもミュージカルに用いられる雰囲気のナンバー、後半声を張ってアリアのようにも歌唱しています。Lellis自身のピアノソロも聴かれます。

10曲目アルバム最後を飾るのはAtchison, Topeka & The Santa Fe、ハッピーなテイストのシャッフル・ナンバー。こちらでもFarnhamの演奏するDX7が聴かれ、効果的に用いられています。そういえばDeJohnetteのシャッフル・ビートはあまり聴いたことがありませんが、彼はどんなリズムを演奏しようが常に音楽的でクリエイティブ、更にプラスワンが聴こえます。

2019.04.13 Sat

Hi-Fly / Karin Krog, Archie Shepp

今回はボーカリストKarin Krogとテナー奏者Archie Sheppによる作品「Hi-Fly」を取り上げたいと思います。1976年6月23日Oslo, Norwayにて録音 Producer: Frode Holm, Karin Krog Compendium Records

vo)Karin Krog ts)Archie Shepp tb)Charles Greenlee p)Jon Balke b)Arild Andersen b)Cameron Brown(on Steam only) ds)Beaver Harris

1)Sing Me Softly of the Blues 2)Steam 3)Daydream 4)Solitude 5)Hi Fly 6)Soul Eyes

Karin KrogのチャーミングなボーカルにArchie Sheppのまるで人の声、喋っているかの如きユニークなテナーサックスのオブリガートが全編絶妙に絡み、素晴らしい音色で思う存分間奏を取る、他に類を見ない作品です。ボーカリストのアルバムにテナーサックス奏者が歌伴で参加したと言う次元に留まらない内容の演奏ですが、Krogの唄だけ、Sheppのテナーのみでは得ることの出来ない、互いの演奏、音楽性の相乗効果が生み出した素晴らしい産物です。

Krogは37年Norway Oslo出身、音楽一家に生まれた彼女は60年代初めから地元やStockholmで演奏活動を開始、64年にFrance Antibe Jazz Festivalに出演し脚光を浴びます。67年にはトランペッターDon Ellisに認められて渡米し彼のオーケストラとの共演を経験しました。69年には米Down Beat誌の評論家投票で新人女性ヴォーカリストの首位に輝いています。翌70年8月には大阪万博にEurope Jazz All Starsの一員としても来日しました。Norway、北欧を代表するボーカリストの一人です。

本作を遡ること6年前、70年に同じく渡欧組テナー奏者Dexter Gordonを迎えて「Some Other Spring」を録音しています。”blues and ballads”とサブタイトルの付けられた本作、テナーサックス奏者が変わった事でこうも作品の印象が違うのかと感心させられる1枚です。こちらはDexterと伴奏のKenny Drewのプレイに影響を受けたのか、サウンド自体がそうさせるのか、Krogの歌も本作に比べてかなりオーソドックスに聴こえます。

欧州で自国の言葉ではない英語でジャズを歌う女性歌手として、オランダ出身のAnn Burton、スウェーデン出身のMonica Zetterlund、同じくLisa Ekdahlらの名前を挙げることができますが、Ella Fitzgerald, Carmen McRae, Sarah Vaughanらのようなスタイルではなく、やはりPeggy Lee, Anita O’Day, Sheila Jordanらの白人ボーカリストの流れを汲んでいます。欧州を南下してItalyやSpain辺りのラテンの血が流れる情熱的な国には、CarmenやSarah直系、更にはNina Simoneの様なストロング・スタイルの女性ボーカリストも存在しているかも知れません。

Krogと同年生まれ、Florida出身のSheppはPhiladelphiaで育ち、もともと俳優志望で演劇を大学で専攻、傍サックスを手にして音楽活動を始めました。卒業後New Yorkに移ってからはLatin Band(この時期の録音が残されていたらぜひ聴いてみたいものです。 Sheppのラテン、さぞかしユニークでしょう!)を短期間経験しその後Cecil Taylorのユニット, Don CherryやJohn TchicaiらとのNew York Contemporary Fiveでの演奏を経てJohn Coltraneとの共演を経験しました。作品としては「A Love Supreme」「Ascension」、そしてColtraneの後押しがあって64年初リーダー作「Four for Trane」をリリースし、65年「New Thing at Newport」では同Jazz Festivalにて共演は果たさずともColtraneとステージを分かち合いました。まさしくColtraneの申し子としてフリージャズ旋風が吹く60年代中期〜後期を駆け抜けましたが、その風が収まる69年に多くのフリージャズ系ミュージシャンがParisに移住した際にSheppも同行、欧州での活動を開始しました。その後のKrogとの出会いも極自然な流れであった事でしょう。

Sheppを後ろから慈愛に満ちた眼差しで見つめるColtraneが印象的なジャケットです。
Archie Shepp サックスのベルにマイクロフォンを突っ込んで吹く独自の奏法です

Sheppの楽器セッティングですが本体はSelmer MarkⅥ、マウスピースはOtto Link Metal 7★、リードはRico Royal 2半です。30数年前にArchie Shepp Quartetの演奏を新宿Pit Innで聴いた事があります。その際サックスのベルにマイクロフォンを時としてかなりの度合いまで突っ込み、サックス管体内で音場が飽和状態になった際に得られるフェイザーが掛かったかのような響きを利用して独自の音色を作っており、そのサウンド・エフェクト、マイクロフォン・テクニックに衝撃を受けた覚えがあります。PA担当のエンジニアにはマイクロフォンからの入力オーバーでスピーカーが飛ばないか、その結果自分のクビが飛ばないかと不安感を与えますが(汗)。アンブシュアもダブルリップなのでマウスピースに負荷が掛からずリードの振動が確実になりますが、彼の場合音程に関して疑問符が伴うことがあり、しかしSheppの演奏スタイルではまず楽器のピッチが問われることは無く、音程感も彼の音楽性に内包されるので全く問題はありません(爆)。付帯音の鳴り方が大変豊か、結果ジャズの王道を行くテナーの音色を聞かせ、加えてフレージングの語法、アプローチ、アイデア、間の取り方いずれもが大変ユニークなので、ジャズ表現者として抜群の個性を発揮しています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Sing Me Softly of the Blues、Carla Bley作曲のナンバーにKrogが歌詞をつけた形になります。65年Art Farmerの同名アルバムで初演されています。けだるい雰囲気のイントロから歌が入りますが、いきなりSheppのオブリガート(オブリ)の洗礼を受けます。いわゆる歌伴の演奏とは全く違ったコンセプトで、基本は歌詞のセンテンスの合間にオブリが入りますが、合いの手で別なボーカリストの掛け声、シャウトを聴いている様な、はたまた単に効果音的に音列を投入しているかの如く、いずれにせよ物凄いテナーの音色です!オブリからそのままSheppのソロ、その後Krogも謎のハミングを聴かせていますがSheppとのコンビネーション抜群です!前述の「Some Other Spring」での演奏とは全く異なる、非オーソドックスな音楽表現の世界に突入しているのは、ひとえにSheppが起爆剤として機能しているからです!リズムセクションはただひたすら淡々と伴奏を務めますが、その事が一層ボーカルとテナーの演奏を浮き彫りにさせています。

2曲目はSheppのオリジナルSteam、本作録音の前月に西ドイツNurembergで行われたジャズフェスティバルでのライブを収録した同名作品「Steam」にも収録されています。冒頭エフェクトを施したボーカルがこの演奏のいく末を暗示しているかの様に、怪しげで妖艶な雰囲気を醸し出しています。ベースはArild Andersenの他にSheppの当時のレギュラー・ベーシストCameron Brown、ドラマーBeaver Harrisも参加していて作品「Steam」のメンバーが集っています。ピアニストJon Balkeのイントロが沖縄民謡風に聴こえるのは僕だけでしょうか?Sheppの盟友、トロンボーン奏者Charles Greenleeも参加しオブリをテナーと分かち合っています。ラストテーマで何やら「シューシュー」とKrogの歌に混じって聴こえるのはGreenleeが発している声なのでしょう。Steamですから湯気の音がするのは当然です(笑)

3曲目はDuke Ellington作の名曲Daydream、テナーのイントロから始まる美しくも危ないこの演奏、後年Sheppは日本のDenon Labelから同名タイトルのEllington特集の作品をリリースしています(77年録音、リリース)

攻撃的でありながらも優しさと色気を併せ持つShepp独自のアプローチがここでも十二分に発揮され、Greenleeのオブリ共々ボーカルのサポートを的確に務めており、Krog自身も彼らの伴奏を心から楽しみつつ、気持ち良く歌唱している様に聴こえます。ひょっとするとSheppのアプローチはColtraneのSheets of Soudを彼なりにイメージしながら演奏しているのかも知れません。所々に50年代Prestige Label諸作で聴かれるColtraneのフレーズが漏れ聞こえます。エンディングでのSheppのシャウトはKrogの美しい声との対比、美女と野獣状態です。

4曲目もEllingtonのナンバーSolitude、タイトル通り?二人だけでの演奏になります。管楽器一本でボーカルの伴奏を行うのは僕自身も何度かチャレンジした覚えがありますが至難の技です。ここでは正確な音程で朗々歌うKrogを、危険な香りのするアバンギャルドな益荒男振り〜益荒オブリ(笑)で見事にサポートしています。この曲のウラ定番の演奏の誕生です。

5曲目はこの作品のタイトル曲にしてRandy Westonの名曲Hi Fly、収録曲中最もリズミックでタイトな演奏です。先発ソロのGreenleeのトロンボーン、Curtis Fullerのテイストを感じさせつつもSheppに通じる危なさがソロイストの共通性を聴かせます。ソロ終了後一瞬ピアノソロか?と感じさせましたがSheppが演奏の意思表明を行いソロ開始、ドラマーBeaver Harrisとのコンビネーションの良さも聴かせます。無調なフレージングの中にも的確にコード感を聴かせる音使いにハッとさせられる瞬間や、フリーキーなサウンドがスパイス的な役割を果たしているのにドッキリしたりと、演奏を漫然と聴かせない構成になっています。どうやらエンディングをはっきりとは決めていなかった風を感じますが、ハプニングを利用して無事終了。終わりさえすればこっちのものです。

6曲目はMal Waldronの名曲Soul Eyes、バラードではなく全編ルンバ調のリズムで演奏されています。僕は個人的にここでのKrogの歌い方にとても共感を覚えます。Sheppのソロも快調に飛ばしており高音域でのファズがかかった音色がムードを高めます。北欧に居ながら本場米国のジャズスピリットを表現することに成功したKrog、フリージャズ旋風が吹き荒れた60年代New Yorkのジャズシーンで音楽性を培い、そしてその嵐を乗り切った猛者ミュージシャンたちを見事に伴奏者として使える辺り、その音楽性の柔軟さ、懐の深さを感じます。

2019.04.04 Thu

Charles Lloyd / Forest Flower

今回は独自のサックス・スタイル、音楽観を誇るCharles Lloydの初期の代表作「Forest Flower」を取り上げたいと思います。

1966年9月18日録音@Monterey Jazz Festival Producer: George Avakian Atlantic Label

ts,fl)Charles Lloyd p)Keith Jarrett b)Cecil McBee ds)Jack DeJohnette 1)Forest Flower: Sunrise 2)Forest Flower: Sunset 3)Sorcery 4)Song of Her 5)East of the Sun


現在も変わらず精力的に音楽活動を続けるCharles Lloydの出世作になります。モダンジャズ黄金期50年代の成熟期〜倦怠期を迎える60年代、特に60年代後半はフラッグシップであったJohn Coltraneまでもがフリージャズへ突入、傍らジャズロックやエレクトリックが次第に台頭し、更に時代は泥沼化したベトナム戦争に起因するフラワームーブメントを迎え音楽シーンは混沌を極めつつありました。66年録音の本作でも時代が反映された演奏が随所に聴かれますが、何より参加メンバーの素晴らしさに目耳が奪われます。Keith JarrettはArt Blakey Jazz Messengersに短期間在籍した直後にLloyd Quartetに参加、録音当時21歳という若さで驚異的な演奏を聴かせています。ピアノのテクニックや音楽性、タイム感、そしてすでに自己の演奏スタイルをかなりのレベルまで習得しており、その早熟ぶりに驚かされます。本作を含め計8枚のLloyd Band参加アルバムをAtlantic Labelに残しており、いずれの作品でも神童ぶりを発揮しています。Cecil McBeeは42年生まれ、Dinah Washington, Jackie McLean, Wayne Shorter等との共演後Lloyd Bandに参加、17歳からコントラバスを始めたとは信じられない楽器の習熟度、on topのプレイはドラムとの絶妙なコンビネーションを聴かせ、更にバンドに自身のオリジナルを提供してもいますが、このカルテットでの4作目「Charles Lloyd In Europe」を最後に退団し、後任にはRon McClureが参加しました。

Jack DeJohnetteはMcBeeと同年生まれ、やはりJackie McLeanやLee Morganとの共演を経てLloyd Quartetに参加しましたが、若干24歳、信じがたい事ですがこの時点で”DeJohnette”スタイルを完全に発揮しています!シンバルレガート、フィルイン、タイム感、グルーヴ感、スポンテニアスな音楽性、共演者とのコラボレーションの巧みさ、アイデア豊富なドラムソロ、以降一貫したスタイルの発露を感じます。Elvin JonesとTony Williams両者のドラミングのいいとこ取り、加えての強烈なオリジナリティ、申し分ないセンスの持ち主です!1拍の長さを当Blogで良く話題にしていますが、DeJohnetteの1拍の長さはこの時点でも相当な長さ、そして演奏を経る、経験を積むに従って更にたっぷりとしたものになりました。おそらくドラマーの誰よりも長く、そしてあらゆる既存の規格が当てはまらない桁外れのプレイヤーでしょう!JarrettとはGary Peacockを迎えたStandards Trioで、このあと半世紀以上も行動を共にする事になります。それにしてもMcBeeやPeacockとは、美しい名前のベーシストたちです。

これら若手の精鋭たちからなるリズムセクションを従えたリーダーLloydはこの時28歳、楽器の音色が主体音よりも付帯音の方が中心とまで感じるホゲホゲ・トーン、当時の使用楽器はConn New Wonder gold plate、マウスピースがOtto Link Super Tone Master Florida 10番、リードはRicoの多分4番、この人も大リーガークラスのセッティングです!マウスピースは以降取り替えることがありましたが、楽器はずっとConnを使用しているようです。Conn userにはこだわりがありますから。Lloyd独自の演奏アプローチですが、例えばWayne Shorter, Benny Golson(いずれもマウスピースのオープニングが同様のセッティング奏者)たちとは随分と趣を異にしています。同様のテイストも感じるのですが、音楽的ルーツという次元での差異を感じます。想像するに彼はアフリカ系黒人、チェロキーインディアン、モンゴル系、アイルランド系と多岐にわたる血統なので、ひょっとしたら様々な異文化の融合が成せる個性からのスタイルなのかも知れません。

リズムセクション3人のタイムがひたすらタイトなのに対してLloydはビートに大きく乗るようなグルーヴ、この対比がバンドのカラーになっています。以降も一貫した音楽観を聴かせているLloyd、共演者の人選に常に嗅覚が働くようです。64年5月録音のLloyd初リーダー作「Discovery !」ではピアニストにDon Friedman、ドラマーにRoy Haynesを迎えてポスト・ハードバップの演奏を聴かせます。Forest Flowerの初演も収録されています。


今は亡きMichel Petruccianiを起用したのもその嗅覚のなせる技です。LloydとPetruccianiの演奏の差異、両者のブレンド感がバンドの魅力でした。

Petruccianiを子供のように抱きかかえる姿が印象的なジャケット写真です

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目Forest Flower: Sunrise、Lloyd作の美しい独創的なナンバー。曲自体の構成がボサノバ、スイング、ブレークタイム、とリズムが変わり、後半に行くに従いコード進行が短3度づつ上がり高揚感を聴かせ、最後にテナーのフラジオ音域のF#とGのトリルで締めるというドラマチック仕立てです。Lloydの音色、レイドバック感、ブレーク時のフレージング、リズムセクションのバッキング、カラーリング、全てが有機的に絡み合い、テーマ演奏だけで完璧な美の世界を構築しています!ソロの先発Jarrett、出だしからいきなり恐るべき集中力と自己表現に対する情熱、執着心、強力な意志を感じさせる演奏です!こちらも後年の演奏の発露を明確に認めることが出来ます。ピアノタッチの素晴らしさはもちろん、楽器の習得度合いが尋常ではありません!スピード感溢れ、コード進行に対して実に的確かつスリリングなアプローチの連続はまさに歴史的な演奏に違いないのです!

ピアノのフリーフォームに入らんばかりの勢い、加えてDeJohnetteの猛烈なプッシュがソロの終盤に相応しい場面から続くLloydのソロ、Jarrettの演奏に触発され普段よりもテクニカルな方向の演奏に向かっている気がします。タンギングや16分音符の長さに僕としては気になる部分があり、茫洋とした雰囲気の中で漂う感じのソロが彼の本質と認識しています。4’53″でバサッという感じでLloydのソロが急に終わりドラムソロになります。リズムセクションと共に盛り上がり切っているところなのですが、どこか不自然な感じを覚えます。もう少しソロが続いた部分が恐らく蛇足になったのでテープ編集が施され、Lloydのソロを短くし繋いだと推測しています。Jarrettのソロがリーダーよりもずっと長いことから、テナーソロも同じくらいのボリュームがあったのではないでしょうか。その後のドラムソロはシンバル、ドラムセットの音色が20代にして完全に確立されたDeJohnette色を聴かせつつ、One & Onlyな世界を構築しています。次第にフェイドアウトして2曲目Forest Flower: Sunsetになります。ここで聴かれるサウンド、コード感やピアノのバッキングはJarrettリーダーのワンホーン・カルテットの多くの諸作で、例えば「My Song」に反映されています。

Lloydのフレーズに呼応してDeJohnetteが炸裂したり、ピアノソロがカオス状態に変化したり、Jarrettがピアノの弦を弾いたり叩いたりと起伏はありますが、およそ一貫してレイジーなムード漂う演奏です。曲中3’11″辺りから飛行機のエンジン音が聞えますが、この会場のそばに飛行場があったからだそうです。屋外でのジャズコンサートならではのサウンド・エフェクトですね。

3曲目はJarrettのオリジナルSorcery、Lloydはフルートに持ち替えます。ピアノの左手ラインが印象的なナンバー、リズムはずっとキープされますがフルートとピアノで同時に即興演奏を行なっているあたり、まさしく60年代後半のサウンドです。

4曲目はMcBeeのオリジナルSong of Her、ベースパターンが崇高なムードを高めています。同じくMcBee作曲のWilpan’s(Wipan’s Walkとする場合も有り)、Lloydの作品「The Flowering」に収録されているナンバーですがこちらもベースラインが大変ユニークな名曲、僕自身もこの曲を演奏した経験があり、かつてMcBeeと山下洋輔ビッグバンドで共演した時にWilpan’sについて尋ねてみました。「僕の友人でWilpanという奴がいて、そいつの歩き方をイメージして書いた曲なんだよ」との事、かなり変わった歩き方の人物です(笑)。トランペット奏者Charles Tolliverの70年5月録音「Charles Tolliver Music Inc / Live at Slugs’ Volume Ⅱ」にも収録されています。

5曲目アルバム最後を飾るのはスタンダードナンバーEast of the Sun、意表を突いたアップテンポで演奏されており、このリズムセクションの真骨頂を聴くことが出来ます。テナーの独奏からテーマ奏へ、Lloydのフリーフォーム演奏に自在に呼応するリズム陣、メチャメチャカッコいいです!レギュラーバンドならではの醍醐味、その後テンポがなくなりアカペラ状態の展開、そしてa tempoになってからのピアノソロのスピード、疾走感、その後やはりフリーフォームになりアカペラギリギリ時のドラムとベースの対応、ベースまでソロがまわりラストテーマを迎えますが、この時にもフリーフォームの残り火が再燃状態です!

2019.03.27 Wed

Live In Montreux / Chick Corea

今回はChick Coreaがリーダーとなったオールスター・カルテットでの1981年7月15日、Montreux Jazz Festivalのライブを収録した作品「Live In Montreux」を取り上げてみましょう。

p)Chik Corea ts)Joe Henderson b)Gary Peacock ds)Roy Haynes

1)Introduction 2)Hairy Canary 3)Folk Song 4)Psalm 5)Quintet #2 6)Up, Up and… 7)Trinkle, Tinkle 8)So In Love 9)Drum Interlude 10)Slippery When Wet / Intro of Band

Coreaの着ているTシャツのロゴが可愛いです。
さすがはMad Hatter!アルプスの雪山を背景にしたRoy Haynesのタンクトップ姿もGood !

録音から13年後の94年にCoreaが主宰するレーベルStretch RecordsからCollector Seriesとしてリリースされました。ディストリビュートがGRP Labelになります。

メンバー良し、バンドの演奏テンション申し分なし、インタープレイ切れっ切れ、演奏曲目理想的、録音状態秀逸、オーディエンスのアプラウズ熱狂的と、名演奏の条件が全て揃い、それが実現したライブ作品です。Montreux Jazz Fes.では昔からコンサートを収録した名作が数多く残されています。スイスの高級リゾート地での真夏の演奏は、演奏者も聴衆も自ずとボルテージが上がるのでしょう。

70年代のCoreaは72年代表作「Return to Forever」を皮切りに数々の名作をリリースしました。「The Leprechaun」「My Spanish Heart」「The Mad Hatter」「Secret Agent」「Tap Step」、同時進行的にGary BurtonとのDuo諸作、自身のソロピアノ連作、フュージョンやロック寄りにサウンドが移行した、バンドとしてのReturn to Foreverでの作品群等、八面六臂の活躍ぶりを示しました。事の始まりとして68年ジャズピアニストとしての真骨頂を聴かせた「Now He Sings, Now He Sobs」(Roy Haynesがドラム)、以降実はアコースティック・ジャズの演奏はあまり聴かれませんでした。

時代がフュージョン全盛期だったのもありますが、78年「Mad Hatter」収録曲でJoe Farrell, Eddie Gomez, Steve Gaddというメンバーによる、その後も度々取り上げる事になる重要なレパートリーにして4ビートの名曲、Humpty Dumptyの演奏でアコースティック・ジャズへの回帰を一瞬匂わせ、同年同メンバーでフルアルバム「Friends」を録音、81年2月FarrellがMichael Brecker に替わり「Three Quartets」を録音し、ジャズプレーヤーとしての本領を発揮しました。当時我々の間でもFarrellの替わりにMichaelが入って演奏したらさぞかし凄いだろうと噂し、まさかの実現に驚いた覚えがあります。

以上の流れを踏まえた上での本ライブ盤になりますが、前作Three Quartetsがメンバー4人全員音楽的に同じベクトル方向を向いていて、例えばタイムの正確さ、シャープさ、リズム・グルーヴ、サウンドの方向性、バンドの一体感等、極論ですが言うなればデジタル的アコースティック・ジャズの様相を呈しているのに対し、本作はいわば正反対、参加プレイヤーのアナログぶりは感動的ですらあります!Joe Henderson、そしてRoy Haynesですから!

そういえばこの2人の共演をピアニストAndrew Hillの63年Blue Note第1作目リーダー作、「Black Fire」で聴くことができます。浮遊感に満ち、超個性的かつジャズの伝統に則ったHillの楽曲を2人実に的確にサポートしています。

Joe Hen79年作品「Relaxin’ at Camalliro」80年「Mirror, Mirror」自己のリーダー2作にCoreaを迎えて好演奏を聴かせています。本作ライブの実現はこれらの作品が引き金になっているのかも知れません。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目CoreaのオリジナルHairy Canary、「Three Quartets」CD化に際して未発表追加テイクで収録されているナンバーです。Coreaのリリカルで端正なタッチのイントロから演奏が始まります。曲のフォームとしては12小節のブルース、キーはCメジャーです。1コーラス目でJoe HenいきなりオーギュメントのG#音をロングトーン、エグく飛ばしてます!超ハイテンションでのJoe Henフレーズの洪水状態!Coreaのバッキングも実に活き活きと、テナーの演奏を受けつつ振りつつ、時に付かず離れず仕掛けています!フロントのソロに対してどんなバッキングを行えば演奏が引き立つかを熟知したサポートに徹していて、更にシンコペーションを多用したバッキングのリズムの位置が完璧なので、バンドのビートが活性化されています。4ビートは裏拍が命ですから。2’36″でのバッキングフレーズ、3’41″で演奏したフレーズを3’55″で再度HaynesとPeacockリズム隊全員ユニゾンで仕掛ける辺り、3人顔を見合わせてニヤリとした事でしょう!しかし実はこれ0’59″に端を発しているのです!Haynesのスピード感あるシンバルレガート、バスドラムの絶妙なアクセント、スネアやタムの全く的確なフィルイン、なんというグルーヴ感でしょう!全てが自然発生的、ドラムを叩かず音楽を奏でている真のジャズドラマーです。Peacockの堅実なWalking Bassがバンドの屋台骨になり、他のメンバーに思う存分演奏の自由さを与えています。ベースソロ後ピアノとドラムの1コーラス・バースが何コーラスかトレードされますが、PeacockはHaynesの複雑なドラムソロから、コーラス頭へのリズム提示を躊躇している風を感じますが、Coreaが絶妙なアウフタクトを演奏し確実に呼び込んでおり、他のプレーヤーを誘導できるCoreaのタイム感につくづく素晴らしさを感じてしまいます!ラストテーマ前の同じくシャウトコーラス(2ndリフ)のフレーズが難解なため、今度はHaynesの演奏にリズム提示への躊躇を感じます!

2曲目も「Three Quartets」に追加テイクで収録されているCoreaのオリジナルFolk Song、カッコいい曲ですね!前曲よりもストレートに演奏されています。とは言え先発Coreaの曲想に合致したリズミックなソロ、Joe Henのテナーの王道を行きつつも至る所にトリッキーなJoe Henフレーズを散りばめたスインギーなソロ、それにしても6’33″位から始まるリズミックで変態的なフレーズ、一体この人のフレージングセンスはどうなっているのでしょう?背筋がゾクッとするインパクトです!

3曲目CoreaのオリジナルPsalm、イントロでピアノの弦を弾いてパーカッシヴなサウンドを聴かせつつ、最低音の連打、様々な音色の表現、音量のダイナミクス、壮大なイメージを描いています。本当にこの人はピアノが上手いですね、マエストロ!曲自体はミディアムテンポのマイナーチューン、テーマ後Joe Henの先発ソロが始まります。比較的早い段階でCoreaがバッキングをやめ、Joe Henを放置状態。ピアノのバッキングはコード感、リズムの提示、そして時としてインプロビゼーションの起爆剤になり得ますが、演奏しないのもそれはそれで音楽表現のひとつです。「Go ahead, Joe !」とばかりのCoreaの意図を汲みアグレッシヴに盛り上げています!イントロ部分で饒舌に語った関係かCoreaの本編でのソロは殆ど無く、テナーのフィーチャー曲になりました。

4曲目もCoreaのナンバーQuintet #2、ピアノとテナーのメロディがユニゾンやハーモニー、対旋律に変化していく様が実にCorea的な美しいワルツです。ライブでこれだけのアンサンブルと美の世界を構築するのは並大抵な集中力では実現出来ません!このバンドの底力を感じる演奏です。Peacockのベースソロがリリカルで美しいです。

5曲目はPeacockのナンバーUp, Up and…、Corea自身のライナーノーツによるとこの曲は「Lyricism, Impressionism, Peacockism」とあります。アップテンポのスイングになってからのCoreaとJoe Henのソロは、表現すべき音楽がしっかりと見えている者だけが成しうる次元の演奏です!

6曲目はThelonious Monkの傑作ナンバーTrinkle, Tinkle、本作中白眉の演奏です。ちなみに本ライブの直後11月にHaynes, Miroslav Vitousとレコーディングした「Trio Music」の作品後半がMonk特集、ユニークなMonkナンバーを7曲も演奏していますが、このTrinkle, Tinkleは収録されていません。

いかにもMonkishなピアノのイントロからテーマが始まります。メロディのこのウネウネ感はJoe Henの演奏、フレージングや彼のオリジナルInnner Urgeにも共通したものを感じます。イヤ〜、ここでのJoe Henのソロの物凄さと言ったら!!水を得た魚のようとはこの事、どんなにか長くでも聴いていられる位に没頭してしまいます!ソロを煽る3人のバッキングもスゴイです!テナーソロ終了後に一節吹いたフレーズにも反応してしまうCoreaのソロに替わりますが、Joe Henのソロに華を持たせたのか、意外と短めに切り上げていますがPeacockのソロのバックでCoreaパーカッション的に色々な音を発しています。その後のピアノトリオ3者の絡み具合ってこれは一体何?後は無事にラストテーマを奏で大団円です。

7曲目はもう一つのハイライトCole PorterのナンバーSo In Love、実は冒頭のピアノ・イントロが1分近く編集され短くなって途中からの収録になります。恐らく収録時間の関係でのカット、コンプリートになるテイクが収録されたCDがこちら「Chick Corea Meets Joe Henderson / Trinkle – Tinkle」、曲名も同じ作曲者ですがI’ve Got You Under My Skinとミスクレジットされていて、いかにもBootleg盤らしいです。ですが演奏本編の方は特に編集の跡はなく、Joe Henの史上に残る大名演を聴くことができます!ソロが終わる時の8小節間Haynesが実に長い大きなドラマチックなスネアのフィルインを入れ、次のコーラス頭にアクセントが入り的確にテナーソロを終えさせている辺り、Haynesの音楽性の懐の深さをまざまざと感じてしまいます。「Joeのソロはこのコーラスで終わるようだから、一丁景気よくぶっ飛ばしてやるぜ!デーハなフィルインみんな気に入ってくれるかな〜?」みたいな下町の横丁のオヤジ的考えでしょうか?(謎)

8曲目は前曲So In LoveからHaynesのドラムソロに突入したDrum Interlude、9曲目Slippery When Wetのテーマのリズムを提示してからSlippery ~ 本編に入りますが、ここでもテープ編集が施され短い演奏になっています。編集前の演奏はかなりフリーキーな領域にまで到達していますが、やはり収録時間の関係でしょう、そしてやや冗長感も否めなかったのか、テーマ部分だけが上手い具合にドラムソロ後に加えられた形になっています。ジャズの名演奏にはテープ編集が効果的に用いられている場合がある好例です。Coreaのメンバー紹介のアナウンスがやや遠くから聴こえるのが、大会場でのコンサートを表しています。

2019.03.18 Mon

Eddie “Lockjaw” Big Band / Trane Whistle

今回はテナー奏者Eddie “Lockjaw” Davisのビッグバンド編成による作品「Trane Whistle」を取り上げてみましょう。Recorded in Englewood Cliffs, NJ; September 20, 1960. Recording by Rudy Van Gelder Prestige Label

ts)Eddie ” Lockjaw” Davis tb)Melba Liston, Jimmy Cleveland tp)Clark Terry, Richard Williams, Bob Bryant ts, fl)Jerome Richardson, George Barrow as)Oliver Nelson, Eric Dolphy bs)Bob Ashton p)Richard Wyands b)Wendell Marshall ds)Roy Haynes Arrangement by Oliver Nelson(1, 2, 4 & 5), Ernie Wilkins(on 3 & 6)

1)Trane Whistle 2)Whole Nelson 3)You Are Too Beautiful 4)The Stolen Moment 5)Walk Away 6)Jaws

本Blog少し前で取り上げたホンカー4テナーによる「Very Saxy」にも参加していたEddie “Lockjaw” Davisを、ビッグバンドをバックに存分に吹かせた作品に仕上がっているのが本作「Trane Whistle / Eddie “Lockjaw” Big Band」です。Lockjawは途中別レーベルでもレコーディングしていますが、58年から62年の間に双頭リーダー作を含め合計17作(!)をPrestige Labelからリリースしており、如何に当時人気絶頂のテナー奏者であったかを知る事が出来ます。通常サックス奏者がビッグバンドを従えてフィーチャリングされる場合、ホーンセクションにも参加し、アンサンブルもこなしつつソロを取ることになりますが、本作では別にアンサンブル要員がしっかりと配され、ソロイストに徹しています。そのようなシチュエーションだからでしょうか、多分Lockjaw専用マイクロフォン使用にてレコーディングされたテナーの音が一層くっきりと、音の輪郭、音像、音色のエグさを聴かせています。

ビッグバンド編成ではありますがブラスセクションの人数が若干少なく、本来4人のトランペット・セクションが3人、同じくトロンボーン・セクションは2人です。サックス・セクションが通常の5人編成なのでブラスのリストラには何か狙いがあったのでしょうか、それとも当日単にメンバーが来なかったとか、手配の行き違いでメンバーが足りずともレコーディングを行ったのかも知れません。たとえメンバーを間引いた編成であったにしろ、アレンジャーOliver Nelsonの強いこだわりでサックス・セクションは通常の編成〜アルト×2、テナー×2、バリトン×1で通したのではと思います。総じてブラス・セクションの人員が少ないので多少サウンドの厚みに欠けるのでは、と感じる部分もありますが、Lockjawの演奏がそれを補って余りある迫力を提供しています。

このアルバムはLockjawの演奏にスポットライトを当てた以外に、いくつかの特記すべき事柄があります。まず一つは名アルト奏者Eric Dolphyのアンサンブルへの参加です。リードアルトをアレンジャーOliver Nelson自身が担当しているので、3rdアルトという事になりますが、あの超個性的なサックス奏者の参加にして本作中全くソロがありません(汗)。彼が本当にレコーディングに参加していたのかを裏付ける意味合いか、本作ライナーノーツにEric Dolphy(whose unique bass clarinet sounds can be heard briefly on the closing of The Stolen Moment)とあります。The Stolen Momentラストテーマ後のエンディング部分7’24″以降で低音楽器の音が断続的に聴こえ、これはバスクラリネットのようでもありますがバリトンサックスの可能性も捨てきれない次元の聴こえ方で、どちらかかは判断しかねます。僕はライナー執筆者Joe Goldberg氏の勘違いで、Dolphyは録音当日アルトだけでの参加であったように思いますが、いずれにせよDolphyはソロ時120%自分の個性を発揮、一方こちらで聴かれるようにアンサンブルではあたかもスタジオミュージシャン然と自身の個性を集団に埋没させ、アンサンブルの歯車の一つとして職人芸を発揮する、バランスの取れたプレイヤーという事になります。

Eric Dolphy

Herbie Hancockの自伝「Possibilities」にDolphyについての記述があります。そちらを紐解いてみましょう。

Dolphyは64年Charles Mingus Bandの楽旅に参加中、西ベルリンで持病の糖尿病の発作に見舞われました。通説ではその際に心臓発作を起こし客死した事になっています。死因は心臓発作には違いないのですが、ライブの最中に糖尿病の発作を起こして病院に担ぎ込まれた際、担当医師がドラッグを使用していたと思い込み解毒治療を施し(アメリカの黒人ミュージシャンが演奏中に倒れるなんてドラッグが原因に違いないと高を括ったのでしょう)、適切な処置〜インシュリンの注射をしなかったために容態が悪化、心臓発作に見舞われ36歳の若さで亡くなりました。医療ミスの最たるもので、彼はドラッグなどやっていなかったのです!医師が患者の症状をしっかりと認識し、インシュリン一本注射してさえいればDolphyは存命し、音楽活動を展開し続け、この優れた稀有な才能がジャズ史を変えたかも知れないのです。本当に残念でなりません。

続いて挙げるのは、このThe Stolen MomentがOliver Nelsonの代表作にしてモダンジャズ史上に輝く名盤の一枚、「The Blues and the Abstract Truth」収録曲Stolen Momentsの初演に該当する事です。

遡る事5ヶ月前に本テイクが録音されましたが、独特のムードとハーモニー感、アンサンブルの斬新さを既に聴く事が出来ます。Nelson自身の他、Dolphy, Roy Haynes, George Barrowが引き続き参加しており(Barrowはバリトンサックスに持ち替え) 、当時の音楽仲間だったのでしょう、彼らの他にFreddie Hubbard, Bill Evans, Paul Chambersら豪華メンバーを迎え素晴らしい演奏を繰り広げています。Dolphyこちらの作品では水を得た魚状態で大活躍、先鋭的なソロをたっぷり聴かせています。

本作での演奏はトランペット奏者とLockjawのソロをフィーチャーしており、こちらの演奏はビッグバンド編成なので迫力あるサウンドを聴かせていますが、曲のコンセプトや人選から鑑みると「The Blues and the Abstract Truth」の演奏の方に軍配が上がるように思います。Nelsonここで新曲を実験的に披露し、手応えがあったので自作にも採用したという事でしょう。

もう一つはドラマーRoy Haynesの参加です。Charlie Parker, Bud Powellの昔から60年代以降はStan Getz QuartetやChick Corea Trio等、時代を超えた柔軟な音楽性でシャープなドラミングを聴かせています。本作のようなビッグバンドのフォーマットでも実に的確なサポート演奏でアンサンブルをまとめ上げ、ソロイストを鼓舞しつつ盛り上げるドラミングには、ビッグバンド専門のドラマーでは表現仕切れないジャジーなセンスを感じさせます。

Roy Haynes

ところで皆さんはベーシストBill Crowの著書「Jazz Anecdotes」という本をご存知ですか。

Crowは50年代からNYでStan GetzやGerry Mulliganのバンドのレギュラー・ベーシストとして活躍しました。当時の現役ジャズプレーヤーならではの情報収集力を生かし、様々なジャズメンの逸話を集めて面白おかしく語っています。いずれの話もジャズファンが読めば誰もが頷いてしまう内容から成るエッセイで、日本ではジャズに造詣の深い村上春樹氏が翻訳を手掛けました。そこに収められているLockjawについての話が大変に興味深いので紹介したいと思います。(原文のまま掲載)

Eddie “Lockjaw” Davisがジャズ・プレイヤーになりたいと思ったのは、実用的な目的があってのことだった。<べつに音楽がやりたくて楽器を買ったわけじゃなかった。音楽が好きで、ミュージシャンになりたくて、それで楽器を手にしたというパターンとはちと違うんだ。俺は楽器というものがもたらす効用のほうに興味があった。ミュージシャンを見ていると、奴らはいつも酔っぱらって、ヤクを吸って、女にもてて、朝は遅くまで寝ていた。かっこいいと思ったね。それから俺は、同じミュージシャンでも誰がいちばん目立つのかなあと思って、注意して観察した。いちばん注目を集めるのは、テナー・サックス奏者か、ドラマーか、そのあたりだった。でもドラムは見ていると、組み立てや持ち運びが大変そうだった。だから俺はテナー・サックスで行こうと思ったんだ。これ本当の話だよ>♬

(笑)あまりに本音丸出しの表現です。裏表のない実直な人なのでしょう、きっと。でももしかしたらBill Crowの脚色もあるかも知れません。さらにLockajwは自分でサックスの教則本を手にし、独学でテナーサックスをマスターしたという話を聞いたことがあります。ミドルネームのLockjawは独特なマウスピースの咥え方に由来するそうで、彼独自の音色、他に類を見ないソロのアプローチ、そもそもの楽器への携わり方にユニークさを感じます。これらを踏まえて彼の演奏を聴きこむと、また違った音が聴こえてきそうに思います。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Oliver NelsonのナンバーTrane Whistle、Nelsonの60年5月録音の作品「Taking Care of Business」に収録された曲のビッグバンド・ヴァージョンになります。

ミディアムテンポのブルース、テーマ後Lockjawのソロの冒頭部、気合がかなり入ったのか、テナーの音量入力オーバーで一瞬歪みが生じ、いきなり録音レベルが下げられました。物凄い音色です!めちゃくちゃルーズなアンブシュアなのでしょう、倍音、付帯音が乗りまくりです!マウスピースやリード、楽器も良いもの(当時は当たり前だったのでしょうが)を使っていそうです。その後もホーン・セクションのバックリフが入ると本人エキサイトするのでしょうね、ソロの内容がフリーキーなまでに炸裂、ヒートアップしています!続くNelsonのアルト、Lockjawと比べると音色がツルッとしていてクラシック・サックス風に聴こえてしまいますが、比較対象の問題で、これはこれで素晴らしいジャジーな音色です。この部分がDolphyのソロであったら…と願ってしまうのは無理強いというもの。Nelsonのソロ内容はとても端正でロジカル、教育者、アレンジャー然としたものを感じます。その後のTutti部分ではHaynesのドラムフィルがアンサンブルへの呼び込み感を聴かせています。ラストテーマで聴かれるLockjawのオブリは、音量控えめなサブトーン感がエンディングに向けて効果的です。ところでタイトルのTraneはJohn Coltraneの事で、ライナーによれば彼のディレクションがあったようですが、残念ながら具体的なところまでは分かりません。

2曲目NelsonのオリジナルWhole Nelson、Miles DavisのオリジナルHalf Nelsonのタイトルに肖ったナンバーでしょう。ジャズメンはこういった言葉遊びの類が大好きですから。ソロの先発はRichard Williamsのトランペット、バックリフとのトレードが面白いです。このレコーディング直後に録音された彼のリーダー作「New Horn in Town」は以前よく聴いた覚えがある、隠れた名盤です。

Lockjawのソロに続きますが、この日の彼の絶好調ぶりは誰にも止められません!バックリフにも呼応しつつ独自のフレージングにグロートーンを交え、ホンカーの本領発揮です!続くトランペットソロ、今度はClark Terryの出番です。美しい音色でテクニシャンぶりを聴かせています。

3曲目はRodgers – Hartの名曲You Are Too Beautiful、この曲のアレンジはNelsonからテナー奏者Ernie Wilkinsにバトンタッチ。さあLockjaw on Stageの始まりです!美しいメロディをホーン・セクションをバックにOne and Onlyな節回し、低音域から高音域までサブトーンを自在に駆使して益荒男ぶりをこれでもかと聴かせます。エンディングではテナー最低音のB♭音を見事にサブトーンで響かせていますが、多くを吹いてからのこのロングトーン、実は相当高度なテクニックです!ピアニストとしてはLockjawのソロに的確なバッキングを付けるのは難しいのでしょう、Richard Wyands淡々とコードを繰り出す演奏に徹しています。アレンジの関係か、人員欠如によるものなのか、ブラス・セクションの音の厚みがやや薄く聴こえます。

4曲目The Stolen Moment、前述のようにNelson自身の作品でも取り上げる事になるナンバー、この人は自分の作曲を積極的に他のアルバムでも取り上げる傾向があるようです。ソロ先発はBob Bryant、続くLockjawは珍しくスタンダード・ナンバーSummertimeのメロディを引用、ウネウネ、ウダウダ感が半端ありません!ここでもバックリフの音圧を浴びてハッスルしたLockjaw、ホンカー風に熱くブロウして盛り上がり、Haynesのドラムも呼応してフレッシュなフィルイン・フレーズを繰り出しています。

5曲目NelsonのオリジナルWalk Away、再びミディアムのブルースです。イントロのBryantのピアノソロが良い雰囲気を出しています。深くかかったビブラートが古き良き時代を匂わせるテーマ奏、Dolphyもさぞかしビブラートをかけてアンサンブルを行なっている事でしょう。ここでのLockjawのソロは特に堂々とした豪快さを聴かせ、他のテイクよりも落ち着きを感じさせます。ホーンのアンサンブルとLockjawとのcall & response、面白いやり取りに仕上がっています。

6曲目アルバムラストを飾るのはLockjawアップテンポのオリジナルその名もJaws!こちらもErnie Wilkinsのアレンジになります。トランペットのバトルはTerry, Williams, Bryantの順番に行われています。それにしてもトロンボーンにはMelba Liston, Jimmy Clevelandと行ったソロに長けたプレイヤーが参加しているのに、こちらにもソロは回らず仕舞いです。Haynesのフレーズを受けテナーのソロが始まります。アップテンポでのLockjawはそのドライブ感にターボが掛かり正に独壇場です!更にバックリフによりスーパーチャージャー状態!この曲でもTuttiでLockjaw大暴れ、ラストの締め括りに打って付けの演奏に仕上がりました。

2019.03.09 Sat

McCoy Tyner Quartet

今回はピアニストMcCoy Tyner2006年録音のリーダー作「McCoy Tyner Quartet」を取り上げてみましょう。 07年リリース Half Note Records

p)McCoy Tyner ts)Joe Lovano b)Christian McBride ds)Jeff “Tain” Watts

1)Walk Spirit, Talk Spirit 2)Mellow Minor 3)Sama Layuca 4)Passion Dance 5)Search For Peace 6)Blues On The Corner 7)For All We Know

Recorded Live, December 30- 31, 2006 Yoshi’s, Oakland, California

Produced by Jeff Levenson

豪華かつ豪快な共演メンバーによるライブレコーディング、収録曲7曲中McCoyの代表的なオリジナルを6曲取り上げた、いわば集大成的な作品です。60年にJohn Coltrane Quartetに参加して以来、リーダー作を共同名義を含め70枚以上(!)リリース、内容的にはピアノソロからトリオ、カルテット、クインテット、ラージアンサンブル、オーケストラまであらゆるフォーマットで演奏を繰り広げ、大ヒットした作品を含めその全てが意欲作です。

以前のBlogでも取り上げたColtrane Quartet、60年の海賊盤「Live at The Jazz Gallery 1960」、それまで何人かのピアニストをオーディション的に起用していたColtrane、以降65年頃までの最重要期のレギュラーとなるMcCoyを起用した最初期の演奏に該当しますが、既にColtraneのレギュラーピアニストとしての自覚に満ちた演奏に徹しており、その後Elvin Jones, Jimmy Garrisonたちの参加で完成する不動の、いわゆる黄金のカルテット結成の下地を作り上げていました。

60年代前半に録音したImpulseレーベルの諸作では、Coltraneからの進言、影響、共演から培った、4thインターバルを始めとしたそれまでに聴かれなかったジャズピアノの新たなサウンドを大胆に表現、多大なる影響をジャズシーンに残し多くのフォロワーを生み出しました。67年Coltrane没後、リーダー喪失感から一時混沌としたジャズシーンの牽引役を務めたといっても過言ではありません。

精悍な面構えのジャケット写真を見ると、一時期よりずっと痩身です。McCoyは昔から巨漢のイメージがあるので拍子抜けしてしまいますが、本作で聴かれるように演奏内容の無駄な部分をそぎ落とし、McCoyのエッセンシャルな音楽性をシャープに表現した出来栄えと本人の容貌とが、今回完全にオーヴァーラップしていると感じます。

共演者に触れてみましょう。テナーサックスのJoe Lovano、言ってみればここではColtrane役、極太のオリジナリティ溢れる音色、スポンテニアスかつ変態系アドリブライン、間の取り方、タイトでスインギーなタイム感、歴代のMcCoy Bandのテナー奏者の中で1, 2を争う実力と存在感です。ここで取り上げられているMcCoyのオリジナルが彼の音色と吹き方、イメージにより新たな表情を得たと言えましょう。

ベーシストのChristian McBrideの抜群に1拍の長い、たっぷりとしたOn Topのビート、滑舌の良いラインはかのRay BrownやCharles Mingusを彷彿とさせ更にヴァージョンアップ、コンテンポラリーなテイストを加味させた感のある演奏です。McCoyがレギュラーバンドで起用するベーシストはJuni Booth, Avery Sharpeのようなビートや音色がライトなプレイヤーが多い傾向にあります。もちろんRon Carter, Cecil McBee, Buster Williamsといったストロング系も起用されていますが、レコーディングやフェスティバルといったイベントに限られます。McCoy自体の演奏が左手で低音部を強力に響かせてから右手でペンタトニック系のフレージングで下降する事が多く、左手をより明確に聴かせるためにベーシストに目立って貰ってはマズイのが理由の一つだと感じるのですが、今回のような正反対のタイプのベーシストとの共演で結果、McCoyのピアノ演奏がまた別なテイストを聴かせる事になっていると思います。

一方ドラマーは歴代ストロング系の人選の傾向にあり、Elvin Jones, Al Mouzon, Billy Hart, Billy Cobham, Eric Gravatt, Tony Williams, Jack DeJohnette… 今回のドラマーJeff “Tain” Wattsも名うての強者、Wynton, Branford Marsalisのバンドで世に出ました。個性的ではありましたがどちらかと言えばストレート・アヘッドなタイプのジャズドラマーで、個人的には90年代後半Michael Brecker Bandへの参加で音楽性がぐっと深まり、様々なジャンルのスタイルをバランスよく網羅できるスーパー・マルチ・ドラマーへと変貌したと捉えています。実際Michael Band加入の当初は違和感があり、少しの間バンドサウンドがコーニー(古臭い)になった覚えがあります。本作でも時にElvinを感じさせるアプローチも聴くことができますが、揺るぎのない自己のスタイルでMcCoyの音楽を十二分に表現しています。McBrideとの相性も文句なく素晴らしいです。それにしてもこの二人の腰の据わった感満載にして、スピード感がハンパないビートは一体何なのでしょうか??

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Walk Spirit, Talk SpiritはMcCoyの73年Montreux Jazz Festivalでのライブアルバム「Enlightenment」に収録されています。ここでのテナーサックスはAzar Lawrence、懐かしいですね!本当によく聴きました!

印象的なイントロから始まる佳曲、このイントロを耳にしただけでワクワクしてしまいます!ソロの先発はMcCoy、Lovanoのテーマ奏後しばらくの間があってから始まるのでソロ順はひょっとして決まっていなかったかも知れません。さすがのMcCoyワールドを提示し、Lovanoのソロに続きます。マウスピースのオープニング10★、リード4番と言うオリンピック世界記録保持者並みのハードなセッティングです(爆)!にもかかわらずこの完璧なまでの楽器のコントロールぶり、更に吹奏上大変な負荷がかかるためタイムもキープするのが困難なはずなのにこれまた難なくタイトにスイング!スゴ過ぎです!ソロ導入部はピアノのバッキングがなく、一度クールダウンしてからのスタート、その後のストーリー展開の思惑は見事に功を奏しました!

2曲目Mellow Minor、Michael Breckerを大フィーチャーしたグラミー賞受賞の名盤「Infinity」に収録、マイナー調のスインギーなナンバーです。

個人的には96年のライブ演奏を収録した海賊盤「 McCoy Tyner Quartet Oakland 1996」での演奏もお気に入りです。

Lovanoのメロディ奏、これでもかとばかりに極太感をアピールし、当然Michaelとはまったく違うアプローチを聴かせ、バンドと一体化してBurn Out!途中で珍しく引用フレーズThelonious MonkのNuttyのメロディを吹いています。続くMcBrideのソロ、音圧、エッジ感からおそらくかなり弦高がある楽器だと推測されますが難なくハナ歌感覚で演奏、この人も同様に世界記録保持者クラスでしょう(爆)!McCoyのソロ、ご老公お膳立ては整いました、あとは目一杯スイングしてください、とばかりにLovano助さんMcBride格さんの口上の後に続きます(控えおろう!笑)。その後ドラムと4バースが行われますが、Elvin JonesやJack DeJohnnetteを彷彿とさせる、いやひょっとするとそれ以上かも知れないポリリズムの洪水、Wattsも間違いなくワールドクラス・レコーダーです!

3曲目Sama Layucaは74年の同名作品に収録されています。オリジナルは比較的大編成での演奏ですが哀愁を帯びたメロディはワンホーンでも十分にその真価を発揮しています。

ソロの先発はMcBride、ここでもソロの順番ははっきりとは決まっていなかったようですが、ゆるぎないリズム、正確なピッチ、楽器のコントロール、ベースパターンをモチーフとし順次ストーリーを繰り出す歌心はもはや超人の域です!続くLovanoのソロも何の申し分もありません!McCoyのソロはかなりフリーフォームの領域に突入、助さん格さんが多少控えめにソロを行いご老公のためのスペースを保持していたが故か、ご乱行感がありますね(笑)

4曲目からの3曲は67年録音McCoyの代表作の1枚「The Real McCoy」からのセレクションです。まずはPassion Danceから行ってみましょう!

7thsus4コードのサウンドが印象的なこの曲、Wattsのドラムソロから始まりますが、オリジナル演奏のElvinのソロフレーズを最後に借用してテーマ演奏に入ります。F7thワンコードでのソロはLovanoから開始、アップテンポでのプレイはMcBride〜Wattsの最上級リムジンのドライヴ感、あいにく乗車した経験はなくイメージの世界ですが(>_<)、McBreide, McCoy、とんでもない領域にまで足を踏み入れています!Lovanoのソロが締めに少しあってからラストテーマ、どんなに凄い事になってもレコーディングを意識して曲自体の構成をしっかりと成り立たせて演奏しています。ヘビー級のメンバーによるタッグマッチ、場外乱闘になるギリギリでFineです!

5曲目はSearch For Peace、美しさとコンテンポラリーなテイストを併せ持ったナンバーです。本来はバラードですが2ビートフィールでWattsは初めからスティックで演奏、McBrideも同様のグルーヴで対応していましたが、途中4ビートや6/8拍子のリズム等に変化、リズムのショウケース状態です。事あるごとに述べていますがバラードはバラードで演奏してこその味わいだと思うのですが、Coltraneのテイストが入ると致し方ありません。Coltrane Quartetはテーマ奏のみバラードで、アドリブに入るとすぐにスイングのリズムに変わりますから。Lavanoのメロディ奏はサブトーン気味で、加えて「コーッ」という音の成分が効果的に入っています。これは使用マウスピースFrancois Louisのサウンドの特徴でもあります。

6曲目はブルースナンバーBlues On The Corner、ソロの先発はMcBride、ピチカートによるソロではなくWalkingのライン、こちらもめちゃめちゃスイングしてます!Lovanoもアグレッシヴに攻めています!この位のテンポではヘヴィーなビートが一層冴え渡り、Elvin Jones〜Richard Davisの Heavy Sounds現代版です!McCoyのソロではシャッフルのリズムに!その後再びLovanoが残務処理的にソロを取りラストテーマへとなだれ込みます。グロウトーンを交えながらのテーマ奏はご愛嬌、ホンカーを一瞬思わせました。

7曲目ラストを飾るのはMcCoyのソロピアノによるFor All We Know、94年録音のアルバム「 Prelude And Sonata」に収録されています。エピローグとしてうってつけのナンバー、そして演奏に仕上がったと思います。

2019.03.05 Tue

John Patittuci / John Patitucci

今回はベーシストJohn Patitucciの87年リリース、初リーダー作「John Patitucci」を取り上げてみましょう。GRP Label

b)John Patitucci ts)Michael Brecker p)Chick Corea synth)John Beasley synth)David Whitham ds)Dave Weckl ds)Vinnie Colaiuta ds)Peter Erskine vo)Rick Riso

1)Growing 2)Wind Sprint 3)Searching, Finding 4)Bajo Bajo 5)Change of Season 6)Our Family 7)Peace and Quiet Time 8)Crestline 9)Zaragoza 10)Then & Now 11)Killeen 12)The View

ジャケット写真の表面にはエレクトリック・ベースを、裏面ではアコースティック・ベースを携えたレイアウトが印象的です。ジャズベース奏者でエレクトリック、アコースティック両方を演奏するプレイヤーは少なくないですが、Patitucciのように両者のレベルが拮抗するプレイヤーはほんの一握り、文字通り両刀使いの先駆者にして現在も最先端のベース奏者です。しかも6弦という多弦エレクトリックベースを自在に操り、正確なタイム、グルーヴで超絶技巧のフレージングを繰り出すスタイルはギタリストの演奏を超えるほどのインパクトを与えます。ギターよりもずっと音が太いですからね。本作での登場はありませんでしたが、Akoustic Bandで聴かれるようなアップテンポでのアコースティックベースのスイング感の巧みさは他の追従を許しませんし、9曲目で聴かれるようにアルコソロも絶品です。05年Herbie HancockのDirections in Music来日コンサート時に楽屋を訪ね、Michael Breckerの紹介でPatitucciと話をしたことがありますが、明るく快活でフレンドリー、人を思いやる話しぶり、スマートさにはなるほどと、ファーストコール・ミュージシャンのオーラを感じました。

59年NY Brooklyn生まれ、10歳でエレクトリック、15歳でアコースティック・ベースを始め、早くからスタジオ・ミュージシャンとして活躍していました。85年Chick CoreaのElektric Band、89年Akoustic Bandと両方に参加し、Coreaの寵愛を受けその才能を開花させ、プレイヤーとして急成長を遂げました。Elektric, Akoustic Bandの間87年にCoreaの全面的サポートで本作品をGRPレーベルでレコーディング、収録12曲中10曲が自身の作品、1曲がCoreaとの共作になり、そのいずれもが佳曲です。参加メンバーもCoreaをはじめとして以降も度々共演を重ねることになるMichael Brecker、そしてDave Weckl, Vinnie Colaiuta, Peter Erskineという素晴らしい3人のドラマーが参加したドラム祭りでもあり(笑)、曲によって異なった色合いを出して作品のクオリティ向上に貢献しています。

Patitucciは現在までに14枚のリーダー作をリリース、いずれもが高いクオリティの作品で音楽性の幅の広さ、様々なジャンルを巧みに演奏する懐の深さ、作品を重ねるごとに深まる表現の度合い、常に進化を遂げているミュージシャンですが、本作でのフレッシュさはまた格別に心に響きます。初リーダー作は演奏家の原点と言えますが、ここではコンポーズ、サウンド作りとそのアイデア、ベース・ソロプレイとバランスの良さを提示、以降一貫したテイストを聴かせることになります。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Growing、グルーヴが気持ち良いファンクナンバー、オーヴァーダビングによるベースのメロディが印象的ですが途中からRick Risoのフェイザーが掛かったヴォーカルが加わり、キャッチーでダンサブルな雰囲気を醸し出すことに成功しています。Patitucciのソロを大フィーチャーしたナンバーですが、それにしても上手いですね、この人!フレージングはギタリストを研究した節が窺われますが、むしろサックス奏者からの影響が顕著です。随所に聴かれるシンセサイザーが効果的に曲想をバックアップしています。

2曲目はよりテンポアップしたファンクナンバーWind Sprint、イケイケのドラムフィル、ド派手なスラップベース、これでもかと互いに呼応しつつバトルするベースとテナー、リズムセクションとのインタープレイ、入魂の演奏から我々はこういったタイプの楽曲を「ど根性フュージョン」と呼びました(笑)。ジャズ史上Michaelのテナーにバトルを挑んだベース奏者はこの人くらいかもしれません(爆)、憧れのサックス奏者との共演にそれまで描いていた夢を実現すべくバトルを提案したのでしょう、実に功を奏しています!ちょっと気になるのはテナーの録音、音像がやや引っ込み気味な点です。反してベースの音像はクリアーに聴こえます。Michaelのただでさえ凄まじいソロ、ベースと同じ定位ではバトルというシチュエーション上勝敗が確定してしまう(?)のを避けるために敢えて行われたのかも知れません。

91年出版された楽譜集「The New Real Book Volume Two」に、この曲の譜面が掲載されています。当時バンド仲間で嬉々として共有し「ど根性」の演奏を繰り広げた記憶があります(笑)

エンディングはDave Wecklの壮絶なドラムソロが聴かれますが、当時のドラムキッズ達の憧れのフレーズ満載の演奏です!みんなこぞってコピーしましたね!聴き覚えのあるフレーズのオンパレードですから(笑)

Dave Weckl

3曲目はへヴィーなダウンビートのスイング・ナンバーSearching, Finding、モーダル〜Coltrane Likeな曲想なのでColtraneが生涯追い続けた探求、発見という事でしょうか、Patitucci自身の音楽観にもオーヴァーラップさせているのでしょう。ドラマーがPeter Erskineに替わりますが、本作中ジャズ系のナンバーでは彼が起用され、フュージョン系はWeckl, Colaiutaと役割分担がなされています。曲中のベースラインはシンセベースでも演奏されているようで、リーダーはソロイストとしての参加、ギタリストのようにメロディをMichaelと演奏、さらにカッティング?やフィルインを入れ捲っています!Erskineのシンバルレガート、フィルイン、グルーヴ、どれも何て的確なんでしょう、あまりにもハマり捲りです!ソロの先発Michael、気持ちが入っています!2’15″あたりの、ぐ〜っと後ろに引っ張ったフレーズのレイドバックにその入魂ぶりが現れています!本物のテナー奏者は演奏に入れ込めば入れ込むほどタイムをタメるものなのです。Michaelの最後のフレーズを受け継いで続くPatitucciのソロもBurning!その後のCoreaのソロは超人的なタイム感を駆使した演奏、ピアノの音色が実にキラキラして音の粒だちが尋常ではありません!さりげにオルガン系音色のシンセサイザーのバッキングがオイシイです。この曲でもエンディングでドラムが大暴れ、Coreaも呼応してユニークなバッキングフレーズを連発、さぞかし演奏終了後メンバー同士で盛り上がったことでしょう。オーヴァーダビング無しでの演奏、かつTake OneでOKだったに違いありません。

Peter Erskine

4曲目はPatitucciとCoreaの共作によるBaja Bajo、共作とはいえ曲想としてはCoreaの方のテイストが強いのは致し方ないかも知れません。速いテンポのラテン〜サンバ、ドラマーはColaiutaに替わります。Wecklと比べるとColaiutaの方がビートがずっしりとしていて音符が長いように感じます。でもこれはどちらが良いという優劣ではなく、表現の仕方の個性の違いです。さらにWecklの方はフィルインやソロでしっかりとフレーズを叩いているので形が比較的明確ですが、Colaiutaはその都度のイマジネーションでドラミングしておりスポンテニアス、良い意味で不定形な表現スタイルです。Philly Joe JonesとRoy Haynesの違いと言うと分かり易いでしょうか、厳密なものでは無くあくまで雰囲気的にですが。Colaiutaはこの演奏中オーヴァーダビングでパーカションも演奏しています。ピアノとシンセサイザーによるテーマ演奏はシャープかつリズミック、とってもカッコ良いです!ソロの先発Corea、期待に違わぬハイパーな演奏でColaiutaもここぞとばかりに煽っています。CoreaとColaiutaの相性は抜群だと思うのですが、Coreaがリーダーでの共演は何故か92年Blue Note TokyoでのChick Corea Trio(ベースはPatitucci)ライブ等、ごく一時期限定に留まりました。Patitucciのソロも実に巧みですがCoreaのバッキングも全く聴き逃せません!Coreaの傑作「Friends」でのJoe Farrellのソロ時のバッキングにも匹敵〜主役を食ってしまうほどインパクトのあるバッキング!ラストテーマ〜エンディングはまさにCoreaサウンドのオンパレード、パーカッションもイケてます!

Vinnie Colaiuta

5曲目はChange of Season、ドラマーは再びColaiuta、ピアノがテーマを演奏しますがCoreaではなくここではDave Whitham、プロデュサーにしてマエストロCoreaの前で演奏するのはやり辛かったと思います(汗)、Whithamのピアノも素晴らしいですが、Coreaと比較するとどうでしょう、タイムの安定感や音色、フレージングにややぬるさを感じるのは仕方がないのかも知れません。ここでのベースソロはイってます!ColaiutaとJohn Beasleyのシンセベースのサポートと共に、リズムを細分化して微積分した(爆)ような緻密な演奏です!

6曲目Our FamilyはPatitucciとCoreaのDuo演奏、Coreaは全編Synclavierでパーカッションを担当しPatitucciが縦横無尽に6弦エレクトリックベースを演奏しています。よく聴くとCoreaは遊び心満載、巧みにラテンのリズムを繰り出しており、二人の楽しげな雰囲気が伝わってくる対話に仕上がっています。

7曲目はバラードPeace & Quiet Time、Michaelがここぞとばかりに歌い上げます。ドラマーはErskine、2, 4拍に入るスネアやシンバルのアクセントがオイシイところに入ります!Patitucci〜Michaelとソロが続きますが、やはりテナーの音像が引っ込み気味なのが気になります.

8曲目Crestline、Colaiutaのドラムが水を得た魚状態、適材適所です!Coreaのソロはどうしてこんなにも毎回イマジネーションに富んでいるのでしょう!素晴らし過ぎです!Colaiutaとのコンビネーションもバッチリでタイムの捉え方がまるで一卵性双生児のようです!Patitucciのソロ、ピアニシモからメンバー一丸となってジワジワと、ウネウネと、遠くから津波が押し寄せる如く、これでもかと盛り上がります!それにしても丁度良いところで次のセクションに行くものですね。

9曲目Zaragoza、この曲のみCoreaのナンバーです。Beasleyのリズミックなシンセサイザーのイントロが印象的です。アコースティックベースのアルコでのメロディ奏、ピチカートでの超絶ソロが聴きモノです!適度な小部屋内で録音された感が美しいベースの音色も、とても魅力的です。Patitucciの全編フィーチャー、作曲者自身のソロはありません。

10曲目Then & Now、Michaelのオンステージになりますが、彼のフィーチャーを想定して書かれたかのような、Michaelにまさにうってつけのナンバーです。この人のソロは実に様々な技や高度な音楽理論を駆使して行われていますが、淀みなくしっかりとウタ、ストーリーに仕上がっている点が驚異的、ジャズ的なテイストのフレージングもスパイス的に散りばめられ、そのバランス感にいつも感心させられます。

11曲目KilleenはPatitucci, Corea, Erskineのトリオによる演奏、本作中最もジャズテイストを感じさせるワルツナンバーです。アコースティックベースで初めにトリオ演奏を録音、その後エレクトリックベースによるテーマをオーヴァーダビング〜ソロプレイ、Coreaのソロの後にエレクトリックで再びソロを取っていますが、後ろでアコースティックが聴こえつつ、ここでは3者のインタープレイが行われているのでこの部分は初めにエレクトリックでソロを収録し、その後アコースティックをオーヴァーダビングしたと考えるべきでしょう。録音技術を駆使しつつアコースティックなジャズサウンドを自然に表現しています。

12曲目ラストを飾るのはThe View、アルゼンチンタンゴをイメージさせるリズムの上でBeasleyがシンセサイザーでソロを取り、ひとしきりあった後Patitucciのソロ、ラストもBeasleyのシンセサイザーでFineとなります。

2019.02.20 Wed

Very Saxy / Eddie “Lockjaw” Davis, Buddy Tate, Coleman Hawkins and Arnett Cobb

今回はテナーサックス奏者4人Eddie “Lockjaw” Davis, Buddy Tate, Coleman Hawkins, Arnett Cobbによる作品「Very Saxy」を取り上げて見ましょう。

Recorded April 29, 1959 Van Gelder Studio, Hackensack Prestige Label

ts)Eddie “Lockjaw” Davis ts)Buddy Tate ts)Coleman Hawkins ts)Arnett Cobb org)Shirley Scott b)George Duvivier ds)Arthur Edgehill

1)Very Saxy 2)Lester Leaps In 3)Fourmost 4)Foot Pattin’ 5)Light And Lovely

Prestigeよくぞこんなにエグいアルバムを制作しました!(笑) いわゆるホンカースタイルのテナーサックス奏者4人をフロントに、彼らにうってつけのバッキング、サウンドを提供するオルガントリオを伴奏者に配し、ジャムセッション形式で思う存分ブロウさせる企画。プロデュースしたPrestigeのEsmond Edwardsに拍手を送りたいと思います。ホンカーテナー同士2人でのバトル作はかなりの数存在しますが、今回はよりにもよってその倍の4人!しかしホンカースタイルのテナー奏者は1人だけでも存在感が強く、しかもその演奏表現を聴衆に強いてアピールする傾向があります。実はホンカー好きにはそれが堪らないのですが、4人となると個性のぶつかり合いが単に4倍という訳には行かず、相乗効果でかなりの倍数になります!実際何倍増になるのかを本作未聴の方はお聴きになり、是非とも確認してください。ただ演奏の充実ぶりからこの作品を鑑賞する時には、体調を万全に整えて臨まなければなりません(笑)。演奏内容のあまりの濃さ、脂っぽさに胃もたれしないように胃腸薬のご用意もお忘れなく(爆)。Very Saxyとは言い得て妙、テナーサックス・バトルの醍醐味を心ゆくまで堪能できる仕上がりになっています。

ホンカーの特徴として人種的にはまず黒人に限定されます。白人や黄色人種では成し得ない黒人独自の音色はその筋肉組織自体がサックスを豊かに鳴らす、ジャズの音をさせると言われています。極太のダークな音色でファットリップのルーズなアンブシュア、付帯音豊富なサブトーンを駆使しグロウトーンやフラジオ音、時にはフリークトーンも交えながら演奏を必ずや、いや絶対に盛り上げます!渋さだけで盛り上がらない演奏のホンカーはあり得ません!Texas州出身のTexasスタイルのテナー吹きであれば尚よろしいです(笑)。フレージング的にはCharlie Pakerからの影響〜Be-Bopのテイストは殆ど感じられず(Sonny Stittをホンカーと呼ぶならば別ですが)、ペンタトニックを中心とした音使いで各人のオリジナリティをふんだんに交えつつ(全員実にフレージングが個性的です!)、ステージングとしては体をくねらせながらの派手な動き、感極まった場合にはステージ上サックスを吹きながら走り回るパフォーマンスや、テナーを手に持ち大きく振り回したり、客席にテナーを投げ入れる素振りをしたり、サックスを咥えたまま仰向けになって吹き続けると言った「見せる」行為にスイッチします。聴衆はそのエキサイト感に挑発されアプラウズの連続、興奮の坩堝状態、ホンカーを享受しまくりです!

シャープス&フラッツのリーダー原信夫氏は大のホンカー好き、以前のBlogでも触れましたが彼のフェイヴァリット・テナー奏者はBen Websterを筆頭にGene Ammons, Illinois Jacquet, Buddy Tate, Arnett Cobb, Stanley Turrentine…当時よく参考音源として、これらのテナー奏者の演奏をカセットにダビングしたものを戴きました。自分のバンドの演奏に対して大変な拘りのある原さん、あたかも大企業原信夫エンタープライズの総帥として、自社の社員一人一人に対しての指導、教育が微に入り細に入り、実に的確です!彼は大会社の経営者、社長を務めたとしても成功した人だと思います。入社(笑)した僕にバンドのソロイストとしてホンカー役を任せたかったようで、演奏最中によく隣で僕のソロについてその都度感想や批評を述べていました。時には移動中の新幹線車内で、空いている隣の席にいつの間にか座っていて「この間のコンサートのあの曲のあそこの部分の事だけどさ…」とダメ出しを何度もされました(汗)。「さあ、たっちゃん、今日こそはステージに寝っ転がって思いっきりブロウしてみようか!」と僕のフィーチャリング・ナンバーで、ステージ最前に出る直前に何度かリクエストされた事がありましたが、その頃は今ひとつ踏ん切りがつかず結局一度もステージでホンカーの極み芸である寝そべり演奏をしませんでした。今なら躊躇なく出来そうです(笑)。

そういえばシャープスの芸術鑑賞の仕事で長野県に赴いた時のことです。いつものようにフィーチャリングのナンバーでカデンツァの演奏時、「せっかくのフィーチャリングなので何かご当地にちなんだフレーズを演奏したい」と考え、飯田市なのでI Can’t Get Started 〜言い出し(飯田市)かねての冒頭のメロディを一節吹きました。芸術鑑賞の学生たちには分からずとも、バンドのメンバーには結構ウケました。ですが原さんには「ふざけるな!」とばかりにかなり絞られました(爆)。原さんもジョークやダジャレはお好きな筈なのですが、唐突な節わましだったのかも知れません。

本作のテナー奏者たちを紹介して行きましょう。22年生まれEddie “Lockjaw” Davis、当時Prestigeから数多くリーダー作をリリースしており、彼が窓口になってホンカーを集め、リズムセクションの人選をしたように思います。彼のPrestigeでの代表作Cook Bookシリーズから「The Eddie “Lockjaw” Davis Cook Book Vol.1」、本作とリズムセクションが全く同じで、メンバーにもう一人Jerome Richardsonがフルートとテナーで参加しています。

とってもワルそうな面構えのテナー吹きが写ったジャケット、ホンカーは基本的こうでなければいけません(笑)。それにしてもこの人の吹くアドリブ・ラインは超独特、Benny Golson, Wayne Shorter, Joe Henderson, Sam Riversたち同じくウネウネ系とはまた異なり、音楽理論を超越したところで成り立っているように聴こえますが、実は僕大好きなんです!スピード感、音色と滑舌が素晴らしいですからね。使用マウスピースはOtto Link Metal(多分Double Ring)10☆、リードはLa Voz Med. Hard、豪快さんのセッティング、本作でも他の3人とは楽器の鳴り方が違っており、タンギングの切れ味も鋭いです。

Coleman Hawkinsは04年生まれでこのメンバーの中で最年長、レコーディング当時54歳です。使用マウスピースはBerg Larsen Metal 115 / 2、かつてOtto Link社に自身のモデルHawkins Specialを作らせ、ラインナップに載って一般に販売していましたが、晩年は何故か使用していませんでした。39年に以降の評価を決定づける名演奏「Body and Soul」を録音し、ジャズテナーの第一人者、開祖として君臨します。代表作は58年「The High And Mighty Hawk」

Buddy Tateは13年Texas生まれ、Count Basie, Benny Goodman楽団に在籍したいわゆるTexasテナーの代表格の一人です。「When I’m Blue」をご紹介しておきます。

Arnett Cobbは18年同じくTexas生まれ、束縛のない自由な演奏スタイルから”Wild Man of the Tenor Sax”との異名があります。Illinois Jacquetの後釜でLionel Hampton楽団に入り、その名を轟かせました。比較的晩年の作品ではありますが78年「Arnett Cobb Is Back」は70年代病に侵されながらも奇跡の復活を遂げ、松葉杖をつきながら楽器を構えるジャケット写真がインパクトのある作品。こんなジャケ写見たことありませんよね?松葉杖により足は宙に浮いていますが演奏自体はしっかりと地に根差しており(笑)、スインギーな素晴らしい演奏です。

役者も出揃いました。それでは演奏内容について触れて行きましょう。

1曲目はその名もVery Saxy、スタンダード・ナンバーSweet Georgia Brownのコード進行を基にしたLockjawとベーシストGeorge Duvivierの共作によるナンバーです。シンコペーションを多用したオルガンによるイントロが、早速ムードを高めています。テナー4管による重厚なアンサンブル、やはりエグい音色のプレイヤーが集まれば迫力が違います!メロディの語尾のビブラートに各々のアジが出ています。メロディの間に入るリズムセクションによるリフ、毎回入るはずが0’31″でオルガンが出忘れ、バスドラとベースが心なしか寂しく響いており、ラフな雰囲気のセッションを既に暗示しています。

ソロの先発はCobb、グロートーンを全面に出しいきなりホンカー全開です!フラジオG音の多用がホンカーの特徴の一つでもありますが、ここでも例外なく行われ、否が応でも盛り上がります!2番手はTate、スクリーミングしつつシャウトするソロでこちらも正統派ホンカーを聴かせます。この後にオルガンのソロになるのですが、「あら、私の出番?次のテナーの人じゃないの?」といった風情で、一瞬弾いて様子を伺っています。自分の番と分かるとすぐに全開モード、原曲Sweet Georgia Brownのメロディも引用しつつ、さすがホンカー御用達のオルガン奏者、グリッサンドやブロックコードの多用でホンカー顔負けにガンガン盛り上がっています!その後御大Hawkinsの登場、この人の淡々とした語り口は厳密にはホンカーのアプローチではないかも知れませんが、テナー4人衆のまとめ役になっていると思います。続くLockjawのソロはこれぞまさしくホンカー、凄い存在感です!音色、フレージング、粘るリズム、聴き応え抜群です。その後ラストテーマに突入、初めのテーマでオルガンが出忘れた?7’59″のリフ、ここでも弾かれていないのは再度出忘れたのか、わざと演奏しない事でそういうアレンジだと正当化させるための手段か、興味深いところです。

2曲目はLester YoungのLester Leaps In、テナーバトルではよく取り上げられる定番のナンバーで、各々のソロの1コーラス目にブレイクタイムが設けられ、メリハリある構成になっています。先発Lockjaw, Cobb, Tate, Hawkinsとソロが続き、その後同じオーダーで4小節交換がなされます。互いのアイデアを踏襲しつつ、Lockjawが倍の長さ8小節吹いたりと彼が起爆剤になり、熱いトレードが行われています。

Lester Young

3曲目はShirley Scottのブルース・ナンバーFourmost、イントロでLockjaw, Tate, Hawkins, Cobbと顔見せが行われこの順番でソロが行われます。比較的コンパクトに演奏に収めていますが、Hawkinsが若者たちに影響を受けたのかホンカーの萌芽を感じるプレイをしています。本作中Cobbのソロで掛け声が何度か掛かりますが、多分Lockjawでしょう。テナーの4小節トレードが行われますが本テイクでもLockjawが盛り上げ役を務めています。途中でフェイドアウトになるのが残念ですが全曲演奏が濃すぎるので多少は間引かないとマズイと言うプロデューサーの判断でしょうか?ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目はDuvivierのオリジナル、ハッピーな雰囲気のシャッフル・ナンバーFoot Pattin’、ソロはScottから始まります。Lockjaw, Cobb, Tate, Hawkinsとソロが続きますが、ホンカーの演奏にはシャッフルリズムがよく似合い、各人リラックスした素晴らしいソロを聴かせます。

本作ラストを飾るのはLockjawとDuvivierの共作Light And Lively、1曲目と同じ構成でCobb, Tate, Scott, Hawkins, Lockjawとソロが行われます。本作はSide Aにテンポの速い熱いナンバーを配し、Side Bにはミディアム・テンポのリラックしたナンバーを持ってきています。全テイクでテンポが遅くなる傾向があるのはホンカーの特徴であるレイドバック、4人も揃えばリズムセクションは引っ張られても致し方ないでしょう。

2019.02.08 Fri

Bob Brookmeyer and Friends / Bob Brookmeyer

今回はトロンボーン奏者Bob Brookmeyer1964年録音のリーダー作「Bob Brookmeyer and Friends」を取り上げてみましょう。

64年5月25~27日 30th Street Studio, NYC録音 同年リリース Columbia Label Produced by Teo Macero

tb)Bob Brookmeyer ts)Stan Getz vib)Gary Burton p)Herbie Hancock b)Ron Carter ds)Elvin Jones

1)Jive Hoot 2)Misty 3)The Wrinkle 4)Bracket 5)Skylark 6)Sometime Ago 7)I’ve Grown Accustomed to Her Face 8)Who Cares

素晴らしいメンバーよる絶妙なコンビネーション、インタープレイ、インプロヴィゼーション、珠玉の名曲を取り上げたモダンジャズを代表する名盤の一枚です。Bob Brookmeyer名義のアルバムですがStan Getzとの双頭リーダー作と言って過言ではありません。 BrookmeyerとGetzはこれまでにも何枚か共演作をリリースしており、代表的なところでは「Recorded Fall 1961」Verve labelが挙げられます。知的でクールなラインをホットに演奏する二人、Brookmeyerの方は作編曲に長けており、それらを行わなかったGetzですが良いコンビネーションをキープしていました。Getzは膨大な量のレコーディングを残していますが、実は自己のオリジナルやアレンジが殆どありません。優れたヴォーカリストが歌唱のみ行い、演奏の題材はピアニストやアレンジャーに委ねるのと同じやり方で、Getzほどのサックス演奏が出来ればまさしくヴォーカリストと同じ立ち位置で演奏する事が出来たのです。ほかにテナー奏者ではStanley Turrentineが同じスタンスで音楽活動を行なっており、大ヒットナンバーSugarが例外的に存在しますがあれ程の存在感ある音色、ニュアンスでサックスを吹ければ作編曲をせずとも名手として君臨するのです。

Brookmeyerがバルブトロンボーンを用いて演奏するのは有名な話です。ジャズ界殆どのトロンボーン奏者がスライド式のトロンボーンを使っているので彼一人異彩を放っていますが、かつてトロンボーンの名手J. J. Johnsonはそのテクニックに裏付けされた高速フレージングから、わざわざアルバムジャケットに「バルブトロンボーンに非ず」との注記まで付けられたほどで、スライド式の方が動きが大きいためコントロール、ピッチ等、楽器としての難易度が高いのですが、トロンボーンならではのスイートさや味わいを表現する事が出来、それが魅力でもあります。難易度を排除した分バルブ式の方がよりテクニカルな演奏が可能という事なのですが、Brookmeyerは決してテクニカルな演奏をせず朗々と語るタイプで、彼の演奏からはいわゆるトロンボーンらしさが薄れて端正さが表現されており低音域のトランペット、フリューゲルホルンの様相を呈しています。若い頃にピアノ奏者としても活動していたので、トロンボーンの音程や操作性にある程度のタイトさ、カッチリしたものを求めていたがためのバルブ式の選択でしょうか?真意のほどを知りたいところです。

リズムセクションのメンバーについて触れてみましょう。Herbie Hancockは言わずと知れたMiles Davis Quintetのメンバー、このレコーディングの前年63年に入団しました。すでに3枚のリーダー作をBlue Noteからリリース、4作目になる名作「Empyrean Isles」を録音する直前でした。この頃から既に素晴らしいピアノプレイを聴かせていて端々にオリジナリティを感じさせますが、未だ確固たるスタイルを確立するには至っていません。ブラインドフォールド・テストでこの頃のHerbieのソロを聴かされたら逆に、「Herbieに影響を受けた若手ピアニストの演奏か?」と判断してしまうかも知れません(笑)

Ron CarterもMilesバンドに在団中で、前任者の名手Paul Chambersのある意味音楽的進化形として、Milesの音楽を推進させるべくリズムの要となり演奏しました。更にそのステディな演奏を評価され当時から数々のセッションやサイドマンとしても大活躍でした。

Elvin JonesはJohn Coltrane Quartetのドラマーとしてリーダーから絶対の信頼を受け、やはりColtraneの音楽を支える屋台骨として素晴らしい演奏を繰り広げました。個人的にはColtraneの音楽はElvinが存在したからこそ成り立ったと思います。Getzとは本作録音の直前、5月5, 6日に共演を果たしています。「Stan Getz & Bill Evans」Verve label ベーシストにRon Carterも参加、本作の前哨戦と言える充実したセッションです。

Gary Burtonはこの時若干21歳!新進気鋭の若手としてGeorge Shearingのバンドを皮切りに丁度Getzのバンドに加入した頃です。ヴィブラフォンという楽器のパイオニアとして数多くのリーダー作を発表しました。その彼も昨年引退宣言を発表し、現役から退いたことは耳新しいです。Brookmeyerとは62年9月Burtonの2作目にあたる(録音時19歳です!)「Who Is Gary Burton? 」で共演していますが、既に素晴らしい演奏を聴かせています。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目BrookmeyerのオリジナルJive Hoot、Elvinのハイハットプレイから始まり、ヴィブラフォンによるイントロが印象的、トロンボーンとテナーによるテーマのアンサンブル、効果的なブレークタイム、ダイナミクスの絶妙さ、各楽器の役割分担、曲の構成も凝っていてオープニングに相応しい明るく軽快なナンバーです。Getzも自分のカルテットのライブでよく演奏していました。「Stan Getz & Guests Live at Newport 1964」にも収録されています。

トロンボーン、テナー、ヴィブラフォン、ピアノとコンパクトな長さながら聴きごたえあるソロが続きますがピアノソロの途中のブレーク、勢い余ったHerbieのソロでタイムがラッシュし少しだけ音符が詰り、ブレークの着地点が一瞬ずれたのをベース、ドラムとも絶妙に「お〜っと!」とばかりに受け止め、リカバーしました。Herbie自身も瞬時様子見をしつつ、何事もなかったように復帰しています。

2曲目はお馴染みErroll GarnerのMisty、ピアノのイントロ後Getzのテーマ奏ですが何でしょう、この素晴らしいサブトーンの音色は!めちゃめちゃピアニシモで吹いていて管の中を空気が通り抜ける音さえも聴こえる音色、Getzは本当にバラード奏法が上手いと今更ながらの再認識です。そしてGetzのサブトーンとElvinのブラシの音色がとても良く似ていて区別がつきません!ピアニシモで吹いてビブラートがかかると更に類似度アップです!

通常この曲はEフラットで演奏されますがここでは全音低いDフラットに移調されています。その分オリジナルキーよりも低く重厚に聴こえますが、むしろこのキー自体の特徴かも知れません。Body & SoulやStardustもDフラットで曲のムードが確立しているからです。テナーとトロンボーン二人のフィーチャリングでした。

3曲目はBrookmeyerのオリジナルThe Wrinkle、ベースのパターンというか裏メロディ的なパターンが印象的、テーマでのシャッフルっぽいリズムでのElvinのドラミングが冴えています。ブレークタイムを効果的に生かした構成は演奏を活性化させています。Burton, Getz, Herbie, Brookmeyerと淀みなくスインギーなソロが続きますがElvinとCarter、シャープでいながら強力タップリとしたシンバルレガートと、On Topベースのスイングビートのコンビネーションの良さが光ります。短いながらもしっかりと主張のある独特のElvinのソロを挟んでラストテーマです。

4曲目もBrookmeyerのオリジナルBracket、前曲よりもいささかテンポの速いスイングナンバー、Carterのベースラインが実にスインギーです!Brookmeyer~Getzとソロが続き、Getzのフレーズを巧みに受け継ぎHerbieのソロに繋がります。ソロイストの強力なアドリブラインに敢えて殆ど何もせずリズムを繰り出すElvinとCarter、ヒップなプレイです!でもよく聴くとシンバルレガート時にスティックの先端チップが様々な当たり方をするのか、させているのか、色々な音色が聴こえます。その後Elvinとの4バース、2nd Riffも交えつつエンディングに向かいます。Elvinのソロ、目新しいフレーズは聴かれないのですがいつもフレッシュな感覚に満ちていて常に音楽的なのです。

5曲目、今度はHoagy CarmichaelのナンバーからSkylark、ここでもメロディ奏の先発はGetz、サビをBrookmeyerが担当、Getzがオブリを入れています。その後のAメロはBurtonが主導しつつGetzのオブリを活かそうとしてメロディを演奏しているように聴こえます。その後ソロはダブルタイムフィールでBrookmeyer~Getzと続きます。Coltrane Quartetのバラード演奏はアドリブに入ると必ずダブルタイムフィールになりますが、ひょっとしたらここでもElvinが率先していたのかもしれません。この曲もフロント二人のフィーチャリングとなりました。

6曲目はワルツナンバーSometime Ago、ここでのElvin、Carterは積極的に攻めています!フロント二人でメロディをハーモニーを交えつつ同時に演奏したり、同時にソロを取ったりとクインテットならではの醍醐味を聞かせていますが、リズム隊が先かフロントが先か、相乗効果で熱い演奏に仕上がっています。

7曲目は再びバラードで映画My Fair LadyからのナンバーI’ve Grown Accustomed to Her Face、このメンバーでのバラード奏だったら何曲でも聴いていたいです!Brookmeyerが初めにメロディを演奏しGetzはオブリ担当、ここでもGetzのサブトーンがElvinのブラシと区別がつき辛い瞬間が多々あります。Getzのソロ後フロント二人の演奏が同時進行し、シンコペーションのフレーズを合わせたり、またHerbieがバッキングで面白いサウンドを出したりと聴きどころ満載です。Wes Montgomery 62年月録音「 Full House」収録の同曲、ギターソロで演奏されていますがこちらも素晴らしい出来栄えです。この当時流行っていた曲なのかも知れませんね、多くのジャズメンに愛奏されていました。

8曲目レコードの最後を飾るのはGershwinのナンバーからWho Cares、トロンボーンのメロディからイントロ無しで始まります。ソロの先発はGetz、Elvinお得意の三連譜が多発されたドラミングにGetzもインスパイアされブロウしていますが、相乗効果でここでのリズムセクション実に盛り上がっています!特にElvinは63年のヨーロッパツアーでのColtrane Quartetの演奏を彷彿とさせる、アグレッシヴかつ繊細なドラミングを聴かせています。

本作は収録曲のいずれもがコンパクトなサイズの中にも様々なストーリーが込められているバランスの取れた演奏です。プロデューサーTeo Maceroの采配が光る作品に仕上がっていると思います。

2019.02.01 Fri

Randy Waldman / UnReel

今回はピアニスト、アレンジャー、作曲家のRandy Waldmanの2001年発表リーダー作「UnReel」を取り上げてみましょう。Concord Label

アメリカを代表するアニメ、映画音楽の主題曲を題材に取り上げ、これまたアメリカ音楽シーンを代表するジャズミュージシャン、ジャズ系スタジオミュージシャンを一堂に集め、リーダー自身の華麗なるアレンジとピアノ演奏のもとb)John Patitucci ds)Vinnie Colaiutaとのリズムセクションをベースに曲毎にゲスト・ミュージシャンが目まぐるしくフィーチャリングされ、全編極上のジャズ演奏に仕上がっています。さながらディズニーランドのアトラクション、ブロードウェイミュージカル、ハリウッド映画、ラスヴェガスのカジノの如きお客様を必ずや満足させるアメリカンなエンターテイメント性と、ゴージャスで優れた音楽性とが見事に融合している作品です。

1)The Jetsons 2)My Favorite Things 3)Leave It to Beaver 4)Bali Hai 5)Schindler’s List 6)Hawaii Five-O 7)America 8)Mannix 9)Ben Casey 10)Raider’s March 11)Forrest Gump 12)Maniac

Randy Waldmanのバイオグラフィーを紐解いてみましょう。55年9月8日Chicago生まれ、5歳からピアノを始め、神童の誉れ高く既に12歳で地元のピアノ店でデモ演奏を行っていたそうです。21歳でFrank Sinatraのピアニストに大抜擢されツアーに出ました。その後The Lettermen, Minnie Riperton, Lou Rawls, Paul Anka, George Bensonといったアーティストのバンドでもツアーし、80年代には作曲アレンジの能力を買われてGhostbusters, Back to the Future, Beetlejuice, Who Framed Roger Rabbitといった映画のサウンドトラックを手がけ始め、83年にはThe Manhattan Transfer、85年Barbra Streisandに提供したヴォーカル・アレンジでGrammy賞を受賞しています。その後も快進撃は止まらずForrest Gump, The Bodyguard, Mission: Impossibleといった映画の音楽、Michael Jackson, Paul McCartney, Celine Dion, Beyonce, Madonna, Whitney Houston, Ray Charles, Quincy Jones, Stevie Wonder, Kenny G…といったアーティストたちとのコラボレーションも実現し、音楽制作、現場面でのアメリカを代表するミュージシャンの一人になりました。Waldmanは日本ではあまりその存在を知られておらず、それはひとえにリーダーとしての活動が目立たないからですが、本作の申し分ない出来栄えでしっかりと狼煙を上げる事が出来ました。因みに98年リリース第1作目の「Wigged Out」も本作と同じコンセプトでの演奏です。

前作から内容、編成的に格段にヴァージョンアップした本作、Waldmanは制作サイドの音楽家ではありますがジャズミュージシャンたるべく(アレンジャー、プロデュサー業が忙しいとピアノを弾く事が疎かになりがちです!)、日々の精進を怠らず(ジャズマンでいるためにはここが大切です!)音楽性を磨き上げ、いつもとは真逆の立場で自身のピアノプレイを全面的にフィーチャーしています。アメリカ人であったら誰もが知っているアニメ、映画音楽のナンバーを何の外連味もなく堂々と取り上げて演奏する事が出来るのも、裏方としてアメリカ音楽界を支えてきた立場ならではなのかも知れません。何しろWaldmanはピアノがメチャメチャ上手いです!以前触れたことのあるピアニスト、アレンジャーのJan Hammerに通じるところがある音楽性を感じます。何をやらせても器用な人なのでしょう、トランペッターとしても活躍し、本作でもホーンセクションでのアンサンブル演奏を担当しています。更には航空機とヘリコプターのパイロットでもあり、03年にはBell OH-58ヘリコプターでのスピード記録を樹立しています。

左がWaldman、右は盲目の世界的テノール歌手Andrea Bocelli
Bell OH-58ヘリコプター

それでは収録曲を見て行くことにしましょう。1曲目The Jetsons、アメリカで62年から63年まで、間が空き85年から87年まで計99話TV放送され、日本でもNHKで63年から「宇宙家族」というタイトルで毎週放送されました。超ハイテク化された未来社会、宇宙で生活する家族の日常を描いたアニメーション、僕自身たぶんリアルタイムでは見ていないと思いますが、再放送では何度も視聴し「未来社会の文明はこんなに凄いんだ!」と本気で感じた覚えがあります(笑)。

子供心にここでのテーマソングにワクワク感を覚えた記憶があり、本作での演奏を初めて聴いた時に何だか懐かしさを感じました。近未来を暗示させる無機的なラインとひょうきんさを感じさせるメロディの混在がアニメの雰囲気をより明確にしています。

原曲のアレンジにかなり忠実に、超アップテンポのスイングビートで演奏されますが、オリジナルよりもリズム、アンサンブルのスピード感が際立ち、シャープさがたまりません! tp)Lew Soloff, Waldman sax)Dave Boruff tb,b-tb)Bob McChesneyたちの多重録音によるホーンセクションによりビッグバンド・サウンドに仕上がっています。ソロの先発はWaldman、端正でブライトなピアノタッチ、シャープなリズム感、理知的なソロラインはさすがユダヤ系ミュージシャン、とっても好みのタイプです!そしてフィーチャリング・ソロイストは我らがMichael Brecker、「The Jetsonsのテーマ曲でソロを取るなんて面白そうだね!子供の頃によくTVで観たな〜」というようなMichaelの会話が聞こえて来そうなくらい、ハーフテンポでのテーマの提示感、途中に入るホーンのアンサンブルとの絡み具合等、演奏を楽しみながらもチャレンジャブルなアドリブを聴かせています。リズムセクションとはダビング無しの生演奏、レスポンスが半端ありません!オープニングに相応しい軽快でインパクトのある演奏です。

2曲目は映画The Sound of Musicの主題曲My Favorite Things、数多くのミュージシャンが、それぞれ腕によりを掛けたアレンジでカヴァーしていますが、こちらも実にユニークな仕上がりになっています。この演奏のみベーシストがDave Carpenterにチェンジし、Studio City String Orchestraのストリングス・アンサンブルが加わります。印象的なベースラインの後、変拍子を効果的に生かしたピアノによるメロディ、フィーチャリング・ヴァイブ奏者Gary Burtonのメロディ、Carpenterによるメロディ奏と続きヴァイブ・ソロになります。ソロでは変拍子は用いられてはいませんが、コード進行にハイパーな代理コードがてんこ盛りです!ストリングスの響きがソロと絡み合い、その後の饒舌なピアノソロにも効果的に使われ、ベースパターンに乗った形でドラムソロ、ラストテーマはピアノとヴァイブによるアンサンブルで締め括られます。曲の持つリリカルなムードを的確に引き出したアレンジに仕上がっています。

3曲目はアメリカのTVドラマLeave It to Beaverの同名テーマ曲。57年から63年まで放送されました。50年代Californiaの典型的な中流家庭での、日常の出来事を題材にしていてBeaverは小学生の主人公、日本では確か民放で「ビーバーちゃん」というタイトルで平日夕方再放送していたように記憶しています。

ここではWaldmanのピアノとホーンセクション担当Bob McChesneyのトロンボーンソロをフィーチャーしています。Waldmanはもちろん、McChesneyも大変流麗なソロを聞かせています。

4曲目は49年のミュージカルSouth Pacificから、名作詞作曲コンビRichard Rodgers ~ Oscar HammersteinⅡの名曲Bali Hai、South Pacificは58年映画化され01年TVドラマとしても放送されました。

またもや印象的なリズムパターンによるマーチのリズムでMcChesneyのトロンボーン・メロディ、スイングのリズムでWaldmanのピアノソロ、そしてMichael Sembelloのギターとスキャットによるソロ〜大変密度の濃い演奏です!ラストテーマ後はリズムパターンを再利用でのドラムソロ、いや〜最後まで寸分の隙もないアレンジ、演奏です!

5曲目は93年Steven Spielberg監督による映画Schindler’s Listから同名曲。Branford Marsalisのソプラノサックスがフィーチャーされ、Studio City String Orchestraが加わります。こちらのアレンジも実に意欲的、Waldamanはまさにアレンジに対するアイデアの宝庫、泉のごとく湧き出ています!PatitucciのベースソロもWaldmanのコンセプトを的確に把握しつつ華麗に行われています。Branfordの音色は録音の関係かいつもと多少異なっていますが、メロウな吹き回しで自身のスタイルと曲想を上手く合致させています。

6曲目は68年から80年までアメリカでTV放送された刑事ドラマHawaii Five-Oの主題曲、人気を博した長寿番組で日本でも70年に一部が放送されました。Randy Brecker, Gary Grantのトランペット、Boruffのサックスがフィーチャーされます。いやいや、ここでEddie HarrisのFreedom Jazz Danceを持ち出してくるとは!!バッチリと融合し、物凄くイケてます!アレンジ・センスに脱帽です!先発ソロはRandy、いつもの変態ラインの中にパターン提示も聴かれます。ピアノソロを経てラストテーマへ、曲想は次第にFreedom Jazz Dance色の方が濃くなり、エンディングは何とFreedom Jazz Danceで終了、見事に曲が乗っ取られました!

7曲目57年ミュージカルWest Side StoryからAmerica、Leonard Bernstein作曲の名曲です。ここではまた意表をついたイントロからベース〜ピアノのメロディ奏、この曲を熟知しているアメリカ人もこのアレンジには驚いた事でしょう!フィーチャリングはMcChesneyのトロンボーンとPatitucciのベース、テナーのErnie Wattsです。Wattsのフレージングは僕にとっていつも謎ですが、テナーの音色は本当に素晴らしく、美しく楽器を鳴らしていると思います。テナーとトロンボーン2管のアンサンブルを従えたドラムソロ、エンディングも意表をついています。

8曲目Mannixは67年から75年まで米CBS系でTV放送されていた探偵モノの番組名、その主題曲です。日本で放送されたことは無いようです。作曲はスパイ大作戦の音楽で有名なArgentine出身のLalo Schifrin、Lew Soloffのフリューゲルホルン、Waldmanのピアノがソロを取ります。Kevin Clarkのギターが良い味付けをしているのが印象に残りました。

9曲目は61年から66年までアメリカで放送されたTVドラマBen Casey、同名主題曲です。総合病院の脳神経外科に勤務する青年医師ベン・ケーシーを主人公に、病院内での医者と患者との交流を通じて医師としての成長を描き、当時高い評価を得たメディカルドラマです。62年から日本でもTV放送され、なんと最高視聴率50%以上を記録しました。僕も随分と再放送を含め見たように思います。幾重にも捻られたイントロから耳馴染んだテーマが始まりますがオリジナルよりもかなり速いテンポ設定、これまた一筋縄では行かないアレンジです。そういえばタイトル画面にあった「♂ ♀ * † ∞」は「男、女、誕生、死亡、そして無限」という意味だそうで、子供には全く理解不能でしたが、今更ながらに深いものを感じます。因みに漫談家で白衣を着用し、怪しい医学用語を多用する芸風のケーシー高峰、彼の芸名はここから拝借したそうです(笑)

Tom ScottのテナーサックスがフィーチャーされPatitucci, Colaiutaの素晴らしいソロも聴かれます。

10曲目は監督Steven Spielberg、製作George Lucas、主演Harrison Ford、音楽John Williamsによる名作映画Indiana Jones, Raiders of the Lost Arkから主題曲Raiders March。原曲の旋律はよく聴かないと認識できない程にリアレンジされています。Waldmanのブリリアントなピアノの音色がメロディ奏にとても合致しており、フィーチャリング・ギタリストMichael O’NeilのソロとWaldmanのソロが良いバランス感を聴かせます。

11曲目Robert Zemeckis監督、Tom Hanks主演の映画Forrest Gumpの主題曲をここではWaldmanソロピアノで演奏しています。美しく明快なピアノタッチ、ラグタイムやスイング時代のテイストを交えつつ、底抜けに明るくハッピーエンドに仕上げています。

12曲目ラストに控えしは83年アメリカで公開された映画Flashdanceの挿入曲Maniac、作曲者Michael Sembello自身のギター奏、中性的なヴォーカルを全面的にフィーチャーしています。この曲のみフュージョン色が強い仕上がりになっており、Waldmanの演奏スタンスもいつものプロデューサー、アレンジャー的に前に出ずサポートに回っています。

2019.01.24 Thu

Odean Pope Saxophone Choir / Locked & Loaded featuring Michael Brecker, James Carter, Loe Lovano

今回はテナーサックス奏者Odean Pope, 2004年録音のリーダー作「Locked & Loaded」を取り上げてみましょう。サックス奏者が合計9名、うちテナー奏者が5名、アルト奏者が3名、バリトン奏者が1名から成るOdean Pope Saxophone Choirにゲスト出演でMichael Brecker, James Carter, Joe Lovanoの凄腕テナーマン3名が曲毎に加わるという、サックス奏者合計12名の大編成を収録したライブ作品です。ライナーノーツをOrnette Colemanが執筆しているというオマケまで付いています。

The Odean Pope Saxophone Choir / Tenors: Odean Pope, Elliot Levin, Terry Lawson, Terrence Brown, Seth Meicht Altos: Jullian Pressley, Louis Taylor, Robert Langham Baritone: Joe Sudler Piano: George Burton Bass: Tyrone Brown Drums: Craig Mclver Recorded Live At The Blue Note, New York, December 13~15, 2004

Michael Brecker featured on tracks 2 & 5; James Carter, track 7; Joe Lovano, tracks 3 & 6; Odean Pope; tracks 1 & 5; Jullian Pressley, Louis Taylor, track 4.

リーダーのOdean Popeというテナー奏者を紹介しておきましょう。38年10月24日South Carolinaで生まれ、10歳の時に家族でPhiladelphia移住、若い頃にRay BryantやJymie Merrittに師事し同地で演奏活動を始めました。優れたジャズミュージシャンが多く住むPhiladelphiaにはLee Morgan, Clifford Brown, Benny Golson, McCoy Tyner, Jimmy and Percy Heath、そしてJohn Coltraneが身近な存在で、とりわけColtraneと親交があり、ColtraneがMiles Davisのバンドに加わるために当地を離れNew Yorkに向かう際、参加していたJimmy Smithのバンドの後釜にPopeを選んだそうです。Popeの演奏からは60年代中頃のColtrane的な要素を感じます。様々なミュージシャンとギグをこなし、James Brown, Marvin Gaye, Stevie WonderといったR&B畑でのバックバンド演奏も行っていました。60年代はオルガン奏者Jimmy McGriffやMax Roachのバンドで演奏活動を行い、特にRoachとは長期間演奏を共にして来日も果たし、作品も多数残しています。70年代からは本作と同じ編成のサックス奏者9名とピアノトリオから成るSaxophone Choirを率いており、彼のライフワークと言えましょう。Popeも多作家で今までに20作以上のリーダー作をリリース、編成としてはサックス・ソロからデュオ、トリオ、カルテット、サックス・クワイアまで、様々なメンバーと多彩に演奏しています。本作では収録曲の全てをアレンジ、Coltraneのオリジナル2曲以外は自身の作曲になります。

楽器の編成上、中低音域での重厚なアンサンブルが特徴のこのサックス・クワイア、さぞかしライブで聴いたらサウンド的にもヴィジュアル的にもインパクトがありそうです。ここにMichael, Lovano, Carterがソロイストで加わり文字通り「テナーサックス祭り」を繰り広げているのです!

特記すべきはMichael Breckerにとって晩年の演奏になり、本作のミックスダウンを行っていた2005年に難病である骨髄異形性症候群を発症、DNAタイプの合致する骨髄を移植するしか抜本的な治療法がなく、そのドナーを世界中に募っていました。ルーマニアをルーツにするMichaelのDNAは特殊なもので、あいにく家族を始め他の誰ともDNAが一致せず、最後はMichaelの娘Jessicaの細胞を移植して得た小康状態で、遺作となった06年8月録音名作「Pilgrimage」を録音しました。音楽家としての執念の結晶といえる名演奏、最後の力を振り絞り成し遂げたのです。病床で全曲書き上げたMichaelのオリジナルの素晴らしさも堪能する事が出来る作品です。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目Epitoneの冒頭で奏でられるアンサンブル、さすがサックス・クワイア9管編成のサウンドは分厚く、編成上聴いたことのない斬新なハーモニー感です!途中リーダーPope自身のテナーもフィーチャーされますがマルチフォニックスによる重音奏法やサーキュラーブレス(循環呼吸)奏法も聴かせ、Roland Kirkをイメージさせる濃厚な音楽性を披露しています。音色的にはやはりColtraneのテイストが感じられ、使用マウスピースはおそらくColtrane派テナー奏者御用達のOtto LinkのMetalでしょう。サックス・アンサンブルは強弱のダイナミクス、音の切り方、アタックの付け方、ピッチ感とも大変良く揃っていて素晴らしく、微に入り細に入り徹底的にリハーサルを積んでいるように感じられます。オープニングに相応しい哀愁を伴ったメロディを有する佳曲です。

2曲目は同名のアルト、フルート奏者に捧げたその名もPrince Lasha、彼はEric Dolphy, Elvin Jones, McCoy Tynerらとの共演歴があります。Michael Breckerを大フィーチャーしたアグレッシヴなアップテンポのモーダルなスイングナンバー。いやー、テンポが早くなるとサックス・クワイアのエグさが一層際立ちますね!ステージ上サックス奏者9人の熱い眼差しを背後から痛いほど感じつつ、Michaelは一心不乱に、ハードにブロウします!このレコーディング時には病でそろそろ体調に異変をきたしていた頃かも知れませんが、微塵も感じさせないプレイです!ソロ中に演奏されるバックリフもメチャイケてます!ドラムソロを挟んでラストテーマが演奏されますが、Michaelを含めたサックス奏者10名のフリークトーンとリズムセクションのクラスターによるエンディング、一体何の大騒ぎでしょうか?これまた聴いたことがない音のカオスです。

3曲目CisはJoe Lovanoのテナーをフィーチャーした同じく哀愁系のミディアム・スイング・ナンバー、アルトのメロディ奏が美しく響きます。ここでのアカペラによる複雑で緻密かつ正確なアンサンブルを聴くと、Popeはセクションに参加せずにステージ前に出て指揮をしている可能性もあります。Lovanoも9人のサックス奏者の眼差しを受けつつ、ごんぶとの音色でLovano節を朗々と歌っています。

4曲目はColtrane作の美しいバラード・ナンバーCentral Park West、作者自身はソプラノで演奏しており60年録音「Coltrane’s Sound」に収録されています。主旋律を奏でるアルトの音域を敢えてフラジオを用いた高音域に行かないように途中から下げているようにも聴こえます。テーマ後のソリのアンサンブルもユニークなラインから成っています!フィーチャリングはJullian PressleyとLouis Taylorの2人のアルト奏者、彼らもColtraneスタイルのプレイヤーで流暢な演奏を聴かせます。サックス・クワイアの美しいハーモニー、サウンドも特筆もの、アレンジも個性的で聴きごたえ十分です!

5曲目は再びColtraneのオリジナルでColtrane Time、これまたアップテンポのエグいナンバー、変態系(笑)メロディとアンサンブルの後ソロ先発はMichael、ドラムとのデュオで曲のモチーフを生かしつつフリーキーにソロを発展させていますが、Michaelには珍しいほどに徹底したフリーフォームでのアプローチは「殿、ご乱心を!」状態、そしてまさにColtraneの曲だから、ソロの終盤Michaelの音色もColtraneライクに変化しています!その後Popeのアカペラソロがスタート、ここでもマルチフォニックス、サーキュラーブレス、さらにオーヴァートーンも用いて彼独自の世界を作り上げています。Michaelの時と同様サックス・クワイアのアンサンブルが入りつつ、モチーフを用いて2人のバトルに突入です!互いを聞きながらのソロの応酬を踏まえ、次第に白熱、とうとう2人とも完璧にイッちゃいました(笑)!ドラムソロでテーマのモチーフを提示しラストテーマに入ります。

6曲目Terrestrialは再びJoe Lovanoをフィーチャーしたナンバー、やはりマイナー調のメロディが哀愁を誘います。フリーフォームでのソロとインテンポでのクワイアのメロディ奏との対比による構成になっています。後半のLovanoのアカペラソロからラストテーマに突入する部分が実に美しいです。エンディングのフェルマータのなんと長い事!まだ続いてます!

7曲目ラストを飾るのはJames CarterをフィーチャーしたラテンのナンバーMuntu Chant、Carterの独壇場です!この人も実にサックスが上手いですね!でも相当変態だと思いますが(笑)、MichaelとLovanoよりも録音上でのサックスの音像が引っ込んでいるのが残念ですが、演奏中殆どずっと鳴っているクワイアのアンサンブルも一因かも知れません。この人もサーキュラーブレス使いですね!フラジオ、マルチフォニックス、64分音符の超高速プレイ、ダブル〜トリプル・タンギング、超絶テクニック技のデパートの感があります。Popeのやりたい事をヴァージョンを格上げし、全て代弁していると言っても過言ではありません。エンディングはサックス・クワイア全員でのサーキューラー・ブレス大会!教祖を筆頭とした何かの集団のようにまで感じてしまいました(爆)!

2019.01.18 Fri

Hearts and Numbers / Don Grolnick featuring Michael Brecker

今回はピアニスト、コンポーザーDon Grolnickの初リーダー作「Hearts and Numbers featuring Michael Brecker」を取り上げたいと思います。

1985年リリース Hip Pockets Records All selections composed, arranged and produced by Don Grolnick. Executive producer: Steven Miller

p, synth)Don Grolnick ts)Michael Brecker g)Hiram Bullock, Bob Mann, Jeff Mironov synthesizer programming)Clifford Carter b)Will Lee, Marcus Miller, Tom Kennedy ds)Peter Erskine, Steve Jordan

1)Pointing At The Moon 2)More Pointing 3)Pools 4)Regrets 5)The Four Sleepers 6)Human Bites 7)Act Natural 8)Hearts and Numbers

1970年代にJames Taylor, Carly Simon, Linda Ronstadt, Bette Midler, Roberta Flackたち米国を代表するポップス界のヴォーカリストの伴奏を務めていたDon Grolnick、同世代のDavid Sanborn, Bob Mintzer, Steve Khan, John Tropea, Brecker Brothersといったインストルメンタルのスターたちからも絶対の信頼を得て彼らの作品に数多く参加しており、サポート力、この人に任せておけば安心という懐の深い音楽性、包容力で陰ながらの立場でNew Yorkの音楽シーンに君臨していました。ピアノの演奏自体は決して技巧派ではありませんし、派手さや強力に何かをアピールするタイプではないのですが本作で聴かれるように作曲、アレンジ、プロデュース力に他の人には無い独自の魅力を発揮しています。築き上げた人脈による素晴らしいメンバーと共に全曲自身の超個性的オリジナルでフィーチャリングのMichael Breckerに思う存分ブロウさせ(当時Michaelは未だリーダー作をリリースしていなかったので、彼のリーダー作に該当する勢いの演奏になります)、同様に参加メンバーの良さを最大限に引き出しつつこの名盤を作り上げました。音楽の形態としてはフュージョンにカテゴライズされるかも知れませんが、誰も成し得ない、こうあらねばならぬという常識に捉われないテイストを持ちつつ、ジャンルを超越したGrolnick Musicを表現しています。そしてジャズ史に残る作品というよりミュージシャンに愛されるミュージシャンズ・ミュージシャンの、ライフワークの1ページといった感を呈していると思います。彼はこの後3作のリーダーアルバムをリリースしますが、全てアコースティックなジャズ作品です。88年に一切の営業的な仕事を辞め、日々練習、音楽鑑賞、作曲に打ち込みました。クリエイティブな真のジャズプレイヤーを目指したかったのでしょう。

81年Steps Aheadでの来日、六本木Pit InnでMichael Brecker, Mike Mainieri, Eddie Gomez, Peter Erskineらと大熱演の際の曲間で、オーディエンスが彼らの演奏のあまりの素晴らしさと、リラックスした自然体からの振る舞いに向けて歌舞伎役者への大向こうの如く掛け声がかかり始めました。「ピーター屋!」おっと、違いましたね、「ピーター!」本人が「ハイ!」、「エディ!」「マイケル!」「マイク!」はにかみながら彼らは客席に手を振ったり会釈をしています。メンバーの中で知名度があまり無いドンには可哀想なことに誰からも声が掛かりません。するとドンが口に手を当て下を向きながら「ドン〜、ドン〜」とわざと女の子のような可愛らしい声で自分の名前を連呼するではありませんか!やっと僕にも声が掛かったけど、一体誰からなのかな?といった仕草を交えながら、おどけて周囲をキョロキョロするので客席は大爆笑!お茶目な人柄を垣間見ることが出来ました。

この作品は内容の素晴らしさに加え、録音のクオリティが良いことも特記されます。レコーディングされたSkyline StudiosはNew York Manhattan, Midtownにある79年創業、老舗のレコーディング・スタジオです。繁華街の一等地、ロケーションが良いのもありますが、エンジニア、スタッフが充実しており米国のあらゆるジャンルのミュージシャン御用達のスタジオです。ジャズではMiles Davis, Dizzy Gillespie, Herbie Hancock, McCoy Tyner, Bobby McFerrin, Dave Liebman…. 枚挙にいとまがありません。実は13年前に僕もこのスタジオでレコーディングする機会に恵まれました。手前味噌ではありますが紹介させて頂きます。ピアノ奏者Yasu Sugiyamaの「Dreams Around The Corner」2006年リリース p)Yasu Sugiyama ts)Tatsuya Sato b)Chris Minh Doky ds)Joel Rosenblatt add. key)George Whitty レコーディング当時最新鋭の録音機材が用意されていたという訳ではなかったのですが、こちらも大変素晴らしい音色、音像感、バランス、セパレーションで録音されました。レコーディングの前日にスタジオの場所を下見に行ったのですが、看板らしい看板が出ておらず戸惑った覚えがあります。街中にひっそりと佇むスタジオでした。

Grolnickのユニークでオリジナリティ溢れ、深い音楽性が宿る美しい楽曲の数々は聴く者に感動を与えますが、実は演奏者にも味わった事のない神秘的とも言える高揚感を提供します。本作収録曲全てのスコア他、彼の楽曲計30曲が収録された楽譜集が発売されています。99年初版発行Hal Leonard


可能ならばスコアと共に本作を鑑賞することをお勧めします。聴いているだけは通り過ぎてしまう音楽的構造、とりわけ細部にこだわるGrolnickの音作りに対する情熱に触れてみてください。先日19年1月13日、僕がここ数年行っているMichael Brecker Tribute Concert(この日がMichaelの12回目の命日でした)でもGrolnickのナンバーを演奏しましたが、彼のナンバーを演奏する事により、演奏中コンサート自体のグレードが数段高まったようにも感じました。

1980年81年のStepsでの来日の他、89年Select Live Under The SkyでMichael Brecker, Bill Evans, Stanley Turrentine, Ernie Wattsのテナー奏者4名から成るSaxophone Workshopのピアニスト、音楽監督を務めるため再来日しThe Four Sleepers, Pools等の自作曲ほか、フェスティバルのコンセプトであったDuke Ellingtonのナンバーをアレンジして演奏しました。その時に起こったErnie Wattsの「事件」は以前のBlog「Don’t Mess With Mr. T / Stanley Turrentine」に掲載してありますので、こちらも併せてご覧ください。https://tatsuyasato.com/2017/

80年代初頭GrolnickはLower ManhattanにあったRandy, Michael Brecker兄弟が経営するライブハウスSeventh Avenue Southで自己のリーダーセッションを開始しました。メンバーは本作参加者を中心に、スケジュールが都合つくメンバーたちと彼のオリジナルをレパートリーとし、時にはBob MintzerのMr. Fonebone、MichaelのStraphangin’等も取り上げて意欲的に、信じられないほどの白熱ぶりを聴かせました。バンドの名前は彼自身がIdiot Savant(ある分野で非常に優れた技能や才能を示す知的障害者:専門バカ)と名付けましたがMichaelがGrolnickの豊かな音楽性と凄まじい集中力から「 時々僕はまるで我々がIdiot〜愚か者で、Donが Savant〜賢者と感じるんだ」と冗談めいて語っていました。そして83年にGrolnickは意を決して本作を自主制作で録音開始したのです。

それでは演奏曲に触れていきましょう。1曲目Pointing At The Moon、これはなんとユニークなナンバーでしょう!アルバムの冒頭を飾るのに相応しい意外性、斬新さに満ちたサウンド、構成の名曲です。スペーシーにして高密度、遊び心満載、Steve Jordanの繰り出すタイトなレゲエのリズム、Jeff Mironovのカッティング、Will Leeのグルーヴが実に気持ち良いです。 Clifford CarterによりプログラミングされたシンセサイザーとGrolnickのピアノがサウンドのカラーリングを決定付け、その上でMichaelのテナーがGrolnickの音楽的な意図を確実に汲みつつ華麗なブロウを聴かせます。う〜ん、思いっきりカッコ良いです!Idiot Savantのライブ演奏を海賊盤でも聴きましたが、Idiot丸出しの(笑)アンビリバボーな演奏の連続でした!

2曲目は1曲目のリプライズ的な楽曲、組曲とも言えるでしょう。フェードインから始まりピアノのパターンは前曲を踏襲しています。途中から入るシンセサイザーのバッキングがWeather Reportを感じさせつつ、Michaelが全く的確な超絶ソロを取ります。

3曲目Pools、Steps Aheadの「Steps Ahead」でも取り上げられていましたが、そちらがジャズ・ヴァージョンならこちらはまさしくフュージョンタッチのアレンジに仕上がっています。Peter Erskineのドラム、Will Leeのベース演奏が実に適材適所、Mironovのギター、GrolnickのFender Rhodesがスパイスになっています。こちらはサウンドのスペーシーさを聴かせるナンバー、ソロのスポットライトはGrolnickにのみ絞られています。

4曲目Regrets、耽美的な美しさを湛え、印象派の傑作絵画を美術館で間近に鑑賞するかのような、身が引き締まる思いにさせられます。曲中テンポが揺れるのが曲想をより深淵にさせています。Bob Mann(この人はThe Brecker Brothers Bandの1枚目に参加していました)のアコースティック・ギター、Tom Kennedyのアコースティック・ベースが良い味付けを施しています。何よりMichaelのテナーの音色が素晴らしいです。83年録音であればマウスピースはBobby DukoffのオープニングD9。一度Michaelに貴方はBobby Dukoffマウスピースを沢山持っているのでしょう?と何気に尋ねたところ、「いや、僕はそんなに持っていないよ」と軽くかわされました。本当の所は分かりませんが。

5曲目The Four Sleepers、こちらも名曲中の名曲です!曲のコード進行はAutumn Leavesをベイシックに、カラフルにアレンジされています。ここでのベースはMarcus Miller、こちらも嬉しくなる位に適材適所、いや、それを通り越して麻雀の嵌張ズッポシ、ジグソーパズルのピースが合致した感の素晴らしい演奏です!イントロのピアノのレイドバック感と対比するようにタイトなファンクのリズムがクールです。シンセサイザー、ベース、テナーサックスのメロディの振り分けにより、幾つもの味付けを楽しめます!エンディングのMichaelの物凄いブロウ、Idiot Savantでは更に高次元な世界にまで飛翔していました。

6曲目Human Bites、この曲のトピックスはSteve JordanとPeter Erskine2人のドラマーによる共演で、実に功を奏しています!煽られたMichaelがこれでもか、とイッちゃってます!Hiram Bullockのギターも凄い勢いでハードロッカー状態、1’07″~1’08″のドラムとギターのフィルインのやり取りには何度聴いても笑ってしまいます。Hiramはかなり茶目っ気のあるプレイヤーですね。シンセサイザーによるベースとそのフレーズ感からこの曲でもWeather Report〜Joe Zawinulのテイストを感じます。Michaelのフリーキーなフレーズに呼応した1’39″のHiramのカッティング、2’05″以降ベースが消えてTwin Drumsを相手に思いっきり暴れるMichael、その後ベースが復帰したHiramのソロ、3’49のギターのフィルイン、4’16″で一度Fineと思わせておいてTwin Drumsのショウケースに突入、そして再登場のMichaelのフレージングに呼応するドラマー2人、聴きどころ満載です。Twin Drumsってきっとドラマー冥利に尽きるのでしょう、楽しさ感がひしひしと伝わって来ますから。

7曲目Act Natural、Grolnick流ロックナンバー。ベースもドラムもシンセサイザー、Peterのシンバル・プレイが味付けになっています。MichaelやMironovのソロはオーバーダビングのように聴こえます。

8曲目ラストを飾るのは表題曲Hearts and Numbers、こちらも実に美しいナンバー、曲を一度聴くと長い間耳から離れることがない魅力的で安心感漂うメロディライン、赤とんぼなどの童謡を久しぶりに耳にした時の感覚に似ており、思わず口ずさんでしまいます。ここではソロピアノですが、Idiot SavantではMichaelのサックスをフィーチャーしてバンドでも演奏されていました。Grolnickが子供の頃に3人の親友とよく遊んだHeartsというトランプを用いたカードゲームがありました。彼の叔父さんのBob(Uncle Bobという彼のオリジナルもあります)が子供達に秘密の番号を与え、4人の子供達はそれを覚え、秘密として守ることを誓ったそうです。この曲はGrolnickの永年の親友たちに捧げられたナンバーだそうで、彼は仲間や友人をずっと大切にする人、そんな人物が作り上げた音楽だからこそ聴く者に得がたい感銘を与えるのでしょう。

2019.01.08 Tue

Universal Mind / Richie Beirach & Andy LaVerne

今回はRichie Beirach, Andy LaVerne二人のピアニストによるDuo(1台のピアノによる連弾です!)作品「Universal Mind」を取り上げたいと思います。

p)Richie Beirach, Andy LaVerne Recorded November 1993 SteepleChase Digital Studio, Copenhagen, Denmark Produced by Nils Winther

1)Solar 2)All the Things You Are 3)I Loves You Porgy 4)Haunted Heart 5)Chappaqua 6)Blue in Green 7)Elm The Town Hall Suite: 8)Prologue 9)Story Line 10)Turn Out the Stars 11)Epilogue

ピアニスト2人のDuoは昔からよく行われており、素晴らしい演奏者による名演奏が数々残されています。通常2台のピアノを用いて各々パフォーマンスを行いますが、本作は1台のピアノのみを用いた連弾(英語ではfour handsと言います)で、ライブでは時たま行われることもありますが、レコーディング作品として残した例は大変珍しく画期的な事だと思います。奏者どちらがピアノ鍵盤の左側(主に低音域担当)、右側(同じく高音域担当)を担当するか、演奏曲のメロディ、伴奏のシェア具合、アドリブ時伴奏者に音楽的に如何に被らない、交互にソロを取る場合は一瞬にして鍵盤から離れ相手に演奏を譲る反射神経、ペダルの使用はどちらが主導権を握るのか、物理的に腕や指がぶつからない等、いつもは独占している88鍵を共有し合う制約が、演奏にある種の緊張感を生み出し本作では実に良い方向に作用し、結果名演奏となりました。2人のピアニストの音楽的方向性、演奏スタイル、相性も大いに関係するところです。Richieは1947年5月NY生まれ、Lennie Tristanoに師事しBerklee, Manhattan音楽院でも学びました。Andyも同じく47年12月NY生まれ、Bill Evansに師事しBerrkleeのほかJulliard, New England音楽院でも学ぶという共に学究、学理肌、そして同世代のミュージシャンです。そういえばBillはLennieに師事していましたね。他の共通点としては名ピアニストを多く輩出し登竜門として名高いStan Getzバンドの出身者であり、白人ジャズピアニストの最高峰Bill Evansを敬愛し自他共にその影響を受けている事を認めています。本作でもEvansの66年作品「Bill Evans at Town Hall 」からピアノソロで演奏されている亡き父親Harry L. Evansに捧げたIn Memory of His Father Harry L. (Prologue/Story Line/Turn Out the Stars/Epilogue)をThe Town Hall Suiteとして取り上げています。

実は本作は2人のDuo第2作目にあたります。丁度1年前の92年11月録音の作品「Too Grand」Steeplechase こちらは連弾ではなく2台のピアノを使用しての伝統的なピアノDuo演奏になります。自由奔放でかつジャズスピリットに溢れ、同じ音楽的ベクトルを有するピアニストのみが成しうるダイナミックな演奏で、これまた素晴らしい作品です。この作品の仕上がりから2人は更なる緊密なDuo演奏を目指し、次作は敢えて縛りの多い連弾と言うスタイルで演奏に臨んだと言うことになります。ストイックでアーティスティックな2人に拍手を!

Andyは1人でグランドピアノ2台を同時に演奏する形でも作品をリリースしています。92年4月録音「Buy One Get One Free」Steeplechase Yamahaのグランドピアノを2台、片手で1台づつを演奏していますが、弾きこなすには大変な体力と気力、集中力が必要な事でしょう。物理的に腕が普通よりもかなり長くなければなりませんし(笑)。1台のピアノを2人で演奏することが連弾、ではこのように1人で2台のピアノを演奏する事は何と言うのでしょう?(笑)。こちらは壮大な雰囲気のソロピアノ集に仕上がっており、2台を難なく弾きこなすAndyのテクニック、器用さと音楽性、情熱に脱帽してしまいます。本作収録のElmがここで既に取り上げられていました。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目はMiles DavisのSolar、Richieが度々取り上げるレパートリーでもあります。冒頭Richieが高音域、Andyが低音域を担当します。ソロ中は度々入れ替わり、ラストはAndyが高音域、Richieが低音域を担当します。なんと緻密で知的、ホットでクールなインタープレイの連続でしょう!2人のピアノタッチを実に的確に捉えた録音状態も素晴らしいです。Lineageな2人は音楽的に良く似た部分もありますが明確な個性を湛えたスタイリスト同志、明らかな違いを感じさせつつも互いにインスパイアされフレージング、コードワーク、ピアノの音色区別が次第に付き難くなります。実際にどの様に入れ替わって演奏しているのか、録音時の映像が存在したら是非とも見て見たいものです。「いまの右手はRichieのラインだけど左手はAndyかな?」「両手ともにAndyかも知れない」と想像しながら鑑賞するのも楽しいです。ソロのトレード時に交差する4本の腕!20本の指!正確なタッチやタイムをテクニカルにキープしつつもエグいコードワークやハイパーなソロのラインが見事にハマり、応酬されるスリリングなDuo!これだけの演奏を繰り広げているにも関わらず声が出ないのが不思議です!演奏しながら声の出るピアニストが多いと思うのですが、無音の2人です。

2曲目はお馴染みJerome KernのAll the Things You Are、こちらもRichieのオハコのナンバーです。メロディの1音1音に全く別なコード付けを施す独自のRichieのアレンジが光ります。Andyが高音域を、Richieが低音域を担当します。それにしてもこの左手のラインは異常なほどに異彩を放ち、美しく響きます。Andyの右手のフレージングも実にクリエイティヴです!ベーシストSteve Lloyd Smith「Chantal’s Way」、自身のソロピアノリサイタルを収録した「Maybeck Recital Hall Series Volume Nineteen」、Dave LiebmanとRichieのDuo作「Unspoken」いずれもでRichieの素晴らしいAll the Thingsのプレイを聴くことが出来ます。

3曲目は本来バラードで演奏されるGershwinのI Loves You Porgy、明るいテンポでスインギーに、Richieが高音域、Andyが低音域担当で演奏されます。シングルノートでの対話形式のようにも聴こえつつ、次第に低音域〜高音域担当が入れ替わり2人の絡み具合が芳醇なスコッチウイスキーのように、シングルモルトからブレンデッドに移行して行きます。

4曲目はとても美しいバラードHaunted Heart、Andyが高音域、Richieが低音域を担当します。Bill Evansの「Explorations」に名演が収録されていますが2人のBillへのオマージュ第1弾です。Andyは左側にRichieがいるのでどうしても右寄りになる事からか、いつも以上に高音域でのラインが目立ちます。

5曲目は互いに敬意を表して各々の代表曲を演奏しあうコーナーのRichieヴァージョン、演奏曲はAndyのオリジナルChappaqua。元はAndyがGetzのバンド在団中演奏したナンバーでGetzはAndyが抜けた後も愛奏していた様です。それにしてもスタジオ内で自分の曲を他の名手が演奏するのを聴くのはどんな気分でしょうか?Richieにまさに打ってつけの美しいメロディ、コード進行を擁した名曲、そして知的さとリリカルさを配した解釈、素晴らしい演奏です。Andy自身もGetzバンドで演奏した経験を生かし、Getzのレパートリーばかりを取り上げた96年10月録音作品「 Stan Getz in Chappaqua」で演奏しています。ここでのGetz役はDon Bradenが務めます。もう1作、我らがベーシスト鈴木”Chin”良雄氏のNY時代の作品「Matsuri」でAndyと共演、ここではTom HarrellのフリューゲルホーンとLiebmanのフルートでメロディを分かち合っています。

6曲目は再びMilesのナンバーからBlue in Green、Bill Evansのナンバーだと言う説もあります。高音域をAndyが、低音域をRichieが担当、この上無い美の世界に誘いつつも演奏が佳境に達した頃にRichieが倍のラテンフィールを提示し、また別なカラーを聴かせてくれます。

7曲目表敬コーナーAndyの出番によるRichieのオリジナルElm、この曲はRichieが亡きポーランド出身の天才ジャズヴァイオリン奏者Zbigniew Seifertに捧げたナンバーです。作者自身のトリオアルバム「Elm」で聴くことが出来ます。ここでのAndyは曲の構造を徹底的に分析し、複雑なコード進行を微に入り細に入り解析し、Richieとはまた異なる解釈で深遠なハーモニーと美の世界を表現しています。左側にはRichieは居ないはずなのですがDuo時の耳、感性がそのまま継続しているのか、かなり高音域を多用しているように聴こえます。2人のオリジナル曲の録音終了後、その出来栄えからさぞかしお互いの音楽性を称え合ったことと思います。ピアニストが2人同じ現場に居合わせて共演する機会は稀有でしょうし。

8~11曲目はBill EvansへのトリビュートとなるThe Town Hall Concert、4曲ともBillのナンバーです。8曲目となるPrologueはRichieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。かなりマニアックな選曲、でもBillから影響を受けたピアニストやファンには堪りません!メロディを奏でるRichieの音色も心なしかBill寄りに聴こえます。

9曲目Story Line、Andyが高音域、低音域をRichieが演奏します。インテンポになってからの2人のソロのトレードが実にスリリングです。ここでのAndyのソロラインからBillのテイストが聴こえてきます。

10曲目は哀愁感満載の魅力的なメロディ、コードの流れを持つ美しいバラードTurn Out The Stars。Richieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。ミディアムテンポでのRichieのソロ、物凄い事になっています!この音の粒立ち、音色、タイム感での高速プレイは超人的、でも決してテクニックのオンパレードにならないところが素晴らしいです!はっきりとしたメロディはソロ後に登場します。

11曲目最後を飾るのは文字通りEpilogue、両者随時入れ替わりの演奏、テーマのメロディのモチーフを効果的に用いた、こちらの応酬もとんでも無いですね!エンディングはRichieが高音域、Andyが低音域で締めます。