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2019.06

2019.06.21 Fri

Fuchsia Swing Song / Sam Rivers

今回はテナーサックス奏者Sam Riversの64年録音初リーダー作「Fuchsia Swing Song」を取り上げたいと思います。

1964年12月11日録音 @Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Blue Note Label / BST 84184

ts)Sam Rivers p)Jaki Byard b)Ron Carter ds)Tony Williams

1)Fuchsia Swing Song 2)Downstairs Blues Upstairs 3)Cyclic Episode 4)Luminous Monolith 5)Beatrice 6)Ellipsis

フリーフォームとインサイドの端境をここでは絶妙なバランス感で渡り歩き独自のアプローチと音色を誇るSam Rivers、13歳から地元BostonでRiversと共演しその音楽性を熟知、寄り添うように煽るように、時につかず離れずのスタンスを図りながら驚異的なレスポンス、タイム感、テクニック、音楽性を遺憾無く発揮する神童Tony Williams、Miles Davis QuintetでTonyと培ったコンビネーションをここでも縦横無尽に発揮しバンドを支えるRon Carter、新旧取り混ぜた幅広いスタイルを網羅、消化しつつも誰でもない確立した個性をバッキング、ソロに存分に聴かせるレジェンドJaki Byard、彼らのプレイによりジャズの伝統を踏まえつつも斬新なテイストが眩いばかりに光るRiversのオリジナル全6曲に、生命が吹き込まれました。60年代を代表するテナーサックス・ワンホーン・カルテットの1枚に挙げられるべき名作だと思います。

1923年生まれのRiversは本作録音時41歳、初リーダー作にしては遅咲きになりますが、その分成熟した演奏スタイルを聴くことが出来るとも言えます。Oklahomaで音楽一家に生まれ育ったRiversは47年にBostonに移住、Boston Conservatoryで音楽の専門教育を受けました。59年から同地在住のTony Williamsと共演を始め、彼の推薦もあって64年Miles Davis Quintetに短期間加入し、同年7月にライブ作「Miles in Tokyo」で演奏を残します。

アグレッシヴで素晴らしい演奏を繰り広げていますが、当時のMilesにRiversはフリー色が強すぎたのでしょう。日本のオーディエンスにも「謎のテナー怪人現る!」状態だったかも知れません(笑)。数年先の67~8年頃ならばMiles Quintetもフリー色が色濃くなっていたので、Riversの演奏はむしろバンドに歓迎されたかも知れません。有名な話ですが、TonyはRiversのような先鋭的なサックス奏者がフェイバリットであり、彼の前任者であったGeorge Colemanのオーソドックスな演奏があまり好みではなく、Coleman退団時MilesにRiversを紹介した形になります。Tonyの64年初リーダー作「Life Time」、65年「Spring」2作に尊敬するRiversを招いていて、特に「Spring」ではMiles Quintetの新旧テナー奏者顔合わせでWayne Shorterとの2テナーの演奏を聴く事が出来ます。

RiversはBlue Note Labelから本作を含め計4作をリリースしています。スタンダード集である1作以外は本作同様先鋭的なRiversのオリジナルを演奏しており、一貫したコンセプトを感じます。その1作66年録音の「A New Conception」は相当ユニークなテイストの作品です。When I Fall in Love, That’s All, What a Diff’rence a Day Made等の歌モノを取り上げていますが百歩譲って斬新、超個性的、新たな解釈とも取れなくはありませんが、どうでしょう、残念ながら僕にはスタンダード・ナンバーを素材に挙げる必然性を感じることが難しかったです。この人は自身のオリジナル曲を演奏することが似合うタイプのミュージシャンと再認識しました。

Blue Note Label以降RiversはImpulseからアルバムをリリース、その後も比較的コンスタントに作品を発表し続けました。70年代に入り、妻のBea(Beatriceの略称)と共にNew YorkのNoHoにジャズロフトであるStudio Rivbeaを運営開始、ジャズ批評家には “The most famous of the lofts”と評され、連日ジャズ演奏のほか多くのアーティスト達による様々なパフォーマンスが繰り広げられました。70年代におけるNYロフトのムーヴメントは、ジャズや芸術全般の発展に多くの貢献を果たしたようです。Rivers自身もここで精力的に音楽活動を展開したことと思います。

ジャズロフトではありませんが、少し遅れて82年にNY, ChelseaにBarry Harrisが設立したJazz Cultural Theatreも、連夜のジャムセッションや定期的にジャズ理論と実技の講座を開き(間も無く卒寿を迎えるHarrisは現在もこういった講座を米国に留まらず全世界で開いています)、ジャズを学ぼうとする者に門戸を開き、87年まで運営していました。伝説的なアルト奏者Clarence Sharpe(C. Sharpe)がホームレスであったためここに住み着き、毎夜ジャムセッションに参加していたのはいかにも当時のNYらしい話です。僕も86年に当所を訪れ、セッションに参加しSharpeと共演しましたが、彼の使用楽器Connから繰り出される素晴らしい音色に魅了され、まさしくCharlie Parker直系のスインギーなフレージングに触れる事ができました。共演後に「New style!, new style!!」と僕の演奏を評してくれたのが印象的、明るい屈託のない方でした(彼の演奏スタイルにしてみれば間違いなく僕の方が新しいですが)。現在のNYでこのような文化に触れることは大変困難になったように思います。

話がいささか外れてしまいました。演奏曲に触れていきましょう。1曲目は表題曲Fuchsia Swing Song、Tonyのトップシンバルがリズムの要になり、実に小気味好いグルーヴを聴かせます。スティック先端のチップがK Zildjianシンバル上で軽快に跳ね回っているのが見えて来そうな程です。シャープでいて柔らかさが半端なく、スピード感に満ちていてゆったりとしたバネの如きタイム感、そこでのRiversとTonyのカンバセーションが微に入り細に入り、スリリングにして絶妙、インタープレイとはこうあるべきだと周知させるべく声高に宣言しているかのようです。冒頭8小節間テナーとベースのDuo演奏、すぐさまドラムが参加しますがその時のTonyのシンバルの音色の使い分け、さすが見事です!Riversのフレージング、その滑舌の素晴らしさに由来する8分音符のスイング感とTonyのシンバル・レガートは全く完璧にリンクしています!あたかも長年生活を共にした親子のミュージシャンが成し得るレベルの合致度です!インサイドのフレージングとフリー系のアプローチが交錯する中での手に汗握る瞬間や、1’55″から2’00″のRiversのHigh Fキーでのトリッキーなオルタネート音とTonyのバスドラとのやり取り、2’07″辺りのテナーとピアノの絡み具合、直後のTonyのフィルインなど聴きどころ満載です!Carterのベースワークの巧みさがあってこそのTonyのドラミング、Byardの演奏は俯瞰しているが如き、ある種「狙っている」テイストを感じるバッキングです。テナーソロ後ヴァンプのような形でドラムの短いソロがあり、その後ベースが再びwalkingし始めますが珍しく一瞬「おっと!」とラインが重くなりますが、すかさず体制を取り直して演奏続行、スネークインしながらピアノソロが始まります。ラストテーマの前に短くテナーソロがありラストテーマへ。オープニングに相応しい素晴らしい内容の演奏です。

2曲目Downstairs Blues Upstairs、ユニークなテーマのブルースナンバー、キーはF。ウネウネとしたラインはRivers独自のものですが Lester Youngから少なからず影響を受けているように感じます。Byardのソロも独自のテイストを表現していますが、Duke Ellingtonからの影響を特にバッキング時に聴き取ることが出来ます。ここでのTonyは徹底してサポートに回っています。

3曲目はCyclic Episode、曲構成、テーマやコード進行も個性的な佳曲です。テナーソロ始まってすぐにドラムが消え、その後間も無く復帰しての仕切り直しに取り組んでいます。リズムセクションはRiversのソロをデコレーションしようと様々な手法を用いています。Carterの独創的なソロ後ピアノがソロを取りますがこちらも色々なスタイルを内包したものです。以上がレコードのSide Aになります。

4曲目Luminous Monolithは再びアップテンポのスイング・ナンバー、アドリブではストップタイムを多用しフリーフォームに足を踏み入れる直前のせめぎ合いを聴かせ、先発テナーソロは相当な段階にまで音楽を掘り下げています。ピアノソロも何でもアリの状態、ラグタイムやストライドピアノのスタイルまで披露しています。Byardはかなり器用なミュージシャンで、ピアノの他にテナーサックス、ヴィブラフォン、ドラム、ギターまで演奏します。色々な楽器を演奏出来るということで、自身のピアノ演奏にも多くのスタイルとカラーを盛り込むことが出来るのでしょう。彼のリーダー作として67年録音「Sunshine of My Soul」(Prestige)をプッシュしたいと思います。時代を反映したレコードジャケットがいかにもSoul Musicを演奏していそうですが(笑)、内容は紛れもないジャズ、ベーシストにOrnette Coleman TrioのDavid Izenzon、ドラムにはJohn Coltrane QuartetのElvin Jonesとくれば演奏が悪かろうはずがありません!収録曲はSt. Louis Blues以外全曲Byardのオリジナル、Elvinの叩くティンパニ、Byardの弾くギター(こちらはご愛嬌の域です)が異色です。

5曲目は妻の名前を冠したオリジナルBeatrice、Joe Hendersonが84年録音の自身作品「The State Of The Tenor • Live At The Village Vanguard • Volume 1」で取り上げた事によりジャズミュージシャンの間でヒットとなり、特に日本のジャズシーンで頻繁に取り上げられました。美しいメロディ、どこかメランコリックで穏やかな雰囲気の曲想、難しからず易し過ぎないトライのし甲斐があるコード進行が日本中のジャズミュージシャンを虜にしたのでしょう。Stan Getzも89年の作品「Bossa & Ballads – The Lost Sessions」で取り上げています。

リリカルなピアノのイントロからテーマ奏、Tonyはブラシで演奏、テナーソロに入ってからはスティックに持ち替えています。曲の持つイメージを踏まえ、最大限に自己表現をすべくイメージを膨らまそうとする創作行為を感じるソロです。続いてピアノソロになると再びTonyがブラシに持ち替えて伴奏し、ベースソロと続きラストテーマを迎えます。

6曲目ラストのEllipsisはRhythm Changeのコード進行に基づいたナンバー。リズムセクション初めは本来のコード進行をキープしつつも先発Riversの破壊工作的ソロにインスパイアされ、次第に変形の道を辿ります。ドラムとベースの交通法規順守の姿勢がフリーフォーム・レーンへの乗り入れを阻止していますが、ピアノソロでは意図的な崩壊か、なし崩し的な空中分解か、ソロ中にフェルマータし、そのままドラムソロになりました。ラストテーマには全員見事にTonyの難解な呼び込みフレーズを聴いて理解し、入ることが出来ました。

2019.06.12 Wed

Free for All / Art Blakey and The Jazz Messengers

今回はArt Blakey and The Jazz Messengersの64年録音「Free for All」を取り上げてみましょう。

1964年2月10日録音 @Van Gelder Studio, Englewood Cliffs Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Blue Note Label / BST 84170

ds)Art Blakey tp)Freddie Hubbard ts)Wayne Shorter tb)Curtis Fuller p)Cedar Walton b)Reggie Workman

1)Free for All 2)Hammer Head 3)The Core 4)Pensativa

Blakeyの圧倒的なドラミングがまとめ役となり、バンドメンバー一丸となってライブレコーディングの如き、いやそれを上回るほどのテンションで演奏が盛り上がっています。Art Blakey and The Jazz Messengers(JM)のひとつの頂点と言って過言ではありません。オールスターズのメンバーですが、音楽監督も務め、メンバー異動があっても不動であったWayne Shorterの参加が注目されます。Benny Golsonの後釜でShorterが加入したのがスタジオ録音では60年3月録音の「The Big Beat」から(59年末には既に在団していました)、前任者Golsonの音楽監督も的確でしたが、Shorterが引き継いだ事によりJMのサウンドがぐっと引き締まり、以降の音楽的方向性も定まりました。

Lee Morgan, Shorterのフロントラインでライブ盤も含め、7作が彼らを擁したクインテットでのJMです。61年6月録音の「!!!!!Impulse!!!!!Art Blakey!!!!! Jazz Messengers!!!!!!」(何というタイトルでしょう!)からトロンボーンにCurtis Fullerが加わり、黄金のラインナップ、3管編成のJMが形作られました。

61年10月録音「Mosaic」では3年余り在団したMorganが離れ、新しいトランペット奏者にFreddie Hubbardが加入します。

ピアニストCedar Waltonが加わったのが62年3月録音のライブ盤「Three Blind Mice」、62年10月録音のやはりライブ盤「Caravan」からベーシストにReggie Workmanが参加し、このメンバーでのJMが稼働し始め、合計6作をリリースしました。個人的にこの頃の作品のクオリティが特に高いと感じています。

ですが蜜月状態も長きに渡り続くことはありませんでした。ShorterはJMに足掛け4年在団しましたが、「Miles in Berlin」64年9月Miles Davisクインテットに引き抜かれたため、バンドは時計の大切な歯車が欠けた状態に陥りました。同時に個性の強いミュージシャンの集合体であったJM(このバンドに限ったことではありませんが…)は、Shorterが音楽監督である以前にバンドのムードメーカーであり、リーダー、メンバーの仲介役として欠かせない存在であった事でしょう。その彼の不在は極論バンドの衰退〜崩壊を意味します。同時期にWaltonとWorkmanの退団もありました。多くのテナー(アルト)奏者がその後JMに去来しましたがShorterの代役は誰にも務まりませんし、務まりようがありません。One and Onlyな個性を強力に放ちつつも常に自然体、その存在自体が特異なものでありながらもサイドマンとしてリーダーの音楽性を確実に踏まえつつ、自己の音楽性も反映させるバランス感。これらは彼の音楽面、人間関係全てに当てはまる事なのでしょう。このようなテナー奏者、ミュージシャンは他にその存在を知りません。JMはShorterロス後、作品毎にメンバーチェンジを繰り返しながら音楽シーンが混沌とした60年代、70年代をバンド自体メンバーが定まらず、ずっと混沌としていた事に乗じて(笑)乗り切り、80年代以降Wynton Marsalis, Branford Marsalis, Terence Blanchard, Donald Harrison, Bobby Watsonたちサックス奏者の参加で再生したのです。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目はShorterのオリジナルにしてタイトル曲Free for All、Randy Breckerがこの曲のタイトルをもじってFree Fallという曲を書いています。曲想は全く異なりますがストレートアヘッドなアップテンポの佳曲、Randy, MichaelのBrecker兄弟実は大のJMファン、父親の影響で聴いていたジャズのレコードの1枚が本作なのでしょう。かつてMichaelと話をしていて話題がジャズレコードになりました。「タツヤがモダンジャズ史上最も重要と思うアルバムは何だろう?」僕には予てからの想いがあったので、すかさず「MilesのKind of Blueだね」と答えると、「Don Grolnickが同じ意見だったよ。それは興味深いね、確かにKind of Blueも重要な作品だと思うよ」Michaelらしい人の話を尊重しつつ、控え目に自分の意見をさらっと述べる物言いです。そして僕も「Michaelにとっての最重要アルバムは何?」と尋ねると、彼もすかさず「Art BlakeyのFree for Allだね」との返答がありました。その時にはあまりピンと来なかったので理由を特に尋ねることはしませんでした。アルバムの存在を知っており聴いた事はありましたが、Michaelが最重要と挙げるほどの意義を正直感じなかったのです。しかし今回Michaelのプレイや彼のテイストに想いを馳せながら繰り返し聴き直し、本作の有り得ないエネルギー、テンションの高さ、他のジャズアルバムにはない独特のパッションを感じ取る事が出来ました。僕が未聴だけなのかも知れませんが、スタジオ録音でこれだけの盛り上がりを聴かせ、かつ繊細さと緻密さを併せ持つ作品は他にないでしょう。ミュージシャンの結束の強さに加え、各々が個性を100%発揮しつつもあくまでリーダーの掌の中で、主役Blakeyの表現願望を実現するための名脇役が勢揃いです!この辺りをMichaelがプッシュする理由のひとつと推測しました。

Free for All、テーマメロディに十分休符、スペースがあり、Blakeyがフィルインを自在に入れられるようにとの、作曲の時点でShorterの音楽的配慮を感じます。それにしても凄まじいまでのBlakeyのナイアガラロール!明らかに50年代よりもヴァージョンアップしたドラミングです!ドラマーが曲のテーマを演奏する場合、まずリズムキープ、そしてより大切なのが曲に対するカラーリング〜色付けです。メロディやキメをしっかりと映えさせるための、ドラミングによるオブリガート、この作品でのBlakeyの色付けはテクニカル的にも音楽的にも彼にしか成し得ないアートの表出です。ソロの先発は作曲者自身、彼でしか響かす事のできない独特のテナーサウンド、フレージング、良きところでバックリフが入りますが、ソロはまだまだ続きます!もっと後にバックリフが挿入されても良かったかも知れません。感極まったメンバーの掛け声も何度か聴かれますが、これも演奏の一部と解釈できます。続いてのトロンボーン・ソロ、Blakeyを始めとするバックのピアノトリオのテンションはキープされそのままトランペット・ソロに入ります。それにしてもHubbardの吹く8部音符の端正さ、リズムのスイートスポットをドンピシャに押さえたタイム感、スインガー振りにはいつもながら敬服してしまいます!トロンボーンの時には演奏されなかったバックリフがちょうど良いところで入ります。Hubbardのソロにはリズム隊を刺激する要素があるのでしょう、Blakey大暴れの巻です!その後ピアノのソロになると思いきや、ごく自然にドラム・ソロになります。Blakeyが一瞬「あれっ?オレのソロ?」と言った風情でソロを叩き始めるのに何だか可愛らしさを感じます。もしくはテープ編集がなされてピアノソロをカットしている節が伺えなくもありません。14年日本発売のSHM-CDにはこの曲の2ndテイクが収録されていますが、演奏の途中でBlakeyのドラムセットが壊れてしまい、プロデューサーのLionが途中で演奏を止めさせたそうです。そりゃあこんなに激しく叩きまくっていれば楽器も悲鳴をあげて壊れもしますぜ(爆)

2曲目もShorterのオリジナルHammer Head、トンカチのような頭の形をしたシュモクザメの事ですが、デクノボウ、のろまの意味もあるそうです。こちらもバンマスに心ゆくまでカラーリングを施して貰うべく、メロディにリズミックな部分と対比的に休符を配した曲想に仕上がっており、シャッフルのリズムが更にBlakeyのドラマー魂を刺激して素晴らしいビートを繰り出しています。この曲もShorterがソロの切り込み隊長を努めます。Waltonのバッキングも的確でいて刺激的、バンド全体もMoanin’を彷彿とさせる伝統的JMスタイルの演奏です。続くHubbard実に良く楽器が鳴っています!Fullerも曲想に沿うべく健闘しています。1曲目でソロが無かった分、Waltonの左手のコードワークを含めてプレイがフレッシュです。以上がレコードのSide A、Shorter色で占められていました。

3曲目からのSide BはHubbardコーナーになります。彼のオリジナルThe CoreはCongress of Racial Equality=民族平等会議、公共施設における人種差物の廃止を主な活動目的にしている団体、こちらに捧げられたナンバーです。Workmanの短いベースのイントロはかつて在籍していたJohn Coltrane Quartetの演奏を彷彿とさせるもの、リズムセクションのみ〜ホーンを伴ったその後のイントロ〜テーマ奏、4度のインターバルのメロディもさりげに挿入され、実にカッコ良いです!こちらもShorterが再びソロの先発、イヤ〜ここでのソロもイってます!フリーキーな領域まで達し、シングルタンギングを生かしたバックリフとの絡み具合もGoodです!続くHubbardのソロから急に曲目がLove for Saleに変わってしまいました(爆)!この引用フレーズ後のソロの展開も実に熱く、ジャズスピリット満載のフレージングです!リズムセクションも大変な盛り上がりをキープしています。トロンボーンソロではまた違ったバックリフが聴かれ、細やかな対応を示しています。ラストテーマを迎え、エンディングにはヒューマン・フェイドアウトが施されています。

4曲目はピアニスト、コンポーザーClare FischerのオリジナルPensativa、こちらをHubbardがアレンジしました。Fischerオリジナルの演奏はBud Shankがメロディをクールに演奏しているブラジリアンなボサノバ・ナンバー(Fischer自身は米国人ですが)、こちらはホットなジャズ・テイスト満載のヴァージョンに仕上がっています。Hubbard本人特に気に入っていたようで自己のアルバム65年録音「The Night of the Cookers」でLee Morganを迎え、2トランペットで再演しています。

Hubbardのブリリアントから燻んだ音色、音量の強弱ppからffまでを使い分けての多彩なメロディ奏、男の色気を十二分に感じてしまいます。実は曲の構成、キー、コード進行いずれも難易度が超高いのですが、豊かなイメージを伴って、いとも容易くソロを取っており、スペースの取り方も素晴らしいですね!間(ま)を歌っているが如きです。このソロを受け継ぐShorterもいつになくメロウに、彼なりの独特な美学に基づいたメロディアスなアドリブを聴かせています。HubbardのセンスをしてShorterに別な語り口をさせたのでしょう、きっと。後ろで感極まり騒いでいるのはBlakeyですね、多分。彼はShorterの演奏、人柄が大好きですから!続くWaltonの端正なソロも素晴らしいのですが、Hubbard, Shorterふたりの真のジャズジニアスに比較すると些か物足りなさを感じます。その後ラストテーマへ、コーダではホーンセクションによるアンサンブルにピアノのオブリガートが絡みます。

2019.06.02 Sun

Sonny’s Crib / Sonny Clark

今回はピアニストSonny Clarkの57年リーダー作「Sonny’s Crib」を取り上げてみたいと思います。

録音1957年9月1日 Van Gelder Studio, Hackensack Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Blue Note Label / BLP 1576

p)Sonny Clark tp)Donald Byrd ts)John Coltrane tb)Curtis Fuller b)Paul Chambers ds)Art Taylor

1)With a Song in My Heart 2)Speak Low 3)Come Rain or Come Shine 4)Sonny’s Crib 5)News for Lulu

John Coltraneを迎えた3管編成によるアンサンブル、ClarkはBlue Note Labelから9枚のリーダー作をリリースしていますが本作は第2作目に当たり、ピアノトリオやクインテット編成での作品が多い中、全編セクステットは本作のみになります。このレコーディングのちょうど2週間後9月15日に録音され、同じくBlue NoteからリリースされたColtraneの初期傑作「Blue Train」(レコード番号もBLP1576, 1577と連番です!)と編成が全く同じ、参加メンバーもCurtis FullerとPaul Chambersが重複しており、他のDonald Byrd, Art Taylorたちこの頃売り出し中の若手を迎えてのレコーディングです。当時tp, ts, tbの3管はあまり例がなく、3管編成のご本家Art Blakey and The Jazz Messengersでさえも57年当時はtpとasないしはtsのクインテットで、3管編成にヴァージョン・アップするのは61年からになります。tpとtsのアンサンブルだけでもジャズ・サウンドの醍醐味を聴かせられるのに、更にtsとほぼ同じか低い音域であるtbのふくよかさがブレンドする事により、よりジャジーでタフなアンサンブルに変化するのです。

僕は学生時代に鑑賞の順番としてまず「Blue Train」(BT)、その後暫くしてから「Sonny’s Crib」(SC)を聴きました。編成が同じでメンバーが重複しているのでいずれかが礎となり、もう1作が続編のように漠然と感じていたのですが、今回当Blogを書くにあたり録音年月日を確認し、なるほどSCの方が先に録音されており、ColtraneはSCでの経験を生かして2週間の間に作品の構想を練り(直し)、自己のリーダー作BTに臨んだのではないのかと確信しました。それこそ楽器編成、人選自体もSC録音前は違うものだったのかも知れません。当初はワンホーン・カルテット?もう1人管楽器を加えたクインテット?tp, ts, tbの3管サウンドの素晴らしさをぜひ自分のアルバムでも表現したいと考えて実現させたのでしょう。

いくら現代ほどミュージシャンのスケジュールがタイトではないと言っても、急に当時の売れっ子たちを集めるのは至難の業です。絶対の信頼を置いているベーシストMr. PC(Paul Chambers)のスケジュールは最優先に、次にドラマーに対しての要望の多いColtaraneとしてはタイトで堅実、スインギーなPhilly Joe Jonesを押さえ、Lee Morganもぜひ共演してみたい若手筆頭、Fullerもスケジュール大丈夫でした。ピアニストがなかなか決まらず、所縁のRed Garland, Wynton KellyがNG、Mal WaldronやElmo Hope, Tadd Dameronではサウンドが違う、ましてやThelonious MonkではMonk自身のリーダー作に乗っ取られてしまう可能性大(笑)、加えてPrestige諸作とは違うプレイヤーを手配したいと考え、リーダー作では初共演のKenny Drewに打診しめでたくスケジュールOK、こんな感じでBTのメンバーが決定したと勝手に想像するのも楽しいものです(あながち外れてはいないかも知れません〜笑)。

Clarkは本作や代表作「Cool Struttin’」のように管楽器を擁した作品、ピアノトリオで自身がメロディを奏でるフォーマット、いずれでもその真価を発揮できるミュージシャンです。サイドマンとしても多くの作品で的確なサポーターぶりを聴かせていてLee Morgan / Candy, Dexter Gordon / Go, Jackie McLean / Jackie’s Bag, Sonny Rollins / The Sound of Sonny….いずれも50年代ハードバップのエバーグリーンです。個人的にはリーダー・ピアノトリオ作で60年作品George Duvivier(b), Max Roach(ds)による「Sonny Clark Trio」Time Labelがお気に入りです。

それでは演奏曲について触れて行きましょう。1曲目はRichard Rodgersの名曲With a Song in My Heart、急速調での演奏でメロディを演奏するのはByrdのトランペット、ColtraneとFullerは交代でオブリガードを入れています。録音当日Clarkは自身のオリジナルSonny’s CribとNews for Luluの2曲を用意しました。アルバムの収録曲数としてはあと少なくとも3曲は必要なので、フロント奏者を1曲づつフィーチャーして何か演奏しよう、そうすれば3曲揃うじゃないか、のような類いのラフな打ち合わせでセッションが始まったように感じます。「でも作品として残るからさ、曲のエンディングだけはしっかり決めておこうか」ともClark提案したので、収録したスタンダード・ナンバー3曲全て決め事としてのエンディングが、セッション風なソロ回しが続く演奏の割りにはちゃんと施されています。これは大事なことですね。「じゃあDonaldをフィーチャーしてぶっ速い曲を演奏しようか。With a Song in My Heart、テンポが速いからバックリフは演奏しない方がむしろ良いかな。だからJohnとCurtisは2人分担してオブリを吹いてもらえる?ソロの順番も決めておこうか、エンディングのキメはさっき練習したし大丈夫だね。Hey, Donald, イントロ無しでいきなり頭からテーマ行こうか、じゃあ始めるよ、Rudyテープ回った?」きっとこんなやり取りがVan Gelder Studio内で行われた事でしょう(笑)。先発Byrdの演奏をBTのLee Morganの演奏と比較するべきではないかも知れませんが、ふたりの個性以上に楽器の音色、操作性、フレージングのアイデア、唄心、タイム感に違いを感じてしまいます。続くColtraneの堂々たる貫禄の演奏、急成長を遂げつつあるプレーヤーの情熱の発露を感じさせます。その後のFullerの安定した演奏は既にBTでのクオリティを発揮しています。Clarkのソロの後ラストテーマになりますが、実はこの演奏の要はChambersのベースプレイでしょう。On top感、グルーヴ感、タイトネス、音の選び方、スインギーで様々な出来事を的確に包容するベースライン、思わず聴き惚れてしまいます!TaylorのドラミングにはColtraneの「Giant Steps」で採用される条件である正確無比さを、ここでも存分に表現しています。エンディングはフロントとピアノの2小節づつのトレードが行われ、最後にピアノがグリッサンドで上昇しラストのコードを弾き、間髪を入れずテナーがメジャー7thのD音を吹き、少ししてからトロンボーンが9thのF音を吹いていますが、ここはピアノ〜テナー〜トロンボーンでベルトーンを演りたかったようにも聴こえなくはないですが、となるとトロンボーンが出遅れた事になります。ベルトーンでラストの和音を演奏する事で、がっちりした終始感を得ようとした目論見があったかも知れません。

2曲目今度はColtraneのテナーをフィーチャーしたSpeak Low、素晴らしい音色と歌いっぷり、本来のSpeak Lowであるべきゆっくりとしたテンポ設定、ラテンとスイングのリズムが交錯しトランペットとトロンボーンのバックリフ、アンサンブルが実に心地よい名演奏です!ここでちょっと気になるのがテナーのチューニングです。もともと高めに音程を取る事の多いColtraneですが、ここでは尋常ではなく高くチューニングをしていてバックリフとも音程感が離れているように感じます。色々と試行錯誤を繰り返していたColtraneなので、高いチューニングも何か思うところがあってのチャレンジかも知れません。テーマ後巧みなピックアップ・フレーズに導かれてソロが始まります。1957年度Coltraneフレーズのオンパレードですね(笑)!実はここでハプニングが起こりました。A-A-B-A構成のSpeak Low、1’45″でColtraneはAをリピートせず勘違いしてストレートでB(サビ)の冒頭コードでのフレーズを吹いたのです!1’47″あたりでClarkも「What happened?」とばかりにバッキングの手をすぐさま止め、一瞬シラっとした空気が流れますが、何事もなかったかのようにColtraneソロを続け1コーラスまさに”歌い切って”います。 ちなみに前回のBlog、Les McCann Ltd. in New Yorkで取り上げたStanley Turrentineのミステイク時のように、リピート時同じフレーズをColtraneは使い回してはいません。またCD化に際してこのSpeak Lowの別テイクが付加されていますが、本作収録がテイク1でしょう、もう1テイク録っておこうか的に別テイクを演奏しましたが小さなミスより大きなノリ、別テイクも素晴らしいですが1テイク目の方が音楽的でした。続いてFullerがコーラス前半A-A、Byrdが後半B-A、ソロを取りますが2人とも快調に飛ばしています。Clarkが1コーラス丸々ソロを取り、再びラテンとスイングのリズムでラストテーマになだれ込みます。最後になりますがChambersのラテン時のベースライン、裏メロディー奏的なセンスの良いアプローチを全編に聴かせており、さすが縁の下の力持ち、50年代最も多忙なベーシストの所以を感じます。それにしても一曲丸ごとColtraneフィーチャーリングのスタンダード演奏、よくぞClark残してくれました!

3曲目はCome Rain or Come Shine、始めのテーマはFullerのトロンボーンをフィーチャーしています。ミディアムスイングでも演奏されますがここではしっとりとしたバラード奏、トロンボーンの音色と曲想が良く合致しています。ソロはClarkのピアノのみ、転調の多いコード進行を流麗にフレージングしています。Coltraneがメロディ・フェイクとアドリブの中間的?テイストで半コーラスを演奏、後半をByrdがしっかりメロディを演奏し、レコーディングのために付加されたエンディング4度進行を経て、Fineです。以上がレコードのA面になります。

4曲目はClarkのオリジナルで表題曲Sonny’s Crib。しかしこれは… 今まで全く意識していなかったのですが… こうやってしっかり聴いてみると… 今さらながら… 何でしょうね?… Blue Trainそのまんまじゃあないですか!!!メロディとリズムセクションとのコール・アンド・レスポンス、そのリズムの3, 4拍目のフィギュア、メロディは違えどコンセプトは全くBlue Trainです。キーがこちらがB♭、BTがE♭の違いはありますがフォームのブルースも同じ、ただこちらにはサビ(ブリッジ)が付加されています。このブルースにサビを設けるという点についても「Blue Train」収録Locomotion、こちらもB♭のブルースですがサビがあり同じです!Sonny’s Cribを演奏したColtrane、ふたつのアイデアを2週間後の自己のレコーディングに流用しました!

例えばSonny’s CribがレコードのA面1曲目という目玉商品の位置に配されていたとしたら、間違いなくBlue Train流用と即断したでしょうが、レコードのB面1曲目に位置し、A面でフロント陣フィーチャーのスタンダード・ナンバー3曲の演奏に耳が慣らされた状態では意識が遠のいていてSC, BT2曲の類似性を判断できません。

とりあえず演奏に触れましょう。先発はColtrane、ソロの絶好調ぶりはBTに匹敵するものを感じます。BTでのソロが佳境に入った時に挿入されるバックリフが、ここではないのが少し寂しいですが。トロンボーン、トランペットとソロが続き、ドラムが倍テンポを演奏するところもBTソックリです。その後ピアノソロを経てベースソロ、Chambersが殆ど倍テンポでソロを取るのは珍しいですね、セッションがさぞかし楽しかったのでしょう、しかしラストテーマを聴いてもつくづくこの曲はBlue Trainです。Coltraneは一体どんな考えでSonny’s Cribを基にBTを作曲、演奏したのでしょう?

5曲目もClarkのオリジナルNews for Lulu、こちらもラテンとスイングが交錯するマイナー調の佳曲、「Cool Struttin’」収録のBlue Minorに通ずるテイストです。ピアノの左手とユニゾンのベースライン、0’35″辺りの3管のジャジーで豊かなハーモニーが印象的です。テーマの後のピアノソロに続きトランペットソロ、どこを切っても金太郎飴のようにハードバップ華やかし頃のサウンドが聴かれます。続くColtraneのソロはひとり異彩を放ち圧倒的な個性を聴かせます。トロンボーンは相変わらずの堅実ぶりで安定した演奏、Fullerの実直な人柄がうかがえます。その後のベースソロは管楽器のようなフレージング満載のスインギーなもの、3管編成との共演でホーンライクなテイストが染み込んでしまったのかも知れませんね。その後ラストテーマを迎えエンディングはジャンルとしてのハードバップに不可欠な、儀式的、様式美的なクリシェを通過してFineです。