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2019.09

2019.09.13 Fri

Hamp and Getz / Lionel Hampton – Stan Getz

今回はヴィブラフォン奏者Lionel Hamptonとテナー奏者Stan Getzの1955年共演作「Hamp and Getz」を取り上げてみましょう。

Recorded: August 1, 1955 Radio Recorders, Hollywood, California Label: Norgran Records Producer: Norman Granz

vib)Lionel Hampton ts)Stan Getz p)Lou Levy b)Leroy Vinnegar ds)Shelly Manne

1)Cherokee 2)Ballad Medley: Tenderly / Autumn in New York / East of the Sun(West of the Moon) / I Can’t Get Started 3)Louise 4)Jumpin’ at the Woodside 5)Gladys

今までにも当BlogでStan Getzを何度か取り上げたことがあります。Getz自身の演奏は常に絶好調で、共演者の人選、彼らの演奏クオリティにより左右された出来不出来が無い訳ではありませんが、今回共演のヴィブラフォン奏者Lionel Hamptonの猛烈なスイング感、グルーヴがGetzとどのようなコンビネーション、化学反応を示すのかに興味が惹かれるところです。この作品のプロデューサーNorman GranzはJATP(Jazz at the Philharmonic)を 1940~50年代に率いて米国、欧州各地をジャズメンのオールスターで巡業し、最盛期には全世界を風靡しました。彼には興行的な才覚があり、ミュージシャン同士の組み合わせ、時には意外性、奇抜な人選を考えて作品を多数制作、自身のレーベルClef, Norgran, Down Home, Verve, Pabloからリリースしました。本作もその一枚に該当しますがGranzの狙いは今回大いに当たったと思います。

Hamptonは1920年代後半Californiaでドラマーとして活動していましたが、30年頃からヴィブラフォン奏者に転向しました。Gary BurtonやMike Mainieriのような片手に2本づつ、計4本のマレットを使いコード感もサウンドさせるコンテンポラリー系のヴィブラフォン奏者では勿論ありません。Red Norvo, Milt Jackson, Dave Pike, Bobby Hutchersonらのような片手に1本づつ、計2本のマレットで演奏するオーソドックスなスタイルの奏者です。正確なマレットさばきとグルーヴ感、驚異的なタイム感で噂となり、36年にLos Angelesを自身のオーケストラで訪れたBenny Goodmanが彼の演奏を聴き、その素晴らしさに自分のトリオへの参加を誘い、ほどなくピアニストTeddy Wilson, ドラマーGene Krupaから成る、人種の垣根を超えた初めてのジャズ・グループ、Benny Goodman Quatetが誕生しました。超絶技巧と高い音楽性から人気を博したバンドです。

その後40年にGoodmanのバンドから円満退社で独立し、Lionel Hampton Big Bandを結成しました。当時の若手精鋭たちをメンバーに迎え、コンスタントに活動を行い、53年に挙行した欧州への楽旅の際にはClifford Brown, Gigi Gryce, Monk Montgomery, George Wallington, Art Farmer, Quincy Jones, Annie Rossといったジャズ史に燦然と輝く素晴らしいメンバーを擁していました。同時にスモールコンボでも演奏活動は継続され、Oscar Peterson, Buddy DeFranco, Art Tatumたちとも共演、名作として名高いBenny Goodmanの伝記的映画「ベニーグッドマン物語」にも演奏者(もちろん本人役)として出演しています。

言ってみれば当時の米国ジャズ界のスーパーアイドル、ドンとして君臨していたHamptonはこの時47歳、お相手のStan Getzは若干28歳、Jack Teagarden, Nat King Cole, Stan Kenton, Jimmy Dorsey, Benny Goodmanのビッグバンドを経験し、その後Woody HermanのThe Second HerdでZoot Sims, Serge Chaloff, Herbie StewardたちとThe Four Brothersを結成し白熱の演奏を聴かせました。因みに彼らの敬愛するLester Youngのヴィブラート・スタイルでアンサンブルを統一したようです。本作の前年にはトランペットの巨匠Dizzy Gillespieとの共演作「Diz and Getz」、Getz自身のリーダー作としては52年「Stan Getz Plays」をリリース、キャリア的にはまだまだニューカマーの域を出ていない若手テナー奏者Getzでしたが、自己のスタイルを確立した演奏を聴かせています。ベテラン・ミュージシャンとの異色の組み合わせ、胸を借りた演奏はプロデューサーGranzのセンスある采配によるものです。

「Stan Getz Plays」

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目はお馴染みCherokee、アップテンポの定番の1曲です。リズムセクションには米国西海岸を代表するミュージシャン、ピアニストにLou Levy、ベーシストはLeroy Vinnegar、ドラマーにShelly Manneを迎えています。おそらく当時Hamptonが西海岸に在住、GetzがNew Yorkから単身赴任してのレコーディングになり、ご当地のリズムセクションを雇った形になったと思います。ドラムの8小節イントロから曲が始まりますがテーマはなく、いきなりのテナーソロ、ヴィブラフォンがウラ・メロディのような形でバッキングしています。Getzはいつもの彼の一聴で分かる個性的テナーの音色、スピード感ドライヴ感満載のスインギーなソロですが、60年代以降のGetzとはやや趣を異にしており、タイムがかなりon topに位置しているのです(バックを務めるベースの音符の位置はon topであるべきなのですが)。60年代以降晩年まで、完璧とも言えるタイム感を聴かせてテナータイタンとしての存在感を誇示していました。この事は続くHamptonのソロで明確に判明します。早いテンポであるにも関わらず音符の粒立ちの良い安定したマレット・テクニック、そして何よりタイムです!リズムのスイート・スポット目がけて、全くちょうど良いところに音符がはめ込まれています。リズムに対して「のる」のではなく拍の枠に「はめる」が如き演奏、絶対音感ならぬ絶対リズム感を感じさるプレイです!ミディアム・テンポではレイドバックを余儀なくされる、と言うかリズムの後ろにのることは比較的容易に行う事ができます。一方アップテンポや逆にバラードでは音符のリズムに対する位置を的確に維持する事が難しく、そして重要です。前述の作品「Stan Getz Plays」収録のバラードBody and Soul、Getz初期の名演奏として名高いテイクでイマジネーション溢れるフレージング、美しい音色、ニュアンスやアーティキュレーションが十二分に発揮されていますが、タイムがかなりのon topに加え8分音符音符の揺れもあり、後年の演奏とは隔たりを感じさせます。本作録音55年はGetzのタイム感にとっては過渡期であったのではないかと思います。57年10月録音「Stan Getz and the Oscar Peterson Trio」翌11月録音「The Steamer」では全く揺るぎのない、後年に通じるタイム感をしっかりと披露しているのです。ひょっとしたら本作でのHamptonとの共演で刺激を受け、タイムに対する概念を伝授されたのかも知れません。

Hamptonに続くLevyのピアノソロ、フレージングは心地よいものを感じさせますが、Getzよりも更にon topのタイム感で演奏しています。その後GetzとHamptonの8小節交換が行われますが、丁々発止とはまさにこの事でしょう、手に汗握るトレードが聴かれます!Shelly Manneのアクセント付けもバッチリ、感極まったHamptonの声も演奏の一部に聴こえてしまいます!ラストテーマも結局提示されずFineですが、それにしてもHamptonのタイムの安定感を嫌という程思い知らされた演奏です(笑)

2曲目はバラード・メドレーTenderly / Autumn in New York / East of the Sun(West of the Moon) / I Can’t Get Started、GetzがTenderlyとAutumn in New Yorkを2曲続けて、HamptonがEast of the SunとI Can’t Get Startedをやはり2曲続けて演奏しています。1コーラスづつ曲の切れ目なしに4曲連続しての演奏、なかなか珍しいフォーマットでのメドレーです。テナーサックスの多彩な表現〜Getzのバラード・プレイの深さに改めて感銘を受けました。Hamptonもヴィブラフォンでのバラード表現を可能な限り表出しているように聴こえます。ここまでがレコードのSide Aになります。

3曲目は古いスタンダード・ナンバーLouise、Hamptonがテーマを演奏してそのままソロへ、なんとも味わい深さを感じさせるプレイです。自然体でメロディを奏でその延長での鼻歌感覚のアドリブが堪りません。ピアノソロ、テナーソロと続きますがこの手のナンバーでのGetzの小粋さも申し分ありません!ラストテーマを匂わせるプレイをGetzが行いますが、Hamptonが再登場、ラストテーマを演奏しGetzはサビを吹いています。

4曲目はCount BasieのナンバーからJumpin’ at the Woodside、1曲目Cherokeeに続く速さでの演奏です。テーマにおけるピアノ、ヴィブラフォンのバッキングがBasieビッグバンドのサウンドを醸し出しており、Manneのシンバルの使い分けも巧みです。ソロの先発はHampton、スピード感とグルーヴ感から高速走行中のアメ車を思わせます。4コーラス目にテナーによるバックリフが入り、そのまま続けてテナーソロに突入します。ここでのGetzのソロ、曲想の解釈が素晴らしいと思います。曲のイメージの中に深く入り込み、曲の構造を基に大胆に再構築しているかの如きアプローチ、タイムの捉え方さえも実にスムーズです。どこかホンカーを思わせるテイストも感じます。ピアノソロ後1コーラスHamptonのソロ、後ろでGetzがバックリフを何故か吹いています。その後HamptonとGetzの8〜4小節交換、ソロの同時進行にも発展しますが物凄いやり取りです!テナー奏者はとことん盛り上がるとホンカーに変貌するのは仕方のない事なのでしょうか(笑)、その後頃合い良きところでいきなり音量を下げてラストテーマへ、その急降下振りに驚かされますが、ヴィブラフォンのバッキングが実に相応しい!

5曲目ラストを飾るのはHamptonのオリジナルで彼の奥方の名前を冠したナンバーGladys、変形のブルースナンバーです。ヴィブラフォンとテナーのユニゾンでテーマが演奏された後、ヴィブラフォンのソロからスタートしますが、さすがコンポーザー然とした流麗なソロを聴かせます。8分音符が少しハネているように聴こえるのは奥方のイメージを反映させたのでしょうか?続くGetzはムーディに、歌うが如く朗々と、付帯音を豊富に含ませたハスキーなトーンでソロを取っています。短いLevyのソロもスインギーです。その後HamptonとGetzの1コーラス・トレードが和やかに、気持ち良さそうに、互いのアドリブの内容を反映させつつ、スリリングに展開され、ラストテーマを迎えて大団円です。

2019.09.01 Sun

All My Tomorrows / Grover Washington, Jr.

今回はサックス奏者Grover Washington, Jr.の1994年録音のリーダー作「All My Tomorrows」を取り上げてみましょう。

Recorded: February 22-24, 1994 Studio: Van Gelder Studios, Englewood Cliff, NJ. Engineer: Rudy Van Gelder Produced by Todd Barkan and Grover Washington, Jr. Label: Columbia

ts, ss, as)Grover Washington, Jr. tp, flh)Eddie Henderson tb)Robin Eubanks p)Hank Jones b)George Mraz ds)Billy Hart ds)Lewis Nash vo)Freddy Cole vo)Jeanie Bryson

1)E Preciso Perdoar(One Must Forgive) 2)When I Fall in Love 3)I’m Glad There Is You 4)Happenstance 5)All My Tomorrows 6)Nature Boy 7)Please Send Me Someone to Love 8)Overjoyed 9)Flamingo 10)For Heaven’s Sake 11)Estate(In Summer)

愛器3本が写った背後に白装束で本人が佇むジャケット写真が印象的です。70〜80年代数々のヒット作(ジャンル的にはソウル、R&B、フュージョン、総じてスムースジャズとカテゴライズされます)をリリースしたGrover Washington, Jr.、本作は初の全編アコースティック・ジャズアルバムになります。バックを務める素晴らしいジャズ・ミュージシャンたち、曲毎に違ったアレンジャーを迎え様々なカラーを出しつつ、ボーカリストもフィーチャーし、しっかりとしたお膳立てが成されたプロデュースによりGroverにはひたすらメロウに吹かせています。

Groverは1943年New York州Baffalo生まれ、音楽一家で育ち8歳の時に父親であるGrover Sr.からサックスを与えられ、音楽にのめり込むようになりました。徴兵でArmyに入隊した際にドラマーであるBilly Cobhamに出会い、兵役を終えた後にCobhamがGroverをNew Yorkのミュージシャン達に紹介して音楽シーンに参入するようになりました。いくつかのレコーディングを経験した後、アルトサックス奏者Hank CrawfordがCreed TaylorのKUDU Labelのレコーディングに参加できず、Groverに白羽の矢が立ちその代役を務め、71年に初リーダー作である「Inner City Blues」を発表しました。幸先の良いラッキーなスタートです。

時代はクロスオーバー、フュージョンが台頭し始めた頃、Groverの音色はジャズファンはもちろん、R&Bやソウルミュージックのオーディエンスのハートを射止め初リーダー作にしてヒットを飛ばしました。その後74年「Mister Magic」、75年「Feels So Good」の出来栄えでその人気を不動のものにしました。

スタジオ録音だけではなく、ライブ演奏でもその本領を発揮した77年録音の作品「Live at the Bijou」、素晴らしいクオリティの演奏です。ジャズミュージシャンの本質は生演奏にあることを見せつけてくれました。

そして80年Groverの代表作にして最大のヒット作、82年グラミー賞Best Jazz Fusion Performanceを受賞した大名盤「Winelight」を発表しました。

メンバーの人選完璧、Groverの音色、フレージング、音楽性の秀逸ぶり、演奏申し分なし、選曲のセンスは言うに及ばず、アレンジ抜群、企画力の淀みなさ、聴かせどころやハイライトシーン設定の巧みさ、そして何より時代が要求する音楽と内容とが見事に合致したのでしょう、80年代を代表する作品の一枚となり、結果多くのフォロワーを生み出しました。スムースジャズの父という呼ばれ方もされていますが確かに、Kirk Whalum, Najee, Boney James, Brandon Fields, Everette Harp, Gerald Albright, Kenny G, Nelson Rangel, Eric Marienthal, Walter Beasley, Richard Elliot, Dave Koz, Warren Hill, Mindi Abair… 彼以降に現れたスムースジャズのサックス奏者は殆どGroverの影響を受けていると言っても過言ではありません。具体的にはメロディの吹き方、こぶしの回し方、ビブラート、ブルーノートを用いたニュアンス付け等、スムースジャズに於けるサックスのスタイルを確立させました。Charlie Parkerが以降のサックス奏者に与えた多大な影響、John Coltrane以降のテナー奏者がことごとくColtraneの影響を受けた事に匹敵するほどのセンセーショナルなものと言えるかも知れません。更にParker, Coltraneの影響を受けたサックス奏者が開祖の演奏を越えることが困難なのと同じく、スムースジャズのサックス奏者たちはGroverの前では存在が霞んでしまいます。楽器の音色の素晴らしさ、一音に対する入魂の度合い、表現力の深さ、歌い回しの巧みさ、間(ま)の取り方、いずれもがパイオニアとしてのプライドに満ちた風格により、他者との間に大きな溝が存在します。一聴すればGroverとすぐに分かる明確な個性の発露、他のスムースジャズ・サックス奏者は楽器のテクニックの素晴らしさは感じますが、ひょっとしたら僕自身の勉強不足に起因するのかも知れません、誤解を恐れずに述べれば自分自身を表現しようとせずに、スムースジャズ・サックス・スタイルを吹いているので楽器の上手さの方が目立ち、結局皆同じに聴こえてしまうのです。個人的にはフォロワーの中でもKirk WhalumがGroverの後継者たるべく断然その存在感をアピールしています。Whalumの2010年発表のリーダー作「Everything Is Everything (The Music Of Donny Hathaway)」はDonny Hathawayの音楽をKirk流に解釈した素晴らしい内容、そして濃密なテナーの音色で僕の愛聴盤でもあります。因みにKirkはGroverと同様にソプラノ、アルト、テナーを吹き分け、同じく楽器はGroverが愛用していたJulius KeilwerthのBlack Nickelモデルを使用しています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目はStan GetzとJoao Gilbertoの76年作品「 The Best of Two Worlds」に収録のナンバー、E Preciso Perdoar(One Must Forgive) 。Getzはもちろんテナーで演奏していますがGroverはあえてキャラが被らないように選択したのか、ソプラノで演奏しています。この曲のアレンジはGrover自身と本テイク参加ギタリストRomero Lubambo、アコースティック・ギターを美しく奏でています。Groverのソプラノによるテーマ奏はひたすらしっとりと穏やかに演奏されますがチューニング、ピッチがずいぶん高く設定されています。特に伸ばした音が次第にキュッと高くなる傾向にあり、この人はいつも高めに音を取る人というイメージがあり、ここではギターとユニゾンでのメロディ奏、ギターの正確なピッチに対してチューニングの高さを感じてしまいますが、サビでのEddie Hendersonのトランペットとのユニゾンではチューニングの違和感を感じないのは互いのピッチ感が揃っているのか、トランペットが合わせているのか。管楽器のチューニングとは相対的なものなのだと再認識しました。ごく自然にソロに移り変わりますが。用いる音のチョイスが絶妙でⅡm7ーⅤ7やDiminishコードのアプローチがさりげなくジャズ的、Groverの演奏はメロウなだけでなく、ジャズ的な表現がスパイスになっています。メロディを担当したプレイヤー達であるHenderson、Lubamboのソロもフィーチャーされていますが、バックを務めるHank Jonesのピアノ、George Mrazのベース、Billy Hartのドラム、Steve Berriosのパーカッションも実に的確です。

2曲目はVictor Youngの名曲When I Fall in Love、Groverのテナーの他、Hendersonのフリューゲル・ホーン、Robin Eubanksのトロンボーンによる3管のハーモニーが大変美しいです。ここでのアレンジはLarry Willis、ピアニストとしても良く知られています。ホーンのアカペラからGroverのテーマ奏、マウスピースのオープニングが広い音色です。確か10番にリードも4番あたりのタフなセッティングでした。随所にアンサンブルが入り、テナーのメロディとの対比を聴かせつつテナーソロへ、倍テンポのスイングになりますがリズムには漂うように大きく乗って吹いています。せっかくのジャズチューンなので徹底してジャズ的アプローチで聴かせてくれるのか、と期待しましたが、ここでもスパイス的な範囲でのジャズが表現されていました。

3曲目はFreddy Coleのボーカルをフィーチャーしたナンバー、I’m Glad There Is You。Hankのピアノイントロに続きソプラノがスイートにメロディを演奏します。ColeはかのNat King Coleの実弟、声質や歌い方は実に良く似ていますが兄のような有無を言わさぬ強力な個性、アクの強さがなく、優しい歌唱を聴かせており、Groverの音楽性に合致していると感じました。ここでのアレンジはGroverとプロデューサーのTodd Barkan、ドラムスはLewis Nashに交替します。Hankのバッキングが一段と冴えて全体のサウンドを引き締めています。

4曲目はGroverのオリジナルHappenstance、Hendersonとの2管で豊かなアンサンブルを聴かせています。Hendersonが流麗にソロを展開し、最後のフレーズを受け継ぎつつHankのソロにスイッチします。続くGroverのソロは力強さも併せ持ったアプローチで演奏を締めています。

5曲目は表題曲All My Tomorrows、Jimmy Van Heusenのナンバーです。再び管楽器のハーモニーが聴かれますがソロイストであるGroverのソプラノ以外6管編成によるアンサンブル、こちらは名トロンボーン奏者にしてアレンジャー、Slide Hamptonの編曲になります。流石のゴージャスなサウンドが聴かれ、一層Groverのソプラノ・プレイが光ります。Hankのピアノソロがフィーチャーされ再びソプラノとアンサンブルによる後テーマ、脱力の境地といった演奏に終始しています。

6曲目はEden AhbezのナンバーNature Boy、Nat King Coleの歌唱やJohn Coltraneの演奏でも有名です。こちらもWillisのアレンジがスパイスを利かせており、メリハリのある構成を楽しめます。ピアノのイントロに続きルバートでのテーマ奏、その後ミディアム・スイングでソプラノのソロですが、レイドバック感とコードに対するスリリングな音使いが素晴らしいです。ドラムはNashに変わりますが、確かにこの手の曲想には彼のドラミング・テイストが似合っています。Hankのソロもツボを押さえた展開を聴かせ、ピアノソロ後にバンプが設けられ、再びルパートでラストテーマが演奏されます。

7曲目は5曲目同様にHamptonの6管アレンジが冴えるPlease Send Someone to Love、Groverのテナーがフィーチャーされます。マンハッタンのジャズクラブにて、メンバー全員がシックな正装でのヒップな演奏をイメージさせる豪華なサウンドです。コンパクトな中にジャズのエッセンスとゴージャスさが上手くブレンドされた、Groverのテナーの本質がよく表れている演奏です。

8曲目は再びColeのボーカルをフィーチャーしたStevie Wonderの名曲Overjoyed、Stevieの85年作品「In Square Circle」に収録されています。ColeとGrover両者のアレンジ、ピアノとソプラノが妖艶な雰囲気で美しくイントロを奏でます。オリジナルのStevieの声質が高めなので、ここではColeの歌声が随分と低く感じます。テーマの後ろでGroverの他、Hendersonのフリューゲルもオブリガードを吹いていますが互いに干渉や邪魔せず、ボーカルの引き立てに役に徹底しています。難しい音程のインターバルをCole果敢に歌ってはいますが、Stevieの完璧なピッチと比較してはいけませんね。ソプラノが歌のメロディを踏まえつつソロを取り、あと歌になります。元の曲の構成が十分に素晴らしいので、アレンジとは言ってもそれらのパーツを再構築した次元に留まっています。

9曲目こちらもムーディな名曲Flamingo、Willisのアレンジは早めワルツのリズムをチョイスしました。Groverはアルト、Hendersonがトランペットでメロディをシェアし、ソロを吹いています。ピアノソロ後にラストテーマへ。ラストの2管のアンサンブルが演奏に終止感を与えています。

10曲目Jeanie BrysonとColeふたりのボーカリストをフィーチャーしたバラードFor Heaven’s Sake、こちらはLincoln Center Jazz Orchestraの指揮者を務めたRobert Sadinのアレンジになります。ソプラノとピアノのDuoでイントロが始まり、ColeとBrysonが8小節づつ交互に歌い、サビでは4小節づつ、その後はColeが8小節を歌い、Groverの目一杯スイートなソロが半コーラス演奏され、フレーズの語尾をキャッチして後半をHankが演奏、あと歌はサビからBrysonが担当し、オーラスにはふたりユニゾンで歌っています。男女の声はおよそ4度異なりますが、ふたりの中庸を行くキーを選択したのでしょう。全編にMrazの堅実にして包み込むような、包容力に満ちたベースラインが健闘しています。

11曲目ラストを飾るのはEatate(In Summer)、GroverとWillisのアレンジになりますがボサノバのリズムで原曲に忠実に、特にキメやリハーモナイズは施されず、Groverのソプラノでのテーマ後ピアノ、ベースまでソロが聴かれます。ラストのバンプ部でフェードアウトになります。スタンダード・ナンバーを自身の作品で取り上げる機会が少なかったGrover、本作ではひたすらリラックスした雰囲気で演奏を繰り広げていますが、この後に「Winelight」他のパンチの効いた彼の作品を聴きたくなる衝動に駆られます。