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2020.05

2020.05.28 Thu

Hear & Now / Don Cherry

今回はトランペット奏者Don Cherryの77年リリース作品「Hear & Now」を取り上げてみましょう。Cherryのエスニック音楽と当時全盛だったフュージョン・ミュージックとの融合。共演者には時代の最先端ミュージシャンを揃え、摩訶不思議ですが深遠な世界を構築しています。

Recorded and mixed at Electric Lady Studios, New York City. Recorded: December, 1976 Mixed: January, 1977 Engineer: Dave Whitman Project coordinator: Raymond Silva Produced by Narada Michael Walden

tp, bells, conch shell, fl, vo)Don Cherry ts)Michael Brecker sitar)Collin Walcott tamboura)Moki Cherry g)Stan Samole, Ronald Dean Miller harp)Lois Colin key)Cliff Carter p, timpani, tom tom)Narada Michael Walden b)Marcus Miller, Neil Jason ds)Tony Williams, Lenny White, Steve Jordan congas)Sammy Figueroa per)Raphael Cruz vo)Cheryl Alexander, Patty Scialfa

インド風のエスニックなジャケットが印象的です。
菩薩坐像のように結跏趺坐の吉祥座で座り、宙に浮いています!

まずはDon Cherryのバイオグラフィーを簡単に紐解いてみましょう。36年11月Oklahoma出身、ほどなくLos Angeles, Californiaに移り、音楽一家の中で育ちました。高校の同級生にはBilly Higginsがいますが、彼とは後に歴史的作品でも共演することになります。50年代初頭にはピアニストとして(!)Art Farmerの伴奏も務めました。Clifford BrownがLAに来訪の際には、Eric Dolphyの家で(!)Brownとジャムセッションに興じたそうで、Brownは彼に一目置き面倒を見ていたようです。Cherryのトランペット・スタイルはこのBrownを筆頭にMiles Davis, Fats Navarro, Harry Edisonの影響を感じさせる、実はオーソドックスな王道を行くものであります。

Cherryが世に出るきっかけとなったのはOrnette Colemanのバンドに加入し、作品に参加したことに始まります。Ornetteバンドでの初レコーディングは「Something Else!!!!」(58年2, 3月)、Ornetteの初リーダー作でもあります。

そして60年12月、かの歴史的問題作「Free Jazz」のレコーディングに参加します。ステレオの左右に分かれたダブル・カルテットと言う編成も大変ユニークです。

発表当時には、それはそれはセンセーショナルな作品として、喧々諤々と論議を巻き起こしましたが、現代の耳ではかなり穏やかに聴こえ、喧騒や難解さを遥かに通り越してむしろ演奏を楽しむことが出来ます。演奏中ずっとインテンポ(ここが大切なポイントです!ルパートやノーテンポではこの手のサウンドの場合、途端に演奏が耳に入り辛くなります)で自由な即興を繰り広げていますが、明らかに互いを良く聴きつつの会話に徹し、要所に入るOrnetteの書いたメロディがアンサンブル引き締めています。参加ホーン・プレーヤーEric Dolphy, Freddie Hubbard, OrnetteそしてCherryの4人はいずれも自己の素晴らしいヴォイスを有し(各々音色がヤバイほどに素晴らしいです!)、各自の確固たるメッセージを発信しています。Charlie Haden, Scott LaFaroふたりのベーシストの(信じられないほどの美しい組み合わせです!)深遠な音色とビート、同時に演奏されるソロの役割分担とその多彩さ、スリリングさ。Billy Higgins, Ed Blackwellの決して音数がtoo muchにならずに繰り出すシンバル・レガートとフィルインのカラフルさ、そして豊かな伴奏感。ベースソロと同様に、ドラム二人同時ソロに於ける会話の能動、受動とその入れ替わり。これらから表現される音楽は明確な秩序に裏付けされたもので、もちろんBe Bopや Hard Bopではありませんが、もはやフリーなフォームのジャズには聴こえません。(10代の頃にジャズ喫茶で背伸びをして本作をリクエストした覚えがありますが、その時は全く理解不能でした!)。ここでの演奏の形態が以降、フリーか否かのスタイルを問わず、多くのジャズメンにどのように伝播し、展開して行ったのかを考えるのも面白いです。

「Free Jazz」録音を遡ること約半年、60年6, 7月、John Coltraneとのコ・リーダー・セッションである作品「The Avant-Garde」を録音しています。こちらもピアノレス・カルテットによる編成で、Haden, Blackwellをサイドマンに招き、選曲や内容はOrnetteの音楽性によるもので、CherryもOrnetteバンドでの如き演奏を聴かせています。要はOrnetteの代役としてのColtrane参加ですが、自己のスタイルを模索〜構築中の彼には自身の65年以降のフリーフォームのスタイルとは全く無縁で、当時の通常スタイルでのアプローチに徹しています。とは言え全体の演奏内容がその頃の諸作の音楽性とかけ離れていたからでしょう、リリースはColtraneがフリーに突入した66年まで先送りされました。

以降Cherryはフリージャズ旋風が吹き荒ぶ60年代をSonny Rollinsとの活動、またArchie Shepp, John Tchikaiから成るバンドNew York Contemporary Five、そしてAlbert Ayler, George Russell, Gato Barbieriらとの共演を通じ、決して旋風の風下には立たず、向かい風に対し果敢に乗り切りました。一つ感じるのは彼はフリーフォームの音楽を演奏してはいますが、フリーという形態を表現する上でどうしても前面に出がちなアグレッシヴさ、ハードさというパワーを駆使した演奏よりも、叙情性を掲げた演奏の方に重きを置く、言ってみれば「ロマンチック」「リリカル」な表現を信条とするフリージャズ・ミュージシャンと捉えています。この事が顕著に表れているのが78年録音作品「Codona」です。Cherryの他シタール、タブラ奏者Colin Walcott、パーカッション奏者Nana Vasconcelos、彼ら3人の頭文字を取ってバンド名、アルバム・タイトルが付けられました。Codona, Codona 2(80年), Codona 3(82年)と合計3作をリリースしましたが、いずれも美しい世界を表現しています。

時代は70年代に入り、60年代のベトナム戦争を筆頭とする混沌とした社会を反映したフリージャズの反動から、耳に心地よいサウンドが受け入れられクロスオーバー、そしてフュージョンへと移り変わって行きます。本作は卓越したドラマーとして、そして数々のヒット作をプロデュースしたNarada Michael Waldenをプロデューサーとして迎え、Cherryのユニークなオリジナルを中心に演奏しています。前述のCodonaに通ずるOne & Onlyな美の世界プラス、フュージョン、ハードロック、ファンク・サウンド。ここでの音楽が多くのオーディエンスに受け入れられるかと言えば難しいと思いますが、他の誰にもなし得ない世界を聴かせています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。曲によってドラマー、ベーシストが交替し、プロデューサーNarada自身がパーカッションやピアノ奏者として参加している場合もあります。1曲目はCherryのオリジナルMahakali、メンバーはドラムLenny White、ベースMarcus Miller、シタールColin Walcott、ティンパニNarada、キーボードCliff Carter、ギターStan Samole、そしてテナーサックスにMichael Brecker!彼の演奏がお目当てで本作を聴いた人もいると思いますが、僕もその一人です(笑)!録音された76年12月といえば楽器本体をSelmer Mark Ⅵ 14万番台Varitoneから6万7千番台へ、マウスピースをリフェイスされたOtto Link MasterからDouble Ring 6番に変えた直後です。Hal Galperの「Reach Out!」、Michael Franks「Sleeping Gypsy」両作とも同年11月録音で、70年代を代表するMichaelのトーンを堪能できます。

冒頭、効果音的にベルと念仏のような声、笛の音、シタール、タンブーラ、インド的なサウンド・エフェクト(SE)が満載です!そこにCherryのトランペットによるメロディが加わります。少し間をおいてMichaelのテナーも参加しますが、Cherryのサウンドやカラーを踏襲しつつ、次第にMichaelのテイストが主流となり、細かく複雑なテクニックを駆使し、しかしごく自然に、エグエグの音色で歌い上げます。その後被るように再びCherryが加わり、トランペットのメロディがきっかけとなってベース、ドラムがリズムを刻み始め、その後まるでミュージカルのオーヴァーチュアのような派手なヴァンプ、そしてSamoleがリードギターを担当しヘヴィ・メタル・ロックバンドの如きテーマ・メロディ!これはインドからいきなりメタルの本拠地英国にワープしましたね(笑)!トランペットソロは柔らかい音色で豊かなニュアンス、フリーブローイングMilesのテイストも感じさせつつ短めに終え、Michaelにバトンタッチしました。リズミックにタイトにソロを開始、2拍3連符で助走をつけ、高音域フラジオB音〜D音が確実にヒット連発したあたりでCherryが絡み、ソロ同時進行、Samoleのギターも乱入し、MarcusとWhiteのコンビとも絡み合ったところでテーマが再登場、おそらく全員で雄叫びをあげているようで、全く聴こえはしませんが、Naradaのティンパニもさぞかし暴れていることでしょう(爆)!Cherry, Michael, Samoleの3人が核となり、フェードアウトに向けて更にバーニング!

2曲目はCherryとSherab-Barry Bryantの共作によるナンバーUniversal Mother、ベースNeil Jason、ドラムSteve Jordan、キーボードCliff Carter、ギターStan Samoleらが核となり、ハープ Lois Colin、そしてCherryのナレーションとミュート・トランペットが加わります。JordanとJasonの繰り出すファンク・リズムの心地良いこと!Cherryのモノローグに様々な楽器が絡み合う形で音楽が進行します。

3曲目CherryのオリジナルKarmapa Chenno、コオロギの鳴き声のSEに始まり、Cherryの話し声、手拍子、パーカッションからリズムがスタートします。1曲目同様Lenny White, Marcus Millerのリズム隊にSammy Figueroa, Raphael Cruzのコンガ、パーカッションが加わり、より厚いグルーヴを聴かせます。Cherryのトランペット・ソロは伸びやかなテイストから、ハイノートも用いてアグレッシヴさも表現しようとしています。曲中何度か出てくる印象的なメロディは、女性コーラスとシンセサイザーのアンサンブルで演奏されます。ここでもSamoleの巧みなギターがフィーチャーされますが、George Bensonを彷彿とさせるクリアーなピッキングとラインが印象的です。その後パーカッション隊のソロ、そしてスティールドラムをイメージさせる、多分シンセサイザーによるメロディ、大勢の人間によるアプラウズ、再びCherryの朗々としたトランペットが登場しFade Outです。

4曲目以降はレコードのB面に該当し、1曲ごとの演奏時間が短くなり収録曲数が増えています。CaliforniaもCherryのオリジナル、波の音のSEからスタートしますが、幼少期を過ごしたCaliforniaの浜辺のイメージでしょうか。ここでのドラマーには何とTony Williamsが登場!同年6月録音のリーダー作「Million Dollar Legs」をリリースしたばかりで、ジャケ写にも表れていますが(笑)、脂が乗り切っておりベースJasonとパーカッション隊でこれまた素晴らしいグルーヴを聴かせています。メロウなトランペットのメロディとソロ、ギターとのユニゾンのメロディ、そしてこの曲でもSamoleに思う存分弾かせているのが、夏の陽射しの様な暑さを感じさせます。エンディングにも波の音のSEが入り、去り行く夏を思わせる仕立てになっているのでしょう。

5曲目Cherry作のBuddha’s Blues、曲想からするとBuddhaは随分とファンキーな方のようです(笑)、前曲と同じメンバーでの演奏になり、トランペット演奏の間にCherry自身のフルートがフィーチャーされていますが、いささかご愛嬌の次元です(笑)。Jasonの強力なスラップ、Tonyのヘヴィーなグルーヴ、Carterのピアノのタッチの素晴らしさ、Figueroa, Cruzのパーカション隊を含むリズムセクションのバックアップにサポートされ、CherryはエレクトリックMilesのようなテイストで演奏しています。

6曲目CherryのオリジナルEagle Eye、CherryのフルートとFigueroa、Cruzの3人だけで、1分に満たない短い演奏を聴かせます。

7曲目NaradaのオリジナルSurrender Rose、さすがの美しいナンバーです。彼は85年Aretha Franklinのアルバム「Who’s Zoomin’ Who」収録のナンバーFree Way of Loveへの楽曲提供と演奏を行い、グラミー賞最優秀楽曲賞に輝きました。John McLaughlin Mahavishnu Orchestraに在籍していた事もある超ド級ドラマーにして、メロディアスなコンポーザーでもあります。Narada自身がエレクトリック、アコースティック・ピアノ、そしてタムタムも演奏しています。ドラムJordan、ベースJason、Samoleのギター、Colinのハープ、女性コーラスまで加わり、Cherryのトランペット・プレイのスイートな面を上手く引き出していて、まるでHerb Alpertのような世界を表現しています!この曲が本作の1曲目に位置していても良かったのではと思うのは、Don Cherryがフュージョンを演奏しました、と明確に宣言できる内容を持っているからです。1曲目のMahakaliの演奏であまりにも強力におどろおどろしさを築いてしまい、作品のコンセプトがぼやけてしまったと感じています。

Aretha Franklin「Who’s Zoomin’ Who」

8曲目は3つのパートから成る組曲a.Journey of Milarepa、b.Shanti、c.The Ending Movement-Liberation。Jason, Jordanのリズムコンビにパーカッション隊、Samoleのギターが加わります。まずパーカッションとエレクトリック・ピアノのイントロからトランペットの演奏、次第にドラムのバスドラが加わりベース、ギターが参加し、Samoleにソロを取らせます。パーカッションとドラムのコンビネーションが実に心地よいですね。トランペットとギターが絡み合いながら曲が進行します。次第にリタルダンドを迎え、笛の音が聴こえ始めますが、インタールード的な部分、ここからがb.Shantiに該当するのでしょう。パーカッションの音に被ってドラムがリズムを刻み始め、ベース、ギター、キーボードが加わりトランペットのメロディが始まります。ここがc.The Ending Movement-Liberationに該当すると思われます。Samoleのオリジナルで、ギターのアルペジオに被りトランペットが高音を吹きFineです。

2020.05.18 Mon

Meru / Dick Oatts & Dave Santoro Quartet

今回はサックス奏者Dick Oattsとベース奏者Dave Santroのカルテットによる1996年作品「Meru」を取り上げたいと思います。

Recorded in Boston by Peter Kontrimas, May 1996 Produced by Sergio Veschi Label: Red

ts, ss)Dick Oatts b)Dave Santoro p)Bruce Barth ds)James (Jim) Oblan

1)Pale Blue 2)Creeper 3)Heckle and Jeckle 4)South Paw 5)Meru 6)Lasting Tribute 7)Osmosis 8)Leap of Faith

Dick Oattsは53年4月米国Iowa州Des Moines出身、父親の同じくサックス奏者Jack Oattsに影響を受けサックスを始め、高校卒業後ほどなくThad Jonesに招かれThe Thad Jones/Mel Lewis Orchestraに加入することになり、New Yorkに拠点を移します。Thad/Melで始めはテナーサックス奏者として、のちにリードアルト奏者として、その後Thad/Melを母体としたVanguard Jazz Orchestraの中心人物、同じくリードアルトとして活躍しています。リーダー、コ・リーダー作を20枚以上、Thad/MelとVanguard Jazz Orchestraを含めてやはり20作以上リリース、サイドマンとしても様々な作品に参加しています。譜面が超強い上にアドリブもバッチリ、彼がバンドにいる事により他のメンバーに刺激を与え、推進力になり得る高度な音楽性と人間的包容力、存在感を兼ね備えていますから、それは引く手数多です!

アルトサックス奏者として有名なOattsですが、本作では1曲ソプラノを吹く以外は全曲テナーサックスを吹いており、テナー奏者としてのOattsに焦点が当てられています。しかしながらCDジャケットにはアルトを吹いている写真が使われ、彼自身のThad/Melでのリードアルト奏者としてのイメージと重なり、本作もアルトサックスでの演奏と誤解を与えてしまいますが、細かい事には拘らない陽気なラテン系Italy, MilanoにあるレーベルRedからのリリースなので、これは致し方ないことかも知れません(汗)。

Dave Santoroは現在Berklee音楽院で教鞭を執っており、Steve Grossman, Bob Berg, Sal Nistico, Pepper Adams, John Scofield, Mick Goodrick, Mike Stern, Randy Westonとの共演歴があるベテラン・ベーシストです。代表作としてJerry Bergonzi, Adam Nussbaumとの93年ライブレコーディング・トリオ作品「Dave Santoro Trio」があります。

本作はOattsとSantoroが4曲づつ提供し、全曲二人のオリジナルから構成されていますが、Oattsは小気味よいほどに吹きまくり、リズムセクションと素晴らしい一体感、グルーヴを示した熱演を繰り広げています。あまり知られていない作品ですので、いわゆる隠れた名盤の部類に入るでしょう。ピアニストBruce Barthは58年9月California出身、10作以上のリーダー作をリリースする他、Bergonziのバンドのレギュラーとしても活動しています。ドラマーJim OblanはCDクレジットによれば本作がデビュー演奏になるようで、思い切りの良い清々しい演奏を聴かせていますが、残念ながらその他のバイオグラフィーを紐解く事は出来ませんでした。

それでは早速収録曲に触れて行きましょう。1曲目SantoroのナンバーPale Blue、速いテンポのスイングナンバーで、曲の傾向とコード進行の複雑さからJohn ColtraneのGiant Stepsをイメージします。それにしてもOattsの音色といったら!深みを感じさせるダークなテイスト、付帯音豊かな倍音が鳴り響き、「コーっ」という木管的な音が聴こえます。低音から高音域までイーヴンな統一感あるサウンド、コク、全てがバランス良くまとまり、ひとつの美的音塊として成立していて超好みな音色(ねいろ)です!!この音はアルトを主体としたサックス奏者のものではなく、テナーをメインとした奏者が出す極太系トーンに聴こえます。もしかして普段アルトをメインに吹いているにも関わらず、このテナーサウンドを出せているのかも知れませんが、とすれば全く身体の鳴り方が違うのでしょうね。16小節1コーラスのテーマは2ビート・フィールで始まり、すぐさまスイングへ、4人が繰り出すリズム、グルーヴが実に緻密に合わさり、絡み合い、高級なつづれ織りをイメージさせ、経(たて)糸の下に図案を置き=リズムセクションの奏でるビート、色糸、金銀糸の緯(よこ)糸が織り込まれている=フロントのソロ、の如しです。Oattsは張り巡らされたコード進行の包囲網を見事なほどに的確にくぐり抜け、あたかもシンプルなコード進行のスタンダード・ナンバーでの演奏の如きに、易々とストーリーを提示しながらリズムセクションを伴いホットに、クールに歌い上げています!続くBarthのピアノソロもOattsと遜色なく、いや、もしかしたらそれ以上のストーリーとインタープレイを提示しています!タイム感が素晴らしいですね!それもOblanの柔軟さが半端ないシンバルレガートと、Santoroの粘りあるベースラインとのコンビネーションが支えているからでしょう。そのSantoroの短いベースソロ後にラストテーマを迎え、オープニングに相応しい快演となりました!

2曲目もSantoroのナンバーでCreeper、60年代のBlue Note Labelの作品でよく耳にするリズム・パターンから成る曲ですが、コードのチェンジが尋常ではありません!敢えてそこには行かないだろう、と狙ってコード付けしたかのようなトリッキーさ、でも作為的ではない自然さと斬新さも感じます。Santoroの作曲のセンスには注目すべきでしょう。難易度のハードルを上げられたメンバーですが、まずOattsの辞書には難しい、とか手を焼く、と言った単語は記載されていないようで(爆)、実にクリエイティヴなソロを展開しています。レイドバック感と相反するフレージングのスピード感、Joe Henライクなテイスト、そう言えば音色とフレーズのこぶし回しが誰かに似ていると思ったら、Jerry Bergonziですね!音の質感に共通するものを感じます。実際二人の共演作があります。共同名義で09年「Saxology」(SteepleChase)

熱いツー・テナーのバトル演奏を期待しましたが、残念ながらOattsは全曲アルトを吹いています。しかしピアノレスの編成、加えて知的で高度な演奏を信条とする二人ゆえ、Lee Konitz ~ Warne Marshのメロディライン、サウンドを感じさせるLogicalなプレイとなりました。ちなみにベースはここでもSantoroが担当します。

次のソロイストに繋げるべくドラムの潔いフィルが聴かれ、ピアノも難しいコード進行を触媒としつつ、緻密なストーリーを展開し、様々なリズムのアプローチを用いてリズムセクションとのインタープレイを誘発します。続くベースソロもテクニカルでありますが、コンポーザーとしてのイメージを十二分に伝える事に成功しています。ラストテーマでのドラムのカラーリングは初めのテーマよりもずっと多彩に表現されていますが、ソロイストたちが繰り広げた演奏の充実ぶりが成せる技に違いありません。

3曲目はOattsのオリジナルHeckle and Jeckle、いきなり変態系のテーマです(笑)。ですが場面をリフレッシュさせる問答無用の説得力を感じます。曲のフォームはアップテンポのブルース進行、テーマ後はピアノがバッキングせずにサックストリオの演奏で突っ走ります!立て板に水、巧みなタンギングによるスインギーな8分音符を用いて繰り出されるフレーズは、実にスポンテニアスです!待ってました!とばかりに、弾くのを止めていたピアノのソロが始まります。テーマの変態さをしっかりと念頭に置き、これまた超絶アドリブを展開します。ベースソロを受け継ぎ、カラフルなドラムソロが本作Oblanの「Introducing」、とは感じさせない音楽な成熟度をアピールします。ラストテーマにも更に一捻りの変態系が待ち受けていました(笑)。

4曲目もOattsのナンバーでSouth Paw、陽気さの中に潜む危なさや毒気を感じさせる佳曲です。テーマは始めピアノレスで演奏され、途中からバッキングが効果的に加わります。ベース、ピアノとソロが続きOattsまでソロが回りますが、複雑なコード進行の曲を書いた当事者として、しかり”けじめ”のある演奏を行い、落とし前をつけています。その後曲のフォームの中でのドラムソロがあり、所々にアンサンブルが入るため緊張感が持続しつつ、ラストテーマへ。

5曲目Santoroのナンバーで表題曲Meru、ユニークなドラムのイントロからテナーとデュオによるテーマ、一転してアップテンポのスイングへ、これまた哀愁に満ちたメロディとコード感、タイトルナンバーにふさわしいムードを持った曲です。Barthも快調に飛ばし、ポリリズムをふんだんに取り入れたスリリングな演奏を聴かせますが、一瞬の間がありここぞと言う所でOattsが入ってきます。リズム隊もOattsがどこまで自分たちを音楽的な高みに誘ってくれるのかを待ち望んでいるのでしょう、サックスソロに一触即発で盛り上がっています!この曲もコード進行が尋常ではない筈ですが巧みにソロを構築し、やはりほど良きところでドラムソロに突入します。強力な個性が有るわけではありませんが、イマジネーションを大胆に膨らませテクニカルで熱いソロを聴かせます。ラストテーマ、アウトロでの表現も曲想の自然な発展形です。

6曲目OattsのナンバーLasting Tribute、様々な要素を織り込んだ、しっとりと言うよりは雄弁さを感じさせるスローバラードです。メロディに対するリズムの仕掛けも効果的に設けられ、メリハリを感じさせます。テーマの後はピアノソロ、バラード時に表現すべき抑圧されたピアニシモでのアプローチの的確さが光っています。続くOattsのソロは高音域での音色の美しさを生かしつつ、リリカルに歌い上げています。明確にはラストテーマを提示せずにリタルダンド、テナーのカデンツァが聴かれ、楽器を上から振り下ろした風で一瞬オフマイクになり、アテンポでヴァンプが演奏されFineです。

7曲目8分の6拍子のリズムからなるSantoroのナンバーOsmosisは、ソプラノサックスとピアノのユニゾンによるテーマメロディが印象的な佳曲。OattsのソプラノといえばVanguard Jazz Orchestraのリード奏者での活躍ぶり、Groove Merchant他、彼なくしては演奏が成り立たない曲のサウンドが耳に残っています。ソロの先発はSantoto、テーマの8分の6拍子・リズムフィギュアを用いて流麗に歌い上げています。続くソプラノのソロ、おそらく録音に際してベル先端部分の成分を収録しておらず、キー上部の成分がメインの音色です。丸さが目立ち、個人的にはどちらかと言えば先端部の成分が配合された、よりエッジーなソプラノの音色が好みです。ソプラノの録音方法はアルトやテナーに比べると難しいと言われ、ベル先端部とキー上部の両方の成分が混ざり合うブレンド感が大切です。Oattsの流麗なソロの後Barthもイメージを引き継ぎつつ、後もう少しで壊れそうな瞬間を迎えますがラストテーマへ。

The Vanguard Jazz Orchestra / Thad Jones Legacy
99年録音、Groove Merchant収録

8曲目ラストを飾るのはOattsのナンバーでLeap of Fish。本作中最速の演奏、ドラムのイントロから始まる、長い音符を生かしたテーマとシンコペーションを伴う複雑なコード進行、これまた凝り懲りのオリジナルです!テーマ後一変してファスト・スイングへ、先発Barthのタイトでスピード感溢れるフレージングは本作の白眉の一つですが、リズムセクションはその後に続くOattsとのバーニングに備えて、余力を残しているかのように抑え目に聴こえます。案の定Oattsのソロはダイナミックな展開を見せ、必然性を伴いOblanのドラムとデュオへ!低音域のエグエグ感、まるでJewish系テナー奏者のモーダルなアプローチを聴かせ、しかもコンパクトにまとめられ実にカッコイイです!ドラムソロも柔らかさ、しなやかさを掲げつつ熱いジャズスピリットを聴かせます!ラストテーマの大きく、たっぷりとした感じが、それまでの細かなフレージングやインタープレイとの絶妙な対比となり豊かな音楽性を表現していると思います。

2020.05.12 Tue

Bluesy Burrell / Kenny Burrell with Coleman Hawkins

今回はギタリストKenny Burrell62年9月レコーディングのリーダー作「Bluesy Burrell」を取り上げたいと思います。名テナーサックス奏者Coleman Hawkinsが7曲中4曲フィーチャーされています。

Recorded: September 14, 1962 at Van Gelder Studios, Englewood Cliffs, NJ Label: Moodsville Producer: Ozzie Cadena

g)Kenny Burrell ts)Coleman Hawkins(tracks 1, 4, 5 & 7) p)Tommy Flanagan b)Major Holley ds)Eddie Locke congas)Ray Barretto

1)Tres Palabras 2)No More 3)Guilty 4)Montono Blues 5)I Thought About You 6)Out of This World 7)It’s Getting Dark

Kenny Burrellは31年7月生まれ、現在も精力的に音楽、教育活動を展開しているギター奏者です。リーダーアルバムを70作以上リリースしている多作家で、本作は彼の18作目に該当します。本Blog今年の1月に投稿したJoe Hendersonの「Canyon Lady」の際にも本作を紹介しましたが、冒頭ラテンの名曲Tres Palabras収録が共通し、演奏形態は全く異なりますがいずれも心に残る名演奏です。本作ではColeman Hawkinsをソロイストとしてフィーチャーしつつ、他の収録曲もソロギター、ギタートリオ、カルテット、コンガをフィーチャーした演奏、Major Holleyのスキャットなど、バラエティに富んだ作品でBurrellの代表作の一枚に挙げられます。

本作録音の1か月前、62年8月録音のHawkins作品「Hawkins! Alive! at the Village Gate」は彼のカルテット名演奏として誉れ高いライブ作品ですが、メンバーが本作と全く同じで、Burrellと曲によりコンガ奏者Ray Barrettoが参加した形になります。

ジャズ史において既存のバンドやメンバーにちゃっかりとヤドカリのように(笑)加わって、作品を録音した例は過去にもありますが、例えば以前Blogで紹介したDizzy Reeceの「Comin’ on!」でのArt Blakey & the Jazz Messengersのリズムセクション、Art Pepperの代表作「Meets the Rhythm Section」で当時のMiles Davis Quintetのリズムセクションの起用、Joe Hendersonと同じくMilesのリズムセクションだったWynton Kelly Trioとの共演作「Four」「Straight, No Chaser」の2作。既存のバンドのメンバー、しかも経験豊富にして高度な音楽的レベルを有するリズムセクションと、同じく優れたフロントが共演するのは往々にして功を奏し、レギュラーとは異なったテイストの演奏を展開します。違った個性同士がケミカルに作用するのでしょう。

Hawkinsは62年にこのカルテットのメンバーで他に4作、合計5作(!)の録音、リリースを行っています。1月録音「 Good Old Broadway」、3, 4月録音「The Jazz Version of No Strings」、4月録音「Coleman Hawkins Plays Make Someone Happy from Do Re Mi」、前述の8月録音「Hawkins! Alive! at the Village Gate」があり、9月録音「Today and Now」。同一メンバーで年間5作という多作を許されるのはリーダーは勿論、バンドの演奏も素晴らしいが故。ミュージシャンの人気、人望も必須ですが作品が売れ、レコード会社として採算が取れるからです。多くの作品をリリース出来たのは時代が良かったのもありますが、今では夢のような話です。

62年の録音Hawkins絡みの6作、ピアニストは全てTommy Flanaganという事になります。そしてBurrellにとってもFlanaganはファーストコール、お抱えピアニストとして数多くリーダー作に於いて彼を招き、共演しています。記念すべきファースト・アルバム56年5月録音「Introducing Kenny Burrell」からの付き合いです。

Flanaganには絶大な信頼をおいていたのでしょうし、彼もそれに応えるべく本作でも眩いばかりにキラキラと光るタッチと、スリルに富んだアドリブライン、バッキングを自由奔放に聴かせています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Tres PalabrasはWithout Youという英語のタイトルが付けられたナンバー、その名の通り愛の唄ですね。Cuba出身の作曲家Osvaldo Farresのナンバーで、彼は他にもQuizás, Quizás, Quizásという名曲も書いています。Flanaganの弾く印象的なラテンのパターンからイントロが始まりますが、4拍目と1拍目に弾くベースのビートの力強さ、ドラムEddie Lockeはブラシを用い、Ray Barrettoが刻むクラーベのリズムと合わさり、ラテンのムードを醸し出しています。ジャズ屋のラテンですので(笑)、本職のラテンミュージシャンと異なり(彼らの8分音符は実にイーヴンです!)、8分音符がどうしても微妙にバウンスしています。味と言えば味なのですが。テーマはBurrellが奏でますが、実に音楽的です!微妙な強弱、ダイナミクスを伴い、細部に至るまで徹底した美学、歌心を感じさせます。それにしてもグッとくる美しいメロディですね!ソロの先発はFlanagan、イヤーこれまた素晴らしいアドリブです!まず感じるのは使う音のチョイス、そのセンスの良さです。緊張感を伴ったテンションの数々、そしてアドリブのストーリーを構築するにふさわしい、スパイスとなり得るラインの数々、メリハリの効いた様々な譜割から成るフレージングのバリエーション、巧みな歌い回しに聴き惚れてしまいます!Burrellのソロが比較的ダイアトニックで、コードに対してどちらかと言えばインサイドなアプローチが多いので、自分とは異なるFlanaganのプレイにさぞかし興味〜憧れ〜畏敬の念を抱いていた事でしょう。続くHawkinsのソロはまずテナーサックスの音色に惹かれます!ジャズテナーの開祖としての貫禄、風格を感じますが、一体こんな音はどうやったら出せるのかとも、考え込んでしまいます(汗)。ここではBenny GolsonやEddie “Lockjaw” Davisを感じさせるアプローチが聴かれますが、いや、出典はその逆でしたね!失礼しました!(笑)。Hawkinsの8分音符はCharlie Parker以前のスタイルなので、かなりイーヴンです。そういった意味ではラテンに向いているノリかも知れません。独特なラインの連続によるソロですが、深いビブラートとサブトーンを活かしつつ、豪快に歌い上げています。その後のギターソロは何処を切ってもBurrell印の巧みなソロ、正確なピッキングと端正な音符、おおらかな歌い方、ジャズギターの先駆者にして規範たるべき演奏です。ラストテーマに突入し、エンディングはイントロのパターンが再利用されます。

2曲目はスタンダード・ナンバーからNo More、Billie Holidayの名唱があります。2分弱の全編ソロギターでの演奏ですが、美しさと優雅さを感じさせ、巧みなコードワークが光っています。

3曲目もスタンダード・ナンバーGuilty、こちらはギタートリオでの演奏になります。ギターはイントロを含めた早い時点から倍テンポを感じさせる弾き方ですが、リズムセクションはバラードに近いミディアム・スロー感をキープ、テーマ後ソロに入りしっかり倍テン感をアピールし、ドラムが追従します。ベースは2ビートフィールですが、倍テンのグルーヴを感じさせるアプローチで対応しています。サビの最後はBurrell早弾きを披露し、ラストのAメロはリズム隊が次第にバラードに戻リ、コードワークが凝ったカデンツァを経てFineです。

4曲目はBurrell作曲のナンバーMontono Blues、先発にHolleyの登場です。ベースのアルコとハミングのユニゾンによるソロ、彼の十八番の奏法ですが何度聴いても素晴らしいですね!良い音です!Slam Stewartがこの奏法の先輩格にあたります。何とこの二人の共演作が2作あるのですが、文字通りダブルベースです(爆)!1作目は入手困難なので2作目の方をご紹介しましょう、81年録音「Shut Yo’ Mouth!」。Stewartの方はオクターブ高くハミングし、Holleyがベースと同じ音域でのハミングなのでその対比も面白く聴こえます。

続いてHawkinsのソロはリラクゼーションに満ちた語り口、スケールの大きさを感じます。この音色は間違いなくダブルリップ奏法による、ルーズなアンブシュアでなければ得られません!その後ギターとテナーのバトル、互いのフレーズを拾い合い、「おお、そう来たか、じゃあこんなのはどうだ?」的なカンバセーションを聴かせています。最後はFade OutでFineです。

5曲目はバラードI Thought About You、ユニークな構成による演奏です。冒頭Hawkinsのソロから始まり、テーマを演奏するのはBurrellのギターの方、Hawkinsはそのまま残って随所にオブリガードを入れていますが、Hawkinsのアプローチは一切原曲のメロディを感じさせないのが逆に新鮮です。テーマ後ソロは半コーラスHawkins、付帯音の権化のような深い音色、サブトーンの巧みさには楽器調整が完璧に為されている事まで伝わってきます!調整不足で何処かキーが空いていたら安定してサブトーンは出ず、自在にコントロール出来ませんから!その後ギターも半コーラス流麗にソロを取り、ラストテーマはHawkinsによる一瞬テーマのメロディを感じさせる風のプレイ、でもやはりBurrellが被さるようにテーマを演奏し、ラストはトニックを吹いたHawkinsにやはり被さり、Ⅳ-Ⅶ-Ⅲ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ-Ⅰと遠いコードから巡りルートに落ち着きました。それにしてもHawkinsはI Thought About Youのメロディを殆ど知らないのでは?とも演奏から感じましたが、録音前に「Hey, Bean(Hawkinsのニックネーム)、I Thought About You演奏するけどテーマ演奏して欲しいんだ」「Kenny, 悪いけど俺は全然知らないんだよ」「Really? じゃあ僕がテーマを弾くからオブリとソロを頼むね、コード進行は大丈夫かな?」「Yeah, 耳で感じ取るからさ」「OK, Bean!」のようなやり取りがあったと勝手に想像しています(爆)。

6曲目はスタンダード・ナンバーからOut of This World、ギター、ベース、ドラム、コンガのカルテット演奏です。小洒落たラテンのアレンジが粋な雰囲気です。ギターによるテーマ奏も肩肘張らないリラックスしたムードが曲調と良く合致しています。ブレークからソロに入り、ベースがスイングビートになりますが、ドラムとコンガはそのままラテンのリズムをキープしており、ユニークなグルーヴが展開されます。カルテットの筈でしたが、ピアノがバッキングでギターソロの途中から参加します。でも何故か途中で止めています。流麗でスインギーなギターソロが聴かれ、その後ギターとコンガの8小節バースが行われ、巧みなコンガソロが聴かれます。Barrettoはこの頃スタジオミュージシャンとして活躍し、Prestige, Blue Note, Riverside, Columbiaといった名門ジャズレーベルのハウス(お抱え)・パーカッション奏者として演奏していました。時代の先駆者はNew Yorkのラテンシーンの第一人者となり、その後は自ずと米国を代表するパーカッショニストとして、その名を轟かせる事になります。ラストテーマに突入し、エンディングのフェードアウト時に再びピアノがバッキングで加わっています。Flanaganに好きにやらせているBurrellも大物ですが、Flanaganは割と気まぐれなのでしょうか?(笑)

7曲目はBurrellのオリジナルIt’s Getting Dark、録音中に日が暮れて来たのでしょうね、きっと。フォームはブルースです。フルメンバーが揃い、ギターがブルージーなテーマを演奏します。ソロの先発をHawkinsが務め、スタイルとしてBopでもない、もちろんHard Bopのテイストは微塵もない、Swing?中間派?いえいえ、Coleman Hawkinsそのもの、の演奏を聴かせます。2番手はBurrell、Hawkinsの時とは一転してFlanaganがBurrellをバックアップすべく、リズミックなアプローチでサウンドを作ります。ギターソロの最後のフレーズを受け継ぎ、ピアノのソロが始まります。ここでもFlanaganはコードの奥に潜んでいる効果的な音使い、テンションを巧みに引き上げて用い、他とは違うテイストを聴かせています。ラストテーマは再びギターが演奏しますが、Hawkinsが離れた所からスネークインしてオブリを入れています。

2020.05.04 Mon

Stone Blue / Pat Martino

今回はギタリストPat Martino 98年録音のリーダー作「Stone Blue」を取り上げて行きましょう。全曲Martinoのオリジナルを素晴らしいメンバーと演奏した意欲作です。

Recorded: February 14 and 15, 1998 at Avatar Studios, NYC / Additional Recording on February 22 at Skylab Studio, NYC Label: Blue Note(BN 8530822) Produced by Michael Cuscuna & Pat Martino

g)Pat Martino ts)Eric Alexander key)Delmar Brown el.b)James Genus ds, per)Kenwood Dennard

1)Uptown Down 2)Stone Blue 3)With All the People 4)13 to Go 5)Boundaries 6)Never Say Goodbye 7)Mac Tough 8)Joyous Lake 9)Two Weighs Out

Pat Martinoは1944年8月Philadelphia生まれ、父親の影響で音楽に興味を持ち、12歳でギターを始め、早熟な彼はNew Yorkに移り住んでから15歳で既にプロ活動を開始しました。 Lloyd Price, Willis Jackson, Eric Kloss, Jack McDuffらと共演を重ね、67年5月22歳の若さで初リーダー作「El Hombre」を録音しました。

この時点で既にギターという楽器をとことんマスターしているのでしょう、正確無比でエッジーなピッキング、そこに由来する端正な8分音符、のちに比べれば比較的オーソドックスですが、それでもオリジナリティなラインの萌芽を十二分に感じさせるソロの方法論、アドリブにおける誰よりも長いフレージングとそのうねり具合、大きなリズムのノリ、レイドバック、スイング感、申し分のないニューカマーの登場です!多くの同世代、後輩ギタリストたちGeorge Benson, John Abercrombie, John Scofield, Mike Stern, Emily Remler, etc多大な影響を与えたカリスマ・ギタリストのひとりに位置します。また独創的なインプロビゼーションのライン、方法論について自身は「形式的なスケールを使うのではなく、いつも自分の旋律の本能に従って演奏してきた」と発言しており、形にとらわれないその天才ぶりを伺わせます。ところが76年に脳の病気を発症し、80年に脳動脈瘤手術を受け、手術自体は成功しましたが、音楽的キャリアの記憶を一切無くすと言う悲劇に見舞われました。復帰するためになんと全くのゼロからギターを演奏することを強いられたそうです。親族の支えなどがあり奇跡的に復活を遂げ、87年にライブ盤「The Return」をレコーディングしました。

発症前に12作をレコーディングしていますが、復帰にあたりさぞかしそれらを聴き返した事でしょう、全く他人の演奏に聴こえたかも知れません。自分の演奏を自らコピーして記憶の彼方にある断片と照らし合わせて、いや、もしかしたらそれすらも得られなかったかも知れません。知る由もありませんが、今までとは異なる演奏スタイルという選択肢にもトライしたかも知れません。しかし執念の一言に尽きるでしょうが、数年間のリハビリの末にかなりのレベルまで以前のPat Martinoを取り戻すことが出来たのです。

本作は復帰後に録音された作品ですが、収録されているMartinoのオリジナルはいずれもが佳曲、共演者もコンセプトに臨機応変に対応しています。もうひとりのフロント・ヴォイスであるテナーサックスEric Alexanderの参加がジャズ度を高めています。George Colemanのテイストを感じさせる、王道を行くテナーの音色はOtto Link Florida Metalマウスピースならではの発音、サウンドで、端正な8分音符からなるフレージングは安定したタイム感と合わさり、破綻を来す事が無い超安定走行です。彼とは2度ほど共演した事がありますが、ナイスでお茶目な人柄、長身でイケメンの風貌もあり、周りの取り巻きが放っておかず、本人もファンを大切にしているので、演奏後も彼らでずっと話し込んでいたのが印象的でした。James Genusはアコースティック・ベースも堪能でMichael Brecker Quartetでの超絶演奏も光りますが、本作ではFodera社製の6弦エレクトリック・ベースを縦横無尽に駆使し、素晴らしいサポートを聴かせます。GenusとはThe Brecker Brothers BandのBlue Note Tokyoライブ時に楽屋で話をした事があります。明るく気さくに受け答えをしてくれた、素朴な感じのあんちゃんでした(笑)。ドラマーKenwood Dennardとは2007年2月20日、NYC 43rdにあるTown Hallで行われたMichael Brecker Memorial、同年1月13日に逝去したMichaelのお別れの会、ここで僕が着席したミュージシャンズ・シートの隣に偶然居合わせました。ちなみに斜め向こうにはPeter Erskine夫妻が着席、その近くにはWill LeeやMike Mainieri、Pat Metheny、Herbie Hancock、Brad Mehldau、Mark Egan、Buster WilliamsやWayne Shorter、大野俊三氏の姿も…とざっと見まわしただけでも凄い数のミュージシャン、しかもジャズシーンの最先端ばかり!さすがMichael Breckerの「送る会」です!ステージ側からミュージシャン席の写真が撮られていたのならば、1958年Art Kaneがハーレムで撮影した有名なジャズミュージシャンの集合写真2007年版になるに違いありません!

「A Great Day in Harlem 1958」サックス奏者ではBenny Golson, Coleman Hawkins, Gerry Mulligan, Sonny Rollins, Lester Yougら錚々たるメンバーが!他の楽器奏者でもモダンジャズを代表するミュージシャンが計57人!

Dennardは遠くからこのお別れ会を目指して来たのでしょうか、大きな荷物を抱え、補聴器を付けていたのが印象的でした。さらにセレモニーが佳境に達した頃に、Herbie HancockとMichaelの遺族がステージに現れた仏壇に向かって(客席には背をむける形で)「NAM MYOHO RENGE KYO〜南無妙法蓮華経」と念仏を唱え始めると、彼も一心不乱に手を合わせてお経を唱え始めました!僕の周りの参列者も軒並み念仏を唱えているので、ここは一体何処?亡くなった方とお別れをするので当然と言えば当然なのですが、日本ではなくManhattanのど真ん中のはずなのに、と実に不思議な気持ちになった覚えがあります。米国では仏教もone of themなのでしょう。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目Uptown Down、随所にファンクが挿入されるアップテンポのスイングナンバー、メロディもキメもメチャクチャヒップでイケてます!うん、カッコイイ!これはエレクトリックベースの必然性を感じさせますね。ファンキーなテイストを掲げていますが曲の構成、音楽の構築感が半端なく実に理系です(笑)。0’41″の Martinoが弾いたコード、エグくて堪りません!テーマでのDennardのカラーリングのセンス、バッチリです! Genusのon top感がグーです!先発Martinoのソロ、ブレーク後半シングルノートの弾き伸ばしは作為的?偶発的?でしょうか、いずれにせよ椅子に座りながら聴いていていて思わず腰が浮いてしまいます!病に倒れる前の演奏クオリティに遜色ありませんが、唯一タイム感のルーズさは否めません、しかしラインの独創性には一層磨きが掛かっています!Delmar Brownのキーボードによるバッキングがこの演奏に支配的なサウンドをもたらしています!続くAlexandarのソロ、ブレークからキメています!リズム隊の完璧な着地によりピックアップ・ソロがいっそうキリリと引き締まっています!短いながらも巧みなストーリー展開で、サイドマンとしての役割、立場を踏まえつつ、しっかりとした主張を展開しています!いつものハードバッパー然としたアプローチに加え、曲想に合致したファンキーでホンカーライクなテイストが素晴らしい!その後ラストテーマには全く自然に、小気味好く突入しています。アルバムの冒頭にふさわしいキャッチーな楽曲に仕上がりました!

2曲目表題曲Stone BlueはMartinoが愛してやまないNYCに捧げられたオリジナル、実際の雑踏でのサウンドエフェクト(SE)が演奏に被って挿入されています。たっぷりとしたグルーブを持つ3拍子のファンクナンバー、Dennardのグルーヴは水を得た魚状態、ズッシリとしてスピード感が備わっています。SEは引き続き大胆に用いられギター、テナーソロをまさにその場で聴いて反応しているかの如きリアクションも聴かれます。テーマに引き続くパーカッションの鳴り響き方、狙っていますね!先発のギターソロに対するDennardのアプローチは実に音楽的、Martinoとは現在まで3作演奏を共にしていますが、音楽的テイストに共通するものを感じます。Alexanderのソロのバックでも同様に適確なリアクションを行い、巧みに盛り上げています。テナーソロの後ろで聴こえる高笑い、フリーキーにまで盛り上がった際のサイレンの音、フレーズにハマり過ぎですね!この曲でもキーボードが影のバンマス的にサウンドを彩っています。

3曲目With All the People、ギターのメロウなメロディとシンセサイザーが美しくイントロを奏で、一転してファンクのリズムで曲が始まります。いや〜、良い曲ですね、Martinoの音楽的ルーツに根ざしている旨、ライナーに自身が書いていますが、僕自身の音楽的ルーツにも全く同様で、The CrusadersやNative Sonのテイストを感じさせます。テーマ後ワンコードでソロが展開しますが、DennardとGenusがここぞとばかりにセンシティブに、かつ大胆に盛り上げて行きます。ワンコードでのアプローチ、実は最もリズム隊の手腕が問われる演奏形態だと思います。その後サビのコード進行ではスイングになり、メリハリを利かせています。ここでもキーボードがやはり裏方に徹してサウンドを提供していますが、ややラウドな傾向にあると感じます。引き続くテナーソロでは一層深遠なインタープレイ、グルーヴの一体感を聴かせ、ラストテーマ、エンディングはイントロに戻りフェードアウトです。

4曲目13 to Goのタイトル付けはレコーディング前日のリハーサルが13日の金曜日だったからそうです(笑)。重厚なグルーヴのスイング、ミディアム・テンポですがエレクトリックベースでの演奏だからでしょうか、軽さと捉えるべきか、軽快さとするべきか、アコースティックベースでの演奏とは趣が異なります。ユニークなメロディに引き続き先発はテナーソロ、豪快で巧みな演奏を聴かせますが、ある種の枠の中で演奏しているというか、箱庭の中でのデコレーションは上手いと感じるのですが、臨機応変に、より大胆なアプローチの違いが聴きたくなってしまいます。ギターソロに受け継ぎ、その後キーボードソロが初めて聴かれますがなんと大胆で壮絶なソロでしょう!サウンド・コーディネーター的立場のBrownが実はメンバー中もっともアグレッシブじゃあないですか!受けて立つDennardの暴れっぷりからもその凄まじさが伝わってきます!Genusはキープに回っていますがニヤニヤしながら演奏している顔つきが見えて来そうです!トリッキーなバンプを経てラストテーマに向かいます。

5曲目BoundariesはMartino自身が初めて作曲するタイプの楽曲だそうで、かなり凝った構成のファンク・チューンです。Dennardのドラミングが重要なファクターとなり、曲が進行します。先発のMartinoはシングルノートを駆使し独自のサウンド・ワールドをこれでもかとアピールしており、面目躍如の巻です!続くAlexanderのソロも本作中最もバーニング、ここまで弾けたプレイをするとは知りませんでした!Dennardとの丁々発止も聴きものです!エンディングも意外性があり、難曲を完成させた達成感がタイトルに表れています。

6曲目Never Say Goodbyeはレコーディングの少し前、97年12月2日に交通事故で亡くなった友人のロック・ギタリストMichael Hedgesに捧げられたナンバー、全編ギターとシンセサイザーのデュオで厳かに演奏されます。サウンドからHedgesの人柄を垣間見る事ができ、Martinoとの人間関係の深さも感じることが出来る美しい演奏です。

7曲目Mac Toughもヘビーなファンクのグルーヴが魅力のナンバー、ゴスペルライクなピアノのイントロからスタート、4度進行のコード進行も設けられ、ワンコードに対してのバランスが取られている構成です。先発ギターソロは曲想のファンキーさを踏まえながら、4度進行の部分では巧みなMartino節を披露しています。テナーソロのサブトーンを生かしたファンキーな節回しには、Stanley Turrentineを彷彿とさせるものを感じます。キーボードも短めのソロを繰り広げ、各人1コーラスづつの顔見世興行的演奏になりました。エンディングでのスポークンワードはBrownによるものでしょうか?

8曲目Joyous Lakeは病に倒れる前、最後の作品になった作品76年9月レコーディング「Joyous Lake」収録の表題曲です。Brown, Dennardのふたりも参加しているので再演になりますがJoyous Lakeはバンド名でもあり、Martinoが病に臥す事なく演奏を継続的に行えたら、レギュラーバンドとして活躍していたのでないかと思います。本作はJoyous Lakeの延長線上にあると言う事になります。フュージョンテイストを感じますが録音当時の時代のなせる技、今回テナーサックスを加えて演奏した事で、メロディラインがくっきりと浮かび上がり、名曲ぶりが一層冴えることになりました。演奏時間13分を越す本作中最長のテイクになります。初演より幾分テンポが遅く設定されており、Genusのベースラインの躍動感、 Dennardのグルーヴ、Brownのバッキングが実に気持ち良いです!随所にシンセサイザーでのSEが施されていて曲の雰囲気作りに大いに貢献しています。先発Martinoは存分に自分の唄を披露し、ラインの独自性を発揮しています。テーマメロディが美しいので、インタールードで何回か再利用されても全くくどくありません!続くAlexanderはスペーシーな導入からソロを開始、いつもの50~60年代のテイストから踏み出そうと、チャレンジしているようにも聴こえます。Brownのぶっ飛び系のアプローチはここでも冴えを聴かせ、Hancockライクなリズミックフレーズを繰り出しています。ラストテーマを経て曲想に相応しいエンディングを迎え、壮大なストーリーは大団円にて終了です。

76年録音「Joyous Lake」

9曲目ラストのナンバーのTwo Weighs Outは1曲目Uptown Downのテーマを超コンパクトにまとめ、異なるラインも付加したエピローグ的ナンバー。作品に統一感をもたらす手法の一つと言えましょう。ロックのミュージシャンが用いることが多いですが、ひょっとしたらUptown Downのテーマが2案あり、out takeとなったバージョンを元に再構築したものかも知れません。