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2020.08

2020.08.02 Sun

Cannonball Adderley Quintet in Chicago

今回はCannonball Adderley 59年録音の作品「Cannonball Adderley Quintet in Chicago」を取り上げてみましょう。Miles Davis Sextetのリーダー抜きによるQuintetでのレコーディング、John Coltraneをもう一人のホーン奏者として存分にソロを取らせ、Milesの音楽とは異なるコンセプトでありながら、レギュラーバンドならではの安定感に裏付けされた緻密で息のあった演奏、フロント各々二人をフィーチャーしたバラードを配した選曲、書き下ろしのオリジナル等、録音前後の名だたる名盤の狭間で二人のサックス奏者のリラックスしたプレイを存分に楽しめる構成に仕上がっています。

Recorded: February 3, 1959 Universal Recorders Studio B, Chicago Producer: Jack Tracy Label: Mercury

as)Cannonball Adderley ts)John Coltrane p)Wynton Kelly b)Paul Chambers ds)Jimmy Cobb

1)Limehouse Blues 2)Stars Fell on Alabama 3)Wabash 4)Grand Central 5)You’re a Weaver of Dreams 6)The Sleeper

Lewis Porter著「John Coltrane His Life and Music」には綿密な調査による、膨大かつ詳細なColtraneのChronologyが収録されています。こちらを紐解き、本作が録音された59年2月前後のColtraneの動向を調べると、1月21日水曜日からレコーディング前日の2月2日月曜日までの12日間連続で、Chicagoにある有名なホテルSutherland LoungeにてMilesバンドのギグで出演しています。メンバーのクレジットはされていませんが、間違いなく本作のメンバーにMilesが加わったSextetでの演奏でしょう。翌日からのレコーディングだけ、別なメンバーとは考え難いですから。

John Coltrane His Life and Music

CannonballがMilesのバンドに加わった最初のアルバムが58年3, 4月録音の「Milestones」、数々の名盤を生み出したMiles Davis Quintet〜Coltrane, Red Garland, Paul Chambers, Philly Joe Jonesに異なるアプローチのヴォイスを有したCannonballを、音楽的表現の幅を広げるべく加えた申し分のない名演奏、言わばMilesにとってのHard Bop最終形、そして本作のちょうど1ヶ月後に録音される、これまた文句なしの歴史的名盤「Kind of Blue」、そしてもう1作73年になってリリースされた58年9月NYC Plaza Hotelでの録音「Jazz at the Plaza Vol.1」、こちらはSextetのごく日常的な断面を捉えたライブ録音(ピアニストはBill Evans)、ピアノの音が引っ込んでいたりMilesのトランペットがオフマイクだったりと、米コロンビア・レコードが主催したジャズ・パーティーの模様を記録したもので、非正規レコーディングゆえ音響的に難がありますが、それを補って余りあるクオリティ、各人の恐ろしいまでに研ぎ澄まされたインプロヴィゼーションの応酬、このSextetは大変なポテンシャルを秘めたグループと再認識させられます。

58年録音「Milestones」
59年録音「Kind of Blue」
58年録音「Jazz at the Plaza Vol.1」

本作はどのような経緯で録音が決まったのかは定かではありませんが、飛ぶ鳥を落とす勢いのMiles Davis Sextetサックス奏者ふたり(ある意味対照的なスタイルです)にスポットライトを当て、楽旅の最後にレコーディングの機会を設け、彼らの音楽を存分に演奏させるというアイデアになります。これがプロデューサーJack Tracy発案とすれば、実にジャズの醍醐味を分かっている「名」プロデューサーと言う事になるのですが、強面でうるさ方のリーダーから解き放たれたメンバーは解放感に浸り、リラックスして演奏に臨むことが出来るからです。「Hey, Guys, お疲れ様!明日の俺のレコーディングもよろしくね!明日はMiles来ないし、我々だけでとことん演奏を楽しもうじゃないか。曲も揃っている事で一安心、でもJohnの書いた速い曲(Grand Central)は難しいけどさ!」のようなCannonballの発言が、ひょっとしたらあったかも知れません(笑)、加えて興味深いのがこの項にColtrane first performs on soprano saxophoneと併記されているのです。Sutherland Loungeでこの期間演奏したのでしょうが、その後彼のsopranoによる演奏がどう変遷していくのか、こちらも調べたい衝動に駆られますが(汗)、本作に直接関係はないのでグッと堪え、また別な機会に譲る事としましょう。

CannonballサイドからのMilesとの共演は58年3月録音の「Somethin’ Else」が彼名義でリリースされています。「Milestones」レコーディング前日の録音になりますが、いつになく緊張気味で彼のトレードマークである大胆さ、豪快さが控え気味のCannonballに対し、マイペースで絶好調のMilesの演奏が光り、まるで彼のリーダー作の如しです。収録のAutumn Leavesの名演奏は以降の彼の重要なレパートリーに位置する事になります。

Coltraneの方は57年9月録音「Blue Train」をリリース、急成長ぶりとそれに伴った高い音楽性を広く知らしめましたが、58年Prestige Label諸作にも素晴らしいレコーディングが多くあります。同年3月録音co-leaderではありますが「Kenny Burrell & John Coltrane」での演奏を忘れる事はできません。

本作録音後はColtraneが更なる飛翔を遂げる事になりますが、こちらはまた後ほど取り上げるとして、演奏に触れて行きましょう。1曲目はイギリスで20年代に書かれたスタンダードナンバーLimehouse Blues、多くのミュージシャン、ボーカリストに取り上げられています。オープニングに相応しいアップテンポで華やかな楽曲、ピアノと、ハイハットを中心としたドラムのふたりによるイントロから始まります。いや、とにかく速いですね!ここまでの速度のテンポ設定は他の演奏には無いと思います。テーマはサックスのユニゾン、そのメロディの合間をぬったピアノのフィルインがメチャメチャかっこ良く、テーマの一部分と化して聴こえます。CobbのシンバルレガートとChambersのon topベースとの絶妙なコンビネーションの素晴らしさ!そしてこれだけのテンポでグルーヴし続けるためには、ベーシストの貢献度が最重要になります。テーマ終わりのブレークからCannonballのソロが始まりますが何というスピード感とカッコよさ、気持ちの入り具合でしょう!ブリリアントな音色と有り得ない程の滑舌の良さ、ニュアンス、非Charlie Parkerスタイルの個性的なアドリブライン、全ての合わさり具合がアンビリバボのレベルに達し、超魅力的です!Cannonballの音符はある程度の速さまではレイドバックしていますが、このテンポになるとかなりon topのプレイになります。同様の例が「Nippon Soul」収録のEasy to Love(以前当Blogでも紹介しました)、本演奏よりもさらに速いテンポにも関わらずスイング感抜群、音符の位置も一層前にセッティングされています。

そしてColtraneのソロに続きます。 Cannonballに比べると対極的にダークさが際立つ音色、含みを持たせた「ホゲホゲ」した成分がこもった感を提示し、しかし音の輪郭は際立つ複雑な楽器の鳴り方を聴かせます。一点感じるのは、この日のColtraneはリードの調子が今ひとつではなかったかと。硬くて鳴らし辛いリードを難儀しながら吹いているように聴こえます。長いツアーでリードのストックが切れかかっていたのかも知れません。タイム感はグッとレイドバックし、個人的にはある種理想的なリズムに対する音符の位置を感じます。そして吹いているラインですがこれはまさしくColtrane Change!些か専門的になりますがコード進行Ⅱ-Ⅴ-Ⅰを短3度と4度進行に細分化し、各々のアルペジオを中心にラインを組み立て行きます。この方法によりコード進行に従来にはない、サウンドの浮遊感を得ることが出来るのです。「Giant Steps」収録のCount DownはMiles作曲のTune Upのコード進行を基に、Ⅱ-Ⅴ-ⅠをColtrane Change化した代表的演奏ですが、3ヶ月後の59年5月4日に同曲をレコーディングする前に、自分の作品ではなく、Cannonballのアルバムでしっかりと実験をしていた訳ですね(笑)。ひょっとすると前日までのSutherland Loungeのステージでも、既にこの奏法にトライしていたかも知れません。ここでのプライヴェート録音が発掘される事を願っているのですが、2012年にRLR Labelからリリースされた「Complete Live at the Sutherland Lounge 1961」の例があるので、かなり期待をしています。

ts,ss)John Coltrane p)McCoy Tyner b)Reggie Workman & Raphael Don Garrett ds)Elvin Jones 音質は決して良くありませんが、61年3月1日Chicago Sutherland Loungeでのクオリティの高い演奏がCD3枚組に収録されています。

それにしても物凄いインパクトのアドリブソロです!Kellyもバッキングの手を休め、いや、対応の範囲を超えた難解なラインの連続に、むしろ止めざるを得なかったのでしょう。こうして聴いているとふたりの演奏するアドリブライン、アプローチ、方法論の明らかな違いがこの演奏のクオリティを一層高めていると気付きます。続くKellyの軽快なソロ時にはCobbも4拍目ごとにリムショットを入れ始め、グルーヴを変化させています。その後フロントたちとドラムとの怒涛の8バースが始まります。ここでの白熱したやり取りは間違いなく昨晩までのMilesバンドの演奏を彷彿とさせている事でしょう!テンションはMaxを通り越し120%に達しています!Cobbのソロは間違いなく彼のone of the bestでしょう!合計2コーラスに及ぶバースの後は同じく2コーラス、サックスふたりによるバトルに続きます。いや〜ジャズを聴いていて本当に良かったな、と心から思える瞬間、だってCannonballとColtraneのバトルですよ?スゲ〜!!Milesが聴いたら「こいつら俺がいないと思って、思う存分好き放題やりやがって!」とむしろ嬉しそうに言うに違いありません(笑)!しゃにむに相手に戦いを挑むバトルではなく、まるで横綱相撲のように相手を立てつつ、かつ自分の言うべき事を端的に述べるスタンスでのバトルです!その後は全く平然とラストテーマを迎え、Kellyのフィルインも始めのテーマ時よりも冴え渡っており、エンディングのキメもバッチリとハマりました!

2曲目CannonballをフィーチャーしたバラードStars Fell on Alabama、古き良き時代の米国をイメージさせる曲調にCannonballのアルトの音色が完璧にマッチングしつつ、更に自由奔放に歌い上げる事によって、曲の持つ別な魅力を引き出す事に成功した、歴史的名演奏です。テンポはバラードとしては少し早目の設定、ピアノとブラシを用いたドラムからスタート、Kellyが弾くイントロのメロディはAlabama州に因んだのでしょう、米国南部のムードを感じさせつつ、4小節目にベースが加わります。アウフタクトでアルトの下の音域D音のサブトーンからメロディが始まりますが、低音域から中高音域をくまなく用い、グリスダウン、グリッサンド、様々な表情を見せる多様なビブラート、音量の大小が音楽表現の実は最大の武器と熟知しているプレイヤーだからこそのダイナミクス、独り交響楽団の様相を呈しています!テーマ終わりでCobbはスティックに持ち替えます。Cannonballのソロに入る際のフレージングは思いっきりレイドバックし、ゴージャス感をこれでもか!と提示しています。ダブルタイム・フィールでアルトソロが始まります。完全無欠の演奏って存在するのだろうか?と考えたことがありますか?禅問答のような話を考えるのは自分は結構好きなのですが、本演奏には文句の付けようが有りません!一切の蛇足、冗長さ、的外れは存在せず、曲想へのマッチング率100%!緻密でダイナミックなフレージング、起承転結、ストーリー性の妙。聴けば聴くほどに引き込まれる麻薬的魅力を有する演奏。Kellyも同様に1コーラスを演奏し、随所にフレージングに合わせ唸り声を発しつつ、いわゆるKelly節をとことん披露し、ラストテーマはサビから開始、グルーヴはバラードに戻り、Cannonballは更なるゴージャス感を出しながらAメロへ、グッと音量を落とし、今度はしっとり感を演出しつつラストのカデンツァへ。エンディング音の極小ppは最後の最後まで美意識を貫き通した結果に違いありません。

3曲目CannonnballのオリジナルWabashは軽快なスイングナンバー、明るくハッピーな雰囲気の中に、少しだけ厄介なコード進行を有するのですが、この部分を的確にクリアーしない限り、曲の持つメッセージを表現しきれません。サックス衆はユニゾンでテーマを仲良くプレイ、微笑ましくさえ聴こえます。ここのバッキングでもKellyが実に効果的なフィルインを弾いていますが、このセンスは実に彼ならではだと思います。おそらくステージを離れ、楽屋やアフターアワーズでは控え目ながらも気の利いたトークを発し、周囲の雰囲気を和ませていたのでは、と思います。イントロ、テーマとブラシを用いていたCobbがソロからスティックに持ち替え、2ビート・フィールで弾いていたChambersがスイングに移行します。ブレーク時でのピックアップソロの聴かせ方を熟知したCannonballが、これまた意表をついたフレージングでソロを開始します。立て板に水状態で実にスムースでスインギーなソロ、そして厄介なコード進行対策も万全でした!続くColtraneのソロはタンギングにCannonballほどの滑舌の良さがないので、若干の辿々しさ、言ってみれば朴訥としたトークと感じます。横板に雨垂れとは言いませんが、むしろ味わいとして捉える事が出来、結果好対照なふたりを感じます。 Cannonballは中低音域を中心に用い、Coltraneが中高音域を中心としてフレージングしているのにも、アプローチの違いが表れています。ピアノソロ、そしてベースソロまで進み、ラストテーマへ、エンディングのカットアウトは潔い終始感を得ています。ここまでがレコードのA面になります。

4曲目ColtraneのオリジナルGrand Central、NYCマンハッタン、ミッドタウンのPark Ave.と42nd St.地点にある世界一大きなターミナル駅Grand Central、米国全土から人が集まりそして離れ、ごった返し、混雑している駅なので目まぐるしく変わるコード進行と複雑な構成を有するこの曲の忙しさに例えられました。1曲目で自身のColtrane Changeによるインプロヴィゼーションを披露しましたが、ここでは曲自体にこのコード進行を用いています。他にもリズム隊のシンコペーションによるリズムのシカケ、サビでのドミナント・ペダル、サックス2管の対旋律等、聴かせどころ満載の佳曲、テナーの方の音域が低いにも関わらず、作曲者Coltraneが主旋律を吹き、Cannonballはハーモニーを担当しています。この作品のためにColtraneが書き下ろしたナンバーですが、これはふたりの信頼関係ゆえでしょう。もしくはこうも考えられるのですが、制作当初は双頭リーダー作品として企画され、例えば作品のタイトルは「Cannonball Adderley & John Coltrane Quintet in Chicago」、実際ふたりにしっかりとスポットライトを当てていますが、Coltrane側の契約問題等がクリアー出来ず、結局Cannonball単独のリーダー作としてリリースされる事になったと。そうすれば各々のフィーチャーリング・バラードが収録され、オリジナルを持ち寄った事、1曲目でのColtrane Changeへのチャレンジ、レコードのSide AがCannonballサイド、Side BがColtraneサイドという構成にも納得が行きます。因みに64年再発時にはジャケットデザインとタイトルを替えてリリースされました。「Cannonball & Coltrane」、こちらの方が内容的には相応しいと思います。

「Cannonball & Coltrane」

先発Cannonballはメロディアスなアプローチで絶好調ぶりを聴かせ、むしろColtraneの方が若干曲の難易度に苦戦、術中にハマってしまったように聴こえます。Kellyのソロに続き、ラストテーマへ。

5曲目ColtraneをフィーチャーしたバラードYou’re a Weaver of Dreams、渋い選曲です。スタンダードナンバーThere Will Never Be Another Youとほぼ同じコード進行を有します。Coltraneの音楽性に良く合致したナンバーと言えるでしょうし、初リーダー作「Coltrane」収録Violet for Your Fursにも通じる曲です。こちらもCannonballフィーチャーと対極を成すと行って良いでしょう。イントロなしでテーマからいきなり始まりますが、極力ビブラートやニュアンス付け、音量の大小を排除し、ストイックなまでにストレートにメロディを吹いており、これ以降も一貫するColtraneのバラード演奏スタイルを象徴しています。晩年のFree Formに突入した際には逆にビブラートを多用することになりますが、Cannonballを始め、それまでのサックス奏者が用いた手法を敢えて避けたのか、それともごく自然にこのストレート直球奏法に至ったのかは分かりませんが、以降のテナー奏者に多大な影響を与えました。テーマ後Cobbはスティックに持ち替え、Stars Fell on Alabama同様にダブルタイムフィールになり、1コーラスをソロします。バラード演奏にそのミュージシャンの本質が顕著に現れますが、彼らの演奏を聴くに付け、つくづくこれほど個性の異なるサックス奏者たちをバンドに迎え、自己の音楽を表現するために巧みに、かつ適材適所で演奏させたMilesの手腕の素晴らしさを、改めて感じました。

6曲目ColtraneのオリジナルThe Sleeper、ベースのwalkingから始まり、2小節に一度4拍目にアクセントが入るコード進行としてはブルース、かなりユニークなイントロ〜曲のパターンです。2コーラス目にアルトが先発の輪唱でテーマを演奏、ソロを取るのはColtraneの方から、出だしからいきなり全開状態です!曲のキーがE♭、テンポも同じBlue Trainの演奏を彷彿とさせますが、リズム隊がBlue Trainのように倍テンポにならないのも一因かも知れません、テナーソロをプッシュしきれずに孤軍奮闘の様相を呈しています。ピアノソロの冒頭ではColtraneのソロを受け継ぎ、Kellyにしては珍しいアプローチを聴かせます。その後はCannonballのソロになりますが、前曲がColtraneフィーチャーでCannonballがお休みだったので、ソロの先発は彼でも良かったのではと感じます。鳴り捲りのアルトサウンド、ここでもフレージング、アイデアは尽きる事なく泉のように湧き出ています。ラストテーマは再びサックスの輪唱、始めのテーマでもそうでしたがこの輪唱時、サックス2管は右チャンネルにまとめて振られています。アルトのソロの時は左チャンネルから聴こえてくるので、急に音像が飛んだように聴こえました。その後イントロと同じフォームが演奏されますが、初めに比べかなりテンポが遅くなっていますが、一曲通してだんだんとゆっくりになったようです。エンディングはテーマの一節が演奏され、Fineです。