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2019.09

2019.12.11 Wed

Trident / McCoy Tyner

今回はMcCoy Tynerの1975年録音リーダー作「Trident」を取り上げて見ましょう。

Recorded: February 18-19, 1975 Fantasy Studios, Berkley Producer: Orrin Keepnews Label: Milestone MSP9063

p, harpsichord(on1, 4), celeste(on2, 4)McCoy Tyner b)Ron Carter ds)Elvin Jones

1)Celestial Chant 2)Once I Loved 3)Elvin (Sir) Jones 4)Land of the Lonely 5)Impressions 6)Ruby, My Dear

多作家のMcCoy60年代はBlue Noteから、そして70年代に入りMilestone Labelから続々とリーダー作をリリースしました。レーベル契約初年度の72年には何と3作も発表しています。その後も年間2作のペースでのレコーディング〜リリースをキープしていました。本作は75年録音ですが前74年は「Sama Layuca」と「Atlantis」をレコーディング、そして翌76年には「Fly with the Wind」をリリース、傑作アルバムを続出していました。飛ぶ鳥を落とす勢いとはこの事を言うのでしょう。

この3作はいずれも比較的大きな編成で演奏されています。「Sama Layuca」はNonet、「Atlantis」はQuintet、「Fly with the Wind」に至っては10人以上の編成のストリングス・セクションや木管楽器が参加した、総勢18名から成るラージ・アンサンブルによるものです。原点に帰ってと言う事でしょう、間に挟まる本作はピアノトリオによる演奏なので自ずとMcCoyのピアノ・プレイにスポットライトが当てられる形になりますが、Elvin Jones, Ron Carterの演奏もたっぷりとフィーチャーされ、文字通りのTrident(三叉)演奏となっています。

本作録音頃のElvinも72年傑作「Elvin Jones Live at the Lighthouse」を皮切りに75年「On the Mountain」「New Agenda」と言った意欲作をリリース、自身のドラミングもJohn Coltraneとの共演で培われたスタイルを邁進させ、音楽の神羅万象を表現するかの如き深淵なグルーヴ、スイング感、他にはあり得ない独自の魅力的なドラムの音色を含め、これらが神がかった次元にまで到達し、更なるディテールの充実化によりダイナミックでありながら繊細さを併せ持つ、雷鳴が轟くようなフォルテシモから耳元で小鳥が囁くかのようなピアニシモまで、実はジャズ史上誰も成し得なかった音楽表現で最も重要な音量コントロールの完璧さを身に付け、真に音楽的なドラマーとして君臨、脂の乗っていた時期に該当します。

Ron Carterは60年代Miles Davis Quintetで研鑽を重ね、次第に数多くのセッションに参加するようになります。70年代中頃からCTI Labelと契約し自己のリーダー作をリリースするようになりました。都会的でオシャレなサウンドを提供する事を信条とするCTIのプロデューサーCreed Taylorは、彼のプレイのメロディアスな部分を表出させるべく73年「All Blues」75年「Spanish Blue」を制作、彼の魅力を発揮させる事に成功しました。

それでは演奏について触れて行きましょう。1曲目McCoyのオリジナルCelestial Chant、こちらは「天界の曲」とでも訳したら良いのでしょうか、ハープシコードでイントロが演奏されますが、この楽器の持つ音色からか、いきなり厳かで崇高な雰囲気が漂います。McCoyがハープシコードを弾いた録音は恐らくこちらが初めてになり、因みに後年シンセサイザーを演奏した作品もありますが、70年台以降多くのピアニストが弾いたFender Rhodesを演奏した例は僕の知る限りありません。テーマが始まるやいなやElvinがバスドラムを駆使したマレットでの3連符のリズムを繰り出しますが、何という重厚で素晴らしいリズムでしょうか!どこか中国の音楽を感じさせるシンプルなメロディ、McCoyが左手での対旋律を弾かずに、サウンドが薄くなった途端にElvinが楽曲のカラーリングをすべく4拍目を中心にした弱拍に、タムで強烈なアクセントを叩き始めますが、アドリブ中にこのアクセントが再度出る事は無く、このやり取りにも音楽的に深いものを感じます。その後McCoyが演奏を止めベースがメロディを引き続き演奏し、再登場の際にはメロディ奏をピアノで行いますが流石の強力なピアノタッチ、メチャメチャごっついです!ベースは延々とメロディ=ベースパターンを奏で、McCoyはペンタトニック系の4度の超速弾きフレーズを繰り出しつつソロが展開します。時折テーマのメロディを演奏する時にElvinはバスドラムでシンコペーションをユニゾンしています。決して出しゃばらずに、しかし出すところは出すスタンスで的確にサポート、全体を俯瞰しながら音楽を作っていくアーティスティックな姿勢をElvinの演奏から再認識しました。Ronのベースソロにも普段の彼以上のクリエイティブさを感じつつラストテーマへ、ベースソロ後のメロディ奏に再びElvinが4拍目にアクセントを挿入、ラストテーマにもハープシコードが用いられ、次第に収束に向かいます。シンプルなメロディ、ワンコードのテーマとアドリブ構造から成る楽曲の最小限のパーツを手を替え品を替え、巧みに再構築し、最大限に効果を生み出している、Tridentならではの演奏だと思います。ハープシコードの音色が暗めに響いているのは、ピアノよりも若干チューニングが低い事に由来しているのでしょう。

2曲目はAntonio Carlos Jobimが書いた名曲Once I Loved、ボサノバのリズムでしっとりと演奏される機会の多い、美しいメロディを有したナンバーですが、ここではとんでも無い事になっています!冒頭ベースとドラムのリズム・パターンの上でMcCoyはチェレスタを弾いていますが、こちらも初使用だと思われます。この楽器のお披露目的なソロの後、少し間を置きベースのフィルイン、そしてピアノによるテーマが始まります。それにしてもElvinが繰り出すボサノバのリズムの躍動感の素晴らしさ!身がぎゅっと詰まった音符がプリプリと粒立ち、はち切れんばかりのビートを繰り出しています。そして続くMcCoyのソロ!ピアノのSheets of Soundとも表現できるでしょう、拍に対して特に譜割りを意識せず音符を徹底的に詰め込む、50年代Coltrane的なアプローチと言えるかも知れません。コード進行は原曲そのままですがモーダルな解釈を行い4thインターバルの和音、ラインを駆使してまるで異なった曲に仕立てていますが、あまりの変貌、猛烈ぶりに作曲者Jobimが怒り出しそうと、要らぬ心配をしてしまいます(笑)。当然物凄いテクニックが必要になりますが難なく演奏しており、それよりもハープシコードやチェレスタはピアノよりも弱音楽器、楽器自体の構造もずっと華奢なはずです。McCoyの打楽器奏者的強力なタッチで鍵盤や楽器本体が壊れてしまうのではないかと、こちらも要らぬ心配をしてしまいます(爆)。全体的にピアノソロのアグレッシブさに比べてドラム、ベースのアプローチはピアノソロを引き立てるべく比較的シンプルですが、例えば2’12″辺りからのバンプではElvinのマーベラスで難易度の超高いフィルインが聴かれ、これにRonがぴったりと着けています。後にも出てくるバンプでは更に野獣化しています!ピアノソロ最終コーラスに至っては左右の手で全く異なるラインの応酬!物凄いテンションです!ラストテーマ後にチェレスタが再登場しますが、まだ鍵盤は壊れてはいなかったようで(笑)、クロージングに相応しく、総じて歴史的名演の誕生です(祝)

3曲目McCoyのオリジナルElvin (Sir) Jones 、Coltrane Quartetからの盟友Elvinその人に捧げられたナンバー、Sirの称号を付与したくなるのも当然な演奏家です!Elvin得意のラテン系のリズムから始まり、アドリブに入り直ぐにスイング・ビートに変わります。ピアノのソロではありますが、ツワモノたちの三つ巴による音の洪水、Heavy Sounds、McCoy絶好調です!煽るElvin、Ronのサポートがあってこそですが、まるで重装備の装甲車が軽やかなステップを踏んでいるかの如く、あり得ない状態です!ピアノソロがピークを迎えそのままドラムソロに突入、ベースは急には停まれないとばかりに未だ弾いています!そしてElvinのソロ、どこを切っても金太郎飴状態、彼のいつものフレーズそのものですが、どうしてこんなにフレッシュに、クリエイティブに耳に響き、感銘を受けるのでしょう!その後ラストテーマを迎え、装甲車に更なる音の重装備を施し大団円です!ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目Land of the Lonely、ここではイントロでチェレスタとハープシコードを同時演奏し、異なったテイストを加味しています。ドラムとベースによるワルツのイントロが始まりますが、Elvinのドラミングはここでも説得力に満ちており、リズムを刻んでいるだけでワクワクしてしまいます!その後ピアノを用いたテーマが始まりますが、McCoyはピアニスト、即興演奏家としてはもちろん、作曲の才能にもずば抜けたものを持っており、この曲も哀愁のメロディに優しさと癒しを見出すことができる佳曲です。三位一体の演奏ですが、Coltraneもよくワルツを演奏していて、サウンド、グルーブからここにColtraneのサックスが聴こえてきてもおかしくない、三位一体プラス・ワンとイメージしてしまいました。アウトロにもチェレスタとハープシコードを用いて締めくくっています。

5曲目はColtraneのImpressions、前曲でColtrane Quartetを感じさせてからの流れがとても自然です。いや〜当たり前ですが物凄い演奏です!彼らにとって演奏し慣れたレパートリー(McCoyとElvinは Coltrane Quartetで、RonはMiles Quintetにてコード進行が同じSo Whatで)、余裕と風格が漂い、こちらは3人による横綱相撲の様相を呈しています。特にドラムとベースのコンビネーションが申し分ありません!ピアノソロ後はドラムソロになるのかと思いきや、ベースをフィーチャー、Ronは良く伸びる音色でリズム・モジュレーションを多用したソロを聴かせています。エンディングは比較的あっさり目(彼らのとっては、ですが)に終えています。

6曲目Thelonious Monk作の名曲Ruby, My Dear、これまで演奏してきた曲の延長線上にあるので、しっとりとした、いわゆるバラードとは一線を画します。McCoyの力強いタッチでElvinのブラシワーク、バスドラムも時折ハードに叩いていますが必然さが先立ち、ラウドさは全く感じさせません、と言うかElvinのブラシはスティック以上にダイナミクスの振れ幅が大きいと感じます。ここでも、いつもよりも饒舌なベースのソロを挟みラストテーマを迎えます。ジャズ史上に残るピアノトリオの傑作、このエピローグに相応しいテイクに仕上がりました。

2019.12.01 Sun

Pop Pop / Rickie Lee Jones

今回はシンガーソングライターRickie Lee Jonesの1991年リリース作品「Pop Pop」を取り上げてみましょう。

Recorded: Toping Skyline Studio 1989 Produced by Rickie Lee Jones and David Was Label: Geffin

vo, ac-g)Rickie Lee Jones ac-g)Robben Ford ac-b)Charlie Haden, John Leftwich bongo, shakers)Walfredo Reyes, Jr. cl, ts)Bob Sheppard ts)Joe Henderson bandoneon)Dino Saluzzi vib)Charlie Shoemake violin)Steven Kindler ac-g)Michael O’Neil hurdy-gurdy)Michael Greiner backing vocals)April Gay, Arnold McCuller, David Was, Donny Gerrard, Terry Bradford

1)My One and Only Love 2)Spring Can Really Hang You Up the Most 3)Hi-Lili, Hi-Lo 4)Up from the Skies 5)The Second Time Around 6)Dat Dere 7)I’ll Be Seeing You 8)Bye Bye Blackbird 9)The Ballad of the Sad Young Men 10)I Won’t Grow Up 11)Love Junkyard 12)Comin’ Back to Me

Rickie Leeは70年代後半から活躍する米国のロック、ポップスシンガーです。独自のセンス、音楽観を持った芸風には僕自身ずっと好感を持っています。この作品はスタンダード・ナンバーを中心に取り上げたジャジーなテイストを感じさせる、Rickie Leeにとって初めてアルバムになります。彼女に限らず昔からジャズ以外のフィールドのシンガーがジャズ・アルバム制作を行う事は少なくありませんが、多くの場合枠組みだけはジャズボーカルとしての範疇にあるけれど、中身が異なった風で何かが違う、歌唱力はあるけれど訴えかけるものやセンスに違和感や物足りなさを覚え、鯔のつまりジャズボーカルのハードルの高さを再認識させられる結果となりました。きっとロック、ポップス・シンガーはジャズへの憧れがあるものなのでしょう。この作品は参加してるジャズ・ミュージシャンの素晴らしさや選曲にバックアップされて、ロックシンガーとしては異例とも言えるジャズアルバムに仕上がっていると感じますが、Rickie Leeのコケティッシュでレイジーな歌唱スタイル、鼻が詰まったようなこもった成分が聴かれる声質(こんな声で歌うボーカリストは他には存在しません)、そしてほのかに感じさせる彼女の持つジャズシンガーの素養が合わさった結果、不思議なバランス感を持ったジャズ作品として成り立っています。89年リリースDr. Johnの作品「In a Sentimental Mood」収録のMakin’ Whoopee!にRickie Leeがゲスト参加し、Dr. Johnのアクの強い、やさぐれた歌声と彼女のカマトトチック(笑)なボーカルが絡み合い、互いにインスパイアし、そこにRalph Burnsのゴージャスなビッグバンド・アレンジがスパイスとして加味された素晴らしいテイクに仕上がっていますが、同年のグラミー賞最優秀ジャズ・ボーカル・パフォーマンス賞に輝きました。ここでの成功が本作制作へと繋がっているように思います。

遡ってRickie Lee83年の作品「Girl at Her Volcano」(邦題マイ・ファニー・ヴァレンタイン)でもLush Life, My Funny Valentine(いずれもライブ・レコーディング音源)と言ったスタンダードを取り上げていますが、本作で聴かれる歌唱スタイルの萌芽を十分に感じ取ることが出来ます。

本作参加メンバーで重要な役割を担っているのがRobben Ford、殆どの収録曲で全てアコースティック・ギターを演奏し、本来はフュージョンやスタジオ系のギタリストなのですが、スタンダード・ナンバーのバッキング、ソロでジャジーなテイストを存分に発揮しています。そして全曲ではありませんがCharlie Hadenのアコースティックベースのサポートが作品の品位を高め、Joe Hendersonのテナーサックスがジャジーな色合いをより濃厚なものにしています。ドラムレスという編成もアコースティック楽器の音色を際立たせる上で良い采配であったと思います。本作プロデューサーのDavid WasによればMiles Davisの起用も検討されたそうですが、ギャラの高額さから断念され(残念!でも一体幾ら吹っ掛けられたのでしょうか?)、Freddie Hubbardにも参加をオファーしたそうですが実現は叶いませんでした。

それでは本作収録曲について触れて行きましょう。ジャケットデザインも彼女らしい可愛らしさとコーニーな雰囲気がよく出ています。1曲目数多くのジャズミュージシャン、シンガーによる名演奏が目白押し、定番中の定番ジャズバラードMy One and Only Love、Rickie Leeはそんな数多の名演奏を全く関知しないかのようなマイペースさで歌い上げています。名演を気に掛けていたら自分の歌唱は一切出来なくなりますし。Fordのアルペジオによるイントロ、曲中のバッキング、ソロで彼への評価を全く新たにしてしまうほどに美しいサウンドを聴かせます。Hadenの地を這うようなボトム感満載のベース、Dino Saluzziのバンドネオンでのカラーリングの巧みさ、異なるフィールドのミュージシャンが集い、静かな異種格闘技とも言えるインタープレイを楽しみましょう。

2曲目もバラード・ナンバーSpring Can Really Hang You Up the Most、個人的に大好きなナンバーで、本作購入のきっかけとなりました。Rickie Leeがこの曲をどう歌うのか、興味津々で作品に臨みましたが想像以上に一つ一つのセンテンスを丁寧に、情感たっぷりに、強弱を強調しつつ様々にイントネーションを効かせ、気持ちのこもった深い歌唱を聴かせています。1コーラス丸々歌いっきり、FordとHadenの素晴らしいサポートがあってこそですが素晴らしいテイクに仕上がりました。

3曲目はOn Green Dolphin StreetやInvitationの作曲者として名高いBronislaw Kaper52年作のナンバーHi-Lili, Hi-Lo、1曲目と同じメンバーによる演奏です。アコースティックギターのイントロから始まり、録音自体も実に臨場感溢れています。バンドネオンのDino Saluzziのサウンドが心地良いです。彼はアルゼンチン出身でAstor Piazzollaの影響を受けたプレイヤーですが、独自のスタイルを築きジャズマンとの交流も深く、かのECMレーベルから13枚もリーダー作をリリースしています。同じアルゼンチン出身のGato Barbieriの73年作品「Chapter One: Latin America」に参加し脚光を浴びました。

4曲目はロックミュージシャンのオリジナルからJimi Hendrix 67年のUp from the Skies、ベーシストがJohn Leftwichに替わり、Fordの他にMichael O’Neillのアコースティックギターも加わり、スインギーなグルーヴを聴かせます。Gil Evansの74年作品「The Gil Evans Orchestra Plays the Music of Jimi Hendrix」でも取り上げられています。

5曲目はSammy Cahn, Jimmy Van Heusen黄金の作詞作曲コンビによるSecond Time Around、60年の映画「High Time」の挿入曲です。Ford, LeftwichにSteve Kindlerのバイオリンが加わった、意外と多くのジャズメンに取り上げられている隠れた名曲です。アコースティックギター・ソロのバッキングで聴かれるバイオリンの美しいカウンター・ライン、ソロ、KindlerはOregon州出身、The Mahavishunu Orchestra, Jan Hammer, Jeff Beck, Kitaro達との共演歴を持つバイオリンの名手です。彼らをバックに彼女はキュートに、感情移入が素晴らしい歌唱を聴かせています。

6曲目はBobby Timmons作の名曲Dat Dere、歌詞はシンガー・ソングライターのOscar Brown, Jr.によるものです。作曲者自身の60年初リーダー作「This Here Is Bobby Timmons」に収録、加えて当時参加していたArt Blakey and the Jazz Messengersの「The Big Beat」でも同年録音されています。

ここではFord, Leftwichに加えJoe Hendersonのテナーサックス、Walfredo Reyesのスネアドラムとボンゴ、プロデューサーWasのバックグラウンド・ボーカルが参加します。本作ハイライトの1曲、Rickie Leeの持ち味や声質と楽曲、メンバーとの巧みなコラボレーション、プロデュース力で名演が生まれました。冒頭部から曲中、エンディングまで赤ん坊の楽しげな声がオーバーダビングされていますが(これがまた実に効果的に使われています)、それもその筈タイトルのdatはthat、dereはthere、どちらも舌足らずな子供たちが使う赤ちゃん言葉、この曲の歌詞はママを質問攻めにして困らせている女の子が主人公なのです。そんな彼女も大人になり恋をして結婚し、子供が出来て母親になります。因果は巡り今度は自分の娘から質問攻めに合う立場になり、ゾウが好きな子の子供もゾウさんが好き、という内容です。ボーカリーズの初演Oscar Brown, Jr.の際の歌詞はdaddyと呼びかける男の子のヴァージョンでした。この曲の初演が収録されている「This Here Is Bobby Timmons」の1曲目、This Here → That There(Dat Dere)と対を成している訳ですね。余談ですが、かつて僕が参加していたドラマー日野元彦(トコ)さんのバンドSailing Stoneで、トコさんのオリジナルIt’s Thereという曲を事ある毎に演奏しましたが、本人曰く「この曲はTimmonsのThis Hereに肖って名前を付けたんだよ」との事でした。「The Big Beat」収録のヴァージョンではLee Morganがトランペットを演奏し、素晴らしい演奏を聴かせていましたがあいにくの故人、プロデューサーはJazz Messengers繋がりでFreddie Hubbardにこの曲を演奏させたかったためにオファーしたのかも知れません。何より本作の制作企画が持ち上がった時点で、真っ先にこの曲を取り上げようと目論んだような気がしてならないのですが、それほどにRickie Leeの魅力と個性、楽曲が見事に合致しています。

7曲目はSammy FainとIrving KahalコンビによるI’ll Be Seeing You、Ford, Leftwichのアルコ・ベース、Bob Sheppardのクラリネットというメンバーで室内楽的にコンパクトに纏められた演奏が聴かれます。

8曲目お馴染みのスタンダード・ナンバーBye Bye Blackbird、Miles Davisオハコの曲に彼自身が参加したらさぞかしの評判とクオリティの演奏になったかも知れませんが、ここではJoe Henが参加、むしろ適材適所な人選、演奏だと思います。ベースにLeftwich, Reyesはブラシに徹して伴奏、Fordは参加せずコードレスの演奏です。Joe Henが全編に渡り素晴らしいオブリガートを聴かせ、そのラインからコード進行も十分に感じられ、そしてブッ飛んだ間奏(歌番でこんなのアリですか?彼を起用するならアリですね!)を聴かせています。Rickie Leeこのテイクでは歌詞の内容を噛みしめつつ、歌うというよりも話しかける、更には叫んでいる風を感じます。

9曲目はThe Ballad of the Sad Young Men、2曲目Spring Can Really 〜と同じ作曲Tommy Wolfと作詞Fran Landesmanのコンビによるナンバーです。Ford, Haden, Saluzziが伴奏を務め、Rickie Leeが切々と若さ故の哀愁を歌います。Keith Jarrettも89年録音リーダー作品「Tribute」で演奏していますが、ここではAnita O’Dayにトリビュート、Gary Peacockのソロをフィーチャーし、Jack DeJohnetteと共に耽美的にリリカルに (むしろ凡庸な表現しか思いつかない程に素晴らしいのです!)演奏しています。

10曲目はまさしくRickie Leeにピッタリのナンバー、I Won’t Grow Up、お馴染みPeter Panからのセレクションです。歌詞の内容と彼女の持ち味が完璧にフィットしています。Ford, Hadenの他に男性ボーカルが2人バックグランド・コーラスで参加しており、Rickie Lee自身によるコーラス・アンサンブルのアレンジが施されていて、低音のボーカル・ハーモニーと彼女の声が対比となり、doo-wopのテイストも感じさせます。Fordのソロに被って口笛が聴こえますがRickie Leeによるものでしょう、歌唱同様にどこか危なげな音の発生、音程感から彼女らしさを感じますから。

11曲目Love Junkyardは本作中最も大きな編成での演奏、Ford, Leftwichの他Reyesのボンゴ、シェイカー、ビブラフォンにCharley Shoemake、O’Neillのアコースティックギター、Bob Sheppardのテナーサックス、Wasのボトル、ジャンク、そしてバックグランド・ボーカルというメンバーで、ボンゴとテナーのデュエットから始まります。演奏内容はこれまでの彼女の音楽活動で練り上げられたオリジナルなサウンドの延長線上が聴かれます。Sheppardのテナーにはオーバーダビングが施され、ハーモニーが鳴っていますが、Rickie Leeのアレンジによるものです。

12曲目Comin’ Back to Meは米国ロックバンドJefferson Airplaneの創設メンバーであるMarty Balin作のナンバーで、彼らの第2作目になる「Surrealistic Pillow」に収録されています。Leftwichのベース、Michael Greinerのhurdy gurdy(機械仕掛けのバイオリン)とglass harmonica(複式擦奏容器式体鳴楽器〜これは?)、Rickie Lee自身のアコースティック・ギターという編成で、フォーク・ミュージックのコンセプトで演奏されます。囁くような歌唱は本作中異彩を放っていますが、こちらも従来のRickie Leeのスタイルの延長線上にあります。後半で聴かれるシャウトでの気持ちの入り方に、彼女のロックシンガーとしての真骨頂を感じることが出来ました。

2019.11.13 Wed

The Inflated Tear / Roland Kirk

今回もRoland Kirkの作品を取り上げて見ましょう。1967年録音「The Inflated Tear」

Recorded: November 27, 30 1967 Recorded: Webster Hall, NYC Producer: Joel Dorn Label: Atlantic Record

ts, manzello, strich, cl, fl, whistle, cor anglais, flexatone)Roland Kirk p)Ron Burton b)Steve Novosel ds)Jimmy Hopps tb)Dick Griffin(on 8)

1)The Black and Crazy Blues 2)A Laugh for Rory 3)Many Blessings 4)Fingers in the Wind 5)The Inflated Tear 6)Creole Love Call 7)A Handful of Five 8)Fly by Night 9)Lovellevelliloqui

Roland Kirkの素晴らしさ、魅力、音楽性の高さを今更ながらに再認識しているところです。当Blogでは同じアーティストを連続して取り上げる事はなかったのですが、今回は引き続き触れて行きましょう。その立ち姿、容姿、振る舞いから日本でも「グロテスク・ジャズ」という、Kirkの本質を全く捉えない愚かでくだらない分類をされていたことがあります。誰もやったことのない、思いついても行わない表現方法を、重大なハンディキャップを抱えながらも聴衆を感動させる次元にまで高め、演奏を重ねる毎に更にレベルアップさせ、洗練させ、他の追従を全く許さない独自の世界にまで築き上げました。実はKirkの楽器を操る能力値の半端なさに、同じサックス奏者として演奏を聴く毎に打ち拉がれる思いすら抱いています。2本、3本のサックスを咥えて同時に演奏する、しかも驚異的なレベルの循環呼吸も用いて。いとも容易く2本同時奏法から1本吹奏にスライドさせる。加えて鼻でフルートを吹く、時に声を混ぜながら。ホイッスル、オルゴールを鳴らす、打楽器を首からぶら下げてインパクトのあるパフォーマンスを繰り出す。曲芸、サーカス的な目立つ部分が独り歩きしてしまい、多くの評論家、聴衆はその次元にてKirkの音楽を理解するのを止め、それらの先に存在する深淵な創造美を見ようとせず、単なるキワモノとしか認識しませんでした。Kirkはジャズの伝統を重んじ、先達の演奏に敬意を払いつつ徹底的に研究分析を行い、自己の演奏スタイルに巧みに取り込み続けました。特にバラードに対する美意識には格別の魅力を感じます。優れたミュージシャンの本質はバラード演奏にあります。Kirkは視覚的要素とは裏腹に優雅さ、気品、愛、スイートさ、暖かさを根底に持っていて、バラード奏ではそれらが顕著に現れます。いかなる特殊奏法を繰り出す時にもバランス感を伴い、独り善がりに陥らず、演奏が異端であればあるほどジャズの伝統、美学に裏付けされた音楽性を感じさせてくれるのです。

それでは「The Inflated Tear」に触れて行きましょう。「Rip, Rig and Panic」同様、こちらもKirkの代表作に挙げられる名作です。演奏曲目はDuke Ellington作の1曲以外全てKirkのオリジナルになります。1曲目The Black and Crazy Blues、manzelloによる哀愁を漂わせたメロディからブルースに移行して行く、New Orleansのセカンドラインの雰囲気を湛えた楽曲です。リズムセクションはこの当時のKirkのバンドのレギュラー・メンバー、Ron Burtonのピアノソロに被ってKirkが多分mannzelloとstritchの2管でハーモニーを付けています。その後はラストテーマへ、再びstritchによるテーマ奏は全く葬送の行進曲の様を呈しています。

2曲目A Laugh for Rory、冒頭に子供の声が聴こえますがKirkの息子Roryによるものです。彼のフルートをフィーチャーしたナンバーですが、この人は何を吹かせても抜群の上手さ!また声を発しながらフルートを吹く奏法の権威でもあります。

3曲目Many Blessingsはテナーの独奏から始まりますが、実に素晴らしい音色、どこかSonny Rollinsをイメージさせます。ひょうきんさを感じるテーマののち、いきなり循環呼吸による延々と続くフレージングに圧倒されます!難易度の高いColtrane Changeも用いられているコード進行をものともせず、1’20″から2’38″までの間ずっと吹き続け、フレージングしています!続くピアノソロはあまりの出来事の後で耳に入らず、印象に残らないのが本音です(汗)その後あとテーマを迎え、エンディングではダブルタンギング、マルチフォニックスによる重音奏法で締めくくり、Kirkテナー独演会は終了です。

4曲目Fingers in the Wind はフルートの明るいテーマ奏から始まりますが、コード進行が似ているのもあり、Antonio Carlos Jobim作Dindiをイメージさせます。Kirkはフルートも実に良く鳴っていてコントロールも素晴らしいですね。この曲ではフルートに専念しており、彼の華やかさと爽やかさの部分を表現したテイクに仕上がっています。次曲ではこれが一転します。

5曲目は表題曲The Inflated Tear、 邦題「溢れ出る涙」、Kirkは2歳の時に病院での点眼薬投与による医療ミスで失明し、その後遺症で涙が止まらないのだそうです。曲名はそこから来ているのでしょう。テナー、manzello、stritch3本のサックスを同時に咥え頰を思いっきり膨らませ、両手で巧みに扱い、2本でハーモニーや対戦律を奏で残りの1本でロングトーンを吹き3本でのアンサンブルを1人で行います。本作ジャケット写真で見られるKirkのトレードマーク、サックス史上彼しか成し得ていない特殊奏法、これは自身が夢で見た啓示の具現化であります。あくまでも推測ですが3本同時演奏の際に、Kirkは各々のサックスは違った楽器でなければならない、と考えていたと思います。アンサンブル時に豊かなハーモニーを得るには音域の異なった楽器の方が好都合ですから。彼のメインの楽器はテナーなので後の2本は自ずとアルト、ソプラノということになります。パフォーマンスとして彼は立奏を前提にしていました。それには3本を全て首からぶら下げておく必要があり、最も小型のソプラノは容易にそれが可能ですが直管構造のために音が下向きに出てしまいます。King社製のソプラノサックスsaxelloは先端のベルが幾分上向き、これを改造して上方向に巨大なベルを装着した楽器manzelloを考案、これで音が前に出るようになりました。アルトですがテナーと同じ曲管構造を有したサックスなので、テナーとアルト2本を同時に首からぶら下げておく事は楽器の大きさと安定感から困難、そこでKirkが考えたのが直管のアルトです。こうすればテナーとの並列も問題ないのですが、直管ゆえにソプラノ同様に音が下向きに出るので、こちらにもやや上向きにベルを取り付けました。これがstritchです。後年ドイツの楽器メーカーKeilwerthや米国のLA Saxが直管アルトを開発して発売しました。Keilwerth社製をKenny Garrettが吹いているのを見たことがあります。一時テナーの直管タイプも同じくKeilwerthから発売され、Joe Lovanoが吹いていました。その長さからアルペンホルンの如き様相を呈していたのが印象的です。いずれもポピュラーになり得なかったのは視覚的には強力なインパクトこそあれ、通常のアルト、テナーと比較してサウンドが激変する訳ではなく、その長さゆえにケースに入れた運搬にも支障を来たしたからでしょう。因みにこれら後発の直管アルト、テナーのベルはKirk仕様を意識したのかどうか、若干のカーブを描いています。

さてKirk「ひとり3管編成」の楽器レイアウトは出来上がりました。サックスは3本の音が合奏で混じり合う事で管の倍音成分が絡み合います。これを3人ではなくひとりで行う場合、ひとつの口で咥えたマウスピース3つの倍音が口腔内で更に複雑に絡み合う現象が生じるそうで、彼の独特のアンサンブル・サウンドはここに秘訣があるのかも知れません。頬を思い切り膨らませて吹いているのは単純に3つのマウスピースを咥える容積を稼ぐためか、倍音を確実に鳴らすためか、またその両方なのか、循環呼吸のために頬にエアーをためると言う見解もありますが、本人に尋ねてみたかったものです。

演奏を聴いてみましょう。Kirk自身による、首からぶら下げたパーカッション群を鳴らし、足踏みをし、ベーシストと共にある種の雰囲気を作った後、おもむろに3管編成のメロディが始まります。実はこれまで僕自身この演奏を軽く聴き流していて、この事をいま後悔しています。「魂の叫び」という言葉を安直に使うべきではないと思いますが、この演奏はKirk自身のそのものであります。何と深い音楽なのでしょう。私論ではありますが芸術表現をオーディエンスはあるがまま、ストレートに捉えるべきであり、表現者も舞台裏やバックグラウンド見せたり感じさせたりするのは控えるべきであり、ましてやお涙頂戴はご法度です。先入観を持たずにニュートラルな状態で演者も聴衆も芸術行為に向かうべきなのですが、湖面を優雅に泳ぐ白鳥の水面下での暗躍ぶりを知ればその優雅さが一層引き立つように、Kirkの場合はそのバックグラウンドに触れる事で演奏の本質、表現に対する執拗なまでの飽くなき探求心、どれだけの労力を費やした結果これらの奏法を自在に操れる次元にまで至ることが出来たのか、彼の場合は垣間みても良いのでは、と思います。3管奏の後はstritch1本によるメロディが奏でられますが、どこかアルトの名手Johnny Hodgesを感じさせます。妖艶なまでに美しく、同時に物悲しさを誘い、これは3管のアンサンブルとの絶妙な対比となっており、強烈なイメージを持っています。Roland Kirk本人にしか発想、そして表現できない「魂の叫び」に他なりません。そして最後の部分では自身による、文字通りの叫びも収録されています。

67年10月19日Pragueにて本作レコーディング直前のライブ映像がyoutubeにアップされています。映像でこの演奏を鑑賞すると一層インパクトがありますので、ぜひご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=ZIqLJmlQQNM (アドレスをクリックしてください)

向かって左からmanzello, stritch, テナー, ベル内にフルートを入れ、楽器を構えるRoland Kirk

6曲目がEllington作曲のCreole Love Call 、テナーとおそらくstritchの2管によるハーモニーが聴かれます。ソロはstritchを中心にブルージーに、フリーキーに、時折ハーモニーを交えつつ、Ellingtonの音楽性を踏まえた演奏に徹しています。

7曲目アップテンポで5拍子、その名もA Handful of Five、manzelloでメロディを演奏する可愛らしさを感じさせるナンバーです。2分40秒の短い楽曲ですがKirkのチャーミングな側面を表していると思います。

8曲目Fly by Night はベースのピチカートのイントロから始まる、再びテナーをフィーチャーしたナンバーですが、トロンボーン奏者Dick Griffinも加えた演奏で、テナーとトロンボーン2管のアンサンブルが聴かれます。ホーンセクションはピアノソロのバックリフでも聴かれますが、流石のKirkもトロンボーンは門外漢だったようです。でもブラス楽器ではトランペットは吹くそうですが。モーダルな雰囲気を持った佳曲、全てをひとりで行えるKirkなので他の管楽器とのアンサンブルが聴かれるのは珍しいことですが、この2管のアンサンブルもとても良いサウンドです。

9曲目Lovellevelliloqui は難易度やや高い系のテーマ、難曲揃いの「Rip Rig and Panic」に収録されてもおかしく無いようなナンバーです。manzelloをフィーチャーしたマイナー・チューン、モーダルな要素も含む曲です。ドラムとのバースもあり、総じて本作は楽曲や演奏の構成に於てバラエティに富み、複雑で多岐にわたる要素を内包するRoland Kirkというミュージシャンの音楽を、初めて経験する際の入門にもなり得るアカデミックな作品だと思います。

2019.11.04 Mon

Rip, Rig and Panic / Roland Kirk

今回はRoland Kirkの代表作「Rip, Rig and Panic」を取り上げてみましょう。Recorded: January 13, 1965 Studio: Van Gelder Studio Englewood Cliffs, New Jersey Label: Limelight

ts, strich, manzello, fl, siren, oboe, castanets)Roland Kirk p)Jaki Byard b)Richard Davis ds)Elvin Jones

1)No Tonic Pres 2)Once in a While 3)From Bechet, Byas, and Fats 4)Mystical Dream 5)Rip, Rig and Panic 6)Black Diamond 7)Slippery, Hippery, Flippery

Roland Kirkの作品は個性的かつ名作揃いですが、本作はサイドメンの素晴らしさから取り分け重要な1枚と考えています。当Blogで前々回取り上げた「Out of the Afternoon」は、Roy Haynesの音楽的なドラミングがKirkの演奏をしっかりとサポートしていました。Haynes自身のリーダー作ですが強力な個性を発揮するKirkとの共演では、どちらが主人公の作品なのかが曖昧になってしまいましたが。本作ではリーダーのKirkがまんま自己主張をすれば良いに違い無いのですが、存在感のあるKirk色だけ単色の表出になる可能性があります。そう言った意味ではピアノJaki Byard、ベースRichard Davis、ドラムスElvin Jones3人は各々Kirkに対抗しうる十分な個性、音楽性を持ち、更にこのメンバーが揃った事により文殊の知恵的効果を発揮し、異なった色合いを添え、かつ触媒となりKirkの演奏を一層色濃く引き出させるのです。Kirkを軸とし、共演メンバーとの演奏がどのように展開しているのかを、曲毎に詳細に分析して行きましょう。

1曲目KirkのオリジナルNo Tonic Pres、速いテンポのブルースナンバー、曲のテーマが実に複雑で難解な超絶系のラインです!自分でも覚えがあるのですが、張り切って曲を書いたにも関わらず、度が過ぎて自分のテクニックで再現可能な領域を超えたテーマに仕上がってしまい、手を焼き冷や汗をかく場合があるのです(爆)。Kirkもここではテクニックを駆使していますが、ギリギリの状態でテーマのメロディを演奏しているように聴こえるので(音符やリズムにいつもの余裕がありません!)、親近感を感じます(笑)。ピアノが4度のハーモニーでメロディをサポートしており、サウンドに厚みが生じています。何処と無くMcCoy Tynerのオリジナルで67年録音「The Real McCoy」収録のPassion Danceを髣髴とさせますが、こちらも4度のライン、ハーモニーの使用、ほぼ同じテンポ設定、録音エンジニアが同じRudy Van Gelder、そして何よりドラマーが同じくElvinなので、リズムグルーヴから類似性を感じさせるのかも知れません。

タイトルNo Tonic PresのPresとはLester Youngの事、この作品は他にも偉大なる先達に曲が捧げられていますが、まずはその手始めです。多くのサックス奏者がYoungからの影響を明言していますが、それが演奏に具体的に表われている場合もあり、音楽的姿勢や精神面での影響として内在し特に演奏では目立たないミュージシャンもいます。また黒人テナーサックス奏者である以上Presを始めとして他にColeman Hawkins, Ben Webster、そしてJohn Coltrane, Sonny Rollinsの影響を回避する事は不可能でしょう。優れた感性を持ち探究心、向上意欲の塊り、そして他者とは異なるオリジナリティの創造に対して、貪欲さを持ち続けるためには温故知新が欠かせません。

Lester Young

イントロはElvinとDavis二人による、彼らにしか成し得え無いグルーヴの世界、テーマに入る時のElvinのフィルインを聴いただけでワクワクしてしまいます!2コーラスのテーマ奏メロディ最後の音、テナーの最低音B♭をそのまま吹き続けKirkのソロが始まります。ソロ中コンディミ系のラインが多用されますがYoung風のライン、ニュアンスも随所に聴かれます。1’08″から早速マルチフォニックスによるテナー1本だけでの多重音奏法、直後に同じフレーズを単音でリピート、比較により重音でのインパクトが際立ちますが、ピアノも同様の音形でバッキングしています。1’19″でのElvinのフィルインにインスパイアされKirkが6連符?フレージングで応えますが、ラインが変わりサーキュラーブレスで何と1’41″まで20秒以上一息で吹き続けています!テナーソロの猛烈さからリズムセクションも次第に野獣と化し、2’00頃からピアノのバッキング、ドラムのフィル共にもの凄い事になっています!引き続きピアノソロでもハイテンションが継続しますが2’20″の辺りでKirkがカスタネットによるものでしょうか、何やらカシャカシャと効果音的に音を出していますが、サックスを吹き終え、サイドマンのソロの後ろでも自己主張をするのは流石と言うか、自分のリーダー・セッションゆえに許される行為です。ByardのソロはDuke Ellingtonのテイストからスタート、3コーラス目でベースとドラムが演奏をストップ、2コーラス間全くのピアノソロになりますがByard真骨頂を発揮、ブギウギ、ストライド奏法でのアドリブ!この展開には驚かされました。予めある程度決められていたのか、突発的に行われたのか、いずれにせよ作為を感じさせない自然発生的なアクションに音楽が活性化されました。再びベース、ドラムが加わる直前にKirkの景気付け?ホイッスルが鳴り響きます。その後1コーラス、クッション的にピアノソロが行われ再びKirkのテナーソロですが、1コーラス間もう1本ホーン(恐らくmanzello)の単音が同時に聴こえます。2コーラス目に入るやいなや単音を吹き続けた楽器を難なく口から放し、テナーに専念します。放した瞬間に音が途切れないのはどうしてでしょう?どのようなテクニックを用いているのか、同じサックス奏者として大いに気になるところです。ピアノのバッキングもEllington風、ラグタイムやブギウギはなるほど、Ellingtonのスタイルと共通するものを感じると再認識しました。その後1コーラスKirkとElvinのDuoになり、ベースが加わり更に1コーラス演奏、その後ラストテーマを迎えエンディングは半分のテンポになり、Kirkが雄叫びを上げてFineです。

2曲目はスタンダード・ナンバーからOnce in a While、KirkがClifford Brownの演奏を聴いて感銘を受けて以来のお気に入り。冒頭テナーとmanzelloによる演奏から始まりますが両手を駆使し、2本で異なった音を演奏しアンサンブルを聴かせています。音が微妙に震えているのはビブラートと言うよりも二つマウスピースを咥えていて、アンブシュアが今一つの不安定さに起因するのでしょうが、この様な形態で演奏をしようと言う発想が自由で素晴らしいです。Cliffordのトランペットより1オクターブ下の音域でのメロディ演奏、Webster風のニュアンスも含んでいるのでムーディさを醸し出しています。テーマ、アドリブの両方、ところどころで聴かれる2管のハーモニーはやはり驚異的、アンサンブルが挿入される場所やハーモニーの響きも実に音楽的で的確です。合計2コーラスの演奏、ソロはAAの部分ですが最低音からフラジオ音域までレンジ広くブロウ、サビのBでは倍テンポによる2管のアンサンブル、テナーとmanzelloが対旋律のように動いています。ラストAではElvinお得意のシャッフルのリズムになりフェルマータ、大胆にして繊細なロールで締め、KirkはCadenzaでテナーのキーでC、C#、C、ルート音であるF、そして9thのGまで超高音域フラジオを吹きFineです。

3曲目本作一つの目玉にしてKirkのオリジナルFrom Bechet, Byas and Fatsはソプラノサックス、クラリネット奏者Sidney Bechet, テナーサックス奏者Don Byas, ピアニストFats Wallerの3人に捧げられた軽快でスインギーなナンバーです。メロディのフィギュアやシンコペーションからスタンダード・ナンバーのLoverを感じさせます。冒頭で吹かれている楽器はmanzelloにも聴こえますが、恐らくoboeだと思います。高音域が強調された響き、何より直管の鳴り方がしています。manzelloは曲管部を有しているので鳴り方が異なりますから。メロディを吹き伸ばしている最中にオルゴールの様な?金属的な音でのメロディが聴こえますが、これもKirkならではのサウンド・エフェクトなのでしょうか?テーマのメロディ奏のバッキングではByardがWallerスタイルに徹しており、ベースのバッキングもよく合致しています。Elvinのドラミングもテーマに沿ったカラーリングが実に見事です!ソロはテナーで、これまたByasスタイルを音色まで見事に再現し、プラス超絶Kirkスタイルによる循環呼吸、連続ダブルタンギング、それらに応えるリズムセクションのグルーヴ、レスポンスにより物凄いインプロヴィゼーションを構築しています!ピアノのソロに替わった直後にカスタネットの音が聴こえますが、表現の発露が収まらない故の行為でしょうか。Byardのソロもイマジネーションに富んだ独自の世界を提示しています。その後のベースソロはDavisらしい重厚さを感じさせるピチカートを聴かせます。ラストテーマではElvinが一瞬5’29″辺りでテーマのシカケに入りそびれた風を感じますが、その後出遅れた感を若干引き摺り?シカケのフィルイン、カラーリングは初めのテーマの方が巧みであった様に感じます。

Sidney Bechet
Don Byas
Fats Waller

4曲目もKirkのオリジナルMystical Dream、曲の冒頭はテナーとmanzelloを2本咥えて演奏していますが、Elvinとのドラムセット”皮もの”を叩いたやり取りが面白いです。Aマイナーのブルース、テーマ直後にホイッスルも聴かれます。ピアノがヴァンプ的に1コーラスソロを取りますが、その後フルートソロが聴かれます。流石にサックスを2本同時に吹いた後、直ぐにはフルートに持ち替えが出来なかったためでしょう。Kirkはサックスを3本同時に演奏する夢を見て彼のスタイルを具現化しました。また後年夢で啓示があったためRahsaanの名を名乗ったのだそうです。幼い時に医療ミスにより視力を失ってしまった彼は、夢で見た事をさぞかし大切にしていたのだと思います。

5曲目は表題曲Rip, Rig and Panic、ここで聴かれる世界を一体何と表現したら良いのでしょうか。子供の頃に親に連れて行って貰った見世物小屋、そこで見た猥雑な世界を思い出しました。ここまで自己の全てを曝け出せるKirkの表現行為に心から敬服してしまいます。80年にトランペット奏者Don Cherryの娘であるNeneh Cherryらによって結成された英国のロックバンドRip Rig + Panicのバンド名は、この曲名から付けられました。ジャズ以外のミュージシャンにもKirkの音楽性は広く受け入れられているようです。冒頭テナーサックスのマルチフォニックス音、ベースのアルコ、ピアノのアルペジオから成る静寂の中に潜む不穏な影、重音奏法が佳境に入った時に突如としてグラスが割れる音、一瞬の無音の世界、ジャズアルバムでは考えられない構成です!カスタネットを用いたカウント?その後間髪を入れずテナーによるテーマ、このメロディも超絶系、でも低音部のサブトーンが堪りません。テナーソロに於けるベースライン、ピアノのコンピング、Kirkのソロ、煽りまくるElvinのドラミング、ここではWayne Shorterの「JuJu」、3’16″からの2本同時奏法によるハーモニー、ピアノソロではDavisのベース演奏からピアニストAndrew Hillの「Black Fire」をイメージしました。ドラムソロの最中5’21″頃からサイレンの音が聴こえますが何故サイレンなのでしょう?あまりにElvinのソロが過激ゆえの緊急避難警報でしょうか(笑)?5’43″からマルチフォニックス音を演奏しElvinがソロを終えた直後、再びカスタネットによるカウント?でラストテーマが演奏されますが、その後のエンディングはメロディを繰り返しディクレッシェンドし突然、落雷の如きけたたましさがシンバルの強打音、何かドラム以外を叩く音、正体不明のこれでもかとばかりの騒音、KirkによりRip, Rig and Panicとタイトルが3回連呼されます。ロックの作品にはこの様なメッセージ性、コンセプトを感じるアルバムが多々あります。ロックを含めたジャズ以外のジャンルのミュージシャンに信奉者が多いのはKirkのジャズに留まらない音楽性故であると思います。

6曲目はピアニストMilton Sealeyのオリジナル・ワルツBlack Diamond、manzelloに良くフィットするであろうし、雰囲気を変えるのに丁度良いとKirkが考えて取り上げたそうです。manzelloはソプラノサックスに巨大なベルを取り付けたKirk考案のオリジナル楽器です。ベルの向きがソプラノの様に真っ直ぐ方向ではなく、テナー、アルトの様に前を向いているのが特徴です。かなり異様で大きな形をしているので、どんなケースに収容されていたのかにも興味があるところです。Kirkにしては珍しく楽器1本でこの曲を演奏しており、インプロヴァイザーとしての本領を聴かせています。ワルツのリズムはElvinが得意とするところ、スネアやバスドラムを叩くタイムの位置が絶妙です!テーマ〜manzelloソロ〜ピアノソロ〜ラストテーマとストレートに演奏しており、構成や内容が複雑だった前曲との良い対比になっています。

7曲目ラストのナンバーはKirkのオリジナルSlippery, Hippery, Flippery、表題曲と同傾向のコンセプトを持った演奏です。ここではstritchをメインに演奏していますが、曲の初めには電気的な信号を用いたノイズ的な効果音(ごく初期のシンセサイザーを思わせます)、サイレンを鳴らし、その間隙をぬってElvinが皮モノを中心にフィルインを入れています。曲のテーマはここでも超絶系、ハードルを上げたためにメロディをちゃんと吹けているのか微妙なところです(汗)。テーマ中、ソロに入ったところでも電気的効果音が聴かれます。アグレッシヴなKirkのソロにメンバー一丸となって燃え上がっています!Elvinのタップリとしていて、スピード感溢れるビートが実に気持ちが良いです!Byardの終盤にKirkが吹き始め、終了を促しフェルマータ、おもむろにラストテーマを吹き始めリズムセクションが参加し大団円を迎えます。

2019.10.20 Sun

Mingus at Carnegie Hall / Charles Mingus

今回はベーシストCharles Mingusの74年リーダー作「Mingus at Carnegie Hall」を取り上げてみましょう。ジャムセッションを収録したライブレコーディング、レコードのAB両面1曲づつ各々20分以上長尺の演奏になりますが、起伏に富んだストーリーが聴き手を全く飽きさせません。

Recorded: January 19, 1974 at Carnegie Hall, New York City Label: Atlantic Producer: Ilan Mimaroglu, Joel Dorn Executive Producer: Nesuhi Ertegun

b)Charles Mingus tp)Jon Faddis as)Charles McPherson ts, as)John Handy ts)George Adams ts, stritch)Rahsaan Roland Kirk bs)Hamiet Bluiett p)Don Pullen ds)Dannie Richmond

1)C Jam Blues 2)Perdido

本作のライブレコーディングを収録した元々のコンサート「Charles Mingus and Old Friends in Concert」はNew York City MidtownにあるCarnegie Hallで74年1月19日土曜日の夜に行われました。40年以上前とは言え、入場最低料金$4.50とは随分安かったです。コンサートの最初のセットはCharles Mingusのニューグループによるもので、tp)Jon Faddis, ts)George Adams, bs)Hamiet Bluiett, p)Don Pullen, ds)Dannie RichmondそしてMingusのベース、6人編成のメンバーで行われました。レコードジャケットにはFaddisの名前もGuest Artistとして記載されていますが、これは誤記になります。演奏曲目はMingusのPeggy’s Blue Skylight, Celia, Fables of Faubus、加えてDon PullenのBig Aliceの計4曲。こちらのセットの演奏も録音されているでしょうから「The Complete Mingus at Carnegie Hall」の様な形でリリースされる日が来るかも知れません。後半のセットはゲストとしてJohn Handy, Rahsaan Roland Kirk, Charles McPherson3人のサックス奏者が加わった形で演奏されました。Mingusのライブでは必ず取り上げる彼のオリジナルや彼特有のバンドアンサンブルが無く(ソロの後ろで管楽器によるバックリフのアンサンブルが聴かれますが、その時々メンバーの即興によるものでしょう)、管楽器全員に延々とソロを回すジャムセッション形式で演奏が行われています。単にリハーサルや打ち合わせをする時間がなかったためなのかも知れませんが、結果歴史に残る素晴らしいパフォーマンスを繰り広げました。演奏曲目はMingusが心底から尊敬するDuke Ellingtonのナンバーから、セッションで日常的にもよく取り上げられるC Jam Blues, Perdidoの2曲。セッションの選曲にさえも自身の音楽性を反映させており、Mingusの音楽表現へのこだわりを感じさせます。MingusとEllingtonの共演作が残されています。62年9月録音「Money Jungle」、ドラマーにMax Roachを迎えたピアノトリオ、Mingusはいつも以上にハイテンションにプレイし、3人で素晴らしい演奏を繰り広げています。

帽子を被ったオシャレなEllington,サスペンダーのMingus,迷彩服姿(?)のRoachが異彩を放っています。

Old Friendsと言うくらいで、本作はMingusと過去に於いて共演を果たしているミュージシャンたちとの演奏になります。ニューグループの方は若手が中心でNew Friendsということになりますが、メンバーとの関わりについて触れてみましょう。ドラマーDannie RichmondはMingusの片腕、女房役として57年録音の名作「The Clown」からMingusの78年ラストレコーディングまで30年以上、殆どの作品で共演を果たしています。素晴らしいセンスのドラミング、ビート感、Mingusの音楽的要求に確実に答えられる柔軟性、何より強面、自我の表出の激しいMingusと永年私生活でも支障なく付き合える包容力と忍耐力(笑)を持ち合わせています。

ピアニストDon Pullenは前作73年「Mingus Moves」からの共演になり、個人的にMingusの特に優れた作品と認識している74年「Changes One」「Changes Two」にも参加、演奏のキーパーソンとなっています。R&Bからビバップ、フリーフォームまで幅広いスタイルを網羅した演奏は本作で共演しているテナー奏者George Adamsと絶妙のコンビネーションを発揮、両者共同名義による作品も多くリリースされています。

そのGeorge AdamsもPullenと同じく「Mingus Moves」からの共演になります。同様に「Changes One」「Changes Two」にも参加、やはりAdamsの快演無しには名作「Changes」2作は成り立ちませんでした。Mingus Bandで互いに切磋琢磨した間柄から、79年George Adams〜Don Pullen Quartetの結成は必然のなせる技なのでしょう。

トランペッターJon Faddisとは72年Lincoln Centerで行われたMingusビッグバンドの作品「Charles Mingus and Friends in Concert」で初共演、その後同年7, 8月に小編成のバンドで欧州ツアーをしました。持ち前のハイノートを駆使したプレイは多くのビッグバンドやスタジオワークで重用される一方、アドリブ奏者としても非凡な演奏を聴かせます。

バリトン奏者Hamiet BluiettはFaddisと共に72年の欧州ツアーに同行したのが付き合いの始まり、その後は付かず離れずのスタンスで彼と75年まで共演していました。Mingusの元を離れた後76年には、満を持して自己の初リーダー作「Endangered Species」をリリースすることになります。

ゲストサックス奏者一人目Charles McPhersonは文字通りのOld Friend、62年頃からの共演歴になります。Bootlegの「The Complete 1961-1962 Birdland Broadcasts」でその最初期の演奏を聴くことが出来ます。Mingusのアルバムには10数作参加している古参のひとりです。

ゲストの二人目John Handyは本ライブでテナーとアルトの両方を曲によって吹き分けています。マルチリード奏者として知られていますがMcPhersonよりも更に古く59年「Jazz Portraits: Mingus in Wonderland」からのOld Friend、主に60年代初頭に演奏を重ね、本作では久しぶりの共演になります。

そして三人目のOld Friendは本作の裏番長、いや真の主役と言っても良いかも知れないRahsaan Roland Kirk、本作ではテナーサックスをメインに誰よりも長く、誰よりも派手に巧みにソロを取り、自分の世界をとことん、これでもかと表現しています。Mingusとは前記のBootleg盤の61年テイクと、同じく61年「 Oh Yeah」で共演していますが、それ以来13年振りの共演はMingusから絶大な信頼を得ていたのでしょう、手が付けられない状態になるまでソロプレイを放置されています(笑)!

メンバーが全て出揃いました、それでは演奏について触れて行きましょう。1曲目C Jam Blues、ピアノトリオでまず1コーラステーマが演奏され、続いて管楽器総動員6管によるユニゾンでテーマが1コーラス演奏されます。MingusとRichmondが繰り出すビートは実にスインギー、ベースの音色が極太です!ソロの先発はJohn Handyのテナー、Handyはアルト奏者というイメージがありましたが、この音色を聴く限りアルト奏者のテナーの音ではなく、テナー奏者のものです。スタイル的にもCharlie ParkerではなくSonny Rollinsやホンカーのテイスト、John Coltraneのスパイスも感じさせます。合計15コーラスを演奏し、1コーラスクッション的に次の演奏者探しに費やされます。Bluiettのバリトンが次なるソロイスト、最低音域からフリークトーンを用いた高音域までレンジを広く網羅したソロを聴かせます。フリーフォームを中心にしたアヴァンギャルドな内容の語り口、さすがDavid Murray, Oliver Lake, Julius Hemphillらを擁したWorld Saxophone Quartet(メンバーの変遷はありましたが)のメンバーです。 9コーラスを演奏した後今度はGeorge Adamsのテナーにスイッチします。いきなりアウトしたフレージングから始まりますが、この人の音色には何とも言えない独特の色気、艶があるので思わず聴き入ってしまい、彼の世界に引きずり込まれます。フリーキーなフレージングの連続に、リズムセクションも7’03″辺りからMingusのオリジナルに良く用いられる8分の6拍子(6/8)のリズムに変わって行きます。1コーラスの後ドラムはもう少し6/8リズムを続けたかったフシが伺えましたが、Mingusがきっぱりとスイングに戻しました。PullenのバッキングもAdamsに同調して、おそらく肘打ちや拳骨を駆使したクラスター・サウンドを聴かせますが、彼の手が絆創膏だらけだった写真を見た事があり(爆)、流血するほどの格闘技ファイター的なピアノ奏法です!AdamsもHandyと同じく15コーラスを演奏、盛り上がり切った現場は根こそぎAdamsに持って行かれ、ペンペン草さえも生えていないような荒涼とした大地です(笑)!そこにRahsaan Roland Kirkがスネークインして来ました。これだけの世界を作られた後にソロを行うのは誰でも辛いと思うのですが、Kirkは一向に意に介していない模様、落ち着き払い堂々とした登場ですが、2コーラス目で先ほどのAdamsのソロのフリーキーな部分を、見事なまでにそっくりマネしているではありませんか!耳の良いプレイヤーならではのフェイクですが、さぞかしAdams本人は勿論、メンバーも驚いたことでしょう!さて、ソロの掴みはOK、続いてRollinsのAlfie’s Themeを引用します。Kirkのフレージングは様々なテナープレーヤーの要素を研究したフシが伺えますが、かなり高度な音使いをさり気なく用いており、更に加えて10’55″から聴かれる特殊な運指とその奏法によるマルチフォニックス(重音)をサーキュラーブレス(循環呼吸)で長時間吹き続ける、11’43″からトリルを用いつつ延々とお得意のサーキュラーブレス、ダブルタンギングを多用したフレーズ、12’35″からはColtraneのA Love Supremeのテーマ引用、12’46″からはベンドとグロートーンを同時に用いたIllinois Jacquet風ホンカー・テイストのブロウ、13’15″からは一転して音色も変えながらのビバップ・テナー、例えるならばDexter Gordon風のテイストでのソロ、13’36″から再びサーキュラーブレスでギネスブックものの信じられない長さでアヴァンギャルドなフレージングのオンパレード、オルタネートフィンガリング、フリークトーン、マイクロフォンから(わざと?)遠ざかり、近づくエフェクト、ありとあらゆるサックスの特殊奏法のオンパレードにより、何と24コーラスを吹き遂げました!!その後1コーラスが次のソロイストに引き継ぐためのクッション的にリズムセクションので演奏され、Faddisのソロになります。冒頭のフレージング、そうですよね、こんなフレーズでも吹かないと演奏を始められないですよね(笑)。Dizzy Gillespieのテイストを感じさせるミュート・トランペットによる8コーラスのソロが聴かれます。ソロイストの最後はMcPhersonのアルト、実に正統派Parkerスタイルを端正に、クールに12コーラス聴かせます。1コーラスのクッションを置いてラストテーマに戻りますが、あれだけ盛り上がってしまった演奏はそう容易くエンディングを迎えることは出来ません!場外乱闘的が始まりました!Kirkがサーキュラーブレスで吹き続けるF#の音(#11th)がドローンのようにずっと鳴り響きますが、ここでは本編では吹かなかったstritchも用いて、2本同時に演奏しているように聴こえます。各人様々なフリートークを重ねています!4分以上続き満場のアプラウズを受けてとうとうFineです。

2曲目がPerdido、C Jam Bluesの白熱した演奏で全参加者全員すっかりと吹っ切れたようです!テンポは先ほどよりも早く設定されており、ソロの一人目は再びHandy、今度はアルトを携えての登場になりますが、早めにソロを終えて落ち着いてしまおうという目論見か、それとも周りのミュージシャンがHandyに敬意を払って先発を勧めたのか、何れにせよいきなり別人のようにアグレッシヴなアプローチを聴かせます!フラジオ音も多用しつつのソロはやはりParkerの語法を感じることは出来ず、どちらかと言えばモーダルな、テナー奏者としてのスタイルを感じます。当然リズムセクションの演奏も一層熱気を帯び始め、Richmondのドラミングが特にイっています。4コーラスを演奏しBluiettのソロになりますが、彼の演奏も委細構わずの姿勢をより感じさせ、ハードに、ファンキーに、やはり4コーラスを演奏しています。そしてKirkの登場です。C Jam Bluesでの熱気を他所にクールにまず1コーラスを演奏し、2コーラス目途中からいきなりターボ全開、サーキュラーブレスで倍テンポ吹き捲り、オーディエンスはKirkの演奏が再び自分たちを音の異次元空間へいざなってくれるのだろうと、期待に満ちた熱いエールを送ります!それにしてもサーキュラーブレスとは管楽器奏者が複数参加するライブ・パフォーマンスでは確実に全てを制する飛び道具、いや破壊兵器になりますね!Pullenのバッキングも途轍もない次元まで登り詰めているので、彼の両手が心配です!聴衆のリクエストに完全に合致した超ハイパーなソロ、笑っちゃう位の物凄さを計9コーラス演奏しています。続いてMcPhersonの登場、原曲のメロディを挿入しつつ端正さはしっかりとキープしてホットなソロを4コーラス聴かせています。Adamsのソロにその後引き継がれますが、彼もタガが外れたかのように初めからフリー・アプローチ祭りの様相を呈しています!素晴らしい音色、楽器コントロール巧みさ、演奏盛り上げに対してのバリエーションの豊富さは実に見事。ですが同じテナー奏者同士の比較はやむを得ません、やはりKirkの方が役者が何枚も上のように感じてしまいます。5コーラスを演奏した後Faddisがオープンでトランペットソロ、ここでは一層Gillespieのカラーを聴かせるソロに徹して5コーラスを吹いています。その後Pullenのソロがバーニング!1曲目演奏時間24分強、ここでも既に18分以上が経過、ホーンズのソロに圧倒されつつ長い間出番を虎視眈々と狙っていたのでしょう!ストロングなピアノタッチ、手の方よりも鍵盤やピアノの弦の方の損傷を心配するのは取り越し苦労ですね(笑)Perdidoの2ndテーマが演奏されますが、冒頭のテーマ演奏時サビでアルトでソロを取っていたHandy、後テーマのサビではテナーでソロを吹いています。エンディングではこちらもテナーとstritch用いたKirkのドローンが演奏され、参加者全員演奏の残火をいとおしんでいるかのようにブロウしていますが、前曲よりもあっさり目に曲を終えています。

2019.10.13 Sun

Out of the Afternoon / Roy Haynes

今回はドラマーRoy Haynesの1962年録音リーダー作「Out of the Afternoon」を取り上げてみましょう。

Recorded: May 16(on 1, 6, 7) & 23(on 2, 3, 4, 5), 1962 Studio: Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey Label: Impulse! Producer: Bob Thiele

ts, manzello, stritch, flute, nose flute)Roland Kirk p)Tommy Flanagan b)Henry Grimes ds)Roy Haynes

1)Moon Ray 2)Fly Me to the Moon 3)Raoul 4)Snap Crackle 5)If I Should Lose You 6)Long Wharf 7)Some Other Spring

Flanaganだけ楽器を持たずに手持ちぶたさでいるのが可愛いジャケット写真です。

1925年3月13日Boston生まれのRoy Haynesは現在94歳、ご存命で今でも時たまドラムを演奏すると言う話を耳にすると嬉しくなってしまいます。モダンジャズを代表するドラマーにして優れたバンドリーダー、何より柔軟な音楽性ゆえ数多くのミュージシャンから彼のドラミングが必要とされ、レコーディングを重ねジャズ史に燦然と輝く名盤に名を連ねて来ました。枚挙に暇がありませんが彼を雇い共演したミュージシャンはLester Young, Charlie Parker, Miles Davis, Bud Powell, Wardell Gray, Sarah Vaughan, Eric Dolphy, John Coltrane, Stan Getz, Sonny Rollins, McCoy Tyner, Chick Corea….Haynesの参加した作品のかなりの数を耳にしましたがその全てに彼の存在感があり、楽曲アンサンブルの巧みさやソロイストを鼓舞し、演奏を活性化させるアーティスティックな姿勢に毎回感銘を受けます。僕がHaynesと双璧を成すと思っているドラマーがElvin Jonesですが、HaynesがJohn Coltrane QuartetにおいてElvinの代役を務め、名演奏を残したことはよく知られており、二人の演奏スタイルは全く異なるにも関わらず共通していることがあります。それはドラムを叩かず(実際にはもちろん叩いていますが)、演奏せず(していますが)、音楽を奏でている点です。彼らのドラミングのフレーズが型にハマらず不定形で、演奏者によって、その場その場の状況で多様に変化して行きソロイスト、共演者に寄り添い、ビートを刻む、リズムを繰り出す、それもシンコペーション、ポリリズムを駆使してその場で最も相応しく且つ一層のアクティビティをもたらす効果的な対応、その瞬間の取捨選択の見事さ、そして極めて尋常ではない大胆さを伴いつつ。これらは二人のどちらかに当てはまると言う事ではなく、両人にユニゾンのように備わっているのです。

Haynesのリーダー作は54年に欧州で録音された10inchの企画もの「Busman’s Holiday」「Roy Haynes Modern Group」2作が最初期のものに該当します。欧州に熱狂的なHaynesファンがいて、渡欧を見計らってレコーディングを持ち掛けたのかもしれません。

58年録音「We Three」がHaynesのリーダー作として本格的なものになります。ピアニストにPhineas Newborn, ベーシストPaul Chambersら豪華メンバーを擁したピアノトリオ作、モダンジャズを代表する素晴らしい作品の1枚だと思います。

次作として60年録音同じくピアノトリオによる「Just Us」はピアノにRichard Wyands、ベースにEddie De Haasをフィーチャーしたこちらも選曲、演奏共に優れたアルバムです。We Threeの次がJust Usと言うのも洒落たネーミングですが、レコードジャケット両作のメンバー集合写真からもトリオとしてのまとまり、我々にしか出来ないグループ・サウンドを創造するんだ、と言う意欲を感じさせます。

そして62年録音の本作に繋がります。これまでのピアノトリオ形態にフロント1人を迎えたカルテットになりますが、このサックス奏者が半端ではありません。マルチリード奏者にして複数本の楽器を同時に奏でる盲目のプレーヤーRoland Kirk、存在感、プレイとも申し分ない人選。Haynes、そしてプロデューサーBob Thieleよくぞ彼を招き入れました! HaynesがNYCのジャズ・クラブFive Spotにて対バンとして出演していたKirkとセッションを行い、演奏に感銘を受けThieleに本作の企画を持ちかけて実現しました。Kirkは自己がリーダーでの活動が中心で、サイドマンとして演奏するのは珍しく、他にはCharles Mingus, Quincy Jones, Jaki Byardが彼をサイドマンとして雇っている位です。サイドマンとしての演奏が少ないのは強力なパーソナリティの持ち主ゆえかもしれませんが、逆にMingus, Quincy, ByardそしてHaynesほどの優れた音楽性を持った個性派であれば、Kirkに自由に演奏させたとしても十分に自己の音楽に内包させることが出来るという事でしょう。Kirkは本作録音前月にHaynesを既に招き入れ名作「Domino」をレコーディング、以降68年「Left & Right」76年「Other Folks’ Music」の計3作で共演しています。

もう一つこれは大変興味深い演奏ですが、71年放送のEd Sullivan ShowにKirkのグループとしてHaynesの他、Charles Mingus, Archie Sheepらと共に出演、番組冒頭ではサックスを3本同時に吹き自身の名曲The Inflated Tearの一節を独奏、その後に参加メンバー全員でMingusのHaitian Fight Songを演奏しているのです! https://www.youtube.com/watch?v=fzGj_-5FGT8 (アドレスをクリックしてyoutubeの映像をご覧ください!)

Roland Kirkの演奏や音楽性については別の機会にまたじっくりと取り上げたいと思うのですが、本作収録曲の演奏を触れて行くに当たり、どうしてもKirkを中心に語らざるを得ないのが実情です。

1曲目哀愁を湛えたスタンダード・ナンバーMoon Ray、Haynesのマレットによるロールからピアノ、ベースのアルコが加わり一瞬二本同時演奏の後、テナーサックスによるメロディが始まります。多重録音が成されていないことを前提に、サビはmanzello(巨大な上向きベル付きソプラノサックス、Kirkが考案した楽器です)で演奏しています。ソロはテナーサックスが中心ですがもう1本サックスの音が同時にずっと聴こえ、時折ハーモニーを吹いたりダブル・タンギングを用いてアクセントを付けたり、耳には心地よく入って来ますが録音中、実はとんでもないことが行われていました!続くTommy Flanaganのピアノソロは職人芸的なスムースさを伴って、美しく響きます。Henry Grimesのベースはon topの素晴らしいタイム感でHaynesのソロとよく絡み合っています。ラストテーマは再びテナーとmanzelloを持ち替え、エンディングは2本をダブリングしています。Kirkの演奏はすべてがさりげなく行われていますが、白鳥が湖面を優雅に泳ぐが如く、水面下では壮絶な出来事が進行しています。

2曲目はMoonつながりでFly Me to the Moon、3拍子で演奏されています。イントロでHaynesは皮物を鳴らしたソロの後ピアノ、ベースが加わりテナーでメロディが始まります。始めサブトーンを用いた低音域で、その後は上の音域にスイッチしテーマの最後4小節には一瞬の間にもう1本サックスをダブリングしてハーモニーを聴かせています。テーマ終了時1本を口から離し、音が途切れることなくソロがテナー1本で開始されますが、多重録音でもない限りちょっと考えられない奏法です。1’03″からダブルタンギングによる16分音符の超絶フレージング、続け様に今度はテナーサックス1本でマルチフォニックス奏法による多重音奏法、2’04″から08″間は再び2本同時演奏によるハーモニー(実に芸が細かいです!)。Kirkがアドリブで吹いているラインは比較的オーソドックスなものですが、何しろ様々なテクニックを駆使した曲芸的な、ある種大変トリッキーなものです。60年代初頭に忽然と現れた謎の怪人サックス奏者、盲目にして独自の風貌、さぞかしプレーヤー、オーディエンスともに衝撃的だった事と思います。米国は本当に多くの天才を輩出する国だと改めて実感しました。その後FlanaganのソロになりますがKirkの演奏時はそちらにばかり耳が行ってしまい、バックの演奏に注意を払えなくなりますが、ピアノソロで実にHaynesが巧みなドラミングを聞かせていることに気付かされます。ベースソロに続きKirkはmanzelloに持ち替えてドラムと8バース〜4バースを行います。テナーソロと異なるのはシングル・タンギングを用いたキレの良い8分音符が中心になる点です。HaynesはKirkのフレーズに反応しつつ新たなアイデアも提供しています。その後バースに於いてもダブリングを行い、2本でユニゾン〜ハーモニーも聴かせます!ラストテーマは再び低音域に戻り、後半上の音域へ、エンディング逆順進行でも2本によるハーモニーを演奏してFineです。

3曲目はHaynesのオリジナルでアップテンポのスイング・ナンバーRaoul、Haynesの短いドラムソロからテーマに入ります。Kirkは再びmanzelloでメロディ奏、ソロを取ります。1’25″から2ndメロディと思しきラインを2本同時に吹いてアンサンブルを聴かせピアノソロに続きますが、ホイッスルやフィンガー・スナッピングも聴こえます。ベースのアルコソロに続き、テナーとドラムの短いDuo、その後ドラムソロに突入します。ラストテーマに入るところは微妙ですがギリギリセーフでしょう!レコーディング・スタジオ内でメンバー同士のアイコンタクトが取れないために、致し方のない事です。

4曲目はHaynesが50年代に付けられたニックネームSnap Crackleをタイトルにした自身のナンバー。冒頭Roy! Haynes! の掛け声はFlanaganによるものです。当初はKirkにRoyの名前を叫ばせるという案もあったという事で、そちらの方がインパクトが強かったように思うのですが残念!でも実はKirkに任せたら何をやらかし始めるか、叫び始めるかわからないという危惧ゆえ、ピアノ演奏同様に堅実なFlanaganにThieleが行わせたというのが実情かも知れません(笑)。シンコペーションを多用した変則的なリズムのメロディはいかにもHaynesらしいテイストです!1人ホーンセクションをテーマで聴くことが出来ます。マイナーブルースのコード進行によるソロの先発はピアノ、続いてKirkがフルートでソロを取りますが、自分の声とフルートをダブらせています。必ず何かしら演奏で聴かせてくれますね、この人!その後はベースを伴ってのドラムソロ、ラストテーマは繰り返されフェードアウトとなります。

5曲目はスタンダード・ナンバーIf I Should Lose You、短いドラムソロの後、ここではKirkがstritch(直立型アルトサックス、こちらもKirk考案の楽器です)を用いてテーマ、ソロを取ります。やはり普通の曲管アルトサックスとは異なった独特の音色です。1コーラス目は比較的オーソドックスでしたが1’31″からターボが掛かり始めダブルタンギング超絶奏法が!続くFlanaganのはKirkのイケイケには惑わされず自分のペースをキープします。その後KirkとHaynes、Flanaganも交えたバースが聴かれますがHaynesかなりストロングなフレージングを聴かせ、2小節毎のアタマにピアノとベースのコードが入る1コーラスのドラムソロも行われています。ラストテーマは割とあっさりエンディングを迎えています。

6曲目HaynesのオリジナルにしてアップテンポのLong Wharf、Haynesのシンバルレガートから曲が始まります。ここでもKirkはstritchを使用して演奏しています。ここでのKirkは比較的ストレートにソロを行い、Flanaganにソロを渡しています。Grimesのアルコソロ、ピアノ〜ベースのサポート付きでHaynesのドラムソロか聴かれ、そのままラストテーマへとなだれ込みます。

7曲目ラストに控えしはバラードSome Other Spring、ドラムのブラシソロによるイントロからKirkはmanzelloを用いて朗々と吹いています。サビをピアノが演奏しKirkが再登場しメロディプレイ、ピアノがサビで短いソロを演奏し、今一度KirkがAメロを吹いてFine、1コーラス半の短いエピローグ的演奏です。この後KirkはFlanaganとレコーディングで顔合わせをすることはありませんでしたが、本作でも2人の相性としてはずっと平行線を辿っているように感じました。

2019.10.05 Sat

Bottoms Up / Illinois Jacquet

今回はテナーサックス奏者Illinois Jacquet、1968年のリーダー作「Bottoms Up」を取り上げたいと思います。

Recorded: March 26, 1968 NYC Label: Prestige Producer: Don Schlitten

ts)Illinois Jacquet p)Barry Harris b)Ben Tucker ds)Alan Dawson

1)Bottoms Up 2)Port of Rico 3)You Left Me All Alone 4)Sassy 5)Jivin’ with Jack the Bellboy 6)I Don’t Stand a Ghost of a Chance with You 7)Our Delight

Jacquetの吹くホンカー・テナーの魅力を凝縮させた一枚に仕上がっています。

ホンカーの元祖とも言えるテナーサックス奏者Illinois Jacquetは1922年10月Louisiana生まれ、兄がトランペッター、弟がドラマー、そして父親がバンドリーダーという音楽一家の環境で育ち、幼い頃には既に父のバンドでサックスを演奏していたそうです。40年にNat King Coleトリオに客演した際、その資質を見抜いたColeがJacquetをLionel Hamptonのバンドに紹介し、それまでアルトサックスを吹いていたJacquetはテナー奏者としてHamptonのビッグバンドに加入することになりました。好機はすぐさま訪れ、42年にHamptonのビッグバンドがBenny GoodmanとHampton共作のナンバーFlying Homeを録音、すでにGoodman楽団の演奏で知られていましたが、19歳のJacquetにソロを取らせ結果大ヒットを記録しました。音源として残されているホンカーテナー・ソロとしては最初期のものに該当します。幸先の良いスタートですが、良い意味でも悪い意味でもFlying Homeの演奏がJacquetの代名詞となりました。Hamptonビッグバンドのlive showでは演奏の終盤に必ずこの曲を演奏し、Jacquetの演奏をフィーチャーしたそうで、数え切れないほどの回数を演奏〜グロウ、ホンキング〜した事と思いますが、もしかしたらホンカーのお家芸であるステージに寝そべってテナーをブロウする技も披露していたかも知れません。

因みにJacquetに影響を受けた幾多のフォロワー・テナー奏者たち、例えばArnett CobbやDexter GordonがFlying Homeを演奏する際はJacquetのソロをコピーして吹いていたそうです。同様に以降Flying Homeを演奏するテナー奏者はJacquetのソロを全く同じように覚えて吹く事が慣わしになり、Flying Homeではテーマを吹くのと同様にJacquetのソロも演奏する合わせ技が必須でした。ここまで楽曲に一体化したソロも存在しなかったでしょう、それだけ素晴らしい「シンプルにして唄心溢れるソロ」をJacquetが録音したとも言えます。

クリックしてお聴きください。音色、タイム感、フレージングとその構成力、デビュー間もない若干19歳のテナー奏者の演奏とは信じられない、ハイクオリティのソロです!

名曲Sing Sing SingにおけるHarry Jamesのトランペット・ソロ、Benny Goodmanのクラリネット・ソロ両方にも同様な事が言えます。いずれも素晴らしい内容ですがこちらは難易度がとても高く、原信夫シャープス&フラッツで演奏の際、完全コピーでの演奏再現をトランペット奏者、そしてアルトサックス奏者が持ち替えで演奏するクラリネットに課せられました。完全コピーではないにしろ、Sing Sing SingではHarry James, Benny Goodmanのテイストを部分的に拝借した内容でトランペット、クラリネットソロを取るのが今でも定番になっています。

とは言えJacquetは連夜の「満場を唸らせ、喝采を博する」ためのFlying Home演奏に辟易し、さらに推測するにHamptonはJacquetに毎回必ずレコーディング初演と同じ内容のソロを吹くようにと要求したと思います。楽曲と一体化した有名なソロですから、オーディエンスもこちらをお目当ての一つにして足を運んで来た事でしょう。Jacquetも若かったので違うことをやりたかったに違いありません。翌43年にHamptonのバンドを辞める事になりますが、今度は引き続きCab Callowayのオーケストラに参加します。ちなみにその当時のJaquetの映像をジャズボーカリストにして女優であるLena Horne主演の映画「Stormy Weather」で見る事が出来るのは嬉しい限りです。44年にCaliforniaに戻ったJacquetは兄であるトランペット奏者RussellやニューカマーのベーシストCharles Mingusらと小編成のバンドを起こし演奏活動を行い、Lester Youngと共にAcademy賞にノミネートされた短編映画「 Jammin’ the Blues」にも出演、またNorman Granz主催のJATP第1回コンサートにも出演するなど、シーンへの露出度が次第に高くなりました。46年にはNew Yorkに活動場所を移し、Count Basie OrchestraにLester Youngの後釜として参加しますが、Lesterの後任とはさぞかし重積だった事と思います。その後は自己の小編成バンドで欧州を中心に活動、81年からIllinois Jacquet Orchestraを組織し晩年まで活動しました。Jacquetは40年代から激動の米国ジャズシーンにしっかりと根を生やし、様々なバンドに在籍して生涯勢力的に活動を展開しました。

Jacquetはその長い音楽生活の中で多くの録音を残していますが、ライブ盤やレコード会社の企画モノ、コンピレーション・アルバム等のラフな制作の作品が中心です。本作は例外的にJacquetの持つ魅力を1枚に凝縮させようという、本人や制作サイドの強い意志を感じさせる仕上がりになっています。もう1作56年録音のリーダー・アルバム「Swing’s the Thing」 にも作品としてのコンセプトを感じる事が出来ます。

参加ミュージシャンに触れて行きましょう。ピアニストBarry Harrisは1929年生まれ、現在でもNew Yorkを中心に音楽活動を行い、同時に後進の指導を積極的に行っています。リーダーとしては言うに及ばず、サイドマンとしての信頼度も高いプレーヤーです。

ベーシストBen Tuckerは30年生まれ、安定したベースプレイとビート感から数多くのレコーディングに参加し、Herbie Mannの演奏で有名になったComin’ Home Babyを作曲、61年にDave Bailey Quintetでレコーディングし大ヒットを記録しました。

ドラマーAlan Dawsonは29年Pennsylvania生まれ、BostonのBerklee音楽院で57年から教鞭を執り、Tony Williams, Terri Lyne Carrington, Vinnie Colaiuta, Steve Smith, Kenwood Dennard, Billy Kilsonといったジャズシーンを代表するドラマーを育成しました。自身のドラミングもタイトなグルーヴ、テクニカルなプレイを聴かせています。

収録曲にも触れましょう。1曲目Jacquet作のオリジナル、表題曲Bottoms Up、まさしくホンカーがホンキングするためのナンバーです!Jacquet自身による指と足を使ったカウント(気持ちが入っています!)後、ピアノトリオによるイントロが始まりJacquetはいきなりルート音のB♭を上の音域でグロウしてクレッシェンドしながら吹き伸ばしています。まずリスナーを驚かして注目を集めようとするのはホンカーの常套手段で、我々は業界用語で「カシオド」と言っています(笑)。シンコペーションを多用したテーマは思わずリズムを取りたくなってしまいます!ソロが始まりエンジン全開、グロウ、シャウトの連続技です!ソロ2コーラス目にはストップタイムを活用したホンカーやロックンロール定番フレーズの登場!サビではテナーの最低音にして曲のキーであるLow B♭音を炸裂させています!否応無しにノセられてしまいますが、このまま好きな所に連れていって、と身を委ねたくなるのも演者の作戦、すっかり術中にハマってしまいます!3コーラス目は更にイケイケ状態、ベンド、シェイク、フラジオとホンカー技のオンパレード、そしてその後4コーラス目は再びストップタイム、定番フレーズ・パート2まで登場し、これは間違いなくロケンロールです!ホンキングこれでもかを臆面も無く発揮しつつ、1曲吹きっぱなしの大フィーチャーナンバー、Jacquetの面目躍如です!曲中on topのベースワークが光るTucker、良い人選であったと思います。

2曲目はPort of RicoはJacquet作のブルース・ナンバー、曲が始まった暫くはリラックスした雰囲気が漂いますが、これもホンカーならではの習性、すぐにシャウトを交えた熱い演奏に変化してしまいます。この演奏もテナー1人吹きっぱなしの独壇場です。

3曲目哀愁を帯びた美しいバラードYou Left Me All Alone、こちらもJacquetのオリジナルになります。素晴らしいテナーサウンド、マウスピースはOtto Link Metal 7★、リードはRico3番、楽器本体は多分Selmer Super Balanced Actionを使っています。サブトーンでしっとり聴かせるバラード奏法と言うよりも、張った音色、シャウト系の吹き方を中心に、時たまサブトーンをクッションとして用いるブロウで聴衆を説得しており、益荒男振りが一層光る演奏です。こちらもJacquetの大フィーチャー、3曲目にして未だ他のメンバーのソロを聴くことは出来ていません。

4曲目Sassyはオルガン奏者Milt Bucknerのオリジナルになります。印象的なマイナー調のメロディ、リズムセクションのシカケが効果的です。ここでのJacquetのソロはホンカーを基本にしていますが、端々に正統派ジャズプレイヤー然としたインプロビゼーションのアプローチを聴かせています。ここでの吹き方をよりワイルドにしたのがEddie “Lockjaw” Davisです。4曲目にして初めてHarrisのピアノソロを聴くことが出来ました。洗練されたBud Powellとも言うべき演奏です。

5曲目Jivin’ with Jack the Bellboy、Jacquetのオリジナルです。4小節のドラムソロ、ピアノトリオによる1コーラスの演奏の後テーマ奏、テナーソロと続きます。ここでもJacquetの暴れっぷりは、全米ホンカー協会が存在したら表彰されそうな勢いです!その後ドラムスとメンバー全員とのトレードがあり、ラストテーマを迎えます。ここでも最低音B♭のルート音提示による、低くて太いホンカーであるべき条件を再確認させています。

6曲目はVictor Young作スタンダードナンバー、I Don’t Stand a Ghost of a Chance with You、Ghost of a Chanceとタイトルを省略する場合が多いです。美しいバラードでテナーがテーマを演奏、ここでは3曲目You Left Me All Aloneのアプローチと異なった、サブトーン中心によるムーディな奏法を堪能できます。テーマ後ピアノソロになり1コーラス丸々を演奏しますが、テナーがラストテーマをサビから演奏するのかどうかの気配を、Harrisが探りながら演奏していたので一瞬サビ前でソロが完結しそうになりますが、そこは手練れの者、難なくサビに突入しています。ピアノソロ後ラストテーマはやはりサビから、ここではホンカーが再び降臨したかのような吹き方に変わっています。ラストはサブトーンを用いて再びLow B♭音を吹いて演奏をバッチリ締めています。

7曲目最後を飾るのはOur Delight、ピアニストTadd Dameron作の名曲、Jacquetはかなり饒舌に2コーラスをブロウしていますが、細かいコードチェンジを巧みにアプローチしています。Harrisも同時代を生きたピアニストの曲はお手の物で、流暢なソロを聴かせています。ひとつ気になるのはFlying Homeの初演でJacquetが、あれほど素晴らしい完璧なレイドバックのリズムを聴かせていたにも関わらず、この曲を含め本作収録全曲タイムが早くラッシュしている点です。何が彼をそうさせたのか、彼自身このスタイルが気に入っているのか、ホンカーとしての成熟度の素晴らしさには諸手を挙げて賛辞を送りたいと思いますが、タイムの処理に関しては個人的に物足りなさを感じてしまいます。

最後に余談ですが、今は無くなってしまった目黒のとあるジャズ・ライブハウス、そこで良く演奏をしていました。マスターが趣味でテナーサックスを演奏するので僕のことを贔屓にしてくれたのもあり頻繁に顔を出し、セッションしたりマスターとジャズの話で盛り上がったりしていました。マスターの趣味はHard-BopやBe-Bop、スイング時代のジャズでした。そもそもギターや電気楽器があまり好きではなく、ライブでギタリストがエフェクターをアンプに繋いだだけで機嫌が悪くなるようなアコースティック一辺倒の、いわゆる「頑固な」ジャズ喫茶のオヤジでした。ある日Bob Mintzerが参加する僕が大好きなYellow Jacketsのライブを聴きにいった直後に店に立ち寄り、遊びに来ていたミュージシャンに「Yellow Jacketsのライブを観に行ったんだ」と話をしているとマスターが横から話に割り込み、「おっ、来日してたんだ、どうだった?」と意外なリアクションを見せます。「素晴らしかったですよ」と答えてはみたものの、マスターがYellow Jacketsに興味があるなんて不思議だなと脳裏を過ぎりました。「テナーの音はどうだった?」と質問するので話が合致しているのだと思いつつも違和感を感じながら「素晴らしい音色でした。彼の音が大好きなんですよ」と答えました。「そうだよな、太い音だよ。テナーはああじゃないと」マスターがBob Mintzerを認めているなんて好みが変わったんだ、良いものは良いからさ、とか言いそうだなと考えていると「渋い音だから若い人には受けるかな、もうかなりの歳の筈だし」と言い出すので、???マークが何十個も点り始めました(汗)。そこでハタと気がついたのが「マスターひょっとしてIllinois Jacquetの事を言ってるんじゃないの?」「えっ?違うの?」「 Yellow Jacketsっていうフュージョンを演奏するバンドのライブに行った話をしているんだけど」「・・・・」良く似た名前で共通する事項が多く含まれていたため、平行線でありながら妙に話が噛み合ったような気がした、落語のオチのような話でした、チャンチャン。

2019.09.26 Thu

Tones, Shapes and Colors / Joe Lovano

今回はテナーサックス奏者Joe Lovanoの1985年リーダー作「Tones, Shapes and Colors」を取り上げたいと思います。

85年11月21日Jazz Center of New York Cityにてライブ録音  Label: Soul Note Engineer: Kazunori Sugiyama Producer: Giovanni Bonandrini

ts, gongs)Joe Lovano p)Kennny Werner b)Dennis Irwin ds)Mel Lewis

1)Chess Mates 2)Compensation 3)La Louisiane 4)Tones, Shapes and Colors 5)Ballad for Trane 6)In the Jazz Community 7)Nocturne

現代ジャズシーンを代表するテナーサックス奏者の一人、Joe Lovanoの初リーダー作になります。レコーディング時32歳、比較的遅咲きのデビュー作ですがその分確固たる個性を発揮しています。参加メンバーはピアニストに盟友Kenny Werner、ベーシストは堅実なプレイで数多くのミュージシャンに愛されていたDennis Irwin、ドラマーにかつてのボスであるMel Lewisを迎え、外連味のないストレートアヘッド・ジャズ、王道を行く素晴らしい演奏を聴かせています。リリースはイタリアの名門レーベルSoul Noteから。いつの頃からか米本国よりも欧州や日本のレーベルの方が米国のジャズに理解を示し、若手発掘や才能あるアンダーレイテッドなミュージシャンの紹介に尽力しています。

Ohio州Cleveland出身のLovanoは父親であるテナーサックス奏者Tony “Big T” Lovanoに子供の頃からサックスの奏法はもちろん、スタンダードナンバーの演奏のノウハウ、ギグに於けるミュージシャンにとって必要なマナー、心構え、それこそ仕事の見つけ方まで徹底した手ほどき、いわゆる英才教育を受けました。6歳からアルトサックス、11歳で持ち替えたテナーサックスをその後メインの楽器としていて、彼の愛器Selmer Super Balanced Action Silver Platedは父親から譲り受けた楽器だそうです。その後BostonのBerklee音楽院で学び、卒業後はオルガン奏者Jack McDuff, Lonnie Smithらのバンドを足掛かりにWoody Herman, Mel Lewisのビッグバンドで活躍し、その名を知られるようになりました。Lonnie Smith75年録音の作品「Afro-Desia」にてすでに確固たる個性を聴かせています。

この作品で聴かれるLovanoのフレージングやアイデア、タイム感は十分今日の彼のスタイルに通じますが、テナーの音色、特に彼独自の極太感が異なります。現在の彼のセッティングはマウスピースのオープニングが10★、リードが4番と超弩級ワールドクラスですが、「Afro-Desia」75年当時はおそらくもっとオープニングの狭いマウスピースを使用していたと思われます。音色やサウンドが後年よりもコンパクト、小振りな印象、極端な話Lavanoスタイルに影響を受けた別のテナー奏者による演奏のように聴こえてしまうからです。付帯音、雑味感、エッジの密度からリードの厚さは変わらないと推測することも可能です。巨大なオープニングのマウスピースを吹きこなす事で得られる音色の太さは、結果演奏に強力な存在感をアピールします。「ぶっとさ」がテナーサックスの魅力の一つであるのは言うまでもありませんが、しかし吹きこなすためには尋常ではないエアーと圧力、洗練された奏法、何より体力が必要になります。まさにLovanoのガタイの良い、恵まれた体格こそが彼の音色を生み出す原動力なのでしょう。いつの頃から巨大オープニングでワールドクラスの音色になったのかはおいおい検証したいと思いますが、個人的にはこのような比較によりオープニングによるサウンドの明らかな違いを発見することが出来るのは、大変興味深い事です。

その後LovanoはPaul MotianのトリオでBill Frisellと独自の演奏を繰り広げます。Frisell, Lovano共に浮遊感溢れるラインの構築に対する美学に、ある種の同一性を感じさせます。82年リリースのMotian Bandの作品「Psalm」はBilly Drewes, Ed Schullerらをゲストに迎え全曲Motianのオリジナルをプレイした意欲作です。

同じくギタリストJohn Scofieldとのコラボレーションも見逃す訳には行きません。89年録音Scofieldの作品「Time on My Hands」、同じく90年「Meant to Be」、いずれもギター、サックス「変態型」フレージングの大御所達による「危ない」ストレートアヘッド作品群です(笑)。両作ともカルテット編成ですが、前者がCharlie Haden〜Jack DeJohnette、後者がMarc Johnson〜Bill Stewartとタイプの違うリズムセクションを使い分けた形ですので、印象も随分と変わり、一層John Sco〜Lovanoラインを楽しむことが出来ます。

父親Tonyとのテナーバトルをフィーチャーした86年「Hometown Sessions」も興味深い作品で、親子の音楽的嗜好(志向)の同一性を垣間見ることが出来ます。Tonyもかなりタフなマウスピースのセッティングを感じさせる、息子と音色のテイストが良く似た豪快なテナートーンの持ち主です。

Lovanoの演奏はもちろん自己のリーダーバンドでその個性をしっかりと発揮しますが、サイドマンにおいては絶妙なバランス感を伴いながらリーダーの個性、音楽性を確実に踏まえつつ自己主張を遂げています。New Yorkのジャズシーンを始めとして多くのミュージシャンに彼の演奏が重宝されていますが、彼ほど自身の個性と他者との融和、そのブレンド感が見事なテナーサックス奏者は存在しません。かつてのMichael Breckerが演奏スタイルは全く異なりますが、よく似た立ち位置にいました。2014年作品Tony BennettとLady Gagaの共演作「Cheek to Cheek」収録1曲目Anything Goes、Lovanoのソロが上記のコンセプトを踏まえ、更にトーンとフレージングのエグさを通常よりも増量した(笑)、短いながらも素晴らしい内容です!歌伴の間奏でここまでやって良いのでしょうか?でも結果オーライ、Bennett, Gagaたちの唄を確実に引き立てています!

本作のレコーディング・エンジニアであるKazunori Sugiyama〜杉山和紀氏は米国を中心に活動しBlue NoteやColumbia, 日本のDIWレーベル等に900枚以上の録音作品を手掛けている、海外で活躍する日本人エンジニアを代表する一人です。ここでもアンビエントの奥行きを感じさせる、各楽器の音像がクリアーに収録されつつバランスの取れた、素晴らしいライブレコーディングを実現させています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Kenny Werner作曲のChess Mates、比較的テンポの速いユニークな構成と雰囲気を持った、いかにもWerner作の佳曲です。95年リリース、ボーカリスト鈴木重子さんの初リーダー作「Premiere」のプロデューサー、アレンジャーがWernerでした。リリース時彼女の歌伴を出身地の浜松で行い、Wernerのアレンジした譜面で収録のスタンダード・ナンバーを演奏しましたが(残念ながらWerner自身は不在でした)、難解な中にもユニークでユーモア溢れるセンスを感じ、「かなり普通ではない」Wernerの音楽性を垣間見る事が出来ました。

Lovanoのタイトなタイムと、スインギーなリズムセクションのグルーヴが実に合致して冒頭からスリリングな演奏を聴かせています。楽器のコントロール、Lovano実に申し分ありません!Mel Lewisのステディなドラミングが演奏をグッと引き締めています!インタールード後の、ちょっと危ない雰囲気のWernerのプレイもとても好みです。

2曲目もWernerのオリジナルCompensation、日本語では「償い」になりますが、誰ですか?テレサテンの曲で知っているよ?なんて言っている人は(笑〜僕です)。John Coltraneのオリジナル曲Naimaと、短3度と4度進行から成るColtrane ChangeとがWernerのテイストにより高次元で合体した名曲です!叙情的なイントロからテーマに入りソロの先発はWernerから、作曲者ならではの曲の構造を把握した緻密な演奏が聴かれます。続いてIrwinのベースソロ、Vanguard Jazz Orchestraのベース奏者を長年担当した名手でもあります。続いてのLovanoのソロも実に巧みに難しいコード進行をトレースして盛り上がっています。そのままラストテーマに入り、美しくもジャズの情念を迸らせる名演奏はFineになります。

3曲目La Louisiane はLovanoのオリジナル、触ると火傷をしそうなくらいに熱いジャズスピリットを満載した幾何学的メロディの曲です。テーマからそのままLovanoのソロになり、リズムセクションと一体化してとことん、フリーフォームに突入してまで盛り上がっていますが、テナーがインタールード的にテーマを演奏し、さあピアノソロに行こう、とする矢先に何故かフェードアウトです。

4曲目はLovanoのオリジナルにして表題曲Tones, Shapes and Colors、ユニークな構成のナンバーです。クレジットにはLovanoがGongsを演奏していることになっていますが、テナーと同時にGongsが鳴っているのでおそらくLewisが叩いているのでしょう。パーカッションも聴こえています。基本的にテナーの独奏、部分的にGongsやパーカッションが加わる形で演奏されています。Tones〜Lovanoにしか出せない素晴らしい音色、Shapes〜一定のリズムがずっと流れている形態、Colors〜グロートーンも交えた様々なテナーの色彩感、タイトルはこれらの事を意味しているのでしょうか?

5曲目WernerのオリジナルBallad for Trane、前出CompensationのようにColtraneの音楽パーツを用いて作曲されたナンバーと異なり、あくまでWernerのColtraneに対する敬愛の念からイメージして書かれた曲のように聴こえます。美しいメロディライン、尊敬するジャズ史上最高のテナー奏者へのレクイエム、饒舌にしてこの上なくリリカルなWernerのピアノソロ、LovanoのサウンドからはColtraneのオリジナルWelcomeでの演奏を感じました。総じて崇高さを湛えた極上のバラードプレイです。

6曲目はLovano作In the Jazz Community、アップテンポのスイングナンバーです。ここでもLovanoは実に流暢なアドリブソロを展開しており、この時点で確実に個性を確立しています。続くWernerも全く同様に自分のスタイルをしっかりと聴かせています。

7曲目ラストを飾るのはやはりLovanoのオリジナルNocturne、前出のバラードとはまたテイストが異なりテナー、ピアノともにソロのアプローチに違いが現れています。

2019.09.13 Fri

Hamp and Getz / Lionel Hampton – Stan Getz

今回はヴィブラフォン奏者Lionel Hamptonとテナー奏者Stan Getzの1955年共演作「Hamp and Getz」を取り上げてみましょう。

Recorded: August 1, 1955 Radio Recorders, Hollywood, California Label: Norgran Records Producer: Norman Granz

vib)Lionel Hampton ts)Stan Getz p)Lou Levy b)Leroy Vinnegar ds)Shelly Manne

1)Cherokee 2)Ballad Medley: Tenderly / Autumn in New York / East of the Sun(West of the Moon) / I Can’t Get Started 3)Louise 4)Jumpin’ at the Woodside 5)Gladys

今までにも当BlogでStan Getzを何度か取り上げたことがあります。Getz自身の演奏は常に絶好調で、共演者の人選、彼らの演奏クオリティにより左右された出来不出来が無い訳ではありませんが、今回共演のヴィブラフォン奏者Lionel Hamptonの猛烈なスイング感、グルーヴがGetzとどのようなコンビネーション、化学反応を示すのかに興味が惹かれるところです。この作品のプロデューサーNorman GranzはJATP(Jazz at the Philharmonic)を 1940~50年代に率いて米国、欧州各地をジャズメンのオールスターで巡業し、最盛期には全世界を風靡しました。彼には興行的な才覚があり、ミュージシャン同士の組み合わせ、時には意外性、奇抜な人選を考えて作品を多数制作、自身のレーベルClef, Norgran, Down Home, Verve, Pabloからリリースしました。本作もその一枚に該当しますがGranzの狙いは今回大いに当たったと思います。

Hamptonは1920年代後半Californiaでドラマーとして活動していましたが、30年頃からヴィブラフォン奏者に転向しました。Gary BurtonやMike Mainieriのような片手に2本づつ、計4本のマレットを使いコード感もサウンドさせるコンテンポラリー系のヴィブラフォン奏者では勿論ありません。Red Norvo, Milt Jackson, Dave Pike, Bobby Hutchersonらのような片手に1本づつ、計2本のマレットで演奏するオーソドックスなスタイルの奏者です。正確なマレットさばきとグルーヴ感、驚異的なタイム感で噂となり、36年にLos Angelesを自身のオーケストラで訪れたBenny Goodmanが彼の演奏を聴き、その素晴らしさに自分のトリオへの参加を誘い、ほどなくピアニストTeddy Wilson, ドラマーGene Krupaから成る、人種の垣根を超えた初めてのジャズ・グループ、Benny Goodman Quatetが誕生しました。超絶技巧と高い音楽性から人気を博したバンドです。

その後40年にGoodmanのバンドから円満退社で独立し、Lionel Hampton Big Bandを結成しました。当時の若手精鋭たちをメンバーに迎え、コンスタントに活動を行い、53年に挙行した欧州への楽旅の際にはClifford Brown, Gigi Gryce, Monk Montgomery, George Wallington, Art Farmer, Quincy Jones, Annie Rossといったジャズ史に燦然と輝く素晴らしいメンバーを擁していました。同時にスモールコンボでも演奏活動は継続され、Oscar Peterson, Buddy DeFranco, Art Tatumたちとも共演、名作として名高いBenny Goodmanの伝記的映画「ベニーグッドマン物語」にも演奏者(もちろん本人役)として出演しています。

言ってみれば当時の米国ジャズ界のスーパーアイドル、ドンとして君臨していたHamptonはこの時47歳、お相手のStan Getzは若干28歳、Jack Teagarden, Nat King Cole, Stan Kenton, Jimmy Dorsey, Benny Goodmanのビッグバンドを経験し、その後Woody HermanのThe Second HerdでZoot Sims, Serge Chaloff, Herbie StewardたちとThe Four Brothersを結成し白熱の演奏を聴かせました。因みに彼らの敬愛するLester Youngのヴィブラート・スタイルでアンサンブルを統一したようです。本作の前年にはトランペットの巨匠Dizzy Gillespieとの共演作「Diz and Getz」、Getz自身のリーダー作としては52年「Stan Getz Plays」をリリース、キャリア的にはまだまだニューカマーの域を出ていない若手テナー奏者Getzでしたが、自己のスタイルを確立した演奏を聴かせています。ベテラン・ミュージシャンとの異色の組み合わせ、胸を借りた演奏はプロデューサーGranzのセンスある采配によるものです。

「Stan Getz Plays」

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目はお馴染みCherokee、アップテンポの定番の1曲です。リズムセクションには米国西海岸を代表するミュージシャン、ピアニストにLou Levy、ベーシストはLeroy Vinnegar、ドラマーにShelly Manneを迎えています。おそらく当時Hamptonが西海岸に在住、GetzがNew Yorkから単身赴任してのレコーディングになり、ご当地のリズムセクションを雇った形になったと思います。ドラムの8小節イントロから曲が始まりますがテーマはなく、いきなりのテナーソロ、ヴィブラフォンがウラ・メロディのような形でバッキングしています。Getzはいつもの彼の一聴で分かる個性的テナーの音色、スピード感ドライヴ感満載のスインギーなソロですが、60年代以降のGetzとはやや趣を異にしており、タイムがかなりon topに位置しているのです(バックを務めるベースの音符の位置はon topであるべきなのですが)。60年代以降晩年まで、完璧とも言えるタイム感を聴かせてテナータイタンとしての存在感を誇示していました。この事は続くHamptonのソロで明確に判明します。早いテンポであるにも関わらず音符の粒立ちの良い安定したマレット・テクニック、そして何よりタイムです!リズムのスイート・スポット目がけて、全くちょうど良いところに音符がはめ込まれています。リズムに対して「のる」のではなく拍の枠に「はめる」が如き演奏、絶対音感ならぬ絶対リズム感を感じさるプレイです!ミディアム・テンポではレイドバックを余儀なくされる、と言うかリズムの後ろにのることは比較的容易に行う事ができます。一方アップテンポや逆にバラードでは音符のリズムに対する位置を的確に維持する事が難しく、そして重要です。前述の作品「Stan Getz Plays」収録のバラードBody and Soul、Getz初期の名演奏として名高いテイクでイマジネーション溢れるフレージング、美しい音色、ニュアンスやアーティキュレーションが十二分に発揮されていますが、タイムがかなりのon topに加え8分音符音符の揺れもあり、後年の演奏とは隔たりを感じさせます。本作録音55年はGetzのタイム感にとっては過渡期であったのではないかと思います。57年10月録音「Stan Getz and the Oscar Peterson Trio」翌11月録音「The Steamer」では全く揺るぎのない、後年に通じるタイム感をしっかりと披露しているのです。ひょっとしたら本作でのHamptonとの共演で刺激を受け、タイムに対する概念を伝授されたのかも知れません。

Hamptonに続くLevyのピアノソロ、フレージングは心地よいものを感じさせますが、Getzよりも更にon topのタイム感で演奏しています。その後GetzとHamptonの8小節交換が行われますが、丁々発止とはまさにこの事でしょう、手に汗握るトレードが聴かれます!Shelly Manneのアクセント付けもバッチリ、感極まったHamptonの声も演奏の一部に聴こえてしまいます!ラストテーマも結局提示されずFineですが、それにしてもHamptonのタイムの安定感を嫌という程思い知らされた演奏です(笑)

2曲目はバラード・メドレーTenderly / Autumn in New York / East of the Sun(West of the Moon) / I Can’t Get Started、GetzがTenderlyとAutumn in New Yorkを2曲続けて、HamptonがEast of the SunとI Can’t Get Startedをやはり2曲続けて演奏しています。1コーラスづつ曲の切れ目なしに4曲連続しての演奏、なかなか珍しいフォーマットでのメドレーです。テナーサックスの多彩な表現〜Getzのバラード・プレイの深さに改めて感銘を受けました。Hamptonもヴィブラフォンでのバラード表現を可能な限り表出しているように聴こえます。ここまでがレコードのSide Aになります。

3曲目は古いスタンダード・ナンバーLouise、Hamptonがテーマを演奏してそのままソロへ、なんとも味わい深さを感じさせるプレイです。自然体でメロディを奏でその延長での鼻歌感覚のアドリブが堪りません。ピアノソロ、テナーソロと続きますがこの手のナンバーでのGetzの小粋さも申し分ありません!ラストテーマを匂わせるプレイをGetzが行いますが、Hamptonが再登場、ラストテーマを演奏しGetzはサビを吹いています。

4曲目はCount BasieのナンバーからJumpin’ at the Woodside、1曲目Cherokeeに続く速さでの演奏です。テーマにおけるピアノ、ヴィブラフォンのバッキングがBasieビッグバンドのサウンドを醸し出しており、Manneのシンバルの使い分けも巧みです。ソロの先発はHampton、スピード感とグルーヴ感から高速走行中のアメ車を思わせます。4コーラス目にテナーによるバックリフが入り、そのまま続けてテナーソロに突入します。ここでのGetzのソロ、曲想の解釈が素晴らしいと思います。曲のイメージの中に深く入り込み、曲の構造を基に大胆に再構築しているかの如きアプローチ、タイムの捉え方さえも実にスムーズです。どこかホンカーを思わせるテイストも感じます。ピアノソロ後1コーラスHamptonのソロ、後ろでGetzがバックリフを何故か吹いています。その後HamptonとGetzの8〜4小節交換、ソロの同時進行にも発展しますが物凄いやり取りです!テナー奏者はとことん盛り上がるとホンカーに変貌するのは仕方のない事なのでしょうか(笑)、その後頃合い良きところでいきなり音量を下げてラストテーマへ、その急降下振りに驚かされますが、ヴィブラフォンのバッキングが実に相応しい!

5曲目ラストを飾るのはHamptonのオリジナルで彼の奥方の名前を冠したナンバーGladys、変形のブルースナンバーです。ヴィブラフォンとテナーのユニゾンでテーマが演奏された後、ヴィブラフォンのソロからスタートしますが、さすがコンポーザー然とした流麗なソロを聴かせます。8分音符が少しハネているように聴こえるのは奥方のイメージを反映させたのでしょうか?続くGetzはムーディに、歌うが如く朗々と、付帯音を豊富に含ませたハスキーなトーンでソロを取っています。短いLevyのソロもスインギーです。その後HamptonとGetzの1コーラス・トレードが和やかに、気持ち良さそうに、互いのアドリブの内容を反映させつつ、スリリングに展開され、ラストテーマを迎えて大団円です。

2019.09.01 Sun

All My Tomorrows / Grover Washington, Jr.

今回はサックス奏者Grover Washington, Jr.の1994年録音のリーダー作「All My Tomorrows」を取り上げてみましょう。

Recorded: February 22-24, 1994 Studio: Van Gelder Studios, Englewood Cliff, NJ. Engineer: Rudy Van Gelder Produced by Todd Barkan and Grover Washington, Jr. Label: Columbia

ts, ss, as)Grover Washington, Jr. tp, flh)Eddie Henderson tb)Robin Eubanks p)Hank Jones b)George Mraz ds)Billy Hart ds)Lewis Nash vo)Freddy Cole vo)Jeanie Bryson

1)E Preciso Perdoar(One Must Forgive) 2)When I Fall in Love 3)I’m Glad There Is You 4)Happenstance 5)All My Tomorrows 6)Nature Boy 7)Please Send Me Someone to Love 8)Overjoyed 9)Flamingo 10)For Heaven’s Sake 11)Estate(In Summer)

愛器3本が写った背後に白装束で本人が佇むジャケット写真が印象的です。70〜80年代数々のヒット作(ジャンル的にはソウル、R&B、フュージョン、総じてスムースジャズとカテゴライズされます)をリリースしたGrover Washington, Jr.、本作は初の全編アコースティック・ジャズアルバムになります。バックを務める素晴らしいジャズ・ミュージシャンたち、曲毎に違ったアレンジャーを迎え様々なカラーを出しつつ、ボーカリストもフィーチャーし、しっかりとしたお膳立てが成されたプロデュースによりGroverにはひたすらメロウに吹かせています。

Groverは1943年New York州Baffalo生まれ、音楽一家で育ち8歳の時に父親であるGrover Sr.からサックスを与えられ、音楽にのめり込むようになりました。徴兵でArmyに入隊した際にドラマーであるBilly Cobhamに出会い、兵役を終えた後にCobhamがGroverをNew Yorkのミュージシャン達に紹介して音楽シーンに参入するようになりました。いくつかのレコーディングを経験した後、アルトサックス奏者Hank CrawfordがCreed TaylorのKUDU Labelのレコーディングに参加できず、Groverに白羽の矢が立ちその代役を務め、71年に初リーダー作である「Inner City Blues」を発表しました。幸先の良いラッキーなスタートです。

時代はクロスオーバー、フュージョンが台頭し始めた頃、Groverの音色はジャズファンはもちろん、R&Bやソウルミュージックのオーディエンスのハートを射止め初リーダー作にしてヒットを飛ばしました。その後74年「Mister Magic」、75年「Feels So Good」の出来栄えでその人気を不動のものにしました。

スタジオ録音だけではなく、ライブ演奏でもその本領を発揮した77年録音の作品「Live at the Bijou」、素晴らしいクオリティの演奏です。ジャズミュージシャンの本質は生演奏にあることを見せつけてくれました。

そして80年Groverの代表作にして最大のヒット作、82年グラミー賞Best Jazz Fusion Performanceを受賞した大名盤「Winelight」を発表しました。

メンバーの人選完璧、Groverの音色、フレージング、音楽性の秀逸ぶり、演奏申し分なし、選曲のセンスは言うに及ばず、アレンジ抜群、企画力の淀みなさ、聴かせどころやハイライトシーン設定の巧みさ、そして何より時代が要求する音楽と内容とが見事に合致したのでしょう、80年代を代表する作品の一枚となり、結果多くのフォロワーを生み出しました。スムースジャズの父という呼ばれ方もされていますが確かに、Kirk Whalum, Najee, Boney James, Brandon Fields, Everette Harp, Gerald Albright, Kenny G, Nelson Rangel, Eric Marienthal, Walter Beasley, Richard Elliot, Dave Koz, Warren Hill, Mindi Abair… 彼以降に現れたスムースジャズのサックス奏者は殆どGroverの影響を受けていると言っても過言ではありません。具体的にはメロディの吹き方、こぶしの回し方、ビブラート、ブルーノートを用いたニュアンス付け等、スムースジャズに於けるサックスのスタイルを確立させました。Charlie Parkerが以降のサックス奏者に与えた多大な影響、John Coltrane以降のテナー奏者がことごとくColtraneの影響を受けた事に匹敵するほどのセンセーショナルなものと言えるかも知れません。更にParker, Coltraneの影響を受けたサックス奏者が開祖の演奏を越えることが困難なのと同じく、スムースジャズのサックス奏者たちはGroverの前では存在が霞んでしまいます。楽器の音色の素晴らしさ、一音に対する入魂の度合い、表現力の深さ、歌い回しの巧みさ、間(ま)の取り方、いずれもがパイオニアとしてのプライドに満ちた風格により、他者との間に大きな溝が存在します。一聴すればGroverとすぐに分かる明確な個性の発露、他のスムースジャズ・サックス奏者は楽器のテクニックの素晴らしさは感じますが、ひょっとしたら僕自身の勉強不足に起因するのかも知れません、誤解を恐れずに述べれば自分自身を表現しようとせずに、スムースジャズ・サックス・スタイルを吹いているので楽器の上手さの方が目立ち、結局皆同じに聴こえてしまうのです。個人的にはフォロワーの中でもKirk WhalumがGroverの後継者たるべく断然その存在感をアピールしています。Whalumの2010年発表のリーダー作「Everything Is Everything (The Music Of Donny Hathaway)」はDonny Hathawayの音楽をKirk流に解釈した素晴らしい内容、そして濃密なテナーの音色で僕の愛聴盤でもあります。因みにKirkはGroverと同様にソプラノ、アルト、テナーを吹き分け、同じく楽器はGroverが愛用していたJulius KeilwerthのBlack Nickelモデルを使用しています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目はStan GetzとJoao Gilbertoの76年作品「 The Best of Two Worlds」に収録のナンバー、E Preciso Perdoar(One Must Forgive) 。Getzはもちろんテナーで演奏していますがGroverはあえてキャラが被らないように選択したのか、ソプラノで演奏しています。この曲のアレンジはGrover自身と本テイク参加ギタリストRomero Lubambo、アコースティック・ギターを美しく奏でています。Groverのソプラノによるテーマ奏はひたすらしっとりと穏やかに演奏されますがチューニング、ピッチがずいぶん高く設定されています。特に伸ばした音が次第にキュッと高くなる傾向にあり、この人はいつも高めに音を取る人というイメージがあり、ここではギターとユニゾンでのメロディ奏、ギターの正確なピッチに対してチューニングの高さを感じてしまいますが、サビでのEddie Hendersonのトランペットとのユニゾンではチューニングの違和感を感じないのは互いのピッチ感が揃っているのか、トランペットが合わせているのか。管楽器のチューニングとは相対的なものなのだと再認識しました。ごく自然にソロに移り変わりますが。用いる音のチョイスが絶妙でⅡm7ーⅤ7やDiminishコードのアプローチがさりげなくジャズ的、Groverの演奏はメロウなだけでなく、ジャズ的な表現がスパイスになっています。メロディを担当したプレイヤー達であるHenderson、Lubamboのソロもフィーチャーされていますが、バックを務めるHank Jonesのピアノ、George Mrazのベース、Billy Hartのドラム、Steve Berriosのパーカッションも実に的確です。

2曲目はVictor Youngの名曲When I Fall in Love、Groverのテナーの他、Hendersonのフリューゲル・ホーン、Robin Eubanksのトロンボーンによる3管のハーモニーが大変美しいです。ここでのアレンジはLarry Willis、ピアニストとしても良く知られています。ホーンのアカペラからGroverのテーマ奏、マウスピースのオープニングが広い音色です。確か10番にリードも4番あたりのタフなセッティングでした。随所にアンサンブルが入り、テナーのメロディとの対比を聴かせつつテナーソロへ、倍テンポのスイングになりますがリズムには漂うように大きく乗って吹いています。せっかくのジャズチューンなので徹底してジャズ的アプローチで聴かせてくれるのか、と期待しましたが、ここでもスパイス的な範囲でのジャズが表現されていました。

3曲目はFreddy Coleのボーカルをフィーチャーしたナンバー、I’m Glad There Is You。Hankのピアノイントロに続きソプラノがスイートにメロディを演奏します。ColeはかのNat King Coleの実弟、声質や歌い方は実に良く似ていますが兄のような有無を言わさぬ強力な個性、アクの強さがなく、優しい歌唱を聴かせており、Groverの音楽性に合致していると感じました。ここでのアレンジはGroverとプロデューサーのTodd Barkan、ドラムスはLewis Nashに交替します。Hankのバッキングが一段と冴えて全体のサウンドを引き締めています。

4曲目はGroverのオリジナルHappenstance、Hendersonとの2管で豊かなアンサンブルを聴かせています。Hendersonが流麗にソロを展開し、最後のフレーズを受け継ぎつつHankのソロにスイッチします。続くGroverのソロは力強さも併せ持ったアプローチで演奏を締めています。

5曲目は表題曲All My Tomorrows、Jimmy Van Heusenのナンバーです。再び管楽器のハーモニーが聴かれますがソロイストであるGroverのソプラノ以外6管編成によるアンサンブル、こちらは名トロンボーン奏者にしてアレンジャー、Slide Hamptonの編曲になります。流石のゴージャスなサウンドが聴かれ、一層Groverのソプラノ・プレイが光ります。Hankのピアノソロがフィーチャーされ再びソプラノとアンサンブルによる後テーマ、脱力の境地といった演奏に終始しています。

6曲目はEden AhbezのナンバーNature Boy、Nat King Coleの歌唱やJohn Coltraneの演奏でも有名です。こちらもWillisのアレンジがスパイスを利かせており、メリハリのある構成を楽しめます。ピアノのイントロに続きルバートでのテーマ奏、その後ミディアム・スイングでソプラノのソロですが、レイドバック感とコードに対するスリリングな音使いが素晴らしいです。ドラムはNashに変わりますが、確かにこの手の曲想には彼のドラミング・テイストが似合っています。Hankのソロもツボを押さえた展開を聴かせ、ピアノソロ後にバンプが設けられ、再びルパートでラストテーマが演奏されます。

7曲目は5曲目同様にHamptonの6管アレンジが冴えるPlease Send Someone to Love、Groverのテナーがフィーチャーされます。マンハッタンのジャズクラブにて、メンバー全員がシックな正装でのヒップな演奏をイメージさせる豪華なサウンドです。コンパクトな中にジャズのエッセンスとゴージャスさが上手くブレンドされた、Groverのテナーの本質がよく表れている演奏です。

8曲目は再びColeのボーカルをフィーチャーしたStevie Wonderの名曲Overjoyed、Stevieの85年作品「In Square Circle」に収録されています。ColeとGrover両者のアレンジ、ピアノとソプラノが妖艶な雰囲気で美しくイントロを奏でます。オリジナルのStevieの声質が高めなので、ここではColeの歌声が随分と低く感じます。テーマの後ろでGroverの他、Hendersonのフリューゲルもオブリガードを吹いていますが互いに干渉や邪魔せず、ボーカルの引き立てに役に徹底しています。難しい音程のインターバルをCole果敢に歌ってはいますが、Stevieの完璧なピッチと比較してはいけませんね。ソプラノが歌のメロディを踏まえつつソロを取り、あと歌になります。元の曲の構成が十分に素晴らしいので、アレンジとは言ってもそれらのパーツを再構築した次元に留まっています。

9曲目こちらもムーディな名曲Flamingo、Willisのアレンジは早めワルツのリズムをチョイスしました。Groverはアルト、Hendersonがトランペットでメロディをシェアし、ソロを吹いています。ピアノソロ後にラストテーマへ。ラストの2管のアンサンブルが演奏に終止感を与えています。

10曲目Jeanie BrysonとColeふたりのボーカリストをフィーチャーしたバラードFor Heaven’s Sake、こちらはLincoln Center Jazz Orchestraの指揮者を務めたRobert Sadinのアレンジになります。ソプラノとピアノのDuoでイントロが始まり、ColeとBrysonが8小節づつ交互に歌い、サビでは4小節づつ、その後はColeが8小節を歌い、Groverの目一杯スイートなソロが半コーラス演奏され、フレーズの語尾をキャッチして後半をHankが演奏、あと歌はサビからBrysonが担当し、オーラスにはふたりユニゾンで歌っています。男女の声はおよそ4度異なりますが、ふたりの中庸を行くキーを選択したのでしょう。全編にMrazの堅実にして包み込むような、包容力に満ちたベースラインが健闘しています。

11曲目ラストを飾るのはEatate(In Summer)、GroverとWillisのアレンジになりますがボサノバのリズムで原曲に忠実に、特にキメやリハーモナイズは施されず、Groverのソプラノでのテーマ後ピアノ、ベースまでソロが聴かれます。ラストのバンプ部でフェードアウトになります。スタンダード・ナンバーを自身の作品で取り上げる機会が少なかったGrover、本作ではひたすらリラックスした雰囲気で演奏を繰り広げていますが、この後に「Winelight」他のパンチの効いた彼の作品を聴きたくなる衝動に駆られます。

2019.08.24 Sat

Rough ‘n’ Tumble / Stanley Turrentine

今回はテナーサックス奏者Stanley Turrentineの1966年録音リーダー作「Rough ‘n’ Tumble」を取り上げたいと思います。

Recorded July 1, 1966 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ Label: Blue Note 84240 Producer: Alfred Lion

ts)Stanley Turrentine tp)Blue Mitchell as)James Spaulding bs)Pepper Adams g)Grant Green p)McCoy Tyner b)Bob Cranshaw ds)Mickey Roker arr)Duke Pearson

1)And Satisfy 2)What Could I Do Without You 3)Feeling Good 4)Shake 5)Walk On By 6)Baptismal

60年代中頃Blue Noteに残されたTurrentineの作品は佳作揃い、個人的にも愛聴盤が多いです。以前当Blogで取り上げた「The Spoiler」は本作の2ヶ月後に録音された、ほぼ同一の楽器編成、メンバー、Duke Pearsonのアレンジが施された続編的な内容、選曲の作品になります。自らもホーン・セクションの一員として参加しつつ、例のTurrrentineにしか出せない魅惑のテナーサウンドを駆使して(本人にとってはおそらく鼻歌感覚でしょうが)華麗にメロディを奏でています。

後年2007年のリリースですが67年録音の作品「A Bluish Bag」。

08年リリース同じく67年録音の作品「The Return of the Prodigal Son」(放蕩息子のご帰還〜凄いタイトルです!)。

こちらは68年録音、リリースのBurt Bacharach特集「The Look of Love」。

いずれの作品もOctet, Nonet, Tentetといった大編成でTurrentineの持ち味をよく理解したPearsonの名アレンジにより、ジャズのスタンダード・ナンバーからAntonio Carlos Jobim, Burt Bacharach, Lennon-McCartney, Aretha Franklin, Henry Mancini, Ashford-Simpson, Ray Charles, Sam Cooke等のポップス、R&Bの名曲をジャジーに、ゴージャスに演奏しています。演奏者全員がジャズプレーヤーであるため、リズムやグルーヴに多少の違和感はありますが、そこがまた味になっていると解釈しています。

これらの編成にさらにオーヴァー・ダビングですがストリングス・セクションが加わった作品が68年録音「Always Something There」です。

ストリングス・セクションが加わった事により、一層豪華なサウンドを楽しむ事が出来る作品となりました。Turrentineの演奏はワンホーン・カルテットでも十分に素晴らしさを発揮しますが、ホーン・セクション、ストリングス・セクションが加わる事により、パワーブーストされた如くテナーサックスの魅力が何倍にも増幅されるのです。でもどんなプレイヤーでも編成が増え様々な楽器が加わる事で魅力が拡大するとは限らず、人によっては演奏が単に繁雑になるだけの結果を迎える場合もあります。Turrentineは持っている器の大きさ、許容量が半端ない演者なので、大編成で自身の魅力が輝くのです。この豪華な編成によるテナーサックス・フィーチャリングの演奏、他のプレイヤーで思い出すのがMichael Brecker晩年2003年録音、リリースの作品「Wide Angles」です。この作品は04年グラミー賞ベストラージジャズアンサンブル・アルバムを受賞しました。

Quindectet(造語です)〜15人編成による作品、Michael本人とGil Goldsteinのアレンジ、楽器編成は4リズムに加えてperc, tp, tb, fr-horn, oboe, b-cl, alto-fl, violin×2, violaそしてMichaelのテナー合計15人編成、アルバムではアレンジのみ担当で楽器演奏はしていなかったGoldsteinが、日本公演ではピアノとアコーディオンを演奏、一人増えて16人編成となりました。メンバー紹介時にステージ上のミュージシャンから「ひとり増えたのならQuindectetじゃないわよね?」なんて言葉も聴こえて来ました。究極のエンターテイメント・ラージ・アンサンブル集団として日本でツアーした事が今となっては夢のようです。金管楽器、弱音系木管楽器、弦楽器によるオーケストレーションと素晴らしい楽曲、緻密にして華麗なアレンジが光るアンサンブル。Michaelのテナーサックスは一人で何人分ものプレイを聴かせますが、本作や来日公演ではMichaelを音楽的、人間的に尊敬している、彼のことを大好きな共演ミュージシャン達の素晴らしいサポートにより、半端のないパワープレイを体験するする事ができました。

余談ですがMichaelのマネージャーDarryl Pitt(彼はMichaelの専属カメラマンでしたが、Depth of Field〜被写界深度〜という名前の音楽事務所を立ち上げ、Michaelを専属タレントとして擁していました)とQuindectet来日時に会い、「Wide Angleって名前の作品なのにWide Angelって勘違いする人が多くてさ」と言いながら背中の大きな翼を両腕で表現し、「どれだけ大きな天使の翼なのかな」と笑いながら話していました。さすがMichaelと付き合いの長い方、洒落っ気たっぷりです!

60年代のBlue Note Labelは10名以上の素晴らしいテナーサックス奏者を自社アーティストとして抱えていました。Dexter Gordon, Joe Henderson, Wayne Shorter, Hank Mobley, Sam Rivers, Tina Brooks, Ike Quebec, Fred Jackson, Don Wilkerson, Tyron Washington, Harold Vick, Charlie Rouseたちですが、Turrentineだけが破格の扱いでこのような大編成によるポップス路線を歩むことが出来ました。大編成のレコーディングには圧倒的に経費がかかるので、ペイ出来る試算が無ければなりません。これだけの数の作品を制作出来たからにはいずれもがそれなりにヒットしたのでしょう。Blue Noteの他楽器奏者を見渡してもTurrentine級の扱いを受けたミュージシャンはそれほど存在しないと思います。それだけ彼の演奏に魅力があった訳ですが、例えば他のテナー奏者にポップスやロックのメロディを吹かせてもそれなりの表現をするに違いありませんが、ひたすらジャズ演奏に終始してしまう事でしょう。Turrentineの本質は間違いなくジャズプレイヤーですが、ジャズ以外のジャンルの表現力、そのポテンシャルを半端なく持ち合わせているため、ジャズをルーツとしながらポップス、ロックのフィールドに誰よりも容易に入り込む事が出来ています。多くのオーディエンスを獲得したのも頷け、ジャンルを超えた表現者としてテナーサックスでは初めてのクロスオーバー、フュージョン・プレーヤーと言えると思います。ちょっと間違うと「歌のない歌謡曲」ならぬイージーリスニングに成り下がってしまう危険性を孕んでいますが、「魅惑のテナーサウンド」がしっかりと歯止めを掛けています。彼のテナーサックスの音色、ニュアンス、ビブラート、ほとばしる男の色気が特に黒人のおばさま達に絶大なる人気を博し、人気絶頂時にはコンサート、ライブで楽屋からの出待ちを受けていたそうです(爆)。おそらくJames Brown並みのアイドルだったのでしょう、おばさま達に揉みくちゃにされ、記念に持って帰ろうと髪の毛を抜かれていたのを目撃したという話も聞いたことがあります(汗)。

Blue Note Label後も様々なレーベルから大編成の作品を多くリリースし、「最も稼ぐジャズテナー奏者」として君臨したと言われています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目はピアニストRonnell BrightのナンバーAnd Satisfy、ホーン・セクションとギターのメロディとの絡み具合が如何にもジャズロックと言ったナンバーです。続くTurrentineのメロディ奏にはおばさまで無くともグッと来てしまいます(笑)。改めてホンカー、テキサス・ファンクのテイストを感じますが、端々に聴こえるジャズフレーバーに彼でしか成し得ないバランス感を見い出すことが出来ます。続くBlue Mitchell、Grant Greenふたりのソロには逆にしっかりとジャズを感じました。ラストテーマ後ワンコードでシャウト・プレイ、何故にフェードアウト?もっと聴きたかったです!

2曲目はRay CharlesのナンバーWhat Could I Do Without You、素晴らしい選曲、Turrentineの持ち味にぴったりのラブソングです。全編吹きっきりの演奏、どこまでアレンジされているか分かりませんがMcCoy Tynerのバッキングが良い味を出しています。ブルースやR&Bのバンドで演奏活動をスタートさせたTurrentineの、ソウルフルなブロウを堪能できるテイクに仕上がりました。

3曲目は英国の作曲家Anthony NewlyとLeslie Bricusseのコンビによるミュージカル・ナンバーFeeling Good、本作録音の前年に初演され曲自体も様々なミュージシャンに取り上げられました。哀愁を感じさせるメロディをTurrentineが素晴らしいニュアンス付けで吹く、小気味好いミディアムのスイング・ナンバー、ホーンセクションのリフがソロ中を通して効果的に用いられています。ブルージーなバッキングを聴かせていたMcCoyがそのままソロに突入、曲想に合致したメロディアスなソロを聴かせます。ホーンセクションのインタールードに促されてラストテーマへ。ここでもアウトロでTurrentineのシャウトが聴かれますが、こちらも残念ながらフェイドアウト、多くのオーディエンスにアピールするためには盛り上がり切ってはいけないのでしょうね、きっと。ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目はSam CookeのヒットナンバーShake、こちらもTurrentineのR&B魂が発揮される演奏です。比較的低い音域でテーマを奏で、すぐさま上の音域でソロが始まります。おそらくCookeのオリジナル演奏のキーに合わせたのではないでしょうか、ホーンセクションのバックリフを受けながら気持ち良さそうにブロウしているのが伝わってくる演奏です。Greenのグルーヴィーなソロに続きラストテーマ、その後再びテナーソロになりますがフェードアウトは定番なのですね。

5曲目はBacharachの名曲Walk on by、McCoyが奏でるリフが可愛らしいです。Bacharach作曲のノーブルなメロディを本当に美しく吹けるジャズプレイヤーはTurrentineしかいないでしょう。おっと、Stan GetzのBacharach特集66,67年録音「What the World Needs Now」の存在を忘れていました。こちらもテナーサックスが演奏するBacharachメロディの名演集、本作と双璧をなす作品です。

6曲目アルバムの最後を飾るのはJohn Hinesの作品Baptismal、この曲のみ異色な選曲ですが作品のスパイスになっています。Baptismalとはキリスト教の宗教用語で意味は洗礼式です。厳かな雰囲気の中に独特なカラーが光る名曲です。Turrentineの音色も一層輝く名演奏だと思います。私事で恐縮ですが、2019年9月27日六本木Satin Dollにて僕が率いるテナーサックス4管編成(峰厚介、山口真文、佐藤達哉、浜崎航)、佐藤達哉テナーサミットにてこの曲を取り上げようと考えています。この曲の演奏を気に入った方はぜひ聴きにいらしてください。

2019.08.13 Tue

The Panther! / Dexter Gordon

今回はテナーサックス奏者Dexter Gordonの1970年録音作品「The Panther!」を取り上げたいと思います。

1970年7月7日 New York Cityにて録音 Producer: Don Schlitten Label: Prestige (PR 7829)

ts)Dexter Gordon p)Tommy Flanagan b)Larry Ridley ds)Alan Dawson

1)The Panther 2)Body and Soul 3)Valse Robin 4)Mrs. Miniver 5)The Christmas Song 6)The Blues Walk

Dexter Gordonのリラクゼーション、色気、益荒男振りが発揮された作品です。23年2月27日生まれのDexter録音時47歳、音楽家、ジャズプレイヤーとして円熟味を帯び、その個性を十二分に発揮しています。Dexterは40年代から活動を開始し、ジャズジャイアンツと軒並み共演を重ねその音楽性を研鑽し、自己のスタイルを確立させて行きました。自身はLester YoungやBen Websterからの影響が顕著ですが、独自のスタイルを築き上げ、若い頃のJohn ColtraneやSonny Rollinsに逆に影響を与えています。45〜47年録音の初リーダー作に該当する「Dexter Rides Again」では音色とフレージングに関して自己のスタイルの萌芽を感じさせる演奏を聴かせています。後年よりもワイルドに、ホンカー的な要素も内包しています。

しかしこの作品で歴然と違うのがタイム感です。後年のDexterの最大の特徴であるレイドバックとリズムのタイトさが感じられず、ここではごく普通のテナー奏者のタイム感で演奏しています。率直に言ってタイム感が違うとDexterには聴こえませんね。リズムに対する極端な「超あとノリ」という、誰も表現しなかった、しかしコロンブスの卵的な点に着目し、若しくは着目せずともごく自然に、プレイヤーの個性を発揮すべしというジャズマンに課された命題をクリアーした演奏スタイルは50年代以降に確立されるのですが、Dexterはドラッグで50年代のかなりの期間を棒に降っています。同時期に米国のかなりの数のジャズミュージシャンがドラッグに染まりましたが、Dexterほどの第一線ジャズマンが塀の中に長期間幽閉された例はなく(Art Pepprが60年代後半を麻薬療養施設で過ごしましたが)、かなりのジャンキーだったのかも知れません。Hank Jonesが90歳を過ぎても第一線でピアノを弾き続け、Benny Golsonがやはり90歳にして度々の来日を重ね、嬉しくなるくらいにその健在ぶりを示し、Roy Haynesに至っては現在94歳、未だにドラムを叩いているのは驚異的な生命力、精神力ですが、この3人はドラッグとは無縁だったと聞いています(Golsonは酒もタバコも嗜まなかったそうです)。ドラッグがもたらす効能としてのジャズの創造性はあるのか無いのか僕には分かりませんが、代償の方は確実にあるようで、多くのジャズマンがその人生を短命に終え、志半ばで幕を閉じています。Dexterは67歳でその生涯を終えましたが、まだまだこれからだったのか、十分に音楽を開花させたのかは人によって判断が違うと思います。

55年9月18日録音「Daddy Plays the Horn」と同年11月11, 12日録音の「Dexter Blows Hot and Cool」の2作でDexterのスタイルは確立されたと言って良いでしょう。彼ほどビートに対して後ろにリズムのポイントを感じて吹くテナー奏者は存在しません。きっちりと正確に、ビハインドを意識して8分音符を繰り出す〜レイドバックが巧みな奏法がDexterのスタイルの特徴です。

Dexterはこの2作の後も塀の中にお隠れになり(汗)、60年に「The Resurgence of Dexter Gordon」を録音、ここから本格始動が始まりますが、Resurgence=中興とはよく言ったものです!前人未到の(笑)レイドバック、音色、フレージング、ニュアンス、引用フレーズを多用したユーモア感溢れる、Long Tall Dexterの面目躍如です!

Dexterの使用楽器ですが、この頃はBen Websterから譲り受けたSelmer Mark Ⅵ、マウスピースはOtto Link Metal Floridaの8番、リードはRico 3番です。65年飛行機の乗り継ぎの際に、それまで使用していた愛器Conn 10Mを紛失(盗難?)しました(Dexter Blows Hot and Coolジャケ写の楽器です)。マウスピースも長年Hollywood Dukoffの5番を使用していましたが、サックスケースの中に入れていたのでしょう、そちらも紛失、とても残念なことをしました。おそらく紛失は欧州での出来事(60年代の欧州は米国ジャズマンの好市場でしたから)、楽器がなく手ぶらになってしまったDexterはしかし演奏を挙行すべく、当地に64年から移住したWebsterを頼りLondonないしはAmsterdamに彼を訪ね「Ben、サブの楽器を譲ってくれないか?」とでも口説き、その後の愛器となるMark Ⅵを入手したのではないかと想像しています。なかなかミュージシャンが使用楽器をどのように入手したかを知るのは困難な事なので、それに想いを馳せるのも楽しいです。それにしても古今東西楽器の紛失、盗難の話は後を絶たず、多くのミュージシャンがそれ以降の音楽性が変わってしまうほどの影響受けることになります。Steve Grossman, David Sanborn, Bob Berg, Joe Henderson(彼の場合は奇跡的に楽器が戻りましたが)、彼らの楽器紛失は自身の演奏や活動にかなり作用しました。たいていの場合は悪い方への影響ですが、Dexterの場合はかなり良い楽器をWebsterから購入することが出来たのでしょう、ひょっとしたらマウスピースも譲り受けたのかも知れません。テナーの音色は明らかに変わりましたが、新しく手にしたMark Ⅵ、Otto Link Florida8番の持ち味を最大限に引き出して自身の個性に転化した様に思います。背の高い(198cm!)テナーサックス奏者ならではの重心の低い、野太いダークな音色は実にOne and Only、レイドバックとたっぷりとした音符の長さが合わさり、Sophisticated Giantの異名も取りました。

その後61年に名門Blue Note Labelと契約し「Doin’ Allright」を皮切りに合計9作をリリース、幾つかのレーベルからも作品を発表し69年からはPrestige Labelより12枚をリリース、本作はその中の1作になります。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目はDexterのオリジナルにして表題曲The Pantherです。ジャズロック風のリズムでのブルース、細かいシンコペーションが多用されたベースパターンからイントロが始まります。ピアノ、ドラムが加わり、その後御大Dexterの登場です。しかしこの素晴らしい音色をなんと形容したら良いのか、言葉に詰まってしまいますが、頑張って述べたいと思います。ジャズテナーサックス音の定義があるとすれば全くその王道を行く、豪快一直線、「ザワ〜」「ジュワ〜」「シュウシュウ」的な付帯音の豊かさ、「コーッ」という木管楽器的な雑味、コク味、暗さ明るさの絶妙なコントラスト、極太のゼリー状の音塊が「ムニュ〜」とばかりにサックスのベルから出ているかの如くの発音、発声。例えばMiles DavisやStan Getzのように七色の音色を使い分ける華麗な奏法という訳ではなく、音の色合いとしては白黒なのですが、実に濃密にして漆黒の黒色、モノトーンを唯一の武器に演奏していますが誰も太刀打ちする事は出来ません。

Dexterソロ中2’36″あたりで引用フレーズBurt Bacharach作曲のI Say a Little Prayerの一節を吹いていますが、「あれ?この曲は何だったか…」なかなか曲名が出てきません!思い出したら「そうか、Bacharachのあの曲だ!」。当時Bacharachが流行っていましたが引用の名手でもあるDexter、ポップス方面から意外なところを突いてきます。続くTommy Flanaganのソロは自身の個性を発揮しつつも決して出過ぎず、名脇役の席を常に暖めています。ベースのLarry Ridleyも全編に渡り心地よいグルーヴと的確なアプローチを聴かせ、 Alan Dawsonのドラミングも安定感抜群です。

2曲目はスタンダードナンバーBody and Soul、本作中最も収録時間の長い演奏で、John Coltraneの同曲のヴァージョン(60年録音Coltrane’s Sound収録)構成が基になっています。Coltraneはオクターブ上でテーマを吹いていますが、Dexterはオクターブ下の音域で演奏、この美しいバラードは上下のオクターブ共に演奏可能、両者は全く違った表情を見せ、テナー奏者の定番の所以でもあります。そこでも用いられているイントロ(2小節間の計8拍を3拍、3拍、2拍と取っているので一瞬変拍子に聴こえます)に始まり、Dexterの朗々としたテーマ奏、1’32″からのコード進行〜いわゆるColtrane Changeもしっかりと流用されています。Dexterの吹く8分音符はここでもレイドバックを極め、朗々感を更に後押ししています。あまりバウンスせずにイーヴン気味に演奏されている8分音符とのコントラストも特徴です。ここで注目すべきはDawsonのドラミング、スネアによる3連符やシンバルによるカラーリングが、Coltraneのヴァージョンよりもかなりゆっくりとしたテンポ設定を、レイジーなムードに陥いらせる事なく緊張感をキープさせる起爆剤になっていると思います。DawsonはPennsylvania出身のドラマー、かのTony Williamsの先生でもあり、57年からBerklee音楽院で教鞭を執りました。かつて一度だけ共演したことがありますが、演奏後に明瞭な英語で僕の演奏についてを色々と分析してくれたのが印象的でした。さすが多くの名ドラマーを輩出した教育者です!

3曲目はDexter作のValse Robin、自分の娘に捧げたナンバーで、ゆったりとしたワルツナンバー、道理でDexterの吹き方にも柔らかさ、スイートさが一層加味されているように聴こえる筈です。テーマのサビのメロディに出て来るE音より下のサブトーンのふくよかさが堪りません!イントロ無しでストレートにメロディが演奏され、Dexterのソロ、Flanaganと続き再びテナーソロがあってラストテーマ、小唄感覚の小品です。ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目DexterのオリジナルMrs. Miniver 、こちらもいきなりテーマメロディから曲が始まるDexterらしい小粋な雰囲気を持つスイングナンバーです。テナー、ピアノ、ベースとソロが続き、ドラムとの8バースも行われ、文字通りDexter Gordon Quartetの全てを堪能出来ます。エンディングにもしっかりと工夫が施され、この曲がレコードの冒頭に位置してもおかしくない、完成度の高い演奏です。

5曲目はクリスマスソングで有名なその名もThe Christmas Song、ボーカリストMel Torme作の美しいバラードです。米国にはクリスマスソングが何百何千曲と存在するそうですが、その筆頭に挙げられる有名曲です。Tormeによればこの曲は、焼け付くような暑い夏の盛りに書かれたのだそうです。偶然ここでの演奏も真夏の7月に録音されましたが、クリスマスソングを季節外れの時期に演奏してもそうは気分が出なかったと想像できますが、アルバムのリリースが12月だったのでしょう、先を見越していました。曲のキーはD♭、ジャジーでダークなキーですが作曲者Tormeもこのキーで歌っていました。Dexterの吹きっぷりには一層気持ちが入っているようです。テーマ奏1コーラスの後テナーソロがAA半コーラス、ピアノがサビBで8小節ソロを取り、ラストAで再びテナーがメロディを奏でてイントロの音形に戻りFineです。やはり美しい楽曲は季節に関係なく人の心に響きますね。一番最後のメジャー7th〜9thの音、3rd〜5thの音を奏で、再びメジャー7th音、最後に9thで落ち着き、ビブラートを掛けながらエアーだけでフェードアウトする奏法はある種定番ですが、Dexterの音色、タイム感ではまた格別です!

6曲目ラストを飾るのはLou Donaldson作曲The Blues Walk、54年8月録音「Clifford Brown & Max Roach」での演奏がブリリアントです。

これまでがミディアムテンポやバラード演奏だったので、実際にはさほど早くはないテンポ設定の筈ですが、ここではかなりのアップテンポに感じます。とは言えDexterのレイドバックが逆の意味で冴え渡り、リズムセクションも対応に苦心しているように聴こえます(汗)。Dawsonのシンバルレガートはかなりon topに位置しているので、Dexterの8分音符に引っ張られて遅くならないよう、苦慮しつつ的確にタイムをキープしています。ベーシストも同様の対応に迫られているように感じます。途中Flanaganが珍しくピアノのバッキングの手を休め、John Coltrane QuartetのMcCoy Tynerのような状態をキープしています。もしかしたらDexterのあまりのレイドバック振りにバッキングを放棄したのかも知れません(汗)。テナーソロの最後にはJay McShann〜Charlie ParkerのThe Jumpin’ Bluesのリフが引用されますが、Dexter実は翌月8月27日に同じくPrestige Labelにこの曲を表題曲とした「The Jumpin’ Blues」をレコーディングします。このアルバムのラスト曲で次の作品のプレヴューを行なっていた訳ですね。のんびり屋さんかと思っていましたが、ちゃんと将来設計もこなせる人です。

2019.08.04 Sun

Eastern Rebellion 2 / Cedar Walton

今回はピアニストCedar Walton1977年録音の作品「Eastern Rebellion 2」を取り上げてみましょう。

77年1月26, 27日録音 Studio: C.I. Recording Studio, New York City, NY Label: Timeless Engineer: Elvin Campbell Producer: Cedar Walton

p)Cedar Walton ts)Bob Berg b)Sam Jones ds)Billy Higgins

1)Fantasy in D 2)The Maestro 3)Ojos de Rojo 4)Sunday Suite

Cedar Waltonはピアノソロ、トリオからカルテット、クインテット、ビッグバンドまで様々な編成で作品をリリースしていますが、個人的にはテナーサックス・ワンホーンによるカルテットが最もWaltonの個性を発揮出来るフォーマットと考えています。本作の約1年前、75年12月に録音された前作「Eastern Rebellion」も本作同様全曲Cedar Waltonのオリジナル、アレンジを演奏している佳作、名手Sam JonesとBilly Higginsを擁したカルテット編成、ただテナーサックスが本作参加のBob BergではなくGeorge Colemanになり、彼の参加はこの作品のみに留まります。Waltonは本作にてBob Bergというニューヴォイスを得て、以降自己の音楽を推進させることが出来たように思います。Waltonの書く楽曲のメロディライン、その音域、コード感、全体的なサウンドがテナーサックス、特にBergの個性的な(エグい!)音色や吹き方に合致していると感じるのです。他のテナー奏者の音色、アプローチでは物足りなさを覚え、また別な管楽器が加われば確かにアンサンブルのサウンドは厚く、ジャズ的なゴージャスさが増すと思いますが、ワンヴォイスでの凝縮されたソリッドさがむしろWaltonの音楽性に合っていると感じています。

本作録音と同じ77年の10月、同一メンバーでDenmarkのCopenhagenにあるライブハウスJazzhus MontmartreにCedar Walton Quartetとして出演、この時の演奏を収録したSteepleChase Labelからリリースの3部作「First Set」「Second Set」「Third Set」はこのカルテットの魅力を余す事なく捉えたと言って過言ではない、本当に素晴らしい内容のライブ・アルバムです。「Eastern Rebellion 2」録音から8ヶ月余、この間にかなりの本数のギグをこなしてCopenhagenに赴き、演奏を結実させたと推測することが出来、バンドが発展〜成熟していく様をこれらの作品を通して垣間見ることが出来ますが、これは我々ジャズファンとして大きな喜びです。

First Set裏ジャケットの写真です。このBob Bergのワルぶりと言ったら!

Eastern Rebellion(ER)4まで同一ジャケットでの連作となり、Curtis Fullerが参加してQuintet編成でER3を、キューバ出身のトランぺッターAlfredo “Chocolate” Armenterosがさらに加わりSextet編成でER4をリリースしましたが、その後85年BergがMiles Davis Band加入のために抜け、Ralph Moooreを迎えてのカルテット編成に戻り以降3作を発表しています。Sam Jones亡き後はER4からDavid Williamsがベーシストの座に座りました。Eastern Rebellionというバンド名義の他にCedar Walton Quartet(Quintet)の名前でも作品を多くリリースしていて、両者の区分はよく分かりません。ちなみにWaltonは多作家で48作ものアルバムをleader, co-leaderの形でリリースしています。

Waltonのテナーサックス・ワンホーンでの演奏はJohn Coltraneの59年Giant Steps Alternate Takes(Giant Steps録音としては初演)のレコーディングに端を発しているように思います。この時25歳の若きWaltonは伴奏のみでの参加、難曲のソロを取らせて貰えなかった訳ですが、以降リーダー作では事あるごとにテナーサックスをフロントに迎え、思う存分ブロウさせています。Coltraneとの共演で培われた(刷り込まれた?)、ソロを構築する論理的タイプのテナーサックス奏者の伴奏、その魅力に取り憑かれたピアニストの、一貫したミュージックライフと僕は捉えていますが如何でしょうか。

もう一作、Waltonがサイドマンで参加したテナーサックス・ワンホーンの作品を挙げておきましょう。Steve Grossmanの85年録音リーダー作「Love Is the Thing」(Red)、Waltonの他David Williams, Billy Higginsというメンバー(Cedar Walton Trioですね)で、ウラEastern Rebellionとも言うべき名作です。Grossman本人も会心の出来と自負していました。

それでは収録曲を見ていきましょう。1曲目Waltonのオリジナルになる名曲Fantasy in D、Jazz Messengers(JM)ではUgetsuというタイトルで63年NYC Birdlandのライブ盤がリリースされ、JMの最盛期を収録した名盤にこの曲が収められました。タイトルは雨月物語から名付けられましたが、レコーディングの数ヶ月前に日本ツアーを終えたJM、バンドを大変暖かく迎え入れてくれた日本の聴衆へ敬意を表してWaltonがタイトルにしました。東洋的な要素と西洋音楽の融合、East Meets Westの具体的な表れです。Fantasy in Dのタイトルの方はこの楽曲のキーがDメジャーに由来する、Dの幻想ですね。イントロの16小節は曲のドミナント・コードであるA7のペダル・トーンを生かしたセクション、Higginsの軽快なシンバルワークがバンドを牽引しますが、この音色はZildjian系ではなくPaiste系のシンバルならではのものと考えられます。スピード感とタイムのゆったりさ、柔らかさが同居する実に音楽的な素晴らしいレガートです!Waltonのピアノ・フィルもこれからこの曲に起こるであろう豊かな音楽の事象をプレヴューするかの如き、イメージに富んだものです。続くテーマ部分では対比するかのようにストップタイムを多用した、コード進行の複雑さを感じさせずに美しくスリリングなメロディが演奏されます。テーマ後のヴァンプ部分からごく自然にBergのソロが始まります。イヤー、何てカッコ良いのでしょう!この時Berg若干25歳!表現の発露とイマジネーション、音楽的な毒、ユダヤ的な知性と情念が絶妙にブレンドされたテイストです!この曲のコード進行に対するラインの組み立て方を研究し尽くし、しかし策には溺れず、即興の際の自然発生的な醍醐味を全面に掲げて熱くブロウしています。Waltonのバッキングは絶妙に付かず離れずのスタンスをキープしつつ、Bergの演奏をサポート、また時には煽っています。Higginsは決して出しゃばらずに且つ的確なフィルイン、スネアのアクセントを入れ、奏者への寄り添い感が半端ありません!同様にSam Jonesのベース、Higginsのプレイとの一体感は申し分なく、一心同体とはこの様な演奏を指すのだろうと納得させられます。Bergのフレージング中、盛り上がりの際に用いられる高音域から急降下爆撃状態、若しくは最低音域から「ボッ」、「バギョッ」とスタートする上昇ラインで用いられるLow B音、この曲のキーに全く相応しいのです!この頃のBergの楽器セッティングですが、本体はSelmer Super Balanced Action、マウスピースはOtto Link Florida Metal、恐らく6番くらいのオープニング、リードもLa Voz Med.あたりと思われます。続くWaltonのソロも素晴らしい!と思わず右手を握りしめて親指を垂直に立て、そのスインガー振りを讃えたくなります。シンコペーションを多用した、ジャズ的な音使いとメロディアスなラインとのバランスがこれまた堪りません!かの村上春樹氏をして「シダー・ウォルトン~強靭な文体を持ったマイナー・ポエト」と言わしめるピアニスト。常にフレッシュな感性に満ちた演奏を聴かせます。3’39″でクリスマスソングのSleigh Rideのメロディを引用するあたり、なかなかのお茶目さんです!4’38″で同じメロディが浮かび、もう一度はマズイと打ち消した節も感じられますが(汗)。その後ラストテーマへ、エンディングは再びイントロと同様にA7のヴァンプがオープンになり、テーマの1, 2小節目のコード進行を用いてFineに辿り着きます。終わるのが惜しいくらいの内容を持った名演奏です。

2曲目はThe Maestro、一転してゆったりとしたテンポでピアノが美しいメロディを奏でます。ドラムもブラシでリズムをキープしていましたがスティックに持ち替え、スインギーなレガートを聴かせ始めます。テナーが加わりラテンのリズムになり、がらっと雰囲気が変わります。その後はBergの独壇場を聴くことが出来ます。この頃のBergは以降に比べ音符の長さが幾分短く、8部音符はまだしも16分音符はかなり詰まった様に聴こえますが、リズムセクションがその全てを包容しているので音楽的に何ら問題はありません。コンパクトですがしっかりとストーリーを持ち合わせた巧みな演奏です。

3曲目のOjos de Rojo、スペイン語表記ですが英語ではEyes of Red、アップテンポのラテンのリズム、イントロのシンコペーションのメロディに続きヴァンプの印象的なパターン、メロディがこれまたグッと来るドラマチックな構成の名曲です。Higginsがシンバルのカップ部分を叩いたり、0’41″辺りでさりげなくクラーベのリズムを叩いたりと、カラーリングが巧みで、無駄な表現が皆無と言って良いでしょう。全ての音に意味がありそうです。Jonesのベースもラテンのグルーヴが強力で、Fantasy in DではHigginsがリズムの司令塔の役目を果たしていましたが、この曲に於いては最も支配的な演奏を聴かせます。ソロの先発はWalton、ベース、ドラムの好サポートに支えられ素晴らしいソロを聴かせます。ヴァンプを挟みBergがこれまた内に秘めた炎を熱く燃やします。多くのユダヤ系テナー奏者はマイナー調を演奏する際に独特のパッションを表現しますが、Bergも例外ではありません。ヴァンプ後ラストテーマ、イントロのメロディを再演しFマイナー・ワンコードになりますが、テナーのフィルインがサムシング・ニューをもたらそうと健闘しています。ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目はレコードのSide Bを占め約18分にも及ぶSunday Suite、リズムセクションによるラテンの軽快なリズムに始まり、陽気なテナーのメロディがあたかも日曜日の清々しい朝を感じさせます。印象的なシンコペーションのメロディが続きこれらが繰り返された後、短3度上がったメロディ、その後フェルマータし、ピアノの美しい独奏がかなりの長さ演奏され、一転してミディアムスロー・テンポでテナーによるダークで物悲しいメロディ、その雰囲気を受け継いだ統一感のあるソロが聴かれます。せっかくの日曜日なので外出しようとしたのが土砂降りの雨にでも見舞われたのでしょうか?(笑)引き続きパート4とでも言えるアップテンポのスイング・ナンバーがメチャメチャカッコいいピアノのイントロから開始です!まさにこのバンド向け、ぴったりのメロディ、サウンドのモーダルなナンバーです!それにしても日曜日に一体何が起きたのでしょうか?(爆)、問題提起感が凄いですね。アドリブはC Dorianワンコード、いわゆる一発で行われ、ソロの先発はWalton、巧みなフィンガリング、フレージングにピアノの上手さを感じますが、練習を披露しているかの様なソロの部分にはちょっとばかり残念さを覚えます。続くBergのソロはまさに水を得た魚、このテンポで巧みにストーリーを語るのは本当の実力者です!ピアノのバッキングがBergを煽るべくイってます!個人的にはドラムにも、もっと茶茶を入れて貰いたかったところですが。テナーソロに崩壊の兆しが見えたところでHigginsのフリードラムソロに突入、様々なアプローチを巧みに駆使して名人芸を聴かせます。ラテンのリズムを繰り出して冒頭の「日曜日の清々しい朝」セクションが演奏され、Sunday SuiteはFineです。

2019.07.25 Thu

A Jazz Message / Art Blakey Quartet

今回はArt Blakey Quartetによる1963年録音作品「A Jazz Message」を取り上げたいと思います。自己のリーダーバンドArt Blakey and the Jazz Messengersから離れ、普段とは異なるメンバー、編成、コンセプトの作品にトライしました。タイトルに拘りを感じさせるところにJazz Messengersがあってこその、というメッセージが込められていると思います。

1963年7月16日Van Gelder Studioにて録音 Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Bob Thiele Label: Impulse! A-45

ds)Art Blakey ts, as)Sonny Stitt p)McCoy Tyner b)Art Davis

1)Cafe 2)Just Knock on My Door 3)Summertime 4)Blues Back 5)Sunday 6)The Song Is You

スカイブルーが妙に目立つ謎のレイアウトです(汗)

以前当Blogで取り上げたBlakeyの傑作「Free for All」の1作前にあたり、何度か訪れた彼の音楽的ピーク到達の直前、メインの活動であるJazz Messengersでの重責から解放された如きのリラックス感が味わえる作品に仕上がっています。共演メンバーの意外性に起因するのかも知れませんが、テナー、アルトサックス奏者のSonny StittはParker派の重鎮、Blakeyとはサイドメン同士での共演もありましたが自身のリーダー作では50年録音の2作「Kaleidoscope」「Stitt’s Bits」で共演しており、Blakeyのリーダーとしては本作が初になります。Jazz Messengers50年代〜60年代の変遷 = Be-Bop, Hard Bopのスタイルを経てのModal Sound真っ只中のBlakeyには、Stittのスタイルは久しぶりでむしろ新鮮なコラボレーションになりました。

本作プロデューサーのBob ThieleがBlakeyに話しかけています。「Hey Art, YouのバンドJazz Messengersは最近盛り上がっているそうじゃないか。フロントの3管Freddie(Hubbard), Wayne(Shorter), Curtis(Fuller)を始め、Cedar(Walton), Reggie(Workman)たちメンバーも素晴らしいし。でも今回俺がプロデュースする作品はそこから離れた感じが欲しいんだ。ワンホーン・カルテットで、いつも演っているサックス奏者やピアニストではない人が良いなぁ、誰か心当たりある?」のようなオファーがあったかどうか分かりませんが(笑)、「いつもは演らないサックス・プレーヤーね…、随分前にSonnyがレコーディングに呼んでくれて良い感じだったけど奴はどうかな?あれ以来お返しもしていないし。えっ?どっちのSonnyって、Stitt、Sonny Stittの方ね、Rollinsも良いけど最近どうやら人のセッションに呼ばれても顔出さないらしいよ(著者注: 実際60年代に入りRollinsはリーダー・セッションでしか演奏しなくなりました)。奴はBenny(Golson)やWayneとは全然違う味を出せる筈だよ。ピアニストはさ、Johnのところの若手、そうそうColtraneのバンドのMcCoy、メチャメチャ評判良いよ。彼はどうかな?一度演って見たかったしさ。」「McCoyならうちの専属アーティストだよ!素晴らしいレコードをもう何枚も作っている我が社Impulse!イチオシのピアニスト、こちらこそ彼を使ってくれたら嬉しいなあ!」

というやり取りの後(もちろん僕のイメージの世界ですが〜汗)、ベーシストには堅実な伴奏に定評のあるArt Davisに声がかかり、Quartetのメンバーが決まりました。本作レコーディングの直前、7月5日にMcCoyは名盤「Live at Newport」を、Stittは自身の代表作である「Now!」を6月7日に録音しています。これらが全てImpulse! Labelからのリリースであることを考えると、Bob Thieleのお抱えミュージシャン同士を掛け合わせた企画制作アルバムとも考えることが出来ます。

ジャズ・レコードはその作品自体を楽しむのが基本ですが、前後の作品や遡ったり関連した作品、共演者のリーダー作、はたまた共演者の他者への参加作品等を鑑賞する事により、元の作品、時には別の作品の内容、コンセプトがくっきりと浮かび上がり、新たな発見に出会える場合があります。本作での、ある種の音楽的クールダウンが「Free for All」への更なる飛翔に繋がったのかも知れないと感じました。

それでは収録曲を見て行きましょう。1曲目はBlakeyとStittの共作になるCafe、Tumbaoのベース・パターン後にラテンのドラミングが始まります。「ジャズ屋のラテン」とはよく言ったもので、多くのジャズドラマーは本職のラテンミュージシャンに比べて幾分ルーズな、味わいのあるグルーヴが聴かれますが、Blakeyのはかなりタイトなビートです。ピアノがテーマを演奏しますが、こ、これは…どう聴いてもColtraneのMr. PCじゃありませんか!メロディ多少の違いはあり、著作権には引っ掛からないかも知れませんが聴いていて些か気恥ずかしさを感じてしまいます。本人達にしてみればリズムや曲のキー(Mr. PCはCm、こちらはGm)を変えているし、多少メロディが似ていたって、このぐらいの事は良くあるだろう?程度の事かも知れません(汗)。ソロに入るといきなりスイングに変わり、リフのメロディを受け継ぎつつ先発はStittのテナー。McCoyのバッキングに煽られたのか流暢さはそのままに、いつもよりテンションの高いソロを聴かせます。StittのアドリブラインとBlakeyのシンバルレガートはよく合致しているように聴こえます。後年70年代に入り、Stittと何枚か共演作を残しているのは互いに同じテイストで惹かれるものがあったからでしょう。75年録音の「In Walked Sonny」はJazz MessengersにStittが客演した作品です。

続くMcCoyのソロは端正なピアノタッチ、スインギーなタイム感でシンコペーションを多用したフレッシュな感性を、唸り声混じりで聴かせます。ベースまでソロが回り、StittとBlakeyの4バース後再びピアノによるMr.PC、ではなく(汗)、Cafeのテーマがラテンのリズムで演奏されます。エンディングのバンプではラテンでもうひと盛り上がり、素晴らしいグルーヴなので曲中でもこのリズムでソロが聴きたかったです。

2曲目はやはりBlakeyとStittの共作によるJust Knock on My Door、シャッフルのリズムによるこちらもブルースです。Stittはアルトに持ち替え本領発揮、いつものStitt節を小気味好く聴かせます。続くMcCoyはColtraneのアルバム「Crescent」収録Bessie’s Bluesを彷彿とさせる、Fourth Intervalを駆使したソロ、McCoyとStitt両者の演奏表現は接点を持てず音楽的に交わる事なく、平行線を辿っているかのようです。ベースソロ最中に予め決めておいたシンコペーションによる2ndリフが入り、ラストテーマへ。

3曲目George Gershwinの名曲Summertimeを♩=180程度の軽快なスイングで演奏しています。Art DavisのOn Topなベースがバンドをリードしており、Blakeyもベーシストにスイングを一任しているが如く、ひたすらシンバル・レガートに従事して殆ど何もしていません。Stittは再びテナーに持ち替え、イントロ無しでテーマを朗々と吹き、そのまま短いソロを取りMcCoyに続きますが、Coltrane Quartetのテイストそのままに、短い中にもストーリーを感じさせる素晴らしいソロを展開しています。ベースソロの後ラストテーマへ、短いエンディングを経てFineです。

4曲目McCoyのオリジナルBlues Backは彼の62年11月録音の名盤「Reaching Fourth」にも収録されています。本作の演奏の方がテンポが早く、サウンドも明るめに聴こえます。ピアノがテーマを演奏しそのままソロに突入します。粒立ちの良いタッチから繰り出されるフレーズが、Blakeyのシャッフルががったリズムと良く合致しています。続くStittはアルトで饒舌かつブルージーにソロを取り、パーカーフレーズで上手くまとめています。再びピアノがソロを取りそのままラストテーマへ、エンディングはフェイドアウト、思いのほかラストがまとまらなかったのかも知れません。

5曲目はスタンダード・ナンバーSunday、Stittがテナーで小粋にメロディを演奏します。コード進行がStitt好みなのでしょう、巧みなフレージングを気持ち良さそうに繰り出しています。続くMcCoyも曲の雰囲気、イメージを的確に踏まえ、様々なアプローチを駆使して華やかに歌い上げています。ベースソロも骨太の音色で存在感をアピールしているかのようです。

6曲目ラストを飾るのはJerome Kernの名曲The Song Is You、無伴奏でStittのアルトから始まり、艶やかなテーマ奏から小粋さをたたえたソロまで、徹底したスインガー振りを発揮しています。McCoyのソロも唄を感じさせる部分とロジカルな構築部分、両者のバランス感が半端ありません!ラストテーマはサビから演奏され、大団円を迎えます。

2019.07.14 Sun

Leaving This Planet / Charles Earland

今回はオルガン奏者Charles Earlandの1973年録音リーダー作「Leaving This Planet」を取り上げたいと思います。レコードは2枚組でリリースされましたが、CDでは収録時間79分(長い!)の1枚にまとめられています。

73年12月11, 12, 13日@Fantasy Studios, Berkley, California Fantasy Label Producer: Charles Earland Supervision: Orrin Keepnews

org, el-p, synth, ss)Charles Earland tp, flg)Freddie Hubbard tp)Eddie Henderson ts)Joe Henderson ss, ts, fl)Dave Hubbard synth)Patrick Gleeson g)Eddie Arkin, Greg Crockett, Mark Elf ds)Harvey Mason, Brian Brake perc)Larry Killian vo)Rudy Copeland

1)Leaving This Planet 2)Red Clay 3)Warp Factor 8 4)Brown Eyes 5)Asteroid 6)Mason’s Galaxy 7)No Me Esqueca 8)Tyner 9)Van Jay 10)Never Ending Melody

70年代はクロスオーバー、フュージョンのムーブメントが開花し、本作が録音された73年にはHerbie Hancockエレクトリック時代の代表作にして名盤「Head Hunters」が録音、リリースされ大ヒットを遂げました。この流れに便乗という形になりますが、同年12月Charles Earlandもクロスオーバー〜ファンク路線の本作を録音しました。しかもドラマーはHead Huntersと同じHarvey Masonを起用、意識した人選か、たまたまなのか分かりませんが本作でも全編素晴らしいグルーヴ、インタープレイを聴かせています。加えて特筆すべきがフロント奏者達、トランペットにFreddie Hubbard、テナーサックスにJoe Hendersonと、泣く子も黙るオールスターズに思う存分ソロを取らせています。また彼らをサポートすべくトランペットにEddie Henderson、ソプラノ、テナー、フルートにDave Hubbardも起用されており、単なる偶然でしょうが二人ずつのHubbard, Hendersonがラインナップされた形です。

Head HuntersはBillboardジャズチャート1位に輝き、総合チャートのBillboard200でもHancockの作品として初めて上位を記録し、商業的にも大きな成功を収めました。キャッチーなメロディ、ダンサブルなリズムとグルーヴがオーディエンスに大いに受けた形ですが、Hancockの緻密なアレンジ、プロデュース力、共演ミュージシャンへの音楽的要望〜具体化が音楽をぐっと引き締め、不要な音型〜贅肉を削ぎ落とし、必要なサウンドだけを抽出、凝縮した形での作品作りが結果功を奏したのでしょう。いずれ本Blogで取り上げたい作品の一枚ではあります。一方こちらのLeaving This Planet、言ってみれば真逆の方向性、緻密とは縁のないと言っては失礼に当たりますが、Hancockとは違う種類の音楽的なこだわりからか、参加ミュージシャンに自由に演奏させており、Motown系の黒人音楽の様相、良い意味でのルーズなセッション風の演奏を呈しています。オルガン、ギターやパーカッションのバッキングの音数がtoo muchと感じる瞬間も多々ありますが、Masonのグルーヴィーでタイトなドラミングが、やんちゃで暴れん坊な参加ミュージシャン達のまとめ役となり、加えてアルバム全てに於けるFreddieの「本気」を感じさせるクリエイティヴなトランペット・ソロ、Joe Henの「神がかった」鬼気迫るテナー・ソロが本作の品位を数倍にも格上げしており、他にはないバランス感覚を持った作品です。

Earlandは41年5月24日Philadelphia生まれ、高校時代にサックスを学び、同じくオルガン奏者Jimmy McGriffのバンドで17歳の時にテナーサックス奏者として演奏しています。その後Pat Martinoのバンドに参加してからオルガンを演奏し始め、Lou Donaldsonのバンドにも参加しました。70年から率いた彼自身のバンドにはGrover Washington, Jr.が在団し、成功を収めたと言うことで、オルガンとサックス奏者に縁がある音楽活動に徹しています。ちなみに本作でもソプラノのソロを1曲演奏しています(ご愛嬌の域ですが)。多作家でリーダー作は40枚を数え、作品毎に多くのテナー奏者を迎えて録音しています。Jimmy Heath, Billy Harper, David “Fathead” Newman, George Coleman, Dave Schnitter, Frank Wess, Michael Brecker, Eric Alexander, Carlos Garnett, Najee… 確かにオルガンとテナーの音色はよく合致します。Jack McDuffとWillis Jackson、Shirley ScottとEddie “Lockjaw” DavisやStanley Turrentine、Jimmy SmithとTurrentine、Larry YoungとSam RiversやJoe Henderson、Larry GoldingsとMichael Brecker、また以前Blogで取り上げた「Very Saxy」のテナー4人衆、”Lockjaw” Davis, Buddy Tate, Coleman Hawkins, Arnett Cobbの伴奏もオルガン奏者Shirley Scottで素晴らしいコンビネーションを聴かせていました。Earlandは名手Joe Henと本作が初共演、彼の大フィーチャーはたっての願いであったかも知れません。

それでは演奏曲に触れて行きましょう。収録曲はJoe Hen, Freddieのオリジナル以外は全てEarland作曲になります。1曲目は表題曲Leaving This Planet、宇宙飛行を思わせる幾つかのサウンドエフェクトに始まり、Masonのドラムがリズムを刻み始め、次第にサウンドが作られシンセサイザー、そしてRudy Copelandのボーカルが加わります。Stevie Wonderの声質を感じさせる歌唱はMotown Soundを起想させる、冒頭に相応しいキャッチーなナンバーです。ところでEarlandはベース奏者を雇わず自身の足でペダルを刻み、ベース音を繰り出しますがそのタイトさは特筆モノです。この作品中全曲でその素晴らしさを堪能する事が出来ます。先発ソロはオルガン、リズミックで饒舌な演奏はMasonとの相性もバッチリです!ギターのバッキングの音数とその存在感が大き過ぎるのが気になりますが、この猥雑な感じがEarlandのサウンド志向なのでしょう、きっと。続いてJoe Henの登場、猥雑さはそのままにテナーがその世界を構築し始めます。One & Onlyな音色を引っ提げてリズミックなシングル・ノートからウネウネ、エグエグなラインに移行、次第にコード感、リズムに対してフローティングなアプローチを展開し、猥雑さを蹴散らすかの如き見事なストーリーを語ります。程良きところでボーカルが入り、エンディングに向け惑星からの離陸を図ろうとしていますが、シンセサイザーによるサウンド・エフェクトから察するに無事に成層圏を脱出したように思います(笑)。

2曲目はFreddieの名曲Red Clay、70年録音リリースの同名アルバムに収録されています。Joe Henはこの作品にも参加しています。

ギタリストGreg Crokettが曲の冒頭から参加、フルートも交えたテーマや各ソロ中、ラストテーマまで一貫して曲想やソロフレーズに関係なく(?)徹底して音数の多いワウ系のバッキングを聴かせ、更に至る所にEarland自身のバッキングも破壊的に繰り出され、けしかけるようにMasonのドラムフィルも炸裂、猥雑さは一層極まっています!しかし耳が慣れてしまうとこれはこれで演奏を楽しむことが出来るのが不思議です!Joe Hen、Freddieとも絶好調で、例えばトランペット・ソロでのドラム、オルガンを煽りつつ煽られつつの盛り上がりではギターのバッキングを見事に吹き飛ばしていて、爽快感すら感じさせます(本末転倒?)。続くオルガン・ソロも同様にリズミックにドラムを巻き込みバーニング!、更にラストテーマ後にもうひと山聳えており、パーカッションやMasonのドラミングが祭り太鼓のように囃し立て、最後はフェイドアウトしつつもFreddieのソロに耳が行ってしまいます。

3曲目はWarp Factor 8、オルガンのイントロから始まり、この曲ではドラマーがBrian Brakeに交替しますが、この人もMason同様にかなりの手練れ者とお見受けしました(笑)。ここでもギターのバッキングが炸裂モード、ギタリストはEddie Arkin、カッティングによるバッキングがメインなようです。テーマメロディはオルガンが担当、ホーンセクションがソリッドなバックリフを聴かせます。録音のバランスとしてホーンの方が大きいので、どちらが主旋律か戸惑ってしまいます。ソロの先発はFreddie、ここまでタイトなリズムで歯切れの良いタンギング、アグレッシヴなフレージングを演奏出来るトランぺッターは彼しかいません。しっかりと世界を作り上げ、2ndリフに見送られて次の謎のソロはソプラノ、こちらはDaveの方のHubbardになります。その後Earlandの短いオルガンソロを経てJoe Henのソロ、今までに行われたソロの経過を踏まえたかのような俯瞰したバランスを保ちつつ、コンパクトにリズミックに、でも存在感はしっかりと提示して演奏しています。その後ラストテーマへ。

4曲目Brown Eyes、他の曲に比べて叙情的な雰囲気が漂うナンバー、シンセサイザーがストリングス音を奏で(時代を感じさせる音色です)、コンガが中心となってリズムをキープしつつ、ホーンのアンサンブルメロディに続きシンセサイザーによる管楽器系の音色でメロディが演奏され、再び管楽器と絡みつつメロディ奏になります。ソロの先発はここでもFreddie、切り込み隊長を引き受ける事が多いですが、決して切り込みの際の捨て駒にならず、確実に自分の音楽性を貫き通しています。スペーシーに始まりMasonとのコール・アンド・レスポンス、リズムセクションをシンコペーションのフレーズで良い感じで煽りながら、潔くソロを終えて上手く次のソロイストに繋げています。続く長めのオルガン・ソロ、何しろリズムのタイトさ、安定感が半端ありません!途中シンセサイザーが隠し味的に演奏されていますが、どういう効果を求めてのサウンド・エフェクトなのかは謎ですが。その後のトランペットソロはEddieの方のHenderson、この人の演奏も大変クオリティが高くここでも健闘していますが、Freddieと比較してしまうと音色、タイム、音符の長さとたっぷり感、フレーズの歯切れ、アイデア、ストーリーの語り方、構成力、全体的にプレイの小振り感を否めません。尊敬する先輩(とは言え僅か3歳違いですが)の物凄い演奏の後では平常心は保てず、萎縮せざるを得なかったのでしょうが。その後のJoe Henのソロ、流石です!深く音楽内に潜り込み、曲の根底に根ざしてソロの際にどんなパーツを用いるか、組み立て方をすべきかが全てお見通しのよう、バックも彼の語るストーリーに誘われるがままについて行けば良いのです。一丸となっての盛り上がりの後、弦楽器のようなシンセサイザーの音色がインタールードとなり、ラストテーマへ。初めのテーマには無い異なったセクションを用い、フェードアウトしつつドラムがフィルを入れています。

5曲目Asteroid(小惑星)は軽快なシャッフルのナンバー。Mark Elfのギターメロディをフィーチャーしたテーマ奏はバックのホーンセクションが効果的にです。ソロの先発はオルガン、そしてJoe Henのソロへ、つくづくこの人のソロアプローチへの不定形さに感心してしまいます!常にスポンテニアス、先の読めない展開は真のジャズメンそのものです!受け継いでのFreddieのテクニカルで華麗なソロ、更にDave Hubbardのメロウなソプラノ・ソロと続いて再びギターメロディによるラストテーマへ。ギターソロはありませんでした。

6曲目Mason’s Galaxy、今更ながらこの作品は宇宙に関連する組曲形式になっているようです。1曲目惑星からの退去、2曲目赤い粘土(火星?)、3曲目ワープ、5曲目小惑星の次は本曲での銀河ですから。シンセサイザーによるSEの後、Masonのドラムパターンの上で様々な楽器によるメロディ奏が効果的に用いられています。Freddie先発、イメージを膨らませつつ色々な音色を用いて助走し、シンセサイザーの音色と合わさります。続いてオルガンソロ、容赦無くフレーズを繰り出していますが、プログレッシヴ・ロックのオルガン奏者Keith Emersonをイメージしてしまいました。

7曲目Joe HenのオリジナルNo Me Esqueca(Don’t Forget Me)は63年初リーダー作「Page One」にRecorda Meというタイトルで初演されています。同曲を早いテンポで演奏するときにNo Me Esquecaの名称を使うそうですが、ここではさほど早いテンポ設定ではありません。73年のリーダー作「In Pursuit of Blackness」に改めて同名で、初演が2管でしたがアルト、テナー、トロンボーン3管編成のアンサンブル、2ndリフとドラムソロが加筆、演奏され、ヴァージョンアップでの収録になっています。こちらもJoe Henの代表曲に挙げられる名曲です。

ソロの先発はFreddie、この曲はお手の物といった雰囲気で流暢に演奏しています。Dave Hubbardのフルート、オルガンソロと続きJoe Henのソロ、豊かなイメージを持ちつつ手短にソロを終えています。個人的にはもっとたっぷりと演奏を聴きたかったですが。ラストテーマ、エンディングはMasonのドラムによるカラーリングが印象的です。

8曲目はアップテンポのスイング・ナンバーTyner、やはりMcCoy Tynerに捧げられたナンバーでしょうか。ホーンセクションによるテーマが分厚いサウンドを聴かせます。早いテンポにも関わらずEarlandのペダル・ベースはタイトです。MasonのシンバルレガートはAlbert Heathを思わせるグルーヴ、ジャズ屋本来のものとは異なります。ソロの先発はオルガン、続いてのEarlandがソプラノを演奏、Freddieのソロを挟んで再びEarlandの多重録音によるソプラノソロ、こちらのコンセプトは良く分かりません(汗)、被さるようにJoe Henのソロが始まります。こちらは早いテンポでもタイムの安定感がハンパありません!続くトランペットはEddie Henderson、4曲目のソロ時よりもかなり本領を発揮していると感じます。ラストテーマ後に全員がコレクティヴ・インプロヴィゼーションで終了です。

9曲目Van Jay、前曲よりもテンポの落ち着いたスイング・ナンバー、ドラマーが再びBrakeに変わります。パーカッション奏者のコンガ演奏がCTIの4ビート・ジャズを思い起こさせます。Joe Henの先発ソロは曲想にピッタリのゴージャスなノリを聴かせ、実にスリリングです!Freddieがやや間を空けてからの登場、超絶にしてグルーヴィー、早い、高い、凄いの三拍揃ったカッコ良過ぎなソロです!この後オルガンソロに続きますが、二人にトコトン盛り上がられて、もう場はペンペン草も生えていないでしょうに(笑)、まだ盛り上がります!ホーンのメロディが入り、フェードアウトでFineです。

10曲目最後を飾るのはボサノバのリズムのハッピーなナンバーNever Ending Melody、この曲でもBrakeがドラムを叩きます。先発のJoe Henは既に殆どの収録曲でイマジネーション溢れるソロを連発していますが、疲れを知らない子供のようにここでもクリエイティブさを全く失っていません!この事は続くFreddieの演奏にも言えます!オルガンのバッキングに煽られながら完全燃焼です。オルガンのソロ後ラストテーマを迎え、大団円です!

2019.07.04 Thu

Getz at the Gate / The Stan Getz Quartet Live at the Village Gate Nov. 26 1961

今回は先日リリースされた未発表音源、Stan Getz Quartetの1961年11月New York, Village Gateでのライブ「Getz at the Gate」を取り上げたいと思います。1961年11月26日NYC Village Gateにて録音

ts)Stan Getz p)Steve Kuhn b)John Neves ds)Roy Haynes

Disc 1 1)Announcement by Chip Monck 2)It’s Alright with Me 3)Wildwood 4)When the Sun Comes Out 5)Impressions 6)Airegin 7)Like Someone in Love 8)Woody’n You 9)Blues

Disc 2 1)Where Do You Go? 2)Yesterday’s Gardenias 3)Stella by Starlight 4)It’s You or No One 5)Spring Can Really Hang You Up the Most 6)52nd Street Theme 7)Jumpin’ with Symphony Sid

数多くの未発表音源リリースを手掛けたプロデューサーZev Feldman、よくぞ本作を発掘しました!彼が手掛けた代表作としてBill Evans「Some Other Time」Stan Getz 「Moments in the Time」Joao Gilberto / Stan Getz「Getz / Gilberto ’76」があります。録音テープの存在確認だけでも大変な労力を必要とする事でしょう。おそらく収納ケースには簡単なインデックスしか記載されていないテープをオープンリールデッキに載せて再生し、その内容を耳を頼りに誰がどんな演奏を行なっているのかを判断する。経験値が物を言う作業ですが、すぐに目的の作品が見つかるとは限らず徒労に終わる事もあるのは容易に推測できます。お目当てのテープを見つけたとしてもその後には参加アーティストや、演奏者が故人の場合その家族に発生する諸々の権利の確認〜承認承諾、レーベルの版権等事務的な手続きが山積みしていて、膨大なそれらをクリアーしてやっと陽の目を見ることが出来るのです。米国は個人の権利の国ですから。いずれにせよGetzの代表作に挙げてもおかしくない、彼の真髄を捉えた素晴らしいクオリティーの作品です。ジャズミュージシャンは基本的にライブ演奏でその本領を発揮しますが、それが見事に具現化されています。

本作録音の8日前、同じくNYCのライブハウスBirdlandでのライブを録音した作品「Stan Getz Quartet at Birdland 1961」、当Blogでも以前取り上げたことがありますが、AMラジオのエアチェック音源をCD化したものなので、演奏内容がとても素晴らしいのですが音質のクオリティが玉に瑕なのです。

参加メンバーを含めこちらの演奏の延長線上に本作が位置し、霞の中から突然に御神体が出現した如くの驚くべきクリアーさを伴った素晴らしい音質(エアチェック盤の音質に耳が慣れていましたから)、レパートリーはかなり重複しますがむしろ二つの演奏の比較を楽しむことが出来ます。こちらは正式な録音と思われますが、60年近く前のレコーディングとなれば膨大な量の録音に紛れその詳細は定かではありません。ましてや違うレコード会社の倉庫に保管され、眠っていたとなれば事は尚更です。十分な曲毎の演奏時間、61年の演奏とは信じられない緻密で現代的な演奏内容、十二分な演奏曲数、一晩の演奏を全て収録したと考えられるアルバム。GetzとSteve Kuhn、Roy Haynesの共演、エアチェック盤ではベーシストがJimmy GarrisonでしたがここではJohn Nevesに変わりますが、ドラマー、ベーシスト共にKuhnの推薦による参加だそうです。本作の内容は僕にとって意外な謎解き、また新たな問題提起、認識を新たにする事柄を有しており、子供の頃に毎月購読していた少年雑誌の増刊号(付録の数が急増しました!)の如き様相を呈しています(笑)。

それでは早速演奏曲に触れて行きましょう。Disc 1のトラック1は司会者によるアナウンスメントになりますがChip Monck、どこかで見たことがある名前と思いきや、こちらも以前当Blogで取り上げたLes McCannの作品、同じくVillage Gateでのライブ作品「Les McCann Ltd. in New York」の冒頭曲の曲名じゃあありませんか!あんな名曲に名前がクレジットされる人物、Chip Monckとは一体何者でしょう?彼は39年Maschusetts生まれのライトニング・エンジニア〜ステージの照明技師ですね、彼はVillage Gateで59年から働き始め、店の地下にあるアパートで生活し、照明の他に店で司会業もこなしていたようです。想像するに人懐っこい性格で出演ミュージシャンたちと親交が深く、信頼関係を築いていたのでしょう。Les McCannとは特に懇意にしていたに違いありません。彼はVillage Gateで働き続ける傍ら、Newport Folk FestivalとNewport Jazz Festivalにも関わり、同じくNYC HarlemのApollo Theaterでも照明技師を勤めていました。彼のように音楽好きで、裏方の仕事を積極的にこなしつつミュージシャンと好んで関わる人物が古今東西ジャズ界には欠かせません。

トラック2、MonckのMCに促されるように演奏の1曲目It’s Alright with Meが始まります。MCや拍手が遠くから聞こえて来るのでかなり奥行きのあるライブハウスのようです。

MCに被りながらGetzのカウントがスタート、リズムセクションによる8小節のイントロ後テーマ開始です。テナーの音像、音色、定位ともちょうど良い所に位置し、申し分ありません!これから始まるカルテットの演奏をリスナーにぐっと引きつけるためのアドバンテージです。2ビートフィール、サビはスイング、2ビートから2小節ピックアップを経てソロ開始です。早速Kuhnはバッキングを停止、これもColtraneとの共演から学んだ一つでしょう。2コーラス目からバッキング開始、その間もGetzは快調に飛ばしています。HaynesとNevesのコンビネーションも抜群、Garrisonとのコンビも良かったですがそれを上回るビートを感じます。ドラムの音像がテナーのタイム感と絶妙のコントラストを描き、リズムの洪水となり押し寄せて来ます。続くピアノのソロ、タッチの細部まで収録されフレージングのアイデアと相俟ってリリシズムを聴かせます。その後テナーとドラムのバース開始、いや〜素晴らしいトレードです!互いのフレーズに寄り添いつつもどっぷりとは嵌らず、付かず離れず、音楽を熟知したマエストロのみが成し得る次元のやり取りが聴かれます。その後ラストテーマは後半から演奏され、エンディングはその場のアイデアによるものでしょう、スリリングなキメが演奏されFineです。

3曲目もACで聴かれるHarold ArlenのバラードWhen the Sun Comes Out、低音域でのサブトーンとビブラート表現の多彩さ、ppからffまでの音量のダイナミクス、時に高音域でのシャウトを交え、非凡な唄心が聴き手を深遠な美の世界へと誘います。ピアノソロはなくテナーの独壇場で終始します。テナーフィーチャーの後はリズムセクションをフィーチャーしたナンバーに続きます。

4曲目はなんとJohn Coltrane作曲、しかもGetzは演奏せずにピアノトリオをフィーチャーしたImpressionsです!彼自身がこの曲での演奏をリタイアしたのか、お気に入りのピアニストKuhnをフィーチャーするためだったのか分かりませんが、GetzのMCで「リズム隊をフィーチャーしてMiles Davisの作品So Whatをお送りします」と紹介している点に興味が惹かれます。GetzともなればSo Whatという曲をまず知っているでしょう。考えられるのは①直前までリズムセクションはSo Whatを演奏する予定でその旨をバンマスであるGetzに伝えていたが、ベーシストがメロディ演奏に自信がなく直前になって弾けないと言い出したので、ピアノがメロディを演奏する同じコード進行のImpressionsに変えた。②GetzはImpressionsの原曲がSo Whatと知っており、Coltraneがそのコード進行を拝借して曲を書いた事をあまり良くは思わず、シニカルなGetzは敢えてMiles DavisのSo Whatと紹介した。③61年当時はSo WhatとImpressionsの区別は特に無く、ImpressionsもSo Whatと言った。

他にも単なるGetzの勘違いとも言えなくはありませんが、聡明な彼に限ってステージ上でそんなケアレスミスをするとは考えられません。So WhatやImpressionsを本当に知らなかったのか…真相に関して機会があればご存命の参加ミュージシャンにぜひ尋ねて見たいものですが、60年も昔の話ですから…

肝心の演奏ですがユニークなアプローチのImpressionsです。テーマ奏から斬新、Bill Evansを彷彿とさせる瞬間が多々ありますが、KuhnならではのMode解釈も光り、Ⅱm7-Ⅴ7のようにコーダルにも捉えつつ、Dorian ModeではなくMixo-Lydianを意識してもフレージングしています。I’m Old Fashonedのメロディを引用したりと12分近くの長さの演奏ですが、全く冗長さを感じさせません。ベースソロ後再びピアノソロ、ドラムと8バース、ラストテーマ、全編に渡ってHaynesのドラミングが素晴らしいサポートを聴かせています。

5曲目はACの冒頭を飾ったSonny Rollinsの名曲Airegin、アップテンポにも関わらず実にたっぷりとして安定したタイム感、しかも難しいコード進行をスキー競技のスラロームのように、いとも容易く潜り抜けて行きます!なんと密度の濃い、そして全てに余裕を感じさせるスインガー振りです!あまりの物凄さからでしょう、Getzのソロが終わった瞬間に客席から?笑い声すら聴こえてきます。続くピアノソロも大健闘、その後のドラムとのバース、こちらもネタ切れという言葉、そんな概念は微塵も存在しません!どんどん良くなる法華の太鼓(笑)、凄いバンドの物凄い瞬間を捉えた演奏です!

6曲目はスタンダードナンバーLike Someone in Love、この曲のキーはA♭、Cで演奏されますがここでは少数派?のE♭。幾分早めのテンポ設定でリズムセクションが熱演しますが、特にドラムのテナープレイへの寄り添い方が絶妙です!Kuhnの演奏もよりEvansのアプローチを感じます。ベースソロ後再びドラムと8バース、無尽蔵とも思えるHaynesのフレージング、アプローチに一層感心してしまいます!

7曲目もAC収録、この頃のGetzの十八番のナンバー、Dizzy GillespieのWoody’n You、Getzのいつものテンポ設定よりもかなり早い演奏、バンドの演奏はさらに白熱し、ありきたりな表現で恐縮ですが、留まるところを知りません!Getzにはとうとうスイングの神が降臨したようです!Kuhnも負けじとばかりにベースに煽られ?煽りながら?スイングしています。短いベースソロ(リズムの解釈が素晴らしい!)、ドラムの8バースを経てラストテーマへ、興味深いターンバックが付加されてFineです。

8曲目はBluesとタイトルされた即興のブルース・ナンバー、流石にリラックスしたテイスト・チューンが選曲されましたが、バンドのスイング道探求は一向に止むところを知りません!Getzはブルース進行とは名ばかりに(爆)好き勝手に唄い捲っています!Haynesのグルーヴが火のついたGetzに油を注いでいるのです!Kuhn、Nevesもブルースらしからぬソロを展開、ドラムとの4バースを経てテーマらしいテーマもなく終了、ここまでがDisc 1になります。

Disc 2の1曲目、ACにも収録のAlec Wilder作曲のバラードWhere Do You Go?、耽美的な様相を呈したストレートなメロディ奏、短いながらもとても印象的な演奏です。

2曲目Yesterday’s GardeniasもACで演奏されているミディアムテンポのナンバー、Getzは知られざる佳曲を発掘する名人でもあります。小粋に鼻歌感覚での演奏は他の演奏と一線を画す癒し系の印象です。続くピアノ、ベースソロもGetzのテイストを反映させているが如し、言ってみれば箸休め的な演奏です。

3曲目スタンダードナンバーStella by Starlight、普通はキーB♭メジャーで演奏されますがここではGメジャーです。52年録音Getzの代表作の1枚である「Stan Getz Plays」にも収録されています。テーマ奏でのGetzの「コーッ」という音色が堪りません!コンパクトな演奏の中にも大きな唄を感じさせるプレイです。

4曲目Jule Styneの名曲It’s You or No One、Getzが取り上げるのは珍しく、僕の知る限り初演と思われます。Dexter GordonやJackie McLeanの演奏で有名ですが、ここではキーがE♭メジャー、Haynesのドラミングが的確にサポートしつつ演奏が行われますが、珍しくGetzが曲に乗り切れていない印象を受けました。自分の好みのテイストでは無かったのか、恐らく以降演奏されなかったと思います。

5曲目美しいメロディのバラードSpring Can Really Hang You Up the Most、再びGetzの演奏だけで終始する演奏、何と気持ち良く耳に入り、心に響く唄い方でしょう!Haynesはバラードでも個性的なアプローチを展開しますが、ここでもブラシワークがトリッキーでいて決して演奏の邪魔をしない音楽的なプレイを聴かせています。ピアニストAlbert DaileyとGetzの83年録音Duo作品「Poetry」にも収録されていますが、こちらも大変美しい演奏です。

6曲目はThelonious Monk作曲の52nd Street Theme、49年8月録音「The Amazing Bud Powell Vol.1」に収録されていますが、こちらもドラマーがRoy Haynesです。Rhythm Change形式のコード進行、お得意のアップテンポで演奏されています。4度進行のフレージング、一つのフレーズの譜割りをずらしたりとアプローチが多彩です。何しろタイム感が素晴らしいので何をやってもカッコイイのですが。Kuhnも曲のテイストの中で、サウンドするようにと的確にアドリブをしています。そしてこの曲の目玉はHaynesのフリードラムソロです。この人の型にはまらない不定形なソロのアプローチは実に魅力的です!ここでも様々なモチーフを基に(Salt Peanutsのメロディさえ聴こえて来ます!)、ダイナミクスのショウケースとも言える自由奔放なロングソロを展開しています。後テーマのサビもドラムソロで締め括っており、エンディングでHaynes自身が「Thank You!」と挨拶しています。

7曲目最後を飾るのはACでもラストに演奏されていたLester YoungのJumpin’ With Symphony Sidですが、ルンバのリズムのドラム・イントロに続いてテナー1人でまずThe Breeze and Iを演奏します。ウケ狙いで?わざと?メロディを間違えて吹いていますが、その直後How High the Moonを吹きますが観客から?ブルースをリクエストされ、Symphony Sidを演奏し始めます。フリーキーな音を楽しげに吹いていたりと、いつになく上機嫌さを感じさせるGetz 、きっと当夜の演奏にかなり納得していたのでしょう、リラックスした雰囲気でロングソロを取っています。同様にピアノ、ベースもソロをたっぷりと演奏しますが、ベースソロが終わりそうでなかなか終わりません!というよりも後テーマ担当のリーダーが不在?Getzはどこかに出掛けてしまったのでしょうか?間を保たすべく?再びピアノソロが始まります(汗)。このソロも何やら長いですね、Kuhnオールド・スタイルでソロを続けますが、Getzはステージに戻って来なかったのでしょう、婦女子を伴って何処かに呑みに行ってしまったのかも知れません(苦笑)、Kuhnがエンディングを担当して強制終了です!

2019.06.21 Fri

Fuchsia Swing Song / Sam Rivers

今回はテナーサックス奏者Sam Riversの64年録音初リーダー作「Fuchsia Swing Song」を取り上げたいと思います。

1964年12月11日録音 @Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Blue Note Label / BST 84184

ts)Sam Rivers p)Jaki Byard b)Ron Carter ds)Tony Williams

1)Fuchsia Swing Song 2)Downstairs Blues Upstairs 3)Cyclic Episode 4)Luminous Monolith 5)Beatrice 6)Ellipsis

フリーフォームとインサイドの端境をここでは絶妙なバランス感で渡り歩き独自のアプローチと音色を誇るSam Rivers、13歳から地元BostonでRiversと共演しその音楽性を熟知、寄り添うように煽るように、時につかず離れずのスタンスを図りながら驚異的なレスポンス、タイム感、テクニック、音楽性を遺憾無く発揮する神童Tony Williams、Miles Davis QuintetでTonyと培ったコンビネーションをここでも縦横無尽に発揮しバンドを支えるRon Carter、新旧取り混ぜた幅広いスタイルを網羅、消化しつつも誰でもない確立した個性をバッキング、ソロに存分に聴かせるレジェンドJaki Byard、彼らのプレイによりジャズの伝統を踏まえつつも斬新なテイストが眩いばかりに光るRiversのオリジナル全6曲に、生命が吹き込まれました。60年代を代表するテナーサックス・ワンホーン・カルテットの1枚に挙げられるべき名作だと思います。

1923年生まれのRiversは本作録音時41歳、初リーダー作にしては遅咲きになりますが、その分成熟した演奏スタイルを聴くことが出来るとも言えます。Oklahomaで音楽一家に生まれ育ったRiversは47年にBostonに移住、Boston Conservatoryで音楽の専門教育を受けました。59年から同地在住のTony Williamsと共演を始め、彼の推薦もあって64年Miles Davis Quintetに短期間加入し、同年7月にライブ作「Miles in Tokyo」で演奏を残します。

アグレッシヴで素晴らしい演奏を繰り広げていますが、当時のMilesにRiversはフリー色が強すぎたのでしょう。日本のオーディエンスにも「謎のテナー怪人現る!」状態だったかも知れません(笑)。数年先の67~8年頃ならばMiles Quintetもフリー色が色濃くなっていたので、Riversの演奏はむしろバンドに歓迎されたかも知れません。有名な話ですが、TonyはRiversのような先鋭的なサックス奏者がフェイバリットであり、彼の前任者であったGeorge Colemanのオーソドックスな演奏があまり好みではなく、Coleman退団時MilesにRiversを紹介した形になります。Tonyの64年初リーダー作「Life Time」、65年「Spring」2作に尊敬するRiversを招いていて、特に「Spring」ではMiles Quintetの新旧テナー奏者顔合わせでWayne Shorterとの2テナーの演奏を聴く事が出来ます。

RiversはBlue Note Labelから本作を含め計4作をリリースしています。スタンダード集である1作以外は本作同様先鋭的なRiversのオリジナルを演奏しており、一貫したコンセプトを感じます。その1作66年録音の「A New Conception」は相当ユニークなテイストの作品です。When I Fall in Love, That’s All, What a Diff’rence a Day Made等の歌モノを取り上げていますが百歩譲って斬新、超個性的、新たな解釈とも取れなくはありませんが、どうでしょう、残念ながら僕にはスタンダード・ナンバーを素材に挙げる必然性を感じることが難しかったです。この人は自身のオリジナル曲を演奏することが似合うタイプのミュージシャンと再認識しました。

Blue Note Label以降RiversはImpulseからアルバムをリリース、その後も比較的コンスタントに作品を発表し続けました。70年代に入り、妻のBea(Beatriceの略称)と共にNew YorkのNoHoにジャズロフトであるStudio Rivbeaを運営開始、ジャズ批評家には “The most famous of the lofts”と評され、連日ジャズ演奏のほか多くのアーティスト達による様々なパフォーマンスが繰り広げられました。70年代におけるNYロフトのムーヴメントは、ジャズや芸術全般の発展に多くの貢献を果たしたようです。Rivers自身もここで精力的に音楽活動を展開したことと思います。

ジャズロフトではありませんが、少し遅れて82年にNY, ChelseaにBarry Harrisが設立したJazz Cultural Theatreも、連夜のジャムセッションや定期的にジャズ理論と実技の講座を開き(間も無く卒寿を迎えるHarrisは現在もこういった講座を米国に留まらず全世界で開いています)、ジャズを学ぼうとする者に門戸を開き、87年まで運営していました。伝説的なアルト奏者Clarence Sharpe(C. Sharpe)がホームレスであったためここに住み着き、毎夜ジャムセッションに参加していたのはいかにも当時のNYらしい話です。僕も86年に当所を訪れ、セッションに参加しSharpeと共演しましたが、彼の使用楽器Connから繰り出される素晴らしい音色に魅了され、まさしくCharlie Parker直系のスインギーなフレージングに触れる事ができました。共演後に「New style!, new style!!」と僕の演奏を評してくれたのが印象的、明るい屈託のない方でした(彼の演奏スタイルにしてみれば間違いなく僕の方が新しいですが)。現在のNYでこのような文化に触れることは大変困難になったように思います。

話がいささか外れてしまいました。演奏曲に触れていきましょう。1曲目は表題曲Fuchsia Swing Song、Tonyのトップシンバルがリズムの要になり、実に小気味好いグルーヴを聴かせます。スティック先端のチップがK Zildjianシンバル上で軽快に跳ね回っているのが見えて来そうな程です。シャープでいて柔らかさが半端なく、スピード感に満ちていてゆったりとしたバネの如きタイム感、そこでのRiversとTonyのカンバセーションが微に入り細に入り、スリリングにして絶妙、インタープレイとはこうあるべきだと周知させるべく声高に宣言しているかのようです。冒頭8小節間テナーとベースのDuo演奏、すぐさまドラムが参加しますがその時のTonyのシンバルの音色の使い分け、さすが見事です!Riversのフレージング、その滑舌の素晴らしさに由来する8分音符のスイング感とTonyのシンバル・レガートは全く完璧にリンクしています!あたかも長年生活を共にした親子のミュージシャンが成し得るレベルの合致度です!インサイドのフレージングとフリー系のアプローチが交錯する中での手に汗握る瞬間や、1’55″から2’00″のRiversのHigh Fキーでのトリッキーなオルタネート音とTonyのバスドラとのやり取り、2’07″辺りのテナーとピアノの絡み具合、直後のTonyのフィルインなど聴きどころ満載です!Carterのベースワークの巧みさがあってこそのTonyのドラミング、Byardの演奏は俯瞰しているが如き、ある種「狙っている」テイストを感じるバッキングです。テナーソロ後ヴァンプのような形でドラムの短いソロがあり、その後ベースが再びwalkingし始めますが珍しく一瞬「おっと!」とラインが重くなりますが、すかさず体制を取り直して演奏続行、スネークインしながらピアノソロが始まります。ラストテーマの前に短くテナーソロがありラストテーマへ。オープニングに相応しい素晴らしい内容の演奏です。

2曲目Downstairs Blues Upstairs、ユニークなテーマのブルースナンバー、キーはF。ウネウネとしたラインはRivers独自のものですが Lester Youngから少なからず影響を受けているように感じます。Byardのソロも独自のテイストを表現していますが、Duke Ellingtonからの影響を特にバッキング時に聴き取ることが出来ます。ここでのTonyは徹底してサポートに回っています。

3曲目はCyclic Episode、曲構成、テーマやコード進行も個性的な佳曲です。テナーソロ始まってすぐにドラムが消え、その後間も無く復帰しての仕切り直しに取り組んでいます。リズムセクションはRiversのソロをデコレーションしようと様々な手法を用いています。Carterの独創的なソロ後ピアノがソロを取りますがこちらも色々なスタイルを内包したものです。以上がレコードのSide Aになります。

4曲目Luminous Monolithは再びアップテンポのスイング・ナンバー、アドリブではストップタイムを多用しフリーフォームに足を踏み入れる直前のせめぎ合いを聴かせ、先発テナーソロは相当な段階にまで音楽を掘り下げています。ピアノソロも何でもアリの状態、ラグタイムやストライドピアノのスタイルまで披露しています。Byardはかなり器用なミュージシャンで、ピアノの他にテナーサックス、ヴィブラフォン、ドラム、ギターまで演奏します。色々な楽器を演奏出来るということで、自身のピアノ演奏にも多くのスタイルとカラーを盛り込むことが出来るのでしょう。彼のリーダー作として67年録音「Sunshine of My Soul」(Prestige)をプッシュしたいと思います。時代を反映したレコードジャケットがいかにもSoul Musicを演奏していそうですが(笑)、内容は紛れもないジャズ、ベーシストにOrnette Coleman TrioのDavid Izenzon、ドラムにはJohn Coltrane QuartetのElvin Jonesとくれば演奏が悪かろうはずがありません!収録曲はSt. Louis Blues以外全曲Byardのオリジナル、Elvinの叩くティンパニ、Byardの弾くギター(こちらはご愛嬌の域です)が異色です。

5曲目は妻の名前を冠したオリジナルBeatrice、Joe Hendersonが84年録音の自身作品「The State Of The Tenor • Live At The Village Vanguard • Volume 1」で取り上げた事によりジャズミュージシャンの間でヒットとなり、特に日本のジャズシーンで頻繁に取り上げられました。美しいメロディ、どこかメランコリックで穏やかな雰囲気の曲想、難しからず易し過ぎないトライのし甲斐があるコード進行が日本中のジャズミュージシャンを虜にしたのでしょう。Stan Getzも89年の作品「Bossa & Ballads – The Lost Sessions」で取り上げています。

リリカルなピアノのイントロからテーマ奏、Tonyはブラシで演奏、テナーソロに入ってからはスティックに持ち替えています。曲の持つイメージを踏まえ、最大限に自己表現をすべくイメージを膨らまそうとする創作行為を感じるソロです。続いてピアノソロになると再びTonyがブラシに持ち替えて伴奏し、ベースソロと続きラストテーマを迎えます。

6曲目ラストのEllipsisはRhythm Changeのコード進行に基づいたナンバー。リズムセクション初めは本来のコード進行をキープしつつも先発Riversの破壊工作的ソロにインスパイアされ、次第に変形の道を辿ります。ドラムとベースの交通法規順守の姿勢がフリーフォーム・レーンへの乗り入れを阻止していますが、ピアノソロでは意図的な崩壊か、なし崩し的な空中分解か、ソロ中にフェルマータし、そのままドラムソロになりました。ラストテーマには全員見事にTonyの難解な呼び込みフレーズを聴いて理解し、入ることが出来ました。

2019.06.12 Wed

Free for All / Art Blakey and The Jazz Messengers

今回はArt Blakey and The Jazz Messengersの64年録音「Free for All」を取り上げてみましょう。

1964年2月10日録音 @Van Gelder Studio, Englewood Cliffs Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Blue Note Label / BST 84170

ds)Art Blakey tp)Freddie Hubbard ts)Wayne Shorter tb)Curtis Fuller p)Cedar Walton b)Reggie Workman

1)Free for All 2)Hammer Head 3)The Core 4)Pensativa

Blakeyの圧倒的なドラミングがまとめ役となり、バンドメンバー一丸となってライブレコーディングの如き、いやそれを上回るほどのテンションで演奏が盛り上がっています。Art Blakey and The Jazz Messengers(JM)のひとつの頂点と言って過言ではありません。オールスターズのメンバーですが、音楽監督も務め、メンバー異動があっても不動であったWayne Shorterの参加が注目されます。Benny Golsonの後釜でShorterが加入したのがスタジオ録音では60年3月録音の「The Big Beat」から(59年末には既に在団していました)、前任者Golsonの音楽監督も的確でしたが、Shorterが引き継いだ事によりJMのサウンドがぐっと引き締まり、以降の音楽的方向性も定まりました。

Lee Morgan, Shorterのフロントラインでライブ盤も含め、7作が彼らを擁したクインテットでのJMです。61年6月録音の「!!!!!Impulse!!!!!Art Blakey!!!!! Jazz Messengers!!!!!!」(何というタイトルでしょう!)からトロンボーンにCurtis Fullerが加わり、黄金のラインナップ、3管編成のJMが形作られました。

61年10月録音「Mosaic」では3年余り在団したMorganが離れ、新しいトランペット奏者にFreddie Hubbardが加入します。

ピアニストCedar Waltonが加わったのが62年3月録音のライブ盤「Three Blind Mice」、62年10月録音のやはりライブ盤「Caravan」からベーシストにReggie Workmanが参加し、このメンバーでのJMが稼働し始め、合計6作をリリースしました。個人的にこの頃の作品のクオリティが特に高いと感じています。

ですが蜜月状態も長きに渡り続くことはありませんでした。ShorterはJMに足掛け4年在団しましたが、「Miles in Berlin」64年9月Miles Davisクインテットに引き抜かれたため、バンドは時計の大切な歯車が欠けた状態に陥りました。同時に個性の強いミュージシャンの集合体であったJM(このバンドに限ったことではありませんが…)は、Shorterが音楽監督である以前にバンドのムードメーカーであり、リーダー、メンバーの仲介役として欠かせない存在であった事でしょう。その彼の不在は極論バンドの衰退〜崩壊を意味します。同時期にWaltonとWorkmanの退団もありました。多くのテナー(アルト)奏者がその後JMに去来しましたがShorterの代役は誰にも務まりませんし、務まりようがありません。One and Onlyな個性を強力に放ちつつも常に自然体、その存在自体が特異なものでありながらもサイドマンとしてリーダーの音楽性を確実に踏まえつつ、自己の音楽性も反映させるバランス感。これらは彼の音楽面、人間関係全てに当てはまる事なのでしょう。このようなテナー奏者、ミュージシャンは他にその存在を知りません。JMはShorterロス後、作品毎にメンバーチェンジを繰り返しながら音楽シーンが混沌とした60年代、70年代をバンド自体メンバーが定まらず、ずっと混沌としていた事に乗じて(笑)乗り切り、80年代以降Wynton Marsalis, Branford Marsalis, Terence Blanchard, Donald Harrison, Bobby Watsonたちサックス奏者の参加で再生したのです。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目はShorterのオリジナルにしてタイトル曲Free for All、Randy Breckerがこの曲のタイトルをもじってFree Fallという曲を書いています。曲想は全く異なりますがストレートアヘッドなアップテンポの佳曲、Randy, MichaelのBrecker兄弟実は大のJMファン、父親の影響で聴いていたジャズのレコードの1枚が本作なのでしょう。かつてMichaelと話をしていて話題がジャズレコードになりました。「タツヤがモダンジャズ史上最も重要と思うアルバムは何だろう?」僕には予てからの想いがあったので、すかさず「MilesのKind of Blueだね」と答えると、「Don Grolnickが同じ意見だったよ。それは興味深いね、確かにKind of Blueも重要な作品だと思うよ」Michaelらしい人の話を尊重しつつ、控え目に自分の意見をさらっと述べる物言いです。そして僕も「Michaelにとっての最重要アルバムは何?」と尋ねると、彼もすかさず「Art BlakeyのFree for Allだね」との返答がありました。その時にはあまりピンと来なかったので理由を特に尋ねることはしませんでした。アルバムの存在を知っており聴いた事はありましたが、Michaelが最重要と挙げるほどの意義を正直感じなかったのです。しかし今回Michaelのプレイや彼のテイストに想いを馳せながら繰り返し聴き直し、本作の有り得ないエネルギー、テンションの高さ、他のジャズアルバムにはない独特のパッションを感じ取る事が出来ました。僕が未聴だけなのかも知れませんが、スタジオ録音でこれだけの盛り上がりを聴かせ、かつ繊細さと緻密さを併せ持つ作品は他にないでしょう。ミュージシャンの結束の強さに加え、各々が個性を100%発揮しつつもあくまでリーダーの掌の中で、主役Blakeyの表現願望を実現するための名脇役が勢揃いです!この辺りをMichaelがプッシュする理由のひとつと推測しました。

Free for All、テーマメロディに十分休符、スペースがあり、Blakeyがフィルインを自在に入れられるようにとの、作曲の時点でShorterの音楽的配慮を感じます。それにしても凄まじいまでのBlakeyのナイアガラロール!明らかに50年代よりもヴァージョンアップしたドラミングです!ドラマーが曲のテーマを演奏する場合、まずリズムキープ、そしてより大切なのが曲に対するカラーリング〜色付けです。メロディやキメをしっかりと映えさせるための、ドラミングによるオブリガート、この作品でのBlakeyの色付けはテクニカル的にも音楽的にも彼にしか成し得ないアートの表出です。ソロの先発は作曲者自身、彼でしか響かす事のできない独特のテナーサウンド、フレージング、良きところでバックリフが入りますが、ソロはまだまだ続きます!もっと後にバックリフが挿入されても良かったかも知れません。感極まったメンバーの掛け声も何度か聴かれますが、これも演奏の一部と解釈できます。続いてのトロンボーン・ソロ、Blakeyを始めとするバックのピアノトリオのテンションはキープされそのままトランペット・ソロに入ります。それにしてもHubbardの吹く8部音符の端正さ、リズムのスイートスポットをドンピシャに押さえたタイム感、スインガー振りにはいつもながら敬服してしまいます!トロンボーンの時には演奏されなかったバックリフがちょうど良いところで入ります。Hubbardのソロにはリズム隊を刺激する要素があるのでしょう、Blakey大暴れの巻です!その後ピアノのソロになると思いきや、ごく自然にドラム・ソロになります。Blakeyが一瞬「あれっ?オレのソロ?」と言った風情でソロを叩き始めるのに何だか可愛らしさを感じます。もしくはテープ編集がなされてピアノソロをカットしている節が伺えなくもありません。14年日本発売のSHM-CDにはこの曲の2ndテイクが収録されていますが、演奏の途中でBlakeyのドラムセットが壊れてしまい、プロデューサーのLionが途中で演奏を止めさせたそうです。そりゃあこんなに激しく叩きまくっていれば楽器も悲鳴をあげて壊れもしますぜ(爆)

2曲目もShorterのオリジナルHammer Head、トンカチのような頭の形をしたシュモクザメの事ですが、デクノボウ、のろまの意味もあるそうです。こちらもバンマスに心ゆくまでカラーリングを施して貰うべく、メロディにリズミックな部分と対比的に休符を配した曲想に仕上がっており、シャッフルのリズムが更にBlakeyのドラマー魂を刺激して素晴らしいビートを繰り出しています。この曲もShorterがソロの切り込み隊長を努めます。Waltonのバッキングも的確でいて刺激的、バンド全体もMoanin’を彷彿とさせる伝統的JMスタイルの演奏です。続くHubbard実に良く楽器が鳴っています!Fullerも曲想に沿うべく健闘しています。1曲目でソロが無かった分、Waltonの左手のコードワークを含めてプレイがフレッシュです。以上がレコードのSide A、Shorter色で占められていました。

3曲目からのSide BはHubbardコーナーになります。彼のオリジナルThe CoreはCongress of Racial Equality=民族平等会議、公共施設における人種差物の廃止を主な活動目的にしている団体、こちらに捧げられたナンバーです。Workmanの短いベースのイントロはかつて在籍していたJohn Coltrane Quartetの演奏を彷彿とさせるもの、リズムセクションのみ〜ホーンを伴ったその後のイントロ〜テーマ奏、4度のインターバルのメロディもさりげに挿入され、実にカッコ良いです!こちらもShorterが再びソロの先発、イヤ〜ここでのソロもイってます!フリーキーな領域まで達し、シングルタンギングを生かしたバックリフとの絡み具合もGoodです!続くHubbardのソロから急に曲目がLove for Saleに変わってしまいました(爆)!この引用フレーズ後のソロの展開も実に熱く、ジャズスピリット満載のフレージングです!リズムセクションも大変な盛り上がりをキープしています。トロンボーンソロではまた違ったバックリフが聴かれ、細やかな対応を示しています。ラストテーマを迎え、エンディングにはヒューマン・フェイドアウトが施されています。

4曲目はピアニスト、コンポーザーClare FischerのオリジナルPensativa、こちらをHubbardがアレンジしました。Fischerオリジナルの演奏はBud Shankがメロディをクールに演奏しているブラジリアンなボサノバ・ナンバー(Fischer自身は米国人ですが)、こちらはホットなジャズ・テイスト満載のヴァージョンに仕上がっています。Hubbard本人特に気に入っていたようで自己のアルバム65年録音「The Night of the Cookers」でLee Morganを迎え、2トランペットで再演しています。

Hubbardのブリリアントから燻んだ音色、音量の強弱ppからffまでを使い分けての多彩なメロディ奏、男の色気を十二分に感じてしまいます。実は曲の構成、キー、コード進行いずれも難易度が超高いのですが、豊かなイメージを伴って、いとも容易くソロを取っており、スペースの取り方も素晴らしいですね!間(ま)を歌っているが如きです。このソロを受け継ぐShorterもいつになくメロウに、彼なりの独特な美学に基づいたメロディアスなアドリブを聴かせています。HubbardのセンスをしてShorterに別な語り口をさせたのでしょう、きっと。後ろで感極まり騒いでいるのはBlakeyですね、多分。彼はShorterの演奏、人柄が大好きですから!続くWaltonの端正なソロも素晴らしいのですが、Hubbard, Shorterふたりの真のジャズジニアスに比較すると些か物足りなさを感じます。その後ラストテーマへ、コーダではホーンセクションによるアンサンブルにピアノのオブリガートが絡みます。

2019.06.02 Sun

Sonny’s Crib / Sonny Clark

今回はピアニストSonny Clarkの57年リーダー作「Sonny’s Crib」を取り上げてみたいと思います。

録音1957年9月1日 Van Gelder Studio, Hackensack Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Blue Note Label / BLP 1576

p)Sonny Clark tp)Donald Byrd ts)John Coltrane tb)Curtis Fuller b)Paul Chambers ds)Art Taylor

1)With a Song in My Heart 2)Speak Low 3)Come Rain or Come Shine 4)Sonny’s Crib 5)News for Lulu

John Coltraneを迎えた3管編成によるアンサンブル、ClarkはBlue Note Labelから9枚のリーダー作をリリースしていますが本作は第2作目に当たり、ピアノトリオやクインテット編成での作品が多い中、全編セクステットは本作のみになります。このレコーディングのちょうど2週間後9月15日に録音され、同じくBlue NoteからリリースされたColtraneの初期傑作「Blue Train」(レコード番号もBLP1576, 1577と連番です!)と編成が全く同じ、参加メンバーもCurtis FullerとPaul Chambersが重複しており、他のDonald Byrd, Art Taylorたちこの頃売り出し中の若手を迎えてのレコーディングです。当時tp, ts, tbの3管はあまり例がなく、3管編成のご本家Art Blakey and The Jazz Messengersでさえも57年当時はtpとasないしはtsのクインテットで、3管編成にヴァージョン・アップするのは61年からになります。tpとtsのアンサンブルだけでもジャズ・サウンドの醍醐味を聴かせられるのに、更にtsとほぼ同じか低い音域であるtbのふくよかさがブレンドする事により、よりジャジーでタフなアンサンブルに変化するのです。

僕は学生時代に鑑賞の順番としてまず「Blue Train」(BT)、その後暫くしてから「Sonny’s Crib」(SC)を聴きました。編成が同じでメンバーが重複しているのでいずれかが礎となり、もう1作が続編のように漠然と感じていたのですが、今回当Blogを書くにあたり録音年月日を確認し、なるほどSCの方が先に録音されており、ColtraneはSCでの経験を生かして2週間の間に作品の構想を練り(直し)、自己のリーダー作BTに臨んだのではないのかと確信しました。それこそ楽器編成、人選自体もSC録音前は違うものだったのかも知れません。当初はワンホーン・カルテット?もう1人管楽器を加えたクインテット?tp, ts, tbの3管サウンドの素晴らしさをぜひ自分のアルバムでも表現したいと考えて実現させたのでしょう。

いくら現代ほどミュージシャンのスケジュールがタイトではないと言っても、急に当時の売れっ子たちを集めるのは至難の業です。絶対の信頼を置いているベーシストMr. PC(Paul Chambers)のスケジュールは最優先に、次にドラマーに対しての要望の多いColtaraneとしてはタイトで堅実、スインギーなPhilly Joe Jonesを押さえ、Lee Morganもぜひ共演してみたい若手筆頭、Fullerもスケジュール大丈夫でした。ピアニストがなかなか決まらず、所縁のRed Garland, Wynton KellyがNG、Mal WaldronやElmo Hope, Tadd Dameronではサウンドが違う、ましてやThelonious MonkではMonk自身のリーダー作に乗っ取られてしまう可能性大(笑)、加えてPrestige諸作とは違うプレイヤーを手配したいと考え、リーダー作では初共演のKenny Drewに打診しめでたくスケジュールOK、こんな感じでBTのメンバーが決定したと勝手に想像するのも楽しいものです(あながち外れてはいないかも知れません〜笑)。

Clarkは本作や代表作「Cool Struttin’」のように管楽器を擁した作品、ピアノトリオで自身がメロディを奏でるフォーマット、いずれでもその真価を発揮できるミュージシャンです。サイドマンとしても多くの作品で的確なサポーターぶりを聴かせていてLee Morgan / Candy, Dexter Gordon / Go, Jackie McLean / Jackie’s Bag, Sonny Rollins / The Sound of Sonny….いずれも50年代ハードバップのエバーグリーンです。個人的にはリーダー・ピアノトリオ作で60年作品George Duvivier(b), Max Roach(ds)による「Sonny Clark Trio」Time Labelがお気に入りです。

それでは演奏曲について触れて行きましょう。1曲目はRichard Rodgersの名曲With a Song in My Heart、急速調での演奏でメロディを演奏するのはByrdのトランペット、ColtraneとFullerは交代でオブリガードを入れています。録音当日Clarkは自身のオリジナルSonny’s CribとNews for Luluの2曲を用意しました。アルバムの収録曲数としてはあと少なくとも3曲は必要なので、フロント奏者を1曲づつフィーチャーして何か演奏しよう、そうすれば3曲揃うじゃないか、のような類いのラフな打ち合わせでセッションが始まったように感じます。「でも作品として残るからさ、曲のエンディングだけはしっかり決めておこうか」ともClark提案したので、収録したスタンダード・ナンバー3曲全て決め事としてのエンディングが、セッション風なソロ回しが続く演奏の割りにはちゃんと施されています。これは大事なことですね。「じゃあDonaldをフィーチャーしてぶっ速い曲を演奏しようか。With a Song in My Heart、テンポが速いからバックリフは演奏しない方がむしろ良いかな。だからJohnとCurtisは2人分担してオブリを吹いてもらえる?ソロの順番も決めておこうか、エンディングのキメはさっき練習したし大丈夫だね。Hey, Donald, イントロ無しでいきなり頭からテーマ行こうか、じゃあ始めるよ、Rudyテープ回った?」きっとこんなやり取りがVan Gelder Studio内で行われた事でしょう(笑)。先発Byrdの演奏をBTのLee Morganの演奏と比較するべきではないかも知れませんが、ふたりの個性以上に楽器の音色、操作性、フレージングのアイデア、唄心、タイム感に違いを感じてしまいます。続くColtraneの堂々たる貫禄の演奏、急成長を遂げつつあるプレーヤーの情熱の発露を感じさせます。その後のFullerの安定した演奏は既にBTでのクオリティを発揮しています。Clarkのソロの後ラストテーマになりますが、実はこの演奏の要はChambersのベースプレイでしょう。On top感、グルーヴ感、タイトネス、音の選び方、スインギーで様々な出来事を的確に包容するベースライン、思わず聴き惚れてしまいます!TaylorのドラミングにはColtraneの「Giant Steps」で採用される条件である正確無比さを、ここでも存分に表現しています。エンディングはフロントとピアノの2小節づつのトレードが行われ、最後にピアノがグリッサンドで上昇しラストのコードを弾き、間髪を入れずテナーがメジャー7thのD音を吹き、少ししてからトロンボーンが9thのF音を吹いていますが、ここはピアノ〜テナー〜トロンボーンでベルトーンを演りたかったようにも聴こえなくはないですが、となるとトロンボーンが出遅れた事になります。ベルトーンでラストの和音を演奏する事で、がっちりした終始感を得ようとした目論見があったかも知れません。

2曲目今度はColtraneのテナーをフィーチャーしたSpeak Low、素晴らしい音色と歌いっぷり、本来のSpeak Lowであるべきゆっくりとしたテンポ設定、ラテンとスイングのリズムが交錯しトランペットとトロンボーンのバックリフ、アンサンブルが実に心地よい名演奏です!ここでちょっと気になるのがテナーのチューニングです。もともと高めに音程を取る事の多いColtraneですが、ここでは尋常ではなく高くチューニングをしていてバックリフとも音程感が離れているように感じます。色々と試行錯誤を繰り返していたColtraneなので、高いチューニングも何か思うところがあってのチャレンジかも知れません。テーマ後巧みなピックアップ・フレーズに導かれてソロが始まります。1957年度Coltraneフレーズのオンパレードですね(笑)!実はここでハプニングが起こりました。A-A-B-A構成のSpeak Low、1’45″でColtraneはAをリピートせず勘違いしてストレートでB(サビ)の冒頭コードでのフレーズを吹いたのです!1’47″あたりでClarkも「What happened?」とばかりにバッキングの手をすぐさま止め、一瞬シラっとした空気が流れますが、何事もなかったかのようにColtraneソロを続け1コーラスまさに”歌い切って”います。 ちなみに前回のBlog、Les McCann Ltd. in New Yorkで取り上げたStanley Turrentineのミステイク時のように、リピート時同じフレーズをColtraneは使い回してはいません。またCD化に際してこのSpeak Lowの別テイクが付加されていますが、本作収録がテイク1でしょう、もう1テイク録っておこうか的に別テイクを演奏しましたが小さなミスより大きなノリ、別テイクも素晴らしいですが1テイク目の方が音楽的でした。続いてFullerがコーラス前半A-A、Byrdが後半B-A、ソロを取りますが2人とも快調に飛ばしています。Clarkが1コーラス丸々ソロを取り、再びラテンとスイングのリズムでラストテーマになだれ込みます。最後になりますがChambersのラテン時のベースライン、裏メロディー奏的なセンスの良いアプローチを全編に聴かせており、さすが縁の下の力持ち、50年代最も多忙なベーシストの所以を感じます。それにしても一曲丸ごとColtraneフィーチャーリングのスタンダード演奏、よくぞClark残してくれました!

3曲目はCome Rain or Come Shine、始めのテーマはFullerのトロンボーンをフィーチャーしています。ミディアムスイングでも演奏されますがここではしっとりとしたバラード奏、トロンボーンの音色と曲想が良く合致しています。ソロはClarkのピアノのみ、転調の多いコード進行を流麗にフレージングしています。Coltraneがメロディ・フェイクとアドリブの中間的?テイストで半コーラスを演奏、後半をByrdがしっかりメロディを演奏し、レコーディングのために付加されたエンディング4度進行を経て、Fineです。以上がレコードのA面になります。

4曲目はClarkのオリジナルで表題曲Sonny’s Crib。しかしこれは… 今まで全く意識していなかったのですが… こうやってしっかり聴いてみると… 今さらながら… 何でしょうね?… Blue Trainそのまんまじゃあないですか!!!メロディとリズムセクションとのコール・アンド・レスポンス、そのリズムの3, 4拍目のフィギュア、メロディは違えどコンセプトは全くBlue Trainです。キーがこちらがB♭、BTがE♭の違いはありますがフォームのブルースも同じ、ただこちらにはサビ(ブリッジ)が付加されています。このブルースにサビを設けるという点についても「Blue Train」収録Locomotion、こちらもB♭のブルースですがサビがあり同じです!Sonny’s Cribを演奏したColtrane、ふたつのアイデアを2週間後の自己のレコーディングに流用しました!

例えばSonny’s CribがレコードのA面1曲目という目玉商品の位置に配されていたとしたら、間違いなくBlue Train流用と即断したでしょうが、レコードのB面1曲目に位置し、A面でフロント陣フィーチャーのスタンダード・ナンバー3曲の演奏に耳が慣らされた状態では意識が遠のいていてSC, BT2曲の類似性を判断できません。

とりあえず演奏に触れましょう。先発はColtrane、ソロの絶好調ぶりはBTに匹敵するものを感じます。BTでのソロが佳境に入った時に挿入されるバックリフが、ここではないのが少し寂しいですが。トロンボーン、トランペットとソロが続き、ドラムが倍テンポを演奏するところもBTソックリです。その後ピアノソロを経てベースソロ、Chambersが殆ど倍テンポでソロを取るのは珍しいですね、セッションがさぞかし楽しかったのでしょう、しかしラストテーマを聴いてもつくづくこの曲はBlue Trainです。Coltraneは一体どんな考えでSonny’s Cribを基にBTを作曲、演奏したのでしょう?

5曲目もClarkのオリジナルNews for Lulu、こちらもラテンとスイングが交錯するマイナー調の佳曲、「Cool Struttin’」収録のBlue Minorに通ずるテイストです。ピアノの左手とユニゾンのベースライン、0’35″辺りの3管のジャジーで豊かなハーモニーが印象的です。テーマの後のピアノソロに続きトランペットソロ、どこを切っても金太郎飴のようにハードバップ華やかし頃のサウンドが聴かれます。続くColtraneのソロはひとり異彩を放ち圧倒的な個性を聴かせます。トロンボーンは相変わらずの堅実ぶりで安定した演奏、Fullerの実直な人柄がうかがえます。その後のベースソロは管楽器のようなフレージング満載のスインギーなもの、3管編成との共演でホーンライクなテイストが染み込んでしまったのかも知れませんね。その後ラストテーマを迎えエンディングはジャンルとしてのハードバップに不可欠な、儀式的、様式美的なクリシェを通過してFineです。

2019.05.24 Fri

Les McCann Ltd. in New York

今回はピアニストLes McCannの61年ライブ盤「Les McCann Ltd. in New York」を取り上げてみましょう。Recorded at the Village Gate in NYC on December 28, 1961 Label: Pacific Jazz / PJ45 Producer: Richard Bock

p)Les McCann ts)Stanley Turrentine tp)Blue Mitchell ts)Frank Haynes b)Herbie Lewis ds)Ron Jefferson

1)Chip Monck 2)Fayth, You’re… 3)Cha-Cha Twist 4)A Little 3/4 for God & Co. 5)Maxie’s Change 6)Someone Stole My Chitlins

CDにはボーナストラックとして3曲が追加されており1曲は収録当夜の未発表テイク、2曲は別日別メンバーによる演奏です。コンサートの全貌という意味合いから別演奏は割愛し、当夜の演奏全6曲を紹介したいと思います。

現在83歳のLes McCann、若い頃に海軍タレント・コンテストの歌唱部門で優勝し、その所以で米国を代表するバラエティ番組であったThe Ed Sullivan Showにボーカリストとして出演したという異色の経歴の持ち主です。本作と同年に(前作に位置します)「Les McCann Sings」という、ビッグバンドを従え自身の渋いボーカルとピアノ〜弾き語りですね〜をフィーチャーした作品を録音しています。

世に名を残す男性ボーカリストたちに比べれば、多少ご愛嬌的な要素も感じる歌唱力ですが、持ち味の方はかなり良いところを行っていると思います。McCannのユニークなピアノスタイル、オリジナル曲の作風はこのボーカルに裏付けされているのでは、とも感じました。

McCannは59年録音初リーダー作「It’s About Time」(World Pacific)以降ピアノトリオやフロント楽器を交えた作品、ビッグバンド、Joe Passとのコラボレーション、The Jazz Crusadersとの共演作、Leader, Co-leader含めて現在までに55枚もの作品をリリースしています。その多くにリラックスしたエンターテインメント性を感じさせ、ビバップやハードバップを基本としていますが、とりわけゴスペルやR&Bのテイストを交えた音楽性が米国で絶大な人気を誇る所以でしょう。「 The in Crowd」が代表作のピアニストRamsey Lewisや以前Blogで取り上げた事のあるGene Harrisにも通じる音楽性です。Richard Teeを含めても良いかもしれません。60年代は自分のトリオを核として全米に限らず世界を股にかけた活動を展開し、69年にはMontreux Jazz Festivalでのテナー奏者Eddie Harris、トランペット奏者Benny Bailey2人のフロントをフィーチャーしたライブ録音「Swiss Movement」が大ヒット、収録曲Compared to Whatはシングルカットされミリオンセラーを記録し、その名声を不動のものにしました。Roberta Flack、Eugene McDaniel(Compared to WhatやFeel Like Makin’ Loveの作曲者)らを発掘した功績も大きく、ジャズのフィールドだけでは収まりきれない活動を展開し続けています。

本作は61年NYC Village Gateでのライブ演奏を収録した作品で、自身のピアノトリオ〜Les McCann Ltd.〜にフロント3人を迎えた編成です。それもテナーサックス奏者2人、トランペット奏者1人というユニークなもので、テナー奏者の1人がStanley Turrentineというのが最大の魅力です。McCannのリーダー作でTurrentineとの共演は本作のみ、多分に漏れずここでもOne & Onlyの素晴らしい音色、プレイを存分に聴かせています。McCannの演奏、音楽にはテナー奏者のフロントが合致するようです。Eddie Harris, Turrentineの他Teddy Edwards, Ben Webster, Harold Land, Wilton Felder, Yusef Lateef, Plas Johnson, Jerome Richardson… 参加したテナーマンを見渡すと、ホンカーテナー系統のスタイルが人選の際には必須条件のようです(笑)。

ちなみにTurrentineは本作参加の返礼としてか、本作ライブ5日後の62年1月2日に自身のリーダー作「That’s Where It’s at」(Blue Note)にMcCannを招いてレコーディングしています。McCannのオリジナルを4曲演奏していますが、こちらも素晴らしい作品です。

それでは収録曲に触れて行く事にしましょう。1曲目はChip Monck、本作収録曲は全てMcCannのペンによるものです。アップテンポのスイングナンバー、曲自体を構成する各パートいずれもが大変凝っておりさらにその組み合わせ、独自の曲想です。音量の極大から極小、ダイナミクスを存分に生かしつつ淀みなくアンサンブルする演奏から、ミュージカルのハイライト・シーン、ないしはアニメのテーマ曲、挿入歌をイメージさせます。ストップタイム、バックビート、ジャンプナンバーのようなグルーヴ、3管編成のジャジーな響き、総じてハッピーな雰囲気が前面に出ていつつもどこか哀愁を感じさせるバランス感は見事です。先発は一聴Turrentineと分かるコクのある豊かな響きを湛えたテナーソロです。構成の煩雑さに起因したのか単なるケアレスミスなのか、1’55″の辺りでTurrentineがリピートせず一瞬次(サビ)のパートのコード進行でフレージングし、「Ouch!」となりますが気を取り直して元の進行に戻ります。その後本来のサビに入る際、先程と全く同じフレージングで対処しているのでフレーズを用意していたのでしょう、きっと。Horace SilverのSister Sadieのような管楽器のバックリフが入り、2小節間のブレークになりますがカッコいい構成ですね!淀みなくソロが続き再びソロ中に管楽器のバックリフが挿入され計2コーラスのテナーソロ終了(1コーラスが92小節!とても長いのです!)、ピアノソロに続きます。ここでもソロ中の同じホーンアンサンブルでソロに景気付けがなされますが、こちらは1コーラスでラストテーマになだれ込みます。エンディングにもMcCannの美学が込められたアンサンブルパートが付加されてFineです。演奏内容も良いのですが、曲の構成がオーディエンスにアピールする要素てんこ盛り、曲だけでもワクワク状態、ゴージャスな装丁のお弁当ですが華美になり過ぎずとも人目を引き、思わず手に取り盛り付けカラフルで小鉢満載、味付けも大満足のご馳走、楽曲自体が聴かせてしまうタイプです。でもやはり曲の構成と難易度、シンコペーションを多用したシカケ、ダイナミクス、テンポ設定、ライブレコーディング、諸条件を乗り越えてギリギリの状態での完奏でした!

2曲目はバラードFayth, You’re… 実に美しいナンバーです。イントロでMcCannがピアノの弦を弾いて効果音を奏でていますが、61年のジャズシーンではかなり異色のプレイです。曲のメロディを吹くのは一聴Turrentine… ではなくもう一人のテナー奏者Frank Haynesです。こちらも素晴らしいトーンの持ち主、前曲同様ダイナミクスが施され、バラードの美学が冴え渡ります。Haynes音の太さ、艶、色気はTurrentineに負けずとも劣らないのですが、深みや雑味、付帯音、音像の奥行き、サブトーンの巧みさが異なり、個人的にはTurrentineの方に軍配を挙げてしまいます。HaynesはMcCannが何度か共演したGerald Wilson Big Bandに所属していたテナーマン、本作ジャケットには名前がHainesと誤記されてのクレジットでちょっと残念です。1’43″からTurrentineに交代し彼のソロが始まります。ステージ後方に位置していたのか、ややスネークインしての登場、濃密な音色とサブトーンで伸ばす音が消え入る時にかかる細かいビブラートがたまりません!その後ピアノのソロを経てHaynesの奏でるラストテーマ、ここでのメロディ奏も堂々たるものでHaynesソロはなくとも存在感を十分アピールしました。

3曲目はジャズロック仕立てのブルースナンバーCha-Cha Twist、ピアノのイントロから始まり、Blue Mitchellのトランペット・ソロが先発、リズムの雰囲気と曲のサウンドがいかにも60年代初頭を感じさせます。ドラムと一緒に1拍目頭、2拍目裏、4拍目表裏でずっと鳴っているカウベル、誰か手の空いているフロント奏者が叩いているのかと思いきや、続くTurrentineのソロの後ろで2管でのバックリフが演奏されるので、手が空いているフロント奏者がいないにもかかわらずカウベルが鳴っています。これはドラマーが叩いていましたね。田舎たいルーズな感じが本職の仕事のようには聴こえませんでしたので(汗)

4曲目は軽快なワルツナンバーA Little 3/4 for God & Co.こちらもなかなかの佳曲です。ソロの先発はHaynes、どうしてもTurrentineと比較してしまいますが、残念な事にここでは物足りなさを否めません。ゆっくりした演奏時には隠れていたものがテンポが早くなった事により、馬脚を現してしまったかのようです。その後Mitchellのソロに続きTurrentineのソロはイケイケです!Turrentineに関しても音色、ニュアンス、ビブラートは天下一品、申し分ないのですが、タイムがもう少しだけタイトでレイドバック感が出ていれば僕には100%完璧です!ピアノソロを経てラストテーマへ。エンディングはTurrentineがフィルインを入れつつ、後の二人がハーモニーを奏でます。

5曲目Maxie’s Change、ちょっとシャッフルがかったミディアムテンポのナンバー、どことなくArt Blakey and the Jazz MessengersでのBenny Golsonのナンバーをイメージしてしまいます。Turrentineここでも素晴らしい音色でホンカー的流麗なソロを聴かせ、Mitchell, Haynesとソロが続きます。ここでの音色を聴くとHaynesの使用マウスピースはTurrentineのOtto Link Metalとは異なり、ハードラバーではないかと想像しています。

6曲目Someone Stole My Chitlins、イントロはOn Green Dolphin Streetを彷彿とさせますが、本作中最もMcCannの左手がフィーチャーされたナンバーに仕上がっています。Richard Teeの左手も特徴的でしたね。トランペットのテーマ奏の後ろでテナー2管がトリルやハーモニーを演奏するのがカッコイイです。演奏中TurrentineがMcCann?に何かを促されて?ソロを途中で止めています。Mitchellのソロは相変わらずの堅実さを聴かせ、続くMcCannの左手は本領発揮!Haynesのソロ後にも左手旋風は止みません!ラストテーマは特に演奏されずピアノが強制終了させているかのようです。

2019.05.13 Mon

Sonny Rollins Vol. 2

今回はSonny Rollinsの57年録音の代表作にしてモダンジャズのエバーグリーン、「Sonny Rollins Vol. 2」を取り上げてみましょう。

1957年4月14日録音@Van Gelder Studio, Hackensack Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Label: Blue Note / BLP1558

ts)Sonny Rollins tb)J. J. Johnson p)Horace Silver p)Thelonious Monk b)Paul Chambers ds)Art Blakey

1)Why Don’t I 2)Wail March 3)Misterioso 4)Reflections 5)You Stepped Out of a Dream 6)Poor Butterfly

Francis Wolf撮影の写真、そしてHarold Feinsteinによる素晴らしいデザインのジャケットが、既に作品の素晴らしさを物語っています。ロック・ミュージシャンのJoe Jacksonがまんまジャケットを模倣して作品をリリースしています。84年「Body and Soul」

文字や被写体の色が青から赤に、タバコを持つ手の形以外は全くと言って良いほどの「パクリ」ですが、確信犯による見事なまでのRollinsへの表敬振りです(ちなみに内容は本作とは全く異なるロック・ミュージックです…)。写真のテナーサックスもRollinsと同じAmerican Selmer MarkⅥの初期モデル、同じような風合いの楽器を用いており、微細にこだわっています。唯一残念なのはこの頃のRollinsが使っていたMarkⅥはごく初期のモデル、55~56年製造の楽器でおそらくシリアルナンバー56,000~67,000番台、フロントFキーが他のキーよりもひと回り小さいのが特徴です。録音時期から推測して当時新品で購入した楽器ではないでしょうか。「Body and Soul」ではその後のモデルを用いているのでフロントFキーが他のキーと同じ大きさのものです。細部にこだわるのであればディテールを徹底させ、同じキー・レイアウトの楽器を用意して貰いたかったと思うのはマニアック過ぎでしょうか(笑)。

ちなみにジャケットの方のレイアウトですが、CD化に際してSONNY ROLLINSのロゴを始めとする文字が中央に集められ、それに伴い「R」の文字がちょうどフロントFキーに被ってしまい、マスキングされてしまいました。個人的にはオリジナルと同じくタイトルやメンバーの表示が幾分下の方がRollinsの顔が引き立ち、バランスが取れていると思うのですが、如何でしょうか。以下がCDでのジャケットです。

さてジャケット話はこのくらいにして、57年はRollinsに限らずモダンジャズの当たり年、数々の名盤がリリースされました。時はHard Bop全盛期、米国の文化成熟度も一つのピークを迎えており、放っておいても、特に何かを企画しなくても、レギュラーグループではなくとも、リーダーを決めて、良いサイドマンを集めて録音しさえすれば、自動的に素晴らしい作品が出来上がった時代です(物凄い事です!)。Rollins自身も57年にはなんと合計6枚のリーダー作をレコーディングしており最多録音年、本作はメンバーの人選もありますが、抜きん出てHard Bop色が強い作品に仕上がっています。J. J. Johnsonとの2管は同じ音域の木管楽器と金管楽器とが合わさり、お互いの響きを補いつつ増強させる強力なアンサンブルを聴かせ、ハーモニーでもユニゾンでも実に豊かで豪快なサウンドを提供しています。Art BlakeyとPaul Chambersのコンビネーションは安定感、スピード感申し分なく、Blakeyの繰り出すリズムをon topのChambersが徹底的にサポートして更なるグルーヴ感を出しており、Blakeyが必ず踏んでいる2, 4拍ないしは裏拍のハイハットがHard Bopを色濃く感じさせます。ピアニスト2人Horace SilverとThelonious Monkはリーダーとしての活動が中心ですが、本作での客演で的確に伴奏者としての演奏を披露、特にMisteriosoでの2人の共演は稀有なナンバーです。

それでは曲毎に触れて行きましょう。1曲目RollinsのオリジナルWhy Don’t I、Miles DavisのオリジナルFourをひっくり返したようなメロディが印象的です。曲自体の構成はA-A-B-Aで、よくある歌モノのフォームですがサビのBが普通は8小節ですが半分の4小節しかありません。同じくRollinsの代表作「Saxophone Colossus」に収録のStrode Rodeも同じフォームでやはりサビが4小節です。この頃彼は短いサビのサイズに嵌っていたのでしょうね、きっと。なかなか手強い構成の曲に仕上がっていますが、作曲者自身このフォームに起因し演奏中やらかしてしまいました(爆)。後ほど触れるとして、ソロの先発はRollins、モダンジャズ・テナーサックスの正に王道を行く音色(1’34″でのSubtone、堪りません!)とタイム感、フレージングの推進力、例えば0’50″からの16分音符フレージングのスピード感とタイトさと相反するレイドバック感、これはメチャヤバです!!ソロの2コーラス目はテーマと同じシカケをリズムセクションが演奏し、バッキングに弾みをつけています。随所で聴かれるBlakeyのいわゆるナイアガラロール、実に効果的です!続くJ. J.のソロ、巧みなスライドワークによるバルブトロンボーン・ライクで流麗なフレージング、ジャズトロンボーンを志す全てのミュージシャンの規範となるべきバイブル的な演奏です!ソロの2コーラス目冒頭でJ. J.自身がテーマの仕掛けを提示していますがリズムセクションまさしく笛吹けども踊らず、ただBlakeyが4小節目の4拍目に謎のアクセントを入れていますが、これがJ. J.へのレスポンスでしょうか?その後は淡々とソロを展開し、Silverのソロとなります。ちょっとリズムがつんのめった特徴的なタイム感での演奏です。RollinsとSilverはMiles Davisの54年「Bags Groove」以来の共演です。

ピアノソロ後のフロント二人とドラムスの4バースがこの曲でのトピックスです。構成としてAは8小節なのでRollins〜Blakey, J. J.〜BlakeyでAAが終了、サビが4小節なのでRollinsの4小節ソロ後ドラムスのソロは次のAの前半4小節で行われ、後半4小節J. J.のソロで1コーラス終了になります。2コーラス目は1コーラス目とひっくり返る形でドラムス・ソロ4小節〜フロントのソロ4小節となるはずが、ドラムスのソロに被ってRollinsソロを始めました!これは単なる出間違えなのか、それとも4バースの2コーラス目も1コーラス目と同じ構成で行いたいというRollinsの目論見だったのか、いずれにせよバンドの流れとしてはひっくり返る形での4バースが主流と即断したRollins、同一フレーズの音形で次の4バースを続けます。そしてもう一度、J. J.のソロの後サビでドラムス・ソロになる筈が、今度は明らかに自分の出番ではないと知りつつサビのコード感を提示するラインをRollins吹き始めました!この機転の効いたプレイこそSaxophone Colossus!その後のJ. J.は「何が起きたんだ?俺はこのまま続けて吹いても良いのか?」とばかりの間を空けて探りながらソロを開始しています。Blakeyの委細かまわず、やるべき演奏を完徹した姿勢にも助けられたと思います。この演奏はハプニングを利用し、更にリカバーすべくアイデアを提供したRollinsのスポンテニアスな音楽性の産物です!この出来事がなければごく普通のHard Bop演奏で終わってしまうテイクが、誰にも印象に残る名演奏に変化したのです。

以前日野皓正さんのバンドで演奏中、何かスタンダードを演奏することになりました。その時の曲もAABA構成で、僕がサビのBを演奏することになったと記憶しています。演奏が始まり最初のAのメロディを演奏する日野さん、明らかなテーマの間違いを犯しました!「えっ?」と思った束の間、次のAで今度はわざと同じようにメロディを違えて演奏するではありませんか!サビ後のAでも全く同様にメロディを変えての演奏、お陰でその間違ったメロディが正しく聴こえてくるのが実に不思議でした。そんな日野さんを目の当たりにし、背筋がゾゾっとした覚えがあります。転んでもタダでは起きない、間違いやハプニングをむしろ利用して音楽を活性化させるしたたかさに、本物のミュージシャンを感じました。

2曲目もRollinsのオリジナルWail March、BlakeyがドラマーでMarchとくればThe Jazz MessengersのレパートリーBlue Marchを連想しますが、こちらは翌58年10月の録音なので1年半以上も先の話になります。Blakeyお家芸のマーチング・ドラムは本テイクのイントロで既に花開いていました。アップテンポの曲自体は8小節のシンプルな構成、ソロはスイングで演奏されるので倍の16小節がループされます。ソロの先発J. J.の絶好調振りはBlakeyのスインギーなドラミング、Mr. on top BassのChambersに依るところも大です。EllingtonのRockin’ in Rhythmの引用フレーズも交えつつ演奏され、再びインタールード的にメロディが演奏されRollinsのソロになります。アップテンポにも関わらず実にタイムが的確でスインギー、前年録音「Saxophone Colossus」の頃よりもリズムのスイート・スポットにより確実に音符をヒットさせています。かつてDavid Sanbornが司会するTV番組Night MusicにRollinsがゲスト出演、Sanbornは彼のことをRhythmic Innovatorと紹介していましたが、正しくその通りです!ピアノ、テーマとドラムスとのトレード、ドラムスソロに続き再びMarchのテーマでFineです。

3曲目はThelonious Monk作のブルースMisterioso、RollinsはかつてMonkのバンドに在籍し、54年「Thelonious Monk / Sonny Rollins」56年「Brilliant Corners」と名盤を録音しています。

ここでのトピックスはMonkとSilverのふたりが参加している点です。連弾や2台ピアノが用意されている訳ではないのでピアノを引き分けていますが、どのように分担しているのかが気になるところです。始めのテーマをMonkが演奏し、続くRollinsのソロでバッキングを行い、その後短いながらも自身のユニークなソロがあり、終了後3’47″から5秒間でSilverにピアノの席を譲っているようです。ですので続くJ. J.のソロはSilverがバッキングを行い、そのままSilverのソロ、ベースソロ、一瞬ドラムスソロに突入しそうなところをRollinsリーダー然と入り込みドラムスとの4バースにしていますが、ここでもSilverがピアノを弾いているように聞こえ、ナイアガラロールに誘われてのラストテーマの直前にMonkが再登場、テーマ演奏そしてオーラスで9thの音であるC音をチョーんと弾いています。ピアニスト二人ともバッキングでリズミックな要素を含んでいるので、かなり判断が難しいです。

内容的にもイーブン気味のテーマの後ろでBlakeyが何やら3連符をずっと演奏し続けたり、MonkのOne & Onlyでリズミックなバッキングが随所に光っていたり、Rollinsソロ冒頭でテナーでの雄叫びが聴こえたり、バースで草競馬のメロディを引用したりと、じっくり聴きこむと様々なことが行われています。

以上がレコードのSide A、4曲目はMonkが残留してRollinsのワンホーン・カルテットによるMonkのReflections、かつてのバンマスに敬意を表して取り上げたナンバー、Monk Worldを存分に表現したテイクに仕上がっています。Rollinsはお得意の低音域サブトーンとリアルトーンを使い分けしっとり、バリバリとメロディ奏、1’44″でRollinsが吹いたフィルインをMonkが暫く後の49″で呼応する辺りニンマリとしてしまいます。ソロの先発はMonk、Blakeyが好サポートを聴かせますが、ふたりは47年Monkの初リーダー作「Genius of Modern Music」からの付き合いになります。

5曲目はスタンダード・ナンバーYou Stepped Out of a Dream、再びクインテットでの演奏になります。Rollinsがメロディを吹き、J. J.がオブリガードや対旋律、ハーモニーを演奏しています。快調に飛ばすRollins、2コーラス目に入ろうとする1’08″くらいからBlakeyに煽られてとんでも無い状態に!3コーラス目に入った辺りでもシングルノート攻め、いや〜素晴らしい、Rollins申し分無い計3コーラスのスインガー振り。ひょっとしたらこの曲がアルバムの1曲目に置かれても十分な出来栄えですが、Why Don’t Iの災い転じて福となすテイクの方にジャズの魅力が詰まっていますね!J. J.のソロもYou Are the Man!と声を掛けたくなるくらい素晴らしい演奏です!ピアノソロ後のフロントふたりのトレードからラストテーマへ。やはりWhy Don’t Iのハプニングがなければこのテイクをオープニングに採用していたかも知れません。プロデューサーのAlfred Lionさぞかし迷ったことでしょう。音楽を、ジャズを良く分かっているプロデューサーならではの決断、ミスやハプニングを良しとしない頭の硬い人では出来ない大英断だったと思います。

6曲目ラストはPucciniのオペラMadame ButterflyからPoor Butterfly、テーマ後J. J., Silver, Chambersとソロが続きラストテーマ、Rollinsはテーマ演奏のみという大人の仕事っぷりで本作を締めくくっています。

2019.04.30 Tue

Alex Riel / Unriel!

今回はDenmark出身のドラマーAlex Rielの作品「Unriel!」を取り上げたいと思います。コンテンポラリー系共演者との白熱した演奏、そして当代きってのスタイリストであるJerry Bergonzi, Michael Brecker2人のテナー奏者のバトルも存分に楽しめる作品です。

Recorded March 23 & 24, 1997 at Sound On Sound, in New York City. 
Mastered at Medley Studio, Copenhagen.  Label: Stunt Records

ds)Alex Riel ts)Jerry Bergonzi ts)Michael Brecker g)Mike Stern b)Eddie Gomez p)Niels Lan Doky

1)Gecko Plex 2)He’s Dead Too 3)On Again Off Again 4)Amethyst 5)Bruze 6)Moment’s Notice 7)Channeling 8)Invisible Light 9)Unriel

Alex Rielは1940年9月13日Denmark Copenhagen生まれ、60年代中頃から地元にあるジャズクラブJazzhus Montmartreでハウスドラマーを務め、同じくDenmark出身の欧州が誇る素晴らしいベーシストNiels-Henning Ørsted Pedersen、スペイン出身の盲目の天才ピアニストTete Montoliuを中心に米国からの渡欧組ミュージシャンであるKenny Drew, Ben Webster, Dexter Gordon, Kenny Dorham, Johnny Griffin, Don Byas, Donald Byrd, Brew Moore, Yusef Lateef, Jackie McLean, Archie Shepp, Sahib Shihab等と日夜セッションを重ね、ジャズ・フェスティバル出演、レコーディングと多忙な日々を過ごしていました。欧州各国のジャズシーンは今でこそ優れた個性的なミュージシャンが目白押しですが、60年代中頃は言わばジャズ後進国(そもそも米国以外の全世界各国はジャズ後進国でありましたが)米国出身のミュージシャンの市場、多くの米国ミュージシャンが仕事を求めて渡欧し人材が流入しました。Rielは欧州に居ながら米国のジャズ・テイストをダイレクトに吸収できた世代の一人です。

97年RielはやはりDenmark出身のピアニストNiels Lan Dokyと2人で訪米し、New Yorkのスタジオで本作をレコーディングしました。参加メンバーの中でまず挙げるべきはベーシストEddie Gomezです。彼のプレイがこの作品の要となり、演奏を活性化させインタープレイを深淵なものにしています。11年間もの長きに渡り在籍していたBill Evans Trioでの演奏のイメージが強いですが、実はEvans以降大胆な音楽的成長を遂げており、その成果としてある時は縁の下の力持ち、またある時はその場に全く違った要素を導入すべく、体色を変化させ瞬時に舌を伸ばし、獲物を捕食するカメレオンのように変幻自在に音楽に対応しています。Gomezはソロイスト、伴奏者に対し的確に寄り添い素晴らしいon topのビート、グルーヴを提供しますが、同時に音楽を俯瞰してその瞬間瞬間で最も効果的なスパイス、サプライズは何かを選択し提供する事に関してのエキスパートでもあります。

Alex RielとEddie Gomezの本作でのツーショット。Eddieの笑顔が本作の成功を物語っています。

Jerry Bergonziは47年生まれ、Boston出身のテナー奏者。作品を多数発表し、ジャズの教則本も数多く執筆しています。また莫大なマウスピース、楽器本体のコレクターとしても知られていて、音色へのあくなき探究から常に素晴らしいテナーサウンドを聴かせており、本作での圧倒的なプレイは感動的です。更に多くのオリジナルを作曲しここでも5曲提供していますが、いずれもユニークな個性を発揮しサウンドが輝いています。サックスプレイは勿論、ジャズに関連する媒体を作り上げ量産する、ツールをマニアックに収集する、表現向上のために委細構わず拘る、などから演奏者であると同時にモダンジャズを愛する、根っからのオタク系ジャズファンであると感じています(笑)。Michael Breckerが参加する2曲でテナーバトルを聴かせますが、ジャズフレーバー満載でマイペースな演奏のBergonziに対し、投げられたボールを確実にキャッチしすぐさま変化球に転じさせる技が巧みなMichael、トレーディングを重ねるうちに信じられない境地にまで発展するバトルは相性抜群、他には類を見ないテナーチームです!

Mike Sternは53年生まれ、こちらもBoston出身です。Berklee音楽大学で学び、Blood, Sweat & TearsやBilly Cobham Bandを経て81年カムバックしたMiles Davisに大抜擢され、以降自己のBandを始めとして数々のバンドで活動しています。ロックテイストを踏まえつつ、Be-Bopの要素を盛り込んだ独自のウネウネ・ラインは他の追従を許さない魅力を聴かせます。個人的にはMilesカムバック時のライブを収録した作品「We Want Miles」での全てのプレイに、神がかったイマジネーション感じます。

Niels Lan Dokyは63年Copenhagen出身、ベトナム人の父親とオランダ人の母親の間に生まれ、6歳下の弟Chris Minh Dokyはジャズ・ベーシスト、兄弟でDoky Brothersとして活動していた時期もありました。NielsもBerklee音楽大学で学びましたが米国よりも欧州が肌に合うらしく卒業後帰欧、Franceに在住して音楽活動を行なっています。因みにChrisもジャズを学ぼうと渡米、Berkleeに学びに行こうとした矢先に立ち寄ったNew YorkでBilly Hartに「ジャズを学ぶならここ以外無いだろ?」と引き止められ、NYが肌にあったのもあり、Berkleeには行かずそのまま当地でジャズ活動を展開しました。

本作の出来が大変良かったからでしょう、2年後続編がリリースされました。99年NYC録音「Rielatin’」、1曲Bergonzi〜Breckerのバトルが再演されています。RielのかつてのボスであったBen WerbsterのオリジナルのブルースDid You Call Her Today、古き良き時代を感じさせるミディアムテンポのブルース。前作で取り上げたナンバーの曲想がハードだっただけに2人の大先輩による癒し系の曲を取り上げ、バトルの素材としましたが、演奏内容は全く前作に匹敵するものになりました(爆)

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目BergonziのオリジナルGecko Plex、Gomezの奏でる怪しげで不安感を煽るベースパターンと、Rielのブラシワークから曲は始まります。コード楽器は参加せずテナー奏者2人から成るカルテット編成、曲想、メロディからもハードボイルドな男の世界を予感させます。Rielのドラミング自体は比較的オーソドックスながらも大健闘していますが、何しろ自由奔放なGomezのベースワークが曲中の森羅万象全ての支配権を握っているが如き状態、そこに吠えまくる2匹の野獣テナーたちが斬り込んで来ます。こういうタイプのテナーバトルは聴いたことがありません!何と表現したらよいのか、Lennie Tristano?George Russellスタイルの発展形?Ornette ColemanのHarmolodics?話が些か横道に逸れました。Bergonziがソロの先発を務めますが知的にしてアバンギャルド、アグレッシブにしてタイト、抑制の効いたしかし予定調和ではないフリージャズの領域にまで飛翔しています!テナートリオの表現としては文句の付けようがありません。今度はBergonziのソロに被るようにMichaelのソロが始まります。フレージングの緻密さ、歌い上げに至る構成力、さらに拍車が掛かっています!佳境に達したソロの丁度良いところにBergonziが再登場、ベースが消えてドラムが効果音的に響く中、動物の発情期を連想させるパルスの如き両者のアプローチ、mating callでしょうか?収束に向かった頃に不安感のベースパターンが再登場、ラストテーマへと向かいます。決してこのような演奏形態を狙ってスタートさせてはいないと思います。偶然の産物であるが故に、ジャズのスポンテニアスさを感じさせる名演奏に仕上がったと思います。

2曲目もBergonziのオリジナルHe’s Dead Too、人を喰ったタイトルですがギターとテナーのユニゾン・メロディが心地よいボサノバ・ナンバー、ピアニストは参加せずカルテット編成です。ソロの先発はSternのギター、Gomezの唸り声がところどころ聴こえるのが生々しいです。1’51″辺りでギターの倍テンポのラインに一瞬ベースが反応しサンバのリズムになりかけますが、ぐっと堪えました。しかし衝動は抑え切れず2’15″からドラム、ベースともサンバになり、ギターソロを終えるところまで続きます。続くテナーソロからは振り出しに戻りボサノバで行われ、再び3’58″からドラム、ベースが率先してサンバに持って行きます。「盛り上がったらサンバにしようか」くらいの軽い打ち合わせがあったのかも知れません。その後ベースソロで再びボサノバに戻り、Gomezの超絶技巧ソロ、68年Bill Evansの「At the Montreux Jazz Festival」での名演奏をイメージしてしまいます。この時のベースの録音方法はおそらくマイクロフォンが主体であったので、弦が指板を叩く音が「バチバチ」と物凄く、インパクトが強烈でしたが、本作ではピックアップからの入力の方がメインなので、柔らかく伸びる感じの音色に仕上がっています。

3曲目は本作もう一つのテナーバトル曲On Again Off Again、曲自体はBergonzi作のマイナーブルース。実に正統派、テナー奏者によるバトルはこうあるべきと言うやり取りを聴くことができるテイクです。音符のフラグメント状態からThelonious MonkのEvidenceをイメージさせるテーマに続く先発ソロはMichael、人を説得せしめるための専門用語を用いた滑舌の良いスピーチ(Michael流ジャズ演奏のことです)はしっかりとした手順を踏まえ、一つ一つの言葉の持つ意味を噛み締めながら、確実に次の言葉に繋げて行くことが大切なのだと高らかに宣言しているかの如きプレイです!後ほど行われるバトルのためにかなりの余力を残してクールにソロを終えていますが、続くBergonziはイってます!ソロの後半でJackie McLeanのLittle Melonaeのメロディを引用しているのはご愛嬌、ピアノソロに続きいよいよタッグマッチの時間です!Michaelから4小節づつのトレーディング、研ぎ澄まされた空間に鋭利なテナーサウンドが投入されます。互いのフレーズ、コンセプトを受けつつ、Michaelがサウンドの幅を広げていますが、Bergonziの対応も実に的確、手に汗握るバトルです!演奏にはその人の人間性、人柄が表れますがMichaelは人の話をよく聞き、話の内容をよく覚えています。彼の生前の事ですが、前回の来日からさほど間を空けずの再来日時のMichaelとのやり取り、「前回話をした時にTatsuyaが探していた⚪︎⚪︎⚪︎は見つかったかい?」「Mikeよく憶えているね、ちょうど見つけたところだよ」「それは良かった、僕も探して見つけたところなんだ。じゃあ大丈夫だね」「Thank you Mike!」と言うやり取りをした覚えがありますが、バトル相手のフレーズをしっかりと聴き拾い、把握し、音楽的に膨らませて相手に受け渡す技の巧みさにまさしく彼の話っぷり、人への接し方を感じました。

肝心のバトルですが、次第にヒートアップ、16分音符フレーズのトレーディングから5’50″のトリルの応酬、6’15からの最低音への急降下爆撃合戦、6’27″からのMichael半音上げ作戦、6’32″Bergonziも半音上げに応じミッション継続、6’36″Michael更に半音上げで徹底抗戦、しかしまだやるのかMichael、更に半音上げ!ピアノのバッキングも応えています!Bergonziそれには答えず新たなアプローチで応戦、Michaelも「そう来たかJerry、ではこれでどうだ!」一瞬Jerry躊躇を見せましたがフラジオ大作戦でその場を切り抜けました!しかしフラジオはMichaelお手の物、幾ら何でもフラジオでMichaelに戦いを挑んではいけません!得意技で寝技に持ち込こまれそうな勢いです!Jerryは最低音炸裂+Sonny Rollinsのアルフィーのテーマ部分的引用フレーズで勝負に出ました!Michael対抗策として4小節間丸々アルフィーのテーマ完奏、何と付き合いの良い人でしょうか(笑)!Bergonziも1小節アルフィー引用+シンコペーションで変化球を投げましたがそろそろ時間切れ、史上稀に見る大試合もこれにて一件落着、Tom & JerryならぬMike & Jerryテナーバトル史に残る演奏になりました!

4曲目はGomezのオリジナルAmethyst、美しいバラードです。Bergonziの優しさ、メロウなテイストを堪能出来るテイクに仕上がっています。

5曲目はSternのオリジナルブルースBruze、彼の83年初リーダー作「Neesh」でDavid Sanbornをフィーチャーした形で収録されていますが、ここでは作曲者本人のギターが前面に出るギターカルテットで演奏されています。難しそうなリフ、Stern自身も難儀しているように聴こえます。

6曲目John Coltraneのお馴染みのナンバーMoment’s Notice。ギターがメロディを演奏し、Bergonziが吹いているのはColtraneがオリジナルで吹いているハーモニーのパートが中心になっています。ギターの音像が引っ込んでいるので、ハーモニーの方がメロディに聴こえます。難解なコード進行をバンド一丸となってスキー競技のスラロームのように華麗に滑り抜けているが如く演奏し、盛り上がっています。

7曲目BergonziのChanneling、スタンダード・ナンバーのAlone Togetherのコード進行が用いられています。こちらもピアノが参加せずSternのギターがバッキングを務めます。Bergonziの流暢なソロ後、Gomezのソロでは自身の声が殆どユニゾンで聴こえています。

8曲目Invisible Lightは60年代のWayne Shorterのバラードを思わせるBergonziのナンバー。Gomezのソロをフィーチャーしたナンバーに仕上がっています。

9曲目Dokyのオリジナルその名もUInriel、作曲者自身のピアノは参加せずコードレスのテナートリオで演奏されています。曲のエンディングに多分Rielでしょう、声が入っています。

2019.04.18 Thu

Tom Lellis / Double Entendre

今回はボーカリストTom Lellisの作品「Double Entendre」を取り上げてみましょう。素晴らしいリズムセクションを得てスリリングな演奏を繰り広げています。Recorded in New York City, June 15-16, 1989

Produced by Tom Lellis Executive Producer: Mugen Music Label: Beamtide/ Someday, Japan

vo, p)Tom Lellis b)Eddie Gomez ds)Jack DeJohnette p)Allen Farnham(on 2, 4 DX7 5, 10 )

1)Tell Me a Bedtime Story 2)Invitation 3)L.A. Nights 4)Show Me 5)Never Had a Love(Like This Before) 6)What Was 7)E. R. A. 8)Eerie Autumn 9)I Have Dreamed 10)Aitchison, Topeka & the Santa Fe

ボーカルTom Lellis、ベーシストにEddie Gomez、ドラマーにJack DeJohnette、ピアノはLellisとAllen Farnhamが曲によって弾き分けています。Lellisのボーカルをフィーチャーしたアルバムですが、リズムセクションの巧みなサポートも聴きどころで、3者高密度のインタープレイを繰り広げています。特にDeJohnnetteがこういったボーカル・セッションに参加するのは極めて珍しく、期待に違わぬ素晴らしい演奏を聴かせています。更にはHerbie Hancockの Tell Me a Bedtime Story、Chick CoreaのWhat Was、スタンダード・ナンバーですがボーカルで演奏されるのはあまり機会のないInvitation等、意欲的な選曲も魅力です。男性ボーカルは大きく2つに分けられますが、Frank SinatraやTony Bennettに代表されるストレートにスタンダード・ナンバーを歌唱するタイプ、そして本作Lellisのようにインストルメント奏者の如く歌い上げるスタイル。同じ男性ボーカリストのMark Murphyも後者のタイプ、そしてメンバーの人選や選曲にも同傾向の音楽的嗜好を感じます。彼の75年代表作「Mark Murphy Sings」にそれが顕著に表れているのでご紹介しましょう。ホーンセクションにRandy, Michael Brecker, David Sanborn、キーボードにDon Grolnick、ベースHarvie Swartz等を迎え、On the Red Clay(Freddie Hubbard), Naima(John Coltrane), Maiden Voyage(Herbie Hancock), Cantaloupe Island(同)といったジャズメンのオリジナルを取り上げ、熱唱しています。

リーダーTom Lellisは1946年4月8日Cleveland生まれ、10代からボーカリストとして地元を中心に活動を開始し、Las Vegasや米国中西部をツアーし73年New Yorkに進出、この頃にGomez, DeJohnetteと出会い、81年初リーダー作「And in This Corner」を本作と同じメンバーを中心に録音しました。本作タイトルの「Double Entendre」(二重の〜特に一方はきわどい)は前作とメンバーが同じ、ボーカルやキーボードの多重録音を行った、作詞作曲家、ボーカリスト、プロデューサーを兼ねていることから名付けられました。

ここでLellisが行っているジャズメン作の楽曲に歌詞を付けて歌う、またここでは行なわれていませんが、発展形としてのアドリブに歌詞をあてはめて歌う奏法、スタイルのことをvocaleseと呼びます。前述のMark Murphyを始めとしてこの演奏の先駆け的な存在のBabs Gonzales、Eddie Jefferson、Bob Dorough、Bobby McFerrin、Kurt Elling、ボーカルグループLambert, Hendricks, & Ross、New York VoicesそしてThe Manhattan Transferらの名前を挙げる事が出来ます。

「And in This Corner」
この作品でもKeith JarrettのLucky SouthernやWayne ShorterのE.S.P.、CoreaのTimes Lie等、ジャズメンのオリジナルに歌詞が付けられvocaleseされています。

ピアニストAllen Farnhamは親日家として知られている61年Boston生まれの作編曲、教育者でもあります。僕も何度か演奏を共にしましたがピアノプレイもさることながら、スタンダード・ナンバーの都会的で知的なアレンジに感心した覚えがあります。Concord Jazz Festivalのオーガナイザーも長く務めています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Tell Me a Bedtime Story、 Hancock69年の作品「Fat Albert Rotunda」に収録されている名曲です。HancockのFender Rhodes、Johnny Colesのトランペット、Joe Hendersonのアルト・フルート(!)、Garnet Brownのトロンボーンがメロディを分かち合い、更に重厚なアンサンブルを聴かせています。メロディのシンコペーションがユニークな難曲、駆け出しの頃に演奏して手こずった覚えがあります。


ここではオリジナルに聴かれるイントロは用いられず、自由な雰囲気でルパート状態、Lellisの歌のピックアップからインテンポになり曲が始まります。オリジナルの漂うような雰囲気を一新したストロングな曲想、Lellisの声質、歌い方に見事に合致しています!アドリブソロはなくテーマを2コーラス演奏してコーダを延々と繰り返しFineとなりますが、曲に対するカラーリングが全編実に素晴らしいDeJohnetteのドラミング!シンコペーションの際のフィルイン、タイム感、シンバル、ドラムセットの音色、全てに申し分ないプレイです!Gomezのベースワークもウネウネとグルーブし、随所に遊び心、チャレンジ精神が満載されています。

2曲目はInvitation、ドラムとベースが繰り出す緻密にしてリラックスしたグルーブ感が心地よい8分の6拍子のリズム、ピアノの左手がモーダルなサウンドを提示しLellisのボーカルが始まります。しかしこれはどう聴いてもインストルメントによる演奏、たまたまボーカルがメロディを担当していますが、器楽によるテクニカルな演奏のレベル、ボーカルの持つスイートさ、ムーディな要素を排除したハードボイルドな歌唱、バックを務めるミュージシャンも100%承知の上でのサポートに徹しています。Lellisにはこのリズムセクションが発するエネルギーが相応しいのです。Gomezのon topなビート、DeJohnetteのタイトさ、理想のグルーヴ感です!

ピアノソロはFarnham、端正なピアノタッチ、コードワーク、タイム感、McCoy Tynerのテイストが根底にありますが素晴らしい演奏を聴かせています。その後ベースとドラムの8バースになりますが、何という濃密なやり取りでしょうか!テクニカルにしてスポンテイニアス、Gomezの個性的なソロはどこを切ってもGomez印の金太郎飴状態、DeJohnetteのスネアのフレージングは天から降りて来るインスピレーションを憑依する受け手としての恐山のイタコ状態、ため息が出るほどに素晴らしいです!

3曲目LellisのオリジナルL.A. Nights、多重録音による本人のバックコーラスが効果的な文字通り西海岸のフュージョン・タッチのナンバーです。DeJohnetteのシンプルで的確なサポート、またGomezの音の立ち上がりの早いベースプレイはエレクトリック・ベースと何ら遜色ありません。スムースジャズの第一人者David Benoitの音楽はL.A.スタイル・フュージョンと呼ばれていますが、まさしくこのサウンドです。

4曲目はShow Me、こちらも多重録音によりボーカルをオーバーダビングしていますが、デュエットのようなスタイルです。ピアノソロは再びFarnham、明晰なタッチが軽快なワルツに合致しています。ピアノソロに被るようにデュエットが再登場、そしてこちらを煽るようにDeJohnetteのドラミングが炸裂しています!

5曲目LellisのオリジナルNever Had a Love(Like This Before)は、Farnhamが演奏するシンセサイザーの多重録音を駆使したナンバー。YAMAHAのDX7が使われていますが懐かしい音色、響きです。80~90年代流行りましたからね。でも今となってはコーニーさを感じてしまいます。叙情的、ドラマチックなナンバーです。

6曲目は本作の白眉の演奏CoreaのWhat Was、こちらはボーカルの多重録音を駆使しています。DeJohnetteのフリーソロから始まりますが、冒頭のボーカルのハーモニーが男性の声の低音域を強調しているので、読経のように感じてしまいます(爆)。それにしてもこのアレンジのアイデアはvocalese史上特記されても良いクオリティ、そして仕上がりだと思います。Gomezの素晴らしいソロがフィーチャーされますが、Coreaのオリジナル演奏ではMiroslav Vitousの歴史的名演奏が光ります。余談ですが先月(19年3月)25年ぶりの来日を果たしたVitous、ベーシストは勿論の事、他の楽器のミュージシャンが大勢彼の演奏を聴きに行ったそうです。「Now He Sings, Now He Sobs」での演奏の存在感故だと思います。ベースソロ後ボーカルがフィーチャーされ、ラストテーマでは再び読経が聴こえます(笑)。

7曲目LellisのオリジナルE. R. A.、ミディアム・スイングの佳曲です。ピアノはLellis本人が弾いており、ソロこそありませんが的確なアンサンブルを聴かせています。DeJohnette、Gomezと一緒に演奏すれば自ずと方向性が定まるのでしょう。歌とピアノの複雑なメロディのユニゾンは同時録音か微妙なところですが、ボーカル絶好調、声が良く出るに連れてバッキングの音使いも激しさを増しています。

8曲目LellisのオリジナルEerie Autumn、ライナーにもありますがBartok, Stravinskyからのハーモニーの影響が認められ、かなり内省的なサウンドが聴かれます。

9曲目はRichard Rodgers/Oscar HammersteinのI Have Dreamed、いかにもミュージカルに用いられる雰囲気のナンバー、後半声を張ってアリアのようにも歌唱しています。Lellis自身のピアノソロも聴かれます。

10曲目アルバム最後を飾るのはAtchison, Topeka & The Santa Fe、ハッピーなテイストのシャッフル・ナンバー。こちらでもFarnhamの演奏するDX7が聴かれ、効果的に用いられています。そういえばDeJohnetteのシャッフル・ビートはあまり聴いたことがありませんが、彼はどんなリズムを演奏しようが常に音楽的でクリエイティブ、更にプラスワンが聴こえます。

2019.04.13 Sat

Hi-Fly / Karin Krog, Archie Shepp

今回はボーカリストKarin Krogとテナー奏者Archie Sheppによる作品「Hi-Fly」を取り上げたいと思います。1976年6月23日Oslo, Norwayにて録音 Producer: Frode Holm, Karin Krog Compendium Records

vo)Karin Krog ts)Archie Shepp tb)Charles Greenlee p)Jon Balke b)Arild Andersen b)Cameron Brown(on Steam only) ds)Beaver Harris

1)Sing Me Softly of the Blues 2)Steam 3)Daydream 4)Solitude 5)Hi Fly 6)Soul Eyes

Karin KrogのチャーミングなボーカルにArchie Sheppのまるで人の声、喋っているかの如きユニークなテナーサックスのオブリガートが全編絶妙に絡み、素晴らしい音色で思う存分間奏を取る、他に類を見ない作品です。ボーカリストのアルバムにテナーサックス奏者が歌伴で参加したと言う次元に留まらない内容の演奏ですが、Krogの唄だけ、Sheppのテナーのみでは得ることの出来ない、互いの演奏、音楽性の相乗効果が生み出した素晴らしい産物です。

Krogは37年Norway Oslo出身、音楽一家に生まれた彼女は60年代初めから地元やStockholmで演奏活動を開始、64年にFrance Antibe Jazz Festivalに出演し脚光を浴びます。67年にはトランペッターDon Ellisに認められて渡米し彼のオーケストラとの共演を経験しました。69年には米Down Beat誌の評論家投票で新人女性ヴォーカリストの首位に輝いています。翌70年8月には大阪万博にEurope Jazz All Starsの一員としても来日しました。Norway、北欧を代表するボーカリストの一人です。

本作を遡ること6年前、70年に同じく渡欧組テナー奏者Dexter Gordonを迎えて「Some Other Spring」を録音しています。”blues and ballads”とサブタイトルの付けられた本作、テナーサックス奏者が変わった事でこうも作品の印象が違うのかと感心させられる1枚です。こちらはDexterと伴奏のKenny Drewのプレイに影響を受けたのか、サウンド自体がそうさせるのか、Krogの歌も本作に比べてかなりオーソドックスに聴こえます。

欧州で自国の言葉ではない英語でジャズを歌う女性歌手として、オランダ出身のAnn Burton、スウェーデン出身のMonica Zetterlund、同じくLisa Ekdahlらの名前を挙げることができますが、Ella Fitzgerald, Carmen McRae, Sarah Vaughanらのようなスタイルではなく、やはりPeggy Lee, Anita O’Day, Sheila Jordanらの白人ボーカリストの流れを汲んでいます。欧州を南下してItalyやSpain辺りのラテンの血が流れる情熱的な国には、CarmenやSarah直系、更にはNina Simoneの様なストロング・スタイルの女性ボーカリストも存在しているかも知れません。

Krogと同年生まれ、Florida出身のSheppはPhiladelphiaで育ち、もともと俳優志望で演劇を大学で専攻、傍サックスを手にして音楽活動を始めました。卒業後New Yorkに移ってからはLatin Band(この時期の録音が残されていたらぜひ聴いてみたいものです。 Sheppのラテン、さぞかしユニークでしょう!)を短期間経験しその後Cecil Taylorのユニット, Don CherryやJohn TchicaiらとのNew York Contemporary Fiveでの演奏を経てJohn Coltraneとの共演を経験しました。作品としては「A Love Supreme」「Ascension」、そしてColtraneの後押しがあって64年初リーダー作「Four for Trane」をリリースし、65年「New Thing at Newport」では同Jazz Festivalにて共演は果たさずともColtraneとステージを分かち合いました。まさしくColtraneの申し子としてフリージャズ旋風が吹く60年代中期〜後期を駆け抜けましたが、その風が収まる69年に多くのフリージャズ系ミュージシャンがParisに移住した際にSheppも同行、欧州での活動を開始しました。その後のKrogとの出会いも極自然な流れであった事でしょう。

Sheppを後ろから慈愛に満ちた眼差しで見つめるColtraneが印象的なジャケットです。
Archie Shepp サックスのベルにマイクロフォンを突っ込んで吹く独自の奏法です

Sheppの楽器セッティングですが本体はSelmer MarkⅥ、マウスピースはOtto Link Metal 7★、リードはRico Royal 2半です。30数年前にArchie Shepp Quartetの演奏を新宿Pit Innで聴いた事があります。その際サックスのベルにマイクロフォンを時としてかなりの度合いまで突っ込み、サックス管体内で音場が飽和状態になった際に得られるフェイザーが掛かったかのような響きを利用して独自の音色を作っており、そのサウンド・エフェクト、マイクロフォン・テクニックに衝撃を受けた覚えがあります。PA担当のエンジニアにはマイクロフォンからの入力オーバーでスピーカーが飛ばないか、その結果自分のクビが飛ばないかと不安感を与えますが(汗)。アンブシュアもダブルリップなのでマウスピースに負荷が掛からずリードの振動が確実になりますが、彼の場合音程に関して疑問符が伴うことがあり、しかしSheppの演奏スタイルではまず楽器のピッチが問われることは無く、音程感も彼の音楽性に内包されるので全く問題はありません(爆)。付帯音の鳴り方が大変豊か、結果ジャズの王道を行くテナーの音色を聞かせ、加えてフレージングの語法、アプローチ、アイデア、間の取り方いずれもが大変ユニークなので、ジャズ表現者として抜群の個性を発揮しています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Sing Me Softly of the Blues、Carla Bley作曲のナンバーにKrogが歌詞をつけた形になります。65年Art Farmerの同名アルバムで初演されています。けだるい雰囲気のイントロから歌が入りますが、いきなりSheppのオブリガート(オブリ)の洗礼を受けます。いわゆる歌伴の演奏とは全く違ったコンセプトで、基本は歌詞のセンテンスの合間にオブリが入りますが、合いの手で別なボーカリストの掛け声、シャウトを聴いている様な、はたまた単に効果音的に音列を投入しているかの如く、いずれにせよ物凄いテナーの音色です!オブリからそのままSheppのソロ、その後Krogも謎のハミングを聴かせていますがSheppとのコンビネーション抜群です!前述の「Some Other Spring」での演奏とは全く異なる、非オーソドックスな音楽表現の世界に突入しているのは、ひとえにSheppが起爆剤として機能しているからです!リズムセクションはただひたすら淡々と伴奏を務めますが、その事が一層ボーカルとテナーの演奏を浮き彫りにさせています。

2曲目はSheppのオリジナルSteam、本作録音の前月に西ドイツNurembergで行われたジャズフェスティバルでのライブを収録した同名作品「Steam」にも収録されています。冒頭エフェクトを施したボーカルがこの演奏のいく末を暗示しているかの様に、怪しげで妖艶な雰囲気を醸し出しています。ベースはArild Andersenの他にSheppの当時のレギュラー・ベーシストCameron Brown、ドラマーBeaver Harrisも参加していて作品「Steam」のメンバーが集っています。ピアニストJon Balkeのイントロが沖縄民謡風に聴こえるのは僕だけでしょうか?Sheppの盟友、トロンボーン奏者Charles Greenleeも参加しオブリをテナーと分かち合っています。ラストテーマで何やら「シューシュー」とKrogの歌に混じって聴こえるのはGreenleeが発している声なのでしょう。Steamですから湯気の音がするのは当然です(笑)

3曲目はDuke Ellington作の名曲Daydream、テナーのイントロから始まる美しくも危ないこの演奏、後年Sheppは日本のDenon Labelから同名タイトルのEllington特集の作品をリリースしています(77年録音、リリース)

攻撃的でありながらも優しさと色気を併せ持つShepp独自のアプローチがここでも十二分に発揮され、Greenleeのオブリ共々ボーカルのサポートを的確に務めており、Krog自身も彼らの伴奏を心から楽しみつつ、気持ち良く歌唱している様に聴こえます。ひょっとするとSheppのアプローチはColtraneのSheets of Soudを彼なりにイメージしながら演奏しているのかも知れません。所々に50年代Prestige Label諸作で聴かれるColtraneのフレーズが漏れ聞こえます。エンディングでのSheppのシャウトはKrogの美しい声との対比、美女と野獣状態です。

4曲目もEllingtonのナンバーSolitude、タイトル通り?二人だけでの演奏になります。管楽器一本でボーカルの伴奏を行うのは僕自身も何度かチャレンジした覚えがありますが至難の技です。ここでは正確な音程で朗々歌うKrogを、危険な香りのするアバンギャルドな益荒男振り〜益荒オブリ(笑)で見事にサポートしています。この曲のウラ定番の演奏の誕生です。

5曲目はこの作品のタイトル曲にしてRandy Westonの名曲Hi Fly、収録曲中最もリズミックでタイトな演奏です。先発ソロのGreenleeのトロンボーン、Curtis Fullerのテイストを感じさせつつもSheppに通じる危なさがソロイストの共通性を聴かせます。ソロ終了後一瞬ピアノソロか?と感じさせましたがSheppが演奏の意思表明を行いソロ開始、ドラマーBeaver Harrisとのコンビネーションの良さも聴かせます。無調なフレージングの中にも的確にコード感を聴かせる音使いにハッとさせられる瞬間や、フリーキーなサウンドがスパイス的な役割を果たしているのにドッキリしたりと、演奏を漫然と聴かせない構成になっています。どうやらエンディングをはっきりとは決めていなかった風を感じますが、ハプニングを利用して無事終了。終わりさえすればこっちのものです。

6曲目はMal Waldronの名曲Soul Eyes、バラードではなく全編ルンバ調のリズムで演奏されています。僕は個人的にここでのKrogの歌い方にとても共感を覚えます。Sheppのソロも快調に飛ばしており高音域でのファズがかかった音色がムードを高めます。北欧に居ながら本場米国のジャズスピリットを表現することに成功したKrog、フリージャズ旋風が吹き荒れた60年代New Yorkのジャズシーンで音楽性を培い、そしてその嵐を乗り切った猛者ミュージシャンたちを見事に伴奏者として使える辺り、その音楽性の柔軟さ、懐の深さを感じます。

2019.04.04 Thu

Charles Lloyd / Forest Flower

今回は独自のサックス・スタイル、音楽観を誇るCharles Lloydの初期の代表作「Forest Flower」を取り上げたいと思います。

1966年9月18日録音@Monterey Jazz Festival Producer: George Avakian Atlantic Label

ts,fl)Charles Lloyd p)Keith Jarrett b)Cecil McBee ds)Jack DeJohnette 1)Forest Flower: Sunrise 2)Forest Flower: Sunset 3)Sorcery 4)Song of Her 5)East of the Sun


現在も変わらず精力的に音楽活動を続けるCharles Lloydの出世作になります。モダンジャズ黄金期50年代の成熟期〜倦怠期を迎える60年代、特に60年代後半はフラッグシップであったJohn Coltraneまでもがフリージャズへ突入、傍らジャズロックやエレクトリックが次第に台頭し、更に時代は泥沼化したベトナム戦争に起因するフラワームーブメントを迎え音楽シーンは混沌を極めつつありました。66年録音の本作でも時代が反映された演奏が随所に聴かれますが、何より参加メンバーの素晴らしさに目耳が奪われます。Keith JarrettはArt Blakey Jazz Messengersに短期間在籍した直後にLloyd Quartetに参加、録音当時21歳という若さで驚異的な演奏を聴かせています。ピアノのテクニックや音楽性、タイム感、そしてすでに自己の演奏スタイルをかなりのレベルまで習得しており、その早熟ぶりに驚かされます。本作を含め計8枚のLloyd Band参加アルバムをAtlantic Labelに残しており、いずれの作品でも神童ぶりを発揮しています。Cecil McBeeは42年生まれ、Dinah Washington, Jackie McLean, Wayne Shorter等との共演後Lloyd Bandに参加、17歳からコントラバスを始めたとは信じられない楽器の習熟度、on topのプレイはドラムとの絶妙なコンビネーションを聴かせ、更にバンドに自身のオリジナルを提供してもいますが、このカルテットでの4作目「Charles Lloyd In Europe」を最後に退団し、後任にはRon McClureが参加しました。

Jack DeJohnetteはMcBeeと同年生まれ、やはりJackie McLeanやLee Morganとの共演を経てLloyd Quartetに参加しましたが、若干24歳、信じがたい事ですがこの時点で”DeJohnette”スタイルを完全に発揮しています!シンバルレガート、フィルイン、タイム感、グルーヴ感、スポンテニアスな音楽性、共演者とのコラボレーションの巧みさ、アイデア豊富なドラムソロ、以降一貫したスタイルの発露を感じます。Elvin JonesとTony Williams両者のドラミングのいいとこ取り、加えての強烈なオリジナリティ、申し分ないセンスの持ち主です!1拍の長さを当Blogで良く話題にしていますが、DeJohnetteの1拍の長さはこの時点でも相当な長さ、そして演奏を経る、経験を積むに従って更にたっぷりとしたものになりました。おそらくドラマーの誰よりも長く、そしてあらゆる既存の規格が当てはまらない桁外れのプレイヤーでしょう!JarrettとはGary Peacockを迎えたStandards Trioで、このあと半世紀以上も行動を共にする事になります。それにしてもMcBeeやPeacockとは、美しい名前のベーシストたちです。

これら若手の精鋭たちからなるリズムセクションを従えたリーダーLloydはこの時28歳、楽器の音色が主体音よりも付帯音の方が中心とまで感じるホゲホゲ・トーン、当時の使用楽器はConn New Wonder gold plate、マウスピースがOtto Link Super Tone Master Florida 10番、リードはRicoの多分4番、この人も大リーガークラスのセッティングです!マウスピースは以降取り替えることがありましたが、楽器はずっとConnを使用しているようです。Conn userにはこだわりがありますから。Lloyd独自の演奏アプローチですが、例えばWayne Shorter, Benny Golson(いずれもマウスピースのオープニングが同様のセッティング奏者)たちとは随分と趣を異にしています。同様のテイストも感じるのですが、音楽的ルーツという次元での差異を感じます。想像するに彼はアフリカ系黒人、チェロキーインディアン、モンゴル系、アイルランド系と多岐にわたる血統なので、ひょっとしたら様々な異文化の融合が成せる個性からのスタイルなのかも知れません。

リズムセクション3人のタイムがひたすらタイトなのに対してLloydはビートに大きく乗るようなグルーヴ、この対比がバンドのカラーになっています。以降も一貫した音楽観を聴かせているLloyd、共演者の人選に常に嗅覚が働くようです。64年5月録音のLloyd初リーダー作「Discovery !」ではピアニストにDon Friedman、ドラマーにRoy Haynesを迎えてポスト・ハードバップの演奏を聴かせます。Forest Flowerの初演も収録されています。


今は亡きMichel Petruccianiを起用したのもその嗅覚のなせる技です。LloydとPetruccianiの演奏の差異、両者のブレンド感がバンドの魅力でした。

Petruccianiを子供のように抱きかかえる姿が印象的なジャケット写真です

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目Forest Flower: Sunrise、Lloyd作の美しい独創的なナンバー。曲自体の構成がボサノバ、スイング、ブレークタイム、とリズムが変わり、後半に行くに従いコード進行が短3度づつ上がり高揚感を聴かせ、最後にテナーのフラジオ音域のF#とGのトリルで締めるというドラマチック仕立てです。Lloydの音色、レイドバック感、ブレーク時のフレージング、リズムセクションのバッキング、カラーリング、全てが有機的に絡み合い、テーマ演奏だけで完璧な美の世界を構築しています!ソロの先発Jarrett、出だしからいきなり恐るべき集中力と自己表現に対する情熱、執着心、強力な意志を感じさせる演奏です!こちらも後年の演奏の発露を明確に認めることが出来ます。ピアノタッチの素晴らしさはもちろん、楽器の習得度合いが尋常ではありません!スピード感溢れ、コード進行に対して実に的確かつスリリングなアプローチの連続はまさに歴史的な演奏に違いないのです!

ピアノのフリーフォームに入らんばかりの勢い、加えてDeJohnetteの猛烈なプッシュがソロの終盤に相応しい場面から続くLloydのソロ、Jarrettの演奏に触発され普段よりもテクニカルな方向の演奏に向かっている気がします。タンギングや16分音符の長さに僕としては気になる部分があり、茫洋とした雰囲気の中で漂う感じのソロが彼の本質と認識しています。4’53″でバサッという感じでLloydのソロが急に終わりドラムソロになります。リズムセクションと共に盛り上がり切っているところなのですが、どこか不自然な感じを覚えます。もう少しソロが続いた部分が恐らく蛇足になったのでテープ編集が施され、Lloydのソロを短くし繋いだと推測しています。Jarrettのソロがリーダーよりもずっと長いことから、テナーソロも同じくらいのボリュームがあったのではないでしょうか。その後のドラムソロはシンバル、ドラムセットの音色が20代にして完全に確立されたDeJohnette色を聴かせつつ、One & Onlyな世界を構築しています。次第にフェイドアウトして2曲目Forest Flower: Sunsetになります。ここで聴かれるサウンド、コード感やピアノのバッキングはJarrettリーダーのワンホーン・カルテットの多くの諸作で、例えば「My Song」に反映されています。

Lloydのフレーズに呼応してDeJohnetteが炸裂したり、ピアノソロがカオス状態に変化したり、Jarrettがピアノの弦を弾いたり叩いたりと起伏はありますが、およそ一貫してレイジーなムード漂う演奏です。曲中3’11″辺りから飛行機のエンジン音が聞えますが、この会場のそばに飛行場があったからだそうです。屋外でのジャズコンサートならではのサウンド・エフェクトですね。

3曲目はJarrettのオリジナルSorcery、Lloydはフルートに持ち替えます。ピアノの左手ラインが印象的なナンバー、リズムはずっとキープされますがフルートとピアノで同時に即興演奏を行なっているあたり、まさしく60年代後半のサウンドです。

4曲目はMcBeeのオリジナルSong of Her、ベースパターンが崇高なムードを高めています。同じくMcBee作曲のWilpan’s(Wipan’s Walkとする場合も有り)、Lloydの作品「The Flowering」に収録されているナンバーですがこちらもベースラインが大変ユニークな名曲、僕自身もこの曲を演奏した経験があり、かつてMcBeeと山下洋輔ビッグバンドで共演した時にWilpan’sについて尋ねてみました。「僕の友人でWilpanという奴がいて、そいつの歩き方をイメージして書いた曲なんだよ」との事、かなり変わった歩き方の人物です(笑)。トランペット奏者Charles Tolliverの70年5月録音「Charles Tolliver Music Inc / Live at Slugs’ Volume Ⅱ」にも収録されています。

5曲目アルバム最後を飾るのはスタンダードナンバーEast of the Sun、意表を突いたアップテンポで演奏されており、このリズムセクションの真骨頂を聴くことが出来ます。テナーの独奏からテーマ奏へ、Lloydのフリーフォーム演奏に自在に呼応するリズム陣、メチャメチャカッコいいです!レギュラーバンドならではの醍醐味、その後テンポがなくなりアカペラ状態の展開、そしてa tempoになってからのピアノソロのスピード、疾走感、その後やはりフリーフォームになりアカペラギリギリ時のドラムとベースの対応、ベースまでソロがまわりラストテーマを迎えますが、この時にもフリーフォームの残り火が再燃状態です!

2019.03.27 Wed

Live In Montreux / Chick Corea

今回はChick Coreaがリーダーとなったオールスター・カルテットでの1981年7月15日、Montreux Jazz Festivalのライブを収録した作品「Live In Montreux」を取り上げてみましょう。

p)Chik Corea ts)Joe Henderson b)Gary Peacock ds)Roy Haynes

1)Introduction 2)Hairy Canary 3)Folk Song 4)Psalm 5)Quintet #2 6)Up, Up and… 7)Trinkle, Tinkle 8)So In Love 9)Drum Interlude 10)Slippery When Wet / Intro of Band

Coreaの着ているTシャツのロゴが可愛いです。
さすがはMad Hatter!アルプスの雪山を背景にしたRoy Haynesのタンクトップ姿もGood !

録音から13年後の94年にCoreaが主宰するレーベルStretch RecordsからCollector Seriesとしてリリースされました。ディストリビュートがGRP Labelになります。

メンバー良し、バンドの演奏テンション申し分なし、インタープレイ切れっ切れ、演奏曲目理想的、録音状態秀逸、オーディエンスのアプラウズ熱狂的と、名演奏の条件が全て揃い、それが実現したライブ作品です。Montreux Jazz Fes.では昔からコンサートを収録した名作が数多く残されています。スイスの高級リゾート地での真夏の演奏は、演奏者も聴衆も自ずとボルテージが上がるのでしょう。

70年代のCoreaは72年代表作「Return to Forever」を皮切りに数々の名作をリリースしました。「The Leprechaun」「My Spanish Heart」「The Mad Hatter」「Secret Agent」「Tap Step」、同時進行的にGary BurtonとのDuo諸作、自身のソロピアノ連作、フュージョンやロック寄りにサウンドが移行した、バンドとしてのReturn to Foreverでの作品群等、八面六臂の活躍ぶりを示しました。事の始まりとして68年ジャズピアニストとしての真骨頂を聴かせた「Now He Sings, Now He Sobs」(Roy Haynesがドラム)、以降実はアコースティック・ジャズの演奏はあまり聴かれませんでした。

時代がフュージョン全盛期だったのもありますが、78年「Mad Hatter」収録曲でJoe Farrell, Eddie Gomez, Steve Gaddというメンバーによる、その後も度々取り上げる事になる重要なレパートリーにして4ビートの名曲、Humpty Dumptyの演奏でアコースティック・ジャズへの回帰を一瞬匂わせ、同年同メンバーでフルアルバム「Friends」を録音、81年2月FarrellがMichael Brecker に替わり「Three Quartets」を録音し、ジャズプレーヤーとしての本領を発揮しました。当時我々の間でもFarrellの替わりにMichaelが入って演奏したらさぞかし凄いだろうと噂し、まさかの実現に驚いた覚えがあります。

以上の流れを踏まえた上での本ライブ盤になりますが、前作Three Quartetsがメンバー4人全員音楽的に同じベクトル方向を向いていて、例えばタイムの正確さ、シャープさ、リズム・グルーヴ、サウンドの方向性、バンドの一体感等、極論ですが言うなればデジタル的アコースティック・ジャズの様相を呈しているのに対し、本作はいわば正反対、参加プレイヤーのアナログぶりは感動的ですらあります!Joe Henderson、そしてRoy Haynesですから!

そういえばこの2人の共演をピアニストAndrew Hillの63年Blue Note第1作目リーダー作、「Black Fire」で聴くことができます。浮遊感に満ち、超個性的かつジャズの伝統に則ったHillの楽曲を2人実に的確にサポートしています。

Joe Hen79年作品「Relaxin’ at Camalliro」80年「Mirror, Mirror」自己のリーダー2作にCoreaを迎えて好演奏を聴かせています。本作ライブの実現はこれらの作品が引き金になっているのかも知れません。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目CoreaのオリジナルHairy Canary、「Three Quartets」CD化に際して未発表追加テイクで収録されているナンバーです。Coreaのリリカルで端正なタッチのイントロから演奏が始まります。曲のフォームとしては12小節のブルース、キーはCメジャーです。1コーラス目でJoe HenいきなりオーギュメントのG#音をロングトーン、エグく飛ばしてます!超ハイテンションでのJoe Henフレーズの洪水状態!Coreaのバッキングも実に活き活きと、テナーの演奏を受けつつ振りつつ、時に付かず離れず仕掛けています!フロントのソロに対してどんなバッキングを行えば演奏が引き立つかを熟知したサポートに徹していて、更にシンコペーションを多用したバッキングのリズムの位置が完璧なので、バンドのビートが活性化されています。4ビートは裏拍が命ですから。2’36″でのバッキングフレーズ、3’41″で演奏したフレーズを3’55″で再度HaynesとPeacockリズム隊全員ユニゾンで仕掛ける辺り、3人顔を見合わせてニヤリとした事でしょう!しかし実はこれ0’59″に端を発しているのです!Haynesのスピード感あるシンバルレガート、バスドラムの絶妙なアクセント、スネアやタムの全く的確なフィルイン、なんというグルーヴ感でしょう!全てが自然発生的、ドラムを叩かず音楽を奏でている真のジャズドラマーです。Peacockの堅実なWalking Bassがバンドの屋台骨になり、他のメンバーに思う存分演奏の自由さを与えています。ベースソロ後ピアノとドラムの1コーラス・バースが何コーラスかトレードされますが、PeacockはHaynesの複雑なドラムソロから、コーラス頭へのリズム提示を躊躇している風を感じますが、Coreaが絶妙なアウフタクトを演奏し確実に呼び込んでおり、他のプレーヤーを誘導できるCoreaのタイム感につくづく素晴らしさを感じてしまいます!ラストテーマ前の同じくシャウトコーラス(2ndリフ)のフレーズが難解なため、今度はHaynesの演奏にリズム提示への躊躇を感じます!

2曲目も「Three Quartets」に追加テイクで収録されているCoreaのオリジナルFolk Song、カッコいい曲ですね!前曲よりもストレートに演奏されています。とは言え先発Coreaの曲想に合致したリズミックなソロ、Joe Henのテナーの王道を行きつつも至る所にトリッキーなJoe Henフレーズを散りばめたスインギーなソロ、それにしても6’33″位から始まるリズミックで変態的なフレーズ、一体この人のフレージングセンスはどうなっているのでしょう?背筋がゾクッとするインパクトです!

3曲目CoreaのオリジナルPsalm、イントロでピアノの弦を弾いてパーカッシヴなサウンドを聴かせつつ、最低音の連打、様々な音色の表現、音量のダイナミクス、壮大なイメージを描いています。本当にこの人はピアノが上手いですね、マエストロ!曲自体はミディアムテンポのマイナーチューン、テーマ後Joe Henの先発ソロが始まります。比較的早い段階でCoreaがバッキングをやめ、Joe Henを放置状態。ピアノのバッキングはコード感、リズムの提示、そして時としてインプロビゼーションの起爆剤になり得ますが、演奏しないのもそれはそれで音楽表現のひとつです。「Go ahead, Joe !」とばかりのCoreaの意図を汲みアグレッシヴに盛り上げています!イントロ部分で饒舌に語った関係かCoreaの本編でのソロは殆ど無く、テナーのフィーチャー曲になりました。

4曲目もCoreaのナンバーQuintet #2、ピアノとテナーのメロディがユニゾンやハーモニー、対旋律に変化していく様が実にCorea的な美しいワルツです。ライブでこれだけのアンサンブルと美の世界を構築するのは並大抵な集中力では実現出来ません!このバンドの底力を感じる演奏です。Peacockのベースソロがリリカルで美しいです。

5曲目はPeacockのナンバーUp, Up and…、Corea自身のライナーノーツによるとこの曲は「Lyricism, Impressionism, Peacockism」とあります。アップテンポのスイングになってからのCoreaとJoe Henのソロは、表現すべき音楽がしっかりと見えている者だけが成しうる次元の演奏です!

6曲目はThelonious Monkの傑作ナンバーTrinkle, Tinkle、本作中白眉の演奏です。ちなみに本ライブの直後11月にHaynes, Miroslav Vitousとレコーディングした「Trio Music」の作品後半がMonk特集、ユニークなMonkナンバーを7曲も演奏していますが、このTrinkle, Tinkleは収録されていません。

いかにもMonkishなピアノのイントロからテーマが始まります。メロディのこのウネウネ感はJoe Henの演奏、フレージングや彼のオリジナルInnner Urgeにも共通したものを感じます。イヤ〜、ここでのJoe Henのソロの物凄さと言ったら!!水を得た魚のようとはこの事、どんなにか長くでも聴いていられる位に没頭してしまいます!ソロを煽る3人のバッキングもスゴイです!テナーソロ終了後に一節吹いたフレーズにも反応してしまうCoreaのソロに替わりますが、Joe Henのソロに華を持たせたのか、意外と短めに切り上げていますがPeacockのソロのバックでCoreaパーカッション的に色々な音を発しています。その後のピアノトリオ3者の絡み具合ってこれは一体何?後は無事にラストテーマを奏で大団円です。

7曲目はもう一つのハイライトCole PorterのナンバーSo In Love、実は冒頭のピアノ・イントロが1分近く編集され短くなって途中からの収録になります。恐らく収録時間の関係でのカット、コンプリートになるテイクが収録されたCDがこちら「Chick Corea Meets Joe Henderson / Trinkle – Tinkle」、曲名も同じ作曲者ですがI’ve Got You Under My Skinとミスクレジットされていて、いかにもBootleg盤らしいです。ですが演奏本編の方は特に編集の跡はなく、Joe Henの史上に残る大名演を聴くことができます!ソロが終わる時の8小節間Haynesが実に長い大きなドラマチックなスネアのフィルインを入れ、次のコーラス頭にアクセントが入り的確にテナーソロを終えさせている辺り、Haynesの音楽性の懐の深さをまざまざと感じてしまいます。「Joeのソロはこのコーラスで終わるようだから、一丁景気よくぶっ飛ばしてやるぜ!デーハなフィルインみんな気に入ってくれるかな〜?」みたいな下町の横丁のオヤジ的考えでしょうか?(謎)

8曲目は前曲So In LoveからHaynesのドラムソロに突入したDrum Interlude、9曲目Slippery When Wetのテーマのリズムを提示してからSlippery ~ 本編に入りますが、ここでもテープ編集が施され短い演奏になっています。編集前の演奏はかなりフリーキーな領域にまで到達していますが、やはり収録時間の関係でしょう、そしてやや冗長感も否めなかったのか、テーマ部分だけが上手い具合にドラムソロ後に加えられた形になっています。ジャズの名演奏にはテープ編集が効果的に用いられている場合がある好例です。Coreaのメンバー紹介のアナウンスがやや遠くから聴こえるのが、大会場でのコンサートを表しています。

2019.03.18 Mon

Eddie “Lockjaw” Big Band / Trane Whistle

今回はテナー奏者Eddie “Lockjaw” Davisのビッグバンド編成による作品「Trane Whistle」を取り上げてみましょう。Recorded in Englewood Cliffs, NJ; September 20, 1960. Recording by Rudy Van Gelder Prestige Label

ts)Eddie ” Lockjaw” Davis tb)Melba Liston, Jimmy Cleveland tp)Clark Terry, Richard Williams, Bob Bryant ts, fl)Jerome Richardson, George Barrow as)Oliver Nelson, Eric Dolphy bs)Bob Ashton p)Richard Wyands b)Wendell Marshall ds)Roy Haynes Arrangement by Oliver Nelson(1, 2, 4 & 5), Ernie Wilkins(on 3 & 6)

1)Trane Whistle 2)Whole Nelson 3)You Are Too Beautiful 4)The Stolen Moment 5)Walk Away 6)Jaws

本Blog少し前で取り上げたホンカー4テナーによる「Very Saxy」にも参加していたEddie “Lockjaw” Davisを、ビッグバンドをバックに存分に吹かせた作品に仕上がっているのが本作「Trane Whistle / Eddie “Lockjaw” Big Band」です。Lockjawは途中別レーベルでもレコーディングしていますが、58年から62年の間に双頭リーダー作を含め合計17作(!)をPrestige Labelからリリースしており、如何に当時人気絶頂のテナー奏者であったかを知る事が出来ます。通常サックス奏者がビッグバンドを従えてフィーチャリングされる場合、ホーンセクションにも参加し、アンサンブルもこなしつつソロを取ることになりますが、本作では別にアンサンブル要員がしっかりと配され、ソロイストに徹しています。そのようなシチュエーションだからでしょうか、多分Lockjaw専用マイクロフォン使用にてレコーディングされたテナーの音が一層くっきりと、音の輪郭、音像、音色のエグさを聴かせています。

ビッグバンド編成ではありますがブラスセクションの人数が若干少なく、本来4人のトランペット・セクションが3人、同じくトロンボーン・セクションは2人です。サックス・セクションが通常の5人編成なのでブラスのリストラには何か狙いがあったのでしょうか、それとも当日単にメンバーが来なかったとか、手配の行き違いでメンバーが足りずともレコーディングを行ったのかも知れません。たとえメンバーを間引いた編成であったにしろ、アレンジャーOliver Nelsonの強いこだわりでサックス・セクションは通常の編成〜アルト×2、テナー×2、バリトン×1で通したのではと思います。総じてブラス・セクションの人員が少ないので多少サウンドの厚みに欠けるのでは、と感じる部分もありますが、Lockjawの演奏がそれを補って余りある迫力を提供しています。

このアルバムはLockjawの演奏にスポットライトを当てた以外に、いくつかの特記すべき事柄があります。まず一つは名アルト奏者Eric Dolphyのアンサンブルへの参加です。リードアルトをアレンジャーOliver Nelson自身が担当しているので、3rdアルトという事になりますが、あの超個性的なサックス奏者の参加にして本作中全くソロがありません(汗)。彼が本当にレコーディングに参加していたのかを裏付ける意味合いか、本作ライナーノーツにEric Dolphy(whose unique bass clarinet sounds can be heard briefly on the closing of The Stolen Moment)とあります。The Stolen Momentラストテーマ後のエンディング部分7’24″以降で低音楽器の音が断続的に聴こえ、これはバスクラリネットのようでもありますがバリトンサックスの可能性も捨てきれない次元の聴こえ方で、どちらかかは判断しかねます。僕はライナー執筆者Joe Goldberg氏の勘違いで、Dolphyは録音当日アルトだけでの参加であったように思いますが、いずれにせよDolphyはソロ時120%自分の個性を発揮、一方こちらで聴かれるようにアンサンブルではあたかもスタジオミュージシャン然と自身の個性を集団に埋没させ、アンサンブルの歯車の一つとして職人芸を発揮する、バランスの取れたプレイヤーという事になります。

Eric Dolphy

Herbie Hancockの自伝「Possibilities」にDolphyについての記述があります。そちらを紐解いてみましょう。

Dolphyは64年Charles Mingus Bandの楽旅に参加中、西ベルリンで持病の糖尿病の発作に見舞われました。通説ではその際に心臓発作を起こし客死した事になっています。死因は心臓発作には違いないのですが、ライブの最中に糖尿病の発作を起こして病院に担ぎ込まれた際、担当医師がドラッグを使用していたと思い込み解毒治療を施し(アメリカの黒人ミュージシャンが演奏中に倒れるなんてドラッグが原因に違いないと高を括ったのでしょう)、適切な処置〜インシュリンの注射をしなかったために容態が悪化、心臓発作に見舞われ36歳の若さで亡くなりました。医療ミスの最たるもので、彼はドラッグなどやっていなかったのです!医師が患者の症状をしっかりと認識し、インシュリン一本注射してさえいればDolphyは存命し、音楽活動を展開し続け、この優れた稀有な才能がジャズ史を変えたかも知れないのです。本当に残念でなりません。

続いて挙げるのは、このThe Stolen MomentがOliver Nelsonの代表作にしてモダンジャズ史上に輝く名盤の一枚、「The Blues and the Abstract Truth」収録曲Stolen Momentsの初演に該当する事です。

遡る事5ヶ月前に本テイクが録音されましたが、独特のムードとハーモニー感、アンサンブルの斬新さを既に聴く事が出来ます。Nelson自身の他、Dolphy, Roy Haynes, George Barrowが引き続き参加しており(Barrowはバリトンサックスに持ち替え) 、当時の音楽仲間だったのでしょう、彼らの他にFreddie Hubbard, Bill Evans, Paul Chambersら豪華メンバーを迎え素晴らしい演奏を繰り広げています。Dolphyこちらの作品では水を得た魚状態で大活躍、先鋭的なソロをたっぷり聴かせています。

本作での演奏はトランペット奏者とLockjawのソロをフィーチャーしており、こちらの演奏はビッグバンド編成なので迫力あるサウンドを聴かせていますが、曲のコンセプトや人選から鑑みると「The Blues and the Abstract Truth」の演奏の方に軍配が上がるように思います。Nelsonここで新曲を実験的に披露し、手応えがあったので自作にも採用したという事でしょう。

もう一つはドラマーRoy Haynesの参加です。Charlie Parker, Bud Powellの昔から60年代以降はStan Getz QuartetやChick Corea Trio等、時代を超えた柔軟な音楽性でシャープなドラミングを聴かせています。本作のようなビッグバンドのフォーマットでも実に的確なサポート演奏でアンサンブルをまとめ上げ、ソロイストを鼓舞しつつ盛り上げるドラミングには、ビッグバンド専門のドラマーでは表現仕切れないジャジーなセンスを感じさせます。

Roy Haynes

ところで皆さんはベーシストBill Crowの著書「Jazz Anecdotes」という本をご存知ですか。

Crowは50年代からNYでStan GetzやGerry Mulliganのバンドのレギュラー・ベーシストとして活躍しました。当時の現役ジャズプレーヤーならではの情報収集力を生かし、様々なジャズメンの逸話を集めて面白おかしく語っています。いずれの話もジャズファンが読めば誰もが頷いてしまう内容から成るエッセイで、日本ではジャズに造詣の深い村上春樹氏が翻訳を手掛けました。そこに収められているLockjawについての話が大変に興味深いので紹介したいと思います。(原文のまま掲載)

Eddie “Lockjaw” Davisがジャズ・プレイヤーになりたいと思ったのは、実用的な目的があってのことだった。<べつに音楽がやりたくて楽器を買ったわけじゃなかった。音楽が好きで、ミュージシャンになりたくて、それで楽器を手にしたというパターンとはちと違うんだ。俺は楽器というものがもたらす効用のほうに興味があった。ミュージシャンを見ていると、奴らはいつも酔っぱらって、ヤクを吸って、女にもてて、朝は遅くまで寝ていた。かっこいいと思ったね。それから俺は、同じミュージシャンでも誰がいちばん目立つのかなあと思って、注意して観察した。いちばん注目を集めるのは、テナー・サックス奏者か、ドラマーか、そのあたりだった。でもドラムは見ていると、組み立てや持ち運びが大変そうだった。だから俺はテナー・サックスで行こうと思ったんだ。これ本当の話だよ>♬

(笑)あまりに本音丸出しの表現です。裏表のない実直な人なのでしょう、きっと。でももしかしたらBill Crowの脚色もあるかも知れません。さらにLockajwは自分でサックスの教則本を手にし、独学でテナーサックスをマスターしたという話を聞いたことがあります。ミドルネームのLockjawは独特なマウスピースの咥え方に由来するそうで、彼独自の音色、他に類を見ないソロのアプローチ、そもそもの楽器への携わり方にユニークさを感じます。これらを踏まえて彼の演奏を聴きこむと、また違った音が聴こえてきそうに思います。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Oliver NelsonのナンバーTrane Whistle、Nelsonの60年5月録音の作品「Taking Care of Business」に収録された曲のビッグバンド・ヴァージョンになります。

ミディアムテンポのブルース、テーマ後Lockjawのソロの冒頭部、気合がかなり入ったのか、テナーの音量入力オーバーで一瞬歪みが生じ、いきなり録音レベルが下げられました。物凄い音色です!めちゃくちゃルーズなアンブシュアなのでしょう、倍音、付帯音が乗りまくりです!マウスピースやリード、楽器も良いもの(当時は当たり前だったのでしょうが)を使っていそうです。その後もホーン・セクションのバックリフが入ると本人エキサイトするのでしょうね、ソロの内容がフリーキーなまでに炸裂、ヒートアップしています!続くNelsonのアルト、Lockjawと比べると音色がツルッとしていてクラシック・サックス風に聴こえてしまいますが、比較対象の問題で、これはこれで素晴らしいジャジーな音色です。この部分がDolphyのソロであったら…と願ってしまうのは無理強いというもの。Nelsonのソロ内容はとても端正でロジカル、教育者、アレンジャー然としたものを感じます。その後のTutti部分ではHaynesのドラムフィルがアンサンブルへの呼び込み感を聴かせています。ラストテーマで聴かれるLockjawのオブリは、音量控えめなサブトーン感がエンディングに向けて効果的です。ところでタイトルのTraneはJohn Coltraneの事で、ライナーによれば彼のディレクションがあったようですが、残念ながら具体的なところまでは分かりません。

2曲目NelsonのオリジナルWhole Nelson、Miles DavisのオリジナルHalf Nelsonのタイトルに肖ったナンバーでしょう。ジャズメンはこういった言葉遊びの類が大好きですから。ソロの先発はRichard Williamsのトランペット、バックリフとのトレードが面白いです。このレコーディング直後に録音された彼のリーダー作「New Horn in Town」は以前よく聴いた覚えがある、隠れた名盤です。

Lockjawのソロに続きますが、この日の彼の絶好調ぶりは誰にも止められません!バックリフにも呼応しつつ独自のフレージングにグロートーンを交え、ホンカーの本領発揮です!続くトランペットソロ、今度はClark Terryの出番です。美しい音色でテクニシャンぶりを聴かせています。

3曲目はRodgers – Hartの名曲You Are Too Beautiful、この曲のアレンジはNelsonからテナー奏者Ernie Wilkinsにバトンタッチ。さあLockjaw on Stageの始まりです!美しいメロディをホーン・セクションをバックにOne and Onlyな節回し、低音域から高音域までサブトーンを自在に駆使して益荒男ぶりをこれでもかと聴かせます。エンディングではテナー最低音のB♭音を見事にサブトーンで響かせていますが、多くを吹いてからのこのロングトーン、実は相当高度なテクニックです!ピアニストとしてはLockjawのソロに的確なバッキングを付けるのは難しいのでしょう、Richard Wyands淡々とコードを繰り出す演奏に徹しています。アレンジの関係か、人員欠如によるものなのか、ブラス・セクションの音の厚みがやや薄く聴こえます。

4曲目The Stolen Moment、前述のようにNelson自身の作品でも取り上げる事になるナンバー、この人は自分の作曲を積極的に他のアルバムでも取り上げる傾向があるようです。ソロ先発はBob Bryant、続くLockjawは珍しくスタンダード・ナンバーSummertimeのメロディを引用、ウネウネ、ウダウダ感が半端ありません!ここでもバックリフの音圧を浴びてハッスルしたLockjaw、ホンカー風に熱くブロウして盛り上がり、Haynesのドラムも呼応してフレッシュなフィルイン・フレーズを繰り出しています。

5曲目NelsonのオリジナルWalk Away、再びミディアムのブルースです。イントロのBryantのピアノソロが良い雰囲気を出しています。深くかかったビブラートが古き良き時代を匂わせるテーマ奏、Dolphyもさぞかしビブラートをかけてアンサンブルを行なっている事でしょう。ここでのLockjawのソロは特に堂々とした豪快さを聴かせ、他のテイクよりも落ち着きを感じさせます。ホーンのアンサンブルとLockjawとのcall & response、面白いやり取りに仕上がっています。

6曲目アルバムラストを飾るのはLockjawアップテンポのオリジナルその名もJaws!こちらもErnie Wilkinsのアレンジになります。トランペットのバトルはTerry, Williams, Bryantの順番に行われています。それにしてもトロンボーンにはMelba Liston, Jimmy Clevelandと行ったソロに長けたプレイヤーが参加しているのに、こちらにもソロは回らず仕舞いです。Haynesのフレーズを受けテナーのソロが始まります。アップテンポでのLockjawはそのドライブ感にターボが掛かり正に独壇場です!更にバックリフによりスーパーチャージャー状態!この曲でもTuttiでLockjaw大暴れ、ラストの締め括りに打って付けの演奏に仕上がりました。

2019.03.09 Sat

McCoy Tyner Quartet

今回はピアニストMcCoy Tyner2006年録音のリーダー作「McCoy Tyner Quartet」を取り上げてみましょう。 07年リリース Half Note Records

p)McCoy Tyner ts)Joe Lovano b)Christian McBride ds)Jeff “Tain” Watts

1)Walk Spirit, Talk Spirit 2)Mellow Minor 3)Sama Layuca 4)Passion Dance 5)Search For Peace 6)Blues On The Corner 7)For All We Know

Recorded Live, December 30- 31, 2006 Yoshi’s, Oakland, California

Produced by Jeff Levenson

豪華かつ豪快な共演メンバーによるライブレコーディング、収録曲7曲中McCoyの代表的なオリジナルを6曲取り上げた、いわば集大成的な作品です。60年にJohn Coltrane Quartetに参加して以来、リーダー作を共同名義を含め70枚以上(!)リリース、内容的にはピアノソロからトリオ、カルテット、クインテット、ラージアンサンブル、オーケストラまであらゆるフォーマットで演奏を繰り広げ、大ヒットした作品を含めその全てが意欲作です。

以前のBlogでも取り上げたColtrane Quartet、60年の海賊盤「Live at The Jazz Gallery 1960」、それまで何人かのピアニストをオーディション的に起用していたColtrane、以降65年頃までの最重要期のレギュラーとなるMcCoyを起用した最初期の演奏に該当しますが、既にColtraneのレギュラーピアニストとしての自覚に満ちた演奏に徹しており、その後Elvin Jones, Jimmy Garrisonたちの参加で完成する不動の、いわゆる黄金のカルテット結成の下地を作り上げていました。

60年代前半に録音したImpulseレーベルの諸作では、Coltraneからの進言、影響、共演から培った、4thインターバルを始めとしたそれまでに聴かれなかったジャズピアノの新たなサウンドを大胆に表現、多大なる影響をジャズシーンに残し多くのフォロワーを生み出しました。67年Coltrane没後、リーダー喪失感から一時混沌としたジャズシーンの牽引役を務めたといっても過言ではありません。

精悍な面構えのジャケット写真を見ると、一時期よりずっと痩身です。McCoyは昔から巨漢のイメージがあるので拍子抜けしてしまいますが、本作で聴かれるように演奏内容の無駄な部分をそぎ落とし、McCoyのエッセンシャルな音楽性をシャープに表現した出来栄えと本人の容貌とが、今回完全にオーヴァーラップしていると感じます。

共演者に触れてみましょう。テナーサックスのJoe Lovano、言ってみればここではColtrane役、極太のオリジナリティ溢れる音色、スポンテニアスかつ変態系アドリブライン、間の取り方、タイトでスインギーなタイム感、歴代のMcCoy Bandのテナー奏者の中で1, 2を争う実力と存在感です。ここで取り上げられているMcCoyのオリジナルが彼の音色と吹き方、イメージにより新たな表情を得たと言えましょう。

ベーシストのChristian McBrideの抜群に1拍の長い、たっぷりとしたOn Topのビート、滑舌の良いラインはかのRay BrownやCharles Mingusを彷彿とさせ更にヴァージョンアップ、コンテンポラリーなテイストを加味させた感のある演奏です。McCoyがレギュラーバンドで起用するベーシストはJuni Booth, Avery Sharpeのようなビートや音色がライトなプレイヤーが多い傾向にあります。もちろんRon Carter, Cecil McBee, Buster Williamsといったストロング系も起用されていますが、レコーディングやフェスティバルといったイベントに限られます。McCoy自体の演奏が左手で低音部を強力に響かせてから右手でペンタトニック系のフレージングで下降する事が多く、左手をより明確に聴かせるためにベーシストに目立って貰ってはマズイのが理由の一つだと感じるのですが、今回のような正反対のタイプのベーシストとの共演で結果、McCoyのピアノ演奏がまた別なテイストを聴かせる事になっていると思います。

一方ドラマーは歴代ストロング系の人選の傾向にあり、Elvin Jones, Al Mouzon, Billy Hart, Billy Cobham, Eric Gravatt, Tony Williams, Jack DeJohnette… 今回のドラマーJeff “Tain” Wattsも名うての強者、Wynton, Branford Marsalisのバンドで世に出ました。個性的ではありましたがどちらかと言えばストレート・アヘッドなタイプのジャズドラマーで、個人的には90年代後半Michael Brecker Bandへの参加で音楽性がぐっと深まり、様々なジャンルのスタイルをバランスよく網羅できるスーパー・マルチ・ドラマーへと変貌したと捉えています。実際Michael Band加入の当初は違和感があり、少しの間バンドサウンドがコーニー(古臭い)になった覚えがあります。本作でも時にElvinを感じさせるアプローチも聴くことができますが、揺るぎのない自己のスタイルでMcCoyの音楽を十二分に表現しています。McBrideとの相性も文句なく素晴らしいです。それにしてもこの二人の腰の据わった感満載にして、スピード感がハンパないビートは一体何なのでしょうか??

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Walk Spirit, Talk SpiritはMcCoyの73年Montreux Jazz Festivalでのライブアルバム「Enlightenment」に収録されています。ここでのテナーサックスはAzar Lawrence、懐かしいですね!本当によく聴きました!

印象的なイントロから始まる佳曲、このイントロを耳にしただけでワクワクしてしまいます!ソロの先発はMcCoy、Lovanoのテーマ奏後しばらくの間があってから始まるのでソロ順はひょっとして決まっていなかったかも知れません。さすがのMcCoyワールドを提示し、Lovanoのソロに続きます。マウスピースのオープニング10★、リード4番と言うオリンピック世界記録保持者並みのハードなセッティングです(爆)!にもかかわらずこの完璧なまでの楽器のコントロールぶり、更に吹奏上大変な負荷がかかるためタイムもキープするのが困難なはずなのにこれまた難なくタイトにスイング!スゴ過ぎです!ソロ導入部はピアノのバッキングがなく、一度クールダウンしてからのスタート、その後のストーリー展開の思惑は見事に功を奏しました!

2曲目Mellow Minor、Michael Breckerを大フィーチャーしたグラミー賞受賞の名盤「Infinity」に収録、マイナー調のスインギーなナンバーです。

個人的には96年のライブ演奏を収録した海賊盤「 McCoy Tyner Quartet Oakland 1996」での演奏もお気に入りです。

Lovanoのメロディ奏、これでもかとばかりに極太感をアピールし、当然Michaelとはまったく違うアプローチを聴かせ、バンドと一体化してBurn Out!途中で珍しく引用フレーズThelonious MonkのNuttyのメロディを吹いています。続くMcBrideのソロ、音圧、エッジ感からおそらくかなり弦高がある楽器だと推測されますが難なくハナ歌感覚で演奏、この人も同様に世界記録保持者クラスでしょう(爆)!McCoyのソロ、ご老公お膳立ては整いました、あとは目一杯スイングしてください、とばかりにLovano助さんMcBride格さんの口上の後に続きます(控えおろう!笑)。その後ドラムと4バースが行われますが、Elvin JonesやJack DeJohnnetteを彷彿とさせる、いやひょっとするとそれ以上かも知れないポリリズムの洪水、Wattsも間違いなくワールドクラス・レコーダーです!

3曲目Sama Layucaは74年の同名作品に収録されています。オリジナルは比較的大編成での演奏ですが哀愁を帯びたメロディはワンホーンでも十分にその真価を発揮しています。

ソロの先発はMcBride、ここでもソロの順番ははっきりとは決まっていなかったようですが、ゆるぎないリズム、正確なピッチ、楽器のコントロール、ベースパターンをモチーフとし順次ストーリーを繰り出す歌心はもはや超人の域です!続くLovanoのソロも何の申し分もありません!McCoyのソロはかなりフリーフォームの領域に突入、助さん格さんが多少控えめにソロを行いご老公のためのスペースを保持していたが故か、ご乱行感がありますね(笑)

4曲目からの3曲は67年録音McCoyの代表作の1枚「The Real McCoy」からのセレクションです。まずはPassion Danceから行ってみましょう!

7thsus4コードのサウンドが印象的なこの曲、Wattsのドラムソロから始まりますが、オリジナル演奏のElvinのソロフレーズを最後に借用してテーマ演奏に入ります。F7thワンコードでのソロはLovanoから開始、アップテンポでのプレイはMcBride〜Wattsの最上級リムジンのドライヴ感、あいにく乗車した経験はなくイメージの世界ですが(>_<)、McBreide, McCoy、とんでもない領域にまで足を踏み入れています!Lovanoのソロが締めに少しあってからラストテーマ、どんなに凄い事になってもレコーディングを意識して曲自体の構成をしっかりと成り立たせて演奏しています。ヘビー級のメンバーによるタッグマッチ、場外乱闘になるギリギリでFineです!

5曲目はSearch For Peace、美しさとコンテンポラリーなテイストを併せ持ったナンバーです。本来はバラードですが2ビートフィールでWattsは初めからスティックで演奏、McBrideも同様のグルーヴで対応していましたが、途中4ビートや6/8拍子のリズム等に変化、リズムのショウケース状態です。事あるごとに述べていますがバラードはバラードで演奏してこその味わいだと思うのですが、Coltraneのテイストが入ると致し方ありません。Coltrane Quartetはテーマ奏のみバラードで、アドリブに入るとすぐにスイングのリズムに変わりますから。Lavanoのメロディ奏はサブトーン気味で、加えて「コーッ」という音の成分が効果的に入っています。これは使用マウスピースFrancois Louisのサウンドの特徴でもあります。

6曲目はブルースナンバーBlues On The Corner、ソロの先発はMcBride、ピチカートによるソロではなくWalkingのライン、こちらもめちゃめちゃスイングしてます!Lovanoもアグレッシヴに攻めています!この位のテンポではヘヴィーなビートが一層冴え渡り、Elvin Jones〜Richard Davisの Heavy Sounds現代版です!McCoyのソロではシャッフルのリズムに!その後再びLovanoが残務処理的にソロを取りラストテーマへとなだれ込みます。グロウトーンを交えながらのテーマ奏はご愛嬌、ホンカーを一瞬思わせました。

7曲目ラストを飾るのはMcCoyのソロピアノによるFor All We Know、94年録音のアルバム「 Prelude And Sonata」に収録されています。エピローグとしてうってつけのナンバー、そして演奏に仕上がったと思います。

2019.03.05 Tue

John Patittuci / John Patitucci

今回はベーシストJohn Patitucciの87年リリース、初リーダー作「John Patitucci」を取り上げてみましょう。GRP Label

b)John Patitucci ts)Michael Brecker p)Chick Corea synth)John Beasley synth)David Whitham ds)Dave Weckl ds)Vinnie Colaiuta ds)Peter Erskine vo)Rick Riso

1)Growing 2)Wind Sprint 3)Searching, Finding 4)Bajo Bajo 5)Change of Season 6)Our Family 7)Peace and Quiet Time 8)Crestline 9)Zaragoza 10)Then & Now 11)Killeen 12)The View

ジャケット写真の表面にはエレクトリック・ベースを、裏面ではアコースティック・ベースを携えたレイアウトが印象的です。ジャズベース奏者でエレクトリック、アコースティック両方を演奏するプレイヤーは少なくないですが、Patitucciのように両者のレベルが拮抗するプレイヤーはほんの一握り、文字通り両刀使いの先駆者にして現在も最先端のベース奏者です。しかも6弦という多弦エレクトリックベースを自在に操り、正確なタイム、グルーヴで超絶技巧のフレージングを繰り出すスタイルはギタリストの演奏を超えるほどのインパクトを与えます。ギターよりもずっと音が太いですからね。本作での登場はありませんでしたが、Akoustic Bandで聴かれるようなアップテンポでのアコースティックベースのスイング感の巧みさは他の追従を許しませんし、9曲目で聴かれるようにアルコソロも絶品です。05年Herbie HancockのDirections in Music来日コンサート時に楽屋を訪ね、Michael Breckerの紹介でPatitucciと話をしたことがありますが、明るく快活でフレンドリー、人を思いやる話しぶり、スマートさにはなるほどと、ファーストコール・ミュージシャンのオーラを感じました。

59年NY Brooklyn生まれ、10歳でエレクトリック、15歳でアコースティック・ベースを始め、早くからスタジオ・ミュージシャンとして活躍していました。85年Chick CoreaのElektric Band、89年Akoustic Bandと両方に参加し、Coreaの寵愛を受けその才能を開花させ、プレイヤーとして急成長を遂げました。Elektric, Akoustic Bandの間87年にCoreaの全面的サポートで本作品をGRPレーベルでレコーディング、収録12曲中10曲が自身の作品、1曲がCoreaとの共作になり、そのいずれもが佳曲です。参加メンバーもCoreaをはじめとして以降も度々共演を重ねることになるMichael Brecker、そしてDave Weckl, Vinnie Colaiuta, Peter Erskineという素晴らしい3人のドラマーが参加したドラム祭りでもあり(笑)、曲によって異なった色合いを出して作品のクオリティ向上に貢献しています。

Patitucciは現在までに14枚のリーダー作をリリース、いずれもが高いクオリティの作品で音楽性の幅の広さ、様々なジャンルを巧みに演奏する懐の深さ、作品を重ねるごとに深まる表現の度合い、常に進化を遂げているミュージシャンですが、本作でのフレッシュさはまた格別に心に響きます。初リーダー作は演奏家の原点と言えますが、ここではコンポーズ、サウンド作りとそのアイデア、ベース・ソロプレイとバランスの良さを提示、以降一貫したテイストを聴かせることになります。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Growing、グルーヴが気持ち良いファンクナンバー、オーヴァーダビングによるベースのメロディが印象的ですが途中からRick Risoのフェイザーが掛かったヴォーカルが加わり、キャッチーでダンサブルな雰囲気を醸し出すことに成功しています。Patitucciのソロを大フィーチャーしたナンバーですが、それにしても上手いですね、この人!フレージングはギタリストを研究した節が窺われますが、むしろサックス奏者からの影響が顕著です。随所に聴かれるシンセサイザーが効果的に曲想をバックアップしています。

2曲目はよりテンポアップしたファンクナンバーWind Sprint、イケイケのドラムフィル、ド派手なスラップベース、これでもかと互いに呼応しつつバトルするベースとテナー、リズムセクションとのインタープレイ、入魂の演奏から我々はこういったタイプの楽曲を「ど根性フュージョン」と呼びました(笑)。ジャズ史上Michaelのテナーにバトルを挑んだベース奏者はこの人くらいかもしれません(爆)、憧れのサックス奏者との共演にそれまで描いていた夢を実現すべくバトルを提案したのでしょう、実に功を奏しています!ちょっと気になるのはテナーの録音、音像がやや引っ込み気味な点です。反してベースの音像はクリアーに聴こえます。Michaelのただでさえ凄まじいソロ、ベースと同じ定位ではバトルというシチュエーション上勝敗が確定してしまう(?)のを避けるために敢えて行われたのかも知れません。

91年出版された楽譜集「The New Real Book Volume Two」に、この曲の譜面が掲載されています。当時バンド仲間で嬉々として共有し「ど根性」の演奏を繰り広げた記憶があります(笑)

エンディングはDave Wecklの壮絶なドラムソロが聴かれますが、当時のドラムキッズ達の憧れのフレーズ満載の演奏です!みんなこぞってコピーしましたね!聴き覚えのあるフレーズのオンパレードですから(笑)

Dave Weckl

3曲目はへヴィーなダウンビートのスイング・ナンバーSearching, Finding、モーダル〜Coltrane Likeな曲想なのでColtraneが生涯追い続けた探求、発見という事でしょうか、Patitucci自身の音楽観にもオーヴァーラップさせているのでしょう。ドラマーがPeter Erskineに替わりますが、本作中ジャズ系のナンバーでは彼が起用され、フュージョン系はWeckl, Colaiutaと役割分担がなされています。曲中のベースラインはシンセベースでも演奏されているようで、リーダーはソロイストとしての参加、ギタリストのようにメロディをMichaelと演奏、さらにカッティング?やフィルインを入れ捲っています!Erskineのシンバルレガート、フィルイン、グルーヴ、どれも何て的確なんでしょう、あまりにもハマり捲りです!ソロの先発Michael、気持ちが入っています!2’15″あたりの、ぐ〜っと後ろに引っ張ったフレーズのレイドバックにその入魂ぶりが現れています!本物のテナー奏者は演奏に入れ込めば入れ込むほどタイムをタメるものなのです。Michaelの最後のフレーズを受け継いで続くPatitucciのソロもBurning!その後のCoreaのソロは超人的なタイム感を駆使した演奏、ピアノの音色が実にキラキラして音の粒だちが尋常ではありません!さりげにオルガン系音色のシンセサイザーのバッキングがオイシイです。この曲でもエンディングでドラムが大暴れ、Coreaも呼応してユニークなバッキングフレーズを連発、さぞかし演奏終了後メンバー同士で盛り上がったことでしょう。オーヴァーダビング無しでの演奏、かつTake OneでOKだったに違いありません。

Peter Erskine

4曲目はPatitucciとCoreaの共作によるBaja Bajo、共作とはいえ曲想としてはCoreaの方のテイストが強いのは致し方ないかも知れません。速いテンポのラテン〜サンバ、ドラマーはColaiutaに替わります。Wecklと比べるとColaiutaの方がビートがずっしりとしていて音符が長いように感じます。でもこれはどちらが良いという優劣ではなく、表現の仕方の個性の違いです。さらにWecklの方はフィルインやソロでしっかりとフレーズを叩いているので形が比較的明確ですが、Colaiutaはその都度のイマジネーションでドラミングしておりスポンテニアス、良い意味で不定形な表現スタイルです。Philly Joe JonesとRoy Haynesの違いと言うと分かり易いでしょうか、厳密なものでは無くあくまで雰囲気的にですが。Colaiutaはこの演奏中オーヴァーダビングでパーカションも演奏しています。ピアノとシンセサイザーによるテーマ演奏はシャープかつリズミック、とってもカッコ良いです!ソロの先発Corea、期待に違わぬハイパーな演奏でColaiutaもここぞとばかりに煽っています。CoreaとColaiutaの相性は抜群だと思うのですが、Coreaがリーダーでの共演は何故か92年Blue Note TokyoでのChick Corea Trio(ベースはPatitucci)ライブ等、ごく一時期限定に留まりました。Patitucciのソロも実に巧みですがCoreaのバッキングも全く聴き逃せません!Coreaの傑作「Friends」でのJoe Farrellのソロ時のバッキングにも匹敵〜主役を食ってしまうほどインパクトのあるバッキング!ラストテーマ〜エンディングはまさにCoreaサウンドのオンパレード、パーカッションもイケてます!

Vinnie Colaiuta

5曲目はChange of Season、ドラマーは再びColaiuta、ピアノがテーマを演奏しますがCoreaではなくここではDave Whitham、プロデュサーにしてマエストロCoreaの前で演奏するのはやり辛かったと思います(汗)、Whithamのピアノも素晴らしいですが、Coreaと比較するとどうでしょう、タイムの安定感や音色、フレージングにややぬるさを感じるのは仕方がないのかも知れません。ここでのベースソロはイってます!ColaiutaとJohn Beasleyのシンセベースのサポートと共に、リズムを細分化して微積分した(爆)ような緻密な演奏です!

6曲目Our FamilyはPatitucciとCoreaのDuo演奏、Coreaは全編Synclavierでパーカッションを担当しPatitucciが縦横無尽に6弦エレクトリックベースを演奏しています。よく聴くとCoreaは遊び心満載、巧みにラテンのリズムを繰り出しており、二人の楽しげな雰囲気が伝わってくる対話に仕上がっています。

7曲目はバラードPeace & Quiet Time、Michaelがここぞとばかりに歌い上げます。ドラマーはErskine、2, 4拍に入るスネアやシンバルのアクセントがオイシイところに入ります!Patitucci〜Michaelとソロが続きますが、やはりテナーの音像が引っ込み気味なのが気になります.

8曲目Crestline、Colaiutaのドラムが水を得た魚状態、適材適所です!Coreaのソロはどうしてこんなにも毎回イマジネーションに富んでいるのでしょう!素晴らし過ぎです!Colaiutaとのコンビネーションもバッチリでタイムの捉え方がまるで一卵性双生児のようです!Patitucciのソロ、ピアニシモからメンバー一丸となってジワジワと、ウネウネと、遠くから津波が押し寄せる如く、これでもかと盛り上がります!それにしても丁度良いところで次のセクションに行くものですね。

9曲目Zaragoza、この曲のみCoreaのナンバーです。Beasleyのリズミックなシンセサイザーのイントロが印象的です。アコースティックベースのアルコでのメロディ奏、ピチカートでの超絶ソロが聴きモノです!適度な小部屋内で録音された感が美しいベースの音色も、とても魅力的です。Patitucciの全編フィーチャー、作曲者自身のソロはありません。

10曲目Then & Now、Michaelのオンステージになりますが、彼のフィーチャーを想定して書かれたかのような、Michaelにまさにうってつけのナンバーです。この人のソロは実に様々な技や高度な音楽理論を駆使して行われていますが、淀みなくしっかりとウタ、ストーリーに仕上がっている点が驚異的、ジャズ的なテイストのフレージングもスパイス的に散りばめられ、そのバランス感にいつも感心させられます。

11曲目KilleenはPatitucci, Corea, Erskineのトリオによる演奏、本作中最もジャズテイストを感じさせるワルツナンバーです。アコースティックベースで初めにトリオ演奏を録音、その後エレクトリックベースによるテーマをオーヴァーダビング〜ソロプレイ、Coreaのソロの後にエレクトリックで再びソロを取っていますが、後ろでアコースティックが聴こえつつ、ここでは3者のインタープレイが行われているのでこの部分は初めにエレクトリックでソロを収録し、その後アコースティックをオーヴァーダビングしたと考えるべきでしょう。録音技術を駆使しつつアコースティックなジャズサウンドを自然に表現しています。

12曲目ラストを飾るのはThe View、アルゼンチンタンゴをイメージさせるリズムの上でBeasleyがシンセサイザーでソロを取り、ひとしきりあった後Patitucciのソロ、ラストもBeasleyのシンセサイザーでFineとなります。

2019.02.20 Wed

Very Saxy / Eddie “Lockjaw” Davis, Buddy Tate, Coleman Hawkins and Arnett Cobb

今回はテナーサックス奏者4人Eddie “Lockjaw” Davis, Buddy Tate, Coleman Hawkins, Arnett Cobbによる作品「Very Saxy」を取り上げて見ましょう。

Recorded April 29, 1959 Van Gelder Studio, Hackensack Prestige Label

ts)Eddie “Lockjaw” Davis ts)Buddy Tate ts)Coleman Hawkins ts)Arnett Cobb org)Shirley Scott b)George Duvivier ds)Arthur Edgehill

1)Very Saxy 2)Lester Leaps In 3)Fourmost 4)Foot Pattin’ 5)Light And Lovely

Prestigeよくぞこんなにエグいアルバムを制作しました!(笑) いわゆるホンカースタイルのテナーサックス奏者4人をフロントに、彼らにうってつけのバッキング、サウンドを提供するオルガントリオを伴奏者に配し、ジャムセッション形式で思う存分ブロウさせる企画。プロデュースしたPrestigeのEsmond Edwardsに拍手を送りたいと思います。ホンカーテナー同士2人でのバトル作はかなりの数存在しますが、今回はよりにもよってその倍の4人!しかしホンカースタイルのテナー奏者は1人だけでも存在感が強く、しかもその演奏表現を聴衆に強いてアピールする傾向があります。実はホンカー好きにはそれが堪らないのですが、4人となると個性のぶつかり合いが単に4倍という訳には行かず、相乗効果でかなりの倍数になります!実際何倍増になるのかを本作未聴の方はお聴きになり、是非とも確認してください。ただ演奏の充実ぶりからこの作品を鑑賞する時には、体調を万全に整えて臨まなければなりません(笑)。演奏内容のあまりの濃さ、脂っぽさに胃もたれしないように胃腸薬のご用意もお忘れなく(爆)。Very Saxyとは言い得て妙、テナーサックス・バトルの醍醐味を心ゆくまで堪能できる仕上がりになっています。

ホンカーの特徴として人種的にはまず黒人に限定されます。白人や黄色人種では成し得ない黒人独自の音色はその筋肉組織自体がサックスを豊かに鳴らす、ジャズの音をさせると言われています。極太のダークな音色でファットリップのルーズなアンブシュア、付帯音豊富なサブトーンを駆使しグロウトーンやフラジオ音、時にはフリークトーンも交えながら演奏を必ずや、いや絶対に盛り上げます!渋さだけで盛り上がらない演奏のホンカーはあり得ません!Texas州出身のTexasスタイルのテナー吹きであれば尚よろしいです(笑)。フレージング的にはCharlie Pakerからの影響〜Be-Bopのテイストは殆ど感じられず(Sonny Stittをホンカーと呼ぶならば別ですが)、ペンタトニックを中心とした音使いで各人のオリジナリティをふんだんに交えつつ(全員実にフレージングが個性的です!)、ステージングとしては体をくねらせながらの派手な動き、感極まった場合にはステージ上サックスを吹きながら走り回るパフォーマンスや、テナーを手に持ち大きく振り回したり、客席にテナーを投げ入れる素振りをしたり、サックスを咥えたまま仰向けになって吹き続けると言った「見せる」行為にスイッチします。聴衆はそのエキサイト感に挑発されアプラウズの連続、興奮の坩堝状態、ホンカーを享受しまくりです!

シャープス&フラッツのリーダー原信夫氏は大のホンカー好き、以前のBlogでも触れましたが彼のフェイヴァリット・テナー奏者はBen Websterを筆頭にGene Ammons, Illinois Jacquet, Buddy Tate, Arnett Cobb, Stanley Turrentine…当時よく参考音源として、これらのテナー奏者の演奏をカセットにダビングしたものを戴きました。自分のバンドの演奏に対して大変な拘りのある原さん、あたかも大企業原信夫エンタープライズの総帥として、自社の社員一人一人に対しての指導、教育が微に入り細に入り、実に的確です!彼は大会社の経営者、社長を務めたとしても成功した人だと思います。入社(笑)した僕にバンドのソロイストとしてホンカー役を任せたかったようで、演奏最中によく隣で僕のソロについてその都度感想や批評を述べていました。時には移動中の新幹線車内で、空いている隣の席にいつの間にか座っていて「この間のコンサートのあの曲のあそこの部分の事だけどさ…」とダメ出しを何度もされました(汗)。「さあ、たっちゃん、今日こそはステージに寝っ転がって思いっきりブロウしてみようか!」と僕のフィーチャリング・ナンバーで、ステージ最前に出る直前に何度かリクエストされた事がありましたが、その頃は今ひとつ踏ん切りがつかず結局一度もステージでホンカーの極み芸である寝そべり演奏をしませんでした。今なら躊躇なく出来そうです(笑)。

そういえばシャープスの芸術鑑賞の仕事で長野県に赴いた時のことです。いつものようにフィーチャリングのナンバーでカデンツァの演奏時、「せっかくのフィーチャリングなので何かご当地にちなんだフレーズを演奏したい」と考え、飯田市なのでI Can’t Get Started 〜言い出し(飯田市)かねての冒頭のメロディを一節吹きました。芸術鑑賞の学生たちには分からずとも、バンドのメンバーには結構ウケました。ですが原さんには「ふざけるな!」とばかりにかなり絞られました(爆)。原さんもジョークやダジャレはお好きな筈なのですが、唐突な節わましだったのかも知れません。

本作のテナー奏者たちを紹介して行きましょう。22年生まれEddie “Lockjaw” Davis、当時Prestigeから数多くリーダー作をリリースしており、彼が窓口になってホンカーを集め、リズムセクションの人選をしたように思います。彼のPrestigeでの代表作Cook Bookシリーズから「The Eddie “Lockjaw” Davis Cook Book Vol.1」、本作とリズムセクションが全く同じで、メンバーにもう一人Jerome Richardsonがフルートとテナーで参加しています。

とってもワルそうな面構えのテナー吹きが写ったジャケット、ホンカーは基本的こうでなければいけません(笑)。それにしてもこの人の吹くアドリブ・ラインは超独特、Benny Golson, Wayne Shorter, Joe Henderson, Sam Riversたち同じくウネウネ系とはまた異なり、音楽理論を超越したところで成り立っているように聴こえますが、実は僕大好きなんです!スピード感、音色と滑舌が素晴らしいですからね。使用マウスピースはOtto Link Metal(多分Double Ring)10☆、リードはLa Voz Med. Hard、豪快さんのセッティング、本作でも他の3人とは楽器の鳴り方が違っており、タンギングの切れ味も鋭いです。

Coleman Hawkinsは04年生まれでこのメンバーの中で最年長、レコーディング当時54歳です。使用マウスピースはBerg Larsen Metal 115 / 2、かつてOtto Link社に自身のモデルHawkins Specialを作らせ、ラインナップに載って一般に販売していましたが、晩年は何故か使用していませんでした。39年に以降の評価を決定づける名演奏「Body and Soul」を録音し、ジャズテナーの第一人者、開祖として君臨します。代表作は58年「The High And Mighty Hawk」

Buddy Tateは13年Texas生まれ、Count Basie, Benny Goodman楽団に在籍したいわゆるTexasテナーの代表格の一人です。「When I’m Blue」をご紹介しておきます。

Arnett Cobbは18年同じくTexas生まれ、束縛のない自由な演奏スタイルから”Wild Man of the Tenor Sax”との異名があります。Illinois Jacquetの後釜でLionel Hampton楽団に入り、その名を轟かせました。比較的晩年の作品ではありますが78年「Arnett Cobb Is Back」は70年代病に侵されながらも奇跡の復活を遂げ、松葉杖をつきながら楽器を構えるジャケット写真がインパクトのある作品。こんなジャケ写見たことありませんよね?松葉杖により足は宙に浮いていますが演奏自体はしっかりと地に根差しており(笑)、スインギーな素晴らしい演奏です。

役者も出揃いました。それでは演奏内容について触れて行きましょう。

1曲目はその名もVery Saxy、スタンダード・ナンバーSweet Georgia Brownのコード進行を基にしたLockjawとベーシストGeorge Duvivierの共作によるナンバーです。シンコペーションを多用したオルガンによるイントロが、早速ムードを高めています。テナー4管による重厚なアンサンブル、やはりエグい音色のプレイヤーが集まれば迫力が違います!メロディの語尾のビブラートに各々のアジが出ています。メロディの間に入るリズムセクションによるリフ、毎回入るはずが0’31″でオルガンが出忘れ、バスドラとベースが心なしか寂しく響いており、ラフな雰囲気のセッションを既に暗示しています。

ソロの先発はCobb、グロートーンを全面に出しいきなりホンカー全開です!フラジオG音の多用がホンカーの特徴の一つでもありますが、ここでも例外なく行われ、否が応でも盛り上がります!2番手はTate、スクリーミングしつつシャウトするソロでこちらも正統派ホンカーを聴かせます。この後にオルガンのソロになるのですが、「あら、私の出番?次のテナーの人じゃないの?」といった風情で、一瞬弾いて様子を伺っています。自分の番と分かるとすぐに全開モード、原曲Sweet Georgia Brownのメロディも引用しつつ、さすがホンカー御用達のオルガン奏者、グリッサンドやブロックコードの多用でホンカー顔負けにガンガン盛り上がっています!その後御大Hawkinsの登場、この人の淡々とした語り口は厳密にはホンカーのアプローチではないかも知れませんが、テナー4人衆のまとめ役になっていると思います。続くLockjawのソロはこれぞまさしくホンカー、凄い存在感です!音色、フレージング、粘るリズム、聴き応え抜群です。その後ラストテーマに突入、初めのテーマでオルガンが出忘れた?7’59″のリフ、ここでも弾かれていないのは再度出忘れたのか、わざと演奏しない事でそういうアレンジだと正当化させるための手段か、興味深いところです。

2曲目はLester YoungのLester Leaps In、テナーバトルではよく取り上げられる定番のナンバーで、各々のソロの1コーラス目にブレイクタイムが設けられ、メリハリある構成になっています。先発Lockjaw, Cobb, Tate, Hawkinsとソロが続き、その後同じオーダーで4小節交換がなされます。互いのアイデアを踏襲しつつ、Lockjawが倍の長さ8小節吹いたりと彼が起爆剤になり、熱いトレードが行われています。

Lester Young

3曲目はShirley Scottのブルース・ナンバーFourmost、イントロでLockjaw, Tate, Hawkins, Cobbと顔見せが行われこの順番でソロが行われます。比較的コンパクトに演奏に収めていますが、Hawkinsが若者たちに影響を受けたのかホンカーの萌芽を感じるプレイをしています。本作中Cobbのソロで掛け声が何度か掛かりますが、多分Lockjawでしょう。テナーの4小節トレードが行われますが本テイクでもLockjawが盛り上げ役を務めています。途中でフェイドアウトになるのが残念ですが全曲演奏が濃すぎるので多少は間引かないとマズイと言うプロデューサーの判断でしょうか?ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目はDuvivierのオリジナル、ハッピーな雰囲気のシャッフル・ナンバーFoot Pattin’、ソロはScottから始まります。Lockjaw, Cobb, Tate, Hawkinsとソロが続きますが、ホンカーの演奏にはシャッフルリズムがよく似合い、各人リラックスした素晴らしいソロを聴かせます。

本作ラストを飾るのはLockjawとDuvivierの共作Light And Lively、1曲目と同じ構成でCobb, Tate, Scott, Hawkins, Lockjawとソロが行われます。本作はSide Aにテンポの速い熱いナンバーを配し、Side Bにはミディアム・テンポのリラックしたナンバーを持ってきています。全テイクでテンポが遅くなる傾向があるのはホンカーの特徴であるレイドバック、4人も揃えばリズムセクションは引っ張られても致し方ないでしょう。

2019.02.08 Fri

Bob Brookmeyer and Friends / Bob Brookmeyer

今回はトロンボーン奏者Bob Brookmeyer1964年録音のリーダー作「Bob Brookmeyer and Friends」を取り上げてみましょう。

64年5月25~27日 30th Street Studio, NYC録音 同年リリース Columbia Label Produced by Teo Macero

tb)Bob Brookmeyer ts)Stan Getz vib)Gary Burton p)Herbie Hancock b)Ron Carter ds)Elvin Jones

1)Jive Hoot 2)Misty 3)The Wrinkle 4)Bracket 5)Skylark 6)Sometime Ago 7)I’ve Grown Accustomed to Her Face 8)Who Cares

素晴らしいメンバーよる絶妙なコンビネーション、インタープレイ、インプロヴィゼーション、珠玉の名曲を取り上げたモダンジャズを代表する名盤の一枚です。Bob Brookmeyer名義のアルバムですがStan Getzとの双頭リーダー作と言って過言ではありません。 BrookmeyerとGetzはこれまでにも何枚か共演作をリリースしており、代表的なところでは「Recorded Fall 1961」Verve labelが挙げられます。知的でクールなラインをホットに演奏する二人、Brookmeyerの方は作編曲に長けており、それらを行わなかったGetzですが良いコンビネーションをキープしていました。Getzは膨大な量のレコーディングを残していますが、実は自己のオリジナルやアレンジが殆どありません。優れたヴォーカリストが歌唱のみ行い、演奏の題材はピアニストやアレンジャーに委ねるのと同じやり方で、Getzほどのサックス演奏が出来ればまさしくヴォーカリストと同じ立ち位置で演奏する事が出来たのです。ほかにテナー奏者ではStanley Turrentineが同じスタンスで音楽活動を行なっており、大ヒットナンバーSugarが例外的に存在しますがあれ程の存在感ある音色、ニュアンスでサックスを吹ければ作編曲をせずとも名手として君臨するのです。

Brookmeyerがバルブトロンボーンを用いて演奏するのは有名な話です。ジャズ界殆どのトロンボーン奏者がスライド式のトロンボーンを使っているので彼一人異彩を放っていますが、かつてトロンボーンの名手J. J. Johnsonはそのテクニックに裏付けされた高速フレージングから、わざわざアルバムジャケットに「バルブトロンボーンに非ず」との注記まで付けられたほどで、スライド式の方が動きが大きいためコントロール、ピッチ等、楽器としての難易度が高いのですが、トロンボーンならではのスイートさや味わいを表現する事が出来、それが魅力でもあります。難易度を排除した分バルブ式の方がよりテクニカルな演奏が可能という事なのですが、Brookmeyerは決してテクニカルな演奏をせず朗々と語るタイプで、彼の演奏からはいわゆるトロンボーンらしさが薄れて端正さが表現されており低音域のトランペット、フリューゲルホルンの様相を呈しています。若い頃にピアノ奏者としても活動していたので、トロンボーンの音程や操作性にある程度のタイトさ、カッチリしたものを求めていたがためのバルブ式の選択でしょうか?真意のほどを知りたいところです。

リズムセクションのメンバーについて触れてみましょう。Herbie Hancockは言わずと知れたMiles Davis Quintetのメンバー、このレコーディングの前年63年に入団しました。すでに3枚のリーダー作をBlue Noteからリリース、4作目になる名作「Empyrean Isles」を録音する直前でした。この頃から既に素晴らしいピアノプレイを聴かせていて端々にオリジナリティを感じさせますが、未だ確固たるスタイルを確立するには至っていません。ブラインドフォールド・テストでこの頃のHerbieのソロを聴かされたら逆に、「Herbieに影響を受けた若手ピアニストの演奏か?」と判断してしまうかも知れません(笑)

Ron CarterもMilesバンドに在団中で、前任者の名手Paul Chambersのある意味音楽的進化形として、Milesの音楽を推進させるべくリズムの要となり演奏しました。更にそのステディな演奏を評価され当時から数々のセッションやサイドマンとしても大活躍でした。

Elvin JonesはJohn Coltrane Quartetのドラマーとしてリーダーから絶対の信頼を受け、やはりColtraneの音楽を支える屋台骨として素晴らしい演奏を繰り広げました。個人的にはColtraneの音楽はElvinが存在したからこそ成り立ったと思います。Getzとは本作録音の直前、5月5, 6日に共演を果たしています。「Stan Getz & Bill Evans」Verve label ベーシストにRon Carterも参加、本作の前哨戦と言える充実したセッションです。

Gary Burtonはこの時若干21歳!新進気鋭の若手としてGeorge Shearingのバンドを皮切りに丁度Getzのバンドに加入した頃です。ヴィブラフォンという楽器のパイオニアとして数多くのリーダー作を発表しました。その彼も昨年引退宣言を発表し、現役から退いたことは耳新しいです。Brookmeyerとは62年9月Burtonの2作目にあたる(録音時19歳です!)「Who Is Gary Burton? 」で共演していますが、既に素晴らしい演奏を聴かせています。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目BrookmeyerのオリジナルJive Hoot、Elvinのハイハットプレイから始まり、ヴィブラフォンによるイントロが印象的、トロンボーンとテナーによるテーマのアンサンブル、効果的なブレークタイム、ダイナミクスの絶妙さ、各楽器の役割分担、曲の構成も凝っていてオープニングに相応しい明るく軽快なナンバーです。Getzも自分のカルテットのライブでよく演奏していました。「Stan Getz & Guests Live at Newport 1964」にも収録されています。

トロンボーン、テナー、ヴィブラフォン、ピアノとコンパクトな長さながら聴きごたえあるソロが続きますがピアノソロの途中のブレーク、勢い余ったHerbieのソロでタイムがラッシュし少しだけ音符が詰り、ブレークの着地点が一瞬ずれたのをベース、ドラムとも絶妙に「お〜っと!」とばかりに受け止め、リカバーしました。Herbie自身も瞬時様子見をしつつ、何事もなかったように復帰しています。

2曲目はお馴染みErroll GarnerのMisty、ピアノのイントロ後Getzのテーマ奏ですが何でしょう、この素晴らしいサブトーンの音色は!めちゃめちゃピアニシモで吹いていて管の中を空気が通り抜ける音さえも聴こえる音色、Getzは本当にバラード奏法が上手いと今更ながらの再認識です。そしてGetzのサブトーンとElvinのブラシの音色がとても良く似ていて区別がつきません!ピアニシモで吹いてビブラートがかかると更に類似度アップです!

通常この曲はEフラットで演奏されますがここでは全音低いDフラットに移調されています。その分オリジナルキーよりも低く重厚に聴こえますが、むしろこのキー自体の特徴かも知れません。Body & SoulやStardustもDフラットで曲のムードが確立しているからです。テナーとトロンボーン二人のフィーチャリングでした。

3曲目はBrookmeyerのオリジナルThe Wrinkle、ベースのパターンというか裏メロディ的なパターンが印象的、テーマでのシャッフルっぽいリズムでのElvinのドラミングが冴えています。ブレークタイムを効果的に生かした構成は演奏を活性化させています。Burton, Getz, Herbie, Brookmeyerと淀みなくスインギーなソロが続きますがElvinとCarter、シャープでいながら強力タップリとしたシンバルレガートと、On Topベースのスイングビートのコンビネーションの良さが光ります。短いながらもしっかりと主張のある独特のElvinのソロを挟んでラストテーマです。

4曲目もBrookmeyerのオリジナルBracket、前曲よりもいささかテンポの速いスイングナンバー、Carterのベースラインが実にスインギーです!Brookmeyer~Getzとソロが続き、Getzのフレーズを巧みに受け継ぎHerbieのソロに繋がります。ソロイストの強力なアドリブラインに敢えて殆ど何もせずリズムを繰り出すElvinとCarter、ヒップなプレイです!でもよく聴くとシンバルレガート時にスティックの先端チップが様々な当たり方をするのか、させているのか、色々な音色が聴こえます。その後Elvinとの4バース、2nd Riffも交えつつエンディングに向かいます。Elvinのソロ、目新しいフレーズは聴かれないのですがいつもフレッシュな感覚に満ちていて常に音楽的なのです。

5曲目、今度はHoagy CarmichaelのナンバーからSkylark、ここでもメロディ奏の先発はGetz、サビをBrookmeyerが担当、Getzがオブリを入れています。その後のAメロはBurtonが主導しつつGetzのオブリを活かそうとしてメロディを演奏しているように聴こえます。その後ソロはダブルタイムフィールでBrookmeyer~Getzと続きます。Coltrane Quartetのバラード演奏はアドリブに入ると必ずダブルタイムフィールになりますが、ひょっとしたらここでもElvinが率先していたのかもしれません。この曲もフロント二人のフィーチャリングとなりました。

6曲目はワルツナンバーSometime Ago、ここでのElvin、Carterは積極的に攻めています!フロント二人でメロディをハーモニーを交えつつ同時に演奏したり、同時にソロを取ったりとクインテットならではの醍醐味を聞かせていますが、リズム隊が先かフロントが先か、相乗効果で熱い演奏に仕上がっています。

7曲目は再びバラードで映画My Fair LadyからのナンバーI’ve Grown Accustomed to Her Face、このメンバーでのバラード奏だったら何曲でも聴いていたいです!Brookmeyerが初めにメロディを演奏しGetzはオブリ担当、ここでもGetzのサブトーンがElvinのブラシと区別がつき辛い瞬間が多々あります。Getzのソロ後フロント二人の演奏が同時進行し、シンコペーションのフレーズを合わせたり、またHerbieがバッキングで面白いサウンドを出したりと聴きどころ満載です。Wes Montgomery 62年月録音「 Full House」収録の同曲、ギターソロで演奏されていますがこちらも素晴らしい出来栄えです。この当時流行っていた曲なのかも知れませんね、多くのジャズメンに愛奏されていました。

8曲目レコードの最後を飾るのはGershwinのナンバーからWho Cares、トロンボーンのメロディからイントロ無しで始まります。ソロの先発はGetz、Elvinお得意の三連譜が多発されたドラミングにGetzもインスパイアされブロウしていますが、相乗効果でここでのリズムセクション実に盛り上がっています!特にElvinは63年のヨーロッパツアーでのColtrane Quartetの演奏を彷彿とさせる、アグレッシヴかつ繊細なドラミングを聴かせています。

本作は収録曲のいずれもがコンパクトなサイズの中にも様々なストーリーが込められているバランスの取れた演奏です。プロデューサーTeo Maceroの采配が光る作品に仕上がっていると思います。

2019.02.01 Fri

Randy Waldman / UnReel

今回はピアニスト、アレンジャー、作曲家のRandy Waldmanの2001年発表リーダー作「UnReel」を取り上げてみましょう。Concord Label

アメリカを代表するアニメ、映画音楽の主題曲を題材に取り上げ、これまたアメリカ音楽シーンを代表するジャズミュージシャン、ジャズ系スタジオミュージシャンを一堂に集め、リーダー自身の華麗なるアレンジとピアノ演奏のもとb)John Patitucci ds)Vinnie Colaiutaとのリズムセクションをベースに曲毎にゲスト・ミュージシャンが目まぐるしくフィーチャリングされ、全編極上のジャズ演奏に仕上がっています。さながらディズニーランドのアトラクション、ブロードウェイミュージカル、ハリウッド映画、ラスヴェガスのカジノの如きお客様を必ずや満足させるアメリカンなエンターテイメント性と、ゴージャスで優れた音楽性とが見事に融合している作品です。

1)The Jetsons 2)My Favorite Things 3)Leave It to Beaver 4)Bali Hai 5)Schindler’s List 6)Hawaii Five-O 7)America 8)Mannix 9)Ben Casey 10)Raider’s March 11)Forrest Gump 12)Maniac

Randy Waldmanのバイオグラフィーを紐解いてみましょう。55年9月8日Chicago生まれ、5歳からピアノを始め、神童の誉れ高く既に12歳で地元のピアノ店でデモ演奏を行っていたそうです。21歳でFrank Sinatraのピアニストに大抜擢されツアーに出ました。その後The Lettermen, Minnie Riperton, Lou Rawls, Paul Anka, George Bensonといったアーティストのバンドでもツアーし、80年代には作曲アレンジの能力を買われてGhostbusters, Back to the Future, Beetlejuice, Who Framed Roger Rabbitといった映画のサウンドトラックを手がけ始め、83年にはThe Manhattan Transfer、85年Barbra Streisandに提供したヴォーカル・アレンジでGrammy賞を受賞しています。その後も快進撃は止まらずForrest Gump, The Bodyguard, Mission: Impossibleといった映画の音楽、Michael Jackson, Paul McCartney, Celine Dion, Beyonce, Madonna, Whitney Houston, Ray Charles, Quincy Jones, Stevie Wonder, Kenny G…といったアーティストたちとのコラボレーションも実現し、音楽制作、現場面でのアメリカを代表するミュージシャンの一人になりました。Waldmanは日本ではあまりその存在を知られておらず、それはひとえにリーダーとしての活動が目立たないからですが、本作の申し分ない出来栄えでしっかりと狼煙を上げる事が出来ました。因みに98年リリース第1作目の「Wigged Out」も本作と同じコンセプトでの演奏です。

前作から内容、編成的に格段にヴァージョンアップした本作、Waldmanは制作サイドの音楽家ではありますがジャズミュージシャンたるべく(アレンジャー、プロデュサー業が忙しいとピアノを弾く事が疎かになりがちです!)、日々の精進を怠らず(ジャズマンでいるためにはここが大切です!)音楽性を磨き上げ、いつもとは真逆の立場で自身のピアノプレイを全面的にフィーチャーしています。アメリカ人であったら誰もが知っているアニメ、映画音楽のナンバーを何の外連味もなく堂々と取り上げて演奏する事が出来るのも、裏方としてアメリカ音楽界を支えてきた立場ならではなのかも知れません。何しろWaldmanはピアノがメチャメチャ上手いです!以前触れたことのあるピアニスト、アレンジャーのJan Hammerに通じるところがある音楽性を感じます。何をやらせても器用な人なのでしょう、トランペッターとしても活躍し、本作でもホーンセクションでのアンサンブル演奏を担当しています。更には航空機とヘリコプターのパイロットでもあり、03年にはBell OH-58ヘリコプターでのスピード記録を樹立しています。

左がWaldman、右は盲目の世界的テノール歌手Andrea Bocelli
Bell OH-58ヘリコプター

それでは収録曲を見て行くことにしましょう。1曲目The Jetsons、アメリカで62年から63年まで、間が空き85年から87年まで計99話TV放送され、日本でもNHKで63年から「宇宙家族」というタイトルで毎週放送されました。超ハイテク化された未来社会、宇宙で生活する家族の日常を描いたアニメーション、僕自身たぶんリアルタイムでは見ていないと思いますが、再放送では何度も視聴し「未来社会の文明はこんなに凄いんだ!」と本気で感じた覚えがあります(笑)。

子供心にここでのテーマソングにワクワク感を覚えた記憶があり、本作での演奏を初めて聴いた時に何だか懐かしさを感じました。近未来を暗示させる無機的なラインとひょうきんさを感じさせるメロディの混在がアニメの雰囲気をより明確にしています。

原曲のアレンジにかなり忠実に、超アップテンポのスイングビートで演奏されますが、オリジナルよりもリズム、アンサンブルのスピード感が際立ち、シャープさがたまりません! tp)Lew Soloff, Waldman sax)Dave Boruff tb,b-tb)Bob McChesneyたちの多重録音によるホーンセクションによりビッグバンド・サウンドに仕上がっています。ソロの先発はWaldman、端正でブライトなピアノタッチ、シャープなリズム感、理知的なソロラインはさすがユダヤ系ミュージシャン、とっても好みのタイプです!そしてフィーチャリング・ソロイストは我らがMichael Brecker、「The Jetsonsのテーマ曲でソロを取るなんて面白そうだね!子供の頃によくTVで観たな〜」というようなMichaelの会話が聞こえて来そうなくらい、ハーフテンポでのテーマの提示感、途中に入るホーンのアンサンブルとの絡み具合等、演奏を楽しみながらもチャレンジャブルなアドリブを聴かせています。リズムセクションとはダビング無しの生演奏、レスポンスが半端ありません!オープニングに相応しい軽快でインパクトのある演奏です。

2曲目は映画The Sound of Musicの主題曲My Favorite Things、数多くのミュージシャンが、それぞれ腕によりを掛けたアレンジでカヴァーしていますが、こちらも実にユニークな仕上がりになっています。この演奏のみベーシストがDave Carpenterにチェンジし、Studio City String Orchestraのストリングス・アンサンブルが加わります。印象的なベースラインの後、変拍子を効果的に生かしたピアノによるメロディ、フィーチャリング・ヴァイブ奏者Gary Burtonのメロディ、Carpenterによるメロディ奏と続きヴァイブ・ソロになります。ソロでは変拍子は用いられてはいませんが、コード進行にハイパーな代理コードがてんこ盛りです!ストリングスの響きがソロと絡み合い、その後の饒舌なピアノソロにも効果的に使われ、ベースパターンに乗った形でドラムソロ、ラストテーマはピアノとヴァイブによるアンサンブルで締め括られます。曲の持つリリカルなムードを的確に引き出したアレンジに仕上がっています。

3曲目はアメリカのTVドラマLeave It to Beaverの同名テーマ曲。57年から63年まで放送されました。50年代Californiaの典型的な中流家庭での、日常の出来事を題材にしていてBeaverは小学生の主人公、日本では確か民放で「ビーバーちゃん」というタイトルで平日夕方再放送していたように記憶しています。

ここではWaldmanのピアノとホーンセクション担当Bob McChesneyのトロンボーンソロをフィーチャーしています。Waldmanはもちろん、McChesneyも大変流麗なソロを聞かせています。

4曲目は49年のミュージカルSouth Pacificから、名作詞作曲コンビRichard Rodgers ~ Oscar HammersteinⅡの名曲Bali Hai、South Pacificは58年映画化され01年TVドラマとしても放送されました。

またもや印象的なリズムパターンによるマーチのリズムでMcChesneyのトロンボーン・メロディ、スイングのリズムでWaldmanのピアノソロ、そしてMichael Sembelloのギターとスキャットによるソロ〜大変密度の濃い演奏です!ラストテーマ後はリズムパターンを再利用でのドラムソロ、いや〜最後まで寸分の隙もないアレンジ、演奏です!

5曲目は93年Steven Spielberg監督による映画Schindler’s Listから同名曲。Branford Marsalisのソプラノサックスがフィーチャーされ、Studio City String Orchestraが加わります。こちらのアレンジも実に意欲的、Waldamanはまさにアレンジに対するアイデアの宝庫、泉のごとく湧き出ています!PatitucciのベースソロもWaldmanのコンセプトを的確に把握しつつ華麗に行われています。Branfordの音色は録音の関係かいつもと多少異なっていますが、メロウな吹き回しで自身のスタイルと曲想を上手く合致させています。

6曲目は68年から80年までアメリカでTV放送された刑事ドラマHawaii Five-Oの主題曲、人気を博した長寿番組で日本でも70年に一部が放送されました。Randy Brecker, Gary Grantのトランペット、Boruffのサックスがフィーチャーされます。いやいや、ここでEddie HarrisのFreedom Jazz Danceを持ち出してくるとは!!バッチリと融合し、物凄くイケてます!アレンジ・センスに脱帽です!先発ソロはRandy、いつもの変態ラインの中にパターン提示も聴かれます。ピアノソロを経てラストテーマへ、曲想は次第にFreedom Jazz Dance色の方が濃くなり、エンディングは何とFreedom Jazz Danceで終了、見事に曲が乗っ取られました!

7曲目57年ミュージカルWest Side StoryからAmerica、Leonard Bernstein作曲の名曲です。ここではまた意表をついたイントロからベース〜ピアノのメロディ奏、この曲を熟知しているアメリカ人もこのアレンジには驚いた事でしょう!フィーチャリングはMcChesneyのトロンボーンとPatitucciのベース、テナーのErnie Wattsです。Wattsのフレージングは僕にとっていつも謎ですが、テナーの音色は本当に素晴らしく、美しく楽器を鳴らしていると思います。テナーとトロンボーン2管のアンサンブルを従えたドラムソロ、エンディングも意表をついています。

8曲目Mannixは67年から75年まで米CBS系でTV放送されていた探偵モノの番組名、その主題曲です。日本で放送されたことは無いようです。作曲はスパイ大作戦の音楽で有名なArgentine出身のLalo Schifrin、Lew Soloffのフリューゲルホルン、Waldmanのピアノがソロを取ります。Kevin Clarkのギターが良い味付けをしているのが印象に残りました。

9曲目は61年から66年までアメリカで放送されたTVドラマBen Casey、同名主題曲です。総合病院の脳神経外科に勤務する青年医師ベン・ケーシーを主人公に、病院内での医者と患者との交流を通じて医師としての成長を描き、当時高い評価を得たメディカルドラマです。62年から日本でもTV放送され、なんと最高視聴率50%以上を記録しました。僕も随分と再放送を含め見たように思います。幾重にも捻られたイントロから耳馴染んだテーマが始まりますがオリジナルよりもかなり速いテンポ設定、これまた一筋縄では行かないアレンジです。そういえばタイトル画面にあった「♂ ♀ * † ∞」は「男、女、誕生、死亡、そして無限」という意味だそうで、子供には全く理解不能でしたが、今更ながらに深いものを感じます。因みに漫談家で白衣を着用し、怪しい医学用語を多用する芸風のケーシー高峰、彼の芸名はここから拝借したそうです(笑)

Tom ScottのテナーサックスがフィーチャーされPatitucci, Colaiutaの素晴らしいソロも聴かれます。

10曲目は監督Steven Spielberg、製作George Lucas、主演Harrison Ford、音楽John Williamsによる名作映画Indiana Jones, Raiders of the Lost Arkから主題曲Raiders March。原曲の旋律はよく聴かないと認識できない程にリアレンジされています。Waldmanのブリリアントなピアノの音色がメロディ奏にとても合致しており、フィーチャリング・ギタリストMichael O’NeilのソロとWaldmanのソロが良いバランス感を聴かせます。

11曲目Robert Zemeckis監督、Tom Hanks主演の映画Forrest Gumpの主題曲をここではWaldmanソロピアノで演奏しています。美しく明快なピアノタッチ、ラグタイムやスイング時代のテイストを交えつつ、底抜けに明るくハッピーエンドに仕上げています。

12曲目ラストに控えしは83年アメリカで公開された映画Flashdanceの挿入曲Maniac、作曲者Michael Sembello自身のギター奏、中性的なヴォーカルを全面的にフィーチャーしています。この曲のみフュージョン色が強い仕上がりになっており、Waldmanの演奏スタンスもいつものプロデューサー、アレンジャー的に前に出ずサポートに回っています。

2019.01.24 Thu

Odean Pope Saxophone Choir / Locked & Loaded featuring Michael Brecker, James Carter, Loe Lovano

今回はテナーサックス奏者Odean Pope, 2004年録音のリーダー作「Locked & Loaded」を取り上げてみましょう。サックス奏者が合計9名、うちテナー奏者が5名、アルト奏者が3名、バリトン奏者が1名から成るOdean Pope Saxophone Choirにゲスト出演でMichael Brecker, James Carter, Joe Lovanoの凄腕テナーマン3名が曲毎に加わるという、サックス奏者合計12名の大編成を収録したライブ作品です。ライナーノーツをOrnette Colemanが執筆しているというオマケまで付いています。

The Odean Pope Saxophone Choir / Tenors: Odean Pope, Elliot Levin, Terry Lawson, Terrence Brown, Seth Meicht Altos: Jullian Pressley, Louis Taylor, Robert Langham Baritone: Joe Sudler Piano: George Burton Bass: Tyrone Brown Drums: Craig Mclver Recorded Live At The Blue Note, New York, December 13~15, 2004

Michael Brecker featured on tracks 2 & 5; James Carter, track 7; Joe Lovano, tracks 3 & 6; Odean Pope; tracks 1 & 5; Jullian Pressley, Louis Taylor, track 4.

リーダーのOdean Popeというテナー奏者を紹介しておきましょう。38年10月24日South Carolinaで生まれ、10歳の時に家族でPhiladelphia移住、若い頃にRay BryantやJymie Merrittに師事し同地で演奏活動を始めました。優れたジャズミュージシャンが多く住むPhiladelphiaにはLee Morgan, Clifford Brown, Benny Golson, McCoy Tyner, Jimmy and Percy Heath、そしてJohn Coltraneが身近な存在で、とりわけColtraneと親交があり、ColtraneがMiles Davisのバンドに加わるために当地を離れNew Yorkに向かう際、参加していたJimmy Smithのバンドの後釜にPopeを選んだそうです。Popeの演奏からは60年代中頃のColtrane的な要素を感じます。様々なミュージシャンとギグをこなし、James Brown, Marvin Gaye, Stevie WonderといったR&B畑でのバックバンド演奏も行っていました。60年代はオルガン奏者Jimmy McGriffやMax Roachのバンドで演奏活動を行い、特にRoachとは長期間演奏を共にして来日も果たし、作品も多数残しています。70年代からは本作と同じ編成のサックス奏者9名とピアノトリオから成るSaxophone Choirを率いており、彼のライフワークと言えましょう。Popeも多作家で今までに20作以上のリーダー作をリリース、編成としてはサックス・ソロからデュオ、トリオ、カルテット、サックス・クワイアまで、様々なメンバーと多彩に演奏しています。本作では収録曲の全てをアレンジ、Coltraneのオリジナル2曲以外は自身の作曲になります。

楽器の編成上、中低音域での重厚なアンサンブルが特徴のこのサックス・クワイア、さぞかしライブで聴いたらサウンド的にもヴィジュアル的にもインパクトがありそうです。ここにMichael, Lovano, Carterがソロイストで加わり文字通り「テナーサックス祭り」を繰り広げているのです!

特記すべきはMichael Breckerにとって晩年の演奏になり、本作のミックスダウンを行っていた2005年に難病である骨髄異形性症候群を発症、DNAタイプの合致する骨髄を移植するしか抜本的な治療法がなく、そのドナーを世界中に募っていました。ルーマニアをルーツにするMichaelのDNAは特殊なもので、あいにく家族を始め他の誰ともDNAが一致せず、最後はMichaelの娘Jessicaの細胞を移植して得た小康状態で、遺作となった06年8月録音名作「Pilgrimage」を録音しました。音楽家としての執念の結晶といえる名演奏、最後の力を振り絞り成し遂げたのです。病床で全曲書き上げたMichaelのオリジナルの素晴らしさも堪能する事が出来る作品です。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目Epitoneの冒頭で奏でられるアンサンブル、さすがサックス・クワイア9管編成のサウンドは分厚く、編成上聴いたことのない斬新なハーモニー感です!途中リーダーPope自身のテナーもフィーチャーされますがマルチフォニックスによる重音奏法やサーキュラーブレス(循環呼吸)奏法も聴かせ、Roland Kirkをイメージさせる濃厚な音楽性を披露しています。音色的にはやはりColtraneのテイストが感じられ、使用マウスピースはおそらくColtrane派テナー奏者御用達のOtto LinkのMetalでしょう。サックス・アンサンブルは強弱のダイナミクス、音の切り方、アタックの付け方、ピッチ感とも大変良く揃っていて素晴らしく、微に入り細に入り徹底的にリハーサルを積んでいるように感じられます。オープニングに相応しい哀愁を伴ったメロディを有する佳曲です。

2曲目は同名のアルト、フルート奏者に捧げたその名もPrince Lasha、彼はEric Dolphy, Elvin Jones, McCoy Tynerらとの共演歴があります。Michael Breckerを大フィーチャーしたアグレッシヴなアップテンポのモーダルなスイングナンバー。いやー、テンポが早くなるとサックス・クワイアのエグさが一層際立ちますね!ステージ上サックス奏者9人の熱い眼差しを背後から痛いほど感じつつ、Michaelは一心不乱に、ハードにブロウします!このレコーディング時には病でそろそろ体調に異変をきたしていた頃かも知れませんが、微塵も感じさせないプレイです!ソロ中に演奏されるバックリフもメチャイケてます!ドラムソロを挟んでラストテーマが演奏されますが、Michaelを含めたサックス奏者10名のフリークトーンとリズムセクションのクラスターによるエンディング、一体何の大騒ぎでしょうか?これまた聴いたことがない音のカオスです。

3曲目CisはJoe Lovanoのテナーをフィーチャーした同じく哀愁系のミディアム・スイング・ナンバー、アルトのメロディ奏が美しく響きます。ここでのアカペラによる複雑で緻密かつ正確なアンサンブルを聴くと、Popeはセクションに参加せずにステージ前に出て指揮をしている可能性もあります。Lovanoも9人のサックス奏者の眼差しを受けつつ、ごんぶとの音色でLovano節を朗々と歌っています。

4曲目はColtrane作の美しいバラード・ナンバーCentral Park West、作者自身はソプラノで演奏しており60年録音「Coltrane’s Sound」に収録されています。主旋律を奏でるアルトの音域を敢えてフラジオを用いた高音域に行かないように途中から下げているようにも聴こえます。テーマ後のソリのアンサンブルもユニークなラインから成っています!フィーチャリングはJullian PressleyとLouis Taylorの2人のアルト奏者、彼らもColtraneスタイルのプレイヤーで流暢な演奏を聴かせます。サックス・クワイアの美しいハーモニー、サウンドも特筆もの、アレンジも個性的で聴きごたえ十分です!

5曲目は再びColtraneのオリジナルでColtrane Time、これまたアップテンポのエグいナンバー、変態系(笑)メロディとアンサンブルの後ソロ先発はMichael、ドラムとのデュオで曲のモチーフを生かしつつフリーキーにソロを発展させていますが、Michaelには珍しいほどに徹底したフリーフォームでのアプローチは「殿、ご乱心を!」状態、そしてまさにColtraneの曲だから、ソロの終盤Michaelの音色もColtraneライクに変化しています!その後Popeのアカペラソロがスタート、ここでもマルチフォニックス、サーキュラーブレス、さらにオーヴァートーンも用いて彼独自の世界を作り上げています。Michaelの時と同様サックス・クワイアのアンサンブルが入りつつ、モチーフを用いて2人のバトルに突入です!互いを聞きながらのソロの応酬を踏まえ、次第に白熱、とうとう2人とも完璧にイッちゃいました(笑)!ドラムソロでテーマのモチーフを提示しラストテーマに入ります。

6曲目Terrestrialは再びJoe Lovanoをフィーチャーしたナンバー、やはりマイナー調のメロディが哀愁を誘います。フリーフォームでのソロとインテンポでのクワイアのメロディ奏との対比による構成になっています。後半のLovanoのアカペラソロからラストテーマに突入する部分が実に美しいです。エンディングのフェルマータのなんと長い事!まだ続いてます!

7曲目ラストを飾るのはJames CarterをフィーチャーしたラテンのナンバーMuntu Chant、Carterの独壇場です!この人も実にサックスが上手いですね!でも相当変態だと思いますが(笑)、MichaelとLovanoよりも録音上でのサックスの音像が引っ込んでいるのが残念ですが、演奏中殆どずっと鳴っているクワイアのアンサンブルも一因かも知れません。この人もサーキュラーブレス使いですね!フラジオ、マルチフォニックス、64分音符の超高速プレイ、ダブル〜トリプル・タンギング、超絶テクニック技のデパートの感があります。Popeのやりたい事をヴァージョンを格上げし、全て代弁していると言っても過言ではありません。エンディングはサックス・クワイア全員でのサーキューラー・ブレス大会!教祖を筆頭とした何かの集団のようにまで感じてしまいました(爆)!

2019.01.18 Fri

Hearts and Numbers / Don Grolnick featuring Michael Brecker

今回はピアニスト、コンポーザーDon Grolnickの初リーダー作「Hearts and Numbers featuring Michael Brecker」を取り上げたいと思います。

1985年リリース Hip Pockets Records All selections composed, arranged and produced by Don Grolnick. Executive producer: Steven Miller

p, synth)Don Grolnick ts)Michael Brecker g)Hiram Bullock, Bob Mann, Jeff Mironov synthesizer programming)Clifford Carter b)Will Lee, Marcus Miller, Tom Kennedy ds)Peter Erskine, Steve Jordan

1)Pointing At The Moon 2)More Pointing 3)Pools 4)Regrets 5)The Four Sleepers 6)Human Bites 7)Act Natural 8)Hearts and Numbers

1970年代にJames Taylor, Carly Simon, Linda Ronstadt, Bette Midler, Roberta Flackたち米国を代表するポップス界のヴォーカリストの伴奏を務めていたDon Grolnick、同世代のDavid Sanborn, Bob Mintzer, Steve Khan, John Tropea, Brecker Brothersといったインストルメンタルのスターたちからも絶対の信頼を得て彼らの作品に数多く参加しており、サポート力、この人に任せておけば安心という懐の深い音楽性、包容力で陰ながらの立場でNew Yorkの音楽シーンに君臨していました。ピアノの演奏自体は決して技巧派ではありませんし、派手さや強力に何かをアピールするタイプではないのですが本作で聴かれるように作曲、アレンジ、プロデュース力に他の人には無い独自の魅力を発揮しています。築き上げた人脈による素晴らしいメンバーと共に全曲自身の超個性的オリジナルでフィーチャリングのMichael Breckerに思う存分ブロウさせ(当時Michaelは未だリーダー作をリリースしていなかったので、彼のリーダー作に該当する勢いの演奏になります)、同様に参加メンバーの良さを最大限に引き出しつつこの名盤を作り上げました。音楽の形態としてはフュージョンにカテゴライズされるかも知れませんが、誰も成し得ない、こうあらねばならぬという常識に捉われないテイストを持ちつつ、ジャンルを超越したGrolnick Musicを表現しています。そしてジャズ史に残る作品というよりミュージシャンに愛されるミュージシャンズ・ミュージシャンの、ライフワークの1ページといった感を呈していると思います。彼はこの後3作のリーダーアルバムをリリースしますが、全てアコースティックなジャズ作品です。88年に一切の営業的な仕事を辞め、日々練習、音楽鑑賞、作曲に打ち込みました。クリエイティブな真のジャズプレイヤーを目指したかったのでしょう。

81年Steps Aheadでの来日、六本木Pit InnでMichael Brecker, Mike Mainieri, Eddie Gomez, Peter Erskineらと大熱演の際の曲間で、オーディエンスが彼らの演奏のあまりの素晴らしさと、リラックスした自然体からの振る舞いに向けて歌舞伎役者への大向こうの如く掛け声がかかり始めました。「ピーター屋!」おっと、違いましたね、「ピーター!」本人が「ハイ!」、「エディ!」「マイケル!」「マイク!」はにかみながら彼らは客席に手を振ったり会釈をしています。メンバーの中で知名度があまり無いドンには可哀想なことに誰からも声が掛かりません。するとドンが口に手を当て下を向きながら「ドン〜、ドン〜」とわざと女の子のような可愛らしい声で自分の名前を連呼するではありませんか!やっと僕にも声が掛かったけど、一体誰からなのかな?といった仕草を交えながら、おどけて周囲をキョロキョロするので客席は大爆笑!お茶目な人柄を垣間見ることが出来ました。

この作品は内容の素晴らしさに加え、録音のクオリティが良いことも特記されます。レコーディングされたSkyline StudiosはNew York Manhattan, Midtownにある79年創業、老舗のレコーディング・スタジオです。繁華街の一等地、ロケーションが良いのもありますが、エンジニア、スタッフが充実しており米国のあらゆるジャンルのミュージシャン御用達のスタジオです。ジャズではMiles Davis, Dizzy Gillespie, Herbie Hancock, McCoy Tyner, Bobby McFerrin, Dave Liebman…. 枚挙にいとまがありません。実は13年前に僕もこのスタジオでレコーディングする機会に恵まれました。手前味噌ではありますが紹介させて頂きます。ピアノ奏者Yasu Sugiyamaの「Dreams Around The Corner」2006年リリース p)Yasu Sugiyama ts)Tatsuya Sato b)Chris Minh Doky ds)Joel Rosenblatt add. key)George Whitty レコーディング当時最新鋭の録音機材が用意されていたという訳ではなかったのですが、こちらも大変素晴らしい音色、音像感、バランス、セパレーションで録音されました。レコーディングの前日にスタジオの場所を下見に行ったのですが、看板らしい看板が出ておらず戸惑った覚えがあります。街中にひっそりと佇むスタジオでした。

Grolnickのユニークでオリジナリティ溢れ、深い音楽性が宿る美しい楽曲の数々は聴く者に感動を与えますが、実は演奏者にも味わった事のない神秘的とも言える高揚感を提供します。本作収録曲全てのスコア他、彼の楽曲計30曲が収録された楽譜集が発売されています。99年初版発行Hal Leonard


可能ならばスコアと共に本作を鑑賞することをお勧めします。聴いているだけは通り過ぎてしまう音楽的構造、とりわけ細部にこだわるGrolnickの音作りに対する情熱に触れてみてください。先日19年1月13日、僕がここ数年行っているMichael Brecker Tribute Concert(この日がMichaelの12回目の命日でした)でもGrolnickのナンバーを演奏しましたが、彼のナンバーを演奏する事により、演奏中コンサート自体のグレードが数段高まったようにも感じました。

1980年81年のStepsでの来日の他、89年Select Live Under The SkyでMichael Brecker, Bill Evans, Stanley Turrentine, Ernie Wattsのテナー奏者4名から成るSaxophone Workshopのピアニスト、音楽監督を務めるため再来日しThe Four Sleepers, Pools等の自作曲ほか、フェスティバルのコンセプトであったDuke Ellingtonのナンバーをアレンジして演奏しました。その時に起こったErnie Wattsの「事件」は以前のBlog「Don’t Mess With Mr. T / Stanley Turrentine」に掲載してありますので、こちらも併せてご覧ください。https://tatsuyasato.com/2017/

80年代初頭GrolnickはLower ManhattanにあったRandy, Michael Brecker兄弟が経営するライブハウスSeventh Avenue Southで自己のリーダーセッションを開始しました。メンバーは本作参加者を中心に、スケジュールが都合つくメンバーたちと彼のオリジナルをレパートリーとし、時にはBob MintzerのMr. Fonebone、MichaelのStraphangin’等も取り上げて意欲的に、信じられないほどの白熱ぶりを聴かせました。バンドの名前は彼自身がIdiot Savant(ある分野で非常に優れた技能や才能を示す知的障害者:専門バカ)と名付けましたがMichaelがGrolnickの豊かな音楽性と凄まじい集中力から「 時々僕はまるで我々がIdiot〜愚か者で、Donが Savant〜賢者と感じるんだ」と冗談めいて語っていました。そして83年にGrolnickは意を決して本作を自主制作で録音開始したのです。

それでは演奏曲に触れていきましょう。1曲目Pointing At The Moon、これはなんとユニークなナンバーでしょう!アルバムの冒頭を飾るのに相応しい意外性、斬新さに満ちたサウンド、構成の名曲です。スペーシーにして高密度、遊び心満載、Steve Jordanの繰り出すタイトなレゲエのリズム、Jeff Mironovのカッティング、Will Leeのグルーヴが実に気持ち良いです。 Clifford CarterによりプログラミングされたシンセサイザーとGrolnickのピアノがサウンドのカラーリングを決定付け、その上でMichaelのテナーがGrolnickの音楽的な意図を確実に汲みつつ華麗なブロウを聴かせます。う〜ん、思いっきりカッコ良いです!Idiot Savantのライブ演奏を海賊盤でも聴きましたが、Idiot丸出しの(笑)アンビリバボーな演奏の連続でした!

2曲目は1曲目のリプライズ的な楽曲、組曲とも言えるでしょう。フェードインから始まりピアノのパターンは前曲を踏襲しています。途中から入るシンセサイザーのバッキングがWeather Reportを感じさせつつ、Michaelが全く的確な超絶ソロを取ります。

3曲目Pools、Steps Aheadの「Steps Ahead」でも取り上げられていましたが、そちらがジャズ・ヴァージョンならこちらはまさしくフュージョンタッチのアレンジに仕上がっています。Peter Erskineのドラム、Will Leeのベース演奏が実に適材適所、Mironovのギター、GrolnickのFender Rhodesがスパイスになっています。こちらはサウンドのスペーシーさを聴かせるナンバー、ソロのスポットライトはGrolnickにのみ絞られています。

4曲目Regrets、耽美的な美しさを湛え、印象派の傑作絵画を美術館で間近に鑑賞するかのような、身が引き締まる思いにさせられます。曲中テンポが揺れるのが曲想をより深淵にさせています。Bob Mann(この人はThe Brecker Brothers Bandの1枚目に参加していました)のアコースティック・ギター、Tom Kennedyのアコースティック・ベースが良い味付けを施しています。何よりMichaelのテナーの音色が素晴らしいです。83年録音であればマウスピースはBobby DukoffのオープニングD9。一度Michaelに貴方はBobby Dukoffマウスピースを沢山持っているのでしょう?と何気に尋ねたところ、「いや、僕はそんなに持っていないよ」と軽くかわされました。本当の所は分かりませんが。

5曲目The Four Sleepers、こちらも名曲中の名曲です!曲のコード進行はAutumn Leavesをベイシックに、カラフルにアレンジされています。ここでのベースはMarcus Miller、こちらも嬉しくなる位に適材適所、いや、それを通り越して麻雀の嵌張ズッポシ、ジグソーパズルのピースが合致した感の素晴らしい演奏です!イントロのピアノのレイドバック感と対比するようにタイトなファンクのリズムがクールです。シンセサイザー、ベース、テナーサックスのメロディの振り分けにより、幾つもの味付けを楽しめます!エンディングのMichaelの物凄いブロウ、Idiot Savantでは更に高次元な世界にまで飛翔していました。

6曲目Human Bites、この曲のトピックスはSteve JordanとPeter Erskine2人のドラマーによる共演で、実に功を奏しています!煽られたMichaelがこれでもか、とイッちゃってます!Hiram Bullockのギターも凄い勢いでハードロッカー状態、1’07″~1’08″のドラムとギターのフィルインのやり取りには何度聴いても笑ってしまいます。Hiramはかなり茶目っ気のあるプレイヤーですね。シンセサイザーによるベースとそのフレーズ感からこの曲でもWeather Report〜Joe Zawinulのテイストを感じます。Michaelのフリーキーなフレーズに呼応した1’39″のHiramのカッティング、2’05″以降ベースが消えてTwin Drumsを相手に思いっきり暴れるMichael、その後ベースが復帰したHiramのソロ、3’49のギターのフィルイン、4’16″で一度Fineと思わせておいてTwin Drumsのショウケースに突入、そして再登場のMichaelのフレージングに呼応するドラマー2人、聴きどころ満載です。Twin Drumsってきっとドラマー冥利に尽きるのでしょう、楽しさ感がひしひしと伝わって来ますから。

7曲目Act Natural、Grolnick流ロックナンバー。ベースもドラムもシンセサイザー、Peterのシンバル・プレイが味付けになっています。MichaelやMironovのソロはオーバーダビングのように聴こえます。

8曲目ラストを飾るのは表題曲Hearts and Numbers、こちらも実に美しいナンバー、曲を一度聴くと長い間耳から離れることがない魅力的で安心感漂うメロディライン、赤とんぼなどの童謡を久しぶりに耳にした時の感覚に似ており、思わず口ずさんでしまいます。ここではソロピアノですが、Idiot SavantではMichaelのサックスをフィーチャーしてバンドでも演奏されていました。Grolnickが子供の頃に3人の親友とよく遊んだHeartsというトランプを用いたカードゲームがありました。彼の叔父さんのBob(Uncle Bobという彼のオリジナルもあります)が子供達に秘密の番号を与え、4人の子供達はそれを覚え、秘密として守ることを誓ったそうです。この曲はGrolnickの永年の親友たちに捧げられたナンバーだそうで、彼は仲間や友人をずっと大切にする人、そんな人物が作り上げた音楽だからこそ聴く者に得がたい感銘を与えるのでしょう。

2019.01.08 Tue

Universal Mind / Richie Beirach & Andy LaVerne

今回はRichie Beirach, Andy LaVerne二人のピアニストによるDuo(1台のピアノによる連弾です!)作品「Universal Mind」を取り上げたいと思います。

p)Richie Beirach, Andy LaVerne Recorded November 1993 SteepleChase Digital Studio, Copenhagen, Denmark Produced by Nils Winther

1)Solar 2)All the Things You Are 3)I Loves You Porgy 4)Haunted Heart 5)Chappaqua 6)Blue in Green 7)Elm The Town Hall Suite: 8)Prologue 9)Story Line 10)Turn Out the Stars 11)Epilogue

ピアニスト2人のDuoは昔からよく行われており、素晴らしい演奏者による名演奏が数々残されています。通常2台のピアノを用いて各々パフォーマンスを行いますが、本作は1台のピアノのみを用いた連弾(英語ではfour handsと言います)で、ライブでは時たま行われることもありますが、レコーディング作品として残した例は大変珍しく画期的な事だと思います。奏者どちらがピアノ鍵盤の左側(主に低音域担当)、右側(同じく高音域担当)を担当するか、演奏曲のメロディ、伴奏のシェア具合、アドリブ時伴奏者に音楽的に如何に被らない、交互にソロを取る場合は一瞬にして鍵盤から離れ相手に演奏を譲る反射神経、ペダルの使用はどちらが主導権を握るのか、物理的に腕や指がぶつからない等、いつもは独占している88鍵を共有し合う制約が、演奏にある種の緊張感を生み出し本作では実に良い方向に作用し、結果名演奏となりました。2人のピアニストの音楽的方向性、演奏スタイル、相性も大いに関係するところです。Richieは1947年5月NY生まれ、Lennie Tristanoに師事しBerklee, Manhattan音楽院でも学びました。Andyも同じく47年12月NY生まれ、Bill Evansに師事しBerrkleeのほかJulliard, New England音楽院でも学ぶという共に学究、学理肌、そして同世代のミュージシャンです。そういえばBillはLennieに師事していましたね。他の共通点としては名ピアニストを多く輩出し登竜門として名高いStan Getzバンドの出身者であり、白人ジャズピアニストの最高峰Bill Evansを敬愛し自他共にその影響を受けている事を認めています。本作でもEvansの66年作品「Bill Evans at Town Hall 」からピアノソロで演奏されている亡き父親Harry L. Evansに捧げたIn Memory of His Father Harry L. (Prologue/Story Line/Turn Out the Stars/Epilogue)をThe Town Hall Suiteとして取り上げています。

実は本作は2人のDuo第2作目にあたります。丁度1年前の92年11月録音の作品「Too Grand」Steeplechase こちらは連弾ではなく2台のピアノを使用しての伝統的なピアノDuo演奏になります。自由奔放でかつジャズスピリットに溢れ、同じ音楽的ベクトルを有するピアニストのみが成しうるダイナミックな演奏で、これまた素晴らしい作品です。この作品の仕上がりから2人は更なる緊密なDuo演奏を目指し、次作は敢えて縛りの多い連弾と言うスタイルで演奏に臨んだと言うことになります。ストイックでアーティスティックな2人に拍手を!

Andyは1人でグランドピアノ2台を同時に演奏する形でも作品をリリースしています。92年4月録音「Buy One Get One Free」Steeplechase Yamahaのグランドピアノを2台、片手で1台づつを演奏していますが、弾きこなすには大変な体力と気力、集中力が必要な事でしょう。物理的に腕が普通よりもかなり長くなければなりませんし(笑)。1台のピアノを2人で演奏することが連弾、ではこのように1人で2台のピアノを演奏する事は何と言うのでしょう?(笑)。こちらは壮大な雰囲気のソロピアノ集に仕上がっており、2台を難なく弾きこなすAndyのテクニック、器用さと音楽性、情熱に脱帽してしまいます。本作収録のElmがここで既に取り上げられていました。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目はMiles DavisのSolar、Richieが度々取り上げるレパートリーでもあります。冒頭Richieが高音域、Andyが低音域を担当します。ソロ中は度々入れ替わり、ラストはAndyが高音域、Richieが低音域を担当します。なんと緻密で知的、ホットでクールなインタープレイの連続でしょう!2人のピアノタッチを実に的確に捉えた録音状態も素晴らしいです。Lineageな2人は音楽的に良く似た部分もありますが明確な個性を湛えたスタイリスト同志、明らかな違いを感じさせつつも互いにインスパイアされフレージング、コードワーク、ピアノの音色区別が次第に付き難くなります。実際にどの様に入れ替わって演奏しているのか、録音時の映像が存在したら是非とも見て見たいものです。「いまの右手はRichieのラインだけど左手はAndyかな?」「両手ともにAndyかも知れない」と想像しながら鑑賞するのも楽しいです。ソロのトレード時に交差する4本の腕!20本の指!正確なタッチやタイムをテクニカルにキープしつつもエグいコードワークやハイパーなソロのラインが見事にハマり、応酬されるスリリングなDuo!これだけの演奏を繰り広げているにも関わらず声が出ないのが不思議です!演奏しながら声の出るピアニストが多いと思うのですが、無音の2人です。

2曲目はお馴染みJerome KernのAll the Things You Are、こちらもRichieのオハコのナンバーです。メロディの1音1音に全く別なコード付けを施す独自のRichieのアレンジが光ります。Andyが高音域を、Richieが低音域を担当します。それにしてもこの左手のラインは異常なほどに異彩を放ち、美しく響きます。Andyの右手のフレージングも実にクリエイティヴです!ベーシストSteve Lloyd Smith「Chantal’s Way」、自身のソロピアノリサイタルを収録した「Maybeck Recital Hall Series Volume Nineteen」、Dave LiebmanとRichieのDuo作「Unspoken」いずれもでRichieの素晴らしいAll the Thingsのプレイを聴くことが出来ます。

3曲目は本来バラードで演奏されるGershwinのI Loves You Porgy、明るいテンポでスインギーに、Richieが高音域、Andyが低音域担当で演奏されます。シングルノートでの対話形式のようにも聴こえつつ、次第に低音域〜高音域担当が入れ替わり2人の絡み具合が芳醇なスコッチウイスキーのように、シングルモルトからブレンデッドに移行して行きます。

4曲目はとても美しいバラードHaunted Heart、Andyが高音域、Richieが低音域を担当します。Bill Evansの「Explorations」に名演が収録されていますが2人のBillへのオマージュ第1弾です。Andyは左側にRichieがいるのでどうしても右寄りになる事からか、いつも以上に高音域でのラインが目立ちます。

5曲目は互いに敬意を表して各々の代表曲を演奏しあうコーナーのRichieヴァージョン、演奏曲はAndyのオリジナルChappaqua。元はAndyがGetzのバンド在団中演奏したナンバーでGetzはAndyが抜けた後も愛奏していた様です。それにしてもスタジオ内で自分の曲を他の名手が演奏するのを聴くのはどんな気分でしょうか?Richieにまさに打ってつけの美しいメロディ、コード進行を擁した名曲、そして知的さとリリカルさを配した解釈、素晴らしい演奏です。Andy自身もGetzバンドで演奏した経験を生かし、Getzのレパートリーばかりを取り上げた96年10月録音作品「 Stan Getz in Chappaqua」で演奏しています。ここでのGetz役はDon Bradenが務めます。もう1作、我らがベーシスト鈴木”Chin”良雄氏のNY時代の作品「Matsuri」でAndyと共演、ここではTom HarrellのフリューゲルホーンとLiebmanのフルートでメロディを分かち合っています。

6曲目は再びMilesのナンバーからBlue in Green、Bill Evansのナンバーだと言う説もあります。高音域をAndyが、低音域をRichieが担当、この上無い美の世界に誘いつつも演奏が佳境に達した頃にRichieが倍のラテンフィールを提示し、また別なカラーを聴かせてくれます。

7曲目表敬コーナーAndyの出番によるRichieのオリジナルElm、この曲はRichieが亡きポーランド出身の天才ジャズヴァイオリン奏者Zbigniew Seifertに捧げたナンバーです。作者自身のトリオアルバム「Elm」で聴くことが出来ます。ここでのAndyは曲の構造を徹底的に分析し、複雑なコード進行を微に入り細に入り解析し、Richieとはまた異なる解釈で深遠なハーモニーと美の世界を表現しています。左側にはRichieは居ないはずなのですがDuo時の耳、感性がそのまま継続しているのか、かなり高音域を多用しているように聴こえます。2人のオリジナル曲の録音終了後、その出来栄えからさぞかしお互いの音楽性を称え合ったことと思います。ピアニストが2人同じ現場に居合わせて共演する機会は稀有でしょうし。

8~11曲目はBill EvansへのトリビュートとなるThe Town Hall Concert、4曲ともBillのナンバーです。8曲目となるPrologueはRichieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。かなりマニアックな選曲、でもBillから影響を受けたピアニストやファンには堪りません!メロディを奏でるRichieの音色も心なしかBill寄りに聴こえます。

9曲目Story Line、Andyが高音域、低音域をRichieが演奏します。インテンポになってからの2人のソロのトレードが実にスリリングです。ここでのAndyのソロラインからBillのテイストが聴こえてきます。

10曲目は哀愁感満載の魅力的なメロディ、コードの流れを持つ美しいバラードTurn Out The Stars。Richieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。ミディアムテンポでのRichieのソロ、物凄い事になっています!この音の粒立ち、音色、タイム感での高速プレイは超人的、でも決してテクニックのオンパレードにならないところが素晴らしいです!はっきりとしたメロディはソロ後に登場します。

11曲目最後を飾るのは文字通りEpilogue、両者随時入れ替わりの演奏、テーマのメロディのモチーフを効果的に用いた、こちらの応酬もとんでも無いですね!エンディングはRichieが高音域、Andyが低音域で締めます。

2018.12.19 Wed

Unity / Larry Young

今回はオルガン奏者Larry Young1965年録音の代表作「Unity」を取り上げたいと思います。

Hammond Organ B3)Larry Young  tp)Woody Shaw  ts)Joe Henderson  ds)Elvin Jones

1965年11月10日録音 Van Gelder Studio, Englewood Cliffs  Engineer: Rudy Van Gelder  Blue Note Label

Larry Young、Blue Note Label第2作目のリーダー作になります。BNデビュー作にあたる「Into Somethin’」はElvinの他フロントにSam Rivers、ギターにGrant Greenを迎えたこちらも意欲作でしたが、本作はメンバーの音楽性、志向性の合致度(故にUnityとタイトル付けされました)や選曲の素晴らしさ、互いの演奏にインスパイアされた相乗効果からの充実度、結果他に類を見ないクオリティの演奏に仕上がっています。加えてレコード・ジャケットの秀逸さからBNを代表する作品の一枚に挙げられます。

ジャズ・オルガン奏者はJimmy Smithに代表される、いわゆるバップ、ハードバップの範疇にはまらないアーシーなテイスト、R&Bやゴスペルの影響を感じさせるスタイルの奏者がほとんどです。John Patton, Baby Face Willette, Brother Jack McDuff, Jimmy McGriff, Shirly Scott, Lonnie Smith, Lonnie Liston Smith…全員同傾向のスタイル奏者であるのは、オルガン演奏が教会の音楽に不可欠だった事に由来(パイプオルガンを設置できない中小の教会ではハモンド・オルガンが代用品でした)、彼らが幼い頃に文字通り教会でオルガン演奏の洗礼を受けた事に始まり、教会音楽自体が福音音楽〜ゴスペルそのものであるため彼らの音楽的ルーツとなったと考えられます。ハモンドオルガンは理論的には設定により2億5千3百万通りの音色を表現出来るらしいのですが、それはあくまでプリセット音色の範疇であり、アコースティック・ピアノのように演奏者自身の肉体から発せられる音色、タッチを出すのは困難な楽器です。グルーヴ感やタイム感、コードのハーモニー、サウンド、曲想等で奏者の個性を表現しますが、Jimmy Smithの演奏がやはり圧倒的にその存在感を感じさせます。そんな中で一際異色を放つのが本作の主人公Larry Youngです。早熟な彼は60年に19歳で初リーダー作をPrestige Labelに録音、その後計3枚のリーダー作を同レーベルからリリースしていますが、そこでは従来のオルガン奏者とはあまり違いを感じさせない伝統的オルガン演奏を聴かせていました。余談ですがその3枚でドラムを演奏しているのがJimmie Smith、オルガン界のスーパー・スターと同姓同名のドラマーで、日本に一時期住んでいた同名アメリカ人ドラマーと同一人物のようです。その後BNに移籍してからColtrane Likeなモーダルなサウンドを表現し始め、本作以降も他のオルガン奏者とは一線を画す演奏を展開し、さらにはアヴァンギャルドなスタイルまでアピールしていました。Youngは「オルガンのColtrane」と称されることがありますが、その音楽家をColtraneの名前を用いて形容するのはジャズ界では最大級の賛辞に値すると思います。そして2種類の意味があるとも思うのですが、Youngのようにその演奏スタイル、表現するサウンドに起因してのColtrane、もう一つは音楽への真摯な取組み方、人生に音楽の全てを賭ける生き様にオーヴァーラップさせてのColtraneです。でも実は両者は表裏一体の関係で、「〜のColtrane」とは両方の意味を内包しているかも知れません。Youngは69年にTony WilliamsのバンドLifetimeに参加しJohn McLaghlinと共にトリオ編成で「Emergency !」を録音、さらに同年Miles Davisのモニュメント的代表作「Bitches Brew」にもエレクトリックピアノで参加しました。

収録曲について触れて行きましょう。1曲目はWoody ShawのオリジナルZoltan、ハンガリー出身の作曲家Kodaly Zoltanに影響を受けて書いた曲だそうです。冒頭のElvinのマーチング・ドラムが印象的で大変心地よいです。以前にも書きましたがこの人のマーチングは他の誰とも異なる音色、グルーヴ、ビート感を聴かせ、Elvin自身のオリジナルKeiko’s Birthday Marchでも堪能できます。Elvin自身ライブで事あるごとに演奏していた重要なレパートリーで、自身のリーダー作では「Puttin’ It Together」で初演、収録されています。

それにしてもユニークなナンバーです。この時Shawは若干20歳!作曲に天賦の才能を感じます。自身のトランペットソロにも確実にオリジナルな語法を身につけているのが驚異的です。続くJoeHenのソロも捉われるものがない自由な発想に満ちた、しかし伝統に確実に根付いたセンスも提示しています。この二人の音色には共通するものを感じるのですが、ダークでエッジー、付帯音の豊富さから生じるスモーキーな成分との混合具合。一方トランペットとテナーサックスは音域的に1オクターブの違いがあり、金管楽器と木管楽器の互いにない部分を補いつつユニゾンでも良し、ハーモニーの場合は一層音色の絡み具合が芳醇になります。そしてYoungのバッキング、ソロ共に曲想に合致した演奏はジャズ・オルガンNew Soundの幕開けと言って過言ではありません。さらに彼らのソロをサポートしつつプッシュするElvinのドラミングが実は本作の要なのです。ColtraneにはElvinが不可欠ですし。

2曲目は管楽器はお休み、オルガンとドラムの二人によるThelonious MonkのMonk’s Dream。二人と言ってもオルガンの足によるベースもしっかり参加していますが。ナイスなセレクションで、音楽的ベクトル方向が揃った二人の名手による濃密で饒舌、でもお互いの話をしっかりと聞きながらの丁々発止の会話となっています。

3曲目はJoeHenのオリジナル・ブルースIf、めちゃめちゃカッコイイ曲です!2管のハーモニー、リズミックな仕掛け、サウンド、このメンバーにまさしく相応しい素材です。ソロの先発は作曲者自身で、申し分なく絶好調です!Charlie ParkerのブルースBuzzyのメロディを引用していますが、JoeHenにしては比較的珍しい展開です。煽るElvinとソロに油を注ぐYoungのバッキング、何度聴いてもワクワク感は不変です。Shawのソロもエグくオリジナリティ溢れるフレーズを連発、YoungもPrestige時代の作品での演奏とは別人のようなアプローチを聴かせています。Trio Beyondという、Jack DeJohnette, Larry Goldings, John Scofieldというメンバーからなるバンドのライブを収録した「 Saudades」にこの曲が収録されています。信じられないほどのハイテンション、でもひたすらクールな名演奏に仕上がっています。ぜひ聴いてみてください。ここまでがレコードのSide Aです。

4曲目はShawのオリジナルでJohn Coltraneに捧げられたThe Moontrane。なんと素晴らしいナンバーでしょうか!曲想からColtraneに対する音楽的なリスペクトを真摯に感じてしまいます。Shawが18歳の時に作曲したそうで本作で初演、以降73年「Bobby Hutcherson Live at Montreux」を経て自身のアルバムでは30歳直前の74年12月に作品「The Moontrane」としてレコーディングしました。

Coltrane存命中のレコーディングなのでこの演奏を彼自身が聴いた事があるかどうか気になるところですが、真相は分かりません。曲自体は大変良く出来た構成ですが、アドリブを取り易いかはまた別次元の話です。先発Shawはコンポーザーではありますがコード進行に慎重気味に対応し、曲の構造からの飛翔までには至っていないように聴こえます。続くJoeHenは果敢にトライし、かなり自分の唄を歌っているように感じます。Youngは見事に曲の構造からの飛翔〜脱却を図り、リーダーとして面目躍如、この演奏での山場を作り上げています。同じく素晴らしいElvinのドラムソロからラストテーマに入る部分が一瞬ヒヤリとさせられましたが、これはギリギリセーフでしょう。2014年に日本でリリースされたCDに追加されているオルタネート・テイクと比較してみましょう。オルタネートの方が幾分テンポが早く、Shaw, JoeHenともにオリジナルの演奏よりもエネルギーを感じるソロを展開、Young, Elvinは両テイクともに大健闘しています。演奏のフレッシュさから察するにオルタネートの方が先に演奏されたのでは、と思います。こちらのテイクを採用しても良かったとも感じますが、ドラムソロ後のテーマの入り方、入ってしばらくしてからのフロント二人の若干のバラけ方、曲のエンディングに再びイントロを用いているのが問題になったために(これはこれでカッコ良いのですが)却下されたと見るのが妥当でしょう。オリジナル・テイクのコンパクトにまとまった潔さも捨てがたかったでしょうし。演奏内容を取るか曲のアンサンブルを取るかは実に難しい問題です。それにしてもElvinのドラムソロの拍を数えるのは大変なのです。

5曲目はお馴染みスタンダード・ナンバーSoftly, as in a Morning Sunrise、まず冒頭のテーマをJoeHenが取ります。このテーマの吹き方ははっきり言ってヤバいです!ホンカーのテイスト丸出し、こんな吹き方も彼のスタイルの中にあるというのが新鮮です。テーマではブラシを用いていたElvinが(ブラシの音色もグッと来てしまいます)スティックに素早く持ち替えJoeHenのソロがスタートします。ColtraneのVillage Vanguardでのライブ、同曲での持ち替えも実に早業でした!ソロのストーリー性、オリジナリティ満載の独自のJoeHenフレーズの洪水、間の取り方、そこに容赦なく入るYoungのバッキング、これは堪りません!続くShawのソロをElvin, Youngのバッキングが煽り倒しています!Youngのソロ2コーラス目に入るフロントのシンコペーション多用によるバックリフ、絶妙にしてジャズの醍醐味を存分に味あわせてくれます。思わずレコード演奏に足でリズムを取ったり、裏拍に指パッチンしたり、フレーズの合間に掛け声をかけたり、ジャズ喫茶世代ならではの楽しみ方を思い出してしまいました。ラストテーマはShawのワンホーン、フロント二人の振り分け方がヒップですね!

ラストを飾るのは再びShawのオリジナルBeyond All Limits、本作中最速なスピード感を聴かせる名曲、名演です。結局このアルバムにバラードは収録されていませんでしたがイケイケでオッケーです!Elvinのシンバルレガートが何とたっぷりしている事でしょう!例えるならアメ車最高級クラスの最速時のドライヴ感、安定感、疾走感でしょうか?ハイオク・ガソリンをどんなに消費しても、排ガスの規制を大幅に上回って排出しても構いません!こんなにスイングしていれば!!JoeHenのソロのフォーカス振りも凄まじいです!Shaw, Youngのソロも実にGood!この曲にも存在するオルタネート・テイク、多分本テイク録音後に「もう一度演奏してみよう」と誰かの発案でスタートしたのでしょうが、本テイクで殆ど燃焼してしまった感は否めません。「全ての限界を超えて」とは行きませんでした。

2018.12.10 Mon

Mel Lewis / Mel Lewis And Friends

今回はドラマーMel Lewisの1976年録音のリーダー作「Mel Lewis And  Friends」を取り上げましょう。

tp, flg-h)Freddie Hubbard  ts)Michael Brecker  tp)Cecil Bridgewater  as, ts)Gregory Herbert  p)Hank Jones  b)Ron Carter  ds)Mel Lewis

1)Ain’t Nothin’ Nu  2)A Child Is Born  3)Moose The Mooche  4)De Samba  5)Windflower  6)Sho’ Nuff Did  7)Mel Lewis-Rhythm

Recorded June 8 and 9 and mixed June 18, 1976 at Generation Sound, NYC.  Engineered by Tony May. Musical Supervision by Thad Jones. Produced by John Snyder  Horizon Label 1977

Digitally mastered at Van Gelder Recording Studio, November 1988. Rudy Van Gelder engineer. Digital Producer: John Snyder

Blogを書くべく久しぶりにCD聴こうと自宅の棚から本作を取り出し、何気にライナーノーツを見ると執筆者に自分の名前が! 書いたことをすっかり忘れていましたが、本作がCDで再発された際に参加のMichael Brecker絡みでライナー執筆を依頼されたようです。そしてこの再発リリース時に名手Rudy Van Gelderによるdigital remasteringが施され、レコードでの録音状態よりも格段に音質がクリアーになり、楽器のセパレーションも大変良くなりました。レコード原盤の録音エンジニアが別人でもVan Gelderが登場してCDへのdigital remasteringが当時よく行われたようです。レコードからそのまま何もmasteringのサウンド処理をせずにCD化して(digital, analog音源を問わずCD化には的確なmastering処理が不可欠です)、とんちんかんな音質に仕上がったCDが黎明期によく出回りましたが、Van Geldrerに依頼したのはプロデューサーJohn Snyderの音質への強いこだわりの表れです。こだわりと言えば本作のレーベルHorizonはレコード当時二つ折りジャケットを採用(CDでも踏襲してデジパック仕様です)、ほとんど全てのリリース作品の見開きライナーに他には無い幾つかのこだわりが施されています。録音面では各楽器のステレオ音像の位置、定位を表したカラフルで立体的なダイアグラムが配され、演奏曲の譜面(ここではSho’ Nuff DidとA Child Is Born)、更には収録曲のアドリブソロまで正確に、実に緻密に採譜されています。普通はリーダーのアドリブを採譜するのでしょうが本作はドラマーの作品、特にMel Lewisは派手なソロを繰り出すタイプのプレイヤーではなく、共演者とともに伴奏で自身の音楽性を表現するスタイルなので、フロント楽器かピアニストのソロの採譜、掲載を試みることにしたのでしょう。プロデューサー・サイドとしてはFreddieのブリリアントでテクニカル、華麗なソロも捨てがたく、Hank Jonesの職人肌でリリカルなソロも十分に可能性があったでしょうが、白羽の矢が立ったのはMichael、FのブルースSho’ Nuff Didに於けるソロです。彼らよりも知名度が低く、The Brecker Brothers Bandで前年デビューしたばかりのほとんど無名の新人のソロを採譜して掲載するとはプロデューサーもかなりマニアックですね。でもここでのMichaelのソロはクリエイティヴで素晴らしく、当時の彼のベストな演奏で、掲載するに足る内容だと思います。Snyder氏大英断を下しました。推測するにSnyderはオーディオ好きの楽理派で、何かの楽器の元プレイヤー(サックス?)だと思います。

双頭バンドであるThad Jones – Mel Lewis Orchestraのリーダーとして、ビッグバンドのリズムの要を担当し美しい音色で堅実なビートを繰り出すLewisのリーダー作、本作のコンセプトはThad Jones演奏不参加ながらサド・メル・ビッグバンドのコンボ版と言えましょう。基本的にはFreddieとMichaelの2管がメインのフロントで、Thadはトランペット演奏こそしませんでしたが音楽監督、アレンジャーとして参加、そしてスタジオ内で書き上げたアレンジ、楽曲のアンサンブルを具体化すべくサド・メルの楽団員サックス奏者Gregory Herbertとトランペット奏者Cecil Bridgewaterが急遽駆り出された形です。親分肌で面倒見が良いLewis、ビッグバンドの若手メンバーからもさぞかし慕われていたことでしょう。Thadの急なオファーにも喜んで人肌脱いだ事だと思います。大所帯をまとめていくには音楽性が大切なのはもちろんですが、やはり人柄が物を言います。Melは29年New York州生まれ、ロシア系ユダヤ人を両親に、54年Stan Kentonを皮切りに若い頃からビッグバンド畑を中心に活動しています。人を褒めることを知らない名ドラマー(笑)、しかも同じビッグバンド・リーダーBuddy Richをして “Mel Lewis doesn’t sound like anybody else. He sounds like himself.”と大絶賛されています。こちらもお人柄故かもしれません。

ピアノには大ベテランHank Jones、Thadの実兄です。ちなみにご存知Elvin JonesはThadの実弟、ジャズ界に燦然と輝くJones三兄弟はその音楽性が全く異なってシーンに君臨していたのがとても興味深いです。本作でもソロとバッキング、アンサンブルに味わい深い演奏を提供しています。

ベーシストRon CarterはMelのドラムと完璧なコンビネーションを聴かせ、当時のベーシスト第一人者を印象付けます。この人の存在なくして本作のスイング感は得られませんでした。

1曲目Ain’t Nothin’ Nu、レコーディング前夜にThadが書き下ろしたいかにも彼らしいアップテンポのマイナー・ナンバー。ソロの先発はMichael、エグい音色でグイグイと攻めています。ちょっと気になるのはリズムのノリですが、結構前ノリ、本作中他の曲よりもリズムに余裕がない感じです。ジャズ・リジェンドに常に敬意を払う彼はThad, Mel, Hank, Freddie, Ronと時間を共有出来ることに喜びを感じていた反面、諸先輩方を前にしてかなり緊張気味で演奏に臨んでいました。おそらくこの曲を最初に録音したのでしょうが、さすが曲を経るごとに次第にリラックスして場に溶け込んだ演奏に変わっていきます。続くHankのソロはリラックスした中にもジャズのスピリットを十分に感じさせ、後年大ヒットしたRon Carter, Tony WilliamsとのThe Great Jazz Trioでの演奏を彷彿とさせます。その後のFreddieの素晴らしい音色でのソロ、絶好調ぶりを聴かせますが、何しろタイムが素晴らしい!リズムの丁度良いところ、いわゆるリズムのスイートスポットに音符を確実にヒットさせるテクニックには敬服させられます。アンサンブルではアルトを吹いていたGregory Herbertのテナーに持ち替えてのソロがあり、さらにベースとドラムのバースが行われてラストテーマになります。

2曲目はThadの代表曲A Child Is Born、Freddieのフリューゲル・ホーンがフィーチャーされワンホーンでの演奏です。作曲者を目の前に演奏する気持ちはどんなものでしょうか?でもFreddieは委細かまわずスイングしていますが。ピアノのイントロからバラードでメロディが演奏された後、ボサノヴァのリズムでソロが始まります。うっとりする音色ですがFreddieはいささか饒舌に、続くHankは曲調に合致した美しいソロを聴かせます。ラストテーマはそのままピアノのルパートからFreddieのフリューゲル・ホーンで締めくくられます。全編を通してMelのリムショットとブラシワークでのボサノヴァのリズムが優しい音色で、小気味良いです。

3曲目はご存知Charlie Parkerの名曲Moose The Mooche、ジャズロック風のリズムが意表をつきますが曲のサビではスイングに、ソロの2コーラス目からもスイングに変わります。ソロ先発Freddieは水を得た魚のごときスインガーぶりを発揮、何とカッコいい演奏でしょう!ソロの構成、フレージングの巧みさ、タイム感、楽器のコントロール、非の打ち所がない演奏です!続くMichaelのソロ、ベンドを巧みに用いた出だしから始まります。8ビートのリズムと相俟ってロックギターの如きテイストを感じさせます。ソロの内容も先発Freddieと遜色ないクオリティを聴かせ、さらに1曲目の演奏よりもリズムの落ち着きをしっかりと取り戻しています。Hankのピアノソロはいつも安定感を聴かせ、ジャズの醍醐味に溢れています。トランペットとドラムの8バース、テナーとドラムの8バースと続き、ベースが絡みつつのドラムソロも聴かれます。Ronのよく伸びる音色には彼にしかない色気を感じます。ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目はRonのオリジナルDe Samba、Ronの一連の作風の明るいナンバーです。Freddie, Hank, Gregoryとソロが展開され、エンディングではMichaelも交えてコレクティヴ・インプロビゼーションが聴かれます。

5曲目はピアノトリオでHankをフィーチャーしたWindflower、Melの堅実なブラシワークが要となっています。

6曲目はThadのオリジナル、スタジオ入りしてから曲を書き上げたSho’ Nuff Did、4管編成の重厚なアンサンブル、各ソロの終盤戦に演奏されるバックリフからThad – Mel Orchestraのサウンドを聴き取ることが出来ます。Cecil, Gregory, Freddie, Michael, Hankと比較的淡々とソロが続きますがHankのソロはMichaelに刺激されたのか熱いものを感じます。それにしてもMichael君、よもやここでの自分のソロが採譜されてレコードのライナーに記載されるとは思わなかったでしょう。

7曲目ラストを飾るのはエピローグ的に演奏されたMelのドラムソロ、とはいえシンプルにリズムを刻んでいるだけのものですが。安定したリズム感に定評のあったMelはビッグバンドの他多くのヴォーカリストからもオファーがありました。

2018.11.20 Tue

Cityscape / Claus Ogerman

今回は82年録音・リリースClaus Ogermanの作品でMichael Breckerをフィーチャーした傑作「Cityscape」を取り上げたいと思います。

arr, cond)Claus Ogerman  ts)Michael Brecker  p)Warren Bernhardt  ds)Steve Gadd  b)Eddie Gomez(on 1, 3)  b)Marcus Miller(on 2, 4~6)  g)John Tropea(on 2)  g)Buzz Feiten(on 4)  perc)Paulinho da Costa(on 2, 4)

1)Cityscape  2)Habanera  3)Nightwings  4)In the Presence and Absence of Each Other (Part 1)  5)In the Presence and Absence of Each Other (Part 2)  6)In the Presence and Absence of Each Other (Part 3)

Recorded : January 4~8, 1982  Studio : The Power Station and Media Sound Recording Studios, NYC  Label : Warner Bros. Records  Producer : Tommy LiPuma

全曲Ogermanの独創的なオリジナル、深淵な音楽性を湛えたストリングス・オーケストラと緻密にして華麗なアレンジ、当時の音楽シーンを代表する敏腕ミュージシャンの参加、お膳立ては揃いました。フィーチャリング・ソロイストであるMichael Breckerは赴くままに自分のストーリーを語ればよいのです。サキソフォン・ウイズ・ストリングスはCharlie Pakerの昔からサックス奏者の究極の表現形態、ストリングスによるオーケストレーションは弦楽器が生み出す倍音の関係か、サックスの響きをより豊かにゴージャスにバックアップ、そして華やかに仕立て上げます。同じストリングスでもシンセサイザーのデジタルな音色では全く役不足です。本作でのMichaelの音色は彼の参加作品中屈指の素晴らしい「エグさ」を聴かせていますが、ストリングスにサウンドをブーストされた形と認識しています。ちなみにこの時の使用楽器はマウスピースがBobby Dukoff D9、リードはLa Voz Medium、テナーサックスがAmerican Selmer Mark Ⅵ No.86351です。

Claus Ogermanはドイツ出身の作編曲家、膨大な数のアーティストの作品を手掛けていますがその正確な数は不明です。本名はKlaus Ogermann、いわゆるダブル”n”の苗字で、よくある~manのユダヤ系とは異なりますが彼の細部まで徹底的に構築された音楽性を鑑みると、知的作業、芸術的表現のレベルが高いユダヤ系なのではと想像してしまいますが、30年生まれでドイツ在住中第二次世界大戦のホロコーストとは無縁だったようなので生粋のドイツ人なのでしょう。59年に米国に拠点を移しVerve RecordのCreed Taylorの仕事を足掛かりに音楽生活をスタートさせました。因みに本作の印象的なリトグラフによるレコード・ジャケットは、ウクライナ出身のアーティストLouis Lozowickによるもので23年の作品、その名もNew Yorkです。Lozowickの方はユダヤ系のようです。

Ogermanの足跡をダイジェストにCD4枚組にまとめた作品、ドイツのBoutique Labelから2002年にリリースされたその名も「The Man Behind The Music」、収録されているAntonio Carlos Jobim, Bill Evans, Stan Getz, Frank Sinatra, Barbra Streisand, David Clayton-Thomas, The London Symphony Orchestrta等、手掛けたアーティストのあまりの多彩さに驚いてしまいます。

Michaelを最初にフィーチャーしたOgermanの作品が76年録音「Gate of Dreams」、収録曲CapriceでMichaelのダークなソロ聴くことが出来ます。この当時の彼のセッティングはマウスピースがMaster Link(Otto Link最初期のモデル)、リガチャーがSelmerメタル用、リードはLa Voz Med. HardないしはHard、テナーサックスはAmerican Selmer 14万番台Varitone。作品中David Sanborn, Joe Sample, George Benson達とソロを分かち合っています。

この時の演奏の素晴らしさから6年を経て本作へと繋がります。Michael自身の演奏も格段に進歩して今回は一作丸々のフィーチャリングになります。1曲目は表題曲Cityscape、「都市景観」とはジャケットのNew Yorkの景色の事でしょう。本作参加ミュージシャンがNew Yorkを拠点に活躍しているのは偶然か必然か、気心知れたMichaelの演奏に丁々発止とインタープレイを繰り広げています。一つ気になるのはMichaelとリズムセクションは同時録音に違いないと思うのですが、オーケストラ、ストリングスセクションは同録かという点です。89年1月21日、五反田ゆうぽうとで行われたTokyo Music Joy、Michael Brecker W-Unitと題され、Michaelの他Pat Metheny, Charlie Haden, Fumio Karashima, Adam Nussbaumと言うメンバーに小泉和裕指揮による新日本フィル・オーケストラが加わり、Cityscapeを再現するコンサートが開催されました。因みにJack DeJohnetteをドラマーに迎え、Methenyの「80 / 81」も再現する目論見もありましたがDeJohnetteは不参加でした。残念ながらOgermanは来日しませんでしたが、収録曲中In the Presence and Absence of Each Other (Part 1),  In the Presence and Absence of Each Other (Part 2), Cityscapeを演奏しており、ソロイスト〜リズムセクション〜オーケストラ、ストリングスセクションの同時進行が可能であることを実感しました。ただ当日はMichael君あまり調子が良くなく、どうした訳か例えばIn the Presence and Absence of Each Other (Part 1) のメロディを外しまくっていました。コンサート後本人に尋ねたところ、オーケストラの面々とコミュニケーションが上手く行っていなかった事をこぼしており、彼なりに気になる事があったため、いまひとつ集中力を欠いていた模様です。そういえば本作のストリングスセクションを含めたオーケストラに関してのクレジットが故意なのか、たまたまなのか何処にも書かれていません。

あたかも不安感を煽るかのようなストリングスのサウンドにMichaelの耽美的なサックスが絡み始めます。ストリングスの大海原を漂うかの如きMichael流シーツ・オブ・サウンド、その全てが的確な音使いに今更ながら脱帽させられます。ルパート気味に演奏されていましたが2’10″からリズムセクションが加わり、4’20″位からリズムが倍テンポになりMichaelの本領発揮、それに絡むGaddのブラシワークとバスドラムが大変効果的です。その後一旦Fineと見せかけて冒頭の「不安感」セクションに戻ります。Michael吹きっぱなしのオンステージは大団円を迎えます。

2曲目Habanera、ビゼーのオペラ「カルメン」やサン=サーンスの作品にこの名がありますが、元はCubaのリズムの形態の一つの名称で、Habaneraとは「ハバナの」と言う意味です。パーカッション、ギターも参加し、ベースもEddie GomezのアコースティックからMarcus Millerのエレクトリックに代わり前曲とは雰囲気がガラッと変わり、ここでしばしMichael君はお休みでその間オーケストレーションをしっかりと聴くことができます。6’06″から満を持してテナー再登場、最後まで演奏が繰り広げられますが、その後曲のエンディングまでどんなモチーフが必要なのか、どのようなメロディラインを経れば終止感を得られるのかまで、Michaelはお見通し、計算づくでのアプローチかも知れません。

3曲目Nightwings、冒頭フルートや木管楽器のアンサンブルが心地よく響きつつストリングスが絶妙に絡み、ピアノのイントロが始まります。Marcusのベースによるメロディ、その後フランス映画のバックグラウンドで流れているかのようなメロディをストリングがゴージャスに奏で、Michaelのソロが始まりますがこれが素晴らしい!4’15″からの倍テンポでさらにスピードアップ、リズムセクションも同時にヒートアップしてGaddが巧みに煽動します。その後Warren Bernhardtのソロに続きますがGaddの煽りにさらに拍車がかかります。ブラシを使ってこんなにも盛り上がるものなのですね! Bernhardtは MichaelとはSteps Aheadのアルバム「Modern Times」での共演仲間、身長193cmのMichaelよりもさらに背が高く2m近く身長がありそうで、その巨漢から繰り出されるピアノのタッチは実にクリアーかつ端正です。レコードでは以上がSide Aになります。

4曲目から6曲目はタイトルIn the Presence and Absence of Each Other、Part1からPart3まで組曲形式になります。Part1はまさにMichaelのために書かれたかのようなメロディを持つ名曲、そして本作中白眉の演奏です。パーカッションが効果的にサウンドの味付けを施しています。輪を掛けて物凄いここでのテナーサックスの音色にまず圧倒されてしまいます!ストリングスのサポートのなせる技に違いありませんが、加えてソロの入魂ぶりといったら!鳥肌モノです!でも実はこの演奏の立役者はGaddとMarcusなのです。Gadd淡々とブラシでリズムをキープしていたかと思えば、Michaelの演奏に瞬時に反応し、その場にこれ以上相応しいフィルインは有り得ないという次元のフレーズを繰り出します。具体的には6’32″から、そして極め付けは6’50″のフレーズ!ホントに有り得ないです!一方Marcusは全編に渡り自由自在なアプローチでMichaelの演奏をバックアップ、7’00″過ぎた辺りから自在を通り越して自由奔放、好き勝手状態、7’48″頃からMichaelのソロが終わる8’05″まで笑いが止まらない程のメチャクチャやっています!満面の笑みを湛えたメンバー同士の抱擁が録音終了後行われたことでしょう。

5曲目Part2はOgerman自身の別な作品で、タイトルを変えて再演しています。2001年リリースClaus Ogermann / Two Concertos (Decca)

曲名はConcerto For Orchestra Ⅱ ( Marcia Funebre)となり、ほぼ同じアレンジでMichaelのテナーソロ抜きの演奏です。この作品はクラシック作編曲家としてのOgermanにスポットライトが当てられ、自身のピアノ演奏によるPiano Concertoの他、やはり自らコンダクトを務めたConcerto for Orchestra、ふたつの組曲から成っています。こちらも素晴らしい作品です。本作では冒頭からオーケストラをフィーチャーし、エンディング部分でMichaelのソロを聴くことが出来ます。曲想に由来するのかどこか物憂げなテイストを感じさせる印象的なテイクです。因みに作品ジャケットの絵画はNY出身の画家Arnold Friedmanによるもので、多分この画家もユダヤ系と推測されます。

6曲目Part3も前曲と同様にオーケストラの演奏がメイン、最後に閉会の辞を述べるが如く、エピローグとしてMichaelの演奏がほんの20秒程度フィーチャーされます。

2018.11.09 Fri

Will Lee / Bird House

今回はベーシストWill Lee、2001年録音のリーダー作「Bird House」を取り上げてみましょう。 b)Will Lee  p)Bill Lee  ds)Billy Hart  ts)Michael Brecker  tp)Randy Brecker  vibes)Warren Chiasson  vocal)Bob Dorough  tp)Lew Soloff  g)John Tropea 1)Confirmation  2)Now’s the Time  3)Charles Yardbird Parker Was His Name (Yardbird Suite)  4)Ornithology  5)My Little Suede Shoes  6)Cheryl  7)Au Privave  8)Lover Man  9)Donna Lee  10)Hot House  11)Quasimodo  12)Anthropology Recorded at Livewire studios in New York on Feb 16 & 17 2001  Produced by Will Lee  Skip Records ドイツのレーベルSkip Recordsから2002年にリリースされたWill Leeの第2作目にあたるリーダー作。自身のボーカルをフィーチャーしたAOR仕立ての94年リリース初リーダー作「OH !」とは打って変わったコンセプトによるCharlie Parkerトリビュート作品です。全曲Parkerのオリジナル、所縁の曲を取り上げ基本的にオリジナルの雰囲気を残しつつ現代的なテイストを加味して演奏しています。スタジオミュージシャンとしても大活躍のWill、彼の人脈によるNew Yorkメンバーの人選が的確な作品です。Willも勿論いつものエレクトリック・ベースで演奏していますが、アコースティック・ベースとなんら遜色ありません。 Will Leeの父親、教育者として名高いBill Leeが全面的に参加していますが、彼は実際Parkerとも共演歴があるそうです。 WillもBillもWilliamの愛称ですからWill LeeもBill Leeに成り得るのですが、父親と区別するためにWillを名乗っているのでしょう。Will Leeの本名はWilliam Franklin Lee IV、4代続き遡って曾祖父さんまでWilliam Franklin Leeを名乗っていたと言う事ですから 、WillとBillを交互に名乗っていたとするとWillのお爺さんも同じくWillだった可能性が大です。だからどうした、の雑学豆知識ですが(笑)。日本では親子が続けて同じ名前を名乗ることは殆どありませんし、ましてや4代に渡って全く同じ名前を命名し名乗ることもまずあり得ませんが、米国ではごく当たり前の事なのでしょう。 本作のリズムセクションはb)Will, p)BillのLee親子にドラムBilly Hart、演奏曲目により色々なメンバーが加わります。 1曲目ConfirmationにはMichael Breckerが加わります。彼の同曲の演奏で有名なのがChick Coreaの作品81年録音「Three Quartets」が92年CDでリリースされた際に追加されたドラムとDuoのヴァージョンです。てっきり参加メンバーSteve GaddとのDuoかと思われていましたが、どうもGaddにしてはリズムのキレが悪く、彼のセットを使用しているのでGaddのドラムの音色ですが一体誰が叩いているのだろうと話題になりました。Coreaが演奏しているらしいと噂になりましたがMichael本人にも尋ねCorea本人説が裏付けされました。当時Michaelはフュージョン、スタジオミュージシャンとして認識されていましたが、ストレートなBe Bopをこんなに流暢に巧みに、伝統に根ざしつつ、しかも革新的に演奏するのだと感動した覚えがあります。 本作での演奏はThree Quartetsからちょうど20年を経て円熟味を増し、楽器のテクニック、音色の深さ、曲のコード進行の解釈、間の取り方、ユーモアのセンス、リラクゼーション、全てが格段にヴァージョンアップしており本当に素晴らしいテイクに仕上がっています。冒頭8小節間テナーとドラムのDuoでイントロ的に演奏されますが、#11thの音が効果的で以降の演奏の行方を暗示しているかのようです。1’36″からのConfirmationの2ndリフをダブル?トリプル?フラッター?タンギングで演奏し、キメフレーズをBilly Hartがしっかり合わせる部分には思わずニンマリしてしまいます。ピアノソロ後のドラムとテナーの4バーストレードもバッチリです!Hartのドラムソロ、フレーズには彼のオリジナリティを確実に感じ取ることができますし、歌がありますね。ライナーノーツにWill自身の文章で「Mike-thanks for wanting to do this-it’s a profound experiance to make music with you」 Willのまさに狙い通りの演奏をMichaelは届けてくれました。WillとMichaelは70年Dreams「Imagine My Surprise」、Horace Silver Quintet「The 1973 Concerts」、75年The Brecker Brothers Band、76年同「Back to Back」からの付き合い、互いの信頼関係は固い絆で結ばれています。 2曲目僕も大学1年生の時に入部したジャズ研でよく演奏したNow’s the Time、ジャズのブルースの基本テーマです。ここではLew SoloffとRandy Breckerの2トランペット・フロントで演奏されます。Randy, SoloffはBlood Sweat, and Tearsの初代、2代目のトランペッターたちですね。Soloffの方がビッグバンドのリード・トランペットも務めるため、Randyよりも派手な音色ですが、Randyも味のある音色でクールでホットなバトルを繰り広げています。 3曲目はヴォーカリストBob DoroughをフィーチャーしたCharles Yardbird Parker Was His Name (Yardbird Suite)、Dorough自身が作詞した歌詞で歌っています。Parker自身のアドリブ・ソロに歌詞を付けたボーカリーズが行われその後vibraphoneソロ、更にスキャットも聴くことが出来、素晴らしい歌声とスイング感を堪能できます。vibraphone奏者Warren Chiassonは34年生まれのベテラン、Les McCann, George Shearing, B. B. Kingたちとの共演歴があります。片手に2本づつ、計4本のマレット・テクニックを操るvibraphone奏者のパイオニアです。 4曲目はOrnithology 、ピアノのイントロからRandyのワンホーンで演奏されます。流暢なフレージングから彼も若い頃はClifford Brownをよくコピーしたと言う話を思い出しました。 5曲目はvibraphoneをフィーチャーした名曲My Little Suede Shoes、素敵なイントロパートに続くメロディラインとvibraphoneの音色がとても良くマッチしています。僕はChiassonをこの演奏を聴くまで知りませんでしたが、素晴らしいプレイヤーと認識し、ちょっと彼の事を掘り下げてみたいとも思いました。Billのピアノソロはスイングのリズムでは随分と前ノリでしたがカリプソのリズムでは然程気になりません。リーダーの短いベースソロも聴かれますが、この人の4弦ベースに拘ったベーシストぶりには男らしさ感じます。ラストテーマ後再びイントロのメロディに戻りFineです。 6曲目もブルースナンバーCheryl、今度はSoloffのワンホーンで演奏されます。ハイノートをあまり使わずにスイングするソロは正統派ジャズトランペッター然としています。 7曲目はAu Privave、こちらもまたまたブルースですがJohn Tropeaのギターをフィーチャーしています。ギターの独奏による少しアップテンポのテーマ、2コーラス目の途中からピアノのバッキングと手拍子による2, 4拍バックビートが聴かれますが、手拍子はWillでしょう。ギターのテーマがちょっと危なげでたどたどしさを感じさせますが、Tropeaさん普段あまりジャズを演奏していないのでしょうか?ギターソロの最後のコーラスでHartがバックビートにリムショットを入れていますが、テーマでのWillの手拍子を模したものです。こういうセンスには良い意味でどきりとさせられます。ここでもWillのソロを楽しむことが出来ます。 8曲目、Parkerのバラードといえばこの曲Lover Man、Soloffのミュート・トランペットがフィーチャーされピアノと全編Duoで演奏されます。美しい演奏でSoloffの歌心を再認識しました。 9曲目はDonna Lee、ギターとミュート・トランペットのユニゾンメロディ、こちらもトランペットはSoloffです。ジャムセッション風の演奏で、トランペットは演奏の途中からミュートを外しストレートにも吹いています。ちょっと全体にバタバタしている演奏です。 10曲目はTadd DameronのHot Houseを、vibraphoneをフィーチャーして演奏しています。安定したタイム感、的確なフレージング、Chiassonの演奏は4本マレットのMilt Jackson(2本マレットプレイヤー)的なテイストを感じます。 11曲目Quasimodoは再びヴォーカリストDoroughの登場、歌われている歌詞は女性ヴォーカリストSheila Jordanが書いたものです。再びSoloffのトランペットソロが聴かれ、Doroughのスキャットもフィーチャーされます。 ラスト12曲目はリズムチェンジのAnthropology、SoloffとMichaelの2管で演奏されます、先発Michaelは2コーラスという短いソロスペースの中でサムシングを表現しようと、果敢にチャレンジしています。フラジオ音でオーギュメント音G#が割れた音で演奏され、インパクトがあります。

2018.11.03 Sat

Mixed Roots / Al Foster

今回はドラマーAl Fosterの77年録音の初リーダー作「Mixed Roots」を取り上げてみましょう。 ds)Al Foster  b)T. M. Stevens, Jeff Berlin, Ron McClure  p)Masabumi Kikuchi, Teo Macero  g)Paul Metzke  ts, ss)Michael Brecker  ss)Bob Mintzer, Sam Morrison  fl, sax)Jim Clouse 1)Mixed Roots  2)Ya Damn Right  3)Pauletta  4)Double Stuff  5)Dr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis)  6)El Cielo Verde  7)Soft Distant 1977年録音  78年リリース Produced by Teo Macero  Laurie Records Miles Davisのバンドに72年から85年まで13年間在籍したAl Foster、Electric Miles Bandの屋台骨となりMilesから絶対の信頼を得てBand史上最長の在籍期間、多くの名演奏を残しています。基本Fosterは決してラウドにはドラムを演奏せず、音楽的な音量でデリケートに、かつ大胆にビートを繰り出しバンドのリズム、サウンドを牽引します。大変バランスが取れたプレイを信条とするのでMilesにとどまらず、多くのミュージシャンからファーストコールを受けるようになりました。Sonny Rollins, McCoy Tynerに始まり、特筆すべきは晩年のJoe Hendersonのレギュラー・ドラマーを務めた事で、音量の小さいJoeHenとの音楽的相性が抜群、多くのアルバムで互いに信頼関係を築いたミュージシャン同士ならではのコラボレーションを聴くことができます。ひとりのミュージシャンと長きに渡り共演関係を保てるのはそのミュージシャンの音楽性が優れている事の裏返しでもあります。 本作の根底にはMiles Bandのサウンドがありつつも、Fosterなりのジャズ、ロック、ファンクのスピリットを導入し、それらを踏まえたオリジナル・ナンバーを中心とした演奏を聴くことができます。プロデューサーのTeo Maceroの采配もあるでしょうが参加メンバーの人選が異色で、自分自身の音楽を表現するための拘りを感じます。ベーシストに自称Heavy Metal FunkのT. M. Stevensと曲によりJeff BerlinとRon McClure、ギタリストはNYのスタジオ系ミュージシャンでGil Evansの作品にも参加していたPaul Metzke、そしてそして、ピアニストには日本代表としてプーさんこと菊地雅章氏!彼の参加がこの作品の品位を高めたと言って過言ではありません。独自のサウンドを聞かせています。ソプラノサックスにBob Mintzer, Sam Morrison、テナーとソプラノ・サックス持ち替えてのメイン・ソロイストとしてMichael Brecker、期待に違わぬ猛烈な演奏を聴かせており、70年代後期に於ける彼の代表的な演奏に挙げられます。因みに僕が学生時代に聴いたギタリストJack Wilkinsの「You Can’t Live Without It」、ピアニストMike Nockの作品「In Out And Around」と、本作でのMichaelのエネルギッシュでカリスマ性溢れる演奏に僕自身とことんやられてしまいました!そして期せずしてこの 3作でドラムを叩いているのがFosterなのです。 ところで本作はAl Fosterの初リーダー作に該当するはずなのですが、自身のwebsiteのディスコグラフィーには何故か掲載されていません。更に日本コロムビアから翌79年に「Mr. Foster」という第2作目のリーダー作品をリリースしていますが、こちらも非掲載です。Dave Liebman(ss), Hiram Bullock(g)たちが参加したフュージョンサウンドにFosterのボーカルも聴けるというレアなアルバムです。 本作78年リリースはLaurie Recordsという、ポップスやロックのレコードを中心にした米国レーベルからの発売でした。ほとんどジャズ色の無いレコード会社ですが膨大なカタログ枚数を抱えています。Teo Maceroとの縁故関係でのリリースと推測していますが。ジャケットにも同様にジャズの香りはせず、表裏両面とも当時のポップスレコードのセンス、雰囲気で〜というかコンセプト自体がよく分かりませんが(笑)〜本作品の内容とは大きな隔たりがあります。 その後日本ではSonyからジャケット違いでリリースされましたが、輸入盤よりも国内盤の方が流布した関係なのか、日本制作の作品と捉えられがちです。しかしながらMiles Davisの諸作をプロデュースしたTeo Macero監修による正真正銘のMade in USAのジャズ作品です。 Fosterの以降の作品はテナーサックスを迎えたカルテット編成が多く、Chris Potter, Eli Degibriといった精鋭を起用しています。Potterをフロントに擁した97年の作品「Brandyn」には本作収録のDr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis) をThe Chiefというタイトルで再演しています。Milesという人物はジキル博士とハイド氏にしてチーフ的な存在なのですね、きっと。 本作レコード裏ジャケットのライナーには「This album is dedicated to my mother and my four daughters, Thelma, Simone, Michelle and Monique」と自身の女系家族に作品を捧げる旨が記載され、「Thanks to Anthony, Derrick, Preston and Paul for being so helpful」と多分ローディ、レコーディングのスタッフに対する謝辞が有ります。そして「Special Thanks to Teo, Kochi, Mike」とあるのですが、Teoは間違いなくプロデューサーのTeo Maceroの事でMikeも熱演を披露して作品を盛り上げたMike Brecker、問題はKochiですが、本作録音前年の76年8月にプーさんがFosterを迎えてレコーディングした自身の作品「Wishes / Kochi」にあやかってプーさんの事をKochiと呼んでいたのではないでしょうか。彼の本作での労は賞賛に値しますからクレジット掲載も当然です。 1曲目はFosterのオリジナルにして表題曲Mixed Roots、うるさいオヤジがいない分リラックスしたMiles Bandといった趣の演奏ですが、ギターのカッティングとキーボードのシンコペーションのリズム、ベース・パターンが心地よいです。MichaelのテナーとMintzerのソプラノがフィーチャーされていますが、 Mintzer後年の演奏の素晴らしさと比較し、フレージングのクオリティ、滑舌、アイデア、タイム感いずれも今一つの感があり、ソプラノのマウスピースとリードの組み合わせが合っていない事に起因しているように聞こえます。一方のMichaelは確実に何かを掴んだ芸術家、演者ならではの表現の発露を感じます。テナーの音色が素晴らしいですね。本Blogで何度も書いていますが今一度、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、これはクラリネット奏者Eddie Danielsから譲り受けました。リードがLa Voz Medium Hard、リガチャーがSelmer Metal用、楽器本体がAmerican Selmer  Mark6 No.67853。このセッティングにしてからMichaelは新境地に至ったように認識しています。ソロの構成、起承転結の明快さが堪りません。 2曲目もオリジナルYa Damn Right、先ほどはソプラノのメロディが中心でしたがこちらはMichaelのテナーメロディがメインです。先発Metzkeのハードロックテイスト満載のソロの後にMichaelの登場です。フレージングの端々にジャズ的アプローチが聴かれるので、ハードロック・サウンドの中に一味違ったテイストを加味させています。 3曲目もFosterのオリジナルPauletta。この曲からベーシストがT. M. Stevensに変わります。強烈にグルーヴするベースは超弩級です。James Brown, Bootsy Collins, Narada Michael Waldenらとの共演歴のあるT. M.は背の高いがっちりした体格のプレイヤーで、その髪型とサングラスを愛用、ド派手なファッションから映画プレデターの地球外生命体をイメージさせますが(笑)、実はフランクでとてもナイスな人柄です。今は亡き名ドラマー日野元彦氏の音楽生活40周年記念コンサートにT. M.が客演し、その際に僕も共演しました。演奏後彼は大変丁寧に「君の名前は?」「さっきの演奏素晴らしかったよ。今夜はみんなと一緒に演奏出来て楽しかった」と話しかけに来ました。僕にだけでなく共演した若手ミュージシャン全員とちゃんと会話を交わしていたようで、周囲に対する気配りがハンパない気がしました。前の奥様が徳島県出身、一時期T. M.も徳島市に在住していたそうで、地元のアマチュアミュージシャンともよくセッションをしていたという話を聞きました。 Fosterが参加したBob Bergの78年録音初リーダー作「New Birth」にもPaulettaが収録されています。 Bergの演奏ではテーマ前半をテナー・ワンホーンで、後半トランペットが加わり2管でメロディが演奏されていますが、ここでは始めのテーマをプーさんのピアノが(弾きながらの唸り声が凄いです!)、後のテーマをMichaelのソプラノで演奏しています。この演奏は本作のハイライトの一つ目になります。 以前雑誌Jazz Lifeで僕がMichaelに自身の過去の演奏を聴かせてそのコメントを貰うという企画で、このPaulettaを取り上げました。ここでご紹介したいと思います(原文のまま)。 MB : これは本当に久々に聴いたね。プロデューサーのテオ・マセロ(マイルス・デイヴィスのプロデューサーを長年務めた人物)と、この時初めて一緒に仕事をしたんだ。菊地(雅章)の素晴らしいピアノがフィーチャーされているね。レコードの音自体はあまり良くないけど、演奏されている音楽は素晴らしい。いいスピリットが感じられるしね。私は慣れないソプラノ・サックスを吹いていて、それ自体は珍しいものだけど、このプレイは気に入っているね。この後にマウスピースをなくしてしまい、頭にきたのを覚えているよ(笑)。ソロは、ヴォーカルのようにソフトで、際立っているように感じる。楽曲も、誰が書いたか知らないけど、すごくいい曲だね。 ーこれはアルが書いた曲です。 MB : そうなんだ? 素晴らしい曲だよ。 インタビューの発言からいくつかの興味深い点を確認できます。まず自分の演奏を後からほとんど聴く事のないMichaelがこの演奏を聴いており、Teo Maceroとの初仕事だったという認識を持っている。ミュージシャンならば当たり前ですが、自分が録音した作品のレコーディング・クオリティに対する評価を下しつつ的確なコメントを述べている。それにしても気に入ったマウスピースだったでしょうからレコーディング後になくしてしまったのなら、頭にくるよりも落ち込んでしまうと思いますが(笑)。ソロの内容もヴォーカルのようにソフト、とは思えませんが彼のセンスでそのように感じるのならば致し方ありません。そしてソロの際立った感ですが、これは半端ありませんね。珍しく慣れないソプラノを吹いてとは全く聴こえない完璧なコントロールでの演奏、これは謙遜の一種でしょうか?テナーとはまた違った次元での表現を聴かせています。本当に素晴らしい演奏です!そしてPaulettaは美しいメロディ、ユニークな構成を持った大変に良い曲ですが、ドラマーは音楽上の役割とは関係なく、端正なメロディ、意外な発想の構成からなるオリジナルを書く場合が多々あります。ドラマーなりの観点に由来するのかも知れません。 Jim Clouseのフルートがメロディ〜ピアノソロのバックで、微かに聞こえる程度にオブリガートを入れていますが、プーさんの弾きながらの声と相俟って、所々に摩訶不思議なサウンドを聞くことができます。Michaelのソロはメロウな味わいを聴かせつつも次第に複雑化したラインが交錯し、ドラマチックに盛り上がりつつラストテーマへ、その後エンディング部で更なる展開が!こんな演奏を可能にするマウスピースはさぞかし素晴らしいクオリティのものだったでしょうに、無くしてしまうなんて残念としか言いようがありません。 4曲目Double Stuff、本作のもう一つのハイライトです。Milesの「Agharta」「Pangaea」両作(もちろんFosterが演奏しています)のグルーヴを感じさせる演奏で、ここではMichaelに思う存分吹かせていますが、作品中最もFosterとの熱いやり取りが聴かれ、盛り上がるテナーソロをドラムがさらにプッシュしてます。テナーのキーでEマイナーから半音上がりFマイナーになってからMichaelの暴れ方の凄まじいこと!そういえばMichaelと同世代のテナーたちSteve Grossman, Dave Liebman, Bob Bergの3人はMiles Band経験者です。ジャズ・リジェンドにひたすら敬意を払うMichael、友人たちが軒並みMilesとの共演で音楽性を深めたのを見て、さぞかしMilesと共演を果たしたかった事でしょう。モーダルに熱く燃え上がる中にJohn Coltraneのセンスを中心として、King CurtisやMichael独自のファンキーなテイストをスパイス的に聴かせているのが大変効果的です。へヴィーな演奏の重圧感を緩和する役割ですね。ダブルタンギング、完璧なフラジオ、オルタネート・フィンガリング、幾つかの音を同時に響かせる重音奏法〜マルチフォニックス、高速フレーズ、タイトなリズム、実はメチャメチャ技のデパート的ソロでもあります。 5曲目Dr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis)こちらもFosterのオリジナル、彼がやはり参加しているDave Liebman, Richie Beirachらから成るバンド名を冠した81年録音作品「Quest」にも収録されています。 最初のソプラノサックスのソロ、続くテナーソロもMichaelがフィーチャーされています。Foster, T. M.が尋常ではない暴れ方でソロイストを煽っているのでそのためか、3’55″でMichael珍しくメロディ2音先に飛び出して吹いています。プーさんのエレピによるバッキングもMetzkeのカッティングとともに効果的です。それにしてもこの演奏は他よりも突出して異常なまでの盛り上がりを聴かせていますが、too much感を否めません。 6曲目El Cielo Verde、プーさんのオリジナル。スペイン語で緑の空という意味ですが、81年彼の傑作「Susto」のプレヴュー的演奏になります。こちらもMichaelの超絶ソプラノをフィーチャーした演奏、クレジットにはSam Morrisonもソロイストとして挙がっていますがソロはありません。 6曲目はTeo MaceroのオリジナルSoft Distant、ベーシストはRon McClureに替わり、ピアノもTeo自身が演奏しています。冒頭のテナー・ルパート演奏部分がこれまでずっとアグレッシヴな演奏だったので、新鮮に響きます。しかし全体を通しての印象は捉えどころのなさ感でしょうか。特に魅力的なメロディラインや曲構成を持つ曲ではないので、Michaelのゴリゴリ・テナーでの演奏やギターソロに聴きどころを見出すしかなさそうです。

2018.10.15 Mon

Echoes Of An Era / Chaka Khan

今回はボーカリストChaka Khanを中心としたオールスターズによる82年リリースの作品「Echoes Of An Era」を取り上げたいと思います。 82年1月14日リリース 81~82年録音 Producer : Lenny White   Engineer : Bernie Kirsch  Recorded at Mad Hatter Studios, Los Angeles, California  Label : Elektra/Musician vo)Chaka Khan  ts)Joe Henderson  tp, flugelhorn)Freddie Hubbard  p)Chick Corea  b)Stanley Clark  ds)Lenny White 1)Them There Eyes  2)All Of Me  3)I Mean You  4)I Loves You Porgy  5)Take The “A” Train  6)I Hear Music  7)High Wire – The Aerialist  8)All Of Me(Alternate Take)  9)Spring Can Really Hang You Up The Most ジャズボーカルとインストルメンタル・ジャズの醍醐味を正に同時に、いや相乗効果で何倍にも楽しめる素晴らしい作品です。R&Bの女王とまで評されるChaka Khanのジャズボーカリストとしての充実ぶりと驚異的な歌唱力、Freddie Hubbard, Joe Hendersonフロントふたりのリラックスした中にも互いに触発しつつ、されつつ火花を散らすアドリブソロの応酬、Chick Coreaの抜群のテクニック、タイム感、音楽性、歌心に裏打ちされたピアノワークと奏者のソロをホリゾンタルに浮き上がらせるバッキング、 恵まれた体格からコントラバスを軽々と扱いこなすStanley Clarkの、生来の才能に裏付けされたベースラインの安定感、本作のプロデューサーとしての立場からバンド演奏の全体を俯瞰しつつタイトなリズム、センスの良いフィルインを繰り出すLenny White、そんな彼らによる実に見事なインタープレイ、よく知られた(手垢にまみれたとも言えますが)スタンダード・ナンバーをCoreaの抜群のアレンジでフレッシュに歌いあげるChakaを、メンバー全員が一丸となって実に楽しげにバックアップしているのです。他のジャズボーカリストでは本作の充実感は得られなかったでしょう。 1曲目Them There Eyes、冒頭からブレークタイムを用いたFreddieのソロ、奥行きを感じさせ箱鳴りがする音場感、マイクロフォンから一定の距離を置いたブース(小部屋)での収録になります。続くJoeHenは逆にかなりオンマイクな音場感でのJoeHenフレーズ炸裂のソロです。ピアノ、ベース、ドラムの録音バランスが実に良いです!「シャー」っとWhiteのトップシンバルにフェイザーが掛かったような質感、タイトなClarkのベースとの絡み合いの素晴らしさが作品のクオリティの高さを既に提示しています。録音エンジニアが多くのCoreaの作品を手掛けたBernie Kirsh、録音スタジオも当時Corea自身が所有していたLos AngelesにあるMad Hatter Studiosでは然もありなんです。そしてChakaのボーカルの登場、よくあるボーカル作品ではボーカルが圧倒的に前面に出て他の楽器が如何にも伴奏者の程を表しますが、出過ぎず引っ込み過ぎず、他の楽器とのバランスが大変に良いと思います。Them There Eyesという小唄を小唄として捉えて決して大げさには歌っていないのですが、その存在感と歌のウマさがパンチのある歌唱力をごく自然にアピールしています。Freddieのソロも惚れ惚れするほどイケイケ絶好調ぶりを聴かせます。Coreaのソロはその思索ぶりが映えるクリエイティブな内容で、Freddieのテイストとはある種対比を成しています。ひょっとしたらCoreaはそこまで考えてソロのアプローチを試みているのかも知れません。メンバーの演奏にインスパイアされ、始めの歌よりもかなりシャウト感のある後歌での、フロントふたりのオブリガードがボーカルをしっかりとバックアップします。 2曲目はお馴染みAll Of Me、イントロ無しでFreddieのミュートトランペットのオブリを従えて外連味なく歌われます。例えばアメリカの有名なポップスシンガーがジャズを歌ったアルバムを聴くと、歌の上手さはしっかりと聴き取ることが出来ますが、肝心なジャズテイストが希薄もしくは皆無で、ジャズの形、名を借りただけのポップス作品としか聴こえない場合があります。Chakaの場合は彼女の歌からしっかりとジャズ・スピリットを聴き取ることが出来る上に、彼女の素晴らしい個性も確実に受け止める事が出来ます。この違いは一体何処から来るのでしょうか?Freddieがオブリに引き続きソロを取ります。間を生かしたスペーシーなソロはCoreaにバッキングの機会を多く与えているのかと思いきや、Coreaは意外と音数の少ないソロにはシンプルに対応し、続くJoeHenのソロにはフレーズの入り方やウネウネフレーズに適宜反応しています。テナーのフレージングを引き継いだピアノソロはごくシンプルに、しかしCoreaならではのサムシングを聴かせています。 All Of Me別テイクの8曲目についても触れ、更に両者を比較してみましょう。Chick Corea a la Thelonious Monk風のピアノイントロから始まります。ドラムスもアタマの歌ではブラシに持ち替えており、テンポも若干早めなので些か風情が異なります。同様に先発はFreddie、本テイクより饒舌なソロなのでCoreaも触発され、リズミックなアプローチのバッキングを聴かせます。JoeHenのソロも本テイクでは聴けない、気持ちの入った熱いHigh F音でのロングトーンが効果的、Coreaも同様に本テイクよりも深い領域に入り込んだ、 Monkish(余談になりますがMichael BreckerはMonk風に、と言う意味で彼のミドルネーム”Sphere”を用いて”Spherical”と表現し、同名のオリジナル曲を書いています)なソロを聴かせています。Chakaも後歌のシャウトでは一層熱いものを感じさせます。と言う訳で別テイクの方がより音楽的にアピールしているのですが、本テイクの方のエンディングのアンサンブルがバッチリとキマっているのでこちらが採用になったのでは、と推測しています。別テイクのエンディングはリズムセクションの足並みが残念ながら今ひとつ揃っていません。曲の作品としてのクオリティを重んじた末のチョイスと判断できます。別テイクの方が内容的には断然良いものがあるが、本テイクの方も決して悪くはない。だとしたら楽曲上完璧な方を採用しよう、とするのはアレンジャー・サイド当然の流れです。恐らく別テイクの方を最初に録音し、エンディング問題を解決すべく再チャレンジで本テイクを録音したのでしょう。別テイク〜本テイクと続けて聴いてみると別テイクの方がずっと勢いがあるのが分かります。エンディング問題は無事に解決しましたが本テイクの演奏は何処か守りに入ってしまった感は拭えません。ジャズは間違いなくファーストテイクが旬なのです! 3曲目はThelonious Monkの名曲I Mean You、作曲者名にジャズ・テナーサックスの開祖Coleman Hawkinsの名前も連ねられています。歌詞はChakaによる自作自演だそうです!ここでの演奏はインストと遜色は無く、Chakaのボーカルはホーンライクです。テーマのシンコペーションを生かしたアレンジもカッコいいです。先発FreddieのソロでのCoreaのバッキング、Monkテイスト満載です!触発されたFreddie、イってます!Coreaは本作レコーディング最中の81年にMiroslav Vitous, Roy Haynesと「Trio Music」をリリースしました。ここではRhythm-A-Ning, Round Midnight, Eronelと言ったMonkのナンバーを多く取り上げ、Coreaの中ではMonkブームだったのでしょう、自己のスタイルからMonkへのスイッチングが全く自然です。JoeHenはソロを取らず続くCoreaのソロはまさしくMonk降臨! 4曲目はGeorge Gershwin作曲のバラードI Loves You Porgy, CDのクレジットにはI Love You Porgyとなっています。もちろん文法的にこちらの方が正しいのですが、黒人英語の特徴の一つとして一人称単数現在でも動詞の語尾に”s”を付けることがあります。この名曲をCoreaが素晴らしいアレンジで再構築しています。ボーカルとピアノのDuo、テーマの[A]の部分をリピートせずに1回でサビの[B]に入ります。情感たっぷりのChakaの歌にホーンが被さり、バックビートを生かした本来は無いインタールードが演奏されます。Coreaはこう言ったアディショナルなパート作りに長けています。サビの部分でCoreaのソロ、JoeHenのオブリ入りで再びインタールードを経て、Freddie〜JoeHenと倍テンポでソロが続きます。更にインタールードがあり、ホーンの裏メロディが入りつつ後歌になりますが、短い間に様々なパートが交錯する緻密で大胆なアレンジは、この曲を誰も経験したことの無い別世界に誘いつつ、聴く者の姿勢を正してしまう程の説得力があります。素晴らしい!エンディングにも更にもうひとパート工夫があり、Chakaのシャウトを劇的に、感動的にまとめ上げています。 5曲目Billy Strayhornの名曲Take The “A” Trainには本作中最も手の込んだ斬新なアレンジが施されています。Chakaのメロディ〜スキャット・ソロに到るまでに、延々と2コーラス以上A Trainの原型はしっかりと在りつつもピアノ、ホーンでの手を替え品を替えのメロディやアンサンブルが繰り出される展開には心底参りました!こんなA Trainは聴いたことが有りません!そしてこれ程のアレンジにも映える、対抗しうるボーカリストはChaka以外には存在しないでしょう。Chakaのスキャットのアプローチも相当ユニークです。その後Freddieの華麗なソロはハイノートでまとめ上げてJoeHenに受け渡しますが、こんなに盛り上げられた後ではさぞかしやり辛そうに思いきや、全く意に介さず淡々と自分のペースをキープしてスイングしています。ベースソロの後、いわゆるシャウトコーラスが演奏されますが、これまた意表を突くホーンのメロディライン、カッコ良いです!エンディングは比較的ストレートに終わっています。 6曲目ハッピーな曲想に対してダークなメロディラインを有するホーンとピアノのユニゾンのイントロが印象的なI Hear Music、曲調とChakaの声質、歌い方が絶妙にマッチしています。[A]メロの5~8小節目を毎回ベースが効果的にユニゾンしています。Freddieが歌に被ってソロを始めますが、本作のホーンのソロは何故か必ずFreddieが先発、長年の付き合いが成せる技かJoe HenはどんなにFreddieが盛り上がってもその後に確実に自己表現を行なっているのが素晴らしいです。ここでもCoreaはMonkの影を拭い去れないようで、シングルノートを中心としたソロから突如としてMonkになってしまいました。ベースソロを経てサビから歌の戻り、エンディングはイントロを再利用してFineです。 7曲目本作唯一のCoreaのオリジナルHigh Wire – The Aerialist、初演はJoe Farrellの79年録音のリーダー作「Skate Board Park」に収録されています。 ここではCoreaを擁したFarrellのワンホーンカルテットで、コンボジャズ・テイストの演奏が聴かれますが、本作では収録曲中のハイライトとして、ボーカルとインストの完璧な融合が成されていると言っても過言では有りません。曲の美しさと構成のカッコ良さ、Chakaの声質、歌い方が見事にマッチング、Chakaのために書かれたかのような曲と感じてしまう程です!そこにホーンの複雑にしてゴージャスなアンサンブルが絶妙に絡みつつ(Freddie, Joehenのアンサンブル能力の高さに今更ながら感心してしまいました!)、リズムセクションのシカケがここぞとばかりに雰囲気を盛り上げ、更にCorea, Freddie,  JoeHenのソロとのインタープレイ、Coreaのバッキングの全ての音が有機的に反応し、壮大な絵巻物の観を呈しています!ボーカルの伴奏、インストルメントとボーカルの融合の一つの理想の形がここに有ります。 9曲目ラストを飾るのは全編ChakaとCoreaのDuoによるSpring Can Really Hang You Up The Most、ただでさえ美しいナンバーを崇高な世界にまで高めつつ更に美の世界を表現しています。情感たっぷりにストレートに歌うChakaの後ろで、Chickがとんでもない色々なバッキングを繰り広げているのが面白過ぎです!Chickのコードワークも然程オリジナルから離れる事が有りませんでしたが、エンディング最後に待ち構えていました!壮絶な代理コードの嵐!Chakaもこの和音でよくピッチが取れるものです!7’57″からの部分で細心の注意を払いつつ歌うChakaも一つの聴きどころです。

2018.10.06 Sat

Merry-Go-Round / Elvin Jones

今回はElvin Jonesの1971年録音リーダー作「Merry-Go-Round」を取り上げてみましょう。 1)Round Town  2)Brite Piece  3)Lungs  4)A Time For Love  5)Tergiversation  6)La Fiesta  7)The Children’s Merry-Go-Round March  8)Who’s Afraid… 71年2月12日(#8)、12月16日(#1~7)録音、72年リリース  Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ  Recording Engineer: Rudy Van Gelder  Producer: George Butler  Blue Note Label 参加メンバーは曲毎に紹介します。 68年から73年の5年間でElvinはBlue Note Labelに於いて計10作のリーダー作をリリースしました。本作はその中の1枚で、Elvin本人の演奏自体はいずれの作品でもクリエイティヴさを聴かせていますが、参加ミュージシャンにより内容や作品の出来具合に差が生じているように感じます。他の作品が比較的小編成で王道のコンボジャズを聴かせているのに対し、本作は曲によってフロント楽器のメンバーを変えて様々なテイストを表現しています。そしてどの曲も演奏時間が短くコンパクトで、コアなElvinや更にはColtraneファンには物足りなさを感じさせますが、多くの聴衆へのアピールを考えるとダイジェスト的な演奏の方が耳に入り易く、ある種Elvinの最もポップな作品集と言えましょう。 全8曲の演奏中71年12月16日に録音された7曲がメインで、8曲目に収録されている同年2月12日録音の1曲は前作に該当する「Genesis」の残りテイクです。レコーディングメンバーも被っているので一応の統一感はありますが、プロデューサーのGeorge Butlerが「Elvin, 今回の録音は曲数十分にあるけれど、全体の収録時間が30分を切っていて28分しか無く、作品としてリリースするには短いんだ」「Yeah George, じゃあこの前リリース(同年9月)したGenesisに入りきらなかった曲があったろ?あれを入れれば事足りるんじゃないか?」「おお、そうだねElvin, that’s a great idea!」と言うようなやり取りがあったかどうかまでは知る由もありませんが、結果Frank Fosterのアルトクラリネットをフィーチャーした、また他とは毛色の変わったナンバーを作品に追加し、バリエーションが増えた形になりました。 1曲目’Round Town<Dave Liebman(ts)Steve Grossman(ts)Joe Farrell(ts)Yoshiaki Masuo(g)Jan Hammer(el.p)Gene Perla(el.b) Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)> Gene Perla作曲の’Round TownはLiebmanとGrossmanのテナーコンビをフィーチャーしたジャズロック風のナンバー、Farrellはホーン・アンサンブル要員として参加、そして前年71年渡米したばかり、我らが増尾好秋氏のギターワークも随所に聴かれます。Liebman, Grossmanを擁した翌72年録音「Elvin Jones Live At The Lighthouse」はElvinのリーダー作中最高傑作の誉れ高い大名盤ですが、ここでの演奏はそのプレヴューとなります。 冒頭のテナーソロはGrossman、レコーディング時20歳になったばかりですが堂々とした風格、テナーの音色の凄み、フレージング、タイム感、こんな事が出来る若僧、一体何者でしょう?続くLiebmanのソロにも彼らしいテイストをしっかりと聴く事が出来ます。オープニングに相応しい身の詰まった軽快なナンバーです。 2曲目Brite Piece<Dave Liebman(ss)Steve Grossman(ss)Joe Farrell(ss)Jan Hammer(p)Gene Perla(b)Don Alias(congas, oriental bells)> Liebman作曲のBrite Piece、自身のダークな曲想のオリジナルが多い中、珍しく明るい曲風なのでネーミングされたのでしょう。「Live At The Lighthouse」CDリリース時の未発表追加テイクにも収録されています。ソプラノサックス3管によるアンサンブルはかなり珍しいですが、3人ともソプラノのヴァーチュオーゾ、大変エグいサウンドが聴かれます。部分的に時折テナーに持ち替えてアンサンブルしているのでは、と錯覚してしまいますが、多分Grossmanの音色があまりに太くてテナーのように聴こえてしまうのでしょう。ソロの先発はHammer、素晴らしいタイム感とブリリアントなピアノのタッチ、溢れ出るアイデア、若干23歳のチェコスロバキア出身のピアニストです。有名な話ですが68年ソ連による首都プラハ侵攻(プラハの春)をきっかけに20歳で渡米、バークリー音楽院で学び、John McLaughlin Mahavishnu Orchestraを始めとして数々のミュージシャンと活動しました。続くLiebmanのソプラノソロは実に「楽器が上手い」と感じさせる演奏で、後年自身の独自のカラーを発揮するようになるとサウンドがより整理され、音楽的なプレイヤーへと転身して行きます。 3曲目Lungs<Jan Hammer(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>Hammerのピアノをフィーチャーしたトリオにコンガが加わった編成での超高速演奏♩=300、凄まじいドライブ感です!Hammerが渡米してアメリカ始め世界の音楽界で活躍したのはプラハの春がもたらした逆の功績かも知れません。タイトルLungsとはHammerのニックネーム、ElvinとPerla、Aliasの鉄壁のリズムに支えられ猛烈にスイングしています。Elvinの実にたっぷりとした1拍の長さと疾走するビート、躍動するリズムに気後れするどころか果敢に、いや全く対等に若者は演奏しています。Elvin, Perla, Hammerの3人で1枚アルバムがリリースされています。75年録音「Elvin Jones Is On The Mountain」PM Label  時代を反映してシンセサイザーやエレクトリック・ピアノが多用されていますが、たまたま電気楽器を用いているだけで、内容はアコースティック・ジャズの範疇です。何しろElvinのドラミングですから! 4曲目A Time For Love<Joe Farrell(fl)Yoshiaki Masuo(g)Chick Corea(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)>Farrellのフルートを全面的にフィーチャーしたバラードです。ピアノがChick Coreaに代わり、再びギター増尾氏が加わります。ピアノ、ギターのバッキングが混在する形ですが二人互いを聴き合い、決してぶつかったりtoo muchにはなりません。Liebmanのフルートも良いですがこういったスイートなバラードではFarrellに敵いません。しっとりとしたテーマ奏の後、ソロでいきなり倍テンポのスイングになりますがこれはColtrane Quartetのやり方、僕自身はバラードで倍テンになるのはバラードを演奏する意味が無いと昔から感じています。しかも僅か8小節間にも関わらず。ラストテーマの後のエンディングはElvinがマレットに持ち替えてアクセントを付けFineです。 5曲目Tergiversation<Chick Corea(el.p)Jan Hammer(el.p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>Perlaのオリジナル、CoreaとHammerふたりのエレクトリック・ピアノを同時にフィーチャーしたユニークな編成での演奏、ミステリアスなムードを湛えつつ、ムチャクチャカッコ良いです!ブレークが多く曲の構成も凝っており、Elvinのブラシワークでのフィルインをたっぷりと楽しめます。スティック時よりも音量が小さいためElvin独特の唸り声も同時にしっかりと楽しめます(笑)。スティックを使用したアップテンポでの大胆且つダイナミックなドラミングに反し、ブラシでの繊細さ、シンバルの絶妙さ、スネアの音色の美しさは同一人物のプレイとは俄かには信じられません!Elvinのドラミングは音楽の森羅万象を網羅しています。 6曲目La Fiesta<Joe Farrell(ss)Dave Liebman(ts, ss)Steve Grossman(ts)Pepper Adams(bs)Chick Corea(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)> 本作の目玉、Coreaの名曲La Fiestaの登場です!実はこの演奏はLa Fiestaの初演にあたり、Corea自身の「Return To Forever」録音の約2ヶ月前に行われました。曲自体のアレンジ、構成の完成度としては既に完璧、更にこの演奏ではLiebman, Grossman, Pepper Adams達による3管編成のサックス・アンサンブル(今では信じられない凄いメンバーでのホーンセクションです!)が施され、大変ゴージャスな仕上がりになっています。後年La Fiestaがビッグバンドのアレンジで良く演奏されたのは、この演奏が基にあったからでしょう。「 Return ~」同様Farrellのソプラノサックスがフィーチャーされており、美しい音色、メロディ、スペースが短いために凝縮された展開ですが素晴らしいソロを披露しています。それにしてもElvinとAliasが織りなす8分の6拍子のグルーヴといったら!「Return~」が中南米の祭り(Fiesta)ならばこちらは間違いなくアフリカ大陸の祭りをイメージさせます。CoreaのソロとElvinのドラミングの織りなすリズムはグルーヴ・マスター同士にしか成し得ない崇高な世界、この時期CoreaはElvinのバンドに出入りしており、互いに惹かれるものがあったと思います。通常この手の演奏は開始時に比べて終了時にはテンポが速くなっていますが、全く変化していません!流石です!そうそう、いくらボスElvinの仕事とはいえソロが回って来ない Grossmanがホーンセクションで大人しくしている訳がありません(汗)。もともとテナーの音色に倍音がとても豊富なので録音時マイク乗りが大変良く、バックのアンサンブルであるにも関わらずGrossmanの音だけが前に出る傾向にありますが、曲が始まった頃は比較的静かだったのがだんだんと音量が大きくなり、本人更に業を煮やした結果か、5’16″~20″はメチャメチャ大音量でセクション・アンサンブルを吹き始め、Farrellの音を掻き消さんばかりの状態になりました。レコーディング・エンジニアRudy Van Gelderが慌てて録音のフェイダーを下げた節が伺えます。でもGrossmanはFarrellの演奏、人柄を認めていたようです。Farrellが逝去した86年1月、直後に来日したGrossman本人にその旨を僕が伝えたところ驚き、その後天を仰ぎ、謙虚に哀悼の意を表していたのが印象的でした。 7曲目The Children’s Merry-Go-Round March<Joe Farrell(piccolo)Dave Liebman(ss)Steve Grossman(ss)Pepper Adams(bs)Jan Hammer(glockenspiel)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)> Elvinの奥方Keiko Jonesのオリジナル、以降のElvin Bandの重要なレパートリー曲になりました。Elvinのマーチングドラム、実に素晴らしいですね!色っぽさも感じさせ、彼のスネアドラムを聴いているだけでワクワクしてしまいます!こんな事が出来るドラマーは他にはいません。Farrellのピッコロ、Hammerのグロッケンシュピール演奏も功を奏しています。「Live At The Lighthouse」ではテーマのアンサンブルの後ドリアンスケール・ワンコードで延々とアグレッシヴなソロが続き、Coltraneの世界をGrossman, Liebmanふたりが分担して表現していましたが、ここでは割愛、テーマのみの演奏になっています。この曲の雰囲気が余りにも他の収録曲と違和感があるので、ジャジーなテイストを表現すべく触りだけでもテナーソロが欲しかったところです。 8曲目Who’s Afraid…<Joe Farrell(ts, ss)Dave Liebman(ts, ss)Frank Foster(alto clarinet)Gene Perla(el.b)Elvin Jones(ds)> Frank Fosterのオリジナル、前述のようにこの曲のみ約10ヶ月前のセッションからのテイクになります。コードレスのジャズロックテイストでFosterのアルトクラリネット(思いの外バスクラに近い音色です)にPerlaのエレクトリック・ベースがユニゾンでメロディを演奏し、FarrellとLiebmanのアンサンブルが絡み、その後Liebmanのソプラノがスネークイン、Fosterの演奏の後ろでフリーキーなソロを次第に取り始めます。割とナゾの演奏ですが、様々なタイプの曲を収録した本作にはむしろ良いアクセント的なテイクになったと思います。

2018.10.03 Wed

Basra / Pete La Roca

今回はドラマーPete La Rocaの初リーダー作「Basra」を取り上げたいと思います。 Recorded : May 19, 1965  Released : Oct. 1965  Studio : Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ  Recorded by Rudy Van Gelder  Blue Note Label 1)Malagueña  2)Candu  3)Tears Come From Heaven  4)Basra  5)Lazy Afternoon  6)Eiderdown Blue Note Label異色のメンバーによる名演奏を収録した作品、選曲も個性的です。参加しているJoe Hendersonは数多くのBlue Note作品で名演を残している言わばレーベルのハウス・テナー奏者ですがSteve Kuhn、Steve Swallow両名はサイドマンとして全くと言って良いほどBlue Noteに録音を残していません。Kuhnは新生Blue Noteから2007年に自己のトリオで「Live At Birdland Steve Kuhn Trio」をリリースするのみ(でも新生の方では名プロデューサーAlfred Lion, Francis Wolff両名の息が掛かっていないので実はさほど意味がないのですが)、Swallowの方も新生Blue Noteに数作参加の他、62年ボーカリストSheila Jordanのリーダー作「Portrait Of Sheila」に参加しているだけで、二人の実力、音楽性からすればBlue Noteと縁が無かった事は不思議ですが、黒人ミュージシャンが中心のジャズレーベルであったがためでしょうか。 当時La Roca, Kuhn, SwallowはArt Farmer Quartetのリズムセクションでもあり、同65年フロントがテナーからフリューゲルホルンに変わった形でFarmerのリーダー作「Sing Me Softly Of The Blues」をリリースしています。全く演奏内容、音楽的傾向が異なるにも関わらずリズムセクションは柔軟に対応し、素晴らしい演奏を残しています。また3人はよほど音楽的、人間的に相性が良かったのでしょう、同メンバーで翌66年Steve Kuhn Trioとして「Three Waves」もリリースしています。こちらの内容もまた違ったテイストを聴かせ、3人の音楽的懐の深さを感じさせます。 La Rocaのドラミングの方はBlue Noteの作品にかなり登場しています。そもそも彼の初レコーディングが57年11月、Max Roachの推薦があって参加が実現したSonny Rollinsの名盤「A Night At The Village Vanguard」、当日のマチネーにLa Roca、ソワレに Elvin Jonesと当時の若手ドラマー二人を使い分けています。ここでの素晴らしい演奏があって59年3月、Rollins Trioの北欧楽旅に同行することになり「St. Thomas Sonny Rollins Trio in Stockholm 1959」を残しています。 もう1作Blue Note盤で是非とも挙げておきたいのがJackie McLeanのリーダー作59年5月録音「New Soil」、Hard Bopテイストから抜け出さんばかりのMcLeanのエナジーの迸りを感じさせる作品、触発されたLa Rocaは収録曲Minor Apprehensionでアグレッシブなドラムソロを展開、あるジャズライターに「前衛ジャズはここから始まった」とまで言わしめました。革新的、刺激的なアプローチを聴かせています。 収録曲を見ていきましょう。1曲目は実に意外な選曲、Cubaの名作曲家Ernesto Lecuonaの作品、6つのムーヴメントから成るAndalusia組曲の中の1曲Malagueña、La Rocaは若い頃に6年間ラテンバンドでティンバレス奏者として活躍し、そこでの経験からのチョイスかも知れません。La Rocaと言う名もその当時の芸名から取られており、本名はPeter Simsです。8分の6拍子のリズムの上でのJoeHenのエグエグな音色によるラテンフレイバー満載のメロディー、印象的なピアノの左手ライン、要所要所では的確なフィルインを繰り出しますが全編比較的淡々とリズムをキープするLa Roca、その上でJoeHenが曲の持つ雰囲気に見事に合致しつつハーモニクス、マルチフォニックスを駆使し、最低音からフラジオ音までJoeHen節満載で縦横無尽に吠え捲ります!Kuhnの暴れっぷりも素晴らしい!ソロイストに思いっきりソロスペースを与えるためにLa Rocaは敢えてリズムキープに回っていたのかも知れませんし、元来ソロイストにシンプルに寄り添うスタイルが信条のLa Roca、自身のドラムソロでは確実に自己の世界を表現しますが、他のプレイヤーのソロのバックで煽ったり、自分から何かを仕掛けるアプローチは一貫してあまり聴かれません。後に触れますがこの事が関係して、彼自身にとってある決断をさせる一因になったのではないかと考えています。ピアノソロの後テーマに戻りますが、一層フリーキーなJoeHenの雄叫びが聴かれ徐々にフェードアウトして行きます。 2曲目はLa RocaのブルースフォームのオリジナルCandu、8ビートが基本のジャズロック風な、時代を反映したグルーヴのナンバーです。ベースパターンがメロディの対旋律を奏でていて、ユニークな構成になっています。JoeHenのソロは相変わらずの絶好調ぶりを聴かせ、続くKuhnのパーカッシヴなソロも印象的です。この頃はアップライト・ベーシストとして絶頂期のSwallowのベースソロが聴かれ、テナーとドラムスによる4バースが2コーラスあり、ラストテーマを迎えます。 3曲目もLa RocaのオリジナルTears Come From Heaven、ロックミュージシャンのオリジナルにありそうなタイトルですがアップテンポのスイングナンバー、32小節1コーラスでコード進行の小節数が多少凝った変則的構成になっています。ここでもJoeHen無敵のスインガー振りを発揮、Kuhn、La Rocaとソロが続きます。ここまでがレコードのSide Aです。 4曲目やはりLa Rocaのオリジナルであり、タイトル曲Basraは中東イラクの港湾都市。ここでのエスニックな曲調はむしろアジアンテイストを感じさせます。1曲目のMalagueñaのスパニッシュと相まってこの作品の独特なカラー付けをしており、他のBlue Noteの作品と一線を画す要因になっています。Swallowのベースソロによるイントロはこれから起こり得るであろう音のカオスを十分に予感させるもので、続くJoeHenのメロディ奏、メロディフェイク、ソロは曲想の中に確実に根ざしながらも違う音の次元への誘いを促しています。La Rocaのドラムソロのアプローチも実に官能的に聴こえます。ところでBasraは昔から領土侵略、政治的問題、石油の利権や宗教問題等様々な火種が常に飛び交い、ここで聴かれるエキゾチックな曲想とは無縁の地域です。La Rocaが演奏旅行で訪れた際の思い出で書かれたのでは無く、遡ってアラビアンナイト〜千夜一夜物語に出てくる砂漠のオアシスの都市、そのイメージで曲が書かれたのでは、と想像出来ます。 5曲目は唯一のスタンダードナンバー、Lazy Afternoonも素晴らしい選曲のバラード、JoeHenの歌いっぷりも良いのですが、Kuhnのバッキング、ソロが秀逸です。 6曲目アルバムのラストはSwallow作曲のEiderdown、ミュージシャンがこよなく愛するSwallowのオリジナル・レパートリーの一曲、Kuhnのソロのアプローチが実に的確で、その後KuhnとSwallowの音楽的コラボレーションが生涯続きますが、既に音楽的相性の良さを聴かせています。 ところでLa Rocaは本作録音の3年後にサイドマンとしての演奏活動をきっぱりと止めてしまいました。生計を立てるためにNew York Cityでタクシーの運転手を始め、その後New York UniversityのLaw Schoolで法律を学び、何と弁護士のライセンスを取得、弁護士としての活動を開始しました。有名な話がChik Coreaを迎えた自身の2枚目のリーダー作「Turkish Women At The Bath」がLa Rocaの同意無しにCorea名義でリリースされた際に自身で訴訟を起こし、敏腕弁護士として勝訴しています。いくら日本よりも米国の方が弁護士資格を取得し易いとはいえ、第一線で活躍していたジャズドラマーが辿る道として相当イバラであった事でしょう。Rollins, McLean, Coltrane Quartet, Charles Lloyd, Paul Bley, Slide Hampton, Freddie Hubbard等、 当時のジャズシーン最先端のミュージシャンと丁々発止と音楽活動を展開していたにも関わらず、演奏活動を突如として止めた経緯について触れた文献は読んだことがありませんが、僕なりに推測するに、安定した素晴らしいサポートを聴かせるLa Rocaのドラミングですが、ドラムソロ以外はこれと言った強力な個性が無く、前述のようにソロイストとの一体感が希薄です。彼以降現れたドラマー達Elvin Jones, Tony Williamas, Jack DeJohnette、しかも彼らは軒並みLa Rocaと共演歴のあるミュージシャン達と演奏していますが、この3人のソロイストとのコラボレーション感には信じ難いものがあります。バンドのアンサンブル能力もハンパではありません。後続のドラマー達の活躍振りに自分の音楽的才能の限界を感じたLa Roca、静かにジャズシーンを去って行ったのではないかと思うのですが。

2018.09.20 Thu

Nippon Soul / Cannonball Adderley

今回はアルトサックス奏者Cannonball Adderley Sextetの1963年東京公演を収録したライブ盤「Nippon Soul」を取り上げたいと思います。as)Cannonball Adderley  cor)Nat Adderley  ts, fl, oboe)Yusef Lateef  p)Joe Zawinul b)Sam Jones  ds)Louis Hayes 1) Nippon Soul (Nihon No Soul)  2)Easy To Love  3)The Weaver  4)Tengo Tango  5)Come Sunday  6)Brother John  On#1, 4~6 July 15,  #2, 3 July 14,  1963  Sankei Hall, Tokyo  Producer: Orrin Keepnews  Riverside Label 日本は60年代に入り大物外タレの来日が始まりました。61年1月Art Blakey And The Jazz Messengers、62年1月Horace Silver Quintet、63年1月再びArt Blakey And The Jazz Messengers、そして同年7月Cannonball Adderley Sextetです。ジャズを真摯に受け止め、ジャズプレイヤーを本国とは比較にならない歓迎ぶりで受け入れる日本の聴衆の姿勢に、来日したミュージシャン達は精一杯の熱演で応えていました。本作も例外ではありません。後年なおざりの演奏でお茶を濁す来日ミュージシャンによる演奏も無くはありませんでしたが、本作の演奏の充実ぶりは特筆に値します。当時の東京で来日ミュージシャンの演奏を受け入れる事の出来るキャパのハコはサンケイホール、厚生年金会館、銀座ヤマハホールくらいで、現在では枚挙にいとまがありませんが、本作はサンケイホールにて超満員の聴衆の前に初来日のCannonball Adderley Sextetはその全貌を明らかにしました。このメンバーで活動し始めておよそ1年半、脂の乗った素晴らしいコンビネーション、アンサンブル、インタープレイ、メンバー個々のアドリブソロ、選曲の妙、洒脱なCannonnballのMC、全てにバランスの取れたコンサートです。 1曲目はCannonballのオリジナルにしてタイトル曲Nippon Soul (Nihon No Soul)、和風のテイストは全く存在しない曲です。多分来日直前、若しくは来日中に曲が出来上がってタイトルがまだ決まっておらず、「大歓迎で迎えてくれた日本の聴衆へサービスしなきゃ。ついこの間出たHorace (Silver)の新作もThe Tokyo Blues(62年11月リリース)なんてタイトルだったし。Too Much Sake, Ah! Soなんて日本語のタイトルの曲も入ってたな、我々も負けちゃいられないよ。Tokyo Soulじゃあ二番煎じだからNippon Soulってのはどうかな」とばかりにこのタイトルを付けたのでしょう、ジャズご当地ソングの走りです。でも内容は相当ユニークなブルース・ナンバーに仕上がっています。「アメリカのミュージシャン、名前はCannonball Adderleyが書いた新曲をお送りします」と上機嫌のCannnonball自身によるありがちなギャグMCがあり(笑)、アメリカのジャズグループによる名誉ある最初の東京でのライブレコーディングを行う旨を伝え、実際日本フィリップス〜フォノグラム社がレコーディングを担当しました。曲がスタートします。曲の4小節目の1, 2拍目に可能な限り全員参加によるキメと吹き伸ばしがテーマ〜アドリブの最中毎コーラス入り、メチャメチャインパクトのあるアクセントになっています。管楽器によるメロディをピアノが受け継ぐのもジャズの基本であるコール・アンド・レスポンスを感じさせます。テーマが終わり、Sam Jonesのベースラインが浮き立ち、少しソロっぽいラインが聴かれます。Paul Chambersを彷彿とさせるタイムのOn Topさ、気持ち良いですね。ソロオーダーが決まっていなかったので途中からソロが始まったのかと思いきや、その後のアドリブ奏者全員アクセントの入る4小節目でソロを終えているので、ソロの開始は5小節目からという事になり、Jonesは先発ソロまでのリリーフだった訳です。その後5小節目から先発Natのコルネットソロ、やはりソロオーダーはしっかり決まっていたのですね。彼の正統派然としたスタイルには爽快感があります。続くソロはCannonball、それにしても物凄い音色です!これで生音が小さかったとは到底信じられません!強力にマイク乗りの良い音、効率の良い楽器の鳴らし方、アルトサックスの低音域から中音域を中心に、前人未踏の図太い音色、艶があってコクがあり、音の輪郭もくっきり、タンギングも絶妙です!常にクリエイティヴなチャレンジ精神を忘れないフレージングのアプローチはBenny Carterの流れを汲んでいますが、One & Onlyなテイストを確立しています。因みにCharlie Parkerの具体的な影響は殆ど感じられません。当時の彼の使用楽器ですがマウスピースはMeyer Bros. New York5番、リードはRicoかLa Voz、楽器本体はKing Super 20 Silversonic。彼のMCでの話しっぷりに通じる滑舌の良さ、明快な発音、聴衆を常に意識したはっきりとしたメッセージを受けて、ここで思い浮かぶのがサックス奏者Gerald Albrightのプレイです。実際AlbrightはCannonballのスタイルに影響を受けていると感じますが、正確なタンギングに裏づけされた超滑舌の良いフレージング、はっきりとしたメッセージ性、大好きなサックス奏者の一人です。余談ですがある日僕が楽器店に買い物で立ち寄ったところ、知っている従業員の女性が店の電話で話をしています。どうやら国際電話のようで会話にちょっと困ったような雰囲気です。僕を見かけるなりいきなり「達哉さんは英語喋れますよね?」「挨拶ができる程度ですよ」「私よりもきっと話をすることができるでしょうから、電話を代わってもらえませんか?」「マジっすか?」電話を代わると「Hi!, this is Gerald Albright!」いやはやびっくりしました。何に驚いたかと言えばAlbrightが電話口の向こうにいる事よりもその発音と滑舌の良さにです!彼の演奏をまさに耳にしているかの如く、猛烈な早口にも関わらず明瞭なイントネーションとはっきりとした話し方、電話は相手の顔が見えないので細かいニュアンスが伝わり難いはずですが、Albrightは相手に何を伝えたいかが明確に根底にあるので、実に聞き取り易い英語です。電話の内容は購入したマウスピースを交換したいという事だったと従業員嬢に伝えましたが、Albrightの英語が分かり易かっただけなのに彼女には僕が英語をよく喋れる人と思われました(爆)。Albrightとの電話で話し方と滑舌、喋る内容のメッセージ性は確実に演奏に出るものだと強く実感しました。話が些か横道に逸れてしまいましたが、素晴らしいCannonballのアルトに続くのはLateefのフルートソロです。声を出しながらフルートを演奏するのはRoland KirkやJeremy Steigを彷彿とさせますがLateefの方が寧ろ先駆者かも知れません。Cannonball, Nat, Lateefの3管は全く異なった個性を表現してCannonball Sextet内でしっかりと自分達の役割分担を行なっています。ソロのラストの「吹き切った!」感がハンパなく、オーディエンスのアプラウズが然もありなんです。続くJoe Zawinulのソロ、オーソドックスなスタイルに専念しています。この人はソロプレイヤーというよりも常にコンポーザー、オーガナイザー、プロデューサー的な立ち位置で音楽に向かっているように聴こえます。Cannonballとはウマがあったのでしょう、61年からおよそ9年間バンドに在籍していました。 2曲目、さあお待ちかねCannonball On Stageです!♩=330! 超高速アップテンポのナンバー、本作白眉の名演Cole PorterのEasy To Love、冒頭ドラムスとアルトのデュエットで始まりテーマに入りますがなんと艶やかでブリリアント、猛烈なスピード感でいてリズムがどっしりしているのでしょう、そして何しろ色っぽいのです!63年の東京でこんな演奏が行われていたなんて、日本人として大変名誉な事です!未聴の方はとにかく一度耳にして下さい!僅か3:46の収録時間にジャズの醍醐味を全て感じることが出来る演奏です!テーマやソロ中で聴かれる管楽器のアンサンブルもカッコ良くて適材適所です。一人吹きっきり状態でリズムセクションが悲鳴をあげる寸前にドラムスと4バースが始まりますが、物凄い集中力でCannoballと丁々発止のやり取り、その後ラストテーマに無事到達しました。レギュラーグループだからこそなし得ることが出来る超絶ハイクオリティな演奏です。 3曲目はLateefのオリジナルThe Weaver、CannonballのMCによるとメンバー全員の友人New York在住のLee Weaverに捧げられたナンバーだそうです。こちらもブルース、エキゾチックなイントロから何ともユニークなテーマに突入します。Weaverさんの雰囲気のようなサウンドの曲だそうですが、一体どんな人物なのでしょうか、興味が尽きません。先発Cannonnballのソロは絶好調ぶりを遺憾なく発揮しています。続くLateefは野太い音色でフレージングに時折マルチフォニックス(重音奏法)や効果音的なオルタネート・フィンガリング、タンギングを駆使し、他の二人には無い危なさ、異端ぶりを聞かせてくれます。Natのソロの実に安心して聴けるスインガーぶりが場面を活性化させています。彼のフレージングにはDizzy Gillespieの影響も感じます。オーソドックスなスタイルでの演奏に徹するZawinul、後に展開するWeather Reportの片鱗を微塵も感じさせません。ここまでがレコードのSide Aです。 4曲目はAdderley兄弟の共作によるジャズタンゴTengo Tango、新曲でNatのネーミングだそうです。速いテンポのタンゴですが曲の中身はこちらもブルース、当時のジャズメンはジャズに様々なリズムを持ち込もうと健闘していたように感じます。Cannonballのゴージャスにしてアグレッシブなソロのみフィーチャーされた短い演奏ですが曲想、メロディ、リズム、ソロのバックグラウンドの構成、いずれにも緻密な工夫がなされ印象に残る演奏に仕上がっています。 5曲目はZawinulとJonesの二人をフィーチャーしたDuke Ellingtonの名曲Come Sunday、Zawinulのアレンジが光ります。このような6人編成の大所帯バンドでピアニスト、ベーシストのみにスポットライトを当てられるのはレギュラーバンドならではの特権です。曲の終わりの方に出てくる3管によるハーモニーがまさにEllingtonサウンド、そしてアンサンブル内で聴こえるCannonballのアルトの音色からEllington楽団の名リードアルト奏者、Johnny Hodgesばりの芳醇なビブラートやニュアンスを感じます!美しい! 6曲目アルバムの最後を飾るのはLateefのオリジナルで彼の仲の良い友人John Coltraneに捧げたBrother John、アップテンポ3拍子のややモーダルな雰囲気の曲です。Lateef自身のoboeによるメロディ奏がフィーチャーされます。ジャズサックス・プレイヤーでoboeを巧みに扱えるのはこの人くらいでは無いでしょうか?Coltraneのソプラノサックス演奏を感じさせますが、中近東近辺のエスニックサウンドのようにも聴こえます。その後Natのソロ、最低音域を使ってトロンボーンの様な音色を聴かせます。Cannonballも曲想に相応しいアプローチを取るべく健闘していますが、本作収録63年はColtraneのモーダルなサウンドが熟した頃、その演奏を聴いてる耳にはこの演奏はハードバッパーが頑張ってモーダルサウンドに挑戦しているように聴こえてしまいます。確かに餅は餅屋ですがCannonballがMiles Bandでの盟友Coltraneの音楽を、日本のファンに自分なりの形で披露したかったのかも知れません。

2018.09.16 Sun

The Soul Man! / Bobby Timmons

今回はピアニストBobby Timmonsの1966年録音、リリース作品「The Soul Man!」を取り上げたいと思います。 66年1月20日録音Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey  Prestige Label 1)Cut Me Loose Charlie  2)Tom Thumb  3)Ein Bahn Strasse (One Way Street)  4)Damned If I Know  5)Tenaj  6)Little Waltz p)Bobby Timmons  ts)Wayne Shorter  b)Ron Carter  ds)Jimmy Cobb 35年フィラデルフィア生まれのTimmonsは50年代からサイドマンとして実に様々なミュージシャンと共演作を残し、60年代に入ってからはリーダー作を数多く発表しましたが74年、アルコールとドラッグの過剰摂取に起因する肝硬変で、38歳の若さで生涯を閉じました。時代も良かったのですが50年代〜60年代初頭、全盛期のジャズシーンを全速で突っ走っていたミュージシャンの一人です。 タイトルやジャケットデザインが恥ずかしい位に何とも60年代を反映しています(笑)。参加メンバーを知らずしてしかも未聴での場合、間違いなくソウル、ジャズロック系のアルバムと取り違えてしまう事でしょう。しかし本作の目玉は何と言っても59~61年に共に在籍していたArt Blakey And The Jazz Messengersでの共演者、名テナーサックス奏者Wayne Shorterの参加です。彼の演奏により作品のクオリティ、品位が桁違いに高まりました。Timmonsの他の作品には無い人選です。TimmonsはJazz Messengersに58年から61年まで在籍し、Moanin’,  Dat Dereといったオリジナル曲を提供しレコーディング、結果空前のヒットを果たし、それに伴いJazz Mesengersも名門バンドへと転身します。Shorterの方も59年から64年まで在籍しバンドの音楽監督も務め、Jazz Messengersの音楽性を高めるべくやはり自身のオリジナルやアレンジを提供しました。TimmonsはJazz Messengersを離れてから自己の作品をトリオ編成中心に発表、一方ShorterはJazz Messengers脱退直後64年にMiles Davis Quintetに参加しMilesの作品「Miles In Berlin」「Live At The Plugged Nickel」「E. S. P.」を録音、自身のリーダー作としては「Night Dreamer」「JuJu」「Speak No Evil」と言った代表作を立て続けにレコーディングし、彼の第10作目「Adam’s Apple」録音直前(2週間前)が本作のレコーディングです。「Hey, Wayne, ジャズロック調のオリジナルがあったら今度のレコーディングの時に持って来てくれないかい?」「Oh, yeah, Bobby, 自分のアルバムでレコーディング予定の新曲があるから持っていくよ」みたいなノリの会話があって(爆)、Tom Thumbが収録されたと推測できますが、Shorter自身のリーダー作でTom Thumbは翌67年3月10日録音 3管編成による「Schizophrenia」に収録される事になり、それまではお預けになりました。もしかしたらジャズロックのテイストが強い作品「Adam’s Apple」でTom Thumbを演奏する予定だったとも考えられますが、本作「The Soul Man!」でのレコーディングしたテイクを鑑みて、Shorterは「Tom Thumbはカルテットよりも大きな編成で演奏するのが良さそうな曲なので、今回はレコーディングせずに次作に持ち越そう」と判断したかもしれません。いずれにせよTom Thumbの収録はこの作品のハイライトの一つではあります。 Timmons, Shorterの二人はもともと音楽的志向にかなりの違いが感じられますが、Jazz Messengersに在団していた頃はさほど気にならない、と言うかクインテット〜セクステットの編成の大所帯、そしてBlakeyお得意のナイアガラ・ロールに紛れて(笑)その差異が目立つことはありませんでした。でも本作のようにカルテット編成では顕著です。更に6年以上の時の経過がスタイルや演奏レベルの違いをくっきりと明らかなものにしています。意欲的なリーダー作、ジャズ史に残るような名盤を立て続けに発表し、同時にMiles Davisの薫陶を受けて音楽性を磨かれ、一層研ぎ澄まされた表現力を持つようになったShorter、他方その変わらぬスタイルを良しとされ、「Bobby、我々は君のその演奏を聴き続けたいんだ。スタイルが変わることなんて望んでいないよ」とでも周囲から言われていたのか、十年一日の演奏を聴かせるTimmonsとでは差が歴然です。 収録曲を見て行きましょう。1曲目TimmonsのオリジナルCut Me Loose Charlie、Ron Carterの印象的なベースライン、60年前後Miles Band在団中よりもシャープで的確なドラミングを聴かせるJimmy Cobbのシンバルレガートからイントロが始まるのは、8分の6拍子のブルースです。しかしここで聴かれるShorterのテナーサックスの音色は一体何と表現したら良いのでしょうか?猛烈な個性と存在感、誰も成し得ない唯我独尊、しかし本人はいたって自然体で音楽に立ち向かい、気負うところ無く自分のストーリーを語っています。Otto link Metal Mouthpiece 10番、Rico Reed 4番を使用しているとは到底考えられない楽器コントロールの素晴らしさ、マエストロぶりを発揮しています!一方TimmonsはShorterの個性的で、全てがクリエイティヴな演奏に平然と、いつものやり方のバッキングで答えているのは、然るべき対処法の引き出しが無いからでしょう。空疎な瞬間を感じる時もありますが、やむを得ません、寧ろShorterの演奏がくっきりと浮き上がります。 2曲目は前述のShorterオリジナルTom Thumb、可愛らしいひょうきんな曲調のナンバーです。Shorterのソロは曲の持つ雰囲気を確実に踏まえ、ジャズのアドリブの原点である即興、その瞬間での作曲を行なっているが如きです。テナーサックスのザラザラ、加えてこもった成分が特徴的な音色が、何故かユーモラスさを誘います。「Schizophrenia」でのバージョンと聴き比べてみると3管編成でのサウンドの厚みが曲想に大変マッチしていています。James Spauldingのアルトのメロディ奏とテナー、トロンボーンのユニゾンとの対比も面白いです。ワンホーンでの「Adam’s Apple」の編成拡大版が「Schizophrenia」と言えますが、曲作りやサウンドは前作よりも格段に進化しています。Shorterのテナーの音色もShorter色が一層増しています。 3曲目はCarterのオリジナルEin Bahn Strasse (One Way Street)、同じくCarterのオリジナルThird Planeにどこか似たテイストを感じるのは同じ作者だからでしょう。でもShorterのオリジナルに関しては何れもが個性的、一曲づつしっかり顔があり、似た曲風のものを探すのは困難、と言うか存在しません。Shorterのソロは何処からこのラインが出て来るのかと感心させられる、相変わらずのユニークさを発揮しています。Carterのソロもフィーチャーされていますが、いつものテイストの他に珍しくスラップのような技を披露しています。実際Miles BandではCarterのソロは殆どなく、あったとしてもソロ中にスラップを入れようものなら後からMilesに何を言われるか分かりません。うるさいオヤジが不在だとミュージシャンはリラックスしていつもとは違う演奏になるものです。60年代中頃Miles Davis QuintetがVillage Vanguard出演の際、Milesがインフルエンザに罹り欠場、Carterも同じくインフルエンザでトラにGary Peacockが出演し、Herbie Hancock, Tony Williams達とWayne Shorter Quartetという形で一晩演奏、その時の演奏テープを聞いたことがありますがThe Eye Of The Hurricane、Just In Time, Oriental Folk Song, Virgo等を演奏、メンバー全員Milesの呪縛から解き放たれた素晴らしい演奏を聴くことができました(呪縛時はそれはそれで、緊張感漲る演奏で素晴らしいでのすが)。ここまでがレコードのSide Aです。 4曲目はTimmonsのオリジナルDamned If I Know、軽快なアップテンポのスイングで演奏され、Shorterワールド全開の演奏です!感じるのはJimmy Cobbのドラミングのバネ感の素晴らしさ、Tony Williams張りのビートの提示感とでも言いましょうか、Cobb自身もMiles Bandで自分の後任のドラマーの演奏には少なからず影響を受けた事でしょう。この曲ではCarterの無伴奏ソロがフィーチャーされています。 5, 6曲目はCarterのオリジナルTenaj とLittle Waltz、Tenajはやっぱりバンド用語でJanetの逆読みでしょうか?Carterに新しい彼女が出来て名前を捧げたのかも知れませんね(笑)。ワルツのリズムでテーマやソロの途中テンポが無くなり、ルパートになったり、倍テンポでドラムスソロが織り込まれるような構成で工夫されていますが、次曲Little Waltzに何処か雰囲気が似ています。2曲とも同一の作曲者によるワルツ、曲の並びとしてはちょっと避けたかったパターンですね。Little Waltzの方は彼の69年10月録音のリーダ作「Uptown Conversation」で再演されています。

2018.09.04 Tue

Stan Getz And The Oscar Peterson Trio

今回はStan GetzとOscar Peterson Trioの豪華な組み合わせ、1958年リリース「Stan Getz And The Oscar Peterson Trio」を取り上げたいと思います。 Recorded October 10, 1957 at Capitol Studios in Los Angels  Verve Label  Produced by Norman Granz ts)Stan Getz  p)Oscar Peterson  g)Herb Ellis  b)Ray Brown 1)I Want To Be Happy  2)Pennies From Heaven  3)Ballad Medley: Bewitched, Bothered And Bewildered / I Don’t Know Why I Just Do / How Long Has This Been Going On / I Can’t Get Started / Polka Dots And Moonbeams  4)I’m Glad There Is You 5)Tour’s End  6)I Was Doing All Right  7)Bronx Blues ドラムレスの編成にも関わらず強力なスイング感を押し出すアルバムです。以前にも述べたことがありますが、Oscar PetersonとRay Brownの双生児のように似た超On Topのリズムを、ドラマーEd Thigpenが二人を同時に羽交い締めにして、リズムが前に行き過ぎるのをギリギリ制している構図で成り立っているのがThe Oscar Peterson Trioです。陸上100m競争のスタートラインに着いた走者がスタート合図を待つ直前のエネルギー抑制感と言いましょうか。この作品でのThigpen役がギタリストHerb Ellis、素晴らしいカッティングから繰り出されるタイトなリズムがPeterson, Brownと合わさり鉄壁のスイング感を聴かせています。ここに文句なしのリズム・ヴァーチュオーゾ、Stan Getzのテナーサックス・プレイが加わることで、リズムの縦軸〜横軸がしっかりと組み合わさり、音の空間に恰もつづれ織りの織物が編まれる様相、三つ巴ならぬ四つ巴状態でタイムを聴かせる演奏に仕上がっています。タイムの良いプレイヤーは間違いなく演奏内容も素晴らしいものです。本作の充実ぶりはジャケ写ミュージシャンの笑顔に如実に現れていると言えます。さぞかしメンバー全員レコーディング中に楽しく充実した時間を過ごした事でしょう。 収録曲の内容に触れて行きましょう。1曲目I Want To Be Happy、ここでの演奏に当メンバーでのスイング感のエッセンスが全て凝縮されています。猛烈なリズムの坩堝、その中でもEllisのカッティングを聴くとギターは強力なリズム楽器なのだ、と再認識してしまいます。よく聴けば2, 4拍のアクセント付けの他にさり気なくお茶目な技を沢山披露しています。この業師のリーダー作「Thank You, Charlie Christian」はタイトル通り、尊敬する先輩ギタリストCharlie Christianに捧げられた作品です。本作でのバッキング担当の側面よりも、前面に出てソロイストとしての本領を発揮しています。 PetersonのトリッキーなイントロからGetzの付帯音まみれの素晴らしい音色でテーマ奏が始まります。う〜ん、何とカッコ良くスイングしてるのでしょう!演奏が始まったばかりなのにこの時点で既に納得してしまいます!この位の速さのアップテンポでリズム、ビートの要がドラムスのトップシンバルやハイハットではなく、フルアコ・ギターのカッティングとは実に見事です!勿論その分野の名手でなければやり遂げる事はできませんが。テーマ部の最後のブレークでのピックアップ以降、ベースがそれまでの2ビートから4ビート〜スイングに移ります。はじめの1コーラスはピアノのバッキングはお休み、Ellisのカッティングが繰り出すビートの独壇場です。2コーラス目途中からピアノのバッキングが始まりサウンドが厚くなりますが、その間ずっと続くGetzのソロのリズミックでメロディアス、巧みなフレージング、その展開に舌を巻いてしまいます!Getzの最後のフレーズを受け継いでPetersonのソロが始まります。ピアノを楽々と弾きこなし、鳴らしているのが手に取るが如く伝わります。ピアノを弾くために生まれて来たかのような恵まれた体格、迸るゴージャスさ、生来のテクニシャン。そして8分音符の滑舌、グルーヴに独自のものがあるスタイルはArt Tatum, Nat King Coleの直系ですが、ワンアンドオンリーなテイストを確立しています。その後再びGetzのソロが始まりますがPetersonのソロにインスパイアされたのか、やり残した諸々を的確に披露し更にスイングしています。ラストテーマは再び2ビートフィールに戻り、エンディングの仕掛けにも工夫がなされ、テナーのHigh F#音(Getzの使用楽器ではフラジオ音です)、メジャ−7thの音で終わっています。 3曲目は5曲連続のバラード・メドレー、参加ミュージシャンが一人ずつフィーチャーされます。メドレ−1曲目はGetzの演奏でBewitched, Bothered, Bewildered、この人はバラードが異常なくらい上手ですね、素晴らしい!フェイザーがかかった如きスモーキーな音色、意表をつくメロディフェイクで1コーラスを歌い切ります。続く2曲目EllisをフィーチャーしたI Don’t Know Why I Just Do、16小節ほどの短い演奏です。そしてPetersonの出番、How Long Has This Been Going Onを饒舌さと切なさを混じえて聴かせてくれます。次はBrownのピチカート演奏によるI Can’t Get Started、とても「言い出しかねて」とは思えないハッキリとした、むしろ「仕切りたがり」屋のメッセージを持ったプレイです(笑)。メドレー最後はGetzの再登場でしっかりと締めています。曲はPolka Dots And Moonbeams、テナーの上の音域を生かしたハスキーな語り口、グリッサンドやハーフタンギングを用いつつ美の世界を徹底的に表現しています。 ここまでがレコードのSide Aになります。 4曲目もバラードI’m Glad There Is You、冒頭EllisとGetzのDuoでメロディが演奏されますが、Getzはここでも信じられない程のイマジネーションでメロディを、更にドラマッチックに奏でています。本当にこの人のバラード演奏はいつも聴き惚れてしまいます!他のプレイヤーとは違う別な特殊成分が鳴っているので、何かがテナーサックス楽器本体の中に施されているのでは、とまで考えてしまうほどの音色です!サビをEllisに任せ、ギターの最後のフレーズをBrownがキャッチして反復、「おっ!」とばかりに一瞬出遅れて途中からGetzも参入(これは二人とも凄い瞬発力です!)し、メロディに戻ってFineです。前曲のバラード・メドレーの番外編ですが、また違ったテイストを聴かせてくれました。 5曲目はGetzのオリジナルTour’s End、スタンダードナンバーSweet Georgia Brownのコード進行に基づいています。リズムセクションの仕掛けが面白いです。この曲でもEllisのギターカッティング、Brownのベースが実にグルーヴしています!テナー、ピアノ、ギターとソロが続きますが、伴奏ではあれほど気持ち良いタイムでのカッティングを聴かせるEllisですが、ソロになると若干タイムが早く、音符も短めに感じます。コンパクトな演奏時間にジャズの醍醐味がぎゅっと詰め込まれた演奏に仕上がっています。 6曲目I Was Doing All Right、Gershwinの古いスタンダードナンバーをGetzが小粋に唄い上げます。A-A-B-A’構成、サビであるBの6~8小節目、コード進行が他よりも細かく動くところで、Getzは敢えて音量を小さくしてメロディを吹いています。複雑なコード進行を聴かせるためなのか、何なのか、これはソロコーラス時のフレージングやラストテーマの同じ箇所でも行われており、元々音量のダイナミクスが半端でないGetzにして、一層さり気ない表現のコンセプトを感じます。テナーソロが1コーラス演奏され、ピアノソロが半コーラス、サビからラストテーマになり、エンディングはイントロに戻ります。力の抜けたGetzの鼻唄感覚の演奏を楽しむ事が出来ます。 ラストの7曲目はGetzのオリジナルBronx Blues、取り敢えず曲のキーだけ決めて演奏を始めた感じのラフなテイクです。特にテーマらしいメロディが無いので録音に際して手慣らしで始めたテイクかも知れません。ギターのソロからベース、ピアノ、テナーと加わって行き、各々の短いソロのトレードを繰り返して行きます。Getzのソロで終わりかと思いきや、もう1 コーラス続いてFine、他の収録曲に比べて緊張感を欠いているように聴こえます。90年CDでリリースされた際に4曲が追加されましたが、Bronx Bluesを収録するよりも、よりクオリティの高いテイクがあったと思います。例えばCD10曲目の Sunday、Ellisのギタータッピングによるバッキングが聴かれますが、これは秘密兵器、飛び道具です!全曲タッピングでは飽きてしまうかもしれませんが、1曲だけ入る事で他の曲との対比になり、スリリングなバラエティに富んだ作品に変化します。Getzのソロの途中から普通のカッティングに戻り、ピアノソロで再びタッピング、Ellisさん器用な方ですね!演奏中のPetersonの唸り声も大きくなっている気がします。という事でこの曲をラストの締めに持ってくるべきだったと感じます。

2018.08.31 Fri

Boss Tenors / Gene Ammons, Sonny Stitt

今回はGene AmmonsとSonny Stittのサックス・バトルによるアルバム「Boss Tenors」を取り上げてみましょう。 1961年8月27日Chicago録音  Verve Label  Produced By Creed Taylor ts)Gene Ammons  ts,as)Sonny Stitt  p)John Houston  b)Buster Williams  ds)George Brown 1)There Is No Greater Love  2)The One Before This  3)Autumn Leaves  4)Blues Up And Down  5)Counter Clockwise 同じ楽器同士のバトルを聴くのはジャズの醍醐味の一つです。以前当Blogで「Sonny Side Up」でのSonny RollinsとSonny Stittの壮絶なテナーバトルについて取り上げましたが、今回のバトルにもStittが参加しており、そのお相手は極太、豪快テナーのGene Ammonsです。Stittは「Sonny ~」の時とは打って変わり(前作ではバトル相手を意識しすぎて一人ムキになっていましたが、Rollinsの方は自分のペースをキープしていました)、リラックスしてAmmonsとのバトルを心から楽しんでいるように聴こえます。バトルと言うくらいですから格闘技系のファイトも手に汗握り、スリリングですが、この作品のようなお互いを尊重し談笑するが如きバトルも良いものです。ファイター同士の相性、置かれた状況によりバトルの内容は変わります。Stitt, Ammonsのテナーコンビは好評だったらしく62年2月18日「Boss Tenors In Orbit」(Verve)、翌19日「Soul Summit」(Prestige)と2日連続で異なるレーベルに2作立て続けにレコーディングしています。 「Boss Tenors」は61年Verveに移籍したばかりのプロデューサー、Creed Taylorにより製作されています。後年自己のレーベルCTIにて数多くの名盤をプロデュースしていますが、その敏腕はこの作品でも既に発揮されています。ミュージシャンの人選、選曲、ソロの采配、レコードのA面にThere Is No Greater LoveやAutumn Leavesと言ったメロディアスな曲目を配し、B面にBlues Up And Down等のハードブローイングなブルースを置き、メリハリをつけています。若干19歳のBuster Williamsの初レコーディングも特記に値します。Boss Tenorsのタイトルは前年60年にAmmonsがリリースしたアルバム「Boss Tenor」、そして彼のニックネームである”The Boss”に由来します。 Ammons, Stittの2人は45年から49年頃までボーカリストBilly Ecksteinのビッグバンドでの共演歴を持ち、若い頃に同じ釜のメシを食べた間柄、久しぶりの共演もさぞかし昔話に花が咲いた事でしょう。ジャケ写でもStittが自分のマウスピースを指差しながら楽しげにAmmonsに話しかけ、AmmonsもさすがBossの風格でStittに微笑みかけています。 それでは曲目ごとに触れて行きましょう。1曲目スタンダード・ナンバーでお馴染みThere Is No Greater Love、リズムセクションによるオシャレなイントロに引き続きStittがアルトで艶やかにメロディを奏でます。Boss Tenorsなのに何故アルトで冒頭曲を演奏するのかイマイチ良く分かりませんが、その辺のラフさ加減がジャズなのでしょう、きっと。8小節づつ交代にメロディを演奏しますが続くAmmonsの音色のインパクトと言ったら!音の密度とコク、サブトーン、付帯音の豊かさ、テナー音の太さコンテストがあったとしたら上位入賞は間違い無いでしょう。物の本からの情報とジャケ写から判断すれば、この頃のAmmonsの使用楽器はConn 10M、マウスピースはBrillhart Ebolin 4☆(白いバイトプレートが特徴的)、リードはRico 3番と、にわかには信じられないソフトなセッティングです。そしてそして、何より8分音符のレイドバック加減、タイムの位置がとても気持ち良く、僕には完璧です!Dexter Gordonの8分音符も実に素晴らしいタイムの位置で演奏されていますが、そのレイドバックがちょっと度が過ぎるように聞こえる時があります。Ammonsテナーサックスの下の音域を駆使してBossとしての威厳をしっかりと示すべくメロディで最低音のC音に落ち着く時、テーマの16小節目ではそのままサブトーンで演奏して音の太さをアピールしています。テナーサックスを演奏される方ならば最低音のC音をサブトーンを用いて一発で出すことの難しさをご存知だと思いますが、ダーツで常に標的の中心bull’s-eyeに矢を命中させるかの如き精度が要求される奏法です。ソロの先発はメロディを引き継ぎAmmons、ブレークでのピックアップ・ソロから「キメ」ています。Ammonsの8分音符の素晴らしさを先ほど述べましたが1’20″から始まる16分音符によるフレージング、実はイケていません。ここだけに留まらず全般的に言えるのですが、音符の長さが急に短くなりリズムの位置もかなり前に設定され、タンギングも8分音符の際のスムースさがなくなり指とタンギングが合わなくなります。アジと言えばアジには違いないのですが、8分音符の延長線上で確実に16分音符を演奏出来ていたならば、Gene Ammonsの名前はジャズ史にさらに克明に残されていたかも知れない、と僕は感じるのですが。1’28″で聴かれるB♭音でのオルタネート音、4曲目で炸裂するホンカーの兆しを感じさせます。1’38″辺りのLow C音、今回は実音でブリっと出して発音を変えています。ソロは1コーラス、この後Stittのアルトソロが始まります。Ammonsと異なり8分音符自体グッと前で演奏されますが、16分音符は8分音符の延長線上で演奏されるので、それはそれで一貫したものを聴き取ることが出来ます。流暢にフレーズを繰り出すスインガー振りは見事です。3’34″から40″で聴かれるメロディアスなフレーズは、学生時代ジャズ喫茶でこのレコードがかかると皆んなで口ずさんだものです!Stittはソロが長い傾向にありますが、ここでもAmmonsの倍2コーラスを演奏してラストテーマに繋げています。Ammonsのテーマの C音4’32″では低音域に降りず中音域のCに上がって収め、上手い具合に表情を変えています。サビで2管のハーモニーを聴かせるのも粋ですね。ラストは逆順のコード進行で大人のトレードが聴かれ大団円でFineとなり、この曲での代表的な名演奏が生まれました。 2曲目はAmmonsのオリジナルThe One Before、いわゆるリズム・チェンジのコード進行でのナンバーです。ソロの先発Ammonsは1曲目よりもテンポが早い分、8分音符主体で演奏しているのでレイドバック感が生きています。続くStittは音の太さ、豪快さではAmmonsに及びませんが、舞の海状態でフレーズ、技のデパート振りを遺憾無く発揮し場を活性化させています。Houstonのピアノソロ、そしてWilliamsのベースソロに続きます。19歳でこれだけのクオリティのソロを聴かせられるのはやはり栴檀は双葉より芳しですね。 3曲目はお馴染みAutumn Leaves、印象的なイントロからテーマ演奏、1曲目同様メロディを8小節づつ演奏、先発はStitt、後続Ammons共にメロディラインに工夫が施され、あまりにポピュラーなこの曲に当時としては新しい風を吹き込んだのでは、と思います。曲のコード進行にもアレンジが施され、something newを聴かせています。ソロはAmmonsから、アレンジされたコード進行への流暢な処理も含め実に男の色気、歌心をこれでもかと聴かせ、さぞかし女性ファンが多かったのではないかと感じさせます(笑)。Stittも巧みに手持ちの幾多のフレーズの中からその場に合ったものを確実に繰り出し、職人芸を披露しています。続くピアノ、ベースソロを経てラストテーマに突入、エンディングの処理も見事です。同様に枯葉の代表的な演奏の誕生です。ここまでがレコードのSide Aになります。 4曲目は本作のもう一つの目玉Blues Up And Down、Ammons, Stitt共作によるブルース・ナンバー、ツーテナーのセッションで僕も昔よく演奏した曲です。ここでは二人のホンカー振りが炸裂です!イントロからテーマ、ソロは両者で12小節〜4小節と小刻みにトレード(引用フレーズもキマっています)された後Ammonsのソロ本編に移行します。やはり8分音符のノリがしっかりしているので、タイムをどっしりと聴かせます。Stittがフレーズを聴かせるのに対しAmmonsはタイムと音色を中心にアピールしていると受け取れます。フレージングの合間に聞こえる感極まった掛け声はStittに違いないでしょう。中音域C音のオルタネート音を交えながらグロートーン、ドラムスのBrownも良い感じに煽っています!そしてStitt、流麗にソロを構築して行く様は流石!その後両者の12小節〜4小節〜1小節バース、極め付けはルート音連発による2拍バース!否が応でも盛り上がってしまいます!その後は再びイントロに戻り、テーマは演奏されずともFineです。 5曲目最後を飾るのは再びブルースナンバー、Stitt作のCounter Clockwise。テンポがグッと遅い分リラックスした印象を与えます。「反時計回り」の割りにはこちらも先発ソロはAmmons、ブルーノートを中心にレイジーにソロを取ります。シンプルなフレージングですがよく聴くとジャズ的なポイントを所々押さえているので、飽きることがありません。さり気なく流石です!リズムセクションがメリハリを付けるべく倍テンポにチャレンジしますが、Ammonsは意に介さず我が道を行きます。続くStittは相変わらず流れるようにソロフレーズを発しています。ピアノ、ベースソロの後ドラムスとの4バース、テーマに戻り終了となります。お疲れ様でした!

2018.08.23 Thu

Chet Baker / You Can’t Go Home Again

今回はトランペッターChet Bakerの作品、1977年録音リリース「You Can’t Go Home Again」を取り上げてみましょう。 1)Love For Sale  2)Un Poco Loco  3)You Can’t Go Home Again  4)El Morro tp)Chet Baker  ts)Michael Brecker  g)John Scofield  el-p)Richie Beirach, Kenny Barron, Don Sebesky  b)Ron Carter  el-b)Alphonso Johnson  ds)Tony Williams  perc)Ralph McDonald  fl)Hubert Laws  as)Paul Desmond  arr)Don Debesky Recorded At Sound Ideas Studio, NYC  Feb. 16, 21 & 22 and May 13, 1977  Horizon Label  Producer: Don Sebesky 77年フュージョン全盛期にレコードでリリースされた時には4曲収録、2000年本テイクの他に追加テイク、別テイク、未発表テイクが計16曲も加わったCD2枚組で再発されました。多作家で知られるBakerですが、これほどフュージョンとカテゴライズされる演奏をしたアルバムは他にありません。とは言えBaker自身の演奏はいつもの枯れたトランペットの音色で、淡々とソロを取る、特に何か変わった事に挑んでいる訳でもありません。体調も録音時に万全とは言えずミストーンを結構連発していますが(現代ならばパンチイン、パンチアウトのテクノロジーを駆使して修正すると思います)、彼にしか成し得ない味わいを聴かせています。この作品の豪華な参加メンバー、Don Sebeskyの巧みなアレンジ、プロデュース、随所に聴かれる同じくSebeskyアレンジのストリングス・セクションが織り成す煌びやかなサウンド、フュージョン界のスター2人Michael Brecker, John Scofieldのこれでもか!と言う程の超イケイケプレイ、Alphonso JohnsonとRon Carterのエレクトリックとアコースティックのベース・バトル(!)、Tony Williamsのハードロック・テイスト・ギンギンなドラミング、しかもそれらが有名なスタンダード・ナンバー他を題材にしており、レコードのSide A収録の2曲、Side Bの2曲目にはBakerの存在感はありません。リーダー以外のメンバーの音符のスピード感、グルーヴ感、インプロヴィゼーションやインタープレイ、サウンドのセンスのハイパーさはBakerとは全くかけ離れています。このようにリーダーの音楽性やカラーとは全く関係ないところで共演者が恐ろしい程に盛り上がっている様は、戦前国家元首に清朝最後の皇帝、愛新覚羅溥儀を担ぎ出して傀儡政権を樹立した満州国を思い出してしまいます(爆) いささか大げさな表現かも知れませんが、それほどジャズ史上かなり特異な位置に存在するアルバムだと思います。 曲毎に見ていきましょう。1曲目Cole Porterの名曲Love For Sale、イントロからベース、バスドラム、ギターのカッティング、パーカッション、ストリングスが怪しげに響き、これから起こりうるであろう13分近い音のカオスを暗示しています。A-A-B-A構成のこの曲、まずAの部分をBakerが飾り気なくストレートにメロディを吹きます。続くAはMichael Breckerの出番、凄い音圧感です。華麗にメロディを演奏する後ろでBakerがオブリガードを入れています。それにしてもこのテナーの音色、とてもエグいですね!Blogで何度も紹介していますが、使用テナーサックスはAmerican Selmer Mark 6 シリアルナンバーNo.67,853、マウスピースはOtto Link Double Ring6番、リードはLa Voz Med. Hardです。サビに当たるBがスイングのリズムになりますが実にスムースにカッコよくリズムが変わります。さすがMiles Davis Quintetで研鑽し合ったコンビRon Carter~Tony Williams、スイングではCarterのベースが主導権を握ります。Bakerによるテーマも引き続き外連味なく演奏されます。Bサビ後Aメロディは演奏されずにイントロと同じ雰囲気(ヴァンプ)に戻り、ワン・コードでソロが始まります。ソロの先発はBrecker、リーダー自身の先発では企画の趣旨が違って来ます。この時若干27歳!既にどっしり落ち着いた風格を感じさせています。タイム感といいテナーサックスの習得度合、フレージングのアイデア、オリジナリティ、早熟の天才です。個人的にはここでのソロはパターンやリックにやや頼り過ぎてメカニックな印象を与えていると感じます。実は翌78年にはこの点がかなり改善されるのですが。断片的なモチーフを重ねつつソロの構築に挑みますが、その後ろでバッキング担当のメンバーが実に巧みに、研ぎ澄まされた音の空間を埋めています。それも決してtoo muchにならずに。BeirachのおそらくFender Rhodesによるバッキングの緻密なコードワーク、テンションの用い方。John Scoのシャープで遊び心満載のカッティング。TonyがBreckerの2’21″~23″の「割れたHigh F音」のインパクトにロール・フィルを入れています。リズム隊全員がごく自然にその場で瞬時に役割分担をしつつ、最も相応しい音を空間に投入しているかの如くです。何気にMcDonaldが叩くリズム・オンのカウベルが素晴らしいタイムを提供していますが、Bセクション、スイング・ビートになっても2拍飛び出しているのが微笑ましいです。普通後からこの部分は消去されるのですが、ひょっとしたらスタジオ・ライブ感を大切にして音の編集は後被せのストリングスのみ、演奏自体には編集が施されていないかも知れません。MichaelのAセクションでのソロはとことん盛り上がり、起承転結の結は突然訪れますがしっかりと落し前をつけています。Bセクションでのコード進行Ⅱ-Ⅴ-Ⅰのジャジーな音使いには流石、と頷いてしまいます。その後Aセクションも演奏され、再びヴァンプに戻ります。 続くソロ2番手はBaker、自分のペースをしっかり維持しながら歌を繰り出していますが、このメンバーとでは会話の様式が異なっているようです。リズムセクションもどうアプローチしたら良いものかと、探りを入れつつ演奏しているように感じます。Michaelのソロと同様B, Aセクションを演奏して次のソロの3番手John Scoの登場です。ギターの機能を生かしつつのホーンライクなソロ、音色、タイム感、ピッキング、アプローチ、全てカッコ良過ぎです!リズムセクションはもはや水を得た魚状態、Tonyを始めBeirach, Alphonsoの煽り方が尋常ではありません!メチャクチャ盛り上がっています!当時我々はこのようなファンクのリズムでのワン・コードのアドリブ、とことん盛り上がる形態の演奏を「ど根性フュージョン」と呼んでいました(笑) この演奏を聴くとやはりBrecker, John Scoの二人が思いっきり演奏している作品、Herbie Hancockの「The New Standards」を思い出しますが、実はこの作品の一連のコンサートではHerbieがブッチギリでスゴかったです! 同様にB, Aセクションを経て今度はベーシスト二人のバトルが始まります。直前のJohn ScoのフレージングにBeirachが彼らしいレスポンスをさりげなく聴かせています。ベーシスト二人をフィーチャーした作品ならばベース・バトルも聴くことが当然ですが、トランペッターがリーダーで、テナーサックスやギタリスト、パーカッション等のウワモノが参加した比較的大所帯の作品ではとても珍しい事です。しかもエレクトリックとアコースティックとなれば、プロデューサーSebeskyが以前から温めていた企画を実現させたのではないでしょうか。AlphonsoはWeather Reportを前年退団、テクニカルで歌心溢れるプレイには定評がありました。Carterも当時飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍していたスーパー・ベーシストです。どちらかと言えばソロイストと言うよりもバッキングに長けた二人ですが、ここでは丁々発止と掛け合いを行っています。バトルの後半に聴かれる管楽器二人のバックリフも印象的です。ヴァンプからラストテーマはAセクション一度だけ、その後はBaker, MichaelのバトルがBakerのペースにMichael合わせつつ行われ、Fade Outです。冒頭とエンディングの速さが全く変わっていないのでクリックを鳴らしてレコーディングしたのかも知れません、ストリングのオーヴァーダビングの関係もありますから。 2曲目Bud Powellの名曲Un Poco Locoは自身の「The Amazing Bud Powell, Vol.1」収録、スペイン語のタイトルですが意味は英語でA Little Crazy、ここでの演奏はA LittleどころではないToo Much Crazyです!ハードロックのリズムで演奏するなんて作曲者Bud Powellが聴いたら怒り出す、いやいや、むしろ喜んで面白がるかも知れません!サビはスイングで柔らかいBakerのメロディ奏です。対旋律の上昇音階担当、ギターのタイトさといったら!ソロの先発はそのJohn Sco、切れ味良いハードロッカー振りを聴かせます。フレージングはコンディミ・サウンド・エグエグですが!それにしてもTonyってこんなにロックドラマーでしたっけ?そうでしたね、確かに彼のバンドLife Timeはロックバンドでした。Alphonsoのベースが大活躍です!続くMichaelのソロもギンギンのJewish-Coltraneサウンド全開です!(ここでも1曲目同様パターンやリックに頼り気味が気になりますが)そう言えばMichael含めてBaker, John Sco, Beirachは全員ユダヤ系アメリカ人でした。続くBakerのソロは一転してCarterのベースのみ従えてクールダウンした3拍子、Bakerコーナーを設置したSebeskyの采配が光ります。Beirachのバッキングが素晴らしいです!彼は88年5月に没したBakerのトリビュート・アルバムを翌89年にMichael, John Sco, Randy Brecker, George Mraz, Adam Nussbaum達と「Some Other Time: A Tribute To Chet Baker」として録音、リリースしています。 その後はTonyのドラムソロからラストテーマに入りますが、突入合図のフィルイン後一瞬ベースが出遅れて「おっと!」とばかりに態勢を立て直します。ずっとフォルテシモで激しい演奏の中、Bakerの演奏が癒し系になっていると言えば聴こえが良いかも知れません。 3曲目は本作唯一のBaker本領発揮テイク(笑)、Sebesky作曲You Can’t Go Home Again、スイートな曲想にBakerのトランペット、Paul Desmondのアルトサックス、ストリングスが見事に合致します。実に美しい演奏です。再発時に追加された16曲の多くはこちら側のコンセプトの演奏、Bakerはお得意のヴォーカルも披露しています。同じ音楽的方向性を有する管楽器奏者が2人集まることによりサウンドの厚みが倍増以上になりました。2作分の全く異なった作品を同時に録音し、強引に1枚のアルバムに纏めたために無理が生じたように感じます。ピアニストもKenny Barronに交替しますが、時代を反映して彼にもエレクトリックピアノを弾かせています。 曲のタイトルYou Can’t Go Home Againの意味は諺からの転用で、一度家を出て自立を始めれば自分自身も変わり、その家を取り囲む環境も昔と同じではない事から二度と同じ家に戻ることはできないという事です。つまり自立しているなら実家に戻って昔と同じ生活に馴染むことは出来ないと言う意味です。でも最近北米では学生ローンの支払などの為一度独立した後、実家に舞い戻って親と同居する人が増えていてYes, you can go home again! などとも言われているそうです。何処も世知辛いですね! 4曲目アルバム最後のナンバーは再びSebeskyのオリジナルEl Morro、自身の作品75年録音、リリース「The Rape Of El Morro」収録の同曲再演になります。 スパニッシュ・ムード満載のイントロではアコースティック・ギターやHubert Lawsのバスフルートが効果的に使われています。Bakerのスローテンポでのムーディなテーマの後、テンポが変わりMichaelの気持ちが入りまくったメロディ奏になります。分厚いストリングス・サウンドやパーカッションを効果的に用いた壮大なテーマのアンサンブル後、Michaelのソロになります。スペーシーに始まりかなり長いスパンのソロスペースが与えてられていますが、実は冗長さを否定できません。Michaelのソロに統一感が希薄な事に起因してか、共演者に説得力あるストーリーを語りきれずに終始しています。アンサンブルを経てBakerのソロ、この演奏にも特にハプニングを感じる事は出来ませんでした。レコードSide B2曲目はEl Morroを収録せず、You Can’t Go Home Again側の小品を2曲、例えば1曲Bakerのボーカル曲を選び、Side AはHard Side、Side BはBaker本来のSoft & Mellow Sideとはっきりと分割すればかなり印象の異なるアルバムに仕上がった事と思います。

2018.08.18 Sat

Sonny Rollins / The Sound Of Sonny

今回はSonny Rollins 1957年録音の作品「The Sound Of Sonny」を取り上げてみましょう。 1)The Last Time I Saw Paris  2)Just In Time  3)Toot, Toot, Tootsie, Goodbye  4)What Is There To Say?  5)Dearly Beloved  6)Ev’ry Time We Say Goodbye  7)Cutie  8)It Could Happen To You  9)Mangoes ts)Sonny Rollins  p)Sonny Clark  b)Percy Heath(2, 3, 5~9)  Paul Chambers(1, 4)  ds)Roy Haynes Recorded In NYC  June 11(5, 6, 8), June 12(2, 3, 7, 9), June 19(1, 4), 1957    Produced By Orrin Keepnews  Riverside Label 当時最先端のスタジオ・レコーディング用マイクロフォンNeumannの前でSonny Rollinsがサックスを構えるジャケ写が印象的です。実際にはこれ程近づけて収録する事はないので、写真撮影用のポーズと思われます。楽器もAmerican Selmer Mark6、Front F keyの貝殻が小ぶりな事からシリアル5万〜6万番台と推測出来ます。当時の現行モデルですね。 本作は前回Blog「Coltrane Jazz / John Coltrane」でも挙げましたが、「Sonny Rollins, Vol.2」というオールスターによるハードバップの名作をレコーディングした直後の作品、前作が大熱演だったためかリラックスした内容に仕上がっています。更にウラ「Saxophone Colossus」とも称される次作「Newk’s Time」に挟まれた形になります。本作録音の57年と言う年はモダンジャズの黄金期、最も華やかに煌びやかにジャズが賑わっており、ジャズ史を代表する名盤が量産されました。Rollinsも同年は「 Sonny Rollins, Vol.1」(Blue Note)「Way Out West」(Contemporary)「Sonny Rollins, Vol.2」(Blue Note)「The Sound Of Sonny」(Riverside, 本作)「Newk’s Time」(Blue Note)「A Night At The Village Vanguard」(Blue Note)「Sonny Side Up」(Verve, Dizzy GillespieとSonny Stittとの共同名義)とリーダー作を1年間に7作も立て続けにレコーディング、しかも何れもがRollinsの代表作なのです。飛ぶ鳥を落とす勢いとはまさしくこの事、快進撃を遂げていました。これら7作品中本作が最も小唄感が強く、1曲の演奏時間も短いためにメンバーとの丁々発止のやり取り、熱く燃えるソロはあまり聴かれず、どちらかと言えば比較的影の薄い存在のアルバムですが〜単に他の作品が濃過ぎるのかもしれません(汗)〜、僕はRollinsの演奏の原点がスポンテニアスな「鼻唄感覚」と捉えているので、彼のエッセンスがシンプルに発揮された作品としてずっと愛聴しています。フルコースの晩餐も良いですが猛暑にはやっぱりざる蕎麦でしょう(笑)。更に収録曲には各々Rollins本人と思われる、曲の魅力を十分に引き出しているアレンジが施され、聴き応えを倍増させています。後ほど触れますがアレンジのテーマは「ブレーク」です。 Riverside LabelからRollinsの作品がもう一枚リリースされています。58年録音「Freedom Suite」 こちらはb)Oscar Pettiford  ds)Max Roachとのテナー・トリオでの作品、表題曲Freedom Suiteが19分以上の演奏時間から成る、リズムやテンポ・チェンジを繰り返しつつ進行する組曲で、レコードのA面を1曲だけで占めている当時としては珍しい形態の意欲的な作品です。本作とは対照的なコンセプトの作品です。 ピアニストSonny ClarkはRollinsと初共演、的確なアプローチのスインギーなソロを聴かせ、Rollinsのソロにも付かず離れずのバッキングで対応しています。翌58年には名盤「Cool Struttin’」を録音していますが、63年1月ヘロインの過剰摂取による心臓発作で31歳の生涯を閉じました。 ドラマーRoy Haynesは25年生まれ、現在93歳(!)、Lester Young, Charlie Parker, Bud Powell, Sarah Vaughan, Stan Getz, Chick Coreaとモダンジャズのレジェンド達との共演、その枚挙には遑がありません。Rollins自身も30年生まれの今年88歳、本作録音から61年経た現在に於て参加ミュージシャンが二人も存命とは素晴らしく長寿です!Rollinsのリーダーセッションとしては初リーダー作「Sonny Rollins With The Modern Jazz Quartet」収録のMiles Davisがピアノを弾いている謎のナンバー、I Knowで共演を果たして以来です。因みにその時のベーシストも本作のPercy Heathです。もう一人のベーシストPaul ChambersはRollinsのお気に入り、RollinsオリジナルのPaul’s Palで彼への思いを表しています。 本作は57年6月11, 12日のセッションではHeathを、6月19日のセッションではChambersを起用しています。Chambersが演奏するテイクは1曲目と4曲目のバラードです。Heathのベースには安定感がありますが些かタイムが重いように聴こえます。一方Chambersは当Blogでも何度か触れていますが、On Topを信条とした素晴らしいベース・ワークを聴かせています。Rollinsもレイドバックしたタイム感が実に素晴らしく、このタイム感とOne And Onlyのテナー音色が合わさりRollins節を聴かせるのですが、レイドバックの必要条件としてリズムセクション、特にベーシストのOn Top感が欠かせません。Heathのベースで一枚アルバムを作りたかったけれど(そのために通常のレコーディング・スケジュールで2日間連続拘束)、どうしても1曲目のシカケのある曲とバラード2曲のテンポが遅くなってしまうので、確実に安定した演奏を提供できるChambersを呼び、他は同じメンバーで1週間後に再演したのでは、と想像しているのですが如何でしょうか。だったら初めからChambersを呼べば良いだろうとは友人の弁です。 その1曲目The Last Time I Saw Paris、Parisを題材にした曲は数多くありますが、こちらは如何にもブロードウェイ・ミュージカル・ナンバー、ユーモラスな雰囲気を感じさせるのは曲想の他にリズムセクションのシカケも要因です。この曲のみピアノレスのトリオ編成なので余計にシカケがくっきり浮き上がり、テーマ後の小節のアタマにアクセントが入り1小節ブレーク、そのまま1コーラス32小節丸々このシカケが入ります。Haynesも茶目っ気があるので25, 29, 31小節目に複数のアクセントを連打しています。合計3コーラスをRollins一人の吹きっきり状態、ブレークをものともせずソロを構築して行くスイング感、センスには脱帽してしまいます!この曲のベーシストはChambersですが冒頭のテンポに比べて後テーマは流石にブレークを繰り返したために若干テンポが遅くなっています。ChambersをしてもこうですのでHeathならばどうであったのか…Rollinsのソロ終了直後1’52″で「アッ」と声が入りますが声の主は多分Haynes、テナーソロの素晴らしい出来栄えに思わず声が出てしまった感じの発音です。 2曲目Just In Time、こちらもブロードウェイ・ミュージカルの代表的ナンバー、小気味好いテンポ設定にメロディを3拍-3拍-2拍に分割して変拍子のように聴かせています。更に2小節のブレーク時、オクターブ下でのメロディ奏に対し一人Call And Response状態、敢えてオクターブ上でのカッコいいフィルインを吹いています。本編のソロも決してtoo muchにならずメロディを踏まえて小粋にスイングしています。続くSonny Clarkのピアノソロ、Wynton KellyやRed Garland, Tommy Flanaganとはまた異なるテイスト、僕はかなり好みです。続くHaynesとの4バース、こちらもPhilly Joe JonesやMax Roach, Art Blakeyとは全く異なる独自のドラム・フレージング、こちらも相当好みです。 3曲目Toot, Toot, Tootsieは27年のThe Jazz Singerと言うミュージカル映画から、古き良きアメリカの雰囲気満載のナンバーです。チャールストンというリズムでClarkもそのコンセプトを把握したバッキングに徹しています。ピアノソロ後に一瞬ベースの音が聞こえなくなるのはドラムソロか、自分のベースソロかとの選択を迫られ躊躇した結果でしょう、生々しさが伝わります。結局ドラムとの4バースに突入、その後半音づつブレークをしながら同一フレーズで3度転調を繰り返し、Cメジャーから単3度上のE♭メジャー(in B♭)にキーが変わりラストテーマは演奏されずにエンディングを迎えます。これまたブレークを生かしたカッコいいアレンジが施された演奏になりました。 4曲目はバラードWhat Is There To Say、こちらもベーシストがChambersに代わります。サブトーンを生かした「ザラザラ、シュウシュウ」豊富な付帯音でのテーマメロディ奏の後ピアノソロが先発します。その際一瞬Clark「えっ?オレなの?」と予期せぬRollinsからのソロ先発依頼、バッキングのつもりの音使いから急遽ソロに突入です。その後テナーがサビからメロディフェイクを交えつつラストテーマへ、サビ後はキーが半音上がり、更にカデンツァを経てFineです。 5曲目Dearly Belovedもブレークを生かした仕掛けが施されています。1曲目に似た構成ですが、こちらはアドリブソロの1コーラス目初めの8小節間1小節ごとにブレーク、その後の8小節は普通にスイング、更に8小節間1小節ごとのブレーク、8小節間スイングとなっています。こちらはある程度の早さのテンポ設定なので、テンポダウンする事はありませんでした。エンディングは3曲目と方法は異なりますが、同様に単3度上がってFineを迎えます。 6曲目Cole Porterの名曲Every Time We Say Goodbye、ペダルトーンが効果的に用いられたユニークなイントロに被りながら、リバーブが効いたテナーが遠くからやって来たかのように登場します。61年発表のJohn Coltrane「My Favorite Things」収録、ソプラノでの同曲のバラード演奏とはテイストが随分と異なります。 7曲目はRollinsオリジナルCutie、作曲者が同じなので仕方がない事ですが、やはりRollinsのオリジナルDoxyに何処か似たテイストの明るいナンバーです。Rollinsのソロ後本作唯一のHeathのベースソロが聴かれます。 8曲目は本作の目玉、テナー無伴奏ソロによるIt Could Happen To You。このテイクは他とは異なりリバーブ感が強く出ています。曲のメロディは断片的に出てくるだけで、たっぷりゆったりとスペースを取りながらおおらかに歌い上げており、最低音域のサブトーンと実音の使い分けに表情を感じさせます。エンディングは#11thの音を吹き伸ばし、半音上がった5度の音で解決しています。ここでの演奏がその出来映えはどうであれ、28年後の85年6月19日NYC MoMAで行われたRollins自身のテナーサックス・ソロ・コンサートを収録した「The Solo Album」に繋がります。 9曲目は本作の最後を飾るラテンナンバーMangoes。Haynesはラテンのセンスも良く、軽妙なドラミングを聴かせています。イントロ、テーマのメロディの合間に挿入されるフィルインも小洒落ています。この曲の持つ陽気な雰囲気は実にRollinsの音楽性に合致しています。スイングのリズムも交えながら曲が進行し、ラストテーマの吹き方もステキです!そしてユーモラスにアルバムの大団円を迎えます。

2018.08.09 Thu

John Coltrane / Coltrane Jazz

今回はJohn Coltrane6枚目のリーダー作、1961年リリース「Coltrane Jazz」を取り上げてみたいと思います。 1)Little Old Lady  2)Village Blues  3)My Shining Hour  4)Fifth House  5)Harmonique  6)Like Sonny  7)I’ll Wait And Pray  8)Some Other Blues ts)John Coltrane  p)McCoy Tyner(on 2 only)  p)Wynton Kelly  b)Steve Davis(on 2 only)  b)Paul Chambers  ds)Elvin Jones(on 2 only)  ds)Jimmy Cobb Recorded: Nov. 24, 1959(1, 7)  Dec. 2, 1959(3~6 & 8)  Oct. 21, 1960(2)  Producer: Nesuhi Ertegun  Atlantic Label Coltraneの代表作にして傑作「Giant Steps」の次作にあたりますが、1曲目Stardustで有名なHoagy Carmichael作の小粋なミディアムアップテンポの歌モノLittle Old Ladyから始まるので、小唄特集のように捉えていました。Sonny Rollins(本作中彼に捧げられたナンバーも収録されています)にも57年録音、リリースの「The Sound Of Sonny」という作品がありますがJ. J. Johnson, Art Blakey, Horace Silver, Thelonious Monk, Paul Chambers等と、とことん熱く終え上がったハードバップの傑作「 Sonny Rollins, Vol.2」の次作に該当し、それ故か全編クールダウンしたスタンダードナンバーの小唄特集(いずれも演奏時間が短いです)が逆にとても心地良いのです。 プロデュース・サイドも「Giant Steps」の作品冒頭でのインパクトがあまりに強烈だったので次作は穏やかに、スロースタートで開始しようと目論んでいた事でしょう。Coltraneのリーダー作にしては珍しくピアノソロから始まっています。確かにLittle Old Ladyの和み系の曲調、演奏はいつになくリラックスしたものを感じさせますがColtrane自身のソロの内容の素晴らしさ、本作品の収録8曲中5曲がColtraneの強力な個性を湛えたオリジナル、他の3曲もジャズミュージシャンはあまり取り上げる事のないスタンダード、そしてそのチョイスのセンス、さらには直後開始されるピアニストMcCoy Tyner, ドラマーElvin Joneを擁するジャズ界をリードしたオリジナル・カルテットでの最初の演奏が収録されているなど、充実した内容の作品なのです。文字通り「Coltrane Jazz」が表現されています。 Atlantic Labelの録音はBlue Note, Prestige担当のエンジニアRudy Van Gelderとは全く異なり、飾り気のないストレートな音色に仕上がっているので、Coltraneの音色を生々しく聴くことができるとも言えます。 演奏曲目に触れていきましょう。1曲目Hoagy Carmichael作Little Old Lady、自身は36年にかなりゆっくりとしたテンポで初演しています。偶然でしょうが、かのMiles Davisが敬愛してやまなかったピアニストAhmad Jamalがほとんど同じ頃(1960年6月、Coltrane Jazzリリース前)に自己のトリオで録音しており、遊び心、余裕の快演を聴かせています。「Happy Moods」Argo Label Coltraneの演奏は独特なテナーサックスの音色、ほとんどビブラートをかけずにストレートにメロディを演奏することから一聴してすぐに彼と分かる個性を発揮しています。ジャケット写真に写っているマウスピースとネックコルク部分に見える白いものは、コルクが緩いのでマウスピースを安定させるために巻いているただの紙です。マウスピースを頻繁に取り替えているとネックコルクが痛み易く、弾力性がなくなり、紙などで厚みを持たせなければならなくなります。松本英彦さんがNewport Jazz Festivalに出演した際Coltraneの楽屋を表敬訪問し、バッグ一杯にマウスピースが入っていたのを目撃、「好きなのを持って行って構わないよ」とColtraneに言われた話は有名ですが、さぞかし日常的にマウスピースを取っ替え引っ替えして音色や吹奏感を向上すべくチャレンジ、研究していたのでしょう。それにしてもその膨大な数のColtraneのマウスピースは一体どこに行ってしまったのでしょうか?息子のRavi  Coltraneと話をした時には特にその話題は出ず仕舞い、晩年共演していたPharoah Sandersのところに譲渡された?Coltrane研究家のテナー奏者Andrew Whiteのところへ?因みにSandersはヴィンテージ・マウスピースが大のお気に入り、来日時には東京・石森管楽器を訪れて店頭にあるヴィンテージ・マウスピースを吹くのが楽しみなのだそうです。Coltraneが愛用していたOtto Link Tone Master Model、Otto Link社に特注で何本か製作依頼していたらしいのですが、その場合本人の名前がマウスピースに必ず刻印されます。写真は40年代にStan Kentonのビッグバンドで活躍したテナー奏者Vido Mussoの名前が刻印されたOtto Link社Master Link Model特注マウスピースです。写真中央の窪み右寄りのところに、見難いですがVIDO MUSSOとあります。 John ColtraneないしはイニシャルでJ Cとマウスピースの横側、あるいはマウスピースのテーブル部分に刻印されたOtto Link Tone Master Modelが存在したら、かなりの価格が付けられることでしょう。あらゆるものが発掘される昨今、ひょっこりと現れるかもしれません、その際には是非吹いてみたいものです。 演奏内容に戻りましょう。Wynton Kelly のソロ後Paul Chambersのソロを挟み、Coltraneの登場です。スタンダードナンバーにこのようなアプローチで演奏を試みたプレイヤーはColtraneがパイオニア、「誰にも似ていない」オリジナリティは驚異的です。そのままラストテーマに突入しています。3’03″でColtraneにしては珍しく伸ばした音の語尾に一瞬ビブラートをかけています。 2曲目ColtraneのオリジナルVillage Blues、この曲のみリズムセクションがp)McCoy Tyner  b)Steve Davis  ds)Elvin Jonesに替わります。そしてColtraneがMcCoyとElvinとの初共演のレコーディングになります。ベーシストSteve Davisはごく短期間の在籍、その後Reggie Workman、そして以降不動のJimmy Garrisonに替わり数々の名演奏を残したJohn Coltrane Quartetの誕生となります。ベーシストがなかなか決まらなかったので、本作でも共演している盟友Paul Chamberを採用し、McCoy, Elvinと組ませる考えもColtraneの頭の中にあったと思いますが、ビート〜リズム的にコンビネーションが良くても、サウンド的にはスリリングなレベルまで行かないだろうと考え断念したのでしょう。Chambersはハードバップを代表するベーシストですから。曲自体はミディアムテンポのブルース、キーはC。まず気付くのはドラムのリズムです。前曲のドラマーJimmy Cobbに比べて3連が強調されており、常に3連符がリズムを支配しています。ビートがどっしりしているのにスピード感があるので一拍の長さがハンパありません。そしてピアノのバッキング・コードに4度音程のインターバルが導入されているのでフローティングなサウンドが聴かれ、Wynton Kellyとは全く異なる、ある種サウンドの束縛感から解放されたかのようです。この1曲で以降の黄金のColtrane Quartetのプレビューがしっかりと果たされています。 3曲目Harold Arlen, Johnny Mercerコンビによるナンバー、軽快なテンポによるMy Shining Hour、この演奏でどれだけのColtrane派テナーサックス奏者たちを魅了した事でしょう!!ここでのColtraneのテナーの音色の「ホゲホゲ」感が堪りません!Coltraneのアンブシュアはダブルリップだったと言われていますが、確かにダブルリップでルーズなアンブシュアでなければこんな楽器の鳴りは得られないでしょう。ジャケ写では上唇にヒゲが生えているために厳密には判断できませんが(更にCDジャケ写では小さすぎるので、可能ならばレコード・ジャケットで見てください)上唇を内側に巻いているように見えます。下唇はこの人かなり分厚いので巻いているかの判断は微妙な感じです。ピアノとドラム二人による8小節の軽快なイントロからColtarneのメロディ奏、お馴染みビブラートや抑揚を排した吹き方にも関わらず何故かとっても素敵に聴こえます。ピックアップのフレージングからして独創的、55年Milesのバンドに参加した頃は運指とタンギングが実に合っていませんでした。ここでもタンギングの合わなさ加減を若干感じますが、それでも当時より実にスムースにアップテンポのタイトな、イーヴンにひたすら近い8部音符を聴くことが出来ます。1’15″で聴かれるDメジャーに解決するフレーズ、物凄いです!アドリブのフレーズに著作権印税があったなら間違い無くCharlie Parkerが長者番付1位、Coltraneもかなり上位に違いありません。と言うのもColtrane派テナー奏者たちSteve Grossman, Dave Liebman, Michael Brecker, Bob Berg皆さんこのフレーズを愛用していました。もう一つ、1’54”, 2’00”, 4’04″と3回出てくるコード進行Em7-A7でのフレーズ、Coltraneの使用楽器はAmerican Selmer Super Balanced ActionのためHigh F#からフラジオ音扱いですがそのF#音と半音上のG音を用いたスーパー・インパクトのフレージングです。Michael Breckerが参加しているトランペット奏者Tom Browne、79年の作品「Browne Sugar」1曲目Throw Downの3’00″でMichael実に大胆に、効果的にこのフレーズを使っています。 4曲目はColtraneのオリジナルFifth House、イントロのピアノ左手とベースのパターンが印象的、Tadd DameronのHot Houseを元にしたナンバーで、更なる原曲はCole PorterのWhat Is This Thing Called Love?(恋とは何でしょう)です。Lewis Porterの著書「John Coltrane His Life And Music」に拠ればFifth Houseのタイトルは占星術の用語に由来するそうです。AABA構成32小節のこの曲、Coltraneのソロ時はAの部分をDペダルで通しているので一つのコードだけでも良い筈ですが、ColtraneはオリジナルのHot Houseのコード進行とColtraneチェンジ両方とも想定してアドリブしています。Wynton Kellyのソロ時はHot Houseのオリジナルコード進行に変わり、メリハリが付けられています。Kellyのソロには原曲のコード進行が相応しいです。PorterによればColtraneはこの曲にInterludeも書いたそうですが、レコーディングされませんでした。ラストテーマ後のバンプではColtrane重音奏法を用いて同時に複数の音を吹き、次曲Harmoniqueの曲のコンセプトにうまい具合に繋げています。レコードのSide Aはここで終了です。 5曲目もColtraneの3拍子のオリジナルHarmonique、ユニークなイントロの後ハーモニクス奏法を用いた重音テーマのメロディ、アドリブを行っています。本来単音楽器のサキソフォンですが特殊なフィンガリング、ノドの使い方で複数の音を同時に出す奏法です。以前から奏法としては存在していたでしょうが、メロディやアドリブに持ち込むのは当時としては奇想天外、多くのサックス奏者の度胆を抜いた事でしょう!こんな事まで思いついて演奏してしまうColtraneの発想の自由さに、今更ながら敬服していまいます!この曲の超進化系でハーモニクスやovertoneを駆使した曲、演奏がMichael BreckerのDelta City Blues(Two Blocks From The Edge収録)となります。1998年リリース 6曲目はSonny Rollinsに捧げられたColtraneのオリジナルLike Sonny、これまた個性的なメロディライン、構成の曲です。前述Lewis Porterの著に拠れば、親しい間柄のRollinsへの尊敬の念を込めて書かれたナンバーで、曲のメロディはKenny Dorhamの作品「Jazz Contrasts」収録のバラードMy Old Flameに於けるRollinsのソロフレーズをモチーフにしています。具体的には3’22″~3’31″のRollinsが吹いたフレーズの断片を様々なキーに移調して曲に作り上げています。と言う事でLike Sonnyと言うタイトルは正しくなく、そのまんまSonnyの方が適切です (笑) 遡ること約9ヶ月前の59年3月26日にp)Cedar Walton  b)Paul Chambers  ds)Lex Humphriesというリズムセクションでの別テイクが残されていて、ボーナストラックとしてCDに収録されていますが、こちらもなかなか良い出来のテイクです。オリジナルテイクには無いリズムセクションのキメが印象的ですが、ボツテイクになったのはHumphriesのドラミングにColtrane不満があったのが原因ではないかと感じています。 7曲目Coltraneの高音のハスキーな音色を生かしたバラードI’ll Wait And Pray。Side Key Dの音がこの人メチャメチャ良いですね!イントロ無しでストレートに直球勝負、1コーラス半をメロディフェイクを中心にグリッサンドを多用して歌い上げています。ラスト部分ではここでもハーモニクスを用いて和音を鳴らし、コード感をしっかりと聴かせてエンディングを迎えています。この部分も前述Delta City Bluesにしっかりと受け継がれています。 8曲目ラストを飾るのはオリジナルのブルースSome Other Blues。Charlie ParkerのNow’s The Timeにどことなく似ているのでそれでSome Otherなのでしょう。Coltraneのレパートリーにブルース・ナンバーはたくさんありますが、アドリブの題材として重要な素材であったと思います。ここでは8分音符のラインを中心としたアドリブを聴かせていますが、6コーラスに及ぶドラムとの4バース中、Like Sonnyのメロディらしきフレーズが2度出て来ます。