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2019.05

2019.05.13 Mon

Sonny Rollins Vol. 2

今回はSonny Rollinsの57年録音の代表作にしてモダンジャズのエバーグリーン、「Sonny Rollins Vol. 2」を取り上げてみましょう。

1957年4月14日録音@Van Gelder Studio, Hackensack Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Label: Blue Note / BLP1558

ts)Sonny Rollins tb)J. J. Johnson p)Horace Silver p)Thelonious Monk b)Paul Chambers ds)Art Blakey

1)Why Don’t I 2)Wail March 3)Misterioso 4)Reflections 5)You Stepped Out of a Dream 6)Poor Butterfly

Francis Wolf撮影の写真、そしてHarold Feinsteinによる素晴らしいデザインのジャケットが、既に作品の素晴らしさを物語っています。ロック・ミュージシャンのJoe Jacksonがまんまジャケットを模倣して作品をリリースしています。84年「Body and Soul」

文字や被写体の色が青から赤に、タバコを持つ手の形以外は全くと言って良いほどの「パクリ」ですが、確信犯による見事なまでのRollinsへの表敬振りです(ちなみに内容は本作とは全く異なるロック・ミュージックです…)。写真のテナーサックスもRollinsと同じAmerican Selmer MarkⅥの初期モデル、同じような風合いの楽器を用いており、微細にこだわっています。唯一残念なのはこの頃のRollinsが使っていたMarkⅥはごく初期のモデル、55~56年製造の楽器でおそらくシリアルナンバー56,000~67,000番台、フロントFキーが他のキーよりもひと回り小さいのが特徴です。録音時期から推測して当時新品で購入した楽器ではないでしょうか。「Body and Soul」ではその後のモデルを用いているのでフロントFキーが他のキーと同じ大きさのものです。細部にこだわるのであればディテールを徹底させ、同じキー・レイアウトの楽器を用意して貰いたかったと思うのはマニアック過ぎでしょうか(笑)。

ちなみにジャケットの方のレイアウトですが、CD化に際してSONNY ROLLINSのロゴを始めとする文字が中央に集められ、それに伴い「R」の文字がちょうどフロントFキーに被ってしまい、マスキングされてしまいました。個人的にはオリジナルと同じくタイトルやメンバーの表示が幾分下の方がRollinsの顔が引き立ち、バランスが取れていると思うのですが、如何でしょうか。以下がCDでのジャケットです。

さてジャケット話はこのくらいにして、57年はRollinsに限らずモダンジャズの当たり年、数々の名盤がリリースされました。時はHard Bop全盛期、米国の文化成熟度も一つのピークを迎えており、放っておいても、特に何かを企画しなくても、レギュラーグループではなくとも、リーダーを決めて、良いサイドマンを集めて録音しさえすれば、自動的に素晴らしい作品が出来上がった時代です(物凄い事です!)。Rollins自身も57年にはなんと合計6枚のリーダー作をレコーディングしており最多録音年、本作はメンバーの人選もありますが、抜きん出てHard Bop色が強い作品に仕上がっています。J. J. Johnsonとの2管は同じ音域の木管楽器と金管楽器とが合わさり、お互いの響きを補いつつ増強させる強力なアンサンブルを聴かせ、ハーモニーでもユニゾンでも実に豊かで豪快なサウンドを提供しています。Art BlakeyとPaul Chambersのコンビネーションは安定感、スピード感申し分なく、Blakeyの繰り出すリズムをon topのChambersが徹底的にサポートして更なるグルーヴ感を出しており、Blakeyが必ず踏んでいる2, 4拍ないしは裏拍のハイハットがHard Bopを色濃く感じさせます。ピアニスト2人Horace SilverとThelonious Monkはリーダーとしての活動が中心ですが、本作での客演で的確に伴奏者としての演奏を披露、特にMisteriosoでの2人の共演は稀有なナンバーです。

それでは曲毎に触れて行きましょう。1曲目RollinsのオリジナルWhy Don’t I、Miles DavisのオリジナルFourをひっくり返したようなメロディが印象的です。曲自体の構成はA-A-B-Aで、よくある歌モノのフォームですがサビのBが普通は8小節ですが半分の4小節しかありません。同じくRollinsの代表作「Saxophone Colossus」に収録のStrode Rodeも同じフォームでやはりサビが4小節です。この頃彼は短いサビのサイズに嵌っていたのでしょうね、きっと。なかなか手強い構成の曲に仕上がっていますが、作曲者自身このフォームに起因し演奏中やらかしてしまいました(爆)。後ほど触れるとして、ソロの先発はRollins、モダンジャズ・テナーサックスの正に王道を行く音色(1’34″でのSubtone、堪りません!)とタイム感、フレージングの推進力、例えば0’50″からの16分音符フレージングのスピード感とタイトさと相反するレイドバック感、これはメチャヤバです!!ソロの2コーラス目はテーマと同じシカケをリズムセクションが演奏し、バッキングに弾みをつけています。随所で聴かれるBlakeyのいわゆるナイアガラロール、実に効果的です!続くJ. J.のソロ、巧みなスライドワークによるバルブトロンボーン・ライクで流麗なフレージング、ジャズトロンボーンを志す全てのミュージシャンの規範となるべきバイブル的な演奏です!ソロの2コーラス目冒頭でJ. J.自身がテーマの仕掛けを提示していますがリズムセクションまさしく笛吹けども踊らず、ただBlakeyが4小節目の4拍目に謎のアクセントを入れていますが、これがJ. J.へのレスポンスでしょうか?その後は淡々とソロを展開し、Silverのソロとなります。ちょっとリズムがつんのめった特徴的なタイム感での演奏です。RollinsとSilverはMiles Davisの54年「Bags Groove」以来の共演です。

ピアノソロ後のフロント二人とドラムスの4バースがこの曲でのトピックスです。構成としてAは8小節なのでRollins〜Blakey, J. J.〜BlakeyでAAが終了、サビが4小節なのでRollinsの4小節ソロ後ドラムスのソロは次のAの前半4小節で行われ、後半4小節J. J.のソロで1コーラス終了になります。2コーラス目は1コーラス目とひっくり返る形でドラムス・ソロ4小節〜フロントのソロ4小節となるはずが、ドラムスのソロに被ってRollinsソロを始めました!これは単なる出間違えなのか、それとも4バースの2コーラス目も1コーラス目と同じ構成で行いたいというRollinsの目論見だったのか、いずれにせよバンドの流れとしてはひっくり返る形での4バースが主流と即断したRollins、同一フレーズの音形で次の4バースを続けます。そしてもう一度、J. J.のソロの後サビでドラムス・ソロになる筈が、今度は明らかに自分の出番ではないと知りつつサビのコード感を提示するラインをRollins吹き始めました!この機転の効いたプレイこそSaxophone Colossus!その後のJ. J.は「何が起きたんだ?俺はこのまま続けて吹いても良いのか?」とばかりの間を空けて探りながらソロを開始しています。Blakeyの委細かまわず、やるべき演奏を完徹した姿勢にも助けられたと思います。この演奏はハプニングを利用し、更にリカバーすべくアイデアを提供したRollinsのスポンテニアスな音楽性の産物です!この出来事がなければごく普通のHard Bop演奏で終わってしまうテイクが、誰にも印象に残る名演奏に変化したのです。

以前日野皓正さんのバンドで演奏中、何かスタンダードを演奏することになりました。その時の曲もAABA構成で、僕がサビのBを演奏することになったと記憶しています。演奏が始まり最初のAのメロディを演奏する日野さん、明らかなテーマの間違いを犯しました!「えっ?」と思った束の間、次のAで今度はわざと同じようにメロディを違えて演奏するではありませんか!サビ後のAでも全く同様にメロディを変えての演奏、お陰でその間違ったメロディが正しく聴こえてくるのが実に不思議でした。そんな日野さんを目の当たりにし、背筋がゾゾっとした覚えがあります。転んでもタダでは起きない、間違いやハプニングをむしろ利用して音楽を活性化させるしたたかさに、本物のミュージシャンを感じました。

2曲目もRollinsのオリジナルWail March、BlakeyがドラマーでMarchとくればThe Jazz MessengersのレパートリーBlue Marchを連想しますが、こちらは翌58年10月の録音なので1年半以上も先の話になります。Blakeyお家芸のマーチング・ドラムは本テイクのイントロで既に花開いていました。アップテンポの曲自体は8小節のシンプルな構成、ソロはスイングで演奏されるので倍の16小節がループされます。ソロの先発J. J.の絶好調振りはBlakeyのスインギーなドラミング、Mr. on top BassのChambersに依るところも大です。EllingtonのRockin’ in Rhythmの引用フレーズも交えつつ演奏され、再びインタールード的にメロディが演奏されRollinsのソロになります。アップテンポにも関わらず実にタイムが的確でスインギー、前年録音「Saxophone Colossus」の頃よりもリズムのスイート・スポットにより確実に音符をヒットさせています。かつてDavid Sanbornが司会するTV番組Night MusicにRollinsがゲスト出演、Sanbornは彼のことをRhythmic Innovatorと紹介していましたが、正しくその通りです!ピアノ、テーマとドラムスとのトレード、ドラムスソロに続き再びMarchのテーマでFineです。

3曲目はThelonious Monk作のブルースMisterioso、RollinsはかつてMonkのバンドに在籍し、54年「Thelonious Monk / Sonny Rollins」56年「Brilliant Corners」と名盤を録音しています。

ここでのトピックスはMonkとSilverのふたりが参加している点です。連弾や2台ピアノが用意されている訳ではないのでピアノを引き分けていますが、どのように分担しているのかが気になるところです。始めのテーマをMonkが演奏し、続くRollinsのソロでバッキングを行い、その後短いながらも自身のユニークなソロがあり、終了後3’47″から5秒間でSilverにピアノの席を譲っているようです。ですので続くJ. J.のソロはSilverがバッキングを行い、そのままSilverのソロ、ベースソロ、一瞬ドラムスソロに突入しそうなところをRollinsリーダー然と入り込みドラムスとの4バースにしていますが、ここでもSilverがピアノを弾いているように聞こえ、ナイアガラロールに誘われてのラストテーマの直前にMonkが再登場、テーマ演奏そしてオーラスで9thの音であるC音をチョーんと弾いています。ピアニスト二人ともバッキングでリズミックな要素を含んでいるので、かなり判断が難しいです。

内容的にもイーブン気味のテーマの後ろでBlakeyが何やら3連符をずっと演奏し続けたり、MonkのOne & Onlyでリズミックなバッキングが随所に光っていたり、Rollinsソロ冒頭でテナーでの雄叫びが聴こえたり、バースで草競馬のメロディを引用したりと、じっくり聴きこむと様々なことが行われています。

以上がレコードのSide A、4曲目はMonkが残留してRollinsのワンホーン・カルテットによるMonkのReflections、かつてのバンマスに敬意を表して取り上げたナンバー、Monk Worldを存分に表現したテイクに仕上がっています。Rollinsはお得意の低音域サブトーンとリアルトーンを使い分けしっとり、バリバリとメロディ奏、1’44″でRollinsが吹いたフィルインをMonkが暫く後の49″で呼応する辺りニンマリとしてしまいます。ソロの先発はMonk、Blakeyが好サポートを聴かせますが、ふたりは47年Monkの初リーダー作「Genius of Modern Music」からの付き合いになります。

5曲目はスタンダード・ナンバーYou Stepped Out of a Dream、再びクインテットでの演奏になります。Rollinsがメロディを吹き、J. J.がオブリガードや対旋律、ハーモニーを演奏しています。快調に飛ばすRollins、2コーラス目に入ろうとする1’08″くらいからBlakeyに煽られてとんでも無い状態に!3コーラス目に入った辺りでもシングルノート攻め、いや〜素晴らしい、Rollins申し分無い計3コーラスのスインガー振り。ひょっとしたらこの曲がアルバムの1曲目に置かれても十分な出来栄えですが、Why Don’t Iの災い転じて福となすテイクの方にジャズの魅力が詰まっていますね!J. J.のソロもYou Are the Man!と声を掛けたくなるくらい素晴らしい演奏です!ピアノソロ後のフロントふたりのトレードからラストテーマへ。やはりWhy Don’t Iのハプニングがなければこのテイクをオープニングに採用していたかも知れません。プロデューサーのAlfred Lionさぞかし迷ったことでしょう。音楽を、ジャズを良く分かっているプロデューサーならではの決断、ミスやハプニングを良しとしない頭の硬い人では出来ない大英断だったと思います。

6曲目ラストはPucciniのオペラMadame ButterflyからPoor Butterfly、テーマ後J. J., Silver, Chambersとソロが続きラストテーマ、Rollinsはテーマ演奏のみという大人の仕事っぷりで本作を締めくくっています。

2019.04

2019.04.30 Tue

Alex Riel / Unriel!

今回はDenmark出身のドラマーAlex Rielの作品「Unriel!」を取り上げたいと思います。コンテンポラリー系共演者との白熱した演奏、そして当代きってのスタイリストであるJerry Bergonzi, Michael Brecker2人のテナー奏者のバトルも存分に楽しめる作品です。

Recorded March 23 & 24, 1997 at Sound On Sound, in New York City. 
Mastered at Medley Studio, Copenhagen.  Label: Stunt Records

ds)Alex Riel ts)Jerry Bergonzi ts)Michael Brecker g)Mike Stern b)Eddie Gomez p)Niels Lan Doky

1)Gecko Plex 2)He’s Dead Too 3)On Again Off Again 4)Amethyst 5)Bruze 6)Moment’s Notice 7)Channeling 8)Invisible Light 9)Unriel

Alex Rielは1940年9月13日Denmark Copenhagen生まれ、60年代中頃から地元にあるジャズクラブJazzhus Montmartreでハウスドラマーを務め、同じくDenmark出身の欧州が誇る素晴らしいベーシストNiels-Henning Ørsted Pedersen、スペイン出身の盲目の天才ピアニストTete Montoliuを中心に米国からの渡欧組ミュージシャンであるKenny Drew, Ben Webster, Dexter Gordon, Kenny Dorham, Johnny Griffin, Don Byas, Donald Byrd, Brew Moore, Yusef Lateef, Jackie McLean, Archie Shepp, Sahib Shihab等と日夜セッションを重ね、ジャズ・フェスティバル出演、レコーディングと多忙な日々を過ごしていました。欧州各国のジャズシーンは今でこそ優れた個性的なミュージシャンが目白押しですが、60年代中頃は言わばジャズ後進国(そもそも米国以外の全世界各国はジャズ後進国でありましたが)米国出身のミュージシャンの市場、多くの米国ミュージシャンが仕事を求めて渡欧し人材が流入しました。Rielは欧州に居ながら米国のジャズ・テイストをダイレクトに吸収できた世代の一人です。

97年RielはやはりDenmark出身のピアニストNiels Lan Dokyと2人で訪米し、New Yorkのスタジオで本作をレコーディングしました。参加メンバーの中でまず挙げるべきはベーシストEddie Gomezです。彼のプレイがこの作品の要となり、演奏を活性化させインタープレイを深淵なものにしています。11年間もの長きに渡り在籍していたBill Evans Trioでの演奏のイメージが強いですが、実はEvans以降大胆な音楽的成長を遂げており、その成果としてある時は縁の下の力持ち、またある時はその場に全く違った要素を導入すべく、体色を変化させ瞬時に舌を伸ばし、獲物を捕食するカメレオンのように変幻自在に音楽に対応しています。Gomezはソロイスト、伴奏者に対し的確に寄り添い素晴らしいon topのビート、グルーヴを提供しますが、同時に音楽を俯瞰してその瞬間瞬間で最も効果的なスパイス、サプライズは何かを選択し提供する事に関してのエキスパートでもあります。

Alex RielとEddie Gomezの本作でのツーショット。Eddieの笑顔が本作の成功を物語っています。

Jerry Bergonziは47年生まれ、Boston出身のテナー奏者。作品を多数発表し、ジャズの教則本も数多く執筆しています。また莫大なマウスピース、楽器本体のコレクターとしても知られていて、音色へのあくなき探究から常に素晴らしいテナーサウンドを聴かせており、本作での圧倒的なプレイは感動的です。更に多くのオリジナルを作曲しここでも5曲提供していますが、いずれもユニークな個性を発揮しサウンドが輝いています。サックスプレイは勿論、ジャズに関連する媒体を作り上げ量産する、ツールをマニアックに収集する、表現向上のために委細構わず拘る、などから演奏者であると同時にモダンジャズを愛する、根っからのオタク系ジャズファンであると感じています(笑)。Michael Breckerが参加する2曲でテナーバトルを聴かせますが、ジャズフレーバー満載でマイペースな演奏のBergonziに対し、投げられたボールを確実にキャッチしすぐさま変化球に転じさせる技が巧みなMichael、トレーディングを重ねるうちに信じられない境地にまで発展するバトルは相性抜群、他には類を見ないテナーチームです!

Mike Sternは53年生まれ、こちらもBoston出身です。Berklee音楽大学で学び、Blood, Sweat & TearsやBilly Cobham Bandを経て81年カムバックしたMiles Davisに大抜擢され、以降自己のBandを始めとして数々のバンドで活動しています。ロックテイストを踏まえつつ、Be-Bopの要素を盛り込んだ独自のウネウネ・ラインは他の追従を許さない魅力を聴かせます。個人的にはMilesカムバック時のライブを収録した作品「We Want Miles」での全てのプレイに、神がかったイマジネーション感じます。

Niels Lan Dokyは63年Copenhagen出身、ベトナム人の父親とオランダ人の母親の間に生まれ、6歳下の弟Chris Minh Dokyはジャズ・ベーシスト、兄弟でDoky Brothersとして活動していた時期もありました。NielsもBerklee音楽大学で学びましたが米国よりも欧州が肌に合うらしく卒業後帰欧、Franceに在住して音楽活動を行なっています。因みにChrisもジャズを学ぼうと渡米、Berkleeに学びに行こうとした矢先に立ち寄ったNew YorkでBilly Hartに「ジャズを学ぶならここ以外無いだろ?」と引き止められ、NYが肌にあったのもあり、Berkleeには行かずそのまま当地でジャズ活動を展開しました。

本作の出来が大変良かったからでしょう、2年後続編がリリースされました。99年NYC録音「Rielatin’」、1曲Bergonzi〜Breckerのバトルが再演されています。RielのかつてのボスであったBen WerbsterのオリジナルのブルースDid You Call Her Today、古き良き時代を感じさせるミディアムテンポのブルース。前作で取り上げたナンバーの曲想がハードだっただけに2人の大先輩による癒し系の曲を取り上げ、バトルの素材としましたが、演奏内容は全く前作に匹敵するものになりました(爆)

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目BergonziのオリジナルGecko Plex、Gomezの奏でる怪しげで不安感を煽るベースパターンと、Rielのブラシワークから曲は始まります。コード楽器は参加せずテナー奏者2人から成るカルテット編成、曲想、メロディからもハードボイルドな男の世界を予感させます。Rielのドラミング自体は比較的オーソドックスながらも大健闘していますが、何しろ自由奔放なGomezのベースワークが曲中の森羅万象全ての支配権を握っているが如き状態、そこに吠えまくる2匹の野獣テナーたちが斬り込んで来ます。こういうタイプのテナーバトルは聴いたことがありません!何と表現したらよいのか、Lennie Tristano?George Russellスタイルの発展形?Ornette ColemanのHarmolodics?話が些か横道に逸れました。Bergonziがソロの先発を務めますが知的にしてアバンギャルド、アグレッシブにしてタイト、抑制の効いたしかし予定調和ではないフリージャズの領域にまで飛翔しています!テナートリオの表現としては文句の付けようがありません。今度はBergonziのソロに被るようにMichaelのソロが始まります。フレージングの緻密さ、歌い上げに至る構成力、さらに拍車が掛かっています!佳境に達したソロの丁度良いところにBergonziが再登場、ベースが消えてドラムが効果音的に響く中、動物の発情期を連想させるパルスの如き両者のアプローチ、mating callでしょうか?収束に向かった頃に不安感のベースパターンが再登場、ラストテーマへと向かいます。決してこのような演奏形態を狙ってスタートさせてはいないと思います。偶然の産物であるが故に、ジャズのスポンテニアスさを感じさせる名演奏に仕上がったと思います。

2曲目もBergonziのオリジナルHe’s Dead Too、人を喰ったタイトルですがギターとテナーのユニゾン・メロディが心地よいボサノバ・ナンバー、ピアニストは参加せずカルテット編成です。ソロの先発はSternのギター、Gomezの唸り声がところどころ聴こえるのが生々しいです。1’51″辺りでギターの倍テンポのラインに一瞬ベースが反応しサンバのリズムになりかけますが、ぐっと堪えました。しかし衝動は抑え切れず2’15″からドラム、ベースともサンバになり、ギターソロを終えるところまで続きます。続くテナーソロからは振り出しに戻りボサノバで行われ、再び3’58″からドラム、ベースが率先してサンバに持って行きます。「盛り上がったらサンバにしようか」くらいの軽い打ち合わせがあったのかも知れません。その後ベースソロで再びボサノバに戻り、Gomezの超絶技巧ソロ、68年Bill Evansの「At the Montreux Jazz Festival」での名演奏をイメージしてしまいます。この時のベースの録音方法はおそらくマイクロフォンが主体であったので、弦が指板を叩く音が「バチバチ」と物凄く、インパクトが強烈でしたが、本作ではピックアップからの入力の方がメインなので、柔らかく伸びる感じの音色に仕上がっています。

3曲目は本作もう一つのテナーバトル曲On Again Off Again、曲自体はBergonzi作のマイナーブルース。実に正統派、テナー奏者によるバトルはこうあるべきと言うやり取りを聴くことができるテイクです。音符のフラグメント状態からThelonious MonkのEvidenceをイメージさせるテーマに続く先発ソロはMichael、人を説得せしめるための専門用語を用いた滑舌の良いスピーチ(Michael流ジャズ演奏のことです)はしっかりとした手順を踏まえ、一つ一つの言葉の持つ意味を噛み締めながら、確実に次の言葉に繋げて行くことが大切なのだと高らかに宣言しているかの如きプレイです!後ほど行われるバトルのためにかなりの余力を残してクールにソロを終えていますが、続くBergonziはイってます!ソロの後半でJackie McLeanのLittle Melonaeのメロディを引用しているのはご愛嬌、ピアノソロに続きいよいよタッグマッチの時間です!Michaelから4小節づつのトレーディング、研ぎ澄まされた空間に鋭利なテナーサウンドが投入されます。互いのフレーズ、コンセプトを受けつつ、Michaelがサウンドの幅を広げていますが、Bergonziの対応も実に的確、手に汗握るバトルです!演奏にはその人の人間性、人柄が表れますがMichaelは人の話をよく聞き、話の内容をよく覚えています。彼の生前の事ですが、前回の来日からさほど間を空けずの再来日時のMichaelとのやり取り、「前回話をした時にTatsuyaが探していた⚪︎⚪︎⚪︎は見つかったかい?」「Mikeよく憶えているね、ちょうど見つけたところだよ」「それは良かった、僕も探して見つけたところなんだ。じゃあ大丈夫だね」「Thank you Mike!」と言うやり取りをした覚えがありますが、バトル相手のフレーズをしっかりと聴き拾い、把握し、音楽的に膨らませて相手に受け渡す技の巧みさにまさしく彼の話っぷり、人への接し方を感じました。

肝心のバトルですが、次第にヒートアップ、16分音符フレーズのトレーディングから5’50″のトリルの応酬、6’15からの最低音への急降下爆撃合戦、6’27″からのMichael半音上げ作戦、6’32″Bergonziも半音上げに応じミッション継続、6’36″Michael更に半音上げで徹底抗戦、しかしまだやるのかMichael、更に半音上げ!ピアノのバッキングも応えています!Bergonziそれには答えず新たなアプローチで応戦、Michaelも「そう来たかJerry、ではこれでどうだ!」一瞬Jerry躊躇を見せましたがフラジオ大作戦でその場を切り抜けました!しかしフラジオはMichaelお手の物、幾ら何でもフラジオでMichaelに戦いを挑んではいけません!得意技で寝技に持ち込こまれそうな勢いです!Jerryは最低音炸裂+Sonny Rollinsのアルフィーのテーマ部分的引用フレーズで勝負に出ました!Michael対抗策として4小節間丸々アルフィーのテーマ完奏、何と付き合いの良い人でしょうか(笑)!Bergonziも1小節アルフィー引用+シンコペーションで変化球を投げましたがそろそろ時間切れ、史上稀に見る大試合もこれにて一件落着、Tom & JerryならぬMike & Jerryテナーバトル史に残る演奏になりました!

4曲目はGomezのオリジナルAmethyst、美しいバラードです。Bergonziの優しさ、メロウなテイストを堪能出来るテイクに仕上がっています。

5曲目はSternのオリジナルブルースBruze、彼の83年初リーダー作「Neesh」でDavid Sanbornをフィーチャーした形で収録されていますが、ここでは作曲者本人のギターが前面に出るギターカルテットで演奏されています。難しそうなリフ、Stern自身も難儀しているように聴こえます。

6曲目John Coltraneのお馴染みのナンバーMoment’s Notice。ギターがメロディを演奏し、Bergonziが吹いているのはColtraneがオリジナルで吹いているハーモニーのパートが中心になっています。ギターの音像が引っ込んでいるので、ハーモニーの方がメロディに聴こえます。難解なコード進行をバンド一丸となってスキー競技のスラロームのように華麗に滑り抜けているが如く演奏し、盛り上がっています。

7曲目BergonziのChanneling、スタンダード・ナンバーのAlone Togetherのコード進行が用いられています。こちらもピアノが参加せずSternのギターがバッキングを務めます。Bergonziの流暢なソロ後、Gomezのソロでは自身の声が殆どユニゾンで聴こえています。

8曲目Invisible Lightは60年代のWayne Shorterのバラードを思わせるBergonziのナンバー。Gomezのソロをフィーチャーしたナンバーに仕上がっています。

9曲目Dokyのオリジナルその名もUInriel、作曲者自身のピアノは参加せずコードレスのテナートリオで演奏されています。曲のエンディングに多分Rielでしょう、声が入っています。

2019.04.18 Thu

Tom Lellis / Double Entendre

今回はボーカリストTom Lellisの作品「Double Entendre」を取り上げてみましょう。素晴らしいリズムセクションを得てスリリングな演奏を繰り広げています。Recorded in New York City, June 15-16, 1989

Produced by Tom Lellis Executive Producer: Mugen Music Label: Beamtide/ Someday, Japan

vo, p)Tom Lellis b)Eddie Gomez ds)Jack DeJohnette p)Allen Farnham(on 2, 4 DX7 5, 10 )

1)Tell Me a Bedtime Story 2)Invitation 3)L.A. Nights 4)Show Me 5)Never Had a Love(Like This Before) 6)What Was 7)E. R. A. 8)Eerie Autumn 9)I Have Dreamed 10)Aitchison, Topeka & the Santa Fe

ボーカルTom Lellis、ベーシストにEddie Gomez、ドラマーにJack DeJohnette、ピアノはLellisとAllen Farnhamが曲によって弾き分けています。Lellisのボーカルをフィーチャーしたアルバムですが、リズムセクションの巧みなサポートも聴きどころで、3者高密度のインタープレイを繰り広げています。特にDeJohnnetteがこういったボーカル・セッションに参加するのは極めて珍しく、期待に違わぬ素晴らしい演奏を聴かせています。更にはHerbie Hancockの Tell Me a Bedtime Story、Chick CoreaのWhat Was、スタンダード・ナンバーですがボーカルで演奏されるのはあまり機会のないInvitation等、意欲的な選曲も魅力です。男性ボーカルは大きく2つに分けられますが、Frank SinatraやTony Bennettに代表されるストレートにスタンダード・ナンバーを歌唱するタイプ、そして本作Lellisのようにインストルメント奏者の如く歌い上げるスタイル。同じ男性ボーカリストのMark Murphyも後者のタイプ、そしてメンバーの人選や選曲にも同傾向の音楽的嗜好を感じます。彼の75年代表作「Mark Murphy Sings」にそれが顕著に表れているのでご紹介しましょう。ホーンセクションにRandy, Michael Brecker, David Sanborn、キーボードにDon Grolnick、ベースHarvie Swartz等を迎え、On the Red Clay(Freddie Hubbard), Naima(John Coltrane), Maiden Voyage(Herbie Hancock), Cantaloupe Island(同)といったジャズメンのオリジナルを取り上げ、熱唱しています。

リーダーTom Lellisは1946年4月8日Cleveland生まれ、10代からボーカリストとして地元を中心に活動を開始し、Las Vegasや米国中西部をツアーし73年New Yorkに進出、この頃にGomez, DeJohnetteと出会い、81年初リーダー作「And in This Corner」を本作と同じメンバーを中心に録音しました。本作タイトルの「Double Entendre」(二重の〜特に一方はきわどい)は前作とメンバーが同じ、ボーカルやキーボードの多重録音を行った、作詞作曲家、ボーカリスト、プロデューサーを兼ねていることから名付けられました。

ここでLellisが行っているジャズメン作の楽曲に歌詞を付けて歌う、またここでは行なわれていませんが、発展形としてのアドリブに歌詞をあてはめて歌う奏法、スタイルのことをvocaleseと呼びます。前述のMark Murphyを始めとしてこの演奏の先駆け的な存在のBabs Gonzales、Eddie Jefferson、Bob Dorough、Bobby McFerrin、Kurt Elling、ボーカルグループLambert, Hendricks, & Ross、New York VoicesそしてThe Manhattan Transferらの名前を挙げる事が出来ます。

「And in This Corner」
この作品でもKeith JarrettのLucky SouthernやWayne ShorterのE.S.P.、CoreaのTimes Lie等、ジャズメンのオリジナルに歌詞が付けられvocaleseされています。

ピアニストAllen Farnhamは親日家として知られている61年Boston生まれの作編曲、教育者でもあります。僕も何度か演奏を共にしましたがピアノプレイもさることながら、スタンダード・ナンバーの都会的で知的なアレンジに感心した覚えがあります。Concord Jazz Festivalのオーガナイザーも長く務めています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Tell Me a Bedtime Story、 Hancock69年の作品「Fat Albert Rotunda」に収録されている名曲です。HancockのFender Rhodes、Johnny Colesのトランペット、Joe Hendersonのアルト・フルート(!)、Garnet Brownのトロンボーンがメロディを分かち合い、更に重厚なアンサンブルを聴かせています。メロディのシンコペーションがユニークな難曲、駆け出しの頃に演奏して手こずった覚えがあります。


ここではオリジナルに聴かれるイントロは用いられず、自由な雰囲気でルパート状態、Lellisの歌のピックアップからインテンポになり曲が始まります。オリジナルの漂うような雰囲気を一新したストロングな曲想、Lellisの声質、歌い方に見事に合致しています!アドリブソロはなくテーマを2コーラス演奏してコーダを延々と繰り返しFineとなりますが、曲に対するカラーリングが全編実に素晴らしいDeJohnetteのドラミング!シンコペーションの際のフィルイン、タイム感、シンバル、ドラムセットの音色、全てに申し分ないプレイです!Gomezのベースワークもウネウネとグルーブし、随所に遊び心、チャレンジ精神が満載されています。

2曲目はInvitation、ドラムとベースが繰り出す緻密にしてリラックスしたグルーブ感が心地よい8分の6拍子のリズム、ピアノの左手がモーダルなサウンドを提示しLellisのボーカルが始まります。しかしこれはどう聴いてもインストルメントによる演奏、たまたまボーカルがメロディを担当していますが、器楽によるテクニカルな演奏のレベル、ボーカルの持つスイートさ、ムーディな要素を排除したハードボイルドな歌唱、バックを務めるミュージシャンも100%承知の上でのサポートに徹しています。Lellisにはこのリズムセクションが発するエネルギーが相応しいのです。Gomezのon topなビート、DeJohnetteのタイトさ、理想のグルーヴ感です!

ピアノソロはFarnham、端正なピアノタッチ、コードワーク、タイム感、McCoy Tynerのテイストが根底にありますが素晴らしい演奏を聴かせています。その後ベースとドラムの8バースになりますが、何という濃密なやり取りでしょうか!テクニカルにしてスポンテイニアス、Gomezの個性的なソロはどこを切ってもGomez印の金太郎飴状態、DeJohnetteのスネアのフレージングは天から降りて来るインスピレーションを憑依する受け手としての恐山のイタコ状態、ため息が出るほどに素晴らしいです!

3曲目LellisのオリジナルL.A. Nights、多重録音による本人のバックコーラスが効果的な文字通り西海岸のフュージョン・タッチのナンバーです。DeJohnetteのシンプルで的確なサポート、またGomezの音の立ち上がりの早いベースプレイはエレクトリック・ベースと何ら遜色ありません。スムースジャズの第一人者David Benoitの音楽はL.A.スタイル・フュージョンと呼ばれていますが、まさしくこのサウンドです。

4曲目はShow Me、こちらも多重録音によりボーカルをオーバーダビングしていますが、デュエットのようなスタイルです。ピアノソロは再びFarnham、明晰なタッチが軽快なワルツに合致しています。ピアノソロに被るようにデュエットが再登場、そしてこちらを煽るようにDeJohnetteのドラミングが炸裂しています!

5曲目LellisのオリジナルNever Had a Love(Like This Before)は、Farnhamが演奏するシンセサイザーの多重録音を駆使したナンバー。YAMAHAのDX7が使われていますが懐かしい音色、響きです。80~90年代流行りましたからね。でも今となってはコーニーさを感じてしまいます。叙情的、ドラマチックなナンバーです。

6曲目は本作の白眉の演奏CoreaのWhat Was、こちらはボーカルの多重録音を駆使しています。DeJohnetteのフリーソロから始まりますが、冒頭のボーカルのハーモニーが男性の声の低音域を強調しているので、読経のように感じてしまいます(爆)。それにしてもこのアレンジのアイデアはvocalese史上特記されても良いクオリティ、そして仕上がりだと思います。Gomezの素晴らしいソロがフィーチャーされますが、Coreaのオリジナル演奏ではMiroslav Vitousの歴史的名演奏が光ります。余談ですが先月(19年3月)25年ぶりの来日を果たしたVitous、ベーシストは勿論の事、他の楽器のミュージシャンが大勢彼の演奏を聴きに行ったそうです。「Now He Sings, Now He Sobs」での演奏の存在感故だと思います。ベースソロ後ボーカルがフィーチャーされ、ラストテーマでは再び読経が聴こえます(笑)。

7曲目LellisのオリジナルE. R. A.、ミディアム・スイングの佳曲です。ピアノはLellis本人が弾いており、ソロこそありませんが的確なアンサンブルを聴かせています。DeJohnette、Gomezと一緒に演奏すれば自ずと方向性が定まるのでしょう。歌とピアノの複雑なメロディのユニゾンは同時録音か微妙なところですが、ボーカル絶好調、声が良く出るに連れてバッキングの音使いも激しさを増しています。

8曲目LellisのオリジナルEerie Autumn、ライナーにもありますがBartok, Stravinskyからのハーモニーの影響が認められ、かなり内省的なサウンドが聴かれます。

9曲目はRichard Rodgers/Oscar HammersteinのI Have Dreamed、いかにもミュージカルに用いられる雰囲気のナンバー、後半声を張ってアリアのようにも歌唱しています。Lellis自身のピアノソロも聴かれます。

10曲目アルバム最後を飾るのはAtchison, Topeka & The Santa Fe、ハッピーなテイストのシャッフル・ナンバー。こちらでもFarnhamの演奏するDX7が聴かれ、効果的に用いられています。そういえばDeJohnetteのシャッフル・ビートはあまり聴いたことがありませんが、彼はどんなリズムを演奏しようが常に音楽的でクリエイティブ、更にプラスワンが聴こえます。

2019.04.13 Sat

Hi-Fly / Karin Krog, Archie Shepp

今回はボーカリストKarin Krogとテナー奏者Archie Sheppによる作品「Hi-Fly」を取り上げたいと思います。1976年6月23日Oslo, Norwayにて録音 Producer: Frode Holm, Karin Krog Compendium Records

vo)Karin Krog ts)Archie Shepp tb)Charles Greenlee p)Jon Balke b)Arild Andersen b)Cameron Brown(on Steam only) ds)Beaver Harris

1)Sing Me Softly of the Blues 2)Steam 3)Daydream 4)Solitude 5)Hi Fly 6)Soul Eyes

Karin KrogのチャーミングなボーカルにArchie Sheppのまるで人の声、喋っているかの如きユニークなテナーサックスのオブリガートが全編絶妙に絡み、素晴らしい音色で思う存分間奏を取る、他に類を見ない作品です。ボーカリストのアルバムにテナーサックス奏者が歌伴で参加したと言う次元に留まらない内容の演奏ですが、Krogの唄だけ、Sheppのテナーのみでは得ることの出来ない、互いの演奏、音楽性の相乗効果が生み出した素晴らしい産物です。

Krogは37年Norway Oslo出身、音楽一家に生まれた彼女は60年代初めから地元やStockholmで演奏活動を開始、64年にFrance Antibe Jazz Festivalに出演し脚光を浴びます。67年にはトランペッターDon Ellisに認められて渡米し彼のオーケストラとの共演を経験しました。69年には米Down Beat誌の評論家投票で新人女性ヴォーカリストの首位に輝いています。翌70年8月には大阪万博にEurope Jazz All Starsの一員としても来日しました。Norway、北欧を代表するボーカリストの一人です。

本作を遡ること6年前、70年に同じく渡欧組テナー奏者Dexter Gordonを迎えて「Some Other Spring」を録音しています。”blues and ballads”とサブタイトルの付けられた本作、テナーサックス奏者が変わった事でこうも作品の印象が違うのかと感心させられる1枚です。こちらはDexterと伴奏のKenny Drewのプレイに影響を受けたのか、サウンド自体がそうさせるのか、Krogの歌も本作に比べてかなりオーソドックスに聴こえます。

欧州で自国の言葉ではない英語でジャズを歌う女性歌手として、オランダ出身のAnn Burton、スウェーデン出身のMonica Zetterlund、同じくLisa Ekdahlらの名前を挙げることができますが、Ella Fitzgerald, Carmen McRae, Sarah Vaughanらのようなスタイルではなく、やはりPeggy Lee, Anita O’Day, Sheila Jordanらの白人ボーカリストの流れを汲んでいます。欧州を南下してItalyやSpain辺りのラテンの血が流れる情熱的な国には、CarmenやSarah直系、更にはNina Simoneの様なストロング・スタイルの女性ボーカリストも存在しているかも知れません。

Krogと同年生まれ、Florida出身のSheppはPhiladelphiaで育ち、もともと俳優志望で演劇を大学で専攻、傍サックスを手にして音楽活動を始めました。卒業後New Yorkに移ってからはLatin Band(この時期の録音が残されていたらぜひ聴いてみたいものです。 Sheppのラテン、さぞかしユニークでしょう!)を短期間経験しその後Cecil Taylorのユニット, Don CherryやJohn TchicaiらとのNew York Contemporary Fiveでの演奏を経てJohn Coltraneとの共演を経験しました。作品としては「A Love Supreme」「Ascension」、そしてColtraneの後押しがあって64年初リーダー作「Four for Trane」をリリースし、65年「New Thing at Newport」では同Jazz Festivalにて共演は果たさずともColtraneとステージを分かち合いました。まさしくColtraneの申し子としてフリージャズ旋風が吹く60年代中期〜後期を駆け抜けましたが、その風が収まる69年に多くのフリージャズ系ミュージシャンがParisに移住した際にSheppも同行、欧州での活動を開始しました。その後のKrogとの出会いも極自然な流れであった事でしょう。

Sheppを後ろから慈愛に満ちた眼差しで見つめるColtraneが印象的なジャケットです。
Archie Shepp サックスのベルにマイクロフォンを突っ込んで吹く独自の奏法です

Sheppの楽器セッティングですが本体はSelmer MarkⅥ、マウスピースはOtto Link Metal 7★、リードはRico Royal 2半です。30数年前にArchie Shepp Quartetの演奏を新宿Pit Innで聴いた事があります。その際サックスのベルにマイクロフォンを時としてかなりの度合いまで突っ込み、サックス管体内で音場が飽和状態になった際に得られるフェイザーが掛かったかのような響きを利用して独自の音色を作っており、そのサウンド・エフェクト、マイクロフォン・テクニックに衝撃を受けた覚えがあります。PA担当のエンジニアにはマイクロフォンからの入力オーバーでスピーカーが飛ばないか、その結果自分のクビが飛ばないかと不安感を与えますが(汗)。アンブシュアもダブルリップなのでマウスピースに負荷が掛からずリードの振動が確実になりますが、彼の場合音程に関して疑問符が伴うことがあり、しかしSheppの演奏スタイルではまず楽器のピッチが問われることは無く、音程感も彼の音楽性に内包されるので全く問題はありません(爆)。付帯音の鳴り方が大変豊か、結果ジャズの王道を行くテナーの音色を聞かせ、加えてフレージングの語法、アプローチ、アイデア、間の取り方いずれもが大変ユニークなので、ジャズ表現者として抜群の個性を発揮しています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Sing Me Softly of the Blues、Carla Bley作曲のナンバーにKrogが歌詞をつけた形になります。65年Art Farmerの同名アルバムで初演されています。けだるい雰囲気のイントロから歌が入りますが、いきなりSheppのオブリガート(オブリ)の洗礼を受けます。いわゆる歌伴の演奏とは全く違ったコンセプトで、基本は歌詞のセンテンスの合間にオブリが入りますが、合いの手で別なボーカリストの掛け声、シャウトを聴いている様な、はたまた単に効果音的に音列を投入しているかの如く、いずれにせよ物凄いテナーの音色です!オブリからそのままSheppのソロ、その後Krogも謎のハミングを聴かせていますがSheppとのコンビネーション抜群です!前述の「Some Other Spring」での演奏とは全く異なる、非オーソドックスな音楽表現の世界に突入しているのは、ひとえにSheppが起爆剤として機能しているからです!リズムセクションはただひたすら淡々と伴奏を務めますが、その事が一層ボーカルとテナーの演奏を浮き彫りにさせています。

2曲目はSheppのオリジナルSteam、本作録音の前月に西ドイツNurembergで行われたジャズフェスティバルでのライブを収録した同名作品「Steam」にも収録されています。冒頭エフェクトを施したボーカルがこの演奏のいく末を暗示しているかの様に、怪しげで妖艶な雰囲気を醸し出しています。ベースはArild Andersenの他にSheppの当時のレギュラー・ベーシストCameron Brown、ドラマーBeaver Harrisも参加していて作品「Steam」のメンバーが集っています。ピアニストJon Balkeのイントロが沖縄民謡風に聴こえるのは僕だけでしょうか?Sheppの盟友、トロンボーン奏者Charles Greenleeも参加しオブリをテナーと分かち合っています。ラストテーマで何やら「シューシュー」とKrogの歌に混じって聴こえるのはGreenleeが発している声なのでしょう。Steamですから湯気の音がするのは当然です(笑)

3曲目はDuke Ellington作の名曲Daydream、テナーのイントロから始まる美しくも危ないこの演奏、後年Sheppは日本のDenon Labelから同名タイトルのEllington特集の作品をリリースしています(77年録音、リリース)

攻撃的でありながらも優しさと色気を併せ持つShepp独自のアプローチがここでも十二分に発揮され、Greenleeのオブリ共々ボーカルのサポートを的確に務めており、Krog自身も彼らの伴奏を心から楽しみつつ、気持ち良く歌唱している様に聴こえます。ひょっとするとSheppのアプローチはColtraneのSheets of Soudを彼なりにイメージしながら演奏しているのかも知れません。所々に50年代Prestige Label諸作で聴かれるColtraneのフレーズが漏れ聞こえます。エンディングでのSheppのシャウトはKrogの美しい声との対比、美女と野獣状態です。

4曲目もEllingtonのナンバーSolitude、タイトル通り?二人だけでの演奏になります。管楽器一本でボーカルの伴奏を行うのは僕自身も何度かチャレンジした覚えがありますが至難の技です。ここでは正確な音程で朗々歌うKrogを、危険な香りのするアバンギャルドな益荒男振り〜益荒オブリ(笑)で見事にサポートしています。この曲のウラ定番の演奏の誕生です。

5曲目はこの作品のタイトル曲にしてRandy Westonの名曲Hi Fly、収録曲中最もリズミックでタイトな演奏です。先発ソロのGreenleeのトロンボーン、Curtis Fullerのテイストを感じさせつつもSheppに通じる危なさがソロイストの共通性を聴かせます。ソロ終了後一瞬ピアノソロか?と感じさせましたがSheppが演奏の意思表明を行いソロ開始、ドラマーBeaver Harrisとのコンビネーションの良さも聴かせます。無調なフレージングの中にも的確にコード感を聴かせる音使いにハッとさせられる瞬間や、フリーキーなサウンドがスパイス的な役割を果たしているのにドッキリしたりと、演奏を漫然と聴かせない構成になっています。どうやらエンディングをはっきりとは決めていなかった風を感じますが、ハプニングを利用して無事終了。終わりさえすればこっちのものです。

6曲目はMal Waldronの名曲Soul Eyes、バラードではなく全編ルンバ調のリズムで演奏されています。僕は個人的にここでのKrogの歌い方にとても共感を覚えます。Sheppのソロも快調に飛ばしており高音域でのファズがかかった音色がムードを高めます。北欧に居ながら本場米国のジャズスピリットを表現することに成功したKrog、フリージャズ旋風が吹き荒れた60年代New Yorkのジャズシーンで音楽性を培い、そしてその嵐を乗り切った猛者ミュージシャンたちを見事に伴奏者として使える辺り、その音楽性の柔軟さ、懐の深さを感じます。

2019.04.04 Thu

Charles Lloyd / Forest Flower

今回は独自のサックス・スタイル、音楽観を誇るCharles Lloydの初期の代表作「Forest Flower」を取り上げたいと思います。

1966年9月18日録音@Monterey Jazz Festival Producer: George Avakian Atlantic Label

ts,fl)Charles Lloyd p)Keith Jarrett b)Cecil McBee ds)Jack DeJohnette 1)Forest Flower: Sunrise 2)Forest Flower: Sunset 3)Sorcery 4)Song of Her 5)East of the Sun


現在も変わらず精力的に音楽活動を続けるCharles Lloydの出世作になります。モダンジャズ黄金期50年代の成熟期〜倦怠期を迎える60年代、特に60年代後半はフラッグシップであったJohn Coltraneまでもがフリージャズへ突入、傍らジャズロックやエレクトリックが次第に台頭し、更に時代は泥沼化したベトナム戦争に起因するフラワームーブメントを迎え音楽シーンは混沌を極めつつありました。66年録音の本作でも時代が反映された演奏が随所に聴かれますが、何より参加メンバーの素晴らしさに目耳が奪われます。Keith JarrettはArt Blakey Jazz Messengersに短期間在籍した直後にLloyd Quartetに参加、録音当時21歳という若さで驚異的な演奏を聴かせています。ピアノのテクニックや音楽性、タイム感、そしてすでに自己の演奏スタイルをかなりのレベルまで習得しており、その早熟ぶりに驚かされます。本作を含め計8枚のLloyd Band参加アルバムをAtlantic Labelに残しており、いずれの作品でも神童ぶりを発揮しています。Cecil McBeeは42年生まれ、Dinah Washington, Jackie McLean, Wayne Shorter等との共演後Lloyd Bandに参加、17歳からコントラバスを始めたとは信じられない楽器の習熟度、on topのプレイはドラムとの絶妙なコンビネーションを聴かせ、更にバンドに自身のオリジナルを提供してもいますが、このカルテットでの4作目「Charles Lloyd In Europe」を最後に退団し、後任にはRon McClureが参加しました。

Jack DeJohnetteはMcBeeと同年生まれ、やはりJackie McLeanやLee Morganとの共演を経てLloyd Quartetに参加しましたが、若干24歳、信じがたい事ですがこの時点で”DeJohnette”スタイルを完全に発揮しています!シンバルレガート、フィルイン、タイム感、グルーヴ感、スポンテニアスな音楽性、共演者とのコラボレーションの巧みさ、アイデア豊富なドラムソロ、以降一貫したスタイルの発露を感じます。Elvin JonesとTony Williams両者のドラミングのいいとこ取り、加えての強烈なオリジナリティ、申し分ないセンスの持ち主です!1拍の長さを当Blogで良く話題にしていますが、DeJohnetteの1拍の長さはこの時点でも相当な長さ、そして演奏を経る、経験を積むに従って更にたっぷりとしたものになりました。おそらくドラマーの誰よりも長く、そしてあらゆる既存の規格が当てはまらない桁外れのプレイヤーでしょう!JarrettとはGary Peacockを迎えたStandards Trioで、このあと半世紀以上も行動を共にする事になります。それにしてもMcBeeやPeacockとは、美しい名前のベーシストたちです。

これら若手の精鋭たちからなるリズムセクションを従えたリーダーLloydはこの時28歳、楽器の音色が主体音よりも付帯音の方が中心とまで感じるホゲホゲ・トーン、当時の使用楽器はConn New Wonder gold plate、マウスピースがOtto Link Super Tone Master Florida 10番、リードはRicoの多分4番、この人も大リーガークラスのセッティングです!マウスピースは以降取り替えることがありましたが、楽器はずっとConnを使用しているようです。Conn userにはこだわりがありますから。Lloyd独自の演奏アプローチですが、例えばWayne Shorter, Benny Golson(いずれもマウスピースのオープニングが同様のセッティング奏者)たちとは随分と趣を異にしています。同様のテイストも感じるのですが、音楽的ルーツという次元での差異を感じます。想像するに彼はアフリカ系黒人、チェロキーインディアン、モンゴル系、アイルランド系と多岐にわたる血統なので、ひょっとしたら様々な異文化の融合が成せる個性からのスタイルなのかも知れません。

リズムセクション3人のタイムがひたすらタイトなのに対してLloydはビートに大きく乗るようなグルーヴ、この対比がバンドのカラーになっています。以降も一貫した音楽観を聴かせているLloyd、共演者の人選に常に嗅覚が働くようです。64年5月録音のLloyd初リーダー作「Discovery !」ではピアニストにDon Friedman、ドラマーにRoy Haynesを迎えてポスト・ハードバップの演奏を聴かせます。Forest Flowerの初演も収録されています。


今は亡きMichel Petruccianiを起用したのもその嗅覚のなせる技です。LloydとPetruccianiの演奏の差異、両者のブレンド感がバンドの魅力でした。

Petruccianiを子供のように抱きかかえる姿が印象的なジャケット写真です

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目Forest Flower: Sunrise、Lloyd作の美しい独創的なナンバー。曲自体の構成がボサノバ、スイング、ブレークタイム、とリズムが変わり、後半に行くに従いコード進行が短3度づつ上がり高揚感を聴かせ、最後にテナーのフラジオ音域のF#とGのトリルで締めるというドラマチック仕立てです。Lloydの音色、レイドバック感、ブレーク時のフレージング、リズムセクションのバッキング、カラーリング、全てが有機的に絡み合い、テーマ演奏だけで完璧な美の世界を構築しています!ソロの先発Jarrett、出だしからいきなり恐るべき集中力と自己表現に対する情熱、執着心、強力な意志を感じさせる演奏です!こちらも後年の演奏の発露を明確に認めることが出来ます。ピアノタッチの素晴らしさはもちろん、楽器の習得度合いが尋常ではありません!スピード感溢れ、コード進行に対して実に的確かつスリリングなアプローチの連続はまさに歴史的な演奏に違いないのです!

ピアノのフリーフォームに入らんばかりの勢い、加えてDeJohnetteの猛烈なプッシュがソロの終盤に相応しい場面から続くLloydのソロ、Jarrettの演奏に触発され普段よりもテクニカルな方向の演奏に向かっている気がします。タンギングや16分音符の長さに僕としては気になる部分があり、茫洋とした雰囲気の中で漂う感じのソロが彼の本質と認識しています。4’53″でバサッという感じでLloydのソロが急に終わりドラムソロになります。リズムセクションと共に盛り上がり切っているところなのですが、どこか不自然な感じを覚えます。もう少しソロが続いた部分が恐らく蛇足になったのでテープ編集が施され、Lloydのソロを短くし繋いだと推測しています。Jarrettのソロがリーダーよりもずっと長いことから、テナーソロも同じくらいのボリュームがあったのではないでしょうか。その後のドラムソロはシンバル、ドラムセットの音色が20代にして完全に確立されたDeJohnette色を聴かせつつ、One & Onlyな世界を構築しています。次第にフェイドアウトして2曲目Forest Flower: Sunsetになります。ここで聴かれるサウンド、コード感やピアノのバッキングはJarrettリーダーのワンホーン・カルテットの多くの諸作で、例えば「My Song」に反映されています。

Lloydのフレーズに呼応してDeJohnetteが炸裂したり、ピアノソロがカオス状態に変化したり、Jarrettがピアノの弦を弾いたり叩いたりと起伏はありますが、およそ一貫してレイジーなムード漂う演奏です。曲中3’11″辺りから飛行機のエンジン音が聞えますが、この会場のそばに飛行場があったからだそうです。屋外でのジャズコンサートならではのサウンド・エフェクトですね。

3曲目はJarrettのオリジナルSorcery、Lloydはフルートに持ち替えます。ピアノの左手ラインが印象的なナンバー、リズムはずっとキープされますがフルートとピアノで同時に即興演奏を行なっているあたり、まさしく60年代後半のサウンドです。

4曲目はMcBeeのオリジナルSong of Her、ベースパターンが崇高なムードを高めています。同じくMcBee作曲のWilpan’s(Wipan’s Walkとする場合も有り)、Lloydの作品「The Flowering」に収録されているナンバーですがこちらもベースラインが大変ユニークな名曲、僕自身もこの曲を演奏した経験があり、かつてMcBeeと山下洋輔ビッグバンドで共演した時にWilpan’sについて尋ねてみました。「僕の友人でWilpanという奴がいて、そいつの歩き方をイメージして書いた曲なんだよ」との事、かなり変わった歩き方の人物です(笑)。トランペット奏者Charles Tolliverの70年5月録音「Charles Tolliver Music Inc / Live at Slugs’ Volume Ⅱ」にも収録されています。

5曲目アルバム最後を飾るのはスタンダードナンバーEast of the Sun、意表を突いたアップテンポで演奏されており、このリズムセクションの真骨頂を聴くことが出来ます。テナーの独奏からテーマ奏へ、Lloydのフリーフォーム演奏に自在に呼応するリズム陣、メチャメチャカッコいいです!レギュラーバンドならではの醍醐味、その後テンポがなくなりアカペラ状態の展開、そしてa tempoになってからのピアノソロのスピード、疾走感、その後やはりフリーフォームになりアカペラギリギリ時のドラムとベースの対応、ベースまでソロがまわりラストテーマを迎えますが、この時にもフリーフォームの残り火が再燃状態です!

2019.03

2019.03.27 Wed

Live In Montreux / Chick Corea

今回はChick Coreaがリーダーとなったオールスター・カルテットでの1981年7月15日、Montreux Jazz Festivalのライブを収録した作品「Live In Montreux」を取り上げてみましょう。

p)Chik Corea ts)Joe Henderson b)Gary Peacock ds)Roy Haynes

1)Introduction 2)Hairy Canary 3)Folk Song 4)Psalm 5)Quintet #2 6)Up, Up and… 7)Trinkle, Tinkle 8)So In Love 9)Drum Interlude 10)Slippery When Wet / Intro of Band

Coreaの着ているTシャツのロゴが可愛いです。
さすがはMad Hatter!アルプスの雪山を背景にしたRoy Haynesのタンクトップ姿もGood !

録音から13年後の94年にCoreaが主宰するレーベルStretch RecordsからCollector Seriesとしてリリースされました。ディストリビュートがGRP Labelになります。

メンバー良し、バンドの演奏テンション申し分なし、インタープレイ切れっ切れ、演奏曲目理想的、録音状態秀逸、オーディエンスのアプラウズ熱狂的と、名演奏の条件が全て揃い、それが実現したライブ作品です。Montreux Jazz Fes.では昔からコンサートを収録した名作が数多く残されています。スイスの高級リゾート地での真夏の演奏は、演奏者も聴衆も自ずとボルテージが上がるのでしょう。

70年代のCoreaは72年代表作「Return to Forever」を皮切りに数々の名作をリリースしました。「The Leprechaun」「My Spanish Heart」「The Mad Hatter」「Secret Agent」「Tap Step」、同時進行的にGary BurtonとのDuo諸作、自身のソロピアノ連作、フュージョンやロック寄りにサウンドが移行した、バンドとしてのReturn to Foreverでの作品群等、八面六臂の活躍ぶりを示しました。事の始まりとして68年ジャズピアニストとしての真骨頂を聴かせた「Now He Sings, Now He Sobs」(Roy Haynesがドラム)、以降実はアコースティック・ジャズの演奏はあまり聴かれませんでした。

時代がフュージョン全盛期だったのもありますが、78年「Mad Hatter」収録曲でJoe Farrell, Eddie Gomez, Steve Gaddというメンバーによる、その後も度々取り上げる事になる重要なレパートリーにして4ビートの名曲、Humpty Dumptyの演奏でアコースティック・ジャズへの回帰を一瞬匂わせ、同年同メンバーでフルアルバム「Friends」を録音、81年2月FarrellがMichael Brecker に替わり「Three Quartets」を録音し、ジャズプレーヤーとしての本領を発揮しました。当時我々の間でもFarrellの替わりにMichaelが入って演奏したらさぞかし凄いだろうと噂し、まさかの実現に驚いた覚えがあります。

以上の流れを踏まえた上での本ライブ盤になりますが、前作Three Quartetsがメンバー4人全員音楽的に同じベクトル方向を向いていて、例えばタイムの正確さ、シャープさ、リズム・グルーヴ、サウンドの方向性、バンドの一体感等、極論ですが言うなればデジタル的アコースティック・ジャズの様相を呈しているのに対し、本作はいわば正反対、参加プレイヤーのアナログぶりは感動的ですらあります!Joe Henderson、そしてRoy Haynesですから!

そういえばこの2人の共演をピアニストAndrew Hillの63年Blue Note第1作目リーダー作、「Black Fire」で聴くことができます。浮遊感に満ち、超個性的かつジャズの伝統に則ったHillの楽曲を2人実に的確にサポートしています。

Joe Hen79年作品「Relaxin’ at Camalliro」80年「Mirror, Mirror」自己のリーダー2作にCoreaを迎えて好演奏を聴かせています。本作ライブの実現はこれらの作品が引き金になっているのかも知れません。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目CoreaのオリジナルHairy Canary、「Three Quartets」CD化に際して未発表追加テイクで収録されているナンバーです。Coreaのリリカルで端正なタッチのイントロから演奏が始まります。曲のフォームとしては12小節のブルース、キーはCメジャーです。1コーラス目でJoe HenいきなりオーギュメントのG#音をロングトーン、エグく飛ばしてます!超ハイテンションでのJoe Henフレーズの洪水状態!Coreaのバッキングも実に活き活きと、テナーの演奏を受けつつ振りつつ、時に付かず離れず仕掛けています!フロントのソロに対してどんなバッキングを行えば演奏が引き立つかを熟知したサポートに徹していて、更にシンコペーションを多用したバッキングのリズムの位置が完璧なので、バンドのビートが活性化されています。4ビートは裏拍が命ですから。2’36″でのバッキングフレーズ、3’41″で演奏したフレーズを3’55″で再度HaynesとPeacockリズム隊全員ユニゾンで仕掛ける辺り、3人顔を見合わせてニヤリとした事でしょう!しかし実はこれ0’59″に端を発しているのです!Haynesのスピード感あるシンバルレガート、バスドラムの絶妙なアクセント、スネアやタムの全く的確なフィルイン、なんというグルーヴ感でしょう!全てが自然発生的、ドラムを叩かず音楽を奏でている真のジャズドラマーです。Peacockの堅実なWalking Bassがバンドの屋台骨になり、他のメンバーに思う存分演奏の自由さを与えています。ベースソロ後ピアノとドラムの1コーラス・バースが何コーラスかトレードされますが、PeacockはHaynesの複雑なドラムソロから、コーラス頭へのリズム提示を躊躇している風を感じますが、Coreaが絶妙なアウフタクトを演奏し確実に呼び込んでおり、他のプレーヤーを誘導できるCoreaのタイム感につくづく素晴らしさを感じてしまいます!ラストテーマ前の同じくシャウトコーラス(2ndリフ)のフレーズが難解なため、今度はHaynesの演奏にリズム提示への躊躇を感じます!

2曲目も「Three Quartets」に追加テイクで収録されているCoreaのオリジナルFolk Song、カッコいい曲ですね!前曲よりもストレートに演奏されています。とは言え先発Coreaの曲想に合致したリズミックなソロ、Joe Henのテナーの王道を行きつつも至る所にトリッキーなJoe Henフレーズを散りばめたスインギーなソロ、それにしても6’33″位から始まるリズミックで変態的なフレーズ、一体この人のフレージングセンスはどうなっているのでしょう?背筋がゾクッとするインパクトです!

3曲目CoreaのオリジナルPsalm、イントロでピアノの弦を弾いてパーカッシヴなサウンドを聴かせつつ、最低音の連打、様々な音色の表現、音量のダイナミクス、壮大なイメージを描いています。本当にこの人はピアノが上手いですね、マエストロ!曲自体はミディアムテンポのマイナーチューン、テーマ後Joe Henの先発ソロが始まります。比較的早い段階でCoreaがバッキングをやめ、Joe Henを放置状態。ピアノのバッキングはコード感、リズムの提示、そして時としてインプロビゼーションの起爆剤になり得ますが、演奏しないのもそれはそれで音楽表現のひとつです。「Go ahead, Joe !」とばかりのCoreaの意図を汲みアグレッシヴに盛り上げています!イントロ部分で饒舌に語った関係かCoreaの本編でのソロは殆ど無く、テナーのフィーチャー曲になりました。

4曲目もCoreaのナンバーQuintet #2、ピアノとテナーのメロディがユニゾンやハーモニー、対旋律に変化していく様が実にCorea的な美しいワルツです。ライブでこれだけのアンサンブルと美の世界を構築するのは並大抵な集中力では実現出来ません!このバンドの底力を感じる演奏です。Peacockのベースソロがリリカルで美しいです。

5曲目はPeacockのナンバーUp, Up and…、Corea自身のライナーノーツによるとこの曲は「Lyricism, Impressionism, Peacockism」とあります。アップテンポのスイングになってからのCoreaとJoe Henのソロは、表現すべき音楽がしっかりと見えている者だけが成しうる次元の演奏です!

6曲目はThelonious Monkの傑作ナンバーTrinkle, Tinkle、本作中白眉の演奏です。ちなみに本ライブの直後11月にHaynes, Miroslav Vitousとレコーディングした「Trio Music」の作品後半がMonk特集、ユニークなMonkナンバーを7曲も演奏していますが、このTrinkle, Tinkleは収録されていません。

いかにもMonkishなピアノのイントロからテーマが始まります。メロディのこのウネウネ感はJoe Henの演奏、フレージングや彼のオリジナルInnner Urgeにも共通したものを感じます。イヤ〜、ここでのJoe Henのソロの物凄さと言ったら!!水を得た魚のようとはこの事、どんなにか長くでも聴いていられる位に没頭してしまいます!ソロを煽る3人のバッキングもスゴイです!テナーソロ終了後に一節吹いたフレーズにも反応してしまうCoreaのソロに替わりますが、Joe Henのソロに華を持たせたのか、意外と短めに切り上げていますがPeacockのソロのバックでCoreaパーカッション的に色々な音を発しています。その後のピアノトリオ3者の絡み具合ってこれは一体何?後は無事にラストテーマを奏で大団円です。

7曲目はもう一つのハイライトCole PorterのナンバーSo In Love、実は冒頭のピアノ・イントロが1分近く編集され短くなって途中からの収録になります。恐らく収録時間の関係でのカット、コンプリートになるテイクが収録されたCDがこちら「Chick Corea Meets Joe Henderson / Trinkle – Tinkle」、曲名も同じ作曲者ですがI’ve Got You Under My Skinとミスクレジットされていて、いかにもBootleg盤らしいです。ですが演奏本編の方は特に編集の跡はなく、Joe Henの史上に残る大名演を聴くことができます!ソロが終わる時の8小節間Haynesが実に長い大きなドラマチックなスネアのフィルインを入れ、次のコーラス頭にアクセントが入り的確にテナーソロを終えさせている辺り、Haynesの音楽性の懐の深さをまざまざと感じてしまいます。「Joeのソロはこのコーラスで終わるようだから、一丁景気よくぶっ飛ばしてやるぜ!デーハなフィルインみんな気に入ってくれるかな〜?」みたいな下町の横丁のオヤジ的考えでしょうか?(謎)

8曲目は前曲So In LoveからHaynesのドラムソロに突入したDrum Interlude、9曲目Slippery When Wetのテーマのリズムを提示してからSlippery ~ 本編に入りますが、ここでもテープ編集が施され短い演奏になっています。編集前の演奏はかなりフリーキーな領域にまで到達していますが、やはり収録時間の関係でしょう、そしてやや冗長感も否めなかったのか、テーマ部分だけが上手い具合にドラムソロ後に加えられた形になっています。ジャズの名演奏にはテープ編集が効果的に用いられている場合がある好例です。Coreaのメンバー紹介のアナウンスがやや遠くから聴こえるのが、大会場でのコンサートを表しています。

2019.03.18 Mon

Eddie “Lockjaw” Big Band / Trane Whistle

今回はテナー奏者Eddie “Lockjaw” Davisのビッグバンド編成による作品「Trane Whistle」を取り上げてみましょう。Recorded in Englewood Cliffs, NJ; September 20, 1960. Recording by Rudy Van Gelder Prestige Label

ts)Eddie ” Lockjaw” Davis tb)Melba Liston, Jimmy Cleveland tp)Clark Terry, Richard Williams, Bob Bryant ts, fl)Jerome Richardson, George Barrow as)Oliver Nelson, Eric Dolphy bs)Bob Ashton p)Richard Wyands b)Wendell Marshall ds)Roy Haynes Arrangement by Oliver Nelson(1, 2, 4 & 5), Ernie Wilkins(on 3 & 6)

1)Trane Whistle 2)Whole Nelson 3)You Are Too Beautiful 4)The Stolen Moment 5)Walk Away 6)Jaws

本Blog少し前で取り上げたホンカー4テナーによる「Very Saxy」にも参加していたEddie “Lockjaw” Davisを、ビッグバンドをバックに存分に吹かせた作品に仕上がっているのが本作「Trane Whistle / Eddie “Lockjaw” Big Band」です。Lockjawは途中別レーベルでもレコーディングしていますが、58年から62年の間に双頭リーダー作を含め合計17作(!)をPrestige Labelからリリースしており、如何に当時人気絶頂のテナー奏者であったかを知る事が出来ます。通常サックス奏者がビッグバンドを従えてフィーチャリングされる場合、ホーンセクションにも参加し、アンサンブルもこなしつつソロを取ることになりますが、本作では別にアンサンブル要員がしっかりと配され、ソロイストに徹しています。そのようなシチュエーションだからでしょうか、多分Lockjaw専用マイクロフォン使用にてレコーディングされたテナーの音が一層くっきりと、音の輪郭、音像、音色のエグさを聴かせています。

ビッグバンド編成ではありますがブラスセクションの人数が若干少なく、本来4人のトランペット・セクションが3人、同じくトロンボーン・セクションは2人です。サックス・セクションが通常の5人編成なのでブラスのリストラには何か狙いがあったのでしょうか、それとも当日単にメンバーが来なかったとか、手配の行き違いでメンバーが足りずともレコーディングを行ったのかも知れません。たとえメンバーを間引いた編成であったにしろ、アレンジャーOliver Nelsonの強いこだわりでサックス・セクションは通常の編成〜アルト×2、テナー×2、バリトン×1で通したのではと思います。総じてブラス・セクションの人員が少ないので多少サウンドの厚みに欠けるのでは、と感じる部分もありますが、Lockjawの演奏がそれを補って余りある迫力を提供しています。

このアルバムはLockjawの演奏にスポットライトを当てた以外に、いくつかの特記すべき事柄があります。まず一つは名アルト奏者Eric Dolphyのアンサンブルへの参加です。リードアルトをアレンジャーOliver Nelson自身が担当しているので、3rdアルトという事になりますが、あの超個性的なサックス奏者の参加にして本作中全くソロがありません(汗)。彼が本当にレコーディングに参加していたのかを裏付ける意味合いか、本作ライナーノーツにEric Dolphy(whose unique bass clarinet sounds can be heard briefly on the closing of The Stolen Moment)とあります。The Stolen Momentラストテーマ後のエンディング部分7’24″以降で低音楽器の音が断続的に聴こえ、これはバスクラリネットのようでもありますがバリトンサックスの可能性も捨てきれない次元の聴こえ方で、どちらかかは判断しかねます。僕はライナー執筆者Joe Goldberg氏の勘違いで、Dolphyは録音当日アルトだけでの参加であったように思いますが、いずれにせよDolphyはソロ時120%自分の個性を発揮、一方こちらで聴かれるようにアンサンブルではあたかもスタジオミュージシャン然と自身の個性を集団に埋没させ、アンサンブルの歯車の一つとして職人芸を発揮する、バランスの取れたプレイヤーという事になります。

Eric Dolphy

Herbie Hancockの自伝「Possibilities」にDolphyについての記述があります。そちらを紐解いてみましょう。

Dolphyは64年Charles Mingus Bandの楽旅に参加中、西ベルリンで持病の糖尿病の発作に見舞われました。通説ではその際に心臓発作を起こし客死した事になっています。死因は心臓発作には違いないのですが、ライブの最中に糖尿病の発作を起こして病院に担ぎ込まれた際、担当医師がドラッグを使用していたと思い込み解毒治療を施し(アメリカの黒人ミュージシャンが演奏中に倒れるなんてドラッグが原因に違いないと高を括ったのでしょう)、適切な処置〜インシュリンの注射をしなかったために容態が悪化、心臓発作に見舞われ36歳の若さで亡くなりました。医療ミスの最たるもので、彼はドラッグなどやっていなかったのです!医師が患者の症状をしっかりと認識し、インシュリン一本注射してさえいればDolphyは存命し、音楽活動を展開し続け、この優れた稀有な才能がジャズ史を変えたかも知れないのです。本当に残念でなりません。

続いて挙げるのは、このThe Stolen MomentがOliver Nelsonの代表作にしてモダンジャズ史上に輝く名盤の一枚、「The Blues and the Abstract Truth」収録曲Stolen Momentsの初演に該当する事です。

遡る事5ヶ月前に本テイクが録音されましたが、独特のムードとハーモニー感、アンサンブルの斬新さを既に聴く事が出来ます。Nelson自身の他、Dolphy, Roy Haynes, George Barrowが引き続き参加しており(Barrowはバリトンサックスに持ち替え) 、当時の音楽仲間だったのでしょう、彼らの他にFreddie Hubbard, Bill Evans, Paul Chambersら豪華メンバーを迎え素晴らしい演奏を繰り広げています。Dolphyこちらの作品では水を得た魚状態で大活躍、先鋭的なソロをたっぷり聴かせています。

本作での演奏はトランペット奏者とLockjawのソロをフィーチャーしており、こちらの演奏はビッグバンド編成なので迫力あるサウンドを聴かせていますが、曲のコンセプトや人選から鑑みると「The Blues and the Abstract Truth」の演奏の方に軍配が上がるように思います。Nelsonここで新曲を実験的に披露し、手応えがあったので自作にも採用したという事でしょう。

もう一つはドラマーRoy Haynesの参加です。Charlie Parker, Bud Powellの昔から60年代以降はStan Getz QuartetやChick Corea Trio等、時代を超えた柔軟な音楽性でシャープなドラミングを聴かせています。本作のようなビッグバンドのフォーマットでも実に的確なサポート演奏でアンサンブルをまとめ上げ、ソロイストを鼓舞しつつ盛り上げるドラミングには、ビッグバンド専門のドラマーでは表現仕切れないジャジーなセンスを感じさせます。

Roy Haynes

ところで皆さんはベーシストBill Crowの著書「Jazz Anecdotes」という本をご存知ですか。

Crowは50年代からNYでStan GetzやGerry Mulliganのバンドのレギュラー・ベーシストとして活躍しました。当時の現役ジャズプレーヤーならではの情報収集力を生かし、様々なジャズメンの逸話を集めて面白おかしく語っています。いずれの話もジャズファンが読めば誰もが頷いてしまう内容から成るエッセイで、日本ではジャズに造詣の深い村上春樹氏が翻訳を手掛けました。そこに収められているLockjawについての話が大変に興味深いので紹介したいと思います。(原文のまま掲載)

Eddie “Lockjaw” Davisがジャズ・プレイヤーになりたいと思ったのは、実用的な目的があってのことだった。<べつに音楽がやりたくて楽器を買ったわけじゃなかった。音楽が好きで、ミュージシャンになりたくて、それで楽器を手にしたというパターンとはちと違うんだ。俺は楽器というものがもたらす効用のほうに興味があった。ミュージシャンを見ていると、奴らはいつも酔っぱらって、ヤクを吸って、女にもてて、朝は遅くまで寝ていた。かっこいいと思ったね。それから俺は、同じミュージシャンでも誰がいちばん目立つのかなあと思って、注意して観察した。いちばん注目を集めるのは、テナー・サックス奏者か、ドラマーか、そのあたりだった。でもドラムは見ていると、組み立てや持ち運びが大変そうだった。だから俺はテナー・サックスで行こうと思ったんだ。これ本当の話だよ>♬

(笑)あまりに本音丸出しの表現です。裏表のない実直な人なのでしょう、きっと。でももしかしたらBill Crowの脚色もあるかも知れません。さらにLockajwは自分でサックスの教則本を手にし、独学でテナーサックスをマスターしたという話を聞いたことがあります。ミドルネームのLockjawは独特なマウスピースの咥え方に由来するそうで、彼独自の音色、他に類を見ないソロのアプローチ、そもそもの楽器への携わり方にユニークさを感じます。これらを踏まえて彼の演奏を聴きこむと、また違った音が聴こえてきそうに思います。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Oliver NelsonのナンバーTrane Whistle、Nelsonの60年5月録音の作品「Taking Care of Business」に収録された曲のビッグバンド・ヴァージョンになります。

ミディアムテンポのブルース、テーマ後Lockjawのソロの冒頭部、気合がかなり入ったのか、テナーの音量入力オーバーで一瞬歪みが生じ、いきなり録音レベルが下げられました。物凄い音色です!めちゃくちゃルーズなアンブシュアなのでしょう、倍音、付帯音が乗りまくりです!マウスピースやリード、楽器も良いもの(当時は当たり前だったのでしょうが)を使っていそうです。その後もホーン・セクションのバックリフが入ると本人エキサイトするのでしょうね、ソロの内容がフリーキーなまでに炸裂、ヒートアップしています!続くNelsonのアルト、Lockjawと比べると音色がツルッとしていてクラシック・サックス風に聴こえてしまいますが、比較対象の問題で、これはこれで素晴らしいジャジーな音色です。この部分がDolphyのソロであったら…と願ってしまうのは無理強いというもの。Nelsonのソロ内容はとても端正でロジカル、教育者、アレンジャー然としたものを感じます。その後のTutti部分ではHaynesのドラムフィルがアンサンブルへの呼び込み感を聴かせています。ラストテーマで聴かれるLockjawのオブリは、音量控えめなサブトーン感がエンディングに向けて効果的です。ところでタイトルのTraneはJohn Coltraneの事で、ライナーによれば彼のディレクションがあったようですが、残念ながら具体的なところまでは分かりません。

2曲目NelsonのオリジナルWhole Nelson、Miles DavisのオリジナルHalf Nelsonのタイトルに肖ったナンバーでしょう。ジャズメンはこういった言葉遊びの類が大好きですから。ソロの先発はRichard Williamsのトランペット、バックリフとのトレードが面白いです。このレコーディング直後に録音された彼のリーダー作「New Horn in Town」は以前よく聴いた覚えがある、隠れた名盤です。

Lockjawのソロに続きますが、この日の彼の絶好調ぶりは誰にも止められません!バックリフにも呼応しつつ独自のフレージングにグロートーンを交え、ホンカーの本領発揮です!続くトランペットソロ、今度はClark Terryの出番です。美しい音色でテクニシャンぶりを聴かせています。

3曲目はRodgers – Hartの名曲You Are Too Beautiful、この曲のアレンジはNelsonからテナー奏者Ernie Wilkinsにバトンタッチ。さあLockjaw on Stageの始まりです!美しいメロディをホーン・セクションをバックにOne and Onlyな節回し、低音域から高音域までサブトーンを自在に駆使して益荒男ぶりをこれでもかと聴かせます。エンディングではテナー最低音のB♭音を見事にサブトーンで響かせていますが、多くを吹いてからのこのロングトーン、実は相当高度なテクニックです!ピアニストとしてはLockjawのソロに的確なバッキングを付けるのは難しいのでしょう、Richard Wyands淡々とコードを繰り出す演奏に徹しています。アレンジの関係か、人員欠如によるものなのか、ブラス・セクションの音の厚みがやや薄く聴こえます。

4曲目The Stolen Moment、前述のようにNelson自身の作品でも取り上げる事になるナンバー、この人は自分の作曲を積極的に他のアルバムでも取り上げる傾向があるようです。ソロ先発はBob Bryant、続くLockjawは珍しくスタンダード・ナンバーSummertimeのメロディを引用、ウネウネ、ウダウダ感が半端ありません!ここでもバックリフの音圧を浴びてハッスルしたLockjaw、ホンカー風に熱くブロウして盛り上がり、Haynesのドラムも呼応してフレッシュなフィルイン・フレーズを繰り出しています。

5曲目NelsonのオリジナルWalk Away、再びミディアムのブルースです。イントロのBryantのピアノソロが良い雰囲気を出しています。深くかかったビブラートが古き良き時代を匂わせるテーマ奏、Dolphyもさぞかしビブラートをかけてアンサンブルを行なっている事でしょう。ここでのLockjawのソロは特に堂々とした豪快さを聴かせ、他のテイクよりも落ち着きを感じさせます。ホーンのアンサンブルとLockjawとのcall & response、面白いやり取りに仕上がっています。

6曲目アルバムラストを飾るのはLockjawアップテンポのオリジナルその名もJaws!こちらもErnie Wilkinsのアレンジになります。トランペットのバトルはTerry, Williams, Bryantの順番に行われています。それにしてもトロンボーンにはMelba Liston, Jimmy Clevelandと行ったソロに長けたプレイヤーが参加しているのに、こちらにもソロは回らず仕舞いです。Haynesのフレーズを受けテナーのソロが始まります。アップテンポでのLockjawはそのドライブ感にターボが掛かり正に独壇場です!更にバックリフによりスーパーチャージャー状態!この曲でもTuttiでLockjaw大暴れ、ラストの締め括りに打って付けの演奏に仕上がりました。

2019.03.09 Sat

McCoy Tyner Quartet

今回はピアニストMcCoy Tyner2006年録音のリーダー作「McCoy Tyner Quartet」を取り上げてみましょう。 07年リリース Half Note Records

p)McCoy Tyner ts)Joe Lovano b)Christian McBride ds)Jeff “Tain” Watts

1)Walk Spirit, Talk Spirit 2)Mellow Minor 3)Sama Layuca 4)Passion Dance 5)Search For Peace 6)Blues On The Corner 7)For All We Know

Recorded Live, December 30- 31, 2006 Yoshi’s, Oakland, California

Produced by Jeff Levenson

豪華かつ豪快な共演メンバーによるライブレコーディング、収録曲7曲中McCoyの代表的なオリジナルを6曲取り上げた、いわば集大成的な作品です。60年にJohn Coltrane Quartetに参加して以来、リーダー作を共同名義を含め70枚以上(!)リリース、内容的にはピアノソロからトリオ、カルテット、クインテット、ラージアンサンブル、オーケストラまであらゆるフォーマットで演奏を繰り広げ、大ヒットした作品を含めその全てが意欲作です。

以前のBlogでも取り上げたColtrane Quartet、60年の海賊盤「Live at The Jazz Gallery 1960」、それまで何人かのピアニストをオーディション的に起用していたColtrane、以降65年頃までの最重要期のレギュラーとなるMcCoyを起用した最初期の演奏に該当しますが、既にColtraneのレギュラーピアニストとしての自覚に満ちた演奏に徹しており、その後Elvin Jones, Jimmy Garrisonたちの参加で完成する不動の、いわゆる黄金のカルテット結成の下地を作り上げていました。

60年代前半に録音したImpulseレーベルの諸作では、Coltraneからの進言、影響、共演から培った、4thインターバルを始めとしたそれまでに聴かれなかったジャズピアノの新たなサウンドを大胆に表現、多大なる影響をジャズシーンに残し多くのフォロワーを生み出しました。67年Coltrane没後、リーダー喪失感から一時混沌としたジャズシーンの牽引役を務めたといっても過言ではありません。

精悍な面構えのジャケット写真を見ると、一時期よりずっと痩身です。McCoyは昔から巨漢のイメージがあるので拍子抜けしてしまいますが、本作で聴かれるように演奏内容の無駄な部分をそぎ落とし、McCoyのエッセンシャルな音楽性をシャープに表現した出来栄えと本人の容貌とが、今回完全にオーヴァーラップしていると感じます。

共演者に触れてみましょう。テナーサックスのJoe Lovano、言ってみればここではColtrane役、極太のオリジナリティ溢れる音色、スポンテニアスかつ変態系アドリブライン、間の取り方、タイトでスインギーなタイム感、歴代のMcCoy Bandのテナー奏者の中で1, 2を争う実力と存在感です。ここで取り上げられているMcCoyのオリジナルが彼の音色と吹き方、イメージにより新たな表情を得たと言えましょう。

ベーシストのChristian McBrideの抜群に1拍の長い、たっぷりとしたOn Topのビート、滑舌の良いラインはかのRay BrownやCharles Mingusを彷彿とさせ更にヴァージョンアップ、コンテンポラリーなテイストを加味させた感のある演奏です。McCoyがレギュラーバンドで起用するベーシストはJuni Booth, Avery Sharpeのようなビートや音色がライトなプレイヤーが多い傾向にあります。もちろんRon Carter, Cecil McBee, Buster Williamsといったストロング系も起用されていますが、レコーディングやフェスティバルといったイベントに限られます。McCoy自体の演奏が左手で低音部を強力に響かせてから右手でペンタトニック系のフレージングで下降する事が多く、左手をより明確に聴かせるためにベーシストに目立って貰ってはマズイのが理由の一つだと感じるのですが、今回のような正反対のタイプのベーシストとの共演で結果、McCoyのピアノ演奏がまた別なテイストを聴かせる事になっていると思います。

一方ドラマーは歴代ストロング系の人選の傾向にあり、Elvin Jones, Al Mouzon, Billy Hart, Billy Cobham, Eric Gravatt, Tony Williams, Jack DeJohnette… 今回のドラマーJeff “Tain” Wattsも名うての強者、Wynton, Branford Marsalisのバンドで世に出ました。個性的ではありましたがどちらかと言えばストレート・アヘッドなタイプのジャズドラマーで、個人的には90年代後半Michael Brecker Bandへの参加で音楽性がぐっと深まり、様々なジャンルのスタイルをバランスよく網羅できるスーパー・マルチ・ドラマーへと変貌したと捉えています。実際Michael Band加入の当初は違和感があり、少しの間バンドサウンドがコーニー(古臭い)になった覚えがあります。本作でも時にElvinを感じさせるアプローチも聴くことができますが、揺るぎのない自己のスタイルでMcCoyの音楽を十二分に表現しています。McBrideとの相性も文句なく素晴らしいです。それにしてもこの二人の腰の据わった感満載にして、スピード感がハンパないビートは一体何なのでしょうか??

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Walk Spirit, Talk SpiritはMcCoyの73年Montreux Jazz Festivalでのライブアルバム「Enlightenment」に収録されています。ここでのテナーサックスはAzar Lawrence、懐かしいですね!本当によく聴きました!

印象的なイントロから始まる佳曲、このイントロを耳にしただけでワクワクしてしまいます!ソロの先発はMcCoy、Lovanoのテーマ奏後しばらくの間があってから始まるのでソロ順はひょっとして決まっていなかったかも知れません。さすがのMcCoyワールドを提示し、Lovanoのソロに続きます。マウスピースのオープニング10★、リード4番と言うオリンピック世界記録保持者並みのハードなセッティングです(爆)!にもかかわらずこの完璧なまでの楽器のコントロールぶり、更に吹奏上大変な負荷がかかるためタイムもキープするのが困難なはずなのにこれまた難なくタイトにスイング!スゴ過ぎです!ソロ導入部はピアノのバッキングがなく、一度クールダウンしてからのスタート、その後のストーリー展開の思惑は見事に功を奏しました!

2曲目Mellow Minor、Michael Breckerを大フィーチャーしたグラミー賞受賞の名盤「Infinity」に収録、マイナー調のスインギーなナンバーです。

個人的には96年のライブ演奏を収録した海賊盤「 McCoy Tyner Quartet Oakland 1996」での演奏もお気に入りです。

Lovanoのメロディ奏、これでもかとばかりに極太感をアピールし、当然Michaelとはまったく違うアプローチを聴かせ、バンドと一体化してBurn Out!途中で珍しく引用フレーズThelonious MonkのNuttyのメロディを吹いています。続くMcBrideのソロ、音圧、エッジ感からおそらくかなり弦高がある楽器だと推測されますが難なくハナ歌感覚で演奏、この人も同様に世界記録保持者クラスでしょう(爆)!McCoyのソロ、ご老公お膳立ては整いました、あとは目一杯スイングしてください、とばかりにLovano助さんMcBride格さんの口上の後に続きます(控えおろう!笑)。その後ドラムと4バースが行われますが、Elvin JonesやJack DeJohnnetteを彷彿とさせる、いやひょっとするとそれ以上かも知れないポリリズムの洪水、Wattsも間違いなくワールドクラス・レコーダーです!

3曲目Sama Layucaは74年の同名作品に収録されています。オリジナルは比較的大編成での演奏ですが哀愁を帯びたメロディはワンホーンでも十分にその真価を発揮しています。

ソロの先発はMcBride、ここでもソロの順番ははっきりとは決まっていなかったようですが、ゆるぎないリズム、正確なピッチ、楽器のコントロール、ベースパターンをモチーフとし順次ストーリーを繰り出す歌心はもはや超人の域です!続くLovanoのソロも何の申し分もありません!McCoyのソロはかなりフリーフォームの領域に突入、助さん格さんが多少控えめにソロを行いご老公のためのスペースを保持していたが故か、ご乱行感がありますね(笑)

4曲目からの3曲は67年録音McCoyの代表作の1枚「The Real McCoy」からのセレクションです。まずはPassion Danceから行ってみましょう!

7thsus4コードのサウンドが印象的なこの曲、Wattsのドラムソロから始まりますが、オリジナル演奏のElvinのソロフレーズを最後に借用してテーマ演奏に入ります。F7thワンコードでのソロはLovanoから開始、アップテンポでのプレイはMcBride〜Wattsの最上級リムジンのドライヴ感、あいにく乗車した経験はなくイメージの世界ですが(>_<)、McBreide, McCoy、とんでもない領域にまで足を踏み入れています!Lovanoのソロが締めに少しあってからラストテーマ、どんなに凄い事になってもレコーディングを意識して曲自体の構成をしっかりと成り立たせて演奏しています。ヘビー級のメンバーによるタッグマッチ、場外乱闘になるギリギリでFineです!

5曲目はSearch For Peace、美しさとコンテンポラリーなテイストを併せ持ったナンバーです。本来はバラードですが2ビートフィールでWattsは初めからスティックで演奏、McBrideも同様のグルーヴで対応していましたが、途中4ビートや6/8拍子のリズム等に変化、リズムのショウケース状態です。事あるごとに述べていますがバラードはバラードで演奏してこその味わいだと思うのですが、Coltraneのテイストが入ると致し方ありません。Coltrane Quartetはテーマ奏のみバラードで、アドリブに入るとすぐにスイングのリズムに変わりますから。Lavanoのメロディ奏はサブトーン気味で、加えて「コーッ」という音の成分が効果的に入っています。これは使用マウスピースFrancois Louisのサウンドの特徴でもあります。

6曲目はブルースナンバーBlues On The Corner、ソロの先発はMcBride、ピチカートによるソロではなくWalkingのライン、こちらもめちゃめちゃスイングしてます!Lovanoもアグレッシヴに攻めています!この位のテンポではヘヴィーなビートが一層冴え渡り、Elvin Jones〜Richard Davisの Heavy Sounds現代版です!McCoyのソロではシャッフルのリズムに!その後再びLovanoが残務処理的にソロを取りラストテーマへとなだれ込みます。グロウトーンを交えながらのテーマ奏はご愛嬌、ホンカーを一瞬思わせました。

7曲目ラストを飾るのはMcCoyのソロピアノによるFor All We Know、94年録音のアルバム「 Prelude And Sonata」に収録されています。エピローグとしてうってつけのナンバー、そして演奏に仕上がったと思います。

2019.03.05 Tue

John Patittuci / John Patitucci

今回はベーシストJohn Patitucciの87年リリース、初リーダー作「John Patitucci」を取り上げてみましょう。GRP Label

b)John Patitucci ts)Michael Brecker p)Chick Corea synth)John Beasley synth)David Whitham ds)Dave Weckl ds)Vinnie Colaiuta ds)Peter Erskine vo)Rick Riso

1)Growing 2)Wind Sprint 3)Searching, Finding 4)Bajo Bajo 5)Change of Season 6)Our Family 7)Peace and Quiet Time 8)Crestline 9)Zaragoza 10)Then & Now 11)Killeen 12)The View

ジャケット写真の表面にはエレクトリック・ベースを、裏面ではアコースティック・ベースを携えたレイアウトが印象的です。ジャズベース奏者でエレクトリック、アコースティック両方を演奏するプレイヤーは少なくないですが、Patitucciのように両者のレベルが拮抗するプレイヤーはほんの一握り、文字通り両刀使いの先駆者にして現在も最先端のベース奏者です。しかも6弦という多弦エレクトリックベースを自在に操り、正確なタイム、グルーヴで超絶技巧のフレージングを繰り出すスタイルはギタリストの演奏を超えるほどのインパクトを与えます。ギターよりもずっと音が太いですからね。本作での登場はありませんでしたが、Akoustic Bandで聴かれるようなアップテンポでのアコースティックベースのスイング感の巧みさは他の追従を許しませんし、9曲目で聴かれるようにアルコソロも絶品です。05年Herbie HancockのDirections in Music来日コンサート時に楽屋を訪ね、Michael Breckerの紹介でPatitucciと話をしたことがありますが、明るく快活でフレンドリー、人を思いやる話しぶり、スマートさにはなるほどと、ファーストコール・ミュージシャンのオーラを感じました。

59年NY Brooklyn生まれ、10歳でエレクトリック、15歳でアコースティック・ベースを始め、早くからスタジオ・ミュージシャンとして活躍していました。85年Chick CoreaのElektric Band、89年Akoustic Bandと両方に参加し、Coreaの寵愛を受けその才能を開花させ、プレイヤーとして急成長を遂げました。Elektric, Akoustic Bandの間87年にCoreaの全面的サポートで本作品をGRPレーベルでレコーディング、収録12曲中10曲が自身の作品、1曲がCoreaとの共作になり、そのいずれもが佳曲です。参加メンバーもCoreaをはじめとして以降も度々共演を重ねることになるMichael Brecker、そしてDave Weckl, Vinnie Colaiuta, Peter Erskineという素晴らしい3人のドラマーが参加したドラム祭りでもあり(笑)、曲によって異なった色合いを出して作品のクオリティ向上に貢献しています。

Patitucciは現在までに14枚のリーダー作をリリース、いずれもが高いクオリティの作品で音楽性の幅の広さ、様々なジャンルを巧みに演奏する懐の深さ、作品を重ねるごとに深まる表現の度合い、常に進化を遂げているミュージシャンですが、本作でのフレッシュさはまた格別に心に響きます。初リーダー作は演奏家の原点と言えますが、ここではコンポーズ、サウンド作りとそのアイデア、ベース・ソロプレイとバランスの良さを提示、以降一貫したテイストを聴かせることになります。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Growing、グルーヴが気持ち良いファンクナンバー、オーヴァーダビングによるベースのメロディが印象的ですが途中からRick Risoのフェイザーが掛かったヴォーカルが加わり、キャッチーでダンサブルな雰囲気を醸し出すことに成功しています。Patitucciのソロを大フィーチャーしたナンバーですが、それにしても上手いですね、この人!フレージングはギタリストを研究した節が窺われますが、むしろサックス奏者からの影響が顕著です。随所に聴かれるシンセサイザーが効果的に曲想をバックアップしています。

2曲目はよりテンポアップしたファンクナンバーWind Sprint、イケイケのドラムフィル、ド派手なスラップベース、これでもかと互いに呼応しつつバトルするベースとテナー、リズムセクションとのインタープレイ、入魂の演奏から我々はこういったタイプの楽曲を「ど根性フュージョン」と呼びました(笑)。ジャズ史上Michaelのテナーにバトルを挑んだベース奏者はこの人くらいかもしれません(爆)、憧れのサックス奏者との共演にそれまで描いていた夢を実現すべくバトルを提案したのでしょう、実に功を奏しています!ちょっと気になるのはテナーの録音、音像がやや引っ込み気味な点です。反してベースの音像はクリアーに聴こえます。Michaelのただでさえ凄まじいソロ、ベースと同じ定位ではバトルというシチュエーション上勝敗が確定してしまう(?)のを避けるために敢えて行われたのかも知れません。

91年出版された楽譜集「The New Real Book Volume Two」に、この曲の譜面が掲載されています。当時バンド仲間で嬉々として共有し「ど根性」の演奏を繰り広げた記憶があります(笑)

エンディングはDave Wecklの壮絶なドラムソロが聴かれますが、当時のドラムキッズ達の憧れのフレーズ満載の演奏です!みんなこぞってコピーしましたね!聴き覚えのあるフレーズのオンパレードですから(笑)

Dave Weckl

3曲目はへヴィーなダウンビートのスイング・ナンバーSearching, Finding、モーダル〜Coltrane Likeな曲想なのでColtraneが生涯追い続けた探求、発見という事でしょうか、Patitucci自身の音楽観にもオーヴァーラップさせているのでしょう。ドラマーがPeter Erskineに替わりますが、本作中ジャズ系のナンバーでは彼が起用され、フュージョン系はWeckl, Colaiutaと役割分担がなされています。曲中のベースラインはシンセベースでも演奏されているようで、リーダーはソロイストとしての参加、ギタリストのようにメロディをMichaelと演奏、さらにカッティング?やフィルインを入れ捲っています!Erskineのシンバルレガート、フィルイン、グルーヴ、どれも何て的確なんでしょう、あまりにもハマり捲りです!ソロの先発Michael、気持ちが入っています!2’15″あたりの、ぐ〜っと後ろに引っ張ったフレーズのレイドバックにその入魂ぶりが現れています!本物のテナー奏者は演奏に入れ込めば入れ込むほどタイムをタメるものなのです。Michaelの最後のフレーズを受け継いで続くPatitucciのソロもBurning!その後のCoreaのソロは超人的なタイム感を駆使した演奏、ピアノの音色が実にキラキラして音の粒だちが尋常ではありません!さりげにオルガン系音色のシンセサイザーのバッキングがオイシイです。この曲でもエンディングでドラムが大暴れ、Coreaも呼応してユニークなバッキングフレーズを連発、さぞかし演奏終了後メンバー同士で盛り上がったことでしょう。オーヴァーダビング無しでの演奏、かつTake OneでOKだったに違いありません。

Peter Erskine

4曲目はPatitucciとCoreaの共作によるBaja Bajo、共作とはいえ曲想としてはCoreaの方のテイストが強いのは致し方ないかも知れません。速いテンポのラテン〜サンバ、ドラマーはColaiutaに替わります。Wecklと比べるとColaiutaの方がビートがずっしりとしていて音符が長いように感じます。でもこれはどちらが良いという優劣ではなく、表現の仕方の個性の違いです。さらにWecklの方はフィルインやソロでしっかりとフレーズを叩いているので形が比較的明確ですが、Colaiutaはその都度のイマジネーションでドラミングしておりスポンテニアス、良い意味で不定形な表現スタイルです。Philly Joe JonesとRoy Haynesの違いと言うと分かり易いでしょうか、厳密なものでは無くあくまで雰囲気的にですが。Colaiutaはこの演奏中オーヴァーダビングでパーカションも演奏しています。ピアノとシンセサイザーによるテーマ演奏はシャープかつリズミック、とってもカッコ良いです!ソロの先発Corea、期待に違わぬハイパーな演奏でColaiutaもここぞとばかりに煽っています。CoreaとColaiutaの相性は抜群だと思うのですが、Coreaがリーダーでの共演は何故か92年Blue Note TokyoでのChick Corea Trio(ベースはPatitucci)ライブ等、ごく一時期限定に留まりました。Patitucciのソロも実に巧みですがCoreaのバッキングも全く聴き逃せません!Coreaの傑作「Friends」でのJoe Farrellのソロ時のバッキングにも匹敵〜主役を食ってしまうほどインパクトのあるバッキング!ラストテーマ〜エンディングはまさにCoreaサウンドのオンパレード、パーカッションもイケてます!

Vinnie Colaiuta

5曲目はChange of Season、ドラマーは再びColaiuta、ピアノがテーマを演奏しますがCoreaではなくここではDave Whitham、プロデュサーにしてマエストロCoreaの前で演奏するのはやり辛かったと思います(汗)、Whithamのピアノも素晴らしいですが、Coreaと比較するとどうでしょう、タイムの安定感や音色、フレージングにややぬるさを感じるのは仕方がないのかも知れません。ここでのベースソロはイってます!ColaiutaとJohn Beasleyのシンセベースのサポートと共に、リズムを細分化して微積分した(爆)ような緻密な演奏です!

6曲目Our FamilyはPatitucciとCoreaのDuo演奏、Coreaは全編Synclavierでパーカッションを担当しPatitucciが縦横無尽に6弦エレクトリックベースを演奏しています。よく聴くとCoreaは遊び心満載、巧みにラテンのリズムを繰り出しており、二人の楽しげな雰囲気が伝わってくる対話に仕上がっています。

7曲目はバラードPeace & Quiet Time、Michaelがここぞとばかりに歌い上げます。ドラマーはErskine、2, 4拍に入るスネアやシンバルのアクセントがオイシイところに入ります!Patitucci〜Michaelとソロが続きますが、やはりテナーの音像が引っ込み気味なのが気になります.

8曲目Crestline、Colaiutaのドラムが水を得た魚状態、適材適所です!Coreaのソロはどうしてこんなにも毎回イマジネーションに富んでいるのでしょう!素晴らし過ぎです!Colaiutaとのコンビネーションもバッチリでタイムの捉え方がまるで一卵性双生児のようです!Patitucciのソロ、ピアニシモからメンバー一丸となってジワジワと、ウネウネと、遠くから津波が押し寄せる如く、これでもかと盛り上がります!それにしても丁度良いところで次のセクションに行くものですね。

9曲目Zaragoza、この曲のみCoreaのナンバーです。Beasleyのリズミックなシンセサイザーのイントロが印象的です。アコースティックベースのアルコでのメロディ奏、ピチカートでの超絶ソロが聴きモノです!適度な小部屋内で録音された感が美しいベースの音色も、とても魅力的です。Patitucciの全編フィーチャー、作曲者自身のソロはありません。

10曲目Then & Now、Michaelのオンステージになりますが、彼のフィーチャーを想定して書かれたかのような、Michaelにまさにうってつけのナンバーです。この人のソロは実に様々な技や高度な音楽理論を駆使して行われていますが、淀みなくしっかりとウタ、ストーリーに仕上がっている点が驚異的、ジャズ的なテイストのフレージングもスパイス的に散りばめられ、そのバランス感にいつも感心させられます。

11曲目KilleenはPatitucci, Corea, Erskineのトリオによる演奏、本作中最もジャズテイストを感じさせるワルツナンバーです。アコースティックベースで初めにトリオ演奏を録音、その後エレクトリックベースによるテーマをオーヴァーダビング〜ソロプレイ、Coreaのソロの後にエレクトリックで再びソロを取っていますが、後ろでアコースティックが聴こえつつ、ここでは3者のインタープレイが行われているのでこの部分は初めにエレクトリックでソロを収録し、その後アコースティックをオーヴァーダビングしたと考えるべきでしょう。録音技術を駆使しつつアコースティックなジャズサウンドを自然に表現しています。

12曲目ラストを飾るのはThe View、アルゼンチンタンゴをイメージさせるリズムの上でBeasleyがシンセサイザーでソロを取り、ひとしきりあった後Patitucciのソロ、ラストもBeasleyのシンセサイザーでFineとなります。

2019.02

2019.02.20 Wed

Very Saxy / Eddie “Lockjaw” Davis, Buddy Tate, Coleman Hawkins and Arnett Cobb

今回はテナーサックス奏者4人Eddie “Lockjaw” Davis, Buddy Tate, Coleman Hawkins, Arnett Cobbによる作品「Very Saxy」を取り上げて見ましょう。

Recorded April 29, 1959 Van Gelder Studio, Hackensack Prestige Label

ts)Eddie “Lockjaw” Davis ts)Buddy Tate ts)Coleman Hawkins ts)Arnett Cobb org)Shirley Scott b)George Duvivier ds)Arthur Edgehill

1)Very Saxy 2)Lester Leaps In 3)Fourmost 4)Foot Pattin’ 5)Light And Lovely

Prestigeよくぞこんなにエグいアルバムを制作しました!(笑) いわゆるホンカースタイルのテナーサックス奏者4人をフロントに、彼らにうってつけのバッキング、サウンドを提供するオルガントリオを伴奏者に配し、ジャムセッション形式で思う存分ブロウさせる企画。プロデュースしたPrestigeのEsmond Edwardsに拍手を送りたいと思います。ホンカーテナー同士2人でのバトル作はかなりの数存在しますが、今回はよりにもよってその倍の4人!しかしホンカースタイルのテナー奏者は1人だけでも存在感が強く、しかもその演奏表現を聴衆に強いてアピールする傾向があります。実はホンカー好きにはそれが堪らないのですが、4人となると個性のぶつかり合いが単に4倍という訳には行かず、相乗効果でかなりの倍数になります!実際何倍増になるのかを本作未聴の方はお聴きになり、是非とも確認してください。ただ演奏の充実ぶりからこの作品を鑑賞する時には、体調を万全に整えて臨まなければなりません(笑)。演奏内容のあまりの濃さ、脂っぽさに胃もたれしないように胃腸薬のご用意もお忘れなく(爆)。Very Saxyとは言い得て妙、テナーサックス・バトルの醍醐味を心ゆくまで堪能できる仕上がりになっています。

ホンカーの特徴として人種的にはまず黒人に限定されます。白人や黄色人種では成し得ない黒人独自の音色はその筋肉組織自体がサックスを豊かに鳴らす、ジャズの音をさせると言われています。極太のダークな音色でファットリップのルーズなアンブシュア、付帯音豊富なサブトーンを駆使しグロウトーンやフラジオ音、時にはフリークトーンも交えながら演奏を必ずや、いや絶対に盛り上げます!渋さだけで盛り上がらない演奏のホンカーはあり得ません!Texas州出身のTexasスタイルのテナー吹きであれば尚よろしいです(笑)。フレージング的にはCharlie Pakerからの影響〜Be-Bopのテイストは殆ど感じられず(Sonny Stittをホンカーと呼ぶならば別ですが)、ペンタトニックを中心とした音使いで各人のオリジナリティをふんだんに交えつつ(全員実にフレージングが個性的です!)、ステージングとしては体をくねらせながらの派手な動き、感極まった場合にはステージ上サックスを吹きながら走り回るパフォーマンスや、テナーを手に持ち大きく振り回したり、客席にテナーを投げ入れる素振りをしたり、サックスを咥えたまま仰向けになって吹き続けると言った「見せる」行為にスイッチします。聴衆はそのエキサイト感に挑発されアプラウズの連続、興奮の坩堝状態、ホンカーを享受しまくりです!

シャープス&フラッツのリーダー原信夫氏は大のホンカー好き、以前のBlogでも触れましたが彼のフェイヴァリット・テナー奏者はBen Websterを筆頭にGene Ammons, Illinois Jacquet, Buddy Tate, Arnett Cobb, Stanley Turrentine…当時よく参考音源として、これらのテナー奏者の演奏をカセットにダビングしたものを戴きました。自分のバンドの演奏に対して大変な拘りのある原さん、あたかも大企業原信夫エンタープライズの総帥として、自社の社員一人一人に対しての指導、教育が微に入り細に入り、実に的確です!彼は大会社の経営者、社長を務めたとしても成功した人だと思います。入社(笑)した僕にバンドのソロイストとしてホンカー役を任せたかったようで、演奏最中によく隣で僕のソロについてその都度感想や批評を述べていました。時には移動中の新幹線車内で、空いている隣の席にいつの間にか座っていて「この間のコンサートのあの曲のあそこの部分の事だけどさ…」とダメ出しを何度もされました(汗)。「さあ、たっちゃん、今日こそはステージに寝っ転がって思いっきりブロウしてみようか!」と僕のフィーチャリング・ナンバーで、ステージ最前に出る直前に何度かリクエストされた事がありましたが、その頃は今ひとつ踏ん切りがつかず結局一度もステージでホンカーの極み芸である寝そべり演奏をしませんでした。今なら躊躇なく出来そうです(笑)。

そういえばシャープスの芸術鑑賞の仕事で長野県に赴いた時のことです。いつものようにフィーチャリングのナンバーでカデンツァの演奏時、「せっかくのフィーチャリングなので何かご当地にちなんだフレーズを演奏したい」と考え、飯田市なのでI Can’t Get Started 〜言い出し(飯田市)かねての冒頭のメロディを一節吹きました。芸術鑑賞の学生たちには分からずとも、バンドのメンバーには結構ウケました。ですが原さんには「ふざけるな!」とばかりにかなり絞られました(爆)。原さんもジョークやダジャレはお好きな筈なのですが、唐突な節わましだったのかも知れません。

本作のテナー奏者たちを紹介して行きましょう。22年生まれEddie “Lockjaw” Davis、当時Prestigeから数多くリーダー作をリリースしており、彼が窓口になってホンカーを集め、リズムセクションの人選をしたように思います。彼のPrestigeでの代表作Cook Bookシリーズから「The Eddie “Lockjaw” Davis Cook Book Vol.1」、本作とリズムセクションが全く同じで、メンバーにもう一人Jerome Richardsonがフルートとテナーで参加しています。

とってもワルそうな面構えのテナー吹きが写ったジャケット、ホンカーは基本的こうでなければいけません(笑)。それにしてもこの人の吹くアドリブ・ラインは超独特、Benny Golson, Wayne Shorter, Joe Henderson, Sam Riversたち同じくウネウネ系とはまた異なり、音楽理論を超越したところで成り立っているように聴こえますが、実は僕大好きなんです!スピード感、音色と滑舌が素晴らしいですからね。使用マウスピースはOtto Link Metal(多分Double Ring)10☆、リードはLa Voz Med. Hard、豪快さんのセッティング、本作でも他の3人とは楽器の鳴り方が違っており、タンギングの切れ味も鋭いです。

Coleman Hawkinsは04年生まれでこのメンバーの中で最年長、レコーディング当時54歳です。使用マウスピースはBerg Larsen Metal 115 / 2、かつてOtto Link社に自身のモデルHawkins Specialを作らせ、ラインナップに載って一般に販売していましたが、晩年は何故か使用していませんでした。39年に以降の評価を決定づける名演奏「Body and Soul」を録音し、ジャズテナーの第一人者、開祖として君臨します。代表作は58年「The High And Mighty Hawk」

Buddy Tateは13年Texas生まれ、Count Basie, Benny Goodman楽団に在籍したいわゆるTexasテナーの代表格の一人です。「When I’m Blue」をご紹介しておきます。

Arnett Cobbは18年同じくTexas生まれ、束縛のない自由な演奏スタイルから”Wild Man of the Tenor Sax”との異名があります。Illinois Jacquetの後釜でLionel Hampton楽団に入り、その名を轟かせました。比較的晩年の作品ではありますが78年「Arnett Cobb Is Back」は70年代病に侵されながらも奇跡の復活を遂げ、松葉杖をつきながら楽器を構えるジャケット写真がインパクトのある作品。こんなジャケ写見たことありませんよね?松葉杖により足は宙に浮いていますが演奏自体はしっかりと地に根差しており(笑)、スインギーな素晴らしい演奏です。

役者も出揃いました。それでは演奏内容について触れて行きましょう。

1曲目はその名もVery Saxy、スタンダード・ナンバーSweet Georgia Brownのコード進行を基にしたLockjawとベーシストGeorge Duvivierの共作によるナンバーです。シンコペーションを多用したオルガンによるイントロが、早速ムードを高めています。テナー4管による重厚なアンサンブル、やはりエグい音色のプレイヤーが集まれば迫力が違います!メロディの語尾のビブラートに各々のアジが出ています。メロディの間に入るリズムセクションによるリフ、毎回入るはずが0’31″でオルガンが出忘れ、バスドラとベースが心なしか寂しく響いており、ラフな雰囲気のセッションを既に暗示しています。

ソロの先発はCobb、グロートーンを全面に出しいきなりホンカー全開です!フラジオG音の多用がホンカーの特徴の一つでもありますが、ここでも例外なく行われ、否が応でも盛り上がります!2番手はTate、スクリーミングしつつシャウトするソロでこちらも正統派ホンカーを聴かせます。この後にオルガンのソロになるのですが、「あら、私の出番?次のテナーの人じゃないの?」といった風情で、一瞬弾いて様子を伺っています。自分の番と分かるとすぐに全開モード、原曲Sweet Georgia Brownのメロディも引用しつつ、さすがホンカー御用達のオルガン奏者、グリッサンドやブロックコードの多用でホンカー顔負けにガンガン盛り上がっています!その後御大Hawkinsの登場、この人の淡々とした語り口は厳密にはホンカーのアプローチではないかも知れませんが、テナー4人衆のまとめ役になっていると思います。続くLockjawのソロはこれぞまさしくホンカー、凄い存在感です!音色、フレージング、粘るリズム、聴き応え抜群です。その後ラストテーマに突入、初めのテーマでオルガンが出忘れた?7’59″のリフ、ここでも弾かれていないのは再度出忘れたのか、わざと演奏しない事でそういうアレンジだと正当化させるための手段か、興味深いところです。

2曲目はLester YoungのLester Leaps In、テナーバトルではよく取り上げられる定番のナンバーで、各々のソロの1コーラス目にブレイクタイムが設けられ、メリハリある構成になっています。先発Lockjaw, Cobb, Tate, Hawkinsとソロが続き、その後同じオーダーで4小節交換がなされます。互いのアイデアを踏襲しつつ、Lockjawが倍の長さ8小節吹いたりと彼が起爆剤になり、熱いトレードが行われています。

Lester Young

3曲目はShirley Scottのブルース・ナンバーFourmost、イントロでLockjaw, Tate, Hawkins, Cobbと顔見せが行われこの順番でソロが行われます。比較的コンパクトに演奏に収めていますが、Hawkinsが若者たちに影響を受けたのかホンカーの萌芽を感じるプレイをしています。本作中Cobbのソロで掛け声が何度か掛かりますが、多分Lockjawでしょう。テナーの4小節トレードが行われますが本テイクでもLockjawが盛り上げ役を務めています。途中でフェイドアウトになるのが残念ですが全曲演奏が濃すぎるので多少は間引かないとマズイと言うプロデューサーの判断でしょうか?ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目はDuvivierのオリジナル、ハッピーな雰囲気のシャッフル・ナンバーFoot Pattin’、ソロはScottから始まります。Lockjaw, Cobb, Tate, Hawkinsとソロが続きますが、ホンカーの演奏にはシャッフルリズムがよく似合い、各人リラックスした素晴らしいソロを聴かせます。

本作ラストを飾るのはLockjawとDuvivierの共作Light And Lively、1曲目と同じ構成でCobb, Tate, Scott, Hawkins, Lockjawとソロが行われます。本作はSide Aにテンポの速い熱いナンバーを配し、Side Bにはミディアム・テンポのリラックしたナンバーを持ってきています。全テイクでテンポが遅くなる傾向があるのはホンカーの特徴であるレイドバック、4人も揃えばリズムセクションは引っ張られても致し方ないでしょう。

2019.02.08 Fri

Bob Brookmeyer and Friends / Bob Brookmeyer

今回はトロンボーン奏者Bob Brookmeyer1964年録音のリーダー作「Bob Brookmeyer and Friends」を取り上げてみましょう。

64年5月25~27日 30th Street Studio, NYC録音 同年リリース Columbia Label Produced by Teo Macero

tb)Bob Brookmeyer ts)Stan Getz vib)Gary Burton p)Herbie Hancock b)Ron Carter ds)Elvin Jones

1)Jive Hoot 2)Misty 3)The Wrinkle 4)Bracket 5)Skylark 6)Sometime Ago 7)I’ve Grown Accustomed to Her Face 8)Who Cares

素晴らしいメンバーよる絶妙なコンビネーション、インタープレイ、インプロヴィゼーション、珠玉の名曲を取り上げたモダンジャズを代表する名盤の一枚です。Bob Brookmeyer名義のアルバムですがStan Getzとの双頭リーダー作と言って過言ではありません。 BrookmeyerとGetzはこれまでにも何枚か共演作をリリースしており、代表的なところでは「Recorded Fall 1961」Verve labelが挙げられます。知的でクールなラインをホットに演奏する二人、Brookmeyerの方は作編曲に長けており、それらを行わなかったGetzですが良いコンビネーションをキープしていました。Getzは膨大な量のレコーディングを残していますが、実は自己のオリジナルやアレンジが殆どありません。優れたヴォーカリストが歌唱のみ行い、演奏の題材はピアニストやアレンジャーに委ねるのと同じやり方で、Getzほどのサックス演奏が出来ればまさしくヴォーカリストと同じ立ち位置で演奏する事が出来たのです。ほかにテナー奏者ではStanley Turrentineが同じスタンスで音楽活動を行なっており、大ヒットナンバーSugarが例外的に存在しますがあれ程の存在感ある音色、ニュアンスでサックスを吹ければ作編曲をせずとも名手として君臨するのです。

Brookmeyerがバルブトロンボーンを用いて演奏するのは有名な話です。ジャズ界殆どのトロンボーン奏者がスライド式のトロンボーンを使っているので彼一人異彩を放っていますが、かつてトロンボーンの名手J. J. Johnsonはそのテクニックに裏付けされた高速フレージングから、わざわざアルバムジャケットに「バルブトロンボーンに非ず」との注記まで付けられたほどで、スライド式の方が動きが大きいためコントロール、ピッチ等、楽器としての難易度が高いのですが、トロンボーンならではのスイートさや味わいを表現する事が出来、それが魅力でもあります。難易度を排除した分バルブ式の方がよりテクニカルな演奏が可能という事なのですが、Brookmeyerは決してテクニカルな演奏をせず朗々と語るタイプで、彼の演奏からはいわゆるトロンボーンらしさが薄れて端正さが表現されており低音域のトランペット、フリューゲルホルンの様相を呈しています。若い頃にピアノ奏者としても活動していたので、トロンボーンの音程や操作性にある程度のタイトさ、カッチリしたものを求めていたがためのバルブ式の選択でしょうか?真意のほどを知りたいところです。

リズムセクションのメンバーについて触れてみましょう。Herbie Hancockは言わずと知れたMiles Davis Quintetのメンバー、このレコーディングの前年63年に入団しました。すでに3枚のリーダー作をBlue Noteからリリース、4作目になる名作「Empyrean Isles」を録音する直前でした。この頃から既に素晴らしいピアノプレイを聴かせていて端々にオリジナリティを感じさせますが、未だ確固たるスタイルを確立するには至っていません。ブラインドフォールド・テストでこの頃のHerbieのソロを聴かされたら逆に、「Herbieに影響を受けた若手ピアニストの演奏か?」と判断してしまうかも知れません(笑)

Ron CarterもMilesバンドに在団中で、前任者の名手Paul Chambersのある意味音楽的進化形として、Milesの音楽を推進させるべくリズムの要となり演奏しました。更にそのステディな演奏を評価され当時から数々のセッションやサイドマンとしても大活躍でした。

Elvin JonesはJohn Coltrane Quartetのドラマーとしてリーダーから絶対の信頼を受け、やはりColtraneの音楽を支える屋台骨として素晴らしい演奏を繰り広げました。個人的にはColtraneの音楽はElvinが存在したからこそ成り立ったと思います。Getzとは本作録音の直前、5月5, 6日に共演を果たしています。「Stan Getz & Bill Evans」Verve label ベーシストにRon Carterも参加、本作の前哨戦と言える充実したセッションです。

Gary Burtonはこの時若干21歳!新進気鋭の若手としてGeorge Shearingのバンドを皮切りに丁度Getzのバンドに加入した頃です。ヴィブラフォンという楽器のパイオニアとして数多くのリーダー作を発表しました。その彼も昨年引退宣言を発表し、現役から退いたことは耳新しいです。Brookmeyerとは62年9月Burtonの2作目にあたる(録音時19歳です!)「Who Is Gary Burton? 」で共演していますが、既に素晴らしい演奏を聴かせています。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目BrookmeyerのオリジナルJive Hoot、Elvinのハイハットプレイから始まり、ヴィブラフォンによるイントロが印象的、トロンボーンとテナーによるテーマのアンサンブル、効果的なブレークタイム、ダイナミクスの絶妙さ、各楽器の役割分担、曲の構成も凝っていてオープニングに相応しい明るく軽快なナンバーです。Getzも自分のカルテットのライブでよく演奏していました。「Stan Getz & Guests Live at Newport 1964」にも収録されています。

トロンボーン、テナー、ヴィブラフォン、ピアノとコンパクトな長さながら聴きごたえあるソロが続きますがピアノソロの途中のブレーク、勢い余ったHerbieのソロでタイムがラッシュし少しだけ音符が詰り、ブレークの着地点が一瞬ずれたのをベース、ドラムとも絶妙に「お〜っと!」とばかりに受け止め、リカバーしました。Herbie自身も瞬時様子見をしつつ、何事もなかったように復帰しています。

2曲目はお馴染みErroll GarnerのMisty、ピアノのイントロ後Getzのテーマ奏ですが何でしょう、この素晴らしいサブトーンの音色は!めちゃめちゃピアニシモで吹いていて管の中を空気が通り抜ける音さえも聴こえる音色、Getzは本当にバラード奏法が上手いと今更ながらの再認識です。そしてGetzのサブトーンとElvinのブラシの音色がとても良く似ていて区別がつきません!ピアニシモで吹いてビブラートがかかると更に類似度アップです!

通常この曲はEフラットで演奏されますがここでは全音低いDフラットに移調されています。その分オリジナルキーよりも低く重厚に聴こえますが、むしろこのキー自体の特徴かも知れません。Body & SoulやStardustもDフラットで曲のムードが確立しているからです。テナーとトロンボーン二人のフィーチャリングでした。

3曲目はBrookmeyerのオリジナルThe Wrinkle、ベースのパターンというか裏メロディ的なパターンが印象的、テーマでのシャッフルっぽいリズムでのElvinのドラミングが冴えています。ブレークタイムを効果的に生かした構成は演奏を活性化させています。Burton, Getz, Herbie, Brookmeyerと淀みなくスインギーなソロが続きますがElvinとCarter、シャープでいながら強力タップリとしたシンバルレガートと、On Topベースのスイングビートのコンビネーションの良さが光ります。短いながらもしっかりと主張のある独特のElvinのソロを挟んでラストテーマです。

4曲目もBrookmeyerのオリジナルBracket、前曲よりもいささかテンポの速いスイングナンバー、Carterのベースラインが実にスインギーです!Brookmeyer~Getzとソロが続き、Getzのフレーズを巧みに受け継ぎHerbieのソロに繋がります。ソロイストの強力なアドリブラインに敢えて殆ど何もせずリズムを繰り出すElvinとCarter、ヒップなプレイです!でもよく聴くとシンバルレガート時にスティックの先端チップが様々な当たり方をするのか、させているのか、色々な音色が聴こえます。その後Elvinとの4バース、2nd Riffも交えつつエンディングに向かいます。Elvinのソロ、目新しいフレーズは聴かれないのですがいつもフレッシュな感覚に満ちていて常に音楽的なのです。

5曲目、今度はHoagy CarmichaelのナンバーからSkylark、ここでもメロディ奏の先発はGetz、サビをBrookmeyerが担当、Getzがオブリを入れています。その後のAメロはBurtonが主導しつつGetzのオブリを活かそうとしてメロディを演奏しているように聴こえます。その後ソロはダブルタイムフィールでBrookmeyer~Getzと続きます。Coltrane Quartetのバラード演奏はアドリブに入ると必ずダブルタイムフィールになりますが、ひょっとしたらここでもElvinが率先していたのかもしれません。この曲もフロント二人のフィーチャリングとなりました。

6曲目はワルツナンバーSometime Ago、ここでのElvin、Carterは積極的に攻めています!フロント二人でメロディをハーモニーを交えつつ同時に演奏したり、同時にソロを取ったりとクインテットならではの醍醐味を聞かせていますが、リズム隊が先かフロントが先か、相乗効果で熱い演奏に仕上がっています。

7曲目は再びバラードで映画My Fair LadyからのナンバーI’ve Grown Accustomed to Her Face、このメンバーでのバラード奏だったら何曲でも聴いていたいです!Brookmeyerが初めにメロディを演奏しGetzはオブリ担当、ここでもGetzのサブトーンがElvinのブラシと区別がつき辛い瞬間が多々あります。Getzのソロ後フロント二人の演奏が同時進行し、シンコペーションのフレーズを合わせたり、またHerbieがバッキングで面白いサウンドを出したりと聴きどころ満載です。Wes Montgomery 62年月録音「 Full House」収録の同曲、ギターソロで演奏されていますがこちらも素晴らしい出来栄えです。この当時流行っていた曲なのかも知れませんね、多くのジャズメンに愛奏されていました。

8曲目レコードの最後を飾るのはGershwinのナンバーからWho Cares、トロンボーンのメロディからイントロ無しで始まります。ソロの先発はGetz、Elvinお得意の三連譜が多発されたドラミングにGetzもインスパイアされブロウしていますが、相乗効果でここでのリズムセクション実に盛り上がっています!特にElvinは63年のヨーロッパツアーでのColtrane Quartetの演奏を彷彿とさせる、アグレッシヴかつ繊細なドラミングを聴かせています。

本作は収録曲のいずれもがコンパクトなサイズの中にも様々なストーリーが込められているバランスの取れた演奏です。プロデューサーTeo Maceroの采配が光る作品に仕上がっていると思います。

2019.02.01 Fri

Randy Waldman / UnReel

今回はピアニスト、アレンジャー、作曲家のRandy Waldmanの2001年発表リーダー作「UnReel」を取り上げてみましょう。Concord Label

アメリカを代表するアニメ、映画音楽の主題曲を題材に取り上げ、これまたアメリカ音楽シーンを代表するジャズミュージシャン、ジャズ系スタジオミュージシャンを一堂に集め、リーダー自身の華麗なるアレンジとピアノ演奏のもとb)John Patitucci ds)Vinnie Colaiutaとのリズムセクションをベースに曲毎にゲスト・ミュージシャンが目まぐるしくフィーチャリングされ、全編極上のジャズ演奏に仕上がっています。さながらディズニーランドのアトラクション、ブロードウェイミュージカル、ハリウッド映画、ラスヴェガスのカジノの如きお客様を必ずや満足させるアメリカンなエンターテイメント性と、ゴージャスで優れた音楽性とが見事に融合している作品です。

1)The Jetsons 2)My Favorite Things 3)Leave It to Beaver 4)Bali Hai 5)Schindler’s List 6)Hawaii Five-O 7)America 8)Mannix 9)Ben Casey 10)Raider’s March 11)Forrest Gump 12)Maniac

Randy Waldmanのバイオグラフィーを紐解いてみましょう。55年9月8日Chicago生まれ、5歳からピアノを始め、神童の誉れ高く既に12歳で地元のピアノ店でデモ演奏を行っていたそうです。21歳でFrank Sinatraのピアニストに大抜擢されツアーに出ました。その後The Lettermen, Minnie Riperton, Lou Rawls, Paul Anka, George Bensonといったアーティストのバンドでもツアーし、80年代には作曲アレンジの能力を買われてGhostbusters, Back to the Future, Beetlejuice, Who Framed Roger Rabbitといった映画のサウンドトラックを手がけ始め、83年にはThe Manhattan Transfer、85年Barbra Streisandに提供したヴォーカル・アレンジでGrammy賞を受賞しています。その後も快進撃は止まらずForrest Gump, The Bodyguard, Mission: Impossibleといった映画の音楽、Michael Jackson, Paul McCartney, Celine Dion, Beyonce, Madonna, Whitney Houston, Ray Charles, Quincy Jones, Stevie Wonder, Kenny G…といったアーティストたちとのコラボレーションも実現し、音楽制作、現場面でのアメリカを代表するミュージシャンの一人になりました。Waldmanは日本ではあまりその存在を知られておらず、それはひとえにリーダーとしての活動が目立たないからですが、本作の申し分ない出来栄えでしっかりと狼煙を上げる事が出来ました。因みに98年リリース第1作目の「Wigged Out」も本作と同じコンセプトでの演奏です。

前作から内容、編成的に格段にヴァージョンアップした本作、Waldmanは制作サイドの音楽家ではありますがジャズミュージシャンたるべく(アレンジャー、プロデュサー業が忙しいとピアノを弾く事が疎かになりがちです!)、日々の精進を怠らず(ジャズマンでいるためにはここが大切です!)音楽性を磨き上げ、いつもとは真逆の立場で自身のピアノプレイを全面的にフィーチャーしています。アメリカ人であったら誰もが知っているアニメ、映画音楽のナンバーを何の外連味もなく堂々と取り上げて演奏する事が出来るのも、裏方としてアメリカ音楽界を支えてきた立場ならではなのかも知れません。何しろWaldmanはピアノがメチャメチャ上手いです!以前触れたことのあるピアニスト、アレンジャーのJan Hammerに通じるところがある音楽性を感じます。何をやらせても器用な人なのでしょう、トランペッターとしても活躍し、本作でもホーンセクションでのアンサンブル演奏を担当しています。更には航空機とヘリコプターのパイロットでもあり、03年にはBell OH-58ヘリコプターでのスピード記録を樹立しています。

左がWaldman、右は盲目の世界的テノール歌手Andrea Bocelli
Bell OH-58ヘリコプター

それでは収録曲を見て行くことにしましょう。1曲目The Jetsons、アメリカで62年から63年まで、間が空き85年から87年まで計99話TV放送され、日本でもNHKで63年から「宇宙家族」というタイトルで毎週放送されました。超ハイテク化された未来社会、宇宙で生活する家族の日常を描いたアニメーション、僕自身たぶんリアルタイムでは見ていないと思いますが、再放送では何度も視聴し「未来社会の文明はこんなに凄いんだ!」と本気で感じた覚えがあります(笑)。

子供心にここでのテーマソングにワクワク感を覚えた記憶があり、本作での演奏を初めて聴いた時に何だか懐かしさを感じました。近未来を暗示させる無機的なラインとひょうきんさを感じさせるメロディの混在がアニメの雰囲気をより明確にしています。

原曲のアレンジにかなり忠実に、超アップテンポのスイングビートで演奏されますが、オリジナルよりもリズム、アンサンブルのスピード感が際立ち、シャープさがたまりません! tp)Lew Soloff, Waldman sax)Dave Boruff tb,b-tb)Bob McChesneyたちの多重録音によるホーンセクションによりビッグバンド・サウンドに仕上がっています。ソロの先発はWaldman、端正でブライトなピアノタッチ、シャープなリズム感、理知的なソロラインはさすがユダヤ系ミュージシャン、とっても好みのタイプです!そしてフィーチャリング・ソロイストは我らがMichael Brecker、「The Jetsonsのテーマ曲でソロを取るなんて面白そうだね!子供の頃によくTVで観たな〜」というようなMichaelの会話が聞こえて来そうなくらい、ハーフテンポでのテーマの提示感、途中に入るホーンのアンサンブルとの絡み具合等、演奏を楽しみながらもチャレンジャブルなアドリブを聴かせています。リズムセクションとはダビング無しの生演奏、レスポンスが半端ありません!オープニングに相応しい軽快でインパクトのある演奏です。

2曲目は映画The Sound of Musicの主題曲My Favorite Things、数多くのミュージシャンが、それぞれ腕によりを掛けたアレンジでカヴァーしていますが、こちらも実にユニークな仕上がりになっています。この演奏のみベーシストがDave Carpenterにチェンジし、Studio City String Orchestraのストリングス・アンサンブルが加わります。印象的なベースラインの後、変拍子を効果的に生かしたピアノによるメロディ、フィーチャリング・ヴァイブ奏者Gary Burtonのメロディ、Carpenterによるメロディ奏と続きヴァイブ・ソロになります。ソロでは変拍子は用いられてはいませんが、コード進行にハイパーな代理コードがてんこ盛りです!ストリングスの響きがソロと絡み合い、その後の饒舌なピアノソロにも効果的に使われ、ベースパターンに乗った形でドラムソロ、ラストテーマはピアノとヴァイブによるアンサンブルで締め括られます。曲の持つリリカルなムードを的確に引き出したアレンジに仕上がっています。

3曲目はアメリカのTVドラマLeave It to Beaverの同名テーマ曲。57年から63年まで放送されました。50年代Californiaの典型的な中流家庭での、日常の出来事を題材にしていてBeaverは小学生の主人公、日本では確か民放で「ビーバーちゃん」というタイトルで平日夕方再放送していたように記憶しています。

ここではWaldmanのピアノとホーンセクション担当Bob McChesneyのトロンボーンソロをフィーチャーしています。Waldmanはもちろん、McChesneyも大変流麗なソロを聞かせています。

4曲目は49年のミュージカルSouth Pacificから、名作詞作曲コンビRichard Rodgers ~ Oscar HammersteinⅡの名曲Bali Hai、South Pacificは58年映画化され01年TVドラマとしても放送されました。

またもや印象的なリズムパターンによるマーチのリズムでMcChesneyのトロンボーン・メロディ、スイングのリズムでWaldmanのピアノソロ、そしてMichael Sembelloのギターとスキャットによるソロ〜大変密度の濃い演奏です!ラストテーマ後はリズムパターンを再利用でのドラムソロ、いや〜最後まで寸分の隙もないアレンジ、演奏です!

5曲目は93年Steven Spielberg監督による映画Schindler’s Listから同名曲。Branford Marsalisのソプラノサックスがフィーチャーされ、Studio City String Orchestraが加わります。こちらのアレンジも実に意欲的、Waldamanはまさにアレンジに対するアイデアの宝庫、泉のごとく湧き出ています!PatitucciのベースソロもWaldmanのコンセプトを的確に把握しつつ華麗に行われています。Branfordの音色は録音の関係かいつもと多少異なっていますが、メロウな吹き回しで自身のスタイルと曲想を上手く合致させています。

6曲目は68年から80年までアメリカでTV放送された刑事ドラマHawaii Five-Oの主題曲、人気を博した長寿番組で日本でも70年に一部が放送されました。Randy Brecker, Gary Grantのトランペット、Boruffのサックスがフィーチャーされます。いやいや、ここでEddie HarrisのFreedom Jazz Danceを持ち出してくるとは!!バッチリと融合し、物凄くイケてます!アレンジ・センスに脱帽です!先発ソロはRandy、いつもの変態ラインの中にパターン提示も聴かれます。ピアノソロを経てラストテーマへ、曲想は次第にFreedom Jazz Dance色の方が濃くなり、エンディングは何とFreedom Jazz Danceで終了、見事に曲が乗っ取られました!

7曲目57年ミュージカルWest Side StoryからAmerica、Leonard Bernstein作曲の名曲です。ここではまた意表をついたイントロからベース〜ピアノのメロディ奏、この曲を熟知しているアメリカ人もこのアレンジには驚いた事でしょう!フィーチャリングはMcChesneyのトロンボーンとPatitucciのベース、テナーのErnie Wattsです。Wattsのフレージングは僕にとっていつも謎ですが、テナーの音色は本当に素晴らしく、美しく楽器を鳴らしていると思います。テナーとトロンボーン2管のアンサンブルを従えたドラムソロ、エンディングも意表をついています。

8曲目Mannixは67年から75年まで米CBS系でTV放送されていた探偵モノの番組名、その主題曲です。日本で放送されたことは無いようです。作曲はスパイ大作戦の音楽で有名なArgentine出身のLalo Schifrin、Lew Soloffのフリューゲルホルン、Waldmanのピアノがソロを取ります。Kevin Clarkのギターが良い味付けをしているのが印象に残りました。

9曲目は61年から66年までアメリカで放送されたTVドラマBen Casey、同名主題曲です。総合病院の脳神経外科に勤務する青年医師ベン・ケーシーを主人公に、病院内での医者と患者との交流を通じて医師としての成長を描き、当時高い評価を得たメディカルドラマです。62年から日本でもTV放送され、なんと最高視聴率50%以上を記録しました。僕も随分と再放送を含め見たように思います。幾重にも捻られたイントロから耳馴染んだテーマが始まりますがオリジナルよりもかなり速いテンポ設定、これまた一筋縄では行かないアレンジです。そういえばタイトル画面にあった「♂ ♀ * † ∞」は「男、女、誕生、死亡、そして無限」という意味だそうで、子供には全く理解不能でしたが、今更ながらに深いものを感じます。因みに漫談家で白衣を着用し、怪しい医学用語を多用する芸風のケーシー高峰、彼の芸名はここから拝借したそうです(笑)

Tom ScottのテナーサックスがフィーチャーされPatitucci, Colaiutaの素晴らしいソロも聴かれます。

10曲目は監督Steven Spielberg、製作George Lucas、主演Harrison Ford、音楽John Williamsによる名作映画Indiana Jones, Raiders of the Lost Arkから主題曲Raiders March。原曲の旋律はよく聴かないと認識できない程にリアレンジされています。Waldmanのブリリアントなピアノの音色がメロディ奏にとても合致しており、フィーチャリング・ギタリストMichael O’NeilのソロとWaldmanのソロが良いバランス感を聴かせます。

11曲目Robert Zemeckis監督、Tom Hanks主演の映画Forrest Gumpの主題曲をここではWaldmanソロピアノで演奏しています。美しく明快なピアノタッチ、ラグタイムやスイング時代のテイストを交えつつ、底抜けに明るくハッピーエンドに仕上げています。

12曲目ラストに控えしは83年アメリカで公開された映画Flashdanceの挿入曲Maniac、作曲者Michael Sembello自身のギター奏、中性的なヴォーカルを全面的にフィーチャーしています。この曲のみフュージョン色が強い仕上がりになっており、Waldmanの演奏スタンスもいつものプロデューサー、アレンジャー的に前に出ずサポートに回っています。

2019.01

2019.01.24 Thu

Odean Pope Saxophone Choir / Locked & Loaded featuring Michael Brecker, James Carter, Loe Lovano

今回はテナーサックス奏者Odean Pope, 2004年録音のリーダー作「Locked & Loaded」を取り上げてみましょう。サックス奏者が合計9名、うちテナー奏者が5名、アルト奏者が3名、バリトン奏者が1名から成るOdean Pope Saxophone Choirにゲスト出演でMichael Brecker, James Carter, Joe Lovanoの凄腕テナーマン3名が曲毎に加わるという、サックス奏者合計12名の大編成を収録したライブ作品です。ライナーノーツをOrnette Colemanが執筆しているというオマケまで付いています。

The Odean Pope Saxophone Choir / Tenors: Odean Pope, Elliot Levin, Terry Lawson, Terrence Brown, Seth Meicht Altos: Jullian Pressley, Louis Taylor, Robert Langham Baritone: Joe Sudler Piano: George Burton Bass: Tyrone Brown Drums: Craig Mclver Recorded Live At The Blue Note, New York, December 13~15, 2004

Michael Brecker featured on tracks 2 & 5; James Carter, track 7; Joe Lovano, tracks 3 & 6; Odean Pope; tracks 1 & 5; Jullian Pressley, Louis Taylor, track 4.

リーダーのOdean Popeというテナー奏者を紹介しておきましょう。38年10月24日South Carolinaで生まれ、10歳の時に家族でPhiladelphia移住、若い頃にRay BryantやJymie Merrittに師事し同地で演奏活動を始めました。優れたジャズミュージシャンが多く住むPhiladelphiaにはLee Morgan, Clifford Brown, Benny Golson, McCoy Tyner, Jimmy and Percy Heath、そしてJohn Coltraneが身近な存在で、とりわけColtraneと親交があり、ColtraneがMiles Davisのバンドに加わるために当地を離れNew Yorkに向かう際、参加していたJimmy Smithのバンドの後釜にPopeを選んだそうです。Popeの演奏からは60年代中頃のColtrane的な要素を感じます。様々なミュージシャンとギグをこなし、James Brown, Marvin Gaye, Stevie WonderといったR&B畑でのバックバンド演奏も行っていました。60年代はオルガン奏者Jimmy McGriffやMax Roachのバンドで演奏活動を行い、特にRoachとは長期間演奏を共にして来日も果たし、作品も多数残しています。70年代からは本作と同じ編成のサックス奏者9名とピアノトリオから成るSaxophone Choirを率いており、彼のライフワークと言えましょう。Popeも多作家で今までに20作以上のリーダー作をリリース、編成としてはサックス・ソロからデュオ、トリオ、カルテット、サックス・クワイアまで、様々なメンバーと多彩に演奏しています。本作では収録曲の全てをアレンジ、Coltraneのオリジナル2曲以外は自身の作曲になります。

楽器の編成上、中低音域での重厚なアンサンブルが特徴のこのサックス・クワイア、さぞかしライブで聴いたらサウンド的にもヴィジュアル的にもインパクトがありそうです。ここにMichael, Lovano, Carterがソロイストで加わり文字通り「テナーサックス祭り」を繰り広げているのです!

特記すべきはMichael Breckerにとって晩年の演奏になり、本作のミックスダウンを行っていた2005年に難病である骨髄異形性症候群を発症、DNAタイプの合致する骨髄を移植するしか抜本的な治療法がなく、そのドナーを世界中に募っていました。ルーマニアをルーツにするMichaelのDNAは特殊なもので、あいにく家族を始め他の誰ともDNAが一致せず、最後はMichaelの娘Jessicaの細胞を移植して得た小康状態で、遺作となった06年8月録音名作「Pilgrimage」を録音しました。音楽家としての執念の結晶といえる名演奏、最後の力を振り絞り成し遂げたのです。病床で全曲書き上げたMichaelのオリジナルの素晴らしさも堪能する事が出来る作品です。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目Epitoneの冒頭で奏でられるアンサンブル、さすがサックス・クワイア9管編成のサウンドは分厚く、編成上聴いたことのない斬新なハーモニー感です!途中リーダーPope自身のテナーもフィーチャーされますがマルチフォニックスによる重音奏法やサーキュラーブレス(循環呼吸)奏法も聴かせ、Roland Kirkをイメージさせる濃厚な音楽性を披露しています。音色的にはやはりColtraneのテイストが感じられ、使用マウスピースはおそらくColtrane派テナー奏者御用達のOtto LinkのMetalでしょう。サックス・アンサンブルは強弱のダイナミクス、音の切り方、アタックの付け方、ピッチ感とも大変良く揃っていて素晴らしく、微に入り細に入り徹底的にリハーサルを積んでいるように感じられます。オープニングに相応しい哀愁を伴ったメロディを有する佳曲です。

2曲目は同名のアルト、フルート奏者に捧げたその名もPrince Lasha、彼はEric Dolphy, Elvin Jones, McCoy Tynerらとの共演歴があります。Michael Breckerを大フィーチャーしたアグレッシヴなアップテンポのモーダルなスイングナンバー。いやー、テンポが早くなるとサックス・クワイアのエグさが一層際立ちますね!ステージ上サックス奏者9人の熱い眼差しを背後から痛いほど感じつつ、Michaelは一心不乱に、ハードにブロウします!このレコーディング時には病でそろそろ体調に異変をきたしていた頃かも知れませんが、微塵も感じさせないプレイです!ソロ中に演奏されるバックリフもメチャイケてます!ドラムソロを挟んでラストテーマが演奏されますが、Michaelを含めたサックス奏者10名のフリークトーンとリズムセクションのクラスターによるエンディング、一体何の大騒ぎでしょうか?これまた聴いたことがない音のカオスです。

3曲目CisはJoe Lovanoのテナーをフィーチャーした同じく哀愁系のミディアム・スイング・ナンバー、アルトのメロディ奏が美しく響きます。ここでのアカペラによる複雑で緻密かつ正確なアンサンブルを聴くと、Popeはセクションに参加せずにステージ前に出て指揮をしている可能性もあります。Lovanoも9人のサックス奏者の眼差しを受けつつ、ごんぶとの音色でLovano節を朗々と歌っています。

4曲目はColtrane作の美しいバラード・ナンバーCentral Park West、作者自身はソプラノで演奏しており60年録音「Coltrane’s Sound」に収録されています。主旋律を奏でるアルトの音域を敢えてフラジオを用いた高音域に行かないように途中から下げているようにも聴こえます。テーマ後のソリのアンサンブルもユニークなラインから成っています!フィーチャリングはJullian PressleyとLouis Taylorの2人のアルト奏者、彼らもColtraneスタイルのプレイヤーで流暢な演奏を聴かせます。サックス・クワイアの美しいハーモニー、サウンドも特筆もの、アレンジも個性的で聴きごたえ十分です!

5曲目は再びColtraneのオリジナルでColtrane Time、これまたアップテンポのエグいナンバー、変態系(笑)メロディとアンサンブルの後ソロ先発はMichael、ドラムとのデュオで曲のモチーフを生かしつつフリーキーにソロを発展させていますが、Michaelには珍しいほどに徹底したフリーフォームでのアプローチは「殿、ご乱心を!」状態、そしてまさにColtraneの曲だから、ソロの終盤Michaelの音色もColtraneライクに変化しています!その後Popeのアカペラソロがスタート、ここでもマルチフォニックス、サーキュラーブレス、さらにオーヴァートーンも用いて彼独自の世界を作り上げています。Michaelの時と同様サックス・クワイアのアンサンブルが入りつつ、モチーフを用いて2人のバトルに突入です!互いを聞きながらのソロの応酬を踏まえ、次第に白熱、とうとう2人とも完璧にイッちゃいました(笑)!ドラムソロでテーマのモチーフを提示しラストテーマに入ります。

6曲目Terrestrialは再びJoe Lovanoをフィーチャーしたナンバー、やはりマイナー調のメロディが哀愁を誘います。フリーフォームでのソロとインテンポでのクワイアのメロディ奏との対比による構成になっています。後半のLovanoのアカペラソロからラストテーマに突入する部分が実に美しいです。エンディングのフェルマータのなんと長い事!まだ続いてます!

7曲目ラストを飾るのはJames CarterをフィーチャーしたラテンのナンバーMuntu Chant、Carterの独壇場です!この人も実にサックスが上手いですね!でも相当変態だと思いますが(笑)、MichaelとLovanoよりも録音上でのサックスの音像が引っ込んでいるのが残念ですが、演奏中殆どずっと鳴っているクワイアのアンサンブルも一因かも知れません。この人もサーキュラーブレス使いですね!フラジオ、マルチフォニックス、64分音符の超高速プレイ、ダブル〜トリプル・タンギング、超絶テクニック技のデパートの感があります。Popeのやりたい事をヴァージョンを格上げし、全て代弁していると言っても過言ではありません。エンディングはサックス・クワイア全員でのサーキューラー・ブレス大会!教祖を筆頭とした何かの集団のようにまで感じてしまいました(爆)!

2019.01.18 Fri

Hearts and Numbers / Don Grolnick featuring Michael Brecker

今回はピアニスト、コンポーザーDon Grolnickの初リーダー作「Hearts and Numbers featuring Michael Brecker」を取り上げたいと思います。

1985年リリース Hip Pockets Records All selections composed, arranged and produced by Don Grolnick. Executive producer: Steven Miller

p, synth)Don Grolnick ts)Michael Brecker g)Hiram Bullock, Bob Mann, Jeff Mironov synthesizer programming)Clifford Carter b)Will Lee, Marcus Miller, Tom Kennedy ds)Peter Erskine, Steve Jordan

1)Pointing At The Moon 2)More Pointing 3)Pools 4)Regrets 5)The Four Sleepers 6)Human Bites 7)Act Natural 8)Hearts and Numbers

1970年代にJames Taylor, Carly Simon, Linda Ronstadt, Bette Midler, Roberta Flackたち米国を代表するポップス界のヴォーカリストの伴奏を務めていたDon Grolnick、同世代のDavid Sanborn, Bob Mintzer, Steve Khan, John Tropea, Brecker Brothersといったインストルメンタルのスターたちからも絶対の信頼を得て彼らの作品に数多く参加しており、サポート力、この人に任せておけば安心という懐の深い音楽性、包容力で陰ながらの立場でNew Yorkの音楽シーンに君臨していました。ピアノの演奏自体は決して技巧派ではありませんし、派手さや強力に何かをアピールするタイプではないのですが本作で聴かれるように作曲、アレンジ、プロデュース力に他の人には無い独自の魅力を発揮しています。築き上げた人脈による素晴らしいメンバーと共に全曲自身の超個性的オリジナルでフィーチャリングのMichael Breckerに思う存分ブロウさせ(当時Michaelは未だリーダー作をリリースしていなかったので、彼のリーダー作に該当する勢いの演奏になります)、同様に参加メンバーの良さを最大限に引き出しつつこの名盤を作り上げました。音楽の形態としてはフュージョンにカテゴライズされるかも知れませんが、誰も成し得ない、こうあらねばならぬという常識に捉われないテイストを持ちつつ、ジャンルを超越したGrolnick Musicを表現しています。そしてジャズ史に残る作品というよりミュージシャンに愛されるミュージシャンズ・ミュージシャンの、ライフワークの1ページといった感を呈していると思います。彼はこの後3作のリーダーアルバムをリリースしますが、全てアコースティックなジャズ作品です。88年に一切の営業的な仕事を辞め、日々練習、音楽鑑賞、作曲に打ち込みました。クリエイティブな真のジャズプレイヤーを目指したかったのでしょう。

81年Steps Aheadでの来日、六本木Pit InnでMichael Brecker, Mike Mainieri, Eddie Gomez, Peter Erskineらと大熱演の際の曲間で、オーディエンスが彼らの演奏のあまりの素晴らしさと、リラックスした自然体からの振る舞いに向けて歌舞伎役者への大向こうの如く掛け声がかかり始めました。「ピーター屋!」おっと、違いましたね、「ピーター!」本人が「ハイ!」、「エディ!」「マイケル!」「マイク!」はにかみながら彼らは客席に手を振ったり会釈をしています。メンバーの中で知名度があまり無いドンには可哀想なことに誰からも声が掛かりません。するとドンが口に手を当て下を向きながら「ドン〜、ドン〜」とわざと女の子のような可愛らしい声で自分の名前を連呼するではありませんか!やっと僕にも声が掛かったけど、一体誰からなのかな?といった仕草を交えながら、おどけて周囲をキョロキョロするので客席は大爆笑!お茶目な人柄を垣間見ることが出来ました。

この作品は内容の素晴らしさに加え、録音のクオリティが良いことも特記されます。レコーディングされたSkyline StudiosはNew York Manhattan, Midtownにある79年創業、老舗のレコーディング・スタジオです。繁華街の一等地、ロケーションが良いのもありますが、エンジニア、スタッフが充実しており米国のあらゆるジャンルのミュージシャン御用達のスタジオです。ジャズではMiles Davis, Dizzy Gillespie, Herbie Hancock, McCoy Tyner, Bobby McFerrin, Dave Liebman…. 枚挙にいとまがありません。実は13年前に僕もこのスタジオでレコーディングする機会に恵まれました。手前味噌ではありますが紹介させて頂きます。ピアノ奏者Yasu Sugiyamaの「Dreams Around The Corner」2006年リリース p)Yasu Sugiyama ts)Tatsuya Sato b)Chris Minh Doky ds)Joel Rosenblatt add. key)George Whitty レコーディング当時最新鋭の録音機材が用意されていたという訳ではなかったのですが、こちらも大変素晴らしい音色、音像感、バランス、セパレーションで録音されました。レコーディングの前日にスタジオの場所を下見に行ったのですが、看板らしい看板が出ておらず戸惑った覚えがあります。街中にひっそりと佇むスタジオでした。

Grolnickのユニークでオリジナリティ溢れ、深い音楽性が宿る美しい楽曲の数々は聴く者に感動を与えますが、実は演奏者にも味わった事のない神秘的とも言える高揚感を提供します。本作収録曲全てのスコア他、彼の楽曲計30曲が収録された楽譜集が発売されています。99年初版発行Hal Leonard


可能ならばスコアと共に本作を鑑賞することをお勧めします。聴いているだけは通り過ぎてしまう音楽的構造、とりわけ細部にこだわるGrolnickの音作りに対する情熱に触れてみてください。先日19年1月13日、僕がここ数年行っているMichael Brecker Tribute Concert(この日がMichaelの12回目の命日でした)でもGrolnickのナンバーを演奏しましたが、彼のナンバーを演奏する事により、演奏中コンサート自体のグレードが数段高まったようにも感じました。

1980年81年のStepsでの来日の他、89年Select Live Under The SkyでMichael Brecker, Bill Evans, Stanley Turrentine, Ernie Wattsのテナー奏者4名から成るSaxophone Workshopのピアニスト、音楽監督を務めるため再来日しThe Four Sleepers, Pools等の自作曲ほか、フェスティバルのコンセプトであったDuke Ellingtonのナンバーをアレンジして演奏しました。その時に起こったErnie Wattsの「事件」は以前のBlog「Don’t Mess With Mr. T / Stanley Turrentine」に掲載してありますので、こちらも併せてご覧ください。https://tatsuyasato.com/2017/

80年代初頭GrolnickはLower ManhattanにあったRandy, Michael Brecker兄弟が経営するライブハウスSeventh Avenue Southで自己のリーダーセッションを開始しました。メンバーは本作参加者を中心に、スケジュールが都合つくメンバーたちと彼のオリジナルをレパートリーとし、時にはBob MintzerのMr. Fonebone、MichaelのStraphangin’等も取り上げて意欲的に、信じられないほどの白熱ぶりを聴かせました。バンドの名前は彼自身がIdiot Savant(ある分野で非常に優れた技能や才能を示す知的障害者:専門バカ)と名付けましたがMichaelがGrolnickの豊かな音楽性と凄まじい集中力から「 時々僕はまるで我々がIdiot〜愚か者で、Donが Savant〜賢者と感じるんだ」と冗談めいて語っていました。そして83年にGrolnickは意を決して本作を自主制作で録音開始したのです。

それでは演奏曲に触れていきましょう。1曲目Pointing At The Moon、これはなんとユニークなナンバーでしょう!アルバムの冒頭を飾るのに相応しい意外性、斬新さに満ちたサウンド、構成の名曲です。スペーシーにして高密度、遊び心満載、Steve Jordanの繰り出すタイトなレゲエのリズム、Jeff Mironovのカッティング、Will Leeのグルーヴが実に気持ち良いです。 Clifford CarterによりプログラミングされたシンセサイザーとGrolnickのピアノがサウンドのカラーリングを決定付け、その上でMichaelのテナーがGrolnickの音楽的な意図を確実に汲みつつ華麗なブロウを聴かせます。う〜ん、思いっきりカッコ良いです!Idiot Savantのライブ演奏を海賊盤でも聴きましたが、Idiot丸出しの(笑)アンビリバボーな演奏の連続でした!

2曲目は1曲目のリプライズ的な楽曲、組曲とも言えるでしょう。フェードインから始まりピアノのパターンは前曲を踏襲しています。途中から入るシンセサイザーのバッキングがWeather Reportを感じさせつつ、Michaelが全く的確な超絶ソロを取ります。

3曲目Pools、Steps Aheadの「Steps Ahead」でも取り上げられていましたが、そちらがジャズ・ヴァージョンならこちらはまさしくフュージョンタッチのアレンジに仕上がっています。Peter Erskineのドラム、Will Leeのベース演奏が実に適材適所、Mironovのギター、GrolnickのFender Rhodesがスパイスになっています。こちらはサウンドのスペーシーさを聴かせるナンバー、ソロのスポットライトはGrolnickにのみ絞られています。

4曲目Regrets、耽美的な美しさを湛え、印象派の傑作絵画を美術館で間近に鑑賞するかのような、身が引き締まる思いにさせられます。曲中テンポが揺れるのが曲想をより深淵にさせています。Bob Mann(この人はThe Brecker Brothers Bandの1枚目に参加していました)のアコースティック・ギター、Tom Kennedyのアコースティック・ベースが良い味付けを施しています。何よりMichaelのテナーの音色が素晴らしいです。83年録音であればマウスピースはBobby DukoffのオープニングD9。一度Michaelに貴方はBobby Dukoffマウスピースを沢山持っているのでしょう?と何気に尋ねたところ、「いや、僕はそんなに持っていないよ」と軽くかわされました。本当の所は分かりませんが。

5曲目The Four Sleepers、こちらも名曲中の名曲です!曲のコード進行はAutumn Leavesをベイシックに、カラフルにアレンジされています。ここでのベースはMarcus Miller、こちらも嬉しくなる位に適材適所、いや、それを通り越して麻雀の嵌張ズッポシ、ジグソーパズルのピースが合致した感の素晴らしい演奏です!イントロのピアノのレイドバック感と対比するようにタイトなファンクのリズムがクールです。シンセサイザー、ベース、テナーサックスのメロディの振り分けにより、幾つもの味付けを楽しめます!エンディングのMichaelの物凄いブロウ、Idiot Savantでは更に高次元な世界にまで飛翔していました。

6曲目Human Bites、この曲のトピックスはSteve JordanとPeter Erskine2人のドラマーによる共演で、実に功を奏しています!煽られたMichaelがこれでもか、とイッちゃってます!Hiram Bullockのギターも凄い勢いでハードロッカー状態、1’07″~1’08″のドラムとギターのフィルインのやり取りには何度聴いても笑ってしまいます。Hiramはかなり茶目っ気のあるプレイヤーですね。シンセサイザーによるベースとそのフレーズ感からこの曲でもWeather Report〜Joe Zawinulのテイストを感じます。Michaelのフリーキーなフレーズに呼応した1’39″のHiramのカッティング、2’05″以降ベースが消えてTwin Drumsを相手に思いっきり暴れるMichael、その後ベースが復帰したHiramのソロ、3’49のギターのフィルイン、4’16″で一度Fineと思わせておいてTwin Drumsのショウケースに突入、そして再登場のMichaelのフレージングに呼応するドラマー2人、聴きどころ満載です。Twin Drumsってきっとドラマー冥利に尽きるのでしょう、楽しさ感がひしひしと伝わって来ますから。

7曲目Act Natural、Grolnick流ロックナンバー。ベースもドラムもシンセサイザー、Peterのシンバル・プレイが味付けになっています。MichaelやMironovのソロはオーバーダビングのように聴こえます。

8曲目ラストを飾るのは表題曲Hearts and Numbers、こちらも実に美しいナンバー、曲を一度聴くと長い間耳から離れることがない魅力的で安心感漂うメロディライン、赤とんぼなどの童謡を久しぶりに耳にした時の感覚に似ており、思わず口ずさんでしまいます。ここではソロピアノですが、Idiot SavantではMichaelのサックスをフィーチャーしてバンドでも演奏されていました。Grolnickが子供の頃に3人の親友とよく遊んだHeartsというトランプを用いたカードゲームがありました。彼の叔父さんのBob(Uncle Bobという彼のオリジナルもあります)が子供達に秘密の番号を与え、4人の子供達はそれを覚え、秘密として守ることを誓ったそうです。この曲はGrolnickの永年の親友たちに捧げられたナンバーだそうで、彼は仲間や友人をずっと大切にする人、そんな人物が作り上げた音楽だからこそ聴く者に得がたい感銘を与えるのでしょう。

2019.01.08 Tue

Universal Mind / Richie Beirach & Andy LaVerne

今回はRichie Beirach, Andy LaVerne二人のピアニストによるDuo(1台のピアノによる連弾です!)作品「Universal Mind」を取り上げたいと思います。

p)Richie Beirach, Andy LaVerne Recorded November 1993 SteepleChase Digital Studio, Copenhagen, Denmark Produced by Nils Winther

1)Solar 2)All the Things You Are 3)I Loves You Porgy 4)Haunted Heart 5)Chappaqua 6)Blue in Green 7)Elm The Town Hall Suite: 8)Prologue 9)Story Line 10)Turn Out the Stars 11)Epilogue

ピアニスト2人のDuoは昔からよく行われており、素晴らしい演奏者による名演奏が数々残されています。通常2台のピアノを用いて各々パフォーマンスを行いますが、本作は1台のピアノのみを用いた連弾(英語ではfour handsと言います)で、ライブでは時たま行われることもありますが、レコーディング作品として残した例は大変珍しく画期的な事だと思います。奏者どちらがピアノ鍵盤の左側(主に低音域担当)、右側(同じく高音域担当)を担当するか、演奏曲のメロディ、伴奏のシェア具合、アドリブ時伴奏者に音楽的に如何に被らない、交互にソロを取る場合は一瞬にして鍵盤から離れ相手に演奏を譲る反射神経、ペダルの使用はどちらが主導権を握るのか、物理的に腕や指がぶつからない等、いつもは独占している88鍵を共有し合う制約が、演奏にある種の緊張感を生み出し本作では実に良い方向に作用し、結果名演奏となりました。2人のピアニストの音楽的方向性、演奏スタイル、相性も大いに関係するところです。Richieは1947年5月NY生まれ、Lennie Tristanoに師事しBerklee, Manhattan音楽院でも学びました。Andyも同じく47年12月NY生まれ、Bill Evansに師事しBerrkleeのほかJulliard, New England音楽院でも学ぶという共に学究、学理肌、そして同世代のミュージシャンです。そういえばBillはLennieに師事していましたね。他の共通点としては名ピアニストを多く輩出し登竜門として名高いStan Getzバンドの出身者であり、白人ジャズピアニストの最高峰Bill Evansを敬愛し自他共にその影響を受けている事を認めています。本作でもEvansの66年作品「Bill Evans at Town Hall 」からピアノソロで演奏されている亡き父親Harry L. Evansに捧げたIn Memory of His Father Harry L. (Prologue/Story Line/Turn Out the Stars/Epilogue)をThe Town Hall Suiteとして取り上げています。

実は本作は2人のDuo第2作目にあたります。丁度1年前の92年11月録音の作品「Too Grand」Steeplechase こちらは連弾ではなく2台のピアノを使用しての伝統的なピアノDuo演奏になります。自由奔放でかつジャズスピリットに溢れ、同じ音楽的ベクトルを有するピアニストのみが成しうるダイナミックな演奏で、これまた素晴らしい作品です。この作品の仕上がりから2人は更なる緊密なDuo演奏を目指し、次作は敢えて縛りの多い連弾と言うスタイルで演奏に臨んだと言うことになります。ストイックでアーティスティックな2人に拍手を!

Andyは1人でグランドピアノ2台を同時に演奏する形でも作品をリリースしています。92年4月録音「Buy One Get One Free」Steeplechase Yamahaのグランドピアノを2台、片手で1台づつを演奏していますが、弾きこなすには大変な体力と気力、集中力が必要な事でしょう。物理的に腕が普通よりもかなり長くなければなりませんし(笑)。1台のピアノを2人で演奏することが連弾、ではこのように1人で2台のピアノを演奏する事は何と言うのでしょう?(笑)。こちらは壮大な雰囲気のソロピアノ集に仕上がっており、2台を難なく弾きこなすAndyのテクニック、器用さと音楽性、情熱に脱帽してしまいます。本作収録のElmがここで既に取り上げられていました。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目はMiles DavisのSolar、Richieが度々取り上げるレパートリーでもあります。冒頭Richieが高音域、Andyが低音域を担当します。ソロ中は度々入れ替わり、ラストはAndyが高音域、Richieが低音域を担当します。なんと緻密で知的、ホットでクールなインタープレイの連続でしょう!2人のピアノタッチを実に的確に捉えた録音状態も素晴らしいです。Lineageな2人は音楽的に良く似た部分もありますが明確な個性を湛えたスタイリスト同志、明らかな違いを感じさせつつも互いにインスパイアされフレージング、コードワーク、ピアノの音色区別が次第に付き難くなります。実際にどの様に入れ替わって演奏しているのか、録音時の映像が存在したら是非とも見て見たいものです。「いまの右手はRichieのラインだけど左手はAndyかな?」「両手ともにAndyかも知れない」と想像しながら鑑賞するのも楽しいです。ソロのトレード時に交差する4本の腕!20本の指!正確なタッチやタイムをテクニカルにキープしつつもエグいコードワークやハイパーなソロのラインが見事にハマり、応酬されるスリリングなDuo!これだけの演奏を繰り広げているにも関わらず声が出ないのが不思議です!演奏しながら声の出るピアニストが多いと思うのですが、無音の2人です。

2曲目はお馴染みJerome KernのAll the Things You Are、こちらもRichieのオハコのナンバーです。メロディの1音1音に全く別なコード付けを施す独自のRichieのアレンジが光ります。Andyが高音域を、Richieが低音域を担当します。それにしてもこの左手のラインは異常なほどに異彩を放ち、美しく響きます。Andyの右手のフレージングも実にクリエイティヴです!ベーシストSteve Lloyd Smith「Chantal’s Way」、自身のソロピアノリサイタルを収録した「Maybeck Recital Hall Series Volume Nineteen」、Dave LiebmanとRichieのDuo作「Unspoken」いずれもでRichieの素晴らしいAll the Thingsのプレイを聴くことが出来ます。

3曲目は本来バラードで演奏されるGershwinのI Loves You Porgy、明るいテンポでスインギーに、Richieが高音域、Andyが低音域担当で演奏されます。シングルノートでの対話形式のようにも聴こえつつ、次第に低音域〜高音域担当が入れ替わり2人の絡み具合が芳醇なスコッチウイスキーのように、シングルモルトからブレンデッドに移行して行きます。

4曲目はとても美しいバラードHaunted Heart、Andyが高音域、Richieが低音域を担当します。Bill Evansの「Explorations」に名演が収録されていますが2人のBillへのオマージュ第1弾です。Andyは左側にRichieがいるのでどうしても右寄りになる事からか、いつも以上に高音域でのラインが目立ちます。

5曲目は互いに敬意を表して各々の代表曲を演奏しあうコーナーのRichieヴァージョン、演奏曲はAndyのオリジナルChappaqua。元はAndyがGetzのバンド在団中演奏したナンバーでGetzはAndyが抜けた後も愛奏していた様です。それにしてもスタジオ内で自分の曲を他の名手が演奏するのを聴くのはどんな気分でしょうか?Richieにまさに打ってつけの美しいメロディ、コード進行を擁した名曲、そして知的さとリリカルさを配した解釈、素晴らしい演奏です。Andy自身もGetzバンドで演奏した経験を生かし、Getzのレパートリーばかりを取り上げた96年10月録音作品「 Stan Getz in Chappaqua」で演奏しています。ここでのGetz役はDon Bradenが務めます。もう1作、我らがベーシスト鈴木”Chin”良雄氏のNY時代の作品「Matsuri」でAndyと共演、ここではTom HarrellのフリューゲルホーンとLiebmanのフルートでメロディを分かち合っています。

6曲目は再びMilesのナンバーからBlue in Green、Bill Evansのナンバーだと言う説もあります。高音域をAndyが、低音域をRichieが担当、この上無い美の世界に誘いつつも演奏が佳境に達した頃にRichieが倍のラテンフィールを提示し、また別なカラーを聴かせてくれます。

7曲目表敬コーナーAndyの出番によるRichieのオリジナルElm、この曲はRichieが亡きポーランド出身の天才ジャズヴァイオリン奏者Zbigniew Seifertに捧げたナンバーです。作者自身のトリオアルバム「Elm」で聴くことが出来ます。ここでのAndyは曲の構造を徹底的に分析し、複雑なコード進行を微に入り細に入り解析し、Richieとはまた異なる解釈で深遠なハーモニーと美の世界を表現しています。左側にはRichieは居ないはずなのですがDuo時の耳、感性がそのまま継続しているのか、かなり高音域を多用しているように聴こえます。2人のオリジナル曲の録音終了後、その出来栄えからさぞかしお互いの音楽性を称え合ったことと思います。ピアニストが2人同じ現場に居合わせて共演する機会は稀有でしょうし。

8~11曲目はBill EvansへのトリビュートとなるThe Town Hall Concert、4曲ともBillのナンバーです。8曲目となるPrologueはRichieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。かなりマニアックな選曲、でもBillから影響を受けたピアニストやファンには堪りません!メロディを奏でるRichieの音色も心なしかBill寄りに聴こえます。

9曲目Story Line、Andyが高音域、低音域をRichieが演奏します。インテンポになってからの2人のソロのトレードが実にスリリングです。ここでのAndyのソロラインからBillのテイストが聴こえてきます。

10曲目は哀愁感満載の魅力的なメロディ、コードの流れを持つ美しいバラードTurn Out The Stars。Richieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。ミディアムテンポでのRichieのソロ、物凄い事になっています!この音の粒立ち、音色、タイム感での高速プレイは超人的、でも決してテクニックのオンパレードにならないところが素晴らしいです!はっきりとしたメロディはソロ後に登場します。

11曲目最後を飾るのは文字通りEpilogue、両者随時入れ替わりの演奏、テーマのメロディのモチーフを効果的に用いた、こちらの応酬もとんでも無いですね!エンディングはRichieが高音域、Andyが低音域で締めます。

2018.12

2018.12.19 Wed

Unity / Larry Young

今回はオルガン奏者Larry Young1965年録音の代表作「Unity」を取り上げたいと思います。

Hammond Organ B3)Larry Young  tp)Woody Shaw  ts)Joe Henderson  ds)Elvin Jones

1965年11月10日録音 Van Gelder Studio, Englewood Cliffs  Engineer: Rudy Van Gelder  Blue Note Label

Larry Young、Blue Note Label第2作目のリーダー作になります。BNデビュー作にあたる「Into Somethin’」はElvinの他フロントにSam Rivers、ギターにGrant Greenを迎えたこちらも意欲作でしたが、本作はメンバーの音楽性、志向性の合致度(故にUnityとタイトル付けされました)や選曲の素晴らしさ、互いの演奏にインスパイアされた相乗効果からの充実度、結果他に類を見ないクオリティの演奏に仕上がっています。加えてレコード・ジャケットの秀逸さからBNを代表する作品の一枚に挙げられます。

ジャズ・オルガン奏者はJimmy Smithに代表される、いわゆるバップ、ハードバップの範疇にはまらないアーシーなテイスト、R&Bやゴスペルの影響を感じさせるスタイルの奏者がほとんどです。John Patton, Baby Face Willette, Brother Jack McDuff, Jimmy McGriff, Shirly Scott, Lonnie Smith, Lonnie Liston Smith…全員同傾向のスタイル奏者であるのは、オルガン演奏が教会の音楽に不可欠だった事に由来(パイプオルガンを設置できない中小の教会ではハモンド・オルガンが代用品でした)、彼らが幼い頃に文字通り教会でオルガン演奏の洗礼を受けた事に始まり、教会音楽自体が福音音楽〜ゴスペルそのものであるため彼らの音楽的ルーツとなったと考えられます。ハモンドオルガンは理論的には設定により2億5千3百万通りの音色を表現出来るらしいのですが、それはあくまでプリセット音色の範疇であり、アコースティック・ピアノのように演奏者自身の肉体から発せられる音色、タッチを出すのは困難な楽器です。グルーヴ感やタイム感、コードのハーモニー、サウンド、曲想等で奏者の個性を表現しますが、Jimmy Smithの演奏がやはり圧倒的にその存在感を感じさせます。そんな中で一際異色を放つのが本作の主人公Larry Youngです。早熟な彼は60年に19歳で初リーダー作をPrestige Labelに録音、その後計3枚のリーダー作を同レーベルからリリースしていますが、そこでは従来のオルガン奏者とはあまり違いを感じさせない伝統的オルガン演奏を聴かせていました。余談ですがその3枚でドラムを演奏しているのがJimmie Smith、オルガン界のスーパー・スターと同姓同名のドラマーで、日本に一時期住んでいた同名アメリカ人ドラマーと同一人物のようです。その後BNに移籍してからColtrane Likeなモーダルなサウンドを表現し始め、本作以降も他のオルガン奏者とは一線を画す演奏を展開し、さらにはアヴァンギャルドなスタイルまでアピールしていました。Youngは「オルガンのColtrane」と称されることがありますが、その音楽家をColtraneの名前を用いて形容するのはジャズ界では最大級の賛辞に値すると思います。そして2種類の意味があるとも思うのですが、Youngのようにその演奏スタイル、表現するサウンドに起因してのColtrane、もう一つは音楽への真摯な取組み方、人生に音楽の全てを賭ける生き様にオーヴァーラップさせてのColtraneです。でも実は両者は表裏一体の関係で、「〜のColtrane」とは両方の意味を内包しているかも知れません。Youngは69年にTony WilliamsのバンドLifetimeに参加しJohn McLaghlinと共にトリオ編成で「Emergency !」を録音、さらに同年Miles Davisのモニュメント的代表作「Bitches Brew」にもエレクトリックピアノで参加しました。

収録曲について触れて行きましょう。1曲目はWoody ShawのオリジナルZoltan、ハンガリー出身の作曲家Kodaly Zoltanに影響を受けて書いた曲だそうです。冒頭のElvinのマーチング・ドラムが印象的で大変心地よいです。以前にも書きましたがこの人のマーチングは他の誰とも異なる音色、グルーヴ、ビート感を聴かせ、Elvin自身のオリジナルKeiko’s Birthday Marchでも堪能できます。Elvin自身ライブで事あるごとに演奏していた重要なレパートリーで、自身のリーダー作では「Puttin’ It Together」で初演、収録されています。

それにしてもユニークなナンバーです。この時Shawは若干20歳!作曲に天賦の才能を感じます。自身のトランペットソロにも確実にオリジナルな語法を身につけているのが驚異的です。続くJoeHenのソロも捉われるものがない自由な発想に満ちた、しかし伝統に確実に根付いたセンスも提示しています。この二人の音色には共通するものを感じるのですが、ダークでエッジー、付帯音の豊富さから生じるスモーキーな成分との混合具合。一方トランペットとテナーサックスは音域的に1オクターブの違いがあり、金管楽器と木管楽器の互いにない部分を補いつつユニゾンでも良し、ハーモニーの場合は一層音色の絡み具合が芳醇になります。そしてYoungのバッキング、ソロ共に曲想に合致した演奏はジャズ・オルガンNew Soundの幕開けと言って過言ではありません。さらに彼らのソロをサポートしつつプッシュするElvinのドラミングが実は本作の要なのです。ColtraneにはElvinが不可欠ですし。

2曲目は管楽器はお休み、オルガンとドラムの二人によるThelonious MonkのMonk’s Dream。二人と言ってもオルガンの足によるベースもしっかり参加していますが。ナイスなセレクションで、音楽的ベクトル方向が揃った二人の名手による濃密で饒舌、でもお互いの話をしっかりと聞きながらの丁々発止の会話となっています。

3曲目はJoeHenのオリジナル・ブルースIf、めちゃめちゃカッコイイ曲です!2管のハーモニー、リズミックな仕掛け、サウンド、このメンバーにまさしく相応しい素材です。ソロの先発は作曲者自身で、申し分なく絶好調です!Charlie ParkerのブルースBuzzyのメロディを引用していますが、JoeHenにしては比較的珍しい展開です。煽るElvinとソロに油を注ぐYoungのバッキング、何度聴いてもワクワク感は不変です。Shawのソロもエグくオリジナリティ溢れるフレーズを連発、YoungもPrestige時代の作品での演奏とは別人のようなアプローチを聴かせています。Trio Beyondという、Jack DeJohnette, Larry Goldings, John Scofieldというメンバーからなるバンドのライブを収録した「 Saudades」にこの曲が収録されています。信じられないほどのハイテンション、でもひたすらクールな名演奏に仕上がっています。ぜひ聴いてみてください。ここまでがレコードのSide Aです。

4曲目はShawのオリジナルでJohn Coltraneに捧げられたThe Moontrane。なんと素晴らしいナンバーでしょうか!曲想からColtraneに対する音楽的なリスペクトを真摯に感じてしまいます。Shawが18歳の時に作曲したそうで本作で初演、以降73年「Bobby Hutcherson Live at Montreux」を経て自身のアルバムでは30歳直前の74年12月に作品「The Moontrane」としてレコーディングしました。

Coltrane存命中のレコーディングなのでこの演奏を彼自身が聴いた事があるかどうか気になるところですが、真相は分かりません。曲自体は大変良く出来た構成ですが、アドリブを取り易いかはまた別次元の話です。先発Shawはコンポーザーではありますがコード進行に慎重気味に対応し、曲の構造からの飛翔までには至っていないように聴こえます。続くJoeHenは果敢にトライし、かなり自分の唄を歌っているように感じます。Youngは見事に曲の構造からの飛翔〜脱却を図り、リーダーとして面目躍如、この演奏での山場を作り上げています。同じく素晴らしいElvinのドラムソロからラストテーマに入る部分が一瞬ヒヤリとさせられましたが、これはギリギリセーフでしょう。2014年に日本でリリースされたCDに追加されているオルタネート・テイクと比較してみましょう。オルタネートの方が幾分テンポが早く、Shaw, JoeHenともにオリジナルの演奏よりもエネルギーを感じるソロを展開、Young, Elvinは両テイクともに大健闘しています。演奏のフレッシュさから察するにオルタネートの方が先に演奏されたのでは、と思います。こちらのテイクを採用しても良かったとも感じますが、ドラムソロ後のテーマの入り方、入ってしばらくしてからのフロント二人の若干のバラけ方、曲のエンディングに再びイントロを用いているのが問題になったために(これはこれでカッコ良いのですが)却下されたと見るのが妥当でしょう。オリジナル・テイクのコンパクトにまとまった潔さも捨てがたかったでしょうし。演奏内容を取るか曲のアンサンブルを取るかは実に難しい問題です。それにしてもElvinのドラムソロの拍を数えるのは大変なのです。

5曲目はお馴染みスタンダード・ナンバーSoftly, as in a Morning Sunrise、まず冒頭のテーマをJoeHenが取ります。このテーマの吹き方ははっきり言ってヤバいです!ホンカーのテイスト丸出し、こんな吹き方も彼のスタイルの中にあるというのが新鮮です。テーマではブラシを用いていたElvinが(ブラシの音色もグッと来てしまいます)スティックに素早く持ち替えJoeHenのソロがスタートします。ColtraneのVillage Vanguardでのライブ、同曲での持ち替えも実に早業でした!ソロのストーリー性、オリジナリティ満載の独自のJoeHenフレーズの洪水、間の取り方、そこに容赦なく入るYoungのバッキング、これは堪りません!続くShawのソロをElvin, Youngのバッキングが煽り倒しています!Youngのソロ2コーラス目に入るフロントのシンコペーション多用によるバックリフ、絶妙にしてジャズの醍醐味を存分に味あわせてくれます。思わずレコード演奏に足でリズムを取ったり、裏拍に指パッチンしたり、フレーズの合間に掛け声をかけたり、ジャズ喫茶世代ならではの楽しみ方を思い出してしまいました。ラストテーマはShawのワンホーン、フロント二人の振り分け方がヒップですね!

ラストを飾るのは再びShawのオリジナルBeyond All Limits、本作中最速なスピード感を聴かせる名曲、名演です。結局このアルバムにバラードは収録されていませんでしたがイケイケでオッケーです!Elvinのシンバルレガートが何とたっぷりしている事でしょう!例えるならアメ車最高級クラスの最速時のドライヴ感、安定感、疾走感でしょうか?ハイオク・ガソリンをどんなに消費しても、排ガスの規制を大幅に上回って排出しても構いません!こんなにスイングしていれば!!JoeHenのソロのフォーカス振りも凄まじいです!Shaw, Youngのソロも実にGood!この曲にも存在するオルタネート・テイク、多分本テイク録音後に「もう一度演奏してみよう」と誰かの発案でスタートしたのでしょうが、本テイクで殆ど燃焼してしまった感は否めません。「全ての限界を超えて」とは行きませんでした。

2018.12.10 Mon

Mel Lewis / Mel Lewis And Friends

今回はドラマーMel Lewisの1976年録音のリーダー作「Mel Lewis And  Friends」を取り上げましょう。

tp, flg-h)Freddie Hubbard  ts)Michael Brecker  tp)Cecil Bridgewater  as, ts)Gregory Herbert  p)Hank Jones  b)Ron Carter  ds)Mel Lewis

1)Ain’t Nothin’ Nu  2)A Child Is Born  3)Moose The Mooche  4)De Samba  5)Windflower  6)Sho’ Nuff Did  7)Mel Lewis-Rhythm

Recorded June 8 and 9 and mixed June 18, 1976 at Generation Sound, NYC.  Engineered by Tony May. Musical Supervision by Thad Jones. Produced by John Snyder  Horizon Label 1977

Digitally mastered at Van Gelder Recording Studio, November 1988. Rudy Van Gelder engineer. Digital Producer: John Snyder

Blogを書くべく久しぶりにCD聴こうと自宅の棚から本作を取り出し、何気にライナーノーツを見ると執筆者に自分の名前が! 書いたことをすっかり忘れていましたが、本作がCDで再発された際に参加のMichael Brecker絡みでライナー執筆を依頼されたようです。そしてこの再発リリース時に名手Rudy Van Gelderによるdigital remasteringが施され、レコードでの録音状態よりも格段に音質がクリアーになり、楽器のセパレーションも大変良くなりました。レコード原盤の録音エンジニアが別人でもVan Gelderが登場してCDへのdigital remasteringが当時よく行われたようです。レコードからそのまま何もmasteringのサウンド処理をせずにCD化して(digital, analog音源を問わずCD化には的確なmastering処理が不可欠です)、とんちんかんな音質に仕上がったCDが黎明期によく出回りましたが、Van Geldrerに依頼したのはプロデューサーJohn Snyderの音質への強いこだわりの表れです。こだわりと言えば本作のレーベルHorizonはレコード当時二つ折りジャケットを採用(CDでも踏襲してデジパック仕様です)、ほとんど全てのリリース作品の見開きライナーに他には無い幾つかのこだわりが施されています。録音面では各楽器のステレオ音像の位置、定位を表したカラフルで立体的なダイアグラムが配され、演奏曲の譜面(ここではSho’ Nuff DidとA Child Is Born)、更には収録曲のアドリブソロまで正確に、実に緻密に採譜されています。普通はリーダーのアドリブを採譜するのでしょうが本作はドラマーの作品、特にMel Lewisは派手なソロを繰り出すタイプのプレイヤーではなく、共演者とともに伴奏で自身の音楽性を表現するスタイルなので、フロント楽器かピアニストのソロの採譜、掲載を試みることにしたのでしょう。プロデューサー・サイドとしてはFreddieのブリリアントでテクニカル、華麗なソロも捨てがたく、Hank Jonesの職人肌でリリカルなソロも十分に可能性があったでしょうが、白羽の矢が立ったのはMichael、FのブルースSho’ Nuff Didに於けるソロです。彼らよりも知名度が低く、The Brecker Brothers Bandで前年デビューしたばかりのほとんど無名の新人のソロを採譜して掲載するとはプロデューサーもかなりマニアックですね。でもここでのMichaelのソロはクリエイティヴで素晴らしく、当時の彼のベストな演奏で、掲載するに足る内容だと思います。Snyder氏大英断を下しました。推測するにSnyderはオーディオ好きの楽理派で、何かの楽器の元プレイヤー(サックス?)だと思います。

双頭バンドであるThad Jones – Mel Lewis Orchestraのリーダーとして、ビッグバンドのリズムの要を担当し美しい音色で堅実なビートを繰り出すLewisのリーダー作、本作のコンセプトはThad Jones演奏不参加ながらサド・メル・ビッグバンドのコンボ版と言えましょう。基本的にはFreddieとMichaelの2管がメインのフロントで、Thadはトランペット演奏こそしませんでしたが音楽監督、アレンジャーとして参加、そしてスタジオ内で書き上げたアレンジ、楽曲のアンサンブルを具体化すべくサド・メルの楽団員サックス奏者Gregory Herbertとトランペット奏者Cecil Bridgewaterが急遽駆り出された形です。親分肌で面倒見が良いLewis、ビッグバンドの若手メンバーからもさぞかし慕われていたことでしょう。Thadの急なオファーにも喜んで人肌脱いだ事だと思います。大所帯をまとめていくには音楽性が大切なのはもちろんですが、やはり人柄が物を言います。Melは29年New York州生まれ、ロシア系ユダヤ人を両親に、54年Stan Kentonを皮切りに若い頃からビッグバンド畑を中心に活動しています。人を褒めることを知らない名ドラマー(笑)、しかも同じビッグバンド・リーダーBuddy Richをして “Mel Lewis doesn’t sound like anybody else. He sounds like himself.”と大絶賛されています。こちらもお人柄故かもしれません。

ピアノには大ベテランHank Jones、Thadの実兄です。ちなみにご存知Elvin JonesはThadの実弟、ジャズ界に燦然と輝くJones三兄弟はその音楽性が全く異なってシーンに君臨していたのがとても興味深いです。本作でもソロとバッキング、アンサンブルに味わい深い演奏を提供しています。

ベーシストRon CarterはMelのドラムと完璧なコンビネーションを聴かせ、当時のベーシスト第一人者を印象付けます。この人の存在なくして本作のスイング感は得られませんでした。

1曲目Ain’t Nothin’ Nu、レコーディング前夜にThadが書き下ろしたいかにも彼らしいアップテンポのマイナー・ナンバー。ソロの先発はMichael、エグい音色でグイグイと攻めています。ちょっと気になるのはリズムのノリですが、結構前ノリ、本作中他の曲よりもリズムに余裕がない感じです。ジャズ・リジェンドに常に敬意を払う彼はThad, Mel, Hank, Freddie, Ronと時間を共有出来ることに喜びを感じていた反面、諸先輩方を前にしてかなり緊張気味で演奏に臨んでいました。おそらくこの曲を最初に録音したのでしょうが、さすが曲を経るごとに次第にリラックスして場に溶け込んだ演奏に変わっていきます。続くHankのソロはリラックスした中にもジャズのスピリットを十分に感じさせ、後年大ヒットしたRon Carter, Tony WilliamsとのThe Great Jazz Trioでの演奏を彷彿とさせます。その後のFreddieの素晴らしい音色でのソロ、絶好調ぶりを聴かせますが、何しろタイムが素晴らしい!リズムの丁度良いところ、いわゆるリズムのスイートスポットに音符を確実にヒットさせるテクニックには敬服させられます。アンサンブルではアルトを吹いていたGregory Herbertのテナーに持ち替えてのソロがあり、さらにベースとドラムのバースが行われてラストテーマになります。

2曲目はThadの代表曲A Child Is Born、Freddieのフリューゲル・ホーンがフィーチャーされワンホーンでの演奏です。作曲者を目の前に演奏する気持ちはどんなものでしょうか?でもFreddieは委細かまわずスイングしていますが。ピアノのイントロからバラードでメロディが演奏された後、ボサノヴァのリズムでソロが始まります。うっとりする音色ですがFreddieはいささか饒舌に、続くHankは曲調に合致した美しいソロを聴かせます。ラストテーマはそのままピアノのルパートからFreddieのフリューゲル・ホーンで締めくくられます。全編を通してMelのリムショットとブラシワークでのボサノヴァのリズムが優しい音色で、小気味良いです。

3曲目はご存知Charlie Parkerの名曲Moose The Mooche、ジャズロック風のリズムが意表をつきますが曲のサビではスイングに、ソロの2コーラス目からもスイングに変わります。ソロ先発Freddieは水を得た魚のごときスインガーぶりを発揮、何とカッコいい演奏でしょう!ソロの構成、フレージングの巧みさ、タイム感、楽器のコントロール、非の打ち所がない演奏です!続くMichaelのソロ、ベンドを巧みに用いた出だしから始まります。8ビートのリズムと相俟ってロックギターの如きテイストを感じさせます。ソロの内容も先発Freddieと遜色ないクオリティを聴かせ、さらに1曲目の演奏よりもリズムの落ち着きをしっかりと取り戻しています。Hankのピアノソロはいつも安定感を聴かせ、ジャズの醍醐味に溢れています。トランペットとドラムの8バース、テナーとドラムの8バースと続き、ベースが絡みつつのドラムソロも聴かれます。Ronのよく伸びる音色には彼にしかない色気を感じます。ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目はRonのオリジナルDe Samba、Ronの一連の作風の明るいナンバーです。Freddie, Hank, Gregoryとソロが展開され、エンディングではMichaelも交えてコレクティヴ・インプロビゼーションが聴かれます。

5曲目はピアノトリオでHankをフィーチャーしたWindflower、Melの堅実なブラシワークが要となっています。

6曲目はThadのオリジナル、スタジオ入りしてから曲を書き上げたSho’ Nuff Did、4管編成の重厚なアンサンブル、各ソロの終盤戦に演奏されるバックリフからThad – Mel Orchestraのサウンドを聴き取ることが出来ます。Cecil, Gregory, Freddie, Michael, Hankと比較的淡々とソロが続きますがHankのソロはMichaelに刺激されたのか熱いものを感じます。それにしてもMichael君、よもやここでの自分のソロが採譜されてレコードのライナーに記載されるとは思わなかったでしょう。

7曲目ラストを飾るのはエピローグ的に演奏されたMelのドラムソロ、とはいえシンプルにリズムを刻んでいるだけのものですが。安定したリズム感に定評のあったMelはビッグバンドの他多くのヴォーカリストからもオファーがありました。

2018.11

2018.11.20 Tue

Cityscape / Claus Ogerman

今回は82年録音・リリースClaus Ogermanの作品でMichael Breckerをフィーチャーした傑作「Cityscape」を取り上げたいと思います。

arr, cond)Claus Ogerman  ts)Michael Brecker  p)Warren Bernhardt  ds)Steve Gadd  b)Eddie Gomez(on 1, 3)  b)Marcus Miller(on 2, 4~6)  g)John Tropea(on 2)  g)Buzz Feiten(on 4)  perc)Paulinho da Costa(on 2, 4)

1)Cityscape  2)Habanera  3)Nightwings  4)In the Presence and Absence of Each Other (Part 1)  5)In the Presence and Absence of Each Other (Part 2)  6)In the Presence and Absence of Each Other (Part 3)

Recorded : January 4~8, 1982  Studio : The Power Station and Media Sound Recording Studios, NYC  Label : Warner Bros. Records  Producer : Tommy LiPuma

全曲Ogermanの独創的なオリジナル、深淵な音楽性を湛えたストリングス・オーケストラと緻密にして華麗なアレンジ、当時の音楽シーンを代表する敏腕ミュージシャンの参加、お膳立ては揃いました。フィーチャリング・ソロイストであるMichael Breckerは赴くままに自分のストーリーを語ればよいのです。サキソフォン・ウイズ・ストリングスはCharlie Pakerの昔からサックス奏者の究極の表現形態、ストリングスによるオーケストレーションは弦楽器が生み出す倍音の関係か、サックスの響きをより豊かにゴージャスにバックアップ、そして華やかに仕立て上げます。同じストリングスでもシンセサイザーのデジタルな音色では全く役不足です。本作でのMichaelの音色は彼の参加作品中屈指の素晴らしい「エグさ」を聴かせていますが、ストリングスにサウンドをブーストされた形と認識しています。ちなみにこの時の使用楽器はマウスピースがBobby Dukoff D9、リードはLa Voz Medium、テナーサックスがAmerican Selmer Mark Ⅵ No.86351です。

Claus Ogermanはドイツ出身の作編曲家、膨大な数のアーティストの作品を手掛けていますがその正確な数は不明です。本名はKlaus Ogermann、いわゆるダブル”n”の苗字で、よくある~manのユダヤ系とは異なりますが彼の細部まで徹底的に構築された音楽性を鑑みると、知的作業、芸術的表現のレベルが高いユダヤ系なのではと想像してしまいますが、30年生まれでドイツ在住中第二次世界大戦のホロコーストとは無縁だったようなので生粋のドイツ人なのでしょう。59年に米国に拠点を移しVerve RecordのCreed Taylorの仕事を足掛かりに音楽生活をスタートさせました。因みに本作の印象的なリトグラフによるレコード・ジャケットは、ウクライナ出身のアーティストLouis Lozowickによるもので23年の作品、その名もNew Yorkです。Lozowickの方はユダヤ系のようです。

Ogermanの足跡をダイジェストにCD4枚組にまとめた作品、ドイツのBoutique Labelから2002年にリリースされたその名も「The Man Behind The Music」、収録されているAntonio Carlos Jobim, Bill Evans, Stan Getz, Frank Sinatra, Barbra Streisand, David Clayton-Thomas, The London Symphony Orchestrta等、手掛けたアーティストのあまりの多彩さに驚いてしまいます。

Michaelを最初にフィーチャーしたOgermanの作品が76年録音「Gate of Dreams」、収録曲CapriceでMichaelのダークなソロ聴くことが出来ます。この当時の彼のセッティングはマウスピースがMaster Link(Otto Link最初期のモデル)、リガチャーがSelmerメタル用、リードはLa Voz Med. HardないしはHard、テナーサックスはAmerican Selmer 14万番台Varitone。作品中David Sanborn, Joe Sample, George Benson達とソロを分かち合っています。

この時の演奏の素晴らしさから6年を経て本作へと繋がります。Michael自身の演奏も格段に進歩して今回は一作丸々のフィーチャリングになります。1曲目は表題曲Cityscape、「都市景観」とはジャケットのNew Yorkの景色の事でしょう。本作参加ミュージシャンがNew Yorkを拠点に活躍しているのは偶然か必然か、気心知れたMichaelの演奏に丁々発止とインタープレイを繰り広げています。一つ気になるのはMichaelとリズムセクションは同時録音に違いないと思うのですが、オーケストラ、ストリングスセクションは同録かという点です。89年1月21日、五反田ゆうぽうとで行われたTokyo Music Joy、Michael Brecker W-Unitと題され、Michaelの他Pat Metheny, Charlie Haden, Fumio Karashima, Adam Nussbaumと言うメンバーに小泉和裕指揮による新日本フィル・オーケストラが加わり、Cityscapeを再現するコンサートが開催されました。因みにJack DeJohnetteをドラマーに迎え、Methenyの「80 / 81」も再現する目論見もありましたがDeJohnetteは不参加でした。残念ながらOgermanは来日しませんでしたが、収録曲中In the Presence and Absence of Each Other (Part 1),  In the Presence and Absence of Each Other (Part 2), Cityscapeを演奏しており、ソロイスト〜リズムセクション〜オーケストラ、ストリングスセクションの同時進行が可能であることを実感しました。ただ当日はMichael君あまり調子が良くなく、どうした訳か例えばIn the Presence and Absence of Each Other (Part 1) のメロディを外しまくっていました。コンサート後本人に尋ねたところ、オーケストラの面々とコミュニケーションが上手く行っていなかった事をこぼしており、彼なりに気になる事があったため、いまひとつ集中力を欠いていた模様です。そういえば本作のストリングスセクションを含めたオーケストラに関してのクレジットが故意なのか、たまたまなのか何処にも書かれていません。

あたかも不安感を煽るかのようなストリングスのサウンドにMichaelの耽美的なサックスが絡み始めます。ストリングスの大海原を漂うかの如きMichael流シーツ・オブ・サウンド、その全てが的確な音使いに今更ながら脱帽させられます。ルパート気味に演奏されていましたが2’10″からリズムセクションが加わり、4’20″位からリズムが倍テンポになりMichaelの本領発揮、それに絡むGaddのブラシワークとバスドラムが大変効果的です。その後一旦Fineと見せかけて冒頭の「不安感」セクションに戻ります。Michael吹きっぱなしのオンステージは大団円を迎えます。

2曲目Habanera、ビゼーのオペラ「カルメン」やサン=サーンスの作品にこの名がありますが、元はCubaのリズムの形態の一つの名称で、Habaneraとは「ハバナの」と言う意味です。パーカッション、ギターも参加し、ベースもEddie GomezのアコースティックからMarcus Millerのエレクトリックに代わり前曲とは雰囲気がガラッと変わり、ここでしばしMichael君はお休みでその間オーケストレーションをしっかりと聴くことができます。6’06″から満を持してテナー再登場、最後まで演奏が繰り広げられますが、その後曲のエンディングまでどんなモチーフが必要なのか、どのようなメロディラインを経れば終止感を得られるのかまで、Michaelはお見通し、計算づくでのアプローチかも知れません。

3曲目Nightwings、冒頭フルートや木管楽器のアンサンブルが心地よく響きつつストリングスが絶妙に絡み、ピアノのイントロが始まります。Marcusのベースによるメロディ、その後フランス映画のバックグラウンドで流れているかのようなメロディをストリングがゴージャスに奏で、Michaelのソロが始まりますがこれが素晴らしい!4’15″からの倍テンポでさらにスピードアップ、リズムセクションも同時にヒートアップしてGaddが巧みに煽動します。その後Warren Bernhardtのソロに続きますがGaddの煽りにさらに拍車がかかります。ブラシを使ってこんなにも盛り上がるものなのですね! Bernhardtは MichaelとはSteps Aheadのアルバム「Modern Times」での共演仲間、身長193cmのMichaelよりもさらに背が高く2m近く身長がありそうで、その巨漢から繰り出されるピアノのタッチは実にクリアーかつ端正です。レコードでは以上がSide Aになります。

4曲目から6曲目はタイトルIn the Presence and Absence of Each Other、Part1からPart3まで組曲形式になります。Part1はまさにMichaelのために書かれたかのようなメロディを持つ名曲、そして本作中白眉の演奏です。パーカッションが効果的にサウンドの味付けを施しています。輪を掛けて物凄いここでのテナーサックスの音色にまず圧倒されてしまいます!ストリングスのサポートのなせる技に違いありませんが、加えてソロの入魂ぶりといったら!鳥肌モノです!でも実はこの演奏の立役者はGaddとMarcusなのです。Gadd淡々とブラシでリズムをキープしていたかと思えば、Michaelの演奏に瞬時に反応し、その場にこれ以上相応しいフィルインは有り得ないという次元のフレーズを繰り出します。具体的には6’32″から、そして極め付けは6’50″のフレーズ!ホントに有り得ないです!一方Marcusは全編に渡り自由自在なアプローチでMichaelの演奏をバックアップ、7’00″過ぎた辺りから自在を通り越して自由奔放、好き勝手状態、7’48″頃からMichaelのソロが終わる8’05″まで笑いが止まらない程のメチャクチャやっています!満面の笑みを湛えたメンバー同士の抱擁が録音終了後行われたことでしょう。

5曲目Part2はOgerman自身の別な作品で、タイトルを変えて再演しています。2001年リリースClaus Ogermann / Two Concertos (Decca)

曲名はConcerto For Orchestra Ⅱ ( Marcia Funebre)となり、ほぼ同じアレンジでMichaelのテナーソロ抜きの演奏です。この作品はクラシック作編曲家としてのOgermanにスポットライトが当てられ、自身のピアノ演奏によるPiano Concertoの他、やはり自らコンダクトを務めたConcerto for Orchestra、ふたつの組曲から成っています。こちらも素晴らしい作品です。本作では冒頭からオーケストラをフィーチャーし、エンディング部分でMichaelのソロを聴くことが出来ます。曲想に由来するのかどこか物憂げなテイストを感じさせる印象的なテイクです。因みに作品ジャケットの絵画はNY出身の画家Arnold Friedmanによるもので、多分この画家もユダヤ系と推測されます。

6曲目Part3も前曲と同様にオーケストラの演奏がメイン、最後に閉会の辞を述べるが如く、エピローグとしてMichaelの演奏がほんの20秒程度フィーチャーされます。

2018.11.09 Fri

Will Lee / Bird House

今回はベーシストWill Lee、2001年録音のリーダー作「Bird House」を取り上げてみましょう。 b)Will Lee  p)Bill Lee  ds)Billy Hart  ts)Michael Brecker  tp)Randy Brecker  vibes)Warren Chiasson  vocal)Bob Dorough  tp)Lew Soloff  g)John Tropea 1)Confirmation  2)Now’s the Time  3)Charles Yardbird Parker Was His Name (Yardbird Suite)  4)Ornithology  5)My Little Suede Shoes  6)Cheryl  7)Au Privave  8)Lover Man  9)Donna Lee  10)Hot House  11)Quasimodo  12)Anthropology Recorded at Livewire studios in New York on Feb 16 & 17 2001  Produced by Will Lee  Skip Records ドイツのレーベルSkip Recordsから2002年にリリースされたWill Leeの第2作目にあたるリーダー作。自身のボーカルをフィーチャーしたAOR仕立ての94年リリース初リーダー作「OH !」とは打って変わったコンセプトによるCharlie Parkerトリビュート作品です。全曲Parkerのオリジナル、所縁の曲を取り上げ基本的にオリジナルの雰囲気を残しつつ現代的なテイストを加味して演奏しています。スタジオミュージシャンとしても大活躍のWill、彼の人脈によるNew Yorkメンバーの人選が的確な作品です。Willも勿論いつものエレクトリック・ベースで演奏していますが、アコースティック・ベースとなんら遜色ありません。 Will Leeの父親、教育者として名高いBill Leeが全面的に参加していますが、彼は実際Parkerとも共演歴があるそうです。 WillもBillもWilliamの愛称ですからWill LeeもBill Leeに成り得るのですが、父親と区別するためにWillを名乗っているのでしょう。Will Leeの本名はWilliam Franklin Lee IV、4代続き遡って曾祖父さんまでWilliam Franklin Leeを名乗っていたと言う事ですから 、WillとBillを交互に名乗っていたとするとWillのお爺さんも同じくWillだった可能性が大です。だからどうした、の雑学豆知識ですが(笑)。日本では親子が続けて同じ名前を名乗ることは殆どありませんし、ましてや4代に渡って全く同じ名前を命名し名乗ることもまずあり得ませんが、米国ではごく当たり前の事なのでしょう。 本作のリズムセクションはb)Will, p)BillのLee親子にドラムBilly Hart、演奏曲目により色々なメンバーが加わります。 1曲目ConfirmationにはMichael Breckerが加わります。彼の同曲の演奏で有名なのがChick Coreaの作品81年録音「Three Quartets」が92年CDでリリースされた際に追加されたドラムとDuoのヴァージョンです。てっきり参加メンバーSteve GaddとのDuoかと思われていましたが、どうもGaddにしてはリズムのキレが悪く、彼のセットを使用しているのでGaddのドラムの音色ですが一体誰が叩いているのだろうと話題になりました。Coreaが演奏しているらしいと噂になりましたがMichael本人にも尋ねCorea本人説が裏付けされました。当時Michaelはフュージョン、スタジオミュージシャンとして認識されていましたが、ストレートなBe Bopをこんなに流暢に巧みに、伝統に根ざしつつ、しかも革新的に演奏するのだと感動した覚えがあります。 本作での演奏はThree Quartetsからちょうど20年を経て円熟味を増し、楽器のテクニック、音色の深さ、曲のコード進行の解釈、間の取り方、ユーモアのセンス、リラクゼーション、全てが格段にヴァージョンアップしており本当に素晴らしいテイクに仕上がっています。冒頭8小節間テナーとドラムのDuoでイントロ的に演奏されますが、#11thの音が効果的で以降の演奏の行方を暗示しているかのようです。1’36″からのConfirmationの2ndリフをダブル?トリプル?フラッター?タンギングで演奏し、キメフレーズをBilly Hartがしっかり合わせる部分には思わずニンマリしてしまいます。ピアノソロ後のドラムとテナーの4バーストレードもバッチリです!Hartのドラムソロ、フレーズには彼のオリジナリティを確実に感じ取ることができますし、歌がありますね。ライナーノーツにWill自身の文章で「Mike-thanks for wanting to do this-it’s a profound experiance to make music with you」 Willのまさに狙い通りの演奏をMichaelは届けてくれました。WillとMichaelは70年Dreams「Imagine My Surprise」、Horace Silver Quintet「The 1973 Concerts」、75年The Brecker Brothers Band、76年同「Back to Back」からの付き合い、互いの信頼関係は固い絆で結ばれています。 2曲目僕も大学1年生の時に入部したジャズ研でよく演奏したNow’s the Time、ジャズのブルースの基本テーマです。ここではLew SoloffとRandy Breckerの2トランペット・フロントで演奏されます。Randy, SoloffはBlood Sweat, and Tearsの初代、2代目のトランペッターたちですね。Soloffの方がビッグバンドのリード・トランペットも務めるため、Randyよりも派手な音色ですが、Randyも味のある音色でクールでホットなバトルを繰り広げています。 3曲目はヴォーカリストBob DoroughをフィーチャーしたCharles Yardbird Parker Was His Name (Yardbird Suite)、Dorough自身が作詞した歌詞で歌っています。Parker自身のアドリブ・ソロに歌詞を付けたボーカリーズが行われその後vibraphoneソロ、更にスキャットも聴くことが出来、素晴らしい歌声とスイング感を堪能できます。vibraphone奏者Warren Chiassonは34年生まれのベテラン、Les McCann, George Shearing, B. B. Kingたちとの共演歴があります。片手に2本づつ、計4本のマレット・テクニックを操るvibraphone奏者のパイオニアです。 4曲目はOrnithology 、ピアノのイントロからRandyのワンホーンで演奏されます。流暢なフレージングから彼も若い頃はClifford Brownをよくコピーしたと言う話を思い出しました。 5曲目はvibraphoneをフィーチャーした名曲My Little Suede Shoes、素敵なイントロパートに続くメロディラインとvibraphoneの音色がとても良くマッチしています。僕はChiassonをこの演奏を聴くまで知りませんでしたが、素晴らしいプレイヤーと認識し、ちょっと彼の事を掘り下げてみたいとも思いました。Billのピアノソロはスイングのリズムでは随分と前ノリでしたがカリプソのリズムでは然程気になりません。リーダーの短いベースソロも聴かれますが、この人の4弦ベースに拘ったベーシストぶりには男らしさ感じます。ラストテーマ後再びイントロのメロディに戻りFineです。 6曲目もブルースナンバーCheryl、今度はSoloffのワンホーンで演奏されます。ハイノートをあまり使わずにスイングするソロは正統派ジャズトランペッター然としています。 7曲目はAu Privave、こちらもまたまたブルースですがJohn Tropeaのギターをフィーチャーしています。ギターの独奏による少しアップテンポのテーマ、2コーラス目の途中からピアノのバッキングと手拍子による2, 4拍バックビートが聴かれますが、手拍子はWillでしょう。ギターのテーマがちょっと危なげでたどたどしさを感じさせますが、Tropeaさん普段あまりジャズを演奏していないのでしょうか?ギターソロの最後のコーラスでHartがバックビートにリムショットを入れていますが、テーマでのWillの手拍子を模したものです。こういうセンスには良い意味でどきりとさせられます。ここでもWillのソロを楽しむことが出来ます。 8曲目、Parkerのバラードといえばこの曲Lover Man、Soloffのミュート・トランペットがフィーチャーされピアノと全編Duoで演奏されます。美しい演奏でSoloffの歌心を再認識しました。 9曲目はDonna Lee、ギターとミュート・トランペットのユニゾンメロディ、こちらもトランペットはSoloffです。ジャムセッション風の演奏で、トランペットは演奏の途中からミュートを外しストレートにも吹いています。ちょっと全体にバタバタしている演奏です。 10曲目はTadd DameronのHot Houseを、vibraphoneをフィーチャーして演奏しています。安定したタイム感、的確なフレージング、Chiassonの演奏は4本マレットのMilt Jackson(2本マレットプレイヤー)的なテイストを感じます。 11曲目Quasimodoは再びヴォーカリストDoroughの登場、歌われている歌詞は女性ヴォーカリストSheila Jordanが書いたものです。再びSoloffのトランペットソロが聴かれ、Doroughのスキャットもフィーチャーされます。 ラスト12曲目はリズムチェンジのAnthropology、SoloffとMichaelの2管で演奏されます、先発Michaelは2コーラスという短いソロスペースの中でサムシングを表現しようと、果敢にチャレンジしています。フラジオ音でオーギュメント音G#が割れた音で演奏され、インパクトがあります。

2018.11.03 Sat

Mixed Roots / Al Foster

今回はドラマーAl Fosterの77年録音の初リーダー作「Mixed Roots」を取り上げてみましょう。 ds)Al Foster  b)T. M. Stevens, Jeff Berlin, Ron McClure  p)Masabumi Kikuchi, Teo Macero  g)Paul Metzke  ts, ss)Michael Brecker  ss)Bob Mintzer, Sam Morrison  fl, sax)Jim Clouse 1)Mixed Roots  2)Ya Damn Right  3)Pauletta  4)Double Stuff  5)Dr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis)  6)El Cielo Verde  7)Soft Distant 1977年録音  78年リリース Produced by Teo Macero  Laurie Records Miles Davisのバンドに72年から85年まで13年間在籍したAl Foster、Electric Miles Bandの屋台骨となりMilesから絶対の信頼を得てBand史上最長の在籍期間、多くの名演奏を残しています。基本Fosterは決してラウドにはドラムを演奏せず、音楽的な音量でデリケートに、かつ大胆にビートを繰り出しバンドのリズム、サウンドを牽引します。大変バランスが取れたプレイを信条とするのでMilesにとどまらず、多くのミュージシャンからファーストコールを受けるようになりました。Sonny Rollins, McCoy Tynerに始まり、特筆すべきは晩年のJoe Hendersonのレギュラー・ドラマーを務めた事で、音量の小さいJoeHenとの音楽的相性が抜群、多くのアルバムで互いに信頼関係を築いたミュージシャン同士ならではのコラボレーションを聴くことができます。ひとりのミュージシャンと長きに渡り共演関係を保てるのはそのミュージシャンの音楽性が優れている事の裏返しでもあります。 本作の根底にはMiles Bandのサウンドがありつつも、Fosterなりのジャズ、ロック、ファンクのスピリットを導入し、それらを踏まえたオリジナル・ナンバーを中心とした演奏を聴くことができます。プロデューサーのTeo Maceroの采配もあるでしょうが参加メンバーの人選が異色で、自分自身の音楽を表現するための拘りを感じます。ベーシストに自称Heavy Metal FunkのT. M. Stevensと曲によりJeff BerlinとRon McClure、ギタリストはNYのスタジオ系ミュージシャンでGil Evansの作品にも参加していたPaul Metzke、そしてそして、ピアニストには日本代表としてプーさんこと菊地雅章氏!彼の参加がこの作品の品位を高めたと言って過言ではありません。独自のサウンドを聞かせています。ソプラノサックスにBob Mintzer, Sam Morrison、テナーとソプラノ・サックス持ち替えてのメイン・ソロイストとしてMichael Brecker、期待に違わぬ猛烈な演奏を聴かせており、70年代後期に於ける彼の代表的な演奏に挙げられます。因みに僕が学生時代に聴いたギタリストJack Wilkinsの「You Can’t Live Without It」、ピアニストMike Nockの作品「In Out And Around」と、本作でのMichaelのエネルギッシュでカリスマ性溢れる演奏に僕自身とことんやられてしまいました!そして期せずしてこの 3作でドラムを叩いているのがFosterなのです。 ところで本作はAl Fosterの初リーダー作に該当するはずなのですが、自身のwebsiteのディスコグラフィーには何故か掲載されていません。更に日本コロムビアから翌79年に「Mr. Foster」という第2作目のリーダー作品をリリースしていますが、こちらも非掲載です。Dave Liebman(ss), Hiram Bullock(g)たちが参加したフュージョンサウンドにFosterのボーカルも聴けるというレアなアルバムです。 本作78年リリースはLaurie Recordsという、ポップスやロックのレコードを中心にした米国レーベルからの発売でした。ほとんどジャズ色の無いレコード会社ですが膨大なカタログ枚数を抱えています。Teo Maceroとの縁故関係でのリリースと推測していますが。ジャケットにも同様にジャズの香りはせず、表裏両面とも当時のポップスレコードのセンス、雰囲気で〜というかコンセプト自体がよく分かりませんが(笑)〜本作品の内容とは大きな隔たりがあります。 その後日本ではSonyからジャケット違いでリリースされましたが、輸入盤よりも国内盤の方が流布した関係なのか、日本制作の作品と捉えられがちです。しかしながらMiles Davisの諸作をプロデュースしたTeo Macero監修による正真正銘のMade in USAのジャズ作品です。 Fosterの以降の作品はテナーサックスを迎えたカルテット編成が多く、Chris Potter, Eli Degibriといった精鋭を起用しています。Potterをフロントに擁した97年の作品「Brandyn」には本作収録のDr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis) をThe Chiefというタイトルで再演しています。Milesという人物はジキル博士とハイド氏にしてチーフ的な存在なのですね、きっと。 本作レコード裏ジャケットのライナーには「This album is dedicated to my mother and my four daughters, Thelma, Simone, Michelle and Monique」と自身の女系家族に作品を捧げる旨が記載され、「Thanks to Anthony, Derrick, Preston and Paul for being so helpful」と多分ローディ、レコーディングのスタッフに対する謝辞が有ります。そして「Special Thanks to Teo, Kochi, Mike」とあるのですが、Teoは間違いなくプロデューサーのTeo Maceroの事でMikeも熱演を披露して作品を盛り上げたMike Brecker、問題はKochiですが、本作録音前年の76年8月にプーさんがFosterを迎えてレコーディングした自身の作品「Wishes / Kochi」にあやかってプーさんの事をKochiと呼んでいたのではないでしょうか。彼の本作での労は賞賛に値しますからクレジット掲載も当然です。 1曲目はFosterのオリジナルにして表題曲Mixed Roots、うるさいオヤジがいない分リラックスしたMiles Bandといった趣の演奏ですが、ギターのカッティングとキーボードのシンコペーションのリズム、ベース・パターンが心地よいです。MichaelのテナーとMintzerのソプラノがフィーチャーされていますが、 Mintzer後年の演奏の素晴らしさと比較し、フレージングのクオリティ、滑舌、アイデア、タイム感いずれも今一つの感があり、ソプラノのマウスピースとリードの組み合わせが合っていない事に起因しているように聞こえます。一方のMichaelは確実に何かを掴んだ芸術家、演者ならではの表現の発露を感じます。テナーの音色が素晴らしいですね。本Blogで何度も書いていますが今一度、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、これはクラリネット奏者Eddie Danielsから譲り受けました。リードがLa Voz Medium Hard、リガチャーがSelmer Metal用、楽器本体がAmerican Selmer  Mark6 No.67853。このセッティングにしてからMichaelは新境地に至ったように認識しています。ソロの構成、起承転結の明快さが堪りません。 2曲目もオリジナルYa Damn Right、先ほどはソプラノのメロディが中心でしたがこちらはMichaelのテナーメロディがメインです。先発Metzkeのハードロックテイスト満載のソロの後にMichaelの登場です。フレージングの端々にジャズ的アプローチが聴かれるので、ハードロック・サウンドの中に一味違ったテイストを加味させています。 3曲目もFosterのオリジナルPauletta。この曲からベーシストがT. M. Stevensに変わります。強烈にグルーヴするベースは超弩級です。James Brown, Bootsy Collins, Narada Michael Waldenらとの共演歴のあるT. M.は背の高いがっちりした体格のプレイヤーで、その髪型とサングラスを愛用、ド派手なファッションから映画プレデターの地球外生命体をイメージさせますが(笑)、実はフランクでとてもナイスな人柄です。今は亡き名ドラマー日野元彦氏の音楽生活40周年記念コンサートにT. M.が客演し、その際に僕も共演しました。演奏後彼は大変丁寧に「君の名前は?」「さっきの演奏素晴らしかったよ。今夜はみんなと一緒に演奏出来て楽しかった」と話しかけに来ました。僕にだけでなく共演した若手ミュージシャン全員とちゃんと会話を交わしていたようで、周囲に対する気配りがハンパない気がしました。前の奥様が徳島県出身、一時期T. M.も徳島市に在住していたそうで、地元のアマチュアミュージシャンともよくセッションをしていたという話を聞きました。 Fosterが参加したBob Bergの78年録音初リーダー作「New Birth」にもPaulettaが収録されています。 Bergの演奏ではテーマ前半をテナー・ワンホーンで、後半トランペットが加わり2管でメロディが演奏されていますが、ここでは始めのテーマをプーさんのピアノが(弾きながらの唸り声が凄いです!)、後のテーマをMichaelのソプラノで演奏しています。この演奏は本作のハイライトの一つ目になります。 以前雑誌Jazz Lifeで僕がMichaelに自身の過去の演奏を聴かせてそのコメントを貰うという企画で、このPaulettaを取り上げました。ここでご紹介したいと思います(原文のまま)。 MB : これは本当に久々に聴いたね。プロデューサーのテオ・マセロ(マイルス・デイヴィスのプロデューサーを長年務めた人物)と、この時初めて一緒に仕事をしたんだ。菊地(雅章)の素晴らしいピアノがフィーチャーされているね。レコードの音自体はあまり良くないけど、演奏されている音楽は素晴らしい。いいスピリットが感じられるしね。私は慣れないソプラノ・サックスを吹いていて、それ自体は珍しいものだけど、このプレイは気に入っているね。この後にマウスピースをなくしてしまい、頭にきたのを覚えているよ(笑)。ソロは、ヴォーカルのようにソフトで、際立っているように感じる。楽曲も、誰が書いたか知らないけど、すごくいい曲だね。 ーこれはアルが書いた曲です。 MB : そうなんだ? 素晴らしい曲だよ。 インタビューの発言からいくつかの興味深い点を確認できます。まず自分の演奏を後からほとんど聴く事のないMichaelがこの演奏を聴いており、Teo Maceroとの初仕事だったという認識を持っている。ミュージシャンならば当たり前ですが、自分が録音した作品のレコーディング・クオリティに対する評価を下しつつ的確なコメントを述べている。それにしても気に入ったマウスピースだったでしょうからレコーディング後になくしてしまったのなら、頭にくるよりも落ち込んでしまうと思いますが(笑)。ソロの内容もヴォーカルのようにソフト、とは思えませんが彼のセンスでそのように感じるのならば致し方ありません。そしてソロの際立った感ですが、これは半端ありませんね。珍しく慣れないソプラノを吹いてとは全く聴こえない完璧なコントロールでの演奏、これは謙遜の一種でしょうか?テナーとはまた違った次元での表現を聴かせています。本当に素晴らしい演奏です!そしてPaulettaは美しいメロディ、ユニークな構成を持った大変に良い曲ですが、ドラマーは音楽上の役割とは関係なく、端正なメロディ、意外な発想の構成からなるオリジナルを書く場合が多々あります。ドラマーなりの観点に由来するのかも知れません。 Jim Clouseのフルートがメロディ〜ピアノソロのバックで、微かに聞こえる程度にオブリガートを入れていますが、プーさんの弾きながらの声と相俟って、所々に摩訶不思議なサウンドを聞くことができます。Michaelのソロはメロウな味わいを聴かせつつも次第に複雑化したラインが交錯し、ドラマチックに盛り上がりつつラストテーマへ、その後エンディング部で更なる展開が!こんな演奏を可能にするマウスピースはさぞかし素晴らしいクオリティのものだったでしょうに、無くしてしまうなんて残念としか言いようがありません。 4曲目Double Stuff、本作のもう一つのハイライトです。Milesの「Agharta」「Pangaea」両作(もちろんFosterが演奏しています)のグルーヴを感じさせる演奏で、ここではMichaelに思う存分吹かせていますが、作品中最もFosterとの熱いやり取りが聴かれ、盛り上がるテナーソロをドラムがさらにプッシュしてます。テナーのキーでEマイナーから半音上がりFマイナーになってからMichaelの暴れ方の凄まじいこと!そういえばMichaelと同世代のテナーたちSteve Grossman, Dave Liebman, Bob Bergの3人はMiles Band経験者です。ジャズ・リジェンドにひたすら敬意を払うMichael、友人たちが軒並みMilesとの共演で音楽性を深めたのを見て、さぞかしMilesと共演を果たしたかった事でしょう。モーダルに熱く燃え上がる中にJohn Coltraneのセンスを中心として、King CurtisやMichael独自のファンキーなテイストをスパイス的に聴かせているのが大変効果的です。へヴィーな演奏の重圧感を緩和する役割ですね。ダブルタンギング、完璧なフラジオ、オルタネート・フィンガリング、幾つかの音を同時に響かせる重音奏法〜マルチフォニックス、高速フレーズ、タイトなリズム、実はメチャメチャ技のデパート的ソロでもあります。 5曲目Dr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis)こちらもFosterのオリジナル、彼がやはり参加しているDave Liebman, Richie Beirachらから成るバンド名を冠した81年録音作品「Quest」にも収録されています。 最初のソプラノサックスのソロ、続くテナーソロもMichaelがフィーチャーされています。Foster, T. M.が尋常ではない暴れ方でソロイストを煽っているのでそのためか、3’55″でMichael珍しくメロディ2音先に飛び出して吹いています。プーさんのエレピによるバッキングもMetzkeのカッティングとともに効果的です。それにしてもこの演奏は他よりも突出して異常なまでの盛り上がりを聴かせていますが、too much感を否めません。 6曲目El Cielo Verde、プーさんのオリジナル。スペイン語で緑の空という意味ですが、81年彼の傑作「Susto」のプレヴュー的演奏になります。こちらもMichaelの超絶ソプラノをフィーチャーした演奏、クレジットにはSam Morrisonもソロイストとして挙がっていますがソロはありません。 6曲目はTeo MaceroのオリジナルSoft Distant、ベーシストはRon McClureに替わり、ピアノもTeo自身が演奏しています。冒頭のテナー・ルパート演奏部分がこれまでずっとアグレッシヴな演奏だったので、新鮮に響きます。しかし全体を通しての印象は捉えどころのなさ感でしょうか。特に魅力的なメロディラインや曲構成を持つ曲ではないので、Michaelのゴリゴリ・テナーでの演奏やギターソロに聴きどころを見出すしかなさそうです。

2018.10

2018.10.15 Mon

Echoes Of An Era / Chaka Khan

今回はボーカリストChaka Khanを中心としたオールスターズによる82年リリースの作品「Echoes Of An Era」を取り上げたいと思います。 82年1月14日リリース 81~82年録音 Producer : Lenny White   Engineer : Bernie Kirsch  Recorded at Mad Hatter Studios, Los Angeles, California  Label : Elektra/Musician vo)Chaka Khan  ts)Joe Henderson  tp, flugelhorn)Freddie Hubbard  p)Chick Corea  b)Stanley Clark  ds)Lenny White 1)Them There Eyes  2)All Of Me  3)I Mean You  4)I Loves You Porgy  5)Take The “A” Train  6)I Hear Music  7)High Wire – The Aerialist  8)All Of Me(Alternate Take)  9)Spring Can Really Hang You Up The Most ジャズボーカルとインストルメンタル・ジャズの醍醐味を正に同時に、いや相乗効果で何倍にも楽しめる素晴らしい作品です。R&Bの女王とまで評されるChaka Khanのジャズボーカリストとしての充実ぶりと驚異的な歌唱力、Freddie Hubbard, Joe Hendersonフロントふたりのリラックスした中にも互いに触発しつつ、されつつ火花を散らすアドリブソロの応酬、Chick Coreaの抜群のテクニック、タイム感、音楽性、歌心に裏打ちされたピアノワークと奏者のソロをホリゾンタルに浮き上がらせるバッキング、 恵まれた体格からコントラバスを軽々と扱いこなすStanley Clarkの、生来の才能に裏付けされたベースラインの安定感、本作のプロデューサーとしての立場からバンド演奏の全体を俯瞰しつつタイトなリズム、センスの良いフィルインを繰り出すLenny White、そんな彼らによる実に見事なインタープレイ、よく知られた(手垢にまみれたとも言えますが)スタンダード・ナンバーをCoreaの抜群のアレンジでフレッシュに歌いあげるChakaを、メンバー全員が一丸となって実に楽しげにバックアップしているのです。他のジャズボーカリストでは本作の充実感は得られなかったでしょう。 1曲目Them There Eyes、冒頭からブレークタイムを用いたFreddieのソロ、奥行きを感じさせ箱鳴りがする音場感、マイクロフォンから一定の距離を置いたブース(小部屋)での収録になります。続くJoeHenは逆にかなりオンマイクな音場感でのJoeHenフレーズ炸裂のソロです。ピアノ、ベース、ドラムの録音バランスが実に良いです!「シャー」っとWhiteのトップシンバルにフェイザーが掛かったような質感、タイトなClarkのベースとの絡み合いの素晴らしさが作品のクオリティの高さを既に提示しています。録音エンジニアが多くのCoreaの作品を手掛けたBernie Kirsh、録音スタジオも当時Corea自身が所有していたLos AngelesにあるMad Hatter Studiosでは然もありなんです。そしてChakaのボーカルの登場、よくあるボーカル作品ではボーカルが圧倒的に前面に出て他の楽器が如何にも伴奏者の程を表しますが、出過ぎず引っ込み過ぎず、他の楽器とのバランスが大変に良いと思います。Them There Eyesという小唄を小唄として捉えて決して大げさには歌っていないのですが、その存在感と歌のウマさがパンチのある歌唱力をごく自然にアピールしています。Freddieのソロも惚れ惚れするほどイケイケ絶好調ぶりを聴かせます。Coreaのソロはその思索ぶりが映えるクリエイティブな内容で、Freddieのテイストとはある種対比を成しています。ひょっとしたらCoreaはそこまで考えてソロのアプローチを試みているのかも知れません。メンバーの演奏にインスパイアされ、始めの歌よりもかなりシャウト感のある後歌での、フロントふたりのオブリガードがボーカルをしっかりとバックアップします。 2曲目はお馴染みAll Of Me、イントロ無しでFreddieのミュートトランペットのオブリを従えて外連味なく歌われます。例えばアメリカの有名なポップスシンガーがジャズを歌ったアルバムを聴くと、歌の上手さはしっかりと聴き取ることが出来ますが、肝心なジャズテイストが希薄もしくは皆無で、ジャズの形、名を借りただけのポップス作品としか聴こえない場合があります。Chakaの場合は彼女の歌からしっかりとジャズ・スピリットを聴き取ることが出来る上に、彼女の素晴らしい個性も確実に受け止める事が出来ます。この違いは一体何処から来るのでしょうか?Freddieがオブリに引き続きソロを取ります。間を生かしたスペーシーなソロはCoreaにバッキングの機会を多く与えているのかと思いきや、Coreaは意外と音数の少ないソロにはシンプルに対応し、続くJoeHenのソロにはフレーズの入り方やウネウネフレーズに適宜反応しています。テナーのフレージングを引き継いだピアノソロはごくシンプルに、しかしCoreaならではのサムシングを聴かせています。 All Of Me別テイクの8曲目についても触れ、更に両者を比較してみましょう。Chick Corea a la Thelonious Monk風のピアノイントロから始まります。ドラムスもアタマの歌ではブラシに持ち替えており、テンポも若干早めなので些か風情が異なります。同様に先発はFreddie、本テイクより饒舌なソロなのでCoreaも触発され、リズミックなアプローチのバッキングを聴かせます。JoeHenのソロも本テイクでは聴けない、気持ちの入った熱いHigh F音でのロングトーンが効果的、Coreaも同様に本テイクよりも深い領域に入り込んだ、 Monkish(余談になりますがMichael BreckerはMonk風に、と言う意味で彼のミドルネーム”Sphere”を用いて”Spherical”と表現し、同名のオリジナル曲を書いています)なソロを聴かせています。Chakaも後歌のシャウトでは一層熱いものを感じさせます。と言う訳で別テイクの方がより音楽的にアピールしているのですが、本テイクの方のエンディングのアンサンブルがバッチリとキマっているのでこちらが採用になったのでは、と推測しています。別テイクのエンディングはリズムセクションの足並みが残念ながら今ひとつ揃っていません。曲の作品としてのクオリティを重んじた末のチョイスと判断できます。別テイクの方が内容的には断然良いものがあるが、本テイクの方も決して悪くはない。だとしたら楽曲上完璧な方を採用しよう、とするのはアレンジャー・サイド当然の流れです。恐らく別テイクの方を最初に録音し、エンディング問題を解決すべく再チャレンジで本テイクを録音したのでしょう。別テイク〜本テイクと続けて聴いてみると別テイクの方がずっと勢いがあるのが分かります。エンディング問題は無事に解決しましたが本テイクの演奏は何処か守りに入ってしまった感は拭えません。ジャズは間違いなくファーストテイクが旬なのです! 3曲目はThelonious Monkの名曲I Mean You、作曲者名にジャズ・テナーサックスの開祖Coleman Hawkinsの名前も連ねられています。歌詞はChakaによる自作自演だそうです!ここでの演奏はインストと遜色は無く、Chakaのボーカルはホーンライクです。テーマのシンコペーションを生かしたアレンジもカッコいいです。先発FreddieのソロでのCoreaのバッキング、Monkテイスト満載です!触発されたFreddie、イってます!Coreaは本作レコーディング最中の81年にMiroslav Vitous, Roy Haynesと「Trio Music」をリリースしました。ここではRhythm-A-Ning, Round Midnight, Eronelと言ったMonkのナンバーを多く取り上げ、Coreaの中ではMonkブームだったのでしょう、自己のスタイルからMonkへのスイッチングが全く自然です。JoeHenはソロを取らず続くCoreaのソロはまさしくMonk降臨! 4曲目はGeorge Gershwin作曲のバラードI Loves You Porgy, CDのクレジットにはI Love You Porgyとなっています。もちろん文法的にこちらの方が正しいのですが、黒人英語の特徴の一つとして一人称単数現在でも動詞の語尾に”s”を付けることがあります。この名曲をCoreaが素晴らしいアレンジで再構築しています。ボーカルとピアノのDuo、テーマの[A]の部分をリピートせずに1回でサビの[B]に入ります。情感たっぷりのChakaの歌にホーンが被さり、バックビートを生かした本来は無いインタールードが演奏されます。Coreaはこう言ったアディショナルなパート作りに長けています。サビの部分でCoreaのソロ、JoeHenのオブリ入りで再びインタールードを経て、Freddie〜JoeHenと倍テンポでソロが続きます。更にインタールードがあり、ホーンの裏メロディが入りつつ後歌になりますが、短い間に様々なパートが交錯する緻密で大胆なアレンジは、この曲を誰も経験したことの無い別世界に誘いつつ、聴く者の姿勢を正してしまう程の説得力があります。素晴らしい!エンディングにも更にもうひとパート工夫があり、Chakaのシャウトを劇的に、感動的にまとめ上げています。 5曲目Billy Strayhornの名曲Take The “A” Trainには本作中最も手の込んだ斬新なアレンジが施されています。Chakaのメロディ〜スキャット・ソロに到るまでに、延々と2コーラス以上A Trainの原型はしっかりと在りつつもピアノ、ホーンでの手を替え品を替えのメロディやアンサンブルが繰り出される展開には心底参りました!こんなA Trainは聴いたことが有りません!そしてこれ程のアレンジにも映える、対抗しうるボーカリストはChaka以外には存在しないでしょう。Chakaのスキャットのアプローチも相当ユニークです。その後Freddieの華麗なソロはハイノートでまとめ上げてJoeHenに受け渡しますが、こんなに盛り上げられた後ではさぞかしやり辛そうに思いきや、全く意に介さず淡々と自分のペースをキープしてスイングしています。ベースソロの後、いわゆるシャウトコーラスが演奏されますが、これまた意表を突くホーンのメロディライン、カッコ良いです!エンディングは比較的ストレートに終わっています。 6曲目ハッピーな曲想に対してダークなメロディラインを有するホーンとピアノのユニゾンのイントロが印象的なI Hear Music、曲調とChakaの声質、歌い方が絶妙にマッチしています。[A]メロの5~8小節目を毎回ベースが効果的にユニゾンしています。Freddieが歌に被ってソロを始めますが、本作のホーンのソロは何故か必ずFreddieが先発、長年の付き合いが成せる技かJoe HenはどんなにFreddieが盛り上がってもその後に確実に自己表現を行なっているのが素晴らしいです。ここでもCoreaはMonkの影を拭い去れないようで、シングルノートを中心としたソロから突如としてMonkになってしまいました。ベースソロを経てサビから歌の戻り、エンディングはイントロを再利用してFineです。 7曲目本作唯一のCoreaのオリジナルHigh Wire – The Aerialist、初演はJoe Farrellの79年録音のリーダー作「Skate Board Park」に収録されています。 ここではCoreaを擁したFarrellのワンホーンカルテットで、コンボジャズ・テイストの演奏が聴かれますが、本作では収録曲中のハイライトとして、ボーカルとインストの完璧な融合が成されていると言っても過言では有りません。曲の美しさと構成のカッコ良さ、Chakaの声質、歌い方が見事にマッチング、Chakaのために書かれたかのような曲と感じてしまう程です!そこにホーンの複雑にしてゴージャスなアンサンブルが絶妙に絡みつつ(Freddie, Joehenのアンサンブル能力の高さに今更ながら感心してしまいました!)、リズムセクションのシカケがここぞとばかりに雰囲気を盛り上げ、更にCorea, Freddie,  JoeHenのソロとのインタープレイ、Coreaのバッキングの全ての音が有機的に反応し、壮大な絵巻物の観を呈しています!ボーカルの伴奏、インストルメントとボーカルの融合の一つの理想の形がここに有ります。 9曲目ラストを飾るのは全編ChakaとCoreaのDuoによるSpring Can Really Hang You Up The Most、ただでさえ美しいナンバーを崇高な世界にまで高めつつ更に美の世界を表現しています。情感たっぷりにストレートに歌うChakaの後ろで、Chickがとんでもない色々なバッキングを繰り広げているのが面白過ぎです!Chickのコードワークも然程オリジナルから離れる事が有りませんでしたが、エンディング最後に待ち構えていました!壮絶な代理コードの嵐!Chakaもこの和音でよくピッチが取れるものです!7’57″からの部分で細心の注意を払いつつ歌うChakaも一つの聴きどころです。

2018.10.06 Sat

Merry-Go-Round / Elvin Jones

今回はElvin Jonesの1971年録音リーダー作「Merry-Go-Round」を取り上げてみましょう。 1)Round Town  2)Brite Piece  3)Lungs  4)A Time For Love  5)Tergiversation  6)La Fiesta  7)The Children’s Merry-Go-Round March  8)Who’s Afraid… 71年2月12日(#8)、12月16日(#1~7)録音、72年リリース  Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ  Recording Engineer: Rudy Van Gelder  Producer: George Butler  Blue Note Label 参加メンバーは曲毎に紹介します。 68年から73年の5年間でElvinはBlue Note Labelに於いて計10作のリーダー作をリリースしました。本作はその中の1枚で、Elvin本人の演奏自体はいずれの作品でもクリエイティヴさを聴かせていますが、参加ミュージシャンにより内容や作品の出来具合に差が生じているように感じます。他の作品が比較的小編成で王道のコンボジャズを聴かせているのに対し、本作は曲によってフロント楽器のメンバーを変えて様々なテイストを表現しています。そしてどの曲も演奏時間が短くコンパクトで、コアなElvinや更にはColtraneファンには物足りなさを感じさせますが、多くの聴衆へのアピールを考えるとダイジェスト的な演奏の方が耳に入り易く、ある種Elvinの最もポップな作品集と言えましょう。 全8曲の演奏中71年12月16日に録音された7曲がメインで、8曲目に収録されている同年2月12日録音の1曲は前作に該当する「Genesis」の残りテイクです。レコーディングメンバーも被っているので一応の統一感はありますが、プロデューサーのGeorge Butlerが「Elvin, 今回の録音は曲数十分にあるけれど、全体の収録時間が30分を切っていて28分しか無く、作品としてリリースするには短いんだ」「Yeah George, じゃあこの前リリース(同年9月)したGenesisに入りきらなかった曲があったろ?あれを入れれば事足りるんじゃないか?」「おお、そうだねElvin, that’s a great idea!」と言うようなやり取りがあったかどうかまでは知る由もありませんが、結果Frank Fosterのアルトクラリネットをフィーチャーした、また他とは毛色の変わったナンバーを作品に追加し、バリエーションが増えた形になりました。 1曲目’Round Town<Dave Liebman(ts)Steve Grossman(ts)Joe Farrell(ts)Yoshiaki Masuo(g)Jan Hammer(el.p)Gene Perla(el.b) Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)> Gene Perla作曲の’Round TownはLiebmanとGrossmanのテナーコンビをフィーチャーしたジャズロック風のナンバー、Farrellはホーン・アンサンブル要員として参加、そして前年71年渡米したばかり、我らが増尾好秋氏のギターワークも随所に聴かれます。Liebman, Grossmanを擁した翌72年録音「Elvin Jones Live At The Lighthouse」はElvinのリーダー作中最高傑作の誉れ高い大名盤ですが、ここでの演奏はそのプレヴューとなります。 冒頭のテナーソロはGrossman、レコーディング時20歳になったばかりですが堂々とした風格、テナーの音色の凄み、フレージング、タイム感、こんな事が出来る若僧、一体何者でしょう?続くLiebmanのソロにも彼らしいテイストをしっかりと聴く事が出来ます。オープニングに相応しい身の詰まった軽快なナンバーです。 2曲目Brite Piece<Dave Liebman(ss)Steve Grossman(ss)Joe Farrell(ss)Jan Hammer(p)Gene Perla(b)Don Alias(congas, oriental bells)> Liebman作曲のBrite Piece、自身のダークな曲想のオリジナルが多い中、珍しく明るい曲風なのでネーミングされたのでしょう。「Live At The Lighthouse」CDリリース時の未発表追加テイクにも収録されています。ソプラノサックス3管によるアンサンブルはかなり珍しいですが、3人ともソプラノのヴァーチュオーゾ、大変エグいサウンドが聴かれます。部分的に時折テナーに持ち替えてアンサンブルしているのでは、と錯覚してしまいますが、多分Grossmanの音色があまりに太くてテナーのように聴こえてしまうのでしょう。ソロの先発はHammer、素晴らしいタイム感とブリリアントなピアノのタッチ、溢れ出るアイデア、若干23歳のチェコスロバキア出身のピアニストです。有名な話ですが68年ソ連による首都プラハ侵攻(プラハの春)をきっかけに20歳で渡米、バークリー音楽院で学び、John McLaughlin Mahavishnu Orchestraを始めとして数々のミュージシャンと活動しました。続くLiebmanのソプラノソロは実に「楽器が上手い」と感じさせる演奏で、後年自身の独自のカラーを発揮するようになるとサウンドがより整理され、音楽的なプレイヤーへと転身して行きます。 3曲目Lungs<Jan Hammer(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>Hammerのピアノをフィーチャーしたトリオにコンガが加わった編成での超高速演奏♩=300、凄まじいドライブ感です!Hammerが渡米してアメリカ始め世界の音楽界で活躍したのはプラハの春がもたらした逆の功績かも知れません。タイトルLungsとはHammerのニックネーム、ElvinとPerla、Aliasの鉄壁のリズムに支えられ猛烈にスイングしています。Elvinの実にたっぷりとした1拍の長さと疾走するビート、躍動するリズムに気後れするどころか果敢に、いや全く対等に若者は演奏しています。Elvin, Perla, Hammerの3人で1枚アルバムがリリースされています。75年録音「Elvin Jones Is On The Mountain」PM Label  時代を反映してシンセサイザーやエレクトリック・ピアノが多用されていますが、たまたま電気楽器を用いているだけで、内容はアコースティック・ジャズの範疇です。何しろElvinのドラミングですから! 4曲目A Time For Love<Joe Farrell(fl)Yoshiaki Masuo(g)Chick Corea(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)>Farrellのフルートを全面的にフィーチャーしたバラードです。ピアノがChick Coreaに代わり、再びギター増尾氏が加わります。ピアノ、ギターのバッキングが混在する形ですが二人互いを聴き合い、決してぶつかったりtoo muchにはなりません。Liebmanのフルートも良いですがこういったスイートなバラードではFarrellに敵いません。しっとりとしたテーマ奏の後、ソロでいきなり倍テンポのスイングになりますがこれはColtrane Quartetのやり方、僕自身はバラードで倍テンになるのはバラードを演奏する意味が無いと昔から感じています。しかも僅か8小節間にも関わらず。ラストテーマの後のエンディングはElvinがマレットに持ち替えてアクセントを付けFineです。 5曲目Tergiversation<Chick Corea(el.p)Jan Hammer(el.p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>Perlaのオリジナル、CoreaとHammerふたりのエレクトリック・ピアノを同時にフィーチャーしたユニークな編成での演奏、ミステリアスなムードを湛えつつ、ムチャクチャカッコ良いです!ブレークが多く曲の構成も凝っており、Elvinのブラシワークでのフィルインをたっぷりと楽しめます。スティック時よりも音量が小さいためElvin独特の唸り声も同時にしっかりと楽しめます(笑)。スティックを使用したアップテンポでの大胆且つダイナミックなドラミングに反し、ブラシでの繊細さ、シンバルの絶妙さ、スネアの音色の美しさは同一人物のプレイとは俄かには信じられません!Elvinのドラミングは音楽の森羅万象を網羅しています。 6曲目La Fiesta<Joe Farrell(ss)Dave Liebman(ts, ss)Steve Grossman(ts)Pepper Adams(bs)Chick Corea(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)> 本作の目玉、Coreaの名曲La Fiestaの登場です!実はこの演奏はLa Fiestaの初演にあたり、Corea自身の「Return To Forever」録音の約2ヶ月前に行われました。曲自体のアレンジ、構成の完成度としては既に完璧、更にこの演奏ではLiebman, Grossman, Pepper Adams達による3管編成のサックス・アンサンブル(今では信じられない凄いメンバーでのホーンセクションです!)が施され、大変ゴージャスな仕上がりになっています。後年La Fiestaがビッグバンドのアレンジで良く演奏されたのは、この演奏が基にあったからでしょう。「 Return ~」同様Farrellのソプラノサックスがフィーチャーされており、美しい音色、メロディ、スペースが短いために凝縮された展開ですが素晴らしいソロを披露しています。それにしてもElvinとAliasが織りなす8分の6拍子のグルーヴといったら!「Return~」が中南米の祭り(Fiesta)ならばこちらは間違いなくアフリカ大陸の祭りをイメージさせます。CoreaのソロとElvinのドラミングの織りなすリズムはグルーヴ・マスター同士にしか成し得ない崇高な世界、この時期CoreaはElvinのバンドに出入りしており、互いに惹かれるものがあったと思います。通常この手の演奏は開始時に比べて終了時にはテンポが速くなっていますが、全く変化していません!流石です!そうそう、いくらボスElvinの仕事とはいえソロが回って来ない Grossmanがホーンセクションで大人しくしている訳がありません(汗)。もともとテナーの音色に倍音がとても豊富なので録音時マイク乗りが大変良く、バックのアンサンブルであるにも関わらずGrossmanの音だけが前に出る傾向にありますが、曲が始まった頃は比較的静かだったのがだんだんと音量が大きくなり、本人更に業を煮やした結果か、5’16″~20″はメチャメチャ大音量でセクション・アンサンブルを吹き始め、Farrellの音を掻き消さんばかりの状態になりました。レコーディング・エンジニアRudy Van Gelderが慌てて録音のフェイダーを下げた節が伺えます。でもGrossmanはFarrellの演奏、人柄を認めていたようです。Farrellが逝去した86年1月、直後に来日したGrossman本人にその旨を僕が伝えたところ驚き、その後天を仰ぎ、謙虚に哀悼の意を表していたのが印象的でした。 7曲目The Children’s Merry-Go-Round March<Joe Farrell(piccolo)Dave Liebman(ss)Steve Grossman(ss)Pepper Adams(bs)Jan Hammer(glockenspiel)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)> Elvinの奥方Keiko Jonesのオリジナル、以降のElvin Bandの重要なレパートリー曲になりました。Elvinのマーチングドラム、実に素晴らしいですね!色っぽさも感じさせ、彼のスネアドラムを聴いているだけでワクワクしてしまいます!こんな事が出来るドラマーは他にはいません。Farrellのピッコロ、Hammerのグロッケンシュピール演奏も功を奏しています。「Live At The Lighthouse」ではテーマのアンサンブルの後ドリアンスケール・ワンコードで延々とアグレッシヴなソロが続き、Coltraneの世界をGrossman, Liebmanふたりが分担して表現していましたが、ここでは割愛、テーマのみの演奏になっています。この曲の雰囲気が余りにも他の収録曲と違和感があるので、ジャジーなテイストを表現すべく触りだけでもテナーソロが欲しかったところです。 8曲目Who’s Afraid…<Joe Farrell(ts, ss)Dave Liebman(ts, ss)Frank Foster(alto clarinet)Gene Perla(el.b)Elvin Jones(ds)> Frank Fosterのオリジナル、前述のようにこの曲のみ約10ヶ月前のセッションからのテイクになります。コードレスのジャズロックテイストでFosterのアルトクラリネット(思いの外バスクラに近い音色です)にPerlaのエレクトリック・ベースがユニゾンでメロディを演奏し、FarrellとLiebmanのアンサンブルが絡み、その後Liebmanのソプラノがスネークイン、Fosterの演奏の後ろでフリーキーなソロを次第に取り始めます。割とナゾの演奏ですが、様々なタイプの曲を収録した本作にはむしろ良いアクセント的なテイクになったと思います。

2018.10.03 Wed

Basra / Pete La Roca

今回はドラマーPete La Rocaの初リーダー作「Basra」を取り上げたいと思います。 Recorded : May 19, 1965  Released : Oct. 1965  Studio : Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ  Recorded by Rudy Van Gelder  Blue Note Label 1)Malagueña  2)Candu  3)Tears Come From Heaven  4)Basra  5)Lazy Afternoon  6)Eiderdown Blue Note Label異色のメンバーによる名演奏を収録した作品、選曲も個性的です。参加しているJoe Hendersonは数多くのBlue Note作品で名演を残している言わばレーベルのハウス・テナー奏者ですがSteve Kuhn、Steve Swallow両名はサイドマンとして全くと言って良いほどBlue Noteに録音を残していません。Kuhnは新生Blue Noteから2007年に自己のトリオで「Live At Birdland Steve Kuhn Trio」をリリースするのみ(でも新生の方では名プロデューサーAlfred Lion, Francis Wolff両名の息が掛かっていないので実はさほど意味がないのですが)、Swallowの方も新生Blue Noteに数作参加の他、62年ボーカリストSheila Jordanのリーダー作「Portrait Of Sheila」に参加しているだけで、二人の実力、音楽性からすればBlue Noteと縁が無かった事は不思議ですが、黒人ミュージシャンが中心のジャズレーベルであったがためでしょうか。 当時La Roca, Kuhn, SwallowはArt Farmer Quartetのリズムセクションでもあり、同65年フロントがテナーからフリューゲルホルンに変わった形でFarmerのリーダー作「Sing Me Softly Of The Blues」をリリースしています。全く演奏内容、音楽的傾向が異なるにも関わらずリズムセクションは柔軟に対応し、素晴らしい演奏を残しています。また3人はよほど音楽的、人間的に相性が良かったのでしょう、同メンバーで翌66年Steve Kuhn Trioとして「Three Waves」もリリースしています。こちらの内容もまた違ったテイストを聴かせ、3人の音楽的懐の深さを感じさせます。 La Rocaのドラミングの方はBlue Noteの作品にかなり登場しています。そもそも彼の初レコーディングが57年11月、Max Roachの推薦があって参加が実現したSonny Rollinsの名盤「A Night At The Village Vanguard」、当日のマチネーにLa Roca、ソワレに Elvin Jonesと当時の若手ドラマー二人を使い分けています。ここでの素晴らしい演奏があって59年3月、Rollins Trioの北欧楽旅に同行することになり「St. Thomas Sonny Rollins Trio in Stockholm 1959」を残しています。 もう1作Blue Note盤で是非とも挙げておきたいのがJackie McLeanのリーダー作59年5月録音「New Soil」、Hard Bopテイストから抜け出さんばかりのMcLeanのエナジーの迸りを感じさせる作品、触発されたLa Rocaは収録曲Minor Apprehensionでアグレッシブなドラムソロを展開、あるジャズライターに「前衛ジャズはここから始まった」とまで言わしめました。革新的、刺激的なアプローチを聴かせています。 収録曲を見ていきましょう。1曲目は実に意外な選曲、Cubaの名作曲家Ernesto Lecuonaの作品、6つのムーヴメントから成るAndalusia組曲の中の1曲Malagueña、La Rocaは若い頃に6年間ラテンバンドでティンバレス奏者として活躍し、そこでの経験からのチョイスかも知れません。La Rocaと言う名もその当時の芸名から取られており、本名はPeter Simsです。8分の6拍子のリズムの上でのJoeHenのエグエグな音色によるラテンフレイバー満載のメロディー、印象的なピアノの左手ライン、要所要所では的確なフィルインを繰り出しますが全編比較的淡々とリズムをキープするLa Roca、その上でJoeHenが曲の持つ雰囲気に見事に合致しつつハーモニクス、マルチフォニックスを駆使し、最低音からフラジオ音までJoeHen節満載で縦横無尽に吠え捲ります!Kuhnの暴れっぷりも素晴らしい!ソロイストに思いっきりソロスペースを与えるためにLa Rocaは敢えてリズムキープに回っていたのかも知れませんし、元来ソロイストにシンプルに寄り添うスタイルが信条のLa Roca、自身のドラムソロでは確実に自己の世界を表現しますが、他のプレイヤーのソロのバックで煽ったり、自分から何かを仕掛けるアプローチは一貫してあまり聴かれません。後に触れますがこの事が関係して、彼自身にとってある決断をさせる一因になったのではないかと考えています。ピアノソロの後テーマに戻りますが、一層フリーキーなJoeHenの雄叫びが聴かれ徐々にフェードアウトして行きます。 2曲目はLa RocaのブルースフォームのオリジナルCandu、8ビートが基本のジャズロック風な、時代を反映したグルーヴのナンバーです。ベースパターンがメロディの対旋律を奏でていて、ユニークな構成になっています。JoeHenのソロは相変わらずの絶好調ぶりを聴かせ、続くKuhnのパーカッシヴなソロも印象的です。この頃はアップライト・ベーシストとして絶頂期のSwallowのベースソロが聴かれ、テナーとドラムスによる4バースが2コーラスあり、ラストテーマを迎えます。 3曲目もLa RocaのオリジナルTears Come From Heaven、ロックミュージシャンのオリジナルにありそうなタイトルですがアップテンポのスイングナンバー、32小節1コーラスでコード進行の小節数が多少凝った変則的構成になっています。ここでもJoeHen無敵のスインガー振りを発揮、Kuhn、La Rocaとソロが続きます。ここまでがレコードのSide Aです。 4曲目やはりLa Rocaのオリジナルであり、タイトル曲Basraは中東イラクの港湾都市。ここでのエスニックな曲調はむしろアジアンテイストを感じさせます。1曲目のMalagueñaのスパニッシュと相まってこの作品の独特なカラー付けをしており、他のBlue Noteの作品と一線を画す要因になっています。Swallowのベースソロによるイントロはこれから起こり得るであろう音のカオスを十分に予感させるもので、続くJoeHenのメロディ奏、メロディフェイク、ソロは曲想の中に確実に根ざしながらも違う音の次元への誘いを促しています。La Rocaのドラムソロのアプローチも実に官能的に聴こえます。ところでBasraは昔から領土侵略、政治的問題、石油の利権や宗教問題等様々な火種が常に飛び交い、ここで聴かれるエキゾチックな曲想とは無縁の地域です。La Rocaが演奏旅行で訪れた際の思い出で書かれたのでは無く、遡ってアラビアンナイト〜千夜一夜物語に出てくる砂漠のオアシスの都市、そのイメージで曲が書かれたのでは、と想像出来ます。 5曲目は唯一のスタンダードナンバー、Lazy Afternoonも素晴らしい選曲のバラード、JoeHenの歌いっぷりも良いのですが、Kuhnのバッキング、ソロが秀逸です。 6曲目アルバムのラストはSwallow作曲のEiderdown、ミュージシャンがこよなく愛するSwallowのオリジナル・レパートリーの一曲、Kuhnのソロのアプローチが実に的確で、その後KuhnとSwallowの音楽的コラボレーションが生涯続きますが、既に音楽的相性の良さを聴かせています。 ところでLa Rocaは本作録音の3年後にサイドマンとしての演奏活動をきっぱりと止めてしまいました。生計を立てるためにNew York Cityでタクシーの運転手を始め、その後New York UniversityのLaw Schoolで法律を学び、何と弁護士のライセンスを取得、弁護士としての活動を開始しました。有名な話がChik Coreaを迎えた自身の2枚目のリーダー作「Turkish Women At The Bath」がLa Rocaの同意無しにCorea名義でリリースされた際に自身で訴訟を起こし、敏腕弁護士として勝訴しています。いくら日本よりも米国の方が弁護士資格を取得し易いとはいえ、第一線で活躍していたジャズドラマーが辿る道として相当イバラであった事でしょう。Rollins, McLean, Coltrane Quartet, Charles Lloyd, Paul Bley, Slide Hampton, Freddie Hubbard等、 当時のジャズシーン最先端のミュージシャンと丁々発止と音楽活動を展開していたにも関わらず、演奏活動を突如として止めた経緯について触れた文献は読んだことがありませんが、僕なりに推測するに、安定した素晴らしいサポートを聴かせるLa Rocaのドラミングですが、ドラムソロ以外はこれと言った強力な個性が無く、前述のようにソロイストとの一体感が希薄です。彼以降現れたドラマー達Elvin Jones, Tony Williamas, Jack DeJohnette、しかも彼らは軒並みLa Rocaと共演歴のあるミュージシャン達と演奏していますが、この3人のソロイストとのコラボレーション感には信じ難いものがあります。バンドのアンサンブル能力もハンパではありません。後続のドラマー達の活躍振りに自分の音楽的才能の限界を感じたLa Roca、静かにジャズシーンを去って行ったのではないかと思うのですが。

2018.09

2018.09.20 Thu

Nippon Soul / Cannonball Adderley

今回はアルトサックス奏者Cannonball Adderley Sextetの1963年東京公演を収録したライブ盤「Nippon Soul」を取り上げたいと思います。as)Cannonball Adderley  cor)Nat Adderley  ts, fl, oboe)Yusef Lateef  p)Joe Zawinul b)Sam Jones  ds)Louis Hayes 1) Nippon Soul (Nihon No Soul)  2)Easy To Love  3)The Weaver  4)Tengo Tango  5)Come Sunday  6)Brother John  On#1, 4~6 July 15,  #2, 3 July 14,  1963  Sankei Hall, Tokyo  Producer: Orrin Keepnews  Riverside Label 日本は60年代に入り大物外タレの来日が始まりました。61年1月Art Blakey And The Jazz Messengers、62年1月Horace Silver Quintet、63年1月再びArt Blakey And The Jazz Messengers、そして同年7月Cannonball Adderley Sextetです。ジャズを真摯に受け止め、ジャズプレイヤーを本国とは比較にならない歓迎ぶりで受け入れる日本の聴衆の姿勢に、来日したミュージシャン達は精一杯の熱演で応えていました。本作も例外ではありません。後年なおざりの演奏でお茶を濁す来日ミュージシャンによる演奏も無くはありませんでしたが、本作の演奏の充実ぶりは特筆に値します。当時の東京で来日ミュージシャンの演奏を受け入れる事の出来るキャパのハコはサンケイホール、厚生年金会館、銀座ヤマハホールくらいで、現在では枚挙にいとまがありませんが、本作はサンケイホールにて超満員の聴衆の前に初来日のCannonball Adderley Sextetはその全貌を明らかにしました。このメンバーで活動し始めておよそ1年半、脂の乗った素晴らしいコンビネーション、アンサンブル、インタープレイ、メンバー個々のアドリブソロ、選曲の妙、洒脱なCannonnballのMC、全てにバランスの取れたコンサートです。 1曲目はCannonballのオリジナルにしてタイトル曲Nippon Soul (Nihon No Soul)、和風のテイストは全く存在しない曲です。多分来日直前、若しくは来日中に曲が出来上がってタイトルがまだ決まっておらず、「大歓迎で迎えてくれた日本の聴衆へサービスしなきゃ。ついこの間出たHorace (Silver)の新作もThe Tokyo Blues(62年11月リリース)なんてタイトルだったし。Too Much Sake, Ah! Soなんて日本語のタイトルの曲も入ってたな、我々も負けちゃいられないよ。Tokyo Soulじゃあ二番煎じだからNippon Soulってのはどうかな」とばかりにこのタイトルを付けたのでしょう、ジャズご当地ソングの走りです。でも内容は相当ユニークなブルース・ナンバーに仕上がっています。「アメリカのミュージシャン、名前はCannonball Adderleyが書いた新曲をお送りします」と上機嫌のCannnonball自身によるありがちなギャグMCがあり(笑)、アメリカのジャズグループによる名誉ある最初の東京でのライブレコーディングを行う旨を伝え、実際日本フィリップス〜フォノグラム社がレコーディングを担当しました。曲がスタートします。曲の4小節目の1, 2拍目に可能な限り全員参加によるキメと吹き伸ばしがテーマ〜アドリブの最中毎コーラス入り、メチャメチャインパクトのあるアクセントになっています。管楽器によるメロディをピアノが受け継ぐのもジャズの基本であるコール・アンド・レスポンスを感じさせます。テーマが終わり、Sam Jonesのベースラインが浮き立ち、少しソロっぽいラインが聴かれます。Paul Chambersを彷彿とさせるタイムのOn Topさ、気持ち良いですね。ソロオーダーが決まっていなかったので途中からソロが始まったのかと思いきや、その後のアドリブ奏者全員アクセントの入る4小節目でソロを終えているので、ソロの開始は5小節目からという事になり、Jonesは先発ソロまでのリリーフだった訳です。その後5小節目から先発Natのコルネットソロ、やはりソロオーダーはしっかり決まっていたのですね。彼の正統派然としたスタイルには爽快感があります。続くソロはCannonball、それにしても物凄い音色です!これで生音が小さかったとは到底信じられません!強力にマイク乗りの良い音、効率の良い楽器の鳴らし方、アルトサックスの低音域から中音域を中心に、前人未踏の図太い音色、艶があってコクがあり、音の輪郭もくっきり、タンギングも絶妙です!常にクリエイティヴなチャレンジ精神を忘れないフレージングのアプローチはBenny Carterの流れを汲んでいますが、One & Onlyなテイストを確立しています。因みにCharlie Parkerの具体的な影響は殆ど感じられません。当時の彼の使用楽器ですがマウスピースはMeyer Bros. New York5番、リードはRicoかLa Voz、楽器本体はKing Super 20 Silversonic。彼のMCでの話しっぷりに通じる滑舌の良さ、明快な発音、聴衆を常に意識したはっきりとしたメッセージを受けて、ここで思い浮かぶのがサックス奏者Gerald Albrightのプレイです。実際AlbrightはCannonballのスタイルに影響を受けていると感じますが、正確なタンギングに裏づけされた超滑舌の良いフレージング、はっきりとしたメッセージ性、大好きなサックス奏者の一人です。余談ですがある日僕が楽器店に買い物で立ち寄ったところ、知っている従業員の女性が店の電話で話をしています。どうやら国際電話のようで会話にちょっと困ったような雰囲気です。僕を見かけるなりいきなり「達哉さんは英語喋れますよね?」「挨拶ができる程度ですよ」「私よりもきっと話をすることができるでしょうから、電話を代わってもらえませんか?」「マジっすか?」電話を代わると「Hi!, this is Gerald Albright!」いやはやびっくりしました。何に驚いたかと言えばAlbrightが電話口の向こうにいる事よりもその発音と滑舌の良さにです!彼の演奏をまさに耳にしているかの如く、猛烈な早口にも関わらず明瞭なイントネーションとはっきりとした話し方、電話は相手の顔が見えないので細かいニュアンスが伝わり難いはずですが、Albrightは相手に何を伝えたいかが明確に根底にあるので、実に聞き取り易い英語です。電話の内容は購入したマウスピースを交換したいという事だったと従業員嬢に伝えましたが、Albrightの英語が分かり易かっただけなのに彼女には僕が英語をよく喋れる人と思われました(爆)。Albrightとの電話で話し方と滑舌、喋る内容のメッセージ性は確実に演奏に出るものだと強く実感しました。話が些か横道に逸れてしまいましたが、素晴らしいCannonballのアルトに続くのはLateefのフルートソロです。声を出しながらフルートを演奏するのはRoland KirkやJeremy Steigを彷彿とさせますがLateefの方が寧ろ先駆者かも知れません。Cannonball, Nat, Lateefの3管は全く異なった個性を表現してCannonball Sextet内でしっかりと自分達の役割分担を行なっています。ソロのラストの「吹き切った!」感がハンパなく、オーディエンスのアプラウズが然もありなんです。続くJoe Zawinulのソロ、オーソドックスなスタイルに専念しています。この人はソロプレイヤーというよりも常にコンポーザー、オーガナイザー、プロデューサー的な立ち位置で音楽に向かっているように聴こえます。Cannonballとはウマがあったのでしょう、61年からおよそ9年間バンドに在籍していました。 2曲目、さあお待ちかねCannonball On Stageです!♩=330! 超高速アップテンポのナンバー、本作白眉の名演Cole PorterのEasy To Love、冒頭ドラムスとアルトのデュエットで始まりテーマに入りますがなんと艶やかでブリリアント、猛烈なスピード感でいてリズムがどっしりしているのでしょう、そして何しろ色っぽいのです!63年の東京でこんな演奏が行われていたなんて、日本人として大変名誉な事です!未聴の方はとにかく一度耳にして下さい!僅か3:46の収録時間にジャズの醍醐味を全て感じることが出来る演奏です!テーマやソロ中で聴かれる管楽器のアンサンブルもカッコ良くて適材適所です。一人吹きっきり状態でリズムセクションが悲鳴をあげる寸前にドラムスと4バースが始まりますが、物凄い集中力でCannoballと丁々発止のやり取り、その後ラストテーマに無事到達しました。レギュラーグループだからこそなし得ることが出来る超絶ハイクオリティな演奏です。 3曲目はLateefのオリジナルThe Weaver、CannonballのMCによるとメンバー全員の友人New York在住のLee Weaverに捧げられたナンバーだそうです。こちらもブルース、エキゾチックなイントロから何ともユニークなテーマに突入します。Weaverさんの雰囲気のようなサウンドの曲だそうですが、一体どんな人物なのでしょうか、興味が尽きません。先発Cannonnballのソロは絶好調ぶりを遺憾なく発揮しています。続くLateefは野太い音色でフレージングに時折マルチフォニックス(重音奏法)や効果音的なオルタネート・フィンガリング、タンギングを駆使し、他の二人には無い危なさ、異端ぶりを聞かせてくれます。Natのソロの実に安心して聴けるスインガーぶりが場面を活性化させています。彼のフレージングにはDizzy Gillespieの影響も感じます。オーソドックスなスタイルでの演奏に徹するZawinul、後に展開するWeather Reportの片鱗を微塵も感じさせません。ここまでがレコードのSide Aです。 4曲目はAdderley兄弟の共作によるジャズタンゴTengo Tango、新曲でNatのネーミングだそうです。速いテンポのタンゴですが曲の中身はこちらもブルース、当時のジャズメンはジャズに様々なリズムを持ち込もうと健闘していたように感じます。Cannonballのゴージャスにしてアグレッシブなソロのみフィーチャーされた短い演奏ですが曲想、メロディ、リズム、ソロのバックグラウンドの構成、いずれにも緻密な工夫がなされ印象に残る演奏に仕上がっています。 5曲目はZawinulとJonesの二人をフィーチャーしたDuke Ellingtonの名曲Come Sunday、Zawinulのアレンジが光ります。このような6人編成の大所帯バンドでピアニスト、ベーシストのみにスポットライトを当てられるのはレギュラーバンドならではの特権です。曲の終わりの方に出てくる3管によるハーモニーがまさにEllingtonサウンド、そしてアンサンブル内で聴こえるCannonballのアルトの音色からEllington楽団の名リードアルト奏者、Johnny Hodgesばりの芳醇なビブラートやニュアンスを感じます!美しい! 6曲目アルバムの最後を飾るのはLateefのオリジナルで彼の仲の良い友人John Coltraneに捧げたBrother John、アップテンポ3拍子のややモーダルな雰囲気の曲です。Lateef自身のoboeによるメロディ奏がフィーチャーされます。ジャズサックス・プレイヤーでoboeを巧みに扱えるのはこの人くらいでは無いでしょうか?Coltraneのソプラノサックス演奏を感じさせますが、中近東近辺のエスニックサウンドのようにも聴こえます。その後Natのソロ、最低音域を使ってトロンボーンの様な音色を聴かせます。Cannonballも曲想に相応しいアプローチを取るべく健闘していますが、本作収録63年はColtraneのモーダルなサウンドが熟した頃、その演奏を聴いてる耳にはこの演奏はハードバッパーが頑張ってモーダルサウンドに挑戦しているように聴こえてしまいます。確かに餅は餅屋ですがCannonballがMiles Bandでの盟友Coltraneの音楽を、日本のファンに自分なりの形で披露したかったのかも知れません。

2018.09.16 Sun

The Soul Man! / Bobby Timmons

今回はピアニストBobby Timmonsの1966年録音、リリース作品「The Soul Man!」を取り上げたいと思います。 66年1月20日録音Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey  Prestige Label 1)Cut Me Loose Charlie  2)Tom Thumb  3)Ein Bahn Strasse (One Way Street)  4)Damned If I Know  5)Tenaj  6)Little Waltz p)Bobby Timmons  ts)Wayne Shorter  b)Ron Carter  ds)Jimmy Cobb 35年フィラデルフィア生まれのTimmonsは50年代からサイドマンとして実に様々なミュージシャンと共演作を残し、60年代に入ってからはリーダー作を数多く発表しましたが74年、アルコールとドラッグの過剰摂取に起因する肝硬変で、38歳の若さで生涯を閉じました。時代も良かったのですが50年代〜60年代初頭、全盛期のジャズシーンを全速で突っ走っていたミュージシャンの一人です。 タイトルやジャケットデザインが恥ずかしい位に何とも60年代を反映しています(笑)。参加メンバーを知らずしてしかも未聴での場合、間違いなくソウル、ジャズロック系のアルバムと取り違えてしまう事でしょう。しかし本作の目玉は何と言っても59~61年に共に在籍していたArt Blakey And The Jazz Messengersでの共演者、名テナーサックス奏者Wayne Shorterの参加です。彼の演奏により作品のクオリティ、品位が桁違いに高まりました。Timmonsの他の作品には無い人選です。TimmonsはJazz Messengersに58年から61年まで在籍し、Moanin’,  Dat Dereといったオリジナル曲を提供しレコーディング、結果空前のヒットを果たし、それに伴いJazz Mesengersも名門バンドへと転身します。Shorterの方も59年から64年まで在籍しバンドの音楽監督も務め、Jazz Messengersの音楽性を高めるべくやはり自身のオリジナルやアレンジを提供しました。TimmonsはJazz Messengersを離れてから自己の作品をトリオ編成中心に発表、一方ShorterはJazz Messengers脱退直後64年にMiles Davis Quintetに参加しMilesの作品「Miles In Berlin」「Live At The Plugged Nickel」「E. S. P.」を録音、自身のリーダー作としては「Night Dreamer」「JuJu」「Speak No Evil」と言った代表作を立て続けにレコーディングし、彼の第10作目「Adam’s Apple」録音直前(2週間前)が本作のレコーディングです。「Hey, Wayne, ジャズロック調のオリジナルがあったら今度のレコーディングの時に持って来てくれないかい?」「Oh, yeah, Bobby, 自分のアルバムでレコーディング予定の新曲があるから持っていくよ」みたいなノリの会話があって(爆)、Tom Thumbが収録されたと推測できますが、Shorter自身のリーダー作でTom Thumbは翌67年3月10日録音 3管編成による「Schizophrenia」に収録される事になり、それまではお預けになりました。もしかしたらジャズロックのテイストが強い作品「Adam’s Apple」でTom Thumbを演奏する予定だったとも考えられますが、本作「The Soul Man!」でのレコーディングしたテイクを鑑みて、Shorterは「Tom Thumbはカルテットよりも大きな編成で演奏するのが良さそうな曲なので、今回はレコーディングせずに次作に持ち越そう」と判断したかもしれません。いずれにせよTom Thumbの収録はこの作品のハイライトの一つではあります。 Timmons, Shorterの二人はもともと音楽的志向にかなりの違いが感じられますが、Jazz Messengersに在団していた頃はさほど気にならない、と言うかクインテット〜セクステットの編成の大所帯、そしてBlakeyお得意のナイアガラ・ロールに紛れて(笑)その差異が目立つことはありませんでした。でも本作のようにカルテット編成では顕著です。更に6年以上の時の経過がスタイルや演奏レベルの違いをくっきりと明らかなものにしています。意欲的なリーダー作、ジャズ史に残るような名盤を立て続けに発表し、同時にMiles Davisの薫陶を受けて音楽性を磨かれ、一層研ぎ澄まされた表現力を持つようになったShorter、他方その変わらぬスタイルを良しとされ、「Bobby、我々は君のその演奏を聴き続けたいんだ。スタイルが変わることなんて望んでいないよ」とでも周囲から言われていたのか、十年一日の演奏を聴かせるTimmonsとでは差が歴然です。 収録曲を見て行きましょう。1曲目TimmonsのオリジナルCut Me Loose Charlie、Ron Carterの印象的なベースライン、60年前後Miles Band在団中よりもシャープで的確なドラミングを聴かせるJimmy Cobbのシンバルレガートからイントロが始まるのは、8分の6拍子のブルースです。しかしここで聴かれるShorterのテナーサックスの音色は一体何と表現したら良いのでしょうか?猛烈な個性と存在感、誰も成し得ない唯我独尊、しかし本人はいたって自然体で音楽に立ち向かい、気負うところ無く自分のストーリーを語っています。Otto link Metal Mouthpiece 10番、Rico Reed 4番を使用しているとは到底考えられない楽器コントロールの素晴らしさ、マエストロぶりを発揮しています!一方TimmonsはShorterの個性的で、全てがクリエイティヴな演奏に平然と、いつものやり方のバッキングで答えているのは、然るべき対処法の引き出しが無いからでしょう。空疎な瞬間を感じる時もありますが、やむを得ません、寧ろShorterの演奏がくっきりと浮き上がります。 2曲目は前述のShorterオリジナルTom Thumb、可愛らしいひょうきんな曲調のナンバーです。Shorterのソロは曲の持つ雰囲気を確実に踏まえ、ジャズのアドリブの原点である即興、その瞬間での作曲を行なっているが如きです。テナーサックスのザラザラ、加えてこもった成分が特徴的な音色が、何故かユーモラスさを誘います。「Schizophrenia」でのバージョンと聴き比べてみると3管編成でのサウンドの厚みが曲想に大変マッチしていています。James Spauldingのアルトのメロディ奏とテナー、トロンボーンのユニゾンとの対比も面白いです。ワンホーンでの「Adam’s Apple」の編成拡大版が「Schizophrenia」と言えますが、曲作りやサウンドは前作よりも格段に進化しています。Shorterのテナーの音色もShorter色が一層増しています。 3曲目はCarterのオリジナルEin Bahn Strasse (One Way Street)、同じくCarterのオリジナルThird Planeにどこか似たテイストを感じるのは同じ作者だからでしょう。でもShorterのオリジナルに関しては何れもが個性的、一曲づつしっかり顔があり、似た曲風のものを探すのは困難、と言うか存在しません。Shorterのソロは何処からこのラインが出て来るのかと感心させられる、相変わらずのユニークさを発揮しています。Carterのソロもフィーチャーされていますが、いつものテイストの他に珍しくスラップのような技を披露しています。実際Miles BandではCarterのソロは殆どなく、あったとしてもソロ中にスラップを入れようものなら後からMilesに何を言われるか分かりません。うるさいオヤジが不在だとミュージシャンはリラックスしていつもとは違う演奏になるものです。60年代中頃Miles Davis QuintetがVillage Vanguard出演の際、Milesがインフルエンザに罹り欠場、Carterも同じくインフルエンザでトラにGary Peacockが出演し、Herbie Hancock, Tony Williams達とWayne Shorter Quartetという形で一晩演奏、その時の演奏テープを聞いたことがありますがThe Eye Of The Hurricane、Just In Time, Oriental Folk Song, Virgo等を演奏、メンバー全員Milesの呪縛から解き放たれた素晴らしい演奏を聴くことができました(呪縛時はそれはそれで、緊張感漲る演奏で素晴らしいでのすが)。ここまでがレコードのSide Aです。 4曲目はTimmonsのオリジナルDamned If I Know、軽快なアップテンポのスイングで演奏され、Shorterワールド全開の演奏です!感じるのはJimmy Cobbのドラミングのバネ感の素晴らしさ、Tony Williams張りのビートの提示感とでも言いましょうか、Cobb自身もMiles Bandで自分の後任のドラマーの演奏には少なからず影響を受けた事でしょう。この曲ではCarterの無伴奏ソロがフィーチャーされています。 5, 6曲目はCarterのオリジナルTenaj とLittle Waltz、Tenajはやっぱりバンド用語でJanetの逆読みでしょうか?Carterに新しい彼女が出来て名前を捧げたのかも知れませんね(笑)。ワルツのリズムでテーマやソロの途中テンポが無くなり、ルパートになったり、倍テンポでドラムスソロが織り込まれるような構成で工夫されていますが、次曲Little Waltzに何処か雰囲気が似ています。2曲とも同一の作曲者によるワルツ、曲の並びとしてはちょっと避けたかったパターンですね。Little Waltzの方は彼の69年10月録音のリーダ作「Uptown Conversation」で再演されています。

2018.09.04 Tue

Stan Getz And The Oscar Peterson Trio

今回はStan GetzとOscar Peterson Trioの豪華な組み合わせ、1958年リリース「Stan Getz And The Oscar Peterson Trio」を取り上げたいと思います。 Recorded October 10, 1957 at Capitol Studios in Los Angels  Verve Label  Produced by Norman Granz ts)Stan Getz  p)Oscar Peterson  g)Herb Ellis  b)Ray Brown 1)I Want To Be Happy  2)Pennies From Heaven  3)Ballad Medley: Bewitched, Bothered And Bewildered / I Don’t Know Why I Just Do / How Long Has This Been Going On / I Can’t Get Started / Polka Dots And Moonbeams  4)I’m Glad There Is You 5)Tour’s End  6)I Was Doing All Right  7)Bronx Blues ドラムレスの編成にも関わらず強力なスイング感を押し出すアルバムです。以前にも述べたことがありますが、Oscar PetersonとRay Brownの双生児のように似た超On Topのリズムを、ドラマーEd Thigpenが二人を同時に羽交い締めにして、リズムが前に行き過ぎるのをギリギリ制している構図で成り立っているのがThe Oscar Peterson Trioです。陸上100m競争のスタートラインに着いた走者がスタート合図を待つ直前のエネルギー抑制感と言いましょうか。この作品でのThigpen役がギタリストHerb Ellis、素晴らしいカッティングから繰り出されるタイトなリズムがPeterson, Brownと合わさり鉄壁のスイング感を聴かせています。ここに文句なしのリズム・ヴァーチュオーゾ、Stan Getzのテナーサックス・プレイが加わることで、リズムの縦軸〜横軸がしっかりと組み合わさり、音の空間に恰もつづれ織りの織物が編まれる様相、三つ巴ならぬ四つ巴状態でタイムを聴かせる演奏に仕上がっています。タイムの良いプレイヤーは間違いなく演奏内容も素晴らしいものです。本作の充実ぶりはジャケ写ミュージシャンの笑顔に如実に現れていると言えます。さぞかしメンバー全員レコーディング中に楽しく充実した時間を過ごした事でしょう。 収録曲の内容に触れて行きましょう。1曲目I Want To Be Happy、ここでの演奏に当メンバーでのスイング感のエッセンスが全て凝縮されています。猛烈なリズムの坩堝、その中でもEllisのカッティングを聴くとギターは強力なリズム楽器なのだ、と再認識してしまいます。よく聴けば2, 4拍のアクセント付けの他にさり気なくお茶目な技を沢山披露しています。この業師のリーダー作「Thank You, Charlie Christian」はタイトル通り、尊敬する先輩ギタリストCharlie Christianに捧げられた作品です。本作でのバッキング担当の側面よりも、前面に出てソロイストとしての本領を発揮しています。 PetersonのトリッキーなイントロからGetzの付帯音まみれの素晴らしい音色でテーマ奏が始まります。う〜ん、何とカッコ良くスイングしてるのでしょう!演奏が始まったばかりなのにこの時点で既に納得してしまいます!この位の速さのアップテンポでリズム、ビートの要がドラムスのトップシンバルやハイハットではなく、フルアコ・ギターのカッティングとは実に見事です!勿論その分野の名手でなければやり遂げる事はできませんが。テーマ部の最後のブレークでのピックアップ以降、ベースがそれまでの2ビートから4ビート〜スイングに移ります。はじめの1コーラスはピアノのバッキングはお休み、Ellisのカッティングが繰り出すビートの独壇場です。2コーラス目途中からピアノのバッキングが始まりサウンドが厚くなりますが、その間ずっと続くGetzのソロのリズミックでメロディアス、巧みなフレージング、その展開に舌を巻いてしまいます!Getzの最後のフレーズを受け継いでPetersonのソロが始まります。ピアノを楽々と弾きこなし、鳴らしているのが手に取るが如く伝わります。ピアノを弾くために生まれて来たかのような恵まれた体格、迸るゴージャスさ、生来のテクニシャン。そして8分音符の滑舌、グルーヴに独自のものがあるスタイルはArt Tatum, Nat King Coleの直系ですが、ワンアンドオンリーなテイストを確立しています。その後再びGetzのソロが始まりますがPetersonのソロにインスパイアされたのか、やり残した諸々を的確に披露し更にスイングしています。ラストテーマは再び2ビートフィールに戻り、エンディングの仕掛けにも工夫がなされ、テナーのHigh F#音(Getzの使用楽器ではフラジオ音です)、メジャ−7thの音で終わっています。 3曲目は5曲連続のバラード・メドレー、参加ミュージシャンが一人ずつフィーチャーされます。メドレ−1曲目はGetzの演奏でBewitched, Bothered, Bewildered、この人はバラードが異常なくらい上手ですね、素晴らしい!フェイザーがかかった如きスモーキーな音色、意表をつくメロディフェイクで1コーラスを歌い切ります。続く2曲目EllisをフィーチャーしたI Don’t Know Why I Just Do、16小節ほどの短い演奏です。そしてPetersonの出番、How Long Has This Been Going Onを饒舌さと切なさを混じえて聴かせてくれます。次はBrownのピチカート演奏によるI Can’t Get Started、とても「言い出しかねて」とは思えないハッキリとした、むしろ「仕切りたがり」屋のメッセージを持ったプレイです(笑)。メドレー最後はGetzの再登場でしっかりと締めています。曲はPolka Dots And Moonbeams、テナーの上の音域を生かしたハスキーな語り口、グリッサンドやハーフタンギングを用いつつ美の世界を徹底的に表現しています。 ここまでがレコードのSide Aになります。 4曲目もバラードI’m Glad There Is You、冒頭EllisとGetzのDuoでメロディが演奏されますが、Getzはここでも信じられない程のイマジネーションでメロディを、更にドラマッチックに奏でています。本当にこの人のバラード演奏はいつも聴き惚れてしまいます!他のプレイヤーとは違う別な特殊成分が鳴っているので、何かがテナーサックス楽器本体の中に施されているのでは、とまで考えてしまうほどの音色です!サビをEllisに任せ、ギターの最後のフレーズをBrownがキャッチして反復、「おっ!」とばかりに一瞬出遅れて途中からGetzも参入(これは二人とも凄い瞬発力です!)し、メロディに戻ってFineです。前曲のバラード・メドレーの番外編ですが、また違ったテイストを聴かせてくれました。 5曲目はGetzのオリジナルTour’s End、スタンダードナンバーSweet Georgia Brownのコード進行に基づいています。リズムセクションの仕掛けが面白いです。この曲でもEllisのギターカッティング、Brownのベースが実にグルーヴしています!テナー、ピアノ、ギターとソロが続きますが、伴奏ではあれほど気持ち良いタイムでのカッティングを聴かせるEllisですが、ソロになると若干タイムが早く、音符も短めに感じます。コンパクトな演奏時間にジャズの醍醐味がぎゅっと詰め込まれた演奏に仕上がっています。 6曲目I Was Doing All Right、Gershwinの古いスタンダードナンバーをGetzが小粋に唄い上げます。A-A-B-A’構成、サビであるBの6~8小節目、コード進行が他よりも細かく動くところで、Getzは敢えて音量を小さくしてメロディを吹いています。複雑なコード進行を聴かせるためなのか、何なのか、これはソロコーラス時のフレージングやラストテーマの同じ箇所でも行われており、元々音量のダイナミクスが半端でないGetzにして、一層さり気ない表現のコンセプトを感じます。テナーソロが1コーラス演奏され、ピアノソロが半コーラス、サビからラストテーマになり、エンディングはイントロに戻ります。力の抜けたGetzの鼻唄感覚の演奏を楽しむ事が出来ます。 ラストの7曲目はGetzのオリジナルBronx Blues、取り敢えず曲のキーだけ決めて演奏を始めた感じのラフなテイクです。特にテーマらしいメロディが無いので録音に際して手慣らしで始めたテイクかも知れません。ギターのソロからベース、ピアノ、テナーと加わって行き、各々の短いソロのトレードを繰り返して行きます。Getzのソロで終わりかと思いきや、もう1 コーラス続いてFine、他の収録曲に比べて緊張感を欠いているように聴こえます。90年CDでリリースされた際に4曲が追加されましたが、Bronx Bluesを収録するよりも、よりクオリティの高いテイクがあったと思います。例えばCD10曲目の Sunday、Ellisのギタータッピングによるバッキングが聴かれますが、これは秘密兵器、飛び道具です!全曲タッピングでは飽きてしまうかもしれませんが、1曲だけ入る事で他の曲との対比になり、スリリングなバラエティに富んだ作品に変化します。Getzのソロの途中から普通のカッティングに戻り、ピアノソロで再びタッピング、Ellisさん器用な方ですね!演奏中のPetersonの唸り声も大きくなっている気がします。という事でこの曲をラストの締めに持ってくるべきだったと感じます。

2018.08

2018.08.31 Fri

Boss Tenors / Gene Ammons, Sonny Stitt

今回はGene AmmonsとSonny Stittのサックス・バトルによるアルバム「Boss Tenors」を取り上げてみましょう。 1961年8月27日Chicago録音  Verve Label  Produced By Creed Taylor ts)Gene Ammons  ts,as)Sonny Stitt  p)John Houston  b)Buster Williams  ds)George Brown 1)There Is No Greater Love  2)The One Before This  3)Autumn Leaves  4)Blues Up And Down  5)Counter Clockwise 同じ楽器同士のバトルを聴くのはジャズの醍醐味の一つです。以前当Blogで「Sonny Side Up」でのSonny RollinsとSonny Stittの壮絶なテナーバトルについて取り上げましたが、今回のバトルにもStittが参加しており、そのお相手は極太、豪快テナーのGene Ammonsです。Stittは「Sonny ~」の時とは打って変わり(前作ではバトル相手を意識しすぎて一人ムキになっていましたが、Rollinsの方は自分のペースをキープしていました)、リラックスしてAmmonsとのバトルを心から楽しんでいるように聴こえます。バトルと言うくらいですから格闘技系のファイトも手に汗握り、スリリングですが、この作品のようなお互いを尊重し談笑するが如きバトルも良いものです。ファイター同士の相性、置かれた状況によりバトルの内容は変わります。Stitt, Ammonsのテナーコンビは好評だったらしく62年2月18日「Boss Tenors In Orbit」(Verve)、翌19日「Soul Summit」(Prestige)と2日連続で異なるレーベルに2作立て続けにレコーディングしています。 「Boss Tenors」は61年Verveに移籍したばかりのプロデューサー、Creed Taylorにより製作されています。後年自己のレーベルCTIにて数多くの名盤をプロデュースしていますが、その敏腕はこの作品でも既に発揮されています。ミュージシャンの人選、選曲、ソロの采配、レコードのA面にThere Is No Greater LoveやAutumn Leavesと言ったメロディアスな曲目を配し、B面にBlues Up And Down等のハードブローイングなブルースを置き、メリハリをつけています。若干19歳のBuster Williamsの初レコーディングも特記に値します。Boss Tenorsのタイトルは前年60年にAmmonsがリリースしたアルバム「Boss Tenor」、そして彼のニックネームである”The Boss”に由来します。 Ammons, Stittの2人は45年から49年頃までボーカリストBilly Ecksteinのビッグバンドでの共演歴を持ち、若い頃に同じ釜のメシを食べた間柄、久しぶりの共演もさぞかし昔話に花が咲いた事でしょう。ジャケ写でもStittが自分のマウスピースを指差しながら楽しげにAmmonsに話しかけ、AmmonsもさすがBossの風格でStittに微笑みかけています。 それでは曲目ごとに触れて行きましょう。1曲目スタンダード・ナンバーでお馴染みThere Is No Greater Love、リズムセクションによるオシャレなイントロに引き続きStittがアルトで艶やかにメロディを奏でます。Boss Tenorsなのに何故アルトで冒頭曲を演奏するのかイマイチ良く分かりませんが、その辺のラフさ加減がジャズなのでしょう、きっと。8小節づつ交代にメロディを演奏しますが続くAmmonsの音色のインパクトと言ったら!音の密度とコク、サブトーン、付帯音の豊かさ、テナー音の太さコンテストがあったとしたら上位入賞は間違い無いでしょう。物の本からの情報とジャケ写から判断すれば、この頃のAmmonsの使用楽器はConn 10M、マウスピースはBrillhart Ebolin 4☆(白いバイトプレートが特徴的)、リードはRico 3番と、にわかには信じられないソフトなセッティングです。そしてそして、何より8分音符のレイドバック加減、タイムの位置がとても気持ち良く、僕には完璧です!Dexter Gordonの8分音符も実に素晴らしいタイムの位置で演奏されていますが、そのレイドバックがちょっと度が過ぎるように聞こえる時があります。Ammonsテナーサックスの下の音域を駆使してBossとしての威厳をしっかりと示すべくメロディで最低音のC音に落ち着く時、テーマの16小節目ではそのままサブトーンで演奏して音の太さをアピールしています。テナーサックスを演奏される方ならば最低音のC音をサブトーンを用いて一発で出すことの難しさをご存知だと思いますが、ダーツで常に標的の中心bull’s-eyeに矢を命中させるかの如き精度が要求される奏法です。ソロの先発はメロディを引き継ぎAmmons、ブレークでのピックアップ・ソロから「キメ」ています。Ammonsの8分音符の素晴らしさを先ほど述べましたが1’20″から始まる16分音符によるフレージング、実はイケていません。ここだけに留まらず全般的に言えるのですが、音符の長さが急に短くなりリズムの位置もかなり前に設定され、タンギングも8分音符の際のスムースさがなくなり指とタンギングが合わなくなります。アジと言えばアジには違いないのですが、8分音符の延長線上で確実に16分音符を演奏出来ていたならば、Gene Ammonsの名前はジャズ史にさらに克明に残されていたかも知れない、と僕は感じるのですが。1’28″で聴かれるB♭音でのオルタネート音、4曲目で炸裂するホンカーの兆しを感じさせます。1’38″辺りのLow C音、今回は実音でブリっと出して発音を変えています。ソロは1コーラス、この後Stittのアルトソロが始まります。Ammonsと異なり8分音符自体グッと前で演奏されますが、16分音符は8分音符の延長線上で演奏されるので、それはそれで一貫したものを聴き取ることが出来ます。流暢にフレーズを繰り出すスインガー振りは見事です。3’34″から40″で聴かれるメロディアスなフレーズは、学生時代ジャズ喫茶でこのレコードがかかると皆んなで口ずさんだものです!Stittはソロが長い傾向にありますが、ここでもAmmonsの倍2コーラスを演奏してラストテーマに繋げています。Ammonsのテーマの C音4’32″では低音域に降りず中音域のCに上がって収め、上手い具合に表情を変えています。サビで2管のハーモニーを聴かせるのも粋ですね。ラストは逆順のコード進行で大人のトレードが聴かれ大団円でFineとなり、この曲での代表的な名演奏が生まれました。 2曲目はAmmonsのオリジナルThe One Before、いわゆるリズム・チェンジのコード進行でのナンバーです。ソロの先発Ammonsは1曲目よりもテンポが早い分、8分音符主体で演奏しているのでレイドバック感が生きています。続くStittは音の太さ、豪快さではAmmonsに及びませんが、舞の海状態でフレーズ、技のデパート振りを遺憾無く発揮し場を活性化させています。Houstonのピアノソロ、そしてWilliamsのベースソロに続きます。19歳でこれだけのクオリティのソロを聴かせられるのはやはり栴檀は双葉より芳しですね。 3曲目はお馴染みAutumn Leaves、印象的なイントロからテーマ演奏、1曲目同様メロディを8小節づつ演奏、先発はStitt、後続Ammons共にメロディラインに工夫が施され、あまりにポピュラーなこの曲に当時としては新しい風を吹き込んだのでは、と思います。曲のコード進行にもアレンジが施され、something newを聴かせています。ソロはAmmonsから、アレンジされたコード進行への流暢な処理も含め実に男の色気、歌心をこれでもかと聴かせ、さぞかし女性ファンが多かったのではないかと感じさせます(笑)。Stittも巧みに手持ちの幾多のフレーズの中からその場に合ったものを確実に繰り出し、職人芸を披露しています。続くピアノ、ベースソロを経てラストテーマに突入、エンディングの処理も見事です。同様に枯葉の代表的な演奏の誕生です。ここまでがレコードのSide Aになります。 4曲目は本作のもう一つの目玉Blues Up And Down、Ammons, Stitt共作によるブルース・ナンバー、ツーテナーのセッションで僕も昔よく演奏した曲です。ここでは二人のホンカー振りが炸裂です!イントロからテーマ、ソロは両者で12小節〜4小節と小刻みにトレード(引用フレーズもキマっています)された後Ammonsのソロ本編に移行します。やはり8分音符のノリがしっかりしているので、タイムをどっしりと聴かせます。Stittがフレーズを聴かせるのに対しAmmonsはタイムと音色を中心にアピールしていると受け取れます。フレージングの合間に聞こえる感極まった掛け声はStittに違いないでしょう。中音域C音のオルタネート音を交えながらグロートーン、ドラムスのBrownも良い感じに煽っています!そしてStitt、流麗にソロを構築して行く様は流石!その後両者の12小節〜4小節〜1小節バース、極め付けはルート音連発による2拍バース!否が応でも盛り上がってしまいます!その後は再びイントロに戻り、テーマは演奏されずともFineです。 5曲目最後を飾るのは再びブルースナンバー、Stitt作のCounter Clockwise。テンポがグッと遅い分リラックスした印象を与えます。「反時計回り」の割りにはこちらも先発ソロはAmmons、ブルーノートを中心にレイジーにソロを取ります。シンプルなフレージングですがよく聴くとジャズ的なポイントを所々押さえているので、飽きることがありません。さり気なく流石です!リズムセクションがメリハリを付けるべく倍テンポにチャレンジしますが、Ammonsは意に介さず我が道を行きます。続くStittは相変わらず流れるようにソロフレーズを発しています。ピアノ、ベースソロの後ドラムスとの4バース、テーマに戻り終了となります。お疲れ様でした!

2018.08.23 Thu

Chet Baker / You Can’t Go Home Again

今回はトランペッターChet Bakerの作品、1977年録音リリース「You Can’t Go Home Again」を取り上げてみましょう。 1)Love For Sale  2)Un Poco Loco  3)You Can’t Go Home Again  4)El Morro tp)Chet Baker  ts)Michael Brecker  g)John Scofield  el-p)Richie Beirach, Kenny Barron, Don Sebesky  b)Ron Carter  el-b)Alphonso Johnson  ds)Tony Williams  perc)Ralph McDonald  fl)Hubert Laws  as)Paul Desmond  arr)Don Debesky Recorded At Sound Ideas Studio, NYC  Feb. 16, 21 & 22 and May 13, 1977  Horizon Label  Producer: Don Sebesky 77年フュージョン全盛期にレコードでリリースされた時には4曲収録、2000年本テイクの他に追加テイク、別テイク、未発表テイクが計16曲も加わったCD2枚組で再発されました。多作家で知られるBakerですが、これほどフュージョンとカテゴライズされる演奏をしたアルバムは他にありません。とは言えBaker自身の演奏はいつもの枯れたトランペットの音色で、淡々とソロを取る、特に何か変わった事に挑んでいる訳でもありません。体調も録音時に万全とは言えずミストーンを結構連発していますが(現代ならばパンチイン、パンチアウトのテクノロジーを駆使して修正すると思います)、彼にしか成し得ない味わいを聴かせています。この作品の豪華な参加メンバー、Don Sebeskyの巧みなアレンジ、プロデュース、随所に聴かれる同じくSebeskyアレンジのストリングス・セクションが織り成す煌びやかなサウンド、フュージョン界のスター2人Michael Brecker, John Scofieldのこれでもか!と言う程の超イケイケプレイ、Alphonso JohnsonとRon Carterのエレクトリックとアコースティックのベース・バトル(!)、Tony Williamsのハードロック・テイスト・ギンギンなドラミング、しかもそれらが有名なスタンダード・ナンバー他を題材にしており、レコードのSide A収録の2曲、Side Bの2曲目にはBakerの存在感はありません。リーダー以外のメンバーの音符のスピード感、グルーヴ感、インプロヴィゼーションやインタープレイ、サウンドのセンスのハイパーさはBakerとは全くかけ離れています。このようにリーダーの音楽性やカラーとは全く関係ないところで共演者が恐ろしい程に盛り上がっている様は、戦前国家元首に清朝最後の皇帝、愛新覚羅溥儀を担ぎ出して傀儡政権を樹立した満州国を思い出してしまいます(爆) いささか大げさな表現かも知れませんが、それほどジャズ史上かなり特異な位置に存在するアルバムだと思います。 曲毎に見ていきましょう。1曲目Cole Porterの名曲Love For Sale、イントロからベース、バスドラム、ギターのカッティング、パーカッション、ストリングスが怪しげに響き、これから起こりうるであろう13分近い音のカオスを暗示しています。A-A-B-A構成のこの曲、まずAの部分をBakerが飾り気なくストレートにメロディを吹きます。続くAはMichael Breckerの出番、凄い音圧感です。華麗にメロディを演奏する後ろでBakerがオブリガードを入れています。それにしてもこのテナーの音色、とてもエグいですね!Blogで何度も紹介していますが、使用テナーサックスはAmerican Selmer Mark 6 シリアルナンバーNo.67,853、マウスピースはOtto Link Double Ring6番、リードはLa Voz Med. Hardです。サビに当たるBがスイングのリズムになりますが実にスムースにカッコよくリズムが変わります。さすがMiles Davis Quintetで研鑽し合ったコンビRon Carter~Tony Williams、スイングではCarterのベースが主導権を握ります。Bakerによるテーマも引き続き外連味なく演奏されます。Bサビ後Aメロディは演奏されずにイントロと同じ雰囲気(ヴァンプ)に戻り、ワン・コードでソロが始まります。ソロの先発はBrecker、リーダー自身の先発では企画の趣旨が違って来ます。この時若干27歳!既にどっしり落ち着いた風格を感じさせています。タイム感といいテナーサックスの習得度合、フレージングのアイデア、オリジナリティ、早熟の天才です。個人的にはここでのソロはパターンやリックにやや頼り過ぎてメカニックな印象を与えていると感じます。実は翌78年にはこの点がかなり改善されるのですが。断片的なモチーフを重ねつつソロの構築に挑みますが、その後ろでバッキング担当のメンバーが実に巧みに、研ぎ澄まされた音の空間を埋めています。それも決してtoo muchにならずに。BeirachのおそらくFender Rhodesによるバッキングの緻密なコードワーク、テンションの用い方。John Scoのシャープで遊び心満載のカッティング。TonyがBreckerの2’21″~23″の「割れたHigh F音」のインパクトにロール・フィルを入れています。リズム隊全員がごく自然にその場で瞬時に役割分担をしつつ、最も相応しい音を空間に投入しているかの如くです。何気にMcDonaldが叩くリズム・オンのカウベルが素晴らしいタイムを提供していますが、Bセクション、スイング・ビートになっても2拍飛び出しているのが微笑ましいです。普通後からこの部分は消去されるのですが、ひょっとしたらスタジオ・ライブ感を大切にして音の編集は後被せのストリングスのみ、演奏自体には編集が施されていないかも知れません。MichaelのAセクションでのソロはとことん盛り上がり、起承転結の結は突然訪れますがしっかりと落し前をつけています。Bセクションでのコード進行Ⅱ-Ⅴ-Ⅰのジャジーな音使いには流石、と頷いてしまいます。その後Aセクションも演奏され、再びヴァンプに戻ります。 続くソロ2番手はBaker、自分のペースをしっかり維持しながら歌を繰り出していますが、このメンバーとでは会話の様式が異なっているようです。リズムセクションもどうアプローチしたら良いものかと、探りを入れつつ演奏しているように感じます。Michaelのソロと同様B, Aセクションを演奏して次のソロの3番手John Scoの登場です。ギターの機能を生かしつつのホーンライクなソロ、音色、タイム感、ピッキング、アプローチ、全てカッコ良過ぎです!リズムセクションはもはや水を得た魚状態、Tonyを始めBeirach, Alphonsoの煽り方が尋常ではありません!メチャクチャ盛り上がっています!当時我々はこのようなファンクのリズムでのワン・コードのアドリブ、とことん盛り上がる形態の演奏を「ど根性フュージョン」と呼んでいました(笑) この演奏を聴くとやはりBrecker, John Scoの二人が思いっきり演奏している作品、Herbie Hancockの「The New Standards」を思い出しますが、実はこの作品の一連のコンサートではHerbieがブッチギリでスゴかったです! 同様にB, Aセクションを経て今度はベーシスト二人のバトルが始まります。直前のJohn ScoのフレージングにBeirachが彼らしいレスポンスをさりげなく聴かせています。ベーシスト二人をフィーチャーした作品ならばベース・バトルも聴くことが当然ですが、トランペッターがリーダーで、テナーサックスやギタリスト、パーカッション等のウワモノが参加した比較的大所帯の作品ではとても珍しい事です。しかもエレクトリックとアコースティックとなれば、プロデューサーSebeskyが以前から温めていた企画を実現させたのではないでしょうか。AlphonsoはWeather Reportを前年退団、テクニカルで歌心溢れるプレイには定評がありました。Carterも当時飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍していたスーパー・ベーシストです。どちらかと言えばソロイストと言うよりもバッキングに長けた二人ですが、ここでは丁々発止と掛け合いを行っています。バトルの後半に聴かれる管楽器二人のバックリフも印象的です。ヴァンプからラストテーマはAセクション一度だけ、その後はBaker, MichaelのバトルがBakerのペースにMichael合わせつつ行われ、Fade Outです。冒頭とエンディングの速さが全く変わっていないのでクリックを鳴らしてレコーディングしたのかも知れません、ストリングのオーヴァーダビングの関係もありますから。 2曲目Bud Powellの名曲Un Poco Locoは自身の「The Amazing Bud Powell, Vol.1」収録、スペイン語のタイトルですが意味は英語でA Little Crazy、ここでの演奏はA LittleどころではないToo Much Crazyです!ハードロックのリズムで演奏するなんて作曲者Bud Powellが聴いたら怒り出す、いやいや、むしろ喜んで面白がるかも知れません!サビはスイングで柔らかいBakerのメロディ奏です。対旋律の上昇音階担当、ギターのタイトさといったら!ソロの先発はそのJohn Sco、切れ味良いハードロッカー振りを聴かせます。フレージングはコンディミ・サウンド・エグエグですが!それにしてもTonyってこんなにロックドラマーでしたっけ?そうでしたね、確かに彼のバンドLife Timeはロックバンドでした。Alphonsoのベースが大活躍です!続くMichaelのソロもギンギンのJewish-Coltraneサウンド全開です!(ここでも1曲目同様パターンやリックに頼り気味が気になりますが)そう言えばMichael含めてBaker, John Sco, Beirachは全員ユダヤ系アメリカ人でした。続くBakerのソロは一転してCarterのベースのみ従えてクールダウンした3拍子、Bakerコーナーを設置したSebeskyの采配が光ります。Beirachのバッキングが素晴らしいです!彼は88年5月に没したBakerのトリビュート・アルバムを翌89年にMichael, John Sco, Randy Brecker, George Mraz, Adam Nussbaum達と「Some Other Time: A Tribute To Chet Baker」として録音、リリースしています。 その後はTonyのドラムソロからラストテーマに入りますが、突入合図のフィルイン後一瞬ベースが出遅れて「おっと!」とばかりに態勢を立て直します。ずっとフォルテシモで激しい演奏の中、Bakerの演奏が癒し系になっていると言えば聴こえが良いかも知れません。 3曲目は本作唯一のBaker本領発揮テイク(笑)、Sebesky作曲You Can’t Go Home Again、スイートな曲想にBakerのトランペット、Paul Desmondのアルトサックス、ストリングスが見事に合致します。実に美しい演奏です。再発時に追加された16曲の多くはこちら側のコンセプトの演奏、Bakerはお得意のヴォーカルも披露しています。同じ音楽的方向性を有する管楽器奏者が2人集まることによりサウンドの厚みが倍増以上になりました。2作分の全く異なった作品を同時に録音し、強引に1枚のアルバムに纏めたために無理が生じたように感じます。ピアニストもKenny Barronに交替しますが、時代を反映して彼にもエレクトリックピアノを弾かせています。 曲のタイトルYou Can’t Go Home Againの意味は諺からの転用で、一度家を出て自立を始めれば自分自身も変わり、その家を取り囲む環境も昔と同じではない事から二度と同じ家に戻ることはできないという事です。つまり自立しているなら実家に戻って昔と同じ生活に馴染むことは出来ないと言う意味です。でも最近北米では学生ローンの支払などの為一度独立した後、実家に舞い戻って親と同居する人が増えていてYes, you can go home again! などとも言われているそうです。何処も世知辛いですね! 4曲目アルバム最後のナンバーは再びSebeskyのオリジナルEl Morro、自身の作品75年録音、リリース「The Rape Of El Morro」収録の同曲再演になります。 スパニッシュ・ムード満載のイントロではアコースティック・ギターやHubert Lawsのバスフルートが効果的に使われています。Bakerのスローテンポでのムーディなテーマの後、テンポが変わりMichaelの気持ちが入りまくったメロディ奏になります。分厚いストリングス・サウンドやパーカッションを効果的に用いた壮大なテーマのアンサンブル後、Michaelのソロになります。スペーシーに始まりかなり長いスパンのソロスペースが与えてられていますが、実は冗長さを否定できません。Michaelのソロに統一感が希薄な事に起因してか、共演者に説得力あるストーリーを語りきれずに終始しています。アンサンブルを経てBakerのソロ、この演奏にも特にハプニングを感じる事は出来ませんでした。レコードSide B2曲目はEl Morroを収録せず、You Can’t Go Home Again側の小品を2曲、例えば1曲Bakerのボーカル曲を選び、Side AはHard Side、Side BはBaker本来のSoft & Mellow Sideとはっきりと分割すればかなり印象の異なるアルバムに仕上がった事と思います。

2018.08.18 Sat

Sonny Rollins / The Sound Of Sonny

今回はSonny Rollins 1957年録音の作品「The Sound Of Sonny」を取り上げてみましょう。 1)The Last Time I Saw Paris  2)Just In Time  3)Toot, Toot, Tootsie, Goodbye  4)What Is There To Say?  5)Dearly Beloved  6)Ev’ry Time We Say Goodbye  7)Cutie  8)It Could Happen To You  9)Mangoes ts)Sonny Rollins  p)Sonny Clark  b)Percy Heath(2, 3, 5~9)  Paul Chambers(1, 4)  ds)Roy Haynes Recorded In NYC  June 11(5, 6, 8), June 12(2, 3, 7, 9), June 19(1, 4), 1957    Produced By Orrin Keepnews  Riverside Label 当時最先端のスタジオ・レコーディング用マイクロフォンNeumannの前でSonny Rollinsがサックスを構えるジャケ写が印象的です。実際にはこれ程近づけて収録する事はないので、写真撮影用のポーズと思われます。楽器もAmerican Selmer Mark6、Front F keyの貝殻が小ぶりな事からシリアル5万〜6万番台と推測出来ます。当時の現行モデルですね。 本作は前回Blog「Coltrane Jazz / John Coltrane」でも挙げましたが、「Sonny Rollins, Vol.2」というオールスターによるハードバップの名作をレコーディングした直後の作品、前作が大熱演だったためかリラックスした内容に仕上がっています。更にウラ「Saxophone Colossus」とも称される次作「Newk’s Time」に挟まれた形になります。本作録音の57年と言う年はモダンジャズの黄金期、最も華やかに煌びやかにジャズが賑わっており、ジャズ史を代表する名盤が量産されました。Rollinsも同年は「 Sonny Rollins, Vol.1」(Blue Note)「Way Out West」(Contemporary)「Sonny Rollins, Vol.2」(Blue Note)「The Sound Of Sonny」(Riverside, 本作)「Newk’s Time」(Blue Note)「A Night At The Village Vanguard」(Blue Note)「Sonny Side Up」(Verve, Dizzy GillespieとSonny Stittとの共同名義)とリーダー作を1年間に7作も立て続けにレコーディング、しかも何れもがRollinsの代表作なのです。飛ぶ鳥を落とす勢いとはまさしくこの事、快進撃を遂げていました。これら7作品中本作が最も小唄感が強く、1曲の演奏時間も短いためにメンバーとの丁々発止のやり取り、熱く燃えるソロはあまり聴かれず、どちらかと言えば比較的影の薄い存在のアルバムですが〜単に他の作品が濃過ぎるのかもしれません(汗)〜、僕はRollinsの演奏の原点がスポンテニアスな「鼻唄感覚」と捉えているので、彼のエッセンスがシンプルに発揮された作品としてずっと愛聴しています。フルコースの晩餐も良いですが猛暑にはやっぱりざる蕎麦でしょう(笑)。更に収録曲には各々Rollins本人と思われる、曲の魅力を十分に引き出しているアレンジが施され、聴き応えを倍増させています。後ほど触れますがアレンジのテーマは「ブレーク」です。 Riverside LabelからRollinsの作品がもう一枚リリースされています。58年録音「Freedom Suite」 こちらはb)Oscar Pettiford  ds)Max Roachとのテナー・トリオでの作品、表題曲Freedom Suiteが19分以上の演奏時間から成る、リズムやテンポ・チェンジを繰り返しつつ進行する組曲で、レコードのA面を1曲だけで占めている当時としては珍しい形態の意欲的な作品です。本作とは対照的なコンセプトの作品です。 ピアニストSonny ClarkはRollinsと初共演、的確なアプローチのスインギーなソロを聴かせ、Rollinsのソロにも付かず離れずのバッキングで対応しています。翌58年には名盤「Cool Struttin’」を録音していますが、63年1月ヘロインの過剰摂取による心臓発作で31歳の生涯を閉じました。 ドラマーRoy Haynesは25年生まれ、現在93歳(!)、Lester Young, Charlie Parker, Bud Powell, Sarah Vaughan, Stan Getz, Chick Coreaとモダンジャズのレジェンド達との共演、その枚挙には遑がありません。Rollins自身も30年生まれの今年88歳、本作録音から61年経た現在に於て参加ミュージシャンが二人も存命とは素晴らしく長寿です!Rollinsのリーダーセッションとしては初リーダー作「Sonny Rollins With The Modern Jazz Quartet」収録のMiles Davisがピアノを弾いている謎のナンバー、I Knowで共演を果たして以来です。因みにその時のベーシストも本作のPercy Heathです。もう一人のベーシストPaul ChambersはRollinsのお気に入り、RollinsオリジナルのPaul’s Palで彼への思いを表しています。 本作は57年6月11, 12日のセッションではHeathを、6月19日のセッションではChambersを起用しています。Chambersが演奏するテイクは1曲目と4曲目のバラードです。Heathのベースには安定感がありますが些かタイムが重いように聴こえます。一方Chambersは当Blogでも何度か触れていますが、On Topを信条とした素晴らしいベース・ワークを聴かせています。Rollinsもレイドバックしたタイム感が実に素晴らしく、このタイム感とOne And Onlyのテナー音色が合わさりRollins節を聴かせるのですが、レイドバックの必要条件としてリズムセクション、特にベーシストのOn Top感が欠かせません。Heathのベースで一枚アルバムを作りたかったけれど(そのために通常のレコーディング・スケジュールで2日間連続拘束)、どうしても1曲目のシカケのある曲とバラード2曲のテンポが遅くなってしまうので、確実に安定した演奏を提供できるChambersを呼び、他は同じメンバーで1週間後に再演したのでは、と想像しているのですが如何でしょうか。だったら初めからChambersを呼べば良いだろうとは友人の弁です。 その1曲目The Last Time I Saw Paris、Parisを題材にした曲は数多くありますが、こちらは如何にもブロードウェイ・ミュージカル・ナンバー、ユーモラスな雰囲気を感じさせるのは曲想の他にリズムセクションのシカケも要因です。この曲のみピアノレスのトリオ編成なので余計にシカケがくっきり浮き上がり、テーマ後の小節のアタマにアクセントが入り1小節ブレーク、そのまま1コーラス32小節丸々このシカケが入ります。Haynesも茶目っ気があるので25, 29, 31小節目に複数のアクセントを連打しています。合計3コーラスをRollins一人の吹きっきり状態、ブレークをものともせずソロを構築して行くスイング感、センスには脱帽してしまいます!この曲のベーシストはChambersですが冒頭のテンポに比べて後テーマは流石にブレークを繰り返したために若干テンポが遅くなっています。ChambersをしてもこうですのでHeathならばどうであったのか…Rollinsのソロ終了直後1’52″で「アッ」と声が入りますが声の主は多分Haynes、テナーソロの素晴らしい出来栄えに思わず声が出てしまった感じの発音です。 2曲目Just In Time、こちらもブロードウェイ・ミュージカルの代表的ナンバー、小気味好いテンポ設定にメロディを3拍-3拍-2拍に分割して変拍子のように聴かせています。更に2小節のブレーク時、オクターブ下でのメロディ奏に対し一人Call And Response状態、敢えてオクターブ上でのカッコいいフィルインを吹いています。本編のソロも決してtoo muchにならずメロディを踏まえて小粋にスイングしています。続くSonny Clarkのピアノソロ、Wynton KellyやRed Garland, Tommy Flanaganとはまた異なるテイスト、僕はかなり好みです。続くHaynesとの4バース、こちらもPhilly Joe JonesやMax Roach, Art Blakeyとは全く異なる独自のドラム・フレージング、こちらも相当好みです。 3曲目Toot, Toot, Tootsieは27年のThe Jazz Singerと言うミュージカル映画から、古き良きアメリカの雰囲気満載のナンバーです。チャールストンというリズムでClarkもそのコンセプトを把握したバッキングに徹しています。ピアノソロ後に一瞬ベースの音が聞こえなくなるのはドラムソロか、自分のベースソロかとの選択を迫られ躊躇した結果でしょう、生々しさが伝わります。結局ドラムとの4バースに突入、その後半音づつブレークをしながら同一フレーズで3度転調を繰り返し、Cメジャーから単3度上のE♭メジャー(in B♭)にキーが変わりラストテーマは演奏されずにエンディングを迎えます。これまたブレークを生かしたカッコいいアレンジが施された演奏になりました。 4曲目はバラードWhat Is There To Say、こちらもベーシストがChambersに代わります。サブトーンを生かした「ザラザラ、シュウシュウ」豊富な付帯音でのテーマメロディ奏の後ピアノソロが先発します。その際一瞬Clark「えっ?オレなの?」と予期せぬRollinsからのソロ先発依頼、バッキングのつもりの音使いから急遽ソロに突入です。その後テナーがサビからメロディフェイクを交えつつラストテーマへ、サビ後はキーが半音上がり、更にカデンツァを経てFineです。 5曲目Dearly Belovedもブレークを生かした仕掛けが施されています。1曲目に似た構成ですが、こちらはアドリブソロの1コーラス目初めの8小節間1小節ごとにブレーク、その後の8小節は普通にスイング、更に8小節間1小節ごとのブレーク、8小節間スイングとなっています。こちらはある程度の早さのテンポ設定なので、テンポダウンする事はありませんでした。エンディングは3曲目と方法は異なりますが、同様に単3度上がってFineを迎えます。 6曲目Cole Porterの名曲Every Time We Say Goodbye、ペダルトーンが効果的に用いられたユニークなイントロに被りながら、リバーブが効いたテナーが遠くからやって来たかのように登場します。61年発表のJohn Coltrane「My Favorite Things」収録、ソプラノでの同曲のバラード演奏とはテイストが随分と異なります。 7曲目はRollinsオリジナルCutie、作曲者が同じなので仕方がない事ですが、やはりRollinsのオリジナルDoxyに何処か似たテイストの明るいナンバーです。Rollinsのソロ後本作唯一のHeathのベースソロが聴かれます。 8曲目は本作の目玉、テナー無伴奏ソロによるIt Could Happen To You。このテイクは他とは異なりリバーブ感が強く出ています。曲のメロディは断片的に出てくるだけで、たっぷりゆったりとスペースを取りながらおおらかに歌い上げており、最低音域のサブトーンと実音の使い分けに表情を感じさせます。エンディングは#11thの音を吹き伸ばし、半音上がった5度の音で解決しています。ここでの演奏がその出来映えはどうであれ、28年後の85年6月19日NYC MoMAで行われたRollins自身のテナーサックス・ソロ・コンサートを収録した「The Solo Album」に繋がります。 9曲目は本作の最後を飾るラテンナンバーMangoes。Haynesはラテンのセンスも良く、軽妙なドラミングを聴かせています。イントロ、テーマのメロディの合間に挿入されるフィルインも小洒落ています。この曲の持つ陽気な雰囲気は実にRollinsの音楽性に合致しています。スイングのリズムも交えながら曲が進行し、ラストテーマの吹き方もステキです!そしてユーモラスにアルバムの大団円を迎えます。

2018.08.09 Thu

John Coltrane / Coltrane Jazz

今回はJohn Coltrane6枚目のリーダー作、1961年リリース「Coltrane Jazz」を取り上げてみたいと思います。 1)Little Old Lady  2)Village Blues  3)My Shining Hour  4)Fifth House  5)Harmonique  6)Like Sonny  7)I’ll Wait And Pray  8)Some Other Blues ts)John Coltrane  p)McCoy Tyner(on 2 only)  p)Wynton Kelly  b)Steve Davis(on 2 only)  b)Paul Chambers  ds)Elvin Jones(on 2 only)  ds)Jimmy Cobb Recorded: Nov. 24, 1959(1, 7)  Dec. 2, 1959(3~6 & 8)  Oct. 21, 1960(2)  Producer: Nesuhi Ertegun  Atlantic Label Coltraneの代表作にして傑作「Giant Steps」の次作にあたりますが、1曲目Stardustで有名なHoagy Carmichael作の小粋なミディアムアップテンポの歌モノLittle Old Ladyから始まるので、小唄特集のように捉えていました。Sonny Rollins(本作中彼に捧げられたナンバーも収録されています)にも57年録音、リリースの「The Sound Of Sonny」という作品がありますがJ. J. Johnson, Art Blakey, Horace Silver, Thelonious Monk, Paul Chambers等と、とことん熱く終え上がったハードバップの傑作「 Sonny Rollins, Vol.2」の次作に該当し、それ故か全編クールダウンしたスタンダードナンバーの小唄特集(いずれも演奏時間が短いです)が逆にとても心地良いのです。 プロデュース・サイドも「Giant Steps」の作品冒頭でのインパクトがあまりに強烈だったので次作は穏やかに、スロースタートで開始しようと目論んでいた事でしょう。Coltraneのリーダー作にしては珍しくピアノソロから始まっています。確かにLittle Old Ladyの和み系の曲調、演奏はいつになくリラックスしたものを感じさせますがColtrane自身のソロの内容の素晴らしさ、本作品の収録8曲中5曲がColtraneの強力な個性を湛えたオリジナル、他の3曲もジャズミュージシャンはあまり取り上げる事のないスタンダード、そしてそのチョイスのセンス、さらには直後開始されるピアニストMcCoy Tyner, ドラマーElvin Joneを擁するジャズ界をリードしたオリジナル・カルテットでの最初の演奏が収録されているなど、充実した内容の作品なのです。文字通り「Coltrane Jazz」が表現されています。 Atlantic Labelの録音はBlue Note, Prestige担当のエンジニアRudy Van Gelderとは全く異なり、飾り気のないストレートな音色に仕上がっているので、Coltraneの音色を生々しく聴くことができるとも言えます。 演奏曲目に触れていきましょう。1曲目Hoagy Carmichael作Little Old Lady、自身は36年にかなりゆっくりとしたテンポで初演しています。偶然でしょうが、かのMiles Davisが敬愛してやまなかったピアニストAhmad Jamalがほとんど同じ頃(1960年6月、Coltrane Jazzリリース前)に自己のトリオで録音しており、遊び心、余裕の快演を聴かせています。「Happy Moods」Argo Label Coltraneの演奏は独特なテナーサックスの音色、ほとんどビブラートをかけずにストレートにメロディを演奏することから一聴してすぐに彼と分かる個性を発揮しています。ジャケット写真に写っているマウスピースとネックコルク部分に見える白いものは、コルクが緩いのでマウスピースを安定させるために巻いているただの紙です。マウスピースを頻繁に取り替えているとネックコルクが痛み易く、弾力性がなくなり、紙などで厚みを持たせなければならなくなります。松本英彦さんがNewport Jazz Festivalに出演した際Coltraneの楽屋を表敬訪問し、バッグ一杯にマウスピースが入っていたのを目撃、「好きなのを持って行って構わないよ」とColtraneに言われた話は有名ですが、さぞかし日常的にマウスピースを取っ替え引っ替えして音色や吹奏感を向上すべくチャレンジ、研究していたのでしょう。それにしてもその膨大な数のColtraneのマウスピースは一体どこに行ってしまったのでしょうか?息子のRavi  Coltraneと話をした時には特にその話題は出ず仕舞い、晩年共演していたPharoah Sandersのところに譲渡された?Coltrane研究家のテナー奏者Andrew Whiteのところへ?因みにSandersはヴィンテージ・マウスピースが大のお気に入り、来日時には東京・石森管楽器を訪れて店頭にあるヴィンテージ・マウスピースを吹くのが楽しみなのだそうです。Coltraneが愛用していたOtto Link Tone Master Model、Otto Link社に特注で何本か製作依頼していたらしいのですが、その場合本人の名前がマウスピースに必ず刻印されます。写真は40年代にStan Kentonのビッグバンドで活躍したテナー奏者Vido Mussoの名前が刻印されたOtto Link社Master Link Model特注マウスピースです。写真中央の窪み右寄りのところに、見難いですがVIDO MUSSOとあります。 John ColtraneないしはイニシャルでJ Cとマウスピースの横側、あるいはマウスピースのテーブル部分に刻印されたOtto Link Tone Master Modelが存在したら、かなりの価格が付けられることでしょう。あらゆるものが発掘される昨今、ひょっこりと現れるかもしれません、その際には是非吹いてみたいものです。 演奏内容に戻りましょう。Wynton Kelly のソロ後Paul Chambersのソロを挟み、Coltraneの登場です。スタンダードナンバーにこのようなアプローチで演奏を試みたプレイヤーはColtraneがパイオニア、「誰にも似ていない」オリジナリティは驚異的です。そのままラストテーマに突入しています。3’03″でColtraneにしては珍しく伸ばした音の語尾に一瞬ビブラートをかけています。 2曲目ColtraneのオリジナルVillage Blues、この曲のみリズムセクションがp)McCoy Tyner  b)Steve Davis  ds)Elvin Jonesに替わります。そしてColtraneがMcCoyとElvinとの初共演のレコーディングになります。ベーシストSteve Davisはごく短期間の在籍、その後Reggie Workman、そして以降不動のJimmy Garrisonに替わり数々の名演奏を残したJohn Coltrane Quartetの誕生となります。ベーシストがなかなか決まらなかったので、本作でも共演している盟友Paul Chamberを採用し、McCoy, Elvinと組ませる考えもColtraneの頭の中にあったと思いますが、ビート〜リズム的にコンビネーションが良くても、サウンド的にはスリリングなレベルまで行かないだろうと考え断念したのでしょう。Chambersはハードバップを代表するベーシストですから。曲自体はミディアムテンポのブルース、キーはC。まず気付くのはドラムのリズムです。前曲のドラマーJimmy Cobbに比べて3連が強調されており、常に3連符がリズムを支配しています。ビートがどっしりしているのにスピード感があるので一拍の長さがハンパありません。そしてピアノのバッキング・コードに4度音程のインターバルが導入されているのでフローティングなサウンドが聴かれ、Wynton Kellyとは全く異なる、ある種サウンドの束縛感から解放されたかのようです。この1曲で以降の黄金のColtrane Quartetのプレビューがしっかりと果たされています。 3曲目Harold Arlen, Johnny Mercerコンビによるナンバー、軽快なテンポによるMy Shining Hour、この演奏でどれだけのColtrane派テナーサックス奏者たちを魅了した事でしょう!!ここでのColtraneのテナーの音色の「ホゲホゲ」感が堪りません!Coltraneのアンブシュアはダブルリップだったと言われていますが、確かにダブルリップでルーズなアンブシュアでなければこんな楽器の鳴りは得られないでしょう。ジャケ写では上唇にヒゲが生えているために厳密には判断できませんが(更にCDジャケ写では小さすぎるので、可能ならばレコード・ジャケットで見てください)上唇を内側に巻いているように見えます。下唇はこの人かなり分厚いので巻いているかの判断は微妙な感じです。ピアノとドラム二人による8小節の軽快なイントロからColtarneのメロディ奏、お馴染みビブラートや抑揚を排した吹き方にも関わらず何故かとっても素敵に聴こえます。ピックアップのフレージングからして独創的、55年Milesのバンドに参加した頃は運指とタンギングが実に合っていませんでした。ここでもタンギングの合わなさ加減を若干感じますが、それでも当時より実にスムースにアップテンポのタイトな、イーヴンにひたすら近い8部音符を聴くことが出来ます。1’15″で聴かれるDメジャーに解決するフレーズ、物凄いです!アドリブのフレーズに著作権印税があったなら間違い無くCharlie Parkerが長者番付1位、Coltraneもかなり上位に違いありません。と言うのもColtrane派テナー奏者たちSteve Grossman, Dave Liebman, Michael Brecker, Bob Berg皆さんこのフレーズを愛用していました。もう一つ、1’54”, 2’00”, 4’04″と3回出てくるコード進行Em7-A7でのフレーズ、Coltraneの使用楽器はAmerican Selmer Super Balanced ActionのためHigh F#からフラジオ音扱いですがそのF#音と半音上のG音を用いたスーパー・インパクトのフレージングです。Michael Breckerが参加しているトランペット奏者Tom Browne、79年の作品「Browne Sugar」1曲目Throw Downの3’00″でMichael実に大胆に、効果的にこのフレーズを使っています。 4曲目はColtraneのオリジナルFifth House、イントロのピアノ左手とベースのパターンが印象的、Tadd DameronのHot Houseを元にしたナンバーで、更なる原曲はCole PorterのWhat Is This Thing Called Love?(恋とは何でしょう)です。Lewis Porterの著書「John Coltrane His Life And Music」に拠ればFifth Houseのタイトルは占星術の用語に由来するそうです。AABA構成32小節のこの曲、Coltraneのソロ時はAの部分をDペダルで通しているので一つのコードだけでも良い筈ですが、ColtraneはオリジナルのHot Houseのコード進行とColtraneチェンジ両方とも想定してアドリブしています。Wynton Kellyのソロ時はHot Houseのオリジナルコード進行に変わり、メリハリが付けられています。Kellyのソロには原曲のコード進行が相応しいです。PorterによればColtraneはこの曲にInterludeも書いたそうですが、レコーディングされませんでした。ラストテーマ後のバンプではColtrane重音奏法を用いて同時に複数の音を吹き、次曲Harmoniqueの曲のコンセプトにうまい具合に繋げています。レコードのSide Aはここで終了です。 5曲目もColtraneの3拍子のオリジナルHarmonique、ユニークなイントロの後ハーモニクス奏法を用いた重音テーマのメロディ、アドリブを行っています。本来単音楽器のサキソフォンですが特殊なフィンガリング、ノドの使い方で複数の音を同時に出す奏法です。以前から奏法としては存在していたでしょうが、メロディやアドリブに持ち込むのは当時としては奇想天外、多くのサックス奏者の度胆を抜いた事でしょう!こんな事まで思いついて演奏してしまうColtraneの発想の自由さに、今更ながら敬服していまいます!この曲の超進化系でハーモニクスやovertoneを駆使した曲、演奏がMichael BreckerのDelta City Blues(Two Blocks From The Edge収録)となります。1998年リリース 6曲目はSonny Rollinsに捧げられたColtraneのオリジナルLike Sonny、これまた個性的なメロディライン、構成の曲です。前述Lewis Porterの著に拠れば、親しい間柄のRollinsへの尊敬の念を込めて書かれたナンバーで、曲のメロディはKenny Dorhamの作品「Jazz Contrasts」収録のバラードMy Old Flameに於けるRollinsのソロフレーズをモチーフにしています。具体的には3’22″~3’31″のRollinsが吹いたフレーズの断片を様々なキーに移調して曲に作り上げています。と言う事でLike Sonnyと言うタイトルは正しくなく、そのまんまSonnyの方が適切です (笑) 遡ること約9ヶ月前の59年3月26日にp)Cedar Walton  b)Paul Chambers  ds)Lex Humphriesというリズムセクションでの別テイクが残されていて、ボーナストラックとしてCDに収録されていますが、こちらもなかなか良い出来のテイクです。オリジナルテイクには無いリズムセクションのキメが印象的ですが、ボツテイクになったのはHumphriesのドラミングにColtrane不満があったのが原因ではないかと感じています。 7曲目Coltraneの高音のハスキーな音色を生かしたバラードI’ll Wait And Pray。Side Key Dの音がこの人メチャメチャ良いですね!イントロ無しでストレートに直球勝負、1コーラス半をメロディフェイクを中心にグリッサンドを多用して歌い上げています。ラスト部分ではここでもハーモニクスを用いて和音を鳴らし、コード感をしっかりと聴かせてエンディングを迎えています。この部分も前述Delta City Bluesにしっかりと受け継がれています。 8曲目ラストを飾るのはオリジナルのブルースSome Other Blues。Charlie ParkerのNow’s The Timeにどことなく似ているのでそれでSome Otherなのでしょう。Coltraneのレパートリーにブルース・ナンバーはたくさんありますが、アドリブの題材として重要な素材であったと思います。ここでは8分音符のラインを中心としたアドリブを聴かせていますが、6コーラスに及ぶドラムとの4バース中、Like Sonnyのメロディらしきフレーズが2度出て来ます。

2018.08.03 Fri

Stay Awake: Interpretations Of Music From Vintage Disney Films

今回は多くのトリビュート作を製作したプロデューサーHal Willnerが、Walt Disneyの映画音楽を様々なミュージシャンによる演奏でまとめ上げた傑作「Stay Awake: Interpretations Of Music From Vintage Disney Films」を取り上げてみましょう。A&M Label 1988年リリース アメリカ人なら誰もが子供の頃から耳にしているWalt Disneyの映画音楽、多くのミュージシャンにカバーされていますが、大胆なアレンジで実に多様なアメリカン・ミュージックのジャンルのミュージシャンを適材適所に起用し、日本人も同様に昔から耳にしている名曲の数々が斬新なサウンド、文字通り新しい「音楽の解釈」に生まれ変わっています。Hal Willnerプロデュースの85年リリース、前作にあたるKurt Weillのトリビュート作「Lost In The Stars: The Music Of Kurt Weill」もとても素晴らしい内容でしたが、本作は更に上回る充実した音楽性を表現しています。 Willner一連のトリビュート作は81年リリースの「Amarcord Nino Rota: Interpretation Of Nino Rota’s Music From The Film Of Federico Fellini」から始まりました。以降ずっと継続するWillnerのトリビュート・コンセプトがここでは既に確立されています。 これらの作品に全て言えることですが、起用されているミュージシャンはロック、ポップスの世界が中心で、スタジオミュージシャンの参加も交えながら、(本作に於る)ジャズミュージシャンBill Frisell, Alex Acuna, John Patitucci, Betty Carter, Stephen Scott, Don Braden, Ira Coleman, Troy Davis, Sun Ra & His Arkestra(!), Buell Neidlinger, Branford Marsalis, Don Grolnick, Steve Swallow, John Scofield, Herb Alpertらによる演奏がとても効果的、曲によっては実に素晴らしいスパイス的な役割を担っています。例えばQuincy Jones、Creed Taylorたちも敏腕プロデューサー、アレンジャーで歴史に残るアルバムを製作していますが、Willnerはより対象を俯瞰して極めてマニアックに(ここが誰よりも半端ないのです)、更に深部に入り込んで元の演奏曲の構造自体から一度解体し、時に危なさを感じさせるまでに肉付けを行い、再構築して全く違う次元にまで昇華させています。彼のプロデュース力、企画力、アレンジ能力、ミュージシャンのチョイス、バランス〜レイアウト能力につくづく感心してしまいます。日本でもそのジャンルは全く異なり同次元では語れないかもしれませんがおニャン子クラブ、AKB48、乃木坂46といったアイドルのプロデュース、歌曲全ての作詞を手がけている秋元康氏もデビューさせるべきタレントと言う主体を発掘、育成、更にはマスメディアに映えさせる事に関しての能力に、抜きん出たものを感じます。 Hal Willnerについて簡単に触れておきましょう。1957年米国Pennsylvania州Philadelphia出身、70年代末にレコードプロデューサーJoel Dornの元で働き、その後今回取り上げた作品を含めたトリビュート・アルバムの製作で名を馳せました。81年「Saturday Night Live」を始めとするTV番組、93年電子楽器テルミンの開発者レフ・テルミンのドキュメンタリー映画「テルミン」の映画音楽、Marianne Faithful、Lou Reed、Bill Frisellといったトリビュート・アルバムに参加したミュージシャンのアルバム・プロデュースを始め、数多く手掛けました 今回は参加ミュージシャンの数が膨大ですので、メドレー(各々にタイトが付いています)や曲毎に紹介していきたいと思います。 1曲目Opening Medley (I’m Getting Wet And I Don’t Care) a) “Hi Diddle Dee Dee (An Actors Life For Me)”は映画Pinocchioからのナンバー。ミュージシャンはvo)Ken Nordine  g)Bill Frisell  p, synth)Wayne Horvitz  メロディをピアノが可愛らしく淡々と奏でますがFrisellのSE的な演奏、サーカスのテント内での音を模しているのでしょうか?それらの上でNordineの地獄からの声のように語られる超テノールで「サーカス以外の全てを呪え」。オープニングのムード作りはバッチリです! b) “Little April Shower”こちらは映画Bambiからの出典。vo)Natalie Merchant  vo)Michael Stipe  vo)The Roches  banjo)Mark Bingham  ss, fl)Lenny Pickett  cl)Ralph Carney  marimba)Michael Blair  harp)Rachel Van Voorhees  cello)Jackie Mullen   ハープをバックにしたボーカルから始まり、様々な楽器が入り混じりクラシカルに曲が進行します。ソプラノサックスのソロはTower Of PowerのLenny Pickett。美しい音色、正確なピッチで演奏のムードを高めています。曲が終わりかけた頃、ジャングルの音と共に遠くから、かの Weather ReportのドラマーAlex Acunaが演奏するラテンパーカッションがやってきます。 c) “I Wan’na Be Like You (The Monkey Song)” 映画The Jungle Bookからのナンバー。vo)Cesar Rosas  g)David Hidalgo  b)Conrad Lozano  varrana)Loie Perez  bs)Steve Berlin  per)Alex Acuna バリトンサックスの演奏する低音のラインとソロが印象的です。ナイロン弦ギターのバッキング、ソロもイケてます!フィーチャリングボーカルのRosasはバンドLos LobosとLos Super Sevenのメンバー。The Jungle Bookは67年発表ですが2016年実写の少年とCGIアニメーションによる動物が共演する映画でリメイクされました。 2曲目”Baby Mine”、映画Dumboからのナンバー。Bonnie RaittとWas (Not Was)をフィーチャーしています。vo, slide-g solo)Bonnie Raitt  vo)Sweet Pea Atkinson  vo)Arnold McCuller  key)Luis Resto  g)Paul Jackson Jr.  sax)Steve Berlin  synth)Don Was  fl)David Was  b)John Patitucci  ds)Jim Keltner  The Uptown Horns: bs)Crispin Cioe  ts)Arno Hecht  tb)Bob Funk  tp)”Hollywood” Paul Litteral  冒頭ゆったりとしたベースラインはJohn Pattitucci、8分の6拍子のリズムはいかにもアメリカンポップスを表現し、コーラスやPaul Jackson Jr.のギター、良い味付けをしています。 3曲目は”Heigh Ho (The Dwarfs Marching Song)”、映画Snow White And The Seven Dwarvesからのナンバー。さすがTom Waits怪しげな雰囲気造りに長けています。vo)Tom Waits  option programming)Tchad Blake  sound effects)Val Kuklowsky  g)Mark Ribot  b)Larry Taylor  原曲の7人の小人たちが鉱山の中で宝石を掘り出す楽しげな雰囲気とは真逆、ブラック企業で働く労働者の悲哀を物語っているかのようです(笑) 4曲目Melody Two (“The Darkness Sheds Its Veil”) a) “Stay Awake” は映画Mary Poppinsからのナンバーで本作表題曲。Suzanne Vagaのボーカルソロです。感情移入を感じさせない淡々とした歌いは「眠らないで、コックリしないで、夢見ないで」と相手を起こし続けているシーンをイメージさせるのにうってつけです。80年代末にポップスでこう言った独唱が流行った記憶があります。 b) “Little Wooden Head”、前出Pinocchioからのナンバーで再びBill Frisell, Wayne Horvitzのコンビによる演奏、バンジョーとアコーディオンぽい音が醸し出すムードがアメリカ南部を感じさせます。 c)  “Blue Shadows On The Trail”は映画Melody Timeからのナンバー。vo)Syd Straw  steel-g)Jaydee Mayness  harmonica)Tommy Morgan  g, mandolin)John Jorgensen 比較的オリジナルのバージョンに忠実な演奏です。原曲が男性ボーカルに対し女性、ハーモニカ、スティールギターの効果的な使い方でよりディープサウスを表現しています。 5曲目Melody Three (“Three Inches Is Such A Wretched Height”) a)”Castle In Spain”は映画Babes In Toylandからのナンバーで、ラテン色満載の楽しい演奏。Buster Poindexter And The Banshees Of Blueによる演奏です。Buster Poidexterは芸名で本名はDavid Johansen、The New York Dollsというバンドで名を馳せました。vo)Buster Poindexter  vo)Ivy Ray  g)Brain Kooning p)Charles Giordano  b)Tony Garner  ds)Tony Machine  per)Fred Walcott  dr-programming)Jimmy Bralower  The Uptown Horns  トランペッットの音色がメキシコのラテン、マリアッチを連想させます。”Baby Mine”でも演奏している The Uptown Hornsのホーンアンサンブルが効果的に用いられています。 b)”I Wonder”は映画Sleeping Beautyからのナンバーで驚異的なシンガー、Yma Sumacをフィーチャーしています。しかし何ですか!この超ソプラノボイスは!彼女は6オクターブ半の音域を操ると噂された事もありましたが、実際にはそれでも4オクターブ半の声を操る驚異的なシンガー(通常のシンガーは3オクターブ半程度の音域)。ペルー出身でインカ帝国最後の王の血を引くと言い伝えられていますが、この歌を聴けば然もありなん、と何だか納得させられてしまいそうです(笑)。ここでのオーケストラの指揮を50年代からサックス奏者、作曲家、アレンジャーとして活躍しているLennie Niehausが担当しています。ちなみに彼は俳優、映画監督Clint Eastwoodのお抱えアレンジャーで、彼が製作、監督、出演する映画の音楽を全て担当しています。写真はYma Sumac 6曲目お馴染み”Mickey Mouse March”、米国TV番組The Mickey Mouse Clubからのナンバー。メロディは基本的に同じですがテンポを遅くし、歌詞を大胆に変えてあります。ここでのボーカリストの歌い方の何と素晴らしいこと!作品中個人的に一番のお気に入りです!歌手の名はNew Orleans出身Aaron Neville、伴奏のピアニストが同じくNew Orleans出身Dr. John、コーラスを担当するのが三男Aaronの兄弟たちThe Neville Brothers 〜 長男Art, 次男Charles, 四男Cyrilです。本来子供の歌であるこの曲がMickey Mouseというキャラクターを通じて友情の大切さ、家族愛、人類愛を万人に向けて高らかに、清らかに歌っているように感じます。それにしてもなんと美しいAaronの歌声、七色の声色を使い分けているかのようです。Dr. Johnのきらびやかで重厚でゴージャスなピアノ(と多分Fender Rhodes)の音色、Neville BrothersのコーラスのダイナミクスとAaronのリードボーカルとの完璧なアンサンブル、歴史的な名演奏の誕生です。写真はThe Neville Brothers 7曲目Medley Four (“All Innocent Children Had Better Beware) a)”Feed The Birds”は映画Mary Poppinsからのナンバー、演奏はBob DylanのバックバンドをつとめていたThe Bandのオルガン奏者Garth Hudsonを中心にしたセッション。key, accordion)Garth Hudson  harmonica)Jorge Mirkin  cymbal)Jay Rubin  mackintosh sequencing/performer software)Steve Deutch ハーモニカの音色、アコーディオンが哀愁を感じさせます。Julie Andrewsの歌う原曲の演奏を踏まえつつ、歌詞はありませんが壮大な抒情詩に変化しました。 b)”Whistle While You Walk”は前出のSnow White And The Seven Dwarvesからのナンバーで、87年Miamiで結成されたR&BバンドNRBQによる演奏。key, vo)Terry Adams  b, vo)Joey Spampinato  g)Al Anderson  ds, per)Tom Ardolino アレンジがカッコ良く、演奏も素晴らしい元の曲調を一新したロックナンバーに仕上がっています。 c)”I’m Wishing”は同様にSnow White 〜からのナンバー、ボーカリストBetty Carterを中心としたクインテットによるジャズ演奏が聴けます。vo)Betty Carter  ts)Don Braden  p)Stephan Scott  b)Ira Coleman  ds)Troy Davis Don Bradenのテナーサックス、ハスキーで実に良い音色です!この演奏を聴いてから一時期Bradenにハマった時期があります。彼の第2作目「Wish List」収録曲Sophisticated Ladyがお気に入りでした。 ボーカルとテナーの絡み方が実に気持ち良いです!ピアノの伴奏、ベースのタイトなライン、ドラムスのスイング感、5人の演奏が有機的に密度高く結合しています。写真はBetty Carter d)”Cruella De Ville”は映画101 Dalmatiansからの演奏、Minneapolis出身の4人組Rock’n Roll Group、The Replacementsによる演奏。楽しげでヘヴィーなロックナンバーに変身しています。 d)”Dumbo And Timothy”もDumboからのナンバー、三たびFrisell And Horvitzの登場です。Frisellのギターサウンドが超イカしてます!プロデューサーWillnerはFrisellの作品もプロデュースしている程なので、彼の音楽性を高く評価しています。 8曲目は”Someday My Prince Will Come”、これもSnow White 〜からのナンバーになります。vo)Sinead O’Conner  g)Andy Rouakeの演奏、このボーカルのひと大丈夫でしょうか?これだけピッチを外すのは狙っているとしか感じられませんが、O’Connerはアイルランド出身のセンシティブなミュージシャンと言われています。 9曲目Melody Five (“Technicolor Pachyderms”) a)”Pink Elephants On Parade”はDumboからのナンバー。本作目玉のミュージシャン、秘密のベールに包まれた謎の集団Sun Ra & His Arkestraによる演奏です!テナーサックスにはもちろんJohn Gilmoreも在団しています! p)Sun Ra  vo)Art Jenkins, T.C.Ⅲ  g)Bruce Edwards  b)Pat Patrick  ds)Tom Hunter  ds)Buster Smith  ds)Aveeayl Ra Amen  violin)Owen Brown Jr.  fr-horn)Vincent Chaucey  ts)John Gilmore  as, b-cl)Elo Olmo  as, fl)Marshall Allen  bs)Kenny Williams  tp)Fred Adams  tp)Michael Ray  tp)Martin Banks  bassoon)James Jackson   プロデューサーWillner、Sun Ra & His Arkestraをこのレコーディングに呼ぼう、参加させるという考えを持てる、発想する事自体がもはや天才的です!彼らの参加が本作の品位をぐっと高めました!「ピンク色の像の行進」だなんて彼らに全く相応しいタイトルの楽曲、演奏です!Sun Raのピアノ、Gilmoreのテナー、 Marshall Allenのフルート、メンバーによる怪しげなコーラス、トランペット・セクションのアンサンブル、Bruce Edwardsのカッティング・ギター、Vincent Chauceyのフレンチホルン、全てしっかり聞こえます!行進と言う事だからでしょうか、ドラマーが3人も参加しています。でも総じて意外とまともな演奏でした(笑)ハープの演奏がフェードインして次の曲に続きます。写真はSun Ra b)”Zip-A-Dee-Doo-Dah”は映画 Song Of Southからのナンバーでボーカリスト、シンガーソングライターHarry Nilssonを中心とした演奏。vo)Harry Nilsson  accordion)Tom “T-Bone” Walk  electric-g)Arto Lindsay  g)Fred Tackett  g)Dennis Budimir  synth)Peter Scherer  p)Terry Adams  b)Buell Neidlinger  ds)Jim Keltner  perc)Michael Blair  conductor)Lennie Niehaus ミュージカル仕立てのアレンジ、演奏になっています。参加しているベーシストBuell Neidlinger、スタジオミュージシャンとして70年代から活躍していましたが、50~60年代はピアニストCecil Taylorと共演していた異色の経験を持つミュージシャンです。 10曲目”Second Star To The Right”はPeter Panからのナンバー、アメリカを代表するポップス・シンガーJames Taylorを中心としたセッションによる演奏。vo, g, whistle)James Taylor  vo)The Roches  ts)Branford  Marsalis  p)Don Grolnick  b)Steve Swallow  g)John Scofield  acoustic-g, humming boy)Mark Bringham  humming boy too!)Michael Blair   オールスターによる演奏、冒頭Branfordのテナーサックスソロから始まりますが、こちらも本当に素晴らしい音色です!確かBranfordはこの頃すでに奏法をダブルリップに変えたように記憶しています。マウスピースもDave Guardalaでしょう。John Scofieldのギターオブリもよく聞こえますし、James Taylorの声質にも圧倒されてしまいます!なんと良い声、歌唱力なのでしょうか!Branfordの歌心溢れるソロもその音色と相俟って実に心打たれてしまいます!Steve Swallowのベースの存在感の確かさ、ピアノのDon Grolnickはこの頃James Taylorバンドのレギュラー、音楽監督を務めていたようです。曲が終わったかに見えてその後Jamesの口笛、The Rochesの美しいコーラスが曲のクロージングを担当、こちらも名演奏の誕生と相成りました。写真はJames Taylor 11曲目Pinocchio Medley (“Do You See The Noses Growing”) a)”Desolation Theme”、クロージングもPinocchioからのナンバー、1曲目a)と同じメンバーによる演奏、再びKen Nordineの地獄からの(笑)メッセージをBill FrisellとWayne Horvitzがサポートします。 b)”When You Wish Upon A Star”は何とRingo Starrのボーカルがフィーチャーされます!The Beatlesの「White Album」ラストを飾るJohn Lennon作曲(しかもその前の曲がRevolution#9)、Ringoの歌によるGood Nightと同じ構成です!きっとWillnerもThe Beatlesの大ファンなのでしょう!トランペッットソロにHerb Alpertもフィーチャーされています。vo)Ring Starr  tp)Herb Alpert  electric-g)Bill Frisell  acoustic-g)Fred Tackett  acoustic-g)Dennis Budimir  p)Terry Adams  b)Buell Neidlinger  ds)Jim Keltner  whistle)Harry Nilsson   Ringoの歌は以前ブログで「 Sentimental Journey」を取り上げましたが、何らそれから歌いっぷりは変わっていません。この危なげなピッチ感と声の出てなさ加減がRingoそのものなので、このままで良いのでしょう。アルト奏者Jackie McLeanが晩年マウスピースを変えて(Phil  Barone)音程が随分と良くなりました。一聴McLeanに影響を受けたアルト奏者の演奏か?と感じる程で、本人の演奏とは思えず、音程の微妙な感じもその人の個性になりうると感じました。

2018.07

2018.07.28 Sat

Steve Kuhn / Oceans In The Sky

今回はピアニストSteve Kuhnの1989年録音トリオ作品「Oceans In The Sky」を取り上げて見ましょう。 89年9月20, 21日Ferber Studio, Parisにて録音。p)Steve Kuhn  b)Miroslav Vitous  ds)Aldo Romano 1)The Island  2)Lotus Blossom  3)La Plus Que Lente / Passion Flower  4)Do  5)Oceans In The Sky  6)Theme For Ernie  7)Angela  8)In Your Own Sweet Way  9)Ulla  10)The Music That Makes Me Dance  Owl Label France Steve Kuhnが単身フランス・パリに赴き、Miroslav VitousとAldo Romanoの初顔合わせで録音した作品ですが、大変に優れた内容で多作家Kuhnの中でもなかんずく代表作に挙げられます。多くのベーシスト、ドラマーとトリオ編成でのレコーディングを行っているKuhnですが、これほど3者のバランスが取れている演奏は彼のキャリアの中でもトップクラスです。とりわけVitousの演奏が素晴らしく、明らかにKuhn自身の演奏は彼に触発されて更なる深遠な境地に達しています。Chick Coreaのトリオ作品68年リリース名盤「Now He Sings, Now He Sobs」、Vitous若干21歳の革新的な演奏がジャズ史に燦然と輝きますが、この頃の先鋭的な演奏よりも20年を経た本作品では超絶技巧はそのままに、音楽的に成熟した演奏を聴かせています。 ドラマーAldo Romanoはイタリア生まれのフランス育ちでDon Cherry、Steve Lacy、Dexter Gordonといった渡欧組アメリカ人ミュージシャンたちとキャリアを重ね、名ピアニストMichel Petruccianiのレギュラードラマーを務めた経歴を持つセンシティブなドラマーです。この作品でも超弩級ピアニスト、ベーシスト二人に対する的確なサポート、またある時は丁々発止とやり取りする二人のインタープレイのまとめ、調整役を担当しています。仮にこのレコーディングのドラマーがスイス出身のやはり超弩級、いやひょっとするとそれ以上のDaniel Humairであったなら(十分に可能性がありましたが)どのような演奏が繰り広げられていたか、どれだけの熱演を聞くことが出来たか興味は尽きませんが、RomanoはRay Brown, Ed Thigpenを擁していた時期のOscar Peterson TrioのThigpenと同様の立場にいると感じます。派手さは無くしかも決して出しゃばらないタイプなのですが、共演者を立てつつその場に最も相応しい場面を設定、提供しています。以前にも何かで書きましたがOscar Peterson Trio, Peterson, Brownの極めて同一なグルーヴ感、スピード感がそのまま放っておけば幾らでもOn Topで演奏の展開になるところをThigpenが背後から二人とも(特にPetersonは巨漢なので大変です!)羽交い締めにしてレイドバックさせています。おそらく同じグルーヴ・タイプのドラマーが参加したのなら、ぐんぐんとリズムが前に行くラテン、サルサ方面のトリオにも成りかねません。VitousのベースラインがOn Topで強力にスイングしているのでRomanoのトップシンバルが遅く聞こえますが、実はKuhn自体かなりレイドバックして演奏しているのでむしろRomano寄りで、Kuhn + Romano vs Vitousというリズムの構図が成り立っています。このようなピアノトリオ3者のリズム相関図もアリですね。本作はどのような経緯があってこのメンバーによるレコーディングが決まったのか、興味があるところですがなかなか表立ってメイキング・プロセスが露出することはありません。プロデューサーのJean-Jacques Pussiau, Francois Lemaireの采配によるところが大なのでしょう。 ちなみにVitousはDaniel Humairの91年録音リーダー作「Edges」(Label Bleu)にて迎えられ、Jerry Bergonzi(ts), Aydin Esen(p)らとのカルテット編成でアグレッシブでコアな演奏を繰り広げています。Humair, Vitousの共演作は他にもあるようです。 この作品でもう一つ特記すべきは、選曲とその並びのバランスが実に良く取れている点です。元来Kuhnはスタンダードナンバーを素材として取り上げ、その料理の仕方に彼なりの音楽性が発揮されるミュージシャンで、オリジナルを中心に演奏し自己のサウンド・カラーを表現するタイプではありません。どのようなスタンダード、ジャズ・ミュージシャンのオリジナルを取り上げるかにも手腕が問われるところです。今回は自身のオリジナル2曲、Romanoのオリジナル1曲、他Ivan Lins, Kenny Dorham, Debussy, Duke Ellington, Fred Lacey, Antonio Carlos Jobim, Dave Brubeck, Jule Styneらのナンバー計11曲(1曲はメドレー)を演奏し、バラエティに富みつつ各々の演奏曲の内容の素晴らしさも相俟って絶妙な配置を感じさせます。僕自身もこの作品の選曲、曲順はよくぞここまで練られたな、と感心せずにはいられません。もっとも、良いテイクの演奏が集まれば自ずと曲順が定まる、という考えも成り立ちますが。 それでは曲ごとに見て行きましょう。1曲目はIvan LinsのThe Island、Kuhnとしては意外なオープニングです。数多くのミュージシャンによってカヴァーされている名曲で作品の冒頭を飾るに相応しいクオリティの演奏、リラックスした中にも漲る緊張感、ミディアム・スイングにもかかわらずスピード感溢れるのは流石、ほのかに感じる男の色気、レイドバックしたタイム感、何度聴いてもワクワクしてしまいます!ピアニストは一人ひとり本当に音色が異なりますが、Kuhnの美しくリリカルなピアノのタッチ、音の粒立ち、とってもフェイヴァリットな中の一人です。そしてこのレイドバック感、気持ちが入れば入るほどさらにその度合いに拍車がかかるのは本物のジャズ屋の証拠、そしてこの演奏を巧みにバックアップしつつに絶妙に絡むVitousのベースライン、Kuhnを見守るが如くシンプルにサポートするRomano、Kuhnソロの冒頭から引用フレーズで攻めます。この人の演奏、フレージングから感じるのは、普段から良く喋り、ジョークを言い、ダジャレも連発していそうです。ライブを収録した彼のリーダー作の何かで聴いたことがありますが、引用フレーズが止まらなくなり、一体何の曲を演奏しているのか一瞬分からなくなりそうでした(爆)。本演奏はピアノの独壇場で終始します。ラストテーマの後奏でまたもや引用フレーズが登場、今度はSummertimeです。とっても濃い内容の演奏ですが全くtoo muchを感じないのは全てがスポンテニアスな内容だからでしょう。素晴らしい! 2曲目Lotus Blossom、Kuhnは60年デビュー当時トランペッターKenny Dorhamのバンドに参加していましたが、そこで良く演奏していたと思われるDorhamのオリジナル 。Sonny Rollinsが自身のリーダー作「Newk’s Time」に於いてこの曲をAsiatic Raesという曲名で録音しています。このヴァージョンでは6/8拍子のリズムとスイングが交錯します。 本作ではピアノのイントロの後、全編アップテンポのスイングで演奏されています。駆け出しの頃に大変世話になったバンマスDorhamへのトリビュート、アップテンポにも関わらず速さを感じさせない究極のゆったり感、たっぷり感、でも音符のスピード感は凄まじいものがあります。8分音符の的確なビートに対する位置、1拍の長さが十分でなければありえない事象です。この曲でも引用フレーズThe BeatlesのEleanor Rigbyの一節を聴くことが出来ます。とりあえずダジャレを言っておけばその場が和むと思い込んでいるオヤジの哀しいサガの表れでしょうか、おっと失礼、これは僕自身の事でした(笑)、ソロの1~2コーラス目は比較的音の間を活かしテーマのメロディも交えつつスロースタート、その後3コーラス目からのエンジンがかかったソロの展開と言ったら!徹底的にクールにイキまくっています!3’40″からの右手で同じシークエンスをずっと弾きながら左手のラインをリズムも含めて変化させて行く、超絶テクニック、タイム感!この人は一体どのような頭の構造をしているのでしょうか?またピアノソロを支えるVitousのラインの凄まじさ!ベーシストは各々のコードのルート音を弾くのが仕事の筈ですが、この人は敢えて、何故だか、喧嘩を売っているのか、ルートを弾かないのでベースラインだけを聴いていると何処を演奏しているのか、更には何の曲を演奏しているのか理解不能です!それにしても2’33″~35″で聴かれるベースのトレモロに聴こえるラインは何?正体不明ですが物凄いインパクトです!!気がついてみると実はこの曲の演奏時間が5’04″、こんなに短いとは信じられません!大変濃密で充実した演奏、起承転結含めたストーリー性、時間の長さは絶対的なものではなく相対的なものなのだと再認識させられます。聴き手を確実に引き込んでしまうクールで激アツな演奏です。 3曲目はドビュッシー作曲のLa Plus Que Lente(レントより遅く)とDuke EllingtonのPassion Flowerが続けて演奏されます。Lenteはピアノソロで、Passion Flowerはボサノヴァのリズムで演奏しています。美の世界がメドレーで構築されているのです。Romanoの繰り出すボサノヴァのリズムが大変気持ち良いのは、彼のグルーヴ自体がイーヴン系故でしょう。曲のミステリアスなメロディと美しいコードとの対比に心を鷲掴みされてしまいます。ソロ中Kuhnの左手が支配的に繰り出され、ダイナミクスをこれでもか、と表現しています。Passion FlowerはEllington楽団の名リードアルト奏者、Johnny Hodgesをフィーチャーしたバラード演奏が元になっています。https://www.youtube.com/watch?v=_ww-XDuaxcw (クリックして下さい)こちらも蕩けるほどに美しい演奏です。 4曲目RomanoのオリジナルのワルツナンバーDo。ドラマーが書く曲が僕は好きです。特にメロディアスなワルツはドラマーの本質が聴こえて来るようです。メロディ、コード進行を聴かせるために全編ブラシで演奏しています。Vitousはこういったスペースのある曲でも縦横無尽にラインを繰り出し、ベースラインよりもメロディに対して最も相応しい音を瞬時選択して奏で、歌伴のオブリガードを演奏しているかのようです。ソロの先発はVitous、良く伸びる美しい音色と正確なピッチ、テクニカルな中にも歌がしっかりと織り込まれています。受け継ぐKuhnのソロも気持ちの入った叙情的な演奏です。 「癒し系」の演奏の後にはハードな場面展開があるものです。5曲目はタイトル曲で Kuhnのオリジナル、本作の目玉でもあるOceans In The Sky、自身の作品で何度か再演されています。自作の曲を度々レコーディングするのは良い事だと思います。そのミュージシャンの成長、進化を一つの尺度で測れるからです。この曲にはLaura Anne Taylorによるポエム、歌詞が付けられています。アップテンポのワルツ、ここでのKuhnのソロは曲のコード進行に基づいてフレージングすると言うより、曲のメロディやリズムにカラーリングを施しているように聴こえます。Romanoのドラムソロもフィーチャーされメリハリのある演奏になっています。 6曲目はFred Lacey作曲Theme For Ernie、若くして亡くなってしまったアルト奏者Ernie Henryに捧げられた曲、彼は40年代末から57年頃までの短期間活動しました。著名なところではThelonious Monkの「Brilliant Corners」での変態系名演が光っています。ヘロインの過剰摂取が死因とはあまりに50年代のジャズミュージシャンそのものですが。John Coltraneの代表作「Soultrane」でのCotrane自身の名演が忘れられません。この曲は通常キーがA♭ですがここではCで演奏されています。A♭よりも幾分明るく聴こえるのはCというキーの特性でしょうか。 7曲目はAntonio Carlos Jobim75年録音の美しいナンバー、このトリオのサウンドによりこの曲が再構築されました。やはりRomanoはここでも的確なボサノヴァのリズムを繰り出しています。Kuhnはこの曲のレイジーで、夏のフェスティヴァルの後の様な物悲しい雰囲気に相応しいソロを聴かせています。 8曲目は本作のもう一つの目玉、Dave Brubeckの名曲In Your Own Sweet Way、Vitousの壮大なフリーソロから印象的なイントロ、美しいメロディ奏、この曲の代表的な演奏の誕生です!1’49″~50″あたりのピアノの猛烈なグリッサンドにはびっくりしましたね!インタールードを経たソロの1コーラス目はピアノが主体のソロのはずが、ベースのチャチャ入れがあまりに音楽的でKuhnはフレーズに応じてソロの主導権をベースに明け渡しているかのようです。4’23″くらいから引用フレーズ、ダジャレコーナーでIf I Should Lose Youが聴かれます。時折聴かれるわざとハネた8分音符のイントネーションがユーモラスに聴こえます。インタールードでの3者の息のあったインタープレイが、また6’11″~13″あたりの先ほどよりもバージョンアップしたピアノのグリッサンドにはとても気持ちが入っています。 9曲目は再びKuhnのオリジナルUlla、美しいバラードです。Kuhnは低音から高音域を隈なく用いてダイナミックでリリカルな演奏を聴かせています。 10曲目ラストを飾るのはエピローグ的なソロピアノによる、ミュージカル作曲家Jule Styneの名曲The Music That Makes Me Dance、この曲で踊らせちゃうくらいのナンバーをソロで、というのが良いですね。今日自体の構成、歌詞の内容、メロディの仕組み、コード進行をしっかりと捉えた末の演奏として堪能出来ました。

2018.07.13 Fri

The Gene Harris Trio Plus One

今回はピアニストGene Harrisのリーダー作「The Gene Harris Trio Plus One」を取り上げてみましょう。Recorded Live At The Blue Note, NYC  November/December 1985  Recording Engineer : Jim Anderson, David Baker, Jon Bobenko Concord Label  Produced By Ray Brown And Bennett Rubin p)Gene Harris b)Ray Brown ds)Mickey Roker  Plus One: ts)Stanley Turrentine 1)Gene’s Lament 2)Misty 3)Uptown Sop 4)Things Ain’t What They Used To Be 5)Yours Is My Heart Alone 6)Battle Hymn Of The Republic ジャズ史上最も「そのまんま」のジャケット・デザインでしょう(笑) 。きっとご本人の人柄も同様に愛すべきキャラクターに違いありません。Gene HarrisはErroll GarnerやOscar Petersonの流れを汲むスイング・スタイルのピアニスト、加えてR&Bや隠し味にゴスペル、ポップスのテイストを持ちつつ、明るく美しい音色、タイトで端正なリズム感を武器に猛烈にスイングする演奏を信条とするプレイヤーで、敢えてカテゴライズするならばモダン・スイングでしょうか。僕にはPetersonの演奏よりもジャズテイストを感じる事が出来、Spainが産んだ盲目のピアニストTete MontoliuやJamaica出身の素晴らしいピアニストMonty Alexanderと同系列のスタイリストと捉えています。 1950年代半ばからHarrisの他、b)Andrew Simpkins, ds)Bill Dowdyとのレギュラー・トリオ編成によるThe Three Soundsでの活動でその名が知られるようになりました。彼らはBlue NoteやVerve, Mercury等のレーベルから実に多くの作品をリリースしています。ビバップ、ハードバップやモード、新主流派ばかりがジャズではありません。いわゆるメインストリームはリラクゼーションを最大の武器にして、多くの聴衆を惹きつけています。ある意味本場米国ではこちらの方が文字通り主流なのかも知れません。 自分たちトリオでの演奏の他、Lou Donaldson, Stanley Turrentineら管楽器奏者を加えた作品、Anita O’DayやNancy Wilson達の歌伴作品など幅広くエンターテイメントを演出しているのは日常的にコンサートやフェスティバル、TVやラジオのプログラム、ホテルギグをトリオやゲストを迎えて忙しくこなしていたからと推測されます。因みに日本でも70~80年代にちょうど同じ立ち位置で世良譲(p)トリオが存在し、僕も度々共演させて頂き大変お世話になりました。 The 3 Soundsは56年から73年まで継続的に活動を展開しました。元は56年に結成した4人編成のThe Four Soundsが前身で、サックス奏者が抜け3人編成になったためThe 3 Soundsと改名したそうです。お笑いグループ「チャンバラトリオ」は結成時3人組だったので名前をトリオとしましたが、ほどなくメンバーが入院、療養中に代役を立て、復帰後も代役はそのまま残留し4人組になり、更に最末期生存メンバーが2人となった後も一貫して名前は変更せずトリオで通しました。名前が定着してしまいましたからね(爆) The 3 Sounds解散後Gene Harrisはフリーランスとして動き始めましたが、70年代半ばから米国で徐々にジャズが衰退し始め、一方The 3 Soundsでの活動がひたすら中心だった彼は他のミュージシャンとの人脈をあまり有せず、次第にシーンから離れ、70年代後半からはアイダホ州ボイズに居を構え、地元のアイダンハ・ホテル(写真 : 1901年に建てられたホテル。米国にはこの手の歴史ある格式高いホテルが本当に多いです)で定期的に演奏を行なうだけの状態でした。このホテルのラウンジをたまたま訪れたのかどうかまではわかりませんが、Ray Brownが半隠居状態の彼を見つけ出し、80年代初頭から彼を自己のトリオに招き入れ、シーンに再び担ぎ出すべくツアーを開始しました。およそ第一線から退いたミュージシャンは目的を失わずとも情熱が覚め、演奏の質が落ちるのが常です。仕事の無い状況下でもGene Harrisはくさらず、自己鍛錬を怠らず、しっかりと演奏のクオリティの維持、向上、更なる高みを目指していたに違いありません。The 3 Soundsの頃よりも演奏は間違いなく上達しています。でなければ間違いなくRay Brownに発掘されたりはしません。 Ray BrownはOscar Petersonのパートナーとして永年演奏を共にし、二人の素晴らしいコンビネーションは名演奏を数多く残しました。彼らにドラマーEd Thigpenが加わりThe Oscar Peterson Trioになります。多くのベーシスト、ドラマーが去来しましたがこのメンバーが最強だと思っています。Ray Brownがリーダーになった場合も本人のベースプレイが何しろストロングなので、共演のピアニストは同様の豪快かつ繊細な演奏スタイルでなければバランスを保てません。ここでのGene Harrisはまさにうってつけの人選、適材適所とはこの事を言います。Gene Harris脱退後もMonty Alexander, Benny Green, Geoff Keezer, Larry Fullerといったピアニスト達が順番に彼のベースの伴奏者(笑)を勤めました。 因みに以前当ブログで取り上げた「Moore Makes 4」はGene Harris参加のRay Brown Trioに、テナーサックス奏者Ralph Mooreを大々的にフィーチャーした名盤です。 本作ではRay Brownが影のリーダーとして存在しており、仕切りたがりの(笑)彼は大好きなGene Harrisのために一肌脱ぎました。元々Concord Labelに彼を紹介したのもRay Brownですが、プロデューサーとしてクレジットされている他、2曲自身のオリジナルを提供、ライブレコーディング中のMCは全てRay Brownが担当し、音楽的にも彼のベースが要となって演奏を展開しています(その割にベースソロが1曲もありませんが)。ドラマーMickey Rokerとのコンビネーションも抜群で、このトリオにPlus One、テナーサックスの名手Stanley Turrentineが参加し、カルテット編成となります。85年11月〜12月の録音、この作品自体の収録時間がレコード時代の最末期なので48分と短いですが、この頃のBlue Note NYは1週間単位で同一ミュージシャンが出演し、仮に連日録音したのならばおそらくかなりの量の未発表、別テイクが存在すると思われます。 それでは作品の内容について触れて行きましょう。まず録音エンジニアに名手Jim Anderson、アシスタント・エンジニアにDavid Bakerが起用されているとなれば、録音状態が悪かろう筈がありません。ライブ録音にも関わらず楽器のセパレーション、音の輪郭、解像度、オーディエンスのアンビエント感も申し分ありません。1曲目Ray Brown作Gene’s Lament、テーマらしいテーマは聴かれませんがキーB♭のブルース・ナンバーです。フェードインして曲が始まるのは作品のオープニングには珍しい形です。曲冒頭部に何か不都合があったのでしょう。聴衆のアプラウズに混じりRay Brownの掛け声も随所にはっきりと聞こえます。Turrentineのテナーソロが始まりました。彼とGene Harrisの共演は60年12月録音の「Blue Hour / Stanley Turrentine With The 3 Sound」以来だそうです。(写真は後年リリースされたComplete Take集) なんて素晴らしいテナーサックスの音色でしょう!一音吹いただけでその世界が確定してしまいます!このトリオにはこのレベルの豪快さんが不可欠です!リズムセクションにのタイトさに比べてTurrentineのリズムは良い意味でも悪い意味でもルーズさを感じます。この人は音色の素晴らしさに加えフレーズの語尾のビブラートに色気があり、いつ聴いても堪りません。ここではBen Webster直系のホンカーぶりがプレビュー程度に披露されていますが、まだまだこんな物ではありません。Turrentineソロ終了後のRay Brownの掛け声「Alright ! 」がとても印象的です。続くGene  Harrisのピアノの良く鳴っていること!音量のダイナミクスを駆使したソロには思わず聴き入ってしまいます。再び豪快さんのテナーが先ほどのソロの補足を行っているかの如く聴かれます。エンディングに向けての音量調整も実に的確です。 2曲目はご存知Erroll Garnerの名曲Misty、何のアレンジも施されず全くストレートに演奏されていますが、これがまた素晴らしい!素材の美味しさと必要最小限の調理、盛り付け具合のセンスで勝負する高級自然食レストランのディナーの如き様相を呈しています。Ray Brownのベースのプッシュぶりが凄いです。ピアノソロは無くテナーの吹きっきり状態、独壇場で演奏が繰り広げられており、Turrentineのバラード演奏のエッセンスが凝縮されているテイクになりました。 3曲目は再びRay Brownのオリジナル・ブルースUptown Sop、今度のキーはCです。こちらもテーマらしいメロディを特に感じる事は出来ないナンバーですが、Ray Brownワールドてんこ盛りのリズムの世界です。ピアノのバッキングがメッチャいけてます!Turrentineの先発ソロ、小出しにしていたホンカーぶりがここでは発揮されています!ブレークタイムを含むリズムセクションがソロをどんどん煽ります!High F音のオルタネート音連発がムードを高めホンキング状態です!Gene Harrisもあとを受け継ぎゴージャスに、まるでラスベガスのショウ仕立ての様にサウンドを構築しています!その後メゾピアノでのTurrentineのソロがストーリーの起承転結にしっかりと落とし前を付けています。 4曲目はDuke Ellingtonの息子MercerのペンによるThings Ain’t What They Used To Be、こちらも何とブルース、キーはE♭。このバンド、実はブルースバンドなのでしょうか?Turrentineこちらでは中音域F音のオルタネート音を用いてホンキング、フレーズの間を生かした大人のホンカーを演じています。Gene Harrisは容赦無くブルージーにブロックコードを多用してリズミックに盛り上がっています。Ray Brownが曲のエンディングに「Stanley Turrentine !」とシャウトするのがライブの臨場感を出しています。 5曲目はアップテンポ・スイングのスタンダード・ナンバーYours Is My Heart Alone、こんな小粋な選曲が聴けるのはブルースバンドではない証拠です(笑)ベースとドラムスが実に小気味好いビートを繰り出していますが、今回Mickey Rokerの素晴らしさを再認識しました。数多くのレコーディングを経験したセッションマンで、意外なところではHerbie Hancockの「Speak Like A Child」でホーンセクションのアンサンブルを生かすべく、ステディなドラミングを聴かせています。Turrentineとは彼のリーダー2作「 Rough ‘n’ Tumble」「The Spoiler」、いずれも名盤のリズムセクションの中核をなしています。ピアノのイントロからテーマのメロディに入るところで一瞬、ひやっとさせられました。Turrentineのアウフタクト音がリズム的に微妙な位置だったのをリズムセクションが柔らかく的確に受け止めて着地させ、音楽的に正しい方向に導きました。 6曲目Battle Hymn Of The Republic、リパブリック賛歌と邦訳されている米国の1856年作曲のナンバー、南北戦争で北軍の行進曲に使われました。イントロで誰かがハミングしているのが聞こえますが、これまたRay Brownに違いありません。テーマメロディをピアノが華麗に演奏し、そのままソロに突入、こんなカッコいい演奏をライブで目の当たりにしたらさぞかしエキサイトする事でしょう!続くTurrentineのソロもピアノソロに影響を受け、絶好調ぶりを遺憾無く発揮しています!そしてTurrentineが率先して音量を小さく、ディクレッシェンドしています!音楽で最も効果的な表現方法は音量の大小です。リズムセクションも実にナチュラルにダイナミックに対応しています。この後にラストテーマを演奏するのは無粋かも知れませんね。案の定テーマは無しで大団円を迎えます。

2018.06

2018.06.22 Fri

Franco Ambrosetti / Wings

今回はトランペット奏者Franco Ambrosettiのリーダー作「Wings」を取り上げてみましょう。録音1983年12月1, 2日at Skyline Studios, NYC  Recorded By David Baker  Produced By Horst Weber & Matthias Winckelmann  Enja Records  84年リリース tp, flg-h)Franco Ambrosetti  ts)Mike Brecker  fr-horn)John Clark  p)Kenny Kirkland  b)Buster Williams  ds)Daniel Humair 1)Miss, Your Quelque Shows  2)Gin And Pentatonic  3)Atisiul  4)More Wings For Wheeler まず最初にリーダーFranco Ambrosettiのバイオグラフィーをご紹介しましょう。スイスのLuganoで41年12月10日に生まれたイタリア系スイス人、明朗で快活、よく通るブライトなトランペットの音色はどこかイタリア・オペラをイメージさせます。父親のFlavioがヨーロッパのジャズシーンで40年代アルトサックス奏者、バンドリーダーとして活躍したミュージシャンで、その血を受け継いで9歳頃からクラシック・ピアノのレッスンを開始、トランペットは17歳から独学で始めたそうです。父のバンドやPhil Woods European Rhythm Machineのピアニストとして名高いGeorge Gruntzとの共演で腕を磨き24歳、トランペットを始めて僅か7年余り、66年ウイーンで開催されたFriedrich Gulda主催の国際ジャズ・コンペティションでトランペット部門の首位の座に輝きました。因みにこの時ベーシストMiroslav Vitousも18歳にしてベース部門でウイナーを取得(この年は人材豊作で2位がGeorge Mrazでした!)。Vitousの演奏に審査員の一人Cannonball Adderleyがそのあまりの物凄さに椅子から転げんばかりに驚いた、という逸話が残されていますが、あの巨漢なので椅子から転げ落ちなくて良かったです(笑)。ヨーロッパのジャズシーンが当時からどれだけ盛んなのかが、Ambrosettiの早熟ぶり、本作での演奏の素晴らしさ、そしてその完璧な独習による楽器のマスターぶりからも窺うことが出来ます。トランペットがメチャメチャ上手く、美しくて深い音色を湛え、色気があってたっぷりとした余裕を感じさせつつ、リズムのツボを確実に押さえた驚異的なタイム感、スイング感、フレージングの独創性、構成力、ユーモアのセンス、また本作で演奏されている彼のオリジナル曲のユニークさとカッコ良さ、全てにバランスが取れたジャズプレイヤーです。実は彼は一族が様々な会社経営を行っていた裕福な家庭環境に育ち、本人もBasel大学の経済学修士を取得していて親族が経営していた会社の社長を務めるなど、ジャズミュージシャンと会社経営の両方を、こちらもバランス良くこなしているようです。イタリア系の血がなせる技でしょうが、Ambrosettiは社交的で周囲のミュージシャンに対する気配り、配慮がなされた人物で、実際のレコーディング時もスタジオ内で笑いが絶えず、ウイットに富んだ会話にさぞかし満ちていた事でしょう。これはMichael Breckerの演奏の絶好調ぶりから十二分に感じる事が出来るのです。特に1曲目Miss, Your Quelque Showsと2曲目Gin And Pentatonicでの爆発的なブローイング、それでいて知的で緻密な構成力を併せ持ち、音楽の深部に更にぐっと入り込もうとするクリエイティヴネス、その具現化、インプロヴィゼーションの神が降臨したかの如きです。常に安定したクオリティの演奏を繰り広げるMichaelですが、周囲の雰囲気がリラックス出来る状況、彼に対して好意的であればあるほど、演奏に更にターボがかかり、とんでもない次元にまで演奏が飛翔して行くのです。これほどに演奏の充実ぶりが聴けるのは他の共演者との相性や演奏曲目へのチャレンジのし甲斐も間違いなくあった事でしょうが、何と言ってもAmbrosettiの人間的魅力にMichaelがノックアウトされたのでしょう、MichaelもAmbrosettiの演奏と人柄を絶賛していました。 同様に95年Helsinkiでのライブ録音「UMO  Jazz Orchestra With Michael Brecker」での名演奏はリラックスして何の躊躇もなく、只管演奏に集中するMichaelを感じ取る事が出来ます。彼との共演、客演を心から待ち望んでいたビッグバンドのメンバー、スタッフ、オーディエンス全員が彼自身を確実にプッシュしたのです! 「Wings」のディストリビュートは旧西ドイツの名門レーベルEnja、レコーディングは数々の名盤を産み出したNYC、MidtownにあるSkylineスタジオ、エンジニアはDavid Baker、プロデュースはEnjaのオーナーHorst Weber(一度Horstに会った事がありますが、評論家の竹村健一氏によく似た風貌、人柄の方で、さすがジャズレーベルを持つだけに強い意志を感じる人物でした。奥方が日本人だったので日本人ミュージシャンに興味、理解があったようです)。参加メンバーはヨーロッパ勢代表として、盟友Daniel Humair、彼のコンテンポラリーにして独自のグルーヴとカラーリングのセンスを持ち合わせたドラミングがこの作品の価値を一層高めています。アメリカ側からはベースBuster Williams、ピアノKenny Kirkland、フレンチホルンJohn Clark、そしてテナーサックスに我らがMichael Breckerを従えてのSextet編成です。それにしても本作はレコーディング・スタジオ、エンジニアが優れているにも関わらず録音状態がどうもいただけません。実はEnjaの作品全般に言えるのですが、ドンシャリ気味で奥行きのない詰まった感じの音質は一貫したものを感じる事が出来、この音質こそがEnja Labelの個性と言える程です。 「Wings」と次作85年録音Michaelとの再演「Tentets」の2枚をカップリングさせたCDが92年「Gin And Pentatonic」と言うタイトルで発売されました。Ambrosettiのリーダー作には違いないのですが、Michaelとの連名がクレジットされています。1曲目Miss, Your Quelque Showsが「Gin And ~」ではMiss, Your Quelque Chose、ShowsがChoseと表示されているのは単なる誤植か、タイトルを変更したのか、何事も微に入り細に入り細かい事で有名なドイツ人の主宰するレーベルなので、何か意味があるのでは、とつい深読みしてしまいます。余談ですが今から25年以上前、僕が早坂紗知Stir Upでドイツ・メールス・ジャズ・フェスティバルに出演した時の出来事です。演奏が終わって小腹が空き、大きなサーカスのテントのような会場を出て軽く何か食べようと、フランクフルト・ソーセージのぶつ切りにカレー粉をふりかけたカリーヴルスト(ちょうど日本のお好み焼きやたこ焼きのような存在の、ドイツでは最もポピュラーな食べ物です)を屋台に買いに行きました。紙の皿と陶器の皿に盛られた2種類があり、陶器の方はデポジット料金が掛かりますがフランスパンが付いてくるのでそちらにして、食べ終わって皿を返却しました。当然デポジット金を受け取れるものと思っていましたが梨の礫、観たいステージがあるので仕方ないと思いながらその場を立ち去ろうとすると、隣にいた男性に腕を掴まれました。「何か?」異国の地で見知らぬ男性に引き止められたのには驚きましたが、その彼が僕に話しかけます。「ちょっと待て、お前は金を受け取る権利がある」「えっ?」「皿を返したお前は金を受け取れるんだ」更に彼は店員に向かって「何でこいつに金を返さないんだ?ずるい事はよせ」店員は渋々と僕に返金し、事は丸く収まりました。彼は一部始終を見ていた訳なのです。丁寧にお礼を言いましたが、その時の「当然の事をしたまでさ」と言わんばかりの笑顔が忘れられません。人に対して無関心でいられない観察力と正義感、細かい事に対するこだわりが半端ない国民性、そうそう、ドイツ人は本当によく信号を守り、歩道と自転車道を厳格に区別します。 「Gin And Pentatonic」に「Wings」の4曲は全て収録されていますが、「Tentets」の方は全5曲中残念ながら2曲カットされています。「Tentets」収録Wayne Shorterの名曲Yes Or NoやGeorge Gruntzのオリジナルでの10人編成ラージアンサンブルのゴージャスさ、AmbrosettiワンホーンAutumn Leavesの素晴らしさ、これら3曲が「Wings」に追加されてのリリースという形です。 それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目AmbrosettiのオリジナルMiss, Your Quelque Shows、何でしょうこの曲のカッコ良さは!コンテンポラリー、ストレートアヘッド、そしてハードバップの匂いも感じさせる曲調ですが、聴いたことのない類のメロディラインです。曲の随所に聴かれるドラムスのカラーリングが実に素晴らしいです!ソロの先発Ambrosettiのフレージングの合間に聴かれるフィルイン、例えば0’57″のフレーズ、何ですかこれは?笑っちゃうくらいに狙っている、意外性のあるオカズです!Humairのたっぷりとしたグルーヴ、それでいてシャープなビート、レスポンスが素早く、スネアのアクセントの入り具合が自由自在で、他では考えられないセンスです。4’34″頃から始まるMichaelのソロに対応すべく繰り出すスネア、皮モノの連打、イヤー物凄くカッコいいです!間違いなくSteve Gaddに負けずとも劣らない変態系ドラマーの一人でしょう。Kenny Kirklandは大好きなピアニストの一人ですが、ここでも実にネバリのある、ビートに纏わりつくスウィンギーなタイム感を聴かせています。バッキングも決して出しゃばらず、しかし随所にヒラメキを感じさせるフィルインを聴かせ、その場毎に俯瞰しながらシーンを活性化させています。1’05″で聴かれる単音のフィル、イケてます!Buster Williamsの独特の音色、ベースライン、アプローチ、On TopのビートがHumairのドラミングと一心同体化しています。Ambrosettiのソロ、トランペットをここまで吹けたらさぞかし気持ち良いでしょうね!もはや上手い、という次元ではなく、楽器を媒体として確固たる自分のメッセージを高らかに、朗々と語っています。話すべき内容が実にたくさん有り、自分自身たまたまトランペットを吹いていて、豊富な内容の話をオーディエンスにただ聴かせるために鼻唄感覚で演奏する、Ambrosettiの超絶テクニックは表現するものがまずありき、テクニックをテクニックとして身に付けたのではなく、表現するものが明確に見えていて具体化すべく、その結果楽器が上手くなった、と僕は解釈しています。トランペットソロを実に嬉しそうに聴いていたMichael(その場に居合わせたわけではありませんが、これだけの演奏を聴くとその場の情景がくっきりと目に浮かんでしまいます!)、彼のソロが続きますが、これこそ神降臨!Ambrosettiのプレイに徹底的にインスパイアされ、彼と同じく表現すべき事柄が全てこの瞬間に確実に見えています。物凄いテクニックの嵐なのですが、ストーリーを語るためのテクニックの使用、しっかりと唄が聴こえて来ます。2ndリフが演奏されソロが終了と思いきやもう一場面繰り広げられており、ユニークな構成です。Kirklandのソロがまた素晴らしい!フレージングやタイムもさる事ながら、ピアノの音色がとても美しいのです!Busterも的確に対応しています!ここでのKirklandとの出会いがMichaelの初リーダー作「Michael Brecker」の人選に繋がったに違いありません。ピアノソロにもテナーソロと同様にオマケが付いています。その後のドラムスとのバース、ソロイスト各々とのやり取り、全ての音にムダがなく、発した音に互いに責任を持ちつつ、さらに話題を提供し合いながら高尚な会話が継続されました。ラストテーマを迎え大団円状態でのFineです。 2曲目はタイトル曲のGin And Pentatonic、Michaelのソロが大々的にフィーチャーされています。この時のMichaelの使用楽器はお馴染みAmerican Selmer Mark6 No.86351、マウスピースはBobby Dukoff D9(翌84年からDave GuardalaにスイッチするのでDukoff使用最後の頃です)、リードはLa Voz Medium、ダークでいてブライト、エグさがハンパない音色、最低音からフラジオまで自由自在のコントロールです。Miss, Your Quelque Showsのテーマではフレンチホルンの存在が希薄でしたがこの曲のアンサンブルでは、はっきりと聴くことが出来ます。この曲調もまた大変ユニークですが、ソロの先発Michaelがまた大変なことになっています!ここまでイキまくっているソロはMichael史上そうはありません!しかもごく自然体で。ストーリーの起承転結、展開の仕方、ダイナミクス、超絶技が連続のフレージング、イキまくっているにも関わらず全てが完璧な構成、ある図形が内側の複雑な図形を理路整然と収納して、もとの図形を成り立たせている様子、熊本城の石垣〜武者返しの石積みとでも例えましょうか。リズムセクションも一丸となってMichaelのソロをサポートしています。Ambrosetti、Buster、 Kirklandといずれも素晴らしいソロが続きます。以上レコードのSide Aでした。 3曲目はFrancoの父親Flavioのオリジナル、Atisiul。これはFlavioの奥様、Francoの母親でもあるLuisitaに捧げたナンバー、Luisitaを逆から綴ってタイトルにしています。日本でも引っくり返して逆から読む事をバンド用語と言いましたが、最近の若いミュージシャンはあまり使わなくなりました。昔のドンバは全世界共通のセンスを持っているのです。 Michaelのルパートのメロディ奏はいつ聴いてもドラマチックで、彼流の美学に満ちています。その後インテンポで全員によるテーマが演奏されますが、コンテンポラリーなテイストを湛えたナンバー。ストイックさも感じさせるメロディ、コード進行、 Flavioの奥様は一体どんな方なのでしょう?ソロの先発Michaelには前2曲に較べてある種の演奏上の躊躇を感じます。タイムもやや滑りがちで、語り口も辿々しい時があります。何か気になることがあったのでしょうか?「行ってしまえ〜!」感が無くなりました。続くJohn Clarkのフレンチホルンのソロ、途中でテンポのなくなるフリー状態に突入します。ピアノやドラムスのパーカッシヴなバッキング、ベースのアルコでのフィルイン、短いドラムソロを経てア・テンポでトランペットのミュート・ソロになります。ミュートを外したソロで再びリズムが無くなり、フリー状態が一瞬訪れますがドラムソロを経てラストテーマへ。この演奏は全体的にラフさを感じてしまうテイクです。 4曲目はGeorge GruntzのオリジナルMore Wings For Wheelers。トランペット奏者Kenny Wheelerに捧げられている美しいバラード。テナーとフレンチホルンのアンサンブルが効果的に用いられており、Francoをフィーチャーしてのナンバーです。Side BはSide Aの2曲の素晴らしさに比べて物足りなさを感じてしまいました。

2018.06.11 Mon

Joe Henderson Big Band

今回はテナーサックス奏者Joe Hendersonの集大成的な作品、1997年リリース「Joe Henderson Big Band」を取り上げてみましょう。 1)Without A Song 2)Isotope 3)Inner Urge 4)Black Narcissus 5)A Shade Of Jade 6)Step Lightly 7)Serenity 8)Chelsea Bridge 9)Recordame(Recuerdame) On 1, 5, 8 recorded at Power Station, Studio C, March 16, 1992 On 2, 4,  7,  recorded at The Hit Factory, Studio 1, June 24,  1996   On 3, 6, 9, Same Location, June 26, 1996   Verve Label ts, arr)Joe Henderson   ss, as)Dick Oatts  as)Pete Yellin, Steve Wilson, Bobby Porcelli  ts)Craig Handy, Rich Perry, Tim Ries, Charles Pillow  bs)Joe Temperley, Gary Smulyan  tp)Freddie Hubbard, Raymond Vega, Idrees Sulieman, Jimmy Owens, Jon Faddis, Lew Soloff, Marcus Belgrave, Nicholas Payton, Tony Padlock, Michael Mossman, Virgil Jones, Earl Gardner, Byron Stripling  tb)Conrad Herwig, Jimmy Knepper, Robin Eubanks, Keith O’Quinn, Larry Farrell, Diane Zawadi  b-tb)David Taylor, Doug Purviance  p)Chick Corea, Helio Alves, Ronnie Mathews  b)Christian McBride  ds)Joe Chambers, Al Foster, Lewis Nash, Paulinho Braga  cond, arr)Slide Hampton  arr)Michael Mossman  prod)Bob Belden(track 2~4, 6, 7, 9 )  prod)Don Sickler(track 1, 5, 8) 今までにも当BlogにてJoe Henはリーダー作、サイドマンでしばしば取り上げて来ましたが、今回はまた違った側面から彼の事を論ずる事が出来そうです。 作品収録全9曲はJoe Henのオリジナル7曲、かつて自身の作品で取り上げた事のあるスタンダード・ナンバー2曲から成ります。オリジナルは大変ユニークな曲構成を持ったものから、崇高な美学を湛えたナンバー、Joe Henのフレージングをそのまま曲のメロディラインにした如き変態系(?)楽曲まで幅の広い音楽性を有しています。スタンダード・ナンバーもJoe Henならではのセンスが光るチョイスです。これらのナンバーの音楽性を最大限に発揮させるべく、アメリカを代表するアンサンブル・ワークの精鋭達に集合を掛け、更にはJoe Hen所縁のジャズ・リジェンド、ジャイアンツから成る超豪華なゲスト・ミュージシャンを各セクションの要所に配した特別編成のビッグバンドを組織し、何曲かにはこれまたトップクラスのアレンジャーを採用し(Joe Hen本人も素晴らしいアレンジを共作も含め何と5曲も提供しています)、63年録音の初リーダー作「Page One」から始まる約30年に及ぶJoe Henワールドの集大成をビッグバンドで表現しようというVerve Labelのプロジェクトが企画されたのです。何よりリーダーJoe Hen自身の全く的確なビッグバンド・アレンジの提供、そこから感じる音楽表現に対する強靭な意志、さらには凄味さえも感じさせるアドリブ・ソロから意気込みがひしひしと伝わって来ます。 個人的にはCaribbean Fire Dance、Mode For Joe、In’n Out、The Kicker、If、Mo’ Jo等Joeの他のユニークなオリジナルや、オハコのスタンダード・ナンバーInvitationもビッグバンド・バージョンで聴いてみたかったところです。 ビッグバンドという形態はジャズという音楽でありながらパッケージ的な要素が強いために、スポンテニアスなアドリブやジャズの醍醐味であるインタープレイがどうしても制約されてしまう傾向にあります。66年から継続的に演奏活動を行なっているThad Jones Mel Lewis Big Band(現在でもThe Vanguard Jazz Orchestraとして活動中)は、アンサンブルとアドリブのバランスがかなりの次元まで表現されていた事で有名なビッグバンドでしたが、本作もJoe Henのアドリブがサイズ的にコンパクトな中にもコンボジャズのテイストがしっかりと織り込まれており、Joe Hen自身も一時参加していたThad – Melに引けを取らない、寧ろジャズ史上に残る緻密でハイパーなアンサンブルを従えた、ビッグバンド〜コンボ、文武両道のジャズ名盤に仕上がっています。 この作品でJoe Henがビッグバンドのアレンジを手掛けているのは意外な感じがするかも知れません。実は彼は60年代に自己のビッグバンドを組織していました 。時系列として、65年末Thad – Mel Big Bandが結成されるとテナー奏者Frank Foster、ピアニストDuke Pearsonも彼らに続きビッグバンドを立ち上げ、Joe Henは半年遅れの66年夏頃に、彼にとっての指導者的立場にあるトランペッターKenny Dorhamと双頭バンドという形でビッグバンドをスタートさせました。 Joe HenはDetroitのWayne State Universityで、クラスメイトのBarry Harris、Donald Byrd、Yusef LateefやPepper Adams達に囲まれて音楽を学び、Bartok、Stravinsky等のクラッシックも学びました。それ以前の高校時代にはStan Kenton Orchestraに興味を持っていたそうで、他のアレンジャーではBill Holmanにご執心、またテナーサックス奏者ではLester Youngを随分と研究しており、Youngのソロの完全コピーを暗譜して吹いていたそうです。その頃から曲作りやビッグバンドのオーケストレーションにもかなりの興味があった事が本作に繋がりますが、彼の演奏が構築を重ねてドラマチックに盛り上がり同時にストーリー性を有しているのは、Youngのアドリブ・スタイルのフォーマットにオーケストレーションを勉強していた事が加わって成り立っている可能性があります。 63年にBlue Note Label(BN)からアルバムデビューを飾ったJoe Henですが、作曲の才能を開花させるのはBNの彼の作品群で可能になりましたが、ビッグバンドのアレンジを披露する場には恵まれませんでした。BNではビッグバンドのレコーディングにはさほど積極的では無かったので、Dorham、Pepper Adamsら志を同じくする仲間達でリハーサル・オーケストラを組織しましたが、ライブハウスやコンサートへの出演機会もほとんど無かった中でただひたすら、黙々と練習を重ねました。どうやらその頃のリハーサル模様を録音したテープが複数存在するらしいのですが、未だ日の目を見ていません。ぜひ発掘して貰いたいものです。当時のリハーサルに参加したメンバーとしては、Lew Soloff、Jimmy Knepper、Curtis Fuller、Chick Corea、Ron Carter、Joe Chambers達の名前が挙げられますが、本作参加メンバーにも彼らの名前を見る事が出来ます。他にも参加ミュージシャンでPete Yellin、Virgil Jones、Idrees Sulieman、Jimmy Owens、Ronnie Mathews、Dick Oatts達もリハーサル参加経験者ではないかと想像しています。しかし、バンド活動は人前での演奏行為あっての継続性です。ギグがなければ練習にも身が入らなくなり、1年後にはDorhamが退団、その後数年でバンドはフェードアウト状態に陥ってしまいました。「メンバーには苦労させちゃったから恩返しをしないとね、ビッグバンドの録音には必ず彼らを呼ばないといけないね」とJoe Henは考えた事でしょう、後年実現したわけですが、我々は作品の人選の裏話を垣間見ています。 その後69年前任者のSeldon Powellが抜けたThad – Melに後釜としてJoe Henが加入、短い間でしたが熱い演奏を繰り広げました。自己のビッグバンドでの無念を晴らすべく、と言う側面もあった事でしょう。70年代に入りCrossover、Fusionの台頭によりメインストリーム、モダンジャズに活況が見られなくなり、ビッグバンドも当然勢いがなくなって行きました。Joe Hen自身も仕事が少なくなり拠点としていたNew Yorkを離れ比較的スタジオ・ギグの多かったSan Franciscoに71年移住しました。同時期にロックバンドBlood, Sweat & Tearsに参加という離れ技(?)も披露してくれました。 70年代はMilestone Labelにコンスタントに作品を残しており、以降80年代から徐々に60年代の往年の活躍ぶりを取り戻し、以前当Blogで取り上げた91年の「The Standard Joe」から本格的再始動が始まります。同年録音「Lush Life: The Music Of Billy Strayhorn」でのGrammy Award受賞がきっかけとなり再ブレークしたわけですが、この翌92年に本作のレコーディングを開始、Without A Song、A Shade Of Jade、Chelsea Bridgeの3曲を自身のアレンジで録音しています。臥薪嘗胆、虎視眈々とはまさにこの事、ビッグバンドのレコーディング・プロジェクトを狙っていたのでしょう、今がその時期だ、とばかりに録音しましたが、この後96年まで更なるレコーディングは行われておりません。Verveと何らかの契約があったのか、第2作目にビッグバンドの作品を制作する事が叶わず93年第2作目「So Near, So Far(Musings For Miles)」、94年第3作目「Double Rainbow: The Music Of Antonio Carlos Jobim」のコンボ編成2作をリリースしたのち、96年に一挙に6曲のビッグバンド録音を行い、合計9曲を収録したVerve第4作目として97年リリースとなります。文字通り満を持してのJoe Henderson Big Band、それでは収録曲について触れて行きたいと思います。 1曲目スタンダードナンバーWithout A Song、Milestone67年録音のアルバム「The Kicker」に収録されています。ここではJoe Henによるビッグバンド・アレンジ、92年録音。60年代にSonny RollinsやFreddie Hubbard達も取り上げていたナンバーです。イントロなしでいきなりJoe Henのテーマから始まります。自身のアレンジで自分をフィーチャーしてビッグバンドをバックに演奏する、こんなサックス奏者冥利に尽きるシチュエーションはありません!テーマを含め計5コーラス演奏していますが、ソロ3コーラス目からのバックリフ、続くシャウト・コーラスの何てカッコイイ事!オープニングに相応しくJoe Henの独壇場、吹きっきりでの演奏です。 2曲目オリジナルIsotope、Blue Note 64年録音の「Inner Urge」収録、Joe Henのアレンジで96年録音。初めのテーマから既に大騒ぎ状態です!ソロの先発、切り込み隊長はChick Corea、さあJoe、雰囲気を作って場を温めておきましたよ、どうぞ存分にブロウして下さい、と言わんばかりの的確なソロに続きJoe Henの登場です。曲のアレンジ構成を最も分かっている本人ならではの、アンサンブルとのやり取りが素晴らしいソロです。続く4コーラスにも及ぶシャウトコーラスの凄まじさ!本作殆ど孤軍奮闘のChristian McBrideのベースソロを経て更に、一層大騒ぎ、成層圏まで届きそうなJon Faddisのリード・トランペットのハートーンが聴けるラストテーマに繋がります。こんなラインやアレンジを書けるJoe Henって何て凄いミュージシャンだろう、と再認識させられます。 3曲目オリジナルInner Urge、前曲と同じ同名アルバム収録になります。 96年録音、トロンボーン奏者 Slide Hamptonのアレンジです。これから展開されるであろう音の壮大な構築を予感させる、問題提起感満載の妖しいイントロから、Joe Henとベースのユニゾンのメロディ、テーマ2コーラス目はアンサンブルです。タダでさえカッコイイ曲が超絶カッコ良くアレンジされています!先発Joe Henのソロは作曲者ならではのサウンド・アプローチが聴かれます。2番手Coreaのソロのまた素晴らしいこと!Joe、貴方の演奏の後をしっかり締めておきましたよ、とばかりの展開です!ピアノソロ後のルパートのアンサンブルを経てLewis Nashの短いドラムソロ、そしてアレンジャーHamptonの美学が冴えるチュッティ、シャウトコーラスのエグい程のゴージャスさ!最後は再びJoe Henとベースのユニゾンのテーマ、終わったかに見せかけてのエンディングの、これまたえげつない位に素晴らしいダメ押し。ため息が出るほどに聴き応えがある演奏です。 4曲目オリジナルBlack Narcissus74年録音の同名作に収録、そして遡ること5年、69年録音の「Power To The People」(いずれもMilestone)で初演されています。Bob Beldenアレンジ96年録音。耽美的な美しさを湛えたワルツ・ナンバー、Joe Henも再録音するほどのお気に入りの曲です。ソロの先発Corea、リズムセクションとのインタープレイが素晴らしいです。ドラマーのアプローチが前曲とは異なると思いきや、やはりAl Fosterに変わっていました。アンサンブルを含めたFosterのドラミングによるカラーリングが、実に曲の場面を設定させています。 5曲目オリジナルA Shade Of Jade、Blue Note66年録音「Mode For Joe」収録。 92年Joe Henのアレンジで録音されています。バリトンサックスのフィルイン・メロディが印象的なテーマのアレンジ、これまたメチャイケてます!Joe Henのソロも絶好調、96年録音時よりも92年の方がソロに一層の冴えを感じます。続くトランペットはFreddie Hubbard、この時彼は病み上がりで万全のコンディションではありませんでした。確かにいつもの神がかったインスピレーションやタイムの素晴らしさに今一つ翳りを感じます。再びJoe Henのソロが登場、アイデアが尽きません!アンサンブルとのやり取り、その後のこれでもか、とばかりのシャウトコーラスの充実ぶりにJoe Henのアレンジにかける執念を感じました。 6曲目オリジナルStep Lightlyはトランペット奏者Blue Mitchell63年8月録音の同名作と、同年12月録音ビブラフォン奏者Bobby Hutchersonの「The Kicker」両方に収録されているナンバー。良い作品にも関わらず、いずれも何故かオクラ入りしていたために、Mitchellは88年、Hutchersonの方は99年にリリースされました。96年録音Bob Belden、Joe Hen共作によるアレンジ。 唯一Joe Henのリーダー作以外からのナンバーです。軽やかなステップ、リラックスした雰囲気の変形ブルースです。先発ソロイストはNicholas Payton、正統派然とした素晴らしいソロが聴けます。何気にバックのアンサンブルのテンションが凄まじいです。こちらもドラムがFoster、さすが晩年のJoe Hen御用達ドラマー、Joe Henのソロにとても的確なアプローチを聴かせています。続くCoreaもJoe Henの音楽性をしっかりと意識した演奏を展開しています。 7曲目オリジナルSerenityは64年録音、Blue Note「In’n Out」収録。 BNを代表する秀逸なレコード・ジャケットの1枚です。96年録音、Slide Hamptonアレンジです。Serenityとは「静けさ、平穏」の意味ですが、イントロでは既に静寂が破られています(笑)。ここでのテーマ提示感が素晴らしく、続くテーマ本編への繋がりにワクワクしてしまいます!この曲ではJoe Henのテナーサックスの音が他曲よりも前に出ているように感じます。テナーソロ導入部のバックグラウンド、Coreaのソロ後、アカペラから始まるチュッティ、アンサンブルのソプラノリードが印象的だったり、随所に聴きどころを作った凝り凝りのアレンジで、アレンジと言う枠組み、その内部に収納されている演奏の密度の濃さはとてつもないレベルです。 8曲目Billy Strayhornのオリジナル・バラードChelsea Bridgeは1曲目と同様「The Kicker」に収録されています。 92年録音、Joe Henアレンジです。個人的にはバックのアンサンブルの音量が大きすぎて、Joe Henがしっとりとppで吹いている部分が消えがちなのが残念です。バラードでのテーマ演奏後、すぐに倍テンポのスイングになるのは然もありなん、かなり元気の良いバラード演奏です。コード進行を変えつつ、各セクションのアンサンブルが綴れ織りのように交錯するするアレンジは見事です。 9曲目アルバム最後を飾るのはオリジナルRecordame、「Page One」収録。96年録音、トランペッターMichael Philip Mossmanアレンジ。この名曲は一時日本でもずいぶん流行り、どこに行っても演奏した覚えがあります。この曲のみリズムセクションのメンバーが変わり、p)Helio Alves b)Nilson Matta ds)Paulo Braga、ドラマーのBragaはJoe Henの前作「Double Rainbow」にも参加しているブラジル出身のミュージシャンで、ピアニスト、ベーシストいずれもブラジル出身者です。ボサノバ・ナンバーを本格的なブラジル・テイストのリズムで演奏したかったのでしょう。Mossmanのアレンジは洒落たセンスの中にもある種の毒気を感じさせるものが多く、ここでもそのセンスを遺憾なく発揮しています。Joe Hen、Payton、Alvesがソロをとっています。

2018.06.01 Fri

King Of The Tenors / Ben Webster

今回はテナーサックス奏者Ben Websterの代表作「King Of The Tenors」を取り上げてみましょう。1953年5月21日、12月8日LA録音 Producer : Norman Granz ts)Ben Webster as)Benny Carter(track 1~4, 7) tp)Harry “Sweets” Edison(track 1~4, 7) p)Oscar Peterson g)Herb Ellis(track 1~4, 6) g)Barney Kessel(track 5, 7, 8) b)Ray Brown ds)Alvin Stoller(track 5, 7, 8), J. C. Heard(track 1~4, 6) 1)Tenderly 2)Jive At Six 3)Don’t Get Around Much Anymore 4)That’s All 5)Bounce Blues 6)Pennies From Heaven 7)Cotton Tail 8)Danny Boy 54年当初発売時は「The Consummate Artistry Of Ben Webster」というタイトルでNorman GranzのNorgran Labelからリリースされましたが、56年にGranzが新たにVerve Labelを興し、翌57年に同じ内容でタイトルを「King Of The Tenors」に変えて同レーベルよりリリースされました。どちらのタイトルもWebsterには相応しいと思いますが、「 King ~」の方がより的確に彼自身を表していると思います。Sonny Rollinsの代表作「Saxophone Colossus」(Prestige Label)に匹敵する、その名前を汚す事のないクオリティの演奏をするプレイヤー以外は決して使う事が許されない物凄いネーミングですが、「Saxophone ~」の方が前年56年リリースですので、Norman GranzがPrestigeのBob Weinstockに対抗して、あちらが「Colossus ~ 巨人」ならこちらは「王様」で、という具合にKingをタイトルに用いたのではないかと推測されます。 以前どこかの雑誌にもこの作品の事を挙げ、自分自身音楽的な迷いが生じたときにこのアルバムを聴くようにしていると書きましたが、未だにその作業を行う時があります。特にテナーサックスの音色に関しての迷いの場合には彼のセクシーで魅力的なトーンを浴びるほど聴き、演奏の細部にまで入り込み、そのニュアンス付け、イントネーション、音の強弱〜ダイナミクスの処理、ベンド、ポルタメント、グリッサンド、ビブラートのかけ方とバリエーション、音が消え入る時のカサカサ感、グロウトーン、音色のカラーリング、サブトーンの充実感などの再認識作業を行います。Websterはそのサウンドの全てに於いて、規範となりうる演奏者です。楽器の上手さとは、特にサックスに於いては運指的に早く正確に吹ける、フレーズの持ち札が沢山あり、適材適所で使用可能である、フラジオ音を確実にヒットさせる、等の超絶テクニカルな面が偏重される傾向にありますが、彼の場合はテナーサックスでメロディを歌い上げることが最重要事項であり、そのことに付随する奏法が誰よりも的確で充実していることを考えると大変に楽器が上手い、テクニシャンと言えます。楽器演奏に於けるテクニックとは奏者がその場でイメージした事柄を瞬時に確実に表現するための手段であります。Websterは熟練した歌唱力を持ったボーカリストの境地、マエストロと言えます。 ジャズテナーサックスの開祖と言われる3人、Coleman Hawkins、Lester Young、Ben Websterいずれもがツワモノですが、とりわけWebsterが僕の好みです。Hawkinsはトツトツとした語り口と音色が個性的でこの3人の中で一番年長、この人がジャズテナーサックスを始めた張本人です。Youngはスイートでハスキーな音色が魅力、フレージングにも独特の美学があり、その一風変わった人柄が物議を醸し出しましたが実に多くのフォロワーを有しています。 僕が以前在籍したビッグバンド、原信夫とシャープス&フラッツのリーダーでテナーサックス奏者の原信夫さんが大のWebsterファン、僕自身も以前からWebsterの演奏が好きでしたがシャープス在団中に随分と原さんに仕込まれました。「ユーさ」、原さんくらいの年代のプレイヤーの方は若手に対しこのように話し掛けていました。「ミーの事ですか?」とは流石に答えられませんでしたが(笑)、「これ聴いておいてよ」と度々レコードやCDをカセットテープにダビングしたものを渡されましたが、Websterが一番多かったです。「今の若いテナーには面白い奴がいないけど、Branford Marsalisは別格だね。あれはBen Webster直系だからさ」とは原さんの弁、テナーサックス・プレイヤーの良し悪しをWebsterに影響を受けたか否かを基準にして考えています。Arnette Cobb、Buddy Tate、Stanley Turrentine等Webster直系のテナー奏者のテープやCDも原さんから頂きましたし、シャープスは実際彼らとも共演の経験がありました(残念ながら僕が入団する前の出来事ですが)。男の色気をムンムンと感じさせ、低音域をメインにした大胆な語り口の中にもきめ細やかさ、デリケートな表情付けが実に巧みなWebster、後続のテナーサックス奏者に多大な影響を与えました。彼の楽器のセッティングですが、マウスピースはOtto Link Master Model オープニング5番をリフェイスして8番に広げたもの、リガチャーは初期の頃はマウスピース・テーブル裏の溝に嵌める最初期のオリジナル・タイプのものでしたが、後年はFour Star Modelのリガチャーを使っていました。リードはRico 3半、楽器本体は1937年製Selmer Balanced Action No.25418 黒人テナーサックス奏者はJohn Coltrane、Dexter Gordonに代表されるようにアゴを引き、うつむき加減にマウスピースを咥えて演奏するプレイヤーが多いですが、「The Consummate Artistry 〜」のジャケ写で顕著に写っているようにWebsterは寧ろアゴをかなり上げて演奏しています。40年代〜50年代にこの奏法のプレイヤーは珍しいです。Clifford Jordanもかなり顔を上げて吹く奏法のプレイヤーですが、Websterほどではありません。アゴを上げた方がノドが解放されてリラックスするのでよく共鳴し、奏法的には良い筈です。話し声、スピーチも下を向いて原稿を見ながら話すよりも前を向いて自分のイメージでの方がよく通りますから。彼のワンアンドオンリーなサックスの響き、音色、ビブラートはもしかしたらこの奏法の良さに起因しているのかも知れません。ただ50年代後半頃から次第にアゴが落ちて行き、比較的普通の角度での奏法に変わっていきました。アゴを引いて演奏しているColtrane、Dexter二人とも素晴らしい音色じゃないか、と言われると全くその通りなのですが(爆) 因みに写真は順番にColtrane、Dexter、Cliffordです。 演奏曲に触れて行きましょう。1曲目Tenderly、Granzお抱えVerve専属の名ピアニストOscar Petersonの美しい、これから繰り広げられるであろう美の世界を十分に予感させるイントロからWebsterのメロディ奏が始まります。それにしても何でしょう、このテナーサックスの音色は!音の深度が他のプレイヤーとは全く違います!蕩けんばかりに甘く、切なさを感じさせながらも渋さを湛えたビタースイート・テイスト、一音への入魂振り、発する音全てに対して責任を持つかの如き的確なニュアンス付け、メロディ・フェイクの巧みさ、大胆に語ったかと思えば囁くように呟く信じられない程の音量のダイナミクス、歌詞をなぞらえながらサックスを吹いているかの如しです。この1コーラス半の演奏にジャズ・バラードの森羅万象が存在すると言っても決して過言ではありません。そしてこのバラードプレイを超えるものは未だ存在しないのです。 2曲目はアルトサックスBenny Carter、トランペットHarry “Sweets” Edisonが加わったEdisonのナンバーJive At Six。ソロの先発Carter、続くEdisonもさすが良い味を出しています。その後のWebsterのソロ、この人はある程度のテンポ以上になるとトーンにグロウをかけ始め、ブロウするいわゆる”ホンカー”に変身し始めます。個人的にはバラード時よりも大味な演奏になるように聴こえるのがちょっとばかり不満です。 3曲目はDuke Ellington作曲のDon’t Get Around Much Any More、Websterもかつて彼のビッグバンドに在団していました。この位のテンポのスイング・ナンバーはバラードの延長線上で演奏しているように聴こえます。いや、何とメロウな吹き方でしょう!Carter、Edisonが後テーマでバックリフを演奏しています。 4曲目はスタンダードナンバーからThat’s All、やはりこの人の真髄はバラードにありますね、待ってましたとばかりに聴き入ってしまいます。ここでは比較的ストレートにメロディを奏でています。同様にここでもCarter、Edisonのハーモニーを後半に聴く事が出来ます。 5曲目はWebster自身のペンによるBounce Blues、レイドバックしたメロディの後Peterson、Barney Kesselのギターソロが聴かれ、Websterの登場になります。ソロ前半はバラード演奏に準じているのですが、次第にホンカーに豹変してそのままのスタイルでのメロディ・プレイでFineです。 6曲目は50年代当時流行のナンバーの一曲Pennies From Heaven、ピアノのイントロが印象的です。Websterメロディフェイクも巧みにテーマを演奏、Edisonのソロも素敵です!tp、asのバックリフに煽られたのかホンカーが再び降臨しています。 7曲目、再びEllingtonのナンバーCotton Tail、ここでのソロは実に有名なもので、ビッグバンドのソリでソロが採譜されたものを演奏したことが何度もあります。ある程度のテンポの曲なのでご多分に漏れず、グロウトーンで演奏しています。 8曲目、レコードのラストを飾るのはアイルランド民謡がベースになった名曲Danny Boy、テナーサックスでしっとりとメロディを奏でる際の定番曲の一曲です。日本でも故松本英彦さんの名演が忘れられないですが、Sam TaylorやSil Austinが残した演奏も素晴らしいです。でもここでのWebsterの演奏が全ての発端、実に朗々と歌っています。ここでのキーはDメジャーですが、松本さんはE♭メジャーで演奏していたのを覚えています。円熟、枯淡の境地が聴かれるWebster65年Denmarkでの演奏がyoutubeにアップされていますので、クリックしてご覧になって下さい。https://www.youtube.com/watch?v=pwFiLuYFiZ0

2018.05

2018.05.23 Wed

The Cape Verdean Blues / The Horace Silver Quintet Plus J. J. Johnson

今回はピアニスト、作曲家、バンドリーダーHorace Silver1965年録音の作品「The Cape Verdean Blues」を取り上げてみましょう。65年10月1日、22日Rudy Van Gelder Studio、Engineer : Rudy Van Gelder  Producer : Alfred Lion  Blue Note Label tp)Woody Shaw ts)Joe Henderson tb)J. J. Johnson p)Horace Silver b)Bob Cranshaw ds)Roger Humphries 1)The Cape Verdean Blues 2)The African Queen 3)Pretty Eyes 4)Nutville 5)Bonita 6)Mo’ Joe 多作家Horace Silver、その中でも60年代を代表する傑作アルバムです。大ヒットした「Song For My Father」の次作になりますが、そのヒットを音楽的に払拭して良くぞここまでの斬新な作品を作り上げました!参加メンバー、収録曲ともに大変充実したモダンジャズの名盤の一枚に数えられる作品です。基本的にはトランペット、テナーサックスをフロントに擁したクインテット編成ですが、レコードのB面、4曲目から6曲目はJ. J. Johnsonのトロンボーンを加えたセクステット編成になり、より重厚なアンサンブル、密度の濃い演奏を聴くことができます。 Horaceの父親(「Song For My Father」のジャケ写の方です)がアフリカ大陸北西沖に浮かぶ旧ポルトガル領カーボベルデ(ケープベルデ、僕が高校の地理で習った時にはカポベルデと表記されていました)諸島出身です。レコードのライナーノーツ冒頭に記載されていますが、①Horaceの幼少時代によく父親がポルトガル語でカーボベルデの民謡を歌ってくれた ②ブラジルのリオ・デ・ジャネイロを訪れた際、友人のドラマーDon Um Romao(パーカッション奏者としてWeather Reportに72~74年在籍していました)にサンバのリズムを習った ③アメリカの古き良きファンキーなブルースを愛して止まない、以上3点にHorace自身がインスパイアされてCape Verdean Bluesを書いたそうです。2曲目のThe African Queenもアフリカ西海岸Ivory Coast出身のミュージシャンPierre Billonに紹介されたアフリカの幾つかの民謡にインスパイアされて書かれました。この作品の楽曲はハード・バップの延長線上にありますが、独特のエキゾチックさと相俟って他の作品には無いエスニック・フレーバーがちりばめられているのはこのためです。 メンバーにも触れてみましょう。トランペッターWoody Shaw、この録音当時若干20歳!この作品では既に知的かつオリジナリティに溢れ、アグレッシブでありながらリリカル、デリカシーさを痛感させる素晴らしいプレイ、個性的な音色を聴かせています。大物の風格を湛えたニューカマーの登場です。同世代のトランペッターFreddie HubbardやRandy Brecker、Charles Tolliver、Eddie Hendersonらと一線を画する独自のスタイルをこの時点で確立させていたのは驚異的です。Horaceとはこの作品が初共演となります。テナーサックスJoe Hendersonは前作からの留任になりますが、本作に於いても最重要キーパーソン、彼の演奏無しにはこの作品のずば抜けたクオリティはあり得ません。絶好調ぶりを本作中遺憾なく発揮しています。WoodyとJoe Henのコンビによる演奏はこの後ほかでも聴かれ、例えば本作の2日間に渡る録音65年10月1日と22日の直後、11月10日にオルガン奏者Larry Youngの名作、Elvin Jonesを擁したカルテット編成での「Unity」(因にBlue Noteカタログ番号も一つ次の4221)が同じくBlue Note Labelで録音されています。僕個人もこの二人がフロントの作品を目にしたら思わず手に取ってしまうでしょう。彼らの参加作にハズレはありません。両者の演奏が互いに化学反応を起こし、各々一人づつの演奏時に比べて何倍ものスイング感をバンド全体を巻き込みながら引き出すのです。のちにJoe Henのリーダー作、Woodyの諸作にお互い参加し合い、当時の混沌としたジャズシーンの最先端を行く超個性的な演奏スタイルの二人、さぞかし気が合い切磋琢磨しつつ、陽気でハイテンションのJoe Hen、寡黙で思考型Woodyのコンビで演奏していたのではないでしょうか。 トロンボーン奏者J. J. Johnsonは既に大御所的な存在感での客演、レコードのタイトルにも敬意を表されたクレジットがなされています。60年代一世を風靡していたArt Blakey And The Jazz Messengersの3管編成がトランペットFreddie Hubbard、テナーサックスWayne Shorter、そしてトロンボーンCurtis Fullerに対抗するにはJ. J.の参加を仰ぐしかなかったでしょう。多かれ少なかれ人選にはその意識があったと思います。J. J.の豪快な音色とソロ、的確なアンサンブル・ワークで本作レコードのB面はJazz Messengersに引けを取らないどころか、むしろ凌ぐ内容を聴かせています。「僕はずっとJ. J.を自分のバンドに使いたかったけれど、なかなかスケジュールが合わなかったんだ。」とはHoraceの発言。更に「今回彼と一緒に演奏出来たのは良かった。彼は素晴らしいミュージシャンだけでなく、仕事を共にする上でとても協力的な人物だった。我々バンドのメンバーはとんでもない刺激を彼から受けたよ」と手放しで褒めちぎっています。共演の念願叶ったのがこの作品の成功の一因でもあると思います。 ベーシストBob Cranshawは堅実でステディなベースワークから数多くのミュージシャンのサポートを務め、本作でも実に素晴らしいOn Topなプレイを聴かせています。後年交通事故により背中を痛めアップライトベースを弾くことが困難になり、エレクトリックベースにスイッチしましたが継続的に演奏活動を行い、知られるところではかのSonny Rollinsのレギュラー・ベーシストとして永年その存在感をアピールしました。ドラマーRoger Humphriesも前作からのHoraceとの付き合い、スイングビートも素晴らしいですが、ラテンがまた実に的確、リズムの美味しいポイントでビートを繰り出しグルーヴしています。職人技ドラマーの代表格の一人です。リーダーHorace Silverは自身のオリジナルを5曲提供し作曲の才能をますます開花させ、ピアノプレイも相変わらずのマイペースぶりを披露し、転びそうな、つんのめった独特のリズム感により一聴彼だと分かる個性を十二分に発揮しています。 ところでレコードジャケットに写っているアフリカ系の美女は一体誰でしょう?前作「Song For My Father」に自分の父親の写真を掲載したくらいですから、今回もかなり近しい存在の女性だと思われます。緑豊かな広葉樹の中に佇む女性本人も緑色の服装、おまけに緑色っぽい帽子まで着用しています。ひょっとしたら収録曲The African Queenに肖っているのかも知れませんね。 1曲目表題曲のThe Cape Verdean Blues、何とオリジナリティに溢れた曲でしょう!管楽器のメロディがピアノのバッキングとコール・アンド・レスポンス形式になっています。サンバのような、カリプソのようなリズムはカーボベルデとブラジル、アメリカの古典的なブルースが合わさったものなのでしょうが、Horace独自のセンスが光っています。ピアノ奏者Don Grolnickのアルバム「Medianoche」でも取り上げられ、Michael Breckerがソロを取っていますが、リズムセクションの醸し出す雰囲気からか、Grolnick自身のコンセプトなのか、原曲でのおどろおどろしい感じはなく、寧ろスッキリした明快な演奏に仕上がっています。 2曲目The African Queen、メロディ自体はペンタトニック・スケールから出来ているシンプルなものですが、ダイナミクスが半端ではありません!これだけの構成、一体どのようなアフリカの民謡に影響を受けたのか、原曲を聴いてみたいものです。ソロの先発Joe Hen、フォルテシモ時にオーヴァー・トーンやフリーク・トーンを駆使して盛り上げていますが、最後はBen Websterばりの低音のサブトーンでうまくまとめています。現代の耳ではこれらの特殊奏法は比較的当たり前に聴こえますが、65年当時では驚異的なテクニックでした。Joe Henの斬新さを改めて感じます。Woodyもお得意の4度のインターバル・フレーズやハイノートでバッチリ対応しています。 3曲目Pretty Eyes、伝統的なジャズワルツですが後半にグルーヴが8分の6拍子っぽく変わるのがドラマチックです。フロントの二人、Horace共々良いソロを取っています。 4曲目Nutville、いよいよJ. J.を加えた3管編成での演奏開始です!そしてこの曲の演奏は本作のメインイベントでしょう。ベースパターンも印象的なアップテンポの変形マイナーブルース、斬新なホーンのハーモニー、ラテンとスイングが交互に入れ替わる実にカッコ良い曲です。端正なリズム、グルーヴで演奏が繰り広げられています。先発はJ. J.、極太でコクのあるトロンボーンの音色は他の人では絶対に真似できません!後半2コーラスにバックグラウンドのアンサンブルが入り、合計4コーラス演奏しています。続くWoody、スネークインしてソロが始まります。2コーラス目の冒頭でMichael Breckerお得意のフレーズに良く似たラインが出てきますが、Michaelもこのソロがひょっとしたらヒントになっているかも知れません。と言うのも実は兄のRandy BreckerはWoodyのソロをコピーして研究していたそうで、The Brecker Brothers Bandのレパートリーである「Return Of The Brecker Brothers」収録のAbove And Belowという彼のオリジナルでは、曲のメロディラインにWoodyのフレーズのアイデアを用いたと言われています。バックグラウンドのアンサンブルなしで3コーラス演奏しています。20歳の若者が取るクオリティのソロではありませんね。構造的なアドリブの中にも豊かなニュアンス、色気も感じさせつつ、クールさの中にも物凄いテンションです!続くJoe HenはJ. J.と同様に4コーラスソロをとっていますが、いや〜本当に素晴らしい内容です!Joe Henフレーズのオンパレードですが、何しろ彼のストーリーテラーぶりに感動してしまいます。ソロの構築の仕方、意外性、ダイナミクス、3〜4コーラス目に出てくるバックグラウンド・アンサンブルにもソロが呼応しているように聴こえます。そしてテナーサックスのエグエグな音色の素晴らしさ!この頃の彼の楽器のセットアップですがテナー本体はSelmer Mark6、56,000番台。マウスピースは同じくSelmer Soloist、オープニングはDかE、リードは多分La Voz Mediumです。映像や写真を見るとマウスピースSelmer SoloistはShort Shank、Long Shank両方使っていました。Van Gelderの巧みな録音技術でJoe Hen、その素晴らしい音色が一層輝いています。Horace節炸裂のピアノソロの際のバックグラウンド・アンサンブルでJoe Henのテナーが3管の中で一番良く聴こえています。小気味よいほどに巧みなドラムソロの後にラストテーマ、コーダを経てFine、大団円で演奏終了です。 5曲目BonitaはPretty Eyesと何処か似た曲、エキゾチックなムード満載です。Horace56年録音の作品「Six Pieces Of Silver」収録曲のEnchantmentを発展させた曲、と本人解説しています。確認してみましたがそう聴けば聴こえない事もない、程度の感じです。ピアノソロ後のJoe Henのソロが実に曲想に合致していますが、続くJ. J.のソロもJoe Henの意思を受け継いだかの如き素晴らしい展開を聴かせ、Woodyのソロでしっかりと3管のソロリレーを終結させています。 6曲目作品ラストを飾るのはJoe HenのオリジナルMo’ Joe。ここでは管楽器3人の個性がよく表れたソロのオーダー、更にピアノ、ベースとハードバップ・セッション的にソロが繰り広げられています。Horaceは前作でも同様に彼のオリジナル曲The Kickerを取り上げていましたが、Joe Henのソングライティングに敬意を表していたのでしょう。ここでは3管編成のアンサンブル、ハーモニーがとても生きています。Mo’ Joe、The Kickerの2曲とも約2年後67年8月10日に同じくtp, ts, tbの3管編成で、改めてJoe Hen自身のリーダー作に於いて録音しています。「The Kicker」Milestone Label  68年1月リリース

2018.05.13 Sun

The Cat And The Hat / Ben Sidran

今回はピアニスト、作曲家、アレンジャー、ボーカリストBen Sidranの1979年リリース作品「The Cat And The Hat」を取り上げてみましょう。 Produced By Mike Mainieri and Ben Sidran  Recorded and Mixed By Al Schmitt  Horizon Records & Tapes 1)Hi-Fly 2)Ask Me Now 3)Like Sonny 4)Give It To The Kids 5)Minority 6)Blue Daniel 7)Ballin’ The Jack 8)Girl Talk 9)Seven Steps To Heaven p, vo)Ben Sidran ds)Steve Gadd b)Abraham Laboriel vib, key)Mike Mainieri g)Lee Ritenour, Buzzy Feiten ts)Michael Brecker, Joe Henderson tp)Tom Harrell pec)Paulinho Da Costa org)Don Grolnick sax)Tom Scott, Pete Christlieb, Jim Horn tp)Jerry Hey, Gary Grant tb)Dick “Slyde” Hyde v0)Frank Floyd, Luther Van Dross, Gordon Gordy, Claude Brooks, Mike Finnegan, Max Gronanthal 当時のジャズ、スタジオ・シーンを代表する大変豪華なミュージシャンによる作品です。 LAのCapitolとSanta MonicaのCrimsonスタジオでレコーディングし、NYのThe Power StationとLAの The Sound LabでMixしています。演奏曲によってうわ物のメンバーはかなり異なりますが、ベイシックなリズムセクション=ドラムス、ベース、ギター、キーボードは不動、この辺にプロデューサー二人の拘りを感じます。 実に良く練られた構成、アレンジ、選曲、メンバーの人選、演奏、フィーチャリング・ソロイストの全く的確なアドリブ、ぐうの音も出ないとはこのレベルの音楽を指すのだ、という位完璧な音楽性を有する作品です。僕の中ではジャズ、フュージョン、AORシーンでもっと取り上げられても良いと常々思っている作品中、筆頭に位置しています。 この作品はSidranの第9作目にあたりますが、前8作目「Live At Montreux」は78年7月23日Montreux Jazz Festivalでのライブを収録した作品でRandy、MichaelのBreckersをフィーチャーしています。 こちらもライブ録音にも関わらずSidran独自の個性、スタンダード・ナンバーへの捻りのある解釈が良く表れた名作で、次作「The Cat And The Hat」に通ずるテイストが遺憾無く発揮されています。いずれもが佳曲のオリジナルの他、John LennonのCome Together、そして白眉がスタンダード・ナンバーSomeday My Prince Will Comeでのユニークな8ビート・アレンジ!ここでのMichaelの歌心100%の華麗なソロはファン必聴のテイクです!ここでは途中(3chorus目)からソロがカットされている事が後日発掘された映像から判明しました。完全版の長いソロも素晴らしいのですが、レコードの収録時間のために短く編集されたソロとはいえ、とても上手くコンパクトに収められています。ひょっとしたら予め「長く演奏してもレコードには全部入り切らないからね」とディレクターに言われていて、当日Michaelは「収録されるのはこの辺りまでだろう」とそこまでしっかり考えてソロの構成を練っていたかも知れません(カットされた3chorus目からのソロがそれまでとはアプローチの雰囲気が異なることからも想像できます)。彼だったらそこまでやる人、出来る人間です。 当時彼らが在籍していたArista Labelのアーティスト、Arista All Starsによる「Blue Montreux Ⅰ, Ⅱ」はこの前日、前々日に録音されました。 このコンサート演奏時日本ではTV放映とFMの同時生放送という、当時としては画期的な方法でライブを中継していました。現代ではTVの音質も飛躍的に向上したのでこのような形を取る必要も有りませんが、FM放送のHi-Fi(死語の世界でしょうか?)具合とTV画像のリンクを目の当たりにした僕は興奮しまくったのを覚えています。そしてこれは同年9月に来日を果たすNew York All Stars、演奏鑑賞の格好の予習になったのです。こちらも後日別テイクの映像が発掘され、両日全く違う演奏アプローチを行っていたArista All Starsメンバー全員のジャズ・スピリットにも感動しました。 それでは「The Cat And The Hat」の収録曲に触れていきましょう。大勢のゲスト陣を巧みに振り分けてカラーリングし、曲毎のアレンジに適材適所を得ている作品ですが、ベイシックにあるリズムセクションの演奏が何より素晴らしいのです。ギタリストLee Ritenourのカッティング、バッキング、Abraham Laborielの重厚で堅実なベースライン、そしてそして、この人のドラミング無しには当作品の完成度は有りえません、Steve Gaddの神がかった演奏が全体のカラーリングに更なる色合い、グラデーションを施しているのです。この当時、70年代後半にリリースされたアルバムの実に多くにSteve Gaddの名前を見つける事が出来ます。演奏の露出度は他のドラマー誰よりも高かったので彼のドラミングのスタイル、華麗なテクニック、演奏から感じる唄心を我々よく耳にしており、ナチュラルに耳に入って来ますが、今回改めて聴いてみると実は物凄い変態ドラムです(笑)。グルーヴ感、フィルインの構造、フレージングの仕組み、アイデア、構成力、ソロイストに対するアプローチ、力の抜け具合、以上全てが普通ではない次元、別格、他の追随を許さないオリジナリティに溢れています。「一体何処からこんな発想が…」「奇想天外な技のデパート」「超絶技巧で有りながら全くtoo muchを感じさせないテクニック」さぞかし現代音楽や難解な音楽理論を駆使した音楽性を有すると思っていましたが、以前何かの雑誌でのGaddのインタビュー(多分70年代後半)、「あなたのフェイバリット・アルバムを1枚紹介して下さい」の回答がCount Basieの「This Time By Basie!」でした。「Steve GaddがCount Basie?」その当時の僕の感性ではこの作品がGaddのお気に入りになり得るとは全く理解出来ませんでしたが、今現在しっかりと納得出来るようになりました。僕もやっと大人の音楽の聴き方が出来るようになったのでしょう(笑)。そしてGaddはドラムを叩かず音楽を奏でていると再認識しました。 1曲目ピアニストRandy WestonのオリジナルHi-Fly、オープニングを飾るに相応しいアレンジが施され、原曲のメロディは聴こえるものの全く別な曲に再構築されています。Sidranはボーカリストとしての歌唱力はさほどでは有りませんが、個性的なメッセージ性を湛えています。歌詞はボーカリスト、Jon Hendricksのバージョンが採用されています。そしてここでのMichaelのテナーソロの素晴らしさといったら!アレンジに全く同化していつつ、自身の個性が見事に表出しています。想像するに、間奏に感してプロデューサーの的確なディレクションが有り、それを基にソロを構築したのではないでしょうか。Michaelのサイドマンでのプレイは常に一定したハイ・クオリティさを感じますが、ここでのソロには更に突っ込んだプラスワンがあるからです。テナーの音色はOtto Link Metal使用と聴こえるので、79年頃からBobby Dukoffを使い始める直前、78年末から79年初頭に録音されたと推測できます。(本作は録音年月日に関するデータが未掲載です) 2曲目もやはりピアニストThelonious Monk のAsk Me Now、歌詞はSidran自らによるものです。MainieriのFender Rhodes、Ritenourのアコースティックギター、良い味わいのサポートを聴かせています。Gaddのブラシワークがムードを高めています。 3曲目John ColtraneのオリジナルLike Sonny、この曲のみボーカルが入らずインストで演奏されています。しかしこの選曲とアレンジの意外性には尋常ではないセンスを感じます。ラテンのリズムでのメロディ奏の後、一転して印象的なベースパターンのファンクに変わり、ギターのカッティングも絶妙です。バンドのグルーヴを聴かせつつ、リズムやメロディが変わって行き、Sidranのピアノソロを経てエンディングに向かいます。結果何とも不思議なLike Sonnyに仕上がりました。 4曲目本作中唯一のオリジナルGive It To The Kids、SidranとMainieriの共作、ここまでがレコードのSide Aです。後半に聴かれる子供達のコーラスを交えたナイスなナンバーです。Michaelのソロもぶっちぎりです!ここではギタリストSteve KhanのオリジナルSome Punk Funk(アルバム「Tightrope」収録)のメロディの一節がフラジオ音のHigh C等を交えつつ引用されています。 5曲目アルトサックス奏者Gigi Gryce53年のオリジナルMinority、歌詞をSidranが手がけました。原曲はコード進行がどんどん転調していく、なかなか手強い一曲ですが、ホーンセクション、フルートが効果的に使われたヘヴィなファンクナンバーにアレンジされています。ここでのMichaelのソロはリズムセクションとのトレードという形でスリリングに進行し、自在に歌い上げています。 6曲目はトロンボーン奏者Frank Rosolino作曲のワルツBlue Daniel、ここでもSidranが作詞を行っています。ベースをフィーチャーしたルパートのイントロからTom Harrellのトランペットのフィル、その後のSidranの歌とトランペットソロを活かすべく施されたゴージャスなアレンジがLAの気候のように気持ち良いです。 7曲目は1913年作曲の大変古いナンバーBallin’ The Jack、Chris Smith作詞作曲、歌詞をSidranが加筆して軽快なロックナンバーに仕上げています。Gaddのロックンロールもカッコいいですね、Eric Claptonのバンドを長年やるくらいですから当然ですが。Buzzy Feitenのギターソロも流石で効果的に用いられています。 8曲目Neil Hefti作曲、Bobby Troupe作詞のナンバー Girl Talk、やはりSidranが歌詞に加筆しています。こんなに原曲に相応しい、その後の演奏を聴くことを楽しみにさせてしまうイントロはそうはありません。ストリングスも実にムードを高めるに役割を果たしています。Gaddのフィルインはビッグバンド然としていて、曲の場面を的確に転換させています。アウトロには再びイントロが用いられ、余韻を残しつつ曲が去って行きます。 9曲目作品の最後を飾るのはVictor Feldman作曲の名曲、Seven Steps To Heaven。作詞担当はSidranですが、One, Two, Three, Four, Five, Six, Seven, Steps To Heavenと言う歌詞を思いついた時はSidran自身、自分で相当ウケた事でしょう!余りにも語呂が良過ぎです!これはジャズ界の嘉門達夫状態ですね(笑)そしてここでの演奏が本作の目玉といってよいでしょう。ソロイストにJoe Hendersonを迎えたのも素晴らしいチョイス、アレンジにも原曲のコード進行を用いず別な進行を用いたのもこの演奏が炸裂した要素の一つかも知れません。Gaddはまさに水を得た魚のように巧みなドラミングを聴かせ、彼の名演奏の一つに挙げる事が出来ます。イントロのソロドラムからして聴き手を引きつけるフェロモンを発しています。テーマの最中のドラムソロもカッコイイです!インタールード後にJoe Henのソロが始まりますが、イヤ〜なんじゃこれは?Joe Henフレーズの洪水、猛烈なテンションと凄まじい集中力、構成力、さらに意外性も加わり独壇場!Gaddとのインタープレイも壮絶!空前絶後!Joe Hen自身も彼の名演奏の一つに数えられるに違いありません。後奏のJoe HenとGaddのやり取り、なんでFade Outするのかな〜もっと聴きたかった〜!

2018.05.02 Wed

New Bottle Old Wine / Gil Evans

今回はアレンジャー、ピアニスト、作曲家Gil Evansの1958年作品、アルトサックス奏者Cannonball Adderleyをフィーチャーした名盤「New Bottle Old Wine」を取り上げたいと思います。 58年4月9日(tracks 1, 2, 5 & 6),5月2日(track 3), 21日 (track 4), 26日(tracks 7 & 8)NYC録音 Label : World Pacific  Producer : George Avakian p, arr, cond)Gil Evans as)Cannonball Adderley tp)Johnny Coles, Louis Mucci, Ernie Royal(tracks 1~3, 5 & 6), Clyde Reasinger(tracks 4, 7 & 8) tb)Joe Bennet, Frank Rehak, Tom Mitchell fr-horn)Julius Watkins tuba)Harvey Philips(tracks 1, 2, 5, & 6), Bill Barber(tracks 3, 4, 7 & 8) reeds)Jerry Sanfino(tracks 1, 2, 5 & 6), Phil Bodner(tracks 3, 4, 7 & 8) g)Chuck Wayne b)Paul Chambers ds)Art Blakey(tracks 1, 2, & 4~8), Philly Joe Jones(track 3) 1)St. Louis Blues 2)King Porter Stomp 3)Willow Tree 4)Struttin’ With Some Barbeque 5)Lester Leaps In 6)Round Midnight 7)Manteca! 8)Bird Feathers 通常のビッグバンド編成とは異なるtubaやfrench hornを配したGil独特のアレンジ、ゴージャスで知的、細部に至るまで徹底的に配慮された気品溢れるサウンド、それらを活かすべく厳選して取り上げられたモダンジャズの名曲の数々、そして当時売り出し中のアルト奏者Julian “Cannonball” Adderleyをフィーチャリング・ソロイストに迎え、爽快感すら感じさせるほどに思う存分演奏させているエヴァーグリーンの名盤です。58年=モダンジャズ全盛期、演奏者、アレンジャー、編曲、選曲、プロデュースとパズルの全てのパーツが完璧に揃った、文句なしの1枚です。 本作のプロデューサー、ロシア出身のGeorge AvakianはColumbia Labelに於いてMiles Davisの55年録音「Round About Midnight」と58年録音「Milestones」のプロデュース、またMilesとGil Evansのコラボレーション作品57年録音「Miles Ahead」のプロデュースも手掛けました。ジャズ史に残る3枚の名盤の製作を行った訳ですが、続くやはりMilesとGilのコラボ作「Porgy And Bess」は以降のMilesの諸作をColumbia時代ずっと手掛ける事になる名プロデューサー、Teo Maceroに取って代わりました。Avakianは58年に在籍12年間に渡るあまりの多忙さからColumbiaを離職、その直後レコード会社としてはずっと小規模のWorld Pacificに招かれて移籍しました。しかし離れてはみたものの、Miles〜Gilのコラボレーションによる作品を再び製作したいと願っていたのかも知れません、レーベルが変わってしまえばそれは見果てぬ夢、レコード会社的にはフリーランス状態だったGilのアレンジメントは残しつつ誰か他のミュージシャンと組ませて作品を、ということで自らプロデュースした「Milestones」に参加していたCannonballに白羽の矢を立て、Avakianはこのアルバムを製作したのではないでしょうか。もしかしたら同じく参加していたJohn Coltraneにもオファーがあったかも知れません。 この作品はGilにとって2枚目のリーダー作、記念すべき第1作目は57年10月録音「Gil Evans & Ten」Prestige Label 文字通り11人編成のアンサンブル、既にfrench hornが起用され他にもbassoonやSteve Lacyのソプラノサックスが参加し、8管編成ながらユニークな楽器構成による豊潤なGil Evansハーモニー、サウンドが聴かれます。「New Bottle ~ 」の方もCannonballを含めて10管編成ですが通常ビッグバンド編成〜管楽器13本に引けを取らない豊かで、むしろ個性的なサウンドが鳴っています。 フィーチャリングのCannonballも58年には「 Cannonball’s Sharpshooters」「Something’ Else – with Miles Davis」「Portrait Of Cannonball」「 Jump For Joy」「Things Are Getting Better – with Milt Jackson」と、何と5作もリーダー作を録音しており、まさしく破竹の勢いでした。CannonballはCharlie Parker系のアルト奏者とイメージされており、50年代から活動を続けているアルト奏者であればParkerの影響を免れることは難しい筈なのですが、彼の場合、むしろBenny Carterの音色やフレージング、センスに影響を受けていると思います。Parker没55年、その直後にCannonballがデビューしたので、Parkerの後を継ぐアルト奏者としてイメージ的に同系列と捉えられたのでしょう。特にフレージングにはParkerのテイストを殆ど感じません。 ところでCannonballの音色の艶っぽさ、極太感は一体どこから来ているのでしょうか?良く抜けた明るい解放的な音色の中にも陰りやダークさを併せ持ち、音の立ち上がりの早い、楽器を自在に操る事の出来るテクニシャンにしてメロディを吹かせれば右に出るものはない歌心の持ち主。Coltraneと2管での演奏59年3月録音「Cannonball In Chicago」収録、ワンホーンでのバラードStars Fell On Alabama、ここでの演奏がCannonballの真骨頂なのです。 最低音部でのサブトーンを駆使しているので、テナーでの演奏と錯覚してしまうほどの低音の充実ぶり。多くのアルト奏者が中音域から高音域を中心にメロディ、アドリブを吹奏しているのに対し、Cannonballは低音域がメインのプレイヤーであることを確実に印象付ける素晴らしい演奏です。低音域重視のプレイヤーなので自ずと音色に極太感が伴い、サブトーンが充実しているので音の成分に艶っぽさが加味されるのです。この頃のCannonballのセッティング、マウスピースはMeyer Bros. New Yorkの5番、リードはRicoかLa Voz、硬さは2半とかMed. Softあたりではないでしょうか。楽器本体はKing Super 20 Silversonic。生音が相当大きそうに聞こえますが、Joe Hendersonと同じく生音は意外に小さくてガサガサ鳴っているタイプです。いわゆるマイク乗りの良い音、黒人プレイヤーに多いスタイルです。何十年か前に日本でCannonball、Charlie Mariano、渡辺貞夫さんの3アルトによるコンサートが開催されたそうです。前評判として「そりゃあCannonballの音が一番デカイに決まっているじゃないか、次がMarianoでサダオさんが一番小さいだろうね。」音量コンテストでもあるまいし、音の大きさでプレイヤーを評価するのはどうかと思いますが、レコードで聴いたCannonballの「鳴ってる」感、ジャケ写の巨漢ぶり、そのまんまが一人歩きしていたのでしょう。しかしいざ蓋を開けてみると、ダントツにサダオさんの音が大きく、次がMariano、演奏中に良く動くCannnonballはマイクからちょっとでも離れようものなら全く音が聴こえなかったそうです。Joe Henも演奏中良く動くプレイヤーだったので、全く同じです。 Stars Fell On Alabamaのライブヴァージョンがこちらに収録されています。67 or 68年録音「Cannonball Adderley Radio Nights」。In Chicagoから10年を経てCannonball、音色がブライトになり、操る音域が若干上がったように聴こえます。Mercy, Mercy, Mercyの大ヒットでロック路線を歩み始め、バンドの音量が大きくなり、自身の音を良く聴くためにも自然と音域が上がって行ったのでしょう。 もう一つ面白いエピソードが、2009年にColumbiaからリリースされたMilesの59年録音「Kind Of Blue」50周年記念のボックスセット(大変豪華で充実した内容のセットです)に、未発表のスタジオ内でのミュージシャン同士のやり取りが収録されていますが、歴史的なレコーディング(演奏している最中はそんなことになるとはメンバー全員微塵も考えなかったでしょうが)で、何と言ってもMilesがリーダーのセッション、張り詰めた空気が漂い、緊張感が半端ないはずですが、Cannonballは何とSo Whatのテーマの何かに引っ掛けて「With A Song In My Heart」の冒頭のメロディを歌詞付き歌っているのです!根っからのハッピー・ガイ、サウンドや演奏に確実に表れています。 「New Bottle Old Wine」の意味するところは新しいボトル(アレンジ)に入った古いワイン(曲目)、Gilの素晴らしいアレンジ、Cannonballの実に的確な演奏により昔の曲が全く新しく再生されています。その収録曲について触れて行きたいと思います。1曲目St. Louis Blues、W.C.Handy作詞作曲による名曲、多くのミュージシャンにカヴァーされています。Cannonballのアカペラによるイントロから始まりますが一体何という音色でしょうか!まさしく正統派アルトサックスそのものの音色なのですが、一聴してすぐCannonballと分かる、音の成分が全て洗練され、雑味の入り具合、配合、バランスが絶妙に整い、あたかもオールド・ワインの如き味わいです!スローテンポになるとアンサンブルが加わり、Cannonballが早めのテンポで吹き始めて曲の本編が開始されます。ソロのフレージングの合間に、うまい具合にアンサンブルが入り、ソロと呼応しているかの如くです。エンディングのギターをフィーチャーしたフェードアウトもオシャレです。 2曲目King Porter StompはピアニストJelly Roll Mortonのナンバー、1905年作曲、23年に本人により初めてレコーディングされました。Cannonballの持ち味と合致した明るい雰囲気のナンバーです。ラグタイム風のテイストを随所に入れながらのアンサンブル、その後Cannonballのソロが進み、引き続いて1’54″から今度はCannonballがアンサンブルのリードに回るのですが、この時の音色が堪りません!昔風のヴィブラートを深くかけながらニュアンスたっぷりにリード=主旋律を吹くこの部分が大好きです!その後アンサンブルをバックに再びソロを取ります。3’17″と言う短い演奏時間の中にあらゆる音楽的現象が凝縮されているかのような凄い演奏です。Gilの76年の作品「There Comes The Time」に於いてもDavid Sanbornをフィーチャーして再演しています。 3曲目はFats WallerのWillow Tree、アンサンブルのダイナミクスが素晴らしいです!この日のCannonballは絶好調で、ミディアムスローのテンポでもスインギーな演奏を聴かせます。続くJohnny Colesの味わいのあるトランペットソロもイケてます。最後までとことんサウンドの強弱が徹底した演奏です。因みにこの曲のみドラマーがPhilly Joe Jonesに変わっています。ひょっとしたらPhillyのドラミングによるダイナミクス付け、Gilに買われて呼ばれたのかも知れませんね。 4曲目Louis Armstrong作になるStruttin’ With Some Barbecue、tubaに冒頭のメロディを吹かせるアイデアは流石です。Frank Rehakのトロンボーンソロの後、アンサンブルによるテーマ奏、その後のブレークから4小節のCannonballのピックアップソロが始まりますが、ブレーク前は曲のキーがFでしたがピックアップソロの最中に短3度キーが上がり、A♭に転調しているのです!Cannonball実に巧みにフレージングしています!これにはやられました!何とさりげにスリリングなのでしょう!On Green Dolphin Streetの引用フレーズの後、トロンボーン・セクションによるlow A♭のペダルトーンが50秒近く演奏されます。3人で順繰りにブレスをしながら音を継続させていましたが、演奏終了後トロンボーン奏者たちは「まったくGilは人遣いが荒いな〜」と話していたに違いありません(笑) 以上がレコードのSide A、5曲目はLester Youngの名曲Lester Leaps In、Art Blakeyは水を得た魚のように素晴らしいドラミングを聴かせています。ドラムのフィルインでは感極まってBlakey声を発しながら叩いています。この曲は他の収録曲に較べて比較的ストレートに演奏されていますが、ブラスのアンサンブルはかなり難易度が高そうに聴こえます。Chuck Wayneのギターソロ、再びRehakのソロも聴かれます。Gilのアレンジは細部にまで気配られていますが、エンディングの処理の仕方に特に音楽に対する情熱、愛情を感じます。 6曲目はThelonious Monkの代表曲バラード’Round Midnight、冒頭Gil自身がピアノでテーマを演奏する意外性、アンサンブルによるメロディのサポート、その後Cannonballのソロ、アンサンブルでは随所にTubaが活躍します。 7曲目は曲続きでDizzy GillespieのManteca、本作中白眉の名演、名アレンジです。フルートやギターのトレモロがサビのメロディを演奏して曲開始のムードを高めます。アンサンブルによるストロングなテーマ奏、対比するかのようにサビのメロディをCannonball実にスイートに吹いています。ここで聴かれるCannonballのソロは、そのクリエイティヴさからジャズのスピリットが降臨したかの如き、手のつけられない程の素晴らしさを提示しています。アンサンブルとのコール・アンド・レスポンス、テーマでは再びフルート奏によるサビのメロディ、その上でベースソロが聴かれます。エンディングには超絶技巧が要求されるアンサンブルが待っていました。当時は録音上の間違いを訂正するパンチイン、パンチアウトなどのレコーディング・テクニックは有りませんでしたから、一切間違いは許されません。とてつもないアンサンブル能力、技術、集中力が要求されました。そう言った意味で昔のミュージシャンの方がスキルが高かったかも知れません。 8曲目ラストを飾るのはブルース・ナンバー、 Charlie Parkerの名曲Bird Feathers、こちらも凝りに凝ったアレンジです!Blakeyによるブラシによるメロディ奏後、各楽器が次第に参加し、更にトロンボーンとベースのアンサンブルがサウンドに深みを加えます。Cannonballのソロの後半からアンサンブルが始まり、Rehakのトロンボーンソロでも随所にアンサンブル、Parkerのソロフレーズによるソリまで聴かれ、てっきりRehakのソロフレーズかと思いきやそのままトロンボーン・アンサンブルに突入、Colesのトランペットソロに続き、その後ドラムソロ、ここでもアンサンブルとのやり取りが有り、ベースのアルコソロ、もちろんここでもアンサンブルが鳴っています。最後にCannonballのソロがあってテーマの断片を組み合わせながら進行し、ラストテーマ、そして最後は冒頭に行われたドラムのブラシワークによるメロディに戻り、大団円となります。それにしてもこれだけ情報量の詰まったアレンジ、譜面にして一体どれだけの枚数の勧進帳になるのでしょう?! 久しぶりにこの作品をしっかり鑑賞しましたが、何と素晴らしいアルバムでしょう!何十年もジャズを聴いているとジャズに対する鑑賞力、とでも言うべき聴く事に対しての的確な判断力が身に付いて来るものです。①「昔よく聴いていたけれど、久しぶりに聴いてみると以前ほどの感動がなくなった」②「昔は内容がよく分からずピンと来なかったけれど、全く印象が変わり実に楽しめる」③「よく聴いていて随分と内容を楽しんだけれど、久しぶりに聴いてみて聴こえなかった部分をしっかり聴き取ることが出来るようになり、以前よりも増して更に楽しめるようになった」この作品は自分にとって③の最たるものになりました。

2018.04

2018.04.25 Wed

Wayne Shorter / Atlantis

今回はWayne Shorter1985年の作品「Atlantis」を取り上げたいと思います。85年Crystal Studios, Hollywood録音 Produced by Wayne Shorter,  On Endangered Species,  produced by Wayne Shorter & Joseph Vitarelli ts,ss)Wayne Shorter fl,alt-fi,picc)Jim Walker p)Yaron Gershovsky p)Michiko Hill synth,p)Joseph Vitarelli synth-prog)Michael Hoenig e-b)Larry Klein ds)Ralph Humphrey ds)Alex Acuna per)Lenny Castro vo)Diana Acuna, Dee Dee Bellson, Nani Brunel, Trove Davenport, Sanaa Larhan, Edgy Lee, Kathy Lucien 1)Endangered Species 2)The Three Marias 3)The Last Silk Hat 4)When You Dream 5)Who Goes There! 6)Atlantis 7)Shere Khan, The Tiger 8)Criancas 9)On The Eve Of Departure 85年はCDが世の中に流布し始めた頃でしたが、当時はぎりぎりレコードの方が主役でした。ですので本作の収録時間もレコードサイズの42’21″で収まっています。この後から録音媒体はCDに主役を明け渡し、収録時間がCDサイズの60分前後〜最長70分強に伸びて行く事になります。本作品を改めて聴いてみると、コンパクトなサイズにむしろ新鮮さを感じます。この長さもアリですね。 本作のレコード内袋(CDと違って大きいです)にはおそらくWayneの直筆(写譜ペン使ってます!)による本作収録のThe Three MariasとOn The Eve Of Departureのスコアがレイアウトされています。作曲した本人でなければ書けない書体や注釈からその事を推測する事ができます。大変几帳面な書き方の譜面で、そもそもミュージシャン几帳面さを併せ持っていないと人に感銘を与える演奏は出来ません。ジャケットの表面のWayneの肖像画は俳優Billy Dee Williamsの描いたパステル画が使われていますが、裏ジャケットには譜面と同じ文字、書体で曲目、ミュージシャンのクレジット、録音の詳細等が書かれており、更に一番下の段には「I dedicated this album to my daughters, Iska, Miyako.」とあるので裏面はWayne自身がイラストも含め書いていると思われます。 因みにWayneの娘Iskaは作品「Odyssey Of Iska」やWayneの著作権のパブリッシャーIska Musicにその名が登場し、Miyakoの方は彼の60年代作のオリジナル・バラードにその名前があります。 Joe Zawinulとのco-leaderバンド、Weather Report(WR)の86年2月ZawinulのWR一時活動休止発表(事実上の解散宣言)の前年録音、リリースで、Wayneの16枚目の作品になります。この前作が11年前74年録音、翌75年リリース、ブラジルが生んだ素晴らしいギタリスト、ボーカリスト、作曲家のMilton Nascimentoをフィーチャリングした、彼とのコラボレーションによる名作「Native Dancer」です。 この作品はNascimentoとWayneの音楽性が密に合わさり、単にブラジル音楽とアメリカ東海岸のジャズの融合という形に終わらず、音楽性を互いに引き立て合いながら全く新次元の音楽を創り上げています。別の言い方をすればあまりに強烈で個性的なWayneの音楽性がやはり独創的なNascimentoの個性と衝突しつつもブレンドし、結果Wayne色が相方の色を引き出す触媒になっているのです。両者共にご存命ですので願わくば「Native Dancer 2」等の続編を聴きたいものです。WRの諸作もZawinulの音楽性とのバランスで成り立っていました。アカデミックなZawinulに対する黒魔術のWayne、更にJaco Pastoriusが在団していた時期には危ないエレガントさのJacoのテイストが加わり、ジャズ史上に残る個性の三つ巴を擁したWRの黄金期を迎えることが出来ました。Miles Davis QuintetではMilesはWayneの使い方を熟知しており(彼に限らずMilesは共演者の使い方に長けています)、自身の音楽を表現するためにWayneを自由に泳がせ、バンドがWayne色に占拠されているかのようでいて実はMilesの掌の上で転がされていました。Wayneの音楽はその独自性に比べて意外にフレキシブルさを持ち合わせ、他の異なる音楽や個性と柔軟に歩調を合わせることが出来る、懐の深さを持っていると捉えています。 さて本作はco-leaderやfeaturing artistも不在、ほぼ純粋にWayne Shorterの音楽が演奏されています。いわば60年代Blue Noteの諸作「JuJu」「Speak No Evil」の80年代ヴァージョンです。全曲オリジナル、スイング・ビートは一切登場しないフュージョン、ファンク系のリズム、サウンド、そして何よりインプロヴィゼーション部分が少ないアンサンブルが主体の作品ですので、作曲家、アレンジャーとしてのWayneの側面を強調しているとも受け取ることが出来ます。WR時代はライブ演奏で再現出来ない曲は収録、演奏しないとした、ライブステージをメインとしたバンド活動でした。本作ではサックスの多重録音やシンセベース等の打ち込みもなされており、85年10月からこの作品での内容を発表するべくWayneはカルテットで全米ツアー、86年1月から日本でのツアーを行いましたがもちろんWRとは異なり、作品をそのまま再現はせず(出来ず)、収録曲を素材として演奏しており、本作は作品集としての側面が更に浮かび上がる形になります。 1曲目Endangered Species、「絶滅危惧種」の意味です。我々くらいの年齢のミュージシャンも既に絶滅危惧種扱いかもしれませんが(笑)。それにしても物凄いポテンシャルを湛えた曲です!Wayneの音楽性が凝縮された、難解さの中にもポップなセンスを感じさせる名曲です。初めて聴いた時には鳥肌モノでした!アルバム中この曲のみキーボード奏者の Joseph Vitarelliとの共同プロデュースになっており、Michael Hoenigのプログラミングによるシンセサイザーの打ち込みベースラインが聴かれます。そしてここで聴かれるソプラノサックスの音色の素晴らしいこと!この時の楽器のセッティングですが、マウスピースはOtto Link Slant 10番、リードはRico 4番、楽器本体はYAMAHA YSS 875 Customです。因みにマウスピース、リードはテナーサックスでも同じセッティングです。しかし一体この音色を何と言葉で形容したら良いのでしょうか?仮にWayneのソプラノサックスが、音質の良くないドンシャリAMラジオのスピーカーから聴こえてきたとしても、直ぐにWayneの音だと分かる事でしょう。Ben WebsterやStan Getz、Sonny Rollins、John Coltrane、Stanley  Turrentineの音色にも同様の事が言え、鳴っている音の成分がそもそも違うのです。打ち込みのベースラインをライブ演奏では人間(ベーシスト)が弾いていますが、高度なテクニックが要求されるチャレンジャブルなパート、ミュージシャンはハードルが上がるほど燃える稼業です。Wayneのバンドのベース奏者Gary Willis、 Alphonso Johnsonはさぞかし練習したに違いない事でしょう。 2012年にベーシスト、ボーカリストのEsperanza Spaldingが自身の作品「Radio Music Society」でこの曲を取り上げています。youtubeでの演奏を以下のURLで見られますのでクリックして下さい。https://www.google.com/search?client=safari&rls=en&q=endangered+species+esperanza+spalding&ie=UTF-8&oe=UTF-8 WayneのソプラノサックスのメロディをEsperanzaが歌っています。黒人の華奢な女の子がテクニカルにエレクトリックベースを弾きながらこの複雑なメロディを歌うのには圧倒されますが、Wayneの難解な楽曲を取り上げる姿勢にも驚いてしまいます。 2曲目The Three Marias、ユニークな曲名です。Wayneの周りには3人Mariaという名前の女性が居るそうで、曲自体のリズムが3拍子(実際には倍の6拍子です)と掛けてのタイトルです。これまた類を見ないドラマチックでとんでもなくカッコいい曲、Wayne world以外の何物でもありません!ソプラノと部分的にテナー、フルートがオーバーダビングされていてメロディが厚くなっています。ここでは曲中全くソロがありませんが、ライブではテンポも早目に設定され、バンド一丸となって盛り上がっています。https://www.youtube.com/watch?v=DzOAr3MKjPsそれにしてもどうしたらこんな個性的な曲を書くことが出来るのでしょう?メロディもそうですがリズムセクションに指定しているアンサンブル部分がとても緻密で込み入った構成になっており、この曲自体も演奏者にはハードルの高い一曲です。 3曲目The Last Silk Hat、ソプラノのメロディに対するテナーの対旋律、オーバーダビングによるソプラノとテナーのハーモニー、それらをバックにソロをとるソプラノ、よく練られた構成ファンクナンバー、ライブで再現するには複数のサックス奏者、少なくとも4名を配する必要があります。 4曲目When You Dream、ソプラノ、テナーのメロディを受け継ぐように、おそらく若い女の子たちによる印象的なコーラスが効果的に用いられ、広がりを感じさせる、タイトル通りの美しいナンバーです。こちらも実に細やかなアレンジが施されています。以上がレコードのSide Aになります。 5曲目Who Goes There、Jim Walkerのフルート・メロディを生かすべくWayneのサックスアンサンブルが活躍します。モチーフを繰り返しつつ、途中シャッフルのリズムになることで高揚感がハンパありません!Wayneのソプラノのサイドキー、高音部のシャウト感の素晴らしさは一体どう言う事でしょう?高揚感に更に拍車がかかります。 6曲目はタイトル曲Atlantis、 McCoy Tynerにも同名曲がありますが、やはり大西洋に存在した幻の大陸の事でしょうか。本作中最もミステリアスな雰囲気のナンバーです。 7曲目Shere Khan, The TigerはDisneyのThe Jungle Bookに登場するキャラクター、ベンガル虎の名前で、80年録音のCarlos Santanaの作品「The Swing Of Delight」にも収録されている独自の美学を湛えたナンバーです。Santanaのヴァージョンでは彼自身によるギタープレイの他、Herbie Hancock、Ron Carter、Harvey Masonも参加しています。 8曲目Criançasは再びシンセサイザーの打ち込みのベースラインが聴かれるファンクナンバー、ソプラノのメロディが多重録音され更にテナーも重ねられる事でWayne sound全開です!Alex Acunaのドラミングが印象的ですが、WayneはAcunaやAlphonso JohnsonたちWR卒業生を積極的に起用しています。 9曲目アルバムラストを飾るのはOn The Eve Of Departure、サックスの多重録音、ハーモニーを生かしたこの上なく美しいイントロ、導入部から一転してヘヴィなファンクへと変わります。フルートのメロディ、ベースラインとテナーのユニゾン、効果的なスラップ、ハーモニーの豊かさ、こちらも凝りに凝ったアンサンブルを聴かせています。 本作はWayneのソロアルバムの中でも彼の音楽性を語る上で欠かせない重要な一枚に仕上がっています。僕個人の意見として、他の追従を許さない、ジャズ史上誰も表現することが出来ない優れて抜きん出たWayneの個性ではありますが、あまりにも強過ぎるように聴こえます。WRや「 Native Dancer」、Miles Davis Quintet、Art Blakey And The Jazz Messengersの様に音楽的パートナーを迎えて、優れたミュージシャンとのコラボレーションを取る、サイドマンとしてリーダーの元で使える、これらの形態を取る事により丁度良い具合にWayneの個性が薄まり、バランスが取れた演奏を聴く事が出来、優れた作品を残せるのではと、この作品を聴いて強く感じました。

2018.04.19 Thu

Patti Austin / Live At The Bottom Line

今回はボーカリストPatti Austinの1979年リリース作品「Live At The Bottom Line」を取り上げましょう。78年8月19日The Bottom Line In Greenwich Village, NYC録音 David Palmer, David Hewitt, Engineers Mixed At Van Gelder Recording Studios, Rudy Van Gelder, Engineer  CTI Label  Produced By Creed Taylor vo)Patti Austin ts)Michael Brecker key)Pat Rebillot leader, key, arr)Leon Pendarvis Jr. g)David Spinozza b)Will Lee ds)Charles Collins per)Erroll “Crusher” Bennett chorus)Babi Floyd, Frank Floyd, Ullanda McCullough arr)Dave Grusin, Arthur Jenkins, Jr 1)Jump For Joy 2)Let It Ride 3)One More Night 4)Wait A Little While 5)Rider In The Rain 6)You’re The One That I Want 7)Love Me By Name 8)You Fooled Me 9)Spoken Introductions 10)Let’s All Live And Give Together Patti Austinの名唱、素晴らしいサポートメンバー、そしてPattiを愛する熱狂的オーディエンスによるアプラウズ、彼女の代表的ライブアルバムです。91年CDでのリリースに際して未発表1曲とPatti自身によるメンバー紹介のスピーチが追加され、曲順もレコードとは大幅に変更されました。おそらくライブでのオーダー通りだと思われます。またライブの録音自体はNYのスタジオ系ミュージシャン達のホームグラウンド的ライブハウス、The Bottom Lineで8月18日、19日の2日間に渡り2ステージづつ行われました。両晩全く同じ曲を演奏しましたが初日18日はミュージシャンやレコーディング・スタッフ達のためのwarm up的に行われ、にも関わらずクオリティとしては両日殆ど同じでしたが(さすがNY第一線のプロフェッショナル集団です!)19日の方が若干スムースに演奏されたという事で、当夜の2nd setのテイクが採用されました。ファンとしては2日間のレコーディングの全貌を是非とも聴いてみたいものです。可能ならば「The Complete Patti Austin Live At The Bottom Line ’78」の様な形で。演奏のクオリティが両日殆ど同じだとしても、演奏の中身は随分と異なる筈ですから。 Pattiは76年にCTIより初リーダー作「End Of A Rainbow」、2作目「Havana Candy」77年と立て続けにリリースし、本作が3作目になります。クロスオーバー、フュージョン真っ盛りの時代に脚光を浴びました。CTI Creed Taylorの名プロデュース、充実した共演者、アレンジャー、そして何と言ってもPattiの抜群の歌唱力が聞き手に訴えかけました。同世代の黒人女性ボーカリスト、例えばDonna Summer、Brenda Russellたちよりも頭一つジャズ度を感じさせるセンスは共演者をインスパイアさせ、本作ではライブ録音という事もあり、さらにオーディエンスを巻き込み、素晴らしいパフォーマンスを繰り広げました。 この作品はレコードで発売当時から愛聴しています。ギターDavid Spinozzaのバッキング、Will Leeのタイトで都会的センス溢れるベースワーク、そして何より我らがMichael Breckerの参加です!「Hello Michael、今までのCTI 2作ではお世話さま。殆どソロが無いかも知れないけど、ボトムラインでの私の3作目のライブレコーディングに付き合ってくれるかしら?」というPattiからのオファーに「もちろんだとも!Pattiのレコーディングに呼んでもらえて嬉しいよ。ソロが無くても全く構わないからさ、君と一緒に演奏が出来るのを楽しみにしているね。」と言うやり取りがあったかまでは分かりませんが(笑)、Michaelの参加作で本作のように徹底したオブリガード、アルバムサイズの短いソロだけでの使われ方、参加の仕方のライブレコーディングと言う例は少ないです。しかし随所に、PattiがMCでも述べているMichael流の隠し味、スパイス的な演奏がこの作品のクオリティ、レベルを別次元にまで高めています。彼の参加無しではこのアルバムは成り立たず、仮に不在では凡演とまで行かずとも歴史に残る作品にはならなかった事でしょう。それにしてもMichaelの歌伴の演奏の上手さはどこから来ているのでしょうか?ここでの演奏から痛感してしまいます。自身がリーダーになり表に立つ場合と、裏方〜伴奏者に立場が変わった時のチャンネルの変え方が実に徹底しており、あくまで主体の音楽性を映えさせるのですが、実は自分自身のテイストもしっかりと表現していて、主体との化学反応、お互いの音楽のブレンド感、間合いを繊細に図りながら大胆に演奏をする、バランス感の権化と言えましょう。 それでは収録曲をCDの曲順ごとに触れて行きましょう。1曲目Jump For Joy、The Jacksonsの77年ヒット曲です。Michaelのサックスにはエフェクターがかけられています。この頃の彼の使用楽器、6万7千万台のAmerican Selmer Mark 6にはネックにピックアップ用の装着台が付けられ、ここにPZMというバウンダリー・マイクを装着します。ここからの電気的信号をミュートロンというエフェクター(今となっては伝説的なエフェクターです)に通すことにより、ワウがかけられた音色に変化します。 こちらは78年9月New York All Starsで来日時の写真で、まさしく同じセッティングによるものです。これに更にオクターヴァーを装着したサウンドをThe Brecker Brothers Band「Heavy Metal Be-Bop」のFuky Sea, Funky Dewでのカデンツァで聴くことが出来ます。 Charles Collins、Will Leeが繰り出すグルーヴがとても気持ち良いです。Frank、BabiのFloyd兄弟、Ullanda McCulloughのバックコーラスも曲にゴージャスさを加えています。 2曲目はJackson兄弟の三男でMichael Jacksonの兄、Jermaine Jackson78年のヒット曲Let It Ride。Spinozzaのギター、Michaelのワウ・テナーが良い味付けをしています。歯切れ良く吹いているテナーサウンドがワウの効果でホーンセクションにも聴こえます。ヘヴィな、ノリの良いファンクナンバーに仕上がっています。 3曲目Stephen Bishop76年のヒットナンバー、One More NightはAORファンにとっては堪らない選曲です。Pattiの歌いっぷりでこの曲に更に魂が込められました。 4曲目Kenny Loggins78年のヒット曲Wait A Little While、オリジナルのキメ、構成をまんまコピーして演奏しています。こちらもファンにはドンピシャなナンバー、ここでのMichaelのイントロ・メロディの吹き方、テナーの音色、そして間奏のソロが素晴らしいのです!ソロの後半、High E音の割れ具合のカッコよさ!僕にとって完璧なMichael Breckerの演奏、ソロの一つです。実はこの曲も雑誌Jazz Lifeの取材でMichael本人に聴かせ、コメントを貰った中の1曲です。こちらもご紹介したいと思います。 次は、パティ・オースティン(vo)の「ウェイト・ア・リトル・ホワイル」(ケニー・ロギンス作曲)。これはNYボトム・ラインでのライヴ・ヴァージョンです。〜曲をプレイ〜MB: ドラムは誰?ーチャールズ・コリンズです。MB: お〜っ!彼のことはすっかり忘れていたよ(笑)。でもこのギグのことはよく覚えている。バンドもオーディエンスも最高でね、パティも言うまでもなく素晴らしかった。本当に偉大なミュージシャンであり、素晴らしい女性だね。このライブをやるまでは、彼女がこれほど偉大なエンタテイナーとは知らなかった。自分のプレイに関しては、ずいぶん内向的に感じるね。この雰囲気に合わせようとしていると同時に、自分の個性を織り交ぜようとしているね。レコードの音はかなり酷いものだね(笑)。多分これは持っていないんじゃないかな。極めてドライな音だね。彼女の歌だけではなく、ソウルとエレガンスは本当にすごい。改めて彼女の歌声を聴くことができて嬉しいよ。自分のプレイに関しては、これも別人のような気がするよ(笑) 演奏を聴きながらこのコメントを改めて読むと感慨深いものがあります。とても彼の言うような、内向的な演奏には感じませんが、演奏している本人には気になる所なのかも知れません。 5曲目はPattiの長いトークから始まり、「黒人女性がカントリー&ウェスタン音楽なんて歌えないと思ってない?」と言いながらRandy Newmanの77年のヒット曲Rider In The Rainを歌い始めます。後ろで奏でているSpinozzaのカントリー&ウェスタン調のギターが実に良い雰囲気を醸し出しています。 6曲目はレコード未収録のナンバー、78年の映画Greaseのヒットした挿入曲You’re The One That I Want、原曲は映画出演のJohn TravoltaとOlivia Newton-Johnのデュエットで歌われています。 7曲目はPatti自身のナンバーにして代表曲、78年Quincy Jonesの大ヒットアルバム「Sounds…And Stuff Like That!!」に収録されているLove Me By Name。オリジナルではEric Galeがストリングスをバックに良い味を出していますが、ここではMichaelのむせび泣くテナーソロが聴け、フラジオB音の確実なヒットにさすが、と感じてしまいます。 8曲目はJeffrey Osborneが在籍していたバンド、L.T.Dの78年ヒット曲You Fooled Me。こちらもオリジナルのアレンジを踏襲して演奏しています。コーラスやギターとテナーのユニゾン、効果的なパーカッション、メチャイケナンバーです! 9曲目に該当するのはPatti自身によるメンバー全員の丁寧な紹介、楽しげに悪戯っぽくしながらも一人一人に対する尊敬の念、思いやり、愛情をとても感じます。特にMichaelには別格な紹介がなされており、「ここにいるのは本物のMichael Breckerです!どうぞお立ちください!」彼はきっとその時、はにかみながら、椅子から立ち上がって深々と挨拶をしたことでしょう。 10曲目ラストを飾るのは8曲目と同じくL.T.D.の78年ヒット曲Let’s All Live And Give Together、当夜はもうかなりの曲数を歌っているにも関わらず、しかも2nd set最終曲、ここに来てPattiはますます喉の調子が良くなったのでしょう、信じられないほど高い声を確実に、見事にヒットさせています!凄いです! こうやって見ると本作の収録曲は76年から78年の間にリリースされたヒット曲ばかりで構成されている事になります。そしていずれの曲でもオリジナルの歌よりもPattiのボーカルの方に表現力を強く感じ、ライブレコーディングでありながらも彼女の歌唱力の実力をまざまざと見せつけられました。

2018.04.15 Sun

The Phil Woods Six “Live” From The Showboat

今回はアルトサックス奏者Phil Woods、1976年の2枚組ライブ作品「 The Phil Woods Six “Live” From The Showboat」を取り上げてみましょう。76年11月2日録音 The Sowboat Lounge, Silver Spring, Maryland as,ss)Phil Woods g)Harry Leahey p)Mike Melillo b)Steve Gilmore ds)Bill Goodwin perc)Alyrio Lima Disc 1 : 1)A Sleeping’ Bee 2)Rain Dance 3)Bye Bye Baby 4)Django’s Castle 5)Cheek To Cheek 6)Lady J 7)Little Niles  Disc 2 : 1)A Little Peace 2)Brazilian Affair : Prelude~Love Song~Wedding Dance~Joy 3)I’m Late 4)Superwoman 5)High Clouds 6)How’s Mama(Phil’s Theme) Phil Woods(PW)が当時率いていたレギュラーグループによる、名門ライブハウスThe Showboat Loungeでのライブです。よく練られた選曲と曲順、加えてPW自身によるアレンジが大変素晴らしく、聴き易さの中にもしっかりとジャズの本質を織り込んである構成で、アメリカのエンターテイメントの真髄を感じます。 レコードでも2枚組でリリースされていました。1枚目Side Aのウラ面がSide C、2枚目のオモテ面がSide B、ウラ面がSide Dになっています。2台のターンテーブルを使って順繰りに聴けるような配慮の様ですが、日本では定着しなかったシステムです。 収録曲を見ていく前にPWのバイオグラフィー、活動、この作品に至るまでの流れに触れてみましょう。31年11月2日マサチューセッツ州スプリングフィールドで生まれ、マンハッタン音楽院やジュリアード音楽院で、多くの門下生を輩出したLennie Tristanoに師事し、多大な影響を受けました。PW自身、彼のインタビューを読むとかなり物事をはっきりと、歯に衣着せぬ、時としてシニカルな物言いをしています。「月にロケットを飛ばすくらいの先端技術があるのなら、良いリードくらい作れるだろうに」とは彼のよく知られている発言です。同じアルト奏者でやはりTristano門下生Lee Konitzも毒舌家として知られており、例えばサックス奏者Anthony Braxtonの演奏を聴いた後にインタビューアーに意見を求められ、「こんな酷い演奏は今まで聴いた事がないね」とまで発言しています。僕のイメージとして多くのアルト奏者の物言いにこの傾向があるように感じますが、どうでしょうか。その楽器を演奏しているうちにその楽器奏者特有の性格に変わって行くのかもしれませんし、その楽器を選択する時点で個人の性格が楽器を選択させているのかも知れません。PWは卒業後に自己のバンドでの活動を開始、Quincy JonesやDizzy Gillespie、Benny Golson達と共にワールドツアーに参加しました。多忙な音楽活動を経験し60年代中頃には学生のためのサマーキャンプRamblernyを主宰し、そこからはMichael BreckerやRichie Cole、Rodger Rosenbergなどのサックス奏者が巣立ちました。しかし本国の音楽シーンの状況を憂慮したPW(仕事が無かったわけではありません)、68年にフランスに移住し、p)George Gruntz b)Henri Texier ds)Daniel Humairという欧州を代表するプレーヤーによるリズムセクションを擁したバンドPhil Woods & His European Rythm Machineでの活動を開始しました(合計5作品を発表)。Charlie Parkerの未亡人Chanと結婚する程にParkerを敬愛するPW、いわゆるパーカー派のアルト奏者からの脱却、モーダルでアグレッシヴ、アヴァンギャルドなまでに演奏が変化して行きました。時代のなせる技でしょう、John ColtraneやOrnette Colemanらの台頭が影響していたに違いありません。しかしその後、あれほど吹いた嵐が次第に収まり、PWは4年間の欧州生活にピリオドを打ち72年に帰国することになりました。帰国後74年1月録音、PWの代表作「 Musique Du Bois」では欧州での活動をしっかりと踏まえつつも、ハードバップへの回帰を高らかに宣言しています。 この2年後に本作「The Showboat」の録音に至るわけですが、この間にも更に芸風に変化が生じ、方向性としては尖っていた渡欧期よりもずっと丸さを感じさせ(人間年を取ると誰でも丸くなるものです)、聴衆との融合を図るべく選曲、アレンジ、自身の演奏全てに於いて「お客様あっての演奏」という境地を感じさせるようになりました。 本作の共演者にも触れてみましょう。ベース奏者Steve Gilmore、ドラム奏者Bill GoodwinはPWのレギュラーを長年務め、多くの作品を録音しています。PWの作品に限らずこの2人のリズムセクションで他のミュージシャンの作品にも数多く客演しています。ステディでタイトなビート、スイング感、サポート感には手堅いものがあり、決してでしゃばらず、寄り添い、リーダーの音楽性の中で巧みな盛り上げ方を聴かせる職人タイプの伴奏者です。一方PWの吹く8分音符は強烈にスイングしてビートが明確でこの作品の演奏者中誰よりもリズムが出ており、バンドのリズム、ビートの司令塔的役割を担っていて他のメンバーのソロになると急に勢いが止まったように聴こえます。仮にベーシスト、ドラマーが強力にビートを出すタイプ、音楽をある種の仕切る方向に持って行くタイプのプレイヤーだとするとPWとリズム、演奏、ソロがぶつかり、彼の存在感が希薄になり目立たなくなってしまいます。「とにかく俺の言う事を聞け、お前らはついて来れば良い。俺のやる事を邪魔するような目立つ演奏はするな」と言う楽屋でのPWの共演者に対する要望が聴こえて来そうです(かなり誇張しています〜汗)。本作のピアノ奏者Mike MelilloをはじめPWが雇うピアニストは一貫してどうも納得の行かない人選で、ハーモニー感、コード感が不明瞭、リズム感もいただけません。それはギター奏者にも言えることで、本作Harry Leaheyの演奏も同様にパッとしません。よく言えば無難な共演者、立場的にはPWの引き立て役、自分よりも目立つサウンドのコード楽器プレイヤーは雇いません。PWのラインから明確にコード感、ドミナントモーションも聴こえ、前述のリズムの司令塔的役割と言う事で、極論PW一人でジャズの醍醐味、スイング感を表現する事が可能だからです。リーダーがメンバーを雇うにあたり、良い演奏を共有出来るレベルであることは前提条件ですが、リーダー自身を引き立てるためにソコソコの演奏が出来るプレイヤー(このタイプのミュージシャンは大抵人柄も温厚でリーダーと衝突することはありません)を採用すると言う観点での人選もあり得るのです。 それでは収録曲を見て行きましょう。1曲目Harold ArlenのA Sleepin’ Bee、ギターとルパートの演奏から始まり、その後インテンポでテーマのメロディが演奏されます。なんとブリリアントで艶やか、サブトーンも美しく、コクのある音色でしょうか!この頃のPWのセッティング、楽器本体はFrance Selmer Mark 6の8万番台、この楽器はかのクラシックサックスの巨匠Marcel Muleに選定して貰ったそうです。マウスピースはNew York Meyer 5MM、リガチャーは多分Martin、リードはLa Voz Mediumです。テーマ部分のさりげないアレンジがオシャレです。そしてPWの素晴らしい、スイング感満載のソロ、他の追従を許さない独壇場です。ギター、ピアノソロと続きます。 2曲目はギタリストHarry LeaheyのオリジナルRain Dance、イントロのギター奏の後ろでパーカッションが面白いサウンドを鳴らしています。PWソプラノサックスに持ち替えマイナーブルースのメロディを取っています。テーマ部分では変拍子が用いられていますが、アドリブパートは普通に4拍子で行われています。PWのソプラノはアルトの時よりもOn Topで演奏しています。 3曲目Jule Styneの名曲Bye Bye Baby、ピアノのイントロ後テーマ奏、PWの音色によく合う美しいメロディ、アレンジも実に曲調に相応しいものに仕上がっています。PWやはりアルト演奏の時の方がリズムのノリが素晴らしく、的確なLaid Backを聴かせています。 4曲目ギターのメロディ奏をフィーチャーしたDjango Reinhardtの名曲Django’s Castle、こんな美しい曲を書けるなんてDjango自身もきっとロマンティックなミュージシャンだったのでしょう。PW朗々と美しいソロを聴かせています。 5曲目Irving Berlinの名曲Cheek To Cheek、クラシックのエチュードと見紛うばかりのイントロからルパートのメロディ、一転して4度進行のリフを用いたアレンジ、とってもカッコいいスイングナンバーに仕上がっています。ここでのPWのソロを聴けばこのバンドのビート、リズムの司令塔という意味が良く分かると思います。猛烈にスイングしまくりです!この人ソロのラインが上昇する際、結構グロウする時があります。 6曲目はPWのオリジナルLady J、ボサノヴァのリズムが心地よい美しいナンバーです。この人のサブトーンでのメロディ奏はテナー奏者的なアプローチに聞こえます。PW8分音符がかなりイーヴンに近い吹き方なので、こう言ったリズムの曲ではさらに気持ち良いグルーヴを聴かせてくれます。大ヒットしたBilly JoelのJust The Way You AreでのPWのソロは彼の音色、センス、イメージ、そして何よりリズムのグルーヴが曲想に合致したのだと思います。 7曲目ピアニストRandy WestonのオリジナルLittle Niles、かのMiles Davisも才能を認めただけあってユニークな曲想、この雰囲気を継続させて演奏が展開されます。でもリズムセクションにもっとチャチャを入れて貰いたいと感じるのは僕だけではないと思います。特にドラムにはガツンと行って貰いたいです。 以上がCD1枚目、2枚目の1曲目今度はピアニストMike MelilloのオリジナルA Little Peace。メロディらしいメロディを特に感じない、マイナーの雰囲気一発の曲です。ベースのアルコをフィーチャーし、PW情熱的に歌い上げています。 2曲目はこの作品のハイライト、21′ 32’にも及ぶ組曲Brazilian Affair。ジャズ屋の演奏するラテンやブラジリアンは独特なテイストがあって、僕は嫌いではありません。そしてこの組曲のためにパーカッション奏者Alyrio Limaが参加していると行っても過言ではありません。随所にカラフルなテイストを聴かせています。 3曲目はI’m Late、再びソプラノの登場です。アルト奏者のソプラノはテナー奏者の持ち替えとはまた違ったサウンドを聴かせています。アップテンポのスイングで軽快にソロを聴かせています。 4曲目はStevie WonderのSuperwoman、PWに相応しいチャーミングな曲です。それにしてもドレミファソ〜、ソファミレド〜のピアノ片手だけで弾けるメロディで曲を書いてしまうStevieはさすがです!PWのグルーヴはイーヴンのリズムで更に良さが発揮されるのを再認識しました。 5曲目はHigh Clouds、イケイケのサンバのリズムはコンサートのラストに相応しいチョイスです。PWのソロ、ここぞとばかりにハイスピードで吹きまくっています!Scrapple From The Appleのメロディが引用されています。やっぱりダジャレも言いたいんですね。 6曲目はコンサートのクロージングテーマでHow’s Your Mama(Phil’s Theme)、こういうハッピーな曲想はPWのサウンドによく合っています。

2018.04.11 Wed

Stan Getz Quartet At Birdland 1961

今回はStan Getzのエアチェック録音をCD化した作品「Stan Getz Quartet At Birdland 1961」を取り上げてみましょう。 1961年11月11, 18日(#5~9)録音 Birdland, NYC.  Fresh Sound Records, Spain 2012年リリース ts)Stan Getz p)Steve Kuhn b)Jimmy Garrison ds)Roy Haynes mc)Symphony Sid Torin 1) Airegin 2)Wildwood 3)Where Do You Go? 4)Autumn Leaves 5)Jordu 6)Where The Sun Comes Out 7)Yesterday’s Gardenias 8)Woody’n You 9)Jumpin’ With Symphony Sid Getz絶好調、共演者の人選、演奏も素晴らしく、選曲もジャズファンを納得させるライブ盤です!58年頃から60年末までの欧州滞在を終えて帰国後音色やフレージングもたくましく成長し、翌62年から始まるBossa Novaへの参入の直前(実際は61年中に既にギタリストCharlie Byrdとのコラボレーションで「Jazz Samba」制作に向けてトライし初めていたようですが)、ジャズのスインガーとしての本領発揮時期です。当時のAMラジオのエアチェック録音にも関わらず、24 bit digital remasterで的確に音響処理され、かなりの音質、バランス、セパレーションにまで向上しています。昔のエアチェック録音をレコード、CD化したものの殆どは耳を凝らし、平面的でこもった音の塊の奥の方から、その演奏自体を引っ張り出すかのように抽出して聴く感じでした。本作のクオリティは技術の進歩か、エンジニアのセンス、腕前でしょうか、それら全てのなせる技なのかも知れません。digital remasterとは例えて言うならば音を平面的に捉え、不要な部分を消しゴムで消すように消去もしくは濃さを薄くし、逆に必要な部分の色彩を色濃く加筆したり色自体を変えたり、陰影部分を配置する作業です。エンジニアはその対象となる音楽の詳細、内容を技術的よりも音楽的、芸術的に把握しておく必要があり、手腕が問われる作業です。ディストリビュートしたスペインのFresh Sound Recordsは他にも未発表録音や長らく廃盤になっている作品を数多く再発し、またヨーロッパ、アメリカの若手ミュージシャンの新録音も積極的に制作している意欲的なレコード会社です。CDジャケットも本作は異なりますが、多くの作品にはデジパック(厚紙の台紙にプラスティック製のトレーを張り合わせた仕様)を採用し、昔のレコードジャケット風レトロ感、高級感を出しており、さらにジャズだけではなくオールディーズ・ポップスやロックの名盤の再発をも手がけているので、音楽全般に対する愛情、情熱、敬意を感じます。 当時おそらく週一度Birdlandからのライブをラジオで生放送していたのでしょう、録音が2週に分かれていて各々ほぼ30分づつの演奏時間になっています(当然30分番組だった事でしょう)。他にもたくさんの演奏が残されていると思いますが、61年のNYCでのライブ演奏ならば間違いなく宝の山、リリースを望みます。 Steve KuhnとGetzはこの頃よく共演しており、この作品の僅か4ヶ月前61年7月6日に交通事故で夭折したベーシストScott LaFaroを迎えた録音もあります。前年60年にはJohn Coltraneと同じNYCのJazz Gallaryで共演を果たし音楽的成長を感じさせる時期でのGetzとの共演です。Roy Haynesもこの後レギュラー・ドラマーとして何度かギグに迎えられる事になり、コンサートではGetzも敬意を払った紹介をHaynesにしています。Jimmy GarrisonはここでもOn Topの素晴らしいビートを聴かせており、短期間LaFaroの後釜を務めますがこの直後Coltraneカルテットのレギュラーに迎えられる事になります。Getz自身も楽器をSelmer Super Balanced ActionからMark 6に替え、マウスピースもOttoLink Slantにしています。音色が太く逞しくなったのは彼の奏法が一層洗練され、渡欧での経験を踏まえ音楽に対するイメージが変化した事と、更にハードウエアの変更に起因すると考えています。 それでは収録曲を見て行きましょう。1曲目Sonny Rollinsの名曲Airegin、ご存知Nigeriaの綴りを逆にしたタイトル、バンド用語ですね。フェードインして演奏が始まるのは司会のSymphony Sidのオープニングmcが入っていてそれを消去したためでしょう。この頃Getzがレパートリーとして度々取り上げていましたが、ここでの演奏が実に素晴らしいのです!61年の演奏とは思えないほどのフレージング、テンションの用い方、アイデア、スピード感、コンパクトなサイズの中に起承転結、意外性、またGetzのソロの前半のアグレッシヴな部分で一切バッキングを行わないKuhnの美学、これはColtraneとの共演から学び取ったに違いありません。ピアノソロ後のドラムとのバースにもGetzのクリエイティヴさは損なわれず、Haynesとの絶妙なやり取り、それにしてもここでの演奏内容のコンテンポラリー性は、数年後の世界からタイムマシンで時代を遡ったGetz自身が演奏しているかの如き閃きを聴かせています。 2曲目はアルト奏者Gigi GryceのナンバーWildwood。Art Farmerの「Work Of Art 」に収録されています。前曲とは一転してリラックスした演奏に終始しており、Getzの音色、メロディの吹き方も随分と異なります。 3曲目はAlec Wilder作のWhere Do You Go?、Getzはこういったミステリアスなムードを湛えたバラードを良く取り上げます。 4曲目はお馴染みAutumn Leaves、枯葉ですがGetzはいつもこの曲を原曲とは異なるCマイナーで演奏しています。ソロの先発のKuhnはいつもよりBill Evansのテイストを感じさせるスタイルで演奏しています。続くGetzは1曲目の好調さが引き続いている、61年らしからぬ数年後の近未来のテイストで演奏を行なっています。 以上が61年11月11金曜日のテイク、5曲目から1週間後の18日のテイクになります。番組のオープニングを飾るべくSidのmcが入り演奏が始まります。5曲目Duke JordanのJordu、こちらもバンド用語タイトルですね。Horace SilverのEcarohも同じセンスの曲名です。マイナーの曲調中、サビに7thコードの4度進行が用いられていますが、難易度の高いチェンジにも関わらずGetzはさすが巧みなアプローチを聴かせています。ベースソロの後ろでシンコペーションのリフをGetzが吹き、その後ドラムとのバースが始まりますが、かなりHaynesのドラミングのフレージングにインスパイアされているのではないかと推測され、斬新なアプローチが聴かれます。 6曲目Getz自身の曲紹介によるHarold ArlenのWhen The Sun Comes Out、こちらも3曲目のバラードに通じるテイストを感じさせます。いつもながらGetzのダイナミクスの素晴らしさに感銘を受けます。 7曲目Yesterday’s Gardenias、前曲の雰囲気を一掃する明るい曲調のミディアムスイングです。 8曲目Dizzy Gillespieの名曲、Woody’n Youは「Woodyと貴方」ですがWoodyとはクラリネットの名手にしてビッグバンドのリーダー、Woody Hermanの事だそうです。貴方とは誰の事なのかは判りません。この曲も当時のGetzのオハコの一曲です。難しいマイナー7th ♭5thのコード進行の処理の仕方が実に的確です。ここでは通常よりも早めのテンポで演奏され、毎度ながらいつもと違った語り口で見事にソロを展開させています。 9曲目はLester Youngの書いた、当夜の司会 Symphony Sidに捧げられたブルース・ナンバーJumping’ With Symphony Sid、Lester本人のバージョンよりも幾分早めに演奏されています。フィナーレにふさわしくGetz吹きまくっています!演奏はまだまだ続いたようですが放送時間の関係でアナウンスが入り、カットアウト?フェードアウト?で終了です。

2018.04.09 Mon

Richard Tee / Strokin’

今回はピアニストRichard Teeの初リーダー作「Strokin’」を見て行きましょう。1978年NYC録音  Tappan Zee Records 1)First Love 2)Every Day 3)Strokin’ 4)I Wanted It Too 5)Virginia Sunday 6)Jesus Children Of America 7)Take The “A” Train The ”Guys”  key,vo)Richard Tee g)Eric Gale b)Chuck Rainey ds)Steve Gadd per)Ralph MacDonald harmonica)Hugh McCracken ts)Michael Brecker ts,lyricon)Tom Scott  何とゴージャスな音楽でしょう!素晴らしいリズム、ビート、芳醇なサウンド、アメリカの黒人がのみ成し得るグルーヴです!と言ってもいきなり参加ドラムスのSteve Gaddがユダヤ系白人ですが(汗)、TeeとGaddの抜群のコンビネーションはStuff、Gadd Gangなどのバンド共演で生涯継続していました。Gaddのグルーヴには肌の色は関係ありませんね。 Teeはニューヨーク州ブロンクスで生まれ育ち、教会音楽の洗礼を受け、子供の頃からの尊敬するアーティストがRay Charles、ピアノ奏者としてMotown Labelでの仕事を多数経験していると来れば表現するべき音楽の方向性はおのずと定まります。ピアノをこんな美しく煌びやかに鳴らせて、思わず腰が椅子から離れてリズムに合わせてしまうようなグルーヴ感の持ち主は他にはいません。どっしりしていてスピード感があるのです。そしてピアノソロ演奏も素晴らしいですが、バッキングのフィルインのテイストが半端なくカッコいいののです!初リーダー作Strokin’はTeeにとって満を持してのリリースになりました。この作品を含めTeeは生涯に5枚のリーダー作を発表しています。彼の膨大なレコーディングの量にしては少ないかも知れませんが、自分が前に出てリーダーを取るよりも、主体を映えさせるために演奏するサイドマン気質が強い脇役タイプのミュージシャンだと思います。水戸黄門の助さん格さんですね(笑)。Teeの生演奏を初めて聴いたのは78年のNew York All Stars、東京芝郵便貯金ホールのステージです。ホール鑑賞という、条件としては決して良く無い音響なのですが、ピアノの音がよく鳴り響いていたのを覚えています。前回のBlog「Zappa In New York」の時に抜粋、引用したMichael Breckerの雑誌Jazz Lifeへのコメント、このアルバムの表題曲Strokin’での彼のソロを聴かせ、やはりコメントを貰っていますがこれが実に端的にTeeの音楽性、人柄について発言していますので、今回も抜粋し注釈を加えて掲載したいと思います。 ー次は、リチャード・ティー(key)の「ストローキン」です。 〜曲をプレイ〜 MB:リチャードは教会でゴスペルをやっていただけあって、とてもファンキーなアプローチをとっているけど、それを彼は別の次元まで昇華させてしまっているんだ。あまりにも強烈なスタイルを持っていて誰にも真似をすることなどできないよ。(レコーディングに誘われ)彼が私とプレイしたいと思っていたことは、とても驚きであったと同時に、心から嬉しかったんだ。それは当時の私にはファンキーな部分が足りないと思っていたからさ。でも、彼が私とプレイしたいという気持ちを表現してくれたことによって、とても救われた気がしたね。この曲に関してのソロはとても気に入っている。こうやって聴く限り、リリカルかつ濃密なプレイをしようとしていたように思えるんだ。グルーヴの中にいるんだけど、完全にノってしまうのではない、という感じかな。いろいろな要素をブチ込んで成功したいい例だね。これらの曲はどれを聴いても驚きの連続だよ。というのはこの頃の私の考え方と今とでは完全に変わってしまっているからさ。ほとんど別人のようさ。 リチャードとは、いろいろなツアーに一緒に参加したんだ。ニューヨーク・オールスターズの時には一緒に来日している。あれは78年だったかな?その後、ポール・サイモン(vo,g)のツアーで1年半ほど一緒に過ごしたんだけど、その間に病気で倒れてしまったんだ。リチャードとの活動はすべて素晴らしい思い出だ。彼がツアーで使うために、初めてシンセサイザーを買った時のことを憶えているよ。ホテルの彼の部屋に行って、シーケンサー部分の使い方を教えたことがあるんだ。クォンタイズの設定なんだけど、(教えようとしたら)その時彼は私を変人を見るような目つきで見ていたよ(笑)。(何でオレにそんな機能が必要なんだよってね)でもこれまで会ってきたミュージシャンの中で彼だけだよ、その機能がまったく必要なかったのは。彼のリズム感は本当に正確だったからね。ドラム・トラックなんかでもね。もちろん私のプレイはすべてクォンタイズしているよ。そのままではあまりにもヒドいからね(笑)。 「絶対音感」があるのなら「絶対リズム」もありそうですね。Teeにはきっと備わっていたのでしょう。リズム・クォンタイズに関するMichael流ジョーク混じりの謙遜は実に可笑しく、彼らしさが出ています。 それでは曲毎に見て行きましょう。1曲目はChuck RaineyのオリジナルFirst Love。Teeのピアノのメロディに絡むストリングスが気持ち良いです。GaddのドラムとRalph MacDonaldのカウベルやタンバリンが重なり合い、絶妙なリズムを繰り出しています。Eric Galeのギター・カッティングが隠し味的に効いています。Tom Scottのテナーソロも曲想にマッチした語り口を披露しています。恐らくクリックを使わずに演奏していると思われますが、たっぷりどっしりとした安定感がハンパないです。 2曲目はTeeのオリジナルEvery Day。イントロのアルペジオを聴いただけでグッときてしまいます。ここではTeeのボーカルがフィーチャーされています。Galeのソロは音数少なめながら説得力のあるフレージングに仕上がっています。 3曲目表題曲Strokin’、前述のMichaelのコメントに補足する形で述べましょう。Teeの煌びやかなピアノ奏があくまでメインですが、曲自体同じモチーフを繰り返し徐々に盛り上がっていくドラマチックな構成に仕立てられ、後半のMichaelのソロ登場に至るまで、まだか、そろそろか、とワクワクしながら聴いてしまいます。Teeのピアノの合間に聴かれるストリングスが高揚感を煽り、一層ソロが楽しみになる仕組みです。それにしてもこの人のピアノは何でこんなに個性的な素晴らしい音がするのでしょう?そしてそして、いよいよGaddのフィルインに導かれてMichaelのソロが始まります!いきなりフラジオのG音、全音下のF音を引っ掛けて吹いていますが強烈なインパクト!!カッコイイ〜!端々にKing Curtisのフレージングの影響を感じますが、そこはMichaelの歌いっぷりで自分のものにしています。実は何度かソロを重ね、オイシイところを切り取り、レコーディング技術を用いてパッチワークのように貼り合わせたソロなのですが、そんな舞台裏事情は全くどうでも良い次元のハイクオリティーな演奏です。78年録音ですのでもちろん楽器はSelmer Mark6、6万7千番台、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、エッジーでコクのある音色です。この頃のMichaelはリズムがOn Top気味で演奏する時がありましたが、ここでは意識してか、否か結構On Topで吹いています。思わずクォンタイズしたくなってしまいます(笑) 以上がレコードのSide Aです。4曲目はMacDonaldのオリジナルI Wanted It Too、Scottのlyricon(うわっ、懐かしい!)Hugh McCrackenのハーモニカをフィーチャーしています。バックで鳴っているホーン・セクションはtp)Jon Faddis, Randy Brecker ts)Michael Brecker tb)Barry Rogersです。NYのスタジオ第一線らしいキレのあるセクション・ワークを聴かせています。 5曲目はTeeの蕩けるほどに美しいナンバーVirginia Sunday、Fernder Rhodesでメロディ、ソロ共に演奏しています。こちらの音色と曲想が良くマッチしています。先ほどのホーン・セクションにバリトンサックスでSeldon Powellが加わっています。良く鳴っていてセクションのサウンドをタイトに分厚くしています。Scottが再びlyriconでソロを取っておりアナログ・シンセサイザーの音らしく太い良い音色です。現代に於いてもはや使う人はいませんが。この曲はNew York All Starsでも取り上げられていました。そちらのRandy, MichaelにDavid Sanbornが加わった3管でのバージョンもとても素敵です。この曲を聴いていてVirginiaの日曜日はさぞかし優雅でメロウなのだろうな、と想像してしまいます。 6曲目はMotown仲間(?)Stevie WonderのオリジナルJesus Children Of America。前曲のホーン・セクションにさらにストリングスも加わり分厚く豪華なサウンドを聴くことが出来ます。Fender Rhodesにエフェクターを施したサウンドでTeeはソロを取っています。バックに生ピアノのバッキングも聴かれるので後からオーバーダビングしたものとなります。続くGaleのソロも味わいのある音色でFender Rhodesのエフェクター音と対になっています。 7曲目、レコードのラストを飾るのはTeeとGaddのDuetによるBill Strayhornの名曲Take The “A” Train。メチャクチャかっこいいです!グルーヴ、サウンド共に双生児のような2人です。ベースや他の楽器は全く不要です。この2人だけで幾らでも、延々と演奏する事が出来るでしょう。ソウルブラザーに乾杯! 余談ですが今から20数年前に演奏で名古屋に行った時の事です。街中にある鰻の老舗に昼間、名物ひつまぶしを食べに行きました。4人掛けのテーブルに僕が一人で座っていたところ、昼時で店が混雑してきたので従業員が相席をお願いします、という事で前に座ったのが黒人二人連れ。両名とも見たことのある顔なので確認したところRichard TeeとドラムのBuddy Williamsじゃあありませんか!もちろん初対面なので自己紹介をして「ところで何で名古屋に来ているの?」尋ねると新しく開店したライブハウスのこけら落としでの演奏、Cornell Dupreeのバンドでの来日でした。「Strokin’」やWilliamsの参加作の話などをしていると二人はひつまぶしを二人前づつ頼んでいます。結構な量のはずなので「二人前づつ食べるんだね」と聞くと「Yes, we love eel!!」と笑いながら答えてくれました。気さくな二人の人柄に触れられたのと同時に、素晴らしい演奏家は食欲も素晴らしいのだと実感しました。

2018.04.05 Thu

Frank Zappa / Zappa In New York

今回はギタリスト、コンポーザーFrank Zappaの傑作「Zappa In New York」を取り上げてみましょう。 1976年12月The Palladium In New York Cityにてライブ録音。翌77年UK発売、78年USA発売。cond,prod,g,vo,)Frank Zappa g,vo)Ray White key,violin,vo)Eddie Jobson b,vo)Patrick O’Hearn ds,vo)Terry Bozzio perc,synth)Ruth Underwood as,fl)Lou Marini ts,fl)Mike Brecker bs,cl)Ronnie Cuber tp)Randy Brecker tb,tp,piccolo)Tom Malone narr)Don Pardo timpani,vibes)David Samuels per-overdub)John Bergano per-overdub)Ed Mann osmotic harp-overdub)Lou Anne Neill Disc 1  1)Titties & Beer 2)Crusi’n For Burgers 3)I Promise To Come In Your Mouth 4)Punky’s Whip 5)Honey, Don’t You Want A Man Like Me? 6)The Illinois Enema Bandit Disc 2  1)I’m The Slime 2)Pound For A Brown 3)Manx Needs Women 4)The Black Page Drum Solo/Black Page#1 5)Big Leg Emma 6)Sofa 7)Black Page#2 8)The Torture Never Stop 9)Purple Lagoon/Approximate 発売当時レコード2枚組でリリースされました。後年やはり2枚組でCD化された際には未発表曲が5曲追加され、曲順も変更されています。ここではCDバージョンで見ていきましょう。 そのまんまの表現です恐縮ですが、笑っちゃうくらいに物凄い音楽です!!カテゴリーとしてはロックの範疇に入るのでしょうか、門外漢なので分からないのですが一大ロック叙情詩、ロックンロール、メタル、プログレ、オペラ、コメディ、ジャズ、フュージョンと様々なテイストを包括した壮大な音楽です。大胆にして繊細、コミカルでいてシリアス、超絶技巧の演奏が実に平然と当たり前のように行われています。The Palladiumのステージには13人が上がり、オーケストラ然としてZappaが指揮棒を振りつつギターを弾き、喋り、歌っています。パーカッションで更に3人がオーバーダビングに加わり、総勢16名がレコーディングに参加しています。Moogシンセサイザーの音色が時代を感じさせる以外は現代の感覚でも実に斬新な音楽です。全曲Zappaのオリジナル、アレンジ、非常に難解なスコアを、ライブにも関わらず全く正確無比にトークやコメディ、寸劇を交えながら難なく緻密に演奏するそのヒップさが堪りません!(実際は綿密なリハーサルを何回も重ねているに違いないのでしょうが)参加メンバーのMichael、Randy のBrecker Brothers(BB)、ドラムスTerry Bozzioの参加に惹かれて友人にダビングして貰った事から聴き始めました。彼らのそこでの出会い、BBの傑作「 Heavy Metal Be-Bop」は Zappa In New Yorkでの共演無くしては誕生しませんでした。 以前雑誌Jazz Lifeに僕はよく原稿を書かせて貰っていました。Michael Breckerにも新作のリリースや来日の際、本当によくインタビューをさせて貰いましたが、その回数の多さからネタ切れ感もあり(笑)「今までに彼がレコーディングしたソロの名演を聴かせてそのコメントを貰う」という企画を編集部に提案したところ、有難い事に制作会議を通り、2回もやらせて貰えました。素直な人柄のMichaelさん、自分の演奏を聴いた印象を包み隠さず何でもお話ししてくれましたし、レコーディングに纏わる話、ウラ話等実によく覚えているのには驚きました(こちらにもきっと面白い逸話を話してくれるに違いないという目論見もありましたが)。でもやったこと自体を全く覚えていないNeil Larsenの作品「Jungle Fever」収録Last Tango In Parisの自分の演奏を「ずいぶんと派手なソロだね」と他人事のように話すのには大笑いしました。 その1回目のインタビュー、10曲ほど聴かせた中に本作収録曲Sofaのコメントがありますので抜粋して掲載したいと思います。 ーあと2曲になりました。こちらはフランク・ザッパ(g,vo)の「ソファ」です。 〜曲をプレイ〜 MB:これはプレイした時以来に聴いたよ。このアルバムのことはいつも人に聞かれていて、聞かないといけないと思っていたんだけど、なかなかチャンスがなかったんだ。やっとみんなが言っている意味がわかったよ。国歌のような感じだね、金星あたりの(笑)。フランクのプレイはとにかく素晴らしい。彼は一緒に作業をしていても、本当に面白い存在だったね。彼自身はジャズのバックグラウンドを持っていないから、ジャズ・ミュージシャンにとても敬意を持っていてくれたね。ステージではふざけていたけど、作曲やプレイに関しては本当にシリアスだったんだ。それだけに共演するミュージシャンには正確さを強く要求した。ロニー・キューバ(bs)のプレイも素晴らしいね。いいレコードだ。今度買いに行かなきゃ(笑)。 ーこれはライブ録音ですよね? MB:そうそう、NY14番街にあるパラディアムでやったライブだよね。たしかハロウィンの頃だったね(実際はクリスマスの頃)。たしか4晩連続でプレイして、「ブラック・ページ」のような極めて複雑な曲をやったんだ。この後に、フランクが私に「サックスとオーケストラの曲を書いたから吹いてほしい」と、オーストリアに誘われたのを覚えている。結局、私はいけなかったんだけどね。彼のステージには30メートル近いバックドロップが吊られていて、そこに大きく「くたばっちまえ、ワーナー・ブラザーズ!」と書いて合った。それが4晩ずっとあったんだ(笑)(注:しかもこのアルバムはワーナー・ブラザーズから発売された)。そして、この時、私と兄のランディは初めてテリー・ボジオ(ds)に会ったんだ。彼のプレイに惚れ込んでしまい、私達のバンドに誘って「マイ・ファーザース・プレイス」というクラブで録ったライヴがアルバム「ヘヴィ・メタル・ビ・バップ」として発売されたんだ。そう考えると興味深い1 枚だね。 実に的確で素晴らしいMichaelのコメントです。この時彼はゆっくりと、その場に相応しい言葉を選びながら発言していました。ジャズ・ミュージシャンに敬意を払うZappaの繊細さ、ふざけていながらも音楽的要求には厳しいシリアスさ、ロックミュージシャンらしいユーモアのセンス、そして誘われたオーストリアの仕事はMichaelの代わりに誰が演奏しに行ったのかにも興味が尽きません。Heavy Metal Be-Bopが録音されるにまで至るプロセスも垣間見る事が出来、インタビューアー、聞き手がどんな事を望んでいるのかをしっかり把握しつつの物言いです。 それでは曲ごとに見て行きましょう。1曲目Titties & Beer、マスクを被り悪魔に扮したBozzioとZappaのトーク、寸劇のためのナンバーです。アドリブの会話も含め、実にシリアスな妄想の世界を演じ聴かせています。ジャズのコンサートでは考えられないような内容のトーク、危なくて猥雑で下世話でメチャメチャですが、とっても大好きです! 2曲目インストによるナンバーCrusin’ For Burgers、前曲から間を置かず演奏されます。それにしてもこれは一体何という音楽でしょうか?人を喰ったようなメロディライン、暴れまくるBozzioのドラミング、延々と続くZappaのメタルギターソロ、Edward Van Halenを彷彿とさせます。マリアッチのリズム、雑多ではありますがZappa流の統一感の美学を感じさせます。 3曲目I Promise Not To Come In Your Mouth、叙情的で繊細なZappaの一面を見ることが出来る演奏です。 4曲目はSophisticated NarrationとクレジットされたDon Pardoによるナレーションから始まるPunky’s Whips。劇伴っぽいサウンドですが細部の構成に拘ったアレンジが聴かれます。何と言ってもメンバーの演奏のクオリティが高いのでしっかりと耳に入ってくる演奏です。Bozzioクレイジーさ、ヤバイです! 5曲目Honey, Don’t You Want A Man Like Me?はZappaのボーカルをフィーチャーしたラブソング、屈折した愛を語るのに相応しいバンドのアレンジが施されています。 6曲目は再びDon Pardoナレーションの登場によるThe Illinois Enema Bandit、この人の語りは全てを正当化してしまう説得力に満ちています(笑)。実話に基づいた強盗の事件を想像を加味しストーリーに仕立てています。リードボーカルはRay White、しかしこいつらは何でこんなにマジにこのネタで演奏出来るのでしょうか? Disc 2  1曲目I’m A Slime、ホーンセクションのラインが印象的です。Zappaのトークに絡むDon Pardoのナレーション、Zappaのギターソロ、継続的に演奏されるホーンセクションのエグさ、Ronnie Cuberの音がかなり大きく、Michaelはフルートで参加しているようです。 曲続きで2曲目Pound For A Brown、インストによる演奏は8分の7拍子が基本となったプログレ系の曲です。Bozzioのフィルインは変拍子をものともせず本領発揮です。Michaelのテナーの音が良く聴こえるフリーキーなホーンセクションの合奏の後の3曲目Manx Needs Women、この頃から楽器を6万7千番台のSelmer Mark6、マウスピースをEddie Danielsから譲り受けたDouble Ring6番で演奏しており、真新しいラッカーの剥げていないテナーを吹く彼の写真がライナーに掲載されています。そして!そろそろZappa超絶技巧アンサンブルの登場の時間です!4曲目、5曲目のThe Black Page Drum Solo/ Black Page#1の前哨戦、ホーンセクションも大活躍です!The Black Page Drum Soloの打楽器アンサンブルの猛烈な合い具合の凄さから、続くBlack Page#1のアンサンブルは本作の白眉です!ここで聴かれる演奏は人間が織りなす合奏の極致のひとつと言って全く過言ではありません!この曲を大編成で、しかもライブでやろうと言うZappaの精神構造が知れません(汗)。それにしてもこれは多くの人に聴いて貰いたい音楽史上に残る名演奏です!! 5曲目は一転してファンキーでダンサブルなナンバー、Big Leg Emma。 6曲目は前述のSofa、Michaelがいつに無いエグいニュアンスでメロディを演奏しています。 7曲目はZappa自身の解説付きBlack Page#2、#1が難解バージョンだったのに対しこちらはニューヨークのティーネージャー向け簡単バージョンだそうです。僕には全くそのようには聴こえないのですが(汗)。総勢16名のミュージシャンによる信じられないレベルでの超絶合奏!改めてこの演奏を聴いて、音楽って何て奥が深く、自分が拘っている事が何てちっぽけなんだろう、と思い知らされるくらい物凄い演奏です!! 8曲目The Torture Never Stopsの歌詞の内容はZappaの社会や歴史、世の中に対する負の行いへの抗議のメッセージが込められています。 9曲目ラストを飾るのはThe Purple Lagoon/Approximate。これまた凄いラインから成るインストナンバー。ソロの先発はずっとアンサンブルで温存されていたアドリブ・プレーヤー魂を全開にしているMichael、ここでのBozzioとのやり取りは既にHeavy Metal Be-Bopでの演奏を十分に感じさせます。続くソロはZappaのギター、この人の演奏を聴くたびにロックとジャズギターの語法、ライン、タイムの違いは決定的なのだと感じます。Cubarのバリトンソロ、ベースPatrick O’Hearn、Randyのコーラスをかけたトランペットソロ。Bozzioはジャズミュージシャンと対等に演奏出来るジャズスピリットを持ち合わせていますが、本作他のリズムセクション・メンバーに感じることは出来ません。この演奏の映像が残されていたらさぞかし秀逸なのだろうと思います。

2018.03

2018.03.30 Fri

Stan Getz / Sweet Rain

今回はStan Getzの67年作品、Sweet Rainを取り上げてみましょう。1967年3月21日、30日録音、同年7月リリース。  Studio:Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey  Recording Engineer:Rudy Van Gelder  Producer:Creed Taylor ts)Stan Getz p)Chick Corea b)Ron Carter ds)Grady Tate   1)Litha(Chick Corea) 2)O Grande Amor(Antonio Carls Jobim) 3)Sweet Rain(Mike Gibbs) 4)Con Alma(Dizzy Gillespie) 5)Windows(Corea) メンバー良し、演奏良し、選曲良しと三拍子揃った名盤で、学生の頃からよく聴いています。多くの名盤には名録音も付き物なのですが、レコーディング・エンジニアがかのRudy Van Gelder(RVG)にも関わらず、いつもの彼らしいクリアネス、臨場感、サウンドの主張をここではあまり感じず、どちらかと言えば今ひとつピンとこない、音の抜けないこもったサウンド、そしてザラザラした質感の音質です。崇高なまでに素晴らしい演奏と、あたかも一枚ベールを被ったような録音のクオリティとが合わさり、むしろこの作品の印象をミステリアスなものに仕立てています。ですので昔から僕はSweet Rainを聴く度にこの作品の秘密を解き明かす感じで対峙しています。 この作品のディストリビュートはVerve Label、創設者のNorman Granz自身に寄るプロデュース作品が多かったのですが、この頃から後に名盤を数多くリリースしたレコード会社CTI(Creed Taylor Issue,  Creed Taylor Incorporated)の創設者Creed Taylorがプロデュースを担当しました。TaylorはVerveでの幾多の経験を生かしてCTIを創設したと言えるでしょう。そして録音はRVGが行うというパッケージになっており、良い録音で作品を聴いて頂こうというTaylorのこだわりが名匠RVGの起用を促しています。GrantzよりもTaylorはよりポピュラリティのある作品のプロデュースを心掛けており、ジャズの様な素晴らしい音楽〜反面難しい、取っ付きにくいという垣根を取り払うべく、様々な工夫を作品毎に施して聴衆にアピールしていた様に認識しています。実際CTIのカタログにはクロスオーバー〜フュージョンの作品が多いのは当然の成り行きでしょう。 ところでGetzは共演するリズムセクションの人選にかなりこだわりがあるように感じます。ミュージシャン、特にフロント楽器がリーダーともなれば当然の事ですが、その当時の精鋭プレイヤーを雇い、自分のカルテットのメンバーとして育て、特にピアニスト(Vibraphone奏者Gary Burtonが在籍した時期もあります)の楽曲を積極的に取り上げてバンドのレパートリーにしていました。本作に参加しているChick Coreaのオリジナル・ナンバーLitha、Windowsはエバーグリーンの名曲です。でも決して長きに渡り共演せず、せいぜい2~3年程度、そのミュージシャンの美味しいところを堪能出来たらまた別なミュージシャンを見つけて採用するというスタンスで共演していました。そのGetzにしては珍しく自分のバンドの出戻り(?)ピアニスト、Chick Coreaのオリジナルを殆ど全曲演奏したのが「Captain Marvel」。この作品単体でBlogに取り上げたいほどの名作です。1972年3月3日NYC録音 74年リリース  Columbia Label とても素敵なセンスのジャケットです!収録6曲中Billy StrayhornバラードのLush Life以外は5曲全てChickのオリジナル、メンバーもChick、Getzの他にb)Stanley Clarke、ds)Tony Williams、pec)Airto Moreira。この作品のライブ盤が同年Montreux Jazz Festivalにて録音の「Stan Getz At Montreux」77年リリース、DVDでも見る事が出来ます。Polydor Label これらのセッションはChickの72年傑作「Return To Forever」1972年2月2, 3日 録音NYC、のメンバーにTonyを加えたメンバー構成で、Return To Forever A La Getzとも言うべきバージョンです。ECM Label Return To Foreverの僅か1ヶ月後にCaptain Marvelは録音されているのですが、リリースは74年、録音してから2年経過してからの発売には何か意図があったのか、たまたまなのか、Return To Foreverの大ヒットが落ち着いてからのリリースを考えたのか、謎解きをするのも面白いです。 それではSweet Rainの収録曲を見て行きましょう。1曲目Chickの作品Litha、8分の6拍子のリズムとアップテンポのスイングからなるカッコいいナンバー、初期のChickの傑作曲です。8分の6拍子の1拍=8分音符が3つを1拍と捉えて倍のスイングで演奏する、タイムモジュレーションの走りです。ここでのGrady Tateのドラミングが実に素晴らしい!8分の6拍子での軽快さ、そして更にアップテンポのスイングになった時、ほんの少しOn Topで叩くシンバル・レガート、これによりリズムのフィギュアが変わった感が半端ないのです!Getzの演奏で他バージョンのLithaの演奏で比較して見ましょう。「Stan Getz My Foolish Heart “Live” At The Left Bank」 75年5月20日Maryland TheFamous Ballroom Baltimoreにてライブ録音、 2000年リリース Label M p)Richie Beirach b)Dave Holland ds)Jack DeJohnette 豪華なリズムセクションとの演奏です。因みにこのリズムセクションとDave Liebmanの共演が以前取り上げたことのあるLiebmanのリーダー作「First Visit」です。 このCDが発売された時にワクワクしながら購入した覚えがあります。 GetzのLithaの演奏をこのリズム隊で聴く事が出来るなんて!でも結論を先に言うと、ドラミングに関してSweet Rainでの演奏の方に軍配が上がります。 DeJohnetteのアップテンポのスイングが僕にはどうにも遅く聴こえるのです。メトロノーム的には全く正確に倍のスイングになっているのですが、TateのドラミングのようなOn Top感が無いので重い、スピード感の希薄なスイングになっています(とは言っても物凄い演奏ですが)。 ドラマーが代わりVinnie Colaiutaでの演奏にも同じ傾向があります。こちらはChick自身の演奏、93年1月3日 Blue Note NY、Chick Corea Quintet <b)John Patitucci ds)Vinnie Colaiuta ts)Bob Berg tp)Wallace Rooney> https://www.youtube.com/watch?v=cCa7SqwUgws(クリックすると演奏を聴く事が出来ます)。 ここでのColaiutaのドラミングはDeJohnetteよりも幾分On Topですが、Tateに比べるとまだ遅いです。Tateのドラミング・スタイルは黒人ドラマーとしてRoy Haynes〜Ben Rileyの流れを汲み、Frederick WaitsやVictor Lewis等に繋がって行きます。またGrady Tateのボーカルが素晴らしいのを皆さんご存知でしょうか?豊かなバリトンボイスを生かしたゴージャスな唄はドラミングと同等に、時としてそれを上回るほどです!Tateの74年リーダー作「Movie’ Day」、こちらは全曲ドラムを叩かず、ボーカリストとしての彼をフィーチャーした作品です。収録曲Van Morrisonの名曲Moon Dance、堪らない歌声です! Lithaの演奏にはもう1つ特記すべき点があります。8分の6拍子とアップテンポ・スイングが交互に入れ替わるこの曲、先発のGetzのソロ時には殆ど問題がなく合計4コーラス演奏されますが、Chickのソロの時にベースとドラムが曲の進行の探り合いを始めたのです。ピアノソロの1コーラス目、8分の6拍子からアップテンポ・スイングに移る際、ベースが1人先に行かず8小節してからアップテンポ・スイングになりました。ここからが2人の疑心暗鬼の始まりです。ソロの出鼻を挫かれたChick、しかし2コーラス目はベース、ドラム2人が持ち直したのでアドリブにエンジンが掛かり始めました。ところが3コーラス目に入った途端ドラムが8分の6拍子に一瞬戻らず、でもすかさず察知して態勢を立て直し8分の6拍子に戻りますが、その余波のためか何とベース、ドラム今度は2人して同時に8小節早くアップテンポ・スイングに移行してしまいました!コード進行も違うぞ!Chickは可哀想にバックの様子を伺いながらのソロプレイ、多分Getzと同じく4コーラスのソロを予定していたと思うのですが、邪魔が入り集中しきれずにソロをギブアップ状態の3コーラスで終了です。Getzがリーダーとしての後始末的にソロをコーラスの途中から取り、そのまま引き続いてラストテーマに入りました。こんなにアクシデントが起こった演奏にもかかわらず、プロデューサーはよくこのテイクを採用したと思うのですが。それにしてもトラブル続きの演奏でもタイムが一切揺れないのは流石です! 2曲目はAntonio Carlos JobimのO Grande Amor〜大いなる愛、Getzはライブでも当時よくこの曲を取り上げていたのでお手の物です。Chickの美しいソロも加わりこの曲の名演奏のひとつになりました。 3曲目は本作のタイトル曲Sweet Rain、南ローデシア生まれのイギリス人作曲家Michael Gibbsの崇高なまでに美しいバラード。この曲もGetzはライブで良く演奏していました。この曲の雰囲気と本作の録音状態が絶妙にマッチングしていると感じるのは僕だけでしょうか。1コーラス10小節から成る曲で、因みにMilesのBlue In Green、 Horace SilverのPeace、ColtraneのCentral Park Westいずれも10小節構成のバラードです。これらは10小節でストーリーを語り尽くしている名曲です。 4曲目はDizzy Gillespieの名曲Con Alma、スペイン語ですが英語に訳すとWith Soulだそうです。ホント良い曲ですね!Grady Tateの小気味好いラテンのリズムが曲の持ち味を最大限に引き出しています。Lithaと同様にスイングのリズムと交互に入れ替わりますが、ここでも丁度良いタイムのツボ、リズムのスイートスポットにハマって演奏しています。エンディングのドラマチックな事と言ったら! 5曲目は再びChickのナンバーWindows、対抗してMackintoshという曲を書いた人がいましたが(笑)、冗談はさて置き、これも何と美しいワルツでしょうか!ドラマチックでいて更に目紛しくコード進行が変わる難曲ですが、Getzは大変メロディアスなソロを聴かせています。学生時代よくジャズ喫茶でこの曲がかかっていましたが、皆んなでGetzのソロを口ずさんだものでした。テナーサックスに於いてストーリーテラー、メロディメイカーぶりでGetzの右に出る者はジャズ史上存在しません。Chickのソロもコンポーザーならではの、細部に至るまでとことん曲の構造を把握して、曲自体のテイストを最大限に引き出しています。Getzのソロのバッキングも全く的を得ています。ところでこの曲のキー、調性は何でしょう?いまだに僕自身分かりませんが、我々はこの曲を演奏する時に冒頭のコードを指して判断しています。このGetzバージョンは冒頭B minorですが、Phil Woodsの「Japanese Rhythm Machine」では半音上げてC minorで演奏していますが、実はこのキー設定でかなり演奏し易くなっているのです。PhilはFreedom Jazz DanceのキーをB♭からFに変えてEuropean Rhytm Machineの方でも演奏していました。

2018.03.19 Mon

Pony’s Express / Pony Poindexter

今回はアルト、ソプラノサックス奏者Pony Poindexterの62年録音初リーダー作「Pony’s Express」を取り上げてみましょう。 1962年2月16日、4月18日、5月10日NYC録音 Producer : Teo Macero  Liner notes : Jon Hendricks Epic Label 1)Catin’ Latin 2)Salt Peanuts 3)Skylark 4)Struttin’ With Some Barbecue 5)Blue 6)”B” Frequency 7)Mickey Mouse March 8)Basin Street Blues 9)Pony’s Express 10)Lanyop 11)Artistry In Rhythm as,ss,vo)Pony Poindexter as)Eric Dolphy, Gene Quill, Sonny Redd, Phil Woods ts)Dexter Gordon, Jimmy Heath, Clifford Jordan, Billy Mitchell, Sal Nistico bs)Pepper Adams p)Tommy Flanagan, Gildo Mahones b)Ron Carter, Bill Yancy ds)Elvin Jones, Charlie Persip vo)Jon Hendricks 60年代初頭、当時のジャズシーンにおける精鋭サックス奏者がリーダー含めアルトサックス奏者5名、テナーサックス奏者5名、バリトンサックス奏者1名の総勢11人(!)がこの作品には参加しています。各人の素晴らしいソロ、バトルの他、ProducerのTeo Macero(この人自身もサック奏者です)アレンジによる重厚なサックス・アンサンブルも楽しめる、そうです、文字通り「サックス祭り」作品です!実際バックを務めるリズムセクションにもElvin Jones、Ron Carter、Tommy Flanagan等の豪華メンバーが参加していますが、彼らに一切ソロはありません。 アルトサックスを首から下げながらカウボーイ風の衣装で乗馬している小柄なPony Poindexterの写真がジャケットにレイアウトされています。最初のアメリカ大陸横断電信(鉄道ではありません)が開通する前の1860年代のいっとき、馬に乗った配達員が電報を運ぶ郵便配達サービスが行われ、その名前が「Pony Express」と言いました。アメリカ東海岸には電信網があり、途切れる中西部以降の荒野や砂漠、山岳地帯、その間のインディアンの襲撃を回避しつつ、1人の騎手が駅で馬を乗り継ぎながら西海岸までの間を最短10日間で配達したそうです。Pony Expressの騎手は厳しい仕事に就くため、タフで軽量(57kg未満)でなければならなず「求む、若く、痩せこけて針金のような男、18歳以上は不可。馬の騎乗に優れ毎日死を賭した危険に立ち向かわなければならない。孤児優遇」と書かれた有名な求人広告が残っているそうです。物凄い採用条件ですね(爆)、可愛らしい職業名とは裏腹に過酷で常に死と直面しているにも関わらず、Pony Express人気の職業だったそうです。フロンティアスピリットのなせる技でしょう。実際小柄なPony(ニックネームです) Poindexter、そこから取ったネーミング曲Pony’s Expressからアルバムタイトル付けされています。 リーダーPony Poindexter、ジャケ写からジャズ・ミュージシャンらしからぬ如何にも気の良い田舎のおじさん、と言った感じが滲み出ていますが、本人の演奏にもあまり細かいことにはこだわらない、良く言えばハッピーでラフな雰囲気の演奏を感じます。端的に言えば大雑把さ、奏法的にはピッチやリズムのルーズさ、リードミス寸前の発音(ちょっと痛い音の成分が鳴っています)、フレージングのアバウトさが気になる所ですが、参加サックス奏者達の好演、熱演、Teo Maceroのアレンジ、選曲、構成、プロデュースにサポートれてこの作品は成り立っていると言って過言ではありません。「周囲に助けられて成り立っている」のがジャズミュージシャン基本だと思うのですが(笑)、本人も周りのミュージシャンに愛されるキャラではなかったかと想像できます。「Ponyの初リーダー・レコーディングなんで皆んなでいっちょ盛り上げようぜ!」そんなノリで参加ミュージシャン達全員がベストを尽くしたのでしょう。Count Basie楽団のためにアレンジャー、作曲家のNeal HeftieがCharlie Parkerのモチーフを元に書いた名曲Little PonyはそんなPoindexterに捧げられており、その曲の歌詞もこのアルバムに参加し、更に本作にライナーノートを寄稿しているJon Hendricksが書いています。 60年代に多くのミュージシャンが仕事を求めてアメリカからヨーロッパに渡りましたがPoindexterもその一人です。この作品がリリースされた後64年に地中海の島に家族と移住し、以降ヨーロッパ各地のジャズフェスやミュンヘンのジャズクラブ「ドミシル」等への出演を中心に演奏活動を続けました。 Poindexterで特記すべきはソプラノサックスの使用です。60年初頭にジャズでソプラノサックスを演奏していたのはJohn Coltraneくらいですが、そのColtraneが彼の楽器をとても欲しがったそうです。Poindexterは何千ドル出したとしても譲らないと固辞したという逸話が残っています。ただ後にこの名器はクラブ「ドミシル」が原因不明の火災に見舞われた際消失(焼失)してしまったそうです。その後Poindexterはアルトサックスとボーカルに専念することになりました。 余談ですが僕の後輩サックス奏者のアパートがだいぶ前に火事になりました。本人サブの楽器を持ってリハーサルに出かけ、帰宅してみるとアパート全焼、ほとんどが灰になっていましたが、メインの楽器があった辺りを掘り起こしてみるとハンダ付け、ロウ付けが綺麗にバラバラになったサックス・パーツをネックのオクターブキー以外、全て発見する事が出来ました。それらを集め持って管楽器修理専門店に行き、あたかも新品の楽器を組み立てるように修理を依頼しました。その後リニューアルされた楽器は何と以前の状態よりも良く鳴るようになったそうです!負け惜しみではないと思いますが、「楽器は一度焼いてから組み立てた方が良いです」とは本人の弁、確かに楽器によってはキーポストや本体のハンダ付けが甘いものもあり、専門店でしっかりと確実に組み立てれば蘇るどころか、良く鳴る楽器に変身するのでしょう。 それでは作品の内容について1曲づつ見ていきましょう。本作3つのセッションから成り、全ての曲において3アルト、2テナー、1バリトンというサックス6管編成で構成されています。レコードのライナーには不親切なことにソロのオーダーは全く記載されていません。僕自身の耳でプレイヤーを判断しますので、もしかすると誤記があるかも知れない点をご容赦ください。 1曲目Pony Poindexter(P.P.)のオリジナル、ラテンナンバーCatin’ Latinです。何処かで聴いた事のありそうなメロディの断片を感じますが、P.P.らしいハッピーな曲調です。ソロの先発はP.P.のソプラノ。このブログでも度々登場するドラマーのCharlie Persipの軽快なラテンリズムと相まった小気味良いソロです。短いソリを挟んでDexter Gordon(D.G.)のテナーソロ、野太い音色でレイドバックが気持ち良いソロを聴かせます。続くPhil Woods(P.W.)も端正なリズム、8分音符、的確なタンギングで一聴彼と分かるスイング感を聴かせます。続くバリトンは本作で孤軍奮闘のPepper Adams(P.A.)、この人のエッジーな音の輪郭、タンギンングの正確さにはいつも感心ささられます。彼のMCをCDで聞いたことがありますが、バリトンの吹き方と同じ滑舌の良い話しっぷりに、話し方と吹き方は同じなのだと再認識しました。続いてP.P.とテナーBilly Mitchellのバトルが行われます。同じテナーでもD.G.とはまた音色、タイム感がかなり異なります。 2曲目お馴染みDizzy GillespieのSalt Peanuts、P.P.のボーカルが聴かれますがこの唄は彼のサックス演奏とは異なり、かなりレイドバックしています。61年から64年に渡欧するまでコーラスグループLambert, Hendricks, Ross(L.H.R.)の伴奏を務め、4人目のボーカリストとしても活躍しました。P.P.ボーカルの後に続いてすぐ自身のアルトソロになるので、多分唄は後からオーバーダビングしたのでは、と思われます。唄のリバーブ感もサックスのものとは異なる点からも推測されますし、これだけ唄ってから間髪入れずにすぐサックスを演奏するのはどんな達人でも無理だと思います。P.P.アルトソロに続くD.G.テナーソロ、アップテンポにも関わらずゆったりと聞こえるのは流石です。P.A.バリトンソロも素晴らしい!実に巧みなフレージング、音色、歯切れの良さ、バリトンサックスの第一人者として永年君臨するだけのことがあります。後テーマはインタールード後イントロに戻ってFine、オシャレな終わり方です。 3曲目Hoagy CarmichaelのSkylark、P.P.のアルトをフィーチャーし美しいサックスアンサンブルをたっぷり堪能できるバラードです。2’17″辺りでサックスの音が不自然に変わるので、テープ編集がなされているように思います。多分P.P.のソロ部分をカットしたのではないでしょうか。当時は現代ほど録音編集の技術が無かったので、唐突感を感じさせる場合がありました。僕自身としてはP.P.の音程が上ずる傾向にあるのがバラード演奏では顕著に表れ、微妙に感じます。 4曲目Struttin’ With Some BarbecueはD.G.とP.P.の2サックスの掛け合いから始まり、P.P.のテーマ演奏、その後ろでオブリガードを吹くD.G.。一曲通して彼ら2人のサックス演奏をフィーチャーし、ここではサックス・アンサンブルは聴かれません。二人のタイム感、8分音符の長さの違いが顕著です。多分せっかちな人柄のP.P.、常にのんびりと大きく構えるD.G.、対比が実に楽しく聴こえます。D.G.が自分のワイフに電話した時の話ですが、のんびりした旦那にはせっかちな奥方がペアになるものです。D.G.電話の話し方ものんびりしていて言葉の間が多いためでしょう、奥方はもうとっくに話が終わったと勘違いして一方的に電話を切ってしまったそうです(泣) 5曲目L.H.R.のピアニストで、この曲で伴奏を務めるGuildo Mahonesのオリジナル曲Blue、重厚なサックスアンサンブルをバックにP.P.朗々とまさにBluesyにテーマを歌い上げます。全体的に先ほどのSkylarkのソロをカット編集されない分程度の長さの演奏に仕上がっています。途中にOliver Nelsonの名曲Stolen Momentsのメロディが出てきます。よくあるメロディではありますがStolen Momentsが収録された「 The Blues And The Abstract Truth」が61年録音、同年リリースで大ヒットしたしたので、多分引用フレーズ扱いでしょう。 6曲目Teo Macero(T.M.)のオリジナル”B” Frequency、P.P.のソプラノをフィーチャーした小品です。P.P.のソプラノサックスはアルトサックスとは多少アドリブのアプローチが異なるように聞こえます。ここでのサックスセクションにはEric Dolphy(E.D.)がアルトサックスで参加していることになっていますが、ホーンセクションの一員として職人的な演奏をこなす事も出来るバランス感をたたえたミュージシャンと言えます。後ほど10曲目で聴かれるアドリブの嵐の前の静けさです。 以上がレコードのSide Aです。7曲目は何とディズニー映画Micky MouseのテーマソングMicky Mouse March。ソプラノサックスでの演奏が雰囲気にピッタリの超楽しい演奏です。バックのアンサンブルがまた強力です!採譜して自分でも演奏したいほどです。テーマ後P.P.が1コーラスソロを取った後にサックスセクション参加者のソロが始まります。最初のテナーは多分Sal Nistico、続くアルトはSonny Redd、次のテナーはClifford Jordan(C.J.)かD.G.なのですが、C.J.ではないかと思います。続くアルトは間違いなくP.W.、その後P.A.のバリトンと続き最後のアルトが微妙です。P.P.のように聞こえるのですが、その後ラストテーマで直ぐにP.P.がソプラノを吹いているので、アルトのラストソロはP.P.、ソプラノテーマはオーバーダビングではないかと思いますが如何でしょうか?エンディングのアンサンブルにリードミス音が聴こえるので、P.P.がアルトでアンサンブルに参加しているのかも知れません。 8曲目はJon Hendricks(J.H.)のボーカルをフィーチャーしたBasin Street Blues。素晴らしいアレンジ、優雅な雰囲気のアンサンブルをバックにJ.H.朗々と歌っています。P.P.のソロも快演です。やはりT.M.のプロデュース作品ともなれば、全体のバランス構成が巧みになされており一作を通しての聞き応えをしっかり熟考していると言えます。 9曲目はP.P.のオリジナルにして本作のタイトル曲、Pony’s Express。イントロ部分のソロ先発はP.A.のバリトン、1人目アルトがP.W.、2人目がP.P.、テーマ後P.P.が先発ソロを取り、1コーラスのサックスアンサンブル後D.G.のテナーソロ、再びサックスアンサンブルの後にエンディングテーマで締めくくられます。 10曲目は再びP.P.のオリジナルLanyop、9’36″と本作中最長のテイクでハイライトと言える演奏です。テーマ後サックスアンサンブルを経て先発がP.P.、続くテナーが多分Jimmy Heath、その後E.D.のアルトの登場です!それにしても何でしょうかこの存在感!それまでとはスタジオ内の空気感が明らかに一変しました!他のサックス奏者と楽器の鳴り方がメチャクチャ違います!多分かなりオープニングの広いマウスピースと硬めのリードを使っていると思われますが、個性的という言葉では片付けきれないユニークな音色と強烈な倍音、誰も真似のできないオリジナリティの塊のアドリブ・ライン、でも間違いなくジャズの伝統に確実に根ざしたスインギーなスタイルです。異端でありながらも正統派、これこそ僕の理想です。ソロの構成、ストーリー展開もアンビリバボーな位バッチリです!他のサックス奏者たちは演奏中のE.D.をさぞかしガン見していたに違いない事でしょう、「何だこのEricの演奏は?一体ここで何が起こっているのだろう?」と。ピアノのバッキングとの合わなさ加減も物凄いです!E.D.まだソロが続きそうな感じでしたがコーラス数が決まっていたのでしょう、バリトンソロが始まります。でもこんな演奏の後にソロを取るP.A.、とてもやりにくかったに違いありません。 11曲目ラストを飾るのはStan Kenton(S.K.)のオリジナルArtistry In Rhythm。「リズムの芸術」と訳されますが、S.K.の生涯にわたるテーマ、Artistry〜シリーズの1曲です。僕も原信夫とシャープス&フラッツのコンサートで、この曲のBenny Golsonアレンジを毎回演奏していました。P.P.は52年にS.K.のビッグバンドに参加していた事があるのでこの曲を取り上げたのでしょう、ユニークな選曲です。本作中最もビッグバンドに近いアレンジに聴こえます。P.P.の後にはD.G.が朗々とソロを取ります。

2018.03.09 Fri

Ringo Starr / Sentimental Journey

今回はThe Beatlesのドラマー、Ringo StarrがThe Beatles解散後に初めて発表した作品「Sentimental Journey」を取り上げてみましょう。 1970年3月27日リリース Apple Label  Producer : George Martin 1)Sentimental Journey 2)Night And Day 3)Whispering Grass(Don’t Tell The Trees) 4)Bye Bye Blackbird 5)I’m A Fool To Care 6)Stardust 7)Blue, Turning Grey Over You 8)Love Is A Many Splendoured Thing 9)Dream 10)You Always Hurt The One You Love 11)Have I Told You Lately That I Love You? 12)Let The Rest Of The World Go By 全曲Ringo Starrのボーカルをフィーチャーしたスタンダード・ナンバー集です。本業のドラムスは一切演奏していません。今までこのBlogではジャズメンの作品しか取り上げなかったのに何故?しかもRingo Starr?と思われる方もいらっしゃると思います。確かにこの作品は純然たるジャズアルバムでは無いかもしれません。またRingoのボーカル自体も決して上手いとは言えず、1oo歩譲って味のある歌いっぷり、と言うのも難しいところです。The Beatles時代のBoys、I Wanna Be Your Man、Matchbox、Honey Don’t、Act Naturally、What Goes On、Yellow Submarine、With A Little Help From My Friends、Don’t Pass Me By、Good Night、 Octopus’s GardenこれらのRingoフィーチャー曲での微妙なピッチ、あまり声の出ていない、リズムが多少ルーズな、歌詞を棒読みする傾向のある、声の抑揚の希薄な歌い方は他のThe Beatlesのメンバーの圧倒的な歌唱力と比べてはいけないのかも知れませんが、人間の耳というのは適応力、慣れがあるものでRingoの歌には他のメンバーには無い「癒し」を見出して彼のボーカルを好意的に聴いているような気がします。 実は僕はThe Beatlesの大ファンです。小学校6年生の時に生まれて初めて買ったLPが「 Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」でした!数年前に全作品のデジタル・リマスター盤がリリースされて以来、その音質の素晴らしさ(レコードや従来のCDでは聞こえなかった音が聞こえるのです!しかもごく自然に!)にThe Beatlesのサウンドを再認識して日常的によく聴いているのですが、「Let It Be」以降解散してからの各メンバーのリーダー作品はこの「Sentimental Journey」を除いてあまり聴く機会がありません(とは言えたまには聴いていますが)。The Beatlesの諸作はJohn Lennon、Paul McCartney、George Harrison、Ringo Starr4人の個性が絶妙なバランス感、ブレンド感を伴って崖っぷちぎりぎりで成り立っている凄みを聴かせてくれますが(特にラストアルバム「Abbey Road」の素晴らしさは崩壊直前の美学!)、各々のリーダー作品にはどうしても物足りなさを感じてしまいます。作品の色が個人芸に由来するモノトーンなのが最大の原因でしょうか?人間の個性が合わさった相乗効果で1+1以上の効果をもたらす、The Beatlesの場合は4人の音楽性が時に計り知れない化学的反応をもたらしています。「Sentimental Journey」を贔屓にするにあたり、「お前は上手いプレイヤーか、味のある演奏が聴ける奏者の作品しか聴かないんじゃなかったのかい?」と言われるかも知れません、その傾向が無い訳ではありませんが、この「 Sentimental Journey」ではRingoの唄に癒しを見いだしつつ、バックを務めるGeorge Martin Orchestraの実に素晴らしい職人芸サポート演奏、そして何より全12曲各々アレンジャーが異なり(とってもお金が掛かっています!)、12人が腕によりを掛けてRingoをバックアップすべく素晴らしいビッグバンド・アレンジを競って提供している点に堪らなくワクワクしてしまうのです。 この作品のジャケット写真はRingoが少年時代住んでいたLiverpoolにあるThe Empress pubの建物写真にコラージュを施しています。 ジャケット写真と作品の内容の関わり具合が絶妙です。40~50年代のビッグバンドジャズが華やかし頃の雰囲気がほのぼのと伝わってきます。建物の写真がピサの斜塔のように若干斜めにレイアウトされているのもユーモラスです。そもそもがRingoのお母さんに「あんたは良い声をしてるんだからさ、私の好きなスタンダード・ナンバーばかり歌ったアルバムでも作ってみたら」と促されてのがきっかけでこの作品が録音されました。「気持ち良く歌えたので、この作品なら母親でも楽しめるだろうね」と発言しており、詰まるところ大好きなお母さんElsie Starkeyに捧げられた作品なのです。Ringoは子供時代に母親が良く聴いていたスタンダード・ナンバーを一緒に耳にしていたので、スタンダード・ナンバーは彼の音楽的ルーツなのでしょう。The Beatles解散直後に一度原点に戻った形です。 それでは収録曲を見て行きましょう。録音全体でRingoのボーカルが引っ込み気味なのは気のせいでしょうか。通常ボーカリストの作品はボーカルが全面的に前に出ているものです。エレクトリック・ベースのコーニーな音色がこの時代のサウンドを物語っていますが他の楽器の音色は現代でもさほど変わりません。ビッグバンド演奏はGeorge Martin 率いる彼のOrchestra、George MartinはThe Beatlesの諸作を殆ど全てアレンジしたバンドの立役者です。でも彼以外オーケストラ・メンバーのクレジットがジャケットに一切ない事にも時代を感じさせ、バックバンドはひたすら裏方感が半端ないです。そう言えばThe Beatles時代の「White Album」収録曲George Harrisonの名曲While My Guitar Gently Weepsで聴かれるEric Claptonの素晴らしいソロ、彼の名前はレコードジャケットの何処にもクレジットされていません。レコード発売当時はGeorge自身がソロを取っていると思われ、彼もギターが上手くなったな、と評判が立ったらしいです(爆)それとも英国という国は、作品のリーダーと重要なメンバー以外はクレジットしないことが常識なのでしょうか。米国の方は権利の国なので演奏者のクレジットは徹底して記載されています。 1曲目表題曲のSentimental Journey、アレンジは以降Ringoの「 Good Night Vienna」等をプロデュースする事になったRichard Perry、のどかな米国南部の雰囲気を醸し出しています。ストリングスの使い方、バスクラやバリトンサックスが効果的に用いられています。 2曲目Cole PorterのNight And Day、アレンジャーはキューバ出身のChico O’Farrill。ジャズテイスト満載の素晴らしいアレンジです。ブラスセクション良く鳴っています!ダイナミクスも徹底しています。ドラマーのグルーヴ、フィルインがBuddy Richを彷彿とさせるテイストでこちらもとってもグー!Ringoも気持ち良く歌っているのが伝わります。ピックアップから始まる間奏のテナーソロもご機嫌なのですが、明らかにフェイドアウトで強制終了されているので、こちらにも伴奏者の裏方感を感じてしまいます(泣)。 3曲目Whispering Grassのアレンジはご当地英国出身のRon Goodwin、ストリングスの使い方が絶妙でゴージャス、多分数々の映画音楽を手がけているのでしょう。この曲は米国のコーラスグループThe Plattersの演奏が有名ですが、Duke Ellingtonも取り上げているそうです。 4曲目Bye Bye Blackbirdのアレンジは英国出身の男性コーラスグループBee Geesのメンバー、Maurice Gibb。バンジョーを生かしたNew Orleans仕立てから始まり、ストリングスやブラスセクションを次第に重ねてサウンドに重厚感を持たせています。エンディングはキーを半音上げてドラマチックに終えています。 5曲目はカントリー&ウエスタンの名曲I’m A Fool To Care、アレンジャーはThe Beatlesとも馴染みの深いベーシストKlaus Voormann。ストリングスやブラスセクションの使い方もオシャレですが、どうもこの作品のストリングスとブラスセクションは同一人物がアレンジを施しているように感じます。ということはGeorge Martinが各曲のアレンジャーのアレンジの意向を踏まえ、最終的なアレンジのまとめ役を引き受けているのでは、と。 6曲目Hoagy Carmichaelの名曲Stardust、アレンジャーはPaul McCartneyとクレジットされていますが、EMIの資料ではGeorge Martinとなっており、Paulは何らかのアレンジのアイデアを提供し、George Martinが同様にまとめたと推測されます。星屑をイメージしたエンディングのグロッケン?の使い方辺りはPaulのアイデアではないかと想像していますが、実際のところはどうでしょうか。 レコードでは以上がSide A、B面に入った7曲目はこの作品中最もジャズ度の高いアレンジ曲、ハイライトと言えるBlue, Turning Grey Over You。アレンジャーは数々の名アレンジを世に送り出したOliver Nelson。素晴らしいアレンジにメンバー一同インスパイアされGeorge Martin Orchestra大熱演、張り切ってます!トランペットセクションのハイノート素晴らしい!後からボーカルをオーバーダビングしたRingoもバンドの演奏に惚れ込んでかスインギーな歌を聴かせています。この曲はGeorge Martinのアレンジが介入せずOliver Nelsonのアレンジ一本と思われ、当時の彼のアレンジの特色である8分の12拍子での低音パターンが聴かれます。ドラマーもグイグイとバンドを引っ張り(の割には演奏がだんだんと遅くなっていますが)、Buddy Richが現代的になったようなフレージングを叩きまくっています!エンディングにはRingoがご愛嬌でスキャットを聴かせています。 8曲目はLove Is A Many Splendoured Thing、「慕情」はアカデミックなQuincy Jonesのアレンジが光ります。全体的なサウンドの密度、アンサンブルでの楽器の使い方、重ね方にQuincyならではのマジックを感じます。この曲でもGeorge Martinはアレンジの介入はしていないように思います。Ringoの声よりもコーラスの声の方が大きくミックスされているので、Ringoを中心としたコーラス・アンサンブルのような聴かせ方になっており、Ringoの歌のウイークポイントをうまい具合にカモフラージュしています。 9曲目Dream、Johnny Mercerの名曲です。アレンジはGeorge Martin自身によるものです。こちらは曲のキーを低く設定してRingoの中音域〜低音域の声を多重録音しているので、濃密な囁き声という雰囲気でのボーカルを聴かせています。ブラスセクションの生かし方、鳴らし方がさすがGeorge Martin、良く分かってらっしゃる。 10曲目You Always Hurt The One You Love、アレンジは英国出身のサックス奏者John Dankoworth。間奏のアルトソロもアレンジャー自身によるものです。この曲でのホーンアレンジ、George Martinよりもジャジーなテイストを感じさせるので多分Dankoworthによるものでは、と推測されます。リズムのパターンがいかにも60~70年代風で懐かしいです。 11曲目Have I Told You Lately That I Love You? アレンジは米国出身の映画音楽作曲家Elmer Bernstein、Leonard Bernsteinとは同姓で同じユダヤ系移民出身ですが血縁関係はなかったそうです。でもお互い友人関係だったのは有名な話です。ポップで軽やかなアレンジは随所にスパイスを効かせており、聴いていて思わず笑みが溢れてしまいます。Ringoの声質によくマッチした曲想です。 12曲目Let The Rest Of The World Go Byは1919年の曲で、古き良き米国の雰囲気が伝わります。アレンジャーは英国出身の作編曲家のLes Reed。曲想に合致した優しい優雅なアレンジに仕上がっています。

2018.03.05 Mon

Sonny Side Up / Dizzy Gillespie, Sonny Rollins, Sonny Stitt

今回はDizzy Gillespie、Sonny Rollins、Sonny Stitt3人の共同名義による作品「Sonny Side Up」を取り上げましょう。実質的なリーダーはGillespieですがテナー奏者2人に思いっきり演奏させています。 1957年12月19日Nola Recording Studio, NYC  tp,vo)Dizzy Gillespie ts)Sonny Rollins, Sonny Stitt p)Ray Bryant b)Tommy Bryant ds)Charlie Persip prod)Norman Granz  Verve Label 1)On The Sunny Side Of The Street 2)The Eternal Triangle 3)After Hours 4)I Know That You Know モダンジャズ黄金期の57年12月にニューヨークで録音されています。時期や場所的に悪いものが録音されるわけがないのですが、これは飛びっきり極上な出来栄えです!トランペット、テナーサックス2管、ピアノトリオのSextetでの演奏です。 この作品のレコーディング8日前、12月11日にやはりDizzy Gillespieが「Duets」という作品を録音しています。正式には「Dizzy Gillespie With Sonny Rollins And Sonny Stitt / Duets」というタイトルで、ジャケ写に3人並んでの演奏風景、リズムセクションのメンバーが同一な上に、国内盤のタイトルが上記とは若干異なり3人のクレジットが並列になっているので、てっきり「Sonny Side Up」同様にSonny2人の壮絶なバトルを聞くことが出来るアルバムかと思いきや(勿論レコード会社もそのあたりを狙ったのでしょうが)、2曲づつRollinsとStittを迎えてQuintetで演奏しており、残念なことに2人のSonnyの共演はありません。ですのでこのジャケ写は「Sunny Side Up」録音時撮影のものと推測されます。 このレコーディングの出来が思いのほか良かったので、Verve LabelのプロデューサーNorman GranzがGillespieに「Dizzy、じゃあ今度は2人のSonnyと一緒に演奏するのはどうだ?あいつらにバトルをやらせるんだよ!」と話を持ち掛け「ついでにSonny繋がりでOn The Sunny Side Of The Streetも演奏したらどうだろう?Dizzyのレパートリーにあるだろ?そう来ればアルバムのタイトルもSonny Side Upなんて面白そうだな!ダジャレだけどね!」そこまで具体的に提案したのかどうかまでは分かりませんし(笑)、逆にもともと2人の Sonnyとセクステットで録音する企画があり、そのリハーサルを兼ねたレコーディングが「Duets」だったのかも知れません。しかしジャズという音楽はメンバーの人選によりケミカルな作用が働くもので、2人のSonnyの壮絶なバトルがジャズ史上に残る名演を産み出しました。必ずしも「対抗意識」というのは良い結果を生み出すとは限りませんが、2人のSonnyの場合は見事に功を奏しました。 実は「Sonny Side Up」録音の前日、12月17日にもGillespieはスタジオ入りして彼名義のアルバムを録音しています。The Dizzy Gillespie Octet「The Greatest Trumpet Of Them All」 Verve Label 同じスタジオで同一メンバーのリズムセクション、音楽監督にBenny Golsonを迎えてtp,tb,as,ts,bsの5管編成から成るOctetでのレコーディングです。Benny Golsonのゴージャスで品格のあるアレンジにより美しいアンサンブル、リラックスした演奏を聴く事ができます。加えてミディアム・テンポが中心の演目が更に優雅な雰囲気を醸し出しています。翌18日に行われる火の出るような白熱したセッションの予感など微塵もありません。 Benny Golsonのアレンジですが、僕が在籍したビッグバンド「原信夫とシャープス&フラッツ」にかなりの曲数のGolsonアレンジによるビッグバンド譜面がありました。僕自身も随分とその譜面を元に演奏しましたが、何れにもGolson流の美意識が沸々と感じられ、同時にジャズの伝統に根ざしつつも何か新しいテイストを加味しようとするチャレンジ精神、情熱、それらを踏まえた上でのジャズへのリスペクト、愛情、シャープスで演奏していて毎回堪らなくワクワク感を抱かせてもらえました。 さて「Sonny Side Up」に話題を戻しましょう。57年12月はGillespieの仕事で忙しかったレギュラートリオのメンバー、ピアニストRayBryantとベーシストTommy Bryantは兄弟ですが( Tommyが兄)、この2人には更にドラマーのLen Bryantがいるそうです。兄弟でピアノトリオを組めるなんて楽しそうですね。更にギタリストKevin Eubanks、トランペッターDuanne Eubanks、トロンボーン奏者Robin Eubanksの3兄弟はRay Bryantの甥っ子達だそうです。優れたミュージシャンを大勢輩出したジャズ家系です。 「Duets」の2人のSonnyの演奏はいつもの彼らの水準値での演奏を聴くことが出来ます。言ってみれば並、例えれば松竹梅の「梅」の演奏ですが、「Sonny Side Up」での2人の演奏のクオリティは全く異なります。特上や「松」どころではない、全く別物と言える熾烈なインプロヴィゼーションの戦いが聴かれます。推測するに「Duets」録音時には2人のSonnyの共演は決まっていなかったという気がします。バトルが決まっていたのならその時点で2人のSonnyはお互いを意識して既に「松」クオリティの演奏を展開していたように思えるからです。 「Hi, Sonny, 12月18日火曜日にもDizzyのレコーディングを企画したので宜しく。リズムセクションのメンバーは同じだけど2人のバトルを予定しているからね、盛り上がってくれよ、僕も楽しみにしているから」とプロデューサーのNorman Granzが「Duets」の録音後に口頭で2人に伝えたのかどうか知る由もありませんが、2人のSonnyはどんな気持ちで18日レコーディング当日まで過ごしたのかを想像するのも面白いです。Stittの方がかなりナーバスに過ごしたのではないかと感じてしまうのは、対抗意識を剥き出しにしてレコーディングに臨んでいるからです。Stittは24年2月2日生まれでこの時33歳、一方のRollinsは30年9月7日生まれで27歳、しかもRollinsは56年「Saxophone Colossus」以降57年「Sonny Rollins, Vol.2」「Newk’s Time」「A Night At The Village Vanguard」と名盤を量産していた時期でまさに飛ぶ鳥を落とす勢い、Stittの方もコンスタントに作品をリリースしていましたが何しろ6歳年下の若造に負けるわけにはいかない意地を感じさせます。Rollinsは先輩格のStittとのおそらく本格的な共演は初めてなので、身の引き締まる思いでレコーディングに参加しましたが委細構わず、処処に臆する事無く、泰然と構えて演奏しています。この当時神がかったかの如くジャズのスピリットの化身のような演奏を繰り広げる時がありましたが、ここでは間違いなくジャズの神が降臨しています! 2人の演奏スタイルについてですが、基本的に2人共Charlie Parkerの影響下にあり、Stittはそれを貫き通しつつも自己の語法を確立しています。ただ僕には彼の吹く内容が全てフレーズに感じてしまうのです。端的に述べるならばフレーズという手持ちのパズルのピース、断片を組み合わせてアドリブをしている、Stittの所有するパズルのピースは半端ない数なのでそれはバリエーションに富んでいるのですが、結局のところ全てが予定調和で終わってしまっているように聴こえます。箱庭の中での造作を楽しんでいると言うか、ジャズという音楽の様々な要素の中で「意外性」は特に大切だと思うのですが、Stittの演奏には破天荒さは期待できず、なのでハズレはないのですが大当たりもありません。僕は些かStittに対し厳しすぎる評価を下しているかもしれませんが。一方RollinrsはParkerの他テナーサックスの先達Ben Websterや Coleman Hawkinsにも多大な影響を受けつつ自己のスタイルを確立させています。メロディを発展させることをアドリブの基本に、極太でコクのある倍音豊かなテナーサックスの王道を行く音色で、ジャズ史上最も1拍の長い音符で演奏する奏者の1人として豪快に、スポンテニアスさを根底に、型にはまらなさを最大の武器としてソロを展開させ、Rollins向かう所敵なしを印象付けています。 1曲目On The Sunny Side Of The Street、明るいハッピーな曲想はオープニングに相応しいかもしれませんが、2人のSonnyは水面下で既に火花が散っています。ソロの先発はStitt、軽快なフレージングで切り込み隊長を務めます。Stittはアルトサックスも演奏しますが、アンブシュアが両方の中庸を行っているようで、アルトがそのまま低くなったテナーの音色に近く聴こえます。タイム感も少し前気味で1拍の長さがRollinsに比べると少し詰まり気味です。それでも巧みなジャズフレージングのショウケース、舞の海関状態のフレーズのデパートの観を呈しているので聴き手に訴えかけます。Gillespieのミュート・トランペットによるソロを経てRollinsの出番です。この圧倒的な存在感、腰の据わり方、ゴージャスさ、ソロの構成の巧みさ、フレージングの始まる位置のジャズっぽさ。Stittは4小節単位のアタマからフレージングが始まっていますがRollinsは必ずアウフタクト(弱拍、弱起)から始まっています。ラストはGillespieのボーカルをフィーチャーして大団円でFineになります。 2曲目が本作のハイライト、アップテンポ♩=300でサビのコード進行が変則的なStitt作曲のリズムチェンジ・The Eternal Triangle、「永遠の三角関係」ではないですね、2人のSonnyのタイマン対決です!ソロの先発今回はRollinsから。Rollinsが5コーラス、続くStittが8コーラス(長い!)、4小節交換が3コーラス、8小節交換が3コーラスの合計19コーラスをテナー奏者たちが演奏しています。イヤー何度聴いても凄いです!聴く度に凄さが身体に沁み入って笑いさえ出てしまいます!テンポが早いほどRollinsのリズムのたっぷり感が浮き出てきており、Stittもon topですがタイムに対して安定感を伴ったリズムで吹いています。テーマが終わった後トランペットの吹き伸ばしがあり、暫くしてからRolinsのソロが始まっているのは誰が先発かを決めていなかったからなのかも知れません。ソロの3コーラス目にGillespieとStittによるバックグラウンド・リフが演奏され、その後4コーラス目の最後あたりにGillespieが発する、Rollinsの素晴らしいソロに対しての感極まった声を聴くことができます。大変な集中力を伴ってはいますがRollinsとしては6~7割の余裕の力で演奏している感じです。Stittに変わった途端にタンギングの滑舌、音符の長さ、タイム感が一変します。音色がRollinsよりもホゲホゲした成分を感じるのはStitt頬を膨らませて吹いているので、こもった成分が音色成分に混じるためでしょう。Stan Getzの音色にも同様の事柄を見出すことができます。ソロの4コーラス目にバックリフが入りますがその後もStittソロを4コーラス続けており、終わりません!まるで意地になって「オレはこいつには負けんぞ!」と言っているかのようです。 Stittのソロ後Rollins先発で4小節バースが始まります。出だしの部分Rollinsがスネークインして入って来るのはマイクロフォンから離れていたのでしょう、Stittのロングソロにすっかり待たされました。しかし丁々発止とはまさにこの事、とんでもないやり取りの連続です!4小節バース2コーラス目から3コーラス目に入る時のスムースさがまるで1人で吹いているように聴こえます。そしてここからがStittの負けず嫌いの本領発揮なのですが、ごく自然にバースの主導権を握るべく先発に入れ替わり、倍の長さの8小節交換を始めます。この後さらにヒートアップ、StittはRollinsのフレージングにとことん対応していますがRollinsは自分のペースをキープしています。こういうバトルの時にフレーズをたくさん持っているプレイヤーは飛び道具に事欠かないので、対応しつつRollinsに仕掛けています。8小節交換の2コーラス目で一瞬終わりかけの雰囲気になりましたが、主導権を握るStittまだ続けます。いよいよ3コーラス目の最後にRollinsが「Sonny、もう止めようよ、だってこの録音はDizzyのじゃないか、Sonnyは自分のソロでもさっきずいぶん長くやってるんだよ、バースまでオレらがこんなに長く演奏してはマズイよ」と言わんばかりにオシマイのフレーズを吹き、やっと戦いは終わりました。リズムセクションも大変な長丁場、さぞかしホッとしたことでしょう、お疲れ様でした(笑)。

2018.03.01 Thu

Joe Carroll / Joe Carroll

今回は男性ボーカリストJoe Carrollの1956年録音のリーダー作「Joe Carroll 」を紹介しましょう。日本盤(Epic/Sony)では「Joe Carroll with Ray Bryant(Quintet)」というタイトルで発売されました。恐らくJoe Carrollという名前だけでリリースするにはリーダーの知名度が低かったために参加有名プレイヤーの名前を抱き合わせした形でのリリースですが、残念なことにRay Bryantは伴奏に徹しており、同じピアニストHank Jonesと演奏を分け合った事もあって本作中、冠を記すほど特別な存在ではありません。この作品が国内発売されたのが74年、Ray Bryantの名ソロピアノ作品「Alone At Montreux」が72年7月録音、同年末に発表され翌73年には大ヒットしているのでその翌年、当時の絶大なBryant人気に肖り柳の下のドジョウをアテにしたタイトル付けなのでしょう。でも米本国の制作者サイドとは異なるタイトル付けに「余計なことを…」とジャズファンとしては感じてしまいます。 何はともあれ、最高にハッピーなボーカル作品です。元気の無いときに聴くべき精力剤のようなアルバムです(笑) 1)Between The Devil And The Deep Blue Sea 2)Qu’est-Que-Ce 3)It Don’t Mean A Thing If It Ain’t Got That Swing 4)Route 66! 5)St. Louis Blues 6)School Days 7)Jump Ditty 8)Jeepers Creepers 9)Oo-Shoo-Bee-Doo-Bee 10)Oh, Lady Be Good 11)One Is Never Too Old To Swing 12)Honey Suckle Rose vo)Joe Carroll p)Ray Bryant, Hank Jones b)James Rowser, Milt Hinton, Oscar Pettiford ds)Charles Blackwell, Osie Johnson ts)Jim Oliver tb)Jimmy Cleveland, Urbie Green 1956年4月6日、5月1日、18日NYC録音 Epic Label Joe Carrollは素晴らしいジャズシンガーです。歌唱力はもちろんのことタイム感、スイング感、声質、スキャット、そして何よりユーモア、エンターテイナーとしてサービス精神が旺盛で聴き手をしっかりと捉えて離しません。実はこのアルバム、僕が尊敬するボーカリストの一人、チャカ(安則眞美)に紹介して貰いました。Joe Carrollは彼女の歌いっぷりに通じるところがあり、ボーカリストとはかくあるべきだ、と感じさせてくれて未だに愛聴しています。 Joe Carrollは「ジャズ面白叔父さん」(笑)トランペッター、ボーカリストDizzy Gillespieのバンドに49年から53年にかけて5年近く参加していた経緯があり、Gillespie譲りのユーモア精神、スキャットの巧みさをここで徹底的に学んだのでしょう、特にスキャットのフレージングにGillespieライクなBe-Bop的節回しが感じられます。56年とは時代的に俄かには信じられないようなグルーブがとても心地よいボーカルのスイング感を聴かせ、本人これだけリズムが良ければダンス、タップダンスもさぞかし上手かったのではないか、ともイメージさせますがyoutube映像(クリックして下さい)を見る限り特にその芸風はないようです。男性ジャズボーカリストの第一人者、Jon Hendricksもスキャットや自身でインストルメンタル・ナンバーに歌詞をつけて歌うボーカリーズも手がけ、その巧みな技には感服してしまいますが、スキャットのフレージングのボキャブラリー、意外性、グルーブ感、スピード感は本作のJoe Carrollに軍配が上がります。またエンターテイメント系ボーカリストとしてMinnie The Moocher(映像が見られます)で有名なCab Callowayの存在も見逃すわけにはいきませんが、Cab Callowayはボーカリストというよりもよりエンターテイナーとしてステージングをこなしているようですし、Frank Sinatraや未だ現役最高峰のMel Tormeらは特にスキャットは行わず(というかスキャットを行わなくてもストレートな歌いっぷりだけで完璧に自己を表現しています)、声質、歌い回し、スキャット、その滑舌の良さ、タイム&グルーブ感、エンターテイメント性それらをトータルとして僕自身が最も好みの男性ボーカルの一人、そしてその作品としてこの「Joe Carroll」が不動のものになっています。 Joe Carrollは1919年11月25日Philadelphia生まれ、このレコーディング時は36歳で地元のクラブやローカルバンドでの演奏を経てその後Gene Krupa楽団、前述のGillespieバンドでの経験を生かしてこの初リーダー作に臨みました。 彼は生涯3作自分の名前を冠した作品をリリースしているらしいのですが(3作目については詳細不明です)、「Joe Carroll」の恐らく次作が「Man With A Happy Sound」 62年リリース Charlie Parker Label org)Specs Williams g)Grant Green p)Ray Bryant ts)Connie Lester ds)Lee Ausley 1)Get Your Kicks On Route 66 2)Oh Lady Be Good 3)Don’t Mess Around With My Love 4)Wha Wha Blues 5)Oo-Shoo-Be-Doo-Be 6)Honey Suckle Rose 7)I Got Rhythm 8)Bluest Blues 9)Have You Got A Penny Benny 10)New School Days 11)On The Sunny Side Of The Street 12)The Land Of Ooh Bla Dee 収録曲を見てお気付きになった方もいらっしゃるかも知れません。収録12曲中5曲が前作と同一です。それらに全く新しいアレンジを施しているのならともかく、聴いてみると若干手直しした程度で雰囲気は同じです。一体どう言う事でしょうか?考えられるのはアルバム「 Joe Carroll」がヒットしたためにオーディエンスはまた同じ曲を聴きたがる、例えばドラマー&ボーカリストつのだ☆ひろさんが自己のバンドのライブ時に自身の作曲にして名曲、大ヒットナンバーMary Janeを聴くまではお客様が絶対に帰らない(笑)、この事とは違いますね、失礼しました(爆)。もう1つ考えられるのは前作発表後自身のレパートリーを増やしておらず、レコーディングと言う美味い話が舞い込んだにも関わらず「曲が無いから前に吹き込んだ曲をやっちゃおうぜ!」と言う安易なノリでレコーディングに臨んだのではないかと言う点です。今回参加のオルガンの音色がアルバム全編に支配的でどの曲も同じような単調さを感じさせているのも頂けません。60年代半ば頃から急速に彼の人気が下落したらしいのでそのことからも十分に考えられるのですが、お客様を大切にしない芸人から人は離れて行きます。初リーダー作の成功に甘んじず更なる精進を重ねてこそのジャズミュージシャンです。アルバム「Joe Carroll」のフレッシュさ、勢いを「 Man With 〜」に感じることは出来ません。逆に言えばそれだけ「Joe Carroll」の素晴らしさが際立っています。 本作を曲ごとに見ていきましょう。1曲目Between The Devil And The Deep Blue Sea、邦題を絶体絶命、Joe Carrollの先輩格Cab Calloway、Louis Armstrongがレコーディングしてヒットさせました。Jimmy Cleveland、Urbie Greenのテクニシャン2人からなるトロンボーンのアンサンブル、ソロバトルが実に小気味良さを聴かせてくれます。Joe Carrollの滑舌の良さとトロンボーン奏者達のリップコントロール、タンギングの正確さに共通点を感じます。一体誰がこのカッコイイアレンジをしたのでしょうか?そして何よりJoe Carrollのドライブ感が堪りません! 2曲目Qu’est-Que-Ceはきっと随分嘘臭いフランス語で歌っているのでしょうね、Joe Carroll自分で歌って自分でウケています(爆)Joe Carrollのトークのお相手はテナー奏者のJim Oliverでしょうか。僕自身の話ですが、昔20代の駆け出しの頃に銀座のデパートの屋上でアゴ&キンゾー(皆さんご存知ですか?)ショウの伴奏を務めた時に、二人のトークのあまりの可笑しさに笑い過ぎて楽器を吹く事が出来なかった事を思い出しました。 3曲目It Don’t Mean A Thing If Ain’t Got That Swing、ご存知スイングしなけりゃ意味ないね、こちら2トロンボーン・プラス・テナーサックスのアンサンブル、それに絡むボーカルが堪りません!スピード感満点のBe-Bopスキャット、テナーサックス、ピアノ(Ray Bryant)、トロンボーンのソロバトル、アレンジ、どれも秀逸です。 4曲目Route 66!、多分Joe Carrollが歌いながらフィンガースナップや手拍子をしています。それにしてもスキャットをこんなに巧みに出来たらさぞかし楽しいでしょうね!16分音符満載の早口言葉ショウケースです! 5曲目St. Louis Blues、再び2トロンボーンのアンサンブルが大活躍のアンサンブル、Joe Carrollのスキャットも更に熱いです!途中It Might As Well Be Springのメロディを引用して高速でサラッと歌っている辺り、仕事人ですね!作品中2トロンボーンを生かしたアンサンブルによる素晴らしいアレンジ、僕の推測ですがトロンボーン奏者2人のどちらかが、さもなくば2人共同でのアレンジのような気がします。 6曲目School Days、Dizzy Gillespieの演奏でお馴染みのBoogieナンバー、大ヒットしたGillespieのこちらのアルバムにはJoe Carrollも参加しています。因みにかのJohn Coltraneも別曲で参加しています。イヤイヤ、本当にJoe Carroll良く声が出ています。 7曲目Jump Ditty、ミディアムテンポのブルースナンバー。2トロンボーンのリズミックなバックリフがムードを高めています。トロンボーン2人のソロが続き、エンディングでもトロンボーン・アンサンブルが効果的に使われています。 8曲目Jeepers Creepersはお馴染みJohnny Mercer~Harry Warren、映画音楽の作詞作曲、名コンビによるナンバー、この曲が収録された映画ではLouis Armstrongが歌いました。スキャットソロの後に更に各楽器とソロトレードを取っておりJoe Carrollのスキャットを存分に堪能できます。 9曲目Oo-Shoo-Bee-Doo-Beeは個人的に特にお気に入りのナンバーです。歌詞は「ある日公園を散歩していて恋人たちの会話を耳にしたんだけれど、今時の恋人たちは”I love you”なんて言わずに”Oo-Shoo-Bee-Doo-Bee”ってお互いに囁き合うんだよ」ワオ!面白過ぎです!Shoo-Bee-Doo-Bee means that I love you、ゴキゲンです!Joe Carrollの歌にハーモニーを付けて歌っているJim Oliver、コーラスの後すぐにソロをとっていますが多分、笑いを堪えていたためか1’32″辺りでテナーの音がひっくり返っています。 11曲目One Is Never Too Old To Swingってとっても良いタイトルですね。自分の演奏にしっかりと当て嵌めたいです(笑)。リズムセクションのアレンジもイカしています。 12曲目Honeysuckle Rose、テーマの歌の後ろでコード進行が同じためかScrapple From The Appleのメロディを2トロンボーンのユニゾンで吹いています。音量を控えめに吹いているのでバックリフのようにも聴こえ、うまい具合にブレンドしています。これも多分トロンボーン奏者たちの発案でしょう、面白いです。