そういえばシャープスの芸術鑑賞の仕事で長野県に赴いた時のことです。いつものようにフィーチャリングのナンバーでカデンツァの演奏時、「せっかくのフィーチャリングなので何かご当地にちなんだフレーズを演奏したい」と考え、飯田市なのでI Can’t Get Started 〜言い出し(飯田市)かねての冒頭のメロディを一節吹きました。芸術鑑賞の学生たちには分からずとも、バンドのメンバーには結構ウケました。ですが原さんには「ふざけるな!」とばかりにかなり絞られました(爆)。原さんもジョークやダジャレはお好きな筈なのですが、唐突な節わましだったのかも知れません。
本作のテナー奏者たちを紹介して行きましょう。22年生まれEddie “Lockjaw” Davis、当時Prestigeから数多くリーダー作をリリースしており、彼が窓口になってホンカーを集め、リズムセクションの人選をしたように思います。彼のPrestigeでの代表作Cook Bookシリーズから「The Eddie “Lockjaw” Davis Cook Book Vol.1」、本作とリズムセクションが全く同じで、メンバーにもう一人Jerome Richardsonがフルートとテナーで参加しています。
とってもワルそうな面構えのテナー吹きが写ったジャケット、ホンカーは基本的こうでなければいけません(笑)。それにしてもこの人の吹くアドリブ・ラインは超独特、Benny Golson, Wayne Shorter, Joe Henderson, Sam Riversたち同じくウネウネ系とはまた異なり、音楽理論を超越したところで成り立っているように聴こえますが、実は僕大好きなんです!スピード感、音色と滑舌が素晴らしいですからね。使用マウスピースはOtto Link Metal(多分Double Ring)10☆、リードはLa Voz Med. Hard、豪快さんのセッティング、本作でも他の3人とは楽器の鳴り方が違っており、タンギングの切れ味も鋭いです。
Coleman Hawkinsは04年生まれでこのメンバーの中で最年長、レコーディング当時54歳です。使用マウスピースはBerg Larsen Metal 115 / 2、かつてOtto Link社に自身のモデルHawkins Specialを作らせ、ラインナップに載って一般に販売していましたが、晩年は何故か使用していませんでした。39年に以降の評価を決定づける名演奏「Body and Soul」を録音し、ジャズテナーの第一人者、開祖として君臨します。代表作は58年「The High And Mighty Hawk」
Arnett Cobbは18年同じくTexas生まれ、束縛のない自由な演奏スタイルから”Wild Man of the Tenor Sax”との異名があります。Illinois Jacquetの後釜でLionel Hampton楽団に入り、その名を轟かせました。比較的晩年の作品ではありますが78年「Arnett Cobb Is Back」は70年代病に侵されながらも奇跡の復活を遂げ、松葉杖をつきながら楽器を構えるジャケット写真がインパクトのある作品。こんなジャケ写見たことありませんよね?松葉杖により足は宙に浮いていますが演奏自体はしっかりと地に根差しており(笑)、スインギーな素晴らしい演奏です。
今回はトロンボーン奏者Bob Brookmeyer1964年録音のリーダー作「Bob Brookmeyer and Friends」を取り上げてみましょう。
64年5月25~27日 30th Street Studio, NYC録音 同年リリース Columbia Label Produced by Teo Macero
tb)Bob Brookmeyer ts)Stan Getz vib)Gary Burton p)Herbie Hancock b)Ron Carter ds)Elvin Jones
1)Jive Hoot 2)Misty 3)The Wrinkle 4)Bracket 5)Skylark 6)Sometime Ago 7)I’ve Grown Accustomed to Her Face 8)Who Cares
素晴らしいメンバーよる絶妙なコンビネーション、インタープレイ、インプロヴィゼーション、珠玉の名曲を取り上げたモダンジャズを代表する名盤の一枚です。Bob Brookmeyer名義のアルバムですがStan Getzとの双頭リーダー作と言って過言ではありません。 BrookmeyerとGetzはこれまでにも何枚か共演作をリリースしており、代表的なところでは「Recorded Fall 1961」Verve labelが挙げられます。知的でクールなラインをホットに演奏する二人、Brookmeyerの方は作編曲に長けており、それらを行わなかったGetzですが良いコンビネーションをキープしていました。Getzは膨大な量のレコーディングを残していますが、実は自己のオリジナルやアレンジが殆どありません。優れたヴォーカリストが歌唱のみ行い、演奏の題材はピアニストやアレンジャーに委ねるのと同じやり方で、Getzほどのサックス演奏が出来ればまさしくヴォーカリストと同じ立ち位置で演奏する事が出来たのです。ほかにテナー奏者ではStanley Turrentineが同じスタンスで音楽活動を行なっており、大ヒットナンバーSugarが例外的に存在しますがあれ程の存在感ある音色、ニュアンスでサックスを吹ければ作編曲をせずとも名手として君臨するのです。
Brookmeyerがバルブトロンボーンを用いて演奏するのは有名な話です。ジャズ界殆どのトロンボーン奏者がスライド式のトロンボーンを使っているので彼一人異彩を放っていますが、かつてトロンボーンの名手J. J. Johnsonはそのテクニックに裏付けされた高速フレージングから、わざわざアルバムジャケットに「バルブトロンボーンに非ず」との注記まで付けられたほどで、スライド式の方が動きが大きいためコントロール、ピッチ等、楽器としての難易度が高いのですが、トロンボーンならではのスイートさや味わいを表現する事が出来、それが魅力でもあります。難易度を排除した分バルブ式の方がよりテクニカルな演奏が可能という事なのですが、Brookmeyerは決してテクニカルな演奏をせず朗々と語るタイプで、彼の演奏からはいわゆるトロンボーンらしさが薄れて端正さが表現されており低音域のトランペット、フリューゲルホルンの様相を呈しています。若い頃にピアノ奏者としても活動していたので、トロンボーンの音程や操作性にある程度のタイトさ、カッチリしたものを求めていたがためのバルブ式の選択でしょうか?真意のほどを知りたいところです。
リズムセクションのメンバーについて触れてみましょう。Herbie Hancockは言わずと知れたMiles Davis Quintetのメンバー、このレコーディングの前年63年に入団しました。すでに3枚のリーダー作をBlue Noteからリリース、4作目になる名作「Empyrean Isles」を録音する直前でした。この頃から既に素晴らしいピアノプレイを聴かせていて端々にオリジナリティを感じさせますが、未だ確固たるスタイルを確立するには至っていません。ブラインドフォールド・テストでこの頃のHerbieのソロを聴かされたら逆に、「Herbieに影響を受けた若手ピアニストの演奏か?」と判断してしまうかも知れません(笑)
Ron CarterもMilesバンドに在団中で、前任者の名手Paul Chambersのある意味音楽的進化形として、Milesの音楽を推進させるべくリズムの要となり演奏しました。更にそのステディな演奏を評価され当時から数々のセッションやサイドマンとしても大活躍でした。
Gary Burtonはこの時若干21歳!新進気鋭の若手としてGeorge Shearingのバンドを皮切りに丁度Getzのバンドに加入した頃です。ヴィブラフォンという楽器のパイオニアとして数多くのリーダー作を発表しました。その彼も昨年引退宣言を発表し、現役から退いたことは耳新しいです。Brookmeyerとは62年9月Burtonの2作目にあたる(録音時19歳です!)「Who Is Gary Burton? 」で共演していますが、既に素晴らしい演奏を聴かせています。
それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目BrookmeyerのオリジナルJive Hoot、Elvinのハイハットプレイから始まり、ヴィブラフォンによるイントロが印象的、トロンボーンとテナーによるテーマのアンサンブル、効果的なブレークタイム、ダイナミクスの絶妙さ、各楽器の役割分担、曲の構成も凝っていてオープニングに相応しい明るく軽快なナンバーです。Getzも自分のカルテットのライブでよく演奏していました。「Stan Getz & Guests Live at Newport 1964」にも収録されています。
7曲目は再びバラードで映画My Fair LadyからのナンバーI’ve Grown Accustomed to Her Face、このメンバーでのバラード奏だったら何曲でも聴いていたいです!Brookmeyerが初めにメロディを演奏しGetzはオブリ担当、ここでもGetzのサブトーンがElvinのブラシと区別がつき辛い瞬間が多々あります。Getzのソロ後フロント二人の演奏が同時進行し、シンコペーションのフレーズを合わせたり、またHerbieがバッキングで面白いサウンドを出したりと聴きどころ満載です。Wes Montgomery 62年月録音「 Full House」収録の同曲、ギターソロで演奏されていますがこちらも素晴らしい出来栄えです。この当時流行っていた曲なのかも知れませんね、多くのジャズメンに愛奏されていました。
1)The Jetsons 2)My Favorite Things 3)Leave It to Beaver 4)Bali Hai 5)Schindler’s List 6)Hawaii Five-O 7)America 8)Mannix 9)Ben Casey 10)Raider’s March 11)Forrest Gump 12)Maniac
Randy Waldmanのバイオグラフィーを紐解いてみましょう。55年9月8日Chicago生まれ、5歳からピアノを始め、神童の誉れ高く既に12歳で地元のピアノ店でデモ演奏を行っていたそうです。21歳でFrank Sinatraのピアニストに大抜擢されツアーに出ました。その後The Lettermen, Minnie Riperton, Lou Rawls, Paul Anka, George Bensonといったアーティストのバンドでもツアーし、80年代には作曲アレンジの能力を買われてGhostbusters, Back to the Future, Beetlejuice, Who Framed Roger Rabbitといった映画のサウンドトラックを手がけ始め、83年にはThe Manhattan Transfer、85年Barbra Streisandに提供したヴォーカル・アレンジでGrammy賞を受賞しています。その後も快進撃は止まらずForrest Gump, The Bodyguard, Mission: Impossibleといった映画の音楽、Michael Jackson, Paul McCartney, Celine Dion, Beyonce, Madonna, Whitney Houston, Ray Charles, Quincy Jones, Stevie Wonder, Kenny G…といったアーティストたちとのコラボレーションも実現し、音楽制作、現場面でのアメリカを代表するミュージシャンの一人になりました。Waldmanは日本ではあまりその存在を知られておらず、それはひとえにリーダーとしての活動が目立たないからですが、本作の申し分ない出来栄えでしっかりと狼煙を上げる事が出来ました。因みに98年リリース第1作目の「Wigged Out」も本作と同じコンセプトでの演奏です。
2曲目は映画The Sound of Musicの主題曲My Favorite Things、数多くのミュージシャンが、それぞれ腕によりを掛けたアレンジでカヴァーしていますが、こちらも実にユニークな仕上がりになっています。この演奏のみベーシストがDave Carpenterにチェンジし、Studio City String Orchestraのストリングス・アンサンブルが加わります。印象的なベースラインの後、変拍子を効果的に生かしたピアノによるメロディ、フィーチャリング・ヴァイブ奏者Gary Burtonのメロディ、Carpenterによるメロディ奏と続きヴァイブ・ソロになります。ソロでは変拍子は用いられてはいませんが、コード進行にハイパーな代理コードがてんこ盛りです!ストリングスの響きがソロと絡み合い、その後の饒舌なピアノソロにも効果的に使われ、ベースパターンに乗った形でドラムソロ、ラストテーマはピアノとヴァイブによるアンサンブルで締め括られます。曲の持つリリカルなムードを的確に引き出したアレンジに仕上がっています。
3曲目はアメリカのTVドラマLeave It to Beaverの同名テーマ曲。57年から63年まで放送されました。50年代Californiaの典型的な中流家庭での、日常の出来事を題材にしていてBeaverは小学生の主人公、日本では確か民放で「ビーバーちゃん」というタイトルで平日夕方再放送していたように記憶しています。
5曲目は93年Steven Spielberg監督による映画Schindler’s Listから同名曲。Branford Marsalisのソプラノサックスがフィーチャーされ、Studio City String Orchestraが加わります。こちらのアレンジも実に意欲的、Waldamanはまさにアレンジに対するアイデアの宝庫、泉のごとく湧き出ています!PatitucciのベースソロもWaldmanのコンセプトを的確に把握しつつ華麗に行われています。Branfordの音色は録音の関係かいつもと多少異なっていますが、メロウな吹き回しで自身のスタイルと曲想を上手く合致させています。
6曲目は68年から80年までアメリカでTV放送された刑事ドラマHawaii Five-Oの主題曲、人気を博した長寿番組で日本でも70年に一部が放送されました。Randy Brecker, Gary Grantのトランペット、Boruffのサックスがフィーチャーされます。いやいや、ここでEddie HarrisのFreedom Jazz Danceを持ち出してくるとは!!バッチリと融合し、物凄くイケてます!アレンジ・センスに脱帽です!先発ソロはRandy、いつもの変態ラインの中にパターン提示も聴かれます。ピアノソロを経てラストテーマへ、曲想は次第にFreedom Jazz Dance色の方が濃くなり、エンディングは何とFreedom Jazz Danceで終了、見事に曲が乗っ取られました!
7曲目57年ミュージカルWest Side StoryからAmerica、Leonard Bernstein作曲の名曲です。ここではまた意表をついたイントロからベース〜ピアノのメロディ奏、この曲を熟知しているアメリカ人もこのアレンジには驚いた事でしょう!フィーチャリングはMcChesneyのトロンボーンとPatitucciのベース、テナーのErnie Wattsです。Wattsのフレージングは僕にとっていつも謎ですが、テナーの音色は本当に素晴らしく、美しく楽器を鳴らしていると思います。テナーとトロンボーン2管のアンサンブルを従えたドラムソロ、エンディングも意表をついています。
Tom ScottのテナーサックスがフィーチャーされPatitucci, Colaiutaの素晴らしいソロも聴かれます。
10曲目は監督Steven Spielberg、製作George Lucas、主演Harrison Ford、音楽John Williamsによる名作映画Indiana Jones, Raiders of the Lost Arkから主題曲Raiders March。原曲の旋律はよく聴かないと認識できない程にリアレンジされています。Waldmanのブリリアントなピアノの音色がメロディ奏にとても合致しており、フィーチャリング・ギタリストMichael O’NeilのソロとWaldmanのソロが良いバランス感を聴かせます。
Odean Pope Saxophone Choir / Locked & Loaded featuring Michael Brecker, James Carter, Loe Lovano
今回はテナーサックス奏者Odean Pope, 2004年録音のリーダー作「Locked & Loaded」を取り上げてみましょう。サックス奏者が合計9名、うちテナー奏者が5名、アルト奏者が3名、バリトン奏者が1名から成るOdean Pope Saxophone Choirにゲスト出演でMichael Brecker, James Carter, Joe Lovanoの凄腕テナーマン3名が曲毎に加わるという、サックス奏者合計12名の大編成を収録したライブ作品です。ライナーノーツをOrnette Colemanが執筆しているというオマケまで付いています。
The Odean Pope Saxophone Choir / Tenors: Odean Pope, Elliot Levin, Terry Lawson, Terrence Brown, Seth Meicht Altos: Jullian Pressley, Louis Taylor, Robert Langham Baritone: Joe Sudler Piano: George Burton Bass: Tyrone Brown Drums: Craig Mclver Recorded Live At The Blue Note, New York, December 13~15, 2004
Michael Brecker featured on tracks 2 & 5; James Carter, track 7; Joe Lovano, tracks 3 & 6; Odean Pope; tracks 1 & 5; Jullian Pressley, Louis Taylor, track 4.
Hearts and Numbers / Don Grolnick featuring Michael Brecker
今回はピアニスト、コンポーザーDon Grolnickの初リーダー作「Hearts and Numbers featuring Michael Brecker」を取り上げたいと思います。
1985年リリース Hip Pockets Records All selections composed, arranged and produced by Don Grolnick. Executive producer: Steven Miller
p, synth)Don Grolnick ts)Michael Brecker g)Hiram Bullock, Bob Mann, Jeff Mironov synthesizer programming)Clifford Carter b)Will Lee, Marcus Miller, Tom Kennedy ds)Peter Erskine, Steve Jordan
1)Pointing At The Moon 2)More Pointing 3)Pools 4)Regrets 5)The Four Sleepers 6)Human Bites 7)Act Natural 8)Hearts and Numbers
1970年代にJames Taylor, Carly Simon, Linda Ronstadt, Bette Midler, Roberta Flackたち米国を代表するポップス界のヴォーカリストの伴奏を務めていたDon Grolnick、同世代のDavid Sanborn, Bob Mintzer, Steve Khan, John Tropea, Brecker Brothersといったインストルメンタルのスターたちからも絶対の信頼を得て彼らの作品に数多く参加しており、サポート力、この人に任せておけば安心という懐の深い音楽性、包容力で陰ながらの立場でNew Yorkの音楽シーンに君臨していました。ピアノの演奏自体は決して技巧派ではありませんし、派手さや強力に何かをアピールするタイプではないのですが本作で聴かれるように作曲、アレンジ、プロデュース力に他の人には無い独自の魅力を発揮しています。築き上げた人脈による素晴らしいメンバーと共に全曲自身の超個性的オリジナルでフィーチャリングのMichael Breckerに思う存分ブロウさせ(当時Michaelは未だリーダー作をリリースしていなかったので、彼のリーダー作に該当する勢いの演奏になります)、同様に参加メンバーの良さを最大限に引き出しつつこの名盤を作り上げました。音楽の形態としてはフュージョンにカテゴライズされるかも知れませんが、誰も成し得ない、こうあらねばならぬという常識に捉われないテイストを持ちつつ、ジャンルを超越したGrolnick Musicを表現しています。そしてジャズ史に残る作品というよりミュージシャンに愛されるミュージシャンズ・ミュージシャンの、ライフワークの1ページといった感を呈していると思います。彼はこの後3作のリーダーアルバムをリリースしますが、全てアコースティックなジャズ作品です。88年に一切の営業的な仕事を辞め、日々練習、音楽鑑賞、作曲に打ち込みました。クリエイティブな真のジャズプレイヤーを目指したかったのでしょう。
81年Steps Aheadでの来日、六本木Pit InnでMichael Brecker, Mike Mainieri, Eddie Gomez, Peter Erskineらと大熱演の際の曲間で、オーディエンスが彼らの演奏のあまりの素晴らしさと、リラックスした自然体からの振る舞いに向けて歌舞伎役者への大向こうの如く掛け声がかかり始めました。「ピーター屋!」おっと、違いましたね、「ピーター!」本人が「ハイ!」、「エディ!」「マイケル!」「マイク!」はにかみながら彼らは客席に手を振ったり会釈をしています。メンバーの中で知名度があまり無いドンには可哀想なことに誰からも声が掛かりません。するとドンが口に手を当て下を向きながら「ドン〜、ドン〜」とわざと女の子のような可愛らしい声で自分の名前を連呼するではありませんか!やっと僕にも声が掛かったけど、一体誰からなのかな?といった仕草を交えながら、おどけて周囲をキョロキョロするので客席は大爆笑!お茶目な人柄を垣間見ることが出来ました。
この作品は内容の素晴らしさに加え、録音のクオリティが良いことも特記されます。レコーディングされたSkyline StudiosはNew York Manhattan, Midtownにある79年創業、老舗のレコーディング・スタジオです。繁華街の一等地、ロケーションが良いのもありますが、エンジニア、スタッフが充実しており米国のあらゆるジャンルのミュージシャン御用達のスタジオです。ジャズではMiles Davis, Dizzy Gillespie, Herbie Hancock, McCoy Tyner, Bobby McFerrin, Dave Liebman…. 枚挙にいとまがありません。実は13年前に僕もこのスタジオでレコーディングする機会に恵まれました。手前味噌ではありますが紹介させて頂きます。ピアノ奏者Yasu Sugiyamaの「Dreams Around The Corner」2006年リリース p)Yasu Sugiyama ts)Tatsuya Sato b)Chris Minh Doky ds)Joel Rosenblatt add. key)George Whitty レコーディング当時最新鋭の録音機材が用意されていたという訳ではなかったのですが、こちらも大変素晴らしい音色、音像感、バランス、セパレーションで録音されました。レコーディングの前日にスタジオの場所を下見に行ったのですが、看板らしい看板が出ておらず戸惑った覚えがあります。街中にひっそりと佇むスタジオでした。
Grolnickのユニークでオリジナリティ溢れ、深い音楽性が宿る美しい楽曲の数々は聴く者に感動を与えますが、実は演奏者にも味わった事のない神秘的とも言える高揚感を提供します。本作収録曲全てのスコア他、彼の楽曲計30曲が収録された楽譜集が発売されています。99年初版発行Hal Leonard
1980年81年のStepsでの来日の他、89年Select Live Under The SkyでMichael Brecker, Bill Evans, Stanley Turrentine, Ernie Wattsのテナー奏者4名から成るSaxophone Workshopのピアニスト、音楽監督を務めるため再来日しThe Four Sleepers, Pools等の自作曲ほか、フェスティバルのコンセプトであったDuke Ellingtonのナンバーをアレンジして演奏しました。その時に起こったErnie Wattsの「事件」は以前のBlog「Don’t Mess With Mr. T / Stanley Turrentine」に掲載してありますので、こちらも併せてご覧ください。https://tatsuyasato.com/2017/
それでは演奏曲に触れていきましょう。1曲目Pointing At The Moon、これはなんとユニークなナンバーでしょう!アルバムの冒頭を飾るのに相応しい意外性、斬新さに満ちたサウンド、構成の名曲です。スペーシーにして高密度、遊び心満載、Steve Jordanの繰り出すタイトなレゲエのリズム、Jeff Mironovのカッティング、Will Leeのグルーヴが実に気持ち良いです。 Clifford CarterによりプログラミングされたシンセサイザーとGrolnickのピアノがサウンドのカラーリングを決定付け、その上でMichaelのテナーがGrolnickの音楽的な意図を確実に汲みつつ華麗なブロウを聴かせます。う〜ん、思いっきりカッコ良いです!Idiot Savantのライブ演奏を海賊盤でも聴きましたが、Idiot丸出しの(笑)アンビリバボーな演奏の連続でした!
8曲目ラストを飾るのは表題曲Hearts and Numbers、こちらも実に美しいナンバー、曲を一度聴くと長い間耳から離れることがない魅力的で安心感漂うメロディライン、赤とんぼなどの童謡を久しぶりに耳にした時の感覚に似ており、思わず口ずさんでしまいます。ここではソロピアノですが、Idiot SavantではMichaelのサックスをフィーチャーしてバンドでも演奏されていました。Grolnickが子供の頃に3人の親友とよく遊んだHeartsというトランプを用いたカードゲームがありました。彼の叔父さんのBob(Uncle Bobという彼のオリジナルもあります)が子供達に秘密の番号を与え、4人の子供達はそれを覚え、秘密として守ることを誓ったそうです。この曲はGrolnickの永年の親友たちに捧げられたナンバーだそうで、彼は仲間や友人をずっと大切にする人、そんな人物が作り上げた音楽だからこそ聴く者に得がたい感銘を与えるのでしょう。
今回はRichie Beirach, Andy LaVerne二人のピアニストによるDuo(1台のピアノによる連弾です!)作品「Universal Mind」を取り上げたいと思います。
p)Richie Beirach, Andy LaVerne Recorded November 1993 SteepleChase Digital Studio, Copenhagen, Denmark Produced by Nils Winther
1)Solar 2)All the Things You Are 3)I Loves You Porgy 4)Haunted Heart 5)Chappaqua 6)Blue in Green 7)Elm The Town Hall Suite: 8)Prologue 9)Story Line 10)Turn Out the Stars 11)Epilogue
ピアニスト2人のDuoは昔からよく行われており、素晴らしい演奏者による名演奏が数々残されています。通常2台のピアノを用いて各々パフォーマンスを行いますが、本作は1台のピアノのみを用いた連弾(英語ではfour handsと言います)で、ライブでは時たま行われることもありますが、レコーディング作品として残した例は大変珍しく画期的な事だと思います。奏者どちらがピアノ鍵盤の左側(主に低音域担当)、右側(同じく高音域担当)を担当するか、演奏曲のメロディ、伴奏のシェア具合、アドリブ時伴奏者に音楽的に如何に被らない、交互にソロを取る場合は一瞬にして鍵盤から離れ相手に演奏を譲る反射神経、ペダルの使用はどちらが主導権を握るのか、物理的に腕や指がぶつからない等、いつもは独占している88鍵を共有し合う制約が、演奏にある種の緊張感を生み出し本作では実に良い方向に作用し、結果名演奏となりました。2人のピアニストの音楽的方向性、演奏スタイル、相性も大いに関係するところです。Richieは1947年5月NY生まれ、Lennie Tristanoに師事しBerklee, Manhattan音楽院でも学びました。Andyも同じく47年12月NY生まれ、Bill Evansに師事しBerrkleeのほかJulliard, New England音楽院でも学ぶという共に学究、学理肌、そして同世代のミュージシャンです。そういえばBillはLennieに師事していましたね。他の共通点としては名ピアニストを多く輩出し登竜門として名高いStan Getzバンドの出身者であり、白人ジャズピアニストの最高峰Bill Evansを敬愛し自他共にその影響を受けている事を認めています。本作でもEvansの66年作品「Bill Evans at Town Hall 」からピアノソロで演奏されている亡き父親Harry L. Evansに捧げたIn Memory of His Father Harry L. (Prologue/Story Line/Turn Out the Stars/Epilogue)をThe Town Hall Suiteとして取り上げています。
Andyは1人でグランドピアノ2台を同時に演奏する形でも作品をリリースしています。92年4月録音「Buy One Get One Free」Steeplechase Yamahaのグランドピアノを2台、片手で1台づつを演奏していますが、弾きこなすには大変な体力と気力、集中力が必要な事でしょう。物理的に腕が普通よりもかなり長くなければなりませんし(笑)。1台のピアノを2人で演奏することが連弾、ではこのように1人で2台のピアノを演奏する事は何と言うのでしょう?(笑)。こちらは壮大な雰囲気のソロピアノ集に仕上がっており、2台を難なく弾きこなすAndyのテクニック、器用さと音楽性、情熱に脱帽してしまいます。本作収録のElmがここで既に取り上げられていました。
2曲目はお馴染みJerome KernのAll the Things You Are、こちらもRichieのオハコのナンバーです。メロディの1音1音に全く別なコード付けを施す独自のRichieのアレンジが光ります。Andyが高音域を、Richieが低音域を担当します。それにしてもこの左手のラインは異常なほどに異彩を放ち、美しく響きます。Andyの右手のフレージングも実にクリエイティヴです!ベーシストSteve Lloyd Smith「Chantal’s Way」、自身のソロピアノリサイタルを収録した「Maybeck Recital Hall Series Volume Nineteen」、Dave LiebmanとRichieのDuo作「Unspoken」いずれもでRichieの素晴らしいAll the Thingsのプレイを聴くことが出来ます。
3曲目は本来バラードで演奏されるGershwinのI Loves You Porgy、明るいテンポでスインギーに、Richieが高音域、Andyが低音域担当で演奏されます。シングルノートでの対話形式のようにも聴こえつつ、次第に低音域〜高音域担当が入れ替わり2人の絡み具合が芳醇なスコッチウイスキーのように、シングルモルトからブレンデッドに移行して行きます。
5曲目は互いに敬意を表して各々の代表曲を演奏しあうコーナーのRichieヴァージョン、演奏曲はAndyのオリジナルChappaqua。元はAndyがGetzのバンド在団中演奏したナンバーでGetzはAndyが抜けた後も愛奏していた様です。それにしてもスタジオ内で自分の曲を他の名手が演奏するのを聴くのはどんな気分でしょうか?Richieにまさに打ってつけの美しいメロディ、コード進行を擁した名曲、そして知的さとリリカルさを配した解釈、素晴らしい演奏です。Andy自身もGetzバンドで演奏した経験を生かし、Getzのレパートリーばかりを取り上げた96年10月録音作品「 Stan Getz in Chappaqua」で演奏しています。ここでのGetz役はDon Bradenが務めます。もう1作、我らがベーシスト鈴木”Chin”良雄氏のNY時代の作品「Matsuri」でAndyと共演、ここではTom HarrellのフリューゲルホーンとLiebmanのフルートでメロディを分かち合っています。
6曲目は再びMilesのナンバーからBlue in Green、Bill Evansのナンバーだと言う説もあります。高音域をAndyが、低音域をRichieが担当、この上無い美の世界に誘いつつも演奏が佳境に達した頃にRichieが倍のラテンフィールを提示し、また別なカラーを聴かせてくれます。
8~11曲目はBill EvansへのトリビュートとなるThe Town Hall Concert、4曲ともBillのナンバーです。8曲目となるPrologueはRichieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。かなりマニアックな選曲、でもBillから影響を受けたピアニストやファンには堪りません!メロディを奏でるRichieの音色も心なしかBill寄りに聴こえます。
10曲目は哀愁感満載の魅力的なメロディ、コードの流れを持つ美しいバラードTurn Out The Stars。Richieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。ミディアムテンポでのRichieのソロ、物凄い事になっています!この音の粒立ち、音色、タイム感での高速プレイは超人的、でも決してテクニックのオンパレードにならないところが素晴らしいです!はっきりとしたメロディはソロ後に登場します。
3曲目はJoeHenのオリジナル・ブルースIf、めちゃめちゃカッコイイ曲です!2管のハーモニー、リズミックな仕掛け、サウンド、このメンバーにまさしく相応しい素材です。ソロの先発は作曲者自身で、申し分なく絶好調です!Charlie ParkerのブルースBuzzyのメロディを引用していますが、JoeHenにしては比較的珍しい展開です。煽るElvinとソロに油を注ぐYoungのバッキング、何度聴いてもワクワク感は不変です。Shawのソロもエグくオリジナリティ溢れるフレーズを連発、YoungもPrestige時代の作品での演奏とは別人のようなアプローチを聴かせています。Trio Beyondという、Jack DeJohnette, Larry Goldings, John Scofieldというメンバーからなるバンドのライブを収録した「 Saudades」にこの曲が収録されています。信じられないほどのハイテンション、でもひたすらクールな名演奏に仕上がっています。ぜひ聴いてみてください。ここまでがレコードのSide Aです。
4曲目はShawのオリジナルでJohn Coltraneに捧げられたThe Moontrane。なんと素晴らしいナンバーでしょうか!曲想からColtraneに対する音楽的なリスペクトを真摯に感じてしまいます。Shawが18歳の時に作曲したそうで本作で初演、以降73年「Bobby Hutcherson Live at Montreux」を経て自身のアルバムでは30歳直前の74年12月に作品「The Moontrane」としてレコーディングしました。
5曲目はお馴染みスタンダード・ナンバーSoftly, as in a Morning Sunrise、まず冒頭のテーマをJoeHenが取ります。このテーマの吹き方ははっきり言ってヤバいです!ホンカーのテイスト丸出し、こんな吹き方も彼のスタイルの中にあるというのが新鮮です。テーマではブラシを用いていたElvinが(ブラシの音色もグッと来てしまいます)スティックに素早く持ち替えJoeHenのソロがスタートします。ColtraneのVillage Vanguardでのライブ、同曲での持ち替えも実に早業でした!ソロのストーリー性、オリジナリティ満載の独自のJoeHenフレーズの洪水、間の取り方、そこに容赦なく入るYoungのバッキング、これは堪りません!続くShawのソロをElvin, Youngのバッキングが煽り倒しています!Youngのソロ2コーラス目に入るフロントのシンコペーション多用によるバックリフ、絶妙にしてジャズの醍醐味を存分に味あわせてくれます。思わずレコード演奏に足でリズムを取ったり、裏拍に指パッチンしたり、フレーズの合間に掛け声をかけたり、ジャズ喫茶世代ならではの楽しみ方を思い出してしまいました。ラストテーマはShawのワンホーン、フロント二人の振り分け方がヒップですね!
ラストを飾るのは再びShawのオリジナルBeyond All Limits、本作中最速なスピード感を聴かせる名曲、名演です。結局このアルバムにバラードは収録されていませんでしたがイケイケでオッケーです!Elvinのシンバルレガートが何とたっぷりしている事でしょう!例えるならアメ車最高級クラスの最速時のドライヴ感、安定感、疾走感でしょうか?ハイオク・ガソリンをどんなに消費しても、排ガスの規制を大幅に上回って排出しても構いません!こんなにスイングしていれば!!JoeHenのソロのフォーカス振りも凄まじいです!Shaw, Youngのソロも実にGood!この曲にも存在するオルタネート・テイク、多分本テイク録音後に「もう一度演奏してみよう」と誰かの発案でスタートしたのでしょうが、本テイクで殆ど燃焼してしまった感は否めません。「全ての限界を超えて」とは行きませんでした。
今回はドラマーMel Lewisの1976年録音のリーダー作「Mel Lewis And Friends」を取り上げましょう。
tp, flg-h)Freddie Hubbard ts)Michael Brecker tp)Cecil Bridgewater as, ts)Gregory Herbert p)Hank Jones b)Ron Carter ds)Mel Lewis
1)Ain’t Nothin’ Nu 2)A Child Is Born 3)Moose The Mooche 4)De Samba 5)Windflower 6)Sho’ Nuff Did 7)Mel Lewis-Rhythm
Recorded June 8 and 9 and mixed June 18, 1976 at Generation Sound, NYC. Engineered by Tony May. Musical Supervision by Thad Jones. Produced by John Snyder Horizon Label 1977
Digitally mastered at Van Gelder Recording Studio, November 1988. Rudy Van Gelder engineer. Digital Producer: John Snyder
双頭バンドであるThad Jones – Mel Lewis Orchestraのリーダーとして、ビッグバンドのリズムの要を担当し美しい音色で堅実なビートを繰り出すLewisのリーダー作、本作のコンセプトはThad Jones演奏不参加ながらサド・メル・ビッグバンドのコンボ版と言えましょう。基本的にはFreddieとMichaelの2管がメインのフロントで、Thadはトランペット演奏こそしませんでしたが音楽監督、アレンジャーとして参加、そしてスタジオ内で書き上げたアレンジ、楽曲のアンサンブルを具体化すべくサド・メルの楽団員サックス奏者Gregory Herbertとトランペット奏者Cecil Bridgewaterが急遽駆り出された形です。親分肌で面倒見が良いLewis、ビッグバンドの若手メンバーからもさぞかし慕われていたことでしょう。Thadの急なオファーにも喜んで人肌脱いだ事だと思います。大所帯をまとめていくには音楽性が大切なのはもちろんですが、やはり人柄が物を言います。Melは29年New York州生まれ、ロシア系ユダヤ人を両親に、54年Stan Kentonを皮切りに若い頃からビッグバンド畑を中心に活動しています。人を褒めることを知らない名ドラマー(笑)、しかも同じビッグバンド・リーダーBuddy Richをして “Mel Lewis doesn’t sound like anybody else. He sounds like himself.”と大絶賛されています。こちらもお人柄故かもしれません。
1曲目Ain’t Nothin’ Nu、レコーディング前夜にThadが書き下ろしたいかにも彼らしいアップテンポのマイナー・ナンバー。ソロの先発はMichael、エグい音色でグイグイと攻めています。ちょっと気になるのはリズムのノリですが、結構前ノリ、本作中他の曲よりもリズムに余裕がない感じです。ジャズ・リジェンドに常に敬意を払う彼はThad, Mel, Hank, Freddie, Ronと時間を共有出来ることに喜びを感じていた反面、諸先輩方を前にしてかなり緊張気味で演奏に臨んでいました。おそらくこの曲を最初に録音したのでしょうが、さすが曲を経るごとに次第にリラックスして場に溶け込んだ演奏に変わっていきます。続くHankのソロはリラックスした中にもジャズのスピリットを十分に感じさせ、後年大ヒットしたRon Carter, Tony WilliamsとのThe Great Jazz Trioでの演奏を彷彿とさせます。その後のFreddieの素晴らしい音色でのソロ、絶好調ぶりを聴かせますが、何しろタイムが素晴らしい!リズムの丁度良いところ、いわゆるリズムのスイートスポットに音符を確実にヒットさせるテクニックには敬服させられます。アンサンブルではアルトを吹いていたGregory Herbertのテナーに持ち替えてのソロがあり、さらにベースとドラムのバースが行われてラストテーマになります。
2曲目はThadの代表曲A Child Is Born、Freddieのフリューゲル・ホーンがフィーチャーされワンホーンでの演奏です。作曲者を目の前に演奏する気持ちはどんなものでしょうか?でもFreddieは委細かまわずスイングしていますが。ピアノのイントロからバラードでメロディが演奏された後、ボサノヴァのリズムでソロが始まります。うっとりする音色ですがFreddieはいささか饒舌に、続くHankは曲調に合致した美しいソロを聴かせます。ラストテーマはそのままピアノのルパートからFreddieのフリューゲル・ホーンで締めくくられます。全編を通してMelのリムショットとブラシワークでのボサノヴァのリズムが優しい音色で、小気味良いです。
3曲目はご存知Charlie Parkerの名曲Moose The Mooche、ジャズロック風のリズムが意表をつきますが曲のサビではスイングに、ソロの2コーラス目からもスイングに変わります。ソロ先発Freddieは水を得た魚のごときスインガーぶりを発揮、何とカッコいい演奏でしょう!ソロの構成、フレージングの巧みさ、タイム感、楽器のコントロール、非の打ち所がない演奏です!続くMichaelのソロ、ベンドを巧みに用いた出だしから始まります。8ビートのリズムと相俟ってロックギターの如きテイストを感じさせます。ソロの内容も先発Freddieと遜色ないクオリティを聴かせ、さらに1曲目の演奏よりもリズムの落ち着きをしっかりと取り戻しています。Hankのピアノソロはいつも安定感を聴かせ、ジャズの醍醐味に溢れています。トランペットとドラムの8バース、テナーとドラムの8バースと続き、ベースが絡みつつのドラムソロも聴かれます。Ronのよく伸びる音色には彼にしかない色気を感じます。ここまでがレコードのSide Aになります。
1)Cityscape 2)Habanera 3)Nightwings 4)In the Presence and Absence of Each Other (Part 1) 5)In the Presence and Absence of Each Other (Part 2) 6)In the Presence and Absence of Each Other (Part 3)
Recorded : January 4~8, 1982 Studio : The Power Station and Media Sound Recording Studios, NYC Label : Warner Bros. Records Producer : Tommy LiPuma
全曲Ogermanの独創的なオリジナル、深淵な音楽性を湛えたストリングス・オーケストラと緻密にして華麗なアレンジ、当時の音楽シーンを代表する敏腕ミュージシャンの参加、お膳立ては揃いました。フィーチャリング・ソロイストであるMichael Breckerは赴くままに自分のストーリーを語ればよいのです。サキソフォン・ウイズ・ストリングスはCharlie Pakerの昔からサックス奏者の究極の表現形態、ストリングスによるオーケストレーションは弦楽器が生み出す倍音の関係か、サックスの響きをより豊かにゴージャスにバックアップ、そして華やかに仕立て上げます。同じストリングスでもシンセサイザーのデジタルな音色では全く役不足です。本作でのMichaelの音色は彼の参加作品中屈指の素晴らしい「エグさ」を聴かせていますが、ストリングスにサウンドをブーストされた形と認識しています。ちなみにこの時の使用楽器はマウスピースがBobby Dukoff D9、リードはLa Voz Medium、テナーサックスがAmerican Selmer Mark Ⅵ No.86351です。
Ogermanの足跡をダイジェストにCD4枚組にまとめた作品、ドイツのBoutique Labelから2002年にリリースされたその名も「The Man Behind The Music」、収録されているAntonio Carlos Jobim, Bill Evans, Stan Getz, Frank Sinatra, Barbra Streisand, David Clayton-Thomas, The London Symphony Orchestrta等、手掛けたアーティストのあまりの多彩さに驚いてしまいます。
Michaelを最初にフィーチャーしたOgermanの作品が76年録音「Gate of Dreams」、収録曲CapriceでMichaelのダークなソロ聴くことが出来ます。この当時の彼のセッティングはマウスピースがMaster Link(Otto Link最初期のモデル)、リガチャーがSelmerメタル用、リードはLa Voz Med. HardないしはHard、テナーサックスはAmerican Selmer 14万番台Varitone。作品中David Sanborn, Joe Sample, George Benson達とソロを分かち合っています。
この時の演奏の素晴らしさから6年を経て本作へと繋がります。Michael自身の演奏も格段に進歩して今回は一作丸々のフィーチャリングになります。1曲目は表題曲Cityscape、「都市景観」とはジャケットのNew Yorkの景色の事でしょう。本作参加ミュージシャンがNew Yorkを拠点に活躍しているのは偶然か必然か、気心知れたMichaelの演奏に丁々発止とインタープレイを繰り広げています。一つ気になるのはMichaelとリズムセクションは同時録音に違いないと思うのですが、オーケストラ、ストリングスセクションは同録かという点です。89年1月21日、五反田ゆうぽうとで行われたTokyo Music Joy、Michael Brecker W-Unitと題され、Michaelの他Pat Metheny, Charlie Haden, Fumio Karashima, Adam Nussbaumと言うメンバーに小泉和裕指揮による新日本フィル・オーケストラが加わり、Cityscapeを再現するコンサートが開催されました。因みにJack DeJohnetteをドラマーに迎え、Methenyの「80 / 81」も再現する目論見もありましたがDeJohnetteは不参加でした。残念ながらOgermanは来日しませんでしたが、収録曲中In the Presence and Absence of Each Other (Part 1), In the Presence and Absence of Each Other (Part 2), Cityscapeを演奏しており、ソロイスト〜リズムセクション〜オーケストラ、ストリングスセクションの同時進行が可能であることを実感しました。ただ当日はMichael君あまり調子が良くなく、どうした訳か例えばIn the Presence and Absence of Each Other (Part 1) のメロディを外しまくっていました。コンサート後本人に尋ねたところ、オーケストラの面々とコミュニケーションが上手く行っていなかった事をこぼしており、彼なりに気になる事があったため、いまひとつ集中力を欠いていた模様です。そういえば本作のストリングスセクションを含めたオーケストラに関してのクレジットが故意なのか、たまたまなのか何処にも書かれていません。
4曲目から6曲目はタイトルIn the Presence and Absence of Each Other、Part1からPart3まで組曲形式になります。Part1はまさにMichaelのために書かれたかのようなメロディを持つ名曲、そして本作中白眉の演奏です。パーカッションが効果的にサウンドの味付けを施しています。輪を掛けて物凄いここでのテナーサックスの音色にまず圧倒されてしまいます!ストリングスのサポートのなせる技に違いありませんが、加えてソロの入魂ぶりといったら!鳥肌モノです!でも実はこの演奏の立役者はGaddとMarcusなのです。Gadd淡々とブラシでリズムをキープしていたかと思えば、Michaelの演奏に瞬時に反応し、その場にこれ以上相応しいフィルインは有り得ないという次元のフレーズを繰り出します。具体的には6’32″から、そして極め付けは6’50″のフレーズ!ホントに有り得ないです!一方Marcusは全編に渡り自由自在なアプローチでMichaelの演奏をバックアップ、7’00″過ぎた辺りから自在を通り越して自由奔放、好き勝手状態、7’48″頃からMichaelのソロが終わる8’05″まで笑いが止まらない程のメチャクチャやっています!満面の笑みを湛えたメンバー同士の抱擁が録音終了後行われたことでしょう。
5曲目Part2はOgerman自身の別な作品で、タイトルを変えて再演しています。2001年リリースClaus Ogermann / Two Concertos (Decca)
曲名はConcerto For Orchestra Ⅱ ( Marcia Funebre)となり、ほぼ同じアレンジでMichaelのテナーソロ抜きの演奏です。この作品はクラシック作編曲家としてのOgermanにスポットライトが当てられ、自身のピアノ演奏によるPiano Concertoの他、やはり自らコンダクトを務めたConcerto for Orchestra、ふたつの組曲から成っています。こちらも素晴らしい作品です。本作では冒頭からオーケストラをフィーチャーし、エンディング部分でMichaelのソロを聴くことが出来ます。曲想に由来するのかどこか物憂げなテイストを感じさせる印象的なテイクです。因みに作品ジャケットの絵画はNY出身の画家Arnold Friedmanによるもので、多分この画家もユダヤ系と推測されます。
今回はベーシストWill Lee、2001年録音のリーダー作「Bird House」を取り上げてみましょう。
b)Will Lee p)Bill Lee ds)Billy Hart ts)Michael Brecker tp)Randy Brecker vibes)Warren Chiasson vocal)Bob Dorough tp)Lew Soloff g)John Tropea
1)Confirmation 2)Now’s the Time 3)Charles Yardbird Parker Was His Name (Yardbird Suite) 4)Ornithology 5)My Little Suede Shoes 6)Cheryl 7)Au Privave 8)Lover Man 9)Donna Lee 10)Hot House 11)Quasimodo 12)Anthropology
Recorded at Livewire studios in New York on Feb 16 & 17 2001 Produced by Will Lee Skip Records
ドイツのレーベルSkip Recordsから2002年にリリースされたWill Leeの第2作目にあたるリーダー作。自身のボーカルをフィーチャーしたAOR仕立ての94年リリース初リーダー作「OH !」とは打って変わったコンセプトによるCharlie Parkerトリビュート作品です。全曲Parkerのオリジナル、所縁の曲を取り上げ基本的にオリジナルの雰囲気を残しつつ現代的なテイストを加味して演奏しています。スタジオミュージシャンとしても大活躍のWill、彼の人脈によるNew Yorkメンバーの人選が的確な作品です。Willも勿論いつものエレクトリック・ベースで演奏していますが、アコースティック・ベースとなんら遜色ありません。
Will Leeの父親、教育者として名高いBill Leeが全面的に参加していますが、彼は実際Parkerとも共演歴があるそうです。
WillもBillもWilliamの愛称ですからWill LeeもBill Leeに成り得るのですが、父親と区別するためにWillを名乗っているのでしょう。Will Leeの本名はWilliam Franklin Lee IV、4代続き遡って曾祖父さんまでWilliam Franklin Leeを名乗っていたと言う事ですから 、WillとBillを交互に名乗っていたとするとWillのお爺さんも同じくWillだった可能性が大です。だからどうした、の雑学豆知識ですが(笑)。日本では親子が続けて同じ名前を名乗ることは殆どありませんし、ましてや4代に渡って全く同じ名前を命名し名乗ることもまずあり得ませんが、米国ではごく当たり前の事なのでしょう。
本作のリズムセクションはb)Will, p)BillのLee親子にドラムBilly Hart、演奏曲目により色々なメンバーが加わります。
1曲目ConfirmationにはMichael Breckerが加わります。彼の同曲の演奏で有名なのがChick Coreaの作品81年録音「Three Quartets」が92年CDでリリースされた際に追加されたドラムとDuoのヴァージョンです。てっきり参加メンバーSteve GaddとのDuoかと思われていましたが、どうもGaddにしてはリズムのキレが悪く、彼のセットを使用しているのでGaddのドラムの音色ですが一体誰が叩いているのだろうと話題になりました。Coreaが演奏しているらしいと噂になりましたがMichael本人にも尋ねCorea本人説が裏付けされました。当時Michaelはフュージョン、スタジオミュージシャンとして認識されていましたが、ストレートなBe Bopをこんなに流暢に巧みに、伝統に根ざしつつ、しかも革新的に演奏するのだと感動した覚えがあります。
本作での演奏はThree Quartetsからちょうど20年を経て円熟味を増し、楽器のテクニック、音色の深さ、曲のコード進行の解釈、間の取り方、ユーモアのセンス、リラクゼーション、全てが格段にヴァージョンアップしており本当に素晴らしいテイクに仕上がっています。冒頭8小節間テナーとドラムのDuoでイントロ的に演奏されますが、#11thの音が効果的で以降の演奏の行方を暗示しているかのようです。1’36″からのConfirmationの2ndリフをダブル?トリプル?フラッター?タンギングで演奏し、キメフレーズをBilly Hartがしっかり合わせる部分には思わずニンマリしてしまいます。ピアノソロ後のドラムとテナーの4バーストレードもバッチリです!Hartのドラムソロ、フレーズには彼のオリジナリティを確実に感じ取ることができますし、歌がありますね。ライナーノーツにWill自身の文章で「Mike-thanks for wanting to do this-it’s a profound experiance to make music with you」 Willのまさに狙い通りの演奏をMichaelは届けてくれました。WillとMichaelは70年Dreams「Imagine My Surprise」、Horace Silver Quintet「The 1973 Concerts」、75年The Brecker Brothers Band、76年同「Back to Back」からの付き合い、互いの信頼関係は固い絆で結ばれています。
2曲目僕も大学1年生の時に入部したジャズ研でよく演奏したNow’s the Time、ジャズのブルースの基本テーマです。ここではLew SoloffとRandy Breckerの2トランペット・フロントで演奏されます。Randy, SoloffはBlood Sweat, and Tearsの初代、2代目のトランペッターたちですね。Soloffの方がビッグバンドのリード・トランペットも務めるため、Randyよりも派手な音色ですが、Randyも味のある音色でクールでホットなバトルを繰り広げています。
3曲目はヴォーカリストBob DoroughをフィーチャーしたCharles Yardbird Parker Was His Name (Yardbird Suite)、Dorough自身が作詞した歌詞で歌っています。Parker自身のアドリブ・ソロに歌詞を付けたボーカリーズが行われその後vibraphoneソロ、更にスキャットも聴くことが出来、素晴らしい歌声とスイング感を堪能できます。vibraphone奏者Warren Chiassonは34年生まれのベテラン、Les McCann, George Shearing, B. B. Kingたちとの共演歴があります。片手に2本づつ、計4本のマレット・テクニックを操るvibraphone奏者のパイオニアです。
4曲目はOrnithology 、ピアノのイントロからRandyのワンホーンで演奏されます。流暢なフレージングから彼も若い頃はClifford Brownをよくコピーしたと言う話を思い出しました。
5曲目はvibraphoneをフィーチャーした名曲My Little Suede Shoes、素敵なイントロパートに続くメロディラインとvibraphoneの音色がとても良くマッチしています。僕はChiassonをこの演奏を聴くまで知りませんでしたが、素晴らしいプレイヤーと認識し、ちょっと彼の事を掘り下げてみたいとも思いました。Billのピアノソロはスイングのリズムでは随分と前ノリでしたがカリプソのリズムでは然程気になりません。リーダーの短いベースソロも聴かれますが、この人の4弦ベースに拘ったベーシストぶりには男らしさ感じます。ラストテーマ後再びイントロのメロディに戻りFineです。
6曲目もブルースナンバーCheryl、今度はSoloffのワンホーンで演奏されます。ハイノートをあまり使わずにスイングするソロは正統派ジャズトランペッター然としています。
7曲目はAu Privave、こちらもまたまたブルースですがJohn Tropeaのギターをフィーチャーしています。ギターの独奏による少しアップテンポのテーマ、2コーラス目の途中からピアノのバッキングと手拍子による2, 4拍バックビートが聴かれますが、手拍子はWillでしょう。ギターのテーマがちょっと危なげでたどたどしさを感じさせますが、Tropeaさん普段あまりジャズを演奏していないのでしょうか?ギターソロの最後のコーラスでHartがバックビートにリムショットを入れていますが、テーマでのWillの手拍子を模したものです。こういうセンスには良い意味でどきりとさせられます。ここでもWillのソロを楽しむことが出来ます。
8曲目、Parkerのバラードといえばこの曲Lover Man、Soloffのミュート・トランペットがフィーチャーされピアノと全編Duoで演奏されます。美しい演奏でSoloffの歌心を再認識しました。
9曲目はDonna Lee、ギターとミュート・トランペットのユニゾンメロディ、こちらもトランペットはSoloffです。ジャムセッション風の演奏で、トランペットは演奏の途中からミュートを外しストレートにも吹いています。ちょっと全体にバタバタしている演奏です。
10曲目はTadd DameronのHot Houseを、vibraphoneをフィーチャーして演奏しています。安定したタイム感、的確なフレージング、Chiassonの演奏は4本マレットのMilt Jackson(2本マレットプレイヤー)的なテイストを感じます。
11曲目Quasimodoは再びヴォーカリストDoroughの登場、歌われている歌詞は女性ヴォーカリストSheila Jordanが書いたものです。再びSoloffのトランペットソロが聴かれ、Doroughのスキャットもフィーチャーされます。
ラスト12曲目はリズムチェンジのAnthropology、SoloffとMichaelの2管で演奏されます、先発Michaelは2コーラスという短いソロスペースの中でサムシングを表現しようと、果敢にチャレンジしています。フラジオ音でオーギュメント音G#が割れた音で演奏され、インパクトがあります。
今回はドラマーAl Fosterの77年録音の初リーダー作「Mixed Roots」を取り上げてみましょう。
ds)Al Foster b)T. M. Stevens, Jeff Berlin, Ron McClure p)Masabumi Kikuchi, Teo Macero g)Paul Metzke ts, ss)Michael Brecker ss)Bob Mintzer, Sam Morrison fl, sax)Jim Clouse
1)Mixed Roots 2)Ya Damn Right 3)Pauletta 4)Double Stuff 5)Dr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis) 6)El Cielo Verde 7)Soft Distant
1977年録音 78年リリース Produced by Teo Macero Laurie Records
Miles Davisのバンドに72年から85年まで13年間在籍したAl Foster、Electric Miles Bandの屋台骨となりMilesから絶対の信頼を得てBand史上最長の在籍期間、多くの名演奏を残しています。基本Fosterは決してラウドにはドラムを演奏せず、音楽的な音量でデリケートに、かつ大胆にビートを繰り出しバンドのリズム、サウンドを牽引します。大変バランスが取れたプレイを信条とするのでMilesにとどまらず、多くのミュージシャンからファーストコールを受けるようになりました。Sonny Rollins, McCoy Tynerに始まり、特筆すべきは晩年のJoe Hendersonのレギュラー・ドラマーを務めた事で、音量の小さいJoeHenとの音楽的相性が抜群、多くのアルバムで互いに信頼関係を築いたミュージシャン同士ならではのコラボレーションを聴くことができます。ひとりのミュージシャンと長きに渡り共演関係を保てるのはそのミュージシャンの音楽性が優れている事の裏返しでもあります。
本作の根底にはMiles Bandのサウンドがありつつも、Fosterなりのジャズ、ロック、ファンクのスピリットを導入し、それらを踏まえたオリジナル・ナンバーを中心とした演奏を聴くことができます。プロデューサーのTeo Maceroの采配もあるでしょうが参加メンバーの人選が異色で、自分自身の音楽を表現するための拘りを感じます。ベーシストに自称Heavy Metal FunkのT. M. Stevensと曲によりJeff BerlinとRon McClure、ギタリストはNYのスタジオ系ミュージシャンでGil Evansの作品にも参加していたPaul Metzke、そしてそして、ピアニストには日本代表としてプーさんこと菊地雅章氏!彼の参加がこの作品の品位を高めたと言って過言ではありません。独自のサウンドを聞かせています。ソプラノサックスにBob Mintzer, Sam Morrison、テナーとソプラノ・サックス持ち替えてのメイン・ソロイストとしてMichael Brecker、期待に違わぬ猛烈な演奏を聴かせており、70年代後期に於ける彼の代表的な演奏に挙げられます。因みに僕が学生時代に聴いたギタリストJack Wilkinsの「You Can’t Live Without It」、ピアニストMike Nockの作品「In Out And Around」と、本作でのMichaelのエネルギッシュでカリスマ性溢れる演奏に僕自身とことんやられてしまいました!そして期せずしてこの 3作でドラムを叩いているのがFosterなのです。
ところで本作はAl Fosterの初リーダー作に該当するはずなのですが、自身のwebsiteのディスコグラフィーには何故か掲載されていません。更に日本コロムビアから翌79年に「Mr. Foster」という第2作目のリーダー作品をリリースしていますが、こちらも非掲載です。Dave Liebman(ss), Hiram Bullock(g)たちが参加したフュージョンサウンドにFosterのボーカルも聴けるというレアなアルバムです。
本作78年リリースはLaurie Recordsという、ポップスやロックのレコードを中心にした米国レーベルからの発売でした。ほとんどジャズ色の無いレコード会社ですが膨大なカタログ枚数を抱えています。Teo Maceroとの縁故関係でのリリースと推測していますが。ジャケットにも同様にジャズの香りはせず、表裏両面とも当時のポップスレコードのセンス、雰囲気で〜というかコンセプト自体がよく分かりませんが(笑)〜本作品の内容とは大きな隔たりがあります。
その後日本ではSonyからジャケット違いでリリースされましたが、輸入盤よりも国内盤の方が流布した関係なのか、日本制作の作品と捉えられがちです。しかしながらMiles Davisの諸作をプロデュースしたTeo Macero監修による正真正銘のMade in USAのジャズ作品です。
Fosterの以降の作品はテナーサックスを迎えたカルテット編成が多く、Chris Potter, Eli Degibriといった精鋭を起用しています。Potterをフロントに擁した97年の作品「Brandyn」には本作収録のDr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis) をThe Chiefというタイトルで再演しています。Milesという人物はジキル博士とハイド氏にしてチーフ的な存在なのですね、きっと。
本作レコード裏ジャケットのライナーには「This album is dedicated to my mother and my four daughters, Thelma, Simone, Michelle and Monique」と自身の女系家族に作品を捧げる旨が記載され、「Thanks to Anthony, Derrick, Preston and Paul for being so helpful」と多分ローディ、レコーディングのスタッフに対する謝辞が有ります。そして「Special Thanks to Teo, Kochi, Mike」とあるのですが、Teoは間違いなくプロデューサーのTeo Maceroの事でMikeも熱演を披露して作品を盛り上げたMike Brecker、問題はKochiですが、本作録音前年の76年8月にプーさんがFosterを迎えてレコーディングした自身の作品「Wishes / Kochi」にあやかってプーさんの事をKochiと呼んでいたのではないでしょうか。彼の本作での労は賞賛に値しますからクレジット掲載も当然です。
1曲目はFosterのオリジナルにして表題曲Mixed Roots、うるさいオヤジがいない分リラックスしたMiles Bandといった趣の演奏ですが、ギターのカッティングとキーボードのシンコペーションのリズム、ベース・パターンが心地よいです。MichaelのテナーとMintzerのソプラノがフィーチャーされていますが、 Mintzer後年の演奏の素晴らしさと比較し、フレージングのクオリティ、滑舌、アイデア、タイム感いずれも今一つの感があり、ソプラノのマウスピースとリードの組み合わせが合っていない事に起因しているように聞こえます。一方のMichaelは確実に何かを掴んだ芸術家、演者ならではの表現の発露を感じます。テナーの音色が素晴らしいですね。本Blogで何度も書いていますが今一度、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、これはクラリネット奏者Eddie Danielsから譲り受けました。リードがLa Voz Medium Hard、リガチャーがSelmer Metal用、楽器本体がAmerican Selmer Mark6 No.67853。このセッティングにしてからMichaelは新境地に至ったように認識しています。ソロの構成、起承転結の明快さが堪りません。
2曲目もオリジナルYa Damn Right、先ほどはソプラノのメロディが中心でしたがこちらはMichaelのテナーメロディがメインです。先発Metzkeのハードロックテイスト満載のソロの後にMichaelの登場です。フレージングの端々にジャズ的アプローチが聴かれるので、ハードロック・サウンドの中に一味違ったテイストを加味させています。
3曲目もFosterのオリジナルPauletta。この曲からベーシストがT. M. Stevensに変わります。強烈にグルーヴするベースは超弩級です。James Brown, Bootsy Collins, Narada Michael Waldenらとの共演歴のあるT. M.は背の高いがっちりした体格のプレイヤーで、その髪型とサングラスを愛用、ド派手なファッションから映画プレデターの地球外生命体をイメージさせますが(笑)、実はフランクでとてもナイスな人柄です。今は亡き名ドラマー日野元彦氏の音楽生活40周年記念コンサートにT. M.が客演し、その際に僕も共演しました。演奏後彼は大変丁寧に「君の名前は?」「さっきの演奏素晴らしかったよ。今夜はみんなと一緒に演奏出来て楽しかった」と話しかけに来ました。僕にだけでなく共演した若手ミュージシャン全員とちゃんと会話を交わしていたようで、周囲に対する気配りがハンパない気がしました。前の奥様が徳島県出身、一時期T. M.も徳島市に在住していたそうで、地元のアマチュアミュージシャンともよくセッションをしていたという話を聞きました。
Fosterが参加したBob Bergの78年録音初リーダー作「New Birth」にもPaulettaが収録されています。
Bergの演奏ではテーマ前半をテナー・ワンホーンで、後半トランペットが加わり2管でメロディが演奏されていますが、ここでは始めのテーマをプーさんのピアノが(弾きながらの唸り声が凄いです!)、後のテーマをMichaelのソプラノで演奏しています。この演奏は本作のハイライトの一つ目になります。
以前雑誌Jazz Lifeで僕がMichaelに自身の過去の演奏を聴かせてそのコメントを貰うという企画で、このPaulettaを取り上げました。ここでご紹介したいと思います(原文のまま)。
MB : これは本当に久々に聴いたね。プロデューサーのテオ・マセロ(マイルス・デイヴィスのプロデューサーを長年務めた人物)と、この時初めて一緒に仕事をしたんだ。菊地(雅章)の素晴らしいピアノがフィーチャーされているね。レコードの音自体はあまり良くないけど、演奏されている音楽は素晴らしい。いいスピリットが感じられるしね。私は慣れないソプラノ・サックスを吹いていて、それ自体は珍しいものだけど、このプレイは気に入っているね。この後にマウスピースをなくしてしまい、頭にきたのを覚えているよ(笑)。ソロは、ヴォーカルのようにソフトで、際立っているように感じる。楽曲も、誰が書いたか知らないけど、すごくいい曲だね。
ーこれはアルが書いた曲です。
MB : そうなんだ? 素晴らしい曲だよ。
インタビューの発言からいくつかの興味深い点を確認できます。まず自分の演奏を後からほとんど聴く事のないMichaelがこの演奏を聴いており、Teo Maceroとの初仕事だったという認識を持っている。ミュージシャンならば当たり前ですが、自分が録音した作品のレコーディング・クオリティに対する評価を下しつつ的確なコメントを述べている。それにしても気に入ったマウスピースだったでしょうからレコーディング後になくしてしまったのなら、頭にくるよりも落ち込んでしまうと思いますが(笑)。ソロの内容もヴォーカルのようにソフト、とは思えませんが彼のセンスでそのように感じるのならば致し方ありません。そしてソロの際立った感ですが、これは半端ありませんね。珍しく慣れないソプラノを吹いてとは全く聴こえない完璧なコントロールでの演奏、これは謙遜の一種でしょうか?テナーとはまた違った次元での表現を聴かせています。本当に素晴らしい演奏です!そしてPaulettaは美しいメロディ、ユニークな構成を持った大変に良い曲ですが、ドラマーは音楽上の役割とは関係なく、端正なメロディ、意外な発想の構成からなるオリジナルを書く場合が多々あります。ドラマーなりの観点に由来するのかも知れません。
Jim Clouseのフルートがメロディ〜ピアノソロのバックで、微かに聞こえる程度にオブリガートを入れていますが、プーさんの弾きながらの声と相俟って、所々に摩訶不思議なサウンドを聞くことができます。Michaelのソロはメロウな味わいを聴かせつつも次第に複雑化したラインが交錯し、ドラマチックに盛り上がりつつラストテーマへ、その後エンディング部で更なる展開が!こんな演奏を可能にするマウスピースはさぞかし素晴らしいクオリティのものだったでしょうに、無くしてしまうなんて残念としか言いようがありません。
4曲目Double Stuff、本作のもう一つのハイライトです。Milesの「Agharta」「Pangaea」両作(もちろんFosterが演奏しています)のグルーヴを感じさせる演奏で、ここではMichaelに思う存分吹かせていますが、作品中最もFosterとの熱いやり取りが聴かれ、盛り上がるテナーソロをドラムがさらにプッシュしてます。テナーのキーでEマイナーから半音上がりFマイナーになってからMichaelの暴れ方の凄まじいこと!そういえばMichaelと同世代のテナーたちSteve Grossman, Dave Liebman, Bob Bergの3人はMiles Band経験者です。ジャズ・リジェンドにひたすら敬意を払うMichael、友人たちが軒並みMilesとの共演で音楽性を深めたのを見て、さぞかしMilesと共演を果たしたかった事でしょう。モーダルに熱く燃え上がる中にJohn Coltraneのセンスを中心として、King CurtisやMichael独自のファンキーなテイストをスパイス的に聴かせているのが大変効果的です。へヴィーな演奏の重圧感を緩和する役割ですね。ダブルタンギング、完璧なフラジオ、オルタネート・フィンガリング、幾つかの音を同時に響かせる重音奏法〜マルチフォニックス、高速フレーズ、タイトなリズム、実はメチャメチャ技のデパート的ソロでもあります。
5曲目Dr. Jekyll & Mr. Hyde(Dedicated To Miles Davis)こちらもFosterのオリジナル、彼がやはり参加しているDave Liebman, Richie Beirachらから成るバンド名を冠した81年録音作品「Quest」にも収録されています。
最初のソプラノサックスのソロ、続くテナーソロもMichaelがフィーチャーされています。Foster, T. M.が尋常ではない暴れ方でソロイストを煽っているのでそのためか、3’55″でMichael珍しくメロディ2音先に飛び出して吹いています。プーさんのエレピによるバッキングもMetzkeのカッティングとともに効果的です。それにしてもこの演奏は他よりも突出して異常なまでの盛り上がりを聴かせていますが、too much感を否めません。
6曲目El Cielo Verde、プーさんのオリジナル。スペイン語で緑の空という意味ですが、81年彼の傑作「Susto」のプレヴュー的演奏になります。こちらもMichaelの超絶ソプラノをフィーチャーした演奏、クレジットにはSam Morrisonもソロイストとして挙がっていますがソロはありません。
6曲目はTeo MaceroのオリジナルSoft Distant、ベーシストはRon McClureに替わり、ピアノもTeo自身が演奏しています。冒頭のテナー・ルパート演奏部分がこれまでずっとアグレッシヴな演奏だったので、新鮮に響きます。しかし全体を通しての印象は捉えどころのなさ感でしょうか。特に魅力的なメロディラインや曲構成を持つ曲ではないので、Michaelのゴリゴリ・テナーでの演奏やギターソロに聴きどころを見出すしかなさそうです。
今回はボーカリストChaka Khanを中心としたオールスターズによる82年リリースの作品「Echoes Of An Era」を取り上げたいと思います。
82年1月14日リリース 81~82年録音 Producer : Lenny White Engineer : Bernie Kirsch Recorded at Mad Hatter Studios, Los Angeles, California Label : Elektra/Musician
vo)Chaka Khan ts)Joe Henderson tp, flugelhorn)Freddie Hubbard p)Chick Corea b)Stanley Clark ds)Lenny White
1)Them There Eyes 2)All Of Me 3)I Mean You 4)I Loves You Porgy 5)Take The “A” Train 6)I Hear Music 7)High Wire – The Aerialist 8)All Of Me(Alternate Take) 9)Spring Can Really Hang You Up The Most
ジャズボーカルとインストルメンタル・ジャズの醍醐味を正に同時に、いや相乗効果で何倍にも楽しめる素晴らしい作品です。R&Bの女王とまで評されるChaka Khanのジャズボーカリストとしての充実ぶりと驚異的な歌唱力、Freddie Hubbard, Joe Hendersonフロントふたりのリラックスした中にも互いに触発しつつ、されつつ火花を散らすアドリブソロの応酬、Chick Coreaの抜群のテクニック、タイム感、音楽性、歌心に裏打ちされたピアノワークと奏者のソロをホリゾンタルに浮き上がらせるバッキング、 恵まれた体格からコントラバスを軽々と扱いこなすStanley Clarkの、生来の才能に裏付けされたベースラインの安定感、本作のプロデューサーとしての立場からバンド演奏の全体を俯瞰しつつタイトなリズム、センスの良いフィルインを繰り出すLenny White、そんな彼らによる実に見事なインタープレイ、よく知られた(手垢にまみれたとも言えますが)スタンダード・ナンバーをCoreaの抜群のアレンジでフレッシュに歌いあげるChakaを、メンバー全員が一丸となって実に楽しげにバックアップしているのです。他のジャズボーカリストでは本作の充実感は得られなかったでしょう。
1曲目Them There Eyes、冒頭からブレークタイムを用いたFreddieのソロ、奥行きを感じさせ箱鳴りがする音場感、マイクロフォンから一定の距離を置いたブース(小部屋)での収録になります。続くJoeHenは逆にかなりオンマイクな音場感でのJoeHenフレーズ炸裂のソロです。ピアノ、ベース、ドラムの録音バランスが実に良いです!「シャー」っとWhiteのトップシンバルにフェイザーが掛かったような質感、タイトなClarkのベースとの絡み合いの素晴らしさが作品のクオリティの高さを既に提示しています。録音エンジニアが多くのCoreaの作品を手掛けたBernie Kirsh、録音スタジオも当時Corea自身が所有していたLos AngelesにあるMad Hatter Studiosでは然もありなんです。そしてChakaのボーカルの登場、よくあるボーカル作品ではボーカルが圧倒的に前面に出て他の楽器が如何にも伴奏者の程を表しますが、出過ぎず引っ込み過ぎず、他の楽器とのバランスが大変に良いと思います。Them There Eyesという小唄を小唄として捉えて決して大げさには歌っていないのですが、その存在感と歌のウマさがパンチのある歌唱力をごく自然にアピールしています。Freddieのソロも惚れ惚れするほどイケイケ絶好調ぶりを聴かせます。Coreaのソロはその思索ぶりが映えるクリエイティブな内容で、Freddieのテイストとはある種対比を成しています。ひょっとしたらCoreaはそこまで考えてソロのアプローチを試みているのかも知れません。メンバーの演奏にインスパイアされ、始めの歌よりもかなりシャウト感のある後歌での、フロントふたりのオブリガードがボーカルをしっかりとバックアップします。
2曲目はお馴染みAll Of Me、イントロ無しでFreddieのミュートトランペットのオブリを従えて外連味なく歌われます。例えばアメリカの有名なポップスシンガーがジャズを歌ったアルバムを聴くと、歌の上手さはしっかりと聴き取ることが出来ますが、肝心なジャズテイストが希薄もしくは皆無で、ジャズの形、名を借りただけのポップス作品としか聴こえない場合があります。Chakaの場合は彼女の歌からしっかりとジャズ・スピリットを聴き取ることが出来る上に、彼女の素晴らしい個性も確実に受け止める事が出来ます。この違いは一体何処から来るのでしょうか?Freddieがオブリに引き続きソロを取ります。間を生かしたスペーシーなソロはCoreaにバッキングの機会を多く与えているのかと思いきや、Coreaは意外と音数の少ないソロにはシンプルに対応し、続くJoeHenのソロにはフレーズの入り方やウネウネフレーズに適宜反応しています。テナーのフレージングを引き継いだピアノソロはごくシンプルに、しかしCoreaならではのサムシングを聴かせています。
All Of Me別テイクの8曲目についても触れ、更に両者を比較してみましょう。Chick Corea a la Thelonious Monk風のピアノイントロから始まります。ドラムスもアタマの歌ではブラシに持ち替えており、テンポも若干早めなので些か風情が異なります。同様に先発はFreddie、本テイクより饒舌なソロなのでCoreaも触発され、リズミックなアプローチのバッキングを聴かせます。JoeHenのソロも本テイクでは聴けない、気持ちの入った熱いHigh F音でのロングトーンが効果的、Coreaも同様に本テイクよりも深い領域に入り込んだ、 Monkish(余談になりますがMichael BreckerはMonk風に、と言う意味で彼のミドルネーム”Sphere”を用いて”Spherical”と表現し、同名のオリジナル曲を書いています)なソロを聴かせています。Chakaも後歌のシャウトでは一層熱いものを感じさせます。と言う訳で別テイクの方がより音楽的にアピールしているのですが、本テイクの方のエンディングのアンサンブルがバッチリとキマっているのでこちらが採用になったのでは、と推測しています。別テイクのエンディングはリズムセクションの足並みが残念ながら今ひとつ揃っていません。曲の作品としてのクオリティを重んじた末のチョイスと判断できます。別テイクの方が内容的には断然良いものがあるが、本テイクの方も決して悪くはない。だとしたら楽曲上完璧な方を採用しよう、とするのはアレンジャー・サイド当然の流れです。恐らく別テイクの方を最初に録音し、エンディング問題を解決すべく再チャレンジで本テイクを録音したのでしょう。別テイク〜本テイクと続けて聴いてみると別テイクの方がずっと勢いがあるのが分かります。エンディング問題は無事に解決しましたが本テイクの演奏は何処か守りに入ってしまった感は拭えません。ジャズは間違いなくファーストテイクが旬なのです!
3曲目はThelonious Monkの名曲I Mean You、作曲者名にジャズ・テナーサックスの開祖Coleman Hawkinsの名前も連ねられています。歌詞はChakaによる自作自演だそうです!ここでの演奏はインストと遜色は無く、Chakaのボーカルはホーンライクです。テーマのシンコペーションを生かしたアレンジもカッコいいです。先発FreddieのソロでのCoreaのバッキング、Monkテイスト満載です!触発されたFreddie、イってます!Coreaは本作レコーディング最中の81年にMiroslav Vitous, Roy Haynesと「Trio Music」をリリースしました。ここではRhythm-A-Ning, Round Midnight, Eronelと言ったMonkのナンバーを多く取り上げ、Coreaの中ではMonkブームだったのでしょう、自己のスタイルからMonkへのスイッチングが全く自然です。JoeHenはソロを取らず続くCoreaのソロはまさしくMonk降臨!
4曲目はGeorge Gershwin作曲のバラードI Loves You Porgy, CDのクレジットにはI Love You Porgyとなっています。もちろん文法的にこちらの方が正しいのですが、黒人英語の特徴の一つとして一人称単数現在でも動詞の語尾に”s”を付けることがあります。この名曲をCoreaが素晴らしいアレンジで再構築しています。ボーカルとピアノのDuo、テーマの[A]の部分をリピートせずに1回でサビの[B]に入ります。情感たっぷりのChakaの歌にホーンが被さり、バックビートを生かした本来は無いインタールードが演奏されます。Coreaはこう言ったアディショナルなパート作りに長けています。サビの部分でCoreaのソロ、JoeHenのオブリ入りで再びインタールードを経て、Freddie〜JoeHenと倍テンポでソロが続きます。更にインタールードがあり、ホーンの裏メロディが入りつつ後歌になりますが、短い間に様々なパートが交錯する緻密で大胆なアレンジは、この曲を誰も経験したことの無い別世界に誘いつつ、聴く者の姿勢を正してしまう程の説得力があります。素晴らしい!エンディングにも更にもうひとパート工夫があり、Chakaのシャウトを劇的に、感動的にまとめ上げています。
5曲目Billy Strayhornの名曲Take The “A” Trainには本作中最も手の込んだ斬新なアレンジが施されています。Chakaのメロディ〜スキャット・ソロに到るまでに、延々と2コーラス以上A Trainの原型はしっかりと在りつつもピアノ、ホーンでの手を替え品を替えのメロディやアンサンブルが繰り出される展開には心底参りました!こんなA Trainは聴いたことが有りません!そしてこれ程のアレンジにも映える、対抗しうるボーカリストはChaka以外には存在しないでしょう。Chakaのスキャットのアプローチも相当ユニークです。その後Freddieの華麗なソロはハイノートでまとめ上げてJoeHenに受け渡しますが、こんなに盛り上げられた後ではさぞかしやり辛そうに思いきや、全く意に介さず淡々と自分のペースをキープしてスイングしています。ベースソロの後、いわゆるシャウトコーラスが演奏されますが、これまた意表を突くホーンのメロディライン、カッコ良いです!エンディングは比較的ストレートに終わっています。
6曲目ハッピーな曲想に対してダークなメロディラインを有するホーンとピアノのユニゾンのイントロが印象的なI Hear Music、曲調とChakaの声質、歌い方が絶妙にマッチしています。[A]メロの5~8小節目を毎回ベースが効果的にユニゾンしています。Freddieが歌に被ってソロを始めますが、本作のホーンのソロは何故か必ずFreddieが先発、長年の付き合いが成せる技かJoe HenはどんなにFreddieが盛り上がってもその後に確実に自己表現を行なっているのが素晴らしいです。ここでもCoreaはMonkの影を拭い去れないようで、シングルノートを中心としたソロから突如としてMonkになってしまいました。ベースソロを経てサビから歌の戻り、エンディングはイントロを再利用してFineです。
7曲目本作唯一のCoreaのオリジナルHigh Wire – The Aerialist、初演はJoe Farrellの79年録音のリーダー作「Skate Board Park」に収録されています。
ここではCoreaを擁したFarrellのワンホーンカルテットで、コンボジャズ・テイストの演奏が聴かれますが、本作では収録曲中のハイライトとして、ボーカルとインストの完璧な融合が成されていると言っても過言では有りません。曲の美しさと構成のカッコ良さ、Chakaの声質、歌い方が見事にマッチング、Chakaのために書かれたかのような曲と感じてしまう程です!そこにホーンの複雑にしてゴージャスなアンサンブルが絶妙に絡みつつ(Freddie, Joehenのアンサンブル能力の高さに今更ながら感心してしまいました!)、リズムセクションのシカケがここぞとばかりに雰囲気を盛り上げ、更にCorea, Freddie, JoeHenのソロとのインタープレイ、Coreaのバッキングの全ての音が有機的に反応し、壮大な絵巻物の観を呈しています!ボーカルの伴奏、インストルメントとボーカルの融合の一つの理想の形がここに有ります。
9曲目ラストを飾るのは全編ChakaとCoreaのDuoによるSpring Can Really Hang You Up The Most、ただでさえ美しいナンバーを崇高な世界にまで高めつつ更に美の世界を表現しています。情感たっぷりにストレートに歌うChakaの後ろで、Chickがとんでもない色々なバッキングを繰り広げているのが面白過ぎです!Chickのコードワークも然程オリジナルから離れる事が有りませんでしたが、エンディング最後に待ち構えていました!壮絶な代理コードの嵐!Chakaもこの和音でよくピッチが取れるものです!7’57″からの部分で細心の注意を払いつつ歌うChakaも一つの聴きどころです。
今回はドラマーPete La Rocaの初リーダー作「Basra」を取り上げたいと思います。
Recorded : May 19, 1965 Released : Oct. 1965 Studio : Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ Recorded by Rudy Van Gelder Blue Note Label
1)Malagueña 2)Candu 3)Tears Come From Heaven 4)Basra 5)Lazy Afternoon 6)Eiderdown
Blue Note Label異色のメンバーによる名演奏を収録した作品、選曲も個性的です。参加しているJoe Hendersonは数多くのBlue Note作品で名演を残している言わばレーベルのハウス・テナー奏者ですがSteve Kuhn、Steve Swallow両名はサイドマンとして全くと言って良いほどBlue Noteに録音を残していません。Kuhnは新生Blue Noteから2007年に自己のトリオで「Live At Birdland Steve Kuhn Trio」をリリースするのみ(でも新生の方では名プロデューサーAlfred Lion, Francis Wolff両名の息が掛かっていないので実はさほど意味がないのですが)、Swallowの方も新生Blue Noteに数作参加の他、62年ボーカリストSheila Jordanのリーダー作「Portrait Of Sheila」に参加しているだけで、二人の実力、音楽性からすればBlue Noteと縁が無かった事は不思議ですが、黒人ミュージシャンが中心のジャズレーベルであったがためでしょうか。
当時La Roca, Kuhn, SwallowはArt Farmer Quartetのリズムセクションでもあり、同65年フロントがテナーからフリューゲルホルンに変わった形でFarmerのリーダー作「Sing Me Softly Of The Blues」をリリースしています。全く演奏内容、音楽的傾向が異なるにも関わらずリズムセクションは柔軟に対応し、素晴らしい演奏を残しています。また3人はよほど音楽的、人間的に相性が良かったのでしょう、同メンバーで翌66年Steve Kuhn Trioとして「Three Waves」もリリースしています。こちらの内容もまた違ったテイストを聴かせ、3人の音楽的懐の深さを感じさせます。
La Rocaのドラミングの方はBlue Noteの作品にかなり登場しています。そもそも彼の初レコーディングが57年11月、Max Roachの推薦があって参加が実現したSonny Rollinsの名盤「A Night At The Village Vanguard」、当日のマチネーにLa Roca、ソワレに Elvin Jonesと当時の若手ドラマー二人を使い分けています。ここでの素晴らしい演奏があって59年3月、Rollins Trioの北欧楽旅に同行することになり「St. Thomas Sonny Rollins Trio in Stockholm 1959」を残しています。
もう1作Blue Note盤で是非とも挙げておきたいのがJackie McLeanのリーダー作59年5月録音「New Soil」、Hard Bopテイストから抜け出さんばかりのMcLeanのエナジーの迸りを感じさせる作品、触発されたLa Rocaは収録曲Minor Apprehensionでアグレッシブなドラムソロを展開、あるジャズライターに「前衛ジャズはここから始まった」とまで言わしめました。革新的、刺激的なアプローチを聴かせています。
収録曲を見ていきましょう。1曲目は実に意外な選曲、Cubaの名作曲家Ernesto Lecuonaの作品、6つのムーヴメントから成るAndalusia組曲の中の1曲Malagueña、La Rocaは若い頃に6年間ラテンバンドでティンバレス奏者として活躍し、そこでの経験からのチョイスかも知れません。La Rocaと言う名もその当時の芸名から取られており、本名はPeter Simsです。8分の6拍子のリズムの上でのJoeHenのエグエグな音色によるラテンフレイバー満載のメロディー、印象的なピアノの左手ライン、要所要所では的確なフィルインを繰り出しますが全編比較的淡々とリズムをキープするLa Roca、その上でJoeHenが曲の持つ雰囲気に見事に合致しつつハーモニクス、マルチフォニックスを駆使し、最低音からフラジオ音までJoeHen節満載で縦横無尽に吠え捲ります!Kuhnの暴れっぷりも素晴らしい!ソロイストに思いっきりソロスペースを与えるためにLa Rocaは敢えてリズムキープに回っていたのかも知れませんし、元来ソロイストにシンプルに寄り添うスタイルが信条のLa Roca、自身のドラムソロでは確実に自己の世界を表現しますが、他のプレイヤーのソロのバックで煽ったり、自分から何かを仕掛けるアプローチは一貫してあまり聴かれません。後に触れますがこの事が関係して、彼自身にとってある決断をさせる一因になったのではないかと考えています。ピアノソロの後テーマに戻りますが、一層フリーキーなJoeHenの雄叫びが聴かれ徐々にフェードアウトして行きます。
2曲目はLa RocaのブルースフォームのオリジナルCandu、8ビートが基本のジャズロック風な、時代を反映したグルーヴのナンバーです。ベースパターンがメロディの対旋律を奏でていて、ユニークな構成になっています。JoeHenのソロは相変わらずの絶好調ぶりを聴かせ、続くKuhnのパーカッシヴなソロも印象的です。この頃はアップライト・ベーシストとして絶頂期のSwallowのベースソロが聴かれ、テナーとドラムスによる4バースが2コーラスあり、ラストテーマを迎えます。
3曲目もLa RocaのオリジナルTears Come From Heaven、ロックミュージシャンのオリジナルにありそうなタイトルですがアップテンポのスイングナンバー、32小節1コーラスでコード進行の小節数が多少凝った変則的構成になっています。ここでもJoeHen無敵のスインガー振りを発揮、Kuhn、La Rocaとソロが続きます。ここまでがレコードのSide Aです。
4曲目やはりLa Rocaのオリジナルであり、タイトル曲Basraは中東イラクの港湾都市。ここでのエスニックな曲調はむしろアジアンテイストを感じさせます。1曲目のMalagueñaのスパニッシュと相まってこの作品の独特なカラー付けをしており、他のBlue Noteの作品と一線を画す要因になっています。Swallowのベースソロによるイントロはこれから起こり得るであろう音のカオスを十分に予感させるもので、続くJoeHenのメロディ奏、メロディフェイク、ソロは曲想の中に確実に根ざしながらも違う音の次元への誘いを促しています。La Rocaのドラムソロのアプローチも実に官能的に聴こえます。ところでBasraは昔から領土侵略、政治的問題、石油の利権や宗教問題等様々な火種が常に飛び交い、ここで聴かれるエキゾチックな曲想とは無縁の地域です。La Rocaが演奏旅行で訪れた際の思い出で書かれたのでは無く、遡ってアラビアンナイト〜千夜一夜物語に出てくる砂漠のオアシスの都市、そのイメージで曲が書かれたのでは、と想像出来ます。
5曲目は唯一のスタンダードナンバー、Lazy Afternoonも素晴らしい選曲のバラード、JoeHenの歌いっぷりも良いのですが、Kuhnのバッキング、ソロが秀逸です。
6曲目アルバムのラストはSwallow作曲のEiderdown、ミュージシャンがこよなく愛するSwallowのオリジナル・レパートリーの一曲、Kuhnのソロのアプローチが実に的確で、その後KuhnとSwallowの音楽的コラボレーションが生涯続きますが、既に音楽的相性の良さを聴かせています。
ところでLa Rocaは本作録音の3年後にサイドマンとしての演奏活動をきっぱりと止めてしまいました。生計を立てるためにNew York Cityでタクシーの運転手を始め、その後New York UniversityのLaw Schoolで法律を学び、何と弁護士のライセンスを取得、弁護士としての活動を開始しました。有名な話がChik Coreaを迎えた自身の2枚目のリーダー作「Turkish Women At The Bath」がLa Rocaの同意無しにCorea名義でリリースされた際に自身で訴訟を起こし、敏腕弁護士として勝訴しています。いくら日本よりも米国の方が弁護士資格を取得し易いとはいえ、第一線で活躍していたジャズドラマーが辿る道として相当イバラであった事でしょう。Rollins, McLean, Coltrane Quartet, Charles Lloyd, Paul Bley, Slide Hampton, Freddie Hubbard等、 当時のジャズシーン最先端のミュージシャンと丁々発止と音楽活動を展開していたにも関わらず、演奏活動を突如として止めた経緯について触れた文献は読んだことがありませんが、僕なりに推測するに、安定した素晴らしいサポートを聴かせるLa Rocaのドラミングですが、ドラムソロ以外はこれと言った強力な個性が無く、前述のようにソロイストとの一体感が希薄です。彼以降現れたドラマー達Elvin Jones, Tony Williamas, Jack DeJohnette、しかも彼らは軒並みLa Rocaと共演歴のあるミュージシャン達と演奏していますが、この3人のソロイストとのコラボレーション感には信じ難いものがあります。バンドのアンサンブル能力もハンパではありません。後続のドラマー達の活躍振りに自分の音楽的才能の限界を感じたLa Roca、静かにジャズシーンを去って行ったのではないかと思うのですが。
今回はピアニストBobby Timmonsの1966年録音、リリース作品「The Soul Man!」を取り上げたいと思います。
66年1月20日録音Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey Prestige Label
1)Cut Me Loose Charlie 2)Tom Thumb 3)Ein Bahn Strasse (One Way Street) 4)Damned If I Know 5)Tenaj 6)Little Waltz
p)Bobby Timmons ts)Wayne Shorter b)Ron Carter ds)Jimmy Cobb
35年フィラデルフィア生まれのTimmonsは50年代からサイドマンとして実に様々なミュージシャンと共演作を残し、60年代に入ってからはリーダー作を数多く発表しましたが74年、アルコールとドラッグの過剰摂取に起因する肝硬変で、38歳の若さで生涯を閉じました。時代も良かったのですが50年代〜60年代初頭、全盛期のジャズシーンを全速で突っ走っていたミュージシャンの一人です。
タイトルやジャケットデザインが恥ずかしい位に何とも60年代を反映しています(笑)。参加メンバーを知らずしてしかも未聴での場合、間違いなくソウル、ジャズロック系のアルバムと取り違えてしまう事でしょう。しかし本作の目玉は何と言っても59~61年に共に在籍していたArt Blakey And The Jazz Messengersでの共演者、名テナーサックス奏者Wayne Shorterの参加です。彼の演奏により作品のクオリティ、品位が桁違いに高まりました。Timmonsの他の作品には無い人選です。TimmonsはJazz Messengersに58年から61年まで在籍し、Moanin’, Dat Dereといったオリジナル曲を提供しレコーディング、結果空前のヒットを果たし、それに伴いJazz Mesengersも名門バンドへと転身します。Shorterの方も59年から64年まで在籍しバンドの音楽監督も務め、Jazz Messengersの音楽性を高めるべくやはり自身のオリジナルやアレンジを提供しました。TimmonsはJazz Messengersを離れてから自己の作品をトリオ編成中心に発表、一方ShorterはJazz Messengers脱退直後64年にMiles Davis Quintetに参加しMilesの作品「Miles In Berlin」「Live At The Plugged Nickel」「E. S. P.」を録音、自身のリーダー作としては「Night Dreamer」「JuJu」「Speak No Evil」と言った代表作を立て続けにレコーディングし、彼の第10作目「Adam’s Apple」録音直前(2週間前)が本作のレコーディングです。「Hey, Wayne, ジャズロック調のオリジナルがあったら今度のレコーディングの時に持って来てくれないかい?」「Oh, yeah, Bobby, 自分のアルバムでレコーディング予定の新曲があるから持っていくよ」みたいなノリの会話があって(爆)、Tom Thumbが収録されたと推測できますが、Shorter自身のリーダー作でTom Thumbは翌67年3月10日録音 3管編成による「Schizophrenia」に収録される事になり、それまではお預けになりました。もしかしたらジャズロックのテイストが強い作品「Adam’s Apple」でTom Thumbを演奏する予定だったとも考えられますが、本作「The Soul Man!」でのレコーディングしたテイクを鑑みて、Shorterは「Tom Thumbはカルテットよりも大きな編成で演奏するのが良さそうな曲なので、今回はレコーディングせずに次作に持ち越そう」と判断したかもしれません。いずれにせよTom Thumbの収録はこの作品のハイライトの一つではあります。
Timmons, Shorterの二人はもともと音楽的志向にかなりの違いが感じられますが、Jazz Messengersに在団していた頃はさほど気にならない、と言うかクインテット〜セクステットの編成の大所帯、そしてBlakeyお得意のナイアガラ・ロールに紛れて(笑)その差異が目立つことはありませんでした。でも本作のようにカルテット編成では顕著です。更に6年以上の時の経過がスタイルや演奏レベルの違いをくっきりと明らかなものにしています。意欲的なリーダー作、ジャズ史に残るような名盤を立て続けに発表し、同時にMiles Davisの薫陶を受けて音楽性を磨かれ、一層研ぎ澄まされた表現力を持つようになったShorter、他方その変わらぬスタイルを良しとされ、「Bobby、我々は君のその演奏を聴き続けたいんだ。スタイルが変わることなんて望んでいないよ」とでも周囲から言われていたのか、十年一日の演奏を聴かせるTimmonsとでは差が歴然です。
収録曲を見て行きましょう。1曲目TimmonsのオリジナルCut Me Loose Charlie、Ron Carterの印象的なベースライン、60年前後Miles Band在団中よりもシャープで的確なドラミングを聴かせるJimmy Cobbのシンバルレガートからイントロが始まるのは、8分の6拍子のブルースです。しかしここで聴かれるShorterのテナーサックスの音色は一体何と表現したら良いのでしょうか?猛烈な個性と存在感、誰も成し得ない唯我独尊、しかし本人はいたって自然体で音楽に立ち向かい、気負うところ無く自分のストーリーを語っています。Otto link Metal Mouthpiece 10番、Rico Reed 4番を使用しているとは到底考えられない楽器コントロールの素晴らしさ、マエストロぶりを発揮しています!一方TimmonsはShorterの個性的で、全てがクリエイティヴな演奏に平然と、いつものやり方のバッキングで答えているのは、然るべき対処法の引き出しが無いからでしょう。空疎な瞬間を感じる時もありますが、やむを得ません、寧ろShorterの演奏がくっきりと浮き上がります。
2曲目は前述のShorterオリジナルTom Thumb、可愛らしいひょうきんな曲調のナンバーです。Shorterのソロは曲の持つ雰囲気を確実に踏まえ、ジャズのアドリブの原点である即興、その瞬間での作曲を行なっているが如きです。テナーサックスのザラザラ、加えてこもった成分が特徴的な音色が、何故かユーモラスさを誘います。「Schizophrenia」でのバージョンと聴き比べてみると3管編成でのサウンドの厚みが曲想に大変マッチしていています。James Spauldingのアルトのメロディ奏とテナー、トロンボーンのユニゾンとの対比も面白いです。ワンホーンでの「Adam’s Apple」の編成拡大版が「Schizophrenia」と言えますが、曲作りやサウンドは前作よりも格段に進化しています。Shorterのテナーの音色もShorter色が一層増しています。
3曲目はCarterのオリジナルEin Bahn Strasse (One Way Street)、同じくCarterのオリジナルThird Planeにどこか似たテイストを感じるのは同じ作者だからでしょう。でもShorterのオリジナルに関しては何れもが個性的、一曲づつしっかり顔があり、似た曲風のものを探すのは困難、と言うか存在しません。Shorterのソロは何処からこのラインが出て来るのかと感心させられる、相変わらずのユニークさを発揮しています。Carterのソロもフィーチャーされていますが、いつものテイストの他に珍しくスラップのような技を披露しています。実際Miles BandではCarterのソロは殆どなく、あったとしてもソロ中にスラップを入れようものなら後からMilesに何を言われるか分かりません。うるさいオヤジが不在だとミュージシャンはリラックスしていつもとは違う演奏になるものです。60年代中頃Miles Davis QuintetがVillage Vanguard出演の際、Milesがインフルエンザに罹り欠場、Carterも同じくインフルエンザでトラにGary Peacockが出演し、Herbie Hancock, Tony Williams達とWayne Shorter Quartetという形で一晩演奏、その時の演奏テープを聞いたことがありますがThe Eye Of The Hurricane、Just In Time, Oriental Folk Song, Virgo等を演奏、メンバー全員Milesの呪縛から解き放たれた素晴らしい演奏を聴くことができました(呪縛時はそれはそれで、緊張感漲る演奏で素晴らしいでのすが)。ここまでがレコードのSide Aです。
4曲目はTimmonsのオリジナルDamned If I Know、軽快なアップテンポのスイングで演奏され、Shorterワールド全開の演奏です!感じるのはJimmy Cobbのドラミングのバネ感の素晴らしさ、Tony Williams張りのビートの提示感とでも言いましょうか、Cobb自身もMiles Bandで自分の後任のドラマーの演奏には少なからず影響を受けた事でしょう。この曲ではCarterの無伴奏ソロがフィーチャーされています。
5, 6曲目はCarterのオリジナルTenaj とLittle Waltz、Tenajはやっぱりバンド用語でJanetの逆読みでしょうか?Carterに新しい彼女が出来て名前を捧げたのかも知れませんね(笑)。ワルツのリズムでテーマやソロの途中テンポが無くなり、ルパートになったり、倍テンポでドラムスソロが織り込まれるような構成で工夫されていますが、次曲Little Waltzに何処か雰囲気が似ています。2曲とも同一の作曲者によるワルツ、曲の並びとしてはちょっと避けたかったパターンですね。Little Waltzの方は彼の69年10月録音のリーダ作「Uptown Conversation」で再演されています。
今回はStan GetzとOscar Peterson Trioの豪華な組み合わせ、1958年リリース「Stan Getz And The Oscar Peterson Trio」を取り上げたいと思います。
Recorded October 10, 1957 at Capitol Studios in Los Angels Verve Label Produced by Norman Granz
ts)Stan Getz p)Oscar Peterson g)Herb Ellis b)Ray Brown
1)I Want To Be Happy 2)Pennies From Heaven 3)Ballad Medley: Bewitched, Bothered And Bewildered / I Don’t Know Why I Just Do / How Long Has This Been Going On / I Can’t Get Started / Polka Dots And Moonbeams 4)I’m Glad There Is You 5)Tour’s End 6)I Was Doing All Right 7)Bronx Blues
ドラムレスの編成にも関わらず強力なスイング感を押し出すアルバムです。以前にも述べたことがありますが、Oscar PetersonとRay Brownの双生児のように似た超On Topのリズムを、ドラマーEd Thigpenが二人を同時に羽交い締めにして、リズムが前に行き過ぎるのをギリギリ制している構図で成り立っているのがThe Oscar Peterson Trioです。陸上100m競争のスタートラインに着いた走者がスタート合図を待つ直前のエネルギー抑制感と言いましょうか。この作品でのThigpen役がギタリストHerb Ellis、素晴らしいカッティングから繰り出されるタイトなリズムがPeterson, Brownと合わさり鉄壁のスイング感を聴かせています。ここに文句なしのリズム・ヴァーチュオーゾ、Stan Getzのテナーサックス・プレイが加わることで、リズムの縦軸〜横軸がしっかりと組み合わさり、音の空間に恰もつづれ織りの織物が編まれる様相、三つ巴ならぬ四つ巴状態でタイムを聴かせる演奏に仕上がっています。タイムの良いプレイヤーは間違いなく演奏内容も素晴らしいものです。本作の充実ぶりはジャケ写ミュージシャンの笑顔に如実に現れていると言えます。さぞかしメンバー全員レコーディング中に楽しく充実した時間を過ごした事でしょう。
収録曲の内容に触れて行きましょう。1曲目I Want To Be Happy、ここでの演奏に当メンバーでのスイング感のエッセンスが全て凝縮されています。猛烈なリズムの坩堝、その中でもEllisのカッティングを聴くとギターは強力なリズム楽器なのだ、と再認識してしまいます。よく聴けば2, 4拍のアクセント付けの他にさり気なくお茶目な技を沢山披露しています。この業師のリーダー作「Thank You, Charlie Christian」はタイトル通り、尊敬する先輩ギタリストCharlie Christianに捧げられた作品です。本作でのバッキング担当の側面よりも、前面に出てソロイストとしての本領を発揮しています。
PetersonのトリッキーなイントロからGetzの付帯音まみれの素晴らしい音色でテーマ奏が始まります。う〜ん、何とカッコ良くスイングしてるのでしょう!演奏が始まったばかりなのにこの時点で既に納得してしまいます!この位の速さのアップテンポでリズム、ビートの要がドラムスのトップシンバルやハイハットではなく、フルアコ・ギターのカッティングとは実に見事です!勿論その分野の名手でなければやり遂げる事はできませんが。テーマ部の最後のブレークでのピックアップ以降、ベースがそれまでの2ビートから4ビート〜スイングに移ります。はじめの1コーラスはピアノのバッキングはお休み、Ellisのカッティングが繰り出すビートの独壇場です。2コーラス目途中からピアノのバッキングが始まりサウンドが厚くなりますが、その間ずっと続くGetzのソロのリズミックでメロディアス、巧みなフレージング、その展開に舌を巻いてしまいます!Getzの最後のフレーズを受け継いでPetersonのソロが始まります。ピアノを楽々と弾きこなし、鳴らしているのが手に取るが如く伝わります。ピアノを弾くために生まれて来たかのような恵まれた体格、迸るゴージャスさ、生来のテクニシャン。そして8分音符の滑舌、グルーヴに独自のものがあるスタイルはArt Tatum, Nat King Coleの直系ですが、ワンアンドオンリーなテイストを確立しています。その後再びGetzのソロが始まりますがPetersonのソロにインスパイアされたのか、やり残した諸々を的確に披露し更にスイングしています。ラストテーマは再び2ビートフィールに戻り、エンディングの仕掛けにも工夫がなされ、テナーのHigh F#音(Getzの使用楽器ではフラジオ音です)、メジャ−7thの音で終わっています。
3曲目は5曲連続のバラード・メドレー、参加ミュージシャンが一人ずつフィーチャーされます。メドレ−1曲目はGetzの演奏でBewitched, Bothered, Bewildered、この人はバラードが異常なくらい上手ですね、素晴らしい!フェイザーがかかった如きスモーキーな音色、意表をつくメロディフェイクで1コーラスを歌い切ります。続く2曲目EllisをフィーチャーしたI Don’t Know Why I Just Do、16小節ほどの短い演奏です。そしてPetersonの出番、How Long Has This Been Going Onを饒舌さと切なさを混じえて聴かせてくれます。次はBrownのピチカート演奏によるI Can’t Get Started、とても「言い出しかねて」とは思えないハッキリとした、むしろ「仕切りたがり」屋のメッセージを持ったプレイです(笑)。メドレー最後はGetzの再登場でしっかりと締めています。曲はPolka Dots And Moonbeams、テナーの上の音域を生かしたハスキーな語り口、グリッサンドやハーフタンギングを用いつつ美の世界を徹底的に表現しています。
ここまでがレコードのSide Aになります。
4曲目もバラードI’m Glad There Is You、冒頭EllisとGetzのDuoでメロディが演奏されますが、Getzはここでも信じられない程のイマジネーションでメロディを、更にドラマッチックに奏でています。本当にこの人のバラード演奏はいつも聴き惚れてしまいます!他のプレイヤーとは違う別な特殊成分が鳴っているので、何かがテナーサックス楽器本体の中に施されているのでは、とまで考えてしまうほどの音色です!サビをEllisに任せ、ギターの最後のフレーズをBrownがキャッチして反復、「おっ!」とばかりに一瞬出遅れて途中からGetzも参入(これは二人とも凄い瞬発力です!)し、メロディに戻ってFineです。前曲のバラード・メドレーの番外編ですが、また違ったテイストを聴かせてくれました。
5曲目はGetzのオリジナルTour’s End、スタンダードナンバーSweet Georgia Brownのコード進行に基づいています。リズムセクションの仕掛けが面白いです。この曲でもEllisのギターカッティング、Brownのベースが実にグルーヴしています!テナー、ピアノ、ギターとソロが続きますが、伴奏ではあれほど気持ち良いタイムでのカッティングを聴かせるEllisですが、ソロになると若干タイムが早く、音符も短めに感じます。コンパクトな演奏時間にジャズの醍醐味がぎゅっと詰め込まれた演奏に仕上がっています。
6曲目I Was Doing All Right、Gershwinの古いスタンダードナンバーをGetzが小粋に唄い上げます。A-A-B-A’構成、サビであるBの6~8小節目、コード進行が他よりも細かく動くところで、Getzは敢えて音量を小さくしてメロディを吹いています。複雑なコード進行を聴かせるためなのか、何なのか、これはソロコーラス時のフレージングやラストテーマの同じ箇所でも行われており、元々音量のダイナミクスが半端でないGetzにして、一層さり気ない表現のコンセプトを感じます。テナーソロが1コーラス演奏され、ピアノソロが半コーラス、サビからラストテーマになり、エンディングはイントロに戻ります。力の抜けたGetzの鼻唄感覚の演奏を楽しむ事が出来ます。
ラストの7曲目はGetzのオリジナルBronx Blues、取り敢えず曲のキーだけ決めて演奏を始めた感じのラフなテイクです。特にテーマらしいメロディが無いので録音に際して手慣らしで始めたテイクかも知れません。ギターのソロからベース、ピアノ、テナーと加わって行き、各々の短いソロのトレードを繰り返して行きます。Getzのソロで終わりかと思いきや、もう1 コーラス続いてFine、他の収録曲に比べて緊張感を欠いているように聴こえます。90年CDでリリースされた際に4曲が追加されましたが、Bronx Bluesを収録するよりも、よりクオリティの高いテイクがあったと思います。例えばCD10曲目の Sunday、Ellisのギタータッピングによるバッキングが聴かれますが、これは秘密兵器、飛び道具です!全曲タッピングでは飽きてしまうかもしれませんが、1曲だけ入る事で他の曲との対比になり、スリリングなバラエティに富んだ作品に変化します。Getzのソロの途中から普通のカッティングに戻り、ピアノソロで再びタッピング、Ellisさん器用な方ですね!演奏中のPetersonの唸り声も大きくなっている気がします。という事でこの曲をラストの締めに持ってくるべきだったと感じます。
今回はGene AmmonsとSonny Stittのサックス・バトルによるアルバム「Boss Tenors」を取り上げてみましょう。
1961年8月27日Chicago録音 Verve Label Produced By Creed Taylor
ts)Gene Ammons ts,as)Sonny Stitt p)John Houston b)Buster Williams ds)George Brown
1)There Is No Greater Love 2)The One Before This 3)Autumn Leaves 4)Blues Up And Down 5)Counter Clockwise
同じ楽器同士のバトルを聴くのはジャズの醍醐味の一つです。以前当Blogで「Sonny Side Up」でのSonny RollinsとSonny Stittの壮絶なテナーバトルについて取り上げましたが、今回のバトルにもStittが参加しており、そのお相手は極太、豪快テナーのGene Ammonsです。Stittは「Sonny ~」の時とは打って変わり(前作ではバトル相手を意識しすぎて一人ムキになっていましたが、Rollinsの方は自分のペースをキープしていました)、リラックスしてAmmonsとのバトルを心から楽しんでいるように聴こえます。バトルと言うくらいですから格闘技系のファイトも手に汗握り、スリリングですが、この作品のようなお互いを尊重し談笑するが如きバトルも良いものです。ファイター同士の相性、置かれた状況によりバトルの内容は変わります。Stitt, Ammonsのテナーコンビは好評だったらしく62年2月18日「Boss Tenors In Orbit」(Verve)、翌19日「Soul Summit」(Prestige)と2日連続で異なるレーベルに2作立て続けにレコーディングしています。
「Boss Tenors」は61年Verveに移籍したばかりのプロデューサー、Creed Taylorにより製作されています。後年自己のレーベルCTIにて数多くの名盤をプロデュースしていますが、その敏腕はこの作品でも既に発揮されています。ミュージシャンの人選、選曲、ソロの采配、レコードのA面にThere Is No Greater LoveやAutumn Leavesと言ったメロディアスな曲目を配し、B面にBlues Up And Down等のハードブローイングなブルースを置き、メリハリをつけています。若干19歳のBuster Williamsの初レコーディングも特記に値します。Boss Tenorsのタイトルは前年60年にAmmonsがリリースしたアルバム「Boss Tenor」、そして彼のニックネームである”The Boss”に由来します。
Ammons, Stittの2人は45年から49年頃までボーカリストBilly Ecksteinのビッグバンドでの共演歴を持ち、若い頃に同じ釜のメシを食べた間柄、久しぶりの共演もさぞかし昔話に花が咲いた事でしょう。ジャケ写でもStittが自分のマウスピースを指差しながら楽しげにAmmonsに話しかけ、AmmonsもさすがBossの風格でStittに微笑みかけています。
それでは曲目ごとに触れて行きましょう。1曲目スタンダード・ナンバーでお馴染みThere Is No Greater Love、リズムセクションによるオシャレなイントロに引き続きStittがアルトで艶やかにメロディを奏でます。Boss Tenorsなのに何故アルトで冒頭曲を演奏するのかイマイチ良く分かりませんが、その辺のラフさ加減がジャズなのでしょう、きっと。8小節づつ交代にメロディを演奏しますが続くAmmonsの音色のインパクトと言ったら!音の密度とコク、サブトーン、付帯音の豊かさ、テナー音の太さコンテストがあったとしたら上位入賞は間違い無いでしょう。物の本からの情報とジャケ写から判断すれば、この頃のAmmonsの使用楽器はConn 10M、マウスピースはBrillhart Ebolin 4☆(白いバイトプレートが特徴的)、リードはRico 3番と、にわかには信じられないソフトなセッティングです。そしてそして、何より8分音符のレイドバック加減、タイムの位置がとても気持ち良く、僕には完璧です!Dexter Gordonの8分音符も実に素晴らしいタイムの位置で演奏されていますが、そのレイドバックがちょっと度が過ぎるように聞こえる時があります。Ammonsテナーサックスの下の音域を駆使してBossとしての威厳をしっかりと示すべくメロディで最低音のC音に落ち着く時、テーマの16小節目ではそのままサブトーンで演奏して音の太さをアピールしています。テナーサックスを演奏される方ならば最低音のC音をサブトーンを用いて一発で出すことの難しさをご存知だと思いますが、ダーツで常に標的の中心bull’s-eyeに矢を命中させるかの如き精度が要求される奏法です。ソロの先発はメロディを引き継ぎAmmons、ブレークでのピックアップ・ソロから「キメ」ています。Ammonsの8分音符の素晴らしさを先ほど述べましたが1’20″から始まる16分音符によるフレージング、実はイケていません。ここだけに留まらず全般的に言えるのですが、音符の長さが急に短くなりリズムの位置もかなり前に設定され、タンギングも8分音符の際のスムースさがなくなり指とタンギングが合わなくなります。アジと言えばアジには違いないのですが、8分音符の延長線上で確実に16分音符を演奏出来ていたならば、Gene Ammonsの名前はジャズ史にさらに克明に残されていたかも知れない、と僕は感じるのですが。1’28″で聴かれるB♭音でのオルタネート音、4曲目で炸裂するホンカーの兆しを感じさせます。1’38″辺りのLow C音、今回は実音でブリっと出して発音を変えています。ソロは1コーラス、この後Stittのアルトソロが始まります。Ammonsと異なり8分音符自体グッと前で演奏されますが、16分音符は8分音符の延長線上で演奏されるので、それはそれで一貫したものを聴き取ることが出来ます。流暢にフレーズを繰り出すスインガー振りは見事です。3’34″から40″で聴かれるメロディアスなフレーズは、学生時代ジャズ喫茶でこのレコードがかかると皆んなで口ずさんだものです!Stittはソロが長い傾向にありますが、ここでもAmmonsの倍2コーラスを演奏してラストテーマに繋げています。Ammonsのテーマの C音4’32″では低音域に降りず中音域のCに上がって収め、上手い具合に表情を変えています。サビで2管のハーモニーを聴かせるのも粋ですね。ラストは逆順のコード進行で大人のトレードが聴かれ大団円でFineとなり、この曲での代表的な名演奏が生まれました。
2曲目はAmmonsのオリジナルThe One Before、いわゆるリズム・チェンジのコード進行でのナンバーです。ソロの先発Ammonsは1曲目よりもテンポが早い分、8分音符主体で演奏しているのでレイドバック感が生きています。続くStittは音の太さ、豪快さではAmmonsに及びませんが、舞の海状態でフレーズ、技のデパート振りを遺憾無く発揮し場を活性化させています。Houstonのピアノソロ、そしてWilliamsのベースソロに続きます。19歳でこれだけのクオリティのソロを聴かせられるのはやはり栴檀は双葉より芳しですね。
3曲目はお馴染みAutumn Leaves、印象的なイントロからテーマ演奏、1曲目同様メロディを8小節づつ演奏、先発はStitt、後続Ammons共にメロディラインに工夫が施され、あまりにポピュラーなこの曲に当時としては新しい風を吹き込んだのでは、と思います。曲のコード進行にもアレンジが施され、something newを聴かせています。ソロはAmmonsから、アレンジされたコード進行への流暢な処理も含め実に男の色気、歌心をこれでもかと聴かせ、さぞかし女性ファンが多かったのではないかと感じさせます(笑)。Stittも巧みに手持ちの幾多のフレーズの中からその場に合ったものを確実に繰り出し、職人芸を披露しています。続くピアノ、ベースソロを経てラストテーマに突入、エンディングの処理も見事です。同様に枯葉の代表的な演奏の誕生です。ここまでがレコードのSide Aになります。
4曲目は本作のもう一つの目玉Blues Up And Down、Ammons, Stitt共作によるブルース・ナンバー、ツーテナーのセッションで僕も昔よく演奏した曲です。ここでは二人のホンカー振りが炸裂です!イントロからテーマ、ソロは両者で12小節〜4小節と小刻みにトレード(引用フレーズもキマっています)された後Ammonsのソロ本編に移行します。やはり8分音符のノリがしっかりしているので、タイムをどっしりと聴かせます。Stittがフレーズを聴かせるのに対しAmmonsはタイムと音色を中心にアピールしていると受け取れます。フレージングの合間に聞こえる感極まった掛け声はStittに違いないでしょう。中音域C音のオルタネート音を交えながらグロートーン、ドラムスのBrownも良い感じに煽っています!そしてStitt、流麗にソロを構築して行く様は流石!その後両者の12小節〜4小節〜1小節バース、極め付けはルート音連発による2拍バース!否が応でも盛り上がってしまいます!その後は再びイントロに戻り、テーマは演奏されずともFineです。
5曲目最後を飾るのは再びブルースナンバー、Stitt作のCounter Clockwise。テンポがグッと遅い分リラックスした印象を与えます。「反時計回り」の割りにはこちらも先発ソロはAmmons、ブルーノートを中心にレイジーにソロを取ります。シンプルなフレージングですがよく聴くとジャズ的なポイントを所々押さえているので、飽きることがありません。さり気なく流石です!リズムセクションがメリハリを付けるべく倍テンポにチャレンジしますが、Ammonsは意に介さず我が道を行きます。続くStittは相変わらず流れるようにソロフレーズを発しています。ピアノ、ベースソロの後ドラムスとの4バース、テーマに戻り終了となります。お疲れ様でした!
今回はトランペッターChet Bakerの作品、1977年録音リリース「You Can’t Go Home Again」を取り上げてみましょう。
1)Love For Sale 2)Un Poco Loco 3)You Can’t Go Home Again 4)El Morro
tp)Chet Baker ts)Michael Brecker g)John Scofield el-p)Richie Beirach, Kenny Barron, Don Sebesky b)Ron Carter el-b)Alphonso Johnson ds)Tony Williams perc)Ralph McDonald fl)Hubert Laws as)Paul Desmond arr)Don Debesky
Recorded At Sound Ideas Studio, NYC Feb. 16, 21 & 22 and May 13, 1977 Horizon Label Producer: Don Sebesky
77年フュージョン全盛期にレコードでリリースされた時には4曲収録、2000年本テイクの他に追加テイク、別テイク、未発表テイクが計16曲も加わったCD2枚組で再発されました。多作家で知られるBakerですが、これほどフュージョンとカテゴライズされる演奏をしたアルバムは他にありません。とは言えBaker自身の演奏はいつもの枯れたトランペットの音色で、淡々とソロを取る、特に何か変わった事に挑んでいる訳でもありません。体調も録音時に万全とは言えずミストーンを結構連発していますが(現代ならばパンチイン、パンチアウトのテクノロジーを駆使して修正すると思います)、彼にしか成し得ない味わいを聴かせています。この作品の豪華な参加メンバー、Don Sebeskyの巧みなアレンジ、プロデュース、随所に聴かれる同じくSebeskyアレンジのストリングス・セクションが織り成す煌びやかなサウンド、フュージョン界のスター2人Michael Brecker, John Scofieldのこれでもか!と言う程の超イケイケプレイ、Alphonso JohnsonとRon Carterのエレクトリックとアコースティックのベース・バトル(!)、Tony Williamsのハードロック・テイスト・ギンギンなドラミング、しかもそれらが有名なスタンダード・ナンバー他を題材にしており、レコードのSide A収録の2曲、Side Bの2曲目にはBakerの存在感はありません。リーダー以外のメンバーの音符のスピード感、グルーヴ感、インプロヴィゼーションやインタープレイ、サウンドのセンスのハイパーさはBakerとは全くかけ離れています。このようにリーダーの音楽性やカラーとは全く関係ないところで共演者が恐ろしい程に盛り上がっている様は、戦前国家元首に清朝最後の皇帝、愛新覚羅溥儀を担ぎ出して傀儡政権を樹立した満州国を思い出してしまいます(爆) いささか大げさな表現かも知れませんが、それほどジャズ史上かなり特異な位置に存在するアルバムだと思います。
曲毎に見ていきましょう。1曲目Cole Porterの名曲Love For Sale、イントロからベース、バスドラム、ギターのカッティング、パーカッション、ストリングスが怪しげに響き、これから起こりうるであろう13分近い音のカオスを暗示しています。A-A-B-A構成のこの曲、まずAの部分をBakerが飾り気なくストレートにメロディを吹きます。続くAはMichael Breckerの出番、凄い音圧感です。華麗にメロディを演奏する後ろでBakerがオブリガードを入れています。それにしてもこのテナーの音色、とてもエグいですね!Blogで何度も紹介していますが、使用テナーサックスはAmerican Selmer Mark 6 シリアルナンバーNo.67,853、マウスピースはOtto Link Double Ring6番、リードはLa Voz Med. Hardです。サビに当たるBがスイングのリズムになりますが実にスムースにカッコよくリズムが変わります。さすがMiles Davis Quintetで研鑽し合ったコンビRon Carter~Tony Williams、スイングではCarterのベースが主導権を握ります。Bakerによるテーマも引き続き外連味なく演奏されます。Bサビ後Aメロディは演奏されずにイントロと同じ雰囲気(ヴァンプ)に戻り、ワン・コードでソロが始まります。ソロの先発はBrecker、リーダー自身の先発では企画の趣旨が違って来ます。この時若干27歳!既にどっしり落ち着いた風格を感じさせています。タイム感といいテナーサックスの習得度合、フレージングのアイデア、オリジナリティ、早熟の天才です。個人的にはここでのソロはパターンやリックにやや頼り過ぎてメカニックな印象を与えていると感じます。実は翌78年にはこの点がかなり改善されるのですが。断片的なモチーフを重ねつつソロの構築に挑みますが、その後ろでバッキング担当のメンバーが実に巧みに、研ぎ澄まされた音の空間を埋めています。それも決してtoo muchにならずに。BeirachのおそらくFender Rhodesによるバッキングの緻密なコードワーク、テンションの用い方。John Scoのシャープで遊び心満載のカッティング。TonyがBreckerの2’21″~23″の「割れたHigh F音」のインパクトにロール・フィルを入れています。リズム隊全員がごく自然にその場で瞬時に役割分担をしつつ、最も相応しい音を空間に投入しているかの如くです。何気にMcDonaldが叩くリズム・オンのカウベルが素晴らしいタイムを提供していますが、Bセクション、スイング・ビートになっても2拍飛び出しているのが微笑ましいです。普通後からこの部分は消去されるのですが、ひょっとしたらスタジオ・ライブ感を大切にして音の編集は後被せのストリングスのみ、演奏自体には編集が施されていないかも知れません。MichaelのAセクションでのソロはとことん盛り上がり、起承転結の結は突然訪れますがしっかりと落し前をつけています。Bセクションでのコード進行Ⅱ-Ⅴ-Ⅰのジャジーな音使いには流石、と頷いてしまいます。その後Aセクションも演奏され、再びヴァンプに戻ります。
続くソロ2番手はBaker、自分のペースをしっかり維持しながら歌を繰り出していますが、このメンバーとでは会話の様式が異なっているようです。リズムセクションもどうアプローチしたら良いものかと、探りを入れつつ演奏しているように感じます。Michaelのソロと同様B, Aセクションを演奏して次のソロの3番手John Scoの登場です。ギターの機能を生かしつつのホーンライクなソロ、音色、タイム感、ピッキング、アプローチ、全てカッコ良過ぎです!リズムセクションはもはや水を得た魚状態、Tonyを始めBeirach, Alphonsoの煽り方が尋常ではありません!メチャクチャ盛り上がっています!当時我々はこのようなファンクのリズムでのワン・コードのアドリブ、とことん盛り上がる形態の演奏を「ど根性フュージョン」と呼んでいました(笑) この演奏を聴くとやはりBrecker, John Scoの二人が思いっきり演奏している作品、Herbie Hancockの「The New Standards」を思い出しますが、実はこの作品の一連のコンサートではHerbieがブッチギリでスゴかったです!
同様にB, Aセクションを経て今度はベーシスト二人のバトルが始まります。直前のJohn ScoのフレージングにBeirachが彼らしいレスポンスをさりげなく聴かせています。ベーシスト二人をフィーチャーした作品ならばベース・バトルも聴くことが当然ですが、トランペッターがリーダーで、テナーサックスやギタリスト、パーカッション等のウワモノが参加した比較的大所帯の作品ではとても珍しい事です。しかもエレクトリックとアコースティックとなれば、プロデューサーSebeskyが以前から温めていた企画を実現させたのではないでしょうか。AlphonsoはWeather Reportを前年退団、テクニカルで歌心溢れるプレイには定評がありました。Carterも当時飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍していたスーパー・ベーシストです。どちらかと言えばソロイストと言うよりもバッキングに長けた二人ですが、ここでは丁々発止と掛け合いを行っています。バトルの後半に聴かれる管楽器二人のバックリフも印象的です。ヴァンプからラストテーマはAセクション一度だけ、その後はBaker, MichaelのバトルがBakerのペースにMichael合わせつつ行われ、Fade Outです。冒頭とエンディングの速さが全く変わっていないのでクリックを鳴らしてレコーディングしたのかも知れません、ストリングのオーヴァーダビングの関係もありますから。
2曲目Bud Powellの名曲Un Poco Locoは自身の「The Amazing Bud Powell, Vol.1」収録、スペイン語のタイトルですが意味は英語でA Little Crazy、ここでの演奏はA LittleどころではないToo Much Crazyです!ハードロックのリズムで演奏するなんて作曲者Bud Powellが聴いたら怒り出す、いやいや、むしろ喜んで面白がるかも知れません!サビはスイングで柔らかいBakerのメロディ奏です。対旋律の上昇音階担当、ギターのタイトさといったら!ソロの先発はそのJohn Sco、切れ味良いハードロッカー振りを聴かせます。フレージングはコンディミ・サウンド・エグエグですが!それにしてもTonyってこんなにロックドラマーでしたっけ?そうでしたね、確かに彼のバンドLife Timeはロックバンドでした。Alphonsoのベースが大活躍です!続くMichaelのソロもギンギンのJewish-Coltraneサウンド全開です!(ここでも1曲目同様パターンやリックに頼り気味が気になりますが)そう言えばMichael含めてBaker, John Sco, Beirachは全員ユダヤ系アメリカ人でした。続くBakerのソロは一転してCarterのベースのみ従えてクールダウンした3拍子、Bakerコーナーを設置したSebeskyの采配が光ります。Beirachのバッキングが素晴らしいです!彼は88年5月に没したBakerのトリビュート・アルバムを翌89年にMichael, John Sco, Randy Brecker, George Mraz, Adam Nussbaum達と「Some Other Time: A Tribute To Chet Baker」として録音、リリースしています。
その後はTonyのドラムソロからラストテーマに入りますが、突入合図のフィルイン後一瞬ベースが出遅れて「おっと!」とばかりに態勢を立て直します。ずっとフォルテシモで激しい演奏の中、Bakerの演奏が癒し系になっていると言えば聴こえが良いかも知れません。
3曲目は本作唯一のBaker本領発揮テイク(笑)、Sebesky作曲You Can’t Go Home Again、スイートな曲想にBakerのトランペット、Paul Desmondのアルトサックス、ストリングスが見事に合致します。実に美しい演奏です。再発時に追加された16曲の多くはこちら側のコンセプトの演奏、Bakerはお得意のヴォーカルも披露しています。同じ音楽的方向性を有する管楽器奏者が2人集まることによりサウンドの厚みが倍増以上になりました。2作分の全く異なった作品を同時に録音し、強引に1枚のアルバムに纏めたために無理が生じたように感じます。ピアニストもKenny Barronに交替しますが、時代を反映して彼にもエレクトリックピアノを弾かせています。
曲のタイトルYou Can’t Go Home Againの意味は諺からの転用で、一度家を出て自立を始めれば自分自身も変わり、その家を取り囲む環境も昔と同じではない事から二度と同じ家に戻ることはできないという事です。つまり自立しているなら実家に戻って昔と同じ生活に馴染むことは出来ないと言う意味です。でも最近北米では学生ローンの支払などの為一度独立した後、実家に舞い戻って親と同居する人が増えていてYes, you can go home again! などとも言われているそうです。何処も世知辛いですね!
4曲目アルバム最後のナンバーは再びSebeskyのオリジナルEl Morro、自身の作品75年録音、リリース「The Rape Of El Morro」収録の同曲再演になります。
スパニッシュ・ムード満載のイントロではアコースティック・ギターやHubert Lawsのバスフルートが効果的に使われています。Bakerのスローテンポでのムーディなテーマの後、テンポが変わりMichaelの気持ちが入りまくったメロディ奏になります。分厚いストリングス・サウンドやパーカッションを効果的に用いた壮大なテーマのアンサンブル後、Michaelのソロになります。スペーシーに始まりかなり長いスパンのソロスペースが与えてられていますが、実は冗長さを否定できません。Michaelのソロに統一感が希薄な事に起因してか、共演者に説得力あるストーリーを語りきれずに終始しています。アンサンブルを経てBakerのソロ、この演奏にも特にハプニングを感じる事は出来ませんでした。レコードSide B2曲目はEl Morroを収録せず、You Can’t Go Home Again側の小品を2曲、例えば1曲Bakerのボーカル曲を選び、Side AはHard Side、Side BはBaker本来のSoft & Mellow Sideとはっきりと分割すればかなり印象の異なるアルバムに仕上がった事と思います。
今回はSonny Rollins 1957年録音の作品「The Sound Of Sonny」を取り上げてみましょう。
1)The Last Time I Saw Paris 2)Just In Time 3)Toot, Toot, Tootsie, Goodbye 4)What Is There To Say? 5)Dearly Beloved 6)Ev’ry Time We Say Goodbye 7)Cutie 8)It Could Happen To You 9)Mangoes
ts)Sonny Rollins p)Sonny Clark b)Percy Heath(2, 3, 5~9) Paul Chambers(1, 4) ds)Roy Haynes
Recorded In NYC June 11(5, 6, 8), June 12(2, 3, 7, 9), June 19(1, 4), 1957 Produced By Orrin Keepnews Riverside Label
当時最先端のスタジオ・レコーディング用マイクロフォンNeumannの前でSonny Rollinsがサックスを構えるジャケ写が印象的です。実際にはこれ程近づけて収録する事はないので、写真撮影用のポーズと思われます。楽器もAmerican Selmer Mark6、Front F keyの貝殻が小ぶりな事からシリアル5万〜6万番台と推測出来ます。当時の現行モデルですね。
本作は前回Blog「Coltrane Jazz / John Coltrane」でも挙げましたが、「Sonny Rollins, Vol.2」というオールスターによるハードバップの名作をレコーディングした直後の作品、前作が大熱演だったためかリラックスした内容に仕上がっています。更にウラ「Saxophone Colossus」とも称される次作「Newk’s Time」に挟まれた形になります。本作録音の57年と言う年はモダンジャズの黄金期、最も華やかに煌びやかにジャズが賑わっており、ジャズ史を代表する名盤が量産されました。Rollinsも同年は「 Sonny Rollins, Vol.1」(Blue Note)「Way Out West」(Contemporary)「Sonny Rollins, Vol.2」(Blue Note)「The Sound Of Sonny」(Riverside, 本作)「Newk’s Time」(Blue Note)「A Night At The Village Vanguard」(Blue Note)「Sonny Side Up」(Verve, Dizzy GillespieとSonny Stittとの共同名義)とリーダー作を1年間に7作も立て続けにレコーディング、しかも何れもがRollinsの代表作なのです。飛ぶ鳥を落とす勢いとはまさしくこの事、快進撃を遂げていました。これら7作品中本作が最も小唄感が強く、1曲の演奏時間も短いためにメンバーとの丁々発止のやり取り、熱く燃えるソロはあまり聴かれず、どちらかと言えば比較的影の薄い存在のアルバムですが〜単に他の作品が濃過ぎるのかもしれません(汗)〜、僕はRollinsの演奏の原点がスポンテニアスな「鼻唄感覚」と捉えているので、彼のエッセンスがシンプルに発揮された作品としてずっと愛聴しています。フルコースの晩餐も良いですが猛暑にはやっぱりざる蕎麦でしょう(笑)。更に収録曲には各々Rollins本人と思われる、曲の魅力を十分に引き出しているアレンジが施され、聴き応えを倍増させています。後ほど触れますがアレンジのテーマは「ブレーク」です。
Riverside LabelからRollinsの作品がもう一枚リリースされています。58年録音「Freedom Suite」
こちらはb)Oscar Pettiford ds)Max Roachとのテナー・トリオでの作品、表題曲Freedom Suiteが19分以上の演奏時間から成る、リズムやテンポ・チェンジを繰り返しつつ進行する組曲で、レコードのA面を1曲だけで占めている当時としては珍しい形態の意欲的な作品です。本作とは対照的なコンセプトの作品です。
ピアニストSonny ClarkはRollinsと初共演、的確なアプローチのスインギーなソロを聴かせ、Rollinsのソロにも付かず離れずのバッキングで対応しています。翌58年には名盤「Cool Struttin’」を録音していますが、63年1月ヘロインの過剰摂取による心臓発作で31歳の生涯を閉じました。
ドラマーRoy Haynesは25年生まれ、現在93歳(!)、Lester Young, Charlie Parker, Bud Powell, Sarah Vaughan, Stan Getz, Chick Coreaとモダンジャズのレジェンド達との共演、その枚挙には遑がありません。Rollins自身も30年生まれの今年88歳、本作録音から61年経た現在に於て参加ミュージシャンが二人も存命とは素晴らしく長寿です!Rollinsのリーダーセッションとしては初リーダー作「Sonny Rollins With The Modern Jazz Quartet」収録のMiles Davisがピアノを弾いている謎のナンバー、I Knowで共演を果たして以来です。因みにその時のベーシストも本作のPercy Heathです。もう一人のベーシストPaul ChambersはRollinsのお気に入り、RollinsオリジナルのPaul’s Palで彼への思いを表しています。
本作は57年6月11, 12日のセッションではHeathを、6月19日のセッションではChambersを起用しています。Chambersが演奏するテイクは1曲目と4曲目のバラードです。Heathのベースには安定感がありますが些かタイムが重いように聴こえます。一方Chambersは当Blogでも何度か触れていますが、On Topを信条とした素晴らしいベース・ワークを聴かせています。Rollinsもレイドバックしたタイム感が実に素晴らしく、このタイム感とOne And Onlyのテナー音色が合わさりRollins節を聴かせるのですが、レイドバックの必要条件としてリズムセクション、特にベーシストのOn Top感が欠かせません。Heathのベースで一枚アルバムを作りたかったけれど(そのために通常のレコーディング・スケジュールで2日間連続拘束)、どうしても1曲目のシカケのある曲とバラード2曲のテンポが遅くなってしまうので、確実に安定した演奏を提供できるChambersを呼び、他は同じメンバーで1週間後に再演したのでは、と想像しているのですが如何でしょうか。だったら初めからChambersを呼べば良いだろうとは友人の弁です。
その1曲目The Last Time I Saw Paris、Parisを題材にした曲は数多くありますが、こちらは如何にもブロードウェイ・ミュージカル・ナンバー、ユーモラスな雰囲気を感じさせるのは曲想の他にリズムセクションのシカケも要因です。この曲のみピアノレスのトリオ編成なので余計にシカケがくっきり浮き上がり、テーマ後の小節のアタマにアクセントが入り1小節ブレーク、そのまま1コーラス32小節丸々このシカケが入ります。Haynesも茶目っ気があるので25, 29, 31小節目に複数のアクセントを連打しています。合計3コーラスをRollins一人の吹きっきり状態、ブレークをものともせずソロを構築して行くスイング感、センスには脱帽してしまいます!この曲のベーシストはChambersですが冒頭のテンポに比べて後テーマは流石にブレークを繰り返したために若干テンポが遅くなっています。ChambersをしてもこうですのでHeathならばどうであったのか…Rollinsのソロ終了直後1’52″で「アッ」と声が入りますが声の主は多分Haynes、テナーソロの素晴らしい出来栄えに思わず声が出てしまった感じの発音です。
2曲目Just In Time、こちらもブロードウェイ・ミュージカルの代表的ナンバー、小気味好いテンポ設定にメロディを3拍-3拍-2拍に分割して変拍子のように聴かせています。更に2小節のブレーク時、オクターブ下でのメロディ奏に対し一人Call And Response状態、敢えてオクターブ上でのカッコいいフィルインを吹いています。本編のソロも決してtoo muchにならずメロディを踏まえて小粋にスイングしています。続くSonny Clarkのピアノソロ、Wynton KellyやRed Garland, Tommy Flanaganとはまた異なるテイスト、僕はかなり好みです。続くHaynesとの4バース、こちらもPhilly Joe JonesやMax Roach, Art Blakeyとは全く異なる独自のドラム・フレージング、こちらも相当好みです。
3曲目Toot, Toot, Tootsieは27年のThe Jazz Singerと言うミュージカル映画から、古き良きアメリカの雰囲気満載のナンバーです。チャールストンというリズムでClarkもそのコンセプトを把握したバッキングに徹しています。ピアノソロ後に一瞬ベースの音が聞こえなくなるのはドラムソロか、自分のベースソロかとの選択を迫られ躊躇した結果でしょう、生々しさが伝わります。結局ドラムとの4バースに突入、その後半音づつブレークをしながら同一フレーズで3度転調を繰り返し、Cメジャーから単3度上のE♭メジャー(in B♭)にキーが変わりラストテーマは演奏されずにエンディングを迎えます。これまたブレークを生かしたカッコいいアレンジが施された演奏になりました。
4曲目はバラードWhat Is There To Say、こちらもベーシストがChambersに代わります。サブトーンを生かした「ザラザラ、シュウシュウ」豊富な付帯音でのテーマメロディ奏の後ピアノソロが先発します。その際一瞬Clark「えっ?オレなの?」と予期せぬRollinsからのソロ先発依頼、バッキングのつもりの音使いから急遽ソロに突入です。その後テナーがサビからメロディフェイクを交えつつラストテーマへ、サビ後はキーが半音上がり、更にカデンツァを経てFineです。
5曲目Dearly Belovedもブレークを生かした仕掛けが施されています。1曲目に似た構成ですが、こちらはアドリブソロの1コーラス目初めの8小節間1小節ごとにブレーク、その後の8小節は普通にスイング、更に8小節間1小節ごとのブレーク、8小節間スイングとなっています。こちらはある程度の早さのテンポ設定なので、テンポダウンする事はありませんでした。エンディングは3曲目と方法は異なりますが、同様に単3度上がってFineを迎えます。
6曲目Cole Porterの名曲Every Time We Say Goodbye、ペダルトーンが効果的に用いられたユニークなイントロに被りながら、リバーブが効いたテナーが遠くからやって来たかのように登場します。61年発表のJohn Coltrane「My Favorite Things」収録、ソプラノでの同曲のバラード演奏とはテイストが随分と異なります。
7曲目はRollinsオリジナルCutie、作曲者が同じなので仕方がない事ですが、やはりRollinsのオリジナルDoxyに何処か似たテイストの明るいナンバーです。Rollinsのソロ後本作唯一のHeathのベースソロが聴かれます。
8曲目は本作の目玉、テナー無伴奏ソロによるIt Could Happen To You。このテイクは他とは異なりリバーブ感が強く出ています。曲のメロディは断片的に出てくるだけで、たっぷりゆったりとスペースを取りながらおおらかに歌い上げており、最低音域のサブトーンと実音の使い分けに表情を感じさせます。エンディングは#11thの音を吹き伸ばし、半音上がった5度の音で解決しています。ここでの演奏がその出来映えはどうであれ、28年後の85年6月19日NYC MoMAで行われたRollins自身のテナーサックス・ソロ・コンサートを収録した「The Solo Album」に繋がります。
9曲目は本作の最後を飾るラテンナンバーMangoes。Haynesはラテンのセンスも良く、軽妙なドラミングを聴かせています。イントロ、テーマのメロディの合間に挿入されるフィルインも小洒落ています。この曲の持つ陽気な雰囲気は実にRollinsの音楽性に合致しています。スイングのリズムも交えながら曲が進行し、ラストテーマの吹き方もステキです!そしてユーモラスにアルバムの大団円を迎えます。
Stay Awake: Interpretations Of Music From Vintage Disney Films
今回は多くのトリビュート作を製作したプロデューサーHal Willnerが、Walt Disneyの映画音楽を様々なミュージシャンによる演奏でまとめ上げた傑作「Stay Awake: Interpretations Of Music From Vintage Disney Films」を取り上げてみましょう。A&M Label 1988年リリース
アメリカ人なら誰もが子供の頃から耳にしているWalt Disneyの映画音楽、多くのミュージシャンにカバーされていますが、大胆なアレンジで実に多様なアメリカン・ミュージックのジャンルのミュージシャンを適材適所に起用し、日本人も同様に昔から耳にしている名曲の数々が斬新なサウンド、文字通り新しい「音楽の解釈」に生まれ変わっています。Hal Willnerプロデュースの85年リリース、前作にあたるKurt Weillのトリビュート作「Lost In The Stars: The Music Of Kurt Weill」もとても素晴らしい内容でしたが、本作は更に上回る充実した音楽性を表現しています。
Willner一連のトリビュート作は81年リリースの「Amarcord Nino Rota: Interpretation Of Nino Rota’s Music From The Film Of Federico Fellini」から始まりました。以降ずっと継続するWillnerのトリビュート・コンセプトがここでは既に確立されています。
これらの作品に全て言えることですが、起用されているミュージシャンはロック、ポップスの世界が中心で、スタジオミュージシャンの参加も交えながら、(本作に於る)ジャズミュージシャンBill Frisell, Alex Acuna, John Patitucci, Betty Carter, Stephen Scott, Don Braden, Ira Coleman, Troy Davis, Sun Ra & His Arkestra(!), Buell Neidlinger, Branford Marsalis, Don Grolnick, Steve Swallow, John Scofield, Herb Alpertらによる演奏がとても効果的、曲によっては実に素晴らしいスパイス的な役割を担っています。例えばQuincy Jones、Creed Taylorたちも敏腕プロデューサー、アレンジャーで歴史に残るアルバムを製作していますが、Willnerはより対象を俯瞰して極めてマニアックに(ここが誰よりも半端ないのです)、更に深部に入り込んで元の演奏曲の構造自体から一度解体し、時に危なさを感じさせるまでに肉付けを行い、再構築して全く違う次元にまで昇華させています。彼のプロデュース力、企画力、アレンジ能力、ミュージシャンのチョイス、バランス〜レイアウト能力につくづく感心してしまいます。日本でもそのジャンルは全く異なり同次元では語れないかもしれませんがおニャン子クラブ、AKB48、乃木坂46といったアイドルのプロデュース、歌曲全ての作詞を手がけている秋元康氏もデビューさせるべきタレントと言う主体を発掘、育成、更にはマスメディアに映えさせる事に関しての能力に、抜きん出たものを感じます。
Hal Willnerについて簡単に触れておきましょう。1957年米国Pennsylvania州Philadelphia出身、70年代末にレコードプロデューサーJoel Dornの元で働き、その後今回取り上げた作品を含めたトリビュート・アルバムの製作で名を馳せました。81年「Saturday Night Live」を始めとするTV番組、93年電子楽器テルミンの開発者レフ・テルミンのドキュメンタリー映画「テルミン」の映画音楽、Marianne Faithful、Lou Reed、Bill Frisellといったトリビュート・アルバムに参加したミュージシャンのアルバム・プロデュースを始め、数多く手掛けました
今回は参加ミュージシャンの数が膨大ですので、メドレー(各々にタイトが付いています)や曲毎に紹介していきたいと思います。
1曲目Opening Medley (I’m Getting Wet And I Don’t Care)
a) “Hi Diddle Dee Dee (An Actors Life For Me)”は映画Pinocchioからのナンバー。ミュージシャンはvo)Ken Nordine g)Bill Frisell p, synth)Wayne Horvitz メロディをピアノが可愛らしく淡々と奏でますがFrisellのSE的な演奏、サーカスのテント内での音を模しているのでしょうか?それらの上でNordineの地獄からの声のように語られる超テノールで「サーカス以外の全てを呪え」。オープニングのムード作りはバッチリです!
b) “Little April Shower”こちらは映画Bambiからの出典。vo)Natalie Merchant vo)Michael Stipe vo)The Roches banjo)Mark Bingham ss, fl)Lenny Pickett cl)Ralph Carney marimba)Michael Blair harp)Rachel Van Voorhees cello)Jackie Mullen ハープをバックにしたボーカルから始まり、様々な楽器が入り混じりクラシカルに曲が進行します。ソプラノサックスのソロはTower Of PowerのLenny Pickett。美しい音色、正確なピッチで演奏のムードを高めています。曲が終わりかけた頃、ジャングルの音と共に遠くから、かの Weather ReportのドラマーAlex Acunaが演奏するラテンパーカッションがやってきます。
c) “I Wan’na Be Like You (The Monkey Song)” 映画The Jungle Bookからのナンバー。vo)Cesar Rosas g)David Hidalgo b)Conrad Lozano varrana)Loie Perez bs)Steve Berlin per)Alex Acuna バリトンサックスの演奏する低音のラインとソロが印象的です。ナイロン弦ギターのバッキング、ソロもイケてます!フィーチャリングボーカルのRosasはバンドLos LobosとLos Super Sevenのメンバー。The Jungle Bookは67年発表ですが2016年実写の少年とCGIアニメーションによる動物が共演する映画でリメイクされました。
2曲目”Baby Mine”、映画Dumboからのナンバー。Bonnie RaittとWas (Not Was)をフィーチャーしています。vo, slide-g solo)Bonnie Raitt vo)Sweet Pea Atkinson vo)Arnold McCuller key)Luis Resto g)Paul Jackson Jr. sax)Steve Berlin synth)Don Was fl)David Was b)John Patitucci ds)Jim Keltner The Uptown Horns: bs)Crispin Cioe ts)Arno Hecht tb)Bob Funk tp)”Hollywood” Paul Litteral 冒頭ゆったりとしたベースラインはJohn Pattitucci、8分の6拍子のリズムはいかにもアメリカンポップスを表現し、コーラスやPaul Jackson Jr.のギター、良い味付けをしています。
3曲目は”Heigh Ho (The Dwarfs Marching Song)”、映画Snow White And The Seven Dwarvesからのナンバー。さすがTom Waits怪しげな雰囲気造りに長けています。vo)Tom Waits option programming)Tchad Blake sound effects)Val Kuklowsky g)Mark Ribot b)Larry Taylor 原曲の7人の小人たちが鉱山の中で宝石を掘り出す楽しげな雰囲気とは真逆、ブラック企業で働く労働者の悲哀を物語っているかのようです(笑)
4曲目Melody Two (“The Darkness Sheds Its Veil”)
a) “Stay Awake” は映画Mary Poppinsからのナンバーで本作表題曲。Suzanne Vagaのボーカルソロです。感情移入を感じさせない淡々とした歌いは「眠らないで、コックリしないで、夢見ないで」と相手を起こし続けているシーンをイメージさせるのにうってつけです。80年代末にポップスでこう言った独唱が流行った記憶があります。
b) “Little Wooden Head”、前出Pinocchioからのナンバーで再びBill Frisell, Wayne Horvitzのコンビによる演奏、バンジョーとアコーディオンぽい音が醸し出すムードがアメリカ南部を感じさせます。
c) “Blue Shadows On The Trail”は映画Melody Timeからのナンバー。vo)Syd Straw steel-g)Jaydee Mayness harmonica)Tommy Morgan g, mandolin)John Jorgensen 比較的オリジナルのバージョンに忠実な演奏です。原曲が男性ボーカルに対し女性、ハーモニカ、スティールギターの効果的な使い方でよりディープサウスを表現しています。
5曲目Melody Three (“Three Inches Is Such A Wretched Height”)
a)”Castle In Spain”は映画Babes In Toylandからのナンバーで、ラテン色満載の楽しい演奏。Buster Poindexter And The Banshees Of Blueによる演奏です。Buster Poidexterは芸名で本名はDavid Johansen、The New York Dollsというバンドで名を馳せました。vo)Buster Poindexter vo)Ivy Ray g)Brain Kooning p)Charles Giordano b)Tony Garner ds)Tony Machine per)Fred Walcott dr-programming)Jimmy Bralower The Uptown Horns トランペッットの音色がメキシコのラテン、マリアッチを連想させます。”Baby Mine”でも演奏している The Uptown Hornsのホーンアンサンブルが効果的に用いられています。
b)”I Wonder”は映画Sleeping Beautyからのナンバーで驚異的なシンガー、Yma Sumacをフィーチャーしています。しかし何ですか!この超ソプラノボイスは!彼女は6オクターブ半の音域を操ると噂された事もありましたが、実際にはそれでも4オクターブ半の声を操る驚異的なシンガー(通常のシンガーは3オクターブ半程度の音域)。ペルー出身でインカ帝国最後の王の血を引くと言い伝えられていますが、この歌を聴けば然もありなん、と何だか納得させられてしまいそうです(笑)。ここでのオーケストラの指揮を50年代からサックス奏者、作曲家、アレンジャーとして活躍しているLennie Niehausが担当しています。ちなみに彼は俳優、映画監督Clint Eastwoodのお抱えアレンジャーで、彼が製作、監督、出演する映画の音楽を全て担当しています。写真はYma Sumac
6曲目お馴染み”Mickey Mouse March”、米国TV番組The Mickey Mouse Clubからのナンバー。メロディは基本的に同じですがテンポを遅くし、歌詞を大胆に変えてあります。ここでのボーカリストの歌い方の何と素晴らしいこと!作品中個人的に一番のお気に入りです!歌手の名はNew Orleans出身Aaron Neville、伴奏のピアニストが同じくNew Orleans出身Dr. John、コーラスを担当するのが三男Aaronの兄弟たちThe Neville Brothers 〜 長男Art, 次男Charles, 四男Cyrilです。本来子供の歌であるこの曲がMickey Mouseというキャラクターを通じて友情の大切さ、家族愛、人類愛を万人に向けて高らかに、清らかに歌っているように感じます。それにしてもなんと美しいAaronの歌声、七色の声色を使い分けているかのようです。Dr. Johnのきらびやかで重厚でゴージャスなピアノ(と多分Fender Rhodes)の音色、Neville BrothersのコーラスのダイナミクスとAaronのリードボーカルとの完璧なアンサンブル、歴史的な名演奏の誕生です。写真はThe Neville Brothers
7曲目Medley Four (“All Innocent Children Had Better Beware)
a)”Feed The Birds”は映画Mary Poppinsからのナンバー、演奏はBob DylanのバックバンドをつとめていたThe Bandのオルガン奏者Garth Hudsonを中心にしたセッション。key, accordion)Garth Hudson harmonica)Jorge Mirkin cymbal)Jay Rubin mackintosh sequencing/performer software)Steve Deutch ハーモニカの音色、アコーディオンが哀愁を感じさせます。Julie Andrewsの歌う原曲の演奏を踏まえつつ、歌詞はありませんが壮大な抒情詩に変化しました。
b)”Whistle While You Walk”は前出のSnow White And The Seven Dwarvesからのナンバーで、87年Miamiで結成されたR&BバンドNRBQによる演奏。key, vo)Terry Adams b, vo)Joey Spampinato g)Al Anderson ds, per)Tom Ardolino アレンジがカッコ良く、演奏も素晴らしい元の曲調を一新したロックナンバーに仕上がっています。
c)”I’m Wishing”は同様にSnow White 〜からのナンバー、ボーカリストBetty Carterを中心としたクインテットによるジャズ演奏が聴けます。vo)Betty Carter ts)Don Braden p)Stephan Scott b)Ira Coleman ds)Troy Davis Don Bradenのテナーサックス、ハスキーで実に良い音色です!この演奏を聴いてから一時期Bradenにハマった時期があります。彼の第2作目「Wish List」収録曲Sophisticated Ladyがお気に入りでした。
ボーカルとテナーの絡み方が実に気持ち良いです!ピアノの伴奏、ベースのタイトなライン、ドラムスのスイング感、5人の演奏が有機的に密度高く結合しています。写真はBetty Carter
d)”Cruella De Ville”は映画101 Dalmatiansからの演奏、Minneapolis出身の4人組Rock’n Roll Group、The Replacementsによる演奏。楽しげでヘヴィーなロックナンバーに変身しています。
d)”Dumbo And Timothy”もDumboからのナンバー、三たびFrisell And Horvitzの登場です。Frisellのギターサウンドが超イカしてます!プロデューサーWillnerはFrisellの作品もプロデュースしている程なので、彼の音楽性を高く評価しています。
8曲目は”Someday My Prince Will Come”、これもSnow White 〜からのナンバーになります。vo)Sinead O’Conner g)Andy Rouakeの演奏、このボーカルのひと大丈夫でしょうか?これだけピッチを外すのは狙っているとしか感じられませんが、O’Connerはアイルランド出身のセンシティブなミュージシャンと言われています。
9曲目Melody Five (“Technicolor Pachyderms”)
a)”Pink Elephants On Parade”はDumboからのナンバー。本作目玉のミュージシャン、秘密のベールに包まれた謎の集団Sun Ra & His Arkestraによる演奏です!テナーサックスにはもちろんJohn Gilmoreも在団しています! p)Sun Ra vo)Art Jenkins, T.C.Ⅲ g)Bruce Edwards b)Pat Patrick ds)Tom Hunter ds)Buster Smith ds)Aveeayl Ra Amen violin)Owen Brown Jr. fr-horn)Vincent Chaucey ts)John Gilmore as, b-cl)Elo Olmo as, fl)Marshall Allen bs)Kenny Williams tp)Fred Adams tp)Michael Ray tp)Martin Banks bassoon)James Jackson プロデューサーWillner、Sun Ra & His Arkestraをこのレコーディングに呼ぼう、参加させるという考えを持てる、発想する事自体がもはや天才的です!彼らの参加が本作の品位をぐっと高めました!「ピンク色の像の行進」だなんて彼らに全く相応しいタイトルの楽曲、演奏です!Sun Raのピアノ、Gilmoreのテナー、 Marshall Allenのフルート、メンバーによる怪しげなコーラス、トランペット・セクションのアンサンブル、Bruce Edwardsのカッティング・ギター、Vincent Chauceyのフレンチホルン、全てしっかり聞こえます!行進と言う事だからでしょうか、ドラマーが3人も参加しています。でも総じて意外とまともな演奏でした(笑)ハープの演奏がフェードインして次の曲に続きます。写真はSun Ra
b)”Zip-A-Dee-Doo-Dah”は映画 Song Of Southからのナンバーでボーカリスト、シンガーソングライターHarry Nilssonを中心とした演奏。vo)Harry Nilsson accordion)Tom “T-Bone” Walk electric-g)Arto Lindsay g)Fred Tackett g)Dennis Budimir synth)Peter Scherer p)Terry Adams b)Buell Neidlinger ds)Jim Keltner perc)Michael Blair conductor)Lennie Niehaus ミュージカル仕立てのアレンジ、演奏になっています。参加しているベーシストBuell Neidlinger、スタジオミュージシャンとして70年代から活躍していましたが、50~60年代はピアニストCecil Taylorと共演していた異色の経験を持つミュージシャンです。
10曲目”Second Star To The Right”はPeter Panからのナンバー、アメリカを代表するポップス・シンガーJames Taylorを中心としたセッションによる演奏。vo, g, whistle)James Taylor vo)The Roches ts)Branford Marsalis p)Don Grolnick b)Steve Swallow g)John Scofield acoustic-g, humming boy)Mark Bringham humming boy too!)Michael Blair オールスターによる演奏、冒頭Branfordのテナーサックスソロから始まりますが、こちらも本当に素晴らしい音色です!確かBranfordはこの頃すでに奏法をダブルリップに変えたように記憶しています。マウスピースもDave Guardalaでしょう。John Scofieldのギターオブリもよく聞こえますし、James Taylorの声質にも圧倒されてしまいます!なんと良い声、歌唱力なのでしょうか!Branfordの歌心溢れるソロもその音色と相俟って実に心打たれてしまいます!Steve Swallowのベースの存在感の確かさ、ピアノのDon Grolnickはこの頃James Taylorバンドのレギュラー、音楽監督を務めていたようです。曲が終わったかに見えてその後Jamesの口笛、The Rochesの美しいコーラスが曲のクロージングを担当、こちらも名演奏の誕生と相成りました。写真はJames Taylor
11曲目Pinocchio Medley (“Do You See The Noses Growing”)
a)”Desolation Theme”、クロージングもPinocchioからのナンバー、1曲目a)と同じメンバーによる演奏、再びKen Nordineの地獄からの(笑)メッセージをBill FrisellとWayne Horvitzがサポートします。
b)”When You Wish Upon A Star”は何とRingo Starrのボーカルがフィーチャーされます!The Beatlesの「White Album」ラストを飾るJohn Lennon作曲(しかもその前の曲がRevolution#9)、Ringoの歌によるGood Nightと同じ構成です!きっとWillnerもThe Beatlesの大ファンなのでしょう!トランペッットソロにHerb Alpertもフィーチャーされています。vo)Ring Starr tp)Herb Alpert electric-g)Bill Frisell acoustic-g)Fred Tackett acoustic-g)Dennis Budimir p)Terry Adams b)Buell Neidlinger ds)Jim Keltner whistle)Harry Nilsson Ringoの歌は以前ブログで「 Sentimental Journey」を取り上げましたが、何らそれから歌いっぷりは変わっていません。この危なげなピッチ感と声の出てなさ加減がRingoそのものなので、このままで良いのでしょう。アルト奏者Jackie McLeanが晩年マウスピースを変えて(Phil Barone)音程が随分と良くなりました。一聴McLeanに影響を受けたアルト奏者の演奏か?と感じる程で、本人の演奏とは思えず、音程の微妙な感じもその人の個性になりうると感じました。
今回はピアニストSteve Kuhnの1989年録音トリオ作品「Oceans In The Sky」を取り上げて見ましょう。
89年9月20, 21日Ferber Studio, Parisにて録音。p)Steve Kuhn b)Miroslav Vitous ds)Aldo Romano
1)The Island 2)Lotus Blossom 3)La Plus Que Lente / Passion Flower 4)Do 5)Oceans In The Sky 6)Theme For Ernie 7)Angela 8)In Your Own Sweet Way 9)Ulla 10)The Music That Makes Me Dance Owl Label France
Steve Kuhnが単身フランス・パリに赴き、Miroslav VitousとAldo Romanoの初顔合わせで録音した作品ですが、大変に優れた内容で多作家Kuhnの中でもなかんずく代表作に挙げられます。多くのベーシスト、ドラマーとトリオ編成でのレコーディングを行っているKuhnですが、これほど3者のバランスが取れている演奏は彼のキャリアの中でもトップクラスです。とりわけVitousの演奏が素晴らしく、明らかにKuhn自身の演奏は彼に触発されて更なる深遠な境地に達しています。Chick Coreaのトリオ作品68年リリース名盤「Now He Sings, Now He Sobs」、Vitous若干21歳の革新的な演奏がジャズ史に燦然と輝きますが、この頃の先鋭的な演奏よりも20年を経た本作品では超絶技巧はそのままに、音楽的に成熟した演奏を聴かせています。
ドラマーAldo Romanoはイタリア生まれのフランス育ちでDon Cherry、Steve Lacy、Dexter Gordonといった渡欧組アメリカ人ミュージシャンたちとキャリアを重ね、名ピアニストMichel Petruccianiのレギュラードラマーを務めた経歴を持つセンシティブなドラマーです。この作品でも超弩級ピアニスト、ベーシスト二人に対する的確なサポート、またある時は丁々発止とやり取りする二人のインタープレイのまとめ、調整役を担当しています。仮にこのレコーディングのドラマーがスイス出身のやはり超弩級、いやひょっとするとそれ以上のDaniel Humairであったなら(十分に可能性がありましたが)どのような演奏が繰り広げられていたか、どれだけの熱演を聞くことが出来たか興味は尽きませんが、RomanoはRay Brown, Ed Thigpenを擁していた時期のOscar Peterson TrioのThigpenと同様の立場にいると感じます。派手さは無くしかも決して出しゃばらないタイプなのですが、共演者を立てつつその場に最も相応しい場面を設定、提供しています。以前にも何かで書きましたがOscar Peterson Trio, Peterson, Brownの極めて同一なグルーヴ感、スピード感がそのまま放っておけば幾らでもOn Topで演奏の展開になるところをThigpenが背後から二人とも(特にPetersonは巨漢なので大変です!)羽交い締めにしてレイドバックさせています。おそらく同じグルーヴ・タイプのドラマーが参加したのなら、ぐんぐんとリズムが前に行くラテン、サルサ方面のトリオにも成りかねません。VitousのベースラインがOn Topで強力にスイングしているのでRomanoのトップシンバルが遅く聞こえますが、実はKuhn自体かなりレイドバックして演奏しているのでむしろRomano寄りで、Kuhn + Romano vs Vitousというリズムの構図が成り立っています。このようなピアノトリオ3者のリズム相関図もアリですね。本作はどのような経緯があってこのメンバーによるレコーディングが決まったのか、興味があるところですがなかなか表立ってメイキング・プロセスが露出することはありません。プロデューサーのJean-Jacques Pussiau, Francois Lemaireの采配によるところが大なのでしょう。
ちなみにVitousはDaniel Humairの91年録音リーダー作「Edges」(Label Bleu)にて迎えられ、Jerry Bergonzi(ts), Aydin Esen(p)らとのカルテット編成でアグレッシブでコアな演奏を繰り広げています。Humair, Vitousの共演作は他にもあるようです。
この作品でもう一つ特記すべきは、選曲とその並びのバランスが実に良く取れている点です。元来Kuhnはスタンダードナンバーを素材として取り上げ、その料理の仕方に彼なりの音楽性が発揮されるミュージシャンで、オリジナルを中心に演奏し自己のサウンド・カラーを表現するタイプではありません。どのようなスタンダード、ジャズ・ミュージシャンのオリジナルを取り上げるかにも手腕が問われるところです。今回は自身のオリジナル2曲、Romanoのオリジナル1曲、他Ivan Lins, Kenny Dorham, Debussy, Duke Ellington, Fred Lacey, Antonio Carlos Jobim, Dave Brubeck, Jule Styneらのナンバー計11曲(1曲はメドレー)を演奏し、バラエティに富みつつ各々の演奏曲の内容の素晴らしさも相俟って絶妙な配置を感じさせます。僕自身もこの作品の選曲、曲順はよくぞここまで練られたな、と感心せずにはいられません。もっとも、良いテイクの演奏が集まれば自ずと曲順が定まる、という考えも成り立ちますが。
それでは曲ごとに見て行きましょう。1曲目はIvan LinsのThe Island、Kuhnとしては意外なオープニングです。数多くのミュージシャンによってカヴァーされている名曲で作品の冒頭を飾るに相応しいクオリティの演奏、リラックスした中にも漲る緊張感、ミディアム・スイングにもかかわらずスピード感溢れるのは流石、ほのかに感じる男の色気、レイドバックしたタイム感、何度聴いてもワクワクしてしまいます!ピアニストは一人ひとり本当に音色が異なりますが、Kuhnの美しくリリカルなピアノのタッチ、音の粒立ち、とってもフェイヴァリットな中の一人です。そしてこのレイドバック感、気持ちが入れば入るほどさらにその度合いに拍車がかかるのは本物のジャズ屋の証拠、そしてこの演奏を巧みにバックアップしつつに絶妙に絡むVitousのベースライン、Kuhnを見守るが如くシンプルにサポートするRomano、Kuhnソロの冒頭から引用フレーズで攻めます。この人の演奏、フレージングから感じるのは、普段から良く喋り、ジョークを言い、ダジャレも連発していそうです。ライブを収録した彼のリーダー作の何かで聴いたことがありますが、引用フレーズが止まらなくなり、一体何の曲を演奏しているのか一瞬分からなくなりそうでした(爆)。本演奏はピアノの独壇場で終始します。ラストテーマの後奏でまたもや引用フレーズが登場、今度はSummertimeです。とっても濃い内容の演奏ですが全くtoo muchを感じないのは全てがスポンテニアスな内容だからでしょう。素晴らしい!
2曲目Lotus Blossom、Kuhnは60年デビュー当時トランペッターKenny Dorhamのバンドに参加していましたが、そこで良く演奏していたと思われるDorhamのオリジナル 。Sonny Rollinsが自身のリーダー作「Newk’s Time」に於いてこの曲をAsiatic Raesという曲名で録音しています。このヴァージョンでは6/8拍子のリズムとスイングが交錯します。
本作ではピアノのイントロの後、全編アップテンポのスイングで演奏されています。駆け出しの頃に大変世話になったバンマスDorhamへのトリビュート、アップテンポにも関わらず速さを感じさせない究極のゆったり感、たっぷり感、でも音符のスピード感は凄まじいものがあります。8分音符の的確なビートに対する位置、1拍の長さが十分でなければありえない事象です。この曲でも引用フレーズThe BeatlesのEleanor Rigbyの一節を聴くことが出来ます。とりあえずダジャレを言っておけばその場が和むと思い込んでいるオヤジの哀しいサガの表れでしょうか、おっと失礼、これは僕自身の事でした(笑)、ソロの1~2コーラス目は比較的音の間を活かしテーマのメロディも交えつつスロースタート、その後3コーラス目からのエンジンがかかったソロの展開と言ったら!徹底的にクールにイキまくっています!3’40″からの右手で同じシークエンスをずっと弾きながら左手のラインをリズムも含めて変化させて行く、超絶テクニック、タイム感!この人は一体どのような頭の構造をしているのでしょうか?またピアノソロを支えるVitousのラインの凄まじさ!ベーシストは各々のコードのルート音を弾くのが仕事の筈ですが、この人は敢えて、何故だか、喧嘩を売っているのか、ルートを弾かないのでベースラインだけを聴いていると何処を演奏しているのか、更には何の曲を演奏しているのか理解不能です!それにしても2’33″~35″で聴かれるベースのトレモロに聴こえるラインは何?正体不明ですが物凄いインパクトです!!気がついてみると実はこの曲の演奏時間が5’04″、こんなに短いとは信じられません!大変濃密で充実した演奏、起承転結含めたストーリー性、時間の長さは絶対的なものではなく相対的なものなのだと再認識させられます。聴き手を確実に引き込んでしまうクールで激アツな演奏です。
3曲目はドビュッシー作曲のLa Plus Que Lente(レントより遅く)とDuke EllingtonのPassion Flowerが続けて演奏されます。Lenteはピアノソロで、Passion Flowerはボサノヴァのリズムで演奏しています。美の世界がメドレーで構築されているのです。Romanoの繰り出すボサノヴァのリズムが大変気持ち良いのは、彼のグルーヴ自体がイーヴン系故でしょう。曲のミステリアスなメロディと美しいコードとの対比に心を鷲掴みされてしまいます。ソロ中Kuhnの左手が支配的に繰り出され、ダイナミクスをこれでもか、と表現しています。Passion FlowerはEllington楽団の名リードアルト奏者、Johnny Hodgesをフィーチャーしたバラード演奏が元になっています。https://www.youtube.com/watch?v=_ww-XDuaxcw
(クリックして下さい)こちらも蕩けるほどに美しい演奏です。
4曲目RomanoのオリジナルのワルツナンバーDo。ドラマーが書く曲が僕は好きです。特にメロディアスなワルツはドラマーの本質が聴こえて来るようです。メロディ、コード進行を聴かせるために全編ブラシで演奏しています。Vitousはこういったスペースのある曲でも縦横無尽にラインを繰り出し、ベースラインよりもメロディに対して最も相応しい音を瞬時選択して奏で、歌伴のオブリガードを演奏しているかのようです。ソロの先発はVitous、良く伸びる美しい音色と正確なピッチ、テクニカルな中にも歌がしっかりと織り込まれています。受け継ぐKuhnのソロも気持ちの入った叙情的な演奏です。
「癒し系」の演奏の後にはハードな場面展開があるものです。5曲目はタイトル曲で Kuhnのオリジナル、本作の目玉でもあるOceans In The Sky、自身の作品で何度か再演されています。自作の曲を度々レコーディングするのは良い事だと思います。そのミュージシャンの成長、進化を一つの尺度で測れるからです。この曲にはLaura Anne Taylorによるポエム、歌詞が付けられています。アップテンポのワルツ、ここでのKuhnのソロは曲のコード進行に基づいてフレージングすると言うより、曲のメロディやリズムにカラーリングを施しているように聴こえます。Romanoのドラムソロもフィーチャーされメリハリのある演奏になっています。
6曲目はFred Lacey作曲Theme For Ernie、若くして亡くなってしまったアルト奏者Ernie Henryに捧げられた曲、彼は40年代末から57年頃までの短期間活動しました。著名なところではThelonious Monkの「Brilliant Corners」での変態系名演が光っています。ヘロインの過剰摂取が死因とはあまりに50年代のジャズミュージシャンそのものですが。John Coltraneの代表作「Soultrane」でのCotrane自身の名演が忘れられません。この曲は通常キーがA♭ですがここではCで演奏されています。A♭よりも幾分明るく聴こえるのはCというキーの特性でしょうか。
7曲目はAntonio Carlos Jobim75年録音の美しいナンバー、このトリオのサウンドによりこの曲が再構築されました。やはりRomanoはここでも的確なボサノヴァのリズムを繰り出しています。Kuhnはこの曲のレイジーで、夏のフェスティヴァルの後の様な物悲しい雰囲気に相応しいソロを聴かせています。
8曲目は本作のもう一つの目玉、Dave Brubeckの名曲In Your Own Sweet Way、Vitousの壮大なフリーソロから印象的なイントロ、美しいメロディ奏、この曲の代表的な演奏の誕生です!1’49″~50″あたりのピアノの猛烈なグリッサンドにはびっくりしましたね!インタールードを経たソロの1コーラス目はピアノが主体のソロのはずが、ベースのチャチャ入れがあまりに音楽的でKuhnはフレーズに応じてソロの主導権をベースに明け渡しているかのようです。4’23″くらいから引用フレーズ、ダジャレコーナーでIf I Should Lose Youが聴かれます。時折聴かれるわざとハネた8分音符のイントネーションがユーモラスに聴こえます。インタールードでの3者の息のあったインタープレイが、また6’11″~13″あたりの先ほどよりもバージョンアップしたピアノのグリッサンドにはとても気持ちが入っています。
9曲目は再びKuhnのオリジナルUlla、美しいバラードです。Kuhnは低音から高音域を隈なく用いてダイナミックでリリカルな演奏を聴かせています。
10曲目ラストを飾るのはエピローグ的なソロピアノによる、ミュージカル作曲家Jule Styneの名曲The Music That Makes Me Dance、この曲で踊らせちゃうくらいのナンバーをソロで、というのが良いですね。曲自体の構成、歌詞の内容、メロディの仕組み、コード進行をしっかりと捉えた末の演奏として堪能出来ました。
今回はピアニストGene Harrisのリーダー作「The Gene Harris Trio Plus One」を取り上げてみましょう。Recorded Live At The Blue Note, NYC November/December 1985 Recording Engineer : Jim Anderson, David Baker, Jon Bobenko
Concord Label Produced By Ray Brown And Bennett Rubin
p)Gene Harris b)Ray Brown ds)Mickey Roker Plus One: ts)Stanley Turrentine
1)Gene’s Lament 2)Misty 3)Uptown Sop 4)Things Ain’t What They Used To Be 5)Yours Is My Heart Alone 6)Battle Hymn Of The Republic
ジャズ史上最も「そのまんま」のジャケット・デザインでしょう(笑) 。きっとご本人の人柄も同様に愛すべきキャラクターに違いありません。Gene HarrisはErroll GarnerやOscar Petersonの流れを汲むスイング・スタイルのピアニスト、加えてR&Bや隠し味にゴスペル、ポップスのテイストを持ちつつ、明るく美しい音色、タイトで端正なリズム感を武器に猛烈にスイングする演奏を信条とするプレイヤーで、敢えてカテゴライズするならばモダン・スイングでしょうか。僕にはPetersonの演奏よりもジャズテイストを感じる事が出来、Spainが産んだ盲目のピアニストTete MontoliuやJamaica出身の素晴らしいピアニストMonty Alexanderと同系列のスタイリストと捉えています。
1950年代半ばからHarrisの他、b)Andrew Simpkins, ds)Bill Dowdyとのレギュラー・トリオ編成によるThe Three Soundsでの活動でその名が知られるようになりました。彼らはBlue NoteやVerve, Mercury等のレーベルから実に多くの作品をリリースしています。ビバップ、ハードバップやモード、新主流派ばかりがジャズではありません。いわゆるメインストリームはリラクゼーションを最大の武器にして、多くの聴衆を惹きつけています。ある意味本場米国ではこちらの方が文字通り主流なのかも知れません。
自分たちトリオでの演奏の他、Lou Donaldson, Stanley Turrentineら管楽器奏者を加えた作品、Anita O’DayやNancy Wilson達の歌伴作品など幅広くエンターテイメントを演出しているのは日常的にコンサートやフェスティバル、TVやラジオのプログラム、ホテルギグをトリオやゲストを迎えて忙しくこなしていたからと推測されます。因みに日本でも70~80年代にちょうど同じ立ち位置で世良譲(p)トリオが存在し、僕も度々共演させて頂き大変お世話になりました。
The 3 Soundsは56年から73年まで継続的に活動を展開しました。元は56年に結成した4人編成のThe Four Soundsが前身で、サックス奏者が抜け3人編成になったためThe 3 Soundsと改名したそうです。お笑いグループ「チャンバラトリオ」は結成時3人組だったので名前をトリオとしましたが、ほどなくメンバーが入院、療養中に代役を立て、復帰後も代役はそのまま残留し4人組になり、更に最末期生存メンバーが2人となった後も一貫して名前は変更せずトリオで通しました。名前が定着してしまいましたからね(爆)
The 3 Sounds解散後Gene Harrisはフリーランスとして動き始めましたが、70年代半ばから米国で徐々にジャズが衰退し始め、一方The 3 Soundsでの活動がひたすら中心だった彼は他のミュージシャンとの人脈をあまり有せず、次第にシーンから離れ、70年代後半からはアイダホ州ボイズに居を構え、地元のアイダンハ・ホテル(写真 : 1901年に建てられたホテル。米国にはこの手の歴史ある格式高いホテルが本当に多いです)で定期的に演奏を行なうだけの状態でした。このホテルのラウンジをたまたま訪れたのかどうかまではわかりませんが、Ray Brownが半隠居状態の彼を見つけ出し、80年代初頭から彼を自己のトリオに招き入れ、シーンに再び担ぎ出すべくツアーを開始しました。およそ第一線から退いたミュージシャンは目的を失わずとも情熱が覚め、演奏の質が落ちるのが常です。仕事の無い状況下でもGene Harrisはくさらず、自己鍛錬を怠らず、しっかりと演奏のクオリティの維持、向上、更なる高みを目指していたに違いありません。The 3 Soundsの頃よりも演奏は間違いなく上達しています。でなければ間違いなくRay Brownに発掘されたりはしません。
Ray BrownはOscar Petersonのパートナーとして永年演奏を共にし、二人の素晴らしいコンビネーションは名演奏を数多く残しました。彼らにドラマーEd Thigpenが加わりThe Oscar Peterson Trioになります。多くのベーシスト、ドラマーが去来しましたがこのメンバーが最強だと思っています。Ray Brownがリーダーになった場合も本人のベースプレイが何しろストロングなので、共演のピアニストは同様の豪快かつ繊細な演奏スタイルでなければバランスを保てません。ここでのGene Harrisはまさにうってつけの人選、適材適所とはこの事を言います。Gene Harris脱退後もMonty Alexander, Benny Green, Geoff Keezer, Larry Fullerといったピアニスト達が順番に彼のベースの伴奏者(笑)を勤めました。
因みに以前当ブログで取り上げた「Moore Makes 4」はGene Harris参加のRay Brown Trioに、テナーサックス奏者Ralph Mooreを大々的にフィーチャーした名盤です。
本作ではRay Brownが影のリーダーとして存在しており、仕切りたがりの(笑)彼は大好きなGene Harrisのために一肌脱ぎました。元々Concord Labelに彼を紹介したのもRay Brownですが、プロデューサーとしてクレジットされている他、2曲自身のオリジナルを提供、ライブレコーディング中のMCは全てRay Brownが担当し、音楽的にも彼のベースが要となって演奏を展開しています(その割にベースソロが1曲もありませんが)。ドラマーMickey Rokerとのコンビネーションも抜群で、このトリオにPlus One、テナーサックスの名手Stanley Turrentineが参加し、カルテット編成となります。85年11月〜12月の録音、この作品自体の収録時間がレコード時代の最末期なので48分と短いですが、この頃のBlue Note NYは1週間単位で同一ミュージシャンが出演し、仮に連日録音したのならばおそらくかなりの量の未発表、別テイクが存在すると思われます。
それでは作品の内容について触れて行きましょう。まず録音エンジニアに名手Jim Anderson、アシスタント・エンジニアにDavid Bakerが起用されているとなれば、録音状態が悪かろう筈がありません。ライブ録音にも関わらず楽器のセパレーション、音の輪郭、解像度、オーディエンスのアンビエント感も申し分ありません。1曲目Ray Brown作Gene’s Lament、テーマらしいテーマは聴かれませんがキーB♭のブルース・ナンバーです。フェードインして曲が始まるのは作品のオープニングには珍しい形です。曲冒頭部に何か不都合があったのでしょう。聴衆のアプラウズに混じりRay Brownの掛け声も随所にはっきりと聞こえます。Turrentineのテナーソロが始まりました。彼とGene Harrisの共演は60年12月録音の「Blue Hour / Stanley Turrentine With The 3 Sound」以来だそうです。(写真は後年リリースされたComplete Take集)
なんて素晴らしいテナーサックスの音色でしょう!一音吹いただけでその世界が確定してしまいます!このトリオにはこのレベルの豪快さんが不可欠です!リズムセクションにのタイトさに比べてTurrentineのリズムは良い意味でも悪い意味でもルーズさを感じます。この人は音色の素晴らしさに加えフレーズの語尾のビブラートに色気があり、いつ聴いても堪りません。ここではBen Webster直系のホンカーぶりがプレビュー程度に披露されていますが、まだまだこんな物ではありません。Turrentineソロ終了後のRay Brownの掛け声「Alright ! 」がとても印象的です。続くGene Harrisのピアノの良く鳴っていること!音量のダイナミクスを駆使したソロには思わず聴き入ってしまいます。再び豪快さんのテナーが先ほどのソロの補足を行っているかの如く聴かれます。エンディングに向けての音量調整も実に的確です。
2曲目はご存知Erroll Garnerの名曲Misty、何のアレンジも施されず全くストレートに演奏されていますが、これがまた素晴らしい!素材の美味しさと必要最小限の調理、盛り付け具合のセンスで勝負する高級自然食レストランのディナーの如き様相を呈しています。Ray Brownのベースのプッシュぶりが凄いです。ピアノソロは無くテナーの吹きっきり状態、独壇場で演奏が繰り広げられており、Turrentineのバラード演奏のエッセンスが凝縮されているテイクになりました。
3曲目は再びRay Brownのオリジナル・ブルースUptown Sop、今度のキーはCです。こちらもテーマらしいメロディを特に感じる事は出来ないナンバーですが、Ray Brownワールドてんこ盛りのリズムの世界です。ピアノのバッキングがメッチャいけてます!Turrentineの先発ソロ、小出しにしていたホンカーぶりがここでは発揮されています!ブレークタイムを含むリズムセクションがソロをどんどん煽ります!High F音のオルタネート音連発がムードを高めホンキング状態です!Gene Harrisもあとを受け継ぎゴージャスに、まるでラスベガスのショウ仕立ての様にサウンドを構築しています!その後メゾピアノでのTurrentineのソロがストーリーの起承転結にしっかりと落とし前を付けています。
4曲目はDuke Ellingtonの息子MercerのペンによるThings Ain’t What They Used To Be、こちらも何とブルース、キーはE♭。このバンド、実はブルースバンドなのでしょうか?Turrentineこちらでは中音域F音のオルタネート音を用いてホンキング、フレーズの間を生かした大人のホンカーを演じています。Gene Harrisは容赦無くブルージーにブロックコードを多用してリズミックに盛り上がっています。Ray Brownが曲のエンディングに「Stanley Turrentine !」とシャウトするのがライブの臨場感を出しています。
5曲目はアップテンポ・スイングのスタンダード・ナンバーYours Is My Heart Alone、こんな小粋な選曲が聴けるのはブルースバンドではない証拠です(笑)ベースとドラムスが実に小気味好いビートを繰り出していますが、今回Mickey Rokerの素晴らしさを再認識しました。数多くのレコーディングを経験したセッションマンで、意外なところではHerbie Hancockの「Speak Like A Child」でホーンセクションのアンサンブルを生かすべく、ステディなドラミングを聴かせています。Turrentineとは彼のリーダー2作「 Rough ‘n’ Tumble」「The Spoiler」、いずれも名盤のリズムセクションの中核をなしています。ピアノのイントロからテーマのメロディに入るところで一瞬、ひやっとさせられました。Turrentineのアウフタクト音がリズム的に微妙な位置だったのをリズムセクションが柔らかく的確に受け止めて着地させ、音楽的に正しい方向に導きました。
6曲目Battle Hymn Of The Republic、リパブリック賛歌と邦訳されている米国の1856年作曲のナンバー、南北戦争で北軍の行進曲に使われました。イントロで誰かがハミングしているのが聞こえますが、これまたRay Brownに違いありません。テーマメロディをピアノが華麗に演奏し、そのままソロに突入、こんなカッコいい演奏をライブで目の当たりにしたらさぞかしエキサイトする事でしょう!続くTurrentineのソロもピアノソロに影響を受け、絶好調ぶりを遺憾無く発揮しています!そしてTurrentineが率先して音量を小さく、ディクレッシェンドしています!音楽で最も効果的な表現方法は音量の大小です。リズムセクションも実にナチュラルにダイナミックに対応しています。この後にラストテーマを演奏するのは無粋かも知れませんね。案の定テーマは無しで大団円を迎えます。
今回はトランペット奏者Franco Ambrosettiのリーダー作「Wings」を取り上げてみましょう。録音1983年12月1, 2日at Skyline Studios, NYC Recorded By David Baker Produced By Horst Weber & Matthias Winckelmann Enja Records 84年リリース
tp, flg-h)Franco Ambrosetti ts)Mike Brecker fr-horn)John Clark p)Kenny Kirkland b)Buster Williams ds)Daniel Humair
1)Miss, Your Quelque Shows 2)Gin And Pentatonic 3)Atisiul 4)More Wings For Wheeler
まず最初にリーダーFranco Ambrosettiのバイオグラフィーをご紹介しましょう。スイスのLuganoで41年12月10日に生まれたイタリア系スイス人、明朗で快活、よく通るブライトなトランペットの音色はどこかイタリア・オペラをイメージさせます。父親のFlavioがヨーロッパのジャズシーンで40年代アルトサックス奏者、バンドリーダーとして活躍したミュージシャンで、その血を受け継いで9歳頃からクラシック・ピアノのレッスンを開始、トランペットは17歳から独学で始めたそうです。父のバンドやPhil Woods European Rhythm Machineのピアニストとして名高いGeorge Gruntzとの共演で腕を磨き24歳、トランペットを始めて僅か7年余り、66年ウイーンで開催されたFriedrich Gulda主催の国際ジャズ・コンペティションでトランペット部門の首位の座に輝きました。因みにこの時ベーシストMiroslav Vitousも18歳にしてベース部門でウイナーを取得(この年は人材豊作で2位がGeorge Mrazでした!)。Vitousの演奏に審査員の一人Cannonball Adderleyがそのあまりの物凄さに椅子から転げんばかりに驚いた、という逸話が残されていますが、あの巨漢なので椅子から転げ落ちなくて良かったです(笑)。ヨーロッパのジャズシーンが当時からどれだけ盛んなのかが、Ambrosettiの早熟ぶり、本作での演奏の素晴らしさ、そしてその完璧な独習による楽器のマスターぶりからも窺うことが出来ます。トランペットがメチャメチャ上手く、美しくて深い音色を湛え、色気があってたっぷりとした余裕を感じさせつつ、リズムのツボを確実に押さえた驚異的なタイム感、スイング感、フレージングの独創性、構成力、ユーモアのセンス、また本作で演奏されている彼のオリジナル曲のユニークさとカッコ良さ、全てにバランスが取れたジャズプレイヤーです。実は彼は一族が様々な会社経営を行っていた裕福な家庭環境に育ち、本人もBasel大学の経済学修士を取得していて親族が経営していた会社の社長を務めるなど、ジャズミュージシャンと会社経営の両方を、こちらもバランス良くこなしているようです。イタリア系の血がなせる技でしょうが、Ambrosettiは社交的で周囲のミュージシャンに対する気配り、配慮がなされた人物で、実際のレコーディング時もスタジオ内で笑いが絶えず、ウイットに富んだ会話にさぞかし満ちていた事でしょう。これはMichael Breckerの演奏の絶好調ぶりから十二分に感じる事が出来るのです。特に1曲目Miss, Your Quelque Showsと2曲目Gin And Pentatonicでの爆発的なブローイング、それでいて知的で緻密な構成力を併せ持ち、音楽の深部に更にぐっと入り込もうとするクリエイティヴネス、その具現化、インプロヴィゼーションの神が降臨したかの如きです。常に安定したクオリティの演奏を繰り広げるMichaelですが、周囲の雰囲気がリラックス出来る状況、彼に対して好意的であればあるほど、演奏に更にターボがかかり、とんでもない次元にまで演奏が飛翔して行くのです。これほどに演奏の充実ぶりが聴けるのは他の共演者との相性や演奏曲目へのチャレンジのし甲斐も間違いなくあった事でしょうが、何と言ってもAmbrosettiの人間的魅力にMichaelがノックアウトされたのでしょう、MichaelもAmbrosettiの演奏と人柄を絶賛していました。
同様に95年Helsinkiでのライブ録音「UMO Jazz Orchestra With Michael Brecker」での名演奏はリラックスして何の躊躇もなく、只管演奏に集中するMichaelを感じ取る事が出来ます。彼との共演、客演を心から待ち望んでいたビッグバンドのメンバー、スタッフ、オーディエンス全員が彼自身を確実にプッシュしたのです!
「Wings」のディストリビュートは旧西ドイツの名門レーベルEnja、レコーディングは数々の名盤を産み出したNYC、MidtownにあるSkylineスタジオ、エンジニアはDavid Baker、プロデュースはEnjaのオーナーHorst Weber(一度Horstに会った事がありますが、評論家の竹村健一氏によく似た風貌、人柄の方で、さすがジャズレーベルを持つだけに強い意志を感じる人物でした。奥方が日本人だったので日本人ミュージシャンに興味、理解があったようです)。参加メンバーはヨーロッパ勢代表として、盟友Daniel Humair、彼のコンテンポラリーにして独自のグルーヴとカラーリングのセンスを持ち合わせたドラミングがこの作品の価値を一層高めています。アメリカ側からはベースBuster Williams、ピアノKenny Kirkland、フレンチホルンJohn Clark、そしてテナーサックスに我らがMichael Breckerを従えてのSextet編成です。それにしても本作はレコーディング・スタジオ、エンジニアが優れているにも関わらず録音状態がどうもいただけません。実はEnjaの作品全般に言えるのですが、ドンシャリ気味で奥行きのない詰まった感じの音質は一貫したものを感じる事が出来、この音質こそがEnja Labelの個性と言える程です。
「Wings」と次作85年録音Michaelとの再演「Tentets」の2枚をカップリングさせたCDが92年「Gin And Pentatonic」と言うタイトルで発売されました。Ambrosettiのリーダー作には違いないのですが、Michaelとの連名がクレジットされています。1曲目Miss, Your Quelque Showsが「Gin And ~」ではMiss, Your Quelque Chose、ShowsがChoseと表示されているのは単なる誤植か、タイトルを変更したのか、何事も微に入り細に入り細かい事で有名なドイツ人の主宰するレーベルなので、何か意味があるのでは、とつい深読みしてしまいます。余談ですが今から25年以上前、僕が早坂紗知Stir Upでドイツ・メールス・ジャズ・フェスティバルに出演した時の出来事です。演奏が終わって小腹が空き、大きなサーカスのテントのような会場を出て軽く何か食べようと、フランクフルト・ソーセージのぶつ切りにカレー粉をふりかけたカリーヴルスト(ちょうど日本のお好み焼きやたこ焼きのような存在の、ドイツでは最もポピュラーな食べ物です)を屋台に買いに行きました。紙の皿と陶器の皿に盛られた2種類があり、陶器の方はデポジット料金が掛かりますがフランスパンが付いてくるのでそちらにして、食べ終わって皿を返却しました。当然デポジット金を受け取れるものと思っていましたが梨の礫、観たいステージがあるので仕方ないと思いながらその場を立ち去ろうとすると、隣にいた男性に腕を掴まれました。「何か?」異国の地で見知らぬ男性に引き止められたのには驚きましたが、その彼が僕に話しかけます。「ちょっと待て、お前は金を受け取る権利がある」「えっ?」「皿を返したお前は金を受け取れるんだ」更に彼は店員に向かって「何でこいつに金を返さないんだ?ずるい事はよせ」店員は渋々と僕に返金し、事は丸く収まりました。彼は一部始終を見ていた訳なのです。丁寧にお礼を言いましたが、その時の「当然の事をしたまでさ」と言わんばかりの笑顔が忘れられません。人に対して無関心でいられない観察力と正義感、細かい事に対するこだわりが半端ない国民性、そうそう、ドイツ人は本当によく信号を守り、歩道と自転車道を厳格に区別します。
「Gin And Pentatonic」に「Wings」の4曲は全て収録されていますが、「Tentets」の方は全5曲中残念ながら2曲カットされています。「Tentets」収録Wayne Shorterの名曲Yes Or NoやGeorge Gruntzのオリジナルでの10人編成ラージアンサンブルのゴージャスさ、AmbrosettiワンホーンAutumn Leavesの素晴らしさ、これら3曲が「Wings」に追加されてのリリースという形です。
それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目AmbrosettiのオリジナルMiss, Your Quelque Shows、何でしょうこの曲のカッコ良さは!コンテンポラリー、ストレートアヘッド、そしてハードバップの匂いも感じさせる曲調ですが、聴いたことのない類のメロディラインです。曲の随所に聴かれるドラムスのカラーリングが実に素晴らしいです!ソロの先発Ambrosettiのフレージングの合間に聴かれるフィルイン、例えば0’57″のフレーズ、何ですかこれは?笑っちゃうくらいに狙っている、意外性のあるオカズです!Humairのたっぷりとしたグルーヴ、それでいてシャープなビート、レスポンスが素早く、スネアのアクセントの入り具合が自由自在で、他では考えられないセンスです。4’34″頃から始まるMichaelのソロに対応すべく繰り出すスネア、皮モノの連打、イヤー物凄くカッコいいです!間違いなくSteve Gaddに負けずとも劣らない変態系ドラマーの一人でしょう。Kenny Kirklandは大好きなピアニストの一人ですが、ここでも実にネバリのある、ビートに纏わりつくスウィンギーなタイム感を聴かせています。バッキングも決して出しゃばらず、しかし随所にヒラメキを感じさせるフィルインを聴かせ、その場毎に俯瞰しながらシーンを活性化させています。1’05″で聴かれる単音のフィル、イケてます!Buster Williamsの独特の音色、ベースライン、アプローチ、On TopのビートがHumairのドラミングと一心同体化しています。Ambrosettiのソロ、トランペットをここまで吹けたらさぞかし気持ち良いでしょうね!もはや上手い、という次元ではなく、楽器を媒体として確固たる自分のメッセージを高らかに、朗々と語っています。話すべき内容が実にたくさん有り、自分自身たまたまトランペットを吹いていて、豊富な内容の話をオーディエンスにただ聴かせるために鼻唄感覚で演奏する、Ambrosettiの超絶テクニックは表現するものがまずありき、テクニックをテクニックとして身に付けたのではなく、表現するものが明確に見えていて具体化すべく、その結果楽器が上手くなった、と僕は解釈しています。トランペットソロを実に嬉しそうに聴いていたMichael(その場に居合わせたわけではありませんが、これだけの演奏を聴くとその場の情景がくっきりと目に浮かんでしまいます!)、彼のソロが続きますが、これこそ神降臨!Ambrosettiのプレイに徹底的にインスパイアされ、彼と同じく表現すべき事柄が全てこの瞬間に確実に見えています。物凄いテクニックの嵐なのですが、ストーリーを語るためのテクニックの使用、しっかりと唄が聴こえて来ます。2ndリフが演奏されソロが終了と思いきやもう一場面繰り広げられており、ユニークな構成です。Kirklandのソロがまた素晴らしい!フレージングやタイムもさる事ながら、ピアノの音色がとても美しいのです!Busterも的確に対応しています!ここでのKirklandとの出会いがMichaelの初リーダー作「Michael Brecker」の人選に繋がったに違いありません。ピアノソロにもテナーソロと同様にオマケが付いています。その後のドラムスとのバース、ソロイスト各々とのやり取り、全ての音にムダがなく、発した音に互いに責任を持ちつつ、さらに話題を提供し合いながら高尚な会話が継続されました。ラストテーマを迎え大団円状態でのFineです。
2曲目はタイトル曲のGin And Pentatonic、Michaelのソロが大々的にフィーチャーされています。この時のMichaelの使用楽器はお馴染みAmerican Selmer Mark6 No.86351、マウスピースはBobby Dukoff D9(翌84年からDave GuardalaにスイッチするのでDukoff使用最後の頃です)、リードはLa Voz Medium、ダークでいてブライト、エグさがハンパない音色、最低音からフラジオまで自由自在のコントロールです。Miss, Your Quelque Showsのテーマではフレンチホルンの存在が希薄でしたがこの曲のアンサンブルでは、はっきりと聴くことが出来ます。この曲調もまた大変ユニークですが、ソロの先発Michaelがまた大変なことになっています!ここまでイキまくっているソロはMichael史上そうはありません!しかもごく自然体で。ストーリーの起承転結、展開の仕方、ダイナミクス、超絶技が連続のフレージング、イキまくっているにも関わらず全てが完璧な構成、ある図形が内側の複雑な図形を理路整然と収納して、もとの図形を成り立たせている様子、熊本城の石垣〜武者返しの石積みとでも例えましょうか。リズムセクションも一丸となってMichaelのソロをサポートしています。Ambrosetti、Buster、 Kirklandといずれも素晴らしいソロが続きます。以上レコードのSide Aでした。
3曲目はFrancoの父親Flavioのオリジナル、Atisiul。これはFlavioの奥様、Francoの母親でもあるLuisitaに捧げたナンバー、Luisitaを逆から綴ってタイトルにしています。日本でも引っくり返して逆から読む事をバンド用語と言いましたが、最近の若いミュージシャンはあまり使わなくなりました。昔のドンバは全世界共通のセンスを持っているのです。
Michaelのルパートのメロディ奏はいつ聴いてもドラマチックで、彼流の美学に満ちています。その後インテンポで全員によるテーマが演奏されますが、コンテンポラリーなテイストを湛えたナンバー。ストイックさも感じさせるメロディ、コード進行、 Flavioの奥様は一体どんな方なのでしょう?ソロの先発Michaelには前2曲に較べてある種の演奏上の躊躇を感じます。タイムもやや滑りがちで、語り口も辿々しい時があります。何か気になることがあったのでしょうか?「行ってしまえ〜!」感が無くなりました。続くJohn Clarkのフレンチホルンのソロ、途中でテンポのなくなるフリー状態に突入します。ピアノやドラムスのパーカッシヴなバッキング、ベースのアルコでのフィルイン、短いドラムソロを経てア・テンポでトランペットのミュート・ソロになります。ミュートを外したソロで再びリズムが無くなり、フリー状態が一瞬訪れますがドラムソロを経てラストテーマへ。この演奏は全体的にラフさを感じてしまうテイクです。
4曲目はGeorge GruntzのオリジナルMore Wings For Wheelers。トランペット奏者Kenny Wheelerに捧げられている美しいバラード。テナーとフレンチホルンのアンサンブルが効果的に用いられており、Francoをフィーチャーしてのナンバーです。Side BはSide Aの2曲の素晴らしさに比べて物足りなさを感じてしまいました。
今回はテナーサックス奏者Ben Websterの代表作「King Of The Tenors」を取り上げてみましょう。1953年5月21日、12月8日LA録音 Producer : Norman Granz
ts)Ben Webster as)Benny Carter(track 1~4, 7) tp)Harry “Sweets” Edison(track 1~4, 7) p)Oscar Peterson g)Herb Ellis(track 1~4, 6) g)Barney Kessel(track 5, 7, 8) b)Ray Brown ds)Alvin Stoller(track 5, 7, 8), J. C. Heard(track 1~4, 6)
1)Tenderly 2)Jive At Six 3)Don’t Get Around Much Anymore 4)That’s All 5)Bounce Blues 6)Pennies From Heaven 7)Cotton Tail 8)Danny Boy
54年当初発売時は「The Consummate Artistry Of Ben Webster」というタイトルでNorman GranzのNorgran Labelからリリースされましたが、56年にGranzが新たにVerve Labelを興し、翌57年に同じ内容でタイトルを「King Of The Tenors」に変えて同レーベルよりリリースされました。どちらのタイトルもWebsterには相応しいと思いますが、「 King ~」の方がより的確に彼自身を表していると思います。Sonny Rollinsの代表作「Saxophone Colossus」(Prestige Label)に匹敵する、その名前を汚す事のないクオリティの演奏をするプレイヤー以外は決して使う事が許されない物凄いネーミングですが、「Saxophone ~」の方が前年56年リリースですので、Norman GranzがPrestigeのBob Weinstockに対抗して、あちらが「Colossus ~ 巨人」ならこちらは「王様」で、という具合にKingをタイトルに用いたのではないかと推測されます。
以前どこかの雑誌にもこの作品の事を挙げ、自分自身音楽的な迷いが生じたときにこのアルバムを聴くようにしていると書きましたが、未だにその作業を行う時があります。特にテナーサックスの音色に関しての迷いの場合には彼のセクシーで魅力的なトーンを浴びるほど聴き、演奏の細部にまで入り込み、そのニュアンス付け、イントネーション、音の強弱〜ダイナミクスの処理、ベンド、ポルタメント、グリッサンド、ビブラートのかけ方とバリエーション、音が消え入る時のカサカサ感、グロウトーン、音色のカラーリング、サブトーンの充実感などの再認識作業を行います。Websterはそのサウンドの全てに於いて、規範となりうる演奏者です。楽器の上手さとは、特にサックスに於いては運指的に早く正確に吹ける、フレーズの持ち札が沢山あり、適材適所で使用可能である、フラジオ音を確実にヒットさせる、等の超絶テクニカルな面が偏重される傾向にありますが、彼の場合はテナーサックスでメロディを歌い上げることが最重要事項であり、そのことに付随する奏法が誰よりも的確で充実していることを考えると大変に楽器が上手い、テクニシャンと言えます。楽器演奏に於けるテクニックとは奏者がその場でイメージした事柄を瞬時に確実に表現するための手段であります。Websterは熟練した歌唱力を持ったボーカリストの境地、マエストロと言えます。
ジャズテナーサックスの開祖と言われる3人、Coleman Hawkins、Lester Young、Ben Websterいずれもがツワモノですが、とりわけWebsterが僕の好みです。Hawkinsはトツトツとした語り口と音色が個性的でこの3人の中で一番年長、この人がジャズテナーサックスを始めた張本人です。Youngはスイートでハスキーな音色が魅力、フレージングにも独特の美学があり、その一風変わった人柄が物議を醸し出しましたが実に多くのフォロワーを有しています。
僕が以前在籍したビッグバンド、原信夫とシャープス&フラッツのリーダーでテナーサックス奏者の原信夫さんが大のWebsterファン、僕自身も以前からWebsterの演奏が好きでしたがシャープス在団中に随分と原さんに仕込まれました。「ユーさ」、原さんくらいの年代のプレイヤーの方は若手に対しこのように話し掛けていました。「ミーの事ですか?」とは流石に答えられませんでしたが(笑)、「これ聴いておいてよ」と度々レコードやCDをカセットテープにダビングしたものを渡されましたが、Websterが一番多かったです。「今の若いテナーには面白い奴がいないけど、Branford Marsalisは別格だね。あれはBen Webster直系だからさ」とは原さんの弁、テナーサックス・プレイヤーの良し悪しをWebsterに影響を受けたか否かを基準にして考えています。Arnette Cobb、Buddy Tate、Stanley Turrentine等Webster直系のテナー奏者のテープやCDも原さんから頂きましたし、シャープスは実際彼らとも共演の経験がありました(残念ながら僕が入団する前の出来事ですが)。男の色気をムンムンと感じさせ、低音域をメインにした大胆な語り口の中にもきめ細やかさ、デリケートな表情付けが実に巧みなWebster、後続のテナーサックス奏者に多大な影響を与えました。彼の楽器のセッティングですが、マウスピースはOtto Link Master Model オープニング5番をリフェイスして8番に広げたもの、リガチャーは初期の頃はマウスピース・テーブル裏の溝に嵌める最初期のオリジナル・タイプのものでしたが、後年はFour Star Modelのリガチャーを使っていました。リードはRico 3半、楽器本体は1937年製Selmer Balanced Action No.25418
黒人テナーサックス奏者はJohn Coltrane、Dexter Gordonに代表されるようにアゴを引き、うつむき加減にマウスピースを咥えて演奏するプレイヤーが多いですが、「The Consummate Artistry 〜」のジャケ写で顕著に写っているようにWebsterは寧ろアゴをかなり上げて演奏しています。40年代〜50年代にこの奏法のプレイヤーは珍しいです。Clifford Jordanもかなり顔を上げて吹く奏法のプレイヤーですが、Websterほどではありません。アゴを上げた方がノドが解放されてリラックスするのでよく共鳴し、奏法的には良い筈です。話し声、スピーチも下を向いて原稿を見ながら話すよりも前を向いて自分のイメージでの方がよく通りますから。彼のワンアンドオンリーなサックスの響き、音色、ビブラートはもしかしたらこの奏法の良さに起因しているのかも知れません。ただ50年代後半頃から次第にアゴが落ちて行き、比較的普通の角度での奏法に変わっていきました。アゴを引いて演奏しているColtrane、Dexter二人とも素晴らしい音色じゃないか、と言われると全くその通りなのですが(爆)
因みに写真は順番にColtrane、Dexter、Cliffordです。
演奏曲に触れて行きましょう。1曲目Tenderly、Granzお抱えVerve専属の名ピアニストOscar Petersonの美しい、これから繰り広げられるであろう美の世界を十分に予感させるイントロからWebsterのメロディ奏が始まります。それにしても何でしょう、このテナーサックスの音色は!音の深度が他のプレイヤーとは全く違います!蕩けんばかりに甘く、切なさを感じさせながらも渋さを湛えたビタースイート・テイスト、一音への入魂振り、発する音全てに対して責任を持つかの如き的確なニュアンス付け、メロディ・フェイクの巧みさ、大胆に語ったかと思えば囁くように呟く信じられない程の音量のダイナミクス、歌詞をなぞらえながらサックスを吹いているかの如しです。この1コーラス半の演奏にジャズ・バラードの森羅万象が存在すると言っても決して過言ではありません。そしてこのバラードプレイを超えるものは未だ存在しないのです。
2曲目はアルトサックスBenny Carter、トランペットHarry “Sweets” Edisonが加わったEdisonのナンバーJive At Six。ソロの先発Carter、続くEdisonもさすが良い味を出しています。その後のWebsterのソロ、この人はある程度のテンポ以上になるとトーンにグロウをかけ始め、ブロウするいわゆる”ホンカー”に変身し始めます。個人的にはバラード時よりも大味な演奏になるように聴こえるのがちょっとばかり不満です。
3曲目はDuke Ellington作曲のDon’t Get Around Much Any More、Websterもかつて彼のビッグバンドに在団していました。この位のテンポのスイング・ナンバーはバラードの延長線上で演奏しているように聴こえます。いや、何とメロウな吹き方でしょう!Carter、Edisonが後テーマでバックリフを演奏しています。
4曲目はスタンダードナンバーからThat’s All、やはりこの人の真髄はバラードにありますね、待ってましたとばかりに聴き入ってしまいます。ここでは比較的ストレートにメロディを奏でています。同様にここでもCarter、Edisonのハーモニーを後半に聴く事が出来ます。
5曲目はWebster自身のペンによるBounce Blues、レイドバックしたメロディの後Peterson、Barney Kesselのギターソロが聴かれ、Websterの登場になります。ソロ前半はバラード演奏に準じているのですが、次第にホンカーに豹変してそのままのスタイルでのメロディ・プレイでFineです。
6曲目は50年代当時流行のナンバーの一曲Pennies From Heaven、ピアノのイントロが印象的です。Websterメロディフェイクも巧みにテーマを演奏、Edisonのソロも素敵です!tp、asのバックリフに煽られたのかホンカーが再び降臨しています。
7曲目、再びEllingtonのナンバーCotton Tail、ここでのソロは実に有名なもので、ビッグバンドのソリでソロが採譜されたものを演奏したことが何度もあります。ある程度のテンポの曲なのでご多分に漏れず、グロウトーンで演奏しています。
8曲目、レコードのラストを飾るのはアイルランド民謡がベースになった名曲Danny Boy、テナーサックスでしっとりとメロディを奏でる際の定番曲の一曲です。日本でも故松本英彦さんの名演が忘れられないですが、Sam TaylorやSil Austinが残した演奏も素晴らしいです。でもここでのWebsterの演奏が全ての発端、実に朗々と歌っています。ここでのキーはDメジャーですが、松本さんはE♭メジャーで演奏していたのを覚えています。円熟、枯淡の境地が聴かれるWebster65年Denmarkでの演奏がyoutubeにアップされていますので、クリックしてご覧になって下さい。https://www.youtube.com/watch?v=pwFiLuYFiZ0
今回はピアニスト、作曲家、アレンジャー、ボーカリストBen Sidranの1979年リリース作品「The Cat And The Hat」を取り上げてみましょう。
Produced By Mike Mainieri and Ben Sidran Recorded and Mixed By Al Schmitt Horizon Records & Tapes
1)Hi-Fly 2)Ask Me Now 3)Like Sonny 4)Give It To The Kids 5)Minority 6)Blue Daniel 7)Ballin’ The Jack 8)Girl Talk 9)Seven Steps To Heaven
p, vo)Ben Sidran ds)Steve Gadd b)Abraham Laboriel vib, key)Mike Mainieri g)Lee Ritenour, Buzzy Feiten ts)Michael Brecker, Joe Henderson tp)Tom Harrell pec)Paulinho Da Costa org)Don Grolnick sax)Tom Scott, Pete Christlieb, Jim Horn tp)Jerry Hey, Gary Grant tb)Dick “Slyde” Hyde v0)Frank Floyd, Luther Van Dross, Gordon Gordy, Claude Brooks, Mike Finnegan, Max Gronanthal
当時のジャズ、スタジオ・シーンを代表する大変豪華なミュージシャンによる作品です。 LAのCapitolとSanta MonicaのCrimsonスタジオでレコーディングし、NYのThe Power StationとLAの The Sound LabでMixしています。演奏曲によってうわ物のメンバーはかなり異なりますが、ベイシックなリズムセクション=ドラムス、ベース、ギター、キーボードは不動、この辺にプロデューサー二人の拘りを感じます。
実に良く練られた構成、アレンジ、選曲、メンバーの人選、演奏、フィーチャリング・ソロイストの全く的確なアドリブ、ぐうの音も出ないとはこのレベルの音楽を指すのだ、という位完璧な音楽性を有する作品です。僕の中ではジャズ、フュージョン、AORシーンでもっと取り上げられても良いと常々思っている作品中、筆頭に位置しています。
この作品はSidranの第9作目にあたりますが、前8作目「Live At Montreux」は78年7月23日Montreux Jazz Festivalでのライブを収録した作品でRandy、MichaelのBreckersをフィーチャーしています。
こちらもライブ録音にも関わらずSidran独自の個性、スタンダード・ナンバーへの捻りのある解釈が良く表れた名作で、次作「The Cat And The Hat」に通ずるテイストが遺憾無く発揮されています。いずれもが佳曲のオリジナルの他、John LennonのCome Together、そして白眉がスタンダード・ナンバーSomeday My Prince Will Comeでのユニークな8ビート・アレンジ!ここでのMichaelの歌心100%の華麗なソロはファン必聴のテイクです!ここでは途中(3chorus目)からソロがカットされている事が後日発掘された映像から判明しました。完全版の長いソロも素晴らしいのですが、レコードの収録時間のために短く編集されたソロとはいえ、とても上手くコンパクトに収められています。ひょっとしたら予め「長く演奏してもレコードには全部入り切らないからね」とディレクターに言われていて、当日Michaelは「収録されるのはこの辺りまでだろう」とそこまでしっかり考えてソロの構成を練っていたかも知れません(カットされた3chorus目からのソロがそれまでとはアプローチの雰囲気が異なることからも想像できます)。彼だったらそこまでやる人、出来る人間です。
当時彼らが在籍していたArista Labelのアーティスト、Arista All Starsによる「Blue Montreux Ⅰ, Ⅱ」はこの前日、前々日に録音されました。
このコンサート演奏時日本ではTV放映とFMの同時生放送という、当時としては画期的な方法でライブを中継していました。現代ではTVの音質も飛躍的に向上したのでこのような形を取る必要も有りませんが、FM放送のHi-Fi(死語の世界でしょうか?)具合とTV画像のリンクを目の当たりにした僕は興奮しまくったのを覚えています。そしてこれは同年9月に来日を果たすNew York All Stars、演奏鑑賞の格好の予習になったのです。こちらも後日別テイクの映像が発掘され、両日全く違う演奏アプローチを行っていたArista All Starsメンバー全員のジャズ・スピリットにも感動しました。
それでは「The Cat And The Hat」の収録曲に触れていきましょう。大勢のゲスト陣を巧みに振り分けてカラーリングし、曲毎のアレンジに適材適所を得ている作品ですが、ベイシックにあるリズムセクションの演奏が何より素晴らしいのです。ギタリストLee Ritenourのカッティング、バッキング、Abraham Laborielの重厚で堅実なベースライン、そしてそして、この人のドラミング無しには当作品の完成度は有りえません、Steve Gaddの神がかった演奏が全体のカラーリングに更なる色合い、グラデーションを施しているのです。この当時、70年代後半にリリースされたアルバムの実に多くにSteve Gaddの名前を見つける事が出来ます。演奏の露出度は他のドラマー誰よりも高かったので彼のドラミングのスタイル、華麗なテクニック、演奏から感じる唄心を我々よく耳にしており、ナチュラルに耳に入って来ますが、今回改めて聴いてみると実は物凄い変態ドラムです(笑)。グルーヴ感、フィルインの構造、フレージングの仕組み、アイデア、構成力、ソロイストに対するアプローチ、力の抜け具合、以上全てが普通ではない次元、別格、他の追随を許さないオリジナリティに溢れています。「一体何処からこんな発想が…」「奇想天外な技のデパート」「超絶技巧で有りながら全くtoo muchを感じさせないテクニック」さぞかし現代音楽や難解な音楽理論を駆使した音楽性を有すると思っていましたが、以前何かの雑誌でのGaddのインタビュー(多分70年代後半)、「あなたのフェイバリット・アルバムを1枚紹介して下さい」の回答がCount Basieの「This Time By Basie!」でした。「Steve GaddがCount Basie?」その当時の僕の感性ではこの作品がGaddのお気に入りになり得るとは全く理解出来ませんでしたが、今現在しっかりと納得出来るようになりました。僕もやっと大人の音楽の聴き方が出来るようになったのでしょう(笑)。そしてGaddはドラムを叩かず音楽を奏でていると再認識しました。
1曲目ピアニストRandy WestonのオリジナルHi-Fly、オープニングを飾るに相応しいアレンジが施され、原曲のメロディは聴こえるものの全く別な曲に再構築されています。Sidranはボーカリストとしての歌唱力はさほどでは有りませんが、個性的なメッセージ性を湛えています。歌詞はボーカリスト、Jon Hendricksのバージョンが採用されています。そしてここでのMichaelのテナーソロの素晴らしさといったら!アレンジに全く同化していつつ、自身の個性が見事に表出しています。想像するに、間奏に感してプロデューサーの的確なディレクションが有り、それを基にソロを構築したのではないでしょうか。Michaelのサイドマンでのプレイは常に一定したハイ・クオリティさを感じますが、ここでのソロには更に突っ込んだプラスワンがあるからです。テナーの音色はOtto Link Metal使用と聴こえるので、79年頃からBobby Dukoffを使い始める直前、78年末から79年初頭に録音されたと推測できます。(本作は録音年月日に関するデータが未掲載です)
2曲目もやはりピアニストThelonious Monk のAsk Me Now、歌詞はSidran自らによるものです。MainieriのFender Rhodes、Ritenourのアコースティックギター、良い味わいのサポートを聴かせています。Gaddのブラシワークがムードを高めています。
3曲目John ColtraneのオリジナルLike Sonny、この曲のみボーカルが入らずインストで演奏されています。しかしこの選曲とアレンジの意外性には尋常ではないセンスを感じます。ラテンのリズムでのメロディ奏の後、一転して印象的なベースパターンのファンクに変わり、ギターのカッティングも絶妙です。バンドのグルーヴを聴かせつつ、リズムやメロディが変わって行き、Sidranのピアノソロを経てエンディングに向かいます。結果何とも不思議なLike Sonnyに仕上がりました。
4曲目本作中唯一のオリジナルGive It To The Kids、SidranとMainieriの共作、ここまでがレコードのSide Aです。後半に聴かれる子供達のコーラスを交えたナイスなナンバーです。Michaelのソロもぶっちぎりです!ここではギタリストSteve KhanのオリジナルSome Punk Funk(アルバム「Tightrope」収録)のメロディの一節がフラジオ音のHigh C等を交えつつ引用されています。
5曲目アルトサックス奏者Gigi Gryce53年のオリジナルMinority、歌詞をSidranが手がけました。原曲はコード進行がどんどん転調していく、なかなか手強い一曲ですが、ホーンセクション、フルートが効果的に使われたヘヴィなファンクナンバーにアレンジされています。ここでのMichaelのソロはリズムセクションとのトレードという形でスリリングに進行し、自在に歌い上げています。
6曲目はトロンボーン奏者Frank Rosolino作曲のワルツBlue Daniel、ここでもSidranが作詞を行っています。ベースをフィーチャーしたルパートのイントロからTom Harrellのトランペットのフィル、その後のSidranの歌とトランペットソロを活かすべく施されたゴージャスなアレンジがLAの気候のように気持ち良いです。
7曲目は1913年作曲の大変古いナンバーBallin’ The Jack、Chris Smith作詞作曲、歌詞をSidranが加筆して軽快なロックナンバーに仕上げています。Gaddのロックンロールもカッコいいですね、Eric Claptonのバンドを長年やるくらいですから当然ですが。Buzzy Feitenのギターソロも流石で効果的に用いられています。
8曲目Neil Hefti作曲、Bobby Troupe作詞のナンバー Girl Talk、やはりSidranが歌詞に加筆しています。こんなに原曲に相応しい、その後の演奏を聴くことを楽しみにさせてしまうイントロはそうはありません。ストリングスも実にムードを高めるに役割を果たしています。Gaddのフィルインはビッグバンド然としていて、曲の場面を的確に転換させています。アウトロには再びイントロが用いられ、余韻を残しつつ曲が去って行きます。
9曲目作品の最後を飾るのはVictor Feldman作曲の名曲、Seven Steps To Heaven。作詞担当はSidranですが、One, Two, Three, Four, Five, Six, Seven, Steps To Heavenと言う歌詞を思いついた時はSidran自身、自分で相当ウケた事でしょう!余りにも語呂が良過ぎです!これはジャズ界の嘉門達夫状態ですね(笑)そしてここでの演奏が本作の目玉といってよいでしょう。ソロイストにJoe Hendersonを迎えたのも素晴らしいチョイス、アレンジにも原曲のコード進行を用いず別な進行を用いたのもこの演奏が炸裂した要素の一つかも知れません。Gaddはまさに水を得た魚のように巧みなドラミングを聴かせ、彼の名演奏の一つに挙げる事が出来ます。イントロのソロドラムからして聴き手を引きつけるフェロモンを発しています。テーマの最中のドラムソロもカッコイイです!インタールード後にJoe Henのソロが始まりますが、イヤ〜なんじゃこれは?Joe Henフレーズの洪水、猛烈なテンションと凄まじい集中力、構成力、さらに意外性も加わり独壇場!Gaddとのインタープレイも壮絶!空前絶後!Joe Hen自身も彼の名演奏の一つに数えられるに違いありません。後奏のJoe HenとGaddのやり取り、なんでFade Outするのかな〜もっと聴きたかった〜!
今回はWayne Shorter1985年の作品「Atlantis」を取り上げたいと思います。85年Crystal Studios, Hollywood録音 Produced by Wayne Shorter, On Endangered Species, produced by Wayne Shorter & Joseph Vitarelli
ts,ss)Wayne Shorter fl,alt-fi,picc)Jim Walker p)Yaron Gershovsky p)Michiko Hill synth,p)Joseph Vitarelli synth-prog)Michael Hoenig e-b)Larry Klein ds)Ralph Humphrey ds)Alex Acuna per)Lenny Castro vo)Diana Acuna, Dee Dee Bellson, Nani Brunel, Trove Davenport, Sanaa Larhan, Edgy Lee, Kathy Lucien
1)Endangered Species 2)The Three Marias 3)The Last Silk Hat 4)When You Dream 5)Who Goes There! 6)Atlantis 7)Shere Khan, The Tiger 8)Criancas 9)On The Eve Of Departure
85年はCDが世の中に流布し始めた頃でしたが、当時はぎりぎりレコードの方が主役でした。ですので本作の収録時間もレコードサイズの42’21″で収まっています。この後から録音媒体はCDに主役を明け渡し、収録時間がCDサイズの60分前後〜最長70分強に伸びて行く事になります。本作品を改めて聴いてみると、コンパクトなサイズにむしろ新鮮さを感じます。この長さもアリですね。
本作のレコード内袋(CDと違って大きいです)にはおそらくWayneの直筆(写譜ペン使ってます!)による本作収録のThe Three MariasとOn The Eve Of Departureのスコアがレイアウトされています。作曲した本人でなければ書けない書体や注釈からその事を推測する事ができます。大変几帳面な書き方の譜面で、そもそもミュージシャン几帳面さを併せ持っていないと人に感銘を与える演奏は出来ません。ジャケットの表面のWayneの肖像画は俳優Billy Dee Williamsの描いたパステル画が使われていますが、裏ジャケットには譜面と同じ文字、書体で曲目、ミュージシャンのクレジット、録音の詳細等が書かれており、更に一番下の段には「I dedicated this album to my daughters, Iska, Miyako.」とあるので裏面はWayne自身がイラストも含め書いていると思われます。
因みにWayneの娘Iskaは作品「Odyssey Of Iska」やWayneの著作権のパブリッシャーIska Musicにその名が登場し、Miyakoの方は彼の60年代作のオリジナル・バラードにその名前があります。
Joe Zawinulとのco-leaderバンド、Weather Report(WR)の86年2月ZawinulのWR一時活動休止発表(事実上の解散宣言)の前年録音、リリースで、Wayneの16枚目の作品になります。この前作が11年前74年録音、翌75年リリース、ブラジルが生んだ素晴らしいギタリスト、ボーカリスト、作曲家のMilton Nascimentoをフィーチャリングした、彼とのコラボレーションによる名作「Native Dancer」です。
この作品はNascimentoとWayneの音楽性が密に合わさり、単にブラジル音楽とアメリカ東海岸のジャズの融合という形に終わらず、音楽性を互いに引き立て合いながら全く新次元の音楽を創り上げています。別の言い方をすればあまりに強烈で個性的なWayneの音楽性がやはり独創的なNascimentoの個性と衝突しつつもブレンドし、結果Wayne色が相方の色を引き出す触媒になっているのです。両者共にご存命ですので願わくば「Native Dancer 2」等の続編を聴きたいものです。WRの諸作もZawinulの音楽性とのバランスで成り立っていました。アカデミックなZawinulに対する黒魔術のWayne、更にJaco Pastoriusが在団していた時期には危ないエレガントさのJacoのテイストが加わり、ジャズ史上に残る個性の三つ巴を擁したWRの黄金期を迎えることが出来ました。Miles Davis QuintetではMilesはWayneの使い方を熟知しており(彼に限らずMilesは共演者の使い方に長けています)、自身の音楽を表現するためにWayneを自由に泳がせ、バンドがWayne色に占拠されているかのようでいて実はMilesの掌の上で転がされていました。Wayneの音楽はその独自性に比べて意外にフレキシブルさを持ち合わせ、他の異なる音楽や個性と柔軟に歩調を合わせることが出来る、懐の深さを持っていると捉えています。
さて本作はco-leaderやfeaturing artistも不在、ほぼ純粋にWayne Shorterの音楽が演奏されています。いわば60年代Blue Noteの諸作「JuJu」「Speak No Evil」の80年代ヴァージョンです。全曲オリジナル、スイング・ビートは一切登場しないフュージョン、ファンク系のリズム、サウンド、そして何よりインプロヴィゼーション部分が少ないアンサンブルが主体の作品ですので、作曲家、アレンジャーとしてのWayneの側面を強調しているとも受け取ることが出来ます。WR時代はライブ演奏で再現出来ない曲は収録、演奏しないとした、ライブステージをメインとしたバンド活動でした。本作ではサックスの多重録音やシンセベース等の打ち込みもなされており、85年10月からこの作品での内容を発表するべくWayneはカルテットで全米ツアー、86年1月から日本でのツアーを行いましたがもちろんWRとは異なり、作品をそのまま再現はせず(出来ず)、収録曲を素材として演奏しており、本作は作品集としての側面が更に浮かび上がる形になります。
1曲目Endangered Species、「絶滅危惧種」の意味です。我々くらいの年齢のミュージシャンも既に絶滅危惧種扱いかもしれませんが(笑)。それにしても物凄いポテンシャルを湛えた曲です!Wayneの音楽性が凝縮された、難解さの中にもポップなセンスを感じさせる名曲です。初めて聴いた時には鳥肌モノでした!アルバム中この曲のみキーボード奏者の Joseph Vitarelliとの共同プロデュースになっており、Michael Hoenigのプログラミングによるシンセサイザーの打ち込みベースラインが聴かれます。そしてここで聴かれるソプラノサックスの音色の素晴らしいこと!この時の楽器のセッティングですが、マウスピースはOtto Link Slant 10番、リードはRico 4番、楽器本体はYAMAHA YSS 875 Customです。因みにマウスピース、リードはテナーサックスでも同じセッティングです。しかし一体この音色を何と言葉で形容したら良いのでしょうか?仮にWayneのソプラノサックスが、音質の良くないドンシャリAMラジオのスピーカーから聴こえてきたとしても、直ぐにWayneの音だと分かる事でしょう。Ben WebsterやStan Getz、Sonny Rollins、John Coltrane、Stanley Turrentineの音色にも同様の事が言え、鳴っている音の成分がそもそも違うのです。打ち込みのベースラインをライブ演奏では人間(ベーシスト)が弾いていますが、高度なテクニックが要求されるチャレンジャブルなパート、ミュージシャンはハードルが上がるほど燃える稼業です。Wayneのバンドのベース奏者Gary Willis、 Alphonso Johnsonはさぞかし練習したに違いない事でしょう。
2012年にベーシスト、ボーカリストのEsperanza Spaldingが自身の作品「Radio Music Society」でこの曲を取り上げています。youtubeでの演奏を以下のURLで見られますのでクリックして下さい。https://www.google.com/search?client=safari&rls=en&q=endangered+species+esperanza+spalding&ie=UTF-8&oe=UTF-8 WayneのソプラノサックスのメロディをEsperanzaが歌っています。黒人の華奢な女の子がテクニカルにエレクトリックベースを弾きながらこの複雑なメロディを歌うのには圧倒されますが、Wayneの難解な楽曲を取り上げる姿勢にも驚いてしまいます。
2曲目The Three Marias、ユニークな曲名です。Wayneの周りには3人Mariaという名前の女性が居るそうで、曲自体のリズムが3拍子(実際には倍の6拍子です)と掛けてのタイトルです。これまた類を見ないドラマチックでとんでもなくカッコいい曲、Wayne world以外の何物でもありません!ソプラノと部分的にテナー、フルートがオーバーダビングされていてメロディが厚くなっています。ここでは曲中全くソロがありませんが、ライブではテンポも早目に設定され、バンド一丸となって盛り上がっています。https://www.youtube.com/watch?v=DzOAr3MKjPsそれにしてもどうしたらこんな個性的な曲を書くことが出来るのでしょう?メロディもそうですがリズムセクションに指定しているアンサンブル部分がとても緻密で込み入った構成になっており、この曲自体も演奏者にはハードルの高い一曲です。
3曲目The Last Silk Hat、ソプラノのメロディに対するテナーの対旋律、オーバーダビングによるソプラノとテナーのハーモニー、それらをバックにソロをとるソプラノ、よく練られた構成ファンクナンバー、ライブで再現するには複数のサックス奏者、少なくとも4名を配する必要があります。
4曲目When You Dream、ソプラノ、テナーのメロディを受け継ぐように、おそらく若い女の子たちによる印象的なコーラスが効果的に用いられ、広がりを感じさせる、タイトル通りの美しいナンバーです。こちらも実に細やかなアレンジが施されています。以上がレコードのSide Aになります。
5曲目Who Goes There、Jim Walkerのフルート・メロディを生かすべくWayneのサックスアンサンブルが活躍します。モチーフを繰り返しつつ、途中シャッフルのリズムになることで高揚感がハンパありません!Wayneのソプラノのサイドキー、高音部のシャウト感の素晴らしさは一体どう言う事でしょう?高揚感に更に拍車がかかります。
6曲目はタイトル曲Atlantis、 McCoy Tynerにも同名曲がありますが、やはり大西洋に存在した幻の大陸の事でしょうか。本作中最もミステリアスな雰囲気のナンバーです。
7曲目Shere Khan, The TigerはDisneyのThe Jungle Bookに登場するキャラクター、ベンガル虎の名前で、80年録音のCarlos Santanaの作品「The Swing Of Delight」にも収録されている独自の美学を湛えたナンバーです。Santanaのヴァージョンでは彼自身によるギタープレイの他、Herbie Hancock、Ron Carter、Harvey Masonも参加しています。
8曲目Criançasは再びシンセサイザーの打ち込みのベースラインが聴かれるファンクナンバー、ソプラノのメロディが多重録音され更にテナーも重ねられる事でWayne sound全開です!Alex Acunaのドラミングが印象的ですが、WayneはAcunaやAlphonso JohnsonたちWR卒業生を積極的に起用しています。
9曲目アルバムラストを飾るのはOn The Eve Of Departure、サックスの多重録音、ハーモニーを生かしたこの上なく美しいイントロ、導入部から一転してヘヴィなファンクへと変わります。フルートのメロディ、ベースラインとテナーのユニゾン、効果的なスラップ、ハーモニーの豊かさ、こちらも凝りに凝ったアンサンブルを聴かせています。
本作はWayneのソロアルバムの中でも彼の音楽性を語る上で欠かせない重要な一枚に仕上がっています。僕個人の意見として、他の追従を許さない、ジャズ史上誰も表現することが出来ない優れて抜きん出たWayneの個性ではありますが、あまりにも強過ぎるように聴こえます。WRや「 Native Dancer」、Miles Davis Quintet、Art Blakey And The Jazz Messengersの様に音楽的パートナーを迎えて、優れたミュージシャンとのコラボレーションを取る、サイドマンとしてリーダーの元で使える、これらの形態を取る事により丁度良い具合にWayneの個性が薄まり、バランスが取れた演奏を聴く事が出来、優れた作品を残せるのではと、この作品を聴いて強く感じました。
今回はボーカリストPatti Austinの1979年リリース作品「Live At The Bottom Line」を取り上げましょう。78年8月19日The Bottom Line In Greenwich Village, NYC録音 David Palmer, David Hewitt, Engineers Mixed At Van Gelder Recording Studios, Rudy Van Gelder, Engineer CTI Label Produced By Creed Taylor
vo)Patti Austin ts)Michael Brecker key)Pat Rebillot leader, key, arr)Leon Pendarvis Jr. g)David Spinozza b)Will Lee ds)Charles Collins per)Erroll “Crusher” Bennett chorus)Babi Floyd, Frank Floyd, Ullanda McCullough arr)Dave Grusin, Arthur Jenkins, Jr
1)Jump For Joy 2)Let It Ride 3)One More Night 4)Wait A Little While 5)Rider In The Rain 6)You’re The One That I Want 7)Love Me By Name 8)You Fooled Me 9)Spoken Introductions 10)Let’s All Live And Give Together
Patti Austinの名唱、素晴らしいサポートメンバー、そしてPattiを愛する熱狂的オーディエンスによるアプラウズ、彼女の代表的ライブアルバムです。91年CDでのリリースに際して未発表1曲とPatti自身によるメンバー紹介のスピーチが追加され、曲順もレコードとは大幅に変更されました。おそらくライブでのオーダー通りだと思われます。またライブの録音自体はNYのスタジオ系ミュージシャン達のホームグラウンド的ライブハウス、The Bottom Lineで8月18日、19日の2日間に渡り2ステージづつ行われました。両晩全く同じ曲を演奏しましたが初日18日はミュージシャンやレコーディング・スタッフ達のためのwarm up的に行われ、にも関わらずクオリティとしては両日殆ど同じでしたが(さすがNY第一線のプロフェッショナル集団です!)19日の方が若干スムースに演奏されたという事で、当夜の2nd setのテイクが採用されました。ファンとしては2日間のレコーディングの全貌を是非とも聴いてみたいものです。可能ならば「The Complete Patti Austin Live At The Bottom Line ’78」の様な形で。演奏のクオリティが両日殆ど同じだとしても、演奏の中身は随分と異なる筈ですから。
Pattiは76年にCTIより初リーダー作「End Of A Rainbow」、2作目「Havana Candy」77年と立て続けにリリースし、本作が3作目になります。クロスオーバー、フュージョン真っ盛りの時代に脚光を浴びました。CTI Creed Taylorの名プロデュース、充実した共演者、アレンジャー、そして何と言ってもPattiの抜群の歌唱力が聞き手に訴えかけました。同世代の黒人女性ボーカリスト、例えばDonna Summer、Brenda Russellたちよりも頭一つジャズ度を感じさせるセンスは共演者をインスパイアさせ、本作ではライブ録音という事もあり、さらにオーディエンスを巻き込み、素晴らしいパフォーマンスを繰り広げました。
この作品はレコードで発売当時から愛聴しています。ギターDavid Spinozzaのバッキング、Will Leeのタイトで都会的センス溢れるベースワーク、そして何より我らがMichael Breckerの参加です!「Hello Michael、今までのCTI 2作ではお世話さま。殆どソロが無いかも知れないけど、ボトムラインでの私の3作目のライブレコーディングに付き合ってくれるかしら?」というPattiからのオファーに「もちろんだとも!Pattiのレコーディングに呼んでもらえて嬉しいよ。ソロが無くても全く構わないからさ、君と一緒に演奏が出来るのを楽しみにしているね。」と言うやり取りがあったかまでは分かりませんが(笑)、Michaelの参加作で本作のように徹底したオブリガード、アルバムサイズの短いソロだけでの使われ方、参加の仕方のライブレコーディングと言う例は少ないです。しかし随所に、PattiがMCでも述べているMichael流の隠し味、スパイス的な演奏がこの作品のクオリティ、レベルを別次元にまで高めています。彼の参加無しではこのアルバムは成り立たず、仮に不在では凡演とまで行かずとも歴史に残る作品にはならなかった事でしょう。それにしてもMichaelの歌伴の演奏の上手さはどこから来ているのでしょうか?ここでの演奏から痛感してしまいます。自身がリーダーになり表に立つ場合と、裏方〜伴奏者に立場が変わった時のチャンネルの変え方が実に徹底しており、あくまで主体の音楽性を映えさせるのですが、実は自分自身のテイストもしっかりと表現していて、主体との化学反応、お互いの音楽のブレンド感、間合いを繊細に図りながら大胆に演奏をする、バランス感の権化と言えましょう。
それでは収録曲をCDの曲順ごとに触れて行きましょう。1曲目Jump For Joy、The Jacksonsの77年ヒット曲です。Michaelのサックスにはエフェクターがかけられています。この頃の彼の使用楽器、6万7千万台のAmerican Selmer Mark 6にはネックにピックアップ用の装着台が付けられ、ここにPZMというバウンダリー・マイクを装着します。ここからの電気的信号をミュートロンというエフェクター(今となっては伝説的なエフェクターです)に通すことにより、ワウがかけられた音色に変化します。
こちらは78年9月New York All Starsで来日時の写真で、まさしく同じセッティングによるものです。これに更にオクターヴァーを装着したサウンドをThe Brecker Brothers Band「Heavy Metal Be-Bop」のFuky Sea, Funky Dewでのカデンツァで聴くことが出来ます。
Charles Collins、Will Leeが繰り出すグルーヴがとても気持ち良いです。Frank、BabiのFloyd兄弟、Ullanda McCulloughのバックコーラスも曲にゴージャスさを加えています。
2曲目はJackson兄弟の三男でMichael Jacksonの兄、Jermaine Jackson78年のヒット曲Let It Ride。Spinozzaのギター、Michaelのワウ・テナーが良い味付けをしています。歯切れ良く吹いているテナーサウンドがワウの効果でホーンセクションにも聴こえます。ヘヴィな、ノリの良いファンクナンバーに仕上がっています。
3曲目Stephen Bishop76年のヒットナンバー、One More NightはAORファンにとっては堪らない選曲です。Pattiの歌いっぷりでこの曲に更に魂が込められました。
4曲目Kenny Loggins78年のヒット曲Wait A Little While、オリジナルのキメ、構成をまんまコピーして演奏しています。こちらもファンにはドンピシャなナンバー、ここでのMichaelのイントロ・メロディの吹き方、テナーの音色、そして間奏のソロが素晴らしいのです!ソロの後半、High E音の割れ具合のカッコよさ!僕にとって完璧なMichael Breckerの演奏、ソロの一つです。実はこの曲も雑誌Jazz Lifeの取材でMichael本人に聴かせ、コメントを貰った中の1曲です。こちらもご紹介したいと思います。
次は、パティ・オースティン(vo)の「ウェイト・ア・リトル・ホワイル」(ケニー・ロギンス作曲)。これはNYボトム・ラインでのライヴ・ヴァージョンです。〜曲をプレイ〜MB: ドラムは誰?ーチャールズ・コリンズです。MB: お〜っ!彼のことはすっかり忘れていたよ(笑)。でもこのギグのことはよく覚えている。バンドもオーディエンスも最高でね、パティも言うまでもなく素晴らしかった。本当に偉大なミュージシャンであり、素晴らしい女性だね。このライブをやるまでは、彼女がこれほど偉大なエンタテイナーとは知らなかった。自分のプレイに関しては、ずいぶん内向的に感じるね。この雰囲気に合わせようとしていると同時に、自分の個性を織り交ぜようとしているね。レコードの音はかなり酷いものだね(笑)。多分これは持っていないんじゃないかな。極めてドライな音だね。彼女の歌だけではなく、ソウルとエレガンスは本当にすごい。改めて彼女の歌声を聴くことができて嬉しいよ。自分のプレイに関しては、これも別人のような気がするよ(笑)
演奏を聴きながらこのコメントを改めて読むと感慨深いものがあります。とても彼の言うような、内向的な演奏には感じませんが、演奏している本人には気になる所なのかも知れません。
5曲目はPattiの長いトークから始まり、「黒人女性がカントリー&ウェスタン音楽なんて歌えないと思ってない?」と言いながらRandy Newmanの77年のヒット曲Rider In The Rainを歌い始めます。後ろで奏でているSpinozzaのカントリー&ウェスタン調のギターが実に良い雰囲気を醸し出しています。
6曲目はレコード未収録のナンバー、78年の映画Greaseのヒットした挿入曲You’re The One That I Want、原曲は映画出演のJohn TravoltaとOlivia Newton-Johnのデュエットで歌われています。
7曲目はPatti自身のナンバーにして代表曲、78年Quincy Jonesの大ヒットアルバム「Sounds…And Stuff Like That!!」に収録されているLove Me By Name。オリジナルではEric Galeがストリングスをバックに良い味を出していますが、ここではMichaelのむせび泣くテナーソロが聴け、フラジオB音の確実なヒットにさすが、と感じてしまいます。
8曲目はJeffrey Osborneが在籍していたバンド、L.T.Dの78年ヒット曲You Fooled Me。こちらもオリジナルのアレンジを踏襲して演奏しています。コーラスやギターとテナーのユニゾン、効果的なパーカッション、メチャイケナンバーです!
9曲目に該当するのはPatti自身によるメンバー全員の丁寧な紹介、楽しげに悪戯っぽくしながらも一人一人に対する尊敬の念、思いやり、愛情をとても感じます。特にMichaelには別格な紹介がなされており、「ここにいるのは本物のMichael Breckerです!どうぞお立ちください!」彼はきっとその時、はにかみながら、椅子から立ち上がって深々と挨拶をしたことでしょう。
10曲目ラストを飾るのは8曲目と同じくL.T.D.の78年ヒット曲Let’s All Live And Give Together、当夜はもうかなりの曲数を歌っているにも関わらず、しかも2nd set最終曲、ここに来てPattiはますます喉の調子が良くなったのでしょう、信じられないほど高い声を確実に、見事にヒットさせています!凄いです!
こうやって見ると本作の収録曲は76年から78年の間にリリースされたヒット曲ばかりで構成されている事になります。そしていずれの曲でもオリジナルの歌よりもPattiのボーカルの方に表現力を強く感じ、ライブレコーディングでありながらも彼女の歌唱力の実力をまざまざと見せつけられました。
今回はピアニストRichard Teeの初リーダー作「Strokin’」を見て行きましょう。1978年NYC録音 Tappan Zee Records
1)First Love 2)Every Day 3)Strokin’ 4)I Wanted It Too 5)Virginia Sunday 6)Jesus Children Of America 7)Take The “A” Train
The ”Guys” key,vo)Richard Tee g)Eric Gale b)Chuck Rainey ds)Steve Gadd per)Ralph MacDonald harmonica)Hugh McCracken ts)Michael Brecker ts,lyricon)Tom Scott
何とゴージャスな音楽でしょう!素晴らしいリズム、ビート、芳醇なサウンド、アメリカの黒人がのみ成し得るグルーヴです!と言ってもいきなり参加ドラムスのSteve Gaddがユダヤ系白人ですが(汗)、TeeとGaddの抜群のコンビネーションはStuff、Gadd Gangなどのバンド共演で生涯継続していました。Gaddのグルーヴには肌の色は関係ありませんね。
Teeはニューヨーク州ブロンクスで生まれ育ち、教会音楽の洗礼を受け、子供の頃からの尊敬するアーティストがRay Charles、ピアノ奏者としてMotown Labelでの仕事を多数経験していると来れば表現するべき音楽の方向性はおのずと定まります。ピアノをこんな美しく煌びやかに鳴らせて、思わず腰が椅子から離れてリズムに合わせてしまうようなグルーヴ感の持ち主は他にはいません。どっしりしていてスピード感があるのです。そしてピアノソロ演奏も素晴らしいですが、バッキングのフィルインのテイストが半端なくカッコいいののです!初リーダー作Strokin’はTeeにとって満を持してのリリースになりました。この作品を含めTeeは生涯に5枚のリーダー作を発表しています。彼の膨大なレコーディングの量にしては少ないかも知れませんが、自分が前に出てリーダーを取るよりも、主体を映えさせるために演奏するサイドマン気質が強い脇役タイプのミュージシャンだと思います。水戸黄門の助さん格さんですね(笑)。Teeの生演奏を初めて聴いたのは78年のNew York All Stars、東京芝郵便貯金ホールのステージです。ホール鑑賞という、条件としては決して良く無い音響なのですが、ピアノの音がよく鳴り響いていたのを覚えています。前回のBlog「Zappa In New York」の時に抜粋、引用したMichael Breckerの雑誌Jazz Lifeへのコメント、このアルバムの表題曲Strokin’での彼のソロを聴かせ、やはりコメントを貰っていますがこれが実に端的にTeeの音楽性、人柄について発言していますので、今回も抜粋し注釈を加えて掲載したいと思います。
ー次は、リチャード・ティー(key)の「ストローキン」です。
〜曲をプレイ〜
MB:リチャードは教会でゴスペルをやっていただけあって、とてもファンキーなアプローチをとっているけど、それを彼は別の次元まで昇華させてしまっているんだ。あまりにも強烈なスタイルを持っていて誰にも真似をすることなどできないよ。(レコーディングに誘われ)彼が私とプレイしたいと思っていたことは、とても驚きであったと同時に、心から嬉しかったんだ。それは当時の私にはファンキーな部分が足りないと思っていたからさ。でも、彼が私とプレイしたいという気持ちを表現してくれたことによって、とても救われた気がしたね。この曲に関してのソロはとても気に入っている。こうやって聴く限り、リリカルかつ濃密なプレイをしようとしていたように思えるんだ。グルーヴの中にいるんだけど、完全にノってしまうのではない、という感じかな。いろいろな要素をブチ込んで成功したいい例だね。これらの曲はどれを聴いても驚きの連続だよ。というのはこの頃の私の考え方と今とでは完全に変わってしまっているからさ。ほとんど別人のようさ。
リチャードとは、いろいろなツアーに一緒に参加したんだ。ニューヨーク・オールスターズの時には一緒に来日している。あれは78年だったかな?その後、ポール・サイモン(vo,g)のツアーで1年半ほど一緒に過ごしたんだけど、その間に病気で倒れてしまったんだ。リチャードとの活動はすべて素晴らしい思い出だ。彼がツアーで使うために、初めてシンセサイザーを買った時のことを憶えているよ。ホテルの彼の部屋に行って、シーケンサー部分の使い方を教えたことがあるんだ。クォンタイズの設定なんだけど、(教えようとしたら)その時彼は私を変人を見るような目つきで見ていたよ(笑)。(何でオレにそんな機能が必要なんだよってね)でもこれまで会ってきたミュージシャンの中で彼だけだよ、その機能がまったく必要なかったのは。彼のリズム感は本当に正確だったからね。ドラム・トラックなんかでもね。もちろん私のプレイはすべてクォンタイズしているよ。そのままではあまりにもヒドいからね(笑)。
「絶対音感」があるのなら「絶対リズム」もありそうですね。Teeにはきっと備わっていたのでしょう。リズム・クォンタイズに関するMichael流ジョーク混じりの謙遜は実に可笑しく、彼らしさが出ています。
それでは曲毎に見て行きましょう。1曲目はChuck RaineyのオリジナルFirst Love。Teeのピアノのメロディに絡むストリングスが気持ち良いです。GaddのドラムとRalph MacDonaldのカウベルやタンバリンが重なり合い、絶妙なリズムを繰り出しています。Eric Galeのギター・カッティングが隠し味的に効いています。Tom Scottのテナーソロも曲想にマッチした語り口を披露しています。恐らくクリックを使わずに演奏していると思われますが、たっぷりどっしりとした安定感がハンパないです。
2曲目はTeeのオリジナルEvery Day。イントロのアルペジオを聴いただけでグッときてしまいます。ここではTeeのボーカルがフィーチャーされています。Galeのソロは音数少なめながら説得力のあるフレージングに仕上がっています。
3曲目表題曲Strokin’、前述のMichaelのコメントに補足する形で述べましょう。Teeの煌びやかなピアノ奏があくまでメインですが、曲自体同じモチーフを繰り返し徐々に盛り上がっていくドラマチックな構成に仕立てられ、後半のMichaelのソロ登場に至るまで、まだか、そろそろか、とワクワクしながら聴いてしまいます。Teeのピアノの合間に聴かれるストリングスが高揚感を煽り、一層ソロが楽しみになる仕組みです。それにしてもこの人のピアノは何でこんなに個性的な素晴らしい音がするのでしょう?そしてそして、いよいよGaddのフィルインに導かれてMichaelのソロが始まります!いきなりフラジオのG音、全音下のF音を引っ掛けて吹いていますが強烈なインパクト!!カッコイイ〜!端々にKing Curtisのフレージングの影響を感じますが、そこはMichaelの歌いっぷりで自分のものにしています。実は何度かソロを重ね、オイシイところを切り取り、レコーディング技術を用いてパッチワークのように貼り合わせたソロなのですが、そんな舞台裏事情は全くどうでも良い次元のハイクオリティーな演奏です。78年録音ですのでもちろん楽器はSelmer Mark6、6万7千番台、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、エッジーでコクのある音色です。この頃のMichaelはリズムがOn Top気味で演奏する時がありましたが、ここでは意識してか、否か結構On Topで吹いています。思わずクォンタイズしたくなってしまいます(笑)
以上がレコードのSide Aです。4曲目はMacDonaldのオリジナルI Wanted It Too、Scottのlyricon(うわっ、懐かしい!)Hugh McCrackenのハーモニカをフィーチャーしています。バックで鳴っているホーン・セクションはtp)Jon Faddis, Randy Brecker ts)Michael Brecker tb)Barry Rogersです。NYのスタジオ第一線らしいキレのあるセクション・ワークを聴かせています。
5曲目はTeeの蕩けるほどに美しいナンバーVirginia Sunday、Fernder Rhodesでメロディ、ソロ共に演奏しています。こちらの音色と曲想が良くマッチしています。先ほどのホーン・セクションにバリトンサックスでSeldon Powellが加わっています。良く鳴っていてセクションのサウンドをタイトに分厚くしています。Scottが再びlyriconでソロを取っておりアナログ・シンセサイザーの音らしく太い良い音色です。現代に於いてもはや使う人はいませんが。この曲はNew York All Starsでも取り上げられていました。そちらのRandy, MichaelにDavid Sanbornが加わった3管でのバージョンもとても素敵です。この曲を聴いていてVirginiaの日曜日はさぞかし優雅でメロウなのだろうな、と想像してしまいます。
6曲目はMotown仲間(?)Stevie WonderのオリジナルJesus Children Of America。前曲のホーン・セクションにさらにストリングスも加わり分厚く豪華なサウンドを聴くことが出来ます。Fender Rhodesにエフェクターを施したサウンドでTeeはソロを取っています。バックに生ピアノのバッキングも聴かれるので後からオーバーダビングしたものとなります。続くGaleのソロも味わいのある音色でFender Rhodesのエフェクター音と対になっています。
7曲目、レコードのラストを飾るのはTeeとGaddのDuetによるBill Strayhornの名曲Take The “A” Train。メチャクチャかっこいいです!グルーヴ、サウンド共に双生児のような2人です。ベースや他の楽器は全く不要です。この2人だけで幾らでも、延々と演奏する事が出来るでしょう。ソウルブラザーに乾杯!
余談ですが今から20数年前に演奏で名古屋に行った時の事です。街中にある鰻の老舗に昼間、名物ひつまぶしを食べに行きました。4人掛けのテーブルに僕が一人で座っていたところ、昼時で店が混雑してきたので従業員が相席をお願いします、という事で前に座ったのが黒人二人連れ。両名とも見たことのある顔なので確認したところRichard TeeとドラムのBuddy Williamsじゃあありませんか!もちろん初対面なので自己紹介をして「ところで何で名古屋に来ているの?」尋ねると新しく開店したライブハウスのこけら落としでの演奏、Cornell Dupreeのバンドでの来日でした。「Strokin’」やWilliamsの参加作の話などをしていると二人はひつまぶしを二人前づつ頼んでいます。結構な量のはずなので「二人前づつ食べるんだね」と聞くと「Yes, we love eel!!」と笑いながら答えてくれました。気さくな二人の人柄に触れられたのと同時に、素晴らしい演奏家は食欲も素晴らしいのだと実感しました。
今回はギタリスト、コンポーザーFrank Zappaの傑作「Zappa In New York」を取り上げてみましょう。
1976年12月The Palladium In New York Cityにてライブ録音。翌77年UK発売、78年USA発売。cond,prod,g,vo,)Frank Zappa g,vo)Ray White key,violin,vo)Eddie Jobson b,vo)Patrick O’Hearn ds,vo)Terry Bozzio perc,synth)Ruth Underwood as,fl)Lou Marini ts,fl)Mike Brecker bs,cl)Ronnie Cuber tp)Randy Brecker tb,tp,piccolo)Tom Malone narr)Don Pardo timpani,vibes)David Samuels per-overdub)John Bergano per-overdub)Ed Mann osmotic harp-overdub)Lou Anne Neill
Disc 1 1)Titties & Beer 2)Crusi’n For Burgers 3)I Promise To Come In Your Mouth 4)Punky’s Whip 5)Honey, Don’t You Want A Man Like Me? 6)The Illinois Enema Bandit
Disc 2 1)I’m The Slime 2)Pound For A Brown 3)Manx Needs Women 4)The Black Page Drum Solo/Black Page#1 5)Big Leg Emma 6)Sofa 7)Black Page#2 8)The Torture Never Stop 9)Purple Lagoon/Approximate
発売当時レコード2枚組でリリースされました。後年やはり2枚組でCD化された際には未発表曲が5曲追加され、曲順も変更されています。ここではCDバージョンで見ていきましょう。
そのまんまの表現です恐縮ですが、笑っちゃうくらいに物凄い音楽です!!カテゴリーとしてはロックの範疇に入るのでしょうか、門外漢なので分からないのですが一大ロック叙情詩、ロックンロール、メタル、プログレ、オペラ、コメディ、ジャズ、フュージョンと様々なテイストを包括した壮大な音楽です。大胆にして繊細、コミカルでいてシリアス、超絶技巧の演奏が実に平然と当たり前のように行われています。The Palladiumのステージには13人が上がり、オーケストラ然としてZappaが指揮棒を振りつつギターを弾き、喋り、歌っています。パーカッションで更に3人がオーバーダビングに加わり、総勢16名がレコーディングに参加しています。Moogシンセサイザーの音色が時代を感じさせる以外は現代の感覚でも実に斬新な音楽です。全曲Zappaのオリジナル、アレンジ、非常に難解なスコアを、ライブにも関わらず全く正確無比にトークやコメディ、寸劇を交えながら難なく緻密に演奏するそのヒップさが堪りません!(実際は綿密なリハーサルを何回も重ねているに違いないのでしょうが)参加メンバーのMichael、Randy のBrecker Brothers(BB)、ドラムスTerry Bozzioの参加に惹かれて友人にダビングして貰った事から聴き始めました。彼らのそこでの出会い、BBの傑作「 Heavy Metal Be-Bop」は Zappa In New Yorkでの共演無くしては誕生しませんでした。
以前雑誌Jazz Lifeに僕はよく原稿を書かせて貰っていました。Michael Breckerにも新作のリリースや来日の際、本当によくインタビューをさせて貰いましたが、その回数の多さからネタ切れ感もあり(笑)「今までに彼がレコーディングしたソロの名演を聴かせてそのコメントを貰う」という企画を編集部に提案したところ、有難い事に制作会議を通り、2回もやらせて貰えました。素直な人柄のMichaelさん、自分の演奏を聴いた印象を包み隠さず何でもお話ししてくれましたし、レコーディングに纏わる話、ウラ話等実によく覚えているのには驚きました(こちらにもきっと面白い逸話を話してくれるに違いないという目論見もありましたが)。でもやったこと自体を全く覚えていないNeil Larsenの作品「Jungle Fever」収録Last Tango In Parisの自分の演奏を「ずいぶんと派手なソロだね」と他人事のように話すのには大笑いしました。
その1回目のインタビュー、10曲ほど聴かせた中に本作収録曲Sofaのコメントがありますので抜粋して掲載したいと思います。
ーあと2曲になりました。こちらはフランク・ザッパ(g,vo)の「ソファ」です。
〜曲をプレイ〜
MB:これはプレイした時以来に聴いたよ。このアルバムのことはいつも人に聞かれていて、聞かないといけないと思っていたんだけど、なかなかチャンスがなかったんだ。やっとみんなが言っている意味がわかったよ。国歌のような感じだね、金星あたりの(笑)。フランクのプレイはとにかく素晴らしい。彼は一緒に作業をしていても、本当に面白い存在だったね。彼自身はジャズのバックグラウンドを持っていないから、ジャズ・ミュージシャンにとても敬意を持っていてくれたね。ステージではふざけていたけど、作曲やプレイに関しては本当にシリアスだったんだ。それだけに共演するミュージシャンには正確さを強く要求した。ロニー・キューバ(bs)のプレイも素晴らしいね。いいレコードだ。今度買いに行かなきゃ(笑)。
ーこれはライブ録音ですよね?
MB:そうそう、NY14番街にあるパラディアムでやったライブだよね。たしかハロウィンの頃だったね(実際はクリスマスの頃)。たしか4晩連続でプレイして、「ブラック・ページ」のような極めて複雑な曲をやったんだ。この後に、フランクが私に「サックスとオーケストラの曲を書いたから吹いてほしい」と、オーストリアに誘われたのを覚えている。結局、私はいけなかったんだけどね。彼のステージには30メートル近いバックドロップが吊られていて、そこに大きく「くたばっちまえ、ワーナー・ブラザーズ!」と書いて合った。それが4晩ずっとあったんだ(笑)(注:しかもこのアルバムはワーナー・ブラザーズから発売された)。そして、この時、私と兄のランディは初めてテリー・ボジオ(ds)に会ったんだ。彼のプレイに惚れ込んでしまい、私達のバンドに誘って「マイ・ファーザース・プレイス」というクラブで録ったライヴがアルバム「ヘヴィ・メタル・ビ・バップ」として発売されたんだ。そう考えると興味深い1 枚だね。
実に的確で素晴らしいMichaelのコメントです。この時彼はゆっくりと、その場に相応しい言葉を選びながら発言していました。ジャズ・ミュージシャンに敬意を払うZappaの繊細さ、ふざけていながらも音楽的要求には厳しいシリアスさ、ロックミュージシャンらしいユーモアのセンス、そして誘われたオーストリアの仕事はMichaelの代わりに誰が演奏しに行ったのかにも興味が尽きません。Heavy Metal Be-Bopが録音されるにまで至るプロセスも垣間見る事が出来、インタビューアー、聞き手がどんな事を望んでいるのかをしっかり把握しつつの物言いです。
それでは曲ごとに見て行きましょう。1曲目Titties & Beer、マスクを被り悪魔に扮したBozzioとZappaのトーク、寸劇のためのナンバーです。アドリブの会話も含め、実にシリアスな妄想の世界を演じ聴かせています。ジャズのコンサートでは考えられないような内容のトーク、危なくて猥雑で下世話でメチャメチャですが、とっても大好きです!
2曲目インストによるナンバーCrusin’ For Burgers、前曲から間を置かず演奏されます。それにしてもこれは一体何という音楽でしょうか?人を喰ったようなメロディライン、暴れまくるBozzioのドラミング、延々と続くZappaのメタルギターソロ、Edward Van Halenを彷彿とさせます。マリアッチのリズム、雑多ではありますがZappa流の統一感の美学を感じさせます。
3曲目I Promise Not To Come In Your Mouth、叙情的で繊細なZappaの一面を見ることが出来る演奏です。
4曲目はSophisticated NarrationとクレジットされたDon Pardoによるナレーションから始まるPunky’s Whips。劇伴っぽいサウンドですが細部の構成に拘ったアレンジが聴かれます。何と言ってもメンバーの演奏のクオリティが高いのでしっかりと耳に入ってくる演奏です。Bozzioクレイジーさ、ヤバイです!
5曲目Honey, Don’t You Want A Man Like Me?はZappaのボーカルをフィーチャーしたラブソング、屈折した愛を語るのに相応しいバンドのアレンジが施されています。
6曲目は再びDon Pardoナレーションの登場によるThe Illinois Enema Bandit、この人の語りは全てを正当化してしまう説得力に満ちています(笑)。実話に基づいた強盗の事件を想像を加味しストーリーに仕立てています。リードボーカルはRay White、しかしこいつらは何でこんなにマジにこのネタで演奏出来るのでしょうか?
Disc 2 1曲目I’m A Slime、ホーンセクションのラインが印象的です。Zappaのトークに絡むDon Pardoのナレーション、Zappaのギターソロ、継続的に演奏されるホーンセクションのエグさ、Ronnie Cuberの音がかなり大きく、Michaelはフルートで参加しているようです。
曲続きで2曲目Pound For A Brown、インストによる演奏は8分の7拍子が基本となったプログレ系の曲です。Bozzioのフィルインは変拍子をものともせず本領発揮です。Michaelのテナーの音が良く聴こえるフリーキーなホーンセクションの合奏の後の3曲目Manx Needs Women、この頃から楽器を6万7千番台のSelmer Mark6、マウスピースをEddie Danielsから譲り受けたDouble Ring6番で演奏しており、真新しいラッカーの剥げていないテナーを吹く彼の写真がライナーに掲載されています。そして!そろそろZappa超絶技巧アンサンブルの登場の時間です!4曲目、5曲目のThe Black Page Drum Solo/ Black Page#1の前哨戦、ホーンセクションも大活躍です!The Black Page Drum Soloの打楽器アンサンブルの猛烈な合い具合の凄さから、続くBlack Page#1のアンサンブルは本作の白眉です!ここで聴かれる演奏は人間が織りなす合奏の極致のひとつと言って全く過言ではありません!この曲を大編成で、しかもライブでやろうと言うZappaの精神構造が知れません(汗)。それにしてもこれは多くの人に聴いて貰いたい音楽史上に残る名演奏です!!
5曲目は一転してファンキーでダンサブルなナンバー、Big Leg Emma。
6曲目は前述のSofa、Michaelがいつに無いエグいニュアンスでメロディを演奏しています。
7曲目はZappa自身の解説付きBlack Page#2、#1が難解バージョンだったのに対しこちらはニューヨークのティーネージャー向け簡単バージョンだそうです。僕には全くそのようには聴こえないのですが(汗)。総勢16名のミュージシャンによる信じられないレベルでの超絶合奏!改めてこの演奏を聴いて、音楽って何て奥が深く、自分が拘っている事が何てちっぽけなんだろう、と思い知らされるくらい物凄い演奏です!!
8曲目The Torture Never Stopsの歌詞の内容はZappaの社会や歴史、世の中に対する負の行いへの抗議のメッセージが込められています。
9曲目ラストを飾るのはThe Purple Lagoon/Approximate。これまた凄いラインから成るインストナンバー。ソロの先発はずっとアンサンブルで温存されていたアドリブ・プレーヤー魂を全開にしているMichael、ここでのBozzioとのやり取りは既にHeavy Metal Be-Bopでの演奏を十分に感じさせます。続くソロはZappaのギター、この人の演奏を聴くたびにロックとジャズギターの語法、ライン、タイムの違いは決定的なのだと感じます。Cubarのバリトンソロ、ベースPatrick O’Hearn、Randyのコーラスをかけたトランペットソロ。Bozzioはジャズミュージシャンと対等に演奏出来るジャズスピリットを持ち合わせていますが、本作他のリズムセクション・メンバーに感じることは出来ません。この演奏の映像が残されていたらさぞかし秀逸なのだろうと思います。
今回はThe Beatlesのドラマー、Ringo StarrがThe Beatles解散後に初めて発表した作品「Sentimental Journey」を取り上げてみましょう。
1970年3月27日リリース Apple Label Producer : George Martin
1)Sentimental Journey 2)Night And Day 3)Whispering Grass(Don’t Tell The Trees) 4)Bye Bye Blackbird 5)I’m A Fool To Care 6)Stardust 7)Blue, Turning Grey Over You 8)Love Is A Many Splendoured Thing 9)Dream 10)You Always Hurt The One You Love 11)Have I Told You Lately That I Love You? 12)Let The Rest Of The World Go By
全曲Ringo Starrのボーカルをフィーチャーしたスタンダード・ナンバー集です。本業のドラムスは一切演奏していません。今までこのBlogではジャズメンの作品しか取り上げなかったのに何故?しかもRingo Starr?と思われる方もいらっしゃると思います。確かにこの作品は純然たるジャズアルバムでは無いかもしれません。またRingoのボーカル自体も決して上手いとは言えず、1oo歩譲って味のある歌いっぷり、と言うのも難しいところです。The Beatles時代のBoys、I Wanna Be Your Man、Matchbox、Honey Don’t、Act Naturally、What Goes On、Yellow Submarine、With A Little Help From My Friends、Don’t Pass Me By、Good Night、 Octopus’s GardenこれらのRingoフィーチャー曲での微妙なピッチ、あまり声の出ていない、リズムが多少ルーズな、歌詞を棒読みする傾向のある、声の抑揚の希薄な歌い方は他のThe Beatlesのメンバーの圧倒的な歌唱力と比べてはいけないのかも知れませんが、人間の耳というのは適応力、慣れがあるものでRingoの歌には他のメンバーには無い「癒し」を見出して彼のボーカルを好意的に聴いているような気がします。
実は僕はThe Beatlesの大ファンです。小学校6年生の時に生まれて初めて買ったLPが「 Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」でした!数年前に全作品のデジタル・リマスター盤がリリースされて以来、その音質の素晴らしさ(レコードや従来のCDでは聞こえなかった音が聞こえるのです!しかもごく自然に!)にThe Beatlesのサウンドを再認識して日常的によく聴いているのですが、「Let It Be」以降解散してからの各メンバーのリーダー作品はこの「Sentimental Journey」を除いてあまり聴く機会がありません(とは言えたまには聴いていますが)。The Beatlesの諸作はJohn Lennon、Paul McCartney、George Harrison、Ringo Starr4人の個性が絶妙なバランス感、ブレンド感を伴って崖っぷちぎりぎりで成り立っている凄みを聴かせてくれますが(特にラストアルバム「Abbey Road」の素晴らしさは崩壊直前の美学!)、各々のリーダー作品にはどうしても物足りなさを感じてしまいます。作品の色が個人芸に由来するモノトーンなのが最大の原因でしょうか?人間の個性が合わさった相乗効果で1+1以上の効果をもたらす、The Beatlesの場合は4人の音楽性が時に計り知れない化学的反応をもたらしています。「Sentimental Journey」を贔屓にするにあたり、「お前は上手いプレイヤーか、味のある演奏が聴ける奏者の作品しか聴かないんじゃなかったのかい?」と言われるかも知れません、その傾向が無い訳ではありませんが、この「 Sentimental Journey」ではRingoの唄に癒しを見いだしつつ、バックを務めるGeorge Martin Orchestraの実に素晴らしい職人芸サポート演奏、そして何より全12曲各々アレンジャーが異なり(とってもお金が掛かっています!)、12人が腕によりを掛けてRingoをバックアップすべく素晴らしいビッグバンド・アレンジを競って提供している点に堪らなくワクワクしてしまうのです。
この作品のジャケット写真はRingoが少年時代住んでいたLiverpoolにあるThe Empress pubの建物写真にコラージュを施しています。
ジャケット写真と作品の内容の関わり具合が絶妙です。40~50年代のビッグバンドジャズが華やかし頃の雰囲気がほのぼのと伝わってきます。建物の写真がピサの斜塔のように若干斜めにレイアウトされているのもユーモラスです。そもそもがRingoのお母さんに「あんたは良い声をしてるんだからさ、私の好きなスタンダード・ナンバーばかり歌ったアルバムでも作ってみたら」と促されてのがきっかけでこの作品が録音されました。「気持ち良く歌えたので、この作品なら母親でも楽しめるだろうね」と発言しており、詰まるところ大好きなお母さんElsie Starkeyに捧げられた作品なのです。Ringoは子供時代に母親が良く聴いていたスタンダード・ナンバーを一緒に耳にしていたので、スタンダード・ナンバーは彼の音楽的ルーツなのでしょう。The Beatles解散直後に一度原点に戻った形です。
それでは収録曲を見て行きましょう。録音全体でRingoのボーカルが引っ込み気味なのは気のせいでしょうか。通常ボーカリストの作品はボーカルが全面的に前に出ているものです。エレクトリック・ベースのコーニーな音色がこの時代のサウンドを物語っていますが他の楽器の音色は現代でもさほど変わりません。ビッグバンド演奏はGeorge Martin 率いる彼のOrchestra、George MartinはThe Beatlesの諸作を殆ど全てアレンジしたバンドの立役者です。でも彼以外オーケストラ・メンバーのクレジットがジャケットに一切ない事にも時代を感じさせ、バックバンドはひたすら裏方感が半端ないです。そう言えばThe Beatles時代の「White Album」収録曲George Harrisonの名曲While My Guitar Gently Weepsで聴かれるEric Claptonの素晴らしいソロ、彼の名前はレコードジャケットの何処にもクレジットされていません。レコード発売当時はGeorge自身がソロを取っていると思われ、彼もギターが上手くなったな、と評判が立ったらしいです(爆)それとも英国という国は、作品のリーダーと重要なメンバー以外はクレジットしないことが常識なのでしょうか。米国の方は権利の国なので演奏者のクレジットは徹底して記載されています。
1曲目表題曲のSentimental Journey、アレンジは以降Ringoの「 Good Night Vienna」等をプロデュースする事になったRichard Perry、のどかな米国南部の雰囲気を醸し出しています。ストリングスの使い方、バスクラやバリトンサックスが効果的に用いられています。
2曲目Cole PorterのNight And Day、アレンジャーはキューバ出身のChico O’Farrill。ジャズテイスト満載の素晴らしいアレンジです。ブラスセクション良く鳴っています!ダイナミクスも徹底しています。ドラマーのグルーヴ、フィルインがBuddy Richを彷彿とさせるテイストでこちらもとってもグー!Ringoも気持ち良く歌っているのが伝わります。ピックアップから始まる間奏のテナーソロもご機嫌なのですが、明らかにフェイドアウトで強制終了されているので、こちらにも伴奏者の裏方感を感じてしまいます(泣)。
3曲目Whispering Grassのアレンジはご当地英国出身のRon Goodwin、ストリングスの使い方が絶妙でゴージャス、多分数々の映画音楽を手がけているのでしょう。この曲は米国のコーラスグループThe Plattersの演奏が有名ですが、Duke Ellingtonも取り上げているそうです。
4曲目Bye Bye Blackbirdのアレンジは英国出身の男性コーラスグループBee Geesのメンバー、Maurice Gibb。バンジョーを生かしたNew Orleans仕立てから始まり、ストリングスやブラスセクションを次第に重ねてサウンドに重厚感を持たせています。エンディングはキーを半音上げてドラマチックに終えています。
5曲目はカントリー&ウエスタンの名曲I’m A Fool To Care、アレンジャーはThe Beatlesとも馴染みの深いベーシストKlaus Voormann。ストリングスやブラスセクションの使い方もオシャレですが、どうもこの作品のストリングスとブラスセクションは同一人物がアレンジを施しているように感じます。ということはGeorge Martinが各曲のアレンジャーのアレンジの意向を踏まえ、最終的なアレンジのまとめ役を引き受けているのでは、と。
6曲目Hoagy Carmichaelの名曲Stardust、アレンジャーはPaul McCartneyとクレジットされていますが、EMIの資料ではGeorge Martinとなっており、Paulは何らかのアレンジのアイデアを提供し、George Martinが同様にまとめたと推測されます。星屑をイメージしたエンディングのグロッケン?の使い方辺りはPaulのアイデアではないかと想像していますが、実際のところはどうでしょうか。
レコードでは以上がSide A、B面に入った7曲目はこの作品中最もジャズ度の高いアレンジ曲、ハイライトと言えるBlue, Turning Grey Over You。アレンジャーは数々の名アレンジを世に送り出したOliver Nelson。素晴らしいアレンジにメンバー一同インスパイアされGeorge Martin Orchestra大熱演、張り切ってます!トランペットセクションのハイノート素晴らしい!後からボーカルをオーバーダビングしたRingoもバンドの演奏に惚れ込んでかスインギーな歌を聴かせています。この曲はGeorge Martinのアレンジが介入せずOliver Nelsonのアレンジ一本と思われ、当時の彼のアレンジの特色である8分の12拍子での低音パターンが聴かれます。ドラマーもグイグイとバンドを引っ張り(の割には演奏がだんだんと遅くなっていますが)、Buddy Richが現代的になったようなフレージングを叩きまくっています!エンディングにはRingoがご愛嬌でスキャットを聴かせています。
8曲目はLove Is A Many Splendoured Thing、「慕情」はアカデミックなQuincy Jonesのアレンジが光ります。全体的なサウンドの密度、アンサンブルでの楽器の使い方、重ね方にQuincyならではのマジックを感じます。この曲でもGeorge Martinはアレンジの介入はしていないように思います。Ringoの声よりもコーラスの声の方が大きくミックスされているので、Ringoを中心としたコーラス・アンサンブルのような聴かせ方になっており、Ringoの歌のウイークポイントをうまい具合にカモフラージュしています。
9曲目Dream、Johnny Mercerの名曲です。アレンジはGeorge Martin自身によるものです。こちらは曲のキーを低く設定してRingoの中音域〜低音域の声を多重録音しているので、濃密な囁き声という雰囲気でのボーカルを聴かせています。ブラスセクションの生かし方、鳴らし方がさすがGeorge Martin、良く分かってらっしゃる。
10曲目You Always Hurt The One You Love、アレンジは英国出身のサックス奏者John Dankoworth。間奏のアルトソロもアレンジャー自身によるものです。この曲でのホーンアレンジ、George Martinよりもジャジーなテイストを感じさせるので多分Dankoworthによるものでは、と推測されます。リズムのパターンがいかにも60~70年代風で懐かしいです。
11曲目Have I Told You Lately That I Love You? アレンジは米国出身の映画音楽作曲家Elmer Bernstein、Leonard Bernsteinとは同姓で同じユダヤ系移民出身ですが血縁関係はなかったそうです。でもお互い友人関係だったのは有名な話です。ポップで軽やかなアレンジは随所にスパイスを効かせており、聴いていて思わず笑みが溢れてしまいます。Ringoの声質によくマッチした曲想です。
12曲目Let The Rest Of The World Go Byは1919年の曲で、古き良き米国の雰囲気が伝わります。アレンジャーは英国出身の作編曲家のLes Reed。曲想に合致した優しい優雅なアレンジに仕上がっています。
Sonny Side Up / Dizzy Gillespie, Sonny Rollins, Sonny Stitt
今回はDizzy Gillespie、Sonny Rollins、Sonny Stitt3人の共同名義による作品「Sonny Side Up」を取り上げましょう。実質的なリーダーはGillespieですがテナー奏者2人に思いっきり演奏させています。
1957年12月19日Nola Recording Studio, NYC tp,vo)Dizzy Gillespie ts)Sonny Rollins, Sonny Stitt p)Ray Bryant b)Tommy Bryant ds)Charlie Persip prod)Norman Granz Verve Label
1)On The Sunny Side Of The Street 2)The Eternal Triangle 3)After Hours 4)I Know That You Know
モダンジャズ黄金期の57年12月にニューヨークで録音されています。時期や場所的に悪いものが録音されるわけがないのですが、これは飛びっきり極上な出来栄えです!トランペット、テナーサックス2管、ピアノトリオのSextetでの演奏です。
この作品のレコーディング8日前、12月11日にやはりDizzy Gillespieが「Duets」という作品を録音しています。正式には「Dizzy Gillespie With Sonny Rollins And Sonny Stitt / Duets」というタイトルで、ジャケ写に3人並んでの演奏風景、リズムセクションのメンバーが同一な上に、国内盤のタイトルが上記とは若干異なり3人のクレジットが並列になっているので、てっきり「Sonny Side Up」同様にSonny2人の壮絶なバトルを聞くことが出来るアルバムかと思いきや(勿論レコード会社もそのあたりを狙ったのでしょうが)、2曲づつRollinsとStittを迎えてQuintetで演奏しており、残念なことに2人のSonnyの共演はありません。ですのでこのジャケ写は「Sunny Side Up」録音時撮影のものと推測されます。
このレコーディングの出来が思いのほか良かったので、Verve LabelのプロデューサーNorman GranzがGillespieに「Dizzy、じゃあ今度は2人のSonnyと一緒に演奏するのはどうだ?あいつらにバトルをやらせるんだよ!」と話を持ち掛け「ついでにSonny繋がりでOn The Sunny Side Of The Streetも演奏したらどうだろう?Dizzyのレパートリーにあるだろ?そう来ればアルバムのタイトルもSonny Side Upなんて面白そうだな!ダジャレだけどね!」そこまで具体的に提案したのかどうかまでは分かりませんし(笑)、逆にもともと2人の Sonnyとセクステットで録音する企画があり、そのリハーサルを兼ねたレコーディングが「Duets」だったのかも知れません。しかしジャズという音楽はメンバーの人選によりケミカルな作用が働くもので、2人のSonnyの壮絶なバトルがジャズ史上に残る名演を産み出しました。必ずしも「対抗意識」というのは良い結果を生み出すとは限りませんが、2人のSonnyの場合は見事に功を奏しました。
実は「Sonny Side Up」録音の前日、12月17日にもGillespieはスタジオ入りして彼名義のアルバムを録音しています。The Dizzy Gillespie Octet「The Greatest Trumpet Of Them All」 Verve Label
同じスタジオで同一メンバーのリズムセクション、音楽監督にBenny Golsonを迎えてtp,tb,as,ts,bsの5管編成から成るOctetでのレコーディングです。Benny Golsonのゴージャスで品格のあるアレンジにより美しいアンサンブル、リラックスした演奏を聴く事ができます。加えてミディアム・テンポが中心の演目が更に優雅な雰囲気を醸し出しています。翌18日に行われる火の出るような白熱したセッションの予感など微塵もありません。
Benny Golsonのアレンジですが、僕が在籍したビッグバンド「原信夫とシャープス&フラッツ」にかなりの曲数のGolsonアレンジによるビッグバンド譜面がありました。僕自身も随分とその譜面を元に演奏しましたが、何れにもGolson流の美意識が沸々と感じられ、同時にジャズの伝統に根ざしつつも何か新しいテイストを加味しようとするチャレンジ精神、情熱、それらを踏まえた上でのジャズへのリスペクト、愛情、シャープスで演奏していて毎回堪らなくワクワク感を抱かせてもらえました。
さて「Sonny Side Up」に話題を戻しましょう。57年12月はGillespieの仕事で忙しかったレギュラートリオのメンバー、ピアニストRayBryantとベーシストTommy Bryantは兄弟ですが( Tommyが兄)、この2人には更にドラマーのLen Bryantがいるそうです。兄弟でピアノトリオを組めるなんて楽しそうですね。更にギタリストKevin Eubanks、トランペッターDuanne Eubanks、トロンボーン奏者Robin Eubanksの3兄弟はRay Bryantの甥っ子達だそうです。優れたミュージシャンを大勢輩出したジャズ家系です。
「Duets」の2人のSonnyの演奏はいつもの彼らの水準値での演奏を聴くことが出来ます。言ってみれば並、例えれば松竹梅の「梅」の演奏ですが、「Sonny Side Up」での2人の演奏のクオリティは全く異なります。特上や「松」どころではない、全く別物と言える熾烈なインプロヴィゼーションの戦いが聴かれます。推測するに「Duets」録音時には2人のSonnyの共演は決まっていなかったという気がします。バトルが決まっていたのならその時点で2人のSonnyはお互いを意識して既に「松」クオリティの演奏を展開していたように思えるからです。
「Hi, Sonny, 12月18日火曜日にもDizzyのレコーディングを企画したので宜しく。リズムセクションのメンバーは同じだけど2人のバトルを予定しているからね、盛り上がってくれよ、僕も楽しみにしているから」とプロデューサーのNorman Granzが「Duets」の録音後に口頭で2人に伝えたのかどうか知る由もありませんが、2人のSonnyはどんな気持ちで18日レコーディング当日まで過ごしたのかを想像するのも面白いです。Stittの方がかなりナーバスに過ごしたのではないかと感じてしまうのは、対抗意識を剥き出しにしてレコーディングに臨んでいるからです。Stittは24年2月2日生まれでこの時33歳、一方のRollinsは30年9月7日生まれで27歳、しかもRollinsは56年「Saxophone Colossus」以降57年「Sonny Rollins, Vol.2」「Newk’s Time」「A Night At The Village Vanguard」と名盤を量産していた時期でまさに飛ぶ鳥を落とす勢い、Stittの方もコンスタントに作品をリリースしていましたが何しろ6歳年下の若造に負けるわけにはいかない意地を感じさせます。Rollinsは先輩格のStittとのおそらく本格的な共演は初めてなので、身の引き締まる思いでレコーディングに参加しましたが委細構わず、処処に臆する事無く、泰然と構えて演奏しています。この当時神がかったかの如くジャズのスピリットの化身のような演奏を繰り広げる時がありましたが、ここでは間違いなくジャズの神が降臨しています!
2人の演奏スタイルについてですが、基本的に2人共Charlie Parkerの影響下にあり、Stittはそれを貫き通しつつも自己の語法を確立しています。ただ僕には彼の吹く内容が全てフレーズに感じてしまうのです。端的に述べるならばフレーズという手持ちのパズルのピース、断片を組み合わせてアドリブをしている、Stittの所有するパズルのピースは半端ない数なのでそれはバリエーションに富んでいるのですが、結局のところ全てが予定調和で終わってしまっているように聴こえます。箱庭の中での造作を楽しんでいると言うか、ジャズという音楽の様々な要素の中で「意外性」は特に大切だと思うのですが、Stittの演奏には破天荒さは期待できず、なのでハズレはないのですが大当たりもありません。僕は些かStittに対し厳しすぎる評価を下しているかもしれませんが。一方RollinrsはParkerの他テナーサックスの先達Ben Websterや Coleman Hawkinsにも多大な影響を受けつつ自己のスタイルを確立させています。メロディを発展させることをアドリブの基本に、極太でコクのある倍音豊かなテナーサックスの王道を行く音色で、ジャズ史上最も1拍の長い音符で演奏する奏者の1人として豪快に、スポンテニアスさを根底に、型にはまらなさを最大の武器としてソロを展開させ、Rollins向かう所敵なしを印象付けています。
1曲目On The Sunny Side Of The Street、明るいハッピーな曲想はオープニングに相応しいかもしれませんが、2人のSonnyは水面下で既に火花が散っています。ソロの先発はStitt、軽快なフレージングで切り込み隊長を務めます。Stittはアルトサックスも演奏しますが、アンブシュアが両方の中庸を行っているようで、アルトがそのまま低くなったテナーの音色に近く聴こえます。タイム感も少し前気味で1拍の長さがRollinsに比べると少し詰まり気味です。それでも巧みなジャズフレージングのショウケース、舞の海関状態のフレーズのデパートの観を呈しているので聴き手に訴えかけます。Gillespieのミュート・トランペットによるソロを経てRollinsの出番です。この圧倒的な存在感、腰の据わり方、ゴージャスさ、ソロの構成の巧みさ、フレージングの始まる位置のジャズっぽさ。Stittは4小節単位のアタマからフレージングが始まっていますがRollinsは必ずアウフタクト(弱拍、弱起)から始まっています。ラストはGillespieのボーカルをフィーチャーして大団円でFineになります。
2曲目が本作のハイライト、アップテンポ♩=300でサビのコード進行が変則的なStitt作曲のリズムチェンジ・The Eternal Triangle、「永遠の三角関係」ではないですね、2人のSonnyのタイマン対決です!ソロの先発今回はRollinsから。Rollinsが5コーラス、続くStittが8コーラス(長い!)、4小節交換が3コーラス、8小節交換が3コーラスの合計19コーラスをテナー奏者たちが演奏しています。イヤー何度聴いても凄いです!聴く度に凄さが身体に沁み入って笑いさえ出てしまいます!テンポが早いほどRollinsのリズムのたっぷり感が浮き出てきており、Stittもon topですがタイムに対して安定感を伴ったリズムで吹いています。テーマが終わった後トランペットの吹き伸ばしがあり、暫くしてからRolinsのソロが始まっているのは誰が先発かを決めていなかったからなのかも知れません。ソロの3コーラス目にGillespieとStittによるバックグラウンド・リフが演奏され、その後4コーラス目の最後あたりにGillespieが発する、Rollinsの素晴らしいソロに対しての感極まった声を聴くことができます。大変な集中力を伴ってはいますがRollinsとしては6~7割の余裕の力で演奏している感じです。Stittに変わった途端にタンギングの滑舌、音符の長さ、タイム感が一変します。音色がRollinsよりもホゲホゲした成分を感じるのはStitt頬を膨らませて吹いているので、こもった成分が音色成分に混じるためでしょう。Stan Getzの音色にも同様の事柄を見出すことができます。ソロの4コーラス目にバックリフが入りますがその後もStittソロを4コーラス続けており、終わりません!まるで意地になって「オレはこいつには負けんぞ!」と言っているかのようです。
Stittのソロ後Rollins先発で4小節バースが始まります。出だしの部分Rollinsがスネークインして入って来るのはマイクロフォンから離れていたのでしょう、Stittのロングソロにすっかり待たされました。しかし丁々発止とはまさにこの事、とんでもないやり取りの連続です!4小節バース2コーラス目から3コーラス目に入る時のスムースさがまるで1人で吹いているように聴こえます。そしてここからがStittの負けず嫌いの本領発揮なのですが、ごく自然にバースの主導権を握るべく先発に入れ替わり、倍の長さの8小節交換を始めます。この後さらにヒートアップ、StittはRollinsのフレージングにとことん対応していますがRollinsは自分のペースをキープしています。こういうバトルの時にフレーズをたくさん持っているプレイヤーは飛び道具に事欠かないので、対応しつつRollinsに仕掛けています。8小節交換の2コーラス目で一瞬終わりかけの雰囲気になりましたが、主導権を握るStittまだ続けます。いよいよ3コーラス目の最後にRollinsが「Sonny、もう止めようよ、だってこの録音はDizzyのじゃないか、Sonnyは自分のソロでもさっきずいぶん長くやってるんだよ、バースまでオレらがこんなに長く演奏してはマズイよ」と言わんばかりにオシマイのフレーズを吹き、やっと戦いは終わりました。リズムセクションも大変な長丁場、さぞかしホッとしたことでしょう、お疲れ様でした(笑)。
今回は男性ボーカリストJoe Carrollの1956年録音のリーダー作「Joe Carroll 」を紹介しましょう。日本盤(Epic/Sony)では「Joe Carroll with Ray Bryant(Quintet)」というタイトルで発売されました。恐らくJoe Carrollという名前だけでリリースするにはリーダーの知名度が低かったために参加有名プレイヤーの名前を抱き合わせした形でのリリースですが、残念なことにRay Bryantは伴奏に徹しており、同じピアニストHank Jonesと演奏を分け合った事もあって本作中、冠を記すほど特別な存在ではありません。この作品が国内発売されたのが74年、Ray Bryantの名ソロピアノ作品「Alone At Montreux」が72年7月録音、同年末に発表され翌73年には大ヒットしているのでその翌年、当時の絶大なBryant人気に肖り柳の下のドジョウをアテにしたタイトル付けなのでしょう。でも米本国の制作者サイドとは異なるタイトル付けに「余計なことを…」とジャズファンとしては感じてしまいます。
何はともあれ、最高にハッピーなボーカル作品です。元気の無いときに聴くべき精力剤のようなアルバムです(笑)
1)Between The Devil And The Deep Blue Sea 2)Qu’est-Que-Ce 3)It Don’t Mean A Thing If It Ain’t Got That Swing 4)Route 66! 5)St. Louis Blues 6)School Days 7)Jump Ditty 8)Jeepers Creepers 9)Oo-Shoo-Bee-Doo-Bee 10)Oh, Lady Be Good 11)One Is Never Too Old To Swing 12)Honey Suckle Rose
vo)Joe Carroll p)Ray Bryant, Hank Jones b)James Rowser, Milt Hinton, Oscar Pettiford ds)Charles Blackwell, Osie Johnson ts)Jim Oliver tb)Jimmy Cleveland, Urbie Green
1956年4月6日、5月1日、18日NYC録音 Epic Label
Joe Carrollは素晴らしいジャズシンガーです。歌唱力はもちろんのことタイム感、スイング感、声質、スキャット、そして何よりユーモア、エンターテイナーとしてサービス精神が旺盛で聴き手をしっかりと捉えて離しません。実はこのアルバム、僕が尊敬するボーカリストの一人、チャカ(安則眞美)に紹介して貰いました。Joe Carrollは彼女の歌いっぷりに通じるところがあり、ボーカリストとはかくあるべきだ、と感じさせてくれて未だに愛聴しています。
Joe Carrollは「ジャズ面白叔父さん」(笑)トランペッター、ボーカリストDizzy Gillespieのバンドに49年から53年にかけて5年近く参加していた経緯があり、Gillespie譲りのユーモア精神、スキャットの巧みさをここで徹底的に学んだのでしょう、特にスキャットのフレージングにGillespieライクなBe-Bop的節回しが感じられます。56年とは時代的に俄かには信じられないようなグルーブがとても心地よいボーカルのスイング感を聴かせ、本人これだけリズムが良ければダンス、タップダンスもさぞかし上手かったのではないか、ともイメージさせますがyoutube映像(クリックして下さい)を見る限り特にその芸風はないようです。男性ジャズボーカリストの第一人者、Jon Hendricksもスキャットや自身でインストルメンタル・ナンバーに歌詞をつけて歌うボーカリーズも手がけ、その巧みな技には感服してしまいますが、スキャットのフレージングのボキャブラリー、意外性、グルーブ感、スピード感は本作のJoe Carrollに軍配が上がります。またエンターテイメント系ボーカリストとしてMinnie The Moocher(映像が見られます)で有名なCab Callowayの存在も見逃すわけにはいきませんが、Cab Callowayはボーカリストというよりもよりエンターテイナーとしてステージングをこなしているようですし、Frank Sinatraや未だ現役最高峰のMel Tormeらは特にスキャットは行わず(というかスキャットを行わなくてもストレートな歌いっぷりだけで完璧に自己を表現しています)、声質、歌い回し、スキャット、その滑舌の良さ、タイム&グルーブ感、エンターテイメント性それらをトータルとして僕自身が最も好みの男性ボーカルの一人、そしてその作品としてこの「Joe Carroll」が不動のものになっています。
Joe Carrollは1919年11月25日Philadelphia生まれ、このレコーディング時は36歳で地元のクラブやローカルバンドでの演奏を経てその後Gene Krupa楽団、前述のGillespieバンドでの経験を生かしてこの初リーダー作に臨みました。
彼は生涯3作自分の名前を冠した作品をリリースしているらしいのですが(3作目については詳細不明です)、「Joe Carroll」の恐らく次作が「Man With A Happy Sound」 62年リリース Charlie Parker Label
org)Specs Williams g)Grant Green p)Ray Bryant ts)Connie Lester ds)Lee Ausley
1)Get Your Kicks On Route 66 2)Oh Lady Be Good 3)Don’t Mess Around With My Love 4)Wha Wha Blues 5)Oo-Shoo-Be-Doo-Be 6)Honey Suckle Rose 7)I Got Rhythm 8)Bluest Blues 9)Have You Got A Penny Benny 10)New School Days 11)On The Sunny Side Of The Street 12)The Land Of Ooh Bla Dee
収録曲を見てお気付きになった方もいらっしゃるかも知れません。収録12曲中5曲が前作と同一です。それらに全く新しいアレンジを施しているのならともかく、聴いてみると若干手直しした程度で雰囲気は同じです。一体どう言う事でしょうか?考えられるのはアルバム「 Joe Carroll」がヒットしたためにオーディエンスはまた同じ曲を聴きたがる、例えばドラマー&ボーカリストつのだ☆ひろさんが自己のバンドのライブ時に自身の作曲にして名曲、大ヒットナンバーMary Janeを聴くまではお客様が絶対に帰らない(笑)、この事とは違いますね、失礼しました(爆)。もう1つ考えられるのは前作発表後自身のレパートリーを増やしておらず、レコーディングと言う美味い話が舞い込んだにも関わらず「曲が無いから前に吹き込んだ曲をやっちゃおうぜ!」と言う安易なノリでレコーディングに臨んだのではないかと言う点です。今回参加のオルガンの音色がアルバム全編に支配的でどの曲も同じような単調さを感じさせているのも頂けません。60年代半ば頃から急速に彼の人気が下落したらしいのでそのことからも十分に考えられるのですが、お客様を大切にしない芸人から人は離れて行きます。初リーダー作の成功に甘んじず更なる精進を重ねてこそのジャズミュージシャンです。アルバム「Joe Carroll」のフレッシュさ、勢いを「 Man With 〜」に感じることは出来ません。逆に言えばそれだけ「Joe Carroll」の素晴らしさが際立っています。
本作を曲ごとに見ていきましょう。1曲目Between The Devil And The Deep Blue Sea、邦題を絶体絶命、Joe Carrollの先輩格Cab Calloway、Louis Armstrongがレコーディングしてヒットさせました。Jimmy Cleveland、Urbie Greenのテクニシャン2人からなるトロンボーンのアンサンブル、ソロバトルが実に小気味良さを聴かせてくれます。Joe Carrollの滑舌の良さとトロンボーン奏者達のリップコントロール、タンギングの正確さに共通点を感じます。一体誰がこのカッコイイアレンジをしたのでしょうか?そして何よりJoe Carrollのドライブ感が堪りません!
2曲目Qu’est-Que-Ceはきっと随分嘘臭いフランス語で歌っているのでしょうね、Joe Carroll自分で歌って自分でウケています(爆)Joe Carrollのトークのお相手はテナー奏者のJim Oliverでしょうか。僕自身の話ですが、昔20代の駆け出しの頃に銀座のデパートの屋上でアゴ&キンゾー(皆さんご存知ですか?)ショウの伴奏を務めた時に、二人のトークのあまりの可笑しさに笑い過ぎて楽器を吹く事が出来なかった事を思い出しました。
3曲目It Don’t Mean A Thing If Ain’t Got That Swing、ご存知スイングしなけりゃ意味ないね、こちら2トロンボーン・プラス・テナーサックスのアンサンブル、それに絡むボーカルが堪りません!スピード感満点のBe-Bopスキャット、テナーサックス、ピアノ(Ray Bryant)、トロンボーンのソロバトル、アレンジ、どれも秀逸です。
4曲目Route 66!、多分Joe Carrollが歌いながらフィンガースナップや手拍子をしています。それにしてもスキャットをこんなに巧みに出来たらさぞかし楽しいでしょうね!16分音符満載の早口言葉ショウケースです!
5曲目St. Louis Blues、再び2トロンボーンのアンサンブルが大活躍のアンサンブル、Joe Carrollのスキャットも更に熱いです!途中It Might As Well Be Springのメロディを引用して高速でサラッと歌っている辺り、仕事人ですね!作品中2トロンボーンを生かしたアンサンブルによる素晴らしいアレンジ、僕の推測ですがトロンボーン奏者2人のどちらかが、さもなくば2人共同でのアレンジのような気がします。
6曲目School Days、Dizzy Gillespieの演奏でお馴染みのBoogieナンバー、大ヒットしたGillespieのこちらのアルバムにはJoe Carrollも参加しています。因みにかのJohn Coltraneも別曲で参加しています。イヤイヤ、本当にJoe Carroll良く声が出ています。
7曲目Jump Ditty、ミディアムテンポのブルースナンバー。2トロンボーンのリズミックなバックリフがムードを高めています。トロンボーン2人のソロが続き、エンディングでもトロンボーン・アンサンブルが効果的に使われています。
8曲目Jeepers Creepersはお馴染みJohnny Mercer~Harry Warren、映画音楽の作詞作曲、名コンビによるナンバー、この曲が収録された映画ではLouis Armstrongが歌いました。スキャットソロの後に更に各楽器とソロトレードを取っておりJoe Carrollのスキャットを存分に堪能できます。
9曲目Oo-Shoo-Bee-Doo-Beeは個人的に特にお気に入りのナンバーです。歌詞は「ある日公園を散歩していて恋人たちの会話を耳にしたんだけれど、今時の恋人たちは”I love you”なんて言わずに”Oo-Shoo-Bee-Doo-Bee”ってお互いに囁き合うんだよ」ワオ!面白過ぎです!Shoo-Bee-Doo-Bee means that I love you、ゴキゲンです!Joe Carrollの歌にハーモニーを付けて歌っているJim Oliver、コーラスの後すぐにソロをとっていますが多分、笑いを堪えていたためか1’32″辺りでテナーの音がひっくり返っています。
11曲目One Is Never Too Old To Swingってとっても良いタイトルですね。自分の演奏にしっかりと当て嵌めたいです(笑)。リズムセクションのアレンジもイカしています。
12曲目Honeysuckle Rose、テーマの歌の後ろでコード進行が同じためかScrapple From The Appleのメロディを2トロンボーンのユニゾンで吹いています。音量を控えめに吹いているのでバックリフのようにも聴こえ、うまい具合にブレンドしています。これも多分トロンボーン奏者たちの発案でしょう、面白いです。
今回はピアニストRichie Beirachとテナー、ソプラノ・サックス、フルート奏者Dave LiebmanのDuo作品「Omerta」を取り上げたいと思います。
p)Richie Beirach ts,ss,alt-fl)Dave Liebman recording engineer)Dave Baker
1978年6月9, 10日録音 at Onkio Haus, Tokyo, Japan
日本のTrio labelから同年リリース、94年にデンマークのStoryville labelからCDで再発されました。
1)Omerta 2)On Green Dolphin Street 3)3rd Visit 4)Eden 5)Spring Is Here 6)Cadaques 7)To A Spirit Once Known 8)In A Sentimental Mood
Richie Beirach、Dave Liebmanの2人は60年代末からコンスタントに、時折付かず離れずの距離を置きつつも演奏活動を継続的に行っています。50年近くも音楽的時間を共有出来ると言うのは今どき夫婦間でも(であればこそ?)難しい長さに違いありません。Duoの他にもDave Liebman Band、Look Out Farm、Questと言うバンド活動も並行して行っています。同じくピアノ、サックス奏者でHerbie Hancock、Wayne Shorterの2人は更に長い55年以上の共演歴になりますが、永きに渡り共演者としての関係を保持するにはそれなりの条件が必要です。2人のパーソナリティの相性、人間性のリスペクト度合い、どれだけ価値観の共有を保てるか、お互いの演奏に音楽的な魅力を感じ続けることが出来るか、そして音楽的成長が同期しているか、です。Beirach、Liebmanの2人は初期から高い音楽性と以後一貫する音楽的会話の語法、方法論を聴くことが出来ます。Liebmanのリーダー作「First Visit」1973年6月20,21日東京録音 ts,ss,fl)Dave Liebman p)Richie Beirach b)Dave Holland ds)Jack DeJohnette 同年日本フォノグラムよりリリース。
この作品に収録されているRound About Midnightが彼らDuoの初録音、そして以降の演奏の萌芽を聴く事が出来ます。Liebmanのダークで豊富な倍音を含んだトーンによる危ない変態系(?)メロディラインに対して、Beirachは他の追従を許さない美しいタッチによる複雑にして緻密なコードワークで、瞬時に対応し続けるのが特徴です。因みにこの時LiebmanはMiles Davis Band(アルバムOn The Cornerの頃です)で、Beirach、Holland、DeJohnetteのリズムセクションはStan Getz Quartetでの演奏のために来日中でレコーディングが実現したそうです。
91年にドイツからCDで再発されましたが、その際のジャケットのセンスがあまりに酷いです。この当時の(ひょっとしたら現在も)欧米人は日本と中国、台湾(多分韓国も含む)の区別がついていません。
「Omerta」もBeirachは初ソロコンサートのために3度目の来日、Liebmanは何とChick Corea Bandに参加してのやはり3度目の来日で録音が実現しました(余談ですがCoreaとの共演はこの時のツアーのみで最後は険悪な雰囲気で決別したと、彼の自伝に書かれています)。70~80年代にはこのような形で多くの海外ミュージシャンによる国内レコーディングが行われていたようです。この作品を素晴らしいクオリティで録音した2人の盟友にして名エンジニアDave Bakerは、このレコーディングのためだけにアメリカから来日したのかどうか定かではありません。
二人は現在までに7枚以上のDuo作品をリリースしています。「Omerta」は第2作目、 第1作目は75年11月18~20日NY録音、翌76年リリース「Forgotten Fantasies」Horizon label
裏ジャケ写真の2人の笑顔からレコーディングの出来栄えの充実ぶりが伺えます。僕自身この作品未だに愛聴盤です。それにしてもBeirach若くて可愛いですね。セーターは彼女からのプレゼントでしょうか?(笑)彼がその音楽性に反して意外とお茶目に映ったのは82年10月Quest来日のよみうりホールでのコンサート時、Liebmanが「次の曲はRichieの新曲、Dr. Coldです」と紹介した時に彼が両腕を組んで小刻みに上下に揺らし「寒い寒い!」というポーズを決めていました(笑)。Liebmanの方はあまりジョークを言わない生真面目な人と聞いています。
彼らの音楽は聴いていてハッピーになる、思わずメロディを口ずさんでリズムを身体で取ってしまう、そんなジャズのエンターテインメント性とは対極にあります。明るいか暗いかと言えばひたすら暗い音楽ですし、分かり易いかと言えば難解の極み、決してファミレスや居酒屋のBGMとして流れる事のない音楽です(笑)。聴き手自らが彼らの音楽に入って行かない限りその緻密な構造、コードの響き、美の世界を享受することは出来ません。絵画や彫刻をしっかり鑑賞したいのなら美術館に足を運び、はたまた映画館に赴き新作映画を大画面で鑑賞する能動的な姿勢が必要なように。このDuoの演奏には聴き手に「強いる」側面が前面に出ていますが、例えば二人の驚異的なタイム感の良さ、ハーモニックセンスの卓越した表現、ストイックなまでに無駄を削ぎ落としたサウンド、フレージング、ダイナミクス、そして楽器の熟練したマエストロぶり、音色の素晴らしさから「我々の音楽は分かる人にだけ聴いて貰えれば良い」とまさか面と向かっては言わないでしょうが、プライドを持って真摯に音楽に取り組む姿勢が痛烈に伝わってきます。
この作品の白眉は6曲目13’18″にも及ぶ(しかもDuoですよ)大作Obsidian Mirrors(黒曜石の鏡)。Beirachの作品、タイトルと曲想が実に合致していますね。ドラマチックな構成で時間が経つのも忘れてしまいます。この演奏を一体何度聴いたことでしょうか!Liebmanテナーのエグエグな音色、フリークトーン、必ず割れているフラジオ音(爆)、ピアニシモ時の低音サブトーンの豊かさ、一方のBeirachの聞き惚れてしまうほどのタッチの美しさ、音の粒立ちとサウンドのクリアーさ、エンディング低音域の爆発的な鳴らしっぷり!こんな風にピアノが弾けたらさぞかし気持ちが良いでしょうね、と痛感させる演奏、そして何より二人の息の合いっぷりが本当に見事です!
話を「Omerta」に戻しましょう。Beirachの解説によりこの作品、曲ごとにミュージシャンや知人、市井の人物に捧げられています。またレコード会社との契約の関係かBeirachの名前が表記上先に来ていますがいつもの対等な関係での演奏が繰り広げられています。この頃のLiebmanのセッティング、ソプラノマウスピースはBobby Dukoff D7にSelmer Metal用リガチャー、リードはSelmer Omega、番号は分かりません。楽器は多分Selmer Mark6。テナーマウスピースはOtto Link Florida Metalを9番から9 ★程度にオープニングを広げたもの、リガチャーは同じくSelmer Metal用、リードはLa Voz Med.HardかHardをトクサを使って調整していました。テナー本体は基本的にはCouf〜Keilwerthを使っていますが、海外ツアーの時にLiebmanテナーは重くて荷物になるので(汗)、渡航先で借りるというスタンスで乗り切っています。本人曰く「ピアニストはそこの店にあるどんな調整、状態のピアノでも弾かなければならないだろ?サックスも同じ事で構わないじゃないか」という、にわかには頷けない理由付けをしていますが、確かにLiebmanの映像を見るとテナーはいつも違う楽器を吹いています。彼ほど楽器を習得しているとどんな楽器、状態のものでも吹きこなせるようですね、僕には到底無理ですが(汗)。ある時はネックが緩かったのでしょう、管体との間に紙片を挟んで演奏していました。多分この時はYAMAHAから普通のラッカーの楽器を借りていたように記憶しています。
この作品が録音された78年6月に、Liebmanのサックスセミナーが故松本英彦氏が主宰するジャズスクール、ラブリーで開催されました。取るものもとりあえず学生だった僕は参加したのですが、未だにそこで受けたカルチャーショックを忘れることができません。大勢の若いミュージシャンの中に混じって松本さんも受講していましたが、終わってから「あんなに秘密を喋っちゃって大丈夫なのかな〜?」と仰っていたのが印象的でした。松本さんの物言いは可愛らしかったですから。リズムセクションは松本さんのレギュラーバンドの皆さんで、ブルースやスタンダードナンバーを演奏していましたが、テナーでキーがGのブルースにも関わらず、アドリブソロ中side keyのD#音(オーギュメント)をずっとロングトーンで吹き伸ばしているのです、しかもあのエグエグの音色で!気持ち悪いったらありませんでしたが、だんだんと耳が慣れてくると痛痒い感じから快感に変わってきました!Liebmanはとても楽器を良く鳴らしていますがラウドな感じはしません。そしてハイライトは音色を良くする、作っていくための練習として効果的なのがOver Tone(倍音)と力説し、そのデモ演奏を間近で聴くことが出来たのです。これはまさしく日本テナーサックス界に於る黒船来航です!!間違いなくセミナー参加者全員、日本人が日本で初めて触れる当時としては驚異的な奏法〜Over Tone Series(倍音列)の連続!その後僕はジャズ研の部室でOver Toneの練習を開始したのですが全然出ません!「ギャー、ボヒャー、ギョエー」という濁音系の耳に痛い音の連発です。「お前その練習うるさいからあっち行ってやってくれよ」と大不評でした(涙)
Liebmanサックスセミナーの最後に彼が受講者に捧げると言う事で、無伴奏でMy One And Only Love(確か)を演奏してくれましたが、その美しさに「あ、これが本物なんだ」と体感できました。曲名はうろ覚えでもサウンド感は心に残ります。「Omerta」でもラストにSonny Rollins に捧げるべくIn A Sentimental Moodをアカペラで演奏していますが、冒頭アウフタクトでソラシレミソラ〜と行くところが何と音が裏返って上のE音が出ているじゃありませんか!もちろん故意に倍音を使って裏返しているのですが、初めて耳にした時は乗り物酔いに近い違和感を感じました。これも同様に慣れてくると無しでは済まなくなります。
Beirach、Liebmanの2人は近年立て続けにDuo作品をリリースしていますが、円熟どころの騒ぎではない境地の演奏に発展しています。久しぶりに来日公演で聴いてみたいものです。
Ella And Louis / Ella Fitzgerald & Louis Armstrong
今回はボーカリストElla Fitzgeraldとボーカル、トランペット奏者Louis Armstrongの共演アルバム「Ella And Louis」を取り上げてみましょう。1956年8月16日Hollywood Capitol Studioにて録音。Verve Records Produced by Norman Granz
vo)Ella Fitzgerald vo,tp)Louis Armstrong p)Oscar Peterson g)Herb Ellis b)Ray Brown ds)Buddy Rich
1)Ca’t We Be Friends? 2)Isn’t This A Lovely Day? 3)Moonlight In Vermont 4)They Can’t Take That Away From Me 5)Under A Blanket Of Blue 6)Tenderly 7)A Foggy Day 8)Stars Fell On Alabama 9)Cheek To Cheek 10)The Nearness Of You 11)April In Paris
記念写真のような、飾り気のないシンプルなジャケット写真です。多分レコーディングを終えた後に撮影されたのでしょう、Louis Armstrong(サッチモ)の屈託のない笑顔とオシャレな靴下の折り方が可愛いです(笑)。Ella Fitzgeraldの表情は尊敬する先輩たちとのレコーディングを無事に終えた安堵感に満ちています。 照明による二人の影とサッチモのズボン、靴の黒色。茶色い床、背景と二人の肌の色。スカートと丈の短いズボンから覗く二人の足。真夏のレコーディングなのでエラの半袖ワンピースとネックレス、サッチモのシャツ、彼の笑みから溢れる白い歯、二人の座る椅子の足の白色がさりげなく色合いの統一感を表現していますが、多分偶然の産物でしょう。茶色を基調として白と黒色、そして二人の水色がアクセントになっている事からリラックスした楽しげな雰囲気を感じさせます。
この作品ではVerve Labelの創設者でありプロデューサーのNorman Granzが11の収録曲全てを選曲しました。おそらくバックを務めるOscar Peterson Quartetの人選も彼によるものでしょう、Verve Records All Starsです。バラードとミディアム・テンポを中心とした作品ではありますが、それにしても普段はあれだけ饒舌でテクニカルな演奏を聴かせるOscar Peterson、Herb Ellis、Ray Brown、Buddy Rich4人のこの作品での徹底した伴奏者ぶりにはとても敬服してしまいます!二人の主役を的確にバックアップするべく必要最小限にして厳選された音使い、音の間を生かしたバッキング、演奏の連続。いわば完璧な引き立て役、特にRay Brown、Buddy Rich二人の「何もやらなさ振り」(よく聴けばかなり細かい事をさり気なくやっていますが)は感動的ですらあります!!プロの伴奏者はこうでなくてはいけませんね。
このアルバムが成功を収めたことにより、続編として翌57年に今度はレコード2枚組で「Ella And Louis Again」を録音し、同年発表しました。伴奏のメンバーもBuddy RichがLouis Bellsonに変わった以外は留任しています。前作を踏まえ更にバージョンアップした主役二人の演奏を聴くことが出来ます。
「Ella And Louis Again」も大成功を収めたことで、二人のコラボレーション第3作目としてGeorge & Ira Gershwinの「Porgy And Bess」を57年に録音しました。アレンジ、指揮Russell Garcia、30名以上による大編成での演奏が実現したのは前2作がさぞかしヒットしたのでしょう、翌58年8月にリリースされました。そして後年、この作品は2001年にグラミー賞の名声の殿堂入りを果たすという栄誉にも輝いています。
97年にはこの3作をCD3枚組に全てまとめ、更に2曲Hollywood Bowlでのライブ演奏を追加した「The Complete Ella Fitzgerald & Louis Armstrong on Verve 」がリリースされました。こちらは大変に凝った仕様、デザインのブックレットタイプのジャケット、丁寧な作りのライナーノートから成り、「Ella And Louis」3部作、エラとサッチモの音楽性を愛して止まないスタッフがその想いをリリースに際ししっかりと込めた感じが、痛切に伝わってきます。まるでヨーロッパのレコード会社が制作したかのような丁寧さ、細やかさです(本国アメリカのCD製作のラフさ加減には凄い時があります)CD化に際しても的確なデジタル・リマスタリング処理が行われており、ジャズ、音楽の事を良く分かったエンジニアによる、いわゆる「良い音質」で鑑賞することが出来る内容に仕上がりました。
さて話を「Ella And Louis」に戻しましょう。作品全体を通して僕が感じる事の一つに、大好きなサッチモとの共演でエラが彼を立てるべくいつもより何処か遠慮気味に歌っているという点です。普段の歌唱力よりもレベルが落ちているというのではなく、サッチモよりも自分が出ないように、目立たないように、必ず一歩退いて後からサッチモを追うかの如きスタンスで歌っている感が漂っています。そんなことをしてもエラは強力に上手いシンガーです。目立たない訳がないのですが、彼女なりのサッチモに対する敬意の表れなのでしょう。この事を僕は続編「Ell And Louis Again」「Porgy And Bess」にも感じてしまうのですが、皆さん如何でしょうか。
1曲目にCan’t We Be Friends?とはまた言い得て妙な選曲です。女性と男性の声域は通常4度違いなのですが、ここでは二人同じキーで歌っています。歌った後にトランペットを直ぐ吹くのは結構大変な作業ですが、サッチモは難なく「弾き語り」ならぬ「吹き語り」を行っています。管楽器の演奏はその人の喋り方が反映されますが、ここまで演奏と歌い方が同じ(1オクターブの違いはありますが)なのは笑ってしまうくらいに凄いです。喋っているようなトランペット、楽器を吹いているかのようなボーカルです。
2曲目Isn’t This A Lovely Day?、エラの歌はラブリー、チャーミングでいて歌唱力が優れており器楽的にピッチやタイムが完璧、更に強弱のダイナミクスを伴った安定感で聴き手にグッときます。
かなり高い音域でサッチモがミュートトランペットでソロを取ります。彼の歌による合いの手、またエラの主旋律に対するハーモニーと大活躍です。
その時代に特に流行った曲というのがあります。3曲目Moonlight In Vermont、4曲目They Can’t Take That Away From Meの2曲は50年代〜60年代初頭にかけて様々なミュージシャンに取り上げられました。They Can’t Take That Awy From Meはエラが始めに歌い、サッチモがミュートトランペットでオブリを吹いています。その後いきなりアカペラでサッチモが違うキーで歌い始めまます。ちなみにこの曲を含め作品全体を通してのイントロ、エンディングや曲の構成はVerve Records専属アレンジャー、指揮者のBuddy Bregmanが行っており、彼のさりげないアレンジがどの曲でも光っています。「Swing it, boys」とサッチモが掛け声をかけて自らソロを取り始めます。良く聴くとミュートトランペットのソロの合間にピストンを空押しする「カシャカシャ」という音が聴こえます。彼の癖なのでしょうね、きっと。この空押しの最中に次に何を吹くべきかイメージしているのです。フレージングの間にほぼ必ず聴こえるので皆さん確認してみてください。
6曲目Tenderly、7曲目(レコードではB面1曲目)A Foggy Day、8曲目Stars Fell On Alabamaもこのころ流行った曲です。Tenderlyのミュートトランペットによるメロディ奏の朴訥とした味わいから少しテンポがアッチェル(テンポアップ)してキーが変わりエラの歌になります。その後同じキーでサッチモの歌にスイッチ、引き続きリタルダンド(テンポダウン)して再びサッチモのミュートメロディ奏、その後は何とエラがサッチモを真似した歌い方でのエンディング!考え得る全てのパーツを用いた構成、演出、こんなところにもアメリカのエンターテインメントの真髄を感じてしまいます。
9曲目Irving Berlin作曲のCheek To Cheekは大好きな曲です。ここでの興味深い事柄をぜひ挙げてみたいのです。印象的なイントロとそのパターンが継続しサッチモが1コーラス丸々歌います。New Orleans生まれの彼は南部訛りがしっかり残っており、例えば2’16″に出てくるseekという単語を「ジーク」と発音しています。1コーラス丸々歌った後、エラに選手交代すべく2’25″から「Take it Ella, swimg it」と掛け声を掛けるのですが、訛っているためにそうは聴こえません。これが何とタモリ倶楽部の空耳アワーに取り上げられました!(残念ながら僕の投稿ではありません)。画像としては初老の紳士がバーでお酒と一緒に出てきたお通しのピーナッツを見て、右手で拒否の仕草をしながら「出来れば、スパゲティ」と言っているのです(笑)。ジャズ好きのタモリさんにはかなり受けていましたが、大変残念なことに最高賞のジャンパーまでには僅かに届かず、次点のTシャツに参加賞の手ぬぐいを付けるという異例の対応になりました(爆)。「Take it Ella」は「出来れば」に聴こえないことはないのですが、「swing it」はどうして「スパゲティ」に聴こえるのでしょうか。そう言えば4曲目They Can’t Take〜の「Swing it, boys」の「Swing it」も微妙な発音でしたね。
他にもサッチモの発音による空耳ネタはたくさんあるのですが、また別の機会に紹介したいと思います。
今回はtuba奏者Ray Draperのリーダー作「The Ray Draper Quintet featuring John Coltrane」を取り上げてみましょう。1957年12月20日Hackensack, New Jersey Van Gelder Studioにて録音
Recorded by Rudy Van Gelder
Produced by Bob Weinstock
1)Clifford’s Kappa 2)Filide 3)Two Sons 4)Paul’s Pal 5)Under The Paris Skies 6)I Hadn’t Anyone Till You
tuba)Ray Draper ts)John Coltrane p)Gil Coggins b)Spanky DeBrest ds)Larry Ritchie
Prestigeの傍系レーベルNew Jazzから58年にリリースされました。
1950年代にtubaでモダンジャズを演奏したのは、Miles Davisの50年代ラージアンサンブル共演で有名なBill Barber(クリックして下さい)と本作のRay Draperくらいでしょう。ニューオリンズ、デキシーランドジャズで低音のベースラインを奏でる楽器としての役割を担っていましたが、ソロ楽器奏者としてかつてシーンで活躍したのはこの2人くらいです。今回取り上げたRay Draperはこのレコーディング時に僅か17歳、さぞかし将来を嘱望された事でしょう。あらゆる時代、洋の東西を問わず、若くして現れたニューカマーには期待をするものです。でもtubaという特殊楽器、年齢を考慮してもこの作品での彼のプレイには魅力を感じる事は出来ません。よく言えば重厚な、端的に言えば重苦しさを拭うことの出来ない滑舌の悪さ、フレージングやアドリブ構成の未熟さから管楽器奏者としての良さを汲み取ることは困難です。そんなプレーヤーの作品を今回何故取り上げたかと言えば、ひとえに1957年上り調子、絶好調のこのアルバムの共演者John Coltraneのプレイが凄すぎるからです!何とテクニカルにして流暢な唄いっぷり、素晴らしい音色、確実に「何か」を掴んだ芸術家の誰も止めることの出来ない表現の発露が迸っています。57年12月のColtramneは凄いです!逆に言えばこの作品、Coltrane不在ではリズムセクションの演奏の凡演も相俟って、殆ど何の主張も無い駄作に成り下がるところでした。Coltraneのクリエイティヴな熱演をリズムセクションは殆ど受け入れることが出来ず、ただ傍観してる場面が殆どですが、その点とRay Draperの演奏、Coltraneの凄まじさの対比が皮肉にもむしろこのアルバムの聞き所と言えます。
ColtraneとRay Draperは意外とウマが合ったのか、もう一枚共演作をリリースしています。「A Tuba Jazz」Late1958年録音
2種類のジャケット写真があるので掲載しておきます。1枚目はJosie、2枚目はJubileeレーベルのもので同一作品です。参加メンバーもピアニスト以外は同じです。
前作から約1年を経たこの作品で、Coltraneの更なる成熟度を聴くことができますが、前作ほどのtubaとtenor saxの演奏のギャップは感じなくなっています。単に耳が慣れてしまったのか、それともRay Draperにも上達を感じるのでそのためなのか、ぜひ皆さんもこの2作を聴き比べてみて下さい。
Ray Draperは両方の作品でSonny Rollinsのナンバーを取り上げています。1作目でPaul’s Pal、2作目でDoxyとOleoの2曲ですが、全くのColtraneの語り口でRollinsのナンバーを聴くことが出来るのも両作の魅力です。ちなみにPaul’s PalはRollinsとColtrane唯一の共演作56年5月24日録音「Tenor Madness」に於いて、Rollinsのワンホーン・カルテットで演奏されていますが、ひょっとしたらColtraneはその時の演奏をスタジオのコンソール・ルームで聴いていたかも知れません。またPaul’s PalとはRollinsと50年代共演の多かった名ベーシストPaul Chambersに捧げられたナンバーです。一方ColtraneもChambersとの共演の機会が大変多かったので、自身の名作59年5月5日録音「Giant Steps」にてMr. P.C.をChambersに捧げています。さぞかしPaul ChambersはRollins、Coltraneの両テナー巨頭から曲を捧げられるほどの演奏家、そして魅力的な素晴らしい人柄だったのでしょうね。
1曲目Clifford’s Kappa、Ray Draperのオリジナル曲です。ほのぼのとした雰囲気の曲で、ソロの先発はTubaが取ります。楽器の構造上、音の立ち上がりを的確に行うには困難を伴います。コントラバス発音の立ち上がりよりも更なる難易度を感じますが、案の定ゾウガメが陸地を歩く様を想像してしまう演奏です。でもソロの2番手のColtraneで世界が一転します。テナー奏者でもColtraneは上の方の音域を多用するのでtubaとは2オクターブ以上の音域差でのアドリブです。4’14″位からドラムスがColtraneの凄まじいスピード感のある16分音符にインスパイアされて暫くの間(8小節間)ダブルテンポでプレイしていますが、その後また直ぐに元のスイングに戻ります。アルバム全編を通して、リズムセクション全員に関して、Coltraneの演奏に反応しているのは何とこの部分だけです。Ray Draperとの演奏の格差、Coltraneの演奏から生じるエネルギーの凄まじさ、保守的な伴奏者達はColtraneのアドリブのあまりに高度な内容、インパクトに傍観せざるを得なかったのでしょう。
57年5月31日録音初リーダー作「Coltrane」に於いて前年から急成長を遂げた彼はフレッシュな素晴らしい演奏を聴かせていますが、そこから僅か半年足らずの間に更に音色、フレージング、アドリブの構成、アイデア等全てバージョンアップしているのです。特にこのレコーディング時Coltraneは何物もにも制約が無いかの如く、ただ只管、無心に演奏に集中しています。
2曲目もRay DraperのペンによるFilide、マイナー調でラテンのリズムのテーマが魅力的で多くの日本人の心をくすぐると思います。アドリブに入ると直ぐにスイングのリズムに変わるのが残念ですが。1曲目でのソロが長目だったのを踏まえてかColtrane短めに演奏を終わらせています。tubaソロの3’09″辺りでドラマーが珍しくソロイストを煽るべくフィルインを入れているのが微笑ましく聴こえます。
3曲目もRay DraperのオリジナルTwo Sons、彼のオリジナル3曲とも佳曲です。ソロの先発はGil Coggins、彼は50年代初頭にMilesとの共演経験もあるピアニストですが、何ともリズムがバタバタした拙い演奏です。Ray Draperは後年ドラッグで捕まった経歴があるので、Gil Cogginsも彼のドラッグ仲間、この演奏中もキマっていたのでは、と考えてしまいましたが、WikipediaによればCoggins gave up playing jazz professionally in 1954 and took up a career in real estate, playing music only occasionally. とありますのでこのレコーディング時は不動産業を営み、ほとんど演奏活動をしていなかったと言う事になります。ここでの演奏のクオリティは然もありなんと言う事でした。
4曲目が前述のPaul’s Pal、ほのぼのとした曲想でRollinsフリークのSteve Grossmanも取り上げています。ここでのColtraneは実に確信に満ちた演奏を繰り広げており、圧倒的な存在感を聴かせています。同様にリズムセクションはリズムマシンの如く、ただビートを刻む演奏に徹していますが。
5曲目が本作のもう1つの目玉、シャンソンの名曲Under The Paris Skies。Parisを題材にした名曲は多いですね。April In Paris、Afternoon In Paris、I Love Paris、An American In Paris…さぞかし魅力的な街なのでしょう。ここでのアレンジが素晴らしいのです。実に意外性のある選曲ですがラテンリズムでの印象的なメロディをtenor 、tubaの2オクターブユニゾンでの演奏の後、組曲形式でビゼー作曲アルルの女のメロディの断片が奏でられます。フランス繋がりなのでしょうか、その後スイングのリズムでアドリブが始まります。
「John Coltrane The Complete Prestige Recordings」のライナーノーツに興味深い記述がありますのでご紹介しましょう。A most unusual “front line” graces Coltrane’s last Prestige (actually New Jazz) session of the year: tuba and tenor sax. The young leader, tubaist Ray Draper, reportedly had met Coltrane while still in high school and had received help from Trane in preparing his compositions for recording. The arrangements show an attempt to elicit as much variety as possible from a potentially dark and weighty instrumentation.(tubaistの記述は原文のまま)
実際このレコーディング時は17歳だったので、退学していなければRay Draperはまだ高校生だったはずでその時にColtraneに出会い、彼からこの録音のための曲の準備を手伝って貰っています。ここでのアレンジはtubaとtenor saxと言う楽器構成から生じる重苦しさを排除してなるべく多くのバラエティを引き出そうとする試みが見られる、とあるのでひょっとしたらかなりの所までColtraneに曲のアレンジを委ねていたのかも知れません。と言うのはUnder The Paris Skiesのアレンジが実に緻密で高い音楽性を感じさせるので、Ray DraperよりもColtraneの役割が大きかったように思えます。またもしかしたら本作でのPaul’s Pal、次作のDoxyとOleoもColtraneの発案での選曲だったかも知れません。Rollinsには敬意を抱いており機会があれば彼のオリジナルを演奏してその思いを現したい気持ちがあり、たまたまそのチャンスに恵まれてここでのオリジナル採用に至ったとも考えられます。後年Like Sonnyと言うオリジナルを作曲して演奏もしています。
それにしてもColtraneの音色でポピュラーなナンバーを演奏するのはメロディがとても魅力的に響きますね。後年Stan GertzやStanley TurrentineがBurt Bacharachのナンバーを取り上げた作品をリリースしていますが、美しいメロディと素晴らしいテナーの音色がブレンドして、いずれも心に響く唄いっぷりを聴く事ができます。
What The World Needs Now / Stan Getz Plays Bacharach And David
Stanley Turrentine / The Look Of Love
歴史に「もしか」は禁物ですが、Coltraneが現在でも存命で音楽活動を続けていたら間違いなく「John Coltrane Plays〜」をリリースしていた事でしょう。それこそColtraneのBacharach特集なんて是非とも聴いてみたかったものです。
The Ray Brown Trio With Ralph Moore / Moore Makes 4
今回はベース奏者Ray Brownのリーダー作The Ray Brown Trio With Ralph Moore / Moore Makes 4を取り上げましょう。1990年5月22日San Francisco録音 Produced By Carl Jefferson Concord Label b)Ray Brown p)Gene Harris ds)Jeff Hamilton ts)Ralph Moore
1)S.O.S 2)Bye Bye Blackbird 3)Stars Fell On Alabama 4)Ralph’s Bounce 5)Quasimodo 6)Like Someone In Love 7)Polka Dots And Moonbeams 8)Squatty Roo 9)Everything I Love 10)My Romance 11)The Champ
ベース奏者のリーダー作は2種類に分かれます。ベースという楽器をふんだんにアピールし、ピチカートやアルコでのソロが中心で共演者に伴奏をさせるタイプ。もう一方はフロント楽器やピアニスト、ドラムスに思う存分演奏させてベーシスト本来の伴奏、アンサンブル、グルーヴを裏方に回って聴かせるタイプ。このアルバムはまさしく後者で、リーダーのソロ自体あまり無く、サイドマン、特にRalph Mooreに思う存分ブロウさせています。Ray Brownのレギュラー・トリオとRalph Mooreの相性が大変良いのでしょう、アルバム全編素晴らしいスイング感で強烈にグルーヴしています!
相性という点ではベーシスト、ドラマーの関係が最も重要なのですが、この作品でのRay Brown、Jeff Hamiltonのコンビネーションもとても素晴らしく、高速で走行する自動車の両輪の如く2人がスピード感を伴って正確にビートを繰り出しています。実は常々感じている事ですが、ベースとドラムの2人が同じリズムのポイントで演奏するよりも、ベースが少しだけ早く、ビートがほんのちょっと前に存在した方がバンドは的確にスイングします。1950年代のMiles Davis QuintetのリズムセクションPaul Chambers〜Philly Joe Jonesが正にその例で、極端に言えば曲を演奏する際に1, 2, 3, 4,とカウント後、次の曲アタマでまず最初にベースの音が立ち上がり、その直後にシンバルが鳴る訳です。その観点でMilesのマラソンセッション4部作「Cookin’」「Relaxin’」「Workin’」「Steamin’」を聴いてみて下さい。いずれの演奏でもベースが曲アタマに「プンっ!」と立ち上がり曲が始まります。ベースのビート、タイム感が遅い、重いプレイではバンド演奏はスイングせず停滞してしまいます。ほんのちょっとした微妙な、些細な事ですが音楽は如何に重箱の隅をつつく事ができるか、どれだけ細やかにこだわれるかに掛かっていると言って過言ではありません。神は細部に宿ります。Paul Chambersのリズムのポイントの位置がバンドのグルーヴの要と言って良いでしょう。因みにコントラバスという木製の巨大な箱、でも自分で持ち運びができるギリギリ限界の大きさの楽器を鳴らして、極めて立ち上がりの良い音符を指で弾くには猛烈な鍛錬が必要とされます。50年代の名盤の実に多くがPaul Chambersのベース・プレイに支えられている事からも、彼の演奏の素晴らしさをミュージシャンが把握し、時代が彼の演奏を必要としていたと言えます。Oscar Pettifordを源流としたモダンジャズ・ベースのパイオニアがPaul Chambersなのです。
Paul Chambers57年のリーダー作「Bass On Top」は彼の演奏の真髄を捉えた作品ですが、タイトルの意味するところは「リズムが先ノリ(on top)のベース」です。彼の演奏の本質を端的に表現しています。
東の横綱がPaul Chambersならば西の横綱が本作のRay Brownです。本作で聴かれるようにon topのリズムで強力にビートを繰り出し、ベースこそがジャズバンドの牽引役とばかりにぐいぐいとバンドをリードしています。50年代以降ベース界はRay Brown、Paul Chambersの2人の存在があったからこそ後続のベーシストに優れた人材を多く輩出出来たと感じています。Ray BrownはピアニストOscar PetersonのTrioで59年から65年まで演奏し、多くの名演奏を残しました。Oscar Peterson Trio3人のリズムの構図がまた独特で、Ray BrownとOscar Peterson2人がまるで一卵性双生児のようにぴったりと同じリズムで、2人して手を繋いで宇宙にまでも行きそうな勢いのon topで演奏するのに対し、ともすれば暴走に発展しそうな2人の演奏を後ろから羽交い締めにして確実に押さえる歯止め役のビートで演奏するのがドラマー、Ed Thigpenなのです。当時のOscar Peterson Trioがドラマーもon topなビートのプレイヤーだったら全く収集がつかなかった事でしょう。65年Oscar Peterson Trioの素晴らしいコンサート映像がこちらです。https://www.youtube.com/watch?v=M95UzNPfjhE
番外編ですが、Ray Brownと合わないのが意外にもグレート・ドラマーElvin Jonesです。2人の共演が聴けるのが「 Something For Lester」。Ray Brown自身のリーダー作で、ピアニストがCedar Waltonによるトリオ編成の作品です。2人ともリズムを自分に付けてくれる、ビートを合わせてくれるタイプの共演者を良しとするところがありますが、ここでは互いの歩み寄りは希薄で、横綱同士の取り組みの悪いところが出てしまった様で、演奏、リズム共々かなり合っていません(汗)。間に挟まれたCedar Waltonもさぞかし居心地が悪かった事と思います。この作品のレーベルContemporary のオーナーLester Koenig自身に捧げられた作品ですが、この内容ではむしろ有難迷惑であったかも知れません。
本作の話に戻りましょう。1曲目はお馴染みピンク・レディー・ミーちゃんケイちゃんのS.O.S.、いやもとい(笑)ギタリストWes Montgomeryのオリジナル、1962年6月25日 ライブ録音「Full House」に収録されています。そちらはあまりの早さにメンバーから本当にSOS信号が出ているような演奏ですが、本作では人情味のある(笑)テンポ♩=244で演奏されています。アップテンポでシンコペーションのキメが多く入る曲はカッコイイですね。曲想に合致した素晴らしい、聴き応えのある内容の演奏に仕上がっています。Ralph Mooreの端正な音符やスピード感、タイム感、コード進行に対するアプローチはテナーサックスの王道を行くものですが、同じ黒人テナー奏者とはどこかテイストが異なる気がしていました。白人のような、とはまた違うのですがそれもそのはず、彼はイギリスLondon生まれで16歳まで地元で過ごし、ジャズの素養を身につけてからアメリカに移住してBerklee音楽院で学び、その後プレイヤーとしてのキャリアを積み重ねました。氏より育ち、アメリカで生まれ育ったミュージシャンにはない気質、個性を身に付けているのは英国出身だからでしょう。今から20年以上前に国内のジャズフェスティバルで会って話をした事がありますが、小柄で華奢な感じ、フレンドリーな方でした。リーダー作も多くリリースしサイドマンとしても多くの活動、レコーディングを残しているのですが、ここ10年以上全く話を聞きません。どうしているのやら、ファンとしては気になるところです。
Ralph Mooreの使用楽器はテナーサックス本体がSelmer Mark6、マウスピースがOtto Link Florida6番か6★、リードがRico3番です。かなりライトなセッティングですが素晴らしい音色を聴かせています。黒人テナーサックス奏者はWayne Shorter、Joe Henderson、Sam Rivers、Benny Golson、Eddie Lockjaw Davis達に代表される自分独自のボキャブラリーで演奏を展開するプレイヤーが多いのですが、Ralph Mooreの演奏は実に主流派然としています。フレージングの間の取り方、音の選び方、歌い方、タイム感、それらのバランス感が尋常ではなく良いので、いつも聞き応えのある演奏を繰り広げています。
今回はSteve Kuhn Trio w/ Joe Lovano Mostly Coltarneを取り上げましょう。John Coltraneとの共演を1960年に果たしたピアニスト、Steve KuhnのColtraneに対するオマージュ作品ですが、単なるトリビュートに終わらず、それ以上のメッセージを感じさせる秀逸な作品です。2008年12月録音 NYC Avatar Studio Engineer: James A. Farber Produced by Manfred Eicher
p)Steve Kuhn ts,tarogato)Joe Lovano b)David Finck ds)Joey Baron
1.Welcome 2.Song Of Praise 3.Crescent 4.I Want To Talk About You 5.The Night Has A Thousand Eyes 6.Living Space 7.Central Park West 8.Like Sonny 9.With Gratitude 10.Configuration 11.Jimmy’s Mode 12.Spiritual 13.Trance
タイトル「Mostly Coltrane」とは収録曲13曲のうち11曲がColtraneのオリジナルもしくはレパートリーのスタンダード・ナンバー、残り2曲がSteve Kuhnのオリジナルで構成されている事から発案されたネーミングと考えられます。どうせなら全曲Coltraneナンバーを取り上げればよりオマージュ性が高まると思うのですが、どのような経緯で2曲自分のオリジナルを演奏・収録したのか知りたい所です。でも、もっと他の意味合いもありそうなタイトルとも感じます。Steve Kuhnはかなり洒落っ気のある人と聞いていますので。
Steve Kuhnは1938年3月24日New York City Brooklyn生まれ、Kenny Dorham等のバンドを経験した後、57年頃から急成長を遂げたJohn Coltraneが新しく自分のカルテットを組むに当たり、ピアニストを探していると言う話を聞きつけ、自分からColtraneに共演を申し込んだのだそうです。ミュージシャン売り込みは基本ですからね。60年1月から3月までの8週間、Steve KuhnはNYC East VillageにあったThe Jazz GalleryでJohn Coltrane Quartetのメンバーとして共演したと、このCDのライナーに自ら記載しています。ちなみにこちらのJazz Galleryは1959年から62年まで存在したジャズクラブで、現在NYCで営業している同名店とは異なり、新規店は95年からの営業になります。同じNYCのBirdland、Coltraneのライブ盤が収録された事で有名になったジャズクラブですが、こちらも現在営業している同名店とは異なります。
Steve Kuhn自身はこの8週間Coltraneと演奏出来た事を彼からの恩恵として感じ、大切な思い出と捉えているとも書いています。
みなさんはLewis Porterと言うアメリカ人の作家(ジャズピアニストとしても活動しています)をご存知でしょうか。彼の「John Coltrane: His Music and Life」(99年出版)は大変興味深い著書です。
Coltraneの音楽について草創期から最晩年までを理論的に分析し、奏法についてもかなり突っ込んだところまで研究したものを譜例やコピー譜、珍しい貴重な写真と共に掲載しています。日本語訳が出版されていないのが大変残念ですが、本書の圧巻はColtraneが演奏活動を開始した1945年から没67年までの23年間をchronologicalに、「Coltraneが何年何月何処で誰とどんな内容を、そこに至る経緯と手段についてを含めた」5W1Hを実に詳細に調べて記載している点で、現代のようにあらゆる情報が整然と容易に入手出来るのと違い、情報を掘り起こし確認するのに実に膨大な時間と労力を要したと思います。その中からSteve Kuhnと共演したとされる60年1月から3月までのColtraneのchronologyを紐解いてみましょう。1960年の記載冒頭にAll gigs with Davis except for those otherwise listed.とありますので、この年はMiles Davisとの共演が多かった、メインであった事を意味しています。ちなみにこの特記はColtraneがMiles Bandに在団していた56年から60年までを通して書かれています。
1月15日〜21日Manhattan Apollo Theater、2月11日〜21日Chicago Sutherland、2月22日〜26日Philadelphia Showboat(内24日はMilesが抜け、Coltrane Groupでの演奏)、2月27日Los Angeles Shrine Auditorium、3月3日San Jose unknown location、3月4日San Francisco Civic Center、3月5日Oakland Auditorium Arena、3月7日〜13日Philadelphia Showboat / John Coltrane Group unknown personnel、3月21日〜4月10日European Tour
この間はほとんどMilesとのギグでかなりの本数こなしており、残念な事にこの間にはThe Jazz Galleryの名前を確認することは出来ません。若しかしたら7日〜13日Philadelphia ShowboatでSteve Kuhnと共演を果たしているかも知れませんね。また単に資料を発掘できなかっただけで、例えばColtraneがロードに出ずNYCにいる時にはいつもJazz Galleryで演奏していたかも知れません。同じNYCのThe 55 Barで現在もMike Sternがそうしているように。因みに同年6月10日、6月27日と7月1日にはManhattan. Jazz Gallery. Audience tapeの記述があり、そのうちの6月27日の演奏が以前このBlogで取り上げたことのある「John Coltrane Live at The Jazz Gallery 1960」としてリリースされています。ピアニストに以後65年まで不動のMcCoy Tynerを抜擢した直後の演奏と言われています。
このCDのライナーノートにBut Kuhn left about a month into the gig, which made him the transitional pianist in a transitional period. Coltrane expressed no complaints with his playing but wanted a different sound for the band, which he felt Tyner could best provide.と書かれており、ひょっとしたらSteve Kuhnの勘違いで実は1ヶ月程度しか共演していないのかも知れません。Steve Kuhnの初レコーディングがColtraneとの共演を経験する直前に行われています。「Jazz Contemporary / Kenny Dorham」
1960年2月11, 12日NYC録音、Steve Kuhn若干21歳です。ここで聴かれる彼の演奏はオーソドックスな雰囲気の中にも新しい萌芽を、そして同時に初レコーディングの緊張感も感じさせます。Coltraneとの共演時にどの程度の演奏をJazz Galleryで繰り広げ、その実力をColtraneの前で披露出来たかは全く分かりませんが、「Coltraneは彼の演奏に不満を漏らさなかったけれど、バンドには違ったサウンドが欲しく、Tynerの方が相応しいと感じていた」と前述されているように、この初レコーディング時のクオリティではColtraneは納得出来なかったのでしょう。そしてMcCoyに最終決定する前に彼と比較していたと言う事にもなります。更に僕が最も感じるのは、Coltraneの長いソロの後ろでバッキングをせずにじっと我慢できるような従順さがMcCoyの方にはあるように感じますが(実際後年5年間の演奏でじっと忍耐強くColtraneのアドリブ最中演奏しないで待っていました)、Steve Kuhnにはあまり感じ取る事が出来ません(何でお前にそんな事が分かるのか、と言われると弱いのですが、アメリカで彼に習っている日本人ピアニストから直接聞いた話ですが、彼の自宅にレッスンに行くと譜面を書いて消した後に床に落ちる消しゴムのカスを、必ず拾うらしいほど几帳面、神経質らしいのです)。バンドのメンバーの人選はもちろん演奏技術、音楽性が真っ先に問われますが、結局のところレコーディングやツアーで長時間生活を共にするに相応しい相性が求められると思います。McCoyの方がウマが合ったと言う事でしょうね。61年9月にMontertey Jazz FestivalでColtraneのバンドにゲスト参加したギタリストWes Montgomeryが、フロントの長いソロの最中にバッキングをせずにステージでぼーっとしていることが嫌だったのでColtraneに誘われたバンド加入を断った、という逸話がありますが、演奏的な事柄よりもWesはColtraneと性格が合わなかったのかも知れません。でも将来幻の共演演奏が発掘されたら絶対に聴きたいです。
Steve KuhnはColtarneとの共演約8ヶ月後に「Steve Kuhn, Scott La Faro, Pete La Roca – 1960」をレコーディングしています。1960年11月29日NYC録音
後年発掘され2005年10月にリリースされた作品ですが、翌61年7月交通事故で夭折する天才ベーシストScott La Faroの参加に目を惹かれます。実際Scott La Faroも素晴らしい演奏を聴かせていますが、Steve Kuhnの演奏は「Jazz Contemporary」時とは僅か8ヶ月間で見違える程の演奏を繰り広げています。Coltraneとの共演を経験し一皮も二皮も剥けた22歳の天才ピアニストの登場なのです。
「Steve Kuhn Trio w/ Joe Lovano Mostly Coltarne」は彼のレギュラー・トリオにColtarne役のJoe Lovanoを迎えて、Coltraneとの共演から約50年を経たSteve Kuhnが自己の音楽的蓄積と、Coltraneに対しずっと持ち続けている深い敬意を反映させて制作した作品で、我々が昔から耳にしているColtraneナンバーの数々が見事に再構築されています。ぜひこの作品を聴いてから元のColtraneの演奏も聴いてみて下さい。音楽、曲、コード進行、メロディの解釈いずれもが高次元で昇華されていることに気付くはずです。
McCoy Tyner Trio featuring Michael Brecker / Infinity
今回はMcCoy TynerのトリオにMichael Breckerがフィーチャーされた作品「McCoy Tyner Trio featuring Michael Brecker」を取り上げて行きましょう。タイトルの割には編成はカルテットないしはパーカッション奏者が曲により加わり、クインテット編成です。
1995年4月12~14日録音 Recorded and mastered by Rudy Van Gelder
Recorded at the Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey
p)McCoy Tyner ts)Michael Brecker b)Avery Sharpe ds)Aaron Scott perc)Valtinho Anastacio
1)Flying High 2)I Mean You 3)Where Is Love 4)Changes 5)Blues Stride 6)Happy Days 7)Impressions 8)Mellow Minor 9)Good Morning, Heartache
この作品は1995年にリリースされ、1996年のグラミー賞Best Jazz Instrument Performanceに輝き、また収録されているJohn Coltraneの代表曲Impressionsの演奏でMichael Breckerが同じくグラミー賞Best Jazz Instrumental Soloの栄冠を獲得したという、大変な栄誉あるアルバムです。レーベルもColtraneの一連の作品をリリースしたあのImpulse!で、60年代当時McCoy自身の作品もImpulse!から6作リリース〜いずれも大変素晴らしい作品ですが1枚挙げるとすると「Reaching Force」でしょうか〜されており、古巣に戻った形です。そのためかどうか、本人かなり力が入っていて自筆で1曲ずつ丁寧に解説を書いたライナーノートが添付されています。結構癖のある文字であまり読み易くはありませんが(笑)、作品に賭ける情熱と意欲が文面から伝わってきます。
このレコーディング・メンバーでかなりの本数のワールド・ツアーを行いました。ただ残念な事に来日公演は果たしていません。youtubeにその映像が幾つかアップされているので、こちらで我慢しましょう。
ベーシストAvery Sharpeは80年代から90年代にかけてMcCoy Tyner Trioレギュラーを務めています。McCoyの70年代の名盤「Song Of The New World」「Enlightenment」「Atlantis」でベースを弾いているJuni(もしくはJoony)Boothに実によく似たタイプのプレーヤーです。最初に聴いた時にはてっきりJuni Boothだと思うくらいにベースの音色やラインのウネウネ感がそっくりでした。50年代から活動していたアルト奏者Clarence Sharpe(同じ苗字ですが血縁ではないと思います)はCシャープと呼ばれていますが、Avery Sharpeも当然Aシャープとなりますが、B♭ではありませんね(爆)McCoyはこういうビート・タイプのベーシストをレギュラーとして起用するのが好みなのかも知れません。
この作品で素晴らしいドラミングを聞かせるAaron ScottはBerklee音楽院出身で89年から96年の本作まで計5作、McCoyの作品に参加しています。AaronとはBerklee同期だった僕の友人ドラマー曰く、見た目や顔の雰囲気から来ているのでしょうか彼は「ラクダ」と言うあだ名だったそうです。一卵性双生児の兄弟がいて母親が間違うほどソックリだそうですが、Michael Breckerが「Aaronは僕に対抗意識(competition)を持っている」と話していました。いつも会うたびにMichaelにちょっかいを出すらしく、多少のことには動じないMichaelも”うざったさ”を告白していました。同じ楽器を演奏する者同士なら対抗意識を持つのも分かりますが、逆に同じ傾向、同方向の物の考え方を持つもの同士なら楽器が違えど対抗意識を持つことがあるのでしょうか。そういえばSteve Grossmanが「Bob Bergはオレに対抗意識を持っているんだ。アイツは面倒臭い奴だよ」と言っていました。この事にはしっかりと頷くことが出来ます。18歳でWayne Shorterの後釜としてMiles Davisのバンドに大抜擢、一世を風靡した天才サックス奏者には努力の人Bob Bergは対抗意識むき出しで当然だと思います。Randy Breckerも「Bobはコンプレックスの塊だ」とも発言しているのを読んだ事が有ります。でもBob Bergは87年頃にMilesのバンドに参加、「You’re Under Arrest」をレコーディングしてロードにも出ました。New Yorkで60年代末から70年代初頭にかけて青春時代を過ごした、いわゆるロフトでジャムセッションを繰り広げ、お互いに切磋琢磨しあった間柄のColtraneスタイル・テナー奏者たちSteve Grossman、Dave Liebman、Bob Berg、 Michael Brecker、Bob Mintzer達は全員ユダヤ系アメリカ人です。特にGrossmanとLiebmanは2人とも70年代を代表するバンド、Miles Davis Groupの他Elvin Jones Groupにも参加、70年代にはその音楽性を見事に開花させました。Michaelは実はジャズジャイアントと共演の機会が少なかった事に引け目を感じていたように感じます。こんな話があるのですが、Charles Mingusのラストレコーディング、名盤「Me, Myself An Eye」のレコーディングについて僕がMichaelと話をしました。
膨大な人数のミュージシャンが参加したラージアンサンブルなのですが、僕の「レコーディンの時のことを覚えてる?」と言う質問に「あまり覚えていないけれど、Charlesの他Lee Konitzが居たのは覚えているよ 」Michaelと同じくジャズシーンだけではなくスタジオミュージシャンとしても活躍して居たバリトンサックス奏者Pepper Adamsの参加を思い出し、「確かPeppr Adamsも一緒だったはずだよ」と言うと急に色めき立ち「えっ、本当?Pepper Adamsがあの場に居たのかい?」「そうだよ。ライナーの写真にもPepperが写っているよ」自分が参加したアルバムにあまり興味のないMichael、当然ジャケ写も見ていない事でしょう。「僕はPepper Adams(何故かPepprではなくフルネームで呼んでいました)と共演していたんだ…」遠い所を見つめる様な感じの目付きをしながら呟いていたのが印象的でした。ジャズジャイアントとの共演歴が彼の中でその時もう1人増えた訳です。
盟友Grossman、Liebman達の華々しい活躍を尻目に彼自身はHorace Silverのバンドに参加したことがある位で、ひたすらスタジオミュージシャンとして活動を続けていました。多分MichaelもGrossman、Liebman2人にはcompetitionを持っていた事でしょう。でも外にその感情を出さずその分のエネルギーを自分がやるべき事の精進のために凝縮して費やす、むしろそう言うことが出来る事に長けている、いやその点に関しては天才的なのがMichael Breckerです。驚異的な楽器の習熟度、進歩、誰も成し得なかったサックスの奏法開発、まさに不言実行を絵に描いたような人でした。
Chick Corea、 Herbier Hancock、Elvin Jones達ジャズジャイアントと演奏を展開し、この作品でMcCoy Tynerとも共演を果たしました。さらに96年には自己の傑作アルバム「Tales From The Hudson」でMcCoyをゲストに迎えてPat MethenyのオリジナルSong For BilbaoとMichaelのオリジナルAfrican Skiesをレコーディングし、96年この自身の作品でもMichaelはBest Jazz Instrument Solo(収録曲Cabin Fever)とBest Jazz Instrument Album2つのグラミー賞2年連続受賞と言う快挙を成し遂げました。
「McCoyは僕にとても良くしてくれているんだ」と嬉しそうに話すMichaelの笑顔を忘れる事が出来ません。Milesとの共演だけは果たす事が出来ませんでしたが、Michaelはありとあらゆるジャズジャイアントとの共演を成し遂げました。
最後に「Infinity」のレコーディングの音質について触れて見ましょう。前述の通り名エンジニアRudy Van Gelderによる、彼のNew Jerseyのスタジオでの録音なので本来なら悪かろう筈がないのですが、実は僕にはあまりピンと来ていません。というかMichaelのテナーの音色が彼らしくないのです。96年の来日時Michaelに会い一緒に石森楽器に同行した時の話です。お店の従業員の方がMichaelが来店したので気を利かせてこの「Infinity」CDを掛けました。すると「うっ、このCDのテナーの音は苦手なんだよ」とMichael呻くように呟きました。「このレコーディングはRudyがエンジニアなのだけれど、どうしてなのかこんな音色で録音されたんだ。Tatsuyaはどう思う?」「確かに僕もこのMichaelの音色はいつもと違うと思っていましたよ」「そうなんだよ…」Rudy Van Gelderは既に何度もMichaelのレコーディンを経験していて、彼の音色の本質を把握している筈ですが、Rudyは常々レコーディングのクオリティを向上させるべく新しい事にチャレンジしていたようです。この作品はひょっとしたらチャレンジが裏目に出てしまった例なのかも知れません。
今回はテナータイタン、Sonny Rollinsの代表的なリーダー作「Sonny Rollins And The Contemporary Leaders」を取り上げて見ましょう。
Side A
1)I’ve Told Ev’ry Little Star
2)Rock-A-Bye Your Baby With A Dixie Melody
3)How High The Moon
4)You
Side B
1)I’ve Found A New Baby
2)Alone Together
3)In The Chapel In The Moon Light
4)The Song Is You
ts)Sonny Rollins g)Barney Kessel p)Hampton Hawes b)Leroy Vinnegar ds)Shelly Manne vib)Victor Feldman(On “You”only) 1958年10月20~22日LA録音
CDでは巻末に未発表別テイク3曲(You, I’ve Found A New Baby, The Song Is You)が追加されています。その関係で全体のバランスを考えてなのかどうか、本編の曲順が変えられており、このレコードの昔からのファンにとっては甚だ迷惑な話です。CDをお持ちの方はレコードの曲順で未発表テイクを省き、一度作品を鑑賞してみて下さい。印象が随分と違ってきます。もちろん僕はこの曲順が良いと思いますし、耳がしっかり慣らされています。作品をリリースする際にあらゆる事を考慮に入れて収録曲、テイク、曲順をアーティスト、プロデューサーは決定しています。未発表テイクを巻末に追加収録するのは良しとしても、曲順を変えるのはどうでしょうか。もしかしたらCDリリース時にRollins本人の承諾を得ているのかも知れませんが。
僕は1950年代のSonny Rollinsがとても好きです。ハードバップ黄金期をテナーの王道を行く素晴らしい音色、タイム感、センス、品格、ユーモア、構築するが如きストーリー性豊かなソロを引っさげて、自己の多くのリーダー作からMiles Davis、Bud Powell、Thelonious Monk、Dizzy Gillespie、MJQ、Clifford Brown~Max Roach達とモダンジャズの名盤を多産しました。と言うかハードバップの名盤にはRollinsの存在ことごとくありき、です。60年代を代表するテナーサックス奏者をJohn Coltraneとするならば、50年代の代表選手は間違いなくSonny Rollinsです。59年末から61年11月までの約2年間ジャズシーンを離れて自分の演奏を見つめ直すべく隠遁生活をしました。その後はその甲斐あってかどうか、良し悪しは別としてRollinsはそれまでとは表現するものを変えたように感じます。60年代に入って第1作目の作品「Bridge」(62年)以降から現在に至るRollinsも良いですが、50年代の演奏は格別にジャズ度をアピールしてくれます。誤解を恐れずに述べるならば50年はジャズを、60年代以降はSonny Rollins Musicを演奏していると思います。Coltraneの50年代後半からの急成長〜台頭ぶりが少なからずRollinsがジャズシーンからしばらく離れるきっかっけを作ったと考えるのは僕だけではないでしょう。ひょっとしたらコード進行に於けるテンションの使い方の限界をRollinsは感じ始め、特に57年以降のColtraneが自分とは全く異なる方法論での緻密なアドリブを急展開させ、「これは敵わないわ」と感じたかどうかまでは分かりませんが、ジャズ理論的に複雑な構成音を用いたアドリブは止めよう、もっとハナウタのようにメロディを奏でよう、この方が自分にとって自然体だ、と決心したのかも知れません。ちなみにRollinsとColtarneは仲が良く、一緒に練習をした仲間だったそうです。二人の唯一の共演作56年5月24日録音「Tenor Madness」、この時のColtraneの演奏はその後の劇的な変貌の片鱗すら感じさせません。
Rollinsは54年と69年にもシーンを離れました。彼に限らず他のミュージシャンも精神的、肉体的、家族の問題、経済的な事情でシーンを離れることが多々あります。Rollinsばかりが騒がれるのは第一線で走り続けるアスリートならでは、なのでしょうか。もしくは「しばらくリタイアします」のようなメッセージをわざわざ発しているのかもしれませんね。律儀な人だという話を聞いたことがあります。次に挙げるエピソードがRollinsの人柄を良く物語っています。僕の所属していたジャズ研の先輩が30数年前、Sonny Rollins Japan Tourのローディ、Rollinsの付き人としてツアーに同行しました。茶目っ気のある、イタズラ好きな先輩は人に頼まれたり物を勧められても断ることのできない性格のRollinsに移動の車内であんころ餅を勧めたそうです。Rollinsは甘いものが苦手というのを知っていて。「Mr. Sonny、これをどうぞ召し上がって下さい」「どうも有難う、ところでこの食べ物は何だい?」「日本の食べ物であんころ餅と言います、とっても甘くて美味しいんです!」「…Oh, thank you very much…」と言って暫くしてから素知らぬ顔でポトリと床にあんころ餅を落としたそうです(笑)
58年録音「Contemporary Leaders」は文字通り50年代最後の作品、Los AngelesにRollins単身赴き、西海岸を代表する名門レーベルContemporary Records所属のアーティスト達をリズム・セクションに迎え、小粋なブロードウェイ・ミュージカル・ナンバーを中心に、実に熟れた素晴らしい演奏を聴かせています。Barney Kesselのギター、ちょっとピッキングがバタバタして発音がナマっているように聞こえますが、とても味のあるアドリブを聞かせます。Hampton Hawesは大好きなピアニスト、明快なタッチ、演奏でタイトなリズムによるスインギーな演奏にグッときます。初リーダー作Hampton Hawes Trio, Vol.1はいまだに愛聴盤です。Leroy Vinnegarは自分のソロ時もひたすらwalkingで通す職人肌なベースプレイを信条としています。シャープでグルーヴ感が素晴らしいドラマーShelly Manne、西海岸きってのテクニシャンで後続のプレイヤーに多大な影響を与えました。Miles Davisのバンドにピアニストとして参加したことのあるヴァイブ奏者、名曲Seven Steps To HeavenやJoshuaの作曲者でもあるVictor FeldmanはRollinsとのバトルで丁々発止のソロを聴かせます。
レーベルContemporary Recordsの録音エンジニアはRoy DuNann。この人の録音はBlue Note LabelのRudy Van Gelderとはある意味正反対のナチュラルさが特徴で、西海岸らしい明るめの音質です。以下がこのアルバムのレコーディング時の写真ですが、倉庫のようなスタジオに現代のようなパーテーションのためのついたて等一切なく、ドラムやサックスのような音の大きな楽器が他の楽器に干渉するのを防ぐため別なブースに入って演奏する事もなしに、メンバー全員が一つの部屋でまとまった密な状態で録音しています。それでこれだけ各々の楽器の分離、解像度、臨場感、バランスが取れているのはマジックです。
写真の左下、白い布の上には我々テナー奏者お馴染みOtto Link Metal Mouthpiece用のキャップ、そしてその横にはレコードジャケットでRollinsが左手に持っているマッチらしき物も写っています。想像するに、レコーディング終了後ないしは休憩時間にカメラマンが一服している(ジャケ写でタバコを右手に挟んでいます)Rollinsを捕まえてポートレートを撮影したのでしょう。当日の情景を思い浮かべるのはとても楽しいですね。
この作品のRollinsの演奏はどれも全て完璧、と言って良いほど素晴らしいのですが特に僕が好きな部分、いつ聴いてもゾクゾクしてしまうのがバラードIn The Chapel In The Moonlightの最初のテーマのサビ後、メロディのアウフタクト部分に出て来るLow B♭音のサブトーンです。この音のインパクトの凄さたるや百凡のテナー奏者の及ぶところではありません。そして何よりこれだけ最低音B♭が的確に出るに際しての楽器調整の確実さと、調整を施したリペア職人の巧みな技、Rollinsの楽器を身体の一部のように扱える奏法の素晴らしさを、たった1音からそこまで感じさせてしまうのです。
「Contemporary Leaders」が50年代のRollins最後の演奏とずっと認識していましたが、1984年にスウェーデンのレーベルDragonから突如として59年3月録音のレコードがリリースされました。これには50年代Rollinsマニアの僕も驚きました。
St.Thomas / Sonny Rollins Trio in Stockholm 1959
b)Henry Grimes ds)Pete La Rocaを従えて、お得意のテナートリオでの演奏です。これがまた素晴らしい演奏です!ここでは「Contemporary Leaders」の延長線上にある演奏を聴くことができます。「実に熟れた演奏」を超えた「熟れきった演奏」がこの作品の特徴です。
Side A 1)St.Thomas 2)There Will Never Be Another You 3)Stay As Sweet As You Are 4)I’ve Told Every Little Star
Side B 1)How High The Moon 2)Oleo 3)Paul’s Pal
1曲目St. Thomasのみライブ録音、他はラジオ放送音源から収録されています。因みにこの頃のRollinsの楽器セッティングですがテナー本体はKing Super20 Silversonic、マウスピースはOtto Link Super Tone Master Double Ring 10★、リードは Rico3番です。
57年3月7日録音「Way Out West」、同年11月3日録音「 A Night At The Village Vanguard」2作ともテナートリオでのRollins代表作ですが、これらに全く引けを取らないクオリティの演奏です。
Rollinsをこよなく敬愛するSteve Grossmanが自身の作品、同じテナートリオでタイトルにあやかった「 Way Out East」をリリースしています。
GrossmanのRollinsフリーク振りは80年代以降の彼の演奏を聴けば一目瞭然ですが、こんな事を話していました。「ある日空港でばったりSonnyに会ったんだよ!なんと俺と同じシャツを着て、同じスニーカーを履いていたんだ!凄いだろ?」ここまで来れば本格的です(笑)。またGrossmanは「Sonnyの演奏は50年代にしか興味がないね。それ以降はI don’t care!」この辺りのテイストはまさしく彼の演奏に反映されています。
in StockholmではContemporary Leaders1曲目に収録したナンバーを再演しています。I’ve Told Every Little Star、ここではテーマ演奏の際に曲中の印象的な2小節のメロディをわざと毎回オフマイクにして音色の変化をつけています。ユーモラスなRollinsならではのワザですね。