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2020.08

2020.11.27 Fri

Three Quartets / Chick Corea

今回はChick Coreaの81年作品「Three Quartets」を取り上げたいと思います。前回取り上げた「Friends」でのフロントがJoe FarrellからMichael Breckerに変わり、バンドとしてのコンセプトが明確化、精鋭プレーヤー4人の高度な音楽性による一体感が堪りません。

Recorded: January/February 1981 at Mad Hatter Studio Los Angels, California Label: Stretch Records Producer: Chick Corea

p)Chick Corea ts)Michael Brecker b)Eddie Gomez ds)Steve Gadd

1)Quartet No. 1 2)Quartet No. 3 3)Quartet No. 2 – Part I (dedicated to Duke Ellington) 4)Quartet No. 2 – Part II (dedicated to John Coltrane) 5)Folk Song 6)Hairy Canary 7)Slippery When Wet 8)Confirmation

Three Quartetsは全曲Coreaのオリジナルから成り、タイトルの由来はバロック、クラシック、ロマン派、印象派に於けるストリングス・カルテットのような、ここではジャズの器楽編成による3部作を演奏する、四重奏のアルバムを作りたかったことに由来します。
前作Friendsの編成も4人でしたが、その四重奏は言わばトリオ+ワンというシチュエーションでした。今回の4人組は複雑な形状のパズルが合致した如く、間違いなく4者にしか出来ない音楽となっています。
1曲目から4曲目がレコード・リリース時の収録曲、5曲目から8曲目が92年CDリリース時にボーナストラックとして追加された未発表テイクです。アルバムのコンセプトからすると収録には相応しくないナンバーですが、内容的には素晴らしい演奏も含まれています。等Blogでは追加テイクに関して基本的に除外していますが、本作では触れて行きたいと思います。

Steve Gaddの4ビート〜スイングのリズムでのプレイは当時全く画期的なものでした。これを車輪と車軸の関係のように確実にフォローするEddie Gomezのベース・ワークとのコンビネーションはアルバム「The Mad Hatter」でのHumpty Dumpty、そして同一メンバーによるフルアルバム「Friends」、バンドStepsの諸作、そして本作の演奏でセンセーショナルに広まり、以降のジャズシーン、ドラマー、リズムセクションに多大な影響を与えました。結果多くのフォロワーを生み出しましたが、元祖Gaddのグルーヴ、スイング感、アイデア、カラーリングのセンス、集中力、何よりそのフレッシュさから未だ他の追従を許していません。当時「あのドラミングはジャズではない」「メカニカルなドラミング」更には「フュージョンの成れの果て」とまで揶揄されましたが、人から何を言われようと自分の信じる道を貫けば良いのです。他方「Gaddの4ビートはスイングしていない」という批評もありましたが、これはある意味では的を得ています。と言うのは基本イーヴン8分音符でのシンバルレガートをメインに、アクセント的にバウンスするレガートを叩いていますから、3連符がベースになるスイング感とは一線を画しているためです。Ellingtonの名曲「スイングしなけりゃ意味が無い」のスイングと、Gaddの4ビートプレイでのスイング感、またリズム、グルーヴの形態としてのスイング、言葉が幾つかの異なった意味を持つ事を再認識しました。周囲がGaddのドラミングを理解することが出来ず、異端扱いを受け、あたかも排除するかのような対応をされた事から、寧ろGaddの演奏の革新性を十分に感じることも出来ました。

Eddie Gomezのベースワークは足掛け11年にも及ぶ名ピアニストBill Evansとの共演で培われたハーモニー感、タイム感、加えてEvans Trioに幾多のドラマーが去来しましたが、各々の奏者たちが繰り出す個性的で微妙に異なるグルーヴのポイントへの対応法を、共演により獲得しました。Gomezはリーダー活動も行なっていますが、生涯一伴奏者としての徹底した姿勢を示しているように感じ、Gaddとの共演はどんなタイプのドラマーとも変幻自在に音楽を創造していく事の出来る柔軟性の中でも、とりわけ彼にとってフェイバリットなコンビネーションを示していると思います。
98年のGomezリーダー作「Dedication」では盟友フルート奏者Jeremy Steig他、レジェンド・ドラマーJimmy Cobb(!)を迎え、日本国内でもツアーを行いました。Gadd, Cobb二人の全く異なるドラミングに完璧に適応できるカメレオンぶりは技術力というよりも、彼自身の演奏スタイルの表出と呼ぶ事が出来そうです。

Eddie Gomez / Dedication

81年録音当時のMichael Brecker、テナーサックスのテクニカルな面で彼の右に出るものはいませんでした。音楽的な深みや成熟度は後年に任せるとして、Corea, Gadd, Gomezの3人に加えて然るべきテナー奏者はMichael以外に考えられません。テナーサックス・プレイに関して驚異的な進歩、成長を70年代中頃から常に感じさせた彼ですが、リズム、タイム感に関してはいつも課題があった様です。特にスイング(ここでは4ビートの事です)に於ける、より深みのあるノリ、グルーヴ、音符(1拍)の長さを模索し探究し続けていました。フロント楽器奏者によるジャズ表現で、ここが最も難所のひとつであると思いますが、リズム・マスターの一人であるCoreaは間違いなくMichaelにとって憧れのプレーヤー、mentor、レコードを通し彼の完璧なタイム感からすでに多くを学び取っていたでしょうが、実際に共演となると話は違います。彼からのオファーで作品に迎え入れられた事は天にも昇る心地だったでしょう。当然レコーディング時にはプレッシャーもかかります。本作でのプレイは緻密にして大胆、微に入り細に入り申し分のない演奏を聴かせていますが、どこかいつもよりも緊張気味、ピリピリとした刺さる雰囲気を感じます。逆にCorea, Gadd, Gomez3人の包容力がMichaelのナーバスさを巧みにカバーしてサポート、バンドとしての一体感を作り出している点も、この作品の価値を高めている一つだと思います。そしてここでのCoreaとの共演により、タイム感、グルーヴ、コンボ・アンサンブルのノウハウ(本作収録曲は実に複雑にして入り組んだ構成から成り立っています)、構成力などを身につけ、Michaelは更なる高みに向けてステップアップしていく事になります。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Quartet No. 1、いや〜何という凄い曲でしょうか!幾度となく耳にしましたがその都度新鮮さを感じさせ、聴く度に新たな発見がある楽曲、演奏です。組曲風の構成から成る、様々な場面、カラーを持ち、幾つものパートが有機的に絡み合い、各々を触発し合って、纏まりを得ているかの様です。何より特筆すべきはメンバー全員のアンサンブル能力の高さです。スタジオミュージシャンでも大活躍のメンバーなので当然のことですが、超難曲以外の何ものでもない、あまりに高次元で成り立っている楽曲の演奏をキープさせるだけでも至難の技ですが、さらに抑揚、フィルイン、メロディやキメを浮き上がらせるための巧みな色添、全てを同時進行でしかも完璧さを伴って成立させています。
第一楽章とも言うべき3拍子のイーヴン系リズムのパートではピアノに先導され、Gaddがあり得ないほどのセンスを持って、スペースをフィルインで埋めて行きますが、見事としか言いようがありません!Michaelによるテーマが登場、同様にカラーリングが素晴らしく、メロディがバーチカルに浮き立ちます。ソロがスタート、G7のワンコードを基調としていますが、実は「何でもアリ」の世界です。スペースを保ちつつ、次第にビルドアップして行きます。Corea, Gaddの対応が前作「Friends」でのJoe Farrell時と全く異なり、凄まじさを伴っており、そこではCorea vs Gaddのインタープレイ特集でありましたが、ここではMichael流ストーリーテラーによる巧みなソロの起承転結に、三つ巴ならぬ4者四つ巴で至極自然にインスパイアされ、レスポンスを繰り返しています。John Coltraneの音楽の変遷〜誕生、成長、成熟、円熟、崩壊、消滅にオーヴァーラップするが如きアドリブの展開は技のデパート状態でもあります。64分音符(!)、シーツオブサウンド、オーヴァートーンによるライン、巧みなフラジオ音とそのトリル、マルチフォニックス音、これらに追従、そして扇動しまくるリズムセクションです!その後Gaddのスネアロールが印象的なアンサンブル第一楽章Part 2を経て、静寂が訪れますがここからは第二楽章Part 1と言えましょう、ピアノのリリカルなメロディを今度はベースが奏で、そのままベースのソロに引き続きます。超絶にして耽美的、その後Coreaのソロに移り、ブラシに持ち替えていたGaddが触発され次第に音数が多くなり、第二楽章Part 2、場面がどんどん活性化されます。Coreaのメロディを受け継ぎ、テナーとベースのユニゾンによるメロディ、ダ・カーポして第一楽章に戻り、あらゆるキメ事を難なく120%のクオリティで演奏し、Fineを迎えます。

2曲目Quartet No.3、冒頭イントロとしてテナーとベースのメロディ、ピアノが加わりさらにドラムがフィルインを入れ始め、サウンドが厚くなって行きます。一度終始感を得てからおもむろにピアノがリズムをやや揺らしながら、弾き始めます。その後テナーのアウフタクト2拍を聴いて、インテンポのワルツで曲が始まります。その後4拍子に代わり、リズミックで複雑なコード進行に基づいたアンサンブルになります。先発テナーソロ、テーマのフォーム<ワルツ〜4ビート>を遵守したコード進行、リズムフィギュアで華麗なアドリブを聴かせますが、Gomez, Gaddの畳み掛けるようなアプローチにMichael確実に応えています!Coreaのソロに続きますが、トリオ・インタープレイの密度がどんどん濃くなって行く様は手に汗を握ってしまいます!その後Gomezのソロもテナー、ピアノのクオリティに全く比肩し得るクオリティ、テンションを感じ、全く手練れの者、自分のソロの前に様々な事象があった事をしっかりと踏まえながらの演奏です!ラストテーマを迎え、これまた120%超えレベルでの超絶アンサンブルでめでたくFineです。

3曲目Quartet No.2 Part 1(dedicated to Duke Ellington)は優雅にして芳醇、ゴージャスさの表出が半端無い、Ellingtonの音楽をCorea流に見事に料理した美しいナンバーです。ピアノイントロに続き、ピアノとテナーのデュオによるメロディ奏、ここでのMichaelの歌いっぷりの見事さといったら!ダイナミクス、微妙なニュアンス、アーティキュレーションの数々を用いた、切ないまでの感情移入による、歴史に残る名演奏を繰り広げています。ソロの先発はベース、ホーンライクで饒舌なプレイは、クールな中にメロディアスなアプローチをふんだんに織り込んでいます。続くピアノソロはGomezのスピリットを受け継いだかのようにメロディアス、その中にEllington風のアプローチ、ニュアンス、音使いを織り込んだ曲想に合致した演奏を展開、そしてテナーソロはこれまたGomez, Corea二人の演奏を踏まえた、彼らの延長線上にしっかりと位置しようという強い意志を感じさせるプレイです。そのままMichaelのソロでFine、余韻を残しつつ次曲にto be continued!

4曲目Quartet No.2 Part 2(dedicated to John Coltrane)、Gaddのマーチング風のドラムソロから始まります。CoreaのColtraneへのトリビュート・ナンバーはキーをCマイナーに設定しました。Coltrane, Cマイナーと言えば61年11月録音「Live at the Village Vanguard」収録のナンバーSoftly, as in a Morning Sunriseを想い浮かべますが、Corea自身も珍しくソロ中にこの曲のメロディを引用しています。

Coltrane Live at the Village Vanguard

先発のソロはそのCorea、縦横無尽に展開する演奏は自身のスタイルの他、どこかMcCoy Tynerのアプローチもイメージさせますが、Coreaは60年代に精進を重ねた世代、当時一世を風靡し、Coltraneのお抱えピアニストであったMcCoyには少なからず影響を受け、しかもトリビュートであれば尚更の事です。プッシュするドラム、ベースと共にアグレッシブでいてクール、知的なアドリブを展開、でも時として左手のコードワークが物凄すぎて知的を遥かに通り越し、まるで野獣のようですが(汗)。
そのままGomezのウネウネ、ブリブリのソロに突入、そしてMichaelの出番になります。前出二人のソロをここでも確実に受け入れ、Coltrane風のフレージングでソロを開始します。「盛り上がらねばならぬ」重責をものともせずにBrecker節をてんこ盛り、ここまで行きますか?との懸念をよそにGaddが後見人たる姿勢で全くコンセプトに合致したインタープレイを展開、音楽の合奏とはこうでなければいけませんよね(笑)。息を吸う暇もないほどの超弩級の演奏終了後、ピアニシモにまで音量が落ちてドラムソロの開始です。この頃のGaddのオープン・ドラムソロは常に斬新な展開を聴かせていました。果たしてここではどうでしょうか?途中からCoreaがパターンを弾き始め、それにGaddが合流する形でソロを続けますが、本編で自身の露出すべき音楽性はすっかり出し切った、と判断したのか、いつもの標高の6分目程度でソロを終了、もっととことんまで行っても良かったと思うのですが、ラストテーマを無事迎え終了です。

作品の本編はここまで以降はCDリリース時のボーナス・トラックです。区切りの意味でしょうか、前曲との曲間に11秒の長いブランクが設けられています。
5曲目Folk Song、本作録音81年夏のMontreux Jazz Festivalでの模様を収録した作品「Live in Montreux」でCorea他、Joe Henderson, Gary Peacock, Roy Haynesでのカルテットでこの曲他Hairy Canary, Slippery When Wetを再演しています。

Live in Montreux

印象的なピアノの美しいイントロから始まるナンバー、Gaddはテーマ時ブラシで演奏していますがソロに入り、スティックに持ち替え、サンバのリズム=「Friends」のSannba Songのグルーヴを聴かせ、その後スイングのリズムを叩いています。Coreaの軽快なソロの後Michaelのソロですが、タイムのポイントが幾分前に設定され、恐らく緊張感が彼にタイムの余裕を欠落させてしまったのでしょう。その後Gomezのソロを迎えラストテーマへ。曲想の違いもありますが、演奏のクオリティは本編とは幾分落ちると思います。

6曲目Hairy Canary、ライナーノートにCorea自身が書いていますがThree QuartetsのメンバーでU.S.ツアーを行い、その際追加テイク中ではこの曲のみを演奏プログラムに加えたそうです。キーがCのブルースフォームのこの曲、軽い手慣らし的に演奏、録音されたように感じます。

7曲目Slippery When Wet、8小節のモチーフを延々とループさせるユニークな曲想のナンバー、かなりフリーフォームに入らんとするコンセプト、「Live in Montreux」のメンバーでの演奏に相応しい楽曲です。作品「Circle」のメンバーでは若干異なりそうですが。

8曲目Confirmationは本作の別な意味での目玉、この演奏が発掘され我々が耳にできるのは幸せな事です。
全編テナーとドラムのデュエットで演奏されるこのテイク、ライナーには特にクレジットされていないのでMichaelとGaddのデュエットに違いないと思っていましたが、どうもドラミングがいつものGaddに比べるとリズムがルーズ、フレージングが異なり、タイムのキレもよくありません。後日Michael本人に尋ね「あのドラムはChickが叩いているのさ」と確認した時は目から鱗状態でした。Coreaはスタジオ内のGadd独特のチューニングのドラムセットを叩いたので、音色からも判断しにくかったわけです。ピアニストが叩くドラミングにしてはスイングしていますが、Coreaは元々ドラマーだったので然もありなん、そういえばMichaelもドラム演奏には堪能です。
デュエットとは思えないほどに持続した素晴らしいグルーヴ、テンション、そしてConfirmationのコードチェンジはこう解釈すべきだと、この演奏で実に明快に提示してくれたMichael、大変勉強になった演奏です。

2020.11.22 Sun

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日頃から佐藤達哉HP Blogをお読みくださり、誠に有難うございます。BlogのCD評をnoteのマガジンに移行し、読みやすい環境、CDタイトルでの検索も容易になりました。どうぞお気軽にご覧くださいませ。https://note.com/magazines/all

2020.11.02 Mon

Friends / Chick Corea

今回はChick Coreaの1978年録音、リリース作品「Friends」を取り上げたいと思います。フュージョン全盛期、自身もエレクトリックやロックテイストの作品を発表し続けていましたが、本作で原点であるアコースティック・ジャズへ一度戻る形となりました。斬新なスイング感のリズムセクションを伴い、名曲ばかりのオリジナルを取り揃えた新感覚の4ビートジャズを展開し、素晴らしい演奏を繰り広げています。

Recorded: January 1978 Kendun Recorders, Burbank, California, USA. Producer: Chick Corea Label: Polydor

p)Chick Corea ts,ss,fl)Joe Farrell b)Eddie Gomez ds)Steve Gadd

1)The One Step 2)Waltse for Dave 3)Children’s Song #5 4)Samba Song 5)Friends 6)Sicily 7)Children’s Song #15 8)Cappucino

Coreaとは初リーダー作「Tones for Joan’s Bones」からの付き合いになる名リード奏者Joe Farrellをフロントに、ベーシストEddie Gomez、ドラマーSteve Gaddによるカルテット、仲の良い友人関係だったことでしょう。作品タイトルや、ライナー掲載写真から和やかな表情を読み取る事が出来、作品全体から伝わるリラックスした雰囲気が全てを物語っています。しかし時として炸裂せんばかりの驚くべき次元のインタープレイの数々、音楽的な振れ幅のあまりの激しさは個々のメンバーの持つポテンシャルの高さを物語っていますが、そもそもがメンバーの音楽的相性の抜群さゆえ、その裏返しと言えましょう。特にCoreaとGaddのふたりはリズム感もそうですが、お互いのアイデアを共有する完璧に同じベクトルを描いています。Farrellのソロそっちのけで(爆)、互いのアイデアをぶつけ合い、拾い合い、瞬殺のレスポンスで場面を活性化する敏捷なプレイの連続。もちろん彼らは様々な音楽に柔軟に対応出来る幅の広い音楽性を有していて、特にGaddは膨大な数の参加作品に、多種多様な音楽への柔軟な対応力を感じ取る事が出来ますが、リーダーバンドであるThe Gadd GangではR&Bをルーツしたコーニーなサウンドを演奏しており(名バンドStuffが原形ではありますが)、仮にCoreaがこのバンドに加わったプレイはどうにもイメージ出来ません。CoreaのRichard Teeライクなプレイ、それはそれで聴いてみたいですが(笑)。一方Coreaはキャリアのごく初期ではサイドマンを務めましたが、一貫してリーダータイプのミュージシャンで、様々な方向性の作品を数多くリリースしてジャズ界に君臨しています。70年代初頭に率いたバンドCircle〜Dave Holland(b), Barry Altschul(ds), Anthony Braxton(reeds)〜彼の音楽史上最もフリーフォームな領域に足を踏み入れた演奏、Gaddがこのコンセプトで演奏するのはあり得ない事でしょう。グルーヴとカラーリングの妙を信条とするプレーヤーですから。本作で演奏されているスタイルでのふたりの相性は史上稀に見る、DNAまでマッチングする一卵性双生児のごとき同一性を聴かせています。

91年リリース「The Gadd Gang」
71年2月録音Circle Paris Concert

Coreaの77年録音作品「The Mad Hatter」収録Humpty Dumptyが本作の原点と言える演奏です。同一メンバーによるCoreaの傑作ナンバー、以降の彼の主要レパートリーの1曲になりました。発表当時はそのあまりに斬新なアプローチに話題騒然で、我々学生もこぞって楽曲にチャレンジしましたが(演奏したくなる魅力に溢れています!)難曲中の難曲、そして曲の持つ崇高にして気高いムードが中途半端な演奏者を寄せ付けず、未熟なミュージシャンを篩に掛けるに持って来いのナンバーでした(自分は篩下の落下物だったですが笑)。

Mad Hatter / Chick Corea

まさかこのメンバーで1枚作品が出来上がるとは思いもよりませんでした。「Now He Sings, Now He Sobs」はMiroslav Vitous, Roy Haynesとのトリオ、アコースティック作品でしたが、以降Corea一連の作品「Return to Forever」「Light as a Feather」「The Leprechaun」「Hymn of the Seventh Galaxy」「Romantic Warrior」「Musicmagic」「Secret Agent」「My Spanish Heart」…枚挙にいとまがありませんが、スパニッシュ、エレクトリック、ロックのテイストをとことん披露した作品群の後、ここまで徹底してアコースティック・ジャズを演奏したCoreaに、音楽の幅の広さを痛感した覚えがあります。これらイーヴン系のリズムが基本の音楽はスイング・ビートのジャズに比べて表現の間口が広く、オーディエンスにも受け入れが容易です。反してスイングは数あるスタイルの中で、演奏が最も困難にして聴く者にある種の強いる要素を抱えています。しかしここでの演奏は強いる事を遥かに通り越した次元での、誰にでも強力に訴えかけ、しかも容易に理解できる純粋芸術的領域での表現を提示しています。例えば画家Pablo Picassoのキュビズムによる一連の作品、その中でも頂点にあるゲルニカは観る者に圧倒的なインパクトを与えます。Picassoの情念がキャンバス、筆と絵具(ゲルニカの場合はペンキ)を媒体とし、誰も成し得ていない次元での手法をもって表現され、大胆な構図を施した絵の持つ存在感に圧倒されるばかりですが、同時に「よく分からない」感は拭い切れないと思います。キュビズムの手法にはつきものですが、でも言ってみればその「よく分からない圧倒感」が芸術鑑賞の原点だと感じています。そこから更に細部に入り込んで理解を深めて行くかどうかは、個人の好みであるとも思います。

本作の有無を言わさぬ演奏クオリティの素晴らしさ、そしてこの作品でサックス奏者がMichael Breckerに替わったとしたら、それはそれはさぞかし凄い事になりそうだ、とミュージシャン同士でよく話をしたものです。Farrellの持ち味にも格別なものがありますが、他の3人に比べるとどうしてもワンランク落ちてしまいます。一方当時のMichaelはまさに飛ぶ鳥を落とす勢い、八面六臂の活躍ぶりで作品毎に進化を遂げており、このリズムセクションのフロントマンとして参加資格があるのは彼だけではないだろうかと。我々だけではなく全世界で、本人Coreaももちろん感じたのでしょう、Dreams come trueとなり81年1, 2月録音の「Three Quartets」が世に出た際には吃驚仰天しました。

Three Quartets / Chick Corea

こちらの演奏内容の一転してのシリアスさ、まるで取り憑かれたかのような集中力、楽曲の難易度、Michaelの超人的演奏、Coreaはもちろん、Gadd, Gomezたちのプレイの更なる飛翔ぶりも相まって、彼の作品群の中で最もハードコアな仕上がりの一枚になりました。気になるのはFriendsでの大らかさとリラクゼーション、Three Quartetsでのストイックさとダークさの間にどんな心境の変化、インスピレーションの変遷がCoreaの内面にあったのか。詳しく知りたいところではあります。

79年にMike Mainieriが気の合う、音楽的にも優れたスタジオミュージシャン〜Don Grolnick, Michael, Gomez, Gaddたちと、Brecker兄弟が経営するNYC Manhattanのジャズクラブ7th Avenue Southにてセッションを始めたのがきっかけとなり、バンド名Stepsとして活動を開始、翌80年12月六本木Pit Innにて日本での旗揚げライブを1週間行い、その時の模様を収録した「Smokin’ in the Pit」が翌年リリースされました。高度な音楽性、緻密にして高次的理論に基づくインプロヴィゼーションの嵐、素晴らしいインタープレイはGadd, Gomezのリズム隊に負うところが大、彼らの起用は紛れもなくFriendsが元になっていますし、Three Quartetsに於けるプラスMichaelと言う人選も、これまたStepsからの流れに他なりません。時系列でのミュージシャンの入れ替わり、兼任・重なり具合、派生を眺めてみるとまた違った側面が見えてきます。

Steps / Smokin’ in the Pit

それでは収録曲について触れていく事にしましょう。1曲目The One Step、冒頭Fender Rhodesとベースのユニゾンによるテーマが奏でられ、リピート時にはベースはバッキングに回りソプラノサックスがテーマを演奏します。可憐な雰囲気をたたえた楽曲はオープニングに相応しい、良きスターターとなり得ています。Coreaにしてはシンプルなナンバーですが、曲の構成がよく練られています。4分の2拍子を含む打ち伸ばしやシンコペーションが効果的、テーマ中のRhodesのフィルインソロもグーです!Farrellが美しい音色でメロウにテーマ〜ソロを取ります。シャッフル風のリズムを叩くGaddとバッキングでカラフルに演奏するCorea、この時点でFarrellのソロには関係なく既に二人で呼応し合っています(汗)。Coreaのソロに入った途端にベースがリードし、Gaddがスネークイン、倍テンポのスイングに変わります。「ほんの少しだけ」前にリズムのポイントを置いたベース、ドラムのタイム感、そしてGaddの限りなくイーヴンに近いスイング・フィールのシンバル・レガートがカッコいいです!倍テンポになっても打ち伸ばしやシンコペーションが用いられているので、テンポ増しでこれらのキメは一層的を得たものになっています。Gomezのウネウネしたラインに纏わり付くGaddの多彩なドラミング、Coreaのパーフェクトなタイム感と相まって三者見事に連動しています。仕掛けて来るGomezのフレーズ、Coreaのソロにも同時に反応するGaddは、複数人の話を同時に耳にし、理解し得たと言われる聖徳太子状態です(笑)。

2曲目Waltse for DaveはCoreaの友人でもあり、先輩格のピアニストDave Bruebeckに捧げられている、美しくカラフルな場面展開を持つ名曲です。テーマは初めのAの部分をCoreaが、その後Farrellがフルートで美しく演奏しそのままソロに突入、よく聴くとGaddのブラシでのカラーリングが実に様々なアプローチ、小技、フレーズを連発しているのですが全くうるさくありません。フルートソロからスティックに持ち替え対応、2’11″辺りからのサビで4人が主張し合い、2’26″辺りからのGaddのフレーズにCoreaが合わせ始めます。Farrellがソロをとっているにも関わらず!このアルバムはフロントのソロそっちのけでのドラムとピアノのインタープレイが随所に聴かれる、稀有な作品でもあります(笑)。その後のピアノソロはさすが作曲者、変幻自在に曲のイメージの中に深く入り込み、Gadd, Gomezたちは自身でソロを取っているが如き音数のバッキングを繰り出し(笑)、Coreaと三つ巴で盛り上がっています!続くベースソロはエッジーな音色、正確なピッチ、イントネーション、歌い回し、ソロの起承転結全てに申し分ありません!Bill Evans「Live at the Montreux Jazz Festival」での”バチバチ”系ベースの音色のイメージがあり、ハードなセッティングとイメージしていましたが、むしろ弦高を極端に低くして柔らかく弦をつま弾いています。彼とは一度共演をした事がありますがクールな雰囲気で、細身で長いタバコMoreをオシャレに愛煙していた印象があります。

Gaddのドラミングスタイルですが、前述の通り膨大な数のレコーディングに参加しているために、演奏露出の機会は誰よりも多いので耳馴染み、お得意のフレーズが出ると嬉しくなってしまう次元の耳タコ状態ですが、実は誰にも真似の出来ないオリジナリティ溢れるプレイ、いや、それを通り越して相当の変態スタイルだと思っています。人が行うドラミングの手順があるとすると、必ず逆から辿るような、また演奏は定型でいるようで不定型の極みです。加えて通常では思いつかないようなレスポンス、アプローチを常に繰り出す真のアーティストであると認識しています。演奏の入魂ぶりは凄まじく、同じジャズドラマーElvin Jones, Roy Haynes, Tony Williams, Jack DeJohnetteと並び称されると思っています。

3曲目Children’s Song #5はCoreaのライフワークのひとつ、多くのバリエーションがあり、いずれもが小品として自作品に度々登場しますが、83年7月に「Children’s Songs」としてNo.1からNo.20までをソロピアノで、1曲のみcelloとviolinを伴って一枚の作品として録音しました。Bartokの名ピアノ曲集Mikrokosmosがルーツになっています。

Chick Corea / Children’s Songs

ここではドラム抜きの3人でクラシカルに、リリカルに演奏を行い、次曲に向けての丁度良いブレークとなり得ています。

4曲目は本作中白眉の演奏Samba Song、いや〜本当に素晴らしいプレイです!!文字通りサンバのリズムを用いたナンバーですが実に多種多様なアイデアが施され、恰もそれらが一寸の隙間もなく完璧に聳え立つ高層建造物として、4人の建築家が設計・施工、構築しているが如きです!実はシンプルなメロディのひとつがモチーフとして色々な形でイントロから表出し、リズムやバックのパターンを変化させて壮大なストーリーを作り上げていきます。このリズムセクションでなければ間違いなく成り立たなかったでしょう!Farrellのソロに入った1’26″でのCoreaのバッキング!何すっかこれは?ソロを取るプレイヤーにしてみればいきなりハードルをあげられた形です!1’41″のGaddのフレーズに瞬時に喰らいつき発展させるCorea、インタープレイを纏めるGaddのフレーズ、1’50″からのCoreaのフレーズを1’55″で発展させて応えるGadd、こちらは彼のお得意フレーズのひとつです。2’11″からのFarrellのフレーズに応えるCorea、2’36″でのGaddのフレーズをCoreaが受け継ぎ変化させ、2’47″で合流する爽快感!程なくテナーソロが終わりピアノソロに移行しますが、透かさずGaddがドラミングのパターンを変えました。本当に芸が細かいですね!その後猛烈にしてヒューマン(!)なスネアロールが入り、スイングにリズムが変わりますが、Gomezも一切の躊躇がなくぴったりとリズムがハマります。4’00″過ぎからGaddのパーカッシヴな「シャッ」「ドスン」「ピシャピシャピシャ」「ドンブラコドンブラコ」(笑)とフレーズが入りますが切れ味の鋭さ、やりっ放しにせず締めのフレーズも用い、Coreaの4’40からのフレーズに暫し静観し4’49″からのヴァージョンアップしたスネアロール、ここで刷新し、5’06″からそろそろクライマックスに持って行くべく猛烈な2, 4拍バックビート・アクセントの連続!それにしてもCoreaの一糸乱れぬタイム感とテンションの持続、迸るアイデア、5’21″からまるで鍵盤を隈無く打鍵するかのようなフレージング、ここまでの演奏を行うためには、さぞかし自己鍛練の化身として日々過ごしている事でしょう。続いてGomezのソロ、今までにこれだけの事象があったにも関わらず、クールに淡々と物凄いピチカートをプレイしています。リズムは再びサンバに戻り、しばらくベースソロがフィーチャーされますが、Coreaのバッキング・アイデアは尽きる事なく、相変わらずリズミックでハイパーの連続です!Gomezも次第にヒートアップ、タフな方です!とうとう7’26″からCoreaが最終段階に突入すべくリズム・フィギュアを提示、ベースソロにも反映されつつ少し遅れてGaddが追従し、フィナーレとなるべくテーマに突入します。Gadd大暴れで叩きまくり、この最中Farrellはテナーから僅か2秒余りでソプラノに持ち替えました!こんなに密度の高い音楽空間を僕は他に知りません!今度はGaddのオンステージ、パターンの上での縦横無尽のドラムソロ、タムの録音定位が左右に振られているのでソロ中スネア回しが右へ左へ、左へ右へとダイナミックに聴こえます。Gaddのプレイを前述変態呼ばわりしましたが、ここでのプレイはまさしく変態中の変態(爆)!もはや常人の域ではないですよ!そしてラストのモチーフを経て遂に演奏が収束しますが、ゼンマイ仕掛けの猿の人形のシンバルがゆっくりと動きを止めるが如きエンディングです。

5曲目Rhodesの可愛らしいイントロから始まる表題曲Friends、メロディをFarrellがフルートで奏で、リズムセクションが優雅にサポートします。こちらもリズムはサンバですが、前曲のSamba Songとは異なるBrazil系のサンバのリズムになります。美しさ、穏やかさが音楽表現の原点なのだ、と再認識してしまうほどに見事なアンサンブル、各人の曲想にマッチしたソロ、Gaddの繊細でアイデア豊富、かつグルーヴマスターとして他の3人の演奏を確実に映えさせる巧みさ、ベースソロ後ラストテーマへ、そしてエンディング部になりますが、8’08から聴かれるRhodesのメロディは聴き覚えがあると思いきや、「Return to Forever」収録でFlora Purimの唄をフィーチャーした曲、What Game Shall We Play Todayじゃありませんか!引用フレーズをソロに挿入することがまずないCorea、たまたまなのか何か狙いがあっての事なのか、真意の程は分かりません。

Return to Forever

6曲目Sicilyはアップテンポのナンバー、テーマで4拍目にアクセントが必ず入るリズムパターンはスリリングです。フルートとRhodeのユニゾン〜ハーモニー織りなす豊潤なサウンド、曲の展開部では半分のテンポに変わり、メリハリの効いた構成が魅力的です。フルート、ベースのソロが続き再びテーマが奏でられ、その後全く別なセクションを経てCoreaのソロが登場しますが、Gaddとの音楽的呼応を楽しむために設けられたパートなのでしょうか、徹底的にCoreaのフレージングに応えています。ラストテーマのシカケはこれまた凝り凝りのシンコペーション炸裂大会です!

7曲目のChildren’s Song #15、#5と同様にフルート、ピアノ、ベースの3人で演奏されています。こちらも短いながら存在感のある楽曲でチェンジオブペース、次曲への良き箸休めとなりました。

8曲目ラストを飾るのはアップテンポのスイング・ナンバーCappucino、こちらも怒涛のテイクになりますが、恐るべき次元での複雑な曲の構成と、対して全く確実に、難なく演奏するGaddの神がかったプレイが聴き物ですが、Gomezのon topのベース・プレイが実は影の功労者です。そのGomezからソロがスタート、ベース演奏に関して必要である全ての事象に完璧さを聴かせる、本作中ベストのクオリティです!続いてFarrellのソプラノソロ、モーダルなスタイルをJohn Coltraneから継承している彼のお得意分野なのでしょう、ディープな領域にまで入り込み、リズムセクションをインタープレイ三昧の世界に誘い込んでいます(笑)。続くCoreaのソロではFarrellの最後のフレーズを受け継ぎスタート、Gaddの巧みなアプローチを満身に受け、触発されつつ応え続け、Gaddに更なるインスピレーションの発露を要求しているが如し、「もっと煽ってくれ!」とのCoreaのリクエストに嬉々として応答したドラミングを展開しています。ピアノソロもさすがに終盤戦では前述のCircleでの演奏をイメージさせるフリーの次元にまでイッています!ラストテーマに突入すべくキメっぽいフレーズを連呼したCorea、テーマのアウフタクトを弾き、察知したGomezはブレークしますが、珍しくGaddが「オッと!」とばかりにブレークせず一瞬溢れますが、こんな事は些細な出来事、小さなミスより大きなノリです!ラストテーマではCircle状態が再演されますが(笑)、Coreaのエキサイトぶりが伺えます。エンディングも新たなセクションが設けられ、これまた偏差値の高いシカケを経てFineですが、Farrellは対応しきれず(?)忍法霞の術を用いて途中でドロンしたようです(笑)。

2020.10.18 Sun

Rosewood / Woody Shaw

今回はトランペッターWoody Shawの代表的リーダー作「Rosewood」(1978年リリース)を取り上げたいと思います。個性的なトランペットスタイル、音色、誰にも真似の出来ない独自なアドリブライン、ユニークな曲想にしてジャズのルーツに根差したオリジナル、大編成によるアンサンブルをこの作品で見事に披露しています。

Recorded: December 15~19, 1977 at CBS 30th Street Studio, New York City Label: Columbia Producer: Micheal Cuscuna

tp, flg)Woody Shaw ts)Joe Henderson ts, ss)Carter Jefferson fl)Frank Wess, Art Webb ss, as)James Vass tb)Steve Turre, Janice Robinson p, elp)Onaje Allan Gumbs b)Clint Houston ds)Victor Lewis congas)Sammy Figueroa pec)Armen Hallburian harp)Lois Collin

1)Rosewood 2)Everytime I See You 3)The Legend of the Cheops 4)Rahsaan’s Run 5)Sunshowers 6)Theme for Maxine

Woody Shawは44年12月24日North Carolina生まれ、父親はゴスペルのミュージシャンでした。9歳の時にビューグル(ピストンの無い軍隊ラッパ)を始めたそうです。学校でのバンドに参加すべく最初に選んだ楽器は意外な事にトランペットではなく、ヴァイオリンでした。ですがこちらは定員に達していたので叶わず、2番目の選択肢としてサックスか、トロンボーン、こちらにも欠員は無く残った楽器がトランペットだったそうです。さらに意外な話ですが、その時Shawは自分がどうしてこの耳障りな音のする楽器の担当にさせられなければならないのか、と感じたそうです。音楽教師に自分がやりたい楽器を選べないのはフェアではないとも不満を述べましたが教師はShawを説得し始め、ちょっと辛抱してトランペットをやってごらんよ、君に向いている楽器だと勧められ、この楽器を好きになる事を保証するよとまで言われましたが、彼の言っていたことは正しく、すぐにトランペットに恋をしてしまったそうです。教師は単に楽器の欠員パートを埋めるために促しただけなのかも知れませんし、実際のところは分かりませんが、しかしジャズ史に燦然と輝く名トランペッターWoody Shaw誕生のきっかけを作ったのですから、良い指導者と巡り合えたと言えましょう。彼自身こうやって思い出してみれば何か不思議な力が働いて、トランペットと出会う事が出来たと回顧しています。その後は日夜練習に明け暮れ、卒業後クラシックの殿堂Julliard音楽院に進み、トランペットを徹底的に勉強をしようと考えていましたが、Louis Armstrong, Harry Jamesに深く傾倒し、ジャズに興味を持つようになります。そして次第に次世代のトランペッターたちDizzy Gillespie,  Fats Navarro, Clifford Brown, Booker Little, Lee Morgan, Freddie Hubbardらからの影響を受けるようになり、自ずと学校での音楽活動から離れていくことになります。Brownが亡くなった年月〜56年6月と同じ時に、彼はトランペットを選んだ事をある日気付いたとも語っていますが、志し半ばにして悲劇的な交通事故で逝去したBrownの偉業を受け継ぐために自分は演奏している、と言う自負があるのかも知れませんね。Shawは独自のスタイルを生涯貫き通した超個性派プレーヤーですが、過去の先達へのリスペクトには半端ないものが感じられます。その後はローカルミュージシャンとして様々なギグをこなし、63年7月若干18歳の時にEric Dolphyのリーダー作「Iron Man」でレコーディング・デビューを飾ります。栴檀は双葉より芳し、ここでの彼のプレイは荒削りではありますが、のちの個性を十分に感じさせるフレージング、アイデア、間の取り方、楽器の音色を聴かせています。

63年7月録音Eric Dolphy / Iron Man

Dolphyはトランペット奏者と2管編成で演奏する機会が多く、初リーダー作60年4月録音「Outward Bound」でもFreddie Hubbardと、その後はBooker Littleと素晴らしいコンビネーションを聴かせていました。61年7月ライブ録音「Eric Dolphy at the Five Spot」での演奏は、彼ら二人の名演奏を捉えた傑作です。

1961年7月16日録音Eric Dolphy at the Five Spot」

ところがLittleは録音直後の10月、尿毒症により23歳と言う若さで夭逝してしまいます。Dolphyの落胆ぶりが手に取るように伺えますが、彼の後釜としてHubbardが再起用され、64年2月録音、Dolphy没後同年8月にリリースされた傑作「Out to Lunch」での演奏は特筆すべきです。Hubbardも本当に素晴らしいトランペッターですが、個人的にはShawとの相性の方に良さを感じています。あと1, 2年Shawの登場が早ければ、「Out to Lunch」のトランペッターは彼ではなかったかと。そしてDolphyが64年6月、36歳の若さでBerlinにて医療ミスと言う、痛恨の客死に至らなければ以降はDolphy = Shawのフロントラインで音楽活動を継続し、更なる名演奏が生まれたのでは、と勝手に想像しています。

62年2月25日録音Out to Lunch / Eric Dolphy

Shawの演奏は一聴すぐ彼と分かる強力な個性を発揮していますが、多くのサックス奏者の2管編成の相方やピアノプレーヤーのフロントを務めていました。オリジナリティを持てば持つほど逆に音楽的テリトリーは狭くなります。多様性は深まりますが他のミュージシャンとの協調性は薄れて行き極端な話、自己のバンドでしか演奏出来ない事態に陥りますが、Shawの場合は例外です。前述のDolphyをはじめ、Joe Henderson, Jackie McLean, Hank Mobley, Dexter Gordon, Booker Ervin, Gary Bartz, Sonny Fortune, Joe Farrell, サックス以外ではChick Corea, Andrew Hill, Horace Silver, Larry Young, McCoy Tyner, Bobby Hutcherson, Art Blakey…枚挙にいとまがない程に数多くの第一線ミュージシャンと共演しており、いずれに於いても十二分な個性の発露、素晴らしいインプロヴィゼーション、存在感、彼の参加による作品クオリティの向上、リーダーの音楽性とのナチュラルな融合を発揮しています。Shawは幾多のジャズ・トランペットプレイヤーの中でもインプロヴィゼーションのライン、方法論、アイデアが抜きん出ていて、緻密さと大胆さが半端なく、時として難解さを極めオーディエンスが置き去り状態ではないかとまで感じる時があります。例えばBrown, Morgan, Little, Hubbardらの発する、トランペット奏者特有の爽快感をShawの演奏から感じ取るのが困難な場合があり、プレイは常に問題提起を促し、聴く者の演奏理解に際してどこか強いる姿勢を感じさせる奏者です。具体的にはフレージングにおけるコード進行に対する縦の音使いでは明らかにディスコードでも、横の流れで通してみれば聴感上ギリギリのポイントで成立する、ラインの言ってみれば帳尻合わせ的な独自の解決感。加えていわゆるパターンやリック的な音使いを極力避けたと思われるクリエイティブなインプロヴィゼーションの、本人は特に意識してはいないでしょうが、有無を言わせぬ対峙感。ところが彼のスタイルの根底にあるLouis Armstrong, Harry Jamesらのテイストから醸し出されるニュアンス、イントネーションが随所にスパイスとして作用し、ハードボイルドでありながら、えも言われぬ色気を放ち(男の色気〜益荒男ぶりと切なさ)、演奏の難易度を適度に緩和させていると感じていて、ここが多くのミュージシャンに愛された由縁と考えています。優れた奏者、音楽、芸術には複雑な要素が絡み合うのが常です。Shawの演奏には他にはあり得ない次元での複雑な個性が混在しており、その表出に際し一面では真の芸術家たるmentorとして、演奏者からの尊敬を通り越した熱狂的な崇拝ぶりを得ています。他方では一般的なオーディエンスが彼の音楽について行く事が出来ず、ともすると少数の熱狂的信者のためだけのマニアックなものに終始してしまう、musician’s musisianの範疇に留まってしまいがちになります。Miles Davisの音楽表現の難解さも同様ですが、彼の場合天性のものからオーディエンス、ミュージシャン分け隔てなく万人に対してアピールする事が出来ています。そして「俺の音楽が難しいって?おいおい、分からないのはお前らに責任があるんだぜ。分かろうが分かるまいが俺の知ったこっちゃないけど、一度でも分かろうとして聞いた事があるのかい?とことん入り込んでみな、Come on! everybody!」のようなスタンスでプレイしていると思います(笑)。

本作はShawにとって初のメジャーレーベルColumbiaからのリリースになります。これまでにも10作近くをContemporaryやMuseレーベルから発表していました。70年「Blackstone Legacy」74年「The Moontrane」といった傑作をはじめいずれもが高い音楽性を示し、個性的オリジナル、アンサンブルを聴かせ70年代ジャズ界のフラッグシップ的存在として精力的に演奏活動を展開していました。

「Blackstone Legacy」
「The Moontrane」

本作リリース77年頃はColumbia筆頭アーティストにしてジャズ界の牽引力Milesが健康を害し(胃潰瘍とヘルニア)、75年2月の大阪公演を収録した名作「Agharta」「Pangaea」を最後に80年頃まで長期引退していた時期に該当します。

「Agharta」
「Pangaea」

Columbiaレーベルにとってもジャズシーンにとっても、Milesの不在は手痛かった事でしょう。彼に続くアーティスト、できればモダンジャズのリーダー的存在である楽器トランペット、その先鋭プレーヤーを必要としていました。Shawに白羽の矢が立ったのは当然の事です。彼を最大限にバックアップすべく、大編成でのレコーディング(メジャーならでは、お金かけてます!)〜リリースは彼の音楽生活の一つのピークであったと思います。

参加メンバーは当時のWoody Shaw Quintet = p)Onaje Allan Gumbs b)Clint Houston ds)Victor Lewis ts,ss)Carter Jeffersonにゲスト・ソロイストでShawとの相性抜群のJoe Henderson、そして5管編成にコンガ、パーカッション、更にハープを増員したThe Woody Shaw Concert Ensembleが加わったゴージャスな最大14人編成で、重厚なアンサンブルを堪能できます。Shawは自分の曲の他、メンバーのオリジナルも取り上げ、ユニットとしての活動に重きを置いています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目表題曲にしてShawのオリジナルRosewood、彼の両親に捧げられたナンバー、初演はBobby Hutchersonの74年4月録音作品「Cirrus」に収録されています。ShawとJoeHenの2管によるメロディが核となり、アルトサックス、フルート、ピッコロ、トロンボーン、バストロンボーンが対旋律やハーモニー、バックリフを奏で、リズムセクションにパーカションが加わった重厚な演奏はOnaje Allan Gumbsのアレンジによるものです。メロディはどこかミステリアスでいながら、キャッチーなテイストも存在するShawならではの凝った楽曲、しかしこれまでの彼の作風とは明らかな違いを聴かせています。ソロの先発はJoeHen、斬り込み隊長の責務を十分に果たす素晴らしいブロウ、全面的に信頼を寄せていた間柄だと思います。ホーンのアンサンブルを受けつつ、難曲のコード進行を実に的確にアドリブしています。初演ではHutchersnのソロだけがフィーチャーされていたので、続くここでの作曲者のソロは初登場になります。それにしても独創的なラインの連続、音の跳躍と滑舌の尋常ではない確実さ、ソリッドでエッジーな音色、そしてニュアンスの豊富さからは彼自身の唄を確実に聴き取る事が出来ます。

74年4月17, 18日録音Bobby Hutcherson / Cirrus

2曲目Everytime I See YouはOnajeのオリジナル、前曲からコンガとハープが抜けつつ、引き続きゴージャスなアンサンブルが聴かれますが、ここでは使用管楽器に多少の変化をつけています。Victor Lewisの叩く8ビートのリズムは軽やかでいて、どっしり感も感じさせるジャズ屋特有のタイム感です。Stan Getz, Carla Bley, George Cablesはじめ多くのミュージシャンとの共演歴を持つ強者の一人です。Clint Houstonのベースも雄弁で、確実にビートの芯を捉えたプレイが素晴らしいです。Shawのワンホーンをフィーチャーしたナンバー、軽やかにリズムに乗ったプレイは音使いやトーンの魅力が半端なく、そしてソロ途中からサンバのリズムに変わるドラマチックな演出も効果的です。Onajeのソロは美しいピアノの音色と共に、リリカルでいてダイナミックです!ここでもサンバに一瞬変わり、ソロのクライマックスをホーンアンサンブルがバックアップし、ラストテーマにクールに移行します。

3曲目The Legend of the CheopsはLewisの作曲、David Sanborn77年作品「Promise Me the Moon」にも収録され、作曲者も参加しています。こちらは彼のソプラニーノをフィーチャーした演奏、小編成という事もあり本作よりもシンプルな仕上がりですが、Shaw, Sanborn全く表現の異なるふたりの管楽器奏者の演奏を比べてみるのも一興です。

Promise Me the Moon / David Sanborn

Cheopsとはギリシャ語で古代エジプト・クフ王の事、Lewisは作曲のほかアレンジも担当しています。自由な発想に基づいた佳曲、JoeHen同様にShawが全信頼を置くドラマー、コンポーザーです。ハープや木管楽器が大活躍するイントロに始まり、Shawの奏るテーマにJoeHenが絡み、同様にアンサンブルが纏わり付くように曲をカラーリングします。先発はJoeHen、ここでのソロはイってます!続くShawのソロも素晴らしい!ラストテーマ後のヴァンプでのやり取りも含め、70年9月ライブ録音「Joe Henderson Quintet at the Lighthouse」での、ふたりの申し分の無いコンビネーションを彷彿とさせます。

Joe Henderson Quintet at the Lighthouse

4曲目Rahsaan’s RunはShawのオリジナル、バンドのメンバー全員の友人にして天才の名を欲しいままにしたRahsaan Roland Kirk、本作レコーディングの直前12月5日に惜しまれつつ亡くなり、哀悼の意を表したナンバー。曲自体はアップテンポのマイナーブルース、クインテットのメンバーが全員ソロを繰り広げます。先発はShaw、続いてJefferson、Onaje、Houston、そしてLewisとの1コーラスバースがShaw, Jeffersonと行われラストテーマを迎えます。全員の熱気を帯びた演奏が(テンポがかなり早くなりました!)Rahsaanへのレクイエムになったに違いありません。

5曲目SunshowersはHoustonのオリジナル、イントロでのエレクトリックピアノとトランペットのサウンドがMilesのIn a Silent Wayを彷彿とさせます。こちらもこのバンドに相応しい佳曲、表題曲からフルートを除いたアンサンブルが壮大なイメージのナンバーを彩ります。Shawのブリリアントなテーマ奏に続くソロを、もっとクリアーに聴きたいと思っていても、アンサンブルがややラウドに響き音像が霞み気味です。その後JeffersonのソプラノとJoeHenのサックスバトルが!リズムセクションのサポートを得てJeffersonも大健闘していますが、お相手とはタイム感やアイデア、そもそも格が違い過ぎるようです。Onajeのピアノソロ、アンサンブルを経てラストテーマを迎え、イントロにダ・カーポ、アテンポしもうひと盛り上がり、フェードアウトでFineです。

6曲目Theme for Maxineはライナーノート曰く「実に素晴らしい人物で驚くべきマネージャー」と言うバンドマネージャーMaxine Greggに捧げられたShawのナンバー、メンバー全員から親愛の情を込めて演奏されています。本作中最も60年代ジャズの香りがするのはHorace Silverのナンバーの雰囲気を感じさせるからでしょうか。65年10月録音Silverの名盤「The Cape Verdean Blues」でもShaw = JoeHenのフロントラインが大活躍しています。

The Cape Verdean Blues / Horace Silver

先発のJoeHen、本作中最も自由奔放でアグレッシヴなソロ、とことんJoHen節を聴かせ、ラストはトリルと共に消え去って行きます!リズムセクションもソロのコンセプトに徹底的に従っています!これはMaxineさんの人柄を表した内容なのでしょうね、きっと。Shawのソロは助走態勢から次第に熱を帯び、触れ幅の実に広い雄大なスケールの演奏を聴かせます。ピアノソロはリリカルさを基本にアグレッシヴなテイストも交えていますが、フロントふたりが既にMaxineの事を殆ど語ってしまったので、自分は控えめに纏めますとばかりに、コンパクトに終えています。Houstonのやはり短いソロを挟んでラストテーマへ。ピアノのバッキングが冒頭テーマ以上の自己主張を繰り広げているのは、やはりマネージャーの事で言い足りないことがあったのでしょう(笑)。

2020.10.06 Tue

The Brecker Brothers / Live and Unreleased

今回は2020年リリースされたThe Brecker Brothers(BB)の未発表CD2枚組ライブ「Live and Unreleased」を取り上げたいと思います。80年7月5週間に及ぶ欧州ツアーでの一コマ、HamburgのジャズクラブOnkel Po’s Carnegie Hallでの演奏を収録した作品になります。バンドの弾けぶり、そしてMichael Breckerの絶好調ぶりを完璧に捉えたドキュメント性も注目に値する作品です。BBの第6作目「Straphangin’」レコーディング前の表題曲プレヴュー演奏、代表作「Heavy Metal Be-Bop」収録曲、そして取り上げられる機会の少なかった5作目「Detente」のナンバーもチョイスされたレアな選曲、ライブ向けアレンジも施された充実した演奏がマニアは勿論、オーディエンス全ての心をとことんくすぐります。

Recorded: July 2nd, 1980 at Onkel Po’s Carnegie Hall, Hamburg, Germany

tp, vo)Randy Brecker ts)Michael Brecker g)Barry Finnerty key)Mark Gray b, vo)Neil Jason ds)Richie Morales

Disc One 1)Straphangin’ 2)Tee’d Off 3)Sponge 4)Funky Sea, Funky Dew 5)I Don’t Know Either

Disc Two 1)Inside Out 2)Baffled 3)Some Skunk Funk 4)East River 5)Don’t Get Funny with My Money

青天の霹靂です!The Brecker Brothers未発表ライブアルバムCD2枚組が厳選されたナンバーにして豊富な曲数、ハイクオリティな演奏、素晴らしい録音状態で今年3月に発表されました。ジャケットのデザインも秀逸です。こちらの方も青霹繋がりで話題になりましたが2015年に発表された「UMO Jazz Orchestra with Michael Brecker」、Helsinki, Finlandで地元を代表するUMOビッグバンドにMichaelが客演したライブ作品、彼の事をとことん愛してやまないバンドメンバー、スタッフ、オーディエンスが彼を万全の態勢で受け入れ、「さあMichael、どうぞ思う存分好きなだけブロウして下さい!」とばかりに御膳立てされたシチュエーションでのプレイ、95年に録音され20年を経て2015年に発掘、リリースされた名演奏です。本人も全く把握していない膨大な数のレコーディングを残しているMichael、まだまだひょっこりと、とんでもない名演奏が突然世に出る事を楽しみにしていて、決して損はないと思います。

UMO Jazz Orchestra with Michael Brecker

本作はUnreleasedと銘打っていますが、実はBootlegで以前から世に出ていました。「Brecker Brothers Hamburg 1980」と題されたCDで、BB3作目「Don’t Stop the Music」のライナー写真を転用したジャケ写、録音月日が誤記され、収録曲目もStraphangin’、Tee’d Off、Sponge、Funky Sea, Funky Dewの4曲のみ、録音状態も隠し録り感満載の中音域を中心としたドンシャリで(本作と同じ音源を使用していると思われますが、テープの保存状態の悪さか、ダビングを繰り返したためなのか)、総じての仕上がりがいかにも海賊盤でしたが、そのぶん今回の完パケ・アルバムのクオリティが際立ちます。

Brecker Brothers Hamburg 1980

BBは「Heavy Metal Be-Bop」の後にピアノ、アレンジャーGeorge Dukeをプロデューサーに迎え「Detente」をリリースしました。

80年リリースDetente / The Brecker Brothers

レコードのA面をボーカル入りのブラコン(今もこの名称で通じるのか不安ですが〜汗)、当時のディスコやラジオでかかるのを前提としたサウンド(懐かしい響きの単語ばかりです!)、B面を従来のBBサウンドによるコアな演奏と、セパレートした形に仕上げました。おそらくArista Labelからのオファーによる売れ線狙いとの折衷案を具体化したものですが思惑は外れ、欲張り過ぎは良くありませんね、中途半端な作品としてファンから好意的には迎えられませんでした。米国のレコード会社はヒットを出せないアーティストには常に冷酷です。もともと合計6作品と言う契約であったかも知れませんが、BBはあと1作だけのリリースを残すのみとなりました。となれば、この際自分たちのやりたい音楽を気に入ったメンバー達と演奏しよう、レーベルに何を言われようが好きな事をやって、いざと言うときには尻(ケツ)を捲って逃げりゃ良いさ(笑)、でもそのためにレコーディング前に長いツアーを行ってバンドのサウンドをしっかりまとめておこうと。人選に際しギタリストとベーシストにはHeavy Metal Be-Bopの共演で気心の知れたBarry Finnerty(彼はこのツアーのためにThe Crusadersの”Street Life”ツアーを休んだのだそうです!)とNeil Jasonを起用し、キーボード奏者Mark GrayとドラマーRichie Moralesはいくつかのギグで共演しピンと来たRandyが引っ張ってきた形になります。参加メンバーの音楽性ですが、FinnertyとGrayにはジャズプレーヤーとしての素養〜インタープレイの心得が有るように聴こえますが、JasonとMoralesにはあまり感じられません。その分リズムのグルーヴとタイトさ、ファンクのスピリット、特にMoralesにはラテンの秀逸なセンスを聴き取ることができます。結局レコーディングでは当時新進気鋭、現在では飛ぶ鳥を落とす勢いのマルチ・ベーシストMarcus Millerが起用されましたが、兄弟が収録ナンバーを作曲、アレンジする、練るうちにベースプレイにはジャズ的要素が欠かせない曲ばかりになり(ツアー時に新曲はMichael作Straphangin’ 1曲のみでしたから)、Jasonのロック魂には捨て難いものがあるし、ツアーで苦楽、寝食を共にした朋友ではありますが(笑)、新作「Straphangin’」はジャズ度の方がまさったと言う事で、対応すべく直前にMarcusへのメンバーチェンジが行われたのではないか、と睨んでいます。

Straphangin’ / The Brecker Brothers

本作で聴かれる演奏にはバンドとしてのまとまりは言うに及ばず、アンサンブル能力の高さ、メンバー各々の楽曲に対する的確な解釈力、各人のソロの素晴らしさ、前述の様にあまりバンドのインタープレイ(どうしても比較してしまいますが、Heavy Metal Be-Bopのような)を感じることは出来ませんが、所々に”はっと”する部分を聴くことは出来ます。兄Randyはいつもながらの飄々としたマイペースさと、人を喰ったかのようなシニカルさを感じさせながら、しかしヴォーカルも含めたエンターテイナー然としたプレイを聴かせ、そして何より何より、特筆すべきはMichaelの絶好調ぶりです!数多くの録音を紐解いてもここまでの集中力と、最低音域から自在に操るフラジオ音を用いた3オクターヴ半の幅広い音域を含めた楽器の完璧なコントロール、フリークトーンを用いた炸裂プレイ、理想的なタイム感、余裕さえ感じさせるリラクゼーション、これらからもたらされるインパクトを遥かに通り越したむしろ爽快感の表出!こんなことが出来る演奏者は他には存在しません!例えば87年に発表された初リーダーアルバム「Michael Brecker」で聴かれるような円熟した音楽性、音の深みは未だ希薄で、ここでの彼は言わば超高性能Sax Machine状態です。guitar kidsならぬtenor sax kids、でもそこには決して幼さや自己満足、押し付けがましさやウソ、はったりの匂いは皆無なのですがこれは彼の人間性ゆえ、ひたすら努力と向上心、探究心、情熱の成せる技、John Coltraneを心のmentorに持つ彼。さあ、1980年7月2日Hamburg, Germanyの地に立つMichael Brecker未だ31歳、人類史上ここまでサックス・テクニックを極めたhuman beingは貴方だけです!ここをスタート地点として更なる音楽表現の深さ、自己表現の巧みさ、目指しているリアル・ジャズプレーヤーとしての本質、自己の内面との対話を円滑に進め、スタジオ、ツアーサポート・ミュージシャンからの脱却、またこれから先自分は何をどの様にして、次なる表現力を身につけて行けば良いのかを探り続けて下さい!とは言っても貴方は自身であらゆる事柄を発案、思索し、決定して遂行出来るインテリジェンス溢れる自立した人、この先の音楽活動が楽しみで仕方ありません!(彼のプレイのその後の変遷、充実、成熟ぶりについては、いずれまた述べたいと思います)

87年リリース初リーダー作「Michael Brecker」

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Straphangin’はテナー奏者Albert AylerのオリジナルGhostをどこか感じさせるメロディライン(笑)、マーチ風のイントロから始まります。Michael曰く、New Yorkの地下鉄ストライキの際に思い浮かんだ曲だそうです。実際にツアーの3ヶ月前、80年4月1日から11日間にも及ぶ長期の地下鉄ストライキが、66年以来14年ぶりにあったそうで、一説によると900万人に影響を与えたそうですが、そんな大騒ぎをタイトルの由来にし、Strapつり革 Hangin’掴まる、地下鉄乗車を意味しているようです。因みにMichaelと一緒に山手線に乗車した事がありますが193cmの長身のため、日本のつり革は彼にとって用を成していませんでした(汗)。ジャケット写真に用いられている地下鉄City Hall駅(NYに幾つか存在する廃駅の一つで、閉鎖されてから70年以上経つにも関わらず、ロマネスク調の美しさを今でも保つカリスマ的名所、廃駅なのでBBの写真が半透明に処理されているのですね)の駅階段を降りる二人の写真もそこから来ているのでしょう。当時はMichaelもManhattanのChina Townに住んでいたので、スタジオギグの際には地下鉄を利用して移動していたと思います。

イントロのフェルマータ後Michaelのカウントでヘヴィーなファンク・リズムが始動します。シンプルなドラミングに対して他のリズム楽器の仕掛けが実に凝っていて、エキサイティングです!2ヶ月後の9月2日東京・武道館で開催されたAurex Jazz FestivalにBBが参加し、Peter ErskineやAlphonso Johnson達とこの曲を演奏しましたが、曲自体は同じですがソロの構成が異なっていた記憶があり、彼らも試行錯誤を繰り返してレコーディングに臨んだのでしょう。テーマのメロディは通常とは逆にテナーが主旋律を吹き、トランペットがハーモニーに回ります。ドラムとベースが繰り出すグルーヴがカッコいいです!武道館の時にはErskineの叩くファンクが繊細ながらも幾分軽めに感じました。ソロの先発はRandy、in B♭でEマイナーを中心としつつ、分数コードによる緊張感を持たせ、サビでのDm7-G7-Cmaj7と言うトラディショナルなコード進行との対比が、ソロイストに継続性、ストーリー性をもたらします。作品「Straphangin’」ではMichaelが先発を務めましたが、81年に六本木Pit Innで行われたライブでは同様にRandyが1st soloの場合も多々ありました。ソロ本編ではwahを用いたり、発情期の猫の鳴き声のような(?)効果音も交え、Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ進行ではドミナント・モーション感を巧みに提示しながら、常にリズムのスイートスポットの見えている、彼ならではのソロを聴かせています。そして2番手Michaelの登場です。十分にスペースを取りながら助走態勢に始まり、走行安定後には猛烈にイメージを膨らませています。アドレナリンの分泌量が増大し、同時に脳内麻薬も出始めています!吹きたい事、チャレンジしたい事、昨晩とはまた違った世界を構築したい欲望とが渾然一体となり、しかし一切の躊躇、淀みはなく、自己主張を行う楽しさが全てに優先し、楽器は元より、マウスピース、リード等のソフトウエアの問題を全てクリアーした状態でSax Machineぶりを猛烈に披露しています!これだけ高速の演奏であれば普通乗用車ではなく、F1レース仕様スポーツカー並の精度の楽器セッティングが不可欠、楽器本体American Selmer MarkⅥ No.86351、マウスピースがBobby Dukoff D8ないし9番、リードはLa Voz Medium。エフェクターを使うために、ピックアップが施されたオリジナルとは別のネックに付け替えています。楽器本体、ネックはレース仕様ですが(笑)、マウスピースとリードはごく一般的な市販品の使用で、彼なりの調整が匠の技を生んでいると思います。しかし1曲目からこの調子で本人は元より、バンドメンバーは一夜持ち堪えられるのでしょうか?(汗)

Aurex Jazz Festival Jazz of the 80’s

Randyの曲紹介の後、2曲目はDetente収録のMichaelオリジナルTee’d Off、キャッチャーでいてしかし複雑な構成の曲調をライブにも関わらず、かなりオリジナルに忠実に再現しています。メロウな部分とBBらしいリズミック&ダンサブルなアンサンブルとのコンビネーションが絶妙です!コンポーザーによる先発ソロ、King Curtisやロックギターのテイストを交えながら華麗に歌い上げています。フラジオ音の当たり具合に時折問題が生じているようですが、これだけのヒット率ならばライブでは御の字でしょう。ですがクライマックスでは見事トラブルを克服し、フラジオ音の連発で巧みにまとめています。このソロの後に演奏するのは辛いのではないかと思いますが(汗)、続くFinnertyはむしろ委細構わず(笑)、フュージョン・ギター第一人者としての貫禄を素晴らしい音色で聴かせます。Randyのソロは無く、アンサンブルだけの参加に留まります。

3曲目もRandyのMCから始まります。曲はメンバー各自のソロを16小節づつ(作曲者Randyは8小節とアナウンスしていましたが…)トレードするのが目的のナンバーSponge、Heavy Metal Be-BopではTerry Bozzioの猛烈なドラミングのプッシュにより、とんでもない次元にまで演奏が盛り上がりました。こちらではまずRandyとMichaelの兄弟対決が行われます。Randyの一貫して知的、端正なアプローチに対し、弟はチャレンジャブルに、兄のソロの内容も視野に置きつつ、次第に熱を帯び始め、実に気持ちの入った入魂のフレージングの数々でバンドは元より、常にクールな兄を自分のペースにしっかりと巻き込んでいます!3’06″からのテナーソロの空白時間はエフェクターのツマミ調整に費やされたようで、その後のwahの掛かり具合が確実なものになりました。4’17″からのフレージング、実は運指が難しく、トレード中エキサイトしている時には更に難易度がアップする筈なのですが、Sax Machineにとってはいとも容易なようです。この頃のMichaelは他のサックス奏者がやらないようなリックを次々と編み出し、果敢に挑んでいたフシが伺えますが、発想が理科系ミュージシャンのなせる技でしょうか。続いてギターとキーボードのトレードが始まります。ここでのシンセサイザーの音色は懐かしいですね、おそらくProphet Ⅴを使用していると思いますが、アナログならではの暖かい、深みのあるサウンドが特徴です。Morales, Jasonふたりの徹底したサポートがあってこそ、ここでの大熱演が成立しました。誤解を恐れずにMoralesとBozzioのドラミングを比較するならば、MoralesはTony Williams的なパルスでの呼応、BozzioはElvin Jones的長いスパンでのレスポンスと言えると思います。

4曲目は本作中白眉の演奏、Michaelの代表的ナンバー Funky Sea, Funky Dew。Heavy Metal Be-Bopでの演奏も素晴らしかったですが、更に凌ぐこの曲を代表する名演奏が誕生しました。曲の持つ雰囲気はメロウさとファンキーさ、スパイス的に哀愁が加味され、C7ワンコードのセクションでは一転してハードロッカーに変身!曲構成のメリハリが堪りません!2’54″からMichaelが吹くフレーズはどこかで聴いたことがあると思っていると、これは「Return of the Brecker Brothers」1曲目のSong for Barryじゃあありませんか!!この曲は当初Guineaと言うタイトルが付けられていましたが、BB竹馬の友トロンボーン奏者Barry Rogersがアルバム制作の頃に急逝し、哀悼の意を込めて彼の得意なフレーズをモチーフに仕上げたそうです。この曲の印税の一部は遺族に送られる事にもなりました。

Return of the Brecker Brothers

Michaelのソロ、手がつけられないほどの絶絶、絶好調ぶりは何かが憑依して彼をコントロールしているに違いありません!続いてのギターソロもMichaelからのイマジネーションが作用し、白熱した演奏を聴かせますが、これまた何者かが憑依していると推測出来ます(笑)。ラストテーマを迎え、おきまりではありますがテナーサックのcadenzaソロになります。フェルマータ時にテナーの音量をグッと落とした時点でこれはかなりの長さのストーリーを展開するだろう、と暗示させます。この曲のキーがin B♭でBマイナーなのでドミナント・コードであるF#7を基本にフレージングを開始します。Heavy Metal Be-Bopでは”アルプス一万尺”のメロディを引用していましたが、今回はどうでしょう?ハイパーフレーズ連続の後にメロディらしいフレーズが聴こえて来ました。これは?えっと?何と! Coltraneのナンバー、Blues to Youじゃあありませんか!「Coltrane Plays the Blues」に収録されているin B♭でキーがC、F#の裏コードという解釈なのですね、流石です!

Coltrane Plays the Blues

その後ブルースフォームを辿りながらアカペラでソロをとり、Finnertyがバッキングを付け始めます。予定調和ではない、スポンテニアスな雰囲気に満ちた演奏、スリリングです!81年BB来日の際にも同曲でこのコーナーが設けられましたが、その時にはヴァージョンアップし、ブルースからリズム・チェンジのコード進行に変わり、リズム隊をバックに延々と吹きまくっていました!その後意外にもエフェクターのオクターヴァーを用いた重音、ハーモニー、自分の音をループさせながらその上でのやりとり、オクターヴァーの時間差を利用したフレージング、後年のEWIを使った独奏の原形がここで既に聴かれる訳です!更にキーBマイナーでの一人ファンクに今度はJasonも乱入し、メンバーMichaelの独演会に隙を見つけて何とか加わろうとしています。その後Michael極少の音量でFineのフレーズを吹きますが、キーボードは花火やイルミネーションと見紛うばかりのド派手なサウンドエフェクトを放ち、最後の最後にMichaelが再びループ音を鳴らすわで大変な騒ぎが収束しました。それにしても欧州ツアーで毎夜毎夜このレベルでのパフォーマンスを繰り出すMichael、プライヴェートでは大人しいナイスガイですが、ステージでは驚異的にタフな人です!

5曲目は再びDetenteからMichaelのナンバーI Don’t Know Either、Disc Oneは彼のオリジナルが中心と言う事になりました。哀愁を感じるメロディにはかなり難解なコード付けが成されています。Michaelが初めにメロディを吹き、その後これまたシンコペーションをこれでもかと活かした、分数コードが散りばめられたエグさまで感じられるサビのアンサンブル、2管編成にも関わらず分厚いサウンドを聴かせているのは、ハーモニー音のチョイスが的確なのでしょう、同時にFinnertyのギターも活躍しています。今度はRandyがメロディを担当、その後の構成は初めと同様です。ソロは引き続きRandyから、アッパーストラクチャー・トライアード系のヴァンプの上でスネークインしつつ始まります。一転して重厚なファンクのリズムへ、ミステリアスなムードに歩調を合わせつつ、自己の世界を構築し盛り上げていきます。リズムセクションとの様々なやり取りはライブ演奏の醍醐味です!Randyかなり長いスパンでソロを吹き、ほど良きところでアンサンブルへ、そしてコンポーザーの登場です。怪しげな雰囲気のサウドにマッチしたアウト感を提示、その後同様にヘヴィーファンクへ、wahを効果的に用いながらのソロは当夜用いたリックやアイデアを再演せず、全く新しいアプローチを披露しています!バンドもこれには「おお!」とばかりに入れ喰い状態で確実にキャッチ!まるで無尽蔵にワンコード・ソロのアイデアを持つかのようです!その後ヴァンプ、ラストテーマに入りますが一瞬出遅れてMichaelのテーマ奏、ひょっとしたらRandyの番だったか?と頭を過ったのかもしれません。エンディングが繰り返されますがカッコいいキメの連続、ギタリスト冥利に尽きるフレージングで、これはオイシイThe Crusadersのツアーをキャンセルした甲斐もあると言うもの(笑)、ニッコニコでギターを弾いているFinnertyの顔が浮かんで来ます。

Disc Two1曲目はHeavy Metal Be-Bopにも収録されていたRandy作の(変態?)ブルース・ナンバーInside Out、テーマ演奏の時点で既にメンバー全員ノリノリです!テーマの繰り返し時、11小節目にMichaelが吹くラインがBlues Brothes(笑)のイメージです!ソロ1番手はGray、初めの2コーラスはテーマのコード進行、その後スリーコードのブルースという、Heavey Metal Be-Bopでのスタイルを踏襲しています。2番手はRandy、オリジナルテイクの影を引き摺りつつ、そこは彼もsomething newを表現すべく果敢にトライしています。続くはMichael、この曲でも開始時からまた別なアプローチのヴィジョンが見えているようです。オリジナルではテーマのコード進行の後、延々とG7のワンコードでソロを展開していましたが、ここでは他のプレイヤーと同じくスリーコードのブルース進行でファンキーに、テキサス・テナー然としたアプローチを聴かせますが、おそらくフロント全員がソロを取るので比較的コンパクトに、とはいえ大胆にプレイを纏めているように感じました。続くFinnertyは自分の持つ表現力のテリトリーの範疇を最大限に広げた熱いソロを繰り広げています。その後ラストテーマを迎えます。

2曲目はDetente収録RandyのナンバーBaffled、前述のAurex Jazz Festival Jazz of the 80’sにも収録されています。ユニークな発想による斬新なメロディ、構成を湛えたファンクナンバー。スラップが効果的なベースパターン、多彩なギターのカッティング、微妙に変わるドラムのグルーヴ、Michaelのスペーシーな中でのフィルインソロ、様々な要素が渾然一体となったRandyの頭の中のような(笑)ナンバーです。テーマ後ドラムソロになり、ギターのミュートカッティングがパーカッション状態です!比較的長いドラムソロになりましたがツークラーベでバンドが復帰、 Randyのソロになります。ここでもいつになく本気のプレイ、バンドの音はかなりラウドだと思われますが、管楽器奏者にはかなり茨の道、多少のリズムラッシュはものともせず、キュー出しのためにオフマイクになりつつもラストテーマを迎えます。

3曲目Some Skunk Funk、BBのライブでこの曲を演奏しない訳にはいきません!オーディエンスの熱狂ぶりが感じられます。比較的穏やかなテンポが設定されました。テーマで時々テナーのメロディが霞んでいるのはおそらくエフェクターの調整のためだと思われます。周りの音量がデカいですからね。先発はもちろんMichael、さあさあ徹底的に、広大な草原をペンペン草も生えてないまでの荒野にすべく、とことん盛り上がって全て持って行ってくださいね!楽しみにしていますよ!との思惑が外れ、意外と小ぶりな内容で済ませました。次にJasonのソロが控えているので、彼フィーチャーと言う事で華を持たせるべく、自分の出番を抑えめにしようと言う目論見だったのかも知れませんが、テナーソロがとことんバーニングした後のベースソロもめちゃイケてると思うのですが?Jasonショウは素晴らしいタイム感、グルーヴで屋外のハードロックコンサート状態!その後カウントと共にラストテーマを迎えますが、本テイクは思い込みがあった分、他の収録曲に比べやや喰い足りなかった感じです。

4曲目Heavy Metal Be-Bop収録のナンバーEast River 、Jason他の作曲になります。この曲を用いた伝説のHeavy Metal Be-Bopプロモーションビデオでの くちパク、バンド横一列状態、Michaelのお茶目なパフォーマンス、youtubeにアップされているので未視聴の方々はゼヒご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=wnfhHamrULc

オリジナルにある程度忠実に演奏されていますが、ライブヴァージョンと言うこともあり、Jasonのボーカルの弾けぶり、ホーンセクションが吹くまた異なったフレーズ、オリジナルには無かったMichaelのソロ、これは実に気持ちの入ったMichael Breckerフレーズ炸裂のプレイです!続いてのFinnertyのソロ、ハードロックバンド以外の何物でもありません!おそらくメンバー全員によるコーラス、Jason, Randyの声は確認できますがMichaelはあまり声の大きな人ではないためか、歌っているのでしょうが残念ながら確認できません。その後意外性のあるメチャメチャイケてるエンディングのライン、これは大変に価値ある発掘だと思います!BBファンを長年やっていて良かったと思う瞬間です!

5曲目Don’t Get Funny with My Money、これまたレアな選曲、Detente収録のRandyのナンバーにして自身の唄をフィーチャーした名曲です!個人的にお気に入りのナンバー、この曲が収録されているのを発見した時は小踊りさえしてしまいました(笑)。晩年のMichael Brecker Quartetのメンバーを務めたベーシストChris Minh Dokyの99年リリース・リーダー作「Minh」に、大胆にもRandy本人を迎えてこの曲を再演しています。

Chris Minh Doky / Minh

前半は原曲と同様に演奏されますが、唄後のキーボードのソロ、そしてリフを挟み 何と!Randy, Michael, Finnertyの8小節トレードが開始されます!まさかこの曲で3人のバトルが聴けようとは!!その中で5’14″から始まるMichaelのGm7のフレージング(テナーサックス奏者には比較的ポピュラーになりますが)、これは何とWayne Shorterの「JuJu」収録MahjongでShorterが吹いているマンマじゃないですか!嬉しくなってしまいます!その後の4小節バースでもMichael君フリークトーンを連発!2小節バース、ソロ同時進行まで行きますか?この演奏からライブ当夜、バンドメンバー全員の充実感、完全燃焼ぶりを痛感することが出来ました!そして一度終わったと見せかけてクールに再び始まります!随所にMichaelが入れるフィルのセンスの素晴らしさ、願わくばこんなライブのオーディエンスになりたいものです!

2020.09.26 Sat

Speak No Evil / Wayne Shorter

今回も前回に引き続き、Wayne Shorterの作品を取り上げたいと思います。「JuJu」の次作に該当する1964年12月録音「Speak No Evil」、トランペッターFreddie Hubbardを加えたクインテット編成でShorterの音楽性がより一層開花しました。

Recorded: December 24, 1964 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Label: Blue Note BLP4194

ts)Wayne Shorter tp)Freddie Hubbard p)Herbie Hancock b)Ron Carter ds)Elvin Jones

1)Witch Hunt 2)Fee-Fi-Fo-Fum 3)Dance Cadaverous 4)Speak No Evil 5)Infant Eyes 6)Wild Flower

人目を引く、シンプルながら芸術的なデザインの宝庫Blue Note Labelの作品でも、キスマークと東洋系女性がジャケットに写っているのは本作だけ、ユニークなのはもちろんですが、これはきっと女性に対するShorterの愛の証なのでしょう。本人からのオファーだと思います。Blue Noteには硬派なイメージがありますが、むしろ柔軟性に富んだ対応からその表現を許したレーベルとプロデューサーに懐の深さを感じます。写真の女性はShorterが61年に結婚した日系人Teruka “Irene” Nakagamiさんで、彼女との間に生まれた娘のMiyakoさんに捧げたナンバーが5曲目Infant Eyesになります。67年3月録音Shorterの11作目のリーダーアルバム「Schizophrenia」にはまさしくMiyakoと言うタイトルの、美しくも、あり得ないほどに独創的なスローワルツ・ナンバーが収録されています。

67年3月10日録音「Schizophrenia」

前作「JuJu」から約4ヶ月後の64年12月24日に本作は録音されました。Blue Note Label第1作目「Night Dreamer」が同年4月録音なので、1年間に3作と言うハイペースでのリーダー・アルバム制作は、迸る才能と同年7月頃に名門Miles Davis Quintet、リーダー自身に5年近く嘱望され続けて、いよいよの加入と言う話題性のなせる技でしょうか。本作参加メンバーはShorterの音楽性を最も理解している一人のElvin Jonesが今回も留任ですが、他のメンバーは一新されました。トランペッターFreddie HubbardはShorterが音楽監督を務めたArt Blakey and the Jazz Messengersで研鑽し合った仲、メキメキ腕前を上げていました。ピアニストHerbie HancockとベーシストRon CarterはShorterが加入したばかりのMilesバンドのメンバー、リーダー仕込みの高い音楽性は既に定評がありました。Shorterの個性的かつ難易度の高いオリジナル、しかも今回は表現の発露に更なるオカルト的なエグさが加わった前人未到のサウンドです!曲の構成やメロディライン、コード進行やリズムの複雑さに加え、一貫してダークで重々しい中にきらりと光る知性、ユーモアのセンスを含んだテイストは演奏者に表現上の問題提起を行なっているかのようで、より柔軟性に富んだプレイヤーが必要となり、メンバーの刷新は必須だったのでしょう、これらを演奏するに相応しいミュージシャンが揃いました。コンセプトとしては黒魔術に違いないのですが、前作は「JuJu」と言うことで西アフリカの呪術がテーマ、今回はWitch Hunt(魔女狩り)、Fee-Fi-Fo-Fum(ジャックと豆の木の巨人が発する気味の悪い雄叫び、呻き声)、Dance Cadaverous(死者の踊り)とSpeak No Evil(See No Evil, Speak No Evil, Hear No Evil=西洋的”見猿聞か猿言わ猿”の一節)、そしてWild Flowerの3曲はFinlandの作曲家Sibeliusの”Valse Triste”にインスパイアされたオリジナルで、愛娘に捧げたInfant Eyes以外は西洋の魔術がテーマになっています。Death Metalのジャンルでは存在するのでしょうが(汗)、ジャズでは初めて取り上げられたコンセプトアルバムに違いありません。これら呪術的オリジナルを、精鋭たちが信じられないほどの感性を持って熱演し、ジャズ史に残る名作に仕上げました。ワンホーン・アルバムは管楽器奏者の個性にフォーカス出来るのが最大の魅力ですが、アンサンブルとしてはモノトーン、本作のトランペット〜テナーサックス2管編成はモダンジャズ・ホーンズの黄金のコンビ、オクターヴ違いの音域と異なった音色のブレンド感がユニゾンはもちろん分厚いサウンドを聴かせ、ハーモニー演奏に至っては黄金を通り越したプラチナの響きに該当します(笑)。しかもHubbardのトランペットは技術的、音色、タイム感、サウンドのコンテンポラリーさが断トツに素晴らしく、Shorterと絶妙な相性を提示し、以降も抜群のコンビネーションをキープし続け、76年6月にNYCで行われたNewport Jazz FestivalでのHerbie Hancockのコンサートを収録した「V.S.O.P.」 での演奏をきっかけに、レギュラー活動を展開しました。

1976年7月29日ライブ録音「V.S.O.P.」tp)Freddie Hubbard ts,ss)Wayne Shorter p)Herbie Hancock b)Ron Carter ds)Tony Williams

V.S.O.P.は同じクインテット編成で、ドラマーがElvinからTony Williamsに替わっただけのメンバー構成、V.S.O.P.で同じくFreddieがMilesに替われば60年代のMiles Davis Quintetになります。音楽的志向が同じミュージシャンが集う傾向にあるのは昔からの常ですが、ElvinとHancockの二人に関してはどうも異なるようです。彼らサイドマン同士での共演作は何枚か存在しますが、お互いのリーダー作には決してどちらかの名前はクレジットされていません。その観点から分析してみると、まず本作テーマのフィルインはほとんどHancockが中心に行ない、Elvinはどちらかといえば追従した形でのフィル、フロントソロ時もHancockが主導権を握りバッキングを行なっています。「JuJu」の演奏ではひたすらElvinがリードしつつ、McCoyがついて行く形で伴奏を行い、同時にバッキングをしたとしてもぶつかる事はあまりありません。ですので結果Elvinのドラミングが曲想に完璧に合致し、全編炸裂した名演奏を聴くことが出来ました。McCoyはColtrane Quartetでのソロ時にバッキングをせず、ステージ上でピアノ椅子に座ったままじっと待つ事のできる辛抱強さ、寄り添う事のできるタイプで、長男ではなく兄貴達と遊びたい弟、兄貴の用事が済むまで待たされても辛抱する末っ子ではないかと(笑)。一方のHancockはMilesの空間のあるソロに対して、いかに充実したフィルインを展開して行くかを求められる状況下で、音楽性が培われたピアニスト、また伴奏を共にしたTonyのドラミングは空間を埋めるタイプではなく、フレージングに対する瞬発力を信条とするプレイヤーです。Hancockの言わば横のラインに対しTonyは縦のラインでのアプローチなのでバッキング時にぶつかり難く、良いコンビネーションを築き上げている間柄です。HancockとElvinの場合は、互いに似た音楽的傾向があると意識していると思います。それ故に相容れないものも同時に存在すると。本作の演奏ではHancockの弾けぶりが凄まじく、Elvinの健闘ぶりも発揮されてはいますが、前作よりは存在感が薄くなっています。ShorterからのオファーでリズムセクションはHancockが中心となってサポートして欲しいと、もしかしたら要望が有ったのかもしれませんが、とにかく彼自身「俺が、俺が」とばかりに真っ先にバッキングを行うため、Elvinの登場部分は限られてしまいました。彼も自分が出なければならない場面では率先してアクティヴになりますが、別の誰かが活躍する時には自己主張を(音楽を壊してまで)絶対にアピールはしません。バンマスShorterは結果これを良しとし、本作の次にリリースされた作品「The All Seeing Eye」(この作品との間に後年発売された2作品が録音されていますが)ではHancockが残留し、Joe Chambersがドラマーの椅子に座り、そして以降の作品にはElvinが戻ることは決してありませんでした。

65年10月15日録音「The All Seeing Eye」

それでは演奏内容に触れて行きましょう。1曲目Witch Hunt、躍動的なアップテンポのホーン・アンサンブルにリズム隊のキメが合わさる、これだけでも十分楽曲として成り立ちそうな秀逸なイントロから、ドラムが先導してテーマ部に入ります。4度のインターヴァルを中心としたユニークなメロディラインの間には毎回スペースがあり、早速この部分をHancockが慎重にして大胆にバッキングを行います。曲自体にダイナミクスが設定され、mpからffまでを縦横無尽に演奏しますが、この事が楽曲に深淵なメッセージ性を導入しています。テーマの繰り返し部分ではElvinもフィルインを入れるべく試行しますが「ここはHerbieに任せておこうか」とばかりに比較的”音無の構え”、テーマのff部分での巧みなカラーリングには存在感を見せており、更にテナーソロに入る直前の強力なフィルには場面転換に対する強い意志を感じさせます。本作でのShorterのテナー音色は一層の深みが織り込まれていて、独自なフレージングと共に聴く者を魅了してやみません。でもここでのソロの”寡黙さ”は敢えてHancockにフィルインを弾かせ、コールアンドレスポンスによるカンヴァセーションを企てようとしているかのよう、3’07″からはElvinがその企てに乗じてプッシュし始めます!思うにElvinは音楽的に高度に丁々発止のやり取りが出来る、Shorterにとって”間違いのない”素晴らしいパートナーですが、究極Coltraneの影がちらつき、自身のプレイにも影響を与えると感じます。例えば「JuJu」収録Yes or NoでのColtraneライクなアプローチのように。Miles Bandに加入したばかり、リーダーから直接求められる事はなかったでしょうが、早急に自己のスタイルを確立する事が一層の使命となり、Coltraneの影響下を一刻も早く脱却したいとの願望からElvinとの共演を控えるようになったのだと、ここでのソロの方法論を鑑みて自分なりの結論に達しました。

続くHubbardのソロはブリリアントな音色と滑舌の良さ、優れたタイム感、超絶技巧にも関わらず必ず”ウタ”を感じさせるアドリブライン、Clifford Brown, Lee Morgan, Donald Byrd, Booker Little, Woody Showの流れを汲むスタイルは、Shorterとの対比において全く引けをとらない素晴らしいものです!個人的にはHancock 65年3月録音リーダー作「Maiden Voyage」表題曲のソロに、Hubbardのジャズスピリットの真髄を感じています。

65年3月17日録音Herbie Hancock / Miden Voyage

続くHancockのソロでは盟友の演奏をバックアップすべく、Ron Carterのラインに更なる躍動感を感じます。ElvinはそんなCarterに演奏のレスポンスを任せているかのように、シンプルなバッキングに徹しています。ベースがこれだけ動いていて、更にドラムがアクティヴになれば演奏の収拾がつき難くなるのを懸念したのかも知れません。でもここでのドラマーがTonyであったなら、パーカッシヴなレスポンスの応酬を聴く事が出来たかも知れません。ラストテーマでのスペース部分では、ElvinとHancockお互いのフィルインの探り合いを感じました。

2曲目Fee-Fi-Fo-Fum、この曲のイントロにもユニークなリズムのアクセントが施され、メッセージ性を感じさせます。作品中最も明るい(?)、ファンキー(?)な雰囲気のナンバーですが、やはり一筋縄では行かないコード進行が施されています。メロディラインにもリズミックに強調する箇所が設けられ、メリハリが堪りません!ソロの先発Hubbardはいきなりハイテンションでキャッチーに吹き始めます。唇を振動させて発音するトランペットはサックス以上にコントロールが大変な楽器ですが、Hubbardの常に的確なプレイは日頃の鍛練の賜物、美しいトーンやハイノートも維持するには奏法を洗練させておくことが必須ですが、こちらも万全の態勢です。アクティヴに、スインギーに、端正なタイムをキープし躍動感溢れるソロを聴かせています。続くShorterはボソボソ感とスペースをたっぷりと取った、伴奏者にとってツッコミどころ満載のストーリーを展開、応えるべくここではHancockとElvin、バッキングを上手く分担しています。ファンキーなテイストを前面に出しつつ、トリッキーなアプローチも聴かせるピアノソロを経てラストテーマに突入します。ジャックと豆の木の巨人が発する呻き声は意外にアカデミックなものでした(笑)

3曲目Dance Cadaverous、ホーンとピアノのコールアンドレスポンスが印象的な、8小節の短いイントロから始まるワルツナンバー。曲名はミステリアスですが曲想はムーディなこの曲、テーマメロディの随所で聴かれるHancockの妖しげなバッキングの方にむしろミステリアスさを感じます。先発ピアノソロは独自のアプローチを示しつつスリリングに展開させ、ベースはハーフのグルーヴを維持しながら、テナーソロに入りしっかりとワルツを刻み始めます。テーマのメロディを基本にしながら、様々なイメージを膨らませてのShorterのプレイは、まるでセカンドリフを奏でているかのように見事にマッチングした世界を構築しています。その後ラストテーマに入りますが、その手前でのElvinの場面転換に際する的確なフィルインに、思わず納得させられます。ここではピアノのバッキングが一層の妖しさを発し、まるでHancockのピアノワークのためにある曲の如しです。エンディングの繰り返しもユニークなもので印象に残ります。

4曲目表題曲Speak No Evil、何と言う物凄い曲でしょう!Shorterコンポジションの中でも群を抜いてインパクトを持つナンバーです!そしてそして、冴え渡るHancockの、もはや曲の一部と化したテーマ時バッキングの嵐!これはもうHerbie Hancckバッキング祭り状態です(笑)!これではElvinの出番は封印されたも同じですが、シンコペーションや曲のキメの部分でのドラムフィルはまさしく彼ならではのセンスが光ります!ソロ先発はShorter、ここでもテーマのモチーフを大切にしたアプローチが素晴らしいです!Elvinはピアノとテナーのやり取りとは異なった手法での、独自のインタープレイに着眼したかのように、2’28″から盛大にフィルインを繰り出し果敢に挑みます! Shorterに纏わり付くようにバッキングし続けるHancock、そして激烈に、しかしクールに自己の内面を具現化し続けるテナーソロは信じられない次元にまで、音数は決して多くは無くともバーニングしています!Shorterに対してピアノとドラムと全く別方向からのアプローチが行われ、しかし彼ら二人は決して合わさることなく平行線を辿りつつ曲が進行します。演奏中に行われるソロイストvsリズム隊のインタープレイの他、ピアノvsドラムの互いの自己主張が同時進行し、音楽が崩壊するギリギリのところまでせめぎ合い、この事象が演奏を更なる次元にまで押し上げているようにも感じます!続くHubbardのソロもイメージを猛烈に膨らましながら、この難曲に対して挑むように、しかし何とも言えない色気を放ちつつ、フレージングを展開して行きます。トランペットのフレーズを受け継ぎHancockのソロが始まります。ここでのピアノソロは本作中最も深い次元にまで表現が到達、ある種神がかっているように思います!素晴らしい!その後はラストテーマへ、Hancockバッキング祭りは宴もたけなわ、あり得ないレベルでの演奏、ハイパーなコードの連続です!

5曲目Infant EyesはShorterの作曲技法の結晶といえると思います。メロディのセンス、コード進行の妙、楽曲全体が持つ雰囲気は愛娘への全身全霊の思いから、これほど深い音楽性と情緒を湛えたジャズミュージシャン作曲のバラードは存在しない、とまで感じている名曲です。Stan Getzが76, 77年頃にこの曲をレパートリーに取り入れ、積極的に演奏していました。77年1月Copenhagenの名門ジャズクラブJazzhus Montmartreのライブ盤に収録、GetzとShorter、同じテナー奏者ながら(だからこそ)これだけ唄い方が異なるのを比較してみるのも楽しいです。そして同年7月Montreux Jazz Festivalの模様を収録したアルバム「Montreux Summit vol.1」、こちらは全編大所帯のジャムセッション演奏の中で、この1曲だけGetzのワンホーンカルテットでのプレイ、彼の存在感を誇示した名演奏に仕上がっています。

Stan Getz Quartet Live at Montmartre vol.2
Montreux Summit vol.1

リリカルなピアノのイントロに続き、離れた所からスネークインするように低音のアウフタクトからメロディが始まります。艶やかな音色でメロディを切々と歌い上げるShorter、バラードでフィルインを入れるのはいつの世でもピアニストが独占企業、Elvinはお得意のブラシで淡々とキープします。Carterのベースラインにも表情が感じられます。ここでのHancockはShorterのソロやサウンドに一定の距離、付かず離れずのスタンスを置きつつ、バッキングを勤めますが、長年に渡る二人のコンビネーションの原点と言えるのではないでしょうか。97年リリースのDuo作品「1+1」は彼らにとっての集大成的作品です。二人のオリジナルを演奏し、Shorterはソプラノサックスに専念しています。

「1+1」Wayne Shorter / Herbie Hancock

6曲目Wild Flowerは本作中2曲目のワルツナンバー、美しいメロディと2管のハーモニーが奏る崇高さ、そしてここでも大活躍するHancockのバッキングがジャジーなムードを高めています。先発のテナーソロは一貫してテーマのメロディを感じさせつつ、不定形の極みとも解釈できる自己のスタイルを発揮し、あり得ない世界を構築しています。ソロ終わりに聴かれる大フィルインで珍しく(?)ElvinとHancockの波長が合致しています。続くHubbardのソロも絶好調、リズムセクションとのやり取りも申し分ありません!Hancockのソロを聴くと彼の頭の中はいったいどの様な構造になっているのか、覗いてみたくなるのが常ですが、このソロも例外ではなく摩訶不思議な世界に突入しています。Elvinとのインタープレイも随所に光るものを感じますが、総じてメンバー全員ここでナイスプレーを繰り広げているのは、楽曲が他より比較的ストレートアヘッドな事に由来しているのかも知れません。ラストテーマのアンサンブルは本作中全曲に共通する、初めのテーマよりも音楽的な深さを聴かせて終了しています。

2020.09.17 Thu

JuJu / Wayne Shorter

今回はテナーサックス奏者Wayne Shorterのリーダー作64年録音「JuJu」を取り上げたいと思います。考え得る最高のメンバーと共にワンアンドオンリーなスタイルを引っ提げてオリジナルを熱演、彼の代表的なワンホーン・カルテット作品が誕生しました。

Recorded: August 3, 1964 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Label: Blue Note / BLP 4182

ts)Wayne Shorter p)McCoy Tyner b)Reggie Workman ds)Elvin Jones

1)JuJu 2)Deluge 3)House of Jade 4)Mahjong 5)Yes or No 6)Twelve More Bars to Go

一聴してすぐに分かる、誰でもない個性を有したテナーの音色、ニュアンス、発音、タンギング。演奏スタイル自体そのものが存在しないと感じられるほど不定形でいて、しかし確実にShorterのカラーやメッセージが色濃く発揮される独創的インプロヴィゼーション、同様に彼にしか生み出すことの出来ないメロディライン、サウンドやコード感、曲調、リズムフィギュアを有し、それでいて確実にジャズにカテゴライズされる、ユニークさを遥かに通り越し崇高な域にまで到達する自作楽曲の数々。これらを踏まえて楽器を問わず並び称せられるミュージシャンを思い浮かべると、Thelonious Monk, Andrew Hill, Eric Dolphy, Joe Hendersonくらいでしょうか。偶然か必然か、彼らはShorter同様に全員Blue Note Labelのアーティストたちである事に、レーベルの持つ進取の精神を感じずにはいられません。学生時代に本作を初めて耳にして、作品の良し悪しを判断できる耳は持たずとも、その底知れぬ音楽の魅力に引き摺り込まれた覚えがあります。知らぬ間に聴く者を虜にするマジックを持つ作品を、今回は音楽的側面からクールに分析してみようと思います。

本作はShorter5作目のリーダー作に該当します。初リーダー作「Introducing Wayn Shorter」をVee-Jay Labelに59年11月録音、合計3作を同レーベルからリリースしていますが、共演者の人選やスタンダード・ナンバーのチョイス等レーベルの意向が強くあったと思われ、アルバムのコンセプトがハードバップの範疇に位置し、そこから脱出しようと常に試みを聴かせるShorterとのギャップが(それはそれで面白いのですが)アルバム表現を中途半端なものにしています。前作に該当する4ヶ月前にレコーディングされた「Night Dreamer」からBlue Noteレーベルに移籍し、その後たて続けに名作をリリースする事になりますが、「Night Dreamer」と本作は同じリズムセクション〜 McCoy Tyner, Reggie Workman, Elvin Jones〜殆どJohn Coltrane Quartetのメンバーですね。そしてArt Blakey Jazz Messengersでの盟友、トランペッターLee Morganが加わり、クインテットによるややハードバピッシュな演奏、しかしVee-Jay諸作とは格段にShorter色を出した演奏を展開していました。本作はワンホーンという事で思う存分自己の音楽を表現しています。演奏曲も引き続き全曲Shorterのペンによるものですが、個性の発露に一層の拍車がかかりハードバップを完全に払拭し、気高いまでに猥雑なShorterワールドを展開、さらにタイトルのJuJu=西アフリカの呪物、魔除け=が黒魔術的なイメージを与え、作品にミステリアスさを付加させています。ちなみに収録のDelugeも大洪水の意味、theを付ければノアの洪水を意味する事となりますが、実際にはそこまでの大義はなく、雨が降り始め溢れていく様を思い浮かべたそうですが、曲想はかなり深淵なイメージと受け取ることが出来ます。他曲House of Jade, Mahjong, Yes or No, Twelve More Bars to Goも含め、タイトルの意味深長さも作品の価値を高めていると感じます。その後の作品でもShorterオリジナルには一貫してタイトルに彼らしい捻りが効いています。例えばWitch Hunt, Speak No Evil, Fee-Fi-Fo-Fum, Schizophrenia, More Than Human, Endangered Spieces, The Three Marias…絵画や漫画に造詣の深い彼は、楽曲の捉え方に視覚的要素が付加されていて、ユニークなタイトルが浮かぶのかも知れません。

初リーダー作「Introducing Wayne Shorter」
64年4月29日録音「Night Dreamer」

本作のスリリングな演奏の連続にはリズムセクションの貢献度に多大なものがあり、彼らの名伴奏がなければ間違いなく成り立たなかったでしょう。Elvin, McCoy, Workmanの息の合った絶妙なサポートには、Coltraneのバンドで互いに切磋琢磨し合った音楽性が反映されていると感じます。Workmanは61年12月頃までの在団でしたが、ElvinとMcCoyは当時Coltrane Quartetでの演奏真っ只中、本作録音の2ヶ月前に「Crescent」、そして4ヶ月後に「A Love Supreme」のレコーディングに参加しています。以降次第にフリーフォームに傾倒していくColtraneの、ある種崩壊を迎える音楽性(本人が渇望した崩壊ですが!)の調性内に於ける最終楽章に該当する、その中でも最重要2作品の狭間に本作は録音されました。音楽の内容はColtrane, Shorterもちろん全く異なりますが、Coltraneの2作は共にコンセプトアルバムとして明確なイメージが存在し、60年頃から4年以上に渡りツアーやクラブギグ、レコーディングを数多く経験した濃密な共演歴に裏付けされた、バンドサウンドの結晶として位置付けられます。McCoyの緻密なコードワーク、サウンド、そして徹底的にColtraneに寄り添う姿勢を見せるサポーター然とした伴奏、Elvinの芸術的領域にまで達する美しさを内包した、楽曲を彩るカラーリングの実に見事な事!これらを十分に踏まえ本作ではShorterの音楽性にディレクションをフォーカスし、Coltrane Quartetでのノウハウを生かした繊細さを基本にしつつ、大胆さを持って開花させているのです。

64年4, 6月録音「Crescent」
64年12月録音「A Love Supreme」

本作メンバーの人選はShorter自身による発案なのか、プロデューサーAlfred Lionのアイデア、若しくは助言があったのか、いずれにせよ旬のミュージシャンの脂の乗った時期をキャッチしての手配、レコーディングとなりました。Elvin, McCoy, Workmanと来てShorterです。Coltrane Quartetと演奏は異なるに決まっていますが、むしろどれだけ違うのか、どんな風に変わるのか、メンバーはどのようなアプローチを聴かせてくれるのか、プロデューサー、そしてリーダー本人もワクワクしながら楽しみにいていたように感じます。とりわけElvinはShorterの楽曲、音楽性に対する理解力と表現、そして自己主張とのバランス感に今更ながらに鳥肌が立つほどの感動を覚えますが、Coltraneのバンドへのアプローチよりも、より柔軟さを感じるのはレギュラーバンドから離れたある種の気楽さの産物かも知れません。

それでは作品の内容について触れて行きましょう。1曲目表題曲JuJu、イントロからMcCoyのコードワークによるホールトーンのサウンドが、不安感を煽るかのように聴く者に畳み掛けます。Elvinのリムショットの効いたリズム・フィギュアのカッコいい事!Shorterの吹くテーマの登場により場が刷新されます。楽器セッティングはマウスピースOtto Link Metal 10番、リードはRicoの4番、楽器本体はおそらくSelmer Bundy。一聴抜け切らないこもった成分がなんとも言えぬ味わいとして聴こえますが、音の輪郭、ず太さ、ダークさ、コク、付帯音の豊富さもあり得ぬ次元で発音され、このような音色、鳴らし方のテナー奏者は他に存在しません。24小節の構成から成るテーマは2度演奏されます。特徴的なのは4小節目と8小節目にElvinの大きなフィルインが入る点で、繰り返し時も同様です。通常フィルインはコーラスの変わり目、またはメロディとメロディの間〜音符のない部分を補うべく挿入されます。確かにメロディの合間ではありますが、まず通常は挿入されない箇所です。コード進行的にホールトーンの部分なので不安定なサウンド感を強調する、拍車を掛けるべくの効果なのか、その後の落ち着いたサウンド部分には一切入らないのでその分目立つのですが、これがまた実に効果的に響きます。Elvinのアイデアなのか、Shorterの指示によるものか、いずれにしても楽曲のカラーリングを担当するドラマーとしてのセンスを再認識する場面であります(ちなみに後テーマではまた異なった箇所にフィルが入ります)。先発はMcCoy、曲想の隅々まで理解を極めたアプローチによるソロは、この後に展開されるテナーソロにあたっての最高の前哨戦になりました。オクトパス奏法とは言い得て妙、8本の手足を駆使するが如く同時に幾つものカラフルな音、リズムを鳴らすまさにポリリズムの饗宴、ソロを鼓舞する様は全くElvinならでは、彼にしかあり得ないアプローチです!Workmanの進取の精神に富んだアグレッシヴなベースラインとの一体感も申し分ありません!そしてそして、Shorterの登場です!彼に思うのはアドリブソロでコード分解の巧みさ、スリリングなフレーズによるハードバップ的なアプローチを聴かせると言うよりも、あくまで楽曲の持つコンセプトの中で極論、ソロをセカンドリフ的に演奏しているのではないかと。流麗とは言い難いサックスプレイですが彼は十二分に自己のメッセージを放っており、言ってみれば彼流の朴訥としたブロウで、自身のオリジナル曲の持つイメージを膨らます作業として、インプロヴィゼーションを存在させているのではないかと睨んでいるのです。ここでのソロも構成力、フレージングのアイデア、意外性、メロディとの関連性、リズムセクションとの一体感、全て文句なしの内容に仕上がりました!その後のElvinはShorterの意を受け継ぎ、コンパクトながらオクトパスが増殖したかの如き(笑)スリリングなドラムソロを聴かせます。ラストテーマを迎えエンディングは長いスパンでのフェードアウトが行われ、演奏がまだまだ続いていた事を示しています。

2曲目Deluge、Shorterはミディアムテンポでモーダルなスイング・ナンバーの佳曲を数多く書いていますが、この曲も例外ではありません。イントロはミステリアスなムードを提示しつつ、継続して演奏されるMcCoyのトレモロが印象的です。テーマは恐らくテナーの振り下ろしをきっかけにテンポが設定されました。ここでもElvinのカラーリングが光り、シャッフル風のリズムとメロディ間に挿入されるタムを中心としたフィルインがとても効果的です。それにしてもこのセンスは一体何処からやって来るのでしょう?アグレッシヴなドラマーのイメージがありますが、メロディの伴奏に繊細なセンスを駆使することの出来る、大変デリケートな演奏を心情とするドラマーです。テナーソロが先発、間を生かしつつのレイドバック感が曲調に合致しています。リズムセクションはShorterの一挙手一投足を万全に受け入れるべく、全身全霊を傾けているかのよう、前述の通り曲のセカンドリフ状態のアドリブソロをバックアップすべく、研ぎ澄まされた感性を駆使していて、あり得ぬ次元の緊張感ですが、演奏者は実は気楽に演奏を楽しんでいるのだと思います。引き続きのMcCoyのソロ、的確さとスイング感がテナーソロと被る事なくスムースに行われ、ElvinのバッキングはShorterの時とはまた違うアプローチを聴かせつつ、場面転換に向けて大フィルが入ります。ラストテーマのカラーリングには一層の、いや何層もの拍車がかかったプレイを聴かせます。エンディングのフェルマータではここで終わりだろうと判断したElvinが締めのフレーズを叩きますが、実はShorterにはまだその先があり、もう一度Elvinが締めを試みようとした気配も感じました。

3曲目House of Jade、このバラードもそうですが、Shorterのオリジナルはテナーサックス中高音域を用いたものが多いようです。この曲の最初の8小節間は当時の奥方Teruka Ireneさんが作曲、Shorterがサビを作曲し、曲として仕上げました。この8小節に東洋的な匂いがするので、この曲名”翡翠の家”を付けたそうです。何とも言えぬ魅力的な雰囲気を有するナンバーですが、東洋的なテーマに対し、サビ部分はペダルポイントを用いた西洋的アカデミックなサウンドを湛えているので洋の東西の融合、East Meets West的な意味合いもあると思います。Elvinはテーマでブラシを用いていましたがテナーソロに入るとすぐにスティックに持ち替え、そのままさら2コーラス目から倍テンポに変わり、Workmanのベースラインが活躍します。テーマのメロディを随所に感じさせるメロディアスなテナーソロはまさにコンポーザーならではのもの、McCoyの短いソロが終わり再びバラードに戻りますが、Elvinはそのままスティックでテーマを演奏、当然ですがまた違ったカラーリングを聴かせます。

4曲目MahjongはElvinの厳かなドラムソロから始まります。ペンタトニック・スケールが元になったシンプルで東洋的なメロディを持った曲、メロディの無い間の4小節はMahjongをプレイする人が次の手を考える時間を表しているそうで、メロディを有するその後の4小節は次の手を決めている時間なのだそうです。その間に捨て牌が決められれば良いですし、ロン牌にならない事を願いますが(笑)。ピアノのバッキングも東洋的〜中国的なサウンドを醸し出す事に成功しています。先発ソロMcCoy、自分が出過ぎずかつ次のソロへの布石になり得るように、ソロの雰囲気や長さ、構成を上手くまとめてテナーソロに繋げています。ここでも曲のムードに決して外れる事なく、巧みにShorterワールドを構築しているのは見事です。前作「Night Dreamer」でもOriental Folk Songという、中国のトラディショナル・ソングをShorterがアレンジを施し演奏していましたが、彼がTVを見ていてインパクトを受けたナンバーだそうです。奥方が日本人であれば自ずと東洋的な事柄に興味が湧くのでしょう。

5曲目Yes or NoはShorterのオリジナルの中でも名曲の誉高い、アップテンポのスイングナンバー。本人曰くA-A-B-A構成のAの部分がyes part、サビに当たるBの部分がno partに該当するのだそうです。yes partはハーモニー的に明るく響き、希望に満ちたメジャーサウンド、no partは懐疑的、消極的なマイナーの旋律が循環する部分と説明しています。サビの部分のサウンドはそこまでに否定的には感じませんが(笑)。この曲、鑑賞する分には良いのですが実は超難曲、手強さが半端なく演奏する機会があると毎回チャレンジ(しかもあまり達成感のない)と言う事になります(汗)。ここでのShorterはストレートアヘッドさを感じさせるテイストで、いつになくしっかりと、しかも流暢にフレーズを吹いており、その点でも取っ付き易い曲なのでは、とyes partのような希望を持ちますが(笑)、実情はno partそのものです(汗)。ソロ中Coltraneのアプローチを感じさせる部分も認めることが出来る、理論的に解明させる価値のある演奏です。続くMcCoyのソロの素晴らしさにもColtrane Quartetでの演奏より、伸び伸びとした解放感を感じます。テーマ時に左手でルートを鳴らし、右手でsus4のサウンドを華麗に響かせ、ソロ中にも大胆なコード付け、Shorterのソロへの合いの手の巧みさ、伴奏者の鏡のような演奏を聴かせています!そしてElvinのドラミング!彼のドラム演奏のためにこの曲が存在するのでは、と思わせるほどの楽曲へのハマり具合!シンバルレガートひとつとってもリズムに対するシャープネス、拍から溢れんばかりの音符の長さ、微妙に音色(ねいろ)を変えながらうねるように、時として畳み掛けるように、ソロイストのフレーズをより音楽的に発揮させることができるようにプッシュする瞬発力と包容力。ラストテーマでは更なるカラーリングの炸裂が!5’45″や6’09″からの、ほど良きところに信じられない超弩級のフィルインの嵐には笑いが込み上げて来るほどです!このリズム隊の屋台骨としてのWorkmanの貢献度が実は並々ならぬものなのですが。

6曲目Twelve More Bars to Goには意味が二つあるそうで、12軒以上のバーをハシゴして飲み歩くのと、ブルースのフォームが12小節であることをかけていますが、お酒が大好きなShorterならではの洒落なのでしょう。この曲はメロディ自体オーソドックスな12小節のブルースですが、コード進行には捻りの効いた代理コードが用いられ、一筋縄では行かない工夫が成されています。スペースを保ちながら、ユニークな語り口でじわじわと盛り上がるShorterのソロに、トリオは付かず離れずを繰り返しながら、まとわり付くが如くアプローチして行きます。他のプレーヤーのソロはなく、テーマ〜ソロ〜テーマと独壇場の演奏でラストを締め括っています。

2020.09.04 Fri

A Night at the Village Vanguard / Sonny Rollins

今回はSonny Rollinsのリーダー作1957年11月ライブ録音「A Night at the Village Vanguard」を取り上げたいと思います。多作家にして名演奏、名作の宝庫RollinsのライブラリーでもBest5に入るであろう、トリオ編成による代表作です。

Recorded: November 3, 1957 at Village Vanguard, New York City Label: Blue Note BLP1581 Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion

ts)Sonny Rollins b)Wilbur Ware, Donald Bailey(on afternoon set) ds)Elvin Jones, Pete La Roca(on afternoon set)

1)Old Devil Moon 2)Softly as in a Morning Sunrise 3)Striver’s Row 4)Sonnymoon for Two 5)A Night in Tunisia(afternoon set) 6)I Can’t Get Started

意外な事実ですが本演奏はRollinsにとって初リーダーライブ、そして初ライブレコーディングになります。51年録音初リーダー作「Sonny Rollins with the Modern Jazz Quartet」以降数々の名盤をリリースし続けたので、リーダーとしての活動をコンスタントに続けていたイメージがありますが、あに図らんや録音の都度にメンバーを配しし続け、パーマネントなメンバーでは演奏活動は行ってはいませんでした。同じテナーサックス奏者同志比較すると分かり易いですが、Michael Breckerも70年代初頭から膨大なスタジオワークとサイドマンのギグ、75年から兄RandyとのThe Brecker Brothers Bandでの大活躍で自身のリーダー作、レギュラーバンド活動を渇望され87年、38歳の時に遅咲きながら開始しました。Rollinsはこの時27歳、10代から第一線で活躍していたのである意味既にベテランの領域かも知れません。ふたりに共通するのは如何なるシチュエーションでも自身の音楽性を発揮出来る、でも自分が前面に出ることに特に頓着せず、いろいろなミュージシャンとの共演を楽しむ、そしてむしろリーダー活動での束縛を望まなかったと言う点です。でもMichaelの場合はすっかり観念して(笑)、徹底的にリーダー活動を展開しました。Rollinsはどうでしょうか、例えば彼の取り巻き連中はこのような事を言っていたのでは?「Sonny、自分のレギュラーバンドでの活動はいつから始めるんだい?あんなに沢山名盤をこしらえているのにバンドが無いなんてもったいないぜ。ここいらで本腰を据えて自分のバンドを持ったらどうかな?皆んなSonnyのバンドを聴きたがっているよ」のような要望だったように思います。でも実は本人フリーランス状態で気ままに様々なメンバーとの演奏活動、レコーディングを楽しんでいた風を感じます。Miles Davis, Max Roach, Clifford Brown, Thelonious Monk, Dizzy Gillespie, Kenny Dorham, Abbey Lincolnたちツワモノの諸作品で、いずれもジャズ史に残る名演奏を残しており、全てがリーダーを喰ってしまいそうな勢いの表現の発露、しかし各リーダーはRollinsの演奏、人柄をこよなく愛していたので全く好きにやらせていました。自身のリーダー作での演奏も一回こっきりのメンバーとのハプニング、アバンチュール(?)を存分に楽しむ、特に55〜57年は彼の代表作リリースのラッシュ、リーダー活動を行わずとも一枚一枚異なったコンセプトのアルバムを作れるのは迸る才能が成せる技以外の何ものでもありませんが、諸作品には継続的な路線を示し、その上での発展性は感じられません。実はスタンスとしてサイドマン気質的なものが根底にあり、空を舞うペガサスの如く束縛を嫌い、一か所に落ち着かず、解放された状態でこそ自己を100%発揮できるプレーヤーなのではないかと推測しています。伝え聞いた話ですが、Rollinsは周囲に実に気をつかうタイプで、しかも頼まれたことを断る事が出来ない人柄だそうです。そのような人物がメンバーを率いて、強力にリーダーシップを取るのは至難の技、例えばMilesやCharles Mingusのように強権を発揮できるタイプのミュージシャンは生まれもってのリーダータイプですが。59年に自己を見つめ直すための一時的な引退に代表されるような、デリケートさを持ち合わせています。

「Sonny Rollins with the Modern Jazz Quartet」

満を持してのこのリーダーライブ、演奏は大成功をおさめましたが、このメンバーを起用してパーマネントに演奏を継続するには至らず、唯一afternoon setで共演したPete La Rocaとはその後2年間行動を共にすることになります。59年3月Stockholmでのラジオ放送を収録した「St Thomas Sonny Rollins Trio in Stockholm 1959」でLa Rocaとの共演、そして50年代最後のRollinsの名演奏を堪能する事が出来ます。

「St Thomas Sonny Rollins Trio in Stockholm 1959」

もうひとつ、今回Village Vanguardとしても初めての実況録音の会場となりました。という事でお初が3連発ですね(笑)、以降多くのジャズメンにより数多くのライブアルバムがレコーディングされ、NYCジャズライブハウスのメッカという事でミュージシャンことごとく張り切り(笑)、いずれの内容も名盤のクオリティを聴かせますが、店の前を通る7th Avenueの地下鉄レール走行音がバラード演奏時に「効果音」として入ってしまうこともあります(笑)。

75年にアナログ盤2枚組で「More from the Vanguard 」と題して本作の未発表テイクを10曲収録したアルバムがリリースされました。Sonny Rollins Trioは当日afternoon setで5曲、evening setで15曲合計20曲を演奏しましたが、プロデューサーAlfred Lionはこのうちafternoon setの4曲を廃棄し、16曲の中から6曲を選んでアルバムにしました。20年近く倉庫で眠っていたこの未発表テイクの出現は青天の霹靂、大いに驚きましたが録音テープの保存状態が良くなかったのか、ミキシングの関係か音質に難があり、当時レコード盤で聴いていささか閉口した覚えがあります。ところが99年7月にレコーディング・エンジニアRudy Van Gelder自らリマスタリングしたCDが「A Night at the Village Vanguard vol. 1, vol. 2」として発表されました。録音したエンジニア本人による、世界遺産的名人芸の領域(爆)の音質改善作業で未発表のクオリティもかなり向上、Rollinsの軽妙で楽しげなMCテイクも追加、当夜の全貌がクリアーな形でリリースされました。

「More from the Vanguard」
「A Night at the Village Vanguard vol. 2」vol.1はオリジナルジャケットと同じ色合いです。

本作前後にもRollinsはテナートリオでレコーディングを行なっています。遡ること8ヶ月57年3月Los AngelesでRay Brown, Shelly Manneと「Way Out West」、3ヶ月後の58年2月NYCにて名盤「Brilliant Corners」のリズム隊でもあるOscar Pettiford, Max Roachと「Freedom Suite」、いずれも全く違ったコンセプトでの作品です。「Way Out West」は西海岸の名手二人とミディアムテンポのスタンダード・ナンバーやオリジナルを中心に、大らかさを全面に押し出し横綱相撲の如き貫禄のある演奏に徹しています。録音当日は参加ミュージシャン3人が多忙を極めてなかなか時間が取れず、夜中の3時にレコーディングが始まり朝の7時まで行われました。テンガロンハットを被り、ホルスターを腰に付け、カウボーイ姿に扮してテナーサックスを拳銃の代わりに携えたRollinsが、バイソン頭蓋骨のオブジェまで用意された白昼の荒野でポーズを決めるジャケット写真のイメージもあり(笑)、LAの明るい日差しを燦々と浴びた日中のセッションと勝手に考えていましたが、言われてみればSolitudeやThere Is No Greater Love, Way Out Westなどにいつになくレイジーな雰囲気が漂い、真夜中の様相を呈しているようにも聴こえます。「Freedom Suite」の方は1曲目レコードのA面全てを費やしたThe Freedom Suiteに代表されるコンセプト・アルバム、ストーリー性のある構成の佳曲が合わさった組曲に対し、トリオは実にタイトに、スリリングに演奏を展開しています。「Brilliant Corners録音の時は曲が難しくて難儀したし、OscarはMonkと随分やりあってレコーディング・ブースの中で弾いてる振りの嫌がらせまでして、そりゃビーク(首)にもなるけどさ、Maxとふたりのグルーヴは実に気持ち良かったなあ」とか何とか言いながらメンバーを決めたのでしょうね、きっと(笑)。B面のスタンダード・ナンバーの演奏も充実した内容の仕上がりです。

「Way Out West」
「Freedom Suite」

テナートリオにはコード楽器が存在しないのでそこをRollins流のハーモニー感に富んだフレーズ、ラインにより、鳴っていないはずのコードがあたかも流れ聴こえるようにプレイしています。それは必然でもありますが。そして卓越したリズム感によるグルーヴが演奏の精度にスピード感を加味し、全体のクオリティを高める効果を生んでいます。彼を軸としたリズムの構図は他のテナートリオにはない高次元なスイング感、タイム感を表現し、Rollinsはもはやリズムセクションの一員として機能しています。バックビート、裏拍、リズムのスイートスポットに対する音符の比類なきハマり具合、4小節、8小節の垣根を超えたフレージングの開始位置、終了場所。知る限り比較し得るテナートリオは「Elvin Jones Live at the Lighthouse」でのSteve Grossman, Gene Perla, Elvin Jonesのプレイだけでしょう。

「Elvin Jones Live at the Lighthouse」

Sonny Rollinsというテナーサックス奏者は、ジャズ表現に必要な音楽性、テクニック、オリジナリティ、音色、豪快さ、繊細さ、エンターテインメント性等の条件を全て十二分に持ち合わせています。それは他のプレーヤー誰も習得する事ができなかったジャズの歴史上最高位なレベルにまで至ると確信しています。押し付けがましくなく極々自然体でそれが独自のバランス感を伴い、モダンジャズを代表する演者として君臨しています。才能はもちろん持ち合わせていたでしょうし、努力は怠らなかったことでしょう、それらは不可欠ですが、50年代モダンジャズの黄金期を脇目も振らずスプリンターの如く邁進する事が出来たからこそ、Rollinsがあるに違いないと睨んでいます。時代や背景は大切な要素です。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Rollinsの”Here we go”という掛け声に続きカウントが始まります。ラテンとスイングのリズムが交錯する、小節数や曲のフォームがイレギュラーなナンバーOld Devil Moon、メロディラインにも独特な魅力があります。Elvin, Wareとの共演は今回が初めて、何かとお初が多い作品ですが3人のリズムの相性は大変に良く、絶妙なコンビネーションを聴かせています!イントロではElvinがシンバルのカップを叩き、硬質な音を聴かせていますが、随所にこの人ならではのカラーリングを見出す事が出来ます。いつもの彼とは違うドラムやシンバルの音色は個性未確立の年代的若さゆえか、録音の関係か、最も考えられるのはドラムセット自体が異なり、昼の部で演奏していたPete La Rocaの楽器を使用したのかもしれません。基本的なグルーヴは同一ですが、シンバル径が小さめ、スネアのチューニングが高めに聴こえ、セットの音色が違うとフィルインの印象がかなり異なります。Rollinsのテーマ奏、低音域でのサブトーンがザラザラ感を一層色濃くし、太く逞しい音色を彩ります。Wareのウネウネと巧みに動くラインはコード楽器のないこの編成には打って付け、ピアノのバッキング不在と希薄なコード感の穴埋めを担当するが如し、さらにドラムのポリリズムと確実に連動しています。それにしてもここでのRollinsのソロ!何という素晴らしさでしょう!歌いまくり、スイングしまくり、大いなる余裕を持って6割程度のエネルギー放出量で楽々と、しかしあり得ないほどゴージャスに演奏しています!加えてRollinsは一息のフレーズがとても長いのです!しかもただ長いだけではなく、必然性のあるストーリーとして!これには豊かな歌心に加え尋常ではない肺活量が必要になりますが体力、体格的にも恵まれているのでしょう。2’49″辺りから始まるElvinのタム回しに呼応するかのような16分音符の驚異的なフレーズ!3’34″頃から始まるメロディアスでひょうきんなラインに間も無くのソロ終了を察知し、場面を転換すべくバスドラムを連打、バックビートを強調し、ソロに寄り添いつつプッシュするElvinの音楽的なアプローチ!初顔合わせにも関わらずこの驚異的インタープレイ!やっぱりジャズって物凄い音楽だと今更ながらに再認識しました(汗)!その後ドラムとの4バースになります。Elvinの難解なフレーズにWareは初めの1回目、アタマのアクセントをキャッチできず難儀し、明らかにオンを聴いてから演奏開始、しかし食らい付くべくすぐさまElvinのフレージングのポイントを把握し、2回目からは確実にオンから演奏していて、その後はアウフタクトも交えた余裕ある対応さえ聴かせています。Wareの初め驚いてハッとした顔から、次第に笑みが溢れる表情に変化していく様子が目に浮かぶようです(笑)。4バースの最後に演奏されたElvinの得意技である”タメ”をものともせず、Rollins, Wareともラストテーマに突入、エンディングはバンプを繰り返しゆっくりと収束して行きます。歴史的名演奏にはそれなりの理由、根拠があるとも改めて感じました。

2曲目Softly as in a Morning Sunrise、満場の拍手に答えるべくRollinsのメンバー紹介、滑舌の良い口調で同じく次曲でWareをフィーチャーする旨を伝え、ベースのイントロから始まります。フィーチャーと宣言した割にはベースはテーマを演奏せずRollinsが担当します。その代わりWareはメロディラインの後ろで音楽的自己主張を遂げているので、その意味合いでのフィーチャーなのかも知れません。Elvinはブラシを用いて全編叩いており、本作3ヶ月前にレコーディングされたTommy Flanaganの代表作「Overseas」の演奏を彷彿とさせます。この作品ではスティックを一切用いず、全曲ブラシで演奏していてその名手振りを披露しています。シンバル音が入らないためにドラム全体の音量が小さくなるので、その分Elvinの唸り声がはっきりと聴こえる事になりますが(笑)

Tommy Flanagan 「Overseas」

比較的短く先発テナーソロを終え、饒舌でテクニカルなベースソロが始まります。スタイル的にはコーニーなセンスも感じますが、何しろビート感が卓越しています。その後テナーとドラムの4バースが1コーラス行われ、そのままドラムソロも1コーラス後再びテナーとバースがあり、何となくラストテーマを迎えますが、この曲に関してはいかにもセッション風の仕上がりとなっています。

3曲目はRollinsのオリジナルStriver’s Row、Charlie ParkerのConfirmationのコード進行が基になっています。ドラムソロのイントロ後、テーマが始まりますがある程度のモチーフを決めた程度の、ほとんど即興のメロディのようです。ソロに際して原曲の影をなるべく引き摺らないようにと決めてかかったかのようなテイストを感じ、アドリブもスピード違反で切符を切られるかギリギリの(笑)超高速16分音符の連続、洪水ですが強力なスイング感、タイム感、いやー物凄いです!完璧にリズムのスイートスポットが見えている演奏ですね!テナーソロ最後にドラムとの8バースが1コーラス行われてラストテーマへ、しかしFineと見せかけてベースソロが付加され、エンディングを迎えます。

4曲目もRollinsのオリジナル・ブルースSonnymoon for Two、自身の曲紹介からカウントを経て曲がスタートします。シンコペーションを生かしたペンタトニック・スケールから成るテーマは、テンポ設定もありますが、他の曲に比べてレイドバック感が際立っているように聴こえます。テーマのメロディをモチーフに、ジワジワと次第に変化させ、発展させていくアドリブの手法はRollinsならではのもの、実に見事です!リズム隊もRollinsのにじり寄りの如き盛り上がりに手堅く、確実に追従して音楽をビルドアップさせて行きます。頃良きところでテナーとベースの4バースが始まり、ごく自然にドラムとのバースに替わり、テナー、ドラム共にソロのアイデアが次から次へと湧き出て、枯渇する事を知らない太古の昔から湧き続ける豊かな泉のようです!その後ラストテーマへ、テナートリオならではの一体感がここで極まれり、コード楽器は全く不要と感じました。

5曲目A Night in Tunisiaのみマチネーの演奏、Rollinsのアナウンスによる作曲者、演奏曲目紹介の後イントロが奏られます。この曲ではメンバーが替わりドラムのLa Rocaは当時19歳の期待の新人、Max Roachの紹介と言われています。ベーシストDonald BaileyもBaltimore出身の新人、若手二人を起用してのフレッシュな演奏にRollinsも張り切ったプレイを聴かせています。Elvin=Wareのコンビとタイム・キープ的に遜色はありませんが、若手は演奏の深み、音楽の構築感、Rollinsとの一体感にはどうしても及びません。演奏人数が少ない分一人ひとりに掛かる音楽的ウエイトが大きく、経験値の足りなさがより目立ってしまうからです。彼らもテナーの演奏を良く聴いていて健闘ぶりは伝わりますが、絶好調のRollinsにもっと絡んで欲しいぞ、テナーソロを更に煽ってくれ、Rollinsはインタープレイの材料をこれでもか、とあなた方に提供してるのにスルーしている場合じゃないでしょ、優等生なのは良く分かるから、音に人生を掛けてとことんやってくれよ!と叫びそうになります(笑)。La Rocaのドラムソロもフィーチャーされますが、これこそElvinのクオリティには全く及びません(汗)。その後1コーラス再びテナーソロがあり、ラストテーマ、そしてリーダー実に気持ちの入ったcadenzaを聴かせ、エンディングを迎えます。Rollinsの物凄さだけが浮かび上がる、孤軍奮闘のテイクとなりましたが、前述のマチネー・テイク4曲がプロデューサーにより廃棄された理由もある程度想像が付きます。

6曲目アルバムの最後を飾るのはバラードI Can’t Get Started、再びWare=Elvinのコンビに戻り、再度ブラシを用いた緻密なElvinのプレイ、アクティブなWareのベースワークを堪能できます。アウフタクトからいきなり始まるRollinsの朗々としたテーマ、メロディフェイク、フィルイン、ニュアンス付け、ビブラート全てに無駄がなく、引き続き行われるダブル・タイム・フィールでのアドリブ・ソロの更なる入魂ぶりは、スイングの権化が憑依したとしか考えられないレベルでの演奏です!

2020.08.24 Mon

Our Man in Paris / Dexter Gordon

今回はテナー奏者Dexter Gordonの1963年録音リーダー作「Our Man in Paris」を取り上げてみましょう。既渡欧組Bud Powell, Kenny Clarkeに地元出身のPierre Michelotを加えたトリオとのParisレコーディング、Dexterは新天地で伸び伸びと素晴らしいブロウを聴かせています。

Recorded: May 23, 1963 Studio: CBS Studios, Paris Producer: Francis Wolff Label: Blue Note

ts)Dexter Gordon p)Bud Powell b)Pierre Michelot ds)Kenny Clarke

1)Scrapple from the Apple 2)Willow Weep for Me 3)Broadway 4)Stairway to the Stars 5)A Night in Tunisia

本作はDexterにとって初のParis録音になります。前年Copenhagenに移住した直後の62年11月、当地のピアニストAtli Bjorn率いるトリオにDexterが客演した作品「Cry Me a River」が欧州での初録音、ここではいつも以上にマイペースでリラックスしたプレイを聴かせていて、音楽の原点である演奏する楽しさを十二分に感じる事が出来ます。50年代終わり頃から始まった米国でのいわばジャズマン不況で、Dexterを含め仕事が激減したミュージシャンがこぞって欧州に活路を見出すべく出国しました。彼もClarkeを頼って最初はParisに落ち着いたという事です。本国を離れるにあたってはさぞかし葛藤もあった事でしょうが、人種差別がなく、米国ジャズメンを大切にする欧州人の気質もあり当地に馴染み始め、仕事も数多くあったのでしょう、新たな創造意欲を得たような潑剌さを感じます。それから約半年を経た本作でのプレイは更なるリラクゼーションを聴かせています。

CopenhagenのジャズクラブMontmartre Jazzhusにて62年11月28日ライブ録音

本作伴奏のピアノトリオ、当初はKenny Drewがピアノの椅子に座る予定でDexterが新曲を用意していたという事です。しかし実際はPowellがピアノを弾くことになり、彼には新曲は演奏出来ないので、代替の演奏曲はリハーサルを行いながらスタンダード・ナンバーから選ばれ、結果ナイスなセレクションになりました。ところでDexterが用意していた新曲がどのようなものだったのか、いささか興味を惹かれます。1964年6月録音の次作品「One Flight Up」、ピアニストがDrewですのでそこでの収録曲が該当しそうです。そこにはDrewと参加トランペット奏者Donald Byrdのオリジナル、スタンダードナンバーのバラードが収められDexterのオリジナルはありません。その後Drewとの共演はたまたまでしょうが、しばらく遠ざかりました。他のピアニストとの共演に新曲は持ち越されたのか、単に未採用スタンダードナンバーのことを新曲と表現したのか、その辺りは定かではありません。

Powell, ClarkeにParis出身のベーシストであるPierre Michelotを加えた3人はBud Powell Trio、ないしはThe Three Bossesというバンド名でParisを中心にレギュラー活動を行なっていました。彼らは57年から63年頃まで私家盤も含め多くのレコーディングを残し、ゲストに管楽器奏者も迎えた作品もリリースしています。PowellとClarkeは旧知の仲、実際米国でレコーディングも行なっていますし、異国の地で意気投合したのでしょう。ベーシストは他にもOscar PettifordやTommy Potterが渡欧していましたが、フランス人Michelotを起用したのは音楽的にはもちろん、ふたりとの相性が良かったのでしょう、大切な事ですね。トリオ編成では61年12月Parisでの録音「A Portrait of Thelonious」が秀逸な作品、こちらは意外にもCannonball Adderleyのプロデュースになります。実は僕自身高校生の時にこの作品をヘヴィーローテーションで聴いていました。思い出深い一枚です。良く分からないながらも演奏や選曲、構成全体のバランスがとても良く取れていて、耳への心地よさが他のレコードと何か違うな、と子供心に感じていましたが、彼のプロデュースと言うことで点と線が繋がりました。彼のセンスに統一された作品、Cannonballラヴァーの自分にとっての琴線をくすぐるサウンドの工夫が成されていたのです。

61年12月Paris録音「Portrait of Thelonious」Cannonball Adderleyプロデュース

ちなみにDexterとPowellの初共演は46年1月録音「Dexter Rides Again」、本作はそれ以来のセッションという事になります。ここでのDexterのトーンは以降に通じる野太さ、フレージングも豪快さを聴かせますが、最大の特徴である崖っぷちを背後にして、ギリギリの立ち位置、あと一歩下がれば奈落の底〜次拍のアタマが待っている的な(笑)、8分音符のレイドバック感を未だ聴き取ることは出来ません。一方のPowellは既に鬼気迫るアプローチを披露しており、翌47年1月初リーダーセッション「Bud Powell Trio」を録音しその才能を開花させる事になります。

DexterとPowellの初共演「Dexter Rides Again」
Powell初リーダー作「Bud Powell Trio」

Bossesの管楽器との共演作はJohnny Griffin, Barney Wilenがフロントの59, 60年録音「Bud Powell in Paris」、同じく61年12月録音「Bud Powell / Don Byas – A Tribute to Cannonball」Idrees Sulieman, Don Byasを曲ごとにフィーチャーした作品です。ちなみにこちらもCannonballのプロデュース作品になりますが、渡仏中の彼を捉えての企画であったのでしょう。

ディスコグラフィーには本作を「Dexter Gordon with the Three Bosses」と記載していますがまさに言い得て妙、レギュラー活動を行なっているリズムセクションに新たにフロントが加わると、それまでの演奏にはない化学反応が起こり得ます。そこを楽しむのがジャズ鑑賞の醍醐味の一つと言えるのではないでしょうか。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目Charlie Parkerの名曲Scrapple from the Apple、オープニングに相応しい軽快なテンポ設定、イントロから魅力満載のテナーサウンドが聴こえてきます。前述の「Dexter Rides Again」の演奏とは大違い、格段の進歩を遂げたプレイからは、1ミリたりとも動かないジャズテナー美学に対する、確固たる信念が感じられます。また幾多のテナー奏者、本当に様々で個性的な音色を湛えていますが、Dexterのような音色や鳴りを有するテナー奏者は他には存在しないと再認識させられます。198cmという長身はテナーを吹くための天賦の才、身体全体が鳴っているのです。音楽表現に対する拘りが無いわけがありませんが、同時に些細な事に対する拘りは一切持たないように心掛けているかの大らかさ、そのバランス感、太く、密度濃く、豪快に、大きく、たっぷりと、音符長く、後ノリしつつ素早い音の立ち上がり、朗々と、切々と、ユーモアのセンスを湛えながらブロウしています。テーマ後シングルノートをモチーフにフレージングを発展させ、ユーモアのセンスを感じさせます。優れた医師の父を持つ裕福な家庭環境からでしょう、育ちの良さに由来するどこかノーブルな語り口、端正な8分音符を中心としたソロの展開には聴く者を虜にしてしまう魅力に満ちています。Dexterの好演にはリズムセクションの的確なサポートも貢献しており、モダンジャズ・ドラミングの開祖の一人でもあるClarkeのシャープなドラミングがプッシュしています。彼は60年頃からベルギー人ピアニスト兼アレンジャーFrancy Bolandと双頭リーダー・ビッグバンドでの活動を開始し、Kenny Clarke/Francy Boland Big Bandとして20枚以上の作品をリリースしました。メンバーは渡欧組を中心に欧州の精鋭達を交え、当初はsextetから始まりoctetとメンバーが増えて行き、ビッグバンドにまで拡大しました。イタリア人資産家にして建築家Gigi Campiがバンドを最大限に援助し、全ての作品プロデュースまで手掛けました。ジャズミュージシャンにはこのCampiやPannonica夫人のようなパトロンが必要なのです。

Kenny Clarke-Francy Boland Big Band 67年録音「Sax No End」Eddie “Lockjaw” Davisのテナーをフィーチャーしています。
Stan GetzをフィーチャーしたKenny Clarke-Francy Boland Big Bandの意欲作「Change of Scenes」71年録音

そして同じくモダンジャズ・ピアノ開祖の一人Powell、渡欧時には40年代〜50年初頭ほどの神がかったプレイは聴かれなくなりますが、本作では久しぶりのDexterとの共演という事か、自身のソロでは好調な演奏を展開しています。しかしDexterのソロがツッコミどころ満載の、伴奏者にとっては美味しいフレーズを連続で繰り出しているにも関わらず馬耳東風、主にClarkeと音楽的やり取りが行われています。Powell自身どちらかと言うとソロプレーヤーで、年代的スタイル的にもフロントのソロにちょっかいを出したり(笑)、インタープレイを共有するタイプではないので仕方ありません。テナーの出し切った感のあるロングソロの後のピアノソロ、短目に終えセカンドリフによるドラムとの4バースに繋がります。ラストテーマ後はイントロが再演されアウトロとなります。

2曲目Willow Weep for Me、マイナー調で3連符を生かした印象的なイントロはDexterのアイデアによるものでしょうか、曲本編がメジャーとの対比になっています。漆黒にして身の詰まった音塊が、テナーのベルからヌーっと出るが如くのメロディ奏は、朴訥として殆ど飾り気がないように聴こえますが、素晴らしい音色と落ち着いたタイム感、フレーズ語尾のビブラートが堪らないニュアンスの3拍子揃い踏みだからこその為せる技です。小気味良いClarkeのシンバルレガートとMichelotのベースラインが巧みなコンビネーションを生み出し、その後のDexterの唄心溢れるソロをバックアップします。続くPowellはDexterのスインガー振りに影響を受け、実に端正にフレージングを組み立てた素晴らしいソロを聴かせます。その後のベースソロもさすが弦楽器奏者名手揃いの欧州、御多分に洩れず正確なピッチと深い木の音色で存在感をアピールします。ラストテーマはサビから、エンディングのフェルマータで短くソロがあり、ドラムの3連符に導かれイントロが再登場、フェードアウトでFineとなります。

3曲目BroadwayはClarkeのドラムソロから始まる華やかで優雅な雰囲気を持つ佳曲、New YorkにあるBroadwayは街を南北に走る劇場街を指しますが、Parisではどこの通りが該当するのでしょうか。シャンゼリゼ通りは高級店が連なる銀座のような通りなので、異なりそうです。Count Basie Orchestraでの演奏が有名なこのナンバー、Dexterも再び豪快ぶりを発揮していて実にスインギーです!フレージングの巧みさ、演奏への入り込み方も申し分なく、1曲目のScrapple〜のソロを凌ぐ勢いです!彼の得意技である引用フレーズが登場し(1曲目ではファンファーレを引用していました)、Strager in Paradiseのメロディを一節吹いていますがほど良きところでの吹奏、効果的に用いられました。続いてのPowellはここでも密度の濃いソロを聴かせ、ビバップ・プレイヤーとしての本領を発揮しています。意外とピアノソロが短く終わったな、とばかりに若干出遅れてDexterが離れた所からスネークイン、ドラムと8バース、セカンドリフからテーマに入り、最後のパートではPowellがBasie風のフィルインを弾いているのが微笑ましいです。

4曲目Stairway to the Stars、「星へのきざはし」と邦題が付けられています。トリオによるイントロから始まり、テーマにおけるDexterのサブトーン、グロウトーンはBen Websterを彷彿とさせますが、テイストはより整理されエッセンスを凝縮したように聴こえます。Powellのバッキングがここではテーマのセンテンスに呼応し、メロディの合間に巧みにフィルインを入れていて、旋律との関連性を大切にしているプレイヤーと再認識させられました。このアプローチはテナーソロ中でも基本変わらず行われ、バラードでのイメージの豊かさを持つ演奏者であるとも感じました。優れたジャズマンは同時にバラードの名手でもあるのです。

5曲目作品ラストを飾るのはA Night in Tunisia、ベースを中心としたイントロにDexterも加わります。ここでのメロディ奏の朗々とした、優雅にまで感じるレイドバックは本作白眉のプレイ、ソロも含めこの曲の代表的演奏に仕上がったと言えましょう。ClarkeもDexterのテイストに寄り添うべく健闘しているのがよく伝わります。インタールードでのメロディフェイク、ピックアップソロでのさらに拍車のかかったレイドバック、実にDexterワールドです!!ここまでの徹底さを聴かせるならば、ベースのビートの位置があと少しだけ前に、on topにステイしていれば彼の狙いは的中、一層ビハインド感が映えたに違いないと勝手に想像しています。ここで用いられている引用フレーズはSummer Time、キーが同じEマイナーですから思わず出てしまうのでしょう。アラビア音階のような、フリジアン・スケールの如きスケールも用いられ、他の収録曲よりもずっと自由なアプローチを聴かせ、淡々とバッキングしていたPowellもさすがに対応に苦慮したか、ピアノを弾く手を休めている場面があります。再びインタールードを演奏した後、ピックアップからPowellのソロになります。アイデアの豊富さは絶頂期ほどではありませんが、キラリと光るものを幾つも感じさせる充実したプレイです。セカンドリフからのドラムソロ、Clarkeは職人的巧みなフレージングを存分に聴かせています。ラストテーマは初めよりも拍車のかかったレイドバックを聴かせて、エンディングのcadenzaソロへ、ジャジーなコンディミ系フレーズを交えて大団円の巻です。

2020.08.12 Wed

Brilliant Corners / Thelonious Monk

今回はピアニストThelonious Monkの1956年録音リーダー作「Brilliant Corners」を取り上げてみましょう。演奏は言うに及ばず、個性的なオリジナルを数多く作曲したMonkですが、その中でも最右翼と言える表題曲他を、ハードバップの精鋭たちと演奏した、彼の代表作に挙げられる作品です。

Recorded: October 9, 15, and December 7, 1956 at Reeves Sound Studios, NYC Engineer: Jack Higgins Label: Riverside Producer: Orrin Keepnews

p, celeste)Thelonious Monk ts)Sonny Rollins as)Ernie Henry(omit 5) tp)Clark Terry(on 5) b)Oscar Pettiford(omit 5), Paul Chambers(on 5) ds, timpani)Max Roach

1)Brilliant Corners 2)Ba-lue Bolivar Ba-lues-are 3)Pannonica 4)I Surrender, Dear 5)Bemsha Swing

まずジャケット写真がとてもユニークです。印象的な合成のアングルによる、でも彼にはどうも似合わない(笑)白いワイシャツを着た、清潔感を漂わせる5人の、そしていつになくにこやかなMonkが写っています。本作はクインテット編成ですので、その人数を表しているのかも知れませんし、また作品の仕上がりの満足感ゆえの笑顔とも言えましょう。Monkは1917年10月10日生まれ、Rocky Mount, North Carolina出身。Monkが5歳の時に一家はManhattan, NYCに移住しました。ピアノやオルガンに親しみ、彼が17歳の時に教会のオルガン奏者として演奏旅行を経験し、10代の終わりからジャズを演奏するようになりました。40年代にはHarlemにあったMinton’s Playhouseのハウスピアニストを務め、Dizzy Gillespie, Charlie Christian, Kenny Clarke, Charlie Parker, Miles Davisたちとビ・バップの勃興に携わったことはご存知の方も多いと思います。41年頃のMinton’s Playhouseでの録音がプライヴェートでかなりの数が残されており、ハウスピアニストだったのでMonkの演奏は頻繁に聴くことが出来ます。その後の個性の萌芽はある程度聴き取れますが、随所にJelly Roll MortonやFats Wallerのスタイルを感じさせます。

41年録音「Trumpet Battle at Minton’s」Monkの最初期の演奏を聴くことが出来ます。

47年に初リーダー作「Genius of Modern Music / Thelonious Monk」、翌48年「Milt Jackson and the Thelonious Monk Quintet」をBlue Note Labelに録音、彼の個性的なオリジナルや演奏を世に知らしめる切っ掛けとなりました。

ところが51年にドラッグを不法所持していた親友Bud Powell(真の天才同士、互いの才能を認め合っていた仲でした)を庇った事により警察に捕まり、MonkはNYCのキャバレーカードを没収され、50年代中頃まで同市内ナイトクラブに出演することが出来なくなり、ナイトクラブ以外の劇場、NYCを離れた場所での演奏を余儀なくされました。同地で誕生したビ・バップの仕掛け人の一人として、そしてビ・バップの更なる進化に演奏者として数年間参加出来なかったことは、さぞかし悔しかったことと思います。ですが真の芸術家は転んでもただでは起きません。この期間を利用して自分自身の内面に立ち向かうことが出来、演奏家としての収入を得られず生活は苦しかったでしょうが、ピアノの練習や作曲に充実した時間を持てたのではないか、と思います(現在のコロナ禍も言ってみれば同じですね)。その成果と進化は52,54年録音「Thelonious Monk Trio」53,54年録音「Thelonious Monk and Sonny Rollins」(以上Prestige Label)、55年「Thelonious Monk Plays Duke Ellington」56年「The Unique Thelonious Monk」(以上Riverside Label)で時系列として確認することが出来ます。

52,54年録音「Thelonious Monk Trio」
53,54年録音「Thelonious Monk and 」
55年録音「Thelonious Monk Plays Duke Ellington」
56年録音「The Unique Thelonious Monk」

そして「Brilliant Corners」の登場です。キャバレーカード没収からの臥薪嘗胆を潜り抜けた芸術的発露の具現化、シーンはハード・バップ期に差し掛かり、リズムやコード、サウンドがビ・バップ期よりもグッと細分、複雑化しましたが本作の内容は時代に合致、いやむしろ遥か前を行く、まさしく前衛的演奏と相成りました。本作は3回の録音に分かれ、初回56年10月9日にErnie Henry, Sonny Rollins, Oscar Pettiford, Max RoachのメンバーでBa-lou Bolivar Ba-lues-areとPannonicaの2曲を、2回目同月15日に同メンバーで表題曲Brilliant Cornersを、3回目同年12月7日I Surrender, Dearをソロピアノで、そしてベース奏者をPaul Chambersに替え、アルトのHenryの替わりにトランペッターClark Terryの参加を得てBemsha Swingを録音しています。メンバー交替には音楽的、人間的な衝突、トラブルがありその事についても曲毎に触れたいと思います。

1曲目、レコーディング2日目に収録されたBrilliant CornersはMonkの音楽的個性の集大成、難曲の多い彼のナンバーの中で圧倒的な難易度を極める、そして大変な名曲です。変則的な小節数からなるA-B-A構成のこの曲、始めの1コーラスはミディアム・テンポで演奏され、その後に倍のテンポで(double-time feelではなく、double-time、小節の実際の長さも半分で)演奏され、この構成を繰り返します。実は演奏当日Monkは4時間の中でこの曲のテイクを25回(!)も重ねました。一部のメンバーの力量もあったかも知れませんが、曲の難しさから結局完全な演奏には至らなかったそうです。プロデューサーOrrin Keepnewsがこれら25の不完全なテイクを編集し、完全(に聴こえる)なテイクを作り上げアルバムの冒頭に収録しました。25回も同じ曲を、しかも通し切れないテイクを重ねれば誰しも頭が混乱するでしょうが、レコーディング中にほとんど精神的に折れてしまったHenryはMonkとの間に緊張感が走り、「俺にはこんな物凄い曲は演奏出来ないよ!」とばかりに項垂れるHenry、彼がソロを取らなくても良い楽なヴァージョンにもMonkはトライしました。Pettifordとはかなり険悪になり、キツイ言葉でMonkとやり合ったそうです。「Monkの野郎、こんな難しい変てこりんな曲を俺に何十回も演奏させやがって!」のような雰囲気なのでしょうか、報復措置と思われますがおそらく揉めた後、録音中にベースの音がコントロール・ルームで聴こえなくなりました。エンジニアがマイクロフォンをチェックしたりとシステム上のトラブルを確認、しかしどこにもおかしな所は見つかりません。それもそのはず、結局彼はベースを演奏しておらず、何と弾いている振りだけをしていたのだそうです(汗)!今で言うエア・ベースですね(笑)。Pettifordはモダンジャズ・ベースの開祖的存在で、Jimmy Blanton, Milton Hintonの流れを汲み、Pettiford後には本作にも参加しているPaul Chambersが控えています。MonkとはMinton’s Playhouseでの共演仲間、前述の「Thelonious Monk Plays Duke Ellington」「The Unique Thelonious Monk」の2作でもトリオで素晴らしい演奏を共有した筈なのですが、人間無理難題を(理不尽に?)吹っ掛けられると誰しもブチ切れるのでしょう。この争いがレコーディング・スケジュールの2日目の出来事、初日は2曲のOKテイクを得ていましたがバンドでもう1曲録音しなければならず、リーダーはメンバーを差し替え後日レコーディングしました。Sonny Rollins, Max Roachふたりの留任は高い音楽性と人間性、加えて忍耐強さゆえに違いありません。

イントロはテーマのメロディをモチーフに、Monk流の不協和音を用いた、行末に不安感を抱かせる(汗)、孤高のサウンドから始まります。テーマメロディとリズムセクションとのアンサンブルの交互の出入り、サックス二人は基本的にユニゾンですがアルトの音域がメインなのでテナーはオクターヴ下にも移行しています。Max Roachの的確なカラーリング、そしてメカニカルで構築的なドラミングは軽快なシンバルレガートとあいまってスインギーに心地よく聴こえます。しかし何と言うラインのメロディでしょう!そして更に倍テンポになった際の未体験のスリル、カッコ良さ!ひょっとしたらMonk自身、面白い曲を書けたけれど、何か捻りが足りない。そうだ、以前から考えていた倍テンポにすれば良いのだ!若しくは倍テンポのアイデアが先にあり、曲を書いてそのようにアレンジしてみよう、曲は複雑であればあるほど倍テンポが生きるに違いないと。いずれにせよ目論見は大成功でした(奏者は別としてですが)!

そして音符の合間をぬうMonkのバッキングが実にユニーク、Rollinsの先発ソロに入れば自由奔放さが際立ち、一聴無関係なコンピングの様ですが、お互いの話を聴いているようで聴いていない、でも何だか気心の知れた旧友の交す会話のようなスタンスです。ここでのRollinsの音色、タイム感、フレージング、端正な8分音符、意外性、ストーリーの組み立ての絶妙さ、全てが素晴らしい!代表作「Saxophone Colossus」録音直後になりますが、この肝っ玉の座り具合!文句無しに感動的なソロです!しかもこの難易度高いこの曲で!続いてMonkのソロ、メロディを交えながら弾くMonkフレーズ嵐の至極自然な事!なんと脱力しているのでしょう、ピアノの鍵盤を撫でるように弾いているのが見えて来ますが、鼻歌感覚でいて曲と完璧に合致しています!続くHenryのソロ、Monkは一切バッキングしていません。前述の衝突話が嘘のように見事なソロを聴かせています!唯一無事に収録出来たテイクから編集したのか、このソロ自体もパッチワークのように継ぎ接ぎだらけなのか、とまれ結果オーライならば全て良しです!Henryも本作録音直前8月に初リーダー作「Presenting Ernie Henry」を録音、ここでの演奏よりもずっとオーソドックスな正統派Charlie Parkerスタイルを聴かせています。Parkerにとことん心酔したからなのか、翌57年12月ヘロインの過剰摂取により31歳の若さで急逝しました。

56年8月録音「Presenting Ernie Henry」

John Coltraneの58年作品「Soultrane」収録のTheme for Ernieは夭逝した彼に捧げられたナンバーで、Philadelphia出身のギタリストFred Lacey(イスラム名Nasir Barakaat)の作曲になります。死の2ヶ月後に録音され、Coltraneのトーンが哀愁を帯びた美しいメロディと一体化し、印象的な追悼演奏になりました。

Roachのドラムソロに続きますが、美しい楽器の音色で歌やストーリーを感じさせる演奏は、同様に本作録音の直前9月に録音したRoachの2枚目のリーダー作「Max Roach + 4」での名演奏を彷彿とさせます。Roachの素晴らしいまとめ方を聴かせたソロに続き、ラストテーマを迎えます。見事なまでにアンサンブルが揃っているので、初めのメロディを後テーマにもパッチワークしたのかと邪推してしまいましたが(汗)、後半アルトのラインが異なっているので、こちらはこちらで別のパーツのようです。不完全なテイクを継ぎ合わせた演奏とは全く思えない、些細な問題点すら感じることの出来ない完璧なテイクですが、スタンダード・ナンバーのようにずっとひとつの流れがある、編集すればその痕跡がそれだけ目立つタイプではなく、各パートのメリハリがはっきりとした曲なので、編集の跡を感じないのかも知れませんが。いわゆる名盤の中にも実は同様の例が多々あるのかも知れないと、今更ながらに感じました。

56年9月録音「Max Roach + 4」

ちなみにMonkは後年Oliver Nelson Orchestraと「Monk’s Blues」でBrilliant CornersをNelsonのアレンジによる”簡易”ヴァージョンで再演しています。

68年「Monk’s Blues」

2曲目Ba-lue Bolivar Ba-lues-areは”Blue Bolivar Blues”のMonkの発音を大袈裟に表現したもので、BolivarとはMonkのパトロンとして彼に経済的援助を施した、Pannonica夫人が住んでいたホテルの名前です。こちらの方もいかにもMonkが書くラインのブルース・ナンバーですが、メロディ合間のフィルインがこちらも堪りません!ソロの先発はHenry、ざらざらとした付帯音が豊富、加えて「コーッ」と言う木管楽器的な鳴りを併せ持つ音色はいかにも名器Connから繰り出される魅力的なトーンで、リズム隊の好サポートを得ながら朴訥で味わいのある演奏とブレンドし、更に途中でMonkがバッキングを止めた事でアルトソロがくっきりと浮かび上がり、50年代短い期間演奏活動したジャズプレイヤーの存在証明となり得る、名演奏が誕生しました。続くMonkのソロには自由奔放、奇想天外、天真爛漫と言った四字熟語が相応しく、唯我独尊?豪放磊落?魑魅魍魎が跋扈する?これらは違いますね(汗)、兎にも角にも一聴しただけでMonkの演奏と確認出来る個性を発揮しています。ピアノソロ最後のフレーズを引き継ぎ、Rollinsのソロが始まります。おニューの楽器Selmer MarkⅥ、5万番台を引っ提げて、ジャズ・テナーの王道を行く素晴らしいトーンとフレージングを駆使し、こちらこそ豪放磊落にソロを展開します。Pettifordのソロは躍動感あるリズムと正確なピッチのピチカートで、ジャズベースのパイオニア然とした超絶さをたっぷりと聴かせてくれます。しかし58年にはBud PowellやKenny Clarkeらの渡欧組と歩調を合わせ、Denmark Copenhagenに新たな演奏場所を求めて移住しましたが、60年9月にポリオに似た症状の病に冒され、同地で客死してしまいます。続いてのRoachのソロはドラミングのルーディメンツに忠実な、音楽に対する真摯な態度を感じさせる演奏です。彼の66年作品「Drums Unlimited」は多くのドラマーにとっての教則演奏になり得る、バイブル的なドラミングを収録した作品です。その後はラストテーマに入りますが、初めよりもかなりテンポが速くなっています。元々キープが難しいテンポで始まったので、スピード感あるプレイの連続により、グッとプッシュされました。

3曲目Pannonicaは前述のパトロン(女性なので正しくはパトローネですね)Pannonica夫人に捧げたナンバー、彼女とはMonk54年の初欧州楽旅の際に知り合ったそうです。Brilliant Corners同様に本作のために書き下ろした美しいオリジナルで、Monkは珍しくcelesteをイントロと自身のソロをはじめ、全編に渡り弾いており、同時に左手でピアノの低音部も演奏しています。Pannonica夫人は欧州貴族、名門Rothschild家の出身、多くのジャズミュージシャンが彼女から経済的支援を受けています。美しい女性であったのでcelesteの気品ある、可愛らしい音色が彼女に相応しいと判断し、Monkが演奏に用いたのでしょう、洒落たセンスです。曲自体も上品なスイートさが随所に感じられサックスのユニゾン、ハーモニー、テナーとcelesteのフィルイン、全てが有機的に結び付いている楽曲、Monkの持つ美的感覚を端的に表しています。ソロの先発はテナー、ドラムがブラシを用いてdouble-time feelが設定されます。ここでのRollinsは絶好調以外の何もでもありません!素晴らし過ぎです!メロディのモチーフとインプロヴィゼーションのバランスが絶妙、仄かに感じさせる哀愁も効果的にスパイスとしてソロに華を添えています。続くMonkのソロはピアノとcelesteを同時に演奏しつつ、交互に弾き分けも行い、カラーの違いを表現しています。6’05″で「ボコッ」と言う、多分手か指がマイクロフォンに当った音が聴こえます。慣れない2種類の鍵盤楽器弾き分けに際しては軽いトラブルもある事でしょう。ラストテーマに入りエンディングは余韻たっぷりにフェルマータします。

4曲目はMonkの十八番であるソロピアノによる古いスタンダードI Surrender, Dear、Harry Barris作曲、Gordon Clifford作詞のコンビによる31年のナンバー、Bing Crosbyが歌い彼の最初のヒット曲になったそうです。ジャズではLouis Armstrongの歌唱が有名です。Monkにとっては初演、65年録音の「Solo Monk」で再演しています。訥々と、淡々と、飾り気なくストレートにメロディを中心に弾くスタイルはいつもの彼の技法、左手の使い方にルーツであるJelly Roll MortonやFats Wallerを感じます。ラストの曲に向かう際の格好のクッションになりました。

ジャケットデザインがクールな「Solo Monk」

5曲目Bemsha Swing、初演は前記の「Thelonious Monk Trio」52年録音、本作唯一の既存レコーディング・ナンバーになります。表題曲収録の約2ヶ月後12月に録音されました。メンバーが異なり、さらにRoachがティンパニを用いた事でそれまでと随分趣を異にします。ここではティンパニの低音が全編に渡り、支配的にサウンドしていて、はっきり言ってラウドさは否めません!ドラムソロでも頻繁にティンパニを用いており、Roach本人とても気持ち良さそうに叩いているのが伝わってきますが。そしてベーシストPaul Chambersのon topさ、Clark Terryのトランペットと、素晴らしいには違いないのですが、他曲との一貫性を欠くように感じます。Terryは巧みなプレーヤーで、Henryのヘタウマ感とは真逆の存在です。木に竹を継ぐとまでは行きませんが、違和感のある演奏であったかも知れないのは、Brilliant Corners事件をリカバーすべくの人選ゆえであったと思います。しかしティンパニが演奏の凡庸さを全て吹き飛ばしているので(物凄い破壊力です!)、別日でメンバー違いの録音テイクにありがちな”付け足し”感を一切払拭しています!それにしても本作レコーディング・スケジュールですが、表題曲の録音を最後に持ってきて、トラブルは後回しになっていれば全曲同一メンバーでレコーディング出来たに違いなく、であればさぞかし統一感のある、何倍も魅力的な作品に仕上がったのではないでしょうか。基本「たられば」は禁物ですが。

2020.08.02 Sun

Cannonball Adderley Quintet in Chicago

今回はCannonball Adderley 59年録音の作品「Cannonball Adderley Quintet in Chicago」を取り上げてみましょう。Miles Davis Sextetのリーダー抜きによるQuintetでのレコーディング、John Coltraneをもう一人のホーン奏者として存分にソロを取らせ、Milesの音楽とは異なるコンセプトでありながら、レギュラーバンドならではの安定感に裏付けされた緻密で息のあった演奏、フロント各々二人をフィーチャーしたバラードを配した選曲、書き下ろしのオリジナル等、録音前後の名だたる名盤の狭間で二人のサックス奏者のリラックスしたプレイを存分に楽しめる構成に仕上がっています。

Recorded: February 3, 1959 Universal Recorders Studio B, Chicago Producer: Jack Tracy Label: Mercury

as)Cannonball Adderley ts)John Coltrane p)Wynton Kelly b)Paul Chambers ds)Jimmy Cobb

1)Limehouse Blues 2)Stars Fell on Alabama 3)Wabash 4)Grand Central 5)You’re a Weaver of Dreams 6)The Sleeper

Lewis Porter著「John Coltrane His Life and Music」には綿密な調査による、膨大かつ詳細なColtraneのChronologyが収録されています。こちらを紐解き、本作が録音された59年2月前後のColtraneの動向を調べると、1月21日水曜日からレコーディング前日の2月2日月曜日までの12日間連続で、Chicagoにある有名なホテルSutherland LoungeにてMilesバンドのギグで出演しています。メンバーのクレジットはされていませんが、間違いなく本作のメンバーにMilesが加わったSextetでの演奏でしょう。翌日からのレコーディングだけ、別なメンバーとは考え難いですから。

John Coltrane His Life and Music

CannonballがMilesのバンドに加わった最初のアルバムが58年3, 4月録音の「Milestones」、数々の名盤を生み出したMiles Davis Quintet〜Coltrane, Red Garland, Paul Chambers, Philly Joe Jonesに異なるアプローチのヴォイスを有したCannonballを、音楽的表現の幅を広げるべく加えた申し分のない名演奏、言わばMilesにとってのHard Bop最終形、そして本作のちょうど1ヶ月後に録音される、これまた文句なしの歴史的名盤「Kind of Blue」、そしてもう1作73年になってリリースされた58年9月NYC Plaza Hotelでの録音「Jazz at the Plaza Vol.1」、こちらはSextetのごく日常的な断面を捉えたライブ録音(ピアニストはBill Evans)、ピアノの音が引っ込んでいたりMilesのトランペットがオフマイクだったりと、米コロンビア・レコードが主催したジャズ・パーティーの模様を記録したもので、非正規レコーディングゆえ音響的に難がありますが、それを補って余りあるクオリティ、各人の恐ろしいまでに研ぎ澄まされたインプロヴィゼーションの応酬、このSextetは大変なポテンシャルを秘めたグループと再認識させられます。

58年録音「Milestones」
59年録音「Kind of Blue」
58年録音「Jazz at the Plaza Vol.1」

本作はどのような経緯で録音が決まったのかは定かではありませんが、飛ぶ鳥を落とす勢いのMiles Davis Sextetサックス奏者ふたり(ある意味対照的なスタイルです)にスポットライトを当て、楽旅の最後にレコーディングの機会を設け、彼らの音楽を存分に演奏させるというアイデアになります。これがプロデューサーJack Tracy発案とすれば、実にジャズの醍醐味を分かっている「名」プロデューサーと言う事になるのですが、強面でうるさ方のリーダーから解き放たれたメンバーは解放感に浸り、リラックスして演奏に臨むことが出来るからです。「Hey, Guys, お疲れ様!明日の俺のレコーディングもよろしくね!明日はMiles来ないし、我々だけでとことん演奏を楽しもうじゃないか。曲も揃っている事で一安心、でもJohnの書いた速い曲(Grand Central)は難しいけどさ!」のようなCannonballの発言が、ひょっとしたらあったかも知れません(笑)、加えて興味深いのがこの項にColtrane first performs on soprano saxophoneと併記されているのです。Sutherland Loungeでこの期間演奏したのでしょうが、その後彼のsopranoによる演奏がどう変遷していくのか、こちらも調べたい衝動に駆られますが(汗)、本作に直接関係はないのでグッと堪え、また別な機会に譲る事としましょう。

CannonballサイドからのMilesとの共演は58年3月録音の「Somethin’ Else」が彼名義でリリースされています。「Milestones」レコーディング前日の録音になりますが、いつになく緊張気味で彼のトレードマークである大胆さ、豪快さが控え気味のCannonballに対し、マイペースで絶好調のMilesの演奏が光り、まるで彼のリーダー作の如しです。収録のAutumn Leavesの名演奏は以降の彼の重要なレパートリーに位置する事になります。

Coltraneの方は57年9月録音「Blue Train」をリリース、急成長ぶりとそれに伴った高い音楽性を広く知らしめましたが、58年Prestige Label諸作にも素晴らしいレコーディングが多くあります。同年3月録音co-leaderではありますが「Kenny Burrell & John Coltrane」での演奏を忘れる事はできません。

本作録音後はColtraneが更なる飛翔を遂げる事になりますが、こちらはまた後ほど取り上げるとして、演奏に触れて行きましょう。1曲目はイギリスで20年代に書かれたスタンダードナンバーLimehouse Blues、多くのミュージシャン、ボーカリストに取り上げられています。オープニングに相応しいアップテンポで華やかな楽曲、ピアノと、ハイハットを中心としたドラムのふたりによるイントロから始まります。いや、とにかく速いですね!ここまでの速度のテンポ設定は他の演奏には無いと思います。テーマはサックスのユニゾン、そのメロディの合間をぬったピアノのフィルインがメチャメチャかっこ良く、テーマの一部分と化して聴こえます。CobbのシンバルレガートとChambersのon topベースとの絶妙なコンビネーションの素晴らしさ!そしてこれだけのテンポでグルーヴし続けるためには、ベーシストの貢献度が最重要になります。テーマ終わりのブレークからCannonballのソロが始まりますが何というスピード感とカッコよさ、気持ちの入り具合でしょう!ブリリアントな音色と有り得ない程の滑舌の良さ、ニュアンス、非Charlie Parkerスタイルの個性的なアドリブライン、全ての合わさり具合がアンビリバボのレベルに達し、超魅力的です!Cannonballの音符はある程度の速さまではレイドバックしていますが、このテンポになるとかなりon topのプレイになります。同様の例が「Nippon Soul」収録のEasy to Love(以前当Blogでも紹介しました)、本演奏よりもさらに速いテンポにも関わらずスイング感抜群、音符の位置も一層前にセッティングされています。

そしてColtraneのソロに続きます。 Cannonballに比べると対極的にダークさが際立つ音色、含みを持たせた「ホゲホゲ」した成分がこもった感を提示し、しかし音の輪郭は際立つ複雑な楽器の鳴り方を聴かせます。一点感じるのは、この日のColtraneはリードの調子が今ひとつではなかったかと。硬くて鳴らし辛いリードを難儀しながら吹いているように聴こえます。長いツアーでリードのストックが切れかかっていたのかも知れません。タイム感はグッとレイドバックし、個人的にはある種理想的なリズムに対する音符の位置を感じます。そして吹いているラインですがこれはまさしくColtrane Change!些か専門的になりますがコード進行Ⅱ-Ⅴ-Ⅰを短3度と4度進行に細分化し、各々のアルペジオを中心にラインを組み立て行きます。この方法によりコード進行に従来にはない、サウンドの浮遊感を得ることが出来るのです。「Giant Steps」収録のCount DownはMiles作曲のTune Upのコード進行を基に、Ⅱ-Ⅴ-ⅠをColtrane Change化した代表的演奏ですが、3ヶ月後の59年5月4日に同曲をレコーディングする前に、自分の作品ではなく、Cannonballのアルバムでしっかりと実験をしていた訳ですね(笑)。ひょっとすると前日までのSutherland Loungeのステージでも、既にこの奏法にトライしていたかも知れません。ここでのプライヴェート録音が発掘される事を願っているのですが、2012年にRLR Labelからリリースされた「Complete Live at the Sutherland Lounge 1961」の例があるので、かなり期待をしています。

ts,ss)John Coltrane p)McCoy Tyner b)Reggie Workman & Raphael Don Garrett ds)Elvin Jones 音質は決して良くありませんが、61年3月1日Chicago Sutherland Loungeでのクオリティの高い演奏がCD3枚組に収録されています。

それにしても物凄いインパクトのアドリブソロです!Kellyもバッキングの手を休め、いや、対応の範囲を超えた難解なラインの連続に、むしろ止めざるを得なかったのでしょう。こうして聴いているとふたりの演奏するアドリブライン、アプローチ、方法論の明らかな違いがこの演奏のクオリティを一層高めていると気付きます。続くKellyの軽快なソロ時にはCobbも4拍目ごとにリムショットを入れ始め、グルーヴを変化させています。その後フロントたちとドラムとの怒涛の8バースが始まります。ここでの白熱したやり取りは間違いなく昨晩までのMilesバンドの演奏を彷彿とさせている事でしょう!テンションはMaxを通り越し120%に達しています!Cobbのソロは間違いなく彼のone of the bestでしょう!合計2コーラスに及ぶバースの後は同じく2コーラス、サックスふたりによるバトルに続きます。いや〜ジャズを聴いていて本当に良かったな、と心から思える瞬間、だってCannonballとColtraneのバトルですよ?スゲ〜!!Milesが聴いたら「こいつら俺がいないと思って、思う存分好き放題やりやがって!」とむしろ嬉しそうに言うに違いありません(笑)!しゃにむに相手に戦いを挑むバトルではなく、まるで横綱相撲のように相手を立てつつ、かつ自分の言うべき事を端的に述べるスタンスでのバトルです!その後は全く平然とラストテーマを迎え、Kellyのフィルインも始めのテーマ時よりも冴え渡っており、エンディングのキメもバッチリとハマりました!

2曲目CannonballをフィーチャーしたバラードStars Fell on Alabama、古き良き時代の米国をイメージさせる曲調にCannonballのアルトの音色が完璧にマッチングしつつ、更に自由奔放に歌い上げる事によって、曲の持つ別な魅力を引き出す事に成功した、歴史的名演奏です。テンポはバラードとしては少し早目の設定、ピアノとブラシを用いたドラムからスタート、Kellyが弾くイントロのメロディはAlabama州に因んだのでしょう、米国南部のムードを感じさせつつ、4小節目にベースが加わります。アウフタクトでアルトの下の音域D音のサブトーンからメロディが始まりますが、低音域から中高音域をくまなく用い、グリスダウン、グリッサンド、様々な表情を見せる多様なビブラート、音量の大小が音楽表現の実は最大の武器と熟知しているプレイヤーだからこそのダイナミクス、独り交響楽団の様相を呈しています!テーマ終わりでCobbはスティックに持ち替えます。Cannonballのソロに入る際のフレージングは思いっきりレイドバックし、ゴージャス感をこれでもか!と提示しています。ダブルタイム・フィールでアルトソロが始まります。完全無欠の演奏って存在するのだろうか?と考えたことがありますか?禅問答のような話を考えるのは自分は結構好きなのですが、本演奏には文句の付けようが有りません!一切の蛇足、冗長さ、的外れは存在せず、曲想へのマッチング率100%!緻密でダイナミックなフレージング、起承転結、ストーリー性の妙。聴けば聴くほどに引き込まれる麻薬的魅力を有する演奏。Kellyも同様に1コーラスを演奏し、随所にフレージングに合わせ唸り声を発しつつ、いわゆるKelly節をとことん披露し、ラストテーマはサビから開始、グルーヴはバラードに戻り、Cannonballは更なるゴージャス感を出しながらAメロへ、グッと音量を落とし、今度はしっとり感を演出しつつラストのカデンツァへ。エンディング音の極小ppは最後の最後まで美意識を貫き通した結果に違いありません。

3曲目CannonnballのオリジナルWabashは軽快なスイングナンバー、明るくハッピーな雰囲気の中に、少しだけ厄介なコード進行を有するのですが、この部分を的確にクリアーしない限り、曲の持つメッセージを表現しきれません。サックス衆はユニゾンでテーマを仲良くプレイ、微笑ましくさえ聴こえます。ここのバッキングでもKellyが実に効果的なフィルインを弾いていますが、このセンスは実に彼ならではだと思います。おそらくステージを離れ、楽屋やアフターアワーズでは控え目ながらも気の利いたトークを発し、周囲の雰囲気を和ませていたのでは、と思います。イントロ、テーマとブラシを用いていたCobbがソロからスティックに持ち替え、2ビート・フィールで弾いていたChambersがスイングに移行します。ブレーク時でのピックアップソロの聴かせ方を熟知したCannonballが、これまた意表をついたフレージングでソロを開始します。立て板に水状態で実にスムースでスインギーなソロ、そして厄介なコード進行対策も万全でした!続くColtraneのソロはタンギングにCannonballほどの滑舌の良さがないので、若干の辿々しさ、言ってみれば朴訥としたトークと感じます。横板に雨垂れとは言いませんが、むしろ味わいとして捉える事が出来、結果好対照なふたりを感じます。 Cannonballは中低音域を中心に用い、Coltraneが中高音域を中心としてフレージングしているのにも、アプローチの違いが表れています。ピアノソロ、そしてベースソロまで進み、ラストテーマへ、エンディングのカットアウトは潔い終始感を得ています。ここまでがレコードのA面になります。

4曲目ColtraneのオリジナルGrand Central、NYCマンハッタン、ミッドタウンのPark Ave.と42nd St.地点にある世界一大きなターミナル駅Grand Central、米国全土から人が集まりそして離れ、ごった返し、混雑している駅なので目まぐるしく変わるコード進行と複雑な構成を有するこの曲の忙しさに例えられました。1曲目で自身のColtrane Changeによるインプロヴィゼーションを披露しましたが、ここでは曲自体にこのコード進行を用いています。他にもリズム隊のシンコペーションによるリズムのシカケ、サビでのドミナント・ペダル、サックス2管の対旋律等、聴かせどころ満載の佳曲、テナーの方の音域が低いにも関わらず、作曲者Coltraneが主旋律を吹き、Cannonballはハーモニーを担当しています。この作品のためにColtraneが書き下ろしたナンバーですが、これはふたりの信頼関係ゆえでしょう。もしくはこうも考えられるのですが、制作当初は双頭リーダー作品として企画され、例えば作品のタイトルは「Cannonball Adderley & John Coltrane Quintet in Chicago」、実際ふたりにしっかりとスポットライトを当てていますが、Coltrane側の契約問題等がクリアー出来ず、結局Cannonball単独のリーダー作としてリリースされる事になったと。そうすれば各々のフィーチャーリング・バラードが収録され、オリジナルを持ち寄った事、1曲目でのColtrane Changeへのチャレンジ、レコードのSide AがCannonballサイド、Side BがColtraneサイドという構成にも納得が行きます。因みに64年再発時にはジャケットデザインとタイトルを替えてリリースされました。「Cannonball & Coltrane」、こちらの方が内容的には相応しいと思います。

「Cannonball & Coltrane」

先発Cannonballはメロディアスなアプローチで絶好調ぶりを聴かせ、むしろColtraneの方が若干曲の難易度に苦戦、術中にハマってしまったように聴こえます。Kellyのソロに続き、ラストテーマへ。

5曲目ColtraneをフィーチャーしたバラードYou’re a Weaver of Dreams、渋い選曲です。スタンダードナンバーThere Will Never Be Another Youとほぼ同じコード進行を有します。Coltraneの音楽性に良く合致したナンバーと言えるでしょうし、初リーダー作「Coltrane」収録Violet for Your Fursにも通じる曲です。こちらもCannonballフィーチャーと対極を成すと行って良いでしょう。イントロなしでテーマからいきなり始まりますが、極力ビブラートやニュアンス付け、音量の大小を排除し、ストイックなまでにストレートにメロディを吹いており、これ以降も一貫するColtraneのバラード演奏スタイルを象徴しています。晩年のFree Formに突入した際には逆にビブラートを多用することになりますが、Cannonballを始め、それまでのサックス奏者が用いた手法を敢えて避けたのか、それともごく自然にこのストレート直球奏法に至ったのかは分かりませんが、以降のテナー奏者に多大な影響を与えました。テーマ後Cobbはスティックに持ち替え、Stars Fell on Alabama同様にダブルタイムフィールになり、1コーラスをソロします。バラード演奏にそのミュージシャンの本質が顕著に現れますが、彼らの演奏を聴くに付け、つくづくこれほど個性の異なるサックス奏者たちをバンドに迎え、自己の音楽を表現するために巧みに、かつ適材適所で演奏させたMilesの手腕の素晴らしさを、改めて感じました。

6曲目ColtraneのオリジナルThe Sleeper、ベースのwalkingから始まり、2小節に一度4拍目にアクセントが入るコード進行としてはブルース、かなりユニークなイントロ〜曲のパターンです。2コーラス目にアルトが先発の輪唱でテーマを演奏、ソロを取るのはColtraneの方から、出だしからいきなり全開状態です!曲のキーがE♭、テンポも同じBlue Trainの演奏を彷彿とさせますが、リズム隊がBlue Trainのように倍テンポにならないのも一因かも知れません、テナーソロをプッシュしきれずに孤軍奮闘の様相を呈しています。ピアノソロの冒頭ではColtraneのソロを受け継ぎ、Kellyにしては珍しいアプローチを聴かせます。その後はCannonballのソロになりますが、前曲がColtraneフィーチャーでCannonballがお休みだったので、ソロの先発は彼でも良かったのではと感じます。鳴り捲りのアルトサウンド、ここでもフレージング、アイデアは尽きる事なく泉のように湧き出ています。ラストテーマは再びサックスの輪唱、始めのテーマでもそうでしたがこの輪唱時、サックス2管は右チャンネルにまとめて振られています。アルトのソロの時は左チャンネルから聴こえてくるので、急に音像が飛んだように聴こえました。その後イントロと同じフォームが演奏されますが、初めに比べかなりテンポが遅くなっていますが、一曲通してだんだんとゆっくりになったようです。エンディングはテーマの一節が演奏され、Fineです。

2020.07.20 Mon

Cannonball’s Bossa Nova / Cannonball Adderley and the Bossa Rio Sextet of Brazil

今回はCannonball Adderley 1962年12月録音のアルバム「Cannonball’s Bossa Nova」を取り上げてみましょう。ブラジル人ピアニストSergio Mendes率いるThe Bossa Rio Sextet of Brazilが伴奏を務めた、極上のBossa Novaアルバムに仕上がっています。

Recorded: December 7, 10, 11, 1962 at Plaza Sound, New York City Recording Engineer: Ray Fowler Produced by Orrin Keepnews Label: Riverside 9455

as)Cannonball Adderley p)Sergio Mendes g)Durval Ferreira b)Octavio Bailly, Jr. ds)Dom Um Romao tp)Pedro Paulo(#2, 4-5, 7-8) as)Paulo Moura(#2, 4-5, 7-8)

1)Clouds 2)Minha Saudade 3)Corcovado 4)Batida Diferentes 5)Joyce’s Sambas 6)Groovy Sambas 7)O Amor Em Paz (Once I Loved) 8)Sambops

場所はNew YorkのジャズクラブBirdland、1962年のある夜Cannonball Adderleyが6人の若者に囲まれて熱心に話をしています。彼らはBrazil人ミュージシャン、ピアニストSergio Mendesがリーダーを務めるThe Bossa Rio Sextetのメンバーで、とあるコンサートのためにNew Yorkを訪れていたのです。Cannonballの音楽に熱狂的ファンだった彼らは、彼に自分たちの演奏を聴いてもらえるように働きかけ、それをBirdlandで実現させました。彼らの演奏を大変気に入ったCannonballは即座にレコーディングを発案し、本作録音に至ったのです。

そのとあるコンサートとは、62年11月21日にNew York Carnegie Hallで開催されたBossa Nova Concertの事で、言ってみればBrazilian Bossa Novaの米国初進出コンサートです。出演者はBrazilを代表するミュージシャンたちMiltinho(Milton) Banana, Luiz Bonfa, Oscar Castro-Neves, Joao Gilberto, Antonio Carlos Jobim, Carlos Lyra, Sergio Mendes Sextet等20名を超えるBrazil勢にArgentinaからLalo Schifrin、米国既Bossa Nova経験組Stan GetzやGary McFarland、Bob Brookmeyer等錚々たるメンバーを擁しての企画でしたが、実は悲惨な結果に終わったとStan Getzの伝記「音楽を生きる」に記載されています。あまりにも多くの凡庸なグループがステージに上がり、場はしばしば混沌状態に陥りました。想像するにおそらくしっかりとした企画がなく、Brazilのミュージシャンをまとめて招聘すれば何とかなると高を括ったのでしょう。多分プロデューサー、舞台監督も存在しなかったように感じます。しかもコンサートのスポンサーになったオーディオ会社がライブ録音の方を重視してマイクロフォンをセッティングしたため、本末転倒、演奏はホールにいる聴衆の耳には届かずサウンドは最悪だったそうです。コンサートの失敗を強く恥じたBrazil政府(政治問題にまで発展したようです)は僅か2週間後に自らがスポンサーとなり、New York Manhattanの大規模ジャズクラブVillage Gateで入念に準備されたコンサートを開催し、挽回をはかり、代表格Joao Gilberto,やAntonio Carlos Jobimは米国の聴衆に彼らの芸術をしっかりと披露する事が出来たそうです。BrazilにとってBossa Nova Music最大のマーケットとなり得る米国、そこでの第一印象が悪ければとんでもない事になると、かなりの危機感を抱いたのでしょう。やれば出来るのですから初めから徹底した企画でCarnegie Hallの晴れ舞台に臨めばよかったものを、南の国の楽天的な考えが当初は支配していたのかも知れません。

当日の演奏を収録したアルバム「Bossa Nova at Carnegie Hall」The Bossa Rio SextetはJobimのOne Note Sambaを演奏しています。

その後Bossa Novaは大ブームになり、Zoot Sims, Paul Winter, Charlie Byrd等のジャズ・ミュージシャンもBossa Novaアルバムを発表しました。フルート奏者Herbie MannはCarnegie Hall Concert前の同年10月、単身Brazil入りし、いち早く当地のミュージシャンAntonio Carlos Jobimほかとレコーディング、本作のThe Bossa Rio Sextetとも2曲録音しています。

「Do the Bossa Nova with Herbie Mann」
Recorded in Rio de Janeiro with the Greatest Bossa Nova Players

同じくGetzの伝記にはこのようにも書かれています。『「ボサノヴァ」という魔法の名前がついたレコードはどんなものでも飛ぶように売れた。そしてノヴェルティ業者たちは「ボサノヴァTシャツ」とか「踊るボサノヴァ人形」とか、「ボサノヴァ蛍光ポスター」とかいったものを片端から売りまくった。すべてのブームに付きもののわけのわからなさは人々の要求に更に火をつけた。少しばかり憂愁の香りを漂わせる、概ねハッピーな音楽とその伝染性のあるリズムは、キャメロットに住む見栄えの良い夫婦(ケネディ大統領夫妻のこと)に率いられたアメリカは無敵であるという、世間のうきうきした楽観論を反映するものだった。』おそらく自伝筆者の私見だと思いますが、シニカルなGetzの考えをいかにも代弁したかのような話です。因みに前述のBossa Novaを取り上げたジャズ・ミュージシャン作品の中で、個人的に素晴らしいと思えるのは本作と63年録音Stan Getz「Getz / Gilberto」の2作です。

それでは内容について触れていく事にしましょう。1曲目は本作に参加しているギタリスト、Durval FerreiraのナンバーでClouds。曲想から入道雲をイメージしますが、夏のRio de Janeiroの雲はさぞかし雄大なことでしょう。彼もRio出身で他にも3曲本作に提供しています。ピアノのイントロにシンバルが被さり、雰囲気作りが成されます。そしてテーマへ、Cannonballの登場です!それにしても、何という素晴らしい音色でしょうか!音の極太感、艶、柔らかさと滑らかさ、ゴージャスなまでに加味された豊富な付帯音、音量のダイナミクス、無限に有するのではと感じるビブラートの多彩さ、ニュアンス付けの巧みさ。真夏の太陽が燦々と降り注ぐ浜辺を長時間歩き、思わず見つけた椰子の木陰で涼を取る爽やかさ!Cannonballはもともと音量のアベレージ、設定が小さいので、大きく吹いたときの振れ幅が凄まじく、聴感上のインパクトがあり得ない次元にまで聴き手を誘います。実際本作でも、彼がボリュームを上げ、シャウトして吹いた時には音が歪んでいます。レコーディングのフェーダーを小〜中音時でのレベルに合わせているためでしょう、間違いなくピークレベルで針が振り切っています!低音域でフレージングが終始する時に必ずサブトーンを用いるので、音色の変化に思わず「うおっ!」と声が出てしまいます!メロディの合間に挿入されるフィルインの知的さとナチュラルさ、大胆な技法を用いつつも細部に至るまでの綿密な配慮、常にリスナーサイドに立ちつつバランス感を保ち独りよがりにならず、自身も演奏に際しての感情移入が半端なく、何より本人が演奏を楽しみまくっていることが手に取るように伝わるのが堪りません!Brazil出身の彼ら共演者にはジャズミュージシャンとしての心得、インタープレイやレスポンスを求めることは困難ですが、本場のBossa Novaのリズム、サウンドの上でCannonballが大海原を泳ぐイルカ(彼の体型的にはもっと大きい海獣かも知れません〜汗)のように漂う感じを楽しむのが本作の聴き方と、早速解釈できました。Mendesの短いソロに続き、ラストテーマへ、CannonballのBossa Nova Musicへの参入は彼の事を愛してやまないBrazilianたち、これ以上あり得ないほどの素晴らしいメンバーを擁してレコーディングされました。それにしても彼のプレイ、改めて前回当Blogで取り上げた7年前の録音「Introducing Nat Adderley」での演奏とは比較にならない程、格段の進歩を遂げています。

2曲目はBrazil出身のミュージシャン、作曲家Joao DonatoのナンバーMinha Saudade、軽快なテンポでトランペット、アルトサックスのアンサンブルで心地よいイントロが始まります。躍動感溢れるドラミングを聴かせるDom Um RomaoもRio出身、72年から74年までかのWeather Reportにパーカッション奏者として、4作に参加した経歴を持ちます(「I Sing the Body Electric」「Live in Tokyo」「Sweetnighter」「Mysterious Traveller」)。Cannonball Quintet60年代にはWeather Reportのリーダー、Joe Zawinullが在籍していました。その関係でのコネクションかも知れません。

Weather Repot / Sweetnighter
Weather Report / Mysterious Traveller

そしてCannonballのテーマ奏、これまたノックアウトです!ここでは音色に加えメロディのスピード感が素晴らしい!加えて0’27″でのビブラートの色気!サビをBrazil勢が演奏するメリハリも素敵です!Bossa NovaはStan Getzのテナーサウンドが代名詞となっていますが、Cannonballのアルトサウンドも全く双璧を成していると思います。1コーラスMendesがソロを演奏、メロディアスなフレージングに魅力を感じますが、タイムの捉え方は結構on topに聴こえます。続くCannonballの意表を突いた始まり方はキャッチーですね!絶好調さはソロ本編に於いても一貫して継続しています。ラストテーマはサビから開始、そのままBrazil勢が最後までテーマを演奏してFineです

3曲目はお馴染みAntonio Carlos Jobimの名曲Corcovado、全くストレートにテーマを演奏していますがこの音色、そしてニュアンスで吹かれると、ただもうそれだけで大納得、実に美しいです!これだけシンプルな語り口だと、メロディ間のフィルインがまた良く映えるのです。ソロもモチーフを元に、じわじわと次第に発展させていく手法で構築していますが、十分に間合いを取り、フレーズとフレーズの関連性はあるが互いを干渉せずに独立させ、ストーリーの抑揚を万全とし、様々な専門用語を使いながらも難解な、とっつき難い発音を一切排除し、時には大胆不敵に、またある時には囁くように、森羅万象を表現しているが如しです。それにしてもバックのBrazil勢、完璧に淡々と伴奏を行いますがソロとのインタープレイは見事なまでに一切ありません!Bossa Novaのリズム、グルーヴ、ギターのカッティングを中心としたサウンドを相手に、フリーブローイング状態のCannonball、ひょっとしたら彼自身が「Guys, ジャズっぽい事は何もしなくていいんだよ、素の君たちが欲しいんだ。」と彼らに提案していたのかも知れません。ピアノソロ後のテーマ奏とフェイクにも素晴らしいイマジネーションを感じさせます。

4曲目Batida DiferentesはFerreiraのナンバー、威勢の良いサウンドにCannonballが絡みつつイントロが始まり、2管のアンサンブルとCannonballがやり取りを行い、コール・アンド・レスポンス状態でテーマが進行します。ホットな中にも1曲目同様、椰子の木の木陰的な涼しさが垣間見える、こちらも佳曲です。テーマ最後に出てくるブレークでは、意を決したようなフレージングと音量で、続くソロパートに突入です。軽快なフットワークでのインプロヴィゼーション、コード進行に対する的確なアプローチ、饒舌ではありますが全く無駄を排除した、全てが音楽的にサウンドしている完璧なソロです!続くMendesのソロ、スタンダードナンバーのIt Might as Well Be Springのメロディをごく自然に引用しています。同曲は春には演奏しないという掟がありますが(笑)レコーディングは12月、四季問題は無事クリアーしました!(爆)この人のソロには常に自然体のメロディを感じます。ラストテーマでは再びCannonballとのやり取りが聴かれ、Brazil勢で次第にディクレッシェンドしてFineです。

5曲目Joyce’s Sambas、こちらもFerreira作曲。イントロ2管のアンサンブルから既に涼しげ、と言うよりも哀愁を感じさせるナンバー、Cannonballは深いビブラートを用いつつ情感たっぷりにテーマを歌い上げていて、管楽器リフの輪唱が効果的に響きます。アルトソロに入り、明るさと哀愁が同居し、実に抑揚の効いたメロウなテイストを披露します。珍しく(本作中ここ1カ所だけですが)1’41″辺りでCannonballの吹いたラインにMendesが反応し、答えています。本テイク3日間のレコーディングで最終日に収録されましたが、長い時間Cannonballと過ごしたので、彼からジャズのスピリットを少しだけ伝授されたのかも知れませんね。ピアノのソロに続き、ラストテーマを迎えますが、エンディングは他曲には無いカッコよさでキメて、Fineです。

6曲目Groovy Sambas、こちらはMendes作曲のナンバーです。彼にはMas Que Nadaという大ヒットナンバーが控えていますが、この曲も同曲に通じるムードを聴かせる佳曲、ピアノのバッキングも既にMas Que Nadaを感じさせます。Mas Que Nada実はMendes作ではなくRio出身シンガーソングライターJorge Benの曲ですが、Mendes66年に自己のバンドBrazil ’66でレコーディングし大ヒットとなり、こちらの方が有名になりました。Cannonballのメロディ奏がまず素晴らしい!彼自身この曲を気に入り、思い入れを込められたように感じます。続くソロの巧みな事と言ったら!お気に入りの曲ならば当然の事ですが、コード進行が複雑で入り組んだ部分に果敢にチャレンジするのは彼の常、スリリングなラインと大きく歌う部分との対比がこの人の特徴の一つだと思います。本作中最もホットでスインギーなソロとなりました。作曲者自身のソロも同様に本作中ベストなものでしょう。エンディング時フェルマータする筈がRomaoが勘違いして、一人叩き続けてしまったように聴こえます。「いっけねえ!」とばかりの、最後の締めの1発には不本意さからか、気持ちが入らず若干の空虚さを感じます(汗)。

Mas Que Nada 収録「Sergio Mendes & Brasil ’66」

7曲目O Amor Em Paz (Once I Loved) はやはりJobimの名曲、様々なミュージシャンに取り上げられていますがこちらも代表的な名演奏に仕上がりました。まるで晩夏のRioの海岸で過ぎゆく夏の、とある情事に思いを馳せるかのような、レイジーなイントロからテーマに入ります。「おいおい、お前はBrazilに行ってそんな立派な事を経験をして来たことがあるのか?」と突っ込まれること請け合いですが(汗)、単なるイメージの世界ですので、宜しくお願いします(爆)。Cannonballはロングトーンにクレッシェンドを駆使したメロディ奏、そのバックでのホーンアンサンブル、何とゴージャスでしょう!それにしてもこの美の世界は一体何処からやって来たのでしょうか?アドリブソロは比較的モノローグ的、低音域を中心にボソボソ、ブツブツ、いや、ガサガサ、シュウシュウと語られますが(笑)随所に隠し味、大当たりの福引景品が用意されており、独白をひとつも聴き逃す事は出来ません!Everything Happens to Meのメロディがさりげなく引用されますが、実はRioの海岸での情事は彼自身にHappensした出来事なのかも知れませんね(笑)。本作参加のアルト奏者Paulo Moura、トランペット奏者Pedro Pauloのふたりはスタジオ内でCannonballのソロを神が降臨して来た如く、畏敬の念を持って、さぞかしうっとりと、頷きながら聴いていたことでしょう。その情景が手に取るように浮かびます。Mendesのソロ後ラストテーマへ。ホーンが加わった潔いエンディングも良いですね。

8曲目ラストを飾るFerreiraのSambopsは本作中最も快活なナンバー、リズム隊の躍動的なグルーヴはRioのサンバ・カーニヴァル状態、Romaoのフィルイン0’52″も一段と冴え渡ります。ホーンのアンサンブルもオシャレですが、吹いていない時にはおそらく何かしらのパーカッションで参加していると思います。レギュラー活動を長年行っていただけの事があり、ベーシストOctavio Bailly, Jr.とRomaoのコンビネーションも素晴らしいです!Cannonballのソロの実にマーベラスな事!水を得た魚(海獣?)の如き状態、リズミックさが堪らず、腰が椅子から浮かび上がり、リズムを身体全体で取ってしまいます!1’51″でCannonballがソロ終わりを匂わせた一瞬にMendesのフィルが入ります。自分にソロが回って来たと思ったのでしょう。1’59″からのウラウラのフレーズ、2’13″からの低音域から上昇シンコペーション・フレーズ、聴きどころ満載です!短いピアノソロ後ラストテーマ、イントロにダカーポして大団円です。

2020.07.13 Mon

Introducing Nat Adderley

今回はコルネット奏者Nat Adderleyの1955年録音初リーダー作「Introducing Nat Adderley」を取り上げたいと思います。実兄アルトサックス奏者Julian Cannonball Adderleyとの2管編成は以降のCannonball Adderley Quintetの原形となり、ハードバップを代表する豪華メンバー達と演奏しています。

Recorded in New York City on September 6, 1955 Producer: Bob Shad Label: Wing

cor)Nat Adderley as)Cannonball Adderley p)Horace Silver b)Paul Chambers ds)Roy Haynes

1)Watermelon 2)Little Joanie Walks 3)Two Brothers 4)I Should Care 5)Crazy Baby 6)New Arrivals 7)Sun Dance 8)Fort Lauderdale 9)Friday Nite 10)Blues for Bohemia

Florida州Tampa出身のAdderley兄弟(Cannonball: 1928年9月15日、Nat: 31年11月25日生まれ )、彼らの父親が若い頃プロ並みの腕前のトランペット奏者で、彼は長男に自分のトランペットを与えました。しかしその後長男がアルトサックスを自分の楽器として選んだのでトランペットは次男に譲られ、この時点でAdderley兄弟の楽器フォーメーションが決まりました。若い頃からAdderley兄弟は音楽活動に勤しみ、かのRay Charlesとも共演していたそうです。

有名な話でご存知の方も多いと思いますが、Adderley兄弟が55年New Yorkに旅行で立ち寄った際、Greenwich VillageにあったクラブCafe BohemiaでベーシストOscar Pettifordのバンドが出演していました。兄弟は楽器を携えていたのでシットインすべく準備をし、Pettifordにその許可を求めました。その時ちょうどレギュラーのサックス奏者が遅刻により不在だったのでバンドリーダーは快諾しました。演奏が始まるや否や彼ら、特にCannonballの圧倒的な演奏にその場にいた聴衆は完全にノックアウトされ、兄弟のNew Yorkデビュー演奏は大成功を収めました。とんとん拍子に話が進み、同年二人別々にリーダー作を録音する機会に恵まれたのはCafe Bohemiaでのシットインが功を奏し、次第に彼らの名が知れ渡る事になったからに違いありません。加えてかのCharlie Parkerが同年3月12日、僅か34歳の若さで逝去しジャズシーンは新たなスターの登場を渇望していたのもあり、Adderley兄弟はその時流に乗る事ができた訳です。

Cannonballの方は7月14日レコーディングの作品「Presenting Cannonball Adderley」をSavoy Labelに、そしてNatは本作「Introducing Nat Adderley」をおよそ2ヶ月あとの9月6日にレコーディングします。翌56年New Yorkに居を構えた二人はCannonball Adderley Quintetを立ち上げ、本格的に活動を開始しましたが、間も無くCannonballがMiles Davis Sextetに加入し、その間NatはJ. J. JohnsonやWoody Hermanのバンドで活動、59年に兄が独立したのをきっかけに共演を再開し、その後は順風満帆に演奏活動を継続させました。兄弟仲の良さはミュージシャンのあいだでも有名な話で、音楽性も合致した二人は以降兄の逝去まで演奏を共にし、Cannonballの作品に40枚以上も参加しました。

ところでCafe Bohemiaで不在だったテナー奏者が誰だったのかちょっと気になるところです。当人はAdderley兄弟の出現でバンドのレギュラーの座を奪われたかも知れません、いずれにせよミュージシャン界は競争が激しく下克上は日常茶飯事、自己管理を徹底させ仕事に遅刻せず、時間を守りましょうと言う教訓のオマケが付きました(笑)。

それでは演奏に触れていくことにしましょう。演奏曲は1曲を除き全てAdderley兄弟共作によるものです。1曲目Watermelonは短い演奏ながらオープニングに相応しい軽快なテンポ、よく練られたメロディとハーモニー、リズムセクションとのアンサンブルがハードバップの幕開けを感じさせます。ビバップの発展型としてのハードバップですが、55年当時のシーンではリズムやコードが前段階的に未だ細分化されておらず、56〜57年から急速に進歩を遂げます。この頃のMiles Davisの諸作、例えば同年6月録音「The Musing of Miles」同じく8月録音「Miles Davis Quintet/Sextet」も本作に近いテイスト、サウンドを聴くことが出来ます。

常に兄を立てる弟ゆえでしょうか、ソロの先発はCannonballです。でもここで聴こえるアルトの音色は一瞬別人の演奏と錯覚しそうな違いを感じます。録音によるものか、後年のCannonballよりも音の輪郭がくっきりとしていますが、雑味の成分がかなり少ないのです。マウスピース、楽器、リード等使用機材が異なるのか、でも物の本によると彼は生涯一貫して楽器はKing Super 20 Silver Sonic、マウスピースMeyer Bros 5番、リードもLa Voz Medium辺りを使用し続けていたらしいのです。初リーダー作「Presenting Cannonball Adderley」での音色は後年のそれと殆ど一致しますので、ここでは単なる録音による悪影響と推測できます。タイム、グルーヴ、スイング感は既に完成されており、寛ぎと奥行きを感じさせるストーリーの構成は見事です。Natのソロは兄の前出フレージングを用いつつ、こちらも軽快に飛ばしており、やはり自己のスタイルをしっかりと携えてのIntroducing本人になっています。当時はサイドマンとしても良くレコーディングに参加していたHorace Silverのピアノソロに続きます。つんのめったような独特のタイム感はここでも健在、引用フレーズを交えたユーモアを常に絶やさないプレイが印象的です。

2曲目Little Joanie Walks、Roy Haynesのちょっとしたソロの後、マイナー調のテーマが始まります。間を生かしたメロディラインがひょうきんさを感じさせる佳曲です。当日レコーディングを見学しに来ていたプロデューサーBob Shadの姪、Joanieちゃんの歩く様をイメージしたナンバーという事で、8分音符が少しハネている曲想からさぞかし可愛らしい歩き方をしていたとイメージできます。ここでもCannonballが先発登板、色気のある演奏を聴かせます。ダブルタンギングをアクセントに用いたフレージングはインパクトがあります。上の音域から下降した際に低音域で聴かれる充実したサブトーンに表れているように、アルトサックスの全音域をルーズなアンブシュアでくまなく吹いている事が伺えます。続くNatのソロも兄の表現力に劣らないようにと、懸命にイマジネーションを働かせていることを感じます。続く録音当時20歳(!)Paul Chambersのベースソロ、一聴して分かる音色とフレージング、ビート感。間違いなく50年代の最重要ベーシストの一人です。ラストテーマは意外性のあるエンディングを迎え、冒頭と同じくドラムの「ちょっとしたソロ」でFineです。

3曲目Two Brothers、ピアノのイントロに続く2管による対旋律を聴かせるメロディラインは、米国西海岸50年代のサウンドを感じさせます。文字通り兄弟が別な旋律を演奏しているわけですが、サビの部分では兄にソロを取らせています。こちらもユニークなメロディを有した佳曲です。各1コーラスのソロ先発はSilver、Natと続き、Cannonballのソロは曲想をよく踏まえたスインギーな展開を提示しています。その後Chambers、そしてラストテーマですが、サビはHaynesにソロを取らせています。個人的にここではNatの演奏が聴きたかったところです。

4曲目スタンダードナンバーからバラードI Should Care。早めのテンポ設定によるテーマはNatのコルネットがフィーチャーされ、淡々とメロディを吹きつつ多少のフェイクを交えています。テーマ後すぐにCannonballのソロが始まりますが、ここでのアルトの音色は雑味、付帯音、倍音の豊富さを感じさせるいつもの彼らしい、本領を発揮したもので、ユーモアのセンスも色濃く聴き取る事が出来ます。バラード演奏ではテンポのある曲よりも音量を小さく演奏するのでその分、音の輪郭外側の成分がよく響く傾向にあるからでしょうか。その後Natを再びフィーチャーし、エンディングを迎えますが兄の深い表現に対し、あっさり感を否めない弟のプレイ、まだ初リーダー作バラード演奏では独り立ちの難しさを露呈したように思いました。

5曲目Crazy Babyはマイナー調のメディアムスイング・ナンバー、テーマの際のピアノのバッキングがうまい具合にメロディとメロディ間に挿入されています。最初のソロイストはCannonball、余裕のある流暢さが既に大物の風格を漂わせています。Haynesのレスポンスも巧みに行われ両者のインタープレイも適切です。Natのソロに続きますが、ブルージーさに関しては十分に及第点に至る表現をしていると思います。ピアノソロ、そしてベースソロと続きます。その後ドラムとの4バースがフロント二人と行われ、ラストテーマへ。

6曲目New ArrivalはHaynesのソロから始まるリズムチェンジのコード進行を用いたナンバー。ソロの先発はSilver、Tenor Madness, Old Milestonesのリフを引用しながら演奏します。Natのここでのソロは本作中最もスインギーなもので、ハイノートをはじめ様々な表情を見せます。ひょっとしたら兄のソロよりも前に演奏したので、影響を受けず単に自分のペースをキープ出来たからなのかもしれません。CannonballはNatのソロのテイストを受け継ぎつつ、次第に自分の世界に入っていきますが、彼も一層流麗なアドリブを聴かせています。続くChambersのソロはアルコに声をユニゾンさせたMajor Holley状態、渋いサウンドを聴かせます。その後Haynesの1コーラス・ドラムソロ、そしてフロントとの4バースに続きますが、Haynesならではのリズムワールドを構築しています。ラストテーマでは3曲目と同じくサビをドラムソロに任せていますが、この曲こそドラムの出番が多かったので、ラストテーマのサビはNatが演奏すべきであったと思います。

7曲目Sun Danceは3曲目のコンセプトに似た対位法的なスイングナンバー、テンポは遅くなります。Cannonballが先発、Silverと続きNatのソロへ、雰囲気の似た同傾向の曲が続くのでこの辺りでラテンやボサノヴァ、8ビートのナンバーが聴きたくなりますが、それらのリズム様式が登場するにはまだまだ、時代が全然早すぎでしたね(汗)、その後はドラムとフロントの4バースが1コーラス行われ、ラストテーマへ。本作は演奏時間を短くして収録曲を多くする方向で、さらに参加ミュージシャンのソロをコンパクトに、ほぼ全員を網羅するように制作されています。デビュー作なのでここはプロデューサーの英断で曲毎の聴かせどころを作り、機会均等はせず、加えてリーダーNatのコルネットを色々な形で、よりフィーチャーして欲しかったところではあります。

8曲目Fort LauderdaleはFlorida南東部の海岸に面した都市の名前で、高級リゾート地として知られていますが、Cannonballが高校時代バンドリーダーとしてこの地で演奏していたそうです。Cannonball、Silver、Nat、Chambersとソロが続き、ラストテーマはサビから演奏されます。

9曲目Friday Niteは早めのテンポ設定で小気味良さを聴かせます。1stソロイストはCannonball、4度進行のアプローチが聴かれます。続きSilver、自曲Sister Sadieのテーマ引用がなされますが、フロントではSilverのタイム感が最も早く、続いてNat、そしてCannonballは絶妙なレイドバック感に位置しています。リズムセクションではChambersのon topさとスピード感、そしてタイトさが群を抜き、Haynesとの良いコンビネーションを提示しています。つくづくリズムセクション、フロントのリズム、タイムの取り方は様々であるべきだと認識しました。その後再びChambersのMajor Holleyアプローチ、Haynesのソロと進みます。

Paul Chambersのプレイそのものがタイトルとなった「Bass on Top」57年7月録音

10曲目Blus for Bohemia、お世話になったジャズクラブには敬意を表さないといけません。Cafe Bohemiaに捧げたと思われるこの曲、Bluesと表記されていますが32小節の長さを有するナンバーです。Nat、Silver、Cannonballとソロが続きラストテーマへ。

2020.07.05 Sun

Nancy Wilson/Cannonball Adderley

今回はボーカリストNancy Wilsonとアルトサックス奏者Cannonball Adderleyの作品「Nancy Wilson/Cannonball Adderley」を取り上げてみたいと思います。CannonballのバンドにWilsonがゲスト参加した形でボーカルとその歌伴、クインテットの演奏と、ゴージャスに楽しめる構成に仕上がっています。

Recorded: June 27, 29 and August 23 – 24, 1961 Producer: Tom “Tippy” Morgan, Andy Wiswell Label: Capitol Records

vo)Nancy Wilson(tracks 1,3,5,7,9,11) as)Cannonball Adderley cor)Nat Adderley p)Joe Zawinull b)Sam Jones ds)Louis Hayes

1)Save Your Love for Me 2)Teaneck 3)Never Will I Mary 4)I Can’t Get Started 5)The Old Country 6)One Man’s Dream 7)Happy Talk 8)Never Say Yes 9)The Masquerade Is Over 10)Unit 7 11)A Sleepin’ Bee

レギュラー活動展開中のCannonball Adderley Quintetに歌姫Nancy Wilsonを迎え入れた形で(ボーカリストとの初共演作です)、1962年リリースの際レコードでは歌伴とインストを交互に配置した曲順に並び、両者が対等でバランスの取れた作品という認識でした。Nancyのチャーミングでスインギーなボーカルと、名門Cannonball Adderley Quintetの演奏を交互に楽しめる、しかも曲順や選曲のバランスが絶妙に取れていて、一挙両得感が半端ありませんでした!このようなレイアウト作品はあまり無かったので、本作といえば演奏よりも(もちろん素晴らしいですが!)歌〜演奏〜歌〜演奏という曲順が印象的でした。ところが93年CDで再発された際には歌伴がメインになった形で前半ボーカル、後半インストとはっきりセパレートされた形に成りました。曲順は今更ながらに大切ですね、この並びでは全く印象の異なる作品に変わってしまい、残念ながら味気なさを覚えました。リリース当時のレコードにも「A program of swinging vocals and instrumental by Nancy Wilson / The Cannonball Adderley Quintet」と同格にクレジットされていましたが、もっとも再発時はCannonball没後から20年近く経過し彼の存在感も薄れつつあり、一方Nancyの方は未だ現役ボーカリストとして活動中だったので、レコード会社としては彼女をメインに持って来ざるを得なかったのでしょう。

本作は58年から63年まで5年間在籍していたRiverside Label契約中真っ只中にCapitol Recordからリリースされました。Riverside以降は同Capitolに移籍したので、先駆けという事になります。精力的に作品をリリースし、Riversideから17作品、Capitolから本作を含めて20作品を発表し、いずれでもあの素晴らしい音色を披露しています。

Nancy Wilson/Cannonball AdderleyとNancy Wilson/George Shearingをカップリングさせたアルバムもリリースされています。Shearing作品の方の正式タイトルは「The Swingin’ Mutual」、こちらは彼のQuintetに同じくWilsonがフィーチャーされた形の60年録音作品で、いわゆる「シェアリング・サウンド」のノーブルな響きがNancyのボーカルをバックアップする歌伴演奏と、インストが同様に交互に配されたアルバムです。という訳でNancy繋がりの別作品のカップリングになりますが、ジャケットはいかにも3者が共演しているかのような表示、レイアウトなので、これでは羊頭狗肉、誇大広告です(笑)。

ちなみにCannonball次作品、62年1月NYC Village Vanguardでのライブ盤「The Cannonball Adderley Sextet in New York」から文字通り管楽器奏者が一人増えたセクステット編成になり、サウンドが一層厚くなります。ひょっとしたら61年8月頃Art Blakey & the Jazz MessengersがやはりCurtis Fullerを加えての3管編成にヴァージョンアップしたのに倣ったのかもしれません、「Artのバンドがフロント一人増やして随分評判良いようだぜ、バンドの音も見栄えも良くなるし、我々もいっちょ増員しようか」という具合に兄弟で話し合い、Yusef Lateefがテナー他フルート、オーボエでの参加、63年には同メンバーで名盤「Nippon Soul」を東京でライブレコーディング、64年頃からCharles Lloydにメンバーチェンジし、以降もコンスタントに3管編成で演奏活動を続けます。

それでは演奏曲に触れて行きましょう。1曲目バラードでSave Your Love for Me、ピアノとベースのユニゾンのラインにコルネットとアルトサックスのアンサンブルが加わり、Nancyのボーカルが始まります。素晴らしい声質ですね!ピッチやタイム感、抑揚の付け方、イントネーション、アーティキュレーション、シャウトした時の声の張り方、トーンの使い分けなど、申し分ありません。女性ジャズボーカリスト御三家であるElla Fitzgerald, Sarah Vaughan, Carmen McRaeたちに比べると、声の成分にややハスキーさ、雑味感が不足気味に聴こえますが、その分ポップスやR&Bのジャンルで通用する持ち味と成り得ます。Nancyは56年にビッグバンドのボーカリストとして活動開始、Cannonballの誘いで59年NYCに進出し同年12月22歳にしてCapitol Recordに「Like in Love」をレコーディング、翌年リリースとなり幸先の良いスタートを飾りました。本作への布石は成されていた訳です。

オブリガードをはじめの8小節Natがミュートで、次の8小節をCannonballが行いますが、アルトの音の物凄い事!pp程度のごく小さい音で吹いているのが分かりますが、倍音成分があまりにも豊富なために強力にマイク乗りが良く、むしろとても大きな音、メチャメチャ鳴っているように感じられます。低音域のサブトーンもテナーサックスと勘違いしてしまうほどの極太さ!伴奏者のソロはなく、Nancyのボーカルのみをフィーチャーした形にしたのは、この後にたっぷりとインストの演奏が控えているためでしょう。

2曲目はNatのオリジナルTeaneck、軽快なテンポによるスインギーなナンバーです。コルネットとアルトのユニゾンによるテーマは音の分厚さを通常よりも感じさせますが、Cannonballのサックスとでは至極当然のアンサンブルです。ソロの先発はCannonball、ブレークから飛ばしています!ソロに入るや8分音符のドライヴ感がたまりません!そしてこの音色の魅力と言ったら!鼓膜からジワッと身体の隅々にまで倍音が浸透し、体液と一体化するが如き快感!(何のこっちゃ?)バッキングのJoe Zawinullも端正なアプローチが印象的ですが、後年のWeather Reportでの演奏やスタイルは想像もつきません。彼は59年にBerklee College of Musicに入学のため故郷Austria Wienから渡米、しかしたった一週間在籍しただけでMaynard Fergusonから仕事のオファーがあり、そのまま米国でミュージシャンの世界に入りました。コルネットを吹くNat、トランペットよりも丸くハスキーな音色は自身の個性を表すのにうってつけの楽器選択です。Zawinullソロの終わりにラストテーマを迎えますが、エンディングのキメも意外性がありレギュラーバンドならではの創意工夫を感じます。名手Sam Jonesのon top感、Louis Hayesの柔軟でタイトなグルーヴから成るリズム隊の好サポートを得てCannonball Quintetの真骨頂と相成りました。

3曲目はFrank LoesserのナンバーでNever Will I Mary、ピアノトリオが活躍するイントロを経てボーカルが登場します。情感豊かに歌詞の内容を噛みしめるように歌うNancy、その後ろでリズミックなホーンのアンサンブルや管楽器各々のオブリガードも聴かれます。ソロはCannonball、短い中にもストーリーとメッセージ性、歌をしっかり表現しています。また彼のタンギングの強力な確実さから、つくづく滑舌の良さを感じてしまいます。アンサンブルとボーカルの一体感が印象的な演奏です。

4曲目はCannonballをフィーチャーしたI Can’t Get Started、夢見心地のアルトサックスが深遠なバラードの世界へと誘います。少し早めのテンポ設定、アレンジされたイントロから始まりますが、実に豊潤な低音域のサブトーン、ビブラートの使い分け、半音進行のⅡーⅤでの巧みで音楽的に高度、それでいてオシャレな音使い、One & Onlyな独壇場サックスプレイは音楽表現の全てを確実に把握して、あらゆる点で過不足なくかつ重厚さを伴って歌い上げています。テーマ奏の後はZawinullのソロが始まります。Austrian man in New York、いまだ自己のスタイルを模索中ではありますが、探究心旺盛な彼は試行錯誤を繰り返し、次第に自己の音楽表現のターゲットを絞って行きました。Cannonballがサビから復帰、前出時よりも饒舌に、ブリリアントにブロウしています。短いcadenza後のエンディングにはこれまた凝った構成のコード進行が設けられています。

5曲目はNatのオリジナルThe Old Country、Nancyの歌う歌詞をCurtis Lewisが書いていますが、こちらは哀愁を帯びた名曲です。スタンダード・ナンバーばかりではなく、メンバーのオリジナルに歌詞を付けたものを収録するのは良いですね!ピアノのイントロからホーンの短いアンサンブルに続き、姫の登場です。さりげないアンサンブルが随所に挿入され曲のムード作りに貢献しています。こう言った曲想だとNancyの歌声はやや明るめに聴こえ、歌唱にもダークさがもう少し欲しいところです。そこをまさに挽回すべく、Cannonballのソロが暗明るい(くらあかるい)テイストで切り込んできます!何と雰囲気に合致しているのでしょう!Zawinullのソロを経てホーンセクション、ボーカルが入ります。アウトロはイントロの再利用が成されています。Keith Jarrettが85年Paris録音の作品「Standards Live」で取り上げており、この曲をどのように演奏すれば良いのかを熟知しているかの如き、こちらも素晴らしい演奏に仕上がっています。

6曲目はZawinullのインスト・ナンバーOne Man’s Dream、マイナー調で50年代の雰囲気をたたえたナンバーですがプラスワンの味付けが良い感じです。先発Cannonballのソロはここでも絶好調!というかサックスの音色が超素晴らしければそれだけで名演奏に成り得てしまうのでは、と思わせます。改めてCannonballのソロのフレージング、方法論を鑑みると、そこには全くCharlie Parker臭がしません。やはりBenny Carterの流れを汲むスタイルと実感しました。

弟Natはおそらく兄Cannonballの事を心底尊敬していたでしょう、兄弟でミュージシャン、バンドを組み、長年共演できる関係を保つためには、弟の兄に対するリスペクトが不可欠です。日本でも日野皓正、元彦兄弟が有名ですが、元彦氏が心から兄を尊敬し、自身もその兄と共演を保てるように一生懸命に練習、研鑽したと仰っていました。「俺ら兄弟が共演出来ているのは音楽的レベルが同じだからなんだ」と言う言葉が印象に残っています。Adderley兄弟は圧倒的な兄の音楽性がバンドの表看板であり、兄の演奏を決して喰わない弟のごく自然体の控え目さ、加えて確実なアンサンブル能力、作曲面での貢献が兄弟の関係を均衡の取れた、円満なものにしています。裏看板Natのソロに続きますが、超個性的ではないものの決して破綻せず常に安定走行、時として兄の影武者になり演奏を上手く纏める能力も持ち合わせています。Natのソロ後Cannonballが主体となったホーンのメロディが挿入されZawinullのソロに移ります。2ndリフがピアノソロ後に入りますがこちらもメチャメチャ素晴らしい!ラストテーマを迎え、エンディングに凝る事の多い当バンドらしく(笑)、聴き応えのあるアンサンブルを演奏しています。

7曲目はRichard Rodgers, Oscar Hammerstein Ⅱ名コンビによるナンバーHappy Talk。おそらくアレンジはZawinullのペンによるものでしょうが、ここでもその才が光ります。イントロはリズムセクションのペダルポイントの上で、ミュートを用いたNatのフィル、タイトル通りの雰囲気でボーカルが入って来ます。随所に施されたアンサンブル、オブリガードが実に魅惑的です!こちらはレコードのB面1曲目に該当し、短い演奏ながらボーカルとアンサンブルの密度の高いやり取りを聴かせていて、裏面のオープニングに相応しい演奏になりました。エンディングではコルネットとリズム隊がキメを共有しアンサンブルを聴かせつつ、Cannonballがソロを取りますが例えばキメにもう1管加わり、ハーモニーが厚くなればゴージャスさが倍増した事でしょう。煌びやかななサウンドを常に念頭に置いているCannonball、この辺の事情も3管編成に増強された理由の一つだと考えています。

8曲目NatのオリジナルNever Say Yes。ベースの印象的なパターンに始まり、Miles Davisの61年作品「Someday My Prince Will Come」をイメージさせるミュート・サウンドでテーマが演奏されます。Hayesのブラシワークも見事ですね。引き続きのNatのソロ、これはもうMilesそのもの、瓜二つ状態、兄がMilesのバンドに在籍していたのもあり影響を受強くけているのでしょうが。本作レコーディング時はまだ「Someday My 〜」はリリースされていませんでしたが、Milesのライブやコンサート、旧作でのプレイから自ずと吸収していたのでしょう。続くCannonnballのソロには男の色気と余裕、ユーモアを感じ、ここでも僕自身はうっとりとさせられてしまいます!ピアノソロ後再びMilesの登場、いや(汗)、Natのテーマ奏で締め括られます。

9曲目The Masquerade Is Overは切なさを表現したバラード、切々と訴えかける歌唱にホーンが加わらず、本作中唯一ピアノトリオだけをバックにした演奏で、彼女のネイキッドの魅力を引き出しました。エンディングは感極まったシャウトを聴くことが出来ます。

10曲目Sam JoneのオリジナルUnit 7、Cannonball Bandのテーマソングとしても知られ、本演奏が初演となります。よく練られた構成とメロディからJonesの代表曲に挙げられますが、他にもBlues for Amos, Seven Mindsといった名曲を書いています。ソロの先発はCannonnball、切り込み隊長は果敢に立ち向かい、スインギーでグルーヴィー、迫力ある素晴らしい演奏を聴かせます。サビの細かいコード進行では案の定手練れの者を演じていますが、Cannonball自身のオリジナルである「Cannonball Adderley Quintet in Chicago」収録Wabashも、半音進行から成るⅡーⅤの連続部分では巧みにアプローチしており、大きく豪快に歌うソロの中にも繊細さを盛り込むことが出来る、バランスの取れたプレイヤーなのです。Nat, Zawinullとソロは続きラストテーマへ。

11曲目はHarold Arlenの名曲A Sleepin’ Bee、魅力的な佳曲です。ピアノのイントロの後、ベースとボーカル二人で演奏が始まりドラム、ホーン、ピアノと加わります。Nancy屈託のない明瞭な発声による歌唱で曲の持つムードを表現します。Cannonballはメロディを交えながらこちらもスインギーなソロを展開します。それにしても楽器を見事に鳴らしていますね!サブトーンと上の音域とが全てイーヴンです。ラストはイントロと同様にベースと二人になり、Jonesがエンディングを締め括ります。

2020.06.28 Sun

Captain Marvel / Stan Getz

今回はStan Getz1972年3月録音のリーダー作「Captain Marvel」を取り上げてみましょう。Billy Strayhorn作のバラード1曲を除き、全曲Chick Coreaのオリジナルを取り上げ、至高のメンバーと素晴らしい演奏を繰り広げています。

Recorded: March 3, 1972. A&R Studios, New York City Label: Columbia Producer: Stan Getz

ts)Stan Getz electric piano)Chick Corea b)Stanley Clarke ds)Tony Williams perc)Airto Moreira

1)La Fiesta 2)Five Hundred Miles High 3)Captain Marvel 4)Times Lie 5)Lush Life 6)Day Waves

ジャケット表面
ジャケット裏面

Getzの伝記「Stan Getz / A Life in Jazz: Donald L. Magginースタン・ゲッツ―音楽を生きる―村上春樹訳」によると、この作品録音の少し前、彼は生活が荒れて体調も優れない日々が続いていたようです。レジェンド・ジャズミュージシャンの伝記はその数だけ世の中に出回っていますが、Getzの場合も御多分に漏れず出版されており、日本ではジャズ通として名高い作家、村上春樹氏が翻訳を手掛け、微に入り細に入り的確な表現で読むことが出来ます。熱心なGetzファンの方ならこの本をご存知の事でしょう、ひょっとしたら座右の書にして彼の音楽的歩みを紐解きながら作品を鑑賞しているかも知れません。実は僕はその一人なのですが、前後作品との関連性と成り立ち、ミュージシャンやレコード会社とそのスタッフとの関わり、Getz自身の思い、家族との葛藤や愛情を辿りながら彼の作品を聴く事は、新たな発見や種明かしにも通じて、Getzの音楽を知る上での実に楽しい行為の一つです。それにしてもよくもこれだけ生々しく赤裸々に、全てを曝け出すように人生を吐露出来るのか、詳細に述べられている記述、Miles Davisの自伝の時もそうでしたが本人の驚異的な記憶力、また綿密な周囲へのリサーチ、事実関係の確認には頭が下がります。

神からの授かり物のようなあの美しいテナーサックスの音色、誰よりも表情豊かな演奏、完璧なタイム感とクリエイティヴなインプロヴィゼーション、聴く者を真善美の世界へと誘う創造性を全面に掲げたStan Getzですが、実は私生活は同一人物の行いとは想像できないほど真逆の世界なのです。ジキル博士とハイド氏、過度の飲酒行為に端を発する酒乱癖から(この頃はより症状が劣悪なドラッグ禍からは脱していましたが…)、家族に暴言を吐く、暴力を振るうGetzに対し、妻がこっそりと服用させていたアンタビュース(抗酒癖剤〜アルコール依存症で飲酒を控える必要がある人に対し、断酒を目的として処方される薬。少量の飲酒で動悸、吐き気、頭痛等の不快感を覚える)が功を奏し、71年末酒量は適度なレベルに落ち着き、69年末の危機的状況から肉体的にも芸術的にも回復を遂げていました。

本作レコーディングの少し前、GetzはNew Yorkの高名なレストランRainbow Grillとの間で好条件の出演契約を結び、72年1月3日から演奏が開始されることになっていたので、当時滞在していたLondonを引き払い自宅のあるNew York Shadow Brookに戻るべく準備をしていました。その時Londonの街角でばったりとChick Coreaに出会ったのですが、彼とは67年3月録音の名盤「Sweet Rain」で見事なコラボレーションを遂げた間柄です。Coreaはこの頃一時的に、言わば仕事にあぶれた状態だったので、Getzの姿が救世主に見えたかも知れません、彼に対し自分が作曲中の幾つかの曲について熱く語り、また一緒に演奏したいと考えている二人のNew Yorkのミュージシャンについてもその素晴らしさ説きました。Coreaの熱心さはGetzの心を動かし、新曲を完成させるようにと困窮しているCoreaに金銭的援助を施し、12月後半にその仲間を連れてShadow Brookに来るように、そこでリハーサルをしようと決めたのでした。ストレスによる飲酒行為から離れた、クリーンな状態のGetzはまさしく彼のテナーサックスのサウンドと同様の、思慮深く知的で他人を思いやる心に満ちた紳士なのです。ちょうど欧州を離れる前にGetzは5年連続でSonny Rollinsを破って<ダウンビート>誌の人気投票で首位に輝いた事を知りました。時代の波はGetzに向かっていたのです。

CoreaがGetzの自宅に連れてきたのはStanley ClarkeとAirto Moreiraの二人で、Coreaを含めるとピアノトリオが出来上がり、そこにGetzを加えたカルテットで自分の曲を演奏するという目論見があったのでしょう。Clarkeは70年にHorace Silverのバンドで演奏しているところをCoreaに見染められ、MoreiraはMiles Davis Bandでの共演仲間でした。GetzはCoreaの新曲を大変気に入りました。「 Sweet Rain」収録とは異なり、今回用意されたナンバーは曲自体の構成もより明確に、メッセージ色が強くなり、またスパニッシュのムードをたたえた斬新なコンセプトから成ります。Clarkeのベースプレイにも感心しましたが、Moreiraのパーカッショニストとしての実力は認めたものの、ドラマーとしての伴奏能力には物足りなさを覚えたので、レコーディングに際して名ドラマーTony Williamsを起用し、Moreiraはバンドのパーカッシヴな領域を広げる役に配して対応することにしました。TonyはGetzの演奏に確実に寄り添う形で、しかも驚異的なセンスとパワーを兼ね備えたドラミングを披露し、MoreiraはTonyを補強しつつよりカラーリングする役割を担当、Clarkeのベースともコンビネーションの良さを聴かせ、結果この采配は大成功となりました。このメンバーでのRainbow Grillでの演奏は大変な評判を呼び、彼ら自身もCoreaのオリジナルという新鮮な素材を文字通りグリルし、じっくりと煮詰めて行くことが出来たので、レコーディングへの良いリハーサルとなりました。

それでは演奏に触れて行きたいと思います。1曲目はCoreaの書いた名曲中の名曲La Fiesta、本作録音のちょうど1ヶ月後の2月2〜3日、レコーディング・スタジオも全く同じNYC A&Rスタジオにて彼の代表作「Return to Forever」が録音されましたが、レコードのSide Bにおいて組曲形式でLa Fiestaを再録音しています。Coreaはやはり全曲エレクトリック・ピアノを弾き、サックス奏者にJoe Farrell、パーカッションを担当していたMoreiraがドラムの椅子に座り、そのMoreiraの奥方Flora Purimがボーカルを担当、Tonyのドラムは参加せず5人編成の演奏で、70年代を代表するアルバムが録音されたのです。以降作品タイトルReturn to Foreverをバンド名とし、メンバーチェンジを繰り返しながらギタリストを加えたり様々な編成にトライしつつ、次第にエレクトリック色が濃くなり、精力的な活動で計11作をリリースして。

Fender Rhodesによるイントロに導かれベース、ドラム、パーカッションが同時に加わりますがこの時点でリズミックなテンションが炸裂しています。Moreiraにパーカッションを演奏させたGetzの目利きにまず感心させられますが、様々な打楽器を駆使して繰り出すリズムの饗宴!Tonyにリズムの要、Getzの演奏への対応をほぼ一任し、Moreiraは細かい8分の6拍子を担当、リズムの祭り(Fiesta)を華やかに演じます!裏メロと思しきラインをCoreaが弾き、被るようにGetzによる主旋律が登場します。1ヶ月後の「Return to Forever」でのJoe Farrellによる演奏はソプラノサックスによるもの、こちらも実によく耳にしたメロディ奏なので違いがはっきりと伝わって来ますが、Getz特有のくぐもったハスキーな音色は奥行きを感じさせ、名曲は如何様にしても異なった魅力を発揮すると再認識しました。幾つかのメロディセクションから成るこの曲の、場面毎のリズムセクションのダイナミクス付け、グルーヴの変化に繊細さと大胆さを感じますし、Clarkeの変幻自在なベースラインの見事さには天賦の才を見せつけられました!スパニッシュ・モードから成るソロセクション、こちらはCoreaの歴代オリジナルに用いられていたパートの発展形と言えます。「Now He Sings, Now He Sobs」収録のSteps – What Was、「Sweet Rain」収録のWindows、両曲で部分的に聴かれていたスパニッシュ・モードを大胆に、全面に押し出し、結果その代表曲となり、そして同年10月に録音された「Lght as a Feather」収録、Coreaの代表曲にして傑作ナンバーSpainへと繋がって行きます。

前半序奏部Getzはムード作りに細かいライン、テクニックを用い場を温めて行きます。とは言え曲自体の持つテンションが高いのでリズム隊のポテンシャルは一触即発状態ですが!Coreaのバッキングは付かず離れずをキープしつつ、全くバッキングを行わない場面も設けながらGetzを泳がせているのですが、いつもとは異なる斬新なアプローチを聴かせる彼の演奏にどうバイト(噛み付く)するかを虎視淡々と狙っています!3’23″頃からソロの佳境に入ったのを察知しまさしく第二楽章に突入、3’29″からのCoreaのバッキング、3’46″からテナーの低音域でのメロディ奏、一転して4’03″からオクターヴ上げてのメロディに対し、Corea果敢にして大胆にバッキングを施し、Tonyも場面作りに賛同するが如くアプローチします!次なる異なったセクションに全くスムースに突入出来るのは、Rainbow Grillでのギグを重ねた結果に他ならないでしょう。Clarke, Tonyの「えっ?ここまでやっちゃうの?」と言う次元の伴奏にはリスナーとして姿勢を正し、背筋を伸ばして正座しながら音楽に対峙しなければなりません(笑)!続くCoreaのソロの凄まじい事と言ったら!Getzのフィーヴァーぶり(死語ですね)を受け継いだのですからこれは致し方ない事ですが(笑)、フリージャズの世界に突入せんばかりの勢いは、思わず70年頃に彼の率いていたバンドCircleでの演奏を思い出しました。

Anthony Braxton, Corea, Dave Holland, Barry AltschulによるCircleのパリでのライブ盤

リズムセクションはCoreaと一丸となってグルーヴを共有し盛り上がっています。時間的制約のないRainbow Grillのライブではさらに物凄い事になっていたのでしょうが。ラストテーマでもリズム隊はメロディラインや曲の構成を更にデコレーションを施すべく、聴いていて笑いが出る程に巧みにアンサンブルして行きます!エンディングはゼンマイ仕掛けの猿の人形、両手で派手に叩くシンバルが次第にゆっくりに成るが如く、リタルダンドしてFineです。

本作録音の頃Getzは20年間在籍していたVerve Recordを離れ、より良い条件のColumbia Recordに移籍するべく交渉を行っていましたが、スムーズにはまとまらず、その結果アルバムの発売は3年近く遅れることになり、発売権も米国内市場ではColumbiaが、以外の海外市場ではVerveが発売権利を持つややこしい事態となりました。本作が録音順で「Return to Forever」よりも先にリリースされていれば、La FiestaはGetzヴァージョンの方がポピュラー、定番になっていたに違いありません。個人的には演奏内容はこちらの方に軍配が上がると信じているだけに、些か残念な話です。

2曲目のFive Hundred Miles High、エレクトリック・ピアノが弾くテーマ・メロディのルパートがイントロとなり、リズムを提示し曲が始まります。Even 8thのリズムで哀愁を感じさせるメロディ、Coreaにしては比較的シンプルなオリジナルですがよく練られた構成のナンバーです。Getzのメロディ奏は的を得ていて、ソロも実に巧みです!50年代〜60年代のスタイルとは全く異なる、変化を遂げているのを実感しました。ソロの3コーラス目から倍のグルーヴ、サンバにチェンジしますが4コーラス目3’04″から、Tonyの煽り方の凄まじい事!かつて僕が在籍していたドラマー日野元彦(トコ)さんのバンド、音楽としてはフュージョンを演奏していましたが、ここでのTonyの演奏をトコさんずいぶんと研究した節が窺われます。ソロイストに寄り添い、フォローしつつ、様子を伺い隙なく一瞬を捉えて違う次元に演奏をワープさせるが如きドラミング、二人は同じコンセプトをたたえたドラマーでした。随所に聴かれるMoreiraのパーカッションは様々な色合いを感じさせ、爽快感を覚えます。Coreaのソロでもサンバのリズムが聴かれますが、テナーソロ時とはまた異なった音が鳴り響いています。Clarkeのベースソロは超絶で饒舌はありますが、必然性と意外性を旗頭に自身の歌を聴かせています。ラストテーマに入る前のTonyのバスドラ、カッコイイですね!ラストテーマで所々に演奏中表出したサンバが出るあたりもニクイです!それにしてもTonyとClarkeの相性の良さを痛感しますが、Tonyのラスト作になった95年12月録音「Wildernesss」、彼自身の作曲になるストリングス・オーケストラの演奏もフィーチャーした意欲作ですが参加メンバーがオールスターズ、Michael Brecker, Pat Metheny, Herbie Hancock, そしてStanley Clarke!二人のコラボは長年に渡り継続していたようです。

3曲目は表題曲Captain Marvel、リズミックなテーマとサンバのリズム、ラテンのmontunoのパターンが組み合わされたユニークなナンバー、こういった曲を収録するのであれば尚更の事、パーカッションが必要になって来ますね。リズム隊のコンビネーションが心地よく聴こえますが、曲のコード進行や構成のハードルがかなり高く設定されているようで、アドリブを発展させるのはなかなか難しいようです。比較的あっさりと演奏され、コンパクトにまとめられた感があります。03年にリリースされたCDにはこの曲の別テイクが収録されていますが幾分テンポが早めに設定され、Getz, Coreaも全く違ったアプローチを聴かせています。

4曲目Times Lieはワルツで始まり、3拍を4拍子に捉えたサンバにリズム・モジュレーションする構成のナンバー。パーカッションの味付けが巧みです。Coreaの演奏が軸となり、印象的かつ難易度が高そうなシンコペーションのメロディがアクセントで入り、再度演奏後にテナーソロ開始、場を活性化させるべくリズミックなアプローチにトライしており、ここでもCoreaのバッキングの付かず離れず感が印象的です。次第に収束に向かい、冒頭のワルツに戻るという、ストーリー仕立ての演奏です。最後はゆったりとしたラテンのリズムになり、なし崩し的にFineです。

5曲目はBilly Strayhornの名曲Lush Life、Getzはバラードの名手でもありますし、時期限定で取り上げる曲のチョイスが素敵です。バースはルパートで始まり、エレピとアルコが伴奏を努めます。テーマからインテンポでTonyがブラシを携え参加しますが既に倍テンポの様相を呈しており、いきなりスティックが登場して一瞬スイングのリズムになりますが、すぐさまリタルダンド、演奏終了です。ちなみにTonyのバラード演奏でブラシを一切使わず初めからスティックを用いて行われているのが、76年録音作品「I’m Old Fashioned : Sadao Watanabe with the Great Jazz Trio」に収録されている、同じくStrayhorn作Chelsea Bridge です。外連味のないストレートな演奏に仕上がっていますが、印象的なナンバーです。

6曲目はラストを飾るDay Waves、こちらもEven 8thのリズム、テーマでダイナミクスが強調されています。Getzが吹くラインで倍テンポが決まりますが、構成がやや平坦なきらいがあり、他の曲でも倍テンポチェンジは行われているので、何が何でも倍テンにせずにじっと元のリズムでステイして、アプローチするのも良かったと思うのですが。ピアノ、ベースとソロが行われ、ラストテーマもGetzダイナミクスを思いっきり強調してFineです。

2020.06.17 Wed

Milagro / Alan Pasqua

今回はピアニストAlan Pasquaの1993年初リーダー作「Milagro」を取り上げてみましょう。Jack DeJohnette, Dave Hollandらの素晴らしいリズムセクションにMichael Breckerがゲスト参加、名曲揃いのオリジナルで盛り上がり、時にユニークな楽器構成のホーン・アンサンブルも加えて美しく荘厳な世界を作り上げています。

Recorded on October 10 and 11, 1993, at Sound on Sound, New York City.

Produced by Ralph Simon. Associate Producer: Joe Barbaria. Executive Producer: Sibyl R. Golden.

p)Alan Pasqua b)Dave Holland ds)Jack DeJohnette ts)Michael Brecker french horn)John Clark tp, flg)Willie Olenick alt-fl)Roger Rosenberg tb, btb)Jack Schatz bcl)Dave Tofani

1)Acoma 2)Rio Grande 3)A Sleeping Child 4)The Law of Diminishing Returns 5)Twilight 6)All of You 7)Milagro 8)L’Inverno 9)Heartland 10)I’ll Take You Home Again, Kathleen(For My Kathleen)

Alan Pasquaは1952年6月28日New Jersey生まれ。Indiana UniversityとNew England Conservatory of Musicで学び、レジェンド・ピアニストであるJaki Byardにも師事したそうです。彼のプレイの根底にあるものはJazzであり、Tony Williams, Peter Erskine(現在も共演は継続中、Peterとは学生時代の仲間だそうです), Allan Holdsworthたち錚々たるジャズマンとの共演は当然の流れによるものですが、Bob Dylan, Carlos Santana, Cher, Michael Buble, Joe Walsh, Pat Benatar, Rick Springfield, John Fogerty, Ray Charles, Aretha Franklin, Elton Johnら世界的大御所ポップ、ロック・ミュージシャンのバンドで全世界ツアーを重ねています。またJohn Williams, Quincy Jones, Dave Grusin, Jerry Goldsmith, Henry Manciniら名アレンジャーともコラボレーションを重ね、Disneyの映画音楽、CBS Evening Newsのテーマ音楽を手掛けるなど、Show Businessの世界でも八面六臂の活躍ぶりです。音楽的な幅の広さが為せる技以外の何物でもありませんが、彼にとってみればジャンルやフィールドは関係なく、良い演奏、表現をする事だけが全てなのだと思います。ミュージシャンとして全世界を駆け巡っている以上様々な体験をしているはずですが、その中でも近年の特筆すべき経歴として、2017年Bob Dylanのノーベル文学賞受賞に際しての講演(受賞講演が受賞にあたって唯一の条件で、授賞式2016年12月10日から6カ月以内に行わなければならない)は録音されたもので行われましたが、その際にPasquaがソロピアノ演奏を行ったそうです。Pasquaには大御所たちにアピールする音楽的な何かがあり、彼と一緒に演奏したい、メンバーに留めて置きたいと感じさせる魅力に溢れているのでしょう。41歳にしての初リーダー作録音は大御所ミュージシャンから引く手数多ゆえ、なかなか自己表現にまで手が回らなかったからでしょうか。

この作品ではJack DeJohnette, Dave Hollandとのトリオ演奏を中核として、他にフレンチホルン、トランペット&フリューゲルホルン、アルトフルート、バスクラリネットから成る、比較的弱音の管楽器を用いてのアンサンブルが4曲収録されていますが、ここでイメージさせられるのがHerbie Hancockの68年録音リーダー作「Speak Like a Child」です。この作品では同様にアルト・フルート、フリューゲルホルン、バストロンボーンの3管編成が、斬新にして深淵、柔らかさとふくよかさが半端ないアンサンブルを聴かせており、Hancockのピアノプレイをとことんバックアップし、サウンドを立体的に浮かび上がらせています。ピアノトリオ演奏を他の楽器を用いて映えさせる手立てとして、例えばトランペット、サックス、トロンボーンによるトラッドなアンサンブルではエッジが立ち過ぎてピアノの演奏を打ち消す、埋もれさせてしまうでしょうし、ストリングス・セクションではバラード等のゆっくりとした曲にはむしろうってつけですが、テンポのある演奏には切れ味がどうしても鈍くなる傾向にあります。Hancockのシャープでスピード感のある演奏には管楽器の音の立ち上がりを持ってして丁度良く、そこで楽器編成に工夫を重ね、凝らした結果が「Speak Like ~」での管楽器構成になったのだと推測しています。とあるピアニストが「 Speak Like ~」はピアノトリオを自己表現の媒体とするプレーヤーにとって、ある種理想の形態だと発言していましたが、まさしく言い得て妙だと思います。

それでは収録曲に触れて行きましょう、2曲を除き全てPasquaのオリジナルになります。1曲目Acoma、ピアノトリオでの演奏です。美しい音色で奏でられる印象派的イントロ、そこにベースやドラムが次第に加わります。テンポを設定しつつ曲が始まりますがピアノタッチの素晴らしさに惹きつけられてしまいます!演奏をアピールするためには楽器の音色(ねいろ)は最重要項目だと改めて実感しました。端正な8分音符とグルーヴ感、ベース、ドラムスとのコンビネーション、インタープレイ、三者の一体感、Dominant 7thコードでのフレージングの巧みさ、百戦錬磨のツワモノを印象付けます。ソロは次第に終息に向け着陸態勢を取り、無事にランディング、続くベーシストの出番のために場を刷新した感があります。Hollandのソロのこれまた素晴らしいこと!安定感とスポンテーニアスな歌い回し、楽器が上手いのは至極当然なのですが、テクニックとは自分の歌を歌うための単なる手段に過ぎない事を、これまた改めて感じました。DeJohnetteの巧みなサポート、カラーリング、抜群のセンスで繰り出されるフィルイン、フレーズの数々は自然体という言葉が全く相応しく、ジャズ史上誰よりも1拍が長い演奏にトリオ全員が呼応し、両者「がっぷり四つ」ならぬ三者「がっぷり六つ」状態となりました(爆)。

2曲目Rio Grande、イーヴン8thのリズム、タイトル通りの雄大なイメージ(スペイン語で大きな川の意味)を感じさせます。本作中最も演奏者数の多い曲で、ソロイストにMichael Breckerを迎え、4管からなるアンサンブルが参加しています。長い音符の多いテーマをダイナミクスを交え、朗々と吹くMichael、DeJohnetteのタム系でのアクセント付けの絶妙さ。ソロの先発はピアノ、ボトム感が半端ないスペーシーさを保ちつつ、現れるホーン・アンサンブルの美しさ、ゴージャスさ、ピアノサウンドとの見事な一体感、Pasquaの狙いはBingoです!と同時にドラムが的確にフィルを入れ、場が活性化されて行きます。テナーソロに受け継がれ、やはりスペーシーに音楽が進行しつつ、間も無く再びアンサンブルが加わりますが、このサウンドに呼応してMichaelのプレイが変化し始めます。ラインが細かくなりインサイドからアウトサイドに、音域も広がり、自身は周りで鳴っている音を柔軟に全て受け入れ、いずれにも可能な限り呼応すべく門戸を全開にしようと試みているようにも、感じられます。そしてそして、これらの事象に果敢に立ち向かうかのように、音空間を創り上げるDeJohnetteのドラムプレイ!音楽を真摯にクリエイトしていますが、余裕とさり気に遊び心を保ち、達人たちを巻き込んでの音の饗宴は華々しく挙行され、悠久の流れをたたえる大きな川は今日も水源San Juan山地に発し、Mexico湾に注いでいます。

3曲目ピアノトリオによるA Sleeping Child、タイトルからもイメージされますが可愛らしさを湛えたワルツナンバーで、透徹な美学に貫かれた佳曲です。テーマ〜ソロをPasquaは音を愛おしむように一音一音、気持ちを込めて弾いているのが伝わってきますが、自分の子供へ捧げたナンバーなのかも知れません。Chick Coreaのテイストを感じさせる瞬間も幾つか確認できます。Hollandのソロは曲のイメージに相応しいクリアネスを保ちつつ、ディープな音色を携えて歌い上げています。DeJohnetteが叩く全ての音符に意味があり、サウンドし、ソロイストに対する呼応は高度な音楽性を伴ってのインタープレイとなりました。

4曲目Michaelを迎えてカルテットで演奏されるThe Law of Diminishing Returns、これは!!タイトルもですが物凄い曲!そして壮絶な演奏です!タイトルは経済学用語で「収穫逓減」を意味するらしいですが、意味はよく分かりません(汗)。テーマの構成は複数のフラグメントが組み合わされつつ複雑に入り組み、しかし事も無げに同時進行し、完璧なバランス感がキープされつつ実にスリリングに演奏されます。要となるのはDeJohnetteのドラム、各フラグメントの接着剤となるべく巧みなフィルインの連続、間違いなくこの人の存在なくしては楽曲は成り立たなかったでしょう!ソロの先発はPasqua、曲が凄けりゃ演奏は更に物凄いとばかりに集中力と繊細さと大胆さを武器に、百戦錬磨のツワモノたちDeJohnetteとHollandをパートナーに究極の共同作業を行います!う〜ん、素晴らしいです!でも、え?終わりですか?もっと聴きたい!と言う腹八分目のところでMichaelのソロになります。彼のゲスト参加での傾向の一つとして、リーダーのソロが自分の前に行なわれた場合、リーダーの演奏を立ててそこでの盛り上がり以上にはならないように、抑制を効かせる場合があります。2曲目Rio Grandeでは若干その傾向がありましたが、こちらではどうでしょう、Pasquaの幾分抑えめのソロ終了時にメッセージで「Go ahead, Mike!」とオペレーションの指示があったようです(笑)。ピアノソロのイメージを受け継ぎ、Michael助走を始めます。リズムセクションにサポートされつつHop, Step, Jumpと飛翔を遂げますが、DeJohnetteの一触即発体制でのレスポンスが堪りません!決して定形での対処ではなく、極めて不定形での自然発生的な呼応の数々、そしてPasquaのバッキングも緻密さを前面に出しつつ、ドラムの呼応に被ることを決してせず、異なる切り口からMichaelのソロをプッシュし続けます!と言うことで共演者の大いなる支援を得て(笑)、Michaelフリーキーにイってます!!その後のソロコーラスを用いてのドラムソロ、いや〜ヤバイくらいにカッコ良いです!ここでのDeJohnette, Hollandとの共演の手応えが同メンバーにPat Metheny, McCoy Tyner, Joey Calderazzo, Don Aliasを加えたMichael1996年リリースの傑作「Tales From the Hudson」へと繋がって行きます。エンディングでのDeJohnette、まだ曲が続くと勘違いしたのでしょうか、珍しく中途半端な終わり方をしています(汗)

5曲目Twilightは再びアンサンブルが活躍、ここでは3管編成を加えた演奏になります。アルトフルートを吹くRoger Rosenbergは本来バリトンサックス奏者ですが、マルチリード・プレイヤー、スタジオ・ミュージシャンとしても活躍しています。Michael Breckerとは高校時代のご学友、Michaelの初レコーディング(!)にあたる「Ramblerney ’66」の裏ジャケットに17歳のMichaelとRosenbergそしてRichie Coleも写真に収まっています。

Roger Rosenberg, Barry Lewis, Richie Cole, Mike Brecker, Lou Markowitz, Walter Kross

ホーンの響きと楽曲のムードが見事にマッチした佳曲、Hollandのベースがフィーチャーされます。ここでのPasquaのバッキングは危ないですね(笑)!ハーモニーのセンス、フレージング、コードが入るポイントが普通ではありません。この人のバッキングはあまりソロイストに付けることをせず、自分のペースでバッキングを行いますが、不思議と邪魔をせずサウンドし、付かず離れずを徹底させていると思います。続くピアノソロも同一のテイストを継続させ、ほど良きところでアンサンブルが加わります。ピアニスト冥利に尽きる演奏となりました。

6曲目スタンダードナンバーでCole Porter作の名曲All of You、比較的早めのテンポが設定されています。コードのリハーモナイズ感、フィルイン、アドリブラインの独特さ、DeJohnette, Hollandの目も覚めるような伴奏により、この曲のまた別な名演が誕生しました。Hollandのソロも素晴らしいです!それにしてもDeJohnetteは曲想によって演奏アプローチ、叩き方をどうしてこうも見事に変えることが出来るのでしょうか?これ以上は考えられないという程の的確さにいつもシビれてしまいます!

7曲目表題曲Milagro、ベースのイントロから曲が始まり、南欧を思わせるピアノとベースのユニゾン・メロディ、サウンドに4管から成る重厚なアンサンブルが加わり、クラシックの交響曲のごとき神聖で厳かな世界が訪れます!この時点で音楽に感動、そして感動です!何と美しい楽曲でしょう!そしてDeJohnetteのカラーリングがあまりにハマり過ぎています!Pasquaはロック・ポップスの大御所たちとのギグに長年惚けていた訳では決してありませんでした(笑)!自己の表現すべき音楽をずっと模索し、表出する機会を虎視眈々と狙っていたに違いありません。ピアノソロが前面的にフィーチャーされますが、欧州的サウンドとDeJohnetteのドラミングからKeith Jarrett Trioの演奏を感じさせる瞬間がありました。Milagroとはスペイン語で奇跡、Pasquaは音楽で奇跡を起こしたのです!

8曲目再びMichaelを迎えL’Inverno、ピアノイントロ後で聴こえる高音域のテナーサックスの音色が一瞬何の楽器だろう?と考えてしまいました。美しいバラードですがこの曲も一筋縄ではいかないナンバーです。ベースソロが先発、豊かな木の音がベーシストとしての本領をいつもわきまえている事を感じさせます。続くMichaelのソロには神秘的なまでに美しい世界を構築していますが、ピアノのバッキングに身を委ね、イマジネーションをフル回転させ、Pasquaのサウンドに同化しつつ、しかし自己のテイストも表現しようとするアーティスティックさも感じました。もちろんDeJohnette, Hollandの包容力あるサポートがあってのことですが。

9曲目Heartlandは3管編成によるアンサンブルを活かしたナンバーですが、シンプルなメロディに付けられた相反するが如きハイパーなコードと、ホーンのアンサンブルのハーモニーがヤバ過ぎです!ところが最後にトニック・コードにストンと落ち着く辺りの絶妙さは、ちょっとこれ、ありえへんレベルとちゃいまっか?… なぜか関西弁になってしまうほどのインパクトです!(爆)。イントロやインタールードでフルートを吹くRosenbergのフィルインが聴かれ、アンサンブルでのバストロンボーンが重厚さをアピールします。まずピアノソロがフィーチャーされますがリアル「Speak Like a Child」状態、ホーンアンサンブルが実に心地よいのですが、ベース、ドラムのインタープレイも凄まじいまでの主張を聴かせます。Pasquaのソロはリリカルで知的、かつ気持ち良く演奏している様が伺えます。続くベースソロも攻めまくっていますが、曲の持つムードとコード進行、ピアノソロ時のトリオのコンビネーション、アンサンブルの重厚さなどがHollandのスインガー魂を刺激した結果なのでしょう。

10曲目I’ll Take You Home Again, Kathleen(For My Kathleen)は作品のエピローグとして、愛する奥方でしょうか?捧げられた演奏になります。古い米国のポピュラーソング、Elvis Presleyの歌唱で知られているようです。

2020.06.10 Wed

Triple Threat / Jimmy Heath

今回はテナーサックス奏者Jimmy Heath 1962年録音のリーダー作「Triple Threat」を取り上げて見ましょう。佳曲揃いのオリジナルと3管編成のアレンジが光った作品に仕上がっています。

Recorded: January 4 & 7, 1962 at Plaza Sound Studios, New York City Produced by Orrin Keepnews Label: Riverside / RLP 400

ts)Jimmy Heath tp)Freddie Hubbard French Horn)Julius Watkins p)Cedar Walton b)Percy Heath ds)Albert “Tootie” Heath

1)Gemini 2)Bruh Slim 3)Goodbye 4)Dew and Mud 5)Make Someone Happy 6)The More I See You 7)Prospecting

Jimmy Heathは1926年10月25日数多くのジャズマンを輩出したPhiladelphia生まれ、家族全員が音楽家という環境で育ちました。本作参加のベーシストPercyは長兄、ドラマーAlbertは弟でHeath三兄弟として名高く、同じくPhiladelphia出身のピアニストStanley Cowellを加えたカルテット編成で、The Heath Brothersとしてもパーマネントに活動し、75年作品「Marchin’ On!」を皮切りに計10作をリリースしました。兄弟、親子関係でバンドを組む、共演するミュージシャンは多く、同じ屋根の下で寝食を共にし価値観を共有したゆえに音楽的嗜好、センス、そしてタイム感、グルーヴが似る傾向があると思います。Heath兄弟も多分に漏れません。やはり同世代で大活躍したHank, Thad, ElvinのJones三兄弟の場合は、三者三様の全く違う音楽性や卓越した個性ゆえに例外的な存在かも知れませんが、ジャズシーン第一線で活躍し続けた各々の楽器のエキスパートと言う点では、同じ立ち位置にいました。

The Heath Brothers 75年作品「Martin’ On」

Jimmyはテナーサックス奏者であると同時に優れたコンポーザー、アレンジャーでもあります。彼の魅力的なオリジナルは他のジャズマンにも好んで取り上げられ、Miles Davis66年録音作品「Miles Smiles」でGinger Bread Boyを、53年録音「Miles Davis Vol.1」、Lee Morgan57年録音「Candy」、時代はグッと新しくなり93年Chick Corea Elektric Band Ⅱ「Paint the World」でC. T. A.が演奏されています。

アレンジャーとしては56年10月26日録音Chet Bakerのリーダー作「Chet Baker Big Band」(実際にはフルバンドよりも人数の少ないビッグコンボ編成)で3曲素晴らしいアレンジを提供し(Art Pepprのリードアルトが実に美しいです!)、間髪を入れず今度はコンポーザー / アレンジャーとしての手腕を存分に発揮し、5日後の同月31日Chet BakerとArt Pepperの共同名義コンボ作品「Playboys」に本人不参加にも関わらず収録7曲中5曲彼のオリジナルが取り上げられ録音、テナーサックスにPhil Ursoを加えた3管編成による重厚でオシャレなアンサンブルを書いています。因みにこちらでもC. T. A.が演奏されています。

50年代以降のテナーサックス奏者の多くは演奏の他に作曲の才能も開花させています。John Coltrane然り、Benny Golson, Sonny Rollins, Wayne Shorter, Joe Henderson…彼らの演奏スタイルとテナーの音色、ライティングは見事に一致し三位一体、濃密なこれらは切っても切り離せない関係にあります。Jimmy Heathの作曲の才も彼ら歴史に名を連ねるテナータイタン達のそれに十分並び称されますし、3管編成〜ビッグバンドのアレンジにも素晴らしいセンスを発揮しています。ソロプレイでの押しの強さに加えてそこに作曲・アレンジと同等のセンス、音色の魅力がアピール出来たのなら、よりジャズ界に君臨していた事でしょう。

Heath Brothers以外のメンバー、まずFreddie Hubbardの本作全篇に渡る絶好調ぶりは特筆すべきです!当時の彼は60年にOrnette Coleman、61年John Coltraneとの共演を果たし、62年からLee Morganの後釜としてArt Blakey & the Jazz Messengersに参加しており、サイドマンとして十二分に実力を発揮できる経験を積んでおり、ブリリアントでジャジーな音色、正確無比でグルーヴィーなタイム感、迸るアイデア満載のインプロヴィゼーションは聴く者を魅了してやみません。ジャズには珍しいFrench Horn奏者のJulius Watkinsは40年代末から70年にかけて、実に多くの作品に参加しアンサンブルはもちろん、難易度の高い楽器を巧みに駆使し味わいあるソロを聴かせました。ピアニストCedar Waltonも当時すでにJazz Messengersの一員、それまでにもKenny Dorhamのバンド、ColtraneのGiant Steps初テイクセッションやArt Farmer & Benny Golson the Jazztetに参加し、頭角を表していました。

それでは演奏に触れていきたいと思います。1曲目はJimmyのオリジナルGemini、フレンチホルンとベースによる印象的なイントロに導かれピアノトリオによる3拍子のイントロが始まります。メロディをフレンチホルンが演奏し、トランペットとテナーがコール&レスポンス状態で受け答えます。ホーンのジャジーなアンサンブルが緻密で美しいです。Hubbardの先発ソロ、オープニングに相応しい切り口と華麗でブリリアントなサウンドで掴みを良しとしました。対旋律が施されたセカンドリフ後テナーソロは、同年生まれのColtraneのテイストがどうしても頭を過るのかも知れません、フレージングの端々に影響を感じさせます。その後のWatkinsのソロは、朴訥とした中にMilesのミュート・トランペットのような味わいを感じさせます。その後のリフはまた異なったセクションから成り、斬新でスリリングなラインから改めて彼のペンの巧みさを感じます。ピアノソロに続きラストテーマへ、曲の構成や的確なアンサンブルを聴かせたオープニング・ナンバーは作品の雰囲気を決定付けました。

2曲目もJimmyのオリジナルBruh Slim、こちらもジャズフレーヴァー満載の佳曲です!Ginger Bread Boyのメロディをどこか感じさせるイントロ、リズムセクションとメロディのシンコペーションを共有しつつ、テーマでは歯切れ良く重厚なアンサンブルを聴かせ、テナーソロに入ります。シングルタンギングによるイーヴンな8分音符、テンションノートを要所に織り込みつつブロウします。良く言えば優等生的アプローチ、ですがジャズマンに要求される予定調和ではない弾けた意外性も聴きたいところではあります。続くトランペットソロは対照的にホットでチャレンジャブル、エネルギッシュな演奏を聴かせます。彼らの対比がこういったアンサンブルを挟んだ短いアドリブの応酬を中心にしたプレイには、むしろ効果的かも知れません。ピアノソロを経てラストテーマへ、3管編成のハーモニーはトップにトランペット、フレンチホルンが第2声、テナーが低音部を担当しています。

3曲目Goodbyeは作曲家Gordon Jenkinsによる、The Benny Goodman Orchestraのクロージング・テーマに用いられていたナンバーです。Goodmanは50年以上もこの曲を気に入ってコンサートの締めに演奏し続けました。哀愁を帯びたメロディから成るこの曲はJimmy自身をフィーチャーしています。イントロではフレンチホルンがリードを取り、まろやかで繊細なハーモニーが鳴っており、アレンジ采配の妙を感じます。テーマからソロ中にテナーも参加したアンサンブルが聴かれます。トランペットのソロが続きますが流石バラード表現に不可欠な音量の大小が的確で、イマジネーションに富んだプレイを聴かせています。少し間があってからピアノソロに入り、ラストテーマでテナーのカデンツァが演奏されFineです。

4曲目JimmyのナンバーDew and Mud、1コーラスのドラムソロからイントロが始まるブルースナンバーです。この曲でもJimmyのホーン・ハーモニー・ライティングと管楽器の用い方はマトを得ており、サウンドを熟知したアレンジャー然としたものを感じます。テナーが先発ソロ、本作中最もホットなテイストを感じさせる演奏です。Watkinsのソロが続き、意表を突くメロディラインを用いたセカンドリフの後、これまたトランペットが場面を刷新するが如き入り方を用いたソロ、カッコいいですね!ファンキーなテイストのピアノソロを経て、ラストテーマへ。エンディングのキメもグッドです!

5曲目スタンダードナンバーからMake Someone Happy、テナーをフィーチャーしたカルテット演奏になります。ベースのイントロからメロディのシンコペーションを活かしたキメを辿りつつ、リズミックに曲が進行します。テナーソロはここでもイーヴンな音符を全面に掲げつつ展開、ピアノにもソロが回りますがコンパクトに演奏を纏めました。

6曲目同じくリーダーをフィーチャーしたスタンダードナンバーThe More I See You、アレンジ面では曲の雰囲気や構成を緻密に捉え、繊細さを伴いつつ大胆にかつ華麗にサウンドを構築するJimmyですが、自身のテナー奏ではそうは行かないようです(汗)。前曲とのソロ演奏の差異を感じるのが困難な状態で、ワンホーンによるテナーフィーチャーはどちらか1曲で十分であったと思います。

7曲目ラストを飾るのはJimmyのナンバーからProspecting、ベースソロの後に始まる3管のカッコいいハーモニーを耳にすると正直ホットした気持ちになります(汗)。リズムセクションのキメに呼応するホーン・セクション、こちらも佳曲です。テナーソロ後のトランペットは小気味好くスインギーで、イマジネーション豊かなフレーズを、素晴らしいタイム感と共にソロ空間に散りばめています。ピアノ、ベースとソロが続きラストテーマを迎え無事Fineです!

2020.05.28 Thu

Hear & Now / Don Cherry

今回はトランペット奏者Don Cherryの77年リリース作品「Hear & Now」を取り上げてみましょう。Cherryのエスニック音楽と当時全盛だったフュージョン・ミュージックとの融合。共演者には時代の最先端ミュージシャンを揃え、摩訶不思議ですが深遠な世界を構築しています。

Recorded and mixed at Electric Lady Studios, New York City. Recorded: December, 1976 Mixed: January, 1977 Engineer: Dave Whitman Project coordinator: Raymond Silva Produced by Narada Michael Walden

tp, bells, conch shell, fl, vo)Don Cherry ts)Michael Brecker sitar)Collin Walcott tamboura)Moki Cherry g)Stan Samole, Ronald Dean Miller harp)Lois Colin key)Cliff Carter p, timpani, tom tom)Narada Michael Walden b)Marcus Miller, Neil Jason ds)Tony Williams, Lenny White, Steve Jordan congas)Sammy Figueroa per)Raphael Cruz vo)Cheryl Alexander, Patty Scialfa

インド風のエスニックなジャケットが印象的です。
菩薩坐像のように結跏趺坐の吉祥座で座り、宙に浮いています!

まずはDon Cherryのバイオグラフィーを簡単に紐解いてみましょう。36年11月Oklahoma出身、ほどなくLos Angeles, Californiaに移り、音楽一家の中で育ちました。高校の同級生にはBilly Higginsがいますが、彼とは後に歴史的作品でも共演することになります。50年代初頭にはピアニストとして(!)Art Farmerの伴奏も務めました。Clifford BrownがLAに来訪の際には、Eric Dolphyの家で(!)Brownとジャムセッションに興じたそうで、Brownは彼に一目置き面倒を見ていたようです。Cherryのトランペット・スタイルはこのBrownを筆頭にMiles Davis, Fats Navarro, Harry Edisonの影響を感じさせる、実はオーソドックスな王道を行くものであります。

Cherryが世に出るきっかけとなったのはOrnette Colemanのバンドに加入し、作品に参加したことに始まります。Ornetteバンドでの初レコーディングは「Something Else!!!!」(58年2, 3月)、Ornetteの初リーダー作でもあります。

そして60年12月、かの歴史的問題作「Free Jazz」のレコーディングに参加します。ステレオの左右に分かれたダブル・カルテットと言う編成も大変ユニークです。

発表当時には、それはそれはセンセーショナルな作品として、喧々諤々と論議を巻き起こしましたが、現代の耳ではかなり穏やかに聴こえ、喧騒や難解さを遥かに通り越してむしろ演奏を楽しむことが出来ます。演奏中ずっとインテンポ(ここが大切なポイントです!ルパートやノーテンポではこの手のサウンドの場合、途端に演奏が耳に入り辛くなります)で自由な即興を繰り広げていますが、明らかに互いを良く聴きつつの会話に徹し、要所に入るOrnetteの書いたメロディがアンサンブル引き締めています。参加ホーン・プレーヤーEric Dolphy, Freddie Hubbard, OrnetteそしてCherryの4人はいずれも自己の素晴らしいヴォイスを有し(各々音色がヤバイほどに素晴らしいです!)、各自の確固たるメッセージを発信しています。Charlie Haden, Scott LaFaroふたりのベーシストの(信じられないほどの美しい組み合わせです!)深遠な音色とビート、同時に演奏されるソロの役割分担とその多彩さ、スリリングさ。Billy Higgins, Ed Blackwellの決して音数がtoo muchにならずに繰り出すシンバル・レガートとフィルインのカラフルさ、そして豊かな伴奏感。ベースソロと同様に、ドラム二人同時ソロに於ける会話の能動、受動とその入れ替わり。これらから表現される音楽は明確な秩序に裏付けされたもので、もちろんBe Bopや Hard Bopではありませんが、もはやフリーなフォームのジャズには聴こえません。(10代の頃にジャズ喫茶で背伸びをして本作をリクエストした覚えがありますが、その時は全く理解不能でした!)。ここでの演奏の形態が以降、フリーか否かのスタイルを問わず、多くのジャズメンにどのように伝播し、展開して行ったのかを考えるのも面白いです。

「Free Jazz」録音を遡ること約半年、60年6, 7月、John Coltraneとのコ・リーダー・セッションである作品「The Avant-Garde」を録音しています。こちらもピアノレス・カルテットによる編成で、Haden, Blackwellをサイドマンに招き、選曲や内容はOrnetteの音楽性によるもので、CherryもOrnetteバンドでの如き演奏を聴かせています。要はOrnetteの代役としてのColtrane参加ですが、自己のスタイルを模索〜構築中の彼には自身の65年以降のフリーフォームのスタイルとは全く無縁で、当時の通常スタイルでのアプローチに徹しています。とは言え全体の演奏内容がその頃の諸作の音楽性とかけ離れていたからでしょう、リリースはColtraneがフリーに突入した66年まで先送りされました。

以降Cherryはフリージャズ旋風が吹き荒ぶ60年代をSonny Rollinsとの活動、またArchie Shepp, John Tchikaiから成るバンドNew York Contemporary Five、そしてAlbert Ayler, George Russell, Gato Barbieriらとの共演を通じ、決して旋風の風下には立たず、向かい風に対し果敢に乗り切りました。一つ感じるのは彼はフリーフォームの音楽を演奏してはいますが、フリーという形態を表現する上でどうしても前面に出がちなアグレッシヴさ、ハードさというパワーを駆使した演奏よりも、叙情性を掲げた演奏の方に重きを置く、言ってみれば「ロマンチック」「リリカル」な表現を信条とするフリージャズ・ミュージシャンと捉えています。この事が顕著に表れているのが78年録音作品「Codona」です。Cherryの他シタール、タブラ奏者Colin Walcott、パーカッション奏者Nana Vasconcelos、彼ら3人の頭文字を取ってバンド名、アルバム・タイトルが付けられました。Codona, Codona 2(80年), Codona 3(82年)と合計3作をリリースしましたが、いずれも美しい世界を表現しています。

時代は70年代に入り、60年代のベトナム戦争を筆頭とする混沌とした社会を反映したフリージャズの反動から、耳に心地よいサウンドが受け入れられクロスオーバー、そしてフュージョンへと移り変わって行きます。本作は卓越したドラマーとして、そして数々のヒット作をプロデュースしたNarada Michael Waldenをプロデューサーとして迎え、Cherryのユニークなオリジナルを中心に演奏しています。前述のCodonaに通ずるOne & Onlyな美の世界プラス、フュージョン、ハードロック、ファンク・サウンド。ここでの音楽が多くのオーディエンスに受け入れられるかと言えば難しいと思いますが、他の誰にもなし得ない世界を聴かせています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。曲によってドラマー、ベーシストが交替し、プロデューサーNarada自身がパーカッションやピアノ奏者として参加している場合もあります。1曲目はCherryのオリジナルMahakali、メンバーはドラムLenny White、ベースMarcus Miller、シタールColin Walcott、ティンパニNarada、キーボードCliff Carter、ギターStan Samole、そしてテナーサックスにMichael Brecker!彼の演奏がお目当てで本作を聴いた人もいると思いますが、僕もその一人です(笑)!録音された76年12月といえば楽器本体をSelmer Mark Ⅵ 14万番台Varitoneから6万7千番台へ、マウスピースをリフェイスされたOtto Link MasterからDouble Ring 6番に変えた直後です。Hal Galperの「Reach Out!」、Michael Franks「Sleeping Gypsy」両作とも同年11月録音で、70年代を代表するMichaelのトーンを堪能できます。

冒頭、効果音的にベルと念仏のような声、笛の音、シタール、タンブーラ、インド的なサウンド・エフェクト(SE)が満載です!そこにCherryのトランペットによるメロディが加わります。少し間をおいてMichaelのテナーも参加しますが、Cherryのサウンドやカラーを踏襲しつつ、次第にMichaelのテイストが主流となり、細かく複雑なテクニックを駆使し、しかしごく自然に、エグエグの音色で歌い上げます。その後被るように再びCherryが加わり、トランペットのメロディがきっかけとなってベース、ドラムがリズムを刻み始め、その後まるでミュージカルのオーヴァーチュアのような派手なヴァンプ、そしてSamoleがリードギターを担当しヘヴィ・メタル・ロックバンドの如きテーマ・メロディ!これはインドからいきなりメタルの本拠地英国にワープしましたね(笑)!トランペットソロは柔らかい音色で豊かなニュアンス、フリーブローイングMilesのテイストも感じさせつつ短めに終え、Michaelにバトンタッチしました。リズミックにタイトにソロを開始、2拍3連符で助走をつけ、高音域フラジオB音〜D音が確実にヒット連発したあたりでCherryが絡み、ソロ同時進行、Samoleのギターも乱入し、MarcusとWhiteのコンビとも絡み合ったところでテーマが再登場、おそらく全員で雄叫びをあげているようで、全く聴こえはしませんが、Naradaのティンパニもさぞかし暴れていることでしょう(爆)!Cherry, Michael, Samoleの3人が核となり、フェードアウトに向けて更にバーニング!

2曲目はCherryとSherab-Barry Bryantの共作によるナンバーUniversal Mother、ベースNeil Jason、ドラムSteve Jordan、キーボードCliff Carter、ギターStan Samoleらが核となり、ハープ Lois Colin、そしてCherryのナレーションとミュート・トランペットが加わります。JordanとJasonの繰り出すファンク・リズムの心地良いこと!Cherryのモノローグに様々な楽器が絡み合う形で音楽が進行します。

3曲目CherryのオリジナルKarmapa Chenno、コオロギの鳴き声のSEに始まり、Cherryの話し声、手拍子、パーカッションからリズムがスタートします。1曲目同様Lenny White, Marcus Millerのリズム隊にSammy Figueroa, Raphael Cruzのコンガ、パーカッションが加わり、より厚いグルーヴを聴かせます。Cherryのトランペット・ソロは伸びやかなテイストから、ハイノートも用いてアグレッシヴさも表現しようとしています。曲中何度か出てくる印象的なメロディは、女性コーラスとシンセサイザーのアンサンブルで演奏されます。ここでもSamoleの巧みなギターがフィーチャーされますが、George Bensonを彷彿とさせるクリアーなピッキングとラインが印象的です。その後パーカッション隊のソロ、そしてスティールドラムをイメージさせる、多分シンセサイザーによるメロディ、大勢の人間によるアプラウズ、再びCherryの朗々としたトランペットが登場しFade Outです。

4曲目以降はレコードのB面に該当し、1曲ごとの演奏時間が短くなり収録曲数が増えています。CaliforniaもCherryのオリジナル、波の音のSEからスタートしますが、幼少期を過ごしたCaliforniaの浜辺のイメージでしょうか。ここでのドラマーには何とTony Williamsが登場!同年6月録音のリーダー作「Million Dollar Legs」をリリースしたばかりで、ジャケ写にも表れていますが(笑)、脂が乗り切っておりベースJasonとパーカッション隊でこれまた素晴らしいグルーヴを聴かせています。メロウなトランペットのメロディとソロ、ギターとのユニゾンのメロディ、そしてこの曲でもSamoleに思う存分弾かせているのが、夏の陽射しの様な暑さを感じさせます。エンディングにも波の音のSEが入り、去り行く夏を思わせる仕立てになっているのでしょう。

5曲目Cherry作のBuddha’s Blues、曲想からするとBuddhaは随分とファンキーな方のようです(笑)、前曲と同じメンバーでの演奏になり、トランペット演奏の間にCherry自身のフルートがフィーチャーされていますが、いささかご愛嬌の次元です(笑)。Jasonの強力なスラップ、Tonyのヘヴィーなグルーヴ、Carterのピアノのタッチの素晴らしさ、Figueroa, Cruzのパーカション隊を含むリズムセクションのバックアップにサポートされ、CherryはエレクトリックMilesのようなテイストで演奏しています。

6曲目CherryのオリジナルEagle Eye、CherryのフルートとFigueroa、Cruzの3人だけで、1分に満たない短い演奏を聴かせます。

7曲目NaradaのオリジナルSurrender Rose、さすがの美しいナンバーです。彼は85年Aretha Franklinのアルバム「Who’s Zoomin’ Who」収録のナンバーFree Way of Loveへの楽曲提供と演奏を行い、グラミー賞最優秀楽曲賞に輝きました。John McLaughlin Mahavishnu Orchestraに在籍していた事もある超ド級ドラマーにして、メロディアスなコンポーザーでもあります。Narada自身がエレクトリック、アコースティック・ピアノ、そしてタムタムも演奏しています。ドラムJordan、ベースJason、Samoleのギター、Colinのハープ、女性コーラスまで加わり、Cherryのトランペット・プレイのスイートな面を上手く引き出していて、まるでHerb Alpertのような世界を表現しています!この曲が本作の1曲目に位置していても良かったのではと思うのは、Don Cherryがフュージョンを演奏しました、と明確に宣言できる内容を持っているからです。1曲目のMahakaliの演奏であまりにも強力におどろおどろしさを築いてしまい、作品のコンセプトがぼやけてしまったと感じています。

Aretha Franklin「Who’s Zoomin’ Who」

8曲目は3つのパートから成る組曲a.Journey of Milarepa、b.Shanti、c.The Ending Movement-Liberation。Jason, Jordanのリズムコンビにパーカッション隊、Samoleのギターが加わります。まずパーカッションとエレクトリック・ピアノのイントロからトランペットの演奏、次第にドラムのバスドラが加わりベース、ギターが参加し、Samoleにソロを取らせます。パーカッションとドラムのコンビネーションが実に心地よいですね。トランペットとギターが絡み合いながら曲が進行します。次第にリタルダンドを迎え、笛の音が聴こえ始めますが、インタールード的な部分、ここからがb.Shantiに該当するのでしょう。パーカッションの音に被ってドラムがリズムを刻み始め、ベース、ギター、キーボードが加わりトランペットのメロディが始まります。ここがc.The Ending Movement-Liberationに該当すると思われます。Samoleのオリジナルで、ギターのアルペジオに被りトランペットが高音を吹きFineです。

2020.05.18 Mon

Meru / Dick Oatts & Dave Santoro Quartet

今回はサックス奏者Dick Oattsとベース奏者Dave Santroのカルテットによる1996年作品「Meru」を取り上げたいと思います。

Recorded in Boston by Peter Kontrimas, May 1996 Produced by Sergio Veschi Label: Red

ts, ss)Dick Oatts b)Dave Santoro p)Bruce Barth ds)James (Jim) Oblan

1)Pale Blue 2)Creeper 3)Heckle and Jeckle 4)South Paw 5)Meru 6)Lasting Tribute 7)Osmosis 8)Leap of Faith

Dick Oattsは53年4月米国Iowa州Des Moines出身、父親の同じくサックス奏者Jack Oattsに影響を受けサックスを始め、高校卒業後ほどなくThad Jonesに招かれThe Thad Jones/Mel Lewis Orchestraに加入することになり、New Yorkに拠点を移します。Thad/Melで始めはテナーサックス奏者として、のちにリードアルト奏者として、その後Thad/Melを母体としたVanguard Jazz Orchestraの中心人物、同じくリードアルトとして活躍しています。リーダー、コ・リーダー作を20枚以上、Thad/MelとVanguard Jazz Orchestraを含めてやはり20作以上リリース、サイドマンとしても様々な作品に参加しています。譜面が超強い上にアドリブもバッチリ、彼がバンドにいる事により他のメンバーに刺激を与え、推進力になり得る高度な音楽性と人間的包容力、存在感を兼ね備えていますから、それは引く手数多です!

アルトサックス奏者として有名なOattsですが、本作では1曲ソプラノを吹く以外は全曲テナーサックスを吹いており、テナー奏者としてのOattsに焦点が当てられています。しかしながらCDジャケットにはアルトを吹いている写真が使われ、彼自身のThad/Melでのリードアルト奏者としてのイメージと重なり、本作もアルトサックスでの演奏と誤解を与えてしまいますが、細かい事には拘らない陽気なラテン系Italy, MilanoにあるレーベルRedからのリリースなので、これは致し方ないことかも知れません(汗)。

Dave Santoroは現在Berklee音楽院で教鞭を執っており、Steve Grossman, Bob Berg, Sal Nistico, Pepper Adams, John Scofield, Mick Goodrick, Mike Stern, Randy Westonとの共演歴があるベテラン・ベーシストです。代表作としてJerry Bergonzi, Adam Nussbaumとの93年ライブレコーディング・トリオ作品「Dave Santoro Trio」があります。

本作はOattsとSantoroが4曲づつ提供し、全曲二人のオリジナルから構成されていますが、Oattsは小気味よいほどに吹きまくり、リズムセクションと素晴らしい一体感、グルーヴを示した熱演を繰り広げています。あまり知られていない作品ですので、いわゆる隠れた名盤の部類に入るでしょう。ピアニストBruce Barthは58年9月California出身、10作以上のリーダー作をリリースする他、Bergonziのバンドのレギュラーとしても活動しています。ドラマーJim OblanはCDクレジットによれば本作がデビュー演奏になるようで、思い切りの良い清々しい演奏を聴かせていますが、残念ながらその他のバイオグラフィーを紐解く事は出来ませんでした。

それでは早速収録曲に触れて行きましょう。1曲目SantoroのナンバーPale Blue、速いテンポのスイングナンバーで、曲の傾向とコード進行の複雑さからJohn ColtraneのGiant Stepsをイメージします。それにしてもOattsの音色といったら!深みを感じさせるダークなテイスト、付帯音豊かな倍音が鳴り響き、「コーっ」という木管的な音が聴こえます。低音から高音域までイーヴンな統一感あるサウンド、コク、全てがバランス良くまとまり、ひとつの美的音塊として成立していて超好みな音色(ねいろ)です!!この音はアルトを主体としたサックス奏者のものではなく、テナーをメインとした奏者が出す極太系トーンに聴こえます。もしかして普段アルトをメインに吹いているにも関わらず、このテナーサウンドを出せているのかも知れませんが、とすれば全く身体の鳴り方が違うのでしょうね。16小節1コーラスのテーマは2ビート・フィールで始まり、すぐさまスイングへ、4人が繰り出すリズム、グルーヴが実に緻密に合わさり、絡み合い、高級なつづれ織りをイメージさせ、経(たて)糸の下に図案を置き=リズムセクションの奏でるビート、色糸、金銀糸の緯(よこ)糸が織り込まれている=フロントのソロ、の如しです。Oattsは張り巡らされたコード進行の包囲網を見事なほどに的確にくぐり抜け、あたかもシンプルなコード進行のスタンダード・ナンバーでの演奏の如きに、易々とストーリーを提示しながらリズムセクションを伴いホットに、クールに歌い上げています!続くBarthのピアノソロもOattsと遜色なく、いや、もしかしたらそれ以上のストーリーとインタープレイを提示しています!タイム感が素晴らしいですね!それもOblanの柔軟さが半端ないシンバルレガートと、Santoroの粘りあるベースラインとのコンビネーションが支えているからでしょう。そのSantoroの短いベースソロ後にラストテーマを迎え、オープニングに相応しい快演となりました!

2曲目もSantoroのナンバーでCreeper、60年代のBlue Note Labelの作品でよく耳にするリズム・パターンから成る曲ですが、コードのチェンジが尋常ではありません!敢えてそこには行かないだろう、と狙ってコード付けしたかのようなトリッキーさ、でも作為的ではない自然さと斬新さも感じます。Santoroの作曲のセンスには注目すべきでしょう。難易度のハードルを上げられたメンバーですが、まずOattsの辞書には難しい、とか手を焼く、と言った単語は記載されていないようで(爆)、実にクリエイティヴなソロを展開しています。レイドバック感と相反するフレージングのスピード感、Joe Henライクなテイスト、そう言えば音色とフレーズのこぶし回しが誰かに似ていると思ったら、Jerry Bergonziですね!音の質感に共通するものを感じます。実際二人の共演作があります。共同名義で09年「Saxology」(SteepleChase)

熱いツー・テナーのバトル演奏を期待しましたが、残念ながらOattsは全曲アルトを吹いています。しかしピアノレスの編成、加えて知的で高度な演奏を信条とする二人ゆえ、Lee Konitz ~ Warne Marshのメロディライン、サウンドを感じさせるLogicalなプレイとなりました。ちなみにベースはここでもSantoroが担当します。

次のソロイストに繋げるべくドラムの潔いフィルが聴かれ、ピアノも難しいコード進行を触媒としつつ、緻密なストーリーを展開し、様々なリズムのアプローチを用いてリズムセクションとのインタープレイを誘発します。続くベースソロもテクニカルでありますが、コンポーザーとしてのイメージを十二分に伝える事に成功しています。ラストテーマでのドラムのカラーリングは初めのテーマよりもずっと多彩に表現されていますが、ソロイストたちが繰り広げた演奏の充実ぶりが成せる技に違いありません。

3曲目はOattsのオリジナルHeckle and Jeckle、いきなり変態系のテーマです(笑)。ですが場面をリフレッシュさせる問答無用の説得力を感じます。曲のフォームはアップテンポのブルース進行、テーマ後はピアノがバッキングせずにサックストリオの演奏で突っ走ります!立て板に水、巧みなタンギングによるスインギーな8分音符を用いて繰り出されるフレーズは、実にスポンテニアスです!待ってました!とばかりに、弾くのを止めていたピアノのソロが始まります。テーマの変態さをしっかりと念頭に置き、これまた超絶アドリブを展開します。ベースソロを受け継ぎ、カラフルなドラムソロが本作Oblanの「Introducing」、とは感じさせない音楽な成熟度をアピールします。ラストテーマにも更に一捻りの変態系が待ち受けていました(笑)。

4曲目もOattsのナンバーでSouth Paw、陽気さの中に潜む危なさや毒気を感じさせる佳曲です。テーマは始めピアノレスで演奏され、途中からバッキングが効果的に加わります。ベース、ピアノとソロが続きOattsまでソロが回りますが、複雑なコード進行の曲を書いた当事者として、しかり”けじめ”のある演奏を行い、落とし前をつけています。その後曲のフォームの中でのドラムソロがあり、所々にアンサンブルが入るため緊張感が持続しつつ、ラストテーマへ。

5曲目Santoroのナンバーで表題曲Meru、ユニークなドラムのイントロからテナーとデュオによるテーマ、一転してアップテンポのスイングへ、これまた哀愁に満ちたメロディとコード感、タイトルナンバーにふさわしいムードを持った曲です。Barthも快調に飛ばし、ポリリズムをふんだんに取り入れたスリリングな演奏を聴かせますが、一瞬の間がありここぞと言う所でOattsが入ってきます。リズム隊もOattsがどこまで自分たちを音楽的な高みに誘ってくれるのかを待ち望んでいるのでしょう、サックスソロに一触即発で盛り上がっています!この曲もコード進行が尋常ではない筈ですが巧みにソロを構築し、やはりほど良きところでドラムソロに突入します。強力な個性が有るわけではありませんが、イマジネーションを大胆に膨らませテクニカルで熱いソロを聴かせます。ラストテーマ、アウトロでの表現も曲想の自然な発展形です。

6曲目OattsのナンバーLasting Tribute、様々な要素を織り込んだ、しっとりと言うよりは雄弁さを感じさせるスローバラードです。メロディに対するリズムの仕掛けも効果的に設けられ、メリハリを感じさせます。テーマの後はピアノソロ、バラード時に表現すべき抑圧されたピアニシモでのアプローチの的確さが光っています。続くOattsのソロは高音域での音色の美しさを生かしつつ、リリカルに歌い上げています。明確にはラストテーマを提示せずにリタルダンド、テナーのカデンツァが聴かれ、楽器を上から振り下ろした風で一瞬オフマイクになり、アテンポでヴァンプが演奏されFineです。

7曲目8分の6拍子のリズムからなるSantoroのナンバーOsmosisは、ソプラノサックスとピアノのユニゾンによるテーマメロディが印象的な佳曲。OattsのソプラノといえばVanguard Jazz Orchestraのリード奏者での活躍ぶり、Groove Merchant他、彼なくしては演奏が成り立たない曲のサウンドが耳に残っています。ソロの先発はSantoto、テーマの8分の6拍子・リズムフィギュアを用いて流麗に歌い上げています。続くソプラノのソロ、おそらく録音に際してベル先端部分の成分を収録しておらず、キー上部の成分がメインの音色です。丸さが目立ち、個人的にはどちらかと言えば先端部の成分が配合された、よりエッジーなソプラノの音色が好みです。ソプラノの録音方法はアルトやテナーに比べると難しいと言われ、ベル先端部とキー上部の両方の成分が混ざり合うブレンド感が大切です。Oattsの流麗なソロの後Barthもイメージを引き継ぎつつ、後もう少しで壊れそうな瞬間を迎えますがラストテーマへ。

The Vanguard Jazz Orchestra / Thad Jones Legacy
99年録音、Groove Merchant収録

8曲目ラストを飾るのはOattsのナンバーでLeap of Fish。本作中最速の演奏、ドラムのイントロから始まる、長い音符を生かしたテーマとシンコペーションを伴う複雑なコード進行、これまた凝り懲りのオリジナルです!テーマ後一変してファスト・スイングへ、先発Barthのタイトでスピード感溢れるフレージングは本作の白眉の一つですが、リズムセクションはその後に続くOattsとのバーニングに備えて、余力を残しているかのように抑え目に聴こえます。案の定Oattsのソロはダイナミックな展開を見せ、必然性を伴いOblanのドラムとデュオへ!低音域のエグエグ感、まるでJewish系テナー奏者のモーダルなアプローチを聴かせ、しかもコンパクトにまとめられ実にカッコイイです!ドラムソロも柔らかさ、しなやかさを掲げつつ熱いジャズスピリットを聴かせます!ラストテーマの大きく、たっぷりとした感じが、それまでの細かなフレージングやインタープレイとの絶妙な対比となり豊かな音楽性を表現していると思います。

2020.05.12 Tue

Bluesy Burrell / Kenny Burrell with Coleman Hawkins

今回はギタリストKenny Burrell62年9月レコーディングのリーダー作「Bluesy Burrell」を取り上げたいと思います。名テナーサックス奏者Coleman Hawkinsが7曲中4曲フィーチャーされています。

Recorded: September 14, 1962 at Van Gelder Studios, Englewood Cliffs, NJ Label: Moodsville Producer: Ozzie Cadena

g)Kenny Burrell ts)Coleman Hawkins(tracks 1, 4, 5 & 7) p)Tommy Flanagan b)Major Holley ds)Eddie Locke congas)Ray Barretto

1)Tres Palabras 2)No More 3)Guilty 4)Montono Blues 5)I Thought About You 6)Out of This World 7)It’s Getting Dark

Kenny Burrellは31年7月生まれ、現在も精力的に音楽、教育活動を展開しているギター奏者です。リーダーアルバムを70作以上リリースしている多作家で、本作は彼の18作目に該当します。本Blog今年の1月に投稿したJoe Hendersonの「Canyon Lady」の際にも本作を紹介しましたが、冒頭ラテンの名曲Tres Palabras収録が共通し、演奏形態は全く異なりますがいずれも心に残る名演奏です。本作ではColeman Hawkinsをソロイストとしてフィーチャーしつつ、他の収録曲もソロギター、ギタートリオ、カルテット、コンガをフィーチャーした演奏、Major Holleyのスキャットなど、バラエティに富んだ作品でBurrellの代表作の一枚に挙げられます。

本作録音の1か月前、62年8月録音のHawkins作品「Hawkins! Alive! at the Village Gate」は彼のカルテット名演奏として誉れ高いライブ作品ですが、メンバーが本作と全く同じで、Burrellと曲によりコンガ奏者Ray Barrettoが参加した形になります。

ジャズ史において既存のバンドやメンバーにちゃっかりとヤドカリのように(笑)加わって、作品を録音した例は過去にもありますが、例えば以前Blogで紹介したDizzy Reeceの「Comin’ on!」でのArt Blakey & the Jazz Messengersのリズムセクション、Art Pepperの代表作「Meets the Rhythm Section」で当時のMiles Davis Quintetのリズムセクションの起用、Joe Hendersonと同じくMilesのリズムセクションだったWynton Kelly Trioとの共演作「Four」「Straight, No Chaser」の2作。既存のバンドのメンバー、しかも経験豊富にして高度な音楽的レベルを有するリズムセクションと、同じく優れたフロントが共演するのは往々にして功を奏し、レギュラーとは異なったテイストの演奏を展開します。違った個性同士がケミカルに作用するのでしょう。

Hawkinsは62年にこのカルテットのメンバーで他に4作、合計5作(!)の録音、リリースを行っています。1月録音「 Good Old Broadway」、3, 4月録音「The Jazz Version of No Strings」、4月録音「Coleman Hawkins Plays Make Someone Happy from Do Re Mi」、前述の8月録音「Hawkins! Alive! at the Village Gate」があり、9月録音「Today and Now」。同一メンバーで年間5作という多作を許されるのはリーダーは勿論、バンドの演奏も素晴らしいが故。ミュージシャンの人気、人望も必須ですが作品が売れ、レコード会社として採算が取れるからです。多くの作品をリリース出来たのは時代が良かったのもありますが、今では夢のような話です。

62年の録音Hawkins絡みの6作、ピアニストは全てTommy Flanaganという事になります。そしてBurrellにとってもFlanaganはファーストコール、お抱えピアニストとして数多くリーダー作に於いて彼を招き、共演しています。記念すべきファースト・アルバム56年5月録音「Introducing Kenny Burrell」からの付き合いです。

Flanaganには絶大な信頼をおいていたのでしょうし、彼もそれに応えるべく本作でも眩いばかりにキラキラと光るタッチと、スリルに富んだアドリブライン、バッキングを自由奔放に聴かせています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Tres PalabrasはWithout Youという英語のタイトルが付けられたナンバー、その名の通り愛の唄ですね。Cuba出身の作曲家Osvaldo Farresのナンバーで、彼は他にもQuizás, Quizás, Quizásという名曲も書いています。Flanaganの弾く印象的なラテンのパターンからイントロが始まりますが、4拍目と1拍目に弾くベースのビートの力強さ、ドラムEddie Lockeはブラシを用い、Ray Barrettoが刻むクラーベのリズムと合わさり、ラテンのムードを醸し出しています。ジャズ屋のラテンですので(笑)、本職のラテンミュージシャンと異なり(彼らの8分音符は実にイーヴンです!)、8分音符がどうしても微妙にバウンスしています。味と言えば味なのですが。テーマはBurrellが奏でますが、実に音楽的です!微妙な強弱、ダイナミクスを伴い、細部に至るまで徹底した美学、歌心を感じさせます。それにしてもグッとくる美しいメロディですね!ソロの先発はFlanagan、イヤーこれまた素晴らしいアドリブです!まず感じるのは使う音のチョイス、そのセンスの良さです。緊張感を伴ったテンションの数々、そしてアドリブのストーリーを構築するにふさわしい、スパイスとなり得るラインの数々、メリハリの効いた様々な譜割から成るフレージングのバリエーション、巧みな歌い回しに聴き惚れてしまいます!Burrellのソロが比較的ダイアトニックで、コードに対してどちらかと言えばインサイドなアプローチが多いので、自分とは異なるFlanaganのプレイにさぞかし興味〜憧れ〜畏敬の念を抱いていた事でしょう。続くHawkinsのソロはまずテナーサックスの音色に惹かれます!ジャズテナーの開祖としての貫禄、風格を感じますが、一体こんな音はどうやったら出せるのかとも、考え込んでしまいます(汗)。ここではBenny GolsonやEddie “Lockjaw” Davisを感じさせるアプローチが聴かれますが、いや、出典はその逆でしたね!失礼しました!(笑)。Hawkinsの8分音符はCharlie Parker以前のスタイルなので、かなりイーヴンです。そういった意味ではラテンに向いているノリかも知れません。独特なラインの連続によるソロですが、深いビブラートとサブトーンを活かしつつ、豪快に歌い上げています。その後のギターソロは何処を切ってもBurrell印の巧みなソロ、正確なピッキングと端正な音符、おおらかな歌い方、ジャズギターの先駆者にして規範たるべき演奏です。ラストテーマに突入し、エンディングはイントロのパターンが再利用されます。

2曲目はスタンダード・ナンバーからNo More、Billie Holidayの名唱があります。2分弱の全編ソロギターでの演奏ですが、美しさと優雅さを感じさせ、巧みなコードワークが光っています。

3曲目もスタンダード・ナンバーGuilty、こちらはギタートリオでの演奏になります。ギターはイントロを含めた早い時点から倍テンポを感じさせる弾き方ですが、リズムセクションはバラードに近いミディアム・スロー感をキープ、テーマ後ソロに入りしっかり倍テン感をアピールし、ドラムが追従します。ベースは2ビートフィールですが、倍テンのグルーヴを感じさせるアプローチで対応しています。サビの最後はBurrell早弾きを披露し、ラストのAメロはリズム隊が次第にバラードに戻リ、コードワークが凝ったカデンツァを経てFineです。

4曲目はBurrell作曲のナンバーMontono Blues、先発にHolleyの登場です。ベースのアルコとハミングのユニゾンによるソロ、彼の十八番の奏法ですが何度聴いても素晴らしいですね!良い音です!Slam Stewartがこの奏法の先輩格にあたります。何とこの二人の共演作が2作あるのですが、文字通りダブルベースです(爆)!1作目は入手困難なので2作目の方をご紹介しましょう、81年録音「Shut Yo’ Mouth!」。Stewartの方はオクターブ高くハミングし、Holleyがベースと同じ音域でのハミングなのでその対比も面白く聴こえます。

続いてHawkinsのソロはリラクゼーションに満ちた語り口、スケールの大きさを感じます。この音色は間違いなくダブルリップ奏法による、ルーズなアンブシュアでなければ得られません!その後ギターとテナーのバトル、互いのフレーズを拾い合い、「おお、そう来たか、じゃあこんなのはどうだ?」的なカンバセーションを聴かせています。最後はFade OutでFineです。

5曲目はバラードI Thought About You、ユニークな構成による演奏です。冒頭Hawkinsのソロから始まり、テーマを演奏するのはBurrellのギターの方、Hawkinsはそのまま残って随所にオブリガードを入れていますが、Hawkinsのアプローチは一切原曲のメロディを感じさせないのが逆に新鮮です。テーマ後ソロは半コーラスHawkins、付帯音の権化のような深い音色、サブトーンの巧みさには楽器調整が完璧に為されている事まで伝わってきます!調整不足で何処かキーが空いていたら安定してサブトーンは出ず、自在にコントロール出来ませんから!その後ギターも半コーラス流麗にソロを取り、ラストテーマはHawkinsによる一瞬テーマのメロディを感じさせる風のプレイ、でもやはりBurrellが被さるようにテーマを演奏し、ラストはトニックを吹いたHawkinsにやはり被さり、Ⅳ-Ⅶ-Ⅲ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ-Ⅰと遠いコードから巡りルートに落ち着きました。それにしてもHawkinsはI Thought About Youのメロディを殆ど知らないのでは?とも演奏から感じましたが、録音前に「Hey, Bean(Hawkinsのニックネーム)、I Thought About You演奏するけどテーマ演奏して欲しいんだ」「Kenny, 悪いけど俺は全然知らないんだよ」「Really? じゃあ僕がテーマを弾くからオブリとソロを頼むね、コード進行は大丈夫かな?」「Yeah, 耳で感じ取るからさ」「OK, Bean!」のようなやり取りがあったと勝手に想像しています(爆)。

6曲目はスタンダード・ナンバーからOut of This World、ギター、ベース、ドラム、コンガのカルテット演奏です。小洒落たラテンのアレンジが粋な雰囲気です。ギターによるテーマ奏も肩肘張らないリラックスしたムードが曲調と良く合致しています。ブレークからソロに入り、ベースがスイングビートになりますが、ドラムとコンガはそのままラテンのリズムをキープしており、ユニークなグルーヴが展開されます。カルテットの筈でしたが、ピアノがバッキングでギターソロの途中から参加します。でも何故か途中で止めています。流麗でスインギーなギターソロが聴かれ、その後ギターとコンガの8小節バースが行われ、巧みなコンガソロが聴かれます。Barrettoはこの頃スタジオミュージシャンとして活躍し、Prestige, Blue Note, Riverside, Columbiaといった名門ジャズレーベルのハウス(お抱え)・パーカッション奏者として演奏していました。時代の先駆者はNew Yorkのラテンシーンの第一人者となり、その後は自ずと米国を代表するパーカッショニストとして、その名を轟かせる事になります。ラストテーマに突入し、エンディングのフェードアウト時に再びピアノがバッキングで加わっています。Flanaganに好きにやらせているBurrellも大物ですが、Flanaganは割と気まぐれなのでしょうか?(笑)

7曲目はBurrellのオリジナルIt’s Getting Dark、録音中に日が暮れて来たのでしょうね、きっと。フォームはブルースです。フルメンバーが揃い、ギターがブルージーなテーマを演奏します。ソロの先発をHawkinsが務め、スタイルとしてBopでもない、もちろんHard Bopのテイストは微塵もない、Swing?中間派?いえいえ、Coleman Hawkinsそのもの、の演奏を聴かせます。2番手はBurrell、Hawkinsの時とは一転してFlanaganがBurrellをバックアップすべく、リズミックなアプローチでサウンドを作ります。ギターソロの最後のフレーズを受け継ぎ、ピアノのソロが始まります。ここでもFlanaganはコードの奥に潜んでいる効果的な音使い、テンションを巧みに引き上げて用い、他とは違うテイストを聴かせています。ラストテーマは再びギターが演奏しますが、Hawkinsが離れた所からスネークインしてオブリを入れています。

2020.05.04 Mon

Stone Blue / Pat Martino

今回はギタリストPat Martino 98年録音のリーダー作「Stone Blue」を取り上げて行きましょう。全曲Martinoのオリジナルを素晴らしいメンバーと演奏した意欲作です。

Recorded: February 14 and 15, 1998 at Avatar Studios, NYC / Additional Recording on February 22 at Skylab Studio, NYC Label: Blue Note(BN 8530822) Produced by Michael Cuscuna & Pat Martino

g)Pat Martino ts)Eric Alexander key)Delmar Brown el.b)James Genus ds, per)Kenwood Dennard

1)Uptown Down 2)Stone Blue 3)With All the People 4)13 to Go 5)Boundaries 6)Never Say Goodbye 7)Mac Tough 8)Joyous Lake 9)Two Weighs Out

Pat Martinoは1944年8月Philadelphia生まれ、父親の影響で音楽に興味を持ち、12歳でギターを始め、早熟な彼はNew Yorkに移り住んでから15歳で既にプロ活動を開始しました。 Lloyd Price, Willis Jackson, Eric Kloss, Jack McDuffらと共演を重ね、67年5月22歳の若さで初リーダー作「El Hombre」を録音しました。

この時点で既にギターという楽器をとことんマスターしているのでしょう、正確無比でエッジーなピッキング、そこに由来する端正な8分音符、のちに比べれば比較的オーソドックスですが、それでもオリジナリティなラインの萌芽を十二分に感じさせるソロの方法論、アドリブにおける誰よりも長いフレージングとそのうねり具合、大きなリズムのノリ、レイドバック、スイング感、申し分のないニューカマーの登場です!多くの同世代、後輩ギタリストたちGeorge Benson, John Abercrombie, John Scofield, Mike Stern, Emily Remler, etc多大な影響を与えたカリスマ・ギタリストのひとりに位置します。また独創的なインプロビゼーションのライン、方法論について自身は「形式的なスケールを使うのではなく、いつも自分の旋律の本能に従って演奏してきた」と発言しており、形にとらわれないその天才ぶりを伺わせます。ところが76年に脳の病気を発症し、80年に脳動脈瘤手術を受け、手術自体は成功しましたが、音楽的キャリアの記憶を一切無くすと言う悲劇に見舞われました。復帰するためになんと全くのゼロからギターを演奏することを強いられたそうです。親族の支えなどがあり奇跡的に復活を遂げ、87年にライブ盤「The Return」をレコーディングしました。

発症前に12作をレコーディングしていますが、復帰にあたりさぞかしそれらを聴き返した事でしょう、全く他人の演奏に聴こえたかも知れません。自分の演奏を自らコピーして記憶の彼方にある断片と照らし合わせて、いや、もしかしたらそれすらも得られなかったかも知れません。知る由もありませんが、今までとは異なる演奏スタイルという選択肢にもトライしたかも知れません。しかし執念の一言に尽きるでしょうが、数年間のリハビリの末にかなりのレベルまで以前のPat Martinoを取り戻すことが出来たのです。

本作は復帰後に録音された作品ですが、収録されているMartinoのオリジナルはいずれもが佳曲、共演者もコンセプトに臨機応変に対応しています。もうひとりのフロント・ヴォイスであるテナーサックスEric Alexanderの参加がジャズ度を高めています。George Colemanのテイストを感じさせる、王道を行くテナーの音色はOtto Link Florida Metalマウスピースならではの発音、サウンドで、端正な8分音符からなるフレージングは安定したタイム感と合わさり、破綻を来す事が無い超安定走行です。彼とは2度ほど共演した事がありますが、ナイスでお茶目な人柄、長身でイケメンの風貌もあり、周りの取り巻きが放っておかず、本人もファンを大切にしているので、演奏後も彼らでずっと話し込んでいたのが印象的でした。James Genusはアコースティック・ベースも堪能でMichael Brecker Quartetでの超絶演奏も光りますが、本作ではFodera社製の6弦エレクトリック・ベースを縦横無尽に駆使し、素晴らしいサポートを聴かせます。GenusとはThe Brecker Brothers BandのBlue Note Tokyoライブ時に楽屋で話をした事があります。明るく気さくに受け答えをしてくれた、素朴な感じのあんちゃんでした(笑)。ドラマーKenwood Dennardとは2007年2月20日、NYC 43rdにあるTown Hallで行われたMichael Brecker Memorial、同年1月13日に逝去したMichaelのお別れの会、ここで僕が着席したミュージシャンズ・シートの隣に偶然居合わせました。ちなみに斜め向こうにはPeter Erskine夫妻が着席、その近くにはWill LeeやMike Mainieri、Pat Metheny、Herbie Hancock、Brad Mehldau、Mark Egan、Buster WilliamsやWayne Shorter、大野俊三氏の姿も…とざっと見まわしただけでも凄い数のミュージシャン、しかもジャズシーンの最先端ばかり!さすがMichael Breckerの「送る会」です!ステージ側からミュージシャン席の写真が撮られていたのならば、1958年Art Kaneがハーレムで撮影した有名なジャズミュージシャンの集合写真2007年版になるに違いありません!

「A Great Day in Harlem 1958」サックス奏者ではBenny Golson, Coleman Hawkins, Gerry Mulligan, Sonny Rollins, Lester Yougら錚々たるメンバーが!他の楽器奏者でもモダンジャズを代表するミュージシャンが計57人!

Dennardは遠くからこのお別れ会を目指して来たのでしょうか、大きな荷物を抱え、補聴器を付けていたのが印象的でした。さらにセレモニーが佳境に達した頃に、Herbie HancockとMichaelの遺族がステージに現れた仏壇に向かって(客席には背をむける形で)「NAM MYOHO RENGE KYO〜南無妙法蓮華経」と念仏を唱え始めると、彼も一心不乱に手を合わせてお経を唱え始めました!僕の周りの参列者も軒並み念仏を唱えているので、ここは一体何処?亡くなった方とお別れをするので当然と言えば当然なのですが、日本ではなくManhattanのど真ん中のはずなのに、と実に不思議な気持ちになった覚えがあります。米国では仏教もone of themなのでしょう。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目Uptown Down、随所にファンクが挿入されるアップテンポのスイングナンバー、メロディもキメもメチャクチャヒップでイケてます!うん、カッコイイ!これはエレクトリックベースの必然性を感じさせますね。ファンキーなテイストを掲げていますが曲の構成、音楽の構築感が半端なく実に理系です(笑)。0’41″の Martinoが弾いたコード、エグくて堪りません!テーマでのDennardのカラーリングのセンス、バッチリです! Genusのon top感がグーです!先発Martinoのソロ、ブレーク後半シングルノートの弾き伸ばしは作為的?偶発的?でしょうか、いずれにせよ椅子に座りながら聴いていていて思わず腰が浮いてしまいます!病に倒れる前の演奏クオリティに遜色ありませんが、唯一タイム感のルーズさは否めません、しかしラインの独創性には一層磨きが掛かっています!Delmar Brownのキーボードによるバッキングがこの演奏に支配的なサウンドをもたらしています!続くAlexandarのソロ、ブレークからキメています!リズム隊の完璧な着地によりピックアップ・ソロがいっそうキリリと引き締まっています!短いながらも巧みなストーリー展開で、サイドマンとしての役割、立場を踏まえつつ、しっかりとした主張を展開しています!いつものハードバッパー然としたアプローチに加え、曲想に合致したファンキーでホンカーライクなテイストが素晴らしい!その後ラストテーマには全く自然に、小気味好く突入しています。アルバムの冒頭にふさわしいキャッチーな楽曲に仕上がりました!

2曲目表題曲Stone BlueはMartinoが愛してやまないNYCに捧げられたオリジナル、実際の雑踏でのサウンドエフェクト(SE)が演奏に被って挿入されています。たっぷりとしたグルーブを持つ3拍子のファンクナンバー、Dennardのグルーヴは水を得た魚状態、ズッシリとしてスピード感が備わっています。SEは引き続き大胆に用いられギター、テナーソロをまさにその場で聴いて反応しているかの如きリアクションも聴かれます。テーマに引き続くパーカッションの鳴り響き方、狙っていますね!先発のギターソロに対するDennardのアプローチは実に音楽的、Martinoとは現在まで3作演奏を共にしていますが、音楽的テイストに共通するものを感じます。Alexanderのソロのバックでも同様に適確なリアクションを行い、巧みに盛り上げています。テナーソロの後ろで聴こえる高笑い、フリーキーにまで盛り上がった際のサイレンの音、フレーズにハマり過ぎですね!この曲でもキーボードが影のバンマス的にサウンドを彩っています。

3曲目With All the People、ギターのメロウなメロディとシンセサイザーが美しくイントロを奏で、一転してファンクのリズムで曲が始まります。いや〜、良い曲ですね、Martinoの音楽的ルーツに根ざしている旨、ライナーに自身が書いていますが、僕自身の音楽的ルーツにも全く同様で、The CrusadersやNative Sonのテイストを感じさせます。テーマ後ワンコードでソロが展開しますが、DennardとGenusがここぞとばかりにセンシティブに、かつ大胆に盛り上げて行きます。ワンコードでのアプローチ、実は最もリズム隊の手腕が問われる演奏形態だと思います。その後サビのコード進行ではスイングになり、メリハリを利かせています。ここでもキーボードがやはり裏方に徹してサウンドを提供していますが、ややラウドな傾向にあると感じます。引き続くテナーソロでは一層深遠なインタープレイ、グルーヴの一体感を聴かせ、ラストテーマ、エンディングはイントロに戻りフェードアウトです。

4曲目13 to Goのタイトル付けはレコーディング前日のリハーサルが13日の金曜日だったからそうです(笑)。重厚なグルーヴのスイング、ミディアム・テンポですがエレクトリックベースでの演奏だからでしょうか、軽さと捉えるべきか、軽快さとするべきか、アコースティックベースでの演奏とは趣が異なります。ユニークなメロディに引き続き先発はテナーソロ、豪快で巧みな演奏を聴かせますが、ある種の枠の中で演奏しているというか、箱庭の中でのデコレーションは上手いと感じるのですが、臨機応変に、より大胆なアプローチの違いが聴きたくなってしまいます。ギターソロに受け継ぎ、その後キーボードソロが初めて聴かれますがなんと大胆で壮絶なソロでしょう!サウンド・コーディネーター的立場のBrownが実はメンバー中もっともアグレッシブじゃあないですか!受けて立つDennardの暴れっぷりからもその凄まじさが伝わってきます!Genusはキープに回っていますがニヤニヤしながら演奏している顔つきが見えて来そうです!トリッキーなバンプを経てラストテーマに向かいます。

5曲目BoundariesはMartino自身が初めて作曲するタイプの楽曲だそうで、かなり凝った構成のファンク・チューンです。Dennardのドラミングが重要なファクターとなり、曲が進行します。先発のMartinoはシングルノートを駆使し独自のサウンド・ワールドをこれでもかとアピールしており、面目躍如の巻です!続くAlexanderのソロも本作中最もバーニング、ここまで弾けたプレイをするとは知りませんでした!Dennardとの丁々発止も聴きものです!エンディングも意外性があり、難曲を完成させた達成感がタイトルに表れています。

6曲目Never Say Goodbyeはレコーディングの少し前、97年12月2日に交通事故で亡くなった友人のロック・ギタリストMichael Hedgesに捧げられたナンバー、全編ギターとシンセサイザーのデュオで厳かに演奏されます。サウンドからHedgesの人柄を垣間見る事ができ、Martinoとの人間関係の深さも感じることが出来る美しい演奏です。

7曲目Mac Toughもヘビーなファンクのグルーヴが魅力のナンバー、ゴスペルライクなピアノのイントロからスタート、4度進行のコード進行も設けられ、ワンコードに対してのバランスが取られている構成です。先発ギターソロは曲想のファンキーさを踏まえながら、4度進行の部分では巧みなMartino節を披露しています。テナーソロのサブトーンを生かしたファンキーな節回しには、Stanley Turrentineを彷彿とさせるものを感じます。キーボードも短めのソロを繰り広げ、各人1コーラスづつの顔見世興行的演奏になりました。エンディングでのスポークンワードはBrownによるものでしょうか?

8曲目Joyous Lakeは病に倒れる前、最後の作品になった76年9月レコーディング「Joyous Lake」収録の表題曲です。Brown, Dennardのふたりも参加しているので再演になりますがJoyous Lakeはバンド名でもあり、Martinoが病に臥す事なく演奏を継続的に行えたら、レギュラーバンドとして活躍していたのでないかと思います。本作はJoyous Lakeの延長線上にあると言う事になります。フュージョンテイストを感じますが録音当時の時代のなせる技、今回テナーサックスを加えて演奏した事で、メロディラインがくっきりと浮かび上がり、名曲ぶりが一層冴えることになりました。演奏時間13分を越す本作中最長のテイクになります。初演より幾分テンポが遅く設定されており、Genusのベースラインの躍動感、 Dennardのグルーヴ、Brownのバッキングが実に気持ち良いです!随所にシンセサイザーでのSEが施されていて曲の雰囲気作りに大いに貢献しています。先発Martinoは存分に自分の唄を披露し、ラインの独自性を発揮しています。テーマメロディが美しいので、インタールードで何回か再利用されても全くくどくありません!続くAlexanderはスペーシーな導入からソロを開始、いつもの50~60年代のテイストから踏み出そうと、チャレンジしているようにも聴こえます。Brownのぶっ飛び系のアプローチはここでも冴えを聴かせ、Hancockライクなリズミックフレーズを繰り出しています。ラストテーマを経て曲想に相応しいエンディングを迎え、壮大なストーリーは大団円にて終了です。

76年録音「Joyous Lake」

9曲目ラストのナンバーのTwo Weighs Outは1曲目Uptown Downのテーマを超コンパクトにまとめ、異なるラインも付加したエピローグ的ナンバー。作品に統一感をもたらす手法の一つと言えましょう。ロックのミュージシャンが用いることが多いですが、ひょっとしたらUptown Downのテーマが2案あり、out takeとなったバージョンを元に再構築したものかも知れません。

2020.04.27 Mon

Captain Buckles / David “Fathead” Newman

今回はテナーサックス奏者David “Fathead” Newman、1970年録音の作品「Captain Buckles」を取り上げたいと思います。Ray Charles Bandで培われた音楽性が開花しています。

Recorded: November 3-5, 1970 Atlantic Recording Studios in NYC Producer: Joel Dorn Label: Cotillion

ts, as, fl)David “Fathead” Newman tp)Blue Mitchell g)Eric Gale b)Steve Novosel ds)Bernard Purdie

1)Captain Buckles 2)Joel’s Domain 3)Something 4)Blue Caper 5)The Clincher 6)I Didn’t Know What Time It Was 7)Negus

1933年2月Texas州生まれのNewman、幼い頃から音楽に携わり、最初にピアノを手がけ後にサックスに転向しました。彼のミドルネームFatheadは「まぬけ、バカ」と言う意味ですが、名前の由来は学生時代に遡り、当時あまり譜面の読めなかったNewmanが譜面台に逆さまに楽譜を置き、スーザ行進曲を暗譜で吹いている姿に憤慨した音楽教師が名付けたニックネームを、そのまま使用しているのだそうです(笑)。そんなアダ名をプロになってからも使い続けられるのは、きっと人柄の良い方なのでしょう。自身を揶揄する名前を冠する芸人、ミュージシャン、そうは数が多くありません。日本でも吉本興業所属のお笑い芸人「アホの坂田」こと坂田利夫氏くらいでしょうか(爆)。しかし彼の演奏、音楽性、サックスの音色は実に素晴らしくかつ個性的、むしろ自信の表れに違いないでしょう。かつてのバンマスRay Charlesをして、「歌を歌うようにサックスを吹けるのは彼しかいない」とまで言わしめました。サックス奏者、音楽家にとって最大級の賛辞の言葉ですが、50年代から60年代初頭にかけて10年以上Charlesのバンドに参加した事が、彼の音楽性に大きく影響を与えています。加入当初はバリトンサックスを演奏しましたが、前任者であったDon Wilkersonが退団し、テナーに持ち替えてCharlesのバンドのメインソロイストに昇格しました。他サックスにはHank Crawfordの名前も見られます。バンドは数多くのヒット曲をリリースし、その中でも名曲Unchain My Heart、Newmanのソロがフィーチャーされていますが、こちらは61年にヒットチャートの1位を記録しました。絶頂期のCharlesを支えたバンドの屋台骨としての存在、逆に言えばNewmanの演奏なくしてはRay Charlesの活躍ぶりは有り得なかったでしょう。58年11月にはCharlesがピアニストで参加した初リーダー作「Fathead: Ray Charles Presents David ‘Fathead’ Newman」を録音しています。3管編成による緻密でゴージャスなアレンジをベースに、意外にもストレートアヘッドなジャズ演奏を展開し、Charlesのバッキング、ソロも冴える、外連味のないアンサンブルを聴かせています。収録スタンダード・チューンWillow Weep for Meのアルトサックス・プレイも期待を裏切らず、堪らなく艶やかでセクシーです!出身地からしてそうですが、彼の演奏はいわゆるテキサス・テナー、ホンカーのテイストがルーツになります。Ray Charlesの寵愛を受け、彼の楽団での豊富な経験により、他では得る事の出来ない歌心を身に着け、カテゴリーの垣根をワンステップ超えた演奏を展開しています。

Ray Charles Band後にはHerbie Mann, Aretha Franklin, B.B. King, Joe Cocker, Dr. John, Jimmy Scott, Lou Rawlsらと共演し、伴奏の名手として、また歌伴に於ける4小節〜8小節の演奏、短くとも巧みな間奏の第一人者としての地位を確立しました。後年Natalie Coleの大ヒットアルバム「Unforgettable」にも参加し、収録曲Tenderlyでオブリガート、間奏を取っています。

Newmanの共演者にはソウル、ファンク系のプレイヤーが多く、演奏も次第にソウル、R&B色が濃く成りましたが、40作近い彼の作品中には殆ど必ずジャズ・ミュージシャンの名前がクレジットされ、ジャズ寄りのコンセプトを匂わせています。この一貫したテイストがNewmanのジャズへのリスペクトを感じさせるのです。本作にも名トランペッターBlue Mitchellが参加していますが、アンサンブル、ソロに個性を発揮し、オリジナル・ナンバーも1曲提供しています。ピアノ奏者は参加しておらず、ギタートリオが伴奏を務めていますが、ギタリストEric Galeは泣く子も黙る名うてのセッションマン、彼の存在が本作の音楽性を高めています。ベーシストSteve NovoselはRoland Kirkのバンドを皮切りに、こちらも様々なバンドで演奏を繰り広げました。ドラマーBernard Purdieもセッションドラマーとして鳴らし、King CurtisやAretha Franklinのバンドでも活躍、James Brownとも共演歴があり、こちらもソウルやR&Bのフィールドでの第一人者です。ちなみにThe Beatles初期の録音を21曲、Ringo Starrの替わりに叩いていると言う都市伝説がありますが、どうもマユツバものだそうです(汗)。

それでは演奏に触れて行きたいと思います。1曲目表題曲NewmanのオリジナルCaptain Buckles、いかにも60年代ジャズロック後を感じさせる雰囲気、グルーヴのナンバーです。Purdieのズッシリとしたドラミング(スネアの位置と音色が堪りません!)とNovoselのエレクトリック・ベース(音色がまさにこの頃です!)、 Galeの絶妙なカッティングと魅力的なトーンがブレンドし、70年代幕開けのビートを聴かせます。テナー、トランペットの2管のメロディは重厚なアンサンブルを織り成し、作品冒頭の掴みはこれで間違いなくオッケーです!テーマから続くソロ(テーマメロディとソロが被っているので、いずれかがオーヴァーダビングでしょう)の先発はNewmanのテナー、いやいやそれにしても凄い音色ですね、この人!メチャクチャ好みのタイプのサウンドです!いかにも硬いリード、オープニングの広いマウスピース使用のハードなセッティングを感じさせ、そしてシャウト、シャウト、グロウル、スクリーミング、壮絶なブローイングです!これは正統派ホンカー以外何者でもありません!8分音符のフィギュア、タンギング等が同じホンカー・テナーであるWilton Felderを感じさせますし、シャウト感にはWillis Jacksonを彷彿とさせるものがあります。受けて立つリズムセクションの対応も素晴らしく、ギターのカッティングのメリハリ、ベースとドラムのコンビネーションの巧みさ、そしてドラマー冥利につきるフィルインの数々!テナーソロ後はラストテーマ、コンパクトにクールに演奏をキメ終えました!

2曲目もNewman作のボサノバ・ナンバーJoel’s Domain、プロデューサーのJoel Dornに捧げたナンバーなのでしょう。メロディの曲想が62年7月録音Quincy Jonesの作品「Big Band Bossa Nova」収録のナンバー、名曲Soul Bossa Navaによく似ています。ちなみにそこでのフルート演奏はかのRoland Kirk、後年映画「Austin Powers」シリーズ一連のテーマ曲にも使われました。

Newmanはフルートを、Mitchellはミュート・トランペットでテーマを演奏します。先発はそのままMitchellから、間を生かした彼らしい演奏、フルートがソロのバックでメロディを吹き、引き続きソロになります。実はホンカーはフルートを基本的に吹かないのですが、彼の場合はその巧みなラインと鳴り切り感から特例で良しとしましょう(爆)。その後はあとテーマへ、アウトロでは一瞬フロントふたりのバトルが聴かれますが、すぐさまフェイドアウト、こちらもコンパクトな仕上がりになりました。

3曲目はThe Beatles、というよりもGeorge HarrisonのナンバーからSomething、Newmanはアルトに持ち替えて演奏しています。いや、はっきり言ってこれはヤバイですね、何という音色でしょう!!極太で艶やか、コクがあって付帯音が豊富、そしてニュアンスがとてつもなくセクシーです!深々としたビブラートはくどい表現になりがちですが、彼の場合は全くイヤミがなく、むしろもっともっと深くと、お願いしたいくらいです(笑)!テナー吹きのアルトは往々にして豪快、テナーの音色がそのまま高くなったアルトとテナーの中間の如き鳴りを聴かせます。Grover Washington, Jr.やKirk Whalum, Ernie Wattsしかり、でもNewmanはまた格別な色気を放っています!これぞRay Charles Magicなのでしょう、きっと。Newmanのアルトの独壇場で他の奏者のソロはありません。あっても単なる蛇足にしかならないでしょうが。曲の持つ雰囲気、メロディとNewmanの持ち味がブレンドし一体化した、美しい演奏だと思います。

4曲目はMitchellのオリジナルBlue Caper、カリプソのリズムのイントロが心地良く、サビが4度進行でスイングになる、いかにもMitchellらしい明るいハードバップ・テイストのナンバーです。リズム・グルーヴがジャズ屋の演奏するカリプソ&スイングではないので、新鮮さと同時に若干の違和感を感じます。先発ソロはMitchell、豊かな音色とジャジーな雰囲気は本作のスパイスと成り得ています。続くNewmanはフルートに持ち替え、やはり「鳴り捲り」のソロをこれでもか、と聴かせます。1コーラス目ベースが弾くのを止め、サビだけ演奏するのも効果的ですが、逆にその後のドラムソロに入っても弾き続けているのは、演奏上の約束事を反故にしたのでしょうか?、しばらく弾き続けた後の停止時に「アレッ?みんなどうしたのかな?」という声が聴こえてきそうです(笑)。短いPurdieのソロは皮モノ中心で行われ、ラストテーマに向かうために雰囲気を変える、有効な手段に成り得ました。エンディング最後にバスドラでワンフレーズ、ラテンのパターンをバスドラで叩いているのが面白いです。

5曲目NewmanのナンバーThe Clincherはマイナー調の佳曲、スイングのリズムでキメやホーンのアンサンブルが効果的に用いられ、テーマ時のドラムのカラーリングが的確です。ソロの先発はMitchell、抑揚のあるソロの構築はリアルジャズマンを感じさせます。続くNewmanのソロはサブトーンを効かせた低音域からスタート、重厚さが流石です!シングルタンギングを多用した8分音符がかなりイーブンです。フラジオ音を用いたシャウトのニュアンスや、ラインのアプローチにはここでもWilton Felderの類似性を感じますが共通のルーツがあるのか、互いに影響を与えているのかは、今後調べて行きたいと思います。ソロイストふたりに対するリズムセクション、特にドラムのシンコペーションを活かしたアプローチが巧みで、何度かシャッフルになりかけた瞬間がスリリングです。ラストテーマでフロントの同時進行ソロがしばらく聴かれますが、こちらもあいにくのフェイドアウトの巻でした。

6曲目はスタンダード・ナンバーからの選曲でI Didn’t Know What Time It Was、作品にスタンダードをほぼ必ず取り上げるのもやはりジャズ演奏への拘りからでしょう。再びアルトサックスに持ち替えて演奏していますが、これはSomethingの演奏より更にヤバイです!アウフタクトからいきなりテーマが始まり、その素晴らしい音色、ニュアンスを駆使して美の世界へと誘います。音域、曲調と音の張り具合の三つ巴状態、自分からは素晴らしいとしか言葉が出ません!テーマ後のアドリブ・ラインの巧みさ、流暢さは、普段からジャズ・プレイヤーとしての自覚をしっかりと持ち、インプロヴァイザーとしての精進を欠かさない真摯な姿勢を受け取ることが出来ました。こちらも一曲丸々Newmanの独壇場、更にカデンツァに於けるフレージングで、彼のジャズ・スピリットを再認識させられましたが、彼はソウル、R&B範疇のプレイヤーではなく、しっかりとジャズに腰を据えている表現者なのです。

7曲目ラストを飾るのはNewmanのオリジナルNegus、ベースの印象的なラインから曲が始まり、ファンキーなテイストのテーマが演奏されます。Purdieのドラミングが決め手となったグルーヴはダンサブルでもあります。ソロの先発はGaleのアコースティック・ギターから、本人いたって真面目なのでしょうがどこか津軽三味線を感じさせる音色です(爆)。短くリフが演奏された後にメロディを受け継いでNewmanのソロ開始、ハイテンションにいっそう拍車がかかった演奏は行くところまでとことん盛り上がって貰いたいという、リスナーの願望を叶えたクオリティにまでに到達してくれました!再びWillis Jacksonのスクリーミング・テイストも感じました。エンディングは残念ながらフェイドアウト、もっと聴きたかったです!

2020.04.19 Sun

Lullaby for a Monster / Dexter Gordon

今回はDexter Gordon1976年録音のリーダー作「Lullaby for a Monster」を取り上げたいと思います。Dexterには珍しいテナートリオ編成でのレコーディング、いつものようにマイペースではありますが、コード楽器不在が良い方向に作用した素晴らしい演奏を繰り広げています。

Recorded June 15, 1976 Copenhagen Denmark Recording Engineer: Freddy Hansson Producer: Nils Winther Label: SteepleChase

ts)Dexter Gordon b)Niels-Henning Ørsted Pedersen ds)Alex Riel

1)Nursery Blues 2)Lullaby for a Monster 3)On Green Dolphin Street 4)Good Bait 5)Born to Be Blue 6)Tanya

62年から76年まで足掛け14年間欧州在住で音楽活動を行ったDexter、本作はおそらく現地での最後の録音作品に該当すると思います。帰国後の彼は米国に留まらず世界中でブレークし華々しい活躍を遂げることになりますが、時代もジャズ・ヒーローを求めていたのでしょう、フュージョン・ブームのある種のリバウンドだったのかも知れません。豪快さと癒し、ジャズのリラクゼーションを堪能させるプレイ。彼は3回来日を果たしており、2度目の演奏を聴きましたが、その生演奏に触れる事が出来たのは貴重な体験でした。

彼の欧州でのレコーディング、共演のピアニストはTete MontoliuとKenny Drew二人の名手がほとんど、サウンドが素晴らしいピアニストとの共演がごく当たり前であったので、ここでのコード楽器不在はかなり新鮮であったに違いないでしょう。本作は初めからテナートリオとして録音されたのか、レコーディング当日にピアニストが来なかったために急遽3人で演奏したのか、定かではありませんが(メンバーのオリジナル等の選曲、構成を鑑みると、テナートリオ編成を最初から意識しているようにも見えます)、いずれにせよコード楽器奏者がいない分プラスに作用し、スペースが増えた分、リズムセクション〜ベーシストNiels- Henning Ørsted Pedersen、ドラマーAlex Riel、欧州を代表する二人〜が活躍し(Rielがこんなにも叩く人だとは思いませんでした!)、それにつられた、煽られた形でDexterがいつもよりも縦横無尽、存分に吹きまくっているのです。彼の作品で丸々テナートリオでのプレイは本作だけになると思いますが、他にコードレストリオでの作品をリリースしているテナー奏者と、その作品をざっとご紹介しておきましょう。いずれもテナートリオである必然性を感じさせる、素晴らしい作品です。テナー奏者はトリオ演奏時に本領を発揮出来るプレーヤーなのです。既に当Blogで紹介済みの作品もありますが、いずれ他も取り上げたいと思っています。

Sonny Rollins「Way Out West 」
Sonny Rollins, Ray Brown, Shelly Manne
John Coltrane「Lush Life」
John Coltrane, Earl May, Art Taylor
Joe Henderson「Barcelona」
Joe Henderson, Wayne Darling, Ed Soph
Joe Farrell「Puttin’ It Together (Elvin Jones)」
Joe Farrell, Jimmy Garrison, Elvin Jones
Steve Grossman「Live in Buenos Aires (Stone Alliance)」
Steve Grossman, Gene Perla, Don Alias
Jan Garbarek「StAR」
Jan Garbarek, Miroslav Vitous, Peter Erskine
Dave Liebman「Open Sky」
Dave Liebman, Frank Tusa, Bob Moses
John Klemmer「Nexus」
John Klemmer, Bob Magnusson, Carl Burnett
Branford Marsalis「The Dark Keys」
Branford Marsalis, Reginald Veal, Jeff “Tain” Watts
Joe Lovano「Remembrance (John Patitucci)」
Joe Lovano, John Patitucci, Brian Blade
Jerry Bergonzi「Open Architecture」
Jerry Bergonzi, JF Jenny-Clark, Daniel Humair
Ari Ambrose「United」
Ari Ambrose, Jay Anderson, Jeff Williams
Ralph Moore「Weaver of Dreams (Ben Riley)」
Ralph Moore, Buster Williams, Ben Riley
小田切一巳「神風特攻隊」
小田切一巳、山崎弘一、亀山賢一

余談ですが20歳の時、私が初めて購入したテナーサックスは中古の仏セルマー・マークⅥでした。その楽器の以前の所有者が小田切一巳さんだと、購入した石森楽器でオヤジさんが教えてくれ、小田切さんにご挨拶すべく演奏を聴きに行きました。シャイな方であまりお話はできませんでしたが、プレイは先鋭的、でも朴訥とした方で、暖かい人柄に触れられたように覚えています。

それでは本作の演奏に触れて行きましょう。1曲目DexterのオリジナルNursery Blues、冒頭「きらきら星」のメロディを引用したベースとテナーのユニゾンによるイントロが聴かれます。タイトルを直訳すると「子供部屋ブルース」でしょうか?、雰囲気はそのものですが曲のフォームは12小節のブルースではありません。ちなみに「伊勢佐木町ブルース」や「夜霧のブルース」もブルースフォームではありませんでしたね(笑)。16小節を1コーラスとしたコード進行で、Sonny Rollinsのオリジナル曲Doxyのコード進行が用いられています。さらに曲のオリジンを遡れば1918年、米国のピアニストで作曲家のBob Carletonが作曲した「Ja-Da」のコード進行が基になっているのです。テーマではPedersenが大活躍し、本作トリオ演奏の前途は明るいと宣言しているかのようです(笑)。テナーソロはまさしくlaid backの極み、ビートの最も際(きわ)に音符を載せており、背水の陣状態です(笑)。そして8分音符がかなりイーブンなのが興味深く、実はかのMiles Davisの8分音符もめちゃめちゃイーブンなのです。コーラスを重ね、演奏は次第に熱を帯び、Dexterいつになく16分音符フレーズのオンパレード!意外と16分音符はon topに位置する時があります。8分音符の超タイトさに比べ16分音符はさほどでもないのは、8分音符での演奏の方に重きを置いているからでしょう。普段聴かれないテクニカルなフレージングが随所に炸裂、もちろんオハコの引用フレーズの挿入も巧みになされています。RielがDexterの熱気に呼応しフィルインを連発しますが、カッコイイですね!RielはBen WebsterやJackie McLean, Art Farmer, Eddie “Lockjaw” Davis, Kenny Drewといった米国を代表するジャズプレーヤーと演奏活動を共にしましたが、自身はロックバンドも率いているためか、例えばPhilly Joe JonesやRoy Haynes, それこそElvin Jonesたちと比べるとグルーヴがイーブン、スクエアでDave WecklやSteve Gadd, Vinnie Colaiutaたちと基本的に同傾向なノリです。Pedersenも縦横無尽に様々なアプローチを駆使し、演奏に寄り添いつつ、煽りつつ、名手ぶりを聴かせますが、圧巻はやはり自身のソロ、早弾きを含めた確実な楽器のコントロールには全くブレを感じさせません。ラストテーマには再びきらきら星が用いられ、Fineです。

2曲目はタイトル曲、PedersenのオリジナルLullaby for a Monster、こちらにも可愛らしいタイトルが付けられていますが、曲は8分の6拍子を基本としたリズムで、構成やコード進行にも捻りが効いた佳曲です。Pedersenの79年7月録音リーダー作「Dancing on the Table」収録のオリジナルも佳曲揃い、しかもts)Dave Liebman, g)John Scofield, ds)Billy Hartたち共演者の演奏も充実した名盤です。

躍動的なベースパターンを経てテーマが始まります。ドラムとの的確なコンビネーションを得てとてもタイトで小気味好いグルーヴが聴かれます。Dexterのソロは巧みにコード進行をトレースしつつも、2’52″からの彼には珍しいトリル、2’58″からのグロートーン、これは既にホンカーの領域に足を踏み入れていますね!!受けて立つRielのフィルイン、スリリングなやり取りが行われ、ベースのタイムのたっぷり感と合わさった三位一体!3’26″からの音域を上げての再びのトリル、盛り上がっています!ひとしきりソロの起承転結、「転」を成し得たので「結」に入り、上手くストーリーをまとめました。その後は短い中にも「Pedersen印」のフレーズをしっかり織り込んだハイテク・ベースソロがあり、ラストテーマへ。

3曲目はお馴染みスタンダード・ナンバーからOn Green Dolphin Street。いやいや、この演奏も素晴らしいですね!8ビートとスイングを交えたテーマ奏自体が既にゴキゲンにスイングしています!ブレークからピックアップ・ソロが始まりますが、ここぞ見せ所!とばかりに、よりlaid backしてたっぷり感を出し、続くソロ本編の巧みな事と行ったら!聴き惚れてしまう次元のクオリティです!テナーソロ1, 2コーラス目はテーマと同様に8ビート、スイングと並走し、3コーラス目から丸々スイングに、さらにPedersenが本領を発揮しon topのグルーブも絶好調!Rielも叩きまくりの猛攻撃に出ています!テナーソロ最後にはターンバックが入りベースソロへ、ここでのPedersenは水を得た魚状態、もはや禁断のハードロックの領域(爆)に入ってしまったかのようなフレーズの嵐、嵐、嵐!ラストテーマ後はパターンが続きFade OutでFine、テナートリオでのGreen Dolphinの名演が誕生しました。

4曲目はCD化に際してのボーナストラックでTadd DameronのナンバーからGood Bait、John Coltrane58年2月録音「Soultrane」の名演奏が光りますが、本作でのDexterも大熱演、Coltraneとは異なるオーソドックスなアプローチですが、素晴らしいソロを聴かせます。両者の顕著な違いとして、Dexterテーマのサビをオクターブ下で演奏しているので、より低音域の効いた極太感が出ており、コード進行のトレース感と歌い回しが良くブレンドしているのが印象的です。何よりリズム隊の寄り添い、フォロー感がDexterをしっかりサポートしています。ここでもRielの暴れっぷりに気合が感じられ、テナートリオならではの絡み合い場面を作り上げています。テナーとの4バースを含め、彼のレスポンスやフレーズは特に個性的と言う訳ではなく、ひたすらドラムのルーディメンツに忠実な演奏っぷりを聴かせていて、彼の生真面目さを物語っています。

5曲目はバラードでBorn to Be Blue。賑やかな演奏が続いたので、上の音域での朗々としたメロディが沁みて来ます。Pedersenのベースが3連系のラインを多用することで、コード楽器のバッキングが存在しない空間を音楽的に埋めています。イントロは曲冒頭のコード進行をリピート、テーマに入りDexterならではのニュアンスが芳醇な色気を放ちますが、ソロに於てもビブラートの様々な付け方、語尾の処理での微妙な掛かり具合が堪りません!ベースソロ後はDexter低音域を用いて吹き始め、次第に音域が上がり、冒頭のテーマ同様に上の音域でテーマを聴かせます。

6曲目ラストを飾りしはDonald ByrdのナンバーからTanya。Dexterの64年6月、Blue Note Labelからのリーダー作品ですがParisでの録音「 One Flight Up」に収録されています。

欧州のテイストを感じさせる、雰囲気のある美しいジャケットです。

オリジナルは作曲者ByrdとDexterの2管編成でのメロディ奏、加えてピアノのバッキングによるパターンが演奏されている上に、ここではキーを全音上げたGマイナー(in B♭)に移調しているのでかなり趣が異なります。ピアノのパターンをベースが担当しているのもあり、もはや別な楽曲に聴こえます。オリジナルでのDexterはかなりスペーシーに演奏していますが、ここではブロウしリズム隊と熱く盛り上がっています!本作中Dexterは最もlaid back感を出して吹いており(この位のテンポが得意なのもあると思います)、巨象がアフリカのサバンナを歩くが如しのタイム、演奏です。オリジナル演奏でのベース奏者も同じPedersenであったからでしょうか、かなり気持ちの入った長いソロを取っています。この人の16分音符は実に正確で端正ですね、再認識しました。

2020.04.12 Sun

Skate Board Park / Joe Farrell

今回は1979年録音テナーサックス奏者Joe Farrellのリーダー作「Skate Board Park」を取り上げたいと思います。

Recorded at Spectrum Studios, Venice, California, January 29, 1979 Engineer: Arne Frager Mixing: Paul Goodman(RCA) Producer: Don Schlitten Label: Xanadu

ts)Joe Farrell p)Chick Corea b)Bob Magnusson ds)Lawrence Marable

1)Skate Board Park 2)Cliche Romance 3)High Wire – The Aerialist 4)Speak Low 5)You Go to My Head 6)Bara-Bara

学生時代にとても良く聴いた一枚です。70年代を代表するサックス奏者の一人Joe Farrellは37年Chicago生まれ、60年Maynard Ferguson Big Band, 66年Thad Jones/ Mel Lewis Orchestraでの演奏を皮切りにシーンに登場し、60年代後半から頭角を表し始めました。65年4月録音Jaki Byardのアルバム「Jaki Byard Live!」で初期の好演が聴かれます。基本的なフレージング、アプローチには既に後のスタイルが現れていますがテナーの音色が異なります。これはこれで良いトーンではありますが、いささか小振り感があり、彼の最大の特徴である身の詰まった極太、豪快さがアピールされていません。

ところが約1年半後の66年11月録音、Chick Coreaの初リーダー作「Tones for Joan’s Bones」では十分にFarrellの音色が確立されています。短期間に急成長を遂げたのでしょうが、トーンに対するイメージはもちろん、使用するべき的確なマウスピースやリード、楽器とのコンビネーションが見つかったに違いありません。自分のボイスを出せるセッティングを得られるかどうか、サックス奏者には死活問題です。優れたテナー奏者が必ず魅力的な素晴らしい音色を携えているのは、音色に対する徹底的なこだわりの産物です。

更に1年後の翌67年10月NYC The Village Vanguardで行われたセッションの模様を録音した「Jazz for a Sunday Afternoon Volume 4」、同様にCoreaやElvin Jones, Richard Davisら超弩級リズムセクションとの演奏で、Farrellのオリジナル曲13 Avenue “B”(コンテンポラリーなテイストの佳曲です)やStella by Starlightが取り上げられていますが、確実に以降に通ずるトーンを身に付け、豪快にブロウしています。彼のセッティングですが、マウスピースはBerg Larsen Hard Rubber、オープニングは95/1ないしは100/1、リードはRico4.5 or 5番、楽器本体はSelmer Mark Ⅵ 15万番台Gold Plated、後には同じくSelmer Mark Ⅶも使用していました。確かにリードがメチャメチャ硬そうな音をしていて、カップ・アイスクリームがこのリードで食べられそうです(爆)。当時60年代後期はFree Jazzの嵐がさんざん吹き荒び、一段落した頃に該当します。オーディエンスもハードなものよりもオーソドックスな表現のジャズ、例えばジャムセッション形式のような肩肘張らない演奏を欲していました。食傷気味だったのですね、この「Jazz for a Sunday Afternoon」シリーズはリスナーに大いに受け入れられたようです。

その後Farrellは魅惑のテナートーンと独自のスタイルを引っさげて、ジャズシーンに繰り出しました。翌68年4月にElvin Joneのリーダー作でJohn Coltrane没後に編成したピアノレス・トリオ編成による「Puttin’ It Together」(ベーシストはJimmy Garrison)、同年9月同編成による「The Ultimate」の録音に参加、ここでの演奏でポストColtraneの筆頭として、そのステイタスを確立しました。

70年1月に名門CTI Labelで自身の名義での初めての作品「Joe Farrell Quatet」を録音、以降CTIから計7作をリリースしました。

彼の快進撃は止まりません。盟友Chick Coreaの大ヒット作72年2月「Return to Forever」と同年10月録音「Light As a Feather」に於けるプレイはジャズ史に残る名演奏、「Return to ~」ではソプラノサックス、「Light As ~」ではフルートによる演奏ですが、彼のマルチ奏者ぶりが発揮されています。ちなみにアルトサックス、オーボエ、イングリッシュホルンも演奏業務内容に挙がっており(笑)、スタジオ・ミュージシャンとしても活躍していました。

76年CTIでのラスト7作目「Benson & Farrell」リリースの後、Warner Bros.から時代をまさに反映したフュージョン〜ディスコの作品77年「La Cathedral Y El Toro」78年「Night Dancing」を2作リリースしましたが、これが両方ともメチャ良いのです!演奏はもちろん、参加メンバー、曲目やアレンジ、アルバムの構成と何拍子も揃った聴き応え満点の作品、「Night Dancing」に至っては当時のディスコ港区芝浦にあった「ジュリアナ東京」で、扇子を持ってお立ち台に登り、扇ぎながら一心不乱に踊る女性たちとオーバーラップするジャケット・デザインに大受けしました!(若い方たちには何のコッチャですが)、反して生粋のジャズファンからは「ホイホイ・フュージョン」なんて呼ばれ方もされましたが(汗)。「Night Dancing」収録のバラードで英国ロックバンドBee Geesの大ヒットナンバーHow Deep Is Your Love、邦題を「愛はきらめきの中に」は当時「愛きら」と我々省略して呼び(笑)、今では絶滅危惧種〜もしくは絶滅してしまったダンスパーティの仕事で本当によく演奏したものです。Coltrane派テナーサックスの旗頭であったJoe Farrellが「Farrellのテナーの音色と演奏スタイルはディスコ・ミュージックに実に良く合う」ので、世の中このままジャズが衰退しフュージョンやディスコ・ミュージックが台頭していくのだろうか、と遠くを見つめながらぼんやりと考えたものです(爆)。

「La Cathedral Y El Toro」
「Night Dancing」
「Night Dancing」裏ジャケット
めちゃくちゃセンスあるデザインです!

一方Farrell参加のCorea78年作品「The Mad Hatter」、緻密にしてゴージャス、壮大なアレンジが施されたカテゴリーとしてはフュージョンの名作ですが、収録のアップテンポのスイングナンバーHumpty Dumpty、以降Coreaの重要なレパートリーの1曲に加わったオリジナル、作品中ひときわ異彩を放つ名曲での名演奏がCoreaのジャズ回帰を匂わせました。Coreaも時代も次第にアコースティックが恋しくなったのかも知れません。

そして間髪を入れずに同年同じメンバーで録音された「Friends」、久しぶりにCoreaがアコースティック・ジャズを演奏したフルアルバム作品になりますが、ds)Steve Gadd ~ b)Eddie Gomezによるデジタル・アコースティックとも評される性格無比なスイング・ビート、こちらにCoreaが加わることで鉄壁のタイトなリズムセクションが完成、でもFarrellのソロそっちのけでリズム隊が盛り上がっています(笑)!全曲に渡る緊張感みなぎるインタープレイがこちらも歴史的名盤を生み出しました。

おそらく78年末にレコーディングの話が持ち上がりました。Xanadu Labelオーナー兼プロデューサーDon SchlittenがFarrellにオファーし、「Joe、フュージョンやディスコはそろそろ下火だから、アコースティックのアルバムを作ろうじゃないか、と言うか、そもそもオレはジャズのアルバムしか制作しないけどね。」みたいな話があり、「じゃあChick(Corea)を呼んでさあ、あいつには今まで随分と世話になっているから、お返しに是非とも一緒にレコーディングしたいんだ。」と更なるやり取りがあったのかも知れません。

と言うことで、本作の演奏について触れて行きましょう。1曲目表題曲でFarrellのオリジナルSkate Board Park、タイトルは本人も含めた子供たちが公園でスケボーを楽しむ様をイメージしたのでしょうか、レコードで発売された時のジャケットに良く表れています。もっともテナーを吹きながらのスケボーは、至難の技でしかも大変危険なので、良い子は真似をするのをやめましょう(爆)。

「Skate Board Park」オリジナルジャケット

本CDは2015年に、数々の埋もれた作品を掘り起こしたアルバム発掘王Zev Feldmanの手によって久しぶりに世に出ました。デジタル・リマスターが施され、大変素晴らしいクリアネス、バランスでレコード時よりも格段に良い音質でのリリースになりました。

いきなりテナー、ピアノ、ベースによる超絶複雑なラインのユニゾンから曲が始まります。斬新にしてメチャ・カッコイイです!途中からベースはバッキングに回りテーマはテナーとピアノのユニゾン、コードは鳴っていません。シンコペーション、間を生かしたメロディの譜割り、3連譜、トリッキーな曲想です。Farrellはこの作曲に相当気合が入り、難易度高く設定しましたが、ユニゾンするCoreaにはきっとお手の物なのでしょう、何ら支障なく余裕で演奏しています。テナーソロに入りやっとピアノがコードを弾き始めます。一聴すぐFarrellとわかる魅力的なテナーの音色、タイムがかなりon topですがリズム隊確実にフォローしています。強烈なシングル・タンギングを多用、テーマのモチーフを随所に用いたフレージングはインパクトが半端ないです!CoreaのバッキングもFarrellとの長い付き合いを感じさせる、付かず離れず感が心地良く、ソロ終盤戦ではチャチャを入れるが如きバッキングからピアノのソロへ、一転してタイトなリズムによるCoreaならではの、端正なプレイ。加えてかなり打楽器的にパーカッシブにアプローチしています。常々思うのですがCoreaほどのタイム感を極めたジャズマンが、はっきり言ってタイムがかなりルーズなFarrellを何故ファースト・コールに位置させているのか、謎ではありますが、演奏はもちろん二人の人間的な相性が物を言っているのでしょう。ピアノソロ後テーマの一部を用いてドラムと4バースが4回行われます。3回目のバース時にFarrellがリフの符割りを間違えて早く出てしまいます。Coreaは全く動じず平然とプレイを敢行、Farrellは動揺したのか更にリフ後半部分を出そびれ、ピアノのリフだけが演奏されます。それまでほんの些細な間違いは幾つかありましたが、緻密なユニゾンの多用がコンセプトの曲なので、この部分は相当目立ちます。ですが修正したりテイクを取り直していないのです(おっと、この頃にはまだお助けマシンのpro toolsは存在しませんでした!)。更に興味深いのは、ラストテーマ時にも出てくる、バースで用いたリフの部分を、多分Coreaがわざと間違えたように演奏している点です。Farrellの先ほどのミステイクを間違いにさせないようにする、機転の効いた対応なのでしょう、「実はこういうアレンジなのですよ」とばかりにフォローしたのです。Coreaの聡明さがひときわ輝き、このリカバーの存在がミステイクを正当化させている、「ジャズ演奏に間違いは存在せず、大切なのは如何に間違いを放置しないか」と言う事なのでしょう。当のCorea自体は常に完璧ですが。

2曲目FarrellのオリジナルCliche Romance、タイトルも曲想もグレイスフルなムードのボサノバ・ナンバー、良い曲です。テナーとエレクトリック・ピアノのユニゾンのメロディも心地良く、テナーソロは快調に飛ばしてストーリーを展開しています。随所に「ちょっと走る、音符が詰まる」タイム感が聴かれ、Farrellの持ち味といえばそうなのですが、この部分を修正し、極めていればより高みに登れたように感じています。昔どこかの音楽雑誌に彼のインタビューが掲載されていましたが、何かの質問に対し、付随して「テナーサックス奏者は一生に一度だけもの凄く練習をすれば良いんだよ」のような事を、お酒を片手に回答していたように記憶しています。彼の音楽観を自ら一言で語っていると思いますが、この大らかな感じが良い意味で演奏に現れているのではないでしょうか。続くピアノのソロは、スタイルがCoreaの盟友Stanley Clarkのアプローチと似ている、Bob Magnussonのベースラインと、良く絡まったインプロビゼーションを聴かせます。ベースソロを経てラストテーマへ。

3曲目はCoreaのナンバーからHigh Wire – The Aerialist、Chaka Khanのボーカルをフィーチャーしたアルバムで、以前にこのBlogでも取り上げた事のある82年作品「Echoes of an Era」にも収録されていますが、本作が初演に当たります。

いやいや、実に美しいナンバーです。耳に入ってくるメロディは自然体で巧みではありますが、実は難解なコード進行とリズムのシカケ、インプロビゼーションを行うにはこのタイトル通りに「高所に張り巡らしたワイヤー上の曲芸師」状態を強いられます(汗)。Lawrence Marableは全編にわたってブラシでドラミング、ナイスなサポートに徹しています。彼は29年5月生まれ、50年代から米国西海岸を中心に活躍している、Charlie Parker, Dexter Gordon, Zoot Simsらとの演奏経験もある大ベテランです。Magnussonのベースも軽快に、流麗にバックを務めます。ピアノ〜ベース〜テナーとソロが淀みなく続き、メンバーの高い音楽性を然りげ無く誇示してくれました。

4曲目はスタンダードナンバー、Kurt Weillの名曲Speak Low、外連味のない直球入魂の演奏です!イントロ無しで始まるテーマの、ブレーク他のリズムセクションの凝ったシンコペーションのシカケが実にヒップなアレンジです(ベース奏者が時たまシカケ後タイムが「えっ?」と揺れていますが…)。Farrelのテーマ奏も音色、音域、ニュアンスがジャジーな三位一体に聴こえます。テナーのピックアップからソロ本編へ、コンテンポラリーさがスパイスになった彼独自のウタを感じさせ、カッコ良くてグッときてしまいます!ここでもピアノ・バッキングの素晴らしさが光っていますが、仮に共演者が前述のGomez, Gaddだとしたら「Friends」でのように、バッキングにおけるリズムセクションのインタープレイで盛り上がってしまい、主人公は一体誰?状態になってしまうでしょう。続くピアノソロは演奏上のありとあらゆる事象に余裕と幅がある演奏を展開しており、共演者の発する音が全てクリアーに聴こえているように感じます。FarrellとCoreaのリズムに対する音符の位置の違いが、このくらいの早いテンポになると歴然と分かります。on topとlaid back、続く二人の8小節交換にそれが顕著に表れますが、対応するリズムセクションのサポートの巧みさに感心してしまいます。エンディングはいわゆる逆循のコード進行が延々と続き、Farrellが巧みにブロウしますが、Coreaとのやり取りが興味深く、曲中のソロ時よりも親密な会話を聴くことができます。エンディングに向けて次第に収束感を出し、予め決めておいた?フレーズを繰り出して無事Fineです。

5曲目はスタンダード・チューンのバラードYou Go to My Head、良い選曲です。Coreaの幻想的なイントロからテーマ奏へ、さりげないニュアンスとサブトーンを駆使したメロディが、曲の持つムードを的確に引き出しています。ピアノのバッキングの絶妙さは凄いですね!Coreaには演奏しながら本当に様々なサウンドが聴こえて来るのでしょう、眩いばかりの宝石を散りばめたかのようなコード感、フィルインの連続です。テーマ後は半コーラスピアノソロ、こちらでも申し分なしにサウンドの魔術師ぶりを発揮しています。きっとCoreaにインスパイアされたのでしょう、サビの部分でFarrell饒舌に上のオクターブを中心にソロを取り、その流れでメロディもオクターブ上げて吹いています。エンディングにはバンプが付け足され、その後カデンツァ時にトニックの半音上の音を一瞬吹いていますが、故意なのかたまたまなのか、「おっといけねぇ!」とばかりにすぐさまルート音に吹き換えています。

6曲目ラストを飾るのはFarrellのオリジナルBara-Bara、軽快なテンポでリズミックなキメもポイントになったこちらも佳曲、Freddie Hubbardと何回か共演したところ、たちまち彼のお気に入りナンバーになったそうです。ソロの先発Coreaはエレクトリック・ピアノで演奏します。右手のラインも素晴らしいのですが、左手から繰り出されるコードと、対旋律をイメージさせるラインのエグさが、まるでジキル博士とハイド氏の如く相反するサウンドを提供しています。続くテナーソロは本作中最もスインギーな演奏、良く伸びる音色でタイムもさほどラッシュせず、フレージングの繋がり、アイデア、音使いの斬新さ、シングルタンギングのタイトさ、イメージが終始持続しています。5’22″辺りでFarrellの吹いたフレーズに反応するCoreaのレスポンスが、もう1コーラス演奏しようかどうか迷っていたFarrellに、ソロを終えるようきっかけを与えたようにも聴こえました。ラストテーマは素直にキメの部分でFineです。

Joe Farrellは86年1月にCaliforniaの病院にて、骨髄異形成症候群で48歳の若さで亡くなりました。Michael Breckerも同じ病気を患い、白血病で2007年1月にやはり57歳の若さで亡くなっています。

2020.04.05 Sun

In Out and Around / Mike Nock

今回はピアニストMike Nockのカルテット編成による1978年録音リーダー作、「In Out and Around」を取り上げてみましょう。

Recorded at Sound Ideas Studio, New York City – July, 7, 1978 Produced by Mike Nock Executive Producer: Theresa Del Pozzo All Compositions by Mike Nock Label: Timeless Records

p)Mike Nock ts)Michael Brecker b)George Mraz ds)Al Foster

1)Break Time 2)Dark Light 3)Shadows of Forgotten Love 4)The Gift 5)Hadrians Wall 6)In Out and Around

理想的なサイドマンを擁し、全曲意欲的なオリジナルを巧みなインタープレイで演奏した素晴らしい作品です。アルバム録音78年当時はフュージョン・ブーム全盛期、このようなストレートアヘッドなアコースティック・ジャズをプレイした作品の方がむしろ珍しかったように記憶しています。George Mraz, Al Fosterら精鋭によるリズムセクションも注目に値しますが、フュージョン・サックスの担い手であるMichael Breckerの参加に耳目が奪われます。当時のシーンを賑わせていた諸作、例えばThe Brecker Brothers関係ではHeavy Metal Be-Bop, Blue Montreux Ⅰ,Ⅱ, The New York All Stars Live, Ben Sidran / Live at Montreux, Steve Khan / The Blue Man, ほかNeil Larsen / Jungle Fever, Richard Tee / Strokin’, Tom Browne / Browne Sugar, Al Foster / Mixed Roots…78年はフュージョン・アルバム大豊作、Michael参加作品も豊漁で、彼のサックス無しにはフュージョンは成り立たなかったと言っても過言ではありません。原体験した者にとっては感慨深げですが、最初に本作を聴いた時には正直余りピンと来ませんでした。全体的な演奏はひたすら端正でタイトなリズムが支配し、フロントMichaelはハイパー振りを披露してはいますが、聴く者に圧倒的なインパクトを与えるいつものぶっちぎり感は無く、何かに引っ張られ、羽交い締めにされているかの如くの抑制、ストイックさを感じ、彼の表現の最大の特徴である起承転結的ストーリー展開と結果として生じる爆発、そこに起因する爽快感が希薄な演奏と捉えていました(随所に小爆発はありますが)。明らかにいつものアプローチとは異なり、リズムセクション、特にピアノとのコンビネーション、インタープレイを徹底させています。仄暗さを伴ったユニークな曲想、美しいメロディと複雑なコード進行、FosterのPaiste Cymbal使用による乾いた音色のレガートと、Mrazの深い音色を湛えたon topでスインギーなベースとのコンビネーション、彼らの決して出しゃばらず、しかし出すところは毅然と的確にサポートしバックアップする。今は自分の耳がやっと演奏に追いついたのか〜めでたく第二次性徴を迎えたのでしょう、きっと(笑)!〜、本作が発する高次な音楽性を何とか受け入れる事が出来るようになったと思います。プレイヤー4人各々の音を各人どう受け止め、誰がどの様に絡んでいくのか、展開し変化するプロセスを楽しんで行く。個性的なオリジナルに対する柔軟なアプローチに懐の深さを覚え、同時に自分に照らし合わせ、音楽の聴き方も変わって行くのだと実感しています。

Mike Nockは40年7月、New Zealand Christchurch生まれ、 11歳でピアノを学び始め18歳の時にAustraliaで演奏活動を始めました。その後Berklee音楽院に入学、米国でも音楽活動を開始し63年から65年までYusef Lateefのバンドに参加しました。自己のフュージョン・バンドやスタジオ・ミュージシャンとしても活躍し、85年まで米国で過ごした後Australiaに戻りました。このレコーディング時には在米と言う事になります。今までに30作近いリーダー作をリリース、教育者としても精力的に現在進行形で活動しています。

CDは89年にこの黒色ジャケットでリリースされましたが(必要最小限のクレジットでは色気がありません)、78年レコードでリリース時のジャケットがこちらです。デザイン、イラスト、色合い、Nockの似顔絵、ロゴのレイアウト、メンバーの演奏写真等断然アーティスティックで、音楽の内容にもしっかりオーバーラップしています。

Nockの音楽性として20年以上過ごした米国のテイストよりも、生まれ育ったNew Zealand〜Australia=イギリス連邦〜欧州的、クラッシックを素養としたECM的なサウンドが聴こえてきます。実際ECM Labelから1枚アルバムをリリースしています。81年録音「Ondas」、ベーシストに名手Eddie Gomez、ドラマーに欧州を代表するJon Christensen。本作収録のShadows of Forgotten Loveを、Forgotten Loveと若干タイトルを変更して再演しています。プロデューサーManfred Eicherのサジェスチョンもあるのでしょう、見事にレーベルのカラーに相応しい演奏を展開しています。ピアノトリオということもあり、Nockのより耽美的でリリカルな演奏を楽しむ事が出来る作品です。

Mike Nock / Ondas

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目アップテンポのスイング・ナンバーBreak Time。テナー、ピアノ、ベース3者の強力なユニゾンのテーマからスタートします。まず特筆すべきは完璧な精度でのテーマ・アンサンブル、本作レコーディング自体1日で全曲を収録していますが、これだけの難易度の楽曲をこなすためには最低でも2日間は別日にリハーサルを設けていると考えられます。でも意外とこの百戦練磨のメンバーなので、当日スタジオに集まって譜面を配布され、その場で「せえのっ!」と容易く演奏したのかも知れません(汗)。本当にそうだとしたらとても嫌な事ですが(爆)。先発ソロイストはMichael、周りの音を良く聴きながらその場、瞬間で最も相応しい音の取捨選択を行い、自分自身が述べたい部分とNockの(尋常ではない)バッキングの主張との兼ね合いを瞬時に模索しつつ、素晴らしいグルーヴ、タイム間、申し分ないテナーの音色でソロを吹いています。この頃のMichaelのセッティング、既に何度か紹介していますが今一度、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、これはEddie Danielsから譲り受けた銘品、リードはLa Voz Medium Hard、リガチャーはSelmer Metal用、楽器本体はSelmer MarkⅥ Serial No.67853。

MrazとFosterの職人芸を通り越した芸術的なサポートがあってこそのアドリブ構築とインタープレイですが。また感じるのは、ここでの演奏のアプローチは当時のMichaelとしては異色と言えますが、当然ポテンシャルとして備わっていました。でもこの時点では本人にとって不十分極まりないと感じていたと推測しています。自分が出来ていない部分、欠けていると感じた点を自己の課題として真正面から真摯な態度で取り組んで行くのを信条としていたMicahel、自己鍛錬を怠らず、以降様々なアーティストとのレコーディングを経験して膨らませ、開花させて行ったと思います。表現の幅が経年と共にどんどん広がって行きましたから。

テーマ演奏後しばらくピアノはバッキングせずにテナートリオでの演奏、Nockスネークインして来ます。テナーのフレーズに応えたり、対旋律を提示したり、敢えて放置(多分)したりと、独創的で実に興味深いアプローチでのバッキングの連続です!1’58″あたりからの両者の絡み具合、2’10″あたりでのテナーのフリーフォーム的アプローチに対するバッキング、2’51″頃からのMichaelの盛り上がりに対する緊張感、3’40からテナーのフレーズを受け継ぎ、メロディの提示(暗示)によりテーマをインタールードとして演奏し、テナーソロが終了します。続くピアノソロではベース、ドラムが演奏を止め独奏状態になりますが、ここのサウンドはNock自身のオリジナリティに溢れたもの、しかしLennie Tristanoのテイストをどこか感じさせます。かなり唸り声が入っていますが、よく聴くとフレージングとおおよそユニゾンなので、インプロビゼーションに気持ちが入っているが故なのでしょう。ドラムがスネアロールからスネークイン、ベースも良きところで参加しますがここからの3者のグルーヴの素晴らしい事!ピアノのフレージングの独創性も佳境に入っています!ラストテーマにもごく自然に入りますが、その手前からのMrazの弾くラインの凄みは一体何でしょう?因みにアップテンポで様々なインタープレイが繰り出された、しかも途中にブレークが入る演奏なのにも関わらず、テンポが殆ど変わっていないのにも驚かされます。演奏が自然発生的であるがためでしょうが、と言う事はこれはやはり初見で演奏しているのでしょうか?(笑)

2曲目は美しいピアノタッチが印象的なイントロから始まるDark Light、ベースのラインもポイント高いです。Michaelのメロディ演奏がセクシーですが、テーマ終わりの難易度高い運指を駆使したメロディ・ラインでの、フラジオ音の確実さが流石です!ピアノソロからラインを受け継いでごく自然にテナーソロに移行しますが、こちらもMichaelの音楽性の為せる技でしょう。ベースソロが饒舌にして重厚、華麗なテクニックを聴かせます。一貫してシンバルを中心にし、皮モノのアクセント付けによるカラーリングが巧みなFosterも大健闘です。プレーヤー4人の音楽的バランスが良く調和した演奏です。

3曲目Shadows of Forgotten Love、かなり重いタイトルです(汗)、ピアノトリオ作「Ondas」ではForgottenが削除されたタイトル名になり、多少ヘヴィーさが緩和されました(爆)。前曲よりも幾分早いテンポですが比較的同傾向と言えるテイストで、むしろこちらの方がDark(Light)さは勝るように聴こえます。ピアノのイントロからベースも同一のパターンを継続し、テナーとピアノのユニゾンのテーマになります。始めはスネアのロールで、サビではタムを中心に、その後再びスネアのロールでカラーリングするFosterのドラミングが曲想と合致し、とても音楽的です。ラストテーマではそのカラーリングがバージョンアップし、更なる深みを表現しています。テナーソロはありませんが、メロディ奏だけで十分に存在感をアピールしています。ピアノをフィーチャーした形になりますが、実はピアノソロのバックで自在に、緻密に、大胆に、かつパーカッシヴに叩くFosterのドラミングを聴かせるためのナンバーであると感じています。曲の持つ内(うち)に秘めたエネルギーがNock自身の音楽性から離れて一人歩きし、ゆえに再演を行おうという願望を生じさせたのかも知れません。

4曲目はThe Gift、冒頭Michaelのメロウさの中にも切なさを湛えたメロディがたまらなく素敵です!息遣いまで聴こえる入魂のプレイは録音時29歳、様々な音楽を経験しメロディ表現の真髄に到達しつつあり、以降更に表現の深さを極めて行きました。Nockの伴奏も実にツボを得ています。Michael参加ピアニストHal Galper76年11月録音の作品「Reach Out!」収録、GalperとのDuoによるI’ll Never Stop Lovinng Youの歌い回し方も同様に素晴らしいです。

先発のNockのソロを、Mraz, Fosterの伴奏が的確に、確実にサポートしています。ピアノのトリルを受け継ぎベースソロ、そしてテナーと続きます。Michaelのアプローチはこの頃に良く聴かれたテイスト(例えばJoe Henライク)を発揮しています。そのままラストテーマに入り、エンディングでテナーのサブトーンが隠し味的に聴かれます。

5曲目Hadrians Wall、英国北部にある2世紀に作られたローマ帝国最北端に位置した城壁の事で、ユネスコの世界遺産にも登録され、EnglandとScotlandの境界線にも影響を与えているそうです。ケルト人の侵入を防ぐべく築城された英国版万里の長城ですね。Nockは61年にEnglandをツアーしたことがあり、その時に目の当たりにして感銘を受けたのかも知れません。耽美的なメロディとリズミックさが合わさったドラマチックなナンバー、コード進行も大変魅力的な曲です。メロディのテイストがまさにMichaelにぴったり、華麗にブロウしています。先発ピアノソロは作曲者ならではの、曲の持つムードとコード進行を上手くリンクさせて自身の唄を巧みに歌っています。続くMichaelは案の定水を得た魚状態、本作で最も”Michael Breckerらしい”歌い方の演奏を聴くことが出来ます。その後のMrazのソロもMichaelにインスパイアされたのでしょうか、実に魅力的なアドリブを築城、いや構築しています(笑)

6曲目ラストを飾るのはタイトルナンバーIn Out and Around、アップテンポでテーマのメロディとリズムセクションとが巧みにCall and Responseを行う曲想、スリリングな演奏は本作のハイライトと言えますが、目玉の演奏をラストにする手法、実は僕自身お気に入りなのです。敢えて冒頭に置かず全曲を聴き通し、オーラスに最も聴き応えのある曲が鎮座している方が、作品を鑑賞する醍醐味と感じます。評判のラーメン店で最後に残しておいた特製チャーシューを食べる感じでしょうか?(ちょっと違いますね、汗)。テーマ終わりに聴かれるピアノのフレーズに被ったテナーのフィルインが何気にカッコイイです!先発Nockのソロ、テクニカルにUpper Structure Triadを多用しつつ、スインギーにアドリブしている様は圧巻です!Mraz, Fosterのサポートも申し分無し!このリズムセクションと是非一度お手合わせしたいものです!続くMichaelはNockのテイストを確実に受け継ぎソロをスタート、自己の主張とリーダーの音楽性、曲自体が持つテイスト、共演ミュージシャンの発するサウンドを瞬時に合わせ、かき混ぜ、音のメルティングポット状態としてアドリブを展開しています。コード進行が複雑で難解な部分が手枷足枷となり、ここをクリアーすることでグルーヴ感が生ずるはずなのですが、Michaelなかなか手こずっているようにも感じます。続くMrazのベースソロ、いやいや、このテンポでしかもフロント2人の物凄い演奏の後、気持ちの切り替えがさぞかし大変だったと思いますが、さすが手練れの者、全く動じず素晴らしい演奏を聴かせます!改めて超弩級のベーシストと認識しました!その後テナーとピアノが互いをダンボの耳状態で聴きながらのソロ同時進行、いやーこちらも凄いです!ラストテーマを無事迎えFine!

2020.03.27 Fri

Please Mr. Jackson / Willis Jackson

今回はテナーサックス奏者Willis Jacksonの1959年録音初リーダー作「Please Mr. Jackson」を取り上げたいと思います。

ts)Willis Jackson org)Jack McDuff g)Bill Jennings b)Tommy Potter ds)Alvin Johnson

1)Cool Grits 2)Come Back to Sorrento 3)Dink’s Mood 4)Please Mr. Jackson 5)633 Knock 6)Memories of You

Recorded: May 25, 1959 Studio: Van Gelder Studio, Hackensack, New Jersey Label: Prestige PR7162 Producer: Esmond Edwards

Willis “Gator Tail” Jackson、並み居るホンカースタイルのテナー奏者の中で実はこの人が真打かもしれません。日本ではあまりその存在を知られていませんが、米国では絶大な人気を誇り、リーダーアルバムを40枚以上リリースしています。32年4月Florida州Miami生まれ、15歳の時にピアノを始めましたがHerschel Evans, Lester Young, Ben Webster, Charlie Parker, Coleman Hawkins, Illinois Jacquet達サックス奏者に多大な影響を受け、すぐにテナーに転向しました。ほどなくCootie Williamsのバンドに参加、そこで録音したJacksonのオリジナルGator Tail Part 1, 2が49年にヒットを遂げました。彼のミドルネームはこの曲から付けられたのは言うまでもありません。

40年代から50年代にかけてJacksonのサイドマンでの演奏を集めたコンピレーション・アルバム、こちらにGator Tail Part 1, 2が収録されています。

56年米国TV番組The Ed Sullivan Showに自己のバンドで出演し、ヒットチューンGator Tail Part 1を超高速で、凄まじいテンションを伴って演奏した映像が残されています。僅か2分強の演奏時間ですが、この演奏でJacksonはホンカー・サックス奏者としての真価を見事に発揮し、その評価を決定付けたと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=7-is9GsxCT0 クリックしてご覧下さい。

ここでの演奏に於けるJacksonのパフォーマンスの数々(身体を揺らす、くねらせる、楽器を振り回す、ブリッジする、Lester Youngの如く楽器を横向きに構える、ステップしながら〜座りながら〜膝まずきながら吹く、同じ音をひたすら執拗にグロウルしながら吹き続ける、急に口からマウスピースを離したと思えばいきなり咥え直し、ほおにマウスピースが刺さらないかと危惧してしまうほどの早技、リードに歯を当ててフリークトーンを鳴らす、感極まって叫ぶ(何度も!)、クライマックスでは楽器を客席に向かって投げ飛ばす素振りをし、そのまま走り去る等、とにかくギンギンになり切っています!)、信じられない程のエネルギー、集中力、テナーが壊れそうなくらいに鳴っている超極太の音色を携えた演奏から、ホンカーとは一体何者か?どのような演奏スタイルで、パフォーマーとしてどんな技を見せてくれるのか?その定義の全てを体感させてくれて、余りあるものがあります。司会者Ed SullivanもJacksonを始めとするバンドのメンバーの(Jacksonと一緒に最後はジャンプしながら吹いていました!)、あまりの弾けぶりに驚いたような、呆れたような顔を見せています。ここでのプレイと比べれば、本作の演奏は随分と大人しく聴こえますが、27歳にしての初リーダー作、一度原点に帰っての演奏に徹底したようにも聴こえます。参加メンバーは当時のJacksonグループのレギュラー・メンバーですが、ベーシストTommy Potterはこのレコーディングのために加わったそうで、普段はテナーJackson、ギターBill Jennings、オルガンJack McDuff、ドラムAlvin Johnsonのカルテットで演奏活動を行っていたようです。ホンカーは豪快で男性的、さらに極太感が必須のテナー・プレーヤーです。筆頭に挙げられるのがEddie “Lockjaw” Davis, Big Jay McNeely, Illinois Jacquet達ですが、Jacksonの表現は彼等よりもよりワイルドで大胆、しかし繊細さや色気も十二分に併せ持ち、言うなればホンカー道を極めているマエストロです。本作の演奏にも随所に聴かれる遊び心がそれらを裏付け、余裕すら感じさせます。

本作録音日の59年5月25日にレコーディングされたナンバーは本作を含め、4枚のアルバムに分散してPrestige Labelからリリースされました。これらをまとめてBonus Track 2曲(Tommy Potterが抜けたQuartet編成で、シングル・レコードとしてリリースされたテイク)を追加し、合計16曲を1枚のCDに(!)収録した超お徳用アルバムが、SpainのFresh Sound Records(FSR)からリリースされています。「A One-day Session 05/25/’59」、これでレコーディング当日の全貌が明らかになりました。FSRはこの手の作品のリリースがお手の物で、色々なアーティストのAll-in-Oneアルバムが発売されています。

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目はJackson, McDuff, Jennings 3人の共作Cool Grits、曲自体はブルースでキーはF、メロディらしいメロディも無いのでとりあえずキーだけ決めてブルースを演奏したように思います。ベースのウオーキングから始まりドラムが加わり、オルガンがソロを取り始めますがこの時点である種のムードが出来上がります。ギターがカッティング開始、テナーがそれに合わせごく小さい音でバックリフを入れます。続いてギターソロが始まりますが、オルガンとフルアコ・ギターの音色のブレンド感で、こちらもすっかり雰囲気が整います。今度はオルガンのバッキングにテナーが合わせ、引き続きテナーソロが始まります。音量を抑えたサブトーンの権化、付帯音の塊のような音色は超好みです!Jacksonの楽器セッティングですが、マウスピースはOtto Link Metal Florida 10番、リードはおそらくRicoの3半あたりでしょうか。テナー本体は名器Conn 10M、ジャケ写にも見られるネック部分の羽根付き餃子のようなヒレが特徴です。ブロウ自体も抑圧されたクールさの中に熱いホンカー魂をチラチラと感じさせます。前出のEd Sullivan Showでのパフォーマンスとは真逆ですが、いきなり玄関から土足で乱入とはせず、まずは丁寧なご挨拶から。ソロの後半で一瞬オフマイクになるのはMcDuffにバトルを始めようぜ、と合図を出すためでしょう、レコーディングでのこの手のやり取りには生々しさを感じます。

2曲目Come Back to Sorrentoはとても意外な選曲になります。そしてこの演奏の存在が本作の価値をグッと高めました。SorrentoはItalyのNapoliにある都市で風光明媚なリゾート地として有名です。この曲もカンツオーネの名曲としてLuciano Pavarottiを始めElvis Presley, Connie Francisが、ジャズボーカルではFrank Sinatra, Dean Martinたちに歌唱され、ビッグバンドではStan Kenton、あと我らが原信夫とシャープス&フラッツが取り上げていますが、コンボ演奏で取り上げられたのは本作くらいではないでしょうか。美しいナンバーですがシンプルなメロディの曲なので大きな編成でアレンジをしっかりと施し、曲全体をバックアップしなければなかなか形にするのが難しいと思います。中学校の唱歌でも取り上げられていましたが、その次元であれば何ら問題はないでしょう、ジャズの小編成では何か特別な策を講じなければレコーディングして残すのは困難です。ここでは何と言ってもJacksonのテナーの歌い回しが本当に素晴らしく、リズムセクションのまるでLas Vegasのショウ仕立ての如きゴージャスな(幾分大げさな)バッキングを受けて、オンマイクで超ピアニシモでの音量を中心に、深い音色で様々な振幅、波形のビブラート、ベンド、グリッサンド、1’38″で聴かれるキスのような「効果音」(笑)などを駆使し、甘く切ないニュアンスと絶妙にブレンドさせ、Sorrentoのメロディをドラマチックに歌い上げているのです。彼の楽器コントロールのテクニックは申し分ありません。そしてそして、2’23″からテナーのきっかけでテンポが設定され、ここから始まるテナーのフレーズと、リズムセクション兼コーラスチーム(?)とのやり取り、Jacksonの吹いたフレーズを耳コピーして即座に反復するCall & Responseの見事で楽しげな感じと言ったら!音程が気になる部分もありますがそこはご愛嬌、実にスポンテニアスです!その後3’11″からはRock ‘n’ Rollの時間です!1コーラスをまさしくホンカー・テイストでグロウルしながらブロウし、リタルダンド、カデンツァを経て曲のトニック音であるテナーのG音をフラジオで伸ばしますが、リズムセクション全員から「もっと高く!」と促され(笑)、その上のA音、そしていかにも頑張った風に〜お決まりなのでしょうが(笑)〜更に上のD音まで出し、リズム隊のお許しが出て(笑)、1曲丸々吹きっぱなしコーナーは目出度くFineです。実はStan Kenton Orchestra 46年の演奏で、当時楽団専属の名テナー奏者Vido Musso(Napoli近くのSicily島出身)をフィーチャーしたバージョンが(アレンジはPete Rugolo、この人もSicily島出身)、こちらがある程度ベースになっていますが、本テイクの説得力の方に確実に軍配が上がります。

Come Back to Sorrento収録のStan Kenton Orchestra作品「Artistry in Rhythm」

3曲目はMcDuff, Jackson 2人の共作Dink’s Mood、ミディアム・スロー、いや、早めのバラードとしてのテイストが心地よい、McDuffのオルガンをフィーチャーしたナンバー、バックビートに隠し味に聴こえるギターのカッティングも魅力的です。Jacksonはメロディを演奏するだけですが、実にムーディで豊かな表現に徹しています。

4曲目は1曲目と同様に3人の共作で表題曲Please Mr. Jackson。オルガンのイントロから始まりテナーのグロウル、クレッシェンドするフィルインが入りつつ曲が進行しますがこちらもブルース、その場で簡単な打ち合わせをしただけで演奏を開始した風が感じられます。テナー、ギター、オルガンとソロが続きますがJacksonはここでもオブリガードを入れつつ、伴奏にも良い味を出しています。

5曲目はJenningsとピアノ、オルガン奏者でJenningsのかつてのボスであったBill Doggettとの共作633 Knock、メロウなメロディが小気味良く、シンコペーションがスイング感を提供してくれるA-A-B-A形式32小節のナンバーです。テーマ後ギターソロになりますが、Jackson再びオブリを入れつつ、次の自分のソロに繋げています。All of Meのメロディ引用が聴かれますが、引用(早い話ダジャレですね)もホンカーの技の一つなのです。オルガンソロに続きファンキーな雰囲気が一層醸し出されます。ラストテーマのサビ後でのメロディのニュアンス付けや、エンディングのキメが他には無くオシャレなので、この部分はかつてのボスの音楽的采配があったように感じます。

6曲目ラストはスタンダード・ナンバー Memories of You、こちらは案の定テナーの低音域でのメロディ奏をメインにしたサブトーン大会です!少しばかりオルガンのバッキング音量が大きくて支配的、せっかくの魅惑のテナー・サウンドには出しゃばり気味ですが、むしろこのくらいの猥雑な感じがホンカーらしいのかも知れません。テーマ後にメロディアスなギターソロ、サビからテナーが復帰しますがオクターブ上の音域でむやみやたらに(爆)ブロウ、カデンツァではこれぞ正統的ホンカー然と、サブトーンや発展型キス奏法(笑)を駆使し、場面をこれでもかと盛り上げています。

2020.03.17 Tue

Comin’ On / Dizzy Reece

今回はトランペッターDizzy Reeceの1960年録音リーダー作「Comin’ On」を取り上げたいと思います。モダンジャズ黄金期に録音されたにも関わらず40年近くオクラ入り、99年にアルバム2枚分をカップリングした形でリリースされました。

tp, conga)Dizzy Reece ts)Stanley Turrentine ts, fl)Musa Kaleem (track 6-9) p)Bobby Timmons (track1-5), Duke Jordan (track 6-9) b)Jymmie Merritt (track 1-5), Sam Jones (track 6-9) ds)Art Blakey (track 1-5), Al Harewood (track 6-9)

1)Ye Olde Blues 2)The Case of the Frightened Lover 3)Tenderly 4)Achmet 5)The Story of Love 6)Sands 7)Comin’ On 8)Goose Dance 9)The Things We Did Last Summer

Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey on April 3 (track 1-5) and July 17 (track 6-9), 1960 Producer: Alfred Lion Label: Blue Note

充実した内容の作品です。録音当時にリリースされたのならばジャズの定番の1枚になっていたかも知れません、世に出る時期が大切な事を感じます。本作は1960年4月3日と7月17日に行われた二つのセッションから成っています。リズムセクションは全く異なりますが、共通するミュージシャンとしてはリーダーDizzy Reeceの他にもう一人、テナーサックス奏者Stanley Turrentineです。4月3日の方のメンバーは彼ら二人のフロントにピアノBobby Timmons、ベースJymmie Merritt、そしてドラムArt Blakey、当時のArt Blakey and the Jazz Messngers(JM)のリズムセクションがそっくりそのまま参加しています。本作レコーディング1ヶ月前の3月6日にはJMの作品「The Big Beat」が録音されていますが、JMの音楽監督がBenny GolsonからWayne Shorterにちょうど交代した時の作品です。

Golsonも優れたテナー奏者かつ稀代のメロディメーカー、彼の作曲したナンバー、名曲の数々はジャズのスタンダードとして現在でも愛奏されています。彼が音楽監督時の58年10月30日録音、JMの代表作にして傑作「Moanin’」が翌59年1月にリリースされています。

新音楽監督Shorterの持つ音楽的ポテンシャルに、Blakeyはさぞかし期待に胸を膨らませた事でしょう。自己のリーダーバンドJMが彼の音楽的サジェスチョンによりどんな風に成長していくのか、変化していくのかにもワクワクしたと思います。Blakeyにとって音楽家としての何度目かのピークを迎えつつある時期といって良いでしょう。本作でのドラミングの弾けぶりからもその事が手に取るように伝わりますが、物凄いテンションです!「Lee(Morgan)とWayne(Shorter)も素晴らしいけど、今日はまた違う二人のフロントとお手合わせ、楽しみだ!」とか何とかBlakey考えながらNew Jerseyのスタジオに向かった事でしょう。他メンバーの演奏については後ほど改めて触れるとして、リーダーReeceについてご紹介しましょう。31年1月中米Jamaica, Kingston生まれで現在89歳、現役ミュージシャンとして今も演奏しています。16歳からプロ活動を開始、48年に渡欧し主にParisを拠点に活動しました。Don Byas, Kenny Clark, Frank Foster, Thad Jonesらと共演し、渡欧中のMiles DavisやSonny Rollinsにその才能を称賛され59年に渡米、NYCに進出します。在欧時に既にリーダー作を発表していますがそれとはまた別に、この当時にしては珍しくVan GelderスタジオではないLondonのDeccaスタジオで58年8月に録音された「Blues in Trinity」BST 84006が、Blue Note Label(BN)から59年にリリースされています。自分で企画して録音した音源を持ち込んだのでしょうか、米仏混合ミュージシャンたちと演奏しています。

本格的なBNへの作品は59年11月録音の「Star Bright」になります。もちろんVan Gelderスタジオでのレコーディング、Alfred Lionプロデュースです。メンバーはHank Mobley, Wynton Kelly, Paul Chambers, Art Taylorら当時のMiles Davis Quintetがらみの人選による作品です。

思うにLionたちBN首脳陣はReeceの作品をどのような展開で制作して行けば良いかを算段し、やはりモダンジャズ黄金の組み合わせ、トランペット、テナーサックスがフロントのクインテット編成とし、テナーには前年59年Max Roachのバンドに参加し頭角を現してきた俊英Stanley Turrentineを起用し、リズムセクションには今が旬のBlakeyを筆頭にしたJMトリオで行こうと。ちなみにReece, Turrentine2管のフロント作品にはDuke Jordanの代表作60年8月録音「Flight to Jordan」もあります。

またTurrentineのリーダーBN第1作目として同時期60年6月に「Look Out!」が録音されています。

当時の若手の充実した作品が目白押しの60年前後のBN、関係者は満を持して本作「Comin’ On」のレコーディングに臨んだと思います。Reeceのブリリアントでビッグトーンのトランペットはラテンの血の成せる技でしょう、ニュアンスやフレージングには米国人とは違いを感じる時があります。さらに欧州で10年近く渡欧組の米国ミュージシャンと切磋琢磨し、ジャズを身に付けたバックグラウンドもあり、ジャズマンとしての素養や魅力、存在感も抜群です。本作収録1曲目から5曲目がJMトリオとの演奏になります。

演奏について触れて行きましょう。1曲目ReeceのオリジナルYe Olde Blues、アップテンポのブルースフォームのナンバーです。冒頭いきなりテナーソロが始まり、しかもテーマ演奏がなく延々と続くリーダー以外の奏者のソロに意表を突かれますが、Turrentineの魅惑の音色、26歳にして既に自身のトーン、ニュアンスを確立しており、フレーズ語尾のビブラートが堪りません。ソロのアプローチも十分にオリジナリティを感じさせます。その後ろで大暴れするBlakeyのドラミング、シャープなシンバルレガートはもちろん、連発されるナイアガラロール、フィルイン、演奏する事が嬉しくて、楽しくて仕方がない、まるで思春期の少年を思わせる溌剌ぶりです!Timmonsのバッキングも見事にBlakeyと連んでいます!1コーラスのテーマを経てReeceのソロがスタート、楽器が鳴りまくり状態、全ての音域がムラなく響いています!フレージングはClifford Brown直系のスタイルですが、間を生かしつつ巧みなラインを聴かせます。ここでもコーラスやソロイストの交代時に繰り出されるBlakeyのアプローチのスリリングな事!Timmonsのスインギーなソロにスイッチしてからは様子を伺いつつ、シンプルにサポートするメリハリが素敵です!その後テナーだけでドラムと2コーラスの4バース、同様にトランペットだけで4バースが2コーラス行われますが、冒頭部分での意表をついたテナーソロの展開を踏襲し、演奏に一貫性を持たせています。

2曲目もReeceの曲でThe Case of the Frightened Lover、印象的なイントロからテーマが始まりますが、ユニークなメロディラインを有したナンバーです。コード進行にも一捻り加えられた、ソロイストにはハードルが一段階上げられたオリジナル。ここでも印象的なのがMerrittのベースです。on topでタイト、Blakeyのトップシンバルとのコンビネーションは申し分ありません!女房役という言葉がぴったりのサポートです。ソロ先発のReece、半音進行のコード・チェンジに対しスキーやバイクのスラロームの如くアボイド・ノートを避け、効果的な音を選んで巧みに蛇行したアドリブラインを作っています。この事は次のTurrentineのソロにも同様、いやそれ以上に言えますが、BlakeyのドラミングのレスポンスがReeceの時よりも活発なのはTurrentineの演奏にインスパイアされている証拠でしょう。ここでもTimmonsのソロは明快でスインギーです。ピアノソロ後にトランペットとテナーが半コーラスづつソロを取りラストテーマへ。

3曲目はTenderly、Reeceは美しいメロディをピアノ伴奏だけで朗々とルパートで吹いていますが、バラードで表現すべき哀愁やしっとり感があまり感じられません。ラテン系のミュージシャンにはマイナーやブルーノートという概念が希薄だ、という話を聞いたことがありますし、その事を他のミュージシャンの演奏で感じた事があります。ルパート後も直ぐにミディアム・スイングでのソロになり、インプロビゼーションを聴かせるための素材扱いの如しです。続くTurrentineのソロには何とも言えない色気やサブトーンでの味わい、歌い回し、ファンキーさが表現されており、ミディアム・スイングでもバラードの延長線としてのプレイ、必然性を感じ取ることが出来ます。ピアノソロ後ドラムのフィルイン・フレーズを模してトランペットが再登場、ラストテーマはシャッフルのリズムにての演奏、リタルダンド、カデンツァでFineです。

4曲目はReeceのナンバーAchmet、冒頭ではBlakeyの繰り出すラテンのリズムにReeceのコンガ(!)が絡みますが、大変な躍動感です!さすがJamaica, Kingston出身!打楽器のお手並みも持ち合わせています。1’49″まで饗宴は続き、Reeceはトランペット奏者に戻るべくコンガ演奏を終え、その後はBlakeyのソロになります。曲自体はかなりアップテンポのスイング、リズミックな曲です。ソロ先発はTurrentine、テンポが速いにも関わらず低音部分を必ずサブトーンでふくよかに鳴らしています。リズムセクションの安定感も聴きものです。Reece, Timmonsと軽快にソロが続き、再びBlakeyのソロを迎えますが、ここでの皮モノを中心に拘ったドラミングは実に見事、抜群のテクニックを見せつけ、ラストテーマに突入しFineです。

5曲目The Story of LoveはA Love’s Storyとも呼ばれる、パナマ人作曲家Carlos Eleta Almaranが書いたナンバー。56年の同名Mexico映画の挿入曲として使われたことで広く知れ渡り、古今東西多くの歌手に取り上げられているラテンの名曲。日本でもかつて毎夜毎夜ナイトクラブやキャバレーで必ず演奏されたレパートリーの1曲です。ドラムのイントロに始まり、興味深いアンサンブルを伴ってトランペットのメロディが奏でられます。ここでのReeceの音色は曲の雰囲気にとても合致していて華やいでいます。サビはスイングになり、Turrentineの登場、この手のメロディ奏は実にお手の物、その後のテーマ部分も引き続きテナーが担当し、ムードを高めています。ソロはスイングになりReeceが先発を務めます。ソロのアプローチが実に巧みで歌っているのですが、ちょっと真面目過ぎるかな、と。この手のムーディな曲では遊び心が特に大切だと感じるのですが、続くTurrentineの演奏は彼が本来持つリラクゼーションが遊び心を誘発し、聴き応えのある演奏に仕立てていると理解しています。

ここまでがReece, Turrentine, JMトリオでの演奏になりますが、既にアルバム1枚分のボリュームがあります。当時リリースされなかった理由を考えても演奏の素晴らしさ、選曲やアレンジの充実ぶりから思い当たる点はないのですが、強いて挙げるならばBNはJMを売り出そうとしていたので、リズムセクションが全く同じではキャラが被ってしまうのを避けたかったのではないかと。その後Reeceは62年3月録音の作品「Asia Minor」をPrestige傍系New Jazzに録音、「Comin’ On」がリリースされないと判明したのでしょう、本作収録The Story of Loveをほぼ同じアレンジで、もう1曲Achmetの方は異なったアレンジを施し(タイトルも単なる誤植かも知れませんがAckmetになっています)Joe Farrell, Cecil Payne, Hank Jones, Ron Carter, Charlie Persipらと演奏しています。

後半のメンバーをご紹介しましょう。ピアノDuke Jordan、ベースSam Jones、ドラムAl HarewoodのリズムセクションにReece, Turrentine、更にもう一人テナー奏者Musa Kaleemが加わり、tp, ts, tsの変則3管編成となりアンサンブルに厚みが加わります。Kaleemですが21年1月West Virginia州出身、本名はOrlando Wright、Mary Lou Williams, Fletcher Hendersonらと共演、40年代にはBlakeyのコンボにも在団したそうです。同じ楽器が二人いればどうしても比較対象となりますが、Turrentineに聴き劣りすることのない音色、プレイを展開しています。

6曲目ReeceのオリジナルSands、トランペットの主旋律とテナー2管のアンサンブルとのコール&レスポンスが効果的なナンバーです。ドラマーが替わった事で随分と印象が変わっています。動のBlakeyに対し静、と言うより堅実のHarewood、JordanのバッキングやJonesのラインもくっきりと聴こえます。派手さとテクニック、華はダントツBlakeyの方に軍配が上がりますが、バンドアンサンブルを引き立てるのはHarewoodの方が適任です。ソロの先発はTurrentine、4月の演奏時よりもタイムが安定してレイドバック感が心地よく聴こえますが、こちらの録音当日の調子が良かったのか、3か月の間に進歩を遂げたのか、いずれにせよグレードアップした内容です。続くReeceのソロも同じくタイムがより安定して聴こえます。ひょっとしてHarewood他サポート上手なリズムセクションを得て、単純に落ち着いて演奏が出来ただけなのかも知れませんね。Blakey率いるリズムセクションとの共演では彼らと対峙する形になってしまいますから。そしてKaleemの登場です。深い音色、豊かなニュアンス、グルーヴ感、これは只者ではありません!フレージングが誰かによく似ていると感じましたが、これはBenny Golsonじゃありませんか!!ひょっとしてGolsonが変名を使って参加したのでは?とまで考えてしまいましたが違います。そしてKaleemの方が10歳近く年上なので、ひょっとしたらGolsonの方が演奏の影響を受けているのかも知れません。ピアノとReeceの短いソロを経てラストテーマへ。

7曲目Reeceのオリジナルで表題曲Comin’ On、ベースの短くともツボを得たスインギーなソロ、さすがSam Jonesです。引き続きイントロが始まりますが曲自体はブルース、メロディのスペースをたっぷりと取ったファンキーなテイストが、更にリラックスした雰囲気を醸し出します。テーマの最中からKaleemのソロが始まります。Golsonライクな音色は彼と同じ楽器セッティングを思わせますが、やはりOtto Linkメタル・マウスピース、オープニング10番、リードLa Voz Hardあたりのヘヴィー仕様のユーザーなのでしょうか?2’22″でソロがTurrentineにチェンジしますが音色とソロのアプローチの違いがはっきりしていて興味深いです。Turrentineのブルージーさが印象的でホンカー・テイストも感じます。続くJordan、Reeceのソロも好調ぶりを聴かせています。

8曲目Goose DanceはテーマでKaleemのフルートを効果的にフィーチャーしたナンバー、なかなかの佳曲です。Reeceの演奏も、4月の録音時よりもリラックスしているようです。Kaleemのテナーの音色には抜けきらない、こもった成分が聴こえますが、これがハードなセッティングを感じさせる要因でもあります。Turrentineの好調ぶりはここでも発揮され、ファンとしては嬉しい限りです。ラストテーマでは再びKaleemのフルートが聴かれます。

9曲目ラストを締めるのはReeceワンホーンによるバラードThe Things We Did Last Summer、Sammy Cahn, Jule Styneの作詞作曲コンビによるナンバーで61年4月同じくトランペッターTed Cursonのアルバム「Plenty of Horn」での、Eric Dolphyと演奏しているヴァージョンも印象的です。

4月収録のTenderlyよりも深い表現を聴くことが出来ますが、2曲のバラードを聴き比べての上での印象、この曲単体ではいささか物足りなさを感じそうです。Blakeyトリオに演奏を掻き回された(笑)テイクには緊張感がみなぎっていますが、それもまたジャズの醍醐味、本作はテンションとリリースの二種類のセッションが収録された他にあまり例を見ない、ユニークな内容の作品に違いありません。

2020.03.09 Mon

La Vita e Bella / Bob Mintzer, Dado Moroni, Riccardo Fioravanti, Joe La Barbera

今回はテナーサックスBob Mintzer、ピアノDado Moroni、ベースRiccardo Fioravanti、ドラムJoe La Barberaらのカルテットによる2005年イタリアでのライブ作品「La Vita e Bella」を取り上げてみましょう。

Live Recording at the Art Blakey Jazz Club, Community Giovanile, Busto Arsizio, Italy on 4 and 5 December 2005. Produced by Achille Castelli Exective Producer: Mario Cacci Label: Abeat Records, Italy

ts)Bob Mintzer p)Dado Moroni b)Riccardo Fioravanti ds)Joe La Barbera

1)The Gathering 2)La Vita e Bella(Life Is Beautiful) 3)Re Re 4)Kind of Bill 5)Bradley’s 2 Am? 6)After 7)Ninna Anna 8)Invitation

イタリア、アメリカのミュージシャン二人づつの伊米混合の編成、参加メンバー全員が自曲を持ち寄り、レギュラーバンドの如きグレードの高い演奏をライブ録音で繰り広げています。何よりレコーディングの音質、クオリティに徹底的にこだわった素晴らしい録音状態です。各々の楽器の音像、音質、定位、バランス、そして最も感じるのはライブ会場のアンビエント(環境という意味ですが音楽用語として会場の箱鳴りの事をいう場合があります)の豊かさですが、臨場感がハンパないです。ライナーノーツには各楽器への使用マイクロフォンやミキサー、コンプレッサー、イコライザー、録音卓、モニターetcの使用録音機材が実に詳細に記載されていますが、プロデューサーやレコーディング・スタッフのこだわりなのでしょう。これだけのクオリティの音質を収録出来た自負もあるのでしょうが、専門外なのでどれだけ凄い事なのか、自分には残念ながら馬の耳に念仏状態です。同じくMintzerが参加した作品09年録音「Standards 2 Movie Music」は映画音楽の名曲にジャズアレンジを施した作品、小唄感が心地良く、こちらはライブハウスではなく小ホールのステージを利用し、ライブレコーディングを行っています(オーディエンスは不在ですが)。共演メンバーはドラムPeter Erskine、ピアノAlan Pasqua、ベースDarek Olesの人選も適材適所です。録音状態も良く似た傾向の豊かなアンビエントで臨場感を伴った、そして外連味のないハイクオリティな演奏内容です。「La Vita e Bella」が数多くの異なったタイプのマイクロフォンを用いて楽器の音を細分化して収録し、録音後にPro Tools(デジタル録音、編集に欠かせないソフト)を用いて音の取捨選択(例えて言うならば音像を2次元として捉え、必要ない部分を消しゴムで消したり、強調したい箇所は立体的にうず高く盛り上げたり、反対に平らにする、PCを用いてレイアウトする編集作業です)をミキシングで徹底的に行うことでアンビエントを作り出しているのに対し、「Standards 2」は言わば真逆の状態、ダイレクト・2トラック・ステレオによる録音でマイクロフォンを左右に1本づつをメインに、補助的にセンターに1本、合計3本のマイクロフォンだけで収録しますが、録音開始前にマイクロフォンの位置をシビアにセッティングすることが絶対条件です。わずか1cmマイクロフォンの位置がずれただけでバランスと音像が激変してしまいますから。4人のミュージシャンの立ち位置、楽器の音の被り具合、その音量、ダイナミクスを見極めてちょうど良い位置にマイクロフォンをセッティングするのです。録音後ミキシングは行われない、と言うか、微調整すること自体が不可能、つまり始める前に全ての音を作り上げておく訳ですね。全く異なった録音方法にも関わらず同傾向の良い音で録音されるのが可能なのには驚かされます。もちろん最終的にはレコーディング・エンジニアの感性が物を言う事になりますが。

本作録音はMilanoの北に位置する基礎自治体(市町村や東京23区に該当します)Busto ArsizioにあるArt Blakey Jazz Clubで行われました。店の名前が良いですね、Italyは昔から米国のJazzに畏敬の念を持ち、Jazzを愛し、現在も素晴らしいミュージシャンを輩出しています。まずは参加伊国ミュージシャンを簡単にご紹介しましょう。ピアノ奏者Dado Moroniは62年Genoa出身、独学で学び17歳にして初リーダー作をリリースしました。渡米をきっかけに多くの米国プレーヤーと共演し、87年にはThelonious Monk Competionで優勝の栄誉に輝きました。Italyを代表するピアニストのひとりです。ベース奏者Riccardo Fioravantiは57年Milano出身、同様に多くの米国ミュージシャンと共演を果たし、05年に初リーダー作「Bill Evans Project」を自己のトリオ(Bass, Guitar, Vibraphone)で発表し、音楽性の高さからその名を不動のものにしました。

参加米国ミュージシャン、ドラマーJoe La Barberaは48年New York州生まれ、最晩年のBill Evans Trioのメンバーとして活躍した事で有名です。父親にドラムの手ほどきを受け、その後Berklee音楽院で学びました。テナー奏者Patとトランペット奏者Johnは実兄にあたります。Bob Mintzerは当Blogでも度々登場したテナーサックスの第一人者、彼の参加が本作の価値を否応なしに高めています。

La Barbera参加Bill Evans79年録音作品「We Will Meet Again」

それでは曲毎に見て行きましょう。1曲目MintzerのナンバーThe Gathering、ブルースですがサビが付けられたいかにもMintzerらしいナンバーです。冒頭に会場の演奏前のざわめきが20秒ほど収録されていますが、ライブレコーディングという事を宣言しているかの如し、ムードが高まります。奥行きをしっかりと感じさせつつ各楽器の音像はクリアーで、バランス感も抜群の録音はリラックスしたムードの演奏と相俟ってとても心地良いです。先発ソロはMintzer本人、実に好みのテナーの音色、タイム感やフレージングのテイストもある種僕自身の理想です。続いてFioravantiのベースソロ、こちらもアコースティックな木の音がする音色で、正確なピッチ、スインギーなラインに好感が持てます。Moroniのピアノはコンテンポラリーな中にもオーソドックスなテイストがバランス良く入った、例えるならばサシの入った高級和牛の霜降り肉状態、深い味わいを堪能させてくれます。その後ラストテーマを迎え、オープニングに相応しい演奏となりました。

2曲目はタイトルナンバーLa Vita e Bella、英語表記ではLife Is Beautiful、Academy賞ほか世界中の各賞を総なめにした97年の同名イタリア映画の主題曲です。ボサノヴァのリズムが美しく可憐なメロディと合わさった名曲、こんな良い曲がコンサートで演奏されたなら、終了後に演奏内容を噛み締めつつ、曲のメロディを口ずさみながら帰途についてしまいそうです(笑)。MintzerとMoroniの演奏も曲想に合致したチャーミングさを聴かせています。

3曲目もMintzerのナンバーRe Re、曲のコード進行はスタンダードナンバーThere Will Never Be Another Youが基になっています。冒頭テーマはピアノが参加しないテナー、ベース、ドラムの3人で演奏され、先発テナーソロからピアノのバッキングが聴かれます。テーマでコードが鳴っていると原曲のチェンジが明確になってしまうのを控えるためでしょうか。ここで感じるのはLa Barberaのドラミング、スインギーでレガートも素晴らしいのですが、プレイの全体的な表現が他のメンバーに比べてやや強過ぎるように聴こえます。もしかしたら録音の関係か、それともこのような表現法が彼のスタイルなのか、背の高いプレーヤーなので手足のストロークがあり、知らず知らずのうちに楽器が鳴ってしまうのもあります。何れかは分かりませんが、思うにもう少しコンパクトな表現が主体のドラマーで、オーソドックスな彼のスタイルよりもコンテンポラリーであれば、一層一体感が得られたように感じています。Mintzerの素晴らしいソロにインスパイアされたMoroniもスインガーぶりを発揮、続くベースとドラムの8〜4小節トレードもスリリングです!ラストテーマでもピアノのバッキングは行われず、オーラスでコードが聴こえるのみです。拍手が鳴り止まない最中、イタリア語訛りで「 Bob Mintzer !」と連呼するのはMoroniでしょうか?Bill Evansの名盤「At the Montreux Jazz Festival」、こちらはフランス語ですが、司会者の名調子による「あの」メンバー紹介を思い出してしまいました。

4曲目はLa BarberaのKind of Bill、美しいバラードナンバー、ドラマーは往々にして印象的なバラードを書くようです。ピアノのイントロに始まり、テナーとピアノのデュオで丸々テーマが奏でられます。ベース、ドラムが加わりスイングでピアノソロが始まります。テナーソロも同様に行われ、ラストテーマは再びテナー、ピアノのデュオでしっとりとFineです。

5曲目はMoroni作Bradley’s, 2AM?はドラムのイントロから始まる、ジャジーなテイストを湛えた佳曲、午前2時のNYC Bradley’sとは思えない明るさです(笑)。Moroni自身がソロの先発で華やかなソロを取り、Mintzer, Fioravantiと続きます。ラストテーマ後ヴァンプが延々と繰り返され、Mintzerがもうひと暴れして盛り上げています。

6曲目は同じくMoroni作の哀愁のボサノバナンバーAfter、こちらも良い曲ですね。ソロの先発はMintzer、コード進行に対して巧みなラインを繰り出しつつ、彼自身の唄をフラジオも交えかなり熱く聴かせます。続くMoroniはMcCoy Tynerのアプローチを覗かせつつ、こちらもパッションを感じさせるプレイを展開しています。La Barberaのバッキングが比較的一本調子なのが気になります。向こう正面からの正攻法の他に、搦手から攻める、演奏を俯瞰、鳥瞰したりと、異なった方面からの攻略が行われて然るべきだと思うのですが、皆さんはどうお感じになりますか。

7曲目はFioravantiのナンバーNinna Annaは穏やかなワルツのナンバー、ジャズの伝統に根ざしたコード進行、メロディラインにはホッとさせられます。1コーラスづつのソロ先発はFioravanti、続いてMoroniは美しいタッチで色彩豊かなラインを聴かせ、Mintzerの朗々とした唄いっぷりで演奏が引き締まります。

8曲目最後を飾るのはスタンダード・ナンバーInvitation、アップテンポの設定がフィナーレに相応しい、パッションの高さが示された演奏です。カウントを取るのがMintzer、選曲は彼のチョイスによるものでしょうか?81年12月録音Jaco Pastriusの名盤「The Birthday Concert」でのMichel Breckerとの壮絶なテナー・バトルが思い出されます。

何よりここでのLa Barberaのドラミングがtoo muchに聴こえません。早いテンポとInvitation自体が持つモーダル、コーダルが合わさった曲想が彼のドラミングと合致し、バランスが取れているのでしょうか。論理的にストーリーを構築するが如きMintzerのプレイへのLa Barberaの寄り添い感、同じくMoraniのグルーヴとスピード感をベースFioravantiと共にプッシュする一体感、そして超個性的では無いにしろ、エナジーの放出感が凄まじい迫力のドラムソロ、本作中最も白熱した演奏となりました。

2020.02.28 Fri

Nature Boy The Standards Album / Aaron Neville

今回はボーカリストAaron Nevilleの2003年録音リリース作品「Nature Boy The Standards Album」を取り上げたいと思います。「こんな歌い方アリですか?」と問いかけたくなるほどに意外性のある、しかも素晴らしい歌唱表現が、スタンダードナンバーに新たな個性をもたらしました。

Recorded at Avatar Studios, NYC, January 5-7, 2003 Engineer: Dave O’Donnell Produced, Arranged, and Conducted by Rob Mounsey Executive Producer: Ron Goldstein Verve Label

vo)Aaron Neville vo)Linda Ronstadt(track: 3) ds)Grady Tate b)Ron Carter g)Anthony Wilson g)Ry Cooder(track: 12) p)Rob Mounsey ts)Michael Brecker(track: 5, 9) ts)Charles Neville(track: 11) tp, f.hr)Roy Hargrove(track:2, 3, 10) tb)Ray Anderson(track: 4) acc)Gil Goldstein(track: 6) congas, perc)Bashiri Johnson(track: 1, 4, 7, 10)

1)Summertime 2)Blame It on My Youth 3)The Very Thought of You 4)The Shadow of Your Smile 5)Cry Me a River 6)Nature Boy 7)Who Will Buy? 8)Come Rain or Come Shine 9)Our Love Is Here to Stay 10)In the Still of the Night 11)Since I Fell for You 12)Danny Boy

Aaron NevilleはNeville四兄弟の三男として41年にNew Orleansで生まれました。Art, Charles, Cyrilらとの名グループNeville Brothersのメンバーとしても活躍していましたが、兄弟の中では最も早くからソロ活動を開始しています。Aaronの美しくスイートな歌声と、ファルセットを交えた声の震わせ方、コブシの回し方から、ヨーデル奏法を思わせる唱法は実に魅力的で個性的です。一体どのようにしてこの歌い方を習得したのか、ルーツやスタイル確立までの変遷には興味のあるところですが、本作は彼のボーカルの魅力を引き出すべく、文句なしのメンバー、ゲスト達と共に都会的なセンスのアレンジを施したジャズのスタンダードナンバーを取り上げて存分に歌わせる、製作者サイドからそのような意気込みが伝わる作品に仕上がりました。普段Aaronがまず歌うことのないスタンダードナンバーの数々(幼少期には口ずさんでいたでしょうが)、どの程度まで彼が選曲に関わったのかも気になりますが、常日頃愛唱しているかの如きボーカルの絶好調ぶりを聴かせ、結果手垢のついたスタンダードに今までにない新たな説得力、魅力が加わったと感じています。リズムセクションはプロデューサーでもあるピアニストRob Mounseyを中心にベーシストRon Carter、ドラマーにはジャズシンガーとしても活躍していたGrady Tateら歌伴にも名人芸を聴かせる巨匠たちを配し、ギタリストには歌姫Diana Krallのサポートでも有名なAnthony Wilsonを加え彼らカルテットが一貫して全曲伴奏を務め、曲毎にゲストアーティストを招き適材適所な間奏を聴かせ、さらにストリングス、ホーンによるオーケストレーションも豪華に色合いを添えています。Mounseyのアレンジ、采配共に洗練されていて巧みだと思います。

当Blogにて以前取り上げたことのある88年リリースHal Willnerプロデュース作品「Stay Awake Various Interpretations of Music from Vintage Disney Films」、珠玉のDisneyチューンに優れたアレンジ、プロデュース力を加え新たな命が吹き込まれました。収録曲のMickey Mouse MarchはAaronとDr. Johnのピアノとのデュオ演奏なのですが、個人的にはここでの歌唱に雷に打たれるが如くシビレて以来の、Aaronの大ファンです!誰もが知るシンプルなメロディ、言い換えれば単なる童謡があそこまで愛を伝えられるメッセージソングに変身するとは驚きでした。そう言えば伴奏のDr. JohnもNew Orleans出身の超個性派ボーカリストです。King Oliverに始まりKid Ory, Jelly Roll Morton, Sidney Bechet, Louis Armstrong、枚挙に遑がありませんが加えてEllis, Branford, WyntonのMarsalis親子、Nicholas Payton, そしてNeville Brothers。こんなに個性的なシンガー、アーティストを数多く輩出でき、しかもジャズ発祥の地でもあるご当地、その底知れぬポテンシャルを再認識してしまいます。

それでは収録曲に触れて行く事にしましょう。1曲目George Gershwinの名曲Summertime、ギターのカッティングとパーカッションの繰り出すリズムから一瞬レゲエのグルーヴを感じましたが、ビートの基本はスイングです。ホーンセクションのアンサンブルやベースのグリッサンドが重厚さを醸し出し、イントロでの演奏はボーカル登場までの期待感を十分に高めてくれます。Aaronの声には爽やかさも感じさせますが哀愁感、枯れた成分、独特なアクも内包し様々な音色を使い分け複雑な色合いを見せます。そこにヨーデル・ライクな(この表現が的を得ているのか今一つ確信がありませんが)コブシ回し(しかもピッチ感が素晴らしいのです!)、ダイナミクスを伴ったファルセットが加わることにより、誰も体感したことのないメロディの浮遊感が訪れます。所々に施された多重録音による唄のハーモニーも、インチューンでごく自然に耳に入って来ます。Summertimeは本来子守唄のはずですが間違いなくこの歌唱で眠りに誘われる子供はいないでしょうね(笑)

2曲目Blame It on My Youth、実に美しいメロディライン、コード感を持つバラードです。歌詞の内容を丁寧に、噛み締めるが如く、加えてAaronのニュアンスに富んだ歌い方と、リズムセクションの合わさり方、歌詞の合間を縫って絶妙に重なるオーケストラの調べが心地よく響きますが、Roy Hargroveのトランペットソロ、サポートするTateのブラシワークが更なる高みへと導きます。曲中トランペットのオブリガートは聴かれませんが、エンディングで一節、唄の高音域を用いたクライマックスで演奏しています。音の跳躍でのAaronのボーカルテクニックも申し分ありません。

3曲目The Very Thought of You、イントロではギター、シンセサイザーを中心としたサウンドにストリングスが芳醇なサウンドを与えています。歌本編に入ってもアレンジが継続して光ります。Aaronは囁くような語り口から始まり、ここでも抜群のボーカルを聴かせますが、ゲストにLinda Ronstadtの歌が加わります。Lindaとは89年彼女のアルバム「Cry Like a Rainstorm, Howl Like the Wind」で共演し、彼女たちのデュエット2曲が90, 91年と連続してグラミー賞を受賞しました。91年にはLindaのプロデュースによりAaronの作品「Warm Your Heart」がリリースされました。LindaのAaronのボーカルへの入れ込みようが感じられますが、その返礼として本作に招き入れたのでしょう。Lindaは米国を代表するロック、ポップス・シンガーですがスタンダードナンバーを取り上げた作品も何枚かリリースしています。彼女の歌唱自体は、よく声の出ているパワフルさを聴かせますが、残念ながらジャズ的要素を殆ど認める事が出来ません。声質にジャズ表現に不可欠な陰りを感じず、米国西海岸の健康的明るさが目立ち、むき卵の如きつるっとした質感です。歌唱自体も何故か必ずシャウト系に移行し、抑制された感情表現を行うための引き出しが見当たりません。Aaronと比較すると彼の繊細さ、表現の幅の広さ、深さ、スイートネス、一歩退いた音楽への客観的スタンス、全てに格が違うのを感じてしまいます。AaronはLindaにとって真逆のタイプのシンガーだけに憧れがあったのでしょう。この曲でもHargroveがフリューゲルホルンでソロを取り、魅惑的なトーンを披露しています。同様にエンディングのアンサンブルで共演しています。

Aaron Neville参加Linda Ronstadt作品「Cry Like a Rainstorm, Howl Like the Wind」
Linda Ronstadtプロデュース作品「Warm Your Heart」

4曲目The Shadow of Your Smileはボサノヴァを代表するナンバー、イントロではベース重音でのパターンが印象的で、ストリングス、フルートの隠し味が効果的です。Aaronの歌唱も朗々感が堪りません!七色の声質(それ以上にもっとヴァリエーションがあるかも知れません!)を駆使しつつビブラートの微細な振幅数を変えることで、ニュアンス付けを行っています。この曲ではトロンボーン奏者Ray Andersonを迎え、ちょっと危ないヤサグレ感を湛えたテイストでの間奏、アンサンブルを聴かせています。Andersonの音色の複雑さにはAaronの声質に通じるものを感じます。

5曲目Cry Me a River、古今東西様々な歌手、ジャンルで歌われている名曲です。下手をするとどっぷりとマイナーの暗さが表出し、演歌調になってしまいがちな曲想ですが、Aaronの歌いっぷりとアレンジ、サポートミュージシャン達の好演、そしてMichael Breckerの伴奏により全てが良い方向に具現化しました。イントロでは一聴すぐ分かるMichaelの音色とニュアンスによる、開会宣言とも取れるひと節のメロディがあります。右手を高らかに上げながら「私はAaronの伴奏に対し、全身全霊を傾け、全ての音が音楽的にサウンドするように、正々堂々と演奏する事をここに誓います」と選手宣誓をするかの如きメッセージを感じ取る事が出来ましたが(何のこっちゃ?)、案の定Michaelのソロの入魂振り!ボーカル、アレンジ、共演者のサウンド全てを踏まえ、且つ自身が未だ成し得ていないアプローチを模索しながら繊細に、大胆にブロウしています。イントロと同じメロディが再利用されているアウトロでは、AaronのスキャットにMichael反応しています。

6曲目表題曲Nature BoyにはGil Goldsteinのアコーディオンを加え、Wilsonはアコースティック・ギターに持ち替え、アレンジでは対旋律を張り巡らし曲の持つムードに叙情性を付加し、深遠さを出すことに成功しています。2’42″の短い演奏ですが実に印象的であります。

7曲目Who Will Buy?はミュージカルOliverの挿入曲。オルガンやホーンセクションを配したアンサンブルに古き良き米国を感じさせるのは、やはりミュージカルナンバー故でしょう。ここでもボーカルにオーヴァーダビングが施され、ゴージャスなサウンドを聴かせます。Wilsonのギターソロがフィーチャーされ、クリアーなトーン、フレージングを携えた正統派のスタイルには好感が持てますが、むしろ若年寄然、録音時34歳とは思えない落ち着き振りと風格です。それもそのはず彼の父親は40年代から活躍している名バンドリーダーGerald Wilson、若きEric Dolphyも彼のバンドに参加していました。親譲りのミュージシャンシップが成せる技なのでしょう。後うたではファルセットも用いたAaronのスキャットが聴かれますが超絶です!表現力の深さを一層感じるのですが、実は彼には喘息の持病があります。これだけの歌唱を行えるので当然デリケートな喉の持ち主なのでしょう。05年に発生したハリケーン・カトリーナによってNew Orleansの彼の自宅が全壊し、Nashvilleへと避難しました。カトリーナ後New Orleansの汚染された空気が持病の喘息に悪影響を与えるとの医師の判断から、Aaronはしばらく故郷に戻らなかったそうです。

8曲目Come Rain or Come Shine、イントロはギターソロから始まりますが、ここでのギターのアプローチにも興味をそそられます。純然とカルテットだけによる伴奏でAaron訥々と歌います。おっと、ストリングスも従えていましたね、重厚な弦楽器アンサンブルのお陰で映画音楽の挿入曲の如きムーディな雰囲気の演奏ですが、ふとAaronの歌は果たしてジャズなのだろうかと考えると、実は微妙です。一つ言えるのは人を説得せしめる表現力を持った音楽家はジャンルに関係なく良い表現を行えるという事で、音楽にはジャンルは無くあるのは良い、悪いだけだという言葉の通り、Aaronはスタンダードナンバーに対し良い歌い方をしているに過ぎず、ジャズというカテゴリーよりも何よりも、ひたすらAaron Nevilleミュージックを演奏しているのかも知れません。

9曲目Gershwin作の名曲Our Love Is Here to Stay、ジャズボーカルの定番中の定番をビッグバンドジャズ・テイストでアレンジ、ストリングスとホーンセクションがコーニーさを屈託無く表現しています。ドラムのステディなブラシワーク、縦横無尽なベース・ライン、Freddie Greenの如きタイトでリズミックなギター・カッティング、そしてMichaelのテナーによる華麗な間奏、レイドバック感が絶妙です。音楽の枠組みはどこを切っても全くのジャズボーカルの伴奏ですが、中身は超個性的なAaronの歌声、歌唱。違和感が何処にも感じられないのは歌の素晴らしさ故か、耳がすっかり慣れてしまったのか。いずれにせよこの曲の名演奏の誕生です。

10曲目In the Still of the NightはCole Porter作曲のナンバー。アレンジのテイストとしてdoo-wopを感じさせ、7曲目同様に50年代の米国の雰囲気を表現しているかのようです。ここでもボーカルにオーヴァーダビングが施されていますが、歌に厚みを持たせると言うよりも、doo-wopに欠かせないコーラス・アンサンブルを聴かせるのが目的なのでしょう。爽やかさの中にも哀愁を感じさせる、美しく華やかで、細部に至るまで丁寧で気持のこもった歌唱に感動すら覚えます。Hargroveのミュート・トランペットによる間奏、後うたでのAaronとのトレードも冴えています。Tateは淡々とボサノヴァのリズムを繰り出していますがCarterは様々なアプローチを展開、なかなかここまでアクティヴなベースを聴かせることはありません。

11曲目Since I Fell for Youはジャンプ、ブルースナンバーを得意としたBuddy Johnsonのナンバー、Aaronは良くコブシの回った巧みなボーカルを聴かせます。ここではAaronのすぐ上の兄Charles(四兄弟の次男)がテナーサックスで参加し渋いソロを聴かせます。実は兄弟が集まりNeville Brothersとして活動を開始したのは遅咲きで77年から、それまでの兄弟各々の活動が結実してその後優れた作品を多くリリースしました。

Neville Brothers代表作「Yellow Moon」89年リリース

12曲目最後を飾るDanny Boyはお馴染みIreland民謡、Ry Cooderがギターの伴奏で参加します。誰もが知るシンプルなメロディを巧みに歌い上げていますが、これはAaronの最も得意とするところ、前述のMickey Mouse Marchでもそうでしたが、かのLuciano Pavarottiと共演を果たした92年ライブ盤「 Pavarotti & Friends」に収録のAve Maria、こちらも実に素晴らしく、心揺さぶられる説得力に満ちています。

2020.02.16 Sun

Latin Genesis / Dave Liebman

今回はテナー奏者Dave Liebmanの2002年作品「Latin Genesis」を取り上げてみましょう。

Recorded at Power Station New England by Alec Head Produced by Dave Liebman Co-produced by Dan Moretti Executive Producer: Neil Weiss Whaling City Sound Label 2001年録音

ts,ss)Dave Liebman ts,ss)Don Braden ts,ss,fl,alt-fl,bcl)Dan Moretti b)Oscar Stagnaro ds)Mark Walker perc)Pernell Saturnino pero)Jorge Najaro talking drum)Rick Andrade

1)Vail Jumpers 2)Have You Met Miss Jones 3)PP Phoenix 4)For All the Other Times 5)Three Card Molly 6)Tiara 7)Cecilia Is Love 8)Brite Piece 9)Trippin’ 10)Calling Miss Khadija

Dave Liebmanを中心に、Don Braden, Dan Morettiらを加えたテナー奏者計3名にベースOscar Stagnaro、ドラムMark Walker、ラテンパーカッションにPernell Saturnino、Jorge Najaroの2人、2曲目のみにTalking DrumでRick Andradeが加わる、異色のコード楽器不在ラテン・セッションです。Liebmanにとってはコードレスでのレコーディングは度々ありましたが、そもそも本作のタイトルにも由来するElvin Jones71年録音「Genesis」、こちらはElvinのドラムを軸に同じくコードレスでDave Liebman, Joe Farrell, Frank Fosterと言うド級テナー3管にベースGene Perlaで演奏したBlue Note Labelの作品ですが、こちらの収録ナンバーを中心に、パーカッション参加以外同じ編成でメンバーのオリジナルやスタンダード・チューン、ジャズマンの作品を付加し全曲コテコテ、本格派ラテンのリズムにアレンジされた演奏をたっぷりと聴けるラテン版「Genesis」ということで、本作タイトル「Latin Genesis」と相成りました。

それでは曲毎に見て行きましょう。1曲目BradenのナンバーVail Jumpers、オープニングに相応しい軽快でいて重厚な佳曲、ラテンのリズムが心地良く、Bradenがリードを吹くテナー3管のアンサンブルでは素晴らしいハーモニーが聴かれます。アレンジも良いですね。Braden自身は00年作品「Contemporary Standards Ensemble」で演奏しこちらが初演、スイングビートでテンポも少し遅く演奏されているため本作の演奏の方によりスピード感を覚えますが、初演はトランペット、アルト、テナーの3管編成でのジャジーな雰囲気満載のフォーメーション、佳曲はリズムの形態を問わず演奏可能、と言う事でしょう。

Don Braden Presents the Contemporary Standards Ensemble

ソロの先発は意外にもベース、技巧派を聴かせますが、アンサンブル時よりもタイムがややラッシュする傾向にあります。Bradenのソロに繋がりますがコンポーザーならではの曲の構成をしっかり把握しつつ、巧みにツボを押さえてシャウトにまで至りソロの起承転結をまとめた、聴き応えのある演奏です。些か専門的な話で恐縮ですが、Bradenは90年代中頃からマウスピースをLawtonのメタルに替えています。それ以前はOtto Linkのやはりメタルを使用していました。個人的にはその頃の音色の方によりジャジーなテイストを感じるのですが、本人が気に入って使っているのならば致し方ありません。でも歌い回しや雰囲気が自分好みなテナー奏者だけに、少し残念な感じを覚えます。Lawtonマウスピースは明るくスピード感のあるサウンドですが、例えば93年録音のリーダー作「After Dark」で聴かれるOtto Linkのダークで付帯音の豊富な音色の方が、Bradenの持ち味に合っていると思うのは、きっと僕だけではないでしょう。本作の演奏でもあの音色でソロを聴けたらと、ふと思ってしまいます。テナーソロの後は短いドラムソロを挟みラストテーマへ、4分間というコンパクトな演奏で作品冒頭の掴みは良しとしました。

2曲目はスタンダードナンバーでお馴染みHave You Met Miss Jones、パーカッションが効果的に用いられ、本格的なラテンのグルーヴが表出します。テーマもかなりアレンジが施されていますが、ソロに於いてA-A-B-A構成のこの曲、Aの部分はドミナントペダルを用いたワンコードで行われ、Bでは逆にColtrane Changeも用いられ複雑化されているようです。ここではフロント3人の演奏がフィーチャーされますが三者三様のタイム感を聴く事が出来、興味深いです。先発Bradenはやや前にリズムのポイントが設定され比較的タイト、Morettiは更に前にポイントがありますが、時としてタイトさを欠く傾向にあります。Liebmanはリズムのポイント、タイトさともに実にソリッド、理想的なタイム感の演奏に徹しており、リズムに関してのマエストロ振りを発揮しています。本作ではテナー衆3人一貫した各々のリズム表現が聴かれるので、音色やフレージングの違いと同様にプレーヤーを判断する材料になります。ちなみに3人ともドイツのKeilwerth社製サックスを使用、エンドース(モニター)仲間でもあります。Morettiのソロ後短くパーカッションソロ、そしてラストテーマ奏の後はLiebmanがソプラノを携えサックスバトルが行われます。激しい盛り上がりでピークを迎えた頃にアンサンブル、良く出来たアレンジでリズムセクションも的確に呼応し大団円を迎えます。

3曲目Gene PerlaのPP Phoenix、この曲から3曲連続で「Genesis」収録曲の再演になります。原曲ではLiebmanがフルートでメロディ〜ソロを取り、テナー2管がアンサンブルを担当し、一貫してバラードでしっとりと演奏されていますが、こちらではボレロのリズムでLiebmanがソプラノを用いムーディに(あくまで彼流に、ですが)テーマ奏とソロプレイ、テナー2管のアンサンブルにも原曲にはない抑揚が付けられていてかなりメリハリの効いた構成での演奏、言わば「魅惑のラテンナンバー」状態です。曲想とソプラノがとても合致しており、Liebmanはこの曲を再演するときにはソプラノでプレイをしたいと考えていたように思います。

4曲目もPerlaのナンバーでFor All the Other Times、オリジナルはミディアム・スローのヘヴィーなスイング(Elvinの繰り出すリズムですから当然なのですが)で演奏されていますが、ここでは8分の6拍子のリズムでテンポも早く、小気味良いグルーヴを伴って演奏されます。ここでもフロント3人のバトルが聴かれます。先発はLiebman、テナーを用いたソロになりますがダークでエグエグ、そしてぶっちぎりの迫力!他の2人も大健闘していますがむしろLiebmanの引き立て役となってしまいました。

5曲目はElvinの書いた名曲Three Card Molly、本作のトピックス演奏になります。Elvin自身ことあるごとに取り上げ、「Genesis」の他の演奏として74年9月Swedenで録音された「Mr. Thunder」、こちらのフロントはSteve Grossman、82年録音「Earth Jones」でのフロントは2管、やはりソプラノでLiebmanと我らがTerumasa Hinoがコルネットで参加しています。99年9月NYC The Blue Noteでライブ録音された「The Truth」、Michael Breckerを含む4管編成での演奏にも収録されていますが、こちらには残念ながらMichaelのソロはありません。

ソロの先発はBradenのテナー、燃え上がるソロのフレーズを1音たりとも聞き逃さぬような体制でリズムセクションは臨んでいます。バックリフが入り、その後スイングにリズムが変わりLiebmanのソロになりますが、本作のハイライトシーンと言えましょう!ベースが演奏を止めドラムとソプラノのデュエットになる演奏のメリハリも素晴らしいのですが、何よりLiebmanの音色、タイム感、音符の長さと粒立ち、スピード感、ソロの構成力、オリジナリティ、どれを取ってもダントツの素晴らしさ、いやはや、エグくてカッコイイです!ドラムソロを挟んでラストテーマ、エンディングは収拾がつかない位に盛り上がりここで終わりかと見せかけて、ドラムのフィルとともに少し遅いテンポで8小節テーマがリフレインされますが、名演奏の誕生です!

6曲目MorettiのTiara、自身のフルートをフィーチャーした哀愁のナンバー。この人の音楽性、ひょっとしたらここでの演奏形態の方に軍配が上がりそうな勢いです。他のフロント2人もすっかり裏方に徹してMorettiの演奏を引き立てています。

7曲目再び「Genesis」からCecilia Is Love、Frank Fosterのナンバーです。原曲ではJoe Farrellのソプラノがメロディとソロを担当していますが、ここでのイントロはLiebmanのソプラノが熟れ切った果実の如き味のある音色と、独特のニュアンスで演奏しています。おもむろにブラジリアン・サンバのリズムがスタート、Elvinはボサノバのリズムで演奏しているので世界は一変します。ホーンのアンサンブルを伴ったLiebmanのソプラノがフィルを交えながらテーマ奏、引き続いてソロに入ります。ここでもソプラノのマエストロとしての真価を発揮しています。続くMorettiのテナーソロはどこか「必ず盛り上げねばならぬ」と、義務感の方が先行してしまうアプローチを感じます。Co-producerとしてもクレジットされている彼はおそらく本作の発案者の1人だと思いますが、責任感がそうさせてしまったのでしょうか。音楽を含んだ芸術的表現はスポンテニアスさが何より大切、恣意的行為が介入すると音楽を真剣に受け止めようとするリスナーには、かなりしんどい事になります。

8曲目LiebmanのBrite Pieceは彼が在籍していた当時のElvin Bandの重要なレパートリーで、作品「Merry Go Round」「Live at the Lighthouse」にも収録されています。日頃あまり明るい(Brite)雰囲気の曲を書かないLiebmanが、珍しく書いたと言う事でこのタイトルが付けられましたが、用いられるモードの中で最も明るいはずのLydianスケールが多用されているにも関わらず、むしろ仄暗さも含んだユニークなテイストです。先発ソプラノはBraden、なかなかのチャーミングな音色で軽やかに、スムースにソロを展開します。しかしバックリフの後に現れるLiebmanのソプラノの存在感は物凄いですね!Bradenの業績を吹き飛ばしてしまうが如きです。オリジナルでも演奏されていたバックリフも聴かれ、抜群のタイム感とスイング感でソロを推進させ、おもむろにラストテーマへとGo!イントロでも使われたベルトーンがアウトロでも演奏されます。

9曲目MorettiのTrippin’、イントロでは自身のフルート、アンサンブルでは隠し味的にバスクラを用いています。リズムとしては8分の6のラテンの他にReggaeも感じさせるパートもあります。ミステリアスな雰囲気の中にジャジーな色合いも見せる佳曲、管楽器のアンサンブルもよく練られていて、彼のコンポーザー、アレンジャーとしての資質も伝わります。ここではBradenのソプラノ、Liebmanのテナーソロが短く聴かれます。

10曲目ラストを飾るのはLee MorganのナンバーCalling Miss Khadija、原曲はArt Blakey and the Jazz Messengersの64年録音のアルバム「Indestructible」でMorgan, Wayne Shorter, Curtis Fullerの3管編成で演奏されています。テーマ部分のみがラテンで演奏されましたが、本作では全編筋金入りのラテンジャズにアレンジされ、Morettiのテナー、Bradenのソプラノでのソロがフィーチャーされます。両者ともにアルバム中最も落ち着いた好演を展開しており、パーカッションソロ後にラストテーマになります。演奏自体は決して悪くはないのですが、トータルに考えて特にこの曲を選び収録する必然性を残念ながら感じません。メンバーのオリジナルないしは「Genesis」中唯一取り上げていないナンバー、Slumberをラテンで演奏しても良かったのではと思います。

2020.02.08 Sat

M / John Abercrombie Quartet

今回はギタリストJohn Abercrombieの80年リーダー作「M」を取り上げてみましょう。彼の率いた最初のカルテットの第3作目になります。

Recorded November 1980 Tonstudio Bauer, Ludwigsburg Engineer: Martin Wieland Produced by Manfred Eicher An ECM Production

g)John Abercrombie p)Richie Beirach b)George Mraz ds)Peter Donald

1)Boat Song 2)M 3)What Are the Rules 4)Flashback 5)To Be 6)Veils 7)Pebbles

John Abercrombieは44年12月ニューヨーク州生まれ、少し生い立ちに触れてみましょう。多くの米国の子供がそうであるように彼もRock & Rollを聴いて育ちました。アイドルだったChuck Berry, Elvis Presley, Fats Domino, Bill Haley and the Cometsの音楽性が、その後の彼の演奏に何らかの形で反映されているかも知れない、あまりにも彼の演奏する音楽と違い過ぎるだけに、その事を想像するのもちょっと楽しいです。10歳からギターレッスンを受け、早熟な彼は最初のジャズギタリストとしてのアイドルだったBarney Kesselの演奏について、当時習っていた先生に彼は何を弾いているのか教えて欲しいと質問したそうです。栴檀は双葉より芳し、こちらの話もKesselがAbercrombieの演奏スタイルにどう影響を与えたのか、プレイを注意深く聴くきっかけにもなります。高校卒業後はBerklee College of Musicに入学、そこでSonny Rollinsの作品「The Bridge」のJim Hall、Wes Montgomeryには作品「The Wes Montgomery Trio」「Boss Guitar」で感銘を受け、George BensonやPat Martinoの演奏からもインスピレーションを授かりました。この辺りの流れはコンテンポラリー系ジャズギタリストを志す者としては、至極自然な成り行きでしょう。Berkleeを卒業後NYCに進出、セッションマンとして知られる存在になり、Brecker Brothersが在籍していたバンドDreamsや同じくBilly Cobhamのグループに参加、そして74年に記念すべき初リーダー作「Timeless」をJan Hammer, Jack DeJohnetteらとトリオでECMにレコーディングしました。以降もECM〜プロデューサーManfred Eicherとの関係は続き、双頭アルバムを含め30作近くをレコーディングしました。

その後Abercrombieは自身の初めてのリーダー・カルテットであるJohn Abercrombie Quartetを立ち上げ、活動を開始します。名門ECMレーベルに同じメンバーで78年「Arcade」、79年「Abercrombie Quartet」、80年本作「M」と毎年1作づつレコーディングし計3作をリリースしました。永らく3枚はCD化されていませんでしたが、2015年に全作収録の3枚組Box Set「The First Quartet」でリリースされました。

第1作目Arcade
第2作目Abercrombie Quartet
The First Quartet いかにもECMらしい簡潔にしてセンス溢れるジャケットです

ピアノRichie Beirach、ベースGeorge Mraz、ドラムPeter Donald、リーダーAbercrombie含めた4人は同世代でしかも全員Berklee同期出身、高度な演奏テクニック、巧みなインタープレイ、ロジカルな音楽性は同窓生のなせる技でもあります。おそらくBerklee在学中に既にバンドとしての形態が芽生えていた事でしょう。気心の知れたメンバーでバンドを組みたくなるのは当然ですし、ましてや初めてのリーダーカルテットならば事は尚更です。同一メンバーで演奏を継続させアルバムをリリースし続けるのは、オーディエンスにとってバンドの進化を目の当たりにする事が出来る至上の喜びでもあります。1作目「Arcade」ではバンド結成の初々しさと今後の展開に対する期待感、2作目「 Abercrombie Quartet」はギグの数もこなし、ミュージシャン同士互いを在学中よりもプロフェッショナルとしてずっと良く知る事になり、バンドサウンドが円熟味を増します。3作目「M」では更なる円熟と同時に、共同作業を継続的に行ってきた芸術家たちならではの緻密なインタープレイ、「行き着くところまで行った」プレイはバンドの崩壊をも予感させるレベル、実際に本作を最後にこの4人が会する事はありませんでした。

左からMraz, Abercrombie, Beirach, Donald、皆さん良い顔しています。

それでは演奏に触れて行きたいと思います。収録7曲中Abercrombie、Beirachが3曲づつ、Mrazが1曲とオリジナルを持ち寄っています。耳に心地良く、口ずさめるメロディラインやメロウなコード感、キャッチーなリズムのキメ、スタンダード・ナンバーやハードバップ的なテイストからは全く程遠い位置に存在する楽曲ばかりですが、メンバー4人には実はポップな楽曲なのかも知れません。楽しげに演奏している様が音からひしひしと伝わって来ますから。ポップの定義も人や状況により変わって来るのでしょう。1曲目AbercrombieのBoat Song、エフェクトを施したギターによるユニークなイントロ、良さげなムードを設定しています。オーバーダビングによるアコースティックギターやピアノが加わり、ピアノが中心になったパターンからテンポが設定されベース、ドラムが加わります。グルーヴとしてはいわゆるECM Bossa、Even 8thのリズムにより全く自然にギターソロへ、パターンをモチーフにしつつ浮遊感溢れるサウンドを聴かせます。ピアノソロでもパターンのモチーフ使用テイストが継続されますが、Beirachの方のリズム感がよりタイトなのと、ピアノタッチの明晰さから、より明確なメッセージが発せられています。この二人の対照的なアプローチが、このカルテットの一つの個性であると思います。その後テーマを経てアウトロは冒頭のエフェクトが再演されます。

2曲目MはこちらもAbercrombieの作曲、シンコペーションが印象的なイントロからギターのメロディが始まります。ピアノのフィルインも絶妙、さすが表題曲に相応しいカッコいいナンバーです。ギターの音色も素晴らしい!テーマ後リーダー入魂のソロにバンド一丸となって盛り上がります。ドラムはスイング・ビートを刻みますが、ソロを取るが如きラインからwalkingまで一貫して不定形なMrazのアプローチがこの演奏の要になっています。Beirachは打鍵した音ひとつひとつの響きを確認するかのような、スペースを生かした助走からスタート、その合間を縫うMrazのベースが光ります。それにしてもBeirachの演奏の見事なこと!複雑なアドリブラインは高度なテンションを用い、更に左手の意外性溢れる低音やコードとが衝突したクラスターは全く独自のサウンドに変化、これらに素晴らしいタイム感とタッチの美しさが合わさりますが、何処かほのぼのとした彼流のメロディアスな歌い回しが全体を包み込み、インプロビゼーションを構築する理詰めの手法ながら、決してメカニカルな表現に陥らず、ヒューマンな、個人的にはロマンチックさがいつも漂うBeirachワールドに敬服してしまいます。続くベースソロにも力強さの中にクラシックを学んだテクニックに裏付けされた見事なピチカートから、ストイックさと美学とスマートさを感じますが、サポートするドラミングの巧みさにも二人の親密なパートナーシップを見い出す事が出来ます。その後ギターとピアノが同時進行でソロを取り、ラストテーマに向かい、エンディングではイントロのパターンが繰り返されますが、この辺りでバンドの真骨頂を垣間見ることが出来ます。ここでのコレクティブ・インプロビゼーションはレギュラーバンドでしか成し得ない世界ではないでしょうか。

3曲目はBeirachのWhat Are the Rules、彼はこのQuartet3部作いずれにも3曲づつオリジナルを提供しています。冒頭全員でルパートでの、不安感を煽るかの如き、フリージャズの様を呈する演奏、研ぎ澄まされた空間に自由な発想で音が投げ掛けられますが、全てに意思が反映されているためにサウンドしています。Beirachの怪しげなモチーフが発端となりテンポが設定され、ベース、ドラムが合わさります。一体どこまで決められている演奏なのか、全くの即興なのか、最低限の取り決めだけが成されている程度なのかも知れません。ギターからも異なるモチーフの提案があり、メンバー追従し始めます。ピークを迎えたところでピアノに主導権が移行され、新たな展開に入ります。ドラムの対話形式で進行しつつ、ギターとベースが加わり、再びルパートへ、ピアノのアウフタクトがきっかけとなりメチャクチャ高度で難解、でもヒップなアンサンブルが聴かれます!えっ?これでこの曲オシマイですか?そうなんです、テーマ〜ソロ〜テーマのルーティーンに飽きてしまった4人が考え出した演奏形態なんです!

4曲目FlashbackもBeirachのナンバー、イントロはピアノとギターのDuoで怪しげな空間を設定、ピアノのグリッサンドからベースパターンに入り、ドラムが加わります。ギターが中心となった短いテーマ後、ピアノソロが始まります。ここでもRichieは打鍵した音の響き具合の確認を怠りません!スペーシーな語り口は共演者に伴奏の機会を供給するのです。Mrazのベースパターンの発展、展開のさせ方も素晴らしく、インスパイアされたピアノソロは細かいモチーフを巧みに変化させて物語を叙述、次第に物凄いことになっていきます!メンバーとの信じられないレベルでのインタープレイには開いた口が塞がりません!Beirachの演奏には喋り過ぎがなく、どんなに盛り上がっていても必ず共演者が入れる隙間を用意しているのは、常に音楽的に招き入れる事を念頭に置いているからだと思います。続いてのギターソロ、ベースがしばし残りますが程なくドラムとDuoの世界に突入です!浮遊感満載の変態ハイパーフレーズの連続、多くのフォロワーを生むに相応しいギタリスト益荒男ぶりです!Donaldのドラムも懸命に煽ります!素晴らしいコンビネーション、一体感、Abercrombieが比較的リズムのonでタイムを取るのに対し、Donaldはポリリズム的にアプローチしているため、変化に富んで聴こえます。待ちかねていたかのようにピアノとベースが加わり更なる高みに邁進!脇目も振らずにピークを迎え丁度良いところでテーマが登場、Fineです!いや〜凄い演奏でした!本テイクはレコーディングを意識したコンパクトなサイズでの演奏にまとめられていますが、ライブでは時間制限がないのでさぞかし盛り上がったことだと思います。聴いてみたかった!!

5曲目AbercrombieのTo Be、Abercrombieはアコースティック・ギターに持ち替えてのプレイ、美しいバラードです。ドラムはブラシを用いずスティックでリズム・キープ、カラーリングを行っています。ギター、ピアノ、ベースと短くソロが行われますが、全体を通してベースの伴奏のアプローチがこの演奏のポイントになっています。アコギでのプレイはエレクトリックよりも音のエッジが立つため、より明確なメッセージが表出します。ピアノの伴奏での、テンポのある曲とは異なった耽美的なアプローチ、同じくソロの鬼気迫るまでに集中力を感じる音楽への入り込み方、美しい音色のピチカートによるベースソロのイメージ豊かな世界、スティックによる伴奏はこれらのソロをバックアップするための必然であったようです。

6曲目はBeirach作のVeils、Beirachの独創的なソロピアノから始まります。この人は何と美しくピアノを鳴らすのでしょう!つくづく聴き惚れてしまいます。レコーディング・スタジオ内ではBeirachのキュー出しに注意が注がれた事でしょう、いきなりインテンポでギターとピアノのユニゾンによる曲のテーマが始まります。ヘビーなグルーブのワルツ・ナンバー、3拍4連を多用した旋律とダイナミクスはやはり一筋縄では行かない構成に仕上がっています。曲中ソロを取るのはAbercrombieのみ、曲想に合致しつつ、共演者の鼓舞も交えながら美しくも危ない世界を独断場で展開します。もっともBeirachはイントロでしっかりと世界を構築済みでしたが。

7曲目はMrazのナンバーPebbles、3部作初登場の彼のナンバーです。8分の12拍子のリズムパターンを淡々とピアノが刻み、その上でギターが浮遊します。どこからどこまでがテーマでメロディなのかは分かりません。ドラムも加わりリズムを刻みますが、ベースは大きくビートを提示する役目、ユニークな曲です。ピアノソロ時にはパターンが希薄になる分、ベースとの絡み具合が面白いです。この曲想はMrazが生まれたCzech Republicの風土に起因するのでしょうか、いずれにせよ作品のクロージングに相応しく、to be continued感が出せていると思います。

2020.02.01 Sat

Symmetry / Peter O’Mara

今回はAustralia出身のギタリストPeter O’Maraの1994年作品「Symmetry」を取り上げたいと思います。全曲メロディアスで良く練られた構成からなるオリジナル、作曲者の意図を確実に踏まえ巧みにサポートするリズムセクション、そしてフロントに名手Bob Mintzerを迎え存分に演奏させた充実の作品です。

All Compositions by Peter O’Mara Recorded and Mixed 24-26 May 1994 at “Systems-Two” Recording Studios, Brooklyn, NYC by Joe & Mike Marciano GLM Label, Germany

g)Peter O’Mara ts, ss)Bob Mintzer b)Marc Johnson ds)Falk Willis

1)Fifth Dimension 2)The Gift 3)Catalyst 4)Seven-Up 5)Chances 6)Symmetry 7)Steppin’ Out 8)Expressions 9)Blues Dues

1957年12月Australia, Sydney生まれのPeter O’Maraは地元の音楽学校やJamey Aebersold, Dave Liebman, Randy Brecker, John Scofield, Hal Galperら米国ミュージシャンのクリニックで多く学びました。80年にAustraliaのJazz作曲部門コンテストで一位に輝き同年初リーダー作「Peter O’Mara」をリリースし、海外留学の資格も得て81年NYCで様々なミュージシャンに師事しました。同年暮れからGermany, Munichに移住し90年には欧州のWeather Reportと呼ばれたサックス奏者Klaus Doldinger率いるバンドPassportに参加(個人的にはWRには聴こえず、いわゆる”フュージョン”グループです)、欧州、 南アフリカ、Brazilでのツアーを経験しました。現在までに共同名義を含め10作以上のリーダー作を発表、音楽教育でも精力的に活動しており教則本を4冊出版(日本でも翻訳されています)、YouTubeでギター講座を展開しています。

初リーダー作Peter O’Mara
O’Mara参加Klaus Doldinger & Passportの作品Down to Earth

早速演奏曲について触れて行きましょう。1曲目Marc Johnsonの力強いベースパターンから始まるFifth Dimension、米国に同名の5人編成R&Bコーラス・グループがありますが、こちらは文字通り5拍子のナンバーです。A-A-B-A構成のこの曲、テーマをBob Mintzerがテナーで演奏しますが、初めのAでユニゾンで演奏するO’Maraのギターが次のAからハーモニーに転じサウンドを厚くしています。サビのBセクションの展開もイケてます!オープニングに相応しいインパクトのあるキャッチーなテイストを持つ、大好きなナンバーです。それにしてもMintzerの音色の素晴らしさと言ったら!太くてダークでコクがあり、ハスキーな成分が含まれるバランス感は絶妙です!何度か彼のライブを聴きましたが、この人の生音はさほど大きくはなく、特に派手な楽器の鳴りという認識はありませんでした。いわゆるマイク乗りの良い音、倍音成分が豊かで録音しても音痩せする事がなく、音の旨味成分がしっかりとレコーディング媒体に残される傾向にあります。効率の良い鳴らし方のテナー奏者のひとりと言えるでしょう。随所に的確でソリッドなフィルインを入れるMunich出身のドラマーFalk Willisは録音時24歳になったばかり!タイム感、グルーヴ、センス、そしてJohnsonのベースのコンビネーションともに申し分ないと思いますが、ドラムの音色がややラウドな傾向にあるので、もう少しコンパクトにまとまっていればバンドサウンドにより溶け込めたように思います。セットチューニングや録音の関係とも考えられますが、ジャケ写を見るとかなり身長のある人なので腕が長く、スティックを振り下ろすストロークがあるのでしょう、特にスネアや皮ものが鳴ってしまうのかも知れません。テーマ後のテナーソロ、5拍子をものともせずタイトなリズムで巧みに、緻密に、スペースを保ちながらストーリーを展開して行きます。曲の持つ雰囲気や構成に全く合致していて、曲の裏メロディでは、と見誤る程のクオリティを感じさせる、更には予め書かれたかのような次元のアドリブですが、同時にスポンテニアスでもあります。High F#音やフラジオB音の音の割れ具合にはグッと来てしまいます!サックスの高音域を割れた音色で確実にヒットさせるにはむしろアンブシュアがルーズでなければ出来ず、こちらでも理想的な奏法のプレイヤーと言えます。ギターのバッキングも付かず離れず、Mintzerに好きに演奏させるべく浮遊感を感じさせるアプローチに徹しているようです。その後のギターソロはこれまた素晴らしい音色でのプレイです!タイムとしてはかなり前ノリで、ジャズよりもロックのテイストが強いグルーヴ、ソロのアプローチのように感じますがコーラス、ディストーション、ハーモニクスを交えたソロはテナーと良い対比をもたらしているように聴こえます。Johnsonのベースがしっかりとリズムの芯となりバンドの要を担当しており、アクティブな他のメンバー3人の後見人のような役割を果たしています。ラストテーマはサビには行かずにA-Aでカットアウト、Fineです。

2曲目は一転してスイングのリズム、柔らかいムードの佳曲The Gift、美しくナチュラルな雰囲気を湛えています。メロディラインの間に入るMintzerのフィルインも出過ぎず丁度良い語り口です。先発ソロは先ほどの演奏で出番がなかったJohnsonのベースから。正確なピッチ、美しい音色、よく歌うピチカートのラインからはテクニシャン、そして都会的なセンスを感じます。ソロのバックでのWillisのブラシワークも巧み、さり気なくスティックに持ち替えてMintzerのテナーソロへ。穏やかさを基本にしながらも、いきなり鋭利な刃物のような切れ味鋭い、テンションを多く含んだフレージングを、端正なグルーヴで繰り出す様はさすがユダヤ系プレーヤー、知的で大胆です!4’00″からのフレーズはMichael Breckerも70年代使用したJoe Hendersonのもの、おふたりJoe Henも研究したのですね。続くO’Maraのソロは先ほどとは打って変わりタイトな8分音符を主体としたアプローチ、ジャズギタリストとしての真骨頂を披露してくれており、音使いの選び方もとっても好みです!

3曲目Catalystはアップテンポのスイング、ここでのWillisのシンバルを主体としたドラミングは皮ものの鳴りが少なくなるので、ラウドな傾向は影を潜めます。イヤー、カッコいい曲ですね!メロディの組み合わせ方の妙と言いますか、何処かで聴いた事のあるフラグメントの配置の仕方、再構築に作曲者のセンスを感じます。テーマ部分はテナー、ギター、ベースがユニゾンでメロディ奏、先発ギターソロからベースがバッキングを担当します。John Aebercrombieを彷彿とさせるギターソロは、ギターキッズならば頷かざるを得ないクオリティの内容です!ドラムのアイデア豊富なバッキング、ベースの変幻自在なサポートがトリオのインタープレイの次元を高めています。79年録音Abercrombieの作品「Abercrombie Quartet」でのバンドの一体感をイメージしました。

テーマの一部分をインタールードに用いて次のソロイストやテーマに移行していますが、Catalystとは「きっかけ」の意味、このインタールドの事を指すのかもしれません。続くテナーソロでは1人増えた4人でのインタープレイの応酬がスリリング、Mintzerとことん盛り上がらず含みを持たせた大人の対応を見せてCatalyst後ベースソロへ、ドラムだけがサポートし両者組んず解れつの演奏後、短くCatalystを経てバンプ的ドラムソロ、ラストテーマも無事終了です。

4曲目Seven-Upはその名の通り7拍子のファンク・ナンバー、米国でお馴染みの清涼飲料水と同名、O’Maraさん1曲目といいタイトル付けがちょっと安直な気もしますが、ひょっとしたら単に僕と同じダジャレ好きなだけなのかも知れません(笑)、ギターのカッティングから始まる実にゴキゲンなナンバー、こちらは変拍子を感じさせないナチュラルなメロディラインとグルーヴが印象的です。テーマは2回演奏され1回目ギターはそのままカッティングのみでのバッキング、繰り返し回はコードとメロディを巧みに組み合わせてのオーバーダビングを含めたバッキング、芸が細かいです!先発Mintzerはここでも4拍子+3拍子からなる7拍子を、リズムセクションの大健闘と共に難なくグイグイと盛り上げています!ソロは決してtoo muchにならず、バランス感を常に念頭に置いた演奏に徹しています。ギターソロも音色を変えつつ変幻自在なアプローチ、途中から再びオーバーダビングでギターのカッティングが聴こえ始めますが、レコーディングでは良く行われる手法のひとつです。カッティングが加わる事でグルーヴ感を強調させるのが目的なのでしょう。ソロが終わってもそのままカッティングがうっすらと残りラストテーマへ、レコーディング・テクノロジーによる最小限の演奏上の音加工が功を奏したテイクになったと思います。

5曲目Chancesはアコースティックギターを用いたイントロに始まるバラード、アコギの響きが堪りません!メロディを奏でるMintzerはバラードの名手でもある事を再認識させてくれました。深いビブラート、強弱付けによる抑揚、もっと聴きたいところで先発はギターソロ、テナーは暫しお預けです。しかしギターソロの最中に倍テンポになってしまいました(涙)。そのままでのバラード演奏を楽しみにしていたので肩透かしを喰らいましたが、曲の本題は後半部分なのかも知れません。でもエンディング部分で再びサブトーンでのメロディを堪能することが出来ました。

6曲目タイトル曲Symmetryはヘヴィーなリズムのワルツ・ナンバー、ドラムのテイストもどこかElvin Jonesを感じさせますが、このようなグルーヴのジャズワルツではありがちな事なのでしょう。でもElvinとの最大の違いはレイドバック感です。ここではWillis君のドラミングにスネア&皮ものが再登場し、ちょっと鳴り過ぎの感が…しかしテーマのメロディ奏に脱力系の色気を感じるので、帳尻が合っているのかも知れません。先発テナーソロは曲の持つムードをキープしながらをワンコード・オープンの上で次第に熱くフラジオ音も使ってブロウ、おそらくキューを提示してテーマのコード進行に移行します。ギターソロも同様にワンコードでのオープンソロ、クリアーなトーンでジャズギタリスト然とソロを展開、Willis君も果敢にフレージングに対応しています。テーマのコード進行に移ってからはメロディも伴われ、ラストテーマへ。ここでもMintzerの吹き方にテナーマンとしての色気を認める事が出来ました。

7曲目Steppin’ Outはドラムのソロから始まる速いテンポのスイング・ナンバー、シンバルを主体としてビートを刻むドラミングからTony Williamsのテイストが聴こえます。シンプルさの中にもO’Mara流のスパイスが効いた、こちらも外連味のない佳曲、先発のギターもリズムセクションとの一体感が見事なソロを聴かせています。on topで巧みにビートを繰り出すJohnsonのベースがこの演奏の要、Willisのビート感も実に素晴らしい!テナーソロ後にギター、テナーとドラムの8バースが繰り広げられますが、年齢を鑑みた音楽的表現の未熟さを微塵も感じる事はありません!この貫禄と風格は何処から来るのでしょう?O’Mara自身のライナーノートによればWillisとは”Old” Friendsという事で、以前取り上げた「Fuchsia Swing Song」のSam RiversとTony Williamsの関係と同じです。ちなみにJohnson, Mintzerとはレコーディングのリハーサル前には会った事がなく、電話でやり取りをするだけだったそうです。(現在ではメールという事になりますが)彼らはそんな付き合い方から演奏に至るまでを称しTelephone Bandと呼ぶのだそうです。

8曲目Expressionsは巧みなベースソロをフィーチャーした叙情的なイントロから始まるEven 8thのナンバー。Mintzerのソプラノサックスがこの上なく美しいです!テナー同様に倍音成分が実に豊富で複雑な鳴りをしていますが、バランス感が絶妙、この曲の持つムードにまさしくピッタリです!ソプラノばかりに耳が行ってしまいがちですが、曲のメロディ、構成も実に素晴らしい出来です!Mintzerが参加するグループYellowjacketsの98年作品「Club Nocturne」の1曲目、以降のYellowjacketsの重要なライブレパートリーでもある名曲Spirit of the West、ここでのソプラノの音色、演奏も実に堪りません!そういえば同じくユダヤ系Coltrane派テナー奏者、70年代からのMintzerの盟友であるDave Liebman, Steve Grossman, Michael Breckerたちもソプラノの名手でした。ギターソロはさすがコンポーザーとしてのイメージをふんだんに散りばめた、深淵な世界を作り上げています。ラストテーマではソプラノの鳴りが更に極まったように聴こえ、一時この曲ばかりヘヴィロテで聴いた覚えがあるのを思い出しました。

9曲目最後を飾るBlues Duesはリラックスした雰囲気のナンバーですが、O’Mara流の捻りが効いた作風に仕上がっています。先発ギター、様々なテイストを織り交ぜながらテクニカルに、カラフルに歌い上げています。ドラム、ベースのふたりもチャレンジしつつO’Maraの演奏に対処しています。テナーソロもギターの雰囲気を受け継ぎつつよりファンキーに、ブルージーにホットにソロを展開しています。ベースも淀みないラインを実に余裕で演奏していますが、実はとんでもない高度な内容のソロです!

本作のようにAustralia出身のギタリストがGermanyに移り住み演奏活動を展開、移住先で知り合った若いドラマーを連れて渡米、ジャズシーン最先端のテナー奏者、ベーシストとNYで共演し全曲自身のオリジナルを録音、これ以上の出来はないほどのクオリティ作品を作り上げる。世界は狭いと捉えるべきか、ジャズという音楽の柔軟性が成せる技か、その両方なのかも知れません。いずれにせよ本作を紹介出来たことを嬉しく思っています。

2020.01.24 Fri

Treasure Chest / Joe Gilman Trio & Joe Henderson

今回は米国人ピアニストJoe Gilmanの1992年リーダー作「Treasure Chest」を取り上げてみましょう。Joe Hendersonが4曲ゲスト参加しています。

Recording Date: 12 November and 12 December 1991 Recorded at Bay Records / Oakland Recording Engineer: Bob Schumaker Produced by Bud Spangler Executive Producer: Wim Wigt Label: Timeless Records, Holland

p)Joe Gilman b)Bob Hurst ds)Jeff “Tain” Watts ts)Joe Henderson(on 3, 5, 7, 10) tp)Tom Peron(on 7)

1)Treasure Chest 2)The Enchantress 3)It’s All Right With Me 4)New Aftershave 5)A Second Wish 6)Chains 7)Non Compos Mentis 8)Nefertiti 9)Juris Prudence 10)It’s All Right With Me

1962年California生まれのJoe Gilmanは7歳からピアノを始め当初はラグタイムに興味を示しました。10代の頃にDave Brubeckのプレイに魅力を見い出し、その後Oscar Peterson, Herbie Hancock, Chick Corea, McCoy Tyner, ピアニスト以外ではJohn Coltrane, Miles Davisと言ったジャズ・リジェンドのレコードを愛聴しました。クラッシック音楽を学んだ過程ではIgor Stravinsky, Sergei Prokofievのコンセプトに影響を受けたそうです。92年からCaliforniaにあるAmerican River CollegeとSacramento State Universityで教鞭を執り、University of the Pacific’s Conservatory of Musicでは00年に創設されたThe Dave Brubeck Instituteの授業も行う楽理派でもあります。 米国には第一線にはあまり登場しなくとも、教育者として活動し続け、オリジナリティはともかく、いざとなったら凄い演奏を繰り広げる事が出来る、ポテンシャルが半端ないミュージシャンがとてつもない数潜在しているように感じます。

本作は当時のBranford Marsalis QuartetのリズムセクションだったベーシストBob Hurst、ドラマーJeff “Tain” Wattsを迎えたトリオ編成を中心に、更にJoe Hendersonを加えたカルテットでも4曲を演奏しています。本作録音の頃のBranford Quartetの作品としては90年作品「Crazy People Music」、91年リリース「The Beautyful Ones Are Not Yet Born」がありますが、これらでもHurst, Wattsの二人は抜群のコンビネーションを聴かせています。Wattsに関して、96年頃からMichael Brecker Quartetにも加入する事になりますが、その事がきっかけで大きく成長しました。参加当初は周囲から違和感も囁かれましたが、それまで経験した事のないタイプであるMichaelの音楽性を吸取紙のように吸収し、あっという間にMichaelが自分の音楽を表現するに欠かせないドラマーに変身を遂げました。当然ですがそこで培われる更なる緻密で大胆なテクニック、グルーヴ、柔軟で幅の広い音楽性はここではまだ発揮されておらず(加入5年前です)、片鱗を見せる程度です。基本的なビート感は一貫していますが、どちらかといえばオーソドックスなアプローチに徹しています(とは言え、物凄いドラミングですが)。

それでは演奏について触れていきましょう。1曲目GilmanのオリジナルでアップテンポのナンバーTreasure Chest、表題曲に相応しい華やかでスインギーな演奏です。クリアーでタイトなピアノタッチ、on topなリズムのノリはスピード感を伴い、どこかOscar Petersonをイメージさせますが、フレージングやサウンドはコンテンポラリー系が中心なので異なります。彼なりの歌い方を感じさせるスタイルも十分に聴かれるソロは、リズム隊にサポートされグイグイと展開、Hurstのやはりon topなベースがRay Brownを彷彿とさせ、二人のビートに対してWattsがステイしているのでトリオのバランスが保たれていますが、これはまさしくBrownとEd Thigpenが在籍したThe Oscar Peterson Trioのフォーマットでしょう。ピアノソロ1’10″辺りで一瞬ヒヤリとさせられましたが全くOKです!2’01″辺りからの歌い回しにどこかBrubeckを感じました。超絶ベースソロの後にドラムとの8バースも聴かれますが、Wattsのフレージングには他にない独自なセンスを感じます。3’25″からのピアノソロ・フレーズの凄いこと!再びイントロ、そしてラストテーマを迎えシンコペーション・フレーズでカットアウト、Fineです。4分強の短い演奏にトリオの魅力が凝縮されたテイクに仕上がりました。

2曲目Gilman作のワルツThe Enchantress、Coreaの作風に似たテイスト、サウンドを感じさせますが美しいメロディとセンシティブなピアノタッチが美の世界へと誘います。Hurstの絶妙なバッキング、Wattsの繊細で大胆なElvin Jonesライクなブラシワークに支えられてドラマチックに演奏が展開していきます。ピアノソロのテイストを受け継いだベースソロも深い音色で見事なピチカートを聴かせています。ラストテーマもきっちりと律儀に演奏され、教育者ゆえなのでしょうがGilmanの真面目な人柄を垣間見た気がします。

3曲目は本作のトピックスCole Porter作曲のお馴染みIt’s All Right With Me、Joe Henが加わります。ユニークなシンコペーションを生かし、緊張感を伴ったリズミックなパターンから成るイントロから始まりますが、エレクトリック・ピアノが使われています。明らかにFender RhodesやYAMAHAのCP80とは異なる音色、こちらはRoland社製のものだそうです。個人的にはやや深みに欠ける音色に聴こえますが、演奏する本人が気に入って使っていればそれで良いのです。低音域でのメロディ奏は一聴してすぐ彼と分かる、オリジナリティ溢れる魅惑のテナートーン、この時点で一体どんな世界を構築してくれるのかワクワク感満載です!だってJoe HenのIt’s All Right With Meですから!!そして期待を裏切らずピックアップ・ソロのフレーズから炸裂、ブッ飛んでます!1コーラス目はテーマのパターンが持続しその上でのインプロヴィゼーション、エグくてリズミック、スピード感ハンパ無いブロウ、間の取り方も絶妙、と言うか間こそがフレージングの要とばかりに決してtoo muchにならず、要点を確実に述べながらJoe Henフレーズを駆使しストーリーを展開します。2コーラス目からスイングに、リズムセクションはJoe Henの演奏に圧倒されひたすらキープに回っているが如し、でもWattsが果敢に呼応しています!ですが、ですが、後年の演奏スタイルならばきっととんでもない異次元の世界に誘ってくた事でしょう!続くGilmanのソロもイッてます!4’23″からのようなフレージング、大好きです。ピアノソロ後再びイントロのパターンに戻りラストテーマ、その後はパターンが延々とリピートされ、Joe Henはフレッシュなフレーズを連発しています。そしてフェードアウトかと思わせ、ベースとドラム二人で示し合わせたようにリズム・モジュレーションを用いテンポを変えて再びテーマ演奏へ、丸々1コーラスメロディを演奏しているじゃありませんか!面白過ぎです!エンディングはさすがにフェードアウトでFineです。

4曲目はGilmanのオリジナルNew Aftershave、小気味良いスイングナンバーです。オーソドックスなスタイルを中心にThelonious Monkのテイスト等を交え巧みにソロを取っていますが、ちょっと優等生過ぎるきらいもあります。やはり職業柄、それともお人柄からでしょうか?ジャズはワルや、やさぐれ感に由来する毒が必要不可欠だと思うのですが、タイトル通りでひげそり後の爽快感のイメージならば良しとしましょうか(笑)ベースソロ、ドラムとの4バースを経てラストテーマへ。

5曲目A Second Wish、美しいピアノイントロから始まるこちらもJoe Henが参加したナンバー、ルパートでテナーによるテーマ奏の後、ベースパターンでテンポが定まり、特にテーマの提示はなくピアノソロへ。ドラマチックなコード進行の上で叙情的にフレーズを繰り出すGilman、続いてJoe Henのソロが始まり豊かなイメージを内包しながらのアプローチ、Hurstの絡み具合が秀逸です。テナーソロ後にフェルマータしピアノのルパート奏、テナーのきっかけでアテンポ、ラストテーマはコードのサウンドとテナーの音色が良く合致したアンサンブルを聴くことが出来ます。

6曲目ChainsはGilman作のモーダルなブルース、ユニークなテーマとリズミックなシカケが映える佳曲、トリオ編成でこちらも早いテンポが設定されています。どこかCoreaのMatrixでの演奏をイメージしてしまうのは僕だけではないでしょう。とはいえGilman流暢に、ストーリーを語るが如く巧みにソロを取り、Wattsのドラミングとも絶妙なコラボレーションを聴かせ、その勢いで壮絶なドラムとの1コーラス・バースに突入します。コーラスを重ねる毎にドラムソロの密度が濃くなって行くのが分かります。

7曲目Gilman作Non Compos MentisはMiles Davisの「Miles in the Sky」と、70年代Joe HenがMilestone Labelに残した一連の作品からのイメージを湛えたジャズロック的なナンバーです。アンサンブル要員でリーダーの旧友、トランペッターTom Peronが参加しています。Joe Henここでも絶好調のアドリブを聴かせています。Gilmanのソロ、リズムセクションも同様に素晴らしいアプローチを聴かせ、バンドの一体感が見事です。レコーディングは残されていませんがJoe HenはMilesのバンドに一時期参加していたそうで、そのオマージュの意味合いもあったのでしょう。

8曲目Wayne Shorterの書いた名曲にして超難曲の代名詞としても名高いNefertiti、こちらもMilesゆかりのナンバーです。ここではエレクトリック・ピアノによるソロで演奏されていますが、コーラスやディレイといったエフェクトが施された独特の雰囲気でのプレイは、曲の持つムードに不思議に合致しています。

9曲目Juris PrudenceもGilman作のナンバー、8ビートのリズムで演奏されるメロディはDizzy GillespieのナンバーMantecaを彷彿とさせますが、単なるシャレなのか、本気なのか、トリオの三位一体でのリズムの饗宴は真剣そのものですが。ベースパターンもトリッキーでリズミック、シンセサイザーの音色でのアンサンブルは曲に色付けを施し、アルバム全体に変化をもたらしています。

10曲目It’s All Right With Meは3曲目の同曲別テイクになります。テンポはこちらの方がやや遅く、演奏の構成はほぼ同じ、ひとつ大きな違いはJoe Henがメロディを上の音域で演奏している点で、オープンな雰囲気になります。先発のテナーソロはまた違ったアプローチを示していて素晴らしいのですが、一度真っさらな紙の上に大胆に毛筆で大きく文字を書いてしまった後のようで、ソロに対するフレッシュさが目減りしてしまった風を感じます。3曲目の方がファースト・テイクで、演奏が上手く言ったのでOne More Takeとなり、こちらがセカンド・テイクにあたるのではないでしょうか。エンディングのテナーソロもこちらの方があっさり目に聴こえますが、実は単にフェードアウトを早めただけかも知れません。ピアノソロに関しては両テイク共に彼らしさが出ていると思います。続けて同じ曲を演奏しようとする際、前のテイクがスポンテニアスで音楽の深部に到達していればいるほど、繰り返しのテイクには奏者にプレッシャーが加わり、作為的になるものです。本テイクのクオリティはこの曲の名演奏のひとつに数えられるべき内容ですから。総じて最初のテイクの方に軍配が上がると思いますが、こちらも例外ではありません。なので別テイクを巻末に収録する意味合いを今一つ感じる事が出来ないのですが、このテイクとの比較によりオリジナル演奏の凄みを再認識出来るという、特典付き別テイク収録という事になるのでしょうか(爆)

2020.01.17 Fri

My Romance / Kevin Mahogany

今回はボーカリストKevin Mahoganyの1998年アルバム「My Romance」を取り上げてみましょう。素晴らしい共演者、アレンジャーを得て極上のバラード作品に仕上がりました。録音の良さからも彼の代表作の一枚と言えると思います。

Recorded: May 11-13, 1998 at Sear Sound, NYC Produced by Matt Pierson Assistant Producer, Kevin Mahogany Recorded by Ken Freeman Mixed by James Ferber Strings Arrangement on “Wild Honey” by Michael Colina

vo)Kevin Mahogany p, arr)Bob James b)Charles Fambrough ds)Billy Kilson ts)Kirk Whalum ts)Michael Brecker

1)Teach Me Tonight 2)Everything I Have Is Yours 3)My Romance 4)I Know You Know 5)Don’t Let Me Be Lonely Tonight 6)Stairway to the Stars 7)May I Come in? 8)Wild Honey 9)I Apologize 10)How Did She Look? 11)Lush Life

魅力的な低音域の声質、ジャジーなイントネーションとセンス、正確なピッチ、発音と発声を有しBilly Eckstine, Joe Williams, Johnny Hartmanら正統派男性ボーカリストの流れを汲むKevin Mahoganyは58年Kansas City生まれ、幼い頃からピアノやクラリネット、バリトンサックスを手掛け高校生の時に既に音楽を教えていたそうです。Lambert, Hendricks and RossやAl Jarreau、Eddie Jefferson達に音楽的な影響を受け、本作では殆ど披露されていませんがスキャットも大変に堪能なボーカリストです。96年Robert Altman監督の映画Kansas Cityのサウンドトラック盤ではHal Willnerがプロデュースを担当、例えばCraig HandyがColeman Hawkins、Geri AllenがMary Lou Williams、James CarterはBen Webster役を務めていますが、Mahoganyも伝説的ブルースシンガーBig Joe Turner役で参加しています。

Mahoganyの93年初リーダー作「Double Rainbow」(Enja)はKenny Barron, Ray Drummond, Lewis Nash, Ralph Mooreら名手を迎え、先輩格のシンガーJon Hendricksがライナーノーツを寄稿した記念すべきデビュー作、オハコのスキャットも十分に披露し、共演者とのインタープレイも巧みなアルバムです。スインギーなジャズテイストやグルーヴは本作と遜色ありませんが、音程やタイム感はこちらの方に軍配があがるのは、初リーダー作からMahoganyが進化している証でもあります。

それでは演奏に触れていきましょう。1曲目Teach Me Tonight、Bob Jamesのメロウなピアノイントロに続き、素晴らしい音色のテナーでフィルインを聴かせるのがKirk Whalum、この人は当Blog初登場になります。大好きなテナー奏者なのですがたまたま取り上げるチャンスがありませんでした。彼の演奏はスムースジャズという範疇にカテゴライズされるようですが、ジャズ的要素をかなり持つプレーヤーです。むしろどっぷりとジャズに足が浸かっていないスタンスでの違った歌伴表現、テイストの異なるオシャレなオブリガードを聴かせていると感じます。彼の使用楽器ですがJulius Keilwerth SX90R Black Nickel、マウスピースはVandoren V16 T8、リードは同じくVandoren V16 4番。サックスの音色はその人の身体から生じるもので、使用楽器とマウスピースは二次的なものですが、個性を発揮させるためのオリジナルなセッティングと言えるでしょう。サブトーンを活かしたオブリ、芳醇な音色でタイトなリズムを聴かせるソロはどこか極上な赤ワインの味わいに似ています。伴奏のピアノトリオはリラックスした中にも適度に負荷がかかった美学を持ちつつ一切無駄のない、全ての音がサウンドしている音空間を構築しています。2’50″からピアノがホールトーンで下降するフィルインを弾いています。唐突といえば唐突なのですがJamesの独特なユーモアのセンスと感じるのは僕だけでしょうか。

2曲目はEverything I Have Is YoursはMahoganyの尊敬するBilly Eckstineの歌唱で有名なナンバー、冒頭トリオによるイントロ、唄に入ってもドラマーBilly Kilsonはスティックではなく手のひらを用いてセットの革物を叩いており、パーカッション的な柔らかさを表現しています。Mahoganyはよく伸びる美しい声で朗々と歌い、強弱を生かして切々と愛を唱えています。ピアノソロに入りドラムはブラシに持ち替え巧みな16ビートを演奏、ベーシストCharles Fambroughも的確なサポートを聴かせています。間奏のピアノも歌伴とインストのソロ端境ギリギリに位置するテイストで演奏しています。後唄では再びKilson、ハンド・ドラマーに徹しています。

3曲目はタイトルチューンのMy Romance、幾多のボーカリストに取り上げられた定番中の定番曲ですが共演者の巧みな伴奏もあり、忘れられない好演奏に仕上がっています。冒頭テナーとボーカルのデュエットでメロディが演奏されていますが、二人のトーンの豊潤さが相乗効果を生み、コードやリズム楽器が無くとも十分に音楽が成り立っています。一曲丸々デュオ演奏でも良かったのではとも感じていますが、割って入るように弾き始めたJamesのピアノがMahoganyのボーカルをナイスサポート、また違った側面を聴かせます。テナーのオブリガートを交えながらその後テナーソロ、いや〜実に良い音ですね!堪らないです!ニュアンス、イントネーションもちょうど良いところを保ちつつメロディフェイク的なアドリブを聴かせてくれます。その後あと歌へ、そしてアウトロはキーを変えておしゃれにスマートにFine、素晴らしいですね!ベース、ドラムが加わらないトリオ演奏で終始しました。

4曲目はシンガーソングライターLyle LovettのナンバーI Know You Know、Lovettは俳優としても活躍し、前述の映画Kansas Cityの監督Altman作品の常連でもあります。ここではテナー奏者が交代しますが、その人はお馴染みMichael Brecker、間違いなく歌伴テナーの第一人者として、ありとあらゆるボーカリストの伴奏をこれ以上相応しい演奏はあり得ないという次元で務めていますが、ここでもブルージーに、アンサンブルのメロディもニュアンス巧みに、そしてさりげなくMichael節を聴かせています。Mahoganyのボーカルも、ブルース表現を決してtoo muchに出さずにアーバン・ブルース的?コンセプトで歌い上げています。Whalumがこの曲の伴奏を務めたらMichaelよりももっとブルージーだったかも知れませんね。

5曲目Don’t Let Me Be Lonely TonightはJames Taylor作の名曲、多くのアーティストによってカヴァーされています。73年オリジナルの演奏ではMichaelが参加しており、その間奏は初期の彼の名演奏の一つになっています。Michael自身も01年の作品「Nearness of You: The Ballad Book」で取り上げ、逆にTaylorをゲストとして招き素晴らしい演奏を繰り広げ、グラミー賞に輝いています。

印象的なピアノのイントロから始まりMahoganyのボーカルが聴かれますが、Taylorに比べてずっとキーが低く、低音域での歌唱によりずいぶんと雰囲気が変わっています。是非ともWhalumに歌伴、そして間奏をお願いしたかったですが、残念ながら聴くことは出来ません。CDのクレジットでは参加していることになっているのですが…

6曲目Stairway to the Starsは古いスタンダード・ナンバー。こちらも多くのミュージシャンに取り上げられている名曲です。ドラムのブラシから始まるイントロはここでもJamesの巧みなアレンジが光りますが、そのまま本編でも美しいメロディライン、Mahoganyのメロウなボーカルと歌い回し、トリオの全く雰囲気に合致した、見事としか言いようの無い伴奏とが合わさり、芸術性と職人芸の融合、この曲の新たな名演奏が生まれています。

7曲目May I Come in?はNancy Wilson, Rosemary ClooneyやBlossom Dearieたち女性ボーカリストに取り上げられているナンバー。Dearieの64年同名作での可愛らしい(カマトト?)歌唱と比較すると、Mahoganyの低音域・益荒男ぶりが実によく映えます。

ここでもMichaelが伴奏を務めます。イントロでの切なさを感じさせる吹き方は流石です!スロ−な8ビートのリズムの上でMahoganyたっぷりと、朗々と歌い上げています。続いてMichaelのソロ、ボーカルのバックのレコーディングでは予め譜面や音源、アレンジのコンセプトなどを、可能な限り入手してスタジオに臨むと言っていました。ここでのプレイもそう言った準備を入念に行った演奏と解釈できる、実にサウンドしている演奏だと思います。エンディングでにてMahogany、ここでは敢えて封印していたスキャットでMichaelとバトルを行っています。「Kevin, この作品はバラード集でしっとりとした作品コンセプトだからさ、スキャットはやっても程々にね」とプロデューサーのMatt Piersonにクギを打たれていたのでしょうね、顔見世興行的にほんのご挨拶で終えて、フェードアウトです。

8曲目Wild Honeyは英国が誇るロックシンガーVan Morrisonのナンバー、再びWhalumを迎え、ストリングスセクションも配した演奏になっています。ストリングスアレンジは名手Michael Colina、ゴージャスなサウンドを提供して正に適材適所。Mahoganyはこういったテイストの曲でも曲想を巧みに踏まえて歌い上げます。Whalumもオブリガート、間奏ともに素晴らしい演奏を聴かせています。彼自身も12年リーダー作でボーカリストKevin WhalumにJohnny Hartman役を、本人はJohn Coltrane役を担当し「John Coltrane and Johnny Hartman」を再現した作品「Romance Language」をリリース、ここでは歌伴に徹しています。

9曲目I ApologiseはこちらもMahoganyの尊敬するBilly Eckstineの歌で有名なナンバーです。Eckstineのヴァージョンはかなりアクの強い、やさぐれ感満載(笑)の歌唱ですが、ここでは洗練された表現を聴くことができます。Jamesの品の良い、知的なアレンジがさらにボーカルの表現を高めている事に成功していると思います。

10曲目How Did She Look?は生涯に3000曲以上を書いたとされる米国の作詞作曲家Gladys Shelleyのナンバー、Mahoganyは古き良き時代のナンバーを発掘する事にも長けているようです。ピアノのバッキングが甲斐甲斐しいまでに痒い所に手が届く状態、ヴァースから丁寧に歌い上げているMahoganyを包み込み、彼の音楽を心から応援しているかの如くです。

11曲目Lush Lifeは言わずと知れたBilly Strayhornの名曲、ピアノとデュオで演奏されています。Mahoganyの歌も素晴らしいですが、Jamesのこの曲を熟知したバッキングが光っています。

2020.01.03 Fri

Canyon Lady / Joe Henderson

今回はJoe Henderson1973年録音のリーダー作「Canyon Lady」を取り上げてみましょう。全編ラテンミュージックを演奏した聴き応えのある作品です。

Recorded: October 1-3, 1973 Studio: Fantasy Studio, Berkley Producer: Orrin Keepnews Label: Milestone

ts)Joe Henderson ac-p)Mark Levine b)John Heard ds)Eric Gravatt timbales)Carmelo Garcia congas)Victor Pantoja tb)Julian Priester(1, 3, 4) tp, fgh)Luis Gasca(2, 3, 4) el-p)George Duke(1,2,3) tp)Oscar Brashear(1, 3, 4) tp)John Hunt(1) fl, ts)Hadley Caliman(1, 3) fl)Ray Pizzi(1) fl)Vincent Denham(1) tb)Nicholas Tenbroek(1) congas)Francisco Aguabella(4) arr, cond)Luis Gasca

1)Tres Palabras 2)Las Palmas 3)Canyon Lady 4)All Things Considered

本作はJoe Henderson30作近くあるリーダー作中異色の一枚で、ティンバレス、コンガ奏者やホーンセクションを擁したラテンならではのグルーヴ、サウンドを大編成によるアレンジでゴージャスに演奏しています。Joe Henはもともとタイム感抜群のプレイヤーですが、ラテンでも同様に素晴らしいリズムを聴かせ、One & OnlyのJoe Henトーン、プレイのスタイルと相俟った新たな境地を展開しています。「彼のグルーヴはラテンにも合致するのだ」と再認識しました。しかもいつになくハードにブロウし、吠えまくりフリーキーなアドリブを聴かせていますが、自分に照らし合わせてもラテンのリズムはテナー吹きを熱くさせるサムシングを持ち合わせていると感じます。2曲オリジナルを提供しているピアニストMark Levineがリズムセクションの要となり、Weather ReportやMcCoy Tynerのバンドでその名を馳せたEric Gravattの素晴らしいドラミングと、ラテンに不可欠なティンバレス、コンガとが合わさり三位一体の緻密なグルーヴを提示、ベーシストJohn Heardとの相性も申し分ないので見事に「本格的な」ラテンアルバムに仕上がりました。50年代ハードバップ・エラからジャズ屋のラテンには雰囲気があり、良いグルーヴの演奏もありましたが、ラテンに精通するのプレイヤーのタイトで鉄壁なリズムには全く敵いません。本作はJoe Henライブラリーの中でもっと知られても良い一枚だと思うのですが、アルバムタイトルから選ばれたのでしょう、妙齢な女性のジャケ写を全面に出したレイアウトと作品自体の関連性がどうにも感じられないので、Joe Henファンは言うに及ばず多くのジャズファンからもスルーされがちな一枚です。名は体を表す、作品タイトルとジャケットの関係性は大切なのです。

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目Tres Palabrasはラテンの名曲の一つでキューバ出身の作曲家Osvaldo Farresによるナンバーです。英語ではWithout Youというタイトルで演奏される事がありますが、他のジャズプレイヤーが取り上げたヴァージョンとして62年録音のKenny BurrellとColeman Hawkinsの共演盤「Bluesy Burrell」、Wes Montgomery66年録音「California Dreaming」、哀愁を帯びた魅力的なメロディラインはNat King Coleをはじめとして多くのシンガーにも取り上げられています。

アンサンブルをバックに朗々とルパートでメロディを吹き始めるJoe Hen、お馴染みの超個性的な音色ではありますが美しいメロディ奏ではジャンルを問わず常にその真価を発揮します。Antonio Carlos Jobimのボサノバ・ナンバーを取り上げた晩年の傑作「Double Rainbow」や75年作品「Black Miracle」に収録Stevie Wonder作の名曲My Cherie Amor(!)などのメロディアスな曲での印象的なプレイは、聴き手の心を捉えて離しません。71年には、かの伝説的ブラスロック・バンドBlood, Sweat & TearsにオリジナルメンバーFred Lipsiusの後任として数ヶ月間在籍しましたが(レコーディングが残されているなら是非とも聴いてみたいものです!)、この事は彼がジャズだけにとどまらない音楽性を有する証でもあります。

ボレロで演奏されていたテーマが終わる頃には壮大なアンサンブルが被り始め、合間を縫うようにGeorge DukeのFendrer Rhodesによるフィルインが聴かれます。チャチャのリズムでテナーソロ開始、ティンバレスやコンガのパーカッション群が効果的にリズムを刻んでいる上で、間を活かしながらジワジワと盛り上がりフラジオA音でのトリルまで用いて遂に炸裂、それに到るまでのJoe Henフレーズの積み重ね方の巧みさ!なんと雄弁なストーリー展開でしょうか!ホーンのアンサンブルが加わる事によりアドリブの終息感を匂わせ、その後DukeのRhodesによる華麗なソロ、続くOscar Brashearのブリリアントなトランペットソロ、その後はカットアウトされるが如く、再びボレロでラストテーマが演奏されます。それまでの賑やかさが祭の後の静けさのようにしっとりと奏でられ、リタルダンド、フェルマータの後は再びホーンの豊かな響きが曲を彩り、最後はオクターブ上でのテーマ奏、ホーンアンサンブルは大フォルテシモで迎え、テナーのカデンツァにて大団円を迎えます。

2曲目はJoe HenのナンバーLas Palmas、パーカッションを効果的に用いたリズムのパターンが彼らしいユニークなコンポジションです。Joe HenとトランペットのLuis Gascaの2管編成ですがテーマらしきメロディラインは特に演奏されず、ワンコードの上でトランペット〜テナーのソロが行われ、カラフルなDukeのRhodesでのバッキングが効果的です。その後は3者3様同時進行でソロが行われ、次第にリタルダンドし、Fineです。以上がレコードのSide Aになります。

3曲目はMark Levine作の表題曲Canyon Lady、ラテンのリズムとソリッドなホーンセクションによるシャープなサウンドが効果的に用いられた佳曲です。ホーンアンサンブル時に音の厚みを支えるべく、リズムセクションのグルーヴが変わるのが実に効果的です。ソロに入りベーシックなパターンに多少ルーズさが加わり、Joe Henのアプローチに柔軟に対応し始めます。浮遊感溢れるテナーソロはここでも間を活かしつつ、次第にフリークトーン、オーヴァートーンを交えてとんでも無い次元にワープして行きます。終盤戦の丁度良いところでホーンのアンサンブルが入るのは決してオーバーダビングではなく、コンダクターGascaの采配によるものでしょう。それにしてもJoe Henのタイム感の素晴らしいこと!個性が全面的に表出してオリジナリティをこれでもかと聴かせますが、彼は若い頃から学問として音楽、ジャズを徹底的に学んでいます。ジャズは学ぶものではなく経験する事が何より大切ではあると思いますが、Joe Henはアカデミックに学習した事柄をオリジナリティを掲げつつ、ロジカルに表現する事に長けているプレイヤーの筆頭格だと思います。続くDukeのRhodesソロもテナーソロの延長線上にあるべき事が音楽の統一感を生むと、しっかり意識しているかのようで、ドラマティックにストーリーを繰り出しています。ホーンセクションがここでも良きところで加わりラストテーマに繋げています。メロディを吹いてかつセクションと一緒にしっかりアンサンブルを奏でる、そして何より誰にも描けない深遠なイメージを抱きつつ、とんでもないソロを取るリーダーのJoe Hen、物凄い演奏者だと再認識しました。ラストテーマで一度落ち着いてからもJoe Henは再び吠えまくり、ホーンのアンサンブルが全く的確にバックアップしつつFade Out状態です。

4曲目もLevineのオリジナルAll Things Considered、この曲も実に素晴らしいテイストを表現しています。イントロのテナー、トランペットによるアンサンブルのバウンスしたメロディラインが、この後はスイングナンバーになると匂わせて、真正ラテンである証、ピアノのモントゥーノに受け継いでいます。なんと躍動感に満ちたラテンのグルーヴ、思わず腰が浮いてリズムを取りたくなってしまいます!さらにテナーソロのイマジネイティヴな事と言ったら!もちろんタイム感も完璧でこれはリズムセクションの一員同然、Joe Henはもはやリズム楽器奏者にカテゴライズされて然るべきでしょう!ホーンセクションのシャープさ、Levineのバッキング、ベーシストHeardのアプローチも申し分ありません!アンサンブルに続くティンバレスとコンガによるリズムの饗宴、いや狂宴でしょうか(笑)?凄まじいまでのリズムの応酬、タイムのセンターに向けてパーカッション全員が恐るべき集中力でフォーカスしているのです!2クラーベでテーマに戻ると思いきや何だか微妙な事態に?直後に左チャンネルから一瞬悲鳴らしき声も聞かれました?でも無事にラストテーマに突入、ラテンの名演奏がまた誕生しました。

以上が作品収録曲の全てですが、Joe HenのMilestone Label在籍時のレコーディングをコンプリートに収めた「The Milestone Years」には本レコーディングの未発表テイクである自身のナンバー、In the Beginning, There Was Africa…が追加されています。パーカッション隊3人とテナーだけのフリーインプロヴィゼーション、こちらも凄まじいテンションでの演奏ですが、ほかの収録曲とバランスを欠くためにオクラ入りしたのか、単にレコードの収録時間の関係か、でもこの作品を気に入った方には是非とも聴いてもらいたい演奏です。

2019.12.24 Tue

United / Ari Ambrose

今回はテナーサックス奏者Ari Ambroseの2000年録音リーダー作「United」を取り上げてみましょう。トリオ編成で存分に吹きまくっています。

Recorded: December 2000 Recording Engineer: Katsuhiko Naito Produced by Nils Winther Label: Steeplechase

ts)Ari Ambrose b)Jay Anderson ds)Jeff Williams

1)Blue Daniel 2)My Ideal 3)Four and One 4)Once I Loved 5)Mr. Day 6)How Can You Believe 7)Star-crossed Lovers 8)United

日本ではAri Ambroseの名前は殆ど知られていないと思います。まずは簡単なプロフィールから。1974年Washington, DCで生まれ音楽一家で育ちました。その後The Manhattan School of MusicでDick Oatsに師事しそのままNYCで活動を開始、The Village Vanguard Orchestraに参加しRyan Kisor, Brad Mehldau, Wynton Marsalis, Peter Erskineらと共演の機会を持ちます。96年には多くの優れたテナーサックス奏者が共演者として去来し、まさしくテナーサックスをこよなく愛するDonald Fagen, Walter Beckerの二人がリーダーのレジェンド・ロックバンドSteely Danで世界ツアーを行いました。米国在住の米国人ですが欧州Denmarkの名門レーベルSteeplechaseから98年初リーダー作「Introducing Ari Ambrose」をリリース、現在までにコンスタントに13枚(双頭リーダー作を含む)を発表するSteeplechase子飼いのミュージシャンです。今回は彼の5作目に当たるテナートリオでの作品「United」、録音当時26歳にして既に個性的な音色をたたえ、風格ある演奏を繰り広げており、選曲の良さや練られた曲の構成からも作品としてアピールしています。50〜60年代に多く現れた黒人若手テナーサックス奏者の如き野太くコクのあるトーン、テナー奏者たるべき毅然とした立ち振る舞い、真摯なジャズシーンへの向かい方、先達に対する敬意を払った演奏やテイストから、こちらを皆さんに是非ともご紹介したいと思います。

Ambrose24歳の初リーダー作、なかなかの面構えです。

そして共演者です。ベーシストJay Andersonは堅実でスインギーなベースワークから多くのミュージシャンと共演を果たしました。Woody Herman, Carmen McRae, Michael Brecker, Toots Thielemans, Joe Sample, Toshiko Akiyoshi, Frank Zappa, Tom Waits, Dr. Johnなど新旧ジャズミュージシャンに始まりジャンルの垣根を超えた活躍を遂げ、The Manhattan School of Musicで教鞭も執っており、Ambroseとは本作以降も度々共演を保つ間柄になるので、師弟関係にあるのかも知れません。ドラマーJeff Williamsは70年代からLee Konitz, Stan Getz, Dave Liebman, Richie Beirachら本人も含めたユダヤ系ジャズメンとの共演の機会が多く、自身のバンドでも継続的に演奏した知的でタイトな演奏スタイルを信条とするプレーヤーです。

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目トロンボーン奏者Frank Rosolinoのオリジナルでワルツ・ナンバーBlue Daniel、どことなくひょうきんさを感じさせるメロディですがいきなり個性的なテナーの音色が聴かれます。彼の様な音色のプレーヤーは、使用楽器やマウスピースに関係なく自身の音が鳴ってしまうのでしょうが、一応セッティングをご紹介します。マウスピースはOtto Link Early Babbitハードラバー、リガチャーはHarrison(Francois Louisも使用)、楽器本体は60年代中頃のAmerican(多分)Selmer、ラッカーがほとんどはげたアンラッカー状態です。コードレスのシチュエーションでの演奏、Sonny Rollins, John Coltrane, Ben Webster, Wayne Shorter, Joe Hendersonたちジャズジャイアンツの影響を感じさせますが、自分のスタイルに十分昇華させています。Blue Danielは可愛らしさも感じさせるシンプルなコード進行の曲、それ故に緻密な即興演奏を繰り広げるには素材としてむしろ難曲で、ワンパターンに陥りがちなアドリブをAmbrose多彩にかつ自在に吹き上げています。16分音符の繋がりがとてもスムーズなのはタンギングが絶妙で滑舌の良さに起因すると思われますが、真っ黒な音の塊がブリブリと音を立てながらテナーのベルから放出されているかの様、同じくテナー奏者Billy Harperのそれに近いものを感じますが、他にはあまり無い個性として発揮されています。かと言ってむやみに超絶技巧を感じさせるわけではなく、自身の歌を歌うための自然なテクニックの一環として備わっていて、バランスの取れたプレイヤーと言えるのではないでしょうか。共演のJay Anderson、 Jeff Williams共に的確なサポートを務め、Ambroseのソロをバックアップしつつ3者の融合が見事です。テナーソロ後のベースソロも歌心に満ち、テクニカルかつ安定感を提示して、オープニングに相応しい快演を聴かせています。

2曲目はバラードMy Ideal、これは26歳の若者が演奏する内容ではありませんね、百戦錬磨、修羅場をくぐり抜た人生経験豊富な、熟練したテナー奏者の如きテイストのバラード奏です。こちらもRollinsやWebster、Hawkinsのスタイルを感じさせますがそれらを洗練させたものに、自身のジャズテナー美学をふんだんに加味し、饒舌ではありますが歌心を満載させた演奏に仕上がっています。音量のダイナミクス、ニュアンス、アーティキュレーション、ビブラートの処理、グロートーン等の音色の使い分け、フレージングのコードに対する浮遊感、いずれの表現も手だれの者と言えましょう。ベースが弾くビートのポイントが実に的を得ていて、ドラムのブラシワークもカラーリングが巧みです。テナーソロ後、一瞬の間を置いての始まりが粋なベースソロ後にラストテーマ、この曲の名演奏が誕生しました。

3曲目はThelonious MonkのFour and One、一応Four in Oneが正式なタイトルのようです。Monkワールドそのもののオリジナル、Ambroseの個性にも合致していると思います。テーマとソロ1コーラス目は2ビートを交えた序奏として始まり、2コーラス目から本題スイングに突入です。リズム隊は吹きまくるテナーを自由に泳がせるべく、比較的シンプルなアプローチでリズムをキープしていますが、例えば3’13″辺りでのやり取りはこの三者ならではの世界を聴かせます。ベースソロ後のドラムとの8バース、4バースでは両者のやり取り、会話が次第にヒートアップしています。Williamsは端正でオーソドックスなプレイヤー、思慮深さからでしょうか、ドラミングに火が付くのがスロー・スターター傾向にあるように感じます。ライブではスペースがあるので良いのでしょうが、レコーディングでは本領を発揮する前にラストテーマを迎える時がありそうです。個人的にはもう少し変態系のドラマーでかつ一触即発系、例えばPaul MotianやJoey Baronたち、一筋縄ではいかないツワモノとの共演であれば、バースをより深いレベルの演奏にまで掘り下げることが出来たかも知れないと、勝手に想像しています。

4曲目Antonio Carlos Jobim作ボサノバの名曲Once I Loved、テーマ奏はムーディなバラードの如き語り口ですが、ソロは一転してゴリゴリ(ブリブリの方が彼の場合正しいかもしれません〜笑)とAmbroseワールドを構築していて、タイトなリズムでの16分音符の洪水により密度の濃い個性を発揮し、また随所に聴かれる小唄のような節回しには歌心を感じます。テナーソロの最後のフレーズを受け継いでベースソロが始まり、巧みなソロを聴かせます。その後再びテナーソロが始まりますが前半と比較してずっとテンションの高い、バージョンアップしたソロを聴かせ、共演者をインスパイアし、「俺について来い!」とばかりリズミックに巻き込み、よりハイレベルなインタープレイを聴かせています。本作中収録時間最長のナンバーになるのも然もありなん、です。

5曲目はJohn Coltrane作のMr. Day、自身は60年録音「Coltrane Plays the Blues」にて演奏しています。印象的なリズムパターンから始まるアップテンポの変型ブルース・ナンバー、これは一丸となってバーニングです!!テーマ後4コーラスほどリズムパターンをキープしてからスイングへ、Ambroseのソロはテーマのフラグメントを交えつつも変態アプローチ全開状態、その後ドラムと1コーラス12小節のバースが延々と続きますが、ここでのドラミングは早い時点で着火〜燃焼感が素晴らしいです!スポンテニアスにトレーディングを繰り返し、迎えたピーク点5’58″辺りでの凄まじさと言ったら!その後ラストテーマ、イントロと同じくリズムセクションだけになりFineです。

6曲目はHow Can You Believe、Stevie Wonder作曲のナンバーで68年リリース彼のリーダーアルバム「Eivets Rednow」(バンド用語です!)に収録され、オリジナルはメロディをWonderのハーモニカで演奏しています。ジャズではまず取り上げられることのない意外性のある選曲だと思いますが、4曲目Once I Lovedのボサノバと同系統8ビートのリズムでテンポも似通っている、曲順も近いために、テナートリオ編成ではどうしても似通って聴こえてしまいます。演奏自体は確かに4曲目よりも盛り上がってはいますが、より変化が欲しかったとは贅沢なおねだりですね。曲自体のメロディが綺麗なのでコード楽器が鳴っていれば話は別だったとも思います。

7曲目Star-crossed LoversはDuke EllingtonとBilly Strayhornの共作、夢見心地状態の美しいバラード、AmbroseはWebsterライクにムードを設定しています。2曲目同様の豊かなバラード表現は年齢不相応の若年寄り演奏、想像するに彼の父親なり家族なり、近しい存在にムーディなスタイルのテナーサックス好きがいて、子供の頃から度々耳にして影響を受けていたのでしょう、でなければこんな演奏はあり得ません。テーマ後にベースソロ、Ambroseはオブリガードを入れています。その後のテナーソロは同じテナートリオ編成Rollinsの「Way Out West」収録ナンバーSolitude(こちらはEllington単独の作曲ですね)を、曲想が似ているのもありますがイメージしてしまいます。

8曲目ラストはWayne Shorterのナンバーにして表題曲United、オリジナルテイクは61年録音70年リリースArt Blakey and Jazz Messengers「Roots & Herbs」に収録されています。朴訥なメロディのワルツ・ナンバー、オリジナルでは3管編成の分厚いハーモニーが聴かれるので、こちらは随分とシンプルに響きます。本テイクは6/8のグルーブで演奏されベースが先発ソロ、テナーが続きテナーソロでは3者の絡み合いが巧みに表現されています。

2019.12.18 Wed

All the Gin Is Gone / Jimmy Forrest

今回はテナーサックス奏者Jimmy Forrest1959年録音65年リリースのリーダー作「All the Gin Is Gone」を取り上げてみましょう。

Recorded: December 10 & 12, 1959 Released: 1965 Studio: Hall Studios, Chicago Label: Delmark

ts)Jimmy Forrest g)Grant Green p)Harold Mabern b)Gene Ramey ds)Elvin Jones

1)All the Gin Is Gone 2)Laura 3)You Go to My Head 4)Myra 5)Caravan 6)What’s New? 7)Sunkenfoal

自作の名曲Night Trainを51年にレコーディング、52年3月にBillboard R&B chartで1位を記録した事でその名を馳せたForrestです。他にも数曲チャートを賑わせるヒットを出しました。Night Trainはその後Louis Prima, Oscar Peterson, James Brown, Count Basieら大物ミュージシャンによってもカヴァーされています。Forrestは20年St. Louisで生まれ、40年代はJay McShann, Andy Kirk, 50年代初頭にDuke Ellington, 70年代に入りCount Basieの楽団に在籍し、自己のバンドや Harry “Sweets” Edison, Al Greyのスモール・コンボでも活躍しました。ジャズフィールドでの活動がメインでしたが、演奏家としてはストレート・アヘッドと言うよりも、いわゆるホンカーとしてのテイストが育まれたと思います。他の作品もホンカーが全面に出たものが中心で、60年録音オルガン奏者Larry Youngを迎えた「Forrest Fire」、61年若きJoe Zawinullが参加した「 Out of the Forrest」等のリーダー作があります。遡り52年Miles Davisとの共演を果たした「Miles Davis / Jimmy Forrest Live at Barrell」ではホンカー寄りのビ・バップスタイルでMilesと丁々発止のやり取りを展開しており、Milesとはスタイル的に興味深い対比を示しています。

60年9月録音Forrestの他Oliver Nelson, King Curtis(!)のテナー3管による作品「Soul Battle」、こちらではNelsonの知的で端正なアレンジに加え名手Roy Haynesが3者の良き仲介役となり、テナー衆は互いをリスペクトしつつ、バランスの取れた小気味良い、しかし白熱したバトルを堪能する事が出来ます。

彼自身の活動期間としては40年代全般からその後51〜2年(Night Trainの当たり年)、60年代初頭、70年代中頃から80年に没するまでと断続的で小刻みになりますが、家庭の問題、健康面、様々な事情があったからでしょうか。ひょっとしたら大ヒットを出して経済的に豊かになり、ハングリーさを欠いたためにシーンからリジェクトされた可能性もあるかも知れません。豪快で華々しいブロウには多くの聴衆にアピールする魅力があったので、継続的な音楽活動が行われていればホンカー・テナーを代表する一人に君臨していたと思います。

本作はElvin Jones, Grant Green, Harold Mabernら当時の若手、今となっては各楽器のレジェンドを擁し、Forrestのスインガー振りを発揮させることに成功しています。ディスコグラフィーを紐解くとNight Train以来のリーダー・レコーディングと言う事になり、実質の初リーダー作に該当します。ForrestはNight Trainに乗って(笑)ホンカーとしてシーンに登場した感があり、本作はストレート・アヘッドな作品に仕上がったために市場での需要を考慮して発表を差し控え、ほとぼりが冷めた65年にリリースされたのでは、と考えています。ForrestとSt. Louis同郷のGreenにとっては初レコーディングに該当します。LPレコードでリリースされたオリジナルのジャケットにはジャズっぽいテイストのイラストで二人が描かれており、当時の新進気鋭のギタリストとしてフィーチャーされていたのでしょう。

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目表題曲All the Gin Is Gone、Forrest作のアップテンポ・ナンバーです。ピアノとドラムのイントロからForrestによるシンコペーションのメロディがリズミックで印象的なテーマ奏、いきなり素晴らしい音色の登場です!ホンカーの必須条件として豪快なテナーのトーンを有する事が挙げられると思いますが、まさしく太くて味わいのある魅惑的な音色です!使用楽器はSelmer Super Balanced Action、マウスピースはOtto Link Metal、恐らくDouble Ring Modelと思われます。そしてスインギーなレガートでビートを刻むのはElvin Jones、本作録音59年12月はJohn Coltraneのバンドに参加したての頃になります。彼から音楽についてを学び始めたばかりでElvinの強力な個性は未だ発揮されてはいませんが、グルーヴ、フィルインにはその明確な萌芽を聴き取ることができます。Forrestのソロですがこれはどこから聴いても正統派ジャズマンのアプローチで、ホンカーの匂いは払拭されています。強いて述べるならばソロの短さ、もう少し長いストーリーを提示して欲しかった事と、タイム感がon topでリズムがラッシュしている点ですが、スピード感に満ちた演奏とも言えなくもありません。このノリから察するに、彼は普段このテンポの4ビートを演奏する機会をそうは持たなかったでしょう。続くGreenのソロは後年のスタイルをしっかり感じさせる、シングル・ノートでのスインガー振りを提示しています。Mabernのピアノソロもグルーヴィーです。ForrestとElvinの4バースに続きますが、一層拍車がかかったリズムのラッシュにElvinは確実に対応しキープしているのに対し、ベースのRameyはかなり様子を伺いつつ演奏しているように見受けられます。もっともElvinとのドラムバースにベーシストは誰もが苦慮していますが。

2曲目はスタンダード・ナンバーLaura、Charlie Parkerの名演が有名なバラードですがここではミディアム・スイングで演奏されています。イントロに続くサブトーンを効かせたメロディ奏、グッと来ますね、素晴らしい!優雅な雰囲気の曲での益荒雄振り、大きく長いストーリーを唄うかの如き表現です。後半に行くに従いtoo muchな表現もありますが、そこはホンカーゆえと解釈しましょう。コードに対するアプローチは実に巧みで、普段からインプロヴィゼーションの研究を怠らないプレーヤーなのでしょう、前述のMilesとの共演盤の演奏でも同様の認識を持っています。続くGreenのソロはまるでもう一人管楽器奏者がいるが如きホーンライクなアドリブを聴かせます。コードを一切弾かないギタリストですから当然なのですが、明らかに管楽器のそれを意識しています。彼らをサポートするElvinのドラミングは3連符を多用した実にアクティヴなものです。ピアノソロで瞬時にブラシに持ち替えますが、ブラシ・ワークがまた的確で既に名人芸の域にあり、そのままラストテーマを迎えます。

3曲目はオリジナルLPに未収録のテイクYou Go to My Head、こちらはバラードで演奏されますがForrestのサブトーン全開です!Low C音の凄みと言ったら!この人は楽器を大変巧みに操り、表現の幅もそれは豊かですが、テナーを吹いているとひたすら熱くなり、そのまま一本調子になる傾向があります。だからホンカーなのだろう?違うか?と言われそうですが(笑)、出すところと抑えるところのメリハリが確実にあるのがジャズプレーヤーなのだと、実はここで再認識させられました。その後のピアノソロでMabern美しいタッチを聴かせます。ラストテーマではForrest、より深いビブラートを聴かせてくれます。

4曲目Forrestのオリジナルでブルース・ナンバーのMyra、裏拍のアクセントを多用しグロー・トーンでテーマを演奏すれば、これはもはやジャンプ・ナンバーです!Forrestも隠し持っていたホンカー魂を全面に掲げブロウ、続くGreenのソロは淡々とフレーズを爪弾き、我が道を行くが如きです。Mabernのソロは曲調に合致したテイストを表現すべく奮闘しています。その後ForrestとElvinの4バースが再び、こちらはテンポの関係か1曲目よりもスムーズにやり取りが行われています。ここで聴かれるドラムのフレーズは後年よりもずっとオーソドックスで、かなりアプローチが異なったものになります。Elvinもわずか数年で演奏が大きく変貌を遂げ成長した事を実感しました。

5曲目はForrest自身も在籍していたDuke Ellington楽団の重要なレパートリーCaravan、Elvinのマレットによるタム回しからイントロが始まります。C7でギターが中音域の何やらコンディミ系のシンコペーション・パターンを演奏、怪しげな雰囲気を醸し出しています。テーマ部分での微妙にメンバーのグルーヴが合わない感じが、むしろ曲想に通じる猥雑さを表現しています。アドリブに入りスイングに一変しますがElvinはブラシを用いてずっとキープしています。テナー、ギター、ピアノとソロは続きますが早いテンポにも関わらずのブラシワーク、実に巧みで音楽的なサポートです!更にそのままドラムソロに突入、ソロの最後には再びマレットに持ち替えラストテーマになりますが結局一切スティックは使いませんでした。ここでのForrestのソロはジャズスピリットに満ちたアプローチで、ホンカーの専門家ではこうは行かないだろうと感じました。

6曲目はスタンダード・ナンバーWhat’s New、この曲は当時のジャズシーンで流行っていた様に認識しています。バラードですがあえてForrestは上の音域を用いてしかも張りに張ったフルトーン、ビブラートも満載状態で演奏しています!こんなに猛々しく演奏する曲想と解釈して良いのでしょうか?良いのでしょう、だってホンカーですから(笑)。1コーラス半だけのテイクですがフリジアンのような、アラビア音階も感じさせるラインからテーマが始まります。サビではフラジオ音のGまで使ってシャウトしています。他のバラードが低音域を駆使した演奏なので、むしろバランスが取れている様にも感じました。

7曲目ラストを飾るのはForrestのオリジナルブルースSunkenfoal、テーマでのギターとのアンサンブル、Elvinのフィルイン共にカッコ良いです。先発Forrestのソロは巧みなラインを繰り出しますがグロートーンも交え、ホンカーの語り口でジャズの演奏を行っています。ギター、短くピアノ、珍しくベースとソロが続きますが、グイグイ演奏を引っ張っているのがやはりElvin、そのままフロント3人でドラムとバースを行います。前曲でForrestフラジオG音を使ったその流れか、同音の多用が目立ち、またリーダーのon topによるプレイで収録曲の何曲かは初めのテンポに比べてラストでは早くなっていますが、本テイクではむしろ遅くなる傾向にありました。

最後に同じDelmarkレーベルから72年「Black Forrest」が、本作の別テイクと5曲の未発表曲を収録した作品としてもリリースされています。

2019.12.11 Wed

Trident / McCoy Tyner

今回はMcCoy Tynerの1975年録音リーダー作「Trident」を取り上げて見ましょう。

Recorded: February 18-19, 1975 Fantasy Studios, Berkley Producer: Orrin Keepnews Label: Milestone MSP9063

p, harpsichord(on1, 4), celeste(on2, 4)McCoy Tyner b)Ron Carter ds)Elvin Jones

1)Celestial Chant 2)Once I Loved 3)Elvin (Sir) Jones 4)Land of the Lonely 5)Impressions 6)Ruby, My Dear

多作家のMcCoy60年代はBlue Noteから、そして70年代に入りMilestone Labelから続々とリーダー作をリリースしました。レーベル契約初年度の72年には何と3作も発表しています。その後も年間2作のペースでのレコーディング〜リリースをキープしていました。本作は75年録音ですが前74年は「Sama Layuca」と「Atlantis」をレコーディング、そして翌76年には「Fly with the Wind」をリリース、傑作アルバムを続出していました。飛ぶ鳥を落とす勢いとはこの事を言うのでしょう。

この3作はいずれも比較的大きな編成で演奏されています。「Sama Layuca」はNonet、「Atlantis」はQuintet、「Fly with the Wind」に至っては10人以上の編成のストリングス・セクションや木管楽器が参加した、総勢18名から成るラージ・アンサンブルによるものです。原点に帰ってと言う事でしょう、間に挟まる本作はピアノトリオによる演奏なので自ずとMcCoyのピアノ・プレイにスポットライトが当てられる形になりますが、Elvin Jones, Ron Carterの演奏もたっぷりとフィーチャーされ、文字通りのTrident(三叉)演奏となっています。

本作録音頃のElvinも72年傑作「Elvin Jones Live at the Lighthouse」を皮切りに75年「On the Mountain」「New Agenda」と言った意欲作をリリース、自身のドラミングもJohn Coltraneとの共演で培われたスタイルを邁進させ、音楽の神羅万象を表現するかの如き深淵なグルーヴ、スイング感、他にはあり得ない独自の魅力的なドラムの音色を含め、これらが神がかった次元にまで到達し、更なるディテールの充実化によりダイナミックでありながら繊細さを併せ持つ、雷鳴が轟くようなフォルテシモから耳元で小鳥が囁くかのようなピアニシモまで、実はジャズ史上誰も成し得なかった音楽表現で最も重要な音量コントロールの完璧さを身に付け、真に音楽的なドラマーとして君臨、脂の乗っていた時期に該当します。

Ron Carterは60年代Miles Davis Quintetで研鑽を重ね、次第に数多くのセッションに参加するようになります。70年代中頃からCTI Labelと契約し自己のリーダー作をリリースするようになりました。都会的でオシャレなサウンドを提供する事を信条とするCTIのプロデューサーCreed Taylorは、彼のプレイのメロディアスな部分を表出させるべく73年「All Blues」75年「Spanish Blue」を制作、彼の魅力を発揮させる事に成功しました。

それでは演奏について触れて行きましょう。1曲目McCoyのオリジナルCelestial Chant、こちらは「天界の曲」とでも訳したら良いのでしょうか、ハープシコードでイントロが演奏されますが、この楽器の持つ音色からか、いきなり厳かで崇高な雰囲気が漂います。McCoyがハープシコードを弾いた録音は恐らくこちらが初めてになり、因みに後年シンセサイザーを演奏した作品もありますが、70年台以降多くのピアニストが弾いたFender Rhodesを演奏した例は僕の知る限りありません。テーマが始まるやいなやElvinがバスドラムを駆使したマレットでの3連符のリズムを繰り出しますが、何という重厚で素晴らしいリズムでしょうか!どこか中国の音楽を感じさせるシンプルなメロディ、McCoyが左手での対旋律を弾かずに、サウンドが薄くなった途端にElvinが楽曲のカラーリングをすべく4拍目を中心にした弱拍に、タムで強烈なアクセントを叩き始めますが、アドリブ中にこのアクセントが再度出る事は無く、このやり取りにも音楽的に深いものを感じます。その後McCoyが演奏を止めベースがメロディを引き続き演奏し、再登場の際にはメロディ奏をピアノで行いますが流石の強力なピアノタッチ、メチャメチャごっついです!ベースは延々とメロディ=ベースパターンを奏で、McCoyはペンタトニック系の4度の超速弾きフレーズを繰り出しつつソロが展開します。時折テーマのメロディを演奏する時にElvinはバスドラムでシンコペーションをユニゾンしています。決して出しゃばらずに、しかし出すところは出すスタンスで的確にサポート、全体を俯瞰しながら音楽を作っていくアーティスティックな姿勢をElvinの演奏から再認識しました。Ronのベースソロにも普段の彼以上のクリエイティブさを感じつつラストテーマへ、ベースソロ後のメロディ奏に再びElvinが4拍目にアクセントを挿入、ラストテーマにもハープシコードが用いられ、次第に収束に向かいます。シンプルなメロディ、ワンコードのテーマとアドリブ構造から成る楽曲の最小限のパーツを手を替え品を替え、巧みに再構築し、最大限に効果を生み出している、Tridentならではの演奏だと思います。ハープシコードの音色が暗めに響いているのは、ピアノよりも若干チューニングが低い事に由来しているのでしょう。

2曲目はAntonio Carlos Jobimが書いた名曲Once I Loved、ボサノバのリズムでしっとりと演奏される機会の多い、美しいメロディを有したナンバーですが、ここではとんでも無い事になっています!冒頭ベースとドラムのリズム・パターンの上でMcCoyはチェレスタを弾いていますが、こちらも初使用だと思われます。この楽器のお披露目的なソロの後、少し間を置きベースのフィルイン、そしてピアノによるテーマが始まります。それにしてもElvinが繰り出すボサノバのリズムの躍動感の素晴らしさ!身がぎゅっと詰まった音符がプリプリと粒立ち、はち切れんばかりのビートを繰り出しています。そして続くMcCoyのソロ!ピアノのSheets of Soundとも表現できるでしょう、拍に対して特に譜割りを意識せず音符を徹底的に詰め込む、50年代Coltrane的なアプローチと言えるかも知れません。コード進行は原曲そのままですがモーダルな解釈を行い4thインターバルの和音、ラインを駆使してまるで異なった曲に仕立てていますが、あまりの変貌、猛烈ぶりに作曲者Jobimが怒り出しそうと、要らぬ心配をしてしまいます(笑)。当然物凄いテクニックが必要になりますが難なく演奏しており、それよりもハープシコードやチェレスタはピアノよりも弱音楽器、楽器自体の構造もずっと華奢なはずです。McCoyの打楽器奏者的強力なタッチで鍵盤や楽器本体が壊れてしまうのではないかと、こちらも要らぬ心配をしてしまいます(爆)。全体的にピアノソロのアグレッシブさに比べてドラム、ベースのアプローチはピアノソロを引き立てるべく比較的シンプルですが、例えば2’12″辺りからのバンプではElvinのマーベラスで難易度の超高いフィルインが聴かれ、これにRonがぴったりと着けています。後にも出てくるバンプでは更に野獣化しています!ピアノソロ最終コーラスに至っては左右の手で全く異なるラインの応酬!物凄いテンションです!ラストテーマ後にチェレスタが再登場しますが、まだ鍵盤は壊れてはいなかったようで(笑)、クロージングに相応しく、総じて歴史的名演の誕生です(祝)

3曲目McCoyのオリジナルElvin (Sir) Jones 、Coltrane Quartetからの盟友Elvinその人に捧げられたナンバー、Sirの称号を付与したくなるのも当然な演奏家です!Elvin得意のラテン系のリズムから始まり、アドリブに入り直ぐにスイング・ビートに変わります。ピアノのソロではありますが、ツワモノたちの三つ巴による音の洪水、Heavy Sounds、McCoy絶好調です!煽るElvin、Ronのサポートがあってこそですが、まるで重装備の装甲車が軽やかなステップを踏んでいるかの如く、あり得ない状態です!ピアノソロがピークを迎えそのままドラムソロに突入、ベースは急には停まれないとばかりに未だ弾いています!そしてElvinのソロ、どこを切っても金太郎飴状態、彼のいつものフレーズそのものですが、どうしてこんなにフレッシュに、クリエイティブに耳に響き、感銘を受けるのでしょう!その後ラストテーマを迎え、装甲車に更なる音の重装備を施し大団円です!ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目Land of the Lonely、ここではイントロでチェレスタとハープシコードを同時演奏し、異なったテイストを加味しています。ドラムとベースによるワルツのイントロが始まりますが、Elvinのドラミングはここでも説得力に満ちており、リズムを刻んでいるだけでワクワクしてしまいます!その後ピアノを用いたテーマが始まりますが、McCoyはピアニスト、即興演奏家としてはもちろん、作曲の才能にもずば抜けたものを持っており、この曲も哀愁のメロディに優しさと癒しを見出すことができる佳曲です。三位一体の演奏ですが、Coltraneもよくワルツを演奏していて、サウンド、グルーブからここにColtraneのサックスが聴こえてきてもおかしくない、三位一体プラス・ワンとイメージしてしまいました。アウトロにもチェレスタとハープシコードを用いて締めくくっています。

5曲目はColtraneのImpressions、前曲でColtrane Quartetを感じさせてからの流れがとても自然です。いや〜当たり前ですが物凄い演奏です!彼らにとって演奏し慣れたレパートリー(McCoyとElvinは Coltrane Quartetで、RonはMiles Quintetにてコード進行が同じSo Whatで)、余裕と風格が漂い、こちらは3人による横綱相撲の様相を呈しています。特にドラムとベースのコンビネーションが申し分ありません!ピアノソロ後はドラムソロになるのかと思いきや、ベースをフィーチャー、Ronは良く伸びる音色でリズム・モジュレーションを多用したソロを聴かせています。エンディングは比較的あっさり目(彼らにとっては、ですが)に終えています。

6曲目Thelonious Monk作の名曲Ruby, My Dear、これまで演奏してきた曲の延長線上にあるので、しっとりとした、いわゆるバラードとは一線を画します。McCoyの力強いタッチでElvinのブラシワーク、バスドラムも時折ハードに叩いていますが必然さが先立ち、ラウドさは全く感じさせません、と言うかElvinのブラシはスティック以上にダイナミクスの振れ幅が大きいと感じます。ここでも、いつもよりも饒舌なベースのソロを挟みラストテーマを迎えます。ジャズ史上に残るピアノトリオの傑作、このエピローグに相応しいテイクに仕上がりました。

2019.12.01 Sun

Pop Pop / Rickie Lee Jones

今回はシンガーソングライターRickie Lee Jonesの1991年リリース作品「Pop Pop」を取り上げてみましょう。

Recorded: Toping Skyline Studio 1989 Produced by Rickie Lee Jones and David Was Label: Geffin

vo, ac-g)Rickie Lee Jones ac-g)Robben Ford ac-b)Charlie Haden, John Leftwich bongo, shakers)Walfredo Reyes, Jr. cl, ts)Bob Sheppard ts)Joe Henderson bandoneon)Dino Saluzzi vib)Charlie Shoemake violin)Steven Kindler ac-g)Michael O’Neil hurdy-gurdy)Michael Greiner backing vocals)April Gay, Arnold McCuller, David Was, Donny Gerrard, Terry Bradford

1)My One and Only Love 2)Spring Can Really Hang You Up the Most 3)Hi-Lili, Hi-Lo 4)Up from the Skies 5)The Second Time Around 6)Dat Dere 7)I’ll Be Seeing You 8)Bye Bye Blackbird 9)The Ballad of the Sad Young Men 10)I Won’t Grow Up 11)Love Junkyard 12)Comin’ Back to Me

Rickie Leeは70年代後半から活躍する米国のロック、ポップスシンガーです。独自のセンス、音楽観を持った芸風には僕自身ずっと好感を持っています。この作品はスタンダード・ナンバーを中心に取り上げたジャジーなテイストを感じさせる、Rickie Leeにとって初めてアルバムになります。彼女に限らず昔からジャズ以外のフィールドのシンガーがジャズ・アルバム制作を行う事は少なくありませんが、多くの場合枠組みだけはジャズボーカルとしての範疇にあるけれど、中身が異なった風で何かが違う、歌唱力はあるけれど訴えかけるものやセンスに違和感や物足りなさを覚え、鯔のつまりジャズボーカルのハードルの高さを再認識させられる結果となりました。きっとロック、ポップス・シンガーはジャズへの憧れがあるものなのでしょう。この作品は参加してるジャズ・ミュージシャンの素晴らしさや選曲にバックアップされて、ロックシンガーとしては異例とも言えるジャズアルバムに仕上がっていると感じますが、Rickie Leeのコケティッシュでレイジーな歌唱スタイル、鼻が詰まったようなこもった成分が聴かれる声質(こんな声で歌うボーカリストは他には存在しません)、そしてほのかに感じさせる彼女の持つジャズシンガーの素養が合わさった結果、不思議なバランス感を持ったジャズ作品として成り立っています。89年リリースDr. Johnの作品「In a Sentimental Mood」収録のMakin’ Whoopee!にRickie Leeがゲスト参加し、Dr. Johnのアクの強い、やさぐれた歌声と彼女のカマトトチック(笑)なボーカルが絡み合い、互いにインスパイアし、そこにRalph Burnsのゴージャスなビッグバンド・アレンジがスパイスとして加味された素晴らしいテイクに仕上がっていますが、同年のグラミー賞最優秀ジャズ・ボーカル・パフォーマンス賞に輝きました。ここでの成功が本作制作へと繋がっているように思います。

遡ってRickie Lee83年の作品「Girl at Her Volcano」(邦題マイ・ファニー・ヴァレンタイン)でもLush Life, My Funny Valentine(いずれもライブ・レコーディング音源)と言ったスタンダードを取り上げていますが、本作で聴かれる歌唱スタイルの萌芽を十分に感じ取ることが出来ます。

本作参加メンバーで重要な役割を担っているのがRobben Ford、殆どの収録曲で全てアコースティック・ギターを演奏し、本来はフュージョンやスタジオ系のギタリストなのですが、スタンダード・ナンバーのバッキング、ソロでジャジーなテイストを存分に発揮しています。そして全曲ではありませんがCharlie Hadenのアコースティックベースのサポートが作品の品位を高め、Joe Hendersonのテナーサックスがジャジーな色合いをより濃厚なものにしています。ドラムレスという編成もアコースティック楽器の音色を際立たせる上で良い采配であったと思います。本作プロデューサーのDavid WasによればMiles Davisの起用も検討されたそうですが、ギャラの高額さから断念され(残念!でも一体幾ら吹っ掛けられたのでしょうか?)、Freddie Hubbardにも参加をオファーしたそうですが実現は叶いませんでした。

それでは本作収録曲について触れて行きましょう。ジャケットデザインも彼女らしい可愛らしさとコーニーな雰囲気がよく出ています。1曲目数多くのジャズミュージシャン、シンガーによる名演奏が目白押し、定番中の定番ジャズバラードMy One and Only Love、Rickie Leeはそんな数多の名演奏を全く関知しないかのようなマイペースさで歌い上げています。名演を気に掛けていたら自分の歌唱は一切出来なくなりますし。Fordのアルペジオによるイントロ、曲中のバッキング、ソロで彼への評価を全く新たにしてしまうほどに美しいサウンドを聴かせます。Hadenの地を這うようなボトム感満載のベース、Dino Saluzziのバンドネオンでのカラーリングの巧みさ、異なるフィールドのミュージシャンが集い、静かな異種格闘技とも言えるインタープレイを楽しみましょう。

2曲目もバラード・ナンバーSpring Can Really Hang You Up the Most、個人的に大好きなナンバーで、本作購入のきっかけとなりました。Rickie Leeがこの曲をどう歌うのか、興味津々で作品に臨みましたが想像以上に一つ一つのセンテンスを丁寧に、情感たっぷりに、強弱を強調しつつ様々にイントネーションを効かせ、気持ちのこもった深い歌唱を聴かせています。1コーラス丸々歌いっきり、FordとHadenの素晴らしいサポートがあってこそですが素晴らしいテイクに仕上がりました。

3曲目はOn Green Dolphin StreetやInvitationの作曲者として名高いBronislaw Kaper52年作のナンバーHi-Lili, Hi-Lo、1曲目と同じメンバーによる演奏です。アコースティックギターのイントロから始まり、録音自体も実に臨場感溢れています。バンドネオンのDino Saluzziのサウンドが心地良いです。彼はアルゼンチン出身でAstor Piazzollaの影響を受けたプレイヤーですが、独自のスタイルを築きジャズマンとの交流も深く、かのECMレーベルから13枚もリーダー作をリリースしています。同じアルゼンチン出身のGato Barbieriの73年作品「Chapter One: Latin America」に参加し脚光を浴びました。

4曲目はロックミュージシャンのオリジナルからJimi Hendrix 67年のUp from the Skies、ベーシストがJohn Leftwichに替わり、Fordの他にMichael O’Neillのアコースティックギターも加わり、スインギーなグルーヴを聴かせます。Gil Evansの74年作品「The Gil Evans Orchestra Plays the Music of Jimi Hendrix」でも取り上げられています。

5曲目はSammy Cahn, Jimmy Van Heusen黄金の作詞作曲コンビによるSecond Time Around、60年の映画「High Time」の挿入曲です。Ford, LeftwichにSteve Kindlerのバイオリンが加わった、意外と多くのジャズメンに取り上げられている隠れた名曲です。アコースティックギター・ソロのバッキングで聴かれるバイオリンの美しいカウンター・ライン、ソロ、KindlerはOregon州出身、The Mahavishunu Orchestra, Jan Hammer, Jeff Beck, Kitaro達との共演歴を持つバイオリンの名手です。彼らをバックに彼女はキュートに、感情移入が素晴らしい歌唱を聴かせています。

6曲目はBobby Timmons作の名曲Dat Dere、歌詞はシンガー・ソングライターのOscar Brown, Jr.によるものです。作曲者自身の60年初リーダー作「This Here Is Bobby Timmons」に収録、加えて当時参加していたArt Blakey and the Jazz Messengersの「The Big Beat」でも同年録音されています。

ここではFord, Leftwichに加えJoe Hendersonのテナーサックス、Walfredo Reyesのスネアドラムとボンゴ、プロデューサーWasのバックグラウンド・ボーカルが参加します。本作ハイライトの1曲、Rickie Leeの持ち味や声質と楽曲、メンバーとの巧みなコラボレーション、プロデュース力で名演が生まれました。冒頭部から曲中、エンディングまで赤ん坊の楽しげな声がオーバーダビングされていますが(これがまた実に効果的に使われています)、それもその筈タイトルのdatはthat、dereはthere、どちらも舌足らずな子供たちが使う赤ちゃん言葉、この曲の歌詞はママを質問攻めにして困らせている女の子が主人公なのです。そんな彼女も大人になり恋をして結婚し、子供が出来て母親になります。因果は巡り今度は自分の娘から質問攻めに合う立場になり、ゾウが好きな子の子供もゾウさんが好き、という内容です。ボーカリーズの初演Oscar Brown, Jr.の際の歌詞はdaddyと呼びかける男の子のヴァージョンでした。この曲の初演が収録されている「This Here Is Bobby Timmons」の1曲目、This Here → That There(Dat Dere)と対を成している訳ですね。余談ですが、かつて僕が参加していたドラマー日野元彦(トコ)さんのバンドSailing Stoneで、トコさんのオリジナルIt’s Thereという曲を事ある毎に演奏しましたが、本人曰く「この曲はTimmonsのThis Hereに肖って名前を付けたんだよ」との事でした。「The Big Beat」収録のヴァージョンではLee Morganがトランペットを演奏し、素晴らしい演奏を聴かせていましたがあいにくの故人、プロデューサーはJazz Messengers繋がりでFreddie Hubbardにこの曲を演奏させたかったためにオファーしたのかも知れません。何より本作の制作企画が持ち上がった時点で、真っ先にこの曲を取り上げようと目論んだような気がしてならないのですが、それほどにRickie Leeの魅力と個性、楽曲が見事に合致しています。

7曲目はSammy FainとIrving KahalコンビによるI’ll Be Seeing You、Ford, Leftwichのアルコ・ベース、Bob Sheppardのクラリネットというメンバーで室内楽的にコンパクトに纏められた演奏が聴かれます。

8曲目お馴染みのスタンダード・ナンバーBye Bye Blackbird、Miles Davisオハコの曲に彼自身が参加したらさぞかしの評判とクオリティの演奏になったかも知れませんが、ここではJoe Henが参加、むしろ適材適所な人選、演奏だと思います。ベースにLeftwich, Reyesはブラシに徹して伴奏、Fordは参加せずコードレスの演奏です。Joe Henが全編に渡り素晴らしいオブリガートを聴かせ、そのラインからコード進行も十分に感じられ、そしてブッ飛んだ間奏(歌番でこんなのアリですか?彼を起用するならアリですね!)を聴かせています。Rickie Leeこのテイクでは歌詞の内容を噛みしめつつ、歌うというよりも話しかける、更には叫んでいる風を感じます。

9曲目はThe Ballad of the Sad Young Men、2曲目Spring Can Really 〜と同じ作曲Tommy Wolfと作詞Fran Landesmanのコンビによるナンバーです。Ford, Haden, Saluzziが伴奏を務め、Rickie Leeが切々と若さ故の哀愁を歌います。Keith Jarrettも89年録音リーダー作品「Tribute」で演奏していますが、ここではAnita O’Dayにトリビュート、Gary Peacockのソロをフィーチャーし、Jack DeJohnetteと共に耽美的にリリカルに (むしろ凡庸な表現しか思いつかない程に素晴らしいのです!)演奏しています。

10曲目はまさしくRickie Leeにピッタリのナンバー、I Won’t Grow Up、お馴染みPeter Panからのセレクションです。歌詞の内容と彼女の持ち味が完璧にフィットしています。Ford, Hadenの他に男性ボーカルが2人バックグランド・コーラスで参加しており、Rickie Lee自身によるコーラス・アンサンブルのアレンジが施されていて、低音のボーカル・ハーモニーと彼女の声が対比となり、doo-wopのテイストも感じさせます。Fordのソロに被って口笛が聴こえますがRickie Leeによるものでしょう、歌唱同様にどこか危なげな音の発生、音程感から彼女らしさを感じますから。

11曲目Love Junkyardは本作中最も大きな編成での演奏、Ford, Leftwichの他Reyesのボンゴ、シェイカー、ビブラフォンにCharley Shoemake、O’Neillのアコースティックギター、Bob Sheppardのテナーサックス、Wasのボトル、ジャンク、そしてバックグランド・ボーカルというメンバーで、ボンゴとテナーのデュエットから始まります。演奏内容はこれまでの彼女の音楽活動で練り上げられたオリジナルなサウンドの延長線上が聴かれます。Sheppardのテナーにはオーバーダビングが施され、ハーモニーが鳴っていますが、Rickie Leeのアレンジによるものです。

12曲目Comin’ Back to Meは米国ロックバンドJefferson Airplaneの創設メンバーであるMarty Balin作のナンバーで、彼らの第2作目になる「Surrealistic Pillow」に収録されています。Leftwichのベース、Michael Greinerのhurdy gurdy(機械仕掛けのバイオリン)とglass harmonica(複式擦奏容器式体鳴楽器〜これは?)、Rickie Lee自身のアコースティック・ギターという編成で、フォーク・ミュージックのコンセプトで演奏されます。囁くような歌唱は本作中異彩を放っていますが、こちらも従来のRickie Leeのスタイルの延長線上にあります。後半で聴かれるシャウトでの気持ちの入り方に、彼女のロックシンガーとしての真骨頂を感じることが出来ました。

2019.11.14 Thu

Rip, Rig, and Panic / Roland Kirk

今回はRoland Kirkの代表作「Rip, Rig, and Panic」を取り上げてみましょう。

Recorded: January 13, 1965 Studio: Van Gelder Studio Englewood Cliffs, New Jersey Label: Limelight

ts, strich, manzello, fl, siren, oboe, castanets)Roland Kirk p)Jaki Byard b)Richard Davis ds)Elvin Jones

1)No Tonic Pres 2)Once in a While 3)From Bechet, Byas, and Fats 4)Mystical Dream 5)Rip, Rig, and Panic 6)Black Diamond 7)Slippery, Hippery, Flippery

Roland Kirkの作品は個性的かつ名作揃いですが、本作はサイドメンの素晴らしさからも取り分け重要な1枚と考えています。当blogで以前取り上げた「Out of the Afternoon」は、Roy Haynesの音楽的なドラミングがKirkの演奏をしっかりとサポートしていました。
Haynes自身のリーダー作ですが強力な個性を発揮するKirkとの共演ではどちらが主人公の作品なのかが曖昧になってしまいましたが。本作ではリーダーのKirkがまんま自己主張をすれば良いに違い無いのですが、存在感のあるKirk色だけ単色の表出になる可能性があります。そういった意味ではピアノJaki Byard、ベースRichard Davis、ドラムスElvin Jones3人は各々Kirkに対抗しうる十分な個性、音楽性を持ち、更にこのメンバーが揃った事により文殊の知恵的効果を発揮し、異なった色合いを添え、かつ触媒となりKirkの演奏を一層色濃く引き出させるのです。Kirkを軸とし、共演メンバーとの演奏がどのように展開しているのかを、曲毎に分析して行きましょう。

1曲目KirkのオリジナルNo Tonic Pres、速いテンポのブルースナンバー、曲のテーマが実に複雑で難解な超絶系のラインです!自分でも覚えがあるのですが、張り切って曲を書いたにも関わらず、度が過ぎて自分のテクニックで再現可能な領域を超えたテーマに仕上がってしまい、手を焼き冷や汗をかく場合があるのです(爆)。Kirkもここではテクニックを駆使していますが、ギリギリの状態でテーマのメロディを演奏しているように聴こえるので(音符やリズムにいつもの余裕がありません!)、親近感を感じます(笑)。ピアノが4度のハーモニーでメロディをサポートしており、サウンドに厚みが生じています。何処となくMcCoy Tynerのオリジナルで67年録音「The Real McCoy」収録のPassion Danceを髣髴とさせますが、こちらも4thインターヴァルのライン、ハーモニーの使用、ほぼ同じテンポ設定、録音エンジニアが同じRudy Van Gelder、そして何よりドラマーが共にElvinなので、リズムグルーヴから類似性を感じさせるのかも知れません。

タイトルNo Tonic PresのPresとはLester Youngの事、この作品は他にも偉大なる先達に曲が捧げられていますが、まずはその手始めです。多くのサックス奏者がYoungからの影響を明言していますが、それが演奏に具体的に表れている場合もあり、音楽的姿勢や精神面での影響として内在し、特に演奏では目立たないミュージシャンもいます。また黒人テナーサックス奏者である以上Presを始めとして他にColeman Hawkins, Ben Webster, そしてSonny Rollins, John Coltraneの影響を回避する事は不可能でしょう。優れた感性を持ち探究心、向上意欲の塊り、そして他者とは異なるオリジナリティの創造に対して、貪欲さを持ち続けるためには温故知新が欠かせません。

Lester Young

イントロはElvinとDavis二人による、彼らにしか彼らにしか成し得ないグルーヴの世界、テーマに入る時のElvinのフィルインを聴いただけでワクワクしてしまいます!2コーラスのテーマ奏メロディ最後の音、テナーの最低音B♭をそのまま吹き続けKirkのソロが始まります。ソロ中コンディミ系のラインが多用されますがYoung風のライン、ニュアンスも随所に聴かれます。1’08″から早速マルチフォニックスによるテナー1本だけでの多重音奏法、直後に同じフレーズを単音でリピート、比較する事で重音のインパクトが際立ちますが、ピアノも同様の音形でバッキングしています。1’19″でのElvinのフィルインにインスパイアされKirkが6連符?フレージングで応えますが、ラインが変わりサーキュラーブレスで何と1’41″まで20秒以上一息で吹き続けています!テナーソロの猛烈さからリズムセクションも次第に変貌、野獣と化し、2’00″頃からピアノのバッキング、ドラムのフィルイン共に物凄いことになっています!引き続きピアノソロでもハイテンションが持続しますが2’20″の辺りでKirkがカスタネットによるものでしょうか、何やらカシャカシャと効果音的に音を出していますが、サックスを吹き終え、サイドマンのソロの後ろでも自己主張をするのは流石というか、自分のリーダーセッションゆえに許される行為です。ByardのソロはDuke Ellingtonのテイストからスタート、3コーラス目でベースとドラムが演奏をストップ、2コーラス間全くのピアノソロになりますがByard真骨頂を発揮、ブギウギ、ストライド奏法でのアドリブ!この展開には驚かされました。予めある程度決められていたのか、突発的に行われたのか、いずれにせよ作為を感じさせない自然発生的なアクションに音楽が活性化されました。再びベース、ドラムが加わる直前にKirkの景気付け?ホイッスルが鳴り響きます。その後1コーラス、クッション的にピアノソロが行われ再びKirkのテナーソロですが、1コーラス間もう1本ホーン(恐らくmanzello)の単音が同時に聴こえます。2コーラス目に入るやいなや単音を吹き続け難なく口から放し、テナーに専念します。放した瞬間に音が途切れないのはどうしてでしょう?どのようなテクニックを用いているのか、同じサックス奏者として大いに気になるところです。ピアノのバッキングもEllington風で、ラグタイムやブギウギはなるほど、Ellingtonのスタイルと共通するものを感じると再認識しました。その後1コーラスKirkとElvinのDuoになり、ベースが加わり更に1コーラスを演奏、その後ラストテーマを迎えエンディングは半分のテンポになり、Kirkが雄叫びを上げてFineです。
2曲目はスタンダード・ナンバーからOnce in a While、KirkがClifford Brownの演奏を聴いて感銘を受けて以来のお気に入り。冒頭テナーとmanzelloによる演奏から始まりますが両手を駆使し、2本で異なった音を演奏しアンサンブルを聴かせています。音が微妙に震えているのはビブラートと言うよりも二つのマウスピースを咥えていて、アンブシュアが今一つの不安定さに起因するのでしょうが、この様な形態で演奏しようという発想が自由で素晴らしいです。Cliffordの吹くトランペットよりも1オクターブ下の音域でのメロディ演奏、Webster風のニュアンスも含んでいるのでムーディさを醸し出しています。テーマ、アドリブの両方、ところどころで聴かれる2管のハーモニーはやはり驚異的、アンサンブルが挿入される場所やハーモニーの響きも実に音楽的で的確です。合計2コーラスの演奏、ソロはAAの部分ですが最低音からフラジオ音域までレンジ広くブロウ、サビのBでは倍テンポによる2管のアンサンブル、テナーとmanzelloが対旋律のように動いています。ラストAではElvinお得意のシャッフルのリズムになりフェルマータ、大胆にして繊細なロールで締め、KirkはcadenzaでテナーキーでC, C#, Cルート音であるF、そして9thのGまで超高音域フラジオを吹きFineです。
3曲目本作一つの目玉にしてKirkのオリジナルFrom Bechet, Byas and Fatsはソプラノサックスとクラリネット奏者Sidney Bechet、テナー奏者Don Byas、ピアニストFats Wallerの3人に捧げられた軽快でスインギーなナンバーです。メロディのフィギュアやシンコペーションからスタンダードナンバーのLoverを感じさせます。冒頭で吹かれている楽器はmanzelloにも聞こえますが、恐らくはoboeだと思います。高音域が強調された響き、何より直管の鳴り方がしています。manzelloは曲管部を有しているので鳴り方が異なりますから。メロディを吹き伸ばしている最中にオルゴールの様な?金属的な音でのメロディが聴こえますが、これもKirkならではのサウンド・エフェクトなのでしょうか?テーマのメロディ奏でのバッキングではByardがWallerスタイルに徹しており、ベースのバッキングもよく合致しています。Elvinのドラミングもテーマに沿ったカラーリングが実に見事です!ソロはテナーで、これまたByasスタイルを音色まで見事に再現し、プラス超絶Kirkスタイルによる循環呼吸、連続ダブルタンギング、それらに応えるリズムセクションのグルーヴ、レスポンスにより物凄いインプロヴィゼーションを構築しています!ピアノのソロに替わった直後にカスタネットの音が聴こえますが、表現の発露が収まらない故の行為でしょうか。Byardのソロもイマジネーションに富んだ独自の世界を提示しています。その後のベースソロはDavisらしい重厚さを感じさせるピチカートを聴かせます。ラストテーマではElvinが一瞬5’29″辺りでテーマのシカケに入りそびれた風を感じますが、その後出遅れた感を若干引き摺り?シカケのフィルイン、カラーリングは初めのテーマの方が巧みであった様に感じます。

Sidney Bechet
Don Byas
Fats Waller

4曲目もKirkのオリジナルMystical Dream、曲の冒頭はテナーとmanzelloを2本咥えて演奏していますが、Elvinとのドラムセット”皮もの”を叩いたやり取りが面白いです。Aマイナーのブルース、テーマ直後にホイッスルも聴かれます。ピアノがヴァンプ的に1コーラスソロを取りますが、その後フルートソロが聴かれます。流石に2本サックスを同時に吹いた後、直ぐにはフルートに持ち替えが出来なかったためでしょう。Kirkはサックスを3本同時に演奏する夢を見て彼のスタイルを具現化しました。また後年夢で啓示があったためRahsaanの名を名乗ったのだそうです。幼い時に医療ミスにより視力を失ってしまった彼は、夢で見たことをさぞかし大切にしていたのだと思います。
5曲目は表題曲Rip, Rig and Panic、ここで聴かれる世界を一体どう表現したら良いのでしょうか。子供の頃に親に連れて行って貰った見世物小屋、そこで見た猥雑な世界を思い出しました。ここまで自己の全てを曝け出せるKirkの表現行為に心から敬服してしまいます。80年にトランペット奏者Don Cherryの娘であるNeneh Cherryらによって結成された英国のロックバンドRip Rig + Panicのバンド名はこの曲名から付けられました。ジャズ以外のミュージシャンにもKirkの音楽性は広く受け入れられている様です。冒頭テナーサックスのマルチフォニックス音、ベースのアルコ、ピアノのアルペジオから成る静寂の中に潜む不穏な影、重音双方が佳境に入った時に突如としてグラスが割れる音、一瞬の無音の世界、ジャズアルバムでは考えられない構成です!カスタネットを用いたカウント?その後間髪を入れずテナーによるテーマ、このメロディも超絶系、でも低音部のサブトーンが堪りません。テナーソロに於けるベースライン、ピアノのコンピング、Kirkのソロ、煽りまくるElvinのドラミング、ここではWayne Shorterの「JuJu」、3’16″からの2本同時奏法によるハーモニー、ピアノソロではDavisのベース演奏からピアニストAndrew Hillの「Black Fire」をイメージしました。ドラムソロの最中5’21″頃からサイレンの音が聴こえますが何故サイレンなのでしょう?あまりにElvinのソロが過激ゆえの緊急避難警報でしょうか(笑)?5’43″からマルチフォニックス音を演奏しElvinがソロを終えた直後、再びカスタネットによるカウント?でラストテーマが演奏されますが、その後のエンディングはメロディを繰り返しディクレッシェンドし突然、落雷の如きけたたましさがシンバルの強打音、何かドラム以外を叩く音、正体不明のこれでもかとばかりの騒音、KirkによりRip, Rig and Panicとタイトルが3回連呼されます。ロックの作品にはこの様なメッセージ性、コンセプトを感じるアルバムが多々あります。ロックを含めたジャズ以外のジャンルのミュージシャンにも信奉者が多いのは、Kirkのジャズに留まらない音楽性ゆえであると思います。

6曲目はピアニストMilton Sealeyのオリジナル・ワルツBlack Diamond、manzelloによくフィトするであろうし、雰囲気を変えるのに丁度良いとKirkが考えて取り上げたそうです。manzelloはソプラノサックスに巨大なベルを取り付けたKirk考案のオリジナル楽曲です。ベルの向きがソプラノの様に真っ直ぐな方向ではなく、アルト、テナーの様に前方向を向いているのが特徴です。異様に大きな形をしているので、どんなケースに収容されていたのかにも興味があるところです。Kirkにしては珍しく楽器1本でこの曲を演奏しており、インプロヴァイザーとしての本領を披露しています。ワルツのリズムはElvinが得意とするところ、スネアやバスドラムを叩くタイムの位置が絶妙です!テーマ〜manzelloソロ〜ピアノソロ〜ラストテーマとストレートに演奏しており、構成や内容が複雑だった前曲との良い対比になっています
7曲目ラストのナンバーはKirkのオリジナルSlippery, Hippery, Flippery、表題曲と同傾向のコンセプトを持った演奏です。ここではstritchをメインに演奏していますが、曲の初めには電気的な信号を用いたノイズ的な効果音(ごく初期のシンセサイザーを思わせます)、サイレンを鳴らし、その間隙間を縫ってElvinが皮モノを中心にフィルインを入れています。曲のテーマはここでも超絶系、ハードルを自ら上げたためにメロディをちゃんと吹けているのか微妙なところです(汗)。テーマ中、ソロに入ったところでも電気的効果音が聴かれます。アグレッシヴなKirkのソロにメンバー一丸となって燃え上がっています!Elvinのたっぷりとしていて、スピード感溢れるビートが実に気持ちが良いです!Byardソロの終盤にKirkが吹き始め、終了を促しフェルマータ、おもむろにラストテーマを吹き始めリズムセクションが参加し大団円を迎えます。

2019.11.13 Wed

The Inflated Tear / Roland Kirk

今回もRoland Kirkの作品を取り上げて見ましょう。1967年録音「The Inflated Tear」

Recorded: November 27, 30 1967 Recorded: Webster Hall, NYC Producer: Joel Dorn Label: Atlantic Record

ts, manzello, strich, cl, fl, whistle, cor anglais, flexatone)Roland Kirk p)Ron Burton b)Steve Novosel ds)Jimmy Hopps tb)Dick Griffin(on 8)

1)The Black and Crazy Blues 2)A Laugh for Rory 3)Many Blessings 4)Fingers in the Wind 5)The Inflated Tear 6)Creole Love Call 7)A Handful of Five 8)Fly by Night 9)Lovellevelliloqui

Roland Kirkの素晴らしさ、魅力、音楽性の高さを今更ながらに再認識しているところです。当Blogでは同じアーティストを連続して取り上げる事はなかったのですが、今回は引き続き触れて行きましょう。その立ち姿、容姿、振る舞いから日本でも「グロテスク・ジャズ」という、Kirkの本質を全く捉えない愚かでくだらない分類をされていたことがあります。誰もやったことのない、思いついても行わない表現方法を、重大なハンディキャップを抱えながらも聴衆を感動させる次元にまで高め、演奏を重ねる毎に更にレベルアップさせ、洗練させ、他の追従を全く許さない独自の世界にまで築き上げました。実はKirkの楽器を操る能力値の半端なさに、同じサックス奏者として演奏を聴く毎に打ち拉がれる思いすら抱いています。2本、3本のサックスを咥えて同時に演奏する、しかも驚異的なレベルの循環呼吸も用いて。いとも容易く2本同時奏法から1本吹奏にスライドさせる。加えて鼻でフルートを吹く、時に声を混ぜながら。ホイッスル、オルゴールを鳴らす、打楽器を首からぶら下げてインパクトのあるパフォーマンスを繰り出す。曲芸、サーカス的な目立つ部分が独り歩きしてしまい、多くの評論家、聴衆はその次元にてKirkの音楽を理解するのを止め、それらの先に存在する深淵な創造美を見ようとせず、単なるキワモノとしか認識しませんでした。Kirkはジャズの伝統を重んじ、先達の演奏に敬意を払いつつ徹底的に研究分析を行い、自己の演奏スタイルに巧みに取り込み続けました。特にバラードに対する美意識には格別の魅力を感じます。優れたミュージシャンの本質はバラード演奏にあります。Kirkは視覚的要素とは裏腹に優雅さ、気品、愛、スイートさ、暖かさを根底に持っていて、バラード奏ではそれらが顕著に現れます。いかなる特殊奏法を繰り出す時にもバランス感を伴い、独り善がりに陥らず、演奏が異端であればあるほどジャズの伝統、美学に裏付けされた音楽性を感じさせてくれるのです。

それでは「The Inflated Tear」に触れて行きましょう。「Rip, Rig and Panic」同様、こちらもKirkの代表作に挙げられる名作です。演奏曲目はDuke Ellington作の1曲以外全てKirkのオリジナルになります。1曲目The Black and Crazy Blues、manzelloによる哀愁を漂わせたメロディからブルースに移行して行く、New Orleansのセカンドラインの雰囲気を湛えた楽曲です。リズムセクションはこの当時のKirkのバンドのレギュラー・メンバー、Ron Burtonのピアノソロに被ってKirkが多分mannzelloとstritchの2管でハーモニーを付けています。その後はラストテーマへ、再びstritchによるテーマ奏は全く葬送の行進曲の様を呈しています。

2曲目A Laugh for Rory、冒頭に子供の声が聴こえますがKirkの息子Roryによるものです。彼のフルートをフィーチャーしたナンバーですが、この人は何を吹かせても抜群の上手さ!また声を発しながらフルートを吹く奏法の権威でもあります。

3曲目Many Blessingsはテナーの独奏から始まりますが、実に素晴らしい音色、どこかSonny Rollinsをイメージさせます。ひょうきんさを感じるテーマののち、いきなり循環呼吸による延々と続くフレージングに圧倒されます!難易度の高いColtrane Changeも用いられているコード進行をものともせず、1’20″から2’38″までの間ずっと吹き続け、フレージングしています!続くピアノソロはあまりの出来事の後で耳に入らず、印象に残らないのが本音です(汗)その後あとテーマを迎え、エンディングではダブルタンギング、マルチフォニックスによる重音奏法で締めくくり、Kirkテナー独演会は終了です。

4曲目Fingers in the Wind はフルートの明るいテーマ奏から始まりますが、コード進行が似ているのもあり、Antonio Carlos Jobim作Dindiをイメージさせます。Kirkはフルートも実に良く鳴っていてコントロールも素晴らしいですね。この曲ではフルートに専念しており、彼の華やかさと爽やかさの部分を表現したテイクに仕上がっています。次曲ではこれが一転します。

5曲目は表題曲The Inflated Tear、 邦題「溢れ出る涙」、Kirkは2歳の時に病院での点眼薬投与による医療ミスで失明し、その後遺症で涙が止まらないのだそうです。曲名はそこから来ているのでしょう。テナー、manzello、stritch3本のサックスを同時に咥え頰を思いっきり膨らませ、両手で巧みに扱い、2本でハーモニーや対戦律を奏で残りの1本でロングトーンを吹き3本でのアンサンブルを1人で行います。本作ジャケット写真で見られるKirkのトレードマーク、サックス史上彼しか成し得ていない特殊奏法、これは自身が夢で見た啓示の具現化であります。あくまでも推測ですが3本同時演奏の際に、Kirkは各々のサックスは違った楽器でなければならない、と考えていたと思います。アンサンブル時に豊かなハーモニーを得るには音域の異なった楽器の方が好都合ですから。彼のメインの楽器はテナーなので後の2本は自ずとアルト、ソプラノということになります。パフォーマンスとして彼は立奏を前提にしていました。それには3本を全て首からぶら下げておく必要があり、最も小型のソプラノは容易にそれが可能ですが直管構造のために音が下向きに出てしまいます。King社製のソプラノサックスsaxelloは先端のベルが幾分上向き、これを改造して上方向に巨大なベルを装着した楽器manzelloを考案、これで音が前に出るようになりました。アルトですがテナーと同じ曲管構造を有したサックスなので、テナーとアルト2本を同時に首からぶら下げておく事は楽器の大きさと安定感から困難、そこでKirkが考えたのが直管のアルトです。こうすればテナーとの並列も問題ないのですが、直管ゆえにソプラノ同様に音が下向きに出るので、こちらにもやや上向きにベルを取り付けました。これがstritchです。後年ドイツの楽器メーカーKeilwerthや米国のLA Saxが直管アルトを開発して発売しました。Keilwerth社製をKenny Garrettが吹いているのを見たことがあります。一時テナーの直管タイプも同じくKeilwerthから発売され、Joe Lovanoが吹いていました。その長さからアルペンホルンの如き様相を呈していたのが印象的です。いずれもポピュラーになり得なかったのは視覚的には強力なインパクトこそあれ、通常のアルト、テナーと比較してサウンドが激変する訳ではなく、その長さゆえにケースに入れた運搬にも支障を来たしたからでしょう。因みにこれら後発の直管アルト、テナーのベルはKirk仕様を意識したのかどうか、若干のカーブを描いています。

さてKirk「ひとり3管編成」の楽器レイアウトは出来上がりました。サックスは3本の音が合奏で混じり合う事で管の倍音成分が絡み合います。これを3人ではなくひとりで行う場合、ひとつの口で咥えたマウスピース3つの倍音が口腔内で更に複雑に絡み合う現象が生じるそうで、彼の独特のアンサンブル・サウンドはここに秘訣があるのかも知れません。頬を思い切り膨らませて吹いているのは単純に3つのマウスピースを咥える容積を稼ぐためか、倍音を確実に鳴らすためか、またその両方なのか、循環呼吸のために頬にエアーをためると言う見解もありますが、本人に尋ねてみたかったものです。

演奏を聴いてみましょう。Kirk自身による、首からぶら下げたパーカッション群を鳴らし、足踏みをし、ベーシストと共にある種の雰囲気を作った後、おもむろに3管編成のメロディが始まります。実はこれまで僕自身この演奏を軽く聴き流していて、この事をいま後悔しています。「魂の叫び」という言葉を安直に使うべきではないと思いますが、この演奏はKirk自身のそのものであります。何と深い音楽なのでしょう。私論ではありますが芸術表現をオーディエンスはあるがまま、ストレートに捉えるべきであり、表現者も舞台裏やバックグラウンド見せたり感じさせたりするのは控えるべきであり、ましてやお涙頂戴はご法度です。先入観を持たずにニュートラルな状態で演者も聴衆も芸術行為に向かうべきなのですが、湖面を優雅に泳ぐ白鳥の水面下での暗躍ぶりを知ればその優雅さが一層引き立つように、Kirkの場合はそのバックグラウンドに触れる事で演奏の本質、表現に対する執拗なまでの飽くなき探求心、どれだけの労力を費やした結果これらの奏法を自在に操れる次元にまで至ることが出来たのか、彼の場合は垣間みても良いのでは、と思います。3管奏の後はstritch1本によるメロディが奏でられますが、どこかアルトの名手Johnny Hodgesを感じさせます。妖艶なまでに美しく、同時に物悲しさを誘い、これは3管のアンサンブルとの絶妙な対比となっており、強烈なイメージを持っています。Roland Kirk本人にしか発想、そして表現できない「魂の叫び」に他なりません。そして最後の部分では自身による、文字通りの叫びも収録されています。

67年10月19日Pragueにて本作レコーディング直前のライブ映像がyoutubeにアップされています。映像でこの演奏を鑑賞すると一層インパクトがありますので、ぜひご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=ZIqLJmlQQNM (アドレスをクリックしてください)

向かって左からmanzello, stritch, テナー, ベル内にフルートを入れ、楽器を構えるRoland Kirk

6曲目がEllington作曲のCreole Love Call 、テナーとおそらくのクラリネット2管によるハーモニーが聴かれます。ソロはstritchを中心にブルージーに、フリーキーに、時折ハーモニーを交えつつ、Ellingtonの音楽性を踏まえた演奏に徹しています。

7曲目アップテンポで5拍子、その名もA Handful of Five、manzelloでメロディを演奏する可愛らしさを感じさせるナンバーです。2分40秒の短い楽曲ですがKirkのチャーミングな側面を表していると思います。

8曲目Fly by Night はベースのピチカートのイントロから始まる、再びテナーをフィーチャーしたナンバーですが、トロンボーン奏者Dick Griffinも加えた演奏で、テナーとトロンボーン2管のアンサンブルが聴かれます。ホーンセクションはピアノソロのバックリフでも聴かれますが、流石のKirkもトロンボーンは門外漢だったようです。でもブラス楽器ではトランペットは吹くそうですが。モーダルな雰囲気を持った佳曲、全てをひとりで行えるKirkなので他の管楽器とのアンサンブルが聴かれるのは珍しいことですが、この2管のアンサンブルもとても良いサウンドです。

9曲目Lovellevelliloqui は難易度やや高い系のテーマ、難曲揃いの「Rip Rig and Panic」に収録されてもおかしく無いようなナンバーです。manzelloをフィーチャーしたマイナー・チューン、モーダルな要素も含む曲です。ドラムとのバースもあり、総じて本作は楽曲や演奏の構成に於てバラエティに富み、複雑で多岐にわたる要素を内包するRoland Kirkというミュージシャンの音楽を、初めて経験する際の入門にもなり得るアカデミックな作品だと思います。

2019.10.20 Sun

Mingus at Carnegie Hall / Charles Mingus

今回はベーシストCharles Mingusの74年リーダー作「Mingus at Carnegie Hall」を取り上げてみましょう。ジャムセッションを収録したライブレコーディング、レコードのAB両面1曲づつ各々20分以上長尺の演奏になりますが、起伏に富んだストーリーが聴き手を全く飽きさせません。

Recorded: January 19, 1974 at Carnegie Hall, New York City Label: Atlantic Producer: Ilan Mimaroglu, Joel Dorn Executive Producer: Nesuhi Ertegun

b)Charles Mingus tp)Jon Faddis as)Charles McPherson ts, as)John Handy ts)George Adams ts, stritch)Rahsaan Roland Kirk bs)Hamiet Bluiett p)Don Pullen ds)Dannie Richmond

1)C Jam Blues 2)Perdido

本作のライブレコーディングを収録した元々のコンサート「Charles Mingus and Old Friends in Concert」はNew York City MidtownにあるCarnegie Hallで74年1月19日土曜日の夜に行われました。40年以上前とは言え、入場最低料金$4.50とは随分安かったです。コンサートの最初のセットはCharles Mingusのニューグループによるもので、tp)Jon Faddis, ts)George Adams, bs)Hamiet Bluiett, p)Don Pullen, ds)Dannie RichmondそしてMingusのベース、6人編成のメンバーで行われました。レコードジャケットにはFaddisの名前もGuest Artistとして記載されていますが、これは誤記になります。演奏曲目はMingusのPeggy’s Blue Skylight, Celia, Fables of Faubus、加えてDon PullenのBig Aliceの計4曲。こちらのセットの演奏も録音されているでしょうから「The Complete Mingus at Carnegie Hall」の様な形でリリースされる日が来るかも知れません。後半のセットはゲストとしてJohn Handy, Rahsaan Roland Kirk, Charles McPherson3人のサックス奏者が加わった形で演奏されました。Mingusのライブでは必ず取り上げる彼のオリジナルや彼特有のバンドアンサンブルが無く(ソロの後ろで管楽器によるバックリフのアンサンブルが聴かれますが、その時々メンバーの即興によるものでしょう)、管楽器全員に延々とソロを回すジャムセッション形式で演奏が行われています。単にリハーサルや打ち合わせをする時間がなかったためなのかも知れませんが、結果歴史に残る素晴らしいパフォーマンスを繰り広げました。演奏曲目はMingusが心底から尊敬するDuke Ellingtonのナンバーから、セッションで日常的にもよく取り上げられるC Jam Blues, Perdidoの2曲。セッションの選曲にさえも自身の音楽性を反映させており、Mingusの音楽表現へのこだわりを感じさせます。MingusとEllingtonの共演作が残されています。62年9月録音「Money Jungle」、ドラマーにMax Roachを迎えたピアノトリオ、Mingusはいつも以上にハイテンションにプレイし、3人で素晴らしい演奏を繰り広げています。

帽子を被ったオシャレなEllington,サスペンダーのMingus,迷彩服姿(?)のRoachが異彩を放っています。

Old Friendsと言うくらいで、本作はMingusと過去に於いて共演を果たしているミュージシャンたちとの演奏になります。ニューグループの方は若手が中心でNew Friendsということになりますが、メンバーとの関わりについて触れてみましょう。ドラマーDannie RichmondはMingusの片腕、女房役として57年録音の名作「The Clown」からMingusの78年ラストレコーディングまで30年以上、殆どの作品で共演を果たしています。素晴らしいセンスのドラミング、ビート感、Mingusの音楽的要求に確実に答えられる柔軟性、何より強面、自我の表出の激しいMingusと永年私生活でも支障なく付き合える包容力と忍耐力(笑)を持ち合わせています。

ピアニストDon Pullenは前作73年「Mingus Moves」からの共演になり、個人的にMingusの特に優れた作品と認識している74年「Changes One」「Changes Two」にも参加、演奏のキーパーソンとなっています。R&Bからビバップ、フリーフォームまで幅広いスタイルを網羅した演奏は本作で共演しているテナー奏者George Adamsと絶妙のコンビネーションを発揮、両者共同名義による作品も多くリリースされています。

そのGeorge AdamsもPullenと同じく「Mingus Moves」からの共演になります。同様に「Changes One」「Changes Two」にも参加、やはりAdamsの快演無しには名作「Changes」2作は成り立ちませんでした。Mingus Bandで互いに切磋琢磨した間柄から、79年George Adams〜Don Pullen Quartetの結成は必然のなせる技なのでしょう。

トランペッターJon Faddisとは72年Lincoln Centerで行われたMingusビッグバンドの作品「Charles Mingus and Friends in Concert」で初共演、その後同年7, 8月に小編成のバンドで欧州ツアーをしました。持ち前のハイノートを駆使したプレイは多くのビッグバンドやスタジオワークで重用される一方、アドリブ奏者としても非凡な演奏を聴かせます。

バリトン奏者Hamiet BluiettはFaddisと共に72年の欧州ツアーに同行したのが付き合いの始まり、その後は付かず離れずのスタンスで彼と75年まで共演していました。Mingusの元を離れた後76年には、満を持して自己の初リーダー作「Endangered Species」をリリースすることになります。

ゲストサックス奏者一人目Charles McPhersonは文字通りのOld Friend、62年頃からの共演歴になります。Bootlegの「The Complete 1961-1962 Birdland Broadcasts」でその最初期の演奏を聴くことが出来ます。Mingusのアルバムには10数作参加している古参のひとりです。

ゲストの二人目John Handyは本ライブでテナーとアルトの両方を曲によって吹き分けています。マルチリード奏者として知られていますがMcPhersonよりも更に古く59年「Jazz Portraits: Mingus in Wonderland」からのOld Friend、主に60年代初頭に演奏を重ね、本作では久しぶりの共演になります。

そして三人目のOld Friendは本作の裏番長、いや真の主役と言っても良いかも知れないRahsaan Roland Kirk、本作ではテナーサックスをメインに誰よりも長く、誰よりも派手に巧みにソロを取り、自分の世界をとことん、これでもかと表現しています。Mingusとは前記のBootleg盤の61年テイクと、同じく61年「 Oh Yeah」で共演していますが、それ以来13年振りの共演はMingusから絶大な信頼を得ていたのでしょう、手が付けられない状態になるまでソロプレイを放置されています(笑)!

メンバーが全て出揃いました、それでは演奏について触れて行きましょう。1曲目C Jam Blues、ピアノトリオでまず1コーラステーマが演奏され、続いて管楽器総動員6管によるユニゾンでテーマが1コーラス演奏されます。MingusとRichmondが繰り出すビートは実にスインギー、ベースの音色が極太です!ソロの先発はJohn Handyのテナー、Handyはアルト奏者というイメージがありましたが、この音色を聴く限りアルト奏者のテナーの音ではなく、テナー奏者のものです。スタイル的にもCharlie ParkerではなくSonny Rollinsやホンカーのテイスト、John Coltraneのスパイスも感じさせます。合計15コーラスを演奏し、1コーラスクッション的に次の演奏者探しに費やされます。Bluiettのバリトンが次なるソロイスト、最低音域からフリークトーンを用いた高音域までレンジを広く網羅したソロを聴かせます。フリーフォームを中心にしたアヴァンギャルドな内容の語り口、さすがDavid Murray, Oliver Lake, Julius Hemphillらを擁したWorld Saxophone Quartet(メンバーの変遷はありましたが)のメンバーです。 9コーラスを演奏した後今度はGeorge Adamsのテナーにスイッチします。いきなりアウトしたフレージングから始まりますが、この人の音色には何とも言えない独特の色気、艶があるので思わず聴き入ってしまい、彼の世界に引きずり込まれます。フリーキーなフレージングの連続に、リズムセクションも7’03″辺りからMingusのオリジナルに良く用いられる8分の6拍子(6/8)のリズムに変わって行きます。1コーラスの後ドラムはもう少し6/8リズムを続けたかったフシが伺えましたが、Mingusがきっぱりとスイングに戻しました。PullenのバッキングもAdamsに同調して、おそらく肘打ちや拳骨を駆使したクラスター・サウンドを聴かせますが、彼の手が絆創膏だらけだった写真を見た事があり(爆)、流血するほどの格闘技ファイター的なピアノ奏法です!AdamsもHandyと同じく15コーラスを演奏、盛り上がり切った現場は根こそぎAdamsに持って行かれ、ペンペン草さえも生えていないような荒涼とした大地です(笑)!そこにRahsaan Roland Kirkがスネークインして来ました。これだけの世界を作られた後にソロを行うのは誰でも辛いと思うのですが、Kirkは一向に意に介していない模様、落ち着き払い堂々とした登場ですが、2コーラス目で先ほどのAdamsのソロのフリーキーな部分を、見事なまでにそっくりマネしているではありませんか!耳の良いプレイヤーならではのフェイクですが、さぞかしAdams本人は勿論、メンバーも驚いたことでしょう!さて、ソロの掴みはOK、続いてRollinsのAlfie’s Themeを引用します。Kirkのフレージングは様々なテナープレーヤーの要素を研究したフシが伺えますが、かなり高度な音使いをさり気なく用いており、更に加えて10’55″から聴かれる特殊な運指とその奏法によるマルチフォニックス(重音)をサーキュラーブレス(循環呼吸)で長時間吹き続ける、11’43″からトリルを用いつつ延々とお得意のサーキュラーブレス、ダブルタンギングを多用したフレーズ、12’35″からはColtraneのA Love Supremeのテーマ引用、12’46″からはベンドとグロートーンを同時に用いたIllinois Jacquet風ホンカー・テイストのブロウ、13’15″からは一転して音色も変えながらのビバップ・テナー、例えるならばDexter Gordon風のテイストでのソロ、13’36″から再びサーキュラーブレスでギネスブックものの信じられない長さでアヴァンギャルドなフレージングのオンパレード、オルタネートフィンガリング、フリークトーン、マイクロフォンから(わざと?)遠ざかり、近づくエフェクト、ありとあらゆるサックスの特殊奏法のオンパレードにより、何と24コーラスを吹き遂げました!!その後1コーラスが次のソロイストに引き継ぐためのクッション的にリズムセクションので演奏され、Faddisのソロになります。冒頭のフレージング、そうですよね、こんなフレーズでも吹かないと演奏を始められないですよね(笑)。Dizzy Gillespieのテイストを感じさせるミュート・トランペットによる8コーラスのソロが聴かれます。ソロイストの最後はMcPhersonのアルト、実に正統派Parkerスタイルを端正に、クールに12コーラス聴かせます。1コーラスのクッションを置いてラストテーマに戻りますが、あれだけ盛り上がってしまった演奏はそう容易くエンディングを迎えることは出来ません!場外乱闘的が始まりました!Kirkがサーキュラーブレスで吹き続けるF#の音(#11th)がドローンのようにずっと鳴り響きますが、ここでは本編では吹かなかったstritchも用いて、2本同時に演奏しているように聴こえます。各人様々なフリートークを重ねています!4分以上続き満場のアプラウズを受けてとうとうFineです。


2曲目がPerdido、C Jam Bluesの白熱した演奏で全参加者全員すっかりと吹っ切れたようです!テンポは先ほどよりも早く設定されており、ソロの一人目は再びHandy、今度はアルトを携えての登場になりますが、早めにソロを終えて落ち着いてしまおうという目論見か、それとも周りのミュージシャンがHandyに敬意を払って先発を勧めたのか、何れにせよいきなり別人のようにアグレッシヴなアプローチを聴かせます!フラジオ音も多用しつつのソロはやはりParkerの語法を感じることは出来ず、どちらかと言えばモーダルな、テナー奏者としてのスタイルを感じます。当然リズムセクションの演奏も一層熱気を帯び始め、Richmondのドラミングが特にイっています。4コーラスを演奏しBluiettのソロになりますが、彼の演奏も委細構わずの姿勢をより感じさせ、ハードに、ファンキーに、やはり4コーラスを演奏しています。そしてKirkの登場です。C Jam Bluesでの熱気を他所にクールにまず1コーラスを演奏し、2コーラス目途中からいきなりターボ全開、サーキュラーブレスで倍テンポ吹き捲り、オーディエンスはKirkの演奏が再び自分たちを音の異次元空間へいざなってくれるのだろうと、期待に満ちた熱いエールを送ります!それにしてもサーキュラーブレスとは管楽器奏者が複数参加するライブ・パフォーマンスでは確実に全てを制する飛び道具、いや破壊兵器になりますね!Pullenのバッキングも途轍もない次元まで登り詰めているので、彼の両手が心配です!聴衆のリクエストに完全に合致した超ハイパーなソロ、笑っちゃう位の物凄さを計9コーラス演奏しています。続いてMcPhersonの登場、原曲のメロディを挿入しつつ端正さはしっかりとキープしてホットなソロを4コーラス聴かせています。Adamsのソロにその後引き継がれますが、彼もタガが外れたかのように初めからフリー・アプローチ祭りの様相を呈しています!素晴らしい音色、楽器コントロール巧みさ、演奏盛り上げに対してのバリエーションの豊富さは実に見事。ですが同じテナー奏者同士の比較はやむを得ません、やはりKirkの方が役者が何枚も上のように感じてしまいます。5コーラスを演奏した後Faddisがオープンでトランペットソロ、ここでは一層Gillespieのカラーを聴かせるソロに徹して5コーラスを吹いています。その後Pullenのソロがバーニング!1曲目演奏時間24分強、ここでも既に18分以上が経過、ホーンズのソロに圧倒されつつ長い間出番を虎視眈々と狙っていたのでしょう!ストロングなピアノタッチ、手の方よりも鍵盤やピアノの弦の方の損傷を心配するのは取り越し苦労ですね(笑)Perdidoの2ndテーマが演奏されますが、冒頭のテーマ演奏時サビでアルトでソロを取っていたHandy、後テーマのサビではテナーでソロを吹いています。エンディングではこちらもテナーとstritch用いたKirkのドローンが演奏され、参加者全員演奏の残火をいとおしんでいるかのようにブロウしていますが、前曲よりもあっさり目に曲を終えています。

2019.10.13 Sun

Out of the Afternoon / Roy Haynes

今回はドラマーRoy Haynesの1962年録音リーダー作「Out of the Afternoon」を取り上げてみましょう。

Recorded: May 16(on 1, 6, 7) & 23(on 2, 3, 4, 5), 1962 Studio: Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey Label: Impulse! Producer: Bob Thiele

ts, manzello, stritch, flute, nose flute)Roland Kirk p)Tommy Flanagan b)Henry Grimes ds)Roy Haynes

1)Moon Ray 2)Fly Me to the Moon 3)Raoul 4)Snap Crackle 5)If I Should Lose You 6)Long Wharf 7)Some Other Spring

Flanaganだけ楽器を持たずに手持ちぶたさでいるのが可愛いジャケット写真です。

1925年3月13日Boston生まれのRoy Haynesは現在94歳、ご存命で今でも時たまドラムを演奏すると言う話を耳にすると嬉しくなってしまいます。モダンジャズを代表するドラマーにして優れたバンドリーダー、何より柔軟な音楽性ゆえ数多くのミュージシャンから彼のドラミングが必要とされ、レコーディングを重ねジャズ史に燦然と輝く名盤に名を連ねて来ました。枚挙に暇がありませんが彼を雇い共演したミュージシャンはLester Young, Charlie Parker, Miles Davis, Bud Powell, Wardell Gray, Sarah Vaughan, Eric Dolphy, John Coltrane, Stan Getz, Sonny Rollins, McCoy Tyner, Chick Corea….Haynesの参加した作品のかなりの数を耳にしましたがその全てに彼の存在感があり、楽曲アンサンブルの巧みさやソロイストを鼓舞し、演奏を活性化させるアーティスティックな姿勢に毎回感銘を受けます。僕がHaynesと双璧を成すと思っているドラマーがElvin Jonesですが、HaynesがJohn Coltrane QuartetにおいてElvinの代役を務め、名演奏を残したことはよく知られており、二人の演奏スタイルは全く異なるにも関わらず共通していることがあります。それはドラムを叩かず(実際にはもちろん叩いていますが)、演奏せず(していますが)、音楽を奏でている点です。彼らのドラミングのフレーズが型にハマらず不定形で、演奏者によって、その場その場の状況で多様に変化して行きソロイスト、共演者に寄り添い、ビートを刻む、リズムを繰り出す、それもシンコペーション、ポリリズムを駆使してその場で最も相応しく且つ一層のアクティビティをもたらす効果的な対応、その瞬間の取捨選択の見事さ、そして極めて尋常ではない大胆さを伴いつつ。これらは二人のどちらかに当てはまると言う事ではなく、両人にユニゾンのように備わっているのです。

Haynesのリーダー作は54年に欧州で録音された10inchの企画もの「Busman’s Holiday」「Roy Haynes Modern Group」2作が最初期のものに該当します。欧州に熱狂的なHaynesファンがいて、渡欧を見計らってレコーディングを持ち掛けたのかもしれません。

58年録音「We Three」がHaynesのリーダー作として本格的なものになります。ピアニストにPhineas Newborn, ベーシストPaul Chambersら豪華メンバーを擁したピアノトリオ作、モダンジャズを代表する素晴らしい作品の1枚だと思います。

次作として60年録音同じくピアノトリオによる「Just Us」はピアノにRichard Wyands、ベースにEddie De Haasをフィーチャーしたこちらも選曲、演奏共に優れたアルバムです。We Threeの次がJust Usと言うのも洒落たネーミングですが、レコードジャケット両作のメンバー集合写真からもトリオとしてのまとまり、我々にしか出来ないグループ・サウンドを創造するんだ、と言う意欲を感じさせます。

そして62年録音の本作に繋がります。これまでのピアノトリオ形態にフロント1人を迎えたカルテットになりますが、このサックス奏者が半端ではありません。マルチリード奏者にして複数本の楽器を同時に奏でる盲目のプレーヤーRoland Kirk、存在感、プレイとも申し分ない人選。Haynes、そしてプロデューサーBob Thieleよくぞ彼を招き入れました! HaynesがNYCのジャズ・クラブFive Spotにて対バンとして出演していたKirkとセッションを行い、演奏に感銘を受けThieleに本作の企画を持ちかけて実現しました。Kirkは自己がリーダーでの活動が中心で、サイドマンとして演奏するのは珍しく、他にはCharles Mingus, Quincy Jones, Jaki Byardが彼をサイドマンとして雇っている位です。サイドマンとしての演奏が少ないのは強力なパーソナリティの持ち主ゆえかもしれませんが、逆にMingus, Quincy, ByardそしてHaynesほどの優れた音楽性を持った個性派であれば、Kirkに自由に演奏させたとしても十分に自己の音楽に内包させることが出来るという事でしょう。Kirkは本作録音前月にHaynesを既に招き入れ名作「Domino」をレコーディング、以降68年「Left & Right」76年「Other Folks’ Music」の計3作で共演しています。

もう一つこれは大変興味深い演奏ですが、71年放送のEd Sullivan ShowにKirkのグループとしてHaynesの他、Charles Mingus, Archie Sheepらと共に出演、番組冒頭ではサックスを3本同時に吹き自身の名曲The Inflated Tearの一節を独奏、その後に参加メンバー全員でMingusのHaitian Fight Songを演奏しているのです! https://www.youtube.com/watch?v=fzGj_-5FGT8 (アドレスをクリックしてyoutubeの映像をご覧ください!)

Roland Kirkの演奏や音楽性については別の機会にまたじっくりと取り上げたいと思うのですが、本作収録曲の演奏を触れて行くに当たり、どうしてもKirkを中心に語らざるを得ないのが実情です。

1曲目哀愁を湛えたスタンダード・ナンバーMoon Ray、Haynesのマレットによるロールからピアノ、ベースのアルコが加わり一瞬二本同時演奏の後、テナーサックスによるメロディが始まります。多重録音が成されていないことを前提に、サビはmanzello(巨大な上向きベル付きソプラノサックス、Kirkが考案した楽器です)で演奏しています。ソロはテナーサックスが中心ですがもう1本サックスの音が同時にずっと聴こえ、時折ハーモニーを吹いたりダブル・タンギングを用いてアクセントを付けたり、耳には心地よく入って来ますが録音中、実はとんでもないことが行われていました!続くTommy Flanaganのピアノソロは職人芸的なスムースさを伴って、美しく響きます。Henry Grimesのベースはon topの素晴らしいタイム感でHaynesのソロとよく絡み合っています。ラストテーマは再びテナーとmanzelloを持ち替え、エンディングは2本をダブリングしています。Kirkの演奏はすべてがさりげなく行われていますが、白鳥が湖面を優雅に泳ぐが如く、水面下では壮絶な出来事が進行しています。

2曲目はMoonつながりでFly Me to the Moon、3拍子で演奏されています。イントロでHaynesは皮物を鳴らしたソロの後ピアノ、ベースが加わりテナーでメロディが始まります。始めサブトーンを用いた低音域で、その後は上の音域にスイッチしテーマの最後4小節には一瞬の間にもう1本サックスをダブリングしてハーモニーを聴かせています。テーマ終了時1本を口から離し、音が途切れることなくソロがテナー1本で開始されますが、多重録音でもない限りちょっと考えられない奏法です。1’03″からダブルタンギングによる16分音符の超絶フレージング、続け様に今度はテナーサックス1本でマルチフォニックス奏法による多重音奏法、2’04″から08″間は再び2本同時演奏によるハーモニー(実に芸が細かいです!)。Kirkがアドリブで吹いているラインは比較的オーソドックスなものですが、何しろ様々なテクニックを駆使した曲芸的な、ある種大変トリッキーなものです。60年代初頭に忽然と現れた謎の怪人サックス奏者、盲目にして独自の風貌、さぞかしプレーヤー、オーディエンスともに衝撃的だった事と思います。米国は本当に多くの天才を輩出する国だと改めて実感しました。その後FlanaganのソロになりますがKirkの演奏時はそちらにばかり耳が行ってしまい、バックの演奏に注意を払えなくなりますが、ピアノソロで実にHaynesが巧みなドラミングを聞かせていることに気付かされます。ベースソロに続きKirkはmanzelloに持ち替えてドラムと8バース〜4バースを行います。テナーソロと異なるのはシングル・タンギングを用いたキレの良い8分音符が中心になる点です。HaynesはKirkのフレーズに反応しつつ新たなアイデアも提供しています。その後バースに於いてもダブリングを行い、2本でユニゾン〜ハーモニーも聴かせます!ラストテーマは再び低音域に戻り、後半上の音域へ、エンディング逆順進行でも2本によるハーモニーを演奏してFineです。

3曲目はHaynesのオリジナルでアップテンポのスイング・ナンバーRaoul、Haynesの短いドラムソロからテーマに入ります。Kirkは再びmanzelloでメロディ奏、ソロを取ります。1’25″から2ndメロディと思しきラインを2本同時に吹いてアンサンブルを聴かせピアノソロに続きますが、ホイッスルやフィンガー・スナッピングも聴こえます。ベースのアルコソロに続き、テナーとドラムの短いDuo、その後ドラムソロに突入します。ラストテーマに入るところは微妙ですがギリギリセーフでしょう!レコーディング・スタジオ内でメンバー同士のアイコンタクトが取れないために、致し方のない事です。

4曲目はHaynesが50年代に付けられたニックネームSnap Crackleをタイトルにした自身のナンバー。冒頭Roy! Haynes! の掛け声はFlanaganによるものです。当初はKirkにRoyの名前を叫ばせるという案もあったという事で、そちらの方がインパクトが強かったように思うのですが残念!でも実はKirkに任せたら何をやらかし始めるか、叫び始めるかわからないという危惧ゆえ、ピアノ演奏同様に堅実なFlanaganにThieleが行わせたというのが実情かも知れません(笑)。シンコペーションを多用した変則的なリズムのメロディはいかにもHaynesらしいテイストです!1人ホーンセクションをテーマで聴くことが出来ます。マイナーブルースのコード進行によるソロの先発はピアノ、続いてKirkがフルートでソロを取りますが、自分の声とフルートをダブらせています。必ず何かしら演奏で聴かせてくれますね、この人!その後はベースを伴ってのドラムソロ、ラストテーマは繰り返されフェードアウトとなります。

5曲目はスタンダード・ナンバーIf I Should Lose You、短いドラムソロの後、ここではKirkがstritch(直立型アルトサックス、こちらもKirk考案の楽器です)を用いてテーマ、ソロを取ります。やはり普通の曲管アルトサックスとは異なった独特の音色です。1コーラス目は比較的オーソドックスでしたが1’31″からターボが掛かり始めダブルタンギング超絶奏法が!続くFlanaganのはKirkのイケイケには惑わされず自分のペースをキープします。その後KirkとHaynes、Flanaganも交えたバースが聴かれますがHaynesかなりストロングなフレージングを聴かせ、2小節毎のアタマにピアノとベースのコードが入る1コーラスのドラムソロも行われています。ラストテーマは割とあっさりエンディングを迎えています。

6曲目HaynesのオリジナルにしてアップテンポのLong Wharf、Haynesのシンバルレガートから曲が始まります。ここでもKirkはstritchを使用して演奏しています。ここでのKirkは比較的ストレートにソロを行い、Flanaganにソロを渡しています。Grimesのアルコソロ、ピアノ〜ベースのサポート付きでHaynesのドラムソロか聴かれ、そのままラストテーマへとなだれ込みます。

7曲目ラストに控えしはバラードSome Other Spring、ドラムのブラシソロによるイントロからKirkはmanzelloを用いて朗々と吹いています。サビをピアノが演奏しKirkが再登場しメロディプレイ、ピアノがサビで短いソロを演奏し、今一度KirkがAメロを吹いてFine、1コーラス半の短いエピローグ的演奏です。この後KirkはFlanaganとレコーディングで顔合わせをすることはありませんでしたが、本作でも2人の相性としてはずっと平行線を辿っているように感じました。

2019.10.05 Sat

Bottoms Up / Illinois Jacquet

今回はテナーサックス奏者Illinois Jacquet、1968年のリーダー作「Bottoms Up」を取り上げたいと思います。

Recorded: March 26, 1968 NYC Label: Prestige Producer: Don Schlitten

ts)Illinois Jacquet p)Barry Harris b)Ben Tucker ds)Alan Dawson

1)Bottoms Up 2)Port of Rico 3)You Left Me All Alone 4)Sassy 5)Jivin’ with Jack the Bellboy 6)I Don’t Stand a Ghost of a Chance with You 7)Our Delight

Jacquetの吹くホンカー・テナーの魅力を凝縮させた一枚に仕上がっています。

ホンカーの元祖とも言えるテナーサックス奏者Illinois Jacquetは1922年10月Louisiana生まれ、兄がトランペッター、弟がドラマー、そして父親がバンドリーダーという音楽一家の環境で育ち、幼い頃には既に父のバンドでサックスを演奏していたそうです。40年にNat King Coleトリオに客演した際、その資質を見抜いたColeがJacquetをLionel Hamptonのバンドに紹介し、それまでアルトサックスを吹いていたJacquetはテナー奏者としてHamptonのビッグバンドに加入することになりました。好機はすぐさま訪れ、42年にHamptonのビッグバンドがBenny GoodmanとHampton共作のナンバーFlying Homeを録音、すでにGoodman楽団の演奏で知られていましたが、19歳のJacquetにソロを取らせ結果大ヒットを記録しました。音源として残されているホンカーテナー・ソロとしては最初期のものに該当します。幸先の良いスタートですが、良い意味でも悪い意味でもFlying Homeの演奏がJacquetの代名詞となりました。Hamptonビッグバンドのlive showでは演奏の終盤に必ずこの曲を演奏し、Jacquetの演奏をフィーチャーしたそうで、数え切れないほどの回数を演奏〜グロウ、ホンキング〜した事と思いますが、もしかしたらホンカーのお家芸であるステージに寝そべってテナーをブロウする技も披露していたかも知れません。

因みにJacquetに影響を受けた幾多のフォロワー・テナー奏者たち、例えばArnett CobbやDexter GordonがFlying Homeを演奏する際はJacquetのソロをコピーして吹いていたそうです。同様に以降Flying Homeを演奏するテナー奏者はJacquetのソロを全く同じように覚えて吹く事が慣わしになり、Flying Homeではテーマを吹くのと同様にJacquetのソロも演奏する合わせ技が必須でした。ここまで楽曲に一体化したソロも存在しなかったでしょう、それだけ素晴らしい「シンプルにして唄心溢れるソロ」をJacquetが録音したとも言えます。

クリックしてお聴きください。音色、タイム感、フレージングとその構成力、デビュー間もない若干19歳のテナー奏者の演奏とは信じられない、ハイクオリティのソロです!

名曲Sing Sing SingにおけるHarry Jamesのトランペット・ソロ、Benny Goodmanのクラリネット・ソロ両方にも同様な事が言えます。いずれも素晴らしい内容ですがこちらは難易度がとても高く、原信夫シャープス&フラッツで演奏の際、完全コピーでの演奏再現をトランペット奏者、そしてアルトサックス奏者が持ち替えで演奏するクラリネットに課せられました。完全コピーではないにしろ、Sing Sing SingではHarry James, Benny Goodmanのテイストを部分的に拝借した内容でトランペット、クラリネットソロを取るのが今でも定番になっています。

とは言えJacquetは連夜の「満場を唸らせ、喝采を博する」ためのFlying Home演奏に辟易し、さらに推測するにHamptonはJacquetに毎回必ずレコーディング初演と同じ内容のソロを吹くようにと要求したと思います。楽曲と一体化した有名なソロですから、オーディエンスもこちらをお目当ての一つにして足を運んで来た事でしょう。Jacquetも若かったので違うことをやりたかったに違いありません。翌43年にHamptonのバンドを辞める事になりますが、今度は引き続きCab Callowayのオーケストラに参加します。ちなみにその当時のJaquetの映像をジャズボーカリストにして女優であるLena Horne主演の映画「Stormy Weather」で見る事が出来るのは嬉しい限りです。44年にCaliforniaに戻ったJacquetは兄であるトランペット奏者RussellやニューカマーのベーシストCharles Mingusらと小編成のバンドを起こし演奏活動を行い、Lester Youngと共にAcademy賞にノミネートされた短編映画「 Jammin’ the Blues」にも出演、またNorman Granz主催のJATP第1回コンサートにも出演するなど、シーンへの露出度が次第に高くなりました。46年にはNew Yorkに活動場所を移し、Count Basie OrchestraにLester Youngの後釜として参加しますが、Lesterの後任とはさぞかし重積だった事と思います。その後は自己の小編成バンドで欧州を中心に活動、81年からIllinois Jacquet Orchestraを組織し晩年まで活動しました。Jacquetは40年代から激動の米国ジャズシーンにしっかりと根を生やし、様々なバンドに在籍して生涯勢力的に活動を展開しました。

Jacquetはその長い音楽生活の中で多くの録音を残していますが、ライブ盤やレコード会社の企画モノ、コンピレーション・アルバム等のラフな制作の作品が中心です。本作は例外的にJacquetの持つ魅力を1枚に凝縮させようという、本人や制作サイドの強い意志を感じさせる仕上がりになっています。もう1作56年録音のリーダー・アルバム「Swing’s the Thing」 にも作品としてのコンセプトを感じる事が出来ます。

参加ミュージシャンに触れて行きましょう。ピアニストBarry Harrisは1929年生まれ、現在でもNew Yorkを中心に音楽活動を行い、同時に後進の指導を積極的に行っています。リーダーとしては言うに及ばず、サイドマンとしての信頼度も高いプレーヤーです。

ベーシストBen Tuckerは30年生まれ、安定したベースプレイとビート感から数多くのレコーディングに参加し、Herbie Mannの演奏で有名になったComin’ Home Babyを作曲、61年にDave Bailey Quintetでレコーディングし大ヒットを記録しました。

ドラマーAlan Dawsonは29年Pennsylvania生まれ、BostonのBerklee音楽院で57年から教鞭を執り、Tony Williams, Terri Lyne Carrington, Vinnie Colaiuta, Steve Smith, Kenwood Dennard, Billy Kilsonといったジャズシーンを代表するドラマーを育成しました。自身のドラミングもタイトなグルーヴ、テクニカルなプレイを聴かせています。

収録曲にも触れましょう。1曲目Jacquet作のオリジナル、表題曲Bottoms Up、まさしくホンカーがホンキングするためのナンバーです!Jacquet自身による指と足を使ったカウント(気持ちが入っています!)後、ピアノトリオによるイントロが始まりJacquetはいきなりルート音のB♭を上の音域でグロウしてクレッシェンドしながら吹き伸ばしています。まずリスナーを驚かして注目を集めようとするのはホンカーの常套手段で、我々は業界用語で「カシオド」と言っています(笑)。シンコペーションを多用したテーマは思わずリズムを取りたくなってしまいます!ソロが始まりエンジン全開、グロウ、シャウトの連続技です!ソロ2コーラス目にはストップタイムを活用したホンカーやロックンロール定番フレーズの登場!サビではテナーの最低音にして曲のキーであるLow B♭音を炸裂させています!否応無しにノセられてしまいますが、このまま好きな所に連れていって、と身を委ねたくなるのも演者の作戦、すっかり術中にハマってしまいます!3コーラス目は更にイケイケ状態、ベンド、シェイク、フラジオとホンカー技のオンパレード、そしてその後4コーラス目は再びストップタイム、定番フレーズ・パート2まで登場し、これは間違いなくロケンロールです!ホンキングこれでもかを臆面も無く発揮しつつ、1曲吹きっぱなしの大フィーチャーナンバー、Jacquetの面目躍如です!曲中on topのベースワークが光るTucker、良い人選であったと思います。

2曲目はPort of RicoはJacquet作のブルース・ナンバー、曲が始まった暫くはリラックスした雰囲気が漂いますが、これもホンカーならではの習性、すぐにシャウトを交えた熱い演奏に変化してしまいます。この演奏もテナー1人吹きっぱなしの独壇場です。

3曲目哀愁を帯びた美しいバラードYou Left Me All Alone、こちらもJacquetのオリジナルになります。素晴らしいテナーサウンド、マウスピースはOtto Link Metal 7★、リードはRico3番、楽器本体は多分Selmer Super Balanced Actionを使っています。サブトーンでしっとり聴かせるバラード奏法と言うよりも、張った音色、シャウト系の吹き方を中心に、時たまサブトーンをクッションとして用いるブロウで聴衆を説得しており、益荒男振りが一層光る演奏です。こちらもJacquetの大フィーチャー、3曲目にして未だ他のメンバーのソロを聴くことは出来ていません。

4曲目Sassyはオルガン奏者Milt Bucknerのオリジナルになります。印象的なマイナー調のメロディ、リズムセクションのシカケが効果的です。ここでのJacquetのソロはホンカーを基本にしていますが、端々に正統派ジャズプレイヤー然としたインプロビゼーションのアプローチを聴かせています。ここでの吹き方をよりワイルドにしたのがEddie “Lockjaw” Davisです。4曲目にして初めてHarrisのピアノソロを聴くことが出来ました。洗練されたBud Powellとも言うべき演奏です。

5曲目Jivin’ with Jack the Bellboy、Jacquetのオリジナルです。4小節のドラムソロ、ピアノトリオによる1コーラスの演奏の後テーマ奏、テナーソロと続きます。ここでもJacquetの暴れっぷりは、全米ホンカー協会が存在したら表彰されそうな勢いです!その後ドラムスとメンバー全員とのトレードがあり、ラストテーマを迎えます。ここでも最低音B♭のルート音提示による、低くて太いホンカーであるべき条件を再確認させています。

6曲目はVictor Young作スタンダードナンバー、I Don’t Stand a Ghost of a Chance with You、Ghost of a Chanceとタイトルを省略する場合が多いです。美しいバラードでテナーがテーマを演奏、ここでは3曲目You Left Me All Aloneのアプローチと異なった、サブトーン中心によるムーディな奏法を堪能できます。テーマ後ピアノソロになり1コーラス丸々を演奏しますが、テナーがラストテーマをサビから演奏するのかどうかの気配を、Harrisが探りながら演奏していたので一瞬サビ前でソロが完結しそうになりますが、そこは手練れの者、難なくサビに突入しています。ピアノソロ後ラストテーマはやはりサビから、ここではホンカーが再び降臨したかのような吹き方に変わっています。ラストはサブトーンを用いて再びLow B♭音を吹いて演奏をバッチリ締めています。

7曲目最後を飾るのはOur Delight、ピアニストTadd Dameron作の名曲、Jacquetはかなり饒舌に2コーラスをブロウしていますが、細かいコードチェンジを巧みにアプローチしています。Harrisも同時代を生きたピアニストの曲はお手の物で、流暢なソロを聴かせています。ひとつ気になるのはFlying Homeの初演でJacquetが、あれほど素晴らしい完璧なレイドバックのリズムを聴かせていたにも関わらず、この曲を含め本作収録全曲タイムが早くラッシュしている点です。何が彼をそうさせたのか、彼自身このスタイルが気に入っているのか、ホンカーとしての成熟度の素晴らしさには諸手を挙げて賛辞を送りたいと思いますが、タイムの処理に関しては個人的に物足りなさを感じてしまいます。

最後に余談ですが、今は無くなってしまった目黒のとあるジャズ・ライブハウス、そこで良く演奏をしていました。マスターが趣味でテナーサックスを演奏するので僕のことを贔屓にしてくれたのもあり頻繁に顔を出し、セッションしたりマスターとジャズの話で盛り上がったりしていました。マスターの趣味はHard-BopやBe-Bop、スイング時代のジャズでした。そもそもギターや電気楽器があまり好きではなく、ライブでギタリストがエフェクターをアンプに繋いだだけで機嫌が悪くなるようなアコースティック一辺倒の、いわゆる「頑固な」ジャズ喫茶のオヤジでした。ある日Bob Mintzerが参加する僕が大好きなYellow Jacketsのライブを聴きにいった直後に店に立ち寄り、遊びに来ていたミュージシャンに「Yellow Jacketsのライブを観に行ったんだ」と話をしているとマスターが横から話に割り込み、「おっ、来日してたんだ、どうだった?」と意外なリアクションを見せます。「素晴らしかったですよ」と答えてはみたものの、マスターがYellow Jacketsに興味があるなんて不思議だなと脳裏を過ぎりました。「テナーの音はどうだった?」と質問するので話が合致しているのだと思いつつも違和感を感じながら「素晴らしい音色でした。彼の音が大好きなんですよ」と答えました。「そうだよな、太い音だよ。テナーはああじゃないと」マスターがBob Mintzerを認めているなんて好みが変わったんだ、良いものは良いからさ、とか言いそうだなと考えていると「渋い音だから若い人には受けるかな、もうかなりの歳の筈だし」と言い出すので、???マークが何十個も点り始めました(汗)。そこでハタと気がついたのが「マスターひょっとしてIllinois Jacquetの事を言ってるんじゃないの?」「えっ?違うの?」「 Yellow Jacketsっていうフュージョンを演奏するバンドのライブに行った話をしているんだけど」「・・・・」良く似た名前で共通する事項が多く含まれていたため、平行線でありながら妙に話が噛み合ったような気がした、落語のオチのような話でした、チャンチャン。

2019.09.26 Thu

Tones, Shapes and Colors / Joe Lovano

今回はテナーサックス奏者Joe Lovanoの1985年リーダー作「Tones, Shapes and Colors」を取り上げたいと思います。

85年11月21日Jazz Center of New York Cityにてライブ録音  Label: Soul Note Engineer: Kazunori Sugiyama Producer: Giovanni Bonandrini

ts, gongs)Joe Lovano p)Kennny Werner b)Dennis Irwin ds)Mel Lewis

1)Chess Mates 2)Compensation 3)La Louisiane 4)Tones, Shapes and Colors 5)Ballad for Trane 6)In the Jazz Community 7)Nocturne

現代ジャズシーンを代表するテナーサックス奏者の一人、Joe Lovanoの初リーダー作になります。レコーディング時32歳、比較的遅咲きのデビュー作ですがその分確固たる個性を発揮しています。参加メンバーはピアニストに盟友Kenny Werner、ベーシストは堅実なプレイで数多くのミュージシャンに愛されていたDennis Irwin、ドラマーにかつてのボスであるMel Lewisを迎え、外連味のないストレートアヘッド・ジャズ、王道を行く素晴らしい演奏を聴かせています。リリースはイタリアの名門レーベルSoul Noteから。いつの頃からか米本国よりも欧州や日本のレーベルの方が米国のジャズに理解を示し、若手発掘や才能あるアンダーレイテッドなミュージシャンの紹介に尽力しています。

Ohio州Cleveland出身のLovanoは父親であるテナーサックス奏者Tony “Big T” Lovanoに子供の頃からサックスの奏法はもちろん、スタンダードナンバーの演奏のノウハウ、ギグに於けるミュージシャンにとって必要なマナー、心構え、それこそ仕事の見つけ方まで徹底した手ほどき、いわゆる英才教育を受けました。6歳からアルトサックス、11歳で持ち替えたテナーサックスをその後メインの楽器としていて、彼の愛器Selmer Super Balanced Action Silver Platedは父親から譲り受けた楽器だそうです。その後BostonのBerklee音楽院で学び、卒業後はオルガン奏者Jack McDuff, Lonnie Smithらのバンドを足掛かりにWoody Herman, Mel Lewisのビッグバンドで活躍し、その名を知られるようになりました。Lonnie Smith75年録音の作品「Afro-Desia」にてすでに確固たる個性を聴かせています。

この作品で聴かれるLovanoのフレージングやアイデア、タイム感は十分今日の彼のスタイルに通じますが、テナーの音色、特に彼独自の極太感が異なります。現在の彼のセッティングはマウスピースのオープニングが10★、リードが4番と超弩級ワールドクラスですが、「Afro-Desia」75年当時はおそらくもっとオープニングの狭いマウスピースを使用していたと思われます。音色やサウンドが後年よりもコンパクト、小振りな印象、極端な話Lavanoスタイルに影響を受けた別のテナー奏者による演奏のように聴こえてしまうからです。付帯音、雑味感、エッジの密度からリードの厚さは変わらないと推測することも可能です。巨大なオープニングのマウスピースを吹きこなす事で得られる音色の太さは、結果演奏に強力な存在感をアピールします。「ぶっとさ」がテナーサックスの魅力の一つであるのは言うまでもありませんが、しかし吹きこなすためには尋常ではないエアーと圧力、洗練された奏法、何より体力が必要になります。まさにLovanoのガタイの良い、恵まれた体格こそが彼の音色を生み出す原動力なのでしょう。いつの頃から巨大オープニングでワールドクラスの音色になったのかはおいおい検証したいと思いますが、個人的にはこのような比較によりオープニングによるサウンドの明らかな違いを発見することが出来るのは、大変興味深い事です。

その後LovanoはPaul MotianのトリオでBill Frisellと独自の演奏を繰り広げます。Frisell, Lovano共に浮遊感溢れるラインの構築に対する美学に、ある種の同一性を感じさせます。82年リリースのMotian Bandの作品「Psalm」はBilly Drewes, Ed Schullerらをゲストに迎え全曲Motianのオリジナルをプレイした意欲作です。

同じくギタリストJohn Scofieldとのコラボレーションも見逃す訳には行きません。89年録音Scofieldの作品「Time on My Hands」、同じく90年「Meant to Be」、いずれもギター、サックス「変態型」フレージングの大御所達による「危ない」ストレートアヘッド作品群です(笑)。両作ともカルテット編成ですが、前者がCharlie Haden〜Jack DeJohnette、後者がMarc Johnson〜Bill Stewartとタイプの違うリズムセクションを使い分けた形ですので、印象も随分と変わり、一層John Sco〜Lovanoラインを楽しむことが出来ます。

父親Tonyとのテナーバトルをフィーチャーした86年「Hometown Sessions」も興味深い作品で、親子の音楽的嗜好(志向)の同一性を垣間見ることが出来ます。Tonyもかなりタフなマウスピースのセッティングを感じさせる、息子と音色のテイストが良く似た豪快なテナートーンの持ち主です。

Lovanoの演奏はもちろん自己のリーダーバンドでその個性をしっかりと発揮しますが、サイドマンにおいては絶妙なバランス感を伴いながらリーダーの個性、音楽性を確実に踏まえつつ自己主張を遂げています。New Yorkのジャズシーンを始めとして多くのミュージシャンに彼の演奏が重宝されていますが、彼ほど自身の個性と他者との融和、そのブレンド感が見事なテナーサックス奏者は存在しません。かつてのMichael Breckerが演奏スタイルは全く異なりますが、よく似た立ち位置にいました。2014年作品Tony BennettとLady Gagaの共演作「Cheek to Cheek」収録1曲目Anything Goes、Lovanoのソロが上記のコンセプトを踏まえ、更にトーンとフレージングのエグさを通常よりも増量した(笑)、短いながらも素晴らしい内容です!歌伴の間奏でここまでやって良いのでしょうか?でも結果オーライ、Bennett, Gagaたちの唄を確実に引き立てています!

本作のレコーディング・エンジニアであるKazunori Sugiyama〜杉山和紀氏は米国を中心に活動しBlue NoteやColumbia, 日本のDIWレーベル等に900枚以上の録音作品を手掛けている、海外で活躍する日本人エンジニアを代表する一人です。ここでもアンビエントの奥行きを感じさせる、各楽器の音像がクリアーに収録されつつバランスの取れた、素晴らしいライブレコーディングを実現させています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Kenny Werner作曲のChess Mates、比較的テンポの速いユニークな構成と雰囲気を持った、いかにもWerner作の佳曲です。95年リリース、ボーカリスト鈴木重子さんの初リーダー作「Premiere」のプロデューサー、アレンジャーがWernerでした。リリース時彼女の歌伴を出身地の浜松で行い、Wernerのアレンジした譜面で収録のスタンダード・ナンバーを演奏しましたが(残念ながらWerner自身は不在でした)、難解な中にもユニークでユーモア溢れるセンスを感じ、「かなり普通ではない」Wernerの音楽性を垣間見る事が出来ました。

Lovanoのタイトなタイムと、スインギーなリズムセクションのグルーヴが実に合致して冒頭からスリリングな演奏を聴かせています。楽器のコントロール、Lovano実に申し分ありません!Mel Lewisのステディなドラミングが演奏をグッと引き締めています!インタールード後の、ちょっと危ない雰囲気のWernerのプレイもとても好みです。

2曲目もWernerのオリジナルCompensation、日本語では「償い」になりますが、誰ですか?テレサテンの曲で知っているよ?なんて言っている人は(笑〜僕です)。John Coltraneのオリジナル曲Naimaと、短3度と4度進行から成るColtrane ChangeとがWernerのテイストにより高次元で合体した名曲です!叙情的なイントロからテーマに入りソロの先発はWernerから、作曲者ならではの曲の構造を把握した緻密な演奏が聴かれます。続いてIrwinのベースソロ、Vanguard Jazz Orchestraのベース奏者を長年担当した名手でもあります。続いてのLovanoのソロも実に巧みに難しいコード進行をトレースして盛り上がっています。そのままラストテーマに入り、美しくもジャズの情念を迸らせる名演奏はFineになります。

3曲目La Louisiane はLovanoのオリジナル、触ると火傷をしそうなくらいに熱いジャズスピリットを満載した幾何学的メロディの曲です。テーマからそのままLovanoのソロになり、リズムセクションと一体化してとことん、フリーフォームに突入してまで盛り上がっていますが、テナーがインタールード的にテーマを演奏し、さあピアノソロに行こう、とする矢先に何故かフェードアウトです。

4曲目はLovanoのオリジナルにして表題曲Tones, Shapes and Colors、ユニークな構成のナンバーです。クレジットにはLovanoがGongsを演奏していることになっていますが、テナーと同時にGongsが鳴っているのでおそらくLewisが叩いているのでしょう。パーカッションも聴こえています。基本的にテナーの独奏、部分的にGongsやパーカッションが加わる形で演奏されています。Tones〜Lovanoにしか出せない素晴らしい音色、Shapes〜一定のリズムがずっと流れている形態、Colors〜グロートーンも交えた様々なテナーの色彩感、タイトルはこれらの事を意味しているのでしょうか?

5曲目WernerのオリジナルBallad for Trane、前出CompensationのようにColtraneの音楽パーツを用いて作曲されたナンバーと異なり、あくまでWernerのColtraneに対する敬愛の念からイメージして書かれた曲のように聴こえます。美しいメロディライン、尊敬するジャズ史上最高のテナー奏者へのレクイエム、饒舌にしてこの上なくリリカルなWernerのピアノソロ、LovanoのサウンドからはColtraneのオリジナルWelcomeでの演奏を感じました。総じて崇高さを湛えた極上のバラードプレイです。

6曲目はLovano作In the Jazz Community、アップテンポのスイングナンバーです。ここでもLovanoは実に流暢なアドリブソロを展開しており、この時点で確実に個性を確立しています。続くWernerも全く同様に自分のスタイルをしっかりと聴かせています。

7曲目ラストを飾るのはやはりLovanoのオリジナルNocturne、前出のバラードとはまたテイストが異なりテナー、ピアノともにソロのアプローチに違いが現れています。

2019.09.13 Fri

Hamp and Getz / Lionel Hampton – Stan Getz

今回はヴィブラフォン奏者Lionel Hamptonとテナー奏者Stan Getzの1955年共演作「Hamp and Getz」を取り上げてみましょう。

Recorded: August 1, 1955 Radio Recorders, Hollywood, California Label: Norgran Records Producer: Norman Granz

vib)Lionel Hampton ts)Stan Getz p)Lou Levy b)Leroy Vinnegar ds)Shelly Manne

1)Cherokee 2)Ballad Medley: Tenderly / Autumn in New York / East of the Sun(West of the Moon) / I Can’t Get Started 3)Louise 4)Jumpin’ at the Woodside 5)Gladys

今までにも当BlogでStan Getzを何度か取り上げたことがあります。Getz自身の演奏は常に絶好調で、共演者の人選、彼らの演奏クオリティにより左右された出来不出来が無い訳ではありませんが、今回共演のヴィブラフォン奏者Lionel Hamptonの猛烈なスイング感、グルーヴがGetzとどのようなコンビネーション、化学反応を示すのかに興味が惹かれるところです。この作品のプロデューサーNorman GranzはJATP(Jazz at the Philharmonic)を 1940~50年代に率いて米国、欧州各地をジャズメンのオールスターで巡業し、最盛期には全世界を風靡しました。彼には興行的な才覚があり、ミュージシャン同士の組み合わせ、時には意外性、奇抜な人選を考えて作品を多数制作、自身のレーベルClef, Norgran, Down Home, Verve, Pabloからリリースしました。本作もその一枚に該当しますがGranzの狙いは今回大いに当たったと思います。

Hamptonは1920年代後半Californiaでドラマーとして活動していましたが、30年頃からヴィブラフォン奏者に転向しました。Gary BurtonやMike Mainieriのような片手に2本づつ、計4本のマレットを使いコード感もサウンドさせるコンテンポラリー系のヴィブラフォン奏者では勿論ありません。Red Norvo, Milt Jackson, Dave Pike, Bobby Hutchersonらのような片手に1本づつ、計2本のマレットで演奏するオーソドックスなスタイルの奏者です。正確なマレットさばきとグルーヴ感、驚異的なタイム感で噂となり、36年にLos Angelesを自身のオーケストラで訪れたBenny Goodmanが彼の演奏を聴き、その素晴らしさに自分のトリオへの参加を誘い、ほどなくピアニストTeddy Wilson, ドラマーGene Krupaから成る、人種の垣根を超えた初めてのジャズ・グループ、Benny Goodman Quatetが誕生しました。超絶技巧と高い音楽性から人気を博したバンドです。

その後40年にGoodmanのバンドから円満退社で独立し、Lionel Hampton Big Bandを結成しました。当時の若手精鋭たちをメンバーに迎え、コンスタントに活動を行い、53年に挙行した欧州への楽旅の際にはClifford Brown, Gigi Gryce, Monk Montgomery, George Wallington, Art Farmer, Quincy Jones, Annie Rossといったジャズ史に燦然と輝く素晴らしいメンバーを擁していました。同時にスモールコンボでも演奏活動は継続され、Oscar Peterson, Buddy DeFranco, Art Tatumたちとも共演、名作として名高いBenny Goodmanの伝記的映画「ベニーグッドマン物語」にも演奏者(もちろん本人役)として出演しています。

言ってみれば当時の米国ジャズ界のスーパーアイドル、ドンとして君臨していたHamptonはこの時47歳、お相手のStan Getzは若干28歳、Jack Teagarden, Nat King Cole, Stan Kenton, Jimmy Dorsey, Benny Goodmanのビッグバンドを経験し、その後Woody HermanのThe Second HerdでZoot Sims, Serge Chaloff, Herbie StewardたちとThe Four Brothersを結成し白熱の演奏を聴かせました。因みに彼らの敬愛するLester Youngのヴィブラート・スタイルでアンサンブルを統一したようです。本作の前年にはトランペットの巨匠Dizzy Gillespieとの共演作「Diz and Getz」、Getz自身のリーダー作としては52年「Stan Getz Plays」をリリース、キャリア的にはまだまだニューカマーの域を出ていない若手テナー奏者Getzでしたが、自己のスタイルを確立した演奏を聴かせています。ベテラン・ミュージシャンとの異色の組み合わせ、胸を借りた演奏はプロデューサーGranzのセンスある采配によるものです。

「Stan Getz Plays」

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目はお馴染みCherokee、アップテンポの定番の1曲です。リズムセクションには米国西海岸を代表するミュージシャン、ピアニストにLou Levy、ベーシストはLeroy Vinnegar、ドラマーにShelly Manneを迎えています。おそらく当時Hamptonが西海岸に在住、GetzがNew Yorkから単身赴任してのレコーディングになり、ご当地のリズムセクションを雇った形になったと思います。ドラムの8小節イントロから曲が始まりますがテーマはなく、いきなりのテナーソロ、ヴィブラフォンがウラ・メロディのような形でバッキングしています。Getzはいつもの彼の一聴で分かる個性的テナーの音色、スピード感ドライヴ感満載のスインギーなソロですが、60年代以降のGetzとはやや趣を異にしており、タイムがかなりon topに位置しているのです(バックを務めるベースの音符の位置はon topであるべきなのですが)。60年代以降晩年まで、完璧とも言えるタイム感を聴かせてテナータイタンとしての存在感を誇示していました。この事は続くHamptonのソロで明確に判明します。早いテンポであるにも関わらず音符の粒立ちの良い安定したマレット・テクニック、そして何よりタイムです!リズムのスイート・スポット目がけて、全くちょうど良いところに音符がはめ込まれています。リズムに対して「のる」のではなく拍の枠に「はめる」が如き演奏、絶対音感ならぬ絶対リズム感を感じさるプレイです!ミディアム・テンポではレイドバックを余儀なくされる、と言うかリズムの後ろにのることは比較的容易に行う事ができます。一方アップテンポや逆にバラードでは音符のリズムに対する位置を的確に維持する事が難しく、そして重要です。前述の作品「Stan Getz Plays」収録のバラードBody and Soul、Getz初期の名演奏として名高いテイクでイマジネーション溢れるフレージング、美しい音色、ニュアンスやアーティキュレーションが十二分に発揮されていますが、タイムがかなりのon topに加え8分音符音符の揺れもあり、後年の演奏とは隔たりを感じさせます。本作録音55年はGetzのタイム感にとっては過渡期であったのではないかと思います。57年10月録音「Stan Getz and the Oscar Peterson Trio」翌11月録音「The Steamer」では全く揺るぎのない、後年に通じるタイム感をしっかりと披露しているのです。ひょっとしたら本作でのHamptonとの共演で刺激を受け、タイムに対する概念を伝授されたのかも知れません。

Hamptonに続くLevyのピアノソロ、フレージングは心地よいものを感じさせますが、Getzよりも更にon topのタイム感で演奏しています。その後GetzとHamptonの8小節交換が行われますが、丁々発止とはまさにこの事でしょう、手に汗握るトレードが聴かれます!Shelly Manneのアクセント付けもバッチリ、感極まったHamptonの声も演奏の一部に聴こえてしまいます!ラストテーマも結局提示されずFineですが、それにしてもHamptonのタイムの安定感を嫌という程思い知らされた演奏です(笑)

2曲目はバラード・メドレーTenderly / Autumn in New York / East of the Sun(West of the Moon) / I Can’t Get Started、GetzがTenderlyとAutumn in New Yorkを2曲続けて、HamptonがEast of the SunとI Can’t Get Startedをやはり2曲続けて演奏しています。1コーラスづつ曲の切れ目なしに4曲連続しての演奏、なかなか珍しいフォーマットでのメドレーです。テナーサックスの多彩な表現〜Getzのバラード・プレイの深さに改めて感銘を受けました。Hamptonもヴィブラフォンでのバラード表現を可能な限り表出しているように聴こえます。ここまでがレコードのSide Aになります。

3曲目は古いスタンダード・ナンバーLouise、Hamptonがテーマを演奏してそのままソロへ、なんとも味わい深さを感じさせるプレイです。自然体でメロディを奏でその延長での鼻歌感覚のアドリブが堪りません。ピアノソロ、テナーソロと続きますがこの手のナンバーでのGetzの小粋さも申し分ありません!ラストテーマを匂わせるプレイをGetzが行いますが、Hamptonが再登場、ラストテーマを演奏しGetzはサビを吹いています。

4曲目はCount BasieのナンバーからJumpin’ at the Woodside、1曲目Cherokeeに続く速さでの演奏です。テーマにおけるピアノ、ヴィブラフォンのバッキングがBasieビッグバンドのサウンドを醸し出しており、Manneのシンバルの使い分けも巧みです。ソロの先発はHampton、スピード感とグルーヴ感から高速走行中のアメ車を思わせます。4コーラス目にテナーによるバックリフが入り、そのまま続けてテナーソロに突入します。ここでのGetzのソロ、曲想の解釈が素晴らしいと思います。曲のイメージの中に深く入り込み、曲の構造を基に大胆に再構築しているかの如きアプローチ、タイムの捉え方さえも実にスムーズです。どこかホンカーを思わせるテイストも感じます。ピアノソロ後1コーラスHamptonのソロ、後ろでGetzがバックリフを何故か吹いています。その後HamptonとGetzの8〜4小節交換、ソロの同時進行にも発展しますが物凄いやり取りです!テナー奏者はとことん盛り上がるとホンカーに変貌するのは仕方のない事なのでしょうか(笑)、その後頃合い良きところでいきなり音量を下げてラストテーマへ、その急降下振りに驚かされますが、ヴィブラフォンのバッキングが実に相応しい!

5曲目ラストを飾るのはHamptonのオリジナルで彼の奥方の名前を冠したナンバーGladys、変形のブルースナンバーです。ヴィブラフォンとテナーのユニゾンでテーマが演奏された後、ヴィブラフォンのソロからスタートしますが、さすがコンポーザー然とした流麗なソロを聴かせます。8分音符が少しハネているように聴こえるのは奥方のイメージを反映させたのでしょうか?続くGetzはムーディに、歌うが如く朗々と、付帯音を豊富に含ませたハスキーなトーンでソロを取っています。短いLevyのソロもスインギーです。その後HamptonとGetzの1コーラス・トレードが和やかに、気持ち良さそうに、互いのアドリブの内容を反映させつつ、スリリングに展開され、ラストテーマを迎えて大団円です。

2019.09.01 Sun

All My Tomorrows / Grover Washington, Jr.

今回はサックス奏者Grover Washington, Jr.の1994年録音のリーダー作「All My Tomorrows」を取り上げてみましょう。

Recorded: February 22-24, 1994 Studio: Van Gelder Studios, Englewood Cliff, NJ. Engineer: Rudy Van Gelder Produced by Todd Barkan and Grover Washington, Jr. Label: Columbia

ts, ss, as)Grover Washington, Jr. tp, flh)Eddie Henderson tb)Robin Eubanks p)Hank Jones b)George Mraz ds)Billy Hart ds)Lewis Nash vo)Freddy Cole vo)Jeanie Bryson

1)E Preciso Perdoar(One Must Forgive) 2)When I Fall in Love 3)I’m Glad There Is You 4)Happenstance 5)All My Tomorrows 6)Nature Boy 7)Please Send Me Someone to Love 8)Overjoyed 9)Flamingo 10)For Heaven’s Sake 11)Estate(In Summer)

愛器3本が写った背後に白装束で本人が佇むジャケット写真が印象的です。70〜80年代数々のヒット作(ジャンル的にはソウル、R&B、フュージョン、総じてスムースジャズとカテゴライズされます)をリリースしたGrover Washington, Jr.、本作は初の全編アコースティック・ジャズアルバムになります。バックを務める素晴らしいジャズ・ミュージシャンたち、曲毎に違ったアレンジャーを迎え様々なカラーを出しつつ、ボーカリストもフィーチャーし、しっかりとしたお膳立てが成されたプロデュースによりGroverにはひたすらメロウに吹かせています。

Groverは1943年New York州Baffalo生まれ、音楽一家で育ち8歳の時に父親であるGrover Sr.からサックスを与えられ、音楽にのめり込むようになりました。徴兵でArmyに入隊した際にドラマーであるBilly Cobhamに出会い、兵役を終えた後にCobhamがGroverをNew Yorkのミュージシャン達に紹介して音楽シーンに参入するようになりました。いくつかのレコーディングを経験した後、アルトサックス奏者Hank CrawfordがCreed TaylorのKUDU Labelのレコーディングに参加できず、Groverに白羽の矢が立ちその代役を務め、71年に初リーダー作である「Inner City Blues」を発表しました。幸先の良いラッキーなスタートです。

時代はクロスオーバー、フュージョンが台頭し始めた頃、Groverの音色はジャズファンはもちろん、R&Bやソウルミュージックのオーディエンスのハートを射止め初リーダー作にしてヒットを飛ばしました。その後74年「Mister Magic」、75年「Feels So Good」の出来栄えでその人気を不動のものにしました。

スタジオ録音だけではなく、ライブ演奏でもその本領を発揮した77年録音の作品「Live at the Bijou」、素晴らしいクオリティの演奏です。ジャズミュージシャンの本質は生演奏にあることを見せつけてくれました。

そして80年Groverの代表作にして最大のヒット作、82年グラミー賞Best Jazz Fusion Performanceを受賞した大名盤「Winelight」を発表しました。

メンバーの人選完璧、Groverの音色、フレージング、音楽性の秀逸ぶり、演奏申し分なし、選曲のセンスは言うに及ばず、アレンジ抜群、企画力の淀みなさ、聴かせどころやハイライトシーン設定の巧みさ、そして何より時代が要求する音楽と内容とが見事に合致したのでしょう、80年代を代表する作品の一枚となり、結果多くのフォロワーを生み出しました。スムースジャズの父という呼ばれ方もされていますが確かに、Kirk Whalum, Najee, Boney James, Brandon Fields, Everette Harp, Gerald Albright, Kenny G, Nelson Rangel, Eric Marienthal, Walter Beasley, Richard Elliot, Dave Koz, Warren Hill, Mindi Abair… 彼以降に現れたスムースジャズのサックス奏者は殆どGroverの影響を受けていると言っても過言ではありません。具体的にはメロディの吹き方、こぶしの回し方、ビブラート、ブルーノートを用いたニュアンス付け等、スムースジャズに於けるサックスのスタイルを確立させました。Charlie Parkerが以降のサックス奏者に与えた多大な影響、John Coltrane以降のテナー奏者がことごとくColtraneの影響を受けた事に匹敵するほどのセンセーショナルなものと言えるかも知れません。更にParker, Coltraneの影響を受けたサックス奏者が開祖の演奏を越えることが困難なのと同じく、スムースジャズのサックス奏者たちはGroverの前では存在が霞んでしまいます。楽器の音色の素晴らしさ、一音に対する入魂の度合い、表現力の深さ、歌い回しの巧みさ、間(ま)の取り方、いずれもがパイオニアとしてのプライドに満ちた風格により、他者との間に大きな溝が存在します。一聴すればGroverとすぐに分かる明確な個性の発露、他のスムースジャズ・サックス奏者は楽器のテクニックの素晴らしさは感じますが、ひょっとしたら僕自身の勉強不足に起因するのかも知れません、誤解を恐れずに述べれば自分自身を表現しようとせずに、スムースジャズ・サックス・スタイルを吹いているので楽器の上手さの方が目立ち、結局皆同じに聴こえてしまうのです。個人的にはフォロワーの中でもKirk WhalumがGroverの後継者たるべく断然その存在感をアピールしています。Whalumの2010年発表のリーダー作「Everything Is Everything (The Music Of Donny Hathaway)」はDonny Hathawayの音楽をKirk流に解釈した素晴らしい内容、そして濃密なテナーの音色で僕の愛聴盤でもあります。因みにKirkはGroverと同様にソプラノ、アルト、テナーを吹き分け、同じく楽器はGroverが愛用していたJulius KeilwerthのBlack Nickelモデルを使用しています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目はStan GetzとJoao Gilbertoの76年作品「 The Best of Two Worlds」に収録のナンバー、E Preciso Perdoar(One Must Forgive) 。Getzはもちろんテナーで演奏していますがGroverはあえてキャラが被らないように選択したのか、ソプラノで演奏しています。この曲のアレンジはGrover自身と本テイク参加ギタリストRomero Lubambo、アコースティック・ギターを美しく奏でています。Groverのソプラノによるテーマ奏はひたすらしっとりと穏やかに演奏されますがチューニング、ピッチがずいぶん高く設定されています。特に伸ばした音が次第にキュッと高くなる傾向にあり、この人はいつも高めに音を取る人というイメージがあり、ここではギターとユニゾンでのメロディ奏、ギターの正確なピッチに対してチューニングの高さを感じてしまいますが、サビでのEddie Hendersonのトランペットとのユニゾンではチューニングの違和感を感じないのは互いのピッチ感が揃っているのか、トランペットが合わせているのか。管楽器のチューニングとは相対的なものなのだと再認識しました。ごく自然にソロに移り変わりますが。用いる音のチョイスが絶妙でⅡm7ーⅤ7やDiminishコードのアプローチがさりげなくジャズ的、Groverの演奏はメロウなだけでなく、ジャズ的な表現がスパイスになっています。メロディを担当したプレイヤー達であるHenderson、Lubamboのソロもフィーチャーされていますが、バックを務めるHank Jonesのピアノ、George Mrazのベース、Billy Hartのドラム、Steve Berriosのパーカッションも実に的確です。

2曲目はVictor Youngの名曲When I Fall in Love、Groverのテナーの他、Hendersonのフリューゲル・ホーン、Robin Eubanksのトロンボーンによる3管のハーモニーが大変美しいです。ここでのアレンジはLarry Willis、ピアニストとしても良く知られています。ホーンのアカペラからGroverのテーマ奏、マウスピースのオープニングが広い音色です。確か10番にリードも4番あたりのタフなセッティングでした。随所にアンサンブルが入り、テナーのメロディとの対比を聴かせつつテナーソロへ、倍テンポのスイングになりますがリズムには漂うように大きく乗って吹いています。せっかくのジャズチューンなので徹底してジャズ的アプローチで聴かせてくれるのか、と期待しましたが、ここでもスパイス的な範囲でのジャズが表現されていました。

3曲目はFreddy Coleのボーカルをフィーチャーしたナンバー、I’m Glad There Is You。Hankのピアノイントロに続きソプラノがスイートにメロディを演奏します。ColeはかのNat King Coleの実弟、声質や歌い方は実に良く似ていますが兄のような有無を言わさぬ強力な個性、アクの強さがなく、優しい歌唱を聴かせており、Groverの音楽性に合致していると感じました。ここでのアレンジはGroverとプロデューサーのTodd Barkan、ドラムスはLewis Nashに交替します。Hankのバッキングが一段と冴えて全体のサウンドを引き締めています。

4曲目はGroverのオリジナルHappenstance、Hendersonとの2管で豊かなアンサンブルを聴かせています。Hendersonが流麗にソロを展開し、最後のフレーズを受け継ぎつつHankのソロにスイッチします。続くGroverのソロは力強さも併せ持ったアプローチで演奏を締めています。

5曲目は表題曲All My Tomorrows、Jimmy Van Heusenのナンバーです。再び管楽器のハーモニーが聴かれますがソロイストであるGroverのソプラノ以外6管編成によるアンサンブル、こちらは名トロンボーン奏者にしてアレンジャー、Slide Hamptonの編曲になります。流石のゴージャスなサウンドが聴かれ、一層Groverのソプラノ・プレイが光ります。Hankのピアノソロがフィーチャーされ再びソプラノとアンサンブルによる後テーマ、脱力の境地といった演奏に終始しています。

6曲目はEden AhbezのナンバーNature Boy、Nat King Coleの歌唱やJohn Coltraneの演奏でも有名です。こちらもWillisのアレンジがスパイスを利かせており、メリハリのある構成を楽しめます。ピアノのイントロに続きルバートでのテーマ奏、その後ミディアム・スイングでソプラノのソロですが、レイドバック感とコードに対するスリリングな音使いが素晴らしいです。ドラムはNashに変わりますが、確かにこの手の曲想には彼のドラミング・テイストが似合っています。Hankのソロもツボを押さえた展開を聴かせ、ピアノソロ後にバンプが設けられ、再びルパートでラストテーマが演奏されます。

7曲目は5曲目同様にHamptonの6管アレンジが冴えるPlease Send Someone to Love、Groverのテナーがフィーチャーされます。マンハッタンのジャズクラブにて、メンバー全員がシックな正装でのヒップな演奏をイメージさせる豪華なサウンドです。コンパクトな中にジャズのエッセンスとゴージャスさが上手くブレンドされた、Groverのテナーの本質がよく表れている演奏です。

8曲目は再びColeのボーカルをフィーチャーしたStevie Wonderの名曲Overjoyed、Stevieの85年作品「In Square Circle」に収録されています。ColeとGrover両者のアレンジ、ピアノとソプラノが妖艶な雰囲気で美しくイントロを奏でます。オリジナルのStevieの声質が高めなので、ここではColeの歌声が随分と低く感じます。テーマの後ろでGroverの他、Hendersonのフリューゲルもオブリガードを吹いていますが互いに干渉や邪魔せず、ボーカルの引き立てに役に徹底しています。難しい音程のインターバルをCole果敢に歌ってはいますが、Stevieの完璧なピッチと比較してはいけませんね。ソプラノが歌のメロディを踏まえつつソロを取り、あと歌になります。元の曲の構成が十分に素晴らしいので、アレンジとは言ってもそれらのパーツを再構築した次元に留まっています。

9曲目こちらもムーディな名曲Flamingo、Willisのアレンジは早めワルツのリズムをチョイスしました。Groverはアルト、Hendersonがトランペットでメロディをシェアし、ソロを吹いています。ピアノソロ後にラストテーマへ。ラストの2管のアンサンブルが演奏に終止感を与えています。

10曲目Jeanie BrysonとColeふたりのボーカリストをフィーチャーしたバラードFor Heaven’s Sake、こちらはLincoln Center Jazz Orchestraの指揮者を務めたRobert Sadinのアレンジになります。ソプラノとピアノのDuoでイントロが始まり、ColeとBrysonが8小節づつ交互に歌い、サビでは4小節づつ、その後はColeが8小節を歌い、Groverの目一杯スイートなソロが半コーラス演奏され、フレーズの語尾をキャッチして後半をHankが演奏、あと歌はサビからBrysonが担当し、オーラスにはふたりユニゾンで歌っています。男女の声はおよそ4度異なりますが、ふたりの中庸を行くキーを選択したのでしょう。全編にMrazの堅実にして包み込むような、包容力に満ちたベースラインが健闘しています。

11曲目ラストを飾るのはEatate(In Summer)、GroverとWillisのアレンジになりますがボサノバのリズムで原曲に忠実に、特にキメやリハーモナイズは施されず、Groverのソプラノでのテーマ後ピアノ、ベースまでソロが聴かれます。ラストのバンプ部でフェードアウトになります。スタンダード・ナンバーを自身の作品で取り上げる機会が少なかったGrover、本作ではひたすらリラックスした雰囲気で演奏を繰り広げていますが、この後に「Winelight」他のパンチの効いた彼の作品を聴きたくなる衝動に駆られます。

2019.08.24 Sat

Rough ‘n’ Tumble / Stanley Turrentine

今回はテナーサックス奏者Stanley Turrentineの1966年録音リーダー作「Rough ‘n’ Tumble」を取り上げたいと思います。

Recorded July 1, 1966 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ Label: Blue Note 84240 Producer: Alfred Lion

ts)Stanley Turrentine tp)Blue Mitchell as)James Spaulding bs)Pepper Adams g)Grant Green p)McCoy Tyner b)Bob Cranshaw ds)Mickey Roker arr)Duke Pearson

1)And Satisfy 2)What Could I Do Without You 3)Feeling Good 4)Shake 5)Walk On By 6)Baptismal

60年代中頃Blue Noteに残されたTurrentineの作品は佳作揃い、個人的にも愛聴盤が多いです。以前当Blogで取り上げた「The Spoiler」は本作の2ヶ月後に録音された、ほぼ同一の楽器編成、メンバー、Duke Pearsonのアレンジが施された続編的な内容、選曲の作品になります。自らもホーン・セクションの一員として参加しつつ、例のTurrrentineにしか出せない魅惑のテナーサウンドを駆使して(本人にとってはおそらく鼻歌感覚でしょうが)華麗にメロディを奏でています。

後年2007年のリリースですが67年録音の作品「A Bluish Bag」。

08年リリース同じく67年録音の作品「The Return of the Prodigal Son」(放蕩息子のご帰還〜凄いタイトルです!)。

こちらは68年録音、リリースのBurt Bacharach特集「The Look of Love」。

いずれの作品もOctet, Nonet, Tentetといった大編成でTurrentineの持ち味をよく理解したPearsonの名アレンジにより、ジャズのスタンダード・ナンバーからAntonio Carlos Jobim, Burt Bacharach, Lennon-McCartney, Aretha Franklin, Henry Mancini, Ashford-Simpson, Ray Charles, Sam Cooke等のポップス、R&Bの名曲をジャジーに、ゴージャスに演奏しています。演奏者全員がジャズプレーヤーであるため、リズムやグルーヴに多少の違和感はありますが、そこがまた味になっていると解釈しています。

これらの編成にさらにオーヴァー・ダビングですがストリングス・セクションが加わった作品が68年録音「Always Something There」です。

ストリングス・セクションが加わった事により、一層豪華なサウンドを楽しむ事が出来る作品となりました。Turrentineの演奏はワンホーン・カルテットでも十分に素晴らしさを発揮しますが、ホーン・セクション、ストリングス・セクションが加わる事により、パワーブーストされた如くテナーサックスの魅力が何倍にも増幅されるのです。でもどんなプレイヤーでも編成が増え様々な楽器が加わる事で魅力が拡大するとは限らず、人によっては演奏が単に繁雑になるだけの結果を迎える場合もあります。Turrentineは持っている器の大きさ、許容量が半端ない演者なので、大編成で自身の魅力が輝くのです。この豪華な編成によるテナーサックス・フィーチャリングの演奏、他のプレイヤーで思い出すのがMichael Brecker晩年2003年録音、リリースの作品「Wide Angles」です。この作品は04年グラミー賞ベストラージジャズアンサンブル・アルバムを受賞しました。

Quindectet(造語です)〜15人編成による作品、Michael本人とGil Goldsteinのアレンジ、楽器編成は4リズムに加えてperc, tp, tb, fr-horn, oboe, b-cl, alto-fl, violin×2, violaそしてMichaelのテナー合計15人編成、アルバムではアレンジのみ担当で楽器演奏はしていなかったGoldsteinが、日本公演ではピアノとアコーディオンを演奏、一人増えて16人編成となりました。メンバー紹介時にステージ上のミュージシャンから「ひとり増えたのならQuindectetじゃないわよね?」なんて言葉も聴こえて来ました。究極のエンターテイメント・ラージ・アンサンブル集団として日本でツアーした事が今となっては夢のようです。金管楽器、弱音系木管楽器、弦楽器によるオーケストレーションと素晴らしい楽曲、緻密にして華麗なアレンジが光るアンサンブル。Michaelのテナーサックスは一人で何人分ものプレイを聴かせますが、本作や来日公演ではMichaelを音楽的、人間的に尊敬している、彼のことを大好きな共演ミュージシャン達の素晴らしいサポートにより、半端のないパワープレイを体験するする事ができました。

余談ですがMichaelのマネージャーDarryl Pitt(彼はMichaelの専属カメラマンでしたが、Depth of Field〜被写界深度〜という名前の音楽事務所を立ち上げ、Michaelを専属タレントとして擁していました)とQuindectet来日時に会い、「Wide Angleって名前の作品なのにWide Angelって勘違いする人が多くてさ」と言いながら背中の大きな翼を両腕で表現し、「どれだけ大きな天使の翼なのかな」と笑いながら話していました。さすがMichaelと付き合いの長い方、洒落っ気たっぷりです!

60年代のBlue Note Labelは10名以上の素晴らしいテナーサックス奏者を自社アーティストとして抱えていました。Dexter Gordon, Joe Henderson, Wayne Shorter, Hank Mobley, Sam Rivers, Tina Brooks, Ike Quebec, Fred Jackson, Don Wilkerson, Tyron Washington, Harold Vick, Charlie Rouseたちですが、Turrentineだけが破格の扱いでこのような大編成によるポップス路線を歩むことが出来ました。大編成のレコーディングには圧倒的に経費がかかるので、ペイ出来る試算が無ければなりません。これだけの数の作品を制作出来たからにはいずれもがそれなりにヒットしたのでしょう。Blue Noteの他楽器奏者を見渡してもTurrentine級の扱いを受けたミュージシャンはそれほど存在しないと思います。それだけ彼の演奏に魅力があった訳ですが、例えば他のテナー奏者にポップスやロックのメロディを吹かせてもそれなりの表現をするに違いありませんが、ひたすらジャズ演奏に終始してしまう事でしょう。Turrentineの本質は間違いなくジャズプレイヤーですが、ジャズ以外のジャンルの表現力、そのポテンシャルを半端なく持ち合わせているため、ジャズをルーツとしながらポップス、ロックのフィールドに誰よりも容易に入り込む事が出来ています。多くのオーディエンスを獲得したのも頷け、ジャンルを超えた表現者としてテナーサックスでは初めてのクロスオーバー、フュージョン・プレーヤーと言えると思います。ちょっと間違うと「歌のない歌謡曲」ならぬイージーリスニングに成り下がってしまう危険性を孕んでいますが、「魅惑のテナーサウンド」がしっかりと歯止めを掛けています。彼のテナーサックスの音色、ニュアンス、ビブラート、ほとばしる男の色気が特に黒人のおばさま達に絶大なる人気を博し、人気絶頂時にはコンサート、ライブで楽屋からの出待ちを受けていたそうです(爆)。おそらくJames Brown並みのアイドルだったのでしょう、おばさま達に揉みくちゃにされ、記念に持って帰ろうと髪の毛を抜かれていたのを目撃したという話も聞いたことがあります(汗)。

Blue Note Label後も様々なレーベルから大編成の作品を多くリリースし、「最も稼ぐジャズテナー奏者」として君臨したと言われています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目はピアニストRonnell BrightのナンバーAnd Satisfy、ホーン・セクションとギターのメロディとの絡み具合が如何にもジャズロックと言ったナンバーです。続くTurrentineのメロディ奏にはおばさまで無くともグッと来てしまいます(笑)。改めてホンカー、テキサス・ファンクのテイストを感じますが、端々に聴こえるジャズフレーバーに彼でしか成し得ないバランス感を見い出すことが出来ます。続くBlue Mitchell、Grant Greenふたりのソロには逆にしっかりとジャズを感じました。ラストテーマ後ワンコードでシャウト・プレイ、何故にフェードアウト?もっと聴きたかったです!

2曲目はRay CharlesのナンバーWhat Could I Do Without You、素晴らしい選曲、Turrentineの持ち味にぴったりのラブソングです。全編吹きっきりの演奏、どこまでアレンジされているか分かりませんがMcCoy Tynerのバッキングが良い味を出しています。ブルースやR&Bのバンドで演奏活動をスタートさせたTurrentineの、ソウルフルなブロウを堪能できるテイクに仕上がりました。

3曲目は英国の作曲家Anthony NewlyとLeslie Bricusseのコンビによるミュージカル・ナンバーFeeling Good、本作録音の前年に初演され曲自体も様々なミュージシャンに取り上げられました。哀愁を感じさせるメロディをTurrentineが素晴らしいニュアンス付けで吹く、小気味好いミディアムのスイング・ナンバー、ホーンセクションのリフがソロ中を通して効果的に用いられています。ブルージーなバッキングを聴かせていたMcCoyがそのままソロに突入、曲想に合致したメロディアスなソロを聴かせます。ホーンセクションのインタールードに促されてラストテーマへ。ここでもアウトロでTurrentineのシャウトが聴かれますが、こちらも残念ながらフェイドアウト、多くのオーディエンスにアピールするためには盛り上がり切ってはいけないのでしょうね、きっと。ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目はSam CookeのヒットナンバーShake、こちらもTurrentineのR&B魂が発揮される演奏です。比較的低い音域でテーマを奏で、すぐさま上の音域でソロが始まります。おそらくCookeのオリジナル演奏のキーに合わせたのではないでしょうか、ホーンセクションのバックリフを受けながら気持ち良さそうにブロウしているのが伝わってくる演奏です。Greenのグルーヴィーなソロに続きラストテーマ、その後再びテナーソロになりますがフェードアウトは定番なのですね。

5曲目はBacharachの名曲Walk on by、McCoyが奏でるリフが可愛らしいです。Bacharach作曲のノーブルなメロディを本当に美しく吹けるジャズプレイヤーはTurrentineしかいないでしょう。おっと、Stan GetzのBacharach特集66,67年録音「What the World Needs Now」の存在を忘れていました。こちらもテナーサックスが演奏するBacharachメロディの名演集、本作と双璧をなす作品です。

6曲目アルバムの最後を飾るのはJohn Hinesの作品Baptismal、この曲のみ異色な選曲ですが作品のスパイスになっています。Baptismalとはキリスト教の宗教用語で意味は洗礼式です。厳かな雰囲気の中に独特なカラーが光る名曲です。Turrentineの音色も一層輝く名演奏だと思います。私事で恐縮ですが、2019年9月27日六本木Satin Dollにて僕が率いるテナーサックス4管編成(峰厚介、山口真文、佐藤達哉、浜崎航)、佐藤達哉テナーサミットにてこの曲を取り上げようと考えています。この曲の演奏を気に入った方はぜひ聴きにいらしてください。

2019.08.13 Tue

The Panther! / Dexter Gordon

今回はテナーサックス奏者Dexter Gordonの1970年録音作品「The Panther!」を取り上げたいと思います。

1970年7月7日 New York Cityにて録音 Producer: Don Schlitten Label: Prestige (PR 7829)

ts)Dexter Gordon p)Tommy Flanagan b)Larry Ridley ds)Alan Dawson

1)The Panther 2)Body and Soul 3)Valse Robin 4)Mrs. Miniver 5)The Christmas Song 6)The Blues Walk

Dexter Gordonのリラクゼーション、色気、益荒男振りが発揮された作品です。23年2月27日生まれのDexter録音時47歳、音楽家、ジャズプレイヤーとして円熟味を帯び、その個性を十二分に発揮しています。Dexterは40年代から活動を開始し、ジャズジャイアンツと軒並み共演を重ねその音楽性を研鑽し、自己のスタイルを確立させて行きました。自身はLester YoungやBen Websterからの影響が顕著ですが、独自のスタイルを築き上げ、若い頃のJohn ColtraneやSonny Rollinsに逆に影響を与えています。45〜47年録音の初リーダー作に該当する「Dexter Rides Again」では音色とフレージングに関して自己のスタイルの萌芽を感じさせる演奏を聴かせています。後年よりもワイルドに、ホンカー的な要素も内包しています。

しかしこの作品で歴然と違うのがタイム感です。後年のDexterの最大の特徴であるレイドバックとリズムのタイトさが感じられず、ここではごく普通のテナー奏者のタイム感で演奏しています。率直に言ってタイム感が違うとDexterには聴こえませんね。リズムに対する極端な「超あとノリ」という、誰も表現しなかった、しかしコロンブスの卵的な点に着目し、若しくは着目せずともごく自然に、プレイヤーの個性を発揮すべしというジャズマンに課された命題をクリアーした演奏スタイルは50年代以降に確立されるのですが、Dexterはドラッグで50年代のかなりの期間を棒に降っています。同時期に米国のかなりの数のジャズミュージシャンがドラッグに染まりましたが、Dexterほどの第一線ジャズマンが塀の中に長期間幽閉された例はなく(Art Pepprが60年代後半を麻薬療養施設で過ごしましたが)、かなりのジャンキーだったのかも知れません。Hank Jonesが90歳を過ぎても第一線でピアノを弾き続け、Benny Golsonがやはり90歳にして度々の来日を重ね、嬉しくなるくらいにその健在ぶりを示し、Roy Haynesに至っては現在94歳、未だにドラムを叩いているのは驚異的な生命力、精神力ですが、この3人はドラッグとは無縁だったと聞いています(Golsonは酒もタバコも嗜まなかったそうです)。ドラッグがもたらす効能としてのジャズの創造性はあるのか無いのか僕には分かりませんが、代償の方は確実にあるようで、多くのジャズマンがその人生を短命に終え、志半ばで幕を閉じています。Dexterは67歳でその生涯を終えましたが、まだまだこれからだったのか、十分に音楽を開花させたのかは人によって判断が違うと思います。

55年9月18日録音「Daddy Plays the Horn」と同年11月11, 12日録音の「Dexter Blows Hot and Cool」の2作でDexterのスタイルは確立されたと言って良いでしょう。彼ほどビートに対して後ろにリズムのポイントを感じて吹くテナー奏者は存在しません。きっちりと正確に、ビハインドを意識して8分音符を繰り出す〜レイドバックが巧みな奏法がDexterのスタイルの特徴です。

Dexterはこの2作の後も塀の中にお隠れになり(汗)、60年に「The Resurgence of Dexter Gordon」を録音、ここから本格始動が始まりますが、Resurgence=中興とはよく言ったものです!前人未到の(笑)レイドバック、音色、フレージング、ニュアンス、引用フレーズを多用したユーモア感溢れる、Long Tall Dexterの面目躍如です!

Dexterの使用楽器ですが、この頃はBen Websterから譲り受けたSelmer Mark Ⅵ、マウスピースはOtto Link Metal Floridaの8番、リードはRico 3番です。65年飛行機の乗り継ぎの際に、それまで使用していた愛器Conn 10Mを紛失(盗難?)しました(Dexter Blows Hot and Coolジャケ写の楽器です)。マウスピースも長年Hollywood Dukoffの5番を使用していましたが、サックスケースの中に入れていたのでしょう、そちらも紛失、とても残念なことをしました。おそらく紛失は欧州での出来事(60年代の欧州は米国ジャズマンの好市場でしたから)、楽器がなく手ぶらになってしまったDexterはしかし演奏を挙行すべく、当地に64年から移住したWebsterを頼りLondonないしはAmsterdamに彼を訪ね「Ben、サブの楽器を譲ってくれないか?」とでも口説き、その後の愛器となるMark Ⅵを入手したのではないかと想像しています。なかなかミュージシャンが使用楽器をどのように入手したかを知るのは困難な事なので、それに想いを馳せるのも楽しいです。それにしても古今東西楽器の紛失、盗難の話は後を絶たず、多くのミュージシャンがそれ以降の音楽性が変わってしまうほどの影響受けることになります。Steve Grossman, David Sanborn, Bob Berg, Joe Henderson(彼の場合は奇跡的に楽器が戻りましたが)、彼らの楽器紛失は自身の演奏や活動にかなり作用しました。たいていの場合は悪い方への影響ですが、Dexterの場合はかなり良い楽器をWebsterから購入することが出来たのでしょう、ひょっとしたらマウスピースも譲り受けたのかも知れません。テナーの音色は明らかに変わりましたが、新しく手にしたMark Ⅵ、Otto Link Florida8番の持ち味を最大限に引き出して自身の個性に転化した様に思います。背の高い(198cm!)テナーサックス奏者ならではの重心の低い、野太いダークな音色は実にOne and Only、レイドバックとたっぷりとした音符の長さが合わさり、Sophisticated Giantの異名も取りました。

その後61年に名門Blue Note Labelと契約し「Doin’ Allright」を皮切りに合計9作をリリース、幾つかのレーベルからも作品を発表し69年からはPrestige Labelより12枚をリリース、本作はその中の1作になります。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目はDexterのオリジナルにして表題曲The Pantherです。ジャズロック風のリズムでのブルース、細かいシンコペーションが多用されたベースパターンからイントロが始まります。ピアノ、ドラムが加わり、その後御大Dexterの登場です。しかしこの素晴らしい音色をなんと形容したら良いのか、言葉に詰まってしまいますが、頑張って述べたいと思います。ジャズテナーサックス音の定義があるとすれば全くその王道を行く、豪快一直線、「ザワ〜」「ジュワ〜」「シュウシュウ」的な付帯音の豊かさ、「コーッ」という木管楽器的な雑味、コク味、暗さ明るさの絶妙なコントラスト、極太のゼリー状の音塊が「ムニュ〜」とばかりにサックスのベルから出ているかの如くの発音、発声。例えばMiles DavisやStan Getzのように七色の音色を使い分ける華麗な奏法という訳ではなく、音の色合いとしては白黒なのですが、実に濃密にして漆黒の黒色、モノトーンを唯一の武器に演奏していますが誰も太刀打ちする事は出来ません。

Dexterソロ中2’36″あたりで引用フレーズBurt Bacharach作曲のI Say a Little Prayerの一節を吹いていますが、「あれ?この曲は何だったか…」なかなか曲名が出てきません!思い出したら「そうか、Bacharachのあの曲だ!」。当時Bacharachが流行っていましたが引用の名手でもあるDexter、ポップス方面から意外なところを突いてきます。続くTommy Flanaganのソロは自身の個性を発揮しつつも決して出過ぎず、名脇役の席を常に暖めています。ベースのLarry Ridleyも全編に渡り心地よいグルーヴと的確なアプローチを聴かせ、 Alan Dawsonのドラミングも安定感抜群です。

2曲目はスタンダードナンバーBody and Soul、本作中最も収録時間の長い演奏で、John Coltraneの同曲のヴァージョン(60年録音Coltrane’s Sound収録)構成が基になっています。Coltraneはオクターブ上でテーマを吹いていますが、Dexterはオクターブ下の音域で演奏、この美しいバラードは上下のオクターブ共に演奏可能、両者は全く違った表情を見せ、テナー奏者の定番の所以でもあります。そこでも用いられているイントロ(2小節間の計8拍を3拍、3拍、2拍と取っているので一瞬変拍子に聴こえます)に始まり、Dexterの朗々としたテーマ奏、1’32″からのコード進行〜いわゆるColtrane Changeもしっかりと流用されています。Dexterの吹く8分音符はここでもレイドバックを極め、朗々感を更に後押ししています。あまりバウンスせずにイーヴン気味に演奏されている8分音符とのコントラストも特徴です。ここで注目すべきはDawsonのドラミング、スネアによる3連符やシンバルによるカラーリングが、Coltraneのヴァージョンよりもかなりゆっくりとしたテンポ設定を、レイジーなムードに陥いらせる事なく緊張感をキープさせる起爆剤になっていると思います。DawsonはPennsylvania出身のドラマー、かのTony Williamsの先生でもあり、57年からBerklee音楽院で教鞭を執りました。かつて一度だけ共演したことがありますが、演奏後に明瞭な英語で僕の演奏についてを色々と分析してくれたのが印象的でした。さすが多くの名ドラマーを輩出した教育者です!

3曲目はDexter作のValse Robin、自分の娘に捧げたナンバーで、ゆったりとしたワルツナンバー、道理でDexterの吹き方にも柔らかさ、スイートさが一層加味されているように聴こえる筈です。テーマのサビのメロディに出て来るE音より下のサブトーンのふくよかさが堪りません!イントロ無しでストレートにメロディが演奏され、Dexterのソロ、Flanaganと続き再びテナーソロがあってラストテーマ、小唄感覚の小品です。ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目DexterのオリジナルMrs. Miniver 、こちらもいきなりテーマメロディから曲が始まるDexterらしい小粋な雰囲気を持つスイングナンバーです。テナー、ピアノ、ベースとソロが続き、ドラムとの8バースも行われ、文字通りDexter Gordon Quartetの全てを堪能出来ます。エンディングにもしっかりと工夫が施され、この曲がレコードの冒頭に位置してもおかしくない、完成度の高い演奏です。

5曲目はクリスマスソングで有名なその名もThe Christmas Song、ボーカリストMel Torme作の美しいバラードです。米国にはクリスマスソングが何百何千曲と存在するそうですが、その筆頭に挙げられる有名曲です。Tormeによればこの曲は、焼け付くような暑い夏の盛りに書かれたのだそうです。偶然ここでの演奏も真夏の7月に録音されましたが、クリスマスソングを季節外れの時期に演奏してもそうは気分が出なかったと想像できますが、アルバムのリリースが12月だったのでしょう、先を見越していました。曲のキーはD♭、ジャジーでダークなキーですが作曲者Tormeもこのキーで歌っていました。Dexterの吹きっぷりには一層気持ちが入っているようです。テーマ奏1コーラスの後テナーソロがAA半コーラス、ピアノがサビBで8小節ソロを取り、ラストAで再びテナーがメロディを奏でてイントロの音形に戻りFineです。やはり美しい楽曲は季節に関係なく人の心に響きますね。一番最後のメジャー7th〜9thの音、3rd〜5thの音を奏で、再びメジャー7th音、最後に9thで落ち着き、ビブラートを掛けながらエアーだけでフェードアウトする奏法はある種定番ですが、Dexterの音色、タイム感ではまた格別です!

6曲目ラストを飾るのはLou Donaldson作曲The Blues Walk、54年8月録音「Clifford Brown & Max Roach」での演奏がブリリアントです。

これまでがミディアムテンポやバラード演奏だったので、実際にはさほど早くはないテンポ設定の筈ですが、ここではかなりのアップテンポに感じます。とは言えDexterのレイドバックが逆の意味で冴え渡り、リズムセクションも対応に苦心しているように聴こえます(汗)。Dawsonのシンバルレガートはかなりon topに位置しているので、Dexterの8分音符に引っ張られて遅くならないよう、苦慮しつつ的確にタイムをキープしています。ベーシストも同様の対応に迫られているように感じます。途中Flanaganが珍しくピアノのバッキングの手を休め、John Coltrane QuartetのMcCoy Tynerのような状態をキープしています。もしかしたらDexterのあまりのレイドバック振りにバッキングを放棄したのかも知れません(汗)。テナーソロの最後にはJay McShann〜Charlie ParkerのThe Jumpin’ Bluesのリフが引用されますが、Dexter実は翌月8月27日に同じくPrestige Labelにこの曲を表題曲とした「The Jumpin’ Blues」をレコーディングします。このアルバムのラスト曲で次の作品のプレヴューを行なっていた訳ですね。のんびり屋さんかと思っていましたが、ちゃんと将来設計もこなせる人です。

2019.08.04 Sun

Eastern Rebellion 2 / Cedar Walton

今回はピアニストCedar Walton1977年録音の作品「Eastern Rebellion 2」を取り上げてみましょう。

77年1月26, 27日録音 Studio: C.I. Recording Studio, New York City, NY Label: Timeless Engineer: Elvin Campbell Producer: Cedar Walton

p)Cedar Walton ts)Bob Berg b)Sam Jones ds)Billy Higgins

1)Fantasy in D 2)The Maestro 3)Ojos de Rojo 4)Sunday Suite

Cedar Waltonはピアノソロ、トリオからカルテット、クインテット、ビッグバンドまで様々な編成で作品をリリースしていますが、個人的にはテナーサックス・ワンホーンによるカルテットが最もWaltonの個性を発揮出来るフォーマットと考えています。本作の約1年前、75年12月に録音された前作「Eastern Rebellion」も本作同様全曲Cedar Waltonのオリジナル、アレンジを演奏している佳作、名手Sam JonesとBilly Higginsを擁したカルテット編成、ただテナーサックスが本作参加のBob BergではなくGeorge Colemanになり、彼の参加はこの作品のみに留まります。Waltonは本作にてBob Bergというニューヴォイスを得て、以降自己の音楽を推進させることが出来たように思います。Waltonの書く楽曲のメロディライン、その音域、コード感、全体的なサウンドがテナーサックス、特にBergの個性的な(エグい!)音色や吹き方に合致していると感じるのです。他のテナー奏者の音色、アプローチでは物足りなさを覚え、また別な管楽器が加われば確かにアンサンブルのサウンドは厚く、ジャズ的なゴージャスさが増すと思いますが、ワンヴォイスでの凝縮されたソリッドさがむしろWaltonの音楽性に合っていると感じています。

本作録音と同じ77年の10月、同一メンバーでDenmarkのCopenhagenにあるライブハウスJazzhus MontmartreにCedar Walton Quartetとして出演、この時の演奏を収録したSteepleChase Labelからリリースの3部作「First Set」「Second Set」「Third Set」はこのカルテットの魅力を余す事なく捉えたと言って過言ではない、本当に素晴らしい内容のライブ・アルバムです。「Eastern Rebellion 2」録音から8ヶ月余、この間にかなりの本数のギグをこなしてCopenhagenに赴き、演奏を結実させたと推測することが出来、バンドが発展〜成熟していく様をこれらの作品を通して垣間見ることが出来ますが、これは我々ジャズファンとして大きな喜びです。

First Set裏ジャケットの写真です。このBob Bergのワルぶりと言ったら!

Eastern Rebellion(ER)4まで同一ジャケットでの連作となり、Curtis Fullerが参加してQuintet編成でER3を、キューバ出身のトランぺッターAlfredo “Chocolate” Armenterosがさらに加わりSextet編成でER4をリリースしましたが、その後85年BergがMiles Davis Band加入のために抜け、Ralph Moooreを迎えてのカルテット編成に戻り以降3作を発表しています。Sam Jones亡き後はER4からDavid Williamsがベーシストの座に座りました。Eastern Rebellionというバンド名義の他にCedar Walton Quartet(Quintet)の名前でも作品を多くリリースしていて、両者の区分はよく分かりません。ちなみにWaltonは多作家で48作ものアルバムをleader, co-leaderの形でリリースしています。

Waltonのテナーサックス・ワンホーンでの演奏はJohn Coltraneの59年Giant Steps Alternate Takes(Giant Steps録音としては初演)のレコーディングに端を発しているように思います。この時25歳の若きWaltonは伴奏のみでの参加、難曲のソロを取らせて貰えなかった訳ですが、以降リーダー作では事あるごとにテナーサックスをフロントに迎え、思う存分ブロウさせています。Coltraneとの共演で培われた(刷り込まれた?)、ソロを構築する論理的タイプのテナーサックス奏者の伴奏、その魅力に取り憑かれたピアニストの、一貫したミュージックライフと僕は捉えていますが如何でしょうか。

もう一作、Waltonがサイドマンで参加したテナーサックス・ワンホーンの作品を挙げておきましょう。Steve Grossmanの85年録音リーダー作「Love Is the Thing」(Red)、Waltonの他David Williams, Billy Higginsというメンバー(Cedar Walton Trioですね)で、ウラEastern Rebellionとも言うべき名作です。Grossman本人も会心の出来と自負していました。

それでは収録曲を見ていきましょう。1曲目Waltonのオリジナルになる名曲Fantasy in D、Jazz Messengers(JM)ではUgetsuというタイトルで63年NYC Birdlandのライブ盤がリリースされ、JMの最盛期を収録した名盤にこの曲が収められました。タイトルは雨月物語から名付けられましたが、レコーディングの数ヶ月前に日本ツアーを終えたJM、バンドを大変暖かく迎え入れてくれた日本の聴衆へ敬意を表してWaltonがタイトルにしました。東洋的な要素と西洋音楽の融合、East Meets Westの具体的な表れです。Fantasy in Dのタイトルの方はこの楽曲のキーがDメジャーに由来する、Dの幻想ですね。イントロの16小節は曲のドミナント・コードであるA7のペダル・トーンを生かしたセクション、Higginsの軽快なシンバルワークがバンドを牽引しますが、この音色はZildjian系ではなくPaiste系のシンバルならではのものと考えられます。スピード感とタイムのゆったりさ、柔らかさが同居する実に音楽的な素晴らしいレガートです!Waltonのピアノ・フィルもこれからこの曲に起こるであろう豊かな音楽の事象をプレヴューするかの如き、イメージに富んだものです。続くテーマ部分では対比するかのようにストップタイムを多用した、コード進行の複雑さを感じさせずに美しくスリリングなメロディが演奏されます。テーマ後のヴァンプ部分からごく自然にBergのソロが始まります。イヤー、何てカッコ良いのでしょう!この時Berg若干25歳!表現の発露とイマジネーション、音楽的な毒、ユダヤ的な知性と情念が絶妙にブレンドされたテイストです!この曲のコード進行に対するラインの組み立て方を研究し尽くし、しかし策には溺れず、即興の際の自然発生的な醍醐味を全面に掲げて熱くブロウしています。Waltonのバッキングは絶妙に付かず離れずのスタンスをキープしつつ、Bergの演奏をサポート、また時には煽っています。Higginsは決して出しゃばらずに且つ的確なフィルイン、スネアのアクセントを入れ、奏者への寄り添い感が半端ありません!同様にSam Jonesのベース、Higginsのプレイとの一体感は申し分なく、一心同体とはこの様な演奏を指すのだろ