3曲目もRay DraperのオリジナルTwo Sons、彼のオリジナル3曲とも佳曲です。ソロの先発はGil Coggins、彼は50年代初頭にMilesとの共演経験もあるピアニストですが、何ともリズムがバタバタした拙い演奏です。Ray Draperは後年ドラッグで捕まった経歴があるので、Gil Cogginsも彼のドラッグ仲間、この演奏中もキマっていたのでは、と考えてしまいましたが、WikipediaによればCoggins gave up playing jazz professionally in 1954 and took up a career in real estate, playing music only occasionally. とありますのでこのレコーディング時は不動産業を営み、ほとんど演奏活動をしていなかったと言う事になります。ここでの演奏のクオリティは然もありなんと言う事でした。
5曲目が本作のもう1つの目玉、シャンソンの名曲Under The Paris Skies。Parisを題材にした名曲は多いですね。April In Paris、Afternoon In Paris、I Love Paris、An American In Paris…さぞかし魅力的な街なのでしょう。ここでのアレンジが素晴らしいのです。実に意外性のある選曲ですがラテンリズムでの印象的なメロディをtenor 、tubaの2オクターブユニゾンでの演奏の後、組曲形式でビゼー作曲アルルの女のメロディの断片が奏でられます。フランス繋がりなのでしょうか、その後スイングのリズムでアドリブが始まります。
「John Coltrane The Complete Prestige Recordings」のライナーノーツに興味深い記述がありますのでご紹介しましょう。A most unusual “front line” graces Coltrane’s last Prestige (actually New Jazz) session of the year: tuba and tenor sax. The young leader, tubaist Ray Draper, reportedly had met Coltrane while still in high school and had received help from Trane in preparing his compositions for recording. The arrangements show an attempt to elicit as much variety as possible from a potentially dark and weighty instrumentation.(tubaistの記述は原文のまま)
実際このレコーディング時は17歳だったので、退学していなければRay Draperはまだ高校生だったはずでその時にColtraneに出会い、彼からこの録音のための曲の準備を手伝って貰っています。ここでのアレンジはtubaとtenor saxと言う楽器構成から生じる重苦しさを排除してなるべく多くのバラエティを引き出そうとする試みが見られる、とあるのでひょっとしたらかなりの所までColtraneに曲のアレンジを委ねていたのかも知れません。と言うのはUnder The Paris Skiesのアレンジが実に緻密で高い音楽性を感じさせるので、Ray DraperよりもColtraneの役割が大きかったように思えます。またもしかしたら本作でのPaul’s Pal、次作のDoxyとOleoもColtraneの発案での選曲だったかも知れません。Rollinsには敬意を抱いており機会があれば彼のオリジナルを演奏してその思いを現したい気持ちがあり、たまたまそのチャンスに恵まれてここでのオリジナル採用に至ったとも考えられます。後年Like Sonnyと言うオリジナルを作曲して演奏もしています。
The Ray Brown Trio With Ralph Moore / Moore Makes 4
今回はベース奏者Ray Brownのリーダー作The Ray Brown Trio With Ralph Moore / Moore Makes 4を取り上げましょう。1990年5月22日San Francisco録音 Produced By Carl Jefferson Concord Label b)Ray Brown p)Gene Harris ds)Jeff Hamilton ts)Ralph Moore
1)S.O.S 2)Bye Bye Blackbird 3)Stars Fell On Alabama 4)Ralph’s Bounce 5)Quasimodo 6)Like Someone In Love 7)Polka Dots And Moonbeams 8)Squatty Roo 9)Everything I Love 10)My Romance 11)The Champ
Ralph Mooreの使用楽器はテナーサックス本体がSelmer Mark6、マウスピースがOtto Link Florida6番か6★、リードがRico3番です。かなりライトなセッティングですが素晴らしい音色を聴かせています。黒人テナーサックス奏者はWayne Shorter、Joe Henderson、Sam Rivers、Benny Golson、Eddie Lockjaw Davis達に代表される自分独自のボキャブラリーで演奏を展開するプレイヤーが多いのですが、Ralph Mooreの演奏は実に主流派然としています。フレージングの間の取り方、音の選び方、歌い方、タイム感、それらのバランス感が尋常ではなく良いので、いつも聞き応えのある演奏を繰り広げています。
2017.12.01 Fri
Steve Kuhn Trio w/ Joe Lovano Mostly Coltrane
今回はSteve Kuhn Trio w/ Joe Lovano Mostly Coltarneを取り上げましょう。John Coltraneとの共演を1960年に果たしたピアニスト、Steve KuhnのColtraneに対するオマージュ作品ですが、単なるトリビュートに終わらず、それ以上のメッセージを感じさせる秀逸な作品です。2008年12月録音 NYC Avatar Studio Engineer: James A. Farber Produced by Manfred Eicher
1.Welcome 2.Song Of Praise 3.Crescent 4.I Want To Talk About You 5.The Night Has A Thousand Eyes 6.Living Space 7.Central Park West 8.Like Sonny 9.With Gratitude 10.Configuration 11.Jimmy’s Mode 12.Spiritual 13.Trance
Steve Kuhnは1938年3月24日New York City Brooklyn生まれ、Kenny Dorham等のバンドを経験した後、57年頃から急成長を遂げたJohn Coltraneが新しく自分のカルテットを組むに当たり、ピアニストを探していると言う話を聞きつけ、自分からColtraneに共演を申し込んだのだそうです。ミュージシャン売り込みは基本ですからね。60年1月から3月までの8週間、Steve KuhnはNYC East VillageにあったThe Jazz GalleryでJohn Coltrane Quartetのメンバーとして共演したと、このCDのライナーに自ら記載しています。ちなみにこちらのJazz Galleryは1959年から62年まで存在したジャズクラブで、現在NYCで営業している同名店とは異なり、新規店は95年からの営業になります。同じNYCのBirdland、Coltraneのライブ盤が収録された事で有名になったジャズクラブですが、こちらも現在営業している同名店とは異なります。
Steve Kuhn自身はこの8週間Coltraneと演奏出来た事を彼からの恩恵として感じ、大切な思い出と捉えているとも書いています。
みなさんはLewis Porterと言うアメリカ人の作家(ジャズピアニストとしても活動しています)をご存知でしょうか。彼の「John Coltrane: His Music and Life」(99年出版)は大変興味深い著書です。
Coltraneの音楽について草創期から最晩年までを理論的に分析し、奏法についてもかなり突っ込んだところまで研究したものを譜例やコピー譜、珍しい貴重な写真と共に掲載しています。日本語訳が出版されていないのが大変残念ですが、本書の圧巻はColtraneが演奏活動を開始した1945年から没67年までの23年間をchronologicalに、「Coltraneが何年何月何処で誰とどんな内容を、そこに至る経緯と手段についてを含めた」5W1Hを実に詳細に調べて記載している点で、現代のようにあらゆる情報が整然と容易に入手出来るのと違い、情報を掘り起こし確認するのに実に膨大な時間と労力を要したと思います。その中からSteve Kuhnと共演したとされる60年1月から3月までのColtraneのchronologyを紐解いてみましょう。1960年の記載冒頭にAll gigs with Davis except for those otherwise listed.とありますので、この年はMiles Davisとの共演が多かった、メインであった事を意味しています。ちなみにこの特記はColtraneがMiles Bandに在団していた56年から60年までを通して書かれています。
1月15日〜21日Manhattan Apollo Theater、2月11日〜21日Chicago Sutherland、2月22日〜26日Philadelphia Showboat(内24日はMilesが抜け、Coltrane Groupでの演奏)、2月27日Los Angeles Shrine Auditorium、3月3日San Jose unknown location、3月4日San Francisco Civic Center、3月5日Oakland Auditorium Arena、3月7日〜13日Philadelphia Showboat / John Coltrane Group unknown personnel、3月21日〜4月10日European Tour
この間はほとんどMilesとのギグでかなりの本数こなしており、残念な事にこの間にはThe Jazz Galleryの名前を確認することは出来ません。若しかしたら7日〜13日Philadelphia ShowboatでSteve Kuhnと共演を果たしているかも知れませんね。また単に資料を発掘できなかっただけで、例えばColtraneがロードに出ずNYCにいる時にはいつもJazz Galleryで演奏していたかも知れません。同じNYCのThe 55 Barで現在もMike Sternがそうしているように。因みに同年6月10日、6月27日と7月1日にはManhattan. Jazz Gallery. Audience tapeの記述があり、そのうちの6月27日の演奏が以前このBlogで取り上げたことのある「John Coltrane Live at The Jazz Gallery 1960」としてリリースされています。ピアニストに以後65年まで不動のMcCoy Tynerを抜擢した直後の演奏と言われています。
このCDのライナーノートにBut Kuhn left about a month into the gig, which made him the transitional pianist in a transitional period. Coltrane expressed no complaints with his playing but wanted a different sound for the band, which he felt Tyner could best provide.と書かれており、ひょっとしたらSteve Kuhnの勘違いで実は1ヶ月程度しか共演していないのかも知れません。Steve Kuhnの初レコーディングがColtraneとの共演を経験する直前に行われています。「Jazz Contemporary / Kenny Dorham」
1960年2月11, 12日NYC録音、Steve Kuhn若干21歳です。ここで聴かれる彼の演奏はオーソドックスな雰囲気の中にも新しい萌芽を、そして同時に初レコーディングの緊張感も感じさせます。Coltraneとの共演時にどの程度の演奏をJazz Galleryで繰り広げ、その実力をColtraneの前で披露出来たかは全く分かりませんが、「Coltraneは彼の演奏に不満を漏らさなかったけれど、バンドには違ったサウンドが欲しく、Tynerの方が相応しいと感じていた」と前述されているように、この初レコーディング時のクオリティではColtraneは納得出来なかったのでしょう。そしてMcCoyに最終決定する前に彼と比較していたと言う事にもなります。更に僕が最も感じるのは、Coltraneの長いソロの後ろでバッキングをせずにじっと我慢できるような従順さがMcCoyの方にはあるように感じますが(実際後年5年間の演奏でじっと忍耐強くColtraneのアドリブ最中演奏しないで待っていました)、Steve Kuhnにはあまり感じ取る事が出来ません(何でお前にそんな事が分かるのか、と言われると弱いのですが、アメリカで彼に習っている日本人ピアニストから直接聞いた話ですが、彼の自宅にレッスンに行くと譜面を書いて消した後に床に落ちる消しゴムのカスを、必ず拾うらしいほど几帳面、神経質らしいのです)。バンドのメンバーの人選はもちろん演奏技術、音楽性が真っ先に問われますが、結局のところレコーディングやツアーで長時間生活を共にするに相応しい相性が求められると思います。McCoyの方がウマが合ったと言う事でしょうね。61年9月にMontertey Jazz FestivalでColtraneのバンドにゲスト参加したギタリストWes Montgomeryが、フロントの長いソロの最中にバッキングをせずにステージでぼーっとしていることが嫌だったのでColtraneに誘われたバンド加入を断った、という逸話がありますが、演奏的な事柄よりもWesはColtraneと性格が合わなかったのかも知れません。でも将来幻の共演演奏が発掘されたら絶対に聴きたいです。
Steve KuhnはColtarneとの共演約8ヶ月後に「Steve Kuhn, Scott La Faro, Pete La Roca – 1960」をレコーディングしています。1960年11月29日NYC録音
後年発掘され2005年10月にリリースされた作品ですが、翌61年7月交通事故で夭折する天才ベーシストScott La Faroの参加に目を惹かれます。実際Scott La Faroも素晴らしい演奏を聴かせていますが、Steve Kuhnの演奏は「Jazz Contemporary」時とは僅か8ヶ月間で見違える程の演奏を繰り広げています。Coltraneとの共演を経験し一皮も二皮も剥けた22歳の天才ピアニストの登場なのです。
「Steve Kuhn Trio w/ Joe Lovano Mostly Coltarne」は彼のレギュラー・トリオにColtarne役のJoe Lovanoを迎えて、Coltraneとの共演から約50年を経たSteve Kuhnが自己の音楽的蓄積と、Coltraneに対しずっと持ち続けている深い敬意を反映させて制作した作品で、我々が昔から耳にしているColtraneナンバーの数々が見事に再構築されています。ぜひこの作品を聴いてから元のColtraneの演奏も聴いてみて下さい。音楽、曲、コード進行、メロディの解釈いずれもが高次元で昇華されていることに気付くはずです。
2017.11.29 Wed
McCoy Tyner Trio featuring Michael Brecker / Infinity
今回はMcCoy TynerのトリオにMichael Breckerがフィーチャーされた作品「McCoy Tyner Trio featuring Michael Brecker」を取り上げて行きましょう。タイトルの割には編成はカルテットないしはパーカッション奏者が曲により加わり、クインテット編成です。
1995年4月12~14日録音 Recorded and mastered by Rudy Van Gelder
Recorded at the Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey
p)McCoy Tyner ts)Michael Brecker b)Avery Sharpe ds)Aaron Scott perc)Valtinho Anastacio
1)Flying High 2)I Mean You 3)Where Is Love 4)Changes 5)Blues Stride 6)Happy Days 7)Impressions 8)Mellow Minor 9)Good Morning, Heartache
この作品は1995年にリリースされ、1996年のグラミー賞Best Jazz Instrument Performanceに輝き、また収録されているJohn Coltraneの代表曲Impressionsの演奏でMichael Breckerが同じくグラミー賞Best Jazz Instrumental Soloの栄冠を獲得したという、大変な栄誉あるアルバムです。レーベルもColtraneの一連の作品をリリースしたあのImpulse!で、60年代当時McCoy自身の作品もImpulse!から6作リリース〜いずれも大変素晴らしい作品ですが1枚挙げるとすると「Reaching Force」でしょうか〜されており、古巣に戻った形です。そのためかどうか、本人かなり力が入っていて自筆で1曲ずつ丁寧に解説を書いたライナーノートが添付されています。結構癖のある文字であまり読み易くはありませんが(笑)、作品に賭ける情熱と意欲が文面から伝わってきます。
ベーシストAvery Sharpeは80年代から90年代にかけてMcCoy Tyner Trioレギュラーを務めています。McCoyの70年代の名盤「Song Of The New World」「Enlightenment」「Atlantis」でベースを弾いているJuni(もしくはJoony)Boothに実によく似たタイプのプレーヤーです。最初に聴いた時にはてっきりJuni Boothだと思うくらいにベースの音色やラインのウネウネ感がそっくりでした。50年代から活動していたアルト奏者Clarence Sharpe(同じ苗字ですが血縁ではないと思います)はCシャープと呼ばれていますが、Avery Sharpeも当然Aシャープとなりますが、B♭ではありませんね(爆)McCoyはこういうビート・タイプのベーシストをレギュラーとして起用するのが好みなのかも知れません。
この作品で素晴らしいドラミングを聞かせるAaron ScottはBerklee音楽院出身で89年から96年の本作まで計5作、McCoyの作品に参加しています。AaronとはBerklee同期だった僕の友人ドラマー曰く、見た目や顔の雰囲気から来ているのでしょうか彼は「ラクダ」と言うあだ名だったそうです。一卵性双生児の兄弟がいて母親が間違うほどソックリだそうですが、Michael Breckerが「Aaronは僕に対抗意識(competition)を持っている」と話していました。いつも会うたびにMichaelにちょっかいを出すらしく、多少のことには動じないMichaelも”うざったさ”を告白していました。同じ楽器を演奏する者同士なら対抗意識を持つのも分かりますが、逆に同じ傾向、同方向の物の考え方を持つもの同士なら楽器が違えど対抗意識を持つことがあるのでしょうか。そういえばSteve Grossmanが「Bob Bergはオレに対抗意識を持っているんだ。アイツは面倒臭い奴だよ」と言っていました。この事にはしっかりと頷くことが出来ます。18歳でWayne Shorterの後釜としてMiles Davisのバンドに大抜擢、一世を風靡した天才サックス奏者には努力の人Bob Bergは対抗意識むき出しで当然だと思います。Randy Breckerも「Bobはコンプレックスの塊だ」とも発言しているのを読んだ事が有ります。でもBob Bergは87年頃にMilesのバンドに参加、「You’re Under Arrest」をレコーディングしてロードにも出ました。New Yorkで60年代末から70年代初頭にかけて青春時代を過ごした、いわゆるロフトでジャムセッションを繰り広げ、お互いに切磋琢磨しあった間柄のColtraneスタイル・テナー奏者たちSteve Grossman、Dave Liebman、Bob Berg、 Michael Brecker、Bob Mintzer達は全員ユダヤ系アメリカ人です。特にGrossmanとLiebmanは2人とも70年代を代表するバンド、Miles Davis Groupの他Elvin Jones Groupにも参加、70年代にはその音楽性を見事に開花させました。Michaelは実はジャズジャイアントと共演の機会が少なかった事に引け目を感じていたように感じます。こんな話があるのですが、Charles Mingusのラストレコーディング、名盤「Me, Myself An Eye」のレコーディングについて僕がMichaelと話をしました。
Chick Corea、 Herbier Hancock、Elvin Jones達ジャズジャイアントと演奏を展開し、この作品でMcCoy Tynerとも共演を果たしました。さらに96年には自己の傑作アルバム「Tales From The Hudson」でMcCoyをゲストに迎えてPat MethenyのオリジナルSong For BilbaoとMichaelのオリジナルAfrican Skiesをレコーディングし、96年この自身の作品でもMichaelはBest Jazz Instrument Solo(収録曲Cabin Fever)とBest Jazz Instrument Album2つのグラミー賞2年連続受賞と言う快挙を成し遂げました。
最後に「Infinity」のレコーディングの音質について触れて見ましょう。前述の通り名エンジニアRudy Van Gelderによる、彼のNew Jerseyのスタジオでの録音なので本来なら悪かろう筈がないのですが、実は僕にはあまりピンと来ていません。というかMichaelのテナーの音色が彼らしくないのです。96年の来日時Michaelに会い一緒に石森楽器に同行した時の話です。お店の従業員の方がMichaelが来店したので気を利かせてこの「Infinity」CDを掛けました。すると「うっ、このCDのテナーの音は苦手なんだよ」とMichael呻くように呟きました。「このレコーディングはRudyがエンジニアなのだけれど、どうしてなのかこんな音色で録音されたんだ。Tatsuyaはどう思う?」「確かに僕もこのMichaelの音色はいつもと違うと思っていましたよ」「そうなんだよ…」Rudy Van Gelderは既に何度もMichaelのレコーディンを経験していて、彼の音色の本質を把握している筈ですが、Rudyは常々レコーディングのクオリティを向上させるべく新しい事にチャレンジしていたようです。この作品はひょっとしたらチャレンジが裏目に出てしまった例なのかも知れません。
2017.11.22 Wed
Sonny Rollins And The Contemporary Leaders
今回はテナータイタン、Sonny Rollinsの代表的なリーダー作「Sonny Rollins And The Contemporary Leaders」を取り上げて見ましょう。
CDでは巻末に未発表別テイク3曲(You, I’ve Found A New Baby, The Song Is You)が追加されています。その関係で全体のバランスを考えてなのかどうか、本編の曲順が変えられており、このレコードの昔からのファンにとっては甚だ迷惑な話です。CDをお持ちの方はレコードの曲順で未発表テイクを省き、一度作品を鑑賞してみて下さい。印象が随分と違ってきます。もちろん僕はこの曲順が良いと思いますし、耳がしっかり慣らされています。作品をリリースする際にあらゆる事を考慮に入れて収録曲、テイク、曲順をアーティスト、プロデューサーは決定しています。未発表テイクを巻末に追加収録するのは良しとしても、曲順を変えるのはどうでしょうか。もしかしたらCDリリース時にRollins本人の承諾を得ているのかも知れませんが。
Rollinsは54年と69年にもシーンを離れました。彼に限らず他のミュージシャンも精神的、肉体的、家族の問題、経済的な事情でシーンを離れることが多々あります。Rollinsばかりが騒がれるのは第一線で走り続けるアスリートならでは、なのでしょうか。もしくは「しばらくリタイアします」のようなメッセージをわざわざ発しているのかもしれませんね。律儀な人だという話を聞いたことがあります。次に挙げるエピソードがRollinsの人柄を良く物語っています。僕の所属していたジャズ研の先輩が30数年前、Sonny Rollins Japan Tourのローディ、Rollinsの付き人としてツアーに同行しました。茶目っ気のある、イタズラ好きな先輩は人に頼まれたり物を勧められても断ることのできない性格のRollinsに移動の車内であんころ餅を勧めたそうです。Rollinsは甘いものが苦手というのを知っていて。「Mr. Sonny、これをどうぞ召し上がって下さい」「どうも有難う、ところでこの食べ物は何だい?」「日本の食べ物であんころ餅と言います、とっても甘くて美味しいんです!」「…Oh, thank you very much…」と言って暫くしてから素知らぬ顔でポトリと床にあんころ餅を落としたそうです(笑)
レーベルContemporary Recordsの録音エンジニアはRoy DuNann。この人の録音はBlue Note LabelのRudy Van Gelderとはある意味正反対のナチュラルさが特徴で、西海岸らしい明るめの音質です。以下がこのアルバムのレコーディング時の写真ですが、倉庫のようなスタジオに現代のようなパーテーションのためのついたて等一切なく、ドラムやサックスのような音の大きな楽器が他の楽器に干渉するのを防ぐため別なブースに入って演奏する事もなしに、メンバー全員が一つの部屋でまとまった密な状態で録音しています。それでこれだけ各々の楽器の分離、解像度、臨場感、バランスが取れているのはマジックです。
写真の左下、白い布の上には我々テナー奏者お馴染みOtto Link Metal Mouthpiece用のキャップ、そしてその横にはレコードジャケットでRollinsが左手に持っているマッチらしき物も写っています。想像するに、レコーディング終了後ないしは休憩時間にカメラマンが一服している(ジャケ写でタバコを右手に挟んでいます)Rollinsを捕まえてポートレートを撮影したのでしょう。当日の情景を思い浮かべるのはとても楽しいですね。
この作品のRollinsの演奏はどれも全て完璧、と言って良いほど素晴らしいのですが特に僕が好きな部分、いつ聴いてもゾクゾクしてしまうのがバラードIn The Chapel In The Moonlightの最初のテーマのサビ後、メロディのアウフタクト部分に出て来るLow B♭音のサブトーンです。この音のインパクトの凄さたるや百凡のテナー奏者の及ぶところではありません。そして何よりこれだけ最低音B♭が的確に出るに際しての楽器調整の確実さと、調整を施したリペア職人の巧みな技、Rollinsの楽器を身体の一部のように扱える奏法の素晴らしさを、たった1音からそこまで感じさせてしまうのです。
b)Henry Grimes ds)Pete La Rocaを従えて、お得意のテナートリオでの演奏です。これがまた素晴らしい演奏です!ここでは「Contemporary Leaders」の延長線上にある演奏を聴くことができます。「実に熟れた演奏」を超えた「熟れきった演奏」がこの作品の特徴です。
Side A 1)St.Thomas 2)There Will Never Be Another You 3)Stay As Sweet As You Are 4)I’ve Told Every Little Star
Side B 1)How High The Moon 2)Oleo 3)Paul’s Pal
1曲目St. Thomasのみライブ録音、他はラジオ放送音源から収録されています。因みにこの頃のRollinsの楽器セッティングですがテナー本体はKing Super20 Silversonic、マウスピースはOtto Link Super Tone Master Double Ring 10★、リードは Rico3番です。
57年3月7日録音「Way Out West」、同年11月3日録音「 A Night At The Village Vanguard」2作ともテナートリオでのRollins代表作ですが、これらに全く引けを取らないクオリティの演奏です。
Rollinsをこよなく敬愛するSteve Grossmanが自身の作品、同じテナートリオでタイトルにあやかった「 Way Out East」をリリースしています。
in StockholmではContemporary Leaders1曲目に収録したナンバーを再演しています。I’ve Told Every Little Star、ここではテーマ演奏の際に曲中の印象的な2小節のメロディをわざと毎回オフマイクにして音色の変化をつけています。ユーモラスなRollinsならではのワザですね。
2017.11.18 Sat
Weather Report / The Legendary Live Tapes: 1978-1981
今回はWeather Reportのライブ音源を集めた作品Weather Report / The Legendary Live Tapes: 1978-1981(Columbia)を取り上げてみましょう。CD4枚組の大変充実した内容です。(2015年リリース)
CD 1 – The Quintet: 1980 + 1981 1.8:30 2.Sightseeing 3.Brown Street 4.The Orphan 5.Forlorn 6.Three Views Of A Secret 7.Badia / Boogie Woogie Waltz 9.Jaco Solo (Osaka 1980)
CD 2 – The Quartet: 1978 1. Joe And Wayne Duet 2.Birdland 3.Peter’s Solo (“Drum Solo”) 4.A Remark You Made 5.Continuum / River People 6.Gibraltar
CD 3 – The Quintet: 1980 + 1981 1.Fast City 2.Madagascar 3.Night Passage 4.Dream Clock 5.Rockin’ In Rhythm 6. Port Of Entry
CD 4 – The Quartet: 1978 1.Elegant People 2.Scarlet Woman 3.Black Market 4.Jaco Solo 5.Teen Town 6.Peter’s Drum Solo 7.Directions
「The Legendary Live Tapes」と同じカルテット編成で78年にライブ録音、翌79年にリリースされたWeather Reportの代表作「8:30」、同年のグラミー賞を受賞しました。おそらくベストテイクを厳選し曲順や構成を徹底的に練っています。ちなみにプロデュースはZawinulとJacoの2人でShorterは加わっていません。
上記2作のライブ盤はフォーマルな作品としてリリースされているので、ライブ演奏でも「おめかしした」「デコレーションされた」表情を見せていますが、「The Legendary Live Tapes」の方は「すっぴんの」「生身の」「ライブ演奏の赤裸々な面」をとことん聴かせてくれています。このCDがリリースされたお陰でWeather Reportのヒューマンな側面をしっかりと感じ取ることが出来ました。スタジオ録音やオフィシャル・ライブ演奏では聴くことの出来ないギラギラ感、崩壊寸前にまで達する演奏のテンション、インタープレイ、先鋭的な音楽をクリエイトしようとする容赦なき創造意欲、チャレンジ精神。間違いなくJacoの演奏がバンドの推進力となり、他のメンバーを強力にインスパイアし、恐ろしいまでに美しくエネルギーに満ちた前人未到の音楽を演奏しています。
こちらは1995年にリリースされたColtraneのAtlantic Labelへのレコーディングをオルターネート・テイクを含め、現存する全てのテイクが収録された7枚組Box Set、その名も「The Heavy Weight Champion John Coltrane」。Giant Steps全11テイクを聴くことができます。それにしても言い得て妙なCDタイトルですね(笑)。
作品としては残されていませんが、Branford Marsalisがライブ演奏で度々Giant Stepsを取り上げていました。こちらは87年8月26日New Port Jazz Festivalにての演奏。BranfordはColtraneの代表作「A Love Supreme」を自己のカルテットでレコーディング、ライブDVDもリリースしています。神をも恐れぬ所業の数々ですね(笑)
John McNeil自身は1948年3月23日カリフォルニア生まれのアメリカ人で、78年から現在までに15枚のリーダー作を精力的にリリースしていますが、そのうち7作品がSteepleChaseからリリースされているので、僕自身てっきりJohn McNeilはヨーロッパ人、もしくはアメリカ人でヨーロッパをベースに活動しているミュージシャンと認識していました。アメリカ国内のジャズレーベルから作品をリリースするのは70年代(当時はレコード全盛時代ですが)はメジャーアーティスト以外なかなか難しい状況で、ヨーロッパや日本のジャズレーベルに活路を見出すミュージシャンも少なくなかったように思います。CDに切り替わってからはアメリカ国内にも小回りの効くジャズレーベルが随分と誕生しました。
ところでSteepleChaseレーベルは72年にまだコペンハーゲン大学の学生だったNils Wintherが設立しました。当初はコペンハーゲンのライブハウスJazzhus Montmartreでライブ録音した音源をレコード化しており、記念すべき第1作レーベル番号1001はアルト奏者Jackie McLeanの「Live at Montmartre」です。
そしてこの作品のメンバー、人選が僕にとってまさにビンゴ!なのです。まずDave Liebman、この79年頃にテナーの演奏を休止してソプラノサックスに専念することになりました。テナーサックス演奏の調子が悪くなった、体力的にきつくなったという状況ではなく、むしろ絶頂期にテナーを封印し、思うところがあってソプラノサックスに自分のメイン楽器をあえて絞った形です。「桃は熟れて腐りかけが一番美味しい」とはよく言ったもので、ここで聴かれるLiebmanのテナーは熟れた桃、腐りかけ寸前の成熟した音色を聴くことができます。本当に素晴らしい音色です。このころのLiebmanのセッティングはマウスピースはりフェイスされたOtto Link Florida、9番から9★くらいのオープニング、リードはLa Voz Med.HardかHard、リガチャーはSelmer Metal用、楽器本体はKeilwerth、この当時アメリカではCoufというブランド名で販売されていました。ソプラノ・マウスピースはBobby DukoffのD7番、リードは現在廃番のSelmerリードOmegaを使っていました。楽器本体はSelmerかCoufどちらか微妙なところです。78年〜79年のLiebmanのテナーサウンドに一時期嵌り、彼のHPディスコグラフィーを元にかなりの作品を聴きました。4作品ご紹介しますが、いずれの作品でもLiebmanのテナーサウンドは”エグい”です。
The Opal Heart / Dave Liebman
Bob Moses / Devotion
Yoshio “Chin” Suzuki / Matsuri
All-In All-Out / Masahiko Sato
ピアニストRichie BeirachはLiebmanの良き音楽的パートナー、LiebmanとのDuoアルバムを数多くリリースし、Questというカルテットでも断続的ですが活動しています。プレイヤー同士にも相性がありますが、この2人はとりわけ永年コンビネーションの良さを誇っています。そしてBeirachは何と言ってもそのピアノの音色が素晴らしく、とても美しく楽器を鳴らしています。Steinwayのエンドーサーでもあり、幾多のピアニストの中でも5本指に入る好みです。そして彼独特のコードワークが他の追従を許しません。Beirachのニックネームは”The Code”です。Richie “The Code” Beirach、どのピアニストも独自のコードワーク、サウンドを持って演奏していますが、とりわけBeirachのワンアンドオンリー、ハイパーでユニークなサウンドはニックネームに全く恥じず知的なサウンド使いの頂点に君臨しています。The Code’s Secret CodeというLiebmanのオリジナル曲をLiebmanとBeirachのDuoで演奏していますが、意味深なタイトルで思わず聴いてみたくなりませんか?アップしておきますのでどうぞお聴きください。
https://www.youtube.com/watch?v=cIxLDkzUZT4
Billy HartはLiebman、Beirach御用達のドラマー、Questのレギュラードラマーを務めており、知的なユダヤ系プレイヤーのニーズを満足させるドラムワークを常に聴かせています。基本オーソドックでありながら適宜コンテンポラリーなテイストにスイッチ、アグレッシブにしてクールな対応が実に素晴らしい!Elvin Jonesに通じる音楽性を感じさせます。
どんなに素晴らしい、ジャズ界のリビング・リジェンドでも毎夜毎夜フルハウス、と言う訳には行かず、さらに一地方都市では集客も大変なことでした。加えて全てがElvinのためにという愛情深い奥方は、あまり演奏鑑賞に熱心ではないお客様に対して「貴方のジャズの聴き方は間違っている」とか、毎夜開演の前にお客様たちにかなり長い時間をかけて「平和のために祈りましょう」と説くのでお客様の足も遠のきがちになります。見かねたElvinの古くからの大親友ジョージ川口さんが自分のバンド「ジョージ川口とNew Big Four」を引き連れて応援に駆けつけることになりました。演奏のメインはElvinとジョージ川口さんのドラムバトルです。僕はそのメンバーとして長崎に向かいました。
International ElvinではElvinとKeikoさんが手弁当でわざわざ応援に来てくれたジョージさん一行を大歓迎で迎えてくれました。メンバー全員Elvinにきつくハグされ、当夜の演奏が盛り上がる気配を身を以て感じることが出来ました。
演奏はまずジョージ川口New Big Fourからスタートしました。スタンダードナンバーを軽快に演奏するジョージさん、Elvinの視線を意識してかいつになく飛ばしています。2曲演奏してその後ドラマーがElvinに変わります。あれ?この違いは何だろう?明らかに何かが違うのです。ドラマーが繰り出すリズム、音色やリズムの粘り方、最も感じたのが「1拍の長さ」です。僕が思うにジャズ界あらゆる器楽奏者の中でElvinが最も1拍が長く、目一杯たっぷりとしています。「拍」という枠の中に「音符」を入れるとするとElvinは拍に入りきらずはみ出てしまう程の長さを湛えたプレイをします。人間の繰り出すリズム、拍の長さがこんなに違うとは思いもよりませんでした。ステージの最後にElvinのオリジナル・ナンバーE.J.BluesをElvinとジョージ川口さんのツイン・ドラムで演奏しました。ミディアム・アップのブルースナンバー、テーマでのElvinのフィルインが物凄いです!超たっぷりとしているのにスピード感があってシャープ、ドラムの音色はまさにレコードで聴いたElvinそのものです!アドリブの際は二人のドラマーが同時に演奏しています。シンバルレガートも二種類聞こえてきます。1コーラス12小節に一度Elvinが大きくフィルインを入れるのですが、ジョージさんはすでに2拍以上早くなっています(汗)。長いものに勝てるわけがありません、1コーラスに一度2~3拍の調整をジョージさんその都度「あれれ?俺先に行っちゃたの?」という感じで慌てて行いつつ曲が進行していく、こんな不思議な演奏を体験したことはそれまでも、以降もありません。Elvinは大親友のジョージさんとの久しぶりの共演で満面の笑みを浮かべながら実に楽しそうに演奏しています。1回目のセットが終わるとElvinがジョージさんと固く握手、汗まみれの二人がハグをしています。その後休憩時間にジョージさんが僕に話をしにきました。ジャズファンの方々にはジョージさんのお人柄をご存知の方もいらっしゃると思います。大変に楽しい方で負けず嫌い、面白い話、経験談をよくしますが、尾ひれの他に背びれ、胸びれも付いているような話っぷりです。例えばバンドのメンバーに「先週の日曜日釣りに行ってきて、この位の魚を釣ったよ」と両手の人差し指で50cmほどの間隔を示します。メンバーの誰かが「ジョージさんそれってあまり大きくないじゃないですか?」と言おうものならジョージさんカチンと来て、「バカヤロウ!人の話は最後まで聞け、目と目の間がこの位ある魚をオレは釣ったんだ!」という具合です(爆)。「おい佐藤、エルビンのドラムはリズムが全く遅いだろ?音符が全部3連譜で早いテンポの曲なんて出来やしない。お前も大変だろうけど頑張ってくれ」ワオ!ジョージさん凄い!超負けず嫌い!一晩に物凄い2ステージを2夜に渡り繰り広げ、とても得難い経験をさせてもらいました。
Charlie Parker Omnibookがあるように、このLighthouseのLiebman、Grossmanの演奏を全て採譜しオルタネイト・フィンガリングやフリークトーンの表記まで、事細かく記譜したコピー集です。こんな譜面集が出版されるなんて凄い時代になりましたね。僕も学生時代に結構Lighthouseはコピーしましたが、ここまで微に入り細に入りはやり遂げませんでした。
またLiebmanはPetter Wettreというノルウェーのテナー奏者、実は上記のThe Lighthouse Omnibookの著者ですが、その彼と2テナーカルテット、ベースが LighthouseのメンバーGene Perlaで「New Light / Live In Oslo」というCDを2006年に録音しています。Brite Piece、 Fancy Free、Sambra等のLighthouseのレパートリーを演奏しています。
Lighthouse Volume1の1曲目Fancy Free、トランペット奏者Donald Byrdのオリジナル曲です。Elvinのボサノバのリズムは切れ味が良くってたっぷり、強弱のダイナミクスが尋常ではありません。ここまで盛り上がるか!と言うfffからpppへの急降下、超人的コントロールが聴かれます。Liebmanのソプラノ、流暢でエグイです。Grossmanのテナー、嫌になるくらいに物凄い音をしています。この時の使用マウスピースは二人ともOtto Link Four Star Model(Otto Linkの2番目に古い30~40年代のモデル)、オープニング5番か6番位にリフェイスされています。リードはGrossmanがRico4番、Liebmanは分かりません。リガチャーはSelmer Metal用、楽器本体は二人ともSelmer Mark6、多分14万番代前後ではないでしょうか。数年前eBayにこの時Liebmanが使用していたマウスピースFour Star Modelが本人の解説映像付き!で出品されていました。よっぽど入札しようかと考えましたが、今の自分にはちょっと狭いオープニングなので断念しました。
4曲目The Children Save The Children、Elvinはシャッフルも素晴らしいです!深いビート感、シャープなシンバルレガート。Elvinのローディを長年やっていたドラマーの吉田正弘氏から聞きましたが、Elvinは膨大な数のジルジャン・シンバルを持っていたそうです。今は一体何処にあるのでしょう?
僕自身もTurrentineの音色を目標にした時期があります。特にこのアルバムの近辺、一連のCTIレーベルの作品での音色の素晴らしさには圧倒されました。この頃のTurrentineの使用マウスピースはOtto Link Florida Metalのオープニング9番にリードはLa Voz Med. Hard、楽器本体はSelmer Mark6 Gold Plateです。数字的に少しオープニングの狭いOtto Link8番、8★と9番、実は結構な吹奏感の違いがあり、峠一つ越える感じです。僕自身良い個体を手に入れようと、かつてかなりの額をこの辺りのオープニングのマウスピースに投資した覚えがあります(笑)
Turrentineの音色の秘密を探るべくデビュー当時から晩年までの使用マウスピース、楽器を調べましたが一貫してOtto Link Metal、Selmerで、テナーサック奏者の標準的セッティングです。他に例えば身体的特徴が影響しているのではないかと、よくよく見ればTurrentineは首がかなり短いのです。ガタイが良くて手脚が長いにも関わらずなので際立ちますが、この短さが音色に影響しているのでは??とまで考えてしまいましたが、まさか。でも見回しても彼ほど首の短いテナーサック奏者はいませんので、首の短い奏者は良いサウンドが出せる論、あながち間違いではないかも知れません。
MichaelはTurrentineにアメリカからのフライト前に自分のリーダー作をプレゼントしたらしく、「飛行機の中でMichaelのCDを聴いてきたよ。素晴らしかったね!」と言っていました。このインタビューが1989年、時期的にはMichael「Don’t Try This At Home」がリリースされた後ですが、その前年にリリースされた初リーダー作「Michael Brecker」を渡した可能性もありますね。
89年7月はSelect Live Under The SkyにてSELECT LIVE”SAXOPHONE WORKSHOP”が企画され、出演しました。ts)Michael Brecker ts,ss)Bill Evans ts)Stanley Turrentine ts,as)Ernie Watts p,direction)Don Grolnick b)鈴木良雄 ds)Adam Nussbaumというオールスター・セッション。そうなんです、インタビューはこの時に実現しました。この4テナーの人選、実はMichaelにオファーがあったのです。彼曰くTurrentine、Bill Evansの他にJoe Hendersonを推薦したそうですが、Ernie Wattsは他のバンドで当日出演が決まっており、主催者側としてはどうしても起用して欲しかったようでやむなくJoe Hen案はボツになりました。またこの前年にMichaelに会った時「Tatsuya、誰かベーシストを知らないか?来年日本でSummer Jazz Festivalに出演する予定なんだ」と尋ねるので、Chin Suzukiと言う素晴らしいプレーヤーがいるけれど、と答えました。当時僕は彼のバンドに参加させて貰っていました。I know his name. と言うやり取りがあった関係かどうかまでは分かりませんが、チンさん鈴木良雄氏の出演が決まりました。何のフェスティバル?とまでは聞かなかったのですが、まさかこのLive Under The Skyの4テナーとは思いもよりませんでした。そして89年7月29日よみうりランドEastのステージでSaxophone Workshopの演奏が行われたのですが、コンサート前日のリハーサル時にErnie Wattsがトラブルを起こしたのです。
Michaelに招待して貰い、都内某所のリハーサルスタジオでその全てを見聞きすることができました。Don Grolnickのオリジナル曲やLive Under The Sky’89のコンセプトであるDuke Ellingtonの作品スイングしなけりゃ意味がない、等をGrolnickの素晴らしいアレンジ、超豪華なミュージシャン達で楽しく綿密にリハーサル…と思いきや、何となくリハーサルの進行が思わしくありません。いちいち口を挟む輩のお陰で円滑に進行していないのです。それが誰あろうErnie Watts、エキセントリックな性格の彼は自分がリーダーでもないのにバンドを取り仕切ろうとしています。自分がいつも中心に居ないと気が済まない人っていますよね。リハーサルが終盤に差し掛かろうとした頃、ついに熱血漢のAdam Nussbaumがブチ切れてドラムスから立ち上がり、Ernie Wattsに殴り掛かろうとしたのです!!そこをGrolnickとMichaelがすぐさま「まあまあ、Adam、ここはひとつ落ち着いてくれよ」と間に入りました。暫くAdam NussbaumとErnie Wattsの睨み合いが続きましたが、機嫌を損ねた方のErnie Wattsはすぐさま楽器をケースに仕舞い込み、スタジオをそそくさと出てしまいました。TurrentineやBill Evans、チンさん 達は呆気にとられた感じで傍観しているのみでした。その後は当然、残された者達で早退した男の悪口大会になります。大会の終いには「Ernieはさ、あいつIndianの血が混じってるらしいぞ」出生にまで話が及んでいました。こんなトラブルがあった翌日のコンサート本番、演奏がバッチリと上手く行く訳がありません。更には事もあろうにErnie Wattsが曲の進行を取り仕切り、勝手に自分が司令塔となって指で4,3,2,1とCue出しをしています。当夜の演奏は出来が悪い訳ではありませんが、どこか空々しい雰囲気が漂う内容になってしまいました。翌日Michaelに会うと当然Ernie Wattsの話になり、「そもそもErnieは僕に強いライバル意識を持っていて、全然フレンドリーではなかったね」そして昨夜のErnie Wattsの所業の確認、それが一通り終われば今度は話の矛先がMichael Brecker Bandに主催者側の意向で参加したパーカッション奏者Airto Moreiraに向き、「オレはAirtoとは一緒に演奏したくなかったけれど、やっぱり酷かった。あの演奏じゃあまるでサーカスだ!」滅多に人の悪口を言わないMichaelですが、いつになく熱い語り口でした。
すっかり脱線してしまいました(汗)。話をDon’t Mess With Mister T.に戻しましょう。
1曲目表題曲Don’t Mess~はWhat’s Goin’ Onで有名なソウルシンガー、作曲家Marvin Gayeのオリジナル曲。72年の彼の大ヒット作「Troubled Man」に収録されている名曲です。Mister T.が当人Turrentineの事かどうかは定かではありませんが、彼のテナーサックス演奏のために書かれたかのようにその音楽性に合致した曲です。ここでのTurrentineの素晴らしい音色、歌い回しと言ったら!以前どこかの音楽誌に書いたことがありますが、自分の音色に迷いが生じた時には原点に戻るためにこのCDを聴くことにしています。確かにテナーサックスの録音に長けた、その腕前はジャズ界の至宝と言って良いRudy Van Gelderによるレコーディングですが、それにしてもこの音色には参りました。Turrentine自身も以降のライブでは重要なレパートリーの一曲になりました。
2曲目はTurrentineのオリジナル曲、Two For T。多分TはTurrentineで、もちろんVincent Yumans作曲、Doris Dayの唄でお馴染みのTea For Twoに引っ掛けた曲名ですが、アメリカ人もダジャレが好きなので安心しました(笑)スイングフィールのカッコいいナンバーで、Turrentineの唄心やリズムセクションとのインタープレイを存分に楽しめます。ソロの途中に出てくるHigh F音〜4度下のB♭音の色気とファンキーさに何度聴いてもグッと来てしまいます。
4曲目はTurrentineのサックスがまるでソウル・シンガーの歌いっぷりに聞こえてしまうゴスペル調のナンバーI Could Never Repay Your Love。Bob Jamesのアレンジも冴えています。Turrentineも録音された音色は轟音で生音が大きいように聴こえますが、Joe Hendersonと同じく意外と生音は小さいです。
因みにJoe Henの楽器セッティングはマウスピースがSelmer Short Shank(Long Shank使用時も有り)オープニングEにリードはLa Voz Med.Soft、サックス本体はSelmer Mark6 シリアル5万6千番台です。アンブシュアですが、デビュー当時から口ひげあごひげをたっぷりとたたえた口まわりですので、その詳細は謎に包まれています(笑)
John McLaughlin Mahavishnu Orchestraに在籍していたベーシスト、Rick Lairdが自身のリーダー作「Soft Focus」でJoe Henを迎えて同名曲をOuter Surge(ダジャレの一種ですね)と言うタイトルで録音しています(1976年12月10.11日)。こちらは異種格闘技的なセッションですが、Joe Henはいつもの様にマイペースで素晴らしい演奏を繰り広げています。
それにしてもJoe Henのタンギング、タイムの素晴らしさ、楽器のコントロールの的確さ。人から聞いた話ですが、Joe Henが夜中ギグから家に帰ってくると演奏のままのハイテンション、休むことなくそのまま朝まで練習するそうです。きっと「ファック!今日はあそこがダメだった、出来なかった。悔しい!」とか言いながら。練習の鬼でないとこんなSuper Human Beingのような演奏が出来る訳がありません。
3曲目はスタンダードナンバー、テナー奏者のバラードプレイ・ショウケースBody And Soul。7曲目にTake2も収録するほどのお気に入り、もの凄いクオリティの演奏です。
4曲目はJoe Henが取り上げる事自体が意外なBilly Strayhornの名曲Take The A Train。これまた素晴らしい演奏です!「おいおい、君の褒め言葉のボキャブラリーには素晴らしいしか無いのかい?」と言われても仕方ありません、本当に素晴らしいのです!!曲という題材があってそれを元にストーリーを語って行く、落語のお題をしっかり膨らませて行く作業と同じ次元ですね。Joe Henフレーズ、ワールド、歌い回しがTake The A Trainの曲想と見事に有機的に反応しています。
推測するにここでの選曲が功を奏したことにより、Joe Henは1991年9月3~8日録音、翌1992年Verve LabelからBilly Strayhorn特集であるLush Life : The Music Of Billy Strayhornをリリース、同年Grammy賞Best Jazz Instrumental Performance, Soloistを受賞するという栄誉に輝き、「通好みのテナーサックス奏者」が一躍ジャズ界を代表するテナーサックス奏者に変貌しました。そしてその後Verveから名作を立て続けに発表する事になります。
Blues In Fということですが、これまたJoe Henらしいトリッキーなイントロ〜エンディングが付け加わっています。当CD最速の演奏、物凄〜くカッコいいです!スピード感、スイング感、ソロの構成、ベースとドラムスとのコンビネーション、完璧です!!Al Fosterが曲が終わってからも曲中でプレイしたフレーズを名残惜しそうに(?)まだ叩いているのが印象的です。
さすがBlue Note、Prestige、Impulse、CTI、ジャズ黄金期の名レーベルの録音を支えたレジェンド・エンジニア、Rudy Van Gelder(RVG)、そして自身のNew Jerseyにあるスタジオでのレコーディングです。各々の楽器の音色の美味しい成分、倍音成分、輪郭、雑味、音像の位置を的確に捉えたレコーディングに仕上がっています。
実はソプラノサックスを録音するのはテナーやアルトよりもずっと難しく、エンジニアの腕の振るいどころ、いや、むしろその逆で鬼門かも知れません。ソプラノのベル先端に1本、管体中程に1本、そしてソプラノの全体のアンビエント(雰囲気)を収録すべくもう1本、少なくとも合計3本のマイクを必要とし、収録の際の楽器とマイクの距離や位置、イコライジング、更には3本のマイクのバランスが大切なのです。以前取り上げたことのあるSteve Grossmanの「Born At The Same Time」のソプラノの録音はベル先端に1本のみ使用の音色に聞こえます。これはこれで迫力のある音色ですが、どこか「チャルメラ」っぽさは否めません。大雑把に述べるならばベルからの音は金属的な硬い成分、対する管体中程からの音がマイルドな美味しい成分と言えます。ソプラノRVGは特に管楽器、中でもテナー、ソプラノサックスの録音が特に上手いと思います。Blue Noteで何枚ものリーダー作を録音した名テナー奏者Stanley Turrentineをして、「僕の生音よりRudyの録音の方が全然格好良いよ」言わしめています。Sonny Rollins、John Coltraneに始まり、Eddie “Lockjaw” Davis、Illinois Jacquet、Tina Brooks、Dexter Gordon、Hank Mobley、Benny Golson、Willis Jackson、Joe Henderson、Sam RiversたちのRVGが手掛けたテナーの音色は、確かに本人達の生音よりも良いのかもしれません(笑)
この頃のWayne ShorterはYAMAHA YSS-62ネック部分がカーヴしたストレート・タイプのソプラノを使用しています。YAMAHAからのエンドースではなくWayne本人がチョイスしたと言われています。マウスピースはOtto Link Slant、オープニングが10番と特注以外考えられない仕様のものです。因みにテナーのマウスピースもOtto Link Slant 10番。ソプラノMPはOtto Link本人に何本か作って貰ったそうで、複数本まとめた状態での収納されたケースを見た事がある人がいます。リードに関しては色々な種類を使っていたようで、この頃は何を使っていたかは確認できていませんが、後年Vandorenの3番を使っていた模様です。テナーはRicoの4番を使用していたので、ソプラノもひょっとしてRicoを使っていたのなら3番から3半の辺りと推測されます。
タイトル曲のSomething Moreでも全く同様の事が言えます。因みにBuster Williamsは”Something More Quartet”というバンド名でリーダー活動を継続的に行なっているようです。メンバーは流動的ですが、フロントはアルトサックス奏者の場合が多いようです。
そしてそして、もう一曲Wayneのソプラノサックスが大活躍するテイクが、CD追加分のスタンダード・ナンバーI Didn’t Know What Time It Was。この当時はWayne がスタンダードを演奏する事自体が珍しかったのです。1960年代Art Blakey Jazz MessengersやMiles Davis Quintetで曲目限定ではありましたが、スタンダード演奏を聴くことが出来ました。その後Weather Reportや自分のグループでの演奏では全くと言って良いほどスタンダード・ナンバー演奏から無縁でした。
この「You Can’t Live Without It」は収録された4曲がスタンダードやジャズマンのオリジナルで、ほとんどアレンジも施されていない点からリハーサルを行ったとしても別日に一回、もしくは録音当日にリハーサルを行って準備が出来、『さあ、テープを回してくれ』的なラフな状態で演奏されたように思います。
Side A 1.Fum 2.Papa, Daddy And Me 3.Brown, Warm & Wintery / Side B 1.Buds 2.Falling In Love With Love 3.500 Miles High
Randy Breckerのワンホーン・カルテット、Eddie GomezにJack DeJohnetteという素晴らしいリズム陣、彼らメンバーのオリジナルを取り上げた、内容的にはこちらも”コンテンポラリー・ジャズ”です。
上記2枚のレコードを1枚のCDにカップリングしたものが「Merge」(合併)というタイトルで1992年Chiaroscuroよりリリースされています。残念ながら「The Jack Wilkins Quartet」の方から収録時間(77分30秒!)の関係からか1曲カットされていますが、大変お得なCDですね(笑)
そして後年「The Jack Wilkins Quartet」のリズムセクションにMichaelとRandyの2管を加えたJack Wilkins Chiaroscuro Records総まとめ?的な作品「Reunion」を2000年12月11日NYで録音、やはりChiaroscuro Recordsから2001年にリリースしています。惜しむらくはMichael当時のレコード会社との契約の関係で3曲だけの参加になっていますが、テナーの音色が実に素晴らしく録音されています。
それにしてもJack Wilkins + Chiaroscuro Records = Contemporary Jazzには一貫した流れがあります。
今一度Chiaroscuro Recordのリリース・カタログを調べるとJack Wilkins以外全てが前述の「中間派」のミュージシャンの作品で完璧に占められていました。「You Can’t live ~」のスポンテニアスな素晴らしさには何かレーベルとの関わり具合が関係していても良さそうな気がします。
この写真は1977年当時のMichael Breckerのアンブシュアのクローズアップです。使用マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、これはクラリネット奏者Eddie Danielsから譲り受けたものです。リードはLa Voz Medium Hard、リガチャーはSelmer Metalテナー用。テナー本体はSelmer MarkⅥ 67,000番台。勿論この「You Can’t Live ~」の演奏も含め、この当時(76年頃から78年頃まで)のMichaelの数々の名演、例えば「Heavy Metal Be-Bop」「Blue Montreux」「Sleeping Gypsy」「Browne Sugar」を生んだセッティングです。76年末頃にマウスピース、楽器いずれも入手したようです。「You Can’t live Without It」に話を戻しましょう。僕がこのレコードを初めて聴いたのは78年夏頃、当時行きつけのJazz喫茶で新譜として壁にディスプレイされていました。アルトからテナーに転向したばかりの僕はElvin Jonesの「Live At The Lighthouse」がバイブルのような存在で、Dave Liebman、Steve GrossmanらのいわゆるColtrane派のテナー奏者がフェイバリットでした。Michael Breckerの演奏も勿論聞いていましたが、それほどの感銘を受けるものには出会っていませんでした。そしてこのレコードの登場です。
以前から感じているのですが、John Coltraneは1955年Miles Davis Quintetに大抜擢も56年にドラッグの悪癖のため一時解雇されました。その後クリーンさを取り戻したColtraneは56年から57年にかけて神の啓示を受けたかのようにテナーサックスの腕前が飛躍的に上達しました。時は20年を経て1976年、Michael Breckerも翌年77年にかけてやはり超人的に上達し、ワンアンドオンリーなスタイルを確立しました。前述のマウスピース、楽器の入手もかなり関係しているように思えますし、Michaelも神の啓示を受けたかもしれません。僕はついに77年当時のMichaelに出会えたのです。
Steve Grossmanは18歳でWayne Shorterの後釜としてMiles Davis Bandに大抜擢、約1年間ほど在籍していた模様です。この時の映像を新宿DUGのオーナー、写真家として知られる中平穂積氏がNew Port Jazz Festivalにて録画したものを見たことがありますが、大御所にして圧倒的な存在感のMiles Davisの横で堂々たるプレイを繰り広げていました。レコーディングでは”Jack Johnson””Big Fun””Bitches Brew”を始めとして、ソプラノサックスでの演奏が殆どですがそこではテナーを吹いていました。
Miles Davis Bandを退団し、その後Elvin Jonesのピアノレス・カルテットにて盟友Dave Liebmanとのツーテナーで名盤Live At The Lighthouseを72年に録音、この演奏でジャズ・テナーサックス界に不滅の金字塔を建てました。ワンアンドオンリーなフレージング、50年代のSonny Rollinsを彷彿とさせるタイトでグルーヴィーなリズム感、Jonh ColtraneとBen Websterの融合とも言えるダークでエッジー、コクがあって極太のテナーサウンド…カリスマ・テナー奏者としてジャズ界知らぬ者は無い存在になりました。そして何と言ってもGrossmanこの時まだ21歳!無限の可能性を秘めた若者、その将来を嘱望されていました。
そして本作77年Born At The Same Timeに繋がりますが、早熟の天才プレイヤーにありがちな破天荒な行いが次第に目立ち始めます。大量の飲酒行為、ドラッグの使用での人格破綻、奇行、晩年のJaco Pastoriusを思わせる状況が見られるようになります。
Stone Allianceのヨーロッパツアー中にGrossmanが1人暴走(他メンバーのGene Perla、Don Aliasは温厚なタイプのミュージシャンでしたが)のため空中分解しツアーを途中でキャンセル、Elvin JonesはGrossmanの演奏をいたく気に入っていましたが、マネージャーを務めるElvinの奥様ケイコ夫人に素行の悪さからかなり嫌われていたようです。Grossmanは体力的にも強靭なものがあり、「25歳までは1週間徹夜しても平気だった」と発言していましたが、かなりドラッグの摂取も頻繁で「新しいクスリのやり方が流行ったとしたらそれを考えたのはSteveに違いない」とまで周囲から言われていました。
Grossman自身の発案か、レコード会社のアイデアか分かりませんが、それまでのGrossmanの集大成と言える”Born At The Same Time”が77年11月25日Parisで録音されました。
前述のStone Allianceのヨーロッパツアーが77年8月27日Austria Wiesenを皮切りに10月29日英国Londonまで挙行されました。その最後のLondon Ronnie Scott’s公演中でまさに空中分解したのです。
何とこの事件の1ヶ月後にヨーロッパの精鋭たちを集めてBorn At The Same Timeは録音されました。そのままヨーロッパに滞在していたかも知れません。
全9曲Grossmanのオリジナルで構成されています。CD再発時にはピアニストGeorge CablesのオリジナルLord Jesus Think On Me(Think On Meという曲名で作曲者が録音しています)が追加されていますが、アルバムのコンセプト、演奏のクオリティからオクラ入りしたのはうなずけます。
80年代に入ってからの話ですが、金策のためにテナーを質屋に入れて楽器が流れてしまったり、自分の弟子に楽器を借り、在ろうことかその他人の楽器を質屋に入れてしまったり(Charlie Parkerに同様の逸話がありますね)、自分のソプラノをNew Yorkでタクシーに置き忘れそのまま出てこなかったり、来日時に楽器を持参せず日本人ミュージシャンに借りたり(実は僕もしばらくテナーを貸したことがあります)87年録音Our Old Frame / Steve Grossman With Masahiro Yoshida Trioの時には僕のソプラノでNew Moonや415C.P.W.を演奏しています。
最後に、20年前にBorn At The Same Timeが東芝EMIから国内発売された時のCDライナーノーツ、僕が書いていました。自分自身すっかり忘れていましたがこのライナーを読んでしまうと20年前に書いた内容に捉われてしまうかもしれないと懸念し、敢えて読みませんでした。Blogが書き上がったのでこの後読んでみます。
実はいずれのアルバムでもJR Monteroseのプレイは凡庸なのです。Mingusの直立猿人ではリーダーの圧倒的な存在感に全く霞んでいますし、Kenny Dorham and The Jazz Prophetsはタイトル倒れの様を呈しています。Blue Noteに残されたリーダー作JR Monteroseでは別人かと見間違えるほど覇気が感じられませんし、ギタリストRene Thomasのアルバムでも気の毒なくらい自分を出し切れていません。
JR Monteroseにはまだ他にきっと名演奏があるに違いない、と一時探しましたが見事にありませんでした。The Messageの演奏が独立峰の如く燦然と輝いているのです。
さて大変前置きが長くなってしまいましたが、The Messageの内容に触れて行きたいと思います。
GIカットにスーツ姿、カッコ良いですね。楽器はセルマー・スーパー・バランスド・アクション・シルバープレート、マウスピースはOtto Link Metal Super Tone Masterとお見受けしました。
名プレイヤーは間違いなくバラードの名手でもあります。Violet For Your Furs(コートにすみれを)はJohn Coltraneが57年に録音した彼の初リーダー作”Coltrane”でも演奏されていますが、僕はJR氏の演奏に何の躊躇もなく軍配を挙げます。やっぱりバラードはサブトーンとビブラートが表現の決め手ですよ。
1曲目Straight Aheadに特筆すべき点があります。ピアノソロの後にテナーサックスとドラムスの2人だけのトレードが聴かれますが、これが素晴らしい!僕は予てからジャズはミュージシャン同士の会話だと考えています。気の合った仲間同士の楽しい会話と言い換えることもできます。お互いが演奏(発言)した事をしっかりと聞き合い、その演奏(会話)を豊かに膨らませて行く行為がジャズ演奏なのです。JR MonteroseとPete La Rocaのバトル演奏は僕にはある種の理想として聞こえます。
<Musicians>John Coltrane(ts,ss) McCoy Tyner(p) Steve Davis(b)Pete La Roca(ds)
<Song List>1)Liberia 2)Every Time We Say Goodbye 3)The Night Has A Thousand Eyes / CD One 4)Summertime 5)I Can’t Get Started 6)Body And Soul 7)But Not For Me / CD Two
1960年6月27日New YorkのGreenwich VillageにあったThe Jazz Galleryでのライブ録音2枚組です。正式な録音ではないので音質は決して良くありませんが、演奏内容は本当に素晴らしいです。絶好調のColtraneとリズムセクションとの組んず解れつの演奏、ここには幾つか特筆すべき点があります。まずピアニストMcCoy Tynerが正式にJohn Coltrane Quartetに加入した直後の演奏という点です。ColtraneはMiles Davis Quintet脱退後自分のカルテットをスタートすべく、多くのピアニストを起用しました。Wynton Kelly、Cedar Walton、Tommy Flanagan、意外なところでCecil Taylorとも1枚作品が残されています。ギタリストWes Montgomeryも一時参加したという話を聞いたことがありますが、Coltraneの長いソロの最中バッキングを止められ、ステージでぼーっとしているのが嫌だったのでしょう、すぐ辞めてしまったようです。Steve Kuhnも同じThe Jazz Galleryで1960年1月2月3月とその間約8週間Coltraneと共演を果たし、音楽的恩恵をColtraneから被ったと述べています。Coltraneへの慈しみの想いで録音されたSteve Kuhnの作品がこちらです。
Steve Kuhn Trio w/ Joe Lovano “Mostly Coltrane” (ECM)
ドラマーPete La Roca。Coltraneとの正式な録音は残されていないと記憶していますが、ここではハードバップから一歩飛び出た素晴らしいドラミングを聴かせています。60年録音Coltraneの作品”Coltrane Plays The Blues”にMr.Symsという曲が収録されています。
この作品にはBlues To Elvinという、盟友Elvinに捧げたナンバーが入っています。Pete La Rocaの本名はPete Sims、もしかしたらMr.SymsとはPete Simsの事かも知れません。Pete La Rocaの名演が以下の2枚で聴く事が出来ます。
Jackie McLean “New Soil” (Blue Note)
JR Montrose “The Message” (Jaro)
この2枚も大好きな作品です。じっくりと取り上げて行きたいですね。
演奏曲にも触れてみましょう。1曲目Liberia、Dizzy GillespieのA Night In Tunisiaにどこか似ているこの曲、アフリカのTunisiaではなく近くのLiberiaで辺りで済ませたようです(笑)。しかしこの曲の演奏時間が凄いです、30分強!!長い!時は60年ですよ!63年以降の欧州ツアーでImpressionsを40分、Live In JapanでMy Favorite Thingsを1時間演奏したColtrane、さすがにそこまでは行かずとも、ここでは20分近くテーマ〜ソロを吹き続けていますが、全く中弛みすることなくテンションとパワーを湛えた演奏を展開しています。その後ピアノ〜ドラム・ソロと繋がります。
もう1曲特筆すべきは5曲目のI Can’t Get Started、Coltrane自身がこの曲を演奏し、世に出ているのは恐らくこのテイクだけでしょう。ソプラノサックスで演奏されていますが、驚くべきはコルトレーン・チェンジが施された構成で演奏されている点です。Coltraneは60年当時、短3度と4度進行からなるコルトレーン・チェンジを数多くの曲に用いていました。代表作がGiant Stepsでスタンダード・ナンバー、例えばこのライブ録音に収録されているThe Night Has A Thousand Eyes、Body And Soul、But Not For Me、他にもSatellite (How High The Moonのコード進行がベース。月に引っ掛けた衛星のシャレですね)、Fifth House (Hot Houseのコード進行、構成がベース)、Count Down (Tune Upのコード進行、構成がベース。チューニングとカウントを引っ掛けてます) 、26-2 (Confirmationのコード進行がベース)。推測するに当時Coltraneは片っ端からスタンダード・ナンバーをコルトレーン・チェンジ化をしていました。その中で上手く行った曲をレコーディングし、世に出していたのでしょう。実際26-2はColtraneの死後に未発表テイクとしてリリースされました。演奏や曲の構成にもやや無理があるように聞こえます。このI Can’t Get Startedも内容としては今ひとつの感を拭えません。Coltraneファンとしては彼の未発表演奏の発掘をまだまだ心待ちにしています。前述のWes Montgomeryの共演を筆頭にお宝はきっとある筈です。聴いてみたいものです。
Pete Christliebはアメリカ西海岸を中心としたスタジオミュージシャン、音色も明るめで何しろタンギングの達人、フレージングの滑舌の小気味良いこと。明確なメッセージを湛えたアドリブ・ラインを聴かせてくれます。Warne Marshも西海岸ロサンゼルス出身ですが、師レニー・トリスターノと共に東海岸ニューヨークで活動、クール・ジャズと呼ばれるスタイルで演奏し、「ホゲホゲ」「モグモグ」「ガサガサ」を感じさせるダークなトーンと独自のアドリブラインで、ワン・アンド・オンリーなテナー奏者です。
4曲目はアルバムのもう一つのハイライト、アップテンポのその名もTenor Of The Time。こう言い早い曲ではPeteさんまさしく本領発揮、バキバキとゴキゲンにスイングしています。タイムは良い、音符が長い、明瞭な話し方、バッチリなタンギングで音符がプリプリしている、そしてアドリブカッコ良いと来れば言うこと無しです。で、ここでテナー演奏が彼1人で終わってしまえばありきたりのごく普通の凄い演奏ですが(笑)、この後にホゲホゲのカリスマWarneさんの演奏が入る事により、全く普通では無い演奏に化学変化しています。テナーバトルって面白いですね。
演目のうち1曲はテナーサックスをフィーチャーした美しいメロディのバラード。リリカルでゴージャスなストリングス、ウッドウインズ、ブラスを配したオーケストラをバックにメロディを吹いていると、名盤Claus Ogerman / Michael BreckerのCityscapesでの名演を思い浮かべてしまいます。