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2017.11

2017.11.29 Wed

McCoy Tyner Trio featuring Michael Brecker / Infinity

今回はMcCoy TynerのトリオにMichael Breckerがフィーチャーされた作品「McCoy Tyner Trio featuring Michael Brecker」を取り上げて行きましょう。タイトルの割には編成はカルテットないしはパーカッション奏者が曲により加わり、クインテット編成です。

1995年4月12~14日録音 Recorded and mastered by Rudy Van Gelder

Recorded at the Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey

p)McCoy Tyner ts)Michael Brecker b)Avery Sharpe ds)Aaron Scott perc)Valtinho Anastacio

1)Flying High 2)I Mean You 3)Where Is Love 4)Changes 5)Blues Stride 6)Happy Days 7)Impressions 8)Mellow Minor 9)Good Morning, Heartache

この作品は1995年にリリースされ、1996年のグラミー賞Best Jazz Instrument Performanceに輝き、また収録されているJohn Coltraneの代表曲Impressionsの演奏でMichael Breckerが同じくグラミー賞Best Jazz Instrumental Soloの栄冠を獲得したという、大変な栄誉あるアルバムです。レーベルもColtraneの一連の作品をリリースしたあのImpulse!で、60年代当時McCoy自身の作品もImpulse!から6作リリース〜いずれも大変素晴らしい作品ですが1枚挙げるとすると「Reaching Force」でしょうか〜されており、古巣に戻った形です。そのためかどうか、本人かなり力が入っていて自筆で1曲ずつ丁寧に解説を書いたライナーノートが添付されています。結構癖のある文字であまり読み易くはありませんが(笑)、作品に賭ける情熱と意欲が文面から伝わってきます。

このレコーディング・メンバーでかなりの本数のワールド・ツアーを行いました。ただ残念な事に来日公演は果たしていません。youtubeにその映像が幾つかアップされているので、こちらで我慢しましょう。

ベーシストAvery Sharpeは80年代から90年代にかけてMcCoy Tyner Trioレギュラーを務めています。McCoyの70年代の名盤「Song Of  The New World」「Enlightenment」「Atlantis」でベースを弾いているJuni(もしくはJoony)Boothに実によく似たタイプのプレーヤーです。最初に聴いた時にはてっきりJuni Boothだと思うくらいにベースの音色やラインのウネウネ感がそっくりでした。50年代から活動していたアルト奏者Clarence Sharpe(同じ苗字ですが血縁ではないと思います)はCシャープと呼ばれていますが、Avery Sharpeも当然Aシャープとなりますが、B♭ではありませんね(爆)McCoyはこういうビート・タイプのベーシストをレギュラーとして起用するのが好みなのかも知れません。

この作品で素晴らしいドラミングを聞かせるAaron ScottはBerklee音楽院出身で89年から96年の本作まで計5作、McCoyの作品に参加しています。AaronとはBerklee同期だった僕の友人ドラマー曰く、見た目や顔の雰囲気から来ているのでしょうか彼は「ラクダ」と言うあだ名だったそうです。一卵性双生児の兄弟がいて母親が間違うほどソックリだそうですが、Michael Breckerが「Aaronは僕に対抗意識(competition)を持っている」と話していました。いつも会うたびにMichaelにちょっかいを出すらしく、多少のことには動じないMichaelも”うざったさ”を告白していました。同じ楽器を演奏する者同士なら対抗意識を持つのも分かりますが、逆に同じ傾向、同方向の物の考え方を持つもの同士なら楽器が違えど対抗意識を持つことがあるのでしょうか。そういえばSteve Grossmanが「Bob Bergはオレに対抗意識を持っているんだ。アイツは面倒臭い奴だよ」と言っていました。この事にはしっかりと頷くことが出来ます。18歳でWayne Shorterの後釜としてMiles Davisのバンドに大抜擢、一世を風靡した天才サックス奏者には努力の人Bob Bergは対抗意識むき出しで当然だと思います。Randy Breckerも「Bobはコンプレックスの塊だ」とも発言しているのを読んだ事が有ります。でもBob Bergは87年頃にMilesのバンドに参加、「You’re Under Arrest」をレコーディングしてロードにも出ました。New Yorkで60年代末から70年代初頭にかけて青春時代を過ごした、いわゆるロフトでジャムセッションを繰り広げ、お互いに切磋琢磨しあった間柄のColtraneスタイル・テナー奏者たちSteve Grossman、Dave Liebman、Bob Berg、 Michael Brecker、Bob Mintzer達は全員ユダヤ系アメリカ人です。特にGrossmanとLiebmanは2人とも70年代を代表するバンド、Miles Davis Groupの他Elvin Jones Groupにも参加、70年代にはその音楽性を見事に開花させました。Michaelは実はジャズジャイアントと共演の機会が少なかった事に引け目を感じていたように感じます。こんな話があるのですが、Charles Mingusのラストレコーディング、名盤「Me, Myself An Eye」のレコーディングについて僕がMichaelと話をしました。

膨大な人数のミュージシャンが参加したラージアンサンブルなのですが、僕の「レコーディンの時のことを覚えてる?」と言う質問に「あまり覚えていないけれど、Charlesの他Lee Konitzが居たのは覚えているよ 」Michaelと同じくジャズシーンだけではなくスタジオミュージシャンとしても活躍して居たバリトンサックス奏者Pepper Adamsの参加を思い出し、「確かPeppr Adamsも一緒だったはずだよ」と言うと急に色めき立ち「えっ、本当?Pepper Adamsがあの場に居たのかい?」「そうだよ。ライナーの写真にもPepperが写っているよ」自分が参加したアルバムにあまり興味のないMichael、当然ジャケ写も見ていない事でしょう。「僕はPepper Adams(何故かPepprではなくフルネームで呼んでいました)と共演していたんだ…」遠い所を見つめる様な感じの目付きをしながら呟いていたのが印象的でした。ジャズジャイアントとの共演歴が彼の中でその時もう1人増えた訳です。

盟友Grossman、Liebman達の華々しい活躍を尻目に彼自身はHorace Silverのバンドに参加したことがある位で、ひたすらスタジオミュージシャンとして活動を続けていました。多分MichaelもGrossman、Liebman2人にはcompetitionを持っていた事でしょう。でも外にその感情を出さずその分のエネルギーを自分がやるべき事の精進のために凝縮して費やす、むしろそう言うことが出来る事に長けている、いやその点に関しては天才的なのがMichael Breckerです。驚異的な楽器の習熟度、進歩、誰も成し得なかったサックスの奏法開発、まさに不言実行を絵に描いたような人でした。

Chick Corea、 Herbier Hancock、Elvin Jones達ジャズジャイアントと演奏を展開し、この作品でMcCoy Tynerとも共演を果たしました。さらに96年には自己の傑作アルバム「Tales From The Hudson」でMcCoyをゲストに迎えてPat MethenyのオリジナルSong For BilbaoとMichaelのオリジナルAfrican Skiesをレコーディングし、96年この自身の作品でもMichaelはBest Jazz Instrument Solo(収録曲Cabin Fever)とBest Jazz Instrument Album2つのグラミー賞2年連続受賞と言う快挙を成し遂げました。

「McCoyは僕にとても良くしてくれているんだ」と嬉しそうに話すMichaelの笑顔を忘れる事が出来ません。Milesとの共演だけは果たす事が出来ませんでしたが、Michaelはありとあらゆるジャズジャイアントとの共演を成し遂げました。

最後に「Infinity」のレコーディングの音質について触れて見ましょう。前述の通り名エンジニアRudy Van Gelderによる、彼のNew Jerseyのスタジオでの録音なので本来なら悪かろう筈がないのですが、実は僕にはあまりピンと来ていません。というかMichaelのテナーの音色が彼らしくないのです。96年の来日時Michaelに会い一緒に石森楽器に同行した時の話です。お店の従業員の方がMichaelが来店したので気を利かせてこの「Infinity」CDを掛けました。すると「うっ、このCDのテナーの音は苦手なんだよ」とMichael呻くように呟きました。「このレコーディングはRudyがエンジニアなのだけれど、どうしてなのかこんな音色で録音されたんだ。Tatsuyaはどう思う?」「確かに僕もこのMichaelの音色はいつもと違うと思っていましたよ」「そうなんだよ…」Rudy Van Gelderは既に何度もMichaelのレコーディンを経験していて、彼の音色の本質を把握している筈ですが、Rudyは常々レコーディングのクオリティを向上させるべく新しい事にチャレンジしていたようです。この作品はひょっとしたらチャレンジが裏目に出てしまった例なのかも知れません。

2017.11.22 Wed

Sonny Rollins And The Contemporary Leaders

今回はテナータイタン、Sonny Rollinsの代表的なリーダー作「Sonny Rollins And The Contemporary Leaders」を取り上げて見ましょう。

Side A

1)I’ve Told Ev’ry Little Star

2)Rock-A-Bye Your Baby With A Dixie Melody

3)How High The Moon

4)You

Side B

1)I’ve Found A New Baby

2)Alone Together

3)In The Chapel In The Moon Light

4)The Song Is You

ts)Sonny Rollins g)Barney Kessel p)Hampton Hawes b)Leroy Vinnegar ds)Shelly Manne vib)Victor Feldman(On “You”only) 1958年10月20~22日LA録音

CDでは巻末に未発表別テイク3曲(You, I’ve Found A New Baby, The Song Is You)が追加されています。その関係で全体のバランスを考えてなのかどうか、本編の曲順が変えられており、このレコードの昔からのファンにとっては甚だ迷惑な話です。CDをお持ちの方はレコードの曲順で未発表テイクを省き、一度作品を鑑賞してみて下さい。印象が随分と違ってきます。もちろん僕はこの曲順が良いと思いますし、耳がしっかり慣らされています。作品をリリースする際にあらゆる事を考慮に入れて収録曲、テイク、曲順をアーティスト、プロデューサーは決定しています。未発表テイクを巻末に追加収録するのは良しとしても、曲順を変えるのはどうでしょうか。もしかしたらCDリリース時にRollins本人の承諾を得ているのかも知れませんが。

僕は1950年代のSonny Rollinsがとても好きです。ハードバップ黄金期をテナーの王道を行く素晴らしい音色、タイム感、センス、品格、ユーモア、構築するが如きストーリー性豊かなソロを引っさげて、自己の多くのリーダー作からMiles Davis、Bud Powell、Thelonious Monk、Dizzy Gillespie、MJQ、Clifford Brown~Max Roach達とモダンジャズの名盤を多産しました。と言うかハードバップの名盤にはRollinsの存在ことごとくありき、です。60年代を代表するテナーサックス奏者をJohn Coltraneとするならば、50年代の代表選手は間違いなくSonny Rollinsです。59年末から61年11月までの約2年間ジャズシーンを離れて自分の演奏を見つめ直すべく隠遁生活をしました。その後はその甲斐あってかどうか、良し悪しは別としてRollinsはそれまでとは表現するものを変えたように感じます。60年代に入って第1作目の作品「Bridge」(62年)以降から現在に至るRollinsも良いですが、50年代の演奏は格別にジャズ度をアピールしてくれます。誤解を恐れずに述べるならば50年はジャズを、60年代以降はSonny Rollins Musicを演奏していると思います。Coltraneの50年代後半からの急成長〜台頭ぶりが少なからずRollinsがジャズシーンからしばらく離れるきっかっけを作ったと考えるのは僕だけではないでしょう。ひょっとしたらコード進行に於けるテンションの使い方の限界をRollinsは感じ始め、特に57年以降のColtraneが自分とは全く異なる方法論での緻密なアドリブを急展開させ、「これは敵わないわ」と感じたかどうかまでは分かりませんが、ジャズ理論的に複雑な構成音を用いたアドリブは止めよう、もっとハナウタのようにメロディを奏でよう、この方が自分にとって自然体だ、と決心したのかも知れません。ちなみにRollinsとColtarneは仲が良く、一緒に練習をした仲間だったそうです。二人の唯一の共演作56年5月24日録音「Tenor Madness」、この時のColtraneの演奏はその後の劇的な変貌の片鱗すら感じさせません。

Rollinsは54年と69年にもシーンを離れました。彼に限らず他のミュージシャンも精神的、肉体的、家族の問題、経済的な事情でシーンを離れることが多々あります。Rollinsばかりが騒がれるのは第一線で走り続けるアスリートならでは、なのでしょうか。もしくは「しばらくリタイアします」のようなメッセージをわざわざ発しているのかもしれませんね。律儀な人だという話を聞いたことがあります。次に挙げるエピソードがRollinsの人柄を良く物語っています。僕の所属していたジャズ研の先輩が30数年前、Sonny Rollins Japan Tourのローディ、Rollinsの付き人としてツアーに同行しました。茶目っ気のある、イタズラ好きな先輩は人に頼まれたり物を勧められても断ることのできない性格のRollinsに移動の車内であんころ餅を勧めたそうです。Rollinsは甘いものが苦手というのを知っていて。「Mr. Sonny、これをどうぞ召し上がって下さい」「どうも有難う、ところでこの食べ物は何だい?」「日本の食べ物であんころ餅と言います、とっても甘くて美味しいんです!」「…Oh, thank you very much…」と言って暫くしてから素知らぬ顔でポトリと床にあんころ餅を落としたそうです(笑)

58年録音「Contemporary Leaders」は文字通り50年代最後の作品、Los AngelesにRollins単身赴き、西海岸を代表する名門レーベルContemporary Records所属のアーティスト達をリズム・セクションに迎え、小粋なブロードウェイ・ミュージカル・ナンバーを中心に、実に熟れた素晴らしい演奏を聴かせています。Barney Kesselのギター、ちょっとピッキングがバタバタして発音がナマっているように聞こえますが、とても味のあるアドリブを聞かせます。Hampton Hawesは大好きなピアニスト、明快なタッチ、演奏でタイトなリズムによるスインギーな演奏にグッときます。初リーダー作Hampton Hawes Trio, Vol.1はいまだに愛聴盤です。Leroy Vinnegarは自分のソロ時もひたすらwalkingで通す職人肌なベースプレイを信条としています。シャープでグルーヴ感が素晴らしいドラマーShelly Manne、西海岸きってのテクニシャンで後続のプレイヤーに多大な影響を与えました。Miles Davisのバンドにピアニストとして参加したことのあるヴァイブ奏者、名曲Seven Steps To HeavenやJoshuaの作曲者でもあるVictor FeldmanはRollinsとのバトルで丁々発止のソロを聴かせます。

レーベルContemporary Recordsの録音エンジニアはRoy DuNann。この人の録音はBlue Note LabelのRudy Van Gelderとはある意味正反対のナチュラルさが特徴で、西海岸らしい明るめの音質です。以下がこのアルバムのレコーディング時の写真ですが、倉庫のようなスタジオに現代のようなパーテーションのためのついたて等一切なく、ドラムやサックスのような音の大きな楽器が他の楽器に干渉するのを防ぐため別なブースに入って演奏する事もなしに、メンバー全員が一つの部屋でまとまった密な状態で録音しています。それでこれだけ各々の楽器の分離、解像度、臨場感、バランスが取れているのはマジックです。

写真の左下、白い布の上には我々テナー奏者お馴染みOtto Link Metal Mouthpiece用のキャップ、そしてその横にはレコードジャケットでRollinsが左手に持っているマッチらしき物も写っています。想像するに、レコーディング終了後ないしは休憩時間にカメラマンが一服している(ジャケ写でタバコを右手に挟んでいます)Rollinsを捕まえてポートレートを撮影したのでしょう。当日の情景を思い浮かべるのはとても楽しいですね。

この作品のRollinsの演奏はどれも全て完璧、と言って良いほど素晴らしいのですが特に僕が好きな部分、いつ聴いてもゾクゾクしてしまうのがバラードIn The Chapel In The Moonlightの最初のテーマのサビ後、メロディのアウフタクト部分に出て来るLow B♭音のサブトーンです。この音のインパクトの凄さたるや百凡のテナー奏者の及ぶところではありません。そして何よりこれだけ最低音B♭が的確に出るに際しての楽器調整の確実さと、調整を施したリペア職人の巧みな技、Rollinsの楽器を身体の一部のように扱える奏法の素晴らしさを、たった1音からそこまで感じさせてしまうのです。

「Contemporary Leaders」が50年代のRollins最後の演奏とずっと認識していましたが、1984年にスウェーデンのレーベルDragonから突如として59年3月録音のレコードがリリースされました。これには50年代Rollinsマニアの僕も驚きました。

St.Thomas / Sonny Rollins Trio in Stockholm 1959

b)Henry Grimes ds)Pete La Rocaを従えて、お得意のテナートリオでの演奏です。これがまた素晴らしい演奏です!ここでは「Contemporary Leaders」の延長線上にある演奏を聴くことができます。「実に熟れた演奏」を超えた「熟れきった演奏」がこの作品の特徴です。

Side A 1)St.Thomas 2)There Will Never Be Another You 3)Stay As Sweet As You Are 4)I’ve Told Every Little Star

Side B 1)How High The Moon 2)Oleo 3)Paul’s Pal

1曲目St. Thomasのみライブ録音、他はラジオ放送音源から収録されています。因みにこの頃のRollinsの楽器セッティングですがテナー本体はKing Super20 Silversonic、マウスピースはOtto Link Super Tone Master Double Ring 10★、リードは Rico3番です。

57年3月7日録音「Way Out West」、同年11月3日録音「 A Night At The Village Vanguard」2作ともテナートリオでのRollins代表作ですが、これらに全く引けを取らないクオリティの演奏です。

Rollinsをこよなく敬愛するSteve Grossmanが自身の作品、同じテナートリオでタイトルにあやかった「 Way Out East」をリリースしています。

GrossmanのRollinsフリーク振りは80年代以降の彼の演奏を聴けば一目瞭然ですが、こんな事を話していました。「ある日空港でばったりSonnyに会ったんだよ!なんと俺と同じシャツを着て、同じスニーカーを履いていたんだ!凄いだろ?」ここまで来れば本格的です(笑)。またGrossmanは「Sonnyの演奏は50年代にしか興味がないね。それ以降はI don’t care!」この辺りのテイストはまさしく彼の演奏に反映されています。

in StockholmではContemporary Leaders1曲目に収録したナンバーを再演しています。I’ve Told Every Little Star、ここではテーマ演奏の際に曲中の印象的な2小節のメロディをわざと毎回オフマイクにして音色の変化をつけています。ユーモラスなRollinsならではのワザですね。

2017.11.18 Sat

Weather Report / The Legendary Live Tapes: 1978-1981

今回はWeather Reportのライブ音源を集めた作品Weather Report / The Legendary Live Tapes: 1978-1981(Columbia)を取り上げてみましょう。CD4枚組の大変充実した内容です。(2015年リリース)

CD 1 – The Quintet: 1980 + 1981  1.8:30 2.Sightseeing 3.Brown Street 4.The Orphan 5.Forlorn 6.Three Views Of A Secret 7.Badia / Boogie Woogie Waltz 9.Jaco Solo (Osaka 1980)

CD 2 – The Quartet: 1978  1. Joe And Wayne Duet 2.Birdland 3.Peter’s Solo (“Drum Solo”) 4.A Remark You Made 5.Continuum / River People 6.Gibraltar

CD 3 – The Quintet: 1980 + 1981  1.Fast City 2.Madagascar 3.Night Passage 4.Dream Clock 5.Rockin’ In Rhythm 6. Port Of Entry

CD 4 – The Quartet: 1978  1.Elegant People 2.Scarlet Woman 3.Black Market 4.Jaco Solo 5.Teen Town 6.Peter’s Drum Solo 7.Directions

1978年、80年、81年のWeather Report黄金期、Jaco PastoriusとPeter Erskineが在籍していた時代の演奏で、Erskineが個人的にカセットテープで録音していたものを編集しデジタル化しリリースしました。プロデュースもErskine自らがつとめています。すべての作品の録音やクオリティに徹底的にこだわったWeather Reportにしてはカセット音源だけに録音の音質〜かなり巧みにデジタル・マスタリングを施してありますがヒスノイズやドンシャリ感〜、臨場感の粗さ、アルバム構成に際してのラフさは否めませんが、それらを補って余りある演奏のクオリティの高さが驚異的、改めてWeather Reportは本質的にライブバンドであった事を認識させてくれます。Jacoの絶頂期を捉えたドキュメンタリーと言う側面もある作品です。

78年の演奏はJoe Zawinul(key) Wayne Shorter(ts,ss) Jaco Patorius(b) Peter Erskine(ds)のカルテット、80年81年はRobert Thomas, Jr.(perc)が加わりクインテット編成での演奏になっています。

こちらは2002年にリリースされたオフィシャルな未発表ライブ音源を集めた2枚組CD「 Weather Report Live & Unreleased」。Joe Zawinul~Wayne Shorterの双頭を軸に75年のAlphonso Johnson(b)、Alex Acuna(ds,perc)、Chester Thompson(ds)、Manolo Badrena(perd)、そして78年〜80年Jaco~Erskineのコンビはもちろん、それ以降83年Omar Hakim(ds)~Victor Bailey(b)のリズムセクションでの演奏も収録されており、集大成的な作品です。

「The Legendary Live Tapes」と同じカルテット編成で78年にライブ録音、翌79年にリリースされたWeather Reportの代表作「8:30」、同年のグラミー賞を受賞しました。おそらくベストテイクを厳選し曲順や構成を徹底的に練っています。ちなみにプロデュースはZawinulとJacoの2人でShorterは加わっていません。

上記2作のライブ盤はフォーマルな作品としてリリースされているので、ライブ演奏でも「おめかしした」「デコレーションされた」表情を見せていますが、「The Legendary Live Tapes」の方は「すっぴんの」「生身の」「ライブ演奏の赤裸々な面」をとことん聴かせてくれています。このCDがリリースされたお陰でWeather Reportのヒューマンな側面をしっかりと感じ取ることが出来ました。スタジオ録音やオフィシャル・ライブ演奏では聴くことの出来ないギラギラ感、崩壊寸前にまで達する演奏のテンション、インタープレイ、先鋭的な音楽をクリエイトしようとする容赦なき創造意欲、チャレンジ精神。間違いなくJacoの演奏がバンドの推進力となり、他のメンバーを強力にインスパイアし、恐ろしいまでに美しくエネルギーに満ちた前人未到の音楽を演奏しています。

JacoがZawinulに初めて出会った時に「俺の名前はジョン・フランシス・パストリアス3世で、世界最高のエレクトリック・ベース・プレイヤーなんだ」といきなり自己紹介した話は有名です。始めは相手にしていなかったZawinulも次第に彼に興味を持ち始め、当時Weather Reportに在籍していたAlphonso Johnsonが抜けることになった際、後釜でJacoを参加させることにしました。Alphonso Johnsonも素晴らしいベース奏者ですが、Jacoの演奏は更なる境地へ進まんとしていたWeather Reportに全く相応しい音楽的な起爆剤となりました。適材適所とはまさしくこのことです。それにしてもJacoがジャズ界に出現してから40年強、実際のところ彼を超えるベーシストは未だ現れていません。

ところでCDの78年のカルテット演奏で6月28日のテイクが4曲収録されていますが、実はたまたまその場に居合わせていました。場所は今はなき新宿厚生年金会館、当時の外国人ジャズミュージシャン生演奏の殿堂です。現在進行形の最先端を行っていたフュージョンバンドWeather Report、未だ見ぬ生Jaco Pastoriusを体験しに、動くWayne Shorter、Joe ZawinulとPeter Erskineを拝みに行くべく、聴く気満々で会場入りしました。

超満員の新宿厚生年金会館大ホール、今か今かとWeather Reportの登場を待ちわびています。幕が開く前から開演の狼煙を上げるべくシンセサイザーのSEが厳かに鳴り響き始めました。そして開幕です!会場割れんばかりの拍手を受け、4人のメンバーの登場です!印象的なベースのパターンからすぐに演目はShorterのElegant Peopleと分かりました。作曲者本人のエグくて極太の個性的なテナーのメロディ演奏、物凄い音色です!あれ???でも何か変です??何かが足りないのです?それは開幕前には鳴っていたはずのZawinulのシンセサイザーがコンサートが始まっているにも関わらず全く音無しなのです!!Zawinul周囲の膨大なシンセサイザー、キーボード、フェンダーローズ類をスタッフが慌てて取り囲み始め、懸命に対処していますが一向に機材が音を出す気配はありません!それに反するかのようにZawinulの怒号が聞こえます!この騒ぎを尻目に何とShorter、Jaco、Erskineの3人の演奏はめちゃくちゃ盛り上がっています!一般的にミュージシャンはイレギュラー、ハプニングがあればあるほど燃える人種です!当然の出来事でしょう、本気でハプニングを楽しんでいます!「うわー、カッコいい!」この機材トラブルによる思いがけないプレゼントに僕自身も興奮し、束の間このZawinul不在Weather Report Trioを楽しむことが出来ました。しかし無粋なことに盛り上がりに反してステージの幕がゆっくりと降り始めます。「えっ、なんで?どうして?」聴衆全員が感じたことと思いますが、完全に幕が閉まってからも3人は演奏を続けています。会場の手拍子もいちだんと激しくなっています。聴衆から笑い声さえ発せられています。「だったら幕を開けてちゃんと聴かせてよ!」と感じ始めた頃に次第に演奏が静かになりフェードアウト〜無音状態、ついに幕内で行われていたスペシャル・コンサートも終演となりました。しばしの沈黙の後、アナウンス嬢による案内が流れ始めました。舞台裏もさぞかし取っ散らかっていたのでしょう、伝説的なメッセージがこちらです。「ご来場のお客様にお詫び申し上げます。只今機械の故障が悪いため、もう暫くお待ちくださいませ」そうか、機械の故障が悪いのなら仕方ないか、と妙な納得をしたのを覚えています(笑)。

それからどのくらい経ったでしょうか、ステージ再開の運びとなり開幕し再度Elegant Peopleが、今度はもちろんシンセサイザー、キーボードのサウンド付きで(笑)演奏されました。でも先ほどまでのバンドのテンションは何処に行ってしまったのでしょう?と感じたオーディエンスは僕だけではないと思います。

そりゃあそうですよね、機材トラブルで中断したコンサートをまた当初予定の1曲めから演奏してもプレイヤー自身気持ちは入り難いですよね。当夜はクオリティ的には何ら問題のない通常のWeather Report Concertでしたが、冒頭のトラブルが無ければ更に充実した内容のコンサートになったのでは無いでしょうか。(我々はこの事を「羽黒山・月山・湯殿山=出羽三山〜出は散々」と呼んでいます…失礼しました!)

2017.11.03 Fri

The Saxophone featuring Two T’s

今回はThe Saxophone featuring Two T’sを取り上げてみましょう。

作品の実質的なリーダーはBob Mintzer、彼が率いるカルテットにMichael Breckerが3曲ゲスト参加している形になります。

1992年11月29, 30日NYC Skyline Studioで録音。

ts)Bob Mintzer ts)Michael Brecker p)Don Grolnick b)Michael Formanek ds)Peter Erskine

1)The Saxophone 2)Giant Steps (Version 1) 3)Three Pieces 4)Two T’s 5)Sonny 6)Body And Soul ~ Everything Happens To Me 7)Three Little Words 8)Giant Steps (Version 2)

この作品は日本制作によるもので、「先達の偉大なテナーサックス奏者たちに捧げる作品」をコンセプトとしています。目玉はやはりJohn ColtraneのGiant StepsをMichael Brecker、Bob Mintzerの2人が演奏している点です。特にBreckerの演奏に期待が寄せられます。テナーサックス奏者にとって永遠の課題曲Giant Steps、彼は一体どのように料理しているのでしょうか。

その前にJohn Coltrane自身のGiant Steps演奏に触れておきましょう。

こちらは1995年にリリースされたColtraneのAtlantic Labelへのレコーディングをオルターネート・テイクを含め、現存する全てのテイクが収録された7枚組Box Set、その名も「The Heavy Weight Champion John Coltrane」。Giant Steps全11テイクを聴くことができます。それにしても言い得て妙なCDタイトルですね(笑)。

メンバー p)Tommy Flanagan b)Paul Chambers ds)Art Taylorとの演奏でColtraneの完璧なアドリブ・ソロが聴けるオリジナル・テイク「Giant Steps」が1959年5月5日録音。

これに先立つオルタネート・テイクが59年3月26日(以前は4月1日と表記されていましたがこちらの日付が正確です)にリズムセクションが違うメンバーで録音されています。p)Cedar Walton b)Paul Chambers ds)Lex Humphries。

オルタネート・テイクはまずテンポがオリジナル(♩=290前後)よりもぐっと遅く(♩=240~250)、ドラマーに負うところが大だと思いますがスピード感がありません。Coltrane自身のソロも精彩を欠いていて音色もいつもよりややこもりがちです。ピアニストCedar Waltonに至ってはソロを取らせて貰えていません。false start、incompleteを含めて計8テイクが残されており、オルタネート・オリジナル・テイクはラストの8テイク目が採用されました。8回トライしましたが団栗の背比べ、と言うか最後まで通して演奏できたのがTake5とこのTake8でした。Coltraneにも迷いを感じさせる瞬間があり、これ以上テイクを重ねても代わり映えしないと判断した(された)のでその日はとりあえず終了。しかしColtraneの頭の中には「オレのGiant Stepsはこんなもんじゃ無いぞ!!」と言う意識が強力にあったと思います。ベーシストPaul Chambersは留任、ピアニストにTommy Flanagan、ドラムスにタイトさとスピード感が定評のArt Taylorを迎えて約1ヶ月後の5月5日に再びスタジオ入りしました。イヤ〜、大正解の人選、再チャレンジです!!人間諦めてはいけませんね!さぞかしカルテットでも、当然Coltrane自身も1ヶ月間猛練習を重ねたことだと思います。オリジナル・テイクはテンポがぐっと早くなり、曲の複雑なコードチェンジが一層スリリングになりました。Paul ChambersとArt Taylorの鉄壁リズムセクションに鼓舞されてか、Coltrane実に絶好調の演奏です。音色もぐっと深まったいつものスピード感、重厚感のある彼です。順調に演奏が進み、Take5がオリジナル・テイクに採用されました。「いやいや、もっと良いTakeが録れそうだ」とばかりに、多分Coltrane自身の発案でOne More Take、Take6まで録音しましたが、Take5を凌ぐ程ではなく、それまでに演奏したフレーズに捉われたりリズムセクションとのコンビネーションに不具合も聞かれ始め、Tommy Flanaganも「Johnもういいだろう?」と言わんばかりにソロをTake5よりも短くあっさり済ませています。(残念なことにTake1, 2, 4の録音は残されていません)。

ジャズ史に残るJohn Coltraneの名演Giant Stepsはこうした試行錯誤の末に生まれました。表現者たるものその舞台裏を容易く見せたくはありませんが、Coltraneの死後未発表Takeが発掘され、誰もが知りたい名演奏誕生に至るプロセスが白日の下に晒されました。Coltraneも天国で「まったくもう、勝手に墓場を暴くなよな」と言っている事と思います(笑)。

この完璧なJohn Coltrane / Giant Stepsの演奏、「神聖にして侵すべからず」と言う暗黙の了承のもと(笑)、多くのミュージシャンがこの曲の演奏を控えていましたが(?)、恐れを知らぬサックス奏者たちによるGiant Steps演奏を幾つか聴く事が出来ます。

Eddie Harris / Sings The Blues / 1972年録音

電気サックスやユニークなオリジナル曲が際立つテナー奏者Eddie Harrisのオーソドックスな演奏。

The Return of the 5000 Lb. Man / Roland Kirk / 1975年NYC録音

盲目のマルチリード奏者Roland Kirkの演奏はコーラスの起用やColtraneのソロをディフォルメしたアンサンブルが聴ける意欲作です。

Roland Prince / Color Visions / 1976年

Elvin Jonesのバンドへの参加でその名を轟かせたギタリストRoland Princeのリーダー作で、テナーサックス奏者Frank Fosterをフィーチャーしての演奏。

Kenny Garrett / Triology / 1995年

サックス・トリオでの大熱演です。Kenny Garrettの音色だからこそ成り立つアルトサックスでのGiant Steps演奏です。

作品としては残されていませんが、Branford Marsalisがライブ演奏で度々Giant Stepsを取り上げていました。こちらは87年8月26日New Port Jazz Festivalにての演奏。BranfordはColtraneの代表作「A Love Supreme」を自己のカルテットでレコーディング、ライブDVDもリリースしています。神をも恐れぬ所業の数々ですね(笑)

いずれの演奏もクオリティとしては悪くありませんが、Coltrane本人の演奏には足元にも及びません。またどの演奏もどこか余興的な雰囲気〜Coltraneの演奏にはどうやっても敵わないから〜を持ちつつ行われている気がします。

話をThe Saxophone featuring Two T’sに戻しましょう。

Michael BreckerのGiant Steps演奏は1977年の2度目の来日時(初来日はYoko Onoのバンドで郡山ロックフェスティバル出演74年です!)に未確認ですがなされています。6月3, 4両日東京西武劇場にて行われたJun Fukamachi Triangle Session、そのアフターアワーズのジャムセッションで演奏されました。あまりの凄さにその場にいた全員がとても驚いたそうです。録音が残っていると良いのですが。

Michaelの演奏はコード進行に対するアプローチが他のサックス奏者誰よりも微に入り細に入り、テンションの使い方が巧みです。Giant Stepsのようなアップテンポで2拍づつコードやトーナリティが変わる曲ではさぞかし物凄いソロを取るのでは、とイメージしていました。それが93年にとうとう聴けたのです。

実はTwo T’sではMichaelによるGiant Steps演奏は当初予定されていませんでした。MintzerワンホーンによるテイクVersion2が録音を終えていましたが、2テナーでやってみては?と言う話が何となく持ち上がり、ラフなジャムセッション形式で演奏が始まったようです。

さてさて、MichaelのGiant Steps演奏は如何様なものでしょうか?それは僕の期待を遥に超えたフレージング、アプローチ、アイデアの数々です!!早いテンポで2拍づつの転調感を出すにはコードの分散和音か、Coltraneが行なっているようなコードのドレミソを用いるしかないと思っていましたが、Michaelは2拍のスペースでオルタード・テンションを用い、いわゆるColtraneのリックを用いずにMichael独自のGiant Stepsに対するリックを考案してフレージングしています。実に新鮮、斬新なアプローチです!本当に素晴らしい!!

ただ気になることが一点あります。どんなにテンポが早くとも性格無比なリズムを、いかなる時にも聴かせるMichaelがいつになくRushしています。逆にここまでリズムが揺れている、走っている演奏はそうは聴いたことがありません。演奏内容がとても素晴らしいだけに不思議に思いました。このCDがリリースされた翌94年、The Brecker Brothers Bandで来日したMichaelに会った際に話をしました。「Two T’sのGiant Stepsを聴いたよ」、と言うとMichaelさっと表情が変わり「えっ、聴いたの?」と言いながら何となくそわそわし始め、「あのレコーディングの直前まで家族旅行があって1週間楽器を吹いていなかったんだ」と弁解めいたことまで言い始めました。「いや、素晴らしい演奏だと思うよ」「じゃあ大丈夫だったか?」「何も問題ないと思うよ」「オッケー、分かったよ」やっと落ち着きを取り戻したようでしたが、リズムのラッシュした演奏を残したことが本人も気になっていたようです。でも1週間楽器を吹いていなかった割には他の曲、Two T’sやBody And Soulの演奏はいつもの素晴らしさを聞かせていますので、MichaelにもGiant Stepsは手強いナンバーなのでしょう。

彼に正式なGiant Stepsのレコーディングの機会があったら、さぞかし完璧な演奏を残したことでしょう。同じColtraneのオリジナルMoment’s Noticeはレコーディングを残しています。

トランペット奏者Arturo Sandovalのリーダー作「Swingin’」96年1月NYC録音

こちらはもはや余裕の演奏です。このクオリティでGiant Stepsを演奏したらどんなテイクが残されたでしょう?