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2017.07

2017.07.24 Mon

John Coltrane Live at The Jazz Gallery 1960

2011年にRLR RecordsというレーベルからリリースされJohn Coltraneのいわゆる海賊盤です。

内容の素晴らしさとレア度からご紹介したいと思います。

John Coltrane Live at The Jazz Gallery 1960

<Musicians>John Coltrane(ts,ss) McCoy Tyner(p) Steve Davis(b)Pete La Roca(ds)

<Song List>1)Liberia 2)Every Time We Say Goodbye 3)The Night Has A Thousand Eyes / CD One 4)Summertime 5)I Can’t Get Started 6)Body And Soul 7)But Not For Me / CD Two

1960年6月27日New YorkのGreenwich VillageにあったThe Jazz Galleryでのライブ録音2枚組です。正式な録音ではないので音質は決して良くありませんが、演奏内容は本当に素晴らしいです。絶好調のColtraneとリズムセクションとの組んず解れつの演奏、ここには幾つか特筆すべき点があります。まずピアニストMcCoy Tynerが正式にJohn Coltrane Quartetに加入した直後の演奏という点です。ColtraneはMiles Davis Quintet脱退後自分のカルテットをスタートすべく、多くのピアニストを起用しました。Wynton Kelly、Cedar Walton、Tommy Flanagan、意外なところでCecil Taylorとも1枚作品が残されています。ギタリストWes Montgomeryも一時参加したという話を聞いたことがありますが、Coltraneの長いソロの最中バッキングを止められ、ステージでぼーっとしているのが嫌だったのでしょう、すぐ辞めてしまったようです。Steve Kuhnも同じThe Jazz Galleryで1960年1月2月3月とその間約8週間Coltraneと共演を果たし、音楽的恩恵をColtraneから被ったと述べています。Coltraneへの慈しみの想いで録音されたSteve Kuhnの作品がこちらです。

Steve Kuhn Trio w/ Joe Lovano “Mostly Coltrane” (ECM)

このCDも名盤、そして愛聴盤です。Mostly Coltraneと名付けられただけに、収録13曲中11曲がColtraneのオリジナルやレパートリー、2曲がSteve Kuhnのオリジナルです。この作品もいずれこのブログで紹介したいと考えています。

本題に戻りましょう。Steve Kuhnとの共演3ヶ月後、以降65年まで行動を共にする音楽的パートナーMcCoy Tynerが遂に入団しました。ここでは既にMcCoyの個性が存分に発揮された演奏を聞くことが出来ます。リリカルで明快なタッチ、Coltraneの音楽に欠かすことの出来ない”Sus4″ のサウンドが随所で聴かれます。何よりColtraneの長いソロの間、バッキングを弾かずじっと我慢出来る忍耐強さを持ったピアニストの登場なのです(笑) パズルのピースが一つ揃いました。この後暫くして最重要ピースであるドラマーElvin Jonesの加入、そして程なくしてベーシストJimmy Garrisonが加わり、黄金のカルテットが出来上がる訳です。

ドラマーPete La Roca。Coltraneとの正式な録音は残されていないと記憶していますが、ここではハードバップから一歩飛び出た素晴らしいドラミングを聴かせています。60年録音Coltraneの作品”Coltrane Plays The Blues”にMr.Symsという曲が収録されています。

この作品にはBlues To Elvinという、盟友Elvinに捧げたナンバーが入っています。Pete La Rocaの本名はPete Sims、もしかしたらMr.SymsとはPete Simsの事かも知れません。Pete La Rocaの名演が以下の2枚で聴く事が出来ます。

Jackie McLean “New Soil”  (Blue Note)

JR Montrose “The Message” (Jaro)

この2枚も大好きな作品です。じっくりと取り上げて行きたいですね。

演奏曲にも触れてみましょう。1曲目Liberia、Dizzy GillespieのA Night In Tunisiaにどこか似ているこの曲、アフリカのTunisiaではなく近くのLiberiaで辺りで済ませたようです(笑)。しかしこの曲の演奏時間が凄いです、30分強!!長い!時は60年ですよ!63年以降の欧州ツアーでImpressionsを40分、Live In JapanでMy Favorite Thingsを1時間演奏したColtrane、さすがにそこまでは行かずとも、ここでは20分近くテーマ〜ソロを吹き続けていますが、全く中弛みすることなくテンションとパワーを湛えた演奏を展開しています。その後ピアノ〜ドラム・ソロと繋がります。

60年当時で1曲の演奏時間が30分という例をColtrane以外(でも一体外の誰がそんなに長く演奏するでしょうか?)でも僕は聞いたことがありません。でもオーディエンスは大喜び、お客様もしっかりColtraneの演奏について行ったようです。

もう1曲特筆すべきは5曲目のI Can’t Get Started、Coltrane自身がこの曲を演奏し、世に出ているのは恐らくこのテイクだけでしょう。ソプラノサックスで演奏されていますが、驚くべきはコルトレーン・チェンジが施された構成で演奏されている点です。Coltraneは60年当時、短3度と4度進行からなるコルトレーン・チェンジを数多くの曲に用いていました。代表作がGiant Stepsでスタンダード・ナンバー、例えばこのライブ録音に収録されているThe Night Has A Thousand Eyes、Body And Soul、But Not For Me、他にもSatellite (How High The Moonのコード進行がベース。月に引っ掛けた衛星のシャレですね)、Fifth House (Hot Houseのコード進行、構成がベース)、Count Down (Tune Upのコード進行、構成がベース。チューニングとカウントを引っ掛けてます) 、26-2 (Confirmationのコード進行がベース)。推測するに当時Coltraneは片っ端からスタンダード・ナンバーをコルトレーン・チェンジ化をしていました。その中で上手く行った曲をレコーディングし、世に出していたのでしょう。実際26-2はColtraneの死後に未発表テイクとしてリリースされました。演奏や曲の構成にもやや無理があるように聞こえます。このI Can’t Get Startedも内容としては今ひとつの感を拭えません。Coltraneファンとしては彼の未発表演奏の発掘をまだまだ心待ちにしています。前述のWes Montgomeryの共演を筆頭にお宝はきっとある筈です。聴いてみたいものです。

2017.07.14 Fri

Pete Christlieb〜Warne Marsh Quintet /Apogee

昔からの愛聴盤、今でもちょくちょく引っ張り出して聴いているCDがこれ、Pete Christlieb(ts) 〜 Warne Marsh(ts) Quintet / Apogee (Warner Bros.)

1978年録音&リリース、CDではボーナストラックが3曲追加されて2003年に再発されています。

Pete Christlieb、Warne Marshと言う全くタイプの違うテナーサックス奏者のテナーマッドネス、本当に素晴らしい作品です。Sonny Rollins ~ John Coltrane、Gene Ammons ~ Sonny Sitt、Sonny Stitt ~ Sonny Rollins、Johnny Griffin ~ Eddie Lockjaw Davis、Al Cohn ~Zoot Sims、 Dave Liebman ~ Steve Grossman、Michael Brecker ~ Bob Mintzer…

ジャズ史上多くのテナー・バトル・チームが存在しましたが、Pete ChristliebとWarne Marshほど毛色の違うテナーサックス・バトルは聞いた事がありません。

極論を言うならばあまりのスタイルの違いから水と油の2人、テナー・チームとしてタッグを組むにはとても距離感があると言わざるを得ませんが、彼等の界面活性剤的役割を果たしたのが本作のプロデューサー、Donald FagentとWalter Beckerの2人、言わずと知れたロック・グループSteely Danのリーダー。テナー奏者を2人フィーチャーしたアルバムを制作するくらいですからテナー奏者好きは間違い無いでしょう。Steely Danのアルバム”Aja”ではWayne ShorterをSteve Gaddのドラミングと共に大フィーチャー、Donald Fagenは自身のソロアルバム”The Nightly”でMichael Beckerの華麗なソロプレイを巧みに演出させていました。他にもJerome Richardson、Ernie Watts、Plas Johnson、Chris Potter等スタジオミュージシャン・テナー奏者を起用、ここまでのテナー奏者との関わりは通常の範囲内ですが、Steely Danのコンサート演奏活動にこの2人のプロデューサーのテナー奏者フェチが表れています。1994年の来日公演の際のホーンセクション、Cornelius Bumpus、Chris Potter、Bob Sheppardという個性派テナー奏者3人衆!!Donald Fagen、Walter Beckerの2人は一体何を考えいるのでしょうか?テナー奏者好きにも程があります(笑)この2人のマジックにより2大テナーの演奏が見事に融合と相成りました。

Pete Christliebはアメリカ西海岸を中心としたスタジオミュージシャン、音色も明るめで何しろタンギングの達人、フレージングの滑舌の小気味良いこと。明確なメッセージを湛えたアドリブ・ラインを聴かせてくれます。Warne Marshも西海岸ロサンゼルス出身ですが、師レニー・トリスターノと共に東海岸ニューヨークで活動、クール・ジャズと呼ばれるスタイルで演奏し、「ホゲホゲ」「モグモグ」「ガサガサ」を感じさせるダークなトーンと独自のアドリブラインで、ワン・アンド・オンリーなテナー奏者です。

サックスの音色やフレージングの滑舌はその人の喋り方が確実に反映されます。Pete Christliebはさぞかし明朗快活な分かり易い話しっぷり、更に彼のニュアンスやフレージングから感じるのですが、冗談好きでおちゃめな雰囲気も併せ持っているかも知れません。対するWarne Marshは「ぼそぼそ」とした喋り方でシニカルに物を言い、知的な話が好きですが人に自分の話を聞いて貰わなくても構わない、委細かまわず好きな事を好きに話す、ちょっと偏屈なタイプの人かも知れませんね。

1曲目Magna-Tism(コード進行はスタンダード・ナンバーJust Friends)に2人のスタイルの好対照振りが表れています。

ハイライトはWarne Marashの後に続く2人の同時進行ソロ〜オーバーダビングによる多重奏(4重奏?)〜絶妙な場所に訪れる不協和音のエグいハーモニー!何度聞いてもカッコいいです!!

続くピアノソロの後にはラスト・テーマが演奏されずそのままFine、とってもヒップ!この辺がプロデューサーたちの意向でテナーフェチのなせる技でしょう。

2曲目レニー・トリスターノ作の317 E. 32ndのエンディングも素晴らしい!トリスターノが聴いたらさぞかしビックリした事でしょう。

3曲目はプロデューサー2人のオリジナルRapunzel。さすがにポップな雰囲気のジャズチューンですね。Peteさんの芸風にはぴったりですが、Warneさんにはどうでしょうか?意外に楽しげに演奏しているように聞こえますが。

4曲目はアルバムのもう一つのハイライト、アップテンポのその名もTenor Of The Time。こう言い早い曲ではPeteさんまさしく本領発揮、バキバキとゴキゲンにスイングしています。タイムは良い、音符が長い、明瞭な話し方、バッチリなタンギングで音符がプリプリしている、そしてアドリブカッコ良いと来れば言うこと無しです。で、ここでテナー演奏が彼1人で終わってしまえばありきたりのごく普通の凄い演奏ですが(笑)、この後にホゲホゲのカリスマWarneさんの演奏が入る事により、全く普通では無い演奏に化学変化しています。テナーバトルって面白いですね。

5曲目はご存知Charlie Parkerの名曲Donna Lee。しかし何ですかこのテーマ演奏は?輪唱とはまた異なる、拍をずらしてのメロディ演奏、アンビリバボーなアイデアによるこの曲の代表的な演奏が生まれました。

6曲目はPeteさんのワン・ホーン・カルテットによるJerome Kernの名曲I’m Old Fashioned。もう、大好きな演奏で何度聴いても堪りません。

これだけ唄っていればテナー1人で完結しています。