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2017.08

2017.08.14 Mon

Born At The Same Time / Steve Grossman

Steve Grossmanの代表作、1977年録音のBorn At The Same Time(OWL)を取り上げてみましょう。

ts,ss)Steve Grossman p)Michel Graillier b)Patrice Caratini ds)Daniel Humair

Recorded In Paris, November 25th 1977

Steve Grossmanは18歳でWayne Shorterの後釜としてMiles Davis Bandに大抜擢、約1年間ほど在籍していた模様です。この時の映像を新宿DUGのオーナー、写真家として知られる中平穂積氏がNew Port Jazz Festivalにて録画したものを見たことがありますが、大御所にして圧倒的な存在感のMiles Davisの横で堂々たるプレイを繰り広げていました。レコーディングでは”Jack Johnson””Big Fun””Bitches Brew”を始めとして、ソプラノサックスでの演奏が殆どですがそこではテナーを吹いていました。

早熟の天才、10代前半にアルトサックスを始めてすぐにCharlie Parkerのスタイルで演奏出来るようになり、テナーに転向後Miles Bandに参加という華々しいと言うか、前人未到、とんでもない経歴の持ち主です。以前Blogで取り上げたEddie Danielsもそうですが、ユダヤ系白人サックス・プレイヤーの代表格の一人です。

New York州Long IslandのHicksville出身、裕福な家庭に生まれ育ちましたが、ミュージシャンとして自立すべく、新聞配達の仕事をしていた時期もあるそうです。兄はトランペット奏者Hal Grossman、Berklee音楽院の講師を務めており、この兄の影響でサックスを始めたと言われています。弟の名前はMiles Grossman、特に管楽器奏者、ミュージシャンではないようですが、現在Hicksvilleの実家に戻ったSteve Grossman、全くテクノロジー関係に疎いので(そもそも興味がないのでしょう)弟Milesがインターネット関係(それこそメールの代筆等)で兄を手助けしているようです。

ところでアルバムタイトルのBorn At The Same Timeの意味するところは何でしょう?考えられるのは参加ミュージシャン4人が同世代に生まれたからでしょうか。ミュージシャンの生年月日を挙げてみましょう。

Steve Grossman(ts,ss) 1951年 1月18日

Michl Graillier(p) 1946年10月18日

Patrice Caratini(b) 1946年7月11日

Daniels Humair(ds) 1938年5月23日

ピアニスト、ベーシストは確かに同年生まれですがGrossmanとは5年違い、ドラマーとは13歳も歳が離れています。同世代とは言い難い年齢差ですが、Grossmanは何しろ18歳1969年から第一線、ジャズ界最先端で演奏しています。5歳13歳の年齢の違いは関係無く、音楽的な経験値のみ捉えてみれば同世代の4人と言えるのではないでしょうか。このアルバムの演奏内容、驚異的なインタープレイの連続を聴くとまさに同世代に生まれたミュージシャン達ならではの、彼らだからこそ成し得たクオリティの演奏と聴く事が出来ます。

だとしたらメンバー全員の写真、せめてレコーディング風景の写真をレコードジャケットに掲載すればアルバムタイトルとの統一感が出るものを、Grossman本人と当時のガールフレンド?奥方?とのツーショットが見られるだけです。Miles Davisのアルバムで何枚か当時のガールフレンドの写真を用いたジャケットがありますが、Miles Band出身のGrossmanならではのセンスかも知れません。

Miles Davis Bandを退団し、その後Elvin Jonesのピアノレス・カルテットにて盟友Dave Liebmanとのツーテナーで名盤Live At The Lighthouseを72年に録音、この演奏でジャズ・テナーサックス界に不滅の金字塔を建てました。ワンアンドオンリーなフレージング、50年代のSonny Rollinsを彷彿とさせるタイトでグルーヴィーなリズム感、Jonh ColtraneとBen Websterの融合とも言えるダークでエッジー、コクがあって極太のテナーサウンド…カリスマ・テナー奏者としてジャズ界知らぬ者は無い存在になりました。そして何と言ってもGrossmanこの時まだ21歳!無限の可能性を秘めた若者、その将来を嘱望されていました。

73年以降の活動:同年自身の初リーダー作”Some Shapes To Come”

74年録音Elvin Jones Quartet”Mr. Thunder”

75年Gene Perla(b)Don Alias(perc,dr)とのグループ”Stone Alliance”

75, 76年録音自身のリーダー作”Terra Firma”

そして本作77年Born At The Same Timeに繋がりますが、早熟の天才プレイヤーにありがちな破天荒な行いが次第に目立ち始めます。大量の飲酒行為、ドラッグの使用での人格破綻、奇行、晩年のJaco Pastoriusを思わせる状況が見られるようになります。

Stone Allianceのヨーロッパツアー中にGrossmanが1人暴走(他メンバーのGene Perla、Don Aliasは温厚なタイプのミュージシャンでしたが)のため空中分解しツアーを途中でキャンセル、Elvin JonesはGrossmanの演奏をいたく気に入っていましたが、マネージャーを務めるElvinの奥様ケイコ夫人に素行の悪さからかなり嫌われていたようです。Grossmanは体力的にも強靭なものがあり、「25歳までは1週間徹夜しても平気だった」と発言していましたが、かなりドラッグの摂取も頻繁で「新しいクスリのやり方が流行ったとしたらそれを考えたのはSteveに違いない」とまで周囲から言われていました。

Grossman自身の発案か、レコード会社のアイデアか分かりませんが、それまでのGrossmanの集大成と言える”Born At The Same Time”が77年11月25日Parisで録音されました。

前述のStone Allianceのヨーロッパツアーが77年8月27日Austria Wiesenを皮切りに10月29日英国Londonまで挙行されました。その最後のLondon Ronnie Scott’s公演中でまさに空中分解したのです。

何とこの事件の1ヶ月後にヨーロッパの精鋭たちを集めてBorn At The Same Timeは録音されました。そのままヨーロッパに滞在していたかも知れません。

全9曲Grossmanのオリジナルで構成されています。CD再発時にはピアニストGeorge CablesのオリジナルLord Jesus Think On Me(Think On Meという曲名で作曲者が録音しています)が追加されていますが、アルバムのコンセプト、演奏のクオリティからオクラ入りしたのはうなずけます。

とにかく楽器の音色が凄まじいのです。テナーマウスピースはデビュー時から使用しているOtto Linkのメタル最初期(30~40年代)のモデル”Master”を使っています。それこそBen Websterもこのマウスピースを生涯使っていましたがチェンバーの広い、ダークでメロウなサウンドのマウスピースを使ってGrossmanはどうしてあんな凄まじい音がするのかは謎です。オープニングは多分5★か6番、リードはリコの4番を使っていたそうです。1970年代中頃来日した時に一緒に演奏した土岐英史氏から聞きましたがGrossmanのマウスピースにはボディに穴が空いていて、そこにマッチ棒を入れて遊んでいたそうです。もちろん内部に貫通はしていなかったでしょうが、かなり「へたった」状態のマウスピースには違いありません。テナー本体はSelmer MarkⅥの恐らく14~16万番台、ソプラノもSelmerでマウスピースもSelmerメタルのDかEを使っていたようです。ソプラノの録音された音色が生々しいのはベルを直接マイクに当てて演奏しているからです。

このアルバムの音色は80年代の演奏に比べると深さが全く違います。デビュー時から使っている自分の楽器、マウスピースで演奏したのは間違いないでしょう。

80年代に入ってからの話ですが、金策のためにテナーを質屋に入れて楽器が流れてしまったり、自分の弟子に楽器を借り、在ろうことかその他人の楽器を質屋に入れてしまったり(Charlie Parkerに同様の逸話がありますね)、自分のソプラノをNew Yorkでタクシーに置き忘れそのまま出てこなかったり、来日時に楽器を持参せず日本人ミュージシャンに借りたり(実は僕もしばらくテナーを貸したことがあります)87年録音Our Old Frame / Steve Grossman With Masahiro Yoshida Trioの時には僕のソプラノでNew Moonや415C.P.W.を演奏しています。

それにしてもこの天才テナーサックス奏者、自己管理能力は明らかに欠如していますね。

80年代はとうとう自分の楽器やマウスピースを持っていない時期があり、ギグや録音がある時に弟子に借りていたようです。Jerry Vejmola、Jeff HittmanらがそのGrossmanを支えた弟子たちの名前です。

Grossmanのテナーの音色は奏法の勝利と言え、たいていの楽器でGrossmanの音がします。86年87年の来日時にセッションでステージを共にしましたがその音色の物凄さ、音圧感、タイムの素晴らしさ、スイング感、そして最も驚いたのがアンブシュアの緩さ、ルーズさです。演奏中マウスピースを咥えていても左右に動き、口に対して抜き差しされるのです!

Grossmanの特徴音の一つ、フラジオA音を「ギョエイイ〜」と出している時にもアンブシュアはゆるゆるです!本人に「マウスピースに歯は載せていないの?」と質問しましたが「ちゃんと乗せている」と答えが返ってきました。ダブルリップではなさそうです。

収録曲の演奏に触れて行きましょう。1曲目から6曲目がいわゆるレコードのA面、7曲目から9曲目がB面に該当します。全体的に組曲風なコンセプト・アルバム仕立てになっています。

1、4曲目のCapricorneは同じ曲でテンポも演奏時間もほとんど同じ、Daniel Humairのシャープなドラミングが各々のテイクに異なった彩りを添えています。2、4曲目のOhla Gracielaは若干テンポが異なり、別テイク的な関係にある演奏で、更に3曲目Plaza Franciaもほぼ同一曲、Patrice CaratiniのベースソロがフィーチャーされGrossmanはソプラノでソロを取ります。5曲目March Nineteenも傾向としては同じ曲ですが、Grossmanのオリジナル曲の独創的なメロディライン、ベースパターン、コード感が同一傾向曲が並ぶくどさよりもむしろ統一感を感じさせ、レコードのA面はGrossmanのオリジナル・サウンドを表現しています。

B面は一転してハードな演奏サイドです。7曲目A Chamadaはフランス語で「叫び」を意味します。エドヴァルド・ムンクの「叫び」、こちらは北欧ノルウェーですね。本作品の要の演奏で9分16秒にも及ぶGrossmanの叫びが延々と聴かれます。リズムセクションのテンションも尋常ではありません。テナーの演奏に完璧なまでに追随しています。ソロイストとリズムセクションのインタープレイの、ある種理想な形の名演と捉えています。何度聴いても背筋がゾクゾクするフレージングの連続、ソロの構成、4人一丸となったまさに絶叫!唯一残念なのは8’47″でテープが編集されている点です。恐らくGrossmanはまだ延々とソロを取り続けていたのでしょう。レコード収録時間の関係でカットされたに違いありません。いずれコンプリートな演奏を聴きたいものです。え?墓場荒らし?滅相もないことを言わないで下さい。僕は純粋にテナーサックスの名演を聞きたいだけです。

8曲目Pra Voceで叫びから癒しに場面転換を果たしています。この曲のサウンドもまさにGrossmanワールドそのものです。

アルバムの締めくくりはもう一つの白眉の演奏Giminis Moon。いつものGrossmanの作風とは異なるオリジナル、リディアン系のサウンドです。Grossmanの演奏は言わずもがな、この演奏でDaniel Humairの素晴らしさを再認識しました。ピアニストMichel Graillierも大変センスのあるプレイをしています。

以降80年代に入りGrossmanは全く第一線から遠ざかり、New Yorkでタクシーの運転手で生活したり(でもアブナイ彼の運転でタクシーには乗りたくありませんね)隠遁生活を送っていましたが、ドラマー吉田正広氏が再び彼をジャズシーンに引っ張り出しました。いずれその話もこのBlogで取り上げたいと考えています。

最後に、20年前にBorn At The Same Timeが東芝EMIから国内発売された時のCDライナーノーツ、僕が書いていました。自分自身すっかり忘れていましたがこのライナーを読んでしまうと20年前に書いた内容に捉われてしまうかもしれないと懸念し、敢えて読みませんでした。Blogが書き上がったのでこの後読んでみます。

2017.08.04 Fri

The Message / JR Monterose

前回投稿のJohn Coltrane海賊盤でもジャケ写が登場しましたが、今回はしっかりと取り上げたいと思います。

テナーサックス奏者JR Monteroseの代表作「The Message」

ts)JR Monterose

p)Tommy Flanagan

b)Jimmy Garrison

ds)Pete La Roca

1959年11月24日 ニューヨーク録音

この作品自体大変レアですが、発売元のレーベルJaroも1950年代末に僅か5枚のレコードをリリースしただけで消滅してしまいました。

でもこの大名盤The Messageを世に出した功績は大きいです。

いわゆる幻の名盤という範疇の最右翼、Straight Aheadというタイトルで75年に再発されるまで、このアルバムの存在はマニアの間でしか知られていませんでした。

その後何度か再発され(タイトルも本来のThe Messageに)、現在では比較的容易に入手できる状態です。

僕はジャズ喫茶世代の出身ですが、行きつけのジャズ喫茶にこのレコードがあり、店のマスターに紹介されあまりの素晴らしさに貪るように何度も何度も聞いた覚えがあります。

また都内のとある廃盤専門のレコード店で、30何年か前に数十万円の値札と共に壁にディスプレイされていました。

「わっ!あった!!欲しい〜!」とゼロの数を一つ見誤りつつ購入を一瞬考えましたが、金もない貧乏な駆け出しミュージシャンがその価格で買える訳がありません。泣く泣く諦めました。

今でもレコードを自宅で聴く時があり、数枚持っているオリジナル盤でその音質や奥行き、空気感の素晴らしさにため息が出る時があります。この大好きなThe Messageをオリジナル盤レコードのゴージャスな音質で聴けたらさぞかし幸せだろうな、と想像する時があります。今ではオリジナル盤はその頃の何倍もするでしょう、叶わぬ夢を見つつ、本当に欲しいものはその時に借金をしてでも買わなければ後悔するぞ、と自分に言い聞かせています。

ここでJR Monteroseの演奏が聴かれるアルバムを何枚か挙げて見ましょう。

Charles Mingus / 直立猿人

Kenny Dorham and The Jazz Prophets Vol.1

J.R. Monterose

Rene Thomas Quintet / Guitar Groove

実はいずれのアルバムでもJR Monteroseのプレイは凡庸なのです。Mingusの直立猿人ではリーダーの圧倒的な存在感に全く霞んでいますし、Kenny Dorham and The Jazz Prophetsはタイトル倒れの様を呈しています。Blue Noteに残されたリーダー作JR Monteroseでは別人かと見間違えるほど覇気が感じられませんし、ギタリストRene Thomasのアルバムでも気の毒なくらい自分を出し切れていません。

JR Monteroseにはまだ他にきっと名演奏があるに違いない、と一時探しましたが見事にありませんでした。The Messageの演奏が独立峰の如く燦然と輝いているのです。

さて大変前置きが長くなってしまいましたが、The Messageの内容に触れて行きたいと思います。

GIカットにスーツ姿、カッコ良いですね。楽器はセルマー・スーパー・バランスド・アクション・シルバープレート、マウスピースはOtto Link Metal Super Tone Masterとお見受けしました。

マウスピースのオープニングは6番7番くらい、リードはとっても硬めで4番か、もしかすると5番をお使いでしょう。でなければあの最低音域の爆発は得られません。

何と言ってもJRさん、本当に音色が素晴らしい!!僕の超×超好みです。John Coltrane流のエッジーなタイトネス、Otto Lomkの持つ臭み、ホゲホゲした音色にBen Webster張りのザワザワなサブトーン、豊かなビブラート、最低音域の「バッフン!」「ボギャン!」とまで聞こえる強烈なタンギング、発音、もう完璧な理想です。ホゲホゲ、ザワザワでバッフンですよ(笑)やっぱりテナーサックスは音色が命です。次に選曲が実に良いのです。

1) Straight Ahead (JR Monterose)

2) Violet For Your Furs (Matt Dennnis)

3) Green Street Scene (JR Monterose)

4) Chafic (JR Monterose)

5) You Know That (JR Monterose)

6) I Remember Clifford (Benny Golson)

7) Short Bridge (JR Monterose)

全7曲中5曲がJRのオリジナル、多くがハードバップの範疇にありますがその枠を超える新しいテイストを感じさせる曲想、構成のよく練られた楽曲、さすが1959年11月録音、翌60年からの匂いがプンプンとします。

名プレイヤーは間違いなくバラードの名手でもあります。Violet For Your Furs(コートにすみれを)はJohn Coltraneが57年に録音した彼の初リーダー作”Coltrane”でも演奏されていますが、僕はJR氏の演奏に何の躊躇もなく軍配を挙げます。やっぱりバラードはサブトーンとビブラートが表現の決め手ですよ。

そして本作品のハイライト、この演奏がアルバムの秀逸さを決定づけました。Benny Golson作の名曲、交通事故で夭逝した天才トランペッターに捧げたI Remember Clifford。何千何万回と聴いたことでしょうか。冒頭のピアノの和音に続くテナーのlow Dの音が「バフン!」、バラードでこの音出しってアリですか?アリですよね、かと思えばサブトーン駆使しつつビブラートしっとりロングトーンのメロディ奏、ハードボイルドとスイートネスの同居がたまらなく好きです♡

1曲目Straight Aheadに特筆すべき点があります。ピアノソロの後にテナーサックスとドラムスの2人だけのトレードが聴かれますが、これが素晴らしい!僕は予てからジャズはミュージシャン同士の会話だと考えています。気の合った仲間同士の楽しい会話と言い換えることもできます。お互いが演奏(発言)した事をしっかりと聞き合い、その演奏(会話)を豊かに膨らませて行く行為がジャズ演奏なのです。JR MonteroseとPete La Rocaのバトル演奏は僕にはある種の理想として聞こえます。

5曲目You Know Thatのテナーソロの構成もハンパないものがあります。モチーフを丁寧に、リズムセクションとの共同作業でしっかりと足並みを揃えて、ステップ・バイ・ステップで歌い上げて行くその様。実に、実に堅実でスポンテニアスなストーリーテラーと化しています。

ピアニストTommy Flanaganの邪魔にならない上に確実に音楽のツボを押さえたバッキング、ソロ、ベーシストJimmy Garrisonはリズムのスイートスポットをしっかりと押さえたラインでハードバップからの脱却の手助けをしています。そしてPete La RocaのドラミングのテイストがJR Monteroseの音楽性と全く合致していた点が、この名盤を生み出した一因となっています。