McCoy Tyner Trio featuring Michael Brecker / Infinity
今回はMcCoy TynerのトリオにMichael Breckerがフィーチャーされた作品「McCoy Tyner Trio featuring Michael Brecker」を取り上げて行きましょう。タイトルの割には編成はカルテットないしはパーカッション奏者が曲により加わり、クインテット編成です。
1995年4月12~14日録音 Recorded and mastered by Rudy Van Gelder
Recorded at the Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey
p)McCoy Tyner ts)Michael Brecker b)Avery Sharpe ds)Aaron Scott perc)Valtinho Anastacio
1)Flying High 2)I Mean You 3)Where Is Love 4)Changes 5)Blues Stride 6)Happy Days 7)Impressions 8)Mellow Minor 9)Good Morning, Heartache
この作品は1995年にリリースされ、1996年のグラミー賞Best Jazz Instrument Performanceに輝き、また収録されているJohn Coltraneの代表曲Impressionsの演奏でMichael Breckerが同じくグラミー賞Best Jazz Instrumental Soloの栄冠を獲得したという、大変な栄誉あるアルバムです。レーベルもColtraneの一連の作品をリリースしたあのImpulse!で、60年代当時McCoy自身の作品もImpulse!から6作リリース〜いずれも大変素晴らしい作品ですが1枚挙げるとすると「Reaching Force」でしょうか〜されており、古巣に戻った形です。そのためかどうか、本人かなり力が入っていて自筆で1曲ずつ丁寧に解説を書いたライナーノートが添付されています。結構癖のある文字であまり読み易くはありませんが(笑)、作品に賭ける情熱と意欲が文面から伝わってきます。
ベーシストAvery Sharpeは80年代から90年代にかけてMcCoy Tyner Trioレギュラーを務めています。McCoyの70年代の名盤「Song Of The New World」「Enlightenment」「Atlantis」でベースを弾いているJuni(もしくはJoony)Boothに実によく似たタイプのプレーヤーです。最初に聴いた時にはてっきりJuni Boothだと思うくらいにベースの音色やラインのウネウネ感がそっくりでした。50年代から活動していたアルト奏者Clarence Sharpe(同じ苗字ですが血縁ではないと思います)はCシャープと呼ばれていますが、Avery Sharpeも当然Aシャープとなりますが、B♭ではありませんね(爆)McCoyはこういうビート・タイプのベーシストをレギュラーとして起用するのが好みなのかも知れません。
この作品で素晴らしいドラミングを聞かせるAaron ScottはBerklee音楽院出身で89年から96年の本作まで計5作、McCoyの作品に参加しています。AaronとはBerklee同期だった僕の友人ドラマー曰く、見た目や顔の雰囲気から来ているのでしょうか彼は「ラクダ」と言うあだ名だったそうです。一卵性双生児の兄弟がいて母親が間違うほどソックリだそうですが、Michael Breckerが「Aaronは僕に対抗意識(competition)を持っている」と話していました。いつも会うたびにMichaelにちょっかいを出すらしく、多少のことには動じないMichaelも”うざったさ”を告白していました。同じ楽器を演奏する者同士なら対抗意識を持つのも分かりますが、逆に同じ傾向、同方向の物の考え方を持つもの同士なら楽器が違えど対抗意識を持つことがあるのでしょうか。そういえばSteve Grossmanが「Bob Bergはオレに対抗意識を持っているんだ。アイツは面倒臭い奴だよ」と言っていました。この事にはしっかりと頷くことが出来ます。18歳でWayne Shorterの後釜としてMiles Davisのバンドに大抜擢、一世を風靡した天才サックス奏者には努力の人Bob Bergは対抗意識むき出しで当然だと思います。Randy Breckerも「Bobはコンプレックスの塊だ」とも発言しているのを読んだ事が有ります。でもBob Bergは87年頃にMilesのバンドに参加、「You’re Under Arrest」をレコーディングしてロードにも出ました。New Yorkで60年代末から70年代初頭にかけて青春時代を過ごした、いわゆるロフトでジャムセッションを繰り広げ、お互いに切磋琢磨しあった間柄のColtraneスタイル・テナー奏者たちSteve Grossman、Dave Liebman、Bob Berg、 Michael Brecker、Bob Mintzer達は全員ユダヤ系アメリカ人です。特にGrossmanとLiebmanは2人とも70年代を代表するバンド、Miles Davis Groupの他Elvin Jones Groupにも参加、70年代にはその音楽性を見事に開花させました。Michaelは実はジャズジャイアントと共演の機会が少なかった事に引け目を感じていたように感じます。こんな話があるのですが、Charles Mingusのラストレコーディング、名盤「Me, Myself An Eye」のレコーディングについて僕がMichaelと話をしました。
Chick Corea、 Herbier Hancock、Elvin Jones達ジャズジャイアントと演奏を展開し、この作品でMcCoy Tynerとも共演を果たしました。さらに96年には自己の傑作アルバム「Tales From The Hudson」でMcCoyをゲストに迎えてPat MethenyのオリジナルSong For BilbaoとMichaelのオリジナルAfrican Skiesをレコーディングし、96年この自身の作品でもMichaelはBest Jazz Instrument Solo(収録曲Cabin Fever)とBest Jazz Instrument Album2つのグラミー賞2年連続受賞と言う快挙を成し遂げました。
最後に「Infinity」のレコーディングの音質について触れて見ましょう。前述の通り名エンジニアRudy Van Gelderによる、彼のNew Jerseyのスタジオでの録音なので本来なら悪かろう筈がないのですが、実は僕にはあまりピンと来ていません。というかMichaelのテナーの音色が彼らしくないのです。96年の来日時Michaelに会い一緒に石森楽器に同行した時の話です。お店の従業員の方がMichaelが来店したので気を利かせてこの「Infinity」CDを掛けました。すると「うっ、このCDのテナーの音は苦手なんだよ」とMichael呻くように呟きました。「このレコーディングはRudyがエンジニアなのだけれど、どうしてなのかこんな音色で録音されたんだ。Tatsuyaはどう思う?」「確かに僕もこのMichaelの音色はいつもと違うと思っていましたよ」「そうなんだよ…」Rudy Van Gelderは既に何度もMichaelのレコーディンを経験していて、彼の音色の本質を把握している筈ですが、Rudyは常々レコーディングのクオリティを向上させるべく新しい事にチャレンジしていたようです。この作品はひょっとしたらチャレンジが裏目に出てしまった例なのかも知れません。
2017.11.22 Wed
Sonny Rollins And The Contemporary Leaders
今回はテナータイタン、Sonny Rollinsの代表的なリーダー作「Sonny Rollins And The Contemporary Leaders」を取り上げて見ましょう。
CDでは巻末に未発表別テイク3曲(You, I’ve Found A New Baby, The Song Is You)が追加されています。その関係で全体のバランスを考えてなのかどうか、本編の曲順が変えられており、このレコードの昔からのファンにとっては甚だ迷惑な話です。CDをお持ちの方はレコードの曲順で未発表テイクを省き、一度作品を鑑賞してみて下さい。印象が随分と違ってきます。もちろん僕はこの曲順が良いと思いますし、耳がしっかり慣らされています。作品をリリースする際にあらゆる事を考慮に入れて収録曲、テイク、曲順をアーティスト、プロデューサーは決定しています。未発表テイクを巻末に追加収録するのは良しとしても、曲順を変えるのはどうでしょうか。もしかしたらCDリリース時にRollins本人の承諾を得ているのかも知れませんが。
Rollinsは54年と69年にもシーンを離れました。彼に限らず他のミュージシャンも精神的、肉体的、家族の問題、経済的な事情でシーンを離れることが多々あります。Rollinsばかりが騒がれるのは第一線で走り続けるアスリートならでは、なのでしょうか。もしくは「しばらくリタイアします」のようなメッセージをわざわざ発しているのかもしれませんね。律儀な人だという話を聞いたことがあります。次に挙げるエピソードがRollinsの人柄を良く物語っています。僕の所属していたジャズ研の先輩が30数年前、Sonny Rollins Japan Tourのローディ、Rollinsの付き人としてツアーに同行しました。茶目っ気のある、イタズラ好きな先輩は人に頼まれたり物を勧められても断ることのできない性格のRollinsに移動の車内であんころ餅を勧めたそうです。Rollinsは甘いものが苦手というのを知っていて。「Mr. Sonny、これをどうぞ召し上がって下さい」「どうも有難う、ところでこの食べ物は何だい?」「日本の食べ物であんころ餅と言います、とっても甘くて美味しいんです!」「…Oh, thank you very much…」と言って暫くしてから素知らぬ顔でポトリと床にあんころ餅を落としたそうです(笑)
レーベルContemporary Recordsの録音エンジニアはRoy DuNann。この人の録音はBlue Note LabelのRudy Van Gelderとはある意味正反対のナチュラルさが特徴で、西海岸らしい明るめの音質です。以下がこのアルバムのレコーディング時の写真ですが、倉庫のようなスタジオに現代のようなパーテーションのためのついたて等一切なく、ドラムやサックスのような音の大きな楽器が他の楽器に干渉するのを防ぐため別なブースに入って演奏する事もなしに、メンバー全員が一つの部屋でまとまった密な状態で録音しています。それでこれだけ各々の楽器の分離、解像度、臨場感、バランスが取れているのはマジックです。
写真の左下、白い布の上には我々テナー奏者お馴染みOtto Link Metal Mouthpiece用のキャップ、そしてその横にはレコードジャケットでRollinsが左手に持っているマッチらしき物も写っています。想像するに、レコーディング終了後ないしは休憩時間にカメラマンが一服している(ジャケ写でタバコを右手に挟んでいます)Rollinsを捕まえてポートレートを撮影したのでしょう。当日の情景を思い浮かべるのはとても楽しいですね。
この作品のRollinsの演奏はどれも全て完璧、と言って良いほど素晴らしいのですが特に僕が好きな部分、いつ聴いてもゾクゾクしてしまうのがバラードIn The Chapel In The Moonlightの最初のテーマのサビ後、メロディのアウフタクト部分に出て来るLow B♭音のサブトーンです。この音のインパクトの凄さたるや百凡のテナー奏者の及ぶところではありません。そして何よりこれだけ最低音B♭が的確に出るに際しての楽器調整の確実さと、調整を施したリペア職人の巧みな技、Rollinsの楽器を身体の一部のように扱える奏法の素晴らしさを、たった1音からそこまで感じさせてしまうのです。
b)Henry Grimes ds)Pete La Rocaを従えて、お得意のテナートリオでの演奏です。これがまた素晴らしい演奏です!ここでは「Contemporary Leaders」の延長線上にある演奏を聴くことができます。「実に熟れた演奏」を超えた「熟れきった演奏」がこの作品の特徴です。
Side A 1)St.Thomas 2)There Will Never Be Another You 3)Stay As Sweet As You Are 4)I’ve Told Every Little Star
Side B 1)How High The Moon 2)Oleo 3)Paul’s Pal
1曲目St. Thomasのみライブ録音、他はラジオ放送音源から収録されています。因みにこの頃のRollinsの楽器セッティングですがテナー本体はKing Super20 Silversonic、マウスピースはOtto Link Super Tone Master Double Ring 10★、リードは Rico3番です。
57年3月7日録音「Way Out West」、同年11月3日録音「 A Night At The Village Vanguard」2作ともテナートリオでのRollins代表作ですが、これらに全く引けを取らないクオリティの演奏です。
Rollinsをこよなく敬愛するSteve Grossmanが自身の作品、同じテナートリオでタイトルにあやかった「 Way Out East」をリリースしています。
in StockholmではContemporary Leaders1曲目に収録したナンバーを再演しています。I’ve Told Every Little Star、ここではテーマ演奏の際に曲中の印象的な2小節のメロディをわざと毎回オフマイクにして音色の変化をつけています。ユーモラスなRollinsならではのワザですね。
2017.11.18 Sat
Weather Report / The Legendary Live Tapes: 1978-1981
今回はWeather Reportのライブ音源を集めた作品Weather Report / The Legendary Live Tapes: 1978-1981(Columbia)を取り上げてみましょう。CD4枚組の大変充実した内容です。(2015年リリース)
CD 1 – The Quintet: 1980 + 1981 1.8:30 2.Sightseeing 3.Brown Street 4.The Orphan 5.Forlorn 6.Three Views Of A Secret 7.Badia / Boogie Woogie Waltz 9.Jaco Solo (Osaka 1980)
CD 2 – The Quartet: 1978 1. Joe And Wayne Duet 2.Birdland 3.Peter’s Solo (“Drum Solo”) 4.A Remark You Made 5.Continuum / River People 6.Gibraltar
CD 3 – The Quintet: 1980 + 1981 1.Fast City 2.Madagascar 3.Night Passage 4.Dream Clock 5.Rockin’ In Rhythm 6. Port Of Entry
CD 4 – The Quartet: 1978 1.Elegant People 2.Scarlet Woman 3.Black Market 4.Jaco Solo 5.Teen Town 6.Peter’s Drum Solo 7.Directions
「The Legendary Live Tapes」と同じカルテット編成で78年にライブ録音、翌79年にリリースされたWeather Reportの代表作「8:30」、同年のグラミー賞を受賞しました。おそらくベストテイクを厳選し曲順や構成を徹底的に練っています。ちなみにプロデュースはZawinulとJacoの2人でShorterは加わっていません。
上記2作のライブ盤はフォーマルな作品としてリリースされているので、ライブ演奏でも「おめかしした」「デコレーションされた」表情を見せていますが、「The Legendary Live Tapes」の方は「すっぴんの」「生身の」「ライブ演奏の赤裸々な面」をとことん聴かせてくれています。このCDがリリースされたお陰でWeather Reportのヒューマンな側面をしっかりと感じ取ることが出来ました。スタジオ録音やオフィシャル・ライブ演奏では聴くことの出来ないギラギラ感、崩壊寸前にまで達する演奏のテンション、インタープレイ、先鋭的な音楽をクリエイトしようとする容赦なき創造意欲、チャレンジ精神。間違いなくJacoの演奏がバンドの推進力となり、他のメンバーを強力にインスパイアし、恐ろしいまでに美しくエネルギーに満ちた前人未到の音楽を演奏しています。
こちらは1995年にリリースされたColtraneのAtlantic Labelへのレコーディングをオルターネート・テイクを含め、現存する全てのテイクが収録された7枚組Box Set、その名も「The Heavy Weight Champion John Coltrane」。Giant Steps全11テイクを聴くことができます。それにしても言い得て妙なCDタイトルですね(笑)。
作品としては残されていませんが、Branford Marsalisがライブ演奏で度々Giant Stepsを取り上げていました。こちらは87年8月26日New Port Jazz Festivalにての演奏。BranfordはColtraneの代表作「A Love Supreme」を自己のカルテットでレコーディング、ライブDVDもリリースしています。神をも恐れぬ所業の数々ですね(笑)