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2021.04

2021.04.19 Mon

Tribute to John Coltrane

今回はDavid Liebman, Wayne Shorterふたりのサックス奏者をフィーチャーしたコンサート=1987年開催されたLive Under the Sky ’87のプログラムをライブレコーディングした作品「Tribute to John Coltrane」を取り上げたいと思います。

Recorded: 26th of July, 1987 at Yomiuri Land East

ss)David Liebman   ss)Wayne Shorter   p)Richie Beirach   b)Eddie Gomez   ds)Jack DeJohnette

1)Mr. P.C.   2)After the Rain / Naima   3)India / Impressions

John Coltrane没後20年、そして当時日本Jazz夏の風物詩となったLive Under the Sky 10周年に企画されたコンサート、豪華メンバーが集まりColtraneのオリジナルを演奏しました。節目の年に偉大なミュージシャンへのトリビュート・コンサート、しかも夏の屋外フェスティバルともなれば出演者も聴衆も否応なしにテンションが上がると言うもの。プレーヤーはオーディエンスの熱狂的なアプローズを受け歴史に残る名演を残しました。

Coltrane研究家であり、自身の音楽的ルーツを彼に持つDavid Liebmanが核となった形で盟友Richie Beirachをピアニストに迎え、Live Under the Skyに当日出演したWayne Shorter(自己のグループ)、同じくSteve GaddのグループThe Gadd Gangで出演のEddie Gomez、Jack DeJohnette’s Special Editionで出演のJack DeJohnetteをメンバーにバンドが組まれました。
プログラムの売りとしてはLiebmanとShorterのツー・ソプラノサックス、一体どんなコラボレーションやバトルを聴かせてくれるのだろうか、音楽仲間とは前評判で持ちきり、高鳴る胸の鼓動を感じながら僕もよみうりランドに足を運びました。

当日はMiles Davis GroupでKenny Garret、The Gadd GangでRonnie Cubar、Jack DeJohnette’s Special EditionでGreg Osby, Gary Thomas、World Saxophone QuartetでHamiet Bluiett, Julius Hemphill, Oliver Lake, David Murrayと、弩級サックス奏者大集合による真夏の祭典でもありました。

同年9月にHerbie Hancock Quartetのメンバーで来日したMichael Breckerと話をしていると「そのプログラムは僕にも出演依頼があったけど、スケジュールが入っていてNGだったんだ」との事。彼のChronogicを紐解くと自身のバンドで欧州ツアーが入っていました。彼もColtrane派テナー奏者筆頭のひとり、オファーがあって然るべきです。ファンとしてはMichaelがLiebman, Shorterどちらの代わりだったのか興味を惹かれれるところ、もしかしたら彼のバンドでの出演依頼もあったのかも知れません。また本作でのサックス奏者の組み合わせも素晴らしいですが、コンビとしてMichael〜Liebman、Michael〜Shorterの可能性もあった訳で、どう転んでも物凄い組み合わせには違いないのですが、Coltrane Tributeとしてのサウンド、コンセプトに大きな違いが現れそうです。
「もしかこうであったならば…」と考えると物事キリがないのですが、この組み合わせに関しては想像を巡らせない訳には行きません(笑)!!
Michael〜Liebmanの組み合わせはユダヤ系サックス奏者組、知的で構築的な、論理が支配するハイパーな、そして情念が見え隠れする場面が表出する物凄い演奏になること間違いなし!
このふたりのオフィシャルなツーテナー演奏は残されていませんが、実は80年12月六本木Pit InnでのStepsのライブに日野皓正バンドで来日中であったLiebmanがなんとシットイン!あろう事かMichaelのオリジナルNot Ethiopiaでバトルを繰り広げました!方法論、アプローチや音色の違い、高次元でのやり取り、一音たりとも聴き逃すわけには行きませんでした!案の定佳境に達した場面では「バヒョバヒョ、ボギャー、グワー、ギョエギョエ〜」とフリークトーン祭り(汗)、60年初頭からのColtraneの足跡を辿りながら、65年以降のFreeに突入したスタイルで締め括るというストーリーです。
この演奏はライブレコーディング「Smokin’ in the Pit」の未発表テイクに必ずや残されているはず。近年大活躍の発掘王Zev Feldmanの手により、発掘される事を願ってやみません!


もう一つ、Shorter〜Michaelのサックスバトル、これはJaco Pastoriusの作品「Word of Mouth」の1曲目Crisisで既に行われているのですが、こちらは実際にその場で演奏した訳ではなく、ソロイストがお互いの音を聴かずにJacoのベーシックなトラックだけを聴いて演奏し、ミキシング時にプロデューサーであるJacoが任意に各人のフレーズをチョイスし出し入れさせ、コラージュのように重ねた演奏です。結果的にバトルのように聴こえるだけで純然とした共演ではありません。
このふたりに関しては横綱相撲的な大取組になること請け合いです!大変な盛り上がりを見せながらも互いを尊重しつつ、決して個人プレーは行わず相手の出方を見ながら、しかし常にマイペースのShorterを前にしてMichaelは彼流のアプローチの中でもしかしたら手玉に取られるかも知れません?


テナーの大御所ふたりによる演奏、ColtraneとStan Getzが60年JATPで渡欧した際にドイツで収録された映像も間違いなく横綱相撲です。Miles Davis Quintetリーダー抜きでColtraneをフィーチャーした編成にGetzが加わりバラード・メドレー、そしてThelonious MonkのナンバーHackensackではバトルを繰り広げています!
穏やかな雰囲気の中で柔和な眼差しを向けながら、互いのプレイを尊重しつつの取り組み(笑)、異国の地での偶発的な演奏であったかも知れませんが、後にジャズシーンを牽引する両巨頭のモニュメント的な共演です。


リズムセクションに関して、Beirach, Gomez, DeJohnetteのトリオは本演奏が初顔合わせになりますが、Gomez, DeJohnetteのふたりは68年Bill Evans Trio「At The Montreux Jazz Festival」での名演が燦然と輝いており、近年クオリティに遜色のないスタジオやプライヴェート録音が続々と発掘され、僅か6ヶ月間の存続期間でしたがさらにトリオの演奏価値が高まりつつあります。


もう1作、以前Blogで取り上げたピアニスト、ボーカリストTom Lellisの89年録音作品「Double Entendre」ではGomez, DeJohnetteふたりの、また違ったアプローチでの素晴らしいコンビネーションを堪能する事が出来ます。


Beirach, DeJohnetteの共演は79年録音「Elm」、全曲BeirachのオリジナルをGeorge Mrazと共に演奏した名盤、Beirachの代表作として彼の魅力を余す事なく表現しています。


Liebmanは本作と同じ87年1月に「Homage to John Coltrane」を録音、同年リリースされています。レコードのSide AがGomezを起用したアコースティック・サイド、Side BがMark Eganのエレクトリックベースをフィーチャーしたエレクトリック・サイド、本作収録のAfter the Rain, IndiaほかColtraneのオリジナルを演奏しています。
このアルバムの存在が契機となり、本コンサートのプログラムが組まれたのでは、と睨んでいます。


それでは演奏内容に触れて行く事にしましょう。1曲目はお馴染みMr. P.C. 、59年録音Coltraneの代表作にして名盤「Giant Steps」に収録されているマイナー・ブルース。Miles Davis Quintet時代からの盟友である名ベーシストPaul Chambersに捧げられたナンバー、皆さんよくご存知の事だと思います。作曲者自身その後もバンドのレパートリーとして頻繁に取り上げました。
Liebmanのカウントに続き曲がスタート、「お〜待ってたよ、期待していたぜ!」とばかりにワクワク感満載のオーディエンスの、数万人規模での響めきに近い歓声が聴こえます。オープニングに相応しくテンポもColtraneの演奏が♩=250、こちらはそれよりも速い♩=280に設定されています。


寸分の隙も無いとはこの演奏のためにある言葉なのでしょう、プレーヤー5人の発する音全てが終始有機的に絡み合い、アイデアを提供しつつ互いにインスパイアされ、相乗効果のショーケースと思しきインタープレイの数々です!
テーマに続きLiebmanが先発ソロ、エッジの効いた鋭角的なサウンド、主たるトーナリティの他に全く別のスケールが織り込まれたかの如き異彩を放つアドリブ・ライン、ここではグロートーンやオルタネート・フィンガリングも交え、シャウトし、耳に痛いまでに(汗)届くプレイを聴かせます。この頃の彼の楽器セッティング、マウスピースがDave Guardala Dave Liebman Model、リードはBariプラスティック・リード、本体はCouf(Keilwerthの米国向けモデル)。テナーサックスを封印してソプラノに専念していた時期です。
リズム隊について、まずGomezのベースが絶妙なOn Topに位置し、これまたエッジーなDeJohnetteのシンバルレガートと素晴らしい一体感を聴かせます!そして拍の長さが圧倒的に長いDeJohnetteのドラミングがバンドのリズムの奥行き感を深めています。コンビネーション抜群のふたりに加え、管楽器に対するバッキングの天才Beirachが美しくもダイナミックなピアノタッチを駆使し、実に楽しげにまで自由な発想で、枯渇することのない砂漠のオアシスの如く迸るアイデアを提供し、ソロイスト、メンバーを鼓舞します。別の言い方をすれば茶々入れ名人、お囃しの達人でしょうか(笑)?
Liebmanの最後のフレーズを受けつつ続くShorterのソロ、これは一体どう表現したら良いのでしょう?まず音色が相方とは全く異なります。使用楽器、マウスピースがOtto Link Slant 10番、リードはRicoでしょうか。本体はYAMAHAセミカーブドネックSilver Plated。ラバーのマウスピース使用なのでよりウッディではありますが、音の太さと艶、コク感が尋常ではありません!Liebmanのテナーサックス封印とは異なり、この時Shorterはテナーも自分のヴォイスとして普通に用いていました。今回ソプラノに専念したのは自身の発案か、主催者やLiebmanに要望されたのかは分かりませんが、対比という観点からソプラノ2管編成は結果としてふたりの演奏をフォーカス出来たと思います。
フレージングに関して、ジャズ的なアプローチの範疇に入っているようで実は枠外では?とも十分に感じさせ、奏法的には”もつれている”かのような独特なタンギング、かと思えばシングルタンギングの連続、フリーキーでアグレッシヴなライン、フラジオ音、小鳥の囀りの如き発音、いきなり小唄のようなメロディ奏、常人では考えられない展開の連続は真の天才の降臨でしょう!
この猛烈な演奏の伴奏担当リズム陣、凄まじいまでの瞬発力の連続、間違いなく3人とも全く何も考えずその場で鳴った音を受け(反射神経と手足が直結しています!)、インスピレーションを頼りにサポートしていますが、その確実性と高い音楽性はあり得ない次元です!
特にBeirachの、とんでもない事象を目の当たりにしても、尚且つ悠然とカウンターメロディを入れられる大胆さには鳥肌が立ちます!
Shorterのソロはまるでおもちゃ箱をひっくり返したような、どんな玩具が飛び出して来るか分からない意外性を持った展開ですが、一応彼なりの起承転結と次のソロイストに受け渡すための手筈の用意はされていました。続くBeirachのソロにはそのためスムーズに移行し、Shorterソロの余韻を残しつつ、真っ白なキャンバスに絵を描き始めるべく体制の立て直しを図り、そして徐に演奏開始です。
フロント陣の猛烈な演奏の後にも関わらず、Beirachは更なる強烈な展開をベース、ドラムを巻き込んで、リズム隊3人組んず解れつをとことん聴かせます!GomezもDeJohnetteも仕掛ける、受けて立つのアプローチを繰り返し、真夏のよみうりランド上空には激しい雷鳴が轟きそうな勢いです!いや、既に演奏自体が雷鳴でしたね!(爆)
ここまで奇想天外にイキまくっている演奏を聴くと、お囃子の達人は鳴物師であると同時に主たる芸能の達人でもあると再認識しました(笑)!まさしく三位一体の演奏なのですが、あまりにも各々が素晴らしいので出来れば一人ひとりのプレイを個別に聴きたい気持ちです(笑)。
密度の濃い演奏では時間の経過は加速します。ピアノソロ後ラストテーマへ、えっ?もう終わりですか?もっと聴きたいんですけど(涙)。Coltrane Tribute Concertのオープニングは歴史的な名演で開始されました。
聴衆の大歓声の後にLiebmanによるMCが始まります。Coltraneに対する思いを込めた内容をカタコトの日本語を交え(サービス精神旺盛です)、熱く語り、そしてデュオを開始すべくBeirachに促します。
David Liebman

2曲目はAfter the RainとNaimaのメドレー。After the Rainは「Impressions」に収録され、ここではドラマーがElvin JonesからRoy Haynesに交代しています。


Naimaは前出の「Giant Steps」で初演され、こちらも自身の重要なレパートリーとして生涯演奏されました。
本作での演奏は長年デュオ活動を継続しているふたりの絶妙なコンビネーションを聴くことが出来ます。冒頭にはピアノの弦を直接指で弾く効果音的奏法を聴かせ、Liebmanもフリーキーな音色で呼応しデュオの雰囲気を高めています。
ピアノのイントロに続き美しいメロディが始まります。ルパートを基本にゆったりと揺らめくように、アグレッシヴなトリルも交えながらテーマを演奏しています。コンパクトにプレイをまとめ、Beirachのリズミカルで豊かな響きのイントロに導かれてNaimaが始まります。彼等の演奏は85年録音「Double Edge」でも聴くことが出来ます。


こちらの演奏はスタジオ録音ということもありリリカルで落ち着いた雰囲気、本作の演奏は臨場感あふれるライブならではの内容です。本来バラードであったNaimaをボサノバやEven 8thのリズムで演奏するようになったのは、Cedar Waltonのトリオ作品73年1月録音「A Night at Boomers, vol.2」収録の演奏からではないでしょうか。


Waltonは75年12月録音「Eastern Rebellion」でGeorge Colemanをフロントに迎え、カルテットでも演奏しています。


ここでのソプラノサックスの音色には「シュワー」という音の成分(付帯音)が聴こえます。ドラムのシンバルと被る成分が多いのでバンド演奏では消えがちな付帯音ですが、デュオならではの良さ、音色に豊かさが増します。
ふたりの絶妙なコラボレーションにより音量のダイナミクス、互いのフィルインやフレージングの駆け引き、Liebmanのラインに対するBeirachの反応、放置、またピアノのサウンド付け、コードワークに対するLiebmanの対応のバリエーションの豊かさ、ナチュラルさ、全てがあり得ない次元で昇華しています!オーディエンスの掛け声にも感極まった感が聴き取れます。そして続くBeirachのソロの何と素晴らしいこと!崇高な美学に基づいたリハーモナイズの妙、いみじくもLiebmanが名付けたBeirachのニックネーム”The Code”、面目躍如の異次元コードワークの連続です!音楽的にも超高度な世界、しかも美しいピアノタッチで!これは堪りません!ラストテーマも意外性に富んだアプローチを聴くことが出来ます。
Richie Beirach

LiebmanのBeirachと自身の紹介、そしてShorter, DeJohnette, Gomezの名を呼びあげステージに戻るように促しています。
Wayne Shorter


3曲目はIndiaとImpressionsのメドレー、これら2曲も前述の「Impressions」に収録されています。Gomezの深い音色によるベースソロから始まリ、重音やハーモニクス奏法等様々なアプローチを用いますが、恐らくColtraneが演奏したバラードをモチーフに、と言う主題を自身で掲げメロディの断片を交えながらソロをプレイし、My One and Only Loveを聴き取ることが出来ます。
その後スラップのような奏法を披露しソロ終了と同時にドラムがリズムを刻み始め、イントロ開始です。スペースの多い曲なのでソプラノふたりが互いを聴きながら、被ることなくフィルインを入れますが、内容的には各々我が道を歩んでいます。
ソロの先発はShorter、素晴らしくインパクトのある音色でMr. P.C.以上にアグレッシヴなフレーズを繰り出しますが、時折聴かれる小唄的メロディに安堵感を覚えます。リズム隊のバッキングのアイデアは尽きるところを知らず、Shorterを徹底的にサポートしますが、Gomezのアプローチには敬服してしまいます!
Eddie Gomez


リフが入りBeirachのソロへ、案の定無尽蔵に溢れ出るアイデアが聴衆を別世界へと誘います。ここではDeJohnetteが率先してBeirachの後見人とも取れるアプローチを見せており、ソロイスト毎に役割分担を行っているかのようです。まだまだ続けられるにも関わらずBeirach余力を残しLiebmanのソロへと繋げます。初めからこめかみの血管が切れそうなテンションでのプレイ、フリージャズに突入したかのようです!バッキングを止め、暫し音無しの構えを見せていたBeirach、Liebmanのアグレッシヴなフレージングの合間にとんでもないラインを弾き始めたじゃありませんか!まさしく長年連れ添った(笑)このふたりにしかあり得ない阿吽の呼吸です!このバッキングで更に火のついたLiebman、悶絶しそうな勢いですが、プレイに決して乱れを見せず正確なタイム感をキープしています。
その後ラストテーマ、実にゆっくりとリタルダンドしてドラムソロへと繋げています。激しくも音楽的なフレーズを繰り出し、Elvin Jonesスタイルを彷彿させながらテンポをアッチェルさせImpressionsに繋がります。
テーマをLiebmanが吹き、Shorterはオブリガードを演奏します。ソロはShorterから、一触即発でDeJohnetteが反応します。このふたりは60年代後期のMiles Davis Quinntetで同じ釜の飯を食べた仲、久しぶりの共演かもしれませんがそこは昔取った杵柄です。
続くBeirachは端正にして凛々しく、正面を見据えてひたすらスイングする事に全身全霊を傾けているかの如きプレイ、実にカッコいいです!そこにLiebmanが怪しげに斬り込んできました。リズム隊は新たなカンフル剤を注射されたかの如く、活性化して行きますが、Beirachがバッキングを止め、Coltrane Quartetでテナーソロが佳境に入った時の、ピアノの椅子に座り続けるだけのMcCoy Tyner状態です!
その後再びドラムソロに移行しそうになりますが、DeJohnette本人は再度のソロを望まないであろうし、何より演奏時間が長くなると判断したBeirachが(メンバーには1時間で収めて欲しいと主催者側からオファーがあったのでしょう)パターンを弾き、ラストテーマに持っていきます。激しいエンディングを伴い歴史的コンサートは大団円を迎えます。
Jack DeJohnette

 

2021.04.06 Tue

Nature’s Revenge / Ryo Kawasaki Group

今回はギタリストRyo Kawasakiの78年録音リーダー作「Nature’s Revenge」を取り上げてみましょう。

Recorded at Tonstudio Zuckerfabrik, Stuttgart, Germany, February/March 1978
Engineer: Gibbs Platen
Producer: Joachim-Ernst Berendt
Label: MPS

g)Ryo Kawasaki   ts,ss)David Liebman   b)Alex Blake   ds)Buddy Williams

1)Nature’s Revenge   2)Body and Soul   3)Choro   4)The Straw That Broke the Lion’s Back   5)Thunderfunk   6)Prelude No. 2   7)Snowstorm

ユニークな構成の作品です。ギタリストRyo KawasakiのグループはDavid Liebmanのテナー、ソプラノサックスをフィーチャーし、エレクトリック、アコースティック・ベースAlex Blake、ドラムBuddy Williamsらのメンバーを擁したカルテットで、ほかギターとテナーのデュオ、アコースティック・ギターのソロ演奏を収録しています。
時代を反映したフュージョン・テイストのオリジナル・ナンバーやLiebmanの美しくドラマチックなオリジナルをカルテットで、ジャズバラードの定番にしてテナーサックスの魅力を最大限に引き出せる名曲Body and Soulをデュオでプレイし、これらの曲間にBrazil出身の大作曲家Heitor Villa-Lobosのクラシック・ナンバーを2曲アコースティック・ギターで独奏しています、ジャズチューンの中にクラシックのソロギター、一見節操のない選曲・構成のようですが、アルバム全体を通して鑑賞してみるとこれが殆ど違和感を感じず、むしろ濃い目のバンド演奏(笑)の良いクッション的役割を果たしています。
この当時Kawasakiはクラシックのギター演奏に力を入れ、よく独奏を重ねていたようです。クラシックギターの専門家、名だたる巨匠に比べればテクニカルな部分、音色、表現力の面で聴き劣りは否めませんが、多くのジャズピアニストが自己鍛練のためにクラシックを練習し、ピアノという楽器をコントロールするための確実な基礎を身に付けたのと同様に、彼も更なる高みを目指してアコースティックギターに集中し、クラシックの楽曲にチャレンジすることでジャズプレイに良いフィードバックを得られるよう、トライしていたのでしょう。本作ではこの時点での結実した演奏に触れる事ができます。
Kawasakiは47年2月東京生まれ。外交官を勤めた父親、海外生活を経験した国際派の母親との間に生まれ、ジャズミュージシャンとして日本で多忙を極めたのち73年にNew Yorkに活動拠点を移します。ほどなく米国ジャズシーンで認められGil Evansの名作 74年「Plays the Music of Jimi Hendrix」76年「There Comes a Time」、Elvin Jonesとは77年「The Main Force」「Time Capsule」、ほかJoanne Brackeenとは78年「Aft」「Trinkets and Things」で演奏します。
米国では他国籍者の場合、音楽活動を行うにはグリーンカード(永住権、労働許可証)所有が不可欠ですが取得に際して厳しい制限が課されています。彼の場合まずGil Evansのバンドに正式に加入するにあたり、Gilがスポンサー(保証人)になり尽力し、73年10月頃から書類上のやり取りを行いました。ところがNew YorkのMusician’s Unionがこれに反対し「米国に良いギタリストが存在するのになぜ日本人を採用するのか」とクレームをつけました。Kawasakiの力量や人間性を認めていたGilは「メンバーは自分に必要なサウンドや人物で決めるのであって、国境は関係ない」としてUnionも承諾し74年半ば以前に取得出来たそうです。大岡裁きですね。


本作のレコーディングのきっかけは76年から77年にかけての長期にわたるElvinとのツアーの際、欧州各都市のクラブやジャズ・フェスティヴァルなどに出演し、それらが当地のレーベルやブッキング・エージェントたちの目に留まり、彼らからのオファーが来たそうです。
その中のひとつが独MPSのプロデューサーJoachim-Ernst Berendtのアルバム制作依頼でした。それはかなり具体的なもので、予算と録音日程、その直後に録音メンバーによる2週間以上にわたる独語圏内(ドイツ、オーストリア、スイス)の各都市を回るツアー、「音楽内容やメンバーのチョイスはご随意に」といった依頼で、New Yorkで活動していた自身のライヴ・グループからAlex Blake, Buddy Williams、そしてElvinのバンドで共演を重ねたDavid Liebmanに白羽の矢を立て、メンバーが決まりました。ドイツ人は物事に対してはっきりとした考えを持ち行動する国民性なので、当初から仕事がやり易かった事でしょう。本作の特徴であるアコースティックギターの使用は77年録音の前作に該当する「Ring Toss」で既に行われています(クラシック音楽は未演奏)。因みにBlake, Williamsのリズム隊も既に起用されています。


実は彼の10歳ほど年上の従兄弟がクラシックギターの名手(プロではなかったそうです)で、Kawasakiも幼い頃からこの楽器に魅せられ、いつかは弾けるようになりたかったそうです。Elvinの長期間に渡るツアーの際、プレイしている以外は時間があったので持参したアコースティックギターを練習し、更にはElvinもクラシックギターが大好きだったのでライブでセット毎に数分間ソロ演奏を披露する機会を与えて貰ったそうで、これは得難いチャンスでした!そういえばElvin自身もアルバムでギタープレイを披露しています。67年録音「Heavy Sounds」収録のその名もElvin’s Guitar Blues、アコースティックギターをイントロでご愛嬌程度に、でも気持ち良さそうにつま弾いていますが、ドラムを叩く時のような例の声は聴こえません(笑)。


こういった背景があり、彼はBach, Tarrega, 本作のVilla-Lobos, そしてRodrigo, Ravel, Debussy, Stravinskyらの名曲を人前で演奏したり作品として収録できる程度まで習得しました。アコースティックギターによるクラシック演奏にはごく自然な流れが存在したのです。

それでは収録曲に触れて行くことにしましょう。1曲目Kawasakiのオリジナルにして表題曲Nature’s Revenge、当時(現在もそうですが)世界的な異常気象により地球温暖化、洪水、巨大ハリケーン、海水位の上昇が問題となり、これらは地球を弄んだ人類に対する自然の復讐であり、警鐘を鳴らすべく書かれたナンバーと言うことです。
アップテンポのサンバ、しかしタイトルが持つ重厚感は感じさせない軽快なリズム、メロディで、随所に聴かれるキメやアンサンブルは当時のフュージョン、クロスオーバーを彷彿とさせます。Williamsのテクニカルで軽快なドラミングが曲調に相応しいカラーリングを施します。バスドラムと皮もののバランスがよく取れているドラマーです。
全編に渡りギターのバッキングがオーバーダビングされ、2拍3連のパターンを基本に次第に発展していきます。
テーマのメロディ部とは別に巧みなベースソロ、アコースティック・ギターとソプラノのトレードのセクションを有し、その後スパニッシュモードによるメロディ・パートがあります。この部分の延長線上でソプラノサックスのソロがスタートしますが、しかしLiebman、これは猛烈なイメージの演奏です!ミステリアスな雰囲気で音量を抑えた序章から、次第に様々なモチーフや細かいセンテンス、アウトするラインを巧みに用い、起承転結を持たせながらストーリーをエグく構築して行くプレイは圧倒的です!場を活性化するべくドラムがソプラノソロに呼応しますが、Liebmanがここではいつになくon topでプレイしています。スピード感と言う次元より、むしろ前のめりなグルーヴを感じさせるので、せっつかれたようにも、また何かに追われているかのようにも聴こえます。実はこのLiebmanのソロ自体がNature’s Revengeを表現しているのかも知れませんね。
まさにほど良きところでギターによるメロディがバックリフ状態で演奏され、最後はソプラノもユニゾンでプレイしギターソロへと続きます。ディストーションを施したトーン、ロックフレーバー満載のラインの連続でバンド一丸となってバーニング!その後ラストテーマへ、ここでも再びアコギとソプラノのバトルが聴かれますが、ハードな構成の曲中、幾山も超え、やっとラストテーマに辿り着いた安堵感すら感じさせる余裕のトレード、そしてFineです。

2曲目はギターとテナーのDuoによるBody and Soul、印象的なコードワークから始まるギターソロには旋律を感じさせるラインが用いられ、テーマの前半AAを演奏、そして同様にメロディ・フェイク的なテナー奏、この時点で素晴らしい音色にノックアウトされます!サブトーン主体の付帯音に満ち満ちた、テナーの周囲をシュワーっという音の粒子によるスモークが焚かれたかのようなサウンド、Coleman Hawkinsに始まりStan Getz, Sonny Rollins, John ColtraneたちTenor Titanの名演に並び称されるクオリティの演奏です!テナーはテーマの後半BAをプレイ、再びギターがAA部でソロを取ります。Kawasakiお得意のフレーズの嵐、即断で彼の演奏と分かる勢いです!その合間を縫うように繰返しのAからテナーがオブリを入れ、その返答の如くギターの大変気持ちのこもったピアニシモでのフレージングがあり、サビのBから同様にテナーソロへ。ギターも同時進行でソロを取りますが、実にナイスなコラボレーション、合計2コーラスをありそうで無かったフォームで、そして緻密にして崇高な美学に貫かれたインタープレイを聴かせ、エンディングcadenzaでのスリリングのやり取りも絶妙で、間違いなくBody and Soulの名演奏の一つに挙げられるテイクに仕上がりました!
David Liebman

3曲目ChoroはVilla-Lobosの代表曲、アコースティックギターでクラシックを志す者なら必ず演奏するナンバーの1曲です。ChoroはBrazilのポピュラー音楽のスタイルの一つで、19世紀に既にRio de Janeiroで成立しました。ポルトガル語で「泣く」を意味する「chorar」から名付けられたと言われており、Choroを米国ではBrazilのJazzと例えられることがありますが、即興を重視した音楽としてはJazzよりも歴史が古いと言えます。
アコースティックギターを手にしてこの曲を練習する、人前で演奏する、ましてやこのテイクのように自分のリーダー作でプレイするに当たり、常に身の引き締まる思いを抱いた事でしょう。ジャズプレーヤーにとっては襟を正して演奏すべきナンバーです。
Heitor Villa- Lobos

4曲目LiebmanのオリジナルThe Straw That Broke the Lion’s Back、この曲にも作曲者自身のコメントがオリジナル曲集「30 Compositions」に記載されています。「had to do with an incident in my life, where something occured which finally caused me to take action, literally ≫the last straw≪. The melody is straight-forword with common changes and intended to have lyrics. The second section was grafted from another song and puts the melody in the bass. The feel is eighth note and bossa-nova like.」
元はことわざ「It’s the last straw that breaks the camel’s back」ギリギリのところまで重荷を背負ったラクダはその上わら1本でも積ませたら参ってしまう<たとえわずかでも限度を越せば、取り返しのつかない事になる>を捩ったタイトル、曲に歌詞を付ける予定だそうです。
テーマメロディを用いたリリカルなギターイントロから始まり、コードワークに導かれてインテンポ、Liebmanの逞しくも深いトーンを湛えたテナーが朗々とテーマを奏でます。
ギターのバッキング、フィルインが実にカラフルです!Blakeもコントラバスに持ち替え、よく伸びる深い音色でサポートはもとより、曲中のベースによるメロディラインを美しく演奏しています。
リズムはコメントにもあるようにボサノヴァがかった8ビート、コード進行は確かに良くあるものですが、何よりLiebmanのプレイが素晴らしく、リラックスした中に耽美的な表現が自然に散りばめられ、魅惑的な世界へと誘います。
彼独自のニュアンスは比較的too muchになりがちですが(代表的な演奏例としてSteve Swallow / Home)、ここではバランスを保ち聴き手に決して押し付ける事なく、王道を行くスタンスで表現されており、僕にとっては彼のソロの中で格別にフェイバリットな、ウタを感じさせる、何度聴いてもグッと来てしまうソロです!続くギターの演奏もLiebmanに刺激されイメージを膨らませた、曲想に合致したプレイを聴かせます。
その後のラストテーマは素晴らしいコンビネーションによるインタープレイを存分に重ねた成果でしょう、表現力が一段と増した成果を聴かせ、この曲の持つ魅力を十二分に発揮しています。

5曲目ThunderfunkはKawasakiのオリジナル、エレクトリックベースのスラップによるイントロからドラム、ギターのカッティング、オーヴァーダビングによるメロディが加わり、テナーとのキメ、そしてイケイケのチョーキング・ギターによるテーマ、サビで対比的にムードが変わる、いかにも70年代ライクなテナーによるライン等が提示されギターソロへ。Funk魂全開のプレイです!
そういえばLiebmanのJames Brown, Van Morrisonバンドの重鎮テナーPee Wee Ellisとのコラボレーションで制作した76年録音のアルバム「Light’n Up, Please!」、こちらでもファンキーな、ホンカーライクなプレイを聴かせています。
Liebmanのここでのソロは7thコード#9thの響きをギタリストのように全面にプッシュしたプレイ、コンパクトにまとめラストテーマに繋がります。

6曲目Prelude No. 2、再びVilla- Lobosのナンバーを外連味なくアコースティックギターのソロで演奏しています。前曲のエグさを一掃するかのような(笑)アカデミックさ、心が洗われるようです。違和感なくすんなりと耳に入って来るのは演奏自体が限りなくピュアだからでしょう。
Ryo Kawasaki(2018年クロアチア)

7曲目Snowstormは大作です。曲冒頭にDon Luis Milanの名曲Pavaneをアコースティックギターソロで奏で(オーヴァーダビングだと思われます)、その後アップテンポでファンクのリズムが刻まれ、ベース、ギターと加わり、ソプラノによるテーマが提示されます。ギターのバッキング、ベース、ドラム、全員かなりのハイテンションでプレイしています!ギターソロが先発を務め、Blakeの縦横無尽なベースワークと実に良く絡み合っています。その後ソプラノによるテーマの後、世界が一新します。これは3拍子+3拍子+3拍子+2拍子という構成による11拍子、リズム隊の作り出す怪しげな世界を背景に、民族音楽のような旋律から成るメロディを経てLiebman存分に咆哮します。次第にサウンドはFade Outに向かい、Snowstorm=吹雪、まるで全てが雪に埋もれてしまい静寂の世界が訪れたかのようです。

2021.03.22 Mon

Pendulum / The David Liebman Quintet

今回はDavid Liebman Quintetによる1978年2月NYC Village Vanguardでのライブレコーディングを収録した作品「Pendulum」を取り上げたいと思います。テナー・ソプラノサックスDavid Liebman、トランペットにRandy Brecker、盟友Richie Beirachをピアノに迎え、ドラムAl Foster、ベースFrank Tusaらの素晴らしいサポートを得て、バンド一丸となった名演奏を聴かせています。

Recorded: February 4th and 5th, 1978 at The Village Vanguard, NYC by David Baker, assisted by Chip Stokes
Mixed: September 12, by David Baker with David Liebman, Frank Tusa, and Richie Beirach at Blank Tapes Studio, NYC
Mastered by Rudy Van Gelder
Art by Eugene Gregan
Produced by John Snyder
Label: Artist House

ts,ss)David Liebman  tp)Randy Brecker  p)Richie Beirach  b)Frank Tusa  ds)Al Foster

1)Pendulum  2)Picadilly Lilly  3)Footprints

70年代後期Liebmanの絶好調ぶりがダイレクトに伝わる優れた作品です。Elvin Jones, Miles Davisとの共演で培われた音楽性をベースに、自身に備わっていたユダヤ的なテイスト(サウンド、ハーモニー、スケール感)と結合した独自なスタイルが開花した時期に該当します。楽器の表現力、テクニックやタイム感も格段に向上し作曲やアレンジにも深みが加わり、確実な方向性を確認することが出来ます。
作品クオリティの充実ぶりには加えて本作レーベル、Artist Houseの貢献もあります。プロデューサーJohn Snyderは数々の名演奏を生み出したNYCの老舗ライブハウスVillage Vanguardでの録音を挙行(Liebman初ライブ録音になります)、レコーディング・エンジニアに彼の演奏を熟知しているDavid Baker、更に録音テープからレコード盤作成時最後の関門とも言える重要なマスタリング(ここが充実せず最悪の場合音質が劣化することさえあります)にBlue Note, Prestige, Impulse, CTI等で数々の名録音を手掛けた鬼才Rudy Van Gelderを起用、このコンビネーションにより素晴らしい音質に仕上がりました。
アルバムジャケットのデザインにはLiebmanの絶大な信頼を得ているEugene Gregan、ダブルジャケット仕様のレコードには全8ページからなる詳細な内容を記載したブックレットを付属させました。こちらには録音使用機材等のディテールやインフォメーションのほか、Liebman自身によるメンバー、スタッフ、演奏曲に対する紹介、解説が掲載され、アルバムリリース79年当時のコンプリート・ディスコグラフィー(Liebmanお気に入りアルバムのクレジット入り!)、更には収録曲PendulumとPicadilly Lillyのリードシートも付録され、米国制作とにわかには信じ難い繊細なレベルでの作品リリースに仕上げています。良い作品を世に出したいという欲求と情熱を痛感しますが、推測するにかなりの経費がかかった割には売れ行きが芳しくなかったのでしょう、Artist Houseは78年から81年にかけて合計14作を発売しましたが、残念ながらその後活動を停止してしまいました。


また08年にはMosaic Labelから8曲の未発表演奏を追加したCD3枚組がリリースされました。There’s No Greater Love, Solar, Night and Day, Blue Bossa, Well You Need’t, Impressions等のスタンダード・ナンバーを中心とした追加テイクはいずれもがライブならではの長時間に及ぶ白熱した演奏です。ジャムセッションで取り上げられるようなこれらのナンバーはLiebman, Brecker, Beirachにとって他で聴くことの出来ない貴重なテイクとも言えますが、合計11曲、収録時間191分以上、全ての曲で演奏は完全燃焼を遂げており(汗)、しかもバラードやリラックスした雰囲気の曲が皆無というのも凄まじい、Liebmanらしいセレクションです!3枚通して聴くことはまず無理でしょう(熱狂的なLiebmanフリークの僕でもギブアップです!)、圧倒的なまでの内容の濃さ、ボリュームを有し、他にこれだけの作品の存在を知りません(爆)。


LiebmanとBreckerはManhattanのロフトで70年代初頭からセッションを繰り返した間柄です。そこには弟Michael Brecker, Steve Grossman, Bob Mintzer, Bob Bergたちも加わり、ユダヤ系の知的で高度な音楽性を湛えたフロント陣が研鑽を遂げた場所でもありました。意外なことにLiebmanとRandy(Brecker)の2フロントによる共演作は殆ど存在せず本作はその意味では貴重な作品です。他には98年3月NYC Town Hallにて行われたコンサートを収録した作品「70s Jazz Pioneers / Live at the Town Hall」で共演を果たしており、他にPat Martino, Joanne Brackeen, Buster Williams, Al Fosterたちと60〜70年代のナンバーをセッション風に演奏しています。


ベーシストFrank Tusaは70年代初頭からLiebmanと活動を共にし、Bob Mosesを含めたOpen Sky Trioでの活動、またBeirachともコンスタントにプレイを展開していました。Liebmanのアルバムには7作参加し、また自身の作品75年7月録音「Father Time」にLiebman, Beirachを招き、ドラマーも当時のLiebmanバンドのレギュラーJeff Williamsが加わり、リーダーが代わっただけのLiebmanグループの様相を呈しています。ここにTusaのオリジナル曲Doin’ It(クリックすると試聴できます)が収録されLiebmanに存分に吹かせていますが、前回Blogで取り上げたLiebmanの作品「Doin’ It Again」表題曲との関係の有無がずっと気になっています。曲想は異なりますがDoin’ It〜Doin’ It Again、たまたまタイトルがオーバーラップしただけの別曲なのか、曲のコンセプトを何らかの形で受け継いだのか…機会があれば是非本人に尋ねてみたいと思っています。


それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目BeirachのオリジナルPendulum(クリックすると試聴できます)。18分以上を有する演奏、レコードのSide Aを1曲で占めています。作曲者自身のリズミカルなイントロからスタートしますが、この人のピアノタッチは実に素晴らしいです!濃密さとクリアネスが同居したトーン、さすがSteinway & Sonsのアーティスト!ピアノという楽器を深い領域で良く響かせる、更に自身のオリジナリティを音色に反映させた魅力的なサウンドを奏でていて、まさしく心の琴線に触れるプレイです。ベース、ドラムがごく自然に加わり、ピアノひとりでもリズミックであったのに3人が織りなすグルーヴで、より立体的にリズムが構築されます。Al Fosterのタイトなレガート、Paisteシンバルの使用でスティックのチップ音がドライかつシャープに響きます。Tusaのベースもリズムのスイートスポットにバッチリ嵌っています。テーマはテナーがメロディを奏で、トランペットがハーモニーを担当、メロディが下の音域でハーモニーが上に位置するので不思議なサウンドですが、Randyは音量を抑え目に吹いていてしっかりと主旋律を立てています。
ソロの先発はトランペット、この頃のRandyはThe Brecker Brothers Bandでの活動真っ最中、Bros.の代表曲Some Skunk Funkを筆頭とするワウやオクターバー等のエフェクターを施した演奏で、100%フュージョンのミュージシャンと勝手に認識していましたが、ここでのハードなドライヴ感を伴ったスインガー振りには正直驚かされました!同じトランペッターFreddie Hubbardも大変にタイム感の良いプレーヤーですが、Randyも全く遜色なく、リズムマスターの称号を授与されて然るべきです!フレージングのアプローチ、方法論にもオリジナリティを感じさせつつ、淡々とストーリーを展開して行きます。彼の話し方は比較的「ぶつぶつ、ボソボソ」と独白的でアイロニーを含みますが、この演奏にもどこか感じ取ることができます。
リズム隊はパターンをキープしつつ様々なアプローチを仕掛け、今度は逆にRandyに仕掛けられたりと丁々発止のやり取りを行いながらスイングのリズムに変化して行きます。Fosterのバスドラの軽やかさは実にパーカッシヴ、両手から繰り出されるフィルインの数々も決してtoo muchにならず、ほど良きところをキープしています。かのMiles Davisのバンドを72年から85年まで長きに渡り勤め上げた、真に伴奏に長けたドラマーです!音量のアベレージが小さい彼はダイナミクスの振れ幅が半端なく、ppとffを自在に行き来しています。
Beirachのバッキングのまた物凄いこと!付かず離れずを繰り返しながらもソロに確実に付ける部分と放置プレイのバランスを保ち、そして複雑な和音を内包しながらリズム楽器と化しつつ問題提起的なアプローチ三昧、いわゆるリック的な決まり事とは一切無縁の自然発生的、リアルジャズプレーヤーを実感させます。クラシックを徹底的に学び、幼い頃からピアノの神童として育てられたに違いないでしょう、ノーブルさ、緻密さをベースにプレイをとにかく楽しむ事を念頭に置く演奏姿勢、それらがあり得ない次元で備わっています。Michel Petruccianiはピアノの化身と言われましたがBeirachも全く同じ、いやそれ以上かも知れません!
トランペットソロ後は再びリズムパターンに戻りそのままBeirachのソロが始まります。右手のシングルノートを中心にメロディの提示やパルス的なフレージングを積み重ね、次第に世界を作り上げて行きます。その際Fosterのドラミングとのやり取りが素晴らしい!彼も決まり事に一切決別を宣言したかのプレイ、豊かな泉の如く溢れ出るアイデアは他のドラマーにはない全く独自のセンスで。Tusaのベースともあくまでお互いの協議と合意のもと、ジワジワと物語を作り上げ、前人未到の高みにまで辿り着かんとしています!そしてここぞと言う場面をプレーヤーたちは決して逃しません、三つ巴でピークに向けて、しかしこの後に控えるリーダーのプレイの盛り上がりも視野に入れつつ、一段階手前の絶頂、八合目を目指してGo!Fosterのバスドラ連打祭りでもあります!
ややクールダウンし再びパターンに戻り、壮絶な音色を伴ったテナーソロがスタートです。トーンも凄ければ吹いているラインも情念のこもった、問題提起どころではない世界の終焉にまで向かわんとするテンションの連続、しかしBeirachはLiebmanのシリアスさとは無縁のように、何処か楽しげにバッキングノートを繰り出しています。このバランス感が50年以上も演奏を共有する事ができる秘訣のような気がします。
もう一山越えの手前でLiebmanラストテーマを吹き始め、Randyがすかさずハーモニーを付け呼応します。総じてこの演奏のピーク、実は作曲者Beirachのソロ中で迎えていたのかも知れません。

2曲目Picadilly Lilly(クリックすると試聴できます)はLiebmanのオリジナル、彼の作品の中でも最もストレートアヘッドな1曲です。スタンダードナンバーInvitationを彷彿とさせるメロディライン、曲のキーもin B♭でF#メジャー、複雑な構成、コード進行からかなりの難曲です。冒頭ルパートでテナーとピアノによるイントロが演奏され、すぐさまインテンポとなりテーマが奏でられます。その後はいわゆる吹きっ放し、Liebmanの独壇場で演奏され、彼のプレイのショウケースとなり絶妙なストーリー展開を行なっています。前出のCD3枚組にはこの曲の別テイクが収録されていて、そこではRandyのトランペットソロも聴くことが出来ますが、こちらのオリジナルテイクの方はLiebmanの演奏にフォーカスしているので、より統一感を感じます。
♩=160のallegroテンポ、Liebmanの素晴らしいリズム感、レイドバック、対する16分音符の正確さ、スイングフィール、独自のニュアンスが施された歌いっぷりもしっかり堪能できるプレイです。それにしてもこの怪しげな(汗)節回しは他には一切ない彼ならではのスタイル、本人は気持ちよく自身の唄、それこそ口笛、鼻歌感覚でテナーを吹いているように感じますが、ここから感じ取れるエグさは実にone & onlyで、一聴すぐ彼と判断できる個性を発揮していて、彼のアドリブソロの代表的なもののひとつと断言出来ます。
途中4’30″過ぎ辺りからブルーノートとベンドを用いたフレージングが聴かれますが、彼のブルーノート使用よる表現はいわゆる他のジャズメンとは異なり、言ってみればブルージーさを通り越したダークさに到達しています。感極まったオーディエンスのアプローズが絶妙なところで聴かれますが、間違いなく熱狂的なLiebmanファンでしょう、ちなみに僕の声ではありません(爆)
ソロの締め括りにはここ一番と言うべき思いっきり割れたフラジオ音を炸裂させ、Fosterは巧みなスネアロールで呼応していますが、この辺りのレスポンスは神がかっています!

3曲目Wayne ShorterのナンバーFootprints(クリックすると試聴できます)、Tusaのベースパターンから始まり、BeirachとFosterで互いに呼応しイントロの雰囲気作りに一役買い、その後発情期の猫を思わせる(汗)Liebmanのソプラノが登場します。テーマはトランペットが主旋律を吹き、ソプラノがハーモニーに回りますが録音の関係か敢えてなのか、ソプラノの存在感の方が大きく、ハーモニーの方がメロディに聴こえます。実は狙っているかも知れませんね。テナー以上にLiebmanのソプラノは個性的で、80年頃から一時期テナーサックスを封印してソプラノに専念したのも頷けます。
ここでの縦横無尽なソロのアプローチは特筆すべきで、一つのチャレンジが結実した好例だと思います。常に進取の精神を忘れない彼の根底にあるのはJohn Coltrane、Liebmanが60年代にColtraneの生演奏を頻繁に聴きに行き、ある夜はアドリブソロを全てトリルのみで行っていたとも語っていますが、Coltrane’s spirit a la Liebmanとして彼の内面で脈々と育まれています。
メロディにスペースのある曲だけにテーマ時はBeirachのフィルインが大活躍、ここぞとばかりに華麗なプレイを聴かせます。さらにLiebmanの猛烈なソロ時、凄まじいまでに呼応する、反して放置するバッキングは、彼に対する演奏上のノウハウを熟知している者ならではのアプローチ、Liebmanも演奏上のパートナーとして必須、そして付かず離れずを含めて(長きに渡る間柄、没交渉の期間もありました)、彼の事が可愛くて仕方なかったと推測しています。ソロのファイナルには「一体これは何なんだ?」という壮絶なバッキングがあり、Liebman自身まだまだ長いストーリーを語れたのでしょうが、リズム隊のアプローチがフレッシュなうちにソロを終えようと言う目論見を感じました。
続くRandyのソロは実に端正に、リズミックに、イマジネイティブに、リズム隊の完璧とも言えるサポートを得て、彼の音楽歴の中でもベストに入るソロを聴かせています。
そしてBeirachの出番です。Liebman, Randyのプレイから深淵なジャズ・スピリットを得て、もはや囚われるものは何もない、思う存分自己解放を行えば良いのだ、と言う次元での猛烈な演奏を繰り広げています。これだけタガが外れた彼も珍しいかも知れません。
そしてFosterのドラムソロは美しい音色で的確にかつテクニカルに行われていますが、バッキング時の方が自身の表現をより行えているように感じます。伴奏に徹した演者ならではと再認識しました。ラストテーマはBeirachによりスムースに導かれ、メンバー全員思う存分好きな事をやりつつ(笑)猫の発情期も再来し(爆)、大団円です。

2021.03.09 Tue

Doin’ It Again / David Liebman Quintet

今回はDavid Liebman 79年録音リーダー作「Doin’ It Again」を取り上げてみましょう。自身のレギュラーQuintetによる演奏、Terumasa Hinoとの2 管編成にギターの名手John Scofieldを配し、アコースティック、エレクトリック・ベースにRon McClure、ドラムAdam Nussbaum。ユニークなLiebmanとMcClureのオリジナル、そしてスタンダードナンバーであるStardustの名アレンジ、名演奏が光る意欲作です。

Recorded: 1979 at Platinum Studios, Brooklyn, New York
Recording and Mixing Engineer: David Baker
Producer: David Liebman and Arthur Barron
Executive Producer: Theresa Del Pozzo
Label: Timeless Records

ts, ss)David Liebman   tp, flg, perc)Terumasa Hino   g)John Scofield   acoustic, el-b)Ron McClure   ds)Adam Nussbaum

1)Doin’ It Again   2)Lady   3)Stardust   4)Cliff’s Vibes

多作家Liebman 11枚目のリーダーアルバムに該当する作品です。これまでにもフュージョン、クロスオーバー・テイスト(ブラコンもありました!)の作品とストレートアヘッドなアルバムのいずれも発表して来ましたが、本作はレコードのSide Aに該当する1, 2曲目がフュージョン・タッチ、Side Bの3, 4曲目がアコースティック・ジャズを聴かせています(ベーシストはアコースティック・ベースに持ち替え)。演奏自体はいずれも間違いなく、どこから聴いてもone & onlyなLiebman Musicなのですが、演奏の形態に拘りを感じさせるのは当時の風潮でしょうか。リリース80年、フュージョン全盛期にアコースティックなサウンドを敢えて演奏するのは、それなりに意味があったのでしょうが実はレーベルの意向のようにも感じます。
78年2月録音NYCの名門ジャズクラブVillage Vanguardでのライブを収録した「Pendulum」はRandy Brecker(tp), Richie Beirach(p), Frank Tusa(b), Al Foster(ds)らを擁したLiebmanのリーダー作、外連味なくストレートアヘッドな演奏を展開している名盤ですが、こちらに比べれば本作は確かにテイストとしてフュージョンを感じさせます。
Pendulum / David Liebman Quintet (クリックして下さい)

84年旧西ドイツで出版されたLiebmanオリジナル曲集「30 Compositions」(advance music)には楽譜・スコアの他、全ての楽曲に本人による解説が英語、独語の両方で掲載されており、表題曲にしてLiebmanのオリジナルDoin’ It Againも収録されています。ここで紐解いてみる事にしましょう。


Doin’ It Again:「 celebrates my return home to New York City after a sojourn in California(1978). It also reflects the compositional influence of Chick Corea, with whom I did a three month world tour in 1978. This, and the future compositions show more formal writing through use of interludes, introductions and codas. This is my another compositions where the bass line plays an important part in the melody itself.」
Chick Coreaの作風からの影響が反映されているとありますが、僕にはこの曲にCoreaを感じ取るのは難しいです。そのような耳で聴いてみるとそうも聴こえなくもない…音楽家は各々独自のセンスと感受性を有しているので、捉え方が異なって当然なのですが。
またCoreaと78年に3ヶ月間ワールドツアーを行ったと記載され、実際に東京でもCorea Bandの公演が行われました。アルバム「Leprechaun」「My Spanish Heart」「Mad Hatter」の楽曲を、リズム隊に弦楽四重奏とホーンセクションから成る大所帯による編成で、加えてふたりは毎夜Lush LifeやCrystal SilenceなどをDuoで演奏しました。実に興味深く、録音が残っていたら是非聴いてみたいものです。
そのツアーの中頃、1週間のオフ最中にCoreaは彼に捧げたナンバー”Blues for Liebestraum”を書き上げたそうです。これは大変に名誉なこと、ツアー中にリーダーから書き下ろしのオリジナルを贈られるとは、音楽的信頼関係の成せる技、ふたりの蜜月ぶりを物語っている以外にはありません。Liebmanもさぞかし嬉しかった事と思います。この時点では二人の関係は大変良好だったのでしょう、と言うのもLiebmanの自伝「What It Is」によるとこのツアーの最後にCoreaがLiebmanに激昂し、右手の中指を立てて、”I never want to see you again!”と絶縁の宣言したそうです(汗)。様々な行き違い、食い違いの結果、LiebmanがCoreaを立腹させたのでしょう。
Coreaは自身の音楽史上、実に多くの共演者たちと頻繁にメモリアルな再演を行なっていましたが、Liebmanとは最後まで没交渉でした。しかしLiebmanの方は意に介さず、Coreaに捧げたオリジナルのラテン・ナンバーChick-Chat(クリックして下さい)を79年12月録音アルバム「What It Is」(自伝と同名)で演奏したり、共演者経歴への記載(Coreaとの共演はMiles DavisやElvin Jonesと匹敵する輝かしい経歴だったのでしょう)、また自身のクリニックでもCoreaの名前を度々口にしており、好印象をキープしていました。
What It Is


ちなみにLiebmanに捧げられたナンバーBlues for LiebestraumはJoe Hendersonの80年1月録音リーダー作、Coreaがサイドマンで参加している「Mirror, Mirror」で取り上げられています。Liebmanへのスペシャル・ナンバーだったにも関わらずJoe Henが演奏したのは興味津々、Joe Hen, Coreaとも素晴らしいプレイを繰り広げています。
Liebman曰くコード進行やサウンド的に難曲であるBlues for Liebestraum(クリックして下さい)、インスピレーションが湧いたのでしょう、この曲中に用いるshout chorus=ソリ、アンサンブル部分を既に書き上げているので、いずれこの曲をレコーディングしたいと発言しています。ミュージシャンとして様々な側面からの音楽的準備を怠らないクリエイティブな姿勢を、この発言から感じ取ることができました(同じテナー奏者として、自分自身も常にそうありたいと願っています)。Corea亡き後、Liebman自身による演奏は早急に具体化されるに違いありません。
Mirror, Mirror / Joe Henderson

それでは収録曲について触れて行くことにしましょう。1曲目Doin’ It Againは冒頭から印象的なベースパターンとギターのハイパーでエグエグの音色、ラインのプレイが支配しています。作曲者自身の解説にもありましたが、確かにベースラインがメロディと同等に重要な役割を果たしていて、またコード楽器がピアノではなく超個性派ギタリストによるプレイで、バンドのサウンドを決定付けています。John Scoのギターはピッキングの強さと正確さ、強力なタイム感から、エッジの効いたいわゆるホーンライクな要素が強く、トランペット、テナーサックスの他にもうひとり管楽器奏者が存在するが如しで、一方容易くコードプレイにもスイッチし、しかもコードプレイから発するサウンドが尋常ではありません!190cm近くある身長ゆえ掌も大きいことでしょう、左手のコードワークが他のギタリストでは真似できない離れたポジションを押さえ、とんでもない指の配置による掌の形がフレットを覆っているとイメージ出来ます!
テーマメロディはトランペット、テナーと交互に演奏されその合間にギターが「もう一人の」管楽器奏者的にバッキング、オブリガートが挿入されます。その後2管によるユニゾン〜アンサンブル、背後でのJohn Scoの有り得ない次元でのサウンドクリエイション!このフロント3人めちゃくちゃキャラ濃いです!サビに該当する部分はリズムがタンゴ・フィールに変わり、ギターの変態さ(笑)は相変わらずに、トランペットが朗々とメロディをプレイし、テナーが加わりアンサンブルを経てテナーソロへと続きます。Liebmanの人選によるサウンド構成、目論見はこのテーマ奏だけで既に大成功の様相を呈しています!
ダークで枯れた音色でいてパワフル、時折叫びを交えつつ、テクニカルなラインの中に内面から湧き上がる独自の歌い回しをこれでもか、とばかりにふんだんに織り込みながらLiebmanはソロを展開して行きます。前回取り上げた「Devotion」とは全く異なる世界観を表現しているので、音楽家としての懐の深さを再認識させられます!
インタールード後、ギターソロに続きます。コンビネーション・ディミニッシュ系のアウトしたラインは現代ではもはや耳馴染みですが、80年当時John Scoはその斬新さから超変態の称号(爆)を欲しいままにしていました(笑)。そして凄まじいまでの音符のスピード感!常々思うのですがタイムに正確で、スピード感を感じさせるプレーヤーは大勢存在するのですが、そこから更に一歩踏み込んだ、例えば椅子から腰が浮き上がり、踊り出したくなるようなグルーブを聴かせるプレーヤーはそうは数が多くありません。言ってみればダンサブル、この音符の筆頭株主がJohn Scoなのです。ここでの猛烈なプレイは彼の代表的な演奏の一つに挙げられると思います。
もっとも近年の彼の演奏はレイドバックし、80年代のバキバキ、イケイケのプレイからリズムのノリは良い意味でルーズに、どちらかと言うとオーソドックスさを感じさせる方向に向かっています。最新作2019年3月録音、全曲Steve Swallowのナンバーを本人とBill Stewartのトリオでプレイした「Swallow Tales」は、本作から40年を経て枯淡の境地に至ったかのようです。


2曲目はRon McClureのオリジナルLady。McClureは41年11月生まれ、Buddy RichのコンボやMaynard Fergusonのビッグバンドを皮切りに、Cecil McBeeの後釜で加入した名門Charles Lloyd Quartet(Keith Jarrett, Jack DeJohnette)で名を馳せました。74年にはBlood, Sweat and Tearsにも参加しています。ほか多くのバンドで活躍し安定したプレイには定評がありますが、SteepleChaseレーベルを中心にリーダーアルバムを20作近くリリースしています。近年の作品はオリジナルが中心になっていますが、89年12月録音の初リーダー作「McJolt」はRichie Beirach, John Abercrombie, 本作共演Nussbaumと名手を揃えたカルテットで、スタンダード・ナンバーの魅力をアピールしています。


Ladyの演奏に話を戻しましょう。一聴爽やかなイントロからスタートしますが、Liebmanが取り上げるだけあって、やはりエグさを湛えたユニークな曲想のナンバー、ソプラノとトランペットのメロディの間隙を縫って繰り出されるギターのフィルインが気持ち良いです。ここでも2管編成に別なホーンが絡んでいるかのようなアンサンブルを聴かせています。テーマ後はソプラノとトランペットの壮絶なバトルが繰り広げられます!ソプラノの音色もメチャメチャ個性を感じさせますが、楽器本体はCouf(独Keilwerthの米国モデル)、マウスピースはDukoff  D7番、リードはSelmer Omegaをトクサで削って合わせていました。
しかしここまで自身のテイストを本気でぶつけ合えるのは、ふたりの音楽的相性の良さが不可欠なのは勿論、音楽的レベルが拮抗していなければ成り立つことは出来ません。Liebmanに全く匹敵する日野さん、ワールドクラスの音楽性を痛感しました!そしてバトルを確実なものにする、リズムセクション、特にNussbaumの素晴らしいサポートぶりにも感銘を受けます。
とことん盛り上がった後はギターソロ、しかし何というスピード感でしょう!そして時折聴かせるリズムのタメに入魂ぶりを見せ、良い味を出していますが、やはりこの頃はタイム感が全体的にかなりon topに位置していると感じました。使用する身体のパーツとして、管楽器奏者は運指の他に息を使うのでその分気持ちを入れやすい楽器です。ギターは運指のみになるので(ギター奏者に言わせると呼吸も大事な要素になるのでしょうが、楽器から音を発生させるという観点で)気持ちの入れ具合が1パート減る分難しくなると思うのですが、John Scoの入魂ぶりには凄まじいものがあります。聴くところによると人柄も大変フランクな方だそうで、芸術的表現の発露がたまたまギターなのであって、彼はどんな楽器を自分のボイスとしようと自己を確実に出せたのでは、と思います。
その後はバンプを用いてドラムソロ、そして締め括りを行うべくフロントふたりによる短いスパンでのバトルがあり、ラストテーマへ、最後まで大変密度の濃い構成のナンバーに仕上がりました。
John Scofield


3曲目は本作のハイライト、Hoagy Carmichael不朽の名曲Stardust(クリックして下さい)。当時Liebmanが取り上げた事がとても新鮮に感じたのは、どこかに時代がジャズを過去のものと決めつけた風潮があったからのように思えます。ここでは彼による斬新なアレンジが施されたフレッシュな、この曲をリニューアルするかのように演奏されており、しかしStardustの魅力は全く損なわれずむしろ曲の妙味を存分に炙り出す事に成功しています。各人のソロ、的確なバッキング、構成がバランス良く折り重なり、この曲の代表的な、そしてエバーグリーンの演奏と相成りました。
テンポはミディアムスローに設定され、ドラムはブラシではなくスティックを用い、フロントによる印象的で色気あるアンサンブルと良く絡み合い、ベースはホーン側のキックに寄り添い、途中からギターが怪しげでいてスパイシーなラインを奏でます。
メロディ先発は日野さん、この手の旋律は彼の十八番です!Liebmanがオブリを付けつつハーモニーにも回り、柔軟にアンサンブルを厚くしています。続いてテナーがメロディ担当、「毒を放つ色気」とでも表現しましょうか、このテイストが堪りません!日野さんがバックで同様に対応し、その後担当が入れ替わりながらメロディとアンサンブルが進行し、バンプを経て日野さんのソロがスタートします。ブリリアントな音色と豊富な付帯音、イマジネーション、スペースを生かしつつ音量のダイナミクス、音域の上下を駆使したブロウは実に説得力に満ちています!
バンプのアンサンブルを経てJohn Scoのソロ、この妖しい雰囲気は一体どこから湧き上がるのでしょう?曲想に対する猛烈なイメージとインプロビゼーションの発露とのせめぎ合い、時折聴くことの出来るコードプレイ、オクターブ奏法、テーマメロディを引用する際のレイドバック感、全て高次元で一体化し、「ダンサブル」な音符が合わさった結果リスナーを桃源郷に誘うが如しです!
そしてリーダーの登場です!John Scoとはアプローチの異なる変態ぶりを思いっきり聴かせていますが(爆)、音楽的に高度な次元でのプレイは言うまでもなく、フリークトーンを交えた効果音的奏法もここぞと言う場所に入り、ストーリー展開を巧みに行います。日野さんがこれまたハイノートでのトリル、McClureと Nussbaumも相応しい対応を熟知しているが如きプレイで場を盛り上げ、バンプではクインテットが一体化した壮絶な盛り上がりへ!ラストテーマは何事も無かったかのように日野さんがクールにテーマ奏を開始、Liebmanにスイッチしエンディングに向けバンプを何回かリピート、NussbaumもElvin Jonesライクにヘビーなリズムのフィルインを繰り出します。エンディング部も一層クールに音量を下げ、心地よさを伴ったリタルダンドを経てFineです。ライブでの演奏展開は時間の制約がないので、きっとここでの何倍も深い世界に到達していた事でしょう!聴いてみたかったです!
Hoagy Carmichael

4曲目ラストを飾るLiebmanのオリジナルCliff’s Vibes、こちらにも自身の解説があります。「was written for a child I met, who though he could’t talk due to an illness, still sent out very strong vibrations. This is one of the most bebop oriented tunes I’ve written. It’s all about chord and lines.」
その子供の名前がCliff君なのでしょうが、話をする事が出来ないにも関わらずLiebmanに強力なバイブレーションを与え、作曲行為にまで導いたのは驚きです。
これまでに書いて来た曲の中で、コード進行とメロディラインから最もビバップ志向ナンバーの1曲とありますが、ビバップというよりも特にメロディラインから個性的なモーダル・チューンとして聴こえます。これまた彼の使う用語〜ビバップの定義、もしくはイメージに隔たりを覚えますが、誰もが同じ感じ方をする必要はなく、むしろ異なっている事が大切なのかも知れません。
それにしてもオリジナル・チューンを作曲者本人の解説と共に鑑賞できるのは、音楽に一層の広がりを感じることが出来、ジャズ〜音楽ファンにはとっては大きな喜びです。
いや〜カッコいいナンバーですね!リズム隊の緻密かつ一体化したグルーブが素晴らしいです。ソロの先発はMcClureのアルコから、この時点でJohn Sco, Nussbaumのふたりは聴き応えのあるバッキングを繰り出しています。McClureはごく自然にwalkingに移行してギターソロ続きます。シングルノート・オンリーでのプレイなので、ホーンライク感が一層際立ちます。そしてトランペットソロへ、リズムに端正に乗りつつ、テクニカルに、決して自身のウタを忘れずメロディアスに熱くブロウします。ラストはLiebman、変幻自在なオリジナリティ溢れるアプローチがこの人の特徴ですが、案の定ここでも存分に発揮の巻です!途中ここぞと言うところでギター、ベースが演奏をストップし、テナーとドラムのデュオとなりますが、とんでもないテンションです!トランペットの合いの手も一役買っています!リズム隊戻りつつ、更なる高みを目指して盛り上がっています!その後ドラムソロ突入、ラストテーマを迎え大団円です!
David Liebman Quintet: Terumasa Hino, Adam Nussbaum, David Liebman, John Scofield, Ron McClure

2021.02.23 Tue

Devotion / Bob Moses

今回はBob Mosesの1979年8月録音のリーダー作「Devotion」を取り上げたいと思います。当時の彼のレギュラー・クインテットによる演奏、80年にレコードでリリースされ、96年CD化に際しオリジナルテイクに全く遜色のない未発表テイクを3曲追加収録し、Bob Moses Quintetの全貌を新たにした素晴らしい仕上がりの作品です。

Recorded on August, 1979 at Platinum Sound, Bed-Stuy, Brooklyn, N. Y.
Engineer: David Baker
Remixed on 1994, Boston, MA
Engineers: Max Rose, Ben Wittman and Bob Moses
Producers: Bob Moses and Ben Wittman
Executive Producer: Flavio Bonandrini
Label: Soul Note
Cover Painting: Bob Moses

cor, perc)Terumasa Hino   ts)David Liebman   p)Steve Kuhn   el-b)Steve Swallow   ds)Bob Moses

1)Autumn Liebs   2)Heaven   3)Radio   4)Snake and Pigmy Pie   5)St. Elmo   6)Portsmouth Figurations   7)Christmas ’78   8)Devotion

「Devotion」レコード時リリース「Family」のジャケット、そしてそこで用いられていたイラストの元となっている写真がこちらです。


左からTerumasa Hino, David Liebman, Steve Swallow, Steve Kuhn(背が高いです!), Bob Moses。ミュージシャンの親密さ、音楽的信頼関係が手に取るように伝わって来る写真、MosesはSwallowにぞっこんですね!さぞかし充実したバンド活動を展開していたことでしょう。トランペット、テナーサックスの2管編成によるクインテットはジャズ黄金のフォーマット、メロディをユニゾンで吹いて良し、ハーモニーに至っては互いにない音色成分を補って余りある豊かなアンサンブルを聴かせます。フロントふたりの他の追従を許さない充実ぶりと、コンビネーション抜群のリズム隊とのインタープレイがこのバンドの売りと言って良いでしょう。
日本が世界に誇るトランペッターTerumasa Hino(実際にはコルネットを吹いています)の独創的でイマジネイティブなスタイル、彼のソロにはストーリー性、メッセージが必ず込められ、ジャズ・トランペッターの宝庫米国内において全く遜色なく、寧ろ誰風でもないオリジナリティを存分に聴かせています。75年から音楽活動拠点を米国に移し、八面六臂の活躍を繰り広げます。当クインテットの他、David Liebman Quintetにも参加し79年米国録音「Doin’ It Again」(ここではStardustの名演奏が光ります)、80年7月14日オランダ録音「If They Only Knew」と立て続けに名盤に加わります。


テナーサックスのDavid LiebmanはElvin JonesやMiles Davisのバンドで培われた音楽経験を活かして、オリジナリティを確立させました。ごく端的に述べるならばElvinからはタイムの重要性(Elvinの伸び縮みするリズム、ゆったりとしていながらスピード感のあるグルーヴ、史上有数のたっぷりとした1拍の長さに柔軟に適応する)、Milesからはサウンドに対するラインの構築、展開(共演中Miles自身に如何に納得できるアドリブ・ラインやストーリーを確実に提供できるか)を仕込まれたように推測しています。John Coltraneを敬愛する彼、スタートラインにはテイストとしてのColtraneが存在しましたが、その後の精進、研究・研鑽、努力の賜物でしょう、全く独自のセンスでのテナー表現法を獲得し、誰にも真似の出来ない芳醇、枯れた味わいと付帯音豊富な音色、構造的で知的なインプロビゼーション、しかし時として一切の理性を排除したかの如き炸裂プレイも聴かせ、表現者としての森羅万象をアピールしています。
彼のユニークなオリジナル・ナンバーの収録や、アルバム・プロデュース力を活かしつつ色々なカラーを配した作品群の量産ぶりには目を見張るものがあり(数多くリーダー作をリリースしています)、やはり多くのミュージシャン作品へのサイドマン参加も強力な自己表現の発露を感じます。Terumasa Hinoの作品には79年「City Connection」80年「Daydream」と互いの返礼のように参加しています。

フュージョンブーム真っ只中の80年、ジャズファンにとって70年代から夏の風物詩になっていたLive Under the Sky ’80が、7月に田園コロシアムで5日間開催されました。この時の出演者中、目玉はやはり当時ブレークし彼の音楽生活の中で何度目かのピークを迎えていたTerumasa Hinoのグループ、メンバーはLiebman(ts,ss), Anthony Jackson(el-b), John Tropea(g), Gerry Brown(ds), Leon(key) & Janice(vo) Pendarvisらに日本人のホーンセクションが加わり、Still Be Bop, Late Summer, Antigua Boyなど新作Daydreamのナンバーを中心に演奏していましたが、その時のLiebmanの凄まじいまでの絶好調ぶりと言ったら!これは超弩級テナー奏者を乗せた黒船来航!浦賀の港から田園調布に直行です(笑)!
特にテナーサックスのあまりにもエグエグな音色とプレイに「なんて汚い音だろう!」と本気で感じました(汗)。雑味成分、付帯音の尋常ではない豊富さによるダークで枯れた複雑なサウンドは、当時の僕の耳では全く理解不能の音色でした。
この時使用していたテナーサックス本体はYAMAHAから借り受けたゴールド・ラッカー、ピカピカに輝いていたこの楽器からどうしてあんな凄まじい音が出るのだろう、ラッカーのハゲまくったビンテージ楽器から出るような音だと、遠くを見つめるように感じました。マウスピースはOtto Link Metal Florida Modelを9番か9★にリフェイスしたもの、リードはLa Voz Medium HardかHardをトクサで調整して使っていました。彼はここ何年もツアーにはソプラノサックスだけを持参し、テナーはマウスピース以外現地調達しています。80年当時から既にこのシステムを用いていた様ですね。自分の楽器ではないにも関わらず、これだけの音色で鳴らし、テクニカル的に見事にコントロール出来るのは奏法を極めている以外の何物でもありません!
彼曰く「ピアニストは世界中どんな場所に行ってどんな状態のピアノを弾いても、最上の音を出さないとならないだろ?サックス奏者も同じで、どんな楽器を吹いてもベストな音を出せるように自分の奏法を洗練させておかなければならないんだ。」相当偏った持論ですが、一理あると思います。youtubeで彼の演奏を観るとその都度様々なテナーを使ってライブを行っています。要は旅先で楽器をレンタルしているのですが、素晴らしい音色でプレイしている時もあれば、明らかにこの楽器は調整不足だろうと思われるクオリティの鳴り方の場合もあります。その時にはテナーを諦め、ソプラノ1本で最後まで通す様です。
Liebmanにたっぷりとソロスペースを与えていた日野さん、彼の演奏はもちろん人柄も愛してやまない気持ちが伝わってきました。以下のエピソードにも表れています。日野さんがステージで彼を紹介する際に「テナーサックスはDavid Baker!」彼流のジョークで、ふたりの演奏を度々録音していた彼らの親しい友人でもあるレコーディング・エンジニア(本作も担当しています)に引っ掛け、わざと名前を間違えていたのですが、いきなりの展開に全く意味の分からない聴衆のシラっとした感じや(汗)、Liebmanのはにかんだようなポーズを良く覚えています(笑)。
別日には今は亡きChick Corea率いるグループやJohn McLaughlin, Larry Coryell, Christian Escoudeのギター3人による演奏、Stanley Clarkeのバンドや出演者全員によるジャムセッション、現在進行形のジャズを学生の身でたっぷりと堪能出来ました。

リーダーBob Mosesのバイオグラフィーを紐解くことにしましょう。1948年1月28日New York City生まれ、64年から1年間Roland Kirkのバンドにビブラフォン奏者として参加します。アルバムとしては「I Talk with the Spirits」、おそらく彼の初レコーディングだと思われます。ジャズ界で最も個性派ミュージシャンのひとりと共演した事による影響は、10代の若者に計り知れないものがあったでしょう。以降の彼の音楽活動の方向性を間違いなく決定付けました。

66年Larry CoryellのバンドThe Free Spirits、67年から69年までGary Burton Quartet、その後もCarla Bley, Dave LiebmanのバンドOpen Sky, Pat Metheny, Michael Gibbs, Hal Galper Quintet, Gil Goldstein,  George Gruntz, Emily Remlerなどの硬派なリーダーのもと、豊かな音楽性を披露しています。彼自身のリーダー作も現在までに20枚近くリリースされ、オリジナルナンバーを中心に比較的大きな編成による演奏で、独自の音楽性を追求しています。
楽理派の彼は「Drum Wisdom」というドラムの教則本も出版しており、現在はFree Download状態で後続のミュージシャンに貢献しています。本作ジャケットのイラストと同様、こちらも本人の筆によるものです。
MosesのドラミングにはRoy Haynesのスタイルが基本にありますが、楽曲のカラーリング、共演者各々への方向性を違えたレスポンスの巧みさ、その瞬発力、オリジナリティを感じさせる自作曲の高度な音楽性、いちドラマーではなくトータルなミュージシャンとしての姿勢を作品を通して感じることが出来ます。またサイドマンとしてプレイした時の、リーダーの音楽への溶け込み方と自己主張のバランス感も絶妙です。

余談ですが本作が録音されたPlatinum Sound StudioはNew York, Brooklynの中心部Bed-Stuyに位置します。多くのジャズミュージシャンのレコーディングに愛用されました。地名はBedford-Stuyvesantの略称なのですが、黒人、ヒスパニック、アジア系が住民の9割近くを占める地域で、Spike Lee監督の89年映画「Do the Right Thing」の舞台になりました。こちらは黒人の人権運動をテーマに人種差別と対立、衝突をLee独特のユーモアのセンスを用いて表現した素晴らしい作品です。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目MosesのオリジナルAutumn Liebs、お察しの通りスタンダードナンバーAutumn Leaves〜枯葉のタイトルを捩ったもの、LiebとはLiebmanの愛称です。実際に枯葉のコード進行を用い、キーは全音下がったFマイナーでMoses独自の素晴らしいメロディラインにより、ジャジーでコンテンポラリーな名曲に仕上がりました。いわば替え歌状態、他のミュージシャンにも枯葉のチェンジを使って作曲されたナンバーがあり、思い付くものでテナー奏者Billy Harperの79年作品「Knowledge of Self」収録のナンバーInsight、コード進行を多少変えてありますが、ドラマー古澤良次郎氏の同じく79年録音アルバム「キジムナ」収録のエミ(あなたへ)。



なんとゴージャスなサウンドによるメロディ奏でしょうか!2管による抑揚の素晴らしいコンビネーション(テナーのサブトーンがたまりません!)、Kuhnのバッキングが密濃に絡み合い、Mosesのカラーリングの絶妙さはコンポーザー、リーダーならでは、音の選択にさすがのセンスを感じるSwallowのベース、全てが予めアレンジされたかの様な合わさり具合、難易度の高いパズル制作を完璧に行ったかの如きプレイですが、予定調和ではない間違いなく自然発生的に音が集約された演奏、瑞々しく全ての音がフレッシュでプリプリしているのです!
ソロの先発はLiebman、幾重にも異なる色合いのトーンが組み合わさったかのような深い音色からは、伝統的なテナー奏者のテイストも聴き取ることができますが、他には無いコクや雑味成分が加わり一聴Liebmanと判断できる個性を発揮しています。さすが知的作業に長けたユダヤ系プレーヤー、トーンを徹底的にクリエイトしています。ソロのアプローチ、いやー実に素晴らしい!申し分のないストーリーの構築感、音形選択の巧みさ、テンションの用い方のスリリングなこと!加えてタイム感のゴージャスさ!このプレイを受けて立つリズム隊、テーマ時に提示したアプローチを基本に、放置する部分はひたすらクールに伴奏し、テナーソロが1コーラス目第1楽章的な展開「序奏」、2コーラス目第2楽章の如き疾走感あるストーリー「飛翔」を語り、一度落ち着いて3コーラス目第3楽章に入り、まとめ上げるべくMoses, Swallowの猛攻があってソロを終えるに相応しく、何事もなかったようにゆったりと着地〜「大団円」となります。Liebmanの音楽史上有数のクオリティを持つ演奏だと思います。
続く日野さんのソロ、Mosesがグルーブに変化を持たせるべく4拍目にリムショットを入れ始めます。スペーシーに、大胆に抑揚を付けながらソロを展開し、グロートーン、突如として高音域でのトリル、リズム隊とのカンバセーションを試みるべく様々にアプローチし、確実性を持ってレスポンスするMoses、そしてKuhnのバッキングが切れ味鋭く入り込みます。こちらも見事なストーリーテラーぶりを発揮しました。
Kuhnのソロはフロントふたりとは異なったテイストを持たせるべくでしょうか、ラグタイム〜スイング的コーニーな雰囲気で開始されます。端正で明確なピアノタッチは背の高い、腕が長く、掌の大きなピアニストならではのもの、強力です!そして表現したい事項が猛烈に溢れ出ています!ドラムは1コーラス目ブラシに持ち替えましたが、その後の展開を予期し2コーラス目から再びスティックへ。やはり持ち替えて正解でした(笑)、Kuhn3連譜を多用し超絶を聴かせつつ、更に3コーラス目からは左右の手で全く異なるアプローチを展開、それに伴いMoses, Swallowのふたりは”やわくちゃ”状態になりそうでしたが(汗)しっかりと踏み留まり、キメのフレーズを伴ってラストテーマに突入です。
Bob Moses

2曲目はDuke Ellingtonの知られざる名曲Heaven、なんと美しく、気品、雰囲気のある曲でしょう!Heavenの言葉自体に色々な意味がありますが、Ellingtonはどの意味のイメージを表現したのでしょうか。それにしてもMosesの選曲センス、そして演奏の形態に敬服してしまいます!
16小節単位の構成、1コーラス目は2管はユニゾンで、2コーラス目はLiebmanがオブリガードに回り、3コーラス目からコルネットソロへ、その後ろでもテナーのオブリが続きます。Kuhn, Swallowのバッキングもキレキレです!その後は単独でのコルネットソロに続き、コーラス終わりのフレーズに再びテナーが参加、グッと引き締まりますね!
ピアノソロはレイドバック感、そして「大きく歌う」イメージが実に提示されています。倍テンポのスイングに変わりリズミックに、ゴージャスに、何よりメロディックにアドリブが展開され、ソロ中に再びホーンのオブリやメロディが効果的に入り、ムードを更に高めます。
ラストテーマに入ってピアノはバッキングに回りますが全くエネルギーを失わず、エキサイティングに継続します。1コーラス演奏されドラマチックにリタルダンドしてFineです。この演奏こそBob Moses Quintetの本領発揮と感じています。
Steve Kuhn

3曲目SwallowのナンバーRadio、こちらも素晴らしいナンバーです!レコード発売時にこの曲が未収録であったのが信じられません!早めのスイング・ナンバー、ポピュラーな32小節構成ですが、同じモチーフを繰り返す部分は存在せず、A-B-C-Dフォーム、しかもメロディラインが8小節単位を跨ぎ、複雑に成り立っています。自然に耳に入ってくるので一聴難解な作りとは感じさせません。
ベース、コルネット、ピアノ、テナーと全員コンパクトに淀みなくソロが続きますが、やはり難しい楽曲なのでしょう、手枷足枷感を感じさせる部分も若干あり、なかなか自在にならないもどかしさも演奏から聴き取ることが出来ます。しかしLiebmanはひとり異彩を放ち、スインギーにして正確な16分音符による超絶テクニカルフレーズの洪水、この人のまた違った側面を垣間見ることが出来ました。テナーソロ中のコルネットのバックリフが必然を感じさせる場面で登場、これはエキサイティングです!伴奏はリズム隊だけの特権ではないぞ、と言いながら吹いているように思えました。
Kuhnの常に場を活性化させるバッキング、Swallowの自然体でいてソロイストを鼓舞するラインの連続、そしてリーダーMosesの抜群のセンスによる伴奏なしにはこの演奏は絶対に成り立ちません!Lebmanのソロ後、実にナチュラルにラストテーマを迎えます。
Steve Swallow

4曲目Snake and Pigmy PieはMosesのオリジナル、この演奏も追加テイクになります。4分の5拍子と8分の7拍子が連続する複雑なリズムは延々と続くユニークなベースライン、印象的なピアノのコンピング、2管のスペーシーにして抑揚に満ちたメロディラインに裏付けされ、曲名通りの怪しげな世界を構築して行きます。Mosesの作曲センスは実に多面的です!長いテーマ後、ドラムだけを相手に2管が互いを良く聴き、一方が主体、従属を繰り返しながらソロを取ります。ライブではさぞかし物凄い展開を聴かせた事でしょう!このリズムの上でドラムソロも行われます。皮ものにエフェクターを施しているので変わった響きを聴くことが出来ます。途中パーカッションが鳴っていますがおそらくフロントふたりで楽しげに演奏しているのでしょう。ラストテーマはさらに色々な事象が繰り広げられていますが、意外にあっさりとFineを迎えました。

5曲目St. ElmoもMosesのナンバーにして追加テイク、美しいバラードです。ミュートを施したコルネット、テナーの実に息のあったユニゾンによるメロディは、リタルダンド、アテンポを繰り返しソロ中には長いフェルマータも用いられ展開して行きます。日野さんはミュートによるバラード奏が昔から大変素晴らしいですが、ここでも本領を発揮しています。フェルマータ後今度はピアノソロ、ウネウネしつつリズムにしっかりと纏わりつくタイム感でラインを提示し、再びフェルマータ、コレクティブ・インプロビゼーション後にラストテーマへ、レギュラーバンドならではの演奏方法によるバラード、作者Mosesのやり方も、コンセプトもあったでしょうが、メンバーで様々にアイデアを出し合った結果の演奏のように感じました。
Terumasa Hino

6曲目Swallow作のPortsmouth Figurationsは本作最速のナンバー、いや〜これはまたまたムチャクチャカッコ良いナンバー、演奏です!ベースとドラムのコンビネーションは全く信じられない相性の良さです!写真にあるSwallowの肩にもたれ掛かるMosesの気持ちが痛いほどに分かる抜群の音楽、リズム的相性の素晴らしさから、さぞかしMosesは何度も「My Soul Bother, Steve !」と叫んでいた事でしょう!
タイムの構図としてはMosesのシンバル・レガートが少し前に位置するon top、Swallowが少しだけ後ろに位置します。コルネットが先発ソロ、こちらも超アップテンポにも関わらず素晴らしいタイム感とグルーブ、そしてバーニング!少し間を置きLiebmanのソロがスタートします。3曲目Radioで聴かれた16分音符の延長線上、正確でスインギーな8分音符による圧倒的な音空間、怒涛のソロです !コルネットの合いの手も効果的に入りドラムソロへ続きます。フレージングのテイストとしてはオーソドックスですが、彼ならではのタイムの取り方、リズムフィギュアを聴かせ次第に独自の個性を発揮して行きます。「ヨッ!」と言う合図とともにラストテーマに入り難曲を完璧なまでに仕上げました!
David Liebman

7曲目Christmas ’78はMosesのナンバー、メロディアスで美しいコード進行を有し、哀愁を帯びた曲想を持つ名曲です。Bob Moses Quintetのファンであれば、ライブでこの曲の演奏を聴かずに帰りたくないでしょうね、きっと(笑)。ソロの先発は日野さん、なんとイマジネイティブな語り口でしょう!リズム隊もこれだけスペーシーに、ダイナミクスでメリハリを持たせたソロであれば、伴奏が楽しくて仕方ないでしょう!音と音の間に何もしない、敢えて合いの手を入れないで放置する楽しさ、喜びを日野さんはリズムセクションに提供していると思います。続くKuhnのメロディ、唄を大切にしたソロは異なったテイストを放ち、当然のようにリズム隊は違ったアプローチを聴かせます。Liebmanはこれまた本作中いずれとも異なる歌い回しを提示し、彼の中で鳴っているユニークな旋律の一端を初披露したかの如しです。言ってみればユダヤ的なラインでしょうか、例えばクレズマー、明るさも感じさせますが決して晴れない曇り空を抱えていると表現すべきか、育った環境、音楽的経験、自身の内面を全てストレートに表現しているのですが何処か屈曲したものを僕は感じます。でも決して悪い意味でははく、一筋縄では行かない彼の音楽表現の個性の表出と捉えています。この曲もテナーソロから見事にラストテーマに繋がり、Fineです。

8曲目ラストを飾るのは表題曲Devotion、コルネットが一頻り内省的な表現によるアカペラを聴かせます。ラインの基本としてはマイナーのクリシェを感じさせ、付帯音の豊富さが音色に深みを加えています。その後ベースが同様にクリシェのライン演奏を開始、ドラムが加わりますが実にゆったりと、時間をかけてメロディまで到達します。2管によるユニゾンは実に深さとダークさ、そして誰かに対する哀悼の意を感じさせます。バラードから次第にリズムが明確になり、Mosesがリードしダイナミクスを表現しています。Mosesもユダヤ系アメリカ人、この曲は曲想から彼らが背負っている歴史的事象に対するレクイエムではないかと感じました。

2021.02.11 Thu

Home / Steve Swallow

今回はSteve Swallowの79年録音リーダー作「Home」を取り上げてみましょう。全曲Swallowのオリジナルに作家であり詩人であるRobert Creeleyの詩をSheila Jordanが歌唱、朗読し、David Liebman, Steve Kuhn, Bob Moses, Lyle Maysら当時の先鋭的な共演者が素晴らしい演奏を繰り広げ、通常の歌伴とは手法が異なる、ユニークな作品に仕上がっています。

Recorded: September 1979 at Columbia Recording Studios, New York City
Recording Engineer: David Baker
Cover Photo: Joel Meyerowitz
Design: Barbara Wojirsch
Producer: Manfred Eicher
Label: ECM (ECM1159)

electric bass)Steve Swallow   voice)Sheila Jordan   p)Steve Kuhn   ts,ss)David Liebman   synth)Lyle Mays   ds)Bob Moses

1)Some Echoes   2)She Was Young…*   3)Nowhere One…*   4)Colors   5)Home   6)In the Fall   7)You Didn’t Think…*   8)Ice Cream   9)Echo   10)Midnight
*(From “The Finger”)

実にセンス溢れる素晴らしいアルバム・ジャケットです。ECMレーベルは常々欧州的なテイストを基本とし、作品内容のイメージと合致する印象派的ジャケットを提供し続けています。物凄いこだわりです。米国を代表するジャズレーベルBlue Noteも同様にアートを感じさせるアルバム・ジャケットを50~60年代制作していました。いずれもAlfred Lion, Francis Wolf, Reid Milesたち制作スタッフの情熱が痛いほどに伝わります。他の主要ジャズレーベルであるRiverside, Contemporary, Verve, Impulse, Prestige, CTIにもある程度に同様の事が言えますが、ECMレーベル・プロデューサーManfred Eicherの意地にはまた格別のものを感じさせます。ECM新作がリリースされる度に次は一体どの様なジャケットを見せてくれるのだろうかと、現在でもわくわくしている自分がいます。
ただ本作においては独特のダークさ、エグさを基本とした内省的サウンド、明るいか暗いかといえば暗さの方に軍配が上がる、実はジャケットから感じさせる清潔感、クールさ、ある種の幸福感とは真逆の内容に仕上がっているように感じるのです。例えばクラシックを基本とした爽やかな、心地良いサウンドにジャズのテイストを散りばめたオシャレな環境音楽的なサウンド。ジャケットから判断すれば、こちらが作品の売り文句であっても全く違和感は無いでしょう。どこまで作為的に内容と包装の対極感を打ち出しているのかは分かりませんが、本作ほど際立ったギャップを感じさせるアルバムはそうはないと思います。Steven Kingのホラー映画の導入部とその後の展開にも通じると言っても良いでしょう。もっともHomeとは個単位の集合体、様々な価値観を持った家族構成員の日々の生活、営みには色々な側面があります。ジャケ写のパースペクティブはその現れの様な気もします。

本作録音のメンバー、彼らとSwallowの周辺の作品について触れてみましょう。まずボーカリストSheila Jordanとは彼女の62年初リーダー作「Portrait of Sheila」からの付き合い、音楽的なパートナーとして相性の良さを感じます。サイドマンとしてもいくつかの作品で共演しています。


Steve Kuhnとは生涯の共演仲間、盟友としてKuhnのリーダー作ほか実に多くのアルバムで共演しています。最初期66年作品「Three Waves」はPete La Rocaとのトリオ盤、若者たちによる初々しい演奏です。

David Liebman, Steve Kuhn, Bob Mosesとはほとんど同時期79年8月Brooklyn, N.Y.C.録音Mosesのリーダー作「Family」があります。コルネットにTerumasa Hinoを迎えたクインテット編成、実に素晴らしい演奏です!各々のメンバーが対等に語り合い、互いの音楽性を尊重しつつ大いに刺激を受け合い、丁々発止のやり取りを聴かせています。Moses, Swallow自作曲のクオリティの高さほか、Ellingtonのバラードのチョイスも良いですね。ドラマーがリーダーということでまとめ役、ご意見番としてサウンドを的確にプロデュースしており、結果バンドとしての音楽が確立された申し分ないアコースティック・ジャズの名盤です。タイトルやジャケット・デザインからもメンバー同士の結束、繋がりの強さを感じます。日野さんからこのバンドでの思い出話を聞いた事がありますが、ひとつご紹介すると車1台にメンバー5人乗車し米国内をツアーしていたらしく、車内に常に充満する煙(おそらくタバコだと思いますが…)が何しろ物凄く、辟易したという事でした。

この作品の未発表テイクを収録した事により、内容的にさらにヴァージョンアップしたのが96年リリース「Devotion」です。CDという録音媒体の、レコードよりも長い収録時間の恩恵を感じました(笑)。このバンドの全貌を垣間見る事のできる、ドキュメント性を湛えた作品にまで昇華しています。未発表演奏のいずれもが本テイクと全く遜色のないクオリティで、サウンドやリズム、テンポ、色合いが悉く異なる楽曲が配され、作品としてのバランス感が飛躍的に向上しました。さぞかしレコード・リリース時には、選曲に際しての取捨選択に苦労したことと想像できますし、追加テイクが残り物、オマケという概念を見事に打ち破ってくれた1枚です。
ちなみにここでのLiebmanの演奏は絶好調に次ぐ絶好調(テナーだけに専念しています)、信じられない次元での入魂ぶりを発揮しています。

Robert Creeleyとは本作が初コラボレーションになる模様ですが、2001年8月録音作「So There / Steve Swallow with Robert Creeley」で再コラボ、Steve Kuhnとストリングス・カルテットに今回はCreeley自身のトークや詩の朗読を交えた、崇高な美の世界を構築しています。

LiebmanはかつてECMから2枚リーダー作をリリースしており、73年録音「Look Out Farm」74年録音「Drum Ode」、ECMではそれ以来のレコーディングになります。2作とも70年代のジャズシーン+ECMサウンド+Liebmanの独自の音楽性がブレンドした作品で、学生の時に愛聴しました。その後もECMからリーダー作をリリースし続けて然るべきでしたが、Eicher, Liebmanともかなり個性が強い者同士、確執があったために疎遠になったという話を聞いたことがあります。本作の仄暗さはLiebmanのプレイが発するムードがかなりの要因であると思うのですが、スタジオ内でふたりの静かな相克があったようにも感じられ、これがバイアスとなり結果Liebmanの演奏にいつもとは異なる、(言ってみればより辛辣な)エグさが加わったと推測しているのですが。もしくは80年頃からソプラノサックス1本に自分のボイスを絞る事になり、テナーサックスを休止する直前、体力的にテナーを自在に吹くことが辛かった故なのかも知れません。

それでは内容について触れて行きましょう。1曲目Some EchoesはKuhnのピアノプレイによるオスティナートとLyle Maysのシンセサイザー、Swallowのベースの上でLiebmanがソプラノでソロを取ります。大海原を泳ぐイルカの如く水中深く潜ったり、海上に現れては跳ね回ったり、様々な動きを見せ、ひと段落したところでSheilaが登場します。スタンダードナンバーを歌唱するときとは当然ですが異なった表現を聴かせ、感情移入と抑揚が深いビブラートと相俟って強いメッセージを打ち出しています。それにしてもシンセサイザーが余りにも支配的、もう少し音量、音像が小さくても良かった気がします。

2曲目She Was Young…の歌詞はCreeleyの詩集「The Finger」からのセレクションです。ワルツナンバー、いきなりベースによる美しい音色でメロディが提示されますが、実に個性的です。ピアノのバッキング、ドラムのサポート、そしてシンセサイザーがSE風に演奏されますが、ここでは隠し味的な音量で寧ろ耳には心地良いです。その後Sheilaが短いセンテンスによる詩を朗読するが如く歌い、ピアノのソロに続きます。いや、Kuhnのタイムの取り方は実に好みです!彼の初期のプレイではタイムがラッシュする傾向にあり、演奏自体もいささかヒステリックなところが目立ちましたが、演奏経験を積み次第に成熟〜円熟の境地を迎えました。ピアノのタッチも素晴らしいですね!何年か前にマイブームで彼の演奏を徹底的に追ったことがありますが、スタイル確立後は一貫した透徹な美学が冴える、本物のプレイを聴かせています。
Mosesのプレイもジャズドラマーとして表現すべきポイント、個性を確実に発揮しています。グルーヴ、フレージング、タイム、ドラミングの音色にはRoy Haynesからの影響を顕著に感じますが、自身の個性的表現を十分に行っているので、語法としてのHaynesライクと受容することができます。

3曲目Nowhere One…も歌詞はThe Fingerから、冒頭ファルセットの如き高音域からボーカルがスタート、緊張感を伴い歌唱しますが音域が下降するにつれて音楽的な安堵感が訪れます。その後Liebmanのテナーソロ、ミディアム・スイングのリズムに大きく乗り、朗々と吹いており、音色の枯れた味わいと付帯音の豊かさからテナー奏者としてトップクラスのクオリティです。ですがここでのメッセージとしては「こうあらねばならぬ」という思いが強く聴こえ、聴き手に強いるものを感じさせます。前述の「確執」が作用しているかも知れません。続くピアノソロのレイドバック感と1拍がメチャクチャ長いプレイ、ウタを感じさせるストーリー性とは良い対比となっています。リズムセクションの好演、特にMosesのサポートの素晴らしさが光ります。

4曲目ColorsはいきなりLiebmanのソプラノソロが炸裂します。独自のスタイル、誰にも真似の出来ない個性的な音色、発情期の猫の唸り声の如きニュアンス(笑)、フレージングもトーナリティの領域を超えたところでの自在なアプローチ、バッキングのリズム隊もさすがレギュラー活動の成せる技、巧みにして緻密、Liebmanの手の内を読みつつ、音楽を何処にどう持って行けば良いのかを熟知した流れに徹していて、彼自身も逆にインプロビゼーションの展開を容易く読ませない音楽的裏切りを忍ばせています。Sheilaの短い詩の朗読後はKuhnのソロ、こちらもMosesのレスポンスが実にスリリング、Kuhnのプレイと付かず離れずを繰り返し大胆に盛り上がり、コード・クラスターを用いた粘着気質的な展開にまで及びますが、Swallowの地を這うような安定したサポートがあってこそです。

5曲目表題曲HomeはSheilaとKuhnふたりによるルパートから始まります。実に美しい歌唱、そして必要最小限にして全てが有効な音使いによる的確な伴奏、その後はスロー・スイングでLiebmanのテナーソロへ。それにしてもこの吹き方のニュアンスとイメージは一体何でしょう?まるで漆黒の暗闇の中で思いっきり大声で不平不満を述べ、そのパワーで音空間をねじ曲げているかのようなアプローチです(爆)!テナーの音程感にも独特のものを感じます。精神状態が良く無い時に聴くことは決してオススメしません(汗)。一体どんな”Home”なのでしょう?ひょっとしたら事故物件の類いかも知れません(涙)

6曲目In the Fall、今度はピアノとベースによるパターンの上でのMosesのドラムソロから開始します。皮ものを中心としたドラミングはそのフレージングからHaynesの他、Tony Williamsのテイストも感じさせます。収束したところにLiebmanのテナーによるメロディ奏、ソロにそのまま突入しまるで咆哮状態、2000年の歴史〜ユダヤ人の情念を一人で全て背負ったかのようなエグさを感じさせます。Sheilaの歌が入り、暗がりにやっと一筋の光明が差し込んだかの様です。シンセサイザーとテナーのユニゾンのメロディも演奏され、次第にボーカルとも合わさりFineへと向かいます。演奏で聴く者をここまでの気持ちにさせることの出来るパワーに、良くも悪くも圧倒されます。

7曲目は再びThe FingerからYou Didn’t Think…、ボーカルからスタートし、テナーが裏メロディのようなオブリガードを入れつつ、ソロに移行します。ここでの表現にも凄まじいものがあり、一体どんな精神状態でアプローチしているのか、常人には理解し難い次元です。テナー・マエストロとして高度なテクニック、サウンド・メイキング、余人の追従を許さない深い表現を行っていますが、曲想とも離れ気味のテイストを受け入れるのはいささかハードです(彼の中ではインサイドなのでしょうが…)。それともテナーサックスを封印してソプラノに賭けるとの決意のもと、とことん自己表現をやっておこうと言う事 だったのかも知れませんね。ユダヤ系Coltraneスタイル・テナー奏者の両巨頭、Michael Brecker, Steve Grossmanのふたりとは何度も会って色々な話をしましたが、もうひとりの巨頭Liebmanとは未だ会ったことはありません。会う機会があれば尋ねたいことは山ほどありますが、この作品のアプローチについては是非質問してみたいと思っています。

8曲目Ice CreamはMaysのシンセサイザーを携えてSwallowのメロディ奏からスタートします。7thコードの4度進行が印象的ですが、実はSwallowのコンポジションには多く用いられています。軽快なスイングのリズムのもと、Sheilaのボーカルも冴えています。Kuhnがソロを取りますが、ピアノ・トリオのコンビネーションが素晴らしいです!エレクトリック・ベースによる早めのスイングではボトム感が希薄になりがちですが、ここではその分をMosesのバスドラムがしっかりと補い、バランスを取っています。この曲の演奏が本作中最もスイング感に満ちています。

9曲目Echoは再びLiebmanの登場です。ひとしきりOne & Only、彼の世界をリズム隊を巻き込んで提示し、Sheilaのボーカルに繋げます。その後のピアノソロもウネウネ、ウニウニとKuhn節を披露、つくづく濃い芸風の人たちです(汗)。それにしてもプレイヤー互いに気心が知れていると言うのは素晴らしいですね!彼らが演奏を楽しんでいるのがストレートに伝わってきます。

10曲目ラストを飾るのはMidnight、SE風にMaysのシンセサイザー、Kuhnの弾くピアノの高音部が深夜の静寂を予感させます。不安感がよぎるコード・ワークの後Sheilaの朗読が開始されますが、メロディに施された複雑なコードが、夜のしじまから押し寄せる不安感をイメージさせます。短くエピローグ的に演奏されFineとなります。

2021.02.01 Mon

Portrait of Sheila / Sheila Jordan

今回はボーカリストSheila Jordanの62年録音、初リーダー作「Portrait of Sheila」を取り上げましょう。彼女は現在92歳(!)、音楽活動は特に行ってはいない模様ですが、ビバップ勃興の頃よりCharlieParkerを始めとするジャズジャイアンツと親交を持った、貴重なジャズシーンの生き証人です。そのParkerをして彼女は100万ドルの耳を持つシンガーと紹介されたそうですが、大変に名誉な事です。本作はインストルメンタル・ジャズ名門Blue Note Recordsからのリリース、Label中数少ない女性ボーカリスト作品の1枚です。編成もギタートリオにボーカルと言うシンプルさ、後年エレクトリック・ベースの第一人者となるSteve Swallowがここではアップライト・ベースで参加しています。

Recorded: September 19 and October 12, 1962 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey
Label: Blue Note  Produced by Alfred Lion

vo)Sheila Jordan   g)Barry Galbraith     b)Steve Swallow   ds)Denzil Best

1)Falling in Love with Love   2)If You Could See Me Now   3)Am I Blue   4)Dat Dere   5)When the World Was Young   6)Let’s Face the Music and Dance   7)Laugh, Clown, Laugh
8)Who Can I Turn to Now   9)Baltimore Oriole   10)I’m a Fool to Want You   11)Hum Drum Blues   12)Willow Weep for Me


Sheila Jordanは1928年11月18日Michigan州Detroit生まれ、15歳の頃から地元のナイトクラブで歌手、ピアニストとして活動していました。彼女はCharlie Parkerのオリジナルに歌詞を付けて歌うコーラスグループのメンバーでしたが、Parkerが当地を訪れた際にメンバー一同で訪ね、彼にその場で歌って欲しいと頼まれた経験をしています。51年にNew Yorkに移り、Lennie TristanoやCharles Mingusにハーモニーと音楽理論を学び、かねてからParkerの音楽に心酔し師と仰いでいた彼女は、熱心にプレイを研究したそうです。さぞかし頻繁にライブに足を運んだ事でしょう、彼が亡くなる55年まで友人としての関係が続き、兄のように慕っていたとも言われています。52年にはParkerバンドのピアニスト、Duke Jordanと結婚、娘Tracyが生まれます。ですが幸せな日々はそうは長く続かず、Dukeの薬物使用量が増えた事により62年破局を迎えました。晩年のParkerの薬物使用もかなりの頻度だったに違いないのですが、兄と亭主では自ずと処遇も変わると言うものです(笑)

とあるインタビューでNew Yorkに移り住んだのは何故ですかという質問に対し、彼女は「私がBirdを追いかけたからよ=Chasin’ the Bird」と答えました。ParkerのオリジナルChasin’ the Birdは貴女のために書かれたのではないかと言われていますが、と尋ねられると「私は知らないの。どうしてそんな噂話が一人歩きしたのかしら」とも答えていますが、それは十分に考えられる話です。
彼女はNew York移住後、昼は秘書やタイピストとして働き、夜はGreenwich VillageのジャズクラブThe Page Three Club等でピアニストHerbie Nichols、以降も長きに渡り共演関係を保つSteve Kuhn達と演奏活動を行いました。夜クラブで歌う事が出来ない場合は昼間教会で歌う事を代用としながら、娘を育てるために20年間ほぼOLに専念し、演奏だけに専念できるようになったのは50歳を過ぎてから、80年代以降の話です。実際それ以前から断続的ではありますが音楽活動を続けていて、本作初リーダー以降第2作目「Confirmation」は13年後の75年リリース、そのときTracyも22歳、おそらく社会人として世に出たのでSheilaにも余裕が生じたのでしょう。

初期の彼女の演奏で特筆すべきものの一つとして、独自の音楽理論を展開するピアニスト、アレンジャーGeorge Russellのアルバムへの参加が挙げられます。62年8月録音「The Outer View」収録のYou Are My Sunshine、3管編成を生かしたアレンジの曲中、全くのアカペラで囁くように始まり、バンドが加わり次第にシャウトするが如く朗々と独白する様には、既に豊かな音楽性を感じさせます。ここでもSteve Swallowのコントラバスの活躍が印象的です。

参加メンバーにも簡単に触れてみましょう。ギタリストBarry Galbraithは19年12月生まれ、Stan KentonやClaude Thorhillビッグバンドでのツアーほか、Miles Davis, Michel Legrand, Gil Evans, Coleman Hawkins, Stan Getzらとも演奏、録音し、スタジオミュージシャンとして膨大な数のレコーディングを残しています。New York市立大学、New England音楽院でも教鞭を執った楽理派でもあります。手堅く端正なプレイとコードワーク、出しゃばらず控え目でいて、ツボを押さえた伴奏はリーダーの音楽性を確実にプッシュする事から、引く手数多だったのでしょう。

ベーシストSteve Swallowは40年10月生まれ、幼少期にピアノやトランペットを学び、14歳でベースを始めます。New Yorkに移り住みArt Farmerのバンドに参加、この頃から作曲を積極的に始めます。以降数多くのオリジナリティ溢れる名曲をジャズシーンに送り込み、その名を不動のものにします。60年代からJimmy Giuffre, George Russell, Stan Getz, Gary Burton, Paul Bley, Steve Kuhn, Michael Mantler達と演奏し、70年代から盟友Roy Haynesに励まされつつ5弦エレクトリック・ベースに持ち替え、Carla Bley, John Scofield, Paul Motian, Joe Lovano達と八面六臂の活躍を遂げます。

ドラマーDenzil Bestは17年4月New York生まれ、Ben Webster, Coleman Hawkins, Illinois Jacquet, Lennie Tristano, Erroll Garner, Phineas Newborn, Miles Davisたちジャズジャイアントと共演しました。また彼にも作曲の才能があり、Move, WeeやThelonious Monkの名盤「Brilliant Corners」収録Bemsha Swing, Herbie NicholsとMary Lou Williamsが取り上げた45 Degree Angle、いずれもビバップ〜ハードバップの名曲です。同じドラマーであるElvin JonesやJake Hannaが彼の演奏に称賛の意を表していますが、特にブラシワークが素晴らしく、本作でも全編ブラシを用いて巧みに伴奏しています。



それでは収録曲に触れて行くことにしましょう。1曲目Falling in Love with Love、ベースのwalkingから軽快なテンポでイントロがスタートします。ハスキーな成分が程よく混じる声質のSheila、ドラムを伴って歌い始め、1コーラスギターレスで、2コーラス目キーが半音上がってギターの伴奏も加わり、続いてメロディ・フェイクを用いてもう1 コーラス歌います。彼女は決してテクニシャンではありませんが、歌詞の内容を噛み締めるように、情感を込めつつ明るい透明感ある声質でリズミックに歌唱するプレイには溌剌さを感じます。Parkerの音楽に啓発されての歌唱ですが、超絶技巧にして常に創造性を全面に押し出す彼のプレイとは異なる、外連味なく、自分のテリトリーを大切にしての演奏と感じ取ることが出来ました。

2曲目If You Could See Me NowはピアニストTadd Dameronのペンによる名曲、元は同じボーカリストSarah Vaughanのために書かれたナンバーで、歌詞はCarl Sigmanによります。イントロ無しでボーカルのアカペラから始まり、半音進行のアレンジが施され意外性を感じさせます。バラードなので声量を控えているのでしょう、そのためハスキーさが際立ち、テンポのある前曲よりも気持ちの入り込みを感じ、説得力が増しています。Swallowの巧みなベースワーク、Bestの堅実なブラシ、Galbraithのさりげなさを伴った確実なバッキングで1コーラス丸々を歌い切ります。

3曲目Am I BlueはBillie HolidayRay Charlesの歌唱も存在する映画音楽に使われたナンバーです。ギターとデュエットでしっとりとバースが歌われ、その後本編へ。ベースとデュエットやルパート部も設けられた、メリハリが利いた構成での演奏、深いビブラートも印象的です。

4曲目Dat DereはBobby Timmons作曲、Oscar Brown Jr.作詞によるナンバー、Swallowと全編デュエットで演奏されます。以前当Blogで取り上げたRickie Lee Jonesの作品「Pop Pop」でも取り上げられていますが、そちらも個性的で素晴らしい歌唱、いずれにせよシンガーにとってはチャレンジャブルなナンバーのようです。

この当時ボーカリストがベースとデュオで1曲丸々を歌うという形態はなかったと思います。しかも早口言葉のような歌詞と旋律を持つ難曲をチョイスしてとなると、従来のシンガーとは一線を画する、インストルメンタル奏者の領域に足を踏み入れています。これはParkerからの影響の具現化の一つと言えるでしょう。テーマを歌った後はスキャットを歌唱、その後はごく自然にラストテーマに移行します。当初に比べるとテンポが随分と速くなっていますが、初めからアッチェルランドを想定していたようにも思います。

5曲目When the World Was Young、Galbraithはアコースティック・ギターに持ち替えイントロを奏でボーカルとバースを演奏します。曲の正式なタイトルはAh, the Apple Tree When the World Was Young、59年にEdith Piafが歌ったことで世に広まりました。本作録音62年頃ボーカリストの間で流行っていたのか、Eartha Kitt, Julie London, Frank Sinatra, Marlene Dietrich, Nat King Cole, Morgana Kingたち第一線の歌手達も録音しています。トリオの伴奏、特にGalbraithの爪弾きが良い味を出していて、彼女も思い入れたっぷりに気持ち良さそうに歌唱しています。

6曲目Let’s Face the Music and Danceは本作中最速のテンポ設定、Swallowが「勘弁してよ、こんなに速く弾けないよ!」とブツブツ言いながら演奏開始したのではないでしょうか? (笑)、彼が演奏放棄する直前(爆)、1コーラスで潔く終わり、テンポは若干遅くなりましたが印象に残るテイクに仕上がりました。

7曲目Laugh, Clown, Laughは28年米国の無声映画で使われたナンバー、ギターとボーカルでバースをスペースたっぷりに演奏し、テーマが始まります。彼女の声質に合った曲想を軽快に歌っています。59年にAbbey Lincolnが自身の作品「Abbey Is Blue」で取り上げ、こちらも素晴らしい歌唱を聴かせています

8曲目Who Can I Turn to Now、こちらもバースを朗々とギターふたりで演奏していますが、その後もデュオで最後までプレイしています。ここでのGalbraithのコードワークが実に巧みに行われています。さぞかし気持ち良く歌う事が出来たのではないでしょうか。

9曲目Baltimore OrioleはかのHoagy Carmichael42年作曲のナンバー、ここではギターの伴奏を無くしベースとドラムを相手にブルージーに歌っていて、SwallowのベースワークがSheilaを的確にサポート、そして曲想を支配しています。

10曲目I’m a Fool to Want You、マイナー調のどちらかと言えば「お先真っ暗」的な雰囲気のナンバーですが(笑)、彼女の持ち前の明るさからか、どっぷりと沈み込む事なくジャジーに聴かせています。この曲の新しい解釈と言っても良いでしょう。

11曲目Hum Drum Bluesは前述Dat Dereの作詞でお馴染のOscar Brown Jr.のペンになる曲、こちらもギターレスでSwallowのベースがコード感、サウンドを提供し当時に於ける新感覚のプレイを披露しています。

12曲目、アルバムの最後を飾るWillow Weep for Me、Swallowのベースと二人でテーマが始まります。程なくギターとドラムも参加、通常は3連のリズムで演奏されるのですがバラードで、曲の持つ雰囲気に流されずドライなテイストのプレイを聴かせます。

2021.01.19 Tue

The Jerome Kern Songbook / Gustav Lundgren

今回はSweden出身ギタリストGustav Lundgrenの2018年録音作品「The Jerome Kern Songbook」を取り上げてみましょう。
米欧混合の若手俊英を擁したギタートリオにテナーサックスの逸材Chris Cheekを迎えたカルテット編成、Jerome Kernの名曲を外連味なくストレートに演奏しています。
今どき珍しいくらいと言う表現が相応しいでしょう、無駄な音を一切排除した如きシンプルさ、脱力感と自然体で臨んだプレイは好感度抜群です。
しかし単なる懐古趣味でのスタンダードナンバー演奏に終わらず、現代的なセンス、フレーバーも随所に感じさせます。
昨今のスタンダード・ナンバーに難易度の高い代理や変則的コード、構成の複雑さ、変拍子の多用が見られるのは、ジャズが若手ミュージシャンにとって学問として、
また探究する対象であリ、John Coltraneの昔から行われていましたが、本作の内容は逆に行き着くところまで辿り着いた結果の一つと言えるかもしれません。
アルバム収録時間もLPレコードを模したかのように42分強、この位の程よさもアリですね。

Recorded at Medusa Estudio (Barcelona) on 5th and 6th of September 2018 by Juanjo Alba
Mixed by Gustav Lundgren at Farmer Street Studio (Stockholm)
Mastered by Alar Suurna at Shortlist Studios (Stockholm)   Produced by Gustav Lundgren   Executive Producer: Jordi Pujol
Label: Fresh Sound Records

ss,ts)Chris Cheek   g)Gustav Lundgren   ds,vib)Jorge Rossy   b)Tom Warburton

1)Why Do I Love You?   2)The Way You Look Tonight   3)Smoke Gets in Your Eyes   4)All the Things You Are   5)Nobody Else But Me   6)Can’t Help Lovin’ Dat Man   7)I’ve Told Ev’ry Little Star
8)Ol’ Man River

本作ディストリビュートのSpain BarcelonaにあるFresh Sound Recordsは、若手ミュージシャンを対象にしたNew Talent Recordsと言うレーベルを起こし、実に積極的に無名新人のアルバム制作を行なっています。今までに615枚(!)ものリリース、欧米ほか日本人の作品も含まれています。他にも1962年以前の米国メジャー、マイナー・レーベルから発売されたモダンジャズ名盤を高音質、デジパック、時にボックスセットにての再発作業も行い、ある種隠れた名盤発掘作業と言え、レーベルオーナーJordi Pujolのジャズに対する愛情、情熱を痛感します。

さて「Plays the Jerome Kern Songbook」と題されたアルバムは昔から他にも存在しますが、個人的には2枚思い浮びます。
1枚目はOscar Petersonの59年録音、Ray Brown, Ed Thigpen黄金のレギュラートリオでの演奏です。どこを切っても金太郎飴状態のPeterson Trioですが(笑)、Kernの華やかで気品があり、
他にはないイメージの楽曲とオリジナリティ溢れるコード進行がある種の縛りとなり、いつもの彼らとはやや違ったテイストを聴かせています。


もう1枚はElla Fitzgeraldの63年録音作品、Nelson Riddle Orchestraとの共演になります。このアルバムはよく聴きました!ポップで小粋、そして何しろチャーミングな歌いっぷり、
Kernの音楽性を踏まえてビッグバンドをバックにゴージャスに聴かせます。Ellaの歌唱には大編成がよく映えます。


EllaのSongbookには他にも57年録音Duke Ellingtonの作品が素晴らしい出来栄えです。彼女は歌の大変上手いシンガー、何を歌わせても極上の歌唱を披露してくれますが、
尊敬するEllingtonとの共演でまた違った側面を見せてくれました。オーケストラ、トリオとの両編成が聴けるのも嬉しいです。

本作のリーダー、Gustav Lundgrenのプロフィールをご紹介しましょう。
80年Sweden Stockholm生まれ、12歳でギターを弾き始め、地元のナイトクラブで16歳から演奏活動を開始、様々なバンドを経て世界各国で演奏旅行を行い、
Swedenを代表するギタリストにまで成長しました。70枚以上のレコーディングに参加し、自己のリーダー作も25作以上リリースしています。
Kenny Burrell, Joe Pass, Wes Montgomery, Jim Hallを感じさせるスタイルは確固たる音楽性に裏付けされ、聴く者を魅了します。

それでは収録曲について触れて行きましょう。
1曲目Why Do I Love You?はブラシによる短い、しかし印象的なドラムのイントロから始まり、ボサノバのリズムで演奏されます。Cheekのメロディ奏には押し付けがましいところが皆無、
美しくも個性的なトーンを引っ提げてひたすらスイートにプレイしています。演奏時に脱力することの大切さを熟知し、至極自然体、共演者もそんなCheekとの演奏はさぞかしリラックスして
楽しめる事でしょう。
彼のテナー使用楽器はSelmer Super Balanced Action long bell、マウスピースはOtto Link Tone Edge Early Babbitt 7番、very long facing curve、low baffleにリフェイスしてあります。
リードはRicoかRico Royalの3 1/2。「コーッ」と言う木管楽器的な響きや、ハスキーさを伴った雑味等の成分のバランス値が絶妙で、更に「シュワー、ザワー」的な付帯音が
楽器を取り巻くかの如きに鳴っています。彼のセッティングにはこの魅惑的なトーンを出すための必然性を強く感じます。
youtubeを見ると、演奏中自分のソロを終えた際に愛器をいとおしく抱くように携えている彼の立ち姿が印象的です。楽器は自分の相棒、ましてや戦友と言うよりも、
大切なパートナーとして向き合っていると感じました。そしてCheekはサウンドや立ち振る舞いから、周囲の仲間や伴侶に対する気配りのある、優しい人柄を見取る事が出来ます。

テーマ後ギターとテナーで8小節づつのトレードが2コーラス行われます。互いのフレージングを聴き合い、受け止め、発展させ合っており、仲の良い友人同士の楽しげな会話のように
聴こえます。それにしてもCheekのタイムの良さ!リズムのスイートスポットにドンピシャ嵌っています。
Lundgrenは的確なピッキングを聴かせつつ、タイムが多少ラッシュする傾向にありますが、むしろ揺れを楽しんでいるかのような雰囲気です。
ナイスなカンバセーションの後にはJorge Rossyのブラシによる1コーラスの音楽的なソロがありますが、イントロのプレイを踏襲したかのテイスト、その後ラストテーマへ。
トレードの延長の如くテーマをギターにも任せ、その後ろでオブリガードをさりげなく吹いています。エンディングはターンバック、そしてシンコペーションによるキメを経て、
意外性のあるコードでFineです。
アルバム冒頭に位置する曲ではありますが、演奏の雰囲気としては何曲か録り終えた後、箸休め的に気楽にプレイしたテイクのように感じます。演奏時間が本作中一番短いのは
それも一因かも知れません。

2曲目The Way You Look Tonightは様々なミュージシャンに取り上げられているナンバー、本作ではどのように料理されているのでしょうか。
ミディアム・スイングでギターがカラフル、ユーモラスにメロディを演奏、サビでテナーが登場しその後のAメロもプレイします。
メロウで大らかさを感じさせる語り口は一聴Cheekと判るほどの個性を確立しています。ソロの先発はそのままCheek、間の取り方、
フレージングの音の選び方、ハネた8分音符のひょうきんさと相俟って大らかさを打ち出しています。
半コーラス演奏し(この曲は64小節を有するので普通のウタ物と同等の32小節)、ギターソロへ、オクターブ奏法を交えたアプローチを用いて
こだわりの美しい音色と合わさり、巧みに聴かせます。ラストテーマはAAを省きサビから始まり、テナーのメロディが再び演奏されますが、
より一層リラックスしたテイストを感じさせます。メロディの合間のギターによるフィルインも巧妙に響き、エンディングはバンプをリピートして
フェードアウトの巻です。

3曲目Smoke Gets in Your Eyes、タイトルは禁煙運動の推進に一役買った事でしょう(笑)、ここではCheekソプラノサックスに持ち替え、よりスイートにプレイしています。
セミカーブド・ソプラノを使用しており、曲管部分を有するので直管の楽器よりもアルトサックスに近い音色が特徴的です。ギターイントロ後テーマ奏、
テナーよりも更に脱力を感じるのは小さい楽器を鳴らす故でしょう、ほとんど囁くような、独り言の範疇に入りそうな吹き方です。
ソロもどこかハーモニカの音色をイメージさせる時のある、独特な奏法を感じます。
サビからギターソロに変わり、裏コードをはじめとする音の選び方にセンスを感じさせるアプローチと速弾きが印象的です。
ラストテーマはサビから、初めよりも幾分力強さを感じる吹き方で場を活性化させ、Aメロではポルタメントも用い、再びしっとりとプレイ、
エンディングもマイルドに、ギターの巧みなコードワークにバックアップされFineです。

4曲目All the Things You AreはKernの代表曲にして実に巧みなコード進行を有した名曲、多くの転調を有する事から演奏者には自ずと高いハードルが掛けられます。
ここでは加えて通常とは異なる3拍子で演奏されており、それに伴いイントロのメロディ、譜割がアレンジされていて新鮮に聴こえます。テーマ後にも再びイントロが演奏され、
テナーソロが始まります。持てる力の6割程度、鼻歌感覚で巧みにアドリブを繰り広げますが、コード進行の難易度はこの人には無関係のようです!むしろ込み入っている方が
より緻密なラインをクリエイト出来るのでしょうね、きっと。素晴らしいソロを2コーラス演奏していますが、もう少し聴きたいところを腹八分目で押さえているのは
Songbookと言うアルバム・コンセプトの成せる技、究極曲紹介のアルバムなのです。
自分が20代の頃はよくテナー奏者の興味あるソロを採譜、分析し、覚えるまで練習したものですが、久しぶりにこのソロを譜面にしたいと言う気持ちになりました(笑)。
その後ギターも同様に2コーラスを、多くの若きプレーヤーの規範となり得るクオリティの演奏を展開します。その後ラストテーマを迎え、イントロが再利用され
フェードアウトでFineです。

5曲目Nobody Else But MeはTom Warburtonのベースからスタートしますが、木の音がするプレイは気持ちが良いです。
小粋なウタもののテーマをCheek何の衒いもなくプレイ、これも良いですね!ソロはLundgrenから始まります。ギターの魅力を満載したラインはこれまたコード進行に対する
アプローチの良き手本となる事でしょう。続くCheekのソロは意外な出だしを提示、例えるならRollinsライクなテイストでしょうか。その後も何処となくおかしみを
匂わせる、他の曲とは異なる色合いでソロを聴かせます。彼はPaul Motian, Charlie Haden, Steve Swallow, Bill Frisell達つわものとの共演ではまた別なテイストを披露しており、
引き出しの多さを感じさせます。ソロの終盤戦で聴かれるWarburtonのペダルポイントも効果的です。
ラストテーマの前半はLundgrenが演奏、後半をCheekが担当し、エンディングはターンバックを経て短3度で転調して行き、巧みにFineです。

6曲目Can’t Help Lovin’ Dat Manはバラード、ギターとテナーのデュオでテーマが演奏されますが低音域をCheekはいつものサブトーンではなく実音でプレイ、これは意外と新鮮です。
古き良き米国南部の雰囲気を湛えた曲想、カントリー&ウエスタンも感じさせる楽曲を朗々と吹いています。8小節づつのソロをギターとテナーがトレード、ほのぼのとした様を一貫して表現したテイクに仕上がりました。

7曲目I’ve Told Ev’ry Little Starは、まず個人的にSonny Rollinsの演奏がイメージされます。58年10月録音の大名盤「Sonny Rollins with the Contemporary Leaders」

もう1枚あります。59年Stockholmでの録音「St Thomas – Sonny Rollins Trio in Stockholm 1959」両演奏とも甲乙つけ難い出来です。

本作の演奏はボサノバのリズムで軽快にプレイされますが、Jorge Rossyのドラミングが良い味を出しています。彼はCheekのリーダー作の殆どに参加するお抱えドラマー、Barcelona出身、Fresh Sound Recordsでも数多くのアルバムに参加、こちらもハウス・ドラマー状態です。そのRossyのドラムソロから曲がスタートします。当然ですがRollinsの演奏とは全く異なる
コンセプトで曲が進行しますが、ナチュラルさと穏やかさを保ちつつ、実は音楽的に高度な演奏をさり気なく行っています。Cheek, Lundgren, Warburtonとソロが続き、ラストテーマはサビから演奏され。エンディングはギターとテナーが同時進行でソロを行いFade Outです。

8曲目Ol’ Man Riverは再びCheekがソプラノに持ち替え、Rossyもスティックからマレットに持ち替えビブラフォンを担当し、ベースもアルコで参加しています。メロディを淡々と、美しく演奏するだけのテイクですが、途中ソプラノが最低音のB♭よりも半音低い、あるはずの無いA音をやや危なげに4回吹いていて、身体の何処かに、例えば太腿や譜面台を利用し瞬時に楽器のベルを押し当て、7,8割閉じつつ吹いてピッチを下げると言う、実はアクロバティックな奏法をさりげに披露、危なげな出音は然もありなんです!
恐らくCheekが楽器を振り下ろしつつセンテンス毎にキュー出しをしているのでしょう、メロディの揺らぎがとても心地よくサウンドする、アルバムのエピローグとして相応しいテイクとなりました。

2021.01.06 Wed

Perspective / Steve Grossman

今回はテナーサックス奏者Steve Grossman79年の作品「Perspective」を取り上げてみましょう。
彼は昨年(2020)8月に69歳で惜しくも亡くなったカリスマ・テナー、25枚以上のリーダー・アルバムをリリースしていますが、その中で最も作品としてのクオリティが高いアルバムと認識しています。
音楽の形態としては当時流行ったフュージョンですが、ジャズ・テイストを基本としたGrossmanミュージックを素晴らしい共演者、秀逸なプロデュースのもと、思う存分に発揮しています。

Recorded: 1979 at Electric Lady Studio, New York City.   Recording engineer: David Wittman   Produced by Raymond Silva, co-producer: Steve Grossman   Label: Atlantic

ts,ss)Steve Grossman   g)Howard “Bugzy” Feiten   b)Mark Egan   ds)Steve Jordan   ds,bongos)Lenny White(on Arfonk)   b)Marcus Miller(on Creepin’ & The Crunchies)   p,Fender Rhodes)Onaje Allan Gumbs   perc)Raphael Cruz   congas)Sammy Figueroa   g)Barry Finnerty(on Katonah)   p)Masabumi Kikuchi(on Pastel)   ds)Victor Lewis(on Creepin’ & King Tut)   Creepin’ & The Crunchies arranged by Onaje Allan Gumbs

1)Creepin’   2)Arfonk   3)Pastel   4)The Crunchies   5)Olha Graciera   6)King Tut   7)Katonah

僅か18歳にしてWayne Shorterの後任としてかのMiles Davisバンドに加入し、天才の名を欲しいままにしたSteve Grossman、スケールの大きいプレイ、John Coltraneのフレージングが基になってはいますが独自のインプロビゼーション・アプローチ、タイム感の素晴らしさ、50年代のSonny Rollinsを彷彿とさせる端正な8分音符、そして何より誰も成し遂げることの出来ない、あり得ないほどに素晴らしい楽器の音色と鳴らし方(単に音量の大きさと言う次元ではなく、倍音成分や付帯音の尋常ではない豊富さと言う観点で)を引っ提げてジャズ界に殴り込みをかけ、一大旋風を巻き起こしました。
「Live at the Lighthouse」を筆頭としたElvin Jonesバンドでの一連の作品では彼の本領が発揮され、歴史的な名演奏を繰り広げていますが、他のサイドマンや何より自身のリーダー作の多くでは不完全燃焼を否めません。そんなな中でも 5枚のリーダー作、77年「Born at the Same Time」78年「New Moon」84年「Hold the Line」「Way Out East」85年「Love Is the Thing」はGrossmanのプレイの真髄を捉えていると思います。

Grossmanフリークの僕自身、来日時には追っかけのようについて回ったのですが(笑)、その際に本作の素晴らしさについて尋ねてみました。ところが本人はあまり内容を気に入っていなかったのか、「あの作品はコマーシャルなもので、お金のために仕方なく録音したんだ」と言うとても意外な返答が。内容について突っ込んだ質問をしたかったのですが、見事に出鼻を挫かれた覚えがあります(汗)。
あの名盤、Grossmanを代表する名演奏がお金のために成されたとは、でも実はよくある事かも知れません。確かに米国大手Atlanticレーベル、当時のフュージョンシーンを代表する豪華なメンバーの起用、自身のオリジナルの他に菊地雅章氏とOnaje Allan Gumbsのオリジナル、アレンジが施されたStevie Wonderのナンバーを配した、言ってみればGrossmanの魅力を今までにない別な角度からも引き出そうというプロデュースによる、一大プロジェクトとも取れる作品です。かなりお金をかけていますね。当然彼へのペイも良かったと思いますが、co-producerとして名を連ねているものの、特にレコードのSide Aに該当する1〜4曲はプロデューサー・サイドの思惑で事が進行し、自己主張の強い彼が曲構成や編曲によく従ったと思います。とりわけ4曲目の曲想とアレンジが不本意だったのでは、と僕なりに想像しています。ですが選曲、演奏、編曲、メンバーの熱演がむしろ本作をGrossmanの魅力を凝縮した作品へと昇華させていて、レコードのSide Bに該当する5〜7曲目のオリジナルでの、いつも以上に彼らしい演奏との対比も加わり、他のリーダー作にはない強烈な魅力を放つアルバムに仕上がったのでは、と睨んでいます。

ジャズ・ミュージシャンの作品はセルフ・プロデュースの魅力もありますが、レーベル・プロデューサーがリーダー・ミュージシャンのポテンシャルを見極め、判断し、本人の価値観では思いもよらぬ、むしろ真逆の表現方法、形態を引き出す事が彼ら本来の仕事のひとつだと思います。Steve Grossmanという言わば野獣を見事に飼い慣らし、しかし野生動物としての本能もしっかりと残させつつ、あたかもサーカス興行として成り立たせた〜表現が露骨過ぎるかも知れません(汗)失礼!〜、プロデューサーRaymond Silvaの手腕によるところが大の作品です。

それでは演奏内容について触れて行く事にしましょう。

1曲目Stevie Wonderの名曲Creepin’、実は以前にもGrossman, Gene Perla, Don Aliasの3人から成るユニットStone Allianceの76年第1作「Stone Alliance」で演奏しています。こちらの演奏での彼はいつになくサブトーン気味に演奏していて、通常とは違ったテイストを聴かせています。

本作の方が速めのテンポ設定、上記の演奏がトリオなのもありますがパーカッションやギター、ピアノのバッキングがサウンドをぶ厚くしており、リズムのキメを始めとするアレンジが曲の雰囲気を高めています。
それにしても物凄いテナーサックスの音色です!超ルーズなアンブシュアとエアーの効率の良い使い方は間違いなく理想の奏法、これを基にBen Webster, Sonny Rollins, John Coltrane達のトーンのイメージが彼の中でメルティングポット状態で渾然一体化し、まさにテナーを吹くために生まれて来たかのような身体を媒体とし、ユダヤ人の情念、怨念を彼が一身に受け止めて咆哮しているが如き演奏です!ここではVictor Lewisの重厚なドラミングとMarcus Millerのスラップ・ベースがテナーソロによく合致しています。Elvinバンドでの盟友Dave Liebmanのやはり79年作品「What It Is」にもMarcusが参加、こちらはSteve Gaddがドラムを担当していますが、Rolling StonesのMiss Youの演奏を筆頭に、Liebmanのまた違った魅力を引き出そうとする、プロデューサーMike Mainieriの算段が感じられ、たまたまでしょうが作品のコンセプトに類似性を感じます。

2曲目GrossmanのオリジナルArfonk、3部構成から成るドラマー、パーカッション奏者、ギタリストが大活躍するリズムの饗宴とも言うべき演奏です。まずはPart 1、Lenny Whiteのドラミングの素晴らしいこと!バスドラのタイミングがあまりにも好みです!音符がリズムのちょうど良い所に入る、とはこの事を言うのでしょう。Buzz Feitenのギターワークも音色といい、タイミングといいメチャカッコいいです!Grossmanは深いビブラートに基づいた自身のOne & Only ”Grossmanフレーズ”を駆使し、フラジオ音の割れ具合も相俟ってエグエグに盛り上がっています!続いてのPart 2、テンポがドラムのフレーズをきっかけにリタルダンド、ギターのカッティングがこれまたイカしてます!相変わらずWhiteのバスドラを始めとした、軽快にして重厚なドラミングが素晴らしい!Grossmanフレーズ絶好調!ありえない次元にまで聴き手を誘います!GumbsのRhodesによるバッキングも素敵!Part 3はFeitenのヤバいくらいにイケてるカッティングと、Whiteのハイハットからなるイントロでテンポがアッチェルします。ティンバレスとコンガによるグルーブ感が圧倒的なソロの連続!Raphael Cruz, Sammy Figueroaふたりのパーカッショニストのコンビネーションは完璧です!リーダーは曲の最後に少し演奏しただけですが、十分に存在感をアピールしています。ここでもGumbsのバッキングが良い味を出しています!プロデューサーの権限でこの曲の世界が設けられたと推測できますが、Grossman自身の発案ではこう言ったアイデアはまず生まれないと思います。
この曲はStone Allianceの77年Amsterdamでのライブ盤「Live in Amsterdam」にも収録されています。こちらはトリオ編成によるライブという事で本作よりもずっとラフな演奏ですが、テナーの音色は更に凄まじいです。

3曲目菊地雅章氏のオリジナルPastel、作者自身のリリカルなピアノ・イントロから始まります。Grossman追っかけ時(笑)の別な逸話ですが、確か彼が譜面を書く際に「これはPoo(菊地雅章氏の愛称)から貰ったんだよ!」と嬉しそうに鉛筆を見せてくれました。貰った鉛筆を後生大事に持っているGrossmanも可愛いですが(NYCのタクシーにソプラノ・サックスを置き忘れて出てこなかった伝説の持ち主です!楽器よりも鉛筆の方が大切かも?)、彼に対する敬愛の念を強く感じ、Pooさんの諸作で76年作品「Wishes/Kochi」から81年傑作「Susto」「One Way Traveller 」演奏参加の際の充実感を垣間見ることが出来ました。

美しくもダイナミクスの振れ幅が凄まじく、バンドの一体感がPooさんのピアノを軸として見事に成立し、Grossmanのシャウトぶりもハードさとメロウさが両立した相反する朗々さを聴かせます。フラジオC音吹き伸ばしの強烈なインパクトと言ったら!そしてMark Eganのフレットレスベース、Feitenのさまざまなテクニックを駆使したカラーリング、Jordanの「うん、間違いない」ドラミングの妙、後テーマのエンディング部は始まりと同様にピアノが担当しFineを迎えますが、曲自体、ソロ、伴奏、演奏の全てが極自然に進行するナンバーです。参加者のうち誰一人として不必要な我を出さずに見事な一集合体として成り立っているのです。
豊潤な音楽性、情感を湛えた名演奏となりました。

4曲目The CrunchiesはGumbsのオリジナル、本作中一番の問題曲です。LAのフュージョン・グループ、いやクロスオーバー・バンドの如きテイスト満載の曲想をGrossmanに演奏させたプロデューサー、大英断です!この曲をアルバム冒頭に持ってくるアイデアも間違いなく持ち上がった事でしょう!実現したらさぞかしキャッチーなアルバムに様変わりしたと思います。冒頭曲の第一印象で作品のカラーは決まりますから。
以前当Blogで取り上げたDon Cherryの77年作品「Hear & Now」も同じくAtlantic label、同様にRaymond Silvaがアルバム制作に携わっていますが、思うにリアル・ジャズマンにフュージョンを演奏させようという企画が70年代後期にAtlantic社内で持ち上がっていたのでしょう。Cherryの作品の方にも1曲、名プロデューサーNarada Michael Waldenの、とってもポップなオリジナルが収録されていますが、アルバム7曲目と末席に追いやられました。冒頭曲のおどろおどろしさが間違いなくアルバムを支配した作品、ヒットや売り上げとは縁がなかった事でしょう。大手レーベルに於いてミュージシャンの音楽性か、アルバムの売り上げどちらを取るか、現代は後者に間違いなく重きが置かれますが、70年代は比較的穏やかだったのでしょう、両作ともリーダーの意向を尊重した形でのリリースとなりました。

イントロのキメやトライアングル使用、ギターカッティング、そして縦ノリのグルーブは間違いなく70年代フュージョン、クロスオーバーの定番。ソプラノのテーマ奏も同一メロディをオーバーダビングして重ね、音を厚くしていますが、ポップス・ボーカリストGilbert O’Sullivanの72年大ヒットナンバーAlone Againのボーカル処理と同じ手法です。
もともと常人離れした音の太さを持つソプラノ・トーンの持ち主、「何故メロディをもう一度吹いて重ねる必要があるんだ?」と間違いなくGrossmanスタジオ内でごねた事と思います。宥めすかしてご機嫌を取りつつ演奏させたプロデューサーSilvaは、一体どのようにしてわがまま坊やを説得したのでしょう?(笑)

キャッチーなメロディは意外にも彼のソプラノにごく自然にマッチし、サビの展開部も心地よさを聴かせます。ソロにもそのままナチュラルに移行しますが、さすがにここではオーバーダビングは施されず、ひたすらメロウにソロが展開され、リズムセクションも的確にサポートします。GumbsのRhodesソロ、そしてFeitenのまさしくフュージョン・テイストの演奏に続き再びソプラノのソロへ。先程のソロよりも強くGrossman色を感じさせます。その後再びダブリングによるラストテーマへ、エンディングにもソプラノソロが聴かれますが早めにフェードアウトを迎えます。
この演奏を初めて聴いた時の戸惑いは忘れられず、Grossmanのスタイルとは水と油と感じましたが、今となってみれば本テイクの存在は彼の音楽史上にとっても大切だと思います。吹き過ぎず間を生かしたアプローチには新たなる展開の予感がしました。
全曲とは言わず、収録曲の半分程度、いや1/3でもこのコンセプトの楽曲を演奏した作品をリリースし、以降も定期的にこの路線を辿って行ったなら、孤高のテナーサックス奏者の名を返上し、欧州に籠らずとも(90年代以降Italy Bolognaに住んでいました)米国ジャズ・フュージョン・シーンに君臨していたと思うのは、僕が単にGrossmanフリークだからでしょうか?

もう一つ感じるのは、Side Aの4曲目に位置するナンバーにメロディのダブリングをする必然性を感じないという点です。この曲が作品中「浮いてる」感が強いのは、作品の真ん中あたりに位置していながら妙に主張が強い、これは曲想の違いに起因する以上に曲が厚化粧だからだと思います。厚化粧は接客や外出のため、対外的に好印象を与えるための装いの一つです。おそらくプロデューサーはDon Cherryの不発ぶりに懲りていて、Grossman作は何とかヒットに結びつけたい、方法としてはキャッチーなナンバーを冒頭に配したい。The Crunchiesのポップ色を既成事実化するためにも、嫌がるGrossmanを説得してメロディ処理を売れ筋仕様にデコレーションしたように思います。
さてレコーディングが終わりました。アルバムリリース前に選曲&曲順会議が開かれましたが、Silva以下制作スタッフはThe Crunchiesを1曲目にしたい、一方Grossmanは冗談じゃない、俺の音楽性とは合っていない。そもそもこの曲を収録するのも嫌だ!とひたすら平行線を辿り、結局は折衷案で比較的目立たないA面ラストに置かれたのではないでしょうか。その際にメロディのダブリングを解除し、シングル・トーンでの演奏に戻せば「浮いてる」感じは緩和されたのでは、とも思いました。

5曲目Olha GracieraはGrossmanのオリジナル、かなり頻繁に自己のアルバムで取り上げています。印象的なベースラインとユニークなコード進行、そして崇高なまでに気高さを感じさせるメロディ、彼の作曲の中でベスト3 に入る名曲です。Gracielaとはおそらく奥方かガールフレンドの名前、彼女に捧げられたナンバーですが、破天荒な殿方に寄り添っていくのはさぞかし大変だったのでは、と要らぬ心配をしてしまいます(汗)
テーマ後先発ソロはGumbsのピアノ。以前僕が日野皓正さんのバンドに参加させて貰っている時に、彼の米国でのバンドのメンバーがGumbs、日野さんは彼のプレイの事をとても褒めていた事が印象に残っています。リーダーの元で的確な演奏をする事に美学を感じているタイプのミュージシャンと認識しています。ここでのソロも曲想の中にしっかりはまり、決して埋没せず、自己主張をほど良きバランスで行っており、続くテナーソロに向けて低音域にシンコペーションでドラマチックに降りて行くフレージングが堪りません!そしてGrossmanはしっかりとその意思を受け継ぎ、ブリブリとした低音域からソロを開始しますが、イヤー、これはメチャメチャカッコ良い!鳥肌モノです!本作のハイライトの一つと感じます。受けて立つリズムセクションのアプローチも素晴らしい!Gumbs, Jordan, Eganとのコラボレーションはこの一作だけだったのがあまりに勿体ない!彼らはGrossmanのコンセプトを確実に、120%理解して演奏に臨んでいます!さらにありきたりの表現で申し訳ないのですが、これはOne & Onlyの演奏、真の天才だけが行える諸行なのです!エンディングの盛り上がりも凄過ぎです!

6曲目King TutとはKing Tutankhamenの事、厳かで神秘的なムードは古代エジプトの若くして亡くなった謎多きツタンカーメン王をイメージしているのでしょう。自身のリーダー作で同様に数多く取り上げていますが、ここでの演奏はその決定打かも知れません。
リズム隊によるフリーなイントロの後、Eganのベースから始まりますが、フレットレスの伸びる音が効果的です。テーマはテナーのオーバーダビングによるハーモニーを伴ったメロディ、本人この曲を取り上げる時にはいつも自身でハーモニーをダビングしていました。ソロ最中にもダビングが施されていますがメロディ・ユニゾンのダブリングとは意味合いが異なり、彼の表現に於いて必要な事なのです。ギター、テナー、ピアノとソロが続きますが各々抑揚のある構成で演奏されています。各ソロイストはツタンカーメン王に対する自身のイメージをふんだんに盛り込んでいるかの様で、いずれも深い次元にまで表現を行なっています。同様にギター、ピアノ、そしてパーカッションのバッキングも効果音的に曲想を盛り上げる役割を果たしています。この曲でドラマーにLewisをチョイスしたのはよりジャズ的なメリハリあるアプローチを求めたからなのでしょうが、大正解です!Stone Alliance「Live in Bremen」にも収録されています。

7曲目Katonah、曲名について本人に尋ねたところNew York州にある場所の名前だそうです。ハイウェイを運転している時にKatonahと書かれた標識をよく見かけたような事を言っていました。曲を書いたものの、タイトルが決まらず困っている時にたまたま眼にしたので、のような話です。
新宿にあるライブハウスSomedayでのGrossman単独来日、日本のミュージシャンと一週間に及ぶ伝説のライブを挙行、そのリハーサルに立ち会いましたがこの曲の練習最中に彼が、「スタンダード・ナンバーの何だっけ?譜割りで同じ曲があるよね」と言い出し、メンバーみんなでわいわいと探っていました。暫くしてGrossmanがVincent Youmansのナンバー「I want to be happyだ!」と曲のメロディを吹き始め、一同納得したのを覚えています。確かにこの曲とシンコペーションが同じフィギュアですね。
この曲も度々リーダー作に登場しますが、初演は77年作品「Terra Firma」です。

Jordan以下タイトなリズムセクションによる素晴らしいサポートで本作の演奏が真打になりました。I Want to Be Happyシンコペーションが(笑)曲全体を通して演奏されていることで、こちらはリズムの分厚さを誇示した狂宴(!)となっていますが、Barry Finnertyのギターによるカッティングが実に支配的です。凄まじいまでに気持ちの入ったテナー独演会の後、ラストテーマ、曲がカットアウトで終わったと思いきやテンポが半分に落ち、そのままインテンポでハードロックの世界に突入!Finnertyのギター素晴らしいです!適材適所!そして情念のこもったエグさ炸裂のソプラノソロが開始!Grossman参加のMiles作品に「Jack Johnson」がありますが、むしろ彼は不参加、Bill Evans演奏での「We Want Miles」の方をイメージしてしまいました。