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2018.02

2018.02.15 Thu

Omerta / Richie Beirach and Dave Liebman

今回はピアニストRichie Beirachとテナー、ソプラノ・サックス、フルート奏者Dave LiebmanのDuo作品「Omerta」を取り上げたいと思います。

p)Richie Beirach ts,ss,alt-fl)Dave Liebman recording engineer)Dave Baker

1978年6月9, 10日録音 at Onkio Haus, Tokyo, Japan

日本のTrio labelから同年リリース、94年にデンマークのStoryville labelからCDで再発されました。

1)Omerta 2)On Green Dolphin Street 3)3rd Visit 4)Eden 5)Spring Is Here 6)Cadaques 7)To A Spirit Once Known 8)In A Sentimental Mood

Richie Beirach、Dave Liebmanの2人は60年代末からコンスタントに、時折付かず離れずの距離を置きつつも演奏活動を継続的に行っています。50年近くも音楽的時間を共有出来ると言うのは今どき夫婦間でも(であればこそ?)難しい長さに違いありません。Duoの他にもDave Liebman Band、Look Out Farm、Questと言うバンド活動も並行して行っています。同じくピアノ、サックス奏者でHerbie Hancock、Wayne Shorterの2人は更に長い55年以上の共演歴になりますが、永きに渡り共演者としての関係を保持するにはそれなりの条件が必要です。2人のパーソナリティの相性、人間性のリスペクト度合い、どれだけ価値観の共有を保てるか、お互いの演奏に音楽的な魅力を感じ続けることが出来るか、そして音楽的成長が同期しているか、です。Beirach、Liebmanの2人は初期から高い音楽性と以後一貫する音楽的会話の語法、方法論を聴くことが出来ます。Liebmanのリーダー作「First Visit」1973年6月20,21日東京録音 ts,ss,fl)Dave Liebman p)Richie Beirach b)Dave Holland ds)Jack DeJohnette 同年日本フォノグラムよりリリース。

この作品に収録されているRound About Midnightが彼らDuoの初録音、そして以降の演奏の萌芽を聴く事が出来ます。Liebmanのダークで豊富な倍音を含んだトーンによる危ない変態系(?)メロディラインに対して、Beirachは他の追従を許さない美しいタッチによる複雑にして緻密なコードワークで、瞬時に対応し続けるのが特徴です。因みにこの時LiebmanはMiles Davis Band(アルバムOn The Cornerの頃です)で、Beirach、Holland、DeJohnetteのリズムセクションはStan Getz Quartetでの演奏のために来日中でレコーディングが実現したそうです。

91年にドイツからCDで再発されましたが、その際のジャケットのセンスがあまりに酷いです。この当時の(ひょっとしたら現在も)欧米人は日本と中国、台湾(多分韓国も含む)の区別がついていません。

「Omerta」もBeirachは初ソロコンサートのために3度目の来日、Liebmanは何とChick Corea Bandに参加してのやはり3度目の来日で録音が実現しました(余談ですがCoreaとの共演はこの時のツアーのみで最後は険悪な雰囲気で決別したと、彼の自伝に書かれています)。70~80年代にはこのような形で多くの海外ミュージシャンによる国内レコーディングが行われていたようです。この作品を素晴らしいクオリティで録音した2人の盟友にして名エンジニアDave Bakerは、このレコーディングのためだけにアメリカから来日したのかどうか定かではありません。

二人は現在までに7枚以上のDuo作品をリリースしています。「Omerta」は第2作目、 第1作目は75年11月18~20日NY録音、翌76年リリース「Forgotten Fantasies」Horizon label

裏ジャケ写真の2人の笑顔からレコーディングの出来栄えの充実ぶりが伺えます。僕自身この作品未だに愛聴盤です。それにしてもBeirach若くて可愛いですね。セーターは彼女からのプレゼントでしょうか?(笑)彼がその音楽性に反して意外とお茶目に映ったのは82年10月Quest来日のよみうりホールでのコンサート時、Liebmanが「次の曲はRichieの新曲、Dr. Coldです」と紹介した時に彼が両腕を組んで小刻みに上下に揺らし「寒い寒い!」というポーズを決めていました(笑)。Liebmanの方はあまりジョークを言わない生真面目な人と聞いています。

彼らの音楽は聴いていてハッピーになる、思わずメロディを口ずさんでリズムを身体で取ってしまう、そんなジャズのエンターテインメント性とは対極にあります。明るいか暗いかと言えばひたすら暗い音楽ですし、分かり易いかと言えば難解の極み、決してファミレスや居酒屋のBGMとして流れる事のない音楽です(笑)。聴き手自らが彼らの音楽に入って行かない限りその緻密な構造、コードの響き、美の世界を享受することは出来ません。絵画や彫刻をしっかり鑑賞したいのなら美術館に足を運び、はたまた映画館に赴き新作映画を大画面で鑑賞する能動的な姿勢が必要なように。このDuoの演奏には聴き手に「強いる」側面が前面に出ていますが、例えば二人の驚異的なタイム感の良さ、ハーモニックセンスの卓越した表現、ストイックなまでに無駄を削ぎ落としたサウンド、フレージング、ダイナミクス、そして楽器の熟練したマエストロぶり、音色の素晴らしさから「我々の音楽は分かる人にだけ聴いて貰えれば良い」とまさか面と向かっては言わないでしょうが、プライドを持って真摯に音楽に取り組む姿勢が痛烈に伝わってきます。

この作品の白眉は6曲目13’18″にも及ぶ(しかもDuoですよ)大作Obsidian Mirrors(黒曜石の鏡)。Beirachの作品、タイトルと曲想が実に合致していますね。ドラマチックな構成で時間が経つのも忘れてしまいます。この演奏を一体何度聴いたことでしょうか!Liebmanテナーのエグエグな音色、フリークトーン、必ず割れているフラジオ音(爆)、ピアニシモ時の低音サブトーンの豊かさ、一方のBeirachの聞き惚れてしまうほどのタッチの美しさ、音の粒立ちとサウンドのクリアーさ、エンディング低音域の爆発的な鳴らしっぷり!こんな風にピアノが弾けたらさぞかし気持ちが良いでしょうね、と痛感させる演奏、そして何より二人の息の合いっぷりが本当に見事です!

話を「Omerta」に戻しましょう。Beirachの解説によりこの作品、曲ごとにミュージシャンや知人、市井の人物に捧げられています。またレコード会社との契約の関係かBeirachの名前が表記上先に来ていますがいつもの対等な関係での演奏が繰り広げられています。この頃のLiebmanのセッティング、ソプラノマウスピースはBobby Dukoff D7にSelmer Metal用リガチャー、リードはSelmer Omega、番号は分かりません。楽器は多分Selmer Mark6。テナーマウスピースはOtto Link Florida Metalを9番から9 ★程度にオープニングを広げたもの、リガチャーは同じくSelmer Metal用、リードはLa Voz Med.HardかHardをトクサを使って調整していました。テナー本体は基本的にはCouf〜Keilwerthを使っていますが、海外ツアーの時にLiebmanテナーは重くて荷物になるので(汗)、渡航先で借りるというスタンスで乗り切っています。本人曰く「ピアニストはそこの店にあるどんな調整、状態のピアノでも弾かなければならないだろ?サックスも同じ事で構わないじゃないか」という、にわかには頷けない理由付けをしていますが、確かにLiebmanの映像を見るとテナーはいつも違う楽器を吹いています。彼ほど楽器を習得しているとどんな楽器、状態のものでも吹きこなせるようですね、僕には到底無理ですが(汗)。ある時はネックが緩かったのでしょう、管体との間に紙片を挟んで演奏していました。多分この時はYAMAHAから普通のラッカーの楽器を借りていたように記憶しています。

この作品が録音された78年6月に、Liebmanのサックスセミナーが故松本英彦氏が主宰するジャズスクール、ラブリーで開催されました。取るものもとりあえず学生だった僕は参加したのですが、未だにそこで受けたカルチャーショックを忘れることができません。大勢の若いミュージシャンの中に混じって松本さんも受講していましたが、終わってから「あんなに秘密を喋っちゃって大丈夫なのかな〜?」と仰っていたのが印象的でした。松本さんの物言いは可愛らしかったですから。リズムセクションは松本さんのレギュラーバンドの皆さんで、ブルースやスタンダードナンバーを演奏していましたが、テナーでキーがGのブルースにも関わらず、アドリブソロ中side keyのD#音(オーギュメント)をずっとロングトーンで吹き伸ばしているのです、しかもあのエグエグの音色で!気持ち悪いったらありませんでしたが、だんだんと耳が慣れてくると痛痒い感じから快感に変わってきました!Liebmanはとても楽器を良く鳴らしていますがラウドな感じはしません。そしてハイライトは音色を良くする、作っていくための練習として効果的なのがOver Tone(倍音)と力説し、そのデモ演奏を間近で聴くことが出来たのです。これはまさしく日本テナーサックス界に於る黒船来航です!!間違いなくセミナー参加者全員、日本人が日本で初めて触れる当時としては驚異的な奏法〜Over Tone Series(倍音列)の連続!その後僕はジャズ研の部室でOver Toneの練習を開始したのですが全然出ません!「ギャー、ボヒャー、ギョエー」という濁音系の耳に痛い音の連発です。「お前その練習うるさいからあっち行ってやってくれよ」と大不評でした(涙)

Liebmanサックスセミナーの最後に彼が受講者に捧げると言う事で、無伴奏でMy One And Only Love(確か)を演奏してくれましたが、その美しさに「あ、これが本物なんだ」と体感できました。曲名はうろ覚えでもサウンド感は心に残ります。「Omerta」でもラストにSonny Rollins に捧げるべくIn A Sentimental Moodをアカペラで演奏していますが、冒頭アウフタクトでソラシレミソラ〜と行くところが何と音が裏返って上のE音が出ているじゃありませんか!もちろん故意に倍音を使って裏返しているのですが、初めて耳にした時は乗り物酔いに近い違和感を感じました。これも同様に慣れてくると無しでは済まなくなります。

Beirach、Liebmanの2人は近年立て続けにDuo作品をリリースしていますが、円熟どころの騒ぎではない境地の演奏に発展しています。久しぶりに来日公演で聴いてみたいものです。

2018.02.02 Fri

Ella And Louis / Ella Fitzgerald & Louis Armstrong

今回はボーカリストElla Fitzgeraldとボーカル、トランペット奏者Louis Armstrongの共演アルバム「Ella And Louis」を取り上げてみましょう。1956年8月16日Hollywood Capitol Studioにて録音。Verve Records  Produced by Norman Granz

vo)Ella Fitzgerald vo,tp)Louis Armstrong p)Oscar Peterson g)Herb Ellis b)Ray Brown ds)Buddy Rich

1)Ca’t We Be Friends? 2)Isn’t This A Lovely Day? 3)Moonlight In Vermont 4)They Can’t Take That Away From Me 5)Under A Blanket Of Blue 6)Tenderly 7)A Foggy Day 8)Stars Fell On Alabama 9)Cheek To Cheek 10)The Nearness Of You 11)April In Paris

記念写真のような、飾り気のないシンプルなジャケット写真です。多分レコーディングを終えた後に撮影されたのでしょう、Louis Armstrong(サッチモ)の屈託のない笑顔とオシャレな靴下の折り方が可愛いです(笑)。Ella Fitzgeraldの表情は尊敬する先輩たちとのレコーディングを無事に終えた安堵感に満ちています。 照明による二人の影とサッチモのズボン、靴の黒色。茶色い床、背景と二人の肌の色。スカートと丈の短いズボンから覗く二人の足。真夏のレコーディングなのでエラの半袖ワンピースとネックレス、サッチモのシャツ、彼の笑みから溢れる白い歯、二人の座る椅子の足の白色がさりげなく色合いの統一感を表現していますが、多分偶然の産物でしょう。茶色を基調として白と黒色、そして二人の水色がアクセントになっている事からリラックスした楽しげな雰囲気を感じさせます。

この作品ではVerve Labelの創設者でありプロデューサーのNorman Granzが11の収録曲全てを選曲しました。おそらくバックを務めるOscar Peterson Quartetの人選も彼によるものでしょう、Verve Records All Starsです。バラードとミディアム・テンポを中心とした作品ではありますが、それにしても普段はあれだけ饒舌でテクニカルな演奏を聴かせるOscar Peterson、Herb Ellis、Ray Brown、Buddy Rich4人のこの作品での徹底した伴奏者ぶりにはとても敬服してしまいます!二人の主役を的確にバックアップするべく必要最小限にして厳選された音使い、音の間を生かしたバッキング、演奏の連続。いわば完璧な引き立て役、特にRay Brown、Buddy Rich二人の「何もやらなさ振り」(よく聴けばかなり細かい事をさり気なくやっていますが)は感動的ですらあります!!プロの伴奏者はこうでなくてはいけませんね。

このアルバムが成功を収めたことにより、続編として翌57年に今度はレコード2枚組で「Ella And Louis Again」を録音し、同年発表しました。伴奏のメンバーもBuddy RichがLouis Bellsonに変わった以外は留任しています。前作を踏まえ更にバージョンアップした主役二人の演奏を聴くことが出来ます。

「Ella And Louis Again」も大成功を収めたことで、二人のコラボレーション第3作目としてGeorge & Ira Gershwinの「Porgy And Bess」を57年に録音しました。アレンジ、指揮Russell Garcia、30名以上による大編成での演奏が実現したのは前2作がさぞかしヒットしたのでしょう、翌58年8月にリリースされました。そして後年、この作品は2001年にグラミー賞の名声の殿堂入りを果たすという栄誉にも輝いています。

97年にはこの3作をCD3枚組に全てまとめ、更に2曲Hollywood Bowlでのライブ演奏を追加した「The Complete Ella Fitzgerald & Louis Armstrong on Verve 」がリリースされました。こちらは大変に凝った仕様、デザインのブックレットタイプのジャケット、丁寧な作りのライナーノートから成り、「Ella And Louis」3部作、エラとサッチモの音楽性を愛して止まないスタッフがその想いをリリースに際ししっかりと込めた感じが、痛切に伝わってきます。まるでヨーロッパのレコード会社が制作したかのような丁寧さ、細やかさです。CD化に際しても的確なデジタル・リマスタリング処理が行われており、ジャズ、音楽の事を良く分かったエンジニアによる、いわゆる「良い音質」で鑑賞することが出来る内容に仕上がりました。

さて話を「Ella And Louis」に戻しましょう。作品全体を通して僕が感じる事の一つに、大好きなサッチモとの共演でエラが彼を立てるべくいつもより何処か遠慮気味に歌っているという点です。普段の歌唱力よりもレベルが落ちているというのではなく、サッチモよりも自分が出ないように、目立たないように、必ず一歩退いて後からサッチモを追うかの如きスタンスで歌っている感が漂っています。そんなことをしてもエラは強力に上手いシンガーです。目立たない訳がないのですが、彼女なりのサッチモに対する敬意の表れなのでしょう。この事を僕は続編「Ell And Louis Again」「Porgy And Bess」にも感じてしまうのですが、皆さん如何でしょうか。

1曲目にCan’t We Be Friends?とはまた言い得て妙な選曲です。女性と男性の声域は通常4度違いなのですが、ここでは二人同じキーで歌っています。歌った後にトランペットを直ぐ吹くのは結構大変な作業ですが、サッチモは難なく「弾き語り」ならぬ「吹き語り」を行っています。管楽器の演奏はその人の喋り方が反映されますが、ここまで演奏と歌い方が同じ(1オクターブの違いはありますが)なのは笑ってしまうくらいに凄いです。喋っているようなトランペット、楽器を吹いているかのようなボーカルです。

2曲目Isn’t This A Lovely Day?、エラの歌はラブリー、チャーミングでいて歌唱力が優れており器楽的にピッチやタイムが完璧、更に強弱のダイナミクスを伴った安定感で聴き手にグッときます。

かなり高い音域でサッチモがミュートトランペットでソロを取ります。彼の歌による合いの手、またエラの主旋律に対するハーモニーと大活躍です。

その時代に特に流行った曲というのがあります。3曲目Moonlight In Vermont、4曲目They Can’t Take That Away From Meの2曲は50年代〜60年代初頭にかけて様々なミュージシャンに取り上げられました。They Can’t Take That Awy From Meはエラが始めに歌い、サッチモがミュートトランペットでオブリを吹いています。その後いきなりアカペラでサッチモが違うキーで歌い始めまます。ちなみにこの曲を含め作品全体を通してのイントロ、エンディングや曲の構成はVerve Records専属アレンジャー、指揮者のBuddy Bregmanが行っており、彼のさりげないアレンジがどの曲でも光っています。「Swing it, boys」とサッチモが掛け声をかけて自らソロを取り始めます。良く聴くとミュートトランペットのソロの合間にピストンを空押しする「カシャカシャ」という音が聴こえます。彼の癖なのでしょうね、きっと。この空押しの最中に次に何を吹くべきかイメージしているのです。フレージングの間にほぼ必ず聴こえるので皆さん確認してみてください。

6曲目Tenderly、7曲目(レコードではB面1曲目)A Foggy Day、8曲目Stars Fell On Alabamaもこのころ流行った曲です。Tenderlyのミュートトランペットによるメロディ奏の朴訥とした味わいから少しテンポがアッチェル(テンポアップ)してキーが変わりエラの歌になります。その後同じキーでサッチモの歌にスイッチ、引き続きリタルダンド(テンポダウン)して再びサッチモのミュートメロディ奏、その後は何とエラがサッチモを真似した歌い方でのエンディング!考え得る全てのパーツを用いた構成、演出、こんなところにもアメリカのエンターテインメントの真髄を感じてしまいます。

9曲目Irving Berlin作曲のCheek To Cheekは大好きな曲です。ここでの興味深い事柄をぜひ挙げてみたいのです。印象的なイントロとそのパターンが継続しサッチモが1コーラス丸々歌います。New Orleans生まれの彼は南部訛りがしっかり残っており、例えば2’16″に出てくるseekという単語を「ジーク」と発音しています。1コーラス丸々歌った後、エラに選手交代すべく2’25″から「Take it Ella, swimg it」と掛け声を掛けるのですが、訛っているためにそうは聴こえません。これが何とタモリ倶楽部の空耳アワーに取り上げられました!(残念ながら僕の投稿ではありません)。画像としては初老の紳士がバーでお酒と一緒に出てきたお通しのピーナッツを見て、右手で拒否の仕草をしながら「出来れば、スパゲティ」と言っているのです(笑)。ジャズ好きのタモリさんにはかなり受けていましたが、大変残念なことに最高賞のジャンパーまでには僅かに届かず、次点のTシャツに参加賞の手ぬぐいを付けるという異例の対応になりました(爆)。「Take it Ella」は「出来れば」に聴こえないことはないのですが、「swing it」はどうして「スパゲティ」に聴こえるのでしょうか。そう言えば4曲目They Can’t Take〜の「Swing it, boys」の「Swing it」も微妙な発音でしたね。

他にもサッチモの発音による空耳ネタはたくさんあるのですが、また別の機会に紹介したいと思います。

2018.01.30 Tue

Joe Henderson / Double Rainbow – The Music Of Antonio Carlos Jobim

今回はテナーサックス奏者Joe Hendersonの95年リリース作品「 Double Rainbow – The Music Of Antonio Carlos Jobim」を取り上げて見ましょう。

Suite  Ⅰ JOE/BRAZ/JOBIM 1.Felicidade 2.Dreamer(Vivo Sonhando) 3.Boto 4.Ligia 5.Once I Loved(Amor Em Paz)

Suite  Ⅱ JOE/JAZZ/JOBIM 6.Triste 7.Photograph 8.Portrait In Black And White[A.K.A. Zingaro] 9.No More Blues(Chega De Saudade) 10.Happy Madness 11.Passarim 12.Modinha

Track1~5 1994年11月5、6日Clinton Recording Studio NYC録音 ts)Joe Henderson p)Eliane Elias g)Oscar Castro-Neves b)Nico Assumpcao ds)Paulo Braga

Track6~12 1994年9月19、20日Oceanway Recording LA録音 ts)Joe Henderson p)Herbie Hancock b)Christian McBride ds)Jack DeJohnette

Joe Henは91年Verve Labelに移籍し、翌92年に発表した第1作目「Lush Life: The Music Of Billy Strayhorn」が同年グラミー賞を受賞し、陽の当たり辛いカルト・テナー急先鋒から太陽光燦々のメジャー路線を歩み始めました。この作品はVerve Label企画モノ+ Joe Henの第3作目にあたります。前作はMiles Davisに因んだ93年発表「So Near, So Far (Musings For Miles)」です。

こちらの作品も素晴らしい内容で、60年代Milesのバンドに一時期参加していたJoe Henならではのトリビュートです。大手レコード会社が有する企画力、その企画を推進するスタッフ、市場のニーズに対する情報収集力を駆使し、Joe Henをフィーチャーした優れた作品を製作しようと言う情熱がこの作品を含めたVerveの一連のシリーズから伝わってきます。この他の作品も挙げておきましょう。

97年リリース「Joe Henderson Big Band」

Joe Henの一連の個性的なオリジナルや、かつて録音した「Without A Song」「Chelsea Bridge」等のスタンダード・ナンバーをジャズの伝統に根ざしつつもsomething newを加味したゴージャスなアレンジ、ビッグバンドの精鋭達やJoe Hen所縁のChick Corea、Freddie Hubbard、Al Foster等の超豪華なメンバーを迎えて緻密に、大胆に演奏しており、彼のテナーサックスのエッセンスが凝縮された演奏になっています。Joe Henファンのみならずビッグバンドファンをも唸らせる内容の作品に仕上がっています。

同じく97年リリースでVerve最終作にして彼の最後のリーダー作「Porgy And Bess」

過去様々なミュージシャンがGeorge Gershwinの書いたこのオペラを取り上げていますが、ここではギターにJohn Scofield、Chaka KhanとStingをボーカルに迎え、Joe Henしか成し得ない歌劇を聴かせています。

「Double Rainbow」に話を戻しましょう。実はリリースされる前にJoe HenがBossa Novaを、Jobimの曲を演奏すると言う触れ込みを耳にし、違和感を感じました。「Bossa NovaってStan Getzのオハコでしょ?あの音色でないと雰囲気が出ないのでは…」こちらの作品のGetzの音色が僕には支配的でした。64年リリース「Getz / Giberto」、因みにこの作品からBossa Novaが始まりました。

「ガサガサ、シューシュー、ホゲホゲ」と付帯音の宝庫Stan Getzのテナーサックス、この音色がBossa Novaの雰囲気を決定付けました。Joe Henの音色でのBossa Novaは一体どうなるのだろう?興味津々で本作CDを聴きましたが、いやいや、全くの杞憂でした(汗)。Joe Henの音色、タイム感、フレージング、音楽性でまた新たなBossa Novaが構築されているのです!

この作品はちょうどレコードのA面B面の様に2つに分かれており、A面=SuiteⅠ はブラジルのミュージシャンとのコラボレーション、本場ブラジルのグルーヴで演奏を繰り広げています。Oscar Castro-Nevesのアコースティック・ギターの気持ち良さといったら!そしてEliane Eliasのピアノ演奏がブラジル一色に終わらせず、ジャジーなテイストを加味させているのがポイントです。Suite Ⅰのラストを飾るのが5曲目Oscar Castro-NevesとDuoで演奏しているOnce I Loved、この曲の新たな名演が生まれました。

B面=Suite ⅡはHerbie Hancock、Christian McBride、Jack DeJohnette達とのカルテット、ジャズメンによるBossa  Novaですがこれがいずれも強力な演奏です!それにしてもMcBride、DeJohnette2人のタイム感、一拍の長さ、ビート感いずれもが酷似していて、何千年もの間地中深く何百何千メートルも根を生やしている縄文杉のような安定感です。6曲目TristeのJoe Henのソロは些か遠慮気味に聴こえたのですが、「さあHerbie、この後の落とし前を頼むよ」とばかりにJoe Henに肩を叩かれたのか、続くHerbieのソロがとことんイってます!「Herbie Hancockの演奏の後にはペンペン草も生えない」とは誰かの名言ですが、言い得て妙、まさしくその通りの演奏です!人のバンドでこんなに盛り上がった凄い演奏をしても良いのでしょうか??このHerbieのソロで思い出したのがヴィブラフォン奏者Bobby Hutcherson66年録音のリーダー作「Happenings」の1曲目、Aquarian MoonでのHerbieのソロです。

こちらも他人の作品でリーダーを喰ってしまう演奏の最たるものですが、メチャメチャかっこ良いソロです。こんなことが許されるのも、きっと演奏の素晴らしさ以上にHerbieの人柄が皆んなに愛されているからなのでしょう。

9曲目No More BluesはBossa Novaならぬ、なんとスイングのリズムで演奏されています!これには驚きました。それにしても名曲はどんなリズムで演奏しても名曲です。通常キーはD minorですが全音下のC Minorで、曲の前半部分のマイナーキーの部分をオープンにしてソロを取っています。

アルバムのラストに演奏されるのはChristian McBrideのベースと全編スイングのリズムで演奏するModinha。哀愁を帯びたメロディがエピローグに相応しい雰囲気を醸し出しています。

2018.01.20 Sat

Yellowjackets / Mint Jam

今回はYellowjacketsのライブ2枚組CD、Mint Jamを取り上げてみましょう。2001年7月24日、25日Los Angels、The Mintにて録音。Heads Up Label

[Disc 1]1.Les Is Mo 2.Boomtown 3.Motet 4.Mofongo 5.Blues For KJ 6.Runforyerlife [Disc 2]1.Song For Carla 2.Tortoise And The Hare 3.Mosaic 4.New Jig 5.Statue Of Liberty 6.Evening News

ts,EWI)Bob Mintzer key)Russell Ferrante b)Jimmy Haslip ds)Marcus Baylor

全曲メンバーによるオリジナルで構成されています。

大変素晴らしいクオリティのライブレコーディング、2日間に渡りライブが行われているので演奏テイクを厳選しているかも知れませんが、バンドの一体感、グルーヴが気持ち良いです。それにしても楽曲上の間違いや曖昧な点が全12曲中ライブにも関わらず殆ど感じられないのは驚異的です。また後からPro Toolsを使って編集作業が行われ、小さなミスは修正されているとは思いますが、徹底的にリハーサルを重ねて演目を確実に自分たちのものにしよう、パーマネント・バンドとしての自負、プライドを持ちつつ自分達の音楽を作り上げていこうと言う事を、文章の行間を読むように演奏の奥、向こう側から垣間見る事が出来ます。彼等がライブ演奏中一切譜面を見ずに曲をメモリーして演奏している点からも感じ取る事が出来ます。Weather Reportも同様に暗譜して演奏していました。

Yellowjackets(アメリカ本国ではJacketsと略して呼ばれています)は自分たちの楽曲の譜面を販売しています。「Music From Yellowjackets Mint Jam」by Russell Ferrante

このCD収録曲の全ての楽曲スコアが完璧に掲載されており、この譜面を元に演奏することが可能です。実際僕もこのスコアにはお世話になり、自分のバンドでも演奏した事が有ります。このスコアを見ながらCD演奏を聴けば曲の構造とメロディ、リズムの関係、コード進行との絡み具合が一目瞭然です。少し音楽を突っ込んで、楽理的にいささかマニアックな聴き方をして見たい方にオススメします。このように昨今はCDでオリジナルを演奏し、その譜面をJacketsのように曲集として販売したり、HP等で一曲づつダウンロード販売するのが当たり前になっています。楽器を演奏する人が増えているからこそですが、ジャズの楽しみ方として生演奏を聴きに行くよりも自分たちで演奏して楽しむ方に比重が傾いていると思います。ライブへのお客様の足が遠のくのも頷けます。30年以上前の例えば新宿、六本木、銀座、青山辺りのジャズクラブでは夜な夜な「ジャズを聴きたいぞ!」「聴かせてくれ!」と言うお客様が行列をなして待っていたほどですが。

JacketsはピアニストRussell Ferrante、Jimmy Haslipを中心にギタリストRobben Fordの1978年発表のアルバムThe Inside Storyで伴奏を勤めたのがきっかけで結成されました。初期にはアルト奏者Mark RussoやドラマーRicky Lawsonが参加し、いわゆる西海岸系のブライトでメロウなサウンドを聴かせていましたが、90年からテナー奏者Bob MintzerがMark Russoの代わりに参加した事でぐっとジャズ度が上がりました。ドラマーにもPeter Erskineが一時参加した事が有ります。その時の演奏を収録した海賊盤が「Erskine’s Tape」です。99年5月24日Sweden Lundにてライブ録音。

Weather ReportやSteps Aheadのドラマーとして名を馳せただけあって、このライブ盤でも素晴らしい演奏を聴かせています。グルーヴ感、楽曲のカラーリング、サウンド付け、フィルインの巧みさ、ソロイストに対する寄り添い方の繊細さ、大胆さ、ドラムソロの色気、僕としてはここでのメンバーts)Bob Mintzer key)Russell Ferrante b)Jimmy Haslip ds)Peter ErskineがJackets史上最強だと思いますが、Erskineは多忙さから加入を断念したようです。

実は僕も一度Erskineと共演の機会を持つことが出来ましたが、彼のミュージシャンシップには感銘を受けました。Erskine「やあ、こんにちは。君の名前は?僕は君のことを何と呼べば良いかな?」「Tatsuya Satoと言います、今日は宜しくお願いします。」Erskine「オッケーTatsuya、宜しくね。今日は皆んなで演奏を楽しもうじゃないか」スーパードラマーに対等に接して貰えて、僕自身もリラックスして演奏に臨むことが出来たのを覚えています。

Jacketsの曲は口ずさめるメロディアスなナンバーから、複雑で幾何学模様的な構造の曲、澄み切った青空のような美しいバラードまで、幅広いカラーのサウンドを聴かせてくれますが個人的にはMintzerのナンバーに心惹かれます。現在まで20枚以上の作品をリリースしていますが、Mintzerが参加し彼のオリジナルを演奏したアルバムはどれも優れたバランス感を保っています。西海岸と東海岸のサウンドの融合と言うべきか、ジャズ寄りのポップフュージョン、さらにそれを超えたJackets Musicと言えるかも知れません。

Jacketsでクリスマスソングを特集した作品があります。「Peace Round: A Christmas Celebration」2003年リリース

Jacketsのふくよかで優しく、上品なサウンド表現とアメリカ人がクリスマスに馳せる思いとが融合して他のクリスマスソング集にはないゴージャスさを感じさせます。最後に収録されているIn A Silent Night、Joe Zawinull作曲でMiles Davisのアルバムタイトルにもなっている「In A Silent Way」とクリスマスソングの代表曲Silent Nightの融合!早い話In A Silent Wayの曲想でSilent Nightを演奏しているのですが、やはりアメリカ人もダジャレ好きなのですね(笑)

一度Jacketsの生演奏を聴きに横浜のライブハウスに行ったのは、同じく03年リリースTime SquaredのCD発売記念ツアーでした。こちらも素晴らしい内容で前作Mint Jamを凌駕する出来映えです。

その日はちょうど自分の所属するビッグバンドのコンサートが同じく横浜であり、夕方のギグを終えてからすぐそばのライブハウスに赴く事にしていました。昼間そのビッグバンドの本番前のリハーサルも順調に進み休憩時間にメンバーと近所のユニクロを覗きに行きました。別に何を買うと言うわけでもなかったのですが、ユニクロ店内に外人が何人かいる事に気付きました。「どこかで見たことのある外人だけど…あっJimmy Haslipじゃないか!」と言う訳で彼のそばにはRussell Ferrante、Marcus Baylor、そしてBob Mintzer、Jacketsのメンバー全員を発見!Mintzerには面識が無かったのですが「Hello Bob, 僕はTatsuya Satoです。僕もテナーサックスを演奏していて、今夜Jacketsのライブを聴きに行く事にしています」「Tatsuya, nice to meet you. 今夜の演奏を楽しみにしていて下さい」とやり取りをする事が出来ました。ところでJacketsメンバー全員何をしていたかと言うと、1枚¥1,000のTシャツを物色していたのですが、案の定当夜のライブでは全員ユニクロの黒いTシャツをユニフォームのように着用していました。アメリカの超一流バンドでも現地調達でステージ衣装を格安購入する事に親近感を覚え、とても嬉しくなりました。