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2018.04

2018.04.19 Thu

Patti Austin / Live At The Bottom Line

今回はボーカリストPatti Austinの1979年リリース作品「Live At The Bottom Line」を取り上げましょう。78年8月19日The Bottom Line In Greenwich Village, NYC録音 David Palmer, David Hewitt, Engineers Mixed At Van Gelder Recording Studios, Rudy Van Gelder, Engineer  CTI Label  Produced By Creed Taylor

vo)Patti Austin ts)Michael Brecker key)Pat Rebillot leader, key, arr)Leon Pendarvis Jr. g)David Spinozza b)Will Lee ds)Charles Collins per)Erroll “Crusher” Bennett chorus)Babi Floyd, Frank Floyd, Ullanda McCullough arr)Dave Grusin, Arthur Jenkins, Jr

1)Jump For Joy 2)Let It Ride 3)One More Night 4)Wait A Little While 5)Rider In The Rain 6)You’re The One That I Want 7)Love Me By Name 8)You Fooled Me 9)Spoken Introductions 10)Let’s All Live And Give Together

Patti Austinの名唱、素晴らしいサポートメンバー、そしてPattiを愛する熱狂的オーディエンスによるアプラウズ、彼女の代表的ライブアルバムです。91年CDでのリリースに際して未発表1曲とPatti自身によるメンバー紹介のスピーチが追加され、曲順もレコードとは大幅に変更されました。おそらくライブでのオーダー通りだと思われます。またライブの録音自体はNYのスタジオ系ミュージシャン達のホームグラウンド的ライブハウス、The Bottom Lineで8月18日、19日の2日間に渡り2ステージづつ行われました。両晩全く同じ曲を演奏しましたが初日18日はミュージシャンやレコーディング・スタッフ達のためのwarm up的に行われ、にも関わらずクオリティとしては両日殆ど同じでしたが(さすがNY第一線のプロフェッショナル集団です!)19日の方が若干スムースに演奏されたという事で、当夜の2nd setのテイクが採用されました。ファンとしては2日間のレコーディングの全貌を是非とも聴いてみたいものです。可能ならば「The Complete Patti Austin Live At The Bottom Line ’78」の様な形で。演奏のクオリティが両日殆ど同じだとしても、演奏の中身は随分と異なる筈ですから。

Pattiは76年にCTIより初リーダー作「End Of A Rainbow」、2作目「Havana Candy」77年と立て続けにリリースし、本作が3作目になります。クロスオーバー、フュージョン真っ盛りの時代に脚光を浴びました。CTI Creed Taylorの名プロデュース、充実した共演者、アレンジャー、そして何と言ってもPattiの抜群の歌唱力が聞き手に訴えかけました。同世代の黒人女性ボーカリスト、例えばDonna Summer、Brenda Russellたちよりも頭一つジャズ度を感じさせるセンスは共演者をインスパイアさせ、本作ではライブ録音という事もあり、さらにオーディエンスを巻き込み、素晴らしいパフォーマンスを繰り広げました。

この作品はレコードで発売当時から愛聴しています。ギターDavid Spinozzaのバッキング、Will Leeのタイトで都会的センス溢れるベースワーク、そして何より我らがMichael Breckerの参加です!「Hello Michael、今までのCTI 2作ではお世話さま。殆どソロが無いかも知れないけど、ボトムラインでの私の3作目のライブレコーディングに付き合ってくれるかしら?」というPattiからのオファーに「もちろんだとも!Pattiのレコーディングに呼んでもらえて嬉しいよ。ソロが無くても全く構わないからさ、君と一緒に演奏が出来るのを楽しみにしているね。」と言うやり取りがあったかまでは分かりませんが(笑)、Michaelの参加作で本作のように徹底したオブリガード、アルバムサイズの短いソロだけでの使われ方、参加の仕方のライブレコーディングと言う例は少ないです。しかし随所に、PattiがMCでも述べているMichael流の隠し味、スパイス的な演奏がこの作品のクオリティ、レベルを別次元にまで高めています。彼の参加無しではこのアルバムは成り立たず、仮に不在では凡演とまで行かずとも歴史に残る作品にはならなかった事でしょう。それにしてもMichaelの歌伴の演奏の上手さはどこから来ているのでしょうか?ここでの演奏から痛感してしまいます。自身がリーダーになり表に立つ場合と、裏方〜伴奏者に立場が変わった時のチャンネルの変え方が実に徹底しており、あくまで主体の音楽性を映えさせるのですが、実は自分自身のテイストもしっかりと表現していて、主体との化学反応、お互いの音楽のブレンド感、間合いを繊細に図りながら大胆に演奏をする、バランス感の権化と言えましょう。

それでは収録曲をCDの曲順ごとに触れて行きましょう。1曲目Jump For Joy、The Jacksonsの77年ヒット曲です。Michaelのサックスにはエフェクターがかけられています。この頃の彼の使用楽器、6万7千万台のAmerican Selmer Mark 6にはネックにピックアップ用の装着台が付けられ、ここにPZMというバウンダリー・マイクを装着します。ここからの電気的信号をミュートロンというエフェクター(今となっては伝説的なエフェクターです)に通すことにより、ワウがかけられた音色に変化します。

こちらは78年9月New York All Starsで来日時の写真で、まさしく同じセッティングによるものです。これに更にオクターヴァーを装着したサウンドをThe Brecker Brothers Band「Heavy Metal Be-Bop」のFuky Sea, Funky Dewでのカデンツァで聴くことが出来ます。

Charles Collins、Will Leeが繰り出すグルーヴがとても気持ち良いです。Frank、BabiのFloyd兄弟、Ullanda McCulloughのバックコーラスも曲にゴージャスさを加えています。

2曲目はJackson兄弟の三男でMichael Jacksonの兄、Jermaine Jackson78年のヒット曲Let It Ride。Spinozzaのギター、Michaelのワウ・テナーが良い味付けをしています。歯切れ良く吹いているテナーサウンドがワウの効果でホーンセクションにも聴こえます。ヘヴィな、ノリの良いファンクナンバーに仕上がっています。

3曲目Stephen Bishop76年のヒットナンバー、One More NightはAORファンにとっては堪らない選曲です。Pattiの歌いっぷりでこの曲に更に魂が込められました。

4曲目Kenny Loggins78年のヒット曲Wait A Little While、オリジナルのキメ、構成をまんまコピーして演奏しています。こちらもファンにはドンピシャなナンバー、ここでのMichaelのイントロ・メロディの吹き方、テナーの音色、そして間奏のソロが素晴らしいのです!ソロの後半、High E音の割れ具合のカッコよさ!僕にとって完璧なMichael Breckerの演奏、ソロの一つです。実はこの曲も雑誌Jazz Lifeの取材でMichael本人に聴かせ、コメントを貰った中の1曲です。こちらもご紹介したいと思います。

次は、パティ・オースティン(vo)の「ウェイト・ア・リトル・ホワイル」(ケニー・ロギンス作曲)。これはNYボトム・ラインでのライヴ・ヴァージョンです。〜曲をプレイ〜MB: ドラムは誰?ーチャールズ・コリンズです。MB: お〜っ!彼のことはすっかり忘れていたよ(笑)。でもこのギグのことはよく覚えている。バンドもオーディエンスも最高でね、パティも言うまでもなく素晴らしかった。本当に偉大なミュージシャンであり、素晴らしい女性だね。このライブをやるまでは、彼女がこれほど偉大なエンタテイナーとは知らなかった。自分のプレイに関しては、ずいぶん内向的に感じるね。この雰囲気に合わせようとしていると同時に、自分の個性を織り交ぜようとしているね。レコードの音はかなり酷いものだね(笑)。多分これは持っていないんじゃないかな。極めてドライな音だね。彼女の歌だけではなく、ソウルとエレガンスは本当にすごい。改めて彼女の歌声を聴くことができて嬉しいよ。自分のプレイに関しては、これも別人のような気がするよ(笑)

演奏を聴きながらこのコメントを改めて読むと感慨深いものがあります。とても彼の言うような、内向的な演奏には感じませんが、演奏している本人には気になる所なのかも知れません。

5曲目はPattiの長いトークから始まり、「黒人女性がカントリー&ウェスタン音楽なんて歌えないと思ってない?」と言いながらRandy Newmanの77年のヒット曲Rider In The Rainを歌い始めます。後ろで奏でているSpinozzaのカントリー&ウェスタン調のギターが実に良い雰囲気を醸し出しています。

6曲目はレコード未収録のナンバー、78年の映画Greaseのヒットした挿入曲You’re The One That I Want、原曲は映画出演のJohn TravoltaとOlivia Newton-Johnのデュエットで歌われています。

7曲目はPatti自身のナンバーにして代表曲、78年Quincy Jonesの大ヒットアルバム「Sounds…And Stuff Like That!!」に収録されているLove Me By Name。オリジナルではEric Galeがストリングスをバックに良い味を出していますが、ここではMichaelのむせび泣くテナーソロが聴け、フラジオB音の確実なヒットにさすが、と感じてしまいます。

8曲目はJeffrey Osborneが在籍していたバンド、L.T.Dの78年ヒット曲You Fooled Me。こちらもオリジナルのアレンジを踏襲して演奏しています。コーラスやギターとテナーのユニゾン、効果的なパーカッション、メチャイケナンバーです!

9曲目に該当するのはPatti自身によるメンバー全員の丁寧な紹介、楽しげに悪戯っぽくしながらも一人一人に対する尊敬の念、思いやり、愛情をとても感じます。特にMichaelには別格な紹介がなされており、「ここにいるのは本物のMichael Breckerです!どうぞお立ちください!」彼はきっとその時、はにかみながら、椅子から立ち上がって深々と挨拶をしたことでしょう。

10曲目ラストを飾るのは8曲目と同じくL.T.D.の78年ヒット曲Let’s All Live And Give Together、当夜はもうかなりの曲数を歌っているにも関わらず、しかも2nd set最終曲、ここに来てPattiはますます喉の調子が良くなったのでしょう、信じられないほど高い声を確実に、見事にヒットさせています!凄いです!

こうやって見ると本作の収録曲は76年から78年の間にリリースされたヒット曲ばかりで構成されている事になります。そしていずれの曲でもオリジナルの歌よりもPattiのボーカルの方に表現力を強く感じ、ライブレコーディングでありながらも彼女の歌唱力の実力をまざまざと見せつけられました。

2018.04.15 Sun

The Phil Woods Six “Live” From The Showboat

今回はアルトサックス奏者Phil Woods、1976年の2枚組ライブ作品「 The Phil Woods Six “Live” From The Showboat」を取り上げてみましょう。76年11月2日録音 The Sowboat Lounge, Silver Spring, Maryland

as,ss)Phil Woods g)Harry Leahey p)Mike Melillo b)Steve Gilmore ds)Bill Goodwin perc)Alyrio Lima

Disc 1 : 1)A Sleeping’ Bee 2)Rain Dance 3)Bye Bye Baby 4)Django’s Castle 5)Cheek To Cheek 6)Lady J 7)Little Niles  Disc 2 : 1)A Little Peace 2)Brazilian Affair : Prelude~Love Song~Wedding Dance~Joy 3)I’m Late 4)Superwoman 5)High Clouds 6)How’s Mama(Phil’s Theme)

Phil Woods(PW)が当時率いていたレギュラーグループによる、名門ライブハウスThe Showboat Loungeでのライブです。よく練られた選曲と曲順、加えてPW自身によるアレンジが大変素晴らしく、聴き易さの中にもしっかりとジャズの本質を織り込んである構成で、アメリカのエンターテイメントの真髄を感じます。

レコードでも2枚組でリリースされていました。1枚目Side Aのウラ面がSide C、2枚目のオモテ面がSide B、ウラ面がSide Dになっています。2台のターンテーブルを使って順繰りに聴けるような配慮の様ですが、日本では定着しなかったシステムです。

収録曲を見ていく前にPWのバイオグラフィー、活動、この作品に至るまでの流れに触れてみましょう。31年11月2日マサチューセッツ州スプリングフィールドで生まれ、マンハッタン音楽院やジュリアード音楽院で、多くの門下生を輩出したLennie Tristanoに師事し、多大な影響を受けました。PW自身、彼のインタビューを読むとかなり物事をはっきりと、歯に衣着せぬ、時としてシニカルな物言いをしています。「月にロケットを飛ばすくらいの先端技術があるのなら、良いリードくらい作れるだろうに」とは彼のよく知られている発言です。同じアルト奏者でやはりTristano門下生Lee Konitzも毒舌家として知られており、例えばサックス奏者Anthony Braxtonの演奏を聴いた後にインタビューアーに意見を求められ、「こんな酷い演奏は今まで聴いた事がないね」とまで発言しています。僕のイメージとして多くのアルト奏者の物言いにこの傾向があるように感じますが、どうでしょうか。その楽器を演奏しているうちにその楽器奏者特有の性格に変わって行くのかもしれませんし、その楽器を選択する時点で個人の性格が楽器を選択させているのかも知れません。PWは卒業後に自己のバンドでの活動を開始、Quincy JonesやDizzy Gillespie、Benny Golson達と共にワールドツアーに参加しました。多忙な音楽活動を経験し60年代中頃には学生のためのサマーキャンプRamblernyを主宰し、そこからはMichael BreckerやRichie Cole、Rodger Rosenbergなどのサックス奏者が巣立ちました。しかし本国の音楽シーンの状況を憂慮したPW(仕事が無かったわけではありません)、68年にフランスに移住し、p)George Gruntz b)Henri Texier ds)Daniel Humairという欧州を代表するプレーヤーによるリズムセクションを擁したバンドPhil Woods & His European Rythm Machineでの活動を開始しました(合計5作品を発表)。Charlie Parkerの未亡人Chanと結婚する程にParkerを敬愛するPW、いわゆるパーカー派のアルト奏者からの脱却、モーダルでアグレッシヴ、アヴァンギャルドなまでに演奏が変化して行きました。時代のなせる技でしょう、John ColtraneやOrnette Colemanらの台頭が影響していたに違いありません。しかしその後、あれほど吹いた嵐が次第に収まり、PWは4年間の欧州生活にピリオドを打ち72年に帰国することになりました。帰国後74年1月録音、PWの代表作「 Musique Du Bois」では欧州での活動をしっかりと踏まえつつも、ハードバップへの回帰を高らかに宣言しています。

この2年後に本作「The Showboat」の録音に至るわけですが、この間にも更に芸風に変化が生じ、方向性としては尖っていた渡欧期よりもずっと丸さを感じさせ(人間年を取ると誰でも丸くなるものです)、聴衆との融合を図るべく選曲、アレンジ、自身の演奏全てに於いて「お客様あっての演奏」という境地を感じさせるようになりました。

本作の共演者にも触れてみましょう。ベース奏者Steve Gilmore、ドラム奏者Bill GoodwinはPWのレギュラーを長年務め、多くの作品を録音しています。PWの作品に限らずこの2人のリズムセクションで他のミュージシャンの作品にも数多く客演しています。ステディでタイトなビート、スイング感、サポート感には手堅いものがあり、決してでしゃばらず、寄り添い、リーダーの音楽性の中で巧みな盛り上げ方を聴かせる職人タイプの伴奏者です。一方PWの吹く8分音符は強烈にスイングしてビートが明確でこの作品の演奏者中誰よりもリズムが出ており、バンドのリズム、ビートの司令塔的役割を担っていて他のメンバーのソロになると急に勢いが止まったように聴こえます。仮にベーシスト、ドラマーが強力にビートを出すタイプ、音楽をある種の仕切る方向に持って行くタイプのプレイヤーだとするとPWとリズム、演奏、ソロがぶつかり、彼の存在感が希薄になり目立たなくなってしまいます。「とにかく俺の言う事を聞け、お前らはついて来れば良い。俺のやる事を邪魔するような目立つ演奏はするな」と言う楽屋でのPWの共演者に対する要望が聴こえて来そうです(かなり誇張しています〜汗)。本作のピアノ奏者Mike MelilloをはじめPWが雇うピアニストは一貫してどうも納得の行かない人選で、ハーモニー感、コード感が不明瞭、リズム感もいただけません。それはギター奏者にも言えることで、本作Harry Leaheyの演奏も同様にパッとしません。よく言えば無難な共演者、立場的にはPWの引き立て役、自分よりも目立つサウンドのコード楽器プレイヤーは雇いません。PWのラインから明確にコード感、ドミナントモーションも聴こえ、前述のリズムの司令塔的役割と言う事で、極論PW一人でジャズの醍醐味、スイング感を表現する事が可能だからです。リーダーがメンバーを雇うにあたり、良い演奏を共有出来るレベルであることは前提条件ですが、リーダー自身を引き立てるためにソコソコの演奏が出来るプレイヤー(このタイプのミュージシャンは大抵人柄も温厚でリーダーと衝突することはありません)を採用すると言う観点での人選もあり得るのです。

それでは収録曲を見て行きましょう。1曲目Harold ArlenのA Sleepin’ Bee、ギターとルパートの演奏から始まり、その後インテンポでテーマのメロディが演奏されます。なんとブリリアントで艶やか、サブトーンも美しく、コクのある音色でしょうか!この頃のPWのセッティング、楽器本体はFrance Selmer Mark 6の8万番台、この楽器はかのクラシックサックスの巨匠Marcel Muleに選定して貰ったそうです。マウスピースはNew York Meyer 5MM、リガチャーは多分Martin、リードはLa Voz Mediumです。テーマ部分のさりげないアレンジがオシャレです。そしてPWの素晴らしい、スイング感満載のソロ、他の追従を許さない独壇場です。ギター、ピアノソロと続きます。

2曲目はギタリストHarry LeaheyのオリジナルRain Dance、イントロのギター奏の後ろでパーカッションが面白いサウンドを鳴らしています。PWソプラノサックスに持ち替えマイナーブルースのメロディを取っています。テーマ部分では変拍子が用いられていますが、アドリブパートは普通に4拍子で行われています。PWのソプラノはアルトの時よりもOn Topで演奏しています。

3曲目Jule Styneの名曲Bye Bye Baby、ピアノのイントロ後テーマ奏、PWの音色によく合う美しいメロディ、アレンジも実に曲調に相応しいものに仕上がっています。PWやはりアルト演奏の時の方がリズムのノリが素晴らしく、的確なLaid Backを聴かせています。

4曲目ギターのメロディ奏をフィーチャーしたDjango Reinhardtの名曲Django’s Castle、こんな美しい曲を書けるなんてDjango自身もきっとロマンティックなミュージシャンだったのでしょう。PW朗々と美しいソロを聴かせています。

5曲目Irving Berlinの名曲Cheek To Cheek、クラシックのエチュードと見紛うばかりのイントロからルパートのメロディ、一転して4度進行のリフを用いたアレンジ、とってもカッコいいスイングナンバーに仕上がっています。ここでのPWのソロを聴けばこのバンドのビート、リズムの司令塔という意味が良く分かると思います。猛烈にスイングしまくりです!この人ソロのラインが上昇する際、結構グロウする時があります。

6曲目はPWのオリジナルLady J、ボサノヴァのリズムが心地よい美しいナンバーです。この人のサブトーンでのメロディ奏はテナー奏者的なアプローチに聞こえます。PW8分音符がかなりイーヴンに近い吹き方なので、こう言ったリズムの曲ではさらに気持ち良いグルーヴを聴かせてくれます。大ヒットしたBilly JoelのJust The Way You AreでのPWのソロは彼の音色、センス、イメージ、そして何よりリズムのグルーヴが曲想に合致したのだと思います。

7曲目ピアニストRandy WestonのオリジナルLittle Niles、かのMiles Davisも才能を認めただけあってユニークな曲想、この雰囲気を継続させて演奏が展開されます。でもリズムセクションにもっとチャチャを入れて貰いたいと感じるのは僕だけではないと思います。特にドラムにはガツンと行って貰いたいです。

以上がCD1枚目、2枚目の1曲目今度はピアニストMike MelilloのオリジナルA Little Peace。メロディらしいメロディを特に感じない、マイナーの雰囲気一発の曲です。ベースのアルコをフィーチャーし、PW情熱的に歌い上げています。

2曲目はこの作品のハイライト、21′ 32’にも及ぶ組曲Brazilian Affair。ジャズ屋の演奏するラテンやブラジリアンは独特なテイストがあって、僕は嫌いではありません。そしてこの組曲のためにパーカッション奏者Alyrio Limaが参加していると行っても過言ではありません。随所にカラフルなテイストを聴かせています。

3曲目はI’m Late、再びソプラノの登場です。アルト奏者のソプラノはテナー奏者の持ち替えとはまた違ったサウンドを聴かせています。アップテンポのスイングで軽快にソロを聴かせています。

4曲目はStevie WonderのSuperwoman、PWに相応しいチャーミングな曲です。それにしてもドレミファソ〜、ソファミレド〜のピアノ片手だけで弾けるメロディで曲を書いてしまうStevieはさすがです!PWのグルーヴはイーヴンのリズムで更に良さが発揮されるのを再認識しました。

5曲目はHigh Clouds、イケイケのサンバのリズムはコンサートのラストに相応しいチョイスです。PWのソロ、ここぞとばかりにハイスピードで吹きまくっています!Scrapple From The Appleのメロディが引用されています。やっぱりダジャレも言いたいんですね。

6曲目はコンサートのクロージングテーマでHow’s Your Mama(Phil’s Theme)、こういうハッピーな曲想はPWのサウンドによく合っています。

2018.04.11 Wed

Stan Getz Quartet At Birdland 1961

今回はStan Getzのエアチェック録音をCD化した作品「Stan Getz Quartet At Birdland 1961」を取り上げてみましょう。

1961年11月11, 18日(#5~9)録音 Birdland, NYC.  Fresh Sound Records, Spain 2012年リリース

ts)Stan Getz p)Steve Kuhn b)Jimmy Garrison ds)Roy Haynes mc)Symphony Sid Torin

1) Airegin 2)Wildwood 3)Where Do You Go? 4)Autumn Leaves 5)Jordu 6)Where The Sun Comes Out 7)Yesterday’s Gardenias 8)Woody’n You 9)Jumpin’ With Symphony Sid

Getz絶好調、共演者の人選、演奏も素晴らしく、選曲もジャズファンを納得させるライブ盤です!58年頃から60年末までの欧州滞在を終えて帰国後音色やフレージングもたくましく成長し、翌62年から始まるBossa Novaへの参入の直前(実際は61年中に既にギタリストCharlie Byrdとのコラボレーションで「Jazz Samba」制作に向けてトライし初めていたようですが)、ジャズのスインガーとしての本領発揮時期です。当時のAMラジオのエアチェック録音にも関わらず、24 bit digital remasterで的確に音響処理され、かなりの音質、バランス、セパレーションにまで向上しています。昔のエアチェック録音をレコード、CD化したものの殆どは耳を凝らし、平面的でこもった音の塊の奥の方から、その演奏自体を引っ張り出すかのように抽出して聴く感じでした。本作のクオリティは技術の進歩か、エンジニアのセンス、腕前でしょうか、それら全てのなせる技なのかも知れません。digital remasterとは例えて言うならば音を平面的に捉え、不要な部分を消しゴムで消すように消去もしくは濃さを薄くし、逆に必要な部分の色彩を色濃く加筆したり色自体を変えたり、陰影部分を配置する作業です。エンジニアはその対象となる音楽の詳細、内容を技術的よりも音楽的、芸術的に把握しておく必要があり、手腕が問われる作業です。ディストリビュートしたスペインのFresh Sound Recordsは他にも未発表録音や長らく廃盤になっている作品を数多く再発し、またヨーロッパ、アメリカの若手ミュージシャンの新録音も積極的に制作している意欲的なレコード会社です。CDジャケットも本作は異なりますが、多くの作品にはデジパック(厚紙の台紙にプラスティック製のトレーを張り合わせた仕様)を採用し、昔のレコードジャケット風レトロ感、高級感を出しており、さらにジャズだけではなくオールディーズ・ポップスやロックの名盤の再発をも手がけているので、音楽全般に対する愛情、情熱、敬意を感じます。

当時おそらく週一度Birdlandからのライブをラジオで生放送していたのでしょう、録音が2週に分かれていて各々ほぼ30分づつの演奏時間になっています(当然30分番組だった事でしょう)。他にもたくさんの演奏が残されていると思いますが、61年のNYCでのライブ演奏ならば間違いなく宝の山、リリースを望みます。

Steve KuhnとGetzはこの頃よく共演しており、この作品の僅か4ヶ月前61年7月6日に交通事故で夭折したベーシストScott LaFaroを迎えた録音もあります。前年60年にはJohn Coltraneと同じNYCのJazz Gallaryで共演を果たし音楽的成長を感じさせる時期でのGetzとの共演です。Roy Haynesもこの後レギュラー・ドラマーとして何度かギグに迎えられる事になり、コンサートではGetzも敬意を払った紹介をHaynesにしています。Jimmy GarrisonはここでもOn Topの素晴らしいビートを聴かせており、短期間LaFaroの後釜を務めますがこの直後Coltraneカルテットのレギュラーに迎えられる事になります。Getz自身も楽器をSelmer Super Balanced ActionからMark 6に替え、マウスピースもOttoLink Slantにしています。音色が太く逞しくなったのは彼の奏法が一層洗練され、渡欧での経験を踏まえ音楽に対するイメージが変化した事と、更にハードウエアの変更に起因すると考えています。

 

それでは収録曲を見て行きましょう。1曲目Sonny Rollinsの名曲Airegin、ご存知Nigeriaの綴りを逆にしたタイトル、バンド用語ですね。フェードインして演奏が始まるのは司会のSymphony Sidのオープニングmcが入っていてそれを消去したためでしょう。この頃Getzがレパートリーとして度々取り上げていましたが、ここでの演奏が実に素晴らしいのです!61年の演奏とは思えないほどのフレージング、テンションの用い方、アイデア、スピード感、コンパクトなサイズの中に起承転結、意外性、またGetzのソロの前半のアグレッシヴな部分で一切バッキングを行わないKuhnの美学、これはColtraneとの共演から学び取ったに違いありません。ピアノソロ後のドラムとのバースにもGetzのクリエイティヴさは損なわれず、Haynesとの絶妙なやり取り、それにしてもここでの演奏内容のコンテンポラリー性は、数年後の世界からタイムマシンで時代を遡ったGetz自身が演奏しているかの如き閃きを聴かせています。

2曲目はアルト奏者Gigi GryceのナンバーWildwood。Art Farmerの「Work Of Art 」に収録されています。前曲とは一転してリラックスした演奏に終始しており、Getzの音色、メロディの吹き方も随分と異なります。

 

3曲目はAlec Wilder作のWhere Do You Go?、Getzはこういったミステリアスなムードを湛えたバラードを良く取り上げます。

4曲目はお馴染みAutumn Leaves、枯葉ですがGetzはいつもこの曲を原曲とは異なるCマイナーで演奏しています。ソロの先発のKuhnはいつもよりBill Evansのテイストを感じさせるスタイルで演奏しています。続くGetzは1曲目の好調さが引き続いている、61年らしからぬ数年後の近未来のテイストで演奏を行なっています。

以上が61年11月11金曜日のテイク、5曲目から1週間後の18日のテイクになります。番組のオープニングを飾るべくSidのmcが入り演奏が始まります。5曲目Duke JordanのJordu、こちらもバンド用語タイトルですね。Horace SilverのEcarohも同じセンスの曲名です。マイナーの曲調中、サビに7thコードの4度進行が用いられていますが、難易度の高いチェンジにも関わらずGetzはさすが巧みなアプローチを聴かせています。ベースソロの後ろでシンコペーションのリフをGetzが吹き、その後ドラムとのバースが始まりますが、かなりHaynesのドラミングのフレージングにインスパイアされているのではないかと推測され、斬新なアプローチが聴かれます。

6曲目Getz自身の曲紹介によるHarold ArlenのWhen The Sun Comes Out、こちらも3曲目のバラードに通じるテイストを感じさせます。いつもながらGetzのダイナミクスの素晴らしさに感銘を受けます。

7曲目Yesterday’s Gardenias、前曲の雰囲気を一掃する明るい曲調のミディアムスイングです。

8曲目Dizzy Gillespieの名曲、Woody’n Youは「Woodyと貴方」ですがWoodyとはクラリネットの名手にしてビッグバンドのリーダー、Woody Hermanの事だそうです。貴方とは誰の事なのかは判りません。この曲も当時のGetzのオハコの一曲です。難しいマイナー7th ♭5thのコード進行の処理の仕方が実に的確です。ここでは通常よりも早めのテンポで演奏され、毎度ながらいつもと違った語り口で見事にソロを展開させています。

9曲目はLester Youngの書いた、当夜の司会 Symphony Sidに捧げられたブルース・ナンバーJumping’ With Symphony Sid、Lester本人のバージョンよりも幾分早めに演奏されています。フィナーレにふさわしくGetz吹きまくっています!演奏はまだまだ続いたようですが放送時間の関係でアナウンスが入り、カットアウト?フェードアウト?で終了です。

2018.04.09 Mon

Richard Tee / Strokin’

今回はピアニストRichard Teeの初リーダー作「Strokin’」を見て行きましょう。1978年NYC録音  Tappan Zee Records

1)First Love 2)Every Day 3)Strokin’ 4)I Wanted It Too 5)Virginia Sunday 6)Jesus Children Of America 7)Take The “A” Train

The ”Guys”  key,vo)Richard Tee g)Eric Gale b)Chuck Rainey ds)Steve Gadd per)Ralph MacDonald harmonica)Hugh McCracken ts)Michael Brecker ts,lyricon)Tom Scott 

何とゴージャスな音楽でしょう!素晴らしいリズム、ビート、芳醇なサウンド、アメリカの黒人がのみ成し得るグルーヴです!と言ってもいきなり参加ドラムスのSteve Gaddがユダヤ系白人ですが(汗)、TeeとGaddの抜群のコンビネーションはStuff、Gadd Gangなどのバンド共演で生涯継続していました。Gaddのグルーヴには肌の色は関係ありませんね。

Teeはニューヨーク州ブロンクスで生まれ育ち、教会音楽の洗礼を受け、子供の頃からの尊敬するアーティストがRay Charles、ピアノ奏者としてMotown Labelでの仕事を多数経験していると来れば表現するべき音楽の方向性はおのずと定まります。ピアノをこんな美しく煌びやかに鳴らせて、思わず腰が椅子から離れてリズムに合わせてしまうようなグルーヴ感の持ち主は他にはいません。どっしりしていてスピード感があるのです。そしてピアノソロ演奏も素晴らしいですが、バッキングのフィルインのテイストが半端なくカッコいいののです!初リーダー作Strokin’はTeeにとって満を持してのリリースになりました。この作品を含めTeeは生涯に5枚のリーダー作を発表しています。彼の膨大なレコーディングの量にしては少ないかも知れませんが、自分が前に出てリーダーを取るよりも、主体を映えさせるために演奏するサイドマン気質が強い脇役タイプのミュージシャンだと思います。水戸黄門の助さん格さんですね(笑)。Teeの生演奏を初めて聴いたのは78年のNew York All Stars、東京芝郵便貯金ホールのステージです。ホール鑑賞という、条件としては決して良く無い音響なのですが、ピアノの音がよく鳴り響いていたのを覚えています。前回のBlog「Zappa In New York」の時に抜粋、引用したMichael Breckerの雑誌Jazz Lifeへのコメント、このアルバムの表題曲Strokin’での彼のソロを聴かせ、やはりコメントを貰っていますがこれが実に端的にTeeの音楽性、人柄について発言していますので、今回も抜粋し注釈を加えて掲載したいと思います。

ー次は、リチャード・ティー(key)の「ストローキン」です。

〜曲をプレイ〜

MB:リチャードは教会でゴスペルをやっていただけあって、とてもファンキーなアプローチをとっているけど、それを彼は別の次元まで昇華させてしまっているんだ。あまりにも強烈なスタイルを持っていて誰にも真似をすることなどできないよ。(レコーディングに誘われ)彼が私とプレイしたいと思っていたことは、とても驚きであったと同時に、心から嬉しかったんだ。それは当時の私にはファンキーな部分が足りないと思っていたからさ。でも、彼が私とプレイしたいという気持ちを表現してくれたことによって、とても救われた気がしたね。この曲に関してのソロはとても気に入っている。こうやって聴く限り、リリカルかつ濃密なプレイをしようとしていたように思えるんだ。グルーヴの中にいるんだけど、完全にノってしまうのではない、という感じかな。いろいろな要素をブチ込んで成功したいい例だね。これらの曲はどれを聴いても驚きの連続だよ。というのはこの頃の私の考え方と今とでは完全に変わってしまっているからさ。ほとんど別人のようさ。

リチャードとは、いろいろなツアーに一緒に参加したんだ。ニューヨーク・オールスターズの時には一緒に来日している。あれは78年だったかな?その後、ポール・サイモン(vo,g)のツアーで1年半ほど一緒に過ごしたんだけど、その間に病気で倒れてしまったんだ。リチャードとの活動はすべて素晴らしい思い出だ。彼がツアーで使うために、初めてシンセサイザーを買った時のことを憶えているよ。ホテルの彼の部屋に行って、シーケンサー部分の使い方を教えたことがあるんだ。クォンタイズの設定なんだけど、(教えようとしたら)その時彼は私を変人を見るような目つきで見ていたよ(笑)。(何でオレにそんな機能が必要なんだよってね)でもこれまで会ってきたミュージシャンの中で彼だけだよ、その機能がまったく必要なかったのは。彼のリズム感は本当に正確だったからね。ドラム・トラックなんかでもね。もちろん私のプレイはすべてクォンタイズしているよ。そのままではあまりにもヒドいからね(笑)。

「絶対音感」があるのなら「絶対リズム」もありそうですね。Teeにはきっと備わっていたのでしょう。リズム・クォンタイズに関するMichael流ジョーク混じりの謙遜は実に可笑しく、彼らしさが出ています。

それでは曲毎に見て行きましょう。1曲目はChuck RaineyのオリジナルFirst Love。Teeのピアノのメロディに絡むストリングスが気持ち良いです。GaddのドラムとRalph MacDonaldのカウベルやタンバリンが重なり合い、絶妙なリズムを繰り出しています。Eric Galeのギター・カッティングが隠し味的に効いています。Tom Scottのテナーソロも曲想にマッチした語り口を披露しています。恐らくクリックを使わずに演奏していると思われますが、たっぷりどっしりとした安定感がハンパないです。

2曲目はTeeのオリジナルEvery Day。イントロのアルペジオを聴いただけでグッときてしまいます。ここではTeeのボーカルがフィーチャーされています。Galeのソロは音数少なめながら説得力のあるフレージングに仕上がっています。

3曲目表題曲Strokin’、前述のMichaelのコメントに補足する形で述べましょう。Teeの煌びやかなピアノ奏があくまでメインですが、曲自体同じモチーフを繰り返し徐々に盛り上がっていくドラマチックな構成に仕立てられ、後半のMichaelのソロ登場に至るまで、まだか、そろそろか、とワクワクしながら聴いてしまいます。Teeのピアノの合間に聴かれるストリングスが高揚感を煽り、一層ソロが楽しみになる仕組みです。それにしてもこの人のピアノは何でこんなに個性的な素晴らしい音がするのでしょう?そしてそして、いよいよGaddのフィルインに導かれてMichaelのソロが始まります!いきなりフラジオのG音、全音下のF音を引っ掛けて吹いていますが強烈なインパクト!!カッコイイ〜!端々にKing Curtisのフレージングの影響を感じますが、そこはMichaelの歌いっぷりで自分のものにしています。実は何度かソロを重ね、オイシイところを切り取り、レコーディング技術を用いてパッチワークのように貼り合わせたソロなのですが、そんな舞台裏事情は全くどうでも良い次元のハイクオリティーな演奏です。78年録音ですのでもちろん楽器はSelmer Mark6、6万7千番台、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、エッジーでコクのある音色です。この頃のMichaelはリズムがOn Top気味で演奏する時がありましたが、ここでは意識してか、否か結構On Topで吹いています。思わずクォンタイズしたくなってしまいます(笑)

以上がレコードのSide Aです。4曲目はMacDonaldのオリジナルI Wanted It Too、Scottのlyricon(うわっ、懐かしい!)Hugh McCrackenのハーモニカをフィーチャーしています。バックで鳴っているホーン・セクションはtp)Jon Faddis, Randy Brecker ts)Michael Brecker tb)Barry Rogersです。NYのスタジオ第一線らしいキレのあるセクション・ワークを聴かせています。

5曲目はTeeの蕩けるほどに美しいナンバーVirginia Sunday、Fernder Rhodesでメロディ、ソロ共に演奏しています。こちらの音色と曲想が良くマッチしています。先ほどのホーン・セクションにバリトンサックスでSeldon Powellが加わっています。良く鳴っていてセクションのサウンドをタイトに分厚くしています。Scottが再びlyriconでソロを取っておりアナログ・シンセサイザーの音らしく太い良い音色です。現代に於いてもはや使う人はいませんが。この曲はNew York All Starsでも取り上げられていました。そちらのRandy, MichaelにDavid Sanbornが加わった3管でのバージョンもとても素敵です。この曲を聴いていてVirginiaの日曜日はさぞかし優雅でメロウなのだろうな、と想像してしまいます。

6曲目はMotown仲間(?)Stevie WonderのオリジナルJesus Children Of America。前曲のホーン・セクションにさらにストリングスも加わり分厚く豪華なサウンドを聴くことが出来ます。Fender Rhodesにエフェクターを施したサウンドでTeeはソロを取っています。バックに生ピアノのバッキングも聴かれるので後からオーバーダビングしたものとなります。続くGaleのソロも味わいのある音色でFender Rhodesのエフェクター音と対になっています。

7曲目、レコードのラストを飾るのはTeeとGaddのDuetによるBill Strayhornの名曲Take The “A” Train。メチャクチャかっこいいです!グルーヴ、サウンド共に双生児のような2人です。ベースや他の楽器は全く不要です。この2人だけで幾らでも、延々と演奏する事が出来るでしょう。ソウルブラザーに乾杯!

余談ですが今から20数年前に演奏で名古屋に行った時の事です。街中にある鰻の老舗に昼間、名物ひつまぶしを食べに行きました。4人掛けのテーブルに僕が一人で座っていたところ、昼時で店が混雑してきたので従業員が相席をお願いします、という事で前に座ったのが黒人二人連れ。両名とも見たことのある顔なので確認したところRichard TeeとドラムのBuddy Williamsじゃあありませんか!もちろん初対面なので自己紹介をして「ところで何で名古屋に来ているの?」尋ねると新しく開店したライブハウスのこけら落としでの演奏、Cornell Dupreeのバンドでの来日でした。「Strokin’」やWilliamsの参加作の話などをしていると二人はひつまぶしを二人前づつ頼んでいます。結構な量のはずなので「二人前づつ食べるんだね」と聞くと「Yes, we love eel!!」と笑いながら答えてくれました。気さくな二人の人柄に触れられたのと同時に、素晴らしい演奏家は食欲も素晴らしいのだと実感しました。

2018.04.05 Thu

Frank Zappa / Zappa In New York

今回はギタリスト、コンポーザーFrank Zappaの傑作「Zappa In New York」を取り上げてみましょう。

1976年12月The Palladium In New York Cityにてライブ録音。翌77年UK発売、78年USA発売。cond,prod,g,vo,)Frank Zappa g,vo)Ray White key,violin,vo)Eddie Jobson b,vo)Patrick O’Hearn ds,vo)Terry Bozzio perc,synth)Ruth Underwood as,fl)Lou Marini ts,fl)Mike Brecker bs,cl)Ronnie Cuber tp)Randy Brecker tb,tp,piccolo)Tom Malone narr)Don Pardo timpani,vibes)David Samuels per-overdub)John Bergano per-overdub)Ed Mann osmotic harp-overdub)Lou Anne Neill

Disc 1  1)Titties & Beer 2)Crusi’n For Burgers 3)I Promise To Come In Your Mouth 4)Punky’s Whip 5)Honey, Don’t You Want A Man Like Me? 6)The Illinois Enema Bandit

Disc 2  1)I’m The Slime 2)Pound For A Brown 3)Manx Needs Women 4)The Black Page Drum Solo/Black Page#1 5)Big Leg Emma 6)Sofa 7)Black Page#2 8)The Torture Never Stop 9)Purple Lagoon/Approximate

発売当時レコード2枚組でリリースされました。後年やはり2枚組でCD化された際には未発表曲が5曲追加され、曲順も変更されています。ここではCDバージョンで見ていきましょう。

そのまんまの表現です恐縮ですが、笑っちゃうくらいに物凄い音楽です!!カテゴリーとしてはロックの範疇に入るのでしょうか、門外漢なので分からないのですが一大ロック叙情詩、ロックンロール、メタル、プログレ、オペラ、コメディ、ジャズ、フュージョンと様々なテイストを包括した壮大な音楽です。大胆にして繊細、コミカルでいてシリアス、超絶技巧の演奏が実に平然と当たり前のように行われています。The Palladiumのステージには13人が上がり、オーケストラ然としてZappaが指揮棒を振りつつギターを弾き、喋り、歌っています。パーカッションで更に3人がオーバーダビングに加わり、総勢16名がレコーディングに参加しています。Moogシンセサイザーの音色が時代を感じさせる以外は現代の感覚でも実に斬新な音楽です。全曲Zappaのオリジナル、アレンジ、非常に難解なスコアを、ライブにも関わらず全く正確無比にトークやコメディ、寸劇を交えながら難なく緻密に演奏するそのヒップさが堪りません!(実際は綿密なリハーサルを何回も重ねているに違いないのでしょうが)参加メンバーのMichael、Randy のBrecker Brothers(BB)、ドラムスTerry Bozzioの参加に惹かれて友人にダビングして貰った事から聴き始めました。彼らのそこでの出会い、BBの傑作「 Heavy Metal Be-Bop」は Zappa In New Yorkでの共演無くしては誕生しませんでした。

以前雑誌Jazz Lifeに僕はよく原稿を書かせて貰っていました。Michael Breckerにも新作のリリースや来日の際、本当によくインタビューをさせて貰いましたが、その回数の多さからネタ切れ感もあり(笑)「今までに彼がレコーディングしたソロの名演を聴かせてそのコメントを貰う」という企画を編集部に提案したところ、有難い事に制作会議を通り、2回もやらせて貰えました。素直な人柄のMichaelさん、自分の演奏を聴いた印象を包み隠さず何でもお話ししてくれましたし、レコーディングに纏わる話、ウラ話等実によく覚えているのには驚きました(こちらにもきっと面白い逸話を話してくれるに違いないという目論見もありましたが)。でもやったこと自体を全く覚えていないNeil Larsenの作品「Jungle Fever」収録Last Tango In Parisの自分の演奏を「ずいぶんと派手なソロだね」と他人事のように話すのには大笑いしました。

その1回目のインタビュー、10曲ほど聴かせた中に本作収録曲Sofaのコメントがありますので抜粋して掲載したいと思います。

ーあと2曲になりました。こちらはフランク・ザッパ(g,vo)の「ソファ」です。

〜曲をプレイ〜

MB:これはプレイした時以来に聴いたよ。このアルバムのことはいつも人に聞かれていて、聞かないといけないと思っていたんだけど、なかなかチャンスがなかったんだ。やっとみんなが言っている意味がわかったよ。国歌のような感じだね、金星あたりの(笑)。フランクのプレイはとにかく素晴らしい。彼は一緒に作業をしていても、本当に面白い存在だったね。彼自身はジャズのバックグラウンドを持っていないから、ジャズ・ミュージシャンにとても敬意を持っていてくれたね。ステージではふざけていたけど、作曲やプレイに関しては本当にシリアスだったんだ。それだけに共演するミュージシャンには正確さを強く要求した。ロニー・キューバ(bs)のプレイも素晴らしいね。いいレコードだ。今度買いに行かなきゃ(笑)。

ーこれはライブ録音ですよね?

MB:そうそう、NY14番街にあるパラディアムでやったライブだよね。たしかハロウィンの頃だったね(実際はクリスマスの頃)。たしか4晩連続でプレイして、「ブラック・ページ」のような極めて複雑な曲をやったんだ。この後に、フランクが私に「サックスとオーケストラの曲を書いたから吹いてほしい」と、オーストリアに誘われたのを覚えている。結局、私はいけなかったんだけどね。彼のステージには30メートル近いバックドロップが吊られていて、そこに大きく「くたばっちまえ、ワーナー・ブラザーズ!」と書いて合った。それが4晩ずっとあったんだ(笑)(注:しかもこのアルバムはワーナー・ブラザーズから発売された)。そして、この時、私と兄のランディは初めてテリー・ボジオ(ds)に会ったんだ。彼のプレイに惚れ込んでしまい、私達のバンドに誘って「マイ・ファーザース・プレイス」というクラブで録ったライヴがアルバム「ヘヴィ・メタル・ビ・バップ」として発売されたんだ。そう考えると興味深い1 枚だね。

実に的確で素晴らしいMichaelのコメントです。この時彼はゆっくりと、その場に相応しい言葉を選びながら発言していました。ジャズ・ミュージシャンに敬意を払うZappaの繊細さ、ふざけていながらも音楽的要求には厳しいシリアスさ、ロックミュージシャンらしいユーモアのセンス、そして誘われたオーストリアの仕事はMichaelの代わりに誰が演奏しに行ったのかにも興味が尽きません。Heavy Metal Be-Bopが録音されるにまで至るプロセスも垣間見る事が出来、インタビューアー、聞き手がどんな事を望んでいるのかをしっかり把握しつつの物言いです。

それでは曲ごとに見て行きましょう。1曲目Titties & Beer、マスクを被り悪魔に扮したBozzioとZappaのトーク、寸劇のためのナンバーです。アドリブの会話も含め、実にシリアスな妄想の世界を演じ聴かせています。ジャズのコンサートでは考えられないような内容のトーク、危なくて猥雑で下世話でメチャメチャですが、とっても大好きです!

2曲目インストによるナンバーCrusin’ For Burgers、前曲から間を置かず演奏されます。それにしてもこれは一体何という音楽でしょうか?人を喰ったようなメロディライン、暴れまくるBozzioのドラミング、延々と続くZappaのメタルギターソロ、Edward Van Halenを彷彿とさせます。マリアッチのリズム、雑多ではありますがZappa流の統一感の美学を感じさせます。

3曲目I Promise Not To Come In Your Mouth、叙情的で繊細なZappaの一面を見ることが出来る演奏です。

4曲目はSophisticated NarrationとクレジットされたDon Pardoによるナレーションから始まるPunky’s Whips。劇伴っぽいサウンドですが細部の構成に拘ったアレンジが聴かれます。何と言ってもメンバーの演奏のクオリティが高いのでしっかりと耳に入ってくる演奏です。Bozzioクレイジーさ、ヤバイです!

5曲目Honey, Don’t You Want A Man Like Me?はZappaのボーカルをフィーチャーしたラブソング、屈折した愛を語るのに相応しいバンドのアレンジが施されています。

6曲目は再びDon Pardoナレーションの登場によるThe Illinois Enema Bandit、この人の語りは全てを正当化してしまう説得力に満ちています(笑)。実話に基づいた強盗の事件を想像を加味しストーリーに仕立てています。リードボーカルはRay White、しかしこいつらは何でこんなにマジにこのネタで演奏出来るのでしょうか?

Disc 2  1曲目I’m A Slime、ホーンセクションのラインが印象的です。Zappaのトークに絡むDon Pardoのナレーション、Zappaのギターソロ、継続的に演奏されるホーンセクションのエグさ、Ronnie Cuberの音がかなり大きく、Michaelはフルートで参加しているようです。

曲続きで2曲目Pound For A Brown、インストによる演奏は8分の7拍子が基本となったプログレ系の曲です。Bozzioのフィルインは変拍子をものともせず本領発揮です。Michaelのテナーの音が良く聴こえるフリーキーなホーンセクションの合奏の後の3曲目Manx Needs Women、この頃から楽器を6万7千番台のSelmer Mark6、マウスピースをEddie Danielsから譲り受けたDouble Ring6番で演奏しており、真新しいラッカーの剥げていないテナーを吹く彼の写真がライナーに掲載されています。そして!そろそろZappa超絶技巧アンサンブルの登場の時間です!4曲目、5曲目のThe Black Page Drum Solo/ Black Page#1の前哨戦、ホーンセクションも大活躍です!The Black Page Drum Soloの打楽器アンサンブルの猛烈な合い具合の凄さから、続くBlack Page#1のアンサンブルは本作の白眉です!ここで聴かれる演奏は人間が織りなす合奏の極致のひとつと言って全く過言ではありません!この曲を大編成で、しかもライブでやろうと言うZappaの精神構造が知れません(汗)。それにしてもこれは多くの人に聴いて貰いたい音楽史上に残る名演奏です!!

5曲目は一転してファンキーでダンサブルなナンバー、Big Leg Emma。

6曲目は前述のSofa、Michaelがいつに無いエグいニュアンスでメロディを演奏しています。

7曲目はZappa自身の解説付きBlack Page#2、#1が難解バージョンだったのに対しこちらはニューヨークのティーネージャー向け簡単バージョンだそうです。僕には全くそのようには聴こえないのですが(汗)。総勢16名のミュージシャンによる信じられないレベルでの超絶合奏!改めてこの演奏を聴いて、音楽って何て奥が深く、自分が拘っている事が何てちっぽけなんだろう、と思い知らされるくらい物凄い演奏です!!

8曲目The Torture Never Stopsの歌詞の内容はZappaの社会や歴史、世の中に対する負の行いへの抗議のメッセージが込められています。

9曲目ラストを飾るのはThe Purple Lagoon/Approximate。これまた凄いラインから成るインストナンバー。ソロの先発はずっとアンサンブルで温存されていたアドリブ・プレーヤー魂を全開にしているMichael、ここでのBozzioとのやり取りは既にHeavy Metal Be-Bopでの演奏を十分に感じさせます。続くソロはZappaのギター、この人の演奏を聴くたびにロックとジャズギターの語法、ライン、タイムの違いは決定的なのだと感じます。Cubarのバリトンソロ、ベースPatrick O’Hearn、Randyのコーラスをかけたトランペットソロ。Bozzioはジャズミュージシャンと対等に演奏出来るジャズスピリットを持ち合わせていますが、本作他のリズムセクション・メンバーに感じることは出来ません。この演奏の映像が残されていたらさぞかし秀逸なのだろうと思います。

2018.03.30 Fri

Stan Getz / Sweet Rain

今回はStan Getzの67年作品、Sweet Rainを取り上げてみましょう。1967年3月21日、30日録音、同年7月リリース。  Studio:Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey  Recording Engineer:Rudy Van Gelder  Producer:Creed Taylor

ts)Stan Getz p)Chick Corea b)Ron Carter ds)Grady Tate   1)Litha(Chick Corea) 2)O Grande Amor(Antonio Carls Jobim) 3)Sweet Rain(Mike Gibbs) 4)Con Alma(Dizzy Gillespie) 5)Windows(Corea)

メンバー良し、演奏良し、選曲良しと三拍子揃った名盤で、学生の頃からよく聴いています。多くの名盤には名録音も付き物なのですが、レコーディング・エンジニアがかのRudy Van Gelder(RVG)にも関わらず、いつもの彼らしいクリアネス、臨場感、サウンドの主張をここではあまり感じず、どちらかと言えば今ひとつピンとこない、音の抜けないこもったサウンド、そしてザラザラした質感の音質です。崇高なまでに素晴らしい演奏と、あたかも一枚ベールを被ったような録音のクオリティとが合わさり、むしろこの作品の印象をミステリアスなものに仕立てています。ですので昔から僕はSweet Rainを聴く度にこの作品の秘密を解き明かす感じで対峙しています。

この作品のディストリビュートはVerve Label、創設者のNorman Granz自身に寄るプロデュース作品が多かったのですが、この頃から後に名盤を数多くリリースしたレコード会社CTI(Creed Taylor Issue,  Creed Taylor Incorporated)の創設者Creed Taylorがプロデュースを担当しました。TaylorはVerveでの幾多の経験を生かしてCTIを創設したと言えるでしょう。そして録音はRVGが行うというパッケージになっており、良い録音で作品を聴いて頂こうというTaylorのこだわりが名匠RVGの起用を促しています。GrantzよりもTaylorはよりポピュラリティのある作品のプロデュースを心掛けており、ジャズの様な素晴らしい音楽〜反面難しい、取っ付きにくいという垣根を取り払うべく、様々な工夫を作品毎に施して聴衆にアピールしていた様に認識しています。実際CTIのカタログにはクロスオーバー〜フュージョンの作品が多いのは当然の成り行きでしょう。

ところでGetzは共演するリズムセクションの人選にかなりこだわりがあるように感じます。ミュージシャン、特にフロント楽器がリーダーともなれば当然の事ですが、その当時の精鋭プレイヤーを雇い、自分のカルテットのメンバーとして育て、特にピアニスト(Vibraphone奏者Gary Burtonが在籍した時期もあります)の楽曲を積極的に取り上げてバンドのレパートリーにしていました。本作に参加しているChick Coreaのオリジナル・ナンバーLitha、Windowsはエバーグリーンの名曲です。でも決して長きに渡り共演せず、せいぜい2~3年程度、そのミュージシャンの美味しいところを堪能出来たらまた別なミュージシャンを見つけて採用するというスタンスで共演していました。そのGetzにしては珍しく自分のバンドの出戻り(?)ピアニスト、Chick Coreaのオリジナルを殆ど全曲演奏したのが「Captain Marvel」。この作品単体でBlogに取り上げたいほどの名作です。1972年3月3日NYC録音 74年リリース  Columbia Label

とても素敵なセンスのジャケットです!収録6曲中Billy StrayhornバラードのLush Life以外は5曲全てChickのオリジナル、メンバーもChick、Getzの他にb)Stanley Clarke、ds)Tony Williams、pec)Airto Moreira。この作品のライブ盤が同年Montreux Jazz Festivalにて録音の「Stan Getz At Montreux」77年リリース、DVDでも見る事が出来ます。Polydor Label

これらのセッションはChickの72年傑作「Return To Forever」1972年2月2, 3日 録音NYC、のメンバーにTonyを加えたメンバー構成で、Return To Forever A La Getzとも言うべきバージョンです。ECM Label

Return To Foreverの僅か1ヶ月後にCaptain Marvelは録音されているのですが、リリースは74年、録音してから2年経過してからの発売には何か意図があったのか、たまたまなのか、Return To Foreverの大ヒットが落ち着いてからのリリースを考えたのか、謎解きをするのも面白いです。

それではSweet Rainの収録曲を見て行きましょう。1曲目Chickの作品Litha、8分の6拍子のリズムとアップテンポのスイングからなるカッコいいナンバー、初期のChickの傑作曲です。8分の6拍子の1拍=8分音符が3つを1拍と捉えて倍のスイングで演奏する、タイムモジュレーションの走りです。ここでのGrady Tateのドラミングが実に素晴らしい!8分の6拍子での軽快さ、そして更にアップテンポのスイングになった時、ほんの少しOn Topで叩くシンバル・レガート、これによりリズムのフィギュアが変わった感が半端ないのです!Getzの演奏で他バージョンのLithaの演奏で比較して見ましょう。「Stan Getz My Foolish Heart “Live” At The Left Bank」

75年5月20日Maryland TheFamous Ballroom Baltimoreにてライブ録音、 2000年リリース Label M

p)Richie Beirach b)Dave Holland ds)Jack DeJohnette

豪華なリズムセクションとの演奏です。因みにこのリズムセクションとDave Liebmanの共演が以前取り上げたことのあるLiebmanのリーダー作「First Visit」です。

このCDが発売された時にワクワクしながら購入した覚えがあります。 GetzのLithaの演奏をこのリズム隊で聴く事が出来るなんて!でも結論を先に言うと、ドラミングに関してSweet Rainでの演奏の方に軍配が上がります。

DeJohnetteのアップテンポのスイングが僕にはどうにも遅く聴こえるのです。メトロノーム的には全く正確に倍のスイングになっているのですが、TateのドラミングのようなOn Top感が無いので重い、スピード感の希薄なスイングになっています(とは言っても物凄い演奏ですが)。

ドラマーが代わりVinnie Colaiutaでの演奏にも同じ傾向があります。こちらはChick自身の演奏、93年1月3日 Blue Note NY、Chick Corea Quintet <b)John Patitucci ds)Vinnie Colaiuta ts)Bob Berg tp)Wallace Rooney> https://www.youtube.com/watch?v=cCa7SqwUgws(クリックすると演奏を聴く事が出来ます)。

ここでのColaiutaのドラミングはDeJohnetteよりも幾分On Topですが、Tateに比べるとまだ遅いです。Tateのドラミング・スタイルは黒人ドラマーとしてRoy Haynes〜Ben Rileyの流れを汲み、Frederick WaitsやVictor Lewis等に繋がって行きます。またGrady Tateのボーカルが素晴らしいのを皆さんご存知でしょうか?豊かなバリトンボイスを生かしたゴージャスな唄はドラミングと同等に、時としてそれを上回るほどです!Tateの74年リーダー作「Movie’ Day」、こちらは全曲ドラムを叩かず、ボーカリストとしての彼をフィーチャーした作品です。収録曲Van Morrisonの名曲Moon Dance、堪らない歌声です!

Lithaの演奏にはもう1つ特記すべき点があります。8分の6拍子とアップテンポ・スイングが交互に入れ替わるこの曲、先発のGetzのソロ時には殆ど問題がなく合計4コーラス演奏されますが、Chickのソロの時にベースとドラムが曲の進行の探り合いを始めたのです。ピアノソロの1コーラス目、8分の6拍子からアップテンポ・スイングに移る際、ベースが1人先に行かず8小節してからアップテンポ・スイングになりました。ここからが2人の疑心暗鬼の始まりです。ソロの出鼻を挫かれたChick、しかし2コーラス目はベース、ドラム2人が持ち直したのでアドリブにエンジンが掛かり始めました。ところが3コーラス目に入った途端ドラムが8分の6拍子に一瞬戻らず、でもすかさず察知して態勢を立て直し8分の6拍子に戻りますが、その余波のためか何とベース、ドラム今度は2人して同時に8小節早くアップテンポ・スイングに移行してしまいました!コード進行も違うぞ!Chickは可哀想にバックの様子を伺いながらのソロプレイ、多分Getzと同じく4コーラスのソロを予定していたと思うのですが、邪魔が入り集中しきれずにソロをギブアップ状態の3コーラスで終了です。Getzがリーダーとしての後始末的にソロをコーラスの途中から取り、そのまま引き続いてラストテーマに入りました。こんなにアクシデントが起こった演奏にもかかわらず、プロデューサーはよくこのテイクを採用したと思うのですが。それにしてもトラブル続きの演奏でもタイムが一切揺れないのは流石です!

2曲目はAntonio Carlos JobimのO Grande Amor〜大いなる愛、Getzはライブでも当時よくこの曲を取り上げていたのでお手の物です。Chickの美しいソロも加わりこの曲の名演奏のひとつになりました。

3曲目は本作のタイトル曲Sweet Rain、南ローデシア生まれのイギリス人作曲家Michael Gibbsの崇高なまでに美しいバラード。この曲もGetzはライブで良く演奏していました。この曲の雰囲気と本作の録音状態が絶妙にマッチングしていると感じるのは僕だけでしょうか。1コーラス10小節から成る曲で、因みにMilesのBlue In Green、 Horace SilverのPeace、ColtraneのCentral Park Westいずれも10小節構成のバラードです。これらは10小節でストーリーを語り尽くしている名曲です。

4曲目はDizzy Gillespieの名曲Con Alma、スペイン語ですが英語に訳すとWith Soulだそうです。ホント良い曲ですね!Grady Tateの小気味好いラテンのリズムが曲の持ち味を最大限に引き出しています。Lithaと同様にスイングのリズムと交互に入れ替わりますが、ここでも丁度良いタイムのツボ、リズムのスイートスポットにハマって演奏しています。エンディングのドラマチックな事と言ったら!

5曲目は再びChickのナンバーWindows、対抗してMackintoshという曲を書いた人がいましたが(笑)、冗談はさて置き、これも何と美しいワルツでしょうか!ドラマチックでいて更に目紛しくコード進行が変わる難曲ですが、Getzは大変メロディアスなソロを聴かせています。学生時代よくジャズ喫茶でこの曲がかかっていましたが、皆んなでGetzのソロを口ずさんだものでした。テナーサックスに於いてストーリーテラー、メロディメイカーぶりでGetzの右に出る者はジャズ史上存在しません。Chickのソロもコンポーザーならではの、細部に至るまでとことん曲の構造を把握して、曲自体のテイストを最大限に引き出しています。Getzのソロのバッキングも全く的を得ています。ところでこの曲のキー、調性は何でしょう?いまだに僕自身分かりませんが、我々はこの曲を演奏する時に冒頭のコードを指して判断しています。このGetzバージョンは冒頭B minorですが、Phil Woodsの「Japanese Rhythm Machine」では半音上げてC minorで演奏していますが、実はこのキー設定でかなり演奏し易くなっているのです。PhilはFreedom Jazz DanceのキーをB♭からFに変えてEuropean Rhytm Machineの方でも演奏していました。

2018.03.19 Mon

Pony’s Express / Pony Poindexter

今回はアルト、ソプラノサックス奏者Pony Poindexterの62年録音初リーダー作「Pony’s Express」を取り上げてみましょう。

1962年2月16日、4月18日、5月10日NYC録音 Producer : Teo Macero  Liner notes : Jon Hendricks Epic Label

1)Catin’ Latin 2)Salt Peanuts 3)Skylark 4)Struttin’ With Some Barbecue 5)Blue 6)”B” Frequency 7)Mickey Mouse March 8)Basin Street Blues 9)Pony’s Express 10)Lanyop 11)Artistry In Rhythm

as,ss,vo)Pony Poindexter as)Eric Dolphy, Gene Quill, Sonny Redd, Phil Woods ts)Dexter Gordon, Jimmy Heath, Clifford Jordan, Billy Mitchell, Sal Nistico bs)Pepper Adams p)Tommy Flanagan, Gildo Mahones b)Ron Carter, Bill Yancy ds)Elvin Jones, Charlie Persip vo)Jon Hendricks

60年代初頭、当時のジャズシーンにおける精鋭サックス奏者がリーダー含めアルトサックス奏者5名、テナーサックス奏者5名、バリトンサックス奏者1名の総勢11人(!)がこの作品には参加しています。各人の素晴らしいソロ、バトルの他、ProducerのTeo Macero(この人自身もサック奏者です)アレンジによる重厚なサックス・アンサンブルも楽しめる、そうです、文字通り「サックス祭り」作品です!実際バックを務めるリズムセクションにもElvin Jones、Ron Carter、Tommy Flanagan等の豪華メンバーが参加していますが、彼らに一切ソロはありません。

アルトサックスを首から下げながらカウボーイ風の衣装で乗馬している小柄なPony Poindexterの写真がジャケットにレイアウトされています。最初のアメリカ大陸横断電信(鉄道ではありません)が開通する前の1860年代のいっとき、馬に乗った配達員が電報を運ぶ郵便配達サービスが行われ、その名前が「Pony Express」と言いました。アメリカ東海岸には電信網があり、途切れる中西部以降の荒野や砂漠、山岳地帯、その間のインディアンの襲撃を回避しつつ、1人の騎手が駅で馬を乗り継ぎながら西海岸までの間を最短10日間で配達したそうです。Pony Expressの騎手は厳しい仕事に就くため、タフで軽量(57kg未満)でなければならなず「求む、若く、痩せこけて針金のような男、18歳以上は不可。馬の騎乗に優れ毎日死を賭した危険に立ち向かわなければならない。孤児優遇」と書かれた有名な求人広告が残っているそうです。物凄い採用条件ですね(爆)、可愛らしい職業名とは裏腹に過酷で常に死と直面しているにも関わらず、Pony Express人気の職業だったそうです。フロンティアスピリットのなせる技でしょう。実際小柄なPony(ニックネームです) Poindexter、そこから取ったネーミング曲Pony’s Expressからアルバムタイトル付けされています。

リーダーPony Poindexter、ジャケ写からジャズ・ミュージシャンらしからぬ如何にも気の良い田舎のおじさん、と言った感じが滲み出ていますが、本人の演奏にもあまり細かいことにはこだわらない、良く言えばハッピーでラフな雰囲気の演奏を感じます。端的に言えば大雑把さ、奏法的にはピッチやリズムのルーズさ、リードミス寸前の発音(ちょっと痛い音の成分が鳴っています)、フレージングのアバウトさが気になる所ですが、参加サックス奏者達の好演、熱演、Teo Maceroのアレンジ、選曲、構成、プロデュースにサポートれてこの作品は成り立っていると言って過言ではありません。「周囲に助けられて成り立っている」のがジャズミュージシャン基本だと思うのですが(笑)、本人も周りのミュージシャンに愛されるキャラではなかったかと想像できます。「Ponyの初リーダー・レコーディングなんで皆んなでいっちょ盛り上げようぜ!」そんなノリで参加ミュージシャン達全員がベストを尽くしたのでしょう。Count Basie楽団のためにアレンジャー、作曲家のNeal HeftieがCharlie Parkerのモチーフを元に書いた名曲Little PonyはそんなPoindexterに捧げられており、その曲の歌詞もこのアルバムに参加し、更に本作にライナーノートを寄稿しているJon Hendricksが書いています。

60年代に多くのミュージシャンが仕事を求めてアメリカからヨーロッパに渡りましたがPoindexterもその一人です。この作品がリリースされた後64年に地中海の島に家族と移住し、以降ヨーロッパ各地のジャズフェスやミュンヘンのジャズクラブ「ドミシル」等への出演を中心に演奏活動を続けました。

Poindexterで特記すべきはソプラノサックスの使用です。60年初頭にジャズでソプラノサックスを演奏していたのはJohn Coltraneくらいですが、そのColtraneが彼の楽器をとても欲しがったそうです。Poindexterは何千ドル出したとしても譲らないと固辞したという逸話が残っています。ただ後にこの名器はクラブ「ドミシル」が原因不明の火災に見舞われた際消失(焼失)してしまったそうです。その後Poindexterはアルトサックスとボーカルに専念することになりました。

余談ですが僕の後輩サックス奏者のアパートがだいぶ前に火事になりました。本人サブの楽器を持ってリハーサルに出かけ、帰宅してみるとアパート全焼、ほとんどが灰になっていましたが、メインの楽器があった辺りを掘り起こしてみるとハンダ付け、ロウ付けが綺麗にバラバラになったサックス・パーツをネックのオクターブキー以外、全て発見する事が出来ました。それらを集め持って管楽器修理専門店に行き、あたかも新品の楽器を組み立てるように修理を依頼しました。その後リニューアルされた楽器は何と以前の状態よりも良く鳴るようになったそうです!負け惜しみではないと思いますが、「楽器は一度焼いてから組み立てた方が良いです」とは本人の弁、確かに楽器によってはキーポストや本体のハンダ付けが甘いものもあり、専門店でしっかりと確実に組み立てれば蘇るどころか、良く鳴る楽器に変身するのでしょう。

それでは作品の内容について1曲づつ見ていきましょう。本作3つのセッションから成り、全ての曲において3アルト、2テナー、1バリトンというサックス6管編成で構成されています。レコードのライナーには不親切なことにソロのオーダーは全く記載されていません。僕自身の耳でプレイヤーを判断しますので、もしかすると誤記があるかも知れない点をご容赦ください。

1曲目Pony Poindexter(P.P.)のオリジナル、ラテンナンバーCatin’ Latinです。何処かで聴いた事のありそうなメロディの断片を感じますが、P.P.らしいハッピーな曲調です。ソロの先発はP.P.のソプラノ。このブログでも度々登場するドラマーのCharlie Persipの軽快なラテンリズムと相まった小気味良いソロです。短いソリを挟んでDexter Gordon(D.G.)のテナーソロ、野太い音色でレイドバックが気持ち良いソロを聴かせます。続くPhil Woods(P.W.)も端正なリズム、8分音符、的確なタンギングで一聴彼と分かるスイング感を聴かせます。続くバリトンは本作で孤軍奮闘のPepper Adams(P.A.)、この人のエッジーな音の輪郭、タンギンングの正確さにはいつも感心ささられます。彼のMCをCDで聞いたことがありますが、バリトンの吹き方と同じ滑舌の良い話しっぷりに、話し方と吹き方は同じなのだと再認識しました。続いてP.P.とテナーBilly Mitchellのバトルが行われます。同じテナーでもD.G.とはまた音色、タイム感がかなり異なります。

2曲目お馴染みDizzy GillespieのSalt Peanuts、P.P.のボーカルが聴かれますがこの唄は彼のサックス演奏とは異なり、かなりレイドバックしています。61年から64年に渡欧するまでコーラスグループLambert, Hendricks, Ross(L.H.R.)の伴奏を務め、4人目のボーカリストとしても活躍しました。P.P.ボーカルの後に続いてすぐ自身のアルトソロになるので、多分唄は後からオーバーダビングしたのでは、と思われます。唄のリバーブ感もサックスのものとは異なる点からも推測されますし、これだけ唄ってから間髪入れずにすぐサックスを演奏するのはどんな達人でも無理だと思います。P.P.アルトソロに続くD.G.テナーソロ、アップテンポにも関わらずゆったりと聞こえるのは流石です。P.A.バリトンソロも素晴らしい!実に巧みなフレージング、音色、歯切れの良さ、バリトンサックスの第一人者として永年君臨するだけのことがあります。後テーマはインタールード後イントロに戻ってFine、オシャレな終わり方です。

3曲目Hoagy CarmichaelのSkylark、P.P.のアルトをフィーチャーし美しいサックスアンサンブルをたっぷり堪能できるバラードです。2’17″辺りでサックスの音が不自然に変わるので、テープ編集がなされているように思います。多分P.P.のソロ部分をカットしたのではないでしょうか。当時は現代ほど録音編集の技術が無かったので、唐突感を感じさせる場合がありました。僕自身としてはP.P.の音程が上ずる傾向にあるのがバラード演奏では顕著に表れ、微妙に感じます。

4曲目Struttin’ With Some BarbecueはD.G.とP.P.の2サックスの掛け合いから始まり、P.P.のテーマ演奏、その後ろでオブリガードを吹くD.G.。一曲通して彼ら2人のサックス演奏をフィーチャーし、ここではサックス・アンサンブルは聴かれません。二人のタイム感、8分音符の長さの違いが顕著です。多分せっかちな人柄のP.P.、常にのんびりと大きく構えるD.G.、対比が実に楽しく聴こえます。D.G.が自分のワイフに電話した時の話ですが、のんびりした旦那にはせっかちな奥方がペアになるものです。D.G.電話の話し方ものんびりしていて言葉の間が多いためでしょう、奥方はもうとっくに話が終わったと勘違いして一方的に電話を切ってしまったそうです(泣)

5曲目L.H.R.のピアニストで、この曲で伴奏を務めるGuildo Mahonesのオリジナル曲Blue、重厚なサックスアンサンブルをバックにP.P.朗々とまさにBluesyにテーマを歌い上げます。全体的に先ほどのSkylarkのソロをカット編集されない分程度の長さの演奏に仕上がっています。途中にOliver Nelsonの名曲Stolen Momentsのメロディが出てきます。よくあるメロディではありますがStolen Momentsが収録された「 The Blues And The Abstract Truth」が61年録音、同年リリースで大ヒットしたしたので、多分引用フレーズ扱いでしょう。

6曲目Teo Macero(T.M.)のオリジナル”B” Frequency、P.P.のソプラノをフィーチャーした小品です。P.P.のソプラノサックスはアルトサックスとは多少アドリブのアプローチが異なるように聞こえます。ここでのサックスセクションにはEric Dolphy(E.D.)がアルトサックスで参加していることになっていますが、ホーンセクションの一員として職人的な演奏をこなす事も出来るバランス感をたたえたミュージシャンと言えます。後ほど10曲目で聴かれるアドリブの嵐の前の静けさです。

以上がレコードのSide Aです。7曲目は何とディズニー映画Micky MouseのテーマソングMicky Mouse March。ソプラノサックスでの演奏が雰囲気にピッタリの超楽しい演奏です。バックのアンサンブルがまた強力です!採譜して自分でも演奏したいほどです。テーマ後P.P.が1コーラスソロを取った後にサックスセクション参加者のソロが始まります。最初のテナーは多分Sal Nistico、続くアルトはSonny Redd、次のテナーはClifford Jordan(C.J.)かD.G.なのですが、C.J.ではないかと思います。続くアルトは間違いなくP.W.、その後P.A.のバリトンと続き最後のアルトが微妙です。P.P.のように聞こえるのですが、その後ラストテーマで直ぐにP.P.がソプラノを吹いているので、アルトのラストソロはP.P.、ソプラノテーマはオーバーダビングではないかと思いますが如何でしょうか?エンディングのアンサンブルにリードミス音が聴こえるので、P.P.がアルトでアンサンブルに参加しているのかも知れません。

8曲目はJon Hendricks(J.H.)のボーカルをフィーチャーしたBasin Street Blues。素晴らしいアレンジ、優雅な雰囲気のアンサンブルをバックにJ.H.朗々と歌っています。P.P.のソロも快演です。やはりT.M.のプロデュース作品ともなれば、全体のバランス構成が巧みになされており一作を通しての聞き応えをしっかり熟考していると言えます。

9曲目はP.P.のオリジナルにして本作のタイトル曲、Pony’s Express。イントロ部分のソロ先発はP.A.のバリトン、1人目アルトがP.W.、2人目がP.P.、テーマ後P.P.が先発ソロを取り、1コーラスのサックスアンサンブル後D.G.のテナーソロ、再びサックスアンサンブルの後にエンディングテーマで締めくくられます。

10曲目は再びP.P.のオリジナルLanyop、9’36″と本作中最長のテイクでハイライトと言える演奏です。テーマ後サックスアンサンブルを経て先発がP.P.、続くテナーが多分Jimmy Heath、その後E.D.のアルトの登場です!それにしても何でしょうかこの存在感!それまでとはスタジオ内の空気感が明らかに一変しました!他のサックス奏者と楽器の鳴り方がメチャクチャ違います!多分かなりオープニングの広いマウスピースと硬めのリードを使っていると思われますが、個性的という言葉では片付けきれないユニークな音色と強烈な倍音、誰も真似のできないオリジナリティの塊のアドリブ・ライン、でも間違いなくジャズの伝統に確実に根ざしたスインギーなスタイルです。異端でありながらも正統派、これこそ僕の理想です。ソロの構成、ストーリー展開もアンビリバボーな位バッチリです!他のサックス奏者たちは演奏中のE.D.をさぞかしガン見していたに違いない事でしょう、「何だこのEricの演奏は?一体ここで何が起こっているのだろう?」と。ピアノのバッキングとの合わなさ加減も物凄いです!E.D.まだソロが続きそうな感じでしたがコーラス数が決まっていたのでしょう、バリトンソロが始まります。でもこんな演奏の後にソロを取るP.A.、とてもやりにくかったに違いありません。

11曲目ラストを飾るのはStan Kenton(S.K.)のオリジナルArtistry In Rhythm。「リズムの芸術」と訳されますが、S.K.の生涯にわたるテーマ、Artistry〜シリーズの1曲です。僕も原信夫とシャープス&フラッツのコンサートで、この曲のBenny Golsonアレンジを毎回演奏していました。P.P.は52年にS.K.のビッグバンドに参加していた事があるのでこの曲を取り上げたのでしょう、ユニークな選曲です。本作中最もビッグバンドに近いアレンジに聴こえます。P.P.の後にはD.G.が朗々とソロを取ります。

2018.03.09 Fri

Ringo Starr / Sentimental Journey

今回はThe Beatlesのドラマー、Ringo StarrがThe Beatles解散後に初めて発表した作品「Sentimental Journey」を取り上げてみましょう。

1970年3月27日リリース Apple Label  Producer : George Martin

1)Sentimental Journey 2)Night And Day 3)Whispering Grass(Don’t Tell The Trees) 4)Bye Bye Blackbird 5)I’m A Fool To Care 6)Stardust 7)Blue, Turning Grey Over You 8)Love Is A Many Splendoured Thing 9)Dream 10)You Always Hurt The One You Love 11)Have I Told You Lately That I Love You? 12)Let The Rest Of The World Go By

全曲Ringo Starrのボーカルをフィーチャーしたスタンダード・ナンバー集です。本業のドラムスは一切演奏していません。今までこのBlogではジャズメンの作品しか取り上げなかったのに何故?しかもRingo Starr?と思われる方もいらっしゃると思います。確かにこの作品は純然たるジャズアルバムでは無いかもしれません。またRingoのボーカル自体も決して上手いとは言えず、1oo歩譲って味のある歌いっぷり、と言うのも難しいところです。The Beatles時代のBoys、I Wanna Be Your Man、Matchbox、Honey Don’t、Act Naturally、What Goes On、Yellow Submarine、With A Little Help From My Friends、Don’t Pass Me By、Good Night、 Octopus’s GardenこれらのRingoフィーチャー曲での微妙なピッチ、あまり声の出ていない、リズムが多少ルーズな、歌詞を棒読みする傾向のある、声の抑揚の希薄な歌い方は他のThe Beatlesのメンバーの圧倒的な歌唱力と比べてはいけないのかも知れませんが、人間の耳というのは適応力、慣れがあるものでRingoの歌には他のメンバーには無い「癒し」を見出して彼のボーカルを好意的に聴いているような気がします。

実は僕はThe Beatlesの大ファンです。小学校6年生の時に生まれて初めて買ったLPが「 Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」でした!数年前に全作品のデジタル・リマスター盤がリリースされて以来、その音質の素晴らしさ(レコードや従来のCDでは聞こえなかった音が聞こえるのです!しかもごく自然に!)にThe Beatlesのサウンドを再認識して日常的によく聴いているのですが、「Let It Be」以降解散してからの各メンバーのリーダー作品はこの「Sentimental Journey」を除いてあまり聴く機会がありません(とは言えたまには聴いていますが)。The Beatlesの諸作はJohn Lennon、Paul McCartney、George Harrison、Ringo Starr4人の個性が絶妙なバランス感、ブレンド感を伴って崖っぷちぎりぎりで成り立っている凄みを聴かせてくれますが(特にラストアルバム「Abbey Road」の素晴らしさは崩壊直前の美学!)、各々のリーダー作品にはどうしても物足りなさを感じてしまいます。作品の色が個人芸に由来するモノトーンなのが最大の原因でしょうか?人間の個性が合わさった相乗効果で1+1以上の効果をもたらす、The Beatlesの場合は4人の音楽性が時に計り知れない化学的反応をもたらしています。「Sentimental Journey」を贔屓にするにあたり、「お前は上手いプレイヤーか、味のある演奏が聴ける奏者の作品しか聴かないんじゃなかったのかい?」と言われるかも知れません、その傾向が無い訳ではありませんが、この「 Sentimental Journey」ではRingoの唄に癒しを見いだしつつ、バックを務めるGeorge Martin Orchestraの実に素晴らしい職人芸サポート演奏、そして何より全12曲各々アレンジャーが異なり(とってもお金が掛かっています!)、12人が腕によりを掛けてRingoをバックアップすべく素晴らしいビッグバンド・アレンジを競って提供している点に堪らなくワクワクしてしまうのです。

この作品のジャケット写真はRingoが少年時代住んでいたLiverpoolにあるThe Empress pubの建物写真にコラージュを施しています。

ジャケット写真と作品の内容の関わり具合が絶妙です。40~50年代のビッグバンドジャズが華やかし頃の雰囲気がほのぼのと伝わってきます。建物の写真がピサの斜塔のように若干斜めにレイアウトされているのもユーモラスです。そもそもがRingoのお母さんに「あんたは良い声をしてるんだからさ、私の好きなスタンダード・ナンバーばかり歌ったアルバムでも作ってみたら」と促されてのがきっかけでこの作品が録音されました。「気持ち良く歌えたので、この作品なら母親でも楽しめるだろうね」と発言しており、詰まるところ大好きなお母さんElsie Starkeyに捧げられた作品なのです。Ringoは子供時代に母親が良く聴いていたスタンダード・ナンバーを一緒に耳にしていたので、スタンダード・ナンバーは彼の音楽的ルーツなのでしょう。The Beatles解散直後に一度原点に戻った形です。

それでは収録曲を見て行きましょう。録音全体でRingoのボーカルが引っ込み気味なのは気のせいでしょうか。通常ボーカリストの作品はボーカルが全面的に前に出ているものです。エレクトリック・ベースのコーニーな音色がこの時代のサウンドを物語っていますが他の楽器の音色は現代でもさほど変わりません。ビッグバンド演奏はGeorge Martin 率いる彼のOrchestra、George MartinはThe Beatlesの諸作を殆ど全てアレンジしたバンドの立役者です。でも彼以外オーケストラ・メンバーのクレジットがジャケットに一切ない事にも時代を感じさせ、バックバンドはひたすら裏方感が半端ないです。そう言えばThe Beatles時代の「White Album」収録曲George Harrisonの名曲While My Guitar Gently Weepsで聴かれるEric Claptonの素晴らしいソロ、彼の名前はレコードジャケットの何処にもクレジットされていません。レコード発売当時はGeorge自身がソロを取っていると思われ、彼もギターが上手くなったな、と評判が立ったらしいです(爆)それとも英国という国は、作品のリーダーと重要なメンバー以外はクレジットしないことが常識なのでしょうか。米国の方は権利の国なので演奏者のクレジットは徹底して記載されています。

1曲目表題曲のSentimental Journey、アレンジは以降Ringoの「 Good Night Vienna」等をプロデュースする事になったRichard Perry、のどかな米国南部の雰囲気を醸し出しています。ストリングスの使い方、バスクラやバリトンサックスが効果的に用いられています。

2曲目Cole PorterのNight And Day、アレンジャーはキューバ出身のChico O’Farrill。ジャズテイスト満載の素晴らしいアレンジです。ブラスセクション良く鳴っています!ダイナミクスも徹底しています。ドラマーのグルーヴ、フィルインがBuddy Richを彷彿とさせるテイストでこちらもとってもグー!Ringoも気持ち良く歌っているのが伝わります。ピックアップから始まる間奏のテナーソロもご機嫌なのですが、明らかにフェイドアウトで強制終了されているので、こちらにも伴奏者の裏方感を感じてしまいます(泣)。

3曲目Whispering Grassのアレンジはご当地英国出身のRon Goodwin、ストリングスの使い方が絶妙でゴージャス、多分数々の映画音楽を手がけているのでしょう。この曲は米国のコーラスグループThe Plattersの演奏が有名ですが、Duke Ellingtonも取り上げているそうです。

4曲目Bye Bye Blackbirdのアレンジは英国出身の男性コーラスグループBee Geesのメンバー、Maurice Gibb。バンジョーを生かしたNew Orleans仕立てから始まり、ストリングスやブラスセクションを次第に重ねてサウンドに重厚感を持たせています。エンディングはキーを半音上げてドラマチックに終えています。

5曲目はカントリー&ウエスタンの名曲I’m A Fool To Care、アレンジャーはThe Beatlesとも馴染みの深いベーシストKlaus Voormann。ストリングスやブラスセクションの使い方もオシャレですが、どうもこの作品のストリングスとブラスセクションは同一人物がアレンジを施しているように感じます。ということはGeorge Martinが各曲のアレンジャーのアレンジの意向を踏まえ、最終的なアレンジのまとめ役を引き受けているのでは、と。

6曲目Hoagy Carmichaelの名曲Stardust、アレンジャーはPaul McCartneyとクレジットされていますが、EMIの資料ではGeorge Martinとなっており、Paulは何らかのアレンジのアイデアを提供し、George Martinが同様にまとめたと推測されます。星屑をイメージしたエンディングのグロッケン?の使い方辺りはPaulのアイデアではないかと想像していますが、実際のところはどうでしょうか。

レコードでは以上がSide A、B面に入った7曲目はこの作品中最もジャズ度の高いアレンジ曲、ハイライトと言えるBlue, Turning Grey Over You。アレンジャーは数々の名アレンジを世に送り出したOliver Nelson。素晴らしいアレンジにメンバー一同インスパイアされGeorge Martin Orchestra大熱演、張り切ってます!トランペットセクションのハイノート素晴らしい!後からボーカルをオーバーダビングしたRingoもバンドの演奏に惚れ込んでかスインギーな歌を聴かせています。この曲はGeorge Martinのアレンジが介入せずOliver Nelsonのアレンジ一本と思われ、当時の彼のアレンジの特色である8分の12拍子での低音パターンが聴かれます。ドラマーもグイグイとバンドを引っ張り(の割には演奏がだんだんと遅くなっていますが)、Buddy Richが現代的になったようなフレージングを叩きまくっています!エンディングにはRingoがご愛嬌でスキャットを聴かせています。

8曲目はLove Is A Many Splendoured Thing、「慕情」はアカデミックなQuincy Jonesのアレンジが光ります。全体的なサウンドの密度、アンサンブルでの楽器の使い方、重ね方にQuincyならではのマジックを感じます。この曲でもGeorge Martinはアレンジの介入はしていないように思います。Ringoの声よりもコーラスの声の方が大きくミックスされているので、Ringoを中心としたコーラス・アンサンブルのような聴かせ方になっており、Ringoの歌のウイークポイントをうまい具合にカモフラージュしています。

9曲目Dream、Johnny Mercerの名曲です。アレンジはGeorge Martin自身によるものです。こちらは曲のキーを低く設定してRingoの中音域〜低音域の声を多重録音しているので、濃密な囁き声という雰囲気でのボーカルを聴かせています。ブラスセクションの生かし方、鳴らし方がさすがGeorge Martin、良く分かってらっしゃる。

10曲目You Always Hurt The One You Love、アレンジは英国出身のサックス奏者John Dankoworth。間奏のアルトソロもアレンジャー自身によるものです。この曲でのホーンアレンジ、George Martinよりもジャジーなテイストを感じさせるので多分Dankoworthによるものでは、と推測されます。リズムのパターンがいかにも60~70年代風で懐かしいです。

11曲目Have I Told You Lately That I Love You? アレンジは米国出身の映画音楽作曲家Elmer Bernstein、Leonard Bernsteinとは同姓で同じユダヤ系移民出身ですが血縁関係はなかったそうです。でもお互い友人関係だったのは有名な話です。ポップで軽やかなアレンジは随所にスパイスを効かせており、聴いていて思わず笑みが溢れてしまいます。Ringoの声質によくマッチした曲想です。

12曲目Let The Rest Of The World Go Byは1919年の曲で、古き良き米国の雰囲気が伝わります。アレンジャーは英国出身の作編曲家のLes Reed。曲想に合致した優しい優雅なアレンジに仕上がっています。

2018.03.05 Mon

Sonny Side Up / Dizzy Gillespie, Sonny Rollins, Sonny Stitt

今回はDizzy Gillespie、Sonny Rollins、Sonny Stitt3人の共同名義による作品「Sonny Side Up」を取り上げましょう。実質的なリーダーはGillespieですがテナー奏者2人に思いっきり演奏させています。

1957年12月19日Nola Recording Studio, NYC  tp,vo)Dizzy Gillespie ts)Sonny Rollins, Sonny Stitt p)Ray Bryant b)Tommy Bryant ds)Charlie Persip prod)Norman Granz  Verve Label

1)On The Sunny Side Of The Street 2)The Eternal Triangle 3)After Hours 4)I Know That You Know

モダンジャズ黄金期の57年12月にニューヨークで録音されています。時期や場所的に悪いものが録音されるわけがないのですが、これは飛びっきり極上な出来栄えです!トランペット、テナーサックス2管、ピアノトリオのSextetでの演奏です。

この作品のレコーディング8日前、12月11日にやはりDizzy Gillespieが「Duets」という作品を録音しています。正式には「Dizzy Gillespie With Sonny Rollins And Sonny Stitt / Duets」というタイトルで、ジャケ写に3人並んでの演奏風景、リズムセクションのメンバーが同一な上に、国内盤のタイトルが上記とは若干異なり3人のクレジットが並列になっているので、てっきり「Sonny Side Up」同様にSonny2人の壮絶なバトルを聞くことが出来るアルバムかと思いきや(勿論レコード会社もそのあたりを狙ったのでしょうが)、2曲づつRollinsとStittを迎えてQuintetで演奏しており、残念なことに2人のSonnyの共演はありません。ですのでこのジャケ写は「Sunny Side Up」録音時撮影のものと推測されます。

このレコーディングの出来が思いのほか良かったので、Verve LabelのプロデューサーNorman GranzがGillespieに「Dizzy、じゃあ今度は2人のSonnyと一緒に演奏するのはどうだ?あいつらにバトルをやらせるんだよ!」と話を持ち掛け「ついでにSonny繋がりでOn The Sunny Side Of The Streetも演奏したらどうだろう?Dizzyのレパートリーにあるだろ?そう来ればアルバムのタイトルもSonny Side Upなんて面白そうだな!ダジャレだけどね!」そこまで具体的に提案したのかどうかまでは分かりませんし(笑)、逆にもともと2人の Sonnyとセクステットで録音する企画があり、そのリハーサルを兼ねたレコーディングが「Duets」だったのかも知れません。しかしジャズという音楽はメンバーの人選によりケミカルな作用が働くもので、2人のSonnyの壮絶なバトルがジャズ史上に残る名演を産み出しました。必ずしも「対抗意識」というのは良い結果を生み出すとは限りませんが、2人のSonnyの場合は見事に功を奏しました。

実は「Sonny Side Up」録音の前日、12月17日にもGillespieはスタジオ入りして彼名義のアルバムを録音しています。The Dizzy Gillespie Octet「The Greatest Trumpet Of Them All」 Verve Label

同じスタジオで同一メンバーのリズムセクション、音楽監督にBenny Golsonを迎えてtp,tb,as,ts,bsの5管編成から成るOctetでのレコーディングです。Benny Golsonのゴージャスで品格のあるアレンジにより美しいアンサンブル、リラックスした演奏を聴く事ができます。加えてミディアム・テンポが中心の演目が更に優雅な雰囲気を醸し出しています。翌18日に行われる火の出るような白熱したセッションの予感など微塵もありません。

Benny Golsonのアレンジですが、僕が在籍したビッグバンド「原信夫とシャープス&フラッツ」にかなりの曲数のGolsonアレンジによるビッグバンド譜面がありました。僕自身も随分とその譜面を元に演奏しましたが、何れにもGolson流の美意識が沸々と感じられ、同時にジャズの伝統に根ざしつつも何か新しいテイストを加味しようとするチャレンジ精神、情熱、それらを踏まえた上でのジャズへのリスペクト、愛情、シャープスで演奏していて毎回堪らなくワクワク感を抱かせてもらえました。

さて「Sonny Side Up」に話題を戻しましょう。57年12月はGillespieの仕事で忙しかったレギュラートリオのメンバー、ピアニストRayBryantとベーシストTommy Bryantは兄弟ですが( Tommyが兄)、この2人には更にドラマーのLen Bryantがいるそうです。兄弟でピアノトリオを組めるなんて楽しそうですね。更にギタリストKevin Eubanks、トランペッターDuanne Eubanks、トロンボーン奏者Robin Eubanksの3兄弟はRay Bryantの甥っ子達だそうです。優れたミュージシャンを大勢輩出したジャズ家系です。

「Duets」の2人のSonnyの演奏はいつもの彼らの水準値での演奏を聴くことが出来ます。言ってみれば並、例えれば松竹梅の「梅」の演奏ですが、「Sonny Side Up」での2人の演奏のクオリティは全く異なります。特上や「松」どころではない、全く別物と言える熾烈なインプロヴィゼーションの戦いが聴かれます。推測するに「Duets」録音時には2人のSonnyの共演は決まっていなかったという気がします。バトルが決まっていたのならその時点で2人のSonnyはお互いを意識して既に「松」クオリティの演奏を展開していたように思えるからです。

「Hi, Sonny, 12月18日火曜日にもDizzyのレコーディングを企画したので宜しく。リズムセクションのメンバーは同じだけど2人のバトルを予定しているからね、盛り上がってくれよ、僕も楽しみにしているから」とプロデューサーのNorman Granzが「Duets」の録音後に口頭で2人に伝えたのかどうか知る由もありませんが、2人のSonnyはどんな気持ちで18日レコーディング当日まで過ごしたのかを想像するのも面白いです。Stittの方がかなりナーバスに過ごしたのではないかと感じてしまうのは、対抗意識を剥き出しにしてレコーディングに臨んでいるからです。Stittは24年2月2日生まれでこの時33歳、一方のRollinsは30年9月7日生まれで27歳、しかもRollinsは56年「Saxophone Colossus」以降57年「Sonny Rollins, Vol.2」「Newk’s Time」「A Night At The Village Vanguard」と名盤を量産していた時期でまさに飛ぶ鳥を落とす勢い、Stittの方もコンスタントに作品をリリースしていましたが何しろ6歳年下の若造に負けるわけにはいかない意地を感じさせます。Rollinsは先輩格のStittとのおそらく本格的な共演は初めてなので、身の引き締まる思いでレコーディングに参加しましたが委細構わず、処処に臆する事無く、泰然と構えて演奏しています。この当時神がかったかの如くジャズのスピリットの化身のような演奏を繰り広げる時がありましたが、ここでは間違いなくジャズの神が降臨しています!

2人の演奏スタイルについてですが、基本的に2人共Charlie Parkerの影響下にあり、Stittはそれを貫き通しつつも自己の語法を確立しています。ただ僕には彼の吹く内容が全てフレーズに感じてしまうのです。端的に述べるならばフレーズという手持ちのパズルのピース、断片を組み合わせてアドリブをしている、Stittの所有するパズルのピースは半端ない数なのでそれはバリエーションに富んでいるのですが、結局のところ全てが予定調和で終わってしまっているように聴こえます。箱庭の中での造作を楽しんでいると言うか、ジャズという音楽の様々な要素の中で「意外性」は特に大切だと思うのですが、Stittの演奏には破天荒さは期待できず、なのでハズレはないのですが大当たりもありません。僕は些かStittに対し厳しすぎる評価を下しているかもしれませんが。一方RollinrsはParkerの他テナーサックスの先達Ben Websterや Coleman Hawkinsにも多大な影響を受けつつ自己のスタイルを確立させています。メロディを発展させることをアドリブの基本に、極太でコクのある倍音豊かなテナーサックスの王道を行く音色で、ジャズ史上最も1拍の長い音符で演奏する奏者の1人として豪快に、スポンテニアスさを根底に、型にはまらなさを最大の武器としてソロを展開させ、Rollins向かう所敵なしを印象付けています。

1曲目On The Sunny Side Of The Street、明るいハッピーな曲想はオープニングに相応しいかもしれませんが、2人のSonnyは水面下で既に火花が散っています。ソロの先発はStitt、軽快なフレージングで切り込み隊長を務めます。Stittはアルトサックスも演奏しますが、アンブシュアが両方の中庸を行っているようで、アルトがそのまま低くなったテナーの音色に近く聴こえます。タイム感も少し前気味で1拍の長さがRollinsに比べると少し詰まり気味です。それでも巧みなジャズフレージングのショウケース、舞の海関状態のフレーズのデパートの観を呈しているので聴き手に訴えかけます。Gillespieのミュート・トランペットによるソロを経てRollinsの出番です。この圧倒的な存在感、腰の据わり方、ゴージャスさ、ソロの構成の巧みさ、フレージングの始まる位置のジャズっぽさ。Stittは4小節単位のアタマからフレージングが始まっていますがRollinsは必ずアウフタクト(弱拍、弱起)から始まっています。ラストはGillespieのボーカルをフィーチャーして大団円でFineになります。

2曲目が本作のハイライト、アップテンポ♩=300でサビのコード進行が変則的なStitt作曲のリズムチェンジ・The Eternal Triangle、「永遠の三角関係」ではないですね、2人のSonnyのタイマン対決です!ソロの先発今回はRollinsから。Rollinsが5コーラス、続くStittが8コーラス(長い!)、4小節交換が3コーラス、8小節交換が3コーラスの合計19コーラスをテナー奏者たちが演奏しています。イヤー何度聴いても凄いです!聴く度に凄さが身体に沁み入って笑いさえ出てしまいます!テンポが早いほどRollinsのリズムのたっぷり感が浮き出てきており、Stittもon topですがタイムに対して安定感を伴ったリズムで吹いています。テーマが終わった後トランペットの吹き伸ばしがあり、暫くしてからRolinsのソロが始まっているのは誰が先発かを決めていなかったからなのかも知れません。ソロの3コーラス目にGillespieとStittによるバックグラウンド・リフが演奏され、その後4コーラス目の最後あたりにGillespieが発する、Rollinsの素晴らしいソロに対しての感極まった声を聴くことができます。大変な集中力を伴ってはいますがRollinsとしては6~7割の余裕の力で演奏している感じです。Stittに変わった途端にタンギングの滑舌、音符の長さ、タイム感が一変します。音色がRollinsよりもホゲホゲした成分を感じるのはStitt頬を膨らませて吹いているので、こもった成分が音色成分に混じるためでしょう。Stan Getzの音色にも同様の事柄を見出すことができます。ソロの4コーラス目にバックリフが入りますがその後もStittソロを4コーラス続けており、終わりません!まるで意地になって「オレはこいつには負けんぞ!」と言っているかのようです。

Stittのソロ後Rollins先発で4小節バースが始まります。出だしの部分Rollinsがスネークインして入って来るのはマイクロフォンから離れていたのでしょう、Stittのロングソロにすっかり待たされました。しかし丁々発止とはまさにこの事、とんでもないやり取りの連続です!4小節バース2コーラス目から3コーラス目に入る時のスムースさがまるで1人で吹いているように聴こえます。そしてここからがStittの負けず嫌いの本領発揮なのですが、ごく自然にバースの主導権を握るべく先発に入れ替わり、倍の長さの8小節交換を始めます。この後さらにヒートアップ、StittはRollinsのフレージングにとことん対応していますがRollinsは自分のペースをキープしています。こういうバトルの時にフレーズをたくさん持っているプレイヤーは飛び道具に事欠かないので、対応しつつRollinsに仕掛けています。8小節交換の2コーラス目で一瞬終わりかけの雰囲気になりましたが、主導権を握るStittまだ続けます。いよいよ3コーラス目の最後にRollinsが「Sonny、もう止めようよ、だってこの録音はDizzyのじゃないか、Sonnyは自分のソロでもさっきずいぶん長くやってるんだよ、バースまでオレらがこんなに長く演奏してはマズイよ」と言わんばかりにオシマイのフレーズを吹き、やっと戦いは終わりました。リズムセクションも大変な長丁場、さぞかしホッとしたことでしょう、お疲れ様でした(笑)。

2018.03.01 Thu

Joe Carroll / Joe Carroll

今回は男性ボーカリストJoe Carrollの1956年録音のリーダー作「Joe Carroll 」を紹介しましょう。日本盤(Epic/Sony)では「Joe Carroll with Ray Bryant(Quintet)」というタイトルで発売されました。恐らくJoe Carrollという名前だけでリリースするにはリーダーの知名度が低かったために参加有名プレイヤーの名前を抱き合わせした形でのリリースですが、残念なことにRay Bryantは伴奏に徹しており、同じピアニストHank Jonesと演奏を分け合った事もあって本作中、冠を記すほど特別な存在ではありません。この作品が国内発売されたのが74年、Ray Bryantの名ソロピアノ作品「Alone At Montreux」が72年7月録音、同年末に発表され翌73年には大ヒットしているのでその翌年、当時の絶大なBryant人気に肖り柳の下のドジョウをアテにしたタイトル付けなのでしょう。でも米本国の制作者サイドとは異なるタイトル付けに「余計なことを…」とジャズファンとしては感じてしまいます。

何はともあれ、最高にハッピーなボーカル作品です。元気の無いときに聴くべき精力剤のようなアルバムです(笑)

1)Between The Devil And The Deep Blue Sea 2)Qu’est-Que-Ce 3)It Don’t Mean A Thing If It Ain’t Got That Swing 4)Route 66! 5)St. Louis Blues 6)School Days 7)Jump Ditty 8)Jeepers Creepers 9)Oo-Shoo-Bee-Doo-Bee 10)Oh, Lady Be Good 11)One Is Never Too Old To Swing 12)Honey Suckle Rose

vo)Joe Carroll p)Ray Bryant, Hank Jones b)James Rowser, Milt Hinton, Oscar Pettiford ds)Charles Blackwell, Osie Johnson ts)Jim Oliver tb)Jimmy Cleveland, Urbie Green

1956年4月6日、5月1日、18日NYC録音 Epic Label

Joe Carrollは素晴らしいジャズシンガーです。歌唱力はもちろんのことタイム感、スイング感、声質、スキャット、そして何よりユーモア、エンターテイナーとしてサービス精神が旺盛で聴き手をしっかりと捉えて離しません。実はこのアルバム、僕が尊敬するボーカリストの一人、チャカ(安則眞美)に紹介して貰いました。Joe Carrollは彼女の歌いっぷりに通じるところがあり、ボーカリストとはかくあるべきだ、と感じさせてくれて未だに愛聴しています。

Joe Carrollは「ジャズ面白叔父さん」(笑)トランペッター、ボーカリストDizzy Gillespieのバンドに49年から53年にかけて5年近く参加していた経緯があり、Gillespie譲りのユーモア精神、スキャットの巧みさをここで徹底的に学んだのでしょう、特にスキャットのフレージングにGillespieライクなBe-Bop的節回しが感じられます。56年とは時代的に俄かには信じられないようなグルーブがとても心地よいボーカルのスイング感を聴かせ、本人これだけリズムが良ければダンス、タップダンスもさぞかし上手かったのではないか、ともイメージさせますがyoutube映像(クリックして下さい)を見る限り特にその芸風はないようです。男性ジャズボーカリストの第一人者、Jon Hendricksもスキャットや自身でインストルメンタル・ナンバーに歌詞をつけて歌うボーカリーズも手がけ、その巧みな技には感服してしまいますが、スキャットのフレージングのボキャブラリー、意外性、グルーブ感、スピード感は本作のJoe Carrollに軍配が上がります。またエンターテイメント系ボーカリストとしてMinnie The Moocher(映像が見られます)で有名なCab Callowayの存在も見逃すわけにはいきませんが、Cab Callowayはボーカリストというよりもよりエンターテイナーとしてステージングをこなしているようですし、Frank Sinatraや未だ現役最高峰のMel Tormeらは特にスキャットは行わず(というかスキャットを行わなくてもストレートな歌いっぷりだけで完璧に自己を表現しています)、声質、歌い回し、スキャット、その滑舌の良さ、タイム&グルーブ感、エンターテイメント性それらをトータルとして僕自身が最も好みの男性ボーカルの一人、そしてその作品としてこの「Joe Carroll」が不動のものになっています。

Joe Carrollは1919年11月25日Philadelphia生まれ、このレコーディング時は36歳で地元のクラブやローカルバンドでの演奏を経てその後Gene Krupa楽団、前述のGillespieバンドでの経験を生かしてこの初リーダー作に臨みました。

彼は生涯3作自分の名前を冠した作品をリリースしているらしいのですが(3作目については詳細不明です)、「Joe Carroll」の恐らく次作が「Man With A Happy Sound」 62年リリース Charlie Parker Label

org)Specs Williams g)Grant Green p)Ray Bryant ts)Connie Lester ds)Lee Ausley

1)Get Your Kicks On Route 66 2)Oh Lady Be Good 3)Don’t Mess Around With My Love 4)Wha Wha Blues 5)Oo-Shoo-Be-Doo-Be 6)Honey Suckle Rose 7)I Got Rhythm 8)Bluest Blues 9)Have You Got A Penny Benny 10)New School Days 11)On The Sunny Side Of The Street 12)The Land Of Ooh Bla Dee

収録曲を見てお気付きになった方もいらっしゃるかも知れません。収録12曲中5曲が前作と同一です。それらに全く新しいアレンジを施しているのならともかく、聴いてみると若干手直しした程度で雰囲気は同じです。一体どう言う事でしょうか?考えられるのはアルバム「 Joe Carroll」がヒットしたためにオーディエンスはまた同じ曲を聴きたがる、例えばドラマー&ボーカリストつのだ☆ひろさんが自己のバンドのライブ時に自身の作曲にして名曲、大ヒットナンバーMary Janeを聴くまではお客様が絶対に帰らない(笑)、この事とは違いますね、失礼しました(爆)。もう1つ考えられるのは前作発表後自身のレパートリーを増やしておらず、レコーディングと言う美味い話が舞い込んだにも関わらず「曲が無いから前に吹き込んだ曲をやっちゃおうぜ!」と言う安易なノリでレコーディングに臨んだのではないかと言う点です。今回参加のオルガンの音色がアルバム全編に支配的でどの曲も同じような単調さを感じさせているのも頂けません。60年代半ば頃から急速に彼の人気が下落したらしいのでそのことからも十分に考えられるのですが、お客様を大切にしない芸人から人は離れて行きます。初リーダー作の成功に甘んじず更なる精進を重ねてこそのジャズミュージシャンです。アルバム「Joe Carroll」のフレッシュさ、勢いを「 Man With 〜」に感じることは出来ません。逆に言えばそれだけ「Joe Carroll」の素晴らしさが際立っています。

本作を曲ごとに見ていきましょう。1曲目Between The Devil And The Deep Blue Sea、邦題を絶体絶命、Joe Carrollの先輩格Cab Calloway、Louis Armstrongがレコーディングしてヒットさせました。Jimmy Cleveland、Urbie Greenのテクニシャン2人からなるトロンボーンのアンサンブル、ソロバトルが実に小気味良さを聴かせてくれます。Joe Carrollの滑舌の良さとトロンボーン奏者達のリップコントロール、タンギングの正確さに共通点を感じます。一体誰がこのカッコイイアレンジをしたのでしょうか?そして何よりJoe Carrollのドライブ感が堪りません!

2曲目Qu’est-Que-Ceはきっと随分嘘臭いフランス語で歌っているのでしょうね、Joe Carroll自分で歌って自分でウケています(爆)Joe Carrollのトークのお相手はテナー奏者のJim Oliverでしょうか。僕自身の話ですが、昔20代の駆け出しの頃に銀座のデパートの屋上でアゴ&キンゾー(皆さんご存知ですか?)ショウの伴奏を務めた時に、二人のトークのあまりの可笑しさに笑い過ぎて楽器を吹く事が出来なかった事を思い出しました。

3曲目It Don’t Mean A Thing If Ain’t Got That Swing、ご存知スイングしなけりゃ意味ないね、こちら2トロンボーン・プラス・テナーサックスのアンサンブル、それに絡むボーカルが堪りません!スピード感満点のBe-Bopスキャット、テナーサックス、ピアノ(Ray Bryant)、トロンボーンのソロバトル、アレンジ、どれも秀逸です。

4曲目Route 66!、多分Joe Carrollが歌いながらフィンガースナップや手拍子をしています。それにしてもスキャットをこんなに巧みに出来たらさぞかし楽しいでしょうね!16分音符満載の早口言葉ショウケースです!

5曲目St. Louis Blues、再び2トロンボーンのアンサンブルが大活躍のアンサンブル、Joe Carrollのスキャットも更に熱いです!途中It Might As Well Be Springのメロディを引用して高速でサラッと歌っている辺り、仕事人ですね!作品中2トロンボーンを生かしたアンサンブルによる素晴らしいアレンジ、僕の推測ですがトロンボーン奏者2人のどちらかが、さもなくば2人共同でのアレンジのような気がします。

6曲目School Days、Dizzy Gillespieの演奏でお馴染みのBoogieナンバー、大ヒットしたGillespieのこちらのアルバムにはJoe Carrollも参加しています。因みにかのJohn Coltraneも別曲で参加しています。イヤイヤ、本当にJoe Carroll良く声が出ています。

7曲目Jump Ditty、ミディアムテンポのブルースナンバー。2トロンボーンのリズミックなバックリフがムードを高めています。トロンボーン2人のソロが続き、エンディングでもトロンボーン・アンサンブルが効果的に使われています。

8曲目Jeepers Creepersはお馴染みJohnny Mercer~Harry Warren、映画音楽の作詞作曲、名コンビによるナンバー、この曲が収録された映画ではLouis Armstrongが歌いました。スキャットソロの後に更に各楽器とソロトレードを取っておりJoe Carrollのスキャットを存分に堪能できます。

9曲目Oo-Shoo-Bee-Doo-Beeは個人的に特にお気に入りのナンバーです。歌詞は「ある日公園を散歩していて恋人たちの会話を耳にしたんだけれど、今時の恋人たちは”I love you”なんて言わずに”Oo-Shoo-Bee-Doo-Bee”ってお互いに囁き合うんだよ」ワオ!面白過ぎです!Shoo-Bee-Doo-Bee means that I love you、ゴキゲンです!Joe Carrollの歌にハーモニーを付けて歌っているJim Oliver、コーラスの後すぐにソロをとっていますが多分、笑いを堪えていたためか1’32″辺りでテナーの音がひっくり返っています。

11曲目One Is Never Too Old To Swingってとっても良いタイトルですね。自分の演奏にしっかりと当て嵌めたいです(笑)。リズムセクションのアレンジもイカしています。

12曲目Honeysuckle Rose、テーマの歌の後ろでコード進行が同じためかScrapple From The Appleのメロディを2トロンボーンのユニゾンで吹いています。音量を控えめに吹いているのでバックリフのようにも聴こえ、うまい具合にブレンドしています。これも多分トロンボーン奏者たちの発案でしょう、面白いです。

 

2018.02.15 Thu

Omerta / Richie Beirach and Dave Liebman

今回はピアニストRichie Beirachとテナー、ソプラノ・サックス、フルート奏者Dave LiebmanのDuo作品「Omerta」を取り上げたいと思います。

p)Richie Beirach ts,ss,alt-fl)Dave Liebman recording engineer)Dave Baker

1978年6月9, 10日録音 at Onkio Haus, Tokyo, Japan

日本のTrio labelから同年リリース、94年にデンマークのStoryville labelからCDで再発されました。

1)Omerta 2)On Green Dolphin Street 3)3rd Visit 4)Eden 5)Spring Is Here 6)Cadaques 7)To A Spirit Once Known 8)In A Sentimental Mood

Richie Beirach、Dave Liebmanの2人は60年代末からコンスタントに、時折付かず離れずの距離を置きつつも演奏活動を継続的に行っています。50年近くも音楽的時間を共有出来ると言うのは今どき夫婦間でも(であればこそ?)難しい長さに違いありません。Duoの他にもDave Liebman Band、Look Out Farm、Questと言うバンド活動も並行して行っています。同じくピアノ、サックス奏者でHerbie Hancock、Wayne Shorterの2人は更に長い55年以上の共演歴になりますが、永きに渡り共演者としての関係を保持するにはそれなりの条件が必要です。2人のパーソナリティの相性、人間性のリスペクト度合い、どれだけ価値観の共有を保てるか、お互いの演奏に音楽的な魅力を感じ続けることが出来るか、そして音楽的成長が同期しているか、です。Beirach、Liebmanの2人は初期から高い音楽性と以後一貫する音楽的会話の語法、方法論を聴くことが出来ます。Liebmanのリーダー作「First Visit」1973年6月20,21日東京録音 ts,ss,fl)Dave Liebman p)Richie Beirach b)Dave Holland ds)Jack DeJohnette 同年日本フォノグラムよりリリース。

この作品に収録されているRound About Midnightが彼らDuoの初録音、そして以降の演奏の萌芽を聴く事が出来ます。Liebmanのダークで豊富な倍音を含んだトーンによる危ない変態系(?)メロディラインに対して、Beirachは他の追従を許さない美しいタッチによる複雑にして緻密なコードワークで、瞬時に対応し続けるのが特徴です。因みにこの時LiebmanはMiles Davis Band(アルバムOn The Cornerの頃です)で、Beirach、Holland、DeJohnetteのリズムセクションはStan Getz Quartetでの演奏のために来日中でレコーディングが実現したそうです。

91年にドイツからCDで再発されましたが、その際のジャケットのセンスがあまりに酷いです。この当時の(ひょっとしたら現在も)欧米人は日本と中国、台湾(多分韓国も含む)の区別がついていません。

「Omerta」もBeirachは初ソロコンサートのために3度目の来日、Liebmanは何とChick Corea Bandに参加してのやはり3度目の来日で録音が実現しました(余談ですがCoreaとの共演はこの時のツアーのみで最後は険悪な雰囲気で決別したと、彼の自伝に書かれています)。70~80年代にはこのような形で多くの海外ミュージシャンによる国内レコーディングが行われていたようです。この作品を素晴らしいクオリティで録音した2人の盟友にして名エンジニアDave Bakerは、このレコーディングのためだけにアメリカから来日したのかどうか定かではありません。

二人は現在までに7枚以上のDuo作品をリリースしています。「Omerta」は第2作目、 第1作目は75年11月18~20日NY録音、翌76年リリース「Forgotten Fantasies」Horizon label

裏ジャケ写真の2人の笑顔からレコーディングの出来栄えの充実ぶりが伺えます。僕自身この作品未だに愛聴盤です。それにしてもBeirach若くて可愛いですね。セーターは彼女からのプレゼントでしょうか?(笑)彼がその音楽性に反して意外とお茶目に映ったのは82年10月Quest来日のよみうりホールでのコンサート時、Liebmanが「次の曲はRichieの新曲、Dr. Coldです」と紹介した時に彼が両腕を組んで小刻みに上下に揺らし「寒い寒い!」というポーズを決めていました(笑)。Liebmanの方はあまりジョークを言わない生真面目な人と聞いています。

彼らの音楽は聴いていてハッピーになる、思わずメロディを口ずさんでリズムを身体で取ってしまう、そんなジャズのエンターテインメント性とは対極にあります。明るいか暗いかと言えばひたすら暗い音楽ですし、分かり易いかと言えば難解の極み、決してファミレスや居酒屋のBGMとして流れる事のない音楽です(笑)。聴き手自らが彼らの音楽に入って行かない限りその緻密な構造、コードの響き、美の世界を享受することは出来ません。絵画や彫刻をしっかり鑑賞したいのなら美術館に足を運び、はたまた映画館に赴き新作映画を大画面で鑑賞する能動的な姿勢が必要なように。このDuoの演奏には聴き手に「強いる」側面が前面に出ていますが、例えば二人の驚異的なタイム感の良さ、ハーモニックセンスの卓越した表現、ストイックなまでに無駄を削ぎ落としたサウンド、フレージング、ダイナミクス、そして楽器の熟練したマエストロぶり、音色の素晴らしさから「我々の音楽は分かる人にだけ聴いて貰えれば良い」とまさか面と向かっては言わないでしょうが、プライドを持って真摯に音楽に取り組む姿勢が痛烈に伝わってきます。

この作品の白眉は6曲目13’18″にも及ぶ(しかもDuoですよ)大作Obsidian Mirrors(黒曜石の鏡)。Beirachの作品、タイトルと曲想が実に合致していますね。ドラマチックな構成で時間が経つのも忘れてしまいます。この演奏を一体何度聴いたことでしょうか!Liebmanテナーのエグエグな音色、フリークトーン、必ず割れているフラジオ音(爆)、ピアニシモ時の低音サブトーンの豊かさ、一方のBeirachの聞き惚れてしまうほどのタッチの美しさ、音の粒立ちとサウンドのクリアーさ、エンディング低音域の爆発的な鳴らしっぷり!こんな風にピアノが弾けたらさぞかし気持ちが良いでしょうね、と痛感させる演奏、そして何より二人の息の合いっぷりが本当に見事です!

話を「Omerta」に戻しましょう。Beirachの解説によりこの作品、曲ごとにミュージシャンや知人、市井の人物に捧げられています。またレコード会社との契約の関係かBeirachの名前が表記上先に来ていますがいつもの対等な関係での演奏が繰り広げられています。この頃のLiebmanのセッティング、ソプラノマウスピースはBobby Dukoff D7にSelmer Metal用リガチャー、リードはSelmer Omega、番号は分かりません。楽器は多分Selmer Mark6。テナーマウスピースはOtto Link Florida Metalを9番から9 ★程度にオープニングを広げたもの、リガチャーは同じくSelmer Metal用、リードはLa Voz Med.HardかHardをトクサを使って調整していました。テナー本体は基本的にはCouf〜Keilwerthを使っていますが、海外ツアーの時にLiebmanテナーは重くて荷物になるので(汗)、渡航先で借りるというスタンスで乗り切っています。本人曰く「ピアニストはそこの店にあるどんな調整、状態のピアノでも弾かなければならないだろ?サックスも同じ事で構わないじゃないか」という、にわかには頷けない理由付けをしていますが、確かにLiebmanの映像を見るとテナーはいつも違う楽器を吹いています。彼ほど楽器を習得しているとどんな楽器、状態のものでも吹きこなせるようですね、僕には到底無理ですが(汗)。ある時はネックが緩かったのでしょう、管体との間に紙片を挟んで演奏していました。多分この時はYAMAHAから普通のラッカーの楽器を借りていたように記憶しています。

この作品が録音された78年6月に、Liebmanのサックスセミナーが故松本英彦氏が主宰するジャズスクール、ラブリーで開催されました。取るものもとりあえず学生だった僕は参加したのですが、未だにそこで受けたカルチャーショックを忘れることができません。大勢の若いミュージシャンの中に混じって松本さんも受講していましたが、終わってから「あんなに秘密を喋っちゃって大丈夫なのかな〜?」と仰っていたのが印象的でした。松本さんの物言いは可愛らしかったですから。リズムセクションは松本さんのレギュラーバンドの皆さんで、ブルースやスタンダードナンバーを演奏していましたが、テナーでキーがGのブルースにも関わらず、アドリブソロ中side keyのD#音(オーギュメント)をずっとロングトーンで吹き伸ばしているのです、しかもあのエグエグの音色で!気持ち悪いったらありませんでしたが、だんだんと耳が慣れてくると痛痒い感じから快感に変わってきました!Liebmanはとても楽器を良く鳴らしていますがラウドな感じはしません。そしてハイライトは音色を良くする、作っていくための練習として効果的なのがOver Tone(倍音)と力説し、そのデモ演奏を間近で聴くことが出来たのです。これはまさしく日本テナーサックス界に於る黒船来航です!!間違いなくセミナー参加者全員、日本人が日本で初めて触れる当時としては驚異的な奏法〜Over Tone Series(倍音列)の連続!その後僕はジャズ研の部室でOver Toneの練習を開始したのですが全然出ません!「ギャー、ボヒャー、ギョエー」という濁音系の耳に痛い音の連発です。「お前その練習うるさいからあっち行ってやってくれよ」と大不評でした(涙)

Liebmanサックスセミナーの最後に彼が受講者に捧げると言う事で、無伴奏でMy One And Only Love(確か)を演奏してくれましたが、その美しさに「あ、これが本物なんだ」と体感できました。曲名はうろ覚えでもサウンド感は心に残ります。「Omerta」でもラストにSonny Rollins に捧げるべくIn A Sentimental Moodをアカペラで演奏していますが、冒頭アウフタクトでソラシレミソラ〜と行くところが何と音が裏返って上のE音が出ているじゃありませんか!もちろん故意に倍音を使って裏返しているのですが、初めて耳にした時は乗り物酔いに近い違和感を感じました。これも同様に慣れてくると無しでは済まなくなります。

Beirach、Liebmanの2人は近年立て続けにDuo作品をリリースしていますが、円熟どころの騒ぎではない境地の演奏に発展しています。久しぶりに来日公演で聴いてみたいものです。

2018.02.02 Fri

Ella And Louis / Ella Fitzgerald & Louis Armstrong

今回はボーカリストElla Fitzgeraldとボーカル、トランペット奏者Louis Armstrongの共演アルバム「Ella And Louis」を取り上げてみましょう。1956年8月16日Hollywood Capitol Studioにて録音。Verve Records  Produced by Norman Granz

vo)Ella Fitzgerald vo,tp)Louis Armstrong p)Oscar Peterson g)Herb Ellis b)Ray Brown ds)Buddy Rich

1)Ca’t We Be Friends? 2)Isn’t This A Lovely Day? 3)Moonlight In Vermont 4)They Can’t Take That Away From Me 5)Under A Blanket Of Blue 6)Tenderly 7)A Foggy Day 8)Stars Fell On Alabama 9)Cheek To Cheek 10)The Nearness Of You 11)April In Paris

記念写真のような、飾り気のないシンプルなジャケット写真です。多分レコーディングを終えた後に撮影されたのでしょう、Louis Armstrong(サッチモ)の屈託のない笑顔とオシャレな靴下の折り方が可愛いです(笑)。Ella Fitzgeraldの表情は尊敬する先輩たちとのレコーディングを無事に終えた安堵感に満ちています。 照明による二人の影とサッチモのズボン、靴の黒色。茶色い床、背景と二人の肌の色。スカートと丈の短いズボンから覗く二人の足。真夏のレコーディングなのでエラの半袖ワンピースとネックレス、サッチモのシャツ、彼の笑みから溢れる白い歯、二人の座る椅子の足の白色がさりげなく色合いの統一感を表現していますが、多分偶然の産物でしょう。茶色を基調として白と黒色、そして二人の水色がアクセントになっている事からリラックスした楽しげな雰囲気を感じさせます。

この作品ではVerve Labelの創設者でありプロデューサーのNorman Granzが11の収録曲全てを選曲しました。おそらくバックを務めるOscar Peterson Quartetの人選も彼によるものでしょう、Verve Records All Starsです。バラードとミディアム・テンポを中心とした作品ではありますが、それにしても普段はあれだけ饒舌でテクニカルな演奏を聴かせるOscar Peterson、Herb Ellis、Ray Brown、Buddy Rich4人のこの作品での徹底した伴奏者ぶりにはとても敬服してしまいます!二人の主役を的確にバックアップするべく必要最小限にして厳選された音使い、音の間を生かしたバッキング、演奏の連続。いわば完璧な引き立て役、特にRay Brown、Buddy Rich二人の「何もやらなさ振り」(よく聴けばかなり細かい事をさり気なくやっていますが)は感動的ですらあります!!プロの伴奏者はこうでなくてはいけませんね。

このアルバムが成功を収めたことにより、続編として翌57年に今度はレコード2枚組で「Ella And Louis Again」を録音し、同年発表しました。伴奏のメンバーもBuddy RichがLouis Bellsonに変わった以外は留任しています。前作を踏まえ更にバージョンアップした主役二人の演奏を聴くことが出来ます。

「Ella And Louis Again」も大成功を収めたことで、二人のコラボレーション第3作目としてGeorge & Ira Gershwinの「Porgy And Bess」を57年に録音しました。アレンジ、指揮Russell Garcia、30名以上による大編成での演奏が実現したのは前2作がさぞかしヒットしたのでしょう、翌58年8月にリリースされました。そして後年、この作品は2001年にグラミー賞の名声の殿堂入りを果たすという栄誉にも輝いています。

97年にはこの3作をCD3枚組に全てまとめ、更に2曲Hollywood Bowlでのライブ演奏を追加した「The Complete Ella Fitzgerald & Louis Armstrong on Verve 」がリリースされました。こちらは大変に凝った仕様、デザインのブックレットタイプのジャケット、丁寧な作りのライナーノートから成り、「Ella And Louis」3部作、エラとサッチモの音楽性を愛して止まないスタッフがその想いをリリースに際ししっかりと込めた感じが、痛切に伝わってきます。まるでヨーロッパのレコード会社が制作したかのような丁寧さ、細やかさです(本国アメリカのCD製作のラフさ加減には凄い時があります)CD化に際しても的確なデジタル・リマスタリング処理が行われており、ジャズ、音楽の事を良く分かったエンジニアによる、いわゆる「良い音質」で鑑賞することが出来る内容に仕上がりました。

さて話を「Ella And Louis」に戻しましょう。作品全体を通して僕が感じる事の一つに、大好きなサッチモとの共演でエラが彼を立てるべくいつもより何処か遠慮気味に歌っているという点です。普段の歌唱力よりもレベルが落ちているというのではなく、サッチモよりも自分が出ないように、目立たないように、必ず一歩退いて後からサッチモを追うかの如きスタンスで歌っている感が漂っています。そんなことをしてもエラは強力に上手いシンガーです。目立たない訳がないのですが、彼女なりのサッチモに対する敬意の表れなのでしょう。この事を僕は続編「Ell And Louis Again」「Porgy And Bess」にも感じてしまうのですが、皆さん如何でしょうか。

1曲目にCan’t We Be Friends?とはまた言い得て妙な選曲です。女性と男性の声域は通常4度違いなのですが、ここでは二人同じキーで歌っています。歌った後にトランペットを直ぐ吹くのは結構大変な作業ですが、サッチモは難なく「弾き語り」ならぬ「吹き語り」を行っています。管楽器の演奏はその人の喋り方が反映されますが、ここまで演奏と歌い方が同じ(1オクターブの違いはありますが)なのは笑ってしまうくらいに凄いです。喋っているようなトランペット、楽器を吹いているかのようなボーカルです。

2曲目Isn’t This A Lovely Day?、エラの歌はラブリー、チャーミングでいて歌唱力が優れており器楽的にピッチやタイムが完璧、更に強弱のダイナミクスを伴った安定感で聴き手にグッときます。

かなり高い音域でサッチモがミュートトランペットでソロを取ります。彼の歌による合いの手、またエラの主旋律に対するハーモニーと大活躍です。

その時代に特に流行った曲というのがあります。3曲目Moonlight In Vermont、4曲目They Can’t Take That Away From Meの2曲は50年代〜60年代初頭にかけて様々なミュージシャンに取り上げられました。They Can’t Take That Awy From Meはエラが始めに歌い、サッチモがミュートトランペットでオブリを吹いています。その後いきなりアカペラでサッチモが違うキーで歌い始めまます。ちなみにこの曲を含め作品全体を通してのイントロ、エンディングや曲の構成はVerve Records専属アレンジャー、指揮者のBuddy Bregmanが行っており、彼のさりげないアレンジがどの曲でも光っています。「Swing it, boys」とサッチモが掛け声をかけて自らソロを取り始めます。良く聴くとミュートトランペットのソロの合間にピストンを空押しする「カシャカシャ」という音が聴こえます。彼の癖なのでしょうね、きっと。この空押しの最中に次に何を吹くべきかイメージしているのです。フレージングの間にほぼ必ず聴こえるので皆さん確認してみてください。

6曲目Tenderly、7曲目(レコードではB面1曲目)A Foggy Day、8曲目Stars Fell On Alabamaもこのころ流行った曲です。Tenderlyのミュートトランペットによるメロディ奏の朴訥とした味わいから少しテンポがアッチェル(テンポアップ)してキーが変わりエラの歌になります。その後同じキーでサッチモの歌にスイッチ、引き続きリタルダンド(テンポダウン)して再びサッチモのミュートメロディ奏、その後は何とエラがサッチモを真似した歌い方でのエンディング!考え得る全てのパーツを用いた構成、演出、こんなところにもアメリカのエンターテインメントの真髄を感じてしまいます。

9曲目Irving Berlin作曲のCheek To Cheekは大好きな曲です。ここでの興味深い事柄をぜひ挙げてみたいのです。印象的なイントロとそのパターンが継続しサッチモが1コーラス丸々歌います。New Orleans生まれの彼は南部訛りがしっかり残っており、例えば2’16″に出てくるseekという単語を「ジーク」と発音しています。1コーラス丸々歌った後、エラに選手交代すべく2’25″から「Take it Ella, swimg it」と掛け声を掛けるのですが、訛っているためにそうは聴こえません。これが何とタモリ倶楽部の空耳アワーに取り上げられました!(残念ながら僕の投稿ではありません)。画像としては初老の紳士がバーでお酒と一緒に出てきたお通しのピーナッツを見て、右手で拒否の仕草をしながら「出来れば、スパゲティ」と言っているのです(笑)。ジャズ好きのタモリさんにはかなり受けていましたが、大変残念なことに最高賞のジャンパーまでには僅かに届かず、次点のTシャツに参加賞の手ぬぐいを付けるという異例の対応になりました(爆)。「Take it Ella」は「出来れば」に聴こえないことはないのですが、「swing it」はどうして「スパゲティ」に聴こえるのでしょうか。そう言えば4曲目They Can’t Take〜の「Swing it, boys」の「Swing it」も微妙な発音でしたね。

他にもサッチモの発音による空耳ネタはたくさんあるのですが、また別の機会に紹介したいと思います。

2018.01.30 Tue

Joe Henderson / Double Rainbow – The Music Of Antonio Carlos Jobim

今回はテナーサックス奏者Joe Hendersonの95年リリース作品「 Double Rainbow – The Music Of Antonio Carlos Jobim」を取り上げて見ましょう。

Suite  Ⅰ JOE/BRAZ/JOBIM 1.Felicidade 2.Dreamer(Vivo Sonhando) 3.Boto 4.Ligia 5.Once I Loved(Amor Em Paz)

Suite  Ⅱ JOE/JAZZ/JOBIM 6.Triste 7.Photograph 8.Portrait In Black And White[A.K.A. Zingaro] 9.No More Blues(Chega De Saudade) 10.Happy Madness 11.Passarim 12.Modinha

Track1~5 1994年11月5、6日Clinton Recording Studio NYC録音 ts)Joe Henderson p)Eliane Elias g)Oscar Castro-Neves b)Nico Assumpcao ds)Paulo Braga

Track6~12 1994年9月19、20日Oceanway Recording LA録音 ts)Joe Henderson p)Herbie Hancock b)Christian McBride ds)Jack DeJohnette

Joe Henは91年Verve Labelに移籍し、翌92年に発表した第1作目「Lush Life: The Music Of Billy Strayhorn」が同年グラミー賞を受賞し、陽の当たり辛いカルト・テナー急先鋒から太陽光燦々のメジャー路線を歩み始めました。この作品はVerve Label企画モノ+ Joe Henの第3作目にあたります。前作はMiles Davisに因んだ93年発表「So Near, So Far (Musings For Miles)」です。

こちらの作品も素晴らしい内容で、60年代Milesのバンドに一時期参加していたJoe Henならではのトリビュートです。大手レコード会社が有する企画力、その企画を推進するスタッフ、市場のニーズに対する情報収集力を駆使し、Joe Henをフィーチャーした優れた作品を製作しようと言う情熱がこの作品を含めたVerveの一連のシリーズから伝わってきます。この他の作品も挙げておきましょう。

97年リリース「Joe Henderson Big Band」

Joe Henの一連の個性的なオリジナルや、かつて録音した「Without A Song」「Chelsea Bridge」等のスタンダード・ナンバーをジャズの伝統に根ざしつつもsomething newを加味したゴージャスなアレンジ、ビッグバンドの精鋭達やJoe Hen所縁のChick Corea、Freddie Hubbard、Al Foster等の超豪華なメンバーを迎えて緻密に、大胆に演奏しており、彼のテナーサックスのエッセンスが凝縮された演奏になっています。Joe Henファンのみならずビッグバンドファンをも唸らせる内容の作品に仕上がっています。

同じく97年リリースでVerve最終作にして彼の最後のリーダー作「Porgy And Bess」

過去様々なミュージシャンがGeorge Gershwinの書いたこのオペラを取り上げていますが、ここではギターにJohn Scofield、Chaka KhanとStingをボーカルに迎え、Joe Henしか成し得ない歌劇を聴かせています。

「Double Rainbow」に話を戻しましょう。実はリリースされる前にJoe HenがBossa Novaを、Jobimの曲を演奏すると言う触れ込みを耳にし、違和感を感じました。「Bossa NovaってStan Getzのオハコでしょ?あの音色でないと雰囲気が出ないのでは…」こちらの作品のGetzの音色が僕には支配的でした。64年リリース「Getz / Giberto」、因みにこの作品からBossa Novaが始まりました。

「ガサガサ、シューシュー、ホゲホゲ」と付帯音の宝庫Stan Getzのテナーサックス、この音色がBossa Novaの雰囲気を決定付けました。Joe Henの音色でのBossa Novaは一体どうなるのだろう?興味津々で本作CDを聴きましたが、いやいや、全くの杞憂でした(汗)。Joe Henの音色、タイム感、フレージング、音楽性でまた新たなBossa Novaが構築されているのです!

この作品はちょうどレコードのA面B面の様に2つに分かれており、A面=SuiteⅠ はブラジルのミュージシャンとのコラボレーション、本場ブラジルのグルーヴで演奏を繰り広げています。Oscar Castro-Nevesのアコースティック・ギターの気持ち良さといったら!そしてEliane Eliasのピアノ演奏がブラジル一色に終わらせず、ジャジーなテイストを加味させているのがポイントです。Suite Ⅰのラストを飾るのが5曲目Oscar Castro-NevesとDuoで演奏しているOnce I Loved、この曲の新たな名演が生まれました。

B面=Suite ⅡはHerbie Hancock、Christian McBride、Jack DeJohnette達とのカルテット、ジャズメンによるBossa  Novaですがこれがいずれも強力な演奏です!それにしてもMcBride、DeJohnette2人のタイム感、一拍の長さ、ビート感いずれもが酷似していて、何千年もの間地中深く何百何千メートルも根を生やしている縄文杉のような安定感です。6曲目TristeのJoe Henのソロは些か遠慮気味に聴こえたのですが、「さあHerbie、この後の落とし前を頼むよ」とばかりにJoe Henに肩を叩かれたのか、続くHerbieのソロがとことんイってます!「Herbie Hancockの演奏の後にはペンペン草も生えない」とは誰かの名言ですが、言い得て妙、まさしくその通りの演奏です!人のバンドでこんなに盛り上がった凄い演奏をしても良いのでしょうか??このHerbieのソロで思い出したのがヴィブラフォン奏者Bobby Hutcherson66年録音のリーダー作「Happenings」の1曲目、Aquarian MoonでのHerbieのソロです。

こちらも他人の作品でリーダーを喰ってしまう演奏の最たるものですが、メチャメチャかっこ良いソロです。こんなことが許されるのも、きっと演奏の素晴らしさ以上にHerbieの人柄が皆んなに愛されているからなのでしょう。

9曲目No More BluesはBossa Novaならぬ、なんとスイングのリズムで演奏されています!これには驚きました。それにしても名曲はどんなリズムで演奏しても名曲です。通常キーはD minorですが全音下のC Minorで、曲の前半部分のマイナーキーの部分をオープンにしてソロを取っています。

アルバムのラストに演奏されるのはChristian McBrideのベースと全編スイングのリズムで演奏するModinha。哀愁を帯びたメロディがエピローグに相応しい雰囲気を醸し出しています。

2018.01.20 Sat

Yellowjackets / Mint Jam

今回はYellowjacketsのライブ2枚組CD、Mint Jamを取り上げてみましょう。2001年7月24日、25日Los Angels、The Mintにて録音。Heads Up Label

[Disc 1]1.Les Is Mo 2.Boomtown 3.Motet 4.Mofongo 5.Blues For KJ 6.Runforyerlife [Disc 2]1.Song For Carla 2.Tortoise And The Hare 3.Mosaic 4.New Jig 5.Statue Of Liberty 6.Evening News

ts,EWI)Bob Mintzer key)Russell Ferrante b)Jimmy Haslip ds)Marcus Baylor

全曲メンバーによるオリジナルで構成されています。

大変素晴らしいクオリティのライブレコーディング、2日間に渡りライブが行われているので演奏テイクを厳選しているかも知れませんが、バンドの一体感、グルーヴが気持ち良いです。それにしても楽曲上の間違いや曖昧な点が全12曲中ライブにも関わらず殆ど感じられないのは驚異的です。また後からPro Toolsを使って編集作業が行われ、小さなミスは修正されているとは思いますが、徹底的にリハーサルを重ねて演目を確実に自分たちのものにしよう、パーマネント・バンドとしての自負、プライドを持ちつつ自分達の音楽を作り上げていこうと言う事を、文章の行間を読むように演奏の奥、向こう側から垣間見る事が出来ます。彼等がライブ演奏中一切譜面を見ずに曲をメモリーして演奏している点からも感じ取る事が出来ます。Weather Reportも同様に暗譜して演奏していました。

Yellowjackets(アメリカ本国ではJacketsと略して呼ばれています)は自分たちの楽曲の譜面を販売しています。「Music From Yellowjackets Mint Jam」by Russell Ferrante

このCD収録曲の全ての楽曲スコアが完璧に掲載されており、この譜面を元に演奏することが可能です。実際僕もこのスコアにはお世話になり、自分のバンドでも演奏した事が有ります。このスコアを見ながらCD演奏を聴けば曲の構造とメロディ、リズムの関係、コード進行との絡み具合が一目瞭然です。少し音楽を突っ込んで、楽理的にいささかマニアックな聴き方をして見たい方にオススメします。このように昨今はCDでオリジナルを演奏し、その譜面をJacketsのように曲集として販売したり、HP等で一曲づつダウンロード販売するのが当たり前になっています。楽器を演奏する人が増えているからこそですが、ジャズの楽しみ方として生演奏を聴きに行くよりも自分たちで演奏して楽しむ方に比重が傾いていると思います。ライブへのお客様の足が遠のくのも頷けます。30年以上前の例えば新宿、六本木、銀座、青山辺りのジャズクラブでは夜な夜な「ジャズを聴きたいぞ!」「聴かせてくれ!」と言うお客様が行列をなして待っていたほどですが。

JacketsはピアニストRussell Ferrante、Jimmy Haslipを中心にギタリストRobben Fordの1978年発表のアルバムThe Inside Storyで伴奏を勤めたのがきっかけで結成されました。初期にはアルト奏者Mark RussoやドラマーRicky Lawsonが参加し、いわゆる西海岸系のブライトでメロウなサウンドを聴かせていましたが、90年からテナー奏者Bob MintzerがMark Russoの代わりに参加した事でぐっとジャズ度が上がりました。ドラマーにもPeter Erskineが一時参加した事が有ります。その時の演奏を収録した海賊盤が「Erskine’s Tape」です。99年5月24日Sweden Lundにてライブ録音。

Weather ReportやSteps Aheadのドラマーとして名を馳せただけあって、このライブ盤でも素晴らしい演奏を聴かせています。グルーヴ感、楽曲のカラーリング、サウンド付け、フィルインの巧みさ、ソロイストに対する寄り添い方の繊細さ、大胆さ、ドラムソロの色気、僕としてはここでのメンバーts)Bob Mintzer key)Russell Ferrante b)Jimmy Haslip ds)Peter ErskineがJackets史上最強だと思いますが、Erskineは多忙さから加入を断念したようです。

実は僕も一度Erskineと共演の機会を持つことが出来ましたが、彼のミュージシャンシップには感銘を受けました。Erskine「やあ、こんにちは。君の名前は?僕は君のことを何と呼べば良いかな?」「Tatsuya Satoと言います、今日は宜しくお願いします。」Erskine「オッケーTatsuya、宜しくね。今日は皆んなで演奏を楽しもうじゃないか」スーパードラマーに対等に接して貰えて、僕自身もリラックスして演奏に臨むことが出来たのを覚えています。

Jacketsの曲は口ずさめるメロディアスなナンバーから、複雑で幾何学模様的な構造の曲、澄み切った青空のような美しいバラードまで、幅広いカラーのサウンドを聴かせてくれますが個人的にはMintzerのナンバーに心惹かれます。現在まで20枚以上の作品をリリースしていますが、Mintzerが参加し彼のオリジナルを演奏したアルバムはどれも優れたバランス感を保っています。西海岸と東海岸のサウンドの融合と言うべきか、ジャズ寄りのポップフュージョン、さらにそれを超えたJackets Musicと言えるかも知れません。

Jacketsでクリスマスソングを特集した作品があります。「Peace Round: A Christmas Celebration」2003年リリース

Jacketsのふくよかで優しく、上品なサウンド表現とアメリカ人がクリスマスに馳せる思いとが融合して他のクリスマスソング集にはないゴージャスさを感じさせます。最後に収録されているIn A Silent Night、Joe Zawinull作曲でMiles Davisのアルバムタイトルにもなっている「In A Silent Way」とクリスマスソングの代表曲Silent Nightの融合!早い話In A Silent Wayの曲想でSilent Nightを演奏しているのですが、やはりアメリカ人もダジャレ好きなのですね(笑)

一度Jacketsの生演奏を聴きに横浜のライブハウスに行ったのは、同じく03年リリースTime SquaredのCD発売記念ツアーでした。こちらも素晴らしい内容で前作Mint Jamを凌駕する出来映えです。

その日はちょうど自分の所属するビッグバンドのコンサートが同じく横浜であり、夕方のギグを終えてからすぐそばのライブハウスに赴く事にしていました。昼間そのビッグバンドの本番前のリハーサルも順調に進み休憩時間にメンバーと近所のユニクロを覗きに行きました。別に何を買うと言うわけでもなかったのですが、ユニクロ店内に外人が何人かいる事に気付きました。「どこかで見たことのある外人だけど…あっJimmy Haslipじゃないか!」と言う訳で彼のそばにはRussell Ferrante、Marcus Baylor、そしてBob Mintzer、Jacketsのメンバー全員を発見!Mintzerには面識が無かったのですが「Hello Bob, 僕はTatsuya Satoです。僕もテナーサックスを演奏していて、今夜Jacketsのライブを聴きに行く事にしています」「Tatsuya, nice to meet you. 今夜の演奏を楽しみにしていて下さい」とやり取りをする事が出来ました。ところでJacketsメンバー全員何をしていたかと言うと、1枚¥1,000のTシャツを物色していたのですが、案の定当夜のライブでは全員ユニクロの黒いTシャツをユニフォームのように着用していました。アメリカの超一流バンドでも現地調達でステージ衣装を格安購入する事に親近感を覚え、とても嬉しくなりました。