Odean Pope Saxophone Choir / Locked & Loaded featuring Michael Brecker, James Carter, Loe Lovano
今回はテナーサックス奏者Odean Pope, 2004年録音のリーダー作「Locked & Loaded」を取り上げてみましょう。サックス奏者が合計9名、うちテナー奏者が5名、アルト奏者が3名、バリトン奏者が1名から成るOdean Pope Saxophone Choirにゲスト出演でMichael Brecker, James Carter, Joe Lovanoの凄腕テナーマン3名が曲毎に加わるという、サックス奏者合計12名の大編成を収録したライブ作品です。ライナーノーツをOrnette Colemanが執筆しているというオマケまで付いています。
The Odean Pope Saxophone Choir / Tenors: Odean Pope, Elliot Levin, Terry Lawson, Terrence Brown, Seth Meicht Altos: Jullian Pressley, Louis Taylor, Robert Langham Baritone: Joe Sudler Piano: George Burton Bass: Tyrone Brown Drums: Craig Mclver Recorded Live At The Blue Note, New York, December 13~15, 2004
Michael Brecker featured on tracks 2 & 5; James Carter, track 7; Joe Lovano, tracks 3 & 6; Odean Pope; tracks 1 & 5; Jullian Pressley, Louis Taylor, track 4.
Hearts and Numbers / Don Grolnick featuring Michael Brecker
今回はピアニスト、コンポーザーDon Grolnickの初リーダー作「Hearts and Numbers featuring Michael Brecker」を取り上げたいと思います。
1985年リリース Hip Pockets Records All selections composed, arranged and produced by Don Grolnick. Executive producer: Steven Miller
p, synth)Don Grolnick ts)Michael Brecker g)Hiram Bullock, Bob Mann, Jeff Mironov synthesizer programming)Clifford Carter b)Will Lee, Marcus Miller, Tom Kennedy ds)Peter Erskine, Steve Jordan
1)Pointing At The Moon 2)More Pointing 3)Pools 4)Regrets 5)The Four Sleepers 6)Human Bites 7)Act Natural 8)Hearts and Numbers
1970年代にJames Taylor, Carly Simon, Linda Ronstadt, Bette Midler, Roberta Flackたち米国を代表するポップス界のヴォーカリストの伴奏を務めていたDon Grolnick、同世代のDavid Sanborn, Bob Mintzer, Steve Khan, John Tropea, Brecker Brothersといったインストルメンタルのスターたちからも絶対の信頼を得て彼らの作品に数多く参加しており、サポート力、この人に任せておけば安心という懐の深い音楽性、包容力で陰ながらの立場でNew Yorkの音楽シーンに君臨していました。ピアノの演奏自体は決して技巧派ではありませんし、派手さや強力に何かをアピールするタイプではないのですが本作で聴かれるように作曲、アレンジ、プロデュース力に他の人には無い独自の魅力を発揮しています。築き上げた人脈による素晴らしいメンバーと共に全曲自身の超個性的オリジナルでフィーチャリングのMichael Breckerに思う存分ブロウさせ(当時Michaelは未だリーダー作をリリースしていなかったので、彼のリーダー作に該当する勢いの演奏になります)、同様に参加メンバーの良さを最大限に引き出しつつこの名盤を作り上げました。音楽の形態としてはフュージョンにカテゴライズされるかも知れませんが、誰も成し得ない、こうあらねばならぬという常識に捉われないテイストを持ちつつ、ジャンルを超越したGrolnick Musicを表現しています。そしてジャズ史に残る作品というよりミュージシャンに愛されるミュージシャンズ・ミュージシャンの、ライフワークの1ページといった感を呈していると思います。彼はこの後3作のリーダーアルバムをリリースしますが、全てアコースティックなジャズ作品です。88年に一切の営業的な仕事を辞め、日々練習、音楽鑑賞、作曲に打ち込みました。クリエイティブな真のジャズプレイヤーを目指したかったのでしょう。
81年Steps Aheadでの来日、六本木Pit InnでMichael Brecker, Mike Mainieri, Eddie Gomez, Peter Erskineらと大熱演の際の曲間で、オーディエンスが彼らの演奏のあまりの素晴らしさと、リラックスした自然体からの振る舞いに向けて歌舞伎役者への大向こうの如く掛け声がかかり始めました。「ピーター屋!」おっと、違いましたね、「ピーター!」本人が「ハイ!」、「エディ!」「マイケル!」「マイク!」はにかみながら彼らは客席に手を振ったり会釈をしています。メンバーの中で知名度があまり無いドンには可哀想なことに誰からも声が掛かりません。するとドンが口に手を当て下を向きながら「ドン〜、ドン〜」とわざと女の子のような可愛らしい声で自分の名前を連呼するではありませんか!やっと僕にも声が掛かったけど、一体誰からなのかな?といった仕草を交えながら、おどけて周囲をキョロキョロするので客席は大爆笑!お茶目な人柄を垣間見ることが出来ました。
この作品は内容の素晴らしさに加え、録音のクオリティが良いことも特記されます。レコーディングされたSkyline StudiosはNew York Manhattan, Midtownにある79年創業、老舗のレコーディング・スタジオです。繁華街の一等地、ロケーションが良いのもありますが、エンジニア、スタッフが充実しており米国のあらゆるジャンルのミュージシャン御用達のスタジオです。ジャズではMiles Davis, Dizzy Gillespie, Herbie Hancock, McCoy Tyner, Bobby McFerrin, Dave Liebman…. 枚挙にいとまがありません。実は13年前に僕もこのスタジオでレコーディングする機会に恵まれました。手前味噌ではありますが紹介させて頂きます。ピアノ奏者Yasu Sugiyamaの「Dreams Around The Corner」2006年リリース p)Yasu Sugiyama ts)Tatsuya Sato b)Chris Minh Doky ds)Joel Rosenblatt add. key)George Whitty レコーディング当時最新鋭の録音機材が用意されていたという訳ではなかったのですが、こちらも大変素晴らしい音色、音像感、バランス、セパレーションで録音されました。レコーディングの前日にスタジオの場所を下見に行ったのですが、看板らしい看板が出ておらず戸惑った覚えがあります。街中にひっそりと佇むスタジオでした。
Grolnickのユニークでオリジナリティ溢れ、深い音楽性が宿る美しい楽曲の数々は聴く者に感動を与えますが、実は演奏者にも味わった事のない神秘的とも言える高揚感を提供します。本作収録曲全てのスコア他、彼の楽曲計30曲が収録された楽譜集が発売されています。99年初版発行Hal Leonard
1980年81年のStepsでの来日の他、89年Select Live Under The SkyでMichael Brecker, Bill Evans, Stanley Turrentine, Ernie Wattsのテナー奏者4名から成るSaxophone Workshopのピアニスト、音楽監督を務めるため再来日しThe Four Sleepers, Pools等の自作曲ほか、フェスティバルのコンセプトであったDuke Ellingtonのナンバーをアレンジして演奏しました。その時に起こったErnie Wattsの「事件」は以前のBlog「Don’t Mess With Mr. T / Stanley Turrentine」に掲載してありますので、こちらも併せてご覧ください。https://tatsuyasato.com/2017/
それでは演奏曲に触れていきましょう。1曲目Pointing At The Moon、これはなんとユニークなナンバーでしょう!アルバムの冒頭を飾るのに相応しい意外性、斬新さに満ちたサウンド、構成の名曲です。スペーシーにして高密度、遊び心満載、Steve Jordanの繰り出すタイトなレゲエのリズム、Jeff Mironovのカッティング、Will Leeのグルーヴが実に気持ち良いです。 Clifford CarterによりプログラミングされたシンセサイザーとGrolnickのピアノがサウンドのカラーリングを決定付け、その上でMichaelのテナーがGrolnickの音楽的な意図を確実に汲みつつ華麗なブロウを聴かせます。う〜ん、思いっきりカッコ良いです!Idiot Savantのライブ演奏を海賊盤でも聴きましたが、Idiot丸出しの(笑)アンビリバボーな演奏の連続でした!
8曲目ラストを飾るのは表題曲Hearts and Numbers、こちらも実に美しいナンバー、曲を一度聴くと長い間耳から離れることがない魅力的で安心感漂うメロディライン、赤とんぼなどの童謡を久しぶりに耳にした時の感覚に似ており、思わず口ずさんでしまいます。ここではソロピアノですが、Idiot SavantではMichaelのサックスをフィーチャーしてバンドでも演奏されていました。Grolnickが子供の頃に3人の親友とよく遊んだHeartsというトランプを用いたカードゲームがありました。彼の叔父さんのBob(Uncle Bobという彼のオリジナルもあります)が子供達に秘密の番号を与え、4人の子供達はそれを覚え、秘密として守ることを誓ったそうです。この曲はGrolnickの永年の親友たちに捧げられたナンバーだそうで、彼は仲間や友人をずっと大切にする人、そんな人物が作り上げた音楽だからこそ聴く者に得がたい感銘を与えるのでしょう。
2019.01.08 Tue
Universal Mind / Richie Beirach & Andy LaVerne
今回はRichie Beirach, Andy LaVerne二人のピアニストによるDuo(1台のピアノによる連弾です!)作品「Universal Mind」を取り上げたいと思います。
p)Richie Beirach, Andy LaVerne Recorded November 1993 SteepleChase Digital Studio, Copenhagen, Denmark Produced by Nils Winther
1)Solar 2)All the Things You Are 3)I Loves You Porgy 4)Haunted Heart 5)Chappaqua 6)Blue in Green 7)Elm The Town Hall Suite: 8)Prologue 9)Story Line 10)Turn Out the Stars 11)Epilogue
ピアニスト2人のDuoは昔からよく行われており、素晴らしい演奏者による名演奏が数々残されています。通常2台のピアノを用いて各々パフォーマンスを行いますが、本作は1台のピアノのみを用いた連弾(英語ではfour handsと言います)で、ライブでは時たま行われることもありますが、レコーディング作品として残した例は大変珍しく画期的な事だと思います。奏者どちらがピアノ鍵盤の左側(主に低音域担当)、右側(同じく高音域担当)を担当するか、演奏曲のメロディ、伴奏のシェア具合、アドリブ時伴奏者に音楽的に如何に被らない、交互にソロを取る場合は一瞬にして鍵盤から離れ相手に演奏を譲る反射神経、ペダルの使用はどちらが主導権を握るのか、物理的に腕や指がぶつからない等、いつもは独占している88鍵を共有し合う制約が、演奏にある種の緊張感を生み出し本作では実に良い方向に作用し、結果名演奏となりました。2人のピアニストの音楽的方向性、演奏スタイル、相性も大いに関係するところです。Richieは1947年5月NY生まれ、Lennie Tristanoに師事しBerklee, Manhattan音楽院でも学びました。Andyも同じく47年12月NY生まれ、Bill Evansに師事しBerrkleeのほかJulliard, New England音楽院でも学ぶという共に学究、学理肌、そして同世代のミュージシャンです。そういえばBillはLennieに師事していましたね。他の共通点としては名ピアニストを多く輩出し登竜門として名高いStan Getzバンドの出身者であり、白人ジャズピアニストの最高峰Bill Evansを敬愛し自他共にその影響を受けている事を認めています。本作でもEvansの66年作品「Bill Evans at Town Hall 」からピアノソロで演奏されている亡き父親Harry L. Evansに捧げたIn Memory of His Father Harry L. (Prologue/Story Line/Turn Out the Stars/Epilogue)をThe Town Hall Suiteとして取り上げています。
Andyは1人でグランドピアノ2台を同時に演奏する形でも作品をリリースしています。92年4月録音「Buy One Get One Free」Steeplechase Yamahaのグランドピアノを2台、片手で1台づつを演奏していますが、弾きこなすには大変な体力と気力、集中力が必要な事でしょう。物理的に腕が普通よりもかなり長くなければなりませんし(笑)。1台のピアノを2人で演奏することが連弾、ではこのように1人で2台のピアノを演奏する事は何と言うのでしょう?(笑)。こちらは壮大な雰囲気のソロピアノ集に仕上がっており、2台を難なく弾きこなすAndyのテクニック、器用さと音楽性、情熱に脱帽してしまいます。本作収録のElmがここで既に取り上げられていました。
2曲目はお馴染みJerome KernのAll the Things You Are、こちらもRichieのオハコのナンバーです。メロディの1音1音に全く別なコード付けを施す独自のRichieのアレンジが光ります。Andyが高音域を、Richieが低音域を担当します。それにしてもこの左手のラインは異常なほどに異彩を放ち、美しく響きます。Andyの右手のフレージングも実にクリエイティヴです!ベーシストSteve Lloyd Smith「Chantal’s Way」、自身のソロピアノリサイタルを収録した「Maybeck Recital Hall Series Volume Nineteen」、Dave LiebmanとRichieのDuo作「Unspoken」いずれもでRichieの素晴らしいAll the Thingsのプレイを聴くことが出来ます。
3曲目は本来バラードで演奏されるGershwinのI Loves You Porgy、明るいテンポでスインギーに、Richieが高音域、Andyが低音域担当で演奏されます。シングルノートでの対話形式のようにも聴こえつつ、次第に低音域〜高音域担当が入れ替わり2人の絡み具合が芳醇なスコッチウイスキーのように、シングルモルトからブレンデッドに移行して行きます。
5曲目は互いに敬意を表して各々の代表曲を演奏しあうコーナーのRichieヴァージョン、演奏曲はAndyのオリジナルChappaqua。元はAndyがGetzのバンド在団中演奏したナンバーでGetzはAndyが抜けた後も愛奏していた様です。それにしてもスタジオ内で自分の曲を他の名手が演奏するのを聴くのはどんな気分でしょうか?Richieにまさに打ってつけの美しいメロディ、コード進行を擁した名曲、そして知的さとリリカルさを配した解釈、素晴らしい演奏です。Andy自身もGetzバンドで演奏した経験を生かし、Getzのレパートリーばかりを取り上げた96年10月録音作品「 Stan Getz in Chappaqua」で演奏しています。ここでのGetz役はDon Bradenが務めます。もう1作、我らがベーシスト鈴木”Chin”良雄氏のNY時代の作品「Matsuri」でAndyと共演、ここではTom HarrellのフリューゲルホーンとLiebmanのフルートでメロディを分かち合っています。
6曲目は再びMilesのナンバーからBlue in Green、Bill Evansのナンバーだと言う説もあります。高音域をAndyが、低音域をRichieが担当、この上無い美の世界に誘いつつも演奏が佳境に達した頃にRichieが倍のラテンフィールを提示し、また別なカラーを聴かせてくれます。
8~11曲目はBill EvansへのトリビュートとなるThe Town Hall Concert、4曲ともBillのナンバーです。8曲目となるPrologueはRichieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。かなりマニアックな選曲、でもBillから影響を受けたピアニストやファンには堪りません!メロディを奏でるRichieの音色も心なしかBill寄りに聴こえます。
10曲目は哀愁感満載の魅力的なメロディ、コードの流れを持つ美しいバラードTurn Out The Stars。Richieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。ミディアムテンポでのRichieのソロ、物凄い事になっています!この音の粒立ち、音色、タイム感での高速プレイは超人的、でも決してテクニックのオンパレードにならないところが素晴らしいです!はっきりとしたメロディはソロ後に登場します。