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2019.01

2019.01.24 Thu

Odean Pope Saxophone Choir / Locked & Loaded featuring Michael Brecker, James Carter, Loe Lovano

今回はテナーサックス奏者Odean Pope, 2004年録音のリーダー作「Locked & Loaded」を取り上げてみましょう。サックス奏者が合計9名、うちテナー奏者が5名、アルト奏者が3名、バリトン奏者が1名から成るOdean Pope Saxophone Choirにゲスト出演でMichael Brecker, James Carter, Joe Lovanoの凄腕テナーマン3名が曲毎に加わるという、サックス奏者合計12名の大編成を収録したライブ作品です。ライナーノーツをOrnette Colemanが執筆しているというオマケまで付いています。

The Odean Pope Saxophone Choir / Tenors: Odean Pope, Elliot Levin, Terry Lawson, Terrence Brown, Seth Meicht Altos: Jullian Pressley, Louis Taylor, Robert Langham Baritone: Joe Sudler Piano: George Burton Bass: Tyrone Brown Drums: Craig Mclver Recorded Live At The Blue Note, New York, December 13~15, 2004

Michael Brecker featured on tracks 2 & 5; James Carter, track 7; Joe Lovano, tracks 3 & 6; Odean Pope; tracks 1 & 5; Jullian Pressley, Louis Taylor, track 4.

リーダーのOdean Popeというテナー奏者を紹介しておきましょう。38年10月24日South Carolinaで生まれ、10歳の時に家族でPhiladelphia移住、若い頃にRay BryantやJymie Merrittに師事し同地で演奏活動を始めました。優れたジャズミュージシャンが多く住むPhiladelphiaにはLee Morgan, Clifford Brown, Benny Golson, McCoy Tyner, Jimmy and Percy Heath、そしてJohn Coltraneが身近な存在で、とりわけColtraneと親交があり、ColtraneがMiles Davisのバンドに加わるために当地を離れNew Yorkに向かう際、参加していたJimmy Smithのバンドの後釜にPopeを選んだそうです。Popeの演奏からは60年代中頃のColtrane的な要素を感じます。様々なミュージシャンとギグをこなし、James Brown, Marvin Gaye, Stevie WonderといったR&B畑でのバックバンド演奏も行っていました。60年代はオルガン奏者Jimmy McGriffやMax Roachのバンドで演奏活動を行い、特にRoachとは長期間演奏を共にして来日も果たし、作品も多数残しています。70年代からは本作と同じ編成のサックス奏者9名とピアノトリオから成るSaxophone Choirを率いており、彼のライフワークと言えましょう。Popeも多作家で今までに20作以上のリーダー作をリリース、編成としてはサックス・ソロからデュオ、トリオ、カルテット、サックス・クワイアまで、様々なメンバーと多彩に演奏しています。本作では収録曲の全てをアレンジ、Coltraneのオリジナル2曲以外は自身の作曲になります。

楽器の編成上、中低音域での重厚なアンサンブルが特徴のこのサックス・クワイア、さぞかしライブで聴いたらサウンド的にもヴィジュアル的にもインパクトがありそうです。ここにMichael, Lovano, Carterがソロイストで加わり文字通り「テナーサックス祭り」を繰り広げているのです!

特記すべきはMichael Breckerにとって晩年の演奏になり、本作のミックスダウンを行っていた2005年に難病である骨髄異形性症候群を発症、DNAタイプの合致する骨髄を移植するしか抜本的な治療法がなく、そのドナーを世界中に募っていました。ルーマニアをルーツにするMichaelのDNAは特殊なもので、あいにく家族を始め他の誰ともDNAが一致せず、最後はMichaelの娘Jessicaの細胞を移植して得た小康状態で、遺作となった06年8月録音名作「Pilgrimage」を録音しました。音楽家としての執念の結晶といえる名演奏、最後の力を振り絞り成し遂げたのです。病床で全曲書き上げたMichaelのオリジナルの素晴らしさも堪能する事が出来る作品です。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目Epitoneの冒頭で奏でられるアンサンブル、さすがサックス・クワイア9管編成のサウンドは分厚く、編成上聴いたことのない斬新なハーモニー感です!途中リーダーPope自身のテナーもフィーチャーされますがマルチフォニックスによる重音奏法やサーキュラーブレス(循環呼吸)奏法も聴かせ、Roland Kirkをイメージさせる濃厚な音楽性を披露しています。音色的にはやはりColtraneのテイストが感じられ、使用マウスピースはおそらくColtrane派テナー奏者御用達のOtto LinkのMetalでしょう。サックス・アンサンブルは強弱のダイナミクス、音の切り方、アタックの付け方、ピッチ感とも大変良く揃っていて素晴らしく、微に入り細に入り徹底的にリハーサルを積んでいるように感じられます。オープニングに相応しい哀愁を伴ったメロディを有する佳曲です。

2曲目は同名のアルト、フルート奏者に捧げたその名もPrince Lasha、彼はEric Dolphy, Elvin Jones, McCoy Tynerらとの共演歴があります。Michael Breckerを大フィーチャーしたアグレッシヴなアップテンポのモーダルなスイングナンバー。いやー、テンポが早くなるとサックス・クワイアのエグさが一層際立ちますね!ステージ上サックス奏者9人の熱い眼差しを背後から痛いほど感じつつ、Michaelは一心不乱に、ハードにブロウします!このレコーディング時には病でそろそろ体調に異変をきたしていた頃かも知れませんが、微塵も感じさせないプレイです!ソロ中に演奏されるバックリフもメチャイケてます!ドラムソロを挟んでラストテーマが演奏されますが、Michaelを含めたサックス奏者10名のフリークトーンとリズムセクションのクラスターによるエンディング、一体何の大騒ぎでしょうか?これまた聴いたことがない音のカオスです。

3曲目CisはJoe Lovanoのテナーをフィーチャーした同じく哀愁系のミディアム・スイング・ナンバー、アルトのメロディ奏が美しく響きます。ここでのアカペラによる複雑で緻密かつ正確なアンサンブルを聴くと、Popeはセクションに参加せずにステージ前に出て指揮をしている可能性もあります。Lovanoも9人のサックス奏者の眼差しを受けつつ、ごんぶとの音色でLovano節を朗々と歌っています。

4曲目はColtrane作の美しいバラード・ナンバーCentral Park West、作者自身はソプラノで演奏しており60年録音「Coltrane’s Sound」に収録されています。主旋律を奏でるアルトの音域を敢えてフラジオを用いた高音域に行かないように途中から下げているようにも聴こえます。テーマ後のソリのアンサンブルもユニークなラインから成っています!フィーチャリングはJullian PressleyとLouis Taylorの2人のアルト奏者、彼らもColtraneスタイルのプレイヤーで流暢な演奏を聴かせます。サックス・クワイアの美しいハーモニー、サウンドも特筆もの、アレンジも個性的で聴きごたえ十分です!

5曲目は再びColtraneのオリジナルでColtrane Time、これまたアップテンポのエグいナンバー、変態系(笑)メロディとアンサンブルの後ソロ先発はMichael、ドラムとのデュオで曲のモチーフを生かしつつフリーキーにソロを発展させていますが、Michaelには珍しいほどに徹底したフリーフォームでのアプローチは「殿、ご乱心を!」状態、そしてまさにColtraneの曲だから、ソロの終盤Michaelの音色もColtraneライクに変化しています!その後Popeのアカペラソロがスタート、ここでもマルチフォニックス、サーキュラーブレス、さらにオーヴァートーンも用いて彼独自の世界を作り上げています。Michaelの時と同様サックス・クワイアのアンサンブルが入りつつ、モチーフを用いて2人のバトルに突入です!互いを聞きながらのソロの応酬を踏まえ、次第に白熱、とうとう2人とも完璧にイッちゃいました(笑)!ドラムソロでテーマのモチーフを提示しラストテーマに入ります。

6曲目Terrestrialは再びJoe Lovanoをフィーチャーしたナンバー、やはりマイナー調のメロディが哀愁を誘います。フリーフォームでのソロとインテンポでのクワイアのメロディ奏との対比による構成になっています。後半のLovanoのアカペラソロからラストテーマに突入する部分が実に美しいです。エンディングのフェルマータのなんと長い事!まだ続いてます!

7曲目ラストを飾るのはJames CarterをフィーチャーしたラテンのナンバーMuntu Chant、Carterの独壇場です!この人も実にサックスが上手いですね!でも相当変態だと思いますが(笑)、MichaelとLovanoよりも録音上でのサックスの音像が引っ込んでいるのが残念ですが、演奏中殆どずっと鳴っているクワイアのアンサンブルも一因かも知れません。この人もサーキュラーブレス使いですね!フラジオ、マルチフォニックス、64分音符の超高速プレイ、ダブル〜トリプル・タンギング、超絶テクニック技のデパートの感があります。Popeのやりたい事をヴァージョンを格上げし、全て代弁していると言っても過言ではありません。エンディングはサックス・クワイア全員でのサーキューラー・ブレス大会!教祖を筆頭とした何かの集団のようにまで感じてしまいました(爆)!

2019.01.18 Fri

Hearts and Numbers / Don Grolnick featuring Michael Brecker

今回はピアニスト、コンポーザーDon Grolnickの初リーダー作「Hearts and Numbers featuring Michael Brecker」を取り上げたいと思います。

1985年リリース Hip Pockets Records All selections composed, arranged and produced by Don Grolnick. Executive producer: Steven Miller

p, synth)Don Grolnick ts)Michael Brecker g)Hiram Bullock, Bob Mann, Jeff Mironov synthesizer programming)Clifford Carter b)Will Lee, Marcus Miller, Tom Kennedy ds)Peter Erskine, Steve Jordan

1)Pointing At The Moon 2)More Pointing 3)Pools 4)Regrets 5)The Four Sleepers 6)Human Bites 7)Act Natural 8)Hearts and Numbers

1970年代にJames Taylor, Carly Simon, Linda Ronstadt, Bette Midler, Roberta Flackたち米国を代表するポップス界のヴォーカリストの伴奏を務めていたDon Grolnick、同世代のDavid Sanborn, Bob Mintzer, Steve Khan, John Tropea, Brecker Brothersといったインストルメンタルのスターたちからも絶対の信頼を得て彼らの作品に数多く参加しており、サポート力、この人に任せておけば安心という懐の深い音楽性、包容力で陰ながらの立場でNew Yorkの音楽シーンに君臨していました。ピアノの演奏自体は決して技巧派ではありませんし、派手さや強力に何かをアピールするタイプではないのですが本作で聴かれるように作曲、アレンジ、プロデュース力に他の人には無い独自の魅力を発揮しています。築き上げた人脈による素晴らしいメンバーと共に全曲自身の超個性的オリジナルでフィーチャリングのMichael Breckerに思う存分ブロウさせ(当時Michaelは未だリーダー作をリリースしていなかったので、彼のリーダー作に該当する勢いの演奏になります)、同様に参加メンバーの良さを最大限に引き出しつつこの名盤を作り上げました。音楽の形態としてはフュージョンにカテゴライズされるかも知れませんが、誰も成し得ない、こうあらねばならぬという常識に捉われないテイストを持ちつつ、ジャンルを超越したGrolnick Musicを表現しています。そしてジャズ史に残る作品というよりミュージシャンに愛されるミュージシャンズ・ミュージシャンの、ライフワークの1ページといった感を呈していると思います。彼はこの後3作のリーダーアルバムをリリースしますが、全てアコースティックなジャズ作品です。88年に一切の営業的な仕事を辞め、日々練習、音楽鑑賞、作曲に打ち込みました。クリエイティブな真のジャズプレイヤーを目指したかったのでしょう。

81年Steps Aheadでの来日、六本木Pit InnでMichael Brecker, Mike Mainieri, Eddie Gomez, Peter Erskineらと大熱演の際の曲間で、オーディエンスが彼らの演奏のあまりの素晴らしさと、リラックスした自然体からの振る舞いに向けて歌舞伎役者への大向こうの如く掛け声がかかり始めました。「ピーター屋!」おっと、違いましたね、「ピーター!」本人が「ハイ!」、「エディ!」「マイケル!」「マイク!」はにかみながら彼らは客席に手を振ったり会釈をしています。メンバーの中で知名度があまり無いドンには可哀想なことに誰からも声が掛かりません。するとドンが口に手を当て下を向きながら「ドン〜、ドン〜」とわざと女の子のような可愛らしい声で自分の名前を連呼するではありませんか!やっと僕にも声が掛かったけど、一体誰からなのかな?といった仕草を交えながら、おどけて周囲をキョロキョロするので客席は大爆笑!お茶目な人柄を垣間見ることが出来ました。

この作品は内容の素晴らしさに加え、録音のクオリティが良いことも特記されます。レコーディングされたSkyline StudiosはNew York Manhattan, Midtownにある79年創業、老舗のレコーディング・スタジオです。繁華街の一等地、ロケーションが良いのもありますが、エンジニア、スタッフが充実しており米国のあらゆるジャンルのミュージシャン御用達のスタジオです。ジャズではMiles Davis, Dizzy Gillespie, Herbie Hancock, McCoy Tyner, Bobby McFerrin, Dave Liebman…. 枚挙にいとまがありません。実は13年前に僕もこのスタジオでレコーディングする機会に恵まれました。手前味噌ではありますが紹介させて頂きます。ピアノ奏者Yasu Sugiyamaの「Dreams Around The Corner」2006年リリース p)Yasu Sugiyama ts)Tatsuya Sato b)Chris Minh Doky ds)Joel Rosenblatt add. key)George Whitty レコーディング当時最新鋭の録音機材が用意されていたという訳ではなかったのですが、こちらも大変素晴らしい音色、音像感、バランス、セパレーションで録音されました。レコーディングの前日にスタジオの場所を下見に行ったのですが、看板らしい看板が出ておらず戸惑った覚えがあります。街中にひっそりと佇むスタジオでした。

Grolnickのユニークでオリジナリティ溢れ、深い音楽性が宿る美しい楽曲の数々は聴く者に感動を与えますが、実は演奏者にも味わった事のない神秘的とも言える高揚感を提供します。本作収録曲全てのスコア他、彼の楽曲計30曲が収録された楽譜集が発売されています。99年初版発行Hal Leonard


可能ならばスコアと共に本作を鑑賞することをお勧めします。聴いているだけは通り過ぎてしまう音楽的構造、とりわけ細部にこだわるGrolnickの音作りに対する情熱に触れてみてください。先日19年1月13日、僕がここ数年行っているMichael Brecker Tribute Concert(この日がMichaelの12回目の命日でした)でもGrolnickのナンバーを演奏しましたが、彼のナンバーを演奏する事により、演奏中コンサート自体のグレードが数段高まったようにも感じました。

1980年81年のStepsでの来日の他、89年Select Live Under The SkyでMichael Brecker, Bill Evans, Stanley Turrentine, Ernie Wattsのテナー奏者4名から成るSaxophone Workshopのピアニスト、音楽監督を務めるため再来日しThe Four Sleepers, Pools等の自作曲ほか、フェスティバルのコンセプトであったDuke Ellingtonのナンバーをアレンジして演奏しました。その時に起こったErnie Wattsの「事件」は以前のBlog「Don’t Mess With Mr. T / Stanley Turrentine」に掲載してありますので、こちらも併せてご覧ください。https://tatsuyasato.com/2017/

80年代初頭GrolnickはLower ManhattanにあったRandy, Michael Brecker兄弟が経営するライブハウスSeventh Avenue Southで自己のリーダーセッションを開始しました。メンバーは本作参加者を中心に、スケジュールが都合つくメンバーたちと彼のオリジナルをレパートリーとし、時にはBob MintzerのMr. Fonebone、MichaelのStraphangin’等も取り上げて意欲的に、信じられないほどの白熱ぶりを聴かせました。バンドの名前は彼自身がIdiot Savant(ある分野で非常に優れた技能や才能を示す知的障害者:専門バカ)と名付けましたがMichaelがGrolnickの豊かな音楽性と凄まじい集中力から「 時々僕はまるで我々がIdiot〜愚か者で、Donが Savant〜賢者と感じるんだ」と冗談めいて語っていました。そして83年にGrolnickは意を決して本作を自主制作で録音開始したのです。

それでは演奏曲に触れていきましょう。1曲目Pointing At The Moon、これはなんとユニークなナンバーでしょう!アルバムの冒頭を飾るのに相応しい意外性、斬新さに満ちたサウンド、構成の名曲です。スペーシーにして高密度、遊び心満載、Steve Jordanの繰り出すタイトなレゲエのリズム、Jeff Mironovのカッティング、Will Leeのグルーヴが実に気持ち良いです。 Clifford CarterによりプログラミングされたシンセサイザーとGrolnickのピアノがサウンドのカラーリングを決定付け、その上でMichaelのテナーがGrolnickの音楽的な意図を確実に汲みつつ華麗なブロウを聴かせます。う〜ん、思いっきりカッコ良いです!Idiot Savantのライブ演奏を海賊盤でも聴きましたが、Idiot丸出しの(笑)アンビリバボーな演奏の連続でした!

2曲目は1曲目のリプライズ的な楽曲、組曲とも言えるでしょう。フェードインから始まりピアノのパターンは前曲を踏襲しています。途中から入るシンセサイザーのバッキングがWeather Reportを感じさせつつ、Michaelが全く的確な超絶ソロを取ります。

3曲目Pools、Steps Aheadの「Steps Ahead」でも取り上げられていましたが、そちらがジャズ・ヴァージョンならこちらはまさしくフュージョンタッチのアレンジに仕上がっています。Peter Erskineのドラム、Will Leeのベース演奏が実に適材適所、Mironovのギター、GrolnickのFender Rhodesがスパイスになっています。こちらはサウンドのスペーシーさを聴かせるナンバー、ソロのスポットライトはGrolnickにのみ絞られています。

4曲目Regrets、耽美的な美しさを湛え、印象派の傑作絵画を美術館で間近に鑑賞するかのような、身が引き締まる思いにさせられます。曲中テンポが揺れるのが曲想をより深淵にさせています。Bob Mann(この人はThe Brecker Brothers Bandの1枚目に参加していました)のアコースティック・ギター、Tom Kennedyのアコースティック・ベースが良い味付けを施しています。何よりMichaelのテナーの音色が素晴らしいです。83年録音であればマウスピースはBobby DukoffのオープニングD9。一度Michaelに貴方はBobby Dukoffマウスピースを沢山持っているのでしょう?と何気に尋ねたところ、「いや、僕はそんなに持っていないよ」と軽くかわされました。本当の所は分かりませんが。

5曲目The Four Sleepers、こちらも名曲中の名曲です!曲のコード進行はAutumn Leavesをベイシックに、カラフルにアレンジされています。ここでのベースはMarcus Miller、こちらも嬉しくなる位に適材適所、いや、それを通り越して麻雀の嵌張ズッポシ、ジグソーパズルのピースが合致した感の素晴らしい演奏です!イントロのピアノのレイドバック感と対比するようにタイトなファンクのリズムがクールです。シンセサイザー、ベース、テナーサックスのメロディの振り分けにより、幾つもの味付けを楽しめます!エンディングのMichaelの物凄いブロウ、Idiot Savantでは更に高次元な世界にまで飛翔していました。

6曲目Human Bites、この曲のトピックスはSteve JordanとPeter Erskine2人のドラマーによる共演で、実に功を奏しています!煽られたMichaelがこれでもか、とイッちゃってます!Hiram Bullockのギターも凄い勢いでハードロッカー状態、1’07″~1’08″のドラムとギターのフィルインのやり取りには何度聴いても笑ってしまいます。Hiramはかなり茶目っ気のあるプレイヤーですね。シンセサイザーによるベースとそのフレーズ感からこの曲でもWeather Report〜Joe Zawinulのテイストを感じます。Michaelのフリーキーなフレーズに呼応した1’39″のHiramのカッティング、2’05″以降ベースが消えてTwin Drumsを相手に思いっきり暴れるMichael、その後ベースが復帰したHiramのソロ、3’49のギターのフィルイン、4’16″で一度Fineと思わせておいてTwin Drumsのショウケースに突入、そして再登場のMichaelのフレージングに呼応するドラマー2人、聴きどころ満載です。Twin Drumsってきっとドラマー冥利に尽きるのでしょう、楽しさ感がひしひしと伝わって来ますから。

7曲目Act Natural、Grolnick流ロックナンバー。ベースもドラムもシンセサイザー、Peterのシンバル・プレイが味付けになっています。MichaelやMironovのソロはオーバーダビングのように聴こえます。

8曲目ラストを飾るのは表題曲Hearts and Numbers、こちらも実に美しいナンバー、曲を一度聴くと長い間耳から離れることがない魅力的で安心感漂うメロディライン、赤とんぼなどの童謡を久しぶりに耳にした時の感覚に似ており、思わず口ずさんでしまいます。ここではソロピアノですが、Idiot SavantではMichaelのサックスをフィーチャーしてバンドでも演奏されていました。Grolnickが子供の頃に3人の親友とよく遊んだHeartsというトランプを用いたカードゲームがありました。彼の叔父さんのBob(Uncle Bobという彼のオリジナルもあります)が子供達に秘密の番号を与え、4人の子供達はそれを覚え、秘密として守ることを誓ったそうです。この曲はGrolnickの永年の親友たちに捧げられたナンバーだそうで、彼は仲間や友人をずっと大切にする人、そんな人物が作り上げた音楽だからこそ聴く者に得がたい感銘を与えるのでしょう。

2019.01.08 Tue

Universal Mind / Richie Beirach & Andy LaVerne

今回はRichie Beirach, Andy LaVerne二人のピアニストによるDuo(1台のピアノによる連弾です!)作品「Universal Mind」を取り上げたいと思います。

p)Richie Beirach, Andy LaVerne Recorded November 1993 SteepleChase Digital Studio, Copenhagen, Denmark Produced by Nils Winther

1)Solar 2)All the Things You Are 3)I Loves You Porgy 4)Haunted Heart 5)Chappaqua 6)Blue in Green 7)Elm The Town Hall Suite: 8)Prologue 9)Story Line 10)Turn Out the Stars 11)Epilogue

ピアニスト2人のDuoは昔からよく行われており、素晴らしい演奏者による名演奏が数々残されています。通常2台のピアノを用いて各々パフォーマンスを行いますが、本作は1台のピアノのみを用いた連弾(英語ではfour handsと言います)で、ライブでは時たま行われることもありますが、レコーディング作品として残した例は大変珍しく画期的な事だと思います。奏者どちらがピアノ鍵盤の左側(主に低音域担当)、右側(同じく高音域担当)を担当するか、演奏曲のメロディ、伴奏のシェア具合、アドリブ時伴奏者に音楽的に如何に被らない、交互にソロを取る場合は一瞬にして鍵盤から離れ相手に演奏を譲る反射神経、ペダルの使用はどちらが主導権を握るのか、物理的に腕や指がぶつからない等、いつもは独占している88鍵を共有し合う制約が、演奏にある種の緊張感を生み出し本作では実に良い方向に作用し、結果名演奏となりました。2人のピアニストの音楽的方向性、演奏スタイル、相性も大いに関係するところです。Richieは1947年5月NY生まれ、Lennie Tristanoに師事しBerklee, Manhattan音楽院でも学びました。Andyも同じく47年12月NY生まれ、Bill Evansに師事しBerrkleeのほかJulliard, New England音楽院でも学ぶという共に学究、学理肌、そして同世代のミュージシャンです。そういえばBillはLennieに師事していましたね。他の共通点としては名ピアニストを多く輩出し登竜門として名高いStan Getzバンドの出身者であり、白人ジャズピアニストの最高峰Bill Evansを敬愛し自他共にその影響を受けている事を認めています。本作でもEvansの66年作品「Bill Evans at Town Hall 」からピアノソロで演奏されている亡き父親Harry L. Evansに捧げたIn Memory of His Father Harry L. (Prologue/Story Line/Turn Out the Stars/Epilogue)をThe Town Hall Suiteとして取り上げています。

実は本作は2人のDuo第2作目にあたります。丁度1年前の92年11月録音の作品「Too Grand」Steeplechase こちらは連弾ではなく2台のピアノを使用しての伝統的なピアノDuo演奏になります。自由奔放でかつジャズスピリットに溢れ、同じ音楽的ベクトルを有するピアニストのみが成しうるダイナミックな演奏で、これまた素晴らしい作品です。この作品の仕上がりから2人は更なる緊密なDuo演奏を目指し、次作は敢えて縛りの多い連弾と言うスタイルで演奏に臨んだと言うことになります。ストイックでアーティスティックな2人に拍手を!

Andyは1人でグランドピアノ2台を同時に演奏する形でも作品をリリースしています。92年4月録音「Buy One Get One Free」Steeplechase Yamahaのグランドピアノを2台、片手で1台づつを演奏していますが、弾きこなすには大変な体力と気力、集中力が必要な事でしょう。物理的に腕が普通よりもかなり長くなければなりませんし(笑)。1台のピアノを2人で演奏することが連弾、ではこのように1人で2台のピアノを演奏する事は何と言うのでしょう?(笑)。こちらは壮大な雰囲気のソロピアノ集に仕上がっており、2台を難なく弾きこなすAndyのテクニック、器用さと音楽性、情熱に脱帽してしまいます。本作収録のElmがここで既に取り上げられていました。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目はMiles DavisのSolar、Richieが度々取り上げるレパートリーでもあります。冒頭Richieが高音域、Andyが低音域を担当します。ソロ中は度々入れ替わり、ラストはAndyが高音域、Richieが低音域を担当します。なんと緻密で知的、ホットでクールなインタープレイの連続でしょう!2人のピアノタッチを実に的確に捉えた録音状態も素晴らしいです。Lineageな2人は音楽的に良く似た部分もありますが明確な個性を湛えたスタイリスト同志、明らかな違いを感じさせつつも互いにインスパイアされフレージング、コードワーク、ピアノの音色区別が次第に付き難くなります。実際にどの様に入れ替わって演奏しているのか、録音時の映像が存在したら是非とも見て見たいものです。「いまの右手はRichieのラインだけど左手はAndyかな?」「両手ともにAndyかも知れない」と想像しながら鑑賞するのも楽しいです。ソロのトレード時に交差する4本の腕!20本の指!正確なタッチやタイムをテクニカルにキープしつつもエグいコードワークやハイパーなソロのラインが見事にハマり、応酬されるスリリングなDuo!これだけの演奏を繰り広げているにも関わらず声が出ないのが不思議です!演奏しながら声の出るピアニストが多いと思うのですが、無音の2人です。

2曲目はお馴染みJerome KernのAll the Things You Are、こちらもRichieのオハコのナンバーです。メロディの1音1音に全く別なコード付けを施す独自のRichieのアレンジが光ります。Andyが高音域を、Richieが低音域を担当します。それにしてもこの左手のラインは異常なほどに異彩を放ち、美しく響きます。Andyの右手のフレージングも実にクリエイティヴです!ベーシストSteve Lloyd Smith「Chantal’s Way」、自身のソロピアノリサイタルを収録した「Maybeck Recital Hall Series Volume Nineteen」、Dave LiebmanとRichieのDuo作「Unspoken」いずれもでRichieの素晴らしいAll the Thingsのプレイを聴くことが出来ます。

3曲目は本来バラードで演奏されるGershwinのI Loves You Porgy、明るいテンポでスインギーに、Richieが高音域、Andyが低音域担当で演奏されます。シングルノートでの対話形式のようにも聴こえつつ、次第に低音域〜高音域担当が入れ替わり2人の絡み具合が芳醇なスコッチウイスキーのように、シングルモルトからブレンデッドに移行して行きます。

4曲目はとても美しいバラードHaunted Heart、Andyが高音域、Richieが低音域を担当します。Bill Evansの「Explorations」に名演が収録されていますが2人のBillへのオマージュ第1弾です。Andyは左側にRichieがいるのでどうしても右寄りになる事からか、いつも以上に高音域でのラインが目立ちます。

5曲目は互いに敬意を表して各々の代表曲を演奏しあうコーナーのRichieヴァージョン、演奏曲はAndyのオリジナルChappaqua。元はAndyがGetzのバンド在団中演奏したナンバーでGetzはAndyが抜けた後も愛奏していた様です。それにしてもスタジオ内で自分の曲を他の名手が演奏するのを聴くのはどんな気分でしょうか?Richieにまさに打ってつけの美しいメロディ、コード進行を擁した名曲、そして知的さとリリカルさを配した解釈、素晴らしい演奏です。Andy自身もGetzバンドで演奏した経験を生かし、Getzのレパートリーばかりを取り上げた96年10月録音作品「 Stan Getz in Chappaqua」で演奏しています。ここでのGetz役はDon Bradenが務めます。もう1作、我らがベーシスト鈴木”Chin”良雄氏のNY時代の作品「Matsuri」でAndyと共演、ここではTom HarrellのフリューゲルホーンとLiebmanのフルートでメロディを分かち合っています。

6曲目は再びMilesのナンバーからBlue in Green、Bill Evansのナンバーだと言う説もあります。高音域をAndyが、低音域をRichieが担当、この上無い美の世界に誘いつつも演奏が佳境に達した頃にRichieが倍のラテンフィールを提示し、また別なカラーを聴かせてくれます。

7曲目表敬コーナーAndyの出番によるRichieのオリジナルElm、この曲はRichieが亡きポーランド出身の天才ジャズヴァイオリン奏者Zbigniew Seifertに捧げたナンバーです。作者自身のトリオアルバム「Elm」で聴くことが出来ます。ここでのAndyは曲の構造を徹底的に分析し、複雑なコード進行を微に入り細に入り解析し、Richieとはまた異なる解釈で深遠なハーモニーと美の世界を表現しています。左側にはRichieは居ないはずなのですがDuo時の耳、感性がそのまま継続しているのか、かなり高音域を多用しているように聴こえます。2人のオリジナル曲の録音終了後、その出来栄えからさぞかしお互いの音楽性を称え合ったことと思います。ピアニストが2人同じ現場に居合わせて共演する機会は稀有でしょうし。

8~11曲目はBill EvansへのトリビュートとなるThe Town Hall Concert、4曲ともBillのナンバーです。8曲目となるPrologueはRichieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。かなりマニアックな選曲、でもBillから影響を受けたピアニストやファンには堪りません!メロディを奏でるRichieの音色も心なしかBill寄りに聴こえます。

9曲目Story Line、Andyが高音域、低音域をRichieが演奏します。インテンポになってからの2人のソロのトレードが実にスリリングです。ここでのAndyのソロラインからBillのテイストが聴こえてきます。

10曲目は哀愁感満載の魅力的なメロディ、コードの流れを持つ美しいバラードTurn Out The Stars。Richieが高音域、Andyが低音域を受け持ちます。ミディアムテンポでのRichieのソロ、物凄い事になっています!この音の粒立ち、音色、タイム感での高速プレイは超人的、でも決してテクニックのオンパレードにならないところが素晴らしいです!はっきりとしたメロディはソロ後に登場します。

11曲目最後を飾るのは文字通りEpilogue、両者随時入れ替わりの演奏、テーマのメロディのモチーフを効果的に用いた、こちらの応酬もとんでも無いですね!エンディングはRichieが高音域、Andyが低音域で締めます。