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2019.10

2019.10.20 Sun

Mingus at Carnegie Hall / Charles Mingus

今回はベーシストCharles Mingusの74年リーダー作「Mingus at Carnegie Hall」を取り上げてみましょう。ジャムセッションを収録したライブレコーディング、レコードのAB両面1曲づつ各々20分以上長尺の演奏になりますが、起伏に富んだストーリーが聴き手を全く飽きさせません。

Recorded: January 19, 1974 at Carnegie Hall, New York City Label: Atlantic Producer: Ilan Mimaroglu, Joel Dorn Executive Producer: Nesuhi Ertegun

b)Charles Mingus tp)Jon Faddis as)Charles McPherson ts, as)John Handy ts)George Adams ts, stritch)Rahsaan Roland Kirk bs)Hamiet Bluiett p)Don Pullen ds)Dannie Richmond

1)C Jam Blues 2)Perdido

本作のライブレコーディングを収録した元々のコンサート「Charles Mingus and Old Friends in Concert」はNew York City MidtownにあるCarnegie Hallで74年1月19日土曜日の夜に行われました。40年以上前とは言え、入場最低料金$4.50とは随分安かったです。コンサートの最初のセットはCharles Mingusのニューグループによるもので、tp)Jon Faddis, ts)George Adams, bs)Hamiet Bluiett, p)Don Pullen, ds)Dannie RichmondそしてMingusのベース、6人編成のメンバーで行われました。レコードジャケットにはFaddisの名前もGuest Artistとして記載されていますが、これは誤記になります。演奏曲目はMingusのPeggy’s Blue Skylight, Celia, Fables of Faubus、加えてDon PullenのBig Aliceの計4曲。こちらのセットの演奏も録音されているでしょうから「The Complete Mingus at Carnegie Hall」の様な形でリリースされる日が来るかも知れません。後半のセットはゲストとしてJohn Handy, Rahsaan Roland Kirk, Charles McPherson3人のサックス奏者が加わった形で演奏されました。Mingusのライブでは必ず取り上げる彼のオリジナルや彼特有のバンドアンサンブルが無く(ソロの後ろで管楽器によるバックリフのアンサンブルが聴かれますが、その時々メンバーの即興によるものでしょう)、管楽器全員に延々とソロを回すジャムセッション形式で演奏が行われています。単にリハーサルや打ち合わせをする時間がなかったためなのかも知れませんが、結果歴史に残る素晴らしいパフォーマンスを繰り広げました。演奏曲目はMingusが心底から尊敬するDuke Ellingtonのナンバーから、セッションで日常的にもよく取り上げられるC Jam Blues, Perdidoの2曲。セッションの選曲にさえも自身の音楽性を反映させており、Mingusの音楽表現へのこだわりを感じさせます。MingusとEllingtonの共演作が残されています。62年9月録音「Money Jungle」、ドラマーにMax Roachを迎えたピアノトリオ、Mingusはいつも以上にハイテンションにプレイし、3人で素晴らしい演奏を繰り広げています。

帽子を被ったオシャレなEllington,サスペンダーのMingus,迷彩服姿(?)のRoachが異彩を放っています。

Old Friendsと言うくらいで、本作はMingusと過去に於いて共演を果たしているミュージシャンたちとの演奏になります。ニューグループの方は若手が中心でNew Friendsということになりますが、メンバーとの関わりについて触れてみましょう。ドラマーDannie RichmondはMingusの片腕、女房役として57年録音の名作「The Clown」からMingusの78年ラストレコーディングまで30年以上、殆どの作品で共演を果たしています。素晴らしいセンスのドラミング、ビート感、Mingusの音楽的要求に確実に答えられる柔軟性、何より強面、自我の表出の激しいMingusと永年私生活でも支障なく付き合える包容力と忍耐力(笑)を持ち合わせています。

ピアニストDon Pullenは前作73年「Mingus Moves」からの共演になり、個人的にMingusの特に優れた作品と認識している74年「Changes One」「Changes Two」にも参加、演奏のキーパーソンとなっています。R&Bからビバップ、フリーフォームまで幅広いスタイルを網羅した演奏は本作で共演しているテナー奏者George Adamsと絶妙のコンビネーションを発揮、両者共同名義による作品も多くリリースされています。

そのGeorge AdamsもPullenと同じく「Mingus Moves」からの共演になります。同様に「Changes One」「Changes Two」にも参加、やはりAdamsの快演無しには名作「Changes」2作は成り立ちませんでした。Mingus Bandで互いに切磋琢磨した間柄から、79年George Adams〜Don Pullen Quartetの結成は必然のなせる技なのでしょう。

トランペッターJon Faddisとは72年Lincoln Centerで行われたMingusビッグバンドの作品「Charles Mingus and Friends in Concert」で初共演、その後同年7, 8月に小編成のバンドで欧州ツアーをしました。持ち前のハイノートを駆使したプレイは多くのビッグバンドやスタジオワークで重用される一方、アドリブ奏者としても非凡な演奏を聴かせます。

バリトン奏者Hamiet BluiettはFaddisと共に72年の欧州ツアーに同行したのが付き合いの始まり、その後は付かず離れずのスタンスで彼と75年まで共演していました。Mingusの元を離れた後76年には、満を持して自己の初リーダー作「Endangered Species」をリリースすることになります。

ゲストサックス奏者一人目Charles McPhersonは文字通りのOld Friend、62年頃からの共演歴になります。Bootlegの「The Complete 1961-1962 Birdland Broadcasts」でその最初期の演奏を聴くことが出来ます。Mingusのアルバムには10数作参加している古参のひとりです。

ゲストの二人目John Handyは本ライブでテナーとアルトの両方を曲によって吹き分けています。マルチリード奏者として知られていますがMcPhersonよりも更に古く59年「Jazz Portraits: Mingus in Wonderland」からのOld Friend、主に60年代初頭に演奏を重ね、本作では久しぶりの共演になります。

そして三人目のOld Friendは本作の裏番長、いや真の主役と言っても良いかも知れないRahsaan Roland Kirk、本作ではテナーサックスをメインに誰よりも長く、誰よりも派手に巧みにソロを取り、自分の世界をとことん、これでもかと表現しています。Mingusとは前記のBootleg盤の61年テイクと、同じく61年「 Oh Yeah」で共演していますが、それ以来13年振りの共演はMingusから絶大な信頼を得ていたのでしょう、手が付けられない状態になるまでソロプレイを放置されています(笑)!

メンバーが全て出揃いました、それでは演奏について触れて行きましょう。1曲目C Jam Blues、ピアノトリオでまず1コーラステーマが演奏され、続いて管楽器総動員6管によるユニゾンでテーマが1コーラス演奏されます。MingusとRichmondが繰り出すビートは実にスインギー、ベースの音色が極太です!ソロの先発はJohn Handyのテナー、Handyはアルト奏者というイメージがありましたが、この音色を聴く限りアルト奏者のテナーの音ではなく、テナー奏者のものです。スタイル的にもCharlie ParkerではなくSonny Rollinsやホンカーのテイスト、John Coltraneのスパイスも感じさせます。合計15コーラスを演奏し、1コーラスクッション的に次の演奏者探しに費やされます。Bluiettのバリトンが次なるソロイスト、最低音域からフリークトーンを用いた高音域までレンジを広く網羅したソロを聴かせます。フリーフォームを中心にしたアヴァンギャルドな内容の語り口、さすがDavid Murray, Oliver Lake, Julius Hemphillらを擁したWorld Saxophone Quartet(メンバーの変遷はありましたが)のメンバーです。 9コーラスを演奏した後今度はGeorge Adamsのテナーにスイッチします。いきなりアウトしたフレージングから始まりますが、この人の音色には何とも言えない独特の色気、艶があるので思わず聴き入ってしまい、彼の世界に引きずり込まれます。フリーキーなフレージングの連続に、リズムセクションも7’03″辺りからMingusのオリジナルに良く用いられる8分の6拍子(6/8)のリズムに変わって行きます。1コーラスの後ドラムはもう少し6/8リズムを続けたかったフシが伺えましたが、Mingusがきっぱりとスイングに戻しました。PullenのバッキングもAdamsに同調して、おそらく肘打ちや拳骨を駆使したクラスター・サウンドを聴かせますが、彼の手が絆創膏だらけだった写真を見た事があり(爆)、流血するほどの格闘技ファイター的なピアノ奏法です!AdamsもHandyと同じく15コーラスを演奏、盛り上がり切った現場は根こそぎAdamsに持って行かれ、ペンペン草さえも生えていないような荒涼とした大地です(笑)!そこにRahsaan Roland Kirkがスネークインして来ました。これだけの世界を作られた後にソロを行うのは誰でも辛いと思うのですが、Kirkは一向に意に介していない模様、落ち着き払い堂々とした登場ですが、2コーラス目で先ほどのAdamsのソロのフリーキーな部分を、見事なまでにそっくりマネしているではありませんか!耳の良いプレイヤーならではのフェイクですが、さぞかしAdams本人は勿論、メンバーも驚いたことでしょう!さて、ソロの掴みはOK、続いてRollinsのAlfie’s Themeを引用します。Kirkのフレージングは様々なテナープレーヤーの要素を研究したフシが伺えますが、かなり高度な音使いをさり気なく用いており、更に加えて10’55″から聴かれる特殊な運指とその奏法によるマルチフォニックス(重音)をサーキュラーブレス(循環呼吸)で長時間吹き続ける、11’43″からトリルを用いつつ延々とお得意のサーキュラーブレス、ダブルタンギングを多用したフレーズ、12’35″からはColtraneのA Love Supremeのテーマ引用、12’46″からはベンドとグロートーンを同時に用いたIllinois Jacquet風ホンカー・テイストのブロウ、13’15″からは一転して音色も変えながらのビバップ・テナー、例えるならばDexter Gordon風のテイストでのソロ、13’36″から再びサーキュラーブレスでギネスブックものの信じられない長さでアヴァンギャルドなフレージングのオンパレード、オルタネートフィンガリング、フリークトーン、マイクロフォンから(わざと?)遠ざかり、近づくエフェクト、ありとあらゆるサックスの特殊奏法のオンパレードにより、何と24コーラスを吹き遂げました!!その後1コーラスが次のソロイストに引き継ぐためのクッション的にリズムセクションので演奏され、Faddisのソロになります。冒頭のフレージング、そうですよね、こんなフレーズでも吹かないと演奏を始められないですよね(笑)。Dizzy Gillespieのテイストを感じさせるミュート・トランペットによる8コーラスのソロが聴かれます。ソロイストの最後はMcPhersonのアルト、実に正統派Parkerスタイルを端正に、クールに12コーラス聴かせます。1コーラスのクッションを置いてラストテーマに戻りますが、あれだけ盛り上がってしまった演奏はそう容易くエンディングを迎えることは出来ません!場外乱闘的が始まりました!Kirkがサーキュラーブレスで吹き続けるF#の音(#11th)がドローンのようにずっと鳴り響きますが、ここでは本編では吹かなかったstritchも用いて、2本同時に演奏しているように聴こえます。各人様々なフリートークを重ねています!4分以上続き満場のアプラウズを受けてとうとうFineです。


2曲目がPerdido、C Jam Bluesの白熱した演奏で全参加者全員すっかりと吹っ切れたようです!テンポは先ほどよりも早く設定されており、ソロの一人目は再びHandy、今度はアルトを携えての登場になりますが、早めにソロを終えて落ち着いてしまおうという目論見か、それとも周りのミュージシャンがHandyに敬意を払って先発を勧めたのか、何れにせよいきなり別人のようにアグレッシヴなアプローチを聴かせます!フラジオ音も多用しつつのソロはやはりParkerの語法を感じることは出来ず、どちらかと言えばモーダルな、テナー奏者としてのスタイルを感じます。当然リズムセクションの演奏も一層熱気を帯び始め、Richmondのドラミングが特にイっています。4コーラスを演奏しBluiettのソロになりますが、彼の演奏も委細構わずの姿勢をより感じさせ、ハードに、ファンキーに、やはり4コーラスを演奏しています。そしてKirkの登場です。C Jam Bluesでの熱気を他所にクールにまず1コーラスを演奏し、2コーラス目途中からいきなりターボ全開、サーキュラーブレスで倍テンポ吹き捲り、オーディエンスはKirkの演奏が再び自分たちを音の異次元空間へいざなってくれるのだろうと、期待に満ちた熱いエールを送ります!それにしてもサーキュラーブレスとは管楽器奏者が複数参加するライブ・パフォーマンスでは確実に全てを制する飛び道具、いや破壊兵器になりますね!Pullenのバッキングも途轍もない次元まで登り詰めているので、彼の両手が心配です!聴衆のリクエストに完全に合致した超ハイパーなソロ、笑っちゃう位の物凄さを計9コーラス演奏しています。続いてMcPhersonの登場、原曲のメロディを挿入しつつ端正さはしっかりとキープしてホットなソロを4コーラス聴かせています。Adamsのソロにその後引き継がれますが、彼もタガが外れたかのように初めからフリー・アプローチ祭りの様相を呈しています!素晴らしい音色、楽器コントロール巧みさ、演奏盛り上げに対してのバリエーションの豊富さは実に見事。ですが同じテナー奏者同士の比較はやむを得ません、やはりKirkの方が役者が何枚も上のように感じてしまいます。5コーラスを演奏した後Faddisがオープンでトランペットソロ、ここでは一層Gillespieのカラーを聴かせるソロに徹して5コーラスを吹いています。その後Pullenのソロがバーニング!1曲目演奏時間24分強、ここでも既に18分以上が経過、ホーンズのソロに圧倒されつつ長い間出番を虎視眈々と狙っていたのでしょう!ストロングなピアノタッチ、手の方よりも鍵盤やピアノの弦の方の損傷を心配するのは取り越し苦労ですね(笑)Perdidoの2ndテーマが演奏されますが、冒頭のテーマ演奏時サビでアルトでソロを取っていたHandy、後テーマのサビではテナーでソロを吹いています。エンディングではこちらもテナーとstritch用いたKirkのドローンが演奏され、参加者全員演奏の残火をいとおしんでいるかのようにブロウしていますが、前曲よりもあっさり目に曲を終えています。

2019.10.13 Sun

Out of the Afternoon / Roy Haynes

今回はドラマーRoy Haynesの1962年録音リーダー作「Out of the Afternoon」を取り上げてみましょう。

Recorded: May 16(on 1, 6, 7) & 23(on 2, 3, 4, 5), 1962 Studio: Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey Label: Impulse! Producer: Bob Thiele

ts, manzello, stritch, flute, nose flute)Roland Kirk p)Tommy Flanagan b)Henry Grimes ds)Roy Haynes

1)Moon Ray 2)Fly Me to the Moon 3)Raoul 4)Snap Crackle 5)If I Should Lose You 6)Long Wharf 7)Some Other Spring

Flanaganだけ楽器を持たずに手持ちぶたさでいるのが可愛いジャケット写真です。

1925年3月13日Boston生まれのRoy Haynesは現在94歳、ご存命で今でも時たまドラムを演奏すると言う話を耳にすると嬉しくなってしまいます。モダンジャズを代表するドラマーにして優れたバンドリーダー、何より柔軟な音楽性ゆえ数多くのミュージシャンから彼のドラミングが必要とされ、レコーディングを重ねジャズ史に燦然と輝く名盤に名を連ねて来ました。枚挙に暇がありませんが彼を雇い共演したミュージシャンはLester Young, Charlie Parker, Miles Davis, Bud Powell, Wardell Gray, Sarah Vaughan, Eric Dolphy, John Coltrane, Stan Getz, Sonny Rollins, McCoy Tyner, Chick Corea….Haynesの参加した作品のかなりの数を耳にしましたがその全てに彼の存在感があり、楽曲アンサンブルの巧みさやソロイストを鼓舞し、演奏を活性化させるアーティスティックな姿勢に毎回感銘を受けます。僕がHaynesと双璧を成すと思っているドラマーがElvin Jonesですが、HaynesがJohn Coltrane QuartetにおいてElvinの代役を務め、名演奏を残したことはよく知られており、二人の演奏スタイルは全く異なるにも関わらず共通していることがあります。それはドラムを叩かず(実際にはもちろん叩いていますが)、演奏せず(していますが)、音楽を奏でている点です。彼らのドラミングのフレーズが型にハマらず不定形で、演奏者によって、その場その場の状況で多様に変化して行きソロイスト、共演者に寄り添い、ビートを刻む、リズムを繰り出す、それもシンコペーション、ポリリズムを駆使してその場で最も相応しく且つ一層のアクティビティをもたらす効果的な対応、その瞬間の取捨選択の見事さ、そして極めて尋常ではない大胆さを伴いつつ。これらは二人のどちらかに当てはまると言う事ではなく、両人にユニゾンのように備わっているのです。

Haynesのリーダー作は54年に欧州で録音された10inchの企画もの「Busman’s Holiday」「Roy Haynes Modern Group」2作が最初期のものに該当します。欧州に熱狂的なHaynesファンがいて、渡欧を見計らってレコーディングを持ち掛けたのかもしれません。

58年録音「We Three」がHaynesのリーダー作として本格的なものになります。ピアニストにPhineas Newborn, ベーシストPaul Chambersら豪華メンバーを擁したピアノトリオ作、モダンジャズを代表する素晴らしい作品の1枚だと思います。

次作として60年録音同じくピアノトリオによる「Just Us」はピアノにRichard Wyands、ベースにEddie De Haasをフィーチャーしたこちらも選曲、演奏共に優れたアルバムです。We Threeの次がJust Usと言うのも洒落たネーミングですが、レコードジャケット両作のメンバー集合写真からもトリオとしてのまとまり、我々にしか出来ないグループ・サウンドを創造するんだ、と言う意欲を感じさせます。

そして62年録音の本作に繋がります。これまでのピアノトリオ形態にフロント1人を迎えたカルテットになりますが、このサックス奏者が半端ではありません。マルチリード奏者にして複数本の楽器を同時に奏でる盲目のプレーヤーRoland Kirk、存在感、プレイとも申し分ない人選。Haynes、そしてプロデューサーBob Thieleよくぞ彼を招き入れました! HaynesがNYCのジャズ・クラブFive Spotにて対バンとして出演していたKirkとセッションを行い、演奏に感銘を受けThieleに本作の企画を持ちかけて実現しました。Kirkは自己がリーダーでの活動が中心で、サイドマンとして演奏するのは珍しく、他にはCharles Mingus, Quincy Jones, Jaki Byardが彼をサイドマンとして雇っている位です。サイドマンとしての演奏が少ないのは強力なパーソナリティの持ち主ゆえかもしれませんが、逆にMingus, Quincy, ByardそしてHaynesほどの優れた音楽性を持った個性派であれば、Kirkに自由に演奏させたとしても十分に自己の音楽に内包させることが出来るという事でしょう。Kirkは本作録音前月にHaynesを既に招き入れ名作「Domino」をレコーディング、以降68年「Left & Right」76年「Other Folks’ Music」の計3作で共演しています。

もう一つこれは大変興味深い演奏ですが、71年放送のEd Sullivan ShowにKirkのグループとしてHaynesの他、Charles Mingus, Archie Sheepらと共に出演、番組冒頭ではサックスを3本同時に吹き自身の名曲The Inflated Tearの一節を独奏、その後に参加メンバー全員でMingusのHaitian Fight Songを演奏しているのです! https://www.youtube.com/watch?v=fzGj_-5FGT8 (アドレスをクリックしてyoutubeの映像をご覧ください!)

Roland Kirkの演奏や音楽性については別の機会にまたじっくりと取り上げたいと思うのですが、本作収録曲の演奏を触れて行くに当たり、どうしてもKirkを中心に語らざるを得ないのが実情です。

1曲目哀愁を湛えたスタンダード・ナンバーMoon Ray、Haynesのマレットによるロールからピアノ、ベースのアルコが加わり一瞬二本同時演奏の後、テナーサックスによるメロディが始まります。多重録音が成されていないことを前提に、サビはmanzello(巨大な上向きベル付きソプラノサックス、Kirkが考案した楽器です)で演奏しています。ソロはテナーサックスが中心ですがもう1本サックスの音が同時にずっと聴こえ、時折ハーモニーを吹いたりダブル・タンギングを用いてアクセントを付けたり、耳には心地よく入って来ますが録音中、実はとんでもないことが行われていました!続くTommy Flanaganのピアノソロは職人芸的なスムースさを伴って、美しく響きます。Henry Grimesのベースはon topの素晴らしいタイム感でHaynesのソロとよく絡み合っています。ラストテーマは再びテナーとmanzelloを持ち替え、エンディングは2本をダブリングしています。Kirkの演奏はすべてがさりげなく行われていますが、白鳥が湖面を優雅に泳ぐが如く、水面下では壮絶な出来事が進行しています。

2曲目はMoonつながりでFly Me to the Moon、3拍子で演奏されています。イントロでHaynesは皮物を鳴らしたソロの後ピアノ、ベースが加わりテナーでメロディが始まります。始めサブトーンを用いた低音域で、その後は上の音域にスイッチしテーマの最後4小節には一瞬の間にもう1本サックスをダブリングしてハーモニーを聴かせています。テーマ終了時1本を口から離し、音が途切れることなくソロがテナー1本で開始されますが、多重録音でもない限りちょっと考えられない奏法です。1’03″からダブルタンギングによる16分音符の超絶フレージング、続け様に今度はテナーサックス1本でマルチフォニックス奏法による多重音奏法、2’04″から08″間は再び2本同時演奏によるハーモニー(実に芸が細かいです!)。Kirkがアドリブで吹いているラインは比較的オーソドックスなものですが、何しろ様々なテクニックを駆使した曲芸的な、ある種大変トリッキーなものです。60年代初頭に忽然と現れた謎の怪人サックス奏者、盲目にして独自の風貌、さぞかしプレーヤー、オーディエンスともに衝撃的だった事と思います。米国は本当に多くの天才を輩出する国だと改めて実感しました。その後FlanaganのソロになりますがKirkの演奏時はそちらにばかり耳が行ってしまい、バックの演奏に注意を払えなくなりますが、ピアノソロで実にHaynesが巧みなドラミングを聞かせていることに気付かされます。ベースソロに続きKirkはmanzelloに持ち替えてドラムと8バース〜4バースを行います。テナーソロと異なるのはシングル・タンギングを用いたキレの良い8分音符が中心になる点です。HaynesはKirkのフレーズに反応しつつ新たなアイデアも提供しています。その後バースに於いてもダブリングを行い、2本でユニゾン〜ハーモニーも聴かせます!ラストテーマは再び低音域に戻り、後半上の音域へ、エンディング逆順進行でも2本によるハーモニーを演奏してFineです。

3曲目はHaynesのオリジナルでアップテンポのスイング・ナンバーRaoul、Haynesの短いドラムソロからテーマに入ります。Kirkは再びmanzelloでメロディ奏、ソロを取ります。1’25″から2ndメロディと思しきラインを2本同時に吹いてアンサンブルを聴かせピアノソロに続きますが、ホイッスルやフィンガー・スナッピングも聴こえます。ベースのアルコソロに続き、テナーとドラムの短いDuo、その後ドラムソロに突入します。ラストテーマに入るところは微妙ですがギリギリセーフでしょう!レコーディング・スタジオ内でメンバー同士のアイコンタクトが取れないために、致し方のない事です。

4曲目はHaynesが50年代に付けられたニックネームSnap Crackleをタイトルにした自身のナンバー。冒頭Roy! Haynes! の掛け声はFlanaganによるものです。当初はKirkにRoyの名前を叫ばせるという案もあったという事で、そちらの方がインパクトが強かったように思うのですが残念!でも実はKirkに任せたら何をやらかし始めるか、叫び始めるかわからないという危惧ゆえ、ピアノ演奏同様に堅実なFlanaganにThieleが行わせたというのが実情かも知れません(笑)。シンコペーションを多用した変則的なリズムのメロディはいかにもHaynesらしいテイストです!1人ホーンセクションをテーマで聴くことが出来ます。マイナーブルースのコード進行によるソロの先発はピアノ、続いてKirkがフルートでソロを取りますが、自分の声とフルートをダブらせています。必ず何かしら演奏で聴かせてくれますね、この人!その後はベースを伴ってのドラムソロ、ラストテーマは繰り返されフェードアウトとなります。

5曲目はスタンダード・ナンバーIf I Should Lose You、短いドラムソロの後、ここではKirkがstritch(直立型アルトサックス、こちらもKirk考案の楽器です)を用いてテーマ、ソロを取ります。やはり普通の曲管アルトサックスとは異なった独特の音色です。1コーラス目は比較的オーソドックスでしたが1’31″からターボが掛かり始めダブルタンギング超絶奏法が!続くFlanaganのはKirkのイケイケには惑わされず自分のペースをキープします。その後KirkとHaynes、Flanaganも交えたバースが聴かれますがHaynesかなりストロングなフレージングを聴かせ、2小節毎のアタマにピアノとベースのコードが入る1コーラスのドラムソロも行われています。ラストテーマは割とあっさりエンディングを迎えています。

6曲目HaynesのオリジナルにしてアップテンポのLong Wharf、Haynesのシンバルレガートから曲が始まります。ここでもKirkはstritchを使用して演奏しています。ここでのKirkは比較的ストレートにソロを行い、Flanaganにソロを渡しています。Grimesのアルコソロ、ピアノ〜ベースのサポート付きでHaynesのドラムソロか聴かれ、そのままラストテーマへとなだれ込みます。

7曲目ラストに控えしはバラードSome Other Spring、ドラムのブラシソロによるイントロからKirkはmanzelloを用いて朗々と吹いています。サビをピアノが演奏しKirkが再登場しメロディプレイ、ピアノがサビで短いソロを演奏し、今一度KirkがAメロを吹いてFine、1コーラス半の短いエピローグ的演奏です。この後KirkはFlanaganとレコーディングで顔合わせをすることはありませんでしたが、本作でも2人の相性としてはずっと平行線を辿っているように感じました。

2019.10.05 Sat

Bottoms Up / Illinois Jacquet

今回はテナーサックス奏者Illinois Jacquet、1968年のリーダー作「Bottoms Up」を取り上げたいと思います。

Recorded: March 26, 1968 NYC Label: Prestige Producer: Don Schlitten

ts)Illinois Jacquet p)Barry Harris b)Ben Tucker ds)Alan Dawson

1)Bottoms Up 2)Port of Rico 3)You Left Me All Alone 4)Sassy 5)Jivin’ with Jack the Bellboy 6)I Don’t Stand a Ghost of a Chance with You 7)Our Delight

Jacquetの吹くホンカー・テナーの魅力を凝縮させた一枚に仕上がっています。

ホンカーの元祖とも言えるテナーサックス奏者Illinois Jacquetは1922年10月Louisiana生まれ、兄がトランペッター、弟がドラマー、そして父親がバンドリーダーという音楽一家の環境で育ち、幼い頃には既に父のバンドでサックスを演奏していたそうです。40年にNat King Coleトリオに客演した際、その資質を見抜いたColeがJacquetをLionel Hamptonのバンドに紹介し、それまでアルトサックスを吹いていたJacquetはテナー奏者としてHamptonのビッグバンドに加入することになりました。好機はすぐさま訪れ、42年にHamptonのビッグバンドがBenny GoodmanとHampton共作のナンバーFlying Homeを録音、すでにGoodman楽団の演奏で知られていましたが、19歳のJacquetにソロを取らせ結果大ヒットを記録しました。音源として残されているホンカーテナー・ソロとしては最初期のものに該当します。幸先の良いスタートですが、良い意味でも悪い意味でもFlying Homeの演奏がJacquetの代名詞となりました。Hamptonビッグバンドのlive showでは演奏の終盤に必ずこの曲を演奏し、Jacquetの演奏をフィーチャーしたそうで、数え切れないほどの回数を演奏〜グロウ、ホンキング〜した事と思いますが、もしかしたらホンカーのお家芸であるステージに寝そべってテナーをブロウする技も披露していたかも知れません。

因みにJacquetに影響を受けた幾多のフォロワー・テナー奏者たち、例えばArnett CobbやDexter GordonがFlying Homeを演奏する際はJacquetのソロをコピーして吹いていたそうです。同様に以降Flying Homeを演奏するテナー奏者はJacquetのソロを全く同じように覚えて吹く事が慣わしになり、Flying Homeではテーマを吹くのと同様にJacquetのソロも演奏する合わせ技が必須でした。ここまで楽曲に一体化したソロも存在しなかったでしょう、それだけ素晴らしい「シンプルにして唄心溢れるソロ」をJacquetが録音したとも言えます。

クリックしてお聴きください。音色、タイム感、フレージングとその構成力、デビュー間もない若干19歳のテナー奏者の演奏とは信じられない、ハイクオリティのソロです!

名曲Sing Sing SingにおけるHarry Jamesのトランペット・ソロ、Benny Goodmanのクラリネット・ソロ両方にも同様な事が言えます。いずれも素晴らしい内容ですがこちらは難易度がとても高く、原信夫シャープス&フラッツで演奏の際、完全コピーでの演奏再現をトランペット奏者、そしてアルトサックス奏者が持ち替えで演奏するクラリネットに課せられました。完全コピーではないにしろ、Sing Sing SingではHarry James, Benny Goodmanのテイストを部分的に拝借した内容でトランペット、クラリネットソロを取るのが今でも定番になっています。

とは言えJacquetは連夜の「満場を唸らせ、喝采を博する」ためのFlying Home演奏に辟易し、さらに推測するにHamptonはJacquetに毎回必ずレコーディング初演と同じ内容のソロを吹くようにと要求したと思います。楽曲と一体化した有名なソロですから、オーディエンスもこちらをお目当ての一つにして足を運んで来た事でしょう。Jacquetも若かったので違うことをやりたかったに違いありません。翌43年にHamptonのバンドを辞める事になりますが、今度は引き続きCab Callowayのオーケストラに参加します。ちなみにその当時のJaquetの映像をジャズボーカリストにして女優であるLena Horne主演の映画「Stormy Weather」で見る事が出来るのは嬉しい限りです。44年にCaliforniaに戻ったJacquetは兄であるトランペット奏者RussellやニューカマーのベーシストCharles Mingusらと小編成のバンドを起こし演奏活動を行い、Lester Youngと共にAcademy賞にノミネートされた短編映画「 Jammin’ the Blues」にも出演、またNorman Granz主催のJATP第1回コンサートにも出演するなど、シーンへの露出度が次第に高くなりました。46年にはNew Yorkに活動場所を移し、Count Basie OrchestraにLester Youngの後釜として参加しますが、Lesterの後任とはさぞかし重積だった事と思います。その後は自己の小編成バンドで欧州を中心に活動、81年からIllinois Jacquet Orchestraを組織し晩年まで活動しました。Jacquetは40年代から激動の米国ジャズシーンにしっかりと根を生やし、様々なバンドに在籍して生涯勢力的に活動を展開しました。

Jacquetはその長い音楽生活の中で多くの録音を残していますが、ライブ盤やレコード会社の企画モノ、コンピレーション・アルバム等のラフな制作の作品が中心です。本作は例外的にJacquetの持つ魅力を1枚に凝縮させようという、本人や制作サイドの強い意志を感じさせる仕上がりになっています。もう1作56年録音のリーダー・アルバム「Swing’s the Thing」 にも作品としてのコンセプトを感じる事が出来ます。

参加ミュージシャンに触れて行きましょう。ピアニストBarry Harrisは1929年生まれ、現在でもNew Yorkを中心に音楽活動を行い、同時に後進の指導を積極的に行っています。リーダーとしては言うに及ばず、サイドマンとしての信頼度も高いプレーヤーです。

ベーシストBen Tuckerは30年生まれ、安定したベースプレイとビート感から数多くのレコーディングに参加し、Herbie Mannの演奏で有名になったComin’ Home Babyを作曲、61年にDave Bailey Quintetでレコーディングし大ヒットを記録しました。

ドラマーAlan Dawsonは29年Pennsylvania生まれ、BostonのBerklee音楽院で57年から教鞭を執り、Tony Williams, Terri Lyne Carrington, Vinnie Colaiuta, Steve Smith, Kenwood Dennard, Billy Kilsonといったジャズシーンを代表するドラマーを育成しました。自身のドラミングもタイトなグルーヴ、テクニカルなプレイを聴かせています。

収録曲にも触れましょう。1曲目Jacquet作のオリジナル、表題曲Bottoms Up、まさしくホンカーがホンキングするためのナンバーです!Jacquet自身による指と足を使ったカウント(気持ちが入っています!)後、ピアノトリオによるイントロが始まりJacquetはいきなりルート音のB♭を上の音域でグロウしてクレッシェンドしながら吹き伸ばしています。まずリスナーを驚かして注目を集めようとするのはホンカーの常套手段で、我々は業界用語で「カシオド」と言っています(笑)。シンコペーションを多用したテーマは思わずリズムを取りたくなってしまいます!ソロが始まりエンジン全開、グロウ、シャウトの連続技です!ソロ2コーラス目にはストップタイムを活用したホンカーやロックンロール定番フレーズの登場!サビではテナーの最低音にして曲のキーであるLow B♭音を炸裂させています!否応無しにノセられてしまいますが、このまま好きな所に連れていって、と身を委ねたくなるのも演者の作戦、すっかり術中にハマってしまいます!3コーラス目は更にイケイケ状態、ベンド、シェイク、フラジオとホンカー技のオンパレード、そしてその後4コーラス目は再びストップタイム、定番フレーズ・パート2まで登場し、これは間違いなくロケンロールです!ホンキングこれでもかを臆面も無く発揮しつつ、1曲吹きっぱなしの大フィーチャーナンバー、Jacquetの面目躍如です!曲中on topのベースワークが光るTucker、良い人選であったと思います。

2曲目はPort of RicoはJacquet作のブルース・ナンバー、曲が始まった暫くはリラックスした雰囲気が漂いますが、これもホンカーならではの習性、すぐにシャウトを交えた熱い演奏に変化してしまいます。この演奏もテナー1人吹きっぱなしの独壇場です。

3曲目哀愁を帯びた美しいバラードYou Left Me All Alone、こちらもJacquetのオリジナルになります。素晴らしいテナーサウンド、マウスピースはOtto Link Metal 7★、リードはRico3番、楽器本体は多分Selmer Super Balanced Actionを使っています。サブトーンでしっとり聴かせるバラード奏法と言うよりも、張った音色、シャウト系の吹き方を中心に、時たまサブトーンをクッションとして用いるブロウで聴衆を説得しており、益荒男振りが一層光る演奏です。こちらもJacquetの大フィーチャー、3曲目にして未だ他のメンバーのソロを聴くことは出来ていません。

4曲目Sassyはオルガン奏者Milt Bucknerのオリジナルになります。印象的なマイナー調のメロディ、リズムセクションのシカケが効果的です。ここでのJacquetのソロはホンカーを基本にしていますが、端々に正統派ジャズプレイヤー然としたインプロビゼーションのアプローチを聴かせています。ここでの吹き方をよりワイルドにしたのがEddie “Lockjaw” Davisです。4曲目にして初めてHarrisのピアノソロを聴くことが出来ました。洗練されたBud Powellとも言うべき演奏です。

5曲目Jivin’ with Jack the Bellboy、Jacquetのオリジナルです。4小節のドラムソロ、ピアノトリオによる1コーラスの演奏の後テーマ奏、テナーソロと続きます。ここでもJacquetの暴れっぷりは、全米ホンカー協会が存在したら表彰されそうな勢いです!その後ドラムスとメンバー全員とのトレードがあり、ラストテーマを迎えます。ここでも最低音B♭のルート音提示による、低くて太いホンカーであるべき条件を再確認させています。

6曲目はVictor Young作スタンダードナンバー、I Don’t Stand a Ghost of a Chance with You、Ghost of a Chanceとタイトルを省略する場合が多いです。美しいバラードでテナーがテーマを演奏、ここでは3曲目You Left Me All Aloneのアプローチと異なった、サブトーン中心によるムーディな奏法を堪能できます。テーマ後ピアノソロになり1コーラス丸々を演奏しますが、テナーがラストテーマをサビから演奏するのかどうかの気配を、Harrisが探りながら演奏していたので一瞬サビ前でソロが完結しそうになりますが、そこは手練れの者、難なくサビに突入しています。ピアノソロ後ラストテーマはやはりサビから、ここではホンカーが再び降臨したかのような吹き方に変わっています。ラストはサブトーンを用いて再びLow B♭音を吹いて演奏をバッチリ締めています。

7曲目最後を飾るのはOur Delight、ピアニストTadd Dameron作の名曲、Jacquetはかなり饒舌に2コーラスをブロウしていますが、細かいコードチェンジを巧みにアプローチしています。Harrisも同時代を生きたピアニストの曲はお手の物で、流暢なソロを聴かせています。ひとつ気になるのはFlying Homeの初演でJacquetが、あれほど素晴らしい完璧なレイドバックのリズムを聴かせていたにも関わらず、この曲を含め本作収録全曲タイムが早くラッシュしている点です。何が彼をそうさせたのか、彼自身このスタイルが気に入っているのか、ホンカーとしての成熟度の素晴らしさには諸手を挙げて賛辞を送りたいと思いますが、タイムの処理に関しては個人的に物足りなさを感じてしまいます。

最後に余談ですが、今は無くなってしまった目黒のとあるジャズ・ライブハウス、そこで良く演奏をしていました。マスターが趣味でテナーサックスを演奏するので僕のことを贔屓にしてくれたのもあり頻繁に顔を出し、セッションしたりマスターとジャズの話で盛り上がったりしていました。マスターの趣味はHard-BopやBe-Bop、スイング時代のジャズでした。そもそもギターや電気楽器があまり好きではなく、ライブでギタリストがエフェクターをアンプに繋いだだけで機嫌が悪くなるようなアコースティック一辺倒の、いわゆる「頑固な」ジャズ喫茶のオヤジでした。ある日Bob Mintzerが参加する僕が大好きなYellow Jacketsのライブを聴きにいった直後に店に立ち寄り、遊びに来ていたミュージシャンに「Yellow Jacketsのライブを観に行ったんだ」と話をしているとマスターが横から話に割り込み、「おっ、来日してたんだ、どうだった?」と意外なリアクションを見せます。「素晴らしかったですよ」と答えてはみたものの、マスターがYellow Jacketsに興味があるなんて不思議だなと脳裏を過ぎりました。「テナーの音はどうだった?」と質問するので話が合致しているのだと思いつつも違和感を感じながら「素晴らしい音色でした。彼の音が大好きなんですよ」と答えました。「そうだよな、太い音だよ。テナーはああじゃないと」マスターがBob Mintzerを認めているなんて好みが変わったんだ、良いものは良いからさ、とか言いそうだなと考えていると「渋い音だから若い人には受けるかな、もうかなりの歳の筈だし」と言い出すので、???マークが何十個も点り始めました(汗)。そこでハタと気がついたのが「マスターひょっとしてIllinois Jacquetの事を言ってるんじゃないの?」「えっ?違うの?」「 Yellow Jacketsっていうフュージョンを演奏するバンドのライブに行った話をしているんだけど」「・・・・」良く似た名前で共通する事項が多く含まれていたため、平行線でありながら妙に話が噛み合ったような気がした、落語のオチのような話でした、チャンチャン。