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2019.03

2019.03.27 Wed

Live In Montreux / Chick Corea

今回はChick Coreaがリーダーとなったオールスター・カルテットでの1981年7月15日、Montreux Jazz Festivalのライブを収録した作品「Live In Montreux」を取り上げてみましょう。

p)Chik Corea ts)Joe Henderson b)Gary Peacock ds)Roy Haynes

1)Introduction 2)Hairy Canary 3)Folk Song 4)Psalm 5)Quintet #2 6)Up, Up and… 7)Trinkle, Tinkle 8)So In Love 9)Drum Interlude 10)Slippery When Wet / Intro of Band

Coreaの着ているTシャツのロゴが可愛いです。
さすがはMad Hatter!アルプスの雪山を背景にしたRoy Haynesのタンクトップ姿もGood !

録音から13年後の94年にCoreaが主宰するレーベルStretch RecordsからCollector Seriesとしてリリースされました。ディストリビュートがGRP Labelになります。

メンバー良し、バンドの演奏テンション申し分なし、インタープレイ切れっ切れ、演奏曲目理想的、録音状態秀逸、オーディエンスのアプラウズ熱狂的と、名演奏の条件が全て揃い、それが実現したライブ作品です。Montreux Jazz Fes.では昔からコンサートを収録した名作が数多く残されています。スイスの高級リゾート地での真夏の演奏は、演奏者も聴衆も自ずとボルテージが上がるのでしょう。

70年代のCoreaは72年代表作「Return to Forever」を皮切りに数々の名作をリリースしました。「The Leprechaun」「My Spanish Heart」「The Mad Hatter」「Secret Agent」「Tap Step」、同時進行的にGary BurtonとのDuo諸作、自身のソロピアノ連作、フュージョンやロック寄りにサウンドが移行した、バンドとしてのReturn to Foreverでの作品群等、八面六臂の活躍ぶりを示しました。事の始まりとして68年ジャズピアニストとしての真骨頂を聴かせた「Now He Sings, Now He Sobs」(Roy Haynesがドラム)、以降実はアコースティック・ジャズの演奏はあまり聴かれませんでした。

時代がフュージョン全盛期だったのもありますが、78年「Mad Hatter」収録曲でJoe Farrell, Eddie Gomez, Steve Gaddというメンバーによる、その後も度々取り上げる事になる重要なレパートリーにして4ビートの名曲、Humpty Dumptyの演奏でアコースティック・ジャズへの回帰を一瞬匂わせ、同年同メンバーでフルアルバム「Friends」を録音、81年2月FarrellがMichael Brecker に替わり「Three Quartets」を録音し、ジャズプレーヤーとしての本領を発揮しました。当時我々の間でもFarrellの替わりにMichaelが入って演奏したらさぞかし凄いだろうと噂し、まさかの実現に驚いた覚えがあります。

以上の流れを踏まえた上での本ライブ盤になりますが、前作Three Quartetsがメンバー4人全員音楽的に同じベクトル方向を向いていて、例えばタイムの正確さ、シャープさ、リズム・グルーヴ、サウンドの方向性、バンドの一体感等、極論ですが言うなればデジタル的アコースティック・ジャズの様相を呈しているのに対し、本作はいわば正反対、参加プレイヤーのアナログぶりは感動的ですらあります!Joe Henderson、そしてRoy Haynesですから!

そういえばこの2人の共演をピアニストAndrew Hillの63年Blue Note第1作目リーダー作、「Black Fire」で聴くことができます。浮遊感に満ち、超個性的かつジャズの伝統に則ったHillの楽曲を2人実に的確にサポートしています。

Joe Hen79年作品「Relaxin’ at Camalliro」80年「Mirror, Mirror」自己のリーダー2作にCoreaを迎えて好演奏を聴かせています。本作ライブの実現はこれらの作品が引き金になっているのかも知れません。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目CoreaのオリジナルHairy Canary、「Three Quartets」CD化に際して未発表追加テイクで収録されているナンバーです。Coreaのリリカルで端正なタッチのイントロから演奏が始まります。曲のフォームとしては12小節のブルース、キーはCメジャーです。1コーラス目でJoe HenいきなりオーギュメントのG#音をロングトーン、エグく飛ばしてます!超ハイテンションでのJoe Henフレーズの洪水状態!Coreaのバッキングも実に活き活きと、テナーの演奏を受けつつ振りつつ、時に付かず離れず仕掛けています!フロントのソロに対してどんなバッキングを行えば演奏が引き立つかを熟知したサポートに徹していて、更にシンコペーションを多用したバッキングのリズムの位置が完璧なので、バンドのビートが活性化されています。4ビートは裏拍が命ですから。2’36″でのバッキングフレーズ、3’41″で演奏したフレーズを3’55″で再度HaynesとPeacockリズム隊全員ユニゾンで仕掛ける辺り、3人顔を見合わせてニヤリとした事でしょう!しかし実はこれ0’59″に端を発しているのです!Haynesのスピード感あるシンバルレガート、バスドラムの絶妙なアクセント、スネアやタムの全く的確なフィルイン、なんというグルーヴ感でしょう!全てが自然発生的、ドラムを叩かず音楽を奏でている真のジャズドラマーです。Peacockの堅実なWalking Bassがバンドの屋台骨になり、他のメンバーに思う存分演奏の自由さを与えています。ベースソロ後ピアノとドラムの1コーラス・バースが何コーラスかトレードされますが、PeacockはHaynesの複雑なドラムソロから、コーラス頭へのリズム提示を躊躇している風を感じますが、Coreaが絶妙なアウフタクトを演奏し確実に呼び込んでおり、他のプレーヤーを誘導できるCoreaのタイム感につくづく素晴らしさを感じてしまいます!ラストテーマ前の同じくシャウトコーラス(2ndリフ)のフレーズが難解なため、今度はHaynesの演奏にリズム提示への躊躇を感じます!

2曲目も「Three Quartets」に追加テイクで収録されているCoreaのオリジナルFolk Song、カッコいい曲ですね!前曲よりもストレートに演奏されています。とは言え先発Coreaの曲想に合致したリズミックなソロ、Joe Henのテナーの王道を行きつつも至る所にトリッキーなJoe Henフレーズを散りばめたスインギーなソロ、それにしても6’33″位から始まるリズミックで変態的なフレーズ、一体この人のフレージングセンスはどうなっているのでしょう?背筋がゾクッとするインパクトです!

3曲目CoreaのオリジナルPsalm、イントロでピアノの弦を弾いてパーカッシヴなサウンドを聴かせつつ、最低音の連打、様々な音色の表現、音量のダイナミクス、壮大なイメージを描いています。本当にこの人はピアノが上手いですね、マエストロ!曲自体はミディアムテンポのマイナーチューン、テーマ後Joe Henの先発ソロが始まります。比較的早い段階でCoreaがバッキングをやめ、Joe Henを放置状態。ピアノのバッキングはコード感、リズムの提示、そして時としてインプロビゼーションの起爆剤になり得ますが、演奏しないのもそれはそれで音楽表現のひとつです。「Go ahead, Joe !」とばかりのCoreaの意図を汲みアグレッシヴに盛り上げています!イントロ部分で饒舌に語った関係かCoreaの本編でのソロは殆ど無く、テナーのフィーチャー曲になりました。

4曲目もCoreaのナンバーQuintet #2、ピアノとテナーのメロディがユニゾンやハーモニー、対旋律に変化していく様が実にCorea的な美しいワルツです。ライブでこれだけのアンサンブルと美の世界を構築するのは並大抵な集中力では実現出来ません!このバンドの底力を感じる演奏です。Peacockのベースソロがリリカルで美しいです。

5曲目はPeacockのナンバーUp, Up and…、Corea自身のライナーノーツによるとこの曲は「Lyricism, Impressionism, Peacockism」とあります。アップテンポのスイングになってからのCoreaとJoe Henのソロは、表現すべき音楽がしっかりと見えている者だけが成しうる次元の演奏です!

6曲目はThelonious Monkの傑作ナンバーTrinkle, Tinkle、本作中白眉の演奏です。ちなみに本ライブの直後11月にHaynes, Miroslav Vitousとレコーディングした「Trio Music」の作品後半がMonk特集、ユニークなMonkナンバーを7曲も演奏していますが、このTrinkle, Tinkleは収録されていません。

いかにもMonkishなピアノのイントロからテーマが始まります。メロディのこのウネウネ感はJoe Henの演奏、フレージングや彼のオリジナルInnner Urgeにも共通したものを感じます。イヤ〜、ここでのJoe Henのソロの物凄さと言ったら!!水を得た魚のようとはこの事、どんなにか長くでも聴いていられる位に没頭してしまいます!ソロを煽る3人のバッキングもスゴイです!テナーソロ終了後に一節吹いたフレーズにも反応してしまうCoreaのソロに替わりますが、Joe Henのソロに華を持たせたのか、意外と短めに切り上げていますがPeacockのソロのバックでCoreaパーカッション的に色々な音を発しています。その後のピアノトリオ3者の絡み具合ってこれは一体何?後は無事にラストテーマを奏で大団円です。

7曲目はもう一つのハイライトCole PorterのナンバーSo In Love、実は冒頭のピアノ・イントロが1分近く編集され短くなって途中からの収録になります。恐らく収録時間の関係でのカット、コンプリートになるテイクが収録されたCDがこちら「Chick Corea Meets Joe Henderson / Trinkle – Tinkle」、曲名も同じ作曲者ですがI’ve Got You Under My Skinとミスクレジットされていて、いかにもBootleg盤らしいです。ですが演奏本編の方は特に編集の跡はなく、Joe Henの史上に残る大名演を聴くことができます!ソロが終わる時の8小節間Haynesが実に長い大きなドラマチックなスネアのフィルインを入れ、次のコーラス頭にアクセントが入り的確にテナーソロを終えさせている辺り、Haynesの音楽性の懐の深さをまざまざと感じてしまいます。「Joeのソロはこのコーラスで終わるようだから、一丁景気よくぶっ飛ばしてやるぜ!デーハなフィルインみんな気に入ってくれるかな〜?」みたいな下町の横丁のオヤジ的考えでしょうか?(謎)

8曲目は前曲So In LoveからHaynesのドラムソロに突入したDrum Interlude、9曲目Slippery When Wetのテーマのリズムを提示してからSlippery ~ 本編に入りますが、ここでもテープ編集が施され短い演奏になっています。編集前の演奏はかなりフリーキーな領域にまで到達していますが、やはり収録時間の関係でしょう、そしてやや冗長感も否めなかったのか、テーマ部分だけが上手い具合にドラムソロ後に加えられた形になっています。ジャズの名演奏にはテープ編集が効果的に用いられている場合がある好例です。Coreaのメンバー紹介のアナウンスがやや遠くから聴こえるのが、大会場でのコンサートを表しています。

2019.03.18 Mon

Eddie “Lockjaw” Big Band / Trane Whistle

今回はテナー奏者Eddie “Lockjaw” Davisのビッグバンド編成による作品「Trane Whistle」を取り上げてみましょう。Recorded in Englewood Cliffs, NJ; September 20, 1960. Recording by Rudy Van Gelder Prestige Label

ts)Eddie ” Lockjaw” Davis tb)Melba Liston, Jimmy Cleveland tp)Clark Terry, Richard Williams, Bob Bryant ts, fl)Jerome Richardson, George Barrow as)Oliver Nelson, Eric Dolphy bs)Bob Ashton p)Richard Wyands b)Wendell Marshall ds)Roy Haynes Arrangement by Oliver Nelson(1, 2, 4 & 5), Ernie Wilkins(on 3 & 6)

1)Trane Whistle 2)Whole Nelson 3)You Are Too Beautiful 4)The Stolen Moment 5)Walk Away 6)Jaws

本Blog少し前で取り上げたホンカー4テナーによる「Very Saxy」にも参加していたEddie “Lockjaw” Davisを、ビッグバンドをバックに存分に吹かせた作品に仕上がっているのが本作「Trane Whistle / Eddie “Lockjaw” Big Band」です。Lockjawは途中別レーベルでもレコーディングしていますが、58年から62年の間に双頭リーダー作を含め合計17作(!)をPrestige Labelからリリースしており、如何に当時人気絶頂のテナー奏者であったかを知る事が出来ます。通常サックス奏者がビッグバンドを従えてフィーチャリングされる場合、ホーンセクションにも参加し、アンサンブルもこなしつつソロを取ることになりますが、本作では別にアンサンブル要員がしっかりと配され、ソロイストに徹しています。そのようなシチュエーションだからでしょうか、多分Lockjaw専用マイクロフォン使用にてレコーディングされたテナーの音が一層くっきりと、音の輪郭、音像、音色のエグさを聴かせています。

ビッグバンド編成ではありますがブラスセクションの人数が若干少なく、本来4人のトランペット・セクションが3人、同じくトロンボーン・セクションは2人です。サックス・セクションが通常の5人編成なのでブラスのリストラには何か狙いがあったのでしょうか、それとも当日単にメンバーが来なかったとか、手配の行き違いでメンバーが足りずともレコーディングを行ったのかも知れません。たとえメンバーを間引いた編成であったにしろ、アレンジャーOliver Nelsonの強いこだわりでサックス・セクションは通常の編成〜アルト×2、テナー×2、バリトン×1で通したのではと思います。総じてブラス・セクションの人員が少ないので多少サウンドの厚みに欠けるのでは、と感じる部分もありますが、Lockjawの演奏がそれを補って余りある迫力を提供しています。

このアルバムはLockjawの演奏にスポットライトを当てた以外に、いくつかの特記すべき事柄があります。まず一つは名アルト奏者Eric Dolphyのアンサンブルへの参加です。リードアルトをアレンジャーOliver Nelson自身が担当しているので、3rdアルトという事になりますが、あの超個性的なサックス奏者の参加にして本作中全くソロがありません(汗)。彼が本当にレコーディングに参加していたのかを裏付ける意味合いか、本作ライナーノーツにEric Dolphy(whose unique bass clarinet sounds can be heard briefly on the closing of The Stolen Moment)とあります。The Stolen Momentラストテーマ後のエンディング部分7’24″以降で低音楽器の音が断続的に聴こえ、これはバスクラリネットのようでもありますがバリトンサックスの可能性も捨てきれない次元の聴こえ方で、どちらかかは判断しかねます。僕はライナー執筆者Joe Goldberg氏の勘違いで、Dolphyは録音当日アルトだけでの参加であったように思いますが、いずれにせよDolphyはソロ時120%自分の個性を発揮、一方こちらで聴かれるようにアンサンブルではあたかもスタジオミュージシャン然と自身の個性を集団に埋没させ、アンサンブルの歯車の一つとして職人芸を発揮する、バランスの取れたプレイヤーという事になります。

Eric Dolphy

Herbie Hancockの自伝「Possibilities」にDolphyについての記述があります。そちらを紐解いてみましょう。

Dolphyは64年Charles Mingus Bandの楽旅に参加中、西ベルリンで持病の糖尿病の発作に見舞われました。通説ではその際に心臓発作を起こし客死した事になっています。死因は心臓発作には違いないのですが、ライブの最中に糖尿病の発作を起こして病院に担ぎ込まれた際、担当医師がドラッグを使用していたと思い込み解毒治療を施し(アメリカの黒人ミュージシャンが演奏中に倒れるなんてドラッグが原因に違いないと高を括ったのでしょう)、適切な処置〜インシュリンの注射をしなかったために容態が悪化、心臓発作に見舞われ36歳の若さで亡くなりました。医療ミスの最たるもので、彼はドラッグなどやっていなかったのです!医師が患者の症状をしっかりと認識し、インシュリン一本注射してさえいればDolphyは存命し、音楽活動を展開し続け、この優れた稀有な才能がジャズ史を変えたかも知れないのです。本当に残念でなりません。

続いて挙げるのは、このThe Stolen MomentがOliver Nelsonの代表作にしてモダンジャズ史上に輝く名盤の一枚、「The Blues and the Abstract Truth」収録曲Stolen Momentsの初演に該当する事です。

遡る事5ヶ月前に本テイクが録音されましたが、独特のムードとハーモニー感、アンサンブルの斬新さを既に聴く事が出来ます。Nelson自身の他、Dolphy, Roy Haynes, George Barrowが引き続き参加しており(Barrowはバリトンサックスに持ち替え) 、当時の音楽仲間だったのでしょう、彼らの他にFreddie Hubbard, Bill Evans, Paul Chambersら豪華メンバーを迎え素晴らしい演奏を繰り広げています。Dolphyこちらの作品では水を得た魚状態で大活躍、先鋭的なソロをたっぷり聴かせています。

本作での演奏はトランペット奏者とLockjawのソロをフィーチャーしており、こちらの演奏はビッグバンド編成なので迫力あるサウンドを聴かせていますが、曲のコンセプトや人選から鑑みると「The Blues and the Abstract Truth」の演奏の方に軍配が上がるように思います。Nelsonここで新曲を実験的に披露し、手応えがあったので自作にも採用したという事でしょう。

もう一つはドラマーRoy Haynesの参加です。Charlie Parker, Bud Powellの昔から60年代以降はStan Getz QuartetやChick Corea Trio等、時代を超えた柔軟な音楽性でシャープなドラミングを聴かせています。本作のようなビッグバンドのフォーマットでも実に的確なサポート演奏でアンサンブルをまとめ上げ、ソロイストを鼓舞しつつ盛り上げるドラミングには、ビッグバンド専門のドラマーでは表現仕切れないジャジーなセンスを感じさせます。

Roy Haynes

ところで皆さんはベーシストBill Crowの著書「Jazz Anecdotes」という本をご存知ですか。

Crowは50年代からNYでStan GetzやGerry Mulliganのバンドのレギュラー・ベーシストとして活躍しました。当時の現役ジャズプレーヤーならではの情報収集力を生かし、様々なジャズメンの逸話を集めて面白おかしく語っています。いずれの話もジャズファンが読めば誰もが頷いてしまう内容から成るエッセイで、日本ではジャズに造詣の深い村上春樹氏が翻訳を手掛けました。そこに収められているLockjawについての話が大変に興味深いので紹介したいと思います。(原文のまま掲載)

Eddie “Lockjaw” Davisがジャズ・プレイヤーになりたいと思ったのは、実用的な目的があってのことだった。<べつに音楽がやりたくて楽器を買ったわけじゃなかった。音楽が好きで、ミュージシャンになりたくて、それで楽器を手にしたというパターンとはちと違うんだ。俺は楽器というものがもたらす効用のほうに興味があった。ミュージシャンを見ていると、奴らはいつも酔っぱらって、ヤクを吸って、女にもてて、朝は遅くまで寝ていた。かっこいいと思ったね。それから俺は、同じミュージシャンでも誰がいちばん目立つのかなあと思って、注意して観察した。いちばん注目を集めるのは、テナー・サックス奏者か、ドラマーか、そのあたりだった。でもドラムは見ていると、組み立てや持ち運びが大変そうだった。だから俺はテナー・サックスで行こうと思ったんだ。これ本当の話だよ>♬

(笑)あまりに本音丸出しの表現です。裏表のない実直な人なのでしょう、きっと。でももしかしたらBill Crowの脚色もあるかも知れません。さらにLockajwは自分でサックスの教則本を手にし、独学でテナーサックスをマスターしたという話を聞いたことがあります。ミドルネームのLockjawは独特なマウスピースの咥え方に由来するそうで、彼独自の音色、他に類を見ないソロのアプローチ、そもそもの楽器への携わり方にユニークさを感じます。これらを踏まえて彼の演奏を聴きこむと、また違った音が聴こえてきそうに思います。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Oliver NelsonのナンバーTrane Whistle、Nelsonの60年5月録音の作品「Taking Care of Business」に収録された曲のビッグバンド・ヴァージョンになります。

ミディアムテンポのブルース、テーマ後Lockjawのソロの冒頭部、気合がかなり入ったのか、テナーの音量入力オーバーで一瞬歪みが生じ、いきなり録音レベルが下げられました。物凄い音色です!めちゃくちゃルーズなアンブシュアなのでしょう、倍音、付帯音が乗りまくりです!マウスピースやリード、楽器も良いもの(当時は当たり前だったのでしょうが)を使っていそうです。その後もホーン・セクションのバックリフが入ると本人エキサイトするのでしょうね、ソロの内容がフリーキーなまでに炸裂、ヒートアップしています!続くNelsonのアルト、Lockjawと比べると音色がツルッとしていてクラシック・サックス風に聴こえてしまいますが、比較対象の問題で、これはこれで素晴らしいジャジーな音色です。この部分がDolphyのソロであったら…と願ってしまうのは無理強いというもの。Nelsonのソロ内容はとても端正でロジカル、教育者、アレンジャー然としたものを感じます。その後のTutti部分ではHaynesのドラムフィルがアンサンブルへの呼び込み感を聴かせています。ラストテーマで聴かれるLockjawのオブリは、音量控えめなサブトーン感がエンディングに向けて効果的です。ところでタイトルのTraneはJohn Coltraneの事で、ライナーによれば彼のディレクションがあったようですが、残念ながら具体的なところまでは分かりません。

2曲目NelsonのオリジナルWhole Nelson、Miles DavisのオリジナルHalf Nelsonのタイトルに肖ったナンバーでしょう。ジャズメンはこういった言葉遊びの類が大好きですから。ソロの先発はRichard Williamsのトランペット、バックリフとのトレードが面白いです。このレコーディング直後に録音された彼のリーダー作「New Horn in Town」は以前よく聴いた覚えがある、隠れた名盤です。

Lockjawのソロに続きますが、この日の彼の絶好調ぶりは誰にも止められません!バックリフにも呼応しつつ独自のフレージングにグロートーンを交え、ホンカーの本領発揮です!続くトランペットソロ、今度はClark Terryの出番です。美しい音色でテクニシャンぶりを聴かせています。

3曲目はRodgers – Hartの名曲You Are Too Beautiful、この曲のアレンジはNelsonからテナー奏者Ernie Wilkinsにバトンタッチ。さあLockjaw on Stageの始まりです!美しいメロディをホーン・セクションをバックにOne and Onlyな節回し、低音域から高音域までサブトーンを自在に駆使して益荒男ぶりをこれでもかと聴かせます。エンディングではテナー最低音のB♭音を見事にサブトーンで響かせていますが、多くを吹いてからのこのロングトーン、実は相当高度なテクニックです!ピアニストとしてはLockjawのソロに的確なバッキングを付けるのは難しいのでしょう、Richard Wyands淡々とコードを繰り出す演奏に徹しています。アレンジの関係か、人員欠如によるものなのか、ブラス・セクションの音の厚みがやや薄く聴こえます。

4曲目The Stolen Moment、前述のようにNelson自身の作品でも取り上げる事になるナンバー、この人は自分の作曲を積極的に他のアルバムでも取り上げる傾向があるようです。ソロ先発はBob Bryant、続くLockjawは珍しくスタンダード・ナンバーSummertimeのメロディを引用、ウネウネ、ウダウダ感が半端ありません!ここでもバックリフの音圧を浴びてハッスルしたLockjaw、ホンカー風に熱くブロウして盛り上がり、Haynesのドラムも呼応してフレッシュなフィルイン・フレーズを繰り出しています。

5曲目NelsonのオリジナルWalk Away、再びミディアムのブルースです。イントロのBryantのピアノソロが良い雰囲気を出しています。深くかかったビブラートが古き良き時代を匂わせるテーマ奏、Dolphyもさぞかしビブラートをかけてアンサンブルを行なっている事でしょう。ここでのLockjawのソロは特に堂々とした豪快さを聴かせ、他のテイクよりも落ち着きを感じさせます。ホーンのアンサンブルとLockjawとのcall & response、面白いやり取りに仕上がっています。

6曲目アルバムラストを飾るのはLockjawアップテンポのオリジナルその名もJaws!こちらもErnie Wilkinsのアレンジになります。トランペットのバトルはTerry, Williams, Bryantの順番に行われています。それにしてもトロンボーンにはMelba Liston, Jimmy Clevelandと行ったソロに長けたプレイヤーが参加しているのに、こちらにもソロは回らず仕舞いです。Haynesのフレーズを受けテナーのソロが始まります。アップテンポでのLockjawはそのドライブ感にターボが掛かり正に独壇場です!更にバックリフによりスーパーチャージャー状態!この曲でもTuttiでLockjaw大暴れ、ラストの締め括りに打って付けの演奏に仕上がりました。

2019.03.09 Sat

McCoy Tyner Quartet

今回はピアニストMcCoy Tyner2006年録音のリーダー作「McCoy Tyner Quartet」を取り上げてみましょう。 07年リリース Half Note Records

p)McCoy Tyner ts)Joe Lovano b)Christian McBride ds)Jeff “Tain” Watts

1)Walk Spirit, Talk Spirit 2)Mellow Minor 3)Sama Layuca 4)Passion Dance 5)Search For Peace 6)Blues On The Corner 7)For All We Know

Recorded Live, December 30- 31, 2006 Yoshi’s, Oakland, California

Produced by Jeff Levenson

豪華かつ豪快な共演メンバーによるライブレコーディング、収録曲7曲中McCoyの代表的なオリジナルを6曲取り上げた、いわば集大成的な作品です。60年にJohn Coltrane Quartetに参加して以来、リーダー作を共同名義を含め70枚以上(!)リリース、内容的にはピアノソロからトリオ、カルテット、クインテット、ラージアンサンブル、オーケストラまであらゆるフォーマットで演奏を繰り広げ、大ヒットした作品を含めその全てが意欲作です。

以前のBlogでも取り上げたColtrane Quartet、60年の海賊盤「Live at The Jazz Gallery 1960」、それまで何人かのピアニストをオーディション的に起用していたColtrane、以降65年頃までの最重要期のレギュラーとなるMcCoyを起用した最初期の演奏に該当しますが、既にColtraneのレギュラーピアニストとしての自覚に満ちた演奏に徹しており、その後Elvin Jones, Jimmy Garrisonたちの参加で完成する不動の、いわゆる黄金のカルテット結成の下地を作り上げていました。

60年代前半に録音したImpulseレーベルの諸作では、Coltraneからの進言、影響、共演から培った、4thインターバルを始めとしたそれまでに聴かれなかったジャズピアノの新たなサウンドを大胆に表現、多大なる影響をジャズシーンに残し多くのフォロワーを生み出しました。67年Coltrane没後、リーダー喪失感から一時混沌としたジャズシーンの牽引役を務めたといっても過言ではありません。

精悍な面構えのジャケット写真を見ると、一時期よりずっと痩身です。McCoyは昔から巨漢のイメージがあるので拍子抜けしてしまいますが、本作で聴かれるように演奏内容の無駄な部分をそぎ落とし、McCoyのエッセンシャルな音楽性をシャープに表現した出来栄えと本人の容貌とが、今回完全にオーヴァーラップしていると感じます。

共演者に触れてみましょう。テナーサックスのJoe Lovano、言ってみればここではColtrane役、極太のオリジナリティ溢れる音色、スポンテニアスかつ変態系アドリブライン、間の取り方、タイトでスインギーなタイム感、歴代のMcCoy Bandのテナー奏者の中で1, 2を争う実力と存在感です。ここで取り上げられているMcCoyのオリジナルが彼の音色と吹き方、イメージにより新たな表情を得たと言えましょう。

ベーシストのChristian McBrideの抜群に1拍の長い、たっぷりとしたOn Topのビート、滑舌の良いラインはかのRay BrownやCharles Mingusを彷彿とさせ更にヴァージョンアップ、コンテンポラリーなテイストを加味させた感のある演奏です。McCoyがレギュラーバンドで起用するベーシストはJuni Booth, Avery Sharpeのようなビートや音色がライトなプレイヤーが多い傾向にあります。もちろんRon Carter, Cecil McBee, Buster Williamsといったストロング系も起用されていますが、レコーディングやフェスティバルといったイベントに限られます。McCoy自体の演奏が左手で低音部を強力に響かせてから右手でペンタトニック系のフレージングで下降する事が多く、左手をより明確に聴かせるためにベーシストに目立って貰ってはマズイのが理由の一つだと感じるのですが、今回のような正反対のタイプのベーシストとの共演で結果、McCoyのピアノ演奏がまた別なテイストを聴かせる事になっていると思います。

一方ドラマーは歴代ストロング系の人選の傾向にあり、Elvin Jones, Al Mouzon, Billy Hart, Billy Cobham, Eric Gravatt, Tony Williams, Jack DeJohnette… 今回のドラマーJeff “Tain” Wattsも名うての強者、Wynton, Branford Marsalisのバンドで世に出ました。個性的ではありましたがどちらかと言えばストレート・アヘッドなタイプのジャズドラマーで、個人的には90年代後半Michael Brecker Bandへの参加で音楽性がぐっと深まり、様々なジャンルのスタイルをバランスよく網羅できるスーパー・マルチ・ドラマーへと変貌したと捉えています。実際Michael Band加入の当初は違和感があり、少しの間バンドサウンドがコーニー(古臭い)になった覚えがあります。本作でも時にElvinを感じさせるアプローチも聴くことができますが、揺るぎのない自己のスタイルでMcCoyの音楽を十二分に表現しています。McBrideとの相性も文句なく素晴らしいです。それにしてもこの二人の腰の据わった感満載にして、スピード感がハンパないビートは一体何なのでしょうか??

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Walk Spirit, Talk SpiritはMcCoyの73年Montreux Jazz Festivalでのライブアルバム「Enlightenment」に収録されています。ここでのテナーサックスはAzar Lawrence、懐かしいですね!本当によく聴きました!

印象的なイントロから始まる佳曲、このイントロを耳にしただけでワクワクしてしまいます!ソロの先発はMcCoy、Lovanoのテーマ奏後しばらくの間があってから始まるのでソロ順はひょっとして決まっていなかったかも知れません。さすがのMcCoyワールドを提示し、Lovanoのソロに続きます。マウスピースのオープニング10★、リード4番と言うオリンピック世界記録保持者並みのハードなセッティングです(爆)!にもかかわらずこの完璧なまでの楽器のコントロールぶり、更に吹奏上大変な負荷がかかるためタイムもキープするのが困難なはずなのにこれまた難なくタイトにスイング!スゴ過ぎです!ソロ導入部はピアノのバッキングがなく、一度クールダウンしてからのスタート、その後のストーリー展開の思惑は見事に功を奏しました!

2曲目Mellow Minor、Michael Breckerを大フィーチャーしたグラミー賞受賞の名盤「Infinity」に収録、マイナー調のスインギーなナンバーです。

個人的には96年のライブ演奏を収録した海賊盤「 McCoy Tyner Quartet Oakland 1996」での演奏もお気に入りです。

Lovanoのメロディ奏、これでもかとばかりに極太感をアピールし、当然Michaelとはまったく違うアプローチを聴かせ、バンドと一体化してBurn Out!途中で珍しく引用フレーズThelonious MonkのNuttyのメロディを吹いています。続くMcBrideのソロ、音圧、エッジ感からおそらくかなり弦高がある楽器だと推測されますが難なくハナ歌感覚で演奏、この人も同様に世界記録保持者クラスでしょう(爆)!McCoyのソロ、ご老公お膳立ては整いました、あとは目一杯スイングしてください、とばかりにLovano助さんMcBride格さんの口上の後に続きます(控えおろう!笑)。その後ドラムと4バースが行われますが、Elvin JonesやJack DeJohnnetteを彷彿とさせる、いやひょっとするとそれ以上かも知れないポリリズムの洪水、Wattsも間違いなくワールドクラス・レコーダーです!

3曲目Sama Layucaは74年の同名作品に収録されています。オリジナルは比較的大編成での演奏ですが哀愁を帯びたメロディはワンホーンでも十分にその真価を発揮しています。

ソロの先発はMcBride、ここでもソロの順番ははっきりとは決まっていなかったようですが、ゆるぎないリズム、正確なピッチ、楽器のコントロール、ベースパターンをモチーフとし順次ストーリーを繰り出す歌心はもはや超人の域です!続くLovanoのソロも何の申し分もありません!McCoyのソロはかなりフリーフォームの領域に突入、助さん格さんが多少控えめにソロを行いご老公のためのスペースを保持していたが故か、ご乱行感がありますね(笑)

4曲目からの3曲は67年録音McCoyの代表作の1枚「The Real McCoy」からのセレクションです。まずはPassion Danceから行ってみましょう!

7thsus4コードのサウンドが印象的なこの曲、Wattsのドラムソロから始まりますが、オリジナル演奏のElvinのソロフレーズを最後に借用してテーマ演奏に入ります。F7thワンコードでのソロはLovanoから開始、アップテンポでのプレイはMcBride〜Wattsの最上級リムジンのドライヴ感、あいにく乗車した経験はなくイメージの世界ですが(>_<)、McBreide, McCoy、とんでもない領域にまで足を踏み入れています!Lovanoのソロが締めに少しあってからラストテーマ、どんなに凄い事になってもレコーディングを意識して曲自体の構成をしっかりと成り立たせて演奏しています。ヘビー級のメンバーによるタッグマッチ、場外乱闘になるギリギリでFineです!

5曲目はSearch For Peace、美しさとコンテンポラリーなテイストを併せ持ったナンバーです。本来はバラードですが2ビートフィールでWattsは初めからスティックで演奏、McBrideも同様のグルーヴで対応していましたが、途中4ビートや6/8拍子のリズム等に変化、リズムのショウケース状態です。事あるごとに述べていますがバラードはバラードで演奏してこその味わいだと思うのですが、Coltraneのテイストが入ると致し方ありません。Coltrane Quartetはテーマ奏のみバラードで、アドリブに入るとすぐにスイングのリズムに変わりますから。Lavanoのメロディ奏はサブトーン気味で、加えて「コーッ」という音の成分が効果的に入っています。これは使用マウスピースFrancois Louisのサウンドの特徴でもあります。

6曲目はブルースナンバーBlues On The Corner、ソロの先発はMcBride、ピチカートによるソロではなくWalkingのライン、こちらもめちゃめちゃスイングしてます!Lovanoもアグレッシヴに攻めています!この位のテンポではヘヴィーなビートが一層冴え渡り、Elvin Jones〜Richard Davisの Heavy Sounds現代版です!McCoyのソロではシャッフルのリズムに!その後再びLovanoが残務処理的にソロを取りラストテーマへとなだれ込みます。グロウトーンを交えながらのテーマ奏はご愛嬌、ホンカーを一瞬思わせました。

7曲目ラストを飾るのはMcCoyのソロピアノによるFor All We Know、94年録音のアルバム「 Prelude And Sonata」に収録されています。エピローグとしてうってつけのナンバー、そして演奏に仕上がったと思います。

2019.03.05 Tue

John Patittuci / John Patitucci

今回はベーシストJohn Patitucciの87年リリース、初リーダー作「John Patitucci」を取り上げてみましょう。GRP Label

b)John Patitucci ts)Michael Brecker p)Chick Corea synth)John Beasley synth)David Whitham ds)Dave Weckl ds)Vinnie Colaiuta ds)Peter Erskine vo)Rick Riso

1)Growing 2)Wind Sprint 3)Searching, Finding 4)Bajo Bajo 5)Change of Season 6)Our Family 7)Peace and Quiet Time 8)Crestline 9)Zaragoza 10)Then & Now 11)Killeen 12)The View

ジャケット写真の表面にはエレクトリック・ベースを、裏面ではアコースティック・ベースを携えたレイアウトが印象的です。ジャズベース奏者でエレクトリック、アコースティック両方を演奏するプレイヤーは少なくないですが、Patitucciのように両者のレベルが拮抗するプレイヤーはほんの一握り、文字通り両刀使いの先駆者にして現在も最先端のベース奏者です。しかも6弦という多弦エレクトリックベースを自在に操り、正確なタイム、グルーヴで超絶技巧のフレージングを繰り出すスタイルはギタリストの演奏を超えるほどのインパクトを与えます。ギターよりもずっと音が太いですからね。本作での登場はありませんでしたが、Akoustic Bandで聴かれるようなアップテンポでのアコースティックベースのスイング感の巧みさは他の追従を許しませんし、9曲目で聴かれるようにアルコソロも絶品です。05年Herbie HancockのDirections in Music来日コンサート時に楽屋を訪ね、Michael Breckerの紹介でPatitucciと話をしたことがありますが、明るく快活でフレンドリー、人を思いやる話しぶり、スマートさにはなるほどと、ファーストコール・ミュージシャンのオーラを感じました。

59年NY Brooklyn生まれ、10歳でエレクトリック、15歳でアコースティック・ベースを始め、早くからスタジオ・ミュージシャンとして活躍していました。85年Chick CoreaのElektric Band、89年Akoustic Bandと両方に参加し、Coreaの寵愛を受けその才能を開花させ、プレイヤーとして急成長を遂げました。Elektric, Akoustic Bandの間87年にCoreaの全面的サポートで本作品をGRPレーベルでレコーディング、収録12曲中10曲が自身の作品、1曲がCoreaとの共作になり、そのいずれもが佳曲です。参加メンバーもCoreaをはじめとして以降も度々共演を重ねることになるMichael Brecker、そしてDave Weckl, Vinnie Colaiuta, Peter Erskineという素晴らしい3人のドラマーが参加したドラム祭りでもあり(笑)、曲によって異なった色合いを出して作品のクオリティ向上に貢献しています。

Patitucciは現在までに14枚のリーダー作をリリース、いずれもが高いクオリティの作品で音楽性の幅の広さ、様々なジャンルを巧みに演奏する懐の深さ、作品を重ねるごとに深まる表現の度合い、常に進化を遂げているミュージシャンですが、本作でのフレッシュさはまた格別に心に響きます。初リーダー作は演奏家の原点と言えますが、ここではコンポーズ、サウンド作りとそのアイデア、ベース・ソロプレイとバランスの良さを提示、以降一貫したテイストを聴かせることになります。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Growing、グルーヴが気持ち良いファンクナンバー、オーヴァーダビングによるベースのメロディが印象的ですが途中からRick Risoのフェイザーが掛かったヴォーカルが加わり、キャッチーでダンサブルな雰囲気を醸し出すことに成功しています。Patitucciのソロを大フィーチャーしたナンバーですが、それにしても上手いですね、この人!フレージングはギタリストを研究した節が窺われますが、むしろサックス奏者からの影響が顕著です。随所に聴かれるシンセサイザーが効果的に曲想をバックアップしています。

2曲目はよりテンポアップしたファンクナンバーWind Sprint、イケイケのドラムフィル、ド派手なスラップベース、これでもかと互いに呼応しつつバトルするベースとテナー、リズムセクションとのインタープレイ、入魂の演奏から我々はこういったタイプの楽曲を「ど根性フュージョン」と呼びました(笑)。ジャズ史上Michaelのテナーにバトルを挑んだベース奏者はこの人くらいかもしれません(爆)、憧れのサックス奏者との共演にそれまで描いていた夢を実現すべくバトルを提案したのでしょう、実に功を奏しています!ちょっと気になるのはテナーの録音、音像がやや引っ込み気味な点です。反してベースの音像はクリアーに聴こえます。Michaelのただでさえ凄まじいソロ、ベースと同じ定位ではバトルというシチュエーション上勝敗が確定してしまう(?)のを避けるために敢えて行われたのかも知れません。

91年出版された楽譜集「The New Real Book Volume Two」に、この曲の譜面が掲載されています。当時バンド仲間で嬉々として共有し「ど根性」の演奏を繰り広げた記憶があります(笑)

エンディングはDave Wecklの壮絶なドラムソロが聴かれますが、当時のドラムキッズ達の憧れのフレーズ満載の演奏です!みんなこぞってコピーしましたね!聴き覚えのあるフレーズのオンパレードですから(笑)

Dave Weckl

3曲目はへヴィーなダウンビートのスイング・ナンバーSearching, Finding、モーダル〜Coltrane Likeな曲想なのでColtraneが生涯追い続けた探求、発見という事でしょうか、Patitucci自身の音楽観にもオーヴァーラップさせているのでしょう。ドラマーがPeter Erskineに替わりますが、本作中ジャズ系のナンバーでは彼が起用され、フュージョン系はWeckl, Colaiutaと役割分担がなされています。曲中のベースラインはシンセベースでも演奏されているようで、リーダーはソロイストとしての参加、ギタリストのようにメロディをMichaelと演奏、さらにカッティング?やフィルインを入れ捲っています!Erskineのシンバルレガート、フィルイン、グルーヴ、どれも何て的確なんでしょう、あまりにもハマり捲りです!ソロの先発Michael、気持ちが入っています!2’15″あたりの、ぐ〜っと後ろに引っ張ったフレーズのレイドバックにその入魂ぶりが現れています!本物のテナー奏者は演奏に入れ込めば入れ込むほどタイムをタメるものなのです。Michaelの最後のフレーズを受け継いで続くPatitucciのソロもBurning!その後のCoreaのソロは超人的なタイム感を駆使した演奏、ピアノの音色が実にキラキラして音の粒だちが尋常ではありません!さりげにオルガン系音色のシンセサイザーのバッキングがオイシイです。この曲でもエンディングでドラムが大暴れ、Coreaも呼応してユニークなバッキングフレーズを連発、さぞかし演奏終了後メンバー同士で盛り上がったことでしょう。オーヴァーダビング無しでの演奏、かつTake OneでOKだったに違いありません。

Peter Erskine

4曲目はPatitucciとCoreaの共作によるBaja Bajo、共作とはいえ曲想としてはCoreaの方のテイストが強いのは致し方ないかも知れません。速いテンポのラテン〜サンバ、ドラマーはColaiutaに替わります。Wecklと比べるとColaiutaの方がビートがずっしりとしていて音符が長いように感じます。でもこれはどちらが良いという優劣ではなく、表現の仕方の個性の違いです。さらにWecklの方はフィルインやソロでしっかりとフレーズを叩いているので形が比較的明確ですが、Colaiutaはその都度のイマジネーションでドラミングしておりスポンテニアス、良い意味で不定形な表現スタイルです。Philly Joe JonesとRoy Haynesの違いと言うと分かり易いでしょうか、厳密なものでは無くあくまで雰囲気的にですが。Colaiutaはこの演奏中オーヴァーダビングでパーカションも演奏しています。ピアノとシンセサイザーによるテーマ演奏はシャープかつリズミック、とってもカッコ良いです!ソロの先発Corea、期待に違わぬハイパーな演奏でColaiutaもここぞとばかりに煽っています。CoreaとColaiutaの相性は抜群だと思うのですが、Coreaがリーダーでの共演は何故か92年Blue Note TokyoでのChick Corea Trio(ベースはPatitucci)ライブ等、ごく一時期限定に留まりました。Patitucciのソロも実に巧みですがCoreaのバッキングも全く聴き逃せません!Coreaの傑作「Friends」でのJoe Farrellのソロ時のバッキングにも匹敵〜主役を食ってしまうほどインパクトのあるバッキング!ラストテーマ〜エンディングはまさにCoreaサウンドのオンパレード、パーカッションもイケてます!

Vinnie Colaiuta

5曲目はChange of Season、ドラマーは再びColaiuta、ピアノがテーマを演奏しますがCoreaではなくここではDave Whitham、プロデュサーにしてマエストロCoreaの前で演奏するのはやり辛かったと思います(汗)、Whithamのピアノも素晴らしいですが、Coreaと比較するとどうでしょう、タイムの安定感や音色、フレージングにややぬるさを感じるのは仕方がないのかも知れません。ここでのベースソロはイってます!ColaiutaとJohn Beasleyのシンセベースのサポートと共に、リズムを細分化して微積分した(爆)ような緻密な演奏です!

6曲目Our FamilyはPatitucciとCoreaのDuo演奏、Coreaは全編Synclavierでパーカッションを担当しPatitucciが縦横無尽に6弦エレクトリックベースを演奏しています。よく聴くとCoreaは遊び心満載、巧みにラテンのリズムを繰り出しており、二人の楽しげな雰囲気が伝わってくる対話に仕上がっています。

7曲目はバラードPeace & Quiet Time、Michaelがここぞとばかりに歌い上げます。ドラマーはErskine、2, 4拍に入るスネアやシンバルのアクセントがオイシイところに入ります!Patitucci〜Michaelとソロが続きますが、やはりテナーの音像が引っ込み気味なのが気になります.

8曲目Crestline、Colaiutaのドラムが水を得た魚状態、適材適所です!Coreaのソロはどうしてこんなにも毎回イマジネーションに富んでいるのでしょう!素晴らし過ぎです!Colaiutaとのコンビネーションもバッチリでタイムの捉え方がまるで一卵性双生児のようです!Patitucciのソロ、ピアニシモからメンバー一丸となってジワジワと、ウネウネと、遠くから津波が押し寄せる如く、これでもかと盛り上がります!それにしても丁度良いところで次のセクションに行くものですね。

9曲目Zaragoza、この曲のみCoreaのナンバーです。Beasleyのリズミックなシンセサイザーのイントロが印象的です。アコースティックベースのアルコでのメロディ奏、ピチカートでの超絶ソロが聴きモノです!適度な小部屋内で録音された感が美しいベースの音色も、とても魅力的です。Patitucciの全編フィーチャー、作曲者自身のソロはありません。

10曲目Then & Now、Michaelのオンステージになりますが、彼のフィーチャーを想定して書かれたかのような、Michaelにまさにうってつけのナンバーです。この人のソロは実に様々な技や高度な音楽理論を駆使して行われていますが、淀みなくしっかりとウタ、ストーリーに仕上がっている点が驚異的、ジャズ的なテイストのフレージングもスパイス的に散りばめられ、そのバランス感にいつも感心させられます。

11曲目KilleenはPatitucci, Corea, Erskineのトリオによる演奏、本作中最もジャズテイストを感じさせるワルツナンバーです。アコースティックベースで初めにトリオ演奏を録音、その後エレクトリックベースによるテーマをオーヴァーダビング〜ソロプレイ、Coreaのソロの後にエレクトリックで再びソロを取っていますが、後ろでアコースティックが聴こえつつ、ここでは3者のインタープレイが行われているのでこの部分は初めにエレクトリックでソロを収録し、その後アコースティックをオーヴァーダビングしたと考えるべきでしょう。録音技術を駆使しつつアコースティックなジャズサウンドを自然に表現しています。

12曲目ラストを飾るのはThe View、アルゼンチンタンゴをイメージさせるリズムの上でBeasleyがシンセサイザーでソロを取り、ひとしきりあった後Patitucciのソロ、ラストもBeasleyのシンセサイザーでFineとなります。