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2019.12

2019.12.24 Tue

United / Ari Ambrose

今回はテナーサックス奏者Ari Ambroseの2000年録音リーダー作「United」を取り上げてみましょう。トリオ編成で存分に吹きまくっています。

Recorded: December 2000 Recording Engineer: Katsuhiko Naito Produced by Nils Winther Label: Steeplechase

ts)Ari Ambrose b)Jay Anderson ds)Jeff Williams

1)Blue Daniel 2)My Ideal 3)Four and One 4)Once I Loved 5)Mr. Day 6)How Can You Believe 7)Star-crossed Lovers 8)United

日本ではAri Ambroseの名前は殆ど知られていないと思います。まずは簡単なプロフィールから。1974年Washington, DCで生まれ音楽一家で育ちました。その後The Manhattan School of MusicでDick Oatsに師事しそのままNYCで活動を開始、The Village Vanguard Orchestraに参加しRyan Kisor, Brad Mehldau, Wynton Marsalis, Peter Erskineらと共演の機会を持ちます。96年には多くの優れたテナーサックス奏者が共演者として去来し、まさしくテナーサックスをこよなく愛するDonald Fagen, Walter Beckerの二人がリーダーのレジェンド・ロックバンドSteely Danで世界ツアーを行いました。米国在住の米国人ですが欧州Denmarkの名門レーベルSteeplechaseから98年初リーダー作「Introducing Ari Ambrose」をリリース、現在までにコンスタントに13枚(双頭リーダー作を含む)を発表するSteeplechase子飼いのミュージシャンです。今回は彼の5作目に当たるテナートリオでの作品「United」、録音当時26歳にして既に個性的な音色をたたえ、風格ある演奏を繰り広げており、選曲の良さや練られた曲の構成からも作品としてアピールしています。50〜60年代に多く現れた黒人若手テナーサックス奏者の如き野太くコクのあるトーン、テナー奏者たるべき毅然とした立ち振る舞い、真摯なジャズシーンへの向かい方、先達に対する敬意を払った演奏やテイストから、こちらを皆さんに是非ともご紹介したいと思います。

Ambrose24歳の初リーダー作、なかなかの面構えです。

そして共演者です。ベーシストJay Andersonは堅実でスインギーなベースワークから多くのミュージシャンと共演を果たしました。Woody Herman, Carmen McRae, Michael Brecker, Toots Thielemans, Joe Sample, Toshiko Akiyoshi, Frank Zappa, Tom Waits, Dr. Johnなど新旧ジャズミュージシャンに始まりジャンルの垣根を超えた活躍を遂げ、The Manhattan School of Musicで教鞭も執っており、Ambroseとは本作以降も度々共演を保つ間柄になるので、師弟関係にあるのかも知れません。ドラマーJeff Williamsは70年代からLee Konitz, Stan Getz, Dave Liebman, Richie Beirachら本人も含めたユダヤ系ジャズメンとの共演の機会が多く、自身のバンドでも継続的に演奏した知的でタイトな演奏スタイルを信条とするプレーヤーです。

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目トロンボーン奏者Frank Rosolinoのオリジナルでワルツ・ナンバーBlue Daniel、どことなくひょうきんさを感じさせるメロディですがいきなり個性的なテナーの音色が聴かれます。彼の様な音色のプレーヤーは、使用楽器やマウスピースに関係なく自身の音が鳴ってしまうのでしょうが、一応セッティングをご紹介します。マウスピースはOtto Link Early Babbitハードラバー、リガチャーはHarrison(Francois Louisも使用)、楽器本体は60年代中頃のAmerican(多分)Selmer、ラッカーがほとんどはげたアンラッカー状態です。コードレスのシチュエーションでの演奏、Sonny Rollins, John Coltrane, Ben Webster, Wayne Shorter, Joe Hendersonたちジャズジャイアンツの影響を感じさせますが、自分のスタイルに十分昇華させています。Blue Danielは可愛らしさも感じさせるシンプルなコード進行の曲、それ故に緻密な即興演奏を繰り広げるには素材としてむしろ難曲で、ワンパターンに陥りがちなアドリブをAmbrose多彩にかつ自在に吹き上げています。16分音符の繋がりがとてもスムーズなのはタンギングが絶妙で滑舌の良さに起因すると思われますが、真っ黒な音の塊がブリブリと音を立てながらテナーのベルから放出されているかの様、同じくテナー奏者Billy Harperのそれに近いものを感じますが、他にはあまり無い個性として発揮されています。かと言ってむやみに超絶技巧を感じさせるわけではなく、自身の歌を歌うための自然なテクニックの一環として備わっていて、バランスの取れたプレイヤーと言えるのではないでしょうか。共演のJay Anderson、 Jeff Williams共に的確なサポートを務め、Ambroseのソロをバックアップしつつ3者の融合が見事です。テナーソロ後のベースソロも歌心に満ち、テクニカルかつ安定感を提示して、オープニングに相応しい快演を聴かせています。

2曲目はバラードMy Ideal、これは26歳の若者が演奏する内容ではありませんね、百戦錬磨、修羅場をくぐり抜た人生経験豊富な、熟練したテナー奏者の如きテイストのバラード奏です。こちらもRollinsやWebster、Hawkinsのスタイルを感じさせますがそれらを洗練させたものに、自身のジャズテナー美学をふんだんに加味し、饒舌ではありますが歌心を満載させた演奏に仕上がっています。音量のダイナミクス、ニュアンス、アーティキュレーション、ビブラートの処理、グロートーン等の音色の使い分け、フレージングのコードに対する浮遊感、いずれの表現も手だれの者と言えましょう。ベースが弾くビートのポイントが実に的を得ていて、ドラムのブラシワークもカラーリングが巧みです。テナーソロ後、一瞬の間を置いての始まりが粋なベースソロ後にラストテーマ、この曲の名演奏が誕生しました。

3曲目はThelonious MonkのFour and One、一応Four in Oneが正式なタイトルのようです。Monkワールドそのもののオリジナル、Ambroseの個性にも合致していると思います。テーマとソロ1コーラス目は2ビートを交えた序奏として始まり、2コーラス目から本題スイングに突入です。リズム隊は吹きまくるテナーを自由に泳がせるべく、比較的シンプルなアプローチでリズムをキープしていますが、例えば3’13″辺りでのやり取りはこの三者ならではの世界を聴かせます。ベースソロ後のドラムとの8バース、4バースでは両者のやり取り、会話が次第にヒートアップしています。Williamsは端正でオーソドックスなプレイヤー、思慮深さからでしょうか、ドラミングに火が付くのがスロー・スターター傾向にあるように感じます。ライブではスペースがあるので良いのでしょうが、レコーディングでは本領を発揮する前にラストテーマを迎える時がありそうです。個人的にはもう少し変態系のドラマーでかつ一触即発系、例えばPaul MotianやJoey Baronたち、一筋縄ではいかないツワモノとの共演であれば、バースをより深いレベルの演奏にまで掘り下げることが出来たかも知れないと、勝手に想像しています。

4曲目Antonio Carlos Jobim作ボサノバの名曲Once I Loved、テーマ奏はムーディなバラードの如き語り口ですが、ソロは一転してゴリゴリ(ブリブリの方が彼の場合正しいかもしれません〜笑)とAmbroseワールドを構築していて、タイトなリズムでの16分音符の洪水により密度の濃い個性を発揮し、また随所に聴かれる小唄のような節回しには歌心を感じます。テナーソロの最後のフレーズを受け継いでベースソロが始まり、巧みなソロを聴かせます。その後再びテナーソロが始まりますが前半と比較してずっとテンションの高い、バージョンアップしたソロを聴かせ、共演者をインスパイアし、「俺について来い!」とばかりリズミックに巻き込み、よりハイレベルなインタープレイを聴かせています。本作中収録時間最長のナンバーになるのも然もありなん、です。

5曲目はJohn Coltrane作のMr. Day、自身は60年録音「Coltrane Plays the Blues」にて演奏しています。印象的なリズムパターンから始まるアップテンポの変型ブルース・ナンバー、これは一丸となってバーニングです!!テーマ後4コーラスほどリズムパターンをキープしてからスイングへ、Ambroseのソロはテーマのフラグメントを交えつつも変態アプローチ全開状態、その後ドラムと1コーラス12小節のバースが延々と続きますが、ここでのドラミングは早い時点で着火〜燃焼感が素晴らしいです!スポンテニアスにトレーディングを繰り返し、迎えたピーク点5’58″辺りでの凄まじさと言ったら!その後ラストテーマ、イントロと同じくリズムセクションだけになりFineです。

6曲目はHow Can You Believe、Stevie Wonder作曲のナンバーで68年リリース彼のリーダーアルバム「Eivets Rednow」(バンド用語です!)に収録され、オリジナルはメロディをWonderのハーモニカで演奏しています。ジャズではまず取り上げられることのない意外性のある選曲だと思いますが、4曲目Once I Lovedのボサノバと同系統8ビートのリズムでテンポも似通っている、曲順も近いために、テナートリオ編成ではどうしても似通って聴こえてしまいます。演奏自体は確かに4曲目よりも盛り上がってはいますが、より変化が欲しかったとは贅沢なおねだりですね。曲自体のメロディが綺麗なのでコード楽器が鳴っていれば話は別だったとも思います。

7曲目Star-crossed LoversはDuke EllingtonとBilly Strayhornの共作、夢見心地状態の美しいバラード、AmbroseはWebsterライクにムードを設定しています。2曲目同様の豊かなバラード表現は年齢不相応の若年寄り演奏、想像するに彼の父親なり家族なり、近しい存在にムーディなスタイルのテナーサックス好きがいて、子供の頃から度々耳にして影響を受けていたのでしょう、でなければこんな演奏はあり得ません。テーマ後にベースソロ、Ambroseはオブリガードを入れています。その後のテナーソロは同じテナートリオ編成Rollinsの「Way Out West」収録ナンバーSolitude(こちらはEllington単独の作曲ですね)を、曲想が似ているのもありますがイメージしてしまいます。

8曲目ラストはWayne Shorterのナンバーにして表題曲United、オリジナルテイクは61年録音70年リリースArt Blakey and Jazz Messengers「Roots & Herbs」に収録されています。朴訥なメロディのワルツ・ナンバー、オリジナルでは3管編成の分厚いハーモニーが聴かれるので、こちらは随分とシンプルに響きます。本テイクは6/8のグルーブで演奏されベースが先発ソロ、テナーが続きテナーソロでは3者の絡み合いが巧みに表現されています。

2019.12.18 Wed

All the Gin Is Gone / Jimmy Forrest

今回はテナーサックス奏者Jimmy Forrest1959年録音65年リリースのリーダー作「All the Gin Is Gone」を取り上げてみましょう。

Recorded: December 10 & 12, 1959 Released: 1965 Studio: Hall Studios, Chicago Label: Delmark

ts)Jimmy Forrest g)Grant Green p)Harold Mabern b)Gene Ramey ds)Elvin Jones

1)All the Gin Is Gone 2)Laura 3)You Go to My Head 4)Myra 5)Caravan 6)What’s New? 7)Sunkenfoal

自作の名曲Night Trainを51年にレコーディング、52年3月にBillboard R&B chartで1位を記録した事でその名を馳せたForrestです。他にも数曲チャートを賑わせるヒットを出しました。Night Trainはその後Louis Prima, Oscar Peterson, James Brown, Count Basieら大物ミュージシャンによってもカヴァーされています。Forrestは20年St. Louisで生まれ、40年代はJay McShann, Andy Kirk, 50年代初頭にDuke Ellington, 70年代に入りCount Basieの楽団に在籍し、自己のバンドや Harry “Sweets” Edison, Al Greyのスモール・コンボでも活躍しました。ジャズフィールドでの活動がメインでしたが、演奏家としてはストレート・アヘッドと言うよりも、いわゆるホンカーとしてのテイストが育まれたと思います。他の作品もホンカーが全面に出たものが中心で、60年録音オルガン奏者Larry Youngを迎えた「Forrest Fire」、61年若きJoe Zawinullが参加した「 Out of the Forrest」等のリーダー作があります。遡り52年Miles Davisとの共演を果たした「Miles Davis / Jimmy Forrest Live at Barrell」ではホンカー寄りのビ・バップスタイルでMilesと丁々発止のやり取りを展開しており、Milesとはスタイル的に興味深い対比を示しています。

60年9月録音Forrestの他Oliver Nelson, King Curtis(!)のテナー3管による作品「Soul Battle」、こちらではNelsonの知的で端正なアレンジに加え名手Roy Haynesが3者の良き仲介役となり、テナー衆は互いをリスペクトしつつ、バランスの取れた小気味良い、しかし白熱したバトルを堪能する事が出来ます。

彼自身の活動期間としては40年代全般からその後51〜2年(Night Trainの当たり年)、60年代初頭、70年代中頃から80年に没するまでと断続的で小刻みになりますが、家庭の問題、健康面、様々な事情があったからでしょうか。ひょっとしたら大ヒットを出して経済的に豊かになり、ハングリーさを欠いたためにシーンからリジェクトされた可能性もあるかも知れません。豪快で華々しいブロウには多くの聴衆にアピールする魅力があったので、継続的な音楽活動が行われていればホンカー・テナーを代表する一人に君臨していたと思います。

本作はElvin Jones, Grant Green, Harold Mabernら当時の若手、今となっては各楽器のレジェンドを擁し、Forrestのスインガー振りを発揮させることに成功しています。ディスコグラフィーを紐解くとNight Train以来のリーダー・レコーディングと言う事になり、実質の初リーダー作に該当します。ForrestはNight Trainに乗って(笑)ホンカーとしてシーンに登場した感があり、本作はストレート・アヘッドな作品に仕上がったために市場での需要を考慮して発表を差し控え、ほとぼりが冷めた65年にリリースされたのでは、と考えています。ForrestとSt. Louis同郷のGreenにとっては初レコーディングに該当します。LPレコードでリリースされたオリジナルのジャケットにはジャズっぽいテイストのイラストで二人が描かれており、当時の新進気鋭のギタリストとしてフィーチャーされていたのでしょう。

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目表題曲All the Gin Is Gone、Forrest作のアップテンポ・ナンバーです。ピアノとドラムのイントロからForrestによるシンコペーションのメロディがリズミックで印象的なテーマ奏、いきなり素晴らしい音色の登場です!ホンカーの必須条件として豪快なテナーのトーンを有する事が挙げられると思いますが、まさしく太くて味わいのある魅惑的な音色です!使用楽器はSelmer Super Balanced Action、マウスピースはOtto Link Metal、恐らくDouble Ring Modelと思われます。そしてスインギーなレガートでビートを刻むのはElvin Jones、本作録音59年12月はJohn Coltraneのバンドに参加したての頃になります。彼から音楽についてを学び始めたばかりでElvinの強力な個性は未だ発揮されてはいませんが、グルーヴ、フィルインにはその明確な萌芽を聴き取ることができます。Forrestのソロですがこれはどこから聴いても正統派ジャズマンのアプローチで、ホンカーの匂いは払拭されています。強いて述べるならばソロの短さ、もう少し長いストーリーを提示して欲しかった事と、タイム感がon topでリズムがラッシュしている点ですが、スピード感に満ちた演奏とも言えなくもありません。このノリから察するに、彼は普段このテンポの4ビートを演奏する機会をそうは持たなかったでしょう。続くGreenのソロは後年のスタイルをしっかり感じさせる、シングル・ノートでのスインガー振りを提示しています。Mabernのピアノソロもグルーヴィーです。ForrestとElvinの4バースに続きますが、一層拍車がかかったリズムのラッシュにElvinは確実に対応しキープしているのに対し、ベースのRameyはかなり様子を伺いつつ演奏しているように見受けられます。もっともElvinとのドラムバースにベーシストは誰もが苦慮していますが。

2曲目はスタンダード・ナンバーLaura、Charlie Parkerの名演が有名なバラードですがここではミディアム・スイングで演奏されています。イントロに続くサブトーンを効かせたメロディ奏、グッと来ますね、素晴らしい!優雅な雰囲気の曲での益荒雄振り、大きく長いストーリーを唄うかの如き表現です。後半に行くに従いtoo muchな表現もありますが、そこはホンカーゆえと解釈しましょう。コードに対するアプローチは実に巧みで、普段からインプロヴィゼーションの研究を怠らないプレーヤーなのでしょう、前述のMilesとの共演盤の演奏でも同様の認識を持っています。続くGreenのソロはまるでもう一人管楽器奏者がいるが如きホーンライクなアドリブを聴かせます。コードを一切弾かないギタリストですから当然なのですが、明らかに管楽器のそれを意識しています。彼らをサポートするElvinのドラミングは3連符を多用した実にアクティヴなものです。ピアノソロで瞬時にブラシに持ち替えますが、ブラシ・ワークがまた的確で既に名人芸の域にあり、そのままラストテーマを迎えます。

3曲目はオリジナルLPに未収録のテイクYou Go to My Head、こちらはバラードで演奏されますがForrestのサブトーン全開です!Low C音の凄みと言ったら!この人は楽器を大変巧みに操り、表現の幅もそれは豊かですが、テナーを吹いているとひたすら熱くなり、そのまま一本調子になる傾向があります。だからホンカーなのだろう?違うか?と言われそうですが(笑)、出すところと抑えるところのメリハリが確実にあるのがジャズプレーヤーなのだと、実はここで再認識させられました。その後のピアノソロでMabern美しいタッチを聴かせます。ラストテーマではForrest、より深いビブラートを聴かせてくれます。

4曲目Forrestのオリジナルでブルース・ナンバーのMyra、裏拍のアクセントを多用しグロー・トーンでテーマを演奏すれば、これはもはやジャンプ・ナンバーです!Forrestも隠し持っていたホンカー魂を全面に掲げブロウ、続くGreenのソロは淡々とフレーズを爪弾き、我が道を行くが如きです。Mabernのソロは曲調に合致したテイストを表現すべく奮闘しています。その後ForrestとElvinの4バースが再び、こちらはテンポの関係か1曲目よりもスムーズにやり取りが行われています。ここで聴かれるドラムのフレーズは後年よりもずっとオーソドックスで、かなりアプローチが異なったものになります。Elvinもわずか数年で演奏が大きく変貌を遂げ成長した事を実感しました。

5曲目はForrest自身も在籍していたDuke Ellington楽団の重要なレパートリーCaravan、Elvinのマレットによるタム回しからイントロが始まります。C7でギターが中音域の何やらコンディミ系のシンコペーション・パターンを演奏、怪しげな雰囲気を醸し出しています。テーマ部分での微妙にメンバーのグルーヴが合わない感じが、むしろ曲想に通じる猥雑さを表現しています。アドリブに入りスイングに一変しますがElvinはブラシを用いてずっとキープしています。テナー、ギター、ピアノとソロは続きますが早いテンポにも関わらずのブラシワーク、実に巧みで音楽的なサポートです!更にそのままドラムソロに突入、ソロの最後には再びマレットに持ち替えラストテーマになりますが結局一切スティックは使いませんでした。ここでのForrestのソロはジャズスピリットに満ちたアプローチで、ホンカーの専門家ではこうは行かないだろうと感じました。

6曲目はスタンダード・ナンバーWhat’s New、この曲は当時のジャズシーンで流行っていた様に認識しています。バラードですがあえてForrestは上の音域を用いてしかも張りに張ったフルトーン、ビブラートも満載状態で演奏しています!こんなに猛々しく演奏する曲想と解釈して良いのでしょうか?良いのでしょう、だってホンカーですから(笑)。1コーラス半だけのテイクですがフリジアンのような、アラビア音階も感じさせるラインからテーマが始まります。サビではフラジオ音のGまで使ってシャウトしています。他のバラードが低音域を駆使した演奏なので、むしろバランスが取れている様にも感じました。

7曲目ラストを飾るのはForrestのオリジナルブルースSunkenfoal、テーマでのギターとのアンサンブル、Elvinのフィルイン共にカッコ良いです。先発Forrestのソロは巧みなラインを繰り出しますがグロートーンも交え、ホンカーの語り口でジャズの演奏を行っています。ギター、短くピアノ、珍しくベースとソロが続きますが、グイグイ演奏を引っ張っているのがやはりElvin、そのままフロント3人でドラムとバースを行います。前曲でForrestフラジオG音を使ったその流れか、同音の多用が目立ち、またリーダーのon topによるプレイで収録曲の何曲かは初めのテンポに比べてラストでは早くなっていますが、本テイクではむしろ遅くなる傾向にありました。

最後に同じDelmarkレーベルから72年「Black Forrest」が、本作の別テイクと5曲の未発表曲を収録した作品としてもリリースされています。

2019.12.11 Wed

Trident / McCoy Tyner

今回はMcCoy Tynerの1975年録音リーダー作「Trident」を取り上げて見ましょう。

Recorded: February 18-19, 1975 Fantasy Studios, Berkley Producer: Orrin Keepnews Label: Milestone MSP9063

p, harpsichord(on1, 4), celeste(on2, 4)McCoy Tyner b)Ron Carter ds)Elvin Jones

1)Celestial Chant 2)Once I Loved 3)Elvin (Sir) Jones 4)Land of the Lonely 5)Impressions 6)Ruby, My Dear

多作家のMcCoy60年代はBlue Noteから、そして70年代に入りMilestone Labelから続々とリーダー作をリリースしました。レーベル契約初年度の72年には何と3作も発表しています。その後も年間2作のペースでのレコーディング〜リリースをキープしていました。本作は75年録音ですが前74年は「Sama Layuca」と「Atlantis」をレコーディング、そして翌76年には「Fly with the Wind」をリリース、傑作アルバムを続出していました。飛ぶ鳥を落とす勢いとはこの事を言うのでしょう。

この3作はいずれも比較的大きな編成で演奏されています。「Sama Layuca」はNonet、「Atlantis」はQuintet、「Fly with the Wind」に至っては10人以上の編成のストリングス・セクションや木管楽器が参加した、総勢18名から成るラージ・アンサンブルによるものです。原点に帰ってと言う事でしょう、間に挟まる本作はピアノトリオによる演奏なので自ずとMcCoyのピアノ・プレイにスポットライトが当てられる形になりますが、Elvin Jones, Ron Carterの演奏もたっぷりとフィーチャーされ、文字通りのTrident(三叉)演奏となっています。

本作録音頃のElvinも72年傑作「Elvin Jones Live at the Lighthouse」を皮切りに75年「On the Mountain」「New Agenda」と言った意欲作をリリース、自身のドラミングもJohn Coltraneとの共演で培われたスタイルを邁進させ、音楽の神羅万象を表現するかの如き深淵なグルーヴ、スイング感、他にはあり得ない独自の魅力的なドラムの音色を含め、これらが神がかった次元にまで到達し、更なるディテールの充実化によりダイナミックでありながら繊細さを併せ持つ、雷鳴が轟くようなフォルテシモから耳元で小鳥が囁くかのようなピアニシモまで、実はジャズ史上誰も成し得なかった音楽表現で最も重要な音量コントロールの完璧さを身に付け、真に音楽的なドラマーとして君臨、脂の乗っていた時期に該当します。

Ron Carterは60年代Miles Davis Quintetで研鑽を重ね、次第に数多くのセッションに参加するようになります。70年代中頃からCTI Labelと契約し自己のリーダー作をリリースするようになりました。都会的でオシャレなサウンドを提供する事を信条とするCTIのプロデューサーCreed Taylorは、彼のプレイのメロディアスな部分を表出させるべく73年「All Blues」75年「Spanish Blue」を制作、彼の魅力を発揮させる事に成功しました。

それでは演奏について触れて行きましょう。1曲目McCoyのオリジナルCelestial Chant、こちらは「天界の曲」とでも訳したら良いのでしょうか、ハープシコードでイントロが演奏されますが、この楽器の持つ音色からか、いきなり厳かで崇高な雰囲気が漂います。McCoyがハープシコードを弾いた録音は恐らくこちらが初めてになり、因みに後年シンセサイザーを演奏した作品もありますが、70年台以降多くのピアニストが弾いたFender Rhodesを演奏した例は僕の知る限りありません。テーマが始まるやいなやElvinがバスドラムを駆使したマレットでの3連符のリズムを繰り出しますが、何という重厚で素晴らしいリズムでしょうか!どこか中国の音楽を感じさせるシンプルなメロディ、McCoyが左手での対旋律を弾かずに、サウンドが薄くなった途端にElvinが楽曲のカラーリングをすべく4拍目を中心にした弱拍に、タムで強烈なアクセントを叩き始めますが、アドリブ中にこのアクセントが再度出る事は無く、このやり取りにも音楽的に深いものを感じます。その後McCoyが演奏を止めベースがメロディを引き続き演奏し、再登場の際にはメロディ奏をピアノで行いますが流石の強力なピアノタッチ、メチャメチャごっついです!ベースは延々とメロディ=ベースパターンを奏で、McCoyはペンタトニック系の4度の超速弾きフレーズを繰り出しつつソロが展開します。時折テーマのメロディを演奏する時にElvinはバスドラムでシンコペーションをユニゾンしています。決して出しゃばらずに、しかし出すところは出すスタンスで的確にサポート、全体を俯瞰しながら音楽を作っていくアーティスティックな姿勢をElvinの演奏から再認識しました。Ronのベースソロにも普段の彼以上のクリエイティブさを感じつつラストテーマへ、ベースソロ後のメロディ奏に再びElvinが4拍目にアクセントを挿入、ラストテーマにもハープシコードが用いられ、次第に収束に向かいます。シンプルなメロディ、ワンコードのテーマとアドリブ構造から成る楽曲の最小限のパーツを手を替え品を替え、巧みに再構築し、最大限に効果を生み出している、Tridentならではの演奏だと思います。ハープシコードの音色が暗めに響いているのは、ピアノよりも若干チューニングが低い事に由来しているのでしょう。

2曲目はAntonio Carlos Jobimが書いた名曲Once I Loved、ボサノバのリズムでしっとりと演奏される機会の多い、美しいメロディを有したナンバーですが、ここではとんでも無い事になっています!冒頭ベースとドラムのリズム・パターンの上でMcCoyはチェレスタを弾いていますが、こちらも初使用だと思われます。この楽器のお披露目的なソロの後、少し間を置きベースのフィルイン、そしてピアノによるテーマが始まります。それにしてもElvinが繰り出すボサノバのリズムの躍動感の素晴らしさ!身がぎゅっと詰まった音符がプリプリと粒立ち、はち切れんばかりのビートを繰り出しています。そして続くMcCoyのソロ!ピアノのSheets of Soundとも表現できるでしょう、拍に対して特に譜割りを意識せず音符を徹底的に詰め込む、50年代Coltrane的なアプローチと言えるかも知れません。コード進行は原曲そのままですがモーダルな解釈を行い4thインターバルの和音、ラインを駆使してまるで異なった曲に仕立てていますが、あまりの変貌、猛烈ぶりに作曲者Jobimが怒り出しそうと、要らぬ心配をしてしまいます(笑)。当然物凄いテクニックが必要になりますが難なく演奏しており、それよりもハープシコードやチェレスタはピアノよりも弱音楽器、楽器自体の構造もずっと華奢なはずです。McCoyの打楽器奏者的強力なタッチで鍵盤や楽器本体が壊れてしまうのではないかと、こちらも要らぬ心配をしてしまいます(爆)。全体的にピアノソロのアグレッシブさに比べてドラム、ベースのアプローチはピアノソロを引き立てるべく比較的シンプルですが、例えば2’12″辺りからのバンプではElvinのマーベラスで難易度の超高いフィルインが聴かれ、これにRonがぴったりと着けています。後にも出てくるバンプでは更に野獣化しています!ピアノソロ最終コーラスに至っては左右の手で全く異なるラインの応酬!物凄いテンションです!ラストテーマ後にチェレスタが再登場しますが、まだ鍵盤は壊れてはいなかったようで(笑)、クロージングに相応しく、総じて歴史的名演の誕生です(祝)

3曲目McCoyのオリジナルElvin (Sir) Jones 、Coltrane Quartetからの盟友Elvinその人に捧げられたナンバー、Sirの称号を付与したくなるのも当然な演奏家です!Elvin得意のラテン系のリズムから始まり、アドリブに入り直ぐにスイング・ビートに変わります。ピアノのソロではありますが、ツワモノたちの三つ巴による音の洪水、Heavy Sounds、McCoy絶好調です!煽るElvin、Ronのサポートがあってこそですが、まるで重装備の装甲車が軽やかなステップを踏んでいるかの如く、あり得ない状態です!ピアノソロがピークを迎えそのままドラムソロに突入、ベースは急には停まれないとばかりに未だ弾いています!そしてElvinのソロ、どこを切っても金太郎飴状態、彼のいつものフレーズそのものですが、どうしてこんなにフレッシュに、クリエイティブに耳に響き、感銘を受けるのでしょう!その後ラストテーマを迎え、装甲車に更なる音の重装備を施し大団円です!ここまでがレコードのSide Aになります。

4曲目Land of the Lonely、ここではイントロでチェレスタとハープシコードを同時演奏し、異なったテイストを加味しています。ドラムとベースによるワルツのイントロが始まりますが、Elvinのドラミングはここでも説得力に満ちており、リズムを刻んでいるだけでワクワクしてしまいます!その後ピアノを用いたテーマが始まりますが、McCoyはピアニスト、即興演奏家としてはもちろん、作曲の才能にもずば抜けたものを持っており、この曲も哀愁のメロディに優しさと癒しを見出すことができる佳曲です。三位一体の演奏ですが、Coltraneもよくワルツを演奏していて、サウンド、グルーブからここにColtraneのサックスが聴こえてきてもおかしくない、三位一体プラス・ワンとイメージしてしまいました。アウトロにもチェレスタとハープシコードを用いて締めくくっています。

5曲目はColtraneのImpressions、前曲でColtrane Quartetを感じさせてからの流れがとても自然です。いや〜当たり前ですが物凄い演奏です!彼らにとって演奏し慣れたレパートリー(McCoyとElvinは Coltrane Quartetで、RonはMiles Quintetにてコード進行が同じSo Whatで)、余裕と風格が漂い、こちらは3人による横綱相撲の様相を呈しています。特にドラムとベースのコンビネーションが申し分ありません!ピアノソロ後はドラムソロになるのかと思いきや、ベースをフィーチャー、Ronは良く伸びる音色でリズム・モジュレーションを多用したソロを聴かせています。エンディングは比較的あっさり目(彼らのとっては、ですが)に終えています。

6曲目Thelonious Monk作の名曲Ruby, My Dear、これまで演奏してきた曲の延長線上にあるので、しっとりとした、いわゆるバラードとは一線を画します。McCoyの力強いタッチでElvinのブラシワーク、バスドラムも時折ハードに叩いていますが必然さが先立ち、ラウドさは全く感じさせません、と言うかElvinのブラシはスティック以上にダイナミクスの振れ幅が大きいと感じます。ここでも、いつもよりも饒舌なベースのソロを挟みラストテーマを迎えます。ジャズ史上に残るピアノトリオの傑作、このエピローグに相応しいテイクに仕上がりました。

2019.12.01 Sun

Pop Pop / Rickie Lee Jones

今回はシンガーソングライターRickie Lee Jonesの1991年リリース作品「Pop Pop」を取り上げてみましょう。

Recorded: Toping Skyline Studio 1989 Produced by Rickie Lee Jones and David Was Label: Geffin

vo, ac-g)Rickie Lee Jones ac-g)Robben Ford ac-b)Charlie Haden, John Leftwich bongo, shakers)Walfredo Reyes, Jr. cl, ts)Bob Sheppard ts)Joe Henderson bandoneon)Dino Saluzzi vib)Charlie Shoemake violin)Steven Kindler ac-g)Michael O’Neil hurdy-gurdy)Michael Greiner backing vocals)April Gay, Arnold McCuller, David Was, Donny Gerrard, Terry Bradford

1)My One and Only Love 2)Spring Can Really Hang You Up the Most 3)Hi-Lili, Hi-Lo 4)Up from the Skies 5)The Second Time Around 6)Dat Dere 7)I’ll Be Seeing You 8)Bye Bye Blackbird 9)The Ballad of the Sad Young Men 10)I Won’t Grow Up 11)Love Junkyard 12)Comin’ Back to Me

Rickie Leeは70年代後半から活躍する米国のロック、ポップスシンガーです。独自のセンス、音楽観を持った芸風には僕自身ずっと好感を持っています。この作品はスタンダード・ナンバーを中心に取り上げたジャジーなテイストを感じさせる、Rickie Leeにとって初めてアルバムになります。彼女に限らず昔からジャズ以外のフィールドのシンガーがジャズ・アルバム制作を行う事は少なくありませんが、多くの場合枠組みだけはジャズボーカルとしての範疇にあるけれど、中身が異なった風で何かが違う、歌唱力はあるけれど訴えかけるものやセンスに違和感や物足りなさを覚え、鯔のつまりジャズボーカルのハードルの高さを再認識させられる結果となりました。きっとロック、ポップス・シンガーはジャズへの憧れがあるものなのでしょう。この作品は参加してるジャズ・ミュージシャンの素晴らしさや選曲にバックアップされて、ロックシンガーとしては異例とも言えるジャズアルバムに仕上がっていると感じますが、Rickie Leeのコケティッシュでレイジーな歌唱スタイル、鼻が詰まったようなこもった成分が聴かれる声質(こんな声で歌うボーカリストは他には存在しません)、そしてほのかに感じさせる彼女の持つジャズシンガーの素養が合わさった結果、不思議なバランス感を持ったジャズ作品として成り立っています。89年リリースDr. Johnの作品「In a Sentimental Mood」収録のMakin’ Whoopee!にRickie Leeがゲスト参加し、Dr. Johnのアクの強い、やさぐれた歌声と彼女のカマトトチック(笑)なボーカルが絡み合い、互いにインスパイアし、そこにRalph Burnsのゴージャスなビッグバンド・アレンジがスパイスとして加味された素晴らしいテイクに仕上がっていますが、同年のグラミー賞最優秀ジャズ・ボーカル・パフォーマンス賞に輝きました。ここでの成功が本作制作へと繋がっているように思います。

遡ってRickie Lee83年の作品「Girl at Her Volcano」(邦題マイ・ファニー・ヴァレンタイン)でもLush Life, My Funny Valentine(いずれもライブ・レコーディング音源)と言ったスタンダードを取り上げていますが、本作で聴かれる歌唱スタイルの萌芽を十分に感じ取ることが出来ます。

本作参加メンバーで重要な役割を担っているのがRobben Ford、殆どの収録曲で全てアコースティック・ギターを演奏し、本来はフュージョンやスタジオ系のギタリストなのですが、スタンダード・ナンバーのバッキング、ソロでジャジーなテイストを存分に発揮しています。そして全曲ではありませんがCharlie Hadenのアコースティックベースのサポートが作品の品位を高め、Joe Hendersonのテナーサックスがジャジーな色合いをより濃厚なものにしています。ドラムレスという編成もアコースティック楽器の音色を際立たせる上で良い采配であったと思います。本作プロデューサーのDavid WasによればMiles Davisの起用も検討されたそうですが、ギャラの高額さから断念され(残念!でも一体幾ら吹っ掛けられたのでしょうか?)、Freddie Hubbardにも参加をオファーしたそうですが実現は叶いませんでした。

それでは本作収録曲について触れて行きましょう。ジャケットデザインも彼女らしい可愛らしさとコーニーな雰囲気がよく出ています。1曲目数多くのジャズミュージシャン、シンガーによる名演奏が目白押し、定番中の定番ジャズバラードMy One and Only Love、Rickie Leeはそんな数多の名演奏を全く関知しないかのようなマイペースさで歌い上げています。名演を気に掛けていたら自分の歌唱は一切出来なくなりますし。Fordのアルペジオによるイントロ、曲中のバッキング、ソロで彼への評価を全く新たにしてしまうほどに美しいサウンドを聴かせます。Hadenの地を這うようなボトム感満載のベース、Dino Saluzziのバンドネオンでのカラーリングの巧みさ、異なるフィールドのミュージシャンが集い、静かな異種格闘技とも言えるインタープレイを楽しみましょう。

2曲目もバラード・ナンバーSpring Can Really Hang You Up the Most、個人的に大好きなナンバーで、本作購入のきっかけとなりました。Rickie Leeがこの曲をどう歌うのか、興味津々で作品に臨みましたが想像以上に一つ一つのセンテンスを丁寧に、情感たっぷりに、強弱を強調しつつ様々にイントネーションを効かせ、気持ちのこもった深い歌唱を聴かせています。1コーラス丸々歌いっきり、FordとHadenの素晴らしいサポートがあってこそですが素晴らしいテイクに仕上がりました。

3曲目はOn Green Dolphin StreetやInvitationの作曲者として名高いBronislaw Kaper52年作のナンバーHi-Lili, Hi-Lo、1曲目と同じメンバーによる演奏です。アコースティックギターのイントロから始まり、録音自体も実に臨場感溢れています。バンドネオンのDino Saluzziのサウンドが心地良いです。彼はアルゼンチン出身でAstor Piazzollaの影響を受けたプレイヤーですが、独自のスタイルを築きジャズマンとの交流も深く、かのECMレーベルから13枚もリーダー作をリリースしています。同じアルゼンチン出身のGato Barbieriの73年作品「Chapter One: Latin America」に参加し脚光を浴びました。

4曲目はロックミュージシャンのオリジナルからJimi Hendrix 67年のUp from the Skies、ベーシストがJohn Leftwichに替わり、Fordの他にMichael O’Neillのアコースティックギターも加わり、スインギーなグルーヴを聴かせます。Gil Evansの74年作品「The Gil Evans Orchestra Plays the Music of Jimi Hendrix」でも取り上げられています。

5曲目はSammy Cahn, Jimmy Van Heusen黄金の作詞作曲コンビによるSecond Time Around、60年の映画「High Time」の挿入曲です。Ford, LeftwichにSteve Kindlerのバイオリンが加わった、意外と多くのジャズメンに取り上げられている隠れた名曲です。アコースティックギター・ソロのバッキングで聴かれるバイオリンの美しいカウンター・ライン、ソロ、KindlerはOregon州出身、The Mahavishunu Orchestra, Jan Hammer, Jeff Beck, Kitaro達との共演歴を持つバイオリンの名手です。彼らをバックに彼女はキュートに、感情移入が素晴らしい歌唱を聴かせています。

6曲目はBobby Timmons作の名曲Dat Dere、歌詞はシンガー・ソングライターのOscar Brown, Jr.によるものです。作曲者自身の60年初リーダー作「This Here Is Bobby Timmons」に収録、加えて当時参加していたArt Blakey and the Jazz Messengersの「The Big Beat」でも同年録音されています。

ここではFord, Leftwichに加えJoe Hendersonのテナーサックス、Walfredo Reyesのスネアドラムとボンゴ、プロデューサーWasのバックグラウンド・ボーカルが参加します。本作ハイライトの1曲、Rickie Leeの持ち味や声質と楽曲、メンバーとの巧みなコラボレーション、プロデュース力で名演が生まれました。冒頭部から曲中、エンディングまで赤ん坊の楽しげな声がオーバーダビングされていますが(これがまた実に効果的に使われています)、それもその筈タイトルのdatはthat、dereはthere、どちらも舌足らずな子供たちが使う赤ちゃん言葉、この曲の歌詞はママを質問攻めにして困らせている女の子が主人公なのです。そんな彼女も大人になり恋をして結婚し、子供が出来て母親になります。因果は巡り今度は自分の娘から質問攻めに合う立場になり、ゾウが好きな子の子供もゾウさんが好き、という内容です。ボーカリーズの初演Oscar Brown, Jr.の際の歌詞はdaddyと呼びかける男の子のヴァージョンでした。この曲の初演が収録されている「This Here Is Bobby Timmons」の1曲目、This Here → That There(Dat Dere)と対を成している訳ですね。余談ですが、かつて僕が参加していたドラマー日野元彦(トコ)さんのバンドSailing Stoneで、トコさんのオリジナルIt’s Thereという曲を事ある毎に演奏しましたが、本人曰く「この曲はTimmonsのThis Hereに肖って名前を付けたんだよ」との事でした。「The Big Beat」収録のヴァージョンではLee Morganがトランペットを演奏し、素晴らしい演奏を聴かせていましたがあいにくの故人、プロデューサーはJazz Messengers繋がりでFreddie Hubbardにこの曲を演奏させたかったためにオファーしたのかも知れません。何より本作の制作企画が持ち上がった時点で、真っ先にこの曲を取り上げようと目論んだような気がしてならないのですが、それほどにRickie Leeの魅力と個性、楽曲が見事に合致しています。

7曲目はSammy FainとIrving KahalコンビによるI’ll Be Seeing You、Ford, Leftwichのアルコ・ベース、Bob Sheppardのクラリネットというメンバーで室内楽的にコンパクトに纏められた演奏が聴かれます。

8曲目お馴染みのスタンダード・ナンバーBye Bye Blackbird、Miles Davisオハコの曲に彼自身が参加したらさぞかしの評判とクオリティの演奏になったかも知れませんが、ここではJoe Henが参加、むしろ適材適所な人選、演奏だと思います。ベースにLeftwich, Reyesはブラシに徹して伴奏、Fordは参加せずコードレスの演奏です。Joe Henが全編に渡り素晴らしいオブリガートを聴かせ、そのラインからコード進行も十分に感じられ、そしてブッ飛んだ間奏(歌番でこんなのアリですか?彼を起用するならアリですね!)を聴かせています。Rickie Leeこのテイクでは歌詞の内容を噛みしめつつ、歌うというよりも話しかける、更には叫んでいる風を感じます。

9曲目はThe Ballad of the Sad Young Men、2曲目Spring Can Really 〜と同じ作曲Tommy Wolfと作詞Fran Landesmanのコンビによるナンバーです。Ford, Haden, Saluzziが伴奏を務め、Rickie Leeが切々と若さ故の哀愁を歌います。Keith Jarrettも89年録音リーダー作品「Tribute」で演奏していますが、ここではAnita O’Dayにトリビュート、Gary Peacockのソロをフィーチャーし、Jack DeJohnetteと共に耽美的にリリカルに (むしろ凡庸な表現しか思いつかない程に素晴らしいのです!)演奏しています。

10曲目はまさしくRickie Leeにピッタリのナンバー、I Won’t Grow Up、お馴染みPeter Panからのセレクションです。歌詞の内容と彼女の持ち味が完璧にフィットしています。Ford, Hadenの他に男性ボーカルが2人バックグランド・コーラスで参加しており、Rickie Lee自身によるコーラス・アンサンブルのアレンジが施されていて、低音のボーカル・ハーモニーと彼女の声が対比となり、doo-wopのテイストも感じさせます。Fordのソロに被って口笛が聴こえますがRickie Leeによるものでしょう、歌唱同様にどこか危なげな音の発生、音程感から彼女らしさを感じますから。

11曲目Love Junkyardは本作中最も大きな編成での演奏、Ford, Leftwichの他Reyesのボンゴ、シェイカー、ビブラフォンにCharley Shoemake、O’Neillのアコースティックギター、Bob Sheppardのテナーサックス、Wasのボトル、ジャンク、そしてバックグランド・ボーカルというメンバーで、ボンゴとテナーのデュエットから始まります。演奏内容はこれまでの彼女の音楽活動で練り上げられたオリジナルなサウンドの延長線上が聴かれます。Sheppardのテナーにはオーバーダビングが施され、ハーモニーが鳴っていますが、Rickie Leeのアレンジによるものです。

12曲目Comin’ Back to Meは米国ロックバンドJefferson Airplaneの創設メンバーであるMarty Balin作のナンバーで、彼らの第2作目になる「Surrealistic Pillow」に収録されています。Leftwichのベース、Michael Greinerのhurdy gurdy(機械仕掛けのバイオリン)とglass harmonica(複式擦奏容器式体鳴楽器〜これは?)、Rickie Lee自身のアコースティック・ギターという編成で、フォーク・ミュージックのコンセプトで演奏されます。囁くような歌唱は本作中異彩を放っていますが、こちらも従来のRickie Leeのスタイルの延長線上にあります。後半で聴かれるシャウトでの気持ちの入り方に、彼女のロックシンガーとしての真骨頂を感じることが出来ました。