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2019.05

2019.05.24 Fri

Les McCann Ltd. in New York

今回はピアニストLes McCannの61年ライブ盤「Les McCann Ltd. in New York」を取り上げてみましょう。Recorded at the Village Gate in NYC on December 28, 1961 Label: Pacific Jazz / PJ45 Producer: Richard Bock

p)Les McCann ts)Stanley Turrentine tp)Blue Mitchell ts)Frank Haynes b)Herbie Lewis ds)Ron Jefferson

1)Chip Monck 2)Fayth, You’re… 3)Cha-Cha Twist 4)A Little 3/4 for God & Co. 5)Maxie’s Change 6)Someone Stole My Chitlins

CDにはボーナストラックとして3曲が追加されており1曲は収録当夜の未発表テイク、2曲は別日別メンバーによる演奏です。コンサートの全貌という意味合いから別演奏は割愛し、当夜の演奏全6曲を紹介したいと思います。

現在83歳のLes McCann、若い頃に海軍タレント・コンテストの歌唱部門で優勝し、その所以で米国を代表するバラエティ番組であったThe Ed Sullivan Showにボーカリストとして出演したという異色の経歴の持ち主です。本作と同年に(前作に位置します)「Les McCann Sings」という、ビッグバンドを従え自身の渋いボーカルとピアノ〜弾き語りですね〜をフィーチャーした作品を録音しています。

世に名を残す男性ボーカリストたちに比べれば、多少ご愛嬌的な要素も感じる歌唱力ですが、持ち味の方はかなり良いところを行っていると思います。McCannのユニークなピアノスタイル、オリジナル曲の作風はこのボーカルに裏付けされているのでは、とも感じました。

McCannは59年録音初リーダー作「It’s About Time」(World Pacific)以降ピアノトリオやフロント楽器を交えた作品、ビッグバンド、Joe Passとのコラボレーション、The Jazz Crusadersとの共演作、Leader, Co-leader含めて現在までに55枚もの作品をリリースしています。その多くにリラックスしたエンターテインメント性を感じさせ、ビバップやハードバップを基本としていますが、とりわけゴスペルやR&Bのテイストを交えた音楽性が米国で絶大な人気を誇る所以でしょう。「 The in Crowd」が代表作のピアニストRamsey Lewisや以前Blogで取り上げた事のあるGene Harrisにも通じる音楽性です。Richard Teeを含めても良いかもしれません。60年代は自分のトリオを核として全米に限らず世界を股にかけた活動を展開し、69年にはMontreux Jazz Festivalでのテナー奏者Eddie Harris、トランペット奏者Benny Bailey2人のフロントをフィーチャーしたライブ録音「Swiss Movement」が大ヒット、収録曲Compared to Whatはシングルカットされミリオンセラーを記録し、その名声を不動のものにしました。Roberta Flack、Eugene McDaniel(Compared to WhatやFeel Like Makin’ Loveの作曲者)らを発掘した功績も大きく、ジャズのフィールドだけでは収まりきれない活動を展開し続けています。

本作は61年NYC Village Gateでのライブ演奏を収録した作品で、自身のピアノトリオ〜Les McCann Ltd.〜にフロント3人を迎えた編成です。それもテナーサックス奏者2人、トランペット奏者1人というユニークなもので、テナー奏者の1人がStanley Turrentineというのが最大の魅力です。McCannのリーダー作でTurrentineとの共演は本作のみ、多分に漏れずここでもOne & Onlyの素晴らしい音色、プレイを存分に聴かせています。McCannの演奏、音楽にはテナー奏者のフロントが合致するようです。Eddie Harris, Turrentineの他Teddy Edwards, Ben Webster, Harold Land, Wilton Felder, Yusef Lateef, Plas Johnson, Jerome Richardson… 参加したテナーマンを見渡すと、ホンカーテナー系統のスタイルが人選の際には必須条件のようです(笑)。

ちなみにTurrentineは本作参加の返礼としてか、本作ライブ5日後の62年1月2日に自身のリーダー作「That’s Where It’s at」(Blue Note)にMcCannを招いてレコーディングしています。McCannのオリジナルを4曲演奏していますが、こちらも素晴らしい作品です。

それでは収録曲に触れて行く事にしましょう。1曲目はChip Monck、本作収録曲は全てMcCannのペンによるものです。アップテンポのスイングナンバー、曲自体を構成する各パートいずれもが大変凝っておりさらにその組み合わせ、独自の曲想です。音量の極大から極小、ダイナミクスを存分に生かしつつ淀みなくアンサンブルする演奏から、ミュージカルのハイライト・シーン、ないしはアニメのテーマ曲、挿入歌をイメージさせます。ストップタイム、バックビート、ジャンプナンバーのようなグルーヴ、3管編成のジャジーな響き、総じてハッピーな雰囲気が前面に出ていつつもどこか哀愁を感じさせるバランス感は見事です。先発は一聴Turrentineと分かるコクのある豊かな響きを湛えたテナーソロです。構成の煩雑さに起因したのか単なるケアレスミスなのか、1’55″の辺りでTurrentineがリピートせず一瞬次(サビ)のパートのコード進行でフレージングし、「Ouch!」となりますが気を取り直して元の進行に戻ります。その後本来のサビに入る際、先程と全く同じフレージングで対処しているのでフレーズを用意していたのでしょう、きっと。Horace SilverのSister Sadieのような管楽器のバックリフが入り、2小節間のブレークになりますがカッコいい構成ですね!淀みなくソロが続き再びソロ中に管楽器のバックリフが挿入され計2コーラスのテナーソロ終了(1コーラスが92小節!とても長いのです!)、ピアノソロに続きます。ここでもソロ中の同じホーンアンサンブルでソロに景気付けがなされますが、こちらは1コーラスでラストテーマになだれ込みます。エンディングにもMcCannの美学が込められたアンサンブルパートが付加されてFineです。演奏内容も良いのですが、曲の構成がオーディエンスにアピールする要素てんこ盛り、曲だけでもワクワク状態、ゴージャスな装丁のお弁当ですが華美になり過ぎずとも人目を引き、思わず手に取り盛り付けカラフルで小鉢満載、味付けも大満足のご馳走、楽曲自体が聴かせてしまうタイプです。でもやはり曲の構成と難易度、シンコペーションを多用したシカケ、ダイナミクス、テンポ設定、ライブレコーディング、諸条件を乗り越えてギリギリの状態での完奏でした!

2曲目はバラードFayth, You’re… 実に美しいナンバーです。イントロでMcCannがピアノの弦を弾いて効果音を奏でていますが、61年のジャズシーンではかなり異色のプレイです。曲のメロディを吹くのは一聴Turrentine… ではなくもう一人のテナー奏者Frank Haynesです。こちらも素晴らしいトーンの持ち主、前曲同様ダイナミクスが施され、バラードの美学が冴え渡ります。Haynes音の太さ、艶、色気はTurrentineに負けずとも劣らないのですが、深みや雑味、付帯音、音像の奥行き、サブトーンの巧みさが異なり、個人的にはTurrentineの方に軍配を挙げてしまいます。HaynesはMcCannが何度か共演したGerald Wilson Big Bandに所属していたテナーマン、本作ジャケットには名前がHainesと誤記されてのクレジットでちょっと残念です。1’43″からTurrentineに交代し彼のソロが始まります。ステージ後方に位置していたのか、ややスネークインしての登場、濃密な音色とサブトーンで伸ばす音が消え入る時にかかる細かいビブラートがたまりません!その後ピアノのソロを経てHaynesの奏でるラストテーマ、ここでのメロディ奏も堂々たるものでHaynesソロはなくとも存在感を十分アピールしました。

3曲目はジャズロック仕立てのブルースナンバーCha-Cha Twist、ピアノのイントロから始まり、Blue Mitchellのトランペット・ソロが先発、リズムの雰囲気と曲のサウンドがいかにも60年代初頭を感じさせます。ドラムと一緒に1拍目頭、2拍目裏、4拍目表裏でずっと鳴っているカウベル、誰か手の空いているフロント奏者が叩いているのかと思いきや、続くTurrentineのソロの後ろで2管でのバックリフが演奏されるので、手が空いているフロント奏者がいないにもかかわらずカウベルが鳴っています。これはドラマーが叩いていましたね。田舎たいルーズな感じが本職の仕事のようには聴こえませんでしたので(汗)

4曲目は軽快なワルツナンバーA Little 3/4 for God & Co.こちらもなかなかの佳曲です。ソロの先発はHaynes、どうしてもTurrentineと比較してしまいますが、残念な事にここでは物足りなさを否めません。ゆっくりした演奏時には隠れていたものがテンポが早くなった事により、馬脚を現してしまったかのようです。その後Mitchellのソロに続きTurrentineのソロはイケイケです!Turrentineに関しても音色、ニュアンス、ビブラートは天下一品、申し分ないのですが、タイムがもう少しだけタイトでレイドバック感が出ていれば僕には100%完璧です!ピアノソロを経てラストテーマへ。エンディングはTurrentineがフィルインを入れつつ、後の二人がハーモニーを奏でます。

5曲目Maxie’s Change、ちょっとシャッフルがかったミディアムテンポのナンバー、どことなくArt Blakey and the Jazz MessengersでのBenny Golsonのナンバーをイメージしてしまいます。Turrentineここでも素晴らしい音色でホンカー的流麗なソロを聴かせ、Mitchell, Haynesとソロが続きます。ここでの音色を聴くとHaynesの使用マウスピースはTurrentineのOtto Link Metalとは異なり、ハードラバーではないかと想像しています。

6曲目Someone Stole My Chitlins、イントロはOn Green Dolphin Streetを彷彿とさせますが、本作中最もMcCannの左手がフィーチャーされたナンバーに仕上がっています。Richard Teeの左手も特徴的でしたね。トランペットのテーマ奏の後ろでテナー2管がトリルやハーモニーを演奏するのがカッコイイです。演奏中TurrentineがMcCann?に何かを促されて?ソロを途中で止めています。Mitchellのソロは相変わらずの堅実さを聴かせ、続くMcCannの左手は本領発揮!Haynesのソロ後にも左手旋風は止みません!ラストテーマは特に演奏されずピアノが強制終了させているかのようです。

2019.05.13 Mon

Sonny Rollins Vol. 2

今回はSonny Rollinsの57年録音の代表作にしてモダンジャズのエバーグリーン、「Sonny Rollins Vol. 2」を取り上げてみましょう。

1957年4月14日録音@Van Gelder Studio, Hackensack Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Label: Blue Note / BLP1558

ts)Sonny Rollins tb)J. J. Johnson p)Horace Silver p)Thelonious Monk b)Paul Chambers ds)Art Blakey

1)Why Don’t I 2)Wail March 3)Misterioso 4)Reflections 5)You Stepped Out of a Dream 6)Poor Butterfly

Francis Wolf撮影の写真、そしてHarold Feinsteinによる素晴らしいデザインのジャケットが、既に作品の素晴らしさを物語っています。ロック・ミュージシャンのJoe Jacksonがまんまジャケットを模倣して作品をリリースしています。84年「Body and Soul」

文字や被写体の色が青から赤に、タバコを持つ手の形以外は全くと言って良いほどの「パクリ」ですが、確信犯による見事なまでのRollinsへの表敬振りです(ちなみに内容は本作とは全く異なるロック・ミュージックです…)。写真のテナーサックスもRollinsと同じAmerican Selmer MarkⅥの初期モデル、同じような風合いの楽器を用いており、微細にこだわっています。唯一残念なのはこの頃のRollinsが使っていたMarkⅥはごく初期のモデル、55~56年製造の楽器でおそらくシリアルナンバー56,000~67,000番台、フロントFキーが他のキーよりもひと回り小さいのが特徴です。録音時期から推測して当時新品で購入した楽器ではないでしょうか。「Body and Soul」ではその後のモデルを用いているのでフロントFキーが他のキーと同じ大きさのものです。細部にこだわるのであればディテールを徹底させ、同じキー・レイアウトの楽器を用意して貰いたかったと思うのはマニアック過ぎでしょうか(笑)。

ちなみにジャケットの方のレイアウトですが、CD化に際してSONNY ROLLINSのロゴを始めとする文字が中央に集められ、それに伴い「R」の文字がちょうどフロントFキーに被ってしまい、マスキングされてしまいました。個人的にはオリジナルと同じくタイトルやメンバーの表示が幾分下の方がRollinsの顔が引き立ち、バランスが取れていると思うのですが、如何でしょうか。以下がCDでのジャケットです。

さてジャケット話はこのくらいにして、57年はRollinsに限らずモダンジャズの当たり年、数々の名盤がリリースされました。時はHard Bop全盛期、米国の文化成熟度も一つのピークを迎えており、放っておいても、特に何かを企画しなくても、レギュラーグループではなくとも、リーダーを決めて、良いサイドマンを集めて録音しさえすれば、自動的に素晴らしい作品が出来上がった時代です(物凄い事です!)。Rollins自身も57年にはなんと合計6枚のリーダー作をレコーディングしており最多録音年、本作はメンバーの人選もありますが、抜きん出てHard Bop色が強い作品に仕上がっています。J. J. Johnsonとの2管は同じ音域の木管楽器と金管楽器とが合わさり、お互いの響きを補いつつ増強させる強力なアンサンブルを聴かせ、ハーモニーでもユニゾンでも実に豊かで豪快なサウンドを提供しています。Art BlakeyとPaul Chambersのコンビネーションは安定感、スピード感申し分なく、Blakeyの繰り出すリズムをon topのChambersが徹底的にサポートして更なるグルーヴ感を出しており、Blakeyが必ず踏んでいる2, 4拍ないしは裏拍のハイハットがHard Bopを色濃く感じさせます。ピアニスト2人Horace SilverとThelonious Monkはリーダーとしての活動が中心ですが、本作での客演で的確に伴奏者としての演奏を披露、特にMisteriosoでの2人の共演は稀有なナンバーです。

それでは曲毎に触れて行きましょう。1曲目RollinsのオリジナルWhy Don’t I、Miles DavisのオリジナルFourをひっくり返したようなメロディが印象的です。曲自体の構成はA-A-B-Aで、よくある歌モノのフォームですがサビのBが普通は8小節ですが半分の4小節しかありません。同じくRollinsの代表作「Saxophone Colossus」に収録のStrode Rodeも同じフォームでやはりサビが4小節です。この頃彼は短いサビのサイズに嵌っていたのでしょうね、きっと。なかなか手強い構成の曲に仕上がっていますが、作曲者自身このフォームに起因し演奏中やらかしてしまいました(爆)。後ほど触れるとして、ソロの先発はRollins、モダンジャズ・テナーサックスの正に王道を行く音色(1’34″でのSubtone、堪りません!)とタイム感、フレージングの推進力、例えば0’50″からの16分音符フレージングのスピード感とタイトさと相反するレイドバック感、これはメチャヤバです!!ソロの2コーラス目はテーマと同じシカケをリズムセクションが演奏し、バッキングに弾みをつけています。随所で聴かれるBlakeyのいわゆるナイアガラロール、実に効果的です!続くJ. J.のソロ、巧みなスライドワークによるバルブトロンボーン・ライクで流麗なフレージング、ジャズトロンボーンを志す全てのミュージシャンの規範となるべきバイブル的な演奏です!ソロの2コーラス目冒頭でJ. J.自身がテーマの仕掛けを提示していますがリズムセクションまさしく笛吹けども踊らず、ただBlakeyが4小節目の4拍目に謎のアクセントを入れていますが、これがJ. J.へのレスポンスでしょうか?その後は淡々とソロを展開し、Silverのソロとなります。ちょっとリズムがつんのめった特徴的なタイム感での演奏です。RollinsとSilverはMiles Davisの54年「Bags Groove」以来の共演です。

ピアノソロ後のフロント二人とドラムスの4バースがこの曲でのトピックスです。構成としてAは8小節なのでRollins〜Blakey, J. J.〜BlakeyでAAが終了、サビが4小節なのでRollinsの4小節ソロ後ドラムスのソロは次のAの前半4小節で行われ、後半4小節J. J.のソロで1コーラス終了になります。2コーラス目は1コーラス目とひっくり返る形でドラムス・ソロ4小節〜フロントのソロ4小節となるはずが、ドラムスのソロに被ってRollinsソロを始めました!これは単なる出間違えなのか、それとも4バースの2コーラス目も1コーラス目と同じ構成で行いたいというRollinsの目論見だったのか、いずれにせよバンドの流れとしてはひっくり返る形での4バースが主流と即断したRollins、同一フレーズの音形で次の4バースを続けます。そしてもう一度、J. J.のソロの後サビでドラムス・ソロになる筈が、今度は明らかに自分の出番ではないと知りつつサビのコード感を提示するラインをRollins吹き始めました!この機転の効いたプレイこそSaxophone Colossus!その後のJ. J.は「何が起きたんだ?俺はこのまま続けて吹いても良いのか?」とばかりの間を空けて探りながらソロを開始しています。Blakeyの委細かまわず、やるべき演奏を完徹した姿勢にも助けられたと思います。この演奏はハプニングを利用し、更にリカバーすべくアイデアを提供したRollinsのスポンテニアスな音楽性の産物です!この出来事がなければごく普通のHard Bop演奏で終わってしまうテイクが、誰にも印象に残る名演奏に変化したのです。

以前日野皓正さんのバンドで演奏中、何かスタンダードを演奏することになりました。その時の曲もAABA構成で、僕がサビのBを演奏することになったと記憶しています。演奏が始まり最初のAのメロディを演奏する日野さん、明らかなテーマの間違いを犯しました!「えっ?」と思った束の間、次のAで今度はわざと同じようにメロディを違えて演奏するではありませんか!サビ後のAでも全く同様にメロディを変えての演奏、お陰でその間違ったメロディが正しく聴こえてくるのが実に不思議でした。そんな日野さんを目の当たりにし、背筋がゾゾっとした覚えがあります。転んでもタダでは起きない、間違いやハプニングをむしろ利用して音楽を活性化させるしたたかさに、本物のミュージシャンを感じました。

2曲目もRollinsのオリジナルWail March、BlakeyがドラマーでMarchとくればThe Jazz MessengersのレパートリーBlue Marchを連想しますが、こちらは翌58年10月の録音なので1年半以上も先の話になります。Blakeyお家芸のマーチング・ドラムは本テイクのイントロで既に花開いていました。アップテンポの曲自体は8小節のシンプルな構成、ソロはスイングで演奏されるので倍の16小節がループされます。ソロの先発J. J.の絶好調振りはBlakeyのスインギーなドラミング、Mr. on top BassのChambersに依るところも大です。EllingtonのRockin’ in Rhythmの引用フレーズも交えつつ演奏され、再びインタールード的にメロディが演奏されRollinsのソロになります。アップテンポにも関わらず実にタイムが的確でスインギー、前年録音「Saxophone Colossus」の頃よりもリズムのスイート・スポットにより確実に音符をヒットさせています。かつてDavid Sanbornが司会するTV番組Night MusicにRollinsがゲスト出演、Sanbornは彼のことをRhythmic Innovatorと紹介していましたが、正しくその通りです!ピアノ、テーマとドラムスとのトレード、ドラムスソロに続き再びMarchのテーマでFineです。

3曲目はThelonious Monk作のブルースMisterioso、RollinsはかつてMonkのバンドに在籍し、54年「Thelonious Monk / Sonny Rollins」56年「Brilliant Corners」と名盤を録音しています。

ここでのトピックスはMonkとSilverのふたりが参加している点です。連弾や2台ピアノが用意されている訳ではないのでピアノを引き分けていますが、どのように分担しているのかが気になるところです。始めのテーマをMonkが演奏し、続くRollinsのソロでバッキングを行い、その後短いながらも自身のユニークなソロがあり、終了後3’47″から5秒間でSilverにピアノの席を譲っているようです。ですので続くJ. J.のソロはSilverがバッキングを行い、そのままSilverのソロ、ベースソロ、一瞬ドラムスソロに突入しそうなところをRollinsリーダー然と入り込みドラムスとの4バースにしていますが、ここでもSilverがピアノを弾いているように聞こえ、ナイアガラロールに誘われてのラストテーマの直前にMonkが再登場、テーマ演奏そしてオーラスで9thの音であるC音をチョーんと弾いています。ピアニスト二人ともバッキングでリズミックな要素を含んでいるので、かなり判断が難しいです。

内容的にもイーブン気味のテーマの後ろでBlakeyが何やら3連符をずっと演奏し続けたり、MonkのOne & Onlyでリズミックなバッキングが随所に光っていたり、Rollinsソロ冒頭でテナーでの雄叫びが聴こえたり、バースで草競馬のメロディを引用したりと、じっくり聴きこむと様々なことが行われています。

以上がレコードのSide A、4曲目はMonkが残留してRollinsのワンホーン・カルテットによるMonkのReflections、かつてのバンマスに敬意を表して取り上げたナンバー、Monk Worldを存分に表現したテイクに仕上がっています。Rollinsはお得意の低音域サブトーンとリアルトーンを使い分けしっとり、バリバリとメロディ奏、1’44″でRollinsが吹いたフィルインをMonkが暫く後の49″で呼応する辺りニンマリとしてしまいます。ソロの先発はMonk、Blakeyが好サポートを聴かせますが、ふたりは47年Monkの初リーダー作「Genius of Modern Music」からの付き合いになります。

5曲目はスタンダード・ナンバーYou Stepped Out of a Dream、再びクインテットでの演奏になります。Rollinsがメロディを吹き、J. J.がオブリガードや対旋律、ハーモニーを演奏しています。快調に飛ばすRollins、2コーラス目に入ろうとする1’08″くらいからBlakeyに煽られてとんでも無い状態に!3コーラス目に入った辺りでもシングルノート攻め、いや〜素晴らしい、Rollins申し分無い計3コーラスのスインガー振り。ひょっとしたらこの曲がアルバムの1曲目に置かれても十分な出来栄えですが、Why Don’t Iの災い転じて福となすテイクの方にジャズの魅力が詰まっていますね!J. J.のソロもYou Are the Man!と声を掛けたくなるくらい素晴らしい演奏です!ピアノソロ後のフロントふたりのトレードからラストテーマへ。やはりWhy Don’t Iのハプニングがなければこのテイクをオープニングに採用していたかも知れません。プロデューサーのAlfred Lionさぞかし迷ったことでしょう。音楽を、ジャズを良く分かっているプロデューサーならではの決断、ミスやハプニングを良しとしない頭の硬い人では出来ない大英断だったと思います。

6曲目ラストはPucciniのオペラMadame ButterflyからPoor Butterfly、テーマ後J. J., Silver, Chambersとソロが続きラストテーマ、Rollinsはテーマ演奏のみという大人の仕事っぷりで本作を締めくくっています。