1)Gecko Plex 2)He’s Dead Too 3)On Again Off Again 4)Amethyst 5)Bruze 6)Moment’s Notice 7)Channeling 8)Invisible Light 9)Unriel
Alex Rielは1940年9月13日Denmark Copenhagen生まれ、60年代中頃から地元にあるジャズクラブJazzhus Montmartreでハウスドラマーを務め、同じくDenmark出身の欧州が誇る素晴らしいベーシストNiels-Henning Ørsted Pedersen、スペイン出身の盲目の天才ピアニストTete Montoliuを中心に米国からの渡欧組ミュージシャンであるKenny Drew, Ben Webster, Dexter Gordon, Kenny Dorham, Johnny Griffin, Don Byas, Donald Byrd, Brew Moore, Yusef Lateef, Jackie McLean, Archie Shepp, Sahib Shihab等と日夜セッションを重ね、ジャズ・フェスティバル出演、レコーディングと多忙な日々を過ごしていました。欧州各国のジャズシーンは今でこそ優れた個性的なミュージシャンが目白押しですが、60年代中頃は言わばジャズ後進国(そもそも米国以外の全世界各国はジャズ後進国でありましたが)米国出身のミュージシャンの市場、多くの米国ミュージシャンが仕事を求めて渡欧し人材が流入しました。Rielは欧州に居ながら米国のジャズ・テイストをダイレクトに吸収できた世代の一人です。
97年RielはやはりDenmark出身のピアニストNiels Lan Dokyと2人で訪米し、New Yorkのスタジオで本作をレコーディングしました。参加メンバーの中でまず挙げるべきはベーシストEddie Gomezです。彼のプレイがこの作品の要となり、演奏を活性化させインタープレイを深淵なものにしています。11年間もの長きに渡り在籍していたBill Evans Trioでの演奏のイメージが強いですが、実はEvans以降大胆な音楽的成長を遂げており、その成果としてある時は縁の下の力持ち、またある時はその場に全く違った要素を導入すべく、体色を変化させ瞬時に舌を伸ばし、獲物を捕食するカメレオンのように変幻自在に音楽に対応しています。Gomezはソロイスト、伴奏者に対し的確に寄り添い素晴らしいon topのビート、グルーヴを提供しますが、同時に音楽を俯瞰してその瞬間瞬間で最も効果的なスパイス、サプライズは何かを選択し提供する事に関してのエキスパートでもあります。
Jerry Bergonziは47年生まれ、Boston出身のテナー奏者。作品を多数発表し、ジャズの教則本も数多く執筆しています。また莫大なマウスピース、楽器本体のコレクターとしても知られていて、音色へのあくなき探究から常に素晴らしいテナーサウンドを聴かせており、本作での圧倒的なプレイは感動的です。更に多くのオリジナルを作曲しここでも5曲提供していますが、いずれもユニークな個性を発揮しサウンドが輝いています。サックスプレイは勿論、ジャズに関連する媒体を作り上げ量産する、ツールをマニアックに収集する、表現向上のために委細構わず拘る、などから演奏者であると同時にモダンジャズを愛する、根っからのオタク系ジャズファンであると感じています(笑)。Michael Breckerが参加する2曲でテナーバトルを聴かせますが、ジャズフレーバー満載でマイペースな演奏のBergonziに対し、投げられたボールを確実にキャッチしすぐさま変化球に転じさせる技が巧みなMichael、トレーディングを重ねるうちに信じられない境地にまで発展するバトルは相性抜群、他には類を見ないテナーチームです!
Mike Sternは53年生まれ、こちらもBoston出身です。Berklee音楽大学で学び、Blood, Sweat & TearsやBilly Cobham Bandを経て81年カムバックしたMiles Davisに大抜擢され、以降自己のBandを始めとして数々のバンドで活動しています。ロックテイストを踏まえつつ、Be-Bopの要素を盛り込んだ独自のウネウネ・ラインは他の追従を許さない魅力を聴かせます。個人的にはMilesカムバック時のライブを収録した作品「We Want Miles」での全てのプレイに、神がかったイマジネーション感じます。
Niels Lan Dokyは63年Copenhagen出身、ベトナム人の父親とオランダ人の母親の間に生まれ、6歳下の弟Chris Minh Dokyはジャズ・ベーシスト、兄弟でDoky Brothersとして活動していた時期もありました。NielsもBerklee音楽大学で学びましたが米国よりも欧州が肌に合うらしく卒業後帰欧、Franceに在住して音楽活動を行なっています。因みにChrisもジャズを学ぼうと渡米、Berkleeに学びに行こうとした矢先に立ち寄ったNew YorkでBilly Hartに「ジャズを学ぶならここ以外無いだろ?」と引き止められ、NYが肌にあったのもあり、Berkleeには行かずそのまま当地でジャズ活動を展開しました。
本作の出来が大変良かったからでしょう、2年後続編がリリースされました。99年NYC録音「Rielatin’」、1曲Bergonzi〜Breckerのバトルが再演されています。RielのかつてのボスであったBen WerbsterのオリジナルのブルースDid You Call Her Today、古き良き時代を感じさせるミディアムテンポのブルース。前作で取り上げたナンバーの曲想がハードだっただけに2人の大先輩による癒し系の曲を取り上げ、バトルの素材としましたが、演奏内容は全く前作に匹敵するものになりました(爆)
2曲目もBergonziのオリジナルHe’s Dead Too、人を喰ったタイトルですがギターとテナーのユニゾン・メロディが心地よいボサノバ・ナンバー、ピアニストは参加せずカルテット編成です。ソロの先発はSternのギター、Gomezの唸り声がところどころ聴こえるのが生々しいです。1’51″辺りでギターの倍テンポのラインに一瞬ベースが反応しサンバのリズムになりかけますが、ぐっと堪えました。しかし衝動は抑え切れず2’15″からドラム、ベースともサンバになり、ギターソロを終えるところまで続きます。続くテナーソロからは振り出しに戻りボサノバで行われ、再び3’58″からドラム、ベースが率先してサンバに持って行きます。「盛り上がったらサンバにしようか」くらいの軽い打ち合わせがあったのかも知れません。その後ベースソロで再びボサノバに戻り、Gomezの超絶技巧ソロ、68年Bill Evansの「At the Montreux Jazz Festival」での名演奏をイメージしてしまいます。この時のベースの録音方法はおそらくマイクロフォンが主体であったので、弦が指板を叩く音が「バチバチ」と物凄く、インパクトが強烈でしたが、本作ではピックアップからの入力の方がメインなので、柔らかく伸びる感じの音色に仕上がっています。
3曲目は本作もう一つのテナーバトル曲On Again Off Again、曲自体はBergonzi作のマイナーブルース。実に正統派、テナー奏者によるバトルはこうあるべきと言うやり取りを聴くことができるテイクです。音符のフラグメント状態からThelonious MonkのEvidenceをイメージさせるテーマに続く先発ソロはMichael、人を説得せしめるための専門用語を用いた滑舌の良いスピーチ(Michael流ジャズ演奏のことです)はしっかりとした手順を踏まえ、一つ一つの言葉の持つ意味を噛み締めながら、確実に次の言葉に繋げて行くことが大切なのだと高らかに宣言しているかの如きプレイです!後ほど行われるバトルのためにかなりの余力を残してクールにソロを終えていますが、続くBergonziはイってます!ソロの後半でJackie McLeanのLittle Melonaeのメロディを引用しているのはご愛嬌、ピアノソロに続きいよいよタッグマッチの時間です!Michaelから4小節づつのトレーディング、研ぎ澄まされた空間に鋭利なテナーサウンドが投入されます。互いのフレーズ、コンセプトを受けつつ、Michaelがサウンドの幅を広げていますが、Bergonziの対応も実に的確、手に汗握るバトルです!演奏にはその人の人間性、人柄が表れますがMichaelは人の話をよく聞き、話の内容をよく覚えています。彼の生前の事ですが、前回の来日からさほど間を空けずの再来日時のMichaelとのやり取り、「前回話をした時にTatsuyaが探していた⚪︎⚪︎⚪︎は見つかったかい?」「Mikeよく憶えているね、ちょうど見つけたところだよ」「それは良かった、僕も探して見つけたところなんだ。じゃあ大丈夫だね」「Thank you Mike!」と言うやり取りをした覚えがありますが、バトル相手のフレーズをしっかりと聴き拾い、把握し、音楽的に膨らませて相手に受け渡す技の巧みさにまさしく彼の話っぷり、人への接し方を感じました。
1)Tell Me a Bedtime Story 2)Invitation 3)L.A. Nights 4)Show Me 5)Never Had a Love(Like This Before) 6)What Was 7)E. R. A. 8)Eerie Autumn 9)I Have Dreamed 10)Aitchison, Topeka & the Santa Fe
ボーカルTom Lellis、ベーシストにEddie Gomez、ドラマーにJack DeJohnette、ピアノはLellisとAllen Farnhamが曲によって弾き分けています。Lellisのボーカルをフィーチャーしたアルバムですが、リズムセクションの巧みなサポートも聴きどころで、3者高密度のインタープレイを繰り広げています。特にDeJohnnetteがこういったボーカル・セッションに参加するのは極めて珍しく、期待に違わぬ素晴らしい演奏を聴かせています。更にはHerbie Hancockの Tell Me a Bedtime Story、Chick CoreaのWhat Was、スタンダード・ナンバーですがボーカルで演奏されるのはあまり機会のないInvitation等、意欲的な選曲も魅力です。男性ボーカルは大きく2つに分けられますが、Frank SinatraやTony Bennettに代表されるストレートにスタンダード・ナンバーを歌唱するタイプ、そして本作Lellisのようにインストルメント奏者の如く歌い上げるスタイル。同じ男性ボーカリストのMark Murphyも後者のタイプ、そしてメンバーの人選や選曲にも同傾向の音楽的嗜好を感じます。彼の75年代表作「Mark Murphy Sings」にそれが顕著に表れているのでご紹介しましょう。ホーンセクションにRandy, Michael Brecker, David Sanborn、キーボードにDon Grolnick、ベースHarvie Swartz等を迎え、On the Red Clay(Freddie Hubbard), Naima(John Coltrane), Maiden Voyage(Herbie Hancock), Cantaloupe Island(同)といったジャズメンのオリジナルを取り上げ、熱唱しています。
リーダーTom Lellisは1946年4月8日Cleveland生まれ、10代からボーカリストとして地元を中心に活動を開始し、Las Vegasや米国中西部をツアーし73年New Yorkに進出、この頃にGomez, DeJohnetteと出会い、81年初リーダー作「And in This Corner」を本作と同じメンバーを中心に録音しました。本作タイトルの「Double Entendre」(二重の〜特に一方はきわどい)は前作とメンバーが同じ、ボーカルやキーボードの多重録音を行った、作詞作曲家、ボーカリスト、プロデューサーを兼ねていることから名付けられました。
ピアニストAllen Farnhamは親日家として知られている61年Boston生まれの作編曲、教育者でもあります。僕も何度か演奏を共にしましたがピアノプレイもさることながら、スタンダード・ナンバーの都会的で知的なアレンジに感心した覚えがあります。Concord Jazz Festivalのオーガナイザーも長く務めています。
それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Tell Me a Bedtime Story、 Hancock69年の作品「Fat Albert Rotunda」に収録されている名曲です。HancockのFender Rhodes、Johnny Colesのトランペット、Joe Hendersonのアルト・フルート(!)、Garnet Brownのトロンボーンがメロディを分かち合い、更に重厚なアンサンブルを聴かせています。メロディのシンコペーションがユニークな難曲、駆け出しの頃に演奏して手こずった覚えがあります。
5曲目LellisのオリジナルNever Had a Love(Like This Before)は、Farnhamが演奏するシンセサイザーの多重録音を駆使したナンバー。YAMAHAのDX7が使われていますが懐かしい音色、響きです。80~90年代流行りましたからね。でも今となってはコーニーさを感じてしまいます。叙情的、ドラマチックなナンバーです。
6曲目は本作の白眉の演奏CoreaのWhat Was、こちらはボーカルの多重録音を駆使しています。DeJohnetteのフリーソロから始まりますが、冒頭のボーカルのハーモニーが男性の声の低音域を強調しているので、読経のように感じてしまいます(爆)。それにしてもこのアレンジのアイデアはvocalese史上特記されても良いクオリティ、そして仕上がりだと思います。Gomezの素晴らしいソロがフィーチャーされますが、Coreaのオリジナル演奏ではMiroslav Vitousの歴史的名演奏が光ります。余談ですが先月(19年3月)25年ぶりの来日を果たしたVitous、ベーシストは勿論の事、他の楽器のミュージシャンが大勢彼の演奏を聴きに行ったそうです。「Now He Sings, Now He Sobs」での演奏の存在感故だと思います。ベースソロ後ボーカルがフィーチャーされ、ラストテーマでは再び読経が聴こえます(笑)。
7曲目LellisのオリジナルE. R. A.、ミディアム・スイングの佳曲です。ピアノはLellis本人が弾いており、ソロこそありませんが的確なアンサンブルを聴かせています。DeJohnette、Gomezと一緒に演奏すれば自ずと方向性が定まるのでしょう。歌とピアノの複雑なメロディのユニゾンは同時録音か微妙なところですが、ボーカル絶好調、声が良く出るに連れてバッキングの音使いも激しさを増しています。
9曲目はRichard Rodgers/Oscar HammersteinのI Have Dreamed、いかにもミュージカルに用いられる雰囲気のナンバー、後半声を張ってアリアのようにも歌唱しています。Lellis自身のピアノソロも聴かれます。
10曲目アルバム最後を飾るのはAtchison, Topeka & The Santa Fe、ハッピーなテイストのシャッフル・ナンバー。こちらでもFarnhamの演奏するDX7が聴かれ、効果的に用いられています。そういえばDeJohnetteのシャッフル・ビートはあまり聴いたことがありませんが、彼はどんなリズムを演奏しようが常に音楽的でクリエイティブ、更にプラスワンが聴こえます。
2019.04.13 Sat
Hi-Fly / Karin Krog, Archie Shepp
今回はボーカリストKarin Krogとテナー奏者Archie Sheppによる作品「Hi-Fly」を取り上げたいと思います。1976年6月23日Oslo, Norwayにて録音 Producer: Frode Holm, Karin Krog Compendium Records
1)Sing Me Softly of the Blues 2)Steam 3)Daydream 4)Solitude 5)Hi Fly 6)Soul Eyes
Karin KrogのチャーミングなボーカルにArchie Sheppのまるで人の声、喋っているかの如きユニークなテナーサックスのオブリガートが全編絶妙に絡み、素晴らしい音色で思う存分間奏を取る、他に類を見ない作品です。ボーカリストのアルバムにテナーサックス奏者が歌伴で参加したと言う次元に留まらない内容の演奏ですが、Krogの唄だけ、Sheppのテナーのみでは得ることの出来ない、互いの演奏、音楽性の相乗効果が生み出した素晴らしい産物です。
Krogは37年Norway Oslo出身、音楽一家に生まれた彼女は60年代初めから地元やStockholmで演奏活動を開始、64年にFrance Antibe Jazz Festivalに出演し脚光を浴びます。67年にはトランペッターDon Ellisに認められて渡米し彼のオーケストラとの共演を経験しました。69年には米Down Beat誌の評論家投票で新人女性ヴォーカリストの首位に輝いています。翌70年8月には大阪万博にEurope Jazz All Starsの一員としても来日しました。Norway、北欧を代表するボーカリストの一人です。
本作を遡ること6年前、70年に同じく渡欧組テナー奏者Dexter Gordonを迎えて「Some Other Spring」を録音しています。”blues and ballads”とサブタイトルの付けられた本作、テナーサックス奏者が変わった事でこうも作品の印象が違うのかと感心させられる1枚です。こちらはDexterと伴奏のKenny Drewのプレイに影響を受けたのか、サウンド自体がそうさせるのか、Krogの歌も本作に比べてかなりオーソドックスに聴こえます。
欧州で自国の言葉ではない英語でジャズを歌う女性歌手として、オランダ出身のAnn Burton、スウェーデン出身のMonica Zetterlund、同じくLisa Ekdahlらの名前を挙げることができますが、Ella Fitzgerald, Carmen McRae, Sarah Vaughanらのようなスタイルではなく、やはりPeggy Lee, Anita O’Day, Sheila Jordanらの白人ボーカリストの流れを汲んでいます。欧州を南下してItalyやSpain辺りのラテンの血が流れる情熱的な国には、CarmenやSarah直系、更にはNina Simoneの様なストロング・スタイルの女性ボーカリストも存在しているかも知れません。
Krogと同年生まれ、Florida出身のSheppはPhiladelphiaで育ち、もともと俳優志望で演劇を大学で専攻、傍サックスを手にして音楽活動を始めました。卒業後New Yorkに移ってからはLatin Band(この時期の録音が残されていたらぜひ聴いてみたいものです。 Sheppのラテン、さぞかしユニークでしょう!)を短期間経験しその後Cecil Taylorのユニット, Don CherryやJohn TchicaiらとのNew York Contemporary Fiveでの演奏を経てJohn Coltraneとの共演を経験しました。作品としては「A Love Supreme」「Ascension」、そしてColtraneの後押しがあって64年初リーダー作「Four for Trane」をリリースし、65年「New Thing at Newport」では同Jazz Festivalにて共演は果たさずともColtraneとステージを分かち合いました。まさしくColtraneの申し子としてフリージャズ旋風が吹く60年代中期〜後期を駆け抜けましたが、その風が収まる69年に多くのフリージャズ系ミュージシャンがParisに移住した際にSheppも同行、欧州での活動を開始しました。その後のKrogとの出会いも極自然な流れであった事でしょう。
Sheppの楽器セッティングですが本体はSelmer MarkⅥ、マウスピースはOtto Link Metal 7★、リードはRico Royal 2半です。30数年前にArchie Shepp Quartetの演奏を新宿Pit Innで聴いた事があります。その際サックスのベルにマイクロフォンを時としてかなりの度合いまで突っ込み、サックス管体内で音場が飽和状態になった際に得られるフェイザーが掛かったかのような響きを利用して独自の音色を作っており、そのサウンド・エフェクト、マイクロフォン・テクニックに衝撃を受けた覚えがあります。PA担当のエンジニアにはマイクロフォンからの入力オーバーでスピーカーが飛ばないか、その結果自分のクビが飛ばないかと不安感を与えますが(汗)。アンブシュアもダブルリップなのでマウスピースに負荷が掛からずリードの振動が確実になりますが、彼の場合音程に関して疑問符が伴うことがあり、しかしSheppの演奏スタイルではまず楽器のピッチが問われることは無く、音程感も彼の音楽性に内包されるので全く問題はありません(爆)。付帯音の鳴り方が大変豊か、結果ジャズの王道を行くテナーの音色を聞かせ、加えてフレージングの語法、アプローチ、アイデア、間の取り方いずれもが大変ユニークなので、ジャズ表現者として抜群の個性を発揮しています。
それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Sing Me Softly of the Blues、Carla Bley作曲のナンバーにKrogが歌詞をつけた形になります。65年Art Farmerの同名アルバムで初演されています。けだるい雰囲気のイントロから歌が入りますが、いきなりSheppのオブリガート(オブリ)の洗礼を受けます。いわゆる歌伴の演奏とは全く違ったコンセプトで、基本は歌詞のセンテンスの合間にオブリが入りますが、合いの手で別なボーカリストの掛け声、シャウトを聴いている様な、はたまた単に効果音的に音列を投入しているかの如く、いずれにせよ物凄いテナーの音色です!オブリからそのままSheppのソロ、その後Krogも謎のハミングを聴かせていますがSheppとのコンビネーション抜群です!前述の「Some Other Spring」での演奏とは全く異なる、非オーソドックスな音楽表現の世界に突入しているのは、ひとえにSheppが起爆剤として機能しているからです!リズムセクションはただひたすら淡々と伴奏を務めますが、その事が一層ボーカルとテナーの演奏を浮き彫りにさせています。
攻撃的でありながらも優しさと色気を併せ持つShepp独自のアプローチがここでも十二分に発揮され、Greenleeのオブリ共々ボーカルのサポートを的確に務めており、Krog自身も彼らの伴奏を心から楽しみつつ、気持ち良く歌唱している様に聴こえます。ひょっとするとSheppのアプローチはColtraneのSheets of Soudを彼なりにイメージしながら演奏しているのかも知れません。所々に50年代Prestige Label諸作で聴かれるColtraneのフレーズが漏れ聞こえます。エンディングでのSheppのシャウトはKrogの美しい声との対比、美女と野獣状態です。
1966年9月18日録音@Monterey Jazz Festival Producer: George Avakian Atlantic Label
ts,fl)Charles Lloyd p)Keith Jarrett b)Cecil McBee ds)Jack DeJohnette 1)Forest Flower: Sunrise 2)Forest Flower: Sunset 3)Sorcery 4)Song of Her 5)East of the Sun
現在も変わらず精力的に音楽活動を続けるCharles Lloydの出世作になります。モダンジャズ黄金期50年代の成熟期〜倦怠期を迎える60年代、特に60年代後半はフラッグシップであったJohn Coltraneまでもがフリージャズへ突入、傍らジャズロックやエレクトリックが次第に台頭し、更に時代は泥沼化したベトナム戦争に起因するフラワームーブメントを迎え音楽シーンは混沌を極めつつありました。66年録音の本作でも時代が反映された演奏が随所に聴かれますが、何より参加メンバーの素晴らしさに目耳が奪われます。Keith JarrettはArt Blakey Jazz Messengersに短期間在籍した直後にLloyd Quartetに参加、録音当時21歳という若さで驚異的な演奏を聴かせています。ピアノのテクニックや音楽性、タイム感、そしてすでに自己の演奏スタイルをかなりのレベルまで習得しており、その早熟ぶりに驚かされます。本作を含め計8枚のLloyd Band参加アルバムをAtlantic Labelに残しており、いずれの作品でも神童ぶりを発揮しています。Cecil McBeeは42年生まれ、Dinah Washington, Jackie McLean, Wayne Shorter等との共演後Lloyd Bandに参加、17歳からコントラバスを始めたとは信じられない楽器の習熟度、on topのプレイはドラムとの絶妙なコンビネーションを聴かせ、更にバンドに自身のオリジナルを提供してもいますが、このカルテットでの4作目「Charles Lloyd In Europe」を最後に退団し、後任にはRon McClureが参加しました。
Jack DeJohnetteはMcBeeと同年生まれ、やはりJackie McLeanやLee Morganとの共演を経てLloyd Quartetに参加しましたが、若干24歳、信じがたい事ですがこの時点で”DeJohnette”スタイルを完全に発揮しています!シンバルレガート、フィルイン、タイム感、グルーヴ感、スポンテニアスな音楽性、共演者とのコラボレーションの巧みさ、アイデア豊富なドラムソロ、以降一貫したスタイルの発露を感じます。Elvin JonesとTony Williams両者のドラミングのいいとこ取り、加えての強烈なオリジナリティ、申し分ないセンスの持ち主です!1拍の長さを当Blogで良く話題にしていますが、DeJohnetteの1拍の長さはこの時点でも相当な長さ、そして演奏を経る、経験を積むに従って更にたっぷりとしたものになりました。おそらくドラマーの誰よりも長く、そしてあらゆる既存の規格が当てはまらない桁外れのプレイヤーでしょう!JarrettとはGary Peacockを迎えたStandards Trioで、このあと半世紀以上も行動を共にする事になります。それにしてもMcBeeやPeacockとは、美しい名前のベーシストたちです。
これら若手の精鋭たちからなるリズムセクションを従えたリーダーLloydはこの時28歳、楽器の音色が主体音よりも付帯音の方が中心とまで感じるホゲホゲ・トーン、当時の使用楽器はConn New Wonder gold plate、マウスピースがOtto Link Super Tone Master Florida 10番、リードはRicoの多分4番、この人も大リーガークラスのセッティングです!マウスピースは以降取り替えることがありましたが、楽器はずっとConnを使用しているようです。Conn userにはこだわりがありますから。Lloyd独自の演奏アプローチですが、例えばWayne Shorter, Benny Golson(いずれもマウスピースのオープニングが同様のセッティング奏者)たちとは随分と趣を異にしています。同様のテイストも感じるのですが、音楽的ルーツという次元での差異を感じます。想像するに彼はアフリカ系黒人、チェロキーインディアン、モンゴル系、アイルランド系と多岐にわたる血統なので、ひょっとしたら様々な異文化の融合が成せる個性からのスタイルなのかも知れません。
4曲目はMcBeeのオリジナルSong of Her、ベースパターンが崇高なムードを高めています。同じくMcBee作曲のWilpan’s(Wipan’s Walkとする場合も有り)、Lloydの作品「The Flowering」に収録されているナンバーですがこちらもベースラインが大変ユニークな名曲、僕自身もこの曲を演奏した経験があり、かつてMcBeeと山下洋輔ビッグバンドで共演した時にWilpan’sについて尋ねてみました。「僕の友人でWilpanという奴がいて、そいつの歩き方をイメージして書いた曲なんだよ」との事、かなり変わった歩き方の人物です(笑)。トランペット奏者Charles Tolliverの70年5月録音「Charles Tolliver Music Inc / Live at Slugs’ Volume Ⅱ」にも収録されています。
5曲目アルバム最後を飾るのはスタンダードナンバーEast of the Sun、意表を突いたアップテンポで演奏されており、このリズムセクションの真骨頂を聴くことが出来ます。テナーの独奏からテーマ奏へ、Lloydのフリーフォーム演奏に自在に呼応するリズム陣、メチャメチャカッコいいです!レギュラーバンドならではの醍醐味、その後テンポがなくなりアカペラ状態の展開、そしてa tempoになってからのピアノソロのスピード、疾走感、その後やはりフリーフォームになりアカペラギリギリ時のドラムとベースの対応、ベースまでソロがまわりラストテーマを迎えますが、この時にもフリーフォームの残り火が再燃状態です!