今回はArt Blakey Quartetによる1963年録音作品「A Jazz Message」を取り上げたいと思います。自己のリーダーバンドArt Blakey and the Jazz Messengersから離れ、普段とは異なるメンバー、編成、コンセプトの作品にトライしました。タイトルに拘りを感じさせるところにJazz Messengersがあってこその、というメッセージが込められていると思います。
1963年7月16日Van Gelder Studioにて録音 Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Bob Thiele Label: Impulse! A-45
ds)Art Blakey ts, as)Sonny Stitt p)McCoy Tyner b)Art Davis
1)Cafe 2)Just Knock on My Door 3)Summertime 4)Blues Back 5)Sunday 6)The Song Is You
以前当Blogで取り上げたBlakeyの傑作「Free for All」の1作前にあたり、何度か訪れた彼の音楽的ピーク到達の直前、メインの活動であるJazz Messengersでの重責から解放された如きのリラックス感が味わえる作品に仕上がっています。共演メンバーの意外性に起因するのかも知れませんが、テナー、アルトサックス奏者のSonny StittはParker派の重鎮、Blakeyとはサイドメン同士での共演もありましたが自身のリーダー作では50年録音の2作「Kaleidoscope」「Stitt’s Bits」で共演しており、Blakeyのリーダーとしては本作が初になります。Jazz Messengers50年代〜60年代の変遷 = Be-Bop, Hard Bopのスタイルを経てのModal Sound真っ只中のBlakeyには、Stittのスタイルは久しぶりでむしろ新鮮なコラボレーションになりました。
というやり取りの後(もちろん僕のイメージの世界ですが〜汗)、ベーシストには堅実な伴奏に定評のあるArt Davisに声がかかり、Quartetのメンバーが決まりました。本作レコーディングの直前、7月5日にMcCoyは名盤「Live at Newport」を、Stittは自身の代表作である「Now!」を6月7日に録音しています。これらが全てImpulse! Labelからのリリースであることを考えると、Bob Thieleのお抱えミュージシャン同士を掛け合わせた企画制作アルバムとも考えることが出来ます。
ジャズ・レコードはその作品自体を楽しむのが基本ですが、前後の作品や遡ったり関連した作品、共演者のリーダー作、はたまた共演者の他者への参加作品等を鑑賞する事により、元の作品、時には別の作品の内容、コンセプトがくっきりと浮かび上がり、新たな発見に出会える場合があります。本作での、ある種の音楽的クールダウンが「Free for All」への更なる飛翔に繋がったのかも知れないと感じました。
2曲目はやはりBlakeyとStittの共作によるJust Knock on My Door、シャッフルのリズムによるこちらもブルースです。Stittはアルトに持ち替え本領発揮、いつものStitt節を小気味好く聴かせます。続くMcCoyはColtraneのアルバム「Crescent」収録Bessie’s Bluesを彷彿とさせる、Fourth Intervalを駆使したソロ、McCoyとStitt両者の演奏表現は接点を持てず音楽的に交わる事なく、平行線を辿っているかのようです。ベースソロ最中に予め決めておいたシンコペーションによる2ndリフが入り、ラストテーマへ。
6曲目ラストを飾るのはJerome Kernの名曲The Song Is You、無伴奏でStittのアルトから始まり、艶やかなテーマ奏から小粋さをたたえたソロまで、徹底したスインガー振りを発揮しています。McCoyのソロも唄を感じさせる部分とロジカルな構築部分、両者のバランス感が半端ありません!ラストテーマはサビから演奏され、大団円を迎えます。
2019.07.14 Sun
Leaving This Planet / Charles Earland
今回はオルガン奏者Charles Earlandの1973年録音リーダー作「Leaving This Planet」を取り上げたいと思います。レコードは2枚組でリリースされましたが、CDでは収録時間79分(長い!)の1枚にまとめられています。
73年12月11, 12, 13日@Fantasy Studios, Berkley, California Fantasy Label Producer: Charles Earland Supervision: Orrin Keepnews
Head HuntersはBillboardジャズチャート1位に輝き、総合チャートのBillboard200でもHancockの作品として初めて上位を記録し、商業的にも大きな成功を収めました。キャッチーなメロディ、ダンサブルなリズムとグルーヴがオーディエンスに大いに受けた形ですが、Hancockの緻密なアレンジ、プロデュース力、共演ミュージシャンへの音楽的要望〜具体化が音楽をぐっと引き締め、不要な音型〜贅肉を削ぎ落とし、必要なサウンドだけを抽出、凝縮した形での作品作りが結果功を奏したのでしょう。いずれ本Blogで取り上げたい作品の一枚ではあります。一方こちらのLeaving This Planet、言ってみれば真逆の方向性、緻密とは縁のないと言っては失礼に当たりますが、Hancockとは違う種類の音楽的なこだわりからか、参加ミュージシャンに自由に演奏させており、Motown系の黒人音楽の様相、良い意味でのルーズなセッション風の演奏を呈しています。オルガン、ギターやパーカッションのバッキングの音数がtoo muchと感じる瞬間も多々ありますが、Masonのグルーヴィーでタイトなドラミングが、やんちゃで暴れん坊な参加ミュージシャン達のまとめ役となり、加えてアルバム全てに於けるFreddieの「本気」を感じさせるクリエイティヴなトランペット・ソロ、Joe Henの「神がかった」鬼気迫るテナー・ソロが本作の品位を数倍にも格上げしており、他にはないバランス感覚を持った作品です。
Earlandは41年5月24日Philadelphia生まれ、高校時代にサックスを学び、同じくオルガン奏者Jimmy McGriffのバンドで17歳の時にテナーサックス奏者として演奏しています。その後Pat Martinoのバンドに参加してからオルガンを演奏し始め、Lou Donaldsonのバンドにも参加しました。70年から率いた彼自身のバンドにはGrover Washington, Jr.が在団し、成功を収めたと言うことで、オルガンとサックス奏者に縁がある音楽活動に徹しています。ちなみに本作でもソプラノのソロを1曲演奏しています(ご愛嬌の域ですが)。多作家でリーダー作は40枚を数え、作品毎に多くのテナー奏者を迎えて録音しています。Jimmy Heath, Billy Harper, David “Fathead” Newman, George Coleman, Dave Schnitter, Frank Wess, Michael Brecker, Eric Alexander, Carlos Garnett, Najee… 確かにオルガンとテナーの音色はよく合致します。Jack McDuffとWillis Jackson、Shirley ScottとEddie “Lockjaw” DavisやStanley Turrentine、Jimmy SmithとTurrentine、Larry YoungとSam RiversやJoe Henderson、Larry GoldingsとMichael Brecker、また以前Blogで取り上げた「Very Saxy」のテナー4人衆、”Lockjaw” Davis, Buddy Tate, Coleman Hawkins, Arnett Cobbの伴奏もオルガン奏者Shirley Scottで素晴らしいコンビネーションを聴かせていました。Earlandは名手Joe Henと本作が初共演、彼の大フィーチャーはたっての願いであったかも知れません。
7曲目Joe HenのオリジナルNo Me Esqueca(Don’t Forget Me)は63年初リーダー作「Page One」にRecorda Meというタイトルで初演されています。同曲を早いテンポで演奏するときにNo Me Esquecaの名称を使うそうですが、ここではさほど早いテンポ設定ではありません。73年のリーダー作「In Pursuit of Blackness」に改めて同名で、初演が2管でしたがアルト、テナー、トロンボーン3管編成のアンサンブル、2ndリフとドラムソロが加筆、演奏され、ヴァージョンアップでの収録になっています。こちらもJoe Henの代表曲に挙げられる名曲です。
Getz at the Gate / The Stan Getz Quartet Live at the Village Gate Nov. 26 1961
今回は先日リリースされた未発表音源、Stan Getz Quartetの1961年11月New York, Village Gateでのライブ「Getz at the Gate」を取り上げたいと思います。1961年11月26日NYC Village Gateにて録音
ts)Stan Getz p)Steve Kuhn b)John Neves ds)Roy Haynes
Disc 1 1)Announcement by Chip Monck 2)It’s Alright with Me 3)Wildwood 4)When the Sun Comes Out 5)Impressions 6)Airegin 7)Like Someone in Love 8)Woody’n You 9)Blues
Disc 2 1)Where Do You Go? 2)Yesterday’s Gardenias 3)Stella by Starlight 4)It’s You or No One 5)Spring Can Really Hang You Up the Most 6)52nd Street Theme 7)Jumpin’ with Symphony Sid
数多くの未発表音源リリースを手掛けたプロデューサーZev Feldman、よくぞ本作を発掘しました!彼が手掛けた代表作としてBill Evans「Some Other Time」Stan Getz 「Moments in the Time」Joao Gilberto / Stan Getz「Getz / Gilberto ’76」があります。録音テープの存在確認だけでも大変な労力を必要とする事でしょう。おそらく収納ケースには簡単なインデックスしか記載されていないテープをオープンリールデッキに載せて再生し、その内容を耳を頼りに誰がどんな演奏を行なっているのかを判断する。経験値が物を言う作業ですが、すぐに目的の作品が見つかるとは限らず徒労に終わる事もあるのは容易に推測できます。お目当てのテープを見つけたとしてもその後には参加アーティストや、演奏者が故人の場合その家族に発生する諸々の権利の確認〜承認承諾、レーベルの版権等事務的な手続きが山積みしていて、膨大なそれらをクリアーしてやっと陽の目を見ることが出来るのです。米国は個人の権利の国ですから。いずれにせよGetzの代表作に挙げてもおかしくない、彼の真髄を捉えた素晴らしいクオリティーの作品です。ジャズミュージシャンは基本的にライブ演奏でその本領を発揮しますが、それが見事に具現化されています。
本作録音の8日前、同じくNYCのライブハウスBirdlandでのライブを録音した作品「Stan Getz Quartet at Birdland 1961」、当Blogでも以前取り上げたことがありますが、AMラジオのエアチェック音源をCD化したものなので、演奏内容がとても素晴らしいのですが音質のクオリティが玉に瑕なのです。
それでは早速演奏曲に触れて行きましょう。Disc 1のトラック1は司会者によるアナウンスメントになりますがChip Monck、どこかで見たことがある名前と思いきや、こちらも以前当Blogで取り上げたLes McCannの作品、同じくVillage Gateでのライブ作品「Les McCann Ltd. in New York」の冒頭曲の曲名じゃあありませんか!あんな名曲に名前がクレジットされる人物、Chip Monckとは一体何者でしょう?彼は39年Maschusetts生まれのライトニング・エンジニア〜ステージの照明技師ですね、彼はVillage Gateで59年から働き始め、店の地下にあるアパートで生活し、照明の他に店で司会業もこなしていたようです。想像するに人懐っこい性格で出演ミュージシャンたちと親交が深く、信頼関係を築いていたのでしょう。Les McCannとは特に懇意にしていたに違いありません。彼はVillage Gateで働き続ける傍ら、Newport Folk FestivalとNewport Jazz Festivalにも関わり、同じくNYC HarlemのApollo Theaterでも照明技師を勤めていました。彼のように音楽好きで、裏方の仕事を積極的にこなしつつミュージシャンと好んで関わる人物が古今東西ジャズ界には欠かせません。
トラック2、MonckのMCに促されるように演奏の1曲目It’s Alright with Meが始まります。MCや拍手が遠くから聞こえて来るのでかなり奥行きのあるライブハウスのようです。
3曲目も同様にバードランド盤で聴かれるHarold ArlenのバラードWhen the Sun Comes Out、低音域でのサブトーンとビブラート表現の多彩さ、ppからffまでの音量のダイナミクス、時に高音域でのシャウトを交え、非凡な唄心が聴き手を深遠な美の世界へと誘います。ピアノソロはなくテナーの独壇場で終始します。テナーフィーチャーの後はリズムセクションをフィーチャーしたナンバーに続きます。
肝心の演奏ですがユニークなアプローチのImpressionsです。テーマ奏から斬新、Bill Evansを彷彿とさせる瞬間が多々ありますが、KuhnならではのMode解釈も光り、Ⅱm7-Ⅴ7のようにコーダルにも捉えつつ、Dorian ModeではなくMixo-Lydianを意識してもフレージングしています。I’m Old Fashonedのメロディを引用したりと12分近くの長さの演奏ですが、全く冗長さを感じさせません。ベースソロ後再びピアノソロ、ドラムと8バース、ラストテーマ、全編に渡ってHaynesのドラミングが素晴らしいサポートを聴かせています。
6曲目はスタンダードナンバーLike Someone in Love、この曲のキーはA♭、Cで演奏されますがここでは少数派?のE♭。幾分早めのテンポ設定でリズムセクションが熱演しますが、特にドラムのテナープレイへの寄り添い方が絶妙です!Kuhnの演奏もよりEvansのアプローチを感じます。ベースソロ後再びドラムと8バース、無尽蔵とも思えるHaynesのフレージング、アプローチに一層感心してしまいます!
3曲目スタンダードナンバーStella by Starlight、普通はキーB♭メジャーで演奏されますがここではGメジャーです。52年録音Getzの代表作の1枚である「Stan Getz Plays」にも収録されています。テーマ奏でのGetzの「コーッ」という音色が堪りません!コンパクトな演奏の中にも大きな唄を感じさせるプレイです。
4曲目Jule Styneの名曲It’s You or No One、Getzが取り上げるのは珍しく、僕の知る限り初演と思われます。Dexter GordonやJackie McLeanの演奏で有名ですが、ここではキーがE♭メジャー、Haynesのドラミングが的確にサポートしつつ演奏が行われますが、珍しくGetzが曲に乗り切れていない印象を受けました。自分の好みのテイストでは無かったのか、恐らく以降演奏されなかったと思います。
5曲目美しいメロディのバラードSpring Can Really Hang You Up the Most、再びGetzの演奏だけで終始する演奏、何と気持ち良く耳に入り、心に響く唄い方でしょう!Haynesはバラードでも個性的なアプローチを展開しますが、ここでもブラシワークがトリッキーでいて決して演奏の邪魔をしない音楽的なプレイを聴かせています。ピアニストAlbert DaileyとGetzの83年録音Duo作品「Poetry」にも収録されていますが、こちらも大変美しい演奏です。
7曲目最後を飾るのはACでもラストに演奏されていたLester YoungのJumpin’ With Symphony Sidですが、ルンバのリズムのドラム・イントロに続いてテナー1人でまずThe Breeze and Iを演奏します。ウケ狙いで?わざと?メロディを間違えて吹いていますが、その直後How High the Moonを吹きますが観客から?ブルースをリクエストされ、Symphony Sidを演奏し始めます。フリーキーな音を楽しげに吹いていたりと、いつになく上機嫌さを感じさせるGetz 、きっと当夜の演奏にかなり納得していたのでしょう、リラックスした雰囲気でロングソロを取っています。同様にピアノ、ベースもソロをたっぷりと演奏しますが、ベースソロが終わりそうでなかなか終わりません!というよりも後テーマ担当のリーダーが不在?Getzはどこかに出掛けてしまったのでしょうか?間を保たすべく?再びピアノソロが始まります(汗)。このソロも何やら長いですね、Kuhnオールド・スタイルでソロを続けますが、Getzはステージに戻って来なかったのでしょう、婦女子を伴って何処かに呑みに行ってしまったのかも知れません(苦笑)、Kuhnがエンディングを担当して強制終了です!