1)Captain Buckles 2)Joel’s Domain 3)Something 4)Blue Caper 5)The Clincher 6)I Didn’t Know What Time It Was 7)Negus
1933年2月Texas州生まれのNewman、幼い頃から音楽に携わり、最初にピアノを手がけ後にサックスに転向しました。彼のミドルネームFatheadは「まぬけ、バカ」と言う意味ですが、名前の由来は学生時代に遡り、当時あまり譜面の読めなかったNewmanが譜面台に逆さまに楽譜を置き、スーザ行進曲を暗譜で吹いている姿に憤慨した音楽教師が名付けたニックネームを、そのまま使用しているのだそうです(笑)。そんなアダ名をプロになってからも使い続けられるのは、きっと人柄の良い方なのでしょう。自身を揶揄する名前を冠する芸人、ミュージシャン、そうは数が多くありません。日本でも吉本興業所属のお笑い芸人「アホの坂田」こと坂田利夫氏くらいでしょうか(爆)。しかし彼の演奏、音楽性、サックスの音色は実に素晴らしくかつ個性的、むしろ自信の表れに違いないでしょう。かつてのバンマスRay Charlesをして、「歌を歌うようにサックスを吹けるのは彼しかいない」とまで言わしめました。サックス奏者、音楽家にとって最大級の賛辞の言葉ですが、50年代から60年代初頭にかけて10年以上Charlesのバンドに参加した事が、彼の音楽性に大きく影響を与えています。加入当初はバリトンサックスを演奏しましたが、前任者であったDon Wilkersonが退団し、テナーに持ち替えてCharlesのバンドのメインソロイストに昇格しました。他サックスにはHank Crawfordの名前も見られます。バンドは数多くのヒット曲をリリースし、その中でも名曲Unchain My Heart、Newmanのソロがフィーチャーされていますが、こちらは61年にヒットチャートの1位を記録しました。絶頂期のCharlesを支えたバンドの屋台骨としての存在、逆に言えばNewmanの演奏なくしてはRay Charlesの活躍ぶりは有り得なかったでしょう。58年11月にはCharlesがピアニストで参加した初リーダー作「Fathead: Ray Charles Presents David ‘Fathead’ Newman」を録音しています。3管編成による緻密でゴージャスなアレンジをベースに、意外にもストレートアヘッドなジャズ演奏を展開し、Charlesのバッキング、ソロも冴える、外連味のないアンサンブルを聴かせています。収録スタンダード・チューンWillow Weep for Meのアルトサックス・プレイも期待を裏切らず、堪らなく艶やかでセクシーです!出身地からしてそうですが、彼の演奏はいわゆるテキサス・テナー、ホンカーのテイストがルーツになります。Ray Charlesの寵愛を受け、彼の楽団での豊富な経験により、他では得る事の出来ない歌心を身に着け、カテゴリーの垣根をワンステップ超えた演奏を展開しています。
Ray Charles Band後にはHerbie Mann, Aretha Franklin, B.B. King, Joe Cocker, Dr. John, Jimmy Scott, Lou Rawlsらと共演し、伴奏の名手として、また歌伴に於ける4小節〜8小節の演奏、短くとも巧みな間奏の第一人者としての地位を確立しました。後年Natalie Coleの大ヒットアルバム「Unforgettable」にも参加し、収録曲Tenderlyでオブリガート、間奏を取っています。
6曲目はスタンダード・ナンバーからの選曲でI Didn’t Know What Time It Was、作品にスタンダードをほぼ必ず取り上げるのもやはりジャズ演奏への拘りからでしょう。再びアルトサックスに持ち替えて演奏していますが、これはSomethingの演奏より更にヤバイです!アウフタクトからいきなりテーマが始まり、その素晴らしい音色、ニュアンスを駆使して美の世界へと誘います。音域、曲調と音の張り具合の三つ巴状態、自分からは素晴らしいとしか言葉が出ません!テーマ後のアドリブ・ラインの巧みさ、流暢さは、普段からジャズ・プレイヤーとしての自覚をしっかりと持ち、インプロヴァイザーとしての精進を欠かさない真摯な姿勢を受け取ることが出来ました。こちらも一曲丸々Newmanの独壇場、更にカデンツァに於けるフレージングで、彼のジャズ・スピリットを再認識させられましたが、彼はソウル、R&B範疇のプレイヤーではなく、しっかりとジャズに腰を据えている表現者なのです。
それでは本作の演奏に触れて行きましょう。1曲目DexterのオリジナルNursery Blues、冒頭「きらきら星」のメロディを引用したベースとテナーのユニゾンによるイントロが聴かれます。タイトルを直訳すると「子供部屋ブルース」でしょうか?、雰囲気はそのものですが曲のフォームは12小節のブルースではありません。ちなみに「伊勢佐木町ブルース」や「夜霧のブルース」もブルースフォームではありませんでしたね(笑)。16小節を1コーラスとしたコード進行で、Sonny Rollinsのオリジナル曲Doxyのコード進行が用いられています。さらに曲のオリジンを遡れば1918年、米国のピアニストで作曲家のBob Carletonが作曲した「Ja-Da」のコード進行が基になっているのです。テーマではPedersenが大活躍し、本作トリオ演奏の前途は明るいと宣言しているかのようです(笑)。テナーソロはまさしくlaid backの極み、ビートの最も際(きわ)に音符を載せており、背水の陣状態です(笑)。そして8分音符がかなりイーブンなのが興味深く、実はかのMiles Davisの8分音符もめちゃめちゃイーブンなのです。コーラスを重ね、演奏は次第に熱を帯び、Dexterいつになく16分音符フレーズのオンパレード!意外と16分音符はon topに位置する時があります。8分音符の超タイトさに比べ16分音符はさほどでもないのは、8分音符での演奏の方に重きを置いているからでしょう。普段聴かれないテクニカルなフレージングが随所に炸裂、もちろんオハコの引用フレーズの挿入も巧みになされています。RielがDexterの熱気に呼応しフィルインを連発しますが、カッコイイですね!RielはBen WebsterやJackie McLean, Art Farmer, Eddie “Lockjaw” Davis, Kenny Drewといった米国を代表するジャズプレーヤーと演奏活動を共にしましたが、自身はロックバンドも率いているためか、例えばPhilly Joe JonesやRoy Haynes, それこそElvin Jonesたちと比べるとグルーヴがイーブン、スクエアでDave WecklやSteve Gadd, Vinnie Colaiutaたちと基本的に同傾向なノリです。Pedersenも縦横無尽に様々なアプローチを駆使し、演奏に寄り添いつつ、煽りつつ、名手ぶりを聴かせますが、圧巻はやはり自身のソロ、早弾きを含めた確実な楽器のコントロールには全くブレを感じさせません。ラストテーマには再びきらきら星が用いられ、Fineです。
2曲目はタイトル曲、PedersenのオリジナルLullaby for a Monster、こちらにも可愛らしいタイトルが付けられていますが、曲は8分の6拍子を基本としたリズムで、構成やコード進行にも捻りが効いた佳曲です。Pedersenの79年7月録音リーダー作「Dancing on the Table」収録のオリジナルも佳曲揃い、しかもts)Dave Liebman, g)John Scofield, ds)Billy Hartたち共演者の演奏も充実した名盤です。
5曲目はバラードでBorn to Be Blue。賑やかな演奏が続いたので、上の音域での朗々としたメロディが沁みて来ます。Pedersenのベースが3連系のラインを多用することで、コード楽器のバッキングが存在しない空間を音楽的に埋めています。イントロは曲冒頭のコード進行をリピート、テーマに入りDexterならではのニュアンスが芳醇な色気を放ちますが、ソロに於てもビブラートの様々な付け方、語尾の処理での微妙な掛かり具合が堪りません!ベースソロ後はDexter低音域を用いて吹き始め、次第に音域が上がり、冒頭のテーマ同様に上の音域でテーマを聴かせます。
6曲目ラストを飾りしはDonald ByrdのナンバーからTanya。Dexterの64年6月、Blue Note Labelからのリーダー作品ですがParisでの録音「 One Flight Up」に収録されています。
Recorded at Spectrum Studios, Venice, California, January 29, 1979 Engineer: Arne Frager Mixing: Paul Goodman(RCA) Producer: Don Schlitten Label: Xanadu
1)Skate Board Park 2)Cliche Romance 3)High Wire – The Aerialist 4)Speak Low 5)You Go to My Head 6)Bara-Bara
学生時代にとても良く聴いた一枚です。70年代を代表するサックス奏者の一人Joe Farrellは37年Chicago生まれ、60年Maynard Ferguson Big Band, 66年Thad Jones/ Mel Lewis Orchestraでの演奏を皮切りにシーンに登場し、60年代後半から頭角を表し始めました。65年4月録音Jaki Byardのアルバム「Jaki Byard Live!」で初期の好演が聴かれます。基本的なフレージング、アプローチには既に後のスタイルが現れていますがテナーの音色が異なります。これはこれで良いトーンではありますが、いささか小振り感があり、彼の最大の特徴である身の詰まった極太、豪快さがアピールされていません。
ところが約1年半後の66年11月録音、Chick Coreaの初リーダー作「Tones for Joan’s Bones」では十分にFarrellの音色が確立されています。短期間に急成長を遂げたのでしょうが、トーンに対するイメージはもちろん、使用するべき的確なマウスピースやリード、楽器とのコンビネーションが見つかったに違いありません。自分のボイスを出せるセッティングを得られるかどうか、サックス奏者には死活問題です。優れたテナー奏者が必ず魅力的な素晴らしい音色を携えているのは、音色に対する徹底的なこだわりの産物です。
更に1年後の翌67年10月NYC The Village Vanguardで行われたセッションの模様を録音した「Jazz for a Sunday Afternoon Volume 4」、同様にCoreaやElvin Jones, Richard Davisら超弩級リズムセクションとの演奏で、Farrellのオリジナル曲13 Avenue “B”(コンテンポラリーなテイストの佳曲です)やStella by Starlightが取り上げられていますが、確実に以降に通ずるトーンを身に付け、豪快にブロウしています。彼のセッティングですが、マウスピースはBerg Larsen Hard Rubber、オープニングは95/1ないしは100/1、リードはRico4.5 or 5番、楽器本体はSelmer Mark Ⅵ 15万番台Gold Plated、後には同じくSelmer Mark Ⅶも使用していました。確かにリードがメチャメチャ硬そうな音をしていて、カップ・アイスクリームがこのリードで食べられそうです(爆)。当時60年代後期はFree Jazzの嵐がさんざん吹き荒び、一段落した頃に該当します。オーディエンスもハードなものよりもオーソドックスな表現のジャズ、例えばジャムセッション形式のような肩肘張らない演奏を欲していました。食傷気味だったのですね、この「Jazz for a Sunday Afternoon」シリーズはリスナーに大いに受け入れられたようです。
その後Farrellは魅惑のテナートーンと独自のスタイルを引っさげて、ジャズシーンに繰り出しました。翌68年4月にElvin Joneのリーダー作でJohn Coltrane没後に編成したピアノレス・トリオ編成による「Puttin’ It Together」(ベーシストはJimmy Garrison)、同年9月同編成による「The Ultimate」の録音に参加、ここでの演奏でポストColtraneの筆頭として、そのステイタスを確立しました。
彼の快進撃は止まりません。盟友Chick Coreaの大ヒット作72年2月「Return to Forever」と同年10月録音「Light As a Feather」に於けるプレイはジャズ史に残る名演奏、「Return to ~」ではソプラノサックス、「Light As ~」ではフルートによる演奏ですが、彼のマルチ奏者ぶりが発揮されています。ちなみにアルトサックス、オーボエ、イングリッシュホルンも演奏業務内容に挙がっており(笑)、スタジオ・ミュージシャンとしても活躍していました。
76年CTIでのラスト7作目「Benson & Farrell」リリースの後、Warner Bros.から時代をまさに反映したフュージョン〜ディスコの作品77年「La Cathedral Y El Toro」78年「Night Dancing」を2作リリースしましたが、これが両方ともメチャ良いのです!演奏はもちろん、参加メンバー、曲目やアレンジ、アルバムの構成と何拍子も揃った聴き応え満点の作品、「Night Dancing」に至っては当時のディスコ港区芝浦にあった「ジュリアナ東京」で、扇子を持ってお立ち台に登り、扇ぎながら一心不乱に踊る女性たちとオーバーラップするジャケット・デザインに大受けしました!(若い方たちには何のコッチャですが)、反して生粋のジャズファンからは「ホイホイ・フュージョン」なんて呼ばれ方もされましたが(汗)。「Night Dancing」収録のバラードで英国ロックバンドBee Geesの大ヒットナンバーHow Deep Is Your Love、邦題を「愛はきらめきの中に」は当時「愛きら」と我々省略して呼び(笑)、今では絶滅危惧種〜もしくは絶滅してしまったダンスパーティの仕事で本当によく演奏したものです。Coltrane派テナーサックスの旗頭であったJoe Farrellが「Farrellのテナーの音色と演奏スタイルはディスコ・ミュージックに実に良く合う」ので、世の中このままジャズが衰退しフュージョンやディスコ・ミュージックが台頭していくのだろうか、と遠くを見つめながらぼんやりと考えたものです(爆)。
5曲目はスタンダード・チューンのバラードYou Go to My Head、良い選曲です。Coreaの幻想的なイントロからテーマ奏へ、さりげないニュアンスとサブトーンを駆使したメロディが、曲の持つムードを的確に引き出しています。ピアノのバッキングの絶妙さは凄いですね!Coreaには演奏しながら本当に様々なサウンドが聴こえて来るのでしょう、眩いばかりの宝石を散りばめたかのようなコード感、フィルインの連続です。テーマ後は半コーラスピアノソロ、こちらでも申し分なしにサウンドの魔術師ぶりを発揮しています。きっとCoreaにインスパイアされたのでしょう、サビの部分でFarrell饒舌に上のオクターブを中心にソロを取り、その流れでメロディもオクターブ上げて吹いています。エンディングにはバンプが付け足され、その後カデンツァ時にトニックの半音上の音を一瞬吹いていますが、故意なのかたまたまなのか、「おっといけねぇ!」とばかりにすぐさまルート音に吹き換えています。
Joe Farrellは86年1月にCaliforniaの病院にて、骨髄異形成症候群で48歳の若さで亡くなりました。Michael Breckerも同じ病気を患い、白血病で2007年1月にやはり57歳の若さで亡くなっています。
2020.04.05 Sun
In Out and Around / Mike Nock
今回はピアニストMike Nockのカルテット編成による1978年録音リーダー作、「In Out and Around」を取り上げてみましょう。
Recorded at Sound Ideas Studio, New York City – July, 7, 1978 Produced by Mike Nock Executive Producer: Theresa Del Pozzo All Compositions by Mike Nock Label: Timeless Records
1)Break Time 2)Dark Light 3)Shadows of Forgotten Love 4)The Gift 5)Hadrians Wall 6)In Out and Around
理想的なサイドマンを擁し、全曲意欲的なオリジナルを巧みなインタープレイで演奏した素晴らしい作品です。アルバム録音78年当時はフュージョン・ブーム全盛期、このようなストレートアヘッドなアコースティック・ジャズをプレイした作品の方がむしろ珍しかったように記憶しています。George Mraz, Al Fosterら精鋭によるリズムセクションも注目に値しますが、フュージョン・サックスの担い手であるMichael Breckerの参加に耳目が奪われます。当時のシーンを賑わせていた諸作、例えばThe Brecker Brothers関係ではHeavy Metal Be-Bop, Blue Montreux Ⅰ,Ⅱ, The New York All Stars Live, Ben Sidran / Live at Montreux, Steve Khan / The Blue Man, ほかNeil Larsen / Jungle Fever, Richard Tee / Strokin’, Tom Browne / Browne Sugar, Al Foster / Mixed Roots…78年はフュージョン・アルバム大豊作、Michael参加作品も豊漁で、彼のサックス無しにはフュージョンは成り立たなかったと言っても過言ではありません。原体験した者にとっては感慨深げですが、最初に本作を聴いた時には正直余りピンと来ませんでした。全体的な演奏はひたすら端正でタイトなリズムが支配し、フロントMichaelはハイパー振りを披露してはいますが、聴く者に圧倒的なインパクトを与えるいつものぶっちぎり感は無く、何かに引っ張られ、羽交い締めにされているかの如くの抑制、ストイックさを感じ、彼の表現の最大の特徴である起承転結的ストーリー展開と結果として生じる爆発、そこに起因する爽快感が希薄な演奏と捉えていました(随所に小爆発はありますが)。明らかにいつものアプローチとは異なり、リズムセクション、特にピアノとのコンビネーション、インタープレイを徹底させています。仄暗さを伴ったユニークな曲想、美しいメロディと複雑なコード進行、FosterのPaiste Cymbal使用による乾いた音色のレガートと、Mrazの深い音色を湛えたon topでスインギーなベースとのコンビネーション、彼らの決して出しゃばらず、しかし出すところは毅然と的確にサポートしバックアップする。今は自分の耳がやっと演奏に追いついたのか〜めでたく第二次性徴を迎えたのでしょう、きっと(笑)!〜、本作が発する高次な音楽性を何とか受け入れる事が出来るようになったと思います。プレイヤー4人各々の音を各人どう受け止め、誰がどの様に絡んでいくのか、展開し変化するプロセスを楽しんで行く。個性的なオリジナルに対する柔軟なアプローチに懐の深さを覚え、同時に自分に照らし合わせ、音楽の聴き方も変わって行くのだと実感しています。
Mike Nockは40年7月、New Zealand Christchurch生まれ、 11歳でピアノを学び始め18歳の時にAustraliaで演奏活動を始めました。その後Berklee音楽院に入学、米国でも音楽活動を開始し63年から65年までYusef Lateefのバンドに参加しました。自己のフュージョン・バンドやスタジオ・ミュージシャンとしても活躍し、85年まで米国で過ごした後Australiaに戻りました。このレコーディング時には在米と言う事になります。今までに30作近いリーダー作をリリース、教育者としても精力的に現在進行形で活動しています。
Nockの音楽性として20年以上過ごした米国のテイストよりも、生まれ育ったNew Zealand〜Australia=イギリス連邦〜欧州的、クラッシックを素養としたECM的なサウンドが聴こえてきます。実際ECM Labelから1枚アルバムをリリースしています。81年録音「Ondas」、ベーシストに名手Eddie Gomez、ドラマーに欧州を代表するJon Christensen。本作収録のShadows of Forgotten Loveを、Forgotten Loveと若干タイトルを変更して再演しています。プロデューサーManfred Eicherのサジェスチョンもあるのでしょう、見事にレーベルのカラーに相応しい演奏を展開しています。ピアノトリオということもあり、Nockのより耽美的でリリカルな演奏を楽しむ事が出来る作品です。
Mike Nock / Ondas
それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目アップテンポのスイング・ナンバーBreak Time。テナー、ピアノ、ベース3者の強力なユニゾンのテーマからスタートします。まず特筆すべきは完璧な精度でのテーマ・アンサンブル、本作レコーディング自体1日で全曲を収録していますが、これだけの難易度の楽曲をこなすためには最低でも2日間は別日にリハーサルを設けていると考えられます。でも意外とこの百戦練磨のメンバーなので、当日スタジオに集まって譜面を配布され、その場で「せえのっ!」と容易く演奏したのかも知れません(汗)。本当にそうだとしたらとても嫌な事ですが(爆)。先発ソロイストはMichael、周りの音を良く聴きながらその場、瞬間で最も相応しい音の取捨選択を行い、自分自身が述べたい部分とNockの(尋常ではない)バッキングの主張との兼ね合いを瞬時に模索しつつ、素晴らしいグルーヴ、タイム間、申し分ないテナーの音色でソロを吹いています。この頃のMichaelのセッティング、既に何度か紹介していますが今一度、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、これはEddie Danielsから譲り受けた銘品、リードはLa Voz Medium Hard、リガチャーはSelmer Metal用、楽器本体はSelmer MarkⅥ Serial No.67853。
3曲目Shadows of Forgotten Love、かなり重いタイトルです(汗)、ピアノトリオ作「Ondas」ではForgottenが削除されたタイトル名になり、多少ヘヴィーさが緩和されました(爆)。前曲よりも幾分早いテンポですが比較的同傾向と言えるテイストで、むしろこちらの方がDark(Light)さは勝るように聴こえます。ピアノのイントロからベースも同一のパターンを継続し、テナーとピアノのユニゾンのテーマになります。始めはスネアのロールで、サビではタムを中心に、その後再びスネアのロールでカラーリングするFosterのドラミングが曲想と合致し、とても音楽的です。ラストテーマではそのカラーリングがバージョンアップし、更なる深みを表現しています。テナーソロはありませんが、メロディ奏だけで十分に存在感をアピールしています。ピアノをフィーチャーした形になりますが、実はピアノソロのバックで自在に、緻密に、大胆に、かつパーカッシヴに叩くFosterのドラミングを聴かせるためのナンバーであると感じています。曲の持つ内(うち)に秘めたエネルギーがNock自身の音楽性から離れて一人歩きし、ゆえに再演を行おうという願望を生じさせたのかも知れません。
4曲目はThe Gift、冒頭Michaelのメロウさの中にも切なさを湛えたメロディがたまらなく素敵です!息遣いまで聴こえる入魂のプレイは録音時29歳、様々な音楽を経験しメロディ表現の真髄に到達しつつあり、以降更に表現の深さを極めて行きました。Nockの伴奏も実にツボを得ています。Michael参加ピアニストHal Galper76年11月録音の作品「Reach Out!」収録、GalperとのDuoによるI’ll Never Stop Lovinng Youの歌い回し方も同様に素晴らしいです。
6曲目ラストを飾るのはタイトルナンバーIn Out and Around、アップテンポでテーマのメロディとリズムセクションとが巧みにCall and Responseを行う曲想、スリリングな演奏は本作のハイライトと言えますが、目玉の演奏をラストにする手法、実は僕自身お気に入りなのです。敢えて冒頭に置かず全曲を聴き通し、オーラスに最も聴き応えのある曲が鎮座している方が、作品を鑑賞する醍醐味と感じます。評判のラーメン店で最後に残しておいた特製チャーシューを食べる感じでしょうか?(ちょっと違いますね、汗)。テーマ終わりに聴かれるピアノのフレーズに被ったテナーのフィルインが何気にカッコイイです!先発Nockのソロ、テクニカルにUpper Structure Triadを多用しつつ、スインギーにアドリブしている様は圧巻です!Mraz, Fosterのサポートも申し分無し!このリズムセクションと是非一度お手合わせしたいものです!続くMichaelはNockのテイストを確実に受け継ぎソロをスタート、自己の主張とリーダーの音楽性、曲自体が持つテイスト、共演ミュージシャンの発するサウンドを瞬時に合わせ、かき混ぜ、音のメルティングポット状態としてアドリブを展開しています。コード進行が複雑で難解な部分が手枷足枷となり、ここをクリアーすることでグルーヴ感が生ずるはずなのですが、Michaelなかなか手こずっているようにも感じます。続くMrazのベースソロ、いやいや、このテンポでしかもフロント2人の物凄い演奏の後、気持ちの切り替えがさぞかし大変だったと思いますが、さすが手練れの者、全く動じず素晴らしい演奏を聴かせます!改めて超弩級のベーシストと認識しました!その後テナーとピアノが互いをダンボの耳状態で聴きながらのソロ同時進行、いやーこちらも凄いです!ラストテーマを無事迎えFine!