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2020.04

2020.04.27 Mon

Captain Buckles / David “Fathead” Newman

今回はテナーサックス奏者David “Fathead” Newman、1970年録音の作品「Captain Buckles」を取り上げたいと思います。Ray Charles Bandで培われた音楽性が開花しています。

Recorded: November 3-5, 1970 Atlantic Recording Studios in NYC Producer: Joel Dorn Label: Cotillion

ts, as, fl)David “Fathead” Newman tp)Blue Mitchell g)Eric Gale b)Steve Novosel ds)Bernard Purdie

1)Captain Buckles 2)Joel’s Domain 3)Something 4)Blue Caper 5)The Clincher 6)I Didn’t Know What Time It Was 7)Negus

1933年2月Texas州生まれのNewman、幼い頃から音楽に携わり、最初にピアノを手がけ後にサックスに転向しました。彼のミドルネームFatheadは「まぬけ、バカ」と言う意味ですが、名前の由来は学生時代に遡り、当時あまり譜面の読めなかったNewmanが譜面台に逆さまに楽譜を置き、スーザ行進曲を暗譜で吹いている姿に憤慨した音楽教師が名付けたニックネームを、そのまま使用しているのだそうです(笑)。そんなアダ名をプロになってからも使い続けられるのは、きっと人柄の良い方なのでしょう。自身を揶揄する名前を冠する芸人、ミュージシャン、そうは数が多くありません。日本でも吉本興業所属のお笑い芸人「アホの坂田」こと坂田利夫氏くらいでしょうか(爆)。しかし彼の演奏、音楽性、サックスの音色は実に素晴らしくかつ個性的、むしろ自信の表れに違いないでしょう。かつてのバンマスRay Charlesをして、「歌を歌うようにサックスを吹けるのは彼しかいない」とまで言わしめました。サックス奏者、音楽家にとって最大級の賛辞の言葉ですが、50年代から60年代初頭にかけて10年以上Charlesのバンドに参加した事が、彼の音楽性に大きく影響を与えています。加入当初はバリトンサックスを演奏しましたが、前任者であったDon Wilkersonが退団し、テナーに持ち替えてCharlesのバンドのメインソロイストに昇格しました。他サックスにはHank Crawfordの名前も見られます。バンドは数多くのヒット曲をリリースし、その中でも名曲Unchain My Heart、Newmanのソロがフィーチャーされていますが、こちらは61年にヒットチャートの1位を記録しました。絶頂期のCharlesを支えたバンドの屋台骨としての存在、逆に言えばNewmanの演奏なくしてはRay Charlesの活躍ぶりは有り得なかったでしょう。58年11月にはCharlesがピアニストで参加した初リーダー作「Fathead: Ray Charles Presents David ‘Fathead’ Newman」を録音しています。3管編成による緻密でゴージャスなアレンジをベースに、意外にもストレートアヘッドなジャズ演奏を展開し、Charlesのバッキング、ソロも冴える、外連味のないアンサンブルを聴かせています。収録スタンダード・チューンWillow Weep for Meのアルトサックス・プレイも期待を裏切らず、堪らなく艶やかでセクシーです!出身地からしてそうですが、彼の演奏はいわゆるテキサス・テナー、ホンカーのテイストがルーツになります。Ray Charlesの寵愛を受け、彼の楽団での豊富な経験により、他では得る事の出来ない歌心を身に着け、カテゴリーの垣根をワンステップ超えた演奏を展開しています。

Ray Charles Band後にはHerbie Mann, Aretha Franklin, B.B. King, Joe Cocker, Dr. John, Jimmy Scott, Lou Rawlsらと共演し、伴奏の名手として、また歌伴に於ける4小節〜8小節の演奏、短くとも巧みな間奏の第一人者としての地位を確立しました。後年Natalie Coleの大ヒットアルバム「Unforgettable」にも参加し、収録曲Tenderlyでオブリガート、間奏を取っています。

Newmanの共演者にはソウル、ファンク系のプレイヤーが多く、演奏も次第にソウル、R&B色が濃く成りましたが、40作近い彼の作品中には殆ど必ずジャズ・ミュージシャンの名前がクレジットされ、ジャズ寄りのコンセプトを匂わせています。この一貫したテイストがNewmanのジャズへのリスペクトを感じさせるのです。本作にも名トランペッターBlue Mitchellが参加していますが、アンサンブル、ソロに個性を発揮し、オリジナル・ナンバーも1曲提供しています。ピアノ奏者は参加しておらず、ギタートリオが伴奏を務めていますが、ギタリストEric Galeは泣く子も黙る名うてのセッションマン、彼の存在が本作の音楽性を高めています。ベーシストSteve NovoselはRoland Kirkのバンドを皮切りに、こちらも様々なバンドで演奏を繰り広げました。ドラマーBernard Purdieもセッションドラマーとして鳴らし、King CurtisやAretha Franklinのバンドでも活躍、James Brownとも共演歴があり、こちらもソウルやR&Bのフィールドでの第一人者です。ちなみにThe Beatles初期の録音を21曲、Ringo Starrの替わりに叩いていると言う都市伝説がありますが、どうもマユツバものだそうです(汗)。

それでは演奏に触れて行きたいと思います。1曲目表題曲NewmanのオリジナルCaptain Buckles、いかにも60年代ジャズロック後を感じさせる雰囲気、グルーヴのナンバーです。Purdieのズッシリとしたドラミング(スネアの位置と音色が堪りません!)とNovoselのエレクトリック・ベース(音色がまさにこの頃です!)、 Galeの絶妙なカッティングと魅力的なトーンがブレンドし、70年代幕開けのビートを聴かせます。テナー、トランペットの2管のメロディは重厚なアンサンブルを織り成し、作品冒頭の掴みはこれで間違いなくオッケーです!テーマから続くソロ(テーマメロディとソロが被っているので、いずれかがオーヴァーダビングでしょう)の先発はNewmanのテナー、いやいやそれにしても凄い音色ですね、この人!メチャクチャ好みのタイプのサウンドです!いかにも硬いリード、オープニングの広いマウスピース使用のハードなセッティングを感じさせ、そしてシャウト、シャウト、グロウル、スクリーミング、壮絶なブローイングです!これは正統派ホンカー以外何者でもありません!8分音符のフィギュア、タンギング等が同じホンカー・テナーであるWilton Felderを感じさせますし、シャウト感にはWillis Jacksonを彷彿とさせるものがあります。受けて立つリズムセクションの対応も素晴らしく、ギターのカッティングのメリハリ、ベースとドラムのコンビネーションの巧みさ、そしてドラマー冥利につきるフィルインの数々!テナーソロ後はラストテーマ、コンパクトにクールに演奏をキメ終えました!

2曲目もNewman作のボサノバ・ナンバーJoel’s Domain、プロデューサーのJoel Dornに捧げたナンバーなのでしょう。メロディの曲想が62年7月録音Quincy Jonesの作品「Big Band Bossa Nova」収録のナンバー、名曲Soul Bossa Navaによく似ています。ちなみにそこでのフルート演奏はかのRoland Kirk、後年映画「Austin Powers」シリーズ一連のテーマ曲にも使われました。

Newmanはフルートを、Mitchellはミュート・トランペットでテーマを演奏します。先発はそのままMitchellから、間を生かした彼らしい演奏、フルートがソロのバックでメロディを吹き、引き続きソロになります。実はホンカーはフルートを基本的に吹かないのですが、彼の場合はその巧みなラインと鳴り切り感から特例で良しとしましょう(爆)。その後はあとテーマへ、アウトロでは一瞬フロントふたりのバトルが聴かれますが、すぐさまフェイドアウト、こちらもコンパクトな仕上がりになりました。

3曲目はThe Beatles、というよりもGeorge HarrisonのナンバーからSomething、Newmanはアルトに持ち替えて演奏しています。いや、はっきり言ってこれはヤバイですね、何という音色でしょう!!極太で艶やか、コクがあって付帯音が豊富、そしてニュアンスがとてつもなくセクシーです!深々としたビブラートはくどい表現になりがちですが、彼の場合は全くイヤミがなく、むしろもっともっと深くと、お願いしたいくらいです(笑)!テナー吹きのアルトは往々にして豪快、テナーの音色がそのまま高くなったアルトとテナーの中間の如き鳴りを聴かせます。Grover Washington, Jr.やKirk Whalum, Ernie Wattsしかり、でもNewmanはまた格別な色気を放っています!これぞRay Charles Magicなのでしょう、きっと。Newmanのアルトの独壇場で他の奏者のソロはありません。あっても単なる蛇足にしかならないでしょうが。曲の持つ雰囲気、メロディとNewmanの持ち味がブレンドし一体化した、美しい演奏だと思います。

4曲目はMitchellのオリジナルBlue Caper、カリプソのリズムのイントロが心地良く、サビが4度進行でスイングになる、いかにもMitchellらしい明るいハードバップ・テイストのナンバーです。リズム・グルーヴがジャズ屋の演奏するカリプソ&スイングではないので、新鮮さと同時に若干の違和感を感じます。先発ソロはMitchell、豊かな音色とジャジーな雰囲気は本作のスパイスと成り得ています。続くNewmanはフルートに持ち替え、やはり「鳴り捲り」のソロをこれでもか、と聴かせます。1コーラス目ベースが弾くのを止め、サビだけ演奏するのも効果的ですが、逆にその後のドラムソロに入っても弾き続けているのは、演奏上の約束事を反故にしたのでしょうか?、しばらく弾き続けた後の停止時に「アレッ?みんなどうしたのかな?」という声が聴こえてきそうです(笑)。短いPurdieのソロは皮モノ中心で行われ、ラストテーマに向かうために雰囲気を変える、有効な手段に成り得ました。エンディング最後にバスドラでワンフレーズ、ラテンのパターンをバスドラで叩いているのが面白いです。

5曲目NewmanのナンバーThe Clincherはマイナー調の佳曲、スイングのリズムでキメやホーンのアンサンブルが効果的に用いられ、テーマ時のドラムのカラーリングが的確です。ソロの先発はMitchell、抑揚のあるソロの構築はリアルジャズマンを感じさせます。続くNewmanのソロはサブトーンを効かせた低音域からスタート、重厚さが流石です!シングルタンギングを多用した8分音符がかなりイーブンです。フラジオ音を用いたシャウトのニュアンスや、ラインのアプローチにはここでもWilton Felderの類似性を感じますが共通のルーツがあるのか、互いに影響を与えているのかは、今後調べて行きたいと思います。ソロイストふたりに対するリズムセクション、特にドラムのシンコペーションを活かしたアプローチが巧みで、何度かシャッフルになりかけた瞬間がスリリングです。ラストテーマでフロントの同時進行ソロがしばらく聴かれますが、こちらもあいにくのフェイドアウトの巻でした。

6曲目はスタンダード・ナンバーからの選曲でI Didn’t Know What Time It Was、作品にスタンダードをほぼ必ず取り上げるのもやはりジャズ演奏への拘りからでしょう。再びアルトサックスに持ち替えて演奏していますが、これはSomethingの演奏より更にヤバイです!アウフタクトからいきなりテーマが始まり、その素晴らしい音色、ニュアンスを駆使して美の世界へと誘います。音域、曲調と音の張り具合の三つ巴状態、自分からは素晴らしいとしか言葉が出ません!テーマ後のアドリブ・ラインの巧みさ、流暢さは、普段からジャズ・プレイヤーとしての自覚をしっかりと持ち、インプロヴァイザーとしての精進を欠かさない真摯な姿勢を受け取ることが出来ました。こちらも一曲丸々Newmanの独壇場、更にカデンツァに於けるフレージングで、彼のジャズ・スピリットを再認識させられましたが、彼はソウル、R&B範疇のプレイヤーではなく、しっかりとジャズに腰を据えている表現者なのです。

7曲目ラストを飾るのはNewmanのオリジナルNegus、ベースの印象的なラインから曲が始まり、ファンキーなテイストのテーマが演奏されます。Purdieのドラミングが決め手となったグルーヴはダンサブルでもあります。ソロの先発はGaleのアコースティック・ギターから、本人いたって真面目なのでしょうがどこか津軽三味線を感じさせる音色です(爆)。短くリフが演奏された後にメロディを受け継いでNewmanのソロ開始、ハイテンションにいっそう拍車がかかった演奏は行くところまでとことん盛り上がって貰いたいという、リスナーの願望を叶えたクオリティにまでに到達してくれました!再びWillis Jacksonのスクリーミング・テイストも感じました。エンディングは残念ながらフェイドアウト、もっと聴きたかったです!

2020.04.19 Sun

Lullaby for a Monster / Dexter Gordon

今回はDexter Gordon1976年録音のリーダー作「Lullaby for a Monster」を取り上げたいと思います。Dexterには珍しいテナートリオ編成でのレコーディング、いつものようにマイペースではありますが、コード楽器不在が良い方向に作用した素晴らしい演奏を繰り広げています。

Recorded June 15, 1976 Copenhagen Denmark Recording Engineer: Freddy Hansson Producer: Nils Winther Label: SteepleChase

ts)Dexter Gordon b)Niels-Henning Ørsted Pedersen ds)Alex Riel

1)Nursery Blues 2)Lullaby for a Monster 3)On Green Dolphin Street 4)Good Bait 5)Born to Be Blue 6)Tanya

62年から76年まで足掛け14年間欧州在住で音楽活動を行ったDexter、本作はおそらく現地での最後の録音作品に該当すると思います。帰国後の彼は米国に留まらず世界中でブレークし華々しい活躍を遂げることになりますが、時代もジャズ・ヒーローを求めていたのでしょう、フュージョン・ブームのある種のリバウンドだったのかも知れません。豪快さと癒し、ジャズのリラクゼーションを堪能させるプレイ。彼は3回来日を果たしており、2度目の演奏を聴きましたが、その生演奏に触れる事が出来たのは貴重な体験でした。

彼の欧州でのレコーディング、共演のピアニストはTete MontoliuとKenny Drew二人の名手がほとんど、サウンドが素晴らしいピアニストとの共演がごく当たり前であったので、ここでのコード楽器不在はかなり新鮮であったに違いないでしょう。本作は初めからテナートリオとして録音されたのか、レコーディング当日にピアニストが来なかったために急遽3人で演奏したのか、定かではありませんが(メンバーのオリジナル等の選曲、構成を鑑みると、テナートリオ編成を最初から意識しているようにも見えます)、いずれにせよコード楽器奏者がいない分プラスに作用し、スペースが増えた分、リズムセクション〜ベーシストNiels- Henning Ørsted Pedersen、ドラマーAlex Riel、欧州を代表する二人〜が活躍し(Rielがこんなにも叩く人だとは思いませんでした!)、それにつられた、煽られた形でDexterがいつもよりも縦横無尽、存分に吹きまくっているのです。彼の作品で丸々テナートリオでのプレイは本作だけになると思いますが、他にコードレストリオでの作品をリリースしているテナー奏者と、その作品をざっとご紹介しておきましょう。いずれもテナートリオである必然性を感じさせる、素晴らしい作品です。テナー奏者はトリオ演奏時に本領を発揮出来るプレーヤーなのです。既に当Blogで紹介済みの作品もありますが、いずれ他も取り上げたいと思っています。

Sonny Rollins「Way Out West 」
Sonny Rollins, Ray Brown, Shelly Manne
John Coltrane「Lush Life」
John Coltrane, Earl May, Art Taylor
Joe Henderson「Barcelona」
Joe Henderson, Wayne Darling, Ed Soph
Joe Farrell「Puttin’ It Together (Elvin Jones)」
Joe Farrell, Jimmy Garrison, Elvin Jones
Steve Grossman「Live in Buenos Aires (Stone Alliance)」
Steve Grossman, Gene Perla, Don Alias
Jan Garbarek「StAR」
Jan Garbarek, Miroslav Vitous, Peter Erskine
Dave Liebman「Open Sky」
Dave Liebman, Frank Tusa, Bob Moses
John Klemmer「Nexus」
John Klemmer, Bob Magnusson, Carl Burnett
Branford Marsalis「The Dark Keys」
Branford Marsalis, Reginald Veal, Jeff “Tain” Watts
Joe Lovano「Remembrance (John Patitucci)」
Joe Lovano, John Patitucci, Brian Blade
Jerry Bergonzi「Open Architecture」
Jerry Bergonzi, JF Jenny-Clark, Daniel Humair
Ari Ambrose「United」
Ari Ambrose, Jay Anderson, Jeff Williams
Ralph Moore「Weaver of Dreams (Ben Riley)」
Ralph Moore, Buster Williams, Ben Riley
小田切一巳「神風特攻隊」
小田切一巳、山崎弘一、亀山賢一

余談ですが20歳の時、私が初めて購入したテナーサックスは中古の仏セルマー・マークⅥでした。その楽器の以前の所有者が小田切一巳さんだと、購入した石森楽器でオヤジさんが教えてくれ、小田切さんにご挨拶すべく演奏を聴きに行きました。シャイな方であまりお話はできませんでしたが、プレイは先鋭的、でも朴訥とした方で、暖かい人柄に触れられたように覚えています。

それでは本作の演奏に触れて行きましょう。1曲目DexterのオリジナルNursery Blues、冒頭「きらきら星」のメロディを引用したベースとテナーのユニゾンによるイントロが聴かれます。タイトルを直訳すると「子供部屋ブルース」でしょうか?、雰囲気はそのものですが曲のフォームは12小節のブルースではありません。ちなみに「伊勢佐木町ブルース」や「夜霧のブルース」もブルースフォームではありませんでしたね(笑)。16小節を1コーラスとしたコード進行で、Sonny Rollinsのオリジナル曲Doxyのコード進行が用いられています。さらに曲のオリジンを遡れば1918年、米国のピアニストで作曲家のBob Carletonが作曲した「Ja-Da」のコード進行が基になっているのです。テーマではPedersenが大活躍し、本作トリオ演奏の前途は明るいと宣言しているかのようです(笑)。テナーソロはまさしくlaid backの極み、ビートの最も際(きわ)に音符を載せており、背水の陣状態です(笑)。そして8分音符がかなりイーブンなのが興味深く、実はかのMiles Davisの8分音符もめちゃめちゃイーブンなのです。コーラスを重ね、演奏は次第に熱を帯び、Dexterいつになく16分音符フレーズのオンパレード!意外と16分音符はon topに位置する時があります。8分音符の超タイトさに比べ16分音符はさほどでもないのは、8分音符での演奏の方に重きを置いているからでしょう。普段聴かれないテクニカルなフレージングが随所に炸裂、もちろんオハコの引用フレーズの挿入も巧みになされています。RielがDexterの熱気に呼応しフィルインを連発しますが、カッコイイですね!RielはBen WebsterやJackie McLean, Art Farmer, Eddie “Lockjaw” Davis, Kenny Drewといった米国を代表するジャズプレーヤーと演奏活動を共にしましたが、自身はロックバンドも率いているためか、例えばPhilly Joe JonesやRoy Haynes, それこそElvin Jonesたちと比べるとグルーヴがイーブン、スクエアでDave WecklやSteve Gadd, Vinnie Colaiutaたちと基本的に同傾向なノリです。Pedersenも縦横無尽に様々なアプローチを駆使し、演奏に寄り添いつつ、煽りつつ、名手ぶりを聴かせますが、圧巻はやはり自身のソロ、早弾きを含めた確実な楽器のコントロールには全くブレを感じさせません。ラストテーマには再びきらきら星が用いられ、Fineです。

2曲目はタイトル曲、PedersenのオリジナルLullaby for a Monster、こちらにも可愛らしいタイトルが付けられていますが、曲は8分の6拍子を基本としたリズムで、構成やコード進行にも捻りが効いた佳曲です。Pedersenの79年7月録音リーダー作「Dancing on the Table」収録のオリジナルも佳曲揃い、しかもts)Dave Liebman, g)John Scofield, ds)Billy Hartたち共演者の演奏も充実した名盤です。

躍動的なベースパターンを経てテーマが始まります。ドラムとの的確なコンビネーションを得てとてもタイトで小気味好いグルーヴが聴かれます。Dexterのソロは巧みにコード進行をトレースしつつも、2’52″からの彼には珍しいトリル、2’58″からのグロートーン、これは既にホンカーの領域に足を踏み入れていますね!!受けて立つRielのフィルイン、スリリングなやり取りが行われ、ベースのタイムのたっぷり感と合わさった三位一体!3’26″からの音域を上げての再びのトリル、盛り上がっています!ひとしきりソロの起承転結、「転」を成し得たので「結」に入り、上手くストーリーをまとめました。その後は短い中にも「Pedersen印」のフレーズをしっかり織り込んだハイテク・ベースソロがあり、ラストテーマへ。

3曲目はお馴染みスタンダード・ナンバーからOn Green Dolphin Street。いやいや、この演奏も素晴らしいですね!8ビートとスイングを交えたテーマ奏自体が既にゴキゲンにスイングしています!ブレークからピックアップ・ソロが始まりますが、ここぞ見せ所!とばかりに、よりlaid backしてたっぷり感を出し、続くソロ本編の巧みな事と行ったら!聴き惚れてしまう次元のクオリティです!テナーソロ1, 2コーラス目はテーマと同様に8ビート、スイングと並走し、3コーラス目から丸々スイングに、さらにPedersenが本領を発揮しon topのグルーブも絶好調!Rielも叩きまくりの猛攻撃に出ています!テナーソロ最後にはターンバックが入りベースソロへ、ここでのPedersenは水を得た魚状態、もはや禁断のハードロックの領域(爆)に入ってしまったかのようなフレーズの嵐、嵐、嵐!ラストテーマ後はパターンが続きFade OutでFine、テナートリオでのGreen Dolphinの名演が誕生しました。

4曲目はCD化に際してのボーナストラックでTadd DameronのナンバーからGood Bait、John Coltrane58年2月録音「Soultrane」の名演奏が光りますが、本作でのDexterも大熱演、Coltraneとは異なるオーソドックスなアプローチですが、素晴らしいソロを聴かせます。両者の顕著な違いとして、Dexterテーマのサビをオクターブ下で演奏しているので、より低音域の効いた極太感が出ており、コード進行のトレース感と歌い回しが良くブレンドしているのが印象的です。何よりリズム隊の寄り添い、フォロー感がDexterをしっかりサポートしています。ここでもRielの暴れっぷりに気合が感じられ、テナートリオならではの絡み合い場面を作り上げています。テナーとの4バースを含め、彼のレスポンスやフレーズは特に個性的と言う訳ではなく、ひたすらドラムのルーディメンツに忠実な演奏っぷりを聴かせていて、彼の生真面目さを物語っています。

5曲目はバラードでBorn to Be Blue。賑やかな演奏が続いたので、上の音域での朗々としたメロディが沁みて来ます。Pedersenのベースが3連系のラインを多用することで、コード楽器のバッキングが存在しない空間を音楽的に埋めています。イントロは曲冒頭のコード進行をリピート、テーマに入りDexterならではのニュアンスが芳醇な色気を放ちますが、ソロに於てもビブラートの様々な付け方、語尾の処理での微妙な掛かり具合が堪りません!ベースソロ後はDexter低音域を用いて吹き始め、次第に音域が上がり、冒頭のテーマ同様に上の音域でテーマを聴かせます。

6曲目ラストを飾りしはDonald ByrdのナンバーからTanya。Dexterの64年6月、Blue Note Labelからのリーダー作品ですがParisでの録音「 One Flight Up」に収録されています。

欧州のテイストを感じさせる、雰囲気のある美しいジャケットです。

オリジナルは作曲者ByrdとDexterの2管編成でのメロディ奏、加えてピアノのバッキングによるパターンが演奏されている上に、ここではキーを全音上げたGマイナー(in B♭)に移調しているのでかなり趣が異なります。ピアノのパターンをベースが担当しているのもあり、もはや別な楽曲に聴こえます。オリジナルでのDexterはかなりスペーシーに演奏していますが、ここではブロウしリズム隊と熱く盛り上がっています!本作中Dexterは最もlaid back感を出して吹いており(この位のテンポが得意なのもあると思います)、巨象がアフリカのサバンナを歩くが如しのタイム、演奏です。オリジナル演奏でのベース奏者も同じPedersenであったからでしょうか、かなり気持ちの入った長いソロを取っています。この人の16分音符は実に正確で端正ですね、再認識しました。

2020.04.12 Sun

Skate Board Park / Joe Farrell

今回は1979年録音テナーサックス奏者Joe Farrellのリーダー作「Skate Board Park」を取り上げたいと思います。

Recorded at Spectrum Studios, Venice, California, January 29, 1979 Engineer: Arne Frager Mixing: Paul Goodman(RCA) Producer: Don Schlitten Label: Xanadu

ts)Joe Farrell p)Chick Corea b)Bob Magnusson ds)Lawrence Marable

1)Skate Board Park 2)Cliche Romance 3)High Wire – The Aerialist 4)Speak Low 5)You Go to My Head 6)Bara-Bara

学生時代にとても良く聴いた一枚です。70年代を代表するサックス奏者の一人Joe Farrellは37年Chicago生まれ、60年Maynard Ferguson Big Band, 66年Thad Jones/ Mel Lewis Orchestraでの演奏を皮切りにシーンに登場し、60年代後半から頭角を表し始めました。65年4月録音Jaki Byardのアルバム「Jaki Byard Live!」で初期の好演が聴かれます。基本的なフレージング、アプローチには既に後のスタイルが現れていますがテナーの音色が異なります。これはこれで良いトーンではありますが、いささか小振り感があり、彼の最大の特徴である身の詰まった極太、豪快さがアピールされていません。

ところが約1年半後の66年11月録音、Chick Coreaの初リーダー作「Tones for Joan’s Bones」では十分にFarrellの音色が確立されています。短期間に急成長を遂げたのでしょうが、トーンに対するイメージはもちろん、使用するべき的確なマウスピースやリード、楽器とのコンビネーションが見つかったに違いありません。自分のボイスを出せるセッティングを得られるかどうか、サックス奏者には死活問題です。優れたテナー奏者が必ず魅力的な素晴らしい音色を携えているのは、音色に対する徹底的なこだわりの産物です。

更に1年後の翌67年10月NYC The Village Vanguardで行われたセッションの模様を録音した「Jazz for a Sunday Afternoon Volume 4」、同様にCoreaやElvin Jones, Richard Davisら超弩級リズムセクションとの演奏で、Farrellのオリジナル曲13 Avenue “B”(コンテンポラリーなテイストの佳曲です)やStella by Starlightが取り上げられていますが、確実に以降に通ずるトーンを身に付け、豪快にブロウしています。彼のセッティングですが、マウスピースはBerg Larsen Hard Rubber、オープニングは95/1ないしは100/1、リードはRico4.5 or 5番、楽器本体はSelmer Mark Ⅵ 15万番台Gold Plated、後には同じくSelmer Mark Ⅶも使用していました。確かにリードがメチャメチャ硬そうな音をしていて、カップ・アイスクリームがこのリードで食べられそうです(爆)。当時60年代後期はFree Jazzの嵐がさんざん吹き荒び、一段落した頃に該当します。オーディエンスもハードなものよりもオーソドックスな表現のジャズ、例えばジャムセッション形式のような肩肘張らない演奏を欲していました。食傷気味だったのですね、この「Jazz for a Sunday Afternoon」シリーズはリスナーに大いに受け入れられたようです。

その後Farrellは魅惑のテナートーンと独自のスタイルを引っさげて、ジャズシーンに繰り出しました。翌68年4月にElvin Joneのリーダー作でJohn Coltrane没後に編成したピアノレス・トリオ編成による「Puttin’ It Together」(ベーシストはJimmy Garrison)、同年9月同編成による「The Ultimate」の録音に参加、ここでの演奏でポストColtraneの筆頭として、そのステイタスを確立しました。

70年1月に名門CTI Labelで自身の名義での初めての作品「Joe Farrell Quatet」を録音、以降CTIから計7作をリリースしました。

彼の快進撃は止まりません。盟友Chick Coreaの大ヒット作72年2月「Return to Forever」と同年10月録音「Light As a Feather」に於けるプレイはジャズ史に残る名演奏、「Return to ~」ではソプラノサックス、「Light As ~」ではフルートによる演奏ですが、彼のマルチ奏者ぶりが発揮されています。ちなみにアルトサックス、オーボエ、イングリッシュホルンも演奏業務内容に挙がっており(笑)、スタジオ・ミュージシャンとしても活躍していました。

76年CTIでのラスト7作目「Benson & Farrell」リリースの後、Warner Bros.から時代をまさに反映したフュージョン〜ディスコの作品77年「La Cathedral Y El Toro」78年「Night Dancing」を2作リリースしましたが、これが両方ともメチャ良いのです!演奏はもちろん、参加メンバー、曲目やアレンジ、アルバムの構成と何拍子も揃った聴き応え満点の作品、「Night Dancing」に至っては当時のディスコ港区芝浦にあった「ジュリアナ東京」で、扇子を持ってお立ち台に登り、扇ぎながら一心不乱に踊る女性たちとオーバーラップするジャケット・デザインに大受けしました!(若い方たちには何のコッチャですが)、反して生粋のジャズファンからは「ホイホイ・フュージョン」なんて呼ばれ方もされましたが(汗)。「Night Dancing」収録のバラードで英国ロックバンドBee Geesの大ヒットナンバーHow Deep Is Your Love、邦題を「愛はきらめきの中に」は当時「愛きら」と我々省略して呼び(笑)、今では絶滅危惧種〜もしくは絶滅してしまったダンスパーティの仕事で本当によく演奏したものです。Coltrane派テナーサックスの旗頭であったJoe Farrellが「Farrellのテナーの音色と演奏スタイルはディスコ・ミュージックに実に良く合う」ので、世の中このままジャズが衰退しフュージョンやディスコ・ミュージックが台頭していくのだろうか、と遠くを見つめながらぼんやりと考えたものです(爆)。

「La Cathedral Y El Toro」
「Night Dancing」
「Night Dancing」裏ジャケット
めちゃくちゃセンスあるデザインです!

一方Farrell参加のCorea78年作品「The Mad Hatter」、緻密にしてゴージャス、壮大なアレンジが施されたカテゴリーとしてはフュージョンの名作ですが、収録のアップテンポのスイングナンバーHumpty Dumpty、以降Coreaの重要なレパートリーの1曲に加わったオリジナル、作品中ひときわ異彩を放つ名曲での名演奏がCoreaのジャズ回帰を匂わせました。Coreaも時代も次第にアコースティックが恋しくなったのかも知れません。

そして間髪を入れずに同年同じメンバーで録音された「Friends」、久しぶりにCoreaがアコースティック・ジャズを演奏したフルアルバム作品になりますが、ds)Steve Gadd ~ b)Eddie Gomezによるデジタル・アコースティックとも評される性格無比なスイング・ビート、こちらにCoreaが加わることで鉄壁のタイトなリズムセクションが完成、でもFarrellのソロそっちのけでリズム隊が盛り上がっています(笑)!全曲に渡る緊張感みなぎるインタープレイがこちらも歴史的名盤を生み出しました。

おそらく78年末にレコーディングの話が持ち上がりました。Xanadu Labelオーナー兼プロデューサーDon SchlittenがFarrellにオファーし、「Joe、フュージョンやディスコはそろそろ下火だから、アコースティックのアルバムを作ろうじゃないか、と言うか、そもそもオレはジャズのアルバムしか制作しないけどね。」みたいな話があり、「じゃあChick(Corea)を呼んでさあ、あいつには今まで随分と世話になっているから、お返しに是非とも一緒にレコーディングしたいんだ。」と更なるやり取りがあったのかも知れません。

と言うことで、本作の演奏について触れて行きましょう。1曲目表題曲でFarrellのオリジナルSkate Board Park、タイトルは本人も含めた子供たちが公園でスケボーを楽しむ様をイメージしたのでしょうか、レコードで発売された時のジャケットに良く表れています。もっともテナーを吹きながらのスケボーは、至難の技でしかも大変危険なので、良い子は真似をするのをやめましょう(爆)。

「Skate Board Park」オリジナルジャケット

本CDは2015年に、数々の埋もれた作品を掘り起こしたアルバム発掘王Zev Feldmanの手によって久しぶりに世に出ました。デジタル・リマスターが施され、大変素晴らしいクリアネス、バランスでレコード時よりも格段に良い音質でのリリースになりました。

いきなりテナー、ピアノ、ベースによる超絶複雑なラインのユニゾンから曲が始まります。斬新にしてメチャ・カッコイイです!途中からベースはバッキングに回りテーマはテナーとピアノのユニゾン、コードは鳴っていません。シンコペーション、間を生かしたメロディの譜割り、3連譜、トリッキーな曲想です。Farrellはこの作曲に相当気合が入り、難易度高く設定しましたが、ユニゾンするCoreaにはきっとお手の物なのでしょう、何ら支障なく余裕で演奏しています。テナーソロに入りやっとピアノがコードを弾き始めます。一聴すぐFarrellとわかる魅力的なテナーの音色、タイムがかなりon topですがリズム隊確実にフォローしています。強烈なシングル・タンギングを多用、テーマのモチーフを随所に用いたフレージングはインパクトが半端ないです!CoreaのバッキングもFarrellとの長い付き合いを感じさせる、付かず離れず感が心地良く、ソロ終盤戦ではチャチャを入れるが如きバッキングからピアノのソロへ、一転してタイトなリズムによるCoreaならではの、端正なプレイ。加えてかなり打楽器的にパーカッシブにアプローチしています。常々思うのですがCoreaほどのタイム感を極めたジャズマンが、はっきり言ってタイムがかなりルーズなFarrellを何故ファースト・コールに位置させているのか、謎ではありますが、演奏はもちろん二人の人間的な相性が物を言っているのでしょう。ピアノソロ後テーマの一部を用いてドラムと4バースが4回行われます。3回目のバース時にFarrellがリフの符割りを間違えて早く出てしまいます。Coreaは全く動じず平然とプレイを敢行、Farrellは動揺したのか更にリフ後半部分を出そびれ、ピアノのリフだけが演奏されます。それまでほんの些細な間違いは幾つかありましたが、緻密なユニゾンの多用がコンセプトの曲なので、この部分は相当目立ちます。ですが修正したりテイクを取り直していないのです(おっと、この頃にはまだお助けマシンのpro toolsは存在しませんでした!)。更に興味深いのは、ラストテーマ時にも出てくる、バースで用いたリフの部分を、多分Coreaがわざと間違えたように演奏している点です。Farrellの先ほどのミステイクを間違いにさせないようにする、機転の効いた対応なのでしょう、「実はこういうアレンジなのですよ」とばかりにフォローしたのです。Coreaの聡明さがひときわ輝き、このリカバーの存在がミステイクを正当化させている、「ジャズ演奏に間違いは存在せず、大切なのは如何に間違いを放置しないか」と言う事なのでしょう。当のCorea自体は常に完璧ですが。

2曲目FarrellのオリジナルCliche Romance、タイトルも曲想もグレイスフルなムードのボサノバ・ナンバー、良い曲です。テナーとエレクトリック・ピアノのユニゾンのメロディも心地良く、テナーソロは快調に飛ばしてストーリーを展開しています。随所に「ちょっと走る、音符が詰まる」タイム感が聴かれ、Farrellの持ち味といえばそうなのですが、この部分を修正し、極めていればより高みに登れたように感じています。昔どこかの音楽雑誌に彼のインタビューが掲載されていましたが、何かの質問に対し、付随して「テナーサックス奏者は一生に一度だけもの凄く練習をすれば良いんだよ」のような事を、お酒を片手に回答していたように記憶しています。彼の音楽観を自ら一言で語っていると思いますが、この大らかな感じが良い意味で演奏に現れているのではないでしょうか。続くピアノのソロは、スタイルがCoreaの盟友Stanley Clarkのアプローチと似ている、Bob Magnussonのベースラインと、良く絡まったインプロビゼーションを聴かせます。ベースソロを経てラストテーマへ。

3曲目はCoreaのナンバーからHigh Wire – The Aerialist、Chaka Khanのボーカルをフィーチャーしたアルバムで、以前にこのBlogでも取り上げた事のある82年作品「Echoes of an Era」にも収録されていますが、本作が初演に当たります。

いやいや、実に美しいナンバーです。耳に入ってくるメロディは自然体で巧みではありますが、実は難解なコード進行とリズムのシカケ、インプロビゼーションを行うにはこのタイトル通りに「高所に張り巡らしたワイヤー上の曲芸師」状態を強いられます(汗)。Lawrence Marableは全編にわたってブラシでドラミング、ナイスなサポートに徹しています。彼は29年5月生まれ、50年代から米国西海岸を中心に活躍している、Charlie Parker, Dexter Gordon, Zoot Simsらとの演奏経験もある大ベテランです。Magnussonのベースも軽快に、流麗にバックを務めます。ピアノ〜ベース〜テナーとソロが淀みなく続き、メンバーの高い音楽性を然りげ無く誇示してくれました。

4曲目はスタンダードナンバー、Kurt Weillの名曲Speak Low、外連味のない直球入魂の演奏です!イントロ無しで始まるテーマの、ブレーク他のリズムセクションの凝ったシンコペーションのシカケが実にヒップなアレンジです(ベース奏者が時たまシカケ後タイムが「えっ?」と揺れていますが…)。Farrelのテーマ奏も音色、音域、ニュアンスがジャジーな三位一体に聴こえます。テナーのピックアップからソロ本編へ、コンテンポラリーさがスパイスになった彼独自のウタを感じさせ、カッコ良くてグッときてしまいます!ここでもピアノ・バッキングの素晴らしさが光っていますが、仮に共演者が前述のGomez, Gaddだとしたら「Friends」でのように、バッキングにおけるリズムセクションのインタープレイで盛り上がってしまい、主人公は一体誰?状態になってしまうでしょう。続くピアノソロは演奏上のありとあらゆる事象に余裕と幅がある演奏を展開しており、共演者の発する音が全てクリアーに聴こえているように感じます。FarrellとCoreaのリズムに対する音符の位置の違いが、このくらいの早いテンポになると歴然と分かります。on topとlaid back、続く二人の8小節交換にそれが顕著に表れますが、対応するリズムセクションのサポートの巧みさに感心してしまいます。エンディングはいわゆる逆循のコード進行が延々と続き、Farrellが巧みにブロウしますが、Coreaとのやり取りが興味深く、曲中のソロ時よりも親密な会話を聴くことができます。エンディングに向けて次第に収束感を出し、予め決めておいた?フレーズを繰り出して無事Fineです。

5曲目はスタンダード・チューンのバラードYou Go to My Head、良い選曲です。Coreaの幻想的なイントロからテーマ奏へ、さりげないニュアンスとサブトーンを駆使したメロディが、曲の持つムードを的確に引き出しています。ピアノのバッキングの絶妙さは凄いですね!Coreaには演奏しながら本当に様々なサウンドが聴こえて来るのでしょう、眩いばかりの宝石を散りばめたかのようなコード感、フィルインの連続です。テーマ後は半コーラスピアノソロ、こちらでも申し分なしにサウンドの魔術師ぶりを発揮しています。きっとCoreaにインスパイアされたのでしょう、サビの部分でFarrell饒舌に上のオクターブを中心にソロを取り、その流れでメロディもオクターブ上げて吹いています。エンディングにはバンプが付け足され、その後カデンツァ時にトニックの半音上の音を一瞬吹いていますが、故意なのかたまたまなのか、「おっといけねぇ!」とばかりにすぐさまルート音に吹き換えています。

6曲目ラストを飾るのはFarrellのオリジナルBara-Bara、軽快なテンポでリズミックなキメもポイントになったこちらも佳曲、Freddie Hubbardと何回か共演したところ、たちまち彼のお気に入りナンバーになったそうです。ソロの先発Coreaはエレクトリック・ピアノで演奏します。右手のラインも素晴らしいのですが、左手から繰り出されるコードと、対旋律をイメージさせるラインのエグさが、まるでジキル博士とハイド氏の如く相反するサウンドを提供しています。続くテナーソロは本作中最もスインギーな演奏、良く伸びる音色でタイムもさほどラッシュせず、フレージングの繋がり、アイデア、音使いの斬新さ、シングルタンギングのタイトさ、イメージが終始持続しています。5’22″辺りでFarrellの吹いたフレーズに反応するCoreaのレスポンスが、もう1コーラス演奏しようかどうか迷っていたFarrellに、ソロを終えるようきっかけを与えたようにも聴こえました。ラストテーマは素直にキメの部分でFineです。

Joe Farrellは86年1月にCaliforniaの病院にて、骨髄異形成症候群で48歳の若さで亡くなりました。Michael Breckerも同じ病気を患い、白血病で2007年1月にやはり57歳の若さで亡くなっています。

2020.04.05 Sun

In Out and Around / Mike Nock

今回はピアニストMike Nockのカルテット編成による1978年録音リーダー作、「In Out and Around」を取り上げてみましょう。

Recorded at Sound Ideas Studio, New York City – July, 7, 1978 Produced by Mike Nock Executive Producer: Theresa Del Pozzo All Compositions by Mike Nock Label: Timeless Records

p)Mike Nock ts)Michael Brecker b)George Mraz ds)Al Foster

1)Break Time 2)Dark Light 3)Shadows of Forgotten Love 4)The Gift 5)Hadrians Wall 6)In Out and Around

理想的なサイドマンを擁し、全曲意欲的なオリジナルを巧みなインタープレイで演奏した素晴らしい作品です。アルバム録音78年当時はフュージョン・ブーム全盛期、このようなストレートアヘッドなアコースティック・ジャズをプレイした作品の方がむしろ珍しかったように記憶しています。George Mraz, Al Fosterら精鋭によるリズムセクションも注目に値しますが、フュージョン・サックスの担い手であるMichael Breckerの参加に耳目が奪われます。当時のシーンを賑わせていた諸作、例えばThe Brecker Brothers関係ではHeavy Metal Be-Bop, Blue Montreux Ⅰ,Ⅱ, The New York All Stars Live, Ben Sidran / Live at Montreux, Steve Khan / The Blue Man, ほかNeil Larsen / Jungle Fever, Richard Tee / Strokin’, Tom Browne / Browne Sugar, Al Foster / Mixed Roots…78年はフュージョン・アルバム大豊作、Michael参加作品も豊漁で、彼のサックス無しにはフュージョンは成り立たなかったと言っても過言ではありません。原体験した者にとっては感慨深げですが、最初に本作を聴いた時には正直余りピンと来ませんでした。全体的な演奏はひたすら端正でタイトなリズムが支配し、フロントMichaelはハイパー振りを披露してはいますが、聴く者に圧倒的なインパクトを与えるいつものぶっちぎり感は無く、何かに引っ張られ、羽交い締めにされているかの如くの抑制、ストイックさを感じ、彼の表現の最大の特徴である起承転結的ストーリー展開と結果として生じる爆発、そこに起因する爽快感が希薄な演奏と捉えていました(随所に小爆発はありますが)。明らかにいつものアプローチとは異なり、リズムセクション、特にピアノとのコンビネーション、インタープレイを徹底させています。仄暗さを伴ったユニークな曲想、美しいメロディと複雑なコード進行、FosterのPaiste Cymbal使用による乾いた音色のレガートと、Mrazの深い音色を湛えたon topでスインギーなベースとのコンビネーション、彼らの決して出しゃばらず、しかし出すところは毅然と的確にサポートしバックアップする。今は自分の耳がやっと演奏に追いついたのか〜めでたく第二次性徴を迎えたのでしょう、きっと(笑)!〜、本作が発する高次な音楽性を何とか受け入れる事が出来るようになったと思います。プレイヤー4人各々の音を各人どう受け止め、誰がどの様に絡んでいくのか、展開し変化するプロセスを楽しんで行く。個性的なオリジナルに対する柔軟なアプローチに懐の深さを覚え、同時に自分に照らし合わせ、音楽の聴き方も変わって行くのだと実感しています。

Mike Nockは40年7月、New Zealand Christchurch生まれ、 11歳でピアノを学び始め18歳の時にAustraliaで演奏活動を始めました。その後Berklee音楽院に入学、米国でも音楽活動を開始し63年から65年までYusef Lateefのバンドに参加しました。自己のフュージョン・バンドやスタジオ・ミュージシャンとしても活躍し、85年まで米国で過ごした後Australiaに戻りました。このレコーディング時には在米と言う事になります。今までに30作近いリーダー作をリリース、教育者としても精力的に現在進行形で活動しています。

CDは89年にこの黒色ジャケットでリリースされましたが(必要最小限のクレジットでは色気がありません)、78年レコードでリリース時のジャケットがこちらです。デザイン、イラスト、色合い、Nockの似顔絵、ロゴのレイアウト、メンバーの演奏写真等断然アーティスティックで、音楽の内容にもしっかりオーバーラップしています。

Nockの音楽性として20年以上過ごした米国のテイストよりも、生まれ育ったNew Zealand〜Australia=イギリス連邦〜欧州的、クラッシックを素養としたECM的なサウンドが聴こえてきます。実際ECM Labelから1枚アルバムをリリースしています。81年録音「Ondas」、ベーシストに名手Eddie Gomez、ドラマーに欧州を代表するJon Christensen。本作収録のShadows of Forgotten Loveを、Forgotten Loveと若干タイトルを変更して再演しています。プロデューサーManfred Eicherのサジェスチョンもあるのでしょう、見事にレーベルのカラーに相応しい演奏を展開しています。ピアノトリオということもあり、Nockのより耽美的でリリカルな演奏を楽しむ事が出来る作品です。

Mike Nock / Ondas

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目アップテンポのスイング・ナンバーBreak Time。テナー、ピアノ、ベース3者の強力なユニゾンのテーマからスタートします。まず特筆すべきは完璧な精度でのテーマ・アンサンブル、本作レコーディング自体1日で全曲を収録していますが、これだけの難易度の楽曲をこなすためには最低でも2日間は別日にリハーサルを設けていると考えられます。でも意外とこの百戦練磨のメンバーなので、当日スタジオに集まって譜面を配布され、その場で「せえのっ!」と容易く演奏したのかも知れません(汗)。本当にそうだとしたらとても嫌な事ですが(爆)。先発ソロイストはMichael、周りの音を良く聴きながらその場、瞬間で最も相応しい音の取捨選択を行い、自分自身が述べたい部分とNockの(尋常ではない)バッキングの主張との兼ね合いを瞬時に模索しつつ、素晴らしいグルーヴ、タイム間、申し分ないテナーの音色でソロを吹いています。この頃のMichaelのセッティング、既に何度か紹介していますが今一度、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、これはEddie Danielsから譲り受けた銘品、リードはLa Voz Medium Hard、リガチャーはSelmer Metal用、楽器本体はSelmer MarkⅥ Serial No.67853。

MrazとFosterの職人芸を通り越した芸術的なサポートがあってこそのアドリブ構築とインタープレイですが。また感じるのは、ここでの演奏のアプローチは当時のMichaelとしては異色と言えますが、当然ポテンシャルとして備わっていました。でもこの時点では本人にとって不十分極まりないと感じていたと推測しています。自分が出来ていない部分、欠けていると感じた点を自己の課題として真正面から真摯な態度で取り組んで行くのを信条としていたMicahel、自己鍛錬を怠らず、以降様々なアーティストとのレコーディングを経験して膨らませ、開花させて行ったと思います。表現の幅が経年と共にどんどん広がって行きましたから。

テーマ演奏後しばらくピアノはバッキングせずにテナートリオでの演奏、Nockスネークインして来ます。テナーのフレーズに応えたり、対旋律を提示したり、敢えて放置(多分)したりと、独創的で実に興味深いアプローチでのバッキングの連続です!1’58″あたりからの両者の絡み具合、2’10″あたりでのテナーのフリーフォーム的アプローチに対するバッキング、2’51″頃からのMichaelの盛り上がりに対する緊張感、3’40からテナーのフレーズを受け継ぎ、メロディの提示(暗示)によりテーマをインタールードとして演奏し、テナーソロが終了します。続くピアノソロではベース、ドラムが演奏を止め独奏状態になりますが、ここのサウンドはNock自身のオリジナリティに溢れたもの、しかしLennie Tristanoのテイストをどこか感じさせます。かなり唸り声が入っていますが、よく聴くとフレージングとおおよそユニゾンなので、インプロビゼーションに気持ちが入っているが故なのでしょう。ドラムがスネアロールからスネークイン、ベースも良きところで参加しますがここからの3者のグルーヴの素晴らしい事!ピアノのフレージングの独創性も佳境に入っています!ラストテーマにもごく自然に入りますが、その手前からのMrazの弾くラインの凄みは一体何でしょう?因みにアップテンポで様々なインタープレイが繰り出された、しかも途中にブレークが入る演奏なのにも関わらず、テンポが殆ど変わっていないのにも驚かされます。演奏が自然発生的であるがためでしょうが、と言う事はこれはやはり初見で演奏しているのでしょうか?(笑)

2曲目は美しいピアノタッチが印象的なイントロから始まるDark Light、ベースのラインもポイント高いです。Michaelのメロディ演奏がセクシーですが、テーマ終わりの難易度高い運指を駆使したメロディ・ラインでの、フラジオ音の確実さが流石です!ピアノソロからラインを受け継いでごく自然にテナーソロに移行しますが、こちらもMichaelの音楽性の為せる技でしょう。ベースソロが饒舌にして重厚、華麗なテクニックを聴かせます。一貫してシンバルを中心にし、皮モノのアクセント付けによるカラーリングが巧みなFosterも大健闘です。プレーヤー4人の音楽的バランスが良く調和した演奏です。

3曲目Shadows of Forgotten Love、かなり重いタイトルです(汗)、ピアノトリオ作「Ondas」ではForgottenが削除されたタイトル名になり、多少ヘヴィーさが緩和されました(爆)。前曲よりも幾分早いテンポですが比較的同傾向と言えるテイストで、むしろこちらの方がDark(Light)さは勝るように聴こえます。ピアノのイントロからベースも同一のパターンを継続し、テナーとピアノのユニゾンのテーマになります。始めはスネアのロールで、サビではタムを中心に、その後再びスネアのロールでカラーリングするFosterのドラミングが曲想と合致し、とても音楽的です。ラストテーマではそのカラーリングがバージョンアップし、更なる深みを表現しています。テナーソロはありませんが、メロディ奏だけで十分に存在感をアピールしています。ピアノをフィーチャーした形になりますが、実はピアノソロのバックで自在に、緻密に、大胆に、かつパーカッシヴに叩くFosterのドラミングを聴かせるためのナンバーであると感じています。曲の持つ内(うち)に秘めたエネルギーがNock自身の音楽性から離れて一人歩きし、ゆえに再演を行おうという願望を生じさせたのかも知れません。

4曲目はThe Gift、冒頭Michaelのメロウさの中にも切なさを湛えたメロディがたまらなく素敵です!息遣いまで聴こえる入魂のプレイは録音時29歳、様々な音楽を経験しメロディ表現の真髄に到達しつつあり、以降更に表現の深さを極めて行きました。Nockの伴奏も実にツボを得ています。Michael参加ピアニストHal Galper76年11月録音の作品「Reach Out!」収録、GalperとのDuoによるI’ll Never Stop Lovinng Youの歌い回し方も同様に素晴らしいです。

先発のNockのソロを、Mraz, Fosterの伴奏が的確に、確実にサポートしています。ピアノのトリルを受け継ぎベースソロ、そしてテナーと続きます。Michaelのアプローチはこの頃に良く聴かれたテイスト(例えばJoe Henライク)を発揮しています。そのままラストテーマに入り、エンディングでテナーのサブトーンが隠し味的に聴かれます。

5曲目Hadrians Wall、英国北部にある2世紀に作られたローマ帝国最北端に位置した城壁の事で、ユネスコの世界遺産にも登録され、EnglandとScotlandの境界線にも影響を与えているそうです。ケルト人の侵入を防ぐべく築城された英国版万里の長城ですね。Nockは61年にEnglandをツアーしたことがあり、その時に目の当たりにして感銘を受けたのかも知れません。耽美的なメロディとリズミックさが合わさったドラマチックなナンバー、コード進行も大変魅力的な曲です。メロディのテイストがまさにMichaelにぴったり、華麗にブロウしています。先発ピアノソロは作曲者ならではの、曲の持つムードとコード進行を上手くリンクさせて自身の唄を巧みに歌っています。続くMichaelは案の定水を得た魚状態、本作で最も”Michael Breckerらしい”歌い方の演奏を聴くことが出来ます。その後のMrazのソロもMichaelにインスパイアされたのでしょうか、実に魅力的なアドリブを築城、いや構築しています(笑)

6曲目ラストを飾るのはタイトルナンバーIn Out and Around、アップテンポでテーマのメロディとリズムセクションとが巧みにCall and Responseを行う曲想、スリリングな演奏は本作のハイライトと言えますが、目玉の演奏をラストにする手法、実は僕自身お気に入りなのです。敢えて冒頭に置かず全曲を聴き通し、オーラスに最も聴き応えのある曲が鎮座している方が、作品を鑑賞する醍醐味と感じます。評判のラーメン店で最後に残しておいた特製チャーシューを食べる感じでしょうか?(ちょっと違いますね、汗)。テーマ終わりに聴かれるピアノのフレーズに被ったテナーのフィルインが何気にカッコイイです!先発Nockのソロ、テクニカルにUpper Structure Triadを多用しつつ、スインギーにアドリブしている様は圧巻です!Mraz, Fosterのサポートも申し分無し!このリズムセクションと是非一度お手合わせしたいものです!続くMichaelはNockのテイストを確実に受け継ぎソロをスタート、自己の主張とリーダーの音楽性、曲自体が持つテイスト、共演ミュージシャンの発するサウンドを瞬時に合わせ、かき混ぜ、音のメルティングポット状態としてアドリブを展開しています。コード進行が複雑で難解な部分が手枷足枷となり、ここをクリアーすることでグルーヴ感が生ずるはずなのですが、Michaelなかなか手こずっているようにも感じます。続くMrazのベースソロ、いやいや、このテンポでしかもフロント2人の物凄い演奏の後、気持ちの切り替えがさぞかし大変だったと思いますが、さすが手練れの者、全く動じず素晴らしい演奏を聴かせます!改めて超弩級のベーシストと認識しました!その後テナーとピアノが互いをダンボの耳状態で聴きながらのソロ同時進行、いやーこちらも凄いです!ラストテーマを無事迎えFine!