TATSUYA SATO official web site

BLOG

2020.10

2020.10.18 Sun

Rosewood / Woody Shaw

今回はトランペッターWoody Shawの代表的リーダー作「Rosewood」(1978年リリース)を取り上げたいと思います。個性的なトランペットスタイル、音色、誰にも真似の出来ない独自なアドリブライン、ユニークな曲想にしてジャズのルーツに根差したオリジナル、大編成によるアンサンブルをこの作品で見事に披露しています。

Recorded: December 15~19, 1977 at CBS 30th Street Studio, New York City Label: Columbia Producer: Micheal Cuscuna

tp, flg)Woody Shaw ts)Joe Henderson ts, ss)Carter Jefferson fl)Frank Wess, Art Webb ss, as)James Vass tb)Steve Turre, Janice Robinson p, elp)Onaje Allan Gumbs b)Clint Houston ds)Victor Lewis congas)Sammy Figueroa pec)Armen Hallburian harp)Lois Collin

1)Rosewood 2)Everytime I See You 3)The Legend of the Cheops 4)Rahsaan’s Run 5)Sunshowers 6)Theme for Maxine

Woody Shawは44年12月24日North Carolina生まれ、父親はゴスペルのミュージシャンでした。9歳の時にビューグル(ピストンの無い軍隊ラッパ)を始めたそうです。学校でのバンドに参加すべく最初に選んだ楽器は意外な事にトランペットではなく、ヴァイオリンでした。ですがこちらは定員に達していたので叶わず、2番目の選択肢としてサックスか、トロンボーン、こちらにも欠員は無く残った楽器がトランペットだったそうです。さらに意外な話ですが、その時Shawは自分がどうしてこの耳障りな音のする楽器の担当にさせられなければならないのか、と感じたそうです。音楽教師に自分がやりたい楽器を選べないのはフェアではないとも不満を述べましたが教師はShawを説得し始め、ちょっと辛抱してトランペットをやってごらんよ、君に向いている楽器だと勧められ、この楽器を好きになる事を保証するよとまで言われましたが、彼の言っていたことは正しく、すぐにトランペットに恋をしてしまったそうです。教師は単に楽器の欠員パートを埋めるために促しただけなのかも知れませんし、実際のところは分かりませんが、しかしジャズ史に燦然と輝く名トランペッターWoody Shaw誕生のきっかけを作ったのですから、良い指導者と巡り合えたと言えましょう。彼自身こうやって思い出してみれば何か不思議な力が働いて、トランペットと出会う事が出来たと回顧しています。その後は日夜練習に明け暮れ、卒業後クラシックの殿堂Julliard音楽院に進み、トランペットを徹底的に勉強をしようと考えていましたが、Louis Armstrong, Harry Jamesに深く傾倒し、ジャズに興味を持つようになります。そして次第に次世代のトランペッターたちDizzy Gillespie,  Fats Navarro, Clifford Brown, Booker Little, Lee Morgan, Freddie Hubbardらからの影響を受けるようになり、自ずと学校での音楽活動から離れていくことになります。Brownが亡くなった年月〜56年6月と同じ時に、彼はトランペットを選んだ事をある日気付いたとも語っていますが、志し半ばにして悲劇的な交通事故で逝去したBrownの偉業を受け継ぐために自分は演奏している、と言う自負があるのかも知れませんね。Shawは独自のスタイルを生涯貫き通した超個性派プレーヤーですが、過去の先達へのリスペクトには半端ないものが感じられます。その後はローカルミュージシャンとして様々なギグをこなし、63年7月若干18歳の時にEric Dolphyのリーダー作「Iron Man」でレコーディング・デビューを飾ります。栴檀は双葉より芳し、ここでの彼のプレイは荒削りではありますが、のちの個性を十分に感じさせるフレージング、アイデア、間の取り方、楽器の音色を聴かせています。

63年7月録音Eric Dolphy / Iron Man

Dolphyはトランペット奏者と2管編成で演奏する機会が多く、初リーダー作60年4月録音「Outward Bound」でもFreddie Hubbardと、その後はBooker Littleと素晴らしいコンビネーションを聴かせていました。61年7月ライブ録音「Eric Dolphy at the Five Spot」での演奏は、彼ら二人の名演奏を捉えた傑作です。

1961年7月16日録音Eric Dolphy at the Five Spot」

ところがLittleは録音直後の10月、尿毒症により23歳と言う若さで夭逝してしまいます。Dolphyの落胆ぶりが手に取るように伺えますが、彼の後釜としてHubbardが再起用され、64年2月録音、Dolphy没後同年8月にリリースされた傑作「Out to Lunch」での演奏は特筆すべきです。Hubbardも本当に素晴らしいトランペッターですが、個人的にはShawとの相性の方に良さを感じています。あと1, 2年Shawの登場が早ければ、「Out to Lunch」のトランペッターは彼ではなかったかと。そしてDolphyが64年6月、36歳の若さでBerlinにて医療ミスと言う、痛恨の客死に至らなければ以降はDolphy = Shawのフロントラインで音楽活動を継続し、更なる名演奏が生まれたのでは、と勝手に想像しています。

62年2月25日録音Out to Lunch / Eric Dolphy

Shawの演奏は一聴すぐ彼と分かる強力な個性を発揮していますが、多くのサックス奏者の2管編成の相方やピアノプレーヤーのフロントを務めていました。オリジナリティを持てば持つほど逆に音楽的テリトリーは狭くなります。多様性は深まりますが他のミュージシャンとの協調性は薄れて行き極端な話、自己のバンドでしか演奏出来ない事態に陥りますが、Shawの場合は例外です。前述のDolphyをはじめ、Joe Henderson, Jackie McLean, Hank Mobley, Dexter Gordon, Booker Ervin, Gary Bartz, Sonny Fortune, Joe Farrell, サックス以外ではChick Corea, Andrew Hill, Horace Silver, Larry Young, McCoy Tyner, Bobby Hutcherson, Art Blakey…枚挙にいとまがない程に数多くの第一線ミュージシャンと共演しており、いずれに於いても十二分な個性の発露、素晴らしいインプロヴィゼーション、存在感、彼の参加による作品クオリティの向上、リーダーの音楽性とのナチュラルな融合を発揮しています。Shawは幾多のジャズ・トランペットプレイヤーの中でもインプロヴィゼーションのライン、方法論、アイデアが抜きん出ていて、緻密さと大胆さが半端なく、時として難解さを極めオーディエンスが置き去り状態ではないかとまで感じる時があります。例えばBrown, Morgan, Little, Hubbardらの発する、トランペット奏者特有の爽快感をShawの演奏から感じ取るのが困難な場合があり、プレイは常に問題提起を促し、聴く者の演奏理解に際してどこか強いる姿勢を感じさせる奏者です。具体的にはフレージングにおけるコード進行に対する縦の音使いでは明らかにディスコードでも、横の流れで通してみれば聴感上ギリギリのポイントで成立する、ラインの言ってみれば帳尻合わせ的な独自の解決感。加えていわゆるパターンやリック的な音使いを極力避けたと思われるクリエイティブなインプロヴィゼーションの、本人は特に意識してはいないでしょうが、有無を言わせぬ対峙感。ところが彼のスタイルの根底にあるLouis Armstrong, Harry Jamesらのテイストから醸し出されるニュアンス、イントネーションが随所にスパイスとして作用し、ハードボイルドでありながら、えも言われぬ色気を放ち(男の色気〜益荒男ぶりと切なさ)、演奏の難易度を適度に緩和させていると感じていて、ここが多くのミュージシャンに愛された由縁と考えています。優れた奏者、音楽、芸術には複雑な要素が絡み合うのが常です。Shawの演奏には他にはあり得ない次元での複雑な個性が混在しており、その表出に際し一面では真の芸術家たるmentorとして、演奏者からの尊敬を通り越した熱狂的な崇拝ぶりを得ています。他方では一般的なオーディエンスが彼の音楽について行く事が出来ず、ともすると少数の熱狂的信者のためだけのマニアックなものに終始してしまう、musician’s musisianの範疇に留まってしまいがちになります。Miles Davisの音楽表現の難解さも同様ですが、彼の場合天性のものからオーディエンス、ミュージシャン分け隔てなく万人に対してアピールする事が出来ています。そして「俺の音楽が難しいって?おいおい、分からないのはお前らに責任があるんだぜ。分かろうが分かるまいが俺の知ったこっちゃないけど、一度でも分かろうとして聞いた事があるのかい?とことん入り込んでみな、Come on! everybody!」のようなスタンスでプレイしていると思います(笑)。

本作はShawにとって初のメジャーレーベルColumbiaからのリリースになります。これまでにも10作近くをContemporaryやMuseレーベルから発表していました。70年「Blackstone Legacy」74年「The Moontrane」といった傑作をはじめいずれもが高い音楽性を示し、個性的オリジナル、アンサンブルを聴かせ70年代ジャズ界のフラッグシップ的存在として精力的に演奏活動を展開していました。

「Blackstone Legacy」
「The Moontrane」

本作リリース77年頃はColumbia筆頭アーティストにしてジャズ界の牽引力Milesが健康を害し(胃潰瘍とヘルニア)、75年2月の大阪公演を収録した名作「Agharta」「Pangaea」を最後に80年頃まで長期引退していた時期に該当します。

「Agharta」
「Pangaea」

Columbiaレーベルにとってもジャズシーンにとっても、Milesの不在は手痛かった事でしょう。彼に続くアーティスト、できればモダンジャズのリーダー的存在である楽器トランペット、その先鋭プレーヤーを必要としていました。Shawに白羽の矢が立ったのは当然の事です。彼を最大限にバックアップすべく、大編成でのレコーディング(メジャーならでは、お金かけてます!)〜リリースは彼の音楽生活の一つのピークであったと思います。

参加メンバーは当時のWoody Shaw Quintet = p)Onaje Allan Gumbs b)Clint Houston ds)Victor Lewis ts,ss)Carter Jeffersonにゲスト・ソロイストでShawとの相性抜群のJoe Henderson、そして5管編成にコンガ、パーカッション、更にハープを増員したThe Woody Shaw Concert Ensembleが加わったゴージャスな最大14人編成で、重厚なアンサンブルを堪能できます。Shawは自分の曲の他、メンバーのオリジナルも取り上げ、ユニットとしての活動に重きを置いています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目表題曲にしてShawのオリジナルRosewood、彼の両親に捧げられたナンバー、初演はBobby Hutchersonの74年4月録音作品「Cirrus」に収録されています。ShawとJoeHenの2管によるメロディが核となり、アルトサックス、フルート、ピッコロ、トロンボーン、バストロンボーンが対旋律やハーモニー、バックリフを奏で、リズムセクションにパーカションが加わった重厚な演奏はOnaje Allan Gumbsのアレンジによるものです。メロディはどこかミステリアスでいながら、キャッチーなテイストも存在するShawならではの凝った楽曲、しかしこれまでの彼の作風とは明らかな違いを聴かせています。ソロの先発はJoeHen、斬り込み隊長の責務を十分に果たす素晴らしいブロウ、全面的に信頼を寄せていた間柄だと思います。ホーンのアンサンブルを受けつつ、難曲のコード進行を実に的確にアドリブしています。初演ではHutchersnのソロだけがフィーチャーされていたので、続くここでの作曲者のソロは初登場になります。それにしても独創的なラインの連続、音の跳躍と滑舌の尋常ではない確実さ、ソリッドでエッジーな音色、そしてニュアンスの豊富さからは彼自身の唄を確実に聴き取る事が出来ます。

74年4月17, 18日録音Bobby Hutcherson / Cirrus

2曲目Everytime I See YouはOnajeのオリジナル、前曲からコンガとハープが抜けつつ、引き続きゴージャスなアンサンブルが聴かれますが、ここでは使用管楽器に多少の変化をつけています。Victor Lewisの叩く8ビートのリズムは軽やかでいて、どっしり感も感じさせるジャズ屋特有のタイム感です。Stan Getz, Carla Bley, George Cablesはじめ多くのミュージシャンとの共演歴を持つ強者の一人です。Clint Houstonのベースも雄弁で、確実にビートの芯を捉えたプレイが素晴らしいです。Shawのワンホーンをフィーチャーしたナンバー、軽やかにリズムに乗ったプレイは音使いやトーンの魅力が半端なく、そしてソロ途中からサンバのリズムに変わるドラマチックな演出も効果的です。Onajeのソロは美しいピアノの音色と共に、リリカルでいてダイナミックです!ここでもサンバに一瞬変わり、ソロのクライマックスをホーンアンサンブルがバックアップし、ラストテーマにクールに移行します。

3曲目The Legend of the CheopsはLewisの作曲、David Sanborn77年作品「Promise Me the Moon」にも収録され、作曲者も参加しています。こちらは彼のソプラニーノをフィーチャーした演奏、小編成という事もあり本作よりもシンプルな仕上がりですが、Shaw, Sanborn全く表現の異なるふたりの管楽器奏者の演奏を比べてみるのも一興です。

Promise Me the Moon / David Sanborn

Cheopsとはギリシャ語で古代エジプト・クフ王の事、Lewisは作曲のほかアレンジも担当しています。自由な発想に基づいた佳曲、JoeHen同様にShawが全信頼を置くドラマー、コンポーザーです。ハープや木管楽器が大活躍するイントロに始まり、Shawの奏るテーマにJoeHenが絡み、同様にアンサンブルが纏わり付くように曲をカラーリングします。先発はJoeHen、ここでのソロはイってます!続くShawのソロも素晴らしい!ラストテーマ後のヴァンプでのやり取りも含め、70年9月ライブ録音「Joe Henderson Quintet at the Lighthouse」での、ふたりの申し分の無いコンビネーションを彷彿とさせます。

Joe Henderson Quintet at the Lighthouse

4曲目Rahsaan’s RunはShawのオリジナル、バンドのメンバー全員の友人にして天才の名を欲しいままにしたRahsaan Roland Kirk、本作レコーディングの直前12月5日に惜しまれつつ亡くなり、哀悼の意を表したナンバー。曲自体はアップテンポのマイナーブルース、クインテットのメンバーが全員ソロを繰り広げます。先発はShaw、続いてJefferson、Onaje、Houston、そしてLewisとの1コーラスバースがShaw, Jeffersonと行われラストテーマを迎えます。全員の熱気を帯びた演奏が(テンポがかなり早くなりました!)Rahsaanへのレクイエムになったに違いありません。

5曲目SunshowersはHoustonのオリジナル、イントロでのエレクトリックピアノとトランペットのサウンドがMilesのIn a Silent Wayを彷彿とさせます。こちらもこのバンドに相応しい佳曲、表題曲からフルートを除いたアンサンブルが壮大なイメージのナンバーを彩ります。Shawのブリリアントなテーマ奏に続くソロを、もっとクリアーに聴きたいと思っていても、アンサンブルがややラウドに響き音像が霞み気味です。その後JeffersonのソプラノとJoeHenのサックスバトルが!リズムセクションのサポートを得てJeffersonも大健闘していますが、お相手とはタイム感やアイデア、そもそも格が違い過ぎるようです。Onajeのピアノソロ、アンサンブルを経てラストテーマを迎え、イントロにダ・カーポ、アテンポしもうひと盛り上がり、フェードアウトでFineです。

6曲目Theme for Maxineはライナーノート曰く「実に素晴らしい人物で驚くべきマネージャー」と言うバンドマネージャーMaxine Greggに捧げられたShawのナンバー、メンバー全員から親愛の情を込めて演奏されています。本作中最も60年代ジャズの香りがするのはHorace Silverのナンバーの雰囲気を感じさせるからでしょうか。65年10月録音Silverの名盤「The Cape Verdean Blues」でもShaw = JoeHenのフロントラインが大活躍しています。

The Cape Verdean Blues / Horace Silver

先発のJoeHen、本作中最も自由奔放でアグレッシヴなソロ、とことんJoHen節を聴かせ、ラストはトリルと共に消え去って行きます!リズムセクションもソロのコンセプトに徹底的に従っています!これはMaxineさんの人柄を表した内容なのでしょうね、きっと。Shawのソロは助走態勢から次第に熱を帯び、触れ幅の実に広い雄大なスケールの演奏を聴かせます。ピアノソロはリリカルさを基本にアグレッシヴなテイストも交えていますが、フロントふたりが既にMaxineの事を殆ど語ってしまったので、自分は控えめに纏めますとばかりに、コンパクトに終えています。Houstonのやはり短いソロを挟んでラストテーマへ。ピアノのバッキングが冒頭テーマ以上の自己主張を繰り広げているのは、やはりマネージャーの事で言い足りないことがあったのでしょう(笑)。

2020.10.06 Tue

The Brecker Brothers / Live and Unreleased

今回は2020年リリースされたThe Brecker Brothers(BB)の未発表CD2枚組ライブ「Live and Unreleased」を取り上げたいと思います。80年7月5週間に及ぶ欧州ツアーでの一コマ、HamburgのジャズクラブOnkel Po’s Carnegie Hallでの演奏を収録した作品になります。バンドの弾けぶり、そしてMichael Breckerの絶好調ぶりを完璧に捉えたドキュメント性も注目に値する作品です。BBの第6作目「Straphangin’」レコーディング前の表題曲プレヴュー演奏、代表作「Heavy Metal Be-Bop」収録曲、そして取り上げられる機会の少なかった5作目「Detente」のナンバーもチョイスされたレアな選曲、ライブ向けアレンジも施された充実した演奏がマニアは勿論、オーディエンス全ての心をとことんくすぐります。

Recorded: July 2nd, 1980 at Onkel Po’s Carnegie Hall, Hamburg, Germany

tp, vo)Randy Brecker ts)Michael Brecker g)Barry Finnerty key)Mark Gray b, vo)Neil Jason ds)Richie Morales

Disc One 1)Straphangin’ 2)Tee’d Off 3)Sponge 4)Funky Sea, Funky Dew 5)I Don’t Know Either

Disc Two 1)Inside Out 2)Baffled 3)Some Skunk Funk 4)East River 5)Don’t Get Funny with My Money

青天の霹靂です!The Brecker Brothers未発表ライブアルバムCD2枚組が厳選されたナンバーにして豊富な曲数、ハイクオリティな演奏、素晴らしい録音状態で今年3月に発表されました。ジャケットのデザインも秀逸です。こちらの方も青霹繋がりで話題になりましたが2015年に発表された「UMO Jazz Orchestra with Michael Brecker」、Helsinki, Finlandで地元を代表するUMOビッグバンドにMichaelが客演したライブ作品、彼の事をとことん愛してやまないバンドメンバー、スタッフ、オーディエンスが彼を万全の態勢で受け入れ、「さあMichael、どうぞ思う存分好きなだけブロウして下さい!」とばかりに御膳立てされたシチュエーションでのプレイ、95年に録音され20年を経て2015年に発掘、リリースされた名演奏です。本人も全く把握していない膨大な数のレコーディングを残しているMichael、まだまだひょっこりと、とんでもない名演奏が突然世に出る事を楽しみにしていて、決して損はないと思います。

UMO Jazz Orchestra with Michael Brecker

本作はUnreleasedと銘打っていますが、実はBootlegで以前から世に出ていました。「Brecker Brothers Hamburg 1980」と題されたCDで、BB3作目「Don’t Stop the Music」のライナー写真を転用したジャケ写、録音月日が誤記され、収録曲目もStraphangin’、Tee’d Off、Sponge、Funky Sea, Funky Dewの4曲のみ、録音状態も隠し録り感満載の中音域を中心としたドンシャリで(本作と同じ音源を使用していると思われますが、テープの保存状態の悪さか、ダビングを繰り返したためなのか)、総じての仕上がりがいかにも海賊盤でしたが、そのぶん今回の完パケ・アルバムのクオリティが際立ちます。

Brecker Brothers Hamburg 1980

BBは「Heavy Metal Be-Bop」の後にピアノ、アレンジャーGeorge Dukeをプロデューサーに迎え「Detente」をリリースしました。

80年リリースDetente / The Brecker Brothers

レコードのA面をボーカル入りのブラコン(今もこの名称で通じるのか不安ですが〜汗)、当時のディスコやラジオでかかるのを前提としたサウンド(懐かしい響きの単語ばかりです!)、B面を従来のBBサウンドによるコアな演奏と、セパレートした形に仕上げました。おそらくArista Labelからのオファーによる売れ線狙いとの折衷案を具体化したものですが思惑は外れ、欲張り過ぎは良くありませんね、中途半端な作品としてファンから好意的には迎えられませんでした。米国のレコード会社はヒットを出せないアーティストには常に冷酷です。もともと合計6作品と言う契約であったかも知れませんが、BBはあと1作だけのリリースを残すのみとなりました。となれば、この際自分たちのやりたい音楽を気に入ったメンバー達と演奏しよう、レーベルに何を言われようが好きな事をやって、いざと言うときには尻(ケツ)を捲って逃げりゃ良いさ(笑)、でもそのためにレコーディング前に長いツアーを行ってバンドのサウンドをしっかりまとめておこうと。人選に際しギタリストとベーシストにはHeavy Metal Be-Bopの共演で気心の知れたBarry Finnerty(彼はこのツアーのためにThe Crusadersの”Street Life”ツアーを休んだのだそうです!)とNeil Jasonを起用し、キーボード奏者Mark GrayとドラマーRichie Moralesはいくつかのギグで共演しピンと来たRandyが引っ張ってきた形になります。参加メンバーの音楽性ですが、FinnertyとGrayにはジャズプレーヤーとしての素養〜インタープレイの心得が有るように聴こえますが、JasonとMoralesにはあまり感じられません。その分リズムのグルーヴとタイトさ、ファンクのスピリット、特にMoralesにはラテンの秀逸なセンスを聴き取ることができます。結局レコーディングでは当時新進気鋭、現在では飛ぶ鳥を落とす勢いのマルチ・ベーシストMarcus Millerが起用されましたが、兄弟が収録ナンバーを作曲、アレンジする、練るうちにベースプレイにはジャズ的要素が欠かせない曲ばかりになり(ツアー時に新曲はMichael作Straphangin’ 1曲のみでしたから)、Jasonのロック魂には捨て難いものがあるし、ツアーで苦楽、寝食を共にした朋友ではありますが(笑)、新作「Straphangin’」はジャズ度の方がまさったと言う事で、対応すべく直前にMarcusへのメンバーチェンジが行われたのではないか、と睨んでいます。

Straphangin’ / The Brecker Brothers

本作で聴かれる演奏にはバンドとしてのまとまりは言うに及ばず、アンサンブル能力の高さ、メンバー各々の楽曲に対する的確な解釈力、各人のソロの素晴らしさ、前述の様にあまりバンドのインタープレイ(どうしても比較してしまいますが、Heavy Metal Be-Bopのような)を感じることは出来ませんが、所々に”はっと”する部分を聴くことは出来ます。兄Randyはいつもながらの飄々としたマイペースさと、人を喰ったかのようなシニカルさを感じさせながら、しかしヴォーカルも含めたエンターテイナー然としたプレイを聴かせ、そして何より何より、特筆すべきはMichaelの絶好調ぶりです!数多くの録音を紐解いてもここまでの集中力と、最低音域から自在に操るフラジオ音を用いた3オクターヴ半の幅広い音域を含めた楽器の完璧なコントロール、フリークトーンを用いた炸裂プレイ、理想的なタイム感、余裕さえ感じさせるリラクゼーション、これらからもたらされるインパクトを遥かに通り越したむしろ爽快感の表出!こんなことが出来る演奏者は他には存在しません!例えば87年に発表された初リーダーアルバム「Michael Brecker」で聴かれるような円熟した音楽性、音の深みは未だ希薄で、ここでの彼は言わば超高性能Sax Machine状態です。guitar kidsならぬtenor sax kids、でもそこには決して幼さや自己満足、押し付けがましさやウソ、はったりの匂いは皆無なのですがこれは彼の人間性ゆえ、ひたすら努力と向上心、探究心、情熱の成せる技、John Coltraneを心のmentorに持つ彼。さあ、1980年7月2日Hamburg, Germanyの地に立つMichael Brecker未だ31歳、人類史上ここまでサックス・テクニックを極めたhuman beingは貴方だけです!ここをスタート地点として更なる音楽表現の深さ、自己表現の巧みさ、目指しているリアル・ジャズプレーヤーとしての本質、自己の内面との対話を円滑に進め、スタジオ、ツアーサポート・ミュージシャンからの脱却、またこれから先自分は何をどの様にして、次なる表現力を身につけて行けば良いのかを探り続けて下さい!とは言っても貴方は自身であらゆる事柄を発案、思索し、決定して遂行出来るインテリジェンス溢れる自立した人、この先の音楽活動が楽しみで仕方ありません!(彼のプレイのその後の変遷、充実、成熟ぶりについては、いずれまた述べたいと思います)

87年リリース初リーダー作「Michael Brecker」

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Straphangin’はテナー奏者Albert AylerのオリジナルGhostをどこか感じさせるメロディライン(笑)、マーチ風のイントロから始まります。Michael曰く、New Yorkの地下鉄ストライキの際に思い浮かんだ曲だそうです。実際にツアーの3ヶ月前、80年4月1日から11日間にも及ぶ長期の地下鉄ストライキが、66年以来14年ぶりにあったそうで、一説によると900万人に影響を与えたそうですが、そんな大騒ぎをタイトルの由来にし、Strapつり革 Hangin’掴まる、地下鉄乗車を意味しているようです。因みにMichaelと一緒に山手線に乗車した事がありますが193cmの長身のため、日本のつり革は彼にとって用を成していませんでした(汗)。ジャケット写真に用いられている地下鉄City Hall駅(NYに幾つか存在する廃駅の一つで、閉鎖されてから70年以上経つにも関わらず、ロマネスク調の美しさを今でも保つカリスマ的名所、廃駅なのでBBの写真が半透明に処理されているのですね)の駅階段を降りる二人の写真もそこから来ているのでしょう。当時はMichaelもManhattanのChina Townに住んでいたので、スタジオギグの際には地下鉄を利用して移動していたと思います。

イントロのフェルマータ後Michaelのカウントでヘヴィーなファンク・リズムが始動します。シンプルなドラミングに対して他のリズム楽器の仕掛けが実に凝っていて、エキサイティングです!2ヶ月後の9月2日東京・武道館で開催されたAurex Jazz FestivalにBBが参加し、Peter ErskineやAlphonso Johnson達とこの曲を演奏しましたが、曲自体は同じですがソロの構成が異なっていた記憶があり、彼らも試行錯誤を繰り返してレコーディングに臨んだのでしょう。テーマのメロディは通常とは逆にテナーが主旋律を吹き、トランペットがハーモニーに回ります。ドラムとベースが繰り出すグルーヴがカッコいいです!武道館の時にはErskineの叩くファンクが繊細ながらも幾分軽めに感じました。ソロの先発はRandy、in B♭でEマイナーを中心としつつ、分数コードによる緊張感を持たせ、サビでのDm7-G7-Cmaj7と言うトラディショナルなコード進行との対比が、ソロイストに継続性、ストーリー性をもたらします。作品「Straphangin’」ではMichaelが先発を務めましたが、81年に六本木Pit Innで行われたライブでは同様にRandyが1st soloの場合も多々ありました。ソロ本編ではwahを用いたり、発情期の猫の鳴き声のような(?)効果音も交え、Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ進行ではドミナント・モーション感を巧みに提示しながら、常にリズムのスイートスポットの見えている、彼ならではのソロを聴かせています。そして2番手Michaelの登場です。十分にスペースを取りながら助走態勢に始まり、走行安定後には猛烈にイメージを膨らませています。アドレナリンの分泌量が増大し、同時に脳内麻薬も出始めています!吹きたい事、チャレンジしたい事、昨晩とはまた違った世界を構築したい欲望とが渾然一体となり、しかし一切の躊躇、淀みはなく、自己主張を行う楽しさが全てに優先し、楽器は元より、マウスピース、リード等のソフトウエアの問題を全てクリアーした状態でSax Machineぶりを猛烈に披露しています!これだけ高速の演奏であれば普通乗用車ではなく、F1レース仕様スポーツカー並の精度の楽器セッティングが不可欠、楽器本体American Selmer MarkⅥ No.86351、マウスピースがBobby Dukoff D8ないし9番、リードはLa Voz Medium。エフェクターを使うために、ピックアップが施されたオリジナルとは別のネックに付け替えています。楽器本体、ネックはレース仕様ですが(笑)、マウスピースとリードはごく一般的な市販品の使用で、彼なりの調整が匠の技を生んでいると思います。しかし1曲目からこの調子で本人は元より、バンドメンバーは一夜持ち堪えられるのでしょうか?(汗)

Aurex Jazz Festival Jazz of the 80’s

Randyの曲紹介の後、2曲目はDetente収録のMichaelオリジナルTee’d Off、キャッチャーでいてしかし複雑な構成の曲調をライブにも関わらず、かなりオリジナルに忠実に再現しています。メロウな部分とBBらしいリズミック&ダンサブルなアンサンブルとのコンビネーションが絶妙です!コンポーザーによる先発ソロ、King Curtisやロックギターのテイストを交えながら華麗に歌い上げています。フラジオ音の当たり具合に時折問題が生じているようですが、これだけのヒット率ならばライブでは御の字でしょう。ですがクライマックスでは見事トラブルを克服し、フラジオ音の連発で巧みにまとめています。このソロの後に演奏するのは辛いのではないかと思いますが(汗)、続くFinnertyはむしろ委細構わず(笑)、フュージョン・ギター第一人者としての貫禄を素晴らしい音色で聴かせます。Randyのソロは無く、アンサンブルだけの参加に留まります。

3曲目もRandyのMCから始まります。曲はメンバー各自のソロを16小節づつ(作曲者Randyは8小節とアナウンスしていましたが…)トレードするのが目的のナンバーSponge、Heavy Metal Be-BopではTerry Bozzioの猛烈なドラミングのプッシュにより、とんでもない次元にまで演奏が盛り上がりました。こちらではまずRandyとMichaelの兄弟対決が行われます。Randyの一貫して知的、端正なアプローチに対し、弟はチャレンジャブルに、兄のソロの内容も視野に置きつつ、次第に熱を帯び始め、実に気持ちの入った入魂のフレージングの数々でバンドは元より、常にクールな兄を自分のペースにしっかりと巻き込んでいます!3’06″からのテナーソロの空白時間はエフェクターのツマミ調整に費やされたようで、その後のwahの掛かり具合が確実なものになりました。4’17″からのフレージング、実は運指が難しく、トレード中エキサイトしている時には更に難易度がアップする筈なのですが、Sax Machineにとってはいとも容易なようです。この頃のMichaelは他のサックス奏者がやらないようなリックを次々と編み出し、果敢に挑んでいたフシが伺えますが、発想が理科系ミュージシャンのなせる技でしょうか。続いてギターとキーボードのトレードが始まります。ここでのシンセサイザーの音色は懐かしいですね、おそらくProphet Ⅴを使用していると思いますが、アナログならではの暖かい、深みのあるサウンドが特徴です。Morales, Jasonふたりの徹底したサポートがあってこそ、ここでの大熱演が成立しました。誤解を恐れずにMoralesとBozzioのドラミングを比較するならば、MoralesはTony Williams的なパルスでの呼応、BozzioはElvin Jones的長いスパンでのレスポンスと言えると思います。

4曲目は本作中白眉の演奏、Michaelの代表的ナンバー Funky Sea, Funky Dew。Heavy Metal Be-Bopでの演奏も素晴らしかったですが、更に凌ぐこの曲を代表する名演奏が誕生しました。曲の持つ雰囲気はメロウさとファンキーさ、スパイス的に哀愁が加味され、C7ワンコードのセクションでは一転してハードロッカーに変身!曲構成のメリハリが堪りません!2’54″からMichaelが吹くフレーズはどこかで聴いたことがあると思っていると、これは「Return of the Brecker Brothers」1曲目のSong for Barryじゃあありませんか!!この曲は当初Guineaと言うタイトルが付けられていましたが、BB竹馬の友トロンボーン奏者Barry Rogersがアルバム制作の頃に急逝し、哀悼の意を込めて彼の得意なフレーズをモチーフに仕上げたそうです。この曲の印税の一部は遺族に送られる事にもなりました。

Return of the Brecker Brothers

Michaelのソロ、手がつけられないほどの絶絶、絶好調ぶりは何かが憑依して彼をコントロールしているに違いありません!続いてのギターソロもMichaelからのイマジネーションが作用し、白熱した演奏を聴かせますが、これまた何者かが憑依していると推測出来ます(笑)。ラストテーマを迎え、おきまりではありますがテナーサックのcadenzaソロになります。フェルマータ時にテナーの音量をグッと落とした時点でこれはかなりの長さのストーリーを展開するだろう、と暗示させます。この曲のキーがin B♭でBマイナーなのでドミナント・コードであるF#7を基本にフレージングを開始します。Heavy Metal Be-Bopでは”アルプス一万尺”のメロディを引用していましたが、今回はどうでしょう?ハイパーフレーズ連続の後にメロディらしいフレーズが聴こえて来ました。これは?えっと?何と! Coltraneのナンバー、Blues to Youじゃあありませんか!「Coltrane Plays the Blues」に収録されているin B♭でキーがC、F#の裏コードという解釈なのですね、流石です!

Coltrane Plays the Blues

その後ブルースフォームを辿りながらアカペラでソロをとり、Finnertyがバッキングを付け始めます。予定調和ではない、スポンテニアスな雰囲気に満ちた演奏、スリリングです!81年BB来日の際にも同曲でこのコーナーが設けられましたが、その時にはヴァージョンアップし、ブルースからリズム・チェンジのコード進行に変わり、リズム隊をバックに延々と吹きまくっていました!その後意外にもエフェクターのオクターヴァーを用いた重音、ハーモニー、自分の音をループさせながらその上でのやりとり、オクターヴァーの時間差を利用したフレージング、後年のEWIを使った独奏の原形がここで既に聴かれる訳です!更にキーBマイナーでの一人ファンクに今度はJasonも乱入し、メンバーMichaelの独演会に隙を見つけて何とか加わろうとしています。その後Michael極少の音量でFineのフレーズを吹きますが、キーボードは花火やイルミネーションと見紛うばかりのド派手なサウンドエフェクトを放ち、最後の最後にMichaelが再びループ音を鳴らすわで大変な騒ぎが収束しました。それにしても欧州ツアーで毎夜毎夜このレベルでのパフォーマンスを繰り出すMichael、プライヴェートでは大人しいナイスガイですが、ステージでは驚異的にタフな人です!

5曲目は再びDetenteからMichaelのナンバーI Don’t Know Either、Disc Oneは彼のオリジナルが中心と言う事になりました。哀愁を感じるメロディにはかなり難解なコード付けが成されています。Michaelが初めにメロディを吹き、その後これまたシンコペーションをこれでもかと活かした、分数コードが散りばめられたエグさまで感じられるサビのアンサンブル、2管編成にも関わらず分厚いサウンドを聴かせているのは、ハーモニー音のチョイスが的確なのでしょう、同時にFinnertyのギターも活躍しています。今度はRandyがメロディを担当、その後の構成は初めと同様です。ソロは引き続きRandyから、アッパーストラクチャー・トライアード系のヴァンプの上でスネークインしつつ始まります。一転して重厚なファンクのリズムへ、ミステリアスなムードに歩調を合わせつつ、自己の世界を構築し盛り上げていきます。リズムセクションとの様々なやり取りはライブ演奏の醍醐味です!Randyかなり長いスパンでソロを吹き、ほど良きところでアンサンブルへ、そしてコンポーザーの登場です。怪しげな雰囲気のサウドにマッチしたアウト感を提示、その後同様にヘヴィーファンクへ、wahを効果的に用いながらのソロは当夜用いたリックやアイデアを再演せず、全く新しいアプローチを披露しています!バンドもこれには「おお!」とばかりに入れ喰い状態で確実にキャッチ!まるで無尽蔵にワンコード・ソロのアイデアを持つかのようです!その後ヴァンプ、ラストテーマに入りますが一瞬出遅れてMichaelのテーマ奏、ひょっとしたらRandyの番だったか?と頭を過ったのかもしれません。エンディングが繰り返されますがカッコいいキメの連続、ギタリスト冥利に尽きるフレージングで、これはオイシイThe Crusadersのツアーをキャンセルした甲斐もあると言うもの(笑)、ニッコニコでギターを弾いているFinnertyの顔が浮かんで来ます。

Disc Two1曲目はHeavy Metal Be-Bopにも収録されていたRandy作の(変態?)ブルース・ナンバーInside Out、テーマ演奏の時点で既にメンバー全員ノリノリです!テーマの繰り返し時、11小節目にMichaelが吹くラインがBlues Brothes(笑)のイメージです!ソロ1番手はGray、初めの2コーラスはテーマのコード進行、その後スリーコードのブルースという、Heavey Metal Be-Bopでのスタイルを踏襲しています。2番手はRandy、オリジナルテイクの影を引き摺りつつ、そこは彼もsomething newを表現すべく果敢にトライしています。続くはMichael、この曲でも開始時からまた別なアプローチのヴィジョンが見えているようです。オリジナルではテーマのコード進行の後、延々とG7のワンコードでソロを展開していましたが、ここでは他のプレイヤーと同じくスリーコードのブルース進行でファンキーに、テキサス・テナー然としたアプローチを聴かせますが、おそらくフロント全員がソロを取るので比較的コンパクトに、とはいえ大胆にプレイを纏めているように感じました。続くFinnertyは自分の持つ表現力のテリトリーの範疇を最大限に広げた熱いソロを繰り広げています。その後ラストテーマを迎えます。

2曲目はDetente収録RandyのナンバーBaffled、前述のAurex Jazz Festival Jazz of the 80’sにも収録されています。ユニークな発想による斬新なメロディ、構成を湛えたファンクナンバー。スラップが効果的なベースパターン、多彩なギターのカッティング、微妙に変わるドラムのグルーヴ、Michaelのスペーシーな中でのフィルインソロ、様々な要素が渾然一体となったRandyの頭の中のような(笑)ナンバーです。テーマ後ドラムソロになり、ギターのミュートカッティングがパーカッション状態です!比較的長いドラムソロになりましたがツークラーベでバンドが復帰、 Randyのソロになります。ここでもいつになく本気のプレイ、バンドの音はかなりラウドだと思われますが、管楽器奏者にはかなり茨の道、多少のリズムラッシュはものともせず、キュー出しのためにオフマイクになりつつもラストテーマを迎えます。

3曲目Some Skunk Funk、BBのライブでこの曲を演奏しない訳にはいきません!オーディエンスの熱狂ぶりが感じられます。比較的穏やかなテンポが設定されました。テーマで時々テナーのメロディが霞んでいるのはおそらくエフェクターの調整のためだと思われます。周りの音量がデカいですからね。先発はもちろんMichael、さあさあ徹底的に、広大な草原をペンペン草も生えてないまでの荒野にすべく、とことん盛り上がって全て持って行ってくださいね!楽しみにしていますよ!との思惑が外れ、意外と小ぶりな内容で済ませました。次にJasonのソロが控えているので、彼フィーチャーと言う事で華を持たせるべく、自分の出番を抑えめにしようと言う目論見だったのかも知れませんが、テナーソロがとことんバーニングした後のベースソロもめちゃイケてると思うのですが?Jasonショウは素晴らしいタイム感、グルーヴで屋外のハードロックコンサート状態!その後カウントと共にラストテーマを迎えますが、本テイクは思い込みがあった分、他の収録曲に比べやや喰い足りなかった感じです。

4曲目Heavy Metal Be-Bop収録のナンバーEast River 、Jason他の作曲になります。この曲を用いた伝説のHeavy Metal Be-Bopプロモーションビデオでの くちパク、バンド横一列状態、Michaelのお茶目なパフォーマンス、youtubeにアップされているので未視聴の方々はゼヒご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=wnfhHamrULc

オリジナルにある程度忠実に演奏されていますが、ライブヴァージョンと言うこともあり、Jasonのボーカルの弾けぶり、ホーンセクションが吹くまた異なったフレーズ、オリジナルには無かったMichaelのソロ、これは実に気持ちの入ったMichael Breckerフレーズ炸裂のプレイです!続いてのFinnertyのソロ、ハードロックバンド以外の何物でもありません!おそらくメンバー全員によるコーラス、Jason, Randyの声は確認できますがMichaelはあまり声の大きな人ではないためか、歌っているのでしょうが残念ながら確認できません。その後意外性のあるメチャメチャイケてるエンディングのライン、これは大変に価値ある発掘だと思います!BBファンを長年やっていて良かったと思う瞬間です!

5曲目Don’t Get Funny with My Money、これまたレアな選曲、Detente収録のRandyのナンバーにして自身の唄をフィーチャーした名曲です!個人的にお気に入りのナンバー、この曲が収録されているのを発見した時は小踊りさえしてしまいました(笑)。晩年のMichael Brecker Quartetのメンバーを務めたベーシストChris Minh Dokyの99年リリース・リーダー作「Minh」に、大胆にもRandy本人を迎えてこの曲を再演しています。

Chris Minh Doky / Minh

前半は原曲と同様に演奏されますが、唄後のキーボードのソロ、そしてリフを挟み 何と!Randy, Michael, Finnertyの8小節トレードが開始されます!まさかこの曲で3人のバトルが聴けようとは!!その中で5’14″から始まるMichaelのGm7のフレージング(テナーサックス奏者には比較的ポピュラーになりますが)、これは何とWayne Shorterの「JuJu」収録MahjongでShorterが吹いているマンマじゃないですか!嬉しくなってしまいます!その後の4小節バースでもMichael君フリークトーンを連発!2小節バース、ソロ同時進行まで行きますか?この演奏からライブ当夜、バンドメンバー全員の充実感、完全燃焼ぶりを痛感することが出来ました!そして一度終わったと見せかけてクールに再び始まります!随所にMichaelが入れるフィルのセンスの素晴らしさ、願わくばこんなライブのオーディエンスになりたいものです!