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2020.06

2020.06.28 Sun

Captain Marvel / Stan Getz

今回はStan Getz1972年3月録音のリーダー作「Captain Marvel」を取り上げてみましょう。Billy Strayhorn作のバラード1曲を除き、全曲Chick Coreaのオリジナルを取り上げ、至高のメンバーと素晴らしい演奏を繰り広げています。

Recorded: March 3, 1972. A&R Studios, New York City Label: Columbia Producer: Stan Getz

ts)Stan Getz electric piano)Chick Corea b)Stanley Clarke ds)Tony Williams perc)Airto Moreira

1)La Fiesta 2)Five Hundred Miles High 3)Captain Marvel 4)Times Lie 5)Lush Life 6)Day Waves

ジャケット表面
ジャケット裏面

Getzの伝記「Stan Getz / A Life in Jazz: Donald L. Magginースタン・ゲッツ―音楽を生きる―村上春樹訳」によると、この作品録音の少し前、彼は生活が荒れて体調も優れない日々が続いていたようです。レジェンド・ジャズミュージシャンの伝記はその数だけ世の中に出回っていますが、Getzの場合も御多分に漏れず出版されており、日本ではジャズ通として名高い作家、村上春樹氏が翻訳を手掛け、微に入り細に入り的確な表現で読むことが出来ます。熱心なGetzファンの方ならこの本をご存知の事でしょう、ひょっとしたら座右の書にして彼の音楽的歩みを紐解きながら作品を鑑賞しているかも知れません。実は僕はその一人なのですが、前後作品との関連性と成り立ち、ミュージシャンやレコード会社とそのスタッフとの関わり、Getz自身の思い、家族との葛藤や愛情を辿りながら彼の作品を聴く事は、新たな発見や種明かしにも通じて、Getzの音楽を知る上での実に楽しい行為の一つです。それにしてもよくもこれだけ生々しく赤裸々に、全てを曝け出すように人生を吐露出来るのか、詳細に述べられている記述、Miles Davisの自伝の時もそうでしたが本人の驚異的な記憶力、また綿密な周囲へのリサーチ、事実関係の確認には頭が下がります。

神からの授かり物のようなあの美しいテナーサックスの音色、誰よりも表情豊かな演奏、完璧なタイム感とクリエイティヴなインプロヴィゼーション、聴く者を真善美の世界へと誘う創造性を全面に掲げたStan Getzですが、実は私生活は同一人物の行いとは想像できないほど真逆の世界なのです。ジキル博士とハイド氏、過度の飲酒行為に端を発する酒乱癖から(この頃はより症状が劣悪なドラッグ禍からは脱していましたが…)、家族に暴言を吐く、暴力を振るうGetzに対し、妻がこっそりと服用させていたアンタビュース(抗酒癖剤〜アルコール依存症で飲酒を控える必要がある人に対し、断酒を目的として処方される薬。少量の飲酒で動悸、吐き気、頭痛等の不快感を覚える)が功を奏し、71年末酒量は適度なレベルに落ち着き、69年末の危機的状況から肉体的にも芸術的にも回復を遂げていました。

本作レコーディングの少し前、GetzはNew Yorkの高名なレストランRainbow Grillとの間で好条件の出演契約を結び、72年1月3日から演奏が開始されることになっていたので、当時滞在していたLondonを引き払い自宅のあるNew York Shadow Brookに戻るべく準備をしていました。その時Londonの街角でばったりとChick Coreaに出会ったのですが、彼とは67年3月録音の名盤「Sweet Rain」で見事なコラボレーションを遂げた間柄です。Coreaはこの頃一時的に、言わば仕事にあぶれた状態だったので、Getzの姿が救世主に見えたかも知れません、彼に対し自分が作曲中の幾つかの曲について熱く語り、また一緒に演奏したいと考えている二人のNew Yorkのミュージシャンについてもその素晴らしさ説きました。Coreaの熱心さはGetzの心を動かし、新曲を完成させるようにと困窮しているCoreaに金銭的援助を施し、12月後半にその仲間を連れてShadow Brookに来るように、そこでリハーサルをしようと決めたのでした。ストレスによる飲酒行為から離れた、クリーンな状態のGetzはまさしく彼のテナーサックスのサウンドと同様の、思慮深く知的で他人を思いやる心に満ちた紳士なのです。ちょうど欧州を離れる前にGetzは5年連続でSonny Rollinsを破って<ダウンビート>誌の人気投票で首位に輝いた事を知りました。時代の波はGetzに向かっていたのです。

CoreaがGetzの自宅に連れてきたのはStanley ClarkeとAirto Moreiraの二人で、Coreaを含めるとピアノトリオが出来上がり、そこにGetzを加えたカルテットで自分の曲を演奏するという目論見があったのでしょう。Clarkeは70年にHorace Silverのバンドで演奏しているところをCoreaに見染められ、MoreiraはMiles Davis Bandでの共演仲間でした。GetzはCoreaの新曲を大変気に入りました。「 Sweet Rain」収録とは異なり、今回用意されたナンバーは曲自体の構成もより明確に、メッセージ色が強くなり、またスパニッシュのムードをたたえた斬新なコンセプトから成ります。Clarkeのベースプレイにも感心しましたが、Moreiraのパーカッショニストとしての実力は認めたものの、ドラマーとしての伴奏能力には物足りなさを覚えたので、レコーディングに際して名ドラマーTony Williamsを起用し、Moreiraはバンドのパーカッシヴな領域を広げる役に配して対応することにしました。TonyはGetzの演奏に確実に寄り添う形で、しかも驚異的なセンスとパワーを兼ね備えたドラミングを披露し、MoreiraはTonyを補強しつつよりカラーリングする役割を担当、Clarkeのベースともコンビネーションの良さを聴かせ、結果この采配は大成功となりました。このメンバーでのRainbow Grillでの演奏は大変な評判を呼び、彼ら自身もCoreaのオリジナルという新鮮な素材を文字通りグリルし、じっくりと煮詰めて行くことが出来たので、レコーディングへの良いリハーサルとなりました。

それでは演奏に触れて行きたいと思います。1曲目はCoreaの書いた名曲中の名曲La Fiesta、本作録音のちょうど1ヶ月後の2月2〜3日、レコーディング・スタジオも全く同じNYC A&Rスタジオにて彼の代表作「Return to Forever」が録音されましたが、レコードのSide Bにおいて組曲形式でLa Fiestaを再録音しています。Coreaはやはり全曲エレクトリック・ピアノを弾き、サックス奏者にJoe Farrell、パーカッションを担当していたMoreiraがドラムの椅子に座り、そのMoreiraの奥方Flora Purimがボーカルを担当、Tonyのドラムは参加せず5人編成の演奏で、70年代を代表するアルバムが録音されたのです。以降作品タイトルReturn to Foreverをバンド名とし、メンバーチェンジを繰り返しながらギタリストを加えたり様々な編成にトライしつつ、次第にエレクトリック色が濃くなり、精力的な活動で計11作をリリースして。

Fender Rhodesによるイントロに導かれベース、ドラム、パーカッションが同時に加わりますがこの時点でリズミックなテンションが炸裂しています。Moreiraにパーカッションを演奏させたGetzの目利きにまず感心させられますが、様々な打楽器を駆使して繰り出すリズムの饗宴!Tonyにリズムの要、Getzの演奏への対応をほぼ一任し、Moreiraは細かい8分の6拍子を担当、リズムの祭り(Fiesta)を華やかに演じます!裏メロと思しきラインをCoreaが弾き、被るようにGetzによる主旋律が登場します。1ヶ月後の「Return to Forever」でのJoe Farrellによる演奏はソプラノサックスによるもの、こちらも実によく耳にしたメロディ奏なので違いがはっきりと伝わって来ますが、Getz特有のくぐもったハスキーな音色は奥行きを感じさせ、名曲は如何様にしても異なった魅力を発揮すると再認識しました。幾つかのメロディセクションから成るこの曲の、場面毎のリズムセクションのダイナミクス付け、グルーヴの変化に繊細さと大胆さを感じますし、Clarkeの変幻自在なベースラインの見事さには天賦の才を見せつけられました!スパニッシュ・モードから成るソロセクション、こちらはCoreaの歴代オリジナルに用いられていたパートの発展形と言えます。「Now He Sings, Now He Sobs」収録のSteps – What Was、「Sweet Rain」収録のWindows、両曲で部分的に聴かれていたスパニッシュ・モードを大胆に、全面に押し出し、結果その代表曲となり、そして同年10月に録音された「Lght as a Feather」収録、Coreaの代表曲にして傑作ナンバーSpainへと繋がって行きます。

前半序奏部Getzはムード作りに細かいライン、テクニックを用い場を温めて行きます。とは言え曲自体の持つテンションが高いのでリズム隊のポテンシャルは一触即発状態ですが!Coreaのバッキングは付かず離れずをキープしつつ、全くバッキングを行わない場面も設けながらGetzを泳がせているのですが、いつもとは異なる斬新なアプローチを聴かせる彼の演奏にどうバイト(噛み付く)するかを虎視淡々と狙っています!3’23″頃からソロの佳境に入ったのを察知しまさしく第二楽章に突入、3’29″からのCoreaのバッキング、3’46″からテナーの低音域でのメロディ奏、一転して4’03″からオクターヴ上げてのメロディに対し、Corea果敢にして大胆にバッキングを施し、Tonyも場面作りに賛同するが如くアプローチします!次なる異なったセクションに全くスムースに突入出来るのは、Rainbow Grillでのギグを重ねた結果に他ならないでしょう。Clarke, Tonyの「えっ?ここまでやっちゃうの?」と言う次元の伴奏にはリスナーとして姿勢を正し、背筋を伸ばして正座しながら音楽に対峙しなければなりません(笑)!続くCoreaのソロの凄まじい事と言ったら!Getzのフィーヴァーぶり(死語ですね)を受け継いだのですからこれは致し方ない事ですが(笑)、フリージャズの世界に突入せんばかりの勢いは、思わず70年頃に彼の率いていたバンドCircleでの演奏を思い出しました。

Anthony Braxton, Corea, Dave Holland, Barry AltschulによるCircleのパリでのライブ盤

リズムセクションはCoreaと一丸となってグルーヴを共有し盛り上がっています。時間的制約のないRainbow Grillのライブではさらに物凄い事になっていたのでしょうが。ラストテーマでもリズム隊はメロディラインや曲の構成を更にデコレーションを施すべく、聴いていて笑いが出る程に巧みにアンサンブルして行きます!エンディングはゼンマイ仕掛けの猿の人形、両手で派手に叩くシンバルが次第にゆっくりに成るが如く、リタルダンドしてFineです。

本作録音の頃Getzは20年間在籍していたVerve Recordを離れ、より良い条件のColumbia Recordに移籍するべく交渉を行っていましたが、スムーズにはまとまらず、その結果アルバムの発売は3年近く遅れることになり、発売権も米国内市場ではColumbiaが、以外の海外市場ではVerveが発売権利を持つややこしい事態となりました。本作が録音順で「Return to Forever」よりも先にリリースされていれば、La FiestaはGetzヴァージョンの方がポピュラー、定番になっていたに違いありません。個人的には演奏内容はこちらの方に軍配が上がると信じているだけに、些か残念な話です。

2曲目のFive Hundred Miles High、エレクトリック・ピアノが弾くテーマ・メロディのルパートがイントロとなり、リズムを提示し曲が始まります。Even 8thのリズムで哀愁を感じさせるメロディ、Coreaにしては比較的シンプルなオリジナルですがよく練られた構成のナンバーです。Getzのメロディ奏は的を得ていて、ソロも実に巧みです!50年代〜60年代のスタイルとは全く異なる、変化を遂げているのを実感しました。ソロの3コーラス目から倍のグルーヴ、サンバにチェンジしますが4コーラス目3’04″から、Tonyの煽り方の凄まじい事!かつて僕が在籍していたドラマー日野元彦(トコ)さんのバンド、音楽としてはフュージョンを演奏していましたが、ここでのTonyの演奏をトコさんずいぶんと研究した節が窺われます。ソロイストに寄り添い、フォローしつつ、様子を伺い隙なく一瞬を捉えて違う次元に演奏をワープさせるが如きドラミング、二人は同じコンセプトをたたえたドラマーでした。随所に聴かれるMoreiraのパーカッションは様々な色合いを感じさせ、爽快感を覚えます。Coreaのソロでもサンバのリズムが聴かれますが、テナーソロ時とはまた異なった音が鳴り響いています。Clarkeのベースソロは超絶で饒舌はありますが、必然性と意外性を旗頭に自身の歌を聴かせています。ラストテーマに入る前のTonyのバスドラ、カッコイイですね!ラストテーマで所々に演奏中表出したサンバが出るあたりもニクイです!それにしてもTonyとClarkeの相性の良さを痛感しますが、Tonyのラスト作になった95年12月録音「Wildernesss」、彼自身の作曲になるストリングス・オーケストラの演奏もフィーチャーした意欲作ですが参加メンバーがオールスターズ、Michael Brecker, Pat Metheny, Herbie Hancock, そしてStanley Clarke!二人のコラボは長年に渡り継続していたようです。

3曲目は表題曲Captain Marvel、リズミックなテーマとサンバのリズム、ラテンのmontunoのパターンが組み合わされたユニークなナンバー、こういった曲を収録するのであれば尚更の事、パーカッションが必要になって来ますね。リズム隊のコンビネーションが心地よく聴こえますが、曲のコード進行や構成のハードルがかなり高く設定されているようで、アドリブを発展させるのはなかなか難しいようです。比較的あっさりと演奏され、コンパクトにまとめられた感があります。03年にリリースされたCDにはこの曲の別テイクが収録されていますが幾分テンポが早めに設定され、Getz, Coreaも全く違ったアプローチを聴かせています。

4曲目Times Lieはワルツで始まり、3拍を4拍子に捉えたサンバにリズム・モジュレーションする構成のナンバー。パーカッションの味付けが巧みです。Coreaの演奏が軸となり、印象的かつ難易度が高そうなシンコペーションのメロディがアクセントで入り、再度演奏後にテナーソロ開始、場を活性化させるべくリズミックなアプローチにトライしており、ここでもCoreaのバッキングの付かず離れず感が印象的です。次第に収束に向かい、冒頭のワルツに戻るという、ストーリー仕立ての演奏です。最後はゆったりとしたラテンのリズムになり、なし崩し的にFineです。

5曲目はBilly Strayhornの名曲Lush Life、Getzはバラードの名手でもありますし、時期限定で取り上げる曲のチョイスが素敵です。バースはルパートで始まり、エレピとアルコが伴奏を努めます。テーマからインテンポでTonyがブラシを携え参加しますが既に倍テンポの様相を呈しており、いきなりスティックが登場して一瞬スイングのリズムになりますが、すぐさまリタルダンド、演奏終了です。ちなみにTonyのバラード演奏でブラシを一切使わず初めからスティックを用いて行われているのが、76年録音作品「I’m Old Fashioned : Sadao Watanabe with the Great Jazz Trio」に収録されている、同じくStrayhorn作Chelsea Bridge です。外連味のないストレートな演奏に仕上がっていますが、印象的なナンバーです。

6曲目はラストを飾るDay Waves、こちらもEven 8thのリズム、テーマでダイナミクスが強調されています。Getzが吹くラインで倍テンポが決まりますが、構成がやや平坦なきらいがあり、他の曲でも倍テンポチェンジは行われているので、何が何でも倍テンにせずにじっと元のリズムでステイして、アプローチするのも良かったと思うのですが。ピアノ、ベースとソロが行われ、ラストテーマもGetzダイナミクスを思いっきり強調してFineです。

2020.06.17 Wed

Milagro / Alan Pasqua

今回はピアニストAlan Pasquaの1993年初リーダー作「Milagro」を取り上げてみましょう。Jack DeJohnette, Dave Hollandらの素晴らしいリズムセクションにMichael Breckerがゲスト参加、名曲揃いのオリジナルで盛り上がり、時にユニークな楽器構成のホーン・アンサンブルも加えて美しく荘厳な世界を作り上げています。

Recorded on October 10 and 11, 1993, at Sound on Sound, New York City.

Produced by Ralph Simon. Associate Producer: Joe Barbaria. Executive Producer: Sibyl R. Golden.

p)Alan Pasqua b)Dave Holland ds)Jack DeJohnette ts)Michael Brecker french horn)John Clark tp, flg)Willie Olenick alt-fl)Roger Rosenberg tb, btb)Jack Schatz bcl)Dave Tofani

1)Acoma 2)Rio Grande 3)A Sleeping Child 4)The Law of Diminishing Returns 5)Twilight 6)All of You 7)Milagro 8)L’Inverno 9)Heartland 10)I’ll Take You Home Again, Kathleen(For My Kathleen)

Alan Pasquaは1952年6月28日New Jersey生まれ。Indiana UniversityとNew England Conservatory of Musicで学び、レジェンド・ピアニストであるJaki Byardにも師事したそうです。彼のプレイの根底にあるものはJazzであり、Tony Williams, Peter Erskine(現在も共演は継続中、Peterとは学生時代の仲間だそうです), Allan Holdsworthたち錚々たるジャズマンとの共演は当然の流れによるものですが、Bob Dylan, Carlos Santana, Cher, Michael Buble, Joe Walsh, Pat Benatar, Rick Springfield, John Fogerty, Ray Charles, Aretha Franklin, Elton Johnら世界的大御所ポップ、ロック・ミュージシャンのバンドで全世界ツアーを重ねています。またJohn Williams, Quincy Jones, Dave Grusin, Jerry Goldsmith, Henry Manciniら名アレンジャーともコラボレーションを重ね、Disneyの映画音楽、CBS Evening Newsのテーマ音楽を手掛けるなど、Show Businessの世界でも八面六臂の活躍ぶりです。音楽的な幅の広さが為せる技以外の何物でもありませんが、彼にとってみればジャンルやフィールドは関係なく、良い演奏、表現をする事だけが全てなのだと思います。ミュージシャンとして全世界を駆け巡っている以上様々な体験をしているはずですが、その中でも近年の特筆すべき経歴として、2017年Bob Dylanのノーベル文学賞受賞に際しての講演(受賞講演が受賞にあたって唯一の条件で、授賞式2016年12月10日から6カ月以内に行わなければならない)は録音されたもので行われましたが、その際にPasquaがソロピアノ演奏を行ったそうです。Pasquaには大御所たちにアピールする音楽的な何かがあり、彼と一緒に演奏したい、メンバーに留めて置きたいと感じさせる魅力に溢れているのでしょう。41歳にしての初リーダー作録音は大御所ミュージシャンから引く手数多ゆえ、なかなか自己表現にまで手が回らなかったからでしょうか。

この作品ではJack DeJohnette, Dave Hollandとのトリオ演奏を中核として、他にフレンチホルン、トランペット&フリューゲルホルン、アルトフルート、バスクラリネットから成る、比較的弱音の管楽器を用いてのアンサンブルが4曲収録されていますが、ここでイメージさせられるのがHerbie Hancockの68年録音リーダー作「Speak Like a Child」です。この作品では同様にアルト・フルート、フリューゲルホルン、バストロンボーンの3管編成が、斬新にして深淵、柔らかさとふくよかさが半端ないアンサンブルを聴かせており、Hancockのピアノプレイをとことんバックアップし、サウンドを立体的に浮かび上がらせています。ピアノトリオ演奏を他の楽器を用いて映えさせる手立てとして、例えばトランペット、サックス、トロンボーンによるトラッドなアンサンブルではエッジが立ち過ぎてピアノの演奏を打ち消す、埋もれさせてしまうでしょうし、ストリングス・セクションではバラード等のゆっくりとした曲にはむしろうってつけですが、テンポのある演奏には切れ味がどうしても鈍くなる傾向にあります。Hancockのシャープでスピード感のある演奏には管楽器の音の立ち上がりを持ってして丁度良く、そこで楽器編成に工夫を重ね、凝らした結果が「Speak Like ~」での管楽器構成になったのだと推測しています。とあるピアニストが「 Speak Like ~」はピアノトリオを自己表現の媒体とするプレーヤーにとって、ある種理想の形態だと発言していましたが、まさしく言い得て妙だと思います。

それでは収録曲に触れて行きましょう、2曲を除き全てPasquaのオリジナルになります。1曲目Acoma、ピアノトリオでの演奏です。美しい音色で奏でられる印象派的イントロ、そこにベースやドラムが次第に加わります。テンポを設定しつつ曲が始まりますがピアノタッチの素晴らしさに惹きつけられてしまいます!演奏をアピールするためには楽器の音色(ねいろ)は最重要項目だと改めて実感しました。端正な8分音符とグルーヴ感、ベース、ドラムスとのコンビネーション、インタープレイ、三者の一体感、Dominant 7thコードでのフレージングの巧みさ、百戦錬磨のツワモノを印象付けます。ソロは次第に終息に向け着陸態勢を取り、無事にランディング、続くベーシストの出番のために場を刷新した感があります。Hollandのソロのこれまた素晴らしいこと!安定感とスポンテーニアスな歌い回し、楽器が上手いのは至極当然なのですが、テクニックとは自分の歌を歌うための単なる手段に過ぎない事を、これまた改めて感じました。DeJohnetteの巧みなサポート、カラーリング、抜群のセンスで繰り出されるフィルイン、フレーズの数々は自然体という言葉が全く相応しく、ジャズ史上誰よりも1拍が長い演奏にトリオ全員が呼応し、両者「がっぷり四つ」ならぬ三者「がっぷり六つ」状態となりました(爆)。

2曲目Rio Grande、イーヴン8thのリズム、タイトル通りの雄大なイメージ(スペイン語で大きな川の意味)を感じさせます。本作中最も演奏者数の多い曲で、ソロイストにMichael Breckerを迎え、4管からなるアンサンブルが参加しています。長い音符の多いテーマをダイナミクスを交え、朗々と吹くMichael、DeJohnetteのタム系でのアクセント付けの絶妙さ。ソロの先発はピアノ、ボトム感が半端ないスペーシーさを保ちつつ、現れるホーン・アンサンブルの美しさ、ゴージャスさ、ピアノサウンドとの見事な一体感、Pasquaの狙いはBingoです!と同時にドラムが的確にフィルを入れ、場が活性化されて行きます。テナーソロに受け継がれ、やはりスペーシーに音楽が進行しつつ、間も無く再びアンサンブルが加わりますが、このサウンドに呼応してMichaelのプレイが変化し始めます。ラインが細かくなりインサイドからアウトサイドに、音域も広がり、自身は周りで鳴っている音を柔軟に全て受け入れ、いずれにも可能な限り呼応すべく門戸を全開にしようと試みているようにも、感じられます。そしてそして、これらの事象に果敢に立ち向かうかのように、音空間を創り上げるDeJohnetteのドラムプレイ!音楽を真摯にクリエイトしていますが、余裕とさり気に遊び心を保ち、達人たちを巻き込んでの音の饗宴は華々しく挙行され、悠久の流れをたたえる大きな川は今日も水源San Juan山地に発し、Mexico湾に注いでいます。

3曲目ピアノトリオによるA Sleeping Child、タイトルからもイメージされますが可愛らしさを湛えたワルツナンバーで、透徹な美学に貫かれた佳曲です。テーマ〜ソロをPasquaは音を愛おしむように一音一音、気持ちを込めて弾いているのが伝わってきますが、自分の子供へ捧げたナンバーなのかも知れません。Chick Coreaのテイストを感じさせる瞬間も幾つか確認できます。Hollandのソロは曲のイメージに相応しいクリアネスを保ちつつ、ディープな音色を携えて歌い上げています。DeJohnetteが叩く全ての音符に意味があり、サウンドし、ソロイストに対する呼応は高度な音楽性を伴ってのインタープレイとなりました。

4曲目Michaelを迎えてカルテットで演奏されるThe Law of Diminishing Returns、これは!!タイトルもですが物凄い曲!そして壮絶な演奏です!タイトルは経済学用語で「収穫逓減」を意味するらしいですが、意味はよく分かりません(汗)。テーマの構成は複数のフラグメントが組み合わされつつ複雑に入り組み、しかし事も無げに同時進行し、完璧なバランス感がキープされつつ実にスリリングに演奏されます。要となるのはDeJohnetteのドラム、各フラグメントの接着剤となるべく巧みなフィルインの連続、間違いなくこの人の存在なくしては楽曲は成り立たなかったでしょう!ソロの先発はPasqua、曲が凄けりゃ演奏は更に物凄いとばかりに集中力と繊細さと大胆さを武器に、百戦錬磨のツワモノたちDeJohnetteとHollandをパートナーに究極の共同作業を行います!う〜ん、素晴らしいです!でも、え?終わりですか?もっと聴きたい!と言う腹八分目のところでMichaelのソロになります。彼のゲスト参加での傾向の一つとして、リーダーのソロが自分の前に行なわれた場合、リーダーの演奏を立ててそこでの盛り上がり以上にはならないように、抑制を効かせる場合があります。2曲目Rio Grandeでは若干その傾向がありましたが、こちらではどうでしょう、Pasquaの幾分抑えめのソロ終了時にメッセージで「Go ahead, Mike!」とオペレーションの指示があったようです(笑)。ピアノソロのイメージを受け継ぎ、Michael助走を始めます。リズムセクションにサポートされつつHop, Step, Jumpと飛翔を遂げますが、DeJohnetteの一触即発体制でのレスポンスが堪りません!決して定形での対処ではなく、極めて不定形での自然発生的な呼応の数々、そしてPasquaのバッキングも緻密さを前面に出しつつ、ドラムの呼応に被ることを決してせず、異なる切り口からMichaelのソロをプッシュし続けます!と言うことで共演者の大いなる支援を得て(笑)、Michaelフリーキーにイってます!!その後のソロコーラスを用いてのドラムソロ、いや〜ヤバイくらいにカッコ良いです!ここでのDeJohnette, Hollandとの共演の手応えが同メンバーにPat Metheny, McCoy Tyner, Joey Calderazzo, Don Aliasを加えたMichael1996年リリースの傑作「Tales From the Hudson」へと繋がって行きます。エンディングでのDeJohnette、まだ曲が続くと勘違いしたのでしょうか、珍しく中途半端な終わり方をしています(汗)

5曲目Twilightは再びアンサンブルが活躍、ここでは3管編成を加えた演奏になります。アルトフルートを吹くRoger Rosenbergは本来バリトンサックス奏者ですが、マルチリード・プレイヤー、スタジオ・ミュージシャンとしても活躍しています。Michael Breckerとは高校時代のご学友、Michaelの初レコーディング(!)にあたる「Ramblerney ’66」の裏ジャケットに17歳のMichaelとRosenbergそしてRichie Coleも写真に収まっています。

Roger Rosenberg, Barry Lewis, Richie Cole, Mike Brecker, Lou Markowitz, Walter Kross

ホーンの響きと楽曲のムードが見事にマッチした佳曲、Hollandのベースがフィーチャーされます。ここでのPasquaのバッキングは危ないですね(笑)!ハーモニーのセンス、フレージング、コードが入るポイントが普通ではありません。この人のバッキングはあまりソロイストに付けることをせず、自分のペースでバッキングを行いますが、不思議と邪魔をせずサウンドし、付かず離れずを徹底させていると思います。続くピアノソロも同一のテイストを継続させ、ほど良きところでアンサンブルが加わります。ピアニスト冥利に尽きる演奏となりました。

6曲目スタンダードナンバーでCole Porter作の名曲All of You、比較的早めのテンポが設定されています。コードのリハーモナイズ感、フィルイン、アドリブラインの独特さ、DeJohnette, Hollandの目も覚めるような伴奏により、この曲のまた別な名演が誕生しました。Hollandのソロも素晴らしいです!それにしてもDeJohnetteは曲想によって演奏アプローチ、叩き方をどうしてこうも見事に変えることが出来るのでしょうか?これ以上は考えられないという程の的確さにいつもシビれてしまいます!

7曲目表題曲Milagro、ベースのイントロから曲が始まり、南欧を思わせるピアノとベースのユニゾン・メロディ、サウンドに4管から成る重厚なアンサンブルが加わり、クラシックの交響曲のごとき神聖で厳かな世界が訪れます!この時点で音楽に感動、そして感動です!何と美しい楽曲でしょう!そしてDeJohnetteのカラーリングがあまりにハマり過ぎています!Pasquaはロック・ポップスの大御所たちとのギグに長年惚けていた訳では決してありませんでした(笑)!自己の表現すべき音楽をずっと模索し、表出する機会を虎視眈々と狙っていたに違いありません。ピアノソロが前面的にフィーチャーされますが、欧州的サウンドとDeJohnetteのドラミングからKeith Jarrett Trioの演奏を感じさせる瞬間がありました。Milagroとはスペイン語で奇跡、Pasquaは音楽で奇跡を起こしたのです!

8曲目再びMichaelを迎えL’Inverno、ピアノイントロ後で聴こえる高音域のテナーサックスの音色が一瞬何の楽器だろう?と考えてしまいました。美しいバラードですがこの曲も一筋縄ではいかないナンバーです。ベースソロが先発、豊かな木の音がベーシストとしての本領をいつもわきまえている事を感じさせます。続くMichaelのソロには神秘的なまでに美しい世界を構築していますが、ピアノのバッキングに身を委ね、イマジネーションをフル回転させ、Pasquaのサウンドに同化しつつ、しかし自己のテイストも表現しようとするアーティスティックさも感じました。もちろんDeJohnette, Hollandの包容力あるサポートがあってのことですが。

9曲目Heartlandは3管編成によるアンサンブルを活かしたナンバーですが、シンプルなメロディに付けられた相反するが如きハイパーなコードと、ホーンのアンサンブルのハーモニーがヤバ過ぎです!ところが最後にトニック・コードにストンと落ち着く辺りの絶妙さは、ちょっとこれ、ありえへんレベルとちゃいまっか?… なぜか関西弁になってしまうほどのインパクトです!(爆)。イントロやインタールードでフルートを吹くRosenbergのフィルインが聴かれ、アンサンブルでのバストロンボーンが重厚さをアピールします。まずピアノソロがフィーチャーされますがリアル「Speak Like a Child」状態、ホーンアンサンブルが実に心地よいのですが、ベース、ドラムのインタープレイも凄まじいまでの主張を聴かせます。Pasquaのソロはリリカルで知的、かつ気持ち良く演奏している様が伺えます。続くベースソロも攻めまくっていますが、曲の持つムードとコード進行、ピアノソロ時のトリオのコンビネーション、アンサンブルの重厚さなどがHollandのスインガー魂を刺激した結果なのでしょう。

10曲目I’ll Take You Home Again, Kathleen(For My Kathleen)は作品のエピローグとして、愛する奥方でしょうか?捧げられた演奏になります。古い米国のポピュラーソング、Elvis Presleyの歌唱で知られているようです。

2020.06.10 Wed

Triple Threat / Jimmy Heath

今回はテナーサックス奏者Jimmy Heath 1962年録音のリーダー作「Triple Threat」を取り上げて見ましょう。佳曲揃いのオリジナルと3管編成のアレンジが光った作品に仕上がっています。

Recorded: January 4 & 7, 1962 at Plaza Sound Studios, New York City Produced by Orrin Keepnews Label: Riverside / RLP 400

ts)Jimmy Heath tp)Freddie Hubbard French Horn)Julius Watkins p)Cedar Walton b)Percy Heath ds)Albert “Tootie” Heath

1)Gemini 2)Bruh Slim 3)Goodbye 4)Dew and Mud 5)Make Someone Happy 6)The More I See You 7)Prospecting

Jimmy Heathは1926年10月25日数多くのジャズマンを輩出したPhiladelphia生まれ、家族全員が音楽家という環境で育ちました。本作参加のベーシストPercyは長兄、ドラマーAlbertは弟でHeath三兄弟として名高く、同じくPhiladelphia出身のピアニストStanley Cowellを加えたカルテット編成で、The Heath Brothersとしてもパーマネントに活動し、75年作品「Marchin’ On!」を皮切りに計10作をリリースしました。兄弟、親子関係でバンドを組む、共演するミュージシャンは多く、同じ屋根の下で寝食を共にし価値観を共有したゆえに音楽的嗜好、センス、そしてタイム感、グルーヴが似る傾向があると思います。Heath兄弟も多分に漏れません。やはり同世代で大活躍したHank, Thad, ElvinのJones三兄弟の場合は、三者三様の全く違う音楽性や卓越した個性ゆえに例外的な存在かも知れませんが、ジャズシーン第一線で活躍し続けた各々の楽器のエキスパートと言う点では、同じ立ち位置にいました。

The Heath Brothers 75年作品「Martin’ On」

Jimmyはテナーサックス奏者であると同時に優れたコンポーザー、アレンジャーでもあります。彼の魅力的なオリジナルは他のジャズマンにも好んで取り上げられ、Miles Davis66年録音作品「Miles Smiles」でGinger Bread Boyを、53年録音「Miles Davis Vol.1」、Lee Morgan57年録音「Candy」、時代はグッと新しくなり93年Chick Corea Elektric Band Ⅱ「Paint the World」でC. T. A.が演奏されています。

アレンジャーとしては56年10月26日録音Chet Bakerのリーダー作「Chet Baker Big Band」(実際にはフルバンドよりも人数の少ないビッグコンボ編成)で3曲素晴らしいアレンジを提供し(Art Pepprのリードアルトが実に美しいです!)、間髪を入れず今度はコンポーザー / アレンジャーとしての手腕を存分に発揮し、5日後の同月31日Chet BakerとArt Pepperの共同名義コンボ作品「Playboys」に本人不参加にも関わらず収録7曲中5曲彼のオリジナルが取り上げられ録音、テナーサックスにPhil Ursoを加えた3管編成による重厚でオシャレなアンサンブルを書いています。因みにこちらでもC. T. A.が演奏されています。

50年代以降のテナーサックス奏者の多くは演奏の他に作曲の才能も開花させています。John Coltrane然り、Benny Golson, Sonny Rollins, Wayne Shorter, Joe Henderson…彼らの演奏スタイルとテナーの音色、ライティングは見事に一致し三位一体、濃密なこれらは切っても切り離せない関係にあります。Jimmy Heathの作曲の才も彼ら歴史に名を連ねるテナータイタン達のそれに十分並び称されますし、3管編成〜ビッグバンドのアレンジにも素晴らしいセンスを発揮しています。ソロプレイでの押しの強さに加えてそこに作曲・アレンジと同等のセンス、音色の魅力がアピール出来たのなら、よりジャズ界に君臨していた事でしょう。

Heath Brothers以外のメンバー、まずFreddie Hubbardの本作全篇に渡る絶好調ぶりは特筆すべきです!当時の彼は60年にOrnette Coleman、61年John Coltraneとの共演を果たし、62年からLee Morganの後釜としてArt Blakey & the Jazz Messengersに参加しており、サイドマンとして十二分に実力を発揮できる経験を積んでおり、ブリリアントでジャジーな音色、正確無比でグルーヴィーなタイム感、迸るアイデア満載のインプロヴィゼーションは聴く者を魅了してやみません。ジャズには珍しいFrench Horn奏者のJulius Watkinsは40年代末から70年にかけて、実に多くの作品に参加しアンサンブルはもちろん、難易度の高い楽器を巧みに駆使し味わいあるソロを聴かせました。ピアニストCedar Waltonも当時すでにJazz Messengersの一員、それまでにもKenny Dorhamのバンド、ColtraneのGiant Steps初テイクセッションやArt Farmer & Benny Golson the Jazztetに参加し、頭角を表していました。

それでは演奏に触れていきたいと思います。1曲目はJimmyのオリジナルGemini、フレンチホルンとベースによる印象的なイントロに導かれピアノトリオによる3拍子のイントロが始まります。メロディをフレンチホルンが演奏し、トランペットとテナーがコール&レスポンス状態で受け答えます。ホーンのジャジーなアンサンブルが緻密で美しいです。Hubbardの先発ソロ、オープニングに相応しい切り口と華麗でブリリアントなサウンドで掴みを良しとしました。対旋律が施されたセカンドリフ後テナーソロは、同年生まれのColtraneのテイストがどうしても頭を過るのかも知れません、フレージングの端々に影響を感じさせます。その後のWatkinsのソロは、朴訥とした中にMilesのミュート・トランペットのような味わいを感じさせます。その後のリフはまた異なったセクションから成り、斬新でスリリングなラインから改めて彼のペンの巧みさを感じます。ピアノソロに続きラストテーマへ、曲の構成や的確なアンサンブルを聴かせたオープニング・ナンバーは作品の雰囲気を決定付けました。

2曲目もJimmyのオリジナルBruh Slim、こちらもジャズフレーヴァー満載の佳曲です!Ginger Bread Boyのメロディをどこか感じさせるイントロ、リズムセクションとメロディのシンコペーションを共有しつつ、テーマでは歯切れ良く重厚なアンサンブルを聴かせ、テナーソロに入ります。シングルタンギングによるイーヴンな8分音符、テンションノートを要所に織り込みつつブロウします。良く言えば優等生的アプローチ、ですがジャズマンに要求される予定調和ではない弾けた意外性も聴きたいところではあります。続くトランペットソロは対照的にホットでチャレンジャブル、エネルギッシュな演奏を聴かせます。彼らの対比がこういったアンサンブルを挟んだ短いアドリブの応酬を中心にしたプレイには、むしろ効果的かも知れません。ピアノソロを経てラストテーマへ、3管編成のハーモニーはトップにトランペット、フレンチホルンが第2声、テナーが低音部を担当しています。

3曲目Goodbyeは作曲家Gordon Jenkinsによる、The Benny Goodman Orchestraのクロージング・テーマに用いられていたナンバーです。Goodmanは50年以上もこの曲を気に入ってコンサートの締めに演奏し続けました。哀愁を帯びたメロディから成るこの曲はJimmy自身をフィーチャーしています。イントロではフレンチホルンがリードを取り、まろやかで繊細なハーモニーが鳴っており、アレンジ采配の妙を感じます。テーマからソロ中にテナーも参加したアンサンブルが聴かれます。トランペットのソロが続きますが流石バラード表現に不可欠な音量の大小が的確で、イマジネーションに富んだプレイを聴かせています。少し間があってからピアノソロに入り、ラストテーマでテナーのカデンツァが演奏されFineです。

4曲目JimmyのナンバーDew and Mud、1コーラスのドラムソロからイントロが始まるブルースナンバーです。この曲でもJimmyのホーン・ハーモニー・ライティングと管楽器の用い方はマトを得ており、サウンドを熟知したアレンジャー然としたものを感じます。テナーが先発ソロ、本作中最もホットなテイストを感じさせる演奏です。Watkinsのソロが続き、意表を突くメロディラインを用いたセカンドリフの後、これまたトランペットが場面を刷新するが如き入り方を用いたソロ、カッコいいですね!ファンキーなテイストのピアノソロを経て、ラストテーマへ。エンディングのキメもグッドです!

5曲目スタンダードナンバーからMake Someone Happy、テナーをフィーチャーしたカルテット演奏になります。ベースのイントロからメロディのシンコペーションを活かしたキメを辿りつつ、リズミックに曲が進行します。テナーソロはここでもイーヴンな音符を全面に掲げつつ展開、ピアノにもソロが回りますがコンパクトに演奏を纏めました。

6曲目同じくリーダーをフィーチャーしたスタンダードナンバーThe More I See You、アレンジ面では曲の雰囲気や構成を緻密に捉え、繊細さを伴いつつ大胆にかつ華麗にサウンドを構築するJimmyですが、自身のテナー奏ではそうは行かないようです(汗)。前曲とのソロ演奏の差異を感じるのが困難な状態で、ワンホーンによるテナーフィーチャーはどちらか1曲で十分であったと思います。

7曲目ラストを飾るのはJimmyのナンバーからProspecting、ベースソロの後に始まる3管のカッコいいハーモニーを耳にすると正直ホットした気持ちになります(汗)。リズムセクションのキメに呼応するホーン・セクション、こちらも佳曲です。テナーソロ後のトランペットは小気味好くスインギーで、イマジネーション豊かなフレーズを、素晴らしいタイム感と共にソロ空間に散りばめています。ピアノ、ベースとソロが続きラストテーマを迎え無事Fineです!