Off the Beaten Tracks vol. 1 / Nicolas Folmer Meets Bob Mintzer
今回はトランペット奏者Nicolas Folmerの2010年作品「Off the Beaten Tracks vol.1」を取り上げたいと思います。 Bob Mintzerをゲストに迎え、Folmerのオリジナルを中心に演奏したライブレコーディング。米仏混合サイドマンのプレイも素晴らしく、超絶技巧にしてヒューマン、hot & coolさが堪らない作品です。vol. 1となっていますが未だvol. 2はリリースされていません。3日間に及ぶライブなのでまだまだテイクはあるはずですが。
Recorded: July 17, 18, 23, 2009, Live at the Duc des Lombards, Paris tp)Nicolas Folmer ts)Bob Mintzer p)Antonio Farao b)Jerome Regard ds)Benjamin Henocq p)Phil Markowitz(on 4,7) b)Jay Anderson(on 4,7) ds)John Riley(on 4,7) 1)Off the Beaten Tracks 2)Fun Blues 3)Soothing Spirit 4)Bop Boy 5)Absinthe Minded 6)Let’s Rendez-Vous ! 7)Le Chateau de Guillaumes 8)Black Inside
France、いや欧州を代表するトランペッターNicolas Folmerは1976年10月26日Albertville出身、幼い頃から英才教育を受け、Parisのコンセルヴァトワールでトランペットと作曲法を学びました。同じくFranceを代表するジャズピアニストMartial Solalに才能を見出され、その後順風満帆に音楽活動を展開し、Ahmad Jamal, Richard Galliano, Manu Katche, Rosario Giuliani, Andre Ceccarelli, Marcus Miller, Herbie Hancockらと共演し、2004年に初リーダー作「I Comme I Care」をレコーディングします。
トランペット奏者としての活躍も目覚しいものがありますが、スタジオミュージシャンとして、またアレンジャーとしても多くのミュージシャンから依頼を受ける、マルチぶりも発揮しています。 リーダーバンドと並行して、Swiss出身の名ドラマーDaniel Humairとの共同プロジェクトや、Franceの若手ミュージシャンを擁した超ハイパー集団Paris Jazz Big Bandの演奏活動も要注目です。Paris Jazz Big Bandは、Nicolas Folmerとサックスの Pierre Bertrandが中心となり1999年1月に結成されたビッグバンドです。オーソドックスなサウンドよりもファンク、ロック、クラブジャズのテイストが強い、強力にグルーヴするラージアンサンブルで、アドリブソロもイケイケです!
6曲目Let’s Rendes-Vous !は50年代ハードバップの雰囲気を感じさせるマイナーのスイング・チューン。Horace SilverやBobby Timmons, Duke Jordanの作品に収録されていそうです!先発Folmerは自身の世界を目一杯表現し場を活性化させていますが、曲想にはあまり合致していないように思います。この手のナンバーでは曲の持つ枠組の中で如何に相応しいフレージングを作っていくか、様式美を発揮できるかがものを言うように感じます。またせっかくのハードバップ・テイストが光るナンバーなので、あの時代のトランペッターの雰囲気を多少匂わせても良かったのでは、少しだけでもニュアンスを感じさせれば楽曲の表現がさらに深まったのでは、と高望みしてしまうのは欲張り過ぎでしょうか(汗) 続くMintzerのプレイは巧みさはもちろん、曲に合致したフレーバーを聴かせます。この辺りはキャリアの違い、年の功と感じました。 その後のFaraoのソロの物凄いグルーヴ感と言ったら!表現すべきものが頭の中に満ちていて、確実なテクニックのもと、止めどもなく溢れ出るが如しです!ラストテーマを迎えますが、エンディングのラテンのリズムで聴かれるFaraoのバッキングのまたまた素晴らしいこと!Regardの堅実なサポートと相俟って、これは本格的ラテン・ピアノ奏者のグルーヴです!
7曲目再びMintzerリズムセクションでの演奏になるLe Chateau de Guillaumes、敢えてMintzerではなくFolmerのナンバーを取り上げました。ボレロのような、ルンバのようなリズムによるアンニュイなナンバー、「パリのエスプリ」とでも言うのでしょうか。テナーの脱力系メロディからミュート・トランペットでのメロディ、ピアノもリリカルな響きを聴かせます。ソロはミュート・トランペットから囁くが如く、憂いを感じさせながら行われ、いつの間にかピアノソロへ。情感たっぷりにスペースを生かしながらのフレージングは、細部にまでMarkowitz流の配慮、センスに満ちています。ラストテーマはテナー、ピアノ、ミュート・トランペット+テナーと分割されつつムーディに進行します。
Recorded: January 29 and February 5, 1982 Studio: Coast Recorders, San Francisco, California and Soundmixers, New York City Producer: Carl Jefferson Label: Concord Jazz
ts)Stan Getz p)Jim McNeely b)Marc Johnson ds)Billy Hart(on3, 5 & 6), Victor Lewis(on1, 2, 4 & 7)
1)On the Up and Up 2)Blood Count 3)Very Early 4)Sippin’ at Bell’s 5)I Wish I Knew 6)Come Rain or Come Shine 7)Tempus Fugit Recorded at Coast Recorders, San Francisco, California on January 29, 1982 (tracks 3, 5 & 6)and Soundmixers, New York City on February 5, 1982 (tracks 1, 2, 4 & 7)
Stan Getzカルテット・Concordレーベル4部作の1枚、有無を言わさない出来映えにGetzのファン、いや彼の名を知る者ならば本作の素晴らしさを胸を張って言うことが許されます。膨大な数の作品をリリースしているGetz、代表作、名盤の枚数も数え切れないほどですが、その中でも本作が上位に位置するのは間違いありません。そしてこの事は彼が何度目かのピークを迎えたことの証でもあります。
Getzは自己のカルテット演奏において、ピアニストを中核としているように感じます。ドラマー、ベーシストも勿論大切ですが、比重のかかり具合としてピアノ奏者との関係がとりわけ重要であると思います。楽曲のサウンド作りやコード感、バッキング、当然アドリブソロもですが、そこからGetz自身のプレイにどれだけインスパイア、刺激を与えることが出来るかが、ピアニストに課されています。数多くのピアノ奏者がカルテットに去来しましたが、彼らの奏でるサウンドによりGetzのプレイも変化しているように聴こえます。 そしてオリジナルを書くピアノ奏者の場合、積極的にその楽曲を取り上げています。本作でも印象的な冒頭曲がピアニストJim McNeelyのオリジナルに該当し、兄弟作「Blue Skies」にも1曲アップテンポの佳曲が収録されています。 Getzは作曲やアレンジを全くと言って良いほど行わず、演奏材料としてスタンダード・ナンバーをメインとしての音楽活動、言ってみればいちテナーサックス演奏者として生涯を過ごしました。他の多くのテナー奏者がオリジナル曲やアレンジとのカップリングを演奏活動の原点としているのに対し、テナーサックス・プレイのみでジャズシーンをとことん駆け抜けたのは他にStanley Turrentine以外存在を知りません(彼の場合1曲Sugarの大ヒットがありますが)。Sonny Rollins, John Coltrane, Wayne Shorter, Joe Henderson…たちのプレイはオリジナル曲演奏とは切っても切り離せない関係を築き上げています。 Getzのスタンダード・ナンバーへのアプローチの多彩さ、レベルの高さ、表現力の豊かさは他のサックス奏者とは格が違うように思います。楽曲を書かなかったからプレイのレベルが高まり、洗練されていったのか、演奏にひたすら集中すべく敢えて作曲活動を控えていたのか、単に作曲に興味がなかっただけなのかも知れませんが、いずれにせよスタンダード・ナンバーを吹かせれば右に出る者は存在しません。でもいくらスタンダードが星の数ほどあるとは言っても、自身の演奏には時々窓を開けて空気を入れ替える、新風を巻き込む時も必要です。それがピアニストの書いたナンバーに該当するのでしょう。 これらのオリジナルに対する演奏技法、解釈、メロディの吹き方、アドリブにもGetz流の美学が貫徹され、恐らくこれ以上楽曲に相応しいプレイは考えられないと言う次元で、常に演奏されているのが驚きです。作曲者である各々のピアニストはその人数だけ作風、カラー、個性があります。Getz色にオリジナルを染めてはいますが、決して単色ではなくコンポーザーのコンセプトや主張を汲み、グラデーションを施し、深遠な美の世界を表現しています。このことは作曲者自身が最も驚いているのではないでしょうか。「自分の曲がこんなに素晴らしく仕上がるなんて!さすがStan!」の様な発言が多々あったとイメージ出来ます。 それにしてもメロディ奏に対する抜群のセンスを一体どの様に磨きをかけていったのでしょう?40, 50年代初期のプレイからを紐解き始め、段々と時代を経ながらGetzの演奏を聴き比べると、その進歩や変化の度合いを理解することが出来ます。 プレーヤーはある時突然開眼し、急成長を遂げる場合もありますが、粗方は少しづつ、着実に、段階を経て、共演者から学ぶ場合も多々ありつつ成長し続け、経験し、演奏を継続する事によりジャズミュージシャンとして成熟して行きます。Getzの絶え間のない変遷はプレーヤーとして理想的な上昇カーヴを描いていると思います。幾つかのターニングポイントがありますが、特筆すべきはBossa Novaを演奏するようになってからで、一皮剥け、垢抜けたように感じます。
以下にGetzの作品と参加ピアニストについて、主要なアルバムをざっと挙げてみました。ピアニスト作曲のナンバーが重要な作品が幾つかあります。 1949, 50年「Prezervation」Al Haig 52年「Stan Getz Plays」Duke Jordan, Jimmy Rowles 55年「West Coast Jazz」Lou Levy 55年「Stan Getz in Stockholm」Bengt Hallberg 56年「The Steamer」Lou Levy 57年「Award Winner」Lou Levy 60年「Stan Getz at Large」Jan Johansson 63年「Reflections」Gary Burton(vibraphone) 66年「The Stan Getz Quartet in Paris」Gary Burton(vibraphone) 66年「Voices」Herbie Hancock 67年「Sweet Rain」Chick Corea 68年「What the World Needs Now」Chick Corea, Herbie Hancock 69年「The Song Is You」Stanley Cowell 72年「Captain Marvel」 Chick Corea 75年「My Foolish Heart」Richie Beirach 75年「The Peacocks」Jimmy Rowles 75年「The Master」Albert Dailey 77年「Live at Montmartre」Joanne Brackeen 81年「The Dolphin」「Spring Is Here」Lou Levy 81年「Billy Highstreet Samba」Mitchel Forman 82年「Pure Getz」「 Blue Skies」Jim McNeely 83年「Poetry」Albert Dailey 86年「Voyage」Kenny Barron 91年「People Time」Kenny Barron
それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目McNeelyのオリジナルOn the Up and Up、印象的なピアノパターンを伴ったイントロからスタート、テナーのフィルイン後テーマに入ります。リズムはサンバ、これは!素晴らしい!聴く者の心を鷲掴みにするかの名曲です!コード進行、メロディとリズムのシンコペーションの妙、独自なカラーを持つユニークなナンバー、リズムセクションの躍動感も加わりGetzの新たなる表現の呼び水となり得ます。ソロはそのGetzから、出だしのフレージングからしてサムシング・ニューを感じさせます。複雑で多くの転調を伴ったコード進行、場面展開を物ともせず、むしろ逆風に対して立ち向かうチャレンジャーとして、前人未到の高山への登頂をするかの如く果敢に演奏に挑んでいます。そして神は細部に宿るとばかりに繊細に、コードチェンジやリズムのシカケをスラローム状に通り抜けながら大胆にアドリブを行なっています。ピアノトリオとのコンビネーションも申し分ありません!続くピアノソロ、コンポーザーとしてのイメージを存分に込めながら快調に進めます。幾分力が入り過ぎたのか、リズムがラッシュする場面もありますが的確なピアノタッチでスインガー振りを聴かせます。その後のベースソロの流麗さも実に特筆すべきで、達人の領域を見せつけるが如しです。ラストテーマを迎えエンディングとなりますが、ここでは比較的シンプルな構成、壮大な楽曲だけに個人的にはもう一捻りあると、曲の解決感がより成立すると感じています。
6曲目Come Rain or Come Shine、テーマはHartのブラシが倍テンポを感じさせるグルーヴでテーマが始まります。その後ダブルタイム・フィールでテナーのソロ開始、曲の持つ切なさををBlood Countを彷彿とさせるダイナミクスを用いてブロウ、トリオも歩調を合わせて伴奏をつとめます。McNeelyのソロは表現としてややtoo muchな傾向がありますが、ここでは他の曲より抑制の効いた演奏を聴かせます。Johnsonのソロは常に肩肘張ることなくリラックスして自分の世界を築き上げています。ラストテーマはオクターヴ上げた音域で朗々と、時折シャウトを交えて華やかにプレイしています。
Recorded: January 1982 at Coast Recorders, San Francisco, California. Producer: Carl Jefferson and Steve Getz Label: Concord
ts)Stan Getz p)Jim McNeely b)Marc Johnson ds)Billy Hart
1)Spring Is Here 2)Antigny 3)Easy Living 4)There We Go 5)Blue Skies 6)How Long Has This Been Going on?
Stan Getzは40年代から演奏活動を始め、当初から後年に通じる一貫した個性を発揮していました。ハスキーで付帯音が豊富な音色、内省的で陰影に富み、知的センスに溢れる独自なフレージング、抜群のタイム感。50年代は欧州に滞在し見聞を広めた事でプレイに深みが加わり、60年代はBossa Novaムーヴメントの旗頭として表現力に豊かさを身に付け、70年代は確固たる地位を確立しつつ一層の研鑽を重ね、80年代には凄みを覚えるほどの音色の太さと多彩さ、更なる表現の説得力を得て、カルテットの作品を中心に名盤を産出し続けました。Cool Sound, Bossa Novaのイメージが強いGetzのプレイですが、生涯を通じジャズプレーヤーとして常に進化し続け、クリエイティヴに自己の音楽を構築し、変化して行った姿勢には同じテナー奏者としてひたすら敬服してしまいます。ドラッグや過度の飲酒行為による自己破綻から家族や周囲にはかなりの迷惑をかけた事以外は(笑)。 本作の演奏は言うに及ばず、選曲の良さ、何より誰にも真似の出来ないテナー・トーンの魅力に溢れています。
リリース元のConcordレーベルから、カルテット・アルバムが本作を含め計4枚発表されています。81年5月12日San FranciscoにあるジャズクラブKeystone Kornerにてライブ録音された2作「The Dolphin」「Spring Is Here」、そして本作と同じメンバーでの82年1, 2月録音「Pure Getz」、全てレーベルのカラーを反映した「大人のリラクゼーション」を存分に感じさせる仕上がりの、秀作ばかりです。録音の良さも特筆する事が出来ます。
91年Getzの没前後にKeystone Kornerにて録音されたテープが見つかりました。調べてみるとこれはGetz自身が商品化の価値はないと判断したものでしたが、内容の素晴らしさから翌年(彼の逝去後)「Spring Is Here」としてリリースされました。恐らく「The Dolphin」録音の際の残りテイクと考えられますが、自分の音楽に対して誰よりも厳しいGetzが録音当時ボツと判断したのでしょう、しかし「The Dolphin」と同日の録音であれば悪かろうわけがありません。ちなみに英国の音楽誌Jazz Journalで「Spring Is Here」は92年度の「レコード・オブ・ザ・イヤー」を獲得しました。 また本作「Blue Skies」はどこにも明記されていませんが「Pure Getz」と同日録音の残りテイクである可能性が高いのです。もしくは当時Getz以下レコーディング・メンバーはSan FranciscoにあるHyatt Union Square Hotel内ジャズクラブReflectionsのオープニング・アクトに、1月18日から2週間出演していました。その最終日1月30日に「Pure Getz」が録音されたのですが、ひょっとしたら出演中のいずれかの日にもう1日レコーディングが設けられていたのかも知れません。というのはGetzの伝記「音楽を生きる」にはレコーディング当日ではアルバム完成に至らなかった、と記述されています。Billy Hart以外のメンバー3人が翌日New Yorkに発つ事になっていて、Victor Lewisをドラマーに迎えて同地でギグを遂行することになっていたからです。レーベル・プロデューサーCarl JeffersonはドラマーにLewisを迎えて作品の残りを東海岸で仕上げる方向で対処したので、西海岸録音は曲数的に不足していたと考えられます。あるいはこうも推測できますが、レコード1枚分のボリュームがある「Blue Skies」は当日録音してはみたものの、「Pure Getz」とはコンセプトが異なる曲想のナンバーばかりなので、Getz自身がここでも厳しくボツと判断しお蔵入りさせたのだと。ですが、むしろ本作はバラードを中心とし、アップテンポのオリジナルがポイントとなった、Concord4部作の中で最も選曲と演奏のバランスが取れているように感じます。本作ライナーノートにプロデューサーでGetzの息子でもあるSteveが、同意見を寄稿しています:In my opinion, this album is the finest of the Concord releases. There is a pristine, flowing quality to the music.
それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Spring Is Here、冒頭から飛び込んでくるGetzの素晴らしいトーン!不純物を一切含まないGetzのエッセンスだけが浸透圧により体内に取り込まれるが如く、また真夏の乾いた肉体に水分が極自然に吸収されるように、あまりにも当たり前にテナーサックスの音色が耳に入って来るのが分かります。何という魅力的で色気のあるサウンドでしょう!彼の音色はデビュー当時からオリジナルでしたが、時を経て音楽経験の積み重ね、鍛錬の賜物により一層Getzらしさが突出して来ました。それはサウンドのイメージがより明確になった事に由来するでしょうし、サックスの奏法自体が洗練され楽器自体の鳴らし方に変化が生じる事も不可欠、マウスピース、リードの選択にも不断の努力が必要です。ただ漫然と構えていても自分の求める音色を得ることが不可能なのは、サックス奏者の自明の理です。 「朗々と唄い上げる」という言い回しが全く相応しいプレイは多種多様なビブラート、ニュアンス、アーティキュレーション付け、音量の大小によるダイナミクス、言ってみれば「シュワーッ」と発音されるべき付帯音の誰よりも豊富な度合い、まるで全く別なふたつの音が同時に鳴っているかのような複雑な発音、彼のトーンを模して付けられたニックネームがタイトルの56年作品「The Steamer」は、言い得て妙です。
かのRoland Kirkは2本、更には3本のサックスを同時に咥えての一人アンサンブルを聴かせました。ホンカー・サックス奏者はサックスの音の他に唸り声をブレンドさせ、効果的な音色を披露していました。Lester Young, Stanley Turrentine然り、Ben Webster, Sonny Rollins, John Coltrane, 70年代のSteve Grossman…如何に楽器から魅力的かつバランスの取れた複雑な音色を発生させるかにサックス、歴代のテナー奏者は鎬を削って来ました。間違いなくここでのGetzの音色はその究極の一つに挙げられます。 伴奏を務めるJim McNeely, Mac Johnson, Billy Hartの無駄のない、的確なサポートがGetzの神の音をさらにバックアップしています。テナーの抑揚にリンクし、ピアニシモからフォルテまで巧みにフォローする様は感動的でもあります。Hartのブラシワークの多彩さ、Johnsonの安定感、そしてMcNeelyのバッキングにおけるコード付けが大変センシティブです。そのMcNeelyのソロに続きますが途中Johnsonの大胆なアプローチ、Hartのブラシをそのまま用いた倍テンポのグルーヴ、ラストテーマはGetzプレイせずに何とMcNeelyのピアノ・テーマ奏、良きところでフェルマータし、cadenza、そしてFineを迎えますがこの捻りが演奏に更なる価値を付加しました。
4曲目はMcNeelyのオリジナル、アップテンポのスイング・ナンバーThere We Go。実にカッコいい曲です!曲構成も凝っていますが、音楽的なナチュラルさが全体を支配しています。聴きどころ満載状態、しかもこれまで3曲がスロー・ナンバーだったので早いテンポが耳にも大変心地よいです。Getzのソロから開始、素晴らしいタイム感を武器に、スインギーに、スリリングにソロを展開させます。難しいコード進行を難なく、この人には苦手なコード進行は存在しないだろうとまで思わせる巧みなコード分解、解釈を提示しています。続くMcNeelyのソロにあと少しタイムの余裕があれば申し分ありません!華麗なJohnsonのソロの後ラストテーマへ、曲のカラーリング担当Hartのドラミングがここでも冴えています。
6曲目How Long Has This Been Going on?もバラード演奏です。本作4曲目がアップテンポのナンバーですが、Coltraneの代表作「Ballads」もバラード演奏だけでなく、1曲ラテンとスイングを織り交ぜた早いテンポのAll or Nothing at Allを収録する事により、バランスをはかっているように感じます。本作も同じ構成の選曲、配置なので、Getz版「Ballads」と相成りました。内容の素晴らしさから両者十分に比較し得ることの出来る、彼の諸作中もっと認知されて良いアルバムだと思います。
1)Quartet No. 1 2)Quartet No. 3 3)Quartet No. 2 – Part I (dedicated to Duke Ellington) 4)Quartet No. 2 – Part II (dedicated to John Coltrane) 5)Folk Song 6)Hairy Canary 7)Slippery When Wet 8)Confirmation
Three Quartetsは全曲Coreaのオリジナルから成り、タイトルの由来はバロック、クラシック、ロマン派、印象派に於けるストリングス・カルテットのような、ここではジャズの器楽編成による3部作を演奏する、四重奏のアルバムを作りたかったことに由来します。 前作Friendsの編成も4人でしたが、その四重奏は言わばトリオ+ワンというシチュエーションでした。今回の4人組は複雑な形状のパズルが合致した如く、間違いなく4者にしか出来ない音楽となっています。 1曲目から4曲目がレコード・リリース時の収録曲、5曲目から8曲目が92年CDリリース時にボーナストラックとして追加された未発表テイクです。アルバムのコンセプトからすると収録には相応しくないナンバーですが、内容的には素晴らしい演奏も含まれています。等Blogでは追加テイクに関して基本的に除外していますが、本作では触れて行きたいと思います。
Steve Gaddの4ビート〜スイングのリズムでのプレイは当時全く画期的なものでした。これを車輪と車軸の関係のように確実にフォローするEddie Gomezのベース・ワークとのコンビネーションはアルバム「The Mad Hatter」でのHumpty Dumpty、そして同一メンバーによるフルアルバム「Friends」、バンドStepsの諸作、そして本作の演奏でセンセーショナルに広まり、以降のジャズシーン、ドラマー、リズムセクションに多大な影響を与えました。結果多くのフォロワーを生み出しましたが、元祖Gaddのグルーヴ、スイング感、アイデア、カラーリングのセンス、集中力、何よりそのフレッシュさから未だ他の追従を許していません。当時「あのドラミングはジャズではない」「メカニカルなドラミング」更には「フュージョンの成れの果て」とまで揶揄されましたが、人から何を言われようと自分の信じる道を貫けば良いのです。他方「Gaddの4ビートはスイングしていない」という批評もありましたが、これはある意味では的を得ています。と言うのは基本イーヴン8分音符でのシンバルレガートをメインに、アクセント的にバウンスするレガートを叩いていますから、3連符がベースになるスイング感とは一線を画しているためです。Ellingtonの名曲「スイングしなけりゃ意味が無い」のスイングと、Gaddの4ビートプレイでのスイング感、またリズム、グルーヴの形態としてのスイング、言葉が幾つかの異なった意味を持つ事を再認識しました。周囲がGaddのドラミングを理解することが出来ず、異端扱いを受け、あたかも排除するかのような対応をされた事から、寧ろGaddの演奏の革新性を十分に感じることも出来ました。
Eddie Gomezのベースワークは足掛け11年にも及ぶ名ピアニストBill Evansとの共演で培われたハーモニー感、タイム感、加えてEvans Trioに幾多のドラマーが去来しましたが、各々の奏者たちが繰り出す個性的で微妙に異なるグルーヴのポイントへの対応法を、共演により獲得しました。Gomezはリーダー活動も行なっていますが、生涯一伴奏者としての徹底した姿勢を示しているように感じ、Gaddとの共演はどんなタイプのドラマーとも変幻自在に音楽を創造していく事の出来る柔軟性の中でも、とりわけ彼にとってフェイバリットなコンビネーションを示していると思います。 98年のGomezリーダー作「Dedication」では盟友フルート奏者Jeremy Steig他、レジェンド・ドラマーJimmy Cobb(!)を迎え、日本国内でもツアーを行いました。Gadd, Cobb二人の全く異なるドラミングに完璧に適応できるカメレオンぶりは技術力というよりも、彼自身の演奏スタイルの表出と呼ぶ事が出来そうです。
3曲目Quartet No.2 Part 1(dedicated to Duke Ellington)は優雅にして芳醇、ゴージャスさの表出が半端無い、Ellingtonの音楽をCorea流に見事に料理した美しいナンバーです。ピアノイントロに続き、ピアノとテナーのデュオによるメロディ奏、ここでのMichaelの歌いっぷりの見事さといったら!ダイナミクス、微妙なニュアンス、アーティキュレーションの数々を用いた、切ないまでの感情移入による、歴史に残る名演奏を繰り広げています。ソロの先発はベース、ホーンライクで饒舌なプレイは、クールな中にメロディアスなアプローチをふんだんに織り込んでいます。続くピアノソロはGomezのスピリットを受け継いだかのようにメロディアス、その中にEllington風のアプローチ、ニュアンス、音使いを織り込んだ曲想に合致した演奏を展開、そしてテナーソロはこれまたGomez, Corea二人の演奏を踏まえた、彼らの延長線上にしっかりと位置しようという強い意志を感じさせるプレイです。そのままMichaelのソロでFine、余韻を残しつつ次曲にto be continued!
4曲目Quartet No.2 Part 2(dedicated to John Coltrane)、Gaddのマーチング風のドラムソロから始まります。CoreaのColtraneへのトリビュート・ナンバーはキーをCマイナーに設定しました。Coltrane, Cマイナーと言えば61年11月録音「Live at the Village Vanguard」収録のナンバーSoftly, as in a Morning Sunriseを想い浮かべますが、Corea自身も珍しくソロ中にこの曲のメロディを引用しています。
作品の本編はここまで以降はCDリリース時のボーナス・トラックです。区切りの意味でしょうか、前曲との曲間に11秒の長いブランクが設けられています。 5曲目Folk Song、本作録音81年夏のMontreux Jazz Festivalでの模様を収録した作品「Live in Montreux」でCorea他、Joe Henderson, Gary Peacock, Roy Haynesでのカルテットでこの曲他Hairy Canary, Slippery When Wetを再演しています。
1)The One Step 2)Waltse for Dave 3)Children’s Song #5 4)Samba Song 5)Friends 6)Sicily 7)Children’s Song #15 8)Cappucino
Coreaとは初リーダー作「Tones for Joan’s Bones」からの付き合いになる名リード奏者Joe Farrellをフロントに、ベーシストEddie Gomez、ドラマーSteve Gaddによるカルテット、仲の良い友人関係だったことでしょう。作品タイトルや、ライナー掲載写真から和やかな表情を読み取る事が出来、作品全体から伝わるリラックスした雰囲気が全てを物語っています。しかし時として炸裂せんばかりの驚くべき次元のインタープレイの数々、音楽的な振れ幅のあまりの激しさは個々のメンバーの持つポテンシャルの高さを物語っていますが、そもそもがメンバーの音楽的相性の抜群さゆえ、その裏返しと言えましょう。特にCoreaとGaddのふたりはリズム感もそうですが、お互いのアイデアを共有する完璧に同じベクトルを描いています。Farrellのソロそっちのけで(爆)、互いのアイデアをぶつけ合い、拾い合い、瞬殺のレスポンスで場面を活性化する敏捷なプレイの連続。もちろん彼らは様々な音楽に柔軟に対応出来る幅の広い音楽性を有していて、特にGaddは膨大な数の参加作品に、多種多様な音楽への柔軟な対応力を感じ取る事が出来ますが、リーダーバンドであるThe Gadd GangではR&Bをルーツしたコーニーなサウンドを演奏しており(名バンドStuffが原形ではありますが)、仮にCoreaがこのバンドに加わったプレイはどうにもイメージ出来ません。CoreaのRichard Teeライクなプレイ、それはそれで聴いてみたいですが(笑)。一方Coreaはキャリアのごく初期ではサイドマンを務めましたが、一貫してリーダータイプのミュージシャンで、様々な方向性の作品を数多くリリースしてジャズ界に君臨しています。70年代初頭に率いたバンドCircle〜Dave Holland(b), Barry Altschul(ds), Anthony Braxton(reeds)〜彼の音楽史上最もフリーフォームな領域に足を踏み入れた演奏、Gaddがこのコンセプトで演奏するのはあり得ない事でしょう。グルーヴとカラーリングの妙を信条とするプレーヤーですから。本作で演奏されているスタイルでのふたりの相性は史上稀に見る、DNAまでマッチングする一卵性双生児のごとき同一性を聴かせています。
まさかこのメンバーで1枚作品が出来上がるとは思いもよりませんでした。「Now He Sings, Now He Sobs」はMiroslav Vitous, Roy Haynesとのトリオ、アコースティック作品でしたが、以降Corea一連の作品「Return to Forever」「Light as a Feather」「The Leprechaun」「Hymn of the Seventh Galaxy」「Romantic Warrior」「Musicmagic」「Secret Agent」「My Spanish Heart」…枚挙にいとまがありませんが、スパニッシュ、エレクトリック、ロックのテイストをとことん披露した作品群の後、ここまで徹底してアコースティック・ジャズを演奏したCoreaに、音楽の幅の広さを痛感した覚えがあります。これらイーヴン系のリズムが基本の音楽はスイング・ビートのジャズに比べて表現の間口が広く、オーディエンスにも受け入れが容易です。反してスイングは数あるスタイルの中で、演奏が最も困難にして聴く者にある種の強いる要素を抱えています。しかしここでの演奏は強いる事を遥かに通り越した次元での、誰にでも強力に訴えかけ、しかも容易に理解できる純粋芸術的領域での表現を提示しています。例えば画家Pablo Picassoのキュビズムによる一連の作品、その中でも頂点にあるゲルニカは観る者に圧倒的なインパクトを与えます。Picassoの情念がキャンバス、筆と絵具(ゲルニカの場合はペンキ)を媒体とし、誰も成し得ていない次元での手法をもって表現され、大胆な構図を施した絵の持つ存在感に圧倒されるばかりですが、同時に「よく分からない」感は拭い切れないと思います。キュビズムの手法にはつきものですが、でも言ってみればその「よく分からない圧倒感」が芸術鑑賞の原点だと感じています。そこから更に細部に入り込んで理解を深めて行くかどうかは、個人の好みであるとも思います。
本作の有無を言わさぬ演奏クオリティの素晴らしさ、そしてこの作品でサックス奏者がMichael Breckerに替わったとしたら、それはそれはさぞかし凄い事になりそうだ、とミュージシャン同士でよく話をしたものです。Farrellの持ち味にも格別なものがありますが、他の3人に比べるとどうしてもワンランク落ちてしまいます。一方当時のMichaelはまさに飛ぶ鳥を落とす勢い、八面六臂の活躍ぶりで作品毎に進化を遂げており、このリズムセクションのフロントマンとして参加資格があるのは彼だけではないだろうかと。我々だけではなく全世界で、本人Coreaももちろん感じたのでしょう、Dreams come trueとなり81年1, 2月録音の「Three Quartets」が世に出た際には吃驚仰天しました。
79年にMike Mainieriが気の合う、音楽的にも優れたスタジオミュージシャン〜Don Grolnick, Michael, Gomez, Gaddたちと、Brecker兄弟が経営するNYC Manhattanのジャズクラブ7th Avenue Southにてセッションを始めたのがきっかけとなり、バンド名Stepsとして活動を開始、翌80年12月六本木Pit Innにて日本での旗揚げライブを1週間行い、その時の模様を収録した「Smokin’ in the Pit」が翌年リリースされました。高度な音楽性、緻密にして高次的理論に基づくインプロヴィゼーションの嵐、素晴らしいインタープレイはGadd, Gomezのリズム隊に負うところが大、彼らの起用は紛れもなくFriendsが元になっていますし、Three Quartetsに於けるプラスMichaelと言う人選も、これまたStepsからの流れに他なりません。時系列でのミュージシャンの入れ替わり、兼任・重なり具合、派生を眺めてみるとまた違った側面が見えてきます。
それでは収録曲について触れていく事にしましょう。1曲目The One Step、冒頭Fender Rhodesとベースのユニゾンによるテーマが奏でられ、リピート時にはベースはバッキングに回りソプラノサックスがテーマを演奏します。可憐な雰囲気をたたえた楽曲はオープニングに相応しい、良きスターターとなり得ています。Coreaにしてはシンプルなナンバーですが、曲の構成がよく練られています。4分の2拍子を含む打ち伸ばしやシンコペーションが効果的、テーマ中のRhodesのフィルインソロもグーです!Farrellが美しい音色でメロウにテーマ〜ソロを取ります。シャッフル風のリズムを叩くGaddとバッキングでカラフルに演奏するCorea、この時点でFarrellのソロには関係なく既に二人で呼応し合っています(汗)。Coreaのソロに入った途端にベースがリードし、Gaddがスネークイン、倍テンポのスイングに変わります。「ほんの少しだけ」前にリズムのポイントを置いたベース、ドラムのタイム感、そしてGaddの限りなくイーヴンに近いスイング・フィールのシンバル・レガートがカッコいいです!倍テンポになっても打ち伸ばしやシンコペーションが用いられているので、テンポ増しでこれらのキメは一層的を得たものになっています。Gomezのウネウネしたラインに纏わり付くGaddの多彩なドラミング、Coreaのパーフェクトなタイム感と相まって三者見事に連動しています。仕掛けて来るGomezのフレーズ、Coreaのソロにも同時に反応するGaddは、複数人の話を同時に耳にし、理解し得たと言われる聖徳太子状態です(笑)。
2曲目Waltse for DaveはCoreaの友人でもあり、先輩格のピアニストDave Bruebeckに捧げられている、美しくカラフルな場面展開を持つ名曲です。テーマは初めのAの部分をCoreaが、その後Farrellがフルートで美しく演奏しそのままソロに突入、よく聴くとGaddのブラシでのカラーリングが実に様々なアプローチ、小技、フレーズを連発しているのですが全くうるさくありません。フルートソロからスティックに持ち替え対応、2’11″辺りからのサビで4人が主張し合い、2’26″辺りからのGaddのフレーズにCoreaが合わせ始めます。Farrellがソロをとっているにも関わらず!このアルバムはフロントのソロそっちのけでのドラムとピアノのインタープレイが随所に聴かれる、稀有な作品でもあります(笑)。その後のピアノソロはさすが作曲者、変幻自在に曲のイメージの中に深く入り込み、Gadd, Gomezたちは自身でソロを取っているが如き音数のバッキングを繰り出し(笑)、Coreaと三つ巴で盛り上がっています!続くベースソロはエッジーな音色、正確なピッチ、イントネーション、歌い回し、ソロの起承転結全てに申し分ありません!Bill Evans「Live at the Montreux Jazz Festival」での”バチバチ”系ベースの音色のイメージがあり、ハードなセッティングとイメージしていましたが、むしろ弦高を極端に低くして柔らかく弦をつま弾いています。彼とは一度共演をした事がありますがクールな雰囲気で、細身で長いタバコMoreをオシャレに愛煙していた印象があります。
Gaddのドラミングスタイルですが、前述の通り膨大な数のレコーディングに参加しているために、演奏露出の機会は誰よりも多いので耳馴染み、お得意のフレーズが出ると嬉しくなってしまう次元の耳タコ状態ですが、実は誰にも真似の出来ないオリジナリティ溢れるプレイ、いや、それを通り越して相当の変態スタイルだと思っています。人が行うドラミングの手順があるとすると、必ず逆から辿るような、また演奏は定型でいるようで不定型の極みです。加えて通常では思いつかないようなレスポンス、アプローチを常に繰り出す真のアーティストであると認識しています。演奏の入魂ぶりは凄まじく、同じジャズドラマーElvin Jones, Roy Haynes, Tony Williams, Jack DeJohnetteと並び称されると思っています。
3曲目Children’s Song #5はCoreaのライフワークのひとつ、多くのバリエーションがあり、いずれもが小品として自作品に度々登場しますが、83年7月に「Children’s Songs」としてNo.1からNo.20までをソロピアノで、1曲のみcelloとviolinを伴って一枚の作品として録音しました。Bartokの名ピアノ曲集Mikrokosmosがルーツになっています。
5曲目Rhodesの可愛らしいイントロから始まる表題曲Friends、メロディをFarrellがフルートで奏で、リズムセクションが優雅にサポートします。こちらもリズムはサンバですが、前曲のSamba Songとは異なるBrazil系のサンバのリズムになります。美しさ、穏やかさが音楽表現の原点なのだ、と再認識してしまうほどに見事なアンサンブル、各人の曲想にマッチしたソロ、Gaddの繊細でアイデア豊富、かつグルーヴマスターとして他の3人の演奏を確実に映えさせる巧みさ、ベースソロ後ラストテーマへ、そしてエンディング部になりますが、8’08から聴かれるRhodesのメロディは聴き覚えがあると思いきや、「Return to Forever」収録でFlora Purimの唄をフィーチャーした曲、What Game Shall We Play Todayじゃありませんか!引用フレーズをソロに挿入することがまずないCorea、たまたまなのか何か狙いがあっての事なのか、真意の程は分かりません。
Recorded: December 15~19, 1977 at CBS 30th Street Studio, New York City Label: Columbia Producer: Micheal Cuscuna
tp, flg)Woody Shaw ts)Joe Henderson ts, ss)Carter Jefferson fl)Frank Wess, Art Webb ss, as)James Vass tb)Steve Turre, Janice Robinson p, elp)Onaje Allan Gumbs b)Clint Houston ds)Victor Lewis congas)Sammy Figueroa pec)Armen Hallburian harp)Lois Collin
1)Rosewood 2)Everytime I See You 3)The Legend of the Cheops 4)Rahsaan’s Run 5)Sunshowers 6)Theme for Maxine
Woody Shawは44年12月24日North Carolina生まれ、父親はゴスペルのミュージシャンでした。9歳の時にビューグル(ピストンの無い軍隊ラッパ)を始めたそうです。学校でのバンドに参加すべく最初に選んだ楽器は意外な事にトランペットではなく、ヴァイオリンでした。ですがこちらは定員に達していたので叶わず、2番目の選択肢としてサックスか、トロンボーン、こちらにも欠員は無く残った楽器がトランペットだったそうです。さらに意外な話ですが、その時Shawは自分がどうしてこの耳障りな音のする楽器の担当にさせられなければならないのか、と感じたそうです。音楽教師に自分がやりたい楽器を選べないのはフェアではないとも不満を述べましたが教師はShawを説得し始め、ちょっと辛抱してトランペットをやってごらんよ、君に向いている楽器だと勧められ、この楽器を好きになる事を保証するよとまで言われましたが、彼の言っていたことは正しく、すぐにトランペットに恋をしてしまったそうです。教師は単に楽器の欠員パートを埋めるために促しただけなのかも知れませんし、実際のところは分かりませんが、しかしジャズ史に燦然と輝く名トランペッターWoody Shaw誕生のきっかけを作ったのですから、良い指導者と巡り合えたと言えましょう。彼自身こうやって思い出してみれば何か不思議な力が働いて、トランペットと出会う事が出来たと回顧しています。その後は日夜練習に明け暮れ、卒業後クラシックの殿堂Julliard音楽院に進み、トランペットを徹底的に勉強をしようと考えていましたが、Louis Armstrong, Harry Jamesに深く傾倒し、ジャズに興味を持つようになります。そして次第に次世代のトランペッターたちDizzy Gillespie, Fats Navarro, Clifford Brown, Booker Little, Lee Morgan, Freddie Hubbardらからの影響を受けるようになり、自ずと学校での音楽活動から離れていくことになります。Brownが亡くなった年月〜56年6月と同じ時に、彼はトランペットを選んだ事をある日気付いたとも語っていますが、志し半ばにして悲劇的な交通事故で逝去したBrownの偉業を受け継ぐために自分は演奏している、と言う自負があるのかも知れませんね。Shawは独自のスタイルを生涯貫き通した超個性派プレーヤーですが、過去の先達へのリスペクトには半端ないものが感じられます。その後はローカルミュージシャンとして様々なギグをこなし、63年7月若干18歳の時にEric Dolphyのリーダー作「Iron Man」でレコーディング・デビューを飾ります。栴檀は双葉より芳し、ここでの彼のプレイは荒削りではありますが、のちの個性を十分に感じさせるフレージング、アイデア、間の取り方、楽器の音色を聴かせています。
Dolphyはトランペット奏者と2管編成で演奏する機会が多く、初リーダー作60年4月録音「Outward Bound」でもFreddie Hubbardと、その後はBooker Littleと素晴らしいコンビネーションを聴かせていました。61年7月ライブ録音「Eric Dolphy at the Five Spot」での演奏は、彼ら二人の名演奏を捉えた傑作です。
ところがLittleは録音直後の10月、尿毒症により23歳と言う若さで夭逝してしまいます。Dolphyの落胆ぶりが手に取るように伺えますが、彼の後釜としてHubbardが再起用され、64年2月録音、Dolphy没後同年8月にリリースされた傑作「Out to Lunch」での演奏は特筆すべきです。Hubbardも本当に素晴らしいトランペッターですが、個人的にはShawとの相性の方に良さを感じています。あと1, 2年Shawの登場が早ければ、「Out to Lunch」のトランペッターは彼ではなかったかと。そしてDolphyが64年6月、36歳の若さでBerlinにて医療ミスと言う、痛恨の客死に至らなければ以降はDolphy = Shawのフロントラインで音楽活動を継続し、更なる名演奏が生まれたのでは、と勝手に想像しています。
Shawの演奏は一聴すぐ彼と分かる強力な個性を発揮していますが、多くのサックス奏者の2管編成の相方やピアノプレーヤーのフロントを務めていました。オリジナリティを持てば持つほど逆に音楽的テリトリーは狭くなります。多様性は深まりますが他のミュージシャンとの協調性は薄れて行き極端な話、自己のバンドでしか演奏出来ない事態に陥りますが、Shawの場合は例外です。前述のDolphyをはじめ、Joe Henderson, Jackie McLean, Hank Mobley, Dexter Gordon, Booker Ervin, Gary Bartz, Sonny Fortune, Joe Farrell, サックス以外ではChick Corea, Andrew Hill, Horace Silver, Larry Young, McCoy Tyner, Bobby Hutcherson, Art Blakey…枚挙にいとまがない程に数多くの第一線ミュージシャンと共演しており、いずれに於いても十二分な個性の発露、素晴らしいインプロヴィゼーション、存在感、彼の参加による作品クオリティの向上、リーダーの音楽性とのナチュラルな融合を発揮しています。Shawは幾多のジャズ・トランペットプレイヤーの中でもインプロヴィゼーションのライン、方法論、アイデアが抜きん出ていて、緻密さと大胆さが半端なく、時として難解さを極めオーディエンスが置き去り状態ではないかとまで感じる時があります。例えばBrown, Morgan, Little, Hubbardらの発する、トランペット奏者特有の爽快感をShawの演奏から感じ取るのが困難な場合があり、プレイは常に問題提起を促し、聴く者の演奏理解に際してどこか強いる姿勢を感じさせる奏者です。具体的にはフレージングにおけるコード進行に対する縦の音使いでは明らかにディスコードでも、横の流れで通してみれば聴感上ギリギリのポイントで成立する、ラインの言ってみれば帳尻合わせ的な独自の解決感。加えていわゆるパターンやリック的な音使いを極力避けたと思われるクリエイティブなインプロヴィゼーションの、本人は特に意識してはいないでしょうが、有無を言わせぬ対峙感。ところが彼のスタイルの根底にあるLouis Armstrong, Harry Jamesらのテイストから醸し出されるニュアンス、イントネーションが随所にスパイスとして作用し、ハードボイルドでありながら、えも言われぬ色気を放ち(男の色気〜益荒男ぶりと切なさ)、演奏の難易度を適度に緩和させていると感じていて、ここが多くのミュージシャンに愛された由縁と考えています。優れた奏者、音楽、芸術には複雑な要素が絡み合うのが常です。Shawの演奏には他にはあり得ない次元での複雑な個性が混在しており、その表出に際し一面では真の芸術家たるmentorとして、演奏者からの尊敬を通り越した熱狂的な崇拝ぶりを得ています。他方では一般的なオーディエンスが彼の音楽について行く事が出来ず、ともすると少数の熱狂的信者のためだけのマニアックなものに終始してしまう、musician’s musisianの範疇に留まってしまいがちになります。Miles Davisの音楽表現の難解さも同様ですが、彼の場合天性のものからオーディエンス、ミュージシャン分け隔てなく万人に対してアピールする事が出来ています。そして「俺の音楽が難しいって?おいおい、分からないのはお前らに責任があるんだぜ。分かろうが分かるまいが俺の知ったこっちゃないけど、一度でも分かろうとして聞いた事があるのかい?とことん入り込んでみな、Come on! everybody!」のようなスタンスでプレイしていると思います(笑)。
参加メンバーは当時のWoody Shaw Quintet = p)Onaje Allan Gumbs b)Clint Houston ds)Victor Lewis ts,ss)Carter Jeffersonにゲスト・ソロイストでShawとの相性抜群のJoe Henderson、そして5管編成にコンガ、パーカッション、更にハープを増員したThe Woody Shaw Concert Ensembleが加わったゴージャスな最大14人編成で、重厚なアンサンブルを堪能できます。Shawは自分の曲の他、メンバーのオリジナルも取り上げ、ユニットとしての活動に重きを置いています。
それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目表題曲にしてShawのオリジナルRosewood、彼の両親に捧げられたナンバー、初演はBobby Hutchersonの74年4月録音作品「Cirrus」に収録されています。ShawとJoeHenの2管によるメロディが核となり、アルトサックス、フルート、ピッコロ、トロンボーン、バストロンボーンが対旋律やハーモニー、バックリフを奏で、リズムセクションにパーカションが加わった重厚な演奏はOnaje Allan Gumbsのアレンジによるものです。メロディはどこかミステリアスでいながら、キャッチーなテイストも存在するShawならではの凝った楽曲、しかしこれまでの彼の作風とは明らかな違いを聴かせています。ソロの先発はJoeHen、斬り込み隊長の責務を十分に果たす素晴らしいブロウ、全面的に信頼を寄せていた間柄だと思います。ホーンのアンサンブルを受けつつ、難曲のコード進行を実に的確にアドリブしています。初演ではHutchersnのソロだけがフィーチャーされていたので、続くここでの作曲者のソロは初登場になります。それにしても独創的なラインの連続、音の跳躍と滑舌の尋常ではない確実さ、ソリッドでエッジーな音色、そしてニュアンスの豊富さからは彼自身の唄を確実に聴き取る事が出来ます。
2曲目Everytime I See YouはOnajeのオリジナル、前曲からコンガとハープが抜けつつ、引き続きゴージャスなアンサンブルが聴かれますが、ここでは使用管楽器に多少の変化をつけています。Victor Lewisの叩く8ビートのリズムは軽やかでいて、どっしり感も感じさせるジャズ屋特有のタイム感です。Stan Getz, Carla Bley, George Cablesはじめ多くのミュージシャンとの共演歴を持つ強者の一人です。Clint Houstonのベースも雄弁で、確実にビートの芯を捉えたプレイが素晴らしいです。Shawのワンホーンをフィーチャーしたナンバー、軽やかにリズムに乗ったプレイは音使いやトーンの魅力が半端なく、そしてソロ途中からサンバのリズムに変わるドラマチックな演出も効果的です。Onajeのソロは美しいピアノの音色と共に、リリカルでいてダイナミックです!ここでもサンバに一瞬変わり、ソロのクライマックスをホーンアンサンブルがバックアップし、ラストテーマにクールに移行します。
3曲目The Legend of the CheopsはLewisの作曲、David Sanborn77年作品「Promise Me the Moon」にも収録され、作曲者も参加しています。こちらは彼のソプラニーノをフィーチャーした演奏、小編成という事もあり本作よりもシンプルな仕上がりですが、Shaw, Sanborn全く表現の異なるふたりの管楽器奏者の演奏を比べてみるのも一興です。
Cheopsとはギリシャ語で古代エジプト・クフ王の事、Lewisは作曲のほかアレンジも担当しています。自由な発想に基づいた佳曲、JoeHen同様にShawが全信頼を置くドラマー、コンポーザーです。ハープや木管楽器が大活躍するイントロに始まり、Shawの奏るテーマにJoeHenが絡み、同様にアンサンブルが纏わり付くように曲をカラーリングします。先発はJoeHen、ここでのソロはイってます!続くShawのソロも素晴らしい!ラストテーマ後のヴァンプでのやり取りも含め、70年9月ライブ録音「Joe Henderson Quintet at the Lighthouse」での、ふたりの申し分の無いコンビネーションを彷彿とさせます。
4曲目Rahsaan’s RunはShawのオリジナル、バンドのメンバー全員の友人にして天才の名を欲しいままにしたRahsaan Roland Kirk、本作レコーディングの直前12月5日に惜しまれつつ亡くなり、哀悼の意を表したナンバー。曲自体はアップテンポのマイナーブルース、クインテットのメンバーが全員ソロを繰り広げます。先発はShaw、続いてJefferson、Onaje、Houston、そしてLewisとの1コーラスバースがShaw, Jeffersonと行われラストテーマを迎えます。全員の熱気を帯びた演奏が(テンポがかなり早くなりました!)Rahsaanへのレクイエムになったに違いありません。
5曲目SunshowersはHoustonのオリジナル、イントロでのエレクトリックピアノとトランペットのサウンドがMilesのIn a Silent Wayを彷彿とさせます。こちらもこのバンドに相応しい佳曲、表題曲からフルートを除いたアンサンブルが壮大なイメージのナンバーを彩ります。Shawのブリリアントなテーマ奏に続くソロを、もっとクリアーに聴きたいと思っていても、アンサンブルがややラウドに響き音像が霞み気味です。その後JeffersonのソプラノとJoeHenのサックスバトルが!リズムセクションのサポートを得てJeffersonも大健闘していますが、お相手とはタイム感やアイデア、そもそも格が違い過ぎるようです。Onajeのピアノソロ、アンサンブルを経てラストテーマを迎え、イントロにダ・カーポ、アテンポしもうひと盛り上がり、フェードアウトでFineです。
6曲目Theme for Maxineはライナーノート曰く「実に素晴らしい人物で驚くべきマネージャー」と言うバンドマネージャーMaxine Greggに捧げられたShawのナンバー、メンバー全員から親愛の情を込めて演奏されています。本作中最も60年代ジャズの香りがするのはHorace Silverのナンバーの雰囲気を感じさせるからでしょうか。65年10月録音Silverの名盤「The Cape Verdean Blues」でもShaw = JoeHenのフロントラインが大活躍しています。
Disc One 1)Straphangin’ 2)Tee’d Off 3)Sponge 4)Funky Sea, Funky Dew 5)I Don’t Know Either
Disc Two 1)Inside Out 2)Baffled 3)Some Skunk Funk 4)East River 5)Don’t Get Funny with My Money
青天の霹靂です!The Brecker Brothers未発表ライブアルバムCD2枚組が厳選されたナンバーにして豊富な曲数、ハイクオリティな演奏、素晴らしい録音状態で今年3月に発表されました。ジャケットのデザインも秀逸です。こちらの方も青霹繋がりで話題になりましたが2015年に発表された「UMO Jazz Orchestra with Michael Brecker」、Helsinki, Finlandで地元を代表するUMOビッグバンドにMichaelが客演したライブ作品、彼の事をとことん愛してやまないバンドメンバー、スタッフ、オーディエンスが彼を万全の態勢で受け入れ、「さあMichael、どうぞ思う存分好きなだけブロウして下さい!」とばかりに御膳立てされたシチュエーションでのプレイ、95年に録音され20年を経て2015年に発掘、リリースされた名演奏です。本人も全く把握していない膨大な数のレコーディングを残しているMichael、まだまだひょっこりと、とんでもない名演奏が突然世に出る事を楽しみにしていて、決して損はないと思います。
3曲目もRandyのMCから始まります。曲はメンバー各自のソロを16小節づつ(作曲者Randyは8小節とアナウンスしていましたが…)トレードするのが目的のナンバーSponge、Heavy Metal Be-BopではTerry Bozzioの猛烈なドラミングのプッシュにより、とんでもない次元にまで演奏が盛り上がりました。こちらではまずRandyとMichaelの兄弟対決が行われます。Randyの一貫して知的、端正なアプローチに対し、弟はチャレンジャブルに、兄のソロの内容も視野に置きつつ、次第に熱を帯び始め、実に気持ちの入った入魂のフレージングの数々でバンドは元より、常にクールな兄を自分のペースにしっかりと巻き込んでいます!3’06″からのテナーソロの空白時間はエフェクターのツマミ調整に費やされたようで、その後のwahの掛かり具合が確実なものになりました。4’17″からのフレージング、実は運指が難しく、トレード中エキサイトしている時には更に難易度がアップする筈なのですが、Sax Machineにとってはいとも容易なようです。この頃のMichaelは他のサックス奏者がやらないようなリックを次々と編み出し、果敢に挑んでいたフシが伺えますが、発想が理科系ミュージシャンのなせる技でしょうか。続いてギターとキーボードのトレードが始まります。ここでのシンセサイザーの音色は懐かしいですね、おそらくProphet Ⅴを使用していると思いますが、アナログならではの暖かい、深みのあるサウンドが特徴です。Morales, Jasonふたりの徹底したサポートがあってこそ、ここでの大熱演が成立しました。誤解を恐れずにMoralesとBozzioのドラミングを比較するならば、MoralesはTony Williams的なパルスでの呼応、BozzioはElvin Jones的長いスパンでのレスポンスと言えると思います。
4曲目は本作中白眉の演奏、Michaelの代表的ナンバー Funky Sea, Funky Dew。Heavy Metal Be-Bopでの演奏も素晴らしかったですが、更に凌ぐこの曲を代表する名演奏が誕生しました。曲の持つ雰囲気はメロウさとファンキーさ、スパイス的に哀愁が加味され、C7ワンコードのセクションでは一転してハードロッカーに変身!曲構成のメリハリが堪りません!2’54″からMichaelが吹くフレーズはどこかで聴いたことがあると思っていると、これは「Return of the Brecker Brothers」1曲目のSong for Barryじゃあありませんか!!この曲は当初Guineaと言うタイトルが付けられていましたが、BB竹馬の友トロンボーン奏者Barry Rogersがアルバム制作の頃に急逝し、哀悼の意を込めて彼の得意なフレーズをモチーフに仕上げたそうです。この曲の印税の一部は遺族に送られる事にもなりました。
Michaelのソロ、手がつけられないほどの絶絶、絶好調ぶりは何かが憑依して彼をコントロールしているに違いありません!続いてのギターソロもMichaelからのイマジネーションが作用し、白熱した演奏を聴かせますが、これまた何者かが憑依していると推測出来ます(笑)。ラストテーマを迎え、おきまりではありますがテナーサックのcadenzaソロになります。フェルマータ時にテナーの音量をグッと落とした時点でこれはかなりの長さのストーリーを展開するだろう、と暗示させます。この曲のキーがin B♭でBマイナーなのでドミナント・コードであるF#7を基本にフレージングを開始します。Heavy Metal Be-Bopでは”アルプス一万尺”のメロディを引用していましたが、今回はどうでしょう?ハイパーフレーズ連続の後にメロディらしいフレーズが聴こえて来ました。これは?えっと?何と! Coltraneのナンバー、Blues to Youじゃあありませんか!「Coltrane Plays the Blues」に収録されているin B♭でキーがC、F#の裏コードという解釈なのですね、流石です!
Disc Two1曲目はHeavy Metal Be-Bopにも収録されていたRandy作の(変態?)ブルース・ナンバーInside Out、テーマ演奏の時点で既にメンバー全員ノリノリです!テーマの繰り返し時、11小節目にMichaelが吹くラインがBlues Brothes(笑)のイメージです!ソロ1番手はGray、初めの2コーラスはテーマのコード進行、その後スリーコードのブルースという、Heavey Metal Be-Bopでのスタイルを踏襲しています。2番手はRandy、オリジナルテイクの影を引き摺りつつ、そこは彼もsomething newを表現すべく果敢にトライしています。続くはMichael、この曲でも開始時からまた別なアプローチのヴィジョンが見えているようです。オリジナルではテーマのコード進行の後、延々とG7のワンコードでソロを展開していましたが、ここでは他のプレイヤーと同じくスリーコードのブルース進行でファンキーに、テキサス・テナー然としたアプローチを聴かせますが、おそらくフロント全員がソロを取るので比較的コンパクトに、とはいえ大胆にプレイを纏めているように感じました。続くFinnertyは自分の持つ表現力のテリトリーの範疇を最大限に広げた熱いソロを繰り広げています。その後ラストテーマを迎えます。
2曲目はDetente収録RandyのナンバーBaffled、前述のAurex Jazz Festival Jazz of the 80’sにも収録されています。ユニークな発想による斬新なメロディ、構成を湛えたファンクナンバー。スラップが効果的なベースパターン、多彩なギターのカッティング、微妙に変わるドラムのグルーヴ、Michaelのスペーシーな中でのフィルインソロ、様々な要素が渾然一体となったRandyの頭の中のような(笑)ナンバーです。テーマ後ドラムソロになり、ギターのミュートカッティングがパーカッション状態です!比較的長いドラムソロになりましたがツークラーベでバンドが復帰、 Randyのソロになります。ここでもいつになく本気のプレイ、バンドの音はかなりラウドだと思われますが、管楽器奏者にはかなり茨の道、多少のリズムラッシュはものともせず、キュー出しのためにオフマイクになりつつもラストテーマを迎えます。
4曲目Heavy Metal Be-Bop収録のナンバーEast River 、Jason他の作曲になります。この曲を用いた伝説のHeavy Metal Be-Bopプロモーションビデオでの くちパク、バンド横一列状態、Michaelのお茶目なパフォーマンス、youtubeにアップされているので未視聴の方々はゼヒご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=wnfhHamrULc
5曲目Don’t Get Funny with My Money、これまたレアな選曲、Detente収録のRandyのナンバーにして自身の唄をフィーチャーした名曲です!個人的にお気に入りのナンバー、この曲が収録されているのを発見した時は小踊りさえしてしまいました(笑)。晩年のMichael Brecker Quartetのメンバーを務めたベーシストChris Minh Dokyの99年リリース・リーダー作「Minh」に、大胆にもRandy本人を迎えてこの曲を再演しています。
前作「JuJu」から約4ヶ月後の64年12月24日に本作は録音されました。Blue Note Label第1作目「Night Dreamer」が同年4月録音なので、1年間に3作と言うハイペースでのリーダー・アルバム制作は、迸る才能と同年7月頃に名門Miles Davis Quintet、リーダー自身に5年近く嘱望され続けて、いよいよの加入と言う話題性のなせる技でしょうか。本作参加メンバーはShorterの音楽性を最も理解している一人のElvin Jonesが今回も留任ですが、他のメンバーは一新されました。トランペッターFreddie HubbardはShorterが音楽監督を務めたArt Blakey and the Jazz Messengersで研鑽し合った仲、メキメキ腕前を上げていました。ピアニストHerbie HancockとベーシストRon CarterはShorterが加入したばかりのMilesバンドのメンバー、リーダー仕込みの高い音楽性は既に定評がありました。Shorterの個性的かつ難易度の高いオリジナル、しかも今回は表現の発露に更なるオカルト的なエグさが加わった前人未到のサウンドです!曲の構成やメロディライン、コード進行やリズムの複雑さに加え、一貫してダークで重々しい中にきらりと光る知性、ユーモアのセンスを含んだテイストは演奏者に表現上の問題提起を行なっているかのようで、より柔軟性に富んだプレイヤーが必要となり、メンバーの刷新は必須だったのでしょう、これらを演奏するに相応しいミュージシャンが揃いました。コンセプトとしては黒魔術に違いないのですが、前作は「JuJu」と言うことで西アフリカの呪術がテーマ、今回はWitch Hunt(魔女狩り)、Fee-Fi-Fo-Fum(ジャックと豆の木の巨人が発する気味の悪い雄叫び、呻き声)、Dance Cadaverous(死者の踊り)とSpeak No Evil(See No Evil, Speak No Evil, Hear No Evil=西洋的”見猿聞か猿言わ猿”の一節)、そしてWild Flowerの3曲はFinlandの作曲家Sibeliusの”Valse Triste”にインスパイアされたオリジナルで、愛娘に捧げたInfant Eyes以外は西洋の魔術がテーマになっています。Death Metalのジャンルでは存在するのでしょうが(汗)、ジャズでは初めて取り上げられたコンセプトアルバムに違いありません。これら呪術的オリジナルを、精鋭たちが信じられないほどの感性を持って熱演し、ジャズ史に残る名作に仕上げました。ワンホーン・アルバムは管楽器奏者の個性にフォーカス出来るのが最大の魅力ですが、アンサンブルとしてはモノトーン、本作のトランペット〜テナーサックス2管編成はモダンジャズ・ホーンズの黄金のコンビ、オクターヴ違いの音域と異なった音色のブレンド感がユニゾンはもちろん分厚いサウンドを聴かせ、ハーモニー演奏に至っては黄金を通り越したプラチナの響きに該当します(笑)。しかもHubbardのトランペットは技術的、音色、タイム感、サウンドのコンテンポラリーさが断トツに素晴らしく、Shorterと絶妙な相性を提示し、以降も抜群のコンビネーションをキープし続け、76年6月にNYCで行われたNewport Jazz FestivalでのHerbie Hancockのコンサートを収録した「V.S.O.P.」 での演奏をきっかけに、レギュラー活動を展開しました。
V.S.O.P.は同じクインテット編成で、ドラマーがElvinからTony Williamsに替わっただけのメンバー構成、V.S.O.P.で同じくFreddieがMilesに替われば60年代のMiles Davis Quintetになります。音楽的志向が同じミュージシャンが集う傾向にあるのは昔からの常ですが、ElvinとHancockの二人に関してはどうも異なるようです。彼らサイドマン同士での共演作は何枚か存在しますが、お互いのリーダー作には決してどちらかの名前はクレジットされていません。その観点から分析してみると、まず本作テーマのフィルインはほとんどHancockが中心に行ない、Elvinはどちらかといえば追従した形でのフィル、フロントソロ時もHancockが主導権を握りバッキングを行なっています。「JuJu」の演奏ではひたすらElvinがリードしつつ、McCoyがついて行く形で伴奏を行い、同時にバッキングをしたとしてもぶつかる事はあまりありません。ですので結果Elvinのドラミングが曲想に完璧に合致し、全編炸裂した名演奏を聴くことが出来ました。McCoyはColtrane Quartetでのソロ時にバッキングをせず、ステージ上でピアノ椅子に座ったままじっと待つ事のできる辛抱強さ、寄り添う事のできるタイプで、長男ではなく兄貴達と遊びたい弟、兄貴の用事が済むまで待たされても辛抱する末っ子ではないかと(笑)。一方のHancockはMilesの空間のあるソロに対して、いかに充実したフィルインを展開して行くかを求められる状況下で、音楽性が培われたピアニスト、また伴奏を共にしたTonyのドラミングは空間を埋めるタイプではなく、フレージングに対する瞬発力を信条とするプレイヤーです。Hancockの言わば横のラインに対しTonyは縦のラインでのアプローチなのでバッキング時にぶつかり難く、良いコンビネーションを築き上げている間柄です。HancockとElvinの場合は、互いに似た音楽的傾向があると意識していると思います。それ故に相容れないものも同時に存在すると。本作の演奏ではHancockの弾けぶりが凄まじく、Elvinの健闘ぶりも発揮されてはいますが、前作よりは存在感が薄くなっています。ShorterからのオファーでリズムセクションはHancockが中心となってサポートして欲しいと、もしかしたら要望が有ったのかもしれませんが、とにかく彼自身「俺が、俺が」とばかりに真っ先にバッキングを行うため、Elvinの登場部分は限られてしまいました。彼も自分が出なければならない場面では率先してアクティヴになりますが、別の誰かが活躍する時には自己主張を(音楽を壊してまで)絶対にアピールはしません。バンマスShorterは結果これを良しとし、本作の次にリリースされた作品「The All Seeing Eye」(この作品との間に後年発売された2作品が録音されていますが)ではHancockが残留し、Joe Chambersがドラマーの椅子に座り、そして以降の作品にはElvinが戻ることは決してありませんでした。
それでは演奏内容に触れて行きましょう。1曲目Witch Hunt、躍動的なアップテンポのホーン・アンサンブルにリズム隊のキメが合わさる、これだけでも十分楽曲として成り立ちそうな秀逸なイントロから、ドラムが先導してテーマ部に入ります。4度のインターヴァルを中心としたユニークなメロディラインの間には毎回スペースがあり、早速この部分をHancockが慎重にして大胆にバッキングを行います。曲自体にダイナミクスが設定され、mpからffまでを縦横無尽に演奏しますが、この事が楽曲に深淵なメッセージ性を導入しています。テーマの繰り返し部分ではElvinもフィルインを入れるべく試行しますが「ここはHerbieに任せておこうか」とばかりに比較的”音無の構え”、テーマのff部分での巧みなカラーリングには存在感を見せており、更にテナーソロに入る直前の強力なフィルには場面転換に対する強い意志を感じさせます。本作でのShorterのテナー音色は一層の深みが織り込まれていて、独自なフレージングと共に聴く者を魅了してやみません。でもここでのソロの”寡黙さ”は敢えてHancockにフィルインを弾かせ、コールアンドレスポンスによるカンヴァセーションを企てようとしているかのよう、3’07″からはElvinがその企てに乗じてプッシュし始めます!思うにElvinは音楽的に高度に丁々発止のやり取りが出来る、Shorterにとって”間違いのない”素晴らしいパートナーですが、究極Coltraneの影がちらつき、自身のプレイにも影響を与えると感じます。例えば「JuJu」収録Yes or NoでのColtraneライクなアプローチのように。Miles Bandに加入したばかり、リーダーから直接求められる事はなかったでしょうが、早急に自己のスタイルを確立する事が一層の使命となり、Coltraneの影響下を一刻も早く脱却したいとの願望からElvinとの共演を控えるようになったのだと、ここでのソロの方法論を鑑みて自分なりの結論に達しました。
続くHubbardのソロはブリリアントな音色と滑舌の良さ、優れたタイム感、超絶技巧にも関わらず必ず”ウタ”を感じさせるアドリブライン、Clifford Brown, Lee Morgan, Donald Byrd, Booker Little, Woody Showの流れを汲むスタイルは、Shorterとの対比において全く引けをとらない素晴らしいものです!個人的にはHancock 65年3月録音リーダー作「Maiden Voyage」表題曲のソロに、Hubbardのジャズスピリットの真髄を感じています。
4曲目表題曲Speak No Evil、何と言う物凄い曲でしょう!Shorterコンポジションの中でも群を抜いてインパクトを持つナンバーです!そしてそして、冴え渡るHancockの、もはや曲の一部と化したテーマ時バッキングの嵐!これはもうHerbie Hancckバッキング祭り状態です(笑)!これではElvinの出番は封印されたも同じですが、シンコペーションや曲のキメの部分でのドラムフィルはまさしく彼ならではのセンスが光ります!ソロ先発はShorter、ここでもテーマのモチーフを大切にしたアプローチが素晴らしいです!Elvinはピアノとテナーのやり取りとは異なった手法での、独自のインタープレイに着眼したかのように、2’28″から盛大にフィルインを繰り出し果敢に挑みます! Shorterに纏わり付くようにバッキングし続けるHancock、そして激烈に、しかしクールに自己の内面を具現化し続けるテナーソロは信じられない次元にまで、音数は決して多くは無くともバーニングしています!Shorterに対してピアノとドラムと全く別方向からのアプローチが行われ、しかし彼ら二人は決して合わさることなく平行線を辿りつつ曲が進行します。演奏中に行われるソロイストvsリズム隊のインタープレイの他、ピアノvsドラムの互いの自己主張が同時進行し、音楽が崩壊するギリギリのところまでせめぎ合い、この事象が演奏を更なる次元にまで押し上げているようにも感じます!続くHubbardのソロもイメージを猛烈に膨らましながら、この難曲に対して挑むように、しかし何とも言えない色気を放ちつつ、フレージングを展開して行きます。トランペットのフレーズを受け継ぎHancockのソロが始まります。ここでのピアノソロは本作中最も深い次元にまで表現が到達、ある種神がかっているように思います!素晴らしい!その後はラストテーマへ、Hancockバッキング祭りは宴もたけなわ、あり得ないレベルでの演奏、ハイパーなコードの連続です!
5曲目Infant EyesはShorterの作曲技法の結晶といえると思います。メロディのセンス、コード進行の妙、楽曲全体が持つ雰囲気は愛娘への全身全霊の思いから、これほど深い音楽性と情緒を湛えたジャズミュージシャン作曲のバラードは存在しない、とまで感じている名曲です。Stan Getzが76, 77年頃にこの曲をレパートリーに取り入れ、積極的に演奏していました。77年1月Copenhagenの名門ジャズクラブJazzhus Montmartreのライブ盤に収録、GetzとShorter、同じテナー奏者ながら(だからこそ)これだけ唄い方が異なるのを比較してみるのも楽しいです。そして同年7月Montreux Jazz Festivalの模様を収録したアルバム「Montreux Summit vol.1」、こちらは全編大所帯のジャムセッション演奏の中で、この1曲だけGetzのワンホーンカルテットでのプレイ、彼の存在感を誇示した名演奏に仕上がっています。
Recorded: August 3, 1964 at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Label: Blue Note / BLP 4182
ts)Wayne Shorter p)McCoy Tyner b)Reggie Workman ds)Elvin Jones
1)JuJu 2)Deluge 3)House of Jade 4)Mahjong 5)Yes or No 6)Twelve More Bars to Go
一聴してすぐに分かる、誰でもない個性を有したテナーの音色、ニュアンス、発音、タンギング。演奏スタイル自体そのものが存在しないと感じられるほど不定形でいて、しかし確実にShorterのカラーやメッセージが色濃く発揮される独創的インプロヴィゼーション、同様に彼にしか生み出すことの出来ないメロディライン、サウンドやコード感、曲調、リズムフィギュアを有し、それでいて確実にジャズにカテゴライズされる、ユニークさを遥かに通り越し崇高な域にまで到達する自作楽曲の数々。これらを踏まえて楽器を問わず並び称せられるミュージシャンを思い浮かべると、Thelonious Monk, Andrew Hill, Eric Dolphy, Joe Hendersonくらいでしょうか。偶然か必然か、彼らはShorter同様に全員Blue Note Labelのアーティストたちである事に、レーベルの持つ進取の精神を感じずにはいられません。学生時代に本作を初めて耳にして、作品の良し悪しを判断できる耳は持たずとも、その底知れぬ音楽の魅力に引き摺り込まれた覚えがあります。知らぬ間に聴く者を虜にするマジックを持つ作品を、今回は音楽的側面からクールに分析してみようと思います。
本作はShorter5作目のリーダー作に該当します。初リーダー作「Introducing Wayn Shorter」をVee-Jay Labelに59年11月録音、合計3作を同レーベルからリリースしていますが、共演者の人選やスタンダード・ナンバーのチョイス等レーベルの意向が強くあったと思われ、アルバムのコンセプトがハードバップの範疇に位置し、そこから脱出しようと常に試みを聴かせるShorterとのギャップが(それはそれで面白いのですが)アルバム表現を中途半端なものにしています。前作に該当する4ヶ月前にレコーディングされた「Night Dreamer」からBlue Noteレーベルに移籍し、その後たて続けに名作をリリースする事になりますが、「Night Dreamer」と本作は同じリズムセクション〜 McCoy Tyner, Reggie Workman, Elvin Jones〜殆どJohn Coltrane Quartetのメンバーですね。そしてArt Blakey Jazz Messengersでの盟友、トランペッターLee Morganが加わり、クインテットによるややハードバピッシュな演奏、しかしVee-Jay諸作とは格段にShorter色を出した演奏を展開していました。本作はワンホーンという事で思う存分自己の音楽を表現しています。演奏曲も引き続き全曲Shorterのペンによるものですが、個性の発露に一層の拍車がかかりハードバップを完全に払拭し、気高いまでに猥雑なShorterワールドを展開、さらにタイトルのJuJu=西アフリカの呪物、魔除け=が黒魔術的なイメージを与え、作品にミステリアスさを付加させています。ちなみに収録のDelugeも大洪水の意味、theを付ければノアの洪水を意味する事となりますが、実際にはそこまでの大義はなく、雨が降り始め溢れていく様を思い浮かべたそうですが、曲想はかなり深淵なイメージと受け取ることが出来ます。他曲House of Jade, Mahjong, Yes or No, Twelve More Bars to Goも含め、タイトルの意味深長さも作品の価値を高めていると感じます。その後の作品でもShorterオリジナルには一貫してタイトルに彼らしい捻りが効いています。例えばWitch Hunt, Speak No Evil, Fee-Fi-Fo-Fum, Schizophrenia, More Than Human, Endangered Spieces, The Three Marias…絵画や漫画に造詣の深い彼は、楽曲の捉え方に視覚的要素が付加されていて、ユニークなタイトルが浮かぶのかも知れません。
本作のスリリングな演奏の連続にはリズムセクションの貢献度に多大なものがあり、彼らの名伴奏がなければ間違いなく成り立たなかったでしょう。Elvin, McCoy, Workmanの息の合った絶妙なサポートには、Coltraneのバンドで互いに切磋琢磨し合った音楽性が反映されていると感じます。Workmanは61年12月頃までの在団でしたが、ElvinとMcCoyは当時Coltrane Quartetでの演奏真っ只中、本作録音の2ヶ月前に「Crescent」、そして4ヶ月後に「A Love Supreme」のレコーディングに参加しています。以降次第にフリーフォームに傾倒していくColtraneの、ある種崩壊を迎える音楽性(本人が渇望した崩壊ですが!)の調性内に於ける最終楽章に該当する、その中でも最重要2作品の狭間に本作は録音されました。音楽の内容はColtrane, Shorterもちろん全く異なりますが、Coltraneの2作は共にコンセプトアルバムとして明確なイメージが存在し、60年頃から4年以上に渡りツアーやクラブギグ、レコーディングを数多く経験した濃密な共演歴に裏付けされた、バンドサウンドの結晶として位置付けられます。McCoyの緻密なコードワーク、サウンド、そして徹底的にColtraneに寄り添う姿勢を見せるサポーター然とした伴奏、Elvinの芸術的領域にまで達する美しさを内包した、楽曲を彩るカラーリングの実に見事な事!これらを十分に踏まえ本作ではShorterの音楽性にディレクションをフォーカスし、Coltrane Quartetでのノウハウを生かした繊細さを基本にしつつ、大胆さを持って開花させているのです。
それでは作品の内容について触れて行きましょう。1曲目表題曲JuJu、イントロからMcCoyのコードワークによるホールトーンのサウンドが、不安感を煽るかのように聴く者に畳み掛けます。Elvinのリムショットの効いたリズム・フィギュアのカッコいい事!Shorterの吹くテーマの登場により場が刷新されます。楽器セッティングはマウスピースOtto Link Metal 10番、リードはRicoの4番、楽器本体はおそらくSelmer Bundy。一聴抜け切らないこもった成分がなんとも言えぬ味わいとして聴こえますが、音の輪郭、ず太さ、ダークさ、コク、付帯音の豊富さもあり得ぬ次元で発音され、このような音色、鳴らし方のテナー奏者は他に存在しません。24小節の構成から成るテーマは2度演奏されます。特徴的なのは4小節目と8小節目にElvinの大きなフィルインが入る点で、繰り返し時も同様です。通常フィルインはコーラスの変わり目、またはメロディとメロディの間〜音符のない部分を補うべく挿入されます。確かにメロディの合間ではありますが、まず通常は挿入されない箇所です。コード進行的にホールトーンの部分なので不安定なサウンド感を強調する、拍車を掛けるべくの効果なのか、その後の落ち着いたサウンド部分には一切入らないのでその分目立つのですが、これがまた実に効果的に響きます。Elvinのアイデアなのか、Shorterの指示によるものか、いずれにしても楽曲のカラーリングを担当するドラマーとしてのセンスを再認識する場面であります(ちなみに後テーマではまた異なった箇所にフィルが入ります)。先発はMcCoy、曲想の隅々まで理解を極めたアプローチによるソロは、この後に展開されるテナーソロにあたっての最高の前哨戦になりました。オクトパス奏法とは言い得て妙、8本の手足を駆使するが如く同時に幾つものカラフルな音、リズムを鳴らすまさにポリリズムの饗宴、ソロを鼓舞する様は全くElvinならでは、彼にしかあり得ないアプローチです!Workmanの進取の精神に富んだアグレッシヴなベースラインとの一体感も申し分ありません!そしてそして、Shorterの登場です!彼に思うのはアドリブソロでコード分解の巧みさ、スリリングなフレーズによるハードバップ的なアプローチを聴かせると言うよりも、あくまで楽曲の持つコンセプトの中で極論、ソロをセカンドリフ的に演奏しているのではないかと。流麗とは言い難いサックスプレイですが彼は十二分に自己のメッセージを放っており、言ってみれば彼流の朴訥としたブロウで、自身のオリジナル曲の持つイメージを膨らます作業として、インプロヴィゼーションを存在させているのではないかと睨んでいるのです。ここでのソロも構成力、フレージングのアイデア、意外性、メロディとの関連性、リズムセクションとの一体感、全て文句なしの内容に仕上がりました!その後のElvinはShorterの意を受け継ぎ、コンパクトながらオクトパスが増殖したかの如き(笑)スリリングなドラムソロを聴かせます。ラストテーマを迎えエンディングは長いスパンでのフェードアウトが行われ、演奏がまだまだ続いていた事を示しています。
3曲目House of Jade、このバラードもそうですが、Shorterのオリジナルはテナーサックス中高音域を用いたものが多いようです。この曲の最初の8小節間は当時の奥方Teruka Ireneさんが作曲、Shorterがサビを作曲し、曲として仕上げました。この8小節に東洋的な匂いがするので、この曲名”翡翠の家”を付けたそうです。何とも言えぬ魅力的な雰囲気を有するナンバーですが、東洋的なテーマに対し、サビ部分はペダルポイントを用いた西洋的アカデミックなサウンドを湛えているので洋の東西の融合、East Meets West的な意味合いもあると思います。Elvinはテーマでブラシを用いていましたがテナーソロに入るとすぐにスティックに持ち替え、そのままさら2コーラス目から倍テンポに変わり、Workmanのベースラインが活躍します。テーマのメロディを随所に感じさせるメロディアスなテナーソロはまさにコンポーザーならではのもの、McCoyの短いソロが終わり再びバラードに戻りますが、Elvinはそのままスティックでテーマを演奏、当然ですがまた違ったカラーリングを聴かせます。
4曲目MahjongはElvinの厳かなドラムソロから始まります。ペンタトニック・スケールが元になったシンプルで東洋的なメロディを持った曲、メロディの無い間の4小節はMahjongをプレイする人が次の手を考える時間を表しているそうで、メロディを有するその後の4小節は次の手を決めている時間なのだそうです。その間に捨て牌が決められれば良いですし、ロン牌にならない事を願いますが(笑)。ピアノのバッキングも東洋的〜中国的なサウンドを醸し出す事に成功しています。先発ソロMcCoy、自分が出過ぎずかつ次のソロへの布石になり得るように、ソロの雰囲気や長さ、構成を上手くまとめてテナーソロに繋げています。ここでも曲のムードに決して外れる事なく、巧みにShorterワールドを構築しているのは見事です。前作「Night Dreamer」でもOriental Folk Songという、中国のトラディショナル・ソングをShorterがアレンジを施し演奏していましたが、彼がTVを見ていてインパクトを受けたナンバーだそうです。奥方が日本人であれば自ずと東洋的な事柄に興味が湧くのでしょう。
5曲目Yes or NoはShorterのオリジナルの中でも名曲の誉高い、アップテンポのスイングナンバー。本人曰くA-A-B-A構成のAの部分がyes part、サビに当たるBの部分がno partに該当するのだそうです。yes partはハーモニー的に明るく響き、希望に満ちたメジャーサウンド、no partは懐疑的、消極的なマイナーの旋律が循環する部分と説明しています。サビの部分のサウンドはそこまでに否定的には感じませんが(笑)。この曲、鑑賞する分には良いのですが実は超難曲、手強さが半端なく演奏する機会があると毎回チャレンジ(しかもあまり達成感のない)と言う事になります(汗)。ここでのShorterはストレートアヘッドさを感じさせるテイストで、いつになくしっかりと、しかも流暢にフレーズを吹いており、その点でも取っ付き易い曲なのでは、とyes partのような希望を持ちますが(笑)、実情はno partそのものです(汗)。ソロ中Coltraneのアプローチを感じさせる部分も認めることが出来る、理論的に解明させる価値のある演奏です。続くMcCoyのソロの素晴らしさにもColtrane Quartetでの演奏より、伸び伸びとした解放感を感じます。テーマ時に左手でルートを鳴らし、右手でsus4のサウンドを華麗に響かせ、ソロ中にも大胆なコード付け、Shorterのソロへの合いの手の巧みさ、伴奏者の鏡のような演奏を聴かせています!そしてElvinのドラミング!彼のドラム演奏のためにこの曲が存在するのでは、と思わせるほどの楽曲へのハマり具合!シンバルレガートひとつとってもリズムに対するシャープネス、拍から溢れんばかりの音符の長さ、微妙に音色(ねいろ)を変えながらうねるように、時として畳み掛けるように、ソロイストのフレーズをより音楽的に発揮させることができるようにプッシュする瞬発力と包容力。ラストテーマでは更なるカラーリングの炸裂が!5’45″や6’09″からの、ほど良きところに信じられない超弩級のフィルインの嵐には笑いが込み上げて来るほどです!このリズム隊の屋台骨としてのWorkmanの貢献度が実は並々ならぬものなのですが。
6曲目Twelve More Bars to Goには意味が二つあるそうで、12軒以上のバーをハシゴして飲み歩くのと、ブルースのフォームが12小節であることをかけていますが、お酒が大好きなShorterならではの洒落なのでしょう。この曲はメロディ自体オーソドックスな12小節のブルースですが、コード進行には捻りの効いた代理コードが用いられ、一筋縄では行かない工夫が成されています。スペースを保ちながら、ユニークな語り口でじわじわと盛り上がるShorterのソロに、トリオは付かず離れずを繰り返しながら、まとわり付くが如くアプローチして行きます。他のプレーヤーのソロはなく、テーマ〜ソロ〜テーマと独壇場の演奏でラストを締め括っています。
2020.09.04 Fri
A Night at the Village Vanguard / Sonny Rollins
今回はSonny Rollinsのリーダー作1957年11月ライブ録音「A Night at the Village Vanguard」を取り上げたいと思います。多作家にして名演奏、名作の宝庫RollinsのライブラリーでもBest5に入るであろう、トリオ編成による代表作です。
Recorded: November 3, 1957 at Village Vanguard, New York City Label: Blue Note BLP1581 Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion
ts)Sonny Rollins b)Wilbur Ware, Donald Bailey(on afternoon set) ds)Elvin Jones, Pete La Roca(on afternoon set)
1)Old Devil Moon 2)Softly as in a Morning Sunrise 3)Striver’s Row 4)Sonnymoon for Two 5)A Night in Tunisia(afternoon set) 6)I Can’t Get Started
意外な事実ですが本演奏はRollinsにとって初リーダーライブ、そして初ライブレコーディングになります。51年録音初リーダー作「Sonny Rollins with the Modern Jazz Quartet」以降数々の名盤をリリースし続けたので、リーダーとしての活動をコンスタントに続けていたイメージがありますが、あに図らんや録音の都度にメンバーを配しし続け、パーマネントなメンバーでは演奏活動は行ってはいませんでした。同じテナーサックス奏者同志比較すると分かり易いですが、Michael Breckerも70年代初頭から膨大なスタジオワークとサイドマンのギグ、75年から兄RandyとのThe Brecker Brothers Bandでの大活躍で自身のリーダー作、レギュラーバンド活動を渇望され87年、38歳の時に遅咲きながら開始しました。Rollinsはこの時27歳、10代から第一線で活躍していたのである意味既にベテランの領域かも知れません。ふたりに共通するのは如何なるシチュエーションでも自身の音楽性を発揮出来る、でも自分が前面に出ることに特に頓着せず、いろいろなミュージシャンとの共演を楽しむ、そしてむしろリーダー活動での束縛を望まなかったと言う点です。でもMichaelの場合はすっかり観念して(笑)、徹底的にリーダー活動を展開しました。Rollinsはどうでしょうか、例えば彼の取り巻き連中はこのような事を言っていたのでは?「Sonny、自分のレギュラーバンドでの活動はいつから始めるんだい?あんなに沢山名盤をこしらえているのにバンドが無いなんてもったいないぜ。ここいらで本腰を据えて自分のバンドを持ったらどうかな?皆んなSonnyのバンドを聴きたがっているよ」のような要望だったように思います。でも実は本人フリーランス状態で気ままに様々なメンバーとの演奏活動、レコーディングを楽しんでいた風を感じます。Miles Davis, Max Roach, Clifford Brown, Thelonious Monk, Dizzy Gillespie, Kenny Dorham, Abbey Lincolnたちツワモノの諸作品で、いずれもジャズ史に残る名演奏を残しており、全てがリーダーを喰ってしまいそうな勢いの表現の発露、しかし各リーダーはRollinsの演奏、人柄をこよなく愛していたので全く好きにやらせていました。自身のリーダー作での演奏も一回こっきりのメンバーとのハプニング、アバンチュール(?)を存分に楽しむ、特に55〜57年は彼の代表作リリースのラッシュ、リーダー活動を行わずとも一枚一枚異なったコンセプトのアルバムを作れるのは迸る才能が成せる技以外の何ものでもありませんが、諸作品には継続的な路線を示し、その上での発展性は感じられません。実はスタンスとしてサイドマン気質的なものが根底にあり、空を舞うペガサスの如く束縛を嫌い、一か所に落ち着かず、解放された状態でこそ自己を100%発揮できるプレーヤーなのではないかと推測しています。伝え聞いた話ですが、Rollinsは周囲に実に気をつかうタイプで、しかも頼まれたことを断る事が出来ない人柄だそうです。そのような人物がメンバーを率いて、強力にリーダーシップを取るのは至難の技、例えばMilesやCharles Mingusのように強権を発揮できるタイプのミュージシャンは生まれもってのリーダータイプですが。59年に自己を見つめ直すための一時的な引退に代表されるような、デリケートさを持ち合わせています。
満を持してのこのリーダーライブ、演奏は大成功をおさめましたが、このメンバーを起用してパーマネントに演奏を継続するには至らず、唯一afternoon setで共演したPete La Rocaとはその後2年間行動を共にすることになります。59年3月Stockholmでのラジオ放送を収録した「St Thomas Sonny Rollins Trio in Stockholm 1959」でLa Rocaとの共演、そして50年代最後のRollinsの名演奏を堪能する事が出来ます。
75年にアナログ盤2枚組で「More from the Vanguard 」と題して本作の未発表テイクを10曲収録したアルバムがリリースされました。Sonny Rollins Trioは当日afternoon setで5曲、evening setで15曲合計20曲を演奏しましたが、プロデューサーAlfred Lionはこのうちafternoon setの4曲を廃棄し、16曲の中から6曲を選んでアルバムにしました。20年近く倉庫で眠っていたこの未発表テイクの出現は青天の霹靂、大いに驚きましたが録音テープの保存状態が良くなかったのか、ミキシングの関係か音質に難があり、当時レコード盤で聴いていささか閉口した覚えがあります。ところが99年7月にレコーディング・エンジニアRudy Van Gelder自らリマスタリングしたCDが「A Night at the Village Vanguard vol. 1, vol. 2」として発表されました。録音したエンジニア本人による、世界遺産的名人芸の領域(爆)の音質改善作業で未発表のクオリティもかなり向上、Rollinsの軽妙で楽しげなMCテイクも追加、当夜の全貌がクリアーな形でリリースされました。
本作前後にもRollinsはテナートリオでレコーディングを行なっています。遡ること8ヶ月57年3月Los AngelesでRay Brown, Shelly Manneと「Way Out West」、3ヶ月後の58年2月NYCにて名盤「Brilliant Corners」のリズム隊でもあるOscar Pettiford, Max Roachと「Freedom Suite」、いずれも全く違ったコンセプトでの作品です。「Way Out West」は西海岸の名手二人とミディアムテンポのスタンダード・ナンバーやオリジナルを中心に、大らかさを全面に押し出し横綱相撲の如き貫禄のある演奏に徹しています。録音当日は参加ミュージシャン3人が多忙を極めてなかなか時間が取れず、夜中の3時にレコーディングが始まり朝の7時まで行われました。テンガロンハットを被り、ホルスターを腰に付け、カウボーイ姿に扮してテナーサックスを拳銃の代わりに携えたRollinsが、バイソン頭蓋骨のオブジェまで用意された白昼の荒野でポーズを決めるジャケット写真のイメージもあり(笑)、LAの明るい日差しを燦々と浴びた日中のセッションと勝手に考えていましたが、言われてみればSolitudeやThere Is No Greater Love, Way Out Westなどにいつになくレイジーな雰囲気が漂い、真夜中の様相を呈しているようにも聴こえます。「Freedom Suite」の方は1曲目レコードのA面全てを費やしたThe Freedom Suiteに代表されるコンセプト・アルバム、ストーリー性のある構成の佳曲が合わさった組曲に対し、トリオは実にタイトに、スリリングに演奏を展開しています。「Brilliant Corners録音の時は曲が難しくて難儀したし、OscarはMonkと随分やりあってレコーディング・ブースの中で弾いてる振りの嫌がらせまでして、そりゃビーク(首)にもなるけどさ、Maxとふたりのグルーヴは実に気持ち良かったなあ」とか何とか言いながらメンバーを決めたのでしょうね、きっと(笑)。B面のスタンダード・ナンバーの演奏も充実した内容の仕上がりです。
テナートリオにはコード楽器が存在しないのでそこをRollins流のハーモニー感に富んだフレーズ、ラインにより、鳴っていないはずのコードがあたかも流れ聴こえるようにプレイしています。それは必然でもありますが。そして卓越したリズム感によるグルーヴが演奏の精度にスピード感を加味し、全体のクオリティを高める効果を生んでいます。彼を軸としたリズムの構図は他のテナートリオにはない高次元なスイング感、タイム感を表現し、Rollinsはもはやリズムセクションの一員として機能しています。バックビート、裏拍、リズムのスイートスポットに対する音符の比類なきハマり具合、4小節、8小節の垣根を超えたフレージングの開始位置、終了場所。知る限り比較し得るテナートリオは「Elvin Jones Live at the Lighthouse」でのSteve Grossman, Gene Perla, Elvin Jonesのプレイだけでしょう。
それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Rollinsの”Here we go”という掛け声に続きカウントが始まります。ラテンとスイングのリズムが交錯する、小節数や曲のフォームがイレギュラーなナンバーOld Devil Moon、メロディラインにも独特な魅力があります。Elvin, Wareとの共演は今回が初めて、何かとお初が多い作品ですが3人のリズムの相性は大変に良く、絶妙なコンビネーションを聴かせています!イントロではElvinがシンバルのカップを叩き、硬質な音を聴かせていますが、随所にこの人ならではのカラーリングを見出す事が出来ます。いつもの彼とは違うドラムやシンバルの音色は個性未確立の年代的若さゆえか、録音の関係か、最も考えられるのはドラムセット自体が異なり、昼の部で演奏していたPete La Rocaの楽器を使用したのかもしれません。基本的なグルーヴは同一ですが、シンバル径が小さめ、スネアのチューニングが高めに聴こえ、セットの音色が違うとフィルインの印象がかなり異なります。Rollinsのテーマ奏、低音域でのサブトーンがザラザラ感を一層色濃くし、太く逞しい音色を彩ります。Wareのウネウネと巧みに動くラインはコード楽器のないこの編成には打って付け、ピアノのバッキング不在と希薄なコード感の穴埋めを担当するが如し、さらにドラムのポリリズムと確実に連動しています。それにしてもここでのRollinsのソロ!何という素晴らしさでしょう!歌いまくり、スイングしまくり、大いなる余裕を持って6割程度のエネルギー放出量で楽々と、しかしあり得ないほどゴージャスに演奏しています!加えてRollinsは一息のフレーズがとても長いのです!しかもただ長いだけではなく、必然性のあるストーリーとして!これには豊かな歌心に加え尋常ではない肺活量が必要になりますが体力、体格的にも恵まれているのでしょう。2’49″辺りから始まるElvinのタム回しに呼応するかのような16分音符の驚異的なフレーズ!3’34″頃から始まるメロディアスでひょうきんなラインに間も無くのソロ終了を察知し、場面を転換すべくバスドラムを連打、バックビートを強調し、ソロに寄り添いつつプッシュするElvinの音楽的なアプローチ!初顔合わせにも関わらずこの驚異的インタープレイ!やっぱりジャズって物凄い音楽だと今更ながらに再認識しました(汗)!その後ドラムとの4バースになります。Elvinの難解なフレーズにWareは初めの1回目、アタマのアクセントをキャッチできず難儀し、明らかにオンを聴いてから演奏開始、しかし食らい付くべくすぐさまElvinのフレージングのポイントを把握し、2回目からは確実にオンから演奏していて、その後はアウフタクトも交えた余裕ある対応さえ聴かせています。Wareの初め驚いてハッとした顔から、次第に笑みが溢れる表情に変化していく様子が目に浮かぶようです(笑)。4バースの最後に演奏されたElvinの得意技である”タメ”をものともせず、Rollins, Wareともラストテーマに突入、エンディングはバンプを繰り返しゆっくりと収束して行きます。歴史的名演奏にはそれなりの理由、根拠があるとも改めて感じました。
2曲目Softly as in a Morning Sunrise、満場の拍手に答えるべくRollinsのメンバー紹介、滑舌の良い口調で同じく次曲でWareをフィーチャーする旨を伝え、ベースのイントロから始まります。フィーチャーと宣言した割にはベースはテーマを演奏せずRollinsが担当します。その代わりWareはメロディラインの後ろで音楽的自己主張を遂げているので、その意味合いでのフィーチャーなのかも知れません。Elvinはブラシを用いて全編叩いており、本作3ヶ月前にレコーディングされたTommy Flanaganの代表作「Overseas」の演奏を彷彿とさせます。この作品ではスティックを一切用いず、全曲ブラシで演奏していてその名手振りを披露しています。シンバル音が入らないためにドラム全体の音量が小さくなるので、その分Elvinの唸り声がはっきりと聴こえる事になりますが(笑)
4曲目もRollinsのオリジナル・ブルースSonnymoon for Two、自身の曲紹介からカウントを経て曲がスタートします。シンコペーションを生かしたペンタトニック・スケールから成るテーマは、テンポ設定もありますが、他の曲に比べてレイドバック感が際立っているように聴こえます。テーマのメロディをモチーフに、ジワジワと次第に変化させ、発展させていくアドリブの手法はRollinsならではのもの、実に見事です!リズム隊もRollinsのにじり寄りの如き盛り上がりに手堅く、確実に追従して音楽をビルドアップさせて行きます。頃良きところでテナーとベースの4バースが始まり、ごく自然にドラムとのバースに替わり、テナー、ドラム共にソロのアイデアが次から次へと湧き出て、枯渇する事を知らない太古の昔から湧き続ける豊かな泉のようです!その後ラストテーマへ、テナートリオならではの一体感がここで極まれり、コード楽器は全く不要と感じました。
5曲目A Night in Tunisiaのみマチネーの演奏、Rollinsのアナウンスによる作曲者、演奏曲目紹介の後イントロが奏られます。この曲ではメンバーが替わりドラムのLa Rocaは当時19歳の期待の新人、Max Roachの紹介と言われています。ベーシストDonald BaileyもBaltimore出身の新人、若手二人を起用してのフレッシュな演奏にRollinsも張り切ったプレイを聴かせています。Elvin=Wareのコンビとタイム・キープ的に遜色はありませんが、若手は演奏の深み、音楽の構築感、Rollinsとの一体感にはどうしても及びません。演奏人数が少ない分一人ひとりに掛かる音楽的ウエイトが大きく、経験値の足りなさがより目立ってしまうからです。彼らもテナーの演奏を良く聴いていて健闘ぶりは伝わりますが、絶好調のRollinsにもっと絡んで欲しいぞ、テナーソロを更に煽ってくれ、Rollinsはインタープレイの材料をこれでもか、とあなた方に提供してるのにスルーしている場合じゃないでしょ、優等生なのは良く分かるから、音に人生を掛けてとことんやってくれよ!と叫びそうになります(笑)。La Rocaのドラムソロもフィーチャーされますが、これこそElvinのクオリティには全く及びません(汗)。その後1コーラス再びテナーソロがあり、ラストテーマ、そしてリーダー実に気持ちの入ったcadenzaを聴かせ、エンディングを迎えます。Rollinsの物凄さだけが浮かび上がる、孤軍奮闘のテイクとなりましたが、前述のマチネー・テイク4曲がプロデューサーにより廃棄された理由もある程度想像が付きます。
6曲目アルバムの最後を飾るのはバラードI Can’t Get Started、再びWare=Elvinのコンビに戻り、再度ブラシを用いた緻密なElvinのプレイ、アクティブなWareのベースワークを堪能できます。アウフタクトからいきなり始まるRollinsの朗々としたテーマ、メロディフェイク、フィルイン、ニュアンス付け、ビブラート全てに無駄がなく、引き続き行われるダブル・タイム・フィールでのアドリブ・ソロの更なる入魂ぶりは、スイングの権化が憑依したとしか考えられないレベルでの演奏です!
2020.08.24 Mon
Our Man in Paris / Dexter Gordon
今回はテナー奏者Dexter Gordonの1963年録音リーダー作「Our Man in Paris」を取り上げてみましょう。既渡欧組Bud Powell, Kenny Clarkeに地元出身のPierre Michelotを加えたトリオとのParisレコーディング、Dexterは新天地で伸び伸びと素晴らしいブロウを聴かせています。
Recorded: May 23, 1963 Studio: CBS Studios, Paris Producer: Francis Wolff Label: Blue Note
ts)Dexter Gordon p)Bud Powell b)Pierre Michelot ds)Kenny Clarke
1)Scrapple from the Apple 2)Willow Weep for Me 3)Broadway 4)Stairway to the Stars 5)A Night in Tunisia
本作はDexterにとって初のParis録音になります。前年Copenhagenに移住した直後の62年11月、当地のピアニストAtli Bjorn率いるトリオにDexterが客演した作品「Cry Me a River」が欧州での初録音、ここではいつも以上にマイペースでリラックスしたプレイを聴かせていて、音楽の原点である演奏する楽しさを十二分に感じる事が出来ます。50年代終わり頃から始まった米国でのいわばジャズマン不況で、Dexterを含め仕事が激減したミュージシャンがこぞって欧州に活路を見出すべく出国しました。彼もClarkeを頼って最初はParisに落ち着いたという事です。本国を離れるにあたってはさぞかし葛藤もあった事でしょうが、人種差別がなく、米国ジャズメンを大切にする欧州人の気質もあり当地に馴染み始め、仕事も数多くあったのでしょう、新たな創造意欲を得たような潑剌さを感じます。それから約半年を経た本作でのプレイは更なるリラクゼーションを聴かせています。
Bossesの管楽器との共演作はJohnny Griffin, Barney Wilenがフロントの59, 60年録音「Bud Powell in Paris」、同じく61年12月録音「Bud Powell / Don Byas – A Tribute to Cannonball」Idrees Sulieman, Don Byasを曲ごとにフィーチャーした作品です。ちなみにこちらもCannonballのプロデュース作品になりますが、渡仏中の彼を捉えての企画であったのでしょう。
ディスコグラフィーには本作を「Dexter Gordon with the Three Bosses」と記載していますがまさに言い得て妙、レギュラー活動を行なっているリズムセクションに新たにフロントが加わると、それまでの演奏にはない化学反応が起こり得ます。そこを楽しむのがジャズ鑑賞の醍醐味の一つと言えるのではないでしょうか。
それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目Charlie Parkerの名曲Scrapple from the Apple、オープニングに相応しい軽快なテンポ設定、イントロから魅力満載のテナーサウンドが聴こえてきます。前述の「Dexter Rides Again」の演奏とは大違い、格段の進歩を遂げたプレイからは、1ミリたりとも動かないジャズテナー美学に対する、確固たる信念が感じられます。また幾多のテナー奏者、本当に様々で個性的な音色を湛えていますが、Dexterのような音色や鳴りを有するテナー奏者は他には存在しないと再認識させられます。198cmという長身はテナーを吹くための天賦の才、身体全体が鳴っているのです。音楽表現に対する拘りが無いわけがありませんが、同時に些細な事に対する拘りは一切持たないように心掛けているかの大らかさ、そのバランス感、太く、密度濃く、豪快に、大きく、たっぷりと、音符長く、後ノリしつつ素早い音の立ち上がり、朗々と、切々と、ユーモアのセンスを湛えながらブロウしています。テーマ後シングルノートをモチーフにフレージングを発展させ、ユーモアのセンスを感じさせます。優れた医師の父を持つ裕福な家庭環境からでしょう、育ちの良さに由来するどこかノーブルな語り口、端正な8分音符を中心としたソロの展開には聴く者を虜にしてしまう魅力に満ちています。Dexterの好演にはリズムセクションの的確なサポートも貢献しており、モダンジャズ・ドラミングの開祖の一人でもあるClarkeのシャープなドラミングがプッシュしています。彼は60年頃からベルギー人ピアニスト兼アレンジャーFrancy Bolandと双頭リーダー・ビッグバンドでの活動を開始し、Kenny Clarke/Francy Boland Big Bandとして20枚以上の作品をリリースしました。メンバーは渡欧組を中心に欧州の精鋭達を交え、当初はsextetから始まりoctetとメンバーが増えて行き、ビッグバンドにまで拡大しました。イタリア人資産家にして建築家Gigi Campiがバンドを最大限に援助し、全ての作品プロデュースまで手掛けました。ジャズミュージシャンにはこのCampiやPannonica夫人のようなパトロンが必要なのです。
2曲目Willow Weep for Me、マイナー調で3連符を生かした印象的なイントロはDexterのアイデアによるものでしょうか、曲本編がメジャーとの対比になっています。漆黒にして身の詰まった音塊が、テナーのベルからヌーっと出るが如くのメロディ奏は、朴訥として殆ど飾り気がないように聴こえますが、素晴らしい音色と落ち着いたタイム感、フレーズ語尾のビブラートが堪らないニュアンスの3拍子揃い踏みだからこその為せる技です。小気味良いClarkeのシンバルレガートとMichelotのベースラインが巧みなコンビネーションを生み出し、その後のDexterの唄心溢れるソロをバックアップします。続くPowellはDexterのスインガー振りに影響を受け、実に端正にフレージングを組み立てた素晴らしいソロを聴かせます。その後のベースソロもさすが弦楽器奏者名手揃いの欧州、御多分に洩れず正確なピッチと深い木の音色で存在感をアピールします。ラストテーマはサビから、エンディングのフェルマータで短くソロがあり、ドラムの3連符に導かれイントロが再登場、フェードアウトでFineとなります。
3曲目BroadwayはClarkeのドラムソロから始まる華やかで優雅な雰囲気を持つ佳曲、New YorkにあるBroadwayは街を南北に走る劇場街を指しますが、Parisではどこの通りが該当するのでしょうか。シャンゼリゼ通りは高級店が連なる銀座のような通りなので、異なりそうです。Count Basie Orchestraでの演奏が有名なこのナンバー、Dexterも再び豪快ぶりを発揮していて実にスインギーです!フレージングの巧みさ、演奏への入り込み方も申し分なく、1曲目のScrapple〜のソロを凌ぐ勢いです!彼の得意技である引用フレーズが登場し(1曲目ではファンファーレを引用していました)、Strager in Paradiseのメロディを一節吹いていますがほど良きところでの吹奏、効果的に用いられました。続いてのPowellはここでも密度の濃いソロを聴かせ、ビバップ・プレイヤーとしての本領を発揮しています。意外とピアノソロが短く終わったな、とばかりに若干出遅れてDexterが離れた所からスネークイン、ドラムと8バース、セカンドリフからテーマに入り、最後のパートではPowellがBasie風のフィルインを弾いているのが微笑ましいです。
4曲目Stairway to the Stars、「星へのきざはし」と邦題が付けられています。トリオによるイントロから始まり、テーマにおけるDexterのサブトーン、グロウトーンはBen Websterを彷彿とさせますが、テイストはより整理されエッセンスを凝縮したように聴こえます。Powellのバッキングがここではテーマのセンテンスに呼応し、メロディの合間に巧みにフィルインを入れていて、旋律との関連性を大切にしているプレイヤーと再認識させられました。このアプローチはテナーソロ中でも基本変わらず行われ、バラードでのイメージの豊かさを持つ演奏者であるとも感じました。優れたジャズマンは同時にバラードの名手でもあるのです。
5曲目作品ラストを飾るのはA Night in Tunisia、ベースを中心としたイントロにDexterも加わります。ここでのメロディ奏の朗々とした、優雅にまで感じるレイドバックは本作白眉のプレイ、ソロも含めこの曲の代表的演奏に仕上がったと言えましょう。ClarkeもDexterのテイストに寄り添うべく健闘しているのがよく伝わります。インタールードでのメロディフェイク、ピックアップソロでのさらに拍車のかかったレイドバック、実にDexterワールドです!!ここまでの徹底さを聴かせるならば、ベースのビートの位置があと少しだけ前に、on topにステイしていれば彼の狙いは的中、一層ビハインド感が映えたに違いないと勝手に想像しています。ここで用いられている引用フレーズはSummer Time、キーが同じEマイナーですから思わず出てしまうのでしょう。アラビア音階のような、フリジアン・スケールの如きスケールも用いられ、他の収録曲よりもずっと自由なアプローチを聴かせ、淡々とバッキングしていたPowellもさすがに対応に苦慮したか、ピアノを弾く手を休めている場面があります。再びインタールードを演奏した後、ピックアップからPowellのソロになります。アイデアの豊富さは絶頂期ほどではありませんが、キラリと光るものを幾つも感じさせる充実したプレイです。セカンドリフからのドラムソロ、Clarkeは職人的巧みなフレージングを存分に聴かせています。ラストテーマは初めよりも拍車のかかったレイドバックを聴かせて、エンディングのcadenzaソロへ、ジャジーなコンディミ系フレーズを交えて大団円の巻です。
まずジャケット写真がとてもユニークです。印象的な合成のアングルによる、でも彼にはどうも似合わない(笑)白いワイシャツを着た、清潔感を漂わせる5人の、そしていつになくにこやかなMonkが写っています。本作はクインテット編成ですので、その人数を表しているのかも知れませんし、また作品の仕上がりの満足感ゆえの笑顔とも言えましょう。Monkは1917年10月10日生まれ、Rocky Mount, North Carolina出身。Monkが5歳の時に一家はManhattan, NYCに移住しました。ピアノやオルガンに親しみ、彼が17歳の時に教会のオルガン奏者として演奏旅行を経験し、10代の終わりからジャズを演奏するようになりました。40年代にはHarlemにあったMinton’s Playhouseのハウスピアニストを務め、Dizzy Gillespie, Charlie Christian, Kenny Clarke, Charlie Parker, Miles Davisたちとビ・バップの勃興に携わったことはご存知の方も多いと思います。41年頃のMinton’s Playhouseでの録音がプライヴェートでかなりの数が残されており、ハウスピアニストだったのでMonkの演奏は頻繁に聴くことが出来ます。その後の個性の萌芽はある程度聴き取れますが、随所にJelly Roll MortonやFats Wallerのスタイルを感じさせます。
47年に初リーダー作「Genius of Modern Music / Thelonious Monk」、翌48年「Milt Jackson and the Thelonious Monk Quintet」をBlue Note Labelに録音、彼の個性的なオリジナルや演奏を世に知らしめる切っ掛けとなりました。
ところが51年にドラッグを不法所持していた親友Bud Powell(真の天才同士、互いの才能を認め合っていた仲でした)を庇った事により警察に捕まり、MonkはNYCのキャバレーカードを没収され、50年代中頃まで同市内ナイトクラブに出演することが出来なくなり、ナイトクラブ以外の劇場、NYCを離れた場所での演奏を余儀なくされました。同地で誕生したビ・バップの仕掛け人の一人として、そしてビ・バップの更なる進化に演奏者として数年間参加出来なかったことは、さぞかし悔しかったことと思います。ですが真の芸術家は転んでもただでは起きません。この期間を利用して自分自身の内面に立ち向かうことが出来、演奏家としての収入を得られず生活は苦しかったでしょうが、ピアノの練習や作曲に充実した時間を持てたのではないか、と思います(現在のコロナ禍も言ってみれば同じですね)。その成果と進化は52,54年録音「Thelonious Monk Trio」53,54年録音「Thelonious Monk and Sonny Rollins」(以上Prestige Label)、55年「Thelonious Monk Plays Duke Ellington」56年「The Unique Thelonious Monk」(以上Riverside Label)で時系列として確認することが出来ます。
そして「Brilliant Corners」の登場です。キャバレーカード没収からの臥薪嘗胆を潜り抜けた芸術的発露の具現化、シーンはハード・バップ期に差し掛かり、リズムやコード、サウンドがビ・バップ期よりもグッと細分、複雑化しましたが本作の内容は時代に合致、いやむしろ遥か前を行く、まさしく前衛的演奏と相成りました。本作は3回の録音に分かれ、初回56年10月9日にErnie Henry, Sonny Rollins, Oscar Pettiford, Max RoachのメンバーでBa-lou Bolivar Ba-lues-areとPannonicaの2曲を、2回目同月15日に同メンバーで表題曲Brilliant Cornersを、3回目同年12月7日I Surrender, Dearをソロピアノで、そしてベース奏者をPaul Chambersに替え、アルトのHenryの替わりにトランペッターClark Terryの参加を得てBemsha Swingを録音しています。メンバー交替には音楽的、人間的な衝突、トラブルがありその事についても曲毎に触れたいと思います。
1曲目、レコーディング2日目に収録されたBrilliant CornersはMonkの音楽的個性の集大成、難曲の多い彼のナンバーの中で圧倒的な難易度を極める、そして大変な名曲です。変則的な小節数からなるA-B-A構成のこの曲、始めの1コーラスはミディアム・テンポで演奏され、その後に倍のテンポで(double-time feelではなく、double-time、小節の実際の長さも半分で)演奏され、この構成を繰り返します。実は演奏当日Monkは4時間の中でこの曲のテイクを25回(!)も重ねました。一部のメンバーの力量もあったかも知れませんが、曲の難しさから結局完全な演奏には至らなかったそうです。プロデューサーOrrin Keepnewsがこれら25の不完全なテイクを編集し、完全(に聴こえる)なテイクを作り上げアルバムの冒頭に収録しました。25回も同じ曲を、しかも通し切れないテイクを重ねれば誰しも頭が混乱するでしょうが、レコーディング中にほとんど精神的に折れてしまったHenryはMonkとの間に緊張感が走り、「俺にはこんな物凄い曲は演奏出来ないよ!」とばかりに項垂れるHenry、彼がソロを取らなくても良い楽なヴァージョンにもMonkはトライしました。Pettifordとはかなり険悪になり、キツイ言葉でMonkとやり合ったそうです。「Monkの野郎、こんな難しい変てこりんな曲を俺に何十回も演奏させやがって!」のような雰囲気なのでしょうか、報復措置と思われますがおそらく揉めた後、録音中にベースの音がコントロール・ルームで聴こえなくなりました。エンジニアがマイクロフォンをチェックしたりとシステム上のトラブルを確認、しかしどこにもおかしな所は見つかりません。それもそのはず、結局彼はベースを演奏しておらず、何と弾いている振りだけをしていたのだそうです(汗)!今で言うエア・ベースですね(笑)。Pettifordはモダンジャズ・ベースの開祖的存在で、Jimmy Blanton, Milton Hintonの流れを汲み、Pettiford後には本作にも参加しているPaul Chambersが控えています。MonkとはMinton’s Playhouseでの共演仲間、前述の「Thelonious Monk Plays Duke Ellington」「The Unique Thelonious Monk」の2作でもトリオで素晴らしい演奏を共有した筈なのですが、人間無理難題を(理不尽に?)吹っ掛けられると誰しもブチ切れるのでしょう。この争いがレコーディング・スケジュールの2日目の出来事、初日は2曲のOKテイクを得ていましたがバンドでもう1曲録音しなければならず、リーダーはメンバーを差し替え後日レコーディングしました。Sonny Rollins, Max Roachふたりの留任は高い音楽性と人間性、加えて忍耐強さゆえに違いありません。
John Coltraneの58年作品「Soultrane」収録のTheme for Ernieは夭逝した彼に捧げられたナンバーで、Philadelphia出身のギタリストFred Lacey(イスラム名Nasir Barakaat)の作曲になります。死の2ヶ月後に録音され、Coltraneのトーンが哀愁を帯びた美しいメロディと一体化し、印象的な追悼演奏になりました。
今回はCannonball Adderley 59年録音の作品「Cannonball Adderley Quintet in Chicago」を取り上げてみましょう。Miles Davis Sextetのリーダー抜きによるQuintetでのレコーディング、John Coltraneをもう一人のホーン奏者として存分にソロを取らせ、Milesの音楽とは異なるコンセプトでありながら、レギュラーバンドならではの安定感に裏付けされた緻密で息のあった演奏、フロント各々二人をフィーチャーしたバラードを配した選曲、書き下ろしのオリジナル等、録音前後の名だたる名盤の狭間で二人のサックス奏者のリラックスしたプレイを存分に楽しめる構成に仕上がっています。
Recorded: February 3, 1959 Universal Recorders Studio B, Chicago Producer: Jack Tracy Label: Mercury
as)Cannonball Adderley ts)John Coltrane p)Wynton Kelly b)Paul Chambers ds)Jimmy Cobb
1)Limehouse Blues 2)Stars Fell on Alabama 3)Wabash 4)Grand Central 5)You’re a Weaver of Dreams 6)The Sleeper
Lewis Porter著「John Coltrane His Life and Music」には綿密な調査による、膨大かつ詳細なColtraneのChronologyが収録されています。こちらを紐解き、本作が録音された59年2月前後のColtraneの動向を調べると、1月21日水曜日からレコーディング前日の2月2日月曜日までの12日間連続で、Chicagoにある有名なホテルSutherland LoungeにてMilesバンドのギグで出演しています。メンバーのクレジットはされていませんが、間違いなく本作のメンバーにMilesが加わったSextetでの演奏でしょう。翌日からのレコーディングだけ、別なメンバーとは考え難いですから。
CannonballがMilesのバンドに加わった最初のアルバムが58年3, 4月録音の「Milestones」、数々の名盤を生み出したMiles Davis Quintet〜Coltrane, Red Garland, Paul Chambers, Philly Joe Jonesに異なるアプローチのヴォイスを有したCannonballを、音楽的表現の幅を広げるべく加えた申し分のない名演奏、言わばMilesにとってのHard Bop最終形、そして本作のちょうど1ヶ月後に録音される、これまた文句なしの歴史的名盤「Kind of Blue」、そしてもう1作73年になってリリースされた58年9月NYC Plaza Hotelでの録音「Jazz at the Plaza Vol.1」、こちらはSextetのごく日常的な断面を捉えたライブ録音(ピアニストはBill Evans)、ピアノの音が引っ込んでいたりMilesのトランペットがオフマイクだったりと、米コロンビア・レコードが主催したジャズ・パーティーの模様を記録したもので、非正規レコーディングゆえ音響的に難がありますが、それを補って余りあるクオリティ、各人の恐ろしいまでに研ぎ澄まされたインプロヴィゼーションの応酬、このSextetは大変なポテンシャルを秘めたグループと再認識させられます。
本作はどのような経緯で録音が決まったのかは定かではありませんが、飛ぶ鳥を落とす勢いのMiles Davis Sextetサックス奏者ふたり(ある意味対照的なスタイルです)にスポットライトを当て、楽旅の最後にレコーディングの機会を設け、彼らの音楽を存分に演奏させるというアイデアになります。これがプロデューサーJack Tracy発案とすれば、実にジャズの醍醐味を分かっている「名」プロデューサーと言う事になるのですが、強面でうるさ方のリーダーから解き放たれたメンバーは解放感に浸り、リラックスして演奏に臨むことが出来るからです。「Hey, Guys, お疲れ様!明日の俺のレコーディングもよろしくね!明日はMiles来ないし、我々だけでとことん演奏を楽しもうじゃないか。曲も揃っている事で一安心、でもJohnの書いた速い曲(Grand Central)は難しいけどさ!」のようなCannonballの発言が、ひょっとしたらあったかも知れません(笑)、加えて興味深いのがこの項にColtrane first performs on soprano saxophoneと併記されているのです。Sutherland Loungeでこの期間演奏したのでしょうが、その後彼のsopranoによる演奏がどう変遷していくのか、こちらも調べたい衝動に駆られますが(汗)、本作に直接関係はないのでグッと堪え、また別な機会に譲る事としましょう。
Coltraneの方は57年9月録音「Blue Train」をリリース、急成長ぶりとそれに伴った高い音楽性を広く知らしめましたが、58年Prestige Label諸作にも素晴らしいレコーディングが多くあります。同年3月録音co-leaderではありますが「Kenny Burrell & John Coltrane」での演奏を忘れる事はできません。
本作録音後はColtraneが更なる飛翔を遂げる事になりますが、こちらはまた後ほど取り上げるとして、演奏に触れて行きましょう。1曲目はイギリスで20年代に書かれたスタンダードナンバーLimehouse Blues、多くのミュージシャン、ボーカリストに取り上げられています。オープニングに相応しいアップテンポで華やかな楽曲、ピアノと、ハイハットを中心としたドラムのふたりによるイントロから始まります。いや、とにかく速いですね!ここまでの速度のテンポ設定は他の演奏には無いと思います。テーマはサックスのユニゾン、そのメロディの合間をぬったピアノのフィルインがメチャメチャかっこ良く、テーマの一部分と化して聴こえます。CobbのシンバルレガートとChambersのon topベースとの絶妙なコンビネーションの素晴らしさ!そしてこれだけのテンポでグルーヴし続けるためには、ベーシストの貢献度が最重要になります。テーマ終わりのブレークからCannonballのソロが始まりますが何というスピード感とカッコよさ、気持ちの入り具合でしょう!ブリリアントな音色と有り得ない程の滑舌の良さ、ニュアンス、非Charlie Parkerスタイルの個性的なアドリブライン、全ての合わさり具合がアンビリバボのレベルに達し、超魅力的です!Cannonballの音符はある程度の速さまではレイドバックしていますが、このテンポになるとかなりon topのプレイになります。同様の例が「Nippon Soul」収録のEasy to Love(以前当Blogでも紹介しました)、本演奏よりもさらに速いテンポにも関わらずスイング感抜群、音符の位置も一層前にセッティングされています。
そしてColtraneのソロに続きます。 Cannonballに比べると対極的にダークさが際立つ音色、含みを持たせた「ホゲホゲ」した成分がこもった感を提示し、しかし音の輪郭は際立つ複雑な楽器の鳴り方を聴かせます。一点感じるのは、この日のColtraneはリードの調子が今ひとつではなかったかと。硬くて鳴らし辛いリードを難儀しながら吹いているように聴こえます。長いツアーでリードのストックが切れかかっていたのかも知れません。タイム感はグッとレイドバックし、個人的にはある種理想的なリズムに対する音符の位置を感じます。そして吹いているラインですがこれはまさしくColtrane Change!些か専門的になりますがコード進行Ⅱ-Ⅴ-Ⅰを短3度と4度進行に細分化し、各々のアルペジオを中心にラインを組み立て行きます。この方法によりコード進行に従来にはない、サウンドの浮遊感を得ることが出来るのです。「Giant Steps」収録のCount DownはMiles作曲のTune Upのコード進行を基に、Ⅱ-Ⅴ-ⅠをColtrane Change化した代表的演奏ですが、3ヶ月後の59年5月4日に同曲をレコーディングする前に、自分の作品ではなく、Cannonballのアルバムでしっかりと実験をしていた訳ですね(笑)。ひょっとすると前日までのSutherland Loungeのステージでも、既にこの奏法にトライしていたかも知れません。ここでのプライヴェート録音が発掘される事を願っているのですが、2012年にRLR Labelからリリースされた「Complete Live at the Sutherland Lounge 1961」の例があるので、かなり期待をしています。
それにしても物凄いインパクトのアドリブソロです!Kellyもバッキングの手を休め、いや、対応の範囲を超えた難解なラインの連続に、むしろ止めざるを得なかったのでしょう。こうして聴いているとふたりの演奏するアドリブライン、アプローチ、方法論の明らかな違いがこの演奏のクオリティを一層高めていると気付きます。続くKellyの軽快なソロ時にはCobbも4拍目ごとにリムショットを入れ始め、グルーヴを変化させています。その後フロントたちとドラムとの怒涛の8バースが始まります。ここでの白熱したやり取りは間違いなく昨晩までのMilesバンドの演奏を彷彿とさせている事でしょう!テンションはMaxを通り越し120%に達しています!Cobbのソロは間違いなく彼のone of the bestでしょう!合計2コーラスに及ぶバースの後は同じく2コーラス、サックスふたりによるバトルに続きます。いや〜ジャズを聴いていて本当に良かったな、と心から思える瞬間、だってCannonballとColtraneのバトルですよ?スゲ〜!!Milesが聴いたら「こいつら俺がいないと思って、思う存分好き放題やりやがって!」とむしろ嬉しそうに言うに違いありません(笑)!しゃにむに相手に戦いを挑むバトルではなく、まるで横綱相撲のように相手を立てつつ、かつ自分の言うべき事を端的に述べるスタンスでのバトルです!その後は全く平然とラストテーマを迎え、Kellyのフィルインも始めのテーマ時よりも冴え渡っており、エンディングのキメもバッチリとハマりました!
2曲目CannonballをフィーチャーしたバラードStars Fell on Alabama、古き良き時代の米国をイメージさせる曲調にCannonballのアルトの音色が完璧にマッチングしつつ、更に自由奔放に歌い上げる事によって、曲の持つ別な魅力を引き出す事に成功した、歴史的名演奏です。テンポはバラードとしては少し早目の設定、ピアノとブラシを用いたドラムからスタート、Kellyが弾くイントロのメロディはAlabama州に因んだのでしょう、米国南部のムードを感じさせつつ、4小節目にベースが加わります。アウフタクトでアルトの下の音域D音のサブトーンからメロディが始まりますが、低音域から中高音域をくまなく用い、グリスダウン、グリッサンド、様々な表情を見せる多様なビブラート、音量の大小が音楽表現の実は最大の武器と熟知しているプレイヤーだからこそのダイナミクス、独り交響楽団の様相を呈しています!テーマ終わりでCobbはスティックに持ち替えます。Cannonballのソロに入る際のフレージングは思いっきりレイドバックし、ゴージャス感をこれでもか!と提示しています。ダブルタイム・フィールでアルトソロが始まります。完全無欠の演奏って存在するのだろうか?と考えたことがありますか?禅問答のような話を考えるのは自分は結構好きなのですが、本演奏には文句の付けようが有りません!一切の蛇足、冗長さ、的外れは存在せず、曲想へのマッチング率100%!緻密でダイナミックなフレージング、起承転結、ストーリー性の妙。聴けば聴くほどに引き込まれる麻薬的魅力を有する演奏。Kellyも同様に1コーラスを演奏し、随所にフレージングに合わせ唸り声を発しつつ、いわゆるKelly節をとことん披露し、ラストテーマはサビから開始、グルーヴはバラードに戻り、Cannonballは更なるゴージャス感を出しながらAメロへ、グッと音量を落とし、今度はしっとり感を演出しつつラストのカデンツァへ。エンディング音の極小ppは最後の最後まで美意識を貫き通した結果に違いありません。
5曲目ColtraneをフィーチャーしたバラードYou’re a Weaver of Dreams、渋い選曲です。スタンダードナンバーThere Will Never Be Another Youとほぼ同じコード進行を有します。Coltraneの音楽性に良く合致したナンバーと言えるでしょうし、初リーダー作「Coltrane」収録Violet for Your Fursにも通じる曲です。こちらもCannonballフィーチャーと対極を成すと行って良いでしょう。イントロなしでテーマからいきなり始まりますが、極力ビブラートやニュアンス付け、音量の大小を排除し、ストイックなまでにストレートにメロディを吹いており、これ以降も一貫するColtraneのバラード演奏スタイルを象徴しています。晩年のFree Formに突入した際には逆にビブラートを多用することになりますが、Cannonballを始め、それまでのサックス奏者が用いた手法を敢えて避けたのか、それともごく自然にこのストレート直球奏法に至ったのかは分かりませんが、以降のテナー奏者に多大な影響を与えました。テーマ後Cobbはスティックに持ち替え、Stars Fell on Alabama同様にダブルタイムフィールになり、1コーラスをソロします。バラード演奏にそのミュージシャンの本質が顕著に現れますが、彼らの演奏を聴くに付け、つくづくこれほど個性の異なるサックス奏者たちをバンドに迎え、自己の音楽を表現するために巧みに、かつ適材適所で演奏させたMilesの手腕の素晴らしさを、改めて感じました。
Cannonball’s Bossa Nova / Cannonball Adderley and the Bossa Rio Sextet of Brazil
今回はCannonball Adderley 1962年12月録音のアルバム「Cannonball’s Bossa Nova」を取り上げてみましょう。ブラジル人ピアニストSergio Mendes率いるThe Bossa Rio Sextet of Brazilが伴奏を務めた、極上のBossa Novaアルバムに仕上がっています。
Recorded: December 7, 10, 11, 1962 at Plaza Sound, New York City Recording Engineer: Ray Fowler Produced by Orrin Keepnews Label: Riverside 9455
as)Cannonball Adderley p)Sergio Mendes g)Durval Ferreira b)Octavio Bailly, Jr. ds)Dom Um Romao tp)Pedro Paulo(#2, 4-5, 7-8) as)Paulo Moura(#2, 4-5, 7-8)
1)Clouds 2)Minha Saudade 3)Corcovado 4)Batida Diferentes 5)Joyce’s Sambas 6)Groovy Sambas 7)O Amor Em Paz (Once I Loved) 8)Sambops
場所はNew YorkのジャズクラブBirdland、1962年のある夜Cannonball Adderleyが6人の若者に囲まれて熱心に話をしています。彼らはBrazil人ミュージシャン、ピアニストSergio Mendesがリーダーを務めるThe Bossa Rio Sextetのメンバーで、とあるコンサートのためにNew Yorkを訪れていたのです。Cannonballの音楽に熱狂的ファンだった彼らは、彼に自分たちの演奏を聴いてもらえるように働きかけ、それをBirdlandで実現させました。彼らの演奏を大変気に入ったCannonballは即座にレコーディングを発案し、本作録音に至ったのです。
そのとあるコンサートとは、62年11月21日にNew York Carnegie Hallで開催されたBossa Nova Concertの事で、言ってみればBrazilian Bossa Novaの米国初進出コンサートです。出演者はBrazilを代表するミュージシャンたちMiltinho(Milton) Banana, Luiz Bonfa, Oscar Castro-Neves, Joao Gilberto, Antonio Carlos Jobim, Carlos Lyra, Sergio Mendes Sextet等20名を超えるBrazil勢にArgentinaからLalo Schifrin、米国既Bossa Nova経験組Stan GetzやGary McFarland、Bob Brookmeyer等錚々たるメンバーを擁しての企画でしたが、実は悲惨な結果に終わったとStan Getzの伝記「音楽を生きる」に記載されています。あまりにも多くの凡庸なグループがステージに上がり、場はしばしば混沌状態に陥りました。想像するにおそらくしっかりとした企画がなく、Brazilのミュージシャンをまとめて招聘すれば何とかなると高を括ったのでしょう。多分プロデューサー、舞台監督も存在しなかったように感じます。しかもコンサートのスポンサーになったオーディオ会社がライブ録音の方を重視してマイクロフォンをセッティングしたため、本末転倒、演奏はホールにいる聴衆の耳には届かずサウンドは最悪だったそうです。コンサートの失敗を強く恥じたBrazil政府(政治問題にまで発展したようです)は僅か2週間後に自らがスポンサーとなり、New York Manhattanの大規模ジャズクラブVillage Gateで入念に準備されたコンサートを開催し、挽回をはかり、代表格Joao Gilberto,やAntonio Carlos Jobimは米国の聴衆に彼らの芸術をしっかりと披露する事が出来たそうです。BrazilにとってBossa Nova Music最大のマーケットとなり得る米国、そこでの第一印象が悪ければとんでもない事になると、かなりの危機感を抱いたのでしょう。やれば出来るのですから初めから徹底した企画でCarnegie Hallの晴れ舞台に臨めばよかったものを、南の国の楽天的な考えが当初は支配していたのかも知れません。
その後Bossa Novaは大ブームになり、Zoot Sims, Paul Winter, Charlie Byrd等のジャズ・ミュージシャンもBossa Novaアルバムを発表しました。フルート奏者Herbie MannはCarnegie Hall Concert前の同年10月、単身Brazil入りし、いち早く当地のミュージシャンAntonio Carlos Jobimほかとレコーディング、本作のThe Bossa Rio Sextetとも2曲録音しています。
それでは内容について触れていく事にしましょう。1曲目は本作に参加しているギタリスト、Durval FerreiraのナンバーでClouds。曲想から入道雲をイメージしますが、夏のRio de Janeiroの雲はさぞかし雄大なことでしょう。彼もRio出身で他にも3曲本作に提供しています。ピアノのイントロにシンバルが被さり、雰囲気作りが成されます。そしてテーマへ、Cannonballの登場です!それにしても、何という素晴らしい音色でしょうか!音の極太感、艶、柔らかさと滑らかさ、ゴージャスなまでに加味された豊富な付帯音、音量のダイナミクス、無限に有するのではと感じるビブラートの多彩さ、ニュアンス付けの巧みさ。真夏の太陽が燦々と降り注ぐ浜辺を長時間歩き、思わず見つけた椰子の木陰で涼を取る爽やかさ!Cannonballはもともと音量のアベレージ、設定が小さいので、大きく吹いたときの振れ幅が凄まじく、聴感上のインパクトがあり得ない次元にまで聴き手を誘います。実際本作でも、彼がボリュームを上げ、シャウトして吹いた時には音が歪んでいます。レコーディングのフェーダーを小〜中音時でのレベルに合わせているためでしょう、間違いなくピークレベルで針が振り切っています!低音域でフレージングが終始する時に必ずサブトーンを用いるので、音色の変化に思わず「うおっ!」と声が出てしまいます!メロディの合間に挿入されるフィルインの知的さとナチュラルさ、大胆な技法を用いつつも細部に至るまでの綿密な配慮、常にリスナーサイドに立ちつつバランス感を保ち独りよがりにならず、自身も演奏に際しての感情移入が半端なく、何より本人が演奏を楽しみまくっていることが手に取るように伝わるのが堪りません!Brazil出身の彼ら共演者にはジャズミュージシャンとしての心得、インタープレイやレスポンスを求めることは困難ですが、本場のBossa Novaのリズム、サウンドの上でCannonballが大海原を泳ぐイルカ(彼の体型的にはもっと大きい海獣かも知れません〜汗)のように漂う感じを楽しむのが本作の聴き方と、早速解釈できました。Mendesの短いソロに続き、ラストテーマへ、CannonballのBossa Nova Musicへの参入は彼の事を愛してやまないBrazilianたち、これ以上あり得ないほどの素晴らしいメンバーを擁してレコーディングされました。それにしても彼のプレイ、改めて前回当Blogで取り上げた7年前の録音「Introducing Nat Adderley」での演奏とは比較にならない程、格段の進歩を遂げています。
2曲目はBrazil出身のミュージシャン、作曲家Joao DonatoのナンバーMinha Saudade、軽快なテンポでトランペット、アルトサックスのアンサンブルで心地よいイントロが始まります。躍動感溢れるドラミングを聴かせるDom Um RomaoもRio出身、72年から74年までかのWeather Reportにパーカッション奏者として、4作に参加した経歴を持ちます(「I Sing the Body Electric」「Live in Tokyo」「Sweetnighter」「Mysterious Traveller」)。Cannonball Quintet60年代にはWeather Reportのリーダー、Joe Zawinullが在籍していました。その関係でのコネクションかも知れません。
3曲目はお馴染みAntonio Carlos Jobimの名曲Corcovado、全くストレートにテーマを演奏していますがこの音色、そしてニュアンスで吹かれると、ただもうそれだけで大納得、実に美しいです!これだけシンプルな語り口だと、メロディ間のフィルインがまた良く映えるのです。ソロもモチーフを元に、じわじわと次第に発展させていく手法で構築していますが、十分に間合いを取り、フレーズとフレーズの関連性はあるが互いを干渉せずに独立させ、ストーリーの抑揚を万全とし、様々な専門用語を使いながらも難解な、とっつき難い発音を一切排除し、時には大胆不敵に、またある時には囁くように、森羅万象を表現しているが如しです。それにしてもバックのBrazil勢、完璧に淡々と伴奏を行いますがソロとのインタープレイは見事なまでに一切ありません!Bossa Novaのリズム、グルーヴ、ギターのカッティングを中心としたサウンドを相手に、フリーブローイング状態のCannonball、ひょっとしたら彼自身が「Guys, ジャズっぽい事は何もしなくていいんだよ、素の君たちが欲しいんだ。」と彼らに提案していたのかも知れません。ピアノソロ後のテーマ奏とフェイクにも素晴らしいイマジネーションを感じさせます。
4曲目Batida DiferentesはFerreiraのナンバー、威勢の良いサウンドにCannonballが絡みつつイントロが始まり、2管のアンサンブルとCannonballがやり取りを行い、コール・アンド・レスポンス状態でテーマが進行します。ホットな中にも1曲目同様、椰子の木の木陰的な涼しさが垣間見える、こちらも佳曲です。テーマ最後に出てくるブレークでは、意を決したようなフレージングと音量で、続くソロパートに突入です。軽快なフットワークでのインプロヴィゼーション、コード進行に対する的確なアプローチ、饒舌ではありますが全く無駄を排除した、全てが音楽的にサウンドしている完璧なソロです!続くMendesのソロ、スタンダードナンバーのIt Might as Well Be Springのメロディをごく自然に引用しています。同曲は春には演奏しないという掟がありますが(笑)レコーディングは12月、四季問題は無事クリアーしました!(爆)この人のソロには常に自然体のメロディを感じます。ラストテーマでは再びCannonballとのやり取りが聴かれ、Brazil勢で次第にディクレッシェンドしてFineです。
6曲目Groovy Sambas、こちらはMendes作曲のナンバーです。彼にはMas Que Nadaという大ヒットナンバーが控えていますが、この曲も同曲に通じるムードを聴かせる佳曲、ピアノのバッキングも既にMas Que Nadaを感じさせます。Mas Que Nada実はMendes作ではなくRio出身シンガーソングライターJorge Benの曲ですが、Mendes66年に自己のバンドBrazil ’66でレコーディングし大ヒットとなり、こちらの方が有名になりました。Cannonballのメロディ奏がまず素晴らしい!彼自身この曲を気に入り、思い入れを込められたように感じます。続くソロの巧みな事と言ったら!お気に入りの曲ならば当然の事ですが、コード進行が複雑で入り組んだ部分に果敢にチャレンジするのは彼の常、スリリングなラインと大きく歌う部分との対比がこの人の特徴の一つだと思います。本作中最もホットでスインギーなソロとなりました。作曲者自身のソロも同様に本作中ベストなものでしょう。エンディング時フェルマータする筈がRomaoが勘違いして、一人叩き続けてしまったように聴こえます。「いっけねえ!」とばかりの、最後の締めの1発には不本意さからか、気持ちが入らず若干の空虚さを感じます(汗)。
7曲目O Amor Em Paz (Once I Loved) はやはりJobimの名曲、様々なミュージシャンに取り上げられていますがこちらも代表的な名演奏に仕上がりました。まるで晩夏のRioの海岸で過ぎゆく夏の、とある情事に思いを馳せるかのような、レイジーなイントロからテーマに入ります。「おいおい、お前はBrazilに行ってそんな立派な事を経験をして来たことがあるのか?」と突っ込まれること請け合いですが(汗)、単なるイメージの世界ですので、宜しくお願いします(爆)。Cannonballはロングトーンにクレッシェンドを駆使したメロディ奏、そのバックでのホーンアンサンブル、何とゴージャスでしょう!それにしてもこの美の世界は一体何処からやって来たのでしょうか?アドリブソロは比較的モノローグ的、低音域を中心にボソボソ、ブツブツ、いや、ガサガサ、シュウシュウと語られますが(笑)随所に隠し味、大当たりの福引景品が用意されており、独白をひとつも聴き逃す事は出来ません!Everything Happens to Meのメロディがさりげなく引用されますが、実はRioの海岸での情事は彼自身にHappensした出来事なのかも知れませんね(笑)。本作参加のアルト奏者Paulo Moura、トランペット奏者Pedro Pauloのふたりはスタジオ内でCannonballのソロを神が降臨して来た如く、畏敬の念を持って、さぞかしうっとりと、頷きながら聴いていたことでしょう。その情景が手に取るように浮かびます。Mendesのソロ後ラストテーマへ。ホーンが加わった潔いエンディングも良いですね。
それでは演奏に触れていくことにしましょう。演奏曲は1曲を除き全てAdderley兄弟共作によるものです。1曲目Watermelonは短い演奏ながらオープニングに相応しい軽快なテンポ、よく練られたメロディとハーモニー、リズムセクションとのアンサンブルがハードバップの幕開けを感じさせます。ビバップの発展型としてのハードバップですが、55年当時のシーンではリズムやコードが前段階的に未だ細分化されておらず、56〜57年から急速に進歩を遂げます。この頃のMiles Davisの諸作、例えば同年6月録音「The Musing of Miles」同じく8月録音「Miles Davis Quintet/Sextet」も本作に近いテイスト、サウンドを聴くことが出来ます。
常に兄を立てる弟ゆえでしょうか、ソロの先発はCannonballです。でもここで聴こえるアルトの音色は一瞬別人の演奏と錯覚しそうな違いを感じます。録音によるものか、後年のCannonballよりも音の輪郭がくっきりとしていますが、雑味の成分がかなり少ないのです。マウスピース、楽器、リード等使用機材が異なるのか、でも物の本によると彼は生涯一貫して楽器はKing Super 20 Silver Sonic、マウスピースMeyer Bros 5番、リードもLa Voz Medium辺りを使用し続けていたらしいのです。初リーダー作「Presenting Cannonball Adderley」での音色は後年のそれと殆ど一致しますので、ここでは単なる録音による悪影響と推測できます。タイム、グルーヴ、スイング感は既に完成されており、寛ぎと奥行きを感じさせるストーリーの構成は見事です。Natのソロは兄の前出フレージングを用いつつ、こちらも軽快に飛ばしており、やはり自己のスタイルをしっかりと携えてのIntroducing本人になっています。当時はサイドマンとしても良くレコーディングに参加していたHorace Silverのピアノソロに続きます。つんのめったような独特のタイム感はここでも健在、引用フレーズを交えたユーモアを常に絶やさないプレイが印象的です。
4曲目スタンダードナンバーからバラードI Should Care。早めのテンポ設定によるテーマはNatのコルネットがフィーチャーされ、淡々とメロディを吹きつつ多少のフェイクを交えています。テーマ後すぐにCannonballのソロが始まりますが、ここでのアルトの音色は雑味、付帯音、倍音の豊富さを感じさせるいつもの彼らしい、本領を発揮したもので、ユーモアのセンスも色濃く聴き取る事が出来ます。バラード演奏ではテンポのある曲よりも音量を小さく演奏するのでその分、音の輪郭外側の成分がよく響く傾向にあるからでしょうか。その後Natを再びフィーチャーし、エンディングを迎えますが兄の深い表現に対し、あっさり感を否めない弟のプレイ、まだ初リーダー作バラード演奏では独り立ちの難しさを露呈したように思いました。
Recorded: June 27, 29 and August 23 – 24, 1961 Producer: Tom “Tippy” Morgan, Andy Wiswell Label: Capitol Records
vo)Nancy Wilson(tracks 1,3,5,7,9,11) as)Cannonball Adderley cor)Nat Adderley p)Joe Zawinull b)Sam Jones ds)Louis Hayes
1)Save Your Love for Me 2)Teaneck 3)Never Will I Mary 4)I Can’t Get Started 5)The Old Country 6)One Man’s Dream 7)Happy Talk 8)Never Say Yes 9)The Masquerade Is Over 10)Unit 7 11)A Sleepin’ Bee
レギュラー活動展開中のCannonball Adderley Quintetに歌姫Nancy Wilsonを迎え入れた形で(ボーカリストとの初共演作です)、1962年リリースの際レコードでは歌伴とインストを交互に配置した曲順に並び、両者が対等でバランスの取れた作品という認識でした。Nancyのチャーミングでスインギーなボーカルと、名門Cannonball Adderley Quintetの演奏を交互に楽しめる、しかも曲順や選曲のバランスが絶妙に取れていて、一挙両得感が半端ありませんでした!このようなレイアウト作品はあまり無かったので、本作といえば演奏よりも(もちろん素晴らしいですが!)歌〜演奏〜歌〜演奏という曲順が印象的でした。ところが93年CDで再発された際には歌伴がメインになった形で前半ボーカル、後半インストとはっきりセパレートされた形に成りました。曲順は今更ながらに大切ですね、この並びでは全く印象の異なる作品に変わってしまい、残念ながら味気なさを覚えました。リリース当時のレコードにも「A program of swinging vocals and instrumental by Nancy Wilson / The Cannonball Adderley Quintet」と同格にクレジットされていましたが、もっとも再発時はCannonball没後から20年近く経過し彼の存在感も薄れつつあり、一方Nancyの方は未だ現役ボーカリストとして活動中だったので、レコード会社としては彼女をメインに持って来ざるを得なかったのでしょう。
ちなみにCannonball次作品、62年1月NYC Village Vanguardでのライブ盤「The Cannonball Adderley Sextet in New York」から文字通り管楽器奏者が一人増えたセクステット編成になり、サウンドが一層厚くなります。ひょっとしたら61年8月頃Art Blakey & the Jazz MessengersがやはりCurtis Fullerを加えての3管編成にヴァージョンアップしたのに倣ったのかもしれません、「Artのバンドがフロント一人増やして随分評判良いようだぜ、バンドの音も見栄えも良くなるし、我々もいっちょ増員しようか」という具合に兄弟で話し合い、Yusef Lateefがテナー他フルート、オーボエでの参加、63年には同メンバーで名盤「Nippon Soul」を東京でライブレコーディング、64年頃からCharles Lloydにメンバーチェンジし、以降もコンスタントに3管編成で演奏活動を続けます。
それでは演奏曲に触れて行きましょう。1曲目バラードでSave Your Love for Me、ピアノとベースのユニゾンのラインにコルネットとアルトサックスのアンサンブルが加わり、Nancyのボーカルが始まります。素晴らしい声質ですね!ピッチやタイム感、抑揚の付け方、イントネーション、アーティキュレーション、シャウトした時の声の張り方、トーンの使い分けなど、申し分ありません。女性ジャズボーカリスト御三家であるElla Fitzgerald, Sarah Vaughan, Carmen McRaeたちに比べると、声の成分にややハスキーさ、雑味感が不足気味に聴こえますが、その分ポップスやR&Bのジャンルで通用する持ち味と成り得ます。Nancyは56年にビッグバンドのボーカリストとして活動開始、Cannonballの誘いで59年NYCに進出し同年12月22歳にしてCapitol Recordに「Like in Love」をレコーディング、翌年リリースとなり幸先の良いスタートを飾りました。本作への布石は成されていた訳です。
2曲目はNatのオリジナルTeaneck、軽快なテンポによるスインギーなナンバーです。コルネットとアルトのユニゾンによるテーマは音の分厚さを通常よりも感じさせますが、Cannonballのサックスとでは至極当然のアンサンブルです。ソロの先発はCannonball、ブレークから飛ばしています!ソロに入るや8分音符のドライヴ感がたまりません!そしてこの音色の魅力と言ったら!鼓膜からジワッと身体の隅々にまで倍音が浸透し、体液と一体化するが如き快感!(何のこっちゃ?)バッキングのJoe Zawinullも端正なアプローチが印象的ですが、後年のWeather Reportでの演奏やスタイルは想像もつきません。彼は59年にBerklee College of Musicに入学のため故郷Austria Wienから渡米、しかしたった一週間在籍しただけでMaynard Fergusonから仕事のオファーがあり、そのまま米国でミュージシャンの世界に入りました。コルネットを吹くNat、トランペットよりも丸くハスキーな音色は自身の個性を表すのにうってつけの楽器選択です。Zawinullソロの終わりにラストテーマを迎えますが、エンディングのキメも意外性がありレギュラーバンドならではの創意工夫を感じます。名手Sam Jonesのon top感、Louis Hayesの柔軟でタイトなグルーヴから成るリズム隊の好サポートを得てCannonball Quintetの真骨頂と相成りました。
3曲目はFrank LoesserのナンバーでNever Will I Mary、ピアノトリオが活躍するイントロを経てボーカルが登場します。情感豊かに歌詞の内容を噛みしめるように歌うNancy、その後ろでリズミックなホーンのアンサンブルや管楽器各々のオブリガードも聴かれます。ソロはCannonball、短い中にもストーリーとメッセージ性、歌をしっかり表現しています。また彼のタンギングの強力な確実さから、つくづく滑舌の良さを感じてしまいます。アンサンブルとボーカルの一体感が印象的な演奏です。
4曲目はCannonballをフィーチャーしたI Can’t Get Started、夢見心地のアルトサックスが深遠なバラードの世界へと誘います。少し早めのテンポ設定、アレンジされたイントロから始まりますが、実に豊潤な低音域のサブトーン、ビブラートの使い分け、半音進行のⅡーⅤでの巧みで音楽的に高度、それでいてオシャレな音使い、One & Onlyな独壇場サックスプレイは音楽表現の全てを確実に把握して、あらゆる点で過不足なくかつ重厚さを伴って歌い上げています。テーマ奏の後はZawinullのソロが始まります。Austrian man in New York、いまだ自己のスタイルを模索中ではありますが、探究心旺盛な彼は試行錯誤を繰り返し、次第に自己の音楽表現のターゲットを絞って行きました。Cannonballがサビから復帰、前出時よりも饒舌に、ブリリアントにブロウしています。短いcadenza後のエンディングにはこれまた凝った構成のコード進行が設けられています。
5曲目はNatのオリジナルThe Old Country、Nancyの歌う歌詞をCurtis Lewisが書いていますが、こちらは哀愁を帯びた名曲です。スタンダード・ナンバーばかりではなく、メンバーのオリジナルに歌詞を付けたものを収録するのは良いですね!ピアノのイントロからホーンの短いアンサンブルに続き、姫の登場です。さりげないアンサンブルが随所に挿入され曲のムード作りに貢献しています。こう言った曲想だとNancyの歌声はやや明るめに聴こえ、歌唱にもダークさがもう少し欲しいところです。そこをまさに挽回すべく、Cannonballのソロが暗明るい(くらあかるい)テイストで切り込んできます!何と雰囲気に合致しているのでしょう!Zawinullのソロを経てホーンセクション、ボーカルが入ります。アウトロはイントロの再利用が成されています。Keith Jarrettが85年Paris録音の作品「Standards Live」で取り上げており、この曲をどのように演奏すれば良いのかを熟知しているかの如き、こちらも素晴らしい演奏に仕上がっています。
7曲目はRichard Rodgers, Oscar Hammerstein Ⅱ名コンビによるナンバーHappy Talk。おそらくアレンジはZawinullのペンによるものでしょうが、ここでもその才が光ります。イントロはリズムセクションのペダルポイントの上で、ミュートを用いたNatのフィル、タイトル通りの雰囲気でボーカルが入って来ます。随所に施されたアンサンブル、オブリガードが実に魅惑的です!こちらはレコードのB面1曲目に該当し、短い演奏ながらボーカルとアンサンブルの密度の高いやり取りを聴かせていて、裏面のオープニングに相応しい演奏になりました。エンディングではコルネットとリズム隊がキメを共有しアンサンブルを聴かせつつ、Cannonballがソロを取りますが例えばキメにもう1管加わり、ハーモニーが厚くなればゴージャスさが倍増した事でしょう。煌びやかななサウンドを常に念頭に置いているCannonball、この辺の事情も3管編成に増強された理由の一つだと考えています。
8曲目NatのオリジナルNever Say Yes。ベースの印象的なパターンに始まり、Miles Davisの61年作品「Someday My Prince Will Come」をイメージさせるミュート・サウンドでテーマが演奏されます。Hayesのブラシワークも見事ですね。引き続きのNatのソロ、これはもうMilesそのもの、瓜二つ状態、兄がMilesのバンドに在籍していたのもあり影響を受強くけているのでしょうが。本作レコーディング時はまだ「Someday My 〜」はリリースされていませんでしたが、Milesのライブやコンサート、旧作でのプレイから自ずと吸収していたのでしょう。続くCannonnballのソロには男の色気と余裕、ユーモアを感じ、ここでも僕自身はうっとりとさせられてしまいます!ピアノソロ後再びMilesの登場、いや(汗)、Natのテーマ奏で締め括られます。
9曲目The Masquerade Is Overは切なさを表現したバラード、切々と訴えかける歌唱にホーンが加わらず、本作中唯一ピアノトリオだけをバックにした演奏で、彼女のネイキッドの魅力を引き出しました。エンディングは感極まったシャウトを聴くことが出来ます。
10曲目Sam JoneのオリジナルUnit 7、Cannonball Bandのテーマソングとしても知られ、本演奏が初演となります。よく練られた構成とメロディからJonesの代表曲に挙げられますが、他にもBlues for Amos, Seven Mindsといった名曲を書いています。ソロの先発はCannonnball、切り込み隊長は果敢に立ち向かい、スインギーでグルーヴィー、迫力ある素晴らしい演奏を聴かせます。サビの細かいコード進行では案の定手練れの者を演じていますが、Cannonball自身のオリジナルである「Cannonball Adderley Quintet in Chicago」収録Wabashも、半音進行から成るⅡーⅤの連続部分では巧みにアプローチしており、大きく豪快に歌うソロの中にも繊細さを盛り込むことが出来る、バランスの取れたプレイヤーなのです。Nat, Zawinullとソロは続きラストテーマへ。
Recorded: March 3, 1972. A&R Studios, New York City Label: Columbia Producer: Stan Getz
ts)Stan Getz electric piano)Chick Corea b)Stanley Clarke ds)Tony Williams perc)Airto Moreira
1)La Fiesta 2)Five Hundred Miles High 3)Captain Marvel 4)Times Lie 5)Lush Life 6)Day Waves
Getzの伝記「Stan Getz / A Life in Jazz: Donald L. Magginースタン・ゲッツ―音楽を生きる―村上春樹訳」によると、この作品録音の少し前、彼は生活が荒れて体調も優れない日々が続いていたようです。レジェンド・ジャズミュージシャンの伝記はその数だけ世の中に出回っていますが、Getzの場合も御多分に漏れず出版されており、日本ではジャズ通として名高い作家、村上春樹氏が翻訳を手掛け、微に入り細に入り的確な表現で読むことが出来ます。熱心なGetzファンの方ならこの本をご存知の事でしょう、ひょっとしたら座右の書にして彼の音楽的歩みを紐解きながら作品を鑑賞しているかも知れません。実は僕はその一人なのですが、前後作品との関連性と成り立ち、ミュージシャンやレコード会社とそのスタッフとの関わり、Getz自身の思い、家族との葛藤や愛情を辿りながら彼の作品を聴く事は、新たな発見や種明かしにも通じて、Getzの音楽を知る上での実に楽しい行為の一つです。それにしてもよくもこれだけ生々しく赤裸々に、全てを曝け出すように人生を吐露出来るのか、詳細に述べられている記述、Miles Davisの自伝の時もそうでしたが本人の驚異的な記憶力、また綿密な周囲へのリサーチ、事実関係の確認には頭が下がります。
CoreaがGetzの自宅に連れてきたのはStanley ClarkeとAirto Moreiraの二人で、Coreaを含めるとピアノトリオが出来上がり、そこにGetzを加えたカルテットで自分の曲を演奏するという目論見があったのでしょう。Clarkeは70年にHorace Silverのバンドで演奏しているところをCoreaに見染められ、MoreiraはMiles Davis Bandでの共演仲間でした。GetzはCoreaの新曲を大変気に入りました。「 Sweet Rain」収録とは異なり、今回用意されたナンバーは曲自体の構成もより明確に、メッセージ色が強くなり、またスパニッシュのムードをたたえた斬新なコンセプトから成ります。Clarkeのベースプレイにも感心しましたが、Moreiraのパーカッショニストとしての実力は認めたものの、ドラマーとしての伴奏能力には物足りなさを覚えたので、レコーディングに際して名ドラマーTony Williamsを起用し、Moreiraはバンドのパーカッシヴな領域を広げる役に配して対応することにしました。TonyはGetzの演奏に確実に寄り添う形で、しかも驚異的なセンスとパワーを兼ね備えたドラミングを披露し、MoreiraはTonyを補強しつつよりカラーリングする役割を担当、Clarkeのベースともコンビネーションの良さを聴かせ、結果この采配は大成功となりました。このメンバーでのRainbow Grillでの演奏は大変な評判を呼び、彼ら自身もCoreaのオリジナルという新鮮な素材を文字通りグリルし、じっくりと煮詰めて行くことが出来たので、レコーディングへの良いリハーサルとなりました。
それでは演奏に触れて行きたいと思います。1曲目はCoreaの書いた名曲中の名曲La Fiesta、本作録音のちょうど1ヶ月後の2月2〜3日、レコーディング・スタジオも全く同じNYC A&Rスタジオにて彼の代表作「Return to Forever」が録音されましたが、レコードのSide Bにおいて組曲形式でLa Fiestaを再録音しています。Coreaはやはり全曲エレクトリック・ピアノを弾き、サックス奏者にJoe Farrell、パーカッションを担当していたMoreiraがドラムの椅子に座り、そのMoreiraの奥方Flora Purimがボーカルを担当、Tonyのドラムは参加せず5人編成の演奏で、70年代を代表するアルバムが録音されたのです。以降作品タイトルReturn to Foreverをバンド名とし、メンバーチェンジを繰り返しながらギタリストを加えたり様々な編成にトライしつつ、次第にエレクトリック色が濃くなり、精力的な活動で計11作をリリースして。
Fender Rhodesによるイントロに導かれベース、ドラム、パーカッションが同時に加わりますがこの時点でリズミックなテンションが炸裂しています。Moreiraにパーカッションを演奏させたGetzの目利きにまず感心させられますが、様々な打楽器を駆使して繰り出すリズムの饗宴!Tonyにリズムの要、Getzの演奏への対応をほぼ一任し、Moreiraは細かい8分の6拍子を担当、リズムの祭り(Fiesta)を華やかに演じます!裏メロと思しきラインをCoreaが弾き、被るようにGetzによる主旋律が登場します。1ヶ月後の「Return to Forever」でのJoe Farrellによる演奏はソプラノサックスによるもの、こちらも実によく耳にしたメロディ奏なので違いがはっきりと伝わって来ますが、Getz特有のくぐもったハスキーな音色は奥行きを感じさせ、名曲は如何様にしても異なった魅力を発揮すると再認識しました。幾つかのメロディセクションから成るこの曲の、場面毎のリズムセクションのダイナミクス付け、グルーヴの変化に繊細さと大胆さを感じますし、Clarkeの変幻自在なベースラインの見事さには天賦の才を見せつけられました!スパニッシュ・モードから成るソロセクション、こちらはCoreaの歴代オリジナルに用いられていたパートの発展形と言えます。「Now He Sings, Now He Sobs」収録のSteps – What Was、「Sweet Rain」収録のWindows、両曲で部分的に聴かれていたスパニッシュ・モードを大胆に、全面に押し出し、結果その代表曲となり、そして同年10月に録音された「Lght as a Feather」収録、Coreaの代表曲にして傑作ナンバーSpainへと繋がって行きます。
5曲目はBilly Strayhornの名曲Lush Life、Getzはバラードの名手でもありますし、時期限定で取り上げる曲のチョイスが素敵です。バースはルパートで始まり、エレピとアルコが伴奏を努めます。テーマからインテンポでTonyがブラシを携え参加しますが既に倍テンポの様相を呈しており、いきなりスティックが登場して一瞬スイングのリズムになりますが、すぐさまリタルダンド、演奏終了です。ちなみにTonyのバラード演奏でブラシを一切使わず初めからスティックを用いて行われているのが、76年録音作品「I’m Old Fashioned : Sadao Watanabe with the Great Jazz Trio」に収録されている、同じくStrayhorn作Chelsea Bridge です。外連味のないストレートな演奏に仕上がっていますが、印象的なナンバーです。
今回はピアニストAlan Pasquaの1993年初リーダー作「Milagro」を取り上げてみましょう。Jack DeJohnette, Dave Hollandらの素晴らしいリズムセクションにMichael Breckerがゲスト参加、名曲揃いのオリジナルで盛り上がり、時にユニークな楽器構成のホーン・アンサンブルも加えて美しく荘厳な世界を作り上げています。
Recorded on October 10 and 11, 1993, at Sound on Sound, New York City.
Produced by Ralph Simon. Associate Producer: Joe Barbaria. Executive Producer: Sibyl R. Golden.
p)Alan Pasqua b)Dave Holland ds)Jack DeJohnette ts)Michael Brecker french horn)John Clark tp, flg)Willie Olenick alt-fl)Roger Rosenberg tb, btb)Jack Schatz bcl)Dave Tofani
1)Acoma 2)Rio Grande 3)A Sleeping Child 4)The Law of Diminishing Returns 5)Twilight 6)All of You 7)Milagro 8)L’Inverno 9)Heartland 10)I’ll Take You Home Again, Kathleen(For My Kathleen)
Alan Pasquaは1952年6月28日New Jersey生まれ。Indiana UniversityとNew England Conservatory of Musicで学び、レジェンド・ピアニストであるJaki Byardにも師事したそうです。彼のプレイの根底にあるものはJazzであり、Tony Williams, Peter Erskine(現在も共演は継続中、Peterとは学生時代の仲間だそうです), Allan Holdsworthたち錚々たるジャズマンとの共演は当然の流れによるものですが、Bob Dylan, Carlos Santana, Cher, Michael Buble, Joe Walsh, Pat Benatar, Rick Springfield, John Fogerty, Ray Charles, Aretha Franklin, Elton Johnら世界的大御所ポップ、ロック・ミュージシャンのバンドで全世界ツアーを重ねています。またJohn Williams, Quincy Jones, Dave Grusin, Jerry Goldsmith, Henry Manciniら名アレンジャーともコラボレーションを重ね、Disneyの映画音楽、CBS Evening Newsのテーマ音楽を手掛けるなど、Show Businessの世界でも八面六臂の活躍ぶりです。音楽的な幅の広さが為せる技以外の何物でもありませんが、彼にとってみればジャンルやフィールドは関係なく、良い演奏、表現をする事だけが全てなのだと思います。ミュージシャンとして全世界を駆け巡っている以上様々な体験をしているはずですが、その中でも近年の特筆すべき経歴として、2017年Bob Dylanのノーベル文学賞受賞に際しての講演(受賞講演が受賞にあたって唯一の条件で、授賞式2016年12月10日から6カ月以内に行わなければならない)は録音されたもので行われましたが、その際にPasquaがソロピアノ演奏を行ったそうです。Pasquaには大御所たちにアピールする音楽的な何かがあり、彼と一緒に演奏したい、メンバーに留めて置きたいと感じさせる魅力に溢れているのでしょう。41歳にしての初リーダー作録音は大御所ミュージシャンから引く手数多ゆえ、なかなか自己表現にまで手が回らなかったからでしょうか。
この作品ではJack DeJohnette, Dave Hollandとのトリオ演奏を中核として、他にフレンチホルン、トランペット&フリューゲルホルン、アルトフルート、バスクラリネットから成る、比較的弱音の管楽器を用いてのアンサンブルが4曲収録されていますが、ここでイメージさせられるのがHerbie Hancockの68年録音リーダー作「Speak Like a Child」です。この作品では同様にアルト・フルート、フリューゲルホルン、バストロンボーンの3管編成が、斬新にして深淵、柔らかさとふくよかさが半端ないアンサンブルを聴かせており、Hancockのピアノプレイをとことんバックアップし、サウンドを立体的に浮かび上がらせています。ピアノトリオ演奏を他の楽器を用いて映えさせる手立てとして、例えばトランペット、サックス、トロンボーンによるトラッドなアンサンブルではエッジが立ち過ぎてピアノの演奏を打ち消す、埋もれさせてしまうでしょうし、ストリングス・セクションではバラード等のゆっくりとした曲にはむしろうってつけですが、テンポのある演奏には切れ味がどうしても鈍くなる傾向にあります。Hancockのシャープでスピード感のある演奏には管楽器の音の立ち上がりを持ってして丁度良く、そこで楽器編成に工夫を重ね、凝らした結果が「Speak Like ~」での管楽器構成になったのだと推測しています。とあるピアニストが「 Speak Like ~」はピアノトリオを自己表現の媒体とするプレーヤーにとって、ある種理想の形態だと発言していましたが、まさしく言い得て妙だと思います。
4曲目Michaelを迎えてカルテットで演奏されるThe Law of Diminishing Returns、これは!!タイトルもですが物凄い曲!そして壮絶な演奏です!タイトルは経済学用語で「収穫逓減」を意味するらしいですが、意味はよく分かりません(汗)。テーマの構成は複数のフラグメントが組み合わされつつ複雑に入り組み、しかし事も無げに同時進行し、完璧なバランス感がキープされつつ実にスリリングに演奏されます。要となるのはDeJohnetteのドラム、各フラグメントの接着剤となるべく巧みなフィルインの連続、間違いなくこの人の存在なくしては楽曲は成り立たなかったでしょう!ソロの先発はPasqua、曲が凄けりゃ演奏は更に物凄いとばかりに集中力と繊細さと大胆さを武器に、百戦錬磨のツワモノたちDeJohnetteとHollandをパートナーに究極の共同作業を行います!う〜ん、素晴らしいです!でも、え?終わりですか?もっと聴きたい!と言う腹八分目のところでMichaelのソロになります。彼のゲスト参加での傾向の一つとして、リーダーのソロが自分の前に行なわれた場合、リーダーの演奏を立ててそこでの盛り上がり以上にはならないように、抑制を効かせる場合があります。2曲目Rio Grandeでは若干その傾向がありましたが、こちらではどうでしょう、Pasquaの幾分抑えめのソロ終了時にメッセージで「Go ahead, Mike!」とオペレーションの指示があったようです(笑)。ピアノソロのイメージを受け継ぎ、Michael助走を始めます。リズムセクションにサポートされつつHop, Step, Jumpと飛翔を遂げますが、DeJohnetteの一触即発体制でのレスポンスが堪りません!決して定形での対処ではなく、極めて不定形での自然発生的な呼応の数々、そしてPasquaのバッキングも緻密さを前面に出しつつ、ドラムの呼応に被ることを決してせず、異なる切り口からMichaelのソロをプッシュし続けます!と言うことで共演者の大いなる支援を得て(笑)、Michaelフリーキーにイってます!!その後のソロコーラスを用いてのドラムソロ、いや〜ヤバイくらいにカッコ良いです!ここでのDeJohnette, Hollandとの共演の手応えが同メンバーにPat Metheny, McCoy Tyner, Joey Calderazzo, Don Aliasを加えたMichael1996年リリースの傑作「Tales From the Hudson」へと繋がって行きます。エンディングでのDeJohnette、まだ曲が続くと勘違いしたのでしょうか、珍しく中途半端な終わり方をしています(汗)
6曲目スタンダードナンバーでCole Porter作の名曲All of You、比較的早めのテンポが設定されています。コードのリハーモナイズ感、フィルイン、アドリブラインの独特さ、DeJohnette, Hollandの目も覚めるような伴奏により、この曲のまた別な名演が誕生しました。Hollandのソロも素晴らしいです!それにしてもDeJohnetteは曲想によって演奏アプローチ、叩き方をどうしてこうも見事に変えることが出来るのでしょうか?これ以上は考えられないという程の的確さにいつもシビれてしまいます!
9曲目Heartlandは3管編成によるアンサンブルを活かしたナンバーですが、シンプルなメロディに付けられた相反するが如きハイパーなコードと、ホーンのアンサンブルのハーモニーがヤバ過ぎです!ところが最後にトニック・コードにストンと落ち着く辺りの絶妙さは、ちょっとこれ、ありえへんレベルとちゃいまっか?… なぜか関西弁になってしまうほどのインパクトです!(爆)。イントロやインタールードでフルートを吹くRosenbergのフィルインが聴かれ、アンサンブルでのバストロンボーンが重厚さをアピールします。まずピアノソロがフィーチャーされますがリアル「Speak Like a Child」状態、ホーンアンサンブルが実に心地よいのですが、ベース、ドラムのインタープレイも凄まじいまでの主張を聴かせます。Pasquaのソロはリリカルで知的、かつ気持ち良く演奏している様が伺えます。続くベースソロも攻めまくっていますが、曲の持つムードとコード進行、ピアノソロ時のトリオのコンビネーション、アンサンブルの重厚さなどがHollandのスインガー魂を刺激した結果なのでしょう。
10曲目I’ll Take You Home Again, Kathleen(For My Kathleen)は作品のエピローグとして、愛する奥方でしょうか?捧げられた演奏になります。古い米国のポピュラーソング、Elvis Presleyの歌唱で知られているようです。
1)Gemini 2)Bruh Slim 3)Goodbye 4)Dew and Mud 5)Make Someone Happy 6)The More I See You 7)Prospecting
Jimmy Heathは1926年10月25日数多くのジャズマンを輩出したPhiladelphia生まれ、家族全員が音楽家という環境で育ちました。本作参加のベーシストPercyは長兄、ドラマーAlbertは弟でHeath三兄弟として名高く、同じくPhiladelphia出身のピアニストStanley Cowellを加えたカルテット編成で、The Heath Brothersとしてもパーマネントに活動し、75年作品「Marchin’ On!」を皮切りに計10作をリリースしました。兄弟、親子関係でバンドを組む、共演するミュージシャンは多く、同じ屋根の下で寝食を共にし価値観を共有したゆえに音楽的嗜好、センス、そしてタイム感、グルーヴが似る傾向があると思います。Heath兄弟も多分に漏れません。やはり同世代で大活躍したHank, Thad, ElvinのJones三兄弟の場合は、三者三様の全く違う音楽性や卓越した個性ゆえに例外的な存在かも知れませんが、ジャズシーン第一線で活躍し続けた各々の楽器のエキスパートと言う点では、同じ立ち位置にいました。
Jimmyはテナーサックス奏者であると同時に優れたコンポーザー、アレンジャーでもあります。彼の魅力的なオリジナルは他のジャズマンにも好んで取り上げられ、Miles Davis66年録音作品「Miles Smiles」でGinger Bread Boyを、53年録音「Miles Davis Vol.1」、Lee Morgan57年録音「Candy」、時代はグッと新しくなり93年Chick Corea Elektric Band Ⅱ「Paint the World」でC. T. A.が演奏されています。
アレンジャーとしては56年10月26日録音Chet Bakerのリーダー作「Chet Baker Big Band」(実際にはフルバンドよりも人数の少ないビッグコンボ編成)で3曲素晴らしいアレンジを提供し(Art Pepprのリードアルトが実に美しいです!)、間髪を入れず今度はコンポーザー / アレンジャーとしての手腕を存分に発揮し、5日後の同月31日Chet BakerとArt Pepperの共同名義コンボ作品「Playboys」に本人不参加にも関わらず収録7曲中5曲彼のオリジナルが取り上げられ録音、テナーサックスにPhil Ursoを加えた3管編成による重厚でオシャレなアンサンブルを書いています。因みにこちらでもC. T. A.が演奏されています。
50年代以降のテナーサックス奏者の多くは演奏の他に作曲の才能も開花させています。John Coltrane然り、Benny Golson, Sonny Rollins, Wayne Shorter, Joe Henderson…彼らの演奏スタイルとテナーの音色、ライティングは見事に一致し三位一体、濃密なこれらは切っても切り離せない関係にあります。Jimmy Heathの作曲の才も彼ら歴史に名を連ねるテナータイタン達のそれに十分並び称されますし、3管編成〜ビッグバンドのアレンジにも素晴らしいセンスを発揮しています。ソロプレイでの押しの強さに加えてそこに作曲・アレンジと同等のセンス、音色の魅力がアピール出来たのなら、よりジャズ界に君臨していた事でしょう。
Heath Brothers以外のメンバー、まずFreddie Hubbardの本作全篇に渡る絶好調ぶりは特筆すべきです!当時の彼は60年にOrnette Coleman、61年John Coltraneとの共演を果たし、62年からLee Morganの後釜としてArt Blakey & the Jazz Messengersに参加しており、サイドマンとして十二分に実力を発揮できる経験を積んでおり、ブリリアントでジャジーな音色、正確無比でグルーヴィーなタイム感、迸るアイデア満載のインプロヴィゼーションは聴く者を魅了してやみません。ジャズには珍しいFrench Horn奏者のJulius Watkinsは40年代末から70年にかけて、実に多くの作品に参加しアンサンブルはもちろん、難易度の高い楽器を巧みに駆使し味わいあるソロを聴かせました。ピアニストCedar Waltonも当時すでにJazz Messengersの一員、それまでにもKenny Dorhamのバンド、ColtraneのGiant Steps初テイクセッションやArt Farmer & Benny Golson the Jazztetに参加し、頭角を表していました。
4曲目JimmyのナンバーDew and Mud、1コーラスのドラムソロからイントロが始まるブルースナンバーです。この曲でもJimmyのホーン・ハーモニー・ライティングと管楽器の用い方はマトを得ており、サウンドを熟知したアレンジャー然としたものを感じます。テナーが先発ソロ、本作中最もホットなテイストを感じさせる演奏です。Watkinsのソロが続き、意表を突くメロディラインを用いたセカンドリフの後、これまたトランペットが場面を刷新するが如き入り方を用いたソロ、カッコいいですね!ファンキーなテイストのピアノソロを経て、ラストテーマへ。エンディングのキメもグッドです!
6曲目同じくリーダーをフィーチャーしたスタンダードナンバーThe More I See You、アレンジ面では曲の雰囲気や構成を緻密に捉え、繊細さを伴いつつ大胆にかつ華麗にサウンドを構築するJimmyですが、自身のテナー奏ではそうは行かないようです(汗)。前曲とのソロ演奏の差異を感じるのが困難な状態で、ワンホーンによるテナーフィーチャーはどちらか1曲で十分であったと思います。
Recorded and mixed at Electric Lady Studios, New York City. Recorded: December, 1976 Mixed: January, 1977 Engineer: Dave Whitman Project coordinator: Raymond Silva Produced by Narada Michael Walden
tp, bells, conch shell, fl, vo)Don Cherry ts)Michael Brecker sitar)Collin Walcott tamboura)Moki Cherry g)Stan Samole, Ronald Dean Miller harp)Lois Colin key)Cliff Carter p, timpani, tom tom)Narada Michael Walden b)Marcus Miller, Neil Jason ds)Tony Williams, Lenny White, Steve Jordan congas)Sammy Figueroa per)Raphael Cruz vo)Cheryl Alexander, Patty Scialfa
発表当時には、それはそれはセンセーショナルな作品として、喧々諤々と論議を巻き起こしましたが、現代の耳ではかなり穏やかに聴こえ、喧騒や難解さを遥かに通り越してむしろ演奏を楽しむことが出来ます。演奏中ずっとインテンポ(ここが大切なポイントです!ルパートやノーテンポではこの手のサウンドの場合、途端に演奏が耳に入り辛くなります)で自由な即興を繰り広げていますが、明らかに互いを良く聴きつつの会話に徹し、要所に入るOrnetteの書いたメロディがアンサンブル引き締めています。参加ホーン・プレーヤーEric Dolphy, Freddie Hubbard, OrnetteそしてCherryの4人はいずれも自己の素晴らしいヴォイスを有し(各々音色がヤバイほどに素晴らしいです!)、各自の確固たるメッセージを発信しています。Charlie Haden, Scott LaFaroふたりのベーシストの(信じられないほどの美しい組み合わせです!)深遠な音色とビート、同時に演奏されるソロの役割分担とその多彩さ、スリリングさ。Billy Higgins, Ed Blackwellの決して音数がtoo muchにならずに繰り出すシンバル・レガートとフィルインのカラフルさ、そして豊かな伴奏感。ベースソロと同様に、ドラム二人同時ソロに於ける会話の能動、受動とその入れ替わり。これらから表現される音楽は明確な秩序に裏付けされたもので、もちろんBe Bopや Hard Bopではありませんが、もはやフリーなフォームのジャズには聴こえません。(10代の頃にジャズ喫茶で背伸びをして本作をリクエストした覚えがありますが、その時は全く理解不能でした!)。ここでの演奏の形態が以降、フリーか否かのスタイルを問わず、多くのジャズメンにどのように伝播し、展開して行ったのかを考えるのも面白いです。
以降Cherryはフリージャズ旋風が吹き荒ぶ60年代をSonny Rollinsとの活動、またArchie Shepp, John Tchikaiから成るバンドNew York Contemporary Five、そしてAlbert Ayler, George Russell, Gato Barbieriらとの共演を通じ、決して旋風の風下には立たず、向かい風に対し果敢に乗り切りました。一つ感じるのは彼はフリーフォームの音楽を演奏してはいますが、フリーという形態を表現する上でどうしても前面に出がちなアグレッシヴさ、ハードさというパワーを駆使した演奏よりも、叙情性を掲げた演奏の方に重きを置く、言ってみれば「ロマンチック」「リリカル」な表現を信条とするフリージャズ・ミュージシャンと捉えています。この事が顕著に表れているのが78年録音作品「Codona」です。Cherryの他シタール、タブラ奏者Colin Walcott、パーカッション奏者Nana Vasconcelos、彼ら3人の頭文字を取ってバンド名、アルバム・タイトルが付けられました。Codona, Codona 2(80年), Codona 3(82年)と合計3作をリリースしましたが、いずれも美しい世界を表現しています。
時代は70年代に入り、60年代のベトナム戦争を筆頭とする混沌とした社会を反映したフリージャズの反動から、耳に心地よいサウンドが受け入れられクロスオーバー、そしてフュージョンへと移り変わって行きます。本作は卓越したドラマーとして、そして数々のヒット作をプロデュースしたNarada Michael Waldenをプロデューサーとして迎え、Cherryのユニークなオリジナルを中心に演奏しています。前述のCodonaに通ずるOne & Onlyな美の世界プラス、フュージョン、ハードロック、ファンク・サウンド。ここでの音楽が多くのオーディエンスに受け入れられるかと言えば難しいと思いますが、他の誰にもなし得ない世界を聴かせています。
それでは収録曲について触れて行きましょう。曲によってドラマー、ベーシストが交替し、プロデューサーNarada自身がパーカッションやピアノ奏者として参加している場合もあります。1曲目はCherryのオリジナルMahakali、メンバーはドラムLenny White、ベースMarcus Miller、シタールColin Walcott、ティンパニNarada、キーボードCliff Carter、ギターStan Samole、そしてテナーサックスにMichael Brecker!彼の演奏がお目当てで本作を聴いた人もいると思いますが、僕もその一人です(笑)!録音された76年12月といえば楽器本体をSelmer Mark Ⅵ 14万番台Varitoneから6万7千番台へ、マウスピースをリフェイスされたOtto Link MasterからDouble Ring 6番に変えた直後です。Hal Galperの「Reach Out!」、Michael Franks「Sleeping Gypsy」両作とも同年11月録音で、70年代を代表するMichaelのトーンを堪能できます。
3曲目CherryのオリジナルKarmapa Chenno、コオロギの鳴き声のSEに始まり、Cherryの話し声、手拍子、パーカッションからリズムがスタートします。1曲目同様Lenny White, Marcus Millerのリズム隊にSammy Figueroa, Raphael Cruzのコンガ、パーカッションが加わり、より厚いグルーヴを聴かせます。Cherryのトランペット・ソロは伸びやかなテイストから、ハイノートも用いてアグレッシヴさも表現しようとしています。曲中何度か出てくる印象的なメロディは、女性コーラスとシンセサイザーのアンサンブルで演奏されます。ここでもSamoleの巧みなギターがフィーチャーされますが、George Bensonを彷彿とさせるクリアーなピッキングとラインが印象的です。その後パーカッション隊のソロ、そしてスティールドラムをイメージさせる、多分シンセサイザーによるメロディ、大勢の人間によるアプラウズ、再びCherryの朗々としたトランペットが登場しFade Outです。
4曲目以降はレコードのB面に該当し、1曲ごとの演奏時間が短くなり収録曲数が増えています。CaliforniaもCherryのオリジナル、波の音のSEからスタートしますが、幼少期を過ごしたCaliforniaの浜辺のイメージでしょうか。ここでのドラマーには何とTony Williamsが登場!同年6月録音のリーダー作「Million Dollar Legs」をリリースしたばかりで、ジャケ写にも表れていますが(笑)、脂が乗り切っておりベースJasonとパーカッション隊でこれまた素晴らしいグルーヴを聴かせています。メロウなトランペットのメロディとソロ、ギターとのユニゾンのメロディ、そしてこの曲でもSamoleに思う存分弾かせているのが、夏の陽射しの様な暑さを感じさせます。エンディングにも波の音のSEが入り、去り行く夏を思わせる仕立てになっているのでしょう。
1)Pale Blue 2)Creeper 3)Heckle and Jeckle 4)South Paw 5)Meru 6)Lasting Tribute 7)Osmosis 8)Leap of Faith
Dick Oattsは53年4月米国Iowa州Des Moines出身、父親の同じくサックス奏者Jack Oattsに影響を受けサックスを始め、高校卒業後ほどなくThad Jonesに招かれThe Thad Jones/Mel Lewis Orchestraに加入することになり、New Yorkに拠点を移します。Thad/Melで始めはテナーサックス奏者として、のちにリードアルト奏者として、その後Thad/Melを母体としたVanguard Jazz Orchestraの中心人物、同じくリードアルトとして活躍しています。リーダー、コ・リーダー作を20枚以上、Thad/MelとVanguard Jazz Orchestraを含めてやはり20作以上リリース、サイドマンとしても様々な作品に参加しています。譜面が超強い上にアドリブもバッチリ、彼がバンドにいる事により他のメンバーに刺激を与え、推進力になり得る高度な音楽性と人間的包容力、存在感を兼ね備えていますから、それは引く手数多です!
Dave Santoroは現在Berklee音楽院で教鞭を執っており、Steve Grossman, Bob Berg, Sal Nistico, Pepper Adams, John Scofield, Mick Goodrick, Mike Stern, Randy Westonとの共演歴があるベテラン・ベーシストです。代表作としてJerry Bergonzi, Adam Nussbaumとの93年ライブレコーディング・トリオ作品「Dave Santoro Trio」があります。
3曲目はOattsのオリジナルHeckle and Jeckle、いきなり変態系のテーマです(笑)。ですが場面をリフレッシュさせる問答無用の説得力を感じます。曲のフォームはアップテンポのブルース進行、テーマ後はピアノがバッキングせずにサックストリオの演奏で突っ走ります!立て板に水、巧みなタンギングによるスインギーな8分音符を用いて繰り出されるフレーズは、実にスポンテニアスです!待ってました!とばかりに、弾くのを止めていたピアノのソロが始まります。テーマの変態さをしっかりと念頭に置き、これまた超絶アドリブを展開します。ベースソロを受け継ぎ、カラフルなドラムソロが本作Oblanの「Introducing」、とは感じさせない音楽な成熟度をアピールします。ラストテーマにも更に一捻りの変態系が待ち受けていました(笑)。
7曲目8分の6拍子のリズムからなるSantoroのナンバーOsmosisは、ソプラノサックスとピアノのユニゾンによるテーマメロディが印象的な佳曲。OattsのソプラノといえばVanguard Jazz Orchestraのリード奏者での活躍ぶり、Groove Merchant他、彼なくしては演奏が成り立たない曲のサウンドが耳に残っています。ソロの先発はSantoto、テーマの8分の6拍子・リズムフィギュアを用いて流麗に歌い上げています。続くソプラノのソロ、おそらく録音に際してベル先端部分の成分を収録しておらず、キー上部の成分がメインの音色です。丸さが目立ち、個人的にはどちらかと言えば先端部の成分が配合された、よりエッジーなソプラノの音色が好みです。ソプラノの録音方法はアルトやテナーに比べると難しいと言われ、ベル先端部とキー上部の両方の成分が混ざり合うブレンド感が大切です。Oattsの流麗なソロの後Barthもイメージを引き継ぎつつ、後もう少しで壊れそうな瞬間を迎えますがラストテーマへ。
8曲目ラストを飾るのはOattsのナンバーでLeap of Fish。本作中最速の演奏、ドラムのイントロから始まる、長い音符を生かしたテーマとシンコペーションを伴う複雑なコード進行、これまた凝り懲りのオリジナルです!テーマ後一変してファスト・スイングへ、先発Barthのタイトでスピード感溢れるフレージングは本作の白眉の一つですが、リズムセクションはその後に続くOattsとのバーニングに備えて、余力を残しているかのように抑え目に聴こえます。案の定Oattsのソロはダイナミックな展開を見せ、必然性を伴いOblanのドラムとデュオへ!低音域のエグエグ感、まるでJewish系テナー奏者のモーダルなアプローチを聴かせ、しかもコンパクトにまとめられ実にカッコイイです!ドラムソロも柔らかさ、しなやかさを掲げつつ熱いジャズスピリットを聴かせます!ラストテーマの大きく、たっぷりとした感じが、それまでの細かなフレージングやインタープレイとの絶妙な対比となり豊かな音楽性を表現していると思います。
2020.05.12 Tue
Bluesy Burrell / Kenny Burrell with Coleman Hawkins
本作録音の1か月前、62年8月録音のHawkins作品「Hawkins! Alive! at the Village Gate」は彼のカルテット名演奏として誉れ高いライブ作品ですが、メンバーが本作と全く同じで、Burrellと曲によりコンガ奏者Ray Barrettoが参加した形になります。
ジャズ史において既存のバンドやメンバーにちゃっかりとヤドカリのように(笑)加わって、作品を録音した例は過去にもありますが、例えば以前Blogで紹介したDizzy Reeceの「Comin’ on!」でのArt Blakey & the Jazz Messengersのリズムセクション、Art Pepperの代表作「Meets the Rhythm Section」で当時のMiles Davis Quintetのリズムセクションの起用、Joe Hendersonと同じくMilesのリズムセクションだったWynton Kelly Trioとの共演作「Four」「Straight, No Chaser」の2作。既存のバンドのメンバー、しかも経験豊富にして高度な音楽的レベルを有するリズムセクションと、同じく優れたフロントが共演するのは往々にして功を奏し、レギュラーとは異なったテイストの演奏を展開します。違った個性同士がケミカルに作用するのでしょう。
Hawkinsは62年にこのカルテットのメンバーで他に4作、合計5作(!)の録音、リリースを行っています。1月録音「 Good Old Broadway」、3, 4月録音「The Jazz Version of No Strings」、4月録音「Coleman Hawkins Plays Make Someone Happy from Do Re Mi」、前述の8月録音「Hawkins! Alive! at the Village Gate」があり、9月録音「Today and Now」。同一メンバーで年間5作という多作を許されるのはリーダーは勿論、バンドの演奏も素晴らしいが故。ミュージシャンの人気、人望も必須ですが作品が売れ、レコード会社として採算が取れるからです。多くの作品をリリース出来たのは時代が良かったのもありますが、今では夢のような話です。
5曲目はバラードI Thought About You、ユニークな構成による演奏です。冒頭Hawkinsのソロから始まり、テーマを演奏するのはBurrellのギターの方、Hawkinsはそのまま残って随所にオブリガードを入れていますが、Hawkinsのアプローチは一切原曲のメロディを感じさせないのが逆に新鮮です。テーマ後ソロは半コーラスHawkins、付帯音の権化のような深い音色、サブトーンの巧みさには楽器調整が完璧に為されている事まで伝わってきます!調整不足で何処かキーが空いていたら安定してサブトーンは出ず、自在にコントロール出来ませんから!その後ギターも半コーラス流麗にソロを取り、ラストテーマはHawkinsによる一瞬テーマのメロディを感じさせる風のプレイ、でもやはりBurrellが被さるようにテーマを演奏し、ラストはトニックを吹いたHawkinsにやはり被さり、Ⅳ-Ⅶ-Ⅲ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ-Ⅰと遠いコードから巡りルートに落ち着きました。それにしてもHawkinsはI Thought About Youのメロディを殆ど知らないのでは?とも演奏から感じましたが、録音前に「Hey, Bean(Hawkinsのニックネーム)、I Thought About You演奏するけどテーマ演奏して欲しいんだ」「Kenny, 悪いけど俺は全然知らないんだよ」「Really? じゃあ僕がテーマを弾くからオブリとソロを頼むね、コード進行は大丈夫かな?」「Yeah, 耳で感じ取るからさ」「OK, Bean!」のようなやり取りがあったと勝手に想像しています(爆)。
6曲目はスタンダード・ナンバーからOut of This World、ギター、ベース、ドラム、コンガのカルテット演奏です。小洒落たラテンのアレンジが粋な雰囲気です。ギターによるテーマ奏も肩肘張らないリラックスしたムードが曲調と良く合致しています。ブレークからソロに入り、ベースがスイングビートになりますが、ドラムとコンガはそのままラテンのリズムをキープしており、ユニークなグルーヴが展開されます。カルテットの筈でしたが、ピアノがバッキングでギターソロの途中から参加します。でも何故か途中で止めています。流麗でスインギーなギターソロが聴かれ、その後ギターとコンガの8小節バースが行われ、巧みなコンガソロが聴かれます。Barrettoはこの頃スタジオミュージシャンとして活躍し、Prestige, Blue Note, Riverside, Columbiaといった名門ジャズレーベルのハウス(お抱え)・パーカッション奏者として演奏していました。時代の先駆者はNew Yorkのラテンシーンの第一人者となり、その後は自ずと米国を代表するパーカッショニストとして、その名を轟かせる事になります。ラストテーマに突入し、エンディングのフェードアウト時に再びピアノがバッキングで加わっています。Flanaganに好きにやらせているBurrellも大物ですが、Flanaganは割と気まぐれなのでしょうか?(笑)
Recorded: February 14 and 15, 1998 at Avatar Studios, NYC / Additional Recording on February 22 at Skylab Studio, NYC Label: Blue Note(BN 8530822) Produced by Michael Cuscuna & Pat Martino
g)Pat Martino ts)Eric Alexander key)Delmar Brown el.b)James Genus ds, per)Kenwood Dennard
1)Uptown Down 2)Stone Blue 3)With All the People 4)13 to Go 5)Boundaries 6)Never Say Goodbye 7)Mac Tough 8)Joyous Lake 9)Two Weighs Out
Pat Martinoは1944年8月Philadelphia生まれ、父親の影響で音楽に興味を持ち、12歳でギターを始め、早熟な彼はNew Yorkに移り住んでから15歳で既にプロ活動を開始しました。 Lloyd Price, Willis Jackson, Eric Kloss, Jack McDuffらと共演を重ね、67年5月22歳の若さで初リーダー作「El Hombre」を録音しました。
この時点で既にギターという楽器をとことんマスターしているのでしょう、正確無比でエッジーなピッキング、そこに由来する端正な8分音符、のちに比べれば比較的オーソドックスですが、それでもオリジナリティなラインの萌芽を十二分に感じさせるソロの方法論、アドリブにおける誰よりも長いフレージングとそのうねり具合、大きなリズムのノリ、レイドバック、スイング感、申し分のないニューカマーの登場です!多くの同世代、後輩ギタリストたちGeorge Benson, John Abercrombie, John Scofield, Mike Stern, Emily Remler, etc多大な影響を与えたカリスマ・ギタリストのひとりに位置します。また独創的なインプロビゼーションのライン、方法論について自身は「形式的なスケールを使うのではなく、いつも自分の旋律の本能に従って演奏してきた」と発言しており、形にとらわれないその天才ぶりを伺わせます。ところが76年に脳の病気を発症し、80年に脳動脈瘤手術を受け、手術自体は成功しましたが、音楽的キャリアの記憶を一切無くすと言う悲劇に見舞われました。復帰するためになんと全くのゼロからギターを演奏することを強いられたそうです。親族の支えなどがあり奇跡的に復活を遂げ、87年にライブ盤「The Return」をレコーディングしました。
3曲目With All the People、ギターのメロウなメロディとシンセサイザーが美しくイントロを奏で、一転してファンクのリズムで曲が始まります。いや〜、良い曲ですね、Martinoの音楽的ルーツに根ざしている旨、ライナーに自身が書いていますが、僕自身の音楽的ルーツにも全く同様で、The CrusadersやNative Sonのテイストを感じさせます。テーマ後ワンコードでソロが展開しますが、DennardとGenusがここぞとばかりにセンシティブに、かつ大胆に盛り上げて行きます。ワンコードでのアプローチ、実は最もリズム隊の手腕が問われる演奏形態だと思います。その後サビのコード進行ではスイングになり、メリハリを利かせています。ここでもキーボードがやはり裏方に徹してサウンドを提供していますが、ややラウドな傾向にあると感じます。引き続くテナーソロでは一層深遠なインタープレイ、グルーヴの一体感を聴かせ、ラストテーマ、エンディングはイントロに戻りフェードアウトです。
4曲目13 to Goのタイトル付けはレコーディング前日のリハーサルが13日の金曜日だったからそうです(笑)。重厚なグルーヴのスイング、ミディアム・テンポですがエレクトリックベースでの演奏だからでしょうか、軽さと捉えるべきか、軽快さとするべきか、アコースティックベースでの演奏とは趣が異なります。ユニークなメロディに引き続き先発はテナーソロ、豪快で巧みな演奏を聴かせますが、ある種の枠の中で演奏しているというか、箱庭の中でのデコレーションは上手いと感じるのですが、臨機応変に、より大胆なアプローチの違いが聴きたくなってしまいます。ギターソロに受け継ぎ、その後キーボードソロが初めて聴かれますがなんと大胆で壮絶なソロでしょう!サウンド・コーディネーター的立場のBrownが実はメンバー中もっともアグレッシブじゃあないですか!受けて立つDennardの暴れっぷりからもその凄まじさが伝わってきます!Genusはキープに回っていますがニヤニヤしながら演奏している顔つきが見えて来そうです!トリッキーなバンプを経てラストテーマに向かいます。
6曲目Never Say Goodbyeはレコーディングの少し前、97年12月2日に交通事故で亡くなった友人のロック・ギタリストMichael Hedgesに捧げられたナンバー、全編ギターとシンセサイザーのデュオで厳かに演奏されます。サウンドからHedgesの人柄を垣間見る事ができ、Martinoとの人間関係の深さも感じることが出来る美しい演奏です。
1)Captain Buckles 2)Joel’s Domain 3)Something 4)Blue Caper 5)The Clincher 6)I Didn’t Know What Time It Was 7)Negus
1933年2月Texas州生まれのNewman、幼い頃から音楽に携わり、最初にピアノを手がけ後にサックスに転向しました。彼のミドルネームFatheadは「まぬけ、バカ」と言う意味ですが、名前の由来は学生時代に遡り、当時あまり譜面の読めなかったNewmanが譜面台に逆さまに楽譜を置き、スーザ行進曲を暗譜で吹いている姿に憤慨した音楽教師が名付けたニックネームを、そのまま使用しているのだそうです(笑)。そんなアダ名をプロになってからも使い続けられるのは、きっと人柄の良い方なのでしょう。自身を揶揄する名前を冠する芸人、ミュージシャン、そうは数が多くありません。日本でも吉本興業所属のお笑い芸人「アホの坂田」こと坂田利夫氏くらいでしょうか(爆)。しかし彼の演奏、音楽性、サックスの音色は実に素晴らしくかつ個性的、むしろ自信の表れに違いないでしょう。かつてのバンマスRay Charlesをして、「歌を歌うようにサックスを吹けるのは彼しかいない」とまで言わしめました。サックス奏者、音楽家にとって最大級の賛辞の言葉ですが、50年代から60年代初頭にかけて10年以上Charlesのバンドに参加した事が、彼の音楽性に大きく影響を与えています。加入当初はバリトンサックスを演奏しましたが、前任者であったDon Wilkersonが退団し、テナーに持ち替えてCharlesのバンドのメインソロイストに昇格しました。他サックスにはHank Crawfordの名前も見られます。バンドは数多くのヒット曲をリリースし、その中でも名曲Unchain My Heart、Newmanのソロがフィーチャーされていますが、こちらは61年にヒットチャートの1位を記録しました。絶頂期のCharlesを支えたバンドの屋台骨としての存在、逆に言えばNewmanの演奏なくしてはRay Charlesの活躍ぶりは有り得なかったでしょう。58年11月にはCharlesがピアニストで参加した初リーダー作「Fathead: Ray Charles Presents David ‘Fathead’ Newman」を録音しています。3管編成による緻密でゴージャスなアレンジをベースに、意外にもストレートアヘッドなジャズ演奏を展開し、Charlesのバッキング、ソロも冴える、外連味のないアンサンブルを聴かせています。収録スタンダード・チューンWillow Weep for Meのアルトサックス・プレイも期待を裏切らず、堪らなく艶やかでセクシーです!出身地からしてそうですが、彼の演奏はいわゆるテキサス・テナー、ホンカーのテイストがルーツになります。Ray Charlesの寵愛を受け、彼の楽団での豊富な経験により、他では得る事の出来ない歌心を身に着け、カテゴリーの垣根をワンステップ超えた演奏を展開しています。
Ray Charles Band後にはHerbie Mann, Aretha Franklin, B.B. King, Joe Cocker, Dr. John, Jimmy Scott, Lou Rawlsらと共演し、伴奏の名手として、また歌伴に於ける4小節〜8小節の演奏、短くとも巧みな間奏の第一人者としての地位を確立しました。後年Natalie Coleの大ヒットアルバム「Unforgettable」にも参加し、収録曲Tenderlyでオブリガート、間奏を取っています。
6曲目はスタンダード・ナンバーからの選曲でI Didn’t Know What Time It Was、作品にスタンダードをほぼ必ず取り上げるのもやはりジャズ演奏への拘りからでしょう。再びアルトサックスに持ち替えて演奏していますが、これはSomethingの演奏より更にヤバイです!アウフタクトからいきなりテーマが始まり、その素晴らしい音色、ニュアンスを駆使して美の世界へと誘います。音域、曲調と音の張り具合の三つ巴状態、自分からは素晴らしいとしか言葉が出ません!テーマ後のアドリブ・ラインの巧みさ、流暢さは、普段からジャズ・プレイヤーとしての自覚をしっかりと持ち、インプロヴァイザーとしての精進を欠かさない真摯な姿勢を受け取ることが出来ました。こちらも一曲丸々Newmanの独壇場、更にカデンツァに於けるフレージングで、彼のジャズ・スピリットを再認識させられましたが、彼はソウル、R&B範疇のプレイヤーではなく、しっかりとジャズに腰を据えている表現者なのです。
それでは本作の演奏に触れて行きましょう。1曲目DexterのオリジナルNursery Blues、冒頭「きらきら星」のメロディを引用したベースとテナーのユニゾンによるイントロが聴かれます。タイトルを直訳すると「子供部屋ブルース」でしょうか?、雰囲気はそのものですが曲のフォームは12小節のブルースではありません。ちなみに「伊勢佐木町ブルース」や「夜霧のブルース」もブルースフォームではありませんでしたね(笑)。16小節を1コーラスとしたコード進行で、Sonny Rollinsのオリジナル曲Doxyのコード進行が用いられています。さらに曲のオリジンを遡れば1918年、米国のピアニストで作曲家のBob Carletonが作曲した「Ja-Da」のコード進行が基になっているのです。テーマではPedersenが大活躍し、本作トリオ演奏の前途は明るいと宣言しているかのようです(笑)。テナーソロはまさしくlaid backの極み、ビートの最も際(きわ)に音符を載せており、背水の陣状態です(笑)。そして8分音符がかなりイーブンなのが興味深く、実はかのMiles Davisの8分音符もめちゃめちゃイーブンなのです。コーラスを重ね、演奏は次第に熱を帯び、Dexterいつになく16分音符フレーズのオンパレード!意外と16分音符はon topに位置する時があります。8分音符の超タイトさに比べ16分音符はさほどでもないのは、8分音符での演奏の方に重きを置いているからでしょう。普段聴かれないテクニカルなフレージングが随所に炸裂、もちろんオハコの引用フレーズの挿入も巧みになされています。RielがDexterの熱気に呼応しフィルインを連発しますが、カッコイイですね!RielはBen WebsterやJackie McLean, Art Farmer, Eddie “Lockjaw” Davis, Kenny Drewといった米国を代表するジャズプレーヤーと演奏活動を共にしましたが、自身はロックバンドも率いているためか、例えばPhilly Joe JonesやRoy Haynes, それこそElvin Jonesたちと比べるとグルーヴがイーブン、スクエアでDave WecklやSteve Gadd, Vinnie Colaiutaたちと基本的に同傾向なノリです。Pedersenも縦横無尽に様々なアプローチを駆使し、演奏に寄り添いつつ、煽りつつ、名手ぶりを聴かせますが、圧巻はやはり自身のソロ、早弾きを含めた確実な楽器のコントロールには全くブレを感じさせません。ラストテーマには再びきらきら星が用いられ、Fineです。
2曲目はタイトル曲、PedersenのオリジナルLullaby for a Monster、こちらにも可愛らしいタイトルが付けられていますが、曲は8分の6拍子を基本としたリズムで、構成やコード進行にも捻りが効いた佳曲です。Pedersenの79年7月録音リーダー作「Dancing on the Table」収録のオリジナルも佳曲揃い、しかもts)Dave Liebman, g)John Scofield, ds)Billy Hartたち共演者の演奏も充実した名盤です。
5曲目はバラードでBorn to Be Blue。賑やかな演奏が続いたので、上の音域での朗々としたメロディが沁みて来ます。Pedersenのベースが3連系のラインを多用することで、コード楽器のバッキングが存在しない空間を音楽的に埋めています。イントロは曲冒頭のコード進行をリピート、テーマに入りDexterならではのニュアンスが芳醇な色気を放ちますが、ソロに於てもビブラートの様々な付け方、語尾の処理での微妙な掛かり具合が堪りません!ベースソロ後はDexter低音域を用いて吹き始め、次第に音域が上がり、冒頭のテーマ同様に上の音域でテーマを聴かせます。
6曲目ラストを飾りしはDonald ByrdのナンバーからTanya。Dexterの64年6月、Blue Note Labelからのリーダー作品ですがParisでの録音「 One Flight Up」に収録されています。
Recorded at Spectrum Studios, Venice, California, January 29, 1979 Engineer: Arne Frager Mixing: Paul Goodman(RCA) Producer: Don Schlitten Label: Xanadu
1)Skate Board Park 2)Cliche Romance 3)High Wire – The Aerialist 4)Speak Low 5)You Go to My Head 6)Bara-Bara
学生時代にとても良く聴いた一枚です。70年代を代表するサックス奏者の一人Joe Farrellは37年Chicago生まれ、60年Maynard Ferguson Big Band, 66年Thad Jones/ Mel Lewis Orchestraでの演奏を皮切りにシーンに登場し、60年代後半から頭角を表し始めました。65年4月録音Jaki Byardのアルバム「Jaki Byard Live!」で初期の好演が聴かれます。基本的なフレージング、アプローチには既に後のスタイルが現れていますがテナーの音色が異なります。これはこれで良いトーンではありますが、いささか小振り感があり、彼の最大の特徴である身の詰まった極太、豪快さがアピールされていません。
ところが約1年半後の66年11月録音、Chick Coreaの初リーダー作「Tones for Joan’s Bones」では十分にFarrellの音色が確立されています。短期間に急成長を遂げたのでしょうが、トーンに対するイメージはもちろん、使用するべき的確なマウスピースやリード、楽器とのコンビネーションが見つかったに違いありません。自分のボイスを出せるセッティングを得られるかどうか、サックス奏者には死活問題です。優れたテナー奏者が必ず魅力的な素晴らしい音色を携えているのは、音色に対する徹底的なこだわりの産物です。
更に1年後の翌67年10月NYC The Village Vanguardで行われたセッションの模様を録音した「Jazz for a Sunday Afternoon Volume 4」、同様にCoreaやElvin Jones, Richard Davisら超弩級リズムセクションとの演奏で、Farrellのオリジナル曲13 Avenue “B”(コンテンポラリーなテイストの佳曲です)やStella by Starlightが取り上げられていますが、確実に以降に通ずるトーンを身に付け、豪快にブロウしています。彼のセッティングですが、マウスピースはBerg Larsen Hard Rubber、オープニングは95/1ないしは100/1、リードはRico4.5 or 5番、楽器本体はSelmer Mark Ⅵ 15万番台Gold Plated、後には同じくSelmer Mark Ⅶも使用していました。確かにリードがメチャメチャ硬そうな音をしていて、カップ・アイスクリームがこのリードで食べられそうです(爆)。当時60年代後期はFree Jazzの嵐がさんざん吹き荒び、一段落した頃に該当します。オーディエンスもハードなものよりもオーソドックスな表現のジャズ、例えばジャムセッション形式のような肩肘張らない演奏を欲していました。食傷気味だったのですね、この「Jazz for a Sunday Afternoon」シリーズはリスナーに大いに受け入れられたようです。
その後Farrellは魅惑のテナートーンと独自のスタイルを引っさげて、ジャズシーンに繰り出しました。翌68年4月にElvin Joneのリーダー作でJohn Coltrane没後に編成したピアノレス・トリオ編成による「Puttin’ It Together」(ベーシストはJimmy Garrison)、同年9月同編成による「The Ultimate」の録音に参加、ここでの演奏でポストColtraneの筆頭として、そのステイタスを確立しました。
彼の快進撃は止まりません。盟友Chick Coreaの大ヒット作72年2月「Return to Forever」と同年10月録音「Light As a Feather」に於けるプレイはジャズ史に残る名演奏、「Return to ~」ではソプラノサックス、「Light As ~」ではフルートによる演奏ですが、彼のマルチ奏者ぶりが発揮されています。ちなみにアルトサックス、オーボエ、イングリッシュホルンも演奏業務内容に挙がっており(笑)、スタジオ・ミュージシャンとしても活躍していました。
76年CTIでのラスト7作目「Benson & Farrell」リリースの後、Warner Bros.から時代をまさに反映したフュージョン〜ディスコの作品77年「La Cathedral Y El Toro」78年「Night Dancing」を2作リリースしましたが、これが両方ともメチャ良いのです!演奏はもちろん、参加メンバー、曲目やアレンジ、アルバムの構成と何拍子も揃った聴き応え満点の作品、「Night Dancing」に至っては当時のディスコ港区芝浦にあった「ジュリアナ東京」で、扇子を持ってお立ち台に登り、扇ぎながら一心不乱に踊る女性たちとオーバーラップするジャケット・デザインに大受けしました!(若い方たちには何のコッチャですが)、反して生粋のジャズファンからは「ホイホイ・フュージョン」なんて呼ばれ方もされましたが(汗)。「Night Dancing」収録のバラードで英国ロックバンドBee Geesの大ヒットナンバーHow Deep Is Your Love、邦題を「愛はきらめきの中に」は当時「愛きら」と我々省略して呼び(笑)、今では絶滅危惧種〜もしくは絶滅してしまったダンスパーティの仕事で本当によく演奏したものです。Coltrane派テナーサックスの旗頭であったJoe Farrellが「Farrellのテナーの音色と演奏スタイルはディスコ・ミュージックに実に良く合う」ので、世の中このままジャズが衰退しフュージョンやディスコ・ミュージックが台頭していくのだろうか、と遠くを見つめながらぼんやりと考えたものです(爆)。
5曲目はスタンダード・チューンのバラードYou Go to My Head、良い選曲です。Coreaの幻想的なイントロからテーマ奏へ、さりげないニュアンスとサブトーンを駆使したメロディが、曲の持つムードを的確に引き出しています。ピアノのバッキングの絶妙さは凄いですね!Coreaには演奏しながら本当に様々なサウンドが聴こえて来るのでしょう、眩いばかりの宝石を散りばめたかのようなコード感、フィルインの連続です。テーマ後は半コーラスピアノソロ、こちらでも申し分なしにサウンドの魔術師ぶりを発揮しています。きっとCoreaにインスパイアされたのでしょう、サビの部分でFarrell饒舌に上のオクターブを中心にソロを取り、その流れでメロディもオクターブ上げて吹いています。エンディングにはバンプが付け足され、その後カデンツァ時にトニックの半音上の音を一瞬吹いていますが、故意なのかたまたまなのか、「おっといけねぇ!」とばかりにすぐさまルート音に吹き換えています。
Joe Farrellは86年1月にCaliforniaの病院にて、骨髄異形成症候群で48歳の若さで亡くなりました。Michael Breckerも同じ病気を患い、白血病で2007年1月にやはり57歳の若さで亡くなっています。
2020.04.05 Sun
In Out and Around / Mike Nock
今回はピアニストMike Nockのカルテット編成による1978年録音リーダー作、「In Out and Around」を取り上げてみましょう。
Recorded at Sound Ideas Studio, New York City – July, 7, 1978 Produced by Mike Nock Executive Producer: Theresa Del Pozzo All Compositions by Mike Nock Label: Timeless Records
1)Break Time 2)Dark Light 3)Shadows of Forgotten Love 4)The Gift 5)Hadrians Wall 6)In Out and Around
理想的なサイドマンを擁し、全曲意欲的なオリジナルを巧みなインタープレイで演奏した素晴らしい作品です。アルバム録音78年当時はフュージョン・ブーム全盛期、このようなストレートアヘッドなアコースティック・ジャズをプレイした作品の方がむしろ珍しかったように記憶しています。George Mraz, Al Fosterら精鋭によるリズムセクションも注目に値しますが、フュージョン・サックスの担い手であるMichael Breckerの参加に耳目が奪われます。当時のシーンを賑わせていた諸作、例えばThe Brecker Brothers関係ではHeavy Metal Be-Bop, Blue Montreux Ⅰ,Ⅱ, The New York All Stars Live, Ben Sidran / Live at Montreux, Steve Khan / The Blue Man, ほかNeil Larsen / Jungle Fever, Richard Tee / Strokin’, Tom Browne / Browne Sugar, Al Foster / Mixed Roots…78年はフュージョン・アルバム大豊作、Michael参加作品も豊漁で、彼のサックス無しにはフュージョンは成り立たなかったと言っても過言ではありません。原体験した者にとっては感慨深げですが、最初に本作を聴いた時には正直余りピンと来ませんでした。全体的な演奏はひたすら端正でタイトなリズムが支配し、フロントMichaelはハイパー振りを披露してはいますが、聴く者に圧倒的なインパクトを与えるいつものぶっちぎり感は無く、何かに引っ張られ、羽交い締めにされているかの如くの抑制、ストイックさを感じ、彼の表現の最大の特徴である起承転結的ストーリー展開と結果として生じる爆発、そこに起因する爽快感が希薄な演奏と捉えていました(随所に小爆発はありますが)。明らかにいつものアプローチとは異なり、リズムセクション、特にピアノとのコンビネーション、インタープレイを徹底させています。仄暗さを伴ったユニークな曲想、美しいメロディと複雑なコード進行、FosterのPaiste Cymbal使用による乾いた音色のレガートと、Mrazの深い音色を湛えたon topでスインギーなベースとのコンビネーション、彼らの決して出しゃばらず、しかし出すところは毅然と的確にサポートしバックアップする。今は自分の耳がやっと演奏に追いついたのか〜めでたく第二次性徴を迎えたのでしょう、きっと(笑)!〜、本作が発する高次な音楽性を何とか受け入れる事が出来るようになったと思います。プレイヤー4人各々の音を各人どう受け止め、誰がどの様に絡んでいくのか、展開し変化するプロセスを楽しんで行く。個性的なオリジナルに対する柔軟なアプローチに懐の深さを覚え、同時に自分に照らし合わせ、音楽の聴き方も変わって行くのだと実感しています。
Mike Nockは40年7月、New Zealand Christchurch生まれ、 11歳でピアノを学び始め18歳の時にAustraliaで演奏活動を始めました。その後Berklee音楽院に入学、米国でも音楽活動を開始し63年から65年までYusef Lateefのバンドに参加しました。自己のフュージョン・バンドやスタジオ・ミュージシャンとしても活躍し、85年まで米国で過ごした後Australiaに戻りました。このレコーディング時には在米と言う事になります。今までに30作近いリーダー作をリリース、教育者としても精力的に現在進行形で活動しています。
Nockの音楽性として20年以上過ごした米国のテイストよりも、生まれ育ったNew Zealand〜Australia=イギリス連邦〜欧州的、クラッシックを素養としたECM的なサウンドが聴こえてきます。実際ECM Labelから1枚アルバムをリリースしています。81年録音「Ondas」、ベーシストに名手Eddie Gomez、ドラマーに欧州を代表するJon Christensen。本作収録のShadows of Forgotten Loveを、Forgotten Loveと若干タイトルを変更して再演しています。プロデューサーManfred Eicherのサジェスチョンもあるのでしょう、見事にレーベルのカラーに相応しい演奏を展開しています。ピアノトリオということもあり、Nockのより耽美的でリリカルな演奏を楽しむ事が出来る作品です。
それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目アップテンポのスイング・ナンバーBreak Time。テナー、ピアノ、ベース3者の強力なユニゾンのテーマからスタートします。まず特筆すべきは完璧な精度でのテーマ・アンサンブル、本作レコーディング自体1日で全曲を収録していますが、これだけの難易度の楽曲をこなすためには最低でも2日間は別日にリハーサルを設けていると考えられます。でも意外とこの百戦練磨のメンバーなので、当日スタジオに集まって譜面を配布され、その場で「せえのっ!」と容易く演奏したのかも知れません(汗)。本当にそうだとしたらとても嫌な事ですが(爆)。先発ソロイストはMichael、周りの音を良く聴きながらその場、瞬間で最も相応しい音の取捨選択を行い、自分自身が述べたい部分とNockの(尋常ではない)バッキングの主張との兼ね合いを瞬時に模索しつつ、素晴らしいグルーヴ、タイム間、申し分ないテナーの音色でソロを吹いています。この頃のMichaelのセッティング、既に何度か紹介していますが今一度、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、これはEddie Danielsから譲り受けた銘品、リードはLa Voz Medium Hard、リガチャーはSelmer Metal用、楽器本体はSelmer MarkⅥ Serial No.67853。
3曲目Shadows of Forgotten Love、かなり重いタイトルです(汗)、ピアノトリオ作「Ondas」ではForgottenが削除されたタイトル名になり、多少ヘヴィーさが緩和されました(爆)。前曲よりも幾分早いテンポですが比較的同傾向と言えるテイストで、むしろこちらの方がDark(Light)さは勝るように聴こえます。ピアノのイントロからベースも同一のパターンを継続し、テナーとピアノのユニゾンのテーマになります。始めはスネアのロールで、サビではタムを中心に、その後再びスネアのロールでカラーリングするFosterのドラミングが曲想と合致し、とても音楽的です。ラストテーマではそのカラーリングがバージョンアップし、更なる深みを表現しています。テナーソロはありませんが、メロディ奏だけで十分に存在感をアピールしています。ピアノをフィーチャーした形になりますが、実はピアノソロのバックで自在に、緻密に、大胆に、かつパーカッシヴに叩くFosterのドラミングを聴かせるためのナンバーであると感じています。曲の持つ内(うち)に秘めたエネルギーがNock自身の音楽性から離れて一人歩きし、ゆえに再演を行おうという願望を生じさせたのかも知れません。
4曲目はThe Gift、冒頭Michaelのメロウさの中にも切なさを湛えたメロディがたまらなく素敵です!息遣いまで聴こえる入魂のプレイは録音時29歳、様々な音楽を経験しメロディ表現の真髄に到達しつつあり、以降更に表現の深さを極めて行きました。Nockの伴奏も実にツボを得ています。Michael参加ピアニストHal Galper76年11月録音の作品「Reach Out!」収録、GalperとのDuoによるI’ll Never Stop Lovinng Youの歌い回し方も同様に素晴らしいです。
6曲目ラストを飾るのはタイトルナンバーIn Out and Around、アップテンポでテーマのメロディとリズムセクションとが巧みにCall and Responseを行う曲想、スリリングな演奏は本作のハイライトと言えますが、目玉の演奏をラストにする手法、実は僕自身お気に入りなのです。敢えて冒頭に置かず全曲を聴き通し、オーラスに最も聴き応えのある曲が鎮座している方が、作品を鑑賞する醍醐味と感じます。評判のラーメン店で最後に残しておいた特製チャーシューを食べる感じでしょうか?(ちょっと違いますね、汗)。テーマ終わりに聴かれるピアノのフレーズに被ったテナーのフィルインが何気にカッコイイです!先発Nockのソロ、テクニカルにUpper Structure Triadを多用しつつ、スインギーにアドリブしている様は圧巻です!Mraz, Fosterのサポートも申し分無し!このリズムセクションと是非一度お手合わせしたいものです!続くMichaelはNockのテイストを確実に受け継ぎソロをスタート、自己の主張とリーダーの音楽性、曲自体が持つテイスト、共演ミュージシャンの発するサウンドを瞬時に合わせ、かき混ぜ、音のメルティングポット状態としてアドリブを展開しています。コード進行が複雑で難解な部分が手枷足枷となり、ここをクリアーすることでグルーヴ感が生ずるはずなのですが、Michaelなかなか手こずっているようにも感じます。続くMrazのベースソロ、いやいや、このテンポでしかもフロント2人の物凄い演奏の後、気持ちの切り替えがさぞかし大変だったと思いますが、さすが手練れの者、全く動じず素晴らしい演奏を聴かせます!改めて超弩級のベーシストと認識しました!その後テナーとピアノが互いをダンボの耳状態で聴きながらのソロ同時進行、いやーこちらも凄いです!ラストテーマを無事迎えFine!
2020.03.27 Fri
Please Mr. Jackson / Willis Jackson
今回はテナーサックス奏者Willis Jacksonの1959年録音初リーダー作「Please Mr. Jackson」を取り上げたいと思います。
ts)Willis Jackson org)Jack McDuff g)Bill Jennings b)Tommy Potter ds)Alvin Johnson
1)Cool Grits 2)Come Back to Sorrento 3)Dink’s Mood 4)Please Mr. Jackson 5)633 Knock 6)Memories of You
Recorded: May 25, 1959 Studio: Van Gelder Studio, Hackensack, New Jersey Label: Prestige PR7162 Producer: Esmond Edwards
Willis “Gator Tail” Jackson、並み居るホンカースタイルのテナー奏者の中で実はこの人が真打かもしれません。日本ではあまりその存在を知られていませんが、米国では絶大な人気を誇り、リーダーアルバムを40枚以上リリースしています。32年4月Florida州Miami生まれ、15歳の時にピアノを始めましたがHerschel Evans, Lester Young, Ben Webster, Charlie Parker, Coleman Hawkins, Illinois Jacquet達サックス奏者に多大な影響を受け、すぐにテナーに転向しました。ほどなくCootie Williamsのバンドに参加、そこで録音したJacksonのオリジナルGator Tail Part 1, 2が49年にヒットを遂げました。彼のミドルネームはこの曲から付けられたのは言うまでもありません。
56年米国TV番組The Ed Sullivan Showに自己のバンドで出演し、ヒットチューンGator Tail Part 1を超高速で、凄まじいテンションを伴って演奏した映像が残されています。僅か2分強の演奏時間ですが、この演奏でJacksonはホンカー・サックス奏者としての真価を見事に発揮し、その評価を決定付けたと思います。
それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目はJackson, McDuff, Jennings 3人の共作Cool Grits、曲自体はブルースでキーはF、メロディらしいメロディも無いのでとりあえずキーだけ決めてブルースを演奏したように思います。ベースのウオーキングから始まりドラムが加わり、オルガンがソロを取り始めますがこの時点である種のムードが出来上がります。ギターがカッティング開始、テナーがそれに合わせごく小さい音でバックリフを入れます。続いてギターソロが始まりますが、オルガンとフルアコ・ギターの音色のブレンド感で、こちらもすっかり雰囲気が整います。今度はオルガンのバッキングにテナーが合わせ、引き続きテナーソロが始まります。音量を抑えたサブトーンの権化、付帯音の塊のような音色は超好みです!Jacksonの楽器セッティングですが、マウスピースはOtto Link Metal Florida 10番、リードはおそらくRicoの3半あたりでしょうか。テナー本体は名器Conn 10M、ジャケ写にも見られるネック部分の羽根付き餃子のようなヒレが特徴です。ブロウ自体も抑圧されたクールさの中に熱いホンカー魂をチラチラと感じさせます。前出のEd Sullivan Showでのパフォーマンスとは真逆ですが、いきなり玄関から土足で乱入とはせず、まずは丁寧なご挨拶から。ソロの後半で一瞬オフマイクになるのはMcDuffにバトルを始めようぜ、と合図を出すためでしょう、レコーディングでのこの手のやり取りには生々しさを感じます。
2曲目Come Back to Sorrentoはとても意外な選曲になります。そしてこの演奏の存在が本作の価値をグッと高めました。SorrentoはItalyのNapoliにある都市で風光明媚なリゾート地として有名です。この曲もカンツオーネの名曲としてLuciano Pavarottiを始めElvis Presley, Connie Francisが、ジャズボーカルではFrank Sinatra, Dean Martinたちに歌唱され、ビッグバンドではStan Kenton、あと我らが原信夫とシャープス&フラッツが取り上げていますが、コンボ演奏で取り上げられたのは本作くらいではないでしょうか。美しいナンバーですがシンプルなメロディの曲なので大きな編成でアレンジをしっかりと施し、曲全体をバックアップしなければなかなか形にするのが難しいと思います。中学校の唱歌でも取り上げられていましたが、その次元であれば何ら問題はないでしょう、ジャズの小編成では何か特別な策を講じなければレコーディングして残すのは困難です。ここでは何と言ってもJacksonのテナーの歌い回しが本当に素晴らしく、リズムセクションのまるでLas Vegasのショウ仕立ての如きゴージャスな(幾分大げさな)バッキングを受けて、オンマイクで超ピアニシモでの音量を中心に、深い音色で様々な振幅、波形のビブラート、ベンド、グリッサンド、1’38″で聴かれるキスのような「効果音」(笑)などを駆使し、甘く切ないニュアンスと絶妙にブレンドさせ、Sorrentoのメロディをドラマチックに歌い上げているのです。彼の楽器コントロールのテクニックは申し分ありません。そしてそして、2’23″からテナーのきっかけでテンポが設定され、ここから始まるテナーのフレーズと、リズムセクション兼コーラスチーム(?)とのやり取り、Jacksonの吹いたフレーズを耳コピーして即座に反復するCall & Responseの見事で楽しげな感じと言ったら!音程が気になる部分もありますがそこはご愛嬌、実にスポンテニアスです!その後3’11″からはRock ‘n’ Rollの時間です!1コーラスをまさしくホンカー・テイストでグロウルしながらブロウし、リタルダンド、カデンツァを経て曲のトニック音であるテナーのG音をフラジオで伸ばしますが、リズムセクション全員から「もっと高く!」と促され(笑)、その上のA音、そしていかにも頑張った風に〜お決まりなのでしょうが(笑)〜更に上のD音まで出し、リズム隊のお許しが出て(笑)、1曲丸々吹きっぱなしコーナーは目出度くFineです。実はStan Kenton Orchestra 46年の演奏で、当時楽団専属の名テナー奏者Vido Musso(Napoli近くのSicily島出身)をフィーチャーしたバージョンが(アレンジはPete Rugolo、この人もSicily島出身)、こちらがある程度ベースになっていますが、本テイクの説得力の方に確実に軍配が上がります。
3曲目はMcDuff, Jackson 2人の共作Dink’s Mood、ミディアム・スロー、いや、早めのバラードとしてのテイストが心地よい、McDuffのオルガンをフィーチャーしたナンバー、バックビートに隠し味に聴こえるギターのカッティングも魅力的です。Jacksonはメロディを演奏するだけですが、実にムーディで豊かな表現に徹しています。
4曲目は1曲目と同様に3人の共作で表題曲Please Mr. Jackson。オルガンのイントロから始まりテナーのグロウル、クレッシェンドするフィルインが入りつつ曲が進行しますがこちらもブルース、その場で簡単な打ち合わせをしただけで演奏を開始した風が感じられます。テナー、ギター、オルガンとソロが続きますがJacksonはここでもオブリガードを入れつつ、伴奏にも良い味を出しています。
5曲目はJenningsとピアノ、オルガン奏者でJenningsのかつてのボスであったBill Doggettとの共作633 Knock、メロウなメロディが小気味良く、シンコペーションがスイング感を提供してくれるA-A-B-A形式32小節のナンバーです。テーマ後ギターソロになりますが、Jackson再びオブリを入れつつ、次の自分のソロに繋げています。All of Meのメロディ引用が聴かれますが、引用(早い話ダジャレですね)もホンカーの技の一つなのです。オルガンソロに続きファンキーな雰囲気が一層醸し出されます。ラストテーマのサビ後でのメロディのニュアンス付けや、エンディングのキメが他には無くオシャレなので、この部分はかつてのボスの音楽的采配があったように感じます。
6曲目ラストはスタンダード・ナンバー Memories of You、こちらは案の定テナーの低音域でのメロディ奏をメインにしたサブトーン大会です!少しばかりオルガンのバッキング音量が大きくて支配的、せっかくの魅惑のテナー・サウンドには出しゃばり気味ですが、むしろこのくらいの猥雑な感じがホンカーらしいのかも知れません。テーマ後にメロディアスなギターソロ、サビからテナーが復帰しますがオクターブ上の音域でむやみやたらに(爆)ブロウ、カデンツァではこれぞ正統的ホンカー然と、サブトーンや発展型キス奏法(笑)を駆使し、場面をこれでもかと盛り上げています。
tp, conga)Dizzy Reece ts)Stanley Turrentine ts, fl)Musa Kaleem (track 6-9) p)Bobby Timmons (track1-5), Duke Jordan (track 6-9) b)Jymmie Merritt (track 1-5), Sam Jones (track 6-9) ds)Art Blakey (track 1-5), Al Harewood (track 6-9)
1)Ye Olde Blues 2)The Case of the Frightened Lover 3)Tenderly 4)Achmet 5)The Story of Love 6)Sands 7)Comin’ On 8)Goose Dance 9)The Things We Did Last Summer
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey on April 3 (track 1-5) and July 17 (track 6-9), 1960 Producer: Alfred Lion Label: Blue Note
充実した内容の作品です。録音当時にリリースされたのならばジャズの定番の1枚になっていたかも知れません、世に出る時期が大切な事を感じます。本作は1960年4月3日と7月17日に行われた二つのセッションから成っています。リズムセクションは全く異なりますが、共通するミュージシャンとしてはリーダーDizzy Reeceの他にもう一人、テナーサックス奏者Stanley Turrentineです。4月3日の方のメンバーは彼ら二人のフロントにピアノBobby Timmons、ベースJymmie Merritt、そしてドラムArt Blakey、当時のArt Blakey and the Jazz Messngers(JM)のリズムセクションがそっくりそのまま参加しています。本作レコーディング1ヶ月前の3月6日にはJMの作品「The Big Beat」が録音されていますが、JMの音楽監督がBenny GolsonからWayne Shorterにちょうど交代した時の作品です。
新音楽監督Shorterの持つ音楽的ポテンシャルに、Blakeyはさぞかし期待に胸を膨らませた事でしょう。自己のリーダーバンドJMが彼の音楽的サジェスチョンによりどんな風に成長していくのか、変化していくのかにもワクワクしたと思います。Blakeyにとって音楽家としての何度目かのピークを迎えつつある時期といって良いでしょう。本作でのドラミングの弾けぶりからもその事が手に取るように伝わりますが、物凄いテンションです!「Lee(Morgan)とWayne(Shorter)も素晴らしいけど、今日はまた違う二人のフロントとお手合わせ、楽しみだ!」とか何とかBlakey考えながらNew Jerseyのスタジオに向かった事でしょう。他メンバーの演奏については後ほど改めて触れるとして、リーダーReeceについてご紹介しましょう。31年1月中米Jamaica, Kingston生まれで現在89歳、現役ミュージシャンとして今も演奏しています。16歳からプロ活動を開始、48年に渡欧し主にParisを拠点に活動しました。Don Byas, Kenny Clark, Frank Foster, Thad Jonesらと共演し、渡欧中のMiles DavisやSonny Rollinsにその才能を称賛され59年に渡米、NYCに進出します。在欧時に既にリーダー作を発表していますがそれとはまた別に、この当時にしては珍しくVan GelderスタジオではないLondonのDeccaスタジオで58年8月に録音された「Blues in Trinity」BST 84006が、Blue Note Label(BN)から59年にリリースされています。自分で企画して録音した音源を持ち込んだのでしょうか、米仏混合ミュージシャンたちと演奏しています。
本格的なBNへの作品は59年11月録音の「Star Bright」になります。もちろんVan Gelderスタジオでのレコーディング、Alfred Lionプロデュースです。メンバーはHank Mobley, Wynton Kelly, Paul Chambers, Art Taylorら当時のMiles Davis Quintetがらみの人選による作品です。
思うにLionたちBN首脳陣はReeceの作品をどのような展開で制作して行けば良いかを算段し、やはりモダンジャズ黄金の組み合わせ、トランペット、テナーサックスがフロントのクインテット編成とし、テナーには前年59年Max Roachのバンドに参加し頭角を現してきた俊英Stanley Turrentineを起用し、リズムセクションには今が旬のBlakeyを筆頭にしたJMトリオで行こうと。ちなみにReece, Turrentine2管のフロント作品にはDuke Jordanの代表作60年8月録音「Flight to Jordan」もあります。
2曲目もReeceの曲でThe Case of the Frightened Lover、印象的なイントロからテーマが始まりますが、ユニークなメロディラインを有したナンバーです。コード進行にも一捻り加えられた、ソロイストにはハードルが一段階上げられたオリジナル。ここでも印象的なのがMerrittのベースです。on topでタイト、Blakeyのトップシンバルとのコンビネーションは申し分ありません!女房役という言葉がぴったりのサポートです。ソロ先発のReece、半音進行のコード・チェンジに対しスキーやバイクのスラロームの如くアボイド・ノートを避け、効果的な音を選んで巧みに蛇行したアドリブラインを作っています。この事は次のTurrentineのソロにも同様、いやそれ以上に言えますが、BlakeyのドラミングのレスポンスがReeceの時よりも活発なのはTurrentineの演奏にインスパイアされている証拠でしょう。ここでもTimmonsのソロは明快でスインギーです。ピアノソロ後にトランペットとテナーが半コーラスづつソロを取りラストテーマへ。
5曲目The Story of LoveはA Love’s Storyとも呼ばれる、パナマ人作曲家Carlos Eleta Almaranが書いたナンバー。56年の同名Mexico映画の挿入曲として使われたことで広く知れ渡り、古今東西多くの歌手に取り上げられているラテンの名曲。日本でもかつて毎夜毎夜ナイトクラブやキャバレーで必ず演奏されたレパートリーの1曲です。ドラムのイントロに始まり、興味深いアンサンブルを伴ってトランペットのメロディが奏でられます。ここでのReeceの音色は曲の雰囲気にとても合致していて華やいでいます。サビはスイングになり、Turrentineの登場、この手のメロディ奏は実にお手の物、その後のテーマ部分も引き続きテナーが担当し、ムードを高めています。ソロはスイングになりReeceが先発を務めます。ソロのアプローチが実に巧みで歌っているのですが、ちょっと真面目過ぎるかな、と。この手のムーディな曲では遊び心が特に大切だと感じるのですが、続くTurrentineの演奏は彼が本来持つリラクゼーションが遊び心を誘発し、聴き応えのある演奏に仕立てていると理解しています。
ここまでがReece, Turrentine, JMトリオでの演奏になりますが、既にアルバム1枚分のボリュームがあります。当時リリースされなかった理由を考えても演奏の素晴らしさ、選曲やアレンジの充実ぶりから思い当たる点はないのですが、強いて挙げるならばBNはJMを売り出そうとしていたので、リズムセクションが全く同じではキャラが被ってしまうのを避けたかったのではないかと。その後Reeceは62年3月録音の作品「Asia Minor」をPrestige傍系New Jazzに録音、「Comin’ On」がリリースされないと判明したのでしょう、本作収録The Story of Loveをほぼ同じアレンジで、もう1曲Achmetの方は異なったアレンジを施し(タイトルも単なる誤植かも知れませんがAckmetになっています)Joe Farrell, Cecil Payne, Hank Jones, Ron Carter, Charlie Persipらと演奏しています。
9曲目ラストを締めるのはReeceワンホーンによるバラードThe Things We Did Last Summer、Sammy Cahn, Jule Styneの作詞作曲コンビによるナンバーで61年4月同じくトランペッターTed Cursonのアルバム「Plenty of Horn」での、Eric Dolphyと演奏しているヴァージョンも印象的です。
La Vita e Bella / Bob Mintzer, Dado Moroni, Riccardo Fioravanti, Joe La Barbera
今回はテナーサックスBob Mintzer、ピアノDado Moroni、ベースRiccardo Fioravanti、ドラムJoe La Barberaらのカルテットによる2005年イタリアでのライブ作品「La Vita e Bella」を取り上げてみましょう。
Live Recording at the Art Blakey Jazz Club, Community Giovanile, Busto Arsizio, Italy on 4 and 5 December 2005. Produced by Achille Castelli Exective Producer: Mario Cacci Label: Abeat Records, Italy
ts)Bob Mintzer p)Dado Moroni b)Riccardo Fioravanti ds)Joe La Barbera
1)The Gathering 2)La Vita e Bella(Life Is Beautiful) 3)Re Re 4)Kind of Bill 5)Bradley’s 2 Am? 6)After 7)Ninna Anna 8)Invitation
イタリア、アメリカのミュージシャン二人づつの伊米混合の編成、参加メンバー全員が自曲を持ち寄り、レギュラーバンドの如きグレードの高い演奏をライブ録音で繰り広げています。何よりレコーディングの音質、クオリティに徹底的にこだわった素晴らしい録音状態です。各々の楽器の音像、音質、定位、バランス、そして最も感じるのはライブ会場のアンビエント(環境という意味ですが音楽用語として会場の箱鳴りの事をいう場合があります)の豊かさですが、臨場感がハンパないです。ライナーノーツには各楽器への使用マイクロフォンやミキサー、コンプレッサー、イコライザー、録音卓、モニターetcの使用録音機材が実に詳細に記載されていますが、プロデューサーやレコーディング・スタッフのこだわりなのでしょう。これだけのクオリティの音質を収録出来た自負もあるのでしょうが、専門外なのでどれだけ凄い事なのか、自分には残念ながら馬の耳に念仏状態です。同じくMintzerが参加した作品09年録音「Standards 2 Movie Music」は映画音楽の名曲にジャズアレンジを施した作品、小唄感が心地良く、こちらはライブハウスではなく小ホールのステージを利用し、ライブレコーディングを行っています(オーディエンスは不在ですが)。共演メンバーはドラムPeter Erskine、ピアノAlan Pasqua、ベースDarek Olesの人選も適材適所です。録音状態も良く似た傾向の豊かなアンビエントで臨場感を伴った、そして外連味のないハイクオリティな演奏内容です。「La Vita e Bella」が数多くの異なったタイプのマイクロフォンを用いて楽器の音を細分化して収録し、録音後にPro Tools(デジタル録音、編集に欠かせないソフト)を用いて音の取捨選択(例えて言うならば音像を2次元として捉え、必要ない部分を消しゴムで消したり、強調したい箇所は立体的にうず高く盛り上げたり、反対に平らにする、PCを用いてレイアウトする編集作業です)をミキシングで徹底的に行うことでアンビエントを作り出しているのに対し、「Standards 2」は言わば真逆の状態、ダイレクト・2トラック・ステレオによる録音でマイクロフォンを左右に1本づつをメインに、補助的にセンターに1本、合計3本のマイクロフォンだけで収録しますが、録音開始前にマイクロフォンの位置をシビアにセッティングすることが絶対条件です。わずか1cmマイクロフォンの位置がずれただけでバランスと音像が激変してしまいますから。4人のミュージシャンの立ち位置、楽器の音の被り具合、その音量、ダイナミクスを見極めてちょうど良い位置にマイクロフォンをセッティングするのです。録音後ミキシングは行われない、と言うか、微調整すること自体が不可能、つまり始める前に全ての音を作り上げておく訳ですね。全く異なった録音方法にも関わらず同傾向の良い音で録音されるのが可能なのには驚かされます。もちろん最終的にはレコーディング・エンジニアの感性が物を言う事になりますが。
2曲目はタイトルナンバーLa Vita e Bella、英語表記ではLife Is Beautiful、Academy賞ほか世界中の各賞を総なめにした97年の同名イタリア映画の主題曲です。ボサノヴァのリズムが美しく可憐なメロディと合わさった名曲、こんな良い曲がコンサートで演奏されたなら、終了後に演奏内容を噛み締めつつ、曲のメロディを口ずさみながら帰途についてしまいそうです(笑)。MintzerとMoroniの演奏も曲想に合致したチャーミングさを聴かせています。
3曲目もMintzerのナンバーRe Re、曲のコード進行はスタンダードナンバーThere Will Never Be Another Youが基になっています。冒頭テーマはピアノが参加しないテナー、ベース、ドラムの3人で演奏され、先発テナーソロからピアノのバッキングが聴かれます。テーマでコードが鳴っていると原曲のチェンジが明確になってしまうのを控えるためでしょうか。ここで感じるのはLa Barberaのドラミング、スインギーでレガートも素晴らしいのですが、プレイの全体的な表現が他のメンバーに比べてやや強過ぎるように聴こえます。もしかしたら録音の関係か、それともこのような表現法が彼のスタイルなのか、背の高いプレーヤーなので手足のストロークがあり、知らず知らずのうちに楽器が鳴ってしまうのもあります。何れかは分かりませんが、思うにもう少しコンパクトな表現が主体のドラマーで、オーソドックスな彼のスタイルよりもコンテンポラリーであれば、一層一体感が得られたように感じています。Mintzerの素晴らしいソロにインスパイアされたMoroniもスインガーぶりを発揮、続くベースとドラムの8〜4小節トレードもスリリングです!ラストテーマでもピアノのバッキングは行われず、オーラスでコードが聴こえるのみです。拍手が鳴り止まない最中、イタリア語訛りで「 Bob Mintzer !」と連呼するのはMoroniでしょうか?Bill Evansの名盤「At the Montreux Jazz Festival」、こちらはフランス語ですが、司会者の名調子による「あの」メンバー紹介を思い出してしまいました。
4曲目はLa BarberaのKind of Bill、美しいバラードナンバー、ドラマーは往々にして印象的なバラードを書くようです。ピアノのイントロに始まり、テナーとピアノのデュオで丸々テーマが奏でられます。ベース、ドラムが加わりスイングでピアノソロが始まります。テナーソロも同様に行われ、ラストテーマは再びテナー、ピアノのデュオでしっとりとFineです。
今回はボーカリストAaron Nevilleの2003年録音リリース作品「Nature Boy The Standards Album」を取り上げたいと思います。「こんな歌い方アリですか?」と問いかけたくなるほどに意外性のある、しかも素晴らしい歌唱表現が、スタンダードナンバーに新たな個性をもたらしました。
Recorded at Avatar Studios, NYC, January 5-7, 2003 Engineer: Dave O’Donnell Produced, Arranged, and Conducted by Rob Mounsey Executive Producer: Ron Goldstein Verve Label
1)Summertime 2)Blame It on My Youth 3)The Very Thought of You 4)The Shadow of Your Smile 5)Cry Me a River 6)Nature Boy 7)Who Will Buy? 8)Come Rain or Come Shine 9)Our Love Is Here to Stay 10)In the Still of the Night 11)Since I Fell for You 12)Danny Boy
当Blogにて以前取り上げたことのある88年リリースHal Willnerプロデュース作品「Stay Awake Various Interpretations of Music from Vintage Disney Films」、珠玉のDisneyチューンに優れたアレンジ、プロデュース力を加え新たな命が吹き込まれました。収録曲のMickey Mouse MarchはAaronとDr. Johnのピアノとのデュオ演奏なのですが、個人的にはここでの歌唱に雷に打たれるが如くシビレて以来の、Aaronの大ファンです!誰もが知るシンプルなメロディ、言い換えれば単なる童謡があそこまで愛を伝えられるメッセージソングに変身するとは驚きでした。そう言えば伴奏のDr. JohnもNew Orleans出身の超個性派ボーカリストです。King Oliverに始まりKid Ory, Jelly Roll Morton, Sidney Bechet, Louis Armstrong、枚挙に遑がありませんが加えてEllis, Branford, WyntonのMarsalis親子、Nicholas Payton, そしてNeville Brothers。こんなに個性的なシンガー、アーティストを数多く輩出でき、しかもジャズ発祥の地でもあるご当地、その底知れぬポテンシャルを再認識してしまいます。
2曲目Blame It on My Youth、実に美しいメロディライン、コード感を持つバラードです。歌詞の内容を丁寧に、噛み締めるが如く、加えてAaronのニュアンスに富んだ歌い方と、リズムセクションの合わさり方、歌詞の合間を縫って絶妙に重なるオーケストラの調べが心地よく響きますが、Roy Hargroveのトランペットソロ、サポートするTateのブラシワークが更なる高みへと導きます。曲中トランペットのオブリガートは聴かれませんが、エンディングで一節、唄の高音域を用いたクライマックスで演奏しています。音の跳躍でのAaronのボーカルテクニックも申し分ありません。
3曲目The Very Thought of You、イントロではギター、シンセサイザーを中心としたサウンドにストリングスが芳醇なサウンドを与えています。歌本編に入ってもアレンジが継続して光ります。Aaronは囁くような語り口から始まり、ここでも抜群のボーカルを聴かせますが、ゲストにLinda Ronstadtの歌が加わります。Lindaとは89年彼女のアルバム「Cry Like a Rainstorm, Howl Like the Wind」で共演し、彼女たちのデュエット2曲が90, 91年と連続してグラミー賞を受賞しました。91年にはLindaのプロデュースによりAaronの作品「Warm Your Heart」がリリースされました。LindaのAaronのボーカルへの入れ込みようが感じられますが、その返礼として本作に招き入れたのでしょう。Lindaは米国を代表するロック、ポップス・シンガーですがスタンダードナンバーを取り上げた作品も何枚かリリースしています。彼女の歌唱自体は、よく声の出ているパワフルさを聴かせますが、残念ながらジャズ的要素を殆ど認める事が出来ません。声質にジャズ表現に不可欠な陰りを感じず、米国西海岸の健康的明るさが目立ち、むき卵の如きつるっとした質感です。歌唱自体も何故か必ずシャウト系に移行し、抑制された感情表現を行うための引き出しが見当たりません。Aaronと比較すると彼の繊細さ、表現の幅の広さ、深さ、スイートネス、一歩退いた音楽への客観的スタンス、全てに格が違うのを感じてしまいます。AaronはLindaにとって真逆のタイプのシンガーだけに憧れがあったのでしょう。この曲でもHargroveがフリューゲルホルンでソロを取り、魅惑的なトーンを披露しています。同様にエンディングのアンサンブルで共演しています。
4曲目The Shadow of Your Smileはボサノヴァを代表するナンバー、イントロではベース重音でのパターンが印象的で、ストリングス、フルートの隠し味が効果的です。Aaronの歌唱も朗々感が堪りません!七色の声質(それ以上にもっとヴァリエーションがあるかも知れません!)を駆使しつつビブラートの微細な振幅数を変えることで、ニュアンス付けを行っています。この曲ではトロンボーン奏者Ray Andersonを迎え、ちょっと危ないヤサグレ感を湛えたテイストでの間奏、アンサンブルを聴かせています。Andersonの音色の複雑さにはAaronの声質に通じるものを感じます。
5曲目Cry Me a River、古今東西様々な歌手、ジャンルで歌われている名曲です。下手をするとどっぷりとマイナーの暗さが表出し、演歌調になってしまいがちな曲想ですが、Aaronの歌いっぷりとアレンジ、サポートミュージシャン達の好演、そしてMichael Breckerの伴奏により全てが良い方向に具現化しました。イントロでは一聴すぐ分かるMichaelの音色とニュアンスによる、開会宣言とも取れるひと節のメロディがあります。右手を高らかに上げながら「私はAaronの伴奏に対し、全身全霊を傾け、全ての音が音楽的にサウンドするように、正々堂々と演奏する事をここに誓います」と選手宣誓をするかの如きメッセージを感じ取る事が出来ましたが(何のこっちゃ?)、案の定Michaelのソロの入魂振り!ボーカル、アレンジ、共演者のサウンド全てを踏まえ、且つ自身が未だ成し得ていないアプローチを模索しながら繊細に、大胆にブロウしています。イントロと同じメロディが再利用されているアウトロでは、AaronのスキャットにMichael反応しています。
7曲目Who Will Buy?はミュージカルOliverの挿入曲。オルガンやホーンセクションを配したアンサンブルに古き良き米国を感じさせるのは、やはりミュージカルナンバー故でしょう。ここでもボーカルにオーヴァーダビングが施され、ゴージャスなサウンドを聴かせます。Wilsonのギターソロがフィーチャーされ、クリアーなトーン、フレージングを携えた正統派のスタイルには好感が持てますが、むしろ若年寄然、録音時34歳とは思えない落ち着き振りと風格です。それもそのはず彼の父親は40年代から活躍している名バンドリーダーGerald Wilson、若きEric Dolphyも彼のバンドに参加していました。親譲りのミュージシャンシップが成せる技なのでしょう。後うたではファルセットも用いたAaronのスキャットが聴かれますが超絶です!表現力の深さを一層感じるのですが、実は彼には喘息の持病があります。これだけの歌唱を行えるので当然デリケートな喉の持ち主なのでしょう。05年に発生したハリケーン・カトリーナによってNew Orleansの彼の自宅が全壊し、Nashvilleへと避難しました。カトリーナ後New Orleansの汚染された空気が持病の喘息に悪影響を与えるとの医師の判断から、Aaronはしばらく故郷に戻らなかったそうです。
8曲目Come Rain or Come Shine、イントロはギターソロから始まりますが、ここでのギターのアプローチにも興味をそそられます。純然とカルテットだけによる伴奏でAaron訥々と歌います。おっと、ストリングスも従えていましたね、重厚な弦楽器アンサンブルのお陰で映画音楽の挿入曲の如きムーディな雰囲気の演奏ですが、ふとAaronの歌は果たしてジャズなのだろうかと考えると、実は微妙です。一つ言えるのは人を説得せしめる表現力を持った音楽家はジャンルに関係なく良い表現を行えるという事で、音楽にはジャンルは無くあるのは良い、悪いだけだという言葉の通り、Aaronはスタンダードナンバーに対し良い歌い方をしているに過ぎず、ジャズというカテゴリーよりも何よりも、ひたすらAaron Nevilleミュージックを演奏しているのかも知れません。
9曲目Gershwin作の名曲Our Love Is Here to Stay、ジャズボーカルの定番中の定番をビッグバンドジャズ・テイストでアレンジ、ストリングスとホーンセクションがコーニーさを屈託無く表現しています。ドラムのステディなブラシワーク、縦横無尽なベース・ライン、Freddie Greenの如きタイトでリズミックなギター・カッティング、そしてMichaelのテナーによる華麗な間奏、レイドバック感が絶妙です。音楽の枠組みはどこを切っても全くのジャズボーカルの伴奏ですが、中身は超個性的なAaronの歌声、歌唱。違和感が何処にも感じられないのは歌の素晴らしさ故か、耳がすっかり慣れてしまったのか。いずれにせよこの曲の名演奏の誕生です。
10曲目In the Still of the NightはCole Porter作曲のナンバー。アレンジのテイストとしてdoo-wopを感じさせ、7曲目同様に50年代の米国の雰囲気を表現しているかのようです。ここでもボーカルにオーヴァーダビングが施されていますが、歌に厚みを持たせると言うよりも、doo-wopに欠かせないコーラス・アンサンブルを聴かせるのが目的なのでしょう。爽やかさの中にも哀愁を感じさせる、美しく華やかで、細部に至るまで丁寧で気持のこもった歌唱に感動すら覚えます。Hargroveのミュート・トランペットによる間奏、後うたでのAaronとのトレードも冴えています。Tateは淡々とボサノヴァのリズムを繰り出していますがCarterは様々なアプローチを展開、なかなかここまでアクティヴなベースを聴かせることはありません。
11曲目Since I Fell for Youはジャンプ、ブルースナンバーを得意としたBuddy Johnsonのナンバー、Aaronは良くコブシの回った巧みなボーカルを聴かせます。ここではAaronのすぐ上の兄Charles(四兄弟の次男)がテナーサックスで参加し渋いソロを聴かせます。実は兄弟が集まりNeville Brothersとして活動を開始したのは遅咲きで77年から、それまでの兄弟各々の活動が結実してその後優れた作品を多くリリースしました。
Recorded at Power Station New England by Alec Head Produced by Dave Liebman Co-produced by Dan Moretti Executive Producer: Neil Weiss Whaling City Sound Label 2001年録音
1)Vail Jumpers 2)Have You Met Miss Jones 3)PP Phoenix 4)For All the Other Times 5)Three Card Molly 6)Tiara 7)Cecilia Is Love 8)Brite Piece 9)Trippin’ 10)Calling Miss Khadija
Dave Liebmanを中心に、Don Braden, Dan Morettiらを加えたテナー奏者計3名にベースOscar Stagnaro、ドラムMark Walker、ラテンパーカッションにPernell Saturnino、Jorge Najaroの2人、2曲目のみにTalking DrumでRick Andradeが加わる、異色のコード楽器不在ラテン・セッションです。Liebmanにとってはコードレスでのレコーディングは度々ありましたが、そもそも本作のタイトルにも由来するElvin Jones71年録音「Genesis」、こちらはElvinのドラムを軸に同じくコードレスでDave Liebman, Joe Farrell, Frank Fosterと言うド級テナー3管にベースGene Perlaで演奏したBlue Note Labelの作品ですが、こちらの収録ナンバーを中心に、パーカッション参加以外同じ編成でメンバーのオリジナルやスタンダード・チューン、ジャズマンの作品を付加し全曲コテコテ、本格派ラテンのリズムにアレンジされた演奏をたっぷりと聴けるラテン版「Genesis」ということで、本作タイトル「Latin Genesis」と相成りました。
2曲目はスタンダードナンバーでお馴染みHave You Met Miss Jones、パーカッションが効果的に用いられ、本格的なラテンのグルーヴが表出します。テーマもかなりアレンジが施されていますが、ソロに於いてA-A-B-A構成のこの曲、Aの部分はドミナントペダルを用いたワンコードで行われ、Bでは逆にColtrane Changeも用いられ複雑化されているようです。ここではフロント3人の演奏がフィーチャーされますが三者三様のタイム感を聴く事が出来、興味深いです。先発Bradenはやや前にリズムのポイントが設定され比較的タイト、Morettiは更に前にポイントがありますが、時としてタイトさを欠く傾向にあります。Liebmanはリズムのポイント、タイトさともに実にソリッド、理想的なタイム感の演奏に徹しており、リズムに関してのマエストロ振りを発揮しています。本作ではテナー衆3人一貫した各々のリズム表現が聴かれるので、音色やフレージングの違いと同様にプレーヤーを判断する材料になります。ちなみに3人ともドイツのKeilwerth社製サックスを使用、エンドース(モニター)仲間でもあります。Morettiのソロ後短くパーカッションソロ、そしてラストテーマ奏の後はLiebmanがソプラノを携えサックスバトルが行われます。激しい盛り上がりでピークを迎えた頃にアンサンブル、良く出来たアレンジでリズムセクションも的確に呼応し大団円を迎えます。
4曲目もPerlaのナンバーでFor All the Other Times、オリジナルはミディアム・スローのヘヴィーなスイング(Elvinの繰り出すリズムですから当然なのですが)で演奏されていますが、ここでは8分の6拍子のリズムでテンポも早く、小気味良いグルーヴを伴って演奏されます。ここでもフロント3人のバトルが聴かれます。先発はLiebman、テナーを用いたソロになりますがダークでエグエグ、そしてぶっちぎりの迫力!他の2人も大健闘していますがむしろLiebmanの引き立て役となってしまいました。
5曲目はElvinの書いた名曲Three Card Molly、本作のトピックス演奏になります。Elvin自身ことあるごとに取り上げ、「Genesis」の他の演奏として74年9月Swedenで録音された「Mr. Thunder」、こちらのフロントはSteve Grossman、82年録音「Earth Jones」でのフロントは2管、やはりソプラノでLiebmanと我らがTerumasa Hinoがコルネットで参加しています。99年9月NYC The Blue Noteでライブ録音された「The Truth」、Michael Breckerを含む4管編成での演奏にも収録されていますが、こちらには残念ながらMichaelのソロはありません。
7曲目再び「Genesis」からCecilia Is Love、Frank Fosterのナンバーです。原曲ではJoe Farrellのソプラノがメロディとソロを担当していますが、ここでのイントロはLiebmanのソプラノが熟れ切った果実の如き味のある音色と、独特のニュアンスで演奏しています。おもむろにブラジリアン・サンバのリズムがスタート、Elvinはボサノバのリズムで演奏しているので世界は一変します。ホーンのアンサンブルを伴ったLiebmanのソプラノがフィルを交えながらテーマ奏、引き続いてソロに入ります。ここでもソプラノのマエストロとしての真価を発揮しています。続くMorettiのテナーソロはどこか「必ず盛り上げねばならぬ」と、義務感の方が先行してしまうアプローチを感じます。Co-producerとしてもクレジットされている彼はおそらく本作の発案者の1人だと思いますが、責任感がそうさせてしまったのでしょうか。音楽を含んだ芸術的表現はスポンテニアスさが何より大切、恣意的行為が介入すると音楽を真剣に受け止めようとするリスナーには、かなりしんどい事になります。
8曲目LiebmanのBrite Pieceは彼が在籍していた当時のElvin Bandの重要なレパートリーで、作品「Merry Go Round」「Live at the Lighthouse」にも収録されています。日頃あまり明るい(Brite)雰囲気の曲を書かないLiebmanが、珍しく書いたと言う事でこのタイトルが付けられましたが、用いられるモードの中で最も明るいはずのLydianスケールが多用されているにも関わらず、むしろ仄暗さも含んだユニークなテイストです。先発ソプラノはBraden、なかなかのチャーミングな音色で軽やかに、スムースにソロを展開します。しかしバックリフの後に現れるLiebmanのソプラノの存在感は物凄いですね!Bradenの業績を吹き飛ばしてしまうが如きです。オリジナルでも演奏されていたバックリフも聴かれ、抜群のタイム感とスイング感でソロを推進させ、おもむろにラストテーマへとGo!イントロでも使われたベルトーンがアウトロでも演奏されます。
10曲目ラストを飾るのはLee MorganのナンバーCalling Miss Khadija、原曲はArt Blakey and the Jazz Messengersの64年録音のアルバム「Indestructible」でMorgan, Wayne Shorter, Curtis Fullerの3管編成で演奏されています。テーマ部分のみがラテンで演奏されましたが、本作では全編筋金入りのラテンジャズにアレンジされ、Morettiのテナー、Bradenのソプラノでのソロがフィーチャーされます。両者ともにアルバム中最も落ち着いた好演を展開しており、パーカッションソロ後にラストテーマになります。演奏自体は決して悪くはないのですが、トータルに考えて特にこの曲を選び収録する必然性を残念ながら感じません。メンバーのオリジナルないしは「Genesis」中唯一取り上げていないナンバー、Slumberをラテンで演奏しても良かったのではと思います。
Recorded November 1980 Tonstudio Bauer, Ludwigsburg Engineer: Martin Wieland Produced by Manfred Eicher An ECM Production
g)John Abercrombie p)Richie Beirach b)George Mraz ds)Peter Donald
1)Boat Song 2)M 3)What Are the Rules 4)Flashback 5)To Be 6)Veils 7)Pebbles
John Abercrombieは44年12月ニューヨーク州生まれ、少し生い立ちに触れてみましょう。多くの米国の子供がそうであるように彼もRock & Rollを聴いて育ちました。アイドルだったChuck Berry, Elvis Presley, Fats Domino, Bill Haley and the Cometsの音楽性が、その後の彼の演奏に何らかの形で反映されているかも知れない、あまりにも彼の演奏する音楽と違い過ぎるだけに、その事を想像するのもちょっと楽しいです。10歳からギターレッスンを受け、早熟な彼は最初のジャズギタリストとしてのアイドルだったBarney Kesselの演奏について、当時習っていた先生に彼は何を弾いているのか教えて欲しいと質問したそうです。栴檀は双葉より芳し、こちらの話もKesselがAbercrombieの演奏スタイルにどう影響を与えたのか、プレイを注意深く聴くきっかけにもなります。高校卒業後はBerklee College of Musicに入学、そこでSonny Rollinsの作品「The Bridge」のJim Hall、Wes Montgomeryには作品「The Wes Montgomery Trio」「Boss Guitar」で感銘を受け、George BensonやPat Martinoの演奏からもインスピレーションを授かりました。この辺りの流れはコンテンポラリー系ジャズギタリストを志す者としては、至極自然な成り行きでしょう。Berkleeを卒業後NYCに進出、セッションマンとして知られる存在になり、Brecker Brothersが在籍していたバンドDreamsや同じくBilly Cobhamのグループに参加、そして74年に記念すべき初リーダー作「Timeless」をJan Hammer, Jack DeJohnetteらとトリオでECMにレコーディングしました。以降もECM〜プロデューサーManfred Eicherとの関係は続き、双頭アルバムを含め30作近くをレコーディングしました。
その後Abercrombieは自身の初めてのリーダー・カルテットであるJohn Abercrombie Quartetを立ち上げ、活動を開始します。名門ECMレーベルに同じメンバーで78年「Arcade」、79年「Abercrombie Quartet」、80年本作「M」と毎年1作づつレコーディングし計3作をリリースしました。永らく3枚はCD化されていませんでしたが、2015年に全作収録の3枚組Box Set「The First Quartet」でリリースされました。
3曲目はBeirachのWhat Are the Rules、彼はこのQuartet3部作いずれにも3曲づつオリジナルを提供しています。冒頭全員でルパートでの、不安感を煽るかの如き、フリージャズの様を呈する演奏、研ぎ澄まされた空間に自由な発想で音が投げ掛けられますが、全てに意思が反映されているためにサウンドしています。Beirachの怪しげなモチーフが発端となりテンポが設定され、ベース、ドラムが合わさります。一体どこまで決められている演奏なのか、全くの即興なのか、最低限の取り決めだけが成されている程度なのかも知れません。ギターからも異なるモチーフの提案があり、メンバー追従し始めます。ピークを迎えたところでピアノに主導権が移行され、新たな展開に入ります。ドラムの対話形式で進行しつつ、ギターとベースが加わり、再びルパートへ、ピアノのアウフタクトがきっかけとなりメチャクチャ高度で難解、でもヒップなアンサンブルが聴かれます!えっ?これでこの曲オシマイですか?そうなんです、テーマ〜ソロ〜テーマのルーティーンに飽きてしまった4人が考え出した演奏形態なんです!
7曲目はMrazのナンバーPebbles、3部作初登場の彼のナンバーです。8分の12拍子のリズムパターンを淡々とピアノが刻み、その上でギターが浮遊します。どこからどこまでがテーマでメロディなのかは分かりません。ドラムも加わりリズムを刻みますが、ベースは大きくビートを提示する役目、ユニークな曲です。ピアノソロ時にはパターンが希薄になる分、ベースとの絡み具合が面白いです。この曲想はMrazが生まれたCzech Republicの風土に起因するのでしょうか、いずれにせよ作品のクロージングに相応しく、to be continued感が出せていると思います。
All Compositions by Peter O’Mara Recorded and Mixed 24-26 May 1994 at “Systems-Two” Recording Studios, Brooklyn, NYC by Joe & Mike Marciano GLM Label, Germany
g)Peter O’Mara ts, ss)Bob Mintzer b)Marc Johnson ds)Falk Willis
1)Fifth Dimension 2)The Gift 3)Catalyst 4)Seven-Up 5)Chances 6)Symmetry 7)Steppin’ Out 8)Expressions 9)Blues Dues
1957年12月Australia, Sydney生まれのPeter O’Maraは地元の音楽学校やJamey Aebersold, Dave Liebman, Randy Brecker, John Scofield, Hal Galperら米国ミュージシャンのクリニックで多く学びました。80年にAustraliaのJazz作曲部門コンテストで一位に輝き同年初リーダー作「Peter O’Mara」をリリースし、海外留学の資格も得て81年NYCで様々なミュージシャンに師事しました。同年暮れからGermany, Munichに移住し90年には欧州のWeather Reportと呼ばれたサックス奏者Klaus Doldinger率いるバンドPassportに参加(個人的にはWRには聴こえず、いわゆる”フュージョン”グループです)、欧州、 南アフリカ、Brazilでのツアーを経験しました。現在までに共同名義を含め10作以上のリーダー作を発表、音楽教育でも精力的に活動しており教則本を4冊出版(日本でも翻訳されています)、YouTubeでギター講座を展開しています。
8曲目Expressionsは巧みなベースソロをフィーチャーした叙情的なイントロから始まるEven 8thのナンバー。Mintzerのソプラノサックスがこの上なく美しいです!テナー同様に倍音成分が実に豊富で複雑な鳴りをしていますが、バランス感が絶妙、この曲の持つムードにまさしくピッタリです!ソプラノばかりに耳が行ってしまいがちですが、曲のメロディ、構成も実に素晴らしい出来です!Mintzerが参加するグループYellowjacketsの98年作品「Club Nocturne」の1曲目、以降のYellowjacketsの重要なライブレパートリーでもある名曲Spirit of the West、ここでのソプラノの音色、演奏も実に堪りません!そういえば同じくユダヤ系Coltrane派テナー奏者、70年代からのMintzerの盟友であるDave Liebman, Steve Grossman, Michael Breckerたちもソプラノの名手でした。ギターソロはさすがコンポーザーとしてのイメージをふんだんに散りばめた、深淵な世界を作り上げています。ラストテーマではソプラノの鳴りが更に極まったように聴こえ、一時この曲ばかりヘヴィロテで聴いた覚えがあるのを思い出しました。
Recording Date: 12 November and 12 December 1991 Recorded at Bay Records / Oakland Recording Engineer: Bob Schumaker Produced by Bud Spangler Executive Producer: Wim Wigt Label: Timeless Records, Holland
1)Treasure Chest 2)The Enchantress 3)It’s All Right With Me 4)New Aftershave 5)A Second Wish 6)Chains 7)Non Compos Mentis 8)Nefertiti 9)Juris Prudence 10)It’s All Right With Me
1962年California生まれのJoe Gilmanは7歳からピアノを始め当初はラグタイムに興味を示しました。10代の頃にDave Brubeckのプレイに魅力を見い出し、その後Oscar Peterson, Herbie Hancock, Chick Corea, McCoy Tyner, ピアニスト以外ではJohn Coltrane, Miles Davisと言ったジャズ・リジェンドのレコードを愛聴しました。クラッシック音楽を学んだ過程ではIgor Stravinsky, Sergei Prokofievのコンセプトに影響を受けたそうです。92年からCaliforniaにあるAmerican River CollegeとSacramento State Universityで教鞭を執り、University of the Pacific’s Conservatory of Musicでは00年に創設されたThe Dave Brubeck Instituteの授業も行う楽理派でもあります。 米国には第一線にはあまり登場しなくとも、教育者として活動し続け、オリジナリティはともかく、いざとなったら凄い演奏を繰り広げる事が出来る、ポテンシャルが半端ないミュージシャンがとてつもない数潜在しているように感じます。
本作は当時のBranford Marsalis QuartetのリズムセクションだったベーシストBob Hurst、ドラマーJeff “Tain” Wattsを迎えたトリオ編成を中心に、更にJoe Hendersonを加えたカルテットでも4曲を演奏しています。本作録音の頃のBranford Quartetの作品としては90年作品「Crazy People Music」、91年リリース「The Beautyful Ones Are Not Yet Born」がありますが、これらでもHurst, Wattsの二人は抜群のコンビネーションを聴かせています。Wattsに関して、96年頃からMichael Brecker Quartetにも加入する事になりますが、その事がきっかけで大きく成長しました。参加当初は周囲から違和感も囁かれましたが、それまで経験した事のないタイプであるMichaelの音楽性を吸取紙のように吸収し、あっという間にMichaelが自分の音楽を表現するに欠かせないドラマーに変身を遂げました。当然ですがそこで培われる更なる緻密で大胆なテクニック、グルーヴ、柔軟で幅の広い音楽性はここではまだ発揮されておらず(加入5年前です)、片鱗を見せる程度です。基本的なビート感は一貫していますが、どちらかといえばオーソドックスなアプローチに徹しています(とは言え、物凄いドラミングですが)。
それでは演奏について触れていきましょう。1曲目GilmanのオリジナルでアップテンポのナンバーTreasure Chest、表題曲に相応しい華やかでスインギーな演奏です。クリアーでタイトなピアノタッチ、on topなリズムのノリはスピード感を伴い、どこかOscar Petersonをイメージさせますが、フレージングやサウンドはコンテンポラリー系が中心なので異なります。彼なりの歌い方を感じさせるスタイルも十分に聴かれるソロは、リズム隊にサポートされグイグイと展開、Hurstのやはりon topなベースがRay Brownを彷彿とさせ、二人のビートに対してWattsがステイしているのでトリオのバランスが保たれていますが、これはまさしくBrownとEd Thigpenが在籍したThe Oscar Peterson Trioのフォーマットでしょう。ピアノソロ1’10″辺りで一瞬ヒヤリとさせられましたが全くOKです!2’01″辺りからの歌い回しにどこかBrubeckを感じました。超絶ベースソロの後にドラムとの8バースも聴かれますが、Wattsのフレージングには他にない独自なセンスを感じます。3’25″からのピアノソロ・フレーズの凄いこと!再びイントロ、そしてラストテーマを迎えシンコペーション・フレーズでカットアウト、Fineです。4分強の短い演奏にトリオの魅力が凝縮されたテイクに仕上がりました。
3曲目は本作のトピックスCole Porter作曲のお馴染みIt’s All Right With Me、Joe Henが加わります。ユニークなシンコペーションを生かし、緊張感を伴ったリズミックなパターンから成るイントロから始まりますが、エレクトリック・ピアノが使われています。明らかにFender RhodesやYAMAHAのCP80とは異なる音色、こちらはRoland社製のものだそうです。個人的にはやや深みに欠ける音色に聴こえますが、演奏する本人が気に入って使っていればそれで良いのです。低音域でのメロディ奏は一聴してすぐ彼と分かる、オリジナリティ溢れる魅惑のテナートーン、この時点で一体どんな世界を構築してくれるのかワクワク感満載です!だってJoe HenのIt’s All Right With Meですから!!そして期待を裏切らずピックアップ・ソロのフレーズから炸裂、ブッ飛んでます!1コーラス目はテーマのパターンが持続しその上でのインプロヴィゼーション、エグくてリズミック、スピード感ハンパ無いブロウ、間の取り方も絶妙、と言うか間こそがフレージングの要とばかりに決してtoo muchにならず、要点を確実に述べながらJoe Henフレーズを駆使しストーリーを展開します。2コーラス目からスイングに、リズムセクションはJoe Henの演奏に圧倒されひたすらキープに回っているが如し、でもWattsが果敢に呼応しています!ですが、ですが、後年の演奏スタイルならばきっととんでもない異次元の世界に誘ってくた事でしょう!続くGilmanのソロもイッてます!4’23″からのようなフレージング、大好きです。ピアノソロ後再びイントロのパターンに戻りラストテーマ、その後はパターンが延々とリピートされ、Joe Henはフレッシュなフレーズを連発しています。そしてフェードアウトかと思わせ、ベースとドラム二人で示し合わせたようにリズム・モジュレーションを用いテンポを変えて再びテーマ演奏へ、丸々1コーラスメロディを演奏しているじゃありませんか!面白過ぎです!エンディングはさすがにフェードアウトでFineです。
5曲目A Second Wish、美しいピアノイントロから始まるこちらもJoe Henが参加したナンバー、ルパートでテナーによるテーマ奏の後、ベースパターンでテンポが定まり、特にテーマの提示はなくピアノソロへ。ドラマチックなコード進行の上で叙情的にフレーズを繰り出すGilman、続いてJoe Henのソロが始まり豊かなイメージを内包しながらのアプローチ、Hurstの絡み具合が秀逸です。テナーソロ後にフェルマータしピアノのルパート奏、テナーのきっかけでアテンポ、ラストテーマはコードのサウンドとテナーの音色が良く合致したアンサンブルを聴くことが出来ます。
10曲目It’s All Right With Meは3曲目の同曲別テイクになります。テンポはこちらの方がやや遅く、演奏の構成はほぼ同じ、ひとつ大きな違いはJoe Henがメロディを上の音域で演奏している点で、オープンな雰囲気になります。先発のテナーソロはまた違ったアプローチを示していて素晴らしいのですが、一度真っさらな紙の上に大胆に毛筆で大きく文字を書いてしまった後のようで、ソロに対するフレッシュさが目減りしてしまった風を感じます。3曲目の方がファースト・テイクで、演奏が上手く言ったのでOne More Takeとなり、こちらがセカンド・テイクにあたるのではないでしょうか。エンディングのテナーソロもこちらの方があっさり目に聴こえますが、実は単にフェードアウトを早めただけかも知れません。ピアノソロに関しては両テイク共に彼らしさが出ていると思います。続けて同じ曲を演奏しようとする際、前のテイクがスポンテニアスで音楽の深部に到達していればいるほど、繰り返しのテイクには奏者にプレッシャーが加わり、作為的になるものです。本テイクのクオリティはこの曲の名演奏のひとつに数えられるべき内容ですから。総じて最初のテイクの方に軍配が上がると思いますが、こちらも例外ではありません。なので別テイクを巻末に収録する意味合いを今一つ感じる事が出来ないのですが、このテイクとの比較によりオリジナル演奏の凄みを再認識出来るという、特典付き別テイク収録という事になるのでしょうか(爆)
Recorded: May 11-13, 1998 at Sear Sound, NYC Produced by Matt Pierson Assistant Producer, Kevin Mahogany Recorded by Ken Freeman Mixed by James Ferber Strings Arrangement on “Wild Honey” by Michael Colina
1)Teach Me Tonight 2)Everything I Have Is Yours 3)My Romance 4)I Know You Know 5)Don’t Let Me Be Lonely Tonight 6)Stairway to the Stars 7)May I Come in? 8)Wild Honey 9)I Apologize 10)How Did She Look? 11)Lush Life
魅力的な低音域の声質、ジャジーなイントネーションとセンス、正確なピッチ、発音と発声を有しBilly Eckstine, Joe Williams, Johnny Hartmanら正統派男性ボーカリストの流れを汲むKevin Mahoganyは58年Kansas City生まれ、幼い頃からピアノやクラリネット、バリトンサックスを手掛け高校生の時に既に音楽を教えていたそうです。Lambert, Hendricks and RossやAl Jarreau、Eddie Jefferson達に音楽的な影響を受け、本作では殆ど披露されていませんがスキャットも大変に堪能なボーカリストです。96年Robert Altman監督の映画Kansas Cityのサウンドトラック盤ではHal Willnerがプロデュースを担当、例えばCraig HandyがColeman Hawkins、Geri AllenがMary Lou Williams、James CarterはBen Webster役を務めていますが、Mahoganyも伝説的ブルースシンガーBig Joe Turner役で参加しています。
Mahoganyの93年初リーダー作「Double Rainbow」(Enja)はKenny Barron, Ray Drummond, Lewis Nash, Ralph Mooreら名手を迎え、先輩格のシンガーJon Hendricksがライナーノーツを寄稿した記念すべきデビュー作、オハコのスキャットも十分に披露し、共演者とのインタープレイも巧みなアルバムです。スインギーなジャズテイストやグルーヴは本作と遜色ありませんが、音程やタイム感はこちらの方に軍配があがるのは、初リーダー作からMahoganyが進化している証でもあります。
それでは演奏に触れていきましょう。1曲目Teach Me Tonight、Bob Jamesのメロウなピアノイントロに続き、素晴らしい音色のテナーでフィルインを聴かせるのがKirk Whalum、この人は当Blog初登場になります。大好きなテナー奏者なのですがたまたま取り上げるチャンスがありませんでした。彼の演奏はスムースジャズという範疇にカテゴライズされるようですが、ジャズ的要素をかなり持つプレーヤーです。むしろどっぷりとジャズに足が浸かっていないスタンスでの違った歌伴表現、テイストの異なるオシャレなオブリガードを聴かせていると感じます。彼の使用楽器ですがJulius Keilwerth SX90R Black Nickel、マウスピースはVandoren V16 T8、リードは同じくVandoren V16 4番。サックスの音色はその人の身体から生じるもので、使用楽器とマウスピースは二次的なものですが、個性を発揮させるためのオリジナルなセッティングと言えるでしょう。サブトーンを活かしたオブリ、芳醇な音色でタイトなリズムを聴かせるソロはどこか極上な赤ワインの味わいに似ています。伴奏のピアノトリオはリラックスした中にも適度に負荷がかかった美学を持ちつつ一切無駄のない、全ての音がサウンドしている音空間を構築しています。2’50″からピアノがホールトーンで下降するフィルインを弾いています。唐突といえば唐突なのですがJamesの独特なユーモアのセンスと感じるのは僕だけでしょうか。
2曲目はEverything I Have Is YoursはMahoganyの尊敬するBilly Eckstineの歌唱で有名なナンバー、冒頭トリオによるイントロ、唄に入ってもドラマーBilly Kilsonはスティックではなく手のひらを用いてセットの革物を叩いており、パーカッション的な柔らかさを表現しています。Mahoganyはよく伸びる美しい声で朗々と歌い、強弱を生かして切々と愛を唱えています。ピアノソロに入りドラムはブラシに持ち替え巧みな16ビートを演奏、ベーシストCharles Fambroughも的確なサポートを聴かせています。間奏のピアノも歌伴とインストのソロ端境ギリギリに位置するテイストで演奏しています。後唄では再びKilson、ハンド・ドラマーに徹しています。
4曲目はシンガーソングライターLyle LovettのナンバーI Know You Know、Lovettは俳優としても活躍し、前述の映画Kansas Cityの監督Altman作品の常連でもあります。ここではテナー奏者が交代しますが、その人はお馴染みMichael Brecker、間違いなく歌伴テナーの第一人者として、ありとあらゆるボーカリストの伴奏をこれ以上相応しい演奏はあり得ないという次元で務めていますが、ここでもブルージーに、アンサンブルのメロディもニュアンス巧みに、そしてさりげなくMichael節を聴かせています。Mahoganyのボーカルも、ブルース表現を決してtoo muchに出さずにアーバン・ブルース的?コンセプトで歌い上げています。Whalumがこの曲の伴奏を務めたらMichaelよりももっとブルージーだったかも知れませんね。
5曲目Don’t Let Me Be Lonely TonightはJames Taylor作の名曲、多くのアーティストによってカヴァーされています。73年オリジナルの演奏ではMichaelが参加しており、その間奏は初期の彼の名演奏の一つになっています。Michael自身も01年の作品「Nearness of You: The Ballad Book」で取り上げ、逆にTaylorをゲストとして招き素晴らしい演奏を繰り広げ、グラミー賞に輝いています。
6曲目Stairway to the Starsは古いスタンダード・ナンバー。こちらも多くのミュージシャンに取り上げられている名曲です。ドラムのブラシから始まるイントロはここでもJamesの巧みなアレンジが光りますが、そのまま本編でも美しいメロディライン、Mahoganyのメロウなボーカルと歌い回し、トリオの全く雰囲気に合致した、見事としか言いようの無い伴奏とが合わさり、芸術性と職人芸の融合、この曲の新たな名演奏が生まれています。
7曲目May I Come in?はNancy Wilson, Rosemary ClooneyやBlossom Dearieたち女性ボーカリストに取り上げられているナンバー。Dearieの64年同名作での可愛らしい(カマトト?)歌唱と比較すると、Mahoganyの低音域・益荒男ぶりが実によく映えます。
10曲目How Did She Look?は生涯に3000曲以上を書いたとされる米国の作詞作曲家Gladys Shelleyのナンバー、Mahoganyは古き良き時代のナンバーを発掘する事にも長けているようです。ピアノのバッキングが甲斐甲斐しいまでに痒い所に手が届く状態、ヴァースから丁寧に歌い上げているMahoganyを包み込み、彼の音楽を心から応援しているかの如くです。
4曲目もLevineのオリジナルAll Things Considered、この曲も実に素晴らしいテイストを表現しています。イントロのテナー、トランペットによるアンサンブルのバウンスしたメロディラインが、この後はスイングナンバーになると匂わせて、真正ラテンである証、ピアノのモントゥーノに受け継いでいます。なんと躍動感に満ちたラテンのグルーヴ、思わず腰が浮いてリズムを取りたくなってしまいます!さらにテナーソロのイマジネイティヴな事と言ったら!もちろんタイム感も完璧でこれはリズムセクションの一員同然、Joe Henはもはやリズム楽器奏者にカテゴライズされて然るべきでしょう!ホーンセクションのシャープさ、Levineのバッキング、ベーシストHeardのアプローチも申し分ありません!アンサンブルに続くティンバレスとコンガによるリズムの饗宴、いや狂宴でしょうか(笑)?凄まじいまでのリズムの応酬、タイムのセンターに向けてパーカッション全員が恐るべき集中力でフォーカスしているのです!2クラーベでテーマに戻ると思いきや何だか微妙な事態に?直後に左チャンネルから一瞬悲鳴らしき声も聞かれました?でも無事にラストテーマに突入、ラテンの名演奏がまた誕生しました。
以上が作品収録曲の全てですが、Joe HenのMilestone Label在籍時のレコーディングをコンプリートに収めた「The Milestone Years」には本レコーディングの未発表テイクである自身のナンバー、In the Beginning, There Was Africa…が追加されています。パーカッション隊3人とテナーだけのフリーインプロヴィゼーション、こちらも凄まじいテンションでの演奏ですが、ほかの収録曲とバランスを欠くためにオクラ入りしたのか、単にレコードの収録時間の関係か、でもこの作品を気に入った方には是非とも聴いてもらいたい演奏です。