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2020.08

2020.08.02 Sun

Cannonball Adderley Quintet in Chicago

今回はCannonball Adderley 59年録音の作品「Cannonball Adderley Quintet in Chicago」を取り上げてみましょう。Miles Davis Sextetのリーダー抜きによるQuintetでのレコーディング、John Coltraneをもう一人のホーン奏者として存分にソロを取らせ、Milesの音楽とは異なるコンセプトでありながら、レギュラーバンドならではの安定感に裏付けされた緻密で息のあった演奏、フロント各々二人をフィーチャーしたバラードを配した選曲、書き下ろしのオリジナル等、録音前後の名だたる名盤の狭間で二人のサックス奏者のリラックスしたプレイを存分に楽しめる構成に仕上がっています。

Recorded: February 3, 1959 Universal Recorders Studio B, Chicago Producer: Jack Tracy Label: Mercury

as)Cannonball Adderley ts)John Coltrane p)Wynton Kelly b)Paul Chambers ds)Jimmy Cobb

1)Limehouse Blues 2)Stars Fell on Alabama 3)Wabash 4)Grand Central 5)You’re a Weaver of Dreams 6)The Sleeper

Lewis Porter著「John Coltrane His Life and Music」には綿密な調査による、膨大かつ詳細なColtraneのChronologyが収録されています。こちらを紐解き、本作が録音された59年2月前後のColtraneの動向を調べると、1月21日水曜日からレコーディング前日の2月2日月曜日までの12日間連続で、Chicagoにある有名なホテルSutherland LoungeにてMilesバンドのギグで出演しています。メンバーのクレジットはされていませんが、間違いなく本作のメンバーにMilesが加わったSextetでの演奏でしょう。翌日からのレコーディングだけ、別なメンバーとは考え難いですから。

John Coltrane His Life and Music

CannonballがMilesのバンドに加わった最初のアルバムが58年3, 4月録音の「Milestones」、数々の名盤を生み出したMiles Davis Quintet〜Coltrane, Red Garland, Paul Chambers, Philly Joe Jonesに異なるアプローチのヴォイスを有したCannonballを、音楽的表現の幅を広げるべく加えた申し分のない名演奏、言わばMilesにとってのHard Bop最終形、そして本作のちょうど1ヶ月後に録音される、これまた文句なしの歴史的名盤「Kind of Blue」、そしてもう1作73年になってリリースされた58年9月NYC Plaza Hotelでの録音「Jazz at the Plaza Vol.1」、こちらはSextetのごく日常的な断面を捉えたライブ録音(ピアニストはBill Evans)、ピアノの音が引っ込んでいたりMilesのトランペットがオフマイクだったりと、米コロンビア・レコードが主催したジャズ・パーティーの模様を記録したもので、非正規レコーディングゆえ音響的に難がありますが、それを補って余りあるクオリティ、各人の恐ろしいまでに研ぎ澄まされたインプロヴィゼーションの応酬、このSextetは大変なポテンシャルを秘めたグループと再認識させられます。

58年録音「Milestones」
59年録音「Kind of Blue」
58年録音「Jazz at the Plaza Vol.1」

本作はどのような経緯で録音が決まったのかは定かではありませんが、飛ぶ鳥を落とす勢いのMiles Davis Sextetサックス奏者ふたり(ある意味対照的なスタイルです)にスポットライトを当て、楽旅の最後にレコーディングの機会を設け、彼らの音楽を存分に演奏させるというアイデアになります。これがプロデューサーJack Tracy発案とすれば、実にジャズの醍醐味を分かっている「名」プロデューサーと言う事になるのですが、強面でうるさ方のリーダーから解き放たれたメンバーは解放感に浸り、リラックスして演奏に臨むことが出来るからです。「Hey, Guys, お疲れ様!明日の俺のレコーディングもよろしくね!明日はMiles来ないし、我々だけでとことん演奏を楽しもうじゃないか。曲も揃っている事で一安心、でもJohnの書いた速い曲(Grand Central)は難しいけどさ!」のようなCannonballの発言が、ひょっとしたらあったかも知れません(笑)、加えて興味深いのがこの項にColtrane first performs on soprano saxophoneと併記されているのです。Sutherland Loungeでこの期間演奏したのでしょうが、その後彼のsopranoによる演奏がどう変遷していくのか、こちらも調べたい衝動に駆られますが(汗)、本作に直接関係はないのでグッと堪え、また別な機会に譲る事としましょう。

CannonballサイドからのMilesとの共演は58年3月録音の「Somethin’ Else」が彼名義でリリースされています。「Milestones」レコーディング前日の録音になりますが、いつになく緊張気味で彼のトレードマークである大胆さ、豪快さが控え気味のCannonballに対し、マイペースで絶好調のMilesの演奏が光り、まるで彼のリーダー作の如しです。収録のAutumn Leavesの名演奏は以降の彼の重要なレパートリーに位置する事になります。

Coltraneの方は57年9月録音「Blue Train」をリリース、急成長ぶりとそれに伴った高い音楽性を広く知らしめましたが、58年Prestige Label諸作にも素晴らしいレコーディングが多くあります。同年3月録音co-leaderではありますが「Kenny Burrell & John Coltrane」での演奏を忘れる事はできません。

本作録音後はColtraneが更なる飛翔を遂げる事になりますが、こちらはまた後ほど取り上げるとして、演奏に触れて行きましょう。1曲目はイギリスで20年代に書かれたスタンダードナンバーLimehouse Blues、多くのミュージシャン、ボーカリストに取り上げられています。オープニングに相応しいアップテンポで華やかな楽曲、ピアノと、ハイハットを中心としたドラムのふたりによるイントロから始まります。いや、とにかく速いですね!ここまでの速度のテンポ設定は他の演奏には無いと思います。テーマはサックスのユニゾン、そのメロディの合間をぬったピアノのフィルインがメチャメチャかっこ良く、テーマの一部分と化して聴こえます。CobbのシンバルレガートとChambersのon topベースとの絶妙なコンビネーションの素晴らしさ!そしてこれだけのテンポでグルーヴし続けるためには、ベーシストの貢献度が最重要になります。テーマ終わりのブレークからCannonballのソロが始まりますが何というスピード感とカッコよさ、気持ちの入り具合でしょう!ブリリアントな音色と有り得ない程の滑舌の良さ、ニュアンス、非Charlie Parkerスタイルの個性的なアドリブライン、全ての合わさり具合がアンビリバボのレベルに達し、超魅力的です!Cannonballの音符はある程度の速さまではレイドバックしていますが、このテンポになるとかなりon topのプレイになります。同様の例が「Nippon Soul」収録のEasy to Love(以前当Blogでも紹介しました)、本演奏よりもさらに速いテンポにも関わらずスイング感抜群、音符の位置も一層前にセッティングされています。

そしてColtraneのソロに続きます。 Cannonballに比べると対極的にダークさが際立つ音色、含みを持たせた「ホゲホゲ」した成分がこもった感を提示し、しかし音の輪郭は際立つ複雑な楽器の鳴り方を聴かせます。一点感じるのは、この日のColtraneはリードの調子が今ひとつではなかったかと。硬くて鳴らし辛いリードを難儀しながら吹いているように聴こえます。長いツアーでリードのストックが切れかかっていたのかも知れません。タイム感はグッとレイドバックし、個人的にはある種理想的なリズムに対する音符の位置を感じます。そして吹いているラインですがこれはまさしくColtrane Change!些か専門的になりますがコード進行Ⅱ-Ⅴ-Ⅰを短3度と4度進行に細分化し、各々のアルペジオを中心にラインを組み立て行きます。この方法によりコード進行に従来にはない、サウンドの浮遊感を得ることが出来るのです。「Giant Steps」収録のCount DownはMiles作曲のTune Upのコード進行を基に、Ⅱ-Ⅴ-ⅠをColtrane Change化した代表的演奏ですが、3ヶ月後の59年5月4日に同曲をレコーディングする前に、自分の作品ではなく、Cannonballのアルバムでしっかりと実験をしていた訳ですね(笑)。ひょっとすると前日までのSutherland Loungeのステージでも、既にこの奏法にトライしていたかも知れません。ここでのプライヴェート録音が発掘される事を願っているのですが、2012年にRLR Labelからリリースされた「Complete Live at the Sutherland Lounge 1961」の例があるので、かなり期待をしています。

ts,ss)John Coltrane p)McCoy Tyner b)Reggie Workman & Raphael Don Garrett ds)Elvin Jones 音質は決して良くありませんが、61年3月1日Chicago Sutherland Loungeでのクオリティの高い演奏がCD3枚組に収録されています。

それにしても物凄いインパクトのアドリブソロです!Kellyもバッキングの手を休め、いや、対応の範囲を超えた難解なラインの連続に、むしろ止めざるを得なかったのでしょう。こうして聴いているとふたりの演奏するアドリブライン、アプローチ、方法論の明らかな違いがこの演奏のクオリティを一層高めていると気付きます。続くKellyの軽快なソロ時にはCobbも4拍目ごとにリムショットを入れ始め、グルーヴを変化させています。その後フロントたちとドラムとの怒涛の8バースが始まります。ここでの白熱したやり取りは間違いなく昨晩までのMilesバンドの演奏を彷彿とさせている事でしょう!テンションはMaxを通り越し120%に達しています!Cobbのソロは間違いなく彼のone of the bestでしょう!合計2コーラスに及ぶバースの後は同じく2コーラス、サックスふたりによるバトルに続きます。いや〜ジャズを聴いていて本当に良かったな、と心から思える瞬間、だってCannonballとColtraneのバトルですよ?スゲ〜!!Milesが聴いたら「こいつら俺がいないと思って、思う存分好き放題やりやがって!」とむしろ嬉しそうに言うに違いありません(笑)!しゃにむに相手に戦いを挑むバトルではなく、まるで横綱相撲のように相手を立てつつ、かつ自分の言うべき事を端的に述べるスタンスでのバトルです!その後は全く平然とラストテーマを迎え、Kellyのフィルインも始めのテーマ時よりも冴え渡っており、エンディングのキメもバッチリとハマりました!

2曲目CannonballをフィーチャーしたバラードStars Fell on Alabama、古き良き時代の米国をイメージさせる曲調にCannonballのアルトの音色が完璧にマッチングしつつ、更に自由奔放に歌い上げる事によって、曲の持つ別な魅力を引き出す事に成功した、歴史的名演奏です。テンポはバラードとしては少し早目の設定、ピアノとブラシを用いたドラムからスタート、Kellyが弾くイントロのメロディはAlabama州に因んだのでしょう、米国南部のムードを感じさせつつ、4小節目にベースが加わります。アウフタクトでアルトの下の音域D音のサブトーンからメロディが始まりますが、低音域から中高音域をくまなく用い、グリスダウン、グリッサンド、様々な表情を見せる多様なビブラート、音量の大小が音楽表現の実は最大の武器と熟知しているプレイヤーだからこそのダイナミクス、独り交響楽団の様相を呈しています!テーマ終わりでCobbはスティックに持ち替えます。Cannonballのソロに入る際のフレージングは思いっきりレイドバックし、ゴージャス感をこれでもか!と提示しています。ダブルタイム・フィールでアルトソロが始まります。完全無欠の演奏って存在するのだろうか?と考えたことがありますか?禅問答のような話を考えるのは自分は結構好きなのですが、本演奏には文句の付けようが有りません!一切の蛇足、冗長さ、的外れは存在せず、曲想へのマッチング率100%!緻密でダイナミックなフレージング、起承転結、ストーリー性の妙。聴けば聴くほどに引き込まれる麻薬的魅力を有する演奏。Kellyも同様に1コーラスを演奏し、随所にフレージングに合わせ唸り声を発しつつ、いわゆるKelly節をとことん披露し、ラストテーマはサビから開始、グルーヴはバラードに戻り、Cannonballは更なるゴージャス感を出しながらAメロへ、グッと音量を落とし、今度はしっとり感を演出しつつラストのカデンツァへ。エンディング音の極小ppは最後の最後まで美意識を貫き通した結果に違いありません。

3曲目CannonnballのオリジナルWabashは軽快なスイングナンバー、明るくハッピーな雰囲気の中に、少しだけ厄介なコード進行を有するのですが、この部分を的確にクリアーしない限り、曲の持つメッセージを表現しきれません。サックス衆はユニゾンでテーマを仲良くプレイ、微笑ましくさえ聴こえます。ここのバッキングでもKellyが実に効果的なフィルインを弾いていますが、このセンスは実に彼ならではだと思います。おそらくステージを離れ、楽屋やアフターアワーズでは控え目ながらも気の利いたトークを発し、周囲の雰囲気を和ませていたのでは、と思います。イントロ、テーマとブラシを用いていたCobbがソロからスティックに持ち替え、2ビート・フィールで弾いていたChambersがスイングに移行します。ブレーク時でのピックアップソロの聴かせ方を熟知したCannonballが、これまた意表をついたフレージングでソロを開始します。立て板に水状態で実にスムースでスインギーなソロ、そして厄介なコード進行対策も万全でした!続くColtraneのソロはタンギングにCannonballほどの滑舌の良さがないので、若干の辿々しさ、言ってみれば朴訥としたトークと感じます。横板に雨垂れとは言いませんが、むしろ味わいとして捉える事が出来、結果好対照なふたりを感じます。 Cannonballは中低音域を中心に用い、Coltraneが中高音域を中心としてフレージングしているのにも、アプローチの違いが表れています。ピアノソロ、そしてベースソロまで進み、ラストテーマへ、エンディングのカットアウトは潔い終始感を得ています。ここまでがレコードのA面になります。

4曲目ColtraneのオリジナルGrand Central、NYCマンハッタン、ミッドタウンのPark Ave.と42nd St.地点にある世界一大きなターミナル駅Grand Central、米国全土から人が集まりそして離れ、ごった返し、混雑している駅なので目まぐるしく変わるコード進行と複雑な構成を有するこの曲の忙しさに例えられました。1曲目で自身のColtrane Changeによるインプロヴィゼーションを披露しましたが、ここでは曲自体にこのコード進行を用いています。他にもリズム隊のシンコペーションによるリズムのシカケ、サビでのドミナント・ペダル、サックス2管の対旋律等、聴かせどころ満載の佳曲、テナーの方の音域が低いにも関わらず、作曲者Coltraneが主旋律を吹き、Cannonballはハーモニーを担当しています。この作品のためにColtraneが書き下ろしたナンバーですが、これはふたりの信頼関係ゆえでしょう。もしくはこうも考えられるのですが、制作当初は双頭リーダー作品として企画され、例えば作品のタイトルは「Cannonball Adderley & John Coltrane Quintet in Chicago」、実際ふたりにしっかりとスポットライトを当てていますが、Coltrane側の契約問題等がクリアー出来ず、結局Cannonball単独のリーダー作としてリリースされる事になったと。そうすれば各々のフィーチャーリング・バラードが収録され、オリジナルを持ち寄った事、1曲目でのColtrane Changeへのチャレンジ、レコードのSide AがCannonballサイド、Side BがColtraneサイドという構成にも納得が行きます。因みに64年再発時にはジャケットデザインとタイトルを替えてリリースされました。「Cannonball & Coltrane」、こちらの方が内容的には相応しいと思います。

「Cannonball & Coltrane」

先発Cannonballはメロディアスなアプローチで絶好調ぶりを聴かせ、むしろColtraneの方が若干曲の難易度に苦戦、術中にハマってしまったように聴こえます。Kellyのソロに続き、ラストテーマへ。

5曲目ColtraneをフィーチャーしたバラードYou’re a Weaver of Dreams、渋い選曲です。スタンダードナンバーThere Will Never Be Another Youとほぼ同じコード進行を有します。Coltraneの音楽性に良く合致したナンバーと言えるでしょうし、初リーダー作「Coltrane」収録Violet for Your Fursにも通じる曲です。こちらもCannonballフィーチャーと対極を成すと行って良いでしょう。イントロなしでテーマからいきなり始まりますが、極力ビブラートやニュアンス付け、音量の大小を排除し、ストイックなまでにストレートにメロディを吹いており、これ以降も一貫するColtraneのバラード演奏スタイルを象徴しています。晩年のFree Formに突入した際には逆にビブラートを多用することになりますが、Cannonballを始め、それまでのサックス奏者が用いた手法を敢えて避けたのか、それともごく自然にこのストレート直球奏法に至ったのかは分かりませんが、以降のテナー奏者に多大な影響を与えました。テーマ後Cobbはスティックに持ち替え、Stars Fell on Alabama同様にダブルタイムフィールになり、1コーラスをソロします。バラード演奏にそのミュージシャンの本質が顕著に現れますが、彼らの演奏を聴くに付け、つくづくこれほど個性の異なるサックス奏者たちをバンドに迎え、自己の音楽を表現するために巧みに、かつ適材適所で演奏させたMilesの手腕の素晴らしさを、改めて感じました。

6曲目ColtraneのオリジナルThe Sleeper、ベースのwalkingから始まり、2小節に一度4拍目にアクセントが入るコード進行としてはブルース、かなりユニークなイントロ〜曲のパターンです。2コーラス目にアルトが先発の輪唱でテーマを演奏、ソロを取るのはColtraneの方から、出だしからいきなり全開状態です!曲のキーがE♭、テンポも同じBlue Trainの演奏を彷彿とさせますが、リズム隊がBlue Trainのように倍テンポにならないのも一因かも知れません、テナーソロをプッシュしきれずに孤軍奮闘の様相を呈しています。ピアノソロの冒頭ではColtraneのソロを受け継ぎ、Kellyにしては珍しいアプローチを聴かせます。その後はCannonballのソロになりますが、前曲がColtraneフィーチャーでCannonballがお休みだったので、ソロの先発は彼でも良かったのではと感じます。鳴り捲りのアルトサウンド、ここでもフレージング、アイデアは尽きる事なく泉のように湧き出ています。ラストテーマは再びサックスの輪唱、始めのテーマでもそうでしたがこの輪唱時、サックス2管は右チャンネルにまとめて振られています。アルトのソロの時は左チャンネルから聴こえてくるので、急に音像が飛んだように聴こえました。その後イントロと同じフォームが演奏されますが、初めに比べかなりテンポが遅くなっていますが、一曲通してだんだんとゆっくりになったようです。エンディングはテーマの一節が演奏され、Fineです。

2020.07.20 Mon

Cannonball’s Bossa Nova / Cannonball Adderley and the Bossa Rio Sextet of Brazil

今回はCannonball Adderley 1962年12月録音のアルバム「Cannonball’s Bossa Nova」を取り上げてみましょう。ブラジル人ピアニストSergio Mendes率いるThe Bossa Rio Sextet of Brazilが伴奏を務めた、極上のBossa Novaアルバムに仕上がっています。

Recorded: December 7, 10, 11, 1962 at Plaza Sound, New York City Recording Engineer: Ray Fowler Produced by Orrin Keepnews Label: Riverside 9455

as)Cannonball Adderley p)Sergio Mendes g)Durval Ferreira b)Octavio Bailly, Jr. ds)Dom Um Romao tp)Pedro Paulo(#2, 4-5, 7-8) as)Paulo Moura(#2, 4-5, 7-8)

1)Clouds 2)Minha Saudade 3)Corcovado 4)Batida Diferentes 5)Joyce’s Sambas 6)Groovy Sambas 7)O Amor Em Paz (Once I Loved) 8)Sambops

場所はNew YorkのジャズクラブBirdland、1962年のある夜Cannonball Adderleyが6人の若者に囲まれて熱心に話をしています。彼らはBrazil人ミュージシャン、ピアニストSergio Mendesがリーダーを務めるThe Bossa Rio Sextetのメンバーで、とあるコンサートのためにNew Yorkを訪れていたのです。Cannonballの音楽に熱狂的ファンだった彼らは、彼に自分たちの演奏を聴いてもらえるように働きかけ、それをBirdlandで実現させました。彼らの演奏を大変気に入ったCannonballは即座にレコーディングを発案し、本作録音に至ったのです。

そのとあるコンサートとは、62年11月21日にNew York Carnegie Hallで開催されたBossa Nova Concertの事で、言ってみればBrazilian Bossa Novaの米国初進出コンサートです。出演者はBrazilを代表するミュージシャンたちMiltinho(Milton) Banana, Luiz Bonfa, Oscar Castro-Neves, Joao Gilberto, Antonio Carlos Jobim, Carlos Lyra, Sergio Mendes Sextet等20名を超えるBrazil勢にArgentinaからLalo Schifrin、米国既Bossa Nova経験組Stan GetzやGary McFarland、Bob Brookmeyer等錚々たるメンバーを擁しての企画でしたが、実は悲惨な結果に終わったとStan Getzの伝記「音楽を生きる」に記載されています。あまりにも多くの凡庸なグループがステージに上がり、場はしばしば混沌状態に陥りました。想像するにおそらくしっかりとした企画がなく、Brazilのミュージシャンをまとめて招聘すれば何とかなると高を括ったのでしょう。多分プロデューサー、舞台監督も存在しなかったように感じます。しかもコンサートのスポンサーになったオーディオ会社がライブ録音の方を重視してマイクロフォンをセッティングしたため、本末転倒、演奏はホールにいる聴衆の耳には届かずサウンドは最悪だったそうです。コンサートの失敗を強く恥じたBrazil政府(政治問題にまで発展したようです)は僅か2週間後に自らがスポンサーとなり、New York Manhattanの大規模ジャズクラブVillage Gateで入念に準備されたコンサートを開催し、挽回をはかり、代表格Joao Gilberto,やAntonio Carlos Jobimは米国の聴衆に彼らの芸術をしっかりと披露する事が出来たそうです。BrazilにとってBossa Nova Music最大のマーケットとなり得る米国、そこでの第一印象が悪ければとんでもない事になると、かなりの危機感を抱いたのでしょう。やれば出来るのですから初めから徹底した企画でCarnegie Hallの晴れ舞台に臨めばよかったものを、南の国の楽天的な考えが当初は支配していたのかも知れません。

当日の演奏を収録したアルバム「Bossa Nova at Carnegie Hall」The Bossa Rio SextetはJobimのOne Note Sambaを演奏しています。

その後Bossa Novaは大ブームになり、Zoot Sims, Paul Winter, Charlie Byrd等のジャズ・ミュージシャンもBossa Novaアルバムを発表しました。フルート奏者Herbie MannはCarnegie Hall Concert前の同年10月、単身Brazil入りし、いち早く当地のミュージシャンAntonio Carlos Jobimほかとレコーディング、本作のThe Bossa Rio Sextetとも2曲録音しています。

「Do the Bossa Nova with Herbie Mann」
Recorded in Rio de Janeiro with the Greatest Bossa Nova Players

同じくGetzの伝記にはこのようにも書かれています。『「ボサノヴァ」という魔法の名前がついたレコードはどんなものでも飛ぶように売れた。そしてノヴェルティ業者たちは「ボサノヴァTシャツ」とか「踊るボサノヴァ人形」とか、「ボサノヴァ蛍光ポスター」とかいったものを片端から売りまくった。すべてのブームに付きもののわけのわからなさは人々の要求に更に火をつけた。少しばかり憂愁の香りを漂わせる、概ねハッピーな音楽とその伝染性のあるリズムは、キャメロットに住む見栄えの良い夫婦(ケネディ大統領夫妻のこと)に率いられたアメリカは無敵であるという、世間のうきうきした楽観論を反映するものだった。』おそらく自伝筆者の私見だと思いますが、シニカルなGetzの考えをいかにも代弁したかのような話です。因みに前述のBossa Novaを取り上げたジャズ・ミュージシャン作品の中で、個人的に素晴らしいと思えるのは本作と63年録音Stan Getz「Getz / Gilberto」の2作です。

それでは内容について触れていく事にしましょう。1曲目は本作に参加しているギタリスト、Durval FerreiraのナンバーでClouds。曲想から入道雲をイメージしますが、夏のRio de Janeiroの雲はさぞかし雄大なことでしょう。彼もRio出身で他にも3曲本作に提供しています。ピアノのイントロにシンバルが被さり、雰囲気作りが成されます。そしてテーマへ、Cannonballの登場です!それにしても、何という素晴らしい音色でしょうか!音の極太感、艶、柔らかさと滑らかさ、ゴージャスなまでに加味された豊富な付帯音、音量のダイナミクス、無限に有するのではと感じるビブラートの多彩さ、ニュアンス付けの巧みさ。真夏の太陽が燦々と降り注ぐ浜辺を長時間歩き、思わず見つけた椰子の木陰で涼を取る爽やかさ!Cannonballはもともと音量のアベレージ、設定が小さいので、大きく吹いたときの振れ幅が凄まじく、聴感上のインパクトがあり得ない次元にまで聴き手を誘います。実際本作でも、彼がボリュームを上げ、シャウトして吹いた時には音が歪んでいます。レコーディングのフェーダーを小〜中音時でのレベルに合わせているためでしょう、間違いなくピークレベルで針が振り切っています!低音域でフレージングが終始する時に必ずサブトーンを用いるので、音色の変化に思わず「うおっ!」と声が出てしまいます!メロディの合間に挿入されるフィルインの知的さとナチュラルさ、大胆な技法を用いつつも細部に至るまでの綿密な配慮、常にリスナーサイドに立ちつつバランス感を保ち独りよがりにならず、自身も演奏に際しての感情移入が半端なく、何より本人が演奏を楽しみまくっていることが手に取るように伝わるのが堪りません!Brazil出身の彼ら共演者にはジャズミュージシャンとしての心得、インタープレイやレスポンスを求めることは困難ですが、本場のBossa Novaのリズム、サウンドの上でCannonballが大海原を泳ぐイルカ(彼の体型的にはもっと大きい海獣かも知れません〜汗)のように漂う感じを楽しむのが本作の聴き方と、早速解釈できました。Mendesの短いソロに続き、ラストテーマへ、CannonballのBossa Nova Musicへの参入は彼の事を愛してやまないBrazilianたち、これ以上あり得ないほどの素晴らしいメンバーを擁してレコーディングされました。それにしても彼のプレイ、改めて前回当Blogで取り上げた7年前の録音「Introducing Nat Adderley」での演奏とは比較にならない程、格段の進歩を遂げています。

2曲目はBrazil出身のミュージシャン、作曲家Joao DonatoのナンバーMinha Saudade、軽快なテンポでトランペット、アルトサックスのアンサンブルで心地よいイントロが始まります。躍動感溢れるドラミングを聴かせるDom Um RomaoもRio出身、72年から74年までかのWeather Reportにパーカッション奏者として、4作に参加した経歴を持ちます(「I Sing the Body Electric」「Live in Tokyo」「Sweetnighter」「Mysterious Traveller」)。Cannonball Quintet60年代にはWeather Reportのリーダー、Joe Zawinullが在籍していました。その関係でのコネクションかも知れません。

Weather Repot / Sweetnighter
Weather Report / Mysterious Traveller

そしてCannonballのテーマ奏、これまたノックアウトです!ここでは音色に加えメロディのスピード感が素晴らしい!加えて0’27″でのビブラートの色気!サビをBrazil勢が演奏するメリハリも素敵です!Bossa NovaはStan Getzのテナーサウンドが代名詞となっていますが、Cannonballのアルトサウンドも全く双璧を成していると思います。1コーラスMendesがソロを演奏、メロディアスなフレージングに魅力を感じますが、タイムの捉え方は結構on topに聴こえます。続くCannonballの意表を突いた始まり方はキャッチーですね!絶好調さはソロ本編に於いても一貫して継続しています。ラストテーマはサビから開始、そのままBrazil勢が最後までテーマを演奏してFineです

3曲目はお馴染みAntonio Carlos Jobimの名曲Corcovado、全くストレートにテーマを演奏していますがこの音色、そしてニュアンスで吹かれると、ただもうそれだけで大納得、実に美しいです!これだけシンプルな語り口だと、メロディ間のフィルインがまた良く映えるのです。ソロもモチーフを元に、じわじわと次第に発展させていく手法で構築していますが、十分に間合いを取り、フレーズとフレーズの関連性はあるが互いを干渉せずに独立させ、ストーリーの抑揚を万全とし、様々な専門用語を使いながらも難解な、とっつき難い発音を一切排除し、時には大胆不敵に、またある時には囁くように、森羅万象を表現しているが如しです。それにしてもバックのBrazil勢、完璧に淡々と伴奏を行いますがソロとのインタープレイは見事なまでに一切ありません!Bossa Novaのリズム、グルーヴ、ギターのカッティングを中心としたサウンドを相手に、フリーブローイング状態のCannonball、ひょっとしたら彼自身が「Guys, ジャズっぽい事は何もしなくていいんだよ、素の君たちが欲しいんだ。」と彼らに提案していたのかも知れません。ピアノソロ後のテーマ奏とフェイクにも素晴らしいイマジネーションを感じさせます。

4曲目Batida DiferentesはFerreiraのナンバー、威勢の良いサウンドにCannonballが絡みつつイントロが始まり、2管のアンサンブルとCannonballがやり取りを行い、コール・アンド・レスポンス状態でテーマが進行します。ホットな中にも1曲目同様、椰子の木の木陰的な涼しさが垣間見える、こちらも佳曲です。テーマ最後に出てくるブレークでは、意を決したようなフレージングと音量で、続くソロパートに突入です。軽快なフットワークでのインプロヴィゼーション、コード進行に対する的確なアプローチ、饒舌ではありますが全く無駄を排除した、全てが音楽的にサウンドしている完璧なソロです!続くMendesのソロ、スタンダードナンバーのIt Might as Well Be Springのメロディをごく自然に引用しています。同曲は春には演奏しないという掟がありますが(笑)レコーディングは12月、四季問題は無事クリアーしました!(爆)この人のソロには常に自然体のメロディを感じます。ラストテーマでは再びCannonballとのやり取りが聴かれ、Brazil勢で次第にディクレッシェンドしてFineです。

5曲目Joyce’s Sambas、こちらもFerreira作曲。イントロ2管のアンサンブルから既に涼しげ、と言うよりも哀愁を感じさせるナンバー、Cannonballは深いビブラートを用いつつ情感たっぷりにテーマを歌い上げていて、管楽器リフの輪唱が効果的に響きます。アルトソロに入り、明るさと哀愁が同居し、実に抑揚の効いたメロウなテイストを披露します。珍しく(本作中ここ1カ所だけですが)1’41″辺りでCannonballの吹いたラインにMendesが反応し、答えています。本テイク3日間のレコーディングで最終日に収録されましたが、長い時間Cannonballと過ごしたので、彼からジャズのスピリットを少しだけ伝授されたのかも知れませんね。ピアノのソロに続き、ラストテーマを迎えますが、エンディングは他曲には無いカッコよさでキメて、Fineです。

6曲目Groovy Sambas、こちらはMendes作曲のナンバーです。彼にはMas Que Nadaという大ヒットナンバーが控えていますが、この曲も同曲に通じるムードを聴かせる佳曲、ピアノのバッキングも既にMas Que Nadaを感じさせます。Mas Que Nada実はMendes作ではなくRio出身シンガーソングライターJorge Benの曲ですが、Mendes66年に自己のバンドBrazil ’66でレコーディングし大ヒットとなり、こちらの方が有名になりました。Cannonballのメロディ奏がまず素晴らしい!彼自身この曲を気に入り、思い入れを込められたように感じます。続くソロの巧みな事と言ったら!お気に入りの曲ならば当然の事ですが、コード進行が複雑で入り組んだ部分に果敢にチャレンジするのは彼の常、スリリングなラインと大きく歌う部分との対比がこの人の特徴の一つだと思います。本作中最もホットでスインギーなソロとなりました。作曲者自身のソロも同様に本作中ベストなものでしょう。エンディング時フェルマータする筈がRomaoが勘違いして、一人叩き続けてしまったように聴こえます。「いっけねえ!」とばかりの、最後の締めの1発には不本意さからか、気持ちが入らず若干の空虚さを感じます(汗)。

Mas Que Nada 収録「Sergio Mendes & Brasil ’66」

7曲目O Amor Em Paz (Once I Loved) はやはりJobimの名曲、様々なミュージシャンに取り上げられていますがこちらも代表的な名演奏に仕上がりました。まるで晩夏のRioの海岸で過ぎゆく夏の、とある情事に思いを馳せるかのような、レイジーなイントロからテーマに入ります。「おいおい、お前はBrazilに行ってそんな立派な事を経験をして来たことがあるのか?」と突っ込まれること請け合いですが(汗)、単なるイメージの世界ですので、宜しくお願いします(爆)。Cannonballはロングトーンにクレッシェンドを駆使したメロディ奏、そのバックでのホーンアンサンブル、何とゴージャスでしょう!それにしてもこの美の世界は一体何処からやって来たのでしょうか?アドリブソロは比較的モノローグ的、低音域を中心にボソボソ、ブツブツ、いや、ガサガサ、シュウシュウと語られますが(笑)随所に隠し味、大当たりの福引景品が用意されており、独白をひとつも聴き逃す事は出来ません!Everything Happens to Meのメロディがさりげなく引用されますが、実はRioの海岸での情事は彼自身にHappensした出来事なのかも知れませんね(笑)。本作参加のアルト奏者Paulo Moura、トランペット奏者Pedro Pauloのふたりはスタジオ内でCannonballのソロを神が降臨して来た如く、畏敬の念を持って、さぞかしうっとりと、頷きながら聴いていたことでしょう。その情景が手に取るように浮かびます。Mendesのソロ後ラストテーマへ。ホーンが加わった潔いエンディングも良いですね。

8曲目ラストを飾るFerreiraのSambopsは本作中最も快活なナンバー、リズム隊の躍動的なグルーヴはRioのサンバ・カーニヴァル状態、Romaoのフィルイン0’52″も一段と冴え渡ります。ホーンのアンサンブルもオシャレですが、吹いていない時にはおそらく何かしらのパーカッションで参加していると思います。レギュラー活動を長年行っていただけの事があり、ベーシストOctavio Bailly, Jr.とRomaoのコンビネーションも素晴らしいです!Cannonballのソロの実にマーベラスな事!水を得た魚(海獣?)の如き状態、リズミックさが堪らず、腰が椅子から浮かび上がり、リズムを身体全体で取ってしまいます!1’51″でCannonballがソロ終わりを匂わせた一瞬にMendesのフィルが入ります。自分にソロが回って来たと思ったのでしょう。1’59″からのウラウラのフレーズ、2’13″からの低音域から上昇シンコペーション・フレーズ、聴きどころ満載です!短いピアノソロ後ラストテーマ、イントロにダカーポして大団円です。

2020.07.13 Mon

Introducing Nat Adderley

今回はコルネット奏者Nat Adderleyの1955年録音初リーダー作「Introducing Nat Adderley」を取り上げたいと思います。実兄アルトサックス奏者Julian Cannonball Adderleyとの2管編成は以降のCannonball Adderley Quintetの原形となり、ハードバップを代表する豪華メンバー達と演奏しています。

Recorded in New York City on September 6, 1955 Producer: Bob Shad Label: Wing

cor)Nat Adderley as)Cannonball Adderley p)Horace Silver b)Paul Chambers ds)Roy Haynes

1)Watermelon 2)Little Joanie Walks 3)Two Brothers 4)I Should Care 5)Crazy Baby 6)New Arrivals 7)Sun Dance 8)Fort Lauderdale 9)Friday Nite 10)Blues for Bohemia

Florida州Tampa出身のAdderley兄弟(Cannonball: 1928年9月15日、Nat: 31年11月25日生まれ )、彼らの父親が若い頃プロ並みの腕前のトランペット奏者で、彼は長男に自分のトランペットを与えました。しかしその後長男がアルトサックスを自分の楽器として選んだのでトランペットは次男に譲られ、この時点でAdderley兄弟の楽器フォーメーションが決まりました。若い頃からAdderley兄弟は音楽活動に勤しみ、かのRay Charlesとも共演していたそうです。

有名な話でご存知の方も多いと思いますが、Adderley兄弟が55年New Yorkに旅行で立ち寄った際、Greenwich VillageにあったクラブCafe BohemiaでベーシストOscar Pettifordのバンドが出演していました。兄弟は楽器を携えていたのでシットインすべく準備をし、Pettifordにその許可を求めました。その時ちょうどレギュラーのサックス奏者が遅刻により不在だったのでバンドリーダーは快諾しました。演奏が始まるや否や彼ら、特にCannonballの圧倒的な演奏にその場にいた聴衆は完全にノックアウトされ、兄弟のNew Yorkデビュー演奏は大成功を収めました。とんとん拍子に話が進み、同年二人別々にリーダー作を録音する機会に恵まれたのはCafe Bohemiaでのシットインが功を奏し、次第に彼らの名が知れ渡る事になったからに違いありません。加えてかのCharlie Parkerが同年3月12日、僅か34歳の若さで逝去しジャズシーンは新たなスターの登場を渇望していたのもあり、Adderley兄弟はその時流に乗る事ができた訳です。

Cannonballの方は7月14日レコーディングの作品「Presenting Cannonball Adderley」をSavoy Labelに、そしてNatは本作「Introducing Nat Adderley」をおよそ2ヶ月あとの9月6日にレコーディングします。翌56年New Yorkに居を構えた二人はCannonball Adderley Quintetを立ち上げ、本格的に活動を開始しましたが、間も無くCannonballがMiles Davis Sextetに加入し、その間NatはJ. J. JohnsonやWoody Hermanのバンドで活動、59年に兄が独立したのをきっかけに共演を再開し、その後は順風満帆に演奏活動を継続させました。兄弟仲の良さはミュージシャンのあいだでも有名な話で、音楽性も合致した二人は以降兄の逝去まで演奏を共にし、Cannonballの作品に40枚以上も参加しました。

ところでCafe Bohemiaで不在だったテナー奏者が誰だったのかちょっと気になるところです。当人はAdderley兄弟の出現でバンドのレギュラーの座を奪われたかも知れません、いずれにせよミュージシャン界は競争が激しく下克上は日常茶飯事、自己管理を徹底させ仕事に遅刻せず、時間を守りましょうと言う教訓のオマケが付きました(笑)。

それでは演奏に触れていくことにしましょう。演奏曲は1曲を除き全てAdderley兄弟共作によるものです。1曲目Watermelonは短い演奏ながらオープニングに相応しい軽快なテンポ、よく練られたメロディとハーモニー、リズムセクションとのアンサンブルがハードバップの幕開けを感じさせます。ビバップの発展型としてのハードバップですが、55年当時のシーンではリズムやコードが前段階的に未だ細分化されておらず、56〜57年から急速に進歩を遂げます。この頃のMiles Davisの諸作、例えば同年6月録音「The Musing of Miles」同じく8月録音「Miles Davis Quintet/Sextet」も本作に近いテイスト、サウンドを聴くことが出来ます。

常に兄を立てる弟ゆえでしょうか、ソロの先発はCannonballです。でもここで聴こえるアルトの音色は一瞬別人の演奏と錯覚しそうな違いを感じます。録音によるものか、後年のCannonballよりも音の輪郭がくっきりとしていますが、雑味の成分がかなり少ないのです。マウスピース、楽器、リード等使用機材が異なるのか、でも物の本によると彼は生涯一貫して楽器はKing Super 20 Silver Sonic、マウスピースMeyer Bros 5番、リードもLa Voz Medium辺りを使用し続けていたらしいのです。初リーダー作「Presenting Cannonball Adderley」での音色は後年のそれと殆ど一致しますので、ここでは単なる録音による悪影響と推測できます。タイム、グルーヴ、スイング感は既に完成されており、寛ぎと奥行きを感じさせるストーリーの構成は見事です。Natのソロは兄の前出フレージングを用いつつ、こちらも軽快に飛ばしており、やはり自己のスタイルをしっかりと携えてのIntroducing本人になっています。当時はサイドマンとしても良くレコーディングに参加していたHorace Silverのピアノソロに続きます。つんのめったような独特のタイム感はここでも健在、引用フレーズを交えたユーモアを常に絶やさないプレイが印象的です。

2曲目Little Joanie Walks、Roy Haynesのちょっとしたソロの後、マイナー調のテーマが始まります。間を生かしたメロディラインがひょうきんさを感じさせる佳曲です。当日レコーディングを見学しに来ていたプロデューサーBob Shadの姪、Joanieちゃんの歩く様をイメージしたナンバーという事で、8分音符が少しハネている曲想からさぞかし可愛らしい歩き方をしていたとイメージできます。ここでもCannonballが先発登板、色気のある演奏を聴かせます。ダブルタンギングをアクセントに用いたフレージングはインパクトがあります。上の音域から下降した際に低音域で聴かれる充実したサブトーンに表れているように、アルトサックスの全音域をルーズなアンブシュアでくまなく吹いている事が伺えます。続くNatのソロも兄の表現力に劣らないようにと、懸命にイマジネーションを働かせていることを感じます。続く録音当時20歳(!)Paul Chambersのベースソロ、一聴して分かる音色とフレージング、ビート感。間違いなく50年代の最重要ベーシストの一人です。ラストテーマは意外性のあるエンディングを迎え、冒頭と同じくドラムの「ちょっとしたソロ」でFineです。

3曲目Two Brothers、ピアノのイントロに続く2管による対旋律を聴かせるメロディラインは、米国西海岸50年代のサウンドを感じさせます。文字通り兄弟が別な旋律を演奏しているわけですが、サビの部分では兄にソロを取らせています。こちらもユニークなメロディを有した佳曲です。各1コーラスのソロ先発はSilver、Natと続き、Cannonballのソロは曲想をよく踏まえたスインギーな展開を提示しています。その後Chambers、そしてラストテーマですが、サビはHaynesにソロを取らせています。個人的にここではNatの演奏が聴きたかったところです。

4曲目スタンダードナンバーからバラードI Should Care。早めのテンポ設定によるテーマはNatのコルネットがフィーチャーされ、淡々とメロディを吹きつつ多少のフェイクを交えています。テーマ後すぐにCannonballのソロが始まりますが、ここでのアルトの音色は雑味、付帯音、倍音の豊富さを感じさせるいつもの彼らしい、本領を発揮したもので、ユーモアのセンスも色濃く聴き取る事が出来ます。バラード演奏ではテンポのある曲よりも音量を小さく演奏するのでその分、音の輪郭外側の成分がよく響く傾向にあるからでしょうか。その後Natを再びフィーチャーし、エンディングを迎えますが兄の深い表現に対し、あっさり感を否めない弟のプレイ、まだ初リーダー作バラード演奏では独り立ちの難しさを露呈したように思いました。

5曲目Crazy Babyはマイナー調のメディアムスイング・ナンバー、テーマの際のピアノのバッキングがうまい具合にメロディとメロディ間に挿入されています。最初のソロイストはCannonball、余裕のある流暢さが既に大物の風格を漂わせています。Haynesのレスポンスも巧みに行われ両者のインタープレイも適切です。Natのソロに続きますが、ブルージーさに関しては十分に及第点に至る表現をしていると思います。ピアノソロ、そしてベースソロと続きます。その後ドラムとの4バースがフロント二人と行われ、ラストテーマへ。

6曲目New ArrivalはHaynesのソロから始まるリズムチェンジのコード進行を用いたナンバー。ソロの先発はSilver、Tenor Madness, Old Milestonesのリフを引用しながら演奏します。Natのここでのソロは本作中最もスインギーなもので、ハイノートをはじめ様々な表情を見せます。ひょっとしたら兄のソロよりも前に演奏したので、影響を受けず単に自分のペースをキープ出来たからなのかもしれません。CannonballはNatのソロのテイストを受け継ぎつつ、次第に自分の世界に入っていきますが、彼も一層流麗なアドリブを聴かせています。続くChambersのソロはアルコに声をユニゾンさせたMajor Holley状態、渋いサウンドを聴かせます。その後Haynesの1コーラス・ドラムソロ、そしてフロントとの4バースに続きますが、Haynesならではのリズムワールドを構築しています。ラストテーマでは3曲目と同じくサビをドラムソロに任せていますが、この曲こそドラムの出番が多かったので、ラストテーマのサビはNatが演奏すべきであったと思います。

7曲目Sun Danceは3曲目のコンセプトに似た対位法的なスイングナンバー、テンポは遅くなります。Cannonballが先発、Silverと続きNatのソロへ、雰囲気の似た同傾向の曲が続くのでこの辺りでラテンやボサノヴァ、8ビートのナンバーが聴きたくなりますが、それらのリズム様式が登場するにはまだまだ、時代が全然早すぎでしたね(汗)、その後はドラムとフロントの4バースが1コーラス行われ、ラストテーマへ。本作は演奏時間を短くして収録曲を多くする方向で、さらに参加ミュージシャンのソロをコンパクトに、ほぼ全員を網羅するように制作されています。デビュー作なのでここはプロデューサーの英断で曲毎の聴かせどころを作り、機会均等はせず、加えてリーダーNatのコルネットを色々な形で、よりフィーチャーして欲しかったところではあります。

8曲目Fort LauderdaleはFlorida南東部の海岸に面した都市の名前で、高級リゾート地として知られていますが、Cannonballが高校時代バンドリーダーとしてこの地で演奏していたそうです。Cannonball、Silver、Nat、Chambersとソロが続き、ラストテーマはサビから演奏されます。

9曲目Friday Niteは早めのテンポ設定で小気味良さを聴かせます。1stソロイストはCannonball、4度進行のアプローチが聴かれます。続きSilver、自曲Sister Sadieのテーマ引用がなされますが、フロントではSilverのタイム感が最も早く、続いてNat、そしてCannonballは絶妙なレイドバック感に位置しています。リズムセクションではChambersのon topさとスピード感、そしてタイトさが群を抜き、Haynesとの良いコンビネーションを提示しています。つくづくリズムセクション、フロントのリズム、タイムの取り方は様々であるべきだと認識しました。その後再びChambersのMajor Holleyアプローチ、Haynesのソロと進みます。

Paul Chambersのプレイそのものがタイトルとなった「Bass on Top」57年7月録音

10曲目Blus for Bohemia、お世話になったジャズクラブには敬意を表さないといけません。Cafe Bohemiaに捧げたと思われるこの曲、Bluesと表記されていますが32小節の長さを有するナンバーです。Nat、Silver、Cannonballとソロが続きラストテーマへ。

2020.07.05 Sun

Nancy Wilson/Cannonball Adderley

今回はボーカリストNancy Wilsonとアルトサックス奏者Cannonball Adderleyの作品「Nancy Wilson/Cannonball Adderley」を取り上げてみたいと思います。CannonballのバンドにWilsonがゲスト参加した形でボーカルとその歌伴、クインテットの演奏と、ゴージャスに楽しめる構成に仕上がっています。

Recorded: June 27, 29 and August 23 – 24, 1961 Producer: Tom “Tippy” Morgan, Andy Wiswell Label: Capitol Records

vo)Nancy Wilson(tracks 1,3,5,7,9,11) as)Cannonball Adderley cor)Nat Adderley p)Joe Zawinull b)Sam Jones ds)Louis Hayes

1)Save Your Love for Me 2)Teaneck 3)Never Will I Mary 4)I Can’t Get Started 5)The Old Country 6)One Man’s Dream 7)Happy Talk 8)Never Say Yes 9)The Masquerade Is Over 10)Unit 7 11)A Sleepin’ Bee

レギュラー活動展開中のCannonball Adderley Quintetに歌姫Nancy Wilsonを迎え入れた形で(ボーカリストとの初共演作です)、1962年リリースの際レコードでは歌伴とインストを交互に配置した曲順に並び、両者が対等でバランスの取れた作品という認識でした。Nancyのチャーミングでスインギーなボーカルと、名門Cannonball Adderley Quintetの演奏を交互に楽しめる、しかも曲順や選曲のバランスが絶妙に取れていて、一挙両得感が半端ありませんでした!このようなレイアウト作品はあまり無かったので、本作といえば演奏よりも(もちろん素晴らしいですが!)歌〜演奏〜歌〜演奏という曲順が印象的でした。ところが93年CDで再発された際には歌伴がメインになった形で前半ボーカル、後半インストとはっきりセパレートされた形に成りました。曲順は今更ながらに大切ですね、この並びでは全く印象の異なる作品に変わってしまい、残念ながら味気なさを覚えました。リリース当時のレコードにも「A program of swinging vocals and instrumental by Nancy Wilson / The Cannonball Adderley Quintet」と同格にクレジットされていましたが、もっとも再発時はCannonball没後から20年近く経過し彼の存在感も薄れつつあり、一方Nancyの方は未だ現役ボーカリストとして活動中だったので、レコード会社としては彼女をメインに持って来ざるを得なかったのでしょう。

本作は58年から63年まで5年間在籍していたRiverside Label契約中真っ只中にCapitol Recordからリリースされました。Riverside以降は同Capitolに移籍したので、先駆けという事になります。精力的に作品をリリースし、Riversideから17作品、Capitolから本作を含めて20作品を発表し、いずれでもあの素晴らしい音色を披露しています。

Nancy Wilson/Cannonball AdderleyとNancy Wilson/George Shearingをカップリングさせたアルバムもリリースされています。Shearing作品の方の正式タイトルは「The Swingin’ Mutual」、こちらは彼のQuintetに同じくWilsonがフィーチャーされた形の60年録音作品で、いわゆる「シェアリング・サウンド」のノーブルな響きがNancyのボーカルをバックアップする歌伴演奏と、インストが同様に交互に配されたアルバムです。という訳でNancy繋がりの別作品のカップリングになりますが、ジャケットはいかにも3者が共演しているかのような表示、レイアウトなので、これでは羊頭狗肉、誇大広告です(笑)。

ちなみにCannonball次作品、62年1月NYC Village Vanguardでのライブ盤「The Cannonball Adderley Sextet in New York」から文字通り管楽器奏者が一人増えたセクステット編成になり、サウンドが一層厚くなります。ひょっとしたら61年8月頃Art Blakey & the Jazz MessengersがやはりCurtis Fullerを加えての3管編成にヴァージョンアップしたのに倣ったのかもしれません、「Artのバンドがフロント一人増やして随分評判良いようだぜ、バンドの音も見栄えも良くなるし、我々もいっちょ増員しようか」という具合に兄弟で話し合い、Yusef Lateefがテナー他フルート、オーボエでの参加、63年には同メンバーで名盤「Nippon Soul」を東京でライブレコーディング、64年頃からCharles Lloydにメンバーチェンジし、以降もコンスタントに3管編成で演奏活動を続けます。

それでは演奏曲に触れて行きましょう。1曲目バラードでSave Your Love for Me、ピアノとベースのユニゾンのラインにコルネットとアルトサックスのアンサンブルが加わり、Nancyのボーカルが始まります。素晴らしい声質ですね!ピッチやタイム感、抑揚の付け方、イントネーション、アーティキュレーション、シャウトした時の声の張り方、トーンの使い分けなど、申し分ありません。女性ジャズボーカリスト御三家であるElla Fitzgerald, Sarah Vaughan, Carmen McRaeたちに比べると、声の成分にややハスキーさ、雑味感が不足気味に聴こえますが、その分ポップスやR&Bのジャンルで通用する持ち味と成り得ます。Nancyは56年にビッグバンドのボーカリストとして活動開始、Cannonballの誘いで59年NYCに進出し同年12月22歳にしてCapitol Recordに「Like in Love」をレコーディング、翌年リリースとなり幸先の良いスタートを飾りました。本作への布石は成されていた訳です。

オブリガードをはじめの8小節Natがミュートで、次の8小節をCannonballが行いますが、アルトの音の物凄い事!pp程度のごく小さい音で吹いているのが分かりますが、倍音成分があまりにも豊富なために強力にマイク乗りが良く、むしろとても大きな音、メチャメチャ鳴っているように感じられます。低音域のサブトーンもテナーサックスと勘違いしてしまうほどの極太さ!伴奏者のソロはなく、Nancyのボーカルのみをフィーチャーした形にしたのは、この後にたっぷりとインストの演奏が控えているためでしょう。

2曲目はNatのオリジナルTeaneck、軽快なテンポによるスインギーなナンバーです。コルネットとアルトのユニゾンによるテーマは音の分厚さを通常よりも感じさせますが、Cannonballのサックスとでは至極当然のアンサンブルです。ソロの先発はCannonball、ブレークから飛ばしています!ソロに入るや8分音符のドライヴ感がたまりません!そしてこの音色の魅力と言ったら!鼓膜からジワッと身体の隅々にまで倍音が浸透し、体液と一体化するが如き快感!(何のこっちゃ?)バッキングのJoe Zawinullも端正なアプローチが印象的ですが、後年のWeather Reportでの演奏やスタイルは想像もつきません。彼は59年にBerklee College of Musicに入学のため故郷Austria Wienから渡米、しかしたった一週間在籍しただけでMaynard Fergusonから仕事のオファーがあり、そのまま米国でミュージシャンの世界に入りました。コルネットを吹くNat、トランペットよりも丸くハスキーな音色は自身の個性を表すのにうってつけの楽器選択です。Zawinullソロの終わりにラストテーマを迎えますが、エンディングのキメも意外性がありレギュラーバンドならではの創意工夫を感じます。名手Sam Jonesのon top感、Louis Hayesの柔軟でタイトなグルーヴから成るリズム隊の好サポートを得てCannonball Quintetの真骨頂と相成りました。

3曲目はFrank LoesserのナンバーでNever Will I Mary、ピアノトリオが活躍するイントロを経てボーカルが登場します。情感豊かに歌詞の内容を噛みしめるように歌うNancy、その後ろでリズミックなホーンのアンサンブルや管楽器各々のオブリガードも聴かれます。ソロはCannonball、短い中にもストーリーとメッセージ性、歌をしっかり表現しています。また彼のタンギングの強力な確実さから、つくづく滑舌の良さを感じてしまいます。アンサンブルとボーカルの一体感が印象的な演奏です。

4曲目はCannonballをフィーチャーしたI Can’t Get Started、夢見心地のアルトサックスが深遠なバラードの世界へと誘います。少し早めのテンポ設定、アレンジされたイントロから始まりますが、実に豊潤な低音域のサブトーン、ビブラートの使い分け、半音進行のⅡーⅤでの巧みで音楽的に高度、それでいてオシャレな音使い、One & Onlyな独壇場サックスプレイは音楽表現の全てを確実に把握して、あらゆる点で過不足なくかつ重厚さを伴って歌い上げています。テーマ奏の後はZawinullのソロが始まります。Austrian man in New York、いまだ自己のスタイルを模索中ではありますが、探究心旺盛な彼は試行錯誤を繰り返し、次第に自己の音楽表現のターゲットを絞って行きました。Cannonballがサビから復帰、前出時よりも饒舌に、ブリリアントにブロウしています。短いcadenza後のエンディングにはこれまた凝った構成のコード進行が設けられています。

5曲目はNatのオリジナルThe Old Country、Nancyの歌う歌詞をCurtis Lewisが書いていますが、こちらは哀愁を帯びた名曲です。スタンダード・ナンバーばかりではなく、メンバーのオリジナルに歌詞を付けたものを収録するのは良いですね!ピアノのイントロからホーンの短いアンサンブルに続き、姫の登場です。さりげないアンサンブルが随所に挿入され曲のムード作りに貢献しています。こう言った曲想だとNancyの歌声はやや明るめに聴こえ、歌唱にもダークさがもう少し欲しいところです。そこをまさに挽回すべく、Cannonballのソロが暗明るい(くらあかるい)テイストで切り込んできます!何と雰囲気に合致しているのでしょう!Zawinullのソロを経てホーンセクション、ボーカルが入ります。アウトロはイントロの再利用が成されています。Keith Jarrettが85年Paris録音の作品「Standards Live」で取り上げており、この曲をどのように演奏すれば良いのかを熟知しているかの如き、こちらも素晴らしい演奏に仕上がっています。

6曲目はZawinullのインスト・ナンバーOne Man’s Dream、マイナー調で50年代の雰囲気をたたえたナンバーですがプラスワンの味付けが良い感じです。先発Cannonballのソロはここでも絶好調!というかサックスの音色が超素晴らしければそれだけで名演奏に成り得てしまうのでは、と思わせます。改めてCannonballのソロのフレージング、方法論を鑑みると、そこには全くCharlie Parker臭がしません。やはりBenny Carterの流れを汲むスタイルと実感しました。

弟Natはおそらく兄Cannonballの事を心底尊敬していたでしょう、兄弟でミュージシャン、バンドを組み、長年共演できる関係を保つためには、弟の兄に対するリスペクトが不可欠です。日本でも日野皓正、元彦兄弟が有名ですが、元彦氏が心から兄を尊敬し、自身もその兄と共演を保てるように一生懸命に練習、研鑽したと仰っていました。「俺ら兄弟が共演出来ているのは音楽的レベルが同じだからなんだ」と言う言葉が印象に残っています。Adderley兄弟は圧倒的な兄の音楽性がバンドの表看板であり、兄の演奏を決して喰わない弟のごく自然体の控え目さ、加えて確実なアンサンブル能力、作曲面での貢献が兄弟の関係を均衡の取れた、円満なものにしています。裏看板Natのソロに続きますが、超個性的ではないものの決して破綻せず常に安定走行、時として兄の影武者になり演奏を上手く纏める能力も持ち合わせています。Natのソロ後Cannonballが主体となったホーンのメロディが挿入されZawinullのソロに移ります。2ndリフがピアノソロ後に入りますがこちらもメチャメチャ素晴らしい!ラストテーマを迎え、エンディングに凝る事の多い当バンドらしく(笑)、聴き応えのあるアンサンブルを演奏しています。

7曲目はRichard Rodgers, Oscar Hammerstein Ⅱ名コンビによるナンバーHappy Talk。おそらくアレンジはZawinullのペンによるものでしょうが、ここでもその才が光ります。イントロはリズムセクションのペダルポイントの上で、ミュートを用いたNatのフィル、タイトル通りの雰囲気でボーカルが入って来ます。随所に施されたアンサンブル、オブリガードが実に魅惑的です!こちらはレコードのB面1曲目に該当し、短い演奏ながらボーカルとアンサンブルの密度の高いやり取りを聴かせていて、裏面のオープニングに相応しい演奏になりました。エンディングではコルネットとリズム隊がキメを共有しアンサンブルを聴かせつつ、Cannonballがソロを取りますが例えばキメにもう1管加わり、ハーモニーが厚くなればゴージャスさが倍増した事でしょう。煌びやかななサウンドを常に念頭に置いているCannonball、この辺の事情も3管編成に増強された理由の一つだと考えています。

8曲目NatのオリジナルNever Say Yes。ベースの印象的なパターンに始まり、Miles Davisの61年作品「Someday My Prince Will Come」をイメージさせるミュート・サウンドでテーマが演奏されます。Hayesのブラシワークも見事ですね。引き続きのNatのソロ、これはもうMilesそのもの、瓜二つ状態、兄がMilesのバンドに在籍していたのもあり影響を受強くけているのでしょうが。本作レコーディング時はまだ「Someday My 〜」はリリースされていませんでしたが、Milesのライブやコンサート、旧作でのプレイから自ずと吸収していたのでしょう。続くCannonnballのソロには男の色気と余裕、ユーモアを感じ、ここでも僕自身はうっとりとさせられてしまいます!ピアノソロ後再びMilesの登場、いや(汗)、Natのテーマ奏で締め括られます。

9曲目The Masquerade Is Overは切なさを表現したバラード、切々と訴えかける歌唱にホーンが加わらず、本作中唯一ピアノトリオだけをバックにした演奏で、彼女のネイキッドの魅力を引き出しました。エンディングは感極まったシャウトを聴くことが出来ます。

10曲目Sam JoneのオリジナルUnit 7、Cannonball Bandのテーマソングとしても知られ、本演奏が初演となります。よく練られた構成とメロディからJonesの代表曲に挙げられますが、他にもBlues for Amos, Seven Mindsといった名曲を書いています。ソロの先発はCannonnball、切り込み隊長は果敢に立ち向かい、スインギーでグルーヴィー、迫力ある素晴らしい演奏を聴かせます。サビの細かいコード進行では案の定手練れの者を演じていますが、Cannonball自身のオリジナルである「Cannonball Adderley Quintet in Chicago」収録Wabashも、半音進行から成るⅡーⅤの連続部分では巧みにアプローチしており、大きく豪快に歌うソロの中にも繊細さを盛り込むことが出来る、バランスの取れたプレイヤーなのです。Nat, Zawinullとソロは続きラストテーマへ。

11曲目はHarold Arlenの名曲A Sleepin’ Bee、魅力的な佳曲です。ピアノのイントロの後、ベースとボーカル二人で演奏が始まりドラム、ホーン、ピアノと加わります。Nancy屈託のない明瞭な発声による歌唱で曲の持つムードを表現します。Cannonballはメロディを交えながらこちらもスインギーなソロを展開します。それにしても楽器を見事に鳴らしていますね!サブトーンと上の音域とが全てイーヴンです。ラストはイントロと同様にベースと二人になり、Jonesがエンディングを締め括ります。

2020.06.28 Sun

Captain Marvel / Stan Getz

今回はStan Getz1972年3月録音のリーダー作「Captain Marvel」を取り上げてみましょう。Billy Strayhorn作のバラード1曲を除き、全曲Chick Coreaのオリジナルを取り上げ、至高のメンバーと素晴らしい演奏を繰り広げています。

Recorded: March 3, 1972. A&R Studios, New York City Label: Columbia Producer: Stan Getz

ts)Stan Getz electric piano)Chick Corea b)Stanley Clarke ds)Tony Williams perc)Airto Moreira

1)La Fiesta 2)Five Hundred Miles High 3)Captain Marvel 4)Times Lie 5)Lush Life 6)Day Waves

ジャケット表面
ジャケット裏面

Getzの伝記「Stan Getz / A Life in Jazz: Donald L. Magginースタン・ゲッツ―音楽を生きる―村上春樹訳」によると、この作品録音の少し前、彼は生活が荒れて体調も優れない日々が続いていたようです。レジェンド・ジャズミュージシャンの伝記はその数だけ世の中に出回っていますが、Getzの場合も御多分に漏れず出版されており、日本ではジャズ通として名高い作家、村上春樹氏が翻訳を手掛け、微に入り細に入り的確な表現で読むことが出来ます。熱心なGetzファンの方ならこの本をご存知の事でしょう、ひょっとしたら座右の書にして彼の音楽的歩みを紐解きながら作品を鑑賞しているかも知れません。実は僕はその一人なのですが、前後作品との関連性と成り立ち、ミュージシャンやレコード会社とそのスタッフとの関わり、Getz自身の思い、家族との葛藤や愛情を辿りながら彼の作品を聴く事は、新たな発見や種明かしにも通じて、Getzの音楽を知る上での実に楽しい行為の一つです。それにしてもよくもこれだけ生々しく赤裸々に、全てを曝け出すように人生を吐露出来るのか、詳細に述べられている記述、Miles Davisの自伝の時もそうでしたが本人の驚異的な記憶力、また綿密な周囲へのリサーチ、事実関係の確認には頭が下がります。

神からの授かり物のようなあの美しいテナーサックスの音色、誰よりも表情豊かな演奏、完璧なタイム感とクリエイティヴなインプロヴィゼーション、聴く者を真善美の世界へと誘う創造性を全面に掲げたStan Getzですが、実は私生活は同一人物の行いとは想像できないほど真逆の世界なのです。ジキル博士とハイド氏、過度の飲酒行為に端を発する酒乱癖から(この頃はより症状が劣悪なドラッグ禍からは脱していましたが…)、家族に暴言を吐く、暴力を振るうGetzに対し、妻がこっそりと服用させていたアンタビュース(抗酒癖剤〜アルコール依存症で飲酒を控える必要がある人に対し、断酒を目的として処方される薬。少量の飲酒で動悸、吐き気、頭痛等の不快感を覚える)が功を奏し、71年末酒量は適度なレベルに落ち着き、69年末の危機的状況から肉体的にも芸術的にも回復を遂げていました。

本作レコーディングの少し前、GetzはNew Yorkの高名なレストランRainbow Grillとの間で好条件の出演契約を結び、72年1月3日から演奏が開始されることになっていたので、当時滞在していたLondonを引き払い自宅のあるNew York Shadow Brookに戻るべく準備をしていました。その時Londonの街角でばったりとChick Coreaに出会ったのですが、彼とは67年3月録音の名盤「Sweet Rain」で見事なコラボレーションを遂げた間柄です。Coreaはこの頃一時的に、言わば仕事にあぶれた状態だったので、Getzの姿が救世主に見えたかも知れません、彼に対し自分が作曲中の幾つかの曲について熱く語り、また一緒に演奏したいと考えている二人のNew Yorkのミュージシャンについてもその素晴らしさ説きました。Coreaの熱心さはGetzの心を動かし、新曲を完成させるようにと困窮しているCoreaに金銭的援助を施し、12月後半にその仲間を連れてShadow Brookに来るように、そこでリハーサルをしようと決めたのでした。ストレスによる飲酒行為から離れた、クリーンな状態のGetzはまさしく彼のテナーサックスのサウンドと同様の、思慮深く知的で他人を思いやる心に満ちた紳士なのです。ちょうど欧州を離れる前にGetzは5年連続でSonny Rollinsを破って<ダウンビート>誌の人気投票で首位に輝いた事を知りました。時代の波はGetzに向かっていたのです。

CoreaがGetzの自宅に連れてきたのはStanley ClarkeとAirto Moreiraの二人で、Coreaを含めるとピアノトリオが出来上がり、そこにGetzを加えたカルテットで自分の曲を演奏するという目論見があったのでしょう。Clarkeは70年にHorace Silverのバンドで演奏しているところをCoreaに見染められ、MoreiraはMiles Davis Bandでの共演仲間でした。GetzはCoreaの新曲を大変気に入りました。「 Sweet Rain」収録とは異なり、今回用意されたナンバーは曲自体の構成もより明確に、メッセージ色が強くなり、またスパニッシュのムードをたたえた斬新なコンセプトから成ります。Clarkeのベースプレイにも感心しましたが、Moreiraのパーカッショニストとしての実力は認めたものの、ドラマーとしての伴奏能力には物足りなさを覚えたので、レコーディングに際して名ドラマーTony Williamsを起用し、Moreiraはバンドのパーカッシヴな領域を広げる役に配して対応することにしました。TonyはGetzの演奏に確実に寄り添う形で、しかも驚異的なセンスとパワーを兼ね備えたドラミングを披露し、MoreiraはTonyを補強しつつよりカラーリングする役割を担当、Clarkeのベースともコンビネーションの良さを聴かせ、結果この采配は大成功となりました。このメンバーでのRainbow Grillでの演奏は大変な評判を呼び、彼ら自身もCoreaのオリジナルという新鮮な素材を文字通りグリルし、じっくりと煮詰めて行くことが出来たので、レコーディングへの良いリハーサルとなりました。

それでは演奏に触れて行きたいと思います。1曲目はCoreaの書いた名曲中の名曲La Fiesta、本作録音のちょうど1ヶ月後の2月2〜3日、レコーディング・スタジオも全く同じNYC A&Rスタジオにて彼の代表作「Return to Forever」が録音されましたが、レコードのSide Bにおいて組曲形式でLa Fiestaを再録音しています。Coreaはやはり全曲エレクトリック・ピアノを弾き、サックス奏者にJoe Farrell、パーカッションを担当していたMoreiraがドラムの椅子に座り、そのMoreiraの奥方Flora Purimがボーカルを担当、Tonyのドラムは参加せず5人編成の演奏で、70年代を代表するアルバムが録音されたのです。以降作品タイトルReturn to Foreverをバンド名とし、メンバーチェンジを繰り返しながらギタリストを加えたり様々な編成にトライしつつ、次第にエレクトリック色が濃くなり、精力的な活動で計11作をリリースして。

Fender Rhodesによるイントロに導かれベース、ドラム、パーカッションが同時に加わりますがこの時点でリズミックなテンションが炸裂しています。Moreiraにパーカッションを演奏させたGetzの目利きにまず感心させられますが、様々な打楽器を駆使して繰り出すリズムの饗宴!Tonyにリズムの要、Getzの演奏への対応をほぼ一任し、Moreiraは細かい8分の6拍子を担当、リズムの祭り(Fiesta)を華やかに演じます!裏メロと思しきラインをCoreaが弾き、被るようにGetzによる主旋律が登場します。1ヶ月後の「Return to Forever」でのJoe Farrellによる演奏はソプラノサックスによるもの、こちらも実によく耳にしたメロディ奏なので違いがはっきりと伝わって来ますが、Getz特有のくぐもったハスキーな音色は奥行きを感じさせ、名曲は如何様にしても異なった魅力を発揮すると再認識しました。幾つかのメロディセクションから成るこの曲の、場面毎のリズムセクションのダイナミクス付け、グルーヴの変化に繊細さと大胆さを感じますし、Clarkeの変幻自在なベースラインの見事さには天賦の才を見せつけられました!スパニッシュ・モードから成るソロセクション、こちらはCoreaの歴代オリジナルに用いられていたパートの発展形と言えます。「Now He Sings, Now He Sobs」収録のSteps – What Was、「Sweet Rain」収録のWindows、両曲で部分的に聴かれていたスパニッシュ・モードを大胆に、全面に押し出し、結果その代表曲となり、そして同年10月に録音された「Lght as a Feather」収録、Coreaの代表曲にして傑作ナンバーSpainへと繋がって行きます。

前半序奏部Getzはムード作りに細かいライン、テクニックを用い場を温めて行きます。とは言え曲自体の持つテンションが高いのでリズム隊のポテンシャルは一触即発状態ですが!Coreaのバッキングは付かず離れずをキープしつつ、全くバッキングを行わない場面も設けながらGetzを泳がせているのですが、いつもとは異なる斬新なアプローチを聴かせる彼の演奏にどうバイト(噛み付く)するかを虎視淡々と狙っています!3’23″頃からソロの佳境に入ったのを察知しまさしく第二楽章に突入、3’29″からのCoreaのバッキング、3’46″からテナーの低音域でのメロディ奏、一転して4’03″からオクターヴ上げてのメロディに対し、Corea果敢にして大胆にバッキングを施し、Tonyも場面作りに賛同するが如くアプローチします!次なる異なったセクションに全くスムースに突入出来るのは、Rainbow Grillでのギグを重ねた結果に他ならないでしょう。Clarke, Tonyの「えっ?ここまでやっちゃうの?」と言う次元の伴奏にはリスナーとして姿勢を正し、背筋を伸ばして正座しながら音楽に対峙しなければなりません(笑)!続くCoreaのソロの凄まじい事と言ったら!Getzのフィーヴァーぶり(死語ですね)を受け継いだのですからこれは致し方ない事ですが(笑)、フリージャズの世界に突入せんばかりの勢いは、思わず70年頃に彼の率いていたバンドCircleでの演奏を思い出しました。

Anthony Braxton, Corea, Dave Holland, Barry AltschulによるCircleのパリでのライブ盤

リズムセクションはCoreaと一丸となってグルーヴを共有し盛り上がっています。時間的制約のないRainbow Grillのライブではさらに物凄い事になっていたのでしょうが。ラストテーマでもリズム隊はメロディラインや曲の構成を更にデコレーションを施すべく、聴いていて笑いが出る程に巧みにアンサンブルして行きます!エンディングはゼンマイ仕掛けの猿の人形、両手で派手に叩くシンバルが次第にゆっくりに成るが如く、リタルダンドしてFineです。

本作録音の頃Getzは20年間在籍していたVerve Recordを離れ、より良い条件のColumbia Recordに移籍するべく交渉を行っていましたが、スムーズにはまとまらず、その結果アルバムの発売は3年近く遅れることになり、発売権も米国内市場ではColumbiaが、以外の海外市場ではVerveが発売権利を持つややこしい事態となりました。本作が録音順で「Return to Forever」よりも先にリリースされていれば、La FiestaはGetzヴァージョンの方がポピュラー、定番になっていたに違いありません。個人的には演奏内容はこちらの方に軍配が上がると信じているだけに、些か残念な話です。

2曲目のFive Hundred Miles High、エレクトリック・ピアノが弾くテーマ・メロディのルパートがイントロとなり、リズムを提示し曲が始まります。Even 8thのリズムで哀愁を感じさせるメロディ、Coreaにしては比較的シンプルなオリジナルですがよく練られた構成のナンバーです。Getzのメロディ奏は的を得ていて、ソロも実に巧みです!50年代〜60年代のスタイルとは全く異なる、変化を遂げているのを実感しました。ソロの3コーラス目から倍のグルーヴ、サンバにチェンジしますが4コーラス目3’04″から、Tonyの煽り方の凄まじい事!かつて僕が在籍していたドラマー日野元彦(トコ)さんのバンド、音楽としてはフュージョンを演奏していましたが、ここでのTonyの演奏をトコさんずいぶんと研究した節が窺われます。ソロイストに寄り添い、フォローしつつ、様子を伺い隙なく一瞬を捉えて違う次元に演奏をワープさせるが如きドラミング、二人は同じコンセプトをたたえたドラマーでした。随所に聴かれるMoreiraのパーカッションは様々な色合いを感じさせ、爽快感を覚えます。Coreaのソロでもサンバのリズムが聴かれますが、テナーソロ時とはまた異なった音が鳴り響いています。Clarkeのベースソロは超絶で饒舌はありますが、必然性と意外性を旗頭に自身の歌を聴かせています。ラストテーマに入る前のTonyのバスドラ、カッコイイですね!ラストテーマで所々に演奏中表出したサンバが出るあたりもニクイです!それにしてもTonyとClarkeの相性の良さを痛感しますが、Tonyのラスト作になった95年12月録音「Wildernesss」、彼自身の作曲になるストリングス・オーケストラの演奏もフィーチャーした意欲作ですが参加メンバーがオールスターズ、Michael Brecker, Pat Metheny, Herbie Hancock, そしてStanley Clarke!二人のコラボは長年に渡り継続していたようです。

3曲目は表題曲Captain Marvel、リズミックなテーマとサンバのリズム、ラテンのmontunoのパターンが組み合わされたユニークなナンバー、こういった曲を収録するのであれば尚更の事、パーカッションが必要になって来ますね。リズム隊のコンビネーションが心地よく聴こえますが、曲のコード進行や構成のハードルがかなり高く設定されているようで、アドリブを発展させるのはなかなか難しいようです。比較的あっさりと演奏され、コンパクトにまとめられた感があります。03年にリリースされたCDにはこの曲の別テイクが収録されていますが幾分テンポが早めに設定され、Getz, Coreaも全く違ったアプローチを聴かせています。

4曲目Times Lieはワルツで始まり、3拍を4拍子に捉えたサンバにリズム・モジュレーションする構成のナンバー。パーカッションの味付けが巧みです。Coreaの演奏が軸となり、印象的かつ難易度が高そうなシンコペーションのメロディがアクセントで入り、再度演奏後にテナーソロ開始、場を活性化させるべくリズミックなアプローチにトライしており、ここでもCoreaのバッキングの付かず離れず感が印象的です。次第に収束に向かい、冒頭のワルツに戻るという、ストーリー仕立ての演奏です。最後はゆったりとしたラテンのリズムになり、なし崩し的にFineです。

5曲目はBilly Strayhornの名曲Lush Life、Getzはバラードの名手でもありますし、時期限定で取り上げる曲のチョイスが素敵です。バースはルパートで始まり、エレピとアルコが伴奏を努めます。テーマからインテンポでTonyがブラシを携え参加しますが既に倍テンポの様相を呈しており、いきなりスティックが登場して一瞬スイングのリズムになりますが、すぐさまリタルダンド、演奏終了です。ちなみにTonyのバラード演奏でブラシを一切使わず初めからスティックを用いて行われているのが、76年録音作品「I’m Old Fashioned : Sadao Watanabe with the Great Jazz Trio」に収録されている、同じくStrayhorn作Chelsea Bridge です。外連味のないストレートな演奏に仕上がっていますが、印象的なナンバーです。

6曲目はラストを飾るDay Waves、こちらもEven 8thのリズム、テーマでダイナミクスが強調されています。Getzが吹くラインで倍テンポが決まりますが、構成がやや平坦なきらいがあり、他の曲でも倍テンポチェンジは行われているので、何が何でも倍テンにせずにじっと元のリズムでステイして、アプローチするのも良かったと思うのですが。ピアノ、ベースとソロが行われ、ラストテーマもGetzダイナミクスを思いっきり強調してFineです。

2020.06.17 Wed

Milagro / Alan Pasqua

今回はピアニストAlan Pasquaの1993年初リーダー作「Milagro」を取り上げてみましょう。Jack DeJohnette, Dave Hollandらの素晴らしいリズムセクションにMichael Breckerがゲスト参加、名曲揃いのオリジナルで盛り上がり、時にユニークな楽器構成のホーン・アンサンブルも加えて美しく荘厳な世界を作り上げています。

Recorded on October 10 and 11, 1993, at Sound on Sound, New York City.

Produced by Ralph Simon. Associate Producer: Joe Barbaria. Executive Producer: Sibyl R. Golden.

p)Alan Pasqua b)Dave Holland ds)Jack DeJohnette ts)Michael Brecker french horn)John Clark tp, flg)Willie Olenick alt-fl)Roger Rosenberg tb, btb)Jack Schatz bcl)Dave Tofani

1)Acoma 2)Rio Grande 3)A Sleeping Child 4)The Law of Diminishing Returns 5)Twilight 6)All of You 7)Milagro 8)L’Inverno 9)Heartland 10)I’ll Take You Home Again, Kathleen(For My Kathleen)

Alan Pasquaは1952年6月28日New Jersey生まれ。Indiana UniversityとNew England Conservatory of Musicで学び、レジェンド・ピアニストであるJaki Byardにも師事したそうです。彼のプレイの根底にあるものはJazzであり、Tony Williams, Peter Erskine(現在も共演は継続中、Peterとは学生時代の仲間だそうです), Allan Holdsworthたち錚々たるジャズマンとの共演は当然の流れによるものですが、Bob Dylan, Carlos Santana, Cher, Michael Buble, Joe Walsh, Pat Benatar, Rick Springfield, John Fogerty, Ray Charles, Aretha Franklin, Elton Johnら世界的大御所ポップ、ロック・ミュージシャンのバンドで全世界ツアーを重ねています。またJohn Williams, Quincy Jones, Dave Grusin, Jerry Goldsmith, Henry Manciniら名アレンジャーともコラボレーションを重ね、Disneyの映画音楽、CBS Evening Newsのテーマ音楽を手掛けるなど、Show Businessの世界でも八面六臂の活躍ぶりです。音楽的な幅の広さが為せる技以外の何物でもありませんが、彼にとってみればジャンルやフィールドは関係なく、良い演奏、表現をする事だけが全てなのだと思います。ミュージシャンとして全世界を駆け巡っている以上様々な体験をしているはずですが、その中でも近年の特筆すべき経歴として、2017年Bob Dylanのノーベル文学賞受賞に際しての講演(受賞講演が受賞にあたって唯一の条件で、授賞式2016年12月10日から6カ月以内に行わなければならない)は録音されたもので行われましたが、その際にPasquaがソロピアノ演奏を行ったそうです。Pasquaには大御所たちにアピールする音楽的な何かがあり、彼と一緒に演奏したい、メンバーに留めて置きたいと感じさせる魅力に溢れているのでしょう。41歳にしての初リーダー作録音は大御所ミュージシャンから引く手数多ゆえ、なかなか自己表現にまで手が回らなかったからでしょうか。

この作品ではJack DeJohnette, Dave Hollandとのトリオ演奏を中核として、他にフレンチホルン、トランペット&フリューゲルホルン、アルトフルート、バスクラリネットから成る、比較的弱音の管楽器を用いてのアンサンブルが4曲収録されていますが、ここでイメージさせられるのがHerbie Hancockの68年録音リーダー作「Speak Like a Child」です。この作品では同様にアルト・フルート、フリューゲルホルン、バストロンボーンの3管編成が、斬新にして深淵、柔らかさとふくよかさが半端ないアンサンブルを聴かせており、Hancockのピアノプレイをとことんバックアップし、サウンドを立体的に浮かび上がらせています。ピアノトリオ演奏を他の楽器を用いて映えさせる手立てとして、例えばトランペット、サックス、トロンボーンによるトラッドなアンサンブルではエッジが立ち過ぎてピアノの演奏を打ち消す、埋もれさせてしまうでしょうし、ストリングス・セクションではバラード等のゆっくりとした曲にはむしろうってつけですが、テンポのある演奏には切れ味がどうしても鈍くなる傾向にあります。Hancockのシャープでスピード感のある演奏には管楽器の音の立ち上がりを持ってして丁度良く、そこで楽器編成に工夫を重ね、凝らした結果が「Speak Like ~」での管楽器構成になったのだと推測しています。とあるピアニストが「 Speak Like ~」はピアノトリオを自己表現の媒体とするプレーヤーにとって、ある種理想の形態だと発言していましたが、まさしく言い得て妙だと思います。

それでは収録曲に触れて行きましょう、2曲を除き全てPasquaのオリジナルになります。1曲目Acoma、ピアノトリオでの演奏です。美しい音色で奏でられる印象派的イントロ、そこにベースやドラムが次第に加わります。テンポを設定しつつ曲が始まりますがピアノタッチの素晴らしさに惹きつけられてしまいます!演奏をアピールするためには楽器の音色(ねいろ)は最重要項目だと改めて実感しました。端正な8分音符とグルーヴ感、ベース、ドラムスとのコンビネーション、インタープレイ、三者の一体感、Dominant 7thコードでのフレージングの巧みさ、百戦錬磨のツワモノを印象付けます。ソロは次第に終息に向け着陸態勢を取り、無事にランディング、続くベーシストの出番のために場を刷新した感があります。Hollandのソロのこれまた素晴らしいこと!安定感とスポンテーニアスな歌い回し、楽器が上手いのは至極当然なのですが、テクニックとは自分の歌を歌うための単なる手段に過ぎない事を、これまた改めて感じました。DeJohnetteの巧みなサポート、カラーリング、抜群のセンスで繰り出されるフィルイン、フレーズの数々は自然体という言葉が全く相応しく、ジャズ史上誰よりも1拍が長い演奏にトリオ全員が呼応し、両者「がっぷり四つ」ならぬ三者「がっぷり六つ」状態となりました(爆)。

2曲目Rio Grande、イーヴン8thのリズム、タイトル通りの雄大なイメージ(スペイン語で大きな川の意味)を感じさせます。本作中最も演奏者数の多い曲で、ソロイストにMichael Breckerを迎え、4管からなるアンサンブルが参加しています。長い音符の多いテーマをダイナミクスを交え、朗々と吹くMichael、DeJohnetteのタム系でのアクセント付けの絶妙さ。ソロの先発はピアノ、ボトム感が半端ないスペーシーさを保ちつつ、現れるホーン・アンサンブルの美しさ、ゴージャスさ、ピアノサウンドとの見事な一体感、Pasquaの狙いはBingoです!と同時にドラムが的確にフィルを入れ、場が活性化されて行きます。テナーソロに受け継がれ、やはりスペーシーに音楽が進行しつつ、間も無く再びアンサンブルが加わりますが、このサウンドに呼応してMichaelのプレイが変化し始めます。ラインが細かくなりインサイドからアウトサイドに、音域も広がり、自身は周りで鳴っている音を柔軟に全て受け入れ、いずれにも可能な限り呼応すべく門戸を全開にしようと試みているようにも、感じられます。そしてそして、これらの事象に果敢に立ち向かうかのように、音空間を創り上げるDeJohnetteのドラムプレイ!音楽を真摯にクリエイトしていますが、余裕とさり気に遊び心を保ち、達人たちを巻き込んでの音の饗宴は華々しく挙行され、悠久の流れをたたえる大きな川は今日も水源San Juan山地に発し、Mexico湾に注いでいます。

3曲目ピアノトリオによるA Sleeping Child、タイトルからもイメージされますが可愛らしさを湛えたワルツナンバーで、透徹な美学に貫かれた佳曲です。テーマ〜ソロをPasquaは音を愛おしむように一音一音、気持ちを込めて弾いているのが伝わってきますが、自分の子供へ捧げたナンバーなのかも知れません。Chick Coreaのテイストを感じさせる瞬間も幾つか確認できます。Hollandのソロは曲のイメージに相応しいクリアネスを保ちつつ、ディープな音色を携えて歌い上げています。DeJohnetteが叩く全ての音符に意味があり、サウンドし、ソロイストに対する呼応は高度な音楽性を伴ってのインタープレイとなりました。

4曲目Michaelを迎えてカルテットで演奏されるThe Law of Diminishing Returns、これは!!タイトルもですが物凄い曲!そして壮絶な演奏です!タイトルは経済学用語で「収穫逓減」を意味するらしいですが、意味はよく分かりません(汗)。テーマの構成は複数のフラグメントが組み合わされつつ複雑に入り組み、しかし事も無げに同時進行し、完璧なバランス感がキープされつつ実にスリリングに演奏されます。要となるのはDeJohnetteのドラム、各フラグメントの接着剤となるべく巧みなフィルインの連続、間違いなくこの人の存在なくしては楽曲は成り立たなかったでしょう!ソロの先発はPasqua、曲が凄けりゃ演奏は更に物凄いとばかりに集中力と繊細さと大胆さを武器に、百戦錬磨のツワモノたちDeJohnetteとHollandをパートナーに究極の共同作業を行います!う〜ん、素晴らしいです!でも、え?終わりですか?もっと聴きたい!と言う腹八分目のところでMichaelのソロになります。彼のゲスト参加での傾向の一つとして、リーダーのソロが自分の前に行なわれた場合、リーダーの演奏を立ててそこでの盛り上がり以上にはならないように、抑制を効かせる場合があります。2曲目Rio Grandeでは若干その傾向がありましたが、こちらではどうでしょう、Pasquaの幾分抑えめのソロ終了時にメッセージで「Go ahead, Mike!」とオペレーションの指示があったようです(笑)。ピアノソロのイメージを受け継ぎ、Michael助走を始めます。リズムセクションにサポートされつつHop, Step, Jumpと飛翔を遂げますが、DeJohnetteの一触即発体制でのレスポンスが堪りません!決して定形での対処ではなく、極めて不定形での自然発生的な呼応の数々、そしてPasquaのバッキングも緻密さを前面に出しつつ、ドラムの呼応に被ることを決してせず、異なる切り口からMichaelのソロをプッシュし続けます!と言うことで共演者の大いなる支援を得て(笑)、Michaelフリーキーにイってます!!その後のソロコーラスを用いてのドラムソロ、いや〜ヤバイくらいにカッコ良いです!ここでのDeJohnette, Hollandとの共演の手応えが同メンバーにPat Metheny, McCoy Tyner, Joey Calderazzo, Don Aliasを加えたMichael1996年リリースの傑作「Tales From the Hudson」へと繋がって行きます。エンディングでのDeJohnette、まだ曲が続くと勘違いしたのでしょうか、珍しく中途半端な終わり方をしています(汗)

5曲目Twilightは再びアンサンブルが活躍、ここでは3管編成を加えた演奏になります。アルトフルートを吹くRoger Rosenbergは本来バリトンサックス奏者ですが、マルチリード・プレイヤー、スタジオ・ミュージシャンとしても活躍しています。Michael Breckerとは高校時代のご学友、Michaelの初レコーディング(!)にあたる「Ramblerney ’66」の裏ジャケットに17歳のMichaelとRosenbergそしてRichie Coleも写真に収まっています。

Roger Rosenberg, Barry Lewis, Richie Cole, Mike Brecker, Lou Markowitz, Walter Kross

ホーンの響きと楽曲のムードが見事にマッチした佳曲、Hollandのベースがフィーチャーされます。ここでのPasquaのバッキングは危ないですね(笑)!ハーモニーのセンス、フレージング、コードが入るポイントが普通ではありません。この人のバッキングはあまりソロイストに付けることをせず、自分のペースでバッキングを行いますが、不思議と邪魔をせずサウンドし、付かず離れずを徹底させていると思います。続くピアノソロも同一のテイストを継続させ、ほど良きところでアンサンブルが加わります。ピアニスト冥利に尽きる演奏となりました。

6曲目スタンダードナンバーでCole Porter作の名曲All of You、比較的早めのテンポが設定されています。コードのリハーモナイズ感、フィルイン、アドリブラインの独特さ、DeJohnette, Hollandの目も覚めるような伴奏により、この曲のまた別な名演が誕生しました。Hollandのソロも素晴らしいです!それにしてもDeJohnetteは曲想によって演奏アプローチ、叩き方をどうしてこうも見事に変えることが出来るのでしょうか?これ以上は考えられないという程の的確さにいつもシビれてしまいます!

7曲目表題曲Milagro、ベースのイントロから曲が始まり、南欧を思わせるピアノとベースのユニゾン・メロディ、サウンドに4管から成る重厚なアンサンブルが加わり、クラシックの交響曲のごとき神聖で厳かな世界が訪れます!この時点で音楽に感動、そして感動です!何と美しい楽曲でしょう!そしてDeJohnetteのカラーリングがあまりにハマり過ぎています!Pasquaはロック・ポップスの大御所たちとのギグに長年惚けていた訳では決してありませんでした(笑)!自己の表現すべき音楽をずっと模索し、表出する機会を虎視眈々と狙っていたに違いありません。ピアノソロが前面的にフィーチャーされますが、欧州的サウンドとDeJohnetteのドラミングからKeith Jarrett Trioの演奏を感じさせる瞬間がありました。Milagroとはスペイン語で奇跡、Pasquaは音楽で奇跡を起こしたのです!

8曲目再びMichaelを迎えL’Inverno、ピアノイントロ後で聴こえる高音域のテナーサックスの音色が一瞬何の楽器だろう?と考えてしまいました。美しいバラードですがこの曲も一筋縄ではいかないナンバーです。ベースソロが先発、豊かな木の音がベーシストとしての本領をいつもわきまえている事を感じさせます。続くMichaelのソロには神秘的なまでに美しい世界を構築していますが、ピアノのバッキングに身を委ね、イマジネーションをフル回転させ、Pasquaのサウンドに同化しつつ、しかし自己のテイストも表現しようとするアーティスティックさも感じました。もちろんDeJohnette, Hollandの包容力あるサポートがあってのことですが。

9曲目Heartlandは3管編成によるアンサンブルを活かしたナンバーですが、シンプルなメロディに付けられた相反するが如きハイパーなコードと、ホーンのアンサンブルのハーモニーがヤバ過ぎです!ところが最後にトニック・コードにストンと落ち着く辺りの絶妙さは、ちょっとこれ、ありえへんレベルとちゃいまっか?… なぜか関西弁になってしまうほどのインパクトです!(爆)。イントロやインタールードでフルートを吹くRosenbergのフィルインが聴かれ、アンサンブルでのバストロンボーンが重厚さをアピールします。まずピアノソロがフィーチャーされますがリアル「Speak Like a Child」状態、ホーンアンサンブルが実に心地よいのですが、ベース、ドラムのインタープレイも凄まじいまでの主張を聴かせます。Pasquaのソロはリリカルで知的、かつ気持ち良く演奏している様が伺えます。続くベースソロも攻めまくっていますが、曲の持つムードとコード進行、ピアノソロ時のトリオのコンビネーション、アンサンブルの重厚さなどがHollandのスインガー魂を刺激した結果なのでしょう。

10曲目I’ll Take You Home Again, Kathleen(For My Kathleen)は作品のエピローグとして、愛する奥方でしょうか?捧げられた演奏になります。古い米国のポピュラーソング、Elvis Presleyの歌唱で知られているようです。

2020.06.10 Wed

Triple Threat / Jimmy Heath

今回はテナーサックス奏者Jimmy Heath 1962年録音のリーダー作「Triple Threat」を取り上げて見ましょう。佳曲揃いのオリジナルと3管編成のアレンジが光った作品に仕上がっています。

Recorded: January 4 & 7, 1962 at Plaza Sound Studios, New York City Produced by Orrin Keepnews Label: Riverside / RLP 400

ts)Jimmy Heath tp)Freddie Hubbard French Horn)Julius Watkins p)Cedar Walton b)Percy Heath ds)Albert “Tootie” Heath

1)Gemini 2)Bruh Slim 3)Goodbye 4)Dew and Mud 5)Make Someone Happy 6)The More I See You 7)Prospecting

Jimmy Heathは1926年10月25日数多くのジャズマンを輩出したPhiladelphia生まれ、家族全員が音楽家という環境で育ちました。本作参加のベーシストPercyは長兄、ドラマーAlbertは弟でHeath三兄弟として名高く、同じくPhiladelphia出身のピアニストStanley Cowellを加えたカルテット編成で、The Heath Brothersとしてもパーマネントに活動し、75年作品「Marchin’ On!」を皮切りに計10作をリリースしました。兄弟、親子関係でバンドを組む、共演するミュージシャンは多く、同じ屋根の下で寝食を共にし価値観を共有したゆえに音楽的嗜好、センス、そしてタイム感、グルーヴが似る傾向があると思います。Heath兄弟も多分に漏れません。やはり同世代で大活躍したHank, Thad, ElvinのJones三兄弟の場合は、三者三様の全く違う音楽性や卓越した個性ゆえに例外的な存在かも知れませんが、ジャズシーン第一線で活躍し続けた各々の楽器のエキスパートと言う点では、同じ立ち位置にいました。

The Heath Brothers 75年作品「Martin’ On」

Jimmyはテナーサックス奏者であると同時に優れたコンポーザー、アレンジャーでもあります。彼の魅力的なオリジナルは他のジャズマンにも好んで取り上げられ、Miles Davis66年録音作品「Miles Smiles」でGinger Bread Boyを、53年録音「Miles Davis Vol.1」、Lee Morgan57年録音「Candy」、時代はグッと新しくなり93年Chick Corea Elektric Band Ⅱ「Paint the World」でC. T. A.が演奏されています。

アレンジャーとしては56年10月26日録音Chet Bakerのリーダー作「Chet Baker Big Band」(実際にはフルバンドよりも人数の少ないビッグコンボ編成)で3曲素晴らしいアレンジを提供し(Art Pepprのリードアルトが実に美しいです!)、間髪を入れず今度はコンポーザー / アレンジャーとしての手腕を存分に発揮し、5日後の同月31日Chet BakerとArt Pepperの共同名義コンボ作品「Playboys」に本人不参加にも関わらず収録7曲中5曲彼のオリジナルが取り上げられ録音、テナーサックスにPhil Ursoを加えた3管編成による重厚でオシャレなアンサンブルを書いています。因みにこちらでもC. T. A.が演奏されています。

50年代以降のテナーサックス奏者の多くは演奏の他に作曲の才能も開花させています。John Coltrane然り、Benny Golson, Sonny Rollins, Wayne Shorter, Joe Henderson…彼らの演奏スタイルとテナーの音色、ライティングは見事に一致し三位一体、濃密なこれらは切っても切り離せない関係にあります。Jimmy Heathの作曲の才も彼ら歴史に名を連ねるテナータイタン達のそれに十分並び称されますし、3管編成〜ビッグバンドのアレンジにも素晴らしいセンスを発揮しています。ソロプレイでの押しの強さに加えてそこに作曲・アレンジと同等のセンス、音色の魅力がアピール出来たのなら、よりジャズ界に君臨していた事でしょう。

Heath Brothers以外のメンバー、まずFreddie Hubbardの本作全篇に渡る絶好調ぶりは特筆すべきです!当時の彼は60年にOrnette Coleman、61年John Coltraneとの共演を果たし、62年からLee Morganの後釜としてArt Blakey & the Jazz Messengersに参加しており、サイドマンとして十二分に実力を発揮できる経験を積んでおり、ブリリアントでジャジーな音色、正確無比でグルーヴィーなタイム感、迸るアイデア満載のインプロヴィゼーションは聴く者を魅了してやみません。ジャズには珍しいFrench Horn奏者のJulius Watkinsは40年代末から70年にかけて、実に多くの作品に参加しアンサンブルはもちろん、難易度の高い楽器を巧みに駆使し味わいあるソロを聴かせました。ピアニストCedar Waltonも当時すでにJazz Messengersの一員、それまでにもKenny Dorhamのバンド、ColtraneのGiant Steps初テイクセッションやArt Farmer & Benny Golson the Jazztetに参加し、頭角を表していました。

それでは演奏に触れていきたいと思います。1曲目はJimmyのオリジナルGemini、フレンチホルンとベースによる印象的なイントロに導かれピアノトリオによる3拍子のイントロが始まります。メロディをフレンチホルンが演奏し、トランペットとテナーがコール&レスポンス状態で受け答えます。ホーンのジャジーなアンサンブルが緻密で美しいです。Hubbardの先発ソロ、オープニングに相応しい切り口と華麗でブリリアントなサウンドで掴みを良しとしました。対旋律が施されたセカンドリフ後テナーソロは、同年生まれのColtraneのテイストがどうしても頭を過るのかも知れません、フレージングの端々に影響を感じさせます。その後のWatkinsのソロは、朴訥とした中にMilesのミュート・トランペットのような味わいを感じさせます。その後のリフはまた異なったセクションから成り、斬新でスリリングなラインから改めて彼のペンの巧みさを感じます。ピアノソロに続きラストテーマへ、曲の構成や的確なアンサンブルを聴かせたオープニング・ナンバーは作品の雰囲気を決定付けました。

2曲目もJimmyのオリジナルBruh Slim、こちらもジャズフレーヴァー満載の佳曲です!Ginger Bread Boyのメロディをどこか感じさせるイントロ、リズムセクションとメロディのシンコペーションを共有しつつ、テーマでは歯切れ良く重厚なアンサンブルを聴かせ、テナーソロに入ります。シングルタンギングによるイーヴンな8分音符、テンションノートを要所に織り込みつつブロウします。良く言えば優等生的アプローチ、ですがジャズマンに要求される予定調和ではない弾けた意外性も聴きたいところではあります。続くトランペットソロは対照的にホットでチャレンジャブル、エネルギッシュな演奏を聴かせます。彼らの対比がこういったアンサンブルを挟んだ短いアドリブの応酬を中心にしたプレイには、むしろ効果的かも知れません。ピアノソロを経てラストテーマへ、3管編成のハーモニーはトップにトランペット、フレンチホルンが第2声、テナーが低音部を担当しています。

3曲目Goodbyeは作曲家Gordon Jenkinsによる、The Benny Goodman Orchestraのクロージング・テーマに用いられていたナンバーです。Goodmanは50年以上もこの曲を気に入ってコンサートの締めに演奏し続けました。哀愁を帯びたメロディから成るこの曲はJimmy自身をフィーチャーしています。イントロではフレンチホルンがリードを取り、まろやかで繊細なハーモニーが鳴っており、アレンジ采配の妙を感じます。テーマからソロ中にテナーも参加したアンサンブルが聴かれます。トランペットのソロが続きますが流石バラード表現に不可欠な音量の大小が的確で、イマジネーションに富んだプレイを聴かせています。少し間があってからピアノソロに入り、ラストテーマでテナーのカデンツァが演奏されFineです。

4曲目JimmyのナンバーDew and Mud、1コーラスのドラムソロからイントロが始まるブルースナンバーです。この曲でもJimmyのホーン・ハーモニー・ライティングと管楽器の用い方はマトを得ており、サウンドを熟知したアレンジャー然としたものを感じます。テナーが先発ソロ、本作中最もホットなテイストを感じさせる演奏です。Watkinsのソロが続き、意表を突くメロディラインを用いたセカンドリフの後、これまたトランペットが場面を刷新するが如き入り方を用いたソロ、カッコいいですね!ファンキーなテイストのピアノソロを経て、ラストテーマへ。エンディングのキメもグッドです!

5曲目スタンダードナンバーからMake Someone Happy、テナーをフィーチャーしたカルテット演奏になります。ベースのイントロからメロディのシンコペーションを活かしたキメを辿りつつ、リズミックに曲が進行します。テナーソロはここでもイーヴンな音符を全面に掲げつつ展開、ピアノにもソロが回りますがコンパクトに演奏を纏めました。

6曲目同じくリーダーをフィーチャーしたスタンダードナンバーThe More I See You、アレンジ面では曲の雰囲気や構成を緻密に捉え、繊細さを伴いつつ大胆にかつ華麗にサウンドを構築するJimmyですが、自身のテナー奏ではそうは行かないようです(汗)。前曲とのソロ演奏の差異を感じるのが困難な状態で、ワンホーンによるテナーフィーチャーはどちらか1曲で十分であったと思います。

7曲目ラストを飾るのはJimmyのナンバーからProspecting、ベースソロの後に始まる3管のカッコいいハーモニーを耳にすると正直ホットした気持ちになります(汗)。リズムセクションのキメに呼応するホーン・セクション、こちらも佳曲です。テナーソロ後のトランペットは小気味好くスインギーで、イマジネーション豊かなフレーズを、素晴らしいタイム感と共にソロ空間に散りばめています。ピアノ、ベースとソロが続きラストテーマを迎え無事Fineです!

2020.05.28 Thu

Hear & Now / Don Cherry

今回はトランペット奏者Don Cherryの77年リリース作品「Hear & Now」を取り上げてみましょう。Cherryのエスニック音楽と当時全盛だったフュージョン・ミュージックとの融合。共演者には時代の最先端ミュージシャンを揃え、摩訶不思議ですが深遠な世界を構築しています。

Recorded and mixed at Electric Lady Studios, New York City. Recorded: December, 1976 Mixed: January, 1977 Engineer: Dave Whitman Project coordinator: Raymond Silva Produced by Narada Michael Walden

tp, bells, conch shell, fl, vo)Don Cherry ts)Michael Brecker sitar)Collin Walcott tamboura)Moki Cherry g)Stan Samole, Ronald Dean Miller harp)Lois Colin key)Cliff Carter p, timpani, tom tom)Narada Michael Walden b)Marcus Miller, Neil Jason ds)Tony Williams, Lenny White, Steve Jordan congas)Sammy Figueroa per)Raphael Cruz vo)Cheryl Alexander, Patty Scialfa

インド風のエスニックなジャケットが印象的です。
菩薩坐像のように結跏趺坐の吉祥座で座り、宙に浮いています!

まずはDon Cherryのバイオグラフィーを簡単に紐解いてみましょう。36年11月Oklahoma出身、ほどなくLos Angeles, Californiaに移り、音楽一家の中で育ちました。高校の同級生にはBilly Higginsがいますが、彼とは後に歴史的作品でも共演することになります。50年代初頭にはピアニストとして(!)Art Farmerの伴奏も務めました。Clifford BrownがLAに来訪の際には、Eric Dolphyの家で(!)Brownとジャムセッションに興じたそうで、Brownは彼に一目置き面倒を見ていたようです。Cherryのトランペット・スタイルはこのBrownを筆頭にMiles Davis, Fats Navarro, Harry Edisonの影響を感じさせる、実はオーソドックスな王道を行くものであります。

Cherryが世に出るきっかけとなったのはOrnette Colemanのバンドに加入し、作品に参加したことに始まります。Ornetteバンドでの初レコーディングは「Something Else!!!!」(58年2, 3月)、Ornetteの初リーダー作でもあります。

そして60年12月、かの歴史的問題作「Free Jazz」のレコーディングに参加します。ステレオの左右に分かれたダブル・カルテットと言う編成も大変ユニークです。

発表当時には、それはそれはセンセーショナルな作品として、喧々諤々と論議を巻き起こしましたが、現代の耳ではかなり穏やかに聴こえ、喧騒や難解さを遥かに通り越してむしろ演奏を楽しむことが出来ます。演奏中ずっとインテンポ(ここが大切なポイントです!ルパートやノーテンポではこの手のサウンドの場合、途端に演奏が耳に入り辛くなります)で自由な即興を繰り広げていますが、明らかに互いを良く聴きつつの会話に徹し、要所に入るOrnetteの書いたメロディがアンサンブル引き締めています。参加ホーン・プレーヤーEric Dolphy, Freddie Hubbard, OrnetteそしてCherryの4人はいずれも自己の素晴らしいヴォイスを有し(各々音色がヤバイほどに素晴らしいです!)、各自の確固たるメッセージを発信しています。Charlie Haden, Scott LaFaroふたりのベーシストの(信じられないほどの美しい組み合わせです!)深遠な音色とビート、同時に演奏されるソロの役割分担とその多彩さ、スリリングさ。Billy Higgins, Ed Blackwellの決して音数がtoo muchにならずに繰り出すシンバル・レガートとフィルインのカラフルさ、そして豊かな伴奏感。ベースソロと同様に、ドラム二人同時ソロに於ける会話の能動、受動とその入れ替わり。これらから表現される音楽は明確な秩序に裏付けされたもので、もちろんBe Bopや Hard Bopではありませんが、もはやフリーなフォームのジャズには聴こえません。(10代の頃にジャズ喫茶で背伸びをして本作をリクエストした覚えがありますが、その時は全く理解不能でした!)。ここでの演奏の形態が以降、フリーか否かのスタイルを問わず、多くのジャズメンにどのように伝播し、展開して行ったのかを考えるのも面白いです。

「Free Jazz」録音を遡ること約半年、60年6, 7月、John Coltraneとのコ・リーダー・セッションである作品「The Avant-Garde」を録音しています。こちらもピアノレス・カルテットによる編成で、Haden, Blackwellをサイドマンに招き、選曲や内容はOrnetteの音楽性によるもので、CherryもOrnetteバンドでの如き演奏を聴かせています。要はOrnetteの代役としてのColtrane参加ですが、自己のスタイルを模索〜構築中の彼には自身の65年以降のフリーフォームのスタイルとは全く無縁で、当時の通常スタイルでのアプローチに徹しています。とは言え全体の演奏内容がその頃の諸作の音楽性とかけ離れていたからでしょう、リリースはColtraneがフリーに突入した66年まで先送りされました。

以降Cherryはフリージャズ旋風が吹き荒ぶ60年代をSonny Rollinsとの活動、またArchie Shepp, John Tchikaiから成るバンドNew York Contemporary Five、そしてAlbert Ayler, George Russell, Gato Barbieriらとの共演を通じ、決して旋風の風下には立たず、向かい風に対し果敢に乗り切りました。一つ感じるのは彼はフリーフォームの音楽を演奏してはいますが、フリーという形態を表現する上でどうしても前面に出がちなアグレッシヴさ、ハードさというパワーを駆使した演奏よりも、叙情性を掲げた演奏の方に重きを置く、言ってみれば「ロマンチック」「リリカル」な表現を信条とするフリージャズ・ミュージシャンと捉えています。この事が顕著に表れているのが78年録音作品「Codona」です。Cherryの他シタール、タブラ奏者Colin Walcott、パーカッション奏者Nana Vasconcelos、彼ら3人の頭文字を取ってバンド名、アルバム・タイトルが付けられました。Codona, Codona 2(80年), Codona 3(82年)と合計3作をリリースしましたが、いずれも美しい世界を表現しています。

時代は70年代に入り、60年代のベトナム戦争を筆頭とする混沌とした社会を反映したフリージャズの反動から、耳に心地よいサウンドが受け入れられクロスオーバー、そしてフュージョンへと移り変わって行きます。本作は卓越したドラマーとして、そして数々のヒット作をプロデュースしたNarada Michael Waldenをプロデューサーとして迎え、Cherryのユニークなオリジナルを中心に演奏しています。前述のCodonaに通ずるOne & Onlyな美の世界プラス、フュージョン、ハードロック、ファンク・サウンド。ここでの音楽が多くのオーディエンスに受け入れられるかと言えば難しいと思いますが、他の誰にもなし得ない世界を聴かせています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。曲によってドラマー、ベーシストが交替し、プロデューサーNarada自身がパーカッションやピアノ奏者として参加している場合もあります。1曲目はCherryのオリジナルMahakali、メンバーはドラムLenny White、ベースMarcus Miller、シタールColin Walcott、ティンパニNarada、キーボードCliff Carter、ギターStan Samole、そしてテナーサックスにMichael Brecker!彼の演奏がお目当てで本作を聴いた人もいると思いますが、僕もその一人です(笑)!録音された76年12月といえば楽器本体をSelmer Mark Ⅵ 14万番台Varitoneから6万7千番台へ、マウスピースをリフェイスされたOtto Link MasterからDouble Ring 6番に変えた直後です。Hal Galperの「Reach Out!」、Michael Franks「Sleeping Gypsy」両作とも同年11月録音で、70年代を代表するMichaelのトーンを堪能できます。

冒頭、効果音的にベルと念仏のような声、笛の音、シタール、タンブーラ、インド的なサウンド・エフェクト(SE)が満載です!そこにCherryのトランペットによるメロディが加わります。少し間をおいてMichaelのテナーも参加しますが、Cherryのサウンドやカラーを踏襲しつつ、次第にMichaelのテイストが主流となり、細かく複雑なテクニックを駆使し、しかしごく自然に、エグエグの音色で歌い上げます。その後被るように再びCherryが加わり、トランペットのメロディがきっかけとなってベース、ドラムがリズムを刻み始め、その後まるでミュージカルのオーヴァーチュアのような派手なヴァンプ、そしてSamoleがリードギターを担当しヘヴィ・メタル・ロックバンドの如きテーマ・メロディ!これはインドからいきなりメタルの本拠地英国にワープしましたね(笑)!トランペットソロは柔らかい音色で豊かなニュアンス、フリーブローイングMilesのテイストも感じさせつつ短めに終え、Michaelにバトンタッチしました。リズミックにタイトにソロを開始、2拍3連符で助走をつけ、高音域フラジオB音〜D音が確実にヒット連発したあたりでCherryが絡み、ソロ同時進行、Samoleのギターも乱入し、MarcusとWhiteのコンビとも絡み合ったところでテーマが再登場、おそらく全員で雄叫びをあげているようで、全く聴こえはしませんが、Naradaのティンパニもさぞかし暴れていることでしょう(爆)!Cherry, Michael, Samoleの3人が核となり、フェードアウトに向けて更にバーニング!

2曲目はCherryとSherab-Barry Bryantの共作によるナンバーUniversal Mother、ベースNeil Jason、ドラムSteve Jordan、キーボードCliff Carter、ギターStan Samoleらが核となり、ハープ Lois Colin、そしてCherryのナレーションとミュート・トランペットが加わります。JordanとJasonの繰り出すファンク・リズムの心地良いこと!Cherryのモノローグに様々な楽器が絡み合う形で音楽が進行します。

3曲目CherryのオリジナルKarmapa Chenno、コオロギの鳴き声のSEに始まり、Cherryの話し声、手拍子、パーカッションからリズムがスタートします。1曲目同様Lenny White, Marcus Millerのリズム隊にSammy Figueroa, Raphael Cruzのコンガ、パーカッションが加わり、より厚いグルーヴを聴かせます。Cherryのトランペット・ソロは伸びやかなテイストから、ハイノートも用いてアグレッシヴさも表現しようとしています。曲中何度か出てくる印象的なメロディは、女性コーラスとシンセサイザーのアンサンブルで演奏されます。ここでもSamoleの巧みなギターがフィーチャーされますが、George Bensonを彷彿とさせるクリアーなピッキングとラインが印象的です。その後パーカッション隊のソロ、そしてスティールドラムをイメージさせる、多分シンセサイザーによるメロディ、大勢の人間によるアプラウズ、再びCherryの朗々としたトランペットが登場しFade Outです。

4曲目以降はレコードのB面に該当し、1曲ごとの演奏時間が短くなり収録曲数が増えています。CaliforniaもCherryのオリジナル、波の音のSEからスタートしますが、幼少期を過ごしたCaliforniaの浜辺のイメージでしょうか。ここでのドラマーには何とTony Williamsが登場!同年6月録音のリーダー作「Million Dollar Legs」をリリースしたばかりで、ジャケ写にも表れていますが(笑)、脂が乗り切っておりベースJasonとパーカッション隊でこれまた素晴らしいグルーヴを聴かせています。メロウなトランペットのメロディとソロ、ギターとのユニゾンのメロディ、そしてこの曲でもSamoleに思う存分弾かせているのが、夏の陽射しの様な暑さを感じさせます。エンディングにも波の音のSEが入り、去り行く夏を思わせる仕立てになっているのでしょう。

5曲目Cherry作のBuddha’s Blues、曲想からするとBuddhaは随分とファンキーな方のようです(笑)、前曲と同じメンバーでの演奏になり、トランペット演奏の間にCherry自身のフルートがフィーチャーされていますが、いささかご愛嬌の次元です(笑)。Jasonの強力なスラップ、Tonyのヘヴィーなグルーヴ、Carterのピアノのタッチの素晴らしさ、Figueroa, Cruzのパーカション隊を含むリズムセクションのバックアップにサポートされ、CherryはエレクトリックMilesのようなテイストで演奏しています。

6曲目CherryのオリジナルEagle Eye、CherryのフルートとFigueroa、Cruzの3人だけで、1分に満たない短い演奏を聴かせます。

7曲目NaradaのオリジナルSurrender Rose、さすがの美しいナンバーです。彼は85年Aretha Franklinのアルバム「Who’s Zoomin’ Who」収録のナンバーFree Way of Loveへの楽曲提供と演奏を行い、グラミー賞最優秀楽曲賞に輝きました。John McLaughlin Mahavishnu Orchestraに在籍していた事もある超ド級ドラマーにして、メロディアスなコンポーザーでもあります。Narada自身がエレクトリック、アコースティック・ピアノ、そしてタムタムも演奏しています。ドラムJordan、ベースJason、Samoleのギター、Colinのハープ、女性コーラスまで加わり、Cherryのトランペット・プレイのスイートな面を上手く引き出していて、まるでHerb Alpertのような世界を表現しています!この曲が本作の1曲目に位置していても良かったのではと思うのは、Don Cherryがフュージョンを演奏しました、と明確に宣言できる内容を持っているからです。1曲目のMahakaliの演奏であまりにも強力におどろおどろしさを築いてしまい、作品のコンセプトがぼやけてしまったと感じています。

Aretha Franklin「Who’s Zoomin’ Who」

8曲目は3つのパートから成る組曲a.Journey of Milarepa、b.Shanti、c.The Ending Movement-Liberation。Jason, Jordanのリズムコンビにパーカッション隊、Samoleのギターが加わります。まずパーカッションとエレクトリック・ピアノのイントロからトランペットの演奏、次第にドラムのバスドラが加わりベース、ギターが参加し、Samoleにソロを取らせます。パーカッションとドラムのコンビネーションが実に心地よいですね。トランペットとギターが絡み合いながら曲が進行します。次第にリタルダンドを迎え、笛の音が聴こえ始めますが、インタールード的な部分、ここからがb.Shantiに該当するのでしょう。パーカッションの音に被ってドラムがリズムを刻み始め、ベース、ギター、キーボードが加わりトランペットのメロディが始まります。ここがc.The Ending Movement-Liberationに該当すると思われます。Samoleのオリジナルで、ギターのアルペジオに被りトランペットが高音を吹きFineです。

2020.05.18 Mon

Meru / Dick Oatts & Dave Santoro Quartet

今回はサックス奏者Dick Oattsとベース奏者Dave Santroのカルテットによる1996年作品「Meru」を取り上げたいと思います。

Recorded in Boston by Peter Kontrimas, May 1996 Produced by Sergio Veschi Label: Red

ts, ss)Dick Oatts b)Dave Santoro p)Bruce Barth ds)James (Jim) Oblan

1)Pale Blue 2)Creeper 3)Heckle and Jeckle 4)South Paw 5)Meru 6)Lasting Tribute 7)Osmosis 8)Leap of Faith

Dick Oattsは53年4月米国Iowa州Des Moines出身、父親の同じくサックス奏者Jack Oattsに影響を受けサックスを始め、高校卒業後ほどなくThad Jonesに招かれThe Thad Jones/Mel Lewis Orchestraに加入することになり、New Yorkに拠点を移します。Thad/Melで始めはテナーサックス奏者として、のちにリードアルト奏者として、その後Thad/Melを母体としたVanguard Jazz Orchestraの中心人物、同じくリードアルトとして活躍しています。リーダー、コ・リーダー作を20枚以上、Thad/MelとVanguard Jazz Orchestraを含めてやはり20作以上リリース、サイドマンとしても様々な作品に参加しています。譜面が超強い上にアドリブもバッチリ、彼がバンドにいる事により他のメンバーに刺激を与え、推進力になり得る高度な音楽性と人間的包容力、存在感を兼ね備えていますから、それは引く手数多です!

アルトサックス奏者として有名なOattsですが、本作では1曲ソプラノを吹く以外は全曲テナーサックスを吹いており、テナー奏者としてのOattsに焦点が当てられています。しかしながらCDジャケットにはアルトを吹いている写真が使われ、彼自身のThad/Melでのリードアルト奏者としてのイメージと重なり、本作もアルトサックスでの演奏と誤解を与えてしまいますが、細かい事には拘らない陽気なラテン系Italy, MilanoにあるレーベルRedからのリリースなので、これは致し方ないことかも知れません(汗)。

Dave Santoroは現在Berklee音楽院で教鞭を執っており、Steve Grossman, Bob Berg, Sal Nistico, Pepper Adams, John Scofield, Mick Goodrick, Mike Stern, Randy Westonとの共演歴があるベテラン・ベーシストです。代表作としてJerry Bergonzi, Adam Nussbaumとの93年ライブレコーディング・トリオ作品「Dave Santoro Trio」があります。

本作はOattsとSantoroが4曲づつ提供し、全曲二人のオリジナルから構成されていますが、Oattsは小気味よいほどに吹きまくり、リズムセクションと素晴らしい一体感、グルーヴを示した熱演を繰り広げています。あまり知られていない作品ですので、いわゆる隠れた名盤の部類に入るでしょう。ピアニストBruce Barthは58年9月California出身、10作以上のリーダー作をリリースする他、Bergonziのバンドのレギュラーとしても活動しています。ドラマーJim OblanはCDクレジットによれば本作がデビュー演奏になるようで、思い切りの良い清々しい演奏を聴かせていますが、残念ながらその他のバイオグラフィーを紐解く事は出来ませんでした。

それでは早速収録曲に触れて行きましょう。1曲目SantoroのナンバーPale Blue、速いテンポのスイングナンバーで、曲の傾向とコード進行の複雑さからJohn ColtraneのGiant Stepsをイメージします。それにしてもOattsの音色といったら!深みを感じさせるダークなテイスト、付帯音豊かな倍音が鳴り響き、「コーっ」という木管的な音が聴こえます。低音から高音域までイーヴンな統一感あるサウンド、コク、全てがバランス良くまとまり、ひとつの美的音塊として成立していて超好みな音色(ねいろ)です!!この音はアルトを主体としたサックス奏者のものではなく、テナーをメインとした奏者が出す極太系トーンに聴こえます。もしかして普段アルトをメインに吹いているにも関わらず、このテナーサウンドを出せているのかも知れませんが、とすれば全く身体の鳴り方が違うのでしょうね。16小節1コーラスのテーマは2ビート・フィールで始まり、すぐさまスイングへ、4人が繰り出すリズム、グルーヴが実に緻密に合わさり、絡み合い、高級なつづれ織りをイメージさせ、経(たて)糸の下に図案を置き=リズムセクションの奏でるビート、色糸、金銀糸の緯(よこ)糸が織り込まれている=フロントのソロ、の如しです。Oattsは張り巡らされたコード進行の包囲網を見事なほどに的確にくぐり抜け、あたかもシンプルなコード進行のスタンダード・ナンバーでの演奏の如きに、易々とストーリーを提示しながらリズムセクションを伴いホットに、クールに歌い上げています!続くBarthのピアノソロもOattsと遜色なく、いや、もしかしたらそれ以上のストーリーとインタープレイを提示しています!タイム感が素晴らしいですね!それもOblanの柔軟さが半端ないシンバルレガートと、Santoroの粘りあるベースラインとのコンビネーションが支えているからでしょう。そのSantoroの短いベースソロ後にラストテーマを迎え、オープニングに相応しい快演となりました!

2曲目もSantoroのナンバーでCreeper、60年代のBlue Note Labelの作品でよく耳にするリズム・パターンから成る曲ですが、コードのチェンジが尋常ではありません!敢えてそこには行かないだろう、と狙ってコード付けしたかのようなトリッキーさ、でも作為的ではない自然さと斬新さも感じます。Santoroの作曲のセンスには注目すべきでしょう。難易度のハードルを上げられたメンバーですが、まずOattsの辞書には難しい、とか手を焼く、と言った単語は記載されていないようで(爆)、実にクリエイティヴなソロを展開しています。レイドバック感と相反するフレージングのスピード感、Joe Henライクなテイスト、そう言えば音色とフレーズのこぶし回しが誰かに似ていると思ったら、Jerry Bergonziですね!音の質感に共通するものを感じます。実際二人の共演作があります。共同名義で09年「Saxology」(SteepleChase)

熱いツー・テナーのバトル演奏を期待しましたが、残念ながらOattsは全曲アルトを吹いています。しかしピアノレスの編成、加えて知的で高度な演奏を信条とする二人ゆえ、Lee Konitz ~ Warne Marshのメロディライン、サウンドを感じさせるLogicalなプレイとなりました。ちなみにベースはここでもSantoroが担当します。

次のソロイストに繋げるべくドラムの潔いフィルが聴かれ、ピアノも難しいコード進行を触媒としつつ、緻密なストーリーを展開し、様々なリズムのアプローチを用いてリズムセクションとのインタープレイを誘発します。続くベースソロもテクニカルでありますが、コンポーザーとしてのイメージを十二分に伝える事に成功しています。ラストテーマでのドラムのカラーリングは初めのテーマよりもずっと多彩に表現されていますが、ソロイストたちが繰り広げた演奏の充実ぶりが成せる技に違いありません。

3曲目はOattsのオリジナルHeckle and Jeckle、いきなり変態系のテーマです(笑)。ですが場面をリフレッシュさせる問答無用の説得力を感じます。曲のフォームはアップテンポのブルース進行、テーマ後はピアノがバッキングせずにサックストリオの演奏で突っ走ります!立て板に水、巧みなタンギングによるスインギーな8分音符を用いて繰り出されるフレーズは、実にスポンテニアスです!待ってました!とばかりに、弾くのを止めていたピアノのソロが始まります。テーマの変態さをしっかりと念頭に置き、これまた超絶アドリブを展開します。ベースソロを受け継ぎ、カラフルなドラムソロが本作Oblanの「Introducing」、とは感じさせない音楽な成熟度をアピールします。ラストテーマにも更に一捻りの変態系が待ち受けていました(笑)。

4曲目もOattsのナンバーでSouth Paw、陽気さの中に潜む危なさや毒気を感じさせる佳曲です。テーマは始めピアノレスで演奏され、途中からバッキングが効果的に加わります。ベース、ピアノとソロが続きOattsまでソロが回りますが、複雑なコード進行の曲を書いた当事者として、しかり”けじめ”のある演奏を行い、落とし前をつけています。その後曲のフォームの中でのドラムソロがあり、所々にアンサンブルが入るため緊張感が持続しつつ、ラストテーマへ。

5曲目Santoroのナンバーで表題曲Meru、ユニークなドラムのイントロからテナーとデュオによるテーマ、一転してアップテンポのスイングへ、これまた哀愁に満ちたメロディとコード感、タイトルナンバーにふさわしいムードを持った曲です。Barthも快調に飛ばし、ポリリズムをふんだんに取り入れたスリリングな演奏を聴かせますが、一瞬の間がありここぞと言う所でOattsが入ってきます。リズム隊もOattsがどこまで自分たちを音楽的な高みに誘ってくれるのかを待ち望んでいるのでしょう、サックスソロに一触即発で盛り上がっています!この曲もコード進行が尋常ではない筈ですが巧みにソロを構築し、やはりほど良きところでドラムソロに突入します。強力な個性が有るわけではありませんが、イマジネーションを大胆に膨らませテクニカルで熱いソロを聴かせます。ラストテーマ、アウトロでの表現も曲想の自然な発展形です。

6曲目OattsのナンバーLasting Tribute、様々な要素を織り込んだ、しっとりと言うよりは雄弁さを感じさせるスローバラードです。メロディに対するリズムの仕掛けも効果的に設けられ、メリハリを感じさせます。テーマの後はピアノソロ、バラード時に表現すべき抑圧されたピアニシモでのアプローチの的確さが光っています。続くOattsのソロは高音域での音色の美しさを生かしつつ、リリカルに歌い上げています。明確にはラストテーマを提示せずにリタルダンド、テナーのカデンツァが聴かれ、楽器を上から振り下ろした風で一瞬オフマイクになり、アテンポでヴァンプが演奏されFineです。

7曲目8分の6拍子のリズムからなるSantoroのナンバーOsmosisは、ソプラノサックスとピアノのユニゾンによるテーマメロディが印象的な佳曲。OattsのソプラノといえばVanguard Jazz Orchestraのリード奏者での活躍ぶり、Groove Merchant他、彼なくしては演奏が成り立たない曲のサウンドが耳に残っています。ソロの先発はSantoto、テーマの8分の6拍子・リズムフィギュアを用いて流麗に歌い上げています。続くソプラノのソロ、おそらく録音に際してベル先端部分の成分を収録しておらず、キー上部の成分がメインの音色です。丸さが目立ち、個人的にはどちらかと言えば先端部の成分が配合された、よりエッジーなソプラノの音色が好みです。ソプラノの録音方法はアルトやテナーに比べると難しいと言われ、ベル先端部とキー上部の両方の成分が混ざり合うブレンド感が大切です。Oattsの流麗なソロの後Barthもイメージを引き継ぎつつ、後もう少しで壊れそうな瞬間を迎えますがラストテーマへ。

The Vanguard Jazz Orchestra / Thad Jones Legacy
99年録音、Groove Merchant収録

8曲目ラストを飾るのはOattsのナンバーでLeap of Fish。本作中最速の演奏、ドラムのイントロから始まる、長い音符を生かしたテーマとシンコペーションを伴う複雑なコード進行、これまた凝り懲りのオリジナルです!テーマ後一変してファスト・スイングへ、先発Barthのタイトでスピード感溢れるフレージングは本作の白眉の一つですが、リズムセクションはその後に続くOattsとのバーニングに備えて、余力を残しているかのように抑え目に聴こえます。案の定Oattsのソロはダイナミックな展開を見せ、必然性を伴いOblanのドラムとデュオへ!低音域のエグエグ感、まるでJewish系テナー奏者のモーダルなアプローチを聴かせ、しかもコンパクトにまとめられ実にカッコイイです!ドラムソロも柔らかさ、しなやかさを掲げつつ熱いジャズスピリットを聴かせます!ラストテーマの大きく、たっぷりとした感じが、それまでの細かなフレージングやインタープレイとの絶妙な対比となり豊かな音楽性を表現していると思います。

2020.05.12 Tue

Bluesy Burrell / Kenny Burrell with Coleman Hawkins

今回はギタリストKenny Burrell62年9月レコーディングのリーダー作「Bluesy Burrell」を取り上げたいと思います。名テナーサックス奏者Coleman Hawkinsが7曲中4曲フィーチャーされています。

Recorded: September 14, 1962 at Van Gelder Studios, Englewood Cliffs, NJ Label: Moodsville Producer: Ozzie Cadena

g)Kenny Burrell ts)Coleman Hawkins(tracks 1, 4, 5 & 7) p)Tommy Flanagan b)Major Holley ds)Eddie Locke congas)Ray Barretto

1)Tres Palabras 2)No More 3)Guilty 4)Montono Blues 5)I Thought About You 6)Out of This World 7)It’s Getting Dark

Kenny Burrellは31年7月生まれ、現在も精力的に音楽、教育活動を展開しているギター奏者です。リーダーアルバムを70作以上リリースしている多作家で、本作は彼の18作目に該当します。本Blog今年の1月に投稿したJoe Hendersonの「Canyon Lady」の際にも本作を紹介しましたが、冒頭ラテンの名曲Tres Palabras収録が共通し、演奏形態は全く異なりますがいずれも心に残る名演奏です。本作ではColeman Hawkinsをソロイストとしてフィーチャーしつつ、他の収録曲もソロギター、ギタートリオ、カルテット、コンガをフィーチャーした演奏、Major Holleyのスキャットなど、バラエティに富んだ作品でBurrellの代表作の一枚に挙げられます。

本作録音の1か月前、62年8月録音のHawkins作品「Hawkins! Alive! at the Village Gate」は彼のカルテット名演奏として誉れ高いライブ作品ですが、メンバーが本作と全く同じで、Burrellと曲によりコンガ奏者Ray Barrettoが参加した形になります。

ジャズ史において既存のバンドやメンバーにちゃっかりとヤドカリのように(笑)加わって、作品を録音した例は過去にもありますが、例えば以前Blogで紹介したDizzy Reeceの「Comin’ on!」でのArt Blakey & the Jazz Messengersのリズムセクション、Art Pepperの代表作「Meets the Rhythm Section」で当時のMiles Davis Quintetのリズムセクションの起用、Joe Hendersonと同じくMilesのリズムセクションだったWynton Kelly Trioとの共演作「Four」「Straight, No Chaser」の2作。既存のバンドのメンバー、しかも経験豊富にして高度な音楽的レベルを有するリズムセクションと、同じく優れたフロントが共演するのは往々にして功を奏し、レギュラーとは異なったテイストの演奏を展開します。違った個性同士がケミカルに作用するのでしょう。

Hawkinsは62年にこのカルテットのメンバーで他に4作、合計5作(!)の録音、リリースを行っています。1月録音「 Good Old Broadway」、3, 4月録音「The Jazz Version of No Strings」、4月録音「Coleman Hawkins Plays Make Someone Happy from Do Re Mi」、前述の8月録音「Hawkins! Alive! at the Village Gate」があり、9月録音「Today and Now」。同一メンバーで年間5作という多作を許されるのはリーダーは勿論、バンドの演奏も素晴らしいが故。ミュージシャンの人気、人望も必須ですが作品が売れ、レコード会社として採算が取れるからです。多くの作品をリリース出来たのは時代が良かったのもありますが、今では夢のような話です。

62年の録音Hawkins絡みの6作、ピアニストは全てTommy Flanaganという事になります。そしてBurrellにとってもFlanaganはファーストコール、お抱えピアニストとして数多くリーダー作に於いて彼を招き、共演しています。記念すべきファースト・アルバム56年5月録音「Introducing Kenny Burrell」からの付き合いです。

Flanaganには絶大な信頼をおいていたのでしょうし、彼もそれに応えるべく本作でも眩いばかりにキラキラと光るタッチと、スリルに富んだアドリブライン、バッキングを自由奔放に聴かせています。

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目Tres PalabrasはWithout Youという英語のタイトルが付けられたナンバー、その名の通り愛の唄ですね。Cuba出身の作曲家Osvaldo Farresのナンバーで、彼は他にもQuizás, Quizás, Quizásという名曲も書いています。Flanaganの弾く印象的なラテンのパターンからイントロが始まりますが、4拍目と1拍目に弾くベースのビートの力強さ、ドラムEddie Lockeはブラシを用い、Ray Barrettoが刻むクラーベのリズムと合わさり、ラテンのムードを醸し出しています。ジャズ屋のラテンですので(笑)、本職のラテンミュージシャンと異なり(彼らの8分音符は実にイーヴンです!)、8分音符がどうしても微妙にバウンスしています。味と言えば味なのですが。テーマはBurrellが奏でますが、実に音楽的です!微妙な強弱、ダイナミクスを伴い、細部に至るまで徹底した美学、歌心を感じさせます。それにしてもグッとくる美しいメロディですね!ソロの先発はFlanagan、イヤーこれまた素晴らしいアドリブです!まず感じるのは使う音のチョイス、そのセンスの良さです。緊張感を伴ったテンションの数々、そしてアドリブのストーリーを構築するにふさわしい、スパイスとなり得るラインの数々、メリハリの効いた様々な譜割から成るフレージングのバリエーション、巧みな歌い回しに聴き惚れてしまいます!Burrellのソロが比較的ダイアトニックで、コードに対してどちらかと言えばインサイドなアプローチが多いので、自分とは異なるFlanaganのプレイにさぞかし興味〜憧れ〜畏敬の念を抱いていた事でしょう。続くHawkinsのソロはまずテナーサックスの音色に惹かれます!ジャズテナーの開祖としての貫禄、風格を感じますが、一体こんな音はどうやったら出せるのかとも、考え込んでしまいます(汗)。ここではBenny GolsonやEddie “Lockjaw” Davisを感じさせるアプローチが聴かれますが、いや、出典はその逆でしたね!失礼しました!(笑)。Hawkinsの8分音符はCharlie Parker以前のスタイルなので、かなりイーヴンです。そういった意味ではラテンに向いているノリかも知れません。独特なラインの連続によるソロですが、深いビブラートとサブトーンを活かしつつ、豪快に歌い上げています。その後のギターソロは何処を切ってもBurrell印の巧みなソロ、正確なピッキングと端正な音符、おおらかな歌い方、ジャズギターの先駆者にして規範たるべき演奏です。ラストテーマに突入し、エンディングはイントロのパターンが再利用されます。

2曲目はスタンダード・ナンバーからNo More、Billie Holidayの名唱があります。2分弱の全編ソロギターでの演奏ですが、美しさと優雅さを感じさせ、巧みなコードワークが光っています。

3曲目もスタンダード・ナンバーGuilty、こちらはギタートリオでの演奏になります。ギターはイントロを含めた早い時点から倍テンポを感じさせる弾き方ですが、リズムセクションはバラードに近いミディアム・スロー感をキープ、テーマ後ソロに入りしっかり倍テン感をアピールし、ドラムが追従します。ベースは2ビートフィールですが、倍テンのグルーヴを感じさせるアプローチで対応しています。サビの最後はBurrell早弾きを披露し、ラストのAメロはリズム隊が次第にバラードに戻リ、コードワークが凝ったカデンツァを経てFineです。

4曲目はBurrell作曲のナンバーMontono Blues、先発にHolleyの登場です。ベースのアルコとハミングのユニゾンによるソロ、彼の十八番の奏法ですが何度聴いても素晴らしいですね!良い音です!Slam Stewartがこの奏法の先輩格にあたります。何とこの二人の共演作が2作あるのですが、文字通りダブルベースです(爆)!1作目は入手困難なので2作目の方をご紹介しましょう、81年録音「Shut Yo’ Mouth!」。Stewartの方はオクターブ高くハミングし、Holleyがベースと同じ音域でのハミングなのでその対比も面白く聴こえます。

続いてHawkinsのソロはリラクゼーションに満ちた語り口、スケールの大きさを感じます。この音色は間違いなくダブルリップ奏法による、ルーズなアンブシュアでなければ得られません!その後ギターとテナーのバトル、互いのフレーズを拾い合い、「おお、そう来たか、じゃあこんなのはどうだ?」的なカンバセーションを聴かせています。最後はFade OutでFineです。

5曲目はバラードI Thought About You、ユニークな構成による演奏です。冒頭Hawkinsのソロから始まり、テーマを演奏するのはBurrellのギターの方、Hawkinsはそのまま残って随所にオブリガードを入れていますが、Hawkinsのアプローチは一切原曲のメロディを感じさせないのが逆に新鮮です。テーマ後ソロは半コーラスHawkins、付帯音の権化のような深い音色、サブトーンの巧みさには楽器調整が完璧に為されている事まで伝わってきます!調整不足で何処かキーが空いていたら安定してサブトーンは出ず、自在にコントロール出来ませんから!その後ギターも半コーラス流麗にソロを取り、ラストテーマはHawkinsによる一瞬テーマのメロディを感じさせる風のプレイ、でもやはりBurrellが被さるようにテーマを演奏し、ラストはトニックを吹いたHawkinsにやはり被さり、Ⅳ-Ⅶ-Ⅲ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ-Ⅰと遠いコードから巡りルートに落ち着きました。それにしてもHawkinsはI Thought About Youのメロディを殆ど知らないのでは?とも演奏から感じましたが、録音前に「Hey, Bean(Hawkinsのニックネーム)、I Thought About You演奏するけどテーマ演奏して欲しいんだ」「Kenny, 悪いけど俺は全然知らないんだよ」「Really? じゃあ僕がテーマを弾くからオブリとソロを頼むね、コード進行は大丈夫かな?」「Yeah, 耳で感じ取るからさ」「OK, Bean!」のようなやり取りがあったと勝手に想像しています(爆)。

6曲目はスタンダード・ナンバーからOut of This World、ギター、ベース、ドラム、コンガのカルテット演奏です。小洒落たラテンのアレンジが粋な雰囲気です。ギターによるテーマ奏も肩肘張らないリラックスしたムードが曲調と良く合致しています。ブレークからソロに入り、ベースがスイングビートになりますが、ドラムとコンガはそのままラテンのリズムをキープしており、ユニークなグルーヴが展開されます。カルテットの筈でしたが、ピアノがバッキングでギターソロの途中から参加します。でも何故か途中で止めています。流麗でスインギーなギターソロが聴かれ、その後ギターとコンガの8小節バースが行われ、巧みなコンガソロが聴かれます。Barrettoはこの頃スタジオミュージシャンとして活躍し、Prestige, Blue Note, Riverside, Columbiaといった名門ジャズレーベルのハウス(お抱え)・パーカッション奏者として演奏していました。時代の先駆者はNew Yorkのラテンシーンの第一人者となり、その後は自ずと米国を代表するパーカッショニストとして、その名を轟かせる事になります。ラストテーマに突入し、エンディングのフェードアウト時に再びピアノがバッキングで加わっています。Flanaganに好きにやらせているBurrellも大物ですが、Flanaganは割と気まぐれなのでしょうか?(笑)

7曲目はBurrellのオリジナルIt’s Getting Dark、録音中に日が暮れて来たのでしょうね、きっと。フォームはブルースです。フルメンバーが揃い、ギターがブルージーなテーマを演奏します。ソロの先発をHawkinsが務め、スタイルとしてBopでもない、もちろんHard Bopのテイストは微塵もない、Swing?中間派?いえいえ、Coleman Hawkinsそのもの、の演奏を聴かせます。2番手はBurrell、Hawkinsの時とは一転してFlanaganがBurrellをバックアップすべく、リズミックなアプローチでサウンドを作ります。ギターソロの最後のフレーズを受け継ぎ、ピアノのソロが始まります。ここでもFlanaganはコードの奥に潜んでいる効果的な音使い、テンションを巧みに引き上げて用い、他とは違うテイストを聴かせています。ラストテーマは再びギターが演奏しますが、Hawkinsが離れた所からスネークインしてオブリを入れています。

2020.05.04 Mon

Stone Blue / Pat Martino

今回はギタリストPat Martino 98年録音のリーダー作「Stone Blue」を取り上げて行きましょう。全曲Martinoのオリジナルを素晴らしいメンバーと演奏した意欲作です。

Recorded: February 14 and 15, 1998 at Avatar Studios, NYC / Additional Recording on February 22 at Skylab Studio, NYC Label: Blue Note(BN 8530822) Produced by Michael Cuscuna & Pat Martino

g)Pat Martino ts)Eric Alexander key)Delmar Brown el.b)James Genus ds, per)Kenwood Dennard

1)Uptown Down 2)Stone Blue 3)With All the People 4)13 to Go 5)Boundaries 6)Never Say Goodbye 7)Mac Tough 8)Joyous Lake 9)Two Weighs Out

Pat Martinoは1944年8月Philadelphia生まれ、父親の影響で音楽に興味を持ち、12歳でギターを始め、早熟な彼はNew Yorkに移り住んでから15歳で既にプロ活動を開始しました。 Lloyd Price, Willis Jackson, Eric Kloss, Jack McDuffらと共演を重ね、67年5月22歳の若さで初リーダー作「El Hombre」を録音しました。

この時点で既にギターという楽器をとことんマスターしているのでしょう、正確無比でエッジーなピッキング、そこに由来する端正な8分音符、のちに比べれば比較的オーソドックスですが、それでもオリジナリティなラインの萌芽を十二分に感じさせるソロの方法論、アドリブにおける誰よりも長いフレージングとそのうねり具合、大きなリズムのノリ、レイドバック、スイング感、申し分のないニューカマーの登場です!多くの同世代、後輩ギタリストたちGeorge Benson, John Abercrombie, John Scofield, Mike Stern, Emily Remler, etc多大な影響を与えたカリスマ・ギタリストのひとりに位置します。また独創的なインプロビゼーションのライン、方法論について自身は「形式的なスケールを使うのではなく、いつも自分の旋律の本能に従って演奏してきた」と発言しており、形にとらわれないその天才ぶりを伺わせます。ところが76年に脳の病気を発症し、80年に脳動脈瘤手術を受け、手術自体は成功しましたが、音楽的キャリアの記憶を一切無くすと言う悲劇に見舞われました。復帰するためになんと全くのゼロからギターを演奏することを強いられたそうです。親族の支えなどがあり奇跡的に復活を遂げ、87年にライブ盤「The Return」をレコーディングしました。

発症前に12作をレコーディングしていますが、復帰にあたりさぞかしそれらを聴き返した事でしょう、全く他人の演奏に聴こえたかも知れません。自分の演奏を自らコピーして記憶の彼方にある断片と照らし合わせて、いや、もしかしたらそれすらも得られなかったかも知れません。知る由もありませんが、今までとは異なる演奏スタイルという選択肢にもトライしたかも知れません。しかし執念の一言に尽きるでしょうが、数年間のリハビリの末にかなりのレベルまで以前のPat Martinoを取り戻すことが出来たのです。

本作は復帰後に録音された作品ですが、収録されているMartinoのオリジナルはいずれもが佳曲、共演者もコンセプトに臨機応変に対応しています。もうひとりのフロント・ヴォイスであるテナーサックスEric Alexanderの参加がジャズ度を高めています。George Colemanのテイストを感じさせる、王道を行くテナーの音色はOtto Link Florida Metalマウスピースならではの発音、サウンドで、端正な8分音符からなるフレージングは安定したタイム感と合わさり、破綻を来す事が無い超安定走行です。彼とは2度ほど共演した事がありますが、ナイスでお茶目な人柄、長身でイケメンの風貌もあり、周りの取り巻きが放っておかず、本人もファンを大切にしているので、演奏後も彼らでずっと話し込んでいたのが印象的でした。James Genusはアコースティック・ベースも堪能でMichael Brecker Quartetでの超絶演奏も光りますが、本作ではFodera社製の6弦エレクトリック・ベースを縦横無尽に駆使し、素晴らしいサポートを聴かせます。GenusとはThe Brecker Brothers BandのBlue Note Tokyoライブ時に楽屋で話をした事があります。明るく気さくに受け答えをしてくれた、素朴な感じのあんちゃんでした(笑)。ドラマーKenwood Dennardとは2007年2月20日、NYC 43rdにあるTown Hallで行われたMichael Brecker Memorial、同年1月13日に逝去したMichaelのお別れの会、ここで僕が着席したミュージシャンズ・シートの隣に偶然居合わせました。ちなみに斜め向こうにはPeter Erskine夫妻が着席、その近くにはWill LeeやMike Mainieri、Pat Metheny、Herbie Hancock、Brad Mehldau、Mark Egan、Buster WilliamsやWayne Shorter、大野俊三氏の姿も…とざっと見まわしただけでも凄い数のミュージシャン、しかもジャズシーンの最先端ばかり!さすがMichael Breckerの「送る会」です!ステージ側からミュージシャン席の写真が撮られていたのならば、1958年Art Kaneがハーレムで撮影した有名なジャズミュージシャンの集合写真2007年版になるに違いありません!

「A Great Day in Harlem 1958」サックス奏者ではBenny Golson, Coleman Hawkins, Gerry Mulligan, Sonny Rollins, Lester Yougら錚々たるメンバーが!他の楽器奏者でもモダンジャズを代表するミュージシャンが計57人!

Dennardは遠くからこのお別れ会を目指して来たのでしょうか、大きな荷物を抱え、補聴器を付けていたのが印象的でした。さらにセレモニーが佳境に達した頃に、Herbie HancockとMichaelの遺族がステージに現れた仏壇に向かって(客席には背をむける形で)「NAM MYOHO RENGE KYO〜南無妙法蓮華経」と念仏を唱え始めると、彼も一心不乱に手を合わせてお経を唱え始めました!僕の周りの参列者も軒並み念仏を唱えているので、ここは一体何処?亡くなった方とお別れをするので当然と言えば当然なのですが、日本ではなくManhattanのど真ん中のはずなのに、と実に不思議な気持ちになった覚えがあります。米国では仏教もone of themなのでしょう。

それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目Uptown Down、随所にファンクが挿入されるアップテンポのスイングナンバー、メロディもキメもメチャクチャヒップでイケてます!うん、カッコイイ!これはエレクトリックベースの必然性を感じさせますね。ファンキーなテイストを掲げていますが曲の構成、音楽の構築感が半端なく実に理系です(笑)。0’41″の Martinoが弾いたコード、エグくて堪りません!テーマでのDennardのカラーリングのセンス、バッチリです! Genusのon top感がグーです!先発Martinoのソロ、ブレーク後半シングルノートの弾き伸ばしは作為的?偶発的?でしょうか、いずれにせよ椅子に座りながら聴いていていて思わず腰が浮いてしまいます!病に倒れる前の演奏クオリティに遜色ありませんが、唯一タイム感のルーズさは否めません、しかしラインの独創性には一層磨きが掛かっています!Delmar Brownのキーボードによるバッキングがこの演奏に支配的なサウンドをもたらしています!続くAlexandarのソロ、ブレークからキメています!リズム隊の完璧な着地によりピックアップ・ソロがいっそうキリリと引き締まっています!短いながらも巧みなストーリー展開で、サイドマンとしての役割、立場を踏まえつつ、しっかりとした主張を展開しています!いつものハードバッパー然としたアプローチに加え、曲想に合致したファンキーでホンカーライクなテイストが素晴らしい!その後ラストテーマには全く自然に、小気味好く突入しています。アルバムの冒頭にふさわしいキャッチーな楽曲に仕上がりました!

2曲目表題曲Stone BlueはMartinoが愛してやまないNYCに捧げられたオリジナル、実際の雑踏でのサウンドエフェクト(SE)が演奏に被って挿入されています。たっぷりとしたグルーブを持つ3拍子のファンクナンバー、Dennardのグルーヴは水を得た魚状態、ズッシリとしてスピード感が備わっています。SEは引き続き大胆に用いられギター、テナーソロをまさにその場で聴いて反応しているかの如きリアクションも聴かれます。テーマに引き続くパーカッションの鳴り響き方、狙っていますね!先発のギターソロに対するDennardのアプローチは実に音楽的、Martinoとは現在まで3作演奏を共にしていますが、音楽的テイストに共通するものを感じます。Alexanderのソロのバックでも同様に適確なリアクションを行い、巧みに盛り上げています。テナーソロの後ろで聴こえる高笑い、フリーキーにまで盛り上がった際のサイレンの音、フレーズにハマり過ぎですね!この曲でもキーボードが影のバンマス的にサウンドを彩っています。

3曲目With All the People、ギターのメロウなメロディとシンセサイザーが美しくイントロを奏で、一転してファンクのリズムで曲が始まります。いや〜、良い曲ですね、Martinoの音楽的ルーツに根ざしている旨、ライナーに自身が書いていますが、僕自身の音楽的ルーツにも全く同様で、The CrusadersやNative Sonのテイストを感じさせます。テーマ後ワンコードでソロが展開しますが、DennardとGenusがここぞとばかりにセンシティブに、かつ大胆に盛り上げて行きます。ワンコードでのアプローチ、実は最もリズム隊の手腕が問われる演奏形態だと思います。その後サビのコード進行ではスイングになり、メリハリを利かせています。ここでもキーボードがやはり裏方に徹してサウンドを提供していますが、ややラウドな傾向にあると感じます。引き続くテナーソロでは一層深遠なインタープレイ、グルーヴの一体感を聴かせ、ラストテーマ、エンディングはイントロに戻りフェードアウトです。

4曲目13 to Goのタイトル付けはレコーディング前日のリハーサルが13日の金曜日だったからそうです(笑)。重厚なグルーヴのスイング、ミディアム・テンポですがエレクトリックベースでの演奏だからでしょうか、軽さと捉えるべきか、軽快さとするべきか、アコースティックベースでの演奏とは趣が異なります。ユニークなメロディに引き続き先発はテナーソロ、豪快で巧みな演奏を聴かせますが、ある種の枠の中で演奏しているというか、箱庭の中でのデコレーションは上手いと感じるのですが、臨機応変に、より大胆なアプローチの違いが聴きたくなってしまいます。ギターソロに受け継ぎ、その後キーボードソロが初めて聴かれますがなんと大胆で壮絶なソロでしょう!サウンド・コーディネーター的立場のBrownが実はメンバー中もっともアグレッシブじゃあないですか!受けて立つDennardの暴れっぷりからもその凄まじさが伝わってきます!Genusはキープに回っていますがニヤニヤしながら演奏している顔つきが見えて来そうです!トリッキーなバンプを経てラストテーマに向かいます。

5曲目BoundariesはMartino自身が初めて作曲するタイプの楽曲だそうで、かなり凝った構成のファンク・チューンです。Dennardのドラミングが重要なファクターとなり、曲が進行します。先発のMartinoはシングルノートを駆使し独自のサウンド・ワールドをこれでもかとアピールしており、面目躍如の巻です!続くAlexanderのソロも本作中最もバーニング、ここまで弾けたプレイをするとは知りませんでした!Dennardとの丁々発止も聴きものです!エンディングも意外性があり、難曲を完成させた達成感がタイトルに表れています。

6曲目Never Say Goodbyeはレコーディングの少し前、97年12月2日に交通事故で亡くなった友人のロック・ギタリストMichael Hedgesに捧げられたナンバー、全編ギターとシンセサイザーのデュオで厳かに演奏されます。サウンドからHedgesの人柄を垣間見る事ができ、Martinoとの人間関係の深さも感じることが出来る美しい演奏です。

7曲目Mac Toughもヘビーなファンクのグルーヴが魅力のナンバー、ゴスペルライクなピアノのイントロからスタート、4度進行のコード進行も設けられ、ワンコードに対してのバランスが取られている構成です。先発ギターソロは曲想のファンキーさを踏まえながら、4度進行の部分では巧みなMartino節を披露しています。テナーソロのサブトーンを生かしたファンキーな節回しには、Stanley Turrentineを彷彿とさせるものを感じます。キーボードも短めのソロを繰り広げ、各人1コーラスづつの顔見世興行的演奏になりました。エンディングでのスポークンワードはBrownによるものでしょうか?

8曲目Joyous Lakeは病に倒れる前、最後の作品になった76年9月レコーディング「Joyous Lake」収録の表題曲です。Brown, Dennardのふたりも参加しているので再演になりますがJoyous Lakeはバンド名でもあり、Martinoが病に臥す事なく演奏を継続的に行えたら、レギュラーバンドとして活躍していたのでないかと思います。本作はJoyous Lakeの延長線上にあると言う事になります。フュージョンテイストを感じますが録音当時の時代のなせる技、今回テナーサックスを加えて演奏した事で、メロディラインがくっきりと浮かび上がり、名曲ぶりが一層冴えることになりました。演奏時間13分を越す本作中最長のテイクになります。初演より幾分テンポが遅く設定されており、Genusのベースラインの躍動感、 Dennardのグルーヴ、Brownのバッキングが実に気持ち良いです!随所にシンセサイザーでのSEが施されていて曲の雰囲気作りに大いに貢献しています。先発Martinoは存分に自分の唄を披露し、ラインの独自性を発揮しています。テーマメロディが美しいので、インタールードで何回か再利用されても全くくどくありません!続くAlexanderはスペーシーな導入からソロを開始、いつもの50~60年代のテイストから踏み出そうと、チャレンジしているようにも聴こえます。Brownのぶっ飛び系のアプローチはここでも冴えを聴かせ、Hancockライクなリズミックフレーズを繰り出しています。ラストテーマを経て曲想に相応しいエンディングを迎え、壮大なストーリーは大団円にて終了です。

76年録音「Joyous Lake」

9曲目ラストのナンバーのTwo Weighs Outは1曲目Uptown Downのテーマを超コンパクトにまとめ、異なるラインも付加したエピローグ的ナンバー。作品に統一感をもたらす手法の一つと言えましょう。ロックのミュージシャンが用いることが多いですが、ひょっとしたらUptown Downのテーマが2案あり、out takeとなったバージョンを元に再構築したものかも知れません。

2020.04.27 Mon

Captain Buckles / David “Fathead” Newman

今回はテナーサックス奏者David “Fathead” Newman、1970年録音の作品「Captain Buckles」を取り上げたいと思います。Ray Charles Bandで培われた音楽性が開花しています。

Recorded: November 3-5, 1970 Atlantic Recording Studios in NYC Producer: Joel Dorn Label: Cotillion

ts, as, fl)David “Fathead” Newman tp)Blue Mitchell g)Eric Gale b)Steve Novosel ds)Bernard Purdie

1)Captain Buckles 2)Joel’s Domain 3)Something 4)Blue Caper 5)The Clincher 6)I Didn’t Know What Time It Was 7)Negus

1933年2月Texas州生まれのNewman、幼い頃から音楽に携わり、最初にピアノを手がけ後にサックスに転向しました。彼のミドルネームFatheadは「まぬけ、バカ」と言う意味ですが、名前の由来は学生時代に遡り、当時あまり譜面の読めなかったNewmanが譜面台に逆さまに楽譜を置き、スーザ行進曲を暗譜で吹いている姿に憤慨した音楽教師が名付けたニックネームを、そのまま使用しているのだそうです(笑)。そんなアダ名をプロになってからも使い続けられるのは、きっと人柄の良い方なのでしょう。自身を揶揄する名前を冠する芸人、ミュージシャン、そうは数が多くありません。日本でも吉本興業所属のお笑い芸人「アホの坂田」こと坂田利夫氏くらいでしょうか(爆)。しかし彼の演奏、音楽性、サックスの音色は実に素晴らしくかつ個性的、むしろ自信の表れに違いないでしょう。かつてのバンマスRay Charlesをして、「歌を歌うようにサックスを吹けるのは彼しかいない」とまで言わしめました。サックス奏者、音楽家にとって最大級の賛辞の言葉ですが、50年代から60年代初頭にかけて10年以上Charlesのバンドに参加した事が、彼の音楽性に大きく影響を与えています。加入当初はバリトンサックスを演奏しましたが、前任者であったDon Wilkersonが退団し、テナーに持ち替えてCharlesのバンドのメインソロイストに昇格しました。他サックスにはHank Crawfordの名前も見られます。バンドは数多くのヒット曲をリリースし、その中でも名曲Unchain My Heart、Newmanのソロがフィーチャーされていますが、こちらは61年にヒットチャートの1位を記録しました。絶頂期のCharlesを支えたバンドの屋台骨としての存在、逆に言えばNewmanの演奏なくしてはRay Charlesの活躍ぶりは有り得なかったでしょう。58年11月にはCharlesがピアニストで参加した初リーダー作「Fathead: Ray Charles Presents David ‘Fathead’ Newman」を録音しています。3管編成による緻密でゴージャスなアレンジをベースに、意外にもストレートアヘッドなジャズ演奏を展開し、Charlesのバッキング、ソロも冴える、外連味のないアンサンブルを聴かせています。収録スタンダード・チューンWillow Weep for Meのアルトサックス・プレイも期待を裏切らず、堪らなく艶やかでセクシーです!出身地からしてそうですが、彼の演奏はいわゆるテキサス・テナー、ホンカーのテイストがルーツになります。Ray Charlesの寵愛を受け、彼の楽団での豊富な経験により、他では得る事の出来ない歌心を身に着け、カテゴリーの垣根をワンステップ超えた演奏を展開しています。

Ray Charles Band後にはHerbie Mann, Aretha Franklin, B.B. King, Joe Cocker, Dr. John, Jimmy Scott, Lou Rawlsらと共演し、伴奏の名手として、また歌伴に於ける4小節〜8小節の演奏、短くとも巧みな間奏の第一人者としての地位を確立しました。後年Natalie Coleの大ヒットアルバム「Unforgettable」にも参加し、収録曲Tenderlyでオブリガート、間奏を取っています。

Newmanの共演者にはソウル、ファンク系のプレイヤーが多く、演奏も次第にソウル、R&B色が濃く成りましたが、40作近い彼の作品中には殆ど必ずジャズ・ミュージシャンの名前がクレジットされ、ジャズ寄りのコンセプトを匂わせています。この一貫したテイストがNewmanのジャズへのリスペクトを感じさせるのです。本作にも名トランペッターBlue Mitchellが参加していますが、アンサンブル、ソロに個性を発揮し、オリジナル・ナンバーも1曲提供しています。ピアノ奏者は参加しておらず、ギタートリオが伴奏を務めていますが、ギタリストEric Galeは泣く子も黙る名うてのセッションマン、彼の存在が本作の音楽性を高めています。ベーシストSteve NovoselはRoland Kirkのバンドを皮切りに、こちらも様々なバンドで演奏を繰り広げました。ドラマーBernard Purdieもセッションドラマーとして鳴らし、King CurtisやAretha Franklinのバンドでも活躍、James Brownとも共演歴があり、こちらもソウルやR&Bのフィールドでの第一人者です。ちなみにThe Beatles初期の録音を21曲、Ringo Starrの替わりに叩いていると言う都市伝説がありますが、どうもマユツバものだそうです(汗)。

それでは演奏に触れて行きたいと思います。1曲目表題曲NewmanのオリジナルCaptain Buckles、いかにも60年代ジャズロック後を感じさせる雰囲気、グルーヴのナンバーです。Purdieのズッシリとしたドラミング(スネアの位置と音色が堪りません!)とNovoselのエレクトリック・ベース(音色がまさにこの頃です!)、 Galeの絶妙なカッティングと魅力的なトーンがブレンドし、70年代幕開けのビートを聴かせます。テナー、トランペットの2管のメロディは重厚なアンサンブルを織り成し、作品冒頭の掴みはこれで間違いなくオッケーです!テーマから続くソロ(テーマメロディとソロが被っているので、いずれかがオーヴァーダビングでしょう)の先発はNewmanのテナー、いやいやそれにしても凄い音色ですね、この人!メチャクチャ好みのタイプのサウンドです!いかにも硬いリード、オープニングの広いマウスピース使用のハードなセッティングを感じさせ、そしてシャウト、シャウト、グロウル、スクリーミング、壮絶なブローイングです!これは正統派ホンカー以外何者でもありません!8分音符のフィギュア、タンギング等が同じホンカー・テナーであるWilton Felderを感じさせますし、シャウト感にはWillis Jacksonを彷彿とさせるものがあります。受けて立つリズムセクションの対応も素晴らしく、ギターのカッティングのメリハリ、ベースとドラムのコンビネーションの巧みさ、そしてドラマー冥利につきるフィルインの数々!テナーソロ後はラストテーマ、コンパクトにクールに演奏をキメ終えました!

2曲目もNewman作のボサノバ・ナンバーJoel’s Domain、プロデューサーのJoel Dornに捧げたナンバーなのでしょう。メロディの曲想が62年7月録音Quincy Jonesの作品「Big Band Bossa Nova」収録のナンバー、名曲Soul Bossa Navaによく似ています。ちなみにそこでのフルート演奏はかのRoland Kirk、後年映画「Austin Powers」シリーズ一連のテーマ曲にも使われました。

Newmanはフルートを、Mitchellはミュート・トランペットでテーマを演奏します。先発はそのままMitchellから、間を生かした彼らしい演奏、フルートがソロのバックでメロディを吹き、引き続きソロになります。実はホンカーはフルートを基本的に吹かないのですが、彼の場合はその巧みなラインと鳴り切り感から特例で良しとしましょう(爆)。その後はあとテーマへ、アウトロでは一瞬フロントふたりのバトルが聴かれますが、すぐさまフェイドアウト、こちらもコンパクトな仕上がりになりました。

3曲目はThe Beatles、というよりもGeorge HarrisonのナンバーからSomething、Newmanはアルトに持ち替えて演奏しています。いや、はっきり言ってこれはヤバイですね、何という音色でしょう!!極太で艶やか、コクがあって付帯音が豊富、そしてニュアンスがとてつもなくセクシーです!深々としたビブラートはくどい表現になりがちですが、彼の場合は全くイヤミがなく、むしろもっともっと深くと、お願いしたいくらいです(笑)!テナー吹きのアルトは往々にして豪快、テナーの音色がそのまま高くなったアルトとテナーの中間の如き鳴りを聴かせます。Grover Washington, Jr.やKirk Whalum, Ernie Wattsしかり、でもNewmanはまた格別な色気を放っています!これぞRay Charles Magicなのでしょう、きっと。Newmanのアルトの独壇場で他の奏者のソロはありません。あっても単なる蛇足にしかならないでしょうが。曲の持つ雰囲気、メロディとNewmanの持ち味がブレンドし一体化した、美しい演奏だと思います。

4曲目はMitchellのオリジナルBlue Caper、カリプソのリズムのイントロが心地良く、サビが4度進行でスイングになる、いかにもMitchellらしい明るいハードバップ・テイストのナンバーです。リズム・グルーヴがジャズ屋の演奏するカリプソ&スイングではないので、新鮮さと同時に若干の違和感を感じます。先発ソロはMitchell、豊かな音色とジャジーな雰囲気は本作のスパイスと成り得ています。続くNewmanはフルートに持ち替え、やはり「鳴り捲り」のソロをこれでもか、と聴かせます。1コーラス目ベースが弾くのを止め、サビだけ演奏するのも効果的ですが、逆にその後のドラムソロに入っても弾き続けているのは、演奏上の約束事を反故にしたのでしょうか?、しばらく弾き続けた後の停止時に「アレッ?みんなどうしたのかな?」という声が聴こえてきそうです(笑)。短いPurdieのソロは皮モノ中心で行われ、ラストテーマに向かうために雰囲気を変える、有効な手段に成り得ました。エンディング最後にバスドラでワンフレーズ、ラテンのパターンをバスドラで叩いているのが面白いです。

5曲目NewmanのナンバーThe Clincherはマイナー調の佳曲、スイングのリズムでキメやホーンのアンサンブルが効果的に用いられ、テーマ時のドラムのカラーリングが的確です。ソロの先発はMitchell、抑揚のあるソロの構築はリアルジャズマンを感じさせます。続くNewmanのソロはサブトーンを効かせた低音域からスタート、重厚さが流石です!シングルタンギングを多用した8分音符がかなりイーブンです。フラジオ音を用いたシャウトのニュアンスや、ラインのアプローチにはここでもWilton Felderの類似性を感じますが共通のルーツがあるのか、互いに影響を与えているのかは、今後調べて行きたいと思います。ソロイストふたりに対するリズムセクション、特にドラムのシンコペーションを活かしたアプローチが巧みで、何度かシャッフルになりかけた瞬間がスリリングです。ラストテーマでフロントの同時進行ソロがしばらく聴かれますが、こちらもあいにくのフェイドアウトの巻でした。

6曲目はスタンダード・ナンバーからの選曲でI Didn’t Know What Time It Was、作品にスタンダードをほぼ必ず取り上げるのもやはりジャズ演奏への拘りからでしょう。再びアルトサックスに持ち替えて演奏していますが、これはSomethingの演奏より更にヤバイです!アウフタクトからいきなりテーマが始まり、その素晴らしい音色、ニュアンスを駆使して美の世界へと誘います。音域、曲調と音の張り具合の三つ巴状態、自分からは素晴らしいとしか言葉が出ません!テーマ後のアドリブ・ラインの巧みさ、流暢さは、普段からジャズ・プレイヤーとしての自覚をしっかりと持ち、インプロヴァイザーとしての精進を欠かさない真摯な姿勢を受け取ることが出来ました。こちらも一曲丸々Newmanの独壇場、更にカデンツァに於けるフレージングで、彼のジャズ・スピリットを再認識させられましたが、彼はソウル、R&B範疇のプレイヤーではなく、しっかりとジャズに腰を据えている表現者なのです。

7曲目ラストを飾るのはNewmanのオリジナルNegus、ベースの印象的なラインから曲が始まり、ファンキーなテイストのテーマが演奏されます。Purdieのドラミングが決め手となったグルーヴはダンサブルでもあります。ソロの先発はGaleのアコースティック・ギターから、本人いたって真面目なのでしょうがどこか津軽三味線を感じさせる音色です(爆)。短くリフが演奏された後にメロディを受け継いでNewmanのソロ開始、ハイテンションにいっそう拍車がかかった演奏は行くところまでとことん盛り上がって貰いたいという、リスナーの願望を叶えたクオリティにまでに到達してくれました!再びWillis Jacksonのスクリーミング・テイストも感じました。エンディングは残念ながらフェイドアウト、もっと聴きたかったです!

2020.04.19 Sun

Lullaby for a Monster / Dexter Gordon

今回はDexter Gordon1976年録音のリーダー作「Lullaby for a Monster」を取り上げたいと思います。Dexterには珍しいテナートリオ編成でのレコーディング、いつものようにマイペースではありますが、コード楽器不在が良い方向に作用した素晴らしい演奏を繰り広げています。

Recorded June 15, 1976 Copenhagen Denmark Recording Engineer: Freddy Hansson Producer: Nils Winther Label: SteepleChase

ts)Dexter Gordon b)Niels-Henning Ørsted Pedersen ds)Alex Riel

1)Nursery Blues 2)Lullaby for a Monster 3)On Green Dolphin Street 4)Good Bait 5)Born to Be Blue 6)Tanya

62年から76年まで足掛け14年間欧州在住で音楽活動を行ったDexter、本作はおそらく現地での最後の録音作品に該当すると思います。帰国後の彼は米国に留まらず世界中でブレークし華々しい活躍を遂げることになりますが、時代もジャズ・ヒーローを求めていたのでしょう、フュージョン・ブームのある種のリバウンドだったのかも知れません。豪快さと癒し、ジャズのリラクゼーションを堪能させるプレイ。彼は3回来日を果たしており、2度目の演奏を聴きましたが、その生演奏に触れる事が出来たのは貴重な体験でした。

彼の欧州でのレコーディング、共演のピアニストはTete MontoliuとKenny Drew二人の名手がほとんど、サウンドが素晴らしいピアニストとの共演がごく当たり前であったので、ここでのコード楽器不在はかなり新鮮であったに違いないでしょう。本作は初めからテナートリオとして録音されたのか、レコーディング当日にピアニストが来なかったために急遽3人で演奏したのか、定かではありませんが(メンバーのオリジナル等の選曲、構成を鑑みると、テナートリオ編成を最初から意識しているようにも見えます)、いずれにせよコード楽器奏者がいない分プラスに作用し、スペースが増えた分、リズムセクション〜ベーシストNiels- Henning Ørsted Pedersen、ドラマーAlex Riel、欧州を代表する二人〜が活躍し(Rielがこんなにも叩く人だとは思いませんでした!)、それにつられた、煽られた形でDexterがいつもよりも縦横無尽、存分に吹きまくっているのです。彼の作品で丸々テナートリオでのプレイは本作だけになると思いますが、他にコードレストリオでの作品をリリースしているテナー奏者と、その作品をざっとご紹介しておきましょう。いずれもテナートリオである必然性を感じさせる、素晴らしい作品です。テナー奏者はトリオ演奏時に本領を発揮出来るプレーヤーなのです。既に当Blogで紹介済みの作品もありますが、いずれ他も取り上げたいと思っています。

Sonny Rollins「Way Out West 」
Sonny Rollins, Ray Brown, Shelly Manne
John Coltrane「Lush Life」
John Coltrane, Earl May, Art Taylor
Joe Henderson「Barcelona」
Joe Henderson, Wayne Darling, Ed Soph
Joe Farrell「Puttin’ It Together (Elvin Jones)」
Joe Farrell, Jimmy Garrison, Elvin Jones
Steve Grossman「Live in Buenos Aires (Stone Alliance)」
Steve Grossman, Gene Perla, Don Alias
Jan Garbarek「StAR」
Jan Garbarek, Miroslav Vitous, Peter Erskine
Dave Liebman「Open Sky」
Dave Liebman, Frank Tusa, Bob Moses
John Klemmer「Nexus」
John Klemmer, Bob Magnusson, Carl Burnett
Branford Marsalis「The Dark Keys」
Branford Marsalis, Reginald Veal, Jeff “Tain” Watts
Joe Lovano「Remembrance (John Patitucci)」
Joe Lovano, John Patitucci, Brian Blade
Jerry Bergonzi「Open Architecture」
Jerry Bergonzi, JF Jenny-Clark, Daniel Humair
Ari Ambrose「United」
Ari Ambrose, Jay Anderson, Jeff Williams
Ralph Moore「Weaver of Dreams (Ben Riley)」
Ralph Moore, Buster Williams, Ben Riley
小田切一巳「神風特攻隊」
小田切一巳、山崎弘一、亀山賢一

余談ですが20歳の時、私が初めて購入したテナーサックスは中古の仏セルマー・マークⅥでした。その楽器の以前の所有者が小田切一巳さんだと、購入した石森楽器でオヤジさんが教えてくれ、小田切さんにご挨拶すべく演奏を聴きに行きました。シャイな方であまりお話はできませんでしたが、プレイは先鋭的、でも朴訥とした方で、暖かい人柄に触れられたように覚えています。

それでは本作の演奏に触れて行きましょう。1曲目DexterのオリジナルNursery Blues、冒頭「きらきら星」のメロディを引用したベースとテナーのユニゾンによるイントロが聴かれます。タイトルを直訳すると「子供部屋ブルース」でしょうか?、雰囲気はそのものですが曲のフォームは12小節のブルースではありません。ちなみに「伊勢佐木町ブルース」や「夜霧のブルース」もブルースフォームではありませんでしたね(笑)。16小節を1コーラスとしたコード進行で、Sonny Rollinsのオリジナル曲Doxyのコード進行が用いられています。さらに曲のオリジンを遡れば1918年、米国のピアニストで作曲家のBob Carletonが作曲した「Ja-Da」のコード進行が基になっているのです。テーマではPedersenが大活躍し、本作トリオ演奏の前途は明るいと宣言しているかのようです(笑)。テナーソロはまさしくlaid backの極み、ビートの最も際(きわ)に音符を載せており、背水の陣状態です(笑)。そして8分音符がかなりイーブンなのが興味深く、実はかのMiles Davisの8分音符もめちゃめちゃイーブンなのです。コーラスを重ね、演奏は次第に熱を帯び、Dexterいつになく16分音符フレーズのオンパレード!意外と16分音符はon topに位置する時があります。8分音符の超タイトさに比べ16分音符はさほどでもないのは、8分音符での演奏の方に重きを置いているからでしょう。普段聴かれないテクニカルなフレージングが随所に炸裂、もちろんオハコの引用フレーズの挿入も巧みになされています。RielがDexterの熱気に呼応しフィルインを連発しますが、カッコイイですね!RielはBen WebsterやJackie McLean, Art Farmer, Eddie “Lockjaw” Davis, Kenny Drewといった米国を代表するジャズプレーヤーと演奏活動を共にしましたが、自身はロックバンドも率いているためか、例えばPhilly Joe JonesやRoy Haynes, それこそElvin Jonesたちと比べるとグルーヴがイーブン、スクエアでDave WecklやSteve Gadd, Vinnie Colaiutaたちと基本的に同傾向なノリです。Pedersenも縦横無尽に様々なアプローチを駆使し、演奏に寄り添いつつ、煽りつつ、名手ぶりを聴かせますが、圧巻はやはり自身のソロ、早弾きを含めた確実な楽器のコントロールには全くブレを感じさせません。ラストテーマには再びきらきら星が用いられ、Fineです。

2曲目はタイトル曲、PedersenのオリジナルLullaby for a Monster、こちらにも可愛らしいタイトルが付けられていますが、曲は8分の6拍子を基本としたリズムで、構成やコード進行にも捻りが効いた佳曲です。Pedersenの79年7月録音リーダー作「Dancing on the Table」収録のオリジナルも佳曲揃い、しかもts)Dave Liebman, g)John Scofield, ds)Billy Hartたち共演者の演奏も充実した名盤です。

躍動的なベースパターンを経てテーマが始まります。ドラムとの的確なコンビネーションを得てとてもタイトで小気味好いグルーヴが聴かれます。Dexterのソロは巧みにコード進行をトレースしつつも、2’52″からの彼には珍しいトリル、2’58″からのグロートーン、これは既にホンカーの領域に足を踏み入れていますね!!受けて立つRielのフィルイン、スリリングなやり取りが行われ、ベースのタイムのたっぷり感と合わさった三位一体!3’26″からの音域を上げての再びのトリル、盛り上がっています!ひとしきりソロの起承転結、「転」を成し得たので「結」に入り、上手くストーリーをまとめました。その後は短い中にも「Pedersen印」のフレーズをしっかり織り込んだハイテク・ベースソロがあり、ラストテーマへ。

3曲目はお馴染みスタンダード・ナンバーからOn Green Dolphin Street。いやいや、この演奏も素晴らしいですね!8ビートとスイングを交えたテーマ奏自体が既にゴキゲンにスイングしています!ブレークからピックアップ・ソロが始まりますが、ここぞ見せ所!とばかりに、よりlaid backしてたっぷり感を出し、続くソロ本編の巧みな事と行ったら!聴き惚れてしまう次元のクオリティです!テナーソロ1, 2コーラス目はテーマと同様に8ビート、スイングと並走し、3コーラス目から丸々スイングに、さらにPedersenが本領を発揮しon topのグルーブも絶好調!Rielも叩きまくりの猛攻撃に出ています!テナーソロ最後にはターンバックが入りベースソロへ、ここでのPedersenは水を得た魚状態、もはや禁断のハードロックの領域(爆)に入ってしまったかのようなフレーズの嵐、嵐、嵐!ラストテーマ後はパターンが続きFade OutでFine、テナートリオでのGreen Dolphinの名演が誕生しました。

4曲目はCD化に際してのボーナストラックでTadd DameronのナンバーからGood Bait、John Coltrane58年2月録音「Soultrane」の名演奏が光りますが、本作でのDexterも大熱演、Coltraneとは異なるオーソドックスなアプローチですが、素晴らしいソロを聴かせます。両者の顕著な違いとして、Dexterテーマのサビをオクターブ下で演奏しているので、より低音域の効いた極太感が出ており、コード進行のトレース感と歌い回しが良くブレンドしているのが印象的です。何よりリズム隊の寄り添い、フォロー感がDexterをしっかりサポートしています。ここでもRielの暴れっぷりに気合が感じられ、テナートリオならではの絡み合い場面を作り上げています。テナーとの4バースを含め、彼のレスポンスやフレーズは特に個性的と言う訳ではなく、ひたすらドラムのルーディメンツに忠実な演奏っぷりを聴かせていて、彼の生真面目さを物語っています。

5曲目はバラードでBorn to Be Blue。賑やかな演奏が続いたので、上の音域での朗々としたメロディが沁みて来ます。Pedersenのベースが3連系のラインを多用することで、コード楽器のバッキングが存在しない空間を音楽的に埋めています。イントロは曲冒頭のコード進行をリピート、テーマに入りDexterならではのニュアンスが芳醇な色気を放ちますが、ソロに於てもビブラートの様々な付け方、語尾の処理での微妙な掛かり具合が堪りません!ベースソロ後はDexter低音域を用いて吹き始め、次第に音域が上がり、冒頭のテーマ同様に上の音域でテーマを聴かせます。

6曲目ラストを飾りしはDonald ByrdのナンバーからTanya。Dexterの64年6月、Blue Note Labelからのリーダー作品ですがParisでの録音「 One Flight Up」に収録されています。

欧州のテイストを感じさせる、雰囲気のある美しいジャケットです。

オリジナルは作曲者ByrdとDexterの2管編成でのメロディ奏、加えてピアノのバッキングによるパターンが演奏されている上に、ここではキーを全音上げたGマイナー(in B♭)に移調しているのでかなり趣が異なります。ピアノのパターンをベースが担当しているのもあり、もはや別な楽曲に聴こえます。オリジナルでのDexterはかなりスペーシーに演奏していますが、ここではブロウしリズム隊と熱く盛り上がっています!本作中Dexterは最もlaid back感を出して吹いており(この位のテンポが得意なのもあると思います)、巨象がアフリカのサバンナを歩くが如しのタイム、演奏です。オリジナル演奏でのベース奏者も同じPedersenであったからでしょうか、かなり気持ちの入った長いソロを取っています。この人の16分音符は実に正確で端正ですね、再認識しました。

2020.04.12 Sun

Skate Board Park / Joe Farrell

今回は1979年録音テナーサックス奏者Joe Farrellのリーダー作「Skate Board Park」を取り上げたいと思います。

Recorded at Spectrum Studios, Venice, California, January 29, 1979 Engineer: Arne Frager Mixing: Paul Goodman(RCA) Producer: Don Schlitten Label: Xanadu

ts)Joe Farrell p)Chick Corea b)Bob Magnusson ds)Lawrence Marable

1)Skate Board Park 2)Cliche Romance 3)High Wire – The Aerialist 4)Speak Low 5)You Go to My Head 6)Bara-Bara

学生時代にとても良く聴いた一枚です。70年代を代表するサックス奏者の一人Joe Farrellは37年Chicago生まれ、60年Maynard Ferguson Big Band, 66年Thad Jones/ Mel Lewis Orchestraでの演奏を皮切りにシーンに登場し、60年代後半から頭角を表し始めました。65年4月録音Jaki Byardのアルバム「Jaki Byard Live!」で初期の好演が聴かれます。基本的なフレージング、アプローチには既に後のスタイルが現れていますがテナーの音色が異なります。これはこれで良いトーンではありますが、いささか小振り感があり、彼の最大の特徴である身の詰まった極太、豪快さがアピールされていません。

ところが約1年半後の66年11月録音、Chick Coreaの初リーダー作「Tones for Joan’s Bones」では十分にFarrellの音色が確立されています。短期間に急成長を遂げたのでしょうが、トーンに対するイメージはもちろん、使用するべき的確なマウスピースやリード、楽器とのコンビネーションが見つかったに違いありません。自分のボイスを出せるセッティングを得られるかどうか、サックス奏者には死活問題です。優れたテナー奏者が必ず魅力的な素晴らしい音色を携えているのは、音色に対する徹底的なこだわりの産物です。

更に1年後の翌67年10月NYC The Village Vanguardで行われたセッションの模様を録音した「Jazz for a Sunday Afternoon Volume 4」、同様にCoreaやElvin Jones, Richard Davisら超弩級リズムセクションとの演奏で、Farrellのオリジナル曲13 Avenue “B”(コンテンポラリーなテイストの佳曲です)やStella by Starlightが取り上げられていますが、確実に以降に通ずるトーンを身に付け、豪快にブロウしています。彼のセッティングですが、マウスピースはBerg Larsen Hard Rubber、オープニングは95/1ないしは100/1、リードはRico4.5 or 5番、楽器本体はSelmer Mark Ⅵ 15万番台Gold Plated、後には同じくSelmer Mark Ⅶも使用していました。確かにリードがメチャメチャ硬そうな音をしていて、カップ・アイスクリームがこのリードで食べられそうです(爆)。当時60年代後期はFree Jazzの嵐がさんざん吹き荒び、一段落した頃に該当します。オーディエンスもハードなものよりもオーソドックスな表現のジャズ、例えばジャムセッション形式のような肩肘張らない演奏を欲していました。食傷気味だったのですね、この「Jazz for a Sunday Afternoon」シリーズはリスナーに大いに受け入れられたようです。

その後Farrellは魅惑のテナートーンと独自のスタイルを引っさげて、ジャズシーンに繰り出しました。翌68年4月にElvin Joneのリーダー作でJohn Coltrane没後に編成したピアノレス・トリオ編成による「Puttin’ It Together」(ベーシストはJimmy Garrison)、同年9月同編成による「The Ultimate」の録音に参加、ここでの演奏でポストColtraneの筆頭として、そのステイタスを確立しました。

70年1月に名門CTI Labelで自身の名義での初めての作品「Joe Farrell Quatet」を録音、以降CTIから計7作をリリースしました。

彼の快進撃は止まりません。盟友Chick Coreaの大ヒット作72年2月「Return to Forever」と同年10月録音「Light As a Feather」に於けるプレイはジャズ史に残る名演奏、「Return to ~」ではソプラノサックス、「Light As ~」ではフルートによる演奏ですが、彼のマルチ奏者ぶりが発揮されています。ちなみにアルトサックス、オーボエ、イングリッシュホルンも演奏業務内容に挙がっており(笑)、スタジオ・ミュージシャンとしても活躍していました。

76年CTIでのラスト7作目「Benson & Farrell」リリースの後、Warner Bros.から時代をまさに反映したフュージョン〜ディスコの作品77年「La Cathedral Y El Toro」78年「Night Dancing」を2作リリースしましたが、これが両方ともメチャ良いのです!演奏はもちろん、参加メンバー、曲目やアレンジ、アルバムの構成と何拍子も揃った聴き応え満点の作品、「Night Dancing」に至っては当時のディスコ港区芝浦にあった「ジュリアナ東京」で、扇子を持ってお立ち台に登り、扇ぎながら一心不乱に踊る女性たちとオーバーラップするジャケット・デザインに大受けしました!(若い方たちには何のコッチャですが)、反して生粋のジャズファンからは「ホイホイ・フュージョン」なんて呼ばれ方もされましたが(汗)。「Night Dancing」収録のバラードで英国ロックバンドBee Geesの大ヒットナンバーHow Deep Is Your Love、邦題を「愛はきらめきの中に」は当時「愛きら」と我々省略して呼び(笑)、今では絶滅危惧種〜もしくは絶滅してしまったダンスパーティの仕事で本当によく演奏したものです。Coltrane派テナーサックスの旗頭であったJoe Farrellが「Farrellのテナーの音色と演奏スタイルはディスコ・ミュージックに実に良く合う」ので、世の中このままジャズが衰退しフュージョンやディスコ・ミュージックが台頭していくのだろうか、と遠くを見つめながらぼんやりと考えたものです(爆)。

「La Cathedral Y El Toro」
「Night Dancing」
「Night Dancing」裏ジャケット
めちゃくちゃセンスあるデザインです!

一方Farrell参加のCorea78年作品「The Mad Hatter」、緻密にしてゴージャス、壮大なアレンジが施されたカテゴリーとしてはフュージョンの名作ですが、収録のアップテンポのスイングナンバーHumpty Dumpty、以降Coreaの重要なレパートリーの1曲に加わったオリジナル、作品中ひときわ異彩を放つ名曲での名演奏がCoreaのジャズ回帰を匂わせました。Coreaも時代も次第にアコースティックが恋しくなったのかも知れません。

そして間髪を入れずに同年同じメンバーで録音された「Friends」、久しぶりにCoreaがアコースティック・ジャズを演奏したフルアルバム作品になりますが、ds)Steve Gadd ~ b)Eddie Gomezによるデジタル・アコースティックとも評される性格無比なスイング・ビート、こちらにCoreaが加わることで鉄壁のタイトなリズムセクションが完成、でもFarrellのソロそっちのけでリズム隊が盛り上がっています(笑)!全曲に渡る緊張感みなぎるインタープレイがこちらも歴史的名盤を生み出しました。

おそらく78年末にレコーディングの話が持ち上がりました。Xanadu Labelオーナー兼プロデューサーDon SchlittenがFarrellにオファーし、「Joe、フュージョンやディスコはそろそろ下火だから、アコースティックのアルバムを作ろうじゃないか、と言うか、そもそもオレはジャズのアルバムしか制作しないけどね。」みたいな話があり、「じゃあChick(Corea)を呼んでさあ、あいつには今まで随分と世話になっているから、お返しに是非とも一緒にレコーディングしたいんだ。」と更なるやり取りがあったのかも知れません。

と言うことで、本作の演奏について触れて行きましょう。1曲目表題曲でFarrellのオリジナルSkate Board Park、タイトルは本人も含めた子供たちが公園でスケボーを楽しむ様をイメージしたのでしょうか、レコードで発売された時のジャケットに良く表れています。もっともテナーを吹きながらのスケボーは、至難の技でしかも大変危険なので、良い子は真似をするのをやめましょう(爆)。

「Skate Board Park」オリジナルジャケット

本CDは2015年に、数々の埋もれた作品を掘り起こしたアルバム発掘王Zev Feldmanの手によって久しぶりに世に出ました。デジタル・リマスターが施され、大変素晴らしいクリアネス、バランスでレコード時よりも格段に良い音質でのリリースになりました。

いきなりテナー、ピアノ、ベースによる超絶複雑なラインのユニゾンから曲が始まります。斬新にしてメチャ・カッコイイです!途中からベースはバッキングに回りテーマはテナーとピアノのユニゾン、コードは鳴っていません。シンコペーション、間を生かしたメロディの譜割り、3連譜、トリッキーな曲想です。Farrellはこの作曲に相当気合が入り、難易度高く設定しましたが、ユニゾンするCoreaにはきっとお手の物なのでしょう、何ら支障なく余裕で演奏しています。テナーソロに入りやっとピアノがコードを弾き始めます。一聴すぐFarrellとわかる魅力的なテナーの音色、タイムがかなりon topですがリズム隊確実にフォローしています。強烈なシングル・タンギングを多用、テーマのモチーフを随所に用いたフレージングはインパクトが半端ないです!CoreaのバッキングもFarrellとの長い付き合いを感じさせる、付かず離れず感が心地良く、ソロ終盤戦ではチャチャを入れるが如きバッキングからピアノのソロへ、一転してタイトなリズムによるCoreaならではの、端正なプレイ。加えてかなり打楽器的にパーカッシブにアプローチしています。常々思うのですがCoreaほどのタイム感を極めたジャズマンが、はっきり言ってタイムがかなりルーズなFarrellを何故ファースト・コールに位置させているのか、謎ではありますが、演奏はもちろん二人の人間的な相性が物を言っているのでしょう。ピアノソロ後テーマの一部を用いてドラムと4バースが4回行われます。3回目のバース時にFarrellがリフの符割りを間違えて早く出てしまいます。Coreaは全く動じず平然とプレイを敢行、Farrellは動揺したのか更にリフ後半部分を出そびれ、ピアノのリフだけが演奏されます。それまでほんの些細な間違いは幾つかありましたが、緻密なユニゾンの多用がコンセプトの曲なので、この部分は相当目立ちます。ですが修正したりテイクを取り直していないのです(おっと、この頃にはまだお助けマシンのpro toolsは存在しませんでした!)。更に興味深いのは、ラストテーマ時にも出てくる、バースで用いたリフの部分を、多分Coreaがわざと間違えたように演奏している点です。Farrellの先ほどのミステイクを間違いにさせないようにする、機転の効いた対応なのでしょう、「実はこういうアレンジなのですよ」とばかりにフォローしたのです。Coreaの聡明さがひときわ輝き、このリカバーの存在がミステイクを正当化させている、「ジャズ演奏に間違いは存在せず、大切なのは如何に間違いを放置しないか」と言う事なのでしょう。当のCorea自体は常に完璧ですが。

2曲目FarrellのオリジナルCliche Romance、タイトルも曲想もグレイスフルなムードのボサノバ・ナンバー、良い曲です。テナーとエレクトリック・ピアノのユニゾンのメロディも心地良く、テナーソロは快調に飛ばしてストーリーを展開しています。随所に「ちょっと走る、音符が詰まる」タイム感が聴かれ、Farrellの持ち味といえばそうなのですが、この部分を修正し、極めていればより高みに登れたように感じています。昔どこかの音楽雑誌に彼のインタビューが掲載されていましたが、何かの質問に対し、付随して「テナーサックス奏者は一生に一度だけもの凄く練習をすれば良いんだよ」のような事を、お酒を片手に回答していたように記憶しています。彼の音楽観を自ら一言で語っていると思いますが、この大らかな感じが良い意味で演奏に現れているのではないでしょうか。続くピアノのソロは、スタイルがCoreaの盟友Stanley Clarkのアプローチと似ている、Bob Magnussonのベースラインと、良く絡まったインプロビゼーションを聴かせます。ベースソロを経てラストテーマへ。

3曲目はCoreaのナンバーからHigh Wire – The Aerialist、Chaka Khanのボーカルをフィーチャーしたアルバムで、以前にこのBlogでも取り上げた事のある82年作品「Echoes of an Era」にも収録されていますが、本作が初演に当たります。

いやいや、実に美しいナンバーです。耳に入ってくるメロディは自然体で巧みではありますが、実は難解なコード進行とリズムのシカケ、インプロビゼーションを行うにはこのタイトル通りに「高所に張り巡らしたワイヤー上の曲芸師」状態を強いられます(汗)。Lawrence Marableは全編にわたってブラシでドラミング、ナイスなサポートに徹しています。彼は29年5月生まれ、50年代から米国西海岸を中心に活躍している、Charlie Parker, Dexter Gordon, Zoot Simsらとの演奏経験もある大ベテランです。Magnussonのベースも軽快に、流麗にバックを務めます。ピアノ〜ベース〜テナーとソロが淀みなく続き、メンバーの高い音楽性を然りげ無く誇示してくれました。

4曲目はスタンダードナンバー、Kurt Weillの名曲Speak Low、外連味のない直球入魂の演奏です!イントロ無しで始まるテーマの、ブレーク他のリズムセクションの凝ったシンコペーションのシカケが実にヒップなアレンジです(ベース奏者が時たまシカケ後タイムが「えっ?」と揺れていますが…)。Farrelのテーマ奏も音色、音域、ニュアンスがジャジーな三位一体に聴こえます。テナーのピックアップからソロ本編へ、コンテンポラリーさがスパイスになった彼独自のウタを感じさせ、カッコ良くてグッときてしまいます!ここでもピアノ・バッキングの素晴らしさが光っていますが、仮に共演者が前述のGomez, Gaddだとしたら「Friends」でのように、バッキングにおけるリズムセクションのインタープレイで盛り上がってしまい、主人公は一体誰?状態になってしまうでしょう。続くピアノソロは演奏上のありとあらゆる事象に余裕と幅がある演奏を展開しており、共演者の発する音が全てクリアーに聴こえているように感じます。FarrellとCoreaのリズムに対する音符の位置の違いが、このくらいの早いテンポになると歴然と分かります。on topとlaid back、続く二人の8小節交換にそれが顕著に表れますが、対応するリズムセクションのサポートの巧みさに感心してしまいます。エンディングはいわゆる逆循のコード進行が延々と続き、Farrellが巧みにブロウしますが、Coreaとのやり取りが興味深く、曲中のソロ時よりも親密な会話を聴くことができます。エンディングに向けて次第に収束感を出し、予め決めておいた?フレーズを繰り出して無事Fineです。

5曲目はスタンダード・チューンのバラードYou Go to My Head、良い選曲です。Coreaの幻想的なイントロからテーマ奏へ、さりげないニュアンスとサブトーンを駆使したメロディが、曲の持つムードを的確に引き出しています。ピアノのバッキングの絶妙さは凄いですね!Coreaには演奏しながら本当に様々なサウンドが聴こえて来るのでしょう、眩いばかりの宝石を散りばめたかのようなコード感、フィルインの連続です。テーマ後は半コーラスピアノソロ、こちらでも申し分なしにサウンドの魔術師ぶりを発揮しています。きっとCoreaにインスパイアされたのでしょう、サビの部分でFarrell饒舌に上のオクターブを中心にソロを取り、その流れでメロディもオクターブ上げて吹いています。エンディングにはバンプが付け足され、その後カデンツァ時にトニックの半音上の音を一瞬吹いていますが、故意なのかたまたまなのか、「おっといけねぇ!」とばかりにすぐさまルート音に吹き換えています。

6曲目ラストを飾るのはFarrellのオリジナルBara-Bara、軽快なテンポでリズミックなキメもポイントになったこちらも佳曲、Freddie Hubbardと何回か共演したところ、たちまち彼のお気に入りナンバーになったそうです。ソロの先発Coreaはエレクトリック・ピアノで演奏します。右手のラインも素晴らしいのですが、左手から繰り出されるコードと、対旋律をイメージさせるラインのエグさが、まるでジキル博士とハイド氏の如く相反するサウンドを提供しています。続くテナーソロは本作中最もスインギーな演奏、良く伸びる音色でタイムもさほどラッシュせず、フレージングの繋がり、アイデア、音使いの斬新さ、シングルタンギングのタイトさ、イメージが終始持続しています。5’22″辺りでFarrellの吹いたフレーズに反応するCoreaのレスポンスが、もう1コーラス演奏しようかどうか迷っていたFarrellに、ソロを終えるようきっかけを与えたようにも聴こえました。ラストテーマは素直にキメの部分でFineです。

Joe Farrellは86年1月にCaliforniaの病院にて、骨髄異形成症候群で48歳の若さで亡くなりました。Michael Breckerも同じ病気を患い、白血病で2007年1月にやはり57歳の若さで亡くなっています。

2020.04.05 Sun

In Out and Around / Mike Nock

今回はピアニストMike Nockのカルテット編成による1978年録音リーダー作、「In Out and Around」を取り上げてみましょう。

Recorded at Sound Ideas Studio, New York City – July, 7, 1978 Produced by Mike Nock Executive Producer: Theresa Del Pozzo All Compositions by Mike Nock Label: Timeless Records

p)Mike Nock ts)Michael Brecker b)George Mraz ds)Al Foster

1)Break Time 2)Dark Light 3)Shadows of Forgotten Love 4)The Gift 5)Hadrians Wall 6)In Out and Around

理想的なサイドマンを擁し、全曲意欲的なオリジナルを巧みなインタープレイで演奏した素晴らしい作品です。アルバム録音78年当時はフュージョン・ブーム全盛期、このようなストレートアヘッドなアコースティック・ジャズをプレイした作品の方がむしろ珍しかったように記憶しています。George Mraz, Al Fosterら精鋭によるリズムセクションも注目に値しますが、フュージョン・サックスの担い手であるMichael Breckerの参加に耳目が奪われます。当時のシーンを賑わせていた諸作、例えばThe Brecker Brothers関係ではHeavy Metal Be-Bop, Blue Montreux Ⅰ,Ⅱ, The New York All Stars Live, Ben Sidran / Live at Montreux, Steve Khan / The Blue Man, ほかNeil Larsen / Jungle Fever, Richard Tee / Strokin’, Tom Browne / Browne Sugar, Al Foster / Mixed Roots…78年はフュージョン・アルバム大豊作、Michael参加作品も豊漁で、彼のサックス無しにはフュージョンは成り立たなかったと言っても過言ではありません。原体験した者にとっては感慨深げですが、最初に本作を聴いた時には正直余りピンと来ませんでした。全体的な演奏はひたすら端正でタイトなリズムが支配し、フロントMichaelはハイパー振りを披露してはいますが、聴く者に圧倒的なインパクトを与えるいつものぶっちぎり感は無く、何かに引っ張られ、羽交い締めにされているかの如くの抑制、ストイックさを感じ、彼の表現の最大の特徴である起承転結的ストーリー展開と結果として生じる爆発、そこに起因する爽快感が希薄な演奏と捉えていました(随所に小爆発はありますが)。明らかにいつものアプローチとは異なり、リズムセクション、特にピアノとのコンビネーション、インタープレイを徹底させています。仄暗さを伴ったユニークな曲想、美しいメロディと複雑なコード進行、FosterのPaiste Cymbal使用による乾いた音色のレガートと、Mrazの深い音色を湛えたon topでスインギーなベースとのコンビネーション、彼らの決して出しゃばらず、しかし出すところは毅然と的確にサポートしバックアップする。今は自分の耳がやっと演奏に追いついたのか〜めでたく第二次性徴を迎えたのでしょう、きっと(笑)!〜、本作が発する高次な音楽性を何とか受け入れる事が出来るようになったと思います。プレイヤー4人各々の音を各人どう受け止め、誰がどの様に絡んでいくのか、展開し変化するプロセスを楽しんで行く。個性的なオリジナルに対する柔軟なアプローチに懐の深さを覚え、同時に自分に照らし合わせ、音楽の聴き方も変わって行くのだと実感しています。

Mike Nockは40年7月、New Zealand Christchurch生まれ、 11歳でピアノを学び始め18歳の時にAustraliaで演奏活動を始めました。その後Berklee音楽院に入学、米国でも音楽活動を開始し63年から65年までYusef Lateefのバンドに参加しました。自己のフュージョン・バンドやスタジオ・ミュージシャンとしても活躍し、85年まで米国で過ごした後Australiaに戻りました。このレコーディング時には在米と言う事になります。今までに30作近いリーダー作をリリース、教育者としても精力的に現在進行形で活動しています。

CDは89年にこの黒色ジャケットでリリースされましたが(必要最小限のクレジットでは色気がありません)、78年レコードでリリース時のジャケットがこちらです。デザイン、イラスト、色合い、Nockの似顔絵、ロゴのレイアウト、メンバーの演奏写真等断然アーティスティックで、音楽の内容にもしっかりオーバーラップしています。

Nockの音楽性として20年以上過ごした米国のテイストよりも、生まれ育ったNew Zealand〜Australia=イギリス連邦〜欧州的、クラッシックを素養としたECM的なサウンドが聴こえてきます。実際ECM Labelから1枚アルバムをリリースしています。81年録音「Ondas」、ベーシストに名手Eddie Gomez、ドラマーに欧州を代表するJon Christensen。本作収録のShadows of Forgotten Loveを、Forgotten Loveと若干タイトルを変更して再演しています。プロデューサーManfred Eicherのサジェスチョンもあるのでしょう、見事にレーベルのカラーに相応しい演奏を展開しています。ピアノトリオということもあり、Nockのより耽美的でリリカルな演奏を楽しむ事が出来る作品です。

Mike Nock / Ondas

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目アップテンポのスイング・ナンバーBreak Time。テナー、ピアノ、ベース3者の強力なユニゾンのテーマからスタートします。まず特筆すべきは完璧な精度でのテーマ・アンサンブル、本作レコーディング自体1日で全曲を収録していますが、これだけの難易度の楽曲をこなすためには最低でも2日間は別日にリハーサルを設けていると考えられます。でも意外とこの百戦練磨のメンバーなので、当日スタジオに集まって譜面を配布され、その場で「せえのっ!」と容易く演奏したのかも知れません(汗)。本当にそうだとしたらとても嫌な事ですが(爆)。先発ソロイストはMichael、周りの音を良く聴きながらその場、瞬間で最も相応しい音の取捨選択を行い、自分自身が述べたい部分とNockの(尋常ではない)バッキングの主張との兼ね合いを瞬時に模索しつつ、素晴らしいグルーヴ、タイム間、申し分ないテナーの音色でソロを吹いています。この頃のMichaelのセッティング、既に何度か紹介していますが今一度、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、これはEddie Danielsから譲り受けた銘品、リードはLa Voz Medium Hard、リガチャーはSelmer Metal用、楽器本体はSelmer MarkⅥ Serial No.67853。

MrazとFosterの職人芸を通り越した芸術的なサポートがあってこそのアドリブ構築とインタープレイですが。また感じるのは、ここでの演奏のアプローチは当時のMichaelとしては異色と言えますが、当然ポテンシャルとして備わっていました。でもこの時点では本人にとって不十分極まりないと感じていたと推測しています。自分が出来ていない部分、欠けていると感じた点を自己の課題として真正面から真摯な態度で取り組んで行くのを信条としていたMicahel、自己鍛錬を怠らず、以降様々なアーティストとのレコーディングを経験して膨らませ、開花させて行ったと思います。表現の幅が経年と共にどんどん広がって行きましたから。

テーマ演奏後しばらくピアノはバッキングせずにテナートリオでの演奏、Nockスネークインして来ます。テナーのフレーズに応えたり、対旋律を提示したり、敢えて放置(多分)したりと、独創的で実に興味深いアプローチでのバッキングの連続です!1’58″あたりからの両者の絡み具合、2’10″あたりでのテナーのフリーフォーム的アプローチに対するバッキング、2’51″頃からのMichaelの盛り上がりに対する緊張感、3’40からテナーのフレーズを受け継ぎ、メロディの提示(暗示)によりテーマをインタールードとして演奏し、テナーソロが終了します。続くピアノソロではベース、ドラムが演奏を止め独奏状態になりますが、ここのサウンドはNock自身のオリジナリティに溢れたもの、しかしLennie Tristanoのテイストをどこか感じさせます。かなり唸り声が入っていますが、よく聴くとフレージングとおおよそユニゾンなので、インプロビゼーションに気持ちが入っているが故なのでしょう。ドラムがスネアロールからスネークイン、ベースも良きところで参加しますがここからの3者のグルーヴの素晴らしい事!ピアノのフレージングの独創性も佳境に入っています!ラストテーマにもごく自然に入りますが、その手前からのMrazの弾くラインの凄みは一体何でしょう?因みにアップテンポで様々なインタープレイが繰り出された、しかも途中にブレークが入る演奏なのにも関わらず、テンポが殆ど変わっていないのにも驚かされます。演奏が自然発生的であるがためでしょうが、と言う事はこれはやはり初見で演奏しているのでしょうか?(笑)

2曲目は美しいピアノタッチが印象的なイントロから始まるDark Light、ベースのラインもポイント高いです。Michaelのメロディ演奏がセクシーですが、テーマ終わりの難易度高い運指を駆使したメロディ・ラインでの、フラジオ音の確実さが流石です!ピアノソロからラインを受け継いでごく自然にテナーソロに移行しますが、こちらもMichaelの音楽性の為せる技でしょう。ベースソロが饒舌にして重厚、華麗なテクニックを聴かせます。一貫してシンバルを中心にし、皮モノのアクセント付けによるカラーリングが巧みなFosterも大健闘です。プレーヤー4人の音楽的バランスが良く調和した演奏です。

3曲目Shadows of Forgotten Love、かなり重いタイトルです(汗)、ピアノトリオ作「Ondas」ではForgottenが削除されたタイトル名になり、多少ヘヴィーさが緩和されました(爆)。前曲よりも幾分早いテンポですが比較的同傾向と言えるテイストで、むしろこちらの方がDark(Light)さは勝るように聴こえます。ピアノのイントロからベースも同一のパターンを継続し、テナーとピアノのユニゾンのテーマになります。始めはスネアのロールで、サビではタムを中心に、その後再びスネアのロールでカラーリングするFosterのドラミングが曲想と合致し、とても音楽的です。ラストテーマではそのカラーリングがバージョンアップし、更なる深みを表現しています。テナーソロはありませんが、メロディ奏だけで十分に存在感をアピールしています。ピアノをフィーチャーした形になりますが、実はピアノソロのバックで自在に、緻密に、大胆に、かつパーカッシヴに叩くFosterのドラミングを聴かせるためのナンバーであると感じています。曲の持つ内(うち)に秘めたエネルギーがNock自身の音楽性から離れて一人歩きし、ゆえに再演を行おうという願望を生じさせたのかも知れません。

4曲目はThe Gift、冒頭Michaelのメロウさの中にも切なさを湛えたメロディがたまらなく素敵です!息遣いまで聴こえる入魂のプレイは録音時29歳、様々な音楽を経験しメロディ表現の真髄に到達しつつあり、以降更に表現の深さを極めて行きました。Nockの伴奏も実にツボを得ています。Michael参加ピアニストHal Galper76年11月録音の作品「Reach Out!」収録、GalperとのDuoによるI’ll Never Stop Lovinng Youの歌い回し方も同様に素晴らしいです。

先発のNockのソロを、Mraz, Fosterの伴奏が的確に、確実にサポートしています。ピアノのトリルを受け継ぎベースソロ、そしてテナーと続きます。Michaelのアプローチはこの頃に良く聴かれたテイスト(例えばJoe Henライク)を発揮しています。そのままラストテーマに入り、エンディングでテナーのサブトーンが隠し味的に聴かれます。

5曲目Hadrians Wall、英国北部にある2世紀に作られたローマ帝国最北端に位置した城壁の事で、ユネスコの世界遺産にも登録され、EnglandとScotlandの境界線にも影響を与えているそうです。ケルト人の侵入を防ぐべく築城された英国版万里の長城ですね。Nockは61年にEnglandをツアーしたことがあり、その時に目の当たりにして感銘を受けたのかも知れません。耽美的なメロディとリズミックさが合わさったドラマチックなナンバー、コード進行も大変魅力的な曲です。メロディのテイストがまさにMichaelにぴったり、華麗にブロウしています。先発ピアノソロは作曲者ならではの、曲の持つムードとコード進行を上手くリンクさせて自身の唄を巧みに歌っています。続くMichaelは案の定水を得た魚状態、本作で最も”Michael Breckerらしい”歌い方の演奏を聴くことが出来ます。その後のMrazのソロもMichaelにインスパイアされたのでしょうか、実に魅力的なアドリブを築城、いや構築しています(笑)

6曲目ラストを飾るのはタイトルナンバーIn Out and Around、アップテンポでテーマのメロディとリズムセクションとが巧みにCall and Responseを行う曲想、スリリングな演奏は本作のハイライトと言えますが、目玉の演奏をラストにする手法、実は僕自身お気に入りなのです。敢えて冒頭に置かず全曲を聴き通し、オーラスに最も聴き応えのある曲が鎮座している方が、作品を鑑賞する醍醐味と感じます。評判のラーメン店で最後に残しておいた特製チャーシューを食べる感じでしょうか?(ちょっと違いますね、汗)。テーマ終わりに聴かれるピアノのフレーズに被ったテナーのフィルインが何気にカッコイイです!先発Nockのソロ、テクニカルにUpper Structure Triadを多用しつつ、スインギーにアドリブしている様は圧巻です!Mraz, Fosterのサポートも申し分無し!このリズムセクションと是非一度お手合わせしたいものです!続くMichaelはNockのテイストを確実に受け継ぎソロをスタート、自己の主張とリーダーの音楽性、曲自体が持つテイスト、共演ミュージシャンの発するサウンドを瞬時に合わせ、かき混ぜ、音のメルティングポット状態としてアドリブを展開しています。コード進行が複雑で難解な部分が手枷足枷となり、ここをクリアーすることでグルーヴ感が生ずるはずなのですが、Michaelなかなか手こずっているようにも感じます。続くMrazのベースソロ、いやいや、このテンポでしかもフロント2人の物凄い演奏の後、気持ちの切り替えがさぞかし大変だったと思いますが、さすが手練れの者、全く動じず素晴らしい演奏を聴かせます!改めて超弩級のベーシストと認識しました!その後テナーとピアノが互いをダンボの耳状態で聴きながらのソロ同時進行、いやーこちらも凄いです!ラストテーマを無事迎えFine!

2020.03.27 Fri

Please Mr. Jackson / Willis Jackson

今回はテナーサックス奏者Willis Jacksonの1959年録音初リーダー作「Please Mr. Jackson」を取り上げたいと思います。

ts)Willis Jackson org)Jack McDuff g)Bill Jennings b)Tommy Potter ds)Alvin Johnson

1)Cool Grits 2)Come Back to Sorrento 3)Dink’s Mood 4)Please Mr. Jackson 5)633 Knock 6)Memories of You

Recorded: May 25, 1959 Studio: Van Gelder Studio, Hackensack, New Jersey Label: Prestige PR7162 Producer: Esmond Edwards

Willis “Gator Tail” Jackson、並み居るホンカースタイルのテナー奏者の中で実はこの人が真打かもしれません。日本ではあまりその存在を知られていませんが、米国では絶大な人気を誇り、リーダーアルバムを40枚以上リリースしています。32年4月Florida州Miami生まれ、15歳の時にピアノを始めましたがHerschel Evans, Lester Young, Ben Webster, Charlie Parker, Coleman Hawkins, Illinois Jacquet達サックス奏者に多大な影響を受け、すぐにテナーに転向しました。ほどなくCootie Williamsのバンドに参加、そこで録音したJacksonのオリジナルGator Tail Part 1, 2が49年にヒットを遂げました。彼のミドルネームはこの曲から付けられたのは言うまでもありません。

40年代から50年代にかけてJacksonのサイドマンでの演奏を集めたコンピレーション・アルバム、こちらにGator Tail Part 1, 2が収録されています。

56年米国TV番組The Ed Sullivan Showに自己のバンドで出演し、ヒットチューンGator Tail Part 1を超高速で、凄まじいテンションを伴って演奏した映像が残されています。僅か2分強の演奏時間ですが、この演奏でJacksonはホンカー・サックス奏者としての真価を見事に発揮し、その評価を決定付けたと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=7-is9GsxCT0 クリックしてご覧下さい。

ここでの演奏に於けるJacksonのパフォーマンスの数々(身体を揺らす、くねらせる、楽器を振り回す、ブリッジする、Lester Youngの如く楽器を横向きに構える、ステップしながら〜座りながら〜膝まずきながら吹く、同じ音をひたすら執拗にグロウルしながら吹き続ける、急に口からマウスピースを離したと思えばいきなり咥え直し、ほおにマウスピースが刺さらないかと危惧してしまうほどの早技、リードに歯を当ててフリークトーンを鳴らす、感極まって叫ぶ(何度も!)、クライマックスでは楽器を客席に向かって投げ飛ばす素振りをし、そのまま走り去る等、とにかくギンギンになり切っています!)、信じられない程のエネルギー、集中力、テナーが壊れそうなくらいに鳴っている超極太の音色を携えた演奏から、ホンカーとは一体何者か?どのような演奏スタイルで、パフォーマーとしてどんな技を見せてくれるのか?その定義の全てを体感させてくれて、余りあるものがあります。司会者Ed SullivanもJacksonを始めとするバンドのメンバーの(Jacksonと一緒に最後はジャンプしながら吹いていました!)、あまりの弾けぶりに驚いたような、呆れたような顔を見せています。ここでのプレイと比べれば、本作の演奏は随分と大人しく聴こえますが、27歳にしての初リーダー作、一度原点に帰っての演奏に徹底したようにも聴こえます。参加メンバーは当時のJacksonグループのレギュラー・メンバーですが、ベーシストTommy Potterはこのレコーディングのために加わったそうで、普段はテナーJackson、ギターBill Jennings、オルガンJack McDuff、ドラムAlvin Johnsonのカルテットで演奏活動を行っていたようです。ホンカーは豪快で男性的、さらに極太感が必須のテナー・プレーヤーです。筆頭に挙げられるのがEddie “Lockjaw” Davis, Big Jay McNeely, Illinois Jacquet達ですが、Jacksonの表現は彼等よりもよりワイルドで大胆、しかし繊細さや色気も十二分に併せ持ち、言うなればホンカー道を極めているマエストロです。本作の演奏にも随所に聴かれる遊び心がそれらを裏付け、余裕すら感じさせます。

本作録音日の59年5月25日にレコーディングされたナンバーは本作を含め、4枚のアルバムに分散してPrestige Labelからリリースされました。これらをまとめてBonus Track 2曲(Tommy Potterが抜けたQuartet編成で、シングル・レコードとしてリリースされたテイク)を追加し、合計16曲を1枚のCDに(!)収録した超お徳用アルバムが、SpainのFresh Sound Records(FSR)からリリースされています。「A One-day Session 05/25/’59」、これでレコーディング当日の全貌が明らかになりました。FSRはこの手の作品のリリースがお手の物で、色々なアーティストのAll-in-Oneアルバムが発売されています。

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目はJackson, McDuff, Jennings 3人の共作Cool Grits、曲自体はブルースでキーはF、メロディらしいメロディも無いのでとりあえずキーだけ決めてブルースを演奏したように思います。ベースのウオーキングから始まりドラムが加わり、オルガンがソロを取り始めますがこの時点である種のムードが出来上がります。ギターがカッティング開始、テナーがそれに合わせごく小さい音でバックリフを入れます。続いてギターソロが始まりますが、オルガンとフルアコ・ギターの音色のブレンド感で、こちらもすっかり雰囲気が整います。今度はオルガンのバッキングにテナーが合わせ、引き続きテナーソロが始まります。音量を抑えたサブトーンの権化、付帯音の塊のような音色は超好みです!Jacksonの楽器セッティングですが、マウスピースはOtto Link Metal Florida 10番、リードはおそらくRicoの3半あたりでしょうか。テナー本体は名器Conn 10M、ジャケ写にも見られるネック部分の羽根付き餃子のようなヒレが特徴です。ブロウ自体も抑圧されたクールさの中に熱いホンカー魂をチラチラと感じさせます。前出のEd Sullivan Showでのパフォーマンスとは真逆ですが、いきなり玄関から土足で乱入とはせず、まずは丁寧なご挨拶から。ソロの後半で一瞬オフマイクになるのはMcDuffにバトルを始めようぜ、と合図を出すためでしょう、レコーディングでのこの手のやり取りには生々しさを感じます。

2曲目Come Back to Sorrentoはとても意外な選曲になります。そしてこの演奏の存在が本作の価値をグッと高めました。SorrentoはItalyのNapoliにある都市で風光明媚なリゾート地として有名です。この曲もカンツオーネの名曲としてLuciano Pavarottiを始めElvis Presley, Connie Francisが、ジャズボーカルではFrank Sinatra, Dean Martinたちに歌唱され、ビッグバンドではStan Kenton、あと我らが原信夫とシャープス&フラッツが取り上げていますが、コンボ演奏で取り上げられたのは本作くらいではないでしょうか。美しいナンバーですがシンプルなメロディの曲なので大きな編成でアレンジをしっかりと施し、曲全体をバックアップしなければなかなか形にするのが難しいと思います。中学校の唱歌でも取り上げられていましたが、その次元であれば何ら問題はないでしょう、ジャズの小編成では何か特別な策を講じなければレコーディングして残すのは困難です。ここでは何と言ってもJacksonのテナーの歌い回しが本当に素晴らしく、リズムセクションのまるでLas Vegasのショウ仕立ての如きゴージャスな(幾分大げさな)バッキングを受けて、オンマイクで超ピアニシモでの音量を中心に、深い音色で様々な振幅、波形のビブラート、ベンド、グリッサンド、1’38″で聴かれるキスのような「効果音」(笑)などを駆使し、甘く切ないニュアンスと絶妙にブレンドさせ、Sorrentoのメロディをドラマチックに歌い上げているのです。彼の楽器コントロールのテクニックは申し分ありません。そしてそして、2’23″からテナーのきっかけでテンポが設定され、ここから始まるテナーのフレーズと、リズムセクション兼コーラスチーム(?)とのやり取り、Jacksonの吹いたフレーズを耳コピーして即座に反復するCall & Responseの見事で楽しげな感じと言ったら!音程が気になる部分もありますがそこはご愛嬌、実にスポンテニアスです!その後3’11″からはRock ‘n’ Rollの時間です!1コーラスをまさしくホンカー・テイストでグロウルしながらブロウし、リタルダンド、カデンツァを経て曲のトニック音であるテナーのG音をフラジオで伸ばしますが、リズムセクション全員から「もっと高く!」と促され(笑)、その上のA音、そしていかにも頑張った風に〜お決まりなのでしょうが(笑)〜更に上のD音まで出し、リズム隊のお許しが出て(笑)、1曲丸々吹きっぱなしコーナーは目出度くFineです。実はStan Kenton Orchestra 46年の演奏で、当時楽団専属の名テナー奏者Vido Musso(Napoli近くのSicily島出身)をフィーチャーしたバージョンが(アレンジはPete Rugolo、この人もSicily島出身)、こちらがある程度ベースになっていますが、本テイクの説得力の方に確実に軍配が上がります。

Come Back to Sorrento収録のStan Kenton Orchestra作品「Artistry in Rhythm」

3曲目はMcDuff, Jackson 2人の共作Dink’s Mood、ミディアム・スロー、いや、早めのバラードとしてのテイストが心地よい、McDuffのオルガンをフィーチャーしたナンバー、バックビートに隠し味に聴こえるギターのカッティングも魅力的です。Jacksonはメロディを演奏するだけですが、実にムーディで豊かな表現に徹しています。

4曲目は1曲目と同様に3人の共作で表題曲Please Mr. Jackson。オルガンのイントロから始まりテナーのグロウル、クレッシェンドするフィルインが入りつつ曲が進行しますがこちらもブルース、その場で簡単な打ち合わせをしただけで演奏を開始した風が感じられます。テナー、ギター、オルガンとソロが続きますがJacksonはここでもオブリガードを入れつつ、伴奏にも良い味を出しています。

5曲目はJenningsとピアノ、オルガン奏者でJenningsのかつてのボスであったBill Doggettとの共作633 Knock、メロウなメロディが小気味良く、シンコペーションがスイング感を提供してくれるA-A-B-A形式32小節のナンバーです。テーマ後ギターソロになりますが、Jackson再びオブリを入れつつ、次の自分のソロに繋げています。All of Meのメロディ引用が聴かれますが、引用(早い話ダジャレですね)もホンカーの技の一つなのです。オルガンソロに続きファンキーな雰囲気が一層醸し出されます。ラストテーマのサビ後でのメロディのニュアンス付けや、エンディングのキメが他には無くオシャレなので、この部分はかつてのボスの音楽的采配があったように感じます。

6曲目ラストはスタンダード・ナンバー Memories of You、こちらは案の定テナーの低音域でのメロディ奏をメインにしたサブトーン大会です!少しばかりオルガンのバッキング音量が大きくて支配的、せっかくの魅惑のテナー・サウンドには出しゃばり気味ですが、むしろこのくらいの猥雑な感じがホンカーらしいのかも知れません。テーマ後にメロディアスなギターソロ、サビからテナーが復帰しますがオクターブ上の音域でむやみやたらに(爆)ブロウ、カデンツァではこれぞ正統的ホンカー然と、サブトーンや発展型キス奏法(笑)を駆使し、場面をこれでもかと盛り上げています。

2020.03.17 Tue

Comin’ On / Dizzy Reece

今回はトランペッターDizzy Reeceの1960年録音リーダー作「Comin’ On」を取り上げたいと思います。モダンジャズ黄金期に録音されたにも関わらず40年近くオクラ入り、99年にアルバム2枚分をカップリングした形でリリースされました。

tp, conga)Dizzy Reece ts)Stanley Turrentine ts, fl)Musa Kaleem (track 6-9) p)Bobby Timmons (track1-5), Duke Jordan (track 6-9) b)Jymmie Merritt (track 1-5), Sam Jones (track 6-9) ds)Art Blakey (track 1-5), Al Harewood (track 6-9)

1)Ye Olde Blues 2)The Case of the Frightened Lover 3)Tenderly 4)Achmet 5)The Story of Love 6)Sands 7)Comin’ On 8)Goose Dance 9)The Things We Did Last Summer

Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey on April 3 (track 1-5) and July 17 (track 6-9), 1960 Producer: Alfred Lion Label: Blue Note

充実した内容の作品です。録音当時にリリースされたのならばジャズの定番の1枚になっていたかも知れません、世に出る時期が大切な事を感じます。本作は1960年4月3日と7月17日に行われた二つのセッションから成っています。リズムセクションは全く異なりますが、共通するミュージシャンとしてはリーダーDizzy Reeceの他にもう一人、テナーサックス奏者Stanley Turrentineです。4月3日の方のメンバーは彼ら二人のフロントにピアノBobby Timmons、ベースJymmie Merritt、そしてドラムArt Blakey、当時のArt Blakey and the Jazz Messngers(JM)のリズムセクションがそっくりそのまま参加しています。本作レコーディング1ヶ月前の3月6日にはJMの作品「The Big Beat」が録音されていますが、JMの音楽監督がBenny GolsonからWayne Shorterにちょうど交代した時の作品です。

Golsonも優れたテナー奏者かつ稀代のメロディメーカー、彼の作曲したナンバー、名曲の数々はジャズのスタンダードとして現在でも愛奏されています。彼が音楽監督時の58年10月30日録音、JMの代表作にして傑作「Moanin’」が翌59年1月にリリースされています。

新音楽監督Shorterの持つ音楽的ポテンシャルに、Blakeyはさぞかし期待に胸を膨らませた事でしょう。自己のリーダーバンドJMが彼の音楽的サジェスチョンによりどんな風に成長していくのか、変化していくのかにもワクワクしたと思います。Blakeyにとって音楽家としての何度目かのピークを迎えつつある時期といって良いでしょう。本作でのドラミングの弾けぶりからもその事が手に取るように伝わりますが、物凄いテンションです!「Lee(Morgan)とWayne(Shorter)も素晴らしいけど、今日はまた違う二人のフロントとお手合わせ、楽しみだ!」とか何とかBlakey考えながらNew Jerseyのスタジオに向かった事でしょう。他メンバーの演奏については後ほど改めて触れるとして、リーダーReeceについてご紹介しましょう。31年1月中米Jamaica, Kingston生まれで現在89歳、現役ミュージシャンとして今も演奏しています。16歳からプロ活動を開始、48年に渡欧し主にParisを拠点に活動しました。Don Byas, Kenny Clark, Frank Foster, Thad Jonesらと共演し、渡欧中のMiles DavisやSonny Rollinsにその才能を称賛され59年に渡米、NYCに進出します。在欧時に既にリーダー作を発表していますがそれとはまた別に、この当時にしては珍しくVan GelderスタジオではないLondonのDeccaスタジオで58年8月に録音された「Blues in Trinity」BST 84006が、Blue Note Label(BN)から59年にリリースされています。自分で企画して録音した音源を持ち込んだのでしょうか、米仏混合ミュージシャンたちと演奏しています。

本格的なBNへの作品は59年11月録音の「Star Bright」になります。もちろんVan Gelderスタジオでのレコーディング、Alfred Lionプロデュースです。メンバーはHank Mobley, Wynton Kelly, Paul Chambers, Art Taylorら当時のMiles Davis Quintetがらみの人選による作品です。

思うにLionたちBN首脳陣はReeceの作品をどのような展開で制作して行けば良いかを算段し、やはりモダンジャズ黄金の組み合わせ、トランペット、テナーサックスがフロントのクインテット編成とし、テナーには前年59年Max Roachのバンドに参加し頭角を現してきた俊英Stanley Turrentineを起用し、リズムセクションには今が旬のBlakeyを筆頭にしたJMトリオで行こうと。ちなみにReece, Turrentine2管のフロント作品にはDuke Jordanの代表作60年8月録音「Flight to Jordan」もあります。

またTurrentineのリーダーBN第1作目として同時期60年6月に「Look Out!」が録音されています。

当時の若手の充実した作品が目白押しの60年前後のBN、関係者は満を持して本作「Comin’ On」のレコーディングに臨んだと思います。Reeceのブリリアントでビッグトーンのトランペットはラテンの血の成せる技でしょう、ニュアンスやフレージングには米国人とは違いを感じる時があります。さらに欧州で10年近く渡欧組の米国ミュージシャンと切磋琢磨し、ジャズを身に付けたバックグラウンドもあり、ジャズマンとしての素養や魅力、存在感も抜群です。本作収録1曲目から5曲目がJMトリオとの演奏になります。

演奏について触れて行きましょう。1曲目ReeceのオリジナルYe Olde Blues、アップテンポのブルースフォームのナンバーです。冒頭いきなりテナーソロが始まり、しかもテーマ演奏がなく延々と続くリーダー以外の奏者のソロに意表を突かれますが、Turrentineの魅惑の音色、26歳にして既に自身のトーン、ニュアンスを確立しており、フレーズ語尾のビブラートが堪りません。ソロのアプローチも十分にオリジナリティを感じさせます。その後ろで大暴れするBlakeyのドラミング、シャープなシンバルレガートはもちろん、連発されるナイアガラロール、フィルイン、演奏する事が嬉しくて、楽しくて仕方がない、まるで思春期の少年を思わせる溌剌ぶりです!Timmonsのバッキングも見事にBlakeyと連んでいます!1コーラスのテーマを経てReeceのソロがスタート、楽器が鳴りまくり状態、全ての音域がムラなく響いています!フレージングはClifford Brown直系のスタイルですが、間を生かしつつ巧みなラインを聴かせます。ここでもコーラスやソロイストの交代時に繰り出されるBlakeyのアプローチのスリリングな事!Timmonsのスインギーなソロにスイッチしてからは様子を伺いつつ、シンプルにサポートするメリハリが素敵です!その後テナーだけでドラムと2コーラスの4バース、同様にトランペットだけで4バースが2コーラス行われますが、冒頭部分での意表をついたテナーソロの展開を踏襲し、演奏に一貫性を持たせています。

2曲目もReeceの曲でThe Case of the Frightened Lover、印象的なイントロからテーマが始まりますが、ユニークなメロディラインを有したナンバーです。コード進行にも一捻り加えられた、ソロイストにはハードルが一段階上げられたオリジナル。ここでも印象的なのがMerrittのベースです。on topでタイト、Blakeyのトップシンバルとのコンビネーションは申し分ありません!女房役という言葉がぴったりのサポートです。ソロ先発のReece、半音進行のコード・チェンジに対しスキーやバイクのスラロームの如くアボイド・ノートを避け、効果的な音を選んで巧みに蛇行したアドリブラインを作っています。この事は次のTurrentineのソロにも同様、いやそれ以上に言えますが、BlakeyのドラミングのレスポンスがReeceの時よりも活発なのはTurrentineの演奏にインスパイアされている証拠でしょう。ここでもTimmonsのソロは明快でスインギーです。ピアノソロ後にトランペットとテナーが半コーラスづつソロを取りラストテーマへ。

3曲目はTenderly、Reeceは美しいメロディをピアノ伴奏だけで朗々とルパートで吹いていますが、バラードで表現すべき哀愁やしっとり感があまり感じられません。ラテン系のミュージシャンにはマイナーやブルーノートという概念が希薄だ、という話を聞いたことがありますし、その事を他のミュージシャンの演奏で感じた事があります。ルパート後も直ぐにミディアム・スイングでのソロになり、インプロビゼーションを聴かせるための素材扱いの如しです。続くTurrentineのソロには何とも言えない色気やサブトーンでの味わい、歌い回し、ファンキーさが表現されており、ミディアム・スイングでもバラードの延長線としてのプレイ、必然性を感じ取ることが出来ます。ピアノソロ後ドラムのフィルイン・フレーズを模してトランペットが再登場、ラストテーマはシャッフルのリズムにての演奏、リタルダンド、カデンツァでFineです。

4曲目はReeceのナンバーAchmet、冒頭ではBlakeyの繰り出すラテンのリズムにReeceのコンガ(!)が絡みますが、大変な躍動感です!さすがJamaica, Kingston出身!打楽器のお手並みも持ち合わせています。1’49″まで饗宴は続き、Reeceはトランペット奏者に戻るべくコンガ演奏を終え、その後はBlakeyのソロになります。曲自体はかなりアップテンポのスイング、リズミックな曲です。ソロ先発はTurrentine、テンポが速いにも関わらず低音部分を必ずサブトーンでふくよかに鳴らしています。リズムセクションの安定感も聴きものです。Reece, Timmonsと軽快にソロが続き、再びBlakeyのソロを迎えますが、ここでの皮モノを中心に拘ったドラミングは実に見事、抜群のテクニックを見せつけ、ラストテーマに突入しFineです。

5曲目The Story of LoveはA Love’s Storyとも呼ばれる、パナマ人作曲家Carlos Eleta Almaranが書いたナンバー。56年の同名Mexico映画の挿入曲として使われたことで広く知れ渡り、古今東西多くの歌手に取り上げられているラテンの名曲。日本でもかつて毎夜毎夜ナイトクラブやキャバレーで必ず演奏されたレパートリーの1曲です。ドラムのイントロに始まり、興味深いアンサンブルを伴ってトランペットのメロディが奏でられます。ここでのReeceの音色は曲の雰囲気にとても合致していて華やいでいます。サビはスイングになり、Turrentineの登場、この手のメロディ奏は実にお手の物、その後のテーマ部分も引き続きテナーが担当し、ムードを高めています。ソロはスイングになりReeceが先発を務めます。ソロのアプローチが実に巧みで歌っているのですが、ちょっと真面目過ぎるかな、と。この手のムーディな曲では遊び心が特に大切だと感じるのですが、続くTurrentineの演奏は彼が本来持つリラクゼーションが遊び心を誘発し、聴き応えのある演奏に仕立てていると理解しています。

ここまでがReece, Turrentine, JMトリオでの演奏になりますが、既にアルバム1枚分のボリュームがあります。当時リリースされなかった理由を考えても演奏の素晴らしさ、選曲やアレンジの充実ぶりから思い当たる点はないのですが、強いて挙げるならばBNはJMを売り出そうとしていたので、リズムセクションが全く同じではキャラが被ってしまうのを避けたかったのではないかと。その後Reeceは62年3月録音の作品「Asia Minor」をPrestige傍系New Jazzに録音、「Comin’ On」がリリースされないと判明したのでしょう、本作収録The Story of Loveをほぼ同じアレンジで、もう1曲Achmetの方は異なったアレンジを施し(タイトルも単なる誤植かも知れませんがAckmetになっています)Joe Farrell, Cecil Payne, Hank Jones, Ron Carter, Charlie Persipらと演奏しています。

後半のメンバーをご紹介しましょう。ピアノDuke Jordan、ベースSam Jones、ドラムAl HarewoodのリズムセクションにReece, Turrentine、更にもう一人テナー奏者Musa Kaleemが加わり、tp, ts, tsの変則3管編成となりアンサンブルに厚みが加わります。Kaleemですが21年1月West Virginia州出身、本名はOrlando Wright、Mary Lou Williams, Fletcher Hendersonらと共演、40年代にはBlakeyのコンボにも在団したそうです。同じ楽器が二人いればどうしても比較対象となりますが、Turrentineに聴き劣りすることのない音色、プレイを展開しています。

6曲目ReeceのオリジナルSands、トランペットの主旋律とテナー2管のアンサンブルとのコール&レスポンスが効果的なナンバーです。ドラマーが替わった事で随分と印象が変わっています。動のBlakeyに対し静、と言うより堅実のHarewood、JordanのバッキングやJonesのラインもくっきりと聴こえます。派手さとテクニック、華はダントツBlakeyの方に軍配が上がりますが、バンドアンサンブルを引き立てるのはHarewoodの方が適任です。ソロの先発はTurrentine、4月の演奏時よりもタイムが安定してレイドバック感が心地よく聴こえますが、こちらの録音当日の調子が良かったのか、3か月の間に進歩を遂げたのか、いずれにせよグレードアップした内容です。続くReeceのソロも同じくタイムがより安定して聴こえます。ひょっとしてHarewood他サポート上手なリズムセクションを得て、単純に落ち着いて演奏が出来ただけなのかも知れませんね。Blakey率いるリズムセクションとの共演では彼らと対峙する形になってしまいますから。そしてKaleemの登場です。深い音色、豊かなニュアンス、グルーヴ感、これは只者ではありません!フレージングが誰かによく似ていると感じましたが、これはBenny Golsonじゃありませんか!!ひょっとしてGolsonが変名を使って参加したのでは?とまで考えてしまいましたが違います。そしてKaleemの方が10歳近く年上なので、ひょっとしたらGolsonの方が演奏の影響を受けているのかも知れません。ピアノとReeceの短いソロを経てラストテーマへ。

7曲目Reeceのオリジナルで表題曲Comin’ On、ベースの短くともツボを得たスインギーなソロ、さすがSam Jonesです。引き続きイントロが始まりますが曲自体はブルース、メロディのスペースをたっぷりと取ったファンキーなテイストが、更にリラックスした雰囲気を醸し出します。テーマの最中からKaleemのソロが始まります。Golsonライクな音色は彼と同じ楽器セッティングを思わせますが、やはりOtto Linkメタル・マウスピース、オープニング10番、リードLa Voz Hardあたりのヘヴィー仕様のユーザーなのでしょうか?2’22″でソロがTurrentineにチェンジしますが音色とソロのアプローチの違いがはっきりしていて興味深いです。Turrentineのブルージーさが印象的でホンカー・テイストも感じます。続くJordan、Reeceのソロも好調ぶりを聴かせています。

8曲目Goose DanceはテーマでKaleemのフルートを効果的にフィーチャーしたナンバー、なかなかの佳曲です。Reeceの演奏も、4月の録音時よりもリラックスしているようです。Kaleemのテナーの音色には抜けきらない、こもった成分が聴こえますが、これがハードなセッティングを感じさせる要因でもあります。Turrentineの好調ぶりはここでも発揮され、ファンとしては嬉しい限りです。ラストテーマでは再びKaleemのフルートが聴かれます。

9曲目ラストを締めるのはReeceワンホーンによるバラードThe Things We Did Last Summer、Sammy Cahn, Jule Styneの作詞作曲コンビによるナンバーで61年4月同じくトランペッターTed Cursonのアルバム「Plenty of Horn」での、Eric Dolphyと演奏しているヴァージョンも印象的です。

4月収録のTenderlyよりも深い表現を聴くことが出来ますが、2曲のバラードを聴き比べての上での印象、この曲単体ではいささか物足りなさを感じそうです。Blakeyトリオに演奏を掻き回された(笑)テイクには緊張感がみなぎっていますが、それもまたジャズの醍醐味、本作はテンションとリリースの二種類のセッションが収録された他にあまり例を見ない、ユニークな内容の作品に違いありません。

2020.03.09 Mon

La Vita e Bella / Bob Mintzer, Dado Moroni, Riccardo Fioravanti, Joe La Barbera

今回はテナーサックスBob Mintzer、ピアノDado Moroni、ベースRiccardo Fioravanti、ドラムJoe La Barberaらのカルテットによる2005年イタリアでのライブ作品「La Vita e Bella」を取り上げてみましょう。

Live Recording at the Art Blakey Jazz Club, Community Giovanile, Busto Arsizio, Italy on 4 and 5 December 2005. Produced by Achille Castelli Exective Producer: Mario Cacci Label: Abeat Records, Italy

ts)Bob Mintzer p)Dado Moroni b)Riccardo Fioravanti ds)Joe La Barbera

1)The Gathering 2)La Vita e Bella(Life Is Beautiful) 3)Re Re 4)Kind of Bill 5)Bradley’s 2 Am? 6)After 7)Ninna Anna 8)Invitation

イタリア、アメリカのミュージシャン二人づつの伊米混合の編成、参加メンバー全員が自曲を持ち寄り、レギュラーバンドの如きグレードの高い演奏をライブ録音で繰り広げています。何よりレコーディングの音質、クオリティに徹底的にこだわった素晴らしい録音状態です。各々の楽器の音像、音質、定位、バランス、そして最も感じるのはライブ会場のアンビエント(環境という意味ですが音楽用語として会場の箱鳴りの事をいう場合があります)の豊かさですが、臨場感がハンパないです。ライナーノーツには各楽器への使用マイクロフォンやミキサー、コンプレッサー、イコライザー、録音卓、モニターetcの使用録音機材が実に詳細に記載されていますが、プロデューサーやレコーディング・スタッフのこだわりなのでしょう。これだけのクオリティの音質を収録出来た自負もあるのでしょうが、専門外なのでどれだけ凄い事なのか、自分には残念ながら馬の耳に念仏状態です。同じくMintzerが参加した作品09年録音「Standards 2 Movie Music」は映画音楽の名曲にジャズアレンジを施した作品、小唄感が心地良く、こちらはライブハウスではなく小ホールのステージを利用し、ライブレコーディングを行っています(オーディエンスは不在ですが)。共演メンバーはドラムPeter Erskine、ピアノAlan Pasqua、ベースDarek Olesの人選も適材適所です。録音状態も良く似た傾向の豊かなアンビエントで臨場感を伴った、そして外連味のないハイクオリティな演奏内容です。「La Vita e Bella」が数多くの異なったタイプのマイクロフォンを用いて楽器の音を細分化して収録し、録音後にPro Tools(デジタル録音、編集に欠かせないソフト)を用いて音の取捨選択(例えて言うならば音像を2次元として捉え、必要ない部分を消しゴムで消したり、強調したい箇所は立体的にうず高く盛り上げたり、反対に平らにする、PCを用いてレイアウトする編集作業です)をミキシングで徹底的に行うことでアンビエントを作り出しているのに対し、「Standards 2」は言わば真逆の状態、ダイレクト・2トラック・ステレオによる録音でマイクロフォンを左右に1本づつをメインに、補助的にセンターに1本、合計3本のマイクロフォンだけで収録しますが、録音開始前にマイクロフォンの位置をシビアにセッティングすることが絶対条件です。わずか1cmマイクロフォンの位置がずれただけでバランスと音像が激変してしまいますから。4人のミュージシャンの立ち位置、楽器の音の被り具合、その音量、ダイナミクスを見極めてちょうど良い位置にマイクロフォンをセッティングするのです。録音後ミキシングは行われない、と言うか、微調整すること自体が不可能、つまり始める前に全ての音を作り上げておく訳ですね。全く異なった録音方法にも関わらず同傾向の良い音で録音されるのが可能なのには驚かされます。もちろん最終的にはレコーディング・エンジニアの感性が物を言う事になりますが。

本作録音はMilanoの北に位置する基礎自治体(市町村や東京23区に該当します)Busto ArsizioにあるArt Blakey Jazz Clubで行われました。店の名前が良いですね、Italyは昔から米国のJazzに畏敬の念を持ち、Jazzを愛し、現在も素晴らしいミュージシャンを輩出しています。まずは参加伊国ミュージシャンを簡単にご紹介しましょう。ピアノ奏者Dado Moroniは62年Genoa出身、独学で学び17歳にして初リーダー作をリリースしました。渡米をきっかけに多くの米国プレーヤーと共演し、87年にはThelonious Monk Competionで優勝の栄誉に輝きました。Italyを代表するピアニストのひとりです。ベース奏者Riccardo Fioravantiは57年Milano出身、同様に多くの米国ミュージシャンと共演を果たし、05年に初リーダー作「Bill Evans Project」を自己のトリオ(Bass, Guitar, Vibraphone)で発表し、音楽性の高さからその名を不動のものにしました。

参加米国ミュージシャン、ドラマーJoe La Barberaは48年New York州生まれ、最晩年のBill Evans Trioのメンバーとして活躍した事で有名です。父親にドラムの手ほどきを受け、その後Berklee音楽院で学びました。テナー奏者Patとトランペット奏者Johnは実兄にあたります。Bob Mintzerは当Blogでも度々登場したテナーサックスの第一人者、彼の参加が本作の価値を否応なしに高めています。

La Barbera参加Bill Evans79年録音作品「We Will Meet Again」

それでは曲毎に見て行きましょう。1曲目MintzerのナンバーThe Gathering、ブルースですがサビが付けられたいかにもMintzerらしいナンバーです。冒頭に会場の演奏前のざわめきが20秒ほど収録されていますが、ライブレコーディングという事を宣言しているかの如し、ムードが高まります。奥行きをしっかりと感じさせつつ各楽器の音像はクリアーで、バランス感も抜群の録音はリラックスしたムードの演奏と相俟ってとても心地良いです。先発ソロはMintzer本人、実に好みのテナーの音色、タイム感やフレージングのテイストもある種僕自身の理想です。続いてFioravantiのベースソロ、こちらもアコースティックな木の音がする音色で、正確なピッチ、スインギーなラインに好感が持てます。Moroniのピアノはコンテンポラリーな中にもオーソドックスなテイストがバランス良く入った、例えるならばサシの入った高級和牛の霜降り肉状態、深い味わいを堪能させてくれます。その後ラストテーマを迎え、オープニングに相応しい演奏となりました。

2曲目はタイトルナンバーLa Vita e Bella、英語表記ではLife Is Beautiful、Academy賞ほか世界中の各賞を総なめにした97年の同名イタリア映画の主題曲です。ボサノヴァのリズムが美しく可憐なメロディと合わさった名曲、こんな良い曲がコンサートで演奏されたなら、終了後に演奏内容を噛み締めつつ、曲のメロディを口ずさみながら帰途についてしまいそうです(笑)。MintzerとMoroniの演奏も曲想に合致したチャーミングさを聴かせています。

3曲目もMintzerのナンバーRe Re、曲のコード進行はスタンダードナンバーThere Will Never Be Another Youが基になっています。冒頭テーマはピアノが参加しないテナー、ベース、ドラムの3人で演奏され、先発テナーソロからピアノのバッキングが聴かれます。テーマでコードが鳴っていると原曲のチェンジが明確になってしまうのを控えるためでしょうか。ここで感じるのはLa Barberaのドラミング、スインギーでレガートも素晴らしいのですが、プレイの全体的な表現が他のメンバーに比べてやや強過ぎるように聴こえます。もしかしたら録音の関係か、それともこのような表現法が彼のスタイルなのか、背の高いプレーヤーなので手足のストロークがあり、知らず知らずのうちに楽器が鳴ってしまうのもあります。何れかは分かりませんが、思うにもう少しコンパクトな表現が主体のドラマーで、オーソドックスな彼のスタイルよりもコンテンポラリーであれば、一層一体感が得られたように感じています。Mintzerの素晴らしいソロにインスパイアされたMoroniもスインガーぶりを発揮、続くベースとドラムの8〜4小節トレードもスリリングです!ラストテーマでもピアノのバッキングは行われず、オーラスでコードが聴こえるのみです。拍手が鳴り止まない最中、イタリア語訛りで「 Bob Mintzer !」と連呼するのはMoroniでしょうか?Bill Evansの名盤「At the Montreux Jazz Festival」、こちらはフランス語ですが、司会者の名調子による「あの」メンバー紹介を思い出してしまいました。

4曲目はLa BarberaのKind of Bill、美しいバラードナンバー、ドラマーは往々にして印象的なバラードを書くようです。ピアノのイントロに始まり、テナーとピアノのデュオで丸々テーマが奏でられます。ベース、ドラムが加わりスイングでピアノソロが始まります。テナーソロも同様に行われ、ラストテーマは再びテナー、ピアノのデュオでしっとりとFineです。

5曲目はMoroni作Bradley’s, 2AM?はドラムのイントロから始まる、ジャジーなテイストを湛えた佳曲、午前2時のNYC Bradley’sとは思えない明るさです(笑)。Moroni自身がソロの先発で華やかなソロを取り、Mintzer, Fioravantiと続きます。ラストテーマ後ヴァンプが延々と繰り返され、Mintzerがもうひと暴れして盛り上げています。

6曲目は同じくMoroni作の哀愁のボサノバナンバーAfter、こちらも良い曲ですね。ソロの先発はMintzer、コード進行に対して巧みなラインを繰り出しつつ、彼自身の唄をフラジオも交えかなり熱く聴かせます。続くMoroniはMcCoy Tynerのアプローチを覗かせつつ、こちらもパッションを感じさせるプレイを展開しています。La Barberaのバッキングが比較的一本調子なのが気になります。向こう正面からの正攻法の他に、搦手から攻める、演奏を俯瞰、鳥瞰したりと、異なった方面からの攻略が行われて然るべきだと思うのですが、皆さんはどうお感じになりますか。

7曲目はFioravantiのナンバーNinna Annaは穏やかなワルツのナンバー、ジャズの伝統に根ざしたコード進行、メロディラインにはホッとさせられます。1コーラスづつのソロ先発はFioravanti、続いてMoroniは美しいタッチで色彩豊かなラインを聴かせ、Mintzerの朗々とした唄いっぷりで演奏が引き締まります。

8曲目最後を飾るのはスタンダード・ナンバーInvitation、アップテンポの設定がフィナーレに相応しい、パッションの高さが示された演奏です。カウントを取るのがMintzer、選曲は彼のチョイスによるものでしょうか?81年12月録音Jaco Pastriusの名盤「The Birthday Concert」でのMichel Breckerとの壮絶なテナー・バトルが思い出されます。

何よりここでのLa Barberaのドラミングがtoo muchに聴こえません。早いテンポとInvitation自体が持つモーダル、コーダルが合わさった曲想が彼のドラミングと合致し、バランスが取れているのでしょうか。論理的にストーリーを構築するが如きMintzerのプレイへのLa Barberaの寄り添い感、同じくMoraniのグルーヴとスピード感をベースFioravantiと共にプッシュする一体感、そして超個性的では無いにしろ、エナジーの放出感が凄まじい迫力のドラムソロ、本作中最も白熱した演奏となりました。

2020.02.28 Fri

Nature Boy The Standards Album / Aaron Neville

今回はボーカリストAaron Nevilleの2003年録音リリース作品「Nature Boy The Standards Album」を取り上げたいと思います。「こんな歌い方アリですか?」と問いかけたくなるほどに意外性のある、しかも素晴らしい歌唱表現が、スタンダードナンバーに新たな個性をもたらしました。

Recorded at Avatar Studios, NYC, January 5-7, 2003 Engineer: Dave O’Donnell Produced, Arranged, and Conducted by Rob Mounsey Executive Producer: Ron Goldstein Verve Label

vo)Aaron Neville vo)Linda Ronstadt(track: 3) ds)Grady Tate b)Ron Carter g)Anthony Wilson g)Ry Cooder(track: 12) p)Rob Mounsey ts)Michael Brecker(track: 5, 9) ts)Charles Neville(track: 11) tp, f.hr)Roy Hargrove(track:2, 3, 10) tb)Ray Anderson(track: 4) acc)Gil Goldstein(track: 6) congas, perc)Bashiri Johnson(track: 1, 4, 7, 10)

1)Summertime 2)Blame It on My Youth 3)The Very Thought of You 4)The Shadow of Your Smile 5)Cry Me a River 6)Nature Boy 7)Who Will Buy? 8)Come Rain or Come Shine 9)Our Love Is Here to Stay 10)In the Still of the Night 11)Since I Fell for You 12)Danny Boy

Aaron NevilleはNeville四兄弟の三男として41年にNew Orleansで生まれました。Art, Charles, Cyrilらとの名グループNeville Brothersのメンバーとしても活躍していましたが、兄弟の中では最も早くからソロ活動を開始しています。Aaronの美しくスイートな歌声と、ファルセットを交えた声の震わせ方、コブシの回し方から、ヨーデル奏法を思わせる唱法は実に魅力的で個性的です。一体どのようにしてこの歌い方を習得したのか、ルーツやスタイル確立までの変遷には興味のあるところですが、本作は彼のボーカルの魅力を引き出すべく、文句なしのメンバー、ゲスト達と共に都会的なセンスのアレンジを施したジャズのスタンダードナンバーを取り上げて存分に歌わせる、製作者サイドからそのような意気込みが伝わる作品に仕上がりました。普段Aaronがまず歌うことのないスタンダードナンバーの数々(幼少期には口ずさんでいたでしょうが)、どの程度まで彼が選曲に関わったのかも気になりますが、常日頃愛唱しているかの如きボーカルの絶好調ぶりを聴かせ、結果手垢のついたスタンダードに今までにない新たな説得力、魅力が加わったと感じています。リズムセクションはプロデューサーでもあるピアニストRob Mounseyを中心にベーシストRon Carter、ドラマーにはジャズシンガーとしても活躍していたGrady Tateら歌伴にも名人芸を聴かせる巨匠たちを配し、ギタリストには歌姫Diana Krallのサポートでも有名なAnthony Wilsonを加え彼らカルテットが一貫して全曲伴奏を務め、曲毎にゲストアーティストを招き適材適所な間奏を聴かせ、さらにストリングス、ホーンによるオーケストレーションも豪華に色合いを添えています。Mounseyのアレンジ、采配共に洗練されていて巧みだと思います。

当Blogにて以前取り上げたことのある88年リリースHal Willnerプロデュース作品「Stay Awake Various Interpretations of Music from Vintage Disney Films」、珠玉のDisneyチューンに優れたアレンジ、プロデュース力を加え新たな命が吹き込まれました。収録曲のMickey Mouse MarchはAaronとDr. Johnのピアノとのデュオ演奏なのですが、個人的にはここでの歌唱に雷に打たれるが如くシビレて以来の、Aaronの大ファンです!誰もが知るシンプルなメロディ、言い換えれば単なる童謡があそこまで愛を伝えられるメッセージソングに変身するとは驚きでした。そう言えば伴奏のDr. JohnもNew Orleans出身の超個性派ボーカリストです。King Oliverに始まりKid Ory, Jelly Roll Morton, Sidney Bechet, Louis Armstrong、枚挙に遑がありませんが加えてEllis, Branford, WyntonのMarsalis親子、Nicholas Payton, そしてNeville Brothers。こんなに個性的なシンガー、アーティストを数多く輩出でき、しかもジャズ発祥の地でもあるご当地、その底知れぬポテンシャルを再認識してしまいます。

それでは収録曲に触れて行く事にしましょう。1曲目George Gershwinの名曲Summertime、ギターのカッティングとパーカッションの繰り出すリズムから一瞬レゲエのグルーヴを感じましたが、ビートの基本はスイングです。ホーンセクションのアンサンブルやベースのグリッサンドが重厚さを醸し出し、イントロでの演奏はボーカル登場までの期待感を十分に高めてくれます。Aaronの声には爽やかさも感じさせますが哀愁感、枯れた成分、独特なアクも内包し様々な音色を使い分け複雑な色合いを見せます。そこにヨーデル・ライクな(この表現が的を得ているのか今一つ確信がありませんが)コブシ回し(しかもピッチ感が素晴らしいのです!)、ダイナミクスを伴ったファルセットが加わることにより、誰も体感したことのないメロディの浮遊感が訪れます。所々に施された多重録音による唄のハーモニーも、インチューンでごく自然に耳に入って来ます。Summertimeは本来子守唄のはずですが間違いなくこの歌唱で眠りに誘われる子供はいないでしょうね(笑)

2曲目Blame It on My Youth、実に美しいメロディライン、コード感を持つバラードです。歌詞の内容を丁寧に、噛み締めるが如く、加えてAaronのニュアンスに富んだ歌い方と、リズムセクションの合わさり方、歌詞の合間を縫って絶妙に重なるオーケストラの調べが心地よく響きますが、Roy Hargroveのトランペットソロ、サポートするTateのブラシワークが更なる高みへと導きます。曲中トランペットのオブリガートは聴かれませんが、エンディングで一節、唄の高音域を用いたクライマックスで演奏しています。音の跳躍でのAaronのボーカルテクニックも申し分ありません。

3曲目The Very Thought of You、イントロではギター、シンセサイザーを中心としたサウンドにストリングスが芳醇なサウンドを与えています。歌本編に入ってもアレンジが継続して光ります。Aaronは囁くような語り口から始まり、ここでも抜群のボーカルを聴かせますが、ゲストにLinda Ronstadtの歌が加わります。Lindaとは89年彼女のアルバム「Cry Like a Rainstorm, Howl Like the Wind」で共演し、彼女たちのデュエット2曲が90, 91年と連続してグラミー賞を受賞しました。91年にはLindaのプロデュースによりAaronの作品「Warm Your Heart」がリリースされました。LindaのAaronのボーカルへの入れ込みようが感じられますが、その返礼として本作に招き入れたのでしょう。Lindaは米国を代表するロック、ポップス・シンガーですがスタンダードナンバーを取り上げた作品も何枚かリリースしています。彼女の歌唱自体は、よく声の出ているパワフルさを聴かせますが、残念ながらジャズ的要素を殆ど認める事が出来ません。声質にジャズ表現に不可欠な陰りを感じず、米国西海岸の健康的明るさが目立ち、むき卵の如きつるっとした質感です。歌唱自体も何故か必ずシャウト系に移行し、抑制された感情表現を行うための引き出しが見当たりません。Aaronと比較すると彼の繊細さ、表現の幅の広さ、深さ、スイートネス、一歩退いた音楽への客観的スタンス、全てに格が違うのを感じてしまいます。AaronはLindaにとって真逆のタイプのシンガーだけに憧れがあったのでしょう。この曲でもHargroveがフリューゲルホルンでソロを取り、魅惑的なトーンを披露しています。同様にエンディングのアンサンブルで共演しています。

Aaron Neville参加Linda Ronstadt作品「Cry Like a Rainstorm, Howl Like the Wind」
Linda Ronstadtプロデュース作品「Warm Your Heart」

4曲目The Shadow of Your Smileはボサノヴァを代表するナンバー、イントロではベース重音でのパターンが印象的で、ストリングス、フルートの隠し味が効果的です。Aaronの歌唱も朗々感が堪りません!七色の声質(それ以上にもっとヴァリエーションがあるかも知れません!)を駆使しつつビブラートの微細な振幅数を変えることで、ニュアンス付けを行っています。この曲ではトロンボーン奏者Ray Andersonを迎え、ちょっと危ないヤサグレ感を湛えたテイストでの間奏、アンサンブルを聴かせています。Andersonの音色の複雑さにはAaronの声質に通じるものを感じます。

5曲目Cry Me a River、古今東西様々な歌手、ジャンルで歌われている名曲です。下手をするとどっぷりとマイナーの暗さが表出し、演歌調になってしまいがちな曲想ですが、Aaronの歌いっぷりとアレンジ、サポートミュージシャン達の好演、そしてMichael Breckerの伴奏により全てが良い方向に具現化しました。イントロでは一聴すぐ分かるMichaelの音色とニュアンスによる、開会宣言とも取れるひと節のメロディがあります。右手を高らかに上げながら「私はAaronの伴奏に対し、全身全霊を傾け、全ての音が音楽的にサウンドするように、正々堂々と演奏する事をここに誓います」と選手宣誓をするかの如きメッセージを感じ取る事が出来ましたが(何のこっちゃ?)、案の定Michaelのソロの入魂振り!ボーカル、アレンジ、共演者のサウンド全てを踏まえ、且つ自身が未だ成し得ていないアプローチを模索しながら繊細に、大胆にブロウしています。イントロと同じメロディが再利用されているアウトロでは、AaronのスキャットにMichael反応しています。

6曲目表題曲Nature BoyにはGil Goldsteinのアコーディオンを加え、Wilsonはアコースティック・ギターに持ち替え、アレンジでは対旋律を張り巡らし曲の持つムードに叙情性を付加し、深遠さを出すことに成功しています。2’42″の短い演奏ですが実に印象的であります。

7曲目Who Will Buy?はミュージカルOliverの挿入曲。オルガンやホーンセクションを配したアンサンブルに古き良き米国を感じさせるのは、やはりミュージカルナンバー故でしょう。ここでもボーカルにオーヴァーダビングが施され、ゴージャスなサウンドを聴かせます。Wilsonのギターソロがフィーチャーされ、クリアーなトーン、フレージングを携えた正統派のスタイルには好感が持てますが、むしろ若年寄然、録音時34歳とは思えない落ち着き振りと風格です。それもそのはず彼の父親は40年代から活躍している名バンドリーダーGerald Wilson、若きEric Dolphyも彼のバンドに参加していました。親譲りのミュージシャンシップが成せる技なのでしょう。後うたではファルセットも用いたAaronのスキャットが聴かれますが超絶です!表現力の深さを一層感じるのですが、実は彼には喘息の持病があります。これだけの歌唱を行えるので当然デリケートな喉の持ち主なのでしょう。05年に発生したハリケーン・カトリーナによってNew Orleansの彼の自宅が全壊し、Nashvilleへと避難しました。カトリーナ後New Orleansの汚染された空気が持病の喘息に悪影響を与えるとの医師の判断から、Aaronはしばらく故郷に戻らなかったそうです。

8曲目Come Rain or Come Shine、イントロはギターソロから始まりますが、ここでのギターのアプローチにも興味をそそられます。純然とカルテットだけによる伴奏でAaron訥々と歌います。おっと、ストリングスも従えていましたね、重厚な弦楽器アンサンブルのお陰で映画音楽の挿入曲の如きムーディな雰囲気の演奏ですが、ふとAaronの歌は果たしてジャズなのだろうかと考えると、実は微妙です。一つ言えるのは人を説得せしめる表現力を持った音楽家はジャンルに関係なく良い表現を行えるという事で、音楽にはジャンルは無くあるのは良い、悪いだけだという言葉の通り、Aaronはスタンダードナンバーに対し良い歌い方をしているに過ぎず、ジャズというカテゴリーよりも何よりも、ひたすらAaron Nevilleミュージックを演奏しているのかも知れません。

9曲目Gershwin作の名曲Our Love Is Here to Stay、ジャズボーカルの定番中の定番をビッグバンドジャズ・テイストでアレンジ、ストリングスとホーンセクションがコーニーさを屈託無く表現しています。ドラムのステディなブラシワーク、縦横無尽なベース・ライン、Freddie Greenの如きタイトでリズミックなギター・カッティング、そしてMichaelのテナーによる華麗な間奏、レイドバック感が絶妙です。音楽の枠組みはどこを切っても全くのジャズボーカルの伴奏ですが、中身は超個性的なAaronの歌声、歌唱。違和感が何処にも感じられないのは歌の素晴らしさ故か、耳がすっかり慣れてしまったのか。いずれにせよこの曲の名演奏の誕生です。

10曲目In the Still of the NightはCole Porter作曲のナンバー。アレンジのテイストとしてdoo-wopを感じさせ、7曲目同様に50年代の米国の雰囲気を表現しているかのようです。ここでもボーカルにオーヴァーダビングが施されていますが、歌に厚みを持たせると言うよりも、doo-wopに欠かせないコーラス・アンサンブルを聴かせるのが目的なのでしょう。爽やかさの中にも哀愁を感じさせる、美しく華やかで、細部に至るまで丁寧で気持のこもった歌唱に感動すら覚えます。Hargroveのミュート・トランペットによる間奏、後うたでのAaronとのトレードも冴えています。Tateは淡々とボサノヴァのリズムを繰り出していますがCarterは様々なアプローチを展開、なかなかここまでアクティヴなベースを聴かせることはありません。

11曲目Since I Fell for Youはジャンプ、ブルースナンバーを得意としたBuddy Johnsonのナンバー、Aaronは良くコブシの回った巧みなボーカルを聴かせます。ここではAaronのすぐ上の兄Charles(四兄弟の次男)がテナーサックスで参加し渋いソロを聴かせます。実は兄弟が集まりNeville Brothersとして活動を開始したのは遅咲きで77年から、それまでの兄弟各々の活動が結実してその後優れた作品を多くリリースしました。

Neville Brothers代表作「Yellow Moon」89年リリース

12曲目最後を飾るDanny Boyはお馴染みIreland民謡、Ry Cooderがギターの伴奏で参加します。誰もが知るシンプルなメロディを巧みに歌い上げていますが、これはAaronの最も得意とするところ、前述のMickey Mouse Marchでもそうでしたが、かのLuciano Pavarottiと共演を果たした92年ライブ盤「 Pavarotti & Friends」に収録のAve Maria、こちらも実に素晴らしく、心揺さぶられる説得力に満ちています。

2020.02.16 Sun

Latin Genesis / Dave Liebman

今回はテナー奏者Dave Liebmanの2002年作品「Latin Genesis」を取り上げてみましょう。

Recorded at Power Station New England by Alec Head Produced by Dave Liebman Co-produced by Dan Moretti Executive Producer: Neil Weiss Whaling City Sound Label 2001年録音

ts,ss)Dave Liebman ts,ss)Don Braden ts,ss,fl,alt-fl,bcl)Dan Moretti b)Oscar Stagnaro ds)Mark Walker perc)Pernell Saturnino pero)Jorge Najaro talking drum)Rick Andrade

1)Vail Jumpers 2)Have You Met Miss Jones 3)PP Phoenix 4)For All the Other Times 5)Three Card Molly 6)Tiara 7)Cecilia Is Love 8)Brite Piece 9)Trippin’ 10)Calling Miss Khadija

Dave Liebmanを中心に、Don Braden, Dan Morettiらを加えたテナー奏者計3名にベースOscar Stagnaro、ドラムMark Walker、ラテンパーカッションにPernell Saturnino、Jorge Najaroの2人、2曲目のみにTalking DrumでRick Andradeが加わる、異色のコード楽器不在ラテン・セッションです。Liebmanにとってはコードレスでのレコーディングは度々ありましたが、そもそも本作のタイトルにも由来するElvin Jones71年録音「Genesis」、こちらはElvinのドラムを軸に同じくコードレスでDave Liebman, Joe Farrell, Frank Fosterと言うド級テナー3管にベースGene Perlaで演奏したBlue Note Labelの作品ですが、こちらの収録ナンバーを中心に、パーカッション参加以外同じ編成でメンバーのオリジナルやスタンダード・チューン、ジャズマンの作品を付加し全曲コテコテ、本格派ラテンのリズムにアレンジされた演奏をたっぷりと聴けるラテン版「Genesis」ということで、本作タイトル「Latin Genesis」と相成りました。

それでは曲毎に見て行きましょう。1曲目BradenのナンバーVail Jumpers、オープニングに相応しい軽快でいて重厚な佳曲、ラテンのリズムが心地良く、Bradenがリードを吹くテナー3管のアンサンブルでは素晴らしいハーモニーが聴かれます。アレンジも良いですね。Braden自身は00年作品「Contemporary Standards Ensemble」で演奏しこちらが初演、スイングビートでテンポも少し遅く演奏されているため本作の演奏の方によりスピード感を覚えますが、初演はトランペット、アルト、テナーの3管編成でのジャジーな雰囲気満載のフォーメーション、佳曲はリズムの形態を問わず演奏可能、と言う事でしょう。

Don Braden Presents the Contemporary Standards Ensemble

ソロの先発は意外にもベース、技巧派を聴かせますが、アンサンブル時よりもタイムがややラッシュする傾向にあります。Bradenのソロに繋がりますがコンポーザーならではの曲の構成をしっかり把握しつつ、巧みにツボを押さえてシャウトにまで至りソロの起承転結をまとめた、聴き応えのある演奏です。些か専門的な話で恐縮ですが、Bradenは90年代中頃からマウスピースをLawtonのメタルに替えています。それ以前はOtto Linkのやはりメタルを使用していました。個人的にはその頃の音色の方によりジャジーなテイストを感じるのですが、本人が気に入って使っているのならば致し方ありません。でも歌い回しや雰囲気が自分好みなテナー奏者だけに、少し残念な感じを覚えます。Lawtonマウスピースは明るくスピード感のあるサウンドですが、例えば93年録音のリーダー作「After Dark」で聴かれるOtto Linkのダークで付帯音の豊富な音色の方が、Bradenの持ち味に合っていると思うのは、きっと僕だけではないでしょう。本作の演奏でもあの音色でソロを聴けたらと、ふと思ってしまいます。テナーソロの後は短いドラムソロを挟みラストテーマへ、4分間というコンパクトな演奏で作品冒頭の掴みは良しとしました。

2曲目はスタンダードナンバーでお馴染みHave You Met Miss Jones、パーカッションが効果的に用いられ、本格的なラテンのグルーヴが表出します。テーマもかなりアレンジが施されていますが、ソロに於いてA-A-B-A構成のこの曲、Aの部分はドミナントペダルを用いたワンコードで行われ、Bでは逆にColtrane Changeも用いられ複雑化されているようです。ここではフロント3人の演奏がフィーチャーされますが三者三様のタイム感を聴く事が出来、興味深いです。先発Bradenはやや前にリズムのポイントが設定され比較的タイト、Morettiは更に前にポイントがありますが、時としてタイトさを欠く傾向にあります。Liebmanはリズムのポイント、タイトさともに実にソリッド、理想的なタイム感の演奏に徹しており、リズムに関してのマエストロ振りを発揮しています。本作ではテナー衆3人一貫した各々のリズム表現が聴かれるので、音色やフレージングの違いと同様にプレーヤーを判断する材料になります。ちなみに3人ともドイツのKeilwerth社製サックスを使用、エンドース(モニター)仲間でもあります。Morettiのソロ後短くパーカッションソロ、そしてラストテーマ奏の後はLiebmanがソプラノを携えサックスバトルが行われます。激しい盛り上がりでピークを迎えた頃にアンサンブル、良く出来たアレンジでリズムセクションも的確に呼応し大団円を迎えます。

3曲目Gene PerlaのPP Phoenix、この曲から3曲連続で「Genesis」収録曲の再演になります。原曲ではLiebmanがフルートでメロディ〜ソロを取り、テナー2管がアンサンブルを担当し、一貫してバラードでしっとりと演奏されていますが、こちらではボレロのリズムでLiebmanがソプラノを用いムーディに(あくまで彼流に、ですが)テーマ奏とソロプレイ、テナー2管のアンサンブルにも原曲にはない抑揚が付けられていてかなりメリハリの効いた構成での演奏、言わば「魅惑のラテンナンバー」状態です。曲想とソプラノがとても合致しており、Liebmanはこの曲を再演するときにはソプラノでプレイをしたいと考えていたように思います。

4曲目もPerlaのナンバーでFor All the Other Times、オリジナルはミディアム・スローのヘヴィーなスイング(Elvinの繰り出すリズムですから当然なのですが)で演奏されていますが、ここでは8分の6拍子のリズムでテンポも早く、小気味良いグルーヴを伴って演奏されます。ここでもフロント3人のバトルが聴かれます。先発はLiebman、テナーを用いたソロになりますがダークでエグエグ、そしてぶっちぎりの迫力!他の2人も大健闘していますがむしろLiebmanの引き立て役となってしまいました。

5曲目はElvinの書いた名曲Three Card Molly、本作のトピックス演奏になります。Elvin自身ことあるごとに取り上げ、「Genesis」の他の演奏として74年9月Swedenで録音された「Mr. Thunder」、こちらのフロントはSteve Grossman、82年録音「Earth Jones」でのフロントは2管、やはりソプラノでLiebmanと我らがTerumasa Hinoがコルネットで参加しています。99年9月NYC The Blue Noteでライブ録音された「The Truth」、Michael Breckerを含む4管編成での演奏にも収録されていますが、こちらには残念ながらMichaelのソロはありません。

ソロの先発はBradenのテナー、燃え上がるソロのフレーズを1音たりとも聞き逃さぬような体制でリズムセクションは臨んでいます。バックリフが入り、その後スイングにリズムが変わりLiebmanのソロになりますが、本作のハイライトシーンと言えましょう!ベースが演奏を止めドラムとソプラノのデュエットになる演奏のメリハリも素晴らしいのですが、何よりLiebmanの音色、タイム感、音符の長さと粒立ち、スピード感、ソロの構成力、オリジナリティ、どれを取ってもダントツの素晴らしさ、いやはや、エグくてカッコイイです!ドラムソロを挟んでラストテーマ、エンディングは収拾がつかない位に盛り上がりここで終わりかと見せかけて、ドラムのフィルとともに少し遅いテンポで8小節テーマがリフレインされますが、名演奏の誕生です!

6曲目MorettiのTiara、自身のフルートをフィーチャーした哀愁のナンバー。この人の音楽性、ひょっとしたらここでの演奏形態の方に軍配が上がりそうな勢いです。他のフロント2人もすっかり裏方に徹してMorettiの演奏を引き立てています。

7曲目再び「Genesis」からCecilia Is Love、Frank Fosterのナンバーです。原曲ではJoe Farrellのソプラノがメロディとソロを担当していますが、ここでのイントロはLiebmanのソプラノが熟れ切った果実の如き味のある音色と、独特のニュアンスで演奏しています。おもむろにブラジリアン・サンバのリズムがスタート、Elvinはボサノバのリズムで演奏しているので世界は一変します。ホーンのアンサンブルを伴ったLiebmanのソプラノがフィルを交えながらテーマ奏、引き続いてソロに入ります。ここでもソプラノのマエストロとしての真価を発揮しています。続くMorettiのテナーソロはどこか「必ず盛り上げねばならぬ」と、義務感の方が先行してしまうアプローチを感じます。Co-producerとしてもクレジットされている彼はおそらく本作の発案者の1人だと思いますが、責任感がそうさせてしまったのでしょうか。音楽を含んだ芸術的表現はスポンテニアスさが何より大切、恣意的行為が介入すると音楽を真剣に受け止めようとするリスナーには、かなりしんどい事になります。

8曲目LiebmanのBrite Pieceは彼が在籍していた当時のElvin Bandの重要なレパートリーで、作品「Merry Go Round」「Live at the Lighthouse」にも収録されています。日頃あまり明るい(Brite)雰囲気の曲を書かないLiebmanが、珍しく書いたと言う事でこのタイトルが付けられましたが、用いられるモードの中で最も明るいはずのLydianスケールが多用されているにも関わらず、むしろ仄暗さも含んだユニークなテイストです。先発ソプラノはBraden、なかなかのチャーミングな音色で軽やかに、スムースにソロを展開します。しかしバックリフの後に現れるLiebmanのソプラノの存在感は物凄いですね!Bradenの業績を吹き飛ばしてしまうが如きです。オリジナルでも演奏されていたバックリフも聴かれ、抜群のタイム感とスイング感でソロを推進させ、おもむろにラストテーマへとGo!イントロでも使われたベルトーンがアウトロでも演奏されます。

9曲目MorettiのTrippin’、イントロでは自身のフルート、アンサンブルでは隠し味的にバスクラを用いています。リズムとしては8分の6のラテンの他にReggaeも感じさせるパートもあります。ミステリアスな雰囲気の中にジャジーな色合いも見せる佳曲、管楽器のアンサンブルもよく練られていて、彼のコンポーザー、アレンジャーとしての資質も伝わります。ここではBradenのソプラノ、Liebmanのテナーソロが短く聴かれます。

10曲目ラストを飾るのはLee MorganのナンバーCalling Miss Khadija、原曲はArt Blakey and the Jazz Messengersの64年録音のアルバム「Indestructible」でMorgan, Wayne Shorter, Curtis Fullerの3管編成で演奏されています。テーマ部分のみがラテンで演奏されましたが、本作では全編筋金入りのラテンジャズにアレンジされ、Morettiのテナー、Bradenのソプラノでのソロがフィーチャーされます。両者ともにアルバム中最も落ち着いた好演を展開しており、パーカッションソロ後にラストテーマになります。演奏自体は決して悪くはないのですが、トータルに考えて特にこの曲を選び収録する必然性を残念ながら感じません。メンバーのオリジナルないしは「Genesis」中唯一取り上げていないナンバー、Slumberをラテンで演奏しても良かったのではと思います。

2020.02.08 Sat

M / John Abercrombie Quartet

今回はギタリストJohn Abercrombieの80年リーダー作「M」を取り上げてみましょう。彼の率いた最初のカルテットの第3作目になります。

Recorded November 1980 Tonstudio Bauer, Ludwigsburg Engineer: Martin Wieland Produced by Manfred Eicher An ECM Production

g)John Abercrombie p)Richie Beirach b)George Mraz ds)Peter Donald

1)Boat Song 2)M 3)What Are the Rules 4)Flashback 5)To Be 6)Veils 7)Pebbles

John Abercrombieは44年12月ニューヨーク州生まれ、少し生い立ちに触れてみましょう。多くの米国の子供がそうであるように彼もRock & Rollを聴いて育ちました。アイドルだったChuck Berry, Elvis Presley, Fats Domino, Bill Haley and the Cometsの音楽性が、その後の彼の演奏に何らかの形で反映されているかも知れない、あまりにも彼の演奏する音楽と違い過ぎるだけに、その事を想像するのもちょっと楽しいです。10歳からギターレッスンを受け、早熟な彼は最初のジャズギタリストとしてのアイドルだったBarney Kesselの演奏について、当時習っていた先生に彼は何を弾いているのか教えて欲しいと質問したそうです。栴檀は双葉より芳し、こちらの話もKesselがAbercrombieの演奏スタイルにどう影響を与えたのか、プレイを注意深く聴くきっかけにもなります。高校卒業後はBerklee College of Musicに入学、そこでSonny Rollinsの作品「The Bridge」のJim Hall、Wes Montgomeryには作品「The Wes Montgomery Trio」「Boss Guitar」で感銘を受け、George BensonやPat Martinoの演奏からもインスピレーションを授かりました。この辺りの流れはコンテンポラリー系ジャズギタリストを志す者としては、至極自然な成り行きでしょう。Berkleeを卒業後NYCに進出、セッションマンとして知られる存在になり、Brecker Brothersが在籍していたバンドDreamsや同じくBilly Cobhamのグループに参加、そして74年に記念すべき初リーダー作「Timeless」をJan Hammer, Jack DeJohnetteらとトリオでECMにレコーディングしました。以降もECM〜プロデューサーManfred Eicherとの関係は続き、双頭アルバムを含め30作近くをレコーディングしました。

その後Abercrombieは自身の初めてのリーダー・カルテットであるJohn Abercrombie Quartetを立ち上げ、活動を開始します。名門ECMレーベルに同じメンバーで78年「Arcade」、79年「Abercrombie Quartet」、80年本作「M」と毎年1作づつレコーディングし計3作をリリースしました。永らく3枚はCD化されていませんでしたが、2015年に全作収録の3枚組Box Set「The First Quartet」でリリースされました。

第1作目Arcade
第2作目Abercrombie Quartet
The First Quartet いかにもECMらしい簡潔にしてセンス溢れるジャケットです

ピアノRichie Beirach、ベースGeorge Mraz、ドラムPeter Donald、リーダーAbercrombie含めた4人は同世代でしかも全員Berklee同期出身、高度な演奏テクニック、巧みなインタープレイ、ロジカルな音楽性は同窓生のなせる技でもあります。おそらくBerklee在学中に既にバンドとしての形態が芽生えていた事でしょう。気心の知れたメンバーでバンドを組みたくなるのは当然ですし、ましてや初めてのリーダーカルテットならば事は尚更です。同一メンバーで演奏を継続させアルバムをリリースし続けるのは、オーディエンスにとってバンドの進化を目の当たりにする事が出来る至上の喜びでもあります。1作目「Arcade」ではバンド結成の初々しさと今後の展開に対する期待感、2作目「 Abercrombie Quartet」はギグの数もこなし、ミュージシャン同士互いを在学中よりもプロフェッショナルとしてずっと良く知る事になり、バンドサウンドが円熟味を増します。3作目「M」では更なる円熟と同時に、共同作業を継続的に行ってきた芸術家たちならではの緻密なインタープレイ、「行き着くところまで行った」プレイはバンドの崩壊をも予感させるレベル、実際に本作を最後にこの4人が会する事はありませんでした。

左からMraz, Abercrombie, Beirach, Donald、皆さん良い顔しています。

それでは演奏に触れて行きたいと思います。収録7曲中Abercrombie、Beirachが3曲づつ、Mrazが1曲とオリジナルを持ち寄っています。耳に心地良く、口ずさめるメロディラインやメロウなコード感、キャッチーなリズムのキメ、スタンダード・ナンバーやハードバップ的なテイストからは全く程遠い位置に存在する楽曲ばかりですが、メンバー4人には実はポップな楽曲なのかも知れません。楽しげに演奏している様が音からひしひしと伝わって来ますから。ポップの定義も人や状況により変わって来るのでしょう。1曲目AbercrombieのBoat Song、エフェクトを施したギターによるユニークなイントロ、良さげなムードを設定しています。オーバーダビングによるアコースティックギターやピアノが加わり、ピアノが中心になったパターンからテンポが設定されベース、ドラムが加わります。グルーヴとしてはいわゆるECM Bossa、Even 8thのリズムにより全く自然にギターソロへ、パターンをモチーフにしつつ浮遊感溢れるサウンドを聴かせます。ピアノソロでもパターンのモチーフ使用テイストが継続されますが、Beirachの方のリズム感がよりタイトなのと、ピアノタッチの明晰さから、より明確なメッセージが発せられています。この二人の対照的なアプローチが、このカルテットの一つの個性であると思います。その後テーマを経てアウトロは冒頭のエフェクトが再演されます。

2曲目MはこちらもAbercrombieの作曲、シンコペーションが印象的なイントロからギターのメロディが始まります。ピアノのフィルインも絶妙、さすが表題曲に相応しいカッコいいナンバーです。ギターの音色も素晴らしい!テーマ後リーダー入魂のソロにバンド一丸となって盛り上がります。ドラムはスイング・ビートを刻みますが、ソロを取るが如きラインからwalkingまで一貫して不定形なMrazのアプローチがこの演奏の要になっています。Beirachは打鍵した音ひとつひとつの響きを確認するかのような、スペースを生かした助走からスタート、その合間を縫うMrazのベースが光ります。それにしてもBeirachの演奏の見事なこと!複雑なアドリブラインは高度なテンションを用い、更に左手の意外性溢れる低音やコードとが衝突したクラスターは全く独自のサウンドに変化、これらに素晴らしいタイム感とタッチの美しさが合わさりますが、何処かほのぼのとした彼流のメロディアスな歌い回しが全体を包み込み、インプロビゼーションを構築する理詰めの手法ながら、決してメカニカルな表現に陥らず、ヒューマンな、個人的にはロマンチックさがいつも漂うBeirachワールドに敬服してしまいます。続くベースソロにも力強さの中にクラシックを学んだテクニックに裏付けされた見事なピチカートから、ストイックさと美学とスマートさを感じますが、サポートするドラミングの巧みさにも二人の親密なパートナーシップを見い出す事が出来ます。その後ギターとピアノが同時進行でソロを取り、ラストテーマに向かい、エンディングではイントロのパターンが繰り返されますが、この辺りでバンドの真骨頂を垣間見ることが出来ます。ここでのコレクティブ・インプロビゼーションはレギュラーバンドでしか成し得ない世界ではないでしょうか。

3曲目はBeirachのWhat Are the Rules、彼はこのQuartet3部作いずれにも3曲づつオリジナルを提供しています。冒頭全員でルパートでの、不安感を煽るかの如き、フリージャズの様を呈する演奏、研ぎ澄まされた空間に自由な発想で音が投げ掛けられますが、全てに意思が反映されているためにサウンドしています。Beirachの怪しげなモチーフが発端となりテンポが設定され、ベース、ドラムが合わさります。一体どこまで決められている演奏なのか、全くの即興なのか、最低限の取り決めだけが成されている程度なのかも知れません。ギターからも異なるモチーフの提案があり、メンバー追従し始めます。ピークを迎えたところでピアノに主導権が移行され、新たな展開に入ります。ドラムの対話形式で進行しつつ、ギターとベースが加わり、再びルパートへ、ピアノのアウフタクトがきっかけとなりメチャクチャ高度で難解、でもヒップなアンサンブルが聴かれます!えっ?これでこの曲オシマイですか?そうなんです、テーマ〜ソロ〜テーマのルーティーンに飽きてしまった4人が考え出した演奏形態なんです!

4曲目FlashbackもBeirachのナンバー、イントロはピアノとギターのDuoで怪しげな空間を設定、ピアノのグリッサンドからベースパターンに入り、ドラムが加わります。ギターが中心となった短いテーマ後、ピアノソロが始まります。ここでもRichieは打鍵した音の響き具合の確認を怠りません!スペーシーな語り口は共演者に伴奏の機会を供給するのです。Mrazのベースパターンの発展、展開のさせ方も素晴らしく、インスパイアされたピアノソロは細かいモチーフを巧みに変化させて物語を叙述、次第に物凄いことになっていきます!メンバーとの信じられないレベルでのインタープレイには開いた口が塞がりません!Beirachの演奏には喋り過ぎがなく、どんなに盛り上がっていても必ず共演者が入れる隙間を用意しているのは、常に音楽的に招き入れる事を念頭に置いているからだと思います。続いてのギターソロ、ベースがしばし残りますが程なくドラムとDuoの世界に突入です!浮遊感満載の変態ハイパーフレーズの連続、多くのフォロワーを生むに相応しいギタリスト益荒男ぶりです!Donaldのドラムも懸命に煽ります!素晴らしいコンビネーション、一体感、Abercrombieが比較的リズムのonでタイムを取るのに対し、Donaldはポリリズム的にアプローチしているため、変化に富んで聴こえます。待ちかねていたかのようにピアノとベースが加わり更なる高みに邁進!脇目も振らずにピークを迎え丁度良いところでテーマが登場、Fineです!いや〜凄い演奏でした!本テイクはレコーディングを意識したコンパクトなサイズでの演奏にまとめられていますが、ライブでは時間制限がないのでさぞかし盛り上がったことだと思います。聴いてみたかった!!

5曲目AbercrombieのTo Be、Abercrombieはアコースティック・ギターに持ち替えてのプレイ、美しいバラードです。ドラムはブラシを用いずスティックでリズム・キープ、カラーリングを行っています。ギター、ピアノ、ベースと短くソロが行われますが、全体を通してベースの伴奏のアプローチがこの演奏のポイントになっています。アコギでのプレイはエレクトリックよりも音のエッジが立つため、より明確なメッセージが表出します。ピアノの伴奏での、テンポのある曲とは異なった耽美的なアプローチ、同じくソロの鬼気迫るまでに集中力を感じる音楽への入り込み方、美しい音色のピチカートによるベースソロのイメージ豊かな世界、スティックによる伴奏はこれらのソロをバックアップするための必然であったようです。

6曲目はBeirach作のVeils、Beirachの独創的なソロピアノから始まります。この人は何と美しくピアノを鳴らすのでしょう!つくづく聴き惚れてしまいます。レコーディング・スタジオ内ではBeirachのキュー出しに注意が注がれた事でしょう、いきなりインテンポでギターとピアノのユニゾンによる曲のテーマが始まります。ヘビーなグルーブのワルツ・ナンバー、3拍4連を多用した旋律とダイナミクスはやはり一筋縄では行かない構成に仕上がっています。曲中ソロを取るのはAbercrombieのみ、曲想に合致しつつ、共演者の鼓舞も交えながら美しくも危ない世界を独断場で展開します。もっともBeirachはイントロでしっかりと世界を構築済みでしたが。

7曲目はMrazのナンバーPebbles、3部作初登場の彼のナンバーです。8分の12拍子のリズムパターンを淡々とピアノが刻み、その上でギターが浮遊します。どこからどこまでがテーマでメロディなのかは分かりません。ドラムも加わりリズムを刻みますが、ベースは大きくビートを提示する役目、ユニークな曲です。ピアノソロ時にはパターンが希薄になる分、ベースとの絡み具合が面白いです。この曲想はMrazが生まれたCzech Republicの風土に起因するのでしょうか、いずれにせよ作品のクロージングに相応しく、to be continued感が出せていると思います。

2020.02.01 Sat

Symmetry / Peter O’Mara

今回はAustralia出身のギタリストPeter O’Maraの1994年作品「Symmetry」を取り上げたいと思います。全曲メロディアスで良く練られた構成からなるオリジナル、作曲者の意図を確実に踏まえ巧みにサポートするリズムセクション、そしてフロントに名手Bob Mintzerを迎え存分に演奏させた充実の作品です。

All Compositions by Peter O’Mara Recorded and Mixed 24-26 May 1994 at “Systems-Two” Recording Studios, Brooklyn, NYC by Joe & Mike Marciano GLM Label, Germany

g)Peter O’Mara ts, ss)Bob Mintzer b)Marc Johnson ds)Falk Willis

1)Fifth Dimension 2)The Gift 3)Catalyst 4)Seven-Up 5)Chances 6)Symmetry 7)Steppin’ Out 8)Expressions 9)Blues Dues

1957年12月Australia, Sydney生まれのPeter O’Maraは地元の音楽学校やJamey Aebersold, Dave Liebman, Randy Brecker, John Scofield, Hal Galperら米国ミュージシャンのクリニックで多く学びました。80年にAustraliaのJazz作曲部門コンテストで一位に輝き同年初リーダー作「Peter O’Mara」をリリースし、海外留学の資格も得て81年NYCで様々なミュージシャンに師事しました。同年暮れからGermany, Munichに移住し90年には欧州のWeather Reportと呼ばれたサックス奏者Klaus Doldinger率いるバンドPassportに参加(個人的にはWRには聴こえず、いわゆる”フュージョン”グループです)、欧州、 南アフリカ、Brazilでのツアーを経験しました。現在までに共同名義を含め10作以上のリーダー作を発表、音楽教育でも精力的に活動しており教則本を4冊出版(日本でも翻訳されています)、YouTubeでギター講座を展開しています。

初リーダー作Peter O’Mara
O’Mara参加Klaus Doldinger & Passportの作品Down to Earth

早速演奏曲について触れて行きましょう。1曲目Marc Johnsonの力強いベースパターンから始まるFifth Dimension、米国に同名の5人編成R&Bコーラス・グループがありますが、こちらは文字通り5拍子のナンバーです。A-A-B-A構成のこの曲、テーマをBob Mintzerがテナーで演奏しますが、初めのAでユニゾンで演奏するO’Maraのギターが次のAからハーモニーに転じサウンドを厚くしています。サビのBセクションの展開もイケてます!オープニングに相応しいインパクトのあるキャッチーなテイストを持つ、大好きなナンバーです。それにしてもMintzerの音色の素晴らしさと言ったら!太くてダークでコクがあり、ハスキーな成分が含まれるバランス感は絶妙です!何度か彼のライブを聴きましたが、この人の生音はさほど大きくはなく、特に派手な楽器の鳴りという認識はありませんでした。いわゆるマイク乗りの良い音、倍音成分が豊かで録音しても音痩せする事がなく、音の旨味成分がしっかりとレコーディング媒体に残される傾向にあります。効率の良い鳴らし方のテナー奏者のひとりと言えるでしょう。随所に的確でソリッドなフィルインを入れるMunich出身のドラマーFalk Willisは録音時24歳になったばかり!タイム感、グルーヴ、センス、そしてJohnsonのベースのコンビネーションともに申し分ないと思いますが、ドラムの音色がややラウドな傾向にあるので、もう少しコンパクトにまとまっていればバンドサウンドにより溶け込めたように思います。セットチューニングや録音の関係とも考えられますが、ジャケ写を見るとかなり身長のある人なので腕が長く、スティックを振り下ろすストロークがあるのでしょう、特にスネアや皮ものが鳴ってしまうのかも知れません。テーマ後のテナーソロ、5拍子をものともせずタイトなリズムで巧みに、緻密に、スペースを保ちながらストーリーを展開して行きます。曲の持つ雰囲気や構成に全く合致していて、曲の裏メロディでは、と見誤る程のクオリティを感じさせる、更には予め書かれたかのような次元のアドリブですが、同時にスポンテニアスでもあります。High F#音やフラジオB音の音の割れ具合にはグッと来てしまいます!サックスの高音域を割れた音色で確実にヒットさせるにはむしろアンブシュアがルーズでなければ出来ず、こちらでも理想的な奏法のプレイヤーと言えます。ギターのバッキングも付かず離れず、Mintzerに好きに演奏させるべく浮遊感を感じさせるアプローチに徹しているようです。その後のギターソロはこれまた素晴らしい音色でのプレイです!タイムとしてはかなり前ノリで、ジャズよりもロックのテイストが強いグルーヴ、ソロのアプローチのように感じますがコーラス、ディストーション、ハーモニクスを交えたソロはテナーと良い対比をもたらしているように聴こえます。Johnsonのベースがしっかりとリズムの芯となりバンドの要を担当しており、アクティブな他のメンバー3人の後見人のような役割を果たしています。ラストテーマはサビには行かずにA-Aでカットアウト、Fineです。

2曲目は一転してスイングのリズム、柔らかいムードの佳曲The Gift、美しくナチュラルな雰囲気を湛えています。メロディラインの間に入るMintzerのフィルインも出過ぎず丁度良い語り口です。先発ソロは先ほどの演奏で出番がなかったJohnsonのベースから。正確なピッチ、美しい音色、よく歌うピチカートのラインからはテクニシャン、そして都会的なセンスを感じます。ソロのバックでのWillisのブラシワークも巧み、さり気なくスティックに持ち替えてMintzerのテナーソロへ。穏やかさを基本にしながらも、いきなり鋭利な刃物のような切れ味鋭い、テンションを多く含んだフレージングを、端正なグルーヴで繰り出す様はさすがユダヤ系プレーヤー、知的で大胆です!4’00″からのフレーズはMichael Breckerも70年代使用したJoe Hendersonのもの、おふたりJoe Henも研究したのですね。続くO’Maraのソロは先ほどとは打って変わりタイトな8分音符を主体としたアプローチ、ジャズギタリストとしての真骨頂を披露してくれており、音使いの選び方もとっても好みです!

3曲目Catalystはアップテンポのスイング、ここでのWillisのシンバルを主体としたドラミングは皮ものの鳴りが少なくなるので、ラウドな傾向は影を潜めます。イヤー、カッコいい曲ですね!メロディの組み合わせ方の妙と言いますか、何処かで聴いた事のあるフラグメントの配置の仕方、再構築に作曲者のセンスを感じます。テーマ部分はテナー、ギター、ベースがユニゾンでメロディ奏、先発ギターソロからベースがバッキングを担当します。John Aebercrombieを彷彿とさせるギターソロは、ギターキッズならば頷かざるを得ないクオリティの内容です!ドラムのアイデア豊富なバッキング、ベースの変幻自在なサポートがトリオのインタープレイの次元を高めています。79年録音Abercrombieの作品「Abercrombie Quartet」でのバンドの一体感をイメージしました。

テーマの一部分をインタールードに用いて次のソロイストやテーマに移行していますが、Catalystとは「きっかけ」の意味、このインタールドの事を指すのかもしれません。続くテナーソロでは1人増えた4人でのインタープレイの応酬がスリリング、Mintzerとことん盛り上がらず含みを持たせた大人の対応を見せてCatalyst後ベースソロへ、ドラムだけがサポートし両者組んず解れつの演奏後、短くCatalystを経てバンプ的ドラムソロ、ラストテーマも無事終了です。

4曲目Seven-Upはその名の通り7拍子のファンク・ナンバー、米国でお馴染みの清涼飲料水と同名、O’Maraさん1曲目といいタイトル付けがちょっと安直な気もしますが、ひょっとしたら単に僕と同じダジャレ好きなだけなのかも知れません(笑)、ギターのカッティングから始まる実にゴキゲンなナンバー、こちらは変拍子を感じさせないナチュラルなメロディラインとグルーヴが印象的です。テーマは2回演奏され1回目ギターはそのままカッティングのみでのバッキング、繰り返し回はコードとメロディを巧みに組み合わせてのオーバーダビングを含めたバッキング、芸が細かいです!先発Mintzerはここでも4拍子+3拍子からなる7拍子を、リズムセクションの大健闘と共に難なくグイグイと盛り上げています!ソロは決してtoo muchにならず、バランス感を常に念頭に置いた演奏に徹しています。ギターソロも音色を変えつつ変幻自在なアプローチ、途中から再びオーバーダビングでギターのカッティングが聴こえ始めますが、レコーディングでは良く行われる手法のひとつです。カッティングが加わる事でグルーヴ感を強調させるのが目的なのでしょう。ソロが終わってもそのままカッティングがうっすらと残りラストテーマへ、レコーディング・テクノロジーによる最小限の演奏上の音加工が功を奏したテイクになったと思います。

5曲目Chancesはアコースティックギターを用いたイントロに始まるバラード、アコギの響きが堪りません!メロディを奏でるMintzerはバラードの名手でもある事を再認識させてくれました。深いビブラート、強弱付けによる抑揚、もっと聴きたいところで先発はギターソロ、テナーは暫しお預けです。しかしギターソロの最中に倍テンポになってしまいました(涙)。そのままでのバラード演奏を楽しみにしていたので肩透かしを喰らいましたが、曲の本題は後半部分なのかも知れません。でもエンディング部分で再びサブトーンでのメロディを堪能することが出来ました。

6曲目タイトル曲Symmetryはヘヴィーなリズムのワルツ・ナンバー、ドラムのテイストもどこかElvin Jonesを感じさせますが、このようなグルーヴのジャズワルツではありがちな事なのでしょう。でもElvinとの最大の違いはレイドバック感です。ここではWillis君のドラミングにスネア&皮ものが再登場し、ちょっと鳴り過ぎの感が…しかしテーマのメロディ奏に脱力系の色気を感じるので、帳尻が合っているのかも知れません。先発テナーソロは曲の持つムードをキープしながらをワンコード・オープンの上で次第に熱くフラジオ音も使ってブロウ、おそらくキューを提示してテーマのコード進行に移行します。ギターソロも同様にワンコードでのオープンソロ、クリアーなトーンでジャズギタリスト然とソロを展開、Willis君も果敢にフレージングに対応しています。テーマのコード進行に移ってからはメロディも伴われ、ラストテーマへ。ここでもMintzerの吹き方にテナーマンとしての色気を認める事が出来ました。

7曲目Steppin’ Outはドラムのソロから始まる速いテンポのスイング・ナンバー、シンバルを主体としてビートを刻むドラミングからTony Williamsのテイストが聴こえます。シンプルさの中にもO’Mara流のスパイスが効いた、こちらも外連味のない佳曲、先発のギターもリズムセクションとの一体感が見事なソロを聴かせています。on topで巧みにビートを繰り出すJohnsonのベースがこの演奏の要、Willisのビート感も実に素晴らしい!テナーソロ後にギター、テナーとドラムの8バースが繰り広げられますが、年齢を鑑みた音楽的表現の未熟さを微塵も感じる事はありません!この貫禄と風格は何処から来るのでしょう?O’Mara自身のライナーノートによればWillisとは”Old” Friendsという事で、以前取り上げた「Fuchsia Swing Song」のSam RiversとTony Williamsの関係と同じです。ちなみにJohnson, Mintzerとはレコーディングのリハーサル前には会った事がなく、電話でやり取りをするだけだったそうです。(現在ではメールという事になりますが)彼らはそんな付き合い方から演奏に至るまでを称しTelephone Bandと呼ぶのだそうです。

8曲目Expressionsは巧みなベースソロをフィーチャーした叙情的なイントロから始まるEven 8thのナンバー。Mintzerのソプラノサックスがこの上なく美しいです!テナー同様に倍音成分が実に豊富で複雑な鳴りをしていますが、バランス感が絶妙、この曲の持つムードにまさしくピッタリです!ソプラノばかりに耳が行ってしまいがちですが、曲のメロディ、構成も実に素晴らしい出来です!Mintzerが参加するグループYellowjacketsの98年作品「Club Nocturne」の1曲目、以降のYellowjacketsの重要なライブレパートリーでもある名曲Spirit of the West、ここでのソプラノの音色、演奏も実に堪りません!そういえば同じくユダヤ系Coltrane派テナー奏者、70年代からのMintzerの盟友であるDave Liebman, Steve Grossman, Michael Breckerたちもソプラノの名手でした。ギターソロはさすがコンポーザーとしてのイメージをふんだんに散りばめた、深淵な世界を作り上げています。ラストテーマではソプラノの鳴りが更に極まったように聴こえ、一時この曲ばかりヘヴィロテで聴いた覚えがあるのを思い出しました。

9曲目最後を飾るBlues Duesはリラックスした雰囲気のナンバーですが、O’Mara流の捻りが効いた作風に仕上がっています。先発ギター、様々なテイストを織り交ぜながらテクニカルに、カラフルに歌い上げています。ドラム、ベースのふたりもチャレンジしつつO’Maraの演奏に対処しています。テナーソロもギターの雰囲気を受け継ぎつつよりファンキーに、ブルージーにホットにソロを展開しています。ベースも淀みないラインを実に余裕で演奏していますが、実はとんでもない高度な内容のソロです!

本作のようにAustralia出身のギタリストがGermanyに移り住み演奏活動を展開、移住先で知り合った若いドラマーを連れて渡米、ジャズシーン最先端のテナー奏者、ベーシストとNYで共演し全曲自身のオリジナルを録音、これ以上の出来はないほどのクオリティ作品を作り上げる。世界は狭いと捉えるべきか、ジャズという音楽の柔軟性が成せる技か、その両方なのかも知れません。いずれにせよ本作を紹介出来たことを嬉しく思っています。

2020.01.24 Fri

Treasure Chest / Joe Gilman Trio & Joe Henderson

今回は米国人ピアニストJoe Gilmanの1992年リーダー作「Treasure Chest」を取り上げてみましょう。Joe Hendersonが4曲ゲスト参加しています。

Recording Date: 12 November and 12 December 1991 Recorded at Bay Records / Oakland Recording Engineer: Bob Schumaker Produced by Bud Spangler Executive Producer: Wim Wigt Label: Timeless Records, Holland

p)Joe Gilman b)Bob Hurst ds)Jeff “Tain” Watts ts)Joe Henderson(on 3, 5, 7, 10) tp)Tom Peron(on 7)

1)Treasure Chest 2)The Enchantress 3)It’s All Right With Me 4)New Aftershave 5)A Second Wish 6)Chains 7)Non Compos Mentis 8)Nefertiti 9)Juris Prudence 10)It’s All Right With Me

1962年California生まれのJoe Gilmanは7歳からピアノを始め当初はラグタイムに興味を示しました。10代の頃にDave Brubeckのプレイに魅力を見い出し、その後Oscar Peterson, Herbie Hancock, Chick Corea, McCoy Tyner, ピアニスト以外ではJohn Coltrane, Miles Davisと言ったジャズ・リジェンドのレコードを愛聴しました。クラッシック音楽を学んだ過程ではIgor Stravinsky, Sergei Prokofievのコンセプトに影響を受けたそうです。92年からCaliforniaにあるAmerican River CollegeとSacramento State Universityで教鞭を執り、University of the Pacific’s Conservatory of Musicでは00年に創設されたThe Dave Brubeck Instituteの授業も行う楽理派でもあります。 米国には第一線にはあまり登場しなくとも、教育者として活動し続け、オリジナリティはともかく、いざとなったら凄い演奏を繰り広げる事が出来る、ポテンシャルが半端ないミュージシャンがとてつもない数潜在しているように感じます。

本作は当時のBranford Marsalis QuartetのリズムセクションだったベーシストBob Hurst、ドラマーJeff “Tain” Wattsを迎えたトリオ編成を中心に、更にJoe Hendersonを加えたカルテットでも4曲を演奏しています。本作録音の頃のBranford Quartetの作品としては90年作品「Crazy People Music」、91年リリース「The Beautyful Ones Are Not Yet Born」がありますが、これらでもHurst, Wattsの二人は抜群のコンビネーションを聴かせています。Wattsに関して、96年頃からMichael Brecker Quartetにも加入する事になりますが、その事がきっかけで大きく成長しました。参加当初は周囲から違和感も囁かれましたが、それまで経験した事のないタイプであるMichaelの音楽性を吸取紙のように吸収し、あっという間にMichaelが自分の音楽を表現するに欠かせないドラマーに変身を遂げました。当然ですがそこで培われる更なる緻密で大胆なテクニック、グルーヴ、柔軟で幅の広い音楽性はここではまだ発揮されておらず(加入5年前です)、片鱗を見せる程度です。基本的なビート感は一貫していますが、どちらかといえばオーソドックスなアプローチに徹しています(とは言え、物凄いドラミングですが)。

それでは演奏について触れていきましょう。1曲目GilmanのオリジナルでアップテンポのナンバーTreasure Chest、表題曲に相応しい華やかでスインギーな演奏です。クリアーでタイトなピアノタッチ、on topなリズムのノリはスピード感を伴い、どこかOscar Petersonをイメージさせますが、フレージングやサウンドはコンテンポラリー系が中心なので異なります。彼なりの歌い方を感じさせるスタイルも十分に聴かれるソロは、リズム隊にサポートされグイグイと展開、Hurstのやはりon topなベースがRay Brownを彷彿とさせ、二人のビートに対してWattsがステイしているのでトリオのバランスが保たれていますが、これはまさしくBrownとEd Thigpenが在籍したThe Oscar Peterson Trioのフォーマットでしょう。ピアノソロ1’10″辺りで一瞬ヒヤリとさせられましたが全くOKです!2’01″辺りからの歌い回しにどこかBrubeckを感じました。超絶ベースソロの後にドラムとの8バースも聴かれますが、Wattsのフレージングには他にない独自なセンスを感じます。3’25″からのピアノソロ・フレーズの凄いこと!再びイントロ、そしてラストテーマを迎えシンコペーション・フレーズでカットアウト、Fineです。4分強の短い演奏にトリオの魅力が凝縮されたテイクに仕上がりました。

2曲目Gilman作のワルツThe Enchantress、Coreaの作風に似たテイスト、サウンドを感じさせますが美しいメロディとセンシティブなピアノタッチが美の世界へと誘います。Hurstの絶妙なバッキング、Wattsの繊細で大胆なElvin Jonesライクなブラシワークに支えられてドラマチックに演奏が展開していきます。ピアノソロのテイストを受け継いだベースソロも深い音色で見事なピチカートを聴かせています。ラストテーマもきっちりと律儀に演奏され、教育者ゆえなのでしょうがGilmanの真面目な人柄を垣間見た気がします。

3曲目は本作のトピックスCole Porter作曲のお馴染みIt’s All Right With Me、Joe Henが加わります。ユニークなシンコペーションを生かし、緊張感を伴ったリズミックなパターンから成るイントロから始まりますが、エレクトリック・ピアノが使われています。明らかにFender RhodesやYAMAHAのCP80とは異なる音色、こちらはRoland社製のものだそうです。個人的にはやや深みに欠ける音色に聴こえますが、演奏する本人が気に入って使っていればそれで良いのです。低音域でのメロディ奏は一聴してすぐ彼と分かる、オリジナリティ溢れる魅惑のテナートーン、この時点で一体どんな世界を構築してくれるのかワクワク感満載です!だってJoe HenのIt’s All Right With Meですから!!そして期待を裏切らずピックアップ・ソロのフレーズから炸裂、ブッ飛んでます!1コーラス目はテーマのパターンが持続しその上でのインプロヴィゼーション、エグくてリズミック、スピード感ハンパ無いブロウ、間の取り方も絶妙、と言うか間こそがフレージングの要とばかりに決してtoo muchにならず、要点を確実に述べながらJoe Henフレーズを駆使しストーリーを展開します。2コーラス目からスイングに、リズムセクションはJoe Henの演奏に圧倒されひたすらキープに回っているが如し、でもWattsが果敢に呼応しています!ですが、ですが、後年の演奏スタイルならばきっととんでもない異次元の世界に誘ってくた事でしょう!続くGilmanのソロもイッてます!4’23″からのようなフレージング、大好きです。ピアノソロ後再びイントロのパターンに戻りラストテーマ、その後はパターンが延々とリピートされ、Joe Henはフレッシュなフレーズを連発しています。そしてフェードアウトかと思わせ、ベースとドラム二人で示し合わせたようにリズム・モジュレーションを用いテンポを変えて再びテーマ演奏へ、丸々1コーラスメロディを演奏しているじゃありませんか!面白過ぎです!エンディングはさすがにフェードアウトでFineです。

4曲目はGilmanのオリジナルNew Aftershave、小気味良いスイングナンバーです。オーソドックスなスタイルを中心にThelonious Monkのテイスト等を交え巧みにソロを取っていますが、ちょっと優等生過ぎるきらいもあります。やはり職業柄、それともお人柄からでしょうか?ジャズはワルや、やさぐれ感に由来する毒が必要不可欠だと思うのですが、タイトル通りでひげそり後の爽快感のイメージならば良しとしましょうか(笑)ベースソロ、ドラムとの4バースを経てラストテーマへ。

5曲目A Second Wish、美しいピアノイントロから始まるこちらもJoe Henが参加したナンバー、ルパートでテナーによるテーマ奏の後、ベースパターンでテンポが定まり、特にテーマの提示はなくピアノソロへ。ドラマチックなコード進行の上で叙情的にフレーズを繰り出すGilman、続いてJoe Henのソロが始まり豊かなイメージを内包しながらのアプローチ、Hurstの絡み具合が秀逸です。テナーソロ後にフェルマータしピアノのルパート奏、テナーのきっかけでアテンポ、ラストテーマはコードのサウンドとテナーの音色が良く合致したアンサンブルを聴くことが出来ます。

6曲目ChainsはGilman作のモーダルなブルース、ユニークなテーマとリズミックなシカケが映える佳曲、トリオ編成でこちらも早いテンポが設定されています。どこかCoreaのMatrixでの演奏をイメージしてしまうのは僕だけではないでしょう。とはいえGilman流暢に、ストーリーを語るが如く巧みにソロを取り、Wattsのドラミングとも絶妙なコラボレーションを聴かせ、その勢いで壮絶なドラムとの1コーラス・バースに突入します。コーラスを重ねる毎にドラムソロの密度が濃くなって行くのが分かります。

7曲目Gilman作Non Compos MentisはMiles Davisの「Miles in the Sky」と、70年代Joe HenがMilestone Labelに残した一連の作品からのイメージを湛えたジャズロック的なナンバーです。アンサンブル要員でリーダーの旧友、トランペッターTom Peronが参加しています。Joe Henここでも絶好調のアドリブを聴かせています。Gilmanのソロ、リズムセクションも同様に素晴らしいアプローチを聴かせ、バンドの一体感が見事です。レコーディングは残されていませんがJoe HenはMilesのバンドに一時期参加していたそうで、そのオマージュの意味合いもあったのでしょう。

8曲目Wayne Shorterの書いた名曲にして超難曲の代名詞としても名高いNefertiti、こちらもMilesゆかりのナンバーです。ここではエレクトリック・ピアノによるソロで演奏されていますが、コーラスやディレイといったエフェクトが施された独特の雰囲気でのプレイは、曲の持つムードに不思議に合致しています。

9曲目Juris PrudenceもGilman作のナンバー、8ビートのリズムで演奏されるメロディはDizzy GillespieのナンバーMantecaを彷彿とさせますが、単なるシャレなのか、本気なのか、トリオの三位一体でのリズムの饗宴は真剣そのものですが。ベースパターンもトリッキーでリズミック、シンセサイザーの音色でのアンサンブルは曲に色付けを施し、アルバム全体に変化をもたらしています。

10曲目It’s All Right With Meは3曲目の同曲別テイクになります。テンポはこちらの方がやや遅く、演奏の構成はほぼ同じ、ひとつ大きな違いはJoe Henがメロディを上の音域で演奏している点で、オープンな雰囲気になります。先発のテナーソロはまた違ったアプローチを示していて素晴らしいのですが、一度真っさらな紙の上に大胆に毛筆で大きく文字を書いてしまった後のようで、ソロに対するフレッシュさが目減りしてしまった風を感じます。3曲目の方がファースト・テイクで、演奏が上手く言ったのでOne More Takeとなり、こちらがセカンド・テイクにあたるのではないでしょうか。エンディングのテナーソロもこちらの方があっさり目に聴こえますが、実は単にフェードアウトを早めただけかも知れません。ピアノソロに関しては両テイク共に彼らしさが出ていると思います。続けて同じ曲を演奏しようとする際、前のテイクがスポンテニアスで音楽の深部に到達していればいるほど、繰り返しのテイクには奏者にプレッシャーが加わり、作為的になるものです。本テイクのクオリティはこの曲の名演奏のひとつに数えられるべき内容ですから。総じて最初のテイクの方に軍配が上がると思いますが、こちらも例外ではありません。なので別テイクを巻末に収録する意味合いを今一つ感じる事が出来ないのですが、このテイクとの比較によりオリジナル演奏の凄みを再認識出来るという、特典付き別テイク収録という事になるのでしょうか(爆)

2020.01.17 Fri

My Romance / Kevin Mahogany

今回はボーカリストKevin Mahoganyの1998年アルバム「My Romance」を取り上げてみましょう。素晴らしい共演者、アレンジャーを得て極上のバラード作品に仕上がりました。録音の良さからも彼の代表作の一枚と言えると思います。

Recorded: May 11-13, 1998 at Sear Sound, NYC Produced by Matt Pierson Assistant Producer, Kevin Mahogany Recorded by Ken Freeman Mixed by James Ferber Strings Arrangement on “Wild Honey” by Michael Colina

vo)Kevin Mahogany p, arr)Bob James b)Charles Fambrough ds)Billy Kilson ts)Kirk Whalum ts)Michael Brecker

1)Teach Me Tonight 2)Everything I Have Is Yours 3)My Romance 4)I Know You Know 5)Don’t Let Me Be Lonely Tonight 6)Stairway to the Stars 7)May I Come in? 8)Wild Honey 9)I Apologize 10)How Did She Look? 11)Lush Life

魅力的な低音域の声質、ジャジーなイントネーションとセンス、正確なピッチ、発音と発声を有しBilly Eckstine, Joe Williams, Johnny Hartmanら正統派男性ボーカリストの流れを汲むKevin Mahoganyは58年Kansas City生まれ、幼い頃からピアノやクラリネット、バリトンサックスを手掛け高校生の時に既に音楽を教えていたそうです。Lambert, Hendricks and RossやAl Jarreau、Eddie Jefferson達に音楽的な影響を受け、本作では殆ど披露されていませんがスキャットも大変に堪能なボーカリストです。96年Robert Altman監督の映画Kansas Cityのサウンドトラック盤ではHal Willnerがプロデュースを担当、例えばCraig HandyがColeman Hawkins、Geri AllenがMary Lou Williams、James CarterはBen Webster役を務めていますが、Mahoganyも伝説的ブルースシンガーBig Joe Turner役で参加しています。

Mahoganyの93年初リーダー作「Double Rainbow」(Enja)はKenny Barron, Ray Drummond, Lewis Nash, Ralph Mooreら名手を迎え、先輩格のシンガーJon Hendricksがライナーノーツを寄稿した記念すべきデビュー作、オハコのスキャットも十分に披露し、共演者とのインタープレイも巧みなアルバムです。スインギーなジャズテイストやグルーヴは本作と遜色ありませんが、音程やタイム感はこちらの方に軍配があがるのは、初リーダー作からMahoganyが進化している証でもあります。

それでは演奏に触れていきましょう。1曲目Teach Me Tonight、Bob Jamesのメロウなピアノイントロに続き、素晴らしい音色のテナーでフィルインを聴かせるのがKirk Whalum、この人は当Blog初登場になります。大好きなテナー奏者なのですがたまたま取り上げるチャンスがありませんでした。彼の演奏はスムースジャズという範疇にカテゴライズされるようですが、ジャズ的要素をかなり持つプレーヤーです。むしろどっぷりとジャズに足が浸かっていないスタンスでの違った歌伴表現、テイストの異なるオシャレなオブリガードを聴かせていると感じます。彼の使用楽器ですがJulius Keilwerth SX90R Black Nickel、マウスピースはVandoren V16 T8、リードは同じくVandoren V16 4番。サックスの音色はその人の身体から生じるもので、使用楽器とマウスピースは二次的なものですが、個性を発揮させるためのオリジナルなセッティングと言えるでしょう。サブトーンを活かしたオブリ、芳醇な音色でタイトなリズムを聴かせるソロはどこか極上な赤ワインの味わいに似ています。伴奏のピアノトリオはリラックスした中にも適度に負荷がかかった美学を持ちつつ一切無駄のない、全ての音がサウンドしている音空間を構築しています。2’50″からピアノがホールトーンで下降するフィルインを弾いています。唐突といえば唐突なのですがJamesの独特なユーモアのセンスと感じるのは僕だけでしょうか。

2曲目はEverything I Have Is YoursはMahoganyの尊敬するBilly Eckstineの歌唱で有名なナンバー、冒頭トリオによるイントロ、唄に入ってもドラマーBilly Kilsonはスティックではなく手のひらを用いてセットの革物を叩いており、パーカッション的な柔らかさを表現しています。Mahoganyはよく伸びる美しい声で朗々と歌い、強弱を生かして切々と愛を唱えています。ピアノソロに入りドラムはブラシに持ち替え巧みな16ビートを演奏、ベーシストCharles Fambroughも的確なサポートを聴かせています。間奏のピアノも歌伴とインストのソロ端境ギリギリに位置するテイストで演奏しています。後唄では再びKilson、ハンド・ドラマーに徹しています。

3曲目はタイトルチューンのMy Romance、幾多のボーカリストに取り上げられた定番中の定番曲ですが共演者の巧みな伴奏もあり、忘れられない好演奏に仕上がっています。冒頭テナーとボーカルのデュエットでメロディが演奏されていますが、二人のトーンの豊潤さが相乗効果を生み、コードやリズム楽器が無くとも十分に音楽が成り立っています。一曲丸々デュオ演奏でも良かったのではとも感じていますが、割って入るように弾き始めたJamesのピアノがMahoganyのボーカルをナイスサポート、また違った側面を聴かせます。テナーのオブリガートを交えながらその後テナーソロ、いや〜実に良い音ですね!堪らないです!ニュアンス、イントネーションもちょうど良いところを保ちつつメロディフェイク的なアドリブを聴かせてくれます。その後あと歌へ、そしてアウトロはキーを変えておしゃれにスマートにFine、素晴らしいですね!ベース、ドラムが加わらないトリオ演奏で終始しました。

4曲目はシンガーソングライターLyle LovettのナンバーI Know You Know、Lovettは俳優としても活躍し、前述の映画Kansas Cityの監督Altman作品の常連でもあります。ここではテナー奏者が交代しますが、その人はお馴染みMichael Brecker、間違いなく歌伴テナーの第一人者として、ありとあらゆるボーカリストの伴奏をこれ以上相応しい演奏はあり得ないという次元で務めていますが、ここでもブルージーに、アンサンブルのメロディもニュアンス巧みに、そしてさりげなくMichael節を聴かせています。Mahoganyのボーカルも、ブルース表現を決してtoo muchに出さずにアーバン・ブルース的?コンセプトで歌い上げています。Whalumがこの曲の伴奏を務めたらMichaelよりももっとブルージーだったかも知れませんね。

5曲目Don’t Let Me Be Lonely TonightはJames Taylor作の名曲、多くのアーティストによってカヴァーされています。73年オリジナルの演奏ではMichaelが参加しており、その間奏は初期の彼の名演奏の一つになっています。Michael自身も01年の作品「Nearness of You: The Ballad Book」で取り上げ、逆にTaylorをゲストとして招き素晴らしい演奏を繰り広げ、グラミー賞に輝いています。

印象的なピアノのイントロから始まりMahoganyのボーカルが聴かれますが、Taylorに比べてずっとキーが低く、低音域での歌唱によりずいぶんと雰囲気が変わっています。是非ともWhalumに歌伴、そして間奏をお願いしたかったですが、残念ながら聴くことは出来ません。CDのクレジットでは参加していることになっているのですが…

6曲目Stairway to the Starsは古いスタンダード・ナンバー。こちらも多くのミュージシャンに取り上げられている名曲です。ドラムのブラシから始まるイントロはここでもJamesの巧みなアレンジが光りますが、そのまま本編でも美しいメロディライン、Mahoganyのメロウなボーカルと歌い回し、トリオの全く雰囲気に合致した、見事としか言いようの無い伴奏とが合わさり、芸術性と職人芸の融合、この曲の新たな名演奏が生まれています。

7曲目May I Come in?はNancy Wilson, Rosemary ClooneyやBlossom Dearieたち女性ボーカリストに取り上げられているナンバー。Dearieの64年同名作での可愛らしい(カマトト?)歌唱と比較すると、Mahoganyの低音域・益荒男ぶりが実によく映えます。

ここでもMichaelが伴奏を務めます。イントロでの切なさを感じさせる吹き方は流石です!スロ−な8ビートのリズムの上でMahoganyたっぷりと、朗々と歌い上げています。続いてMichaelのソロ、ボーカルのバックのレコーディングでは予め譜面や音源、アレンジのコンセプトなどを、可能な限り入手してスタジオに臨むと言っていました。ここでのプレイもそう言った準備を入念に行った演奏と解釈できる、実にサウンドしている演奏だと思います。エンディングでにてMahogany、ここでは敢えて封印していたスキャットでMichaelとバトルを行っています。「Kevin, この作品はバラード集でしっとりとした作品コンセプトだからさ、スキャットはやっても程々にね」とプロデューサーのMatt Piersonにクギを打たれていたのでしょうね、顔見世興行的にほんのご挨拶で終えて、フェードアウトです。

8曲目Wild Honeyは英国が誇るロックシンガーVan Morrisonのナンバー、再びWhalumを迎え、ストリングスセクションも配した演奏になっています。ストリングスアレンジは名手Michael Colina、ゴージャスなサウンドを提供して正に適材適所。Mahoganyはこういったテイストの曲でも曲想を巧みに踏まえて歌い上げます。Whalumもオブリガート、間奏ともに素晴らしい演奏を聴かせています。彼自身も12年リーダー作でボーカリストKevin WhalumにJohnny Hartman役を、本人はJohn Coltrane役を担当し「John Coltrane and Johnny Hartman」を再現した作品「Romance Language」をリリース、ここでは歌伴に徹しています。

9曲目I ApologiseはこちらもMahoganyの尊敬するBilly Eckstineの歌で有名なナンバーです。Eckstineのヴァージョンはかなりアクの強い、やさぐれ感満載(笑)の歌唱ですが、ここでは洗練された表現を聴くことができます。Jamesの品の良い、知的なアレンジがさらにボーカルの表現を高めている事に成功していると思います。

10曲目How Did She Look?は生涯に3000曲以上を書いたとされる米国の作詞作曲家Gladys Shelleyのナンバー、Mahoganyは古き良き時代のナンバーを発掘する事にも長けているようです。ピアノのバッキングが甲斐甲斐しいまでに痒い所に手が届く状態、ヴァースから丁寧に歌い上げているMahoganyを包み込み、彼の音楽を心から応援しているかの如くです。

11曲目Lush Lifeは言わずと知れたBilly Strayhornの名曲、ピアノとデュオで演奏されています。Mahoganyの歌も素晴らしいですが、Jamesのこの曲を熟知したバッキングが光っています。

2020.01.03 Fri

Canyon Lady / Joe Henderson

今回はJoe Henderson1973年録音のリーダー作「Canyon Lady」を取り上げてみましょう。全編ラテンミュージックを演奏した聴き応えのある作品です。

Recorded: October 1-3, 1973 Studio: Fantasy Studio, Berkley Producer: Orrin Keepnews Label: Milestone

ts)Joe Henderson ac-p)Mark Levine b)John Heard ds)Eric Gravatt timbales)Carmelo Garcia congas)Victor Pantoja tb)Julian Priester(1, 3, 4) tp, fgh)Luis Gasca(2, 3, 4) el-p)George Duke(1,2,3) tp)Oscar Brashear(1, 3, 4) tp)John Hunt(1) fl, ts)Hadley Caliman(1, 3) fl)Ray Pizzi(1) fl)Vincent Denham(1) tb)Nicholas Tenbroek(1) congas)Francisco Aguabella(4) arr, cond)Luis Gasca

1)Tres Palabras 2)Las Palmas 3)Canyon Lady 4)All Things Considered

本作はJoe Henderson30作近くあるリーダー作中異色の一枚で、ティンバレス、コンガ奏者やホーンセクションを擁したラテンならではのグルーヴ、サウンドを大編成によるアレンジでゴージャスに演奏しています。Joe Henはもともとタイム感抜群のプレイヤーですが、ラテンでも同様に素晴らしいリズムを聴かせ、One & OnlyのJoe Henトーン、プレイのスタイルと相俟った新たな境地を展開しています。「彼のグルーヴはラテンにも合致するのだ」と再認識しました。しかもいつになくハードにブロウし、吠えまくりフリーキーなアドリブを聴かせていますが、自分に照らし合わせてもラテンのリズムはテナー吹きを熱くさせるサムシングを持ち合わせていると感じます。2曲オリジナルを提供しているピアニストMark Levineがリズムセクションの要となり、Weather ReportやMcCoy Tynerのバンドでその名を馳せたEric Gravattの素晴らしいドラミングと、ラテンに不可欠なティンバレス、コンガとが合わさり三位一体の緻密なグルーヴを提示、ベーシストJohn Heardとの相性も申し分ないので見事に「本格的な」ラテンアルバムに仕上がりました。50年代ハードバップ・エラからジャズ屋のラテンには雰囲気があり、良いグルーヴの演奏もありましたが、ラテンに精通するのプレイヤーのタイトで鉄壁なリズムには全く敵いません。本作はJoe Henライブラリーの中でもっと知られても良い一枚だと思うのですが、アルバムタイトルから選ばれたのでしょう、妙齢な女性のジャケ写を全面に出したレイアウトと作品自体の関連性がどうにも感じられないので、Joe Henファンは言うに及ばず多くのジャズファンからもスルーされがちな一枚です。名は体を表す、作品タイトルとジャケットの関係性は大切なのです。

それでは演奏に触れて行きましょう。1曲目Tres Palabrasはラテンの名曲の一つでキューバ出身の作曲家Osvaldo Farresによるナンバーです。英語ではWithout Youというタイトルで演奏される事がありますが、他のジャズプレイヤーが取り上げたヴァージョンとして62年録音のKenny BurrellとColeman Hawkinsの共演盤「Bluesy Burrell」、Wes Montgomery66年録音「California Dreaming」、哀愁を帯びた魅力的なメロディラインはNat King Coleをはじめとして多くのシンガーにも取り上げられています。

アンサンブルをバックに朗々とルパートでメロディを吹き始めるJoe Hen、お馴染みの超個性的な音色ではありますが美しいメロディ奏ではジャンルを問わず常にその真価を発揮します。Antonio Carlos Jobimのボサノバ・ナンバーを取り上げた晩年の傑作「Double Rainbow」や75年作品「Black Miracle」に収録Stevie Wonder作の名曲My Cherie Amor(!)などのメロディアスな曲での印象的なプレイは、聴き手の心を捉えて離しません。71年には、かの伝説的ブラスロック・バンドBlood, Sweat & TearsにオリジナルメンバーFred Lipsiusの後任として数ヶ月間在籍しましたが(レコーディングが残されているなら是非とも聴いてみたいものです!)、この事は彼がジャズだけにとどまらない音楽性を有する証でもあります。

ボレロで演奏されていたテーマが終わる頃には壮大なアンサンブルが被り始め、合間を縫うようにGeorge DukeのFendrer Rhodesによるフィルインが聴かれます。チャチャのリズムでテナーソロ開始、ティンバレスやコンガのパーカッション群が効果的にリズムを刻んでいる上で、間を活かしながらジワジワと盛り上がりフラジオA音でのトリルまで用いて遂に炸裂、それに到るまでのJoe Henフレーズの積み重ね方の巧みさ!なんと雄弁なストーリー展開でしょうか!ホーンのアンサンブルが加わる事によりアドリブの終息感を匂わせ、その後DukeのRhodesによる華麗なソロ、続くOscar Brashearのブリリアントなトランペットソロ、その後はカットアウトされるが如く、再びボレロでラストテーマが演奏されます。それまでの賑やかさが祭の後の静けさのようにしっとりと奏でられ、リタルダンド、フェルマータの後は再びホーンの豊かな響きが曲を彩り、最後はオクターブ上でのテーマ奏、ホーンアンサンブルは大フォルテシモで迎え、テナーのカデンツァにて大団円を迎えます。

2曲目はJoe HenのナンバーLas Palmas、パーカッションを効果的に用いたリズムのパターンが彼らしいユニークなコンポジションです。Joe HenとトランペットのLuis Gascaの2管編成ですがテーマらしきメロディラインは特に演奏されず、ワンコードの上でトランペット〜テナーのソロが行われ、カラフルなDukeのRhodesでのバッキングが効果的です。その後は3者3様同時進行でソロが行われ、次第にリタルダンドし、Fineです。以上がレコードのSide Aになります。

3曲目はMark Levine作の表題曲Canyon Lady、ラテンのリズムとソリッドなホーンセクションによるシャープなサウンドが効果的に用いられた佳曲です。ホーンアンサンブル時に音の厚みを支えるべく、リズムセクションのグルーヴが変わるのが実に効果的です。ソロに入りベーシックなパターンに多少ルーズさが加わり、Joe Henのアプローチに柔軟に対応し始めます。浮遊感溢れるテナーソロはここでも間を活かしつつ、次第にフリークトーン、オーヴァートーンを交えてとんでも無い次元にワープして行きます。終盤戦の丁度良いところでホーンのアンサンブルが入るのは決してオーバーダビングではなく、コンダクターGascaの采配によるものでしょう。それにしてもJoe Henのタイム感の素晴らしいこと!個性が全面的に表出してオリジナリティをこれでもかと聴かせますが、彼は若い頃から学問として音楽、ジャズを徹底的に学んでいます。ジャズは学ぶものではなく経験する事が何より大切ではあると思いますが、Joe Henはアカデミックに学習した事柄をオリジナリティを掲げつつ、ロジカルに表現する事に長けているプレイヤーの筆頭格だと思います。続くDukeのRhodesソロもテナーソロの延長線上にあるべき事が音楽の統一感を生むと、しっかり意識しているかのようで、ドラマティックにストーリーを繰り出しています。ホーンセクションがここでも良きところで加わりラストテーマに繋げています。メロディを吹いてかつセクションと一緒にしっかりアンサンブルを奏でる、そして何より誰にも描けない深遠なイメージを抱きつつ、とんでもないソロを取るリーダーのJoe Hen、物凄い演奏者だと再認識しました。ラストテーマで一度落ち着いてからもJoe Henは再び吠えまくり、ホーンのアンサンブルが全く的確にバックアップしつつFade Out状態です。

4曲目もLevineのオリジナルAll Things Considered、この曲も実に素晴らしいテイストを表現しています。イントロのテナー、トランペットによるアンサンブルのバウンスしたメロディラインが、この後はスイングナンバーになると匂わせて、真正ラテンである証、ピアノのモントゥーノに受け継いでいます。なんと躍動感に満ちたラテンのグルーヴ、思わず腰が浮いてリズムを取りたくなってしまいます!さらにテナーソロのイマジネイティヴな事と言ったら!もちろんタイム感も完璧でこれはリズムセクションの一員同然、Joe Henはもはやリズム楽器奏者にカテゴライズされて然るべきでしょう!ホーンセクションのシャープさ、Levineのバッキング、ベーシストHeardのアプローチも申し分ありません!アンサンブルに続くティンバレスとコンガによるリズムの饗宴、いや狂宴でしょうか(笑)?凄まじいまでのリズムの応酬、タイムのセンターに向けてパーカッション全員が恐るべき集中力でフォーカスしているのです!2クラーベでテーマに戻ると思いきや何だか微妙な事態に?直後に左チャンネルから一瞬悲鳴らしき声も聞かれました?でも無事にラストテーマに突入、ラテンの名演奏がまた誕生しました。

以上が作品収録曲の全てですが、Joe HenのMilestone Label在籍時のレコーディングをコンプリートに収めた「The Milestone Years」には本レコーディングの未発表テイクである自身のナンバー、In the Beginning, There Was Africa…が追加されています。パーカッション隊3人とテナーだけのフリーインプロヴィゼーション、こちらも凄まじいテンションでの演奏ですが、ほかの収録曲とバランスを欠くためにオクラ入りしたのか、単にレコードの収録時間の関係か、でもこの作品を気に入った方には是非とも聴いてもらいたい演奏です。